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チェンジ・ロワイアル part4

1 ◆5IjCIYVjCc:2024/01/27(土) 15:52:18 ID:A3HUuRCo0
【当企画について】
・様々なキャラに別のキャラの体を与えてバトロワをする、という企画です。
・コンペ形式で参加者の登場話を募集します。
・初心者から経験者まで誰でも歓迎します。

【参加者について】
・このロワの参加者は皆、自分の体とは別人の体で戦うことになります。
・参加者として扱われるのは体を動かす精神の方のキャラクターです。
・精神と体の元になるキャラの組み合わせは自由です。

【ルール】
・全員で殺し合い、最後に生き残った1人が勝者となる。
・制限時間は3日。
・優勝者だけが元の体に戻れる。
・優勝者はどんな願いでも叶える権利を得る。
・参加者は皆爆弾入りの首輪を嵌められている。これが爆発すると如何なる存在でも死亡する。
・主催者は権限により首輪を独自の判断でいつでも爆破することができる。
・主催者が「これ以上ゲームを続けることは不可能」と判断したらその時点で全参加者の首輪が爆破される。
・参加者は最初、会場のどこかにランダムにテレポートさせられる。
・NPCなどは存在しない。
・ゲームの進行状況等は6時間ごとに行われる放送でお知らせする。
・定期放送ごとに禁止エリアが3か所発表される。
・禁止エリアに立ち入ると首輪が5分後に爆破される。
・禁止エリアが有効となるのは放送から2時間後。
・禁止エリアに立ち入った場合、首輪は事前に警告音を鳴らす。

【支給品について】
参加者にはデイパックというどんなものでも入る小さなリュックが渡されます。その中身は以下の通りです。
・地図:会場について記されている。
・食料(3日分):ペットボトルの水やコンビニ弁当など。
・名簿:参加者の名前が羅列してある紙の名簿。最初は入っていません。本編開始とともに配布について放送でお知らせされます。
・ルール用紙:ルールについて書かれたA4サイズの紙。
・ランダム支給品:現実、フィクション作品などを出展とするアイテム。最大3つまで。
・身体の持ち主のプロフィール:このロワで与えられた体の元の持ち主について簡単に記してある。記載事項は名前、顔写真、経歴、技能といったものなど。
【追加支給品】
・コンパス:方位を知るためのアイテム。手持ちサイズの小さなコンパス。赤い針が北を指す。
・名簿:参加者の名前が羅列してある紙の名簿。五十音順で記されている。身体についての記載は無い。

【支給品についての注意事項】
・2021年9月22日現在、既に登場している参戦作品以外からの出展で支給品を登場させることを禁じています。

【開始時刻について】
・開始時刻は夜中の24時からです。

【時間表記】
深夜(0〜2)
黎明(2〜4)
早朝(4〜6)
朝 (6〜8)
午前(8〜10)
昼 (10〜12)
日中(12〜14)
午後(14〜16)
夕方(16〜18)
夜 (18〜20)
夜中(20〜22)
真夜中(22〜24)

【状態表について】
・状態表には以下のテンプレート例に示すように[身体]の欄を表記することを必須とします。
【状態表テンプレート例】
【現在地/時間(日数、未明・早朝・午前など)】
【名前@出典】
[身体]:名前@出典
[状態]:
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]基本方針:
1:
2:
3:
[備考]

・死亡者が出た時は以下のように表記してください。
【名前@出典(身体:身体の名前@出典) 死亡】

【予約ルール】
・予約する場合は3週間を期限とします。
・期限を過ぎて何も連絡が無ければ予約は取り消しとなります。
・予約を延長する場合はもう1週間までとします。
・予約が入っていないキャラならば予約なしのゲリラ投下も可能です。
・予約期限を過ぎた場合、同じキャラを再予約ができるのは5日後とします。

まとめwiki:ttps://w.atwiki.jp/changerowa/
専用したらば:ttps://jbbs.shitaraba.net/otaku/18420/

2 ◆5IjCIYVjCc:2024/01/27(土) 15:57:54 ID:A3HUuRCo0
4スレ目を建てました。
前スレが足りなくなればこちらに投下してください。

3 ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:24:31 ID:3pAQFX7M0
スレ立てお疲れ様です
引き続きこちらに投下します

4自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:25:35 ID:3pAQFX7M0



戦いが始まったと分かれば杉元のスイッチが即座に切り替わる。
全方位から常に死が迫る日露戦争を、骨の髄まで味わって来た男だ。
動くべき時に動けない愚行を今更犯す筈も無く、右手を跳ね上げ引き金を引く。
コルト・パイソンが火を吹き、肉の壁と見紛う脚を食い千切った。
更には内部で爆破した弾丸が神経を破壊する。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

残念ながら巨人への効果的なダメージにはならない。
対未確認生命体用の特殊弾も、規格外のサイズを誇る巨人相手では豆鉄砲に等しい。
的が大きい故、自他共に認める射撃下手の杉元でも当てられるのはほんのちっぽけな慰めか。
大した傷で無くとも攻撃は攻撃、小癪な真似に出た一匹の虫が最初の標的に選ばれた。

地上の蟲に鉄槌を下す神の如く、上空より襲来する足底。
大質量の急接近に空気が悲鳴を上げ、危機感をこれでもかと高めさせた。
道で蠢く目障りな蟻を潰すように、人間一人の命が容易く奪われる。
だが自らの終わりを黙って受け入れるかは別。
纏わり付く死を幾度となく跳ね退けたからこそ、只の人間でありながら不死身の異名を手に入れた男なら尚更だ。
迫る脅威を火薬に、自らを弾丸に変え疾走。
蓬莱人の身体能力でも十分な距離を取らねば無事では済まない。

「うおおおっ!?」

回避成功を喜ぶ暇もなく、振り下ろしたばかりの足が襲って来た。
たっぷり蓄えた猪のような親指が視界いっぱいに映り込む。
骨が折れる程度では済まない、半身が粉砕されるのは確実。

5自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:26:09 ID:3pAQFX7M0
「甜花!」
「う、うん……!」

死を遠ざけ、巨人に立ち向かうのは杉元一人の役目に非ず。
金塊争奪戦でアイヌの少女や脱獄王がそうだったように、此度も彼の仲間が黙っていない。
ビルドと斬月、合図へ頷き二人の戦士が銃撃を開始。
ライドブッカー、ドリルクラッシャー、無双セイバー。
三つの銃口から放たれたエネルギー弾が巨人の足を狙い撃つ。
爪が割れ肉が弾け飛び、病院前の地面を赤く彩る雨が降り注ぐ。

「痛っ!爪!爪が当たった!」

杉元の額へ爪の欠片が突き刺さったが事故である。
ともかく蹴りの勢いが僅かに弱まり、反対に杉元は両脚の筋肉を総動員。
数秒前までの位置を巨人の足が通過、背中へ嫌な風圧を感じながら跳び退いた。

仲間への援護が上手くいった代償として、怒りの矛先が二人のライダーに変更。
同じ銃撃でも威力で言えば彼らの方が上、しかしうなじ以外の攻撃は決定打になり得ない。
再生が始まっている足で地面を踏みしめる姿から、攻撃が堪えた様子は微塵も無し。
殲滅を促す脳からの指令と、絶えず湧き出る憎悪に突き動かされ拳を振り下ろす。
拳一発蹴り一撃が災害級の威力だ、直撃すれば仮面ライダーの装甲があっても無事では済まない。

「ま、やっぱりそう来るよな…!」

敵意が今度は自分達に向けられるのも承知の上だ。
巨人の蹴りを杉元が躱した時点で、ビルドはとっくに次の行動に出ている。
ライズホッパーに跨り、後ろに斬月を乗せ準備完了。
拳が地面に叩きつけられたのは猛発進した直後のこと。

6自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:26:50 ID:3pAQFX7M0
「ひぃん……!は、速い……!」
「キツいだろうけど振り落とされるなよ!」

猛スピードで駆けるライズホッパーに、斬月は目が回りそうだった。
変身せずにいたら確実に地面を転がっていただろう。
とはいえ相手が相手だ、ビルドだけならまだしも斬月が一緒ならばこれくらいの機動力は必須。
巨人が大股で一歩踏み出せば、たったそれだけで呆気なく追い付かれる。
加えて巨人は肉体の密度が薄い、巨体に反して俊敏な動きも可能という厄介さ。
巨人討伐に慣れた調査兵団であっても、基本は『遭遇しない』のを大前提とする理由の一つ。

しかしライズホッパーは、飛電インテリジェンスが開発を行ったスーパーマシンだ。
全速力の巨人であっても簡単には追い付けない。
これが殺し合い開始直後のような暴走だったら、巨人はビルド達から引き離されたままだろう。
されど忘れるなかれ、今の巨人は洗脳と憎悪の影響で対象の殲滅に最適解を弾き出す殺戮マシーン。
速度で勝る相手だろうと決して逃げられない。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

大地を陥没させん程に踏みしめ跳躍。
ただそれだけで暴風が巻き起こり、装甲越しから容赦なく叩きつける。
上空から眼下の標的へ狙いを定め拳を突き出す。
落下の勢いも上乗せした一撃の急接近は、走行中のビルド達へ更なる警鐘を鳴らす。
ライズホッパーの速度を上げるも猛烈な悪寒は消えてくれない。
ビルドの脳がフル回転し次の行動を決定、走っているだけでは拳を避けるのは不可能。
だが手はある。

7自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:27:31 ID:3pAQFX7M0
「ちょっとだけ無茶やるから耐えてくれ!」
「えっ?ひゃっ、きゃああああああっ……!?」

拳が振り下ろされた先に哀れな死体は無い、潰された地面が見えるだけだ。
直撃の寸前にハンドルを操作し、何とライズホッパーは前方へと大きく飛び跳ねた。
地面を離れ宙へと逃げ込んだ安心は長続きせず、再び脅威が急接近。
どこへ行こうと関係ない、降り立つ前に捕えるべく巨人は反対の手を伸ばす。
巨大な掌に掴まれ、後は握り潰されるか腹の底へ真っ逆様の二択。
尤も、それを予測できないビルドではない。

斬月の手を取り、ライズホッパーを乗り捨てる形で跳ぶ。
落下するバイクには目もくれず、伸びたままの腕へ着地。
じっとしていれば摘ままれるか潰されるかだ。
ラビットフルボトルの成分でハイジャンプを行い、巨人から遠ざかる。
無論、巨人がそのまま見逃すのは有り得ない。

「ピ〜カ〜!!」

相手の動きに注意を払い続けるのはこちらも同じ、でんこうせっかで追いかけて来た善逸が妨害に動く。
鬼との戦い、特に上弦や無惨との死闘では1秒たりとも集中力を切らせなかった。
僅か一瞬の気の緩みが即座に死へ繋がるのを、嫌と言う程に知っている。
気絶しそうな恐怖の中でも巨人から決して意識を逸らさず、ピカチュウのわざを発動。
天空より降り注ぐ一筋の光。
神が下す裁きの如く、眩い雷光が巨人を――貫かない。

「ピカ?ピカアアアアアアア!?(あれ?ええええええええ!?何で!?今雷落ちたよね!?)」

まさかの大外れに、たちまち頭はパニック状態。
空から巨人目掛けて雷を落とした、自分の攻撃なんだからそれは間違いない。
なのに当たらなかったのは一体どういう訳か。
幾ら何でもあんな巨大な相手に外す、なんてことはないだろうに。
DIOや姉畑には綺麗に命中したのが、何故今に限って外れるのだろうか。

8自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:28:24 ID:3pAQFX7M0
かみなりはでんきタイプのポケモンが使う中でも高火力のわざだ。
しかし10まんボルト等と違い、常に必中する訳ではない。
天候によって命中率が左右され、晴天時には半分の確率でしか当たらない。
現在は日がほとんど沈んだ為、晴天時程低くはないがそれでも確実に命中するかと言えば否。
雨天時に起きたPK学園での戦いの時とは異なり、こういったかみなりが外れる事態も出てくるのである。

そういったポケモントレーナーの常識を善逸が知る訳が無く。
まして対峙中の巨人にはもっと関係無い。

『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』

また一人滅ぼすべき者が目の前に現れた。
それだけ分かれば十分であり、それ以外を考えなどしない。
完全に再生を終えた足が地面を蹴り上げる。
拳の餌食に選ばれたのは、人間よりも小さな生物。
なれど巨人が止まる理由には断じてならず、振り下ろす鉄拳はさながら巨岩の投擲。
青褪め甲高い悲鳴が耳を劈こうとも知ったことではない、黄色い体躯が拳の真下に消え失せる。

手をどかせばそこには赤い染みが、見当たらなかった。

「ピ、ピカ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

汚い高音の叫びは標的がまだ無事な証拠。
音の発生源を即座に探し当て、我武者羅に駆け回る黄色い体躯を睨み付ける。
但し巨人が見たのは、複数体のピカチュウが逃げる姿だった。

「ピカピ!?ピッピカチュウ!?(ってあれ!?なんか俺増えてる!?)」

自分のことながら善逸も困惑を隠せない。
これもまたピカチュウが使えるわざの一つ、かげぶんしんだ。
名前の通り分身を作り出し、攻撃の回避率を上げる効果を持つ。
今さっき潰されたのは分身の一体であり、本体はこうして逃げ延びた。

増えたなら纏めて潰せば良い。
巨人が足を振るえば、たったそれだけで分身全てが薙ぎ払われて消滅。
あっという間に本体一匹へ逆戻り。
再度かげぶんしんを行う余裕は与えず、掌が善逸の逃走を阻む。

9自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:29:10 ID:3pAQFX7M0
「どおおっせええええいっ!!!」

なれば巨人を阻む者もまた、当然の如く現れる。
颯爽と駆け付けた不死身の杉元、抜き放つ得物は和泉守兼定。
鬼の副長と恐れられ、英霊にまで至った剣豪の愛刀。
杉元が知る老剣士程使い慣れてはおらずとも、蓬莱人の身体能力と自らの技能で補う。
気合一閃を絵に描いた刃は、巨人の指を数本纏めて斬り落とす。

「ついでにこれもだ!」

善逸を掴む筈の指が無くなり、黄色い獣はすり抜けるように逃げた。
憎悪の矛先は最初と同じく杉元へ変更。
だが杉元は動じない、殺気だなんだを向けられるのは最早日常茶飯事。
刀を納め両手を自由に、翳した掌から火球を連続で発射。
弾幕ごっこと違って見栄えを全く考えない、威力優先の火炎地獄。
たちまち肉が焼ける臭いが立ち込めた。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

それがどうしたと言わんばかりの咆哮。
体中が焼かれようとも知ったことか、火球諸共薙ぎ払う。
腕を振るう単純な動作が、まるで大木を叩きつけたかの強力無比な一撃と化す。
跳んで避け切れるかは微妙なところ、自ら地面に倒れ込みやり過ごすのを選択。
頭の上を大質量が横切る感覚、思わずヒヤリと寒気が走った。

「杉元!」

自身を呼ぶ声に何だと聞き返さず、意図を察知し急ぎ後退。
入れ替わりに前へ出たビルドがカードを取り出す。
巨人と目が合い、こちら何をする気か察したかは不明だが腕が伸ばされた。
次の手に出る前に叩きのめすつもりか。

10自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:30:01 ID:3pAQFX7M0
『メロンスカッシュ!』

突如横合いより投擲された物体が腕に命中、肉を削ぎ骨を砕く。
ロックシードのエネルギーで強化されたメロンディフェンダーだ。
敵の意識が外れたなら大技をぶつけるチャンス、ゲーム内でのお約束である。
これは画面の向こうの世界では無く現実で、実行に移した斬月は緊張感に襲われているが。

『FAINAL ATTACK RIDE BUI・BUI・BUI BUILD!』

斬月が標的にされる前にビルドも動かねばならない。
ディケイドライバーにカードを装填、解放されたエネルギーがグラフ型の滑走路を作り出す。
スマッシュを撃破した蹴り技はここでも健在、グラフを滑り急加速し巨人へ足底を叩きつけた。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!??!』

咄嗟に両腕が伸ばされるも、瞬間的なスピードはビルドに軍配が上がる。
脚部へ当たった足底のキャタピラが高速回転、蹴りの勢いに加えて皮膚を削り取っていく。
時間を置かずに再生こそされるだろうが、巨体を支える箇所の損傷だ。
巨人の体勢が崩れ膝を付く。
痛覚が薄い巨人が痛みへ叫ぶことはない、代わりに悉く小賢しい真似に出た者達への憎悪を一層滾らせる。

そしてこの瞬間に5人目の戦士が動く。

「変身!」

『蒼き野獣の鬣が空になびく!ファンタスティックライオン!流水三冊!紺碧の剣が牙を剥き銀河を制す!』

物語の語り手を思わせる電子音声が剣士の降臨を知らしめる。
青い装甲と胸部のライオンはそのままに、より重厚さを増した姿。
右肩には神獣が、左腕にはおとぎ話の力をそれぞれ纏う。
神楽も一度は見たが、自身が変身を行うのはこれが初めて。

11自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:31:10 ID:3pAQFX7M0
仮面ライダーブレイズ・ファンタスティックライオン。
三冊のワンダーライドブックで変身するブレイズの強化形態。

「おっしゃ!やってやるアル!」

巨人は膝を付き、意識は完全にビルドら4人へ向けられている。
少し離れた位置でブレイズになったブレイズは完全にノーマーク。
康一を助け出すには正に絶好のタイミングだ。

飛行能力を持つブレイズならばうなじへ近付くのも難しくない。
そう考え飛び出そうとした所へ戦兎が待ったを掛け、自分達が隙を作るから待つよう言われた。
反論する前に各々動き出し、悩んだが勝手な行動が大きな過ちを引き起こすのは自分が一番分かっている。
逸る気持ちを抱え続け、とうとうその時は来た。

右肩のペガサスボールドが天を翔ける力をブレイズに与える。
翼を広げ地から足を離した際の機動力は、タケコプターとは比べ物にならない。

(これならいけるネ…!)

自由に空を飛び回る解放感に、こんな状況でなければ喜んだかもしれない。
僅かに浮かんだどうでもいい感想を追いやり、意識全てを巨人へ集中。
自分の罪を知っても責めず、仲間として受け入れてくれた者達が作ったチャンスだ。
つまらないミスでふいにするのは許されない。
村で康一に何が起きたか考えるのも、助け出してから聞けば良い。
銀時を失って錯乱した自分を立ち直らせてくれた康一を、託された聖剣で取り戻す。
決意の固さはそのまま柄を握る力の強さに変わる。

12自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:31:51 ID:3pAQFX7M0
(もう少し…!)

うなじまで後もう僅かの距離。
背後からの気配に気付いたのか、巨人の首が揺れ動いた。
それでも速いのは自分の方だと勝利を確信、ブレイズの聖剣が寒風諸共うなじを切り裂く。

「これで…!」

取ったと、その場にいる全員が思った。
康一を閉じ込める肉の檻をこじ開け、無事救出。

そんな都合の良い展開は、キンッという音と共に否定される。

「なっ!?」

流水は巨人のうなじを正確に狙った。
本来巨人討伐に用いる装備で無くとも、ブレイズの能力と無数のメギドを斬って来た流水があれば、康一本体を引き摺り出すのも不可能ではない。
だが現実の光景は無情だ。
流水はうなじを斬れず皮膚に弾かれた。
皆が作ったチャンスは脆く呆気なく失われ、巨人の瞳がブレイズをハッキリ捉えて離さない。

巨人となったエレン・イェーガーの能力は、単に巨体を利用し暴れ回るだけではない。
ロッド・レイスが所持していた薬により手にいれた硬質化。
正史において、ライナー・ブラウンを始め巨人化能力者との戦闘で幾度も発揮された力だ。
当然精神が別人になっても硬質化能力は健在。
東エリアの街で起きた戦闘時でも使われ、雨宮蓮を始めとした参加者達を大いに苦戦させた。

硬質化に関しての情報を戦兎達に教えなかった件で、神楽を責めるのは酷だろう。
何せ神楽が覚えている暴走した時の康一は、このような能力を一度も使わなかった。
こんな力が巨人にあったなど、神楽にだって予想外。

13自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:32:37 ID:3pAQFX7M0
といった事情も巨人の知ったことではない。

またもや滅ぼすべき蟲が現れた。
不意を打つつもりだったようだが硬質化を破れず、結果間抜けにも凍り付いたまま。
殺さない理由がどこにあると言う。

「っ!!あっぶね…!!」

小蝿を仕留める気安さで平手打ちがブレイズを襲う。
硬直から咄嗟に動けたのは、やはり万屋銀ちゃんの従業員として数々の大事件を解決して来た経験からか。
ファンタスティックライオンの固有能力の一つ、肉体のゲル化を使用。
液体を叩いたところで無意味。
しかしこれも制限の対象になっているのか、ブレイズの意思とは無関係に短時間で実体化。
尤も既に地面へ着地を終えており、ビルド達に並ぶ。

「な、何で急にカッチカチになったネ?新八みたいに一人でシコシコやってるアルか?」
「シ……!?あ、あの、それって……あうう……」
「んなハッキリ言ってやるなよ。男ならまぁ…」
「ピカ!?(なななななんで俺を見るの!?)」
「急に下ネタぶち込むんじゃないよ。ってかそんな場合じゃないでしょーが」

ほんのちょっぴり流れたギャグ漫画の住人ならではの空気は、巨人が発するプレッシャーで消し飛ぶ。
おふざけが通用する時間は完全に終わりだ。

二本足でどっしりと大地に立ち、地蟲を睥睨する憎悪の化身。
姿形はこれまでと何ら変わっていない。
しかし纏う存在感が否応なしに理解させる。

ここからが地獄の始まりだと。

14自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:33:24 ID:3pAQFX7M0
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

天地を揺るがす雄叫びが開戦の合図。
体を支える左足はそのままに、右足を大きく振り上げ指先が空を睨む。
踵部分が硬質化、断頭台の如く降ろされた鉄塊に全員の肌が総毛立つ。
避けろと言ったのは誰か、短い言葉を聞き届けるより早く跳び退く。

巨体を利用し、硬質化で威力を高めた踵落とし。
直撃せずとも発生する衝撃波が吹き飛ばす。
己の意思とは無関係に体が宙を舞い、地面への激突は時間の問題。

「俺は…不死身の杉元だ!!」
「ピカ〜〜〜!?」

異名を名乗り上げ己を鼓舞、足場のない状態でありながら踏み止まる。
幻想郷の住人だから可能な飛行能力だ。
偶然傍を横切った黄色い獣を掴み、直後眼前へ迫る拳。
慌てて急降下し回避、頭上を通過する鉄拳を見ないままに善逸を降ろす。
巨人の二撃目を一々待つつもりはない、再度飛び上がり火球を連射。
場所を空中に移しての第二戦だ。

「ホアチャアアアアアアアッ!!!」

杉元とは別方向から飛翔する青い剣士。
ブレイズも飛行能力を駆使して落下を防ぎ、攻撃を再開。
海賊の船長のようなフックを振り回し、ライドブックの力を引き出す。

ブレイズの動きに呼応し空中に水が生み出される。
真下に流れ落ちる筈の水はなんとリング状へ変化。
更には妖精やライオンがリングを通って現れ、巨人に攻撃を仕掛ける。
おとぎ話の住人達を味方に付ける、これこそ変身に使った二冊目のライドブックの力だ。

15自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:34:09 ID:3pAQFX7M0
炎の弾幕と妖精が狙うのは巨人の両腕。
腕を一時的にでも使用不能にさせれば、再びうなじを狙いに行ける。
だが巨人の腕に二人の猛攻はまるで効果が無い。
うなじを守ったのと同じ硬質化を、今度は両腕に使用。
僅かな焦げ目と掠り傷が精一杯の悪足掻きなど、脅威には程遠い。
しゃらくさいとばかりに左右へ拳を突き出した。

「チッ…!」

巨体からは考えられない程に速い。
攻撃を中断し回避へ集中。
掠めるだけでもまず致命傷は免れず、おまけに避けても発生する暴風で体勢を崩される。
死線を何度も潜り抜けて来た杉元と言えど、ここまで巨大な敵との戦闘は未知の領域。
気付かぬ内に緊張の汗を流す。

拳の通過位置を大きく移動し背後を取る。
ブレイズも同じ考えだったのか、反対方向から巨人の背を狙うのが見えた。
腕の破壊が難しいなら、多少無理してでもうなじを攻撃。
名刀と聖剣を抜き、囚われの少年が埋まっている箇所へ急接近。
硬質化はさせぬとばかりに振るわれた二刀はしかし、切っ先すらも届かない。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

腰を大きく捻り、伸ばした腕が半円を描く。
ストレッチにも似た動きを巨人が行えば、それは災害と変わらない。
全身を叩きつける暴風に揉みくちゃにされ、強制的にうなじから引き離される。
武器を落とさず握り締めれただけでも奇跡に近い。
装甲を纏うブレイズでもノーダメージは恐らく不可能、生身の杉元は言わずもがな。
ロクな受け身も取れないまま、あわや地面の染みと化す。

16自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:34:53 ID:3pAQFX7M0
『KAMEN RIDE GHOST!』

『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!』

『メロンアームズ!天・下・御・免!』

『ジンバーメロン!ハハッー!』

待ち受ける末路は二人の仲間の手で変えられた。
仮面ライダーゴーストとジンバーメロンアームズの斬月が、それぞれ杉元とブレイズの元へ急行。
前者は幽霊のように浮遊が可能であり、後者はメロンディフェンダーを使った飛行能力を有する。
杉元達を空中で受け止め事なきを得た。

「助かった!」

礼もそこそこに、またもや放たれた拳を避ける。
善逸以外は空中戦が可能であれど、状況は何も良くなっていない。
さりとて文句を言っても始まらない。
手持ちの武器をガンモードに変形し、ゴーストは二丁の銃からエネルギー弾を発射。
斬月もゴーストに倣い、ソニックアローで矢を射る。
二人が狙うのは巨人の顔面、怯ませ隙を作り出す。

硬質化させた腕で防ぐも、巨人を相手取るのはゴースト達のみではない。
うなじ部分を目指し杉元と神楽が再度接近。
エネルギー弾の掃射に気を取られ、今度は一手反応が遅れる。
しかし、正気を失っても脅威の察知能力までは失くしていない。
刃の到達を待たずに跳躍、後方へ轟音を立てて着地。

巨人が大きく動けばその分空気は揺れ、余波が周囲に被害を齎す。
咄嗟に距離を取ったお陰で巨人に衝突こそされなかったが、吹き飛ばされるのは避けられなかった。
そこを助けたのはゴースト。
パーカーゴーストを複数召喚し杉元達を支える。

17自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:35:32 ID:3pAQFX7M0
『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』

巨人はうなじへの攻撃を避ける為だけに跳んだのではない。
降り立った場所は丁度、聖都大学附属病院のすぐ傍。
着地の振動だけでガラスが大量に割れるのもお構いなし、白亜の宮殿をガッチリと掴む。

「おい、まさか……」

嫌な予感は見事に的中。
壁に亀裂が走ったかと思えば、力任せに引き剥がす。
一階部分と既に禁止エリアへ面した病棟こそ無事だが、残りは巨人の得物と化す。
標的は無論、空を飛び回る目障りな連中。
存分に怪力を駆使し投擲、命を救うための施設が無骨な凶器へと変わった瞬間だった。

「っ!神楽!」
「わ、分かったネ!」

名前を呼ばれただけで瞬時に意図を察したのは、命懸けの戦いには慣れているからか。
ゴーストがカードを取り出し、ブレイズは聖剣の柄に手を置く。
一刻の猶予も無い、焦りを隠さず各々迎撃に移る。

『FAINAL ATTACK RIDE GHO・GHO・GHO GHOST!』

『流水抜刀!ペガサス!ライオン!ピーターファン!三冊斬り!ウォ・ウォ・ウォ・ウォーター!』

6体のパーカーゴーストと一体化し、それぞれの紋章エネルギーが右脚に力を宿す。
英雄たちの力を借り技の威力を更に強化した横で、ブレイズも剣を引き抜いた。
流水の力の源である水がエンブレムから湧き出し、渦潮へと変え鉄塊目掛けて射出。
飛来する病院の勢いを一時的に押し留め、流水片手に突撃。
ゴーストもまた蹴りを放ち、高威力の打撃と斬撃が病院を粉砕する。
パラパラと地面へ小雨のように破片が落ちる中、巨人は既に次の手に出ていた。

18自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:36:19 ID:3pAQFX7M0
「おいまたかよ!?」

悲鳴染みた声が出るのも無理はない。
今投げたのは二階から上の箇所、ということは一階部分はまだ使える。
吹き抜けと化したロビーに手を突っ込み、さっきと同じく引き剥がした。
もう一度投げるつもりだろうが、技を放ったばかりのゴーストとブレイズが動くにはほんのちょっぴり遅い。
となれば、残る二人がどうにかするのみだ。

「仕方ねえ!気合入れろ大崎!」
「う、うん……!」

『ロックオン!メロンオーレ!ジンバーメロンオーレ!』

プレッシャーと恐怖で縮こまりそうになるも、ソニックアローを強く握って震えを誤魔化す。
二つのロックシードから流れ込んだエネルギーが、アークリムに充填され緑に輝く。
杉元もまた炎の翼を展開し、両腕に霊力を集中。
具体的なイメージは出来ていない、ただ目の前の障害を叩きのめす殺意を糧に技を形作る。

「今だ!」

巨人が投擲の構えを取ったタイミングでそれぞれ撃ち込む。
病院が目の前まで飛んでくるのを、わざわざ待つ意味はない。
ソニックアローを振るい、アークリムより緑の光刃が巨人を切り裂く。
タイミングを合わせた杉元の掌からはこれまでの火球ではなく、一筋のレーザーが放たれた。
妹紅のスペルカード、『原罪【正直者の死】』を思わせる攻撃だ。
手から離れかけた病院の残骸諸共、斬撃と光線が薙ぎ払う。

巨人が手にした凶器は木っ端微塵に砕け、煙が巨体を覆い隠す。
二撃目も凌いだ、だが終わりはまだやって来ない。
自身を包む煙を払い除け、巨人は地を蹴り跳ぶ。
追い打ちを掛けられ更に破壊された病院には見向きもしない。
一蹴りでこちらを見下ろす羽虫達の元へと辿り着く、否、彼らをも見下ろす位置まで跳んだ。

19自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:37:01 ID:3pAQFX7M0
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

鼓膜を破りかねない咆哮を発し、右手を振り下ろす。
硬質化で一点を強化した拳を食らえば、人間など途端にひき肉だ。
巨人が自分達の頭上を取ったその時点で、全員回避へ動き出している。
されど此度は落下の勢いをも味方に付けた、悪夢の如き一撃。
直撃を避けても、地面を叩いた衝撃波は空にいようと関係なしに襲い掛かった。

「んなくそ…!」

何とか宙で踏み止まろうとしても上手くいかない。
というか飛行能力自体が発動されない。
不死以外で妹紅の肉体に課せられた、もう一つの制限がここで影響し出す。
支給品で飛行可能となったジューダス等と違い、杉元は肉体の能力で最初から空を飛べる。
但し永久的に飛ぶ事は不可能であり、一定時間経過で杉元の意思に関係無く地へ落とされるのだ。

これまで飛ぶ機会は度々あったものの、長時間の飛行は今回が初めて。
制限へ気付くには遅過ぎた。
為す術なく砲丸のように吹き飛んだ挙句、病院とは名ばかりの瓦礫の山へ突っ込む。

「うおおおおおおおおおおおおっ!?」
「きゃあああああああああっ!?」

ライダーに変身し重量が増していようと最早関係無い。
浮遊能力でさえまともに機能しない中、ゴーストの視線が捉えたのは自分同様吹き飛ばされる白武者。
彼女が空を飛ぶ為の盾は、足元を離れ何処かへ姿を晦ましている。
それを見た時、既に自分が受け身を取るなどは二の次となった。
パーカーゴーストをどうにか呼び出し、彼女の元へと向かわせる。
英雄達が彼女を受け止めるのが見えると同時に、全身へ衝撃と痛みが来た。

20自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:37:52 ID:3pAQFX7M0
「がはっ……」

ゴーストが纏う防護スーツとパーカーの恩恵で。これでもダメージは抑えられた方。
とはいえ流石に無傷とはいかず、吹き飛んだ時の勢いも殺せていない。
ドライバーが外れて変身解除、佐藤太郎の肉体を戦場に晒す。
処置を受けた箇所と新たに負った傷へ、冷たい夜風が酷く沁みる。

「戦兎さん……!」

パーカーゴースト達のお陰で斬月は無傷で着地できた。
駆け寄る白武者へ安堵の笑みを浮かべるも、向こうからしたら全然笑えない。
自分を守るために、彼はまた傷付いた。
頑張ろうと、彼の力になろうと決意したのに結局はこうだ。
仮面の下で顔がくしゃりと歪む。

『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』

甚大な被害、されど全滅には未だ至らず。
それを怒れる巨人は断じて認めない。
求めるのは自分以外の死。
生存者が一人でもいる限り巨人は止まらない、憎悪は掻き消えない。
絶望感と死を予感させる大地の震動。
圧倒的な暴力の化身を前に、ちっぽけな存在が立ち塞がった。

「ピ、ピカアアアアアアアアアアアア!!!!」

巨人を相手取るには余りに小さい体躯。
黄色い体は怯えで蒼白に変色し、放って置けば倒れそうなくらいに震えている。
溢れる涙は両目がふやけんばかりの量。
今すぐにでも逃げ出したい、考え付く限りの名前を口にし助けてくれと叫びたい。
骨の髄まで蝕む恐怖に蝕まれ、己が情けないと自覚しながらも善逸が選んだのは戦闘の続行。
赤丸の頬がバチバチと放電、溜め込んだ電気を解き放つ合図だ。
邪悪なスタンド使いにも絶叫を上げさせた10まんボルト、だが今回ばかりは大きな効果を望める自信が無い。

21自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:38:40 ID:3pAQFX7M0
「一人でカッコ付けてんじゃねーヨ……」

小さな体に抱え込んだ不安を笑い飛ばし、隣へ女が並び立つ。
オレンジ髪の海賊は額から垂れる血を拭い、恐れを微塵も宿らせない視線で巨人を射抜く。
既にブレイズの変身は解除された、再生能力もない生身のまま堂々と現れるのは自殺行為。
だが神楽の目は死んでいない、勝負を投げ出し自暴自棄になったつもりはない。

「男が馬鹿やったら、止めるのは女の役目ってマミーがしょっちゅう言ってたネ。姉御や家賃家賃うるせーババアも同じこと言う筈アル」

得物は聖剣ではなく細い棒。
うなじを斬るのはおろか、殴れば逆にへし折れそうな巨人相手には頼りなさを覚える武器。
だけど神楽には分かった。
理由は上手く言えないけれど、今の自分ならこの棒の力を引き出せる気がする。

「だからお前がこれ以上馬鹿やる前に、二日酔いの銀ちゃんみたく大人しくさせてやるネ」

雲が現れる。
空を覆い隠し星の輝きを遮る無粋な帳に非ず。
神楽の背後へ黒々とした雲が出現し、時折電気を迸らせる。

本来、この技を神楽が使う事は不可能。
魔法の天候棒が手元にあっても、技を使うのに必要な知識が神楽にはない。
気象学を熟知し、天才的なセンスの持ち主であるナミだからこそ使えたのだから。
しかし、PK学園でDIOを吹き飛ばしたように此度もまた、神楽自身にも説明は付かないがやれると分かった。
善逸が幾度も放った電撃が、肉体に宿る記憶を呼び起こしたのか。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

具体的な理由は分からない。
ただ今は、目の前で望まぬ暴力を強いられる仲間を取り戻す。

22自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:39:28 ID:3pAQFX7M0
「雷光槍(サンダーランス)=テンポ!!!」
「ピ〜カ〜チュウウウウウウウウウウウウウ!!!」

光が巨人を貫く。
呪いを祓い、憎悪を焼き潰し、閉ざされた魂を照らす輝き。
黒雲から放たれる一条の光と、ピカチュウが最も得意とするわざ。
重なり合った二つの電撃が雷の槍となり、巨人の進行を押し留めた。

『!!!!!??!!』

巨人にとっても予想外の威力だったのか、猛烈な痺れに動きが止まる。
強靭な生命力を誇る動物系古代種の能力者にも、絶大なダメージを与えた技だ。
そこへ10まんボルトの威力も加算されれば、巨人と言えども無視できない。
堪らず片膝を付く間にも痺れが襲い、鬱陶しくて仕方ない。

『ッ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』

なれど、巨人は己の沈黙を受け入れない。
少しばかり動きが鈍くなったから何だと言う、この程度で滅びから逃れられるなど有り得ない。
自らの憎悪を燃料に立ち上がる。
握り締めた拳を硬質化、狙うは大技を放った直後の一人と一匹。

「ピカ〜〜!?(ぎゃああああ!また立った!お姉さん早く逃げないと…!)」
「うぐ…康一…!」

変身解除される程の勢いで地面に叩きつけられ、悲鳴を上げる体に鞭打って巨人を止めたのだ。
技が命中したとはいえ、神楽の方も息切れを起こし座り込む。
隣で善逸が何と言ってるのか不明だが、焦り自分を急かしてるのは間違いない。
言われなくてもじっといしているつもりはない、しかし巨人が黙って逃走を許してはくれない。

怒りの鉄拳がまた一つ罪を重ねる、それを防ぐは手首を射抜く緑の矢。
再生し掛けた箇所がまたもや焼かれ、焦げた臭いが漂う。
ギロリと、擬音が聞こえそうな射殺さんばかりの視線。
睨み付けられた白武者はビクリと震え、心臓が五月蠅いくらいに鳴る。

「うぅ……」

神楽達を助ける為咄嗟に矢を放った。
絞り出した勇気に巨人が返すのは感心の拍手ではなく、絶対的な暴力。
自身を苛む痺れを振り払おうと、大股で一歩進む。
たったそれだけで足底が斬月のカメラアイを覆い隠し、終わりまでの時間を短縮。
怪獣に踏み潰される映画のモブキャラはこういう心境なんだろうか。
一瞬浮かんだ場違いな感想諸共、蟻のように潰される。

23自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:40:34 ID:3pAQFX7M0
『KAMEN RIDE DRIVE!』

守ると約束した少女の死へ異を唱えるは、高らかに名を上げた電子音声。
視界の端に赤い影が映り込み、次いで感る浮遊感。
体が地面から離れてる、まさか死んであの世に昇る真っ最中なのか。
悪い想像に思わず顔を上げ、見えたのは赤い仮面の戦士。
初めて見るけど自分の知るヒーローだと分かり、そこでようやく彼に抱き上げられると気付いた。

真っ赤装甲、胴体部分へ装着されたタイヤ。
まるで車をモチーフにしたかの姿は、仮面ライダードライブ。
相棒のベルトと共に機械生命体との戦いに挑んだ、とある刑事が変身した戦士。
最上との戦いの際にも見なかったライダーであり、能力は未知数だがこの場においては変身して大正解だ。
ドライブの基本形態であり、高速戦闘に特化したタイプスピード。
一時的に高速移動を可能にし、斬月の救出にも間に合った。

視覚センサーが巨人の動きを細かく把握、集約された情報がメット内部に表示。
神楽達が放った電撃は残留しているらしく、一挙一動がこれまでよりも幾らか遅い。
となれば今しかない、戦況を一気に変えるにはここ以外になかった。
勝利への法則が組み立てられ、道筋が完成。
後はその通りに動けるか否か。

「ひゃっ……!せ、戦兎さん……!?」
「甜花。このまま動くからあいつの足を狙えるか?」
「え、そ、それって……抱っこしたまま……わ、分かった……!」

上擦った声で承諾。
巨人への恐怖はある、戦うことへの緊張感だって全然無くなってない。
でも彼が、助けになりたいと思ったヒーローが自分を頼ってくれた。
プレッシャーと、同じくらいの嬉しさと、勇気をくれる。

24自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:41:26 ID:3pAQFX7M0
頷き合い、ドライブの全身を反重加速フィールドが覆う。
用いるのは二本の足だけであるにも関わらず、スーパーカーをも追い越すトップスピードを発揮。
上空より振り落とされる拳に方向転換、ブーツ部分のグリップパーツが急激な移動にも振り回されないようアシスト。
余裕の回避をやってのけた。

『ロックオン!ソイヤッ!メロンスカッシュ!』

生きたモンスターマシンに乗りながらにも関わらず、斬月の狙いは正確無比。
生身の人間を遥かに上回る視覚センサーと、射撃精度の低下を防ぐソニックアローのレーザーポインダ。
戦極凌馬が開発した高機能システムにアシストされ、エネルギー矢を発射。
足首部分の肉が弾け飛ぶ。
ただでさえ痺れが抜けていないのに加え、ドライブのスピードに翻弄された結果だ。
硬質化が間に合わず被弾を許すこととなった。

『FAINAL ATTACK RIDE D・D・D DRIVE!』

斬月の攻撃は始まりに過ぎない。
矢が放たれたのと同じタイミングでカードを装填、タイヤ型のエネルギー体が複数出現。
本来は敵を包囲し蹴り技に繋げるが、今回は使い方が違う。
エネルギー体はドライブ自身を背後から弾き飛ばし更に加速、地面を削りながら装甲ブーツが巨人の足へ追い打ちを掛ける。
骨をも砕き、皮数枚で繋がった足がどうなるかは言うまでもない。

『!!!!!!??!!』

巨体を支える二本の内、片方損傷の影響は少なくない。
巨人の意思を嘲笑うように足首が引き千切れ、途端にバランスを崩す。
踏み潰されるだけのちっぽけな蟲にしてやれた、二度目の屈辱。
再生が完了するまでを、敵は待ってくれない。

『KAMEN RIDE SABER!』

『勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!』

斬月を降ろし、新たなライダーの力を解放した
勇ましい名乗りと共に火柱が立ち昇る。
火炎を切り裂き現れたのは、ドライブとはまた違う赤のライダー。
ゼロワン同様令和の時代で物語を紡いだ、ある小説家のもう一つの姿。
仮面ライダーセイバー。
全知全能の書を巡る争いを終わらせ、二つの世界を守った剣士。

25自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:42:23 ID:3pAQFX7M0
そして、もう一つの炎が迸る。

「ぐうるおごあああああああああああああああああああ!!!!!」

瓦礫が四方八方へ弾け飛ぶ。
戦線復帰を妨げる無粋な檻は必要無いとばかりに堂々と参戦。
最早言語としてまともに機能しないナニカを叫ぶそいつへ、誰もが意識を向けざるを得ない。

夥しい量の赤を全身に塗りたくった少女。
老いて色を失ったのとは違う、一種の美しさが宿った白髪すらも赤に染めて。
だというのに生命力へ満ち溢れている。
最も死へ近い有様でありながら、誰よりも激しく己の死を否定する。
何度死に誘われようと抗い跳ね退け、冥府の遣いすらも戦慄させるその姿やまさしく――

「俺は……不死身の杉元だ!!!」

不死鳥の如き翼を広げ、両手が放つもまた火炎。
大地を、空気を、人を焼き潰す灼熱の塊。
『不滅【フェニックスの尾】。
そこに美麗さはない、殺意を収束させた砲弾が憎悪を撒き散らした巨体を焼く。

「相変わらずメチャクチャだな…」

『FAINAL ATTACK RIDE SA・SA・SA SABER!』

杉元に驚かされっぱなしな自分へ、呆れ笑いを浮かべる。
ああしかし、中の奮闘をこうも見せられたなら柄でもなく滾ってしまうじゃあないか。
こういうのはアイツのが似合うだろと、どこぞの筋肉馬鹿を思い出しカードを装填。
セイバーへの変身後、手元に現れた剣が炎を纏う。

火炎剣烈火のエンブレムが生み出した炎はやがて、燃え盛る竜へと変化。
不死身の兵士に負けじと剣を振るう。
竜と不死鳥、二体の伝説が同じく伝説上の怪物を喰らう。

26自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:43:17 ID:3pAQFX7M0
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』

右腕が消し炭と化し、全身は焼け爛れた。
なれど憎悪と言う名の炎は、自身を苦しめるどんな火よりも激しく燃えている。
立てないからどうした、片腕が使えないから何だという。
腕はまだもう一本残ってる、自分は死んでない。
何より、滅ぼすべき者達が滅んでいない。

憎悪の理由も分からず、何故滅ぼすのかも考えられず。
止まる事の出来ない己への嘆きなど抱く訳もなく。
硬質化させた左拳を振り下ろす。

『流水抜刀!ワンダーライダー!』

『この動物!この動物の力が、剣に宿る!』

だが巨人が止まらないように、彼女は仲間を決して諦めない。
傷の痛み、重しと化して体中へ纏わりつく疲労。
その全てを知ったことかと捻じ伏せ、聖剣を抜き放つ。

泥棒猫の肉体に再度装着される装甲。
水流を断ち切り現れた姿は先程と一変。
百獣の王の意匠はそのままに紫のフードを纏う
スペクター激昂戦記。
流水の本来の使い手が出会った戦士の力を秘めた、ブレイズの派生形態。

姿形が今更変わろうと巨人が特別な反応を見せはしない。
そうだ、相手が誰でも関係無い。
たとえ打倒主催者の志を共にして、再会を約束した仲間であっても。
葛藤も迷いも一切宿らせない、無慈悲な拳が振り下ろされた。
大地を叩き、周囲一帯を覆い隠す土煙。
仲間であった筈の少年の手で、余りに呆気なく少女の物語が幕を閉じる。

27自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:43:55 ID:3pAQFX7M0
『必殺読破!流水抜刀!この動物一冊斬り!ウォーター!』

なら、今聞こえたこれは何だ。

拳の下に少女はいない。
どこに行ったとの答えは、遥か頭上から電子音声が告げる。
纏う炎は己が身を滅ぼす為に非ず、自由を手にした鳥のように羽ばたく為だ。
見上げる者と見下ろす者、人と巨人の視線が入れ替わればそれは終わりの始まり。
憎悪を断ち切る剣が煌めく。

「康一…今助けるアル!」

宣言を聞いても巨人がブレイズを見る目は同じ。
憎悪以外何もない、忌々しい害虫へ向ける目だ。
今更そんなもので怯みはしない。
自分がしくじり、巨人が猛威を振るい続けた先に待つのはきっとロクなもんじゃあない結末。
康一にとっての悲劇が約束されている。

地球に来て、万屋銀ちゃんの従業員としてかぶき町に住んで随分経つ。
色んな依頼を受けて、それを解決したのだって一度や二度じゃない。
珍騒動に巻き込まれるのだってすっかり慣れたけど、全部が笑い飛ばせるバカ話で終わった訳じゃない。
時には人が死ぬような事件だってあった。
殺した奴、殺された奴、そいつらと関りの深い人々。
誰もが幸せなんかじゃ無かった、細かい違いはあっても良いことなんて無かったのだ。
友を、そして家族を失う悲しみ。
誰かの命を奪ってしまう絶望。
どちらも知ったからこそ、康一に自分と同じ苦しみを与えるなどあってはならない。

28自由の代償(中編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:44:27 ID:3pAQFX7M0
『■■■■■オオ■■■■■■オオオ■■■■■■■!!!!!』

咆える、怒りを籠めて咆える。
それでも間に合わない、残った腕の迎撃も、うなじの硬質化も遅過ぎる。
特大の電撃に始まった総攻撃と、放送前に起こった戦闘での消耗。
疲労が足枷となったのは巨人も同じだった。
まるで、彼をこれ以上進ませまいとするように。

「康一ィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!」

彼女の剣を届かせるように。

阻む全てが遅い、誰にも止められないし止まってやらない。
正しいことに使えるはずと、そう託してくれた流水でやり遂げるのだ。
水と炎、対となる力を纏った聖剣が走る。
切り裂く、彼を閉じ込める檻を。
本当の彼を踏み躙る、憎悪の鎧を。

「―――――――――――――――――――」

それは何と言ったのか。
変わらぬ憎悪か、或いは少女へ向けた感謝の念か。
拾い上げた者は一人もおらず、彼自身にも分からない。

巨人はもうここにいない。
解放された少年を迎える風が吹き、今度こそ幕が下りた。

29自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:45:21 ID:3pAQFX7M0



朽ち果てた大樹か、役目を終えた砦か。
これまでの死闘が嘘のように、巨人は身動ぎ一つしない。
本体であるエレンが解放された以上、残ったのは単なる抜け殻。
見上げる杉元の目には以前変わらぬ警戒心が浮かぶが、小指の爪程の敵意も感じられない。
ややあって、これは本当に脅威にならないと判断。
両手に集めた霊力を引っ込める。

「取り敢えず一安心、にはまだ早いか…」

脅威が去って全て解決とはならない。
予期せぬ襲撃への対処に追われたが現在も自分達は禁止エリアに留まったまま。
脱出までの時間はまだ残されている、しかしこれ以上の問題が起きれば流石に危機感を抱かざるを得ない。
捜索予定の人物が向こうからやって来たのは、別行動を取る必要が無くなって良いのだろうが。

「康一!しっかりするヨロシ!」

件の人物は巨人から解放されてから目を覚まさない。
うなじに埋まっていたのを引き千切ったせいか、本来あるべき四肢は喪失。
だが少しずつ元の形を取り戻してるのがこちらからも見えた。
蓬莱人とは別に、再生能力と思しき力の持ち主らしい。

「康一…!何で起きないネ……」

ブレイズの変身が解除されたのも意に介さず、神楽は何度も仲間の名を呼び掛けた。
元々体力の消耗が激しいライドブック三冊に加え、スペクター激昂戦記を使ったのだ。
頭頂部に設置された剣型の調整装置、ソードクラウンが変身解除を実行。
ナミの姿で康一の肩を揺さぶる。

30自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:46:12 ID:3pAQFX7M0
不安から目尻に涙が溜まる神楽の元へ、仲間の顔色も曇り始める。
あれだけ死力を尽くしたのに結局無駄。
そのような結末を否定するべく、比較的冷静な戦兎と杉元が様子を見る。
一見死体と勘違いしてもおかしくない、瞼が固く閉ざされた顔。
しかし虫の呼吸のように小さくも、確かに発せられる呼吸。
康一がまだ生きていることを知らせる音だ。

「あんだけ暴れ回って気を失ってるだけか?傷も…こりゃ治ってんな」
「これなら動かしても問題無い、か…?詰めれば車の後ろに乗せて――」

パチリと。
眠た気に擦るでなく、夢と現の狭間を彷徨うでもなく。
何の前触れも無しに瞼が開かれた。

口が止まった戦兎の傍で、神楽が驚きと安堵を表情に出す。
瑞々しい果実と同じ色の髪を揺らして、少年の肩に手が置かれた。
大丈夫カ、平気アルか?もう心配ないネ。
仲間の帰還を心から喜ぶ顔が少年の瞳に映る。

「――っ!」

瞬間、杉元の背を駆け抜ける獣のような悪寒。
これは違う、これは仲間に向ける顔じゃない。
信頼し合える者に向けて良い目ではない。

この目には見覚えがあった。
自軍の兵士を殺された露助ども。
片割れを殺した自分を付け狙う第七師団の一人。
それから、そう。
鏡に映った、忌々しい狙撃手への殺意に燃える自分自身。

憎悪を宿らせた目に、神楽を少年から引き離すべく手を伸ばし、

31自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:47:20 ID:3pAQFX7M0
「っ゛あ…!!」

猛烈な熱さに遮られ、指先すら届かずに引き飛ばされた。
杉元以外の4人も被害は避けられない。
目覚めた少年を中心に爆発が発生、高温の爆風が襲う。
ライダーの変身を解かずにいた戦兎と甜花はまだマシ。
善逸も、何より最も距離の近かった神楽はモロに爆発の被害を受けた。
激しい蒸気を伴った爆風が、惜しげも無く晒したナミの素肌を容赦なく焼く。

「あああああああああ!!」

皮膚が焼き潰れ、耐え切れずに上がる悲鳴。
康一に異変が起きたという理解を拒むかのような、猛烈な痛み。
喉が枯れる程に声を張り上げるだけでは到底誤魔化せない。
堪らず瞳を瞑り、さっきまでとは違う理由で涙が流れる。

(急になにアルか……あっ、こ、康一…!)

