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Fate/thanatology ―逆行冥奥領域― 第2層

1 ◆HOMU.DM5Ns:2024/05/15(水) 20:43:05 ID:1cofLHyw0
            くに
『われを過ぎる者、苦患の都市に入る。
 われを過ぎる者、永劫の呵責に入る。
 われを過ぎる者、滅びの民に伍する。

 正義は高き創り主を動かし、
 神威は、至高の智は、
 始原の愛は、われを作る。
 
 永遠に創られしもののほか、わが前に
 創られしものなく、われは無窮に立つ。
 われを過ぎんとする者、すべての望みを捨てよ』

             ───ダンテ『神曲』地獄篇 第3歌
 
ttps://w.atwiki.jp/for_orpheus/

486メズマライザー ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:07:50 ID:smpBK/Xs0

【1】


 その配信者は、最初は目立たぬ存在だった。

 動画配信が大衆にも広く認知されるようになった昨今、配信者を志す者は今も数多い。
 事務所でオーディションを受けずとも、スカウトマンの目に留まらずとも、芸能人に並ぶ名声を手に入れられるかもしれない。
 そんな淡い期待を抱きながら、この世界の扉を叩く者も少なくない。

 しかし、この世界で夢を掴むのは想像を絶する困難を伴い、かつ相応しい才能と豪運が求められる。
 なにしろ数が多い。簡単に始められるというのは、裏返せばそれだけ多くの人間に参加の機会があるという事だ。
 にも関わらず、用意された栄光の数は、減りはすれど増えはしない。
 数が多ければ多いほど、それだけ埋没される才能は増えていく他なかった。

 その配信者も、「超絶さいかわ天使ちゃん」なんて仰々しい名前をした彼女も、埋没されるであろう才能の一つだった。

 彼女は容姿こそ優れていた少女であったが、そんな長所一本ではこの赤い海を泳ぐのは困難を極める。
 それだけならまだしも、彼女は社会的な常識というものに疎い上、精神が酷く不安定だった。
 配信という不特定多数から好奇の目に晒される環境で、この欠点は致命的だ。
 当然のように彼女は初配信から問題を起こして炎上し、その後も懲りずにしくじりを繰り返し、
 いつしかネットでは腫物扱いされるようになっていた。

 当時の彼女を追っていたのは、物珍しさで見物する愉快犯と、ほんの僅かな風変りのファンぐらいのものだった。
 そのファンでさえ「ここから浮上する事はないだろう」と諦観し、最期を看取る覚悟をしていた始末だ。
 もはや誰の目にも未来はないことは明らか、明らかな筈、だったのだが。

 彼女は不思議と――まるで魔法でも使っているかのように――配信の世界で勝ち続けた。

 ある時を境に、彼女のチャンネルの登録者数が爆発的に伸び始めたのだ。
 理由は極々単純で、動画の編集技術やマネジメントが、何もかもが別人のように様変わりしたからだ。
 話の内容自体はそれほど変わりない、だが何故か彼女から視線が離せなくなってしまうのだ。
 どうすれば大衆を自分の虜にでできるかを知り尽くしたかのような立ち振る舞いに、無数のネットユーザーは否応がなく狂乱する。
 これまで彼女をせせら笑っていたユーザーでさえ、掌を返して熱狂の渦に飛び込む程だった。
 最初期から彼女を追っているファンは、皆口を揃えてこう言うだろう。まるで手慣れた者が彼女を操っているようだ、と。

 依然として、出てくる言葉は品がないものが混ざるものの、今となってはそれすらも彼女の魅力の一部として受け入れられている。
 ネット上では「超てんちゃん」はすっかり著名人であり、誰もが羨む栄光の椅子に座する者として崇拝の対象にすらなっていた。

 だがそれと同時に、彼女の周りで不穏な噂が流れ始めた。
 どうも、彼女が目の敵にした者が、次々に不幸に遭っているのだという。
 より人気を得るのに目障りな同業者やアイドルにインフルエンサー、そういった人々が次々に炎上し、失踪し、酷い時には不慮の事故で命を落とす事さえあるのだとか。
 通常なら訝しまれる案件であるし、事実それを理由に彼女を嫌悪する者も少なくない。

 しかし、そんな疑念なんてものは、彼女を取り巻く熱狂の前にはノイズも同然だ。
 信憑性なんてまるで無いし、それに――無縁な他人の生き死になんかで、こんな愉しい時間が終わっていい訳がない。

 まさしく彼女は電子の偶像(アイドル)。
 過酷な現実から魂を切り離し、煤けた欲望さえ受け入れてくれる器。
 今日も今日とて、数十万もの登録者が、彼女の愛に染められる。

 超てんちゃんは、インターネットに顕現した最高級の逃避行。
 脆弱性(きじゃくせい)を抱えたか弱き者に、救いを差し伸べてくれる天使様。
 浅はかな催眠(メズマライズ)だとしても、向かう先が楽園なら、かからずにはいられない。

487メズマライザー ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:09:13 ID:smpBK/Xs0

【2】

 何者かに操られている、というのは半分当たりで半分外れだ。
 今の超てんちゃんの背後には、彼女の魅力を最大限に発揮するよう仕向けるプロデューサーの存在がある。

「本日も素晴らしい、理想的な配信でした。
 誰もが女王陛下の言葉に心酔し、夢心地のまま夜を過ごす事でしょう」

 そう言ってにこやかに微笑むのは、筋肉浪々の紳士だった。
 胸筋の形さえ見て取れるほどぴっちりとしたスーツを着たその男は、
 あからさまな怪しさを醸し出しながらも、振る舞いには気品と誠実さを感じさせる。

 一方で、男が称えた少女はといえば、彼とは正反対に薄暗い印象を受ける。
 みすぼらしい訳ではない、むしろ容姿なら美少女にカテゴライズできるだろう。
 しかしながら、通行人を振り向かせるようなオーラは無い、近寄り難い陰鬱さが彼女の周囲には立ち込めている。

「今日もオタクの相手するの疲れたわぁ〜〜ピももっと労ってよ〜〜」
「おや、私なりに賛辞を送ったつもりでしたが」
「そういうのもいいけど今日はマッサージがいいなぁ」

 マスターの要求を察した男は、行儀悪く椅子に座る彼女の肩を揉み始めた。
 少女の倍はあるのではないかと疑うほどに大きな掌によるマッサージは、配信のストレスを多少は癒してくれる。

 「超てんちゃん」という存在は、動画の中にしか存在しない造られたキャラクターだ。
 ウィッグを外して化粧を落とせば、擬態が解けて「あめ」という現実の人格が顔を出す。
 我儘な上に飽きっぽく、承認欲求の塊の癖に面倒くさがり屋。
 メンヘラという概念が服を着て歩いているかのような歪んだ性格が、ネットで愛を振り撒く天使の本性だった。

 自身が召喚したキャスターのサーヴァント――稀代の魔術師「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ」に肩揉みを要求するような図太さは、
 成長の過程でそうした人格を育んだ故の賜物だろうか。

「ピってホントに何でもできちゃうよねぇ、マジで感謝だわ」

 キャスターに顔を向けないままそう言うやいなや、あめはスマートフォンの画面を開き、SNSを閲覧し始めた。
 配信の直後はいつもこうだ。超てんちゃんとしてのアカウントで今日の配信の感想を書き、その後は裏垢で自分がどう思われているのかの検索に没頭する。
 いわゆるエゴサと呼ばれる行為をしているこの時の彼女は、時折激しく苛立ちを見せる時がある。
 自分より注目を集めている配信者の話題や、自分を誹謗中傷するユーザーの投稿を目にすると、あからさまなくらい感情が顔に表れるのだ。

 いつもであれば、キャスターは何も口にはしない。
 不用意に「どうしましたか?」などと問えば、無視されるどころか逆上が返ってくる恐れがある。
 気が立っている状態の彼女に自分から近寄るのは、得策ではない。

 しかし、今回ばかりはそうにはいかなかった。
 彼女の機嫌を無視してでも伝える必要のある重要事項がある。

「女王陛下、一つ小耳に挟んで頂きたい事が」
「……後にしてくんない?」
「残念ながら火急ですので。聖杯戦争の件です」

 だからやめろ、と語気が荒みそうになるが、聖杯戦争という単語を耳にした途端、急激に苛立ちが底冷えするような感覚を覚える。
 スマートフォンを弄る指が止まる。捨て垢で他のオタクと言い争いをしている最中だった。

「せーはい、せんそう」
「そうです。これより本格的にサーヴァントによる戦闘が活発化するかと。
 女王陛下には、今後聖杯戦争を加味した上での立ち振る舞いをして頂きたいのです」

 あめは知っている、聖杯戦争がどういうものかを。
 葬者と呼ばれる二十数名のマスターによる蠱毒であり、彼等は一度きりの奇跡の為に血眼になって殺し合う。
 現代社会ではゲームの中にしかない非日常の中に、自分は放り込まれている。

488メズマライザー ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:09:49 ID:smpBK/Xs0

「い、いや〜〜すっかり忘れてたなぁ……お薬の副作用だったり、して……」

 嘘である。知ってて逃避していた。
 訳も分からぬ内に死者の国に放り込まれ、挙句殺し合いをしろという理不尽な現実をなど、直視し続ければ失明してしまう。
 だから配信業なんて聖杯戦争で無意味な活動に没頭し、それどころか自分のサーヴァントにそれを巻き込んでいた。

「その様子ですとまだ覚悟がお決まりにならないようで。心中お察しします女王陛下。
 常人がかような環境に置かれては、戸惑うのも無理はありません」

 プリテンダーがあめの前で片膝をつく。さながら本物の女王を相手にするかの如く。

「ですが安心ください。その為に私がいるのです。貴方は何も考える必要はありません。
 ただ、私の方針通りに動いていただければ、それだけで貴方の理想は叶うでしょう」
「それってつまり、ピが全部やってくれる……ってこと?」
「ええ」

 それを聞いた途端、あめの表情は「わぁ」と歓喜をあげそうなくらい明るくなった。
 この少女が先ほどまで荒らし同然の悪行を成していたのだから、人間というものは恐ろしい。

「ピって本当に最高!!私何にも出来ないのに、ピは何でもしてくれる!!」
「当然ですとも、私はサーヴァントで、貴方のピですので」
「顔もいいし万能だし……スパダリかよ……」

 今のあめにとって、キャスターは自分の理想を叶えてくれる最愛の存在だ。
 何を考えているのか分からない時があるし、常に薄笑いを浮かべていて気味が悪いと感じる時こそあるが、
 そんな短所なんて軽く吹き飛ばせる位に、魅力が有り余って溢れていた。

「やるぞやるぞやるぞ!!登録者数100万人まで一直線!!
 ピが聖杯戦争?に勝ったら……同接1億人の宇宙最強配信者にジョブチェンジ!!」

 言葉にできない強大な感情が、あめを突き動かしている。
 いまだかつてに速度でやってくる混沌の時代を前に、彼女が出すのは空元気か、あるいは本気の表れなのか。
 キャスターは何も答えず、口元に小さな笑みを浮かべるばかりだった。

489メズマライザー ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:10:38 ID:smpBK/Xs0

【3】


 SNSを開いてみれば、社会への怒りをぶつける投稿がすぐに飛び込んでくる。
 トレンド欄にはネガティブな話題や著名人のスキャンダルが立ち並び、有識者めいたユーザーがそれに言及してみせる。
 それは大抵は極論であり、しかし大衆はその極論を喜んで拡散する。
 ネットにおいて怒りや扇動は蜜であり、大衆はそれに蟲の如く集るのだ。

 インターネットは、今日も醜悪な混沌で満ち溢れている。
 
 キャスターは、カリオストロという扇動者は、混沌をこよなく愛している。
 獣と化した大衆が権力を破壊し、その破壊者が新たな権力となって大衆を苦しめ、そしてまた打倒される。
 そうした混沌という名の輪廻を廻し続けたのが、彼の生涯にして功績だった。

 そんな彼の目から見た現代の混沌は、果たして如何なるものか。
 ささやかな幸福から目を背け、インターネットを毒杯と知りながら飲まずにはいられない。
 真実から生まれた善意はひたすら訝しむ癖に、フェイク塗れの悪意は平気で鵜呑みにする。
 そんな大衆に、彼は何を思うのか。

「おや」

 スマートフォンから通知の音声が鳴る。マスターからだ。
 彼女はアプリで連絡を取ってくるが、そのスパンは極めて短い。病的と言っていい。
 些細な愚痴から愛の言葉まで種類は多種多様であり、一度でも既読無視などしようものなら著しく気を損ねる。
 その注文の多すぎる客に望み通りの返事をプレゼントするのも、キャスターの仕事だった。
 
 カリオストロという男の在り方を一言で説明すれば、人形である。
 持ち主の望む衣装を纏い、持ち主が望むままに振る舞い続ける。
 マスターが正義に生きよと命ずれば、英雄として他者を鼓舞し、
 悪逆を為せと命ずれば、反英雄として屍山血河を作ってみせるだろう。

 役を羽織る者、己を詐称する者、世界を騙す者。
 キャスターというクラスすら嘘偽り。こんなものはハンドルネームと変わりない。
 僭称者(プリテンダー)、それがカリオストロの本来のクラスだ。

 今回の聖杯戦争で、プリテンダーは「ピ」を演じている。
 好きピのピ、あるいはプロデューサーのピ、らしい。
 自分を愛する者として配信業をマネジメントしろ、との事だった。
 当然それにも従ったし、現状恐ろしいほど上手くいっている。
 扇動などお手の物なカリオストロにとって、一人の少女を偶像に仕立て上げるなど児戯も同然だった。
 
 しかし、プリテンダーのマスターは「あめ」という少女だが、同時に「超てんちゃん」というネット総意の器に仕える身でもある。

 話を戻さねばならない。プリテンダーにとって、インターネットという混沌は何なのか。
 がらんどうの彼にそのような感情があるか定かではないが、恐らく彼は「退屈」を覚えたのではないか。

 確かにネット社会を取り巻く混沌は目を見張るものがある。
 だがそれらは所詮「秕(しいな)」――萎びた果実にして、無価値の象徴に過ぎないからだ。
 どれだけ電子の海が荒れたところで、現実世界は揺らぎもしない。
 頭の中にどれだけ怒りを煮え滾らせたとしても、彼等の多くはただの小市民としての生を受け入れている。
 とどのつまり、ネット社会の中でそれらは完結してしまっているのだ。
 秩序の上で成り立った「規則正しい混沌」であり、社会を砕く真なる混沌とは程遠い。

 ゆえにプリテンダーは、嘘と踊り続ける混沌の配達人は、起こさずにはいられない。
 真なる破壊と混沌、憎悪と暴力の嵐、命を代価にした狂乱を。

 環境は既に整いつつある。都合のいい扇動者に流されやすい大衆。
 高みの見物を決め込む匿名世界の住民は、身勝手な願いを張りぼての天使に注ぎ込む。
 彼らは気付かない、気付こうとすらしない。画面の先にいる者もまた、心臓の鼓動を鳴らす同じ人間である事に。
 汚濁塗れの願いを抱えた天使の心はやがて決壊し、呪いの言葉を紡ぐだろう。
 ――――「秩序に死を、遍く世界に混沌を」、と。