悶え苦しみながらも仲間の存在で我に返った。
常人ならば、とうに頭から抜け落ちてもおかしくない。
潜り抜けて来た修羅場の数と、これ以上仲間を失う恐怖が神楽を引き戻した。

尤も、既に手遅れだが。

32自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:49:24 ID:3pAQFX7M0
「ごぶっ」

口から何かが吐き出されたと気付くのに数秒。
重たいものを二つぶら下げた胸の、片方が妙に痛いと感じるのに数秒。
目の前に、見たことのない化け物がいると分かり、全てがようやく繋がった。

「え、が……あ…」

黒い化け物だった。
顔も、四肢も、見える範囲のほとんどが黒。
肩と頭部の装飾は鳥の羽のよう。
人と同じ二本の足で立ち、二本の腕を持つ。
人に近い形であっても、人とはかけ離れた異形。
そいつが自分の胸に腕を伸ばし、真っ直ぐ貫いている。

「あ……」

よく見れば手には青いエンブレムの剣。
吹き飛ばされてた際に落ちたのを拾い、それで刺した。
仲間が託してくれた武器を凶器に使うなど、本来なら許せない。
けれど怒りは湧かない。
だって、分かってしまったから。
爆発が起きた直後にいきなり現れた化け物が、一体誰なのか。
そんな筈ないと否定したいのに、現実を突き付けるのは化け物の恰好。

黒い肉体を包む茶色の衣服。
確かこれは、彼の体が元々来ていた『調査兵団』とやらの制服で――

33自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:50:25 ID:3pAQFX7M0
「康一…?」

問い掛けへの返事に化け物の口が開く。
言葉は一つとして出ず、神楽の喉へ噛み付いた。
既存の生物に当て嵌まらない部位に噛み千切られ、噴き出る鮮やかな赤。
顔が血で汚れても構うことなく食事を続ける化け物だが、ふいに神楽を放り捨て飛び退く。
ご馳走を捨てた理由は肩を掠めた光弾。
セイバーに変身したままの戦兎が放った、ドリルクラッシャーの銃撃だ。

「神楽…!」
「んの野郎…!!」

吹き飛ばされこそしたが装甲でダメージを軽減。
横では火傷を負いながらも、肉体の生命力で死を逃れた杉元が歩兵銃を構える。
詳しい事態は把握出来ていない。
分かるのは仲間が襲われた、その一点があれば動く理由には十分過ぎる。
それぞれの武器を片手に化け物へと駆け出す。

「エコーズ!!!」
「なっ!?」

接近の妨害に出たのは新たな異形。
人型をしたソイツの出現に気を取られた戦兎を狙う、小柄ながら鋭い拳。
咄嗟に片腕で防御を行うも、異形の正体を知る者が見れば失敗だと口を揃えるだろう。
前方にいた杉元を巻き込み前のめりに倒れる。

「うおっ!?おい早くどけって!」
「そうしたくても体が…どうなってんだ…!?」

体が異様に重い。
見た目に変化は無いが。明らかに異常だ。
重りを付けられようと軽やかな動きが可能なセイバーの身体能力でさえ、まともに指一本動かせない。
原因はいきなり目の前に出て来た、小柄な異形。
そいつの攻撃を受けたからだと推測したところで、動けなくては意味が無い。

34自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:51:29 ID:3pAQFX7M0
「ピカアアアアアアアアアアアアアア!!!」

故に動ける者がどうにかする。
爆風を完全に避けれはしていないが、非常に高いすばやさを誇るポケモンの体だ。
咄嗟にでんこうせっかで距離を取り、ある程度は負傷を抑えられた。
得意の10まんボルトを放ち、電撃が化け物の全身に流れる。
巨人とは違う等身大の相手なら、十分なダメージとなった筈。

善逸の予想を裏切り化け物は電撃に無反応。
呻き声一つ上げず、鬱陶し気に軽く首を振っただけ。
しかし直後に突き刺さった矢は無視出来なかった。
緑に輝く光に貫かれ、羽に覆われた肩から血が滴り落ちる。

戦兎同様、変身を解かなかった為に重傷を免れた甜花だ。
訳も分からぬ内に吹き飛び、置き上がったら神楽が血まみれで倒れている。
脳内が混乱に支配されながらも攻撃を行えたのは、十数時間の間で殺し合いの空気を散々味わった影響か。
命中を喜ぶ余裕は持てない、慌ててもう一度弦を引いた所を睨まれた。

「ひっ……」

黄色に輝く瞳に射抜かれ、凝り付いたみたいに体が動かない。
相手は巨人よりもずっと小さい、なのに今の方が恐ろしく感じる。
どす黒い憎悪が瞳のずっと奥まで渦巻き、甜花の精神へコールタールのようにへばり付く。
尊大にこちらを見下すDIOや、理解不能の狂気を秘めた姉畑とはまた別種の恐ろしさ。

「っあああああああ!!」

なれど甜花の放った矢は役目を果たした。
痛みに意識が逸れ、戦兎の動きを封じた異形が消滅。
自由を取り戻せたと分かるや否や、杉元と共に化け物へ斬りかかる。

烈火が肉を切り裂き、歩兵銃の殴打が叩き込まれるのは化け物も御免だ。
憎悪に燃える瞳は変わらないまま、踵を返し疾走。
怒声や困惑が背中にぶつかっても僅かな視線すら寄越さない。

「エコーズ!」

ダメ押しとばかりに叫び、先程とは違う姿の異形が出現。
長い尻尾が文字に変化し自分の足に貼り付ける。
「ビュゥーン」との擬音が正に聞こえそうな速度で逃走。
自分が喰った女への罪悪感に、後ろ髪は引かれない。
自分が齎した破壊と惨劇に、残された者がどうなるかを考えやしない。

伸ばし続けた仲間の手を振り払い、見る見る内に戦場から遠ざかった。

35自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:52:44 ID:3pAQFX7M0
○○○


体が妙に軽い。
胸と、首と、体の色んなところが熱かったのに、今では何も感じない。
ぼやけ始める景色に見知った顔が映り込む。
ハッキリ見えはしないけど、良い雰囲気じゃあないとは何となく分かる。

「――!?」
「――、――」
「っ――。――……」

困ったことに声もちゃんと聞こえない。
だけど、何の話をしてるのか分からない程鈍感になった覚えは神楽に無い。
自分を生かそうとしてるんだろう。
どうにか助けられないか必死になってるのを、嫌には思わない。
でも無理なことは、他ならぬ神楽自身が一番理解している。

何度も戦って、何度も傷付いて、最後には三人で生きて万屋に帰って来れた。
出会った時からずっと変わらない三人だから、きっと最後は何だかんだで上手くいった。
だから多分、もういつもの三人じゃなくなった時。
万屋銀ちゃんが万屋銀ちゃんじゃなくなった時点で、こうなると決まっていたのかもしれない。
なんて、最期が近いせいか自分らしからぬ考えを抱く。
そんな自分が何だかおかしくて浮かべたヘタクソな笑みは、果たして仲間達の目にどう映ったのだろうか。

(康一……)

残されたほんのちょっぴりの時間で考える、自分を殺した少年のこと。
康一に何があったのかを神楽は知らない。
どうして康一が自分を殺したのか、理由だって分かる筈がない。

(ごめんなぁ康一…私馬鹿だから、康一が大変な目に遭ってるの全然知らなくて……本当にごめんなぁ……)

自分が別の選択を取っていれば、こんな事にはならなかったのではという後悔。
グレーテが現れた時、もっと落ち着いていられたら。
康一が一人で村の方へ向かわずに済んだんじゃあないか。
或いは、グレーテの追跡は自分に任せて欲しいともっと強く言ってれば。
巨人になって暴走するような、康一が追い詰められる事態も起きなかったのではないか。
どれだけ後悔を重ねても、過去の選択は覆らない。
カイジとの出会いに始まり、ボンドルドを倒すと意気込んだ自分達の結末はもう決まった。

36自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:54:03 ID:3pAQFX7M0
(康一…私は怒ってないネ…他の奴が何言っても、怨むなんてみみっちい真似しねーヨ……だから、もう終わりにするアル……)

死にたいと考えたんじゃない。
かぶき町に帰れないこと、定春を残してしまうこと、銀時と新八の死を皆にちゃんと伝えられないこと。
全部が叶わないのは当然悔しい。
それでも康一へ怒りを向ける気にはなれなかった。
望まぬ殺しに手を染める絶望がどれ程苦しいか、誰かの大切な人を奪う罪の重さを神楽は知っているから。
康一もきっと心の底、自分を支えてくれた本当の彼は犯した間違いに深く傷付いているから。
そんな彼をこれ以上苦しめたくない。
だからもう、殺すのは自分が最後であってくれと願う。

後悔と、未練と、知ってる顔が次々に浮かんで来る。
どいつもこいつも一度見たら二度と忘れられない、非常に濃い連中ばっかりだ。

――ババア、家賃は払えねーけど定春を頼むネ。

――姉御、新八のこと教えられなくて本当にごめんアル。

――ヅラ、私と銀ちゃんの為にんまい棒はちゃんとお供えしとけヨ。

――サド野郎、最後だから神楽様がお前のことも少しは考えてやるネ。

そうして最後に出て来たのは、ムカつく笑みを浮かべたアイツ。
ぶん殴ってやりたいスカした顔は、今だけいつもと違って見えた。

全く、よりにもよってこいつが一番最後に顔を出すなんて

(女々しいんだヨ……馬鹿兄貴……)

37自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:54:47 ID:3pAQFX7M0



冷たくなった彼女が何を意味するのか。
分からない者が一人もいないからこそ、余計に現実が重く圧し掛かる。
治療に必要な道具は全て瓦礫に埋まった。
姉畑の支給品にあったポーションを飲ませようにも、もう助かる段階は通り過ぎていた。
結局のところ、戦兎達が神楽にしてやれたことは何も残っていない。

「…桐生、あんまり時間ねえぞ」
「……分かってる」

冷静に移動を促す杉元は正しい。
禁止エリアが機能する前に移動しなければ、それこそ本当に全滅だ。
康一を追いかけたくとも、追跡に時間を掛けたせいで脱出が間に合わなくなるかもしれない。
これ以上留まってはいたずらに自分達の命を死に近づけるだけ。
早急な禁止エリア外への移動は、何も間違ってない。
故に、戦兎の口から反論の言葉が出ることはなかった。

「……っ!」

だからといって、何も感じない筈がない。
仲間がまた目の前で死んだ。
助けられる力が、正義のヒーローの力が自分の手にはあったのに。
無力感を喚き散らしたとて解決にはならない。
一度零れ落ちた命を拾い上げるチャンスは、二度と巡って来ない。
そうやって冷静を装い激情を抑えつけても、痛いくらいに握り締めた拳が戦兎の心情を物語っている。

「神楽、さん……」
「ピカ……」

力無く名前を呼んでも、変な語尾で返事はない。
自分のせいで人が死んだと罪悪感に苦しんだ時、お前のせいじゃないと言い切った彼女はもういない。
一緒にあの人の死へ想いを馳せた彼女はどこにもいない。

過ごした時間は短くても、仲間だった少女の喪失が彼らの胸に痛みを与える。
見上げた空には星々が、地上の死など知らぬとばかりに顔を出す。
いっそ憎たらしいくらいの輝きを、杉元は言葉無く睨み付けた。

38自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:55:39 ID:3pAQFX7M0
◆◆◆


走り続けてどれくらい経ったか黒い化け物…カラスアマゾンには分からない。
背後を見ても負って来る気配は無く、自身の疲労もピークに達している。
以上二つにより足を止め、どっと息を吐いた時にはもう異形の姿はなかった。

元々カラスアマゾンはある少女の遺体にアマゾン細胞を移植し生まれた、シグマタイプのアマゾン。
だが康一は溶原性細胞の感染が原因で変化を遂げた。
それ故、実験で生まれたカラスアマゾンとは細部に違いが見られる。
尤も本来のカラスアマゾンである『彼女』を知る精神側の参加者はおらず、気付けるとすれば感染源の肉体の記憶を得た錬金術師くらいだろう。

「っ!!うああああああああああ!!!」

アマゾンから人の姿、エレンに戻った康一は突然叫び出す。
逃走時に持ったままの聖剣、流水を地面に何度も突き刺した。
癇癪を起こした幼子のようだと笑う者は、皆一様に彼の顔を見れば口を噤むこと間違いなし。
地獄の悪鬼すらも裸足で逃げかねない程の、修羅の形相。

「憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」

殺し合いの阻止を誓った正しき心のスタンド使いが、一体どこにいるという。
安全圏を逃れる覚悟をカイジに問われた時に切った啖呵は、なんだったのか。
神楽を気遣い聖剣を託した優しさなど、最初から虚構に過ぎなかったのでは。
広瀬康一という少年を形作った軌跡の全てを否定する憎悪が、口から垂れ流される。

確かに、神楽達は康一の巨人化を解除した。
暴走する康一を解放し、巨人の猛威を食い止めた。
だが根本的な解決には至らない。
そもそも康一が巨人になり暴れ回った原因は、両面宿儺がやったケロボールの洗脳電波。
巨人になったのは「滅ぼせ」と繰り返し囁かれ、肉体の記憶に宿る憎悪が急激な覚醒を促された為。
幾ら巨人化が解除されても洗脳は解かれず、ましてエレンの奥深くに眠っていた憎悪と康一自身が向き合わない限り、本当の意味で助けたことにはならない。

39自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:58:08 ID:3pAQFX7M0
洗脳、憎悪、そしてアマゾン化の影響で新たに植え付けられた食人衝動。
康一を支配する三つの感情。
もしここに康一本来の精神も加われば、きっと異なる展開を見せただろう。
欲しい物を出す杖を振った小さな生物達や、数時間前のギニューのように、複数の心へ振り回されたのかもしれない。
しかし康一に宿った心は反発せず、重なり合ってより強固な意志となった。

「憎悪のままに」「喰らって殺して腹を満たし」「全てを滅ぼす」

それこそが今の康一にとっての全て、絶対的に正しい一つの道。
この地に巨人は彼以外にいない。
エルディアとマーレの両方とも関係無い。
杜王町を恐怖に陥れた連続殺人鬼は一足先に退場。
本来の憎しみを、怒りを向けるべき者はいない。
康一自身も具体的に何を憎んでいるのか分からない。
だから憎悪の矛先は、生きている残りの参加者全てに向けられるだろう。

「駆逐してやる…一人残らず滅ぼしてやる…!」

一人の少女の物語は終わった。
だが呪いの物語はまだ続く。

少年の憎悪が新たな物語を始めたのを歓迎し、呪いは嗤う。
進撃の魔王が再び君臨する時を楽しみにしながら、ゲラゲラゲラと嗤い続ける。



【神楽@銀魂(身体:ナミ@ONE PIECE) 死亡】

40自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:58:51 ID:3pAQFX7M0
【D-3 聖都大学附属病院跡/夜】

【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、全身打撲(処置済み)
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、しのぶの首輪、工具箱
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:神楽……。
2:フリーザの宇宙船に向かい柊達と合流する。
3:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。
4:広瀬康一はどうなってる?巨人以外にも何らかの力があったのか?
5:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
6:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
7:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
8:首輪も外さないとな。工具は手に入ったしそろそろ調べたい。
9:エボルトの動向には要警戒。桑山千雪の体でおかしな真似はさせない。
10:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい。
11:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか。
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードはゼロワンとセイバーが入っています。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。

【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(中)、霊力消費(大)、再生中、一回死亡
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(5/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ
[道具]:基本支給品×5、神経断裂弾×27@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×1@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、ランダム支給品×0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:……。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体ないよな? ないと言ってくれ。というか本当にないんじゃねえか?
4:なんで先生いるの!? 死んじまったか……。
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOには要警戒。
7:精神と肉体の組み合わせ名簿が欲しい。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
10:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ!
11:ラッコ鍋は見なかった事にしよう…。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノ、正直者の死、フェニックスの尾に類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。

41自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 01:59:37 ID:3pAQFX7M0
【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、全身に火傷、精神的疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:あの人(神楽)まで……
2:お姉さん(杉元)達と行動
3:しのぶさんも岩柱のおっさんも、また死んじゃったんだな……
4:煉獄さんも鳥束も死んじゃったのか……
5:無惨が死んだのは良かったんだろうけど……
6:炭治郎の体が…まさか精神まで死んでないよな……?
7:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」「かげぶんしん」の4つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、戦兎やナナ達への罪悪感、決意
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:神楽さん……。
2:戦兎さんの…力になりたい……。
3:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。
4:ナナちゃんと燃堂さんにも……謝らなきゃ……。
5:なーちゃん達…大丈夫かな……。
6:千雪さんと、真乃ちゃんのこと…戦兎さんならきっと……。
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。

※神楽の死体の傍にデイパック(基本支給品)、魔法の天候棒@ONE PIECEが落ちています。
※仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット(水勢剣流水無し)@仮面ライダーセイバーとスペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバーは神楽が装備したままです。

42自由の代償(後編) ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 02:00:25 ID:3pAQFX7M0
【D-3(戦兎達から離れた場所)/夜】

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:疲労(絶大)、ケロボールの洗脳電波により洗脳中、謎の憎悪、溶原性細胞感染、食人衝動
[装備]:水勢剣流水@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ
[思考・状況]基本方針:全て滅ぼす
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りましたが、現在はその状態にないことを知りません。
※アナザーウィッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。
※ケロボールによる洗脳は、時間経過により解ける可能性はあるものとします。具体的に何時解けるかは後続の書き手にお任せします。
※エレンの肉体の参戦時期は、初めて海にたどり着いた頃のものとします。
※オリジナル態の体液が傷口から入り込んだ為、溶原性細胞に感染しました。カラスアマゾンに変身が可能です。

43 ◆ytUSxp038U:2024/02/04(日) 02:01:17 ID:3pAQFX7M0
投下終了です

44 ◆ytUSxp038U:2024/02/06(火) 22:29:15 ID:Ld1lVBQs0
桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸、大崎甜花、雨宮蓮、エボルトを予約します

45 ◆ytUSxp038U:2024/02/07(水) 01:20:13 ID:80FrbLm.0
したらばの投下スレに投下しましたので、確認をお願い致します

46 ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:42:48 ID:c7OW47L.0
投下します

47LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:45:43 ID:c7OW47L.0
一つの争いが終わればまた新しい争いが始まる。
一人が死ねば二人目の死者が必ず現れる。
なれど、再び争いが起こるまでには一時の静寂が訪れる。
それは奇妙な運命に導かれた、あるスタンド使いが始めた殺し合いでも同じ。

今宵語られるは次の舞台が整うまでの繋ぎ。
或いは、決して断ち切ることのできない因縁の物語。





幸運と言って良いのだろう。
魔法のじゅうたんで戦場を去ってから、これといったトラブルにはぶつからなかった。
道中またしても面倒な輩に目を付けられる事態も考えていたが、嬉しいことに取り越し苦労で済んだ。
神様もお情けくらいは掛けてくれるらしい。
皮肉気な笑みを隠さずに独り言ち、エボルトは地面へ降りる。
目的地であるフリーザの宇宙船まではまだ遠い。
近くに設置された聖都大学附属病院は禁止エリア内で、立ち寄るのは不可能。
にも関わらず移動を中断したのは、ここまで自分達を運んだ道具が原因。

「こりゃ無理か」

橋を渡って草原を進み、いざ山を経由の段階まで来たは良い。
問題は魔法のじゅうたんではこれ以上進めないこと。
飛行する際の高度が低いせいで、木々が聳え立つエリアを追い越して移動が出来ない。
速度が出せる為平地での移動にこそ役立てるものの、欠点が無いわけでもなかった。
下手に低空飛行で突っ切って木に引っ掛かり破けてしまい、使える道具を一つ失いたいとも思わない。
よって、ここからは徒歩で行くしかないだろう。

48LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:46:39 ID:c7OW47L.0
「ったく、アイドルに肉体労働させるなんざ気が利かねぇな」

愚痴を零しつつトランスチームガンを取り出す。
ボトルをセットし、手早くブラッドスタークに変身完了。
すぐ傍で電子音声と火花が散っても起きない相棒を担ぎ、山中へと足を踏み入れる。
変身後の身体能力なら蓮を運んでの移動も、生身よりは体力を使わずに済む。
ブラッドスタークの機能なら敵襲にも賊座に対処可能。
変身しない理由を探す方が大変だ。

舗装などされていない山道を駆ける。
オリンピック選手など目でない速度を出していながら、足音は一切聞こえない。
ブラッドスタークには直線戦闘のみならず、暗殺にも向いた機能が複数搭載されている。
音を立てず、標的の背後へ一気に接近可能なバトルシューズもその一つ。
高機能なセンサーを持つ仮面ライダーならまだしも、生身の人間相手なら存在を気取らせないくらい容易い。

木々の間から時折こちらを覗き見る星々には一切関心を抱かず、黙々と進む。
やがて進行方向に変化が訪れた。
代り映えのしない緑の檻の中にポツンと建つ、木造の一軒家。
どこをどう見ても自然に作られるものではない。

(確か……ああ、竈門家だったか?)

地図に載っていた施設の中に、そんな名前があったのを思い出す。
ジューダス達が戦った痣の少年が同じ姓なのは放送で知った。
ということはここは竈門炭治郎の住まいか。
我が家まで巻き込まれてご愁傷さまと、欠片も同情の籠っていない謝罪を口にし近付く。
動体反応は検知されない。
赤外線センサーを起動し調べても、確認出来たのは無人の空間のみ。
問題無いと分かり、遠慮なく上がり込む。

49LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:47:08 ID:c7OW47L.0
『戸の開け方も知らない奴が来たのかねぇ…』

破壊された入り口を見やり眉を顰める。
余程切羽詰まって、戸を開ける時間も惜しいとばかりに飛び込んだのか。
誰がやったにしろ何とも野蛮だ。
続けて目に飛び込んだのは、物言わぬ何者かの頭部。
生前の顔はおろか、性別すらも判別不能の惨い有様だ。
大方首輪を手に入れてから泣き別れした頭を放置、そんなところだろうと興味無く結論付ける。
残しておきたいとも思わないので、裏の方へ乱雑に放り投げ掃除終了。
まさか街で別れた魔術師の体とは思わず奥へと移動。
やはり人どころか虫の一匹も見当たらない。
担いだ相棒を畳の上に寝かせ、変身を解き一息つく。

「ま、ちょいと休憩しても罰は当たらないだろ」

ダグバとの戦闘後は殺し合いに乗った参加者との接触を避けるのもあって、すぐにあの場を離れた。
魔法のじゅうたんとブラッドスタークでの移動で大分距離を離し、多少は体力回復の時間に充てられる。
戦兎やしんのすけに会うのが遅れるのは避けられない。
しかし流石に自分も蓮も消耗が激しい。
気を抜いた途端に体の節々が痛みを訴え、休ませろと脳へ要求を突き付ける。
ディケイドを始め敵対する参加者との交戦を考えると、コンディションに気を遣うのは間違っていない。
加えて10年かけて慣らした石動でないばかりか、ネビュラガスすら注入されていない体にブラッド族のエネルギーはやはり劇薬だ。
今の状態でダグバの時と同じ強化を行えば、ほぼ確実に肉体が限界を迎え死ぬ。
本当に、何故この体を自分に宛がったのかという疑問は今更だ。
いずれ来るだろう新たな闘争に備え、可能な限り疲労は抜いておきたい。

50LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:47:46 ID:c7OW47L.0
腰を下ろしだらしなく姿勢を崩す。
相棒は寝たきり、体の持ち主もダグバの一件で相当憔悴してるのか咎める様子はない。
壁にもたれかかりぼんやり室内を眺める。
電気製品の類は一切置かれておらず、明かりと言ったら少し開けた障子戸から入り込む月の光くらい。
古き良きとは言っても古過ぎやしないだろうか。
少しの間休めれば良いので贅沢を言う気は無いが、施設を設置するにしても現代らしい民家では駄目だったのかと思わなくもない。

デイパックを開けコンビニ弁当を取り出す。
失われた体力を取り戻すにはとにかく体を休ませ、食べるしかない。
デミグラスソースがたっぷりかけられたオムライスを口に運ぶ。
疲れ過ぎていると逆に食欲も湧かないのか、咀嚼が酷く億劫だ。
食わねばと分かっていても、スプーンを持つ手が止まりそうになる。
水で無理やり流し込み、何とか完食。
ルブランのカレーに比べれば決して良いとは言えない食事を終え、ぼんやり天井を見上げること十数分。
ふと思い出したようにもう一度デイパックに手を伸ばした。

「……」

指に引っ掛けた参加者共通の拘束具(アクセサリー)を眺める。
アルフォンスによると、錬金術で解除を試みたが失敗したらしい。
何でも錬金術そのものは発動したが、首輪への錬成は無効化された。

「どっちなんだろうな」

首輪自体に錬金術を無効化する仕掛けが組み込まれているのか。
アルフォンスが気付いていないだけで、錬金術を扱う精神に細工されたのか。
それとも、別のカラクリがあるのか。

錬金術の仕組みについて詳しく聞いておけば、考えの幅を広げられたかもしれない。
残念ながら知識を持つ少年は行方知れずで、もし発見できても話を聞ける状態かは不明。
蓮が知ったらすぐにでも探しに行きたがるだろう。
とはいえしんのすけとの合流の件を持ち出せば、話も聞かずに飛び出すなんてことにはなるまい。

51LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:48:23 ID:c7OW47L.0
首輪を置き、残りの二つも取り出し並べる。
累の母、アーマージャック、ダグバ。
サイズに多少の違いこそあれど、三つとも赤いカバーで覆われた同じ見た目。
真ん中の首輪を手に取り指で軽く叩く。
コツコツという音が静まり返った部屋の中で、やけに大きく聞こえた。
当たり前だがこの程度の衝撃で爆発したりはしない。
より強い力が外部から加われば、肉体の生命力に関係無く死に至る。
本来は首が吹き飛ぶ程度では死なない存在だろうと、一切の例外なく。

(あいつらはどうだったんだ?)

しんのすけの愛犬であり、家族であった参加者。
シロは犬飼ミチルの体を与えられたが、紆余曲折あって鬼に変貌した。
鬼に変えた張本人、耀哉の説明から察するに鬼は太陽の光以外で殺せない。
実際、撃たれた箇所や斬り落とした下顎が短時間で元通りとなったのは見た。
恐らく、爆発で頭と胴体が泣き別れしても死には至らない。
本来ならそうでも、殺し合いでは鬼の生命力とて弱体化を余儀なくされている。

耀哉のように最初から鬼の肉体を与えられたならともかく、シロは後天的に鬼になった参加者だ。
まさか参加者が気付かぬ内に、シロの首輪に鬼の生命力を無効化する仕掛けを施した訳ではあるまい。
となれば耀哉に与えられた肉体、無惨の持つ能力を制限された影響か。

「まぁ、解体(バラ)してみればその辺も分かるだろ。そっちは天才物理学者様を頼りにしますかね」

何が正解にしても、さっさと首輪を外したいのは変わらない。
必要なのはアルフォンスが言っていた通り、錬金術に頼らない昔ながらの方法。
工具を使った分解で何とかするしか無く、エボルトの知る限り可能な知識と技術の持ち主は戦兎だけ。
早急に会いたいところだが今どこにいるのやら。
欠伸を一つ漏らしながら首輪を仕舞い、指先が別の物に触れる。

52LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:49:17 ID:c7OW47L.0
純白の外装と、血よりも尚赤いコア。
人類滅亡に執念を燃やした人工知能同様、悪意を糧とする鎧。
アークドライバーワンは若き社長から所有者を次々変え、現在はエボルトの手に渡った。
蓮達との共闘や敵の消耗具合が影響したとはいえ、エボルドライバーも無しによく勝てたものだと自分でも思う。
自分も向こうも争いとは一生縁の無いアイドルの体、条件は同じでも変身するシステムの性能の差や、踏んで来た場数が勝敗を分ける。
トランスチームシステム同士なら勝てると自惚れた道楽息子を思い出し、形だけの嘲笑が浮かぶ。

天秤をこちらの勝利に傾かせた理由の一つとして、ダグバが大きな隙を晒したのも大きい。
街での戦闘時、ゲンガーが死ぬ原因となった砲撃。
強く警戒し然るべき大火力が放たれるまさにその直前、呆けたように動きを止めたのだ。
油断を誘う為の演技なのかと考えたくらいには、酷く無防備。
生きるか死ぬかの戦闘中、そんな真似に出ればどうなるか分からない筈も無いだろうに。
殺し合いを楽しむにしたって、今考えても少々不自然に感じる。
同時に今更ながらダグバの様子へどこか既視感を覚え、ややあって思い出す。

アーマージャックを殺した時の自分だ。

(ってことは…ある意味真乃ってお嬢ちゃんのファインプレーになるのかねぇ?)

あの時ダグバは気付いたのだろう。
体の持ち主の意識が復活していることを。
二回目の定時放送の内容から考えるに、真乃の意識が復活したのはそれよりも前。
ダグバは全く気付かず、好き勝手殺し合いを楽しんだ。
但し永遠に知らないままとはいかなかったようで、ダグバからすれば最悪の、エボルトには実に最高のタイミングで真乃の存在を認識。
結果的に真乃はダグバ撃破に大きく貢献したと言って良い。

本当に真乃の意識が復活していたのかどうか、今となっては確かめようがない。
わざわざ調べたいとも思わず、ダグバが死んだ以上然程興味も引かれない。
千雪に話したところで、更に精神へ負担が掛けるだけでメリットはゼロ。
あえて怒りを引き出し成長を促す元の計画での常套手段も、ハザードレベルと無関係の肉体でやっても完全に無意味。
どちらにせよ、彼女達にとっては悲劇と言う他ないだろう。

53LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:50:10 ID:c7OW47L.0
首輪と入れ替わりに白と赤、手に入れた二つのベルトを取り出し見比べる。
エボルドライバーを元に開発された地球産のライダーシステムではない、エボルトの知らない技術。
開発者やそれぞれのエネルギー源に興味はあれど、説明書にそういった記載は見当たらなかった。
ブラッドスタークへ変身可能な為、進んでこれらを使う気は今の所無し。
ただ放置して拾われ余計な戦力強化をされるよりは、こうして自分の元に確保した方がマシだ。
戦兎が装備に困窮しているようであれば、白い弓兵への変身ツールをくれてやっても良い。

(問題はこっちか)

もう一つの機械、アークドライバーワンを眺める目は心なしか険しい。
本来の力を取り戻した仮面ライダーエボル程ではないと自負するも、強力なことには違いない。
少なくとも殺し合いで見たライダーの中では現状トップクラス。
公平さを期す為か時間制限こそ設けられているが、これ程の装備を入手出来た収穫は大きい。
だが強大な力というやつにはいつだって、何かしらのデメリットが付きもの。
闘争心を高め好戦的な性格に変貌させるクローズチャージや、理性を失い制御不能の殺戮マシーンと化すハザードフォームなどがまさにそれ。
確実にそうだとは言えないが用心するに越したことはない、どうせならそこらの詳細も説明書に載せて欲しかった。
気が利かねえなとボヤきドライバーを仕舞う。

「う……」

視界の隅で青年が小さく身動ぎするが、瞼は閉じられたまま。
思い返せば、アーマージャックに始まり自分と同じくほとんど連戦続き。
最初の放送を超える前は手頃な拠点を見付け、じっくり戦力や情報収集に動こうかと計画したのが今や懐かしく感じる。
戦闘に次ぐ戦闘で得たものと失くしたものがそれぞれある中、未だ残ったままの一つが相棒のペルソナ使い。
何だかんだ、殺し合いで最も付き合いの長い相手だ。
情は無くとも貴重な戦力、睡眠中の護衛くらいは引き受けてやる。

例えば、そう。

「……」

今竈門家に近付いて来た者の対処とか。

キーキーと鳴く蜘蛛が参加者の接近を知らせる。
蓮のデイパックから拝借したスパイダーショックを放っておいて正解だ。
休憩時間も許してくれない何者かに、空気を読めよと内心で文句を言う。

ともかく来てしまったなら仕方ない。
ギジメモリはまだ抜かず、スパイダーショックには蓮を守るよう命令。
望まぬ敵か、望んだ相手か。
気怠さを隠そうともせずに、ボトルを活性化し装填。
血濡れの装甲を纏い、もてなす準備は完了。

『全く…退屈しねぇな』

54LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:52:17 ID:c7OW47L.0



嵐が過ぎ去った後は不気味なくらいに静かだ。
聖都大学附属病院、そう呼ばれていた施設は最早存在しない。
患者の傷を癒し、心に寄り添うドクター達の戦場である純白の城。
地図に記載された設置場所には瓦礫の山と、辛うじて残った立ち入り不可能な病棟。
禁止エリアの機能を待たず、聖都大学附属病院は完全に施設としての役目を終えた。

恐ろしい相手だったと、誰もが口を揃えるだろう。
永遠を支配した邪悪の化身とはまた違う、強大な敵。
多対一でありながら、常に不利を強いられたのは自分達だった。
ただ歩く、ただ腕を振る、ただ身動ぎをする。
たとえ攻撃の意思を宿さない動作一つでも、地上の命を複数纏めて刈り取ることが可能。
そのような存在が明確な敵を以て殺しに来たなら、それはもう意思を持つ災害と同じ。
悪童に踏み潰される蟻の気持ちを嫌でも味合わされた。
幸運だったのは無駄に逃げ惑い足底の汚れになる虫と違い、抗う術が自分達にはあったこと。
死へ誘い、地の底へ引き摺り込むべく伸ばされた腕を払い除けた果てに生存を勝ち取った。
それでも先の戦いは間違いなく自分達の敗北。
仲間の死は覆せず、喪失の痛みは消し去れない。
なればこそ受け入れ次の戦いに備えることが最善の選択、そう理解しても簡単に割り切れないのが人間の性だ。

作業をする戦兎と杉元の間に会話は無い。
黙々と神楽の支給品を回収し、腰に巻かれたベルトを外す。
青い仮面ライダーに変身するアイテムの内、聖剣は持ち去られた。
変身不可能でも念の為デイパックの奥底へ仕舞う。

「ピカ……」

か細い鳴き声が膝の上から聞こえ、甜花はぎこちなく頭を撫でた。
外へ出されたサッポロビールの宣伝カー、その後部座席で一人と一匹は作業の様子を見守っている。
自分達でやるから待っててくれ、戦兎にそう言われた時すぐには頷けなかった。
荒事に慣れている戦兎達に任せるのが正しいのだろうけれど、でも何となくモヤモヤしたものを感じて。
手伝うと口に出すのも、向こうにはお見通しだったらしい。
大丈夫だから休んでてくれと言って、余計な心配をかけさせまいと見せた笑顔。
戦兎を信頼する切っ掛けとなった笑みとは違う、悲しみを隠す仮面。
そんな顔をされては何も言えず、黙って頷くしか出来なかった。

55LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:53:00 ID:c7OW47L.0
柔らかい掌に撫でられる最中も善逸の顔色は優れない。
普段だったらもっと違う反応を見せたろうけど、とてもじゃないがそんな気にはなれなかった。
人が死んだ。
鬼殺隊の仲間が死に、この地で出会った者が死んでいく。
放送で知らされ、或いは目の前で最期を見る度に突き付けられる。
結局自分は、今も昔も遅過ぎるのだと。
兄弟子が苛立ちの裏に隠した幸せの箱に空いた穴を、終ぞ埋められず。
ようやっと自分がアイツにしてやれたのは、全てが手遅れになってから。
頸を斬る以外に何一つやれる事は無かった。
殺し合いでも同じだ。
鳥束が死んだ、煉獄が死んだ、しのぶが死んだ、悲鳴嶼が死んだ、脹相が死んだ、神楽が死んだ。
彼らの死を変える為にやれる事が、たとえ人の体で無くとあっただろうに。
戦う力ならある、なのに動き出すのが遅過ぎる。
喪失と無力感という、決して慣れない痛みに俯く。

(恐い、な……)

二人の男が後始末をし、もう一匹は自分の膝の上。
言葉の交わされない空間に漂う息苦しさを感じて、口には出さず甜花は思う。
死ぬことが、誰かに殺されるということがこんなにも近くに感じる。
テレビの向こう側で凄惨なニュースが流れるのを見て、妹と一緒に恐いねと話す。
なんてことのない日常の一幕が、遥か遠くの幸福にさえ見えてしまう。
恐いのだ、人が死ぬというのは。
喜んで死ぬ人なんて誰もいなかった。
泣いたり、苦しんだり、正気を失ったり。
良い人も悪い人も、皆嬉しいとか楽しいとは真逆の顔で死んでいった。
自分はまだ生きている、だけど人が死ぬのを見るのはこんなにも恐い。
ついさっきまで生きて、自分と話をした人が死んでしまったのも恐い。
恐くて、でも同じくらい悲しい。
家族や283プロの皆よりも、ずっと短い時間しか一緒にいなかったのに。
もう二度と話せない、本当の体に戻ってお別れを言うのだって出来ない。
現実を直視すれば、怪我をしてないのに胸の奥が痛かった。

56LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:53:42 ID:c7OW47L.0
「向こうでやって来る」

バックルを外された死体を背負い、短く告げた杉元の言葉に疑問は抱かない。
何をするつもりかは分かる、自分達が見ている前で出来ない理由だって分からない筈がない。
思う所は勿論ある、しかし必要なことだとも理解している。
杉元の判断を責めはしない、たとえ反論してもそれはただの我儘だ。
故に一瞬浮かんだ感情的な言葉を握り潰し、本当に言うべきことを口にした。

「悪い…頼んだ」
「おう」

こちらを見ないままの短い返答。
物言わぬ女を運び、瓦礫の山のずっと奥へと足を運ぶ。
戦兎達からは見えない位置で死体を降ろす。
閉じた瞼は永遠に開かず、艶を失った口は何も語らない。
何百と目にした魂を失った器に、今更杉元が動揺を見せることは無い。
仲間が逝った。
言葉を交わし、共に飯を食い、肩を並べて戦った者の死。
とうに慣れた喪失が喉を降る。
家に帰りたがっていた者の死を見るのだって、日露戦争では珍しくもなかった。
殺し合いで失って、でもまだ残っているものが神楽にはあったのだ。
帰れる場所があったのに願いは叶わない、杉元が思う以上に無念だったろう。

57LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:54:20 ID:c7OW47L.0
「…悪いな」

しかし杉元が足を止め、戦いを投げ出す理由にはならない。
首輪の回収もそうだ。
禁止エリアに進んで入りたがる者がいるとは思えず、死体を放置しても首輪を奪われる可能性はゼロに等しい。
だが確実にないと断言できず、DIOのような者の手に渡るくらいなら自分達の役に立てた方がずっと良い。

千切れ掛かった首を斬り落とすと、役目を果たした刀を鞘に納める。
突き殺し、斬り殺し、刺青人皮を剥ぐ。
人体を壊す感触は、アシリパと一緒にチタタプする時とはまるで違う。
彼女には一生経験して欲しくない、そんな感触だ。
首輪を拾い、死体にはシーツを被せてやる。
破壊されたベッドの残骸近くに落ちていたものだ、破けているが頭部を隠すくらいなら問題無い。
埋葬する時間も無いので、やれることと言ったらこれくらい。
霊安室諸共瓦礫の下敷きと化した赤毛の少女の死体は、残念ながらもうどうにもならなかった。

来た道を戻って戦兎に首輪を渡す。
噛み締めるような表情で受け取る姿に、余計な言葉は何も言わない。
これでやる事は全部終わった。
禁止エリアにまだ留まる理由も無く、当初の予定通りナナ達との合流を目指す。
宣伝カーを発車させれば、病院があった場所は徐々に遠ざかる。
チラと背後を見やり、甜花の瞳には小さくなっていく戦場跡が映った。
5人でカップラーメンを食べた、ほんの少しの暖かい時間。
二度とやって来ない光景にぎゅっと唇を噛み、視線を前に戻す。
それっきり、誰も振り返りはしなかった。

58LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:55:16 ID:c7OW47L.0
◆◆◆


このまま宇宙船まで宣伝カーを飛ばす、といきたいがそうもいかない事情があった。
最短で宇宙船に行くにはD-2を経由し北東に走らせれば良いが、禁止エリアな為不可能。
となると、どうあっても草原を離れ山を移動しなければならない。
当然だが車が走れるよう舗装などされておらず、宣伝カーで行くには限界がある。
鬱蒼とした森に阻まれ、これ以上車で進むのが無理な事は全員の目にも明らか。
ここから先は徒歩で行くしかなかった。

「足元気を付けろよ」

注意を促し杉元が先導する。
極寒の北海道をアシリパと共に旅し、自然の脅威をもアイヌの知恵を借り生き延びて来た男だ。
日が落ちた山の中を歩くくらい訳も無い。
山中は視界が悪く、星や月の光も木々に遮られている。
言われた通り足元にも気を配りながら進んで行く。

「ピカ…?(あれ、今なんか…)」

暫く歩き、不意に足を止め訝し気に周囲を見回す。
気のせいだろうか、善逸の耳には自分達以外のナニカが動く音が聞こえた。
野生動物の類では無い。
この島にいるのは集められた参加者のみ、それ以外の生物は虫の一匹すら生息していない。
なら本当に気のせいか、それとも誰かが隠れていたのか。
善逸の様子に3人も異変を察知、緊張感が辺りに漂う。

「俺達に気付いて隠れたのか…?」

呟きへの答えを馬鹿正直に返す者はいない。
警戒を強め移動を再開、いざという時には直ぐにでも戦えるようベルトを装着しておく。
仲間が一人死んだばかりでも、お構いなしに次の戦闘が始まるのが殺し合いだ。

59LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:56:09 ID:c7OW47L.0
また暫く進んだ先で、一行の前に木々以外のものが姿を見せた。
木造建ての一軒家。
現代日本出身の戦兎や甜花にとっては、歴史資料館にでも行かなければまずお目に掛かれない古風な民家。
山中にポツンと建てられており、街に設置された家々とは違う参加者に縁のある施設。

「これは…悲鳴嶼と脹相が会ったっていう場所か?」
「ピカ、ピカピ…(じゃあ、ここが炭治郎と禰豆子ちゃん達の家…)」

山中にある竈門家で脹相と遭遇したと、病院での情報交換で悲鳴嶼は言っていた。
病院の北部に設置しており、場所も聞いた内容と間違っていない。
もし炭治郎の意識が本当に復活していたら、自分達の生まれ育った家まで利用されたのに何を感じたのだろうか。
友の心情を思えばやり切れず、無意識の内に苦い顔を作る。

「そうかぁ…ここで……」

何とも言えない顔で頷く杉元の脳裏に浮かぶのは、デイパックの奥深くに封印した鍋料理。
タイミング的にも恐らくこの家で、二人はラッコ鍋を食べたのだろう。
周囲を山に囲われた、どれだけ騒いでも聞き咎められない狭い空間で。
亡き仲間二人にあれこれ邪推するべきでないとは重々承知だが、ラッコ鍋の一件は杉元自身も経験があるだけに考えてしまう。
相撲か何かで発散できたのか、それとも一線を超えたのか。
気まずい態度の裏にはどんな過程があったのだろうか。
頭を振って邪な想像を追い出し、物言わぬ家に近付くと入り口が破壊されているのが確認できた。

「あいつらどんだけ激しく…い、いや何でもねえ!」
「さっきからどうした…?」

一人で勝手に慌てる杉元に、仲間は困惑するばかり。
微妙な空気が流れ出すのも束の間、有無を言わさず全員身を引き締めることになる。
出入り口の戸を失い、光が見えない黒一色の空間に蠢く者が見えた。

「っ…」

電光石火の動作で歩兵銃を構え、一点を睨み付ける杉元に隙は見当たらない。
いつ戦闘に発展しても問題無く動ける。
彼に倣いそれぞれ装備を取り出し、竈門家に潜む何者かの出方を待つ。
相手の姿が見えないのは、圧倒的な力を振りかざす敵と対峙した時とはまた別種の緊張感だ。
ロックシードをキツく握り震えを誤魔化す甜花の横で、善逸の全身には冷汗がダラダラと流れる。

「誰だ?」

短く、同時に十分な威圧感を籠めた問い掛け。
そっちがいるのには気付いてる、妙な真似はせずに出て来い。
二文字の中に宿った意図を相手は正確に察したらしく、ゆっくりこちらへ近付く気配があった。
警戒と恐怖の視線を一身に集め、正体不明の存在からはくつくつと笑いが漏れる。

60LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:57:12 ID:c7OW47L.0
『おいおい、そこまで警戒しなくても良いだろ。こっちは一休みしに立ち寄っただけだぜ?』

渋みを感じさせる壮年男性の声が4人の耳に届き、暗闇から現れたのは赤い怪人。
戦国の世を駆けた英傑の甲冑とも、西洋で名を馳せた騎士の鎧とも違う。
血を被った色の装甲を纏い、碧のクリアゴーグル越しに来訪者達をねっとりと眺める。
値踏みされているかのような視線に、杉元が眉を顰めるのもお構いなしだ。
頭頂部から爪先まで完全に隠し、発せられた声でしか性別は確認出来ない。
中身が誰かは不明、しかし纏った装甲については杉元にも察しが付く。

「また仮面らいだあとかいうやつかよ…」
『自信満々に答えてもらって悪いが不正解だ。正解は…そいつに聞くんだな』

己を睨む銃口が見えていない訳ではあるまい。
だというのに怪人はいっそ呑気と言って良い程に、緊張感がまるで無い。
撃たれたところで掠り傷にもならないと高を括っているからか。
杉元の口から出た戦士の名を否定し、一人の青年を顎で指し示す。
怪人の装甲と同じカラーリングのツナギを着た彼は、この場の誰よりも険しい表情だった。

姿を現す直前、声を聞いた瞬間猛烈な悪寒に戦兎は襲われた。
大蛇に巻き付かれ、首に毒牙を突き立てられる気分はこれが初ではない。
旧世界の戦いで幾度となく味合わされたのは、今でも鮮明に覚えている。
一度は完全勝利を収め、破滅を求める王相手に共闘して尚も忘れらない苦い記憶の数々。

強張る戦兎を見てさも楽し気にそいつは言葉を紡ぐ。
世界が創り変えられても、決して断ち切れない因縁で繋がれた英雄へと。

61LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:58:19 ID:c7OW47L.0
『折角感動の再会なんだ。もっと嬉しそうにしたらどうだ?戦兎ォ?』
「好き好んでお前に会いたがる奴なんかいるわけねえだろ、エボルト」

嘲り交じりに絡み付く戯言を、明確な拒絶の意思を以て切り捨てる。
吐き捨てた四文字の名前に、一同へ驚愕と更なる緊張が走った。
戦兎が最も強く警戒していた最悪の宿敵。
それが今、目の前にいる。

「おい桐生、こいつが…」
『おっと、その様子じゃあ俺のこともちゃぁ〜んと紹介してくれたようだな?』

警戒の色が濃くなったのは分かるだろうに、エボルトの態度から焦りはまるで読み取れなかった。
一挙一動を見極める杉元の目に鋭さが増す。
視線だけで殺せるならとうに二桁を超える敵意をぶつけ、構えた歩兵銃は決して降ろさず、引き金から指を外さない。
人を食ったような態度で真意を隠す得体の知れなさは、どことなく鶴見を思わせる。
だがエボルトの場合はより不気味だ。
飄々とした言葉と態度を繰り返していながら、その実人間味というものが恐ろしく感じられない。
戦兎から人間でないとは聞いていたが、ある意味納得がいく。
人間の体になっていようと、根本的な部分で人間らしさを持ち合わせていない怪物。
DIOや巨人のプレッシャーとは違う、気付かぬ内に首を絞め上げる蛇のような気持ち悪さがあった。

必要とあらば動ける準備は出来ている。
しかし今はまだその時ではなく、「見」に徹して待つ。
蛇の視線を真っ向から受け止め、怯まず睨み返す戦兎がどうするかだ。

62LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 22:59:15 ID:c7OW47L.0
『元気そうで何よりだよ。どこの誰かも分からない体にされて、呆気なく死んじまわないか心配してたんだぜ?』
「お前に心配される程、落ちぶれてねえんだよこっちは。…ここじゃまた“スターク”のままなんだな」
『全く悲しいことになァ。俺を呼ぶなら相応の待遇があるだろうに。お前の方は、元の体と同じ顔で嬉しいんじゃないか?佐藤太郎の顔に変えてやった甲斐もあったってもんだ』
「…そうだな。今ので余計最っ悪の気分になった」
『悲しいこと言うなよ。こっちはお前に会いたくて会いたくて、飯も喉を通らなかったくらいだ』

言葉を投げ合う両者の間に友好関係は微塵もない。
キャッチボールというよりデッドボールを繰り返す、剣呑さを隠さない会話。
皮肉と毒の応酬も頃合いを見て打ち切り、先に本題へ入ったのはエボルト。
まさか向こうからやって来るとは思わなかったが、戦兎との再会はこうして叶っている。
となれば戦兎への『お願い』をそろそろしても良いだろう。

『再会を祝してコーヒーでも淹れたいところだが、生憎豆も道具も置いて来ちまってるんでね。本題に移らせてもらう』
「……これをどうにか外せって言うんだろ」
『正解!』

そら来たと、予想通りの展開に戦兎は顰めっ面で首輪を叩く。
エボルドライバーの修復の時と良い、エボルトは戦兎の技術力を評価している。
首輪解除の要求されるくらい、とっくにお見通しだ。
よく分かってんじゃねえか、そう笑って頷く蛇とは正反対に戦兎は渋面を作る。

『ったく、そこまで嫌そうな顔しなくても良いじゃねぇかよ』

呆れを口にしつつ、戦兎の反応は思った通りのもの。
むしろ素直に承諾された方が、却って何か裏を疑う。
こちらの首輪解除に乗り気でないなら、それはそれで問題無い。
やる気を出させる簡単な方法があるのだから。

『ま、俺の為に働くのが嫌ってんなら別に良い。だったら――』

トランスチームガンを取り出し操作。
武器の存在に杉元からの敵意が膨れ上がるが、攻撃の意図は全くない。
宇宙服にも似た血濡れの装甲が消え失せ、生身の体を晒す。
10年もの間居心地を満喫した宇宙飛行士ではない。
哀れにも星狩りの器に選ばれた、偶像の姿がそこにあった。

63LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:00:21 ID:c7OW47L.0
「こいつを助ける為と思えば、少しはやる気も出るだろ?」

「……っ!」

黒のリボンで結われた髪を揺らし、これまでとは似ても似つかない声で言う。
浮かべる笑みは軽薄そのもの。
整った顔立ちのせいか美貌は損なわれてないけど、自分の知るあの人は絶対にしない顔。
初めて会った時、名前で呼んでくれたあの人の笑顔とは全く違う。
283プロで出来た最初の友達と、同じ筈がない。
なのに、今目の前にいるのは紛れもなく――

「千雪、さん……」

自分の声が一体どれ程震えているのか、甜花には分からない。
彼女の名前をちゃんと言えたかどうかすら判断出来ない。
組み合わせ名簿を見た時から、千雪の体が巻き込まれているとは知っていた。
体に入った精神が、よりにもよって最悪の部類だとも分かっていた。
だけど、いざこうして目の当たりにすると想像以上のショックで頭がおかしくなりそうだ。

あれは、彼女であって彼女ではない。
千雪とは全く別の存在が好き勝手に体を動かしている。
分かっているのに、目を覆いたくなるような悪夢そのものだ。
甜花の記憶を優しく彩るあの人が、怖気が走る赤で塗り潰される。
甜花も好きなあの人の笑みが踏み躙られる。
耐え難い光景がすぐ傍にあって、自分はただ震えてばかりで目を逸らす事すら出来ない。

64LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:03:08 ID:c7OW47L.0
「ああ、成程ねぇ」

そんな偶像を、蛇の瞳は捉えて離さない。
捕食を待つだけの獲物のように。
面白半分に散らされる花のように。
細い首を舌が撫で、ゆっくりと毒を流し込む。

「戦兎相手にお姫様ごっこを満喫してたって訳か。良かったなァ、て・ん・かちゃん?」
「――――っ!!」

あの人の声で。
あの人の顔で。
あの人と同じように名前を呼んで。

「ひぅ……」

猛烈な嫌悪感に視界が滲み出した途端、目の前に赤い背中が見えた。
恐くて気味の悪い赤とは違う。
とっても派手だけど、ずっと自分を守るために戦ったヒーローの背中だ。

「やめろエボルト。お前が軽々しく甜花の名前を呼ぶな」
「そう怒るなって、俺なりの軽いジョークだよ。悪かった悪かった」

怒気を孕んだ言葉をぶつけられても、涼しい顔で受け流す。
話を無駄にややこしくする気は無かったが、見知った相手がいるとついつい口が滑ってしまう。
感情が無いにも関わらず、戦兎や万丈だと興が乗るのは地球での暮らしが長かった影響か。
少々どうでもいいことを考える。
とはいえ話が脱線するのはこっちも望む所では無い。
向こうもふざけたちょっかいの相手は御免らしく、険しい顔で本題へと話を戻した。

65LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:04:17 ID:c7OW47L.0
「先に聞かせろ。そもそもお前は殺し合いでどう動いて来た?」
「乗ってないから安心しろよ。馬鹿正直に優勝を目指したところで、帰してくれる保障はゼロ。素直にご褒美をくれるかだって信用できない。ならアイツらを片付けてから帰った方がマシだ」

これもまた戦兎が予想した通りの答え。
先程の言い方からしてエボルドライバーは手元に無い。
幾ら何でもブラッドスタークだけで優勝を目指す程、自惚れた男ではない。
エボルトと言えども、いやエボルトだからこそ安易に皆殺しは選ばなかった。
殺し合いに乗ってないからと言って、信用などは絶対に出来ないが。
だが他者の体、それも甜花と縁の深い人間の肉体を放って置く気は最初からない。
精神がエボルトという大き過ぎる問題を無理やり飲み込み、答えを口にする。

「どの道お前の巻き添えにさせるつもりはないんだ、首輪は外す。…但し、この先勝手な真似は一つもさせない。こっちの指示には全部従ってもらう」
「おお恐い恐い。皆の人気者のアイドルを飼い犬扱いとは、ずいぶん穏やかじゃねぇな」

わざとらしく肩を震わせる女の皮を被った蛇に、戦兎が向ける目はどこまでも険しい。
こういう態度で相手のペースを崩す奴だとは、嫌と言う程知っている。
一々構わないし、こちらの要求を撤回するつもりもない。

「強がるなよ。お前に余裕が無いことくらい、こっちは全部分かってんだよ」
「ほぉ…」

軽薄な笑みは変わらない、代わりに彼らの周りの空気が一段冷え込む。
背後でビクリと少女が震えたのを気配で察した。
恐がらせて申し訳ないと思うも、ここで引き下がってエボルトの勝手を許す訳にはいかない。

66LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:05:01 ID:c7OW47L.0
「エボルドライバーは無い、別の体も乗っ取れない、パンドラボックスだって持ってない。これで優勝出来る程他の参加者が甘い奴らじゃないことくらい、お前だって理解してるだろ」

仮面ライダーエボルだけがエボルトの脅威ということではない。
だがそれでも、旧世界で猛威を振るった時に比べれば弱体化を余儀なくされてるのは事実だ。

「だから優勝じゃ無く脱出を選ぼうにも、首輪を外すアテは俺以外に見付からなかった。もうすぐ24時間経つってのにこれなんだ。今から都合良く俺より素直に外してくれる奴が出て来るのがどんだけ現実的じゃないか、言うまでもない」

若しかしたら、戦兎以外にそういった技術の持ち主が参加していると考えられなくも無い。
が、都合良く見つかるかは別の話。
大人しく協力するか分からない、第一生きてるかも定かではない。

「殺し合いに参加させられた時点で俺達全員主催者に負けたみたいなもんだ。だからお前でさえ常に後手に回るしかない。何でもかんでも自分の思い通りに動かせた地球じゃねえんだよ、ここは」

ファウストや難波重工といった組織を使う事はできない。
エボルドライバーやパンドラボックスという、圧倒的な力で押し通す事もできない。
自由が封じられている点では、地球に来た時よりも遥かに不利な状況だろう。

「もしお前一人が馬鹿やったせいで首輪を外す前に俺が死ねば…エボルト、詰むのはそっちの方だ」
「否定できないのが辛いところだな」

反論するでもなく、肩を竦めてあっさり肯定。
戦力だったら、蓮を始め多数の者と繋がりを得た。
しかし首輪解除に関しては指摘通り、戦兎の替えが利かない。

67LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:05:52 ID:c7OW47L.0
「一人、まぁ首輪のあれこれで役立ってくれそうな奴がいたんだが……散々暴れ回った挙句どっかに行っちまった。あいつに比べりゃ、美空は手のかからないガキだったとつくづく思うよ」

誰を指して言ってるのか戦兎にも、彼らのやり取りを見守る者達にも見当が付かない。
件の人物について考えるのは後で良い。
如何なる答えをこの男が返すか、それによってこっちも取る手が変わってくる。

「ま、ボンドルド達を始末したいってとこはお互い同じなんだ。揉め事を起こさないよう努力はしてやる。仲良くやろうじゃねぇか、万丈が嫉妬するくらいになァ?」
「気色悪いこと言ってんじゃねえよ」

ヘラヘラ笑い肩に乗せて来た手を乱暴に退けたいが、千雪の体に手荒な真似はできない。
向こうから離すのを顰めっ面で待つしかなかった。
キルバスのように共通の敵がいれば手を組むのに躊躇は抱かない男だ、こちらの要求が受け入れられたのに驚きはない。
尤も信頼を向ける気は一切なく、引き続き警戒は勿論行う。
新世界を創り数多の死が無かった事になった今でも、禍根であるこの男への怒りは消えていない。
何が切っ掛けでエボルトがこちらの予期せぬ動きに出るか不明な以上、決して油断は出来なかった。

「そういうことだ。話も纏まったことで、宜しく頼むぜお三方」

戦兎の肩から離した手を軽く振り、交渉成立をアピール。
精神がエボルトというだけで、美人でもここまで胡散臭くなれるとは。
傍らで呆れる戦兎に、杉元から疑問が飛ぶ。

「桐生、お前が決めたんなら一々文句は言わないけどよ。良いんだな?」

エボルトが妙な真似をしでかさないよう、こっちで監視する。
病院でもその通りに話し合った為、今更反対だ何だと騒ぐ気は無い。
甜花との約束や、戦兎自身の決断を否定はしない。
だからこれはあくまで確認。
打倒ボンドルドの目的は同じでも、決して安心して背中を預けられない奴を引き込む。
そのリスクを理解の上で、エボルトと取引を行ったのか。
キロランケと尾形の裏切りに遭い、アシリパと引き離されたことのある杉元だからこそハッキリ確かめたかった。

68LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:07:24 ID:c7OW47L.0
「ああ、こいつの好き勝手にはさせない。だからエボルトの事は俺に任せて欲しい」
「…そうか。まぁ乗り掛かった舟だ、いざとなったらぶん殴って…は無理でも俺もこいつを大人しくさせるさ」
「本人前にしてそれ言うかねぇ普通。仲良くやろうって気が無いのは悲しいぜ、おい」
「ちょ、やだ聞きました桐生さん!この女こっちの会話に出しゃばって来たんですけど!?」
「やめなさいよその気持ち悪い話し方」

杉元自身、アイヌの金塊争奪戦で多くの者と共闘経験がある。
なれど裏切りの心配なく、心から信頼し合える者は多くない。
白石や谷垣でさえ、出会った当初は敵同士だった。
今も昔もハッキリ味方と断言出来るのは、それこそアシリパやフチらアイヌの者達くらい。
敵味方の入れ替わりが激しいのは今に始まったものではない。
戦兎同様決して無防備な背を向けはしないが、同行自体は受け入れる。

「甜花も…今はそれで良いか?」
「う、うん……千雪さんの首輪も、外してくれて……へ、へんな、ことさせないの……甜花も賛成……」
「…悪い、もう少しだけ待っててくれ。エボルトを追い出す方法も絶対に見付ける」
「あ、謝らなくても大丈夫、だよ……!戦兎さん、約束守ってくれて……だから……大丈夫……」

本当は今も千雪の体がエボルトの傀儡となっているのが辛いだろうに。
今すぐ解決できない自分へ歯痒さを抱く。
頭の痛いことに、精神と肉体の入れ替えがどのようなシステムかは依然不明なまま。
現状、主催者の元へ辿り着く以外に知る方法は無い。

「ピカー…ピッピカチュウ…ピカ……ピカ〜…!(危ない奴だけどしょうがな……いやでも恐いし……いやでもメチャクチャ綺麗なお姉さんだし…いやでもな〜…!)」
「あっ、善逸くん……なーちゃんの時みたいに、千雪さんにえっちなこと……考えちゃダメ……!」
「ピカ!?ピ、ピカピー…(え゛!?い、いや俺はそんな決してそんなまさかそんな…)」
「動揺し過ぎだろこいつ」

あからさまな動揺を露わにする黄色い珍獣に呆れが集まる。
一方で奇妙な見た目と鳴き声から、エボルトはゲンガーから聞いたポケモンの特徴を思い出す。
一応殺し合いに乗ってる可能性が無いとも言い切れないらしいが、だがこの様子では違うだろう。
杞憂で済んだと、ゲンガー本人が知る機会は残念ながら訪れなかった。

69LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:08:06 ID:c7OW47L.0
「さて、と。桐生戦兎様御一行に加わったなら、相棒のことも紹介しとかねえとな」
「他にも誰か一緒なのか?」
「まぁな。今は夢の世界を堪能中――でもないか」

振り返ったエボルトの視線の先を追うと、ついさっき出て来た暗闇。
戸の残骸を避けながら、夜の色とは別の黒が顔を見せる。
ベストに帽子が特徴の青年は困惑をハッキリ顔に出し、共犯者に目で説明を求めた。

「よう、丁度良いタイミングで起きたな」
「エボルト…。この人達は…それにアルフォンスはどこに……?」
「一旦落ち着けよ。順を追って説明してやるから、まずはこれでも飲んどけ」

自分が意識を落としてる間に何があったのか。
知らない内に随分と事が進んだようにも見えて、状況を受け入れるのにこんがらがっている。
寝起きで、疲れもまだ抜け切ってない頭には優しくない。
軽く混乱気味な蓮とは対照的にエボルトはマイペース。
デイパックから手付かずの水を投げ渡し、水分補給を促す。
自分が少々落ち着きを欠いているとは、蓮にも自覚があったのだろう。
言われるがままキャプを開き口を付ける。

「……っふう」

一口程度のつもりが、気が付くと夢中で喉の奥に流し込んでいた。
思った以上に体は水分を欲していたらしい。
乾き切った喉を潤し、冷水が意識を引き締めさせる。
改めてこの場に集まった面々の顔を見回すと、やはりエボルト以外とは全員初対面。
ミチルが持っていた地図で確認した、病院付近にいた者達だ。
殺し合いに乗っていないグループと上手く合流出来たのか。

70LOST COLORS -桃源郷エイリアン- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:09:24 ID:c7OW47L.0
「立ち話もなんだ、その辺も含めて中でお喋り会といきたいんだがね」
「こっちも話をするのに反対はしない。ただ、あんまりのんびりもしてられねぇ」

エボルトとの遭遇で足を止めたが、本来の目的はナナ達との合流。
脹相が死んだ今、宇宙船に戦闘が可能な者は残っていない。
合流が遅れたせいで二人共呆気なく殺される、そのような事態が起こらないと何故言い切れるのか。
エボルトから相棒と呼ばれた青年や、彼らの持つ情報などは聞きたい。
本来なら腰を据えてじっくり整理すべきだろうけれど、今はナナ達の安全確保が先だろう。

事情を簡潔に説明すると、向こうは顔を見合わせ頷き合った。

「じゃあしんのすけはミチルの友達と一緒に…?」
「そうなるだろうな。ってことは一応安心、と言って良いのかねぇ?」
「ミチル…確か柊が言ってたクラスメイトのことか?どういうことだ?」

思わぬ名前に詳しい説明を求めれば、ざっくりだが蓮が話す。
曰く、自分達にはしんのすけという仲間がいたが、諸事情で遠く離れたエリアに移動した。
支給品の中に数時間前の居場所が分かる地図がある為、しんのすけは宇宙船にいると把握。
時間的にもしんのすけがナナ達と会った可能性は高く、恐らくは協力して襲撃者を撃退に追い込んだと考えられる。

「ま、襲われても戦えない訳じゃあ無いだろうぜ。そっちも相棒も体力に余裕があるってんじゃないなら、休憩がてら話ぐらいはしても良いと思うがね」
「それは……」

戦兎達と、蓮を含めた5人が沈黙する。
どちらも仲間と急ぎ合流したいことに変わりはない。
しかしここで齎された内容、東西それぞれの参加者が思わぬ形で行動を共にしている。
ミチルが強く信頼を寄せていたナナと、詳細は不明だが承太郎の体だった燃堂。
後者はともかく、前者はしんのすけを絶対安心とまではいかなくとも色々とサポートできるだろう。
それにしんのすけは徐々に孫悟空の肉体に慣れ、アーマージャックを蓮達と共に打ち倒すだけの力を発揮可能。
懸念事項だった、ナナと燃堂だけでは襲われた時に対処が難しい問題も一応解消された。
無論、だからといって宇宙船へ向かうのを先延ばしにして良いという事にはならない。
ミチルやゲンガーの死を聞き、悲しんでいるだろうしんのすけの支えになってやりたい。
ただエボルトの指摘通り、体力的に余裕がないのもまた事実。
ダグバと巨人、戦いの結末に違いは有れど楽に勝利を収められる相手では無かった。
移動を強行し途中で息切れを起こしたせいで、余計到着が遅れるとなっては目も当てられない。

しんのすけ達が戦った相手とて無傷では済まず、すぐに再戦可能ではない筈。
DIOは地下通路の方へ向かい、宇宙船へ来るには時間が掛かる。
康一もまた相当に体力を消費した、だから神楽を喰った直後は戦闘の継続ではなく逃走を選んだ。
宇宙船にいる者達が、即座に闘争の渦に引き込まれる可能性は高くない。

「…分かった」

暫しの躊躇を挟んだ後、渋い顔ながら頷く。
数が揃っているだけでは有利になれない程、殺し合いに乗った者達は強敵揃い。
自分達の消耗具合へロクに気を配らずいるのは悪手、少しでも万全に近付けておくのは間違っていない。
よりにもよってそれを因縁深い地球外生命体から指摘されたのは、余り良い気分とは言えないが。

兎にも角にも話は纏まった。
ここからは互いが持つ情報の擦り合わせ。
東と西、反対のエリアで起こった闘争の記録の開示だ。

71LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:12:53 ID:c7OW47L.0



代々炭焼きを生業にした一家の住まいにて、顔を突き合わせるは5人と1匹。
裕福でなくとも幸せが満ちた竈門家も、殺し合いでは一施設。
呪胎九相図と鬼狩り、川越市の殺人鬼が訪れた場所にて行われる情報開示。

橙色の炎が室内を淡く照らし、冷えた空気に熱を灯す。
杉元が手早く着火した囲炉裏を囲い、黙っていても始まらないとエボルトが音頭を取った。

「軽く自己紹介して本題に行こうじゃねぇか。俺の紹介は戦兎が手間を省いてくれたようだがな?」

後半の皮肉は無視して各々名前を言い、まどろっこしいのは抜きで情報交換に入る。
戦兎達からはPK学園での戦闘と、病院前での死闘。
エボルト達からは風都タワー及び東側の街、そして竈門家に来る直前のアクシデント。
生存中の仲間と危険人物の動向を主軸に話は進む。

「アルフォンスが……」

聞かされた内容は決して良いものばかりではなかった。
共に街を出発した錬金術師は正気に戻らず、どこに行ったかは不明。
暴走しても絶対に止めると決意しておきながらこの始末。
自分が気を失わずにアルフォンスを大人しくさせていたら、竈門家には彼もいた筈だろうに。

蓮の精神を軋ませる情報は康一についてもだ。
街でキャメロット達と共に遠ざけた巨人が、戦兎達にも襲い掛かったらしい。
対処法を知る神楽がいた事もあって、元に戻すのは成功したと言う。
だが康一はカラスのような怪物になり神楽を殺害、逃亡し行方を眩ませている。
巨人化から戻せば解決する、その考えは最悪の形で打ち砕かれた。
神楽やゲンガーの仲間だった少年が何故凶行に走ったのか。
巨人やスタンド以外にも何らかの力を隠し持っていたのか。
疑問は尽きないが確かな事は一つ、新八の仲間でもあった少女の危機に自分は間に合わなかった。
仕方ないと分かっていても、簡単に切り替えられれば苦労はしない。

72LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:13:32 ID:c7OW47L.0
「DIO、ねぇ……」

打ちのめされる怪盗とは反対に、星狩りは得られた情報をゆっくり噛み砕く。
毛先を弄りながら口に出したのは、戦兎達が幾度もぶつかった強敵の名。
今は亡きスタンド使い、承太郎が強く警戒していた相手だ。
話を聞く限り、一筋縄ではいかない相手なのが嫌でも分かる。
承太郎と同じようにスタンドを使うだけでなく、仮面ライダーにまで変身するのだから確かに厄介だ。
しかもどういう訳か銃で頭を撃たれても死なない、異様な生命力まで持つ。

「で、相棒が使ってるのと同じベルトをソイツも持ってると」
「メモリの色は違ったけど、多分雨宮のベルトと同じライダーシステムだ」

思わず自分のロストドライバーに視線を落とす。
ジョーカーと違って白い仮面ライダーらしいが、自分以外にもベルトとガイアメモリが支給されてるのは驚きだ。
それも殺し合いに嬉々として乗る危険な奴とあれば、内心非常に複雑。
元の持ち主が翔太郎と同じ善人なら、こんな形でライダーの力を利用されたのはさぞや悔しいだろう。

尤もこの場の全員知らないが、DIOは彼らの与り知らぬところで既に死亡。
脅威が一つ減った、と安心するにはまだ早い。
DIOを殺した男は世界の破壊者として真に覚醒し、今尚健在なのだから。

「同じベルトって言えば、まさかお前の方にもソレがあるとは思わなかったぜ?戦兎」

話はDIOからマゼンタ色の仮面ライダーに移る。
ディケイド、複数のライダーの力を操り風都タワーで猛威を振るった破壊者。
変身者の名前こそ不明だが、脅威の程は実際に戦った蓮達がよく分かっている。
一体どれ程のライダーの力を持つのか、疑問は戦兎にも支給されたディケイドライバーが答え。
20を超えるライダーのカードが入っており、敵の手数の多さには軽く眩暈がした。
蓮達が戦ったディケイドとは色と、描かれたクレストの数が違う。
その為戦兎が持つディケイドライバー程の変身は出来ないかもしれないが、油断ならない敵なのに変わりは無い。
同時にそれ程の手数を誇るライダーに変身可能なら、ビルドドライバーの代わりを十分果たせるのにも納得がいった。

73LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:14:30 ID:c7OW47L.0
また蓮とエボルトは直接の戦闘こそ行ってないものの、銀髪の剣士も注意すべき敵として伝える。
遠めに見ただけだが、キャメロット(グリード)と承太郎の二人掛かりでも苦戦する強さの持ち主。
更に承太郎から、銀髪の剣士こそ坂田銀時を殺した張本人との情報を得ている。
銀時の仇が誰かを知り、最も感情を震わせる少女はもういない。
もう一つ、新八を殺したのが誰かも蓮達は知っていた。
ただ銀髪の剣士と違い、件の殺害者であるホイミンは既に脱落。
何よりホイミンは明確な殺意で新八を殺したのではなく、恐らく肉体の悪影響を受けて望まぬ殺しに手を染めた。
神楽が知ったら怒りの矛先を失っただろう内容も、本人がいない今となっては残された者に後味の悪さを残すだけだ。

「ピカピ……」

肉体の悪影響による暴走を受けたのはホイミンだけではない。
善逸ら鬼殺隊の長、耀哉も複数の被害を齎した。
善良な参加者を鬼に変える、幾つもの悲劇を生み出した無惨と同じ真似に出たのは善逸もショックが大きい。
柱達がこの事実を知らずに二度目の死を迎えたのは、幸いと言って良いのだろうか。
大手を振って喜ぶ気には全くなれないが。

「ピカ、ピカチュウ…(でも、煉獄さんはやっぱりあの人のままだったんだなぁ…)」

決して望まぬ凶行に走らされた者がいた一方で、己を貫き通した者もいる。
善逸との再会叶わず死亡した煉獄は、蓮達の仲間であるしんのすけを守るために戦い抜いたとのこと。
乗客たちの命を守り上弦の参相手に一歩も引かなかった益荒男は、この地でも己の魂を燃やしその果てに力尽きた。
悲しみは消えない。
もう一度会いたかったし、炭治郎達にも会って欲しかったと思う。
だけど、煉獄が自分達が知る煉獄のままだったと知れたのは、少しだけ救いになれた。

しかしその顔もすぐに曇り出す。
鬼殺隊でありながら害を齎す存在に変貌したのは耀哉以外にもう一人。
炭治郎は体を奪われただけでなく、人を殺してしまった。

74LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:16:00 ID:c7OW47L.0
「ぎにゅう…ギニューか。そいつが脹相と体を入れ替えた奴なんだな?」
「多分、な」

他者との肉体入れ替え能力を持った参加者、ギニューにも要警戒が必要だ。
体を奪う力は勿論のこと、戦闘技能も非常に高い。
ジューダス達の元から撤退後は、どういう経緯か宇宙船に行きしんのすけ達と戦った。
現在はバルクホルンの体に変わり、付近に潜伏してる可能性は非常に高い。

「あ、あの……雨宮さん、たちが会ったっていう女の子なんだけど……」

おずおずと手を上げ、おっかなびっくりな質問。
甜花が聞きたいのは蓮達が戦った白黒の仮面ライダー、その変身者について。
少女は名乗らなかったが、外見の特徴が当て嵌まる人物を甜花は一人知っている。
心臓がいやに五月蠅い、声がいつも以上に震えてる、嫌な予感が止まらない。
でもそんなのは嘘だと、自分の勘違いだと強く言い聞かせ最悪の予想から目を逸らす。

「あの子は……」

甜花の様子に、素直に教えるべきが迷いが生じる。
数時間前の現在地が分かる地図、それに表示された画像を指させば良い。
だがもし甜花にとって好ましくない事実ならと考えると、本当に良いのか躊躇してしまう。

ここはやはり――



→【正直に教えよう】
【嘘を言って誤魔化そう】
【地図は俺が飲み込んだ】



嘘で誤魔化したって長続きはしないし、先送りにしてもいずれは知ることになる。
残酷な現実だろうと伝えるべきだろう。

75LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:17:02 ID:c7OW47L.0
迷いを振り払うように地図を広げ、画像に指を当てる。
見惚れる笑みで殺し合いを望んだあの女の子に。

「うそ……」

人差し指の先には甜花も知っている少女。
甘奈と千雪同様、殺し合いに体を利用された、同じ事務所のアイドル。
櫻木真乃の画像をハッキリと指差していた。
彼女の体になったダグバなる者が、どうか殺し合いに乗ってない人であって欲しい。
抱いた願いは呆気なく否定され、受け入れ難い現実が降り掛かる。

そして、甜花を襲う悪夢の如き事実がもう一つ。

「エボルト…この女の子は……」
「殺したよ。首輪も拾った」

「……っ!」

何でもないように、まるで邪魔な虫を叩き落としたと言わんばかりの気安さでアッサリ口にした。
頭が殴られたみたいにグラグラする。
強い力で締め上げられたように苦しい。
甜花の世界を彩る大切な星の一つは急激に輝きを失い、冷たい石になって砕け散った。

76LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:18:33 ID:c7OW47L.0
「真乃ちゃん……そん、な……」

記憶の中の笑みが色褪せ、寂しくて痛ましいモノクロになっていく。
妹と自分の二人だけで完結した世界を新しく変えてくれた、大切な一人。
283プロでできた友達で、果穂と同じく自分がちゃん付けで呼ぶ女の子で。
その子が体を勝手に使われた挙句に、最悪の結末を迎えた。
巻き込まれたのは体だけだと、安心出来る訳が無い。
帰る体を失った真乃が一体どれだけショックを受けるか、甜花には想像も付かない。

(もしかして……)

もっと嫌な予感が掻き立てられる。
二回目の放送で青白い体の男が言っていたではないか。
参加者の間で、肉体側の意識の復活が起きていると。
具体的に誰がとは説明されなかったけど、それに真乃が当て嵌まる可能性だって否定できない。
仮にそうだとしたら、真乃は本当の意味で死んでしまったことになる。
しかも、エボルトはよりにもよって千雪の体で殺害に及んだ。
精神が違うからと言って、それが何の慰めになるというのか。

ちょっと前に、283プロの皆で合宿に行った時。
真乃と相部屋になった千雪が、楽しそうに話してくれたのは覚えてる。
楽しくて逆に眠れず、二人で羊を数えようとしたら結華が笑って。
トランプや枕投げの相談、肝試しは智代子が恐がるから保留。
そんな風に更けた初日の夜を教えてくれた千雪は、本当に楽しそうだった。

「真乃ちゃん……なんで……」

誰にも汚されたくない大事な世界は、無慈悲にも踏み躙られた。
大事な友達だ、大事な友達を殺す。
何があっても望む筈がない悪夢は現実のものとなり、甜花の心が悲鳴を上げる。

77LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:19:29 ID:c7OW47L.0
「エボルト、お前…」
「責められる前に言わせてもらうけどな、ありゃどうにもならなかった。俺だって苦労したんだぜ?」

睨み付ける戦兎へ事も無げに返すが、別に嘘は言っていない。
交渉のテーブルを蹴飛ばし殺し合いを望む輩だ、何を言っても止まりはしないだろう。
殺さず拘束に留めておいても、余計なリスクを抱え込むだけ。
第一あの場では、体力を激しく消耗した状態で蓮を守り尚且つアルフォンスを大人しくさせねばならなかった。
生かすメリットの無いダグバにまで気を遣ってやるような、お人好しのヒーロー扱いされても困る。

「……」

気絶している間の事の顛末に、蓮は暗い顔で黙り込む。
承太郎達を殺した白黒のライダーは死に、脅威が一つ去った。
だけど達成感や安堵は無く、抱くのはどうしようもない虚しさと無力感ばかり。
仲間の仇が死んだところで、承太郎やゲンガー達が戻って来る訳じゃ無い。
それに精神はともかく、体は何の罪も無い甜花の友達。
巻き込まれただけの少女の体が失われたのを、どうして喜べようか。

それでも蓮にはエボルトを責める気は無かった。
気を失い余計な負担をかけた自分が、一体どの口で文句を言えるという。
何より怒りに身を任せてメタモンを殺した自分に、そんな資格があるとは思えない。

「……桐生さん達に見て欲しいものがある」

一人を除いて通夜のように重苦しい空気が流れる中、意を決したように蓮は流れを変えんとする。
デイパックを開き、仲間の一人から渡されたメモを開く。
正直、蓮自身ここに書かれた作戦には半信半疑だ。
仮に主催者の元まで辿り着けたとしても、本当に上手くいく保障はどこにもない。
しかし、見る者によっては希望となるのもまた否定はできない。
共有すべき情報として、ジューダスのメモを戦兎達に見せる。

78LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:20:31 ID:c7OW47L.0
「過去と未来の同一人物……過去の自分が死んだのにどうして……いや、呼ばれた時点でそれぞれの時間軸が独立してるのか…?」
「色々ややこしいが要は……あー、あれだ。俺ら全員元の体に戻れて、死んだ連中も生き返るみたいな感じか?」
「正確に言うと、殺し合いそのものが起きなかったことになるって話だ。今こうやってお喋りしてるのも綺麗さっぱり忘れて、元の生活を謳歌出来るのさ。何せ、殺し合いが起きないなら俺達が会った事実も消えるんだからなァ」

説明されても杉元にはいまいちピンと来ない。
話のスケールが大き過ぎて理解が少々追い付いていないだけでなく、死を無かったことにするというのがどうにもしっくり来ない。
不格好でも足掻き続け、目の前にチラつく地獄への片道切符を幾度も破り捨てて来た。
死ぬ気が無いから生を掴み取るのではなく、死んだ後で事実を否定する。
何と言えば良いのか、嫌悪までは行かずとも微妙に受け入れ難いと感じなくも無い。
死が余りにも身近な世界を駆け抜けて来た男なら尚更だ。
悪党はともかく善人がそれで救われるのであれば、大声で否定する気は無いが。

「ピカ…ピカチュウ……?(ってことはしのぶさん達は…無理だけど…でも炭治郎は死なずに済むんだよな……?)」

理解するのに苦労すれど、善逸にとっても悪い内容では無い。
殺し合いが無かったことになるとは即ち、無惨を倒した後の生活に戻れるという事。
自分は勿論、炭治郎だって生きて禰豆子と平和に暮らせる。
と言ってもこれで助かる鬼殺隊の関係者は、善逸と炭治郎の二人だけ。
殺し合い関係無く元々死者だった柱達の死は覆せない。
仕方ない話であるが、結局煉獄達との再会が叶わないのは寂しさを感じずにはいられなかった。
だが炭治郎と、鳥束や神楽の死が否定されるのであれば成功させる価値はある。

79LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:21:22 ID:c7OW47L.0
「本当に……そんなことが……」

甜花もまた衝撃的な内容に言葉を失う。
涙で潤んだ瞳には悲しみ以外に、もしかしたらという期待が宿った。
メモに書かれてる作戦が成功すれば、真乃は殺し合いなんて知らずに今まで通りアイドルが出来る。
千雪は体を利用されずに済み、甜花が大好きな本当の笑みを見せてくれる。
自分と甘奈だって、恐いことが全部頭から消え去り283プロでの日々に戻れる。
反対する理由はどこにもない。

(でも、それって……良いのかな……)

なのに、心の何処かで迷いも生まれる。
殺し合いが無かったことになってしまえば、戦兎達との出会いも消えてしまう。
甘奈に誘われ飛び込んだ世界で多くの出会いを通じ、アイドルとしての自分に自信を持てたからこそ思う。
殺し合いという場所でも、出会った人達との繋がりは否定してはいけないものだと。
思い出すだけで震えが走る恐い目にもあったけど、同じくらい大切にしたい記憶がある。
真乃達が助かるなら、作戦の成功を願って当たり前だ。
だけど、守ると約束してくれたヒーローを始め、仲間と言える人達を忘れてしまって本当に良いのだろうか。

「あれこれ考えたくなるだろうが、まずは生き延びるのが第一だろ。作戦に関しちゃ後でジューダスとじっくり話し合えば良い」

俺は乗る気は無いがなとの本音は声にも態度にも出さず、無難な言葉で話を締め括る。
互いが持つ大体の情報は話し終えた。
もう暫しの休憩を挟めば、再び宇宙船に移動となるだろう。

80LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:23:06 ID:c7OW47L.0



「アシリパさん…アシリパさんは……ヨシ!いないなっ!」
「ピカピカァ〜〜〜〜…(禰豆子ちゃんもいない…良かったぁ〜〜〜〜〜…)」

指で名前を一文字一文字なぞって、繰り返し確認。
念入りにやっても嬉しい事に、アシリパの名はどこにも載っていない。
白石や他の知り合いの名前も無く、自分の体も勝手に使われていなかった。
考えていた最悪の事態は無事回避。
安堵でつい大声を出したが、今だけは許して欲しい。

膝に乗せた善逸も頭上の声に驚かず、安心して気が抜けている。
炭治郎だけでなく禰豆子まで巻き込まれた日には、冷静さなど木っ端微塵に吹き飛ぶこと間違いなし。
幸い肉体側で知っている名は炭治郎と無惨の二人だけ。
禰豆子を始め、自分の関係者が他に体を奪われていないのは素直に喜ばしい。

一回目の定時放送の後から方針に付け加えた、精神と体の組み合わせ名簿の確認。
時間は掛かったがようやく実物と出会え、結果は杉元・善逸両名にとって朗報。
相棒であるアイヌの少女も、近々求婚する予定の少女も殺し合いには不在。
危険な輩に体を利用されておらず、心底ホッとした。
これで本当に杉元の関係者は何故か姉畑だけという疑問が残ったが、そこはもう考えない。

「しっかしまぁ、こういう形で見れるとはな……」

友好的な参加者に会えたら、組み合わせ名簿を見せてもらえるよう頼むつもりだった。
実際には名簿の所持者の方が先に、目を通した方が良いと渡して来たのだ。
余計ないざこざに発展せず確認出来たのだから、別に不満は無い。
ただ流石に、戦兎が最も警戒を向ける相手から譲渡されると少々複雑。

81LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:23:57 ID:c7OW47L.0
名簿を渡した本人は壁に寄り掛かり、片手でフルボトルを弄んでいる。
杉元の視線に気付いてはいるのだろうけど、大袈裟に反応するものでもない。
傍目にはぼんやり部屋を眺めているとしか思えないが、実際には会話の真っ最中。
この家の中で、エボルトだけが存在を知る女と。

(感動の再会おめでとさん。思わずウルッとしちまったよ、なぁ千雪?)
(そんな嘘を堂々と吐いて楽しいですか?)

何を言ったところでこの男には効果が無い。
分かっているけど我慢できず、吐き捨てる口調になる。
体を自由に動かせれば、今の自分は苦々しい顔をしてるだろう。

(甜花ちゃん…本当に甘奈ちゃんの体で……)

エボルトの言葉に同意したくは無いが、甜花の無事が分かって込み上げるものがあったのは本当だ。
同じ顔だけど、間違いなく甘奈の体だと分かる。
アルストロメリアの一人として、これまでずっと近くで姉妹を見て来たのだから。
体は甘奈、でも浮かべる顔や見せる仕草は彼女の姉。
大崎姉妹は本当に精神と体でそれぞれ巻き込まれていた。
改めて突き付けられた現実に胸が締め付けられ、同時にこうして再会が叶ったなら直接言葉を掛けてあげたい。
沢山恐い思いをしただろう彼女を抱きしめて、少しでも安心させてあげたい。
真乃の件もあってか、余計に強くそう思う。

但し、自分の体に巣食った怪物はそれを許してくれなかった。

82LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:24:42 ID:c7OW47L.0
(どうしても駄目なんですか…?少しの間だけでも……)
(言った筈だ、これはお前の為でもあるってな。大好きなアイドル仲間を前にして消えたくないだろ?)

返って来たのはにべもない拒否。
しかし理由に関しては千雪も理解しているだけに、強く反論できない。

二回目の放送でハワードが伝えたように、身体側の意識の復活は主催者の望むところではない。
千雪に関しては放置して問題無しと判断されたのか、現在に至るまで消される気配は無い。
だがもし、エボルトが肉体の主導権を千雪に返した場合どうなるか。
本来殺し合いでの行動を許可されていない身体側の意識が、平然と行動してしまったら。
主催者を誘い出す為ならその手に出るのは有り。
しかし千雪の意識を消されるだけならまだしも、問答無用で首輪を爆破されれば流石にお手上げだ。
最低でも首輪を外すまでは、千雪の意識を表に出すべきではない。

(俺も心苦しいんだがねぇ。お前に何かあったら、ファンの連中やプロデューサーに顔向け出来ないからなァ?)
(……)

こちらの心配など微塵もしていない癖に、よくまあペラペラと口が回るものだ。
言い返そうと口を開きかけるも、意味など無いのでぐっと堪える。
それにエボルトの言う通り、ボンドルド達が排除に動かないとも限らない。
自分が消え、それで甜花の精神に負担を掛けるのは千雪だって望まないのだから。

「あ……あの……!」

計ったようなタイミングで声が掛かる。
緊張を隠せていない声色に横目を向ければ案の定、ビクリと身を竦ませる少女が一人。
千雪の存在に気付いてる訳ではないだろうに、偶然とは恐ろしいものだ。

83LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:26:27 ID:c7OW47L.0
「俺とお喋りでもしたくなったか?そりゃ実に光栄だが、不要に近付いちゃいけませんって戦兎は言ってくれなかったのかねぇ?言いつけを守れない奴になったら、この女もさぞ悲しむだろうよ」
「う……あう……」

いつも自分と甘奈に向けてくれる優しい眼差しでは無く、獲物を前に舌なめずりする蛇のような目。
どんな時だって自分と甘奈を絶対に悪く言わない言葉ではなく、思いやりなんて欠片も無い軽口。
意を決し話しかけても、たったこれだけで言葉に詰まる。

「お前と話しに来たんじゃない。邪魔だから黙ってろ」

続けて余計なちょっかいを出される前に助け船が出された。
甜花を庇うように前へ出た戦兎へ、冗談が通じない奴と言わんばかりの呆れ笑いを見せる。
分かってはいたが甜花だけで話に来たのではなく、戦兎(ヒーロー)同伴らしい。
とはいえ、戦兎の役目はあくまでエボルトに余計な口出しをさせない事。
用があるのは甜花の方、しかし目的はエボルトとの会話ではない。

「あ、ありがとう戦兎さん……うん、もう大丈夫……」

緊張を少しでも解く為に深呼吸を一つ。
まだ恐いけれど、いつまでも怯えていたってしょうがない。
W.I.N.Gの時とは違う理由で心臓が五月蠅い。
一歩、二歩、三歩と前に出て戦兎が視界から消える。
でもすぐ後ろに立ち、何かあったら直ぐにまた自分の前に出る気でいてくれる。
出会った時からずっと優しいままの彼に安心し、少しだけ緊張が解れた。

『彼女』と目を合わせる。
瞳の色は同じでも、やっぱり自分が知ってるあの人ではない。
こんなに近くにいるのに会えない寂しさに、胸が痛いくらい締め付けられた。

84LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:27:23 ID:c7OW47L.0
「千雪さん……」

名前を呼んだあの人の意識が目の前で囚われている事を、甜花には知る由も無い。
こうやって話すことが無意味かもしれないとは自覚しても、言いたい事があった。
たとえ何の意味も無いとしても、届けたい言葉が甜花にはある。

「甜花……ここに来てもいっぱい迷惑かけて……戦兎さん達にも……酷いことして……」

戦兎にずっと守ってもらって、PK学園でもナナと燃堂に迷惑をかけて。
挙句の果てに洗脳され、DIOの手先として戦兎達に武器を向ける始末。
今でも思い出すと罪悪感が胸を抉り、自分が嫌になる。

「今もまだ、ダメダメなところはいっぱいで……で、でも……!甜花に何ができるのか、まだちゃんと分かってないけど……それでも……!」

それでも、守ってばかりや迷惑をかけてばかりの自分ではいられなかったから。
優しくて信頼できるヒーローだって、支えてくれる人がいないときっと苦しいままだから。
彼だけに押し付けるのではなく、一緒に頑張りたいと決意したから。

「甜花も、戦兎さん達と一緒に……千雪さんのこと、絶対助けるから……!」

途切れ途切れで、しかし揺らぐ事の無い意思の籠められた言葉。
真正面からぶつけられても、『彼女』は何も言わない。
言葉を忘れるくらいに感動したんじゃあなく、言葉を口に出す価値も無いと思っているから。
『彼女』の体に閉じ込められ男在は、戦兎とは真逆の存在。
この反応は分かり切っていた。

「……」

でも何故だろうか。
一瞬、ちょっとでも目を逸らせば気付けないくらいの一瞬だけ。
こちらを見つめる『彼女』の目が、自分の知ってる優しい色へ戻ったように見えたのは。

85LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:28:07 ID:c7OW47L.0



出発の時間までもう僅か。
疲労とおさらばまでは行かなくても、戦闘可能な程度には体力も回復して来た頃だ。
各々準備を行っている竈門家の外で、エボルトは軽く体を動かす。
ダグバとの戦闘を終えた直後よりはマシになった。
後は戦兎達と共にフリーザの宇宙船に行き、必要な人材を纏めて確保すれば良い。

(運が向いて来た…って言うには気が早いか)

ディケイドを始め敵対者は少なくない。
未だ全容や具体的な戦力も判明していない、主催者との戦いも考えれば多少なりとも気を抜けるのは今が最後かもしれない。
だが流れは決して悪くない筈だ。
ようやっと戦兎と合流し、首輪解除のスタートラインに立てた。
サンプルとなる首輪も戦兎の方で確保した分を合わせ、十分な数。
必要無くなったらモノモノマシーンで武器に変えれば問題ない。
おまけに柊ナナの居場所も分かり、しんのすけと合流すれば会えるのだから一石二鳥。
戦兎はこちらを強く警戒していたが、これも予想通り。

(心配しなくても“今は”大人しくしといてやるよ)

尤も、何でもかんでも馬鹿正直に従ったり打ち明ける気は勿論皆無。
懐に仕舞ったナビとの連絡手段や、ジューダスの計画を潰すつもりでいることなど。

86LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:29:03 ID:c7OW47L.0
それに機を見て戦兎がどの時間軸から参加しているかも確かめねばなるまい。
『マスター』や『スターク』ではなく、ハッキリ自分を指してエボルトと言った。
エボルドライバーの存在を把握していた。
これだけではまだ、戦兎が自分の知らない未来から来たと断定出来ない。
美空に憑依したベルナージュが教えたり、葛城巧が残したデータでも見ていれば十分知れる内容だ。
未来で自分の計画は問題無く進んだのか、それとも予期せぬトラブルに見舞われたか。
場合によっては帰還してからの方針も見直す必要が出て来るのだから。

とはいえ、互いの時間軸が違う可能性は戦兎も考えていた事だ。
明治や大正の日本から連れて来られた仲間達。
杉元の知り合いで死んだ筈の姉畑が参加しているが、ナナの仮説では死ぬ前の時間から参加しているかもしれない。
極め付けは過去と未来の同一人物、リオン・マグナスとジューダスの存在。
これらを考えれば、同じ世界出身でも連れて来られた時期というものはバラバラな可能性はある。
仮に殺し合いに参加したエボルトが戦兎の知る、『キルバスとの戦いの後に地球を去ったエボルト』でないとすれば。
新世界を創る前のエボルトなら、不用意に情報を明かすべきではない。
特にエボルトを倒す決め手となった新世界を創る方法は、絶対に知られてはならない。
たとえ新世界の事を知ったエボルトが生還しても、自分が帰る世界には何ら影響しないとも考えられる。
だからといってエボルトの好き勝手を許すつもりはなく、戦兎の方でも互いの時間軸に関する話には十分注意を払うつもりだった。

とにかくまずは宇宙船でしんのすけ達と合流。
後の話はその後で追々考えて行けば良い。
頭の中を整理し、ふと人の気配にチラリと背後を見やる。
帽子で目元を隠した共犯者の足取りが、何となく重いものに見えたのは気のせいではないだろう。
ついでに些細な違いを一つ発見。

87LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:29:44 ID:c7OW47L.0
「あのナイフはくれてやったのか?」
「ああ、元々杉元さんのみたいだった」

ミチルの支給品から見付けたのを使わせてもらったが、持ち主が現れたので返却。
三十年式銃剣は杉元の元に戻った。
蓮には既に複数のペルソナと、仮面ライダージョーカーへの変身ツールがある。
使い慣れたリーチの武器を手放したとて、然程問題にはならない。

外見は高校生くらいで、元の体の自分と同じ。
しかし中に入った精神は大人の男性というのもあってか、さん付けで呼んでいる。
そんな雑談を一つ挟んで、視線を真っ直ぐに合わせる。
出発前の軽いトークがしたいんじゃあない。
真剣な話だと目で伝えれば、共犯者も聞く姿勢に移った。
尤も何を聞かれるかは分かっているが。

「どうして桐生さんの事を黙っていたんだ?」
「向こうが素直に協力してくれるか分からなかったのが一つ目。俺と会う前にくたばる可能性を考えりゃ、首輪を外せる奴がいるって期待させるのも悪いなぁと思ったのが二つ目だな」

予め台本が脳内にセットされてるのか、間を開けずにスラスラ返答。
悪びれる様子は微塵もなく、責めるような視線も意に介さない。

88LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:30:52 ID:c7OW47L.0
「……」

この男が胡散臭いのは今に始まった事ではない。
だが今回ばかりはエボルトへの不信感を、蓮自身もなあなあで済ませられなかった。
戦兎の情報を黙っていただけではない。
竈門家での二人のやり取りを見れば察しは付く。
エボルトと戦兎は前々からの知り合い、しかも決して友好的な仲ではない。
言動の軽薄さに呆れてるとかそんな優しいものではなく、明確な敵意を向けられていた。
あそこまでの恨みを買うなど、単なる揉め事とは違うだろう。

元々信用できない部分はあったが、戦兎の件で余計に分からなくなる。
果たして、この男と協力を続けて大丈夫なのかと。
もしや自分が考えてる以上に、この男は危険な存在なんじゃあないかと。

「相棒に疑われるってのは悲しいが…ま、こればっかりはお前が決めたら良いさ」

悩む蓮とは正反対にあっけらかんとした態度。
疑惑の視線も何のその、普段通りの口調を崩さずに告げる。

「俺との関係を終わらせたいってんなら、まぁ仕方ねぇか。ここで相棒関係解消は寂しいけどねぇ」

関係解消。
エボルトが信用できないから、ここで彼との関係を断つ。
ルブランでの握手を無かった事にする。
まさか向こうからその選択を促されるとは思わず、困惑を視線で伝えても軽薄な笑みは変わらない。
時折何を考えているのか分からない部分があったけど、今は特にそうだ。
言葉に詰まった蓮にエボルトは何も言わない。
答えが出るのを待っている。

89LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:32:01 ID:c7OW47L.0
「俺は……」





→【相棒を終わらせる】
【相棒を続ける】





【相棒を終わらせる】
→【相棒を続ける】










『本当にこの選択で良いのだろうか…』

【相棒を終わらせる】
→【エボルトの共犯者を続ける】





細く白い女の手を取る。
ルブランの時と同じ握手。
十数時間前と一緒なのは、手を握られた相手の顔もそう。
驚きを浮かべた相手に、蓮はこれで良いんだと自分へ言い聞かせた。

確かにエボルトは信用できない部分が多々ある。
しかし、ここに来るまでに何度も助けてもらったのも変えられない事実。
エボルトとの共闘が無ければ、命を落としていたかもしれない場面は少なくない。
ひょっとすると、最初にアーマージャックと戦った時点で殺された可能性だって否定できない。
故に、再び手を取る選択をした。
たとえ自分の想像を超える悪人でも、この男との協力はこの先も必要だから。
怪盗団の仲間のように信頼で結ばれてはいなくとも、道化師のアルカナという生まれた絆は消えないから。

だからこれで良い。
何も、間違ってなんかない。

90LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:33:32 ID:c7OW47L.0



あくまで。
ただの推測、根拠など何も無い戯言かもしれないが。
蓮がエボルトと手を切らなかったのは、心の奥底で喪失を恐れているからではないか。

怪盗団の活動をこなし、ペルソナ使いとして幾つも修羅場を潜って来た。
パレスの攻略のみならず、殺し合いでも彼の強さは健在。
新たな絆を育み、他者の命を奪う悪と戦った。

だが元の世界と殺し合い、それぞれの戦いで大きく違うものが一つある。

それは仲間の死。
志を共にした者達の喪失。
怪盗団が時に心身に傷を負う事はあっても、命まで失う事態は起きていない。
しかし矢に選ばれたスタンド使いが用意したこの地では、何人もの仲間が蓮の元を去った。
悪党のオタカラを華麗に盗み、仲間と改心の成功に達成感を得るのとは違う。
強大な敵を倒しても、決してハッピーエンドで終わらない。
何度戦いを生き抜いても、仲間の死は防げない。

無論、戦いの放棄を選ぶつもりは微塵もない。
ベルベットルームでの決意は嘘ではない。
だけど、度重なる仲間の死が心の裂け目をより深く抉っていないと何故言い切れるのか。

91LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:35:16 ID:c7OW47L.0
蓮は怪盗団のリーダーであり、今は切り札の記憶を宿す仮面ライダー。
戦う力を持った戦士、だが同じく高校生の少年だ。
次々目の当たりにする死に心が磨り減る筈が無いと、断言出来る理由がどこに存在するという。

信用は出来ない、もっと警戒するべき。
そのような男でも最初に出会ってからずっと行動を共にした、相棒なら。
喪失を恐れ関係を断てなかった可能性は、誰にも否定できない。
仮に蓮がもう少し先の未来から連れて来られていれば。
仲間であり、敵であり、ライバルのようでもあった探偵に生かされた後だったら。
異なる展開があっただろうが、たらればでしかない。

所詮は可能性の話だ。
もっと冷静に考え、単に協力が必要と判断を下した結果に過ぎないかもしれない。

確かな事は一つ。
怪盗と星狩り、共犯者という歪に結ばれた絆は終わっていない。

「相棒だろ、俺達は」

そう言った蓮に、相手はやはり何も言わない。
ただとっくに見慣れた笑みを浮かべるだけ。
どこか作り物めいた表情の女が蛇になり、自分を頭から飲み込む。
脳裏に浮かんだ気味の悪いイメージが妄想かどうか、蓮には判断が付かなかった。

92LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:38:20 ID:c7OW47L.0
【C-3 竈門家/夜中】

【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、全身打撲(処置済み)
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット(水勢剣流水無し)@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー、しのぶの首輪、神楽の首輪、工具箱
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:フリーザの宇宙船に向かい柊達と合流する。
2:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。
3:エボルトには要警戒。桑山千雪の体でおかしな真似はさせない。
4:広瀬康一はどうなってる?巨人以外にも何らかの力があったのか?
5:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
6:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
7:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
8:首輪も外さないとな。工具は手に入ったしそろそろ調べたい。
9:歴史の修復についてジューダスって奴から直接詳しい話を聞きたい。
10:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい。
11:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか。
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードはゼロワンとセイバーが入っています。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。
※自分とエボルトがそれぞれ違う時間軸から参加している可能性を考えています。

【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身火傷(小)、霊力消費(大)、再生中、一回死亡
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(6/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)@ゴールデンカムイ、、三十年式銃剣@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ
[道具]:基本支給品×6、神経断裂弾×26@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、黄チュチュゼリー×1@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド、魔法の天候棒@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:柊達の所に行く。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体がないんだよな!よしっ!
4:先生は死んじまったか……。いや本当に何で先生だけいたの!?
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:DIOには要警戒。
7:エボルトの奴にはこっちでも警戒しとく。
8:何で網走監獄があんだよ…。
9:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
10:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ!
11:ラッコ鍋は見なかった事にしよう…。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノ、正直者の死、フェニックスの尾に類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。

93LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:39:20 ID:c7OW47L.0
【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、全身に火傷、精神的疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:お姉さん(杉元)達と行動
2:しのぶさんも岩柱のおっさんも、また死んじゃったんだな……
3:煉獄さんも鳥束も、あの人(神楽)死んじゃったのか……
4:無惨が死んだのは良かったんだろうけど……
5:炭治郎の体が…まさか精神まで死んでないよな……?
6:殺し合いが無かったことになるなら、炭治郎達も助かるのか……?
6:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」「かげぶんしん」の4つです。
※他に使える技は後の書き手におまかせします。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大・処置済み)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、戦兎やナナ達への罪悪感、エボルトへの恐怖と嫌悪感(大)、深い悲しみ、決意
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:真乃ちゃん……。
2:戦兎さんの……力になりたい……。
3:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。
4:ナナちゃんと燃堂さんにも……謝らなきゃ……。
5:なーちゃん達……大丈夫かな……。
6:千雪さんを戦兎さん達と一緒に……助けなきゃ……!
7:殺し合いが無かったことになる……本当に良いのかな……?
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。

94LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:40:09 ID:c7OW47L.0
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、SP消費(大)、体力消耗(大)、怒りと悲しみ(極大)、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情
[装備]:煙幕@ペルソナ5、T2ジョーカーメモリ+T2サイクロンメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×6、ハードボイルダー@仮面ライダーW、ダブルドライバー@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル、耀哉の首輪、ジューダスのメモ、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:西側のエリアに向かい、しんのすけや協力出来る一団やと合流する。
2:仲間を集めたい。
3:エボルトとの共闘は継続する。これで良い、筈…。
4:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。フリーザの宇宙船にいるみたいだ。
5:どうして双葉がボンドルド達の所にいるんだ?助け出さないと。
6:アルフォンスはどこに行ったんだろう…正気に戻したいが…。
7:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
8:ディケイド(JUDO)はまだ倒せていない気がする…。
9:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
10:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う。
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※ベルベットルームを訪れましたが、再び行けるかは不明です。また悪魔合体や囚人名簿などの利用は一切不可能となっています。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。
※アルフォンスとのコープ発生により「塔」のペルソナ「セト」を獲得しました。

95LOST COLORS -liveDevil- ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:40:38 ID:c7OW47L.0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、千雪の意識が復活
[装備]:トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、グレートドラゴンエボルボトル@仮面ライダービルド、スマートフォン@オリジナル
[道具]:基本支給品×4、フリーガーハマー(9/9、ミサイル×9)@ストライクウィッチーズシリーズ、ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、ミニ八卦炉@東方project、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、ランダム支給品0〜1(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、ダグバの首輪、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:宇宙船に向かいしんのすけと合流。柊ナナもいるとは嬉しいおまけ付きだな。
2:ナビからの連絡を待つ。トラブルでもあったのかね。
3:蓮達を戦力として利用。アルフォンスの奴は…どうしたもんかねぇ。
4:首輪解除は戦兎に任せる。天才物理学者様の腕の見せ所ってやつだな戦兎ォ?
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:このエボルボトルは何だ?俺の知らない未来からのプレゼント、ってやつか?
8:ほとんど期待はしていないが、エボルドライバーがあったら取り戻す。
9:柊ナナにも接触しておきたい。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪を利用すりゃ主催者をおびき寄せれるんじゃねぇか?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
※制限で千雪に身体の主導権を明け渡せなくなっている可能性を考えています。
※自分と戦兎がそれぞれ別の時間軸から参加していると考えています。

96 ◆ytUSxp038U:2024/02/12(月) 23:41:09 ID:c7OW47L.0
投下終了です

97 ◆ytUSxp038U:2024/02/24(土) 00:12:52 ID:4qSqfWJA0
檀黎斗、ジューダス、大首領JUDOを予約します

98 ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:39:58 ID:Ri0tUaKQ0
投下します

99孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:42:24 ID:Ri0tUaKQ0
収穫があったと言って良いのだろうか。
掌に収まった機械を見つめ、ジューダスは僅かに眉を顰めた。

これといったトラブルに出くわす事も無く目的地に到着。
警戒していたディケイドも現れず、早速風都タワー内の調査を開始。
黎斗はエントランスホールと地下駐車場に、ジューダスは展望室にそれぞれ別れた。
エレベーターを出てざっと見回すと、数時間前に訪れた時と何ら変わりはないように見える。
所々が破壊された壁や柱も、踏み付けられ汚れたマスコット人形も、ホミスライムが逃げて行った割れたガラス窓も。
自分達は去ってから誰も来なかったのだろうか。
念の為に警戒は解かず、土産売り場やレストランコーナーを調べるも特に変わったところはない。

続いてエレベーターに乗り、前回来た時には行かなかった第二展望室へ移動。
第一展望室よりも狭いスペースを見て回り、辿り着いたのは制御盤が設置された部屋。
本来であれば一般客は立ち入り禁止の場所だろうと、殺し合いでは関係無い。
躊躇も抱かず足を踏み入れ、隅に追いやられたドラム缶にふと視線が向かう。
蓋の上へ無造作に置かれた黄色い機械。
手に取ったそれにジューダスは見覚えがあった。

『何でしょうかねこれ。というか、蓮君が似たようなの持ってませんでしたっけ?』

シャルティエの言う通り、これは仲間の一人が使っていた機械と酷似している。
蓮が使っていたのは黒色で、こっちは黄色という違いこそあるが。

「ここは蓮と新八の肉体と関係の深い場所だろう。なら、あいつらが使うのを想定して隠しておいた。そんなところか」

その内片方は使う機会を永遠に失くしたが、もう一人はまだ生存中。
蓮に渡せば今後の戦いの役に立つ。
仲間の戦力が強化されたのは良い、ただ凛が考えていたのとは残念ながら違う。
殺し合いに乗っていない者全員が有利となる情報や道具は、こっちでは見付からなかった。
とはいえ収穫ゼロで肩透かしを食らうよりはマシである。
ジューダスの方はこれ以上調べる場所が無い。
風都タワーを調査中のもう一人との合流に行き、向こうの報告を聞く。
それが済んだら、いよいよ『本当の目的』を果たす時だ。

100孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:42:56 ID:Ri0tUaKQ0
「……」

エレベーターで降りる最中、頭は既に戦闘態勢へ切り替わる。
剣を抜く事態になるかどうかはまだ不明。
だが相手の返答次第ではそうなってもおかしくない。
どんな展開になったとしても、即座に動けるようにしておかねばなるまい。

エントランスホールに戻り受付まで進むと、白い人影がジューダスを待っていた。
大層な金を掛けただろう衣服を着こなす男の姿が、傍らのガラスに映し出される。
偶然かはたまた狙い通りか、『鏡』となる物の近くは確保済み。
無表情の裏で警戒度を引き上げ、黎斗の近くまで寄る。
ニコニコと人の良さそうな顔で迎えるこの男の真意は何か、明確にするなら今しかない。

「調査は終わったのかいジューダス君。残念なことに私の方は、これといって役に立ちそうなものは見付からなかったよ」
「蓮が持っているのと同じ道具が一つあった。僕の方もそれくらいだ」
「そうか…となると、遠坂さん達の方に期待するしかないようだね」

本心から大した収穫が無いのを落胆しているのか。
仮にそうだとしても殺し合いを止める決定打の不足を嘆いているからか、或いは単に自分の役に立つものが無いが故の苛立ちか。
心の声を聞けない為分からない、確かなのは黎斗の魂は相変わらず悪として感知してる事。

「出発前に聞いておきたいことがある」
「何かな?急に改まって…」

唐突な問いかけにも動じた風は無く、あくまで大人らしい態度を取る。
演技か素かはこれからハッキリする筈。

101孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:43:38 ID:Ri0tUaKQ0
「いろはが術を放つのに使っていた赤い宝石は知ってるだろう。あれは今お前が持ってるのか?」
「…持っていないよ。白黒のライダーの攻撃に巻き込まれて、環さん共々……」
「ならホイミンの荷物も消し飛んだのか?」
「そう、なるね。…それがどうかしたのかい?」

意図の読めない質問に首を傾げる。
いろは達の支給品は攻撃の巻き添えで消滅した。
何もおかしい事は言っていない。
蓮達からもそれ程の強敵だとは聞いたし、黎斗としても誤魔化す必要が無い為真実を告げた。

「あの二人の道具は無くなったのに、承太郎の支給品は無傷で回収出来たんだな」
「……」

西側の参加者との合流に向かった蓮達の移動手段はバイク。
その際、アルフォンスに譲渡されたスクーターは承太郎が使っていた物だ。
死んだ仲間の支給品を回収すること自体は別に間違ってない。
だがいろはとホイミンは支給品諸共消し飛ばされたのに、承太郎のデイパックだけは無事黎斗の手に渡った。
運良く消失を逃れただけかもしれないが、考えられる可能性は他にも山程存在する。
例えば、黎斗が承太郎から支給品を奪って見捨てた、承太郎を囮に使い黎斗はまんまと支給品を手に入れ逃げ延びた等。
直接問い質しはしない、しかし疑念を籠めた瞳が暗にそうではないかと告げて来る。
十数秒間笑顔を消し、やがて悲痛を露わに口を開く。

「……承太郎君が自分から渡してくれたんだ。彼は聡明な少年だ、きっとこのままでは自分達が全滅だと察したのだろう」
「だからお前だけでも逃がそうとしたと?」
「ああ…。その後すぐ彼も殺され、私は偶々運良く見逃された」

嘘と断じるのは簡単でも、事実である可能性は否定出来ない。
承太郎がクールな態度の裏に仲間想いの熱い面を秘めた少年だとは知っている。
ホイミンの一件を思い出せば、承太郎の人間性を今更疑うつもりはない。
加えて戦況を冷静に見極められる彼なら、全滅を防ぐ為に自ら足止めを買って出るくらいはしそうなものだ。
空条承太郎と短い時間ながら関わったが故に、黎斗の証言を出鱈目だとは言い切れなかった。

102孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:44:20 ID:Ri0tUaKQ0
「ジューダス君。君が私へ余り良い印象を抱いてない事には気付いていた。それに、環さん達の死を簡単に受け入れられない気持ちも分かる。しかし誓って言うが、私は君の作戦に協力し結城君や環さんを助けたいんだ」
「……」
「信頼しろと強くは言わない。ただ、少しで良いから信じてもらえると「一つ打ち明けておく」」

真摯な言葉へ被せるように、ジューダスが次の手札(カード)を切る。
今から話す内容に向こうがどんな反応をするか。
いつでも対処に移れるよう今一度意識を引き締めた。

「僕の体は少しばかり変わった趣味の持ち主だが、他は至って普通の人間だ。剣を握った事も無いし、特殊な術も使えない」

ジューダスに与えられた肉体、神崎蘭子は普通の少女だ。
アイドルという一般から外れた舞台に立ってはいても、ソーディアンマスターのような戦士ではない。
日々のレッスンで鍛えた体はあくまでアイドル活動の為であり、戦闘に活かせるのとは程遠い。
同じく346プロ所属のアイドルの体となった吉良吉影のようなスタンド能力も無ければ、アドバーグ・エルドルのように鬼と化したのとも違う。
ならば頭上の光輪と背に生えた翼は一体何だという。
蘭子がただの人間だったら、そのような特徴があるのは明らかな矛盾に他ならない。

「ラブボム、という道具が僕に支給された。それを食べた結果がこれだ」

ラブボムがジューダスに与えたのは外見的な天使の特徴だけではない。
痣の少年とも正面切って戦える身体能力、レンズ無しでも晶術が使えるエネルギー、巨人相手にも活用された飛行能力。
戦闘において非常に役立つ力を手に入れられた。
更にもう一つ、ラブボムを食べた影響で発現した能力がある。

103孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:44:57 ID:Ri0tUaKQ0
「天使らしいと言えば天使らしい能力だが……今の僕は悪人の魂を感知し、“そいつが過去に犯した悪行を知る事ができる”」
「…………なんだって?」

空気が凍り付き、途端に殺気立つのを感じ取った。
あれだけ紳士然としていた大人はどこへやら、善意の仮面に亀裂が走る。
相手が食いついたのを確信し、一気に畳みかけるべく口を開く。

「何故僕がお前への警戒を解かなかったのか、これで分かっただろう。最初に会った時から、僕はお前が過去に何をやったのか知っているからだ」
「……」
「それを踏まえた上で聞くぞ、檀黎斗。お前は殺し合いで何を目的に動いている?」
「…………」

誤魔化しは通じない、真実を語れ。
刃のような瞳がそう訴える中、黎斗の頭が冷え切って行く。

過去の悪行を知る力、ジューダスは確かにそう言った。
事実だとするなら、成程これまでずっとこちらを警戒していたのも納得だ。
しかし具体的に何を知った?
ゼロデイを引き起こしたことか?
百瀬小姫からグラファイトを引き離し、彼女を消滅に追い込んだことか?
間接的に花家大我が医師免許を剥奪される原因を作ったことか?
九条貴利矢をこの手でゲームオーバーにしてやったことか?

それとももっと前、幼少時の宝生永夢にバグスターウイルスを送り付けてやったこと?

或いは、ああそうだ、永夢の父親に実験台として息子を差し出すよう唆した事もか。

104孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:45:35 ID:Ri0tUaKQ0
そこまで考えて、ジューダスが言った「悪行」という言葉が脳内に木霊する。
悪行、こいつはハッキリ悪行と口にした。
つまり何だ、自分が過去にやって来たのは悪に分類されるのか。
自分という存在は悪と断定されたのか。
今一度事実を咀嚼し、次いで湧き上がるのは猛烈な不快感。
頭の中が掻き回されるように気持ちが悪い。
取るに足らない価値観で推し量られているようで腹立たしい。

悪人の魂?
過去に犯した悪行?
そんなものが自分を警戒し続けた理由か。
そのような酷く下らないもので、檀黎斗を、ゲームマスターを――

「神である私を断罪する気にでもなったというのか…?ふざけるなよジューダスゥウウウウウウウウッ!!!天使如きが神を否定するなど、身の程知らずだと分からないのか貴様ァッ!!」
「…それがお前の本性らしいな」

被り続けた善人の仮面は砕け散り、傲慢なゲームマスターの本性が露わになる。
過去の罪を認め、贖罪の為に改めて協力を申し出るなら良い。
罪悪感を感じていなくても、今は争い合う気は無いと利害を持ち出すのならまだ構わない。
しかし結果はそのどちらでもなく、そもそも黎斗は自分が悪だとは微塵も思っていなかった。
この様子では例え過去に大虐殺を引き起こしたとしても、指摘された所で悪びれないだろう。

「お前が過去に何をやったかなど、知りはしないが」
「なに…?貴様ァ…!神の才能を持つこの私を謀ったのか!不敬なクズめぇっ!!」

ラブボムの効力で把握可能なのは悪人か否かのみ。
過去の所業を知る力など最初から備わっていない。
鎌を掛けたら見事に相手は釣られ、ご覧の有様という訳だ。
怒り心頭で緑の小箱を取り出す黎斗へ、ジューダスも駆け出すと同時に剣を引き抜く。
律儀に変身を待ってやる必要は無い。
生身の状態ならば自分の動きに対処は間に合わないと確信、刃が唸り声を上げる。

105孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:46:13 ID:Ri0tUaKQ0
「なにっ!?」

だが黎斗も怒りに身を任せ変身を実行したつもりはない。
ジューダスを始末するまたとないチャンスと見ていた故に、相応の前準備は行っている。
予め物陰に忍ばせておいたバットショットが妨害に動く。
回転しながら突撃をかます機械仕掛けの蝙蝠に、剣を引き戻し防御。
単なる野生の蝙蝠だったら目もくれずに斬って終わりだったが、相手は仮面ライダーWのサポートメカ。
金属だろうと切断可能な翼にほんの僅かとはいえ足を止めてしまう。
斬り落とした時にはもう遅い。

「変身!」

ガラスにカードデッキを翳し、出現したバックルに装填。
複数の鏡像が重なりカメレオンを思わせる騎士へ変身完了。
少々思っていた展開とは違うが、今になって予定変更は無しだ。
目障りな剣士を殺すべく、着火剛焦を手に斬りかかる。

変身を待たず制圧という試みの失敗から即座に切り替え、ジューダスもまた双剣を以て迎え撃つ。
もとより戦闘に発展の可能性も視野に入れ黎斗を問い質した。
明確に自分達の敵だと分かった以上、容赦の必要性はどこにもない。
刀身同士がぶつかり擦れ合う、聞き慣れた死合の音色が鼓膜を撫でる。

『改めて見ても冗談みたいな絵面ですねこれ』

ソーディアンの呟きに内心で同意しつつ、ベルデの得物を弾く。
クリスマス等にピッタリの長いキャンドルが武器。
ふざけているとしか思えないが実際に戦えているのだから、油断は持ち込むべきではない。
気の抜ける見た目でも、群雄割拠の戦国時代にて暗躍した梟が持つ剣の一本。
まさか元は過去の自分に支給された武器とは露知らず、思考を敵の排除だけに回す。

106孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:47:11 ID:Ri0tUaKQ0
双剣と着火剛焦が打ち合い、互いの身へ刃を決して触れさせようとしない。
武器の本数で勝る為、手数はジューダスが上。
なれどベルデのスペックは、剣一本という不利を補うのに十分な性能を持つ。
喉を狙った一撃を防がれたタイミングで、ジューダスは更に一歩踏み込む。

「幻影刃!」

自らを魔矢と化したが如き突きは、装甲だろうと貫き砕く勢い。
ダメージ覚悟の迎撃は選択肢から外し、ベルデは武器を翳して防御。
刀身を叩く衝撃が止まった時にはもうジューダスの姿は無い。

「そこだ!」

名前の通り標的をすり抜け背後を取るのが幻影刃。
振り返る隙を与えずに、無防備な背中目掛けて再度隙を放つ。
派生技、幻影回帰に敵は何が起きたか知る事も無く倒れる。

呆気ない末路を神は断じて認めない。
背後を見ぬままに着火剛焦を振り回し、小癪な害虫を斬り払う。
再度ベルデの真正面へ戻ると、無傷の敵を瞳が捉えた。
仕留められていない落胆を顔に出さず、続けて技を繰り出す。

「双連撃!」

双剣を巧みに操っての四連撃。
威力優先のシャルティエと、スピード優先のパラゾニウム。
互いの短所を補い、長所を最大限に活かした斬撃をもベルデは凌ぎ切る。
防いだと僅かな安堵を見せた時、放つ技は双連衝波。
突き立てられた二本の牙に、堪らず後退するベルデへ攻撃の手は緩めない。

107孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:47:46 ID:Ri0tUaKQ0
「千裂虚光閃!」

半円を描き振り上げた剣がベルデを打ち上げる。
刃自体は着火剛焦に阻まれ、装甲へ傷一つ付けられていない。
だが問題無い、本命はここからなのだから。
自然落下を待たず、ベルデに放たれるは無数の突き。
数百もの切っ先が一度に襲い来ると錯覚を抱きかねない、神速と言っても過言ではない勢いだ。
デッキ破壊や致命傷となるものは防ぐも、流石に武器一本では限界がある。
空中へ固定された数秒の間に何度剣が殺到したのか、数えていられる余裕はない。
胸部装甲への一撃を最後にベルデが吹き飛ばされた。
確実に仕留めるべく、受付へ頭から突っ込む騎士を追う。

『HOLD VENT』

響く電子音声に足を止めざるを得ず、直後鉄の塊が急接近。
双剣で防ぐも勢いは先程の剣戟の比では無い。
よろけて体勢を崩され、間髪入れずに再度殺意が迫り来る。
エントランスホールを破壊しながら、バイオワンダーが踊り狂う。

「ゲームマスターに剣を向け、あまつさえ斬り付けた蛮行の代償は貴様の命で支払え!」

瓦礫を蹴散らし立ち上がったベルデの意のままに、鉄のヨーヨーは敵を刈り取らんと牙を剥く。
ガシャコンバグヴァイザーやガシャコンスパローとはまた違う武器も、この十数時間の戦闘で使い慣れた。
少々癖の強い装備も今となっては自分の手足同然。
真正面から叩き付け、時には死角を狙い四方八方から打ち出される。
防いだ傍から別の方向より飛来するヨーヨーに、ジューダスは防戦一方。
身体能力が上がっていても仮面ライダー程のような装甲が無い為、直撃は避けねばなるまい。

108孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:48:42 ID:Ri0tUaKQ0
「ウィンドスラッシュ!」

剣を振り回すだけがジューダスの全てでは無い。
晶術を使いベルデの周囲に真空の刃を発生。
突出した威力は持たないが、下級晶術の中では隙が小さく扱い易い。
緑の装甲を叩き火花が散る。
無論この程度で破壊は不可能であれど、多少なりとも怯ませられれば十分。
バイオワンダーを操つる手が止まり、すかさず晶術を発動。
発生した真空の刃は先程よりも数が倍。
スラストファングが全身を痛め付け、ベルデに立て直しの機会を与えない。

「月閃光!」

三日月を描いた斬撃を繰り出し、股から頭頂部までを真っ二つ。
なれど切り裂いた手応えは無く、振り上げた剣は胴体を走るより早く止められた。
バイオワンダーを手元に戻し盾に使ったと、気付いた時には視界を赤が遮る。
後退し着火剛焦を回避、距離を取ったのはベルデにとって好都合。

「頭に乗るのはそこまでにしろ!」

『GUARD VENT』

バイオワンダーを投げ捨て、新たにカードを引き抜く。
召喚機に読み込ませると、空中から盾が飛来。
放送前、強制的に契約を結んだモンスターの力の一つだ。
両肩にドラグシールドを装着、前面に押し出す体勢で突進を繰り出す。

破れかぶれにも見える一撃だが、ライダーの身体機能による勢いが加われば間違いなく脅威だ。
ましてリュウガのドラグシールドは龍騎以上の強度を誇る。
真正面から受け止めようものなら、枯れ葉のように吹き飛ばされるだけ。
馬鹿正直に真っ向勝負を挑んでやりはせず、地を蹴り回避。
ベルデの頭上を取り、真下へとシャルティエを突き刺す。
脳天串刺しの末路を迎えたので無い、翳された黒い盾がそう伝えて来る。
攻撃の空振り直後だというのに、隙を作らぬ反応速度。
むしろここまで計算済みとでも言わんばかりに、流れるような動きでカードを装填。
電子音声が次なる攻撃を知らせる。

109孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:49:23 ID:Ri0tUaKQ0
『AD VENT』

破壊を免れたガラスの表面が波打ち、怪物出現の合図となった。
黒龍型ミラーモンスター、ドラグブラッカーがミラーワールドより出現。
望まぬ契約と言えども、餌を寄越されるなら逆らう気はない。
真紅の瞳が今宵の馳走をしかと捉え、一飲みにせんと迫り来る。

「チッ…!」

獣の夕食になる最期などお断りだ。
純白の翼を広げ浮上、足に噛み付こうとして牙を打ち鳴らすだけに終わった黒龍を見下ろす。
とはいえ飛行能力はジューダスだけの特権じゃあない。
空中というステージはドラグブラッカーにとって、恰好の狩り場。
長い体で宙を泳ぎ、黒い天使を叩き落とす尾が振るわれた。
自らを巨大な鞭と化した一撃、威力もさることながら速度も巨体と不釣り合いに速い。
月閃光で打ち返すも、勢いまでは殺し切れず後方へと引っ張られる。
翼をコントロールし壁に激突を防ぐや否や、眼前には口を広げたドラグブラッカーの姿が。
急下降することで避け、頭上では獲物を見失った黒龍が頭から壁に突っ込んだ。
瓦礫が床へ積み重なるのを呑気に眺める暇は無い、敵は空中の黒龍一体だけではないのだから。

「神である私を見下ろすなど許さん!地に落ちてひざまずけィッ!!」

傲慢な怒声と共に銃弾が放たれ、ジューダスへと殺到。
元は承太郎に支給されたMP40が軽快な銃声を奏でる。
本来であればネウロイ相手に撃った銃を、人間を殺す為に使う。
数時間前に脱落したウィッチが知れば憤るだろうが、神を名乗るゲームマスターには関係無い。
黒に隠された少女の柔肌を食い千切る、鉄の雨をジューダスも無視出来ない。
仮面ライダーのような装甲を纏っているならまだしも、一発当たるだけでも危険だ。
致命傷を避けたとて、出血により体力が奪われればこちらの勝機は遠のく。
幸い対処可能な得物と能力の二つが自分にはある。
双剣で優先度の高いものから弾き落とし、時には飛び回って回避に集中。

110孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:49:56 ID:Ri0tUaKQ0
片方のみに意識を割いていられないのが此度の闘争だ。
頭部を振って目障りな瓦礫を振り払い、ドラグブラッカーがまたもや襲来。
大きく開けた口は雄叫びを上げ、獲物を飲み込むだけが役割じゃあない。
喉の奥で灼熱が蠢き、黒い炎と化し放たれる。
急激に周囲の熱さが上昇しジューダスは異変を察知、ガラスを突っ切って外へ飛び出した。

『坊ちゃん後ろ!』

言われるまでも無く敵意を察知、シャルティを振るって対処。
弾かれたバイオワンダーと入れ替わりにドラグブラッカーが接近。
背後には得物を振り被る緑の騎士がおり、モンシターと契約者の連携で追い詰める気らしい。
しかし数の不利程度で勝ちを譲る気は毛頭ない。
何人いようと剣の錆に変えるまで。

「プリズムフラッシャ!」

虹色の剣が降り注ぎ、黒龍の巨体に突き刺さる。
痛みに堪らずミラーワールドへ引き返す下僕の横では、火花を散らすベルデが見えた。
バイオワンダーを取り落とし、舌打ち交じりにカードを引き抜く。

『SWORD VENT』

使える武器はまだ他にもある。
ドラグブラッカーの尾を模した青龍刀、ドラグセイバーを掴み取った。
元から持っていた着火剛焦と合わせ、ジューダスに対抗するような双剣が完成。
破壊されたエントランスホールを背に跳躍、交差させた剣を振り下ろす。

数秒にも満たない思案の後、ジューダスが選んだのは回避。
飛連斬で迎え撃つ選択もあったが、斬り落としの勢いを考えれば悪手。
後退直後に地面へ十字状の破壊痕が刻まれ、判断が正しかったと思い知る。
ドラグブラッカーが召喚するドラグセイバーは、龍騎のものよりもAPが上。
加えて今しがたベルデがやったのはドラグセイバーで最も威力を出す技、龍舞斬だ。

111孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:51:00 ID:Ri0tUaKQ0
「シャドウエッジ!」

足元から生えた暗黒の剣が生えた時には、既にベルデは駆け出した後。
霧散する晶術の刃には目もくれず、急所を狙って双剣が襲い来る。
リーチこそ違えど、対抗するのもまた二振りの剣。
ドラグセイバーをシャルティエが弾き、パラゾニウムの突きを着火剛焦が防ぐ。
短剣を押し返した蝋燭が横薙ぎに振るわれ、焼けるような熱さが発生。
否、ようなではなく本当に炎の斬撃を蝋燭が放っているではないか。