 例え役者が人形ばかりでも、たった二十数人の葬者の為に拵えられた舞台だとしても。
 マスターが求めるのであれば、彼女を崇める者がそれを望むのであれば。
 0と1の狭間で眠り続ける革命と暴力の意思を、偽りの東京に顕現させようではないか。

 何故か、と聞いたとて意味はない。
 それはプリテンダーの「機能」であり、そこに感情が介入する余地はない。
 あまねく機械に製造目的があるのと同じで、彼の場合それが混沌の具現だった、というだけの話だ。

 人形はただ、求められたから応え、そうあれと命じられたから動くだけ。
 がらんどうの道化師が吐いた言葉の裏など、知る由もなしだろう。

490メズマライザー ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:11:20 ID:smpBK/Xs0



【4】


 常飲している「おくすり」に手を伸ばす時、たまに背中に冷や汗が一滴垂れる時がある。
 過剰摂取すると悪影響があるのは知っている。だがこの感情は、そんな情報に由来するものではない。
 これのせいで「致命的な何か」が起こったという「実感」を持ったもので、
 その「何か」が起こった時の事だけがすっぱり頭のアルバムから消えてしまっていて。

「そんなわけないよね」

 カリオストロが言うには、本来この聖杯戦争には死者が招かれるのだという。
 だから自分を含めて葬者と呼ばれている人々は、一度死んでしまっていると考えるのが普通な訳で。
 なら、今ここで元気に配信を続けているこの肉体は、どこから此処にやって来たのだろうか。

「ありえないでしょ」

 カリオストロだって言っていたではないか。
 偶然この舞台に生者が紛れ込む可能性も、十分に考えられる、と。
 だから自分もそのケースだ。タチの悪い神様がミスってしまっただけなのだ。
 そうに決まっている。そうでなければおかしい。
 だがもしそうでなければ、元の世界で自分が■んでいたとしたら、
 そんな訳がないと何度も何度も何度も何度も振り払っても疑念が消えなくて消えなくて消えなくて。
 思考の外に蹴りたい!蹴りたい!蹴りたい!何でもいいから現実からトビたい!トビたい!トビたい!
 だから。

 ――――薬を、一思いに飲みこむ。当然のように過剰摂取だ。

 意識が混濁する、直前まで何を考えていたのかさえ不明瞭になる。
 ふわふわと宙に浮くような感覚の中で、不安や恐怖は煙になって解けていく。

 これでいい。難しいこと、悍ましい現実など考える必要はない。
 今はピと一緒に配信を続けて、夢の登録者数100万人まで突っ走ればそれでいいのだ。
 聖杯戦争の事なんて、頭の片隅にちょこんと置いておく程度でいい。
 後のことはピがなんとかしてくれる、本人だってそう言っていたんだから、それでいい。







 アレッサンドロ・ディ・カリオストロは、冥界に顕現した最高級のサーヴァント。
 脆弱性(ぜいじゃくせい)を抱えたか弱き少女に、救いを差し伸べてくれる理想の人(ピ)。
 浅はかな催眠(メズマライズ)だとしても、向かう先が楽園なら、かからずにはいられない。

491メズマライザー ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:12:20 ID:smpBK/Xs0
【CLASS】プリテンダー(キャスター)
【真名】アレッサンドロ・ディ・カリオストロ@Fate/Garnd order
【ステータス】筋力:D 耐久:C 敏捷:D 魔力:A+ 幸運:A 宝具:B
【属性】混沌・中庸

【クラススキル】
偽造工作:EX
 カリオストロ伯爵は自らの存在を鮮やかに偽装する。
 己のクラス及び能力を偽装することができる。
 一定の触媒及び時間を費やした上で、幸運判定に成功すれば、敵対者は自分を「味方である」と信じ込む。
 敵対者は抵抗判定が可能だが、魔術的効果ではないため対魔力スキルは機能しない。

物品鋳造(偽):EX
 『首飾り事件』にまつわる伝承が昇華されたスキル。というのは嘘偽り。
 陰謀達成のため、彼は必要な物品を自ら仕立て上げる。
 道具作成スキルが変質したモノであり、特に、贋作製造や既存の存在の改造・調整に長ける。

英雄の大敵(偽):E++
 英雄(或いは反英雄)を阻む大敵であることを示す。
 本来は魔獣や竜種、魔性の存在、反英雄が所有することの多い隠しスキルだが、(偽)が付く場合はその限りではない。
 歴史に語られざる出来事として、カリオストロは巌窟王と深い因縁があり、幾度かの対立があった。
 このことから、彼は自らを「巌窟王の大敵」と深く認識し、スキルを獲得するに至った。
(マリー・アントワネットを陥れた事実も、獲得の一因となっているようである)

【保有スキル】
我はアシャラなり:EX
 錬金術、占星術、降霊術、カバラの奥義、古代エジプトの密儀等々の神秘を行使する在り方――ではない。
 本スキルの正体は詐術。王侯貴族を手玉に取り、並の魔術師の目さえ眩ませる領域の、超常の絶技とも言うべき大詐術である。

東方武技:A+
 詳細不明。

アルトタス連続体:C
 ただひとつだけ、彼は正真正銘の神秘を有する。
 幼少期の師であった錬金術師アルトタスの奥義――不老不死の体現である。
 実際には不老と超再生。真の不死ではない。

【宝具】
『秩序に死を、遍く世界に混沌を(レベリオン・ウ・モンド)』
ランク:B〜EX 種別:対都市/混沌宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:500人
 革命の戦火の幻影を伴って、魔力の渦が周囲一帯を薙ぎ払う。
 破壊と新生を自らの命題とする精神の具現、心象風景の模倣。固有結界に似て非なるモノ。
 秩序特攻の効果を伴う。

 この宝具の真価は「秩序の破壊」であり、決して永続的なものではないが、秩序に類する概念を醜悪なまでにねじ曲げる。
 法、倫理、規範――時に、聖杯戦争のルールさえ一時的に書き換えてしまう。
 最大限の規模と効果の運用のためには長時間に渡る儀式と裏工作、リソースの投入が必要となる。

【weapon】
『幻炎』
 炎の魔術、ではなく精神攻撃の一種である。
 精神を持たない相手には効果が弱い。回路があるタイプであれば機械にも効く。

【人物背景】
 18世紀、欧州諸国に出没した伝説的な怪人物。
 革命前夜のフランス社交界を暗躍した大魔術師、或いは稀代の天才詐欺師。
 王侯貴族のように振る舞うも貧民街で無償治療を行い、民衆に讃えられた傑物。

 フランス王妃マリー・アントワネットをも巻き込む世紀の大スキャンダル『首飾り事件』の黒幕として逮捕されるも、
 釈放され、市民からの大きな喝采を浴びた。
 革命前夜のパリにあって、貴族を翻弄し貧民を救う彼は、まさに英雄であった。

 ……と、歴史には記されているが、それは偽りである。
 その正体はただ一つの神秘以外何も持たぬ扇動家にして、混沌の配達人。
 彼の中にあるのは、混沌が齎す秩序の破壊のみ。
 
【サーヴァントとしての願い】
 具体的な願いが彼の口から語られることはない。
 がらんどうの男に願いがあるのかどうかさえ定かではない。

【マスターへの態度】
 プリテンダーはマスターに都合よく振る舞う。
 今の彼はマスターの配信をプロデュースする「ピ」である。
 求められているからそうする、それ以上の意味合いはない。
 そしてそれは、彼が目的とする「混沌による秩序の破壊」の否定を意味しない。

 マスターの影響でちょっとノリが良くなっている、かもしれない。


【マスター】超絶最かわてんしちゃん/あめちゃん@NEEDY GIRL OVERDOSE

【マスターとしての願い】
 チヤホヤされたい!目指せ登録者100万人!!

【能力・技能】
 優れた配信者になる素質はあり、事実この聖杯戦争でも名のある配信者になっている。
 が、生活能力は壊滅的であり精神面も極めて不安定なので、他者の支えなしには生きられない。

【人物背景】
 最強配信者を目指す承認欲求強めな女の子。

【方針】
 配信業を続ける。聖杯戦争は……ピに任せとけばいいよね。

【サーヴァントへの態度】
 恩人であり理想の「ピ」。

492 ◆lol.w0YBhQ:2024/05/28(火) 04:12:36 ID:smpBK/Xs0
投下終了となります。

493 ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:14:13 ID:MVmUe/So0
投下します

494 ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:15:32 ID:MVmUe/So0
 ホテルベーチタクル東京の高層階、スイートルームの一室。
 華美な調度品に囲まれ、窓ガラスからは都会のネオン煌めく夜景が見える。
 そして当然のことながら空調設備は完璧であり、年度末のまだ肌寒い外気を遮断しつつ、室温は快適に保たれている。

 そんな一室で、男は滝のような汗をかいていた。
 壮年の男だった。やや成金臭さのある、オーダーメイドらしいスーツに大量の汗をしみこませて、男は立っていた。
 極度の緊張に晒され、胃液がせりあがってくるので、全神経を集中させてそれを押しとどめている。
 眼前にある、生命の危機に対しての緊張。死への恐怖と生への渇望をブレンドさせた感情図。
 危機的状況から逃げ出すこともできず、出来ることといえば膝に手をつき、せめて倒れないようにと踏ん張ることだけ。
 顔中から噴き出した汗を拭うこともできず、雫が鼻を伝って床の絨毯に落ちていっても、それをただそれを見つめるしかない。

「余は命じたはずだぞ。細心の注意を払い、決して気取られるなと」

 声は至って平坦であった。あくまで言葉の意味の上での叱責に、しかし男は喉を鳴らした。
 それは緊張からか、はたまた嘔気からか。
 ふと、空気が動いた気配を感じた男は、膝に手をつき俯いたままの姿勢は相手に悪感情を抱かせるかもしれないと思い至る。
 ふらつきそうになるのをこらえながら、男はなんとか顔だけは前を向いた。


 異形が、そこにいた。


 おおまかなシルエットは人型に見える。だがシルエットですら"おおまか"に見なければ人の範疇から逸脱する。
 人の範疇から逸脱する大きな要因は、臀部から伸びる尻尾だった。見るからに筋肉質な直径の逞しさもさることながら、注射器を彷彿とさせる先端の凶器的な鋭利さに男の背筋が凍る。
 有尾人は頭部も異形であった。一言でいえば、異常な隆起。遠目からなら風変りなヘルメットや被り笠をしているようにも見えるが、しかしその表面を見てみれば肌とも殻とも鱗ともつかない、しかし確かに生体らしい生々しさがある。少なくとも男にとっては、生理的嫌悪感を禁じ得ない部類のもの。
 そもそも、灰色がかった緑褐色の体表は人間はおろか類人猿の皮膚の色ですらないし、加えてその相貌の冷淡さにおいてはもはや人形以上に感情が欠落したかのような無表情。いっそマネキンに仮装させていると言われたほうが納得ができるほどの、無感情。
 それでも、男は怪物に叱責の言葉を投げかけられ、それに心底怯えている。

 ピッ、と水が弾かれる音がした。
 それは異形が腕を振るい、手についた血液を払った音。
 異形の足元には、胸を貫かれてこと切れた死体が転がっていた。

「では、この者はなぜ余のいる部屋に辿り着いたのだ?」

 異形の言葉に耐え切れず、男は再び顔を床へ向けた。
 質問であって、質問ではない。
 公衆の面前に姿を晒し騒ぎになることを嫌った異形に代わり、外部で動くのが男の役割だった。
 そして、己の役割を悟られないこと、つまり男を小間使いとしている異形が背後にいることを、誰にも知られないことが、男が最も守らなければならない任務だった。

 それを、違えた。
 不審な動きを敵に見つかり、後をつけられ、主の姿を見られた。
 そしてその不始末は、異形の主が自ら処理することで片が付いた。
 そのことを、この異形はすでに理解している。

 男が迂闊であり、ヘマをした。そのため、異形は相応のリスクを背負った。
 背負いたくないと考えていたはずのリスクを、手駒のために背負ったのだ。
 対して大切というわけでもない手駒のために。
 端的に言えば、そういうことだった。

 残る問題は、問題を引き起こした原因を明らかにし、その責任を果たすこと。
 責任とは任を果たすことであり、任の結果の責めを負うことである。

 命を以って。

「……す、全て、オレの責任で……」

 言葉を言い終えれば自分は死ぬ。
 それがわかっていても、男は正直に言葉を吐き出すしかなかった。
 下手に取り繕ったり、少しでも時間を稼ごうとすれば、自分の死がより凄惨なものになると直感していた。
 だから、恐怖で舌がもつれることを唯一の足掻きとしながら、男は自分自身の死刑宣告を口にする。
 異形による断罪が速やかに行われ、自分にもたらされる苦痛が少しでも軽いものになることを祈りながら。

495 ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:16:14 ID:MVmUe/So0

 だが。



 ――――――ぶわりと、一陣の風が男と異形との間に吹き込んだ。



「そこまでにしておこう。彼はよくやってくれているだろう?」

 部屋に充満する血液の臭いが、開けられた窓から入り込む風で一気に押し出される。
 そのあとで、奥の部屋から漂う紅茶の甘く芳醇な香りと、天日干しをした布団のような温かい匂いが、男の鼻孔をくすぐった。

 いつのまにか、男の傍らに人影があった。
 長身の男を優に超える巨躯が少しだけ腰をかがめ、うずくまる男の頭に手を置いていた。
 断りもなく突然頭に手を置かれるなど、平時であれば屈辱的とも思える状況に、しかし男の胸中は平穏だった。
 数秒前までの恐怖心さえもなく、ただ頭の上から感じる温もりを堪能していた自分に、男は少しだけ驚いた。
 古から大地に根差した巨木に身を預けているかのような、驚きさえもかすむほどの安心感が、男の胸の内を満たしていた。

「人前に出ることのできないわたしたちのために、身を粉にして働いてくれている。
 こちらも事情があるとはいえ、脅かすような真似をして、無理な頼みを押し通して、その上で彼は十分わたしたちを助けてくれている。
 一度の失敗で、しかも取返しがつかないほどでもない状況でそこまで詰めては、さすがに可哀そうだ」

 男の頭に手を置いたソレは、異形から男を庇っていた。
 あの異形、暴威の化身、烈火の具現のような怪物から、男を護ろうとしていた。
 そこで男が気付く。いつの間にか、異形から放たれていた殺気と圧力が霧散している。

 頭に乗せられていた手が背中に添えられ、促されるように立ちあがる。
 優しく語りかけてくる巨躯の存在を、男は穏やかな心持ちで見上げた。
 最初に目についたのは、金色の鬣だった。
 頭から生えた角と突き出した鼻口部を持つ頭部は、人間よりも山羊の造形に近い。
 紫色のマントに身を包む山羊頭の大男は、しかし柔和な笑みと平穏な声色で男を優しく気遣ってくる。
 こちらもまた異形ではある。異形ではあるが、今もなお男を見下ろしている無表情のそちらとは外観以上に違っていた。

「さあ、向こうの部屋に紅茶を淹れてある。心が落ち着く、ローズヒップ・ティーだよ。
 それを飲んだら、今日はもう休んで、また明日からお願いを聞いてほしい。
 わたしたちには、きみの助けが必要なんだ」
 
 それから、無理な頼みを聞いてもらって申し訳ない、感謝していると山羊頭は言った。

 実際その通りだ。無茶難題を押し付けられて、それを違えれば苛烈な叱責を受ける。
 そして、もうこりごりだと投げ出してしまうには異形の恐ろしさに屈服しすぎている。
 逃げ場のない状況にある男に、それでも山羊頭は労いと詫びと感謝の言葉を吐き出す。
 ひどい奴だと、男は思った。
 庇いはすれど、救うつもりはない。
 守りはすれど、解放するつもりはない。
 上っ面だけの気遣いにどれだけの価値があろうか。

 結局、男は促されるままに紅茶を飲み、スイートを後にした。
 別の階に取った自室に戻って身体を休めたら、明日からまたあの異形にこき使われるのだとわかっていて、それでも逃げ出すこともできず。

 だが、その山羊頭の表情と声色から、彼が心底お人よしであることは伝わっていた。
 行動はいまいち伴っていなかろうと。労いと詫びと感謝の言葉が本心であることは理解できていた。
 元々、男は暴力を背景としたビジネスのために日本へやってきていた。言わずもがな違法行為だ。
 それをよりによってあの異形に見つかり、強請られる形で協力を強制されている。
 どうあろうと男は異形に歯向かえない。その上で、異形の仲間らしいあの山羊頭はこちらに対して気遣っているのだ。

 一つ、大きく息を吸って。
 一つ、大きく息を吐いた。
 数分前に口にした紅茶の残り香を確かめながら、男はもう一度だけ深呼吸する。
 どうあろうと男は異形たちに歯向かえない。
 違法行為を見咎められ、命を脅されている以上、保身のために従うしかない。

 どうせ従うならば、だ。
 あの恐ろしい異形のためではなく、あのお人よしな山羊頭のためになら。
 強請り、脅す対象でしかない自分を異形から庇い、気遣い、心を砕くあの柔和な山羊頭のためになら、もう少し働いてやろうと。
 どっちみち逃げ場のない男にとって、それが精いっぱいの現実逃避で、妥協点だった。

 部屋に戻った男は熱いシャワーを浴びて全身の汗を流した後、電話を手に取った。

「オレだ。動ける組の者を全員こっちへ呼び寄せろ。
 大事なクライアントだ、四月までには成果を挙げる。少なくとも……―――」

 男は身を休める直前まで電話をかけ続けた。
 異形の顔は、一度も思い出さなかった。


  × × × ×

496 ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:17:31 ID:MVmUe/So0
「まだ、人間は苦手かい?」

 男が去ったあとスイートルームでのこと。
 山羊頭がそう問いながら、自分で淹れた紅茶に口をつける。
 異形は、窓から夜の東京を見下ろしながら、心底つまらなさそうに吐き捨てた。

「苦手ということはない。距離感を掴みかねているだけだ」
「苦手意識は無くても気兼ねなく対話が出来ないなら、得意とは言えなさそうだね」

 そう言って笑う山羊頭を、異形が睨む。
 心底不快そうな表情に、山羊頭は笑みを収めた。

「済まない。気を悪くしたかな」
「あぁ、すこぶるな。貴様、あの男の失態を庇い紅茶を淹れるためだけにわざわざ戻ってきたのか?」

 異形は足元に転がっていた死体に片足を乗せ、その頭蓋を踏みつぶして見せた。
 血液と脳漿の飛沫が撥ね、山羊頭のマントの裾を汚す。
 続けて異形が死体の右手を蹴り上げれば、引きちぎれた手首が山羊頭の足元へと転がっていった。

「この葬者がここまで潜り込めたのはアサシンのバックアップがあったからだろう。
 英霊の加護を受け、当人の技量も一定の水準にはあった。油断のならない相手ではあった。余の敵ではなかったがな。
 そして当然、マスターたる余の手を煩わせた貴様は、敵を仕留めたのだろうな? "ランサー"」
「あぁもちろん。正直気は進まなかったが、"みのがす"という選択肢は存在しえないね」
「……どうだかな。貴様の性根はすでに把握している。
 アサシンを倒したというのは信用するが、貴様は闘争を好まなぬ草食獣のような……」
「メルエム」

 今度は異形―――メルエムと呼ばれた異形が、口を噤んだ。
 山羊頭のランサーは紅茶のカップをテーブルに置き、己がマスターの足元、頭を砕かれた死体に手をかざす。
 メルエムが足を退けた直後、死体が発火、炎上し、数秒後には跡形もなく燃え尽きていた。
 後に残った遺灰も、開け放たれたままの窓からの風に乗って外へ運ばれ霧散してゆく。
 その様子を見届けたメルエムが視線を戻せば、唯一残った死体の手首をランサーが拾い上げるところだった、

 手首には、欠損のない令呪が遺されている。

「確かにわたしは闘争を望まない。誰も傷つけたくはない。
 だがきみの苦悩は、その十分の一くらいは理解できると思う。
 きみが出す答えがどんなものであろうと、最後まで付き合えるのはわたしくらいのものだ。
 きみの、王直属の護衛軍(ロイヤルガード)として。そして同じ怪物の王として」

 そう言ってランサーは、令呪の刻まれた手首にかぶりついた。
 肉を咀嚼、骨を粉砕、そして嚥下。
 そうして三角もの令呪を取り込んだランサーは、宝具の限定解放を行う。


「―――――『山で眠る王(Bergentrückung)』」


 それは、決して派手なものではなかった。
 ただランサーの内部に蓄えられた令呪三角分もの魔力が、一定の指向性を得ただけのこと。
 鳴動だの威圧だのという変化もないままランサーは静かに、再びテーブルの紅茶に手を伸ばした。

「これでわたしも多少は外を出まわれるようになった。
 明日からはノストラードくんについていこうと思う」
「……なに?」

 怪訝な顔をするメルエムに、ランサーは心底驚いた様子で片方の眉を跳ね上げた。

「わたしたちが頼っているマフィアのボス。さっきまでここにいた彼だよ。
 メルエム、興味ないかもしれないが名前くらい覚えてあげてくれ?」
「そうじゃない。貴様が外に出る意義を聞いている」

 あぁそちらか、と紅茶をすすり、ランサーは言葉を紡ぐ。

497MONSTER×MONSTER ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:18:08 ID:MVmUe/So0
「ノストラード組(ファミリー)が行ってくれている。わたしたちの活動基盤の拡大作業の監督。
 敵勢力を調査し、わたしたちの障害となる場合はなんらかの工作、あるいは排除が必要だからね。
『山で眠る王(Bergentrückung)』の限定解放で得た『単独行動』スキルのおかげで活動範囲は広がっている。
 もちろん霊体化は必須であるし、無用な戦闘は避けて目立たないことを最優先にするよ。
 あぁ、これでも地下世界を統治していたんだ。治安維持や軍略についての知見もそれなりに持っているさ」

 すらすらと並びたてる言葉は、確かに理屈は通っているように思える。
 マスターを孤立させるリスクも、平時は外部との関係を遮断する以上は最低限にまで抑えられるだろう。
 居場所を探られるとすれば、それは今回のように配下の後をつけられる可能性であるが、その場合はランサーが外部で処理するという選択肢を増やすことにも繋がる。
 いざとなれば令呪での瞬間移動もある以上、別行動という選択肢は決してなしではない。

 そしてなにより。

「そしてなにより、わたしが外部で敵の目を引けば、当然きみへ向けられる視線は減るだろう。
 きみが答えを出すまでの時間を作るために、わたしが囮になるというのは決して悪くない選択肢だと思うよ」
「……」

 メルエムは言葉を見つけることが出来ずにいた。
 それでも時間は有限である以上、答えは出さなくてはならない。
 自分が抱えている苦悩と同じように。

「いくつかの拠点、物資。……手足となる人員、資金、情報。それがそろうまでだ。
 どんな結論に至るにせよ、然るべき時には打って出る。飛車角落ちというわけでもなしに、守勢ばかりは性に合わん」
「そうだね。引きこもってばかりでは身体にもよくない」
「……アズゴア」

 ランサーの真名を、マスターが口にするのは初めてだった。
 ランサーは、地底世界の王は今一度紅茶のカップをテーブルに置き、蟻の王と視線を合わせる。

「貴様は、人間を憎んでいないのか。
 今回のこともそうだ。お前は人間を庇った。そして今後は、人間と肩を並べるという。
 愛するものを奪われた憎しみは、押し殺せる程度のものだったか」
「いいや」

 返答は短く、即座に返された。
 メルエムは、続く言葉を傾聴する。
 黙って人の話を聞くというのは、蟻の王にとっては珍しいことだった。

「今でも人間は憎い。
 だが、すべての人間を滅ぼしたいと思えるほどの憎悪は、きっと抱けなかったのだと、今は思う。
 当時は、怒りに任せてかなり振り切れたマニフェストを掲げたものだがね」


――――人間たちを滅ぼし、モンスターたちの手で地上に平和な世界を築く


「だがあれはわたしの本心からの言葉とは、とても言えないと思う。
 ただ国民に希望を与えたいがために、国民の顔色を窺った結果の宣言でしかない。
 そしてそれは、ただ地上から落ちてくる人間を待つしかないという、ずいぶんと消極的なものだった。
 種の頂点として産み落とされたキミの使命や責務に比べれば、なんとも気の抜けた話だ。
 わたしは人間を、憎み切れていない。だが諦めきれたわけでも、許しきれたわけでもない」

 きみと同じだ、とアズゴアは言う。

 メルエムは想起する。
 人間の代表者としてやってきた老戦士との闘い。賞賛すべき技巧、修練の果ての粋。
 そんな才を持つ者がそれをかなぐり捨てなくてはならない状況に追い込まれるという状況、そこから推し量れる、人間社会の醜悪さ。
 人間の、底知れない悪意という進化。その果てに、蟻の王は死を迎えた。


 そして、お供しますと付き添ってくれた愛する人の手をうっかりと放してしまった蟻の王は、独り冥府から這い出す機会を得てしまった。


「わたしたちが蘇ったとしても、そこは愛する者のいない世界だろう。
 大多数が到底愛せないであろう、概ね愚かで醜悪と言わざるを得ない、人類が蔓延る世界。
 そこで、わたしたちがどう振舞うべきか。
 どんな答えであっても、最後まで付き合えるのはわたしだけ。
 どんな答えであっても、その答えをわたし自身も欲しているからね」

498MONSTER×MONSTER ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:18:35 ID:MVmUe/So0
【CLASS】
 ランサー

【真名】
 Asgore Dreemurr(アズゴア・ドリーマー)@UNDERTALE

【ステータス】
 筋力B 耐久B 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具C

【属性】
 秩序・中庸

【クラススキル】
 対魔力:C
 ランサーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。
 二節以下の詠唱による魔術は無効化出来るが、大魔術・儀礼呪法などの大がかりな魔術は防げない。

【保有スキル】
 魔力放出(炎):B
 武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。

 カリスマ:C-
 人を率いる才能。
 マイナス補正がつくほどの優しすぎるその性格は指導者として有利にも不利にもなる。
 施政者として甘い、あるいは極端な判断に失望されることすらあれど、それでも民に愛される高い人望は、その性格故。

 単独行動:A
 本来、ランサーは『単独行動』スキルを保有するに足る逸話を持たない。
 しかし後述の宝具により、高ランクのスキルを獲得している。

【宝具】
『決意を力に変える者(determination)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
「* You know what we must do./* わたしたちには やらなくては ならない ことがあるね。」
 ランサーは争いを好まない。しかし覚悟を持って敵と相対したとき、決して容赦はしない。
 彼こそは
 戦闘が終了するまで対象の逃走、降伏、交渉行為を阻害しそれを遮断する。
 完全に一対一の決着がつくまでの間にのみ機能する宝具であり、決着とはランサーか敵対者どちらかの死以外にありえない。
 例え敵対者が勝利したうえでランサーの命を見逃すつもりであっても、ランサーは最後に自身の死でもって対象を宝具から解放しようとする。
 ランサーが決意を固めた以上、両者が生き延びるという甘い話が通用することはない。
 ただし、外部からの横槍が入った場合は即座に効力が失われる。

『山で眠る王(Bergentrückung)』
ランク:EX 種別:対人類宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
 地底世界からの解放を掲げ、それを成し遂げてしまったモンスターの王のイフの姿。
 7人の人間の魂を吸収することで自身を強化し、地底より現れるモンスターの群れを引き連れ、人類種を蹂躙する。
 聖杯戦争においては7人の魂、すなわち令呪21画分の魔力を取り込むことで発動が可能。
 自身と召喚したモンスター群にAランクの『単独行動』と『狂化』スキル、そして"人"属性に対する特攻を付与し、際限なく暴れまわる。
 呼び出されるモンスターはかつてランサーが統治した地底世界の住人たちであるが、闘争を好まない者、荒事に不向きな者、袂を分かった者、そしてランサーが愛する者は絶対に現れない。
 ちなみに、令呪3画のみを取り込んだ時点で限定解放が可能であり、その場合はモンスターの召喚はなく、自身にAランクの『単独行動』スキルのみが付与される。
 本編開始時点でこの限定解放はすでに行われており、したがって宝具の完全開放に必要な令呪はあと18画となる。

【weapon】
 トライデント

【人物背景】
 イビト山の地下に広がるモンスターたちの世界、そこに君臨する偉大な王。

【サーヴァントとしての願い】
 誰かを傷つけたくはない。
 ただ、マスターの結論には最後まで付き合う。

【マスターへの態度】
 自分よりも大きな器、自分よりも大きな苦悩。
 それでも真にその気持ちを汲めるのは、同じ王たる自分だけ。

499MONSTER×MONSTER ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:18:50 ID:MVmUe/So0
【マスター】
 メルエム@HUNTER×HUNTER

【マスターとしての願い】
 向かうべき先を知る。それが第一義。

【能力・技能】
『放出系念能力者』
 体からあふれ出す生命エネルギー『オーラ』を自在に操る能力者。
 中でもオーラを体から離して留めることを得意とする。
 圧縮したオーラを砲撃として放ったり、光子と化したオーラを散布することで周囲の様子を把握することが出来る。
 また、他者を喰らうことでその念を自らのものにすることが出来る。
 生前に得た能力として、自身の肉体を変形させる能力、散布した自身のオーラが付着した者の心理状況を読み取る能力を獲得している。

【人物背景】
 キメラ=アントの王。

【方針】
 目立つのは避け、行動は最小限に。
 ただし然るべき時に打って出る。
 敵は殺す。

【サーヴァントへの態度】
 自分とは決定的に違うが、自分と同じ人外の王。
 その在り方は惰弱であり、懇篤であり、醜くもあり、あるいは……。

【備考】
 ノストラード・ファミリーのボス、ライト=ノストラードを脅迫し手駒としています。
 ファミリーのモブ構成員が多数日本に訪れていますが、原作に登場したキャラがどの程度まで再現されているかは未定です。

500 ◆7XQw1Mr6P.:2024/05/28(火) 04:19:06 ID:MVmUe/So0
投下を終了します

501 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:34:30 ID:YkLcTGlo0
投下します。

502 ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:34:33 ID:X/swmkqQ0
投下します

503 ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:34:47 ID:X/swmkqQ0
重複しました、お先にどうぞ