見ればいつの間にやら先端部分に火が付いている。
よもやあんな微かな灯火が理由なのかと疑うも、実際その通りだ。
着火剛焦は名前の通り着火する事で、斬撃に火属性追加の特性を持つ。
ついさっきドラグブラッカーが放った火炎ブレスが偶然にも掠め、効果を発揮。
ベルデにも少々予想外だが、不利を引き起こすのでは無い為良しとして攻撃を続けた。

戦闘開始直後へ戻ったように繰り広げられる剣戟。
違うのはベルデの得物の数と、常に発生する猛烈な熱さか。

(こいつ……)

間近で燃え盛る炎にも集中力を乱さず、ジューダスは十数度目の打ち合いで確信を抱く。
ベルデの強さが明らかに増している。
直接剣を交えずとも、共闘という形でベルデが戦う様子は確認出来た。
現在のベルデは過去二度の戦闘時以上に動きのキレが増し、装甲の耐久性も上だろう。
何が原因で強化されたのか、自分が見ていない間に何をしたのか。
疑問の答えを素直に返すと期待はしてないので、一々尋ねるつもりは皆無。
それに分かったのはもう一つ、スペックこそ上がっていても剣術は自分に及ばない。
動きを見る限り戦い慣れてはいる、それは確か。
しかし剣筋は、ソーディアンマスターのそれと比べれば粗が目立つ。
ジューダス自身は勿論、過去の彼を打ち破ったスタン・エルロンの方が遥かに強かった。

112孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:51:43 ID:Ri0tUaKQ0
「飛連斬!」

ならば負ける理由は無い、勝ちを譲る道理などありはしない。
敵の双剣を受け流し、すり抜けるように装甲へ走らせる。
対空能力を持った二連撃に、ベルデ本人の意思とは無関係に体が浮く。

追撃の為に跳躍、空中で斬りかかる。
反射的に防御の構えを取るも、僅かな差でジューダスの速さが勝った。
刃に撫でられた装甲が悲鳴を上げ、ベルデは地面へ落下。
どうにか受け身を取ろうとしたが敵の攻撃は続いている、着地と同時の斬り上げが見事命中。

「ぐっ…!おのれぇ…!!」

傷の痛みを圧倒的な怒りが上回り、怯むよりも次の手に出る方を優先させた。
分かっていたがやはり簡単に殺せる相手ではない。
忌々しいことこの上なくとも、強さだけは認める他ないだろう。
だがそれでも勝つのは、最後に笑うのは自分を置いて存在しない。
神へ逆らう下賤な輩への苛立ちを乗せ、召喚機にカードを差し込む。

『AD VENT』

読み取ったカードの効果は先程同様、契約したミラーモンスターの召喚。
但し今度はドラグブラッカーではない、ベルデが元々従える異形がミラーワールドより現れる。

「っ…!」

死角からの脅威を察知し剣を翳し、刀身へ衝撃が叩き込まれた。
足が地面を離れ、あわや激突の寸前に翼を展開。
歯を食い縛りどうにか止まり、睨み付けた先にはジューダスを殴り飛ばした原因が突っ立っている。
敵の正体を確かめ、思わず訝し気に目を細めた。
ベルデが使役するモンスターが、数時間前とは別の存在に見えたのだ。

113孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:53:56 ID:Ri0tUaKQ0
真横に出っ張った両目、ベルデの装甲を生物的に変化させたような胴体。
痣の少年との戦闘時に見たのと同じ部分が無いわけじゃあない。
では、斑模様と化した半身は何だ。
丸めた尾とは別に、地面へ垂らされたもう一本の尾は何だ。
両手の三本指から生えた、猛獣の如き爪は何なのだ。
カメレオンだけではなく豹の特徴も兼ね備えた、歪な生物が唸り声を上げる。

ジューダスは勿論、ベルデからしてもバイオグリーザの変化は思ってもみなかった。
ライダーとしての基本スペック上昇は実感していたが、まさか契約モンスターにまでこのような影響が表れるとは。
理由もなしにこうなったのでは無い。
全ては放送前に食らった参加者と、その者が己の糧とした果実が原因だ。

シャーロット・リンリンという海賊がいた。
新世界に君臨する四人の皇帝、その一人として海軍や市民はおろか、同業者や果ては自身の海賊団にまで恐れられた女王。
ビッグ・マムの名を聞き恐れぬ者は、それこそ同じ皇帝である男達くらいのもの。
ワノ国で最悪の世代に敗れるまで、絶対的な伝説として君臨し続けた。
そんなリンリンも偉大なる航路の数多の船乗り同様、悪魔の実の能力者である。
ソルソルの実。他者の命を奪い取り、無機物や動植物を支配下に置く超人系悪魔の実の一種。
災害の如きリンリンの強さを象徴する力の一つ。
但し、実際のところリンリン自身がソルソルの実を口にし能力を手に入れたのではない。

元々ソルソルの実は幼少時のリンリンを育てた老婆、マザー・カルメルの能力だった。
何故悪魔の実を食べていないにも関わらず、リンリンはマザー・カルメルと同じ能力を使えるようになったのか。
切っ掛けとなったのは彼女の6歳の誕生日に起きた事件。
当時マザー・カルメルが経営していた孤児院、羊の家で行われたリンリンの誕生日パーティー。
用意された大好物の菓子をリンリンが夢中で頬張り、気が付いた時には彼女一人を残しマザー・カルメルは他の子供達と共に失踪。
リンリンがソルソルの実の力を使えるようになったのは、この日以降の事。
何故マザー・カルメル達が姿を消したのか、60年以上経ってもリンリンは真実を知らない。
一部始終を目撃したシュトロイゼンは今に至るまで隠し続け、巨人達に至っては恐怖でリンリンとの関りを避ける始末。

しかしバトルロワイアルで、この事件の答えを示す様な現象が起きた。
それこそがバイオグリーザに起きた変化。
豹を思わせる肉体の特徴は、ネコネコの実による影響が表れた為。
殺し合いにおいてネコネコの実を食べた鬼舞辻無惨を、今度はバイオグリーザが喰らった事で実の能力を引き継いだのだ。
ミラーモンスターという特殊な生物だからか、或いはリンリンの過去の真相も同じなのか。
どちらが正しいにせよ、これらの情報をジューダスが知る由は無い。

114孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:54:36 ID:Ri0tUaKQ0
自身を苛む空腹に急かされ、バイオグリーザがジューダスへと迫る。
腹を満たす肉が目の前にあるのだ、攻撃に躊躇は微塵も必要ない。
元々有する人間以上の脚力は、ネコネコの実の影響か更に速さを増していた。
多少の距離をあっという間に詰め両腕を伸ばす。
爪で引き千切り、骨まで喰らい尽くすつもりだろう。

「ストーンザッパー!」

餌になるなど御免だ。
頭部目掛けて石斧が飛来、普通の生物なら死亡ないし重傷は確実。
生憎ミラーモンスターは普通の範疇に収まらない。
鬱陶し気に片手を振るい、それだけで石斧は無数の破片と化す。

少しでも動きを止められたなら上出来、双剣を操り技を以て仕留める。
が、攻撃の中断を目論むのは敵も同じだ。
MP40が火を吹き銃弾が殺到、バイオグリーザからそちらの対処に移らざるを得ない。
数秒の間に弾は尽き、予備の弾倉と交換するベルデが見えたのも束の間。
今度は自分の番とばかりに6本の爪が間近に迫り、地を蹴り後方へ跳ぶ。
避け切れず赤い雫が滴り落ちる。

「丁度良い。これの力を貴様に味合わせてやろう」

ジューダス技や晶術で手数に優れているが、手数の豊富さなら敵もベルデも負けてはいない。
デイパックから取り出した赤い石、空の世界において召喚石と呼ばれるものを掲げる。
ベルデの意思に応じて現れる巨大な土偶。
街で猛威を振るった巨人にも引けを取らない生物兵器、ドグーは此度も悪しき参加者の傀儡。
開閉した胸部にエネルギーを収束、巨体に相応しいサイズのレーザーを放つ。

115孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:55:14 ID:Ri0tUaKQ0
『坊ちゃんあれは…!いや本当に何ですかあれ!?』
「知るか!」

まさか短時間で二度も規格外のサイズの敵に襲われるとは。
ソーディアンへの雑な返しもそこそこに、急ぎ回避へ動かねばなるまい。
エネルギーを掻き集めた時点で、大規模な攻撃が来ると分かった。
アレを真正面から迎え撃つのは無謀以外の何物でもない。

『STRIKE VENT』

尤もベルデがそれを黙って見過ごすかはまた別の話。
ミラーワールドを飛び出し再び黒龍が出現。
右腕にはドラグブラッカーの頭部を模したガントレット、ドラグクローを装着。
標的へ向けて構え、背後の黒龍が5000°の火球を発射する。

「くっ…!」

火炎と光線、どちらで消し炭にされるか。
両方お断りだ、地上を飛び退き火球を避ける。
足元を高熱の塊が通り過ぎ、示し合わせたようなタイミングでレーザーが放たれた。
回避直後で硬直した全身を無理やりにでも動かす。
体中の筋肉が悲鳴を上げるも黙殺、辛うじて直撃は回避成功。
但し、ドグーの攻撃は掠っただけでも効果を発揮する凶悪な性能だった。

「な、に?」

唐突に体勢が崩れ、地面へ真っ逆様。
翼を動かそうにもどういう訳か、ピクリとも反応しない。
そればかりか背中が異様に重いのは何故。
落下中に振り向くと理由はすぐに分かった。
これまで幾度も戦闘の支えになった翼が二枚とも、石になっているからだ。

116孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:57:02 ID:Ri0tUaKQ0
サーヴァントの肉体すらも石化した光線だ、ラブボムで得た力だろうと関係無い。
飛行能力を封じられた事実に戦慄するのは後回し。
地面への激突だけは回避するべく、苦しい体勢ながらどうにか受け身は取る。
背中の重さにふらつき、間髪入れずに脅威が接近。
双剣の防御も今回ばかりは一手遅い、ドラグクローに殴り飛ばされた。

「がっ…!?」

打撃武器としても優秀な強度を叩き込まれ、平然とはしていられない。
地面を転がり、衝撃で翼は砕け散る。
都合良く新しい翼が生えて来る、なんて展開が起きる筈も無く。
これで本当に飛行能力は失われてしまった。

血を吐きながら立ち上がるも、その動きは鈍い。
これまでの戦闘と言い、天使化が無ければとっくに死んでいたに違いない。
梃子摺らされた怨敵の惨めな姿に、ベルデは見せ付けるような仕草でカードを取り出す。

「神である私からせめてもの情けだ、環いろはと同じ場所へ送ってやろう」
「…いろは達はお前が殺したのか?」
「勘違いするな、少なくとも彼女については違う。あれ程の扱い易い者を失ったのは惜しかったがな」

仮面で隠れても傲慢な笑みを浮かべているのが嫌でも分かる。
リトの死を悲しみ、気遣う素振りを度々見せた頼れる大人の男。
所詮そんなものは醜悪な本性を隠す、ハリボテに過ぎなかったらしい。
本心を偽る必要が無くなり興が乗ったのか、いつでも殺せるという余裕の表れか。
聞いてもいないのに口が回り出す。

117孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:57:35 ID:Ri0tUaKQ0
「ゲームマスターの復活を妨げる貴様の計画も実現しない。全員等しく神の礎になり、私の手で究極のゲームが完成する!それこそが正しい歴史の姿だァ!」

パラドが作った紛い物の仮面ライダークロニクルが広まった世界など、断じて認められない。
バトルロワイアルとは即ち、神である自分が真に復活を果たす為の踏み台。
他の参加者など、神の為に命を捧げて当然の連中。
自らの才能に何の疑いも抱いていない男の言葉へ、ジューダスは激昂するでもなく静かに呟きを漏らす。

「哀れだな、お前」
「なにィ!?」

言動から察するに、この男は常人とは一線を画す頭脳の持ち主なのだろう。
ジューダスの仲間にも一人、天才と呼ぶに相応しい女がいた。
その上で断言してもいい、黎斗は彼女の足元にも及ばない。
兄の死を変えられる、家族を助けられると分かっても歴史改変の選択を蹴った。
自分の都合で歴史を捻じ曲げる馬鹿にはならないと言ってのけた彼女に比べれば、目の前の男など只の身勝手な悪党だ。

「まぁ、ある意味お前のような奴には神が相応しいのかもしれんが」

人間の幸福を勝手に決め付け、頼んでもいない救済を押し付ける。
それこそ自分達の都合で、人が歩んだ歴史をも歪ませ悪びれもしない。
ジューダスの知る神とはそういう連中だった。
それならむしろ、黎斗が神を名乗るのにも納得はいく。

118孤独のB/極限のdead or alive! ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:58:36 ID:Ri0tUaKQ0
「……ふん、その減らず口は死んで治すしかないな」

『FAINAL VENT』

つまらない挑発と受け取ったのか、不愉快気に吐き捨てる。
無駄にお喋りを長引かせる理由も無い、必殺のカードを召喚機に装填。
バイオバイザーが告げるは勝負を決める技の発動。
鬼の始祖に放ったのとは違う、黒龍の力を選択。
ドラグブラッカーが空高くへと舞い上がり、重力を無視しベルデが浮上し準備は整った。

工程に違いこそあるが、放つのは龍騎同様ドラゴンライダーキック。
但しAPは他のカードのように龍騎を上回る。
それはカードを使うライダーがリュウガではなく、ベルデであっても変わらない。
まして今のベルデはバイオグリーザが取り込んだいのちのたまの影響で、元の変身者以上のスペックを誇る。
ジューダスと言えども直撃すれば死は免れない、強力無比な蹴り技だ。

「さあ、神の裁きを受け入れるがいい!」

翼をもがれた天使を見下ろす様は、暴虐な神を絵に描いたかのよう。
従える邪悪な龍が標的をしかと捉え、黒炎を真正面のライダーに放つ。
血迷ったのでも逆らったのでもない、炎はベルデにとっての力となり急加速。
火炎の勢いを味方に付けた蹴りに貫かれ、天使は二度と空を見る事無く力尽きる。
望む光景を現実のものとするべく、ジューダスへと足底が叩き込まれんとし――





『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』





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119孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 15:59:48 ID:Ri0tUaKQ0



何が起きたかをすぐには理解出来なかった。
カードを装填し、目障りな小娘の剣士へ制裁を下す。
数秒後には物言わぬ肉塊と成り果て、自分は勝利の余韻に浸りながら風都タワーを去る。
黎斗の描いた未来図を裏切るように、望まぬ現実が襲い掛かった。

「……っ!?なん、だと…!?」

真っ先に来たのは全身を苛む痛み。
ジューダスの攻撃を何度か受けたが、今感じているのは特に強烈。
やがて安定した視界が捉えたのは、星が輝く夜空。
地べたに背中を預けていると気付き、神とは正反対の無様さに歯軋りを抑えられない。
この期に及んでふざけた抵抗に出たせいで、自分は屈辱を味わう羽目になったのか。
怒りのままに立ち上がろうとし、視線を落とせばそこには白い袖と生身の手。
まさかと周囲を見回してみれば嫌な予感は現実のものとなる。

「お、おのれ…!」

散らばった緑色の欠片が何なのか、分からない筈がない。
カードデッキが破壊されたのだ。
愛着を持っていた訳ではないが、殺し合いで最も使い慣れた武器だった。
それをここに来て失ったのは相当な痛手。
リプログラミングされ変身能力を失った苦い記憶が、嫌でも思い起こされる。
ふざけた真似をしたジューダスへの怒りが更に燃え上がり、

120孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:00:35 ID:Ri0tUaKQ0
「ほう、辛うじて破壊を逃れたか」

聞き覚えのある声が聞こえた。

ばっと振り向いた黎斗の視界に飛び込む、マゼンタ色の装甲。
プレートが突き刺さった異様な仮面は、悪鬼の如く歪んでいる。
細部に違いこそあれど見間違えはしない。
世界の破壊者、仮面ライダーディケイドが再び姿を現したのだ。

DIOを破壊し終えた後、予定通りJUDOは風都タワーに向かった。
所詮口約束とはいえ自ら宣言を撤回する真似には出ず、志々雄との決着は次の機会に持ち越し。
最終的に破壊する相手なことに変わりは無いが、優先して狙うのは仮面ライダー達。
まずは自分に手傷を負わせた二人で一人のライダー、その片割れと仲間達を破壊する。
トビウオに乗り最短ルートで移動、到着し見付けたのは自分と一戦交えた二人が殺し合う場面。
仲間同士で争う理由に興味は無い。
破壊対象がすぐそこにいるのなら迷う必要も無い、JUDOは再び破壊者の鎧を纏った。

「貴様らの他にいないようだが…まあいい。行き付く先は同じだ」

黒いライダーと真紅の銃使いは別行動中なのか姿が見えない。
であるなら、先にこの二人を仕留めるまで。
片方は仮面ライダーではない、しかし出会った以上は破壊以外に有り得ない。
ミラーモンスター諸共ディメンションキックを叩き込まれ、黒龍はダメージに耐え切れず爆散。
契約者を二度変え結局餌にはあり付けなかったが、同情を向ける者は不在。
デッキを破壊されたからといって黎斗を見逃す気も無い。
変身者の息の根も確実に止めてこそ、真に破壊は完了するのだから。

121孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:01:06 ID:Ri0tUaKQ0
「本当に戻って来たのか…」

鈍痛に顔を顰めるジューダスからは、ディケイドの登場への驚きは感じられない。
ベルデが余裕ぶってペラペラ話し始めた時、エリア内に悪の魂が一つ現れたのが分かった。
自分達に気付けば上手く黎斗への妨害に利用できるかと考え、結果はこの通り。
状況が改善されたとは口が裂けても言えないが。

焦りが強いのは黎斗だ。
カードデッキを失い、この場で最も不利なのは間違いなく自分。
ジューダスのように生身でも戦える力は無い以上、支給品に頼る他ない。
となれば使うべきは仮面ライダーではなくとも、強大な力を秘めた一つの道具。
アレならこの状況でも勝ちを狙えるかもしれない。
しかし暴走という多大なリスクが使用に躊躇を抱かせる。
だからこそ決して自分自身に使おうとは思わなかったのだが、取れる選択は多くない。

「…良いだろう。私にこの力を使わせた事を後悔し、神の前に跪けェッ!!」

『ディケイドォ…』

ゲームマスター復活のチャンスを無に帰す訳にはいかない。
神である自分が死したままでいるなど認められない。
リスクを恐れる脆弱さは神に不要、迷いを捻じ伏せアナザーウォッチを己に埋め込む。
破壊者の軌跡を否定する偽りの歴史が流れ込み、瞬く間に姿を変える。
マゼンタ色の胴体、バーコードを思わせる模様、何より激情態に負けず劣らずのおぞましい顔面。
正しき心を持った少年達とは違う、此度の変身者は神を名乗る悪。
ある意味ではこれまで以上にアナザーライダーに相応しい男だ。
剥き出しの口から漏れるのは獣に似た呻き声、ではない。

122孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:01:48 ID:Ri0tUaKQ0
「これしきで…神を御せると思うなアアアアアアアアアアアッ!!」

多少苦し気であっても破壊衝動へ完全には呑まれていない。
黎斗の意識は未だ健在。
承太郎のように不意打ちでアナザーウォッチを埋め込まれたのではく、自分の意思で変身を踏み切った。
悪という形であれど精神面では決してブレず、破壊衝動にも抵抗が可能。
加えて異なる世界線において、黎斗はアナザーオーズの力を使いこなしていた。
アナザーライダーへ強制的に選ばれた一般人と違い、自らの意思でアナザーライダーの力を制御可能なポテンシャルは秘めている為と考えられる。

『あれは新八くんの…!?』
「回収していたということか…。神というよりはコソ泥だな」

承太郎達が死闘の果てに暴走を止めた怪物が、最悪の形で再び現れた。
新八の時とは違い遠慮なく倒せるとはいえ、強さの程は直接戦っていないジューダスにも分かる。

一方JUDOは激情態の破壊衝動に蝕まれながらも、思考は鋭く研ぎ澄まされている。
むしろ破壊の為に冷静に状況を見極め、ここから取るべき手を素早く弾き出す。
新八が変身したアナザーディケイドは難なく倒せたが、今回はあの時よりも脅威に感じられる。
ジューダスの強さも以前の戦闘で把握しており、少なくともアナザーディケイドの片手間に倒せる雑魚ではない。

だから手っ取り早く数の差で有利に立つ。

『ATTACK RIDE ILLUSION!』

ディケイドライバーがカードの力を解放、新たに三体のディケイドが並び立つ。
耐久力以外は本体と同性能の分身を出現させる、非常に使い勝手の良い能力だ。
これまではプライド的な理由で使用を控えていたが、最早過去の話。
世界の破壊者の戦いに正々堂々など不要、手段を選ばず破壊するまで。

123孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:02:21 ID:Ri0tUaKQ0
ジューダスへ二体の分身を向かわせ、三体目の分身と共にアナザーディケイドを相手取る。
それぞれライドブッカーをソードモードとガンモードに変形。
先手必勝とばかりに斬りかかった。

「しゃらくさいっ!」

ディヴァインオレ製の刃とアナザーディケイドの剛腕が激突。
武器を持たない身で止められる程甘くは無いが、此度はそれを現実の光景とする怪物。
ライドブッカーは腕を斬り落とすどころか、傷の一つも付けられない。
幾ら押し込んでもびくともせず、反対に押し返される始末。
体勢が崩れたら一気に叩きかけるチャンス、殴打の嵐が殺到。
分身も指を咥えて見ているだけではなく、援護射撃を行うも怯んだ様子は無し。
とはいえ僅かに意識は逸れた。
ライドブッカーを翳しながら後退、拳の範囲内から離脱に成功。

『ATTACK RIDE BLAST!』

『ATTACK RIDE SLASH!』

連射性能を高め狙い撃つ。
雨霰と全身に叩き込まれるエネルギー弾で隠れた巨体へ、もう一体が再度接近。
斬撃の威力を強化したライドブッカーが、血を欲する魔剣の如く急所へ走る。

目障りな虫を払い除けるように腕を振るう。
たったそれだけでエネルギー弾は霧散。
斬撃にも動じず拳を一発ぶつける、その動作一つでライドブッカーが弾き返された。
急ぎ防御の構えを取るも刀身を襲う衝撃は非常に重い。
背中から倒れないようどうにか踏み止まる。

124孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:03:10 ID:Ri0tUaKQ0
一度風都タワーで戦った時よりも、変身者が違う為か手強い。
加えて耐久力の異様な高さも厄介だ。
なればここはただ武器を振り回すだけではない、ディケイドの力を存分に使わせてもらう。

『KAMEN RAIDE HIBIKI!』

『KAMEN RIDE KIVA!』

激情態はディケイドのまま直接他のライダーの力を行使可能だが、カメンライドが不可能になった訳ではない。
音撃戦士とキングオブバンパイア、二体のライダーヘ変身。
そこから更に変身を重ねるべくカードを取り出す。

『FORM RIDE HIBIKI KURENAI!』

『FORM RIDE KIVA BASSHAA!』

本体が変身する仮面ライダー響鬼は藤色から一変、全身を炎に染め上げる。
夏の魔化魍に対抗すべく修行を経た姿、響鬼紅だ。
並ぶ仮面ライダーキバが纏うのは緑の鎧。
ガルルやドッガと同じく、こちらもアームズモンスターの力を借りた派生形態。
水中戦と遠距離攻撃に特化したバッシャーフォーム。
ヒレの付いた専用武器、バッシャーマグナムの照準を合わせる。
同時に響鬼がカードを装填し、こちらも音撃棒烈火を装備。

「姿を変えた程度で倒せる神ではない!」

得物を変え、アナザーディケイドと再び真っ向からぶつかり合う。
通常時以上の身体能力の恩恵により、弾き返される事無く打ち合いに持ち込む。
アナザーディケイドの拳を防ぎ、時折胴体を叩く度に炎が発生。
体内で最大限に高めた火の気を攻撃にも転用している。
能力の低い魔化魍程度なら、複数体纏めて殲滅可能な威力だ。

125孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:03:44 ID:Ri0tUaKQ0
アナザーディケイドの敵は一人だけでは無い
響鬼とは対となる能力、アクアバレットが彼らの背後から放たれる。
遠距離戦を得意とするフロッグファンガイアを圧倒し、撃破に追い込んだ射撃能力を発揮。
水の弾丸が当たっては弾け、響鬼のサポートを行う。

「神に気安く触れるなど許さん!」

なれど、偽りの破壊者を倒すにはまるで足りない。
致命傷には程遠くとも鬱陶しいことこの上なく、苛立ちへ呼応し腹部の装飾が発光。
エネルギーの波動が全方位に放たれ、二体のライダーを痛め付け吹き飛ばす。
多少のダメージ程度で済ませはしない、翳した掌にエネルギーを収束。
威力を高めたエネルギー波で纏めて葬る。

『FAINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI KIVA!』

対抗手段なら当然持っている。
フエッスルの代わりにライダーカードの効果で魔皇力を増加。
竜巻を発生させアナザーディケイドを捕えた。
この程度の拘束など長続きしないが、多少なりとも動きを鈍らせ先手を取れたならそれで良い。

威力を高めたアクアバレットを発射、一手遅れて敵もエネルギー波を放つ。
高威力の力が激突し、互いを打ち消し合う。
バケツを引っ繰り返したように大量の水飛沫が散り、アナザーディケイドの視界を隠す。
それこそ破壊者が狙った展開。
ここからが本命と言わんばかりに、無慈悲な電子音声が奏でられた。

126孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:04:14 ID:Ri0tUaKQ0
『FAINAL ATTACK RIDE HI・HI・HI HIBIKI!』

水気が一瞬で消える灼熱を纏い、響鬼が二本の得物を振り被る。
咄嗟に両腕を交差させるも、関係無いと音撃棒烈火による殴打が炸裂。
魔化魍を一撃粉砕する清めの音が叩き込まれ、アナザーディケイドの体内で激痛が暴れ狂う。
堪らず吹き飛ぶ巨体へ追い打ちを掛けようと、更にカードを取り出した。

「舐めるなァッ!!!」

宙へ浮かんだ巨体は地面への激突を良しとせず、突如現れたオーロラに消える。
この現象には見覚えがある。
他ならぬJUDO自身が巻き込まれ、風都タワーへ転移させられたのだから。
あっちこっちへ視線を飛ばす前にカードを装填、振り向きざまに拳を放った。

『ATTACK RIDE BEAT!』

パワーとスピード、両方を強化させた鉄拳が狙うは背後からの標的。
転移能力を使ったアナザーディケイドを迎え撃つも、敵が放ったのも拳による一撃。
交差は一瞬、一手早く胸部を叩いたのはアナザーディケイド。
響鬼紅の耐久力を以てしても痛みは免れず、呻き声と共に後退る。

破壊者同士が一歩も譲らぬ闘争を繰り広げるその一方。
天使と悪魔の死闘には、大きな変化が訪れようとしていた。

127孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:04:58 ID:Ri0tUaKQ0
◆◆◆


『ATTACK RIDE KICK!』

宙に身を躍らせ、地上の標的目掛け蹴りを放つ。
跳躍の勢いもキックの威力も、通常形態の倍。
激情態のスペックにローカストアンデットの能力を上乗せしたのだ。
これだけでも並の怪人なら、数体纏めて爆散は免れない。

脱兎の如く駆け避けると、真横で地面が粉砕される。
飛び散る破片を払い除け、今度はこちらが技を繰り出す番。
相手が変わろうとやる事は一つ、己の剣で倒すだけ。

「双連撃!」

『ATTACK RIDE SLASH!』

双剣には双剣をぶつける。
ブレイラウザーが召喚と同時に切れ味を強化、同じ土俵に立ち勝ちを奪う。
ディヴァインオレとオリハルコン、悪を斬る剣が此度は邪悪な牙と化し振るわれた。
剣戟が奏でるは殺意に溢れた死闘。
頸を、心臓を狙い振るわれる刃を掠りもさせぬと防ぎ合う。
得物はどちらも最良、なれど技量で勝るは翼をもがれた天使。

『ATTACK RIDE BLAST!』

だが剣術の差だけで有利不利は決められない。
響く人の声では無い雑音に、ジューダスは即鍔迫り合いを中断。
後方へ大きく跳び、立っていた場所に複数のエネルギー弾が躍り出た。

128孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:06:08 ID:Ri0tUaKQ0
「エアプレッシャー!」

重力場を発生させ、二体纏めて圧し潰す。
これで決着が付けば御の字だがそう簡単に事が運ばないのが現実というもの。
技の発動を察知し巻き込まれる前に退避。
避けつつも引き金を引き、ばら撒かれたエネルギー弾がジューダスに風穴を開けんと迫る。

上空へ逃れようとし、飛べない事を思い出し舌を打つ。
元の体と同じ状態に戻ったと言えば聞こえは良いが、飛行に慣れて来たのもあって複雑だ。
翼が元に戻る気配は一向に現れず、無駄な期待をするよりはきっぱり諦めた方が良い。
背中に生えた一部が急に消え生まれる違和感を無視し、双剣を振るってエネルギー弾に対処。
銃撃を防いでいる間、敵の一体はライドブッカーに手を伸ばす。
片方が作った隙を活かし、ディケイドライバーが力を解き放った。

『ATTACK RIDE BOKU NI TSURARETEMIRU?』

「我に釣られてみるか?」

電王・ロッドフォームの武器、デンガッシャーを装備。
不要な決め台詞まで口にするデメリットはさておき、長得物を豪快に振り回す。
先端から発射された糸がシャルティエの刀身に絡み付く。
武器の奪取を狙い引っ張り上げると、当然向こうも抵抗に出る。
風都タワーでエターナルソードを奪われた時と違い、新たな剣の入手を許してはくれないだろう。

『ATTACK RIDE TSUPPARI!』

「がっ…!?」

剣を奪われまいと意識を向け過ぎたのが仇となる。
横合いからの衝撃が叩き込まれ、羽のように軽い少女の体が吹き飛ぶ。
もう一体のディケイドが使ったのは、電王のアタックライドカード。
激情態の影響か、フォームチェンジせずともアックスフォームと同等のパワーを発揮。
イマジンをも怯ませた張り手は天使化していようと、アイドルの肉体には強烈だ。

129孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:08:10 ID:Ri0tUaKQ0
『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DEN-O!』

立て直す機会を誰が与えてうあるものか。
戦闘に遊びを持ち込む男はもういない、ここにいるのは世界の破壊者。
投擲されたデンガッシャーを何とか防ごうとするが、狙いは串刺しに非ず。
先端の命中と共に、亀の甲羅状のエネルギーが展開。
DIO相手にも放った技は拘束し、蹴りを叩き込んでトドメに持って行く流れ。
藻掻くジューダスへ追い打ちをかけるかの如く、電子音声が鼓膜を叩いた。

『FAINAL ATTACK RAIDE FA・FA・FA FAIZ!』

もう一体のディケイドとて見物に徹するつもりはない。
脚部から光線が放たれ、円錐状のポイティングマーカーに変化。
ゲル化能力を持つバイオライダーをも仕留めた力で、二重の拘束を行う。
確実な破壊を与える準備は完了、後は終わらせるだけだ。

「仮面ライダーではないが逃しはせん。己の不運を呪え」

慈悲など微塵も宿らせない死刑宣告を、はいそうですかと受け入れる気は当然無し。
しかし抵抗虚しく拘束はビクともせず、剣を振るう事すら不可能。
晶術を使わせまいと破壊者が跳躍、破壊力を高めた蹴りを叩き込む体勢に入った。

『坊ちゃんまずいですよ!このままじゃ…』
「分かっている…!」

ソーディアンの焦りは最もだが、余裕がないのはジューダスも同じ。
天使化の影響を受けているとはいえ、ディケイドの蹴り技を二つも受けて生き延びれるとは思えない。
どうなるかなんて考えるまでもない、この先の展開は一つ。

130孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:09:23 ID:Ri0tUaKQ0
(死ぬのか、僕は…!)

何も出来ずに、何も為せずに死ぬ。
リオンを殺した破壊者の手で、ジューダスという存在もまた命を刈り取られる。
まるで、殺し合いでの自分(達)の運命は最初からこうだったとでも言わんばかりに。

歴史修正の作戦は蓮達に話し、メモも残してある。
自分が死んでも彼らに任せればそれで良い。
と、あっさり生を投げ出す程諦め早い人間になったつもりはない。
何より思ってしまう、彼らの姿を思い浮かべてしまう。

能天気なナイト気取りのアイツは、馬鹿正直なアイツの息子は。
あの二人なら、こんな場面でも黙って死を受け入れはしないだろうと。

ああ全く、暑苦しい奴らだとの呟きに嘲りはなくて。
絶体絶命の状況だというのに、俄然死を拒絶する気力が湧いて来て。
最後には消え、歴史の狭間を漂う運命だとしても、それでも。

「まだ死ぬわけにはいかない…僕の終わりはここじゃない…!」

生を叫べども手を差し伸べる神はおらず、与えられるのは破壊者からの終焉。
瞳を焼く赤い閃光が埋め尽くし――










――『使徒達よ、この漆黒の翼の庇護、これからも期待するがいい!』







目の前に青が広がった。

131孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:10:12 ID:Ri0tUaKQ0
○○○



知らない場所と、知らない人々。
何処なのか分からない、何故こんなものが急に見えたのかも分かる筈がない。
船の上、だろうか。
但し大海原を進むのではなく、海と同じ青さを持つもう一つの自由な世界。
空だ、ここは果ての見えない空の上。

青に包まれ、大勢の人々が自分を取り囲む。
少女達と、不思議な生き物と、それに『――』。
自分を見つめる目に悪意は無く、向ける言葉に宿るは優しさ。
何となくむず痒さを感じるも、目の前の彼女達はお構いなしだ。
自分、否、『彼女』を認める想いへ応えるように宣言する。
自分では無い、だけど今の自分の聞き慣れた声で。

今見ているのが何か、薄々察しが付き始める。
だからこそ余計に分からない。
『彼女』は争いとは無縁、戦う力を持たない普通の少女。
ソーディアンマスターのような戦場に身を置く者とは違う。
目の前に映る、記憶の中の景色とは明らかに矛盾しているではないか。

だが妄想の産物、という訳でも無いのだろう。
その証拠に自分の内から目覚めようとしてるのが分かる。
『彼女』の奥底に眠ったままで、『彼女』が気付く事なく消えた筈の力が。
果たしてこの現象が、彼女にとって良いと言えるのかどうかは分からない。
力を失い、平穏な日常に戻る筈の『彼女』を再び争いに引き摺り込んだようなものじゃないのか。
そう言われたら強くは反論できない、しかし自分にとっては必要不可欠なのもまた事実。

ならば、こう言わせてもらう。

「力を借りるぞ、蘭子」

132孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:11:20 ID:Ri0tUaKQ0



「なに…!?」

驚愕を声に出したのはどちらの破壊者か。
答えが何だろうと起こった事に変わりは無い。
電王とファイズ、二つの力に捕らえられ死を待つだけの哀れな羽虫。
最早死は確定となった小娘に蹴りを叩き込む正にその瞬間、自分達は無様に宙を舞った。
拘束など何の意味を為さない爆発的なエネルギーの上昇を感知、警戒度を引き上げる間もなく余波が襲う。
暴風に弄ばれる枯れ葉の如き姿をいつまでも晒してはいられず、ディケイドの機能を行使。
テスラバンドよりマイクロ波を飛ばし浮遊、着地を終えた二体は今一度敵の姿を目に焼き付ける。

黒の衣装を脱ぎ去り、新たに纏うはアーガイルチェックのゴシックドレス。
赤いスカートが風に揺られ、容姿も相俟って男女問わず魅了する魔性のオーラを醸し出す。

だが変わったのは服装だけではない、更に目を引く特徴が二つ。
頭部から生えた、スカートの色よりも濃い真紅の二本角。
背中には再び翼を取り戻すも、そこに天使の純白は無い。
夜を色に落とし込んだ羽を広げ、双剣を手に破壊者を見下ろす。

天使ではなく、魔王と呼ぶに相応しい少女がそこにいた。

346プロのアイドルが巻き込まれた、空の世界での大冒険。
元の日常に帰還した彼女達が、異世界での力を使う機会は二度と無い筈だった。
殺し合いという非日常に突き落とされ、仮の器に封じられたのはソーディアンマスターの精神。
本来持ち得ぬ天使の力が宿り、更には空の世界の生物兵器を目の当たりにし肉体の記憶が刺激された。
ここまでの条件が揃っているならば、彼女の奥底で僅かに燻る魔王の力が再覚醒を果たしたとて、有りえぬ話とは言い切れない。

133孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:12:02 ID:Ri0tUaKQ0
尤も詳細な理由をジューダスは求めない。
まだ戦える、正しい終わりを迎える為に足掻き続けられる。
その一点さえ可能ならば何も文句は無い。
翼が宙を叩き、猛加速し破壊者へと刃を届かせた。

「シャドウエッジ!」

地面から生えた剣は一本に留まらない、複数本が破壊者へ突き刺さる。
パラゾニウムの強化に加え、闇を司る魔王の能力の影響だ。

「ブラッディクロス!」

同じく闇属性の晶術を発動。
十字を描く巨大な斬撃から破壊者は逃れられず、霞のように消滅。
威力も範囲も元の肉体以上、内心で思わず舌を巻くも顔には出さない。
仕留められた分身は一体だけ、残るもう一体はダメージを受けつつも生き延びた。
反撃に移らんとライドブッカーに手を伸ばし、取り出したカードが宙を舞う。
カード装填の工程を阻止したジューダスが一気に攻め立てる。

「千裂虚光閃!」

空中へ斬り上げ、無防備を晒した所を狙う無数の突き。
腕が数十本に分裂でもしなければ不可能な速さに、対処が間に合わない。
何よりこれでもまだ終わりではない、次に放つ本命の前段階でしかないのだ。

「魔人千裂衝!」

敵の落下を待たずに追撃。
縦横無尽に空を駆け、次から次へと斬撃を繰り出す。
獲物を狩る爪と牙の両方が突き立てられ、遂に分身は消滅。
優雅に降り立つも気は一切抜かない、倒すべき敵はまだ残っている。
再度翼を広げ加速、もう一つの戦場へ躍り出た。

134孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:12:32 ID:Ri0tUaKQ0
「ジューダス…!懲りずに私の邪魔をする気かァッ!!」

一度は追い詰めた憎たらしい相手が、またもや自分の前に立ちはだかる。
しかも新たな力まで手に入れており、全く持って鬱陶しい。
横槍を入れたディケイド共々、地獄へ叩き落とさねば気は済まない。

「神の力を思い知れェエエエエエエエエエエッ!!!」

巨体に違わぬ両足で蹴り付けられた地面が粉砕。
神に逆らう忌々しい連中を見下ろす位置まで跳び、腹部からエネルギーを放出。
10枚のカード状へ変化し道を作った。
異世界の仮面ライダーや、常磐ソウゴの仲間を屠った蹴り技だ。
神に楯突く大罪人への裁きが下されようとしている。

『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』

『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』

なれば破壊者が放つは驕りを撃ち落とす魔弾。
二体共にディケイド激情態へ戻り、ライドブッカーの銃口を向ける。

「喜べ。これも使ってやろう」

ディケイドは破壊の為にもう一手打つ。
ビー玉のような石、アクションストーンから引き出したエネルギーをライドブッカーに付与。
仮面ライダーとは違うヒーローの力が悪しき目的に利用される。
銃口に電撃が迸り、解放まで残り僅か。

135孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:13:08 ID:Ri0tUaKQ0
「ッ!!!」

最後の一人もまた、持てる最大火力の技で勝負に出た。
ジューダスとしての剣術ではない、蘭子の肉体が放てる奥義だ。

力の引き出し方が自然と頭に浮かび、不可思議な現象を今は黙って受け入れる。
自分自身をも壊し兼ねない膨大な魔力を収束、決着を付ける準備は整った。
来るべき瞬間に口を突いて出る、知らない筈の名が引き金となる。

「スクーロ・ヘルフィエレ!」

闇と光、氷と炎。
相反する属性同士が絡み合い、審判の時を告げる。
魔王の力を得てもラブボムの効果は健在。
故に元々は存在しなかった光属性の効果も追加されたのだ。

二人の悪も決して勝利を譲らない。
ディメンションブラストが戦場へ邪悪な輝きを齎し、アナザーディケイドは己が生み出した道を駆ける。

神、破壊者、魔王。
三つの力が互いを喰らい合い、光が彼らを包み込んだ。

136孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:13:54 ID:Ri0tUaKQ0
◆◆◆


会場中央の島と陸を隔てる湖の上にて、風都タワーに背を向ける者が一人。
全身を襲う痛みと倦怠感を噛み殺し、ジューダスは戦場から遠ざかる。

技の衝突により発生したエネルギーに巻き込まれる中、急ぎ空から離脱。
ダメージこそ避けられなかったが瀕死に追い込まれるのだけは回避し、今に至る。
後の二人がどうなったかは分からない。
死んだか、虫の息となったか、自分と同じように逃げ延びたか。
戻って確認しようにも、ジューダス自身消耗が激しい。
今の状態で再びディケイド達と戦い、確実な勝利を手に出来るかは怪しい所だ。

『あの二人はどうなったんでしょう?どっちも死んだ、というのは楽観的過ぎですかね?』
「仮に連中が生きていたとしても、すぐに動ける状態じゃない。そう思いたいがな…」

自分でも納得のいかない部分はあるが、無理やりにでも飲み込むしかない。
色々と予想外の結果になったとはいえ、一先ずは風都タワーを離れ蓮達との合流に向かう。
黎斗が敵だったと知らせなければならない事に、僅かながら気を重くして。


【D-4 水上/夜中】

【ジューダス@テイルズオブデスティニー2】
[身体]:神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(極大)、天使化、魔王ブリュンヒルデ、飛行中
[装備]:シャルティエ@テイルズオブデスティニー、パラゾニウム@グランブルーファンタジー
[道具]:基本支給品、ルナメモリ@仮面ライダーW、新八の首輪
[思考・状況]
基本方針:主催陣営から時渡りの手段を奪い、殺し合い開催前の時間にて首謀者を倒す。
1:蓮達に合流する。
2:黎斗とディケイドがどうなったにしろ、今は離れるしかないか…。
3:エボルトやグリードも悪の魂の持ち主のようだが…。
4:ギニューは次に会えば斬る。
5:巨人(康一)はあれでどうにかなったとは思えない。
6:この機械は蓮に渡せば良いだろう。
[備考]
※参戦時期は旅を終えて消えた後。
※天使の翼を失いました。
※天使化により、意識を集中させることで現在地と周囲八方向くらいまでの範囲にいる悪しき力や魂を感知できるようになりました。
※蘭子の肉体はグランブルーファンタジーとのコラボイベントを経験済みのようです。その影響によりグラブル出典での力が使えるようになりました。
※現在の服装はヘルロードゴシックになっています。
※アビリティの使用等は後続の書き手に任せます。

137孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:14:49 ID:Ri0tUaKQ0
◆◆◆


「お…のれ……」

爆撃でもされたと見紛う程に、風都タワー前は無惨な有様と化した。
破壊の限りを尽くされた地べたに這いつくばり、黎斗は怨嗟の呟きを漏らす。
白の衣服は襤褸切れ同然となり、傷を負っていない箇所を見付ける方が難しい。
敗北者の三文字がこれ程に似合う者もそういないだろう。

そのような姿に成り果てて尚も、彼の眼は死んでいない。
神である自分へとことんまで屈辱を味合わせた者達への、消せない怒りが燃え上がる。
アナザーライダーの中でも非常に高い能力を持つ、アナザーディケイドに変身していたのは幸いだった。
変身解除に追い込まれ多大なダメージを負ったが、死だけはどうにか避けられたのだから。
尤も代償も少ないとは言えないが。

排出されたアナザーディケイドウォッチは砕け散り、二度と使用不可能。
ジューダスの攻撃を受けただけならこうはならなかった。
だが先の闘争に参戦したのは世界の破壊者。
変身者の精神こそ違えど、本物の仮面ライダーディケイド。
アナザーウォッチはアナザーライダーの元となった戦士の力でのみ、破壊する事が出来る。
三度の猛威を振るったアナザーディケイドと言えども、四度目の機会は訪れない。
即ち黎斗の持つ手札がまた一つ失われた。

「まだ、だ…まだ私は終わってなどいない……!」

アナザーディケイドには劣るが、自分にはまだアナザーウォッチが一つ残っている。
何より満身創痍でも生きているのだ。
ゲームオーバーを迎えるには早い、再起のチャンスは十分に存在する。
神は決して滅びない。

「この私を倒せなかった事を…後悔させてやる……」

ジューダスから話を聞いた蓮達を利用するのはもう不可能だ。
状況は放送前よりも格段に悪い。
問題は山積み、とにかくまずは生きてここを離れなければ。
窮地を幾度も乗り越えて来た、神の才能を持つ自分に不可能は無いと言い聞かせ立ち上がる。





それが終わりの引き金となった。

138孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:15:29 ID:Ri0tUaKQ0
「なっ…!?」

目の前に緑色が見え、視界が反転。
押し倒されたと気付いた時にはもう、体を喰われていた。

「ぐぁああああああああああああっ!?」

咄嗟の抵抗で伸ばした腕は掴まれ、枯れ枝のようにへし折られる。
爪を腹部に突き立てられ、引き摺り出された臓物が貪られる。
契約者だった男の返り血に汚れながら、バイオグリーザは夢中で食事を続けていた。

デッキが破壊された事で、最早バイオグリーザが黎斗に従う理由は無い。
ディケイドやジューダスとの戦闘が終わるまで、ミラーワールドでじっと息を潜めどれくらい経ったか。
気が狂いそうな空腹に耐えた甲斐も有り、ようやく待ち望んだご馳走に有り付ける。
我慢の必要が無くなったなら、後はもう喰らうだけだ。
エビルダイバーやメタルゲラスのような、契約者と良好な関係を築いていた訳じゃ無い。
むしろ殺し合いでは無惨以外に何も餌を与えられなかったのもあって、不満ばかりを募らせた相手。
自らの腹を満たすのに何の躊躇もない。

「ば、かな……」

与えられた終幕は、獣の餌として食い散らかされる。
神にあるまじき末路をどれだけ拒絶したくても、現実は嗤いながら告げた。
これがお前の最期、奇跡は二度と起こらない。
ゲームマスターが破れるなど認められない。
神である自分がこんな惨めに死ぬなど、あってはならない。
自分は生きて、間違った歴史を正さねばならない。
突き付けられる死から目を逸らし、これは何かの間違いだと叫ぶも無駄。

目に映るのは究極のゲームが完成した輝かしい未来ではない。
口を赤く汚した醜悪な獣と――

139孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:16:08 ID:Ri0tUaKQ0



――『許せ、黎斗!お前を止めるのは、父としての愛が故だ!』



信じられないものを見た。

「は……?」

食い千切られる痛みも忘れて、ただ呆然と呟く。

父と、自分が抱き合う光景。
自分の記憶には無い、くだらない幻覚としか思えないナニカ

おかしいだろう。
父は自分の事を息子では無く、ゲンムコーポレーションの商品としか見ていなかった。
昔から父にとってはそれが当たり前で、黎斗にとっても当たり前。
親子としての愛を向ける人間では無い。
これまでも、この先もそうだろうと確信を抱いた。
檀正宗とはそういう人間だろうに。

なのに、今のは何だ。
商品価値の有無でしか見なかった男が、父としての愛を口にした。
上司と部下なんかじゃあない、家族だからと体を張った。
死に際の馬鹿げた妄想か。
もし違うのなら、あれは――

140孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:16:42 ID:Ri0tUaKQ0
未来に起こる筈だった、正しい歴史だとでも?

「ふ――ざけるなあああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

叫ぶ。
残った体力全てを使い果たす勢いで、血を零しながら怒りを吐き出す。
何故怒りを抱いているのか、そもそもこれが本当に怒りなのかどうかすら分からず。
だけど叫ばずにはいられない。

「神は死なない…!もう一度戻って来る…!私は不滅だァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

そうして黎斗の世界は、神の栄光など存在しない闇に落ちる。
放たれた言葉も獣には雑音以外のなにものでもなく、頭部を食い千切られ完全に沈黙。
後には肉を噛み、血を啜る音だけが響く。
やがて吐き出した首輪が転がり、それで本当に終わり。

神を名乗る男が最後に何を思ったかは、本人にすら分からない。
ただきっと、死に際の彼が胸の宿らせた感情。
それはきっと神とは程遠い、ありふれた人間らしいものだったのだろう。



【檀黎斗@仮面ライダーエグゼイド(身体:天津垓@仮面ライダーゼロワン) 死亡】

141孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:17:11 ID:Ri0tUaKQ0



骨も残さず腹に入れたバイオグリーザだが空腹は未だ治まらない。
多少マシになっただけで、まだまだ腹が減って仕方がない。

「つまらん最期だな」

気が立っている獣が唐突に聞こえた声に振り向くと、いつの間に現れたのかマゼンタ色の装甲が見えた。

技の衝突の巻き添えから退避したのはジューダスだけではない。
但しJUDOの場合は空ではなく、鏡の中を逃走経路に使った。
本来ミラーワールドへの侵入が許されるのは、カードデッキで変身したライダーのみ。
しかしディケイドにはそういった、「龍騎の世界」での法則は当て嵌まらない。
嘗てライダー裁判が行われた世界を通りすがった門矢士は、カードデッキ無しにミラーワールドへ足を踏み入れた。
ライダー世界のルールを破壊する、これもディケイドの特性の一つ。

適当なガラスから現実世界に戻り、JUDOが見付けたのは今しがたの凄惨な光景。
黎斗の死を悲しむ等有り得ない。
飼い犬に手を噛まれる末路へ同情を向ける気もない。
ただ自分の手で仮面ライダーを破壊出来なかったのが大いに不満だ。
折角風都タワーまで足を運んだにも関わらず、一人は逃走、もう一人はこの始末。
余り良い結果とはいえ尚だろう。

JUDOの事情に最初から興味の無いバイオグリーザは、餌がまだ残っているのに歓喜し咆えた。
両足のバネが伸縮し、獲物の元まであっという間に接近。
まずは邪魔な鎧を剥がすべく両腕を振るう。
ネコネコの実の影響で生えた爪だ、ライダーの装甲越しでもダメージは期待出来る。

142孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:17:44 ID:Ri0tUaKQ0
『ATTACK RIDE ONIBI!』

だが破壊者を相手取るには、強化されたとはいえミラーモンスター程度では役者不足。
早撃ちのガンマンのように手札を切り、口から火炎を発射。
魔化魍にも有効な鬼の術だ、顔面を炙られ堪らず後退る。

『ATTACK RIDE SWORD VENT!』

怯む様子を見せるのは、どうぞ破壊してくださいと身を差し出すのと同じ。
偶然か意図してかは定かではないが、ミラーモンスターの力を借りた武器を装備。
顔を上げたバイオグリーザの視界にディケイドはもういない。
ドラグセイバーの最も効果的な使い方は承知済み。
頭上を取り、繰り出された龍舞斬が出血代わりに火花を散らす。
大きくよろけた緑と斑模様の巨体を蹴り付け、冷えた地面が背中に当たった。
起き上がるのを許すつもりは無い。
腹部に足を乗せて動きを封じ、首には青龍刀を添える。

生殺与奪の権を握り、ここからは軽く腕に力を籠め斬首すれば終わり。
しかしここでJUDOの脳裏に、ふと殺す以外の選択肢が浮かぶ。

「見境なしの獣に我の言葉が通じるか知らんが、一応聞いておく。従うか死ぬか、好きな方を選べ」

もしここにいるのが門矢士本人だったら、絶対にしないだろう提案。
士にとってはたとえ激情態になっていた時間軸でも、一般人をも襲うミラーモンスターを生かそうとはしない。
ではJUDOはどうだろうか。
激情態への覚醒を切っ掛けに強い破壊衝動へ苛まれているが、JUDO本人の精神が完全に侵食された訳ではない。
支配か抹殺か、BADANの第首領としての二択を選ばせる程度には元の面が残っている。

143孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:18:17 ID:Ri0tUaKQ0
従わなければ殺す。
シンプルな問いかけにバイオグリーザが選べる答えは、あってないようなもの。
今の短い攻防だけで、力の差も理解させられた。
ややあって足をどかされると抵抗は見せず、付き従うような仕草を見せる。
考えようによっては悪い事ではないのかもしれない。
JUDOが他の参加者との戦闘を行えば、餌に有り付ける機会はどんと増える筈だ。

ゲルショッカーの改造人間にも似た獣を従え、黎斗の荷物に手を伸ばす。
首輪を回収し、思い出したように足元がふらつく。
考えてみれば志々雄とDIOの連戦からそう時間を置かずに、風都タワー前での闘争だ。
癪ではあるが自分も一度休憩を挟まねば、今後の戦いに支障が生じる。
網走監獄へ行くのはもう暫く後になるだろう。

(そういえば……)

激情態になり忘れかけていたが、ディケイドにはまだ秘められた力が存在するのではないか。
放送前に地下通路のモノモノマシーンを目指したのは、ディケイドライバーの拡張ツール入手も目的の一つだった。
一人殺して得た使用権に加え、複数の首輪もDIOのデイパックから確保済み。
望んだ道具が手に入る可能性は低くない。
そうやって手に入れた力を用いれば、全ての破壊という目的が叶う。

正史にて激情態となった士がディケイドの最終形態、コンプリートフォームになった記録は無い。
能力で生み出したコピー体に過ぎないとはいえ、自らの使命である破壊を他のライダーにまで担がせるのを嫌った。
そういったプライド的な理由かは不明、しかし激情態がコンプリートフォームを使えない訳ではない。

仮面ライダー達との絆を武器に、多くの悪を倒して来た。
そのコンプリートフォームが正義も何も無い、ただ破壊の為に使うとすれば。
世界を破壊する正真正銘の悪魔が、全参加者にとっての悪夢として立ちはだかる時はそう遠くない。

144孤独のB/掴む夢は幻の夢か ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:18:41 ID:Ri0tUaKQ0
【D-4 風都タワー前/夜中】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]疲労(極大)、ダメージ(中)、激情態、破壊衝動
[装備]ディケイドライバー+ライドブッカー+アタックライド@仮面ライダーディケイド
[道具]基本支給品×9、トビウオ@ONE PIECE、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ(次回放送まで使用不可)、警棒@現実、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、海楼石の鎖@ONE PIECE、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、レインコート@現実、プロフィール(クリムヴェール、ピカチュウ、天使の悪魔)、首輪(デビハムくん、貨物船、姉畑支遁、悲鳴嶼行冥、鳥束零太、DIO、黎斗、無惨、童磨)
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。そしてこの世界の全てを破壊する。
1:闘争を楽しむ。そして破壊する。
2:仮面ライダーは優先的に破壊する。
3:体力を回復させた後、網走監獄方面に向かう。
4:ディケイドの能力を強化する道具があれば手に入れる。
5:先ほどの者(志々雄)は、もし再会するようなことがあったらその時破壊する。
6:我と同じベルトを使う仮面ライダー…何者だ。そいつもいずれ破壊する。
7:改めて人間どもは『敵』として破壊する。
8:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
9:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。そして、その優勝者の肉体を我の新たな器の候補とするのも一興かもしれん。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜キバのカードが使用可能です。
※ディケイド激情態に変身できるようになりました。
※破壊の力に目覚めました。本来は不死身である存在や、特殊な条件を満たせないと倒せない相手でも、問答無用で殺害することが可能であると思われます。
※ディケイド激情態の、倒した仮面ライダーをカード化する能力は制限で使えないものとします。
※ディケイド激情態が劇中で使っていた、ギガント等の平成一期サブライダーの武装のアタックライドカードは、ここにおいては無いものとします。
※バイオグリーザを力で屈服させました。
※バイオグリーザがネコネコの実の能力者になったミーティの肉体と、体内にあったいのちのたまを捕食しました。その影響でバイオグリーザ自身の能力が上昇しましたが、空腹も大きくなっています。

※ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、バットショット@仮面ライダーW、アナザーディケイドウォッチ@仮面ライダージオウは破壊されました。
※ドラグブラッカーは死亡しました。
※着火剛焦@戦国BASARA4、召喚石『ドグー』@グランブルファンタジー、MP40(予備弾倉×1)@ストライクウィッチーズシリーズが付近に落ちているか戦闘の巻き添えで破壊されたかは後続の書き手に任せます。

【ルナメモリ@仮面ライダーW】
幻想の記憶を宿したガイアメモリ。
超常的な属性を付加し、肉体や武器の形状をゴムのように自由自在に変化させ、変則的な攻撃が可能になる。
ダブル専用の装備やエンジンブレードに装填すれば、マキシマムドライブで効果を発揮する。
ダブルが扱う特殊な設計を施されているが分類上はT1ガイアメモリな為、メモリ単体で仮面ライダーやドーパントへの変身は不可能。

145 ◆ytUSxp038U:2024/02/29(木) 16:19:15 ID:Ri0tUaKQ0
投下終了です

146 ◆5IjCIYVjCc:2024/03/03(日) 23:40:46 ID:FDSMZzfc0
ギニュー、それから主催陣営を予約しておきます。

147名無しさん:2024/03/04(月) 00:07:47 ID:JY1exJtk0
ペース早くて嬉しい。

148名無しさん:2024/03/23(土) 08:09:25 ID:MWEjGU620
期限は明日まで屋根。

149名無しさん:2024/03/23(土) 08:10:26 ID:MWEjGU620
あ、間違えた。2024/03/25 00:07:47だわ。

150 ◆5IjCIYVjCc:2024/03/23(土) 20:42:47 ID:7vC9ni5Y0
すみません、予約を延長しておきます。

151 ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:07:27 ID:mP0VA4Ag0
投下します。

152何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:09:33 ID:mP0VA4Ag0
それはまだ、この島全体に大雨が降っていた時のことだった。
雨に打たれながらも空を飛ぶ人影が一つあった。
位置は地図上においてB-1と表示されている草原の上空、決死の表情をして飛ぶ女の姿があった。

C-1のフリーザの宇宙船の戦いにおいて、結果的にゲルトルート・バルクホルンの肉体になったギニューだ。
彼が目指すのはB-1の網走監獄、そこで態勢を整え直すつもりだった。

やがて網走監獄の方にたどり着いたギニューは、雨を避けるため直ぐ様適当な建物の中に入る。

「ゼエ…ゼエ……ハア…ハア…」

建物の中に入ったギニューは、フラックウルフを脱ぎ、床に膝と手をついてへたり込む。

(くっ…しばらくはここで休むしかないか…!?)