504呪術連鎖 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:37:15 ID:YkLcTGlo0
冥奥領域の東京。その一角に旧家が多く立ち並ぶ地域がある。
いわゆるハイソな高級住宅街……というやつだが、そのうちの大きな屋敷の書斎に"彼"の姿はあった。

「……全く、嘆かわしいわい」

そう呟くのは椅子に座った少年だった。
綺麗に切りそろえられた髪に汚れ一つない服装、恐らくはこの屋敷の跡取りの少年だろう。

――だが少年が発したと思えないほどに、その声は淀み、歪んでいた。

『大人のマネをする子ども』
そう受け取るにはあまりにもまとった空気が、子どものそれではない。
……それもそのはずである。
椅子に対して小さすぎる体。その体は10にも満たない少年のものだが、その魂は『龍賀時貞』という80を超える老人のものであるからだ。
時貞は苛立たしげに広げていた本をたたむと、豪奢な椅子に深く体を預けた。

「どうだい葬者(マスター)、勉強は進んでいるかい?」

その時だった。宙からすぅ、と僧衣に身を包んだ青年が現れたのは。
だがその超常現象にも時貞は眉一つ動かさない。

「……キャスターか。周囲の様子はどうじゃ?」
「ああ、今のところ目立った魔力反応はなしって感じだね。
 とりあえず周囲に複数体の呪霊を放ったから、そのうち何らかの反応は出てくると思うよ」

まあ行方不明者が2,3人は出るだろうけど、と事もなげにキャスターは付け足すが時貞は気にした風もない。
時貞にとって見知らぬ他人など――いや、見知っていたとして他人など気にするものでもないからだ。
道に生える雑草が一本ほど次の日に消えていたとして誰が気づくだろうか?
もしこの東京にいるのが魂を持たぬ人形でなかったとしても、時貞にとっては差はない。
むしろ時貞にとって気になるのは眼の前の自分のサーヴァントの様子だ。

「キャスター、お前……"何か"変わったか?」
「おや、わかるかい? もしやできるかと思って試してみたんだが……」

キャスターが手をクイ、と動かすとその影から縦方向に影が伸び、人の姿を形作る。
……凹凸のない黒い人影。気配は以前に見た呪霊とにているが、"何か"が違う。

「聖杯から与えられた知識にあるだろう? これが"シャドウサーヴァント"、というやつらしい。
 私の持つこの呪霊操術とこの空間は殊更相性がいいらしくてね、
 少し調整は必要だが、シャドウサーヴァントと呼ばれる"なり損ない"も取り込めるようだ」

"今回はお試しだからかなり弱い霊基のものだがね?"と笑いながら付け足すキャスター。
……これは彼らにとってかなりの朗報と言っていいだろう。
事実上、時間さえあれば手駒が尽きる心配はない、と言っているのだ。
加えてシャドーサーヴァントを取り込むという新しいことができたことで上機嫌なキャスター。
だが対する時貞は不機嫌な表情を隠しもしない。
その原因は探すまでもない。彼が先程まで読んでいた本にある事は明白だった。

505呪術連鎖 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:37:47 ID:YkLcTGlo0
「『戦後日本の歩み』、ねぇ……。どうだった? ……と、その表情だと聞くまでもないか」

時貞の顔に浮かんでいたのは嫌悪の色。
整った顔が苦虫を噛み潰したような表情に歪んでいる。

「……町並みを見て薄々感じてはいたが、導く者のいない日本人はここまで堕落するのか。
 嘆かわしいことこの上ない。教養も学も品も無くした……、まるでサル山の猿どもじゃ」

つばを撒き散らしながら現代社会を罵る時貞。
だがその様子を見たキャスターはこらえきれないように吹き出す。

「……何がおかしい」
「いやぁ、失礼。……同じような例えをするような青年を知っていたものでね」

時貞は自身のサーヴァントをじろりと睨む。
その目に浮かぶのは不信と猜疑。
キャスターと名乗ったサーヴァント。
本人曰く、自分が生きたよりも未来、――すなわちこの時代で活躍した術師だという。
(事実、機械類に関しては知識を与えられた自分よりも使いこなしている)
本人曰く『二度目の命に興味はない』と言っているが――

(――信用できるものか、馬鹿め)

生にしがみつくは人の本能。
それは人間であった以上、逃れられるものではない。
それに加えて聖杯からサーヴァントについての知識は与えられている。
サーヴァントとは、自身の願いを叶えるために葬者の呼び声に応えるものだという。
そんな存在が『願いが無い』などとあるわけがない。

(まぁよい。どちらにしろ"切り札"は2つもこちらにある……)

絶対命令権たる令呪はこの手にあるし、何よりこの"冥奥領域"と相性が良いのはキャスターの力だけではない。
時貞の持つ『術』もこの冥奥領域で力を増しているのを感じる。
そして強化された『術』はサーヴァントにすら十分に通用するものだという確信がある。

(ふん……何を考えていようと、ワシのためにせいぜい働き、使い潰してやろう。
 それが従者"サーヴァント"としての正しいあり方であろうなぁ……!!)

時貞は自身のサーヴァントの横顔を見ながら、内心ほくそ笑んだ。

506呪術連鎖 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:38:15 ID:YkLcTGlo0
―――――――――――――――

(――などとと、考えているところかな?)

一方、僧衣のサーヴァントは自分の主を横目で見つつ、薄笑いを崩さない。
欲に取り憑かれ凝り固まった"若輩者"の思考など、彼にとっては馴染み深く――そして軽蔑するものの一つでしかない。
……とはいえその執念、人を操ることに特化した老獪さは決して油断していいものではないが。

(ま、そのうち切り捨てるとはいえ、しばらくは魔力の供給源として頑張ってもらうとしよう。
 令呪はもちろんだが、……何か妙な呪力を感じるしね)

……これは推測だが、恐らくマスターは何らかの強力な魔術礼装を所持している。
しかも封印指定……自分の持つ概念に当てはめるなら特級呪物クラスの品を、だ。
術師としては三流であろうが、魔術礼装の仕様次第では相性次第で負けもありうる。
だが一方で奪ってしまえばかなりのアドバンテージを得ることができる。

(とりあえずは情報を収集つつ、計画を練るか……さぁて、楽しくなってきたなぁ)

内心のワクワクを表に出さないように留め、先程の時貞の言いようを反芻する。

(しかし"ヒト"を"猿"呼ばわりとは、……潔癖と傲慢で真逆と言えるほど違うのに、
 口から出てくる言葉が似通うとは実に皮肉だなぁ、――"夏油傑"?)

 ――そう心のなかで呟きながら、"夏油傑"という青年の顔をした「欺くもの」は、額の縫い痕をそっと撫でた。


【CLASS】キャスター
【真名】夏油傑@呪術廻戦
【ステー

507呪術連鎖 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:38:34 ID:YkLcTGlo0
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐―   ――――    ==  ̄ ̄ ̄  ――_―― ̄___ ̄―
 ̄___ ̄―===━___ ̄― ==  ̄ ̄ ̄  ――_――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐―

             真 名 展 開

 ___―===―___   ――――    ==  ̄ ̄ ̄  ――_―― ̄ ̄―‐―― ___
 ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―――  ___ =―   ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄―
 ――――    ==  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ―― __――_━ ̄ ̄  ――_―― ̄___ ̄―=

508呪術連鎖 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:38:54 ID:YkLcTGlo0
【CLASS】プリテンダー
【真名】羂索@呪術廻戦
【ステータス】筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:A 宝具:EX
【属性】混沌・悪
【クラススキル】
・陣地作成:C-
 魔術師として、自身に有利な陣地を作り上げる。
 プリテンダーは基本的に打って出るタイプのため、そこまで高くはない。

・道具作成:A+
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 様々な呪物を創造してきたプリテンダーは高い道具作成スキルを有する。

【保有スキル】
・対魔力:C
 魔術への耐性を得る能力。
 一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

・高速詠唱:C
 魔術の詠唱を高速化するスキル。
 一人前の魔術師でも一分は必要とする大魔術の詠唱を半分の三十秒で成せる。

・呪術(詳細不明):-(A)
 脳を交換し肉体を渡る術式でありプリテンダー本来の術式。
 下準備が必要なため、本聖杯戦争では基本的に使用できない。

・呪霊操術:A
 本来は体の持ち主である夏油傑の術式。
 調伏させた呪霊を球状にしてから体内に取り込み、自在に使役する術式。
 本聖杯戦争では冥界内で発生する死霊やシャドウサーヴァントも使役することが可能。

・反重力機構:A
 本来は過去に乗っ取った虎杖香織の術式。
 本来は物体の重力を消す術式だが、プリテンダーは術式反転で重力場を発生させ、自身に近づくものを地面に叩き落とすという使い方をしている。


【宝具】
『胎蔵遍野(たいぞうへんや)』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:30m 最大捕捉:10体
 領域展開という、固有結界と似て非なる大呪術の一つ。
 原作では詳細不明だが、今回の召喚においては『重力術式の必中化により叩き潰す必中領域』と定義されている。

『獄門疆(ごくもんちょう)』
 ランク:EX 種別: レンジ:D 最大捕捉:1人
 真名開放後、半径4m以内の位置に対象を一定時間(脳内時間で1分)留める事で、相手を完全封印する特級呪物。。
 効果は絶大で一度囚われると身体に一切の力を入れられず一切の魔力も断たれる概念断絶・破壊不可能・絶対封印の小箱。
 ただしプリテンダーの宝具としての発現であるため、プリテンダー自身が消滅した場合は封印が弱まる可能性がある。
 なおあくまで封印であるため、例えばこれでサーヴァントを封印した場合、マスターは契約切れにはならないが、逆に再契約も行うことができない。

【weapon】
 これまでに体をのっとった術師の術式を使いこなす。
 また術師タイプでありながら純粋な格闘戦もこなす。

【人物背景】
 呪術廻戦の元凶で、その正体は千年以上暗躍を続けた呪術師。
 極めて強い好奇心の持ち主で、人間の可能性の追求のためだけに周囲を利用し、『呪い』をばらまいている。
 現在は"夏油傑"という青年の体を乗っ取っている。
 好奇心のためなら人を利用することに何ら躊躇しないが、好奇心を満たす現代のお笑いにも詳しい。

【サーヴァントとしての願い】
 好奇心を満たすために行動する。

【マスターへの態度】
 表向きは忠実だが嫌いなタイプなのでそのうち裏切る予定。
 ただしマスターの令呪と切り札は警戒中。



【マスター】
 龍賀時貞@ゲゲゲの謎

【マスターとしての願い】
 永遠の命を得て、自分が操り日本を素晴らしい国に変える。

【能力・技能】
 大妖怪・狂骨を使役する。
 またある程度呪術に関する知識もある模様。

【人物背景】
 戦後日本の財界を裏で牛耳った龍賀一族の当主。
 幽霊族を利用して、薬を生成し巨万の富を築いた。
 親族も自分の道具としてしか見ておらず、自身の孫である時弥の体を乗っ取り、魂だけの状態から復活している。
 時間軸としては映画終盤、時弥の体をのっとった状態での参戦となる。

【方針】
 聖杯戦争の勝利。

【サーヴァントへの態度】
 利用できるまで利用する。
 切り札である狂骨の存在は教えない。

509呪術連鎖 ◆HQRzDweJVY:2024/05/28(火) 04:39:23 ID:/JkN3qQM0
投下終了です。優先させていただきありがとうございました。

510 ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:39:50 ID:X/swmkqQ0
改めまして投下します

511生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:40:12 ID:X/swmkqQ0
.






     自分の命なしでは生きていけない!!

     魂なしでは、生きられない!!

                ――エミリー・ブロンテ、『嵐が丘』






.

512生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:40:47 ID:X/swmkqQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 そのマスターは、この冥府においてたまたま『当たり』の立場を引いた男だった。
政財界に対して発言力を持ち、企業の名前を言って見ろと問われればすぐに名前が思い浮かぶ程度の大企業にも口利きが出来、唸る程の金を持った、一個人。
それが、彼の、冥界に於いて割り振られたロールであった。元の世界では、600年の歴史を持った魔術師の一族。前歴ですら、輝かしく彩られている。

 男は、工房を重視した。
自分が引き当てたアーチャーのバックアップが出来、負傷した時のケアも万事抜かり無く施せるような。そんなアジトだ。
だが、それを施すには時間が足りない。男は凝り性だった。自分が満足する出来の陣地を作るには、絶対時間とリソースが足りなさ過ぎる。
ために、考え方を変えた。完全完璧な満足の行く拠点一つ作るより、及第点の陣地を都内に幾つも作っておくべきだと。
つまり、ヒールスポットを分散、隠匿すると言う考えに至ったのである。アーチャーもその考えに同意した。リスクの分散と言う意味でも、正しいと。

 金の力とコネの力をフル活用し、都内の至る所に拠点を作った。
企業ですらボディブローのように効いてくる月間レンタル料を誇るオフィスビルの1フロア。高級ホテルのスィートルーム。廃業寸前の整備工場を買い上げてそこを改造する。
23区の至る所にスポットを分散させたが、中でも、今、男とアーチャーのいる工房は、初見では絶対に場所を特定されない。
何せ、東京湾上に浮かべた、高級クルーザーの上なのだ。陣地は動かないもの、と言う固定観念を男は利用した。
海の上を自由に動く工房は、盲点であろう。一説によれば彷徨海が、自分と同じ発想の一大拠点を所有していると言うが、アレも、発想の起点は自分と同じだろう。
存在が露見する可能性が低い。その価値は、計り知れないのだ。

「順調だな……」

 デッキの上から、彼方の東京の陸地を眺めて男は言う。
既に、沖合と言っても過言ではない所だった。まさかこんな所にまで、拠点ごと移動出来るなど夢にも思うまい。
たが、コレでもなお足りない。聖杯戦争の噂は、元いた世界でも聞き及んでいた。そして、その過酷さもまた。
エーテルに満ちた神代に華々しい活躍を遂げた英雄達を招き、戦わせるのだ。エーテルどころかマナもオドも減少傾向にある現代の魔術師達の想像を遥かに超える力を発揮する可能性も、視野に入れている。
本開催までに、まだまだ動く事は多い。多少臆病な方が、魔術師として大成、長生きするコツだ。

 ――しかし、男は知る事になる。
この世の中には、順調に行っている時ほど、歩んでいる人間を躓かせる石の数が増えて行くものである事を。
注意して歩いていれば防げるタイプの災難よりも、意思を持って害をなそうとする災厄の方が、この世には多いと言う事を。

 刹那の、事だった。
凄まじい音を立てて、船体が、揺れた、
波がぶつかったような衝撃ではない。明らかに、質量を持った固体、それも、大きくて、重い物が、凄い速度で叩きつけられたような。

「何事だ!?」

 そうマスターが叫ぶと同時に、メキメキと、不吉極まる音も聞こえてきた。
コレは、拙い音だ。船の悲鳴、断末魔そのものだ。船と言う物が水に浮かぶ為の、重要な要件。
そこを破壊された事は明白だった。船体が、傾き始める。緩やかにではなく、もの凄い速度で、急激な傾斜が生まれ始める。最早明白だ。この船は、長く持たない。沈む!!

「アーチャー!! 敵は何処にいる!?」

 クルーザーは、男の魔術によって、物理的な堅牢性も増させている。
一部の高位サーヴァントは兎も角、生身の人間であれば破壊は不可能。対物ライフルを持って来たとしても、船の腹を貫通させられないレベルの耐久性を得ている。
それをこうまで容易く、ペーパークラフトのように破壊してしまうなど、これはもう、サーヴァントが絡んでいるとしか思えない。
状況は最悪を極むるが、もう戦うしかない。マスターである男は、実体化した己のサーヴァントに檄と下知を飛ばし、相手を射殺そうとし――

 その、相手を見た。

513生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:40:57 ID:X/swmkqQ0
「……なんだ? ありゃ……」

 そう呟いたのは、アーチャーだった。
敵は、海中深くに隠れた訳でもなくば、空高く飛翔して逃げた訳でもない。
海面からその姿を露出させ、沈み行くクルーザー船に、しがみ付くように陣取っている、マスターとサーヴァントを見下ろしていた。

 それは、見るも巨大な大烏賊だった。
古の時代の船乗り達が、仲間の船を沈められたと言って存在を証言していたところの、クラーケン。
まさにそうとしか思えない、烏賊の怪物が、その眼で彼ら2人を睨みつけていたのである。
ダイオウイカ、そのような存在が、未知の深海を遊弋している事は男も知っている。
滅多に見られないその存在が、たまに海上にまで浮上する事も知っているし、大型のクジラとも争う事がある事も、聞いた事がある。
そんな大型の生物なら、確かに、大航海時代に使われたみたいな帆船ぐらいなら、沈没させられるだろう。
しかし、現代の造船技術で製造されたクルーザー。それも、魔術的な強化措置すら施されている船を、たかが烏賊が沈没させられるかと言えば、答えはノンだ。出来る筈がない。

 では……触手だけで長さ20m。
本体部分だけで、100mを容易く超えるような、象やクジラを遥かに超える大きさの、バケモノなら?
そのバケモノこそが、今男達を睨み付けている、大烏賊だった。姿なき詩人が語る、全ての海魔(クラーケン)共の長。
クラーケンロードの名を魔王より与えられた、大海洋の魔王。それが、男達の目の前に現れたる怪物であった。

 ――我らは此処で――

 死ぬ。
その事を認識した瞬間、烏賊は、目にも止まらぬ速度で触手を振るった。

 彼らのその後を書き記すものは、何処にも無かった。



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514生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:41:15 ID:X/swmkqQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 アサシンを召喚した男が先ず考えたのは、地下水道の把握であった。
男は某国のスパイを経験した事もある、隠密行動のプロフェッショナル。だから、普段の聖杯戦争ならば低く価値を見積もられがちなアサシンの利用価値を、正しく理解していた。
彼の価値を、活かし切る為の策。それが、東京の地下施設の把握と理解であった。

 下水道や地下鉄とは即ちインフラだが、これらは国家や自治体によって、厳密かつ綿密に、張り巡らされているのが常……。
と言うのは、甘やかされた日本人が抱く発想だ。男は知っている。世界には、中世の時代どころか、古くは古代ローマの時代に作られて、今もそれを下水道として利用しているような所が、大勢あると言う事を。
つまり下水道も地下鉄も、網目のように計算され、メンテナンスも執拗に行なっている、と言う風な管理をされているのが当たり前ではないのである。
どころか、公共の移動手段のダイヤに、1分2分の厳しさを求めるような国民など、日本だけである。ドイツの国民ですら、そこまでではない。

 これだけ厳しく管理されていながら、下水道への侵入が容易いと言うのだから、訳が分からない。
東京が、世界で一番スパイの数が多いと言うのも頷ける。警備に如何に力を入れたと言っても、銃を持てず、武器も警棒や刺股止まりでは、本物の抑止力にはならない。
下水道の道順や構造を把握するのは、侵入経路の調査という観点も勿論だが、それ以上に大事な事として、逃走経路の確保と言う向きが強かった。
プロの暗殺者やスパイが、プロと呼ばれる所以は、自らの安全を自分の手で保証するからである。
ターゲットを暗殺し終えた後、或いは機密を盗み出した後。敵の拠点から逃げる事が、一番難しい。
そうでなくとも、万が一ミッションを失敗した後の保険を用意すると言う事は、とても大事な事なのである。
逃走経路こそがまさにそう。敵の手が及ばない、或いは及んだとしても影響力を発揮し難い。そんな場所を確保し、自分が逃げ果せる時にだけ安全が高確率で担保されている所。
男は仕事に及ぶ前に、そのロケーションは何処なのか、それを探す事を大事にするのである。

 この国に於いては下水道が適していると、男は判断した。
国民の殆どは、マンホールを開けた事もなかろうし、当然、その中に入った事もないであろう。
これが一般市民であれば兎も角として、官憲の類だって立ち入った事も少ないとあれば、逃げる場所としてはうってつけであろう。

 とは言え相手はサーヴァント。
現代戦に用いられるような、戦車や戦闘機に匹敵するか上回る戦闘力を、生身の個人で有するような者までいる連中だ。
ただの喧嘩の強さが凄いと言うのなら兎も角、これでいて、野の獣を逸脱した、第六感にも等しい超知覚能力であったり、科学では到底説明の出来ない神懸かり的な勘まで有している者もいると言うのだから堪らない。
100%、無事でいられると言う保証は何処にもない。しかし、無事に撤退出来ると言う可能性もまた高まる。この、保険。そこに意味があるのだ。

「……」

 2人の男達が下水道をそぞろ歩く。
電波の類は届かないから、用意するのは紙の地図。それを見ながら、男達はそこを歩いていた。
道中アサシンが、壁面をナイフで削っているのは、目印である。この上にはあの土地が広がり、あの主要な建物に近い所だと、解るようにつけている訳だ。

 マスターである男の判断に、アサシンのサーヴァントは異論も挟まず、疑問も抱かない。
暗殺者のサーヴァントを運用する者として、当然の判断を下し、策を練っているとすら思っている。
パートナーとしては丁度良い。自分のクラスの都合上、厳しい戦いになるだろうが、戦いである以上は、最善を尽くす。首も、獲る。サーヴァントのモチベーションも、決して低くはなかった。

 ――しかし、男達は知る事になる。
この世の中には、空回りと言う言葉があると言う事を。過ぎたる野望や野心とは、実る前に摘み取られる事の方が多いのだと言う事を。
死神に魅入られてしまった者は、例えどれだけ周到な用意をしていたとしても、側から見ればあっという間に、そして、余りにも呆気なく。命を散らしてしまうのである事を。

 ゴゴゴゴゴ、と言う、地鳴りのような音を、男達は聞いた。
地震、ではない。揺れを感じていないからだ。地下水道でこれだけの音がすると言う事は、大量の水が流れているのか?
馬鹿な、とマスターの方の男が思った。これだけの音がすると言う事は、外で激しい降雨が起きていなければ考え難い。そして外は、雲一つない夜の空が広がっていたではあるまいか。

 と、なれば……。

「敵か……!!」

515生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:41:26 ID:X/swmkqQ0
 アサシンが、ナイフを逆手に持って構える。
アサシンのクラスは暗殺が得意とした事による代償として、直接的な戦闘の技芸に劣った者が多い。だから、普通の感性を持った魔術師からは軽んじられる。
だが、出来ないとは言ってない。現にこのアサシンは、相手が神代の大英霊……それこそ、ヘラクレスにアキレウス、クー・フーリンやらラーマやら、と言う類でなければ、防戦を成立させられる程には荒事の覚えはある。

 来るなら、来い。そうと覚悟を遂げた時ーーそれが、来た。

「――――は?」

 マスターが、頓狂な声を上げた。
土気色の壁のような物が、鉄砲水めいた勢いで迫って来る。
いや、壁ではない。そして、固形のものではない。ゲルだ。ジェル、ゼリーとでも言い換えられるかも知れない。
性質としては、液体のそれも兼ねている何かが。下水道の通路全体に隙間なく詰め込まれたそれが。信じ難い程の勢いで、男達に向かって来ていたのである。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

 人糞を練り固めたような色をしたその汚濁の激流。
そこに、人の顔めいた物が浮かび上がった。女の物ではない、男の顔。子供の歳ではないが、青年のようにも、老爺のようにも見える。
そう言う物が浮かび上がったその瞬間になって漸く、アサシンのサーヴァントは、これが一個の生き物である事を理解した。
雄叫びを上げてその濁流へと向かって行く。退路は絶たれ、この怪生物を倒す事によってしか道が開けない事を理解してしまったのだ。

 ナメクジのような不定形で、伸縮に融通がきき、しかもヌメ付いている生き物に。
心理的な不快感を抱く者は、決して少なくない。しかもこの上で、様々な雑菌を媒介していると言う科学的な事実を知れば、より嫌悪の念を強める事であろう。
男達が目にしている怪物はその嫌悪感を、人類の脅威となるレベルにまで高めた存在であった。
悪魔や魔物達の長の一柱として、彼は産み出された。一説によれば、地上に存在する全ての『スライム』に属する魔物は、彼を母体として産み出されたとも言われている。
悪魔達の長、魔将としての立場を授かりながら、余りにも醜悪かつ不快、そしてその身の悪臭の故に、同胞からも忌み嫌われたと言う経歴を持つ、怪物の中の怪物。

 ――地の底のヨドミ。
魔王からその魔名を与えられた悪魔の将は、妖精が鍛えた鎧や龍の鱗で編まれた重鎧ですら腐食させる強酸性の身体を持った、巨大なスライムであった。

「ガギャァッ」

 アサシンがなす術もなく、その身体を呑まれた。
自らが召喚したアサシンの敗北を知覚出来ぬままに、そのマスターも呑まれてしまう。
鼻が潰れてしまう程の悪臭を感じたのも、一瞬のこと。その次は、身体中の皮膚と筋肉を一瞬で溶解され、絶叫。
その後、数秒程で、骨をも溶かされ、叫ぶ口も無くなった。マスターの男が激痛と悪臭に苦しんでいた時間は、長くとも、3秒程の事であった。

 ――彼らのその後を書き記すものは、何処にも無かった。



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516生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:42:27 ID:X/swmkqQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 強いサーヴァントを引き当てられたから、強気の攻めに転じる。
それは、性急な判断ではあるかも知れないが、正しい側面もある。戦いにおいて、モチベーション、言わば、士気と言うものは勝機にダイレクトに関わって来る。
古くは、古代ギリシャのテルモピュライ。近代に於いては、アメリカ独立戦争や日露戦争。いづれもが、下馬評では、不利側のディスアドバンテージは著しく、大敗は必至と言われた戦いだ。
だが、結果はどうだ。ある戦いは、同盟国の勝利に貢献する程果敢に戦い抜き、ある戦いは、寡兵で大軍をそのまま打ち破ると言う、神話の英雄ないし伝説的な将軍の逸話宛らの大勝利を飾ったではないか。

 だが実を言えば、これらの大勝には、得てして裏があるものだ。
大体の場合、この手の戦いで大軍側が負けている時は、既にその軍を動かしている国家の内情が、ガタガタである事が殆どだ。
政情不安、人民のモラルの崩壊、トップ層の無能化。上げれば上げるほどキリがないが、総じて言える事は、敵が弱体化していると言う事だった。
平和な時期の方が長すぎて戦い方を忘れてしまったと言うのもあるし、戦い方が古のもの過ぎて新時代の戦い方に対応出来なくなったと言うのも勿論そう。
しかし何と言っても、士気である。戦場に於いて士気が高いと言う事は、相手を殺す度胸があると言う事に等しい。反対に低い事は、殺す度胸がない……と言う次元ではない。
戦場に行く事そのものを、放棄する。戦場の現実を目の当たりにし、尻を巻くって逃走しようとする。つまり、同じ土俵に上がろうともしないと言う事だ。
これでは負ける。戦場の無視すべからざる側面に、相手のリソースを削ると言う物がある。この場合のリソースとは、人だ。人は、殺す事によって減るのである。
殺し、領地を占領する事によって初めて終戦となる、戦争の絶対ルールである。これを行う上で必要な、兵士を殺すと言う行為に忌避感を抱いている以上、勝てる戦はないのである。

 聖杯戦争でも同じである。
最後の1人にならなければ、願いが叶えられない、帰還の芽すらないと言うのなら、選択肢は初めから、殺し合いに乗る以外にはない。
その魔術師は、早々に、狂気に身を委ねる事にした。人を、マスターを、サーヴァントを。殺す事で、この戦いを生き残ろうとした。
間違いではなかった。事実この冥界での聖杯戦争は、そうでもしなければ生き残れない。それしかないのなら、そうするべきだ。士気は、高く保つべきだ。
それに、彼が引き当てたセイバーのサーヴァントは、強かった。強いのであるから、強気に打って出る、強者の理論と理屈としては、余りにも、正しい。

 ――しかし、男は知る事になる。この戦いは聖杯戦争であると言う事を。サーヴァントの強さが、全ての戦いであると言う事を。

 最優程度ではどうにもならない最強が、人知れず息を潜めているのだと言う事を。

「なっ……あっ、は……!?」

 その攻撃は、全く見えなかった。
マスターである男は、当然生身の人間だ。魔術師である事と、それに伴う精神性を持っていると言う以外には、特筆するべき所はない。身体能力は、普通のそれだ。
だから、サーヴァントの攻防、況して三騎士相当の水準のそれなど、目で追える訳がない。遅れて聞こえて来た音と、身体に負った何らかの損傷。それを以て初めて、何か攻撃を仕掛けた、していると言う事を認識出来るのだ。

 今回もそうだった。
目線の先、10m。其処に佇む者が、槍を握った右腕を水平に伸ばしているのを見て初めて、何か攻撃を仕掛けた事に気付いたのだ。

 ――自分が頼りにしていたセイバーのサーヴァントの首が、血を撒き散らしながら放物線を描いて飛んでいくのを見て。初めて、自分の命運が断絶した事に、気付いたのだ。

517生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:42:38 ID:X/swmkqQ0
 漆黒の巨馬に跨って、赤いマントをたなびかせる騎士だった。
黒いのは、馬だけに非ず。彼がその身を鎧っている甲冑ですらも、漆黒。兜からグリーヴまで、全身くまなく、漆黒のプレートで覆っていた。
身の丈以上もある槍を片腕で振るう膂力。成程、それも恐ろしい要素の一つだろう。だが、それだけではない。あの漆黒の騎士は、ただの腕自慢ではないのだ。
強い。ただ、強い。恐るべき膂力、頑健な肉体、弾丸すらも見てから切り伏せる速度と反射、高度な魔術の知識。単純に強い、故に策が通用しない。正攻法で、勝たねばならない。
しかもこの上、持っている槍が、計り知れぬ呪いの品であった。聖者を殺した槍なのだ。これを持って戦場を駆け、100の猛将、1000の英雄を、彼は殺戮して来たと言う。
彼は、魔王の中の魔王である、ディースの右腕とも言われる戦士だった。同胞である悪魔達は勿論、敵方である人間の英雄達すら、その強さと誇り高さに、畏敬の念を抱いた。
後に魔王を封印した3人の大英雄の1人、剣聖グレン。聖剣ホワイトファングを振るうこの英雄が、三日三晩命を懸けて戦い続け、僅差で漸く打倒した程の、恐るべき魔将。