先ほどの戦いにおいて、ギニューはやむを得ないボディチェンジを行った。
しかしその結果も、望まない相手とのものとなった。
その相手が抱えていた疲労感も、引き継いでしまっている。
結局先ほどの諸々において、ギニューは望む結果を全く得ることが出来なかったと感じていた。

(クソッ……何れ奴らを殺すにしても、どうすればいいか…)

先ほどまで戦った者達はおそらく、自分の手の内どころはほとんど把握していると言えるだろう。
今のこの身体は元々奴らの仲間であり、支給品も引き継いでいるからだ。
一応はこっちが元から持っていて結局あちらでは使わなかった支給品もあるが、それでも相手側はこちらの戦法を予測・対策してくる可能性が消える訳ではない。

だがそういったことを考える始めるのならば、そもそもこちらが今どんなものを持っているのかを正確に把握することの方が先決だ。
ギニューはデイパックを開け、その中に入っている品々を確かめ始めた。
その中でも最初に確かめるべきものについても、分かっている。

「こいつの名は…ゲルトルート・バルクホルン、軍人で……ウィッチ?」

そこに書いてあったこととして、この肉体はこれまたギニューの知らぬ新たな種類の特殊な力を有する存在だったらしいというものがあった。
この肉体は、魔法というものが使える。
さらに、得意とするものは怪力の魔法だそうだ。
先ほどこの肉体を相手に戦っていた時、よく鍛えているとは感じていたが――元々軍人のものだからというのもあるだろうが――肉体強化の術を使えるのであればそう感じたのも納得だ。
ちなみに、魔法を使っている間は頭に(垂れ耳系の)犬の耳のようなものが生えるらしい。

(………だがやはり、我々やサイヤ人のものには及ばなさそうだな)

プロフィールに一通り目を通し、ギニューはそう結論を付ける。
プロフィールについては何か妹がいることを少し強調しているように書いてあるところもあったが、その辺りは不要と見て軽く流した。
とりあえず、孫悟空の肉体の方がおそらくはまだ強力であろうから、そちらを狙う方針には今後も変わりない。

ちなみに、ゲルトルートの服装…特に下半身の方が、普通に見たら下はズボンを履いてないように見える(彼女の世界にとってはこれがスボン)卑猥気味な格好であることにはギニューは気にしない。
何故なら、ギニューも元々は太もも露出してを大きく強調する、際どいハイレグな戦闘服を普段から着ていたからだ。
今の服装も、全く問題視していなかった。

一先ずはそのように考えることにして、ギニューはデイパック内にある次の品の確認を始める。



「む、こいつは…」

次に出てきた品に対し、ギニューは注目せざるを得なかった。
そいつは、自分が今いるこの施設において活用可能なものだったからだ。

この網走監獄にある教誨堂、その地下にある牢獄内にあるモノモノマシーンを使うために必要なもの。
参加者共通の首輪が1つ、出てきたのだ。
どうやら前にこの肉体を使っていた者は、どこかで誰かを殺害したか、もしくは死体を発見して首輪を回収していたようだった。
他参加者と行動を共にしていたことから、後者の方が可能性は高いだろう。

(………こいつがあれば、また何か得られるかもしれん。だが………ハア……またアレの声を聞かねばならんのか…)

153何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:11:02 ID:mP0VA4Ag0
首輪があればモノモノマシーンが使えて、新たなアイテムを入手できる。
そうなれば先ほど少し考えた、こちらの手の内をほとんど把握されていることに対する気掛かりを少し解消できる。
こちらが首輪を1つ持っていることは向こう側もおそらく把握している、モノモノマシーンを1回使えることも予測されるだろう。
しかし何にせよ、どんなアイテムが出るかは分からない以上、向こうもこれについて対策を練ることは不可能だろう。
もしかしたらそれこそ、運が良ければ孫悟空の肉体を奪うのに役立つアイテムが手に入るかもしれない。
しかし、モノモノマシーンを新たに使えることはありがたいとは言え、再びあのマシーンから出る不快な口調の音声を聞かなければならないことには少し憂鬱な気分にさせられる。

(とりあえず、もう一度あそこに行ってみるか…)

何はともあれ、とりあえず使えるものがあるのなら使える内にやっておくべきかと思い、ギニューは移動し始めた。



やがてギニューは何事もなく教誨堂の方へとたどり着く。
それがどこにあるのかといったことは覚えていた。
道中、敵がやってくるといったことはなかったが移動中は念のため警戒はしていた。

ちなみに外は、まだ雨が降っている。
三回目の定期放送もまだ行われていない。

やがて彼は再び、この建物の地下の牢屋内にあるモノモノマシーンの前に立つ。
そこから流れる不快気味な音声に辟易しながらも、その機械の投入口の中に首輪を入れてみる。
そうして出てきたカプセルを手に取り、それを開けて中身を出した。


「……………」

出てきたものを見たギニューは、下唇を噛んで口を硬く閉じる。
目も険しくなった。


「…………またただの食い物か!」


ギニューが新たに入手したもの、それは一つの『スイーツ』であった。

それについて一言で表すなら、犬小屋に入った犬をモチーフとしたチョコレート菓子であった。
チョコレートケーキと板チョコで犬小屋を見立てているようだった。
そして一粒の苺に、生クリームを尻尾と前足と鼻の土台に、粒チョコを目と鼻に、カットしたアーモンドを耳にする形で表現していた。
犬の形をしている理由は分からないが、煌びやかな見た目が美味そうな印象を与える。

しかしこれは、正直言って殺し合いに役立つものだとは思えない。
これはただの食べ物だ。
一回前にモノモノマシーンを使った時も、出てきた物はそうだった。
そのためについ、文句気味な言葉が出てきてしまった。

モノモノマシーンを使うのは3回目だが、最初の1回以外はまともに役立つものが出たとは言えない。
その最初の1回も、スタミナ回復効果があるとはいえ、出てきたのはカエル汁でなるべくなら気持ち的にあまり飲みたくはなかったものだった。

(というか……口に入れるためのものばっかり出てきてないか?そういうものしか入ってないのか?)

モノモノマシーンから出てくるものの傾向的に、そんな風に感じてしまう。
このマシーンに入っているのは薬か食べ物のような消耗品だけ、武器等の道具類は始めから入ってないのではなんて考えも浮かんでくる。
まあ、もう首輪が手元に無い以上マシーンをすぐには使えないため、今こんな考えをするのは無駄なことであるが。


「………チッ」(モグ)

ギニューは舌打ちしながも、出てきたスイーツをすぐに自分の口に運ぶ。
犬小屋部分を持ってそれの端っこから齧り取る。
ギニューは、このスイーツをさっさとここで食べてしまうことにした。

前に入手したスイーツは、すぐに完食せずデイパック内に仕舞っていたために、戦闘の影響を受けて中身がぐちゃぐちゃになった。
そして、前の肉体の時は舌に問題があったのかあまり美味しく食べれなかった。
これは、その時のちょっとしたリベンジ的な意味も少し意識していた。
他のこれまでの鬱憤を晴らすためかのように、勢いよくその甘味に対しがっついていた。
孫悟空の肉体を奪うことに役立つ道具が出なかった分も、ストレス発散のために豪快に食べていた。
それにスイーツの乗った皿にラップ等もかかってないため、デイパックにも仕舞いにくく、ここで消費するしかなかった。

そして確かに、このチョコレートの味は良いものだと感じられた。
まるで、作り手が込めた想いがそのまま味になっているかのような、そんな感覚を何故だか感じた。
本来なら、ギニューはそれを一々感じられる程の感性を持っていないはずなのに。
それ程、このチョコレートの作り手の想いが強いのだろう。

それから、チョコを食べる度に僅かにだが少しずつ疲労感が軽減されていくようにも感じていた。
実際、チョコレートには疲労回復効果があると言われることもある。

そんな風に、ギニューがスイーツを食べている途中の時であった。

『〜♪』
「む?」

時刻は18時、第三回目の定期放送が始まった。

154何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:12:32 ID:mP0VA4Ag0


放送が始まった後、ギニューはそのままスイーツを食べながら耳を傾けた。
放送は進んで行き、最後にあることが伝えられた。

『私は、「亀」である』

『…………そして、今の私は、「カメラ」でもある』


「………?…………???」

それを聞いた時、チョコレートのケーキ部分を口一杯に頬張った状態で、ギニューの動きが止まった。
その状態のまま、ギニューは呆気に取られたような表情をする。
少し間を置いた後、再び口の中のものの咀嚼を再開する。
それを飲み込んだ後、スイーツの残りの部分も全て口の中に放り込む。
それらも全て噛んで飲み込み、手に取った際に指に付いたチョコもペロッと舐め取る。

「フウ…」

綺麗に完食した後、ギニューは一拍置いて、手に持った皿を大きく振りかぶった。

「………どういうことだよっ!!?」
『ガシャン!』

ギニューはキレた。
彼は皿を目の前にあったモノモノマシーンに目掛けて投げつけた。
皿はマシーンに当たって割れ、その周囲に破片が落ちていった。

放送でその情報が出てきた瞬間、ギニューのストレスは頂点に達した。
甘味でストレスを和らげていても、それによる緩和度は微々たるものだ。
それよりも、最後にもたらされた情報による衝撃の方が大きく上回ってしまった。
それでつい、感情に任せて今のような行動をとってしまった。


「…………いや、本当にどういうことだ?」

皿を投げた後、ギニューは少し冷静さを取り戻す。
それでも、彼の中には困惑しか残ってなかった。


まず今回の放送は最初から不可解なところがあった。
ギニューは今は教誨堂の地下室にいるため、周囲に画面機器も無く、今回の放送を担当した者がどんな姿をしているのかを見ていない。
けれども、声だけでも放送担当者が何か狼狽えながら話していたように感じた。
何と言うか、無理矢理言わされている感がかなりあった。
本当に奴らの仲間なのか?という疑問もどうしても出てくる。
そんなことが気になるせいで、放送における基本の情報の整理にも少し時間がかかる。

一応、自分に屈辱を与えた姉畑と呼ばれていた変態が死んだこともちゃんと聞いた。
けれども、そのことについて気にする精神的余裕もない。
他の情報の方が衝撃的に感じてしまった。


(…………ちょっとまて、さっき指定された禁止エリアでもう一つのモノモノマシーンが使えなくなったってことは……他の奴らも皆ここに集まってくるかもしれんということか!?)

何とか放送の内容を思い返そうとして、やがてそんなことに気付く。
気付いたギニューは慌て気味にデイパックから地図を取り出し、現在の禁止エリアとこの場所の位置関係をより詳しく確認しようとする。

(……結局他の奴らがどこにいるかは分からんのがほとんどだが…ここに来るには山を東の方から越えなくてはならない…。意外とまだ余裕はあるか?)

地図を見た感じだと、山の南側のほとんどが禁止エリアで封鎖されているために、こちら側に来るには山を東側から登らなくてはならない。
それはおそらく時間がかかる。
放送ではモノモノマシーンの存在は参加者を誘き寄せるためだとほとんど白状みたいな感じで言っていた。
この場所を目指す者達は多いだろうが、少なくとも今すぐにでも到着する可能性はそこまで高くないだろう。

(だが、それもいずれは時間の問題だ。それに、宇宙船の奴らも…)

今すぐの心配はそこまでしなくても良いだろうが、いつかはその時は来るものだ。
それとギニューは、ここ網走監獄と同じく山の西側のエリアに、敵対者達がいることは把握している。
先ほどまでいたC-1のフリーザの宇宙船の方で戦った者達だ。
彼らもまた、ギニューとの戦いで消耗しているだろう。
彼らもすぐに網走監獄の方に向かうことは無いだろう。
……だが、彼らのいる場所がフリーザの宇宙船であることを考えると、絶対にそうであるとは言えなくなるかもしれない。

155何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:13:49 ID:mP0VA4Ag0
ギニューの記憶が確かなら、宇宙船内には回復ポッドがあったはずだ。 ※ギニューは回復ポッドを使えるのが1回だけになっていることを知らない。
それを使われたら、先ほどの戦闘のダメージを完全回復されて、体勢を早く整え直されるかもしれない。
ただ、だからと言って彼らがすぐにこちら側に来るとも限らない。
ギニューのボディ・チェンジのことは把握しているだろうし、警戒してすぐ向かわないという可能性も考えられる。
でも、彼らの行動については様々な可能性が考えられる以上、やはりこちら側の対応はどうするか悩まされる。
彼らもまた、山の東側から西側に向かって来る者達が多いかもしれないことは気付いているだろう。
モノモノマシーンに向かうだろう者達がほとんどはこの殺し合いで誰かを殺害済みの者達であろうことを考えると、今宇宙船にいる彼らは、ギニューとの挟み撃ちの形になっているかもしれない。
そのことも考えると、宇宙船の者達がどんな行動をとるか更に予測が難しくなる。
いっそこんな構造になったことに対し全て諦めてくれた方がこちらも考えるのは楽ではあるが、そう簡単にもいかないだろう。

ギニューがそんな風に悩んでいた、その時だった。


『ギニュー、お前に話がある』

ギニューの背後から声がした。
その声を、ギニューは知っていた。
この殺し合いに巻き込まれる前から、ずっと聞き覚えのあるものだった。

「………あなたさ…………いや、貴様は…!」

声を聞いた時、ギニューは目を大きく見開いて表情を固まらせた。
その表情は、段々と憤怒の色に濡れていった。
その表情のまま首をギギギとゆっくり回し、後ろを振り向いた。
その目線の先には、ギニューが思った通りの人物がいた。
なお、その人物がそこに直接いたわけではなく、ホログラムの映像が存在していた。

自分が尊敬している上司であるフリーザ、その肉体を現在使用している憎き相手。
本当なら、こんな表情を向けたくもなかった。
けれども、自分を「ギニューさん」ではなく「ギニュー」と呼んだことから、中身がフリーザとは違うこともこれで確かとなる。

その相手、第二回放送を担当したハワード・クリフォードが半透明の映像越しにそこに存在していた。

『……話があると言ったが、それよりも前にここを移動しないか?そいつが煩くてかなわんだろう』

ハワードはしかめ面のギニューの背後に向けて指さす。
そこには、皿を投げつけられぶつけられた後もひたすら決められた音声を流しているだけのモノモノマシーンがあった。

「……そうだな」

ギニューは不機嫌な感じのままではあったが、その言葉を肯定する。

『上で待っているぞ』

ハワードがそう言うと、ホログラム映像は一旦消える。

「………今更、何の用だ」

ギニューはボソッと小さく悪態をつきながらも、その言葉に従って地下室から上の方へと戻っていった。


◆◆


かつての戦いの余波で半壊し、少しでも衝撃を与えたら崩れそうな状態の教誨堂。
その場所の圧裂弾の爆発によってできた床の穴の上に、フリーザ姿のハワードのホログラム映像が浮いていた。
彼はそこでギニューを待っていた。

「………ハワード・クリフォード。先に言っておくが、フリーザ様の姿をしているからといって、俺が貴様に敬意をもって接すると思うなよ」
『ふん、そんなことはどうでもいい。いいから話を進めるぞ』

ギニューの態度に対しハワードは特に気にする様子はない。
自分がギニューから明らかに嫌われていることもここで問題とは見てないようだった。
それよりも先に話を進めたいようだった。

156何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:16:09 ID:mP0VA4Ag0
『……お前は今、ここから南にある孫悟空の肉体を奪う方法を考えているだろう。だが、それを一旦待ってもらいたい』
「ハ?」
『その代わりに、私が指定する場所へ向かい、そこに来るだろう者達を襲え』
「何だと!?」

ハワードの言葉にギニューは驚きの反応を見せる。
まさかこんな指示をされるとは思ってなかった。

「ちょっと待て、貴様は俺に優勝してほしいんじゃなかったのか!?サイヤ人の肉体は強力だ…何故それを待てというのだ!?」

ハワードの言葉にギニューは困惑する。
そもそも、ギニューを主催陣営のジョーカーにすることを決めたのはハワードだとも聞いていた。
そのハワードが何故、自分が力を手に入れられる機会から遠ざけようとするのか、理解できなかった。

『…お前に襲撃して貰いたいのは、我々に歯向かおうとする、いわゆる対主催と呼ばれる集団だ。そいつらは、お前が前に戦った宇宙船にいる連中との合流を目指している。今あそこにいる内の2人と、お前の行動が元で死んだ者…脹相は、元々そいつらと行動していた。彼らの合流を妨害してもらいたい』
「いや、だからと言って…」
『………それから、お前が孫悟空の肉体を奪うとしても、それはまだ早い。こちら側全体の方針としては、まだ野原しんのすけの精神が中にいる状態のものを観察したいと望んでいる。こちら側の想定よりも、あの精神と肉体は相性が良いようで成長する傾向が見られた。……その方が、いずれお前が奪う時により強いものになっているかもしれん』
「……だから、そんなことで納得できるか!俺よりもあんな奴の方があの肉体を上手く扱えていると言いたいのか!」

ギニューは言葉を荒げてハワードに反論する。
そもそもの話として、どうせその対主催集団の合流を妨害するのなら、強力な肉体である孫悟空のものの方が良いに決まっている。
確かに現状は制限によりまだ1時間以上ボディチェンジを使えない状態ではあるが、再び使えるようになるのを待てない程焦らなければいけないことなのか。

『……現状の位置関係からして、お前が襲撃を行うべきはC-2の山の中腹辺りが丁度良いと思われる。そこをおそらく、先ほど言った集団が5人程通る可能性がある。そいつらは今は病院にいる。その内2人…いや、1人と1匹はお前がかつて島の南の森で遭遇した女と鼠だ』
「おい待て!」

ギニューの反論を無視してハワードは話を続けようとする。
そのハワードの言葉を、ギニューは大声を出して止めようとする。

「5人もいる上に2人はよりにもよってあの時の奴らか!?それならなおさら駄目じゃないのか!?よっぽどのバカじゃなきゃ、あいつら俺のボディチェンジに気付いているだろ!?」

ギニューからしてみれば、これでハワードからの指示に存在する問題点がより増大した。
ギニューは今、かなり疲労とダメージを抱えている状態だ。
このまま5人もたった1人で相手するのは危険だ。
下手すれば死ぬかもしれない。
それにボディチェンジのことを把握されているだろうから、警戒されて使おうとしても上手くいかないかもしれない。
ギニューは今元々そいつらの仲間だったらしい奴らが使っていた肉体でいるが、放送でそいつ…脹相の死が発表されている以上、仲間のフリして近付くのも難しいだろう。
どう考えても、襲撃は現実的ではない。

『……何も、その集団の全員を殺すことを求めているわけではない。我々としては、彼らがこれ以上逆らうことを考えないようにすればそれで良い』
『参加者達に付けられている首輪、それを解除できると思っている者を狙えばそれで良い』
『「桐生戦兎」…そいつが、首輪を解除できると他の者達からも思われている』

『一先ずはそいつを優先して狙えば、それで良い』
『………まあ、そいつを殺害できなくとも、それでお前の首輪を爆破して始末するつもりはない』
『とにかく、対主催をやろうとしている者達に大きなダメージを与えられればそれで良い』
「いや、それでもだな…」

ハワードは特定の相手1人だけ狙えばそれで良いと言う。
それならば難易度は多少は緩まっていると言えるかもしれない。
それでもやはり、要求自体はまだ無理のある・無茶なもののように感じられた。


『……ハア。お前は、自分の立場を分かっているのか?』
「何だと?」

ハワードはわざとらしくため息を吐き、少し声に嫌味を含ませ始める。

157何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:17:28 ID:mP0VA4Ag0
ハワードはわざとらしくため息を吐き、少し声に嫌味を含ませ始める。

『お前は我々と契約して主催陣営のジョーカーとなった……だが、立場ははっきり言ってお前の方が「下」だ。特に、その首輪がある限りはな』
「……ハッ!貴様……まさか、指示に従わなければすぐにでも俺を殺すと言いたいのか!?」
『そうだな。そもそも、我々はこれまである程度お前に有利になるような物資や情報をいくつか提供した。殺し合いとしての理念から外れるような形でな。それだけのことをしたのだから、ある程度はこちらの無茶な要求も飲まなければ割に合わないだろう』
『――もちろん、自分も首輪を外そうとか、さっき言った桐生戦兎らにこのことを話して自分も外してもらおう等と、我々を裏切るようなことは考えるなよ』
『そんなことをしようとしたその瞬間に、お前の首輪を爆破するだろう』
「この…!」

ハワードの言葉にギニューはより大きな怒りを感じる。
まさかここでこんな風に脅すような真似をしてくるとは思ってなかった。
確かに爆弾入りの首輪を付けられている以上、従わなければ相手側はすぐにでも自分をこれで殺害するだろう。

「………だが、首輪があるのならば、それこそさっき言っていた桐生戦兎とやらをすぐに殺害すれば良いのでは?」
『それはできない相談だ。一応、まだゲームの体裁を保っていたいのだからな』
「体裁か……貴様ら、何か別の目的があるのか?」
『お前がそれを知る必要は無い。とにかく、黙って我々に従え』
「………」

相手の口振りから、そもそもこの殺し合いはただ一人の優勝者を決めるためのものではないのか?みたいな思いがギニューの中にも出てくる。
その点については、先ほどの放送でも少し違和感があった。
本当にまともに殺し合いゲームを行うつもりなら、黒幕が自分は亀でカメラだなんて意味不明なカミングアウトをするとは思えない。
目の前にいるハワードも、だんだん面倒になってきたのか脅迫が投げやり気味になっているように感じる。


「…………分かった。一先ずは貴様らのその言葉に従ってやる」

少し考え込む様子を見せた後、ギニューはハワードに対しそのような返答をした。
けれどもその後、次のような言葉も続けた。

「ただし、それならそれでこちらからも要求する。俺に、その依頼を達成するために役立つものを何かよこせ」



「貴様らが俺をどうしても無理矢理思い通りに動かしたいのは分かった。だが、このままでは俺はその通りにしようと思ってもどうしてもできないだろう。孫悟空の肉体を奪うのが駄目だと言うのなら、その代わりとなるものを何かよこせ」

ギニューはそんなことを主張する。
ギニューには確かに、いざという時のためのボディチェンジだってある。
しかし、5人も相手にする上に、ボディチェンジの情報が十中八九知られていることを思うと、切り札を使う間もなく返り討ちにあう可能性だって考えられる。
やはり、今のままでは戦うためには不十分なのだ。

なおこれについてはもし今回の指示が無く、宇宙船の方に向かおうとしても似たようなことが言えるかもしれない。
あっちの方でもボディチェンジのことを知られていることや、柊ナナが未知の能力を持っている可能性を考えるとそんな風にも少し感じてしまう。
どちらにせよ、やはりまだ何かが欲しいとギニューは感じていた。
先ほどのモノモノマシーンで特に戦いに役立つものが得られなかったことからも、そんな考えが浮かぶようになっていた。

『ふーむ……少々厚かましいと感じるが、確かにそれも一理あるな…』

これを聞いたハワードは、少し考え込むような様子を見せる。


『……私の一存ではそういったことを決定できない。他の者達とも相談する必要がある』

少し時間を置いた後、ハワードはそのような回答を出した。

『そのためには時間がかかるだろう。しばらく待て』
『……ああ、だがここは風通しが良すぎて少々肌寒く感じるだろう。どうせお前の場所は常に捕捉している。別の場所に移動しておいても良いぞ。どうせ居場所は常に把握しているからな』
『ブツッ』
「あっ、おい」

ハワードは言うだけ言った後、一方的にホログラムの映像を切った。

「………チッ。こうなるとはな」

ギニューは舌打ちをする。
やはりまさか、主催陣営が急に自分の行動を強制しようとしてくるとは想像していなかった。
とりあえずとして「何か役立つもの」を要求したが、その答えはすぐ出ないとのことだ。

158何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:20:19 ID:mP0VA4Ag0
「ハア……仕方ない…別の場所で待つか」

一先ず、ギニューは言われた通り、一旦別の場所に移動してハワードからの再返答を待つことを決める。
それが来ない限り、今は考え続けるのは無駄になるだろう。

ギニューは、穴だらけの教誨堂を後にした。






それから、約1時間半程経った。

「……遅い!」

教誨堂から移動したギニューは現在、網走監獄内の食堂にいた。
そこにあった椅子に座り、机の上で基本支給品のコンビニ弁当を夕飯として食べていた。
先ほどのホログラム映像越しの会話から、それなりに時間がかかっているように感じ、つい文句が出てしまっていた。

ギニューが待っている間、幸いなことに他の誰かが来る様子はなかった。
今も近くにそんな気配も存在しない。
途中で椅子に座ったまま仮眠を15分程とったり、便所で用を足す暇もあった。
そういったことをする際はもちろん、周りに何の気配も無いことを確かめてから行った。
便所に行った時は、女の身体でそういうことをすることに一々気にかけたりはしない。
せいぜい、この格好は下が下ろしやすくてやりやすかったくらいに思うまでだ。


『パチッ』
「うおっ」
『………やあギニュー、待たせたな』

ギニューが食事を終えた辺りで、不意を突くように再びハワードのホログラムが現れた。

「…ったく、遅かったな。待ちくたびれたぞ」
『だがまあその分、ある程度は休憩できたのではないかね?』
「ハア…誤差の範囲だろ」

ギニューはため息を吐きながらハワードの言葉を軽く受け流す。
先ほど教誨堂内でチョコレートを食べたとは言え、元々の疲労度がそもそも大きく、今のおよそ1時間半の休憩でも完全回復まではできていない。
一応、少しだけ仮眠をとったこともあったが。


「で、結局話はどうなったのだ?俺に何かくれるのか?」
『ああ…その件についての心配は無い。お前の戦いのために、あるものを貸してやることになった』
「ほお………貸す?」

ギニューの要望通り、確かに何かが貰えることにはなったようだった。
しかし、ハワードの言い方にはどこか含みがあった。
そこには少し、違和感があった。

『ほら、お前のすぐ後ろに来ているぞ』
「後ろ?」

そう言われて、ギニューは席に座ったまま後ろに振り向いた。










「「………」」

不気味な仮面を被った2人の黒ずくめの男達が、ギニューのすぐ後ろの近くの方で横並びで立っていた。

159何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:25:13 ID:mP0VA4Ag0
◇◇


「ウオアアッ!!?」

突如として現れた不気味な男達にギニューは大きく驚く。
勢い余って、自分が夕食にしていた弁当を置いていた机の方に倒れ込む。
机は急に体重をかけられたことで割れながら倒れる。
机の上に置いてあった空になった弁当の容器も床の方に落ちる。

「き、貴様らどこから現れた!?」

ギニューも床に倒れ込みながらも、直ぐ様に体勢を整え直そうとする。
黒ずくめの男達の方に向かい合い、いつでも戦闘態勢に移行できるように心づもりをしておく。

でもまだ、驚きのあまり心臓はバクバクいっている。
ギニューは後ろを見る直前まで、2人の気配を一切感じていなかった。
まるで、振り向いたその瞬間に初めて彼らがそこに出現したかのようだった。

『落ち着け、ギニュー。そいつらは我々が派遣した者達だ』
「……派遣?」

ハワードの言葉でギニューは少し落ち着きを取り戻す。
仮面の男達はそんなギニューに対する反応は特に何も見せず、黙ったままその場で突っ立っている。


『そいつらは通称「祈手(アンブラハンズ)」……本来はボンドルドの直属の部下だ。それを、お前のための戦力として貸し出すことになった』
「……はあ?」

ギニューにとっても予想外の答えが返って来た。
確かに何か欲しいとは言ったが、まさか人材が派遣されて来るだなんて全く思ってなかった。
ただ、言われてみれば確かに、2人の仮面と黒ずくめの服装はボンドルドのものと一応共通している気はする。
あとよく見てみれば、ボンドルドの白色のものとは対照的に、彼らは黒色の笛を首から下げている。
先ほど現れたのは、それこそやはりギニューが振り向いた瞬間に主催陣営がこの場に2人をワープさせてきたのだろう。


「いや……おい、これは本当に大丈夫なのか?……俺がこいつらと一緒にいる所を見られたら、俺が貴様らと内通していることが他の奴らにバレるだろ」

真っ先に気になるのはその点だ。
一応、ギニューと主催陣営の契約は内密なもののはずだった。

『その件については、それを察知されてももう良い頃だろうと判断された』
『まあ、どうしてもまだバレたくないと言うのであれば、こいつらは支給品だとでも言ってみて誤魔化してみたらいいだろう』

そんなので誤魔化せるのか。
そう思ってしまうが、その言葉は口から出なかった。

『それから、新たな問題も出てきてな』
「新たな問題?」
『この1時間で状況が大きく変わった。さっきは5人と戦ってもらいたいと言ったが、6人と戦うことになるかもしれん』
「…人数が増えたから、ということか?」

人数が増えたから、何かしらのアイテムを渡すよりも、ギニューとは別の個体として行動できる存在がいた方が対抗できる。
まだ何か少し引っかかる気はするが、一応は分からなくはない理由かもしれない。

『……厳密に言うと、実は最初に教えた5人の内1人は、病院に居た時に別口から襲撃を受けて死んだ。残った4人は一応何事もなく山の竈門家の方に到着しそうだ』
『ちなみにその死んだ1人は桐生戦兎やお前が森で会った者達ではない』
『そして新たに2人程、山の東の方から登って竈門家に向かいそうだ。そいつらはおそらく、病院からの4人と合流するだろう』
『そいつらも相手にすることを考えると、こいつらも一緒に連れていくのが良いだろうと判断された』

「………そりゃまあ確かに、1時間半あったらそれほど状況が変わることも一応ありえるか。だがこいつらに一体何ができるんだ?」

次に気になるのはその点だ。
そもそも、仮面で顔を隠していることと不気味な雰囲気が相まって、見た目だけではどんな力を持っているか測り知れない。


『そうだな……お前たち、まずは仮面を外して顔を見せてみろ』

ハワードはそう言って祈手の2人に指示を出す。
2人は言われた通り、確かに仮面を外した。

そうして晒された彼らの肉体の姿…それはどちらも、ギニューの知らない者達だ。
その内1人は、これを読んでいる者達にとってはこの物語に存在することを知っているはずの顔だ。


葛城忍…仮面ライダービルド(プロトタイプ)の変身者。

そしてもう一人は、この物語において初出の顔。

鳴海荘吉…仮面ライダースカルの変身者だ。

160何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:31:46 ID:mP0VA4Ag0


こうして仮面を外した彼ら2人の姿をよく見てみると、その首に参加者達のものと同じく首輪が装着されているのが分かる。
これはおそらく、ギニューが彼らとボディチェンジすることで首輪から逃れようとするのを防ぐためだろう。

『ちなみにだが、そいつらの首輪はモノモノマシーンで使用することはできないからな』

ギニューが首輪に気付いたことを察したのか、ハワードはそんな注釈をつける。

ハワードは次に、再び祈手2人に向かって話かける。

『それではお前たち、変身してみろ』

ハワードがそう指示すると、祈手の2人はそれぞれ自分専用の変身ベルトをどこからともなく取り出し、腰に装着する。
葛城忍の方はビルドドライバー、鳴海荘吉の方はロストドライバーだ。
そして2人とも、それぞれの変身ベルトにセットするためのアイテムも取り出す。

『ラビット!』『タンク!』『Are you ready?』
『SKULL!』

葛城忍の方は2本のフルボトルをセットする。
続けて、はビルドドライバーの右横にあるハンドルを回す。
鳴海荘吉の方はガイアメモリのボタンを押す。
続けて、ガイアメモリをロストドライバーのスロットにセットする。

本来の変身者の精神であれば、ここで変身の掛け声を言うはずだった。
けれども、彼らはここでその言葉を発することはなかった。
彼らは、その言葉の必要性を感じていなかったようだった。
彼らは黙ったまま、自分達が持つベルトの操作を続けた。

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!』『イエーイ!』
『SKULL!』

葛城忍の方がハンドルを回すのを止めると、回すことにより前後の方に現れていたビルドの装甲が、挟み込むような形でビルドへの変身を完了させる。
鳴海荘吉の方はロストドライバーのスロットを倒し、それと同時に肉体が仮面ライダースカルのものへと変わる。
スカルは同時に、これまたどこからともなく取り出した鳴海荘吉の帽子を頭に乗せた。
ちなみにスカルの形態は、不完全なクリスタルではなく通常のスカルとなっていた。

「これは…奴らのような…」

これを見てギニューが思い出すのは島の中央付近でのベルデ(黎斗)やディケイド(JUDO)との戦いのことだ。
後者の戦いは一応は自分の方が勝利に近い戦いだったが、正直苦い経験をしたからあまり思い出したくはないことではあるが。

『これがこいつらの力だ。ちなみにボトルを使って変身する方は、別の形態に変身することができるアイテムも持たせている。おい、それも見せてみろ』

ハワードに言われた通り、祈手のビルドはまた別のフルボトルを2本取り出し、それをビルドドライバーにセットした。

『忍者!』『コミック!』『Are you ready?』
『忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!』『イエーイ!』

ビルドは、ニンニンコミックフォームにチェンジした。
その手にはこのフォームの力を宿す武器、4コマ忍法刀も握られている。


『……とまあ、こいつらはこのように変身能力を持っている。それぞれの戦闘能力については、まあ後で確認したかったら見せてもらうように頼め』

『こいつらは一応、貸し出している間はお前の言う事に従うようになっている』
『ただし、こいつらは何も喋らないようにもしてある。こちら側の情報を引き出そうとしても全て無駄だ』
『また、こいつらはお前の目の届かない範囲より遠くへは行こうとしない。何らかの要因で遠くへ行ってしまっても、お前の下に戻ろうとする』
『もし短時間での合流が難しいほど離れてしまったら、こちらの方で勝手に回収するかもしれん』
『こいつらだけを山の方へ向かわせて、自分一人だけは宇宙船の方に行くなんてことはできないということだ』

「………」

今少し思いついたことについても、その道を塞がれた。
主催陣営はどうも、どうしてもギニューを孫悟空の肉体から引き離したいようだった。

『こいつらは一先ず、山の方での戦いが終わるまではお前に貸し出す』
『その後に返してもらうかどうかは、戦いの結果を見てから状況次第で判断する』

『それと、こいつらは戦いの過程の中で死なせても構わない』
『その場合、死体だけでこちらで回収させてもらう』
『ようは、こいつらは我々にとっても捨て駒みたいな者達だということだ』

『ちなみに、こいつらが所有する道具は殺し合いの正規の参加者には使えないようになっている』
『使おうとした場合、壊れるようにできている』
『それは、お前が使おうとした場合でも同じだ』


『他にこいつらについて教えておくこととしては…そうだな、肉体側の身元について少し教えておこう』

ハワードはそう言うと一人ずつ指差しながら話す。

161何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:33:58 ID:mP0VA4Ag0
『そいつ…ビルドになっている方の肉体は葛城忍という名だ』
『こいつは、さっきお前に狙ってもらいたいと言った桐生戦兎の父親だ』
『そしてそいつ…スカルの方の肉体の名は鳴海荘吉』
『こいつは、今から山を登って病院の4人組と合流するであろう2人の内1人、雨宮蓮の肉体、左翔太郎の師だ』
『これらの情報を活用するかどうかは任せよう』

「…なるほど、そのための人選というわけか」

ハワードら主催陣営が何故今回戦闘の助っ人を送るという形をとってきたのか、少しだけ理解できた。
ようは、精神攻撃を仕掛けろと言ってきているのだ。
前者の精神側の直接の父親の方はともかく、後者の肉体側の師というのはその情報が使えるかどうか微妙に疑問がある。
だがとりあえずは、どちらもそのつもりで送り出したのだろう。



『次は、お前に戦ってもらいたい者達について、もう少し情報を与えてやろう』

『まずは一番の標的、桐生戦兎について。そいつは今、こんな姿をしている』

ハワードは映像越しに写真を一枚見せる。
その写真に写っているのは、今の桐生戦兎の身体、佐藤太郎の姿だ。

「……バカみたいな見た目の奴だな。本当にこいつに首輪解除ができるのか?」

佐藤太郎の写真を見て、ギニューはそんな印象を抱く。
こうは言っても、この殺し合いで見た目は中身の指標にならないことはギニューも理解しているが。
これはただ適当に言ってみただけだ。

『こいつは、お前が島の中央で戦ったあのマゼンタ色の相手…ディケイドと同じ、いや、その上位互換の道具を持っている』
「何?」
『本来の使用者の肉体ではないため、その力の真価を発揮できる訳ではないが、まあ十分に気を付けることだ』
『あの道具の本来の使用者の肉体は、同じくお前が中央で戦ったあの男の肉体だからな』
「……その道具を使いたかったら、奴の肉体を奪えと言いたいのか?」
『さあ、どうだろうな』

桐生戦兎の話だったのに、それが少し脱線した感じがある。
そいつが持つアイテムが前に見たものの上位互換だとは言うが、それがどう上位なのかについては教えてもらえなかった。
そこまではサービスできないということだろうか。
まあ、前に見た時のは様々な姿に変えられるものであったため、その変えられる姿の種類が多いのかもしれない。
その説明に時間がかかるから詳しくは教えないのか、なんてことも推測できる。

『ちなみにこいつは、さっきそいつが変身していたラビットタンクとか言っていた姿に主に変身するだろう』

ハワードはついでばかりに、先ほどビルドに変身していた祈手の方を指差してそう言った。


『他の奴らについても、可能な分だけ情報を与えてやろう』
『まずは、お前が森で会ったこいつについてだ』

ハワードが次に見せたのは、この殺し合いにおける杉元佐一の肉体、藤原妹紅の写真だ。

『実はこいつの今の肉体は本来不老不死の存在でな』
「何だって!?」
『今はその不死は制限で不完全になっているが、この殺し合いにおいてもあと一回までなら死亡しても復活できる』

不老不死は本来、フリーザが欲しがっていたもの。
まさかあの時会った者が実はそうであったとは流石に想像していなかった。
それを聞くとどうして不老不死になったのか、プロフィールに書いてあるのだろうか、そんなことも気になってくる。
現在はその不死は完全ではないらしいが、一回なら死を無効にできるとなると、殺し合いにおける有用性まで出てくる。
これを聞いて、孫悟空以外でも手に入れる価値のある肉体かもしれないなんて考えも浮かんでくる。


『後伝えても問題無しとされているのは…エボルトという者についてだな』

ハワードは次に、桑山千雪の写真を見せる。

『こいつは山の東側から向かって来るだろう者の一人だ』
『おそらく、こいつがお前が襲撃することになるだろうグループの中で、最も危険だと思われる』
『……実はこいつはな、今は地球人の姿をしているが、本来は様々な星を滅ぼしてきた地球外生命体だ。「星喰い」等と呼ばれることもある。まるで、このフリーザのようだな』
「何だと?……だが俺は、エボルトなんて名前を聞いた覚えはないぞ?」
『それは、全く別の宇宙の存在だからな』

ギニューとしては、全く別の宇宙の者とは言え、敬愛する宇宙の帝王フリーザ様の許可無くそんなことをしている奴がいることに少し腹立ちを覚える。
そんな情報をよりによってフリーザの肉声から聞くことになったことについても、だ。

162何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:37:05 ID:mP0VA4Ag0
『エボルトは今はまだ大人しくして対主催の集団に属しているが、はっきり言ってこいつの思想はかなり危険だ』
『目的のためなら手段を選ばないタイプだ』
『それと、こいつは先ほども言った桐生戦兎とは元からの知り合い…というよりは、敵対していた存在だ』
『けれども、おそらくここにおいては出会ったら一時的に手を結ぶだろう』
『桐生戦兎の有用性はこいつも理解している。桐生戦兎を狙う時はこいつの動向にも十分注意しろ』

『あとこいつは、主にこんな姿に変わって戦う』

ハワードはブラッドスタークの写真も見せる。

『一先ず、伝えられるのはここまでだな』

ハワードはそこで話を打ち切った。

「……何か中途半端だな」

ギニューはそう感じた。
とりあえず、エボルトは危ない奴らしいことは分かった。
標的の桐生戦兎を狙えば、それを阻止するための手段を選ばない可能性があることも何となく理解した。
変身することやその変身後の姿もとりあえず教えてもらった。
だが、どういったことができるとまでは知らされなかった。

『すまないが、流石にこれ以上はいくらジョーカー役でも優遇し過ぎだろうという判断が下されている』
『他にも、渡さなければならないものもあるからな』

再びもやもやした気持ちが出てくるが、今は我慢するしかないようだった。
自分がぶつかることになるであろう者達の戦力については、これ以上は実際に見て確かめるしかないようだった。



「で、他に渡すものってのは何なんだ?」

『そう急かすな。おい、アレを渡してやれ』

ギニューが聞くとハワードはそう答える。
彼は、ギニューの後ろの方にいる2人の祈手に向けて話しかけた。

現在、祈手の2人はどちらも仮面ライダーへの変身を解き、元の顔を隠した仮面の姿に戻っている。
その状態でハワードが指示を出すと、片方の祈手が動く。
その祈手は、またまたどこからともなく新たな物品を一つ取り出した。

「…………また食い物かよ」

それは、一皿の料理だった。
料理名は『岩塩焼きガニ』だ。

『その焼き蟹には、「ガンバリガニ」という特殊な蟹を使用している。この蟹には、大きな疲労回復効果がある』
『それを食べて体力回復するがいい』
『こうしたものは、今回だけ特別で次は無いからな』
「お、おう…」

ハワードのその言葉に続くように、料理を持った祈手は押し付けるようにそれをギニューに渡す。
受け取ったギニューの表情はどこか渋かった。

『ちなみにこの蟹は、おそらく殻ごと食さなければ効果が十分に発揮できないかもしれん。最後までしっかり食べるように』
『その皿が、綺麗な白になるまでな』
「………」

渋みがさらに濃くなった。


『一先ずはこれで、今できる分だけのものは全て渡せた』
『あと他に言うことがあるとすれば…いざという時はボディチェンジの使用を躊躇うな。孫悟空の肉体を奪う時期が後になるとか、そんな余計なことは考えずに生き延びることを考えろ』
『それと分かっているとは思うが、喋れない肉体とのチェンジも要注意だな。例えば、お前が森で会った「ピカチュウ」とかな』
『……そういえば、前に孫悟空の肉体については現在の中身での成長を観察したいから離れてもらいたい旨のことを伝えたが、向こうの方から近付いて来る分にはそれは構わない』
『もしもそういった時が来たら、お前のやりたいようにやるが良い』

『それでは、健闘を祈る』
『ブチッ』
「あっ、おい!」

そこまで言うと、ハワードは一方的に映像を切った。
ギニューは、背後に2人の祈手を立たせたまま、まるでおいてけぼりにされたかのように呆然と突っ立っていた。



(……全く、まさかこんなことになるとはな)

今回起きた出来事はギニューにとっても予想外のことばかりだった。
やはり、戦力として主催側の部下2人が送られてきたことが主にそうだろう。

163何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:40:19 ID:mP0VA4Ag0
(あいつら本当に何を考えているんだ?)

今回の事で主催陣営の目的がさらに分からなくなった。
黒幕らしい者は亀でカメラだの殺し合いの運営なんてできそうにない存在を名乗る。
自分をジョーカー役に指名したらしいハワードは自分にわざわざ危険な場所へと無理に行かせようとする。
どうしてもそっちの方へ行かせたいなら何かよこせと文句を言ってみれば、一目見れば自分の内通が他の者達にも分かるようなものをよこしてくる。
自分に襲撃してほしい参加者達の情報は全員分ではなく、貰えた情報も何か中途半端。
このままでやる気を出せと言われても、正直ちょっと困る。


(ハワード……奴らの中ではそこまで高い地位にいるわけじゃないのか?フリーザ様のお身体なのに?)

ギニューはそんなことについても疑問に感じる。
ハワードは今回のことを他の者に相談すると言っていたことから、そこまで強い決定権を持っている訳ではない可能性が出てくる。
そして、こちらに他参加者の情報を与える前に、「可能な分だけ」といった前置きを付けていた。
まるで、情報を与えるのに誰かから許可を貰う必要があったかのような口振りだった。

暴力が強ければ、ある程度の無茶な意見でも強引に通すことはできるだろう。
例えすぐに使いこなすのが難しくとも、フリーザ程の力のある肉体ならばそれは十分可能だとギニューは思う。
けれども、ハワードはフリーザの肉体をそのように使っている様子は無い。
彼はあくまで主催陣営においては他の誰かを自分より上の立場に置いているようだった。
だがフリーザの肉体を従えるには、それよりも強い肉体でなければならないだろう。
……それが亀でカメラだと名乗る奴だと思うと、余計に混乱する気持ちが出てくる。
フリーザの父親のコルド大王等でないと不可能だとは思うが、それは亀にもカメラにも該当しない。
一度はフリーザに勝利した孫悟空は、肉体が参加者側になっている。
本当に何故、フリーザの肉体でありながらハワードがあんな感じになっているのか、全く理解できなかった。
何かもう、本当に滅茶苦茶って感じだ。


「あー………じゃあ、お前ら、外でお前らのできることを軽く見せてくれ。俺はそれを見ながらこれを食う」
((こくっ))


ギニューはとりあえずとして、祈手達にそう言ってみた。
彼らはその指示に従い、小さくギニューに向かって頷いた後、まずは食堂の中から外に出る。
『SKULL!』『Are you ready?』
再びそれぞれの仮面ライダーの姿に変身する。
『カチャ』『ス…』
そして互いの武器、スカルマグナムやドリルクラッシャー等を構え、それによる攻撃を近くの適当な建物等に向けて放つ。
そうすることで、どんな攻撃ができるのか等を見せている感じだった。


ギニューもまた外に出る。
彼は立ちながら祈手2人の力量を観察し確かめる。
その手には皿が持たされたままだ。
そのまま、半分死んだような目をしながら、皿の上の蟹を食べ始めようとする。


(オレ、さっきから何か食ってばっかだな…)

ギニューはぼんやりとそんなことを思う。
この網走監獄内においても、宇宙船での戦いの前…今の身体へのチェンジ前にプリンアラモード(ほぼ残骸)を食べた。(スタミナ薬はノーカン)
宇宙船の戦いにおいては、杖を振ったら出てきた刀の切っ先を食べた。
今の身体になってここに戻ってきてからも、モノモノマシーンから出てきたチョコレートケーキ、通常支給品の弁当も食べた。

(……正直、少しきついか…?)

前の身体の時に食べたものは当然今の胃袋には無い。
しかし、これもまた当然のことではあれど、この身体の前の持ち主が食べたものは今の胃袋に残っている。
その前の持ち主が何かを食べていたためか、腹の容量は最初からある程度埋まっていた。
弁当を食べていた時はまさかまた食べ物を渡されるとは思ってなかった。
弁当を食べた時点でも胃袋の容量はけっこう埋まっていた。
渡された蟹は、残りの容量で十分なのか、ちょっと怪しくなってきた。

この蟹を食すことに対する問題は他にもある。
さっきハワードが言っていたように、固い殻も食べなければ効果が無いらしいことだ。
本来の特戦隊だった頃の紫の肉体のギニューであればその問題はあまりなかっただろうが、今はこのままでは食べるのは難しい。
ただ一応、今の肉体でもこれを食す方法はある。
ゲルトルート・バルクホルンの怪力魔法で、顎の筋力を強化して噛み砕いて食べることだ。

と言うかもうそれしかない。
ギニューは魔法を軽めに発動しながら、バルクホルンの肉体から犬耳を生やしながら蟹を手で持って口に運ぶ。
それを煎餅のようにバリボリと細かく噛み砕き、喉の奥の方へと飲み込む。
特に苦戦したように感じるのは右のハサミ、このハサミは左のものよりも大きいからだ。

164何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:43:33 ID:mP0VA4Ag0
それと、蟹の横には岩塩の欠片も添えられている。
これも食べるべきかは少し迷ったが、念のため口に運んで噛み砕いておく。
塩そのものであるため、口の中はかなり塩辛くなり表情もかなり苦いものになる。
それを解消するためデイパックの中から水を取り出し、これも飲んで口の中を濯いでおく。

そしてギニューはやがて、蟹を最後まで口の中に入れる。
正直、甘いものの方が比較的好みなギニューには最初から最後まで塩味たっぷりなこともこの焼きガニを食べることを少し苦しく感じさせた。
疲労回復効果自体はちゃんとあるようで、疲労感は少しだけ和らぐ。
けれどもその回復量は、微々たるもののような感じがした。

(あとはこいつを…)

蟹の最後の足の部分まで噛み砕き飲み込んだ後、ギニューは皿の上に最後に残ったものを眺める。
そこには、蟹の下に敷かれていた、しそっぽい謎の葉っぱが残っていた。
これも一応食っておこうと、ギニューはその葉を剥がす。










(……ん?)


葉を剥がした後、ギニューはその下の皿の白い部分に何かが小さく書いてあることに気付いた。


『これを読み終えたらすぐに皿を割れ』
『これをアンブラハンズ達含め誰にも見せるな』
『これについて何も喋ろうともするな』

『エボルトから通信機器となる「スマホ」を奪え』
『それで私だけと秘密裏に繋がろう』

『"H"より』



「…………………おっと手が滑ったーーッ!!」


皿に書いてあることを読み終えた直後、ギニューはそう言いながら皿を地面に叩きつけて粉々に割った。

165何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:45:01 ID:mP0VA4Ag0



「おーいお前ら、もういいぞー」

皿を割った後、ギニューはさっさと葉っぱを口に入れて飲み込み、続けて祈手達に声をかける。
声を聞いた彼らはその動きを止めてギニューに静かに向き直る。
彼らはギニューが皿を割ったことについて特に気にしている様子は無い。
ギニューはそんな彼らに近付き、ついでに不自然さが無いように割った皿を更に砕くために踏みつける。


(ハワード………あいつ、やはりそこまで主催側の中での権限は強くないのか?…そして、裏切ろうとしているのか?)

皿に書かれてあったメッセージからギニューはそんなことを考える。
"H"はおそらくハワードのことだ。
こんな風に他の主催陣営に隠すようにメッセージを送ってきたということは、他の者達の思惑から外れる何かをしようとしていると考えられる。
皿が白くなるまで食べろと言っていたのも、これを見せるためだったのだろう。
けれども、それが何なのかは予測できない。
ただ今回自分に指示されたことが色々と不可解なことが多いことからも、このメッセージの真意を知りたいという風にも感じる。
もしかしたら、今回の指示は本当はハワードにとっても色々と不本意なことが多かったのかもしれない。
それが同時に、ハワードの権限がそこまで強くないことも意味することになる。


(それにエボルトとやらが持つという通信機器…ようはあちら側と通信できるということ…何故そいつがそんなものを持っている?)

気になるのはその点についてもだ。
他の主催側と秘密裏に繋がるということから、エボルトがそれを持っているのは自分のようにジョーカーに指名されたからだという可能性は低くなる。
なのにそんなものを持っている理由…考えられるのは、ハワード以外にも他の主催側から外れることをしようとしている者がいる可能性だ。
その何者かが何らかの方法でエボルトにスマホを渡した。
ハワードはおそらくそれに気付いた。
しかしその者の考えは、主催全体だけでなくハワードのやりたいことからも外れている。
だからこのような形で、奪えというメッセージを送ってきたのだろうか。

(何にせよ、まずは動いてみないと始まらんか)

不可解なことは増えたが、とりあえずは動かなければ話は始まらない。
本当にスマホとやらをエボルトが持っているのか、仮にそれを奪えたとして本当にハワードとより秘密裏に繋がってみるべきなのか、それらの行動が自分の目的の達成に繋がるのかは分からない。
けれども一先ずは、最初に指示された通り山の西側中腹辺りに行ってみるべきだろう。
そうしなければ、首輪を爆破される危険性もまだある。





「さて…それじゃあいよいよ出発してみるわけだが、その前に一つ、お前らとやっておきたいことがある」

変身を解除し、最初の仮面と黒ずくめの姿に戻った2人の祈手に向かってギニューはそう言う。

「これをこう、こうしてだな…」

ギニューは言葉と体の動きで表現しながら、何かをするように指示する。
それに対し祈手達は小さく頷いて理解したことを示す。

「よし…それじゃあ行くぞ!」



「ギニュー特戦隊、出動!!!」
『『『バッ!』』』

ギニューは自分と一緒に、祈手の2人にも即興で考案したファイティングポーズをとらせた。


「………やはり3人は少ないし、本来のメンバーではないからスーパーファイティングポーズは上手くきまらないか…」

自分からやらせてみた後で、ギニューはポツリとそう呟く。
そんな風に感じるのはやる前からでも分かっていた。
でも、変則的な形であれどせっかく複数人で行動することになったのだから、少しでも自分らしさを取り戻すためにやっておきたかった。


「……とにかく!行くぞお前ら!ファイトッ!!オーッ!!」

そう叫んでギニューは、指示された次の目的地に向かって3人で移動し始めた。

時刻は丁度、先ほどの放送から2時間経つ、20時となっていた。

166何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:47:24 ID:mP0VA4Ag0
【B-1 網走監獄/夜中】

【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(特大)、腹部に打撲、背中にダメージ(大)、魔力消費(大)、イライラ(大)
[装備]:フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ、圧裂弾(1/1、予備弾×1)@仮面ライダーアマゾンズ、虹@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
1:とりあえず、主催が送ってきた祈手(アンブラハンズ)とやらの2人を従えて行動してみる。
2:一先ずは指示された通りC-2の山の中腹の方に向かってみる。
3:もし本当に対主催の集団とやらに遭遇したら、形だけでも桐生戦兎とやらを狙ってみる。
4:エボルトとやらが持っているらしいスマホというものを奪ってみる。
5:ハワードは主催側を裏切るつもりなのか?真意を知るために、秘密裏に繋がるという案に乗ってみたい。
6:孫悟空の体はいずれ奪う。オレが手に入れるまで死ぬなよしんのすけ。
7:あの時の女(杉元)の肉体が不老不死であることが少し気になる。
8:ヒノカミ神楽とかはもう少しコツを掴めば使えそうな気がする。
9:炎を操る女(杉元)、エネルギー波を放つ女(いろは)、二刀流の女(ジューダス)、ハワードが注意したエボルトとやらにも警戒しておく。
10:ここにはロクでもない女しかいないのかと思っていたが、さっきの絵美理とかいう頭のおかしいうるさい女と比べたら、他は全然マシなやつらだったかもしれん。
11:さっきの奴(絵美理)が気にしていたヒイラギにも警戒。何らかの力を隠し持っているのか?
12:エボルトとやら…フリーザ様関係無しに星を滅ぼし回っているらしいことが本当なら何か少しムカつくな。
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジによりバルクホルンの体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽は切っ掛けがあればまた使えるかもしれませんが、実際に可能かどうかは後続の書き手にお任せします。透き通る世界が見れるかも同様です。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
※杖@なんか小さくてかわいいやつを使いました。



[特殊状態表]


【ボンドルドの祈手@メイドインアビス】
[身体]:葛城忍@仮面ライダービルド
[状態]:健康
[装備]:ビルドドライバー(プロトタイプ)@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:ラビットフルボトル&タンクフルボトル@仮面ライダービルド、忍者フルボトル&コミックフルボトル@仮面ライダービルド
[思考・状況]基本方針:ボンドルドに従う
1:今はギニューに従う
2:何も喋らない

【ボンドルドの祈手@メイドインアビス】
[身体]:鳴海荘吉@仮面ライダーW
[状態]:健康
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:スカルメモリ@仮面ライダーW
[思考・状況]基本方針:ボンドルドに従う
1:今はギニューに従う
2:何も喋らない


[祈手2人の備考]
※ボンドルドの祈手達が所持しているアイテムは全て、所持している本人以外が使用しようとすると壊れるようになっています。
※祈手達が死亡した場合、残された肉体は所持しているものも含めて全て主催本部に転送されます。
※祈手達は、基本的にギニューから遠く離れてもその側に戻ろうとします。
※ギニューと離れすぎて短い時間で合流するのが難しいと判断された場合も、祈手達は主催本部に転送されます。
※2人の祈手には参加者達のものと同じ首輪が装着されています。
※祈手の首輪は、モノモノマシーンで使用することはできません。そもそも死体が転送される関係上、首輪の回収自体が難しいものと思われます。

167何ガルガルしてるの!言うこと聞かないとおやつ抜きだよ! ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:49:46 ID:mP0VA4Ag0
[登場アイテム紹介]

「モノモノマシーンからの景品」

【いぬチョコレート@キラキラ☆プリキュアアラモード】
アニマルスイーツと呼ばれる動物型にデコレーションされたスイーツの一種。
剣城あきら/キュアショコラの病気の妹のために作られたのが最初。
最初の一品はキュアショコラ用の変身アイテムに変化した。
ここにあるのはそれとはまた別に作られたもの。
公式サイトにレシピが存在する。


「祈手達専用アイテム」

【ビルドドライバー(プロトタイプ)@仮面ライダービルド】
葛城忍用にチューニングされたビルドドライバー。
通常のビルドドライバーと同じく、ネビュラガス注入の人体実験を受け、ハザードレベルが3.0を超えないと使用できない。
このビルドドライバーで変身したビルドは、通常のものよりパンチ力やキック力等が向上している。
また、ベストマッチ判別機能が存在しない。

【ラビットフルボトル&タンクフルボトル@仮面ライダービルド】
兎の成分が入ったフルボトルと戦車の成分が入ったフルボトル。
それぞれベストマッチの関係である。
ビルドドライバーにセットして使用することで、仮面ライダービルド ラビットタンクフォームへと変身できるようになる。
それぞれベストマッチ関係に無いボトルとの使用でトライアルフォームと呼ばれる形態への変身も可能。

【忍者フルボトル&コミックフルボトル@仮面ライダービルド】
忍者の成分が入ったフルボトルと漫画の成分が入ったフルボトル。
それぞれベストマッチの関係である。
ビルドドライバーにセットして使用することで、仮面ライダービルド ニンニンコミックフォームへと変身できるようになる。
また、そのフォームに変身することで、4コマ忍法刀という武器をビルドドライバーから出すこともできる。
それぞれベストマッチ関係に無いボトルとの使用でトライアルフォームと呼ばれる形態への変身も可能。

【スカルメモリ@仮面ライダーW】
「骸骨の記憶」を内包したガイアメモリ。
ロストドライバーに装填することで仮面ライダースカルへの変身を可能とする。
スカルには専用武器としてスカルマグナムというものもある。


「おまけ」

【岩塩焼きガニ@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド】
ガンバリガニという蟹と岩塩を使った料理。
ガンバリガニ以外でも蟹と岩塩を使えばこの料理になる。
蟹を食べ慣れた猟師が一番おいしいと言うのがこのシンプルな食べ方で、ホクホクの身がたまらないらしい。
ゲーム中では食べるとハートとがんばりゲージを回復する。

168Ψ終章への前フリをしよう③ ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:51:58 ID:mP0VA4Ag0
佐倉双葉がエボルトにスマホを送ったこと、それを私が知ったのは偶然ではなかった。


ボンドルド…奴が、彼女の動きが少し怪しいと私に教えた。
それだけでなく、殺し合いの舞台である島に物資を送るための転送装置がある部屋で、この後何かしようとしているかもしれないとも言った。
その根拠を聞いても、はぐらかされてはっきりとした理由は聞けなかった。

私は、その言葉が気になってしまった。
戯言だと聞き流すにしても、佐倉双葉は確かに常に情緒が不安定だったような感じがあり、何かしでかす可能性も考えられる感じがあった。
そのため私は、彼女が向かっているらしい部屋に先回りし、そこに小型カメラを隠して仕掛けてみた。
そしてそれを通じて、別の場所からその部屋の様子を観察してみた。

やがて確かに、その部屋に佐倉双葉は現れた。
その時彼女は、この殺し合い本部の備品にあった予備のスマートフォンを勝手に持ち出していた。
そしてそれを、これまた勝手に転送装置でエボルトのデイパックへと送った。

装置を使ったことや送り先の記録は、彼女は自分のハッキング能力を活かして機械から消去した。
けれども、私は送る瞬間を目撃した。


だが私はそれを他の者達には報告しなかった。
私に情報を教えたボンドルドにもだ。

ボンドルド自身は、おそらく確信があって私に情報を与えた。
奴はまるで、未来でも見ているかのようだった。
でなければ、私があんなタイミング良く目撃することはできなかった。
けれども、私が双葉のことについて何も言わなくても、奴は特にそれ以上追及することはなかった。

ボンドルドはおそらく何かを企んでいる。
私がこれを知るように、誘導したかのような感じがある。
それが何なのかについては分からない。
しかしそれならば、可能な分だけその企みを利用してやるまでだ。


はっきり言って、私が見たかったものの内一つはこの殺し合いではもう見ることができなくなった。
あのメタモンの成長には期待していたのだが、彼はもう死亡してしまった。
終わってしまったことをもうこれ以上気に掛けるべきではない。

だから私がここから狙うべきものは、自分一人だけが全てを得ることだ。
そのために有用かもしれないのは、ギニューの能力だ。
奴の能力を利用できれば、あの怪物をどうにかできる可能性があるかもしれない。

……やらなければならないことだったとは言え、さっきのやり取りではギニューに印象をかなり悪く持たれたかもしれん。
スマホを奪えと言っても、それも上手くいくかどうかはほとんど賭けだ。
私の計画が成功する確率はかなり低いだろう。
別の立ち回り方を考える必要も出てくるだろう。

今はただ、あの舞台にいる者達の成り行きを見守るしかない。

169Ψ終章への前フリをしよう③ ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:54:04 ID:mP0VA4Ag0
◆◆◆


佐倉双葉は今、かなり焦っていた。

ヘルメットに仕込まれた通信機器を通じて、斉木空助からの連絡が来た。
その内容をまとめれば、以下の通りだ。

『ギニューが山の中腹辺りで対主催の集団を襲撃するよう指示された』
『主に桐生戦兎を狙えとも言われた』
『その集団の中に君が気に掛けている例の"彼"も合流しそう、ギニューと戦うことになりそう』
『ギニューには助っ人としてボンドルドの祈手が2人と、疲労回復のためのアイテムが送られた』
『祈手2人は、戦兎と"彼"への精神攻撃ができるかもしれない肉体のものがが送られた』

これは、"彼"の死を避けたい双葉にとってはマズいことだった。
いくらギニューが主催のジョーカー役になったとは言え、こんなバトロワゲームとして問題のありそうなことを他の奴らがしてくるとは思ってなかった。

だから今、双葉はエボルトにメッセージを一つ送ることを考えている。
エボルトには問題があることを聞かされ、自分のしたことながらこの手を使うことに少し複雑な気持ちも出てきている。
けれども、少しでも"彼"を危機から救うためにできることをしたかった。

空助にも念のため相談してみたが、『ある程度なら教えても問題ないかもね』みたいな回答が返ってきた。

『3人組の敵が近付いてきている』
『桐生戦兎が狙われている』

『敵の内1人はギニューである』
『1人の肉体は戦兎の父親である』
『1人はあんたの"相棒"の肉体と縁がある奴である』
『ギニュー以外の2人はこの殺し合いにおいて人間扱いされておらず、アイテム扱いされている』

こんな風に伝えろと言われた。

近付いてくる敵に主催の息がかかっていることについては、伝えないように言われた。
どうせ見ればその可能性に思い至るかもしれないこともそうだ。
だが、あらかじめ早めにギニューと主催の関係を教えてしまうと、エボルトはそこから何か悪だくみをする可能性があるかもしれないとも言われた。
少々無理のある誤魔化し方かもしれないが、とりあえずはこうするしかない。
祈手達が人間扱いされていないのも、ほとんど事実らしいため一応嘘は言ってない形ではあるらしい。

とにかく、双葉は連絡のためにそれができる場所へと移動しようとしていた。
場所に必要な条件は、誰の目も無いところだ。

確実にそうだと言える所…それは、トイレの個室の中だ。
以前の連絡の時も双葉はそうした。
自分用の個室は今のところ無い。

彼女は小走り気味でトイレへと向かっていた。


「うわっ!?」
「おっと」

トイレに辿り着く直前で、双葉はあるものにぶつかった。

「おや?どうしましたかフタバ。そんなに急いで」
「ボ、ボンドルド…」

双葉はここで絶対に会いたくなかった者の一人に出くわしてしまった。
仮面で顔を隠した黒ずくめの人物、ボンドルドだ。


「い、いや…その……は、早くそこで用を済ませたいからさ。も、漏れそうなんだよ。お、女の子にこれ以上こんな話題喋らせてほしくないから、早く行かせてくんない?」
「おや、前にも長めに入っていたことがありましたよね。そんなにお腹の調子が悪いのですか?」
「いいから!早く行かせろ!」

多少動揺しながらも答えてみれば、そこから更に会話に続けようとする。
そのことに対し若干キレながら返答し、急いでトイレの方に入ろうとする。

ボンドルドの横を通り抜け、双葉は共用トイレ内に入る。
『今さっきボンドルドが出てきたドア』を開けて。


「………?」

中に入りドアを閉めた後、双葉は何か小さな違和感を抱く。
しかしその違和感の正体には気付かない。
今彼女の目に映る光景は、何の変哲もない「女子トイレ」だ。
立ち小便用の便器は存在していない。

(とにかく、早く送らないと…)

ここで送っても、エボルトの方が気付かなければ意味は無い。
けれども、情報を得たからにはやるしかない。
双葉はトイレ内の個室用のドアを開け、その中へと入っていった。

170Ψ終章への前フリをしよう③ ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:55:19 ID:mP0VA4Ag0







「とうおるるるるるるるん」
「とうおるるるるるるるん」







「はい、はい。ええ…そうですね」
「やはり、彼女はそのつもりのようです」
「………いえ、まだそっとしておきましょう」
「表立って対立するのはまだ早いと思います」

「『彼』については……もしいざという時が来たら『クロノス』に動いてもらいましょう」
「彼ならば、実質的な殺害をすることができるかもしれないですからね」

「……ええ、自分でなるのは、止しておきましょう」
「激状態が現れた今、ライダーになる方がもしかしたら危険でしょうからね」
「島に向かった彼らとは、もう再会することはないでしょう」
「それに『私』にはライダーになる必要がありませんからね」
「そのことは分かっているでしょう」
「………はい、そうですね」


「ええ、もうしばらくは様子見しておきましょう」

「それでは、『輝く未来』のために」





ボンドルドは『充電の切れている』携帯電話を耳元から離し、トイレの前から立ち去っていった。

171 ◆5IjCIYVjCc:2024/03/31(日) 17:56:36 ID:mP0VA4Ag0
投下終了です。
また、細かいことで別に必要性は無いかもしれませんが、念のため本ロワについて以下の決まり事を入れておきます。
・ボンドルドの肉体側の正体は、企画主以外は決められないものとします。

172 ◆ytUSxp038U:2024/03/31(日) 18:59:42 ID:V63Jf.5s0
野原しんのすけ、柊ナナ、燃堂力、桐生戦兎、杉元佐一、我妻善逸、大崎甜花、雨宮蓮、エボルト、ギニュー、ボンドルドの祈手(葛城忍)、ボンドルドの祈手(鳴海荘吉)、アルフォンス・エルリック、大首領JUDOを予約し先に延長もしておきます

173 ◆ytUSxp038U:2024/04/05(金) 23:42:30 ID:GHvKvJ1k0
すみません、予約からアルフォンス・エルリックを外します

174名無しさん:2024/04/06(土) 13:27:05 ID:4a1wzV2Q0
了解しました!