 彼に名はない。魔王ディースが、相応しき名を授けようとした局面は、度々あった。その度に、固辞しつづけた。
我が名は黒騎士。それで良いと。ただ御身の右腕となり、人の子の猛将、英雄と戦い続ける、戦士でありたいと。常々そう口にしていたと言う。

 彼こそが、今、セイバーのマスターの命運を絶った者の正体。

「……あ、あぁ……」

 ズルリと、臍の辺りから真横に、上半身がズレて行っているマスターに、その運命を齎した者の正体。
黒騎士の一撃は、セイバーの首を刎ねるに飽き足らず、振るった時の刃風で、後方にいたマスターにも死を齎していたのだ。
怖い。死ぬのもそうだ、だが、あの黒騎士を『操る』何者かの方が、男にはずっと怖かった。
あの黒騎士は、セイバーすらも容易く真正面から斬り伏せる強さを持ちながら――『サーヴァントではない』のである。
ステータスが、見えないのだ。存在が、希薄なのだ。つまりアレは、サーヴァントが召喚した使い魔なのだ。

「恐ろしい……」

 上半身が地面に落ち、湿った音を上げる。血が撒き散らされ、腸が、桶をひっくり返されたように撒かれる。
今際の際に男が抱いたのは、これを召喚し、操るだけの存在が、この冥府の地に息を潜めている、と言うその事実。それが、恐ろしい。
だが同時に、安堵もした。そんな存在を目にする事無く、死ねると言う事に、彼は安心したのだ。そして、これから生き残る参加者が、恐るべき魔王のような人物と戦う事になるかも知れない、その宿命に同情した。

 ――彼らのその後を書き記すものは、何処にも無かった。



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518生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:42:57 ID:X/swmkqQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――『ジュイス=ダルク』がそのサーヴァントを見た時、彼女は、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
白い仮面を被り、純白のドレスを纏った、緩くウェーブの掛かった細身の金髪の女性だった。
仮面は、顔面全体を隠すような物だった。穴が何もない。前方を確認する為の覗き穴も、呼吸を確保するだけの気孔のような物も開けられていない。機能性、と言う物をまるで排したデザインだった。

 被る仮面が何で出来ているのかが解らない。          如何なる感情を表現したがっているのか解らない。


 白磁に見える。                       憂いに見える。
 

 白樺に見える。                       悲嘆に見える。


 石英に見える。                       怒りに見える。


 真珠に見える。                       微笑に見える。


 象牙に見える。                       無我に見える。

「……貴女、は……」

 冷や汗を、ジュイスは流す。
自分が召喚した、自分の縁を辿って召喚されたサーヴァントとは、到底思えなかった。
自分が呼び出した者とは、何なのか。自分は本当に、彼女と付き合わねばならないのか。

 我と彼女の関係を定義付ける事が出来ない。          我と彼女の信頼を計測する事が出来ない。


 母に見える。                        味方に見える。


 姉に見える。                        仇敵に見える。


 妹に見える。                        友人に見える。


 妻に見える。                        恩師に見える。


 妾に見える。                        無関係に見える。

               




                神に見える

「ッ……!!」

 サーベルを引き抜き、その切っ先を、彼女の仮面に付きつける。
これは、神だ。サーヴァントとして矮小化されてはいるが、紛う事なき、神そのもの。嘗ては、神だった者。
見て来たからこそ、解る。彼女は――『デミウルゴス』のクラスを冠して召喚されたこの女性は、最低でも、ルナやサンと、同格の神。
上位十理ですら、本来の力を秘めた彼女の前では、赤子同然。借りて来た、猫だ。万物の創造主、そうと称呼されても疑いのない、大権能のタクトを振るう事の出来る、大神そのものなのである。

519生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:43:32 ID:X/swmkqQ0
「無駄な事をするな」

 彼女が、右手を伸ばす。
それだけで、ジュイスの手にするサーベルが、切っ先から根元にかけて、蚊取り線香のように渦巻いていく。これではもう、剣としての使い道は出来ない。ただの、ゴミ。
だが解っている。この存在を相手に、ただの剣など、棒切れ一本程の力しかない。古代遺物(アーティファクト)を用意して初めて――いや、通用するか解らない。
断言、出来る。彼女は、『理』を創造する側だ。そんな物を相手に、ただの金属の加工品など、何の意味があろうと言うのか。

「何故我を敵視する。憎しみを抱くと言うのなら、それでも構わない。貴様を葬り、我も消えよう」

「願いが、叶えられなくなるぞ」

 命が惜しくて、ジュイスはそう言ったのではない。
目の前の女性が、恐ろしい。直視するだけで、関係性が狂いそうになる女神が、心底から怖い。
怖いのに、知りたいのだ。彼女の事を。彼女の、望みを。

「我が望み、死者を絞った雫を集めた器で、叶う物に非ず」

 彼女は、静かに語り始めた。

「肉を割き、骨を断ち、血を流して、あの御方が現れるのなら、幾らでもそうした。英雄を数万と望むと言うのならそれを産んだ。星を億万兆欲しいと仰るのなら、それを創った。全ての人を幸せにして欲しかったのなら、そんな世界だって、作れたのだ」

 彼女は、ジュイスから目線を外した。仮面の下の表情は解らない。だが、何となく解る。遠い所を、眺めているのだ。

「何も、望まれなかった」

 抑揚のない言葉で、彼女は言った。

「解っていた。あの御方は、我が創るものに目を輝かせるような方ではなくなってしまった。また来る。そうと微笑んで彼は去ったが、解っていたのだ。もう、あの御方が、我らを見てくれる事はないのだと」

 スッと、顔をジュイスに向ける彼女。腰を低く落とし、ジュイスが構えた。

「戯れだ。女、我を使いこの戦を制するが良い。聖なる杯を用い、我に力を注げ。さすれば御前の望み、この手で叶えてやろう」

「勝手な事を抜かすな!!」

 目を血走らせ、ジュイスは激昂する。
目の前にいる、仮面を被った彼女の言葉に嘘はない。しかしジュイスは、――通用するかも解らないが――不正義(アンジャスティス)を発動させている。
発動させて尚、彼女は、ジュイスの望みを叶えてやると言った。不正義は、本来の目的とは真逆の事を為させる、言わせるもの。
だから、ジュイスは、激怒した。仮面のデミウルゴスが本心から、ジュイスに寄り添おうと言うのなら、出て来る言葉は『叶えてやらない』の筈なのだ。
だが、叶えてやると口にした。つまり、デミウルゴスにとって、ジュイスの願いを叶えてやろうと言うのは、本当に、戯れ。嘘ではないが、遊びであるのだ。

 ――それが、許せなかった。
神の戯れとやらに、何十億年と振り回され続けて来た女にとって、神の気紛れとは、何よりも怒りの線に触れる事柄なのだ。

「私は……お前達が解らないよ……」

「……」

「お前達が、凄い力を持っていて、人間の運命何て、小指を動かす程度の労力で、捻じ曲げる事が出来る事は、よく解ってるよ。自分の力で、世界を壊してみたいだとか、そう言う気持ちも、湧き上がって来るだろう事も、あるのかも知れないさ」

 凄い完成度を誇る芸術品やミニチュア、模型を、壊してみたい。
これまで築き上げて来た信頼関係、恋愛感情を、リセットしてみたい。そう言う衝動を、人間は心の何処かで、抱いているものだ。それは、ジュイスだって解っている。
神が、それを抱いていたとて不思議ではない。そして彼らの場合、その圧倒的なスケールの故に、壊したい、リセットしたい物が、人間の住む星だったり宇宙だったり、と言う事も、解らなくもない。

 ――だったなら

「何故お前達は、とるに足らない個人に構うのだ?」

 数十億年以上も狂わずに生き続け、未だに尚、答えの解らぬ問いを、ジュイスはぶつけた。

520生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:43:51 ID:X/swmkqQ0
「星を砕いて全てをなかった事にすれば良いのに、1人1人に力を与えて、破滅させるんだ?」

 愛する者を、不幸のどん底に落とし、航空事故で死なせた少女がいる。
将来を誓い合ったフィアンセの病を治そうと執刀したら、その執刀から手術を進ませぬ呪いを掛けられた男がいる。
貧乏な友達を思って、将来の掛かったレースで手を抜いて負けようとしたら、迸る運動エネルギーで甚大な被害を撒き散らした少年がいる。
武器の弾薬が減らない呪いを掛けられ、敵対した兵士達を皆殺しにするまで元の場所に戻れぬ宿命を背負った兵士がいる。
一世一代のボクシングの大試合、相手が自らの攻撃を避けられぬ呪いを掛けられた結果、死ぬまで相手を殴り続けねばならなくなったボクサーがいる。

 ……これ以上は、ジュイスも、思い出したくなかった。
当人達の苦悩と絶望を思えば思う程、舌が回らなくなる。希望に満ちた人生があった筈だった。苦労もあるだろうが、それと同じ程の幸福も約束されていた未来が広がっていた筈だった。
その幸福を全て、奪い去られた。不幸のみを与えて、生きよと言われた。望んでもいない否定能力を与えられ、呪いを背負って生きよと言われた人がいた。
ある者は、何故、如何してを神に繰り返し問うた。ある者は、お前を赦さない、殺してやると血涙を流して心に誓った。ジュイスもまた、哀しみを負い、いつか必ず、神を滅ぼすと誓った、大勢の中の1人であった。

 ジュイスの目的に賛同し、その宿命を背負わせた神の打倒と討滅を、多くの者が誓った。
そして、その全てが、墓の下の住民となった。理に敗れ死んだ者、寿命と言う時の刻限に敗れ「悔しい、悔しい」と恨みを吐いて死んだ者。
そう言った者達の墓を、ジュイスは、何千と作って来た。そうして築き上げた墓の大地を見る度に、思うのだ。何故神は、我らに構うのかと。態々1人1人に、凝った呪いを授けるのかと。

 ただ、楽しいからという理由で、此処まで出来るものなのかと。

「こんな筋肉質な女を……好きだと言う女がいるんだ。不思議だろう?」

 仮面の彼女は、消え入りそうな声で告げるジュイスに、目線を注ぎ続ける。

「光のない宇宙に1人孤独に放り出され、何十億年と流離っても……いつか私と遭えるのならと、正気を保ち続ける人がいるんだ」

 「つくづく……」

「愛の、理想と言うのかな……」

 そう口にするジュイスは、静かに涙を流した。
流さずにはいられない、流す事しか出来ない。100度目のループ、4000億を優に超える年数を生き続けた彼の孤独を推し量る事は、誰にも出来ない。
ある時は、星の瞬きすら見えぬ程、地球から離れた暗黒の海を漂い。またある時は、原始的な原生生物、原核生物すら産まれていない、溶岩で覆われているだけの地球に1人放り投げだされ。
それでも尚、発狂の1つもせず、自我と自己を保ちながら、生き続ける男がいた。それを、ジュイスは、彼が――ヴィクトルが、超人だからだと思っていた。
精神的に完成された超人であり、彼にとっては、億年の孤独など、昨日の事に思える程、達観し切った精神の持ち主だと思っていたのだ。

 全て、違った。
ヴィクトルもまた、狂う寸前だった。本当は、狂いたかったのだ。
狂えぬ理由が、自らを筋肉質な女と蔑む、ジュイス=ダルクと言う女の存在だった。
彼女に遭えるのなら。また彼女と共に、隣で戦えるのなら。また彼女と共に、パリでショッピングが出来るのなら。
果てない時の大河を、抵抗も出来ずに流されようと、耐えられるのだと。彼は、涙ながらに訴えた。
死ねない怪物である自分に付き合って、傷付き、力尽きそうになっても立ち上がり、神の打倒を掲げるジュイスに、諦めろと泣いて乞うてきた。

521生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:44:30 ID:X/swmkqQ0
「私だって……彼に遭えるのなら……たかが100億年、痛みに耐える事など簡単なのにな」

 永遠にも等しい時を生きるヴィクトルの味わう苦労の、億分の1でも。負担を代わって、軽減してやれたら、どれだけ良いかと。思った事は数知れない。
ヴィクトルは、超人ではなかった。心など、完成してなかった。擦り切れているだけだった。永遠を生きる上で、必要な感受性を、捨てていただけだったのだ。
ジュイスを忘れない、ジュイスに幸せになって欲しい。それを強く思い続けていたからこそ耐えられただけに過ぎなかったのだ。

「許せない」

 人に苦しみを与え、それを高みから嗤う者が許せない。

「殺したい」

 最愛の人から死の安息を奪った、暗黒の太陽を討ち滅ぼしたい。

「……情けない」

 その全てを、数百億年とかけて成し遂げられない、己の弱さを強く呪う。

「貴様にとっては、人や心など、己の力で戯れに満たされるものだと思っているのだろう」

 そうでなければ、あんな言葉が出て来る筈がない。

「ふざけるなよ。どんな人間の心も、力と奇跡で好き勝手に操れると思うな!! 愛と怒りを、消せると思うなッ!!」

 血を吐きかねない程の怒りを、目の前の彼女に叩き付けるジュイス。
此処で、殺されたって構わない。塵と化しても、未練はない。神に対する敬虔など、当の昔に捨て去っている。地獄と言う物があるのなら、そこに堕ちる覚悟も済ませている。
不敬の代価を、どのような形で、眼前のデミウルゴスは清算するのだろうかと、ジュイスは待った。彼女は、沈黙を保ち続けている。不気味な程に。

「……御前は」

「……」

「……愛する者をどれだけ待ったのか、覚えているのだな」

「……何?」

 それは、ジュイスとしても予想外の言葉。デミウルゴスの言葉からは、怒りの念が、欠片も感じ取れなかった。

「私は――……覚えていなかった」

 そっと、デミウルゴスは、被っていた仮面を外し、その素顔を露わにし――彼女の顔を見たジュイスは、愕然とした。

 美しかった。それは、解っていた。女神は、美しいのが常であるからだ。
瞼を赤く泣き腫らし、その上でなお、彼女は、涙を流していた。赤い赤い、血の涙。それを、美しい瞳から、つぅ、と。
その、目。ジュイスは知っている。己の無力を嘆く時、鏡を見ると映っていた顔。ヴィクトルの苦悩を理解しようとした時に、思わず浮かべてしまう顔。

 ……サンに滅ぼされる仲間を、月面から眺める時に見せていた顔。
それは、自分の無力に打ちひしがれ、叶わぬ恋と、愛を示せぬ女が見せる、悲哀の相であった。

「解っている筈だった。自分の作った話の登場人物に、恋をする者など、いないと言う事位」

 美しい女は、滔々と語り続ける。ジュイスは、聞くしかなかった。

「私は、彼の為の物語。私は虚構。私は幻。偽りにして、妄想の産物。音もなく滅び、声も上げられず砕け散る世界に生きる、嘗て神と呼ばれた女」

 そして、と彼女は続けた。

「去り際に浮かべてくれた微笑みだけを頼りに、帰らぬあの方を待つと決めた、愚かな女」

「……それは」

 愚かじゃない、と言おうとした。男を待つ女は、愚かではないのだと、言いたかった。言えなかった。

「あの方は、遍く物語の創造主。私だけが特別ではない事など、私が一番理解していたのに……。私は、特別になりたかった。閉じられた本が、また開かれる事を、いつだって、夢見ていた」

 彼は、現実の世界の住人。
空想と妄想の世界には、いつか見切りを付け、己の生きる世界で生きねばならない。
デミウルゴスは、それを解っていた。初めから住む世界が違っていた事など、解っていた筈なのに――。