175 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:12:38 ID:ZXaO4USg0
投下します

176神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:13:46 ID:ZXaO4USg0
知らないのに知っている光景。
知らないのに知っている人間。
自分のものじゃないのに、自分のものだと分かる記憶。
自分であって自分じゃない『彼』を形作る欠片(ピース)。

矛盾した現象はこれが初めてじゃない。
今見ているのは夢、終わってしまった出来事。
『彼』の過去に何があったかを、自分は特等席で知る事になる。

『…なんで助けなきゃいけないんだよおっ!!』

叫ぶ声に籠められたのは何だろうか。
怒りはある、悲しみもある。
それに多分、ぶつけ所の分からない悔しさも宿っている。

『あいつにおやっさんが命張ってまで助ける価値があんのかよ!』

駄々をこねる子供のようだと、揶揄はできない。
自分にもハッキリ伝わって来るからだ。
どうしても納得できない、絶対に無理だという拒絶感が。

『……おまえなら呑めるはずだぜ、翔太郎』

だけど、『あの人』の声はこんな時でも自分の奥へスッと入って来て。
どうしてか、『あの人』の言葉は無視出来なくて。

『半人前のおまえの中で、俺が唯一尊敬しているところ……』

『それは弱い者に力を振りかざさず、むしろ手を差し伸べてやる…そんな性根だ』

『あの人』に認めて貰えた。
たった一つ、ちっぽけなものでも『彼』にとっては十分過ぎる。
気付けば涙は止まり、『あの人』の白い背中を追いかけて行った。

良い言葉だと思う。
でも今の自分には、それがどうしようもなく重かった。


――これは雨宮蓮が竈門家で目を覚ます少し前の出来事。

177神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:14:30 ID:ZXaO4USg0



果たしてこれを幸運と言って良いのか、ナナは暫し判断に悩んだ。

欲しい物を出す杖をへし折り、改めてデイパックの中身を確認し数分。
念の為しんのすけが持っていたデイパックも見せて貰ったが、傷の回復に使える道具は無し。
ただギニューが持っていた方からは一つだけ見付かった。
名は『ワケアリン』。
おかしな名前の栄養ドリンクだが、これは心の怪盗団が認知の世界で使う回復道具の一つ。

説明書によると体力をそれなりに回復させるらしい、まるでゲーム内のアイテムである。
読み終わったナナは通販のインチキ商品を見る顔となった。
フリーズロッドのような如何にもな見た目と違い、これはぱっと見薬局に置いてそうなドリンク。
本当にこんなものが傷の治療に役立つのか。
頭の痛い事に他の使えそうな道具は見付からず、回復ポッドは使用不可能。
放って置けば燃堂の状態が悪化するのは確実。
渋い成果に零したくなる文句を飲み込み、何も見つからないよりはマシと自分に言い聞かせる。

「燃堂さん、口を開けてください」
「お…?相棒の弟、俺っちこれでも虫歯になったことは一回も…」
「そういうの今は良いですから!ほら、飲んで!」

顔色が悪くともすっとぼけた発言は変わらない。
燃堂の馬鹿っぷりには慣れてしまったが、この状況で呑気に付き合ってられない。
強引にワケアリンを飲ませた。

178神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:15:21 ID:ZXaO4USg0
甘酸っぱさが口内に広がり、喉を通って腹に落ちる。
味はともかく肝心の効果はどうかというと、説明書の記載は嘘では無かった。

「お…?何かさっきより痛くねぇ気がすんぞ?」

銃弾は皮膚を貫き骨を砕いた。
ナナを安心させようと笑みを見せたとはいえ、流石に無視は出来ない激痛。
応急処置程度では消えない痛みが幾分か和らいだように感じる。
気のせいではなく、ワケアリンの効果で出血が止まったのだ。

これで一安心、といきたい所だがそう簡単に気は抜けない。
あくまで失血死を回避どうにか出来ただけで、失った体力までは戻っていないのだから。
肩の痛みも完全には消えておらず、それでも燃堂の死を一先ず遠ざける事には成功。
ワケアリンには回復と引き換えにデメリットも存在するが、それも承知で飲ませた。
前線に立って戦う者ならともかく、自分と同じく戦闘要員ではない燃堂ならさして問題にはならない筈。

「完治した訳じゃないですから、あんまり激しく動かさないでくださいね?さて、次はしんのすけ君の手当てをしましょう」

釘を刺しつつ消毒液やガーゼを取り出す。
肉体の化け物染みた体力を考えれば、人間以上の自然回復力を持つのだろう。
だが現状、しんのすけは自分達三人の中で唯一直接戦闘が可能な少年。
戦兎達との合流前にまたしてもギニューのような輩に襲われないとも限らない。
最悪の事態に備え、ほんの少しでもやれる事はやっておきたい。

「いや〜ん、ナナちゃんったら白衣の便器〜♪」
「……あ、白衣の天使って言いたいんですか?」
「そうとも言う〜」
「そうとしか言わないでしょ…」

相変わらずマイペースな奴だと呆れつつ処置を施す。
ギニューに殴られた箇所や、チェンソーの刃が当たった足へ包帯を巻く。
ただの人間なら致命傷は確実の攻撃も、サイヤ人の体故に耐えられた。
幼稚園児に与えるには強力過ぎるだろうと内心呟き、


『よ、よぉー…。初めましてだな、みんな』


思考を断ち切るように、少女の声が宇宙船内へ響き渡った。

179神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:15:59 ID:ZXaO4USg0



(これは……どう捉えれば良いんだ……?)

佐倉双葉と名乗った少女の姿は、もうモニターに映っていない。
動揺を隠せていない声も聞こえず、放送が終われば必然と静寂が戻る。
おどおどした口調で告げられた内容に、ナナの頭は混乱状態。
一体何から考えて行けば良いのか、どのように解釈し受け止めれば良いのか。
分からないから余計に思考は複雑怪奇な迷路と化す。
このまま絡み合いショートを起こす前に、これはダメだと頭を振って強引に頭を冷やした。
一つずつ自身の脳へ溶け込ませていくしかあるまい。

私は「亀」で、今は「カメラ」。
参加者を最も困惑させる情報は間違いなく、主催陣営の『ボス』からの伝言。
何故急に自分から素性を明かす気になったのか。
余裕の顕れ、参加者を挑発する悪趣味な目的。
可能性が無いとは言い切れないが、それにしたって亀だのカメラだのと言われても意味が分からない。

他の参加者ならば困惑して終わり、しかしナナには思い当たる節があった。

(あの時、斉木が伝えようとしたのはこのことだったのか?)

数時間前の聖都大学附属病院で、斉木は自分が予知夢で見た光景をナナに伝えようとした。
全てを言い切る前に会話は打ち切られてしまい、辛うじて聞けたのは「かめ」という二文字のみ。
これだけでは何を見たのかサッパリだったが、今の放送がその答えなんじゃあないか。
亀、若しくはカメラ。
どちらも「かめ」が入り、斉木が口にした際のイントネーションとも合致する。
つまり斉木が予知夢で見たのは主催陣営のボス、言うなれば殺し合いの首謀者の正体。
成程、確かにボンドルドが介入してまで隠そうとするだけの情報だ。

180神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:16:43 ID:ZXaO4USg0
しかしそうなると、新しい疑問が一つ生まれる。

(隠す意味はあったのか?主催者自ら正体をこっちに教えたんだぞ?)

佐倉双葉の話が本当なら、主催陣営のボス自ら正体を明かした事になる。
わざわざ斉木の干渉を封じてまで伏せたかった情報を、こうもあっさりバラして何がしたいのか。
重要な情報だからこそボンドルドが会話を止めに来たと考えたのは、見当違いとでも言うのか。

(…………ちょっと待て。確か斉木が「かめ」で始まるものを見たのは予知夢だった筈)

斉木本人からも説明があったが、予知夢は夢という形で未来を見る超能力の一種。
どれ程の精度で未来を見れるのか正確な所は分からない。
だが斉木程の桁外れな能力者ならば、100%の確率で未来を見ると考えても何ら不思議はない。
斉木の予知夢が確実な未来だと仮定した場合、そう遠くない内に斉木の肉体となっているナナが「かめ」で始まる存在をこの目で見る事へ繋がる。
一体どのような状況かまでは知る由も無いが。
ともかく夢とはいえ斉木が能力で見たならナナ、或いは斉木本人が主催者の『ボス』と未来で接触を果たす。
ではもし、その決定付けられた未来を回避すべく行動に出たら?
ナナ単独では何をやっても未来は変えられない、しかし予知夢を見た本人であり超能力者の斉木が未来を変えるよう働きかけたとしたら?

(あのタイミングでボンドルドが出て来たのは……)

『ボス』の正体発覚を防ぐ為ではない。
『ボス』の元へ辿り着く未来へ、何かしらの干渉が起きるのを防ぐ為。
斉木が余計な事まで喋り、その影響で予知夢通りの未来から外れる事態を阻止したかった。

181神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:17:39 ID:ZXaO4USg0
(いや…だとしても、ボンドルドは何故そんな真似をする?)

『ボス』の姿を目にすると言っても、それがどんな状況かは不明。
ナナが最後の一人として勝ち残っただけではない、戦兎や杉元達と共に『ボス』を倒すべく主催者の本拠地へ乗り込んだかもしれないだろうに。
前者はまだしも後者はどう考えたって主催者が望む事態とは思えない。

疑問の解消と共に別の疑問が顔を出し、却って謎は深まるばかり。
加えて「かめ」の正体が『亀・カメラ』と仮定したものの、全く違う可能性とて否定は出来ない。
戦兎に聞こうと思っていた『仮面ライダー』かもしれず、斉木が見たのは『ボス』とは別の光景でないとも言い切れなかった。
真実が何にしろ、ナナだけではこれ以上考えても確証は得られない。
戦兎達と合流し意見を重ねれば、違った答えが見えて来るだろう。

「かめ」に関しては一旦打ち切る。
他にも頭の痛くなる情報は盛り沢山なのだから。

(燃堂の肉体になっていた空条承太郎が死んだ。また判断に困るな……)

しんのすけが東の街で出会った少年は、放送までの6時間を生き延びれなかった。
ここで問題になるのは承太郎の体が燃堂であること。
精神の方は殺し合いが始まってから常に行動を共にし、今だって健康では無いが死んでもいない。
斉木からも燃堂が死ねば何らかの良からぬ影響が出る可能性は聞いた。
故にこれまで燃堂を死から遠ざけようと立ち回ったが、肉体が失われた事で何が起きるかは予想が付かない。
問題無いのか、肉体だけでもアウトなのか。
少なくともすぐに悪影響…ナナの意識が悪の斉木楠雄に乗っ取られるだとかは無い。
不安は残るが、今まで通り燃堂を死なせないようにしつつ状況を見て行くしかあるまい。

その燃堂はと言えば、相も変わらず何を考えているのか分からない顔でモニターを見上げていた。
話しかけてまたもや頓珍漢な会話を展開されるのは、こちらの胃に優しくないので放置。

182神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:18:16 ID:ZXaO4USg0
(燃堂はともかく、こっちは……)
「ミチルちゃん……ゲンガーおにいさん……」

チラと見やるのは燃堂の隣で同じくモニターを見上げるしんのすけ。
力無く呟いた声は煙のように儚く消え、双眸からは静かに涙が流れ落ちる。

放送で名前が呼ばれ画像が表示された時、即座に彼らの死を受け入れられなかった。
かめがどうとか言っていた気もするが、呆然とするしんのすけの頭には入って来ず気が付けば放送は終了。
煉獄やシロ、戦国の世で友情を結んだ井尻又衛兵のように目の前で息絶えたのなら。
悲しみをストレートに表し、人目も憚らずに泣いただろう。
なれど今回は放送で業務的に脱落を発表されたのみ。
自分の目で最期を見たのでないからか、悲しみよりも困惑が先に来た。

そうして放送が終わり、静寂と共にじわじわと喪失感が傷口へ指を突っ込む。
ルブランで出会ってからずっと自分を気に掛けてくれたミチル。
口は少し悪いけど、仲間の事を心配していた素直じゃないゲンガー。
無事に再会し一緒に悪者をやっつける、そんな光景は現実にならなかった。
全部嘘だと叫べば楽だろうけど、既にしんのすけは自分達が殺し合いに巻き込まれたと理解している。
放送で名前を呼ばれた者達は例外なく死んだ者、そう分かってしまっているから。
だからミチルもゲンガーも、共にいた時間は短いけど承太郎とホイミンももういない。
ストンと胸の奥に落ちた事実へ、悲しみを溢れさせるしか出来なかった。

再会が叶わなかったのはシロを鬼に変えた男もだ。
どうしてあんな事をしたのか、もう一度ちゃんと聞きたかった。
怒りに任せて殴ってしまい、ごめんなさいを言いたかった。
もし出会いが違えば、煉獄やミチルのように大切な仲間となれたのだろうか。
それすらもう分からない。

183神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:19:12 ID:ZXaO4USg0
(犬飼ミチルが、か…)

ナナからすればミチルが死んだ事を悲しむ気は無い。
使える犬を失ったのは惜しいが結局は能力者、遅かれ早かれ殺すつもりだった相手。
馬鹿正直に内心を伝えて、しんのすけの不信感を煽る気は無いので黙っているが。
もしナナが遠くない未来の時間軸から参加していれば、また別の反応を見せただろうが所詮はただのIFに過ぎない。
ゲンガーの肉体だった鶴見川レンタロウについても同様。
クラスメイトとはいえ印象の薄い相手。
体だけだが能力者が一人減った、思ったのはその程度だ。

(まぁ死んだのは仕方ない。それより、戦兎が無事なのを喜ぶべきだな)

街へ向かったグループの一人、悲鳴嶼は死亡が伝えられた。
救出する筈のしのぶも脱落したようで、状況的にもDIOに殺された可能性が高い。
やはりDIOのいる街へ向かうならもっと人数を揃え、万全の態勢で挑むべきだったと思うが今更だ。
街での戦いがどのような結果で終わったのか、甜花は今もDIOの洗脳下に置かれたままか。
詳細は合流したら聞くとして、代え難い人材の戦兎が無事である為良しとする。

新たに指定された禁止エリアにより、聖都大学附属病院は完全に立ち入り不可能。
と言っても街へ向かった時間帯を考えるに、禁止エリアが機能する前には病院へ戻れただろう。
残したメモを確認し、戦兎達が宇宙船へ到着するのを大人しく待っていれば良い。
尤もそう呑気に構えてもいられない。
禁止エリアの位置や放送での佐倉双葉の話から察するに、網走監獄のモノモノマシーン目当てで集まる参加者は一定数いる。
DIOのような危険人物が網走監獄へ向かう途中、宇宙船にも立ち寄るなんて事も有り得なくはない。
戦兎達が少しでも早く来るのを待ちつつ、何かあれば即座に動けるよう備えもしておかなければ。

「なあ相棒の弟。あのメガネ女、さっきちょーそーの名前呼んでなかったか?」
「え?あ、はい。そうですね……しんのすけ君も一緒に聞いて欲しいんですけど…」

未だに殺し合いをまともに理解してない馬鹿の燃堂でも、異常な何かに巻き込まれたとは流石に気付いている。
放送で名前を呼ばれるのは死者という事もだ。
でなければ一回目の定時放送後、鳥束が本当に死んだかどうかを善逸に尋ねたりはしない。

184神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:19:57 ID:ZXaO4USg0
正直何も考えずただモニターを眺めてるだけかと思ったが、それくらいは気付くらしい。
殺し合い開始当初からずっと燃堂に振り回されただけに、ナナには驚きがあった。
それはともかく聞かれたのならば説明するしかない。
あれこれ長く説明してもどうせ分からないだろうから、簡潔に纏めて。
さっき戦った敵は自分と他者の体を入れ替える力を持ち、脹相は体を変えられてしまった。
急に態度がおかしくなったのはそのせい。
逃げて行った女は脹相の精神が入っていた体だけど、中身は自分達を襲ったギニューで間違いない。
といった内容を更に分かり易く噛み砕いて説明。
しんのすけはまだしも、何で高校生の燃堂にまでここまでしなければならないんだとの呆れは内心に留める。

「じゃあ、脹相おねえさんも……」

説明を理解した様子にナナは内心安堵するが、しんのすけは微塵も喜べない。
仲間の死をまたしても知らされた挙句、悪党に体を奪われたのだ。
殴られたり斬られたり痛かったけど、誰も死なずに済んだ。
安心した数時間前の自分を嘲笑うように、残酷な事実が棘となって突き刺さる。

「……」

一方で燃堂と言えば、再び無言でモニターを見つめるばかり。
悲しみか、怒りか、何を思っているのかは観察力に優れたナナでも読み取れない。
こいつは本当に分かっているのかと、ナナはこっそりため息を吐く。

もしここに善逸がいたら気付いたかもしれない。
今の燃堂は病院で鳥束の死を確認した時と同じ、どこか寂し気な顔だと。

「取り敢えず戦兎さん達が来るまで休んでいましょう。お二人は怪我もしてるんですから、無理は禁物です」

無難な言葉で締め括り、ナナも一旦口を閉じた。
肉体的な負傷は無い、だが精神的な疲労に蝕まれている。
斉木が何を伝えたかったのか、主催者の狙いは何か、自分に何を求めているのか。
何より、自分は本当に能力者…人類の敵へ近付きつつあるのか。
思考放棄は以ての外だが、少しだけでも頭を休めねば余裕が無くなりそうだ。

壁にもたれかかり、嫌な現実から逃げるように目を閉じた。

185神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:20:36 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆


男女数名と獣が一匹。
おおよそ夜の山を歩く恰好では無い者達が、草を踏みしめ枯れ枝を折り前へと進む。
先導するのは歩兵銃を構えた少女。
可憐な容姿とは裏腹に、狼を思わせる目付きで警戒を怠らない。
後に続くは様々な表情。
怯えを隠せない者、同行者を気遣いつつ少女同様警戒を配る者、緊張を面に出さずリラックスした者。

月と星が見守る中、女の声が一団の足を止めた。

「あー、ちょっと良いか?」

虫の鳴き声一つしない、命というものをまるで感じられない場所だからか。
大声でないにも関わらず、いやにハッキリと聞こえる。
立ち止まって振り返り、視線が一人へと集中。
4人と一匹の瞳に射抜かれても僅かな怯みすら見せず、返すのはヘラリとした笑み。
意図を読めない訝し気な瞳へ、エボルトは何でもないように言う。

「ちょいと野暮用が出来たんでね。すぐに追いつくから先行ってて良いぞ」
「は…?」

蓮が思わずポカンと呆けた顔をしたのも無理はない。
自分達は今、仲間と一刻も早く合流する為に宇宙船へ向かう途中。
竈門家を出て真っ直ぐ西へ進んで山を抜ければ、目的地までは遠くない。
道中他に目ぼしい建造物は見当たらず、放送の内容からも新しい施設が見付かる事はないだろう。
寄り道してる暇がないのはエボルトにも分かる筈だが。

186神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:21:32 ID:ZXaO4USg0
「馬鹿な事言ってないで早く行くぞ。お前の悪ふざけに付き合ってる程暇じゃねえんだよ」
「そんなに冷たくしなくても良いだろ?用事があるってのは冗談じゃ無く本気(マジ)だ。一々付き合わせるのも悪いなぁと思って、俺なりに気を遣ったんだがねぇ」
「…俺らから離れてまで、どんな野暮用だよ」
「ひ・み・つ。アイドルにもプライバシーはあるって美空は言わなかったのか?」

聞いてもまともな答えは返って来ず。
旧世界の頃より散々ぶつけられたおちょくるような言葉が吐き出され、戦兎の顔は自然と険しくなる。
漂う空気は剣呑なものと化し、居心地の悪さに肌を刺され甜花と善逸はオロオロするばかり。
今は余計なお喋りをしてる場合じゃない、見兼ねた杉元達が口を開く前に呆れを含んだため息が一つ。

「分かった分かった。そんなに知りたきゃ教えてやるから怒るなって」

しょうがねぇなとでも言わんばかりの仕草を取り、自分の下腹部を指差す。
次いで人差し指を真下に向けて、流れるような動きを行って見せた。
これには全員流石に分かったようで先程までとは一変、気まずい空気となる。

「お前……」
「仕方ねぇだろ?俺だってさっさとしんのすけのとこに行きたいって時に、迷惑してるんだぜ?」

精神がエボルト本人と言えども、体は人間の女。
生理現象故そういう事が起きても仕方が無いと言えば、その通りだろう。
エボルト相手に気を遣う義理は微塵も無いが、千雪の体で粗相をさせたいとも思わない。
これでは無理に止めるのも難しい。
戦兎達の反応を待つつもりも無いらしく、背を向け木々の奥へ一人離れようとする。

「あ、あの……!」

そこへ意外なところから待ったが掛かった。
軽く振り目が合うと相手は身を竦ませ、されど瞳は震えながらも逸らさない。
緊張を少しでも振り払うべく、胸元で握った手に力を籠める。

187神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:23:14 ID:ZXaO4USg0
「て、甜花も、一緒に行く……!千雪さんの体に、変なことしないか心配だし……お、女の子は甜花しかいない、から……」

本当だったら僅かな間でもエボルトを自由にしない為に、戦兎や杉元が監視するべき。
しかし幾ら何でも千雪の体で用を足す所に男が付いて行くのは、理由があると言っても甜花からしたら抵抗が強い。
戦兎達もそれが分かっているから、付いて行く旨の発言が直ぐには口を突いて出なかった。
となればこの場でエボルトに同行するのは、元から千雪と親しい仲にあり心身共に少女の甜花のみ。

「甜花…」
「だ、だいじょぶ……!用が済んだらすぐ戻って来るし、ちゃんと、き、気を付けるから……!」

心配無用と伝えて来るも、戦兎の表情は晴れない。
仕方ないとはいえ、少しの間でも甜花をエボルトと二人きりにさせるのだ。
あからさまに良からぬ真似に出て戦兎の怒りを買い、首輪解除の機会を自ら捨てる。
そのような考え無しな男では無いのは戦兎とて知っている。
であれば脳裏に浮かんだ悪い光景はただの想像に過ぎず、甜花の言う通り用が済み次第早急に戻り何事も無く移動再開となるかもしれない。

「……終わったら余計な事しないで戻って来い」
「はいはい、言われなくても道草食わずに帰って来るさ」

睨み付け釘を刺されても、飄々とした態度は変わらず。
足早に離れていくと甜花もおっかなびっくり追いかけ、やがて二人の背は見えなくなった。

「…どうする?俺が行って無理やりにでも変わるか?大崎に俺一人がぶたれる程度で済むぞ?」
「いや…今俺との間に余計ないざこざを持ち込むのが悪手ってことくらい、エボルトも分かってる。甜花にも、桑山千雪にも危害は加えない筈だ」

こちらの言う事には全部従う。
竈門家での要求をエボルトが素直に呑んだとは思っていないが、首輪を外してもいない段階で牙を剥く可能性も低い。
だとしても心情的にはやはり甜花へ危険な役目を任せてしまった事で、不甲斐なさへの苦みが口内に広がった。

188神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:24:09 ID:ZXaO4USg0
「エボルトなら大丈夫だと思う」

渋面を作る戦兎とは反対に、蓮は迷い無く言い切る。
少しばかり驚いたような顔をされ、帽子の下の目が気まずそうに揺れた。
だが撤回する気も無いらしく、低いながらよく通る声で続きを話す。

「俺は桐生さん程エボルトの事を知らないし、信用できない所があるのは否定しないけど、判断を間違える男じゃないのは確かだ」

言動の胡散臭さや時折見せる冷徹な面を思い出すと、やはり怪盗団の仲間のように信頼は出来ない。
けれど、これまでの行動が自分達を助けた事は多々あれど、危険に晒した事は一度も無い。
人を食った態度は隠さず、さりとて戦闘となれば頼れる味方であるのは事実。
少なくとも、蓮の知っているエボルトはそういう男であって。
だからこそ信頼は無くとも、相棒と呼ばれるのにいつのまにやら抵抗は無くなっていた。

「雨宮お前……」

蓮はエボルトを信用せずとも、強い悪感情を抱いてはいない。
単に元の世界での所業を知らないから、戦兎にはそれだけが理由では無い気がした。
どう言えば良いのか。
最初に竈門家で顔を合わせた時よりも、今の蓮には何となく危うさが感じられる。
エボルトと関わったからか、若しくは殺し合いでの戦いの影響か。

どちらが正解か、この時の戦兎に答えは出せなかった。
新たな闘争の火種を持ち込む災厄が、すぐそこまで近付いているのだから。

189神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:25:08 ID:ZXaO4USg0



男達の視界から外れた場所。
音も届かない、けれど余り離れ過ぎない位置。
ここで良いと足を止めたエボルトに倣い、甜花もそれ以上先には進まない。
それ程離れてないとは言っても、目の届く範囲に戦兎達は見当たらない。
目の前には千雪の体を手に入れた得体のしれない怪物。
そのような存在と夜の山で二人きり、考えないようにしてたがやっぱり不安だ。

「ま、待って……!」

でも怯え震えてるだけなのは、戦兎に全部押し付けるのはやめようと決めたのだ。
上擦った声で呼び止め、ポケットティッシュを差し出す。
PK学園にいた時、一応持っていた方が良いと思い拝借しておいた。
よもやこういう形で使うとは思わなかったが相手は千雪の体。
少しでも大切にして欲しい。

暫し表情を消して甜花の顔と手元を見比べた後、いつもの軽薄な笑みへ戻る。
千雪ならば絶対にしない、甜花の大切な記憶へ泥をぶち撒けるに等しい表情。
苦い思いを知ってか知らずか、仮に知っても何とも思わないだろう軽口が飛び出す。

「わざわざありがとよ、用意周到なこった。戻ったら戦兎に頑張りましたって伝えてやれば、好感度も今よりぐっと上がるだろうなァ?」
「へ、へんなこと言わないで……」

千雪の口からは一生聞く筈の無い、神経を逆撫でする言葉。
精神が別人だとは理解しても、慣れないし慣れたいとも思わない。
ポケットティッシュを持った手をヒラヒラ振り、木の影へと姿を隠す。
勝手にどこかへ行ったりだとかしないよう用心せねば。
ただ同性とはいえ滅多な事が無い限り見ない方が良いと目を逸らし、少ししてチョロチョロという音が聞こえた。

190神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:26:24 ID:ZXaO4USg0
(……嘘だったんですね)
(まぁな。散々慌てふためかせた事は悪いと思ってるぜ?)

それも嘘だろうという体の持ち主からの呆れはさらりと流し、素早くスマホを操作。
反対の手では口を開けたペットボトルを傾け、雨をたっぷり吸った地面が水分を過剰に摂取。
音だけ聞けば小水と勘違いしても無理はない。

野暮用があると言ったのは本当だが、当然千雪の体で用を足す為ではない。
本当の目的は放送前に手に入れたスマホ、主催者側のナビとの連絡手段のチェックを行う為。
宇宙船に到着すれば必然的に人数は増え、恐らく戦兎もこちらの監視をより一層強める。
そうなる前に一度メッセージが来ていないかの確認。
もう一つ、そろそろこちらから質問を投げても良い頃合いだろう。
街で巨人と戦った時、そして放送後にダグバや暴走中のアルフォンス相手に蓮が死なないようフォローはしてやった。
ナビが特に望んでいるだろう蓮の安全確保は、危うい場面もあったが結果的には成功の連続。
多少なりとも恩を感じているなら、こちらの疑問を解消してもらいたい。

起動すると早速メッセージが複数届いてあるのを見付ける。
さて今度はお使いでもやらされるのかと、半ば冗談めいた事を思いながらSNSを開いた。


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『緊急事態だ、急いでメッセージを確認しろ』

『今お前達の方へ三人組の敵が近付いている。そいつらの狙いは桐生戦兎だ』

『三人の内一人はギニューって奴で、残りの二人は殺し合いでは人間扱いされてない。アイテムみたいなものだと思ってくれれば良い』

『その二人だけど、片方の肉体は桐生戦兎の父親だ。もう片方は、お前が相棒って呼んでるアイツと縁がある奴の肉体になってる』

『とにかく時間が無い。これを見たらすぐに警戒して、アイツを守ってやってくれ』

『頼む』


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「…………」

メッセージを読み終わるや否やスマホをデイパックに放る。
蓋を閉めて仕舞う手間すら惜しいと、ペットボトルは投げ捨てた。
内容についてじっくり吟味し、情報を掻き集める作業も後回し。
ざっと見ただけでも疑問に感じた箇所は複数存在、なれどそれについて考えるのも今は無理。
発信されてからそれなりに経過している。
ナビが書いた通りだ、時間が無い。

191神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:27:18 ID:ZXaO4USg0



訂正、既に手遅れだ。



「ひゃっ……!?な、なに……!?」

唐突に響く怒号と銃声。
肩を跳ね上げ途端に震え出す甜花の横には、いつの間にやらエボルトが並んでいた。
音が聞こえたのは間違いなく、戦兎達が待っている地点。
向こうで何が起きたか、頭を捻って考える必要は無い。
襲撃を受けた、実行犯はほぼ間違いなくメッセージにあった三人。

「予定通りにゃいかねぇってことか」

しんのすけ達と合流後、戦兎が首輪の解析を開始。
鬱陶しい枷ともようやくおさらば、とスムーズな流れを期待したが予定は変更。
宇宙船に着く前にもうひと暴れしなければならないらしい。
たった一日で何度戦えば良いのやら。
重労働にも程があると愚痴って事態が解決しないとは、エボルトでなくとも分かり切った事。

トランスチームガンを取り出すと、隣では慌ててポケットを探る甜花が見えた。
腰に巻かれた奇妙なバックル、右手に握るは緑の錠前。
二つのアイテムが何を意味するか、精神・肉体両方の主が知っている。

(まさか、甜花ちゃんも…?)
「成程ねぇ。だが戦兎の奴が進んでアイドルを戦場に送り込むとは意外だな」
「……っ。戦兎さんを、悪く言わないで……!これは、て、甜花が自分で決めたこと、なの……!戦兎さんは、そんな、酷い人なんかじゃない……!」

恐怖は消えずとも、明確な怒りをぶつけられた。
エボルトも本気で戦兎が甜花を口車に乗せ、兵器(ヒーロー)へ仕上げたとは思っていない。
むしろ甜花が変身しなくても良いように立ち回るだろう。
現実には戦兎が当初望んだ形とは別になったが、甜花本人は自分が変身したのを後悔してはいない。

192神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:28:01 ID:ZXaO4USg0
戦兎達の方でトラブルが起きた。
殺し合いが始まってすぐの頃だったら、きっと何も出来ずに慌てふためいただろう。
今は違う、恐いのは同じだけどやれる事を見付けられたから。
自分は甘奈の体で、隣の怪物は千雪の体でそれぞれ姿を変える。

「変身……!」

『ロックオン!ソイヤッ!』

『メロンアームズ!天・下・御・免!』

「蒸血」

――MIST MATCH――
――COBRA…C・COBRA…FIRE――

白武者と血濡れの怪人。
アーマードライダー斬月とブラッドスタークへの変身を終える。

『ああ何だ、お前もメロンか』
「え……?」

優しいあの人とは似ても似つかない壮年男性の声。
竈門家で会った時と同じだ、変身すると声が変わる機能付きなのだろうか。
千雪の声で皮肉や軽口を言わないだけ、今の方がマシかもしれない。

ベルトを指差し呆れたように言われる
何の話か分からないが、向こうはそれ以上会話を続ける気は無いようだった。
足音を立てずに疾走、一歩遅れて斬月も駆け出す。

天才物理学者と怪盗。
二人のヒーローの心を掻き乱す戦場へと。

193神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:28:47 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆


納得のいかなさを押し殺し、決意新たに網走監獄を出て早数十分。
重罪人を収監する北海道の巨大施設は遠ざかり、南東のエリアへ到着。
木々が生い茂る山の中腹、貸し出された戦力を連れ歩き更に数分が経った頃。
複数人の気配をギニューは察知、そっと木の陰に隠れる。
手振りで祈手達にも身を潜めるよう指示を出し、息を殺して様子を窺う。

(あの時の女と珍獣…それにあっちは桐生戦兎……)

まだ自分がケロロの体だった時に遭遇し、紆余曲折を経て一戦交えた炎使い。
そいつと一緒にいた電気を放つ謎の黄色い生物。
見覚えがるのは一人と一匹だけではない。
つい先程ハワードから見せられた画像の人物、真っ赤なツナギにツンツン頭というどことなく馬鹿っぽい印象の青年。
桐生戦兎で間違いない。
唯一帽子を被った青年だけは知らないが、話に聞いた山の東から来た参加者だろう。
殺害命令の標的と、交戦経験のある連中。
ハワードが言っていた通り、C-2を通って宇宙船に居た野原しんのすけや柊ナナ達と合流するつもりか。

(待て、こいつらだけか?)

ハワードの話では自分が戦わねばならない相手は6人。
しかし見付けた一団の人数は4人しかいない。
主催者と繋がる通信機器を所持するエボルトも、詳細は知らないが残りの一人も見当たらない。
一時的に別行動を取っているのか、それともハワードからの情報が間違っていたのか。
適当な事をほざきおってと苦々しく思っていると、視線の先で動きがあった。

194神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:29:36 ID:ZXaO4USg0
「ピカ…?」
「…おい、こそこそしないで出て来い」

黄色い珍獣、確かピカチュウとかいう者が長い耳を揺らし周囲を見回す。
仲間の様子が何を意味するのか即座に察し、白髪の少女も歩兵銃を構えた。
何者かが近くに隠れている。
後の二人にも伝わり、三人と一匹全員が警戒態勢を取った。
気付かれる前に襲撃し不意を打つ手もあったが、こうなっては意味が無い。
と言っても発見される事態を想定していなかった訳じゃあない。
出て来て欲しいなら、お望みどおりに姿を見せてやる。

「フン、慌てずとも出てやるわ」

鼻を鳴らし尊大な態度で現れ、身構える男達と対峙。
戦兎達が驚きを顔に浮かべるのも当然だ。
何せこうして睨み合うのは聖都大学附属病院で別れ、再会叶わず命を落とした仲間の体。
だが驚愕はすぐに引っ込む。
体こそ仲間の精神が入っていた女でも、放送前とは中身が違う。
情報の擦り合わせにより、敵の正体は全員が把握済み。

「そうか…お前がギニューって奴か」

体を入れ替える力を持った危険な参加者。
宇宙船付近に潜伏している可能性を考えたが、こうして直接ぶつかる事になるとは。
名前を呼ばれたギニューは苛立ちを露わに舌を打つ。
参加者へ一度も名乗っていないのに、自分がギニューだと言い当てた。
戦兎達にはボディーチェンジの種が割れており、組み合わせ名簿や放送での死亡者発表から自分へ辿り着いたと考えるのが自然。
体を奪われないよう警戒するのは目に見えている。
だというのにハワードは最初ギニュー単独で戦兎達を襲えと言ったのだ。
無茶苦茶な要求をされたものだとつくづく思う。

195神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:30:53 ID:ZXaO4USg0
尤も、数での圧倒的な不利は幾らか解消されている。

「自己紹介の必要は無いか…。そうだ、お前達を殺すフリーザ軍のエリート戦士、ギニューとは正にオレのことよ!」
「誰もそこまで聞いてないだろ」
「黙れガキ!顔を吹き飛ばしてやったというのに、まだそんな口が聞けるとはな」
「治らなかったらロクに飯も食えない羽目になったぞ。今度は逃がさねぇ」

一度殺し合った間柄だ。
今更及び腰になる筈も無く、火花を散らして殺気を叩きつけ合う。
最初の戦闘で銃弾に頬を食い千切られた傷は、綺麗さっぱり消失。
不老不死というのはあながち嘘でも無いらしい。

「ピカ!ピカチュウ…!(こいつのせいで炭治郎は…!)」

彼にしては珍しく、善逸も怒りを露わに唸り声を上げる。
ギニューが炭治郎の体を奪わなければ鳥束は死なずに済んだかもしれないし、炭治郎だって体を失わなかった。
原因を作った男を睨むと、向こうも負けじと睨み返す。

「逃がさないはオレの台詞だ。ギニュー特戦隊(仮)の力をとくと味合わせてくれる!」

シュバッと風を切る勢いで片手を上げる。
合図と共にギニューの左右へ並び立つは、黒ずくめの二人組。
参加者と同じ首輪を填められた男達は、不敵な笑みのギニューとは正反対の無表情。
精巧に作られた人形と言っても良い程に、ほんの僅かな表情筋も動かさない。

「ピカ!?(な、何だよこのオッサンたち…仲間がいたの!?)」

脹相の体を奪った者と戦闘になる可能性は考えていた。
しかしまさか他の参加者と組んでいる、それも二人とは少々予想外。
DIOに従っていたヴァニラのように、元々部下だった面子か。
邪魔な参加者を排除し優勝へ近付く為、一時的に手を組んだとも考えられる。

196神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:31:57 ID:ZXaO4USg0
そう単純な話ならまだマシだった。

「嘘だろ……」
「……っ!?」

信じられないものを見る目で、戦兎はその男を見た。
息を呑み理解出来ないといった顔で、蓮はその男を見た。

年を重ねとっくの昔に壮年期を迎えただろう男達。
元の顔立ちが整っている為か、浮かんだ皺から見苦しさは感じられない。
むしろ酸いも甘いも知った大人の男としての魅力へ、磨きが掛かっている。
蓮の体の持ち主が好む言葉に当て嵌めるなら、ハードボイルドと言ったところか。

当の本人達である戦兎と蓮には、そんな呑気にものを考えられる余裕はない。
何故彼らがここにいるのか、何故彼らの肉体が巻き込まれているのか。
至極当然の疑問も混乱の渦に引き摺り込まれ、ミキサーに掛けられたように頭の中はぐちゃぐちゃだ。
桐生戦兎と左翔太郎。
二人の仮面ライダーを形作った、彼らの人生に必要不可欠な名が口から這い出る。

「父さん……!」
「鳴海、荘吉……?」

男の顔は知っているけど名前は知らない筈だった。
けれどどういう訳か、相手の顔をこの目で見た瞬間頭に浮かんだのだ。
鳴海荘吉。
翔太郎に帽子を託し力尽きた、「おやっさん」と呼ばれた男の名前であると。
理由も分からぬままに呟いた蓮へ、相手は何も反応を見せない。

大きな反応を返さないのは戦兎の方も同じだ。
自分の、より正確に言えば葛城巧の父。
葛城忍は絞り出された息子の言葉へ一文字も返さず、無言で視線をくれてやるのみ。

197神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:32:41 ID:ZXaO4USg0
「どういうことだ…?何で父さんまでここに…いや、父さんの体か…?」

父がギニューに協力している。
有り得ない筈の光景に脳が理解を拒み掛けるも、すぐに自分達の状態を思い出す。
精神と肉体は別人、それが殺し合いでの大前提となるルール。
対峙中の二人は葛城忍と鳴海荘吉本人では無い、彼らの体を利用する別の何者かだ。

一つの疑問が解消されれば、続けて別の疑問が降り掛かる。
そもそも忍も荘吉も殺し合いに体は巻き込まれていない筈。
竈門家で組み合わせ名簿を隅から隅まで見て、知り合いの体が無いと確認出来たろうに。
後になって参加者が追加されたとでも言うのか。

「まさかこいつら……」
「おい、勘違いするな。我々は楽しいお喋りをしに来たのではない!」

正体を口に出す前に男達…祈手が戦闘態勢へと移る。
腰にはそれぞれのベルトが巻かれ、彼らの力を最大限に引き出す姿へ変身を行う気だ。

『ラビット!』『タンク!』

『Are you ready?』

『SKULL!』

フルボトルとガイアメモリ、異なる世界で生み出された力。
なれど行使する存在の名は同じ。
2本のボトルの成分がドライバーに取り込まれ、骸骨の記憶が肉体を変化させる。

198神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:33:43 ID:ZXaO4USg0
『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』

『SKULL!』

持ち主に変わり存在を知らしめるかの如く、けたたましい電子音声が響く。
二色で構成された装甲の戦士、仮面ライダービルド。
黒のボディに白い帽子をマッチさせた戦士、仮面ライダースカル。
地球を救う為にあえて苦難の道を選んだ父。
街を泣かせる悪党と戦い、悲しみを一身に引き受けた父親。
彼らの魂を穢すかのように、正義も信念も無い殺戮の道具として姿を見せた。

怒りに顔を歪める戦兎を嗤うでもなく、ビルドが行うは標的の殺害一択。
ドリルクラッシャー片手に接近し、得物を持つ右手が振るわれる。
対スマッシュ用の刃は生身の人間を骨まで切り刻む。
同様にスカルも蹴りを繰り出した。
ドーパントをも怯ませる威力だ、只の人間に当たれば骨折程度では済まない。

「ピカアアアアアッ!!」
「おっと…!考えるのは後にしとけ!」

戦兎を斬り殺す刃は、横合いからタックルを仕掛けた獣の手で阻止。
蓮を蹴り殺す一撃は、襟首を引っ張り届かない位置まで下がらせた。
仲間達の助けに短く感謝と謝罪を告げ、しかし急ぎ切り替えなければならない。
杉元の言う通りだ、あれこれ思考を重ねる前に戦わないと殺される。
敵に遅れて変身ツールを装着、ライダーカードとガイアメモリをドライバーに叩き込む。

199神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:34:38 ID:ZXaO4USg0
「「変身!」」

『KAMEN RIDE BUILD!』

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』

『JOKER!』

変身を終えるや一言も発する暇なく、二体のライダーが襲来。
迎え撃つ準備は完了だ、各々得物と能力で返り討ちにするべく戦いに臨む。

「始まったな…」

祈手達が標的四人とぶつかり合うのを視界に収め、誰に向けるでもなく独り言ちる。
網走監獄で祈手が変身するライダーの能力は大体知れた。
フリーザ軍の戦士には遠く及ばないものの、殺し合いで戦力にはなる。
使える人材を寄越され普通なら喜ぶ場面なのだろうけど、経緯が経緯だけにギニューは何とも言えない表情。

(…まあいい。オレも奴らに加勢するか)

ハワードとの接触で予想外の事態が多発した為か、やる気は削がれたが見物に徹するつもりはない。
サボっていると思われ首輪を爆破されたら、それこそ悔やんでも悔やみ切れない。
それに、憂鬱な気分も戦えば多少はスッキリするだろう。
バルクホルンの肉体の試運転とでも考えれば、悪くはないと思える。

魔法力を利用し固有魔法を発動。
頭部からは獣耳が、臀部からは尻尾が生えた。
外見上の変化はその二つに留められるも、攻撃系の魔法により怪力を手に入れる。
女の細腕と侮るなかれ、チェンソーの悪魔とも殴り合える力を発揮可能だ。

200神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:35:24 ID:ZXaO4USg0
ビルドとスカルはそれぞれ二人ずつ相手取っており、どちらに手を貸すか。
やはり優先的に殺せと言われた戦兎がいる方か。
ラビットタンクとかいう姿を基本形態として戦う、これもハワードの説明通り。
あの姿の大まかな能力は、祈手が変身したビルドを見て把握済み。
初めてぶつかる相手だろうと遅れは取らない。
注意するべき点はこれまたハワードが言っていた、複数の姿に変わる腰の機械。
カラーリングこそ違うが、マゼンタ色の戦士が装備していたのと同じ形。
上位互換と説明があったように、自分の知らない姿になれるらしい。

(フッ、別の姿に変身できる余裕があればの話だがな)

傍目から見ても戦兎の動きは所々拙い。
戦闘の素人だからではない、葛城忍の体が使われ動揺を隠せないからだろう。
鳴海荘吉と戦闘中の蓮にしたって、お世辞にもキレのある戦い方とは言えない。
精神攻撃が本当に上手くいくのか確証は持てなかったが、結果は成功。
後は自分も加わり一気に追い詰め戦兎を始末、流れが良ければ残りの三人も仕留められる。
あわよくば杉元から不老不死の肉体を奪えるかもしれない。

やる事は決まった。
両手の指を鳴らしいざ闘争へ参戦を果たそうとし、



――STEAM BREAK!COBRA!――



「ぬおっ!?」

大口を開ける大蛇が見えた。
本物の蛇ではなく、威力を高めたエネルギー弾の類と察知。
咄嗟の判断で両腕を突き出し、魔法陣をシールドとして展開。
固有魔法とは違うウィッチ共通の力は、精神が悪の異星人だろうと行使可能。
ストライカーユニットを装着時程の大規模ではないが、エネルギー弾一発程度なら問題無し。
服に焦げ目一つ付かない無傷なれど、襲撃者への怒りが生まれるのは避けられなかった。

201神ノ牙 -集結の百禍(前編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:36:24 ID:ZXaO4USg0
『おいおい防ぐなよ。最初の一発で死んで、俺を楽させてくれたって良いだろ?』

続けて聞こえたのも、これまた挑発しているとしか思えない言葉。
ふざけた真似に出た輩を射殺さんばかりに睨み付ける。
怒りは捨てず、襲撃者の姿を捉えた瞳が細まった。
血を被ったような色の装甲に、蛇を模した胸部の意匠。
少し遅れてやって来た白い剣士は知らないが、赤い怪人は知っている。
確か変身者の肉体は女だった筈だが、声を変える機能くらい搭載されてもおかしくない。

「この人達は……あ、あれ、戦兎さんと同じ、ビルドがもう一人……!?」
『少し離れた間に随分盛り上がってるじゃねぇか。麗しのアイドルを除け者にするなんざ、冷たいと思うだろ?』
「えっ、そ、そんなの分かんない……』

殺伐とした戦場には不釣り合いの軽口。
態度はふざけていても隙は見当たらない。
遅刻して来た二人を合わせれば全部で6人、ハワードが言ったのと同じ人数。
戦兎を殺すのに加勢するつもりだったが予定変更だ、むしろハワードからすればもう一つの命令の方が重要だろう。

「そうか、貴様がエボルトか…。フリーザ様に断りなく銀河を荒らすその愚行、オレが許すと思うなよ?」
『いきなりご挨拶だねぇ。許してくれないならどうするつもりか、是非とも教えて欲しいもんだ』

挑発には挑発を返し、軽薄な笑みの裏で油を差された機械のように脳を働かせる。
自分の名前のみならず、ブラッド族の生態も把握してると言いた気な内容。
戦兎がギニューにまであれこれ話したのでないとすると、情報源はどこか。
難しく考える必要はない。
参加者の素性を誰よりも詳細に把握する者など、殺し合いの運営側以外にいない。

未参加の筈の葛城忍の肉体を引き連れ、ピンポイントで戦兎を狙う。
誰の差し金かは余程の馬鹿でも無ければ察しは付く。
殺し合いと謳っておきながら特定の参加者に肩入れするとは。

(ま、俺が言えたことじゃあないけどな)

大慌てでメッセージを送る眼鏡の少女を思い浮かべ、直後視覚センサーに映し出される拳。
開幕の合図無しに仕掛けられても、焦らず距離を取って回避。
捕えて情報を引き出すにしろ、まずは大人しくさせなければ始まらない。

獣が唸り、蛇が嗤う。
星々を脅かす侵略者の激突を皮切りに、C-2エリアは新たな闘争のステージと化した。

202神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:37:54 ID:ZXaO4USg0



纏う装甲は赤と青。
振るう得物は回転刃。
唯一違うのは腹部の機械、仮面ライダービルド同士の対決が展開される。

「っと…!」

胴体を削り取ろうと刃は回転数を上げ、聴覚センサーは絶えずキリキリという音を拾う。
ビルドの装甲は軽量ながら耐久性にも優れる。
元々人間以上の力を持つ怪人、スマッシュとの戦闘に耐えられるよう設計されたのだ。
当たったところでダメージは軽減され、死には至らない。
しかしドリルクラッシャーもまた、スマッシュ相手に用いられるビルドの専用武器。
何度も斬られれば装甲は削り取られ、目も当てられない紙の鎧と化す。
ビルドに変身していようと過信は微塵も持ち込めなかった。

「……」

自身の攻撃が同じ武器で防御される。
二色の瞳から伝えられる情報にも祈手は沈黙を貫く。
彼に発言は許可されていない、与えられた命令はギニューの指示で動く事だけ。
そのギニューが参加者の桐生戦兎を殺せと言った、だから殺す。
戦兎が変身するビルドとは違う、言うなればプロトタイプビルドの力で以て。

互いにドリルクラッシャーを操り、回転刃が削り合う。
同性能の強度故、どちらも刃こぼれ一つ起こさず拮抗。
散らされる火花が視界にチラつく間も、高機能のセンサーは互いをしかと確認。
何処を斬れば防がれるか、何処を狙えば反応を遅らされるかを弾き出す。
動き出したのは全く同じタイミング、数十度目の衝突でもそれぞれ回転刃は相手へ到達せず。

203神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:38:37 ID:ZXaO4USg0
繰り返される剣戟に変化を起こしたのはプロトタイプビルド。
ほんの一手早く腕を伸ばし、ドリルクラッシャーの切っ先が相手を突く。
装甲へ当たり散る火花は武器同士の衝突時より大きい。
呻き後退するビルドへ、逃しはしないと踏み込む。

「ぐっ…!」

甘んじて攻撃を受け入れる理由は無い。
真下からドリルクラッシャーを振り上げ、敵の刃を打つ。
武器を持った腕を己の意思とは無関係に跳ね上げられ、プロトタイプビルドに生まれる隙。
体勢の立て直しをむざむざ許すものか、ビルドの左拳が腹部を狙った。

青いナックルガードに覆われた拳は、見た目以上の破壊力を秘めている。
タンクフルボトルの成分により、本気で放てば戦車砲にも匹敵。
装甲に幾らかダメージは殺されるが、軽いダメージではない。
まずは一撃、これで怯ませてから追い打ちを掛ける。

拳に伝わるのは人を殴った嫌な手応えに非ず。
空気を割いた実に虚しい感触。

どうなったと慌てふためかずとも答えは分かる。
敵もまたビルド、であればラビットフルボトルの力を味方に付けた。
胸部装甲に備わった機能を使い、数秒間動作を高速化。
拳一発避けるくらいは容易く、時間いっぱい有効に使い回避から攻撃へ移行。
背後で急激に膨れ上がる殺気がその証拠だ。

「がっ!?」

背中を襲う痛みへ、乱される掛けた思考を強引に押し留める。
焦り判断を間違えれば敵の思うつぼ。
これくらいの痛みは今に始まったものでもない。
噛み殺して背後へ腕を振るう、ドリルクラッシャーがプロトタイプビルドを狙うも当たりはせず。
ビルドが動きを見せた時点で既に、次の攻撃準備へ移った。

204神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:39:34 ID:ZXaO4USg0
地上の蟻を見下ろす神の如く、遥か頭上へ到達。
スプリングが装着された左脚部で行うハイジャンプ、これもまたラビットフルボトルの成分の恩恵。
巨人やエターナルとの戦闘でも使った能力だが、敵に使われると非常に厄介。
無駄を削いだ動作でドリルクラッシャーを変形、銃口が睨む先には当然ビルド。
銃身へ変わったドリル部分が高速回転し、生成された光弾を連続発射。
数発程度ならまだしも、百へ到達し兼ねない数を受けては大ダメージは確実だ。

『KAMEN RIDE GAIM!』

『花道!オンステージ!』

ここで手をこまねくだけなら、ビルドは元の地球での戦いでとうの昔に力尽きただろう。
使える手札の中から切るべきカードを即座に選択。
十数時間の間にすっかり慣れた動作で、ディケイドライバーに読み込ませる。
現れるは巨大オレンジを鎧に変えた戦士、アーマードライダー鎧武。
降り注ぐ光弾の豪雨は放射状のカメラアイが余さず捉えた。
変身と同時に両手へ出現した双剣、無双セイバーと大橙丸を駆使して斬り落とす。

着地から間髪入れずに、プロトタイプビルドはドリルクラッシャーを叩きつける。
ブレードモードへの組み換えも無駄がない、最適化されたとしか思えない動き。
回転刃は大橙丸で防ぎ、がら空きの胴体へ無双セイバーを走らせた。
得物の数が多い分、手数は鎧武が上を行く。

「ぐぁ…」

なれど、その程度は予測済みだとでも言うように手痛い反撃を受けた。
左拳が無双セイバーを弾き返し、再度振るわれるのを待たずに腹部を叩く。
先程自分が当てるつもりだった一撃の重さを、逆に味わう羽目となる。

大袈裟に痛がる素振りは見せなくとも、僅かながら怯めばプロトタイプビルドには十分。
双剣をすり抜け、鎧武の胸部装甲を縦横無尽に駆ける回転刃。
ビルド同様簡単には破壊されないと言えども、繰り返し攻撃を受ければダメージは蓄積する。
双剣を翳す暇すら与えない連撃は、鎧武が死ぬまで続ける気か。

205神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:40:11 ID:ZXaO4USg0
「ピ〜カ〜チュウウウウウウウウ!!」

仲間の死を悠長に待ってやる薄情者はここにいない。
中断させるべく放たれた電撃、ピカチュウが最も得意なでんきわざだ。
善逸にとっても最早使い慣れた10まんボルトに襲われれば、プロトタイプビルドと言えども無視できない。
攻撃の手を止め飛び退き、丁度背後にあった木が運悪く焼き潰される。

「ピカ!ピッカチュウ〜!(ひええええ!こっちに来た〜!)」

今の攻撃で標的を鎧武から善逸へと変更。
余計な妨害を何度も受ける前に殺すべきと判断を下したのか。
善逸からすれば敵が自分を狙っているという一点だけで、過剰なまでの恐怖となる。
背筋が寒くなるような音を立てて、回転数を増す刃。
あれに当たれば普通の刃物で斬られるよりも、尋常じゃない苦痛に襲われるだろう。

「ピカピ〜!!(こっ、今度こそ当たれ!)」

死を完全に遠ざけるべくわざを発動。
命中率に不安はあれど、威力は折り紙付きのかみなりを落とす。
此度は運も善逸へ微笑み、プロトタイプビルドの頭上より雷光が突き刺さる。
尤も聴覚強化装置がわざの発動を事前に察知、回避に移られた為命中はしなかった。

次のわざが放たれるのを待たずプロトタイプビルドが接近。
右足のバトルシューズで蹴り付ける。
足底に搭載されたキャタピラは高速移動のみならず、敵の装甲を削り取る役目を果たす。
柔らかなピカチュウの体で受ければ、スプラッター映画も真っ青な死体の出来上がりだ。

「っ!こっちだ!」

地面に赤い花が咲くのを望むのはプロトタイプビルド一人。
善逸はもとより、彼の仲間も決して認めない。
無双セイバーのトリガーを引き、鍔部分の銃口が火を吹く。
エネルギーチャンバーの残弾がゼロになるまで発射、ドリルクラッシャーの剣捌きで叩き落とされた。
それで良い、善逸を殺す手を止められれば上出来。

206神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:40:56 ID:ZXaO4USg0
『KAMEN RIDE EX-AID!』

『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!』

姿を変えプロトタイプビルドへ斬りかかる。
逆立ったヘアー型の頭部パーツが特徴的な戦士、エグゼイドだ。
振り下ろされた刀身を弾き返し、反対に斬り付けるも敵の姿は見当たらない。
ゲームエリア内を駆けまわるようなアクロバティックな動きで、プロトタイプビルドを翻弄。
攻撃の空振りを誘い、生まれた隙を見逃さず反撃に出た。

「ぐっ、あ…」

呻き声はプロトタイプビルドではなく、エグゼイドが発したもの。
こちらの攻撃は流水のように受け流され、反対にドリルクラッシャーの切っ先が装甲を叩く。
スピードに優れる右拳の機能を用いて放たれた突きは、エグゼイドの体力ゲージを大幅に削った。
装甲を砕き生身の肉体をも貫く勢いで、一際強烈な一撃が迫る。

「ピカ!ピカアアアア!!」

突如プロトタイプビルドの視界を覆う黄色い影。
それも一匹では無く複数。
先の巨人戦で使えるようになったわざ、かげぶんしんで妨害に出た。
斬られ霞のように消える分身には目もくれず、残った本体を狙うもその時にはエグゼイドが体勢を立て直した後。
ドリルクラッシャーによる剣戟が再び繰り広げられる。

(まずいな……)

自分達と相手、戦闘を有利に進めているのが果たしてどちらか。
100人に聞けば全員が口を揃えて後者と答えるだろう。
戦兎もその通りだと言う他ない。
自分達の、ではなく自分の不甲斐なさは戦兎自身が一番理解している。

207神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:41:27 ID:ZXaO4USg0
プロトタイプビルドは忍専用に調整されたビルドドライバーで変身する戦士だ。
外見こそ戦兎のビルドと同じでも、備わった機能の精度はプロトタイプビルドが上。
旧世界でも強化形態のビルドを始めスペックで勝るライダーを、ただのベストマッチフォームで手玉に取った程。
まさか新世界を創った今になって再び、父が変身したビルドと戦う事になるとは。

だが戦況を左右するのは能力差だけではない。
戦兎の精神的な不調もまた、自らを縛る枷となり敗北へ近付かせる。

忍の肉体があるなら、精神は一体どうなった。
主催者達に囚われているのか、別人の体に幽閉されたのか。
忍だけでなく、万丈や仲間達の体まで利用されている可能性も否定できない。

何より、考えたくない最悪の事態。
忍の精神は不要と見なされ、既に殺されてしまったのでは?

旧世界での死が覆ったのは、新世界の創造(ビルド)という一度限りの方法があったからこそ。
もし忍が新世界から連れて来られて精神を消されたら、今度ばかりはどうにもできない。
嘗てエボルトの手で忍が殺された瞬間、葛城巧/桐生戦兎の心が剥がれ落ちる痛みが思い出される。
終わった筈の悲劇の再来にもう一度涙を流す以外、自分に選択肢は残されていないのか。

無論これらは確証のない推測に過ぎず、忍の精神は消えていないとも十分考えられる。
しかしその逆だって有り得ないとは言えない。

考えるのは後にして、今は戦闘に集中しろ。
正論を自分に何度言い聞かせても、一度根付いた想像は消えてくれない。
不安を掻き消すかのように振るった剣は届かず、無慈悲な刃が自身を襲った。

208神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:42:35 ID:ZXaO4USg0



ジョーカーとスカル、切り札の記憶と骸骨の記憶。
黒いボディの戦士達は外見こそ異なり、スペックにも多少の差は有れど、本質は身体機能と技の強化。
メモリの力で作り変えられた体は、純粋な肉弾戦をメインの戦法とする。
放つ拳は弾丸よりも強烈で、繰り出す蹴りは刃物よりも鋭い。
互いの技量がものを言う戦いがそこにあった。

「シッ!」

長い足を叩きつけ合い、両者弾かれれば拳の応酬へ移行。
スカルが狙うは顔面部、強化皮膚の範囲内とはいえ胴体や四肢に比べれば耐久性は劣る。
頬を殴り脳を揺らせば戦意とは裏腹に、隙だらけのサンドバッグが完成だ。
加虐趣味ではない、極めて機械的な判断により右拳を突き出す。
対するジョーカーもまた、左拳を以て迎撃。
装着したブレスレットが打撃の威力を強化、スカルの一撃と真っ向からぶつかる。

両名拳に衝撃は走れど痛みは極僅か。
強化外骨格の恩恵を受け、生身ならば骨が砕ける痛みも最小限に止める。
先に動いたのはスカル、反対の拳が腹部を叩く。
だがジョーカーからの呻き声は聞こえない。
膝を上げ即席の盾にし防いだと、視界から情報を得るより先に次の攻撃へ出る。
右拳を手刀に変え胸部を一突き、貫通はしないがそこいらのナイフ等とは比べ物にならない威力だ。
短い呻き声と共にジョーカーが後退、迫る風切り音に両腕を交差。
追撃に備え防御の構えを取ったが、スカル相手には無駄。
脚を唸らせた蹴りが真横から叩き込まれ、ダメージこそ高くないものの体勢が崩れた。
立て直しのチャンスはくれてやらず、殴打の嵐が襲い来る。

ジョーカーとスカルのスペックにそこまで大きな差は無い。
備えられた機能とて、上位・下位互換を決定付けるものとも違う。
であれば優劣を決めるのは変身者の力か。
蓮の肉体となった左翔太郎は決して弱者ではない。
元々得意な喧嘩の腕を体術へと昇華させ、生身に置いても優れた身体能力を持つ。
相棒のフィリップと共に解決して来た数々のガイアメモリ事件を経て、その強さには更に磨きが掛かった。
だが体術の練度で言うなら、鳴海荘吉は翔太郎の上を行く男。
翔太郎に戦い方を教えたのは、他ならぬ荘吉なのだから。
それぞれの肉体に染み付いた戦いの記憶は、現状スカルが上手く引き出せている。

209神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:43:51 ID:ZXaO4USg0
「おるあああああっ!」

なれど此度の闘争は、ジョーカーとスカルだけの舞台では無い。
少女らしからぬ腹の底から咆哮を発し、割って入るは不死身の兵士。
銃床がこめかみ部分を叩き、スカルの猛攻を強制的に阻止した。
痛みは無い、しかし揺れる視界に無理な追撃は危険と判断を下す。
ジョーカーを殴るつもりだった拳は、乱入者の攻撃を防ぐのに使用
突き出された刃を押し留め、レンズ越しに敵と目が合う。

「どんだけいるんだよ、仮面なんちゃらってのは!」

腰巻きを使いけったいな鎧姿に変わる者達。
戦兎やDIO以外にも次から次へと現れ、まだ出て来るのかと少々呆れてしまう。
言動の軽さとは裏腹に、杉元が繰り出す攻撃には容赦というものがまるで無い。
手を抜けば殺される、油断を持ち込めば殺される、確実に殺さなければ殺される。
死が常に付き纏い舌なめずりをする世界を生きた男だ、不死身の異名は決して飾りじゃない。

歩兵銃には返却してもらった銃剣を取り付け、打撃・刺突両方が可能となった。
日露戦争と金塊争奪戦で数多の敵を薙ぎ払った銃剣突撃。
杉元が最も得意な戦法を駆使し、スカルを苛烈に攻め立てる。

「アルセーヌ!」

歩兵銃が横薙ぎに振るわれ、銃身の殴打を躱す。
その直後だ、スカルへ別方向からの脅威が迫ったのは。
シルクハットの怪人、雨宮蓮の反逆の証。
ジョーカーの指示を受けたアルセーヌが腕を振るい、ナイフの如き爪で切り裂く。
体術で上を行かれるのなら、敵には無い力を用いて不利を引っ繰り返すまで。
防いだ傍からスラッシュが放たれ、肩部装甲より火花が散る。
たたらを踏んだところへ杉元が蹴り付け、靴底が腹部を叩いた。
か弱い少女ではない、蓬莱人の身体能力を乗せた一撃へ更に大きくよろめく。

「マガツイザナギ!」

大技を叩き込むチャンスを見逃さない。
鮮血色のオーラを纏い、道化師のアルカナが示す魔人が顕現。
燃費の悪さは有れど、攻撃へ特化した強力なスキル持ちのペルソナだ。
長得物を豪快に振り回し、木っ端微塵に切り刻むべく指示を出し――

210神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:44:17 ID:ZXaO4USg0
――血の海に沈む、白スーツの男が見えた。

「っ!?」

思考が止まり、マガツイザナギもペルソナ使いの意思無くしては動けない。
敵の隙を突いた筈が、逆に自分の方が隙を晒してしまった。

「おい!ボサッとすんな!」

間近の怒声で我に返り、目の前に白い長髪が靡くのが見える。
急に動きを止めたジョーカーへの疑問も無く、スカルが拳を放ったのだ。
ギリギリのタイミングで杉元が間に合い、歩兵銃で防御。
銃身に重さが掛かるも、DIOが放ったラッシュに比べればどうとうことはない。
反対に押し返し銃剣を突き出す、それを木の葉のように跳んでスカルは距離を取った。

白兵戦だけが杉元の取れる手では無い。
歩兵銃を肩に掛け、空いた両手へ霊力を掻き集める。
弾幕ごっことは違う、遊び抜きの火球を連射し焼き殺す。
苦手な銃をチマチマ撃つよりは、数で押し切るこちらの方が使い易い。

しかしスカルもまた、殴る蹴るしか出来ない戦士に非ず。
右掌に生成した銃、スカルマグナムを構えトリガーを引く。
一撃必殺を信念とする荘吉とは違い、火球へ対抗する為の連射攻撃だ。
発射された光弾は火球を狙い撃ち霧散、それも自分へ当たるものだけを正確に見極めた上で。
命中どころかただの一発も掠らず、弾幕を無傷で凌いだ。

211神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:45:16 ID:ZXaO4USg0
「嘘だろ!?」

宿敵の狙撃手とはまた違う銃の腕に思わず目を剥く。
日本軍で正式採用されてるのとは違う、仮面ライダー用の武器だとしてもだ。
まさか銃一丁で防がれるとは予想外。

スカルの射撃性能は後年に開発されたダブルの倍。
この程度は苦も無く実行に移せる。

「くっ…」

防御だけで終わらせはしない、撃ち殺すべく殺到する光弾をマガツイザナギで斬り落とす。
その間も胸中ではざわめきが治まらず、精神へ負担が強いられる。

戦闘が始まってからずっとこうだ。
荘吉と戦わなければならない事への悲しみ、荘吉の体が利用されている事への怒り。
荘吉へ大きなダメージを与えようとすれば、彼の最期がフラッシュバックする。

蓮とて鳴海荘吉の肉体が殺し合いに使われ、良い気分な訳がない。
だが今心を震わせる感情は、幾ら何でも強過ぎる。
夢で見ただけの相手への想いにしては、蓮本人が抱くには流石に不自然だ。

これはまるで、左翔太郎の怒りと悲しみが自分へ宿ったようではないか。

「あっぶね…!」

焦る声に再び現実へ引き戻される。
近くの木の後ろへ身を隠し、どうにか光弾を防ぐ杉元だ。
再生能力があるとは言ってもなるべく不要な傷は作らないに限る。
不死を過信しては足元を掬われ兼ねない。

深く考え込んでいる場合じゃない。
そう分かっていても、蓮の中には自分自身でさえ持て余す様な感情が渦巻いていた。

212神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:46:22 ID:ZXaO4USg0



仮面ライダーやスマッシュでもない、ただの無力な女なら。
わざわざ本気を出すまでも無く、ほんのちょっぴりの力で制圧し捕えられただろう。
生憎敵は人の姿をしていながら人を超えた能力の持ち主。
引き金を引くのに躊躇はいらない。
敵が生身の女だからと言って、手加減してやる必要はどこにもない。

『すばしっこいのは結構だけどよ、どいつもこいつも羞恥ってもんが無いのかね』

ルブランを襲撃した鬼を思い出し、口を飛び出す呆れを含んだ言葉。
誰の耳元へも届かず銃声に掻き消され、ブラッドスターク以外には聞こえず終い。
下着が見えるのもお間構い無しで駆け回った少女(犬)、おまけに今度は薄い布一枚の下半身を惜し気もなく晒す女と来た。
強さと引き換えに羞恥を捨て去ったのか。
どうでもいい事を考えながらも、銃を撃つ手にブレは生じない。
クリアゴーグルに隠された視覚センサー、射撃時の挙動を最適化するグリップ部分の機能。
何より銃を撃つ本人の技能を活かし、トランスチームガンの性能を最大限に発揮。

「ほう、貴様は玩具の使い方も悪くないようだな」

しかし余裕たっぷりの挑発を口遊むのは、一発も命中していない証拠。
木々を盾にし駆け回り、時には両手を翳しシールドを張る。
女の肌を焼き、食い千切る役目を高熱硬化弾は果たせていなかった。
嘲り交じりとはいえ、これまで戦った者より射撃能力が上なのはギニューも認めている。
赤血操術とは勝手の違う銃を使う脹相、そもそも戦闘行為自体が素人のリト。
彼らと違い元々使い慣れた武器故か、ブラッドスタークの狙いは精確だ。

「だがその程度では掠りもせんわ!」

されどギニューも一流の実力を誇る戦士。
レーザーやエネルギー弾の飛び交う戦場を駆け、その都度勝利を収めて来た実力は健在。
仮に無力で脆い只人の肉体であったら、自慢の戦闘技能も宝の持ち腐れ。
あっというまに蜂の巣となったのは想像に難くない。
その問題はボディーチェンジで手に入れた、501部隊のウィッチの体が解決済み。
弛まぬ日々の訓練とネウロイ討伐の実戦で作り上げた体、そして彼女を象徴する固有魔法。
悟空程では無くとも、バルクホルンの肉体は武器として使うのに申し分ない。

213神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:47:16 ID:ZXaO4USg0
「こ、こっちに来た……!」

ブラッドスタークの銃撃を警戒しながらも足は止めない。
接近を試みる相手は網目模様の白武者、アーマードライダー斬月。
優先的に狙う戦兎や通信機器を持つエボルトに比べれば、さして関心を抱かない相手だが敵は敵。
見逃してやるから失せろ等と情けを掛けるつもりはない。
精悍さと美しさを備えた顔を、餓えた獣のように変え突撃。
真っ向から敵意をぶつけられ体が震える、だが斬月とて一日の間に何度も戦いを経験して来たのだ。
無双セイバーを構え照準を合わせる。
黄金色のカメラアイのアシストを受け、ギニュー目掛けて光弾を撃つ。

「それで狙ってるつもりか?バカめ!」

無双セイバーのマズルに睨み付けられ、あろうことかギニューはシールドを解除。
自棄を起こしたのではない、シールドに頼るまでも無いと分かったから。
駆ける速度は緩めず、体を地面に擦り付け斬月の足元へ滑り込む。
スライディングを行い回避成功、外れた光弾には見向きもせずに片足で蹴り上げた。

「きゃっ……」

搭載された機能の恩恵、闘争の空気を知った肉体が自然と反応。
何よりこのタイミングで、スカルと戦闘中の蓮がマハスクカジャを使い5人と一匹の敏捷性が強化された
それでも咄嗟にメロンディフェンダーを翳したのは、元々一般人の彼女にしては見事な動き。
怪力の固有魔法を使った今のギニューの蹴りなら、アーマードライダーの装甲であっても脅威となる。
一度防がれた程度、動揺を誘うには至らない。
岩をも砕く勢いで拳がメロンディフェンダーを叩き、銅鑼が打ち鳴らされたような音が続く。

「あうう……」

魔法力を付与し放つラッシュ、パワー・スピード共に脱落した男達のスタンドにも引けを取らない。
生半可な防御は紙切れ同然の連打を受けて尚、メロンディフェンダーは無傷。
ほんのちょっぴりの亀裂一つ付けられず、ギニューの猛攻から使い手を守る。
戦極ドライバーの開発者が見たら、自身が作った装備の高性能に改めて鼻を高くするだろう光景。
盾を構える真っ最中の斬月にとっては、何一つとして面白くないが。

214神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:47:59 ID:ZXaO4USg0
防いでいるとは言っても、暴力に晒されて恐怖を感じるなと言う方が難しい。
メロンディフェンダーが殴られる度に衝撃が腕へ伝わり、少しずつだが痺れてくる。
腰を捻り勢いを付けての一撃を受け止め、先に限界が来たのは斬月の方。
腕の痺れに構えは崩れ、殴打の威力に堪らずよろけてしまう。
急いで立ち上がらねばと考える余裕すらない、カメラアイが映すのは仮面を叩き割る靴底。

『俺の事は無視か?ツレない態度は無しにしようぜ』

斬月へ伸ばしかけた足は引っ込めず、軸となった反対の足で回転。
背後に繰り出す回し蹴りへ、ブラッドスタークも蹴りで迎え撃つ。
剥き出しの白い足と装甲を纏った脚部が激突。
傍目には異様な光景だろう。
へし折れ引き千切れても不思議は無い女の脚が、ブラッドスタークの蹴りと拮抗しているのは。

膠着状態はどちらも好まず、脚を離すや否やブラッドスタークの左手が動く。
スチームブレードが狙うは四肢、まだ命を奪う気は無いが余計な抵抗は封じるに限る。
リーチこそ短いが切れ味抜群、人体を刺身に変えられるのも時間の問題。

地面を濡らす赤い雨も、激痛を訴える叫びも訪れない。
代わりに金属同士の衝突を伝える、短い音を聴覚機能が拾った。
引き抜かれた刀はスチームブレードを防ぎ、ウィッチの体が傷付くのを認めない。
絵美理のデイパックから見付けた刀はこれまで使う機会はなかったが、ようやく出番に恵まれた。

215神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:48:48 ID:ZXaO4USg0
『良い刀使ってるじゃねぇか。どこで拾ったのか教えて欲しいもんだ』

眩い虹色に煌めかせる刀身。
見た目に性能全振りのガラクタではない、スチームブレードを受け止め軋み一つ上げないのだ。
急速加熱した刃で標的を溶かしながら斬る、それがブラッドスタークの使う短剣の特性。
原形を保ち打ち合えるのは、仮面ライダーの武器くらいのものと思ったが。

「さてどこだろうな?拾得場所を教える代わりに、貴様で切れ味を試してやる」

軽口には軽口を返し、虹という名の刀がブラッドスタークの首へ迫る。
ボディスーツの耐久性を無視し斬首を行えはしないだろうが、急所へのダメージは無視出来ない。
スチームブレードで弾き返し反対に斬り掛かるも、手首を蹴り付け狙いを逸らされた。
再度虹を振るうが、狙った先に居るのはブラッドスタークじゃない。
斜め後ろへ一閃を描き、白武者の刀と火花を散らす。
自分の方は見て無かったのにあっさり防がれた、斬月の驚愕を置いてけぼりに闘争は続く。

「気配でバレバレだ!素人丸出しの小娘が!」

嘲りと共に蹴りを放ち斬月を呻かせ、視線を外しブラッドスタークを襲う虹。
荒々しくも鋭い剣筋、十全の殺意を乗せた刃は決して低くは見れまい。
しかし取り回しの面ではスチームブレードが有利、四方八方からの凶刃を防ぐ。
そしてブラッドスタークの武器はもう一つある。
右手のトランスチームガンは、高熱硬化弾を吐き散らすタイミングを待ち侘びていた。

袈裟斬りを弾き返し、右腕を跳ね上げ照準を合わせるまでに1秒と掛らない。
至近距離での銃撃、だが高熱硬化弾は発射されなかった。
右腕が動き掛けた時既に、ギニューは撃たれると察し対処に動いたのだ。

216神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:49:32 ID:ZXaO4USg0
「痛いっ……!?」
『っ…』

黄金に輝く斬月の兜の前立て部分を掴み、トランスチームガンの射線上へ引き摺り出した。
各部の装甲と専用装備の重量もあり、斬月の体重は100kgを超える。
女の細腕で動かせる重さでは無いが固有魔法を使ったギニューには無問題。
即席の盾に使われた斬月を前に、トリガーへ掛けた指からを力を抜かざるを得ない。

真正面の気配が消え、真横からの敵意が急接近。
射線上に引き摺られた斬月にギニューの姿が隠れた一瞬で、死角へ移動し虹を突き出す。
スチームブレードで防ごうにもよろけた斬月と衝突し、対処へ遅れが出るのは確実。
一撃だけと腹を括り、ダメージを覚悟するか?
いいや、御免だ。

『手荒な真似だが文句はそいつに言ってくれよ』
「わわ……!?」
「チッ!」

自分の方へ倒れ込む斬月へ足を振り上げ、爪先で蹴り飛ばす。
但し狙ったのは斬月が手に持つ巨大盾、メロンディフェンダーをだ。
倒れる方向を強引に変えられ、丁度メロンディフェンダーがギニューの前に来る。
ついさっき殴打の嵐を受けて尚も、軋み一つ上げなかった耐久性は変わらない。
虹を防ぎ、斬月が地面とキスする前に腕を掴んで後退。
降り立った先で小休憩の暇も無く、地を蹴り斬り込むギニューを相手取った。

(ちょいとマズいか)

頭部を叩き割らんと振り下ろされる虹を防ぎ、押し返す前にギニューは別の急所へ切っ先で突く。
回避しながら銃を向ければ、斬月の方へと身を躍らせた。
無双セイバーをするりと躱し顔面を鷲掴みに、苦し気な声に構わず自分の方へ突き飛ばす。
身を捩り横で痛がる少女の声は無視し、間髪入れずに斬り掛かられ剣戟へと発展。

217神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:50:27 ID:ZXaO4USg0
ギニューの対処へ意識を割きつつ頭は冷静に働かせ、こちらの現状を色目抜きに把握。
導き出されたのは、場の流れをギニューが支配しつつあるということ。

横目で様子を窺う限り、他二組も旗色が悪い。
葛城忍と鳴海荘吉の肉体を使った揺さぶりは成功し、普段通りの力が発揮されていない。
かく言うエボルト自身も表向きは余裕ぶった態度を取っているが、自分達の不利は理解する他なかった。

こうなった原因の内一つは、単純にお互いのコンディションの差。
3回目の放送後、街を離れたエボルト達は道中ダグバと遭遇。
避けては通れぬ戦闘に臨み、勝利を収めたもののノーダメージとはいかなかった。
必要に迫られたとはいえブラッド族のエネルギーを使った強化で、体力を激しく削られたのは記憶に新しい。
竈門家で幾らか休憩を取ったとはいえ、疲労全てが体から抜け切ったのではない。
一方ギニューもまたボディーチェンジが原因で、バルクホルンの肉体に蓄積された疲労を引き継ぐ羽目になった。
しかしエボルト達と違い、放送後はC-2に来るまでに一度も戦闘を行っていない。
ハワードから命令を受ける等想定外の事態こそ起きたが、時間の大半を休憩に使えた事が大きい。
不満を感じずにはいられなかった岩塩焼きガニも、普通の食事以上に疲労回復へ貢献した。
此度の戦闘はエボルトに比べれば疲労で動きを鈍らせずに戦えている。

二つ目は、エボルトと共にギニューと戦っているのが甜花である事。
他者との共闘自体はエボルトとしても問題無い。
だが殺し合いが始まってから肩を並べて戦ったのは蓮やジューダス、アルフォンスといった戦闘に慣れた者ばかり。
甜花もアーマードライダーの力へ慣れつつはあっても、本来は争いと無縁のアイドル。
故に蓮達と違って戦闘に関してはほとんど素人同然。
なまじこれまで戦闘経験者とばかり共闘して来た為、ここに来て一般人と組ませられるのは思った以上に立ち回りへ負担が大きい。

蓄積された疲労と283プロのアイドル。
ダグバの時は自分達の勝因に繋がったソレへ、今度は逆に追い詰められるとは何とも皮肉だ。

ギニューの狙いが戦兎なのはナビからのメッセージで知った。
首輪を外されるのを主催者達が嫌い、ギニューを使って阻止に動いたのか。
だったら初めから戦兎を参加させなければ良いだろうとか、戦兎の首輪を爆破した方が手っ取り早いだろうに等思うも、主催者の真意は理解しかねる。

何にしても今戦兎を殺されるのは防ぎたい為、早急にギニューを無力化し戦兎の方へ駆け付けたいが肝心の敵が許してくれない。
ギニューも戦兎達の加勢に行かせる気は無いようで、離れようとしても即座に妨害へ動く。
いっそ甜花を囮にする手もあるにはあるが、首輪も外してない段階でそんな真似に出た結果、後々余計に頭の痛い事態へならないとも言い切れない。
全く、やり辛いことこの上なかった。

218神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:51:55 ID:ZXaO4USg0
(実力はあるようが…フフ、残念だったな!その小娘が枷になっているのだろう!)

ギニューとて動きを見れば、エボルトの実力の高さは分かる。
同時に甜花との共闘で、いまいち足並みが揃ってないのも明らかだ。
ハワード曰く要注意が必要とのことだが、勝利の予感は確実に自分へ流れて来ている。
いらぬ真似に出る前に、決着を付けるのも不可能ではない筈。

(その為にも…あの時の感覚を思い出せ、オレ…!)

柄を握る手へ力を籠め、繰り出す刃の速さを引き上げる。
攻撃手段を徒手空拳から刀に変えた理由は、敵の武器に合わせただけではない。
殺し合いで一時期使った技、あれをもう一度使えるようにする為。
元501部隊所属の坂本美緒ならともかく、バルクホルンの手に刀は馴染んでいない。
網走監獄でボディーチェンジするまでに培った感覚を思い出し、ウィッチの体で剣士の動きに近付ける。

ギニューが鬼を斬る為の技術を使えたのは、肉体に宿る記憶を引き出せたから。
体が覚えているとでも言うべき、殺し合いで度々確認された現象がギニューの身にも起きた。
ギニュー自身が一から技を学び、己がものとしたのではない。
体を変えた今となっては思うように技を出せないのが現実だ。

しかし再び自由に繰り出せるようになれば、この先の戦闘で役に立つ。
悟空の体を一体いつ手に入れられるか、ギニュー自身にも分からない。
向こうから現れた際には好きにしろと言われたが、直前になって撤回されないとも限らない。
有り得ないと言い切れないのが非常に腹立たしい。
悟空の体とチェンジする機会がいつになるか不明な以上、使える武器や技は多くあって損はない。

何よりも、カビのように脳裏へこびり付くハワードの言葉。
孫悟空の体は野原しんのすけの精神と相性が良く、ギニューが使うよりもしんのすけが入ったままの方が望ましい。
主催者達の方針として淡々と伝えられた内容は、エリート戦士としてのプライドを逆撫でする威力を秘めていた。

219神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:52:56 ID:ZXaO4USg0
ああ、認めよう。
確かに自分はナメック星での戦いで、孫悟空の力を上手く引き出せなかった。
そのせいで格下の地球人共にも不覚を取る羽目になったのは、どうやったって消せない醜態だ。
だが、だからといってどこの馬の骨とも知れない素人の方が、自分では扱い切れなかった力を引き出せるだと?
お粗末な戦い方しか出来なかったどこぞのガキが、自分より才能があるとでも?

(ふざけるなよ…このオレを誰だと思っている…!!)

自分はギニュー。
宇宙の帝王に実力を評価され、特戦隊隊長の座に任命されたエリート戦士。
断じて見下される存在ではない、軽く見られて良い筈がない。
己のプライドに賭けて、何より自分を認めてくださったフリーザ様の顔に泥を塗らない為にも。
必ずや孫悟空の力を今度こそ完全に使いこなしてやる。
ならば、地球人のガキの剣術程度、我が物に出来なくてどうするという。

(オレを誰だと思っている!偉大なるフリーザ様の部下、ギニューだぞ!!!)

思い出せ、思い出せ、思い出せ。
全身の血液が沸騰し、指の端にまで力が漲る感覚を。
時には穏やかな流水のように、時には荒れ狂う大渦の如き剣技を。
体が違う?そんなものは問題にならない、いやなってたまるか。
たとえ肉体の記憶に刻まれておらずとも、精神に根付いたあの感覚を――

――『ひとつひとより和毛和布!』

そうして浮かんだのは、サイヤ人の肉体でふざけた動きに出た者。
杖の力で暴走していた時の微かな記憶の中にある奇妙な動き。
まるで、そう、『水』のように何者にも捕らえられない、憎たらしいあの『ガキ』の剣術を思わせる。
どいつもこいつも本当に苛つかせる奴ばかりだ。

よりにもよって、切っ掛けを掴む鍵となったのだから余計に腹が立つ。

数十度目の衝突を経て、互いの武器が弾かれる。
次の手に出るまでの、数秒あるかないかも分からない時間。

220神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:53:47 ID:ZXaO4USg0
ギニューは見た、隙が生まれた事を知らせる「糸」を。

――水の呼吸 壱の型 水面斬り

両腕を交差させてから水平に振るう、水の呼吸の基本となる型。
動作はシンプル、なれど単純な動作を一つの技へ昇華させた斬撃だ。
練り上げた呼吸は鬼殺隊の柱に比べれば、まだまだ粗が目立つ。
呼吸法が染み付いていない肉体ならば当然だ。
しかし、ゲルトルート・バルクホルンも異形と戦い人を守る軍人。
友を救うべく、シャーロット・E・イェーガーが改造を施したユニットを駆り空を舞った猛者。
限界以上に機動力を高めた性能にも耐えきり、ネウロイを撃破した魔女の肉体ならば。
彼女にとって未知の技術を使いこなせるポテンシャルが、決して無いとはいえない。

『おっとぉ!?』

ギニューの動きへ変化が起きたのは、ブラッドスタークの目にも明らか。
拙くはないがジューダスのように優れた剣の腕ではない、これまではそうだった。
なのにどういう訳か、今のは闇雲に振るうのではなく一つの「技」だ。
斬り込むつもりの腕を引き戻し、スチームブレードを翳し防御。
刀身を叩く衝撃の強さも増している。

――水の呼吸 弐の型 水車

名前の如く縦に回転し、全身に勢いを乗せて斬る。
ただでさえ怪力の固有魔法を使った所へ、全身の筋肉を活用し威力をより強化。
マトモに受け止めるのは悪手だ、斬月の腕を掴んで跳び退く。
遅れて空気を斬り地面を抉る回転斬りが炸裂。
草花と土が舞い上がり、目晦ましの役割を果たす。
視覚センサーを用いれば安易に視界は確保可能、だがほんの僅かな隙すらも「糸」が生まれる瞬間を見逃さない。

221神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:54:51 ID:ZXaO4USg0
――水の呼吸 漆の型 雫波紋突き

「あぐっ……!?」

刺突技な為、鬼の頸を落とすのには向かない。
その代わり水の呼吸で最速の型は、あらゆる防御や回避を許さず刃を届かせる。
マハスクカジャの効果が続いていなければ、より大きなダメージとなっただろう。
どうにか体を動かし、虹の切っ先が付いたのは左肩の装甲部。
メロウスリーブと呼ばれる部位が衝撃を吸収しダメージを軽減。
残念ながら完全無効化には至らず、両足が地から離れ吹き飛ばされた。

形だけでも斬月を気にしている余裕は無い。
敵は突きを放った体勢から、即座に次の型へと繋げに入った。
上半身と下半身を限界まで捩じり、解き放たれるは新たな技。

――水の呼吸 陸の型 ねじれ渦

水中にて放てば名の通り渦を、地上で放てば暴風の如き斬撃が発生。
勢いの強さも相俟って、刀が起こす風に触れるだけでも肌が赤く染まるだろう。
ブラッドスタークの頑強な装甲の前にはそよ風同然。
なれど、刀身を叩きつけられるのは流石に防ぐ必要に迫られる。

『ッ!!』

翳したスチームブレードと虹が歪な音楽を奏で、鼓膜が破れかねない金属音が鳴った。
どちらの剣も破損は無い、刃こぼれ一つ確認出来ない。
斬られずに凌げたと、ブラッドスタークに安堵は皆無。
スチームブレード越しに衝撃が全身へ伝わったかと思えば、斬月同様宙を舞う。

222神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:55:38 ID:ZXaO4USg0
『うおおおおおおおお!?』

斬撃を防御し勢いを殺した筈が、風に揉みくちゃにされる枯れ葉のような有様。
怪力の固有魔法だけではなく、虹の効果が発揮された為だ。
通常の攻撃よりも数段強力な、俗にクリティカルとも言う一撃を高確率で起こす。
水の呼吸の勢いに乗せてクリティカルが発生したなら、重装甲なブラッドスタークを弾き飛ばすくらいは容易い。

『――っ。ああしくじっっちまった、狙いはそっちか…!』

受け身を取ってすぐ、自分のミスに気付いて舌を打つ。
今の攻撃でブラッドスタークに傷を与えられるかはどうでも良かった。
斬られたデイパックの肩紐を見れば馬鹿でも分かる。

大振りな技を放つ動作でわざと警戒させ、本命からは気を逸らす。
ギニューの狙いは最初からブラッドスタークの支給品を奪うこと。
胴体へのダメージを防ぐべくスチームブレードを動かすのに意識を割かれ、切っ先が肩紐を掠めたと今になって気付いても遅い。
これまで入手した道具の入ったデイパックは、ギニューの手元へ奪取済み。
素早く口を開き中身を確認し、真っ先に目に付いたソレを掴み取る。

「む…他にも変身手段を持っていたのか。丁度良い、このギニューさまの役に立ててやろう!」

腰の機械で姿を変える戦士の存在は知っている。
所謂パワードスーツの一種かは知らないが、ギニュー本人は元々好んで使わない。
尤も殺し合いでは一旦拘りを捨てるべきとは分かっており、使える道具を無意味に眠らせておく方が間違いだ。
それにこういった道具の使用へ、多少なりとも興味が無い訳ではない。

導かれるかのように取り出し腹部へ装着。
純白を際立たせる赤い輝きが、一層強まったのは気がした。

223神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:56:25 ID:ZXaO4USg0
『ARK ONE』

「さあ見るが良い!変身!」

『SINGURISE』

地球人の玩具と思いつつも高揚感は抑え切れず、独自のポーズを取りながらの変身実行。
人類滅亡を掲げたヒューマギア達のシンギュライズデータが、プログライズキーを通じドライバーへと流れ込む。
赤い稲妻を発し流体金属が出現、瞬く間にギニューへと絡み付き装甲へと変化。

『破壊 破滅 絶望 滅亡せよ』

『CONCLUSION ONE』

悪意の鎧を纏いし怪物の降臨を、電子音声が無慈悲に告げる。
憎悪に囚われた若き社長、究極の闇をもたらす王に続く三人目の変身者。
悪意に終わりは無いとでも言うように、仮面ライダーアークワンが再び現れた。

「おお……悪くない、中々悪くないぞこの仮面ライダーとかいうやつは!」

ギニュー好みの派手な変身シークエンスに、身体能力の大幅な上昇。
これだけでも使ってみた価値はあったというもの。
当人以外からすれば全く笑えないが。

224神ノ牙 -集結の百禍(中編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:57:06 ID:ZXaO4USg0
「ひっ、な、なにあれ……ボスキャラみたいで、恐い……」
『あながち間違っちゃいねぇな』

どうにか倒せたライダーとまたもや殺し合う羽目になるとは。
変身者が前と違うなど、何の慰めにもならない。
生身の状態での強さを思えば、ダグバの時より厄介な相手かもしれないのだから。
今回ばかりは言い訳出来ない自分のミスだ、しくじりに改めてため息を吐く。

「そう気を落とすな。この道具をくれた礼として、貴様らで力を試してやる!」

アークワンの力が如何程かは実戦にてしかと確認するのみ。
丁度良い練習台なら目の前に二人もいるのだ。
仮面だけでは隠せない邪悪さを剥き出しに、虹を構えて斬り掛かる。
変身の影響は確実に表れている、これまで以上の速さで接近。

「フリーザ軍復活の礎となれ!」

敵が装甲を纏っていようと関係無い、頭頂部から股まで真っ二つにし兼ねない気迫を伴った刃。
一刀両断の四文字が現実の光景に――





「ふんっ!」
「なにぃっ!?」





なるのを『彼』は認めない。
仲間がピンチなら、何処へいたっておたすけに駆け付ける。
悪意の刃を受け止める、ヒーローの姿がそこにあった

225神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:58:45 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆  


放送が終わりどれくらい経った頃だろうか。
最初は三人で休んでいたモニタールームも、今は二人だけ。
外の空気を吸って来ると言い、ナナは部屋を後にした。
雨が止み、星が顔を出す夜空の下で何を考えているのだろう。
子供ながらに鋭い部分のあるしんのすけにも分からなかった。

隣に座る少女(少年)を横目で見る
外へ出るとナナに言われ、短い気の抜ける返事を一度したきり。
一言もしゃべらずぼんやり天井を見上げたまま。

「おねえさん」
「…お?どーしたムキムキ」

少しの間を開けて、視線をこっちへ合わせてくれた。
最初に宇宙船で会った時と同じ、美少女だけど何となく気の抜ける表情。
何も考えていないと言われても納得するだろう、そんな顔。

だけど、何となくだがしんのすけには分かる。
纏う雰囲気と言えば良いのか、同じものをこれまで何度も見て来た。
5歳児にしては濃すぎる大騒動の中で、人の悲しみへ触れる機会は一度や二度じゃない。
そういった者達と今の燃堂が重なって見え、自然と言葉を口を突いて出る。

「寂しい…?」
「……おう」

愛想が良いとは言えない、たった二文字の返答。
表情は変わらない筈なのに、どうしてだろうか。
友達と突然別れる事を告げられたみたいな、そんな顔に見えるのは。

226神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 18:59:26 ID:ZXaO4USg0
「……」

お別れを経験したことはしんのすけにだってある。
今すぐには会えないけど、自分がもっと大きくなれば会えるかもしれない。
もう二度と会えなくても、同じ空の下で生きてる。
悲しくはあれど、人生で絶対に無い訳じゃあない別れ。
でも、もっと辛い別れが前触れ無く訪れたのだって味わって来た。

死ぬ、死んで二度と動かなくなる。
若しかしたらだとかそういう希望も持てない、絶対に会えないと決まっているお別れ。
一度だけでも心が引き裂かれそうなくらい辛いのに、今日一日だけで何度も人の死を間近で見た。
どれだけ生きて欲しいと願っても、叶ってくれやしない。

(おにいさんたちは……)

今どこで何をしているのだろうか。
街で出会った青年と女、自分が休んでいる間も二人は戦っているのか。
無事でいてくれるだろうか、彼らまで死んでしまう事にはならないだろうか。

二人とも強いから大丈夫だと信じたい。
その思いとは裏腹にミチル達の死はしんのすけの心に影を落とし、嫌でも不安を煽って来る。
大変な目に遭ってるなら、すぐにでもおたすけに駆け付けたい。
だけど一体どこにいるのかが不明。
彼らと別れた街か、新八という人を助けに向かった建物か、全く別の場所の可能性も考えられる。

居場所を簡単に知る方法はないものか。
さしものしんのすけといえども、それが無茶な願いだとは理解している。
それでも思わずにはいられない。
これ以上大事な仲間…友達がいなくなってしまわない為に、彼らへ会いに行きたいと。

帽子を被った青年、おさげ髪の美女。
仲間の顔を思い浮かべたまま、難しい顔で考え込む。
意識してか無意識か、額に指を当てこねくり回し、

「――――――あれ?」

体が何かを感じ取った。

227神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:00:14 ID:ZXaO4USg0



糸のように絡まった頭の中を一度リセット。
夜風の冷たさは望んだ通りの効果を齎し、ナナに幾分かの冷静さを取り戻させた。
あれだけ降り続いた雨は止み、鉛色の空はもうどこにもない。
星々に見下ろされる中、そろそろ戻るかと考えた時気付いた。

「死体がない?」

巨大化し暴れ回ったチェンソー頭の怪物。
体の半分以上を消し飛ばされたとはいえ、消滅はせず転がっていた筈だ。
あんな目立つ物体が手品のように突然消えるのは余りに不自然。

「いや、あれは……」

死体が転がっていた場所へ目を凝らすと、身動ぎもしないナニカを捉えた。
もしやと近付いてみれば案の定、放送前に戦った怪物の死体がある。
チェンソーは砕け散り、稼働音は二度と聞こえない。
脹相の精神諸共この世を去り、残されたのは異形の肉塊だけだ。
デンジなる身体の持ち主の意識が目覚めたかどうかも、今となって不明。

「何だったんだ、この体は」

これも能力者の一種だろうか、或いは鬼や呪霊なる存在と関係があるのか。
ギニューのデイパックを漁ればプロフィールが見付かる筈。
尤も、死んだ今では然程興味を引かれもしない。

「首輪は…無事か」

異形の首を絞めつける赤い枷は填められたまま。
脹相が回収した分はギニューに持ち去られたが、これで代わりを確保できる。
ひょっとすると戦兎の方でも一つくらいは手に入れたかもしれないが、多くて困るものでもあるまい。
進んで死体を壊す趣味はなくとも、必要ならば今更躊躇は抱く人間でもなかった。
切断に使える道具も手元にあり、やらない理由を探す方が難しい。

228神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:01:14 ID:ZXaO4USg0
「メスで斬れるのかこいつの首は?まだこっちを使った方がマシ、か?」

病院で手に入れたメスは頸動脈を斬り殺すのに最適だ。
だが人でない怪物の首を斬り離せるのか、正直微妙なところ。
それよりは半ばで折れていても、刀を使った方がまだ斬り易いとは思う。

少し迷った末、結局刀を選択。
鬼を斬り人を守れとの願いが込められた日輪刀も、ナナにとっては単なる刃物。
首に刃を添え作業を開始、メスよりはマシだろうけど中々苦戦する。

「……」

ふと頭に浮かんだ一つの案。
柄から手を離し念力を発動、両腕の筋肉を行使するのとは違う『念』の力が刀へ掛かる。
集中し一気に押し込めば首は胴体に別れを告げ、濡れた地面に首輪が落ちた。
何とも言えない微妙な顔でデイパクに放る。
便利は便利だが、自分が能力者へ近付いたのを実感し苦々さが胸の奥より溢れ出す。

取り敢えず首輪は手に入った。
肌寒さを感じて来たので、宇宙船に戻り休むとしよう。
一作業終えたからか、今になって少々眠気を覚える。
戦兎達が現れる気配はまだ無く、仮眠を取る良い機会かもしれない。
また病院の時と同じ、過去の夢を見る可能性を思えば憂鬱なのだが。

229神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:01:51 ID:ZXaO4USg0
「ナナちゃ〜ん!」

が、眠るのは当分お預けだ。
宇宙船に足を踏み入れかけた時、胴着の男が駆け寄って来た。

「しんのすけ君?そんなに慌ててどうしたんですか?」
「ムキムキ、お前足速ぇなぁ。灰呂より速いんじゃねえのか?」
「…いや、燃堂さんは何をしてるんですか。そんな恰好で……」

何故かしんのすけに背負われている燃堂へ、ついつい呆れ交じりの視線を向ける。
自分を呼びに来ただけなら、わざわざ燃堂をおぶって来る意味はあるのか。
しんのすけの意図を読めずにいると、本人からもっと困惑する言葉が放たれた。

「おにいさん達がさっきの悪者と一緒にみたいだから、おたすけに行かないと!」
「はい?」

何を言ってるのだろうかこの5歳児は。
訳が分からず聞き返すナナへ、しんのすけは焦りを露わに続ける。

「オラもよく分かんないんだけど、おにいさん達があっちの方にいる気がしたんだゾ!それに、あのフルーツ牛乳って悪者も…!」
「ちょ、ちょっと待ってください。つまり…どういうことですか?」
「何だ相棒の弟。お前分かんねーのか?馬鹿だなー」
「そういう燃堂さんもどうせ分かってないでしょ!(くっ、こいつから馬鹿呼ばわりされるのは腹立つ…)」

しんのすけを落ち着かせながら詳しい話を聞く。
何でも燃堂と二人で宇宙船に居る時、仲間の居場所が分からないか考えていた時のこと。
唐突に彼らの存在を感じ取ったのだという。
しかも脹相が死ぬ原因を作った強敵、ギニューも近くにいるというセットで。

230神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:02:43 ID:ZXaO4USg0
単なる子供の妄想だと切って捨てるのは容易いが、それが出来ない理由は一つ。
孫悟空の能力が関係してる可能性があるからに他ならない。
ギニューとの戦いで驚異的な戦闘力を発揮し、多彩な力を持つのもプロフィールで確認済み。

(他者の存在探知…そういう力も孫悟空にはあるということか?)

悟空の体に慣れ力を順調に引き出している影響で、また一つやれる事が増えた。
そう考えれば、ギニュー達の居場所が分かったのもあながちデタラメとは言えない。
仲間が自分達を襲った敵と恐らく戦闘中、確かに慌てる理由も分かる。

生存中のしんのすけの仲間は雨宮蓮とエボルトの二名。
前者はともかく後者の為にわざわざ出向くのは、ハッキリ言って御免被る。
ナナとしてギニューと相打ちにでもなってくれた方が有難い。
行くのを諦めるよう、言いくるめる内容を考え、

(…待て、しんのすけが言うギニュー達がいる場所は……)

あっちにいると指差した方向、地図で言うとC-2エリア。
もしやと予感を抱き地図を広げ、宇宙船と聖都大学附属病院周りを確認。
有り得るやもしれない可能性を考え、しんのすけに確かめる。

「しんのすけ君、向こうの方にいると感じたのはその仲間の二人とギニューだけですか?他にも誰かがいるとか分かりません?」
「お?うーん…そういえばいたような……」

明確な答えは返って来ない、だがもしいたとすればそれは戦兎達の可能性が高い。
D-1〜3までが禁止エリアに指定された以上、必然的に宇宙船までの最短ルートは山を経由するしかない。
となれば、宇宙船に向かう為にC-2を通った戦兎達もギニューとぶつかったんじゃあないか。
時間的にも、宇宙船から東のエリアへ差し掛かったと見るのは自然だ。

231神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:03:20 ID:ZXaO4USg0
(流石にギニュー単独で勝てる人数ではない筈だが……)

それでも万が一を考えれば安心などできない。
戦兎が殺されれば首輪解除の人材探しは一からやり直し。
参加者の半数以上が死んだ今になって、戦兎以外に首輪を外せる物が都合良く現れるとは思えない。
仮に無事だったとしても、廻り廻って善逸と体が入れ替わったなんて事になっては困る。
あんなマスコットキャラクターみたいな体で機械いじりは無理だろう。

休んだ甲斐もあり、しんのすけの体力はそれなりに回復した。
自分と燃堂は宇宙船で待機する選択を取り、結果二人だけでDIOのような危険人物とぶつかる事態は避けなければならない。
正直これで本当に良いものかと迷う部分は少なくないが、本当に手遅れになれば後悔したって遅い。
腹を括るしかないらしい。

「分かりました。では今から三人で行きましょう」
「おー!じゃあナナちゃんもオラに掴まって〜!」
「えっ?ちょ、しんのすけ君、急ぎたいのは分かりますけどあんまり無茶は――!?」

片手で米俵のように担がれ、抗議の間もなくしんのすけは疾走。
殺し合い開始当初はすぐに息切れを起こしただろう速度も、10時間以上が経過し馴染みつつある今なら長時間の維持も難しくはない。

(ミチルちゃん……)

下水道での戦いでミチルが逃がしてくれなかったら、自分は殺されていたかもしれない。
彼女が自分をおたすけしてくれたから、こうして他の皆をおたすけできる。
また溢れそうになる涙を堪え、ひたすらに両足を動かす。
彼女が助けてくれた命で、大切な仲間を守る為に。

232神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:04:27 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆


出来の悪い三文芝居のような光景だった。
アークワンに変身し、尚且つ怪力の固有魔法を発動中。
並の鎧程度、麩菓子のように砕く威力を秘めた斬撃。
それが敵へ血の一滴も流す事なく、宙に押し留められている。
信じ難いのは虹と同じような名刀の類では無く、生身の肉体を駆使し防いだ事だ。

ガッチリした尻で刀身を挟むという、馬鹿げてるとしか言いようのない方法で。

「いや〜ん♥オラのお尻が二つに割れちゃったゾ〜♪」
「元から割れてるだろがぁっ!!下品なガキめぇえええええっ!!」

狙っていたボディが向こうからやって来た幸運も、この瞬間は怒りが勝った。
まさかこんなふざけた方法で防がれるとは、予想できる筈がない。
何が悲しくて男の筋肉質な生尻を間近で見なければならんのか。
挑発のつもりか挟んだままで尻を振られて、余計に腹が立つ。

「おっとっと…」

それでも流石はサイヤ人と言うべきだろう、尻で挟む力は強く簡単に刀が引き抜けない。
埒が明かず蹴り付ければ、靴底が当たるより先に刀を話して跳び退く。

「チッ!美しさの欠片もない奴だ…。まあいい、自分からのこのこやって来る馬鹿さ加減を恨め!」

屈辱的な防がれ方をした怒りはあるが、悟空の体を手に入れるチャンスが降って湧いたのは好都合。
向こうからやってくる分には好きにしていいと、ハワードからも許しを得ている。
ならばその通り自由にやらせてもらう。
どうにか隙を見つけて、今度こそ悟空の体を奪ってみせるのだ。

233神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:05:13 ID:ZXaO4USg0
「こ、この人誰……?どうして脱いで…ひぃっ……!?ぶらぶらしてる……!」
『…まぁ、そういう奴だと思って諦めるんだな。心配しなくても味方だ』

一度下半身丸出しの変態に酷い目に遭わされたのもあり、甜花の中で恐怖がぶり返す。
思い出したくも無い数時間前の光景が嫌でもリピートされる横で、呆れ気味に宥めるのはエボルト。
数時間ぶりに見たがしんのすけのフリーダムっぷりは健在。
ここで再会を果たすとは思わなかったが、悪くない展開だ、ギニューに支配された場の空気が少しずつ変化を見せる。

『で、そっちに隠れてるのがアイツを保護してくれたのか?』
「え……?」

大木へ言葉を投げかけると、息を呑む気配があった。
沈黙を貫いたとて存在を察知された以上は無意味、そう観念したのか。
木の後ろからメガネの少年、少し遅れてポニーテールの少女が現れる。

「ナナちゃん……!燃堂さんも……!」
「はい、お久しぶりで――って、甜花さんもしかして正気に戻れたんですか?」
「うん……!戦兎さん達が、助けてくれたから……。あ、あの、二人共、ごめんなさい……甜花、いっぱい迷惑かけて……」
「お?なあ相棒の弟、大崎はどこにもいねえぞ。こいつがどっかに隠したんか?」
「もうそれで良いですから燃堂さんは隠れててください。甜花さんも無事で何よりです、それに迷惑だなんて思ってませんよ!」

燃堂のすっとぼけた発言は適当にあしらい、甜花の無事を喜ぶ言葉の裏で傍らの赤い怪人を警戒する。
C-2に到着し戦闘中の面々を見付けた際、仲間二人の名をしんのすけが呼んだのはナナも聞いた。
つまりこの赤い装甲を纏った者こそエボルト、戦兎が最も警戒を向ける地球外生命体。
但し殺し合いに乗っていないというしんのすけの証言通り、今の所こちらを襲う様子は今の所無い。
その点も含めて戦兎から色々と聞きたいが、彼も彼でこちらへ気を回す余裕は無さそうだ。
というか何故戦兎以外にもう一人ビルドがいるのか、そこに関しても後で聞くしかない。
見た事の無い仮面ライダーが複数、白黒しんのすけと睨み合う白黒はナナから見ても背筋が寒くなるプレッシャーの持ち主。
聞き覚えのある声から察するに、どんな経緯かギニューが変身したようである。

234神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:06:27 ID:ZXaO4USg0
エボルトの存在は無視出来ないが最優先はナナ自身の命。
燃堂と共に避難し、状況を見ながらアシストを行うのがベストだろう。
人数では戦兎達が有利でも、苦戦気味なのを見るに敵の力は侮れない。
しんのすけの到着が反撃の兆しとなれば良いのだが。

『よぉしんのすけ。その白黒の相手は任せても良いか?』
「お?だいじょぶだいじょぶー!それよりおねえさ〜ん♥おじさんの声じゃ無くておねえさんの声で「しんちゃん頑張れ〜♥」って言ってぇ〜ん♥」
『……「しんちゃん頑張れー」、これで良いだろ』
(私の声で遊ばないで欲しいんですけれど…)

千雪の声に戻し要望に応えてやる。
向こうは棒読みに不満そうだがいつまでも遊んでいる場合じゃない。
しんのすけという戦力が追加された事で、こちらも戦兎達の方へ向かえる。
誰が誰とぶつかるか割り振りを脳内で組み立て、後はその通りに動くだけだ。

『そういう訳だ、お前はこいつと遊んどけ』
「ぬぉっ!?」

移動を妨害される前に胸部装甲より大蛇を召喚。
エネルギー体のコブラがギニューへ襲い掛かり、巨体とは不釣り合いに俊敏に動き回り翻弄する。

(チィッ!ハワードの奴め、だから情報が中途半端だと言ったんだ!)