522生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:45:12 ID:X/swmkqQ0
「見て貰いたくて。愛して貰いたくて。……また2人で、一緒に。2人の産んだ人の営みを、眺めていたくて……」

 だから、世界を壊して、帰らぬ男の気を、引こうとして。

「……御前の憎んでいる、神の御心。私は解る」

「……」

「だが……愛する人を待ち続けるお前の孤独も、解るのだ」

「……」

「……あぁ。強いですね。貴女は。私は愛を信じ切れずに狂ったのに、貴女は、迷わなかったのですね。待てたのですね……。私は、滅ぶべきだったのに、愛されたいと願って……狂って……」

「壊れてなんか、いないよ」

 やっと、ジュイスは、言葉を紡げた。

「女であれば誰だって……好きな男の気を引きたいものだ」

 「そして……」

「機会があったら、男の心に引っかき傷をつけてやりたいと、思いたいものなんだよ」

 ただ、自分の場合は少々、強く引っ掻き過ぎたかな、と。反省しないでもない。
ヴィクトルは、自分の死に、どれだけ怒れたのかな、と。気にならない、訳がない。

 懐を弄り、ハンカチを取り出すジュイス。
それを持って、彼女の下へと近づき、流す血涙を、拭き取ってやった。

「単純な、女だろう? お前が、恋する男を待つと言うだけで、心が……絆されてしまったんだ」

 スッと、ハンカチをジュイスは離した。
ああ、やはり。血の涙なんて、流していない方が、綺麗じゃないか。

「……利用、してやるからな。デミウルゴス」

 微笑みながら、ジュイスは言った。
彼女も、笑った。ジュイスの強かさと純粋さ、……愛の深さに対して見せた、慈愛の微笑みだった。




【クラス】

(エクストラクラス)デミウルゴス

【真名】

第二世界存在、『彼女』、或いは、『館主』@イストワール

【ステータス】

筋力A+ 耐久EX 敏捷C 魔力A+++ 幸運E 宝具A+

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

創造:EX
世界存在の創造主。星の数程の英雄の産みの親、星に役割を与え、銀河に息吹を齎す者。
元居た世界に於いてはまごう事なき創造神の片割れであり、その通りの権能を振るい、世界に物語を芽吹かせて来た。
このスキルの持ち主は自動的に神性スキルも付与され、デミウルゴスの場合はA+++相当。聖杯戦争で呼び出せる神性の値としては、間違いなく最高の中の最高ランクである。
道具作成スキルのウルトラ上位互換版とも言うべきスキルであり、本来であれば、無から、星や生命体、エネルギーを取り出せるスキル。
勿論そんな事をすれば魔力切れの一発退場は不可避である。ために、今回の聖杯戦争に際しては、道具及び『宝具』を、『無』から創造出来るスキルにまで劣化している。

【保有スキル】

始原泥の玉体:EX
アダマ。世界の始まりにあった泥。如何なるものにも可塑出来る、万能或いは全能物質。
デミウルゴスは、この始原泥と呼ばれる物質で作られた、ある種の粘土人形であり、型月作品で言う所のエルキドゥに在り方は近い。
今となってはアダマなる物質は、世界の何処を探しても存在しないとされる抜級の希少物質であり、本来ならば一掬い程度の分量だけで、ランクにして最低でもA++の宝具として機能する程の超級の霊的物質でもある。
如何なる剣でも斬れる事無く、如何なる魔術に於いても侵される事がないとされるこの泥で作られた武具や道具は、それ自体が神造兵装を上回るものとして機能する。

 では、この泥によって産み出されたデミウルゴスは、翻って、どうなるのか? 即ち、弩級の防御能力として機能する。
基本的に魔術の類は完全にレジスト、状態異常も勿論通用せず、物理的な攻撃に至っては、A++級の宝具による直撃を受けてようやく少しダメージを負うレベル。
極めつけに、概念的な攻撃にまで完全に近い耐性を得ており、特に時間に対する攻撃に至っては、時間遡行による消滅、即ちタイムパラドクスを用いた、存在した事実の否定をも無効化する。
防御系におけるチート級スキルそのものであり、これを貫けるのは、高ランクの神性系の攻撃か、デミウルゴスの創造主が用いたとされる、アダマを加工する為に用いたとされる剣であるエクートリムと、この系譜に連なる剣しか存在しない。

魔術:A+++
世界の始まりに生み出された者として振るえる、最高レベルの魔術の数々。と言うより、彼女の行使する魔術は殆ど、型月世界で言う所の魔法と差がない。
竜のブレスの放出、大地の崩壊、隕石の飛来ですら、彼女にとっては通常の攻撃の範疇。創造神として振るえる、至極当然の攻撃手段。

523生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:45:38 ID:X/swmkqQ0
【宝具】

『十二悪魔将(トゥエルブ・フィエンド)』
ランク:A+ 種別:- レンジ:- 最大補足:-
デミウルゴスが行使する、強大な力を秘めた12の恐るべき悪魔の将。これを十二悪魔将と呼称し、これらを召喚する技術が、宝具となったもの。
いづれもが名だたる大悪魔達であり、デミウルゴスが生きていた世界に於いて恐ろしく、そして華々しいエピソードを彩った畏怖するべき強大な者達である。
この宝具によって召喚される悪魔将達は、二重六芒の封印と呼ばれる、12体の悪魔のそれぞれが相互に力を打ち消し合ってしまうと言う、精緻な呪いを掛けられている状態にある。
即ち、ただでさえ宝具としての召喚の為、オリジナルよりも弱体化しているにもかかわらず、この封印の影響で、更に本気の力を発揮出来ない事になる。
彼らが、伝承に於いて畏怖を以て語られるだけの力を発揮出来る条件は、ただ1つ。この宝具によって召喚される12体の悪魔の内、『6体』が消滅させられる事。この条件を経る事で、悪魔将達は、真の実力を発揮する事が出来る。

 絶対零度のブレスを放出する白い巨龍、全てを溶解する強酸で構成された原形質の魔物、残像が残る程の速度で飛翔する悪魔、津波を引き起こす大海魔、人の精神を蠱惑する蛇女。
嘗ては天体の運行を司っていたが魔王に誘惑され堕ちた精霊、彼岸の渡し守を務める死神、神聖なる光の力と祝福の力を司る聖魔、全てを焼き尽くす業火を操る炎の魔人、魔王の右腕である黒き騎士。

 以上の存在の他、後述する、別枠の宝具として登録されている残り2体の悪魔将を使役する事が出来る。
上述の二重六芒の封印以外にも、この宝具には弱点があり、それは消費する魔力。そもそも十二悪魔将は、第一世界存在と、第二世界存在であるデミウルゴスの子である、魔王ディース。
即ち、第三世界存在と呼ばれるこの存在こそが、十二悪魔将と言う宝具の真の所有者であり、デミウルゴスは宝具の真の所有権を持っていない為か、余分に魔力を消費する事になっている。
但しそれも、上述する10体の悪魔将を行使した場合のみの話であり、後述する、別枠で登録されている悪魔将2名については、その限りではない。

『悪魔将・闘姫(リリア)』
ランク:A+ 種別:- レンジ:- 最大補足:-
デミウルゴスに忠誠を誓い続けた、12の悪魔の将の1人。上述の十二悪魔将とは、別枠でカウントされる。
2本の槍を振るう少女と言う装いの魔人であり、その強さは、単純な戦闘力で言えば悪魔将の中でも最強。
三騎士レベルのサーヴァントが相手でも、防戦どころか圧勝が成立し得る、最高レベルの使い魔。魔力消費が十二悪魔将よりも低燃費で運用出来るが、これは生前の絆の故。
魔力消費に見合わない、破格の宝具であるが、『虫』、特にゴキブリに対しては、恐ろしいまでの嫌悪感を抱いており、彼らの姿を見ると、フリーズすると言う致命的な弱点を持つ。

『悪魔将・姿なき声(トルバドール)』
ランク:C+ 種別:- レンジ:- 最大補足:-
デミウルゴスに忠誠を誓い続けた、12の悪魔の将の1人。上述の十二悪魔将とは、別枠でカウントされる。
Aクラス相当の気配察知を以て、漸く存在を察知出来る程の、物理的な小ささと、気配遮断能力を持った、『1匹の羽虫』の姿をした悪魔将。
単純な戦闘力で言えば、あらゆる悪魔将の中でも最弱の存在であり、唯一、一般マスターでも倒し得る存在。
死体及び気絶した存在にとりつく事で、その存在の振るっていた能力ごと操れると言う力を持つが、実はこれは本命ではない。
トルバドールの名の通り、彼は死や物語を編む事が出来、その物語を読む者がいる事によって、マスター及びデミウルゴスに、物語を読んだ者の想念を魔力に変換し分け与える事が出来る。
デミウルゴスの強さは、十二の悪魔将全員を束ねたものよりも遥かに強いのだが、平時の魔力消費量が劣悪極まる為、トルバドールによって魔力を徴収しないと満足に動かす事が困難。
よって、彼によって布石を整えてから、動く事が戦闘の基本骨子となる。

【weapon】

希望砕き:
デミウルゴスが振るう武器の1つ。振るうと言うよりは、希望砕き自身が意志を持ち、勝手に振るわれる。

【人物背景】

誰が責められよう。
自らのうちに作り出す物語を。
誰を責められよう。
自らが作られた物語であることを。 
もしや第一存在自身もつくられた物語であるとしたら?
もしやこの画面の前に座るおまえさえもつくられた物語であるとしたら?
やがて彼らはこういうだろう。
世界は全てつくりだされた物語である、と。
つくりつくられ、つくられつくる、それが物語。
誰が責められよう。
誰を責められよう。

【サーヴァントとしての願い】

聖杯では、叶わない。

524生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:45:56 ID:X/swmkqQ0
【マスターへの態度】

……強い人。私は、待てなかった。
その強さに免じて、今は。貴女の助けをしましょう。
サンとルナについては、その行いの気持ちと真意を理解している。理解した上で、相容れない神だなと思っている。

【備考】

デミウルゴスについて:
偽神のクラス。神に限りない力を持つが、神ではない、神を騙った者のクラス。
と、言うが、そもそも原典のデミウルゴスからして、神の手からなる被造物であり、物質世界の全ての物を創造した創造主。
このクラスで召喚された者は皆、ランクを問わず神性スキルを有しており、そのランクはピンからキリである。
『彼女』の適正クラスは、キャスター、バーサーカー、ルーラー、ビースト、デミウルゴス。とんだ厄ネタだよ。



【マスター】

ジュイス=ダルク@アンデッドアンラック

【マスターとしての願い】

神を殺せるだけの力か、知識を

【weapon】

死に際し、古代遺物の全てをロストしている。よって、デミウルゴスの作る武器だけが頼りである

【能力・技能】

不正義:
アンジャスティス。他対象 強制発動型。ジュイスが認識した相手の正義を否定し、それに反する行動を強いる能力。
正義とは目的と言い換える事が出来、戦う事が当人にとっての大義であれば、その戦いを意志とは裏腹に行う事が出来なくなったり、生きる事を大義とするなら、自殺させられてしまうなど。
当人が本当に行いたいと思う事と、真逆の事をさせられる。力と言える。

剣術:
単純計算で、億年以上の経験値がある剣術の為、下手なサーヴァントすら斬り伏せられる実力を発揮する。

【人物背景】

100回目のループ。彼女は、不幸な運命を強いられる1人の少女に、全てを託しそして、力尽きた。

100回目のループで死亡後の時間軸から参戦。

【方針】

長い人生の中で、人を殺して来た経験がない訳じゃない。聖杯は、獲りたい、一方で、無用な殺生もしたくないと言う思いがある。

【サーヴァントへの態度】

神として、嫌悪感を抱いていたが、愛する者を待てなかった、哀れな女性と知り、態度を緩和させた。
とは言え時折見せる狂気には、ヒヤリとさせられるものがある。

525生きるって厳しい ◆zzpohGTsas:2024/05/28(火) 04:46:06 ID:X/swmkqQ0
投下を終了します

526◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:47:10 ID:???0
投下します。
タイトルは「手のひらを太陽に」です。

527◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:47:36 ID:???0
――あなたは少女を悪夢に突き落としました。

 そこはまさに悪夢だった。
 こんな場所を作って少女を延々と屠り、破壊し尽くすなど悪魔の所業だろう。
 実際のところ、そいつは「悪魔」だった。
 「悪魔」は、少女を悪魔の迷宮に突き落した。

 少女は服の一片も与えられず、僅か生まれて9年程度の幼い少女は迷宮を彷徨う。
 しかしその結末は、悲惨極まりなかった。
 あるいは触手に嬲られ。
 あるいは蛾の化け物に貪られ。
 あるいは檻に囚われていた少女たちの慰み者にされて彼女たちの輪の中に入り。
 あるいは「悪魔」自身に犯され。
 そして、壊れた。
 
 何度も。
 何度も。
 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。
 朧げに記憶に残る普通の女の子だった時の自分に戻るため、終わりのない恐怖と苦痛と恥辱と快楽にまみれた迷宮に少女は何度も挑み、そして散った。
 散っていった少女はゴミのように廃棄され、そして「姉」となった。
 壊れてしまった「姉」を棄てた「悪魔」は、「妹」を生み出して、また悪辣なゲームを始める。




「かわいそうなしおん」

「かわいそうなしおん」

「こんな世界に生まれてしまった、かわいそうなしおん」

「どの道を選んでも抜け出すことの叶わない、地獄の世界……」

「壊れることでしか幸せになれない、闇の世界……」

「どうして、私達はこんな世界に生まれちゃったんだろうね……」

「おやすみなさい……私達の……かわいい妹……」

「こんどは……普通の女の子に生まれたいね」




§




 「姉」となった少女達の祈りが通じたかどうかは分からない。
 しかし、新たな「妹」が再び迷宮に挑み、再びその儚い命が散らされようとした時、「妹」は冥界に招かれた。

>少女を連れ出す

「ありがとう……」




§

528◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:48:20 ID:???0




 日が没し、辺りが暗くなった街の中。
 商店街で個人の八百屋を営んでいた店主は、そろそろ店を閉めようかと考えていた。
 店番をしている時にいつも聞いているラジオの電源を切り、店頭に並んだ野菜や果物を片付けようと立ち上がったところで、一匹の犬が近づいてくるのが見えた。

 一切の色がない、白い犬だった。首輪はしていない。野良犬だろうか。
 犬ははっはっと舌を出しながら、尻尾を振って店に並ぶ果物を物欲しそうに見つめている。
 おいおい、冗談だろ。これはうちの売り物だ。いくら愛らしい見た目をしているからといって、譲るわけには……。
 そんな考えは、犬のつぶらな瞳を見ているうちに霧散してしまった。

――ちょっとだけだぞ。

 八百屋の店主は、替えの利く小さな籠を持ってきて、リンゴを3個ほど入れて犬に差し出した。
 それに反応して、犬はお礼を言うようにワン、と鳴いて、籠を加えて立ち去って行った。



 白い犬は、行き交う人々の目に晒されながらビルとビルの隙間にある小さな路地裏に入っていく。
 路地裏を進んだその先には――幼い女の子がいた。
 あろうことか、その女の子は一糸纏わぬ姿であった。橙色のセミロングの乱れた髪を肩に下げ、そのシミ一つない幼子特有の艶やかな肌を惜しげもなく晒している。

 白い犬は女の子の前に来ると、加えていた籠に入ったリンゴを差し出す。

529◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:49:03 ID:???0

「っ……」

 全裸の女の子は、犬とリンゴを交互に見ると、礼を言うことも忘れてリンゴを手に取ってむしゃぶりつく。余程、腹が減っていたのだろう。
 白い犬は――否、女の子から見た犬はただの犬ではなかった。
 犬ではなく狼。狼ならぬ大神だ。
 白い毛並みに入っていたのは、神々しい紅の隈どり。葬者や霊力の強い者にのみ見えるそれは、この狼がサーヴァントであることを示していた。
 その真名は、アマテラス。妖魔に侵されていたナカツクニを救った太陽神、天照大神である。

「よォ、ようやく帰って来たかィアマ公!」

 すると、女の子の頭上で跳ねる、まるで豆粒のような妖精がアマテラスに声をかけた。

「しおんはこの通り大丈夫でィ、このイッスンさまがついてやったからなァ!」

 誇らしげに語る妖精の名はイッスン。アマテラスの相棒としてナカツクニを奔走した逸話があまりにも強いがゆえに、宝具として付いてきてしまったコロポックルだ。
 イッスンは無我夢中でリンゴを食べるしおんという名の少女からアマテラス鼻の上に飛び移る。

「何ィ?すっぽんぽんの女の子に変なことしてないかってェ?馬鹿言うんじゃねェ!ボインな姉ちゃんならともかくよォ、素っ裸で放り出されたガキになんか興奮するわけねェってんだ!」

 聞かれてもいないのに答えるイッスン。
 アマテラスがほとんど喋らない分、イッスンが会話を担当してただけあってそのおしゃべりなところは健在だ。

「で、どうすんだィアマ公。しおん、本当に根無し草みたいだぜェ?」

 リンゴを食べ終わり、ぺたんと座り込んだままぼーっとアマテラスを見つめるしおんを見ながらイッスンは言う。
 言うまでもなく、しおんはアマテラスのマスターであり、冥界の聖杯戦争に招かれた葬者である。
 しかし、本来であれば偽りの東京に設定されているマスターとしてのロールは、しおんに割り当てられていない。
 完全に社会の庇護下から外れた、浮浪児だ。

「クソッ、考えるだけで胸糞悪くならァ」

 吐き捨てるように言うイッスン。 
 しおんは齢二桁にすら達していない幼い子供だ。にも関わらず、社会的な立場どころか服も与えられず、今のように食べ物にすら困る生活をしている有様だ。
 召喚されて間もないため、しおんは未だ裸のままだ。しおんに着せる衣服も、いずれはどこかで用意せねばならないだろう。
 イッスンが憤慨するのも無理もなかった。

 しおん。「悪魔」の作り出した迷宮に囚われた、哀れな幼子。
 迷宮の中では生まれたままの姿であったためか当然のごとく裸のまま冥界に送られ、「悪魔」の所有物であることを示すかのように、その首には赤い首輪が巻かれていた。

 終わりの見えない「悪魔」のゲームを繰り返す中、運命のいたずらか葬者として呼び出された。
 それが、しおんにとって幸せかどうかは分からない。迷宮から抜け出せたとはいえ、裸一貫で聖杯戦争の会場に放り出されたのだから。
 迷宮の中で快楽に溺れて命を散らした方がマシだった可能性も十分に有り得る。

530◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:49:39 ID:???0

 そんなしおんにアマテラスは近づいて、その頬を一舐めする。
 それはまるで、子を慈しむ母のようであった。

「ぁ……」

 その時、しおんの目から一筋の涙が頬を伝った。

「あ、うあぁ……」

 それから、何かが決壊したかのようにしおんはひっくひっくと啜り始め、やがてアマテラスに顔をうずめてわんわんと泣き始めた。

「うっ、ぐすっ、うわあああああぁぁぁぁぁん……!!」

 アマテラスはしおんの背に合わせて跪き、その小さな体躯に寄り添う。
 悪魔の迷宮で目覚めてから、ずっと味方といえる人もおらず、裸で一人ぼっちのまま心細い冒険をしていたしおんにとって、アマテラスは初めて「甘えられる相手」であった。
 本当ならば恐怖と孤独ですぐにでも泣き出してすべてを投げ出したい思いだったが、迷宮の中で元の居場所に帰るという願いのためにすべてを押し殺していた。
 目の前の狼と妖精はしおんの親ではないが、少なくともしおんにとって拠り所にできる相手だ。そんな存在を得た今、それまで抑え込んでいた感情が溢れだしたのだ。

「大丈夫だぜェ、しおん。この毛むくじゃらとオイラがついてるからなァ!」
「ああっ、ぅああ、ぐすっ、えぐっ……」

 イッスンもしおんの肩の上で跳ねて慰めてやる。
 しばらくの間、しおんという普通だった幼い子供はただひたすらアマテラスの懐で泣き喚いていた。

「おとうさん……おかあさん……っ」

 アマテラスの毛がもうしおんの涙を拭いきれなくなろうとした時、ふと、しおんの口からずっと探し求めていたものの名が漏れる。

「なんでェ、家族のいたところに戻りたいってのかァ?」

 イッスンの言葉に、わずかにコクコクと首を振るしおん。

「へっ、それなら話が早ェや。ならこんな辛気臭い冥界抜け出してしおんを――」

 しかし、同時にしおんの思い浮かべた両親には、とてつもない違和感があった。

「……あれ」
「ん?」
「……わからない……。おとうさんと、おかあさんの顔……」
「何ィ!?親の顔が分からないってのかァ!?」

 しおんの記憶にある両親には、まるで欠落したかのように両親の顔に黒い靄がかかっていたのだ。
 どうしても、両親の姿を思い出せない。覚えているのは、「おとうさんとおかあさんがいた」という事実だけ。
 いつも甘えることのできた大好きな家族の顔を、思い浮かべることができない。

 それは、無理からぬことであった。
 なぜなら、しおんは「しおん」ではないのだから。
 ここにいるしおんは、「しおん」の複製でしかなく、記憶が不完全なのだから。
 オリジナルのしおんは、既に「悪魔」の手によって壊されている。
 「悪魔」はまだまだしおんを楽しむため、その「代わり」を作ったのだ。
 しおんは元から、迷宮で生まれて迷宮で死ぬための命でしかないのだ。

531◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:50:11 ID:???0

「なんで……会いたいのに……帰りたいのに……!」

 しおんはぷるぷると身体を震わせる。
 言いようのない寂しさと孤独、そして絶望が、しおんの心にどっと押し寄せていた。

「きゃっ……」
「お、オイ、アマ公!?」

 しおんの心が闇に潰されそうになったその瞬間に、アマテラスは半ば強引に自身の背にしおんを跨らせて駆け出す。
 しおんとイッスンの困惑をよそに、ビルの壁を蹴って屋上へと登っていく。

「アオオオオオオオオン――」

 そして、屋上へ着くや否や、遠吠えをしながら天照大神は神なる筆を取り――。

 暗くなった夜空に向かって「◯」を描く。

 するとどうだろう、「照」の文字を中央にたたえた太陽が空に出現し、周囲を照らすとともに辺りを完全な昼に変えてしまったではないか。
 これはアマテラスの森羅万象に干渉する神通力であり、宝具『筆神業・筆しらべ』の一つ、「光明」。
 宵闇に太陽を召喚して昼に変えるというアマテラスを象徴する筆業だ。
 此度の聖杯戦争では効果範囲と持続時間ともに制限されているが、それでも尚太陽を召喚できることには掛け替えのない意味がある。

「あ……」

 しおんは呆けたように空に出てきた太陽を見て、やがて気づく。

「……あたたかい……」

 思わず手を伸ばしてしまう。
 しおんの剥き出しの肌を包んでくれるような、そんな心地のよい陽気がしおんを照らしていた。
 そうだ。たとえ親の顔は思い出せなくとも、しおんは太陽の明るさは覚えている。太陽の暖かさも覚えている。
 欠落したオリジナルの記憶も、それだけは忘れていなかった。
 複製のしおんにとっては初めてみる太陽のはずなのに、とてつもなく懐かしい感覚がする。
 母なる太陽の前では、孤独感はどこかへと消え去ってしまった。

「……ワンちゃんが、やったの?」

 しおんの問いに、アマテラスは肯定するようにワン!と鳴く。
 ずっと忘れていたが、しおんは太陽の下に出ることができるのだ。
 悪魔の迷宮のような、陽の当たらない檻の中に、もうしおんはいない。
 空に昇る太陽は、まるで慈母神アマテラスはあなたと共にあると言ってくれているようで。

「ありがとう……」

 しおんは心から安堵した顔で、アマテラスに抱きついた。

「へっ、結構粋なことすんじゃねェか」

 アマテラスの召喚した太陽を見上げながら、イッスンは言う。

「そこまでやるならちゃんとしおんと一緒にいてやれよォ?本当の親元に届けてやるまでなァ」

 天照大神はすべてを照らす。たとえ冥界であっても、たとえ光を知らぬ少女であっても。

532◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:50:52 ID:???0
【CLASS】
セイバー

【真名】
アマテラス@大神

【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運EX 宝具B+

【属性】
中庸・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:-
アマテラスは狼のため騎乗する能力は持たないが、騎乗させることはできる。

【保有スキル】
大神:A+++
太陽神であり、天の國タカマガハラより出で来し天照大神。
太陽そのものとも言えるその神体は常に大地へ生命力を恵んでおり、アマテラスが走った後には草花が咲き乱れる。
同ランクの神性を持っている他、他の者からの太陽神に対する信仰や感謝の気持ちに比例して力を増していき、ステータスが飛躍的に増強されていく。
葬者やサーヴァントからの信仰の比重が特に大きい。
霊力の強い者や信仰心の強い者や葬者にはその白い身体に紅い隈どりの入った神々しい身体が見えるが、普通のNPCにはただの白い犬にしか見えない。

わんこ:A
犬。ワン公。アマ公。毛むくじゃら。実際は狼であり、イザナギ伝説の白野威そのもの。
イッスン曰く、ポアッとしているとのこと。
しかし実際は思慮深く、慈母神に相応しい聡明さを持ち合わせている。
このポアッとした様子は敵の油断を誘い、策の隠匿判定を有利にする効果がある。

心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

退魔力:A
対魔力が魔を防ぐ力なら、退魔力は魔を祓う力。
妖怪に侵されていた地上に太陽を取り戻した逸話からこのスキルを有する。
魔、陰、闇、妖の属性を持つ者に対しては追加大ダメージを負わせる他、それによって振り撒かれた病などのバッドステータスを解除する。

【宝具】
『天道太子一寸(イッスン)』
ランク:D 種別:妖精 レンジ:- 最大捕捉:-
コロポックル族の小さな旅絵師であり、アマテラスの相棒。
アマテラスとの地上の旅で常にお供していたからか、此度の聖杯戦争にも宝具という形でついてきてしまった。
遠目に見ると虫が跳ねている程度にしか見えないほどその体躯は小さく戦闘能力は皆無だが、常人が両手で持てる程度のものであれば持ち上げられる。
また、神と交信できるコロポックル族の性質から、神性スキルを持つ者に対してはCランク程度の真名看破スキルを持つ。

『筆神業・筆しらべ』
ランク:B+ 種別:対界宝具 レンジ:1〜5000 最大捕捉:-
アマテラスの所持する三種の神器と、神なる筆で世界に絵を描き、森羅万象に干渉して奇跡を起こす神通力の複合宝具。
あらゆるモノに「一」を描けば斬撃が入り、枯れ木に「◯」を描けば生命の息吹を迸らせて草木が蘇る。
炎、雷、水雨、氷、風を具現化できる他、壊れたものを修復したりアマテラス以外の時間の流れを遅くすることまでできる。
夜空に太陽を描けば昼になり、昼空に月を描けば夜になるなど、時空まで操ることも可能だが、
この「光明」「月光」の二つの筆しらべについては制限がかかっており、アマテラスの周囲数kmかつ持続時間も数分〜一時間程度に限定して昼と夜を変える能力に抑えられている。
しかし、具現化するのは紛れもなく本物の太陽と月であり、太陽または月によって恩恵を受けるサーヴァントはその効果に預かることができる。

『太陽は昇る』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:-
信仰が最大限になった時にのみ発動が可能になる宝具。
信仰が足りなくとも、疑似的に令呪三画分を消費することでも発動可能。
アマテラスが大神としての本来の力と権能を取り戻し、アマテラスの幸運以外のパラメータをA++ランクに置換した上で太陽神として降臨する。
この状態のアマテラスが筆しらべ「光明」を使用した場合、本物の太陽の光が冥界を照らす。
アマテラスの呼び出した太陽はその光で味方に無尽蔵の魔力を供給し傷を癒し、あらゆる闇を祓い敵を弱体化する。
さらにこの太陽は生命力をその光で照らす者に恵み、本来では絶対に起こり得ない奇跡を起こすだろう。例えば、冥界の死霊を一時的に生前の姿に戻すなどのような……。
たとえそこが冥界でも、太陽は昇る。

【weapon】
アマテラスが背負っている三種の神器、八咫鏡、天叢雲剣、八尺瓊勾玉。
それぞれ、炎、雷、氷の属性を纏っている。

【人物背景】
白い狼の姿をした神であり、太陽神天照大神。
相棒のイッスンと共に妖魔の跋扈していた地上を救い、常闇の皇を打倒して濁世をあまねく照らした。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを本来の家族の元に送り届ける。

【マスターへの態度】
救うべき哀れな子供。

533◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:51:11 ID:???0
【マスター】
しおん@悪魔の迷宮

【マスターとしての願い】
おとうさんとおかあさんにあいたい

【能力・技能】
9歳児相当の力しかない。
ただし、悪魔に作られた存在であるため、簡単な責め苦で死なないよう頑丈さだけは上がっている。

【人物背景】
「悪魔」の作った迷宮に突き落とされた哀れな少女。
しかしその正体は、オリジナルのしおんを元にして作られたクローンでしかない。
それゆえに、例えば両親の顔のような、極めて重要な記憶が欠落している。

此度の聖杯戦争ではロールは与えられておらず、社会的な地位はない。
元の世界では常に全裸だったため、衣服もない。
つまり裸で何の装備もないまま、身一つで聖杯戦争の舞台に放り込まれた。

【方針】
おとうさんとおかあさんにあいたい

【サーヴァントへの態度】
優しくしてくれるワンちゃん。まるで太陽のように暖かい。

【把握資料】
こちらのページの「少女を連れ去る(DL)」から原作をダウンロードできます。
https://master009.x.2nt.com/dmaze/page/dmaze.html

534◆mAd.sCEKiM:2024/05/28(火) 04:51:28 ID:???0
以上で投下を終了します。

535 ◆HOMU.DM5Ns:2024/05/28(火) 05:02:43 ID:Oo.LeaBQ0
募集期限が終了しました。
皆様のたくさんの投下、誠にありがとうございます。
これより名簿選考とオープニング作成に入ります。今暫くのお時間をいただきます。完成の目処が立ちましたら改めてご報告させていただきます。


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