銃を撃ち短剣を振るうだけがブラッドスタークの全てでは無い。
予め詳細な能力を教えられていれば、もっと迅速な対処が出来たというのに。
命令を下した男への悪態を吐き捨てる間に、エボルトはギニューの前から去る。
その際甜花の肩を軽く叩き、付いて来いと伝えて。

235神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:07:15 ID:ZXaO4USg0
「え、で、でも……」
『こっちにも誰か向かわせてやるよ。それよりお前は戦兎の方に行ってやれ。大好きなヒーロー様の手助けが出来るなら、願ったり叶ったりだろ?』

そう言われて迷いを見せるも、大丈夫だと言うようにしんのすけから頷かれた。
流石にエボルトと言えどもこの状況で、余計な嘘をつきはしない筈。
今でも恐怖と嫌悪の対象なのは変わらず、信用など以ての外。
だけど、戦闘の判断が自分よりずっと優れてるのも否定はできない。

「ちょっと待ってください甜花さん、行く前にこれを!」

呼び止めナナが渡したのは、しんのすけに支給された最後のアイテム。
もし甜花が洗脳を解かれたら役に立つだろうと考え、譲ってもらったものだ。
戦兎や杉元と違って一般人であれど、少しでも戦力強化し勝ってもらわねばナナとしても困る。

「あ、ありがとうナナちゃん……!行って来るから、二人は隠れてて……!」
「はい!甜花さんも気を付けて!」

打算ありの譲渡とは思わず、純粋な善意と信じ礼を返す。
ナナ達に背を向け、赤い怪人の後に続き駆け出した。

一足先に離れたエボルトは、視覚センサーが標的を捉えるや否や発砲。
乱入者からの銃撃に反応へ遅れが生じ、スカルは被弾を許してしまった。
だが一方的な的になるのはお断り、火花を散らしつつ跳躍。
遮蔽物には困らない戦場だ、目に付いた木へ隠れ高熱硬化弾を防ぐ。

236神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:08:26 ID:ZXaO4USg0
『苦戦してるな相棒。ここらで選手交代といこうぜ』
「エボルト…しんのすけがこっちに来たのか?それにあのライダーは……」
『そりゃ俺のミスだが、お叱りは後にしてしんのすけの加勢に行ってやれ。そこの骸骨男よりは調子も出せるだろ?』

状況が次から次へと変わり、困惑気味の蓮にもお構いなしで矢継ぎ早に続ける。
アークワンの変身ツールを奪われたのに言いたい事が無い訳ではないが、それどころじゃない。
スカルへの自分でもどうにもできない感情へ一瞬蓋をし、どう動くのが正しいかを冷静に考える。
二度戦った為アークワンの脅威は嫌と言う程味わった、そんな相手をしんのすけだけに押し付ける気は無い。
このままスカル相手に調子を取り戻せず戦い続けたとして、状況が良くなりはしないだろう。

「…分かった、こっちは任せる。杉元さんも頼んだ」
「まぁ良いけどよ。決めたんなら早くしとけ、あの白黒…DIOの奴と同じ嫌な気配がしやがる」

アークワンを初めて見る杉元からしても、纏う空気だけで危険な相手と分かった。
あれの討伐へ本人が行く気満々なら止めはしない。

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

「ライダーキック!」

エネルギー体のコブラを振り払った直後、頭上より襲い来る飛び蹴り。
両腕を交差し防御、腕部装甲へ力が押し込まれるも後ろには一歩も下がらない。

「しゃらくさいわっ!」

ほんのちょっぴり威力が高い程度の足技が何だと言う。
押し返された黒い戦士は空中を華麗に舞い着地。
かっこつけやがってとの悪態を無視し、ようやく会えた仲間と言葉を交わす。

「しんのすけ、遅くなって済まない。ここからは俺も一緒に戦う。良いか?」
「おもちのドロンだゾ!おにいさんと一緒なら、あの悪いコーヒー牛乳にも絶対勝てるゾ!」

独自の言い間違いも変わらぬ彼を表し、却って安心させてくれる。
揃ってファイティングポーズを取る少年達へ向けて、ギニューも戦意を昂らせた。
数を増やし自分に勝てると思うなら大間違いだ。
フリーザ一味の力を骨の髄まで味合わせ、今度こそ体を奪い取る。

237神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:09:15 ID:ZXaO4USg0
短く礼を告げしんのすけの方へ走る背中を見送った後、杉元は発砲中の赤い奴へ横目で尋ねる。

「それで、こっからはお前も骸骨男を相手にすんのか?」
『いや?相棒を行かせたんなら用は済んだ。あいつの遊び相手は引き続き頼むぜ』
「は?」

引き金から指を離し、銃撃を止め早々に退散。
片手をひらひら振りながら去る赤い後ろ姿へ、文句を言う暇もない。

「ちょ、おい――うおおおおっ!?」

呼び止めようとし視界の端へ映り込む、右手を向けた骸骨頭の戦士。
高熱硬化弾が飛んでこないのに、長々と隠れる必要も皆無。
スカルマグナムの銃口に睨み付けられ、杉元は慌てて地面を転がり回避。
草と土が吹き飛ばされる中、やられっ放しは性に合わないと火球を発射。
弾幕を張り数で押し切ろうとするも、スカルの射撃能力は全てを正確に狙い撃つ。

『さて、と。そんじゃあこっちを相手にしますかね』

杉元の怒声とスカルマグナムの発砲音を聞き流し、軽い足取りで本命の舞台へ参戦。
前方からは機械染みた無機質な殺意が、隣からは苦々し気な視線を集める。
必然的に全員の意識を集めた当の本人は、至って涼しい声色で言う。

『今杉元が一人で奴さんの仲間を相手してるんでね、行ってやれば助かるだろうよ』
「ピカ……」

仲間の救援を提案され、善逸は咄嗟の反応が出せない。
行った方が良いとは思うが、本当に大丈夫なのか。
判断に困り共にプロトタイプビルドと戦った男を見上げれば、少しの間を置いて肯定された。

「…ああ。こっちは俺達でどうにかするから、杉元の方を頼めるか?」

重苦しさの籠められた声だが、仲間を案じる気持ちに偽りはない。
善逸本人も未だ恐怖は消えず渦巻いてはいるが、今更怯えに屈し戦いを放棄する気も無い。
怯えを露わに承諾の一声を発し、銃声が木霊する別のステージへ飛び込む。

238神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:10:24 ID:ZXaO4USg0
これで全員改めて、それぞれの敵と対峙。
開戦の緊張を鼻で笑い肩に手を置く男を、戦兎は不快感を籠めて睨む。

『俺達も同じ世界出身同士で楽しくやろうぜ、戦兎ォ?それに、葛城先生と甜花ちゃんもなァ?』
「あうう……」
「気安く甜花の名前を呼ぶなっつってんだろ」

クリアゴーグル越しにじっとり瞳絡ませる蛇から、甜花を守るように視界を塞ぐ。
どうしてこうも人の怒りを買う真似が得意なのか。
一応今は味方同士とはいえ、エボルトと肩を並べて戦うのは相当なストレスだ。
キルバスと戦った時の万丈達も、こういう気持ちだったのだろうか。
他にキルバスを倒す方法が無かったのは確かだが、そう考えると申し訳なく思う。

「せ、戦兎さん……甜花は、大丈夫……!戦兎さんも、皆も、戦ってるんだから、て、甜花も頑張らないと……!」

もう一人のビルドとの関係は分からない。
でも動揺してるのは明らかで、そんな状態でも自分の方へこうして気を遣ってくれる。
恐怖を押し殺し、戦う決意を今一度固める理由には十分だ。
戦兎の助けになれる力は、再会した仲間が届けてくれた。

『ウォーターメロン!』

ロックシードの起動に呼応してクラックが出現。
既に何度も行った変身過程であり、特別目新しさはない。ここまでは。
ジッパーが開かれ現れたのは、メロンではなくスイカ。
通常の斬月とも、エナジーロックシードを使ったのとも違う。

239神ノ牙 -集結の百禍(後編)- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:11:10 ID:ZXaO4USg0
「変身……!」

『ロックオン!ソイヤッ!』

『ウォーターメロンアームズ!乱れ玉!ババババン!』

巨大スイカが落下し、ライドウェアの上から展開。
形状に大きな変化は見られないが、色は全く違う。
緑の縞模様は、正に暑い季節にお馴染みの。
アーマードライダー斬月・ウォーターメロンアームズ。
呉島家への復讐に燃える女との戦いで変身した、スイカアームズのプロトタイプ。
戦極ドライバーの所有者が甜花しかおらず、使う機会は先延ばしにされたロックシードが巡り巡って甜花の元へ来たのだ。

「まだ新しい変身ができたのか…!?」
『こりゃ頼もしいね。アイドルがやる気を見せてるんだ、なら悩む時間はお終いにしとけ。お前がやってるのは“仮面ライダーごっこ”じゃあないんだろ?』

皮肉気に笑ってるのが仮面越しにも分かる。
土砂降りの下で桐生戦兎の根底を揺さぶられた死闘、その時と同じ言葉をあえて口にした。
本当にこの男はロクでもない、それでいてやる気の引き出し方を熟知してるのが本当に頭に来る。
斬月が強化形態になったとはいえ、プロトタイプビルドは間違いなく強敵。
いつまでも迷いを抱えたままでは甜花にまで危害が及ぶ。
それが分かっているから甜花を自分の方に向かわせたのだろう。

「最っ悪だ……」

この男の思惑通りに踊らされるのが。
吐き捨てた言葉とは裏腹に、戦意を取り戻している自分自身が。

ヒーローと星狩り、アイドルが対峙するはもう一人のビルド。
不死身の兵士と鬼狩りが挑むは血肉を失くした探偵。
二人の少年が戦うは悪のエリート戦士。

無能力者達が見守る中、新たなステージの幕が上がる。

240神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:12:58 ID:ZXaO4USg0



――RIFLE MODE――

先手を譲ってやる物好きはここにおらず、不要な感情に振り回されないブラッド族なら尚の事。
二つの武器を組み合わせ、射撃精度と連射性能を強化。
遠距離近距離両方をカバー可能なトランスチームライフルが狙うは、赤青二色の戦士。
自らが創り出したヒーローとは違うソレへ、銃口が殺意を吐き散らす。

スチームブレードと合体させた分、重量はトランスチームガン以上。
なれどブラッドスタークは棒切れのように振り回し、それでいて正確な照準を合わせられる。
常人であれば銃を向けられたと認識も叶わず、三発の穴を空けられてあの世行だ。

尤も、そう簡単に決着が付く戦いならとっくに終わっている。
葛城忍が変身したプロトタイプビルドは、常人の域には決して入らない。

スマッシュのみならずライダーの装甲をも削り取る回転刃、ドリルクラッシャーが弾を斬り落とす。
ブラッドスタークの右腕が跳ね上がった瞬間に、攻撃が来る位置を予測。
無駄を極限まで落とした動きにより、掠めもさせずに防御成功。
分かり切っていた結果に落胆も驚愕もせず、続けてトリガーを引く。
三点バーストの軽快な銃声へ対抗し、弾を斬る音が奏でられる。
撃たれて防ぐ、変わり映えのしない攻防を長続きさせても無駄に時間が過ぎるだけ。

『FAINAL ATTACK RIDE E・E・E EX-AID!』

膠着状態を有利へ動かすべく、エグゼイドがドライバーにカードを装填。
銃弾を防ぐ為にその場かに止まった、高威力の技をぶつけるチャンス。
マイティアクションXガシャットの力をライダーカードが再現し、必殺の蹴りを放つ。

241神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:14:04 ID:ZXaO4USg0
バグスターを爆散させるエグゼイドの技、しかし当たらないなら無意味。
バトルシューズが触れたのは赤い残像、標的を見失った蹴りは虚しく地面を叩き割る。
ブラッドスタークとエグゼイド、両名の視界から敵は消失。
わざわざあっちこっちへ目を向けずとも、隠す気の無い殺気により居場所を察知。

胸部装甲の機能で数秒間の高速移動を行い、エグゼイド達の死角へ移動。
纏めて薙ぎ払う大振りの、だが十分な速さも兼ね備えた斬撃が迫る。
そちらへ視線を向けてからでは余りに襲い。
共に飛び退き、着地を待たずにそれぞれ得物の照準をセット。
高熱硬化弾とエネルギー弾へ、プロトタイプビルドが取った回避方法も跳躍。
左脚部のスプリングが伸縮しハイジャンプ、跳び上がり様に斬り付けた。

『おっと危ないねぇ。俺じゃなけりゃ死んでたぜ』

反応速度の高さはプロトタイプビルドの専売特許ではない。
回転刃をトランスチームライフルのブレードで防ぎ、余裕の軽口と共に落下。
難なく着地を終えるのを見下ろしながら、プロトタイプビルドの手が腰の機械に伸びる。

『Ready Go!』

『VOLTEC FINISH!』

レバーを回しエネルギー生成ユニットを起動。
一回転の度に生成速度は上昇し、フルボトルの成分を変換。
グラフ型滑走路を瞬時に組み立て、ブラッドスターク目掛けて蹴りを放った。
落下の勢いも加えた速さは抵抗の暇を与えない。

『KAMEN RIDE FOURZE!』

『FAINAL ATTACK RIDE FO・FO・FO FOURZE!』

であるなら他の者が対処に動くまで。
スペースシャトルを思わせる頭部のライダー、フォーゼへ変身。
間髪入れずにカードを読み込ませ、二つのモジュールを装備。
炎を吹かし加速したフォーゼの蹴りが横合いから叩き込まれ、プロトタイプビルドは蹴りの体勢を崩され落ちて行く。
呻き声一つ上げず受け身を取り、反撃へ移るべく再びビルドドライバーに手を掛けた。

242神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:14:55 ID:ZXaO4USg0
「え、えーいっ……!」

聴覚強化装置が少女の声と重量物を構える音を捉え、瞬時に次の行動を予測。
棒立ちのままでいるのは非常に危険、回避に専念すべきと判断を下す。
バトルシューズ底の軌道装置が回転を始め、地面を削りながら移動。
プロトタイプビルドの真後ろの木が粉々に砕け散ったのは、その直後のこと。
耳を劈く音と共に、無数の弾丸が宙を駆けやって来る。
これまで動かなかった三人目のライダーが、ここで攻撃を開始したのだ。

「あうう……これ、凄いけど……重い……!」

プロトタイプビルドを狙い撃つのは斬月の新たな武器。
シールドと回転式機関銃を一体化させたウォーターメロンガトリングが火を吹き、森へ大量の光弾をばら撒く。
耐久性が増し機能も追加された分、重量もメロンディフェンダーの倍。
斬月自身のスペックも上がった事で何とか使える、インドア派の女子高生には少々キツい。

重さに見合った威力の重火器に、プロトタイプビルドも警戒の色を強める。
だが重量が影響し、取り回しには苦戦すると見た。
加えて変身者は素人、接近されれば反応も許さず仕留める事が可能。
駆ける速度は落とさず向かう先を斬月の方へ変更。
じぐざぐに動きながら迫るプロトタイプビルドへ発砲するが、動きに翻弄され上手く当てられない。
ドリルクラッシャーが回転速度を更に上げ、装甲諸共貫く刃が迫り来る。

『KAMEN RIDE WIZARD!』

『ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!』

少女の死を決して認めぬヒーローが立ち塞がる。
黒いローブを靡かせ、顔面に填めた宝石は星にも劣らぬ輝きで照らす。
仮面ライダーウィザード。
殺し合いではとあるウィッチの肉体にもなった、指輪の魔法使い。

体の回転に合わせローブが揺れ動く。
手首を狙った蹴りが命中、ドリルクラッシャーの脅威を斬月から遠ざけた。
ならば標的をビルドに変えようとし、別方向からの脅威を察知。
高熱硬化弾が背中に命中、火花を散らし退かざるを得ない。

243神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:15:40 ID:ZXaO4USg0
本調子を取り戻したのか、連携の精度は先程以上。
尤も簡単に勝ちを譲ってはやらない、取れる手はまだ残っている。

『忍者!』『コミック!』

『Are You Ready?』

『忍びのエンターテイナー!ニンコニンコミック!』

フルボトルを変えフォームチェンジ、それこそ仮面ライダービルドの本領。
赤と青の二色から一変、紫と黄色の装甲を纏う。
忍者とコミックの成分が交じり合い生まれたベストマッチフォームだ。
隠密行動と奇抜な動きの二つを得意とするが、能力を最大限に発揮する武器がプロトタイプビルドの手にはある。

『隠れ身の術!』

刀身に漫画のコマを取り付けた刀、四コマ忍法刀のトリガーを引く。
切っ先から噴出された煙に覆われて、プロトタイプビルドを全員の視界から隠す。
各々の視覚センサーを用いれば発見は安易。
しかしプロトタイプビルド次なる手を打つ方が一手早い。

『分身の術!』

煙の中から現れるプロトタイプビルドは一人じゃない。
寸分違わぬ分身を作り出し、全員が一斉にトリガーを引いた。

244神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:16:18 ID:ZXaO4USg0
『風遁の術!』

刀身に風を纏わせ敵を斬る忍術。
それを分身も合わせた全員、計10体が行えば竜巻へと変貌。
ライダー達の重量も無視し吹き飛ばす暴風を発生させ、疾風の刃に閉じ込める。

『悪いね葛城先生、その手品はもう見飽きてるんだよ!』

――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!――

唸る風の咆哮に負けじと響くは、トランスチームライフルの電子音声。
コブラ型のエネルギー弾が踊り狂い、分身達を噛み潰す。
三都のパンドラボックス争奪戦で、ビルドのベストマッチフォームは把握している。
ブラッドスタークにとっては今更梃子摺る姿でも無い。
更に此度は斬月も加わり、ガトリングの掃射で残る分身を蹴散らした。

『FAINAL ATTACK RIDE WI・WI・WI WIZARD!』

分身が消え風の勢いが弱まった今こそチャンス。
ライダーカードの効果で右足に魔力を収束。
数多のファントムを撃破し、ゲートの危機を救った技だ。
本来であれば専用の指輪をドライバーに翳す工程が必要不可欠だが、ディケイドはカード一枚で再現できる。
フレイムスタイルの証の炎を纏い全身を回転、アクロバティックな動きを経て蹴りを放った。

『火遁の術!』

対するプロトタイプビルドも、刀身に纏うは炎。
分身を消されたとて、本体が無事な限りは終わらない。
威力強化のみならず刀身を伸ばし、リーチも上げた刃が振るわれる。
魔法と科学、二つの炎が一歩も引かずに食らい合い、やがて互いに弾かれた。

「くっ…!」

装甲越しの熱さへ顔を顰めつつ、ローブを翻し華麗に着地。
敵もまた後方へ吹き飛ばされるも踏み止まり、再び睨み合う。

父と息子、二人のビルドによる闘争は未だ終わりを見せない。

245神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:16:55 ID:ZXaO4USg0



「ばかすか撃ちやがて…!」

悪態は銃声に消え、呟いた本人以外には聞き取れない。
と言っても、別に聞いて欲しくて口に出したつもりはない。
火球をひたすらに放ち続ければ放った分、同じ数だけスカルは光弾で撃ち落とす。

(埒が明かねぇ…)

被弾を防ぐために弾幕を張っているが、一発も当たらなければ時間が無意味に過ぎていく。
火力に優れるとはいえ、霊力は無限じゃない。
ガス欠を引き起こす前に別の手を打たねば蜂の巣にされる。

スカルの弾切れに期待する、というのは土台無理な話だろう。
既に百発近く撃っておきながらこれだ。
どう考えても装弾可能以上の弾を撃っている事からも、杉元の知識にある銃火器とは根本的に作りが違うらしい。
仮面ライダーというのは使う武器までデタラメか。

「ピカ〜!!」

突如聞こえた可愛らしい鳴き声。
スカルには警戒を、杉元には戦況の変化を意味する笑みを齎す。

加勢に駆け付けた善逸の頬が放電、電気袋に溜め込んだ力を一気に解放。
10まんボルトの射出を待たずにスカルは銃撃を止め、急ぎ飛び退く。
遅れて閃光が周囲を照らし、地面と木々を焼き潰した。

246神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:17:55 ID:ZXaO4USg0
殺到する光弾が消え失せ、杉元も弾幕を中断。
歩兵銃を手に取り疾走、無骨な仮面へと銃床を叩きつける。
得意の得物で繰り出す近接戦法へ、蓬莱人の身体能力も加わった一撃だ。
強化皮膚とて直撃すればノーダメージでは済まない。
だが格闘戦ができなスカルではない。

翳した拳が銃床を防ぎ、それ以上は近付けさせない。
生身で行えば自ら骨を砕かれにいったに等しい行為も、スカルの機能が防御の役目を果たす。
アンクルがスカルメモリの力を増幅、ナックル部分の強度を限界まで引き上げる。
これにより素手でありながら拳は盾にもなるのだ。

「チッ!」

歩兵銃を押し返され、反対に拳が杉元の頬へ迫る。
世界ランカーもかくやの威力を、顔を逸らして回避。。
刺青囚人の岩息舞治ならば喜び勇んで受け止めただろうが、生憎杉元にそんな趣味は無い。
切り裂かれた空気の揺れが頬を割き、赤い一本線を描く。

「おらぁっ!」

歩兵銃を再び肩に戻し両手を自由に、霊力で炎を付与。
打撃を用いた格闘戦も杉元の得意分野だ。
嘗てのスチェンカを超える怒涛の勢いで放つ殴打の嵐。
アシリパと引き離された無念で暴走した時にも劣らぬ、一発一発が必殺級の威力。

杉元が激流ならばスカルは流水。
長年の探偵活動で風都の表も裏も知り尽くし、その都度荘吉の命を救った体術。
強化皮膚が荘吉自身の能力を殺さず強化、しなやかさと強靭さを併せ持つ動きを可能にする。
時に全身を最小限の動きで、時に両手で拳をいなし捌く。

247神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:18:42 ID:ZXaO4USg0
「ピカアアア!」

天秤を杉元の勝利へ傾けるは味方の援護。
視覚器官が迫る黄色い影を捉えるも、反応までには僅かに遅い。
でんこうせっかを駆使した体当たりを決行、腹部に頭突きを食らわせる。

「ピカ〜!?(いだだ!?このオッサンの体めっちゃ硬い!)」

強化皮膚以上の硬度を持つ外骨格の範囲内だ。
頭を抑え悶えるも、スカルの体勢は崩れ隙を晒す。

「もらったぁ!」

火炎に包まれた頬へヒット、続けて脇腹を狙い打つ。
血を吐き出し苦悶の声を上げ当然の二連撃へ、スカルは特に反応を見せず殴り返した。

「うおっ!?」

まさかの無反応へ困惑するのも束の間、身を捩って躱す。
長い足を使った蹴り上げには、上体を後方へ引き凌ぐ。
鞭のように四方八方から襲い来る脚に、舌打ちを零し直撃を避け続ける。

(何だこいつ…痛みを感じて無いのか?)

拳が当たったのに僅かな痛みも感じた様子が見当たらない。
内心首を傾げる杉元の考えは間違っていない。

スカルメモリは骨格を中心に身体組織を高める、純粋な肉体強化の効果を齎すガイアメモリ。
だがもう一つの大きな特徴として、使用者の体は死体と同じ状態になる。
血は流れず、熱を失い、痛みも感じられない。
「変身する間は、少しの間死ぬこと」、荘吉の言葉通りの現象を起こすのがスカルメモリだ。

248神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:19:43 ID:ZXaO4USg0
メモリの詳しい効果を知らない杉元からすれば、痛みで多少なりとも怯ませられない相手とだけ理解。
少々面倒に感じるもやりようは幾らでもある。
十数度目の蹴りを躱し、より至近距離への接近を試みる。
爪先で肩が割かれるも負傷は軽微、視線の一つすら寄越さない。

「おらよっと!」

伸ばした手が掴んだのはスカルの首元。
風に靡くマフラーをがっちり離さず、地面へと投げ落とした。

細身な体格に似合わずスカルもまた、100kgを超える重量のライダーだ。
各部器官の重さを合わせたスカルをほんのちょっぴり浮かすどころか、投げ飛ばすのは只の人間には至難の業。
されどそこは杉元佐一、鍛え上げた柔術を駆使すればお手の物。
大巨漢の牛山辰馬とも互角に渡り合った実力は、体が変わろうと健在。
むしろ蓬莱人の力の加算し更に磨きが掛けられた程。

背中から地面へ激突、常人ならば痛みに意識が遠のいてもおかしくはない。
スカルには無関係だ、ベルトを剥ぎ取ろうと手を伸ばす杉元へ横たわったまま脚を振り回す。
複数体のマスカレイドドーパントを纏めて蹴散らす威力の蹴りに、直撃をもらう訳にはいかず伸ばした手共々退くしかない。

両手が地面を叩き起き上がり、すかさずロストドライバーからメモリを引き抜く。
変身解除を自ら行う気になったのではない。
右部分のスロットに再装填し、高威力の力を引き出す為だ。

『SKULL!MAXIMAM DRIVE!』

スカルメモリのエネルギーを最大まで増幅し本体へ送り込む。
胸部の外骨格部分が開き、パープルの輝きを発す巨大な髑髏が出現。
歯を打ち鳴らし頭上を飛び回った後、スカルの蹴りを受け杉元を食らい殺さんと襲来。
街を泣かせる悪党を葬った技は今、信念の宿らぬ暴力として牙を剥く。

249神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:20:41 ID:ZXaO4USg0
「うっそ何それ!?そんなんあり!?」

高威力の蹴りだとか斬撃だとかはエターナルで見慣れたが、まさか胸から髑髏が飛び出すのは予想外。
思わず素っ頓狂な声を出してしまったものの、緊迫した状況なのに変わりはない。
あんな気味の悪い攻撃で喰い殺されるなど真っ平御免。
対抗手段ならこっちも持ってる、両手に霊力を掻き集めた。

「行って来い!」

不死鳥の如き炎の翼を広げ、放つのもまた不死鳥を思わせる炎。
DIOとの初戦で使ったスペルカード、鳳翼天翔をより荒々しい形へ変えた炎弾。
髑髏と不死鳥、人の末路と人ならざる怪物が喰らい合う。
互いに痕跡一つ残さず消滅、しかし技を放った者達の戦いは続く。
不死鳥だったものが残した火の粉を吹き飛ばし、スカルを狙うは赤い刃。
速度こそ若干落ちていても、その分は広範囲に配置した数で補う。

これもまた体の持ち主、藤原妹紅のスペルカードの一つ。
【時効『月のいはかさの呪い』】に酷似した技。
本人との違いは杉元の殺意をブレンドし、見栄えよりも威力を優先した事か。
ナイフ弾は鋭利さを増し、敵を串刺しにせんと発射された。

『SKULL!MAXIMAM DRIVE!』

但しこの程度ではスカルから微塵の動揺も引き出すのは不可能。
スカルマグナムを再出現させ、スロットにメモリを装填。
連射速度と威力を強化、破壊光弾がナイフを優先度の高いものから順に撃ち落とす。
刃の包囲網を突破したスカルヘ、次弾は撃たせぬとばかりに杉元が接近戦を仕掛けた。

動と静、二つの殺意が戦場を侵食する。

250神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:21:23 ID:ZXaO4USg0



「マガツイザナギ!」

長得物を地面に突き刺し、まるで祈りを捧げるかの動作。
願うは主とその仲間の完全勝利か。
戦闘が始まり即座にジョーカーはヒートライザを使用。
アークワンの脅威は身に染みている、出し惜しみで勝てる相手では無い。
馬鹿にならないSP消費を代償に、自分としんのすけの能力を強化。
アーマージャックと戦った時を思い起こさせる、以前と違うのは一人足りないこと。
胸を刺す喪失感に今は蓋をし、倒すべき悪へ拳を突き出した。

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

「ライダーパンチ!」

ジョーカーメモリのエネルギーを付与し、威力を高めたシンプルな技。
だがスキルの恩恵によりさながら生きた弾丸の如き勢いだ。
並のドーパントには回避を許さず防御も無意味、切り札の名に相応しい力。

「そんなチンケなパンチでオレを倒せるものかぁっ!」

――水の呼吸 参の型 流流舞い

アークワンの演算機能が攻撃位置を瞬時に弾き出す。
流れるような足運びにより難なく回避、すれ違いざまに刃を走らせた。
強化皮膚も虹の切れ味の前には紙切れ同然、しかし仲間の危機をおたすけするのがヒーローの役目だ。

「オラもいるぞコーヒー牛乳!」
「ギニューさまだ!名前くらい覚えろアホが!」

割って入ったしんのすけに、刀を振るう手を慌てて止める。
ジョーカーならともかく、これから自分が奪う予定の体へ重傷を負わせては意味が無い。
そういった事情はしんのすけには無関係、友を傷付ける悪党へ怒りの攻撃を開始。

251神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:22:09 ID:ZXaO4USg0
「よっつよろしく糞転下肢!」

逆立ちの状態から蹴りを放ち、足底がアークワンの腕部を叩く。
咄嗟に両腕で防ぎ目立ったダメージはない。
しかし流石は孫悟空の体と言うべきか、装甲の上からでも鈍い痛みが腕に伝わった。
やはりチェンジするに相応しい強力な体と再認識、フリーザ復活の為に利用する価値はある。

「だから少し大人しくしていろ!」
「うわぁっ!?」

掌を翳し、至近距離から波動を放射。
宇宙の帝王を生き返らせるのに手段は選ばない、ギニューの持つ悪意を変換。
スパイトネガがしんのすけを蝕み、体中を痛め付ける。

「ケツアルカトル!」

変身していても大きな傷を受けた攻撃だ、生身での痛みは想像もできない。
仲間を苦しめる波動攻撃を止めるべく、大蛇の姿をした神を呼び出す。
太陽のアルカナが示すペルソナは翼を広げ、戦場に怒りの風を届ける。
吹き飛ばされ兼ねない暴風に、スパイトネガの放射を続けていられない。
両足に力を籠めて踏み止まるも、それは相手に攻撃の機会をくれてっやたに等しい。

「マガツイザナギ!」

チェンジしたペルソナが間髪入れずに長得物を振り回す。
豪快な斬撃へアークワンもまた、武器を手に対抗。

――水の呼吸 肆の型 打ち潮

淀みない動きで繰り出される剣は、得物一本でありながら複数の敵を斬り殺すのに適した技。
広範囲を巻き込む木っ端微塵斬りとも打ち合い、装甲へ敵の刃を触れさせない。
斬撃の嵐が治まれば、今度こそアークワンが反撃に移る時。

252神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:23:27 ID:ZXaO4USg0
「やっつやっぱり柔軟弾丸!」
「ぬぐ…!」

が、そう簡単に攻撃を許可してはやらない。
全身を丸めボールのように跳ねる勢いを利用しての体当たり。
紙一重で躱すがまたもや刀を振るう手が止まり、すかさずもう一人も攻めに移る。
アルセーヌを出現させスキル発動、咄嗟に翳した虹の刀身をスラッシュが襲う。
防いだと思えば次の瞬間にはジョーカーとアルセーヌの回し蹴り。
本体とペルソナの同時攻撃にも焦らず斬り返そうとし、左斜め後ろからの脅威を察知。
演算機能により纏めて斬り殺すルートを弾き出すも、それは実行に移せない。

「おのれぇ…!」

靴底二つを刀身で防御しながら跳び退く。
アークワンがいた位置を通り過ぎたしんのすけは、丸めた体を戻しジョーカーの隣に並ぶ。
ジョーカー一人だけなら何の遠慮も無しに殺せたというのに、最有力チェンジ候補のしんのすけが邪魔をするせいで斬るに斬れない状況が出来上がっている。
だったら早急にしんのすけと体を入れ替えれば良いが、

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

「ライダーキック!」

ジョーカーの存在が非常に邪魔だ。
しんのすけへ狙いを定めようとすれば決まって妨害に出て、ボディーチェンジを断念せざるを得なくなる。
予想できた事だが案の定、自分の能力は全員の知る所らしい。
目障りにも飛び蹴りを放ったジョーカーへ、引っ込んでいろとばかりに虹で斬り付ける。

――水の呼吸 壱の型 水面斬り

「ぐぁ…」

脚をすり抜け胸部を切り裂く。
火花を散らし吹き飛ばされ、背中を地面に強打。
強化皮膚でも耐え切れない斬撃の痛み、それでも悲鳴を噛み殺し立ち上がる。

253神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:24:04 ID:ZXaO4USg0
「ペルソナ…!」

主が戦意を失わぬ限り、ペルソナも決して消えない。
ケツアルカトルが巨体を震わせ衝撃波を放つ。
アークワンの装甲を殴りつけるような感覚が走るが、大したダメージではない。
つまらん悪足掻きと嘲笑いつつ、しんのすけとのボディーチェンジを行うべく早急に殺そうと――

「な、に……?」

唐突に、パズルのピースを失くしたように。
本棚へ不自然な空きが一つ生まれたように。
頭の中から、どうやれば体を入れ替えられるかがすっぽりと抜け落ちた。

「ばっ、馬鹿な!?何がどうなっている!?」

自分の代名詞とも言える能力の使い方を忘れたのだ、動揺を抑えろと言う方が無理だろう。
忘殺ラッシュ、放送前にアナザーカブトのクロックアップも封じたスキル。
ケツアルカトルの攻撃は見事効果を発揮し、忘却状態を引き起こした。
一時的なものに過ぎないとはいえ、詳しい効果をやりはしない。
致命的な隙を見せた相手を前にやるべきは、もっと他にあるのだから。

「か…め…は…め…」
「っ!!」

膨大な気の収束を感じ取り、アークワンの意識は動揺から即座に一流の戦士へ戻る。
これはマズい、今正に大技が放たれようとしている。
装甲を纏った今なら死は防げる、などと希望的観測は微塵も生まれない。
孫悟空の力が如何に厄介かは、自分自身が嫌と言う程味合わされた。

ならば取れる手は、こちらも高威力の技をぶつけて相殺する他ない。
気を溜める瞬間は体を入れ替えるチャンスであっても、肝心の方法が分からないのではどうにもならない。
十中八九原因を作っただろうジョーカーへの殺意も今だけは後回し、焦り気味にドライバー上部のスイッチを押し込む。

254神ノ牙 -Naked arms- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:24:49 ID:ZXaO4USg0
「波ーーーーーっ!!!!!」

『PERFECT CONCLUSION』

『LEARNING END』

膨大な気を凝縮させ解き放つ、亀仙流の奥義。
地球を脅かす悪との死闘を幾度も制して来た、悟空を代表する技。
対するは10の大罪を並べ立て、一点集中し叩き込む飛び蹴り。
指輪の魔法使いや偽りの破壊者を下した、悪意の魔人が下す審判。

光と光、希望の青と絶望の赤。
輝くエネルギー波の中を突き進み、悪意が進軍を開始。
アークワンの装甲であってもダメージは避けられず、そこかしこから火花が散る。
その痛みも知った事かと振り払い、更にスパイトネガを引き出し強化。
グロンギの王とはまた別種の悪意を味方に付け、光が徐々に弱まりを見せた。

「ふぬりゃああああああああああっ!!!」
「なっ!?こ、この力は…!」

ヒーローが負ける末路へ反逆を叫ぶかのように、しんのすけの全身を赤いオーラが包み込む。
これをアークワンは知っている。
霞む暴走中の記憶の中で、鮮烈に焼き付いた自身の敗北。
巨体を誇るチェンソーの悪魔をも消し飛ばす、北の界王が授けし力。
界王拳がしんのすけの敗北を否定し、勝利を引き寄せた。

「な、が、このオレが…!」
「しんのすけ、ファイアー!!!」

押し切れた筈の勢いは最早見る影もなく、それ以上先へ進めない。
視界全てが青に染まっていき、嫌でもこの後の末路を理解してしまう。
認められず咆えようにも、より力強いしんのすけの鼓舞する声へ掻き消される。
悪は正義には勝てない、ヒーローの勝利を証明するかの光景が広がる――





『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』





その寸前、全てを台無しにする音が響いた。

255神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:26:38 ID:ZXaO4USg0



時を少し遡り風都タワー前。
ジューダスが去り、黎斗は死亡。
残されたJUDOが支給品の回収を終え、適当な屋内で休もうと考えた時だ。
ふと視界にチラつくソレへ気付き、何と無しに拾い上げた。

元は懐中時計に似た形状も、今では見るも無残に砕け散り破片が転がっている。
殺し合いで三人もの参加者を偽りの破壊者に変えた果てに、アナザーディケイドウォッチは役目を終えた。
最早変身は不可能、アナザーディケイドが猛威を振るう瞬間は二度と訪れない。
それが分からぬJUDOではない。
だというのにどういう訳かウォッチから目が離せず、頭上に掲げて睨み付ける。
丁度真ん中部分、怪人の顔面が描かれた箇所をじっと見やり、

「なに…?」

異変が起きたのは直後のこと。
掴んだ指へ破片が沈んだかと思えば、そのまま完全に入り込んでしまった。
掌を見てもそこには欠片一つ存在しない。
何が起きたかと問われれば、アナザーディケイドウォッチの破片がJUDOの…より正確に言うと門矢士の体内に入った。
そう言う他ない。

特に痛みは感じず、体の内側から異物感も無い。
何度見ても手に傷は付いていないし、血の一滴だって流れてない。

不可解な現象はまだ終わりではない。
意図せず破片を取り込み、ややあってJUDOはどこか奇妙な感覚を覚えた。
例えるなら自分に足りていなかったパーツが見付かり、元の位置に組み込まれたような。
無くした何かを取りもせたのにも似ている、おかしくはあっても不快ではない、そんな感覚を。

256神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:27:39 ID:ZXaO4USg0
「これは…いや、まさか……」

次から次へと起こる現象に困惑するのも束の間、ある一つの予感に急かされライダーカードを取り出す。
この付近に敵はいない、いるのは力で従えたモンスターが一匹のみ。
理解していながらディケイドに変身、無人のエリアへ電子音声が響き渡る。
激情態への変身に問題はなく、これまでと変わらぬ悪魔染みた形相の仮面を装着。
緑の瞳が自身の掌を見下ろし、暫し無言で握っては開くを繰り返す。
やがて納得のいく答えが出たのか、再び生身へ戻った。

「成程な」

ディケイドの力が強化されている。
劇的な変化という程でも無いが、今までの激情態よりも幾分か力が漲る感覚があったのだ。

アナザーディケイドウォッチとは、タイムジャッカーのスウォルツが士からディケイドの力を奪い生み出した物。
であれば元の持ち主へ力が返って来たのだろう。
尤も、ウォッチが破壊されたことで力の大部分は士の肉体へ戻る前に消滅。
僅かな残り滓だけ、完全に消える前にディケイドの力として士の体へと入り込んだのである。

仮にウォッチが破壊されていなければ、未来の士が奪われたディケイドの力を過去の士の肉体が取り戻し、より大幅な能力の上昇も起きた筈。
現在のディケイドは激情態より上、ネオディケイドライバーを使った時よりは下というスペックに変化を遂げた。
それらの詳細は知らずとも、更なる強さを得られた可能性を自分で潰したとはJUDOにも分かる。
惜しい事をしてしまったと後悔しても今更だ。
多少なりとも力は上がったので、そこは良しとする。

加えてもう一つ、ウォッチの残骸を取り込んだ影響らしきものが現れていた。
脳裏に浮かぶのはアナザーディケイドの能力の一つ。
自分諸共風都タワーに転移した、灰色のオーロラ。
何故急にと問われたとてJUDO自身にも説明は出来ないが、不思議と断言出来る。
今の自分ならばあれが可能だと。

257神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:31:06 ID:ZXaO4USg0
「……」

謎の自信がただの妄想でないと確かめるべく、己の望む場所を強く念じる。
仮面ライダー達を破壊する為に、最も闘争が激しく起きるのはどこか。
残る参加者がこぞって目指すだろう施設、北西エリアの巨大監獄。
そこへ行く一番の理由の、殺し合いを加速させる機械が置かれた場所を。

「…成功、か」

散々イメージさせておいて時間の無駄、腹立たしい結果にはならなかった。
JUDOの目の前に広がる、オーロラ状のカーテン。
自然に生まれる光景ではない、JUDO自身が引き起こしたのだ。

破片とはいえアナザーディケイドウォッチを取り込み、アナザーディケイドと同じ力を使えるようになった。
JUDOがオーロラカーテンを出現させた理由は、そうではない。
ウォッチが無関係とは言わないが、あくまでも切っ掛けに過ぎない。
そもそもオーロラカーテンを使った移動は、門矢士が元から使える能力なのだから。

何故大ショッカーは士を大首領に祭り上げ、彼にディケイドライバーを与えたのか。
答えは彼が幼少時から次元を超える力を持っていた為だ。
ディケイドにも並行世界を渡る機能は搭載されているが、それとは別に士自身も同じ力を使える。
現にスウォルツの手でディケイドの変身能力を失ったにも関わらず、ツクヨミを過去の別世界へ連れて行った事があった。
別世界を旅する力が原因で彼の妹との間に亀裂が生まれたのだが、それは別の話。

現在のJUDOは世界を渡る旅人としてではなく、仮面ライダーの天敵の破壊者としての側面が強い。
だが士の肉体へ殺し合い開始当初とは比べ物にならない程馴染み、士の持つ能力を使用可能な土台は出来上がっていた。
仮にウォッチを吸収せずとも、オーロラカーテンを操るのは時間の問題だったろう。
とはいえ、並行世界や時間を自由に行き来するだけの力は発揮できない。
幾ら何でもそこまでの自由を許しては、殺し合いが破綻してしまう。
此度はあくまで遠距離間の移動が可能に制限を掛けられた。

だとしても移動時間を大幅に短縮出来るのは他の参加者にはない強みだ。
公衆電話と違い、行き先を自由に決められるのも大きな利点。
ある意味では基本能力の強化以上に収穫と言える。

258神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:32:02 ID:ZXaO4USg0
「付いて来い」

バイオグリーザに短く告げ、オーロラカーテンを潜り抜ける。
到着まで5秒と掛らず、目の前には風都タワーとは別の施設。
役目を終え消える灰色のゲートを無視し、ざっと付近を見回した。

網走監獄内にある建造物の一つは、お世辞にも綺麗とは言い難い。
出入り口の扉は破壊され、壁にも破損が見られる。
特に目を引くのは天井と床に空いた大穴。
警戒しながら近付き触れてみると、僅かだが湿っている。
恐らくここで戦闘があった、床の湿り気から考えるにまだ雨が降っていた放送前に。

「……」

戦闘の痕跡は数時間前のものでも、監獄内にまだ居座っている可能性はある。
オーロラカーテンが本当に目的地へ繋がっているか、確かめようと潜り抜けたが少々迂闊だったかもしれない。
どうせなら体力を回復させ、万全の状態に近付けてからにすれば良かったか。
後悔しても今更だ、来てしまったのだから切り替える。
いつでも変身できるようにベルトを巻き付け、バイオグリーザに見張りを指示。
まずはこの建物、近くの看板曰く教誨堂から調べるべく奥へと進んだ。

先に結論を行ってしまうと、JUDOは大きなトラブルにも見舞われず地下でモノモノマシーンを見付けた。
地下への入り口である左の扉を一発で選んだのも大きい。
一足早くモノモノマシーンを使ったギニューが知れば、多少なりとも苛立ちを感じるだろう。

古めかしい施設内には不釣り合いな機械、それが目当ての物だと直ぐに理解。
近付いた途端に小馬鹿にするような声で案内が流れる。
大体は放送でハワードが言った通りだ。
事務的に詳細を知らさせたあちらと違い、マシーン本体からの説明は非常に耳障りと言うしかない。

259神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:33:03 ID:ZXaO4USg0
ともかく発見できたなら今更使用に躊躇は無い。
手に入れた首輪の数は十分、目当ての物が手に入る確率は決して低くない筈。
最初の一回はリオン・マグナスを殺して得た使用権で、ハンドルを回す。
ガチャポン、或いはガチャガチャとも呼ばれる音を出しカプセルが落ちて来た。
早速空けて中身を確認、同封した説明書を読むと迷い無く使用を決意。

「ほう……」

体に起きた変化へ、感心したように手元の空瓶を見やる。
JUDOが入手した景品はハイラル地方で調合される、疲労回復用のがんばり薬。
殺し合いで体を奪われた英傑を、旅の中で何度も助けたアイテム。
しかもモノモノマシーンから出て来たのは、ガンバリカブトと呼ばれる貴重なカブト虫を素材に作られた物だ。
同じ虫素材でも、ガンバリバッタ以上の効果を発揮する。

JUDOの関心の理由は予想以上の疲労回復が行われた事。
多少マシになれば程度のつもりで飲んだが、良い意味で期待を裏切られた。
流石に疲労と完全におさらばまではいかなくとも、煩わしい倦怠感のほとんどが消えている。
移動時間のみならず、体力回復の時間も短縮出来たのは間違いなくプラス。
ディケイドの強化ツールではないが、どうせまだ10回も回せる。
喧しい案内音声を無視して、二回三回とマシーンを使い続けた。

暫くして、教誨堂を出たJUDOはこれからどうするかを思案する。
戦力は整いコンディションも悪くない。
網走監獄内を見て回り、他の参加者が来るのを待つ手もある。

だがJUDOが網走監獄を離れ、自ら参加者との接触に動く方針へ決めた。
生存中の者達が網走監獄へ集まる可能性は高い、それはいい。
しかし監獄へ向かう途中のエリアでそういった者達がかち合い、戦闘へ発展する可能性も低くはない。
その時脱落者が出ても、所詮は弱者と見なし然程気には留めなかった。数時間前のJUDOなら。
激情態へ覚醒したJUDOは参加者達、特に仮面ライダーの破壊に強い拘りを持つ。
自分以外の手で仮面ライダーが破壊されるかもしれない、そう考えるとこのまま座して待つのには非常に強い抵抗が生まれるのだ。

DIOの話に合ったディケイドライバーを持つ者や、仮面ライダーダブルの片割れ。
連中が自分に破壊される前に死ぬ、断じて認められない。
故にJUDOは王として待つのではない、生きた災害として自ら破壊を振り撒きに行く。

260神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:34:16 ID:ZXaO4USg0
早急な移動の為に再度オーロラカーテンを出現させようとする。
が、幾ら待てども一向に現れる気配が無い。
難しく考えるまでも無く、十中八九主催者が余計な枷を付けたからに違いない。
デメリットなしに会場の如何なる場所へ自由に移動可能、幾ら何でもそれは贔屓が過ぎると考えたのだろう。

「余計な真似をしてくれる……」

激情態の破壊したライダーをカード化する力や、今回のオーロラカーテン。
ディケイドと士の力をここまで使える事を予期して制限を課したのなら、何とも用意周到だ
不愉快だが使えないのなら仕方ない、別の方法を用いればいい。

「変身」

『KAMEN RIDE KUUGA!』

『FORM RIDE PEGASUS!』

ディケイドライバーへ二枚連続でカードを装填。
ペガサスフォームのクウガへ変身し、トビウオに乗り込んだ。
全身の神経を極限まで研ぎ澄ませたこの形態なら、探索と奇襲察知の両方に適している。
本来ペガサスフォームはエネルギーの消耗が激しく、姿を維持できるのは50秒間のみ。
但しそれは霊石アマダムの力で変身するクウガならの話。
あくまでカードの力で姿を変えたディケイドに、そういったデメリットは存在しない。
長時間の変身も勿論可能である。

準備を終え、網走監獄を後にしどれくらいが経った頃か。
上空から複数人の存在を感知し、そちらへ急行。
近付くにつれ見えたのは、知っている者と知らない者が入り乱れる戦場。
思った通り複数の仮面ライダーもいたが、最も目を引いたのは別の存在だった。

鍛え抜いた肉体を橙色の胴着で隠した男。
膨大なパワーを収束させたエネルギー波を放ち、初めて見るライダーから勝利を奪わんとする戦士。
気合の咆哮を発する男を視界に入れた時、JUDOの本能が訴えた。
あれは危険、激情態となった今の自分でも骨が折れる。
戦場の空気に充てられ血迷った、とは思わない。
圧倒的なエネルギーを内に秘め、高火力の力として撃ち出す真下の光景がその証拠。

敵が手強いからと言って今更尻込みはしない。
誰が相手だろうと破壊の対象外にはならない。
しかし、優先して仮面ライダーを破壊したい今のJUDOにとっては邪魔な参加者だ。
仮に放送前のJUDOであれば、大首領であり創造主のプライドに懸けて真っ向から倒そうとしただろう。
だが今のJUDOは違う。
たった一人で全てのライダーを葬った士のように、手段を選ばず破壊する悪魔は正々堂々など持ち合わせない。

凄まじき戦士から世界の破壊者へ戻り、銃口を合わせる。
何人かが気づいた時にはもう遅い、英雄を戦いを踏み躙る光線は発射された。

261神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:35:08 ID:ZXaO4USg0



地上に降り立ちJUDOはざっと周囲に視線をやる。
胴着の男、しんのすけぶつかり合った白黒のライダーも、ダブルの片割れも吹き飛び大木へ激突。
呻きながらも変身は解除されていない、彼らは攻撃の余波を受けたに過ぎないからだ。
では直撃を食らった者は?

「フッ、思ったよりもしぶといな」
「うぅ……」

這いつくばり苦し気な声を出すしんのすけは、見下ろすJUDOへ咄嗟の言葉が思い付かない。
胴着は焼け焦げ、その下の筋肉の鎧にも火傷が目立つ。
ディメンションブラストはサイヤ人の体を焼き、勝負へ水を差した。

生身でディケイドの砲撃を受ければ髪の毛一本まで焼かれ、まともな死体は残らない。
此度はしんのすけの体が悟空であるという一点が大きな救いとなった。
制限されていようと、サイヤ人の強靭な肉体はそれだけでダメージを軽減。
ヒートライザの効果で防御力が上昇。
更に撃たれる直前に界王拳を使い、能力を大幅に引き上げたのも影響し死を遠ざけた。
されど、JUDOが放ったのは通常時よりも威力を増したディメンションブラスト。
ダメ押しとばかりに、アクションストーンからエネルギーを引き出し威力へ上乗せ。
何よりも、撃たれると分かって備えるのと不意打ちで撃たれるのでは全く違う。
主催者の手で枷を付けられた事も一因となり、出来上がったのがこの光景だ。

「ディケイド…!」
「なっ、き、貴様は…!?」

赤い瞳でこちらを睨む黒い戦士はともかく、もう一人の反応を訝しく思う。
あのようなライダーは初めて見るし、声もこれまで会った誰とも一致しない。
何故ああも驚愕しているのか知らないが、仮面ライダーを見逃す気は無い。
破壊衝動の高まりを感じ、外した視線の端で立ち上がる気配。
もう復帰できるとは意外だ、やはり油断できない強者の肉体か。

262神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:35:44 ID:ZXaO4USg0
「だが遅い」
「おわぁっ…!?」

伸ばされた手がJUDOを掴む光景は現実にならず、目の前から消え失せた。
否、いつの間にやらしんのすけの背後へ回り蹴りを放ったのだ。
背中の痛みと衝撃へつんのめり、転倒を避けようにも再び背中へ足底が当たる感触。
うつ伏せに倒れ、踏み付けられて動きを封じられる。

「ふんぬぅ〜!!離せ〜!」
「お前は後だ。まずは仮面ライダー達を破壊してくれる」

悪鬼の形相で見下ろす破壊者へ、蓮は猛烈な悪寒を掻き立てられた。
風都タワーの展望室から吹き飛ばされ、そこから何があったかは知らない。
そんなことより、一刻も早くしんのすけを助けなければ。
痛む体に鞭を打ち、白黒のライダーに目もくれず走る。
今自分が何とかしないと、取り返しのつかない事になる気がしてならない。

「しんのすけ…!」
「おにいさ――――」

消えた。

伸ばした手は何も掴めず。
最後まで言葉を言い切る事もできず。
破壊者が掌から零した緑に包み込まれ、たったそれだけで終わり。
しんのすけの姿は影も形も見当たらなかった。

263神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:37:07 ID:ZXaO4USg0
「な……に……」

目の前で何が起きたのだろうか。
一部始終を目撃したにも関わらず、理解するのに数秒の時間を要し動きが止まる。
原因を作った男への怒りで再起動となるよりも、ディヴァインオレ製の剣が一閃する方が速い。

「がぁっ…!」
「慌てずとも破壊してやる。全てのライダー達をな」

鮮血代わりの火花を散らす蓮を最後まで見送らず、ゆっくりと振り返る。
乱入者の存在へ全員が手を止め、敵意と警戒を一身に集めた。
プロトタイプビルドとスカルもまた、変化を見せる戦場に一度攻撃の手を止めている。
誰もが無視できないのだ、おぞましいプレッシャーを放つ破壊者を。
場は完全にJUDOが支配しつつあった。

「おいエボルト、あいつが……」
『ご想像の通りだよ、さっき言ったディケイドその人ってな。しっかしまぁ、随分おっかない面(ツラ)になったもんだ』

軽口の裏で警戒を強め、トランスチームライフルを肩に担ぐ。
変わったのは単なる見掛け倒しであれば楽だが、そう都合良くはいかないだろう。
以前戦った時以上に、異様な気配を痛いくらいに感じられる。

邪魔なしんのすけは自分の手元で何も出来ない。
因縁を持つ者達も含め、仮面ライダーが集まっている。
望んだ戦場に破壊しろとの声が脳から響き渡る、言われなくてもそのつもりだ。

「仮面ライダー達よ、貴様らに真の破壊を味合わせてやろう」

宣言と共に悪魔が取り出すは、ディケイドの真の力を引き出す最後の一手。
神の悪戯と言うには余りにも残酷だ。
携帯ゲーム機にも見えるソレへカードを叩き込み、画面に触れる。

264神ノ牙 -Ψ悪は遅れてやって来る- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:38:13 ID:ZXaO4USg0
『KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE』

『HIBIKI KABUTO DEN-O KIVA』

画面上のクレストをなぞる度に発せられる、世界を守る戦士達の名前。
通りすがったそれぞれの世界で絆を結んだ男達。
門矢士の旅路を踏み躙る悪意が、戦士の魂を汚していく。

『FAINAL KAMEN RIDE DECADE!』

指先が九つのクレストを走り、辿り着いたのは己が変身する戦士。
ディケイドライバーのサイドハンドルを引き、額へ一枚のカードを装着。
十字の意匠が刻まれた胸部へ張り付く奇怪な装甲。
ディケイドライバーは腰の右側に、強化ツール『ケータッチ』は腹部にセットし全ての工程が完了。

異様と、そう言う他ない姿だった。
胸部へ一様に貼り付けられたライダー達のカードは、さながら英雄の肖像画。
或いは破壊者に囚われ首を並べられた哀れな羊か。
頭部へ王冠の如く張り付いた破壊者自身のカードが、これより狩られる者どもを睥睨する。

仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム。
嘗て、ネガの世界でダークライダー達を撃破したディケイドの真の姿。
旅の終わりと己の在り方への迷いを経て、再び通りすがりの仮面ライダーを選んだ士の覚悟の証。
しかし違う、尊大であれど正義の心は失わなかった写真家の青年とは何もかもが違う。
憎悪を秘めたかの禍々しい顔は、破壊者の使命を失くしていない何よりの証拠。
激情態のままでコンプリートフォームへの変身という、本来のディケイドの物語では描かれなかった悪夢が現実のものとなった。

そして此度はもう一手、絶望の度合いを引き上げる。

『ATTACK RIDE ILLUSION!』

破壊を齎す悪魔は一人じゃない。
電子音声が告げる地獄の光景に、眩暈を覚えたのはさて誰だったか。
生み出された二体の分身は、当然の如く本体同様のコンプリートフォーム。
刀身を撫でる本体に倣い、二人のディケイドも武器を構える。

「さぁ、始めるか」

三体の破壊者と、抗う者達。
月と星々が固唾を飲んで見守る中、歪なライダー大戦が始まった。

265神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:40:03 ID:ZXaO4USg0



「ペルソナァッ!!」

主の怒りはそのままマガツイザナギの力と変化。
長得物を振るい、闇を切り裂く雷光を発生させる。
広範囲の敵を巻き込み焼き潰すスキル、マハジオダインが破壊者を貫く。

誰もが命中を確信しただろう光景は、ジョーカーの想像でしかないらしい。
長得物へ電撃が迸った時既に、ディケイドは禍の魔人の真横を通り過ぎた。
接近へジョーカーが気付くも剣は振り抜かれた後。
呼吸を忘れそうになる悪い予感へ、防御は即座に排除。
アンクレットが超人的な脚力を付与、近付きつつある死から歯を食い縛って逃れる。
関節の痛みも気にかけていられない、無茶苦茶な体勢での回避行動。
ショルダーアーマーを掠める程度で済み、安堵の暇無く続けて叫ぶ。

「アルセーヌ!」

シルクハットの怪人が二つのスキルを放ち、ディケイドの力を削ぐ。
ラクンダとスクンダ、耐久力と敏捷性の低下を引き起こした。
これで少しは戦い易くなると、そう楽観視するには敵は強大。
速さを落とした筈が瞬きの間に急接近、腹部へ蹴りが叩き込まれる。

「ごっ…」

骨が砕け、内臓も潰れた。
そう錯覚を抱きかねない威力に、目がチカチカと火花が散る。
ディケイドの攻撃を受けたのはこれが初めてじゃない。
だとしても、一撃の威力が風都タワーの時とは比べ物にならないくらい凶悪だ。

266神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:40:50 ID:ZXaO4USg0
『ATTACK RIDE SWORD VENT!』

ドラグセイバーを召喚し装備、双剣の餌食となるのはジョーカー。
ではなくもう一人のライダー。
動きを阻害しそうな姿とは裏腹の軽やかな跳躍で、アークワンの元へ到達。
長剣と青龍刀、異なる二本の得物が振るわれた。
二方向からの脅威もアークワンの演算能力は予測を終えている、取るべき最適解を叩き出す。

「ぬがぁっ!?」

ではこれは何だ、何故こうなっている。
躱して逆に斬り付ける筈が掠りもしない、そればかりか敵の刃は二つともこちらの装甲を切り裂いた。

アークワンの演算能力に不調が起きたのではない。
単純に、アークワンが対処に動くよりもディケイドが速いというシンプルな理由。
攻撃がどこから来るかが分かったとしても、反応が間に合わなければ無意味。
ディケイドのスペックが強化されたのみならず、JUDO自身の装備品の効果もあった。
モノモノマシーンを使い手に入れたアクセサリーの名は、ほしふるうでわ。
装備者のすばやさを2倍に上昇させ、ディケイドを更なる脅威へと変えたのだ。

一度攻撃が通れば流れは自分が掴んだも同然。
片方の剣を防がれたなら、もう片方で突きを繰り出し。
片方の剣を躱されたなら、もう片方が胴体を走る。
巧みな剣捌きに致命傷は防げども、着実にダメージは蓄積していく。

「頭に乗るな貴様っ!」

だがアークワンとて、プログライズキーを使うライダーシステムでは脅威のハイスペックを誇る戦士。
おまけに変身者のギニューもフリーザ軍で上位の実力を誇る男。
何も出来ずにやられるしかない弱者と舐められたままでは終われない。

267神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:41:35 ID:ZXaO4USg0
――水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

水の呼吸最速の突き技で、双剣の乱舞を真っ向から打ち破る。
負けは許されぬ、ここで死ねばフリーザ復活も水の泡。
己を追い立てる言葉を幾つも胸中で並べ、尋常ならざる執念で技の完成度を引き上げた。
胸部の経帷子、ヒストリーオーナメントを直撃。
収められたライダーカードに破損は無くとも、装甲越しへ鋭い痛みが襲い掛かる。

――水の呼吸 捌ノ型 滝壷

呻き後退るディケイドから、明確な隙の糸を読み取った。
畳みかけるにはここしかない。
跳躍し真下目掛けて虹を振り下ろす、単純ながら威力は水の呼吸のなかでも随一の型だ。
逃げられはしない、逃がす気も無い刃の襲来。

『ATTACK RIDE SLASH!』

『ATTACK RIDE SLASH!』

尚もディケイドに焦りは無く、二枚続けてカードを装填。
次元エネルギーとリザードアンデットの力で、強度・切れ味・剣速の全てを強化。

「ぐがぁっ!?」

斬り上げたライドブッカーで虹を打ち返し、遮るものの無くなった体を刀身が撫でる。
生身であれば死は免れない斬撃も、アークワンの装甲により命を繋ぎ止めた。
と言っても自分の無事を喜べる余裕は全く無い。
むしろ装甲を纏っていながらここまでの痛みに苛まれる事へ、混乱が強まる。

268神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:42:32 ID:ZXaO4USg0
「まさかとは思ったが今の技…あの時の剣士か。よもや屈辱を晴らす機会がまだ残っていたとはな」
「…っ。ふん!今更気付いたのか間抜けめ!」

アークワンの剣技を見間違える筈がない。
二回目の放送の少し前に自分を敗北へ追い詰めた、許し難い痣の少年と同じ動きだ。
それなら自分を見た時の反応にも納得がいく。
何故放送で死亡を発表されたのに生きているのかは重要ではない。
破壊を逃れて勝手に退場したと思ったが、今度こそ自分の手で完全なる終わりを与えてやる。

「お前達!そいつらの相手は後回しにしてオレを手伝え!」

ディケイドから目を逸らさないまま、仮の協力者二人へ指示を出す。
一人相手に複数人で袋叩きというのは美しくない、そんなのは百も承知。
ナメック星での悟空との戦いで、不意打ちを仕掛けたジースを叱り飛ばしたように本来ギニューは一対一のフェアな戦闘を好む。
しかし今のディケイドには、上手く言えないが何かがおかしいと感じる。
姿が変わって強くなったのだととしても、受けたダメージが幾ら何でも大き過ぎやしないか。
強いと言うより異常と言った方が正しい、得体の知れなさを秘めている気がしてならない。
戦士としてのプライド以上に、ディケイドを早急に排除するべきという予感がギニューに判断を下させたのだ。

元々9つのライダー世界を旅した時から、ディケイドは明らかに自身より能力が上の怪人やライダーにも効果的なダメージを与え、有利に立ち回った。
これらはディケイドの本質である「破壊の力」が、一種の補正に近い形として作用した結果だろう。
でなければ如何に数多のライダーの力を使えるとはいえ、たった一人で全ての仮面ライダーを破壊するのは不可能に等しい。
現在のディケイドは破壊者としての使命を受け入れた激情態になった上で、コンプリートフォームへの変身を行った。
その為DIOとの戦闘時以上に、仮面ライダーへ対する特攻性が高まっている。

「何人で来ようが末路は変わらん。当然貴様もだ」
「くっ…!」

ライドブッカーが振り下ろされ、刀身が向かう先には黒い戦士。
アークワンへ意識が割かれた隙にホウオウのスキルを発動、傷を癒した傍からまたすぐに戦闘再開だ。
敵が不可解な強さを持つのにはジョーカーも気付き、故にここからは一撃だろうともらえば死も同然の心構えで挑む。
マガツイザナギを呼び出し長得物で防御、押し返さんとすれば羽のように跳び退く。
仮面を変えアルセーヌがスラッシュを放ち、同じタイミングでこちらへやって来たライダー達が仕掛ける。

それら全てが無駄と言わんばかりに、破壊者は己が力を存分に振るった。

269神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:43:33 ID:ZXaO4USg0



敵が変わった所でやる事に何ら変化は起きない。
生け捕りの必要が無い以上、より明確な殺意を以て攻撃に出るのみ。
トリガーを引き、高熱硬化弾を自身の武器から吐き出させる。
照準は敵の急所へ正確に合わせ、外すようなヘマはしない。
なのに一発も命中しないのは、今更銃弾数十発程度で怯む相手ではないから。

ライドブッカーで弾を斬り落とす様は、無駄の無さも相俟ってある種の芸術に見えなくもない。
生憎ブラッドスターク審美眼を持ち合わせておらず、瞳は先程からずっと冷え切りディケイドを睨む。

『KAMEN RIDE!ZERO-ONE!』

『飛び上がライズ!ライジングホッパー!』

『"A jump to the sky turns to a rider kick."』

ブラッドスタークが銃を撃っている間、他の二人も各々動く。
ライダーカードが力w解放し、指輪の魔法使いから全く別の姿に変身。
蛍光イエローの装甲と赤い瞳の輝きは暗闇の中で映え、ゼロワンの存在感を一層知らしめた。

ライジングホッパープログライズキーのデータを再現、黄色い残光を発しながらディケイドの元へ疾走。
脚力特化の性能はエターナルとの戦闘時から変わっていない。
加速の勢いを味方に付けた蹴りを放ち、ディケイドへ靴底が叩き込まれんと迫る。

『ATTACK RIDE BEAT!』

しかし尋常ならざる速さを武器とするのはディケイドも同じ。
ほしふるうでわが移動のみならず、動作の一つ一つを最速の域へ押し上げる。
打撃の威力と速度、両方を強化させ迎え撃つ。
拳と蹴り、己の四肢を武器に変えた一撃が激突、互いへ届かせるべく幾度も放たれた。

270神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:44:28 ID:ZXaO4USg0
それぞれ腕と脚が数十本に分かれたのかと見紛うスピード。
DIOのザ・ワールドとも互角に打ち合ったゼロワンの爪先が、魔弾の如く胸部へ突き進む。
されどディケイドもまた別のカード効果とはいえ、同じスタンド使いのラッシュに打ち勝った強者。
脚部を裏拳が叩き軌道を逸らされ、ゼロワンの体勢に僅かな揺らぎが生じる。
復帰までは迅速であっても、破壊者が付け入る隙としては余りに大きい。
一歩踏み込み懐へ潜る、僅かな身動ぎだけで触れる程の距離。
拳が来ると思った時にはもう、腹部からの鈍痛を脳が伝えた。

「っ…!」

戦闘で集中力を欠くのは悪手、基本中の基本だ。
まして目の前に立つのが強敵であれば猶更の事。
頭では分かってはいても、痛みというやつは人間の思考を掻き乱すのに最も有効な手段。
回避・反撃・防御。
取らねばならない次の行動があるのに、頭の中は「痛い」の二文字で埋め尽くされる。
無論、数秒も経たぬ間に持ち直すがそのほんの僅かな時間が命取りだった。
既に反対の拳は二撃目を放つ準備を終えているのだから。

「戦兎さんから、離れて……!」

であるならば、彼の危機を彼女が黙って見過ごす訳がない。
右手に構えるは通常形態と同じ武器、無双セイバー。
威力はウォーターメロンガトリングが圧倒的に勝る分、安定した使い易さを誇る。
エナジーチャンバーは満タン、たっぷりと溜め込んだエネルギーを弾に変換し撃ち出す。

高性能なカメラアイが射撃能力を高めるが、この程度をディケイドは脅威に思わない。
ライオンアンデットの力を付与したままの片腕を振るい、光弾は呆気なく霧散。
それでもゼロワンへ放つはずだった一撃が止まったのも事実。
地を蹴り拳の範囲内を離れ、ディケイドからのアクションを待たず背後を取った。

『FAINAL ATTACK RIDE ZE・ZE・ZE ZERO-ONE!』

脚部の跳躍装置、ライジングジャンパーによって引き上げられた力が最高潮に達する。
両脚にバッタの能力を付加させ、跳躍力と速力を倍増。
振り返ったディケイドと視線が合う前に蹴り上げた。
身動きの取れない上空へ強制的に移動された破壊者の更に頭上を取り、叩き落とすべく再度蹴りを放つ。

271神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:45:06 ID:ZXaO4USg0
『ATTACK RIDE ONIDUME!』

「っぁ…!」

決めの一発を阻む痛みは胸元から。
突き出されたディケイドの拳は届いていない、しかし手の甲から伸びた爪が突き刺さっている。
仮面ライダー響鬼が使う奇襲技も、激情態はディケイドのままで使用可能。
蹴りの連続でトドメの一撃へ繋げるゼロワンの技は中断されて、自分の番と言わんばかりに振るわれるライドブッカー。
自慢の脚力も蹴り付けるものが無い空中では宝の持ち腐れか。
否、ゼロワンの足底はライドブッカーの刀身を蹴って自ら地面へと急降下。
非常に高い脚力の反動から保護する脛部装甲の恩恵により、無傷で着地を果たす。
攻撃の失敗を悔やむだけ時間の無駄だ、手札を切り続けなければ勝ちは望めない。

『KAMEN RIDE ZI-O!』

『仮面ライダージオウ!』

高らかに名乗るは正に恐れを知らぬ王の如し。
腕時計をモチーフにした仮面を被り、長短二つの針が天を突く。
黒地のボディスーツの上を走る、これまた腕時計のベルト部分を思わせる装甲。
何より目を引くのは、己が存在を見る者全てに知らしめる『ライダー』の四文字。
仮面ライダージオウ。
最高最善の王、或いは最低最悪の魔王の未来を約束された常磐ソウゴの始まりの姿。
異なる世界線の戦兎と万丈が出会った戦士だが、それは省略する。

『FAINAL ATTACK RIDE ZI・ZI・ZI ZI-O!』

今重要なのはジオウの力でディケイドを倒せるか否かのみ。
地面へ降り立った瞬間を狙い、『キック』の文字に取り囲まれた。
標的はただ一人、跳躍と同時に文字がジオウの右足へ収束。
足底に刻まれた同じく『キック』の二文字が破壊力を増幅し、後は直接叩き込む。

272神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:46:01 ID:ZXaO4USg0
――ROCKET!STEAM ATTACK!ROCKET!――

ディケイドへの攻撃をジオウ一人には押し付けない。
フルボトルの成分が銃弾を強化、左腕に銃身を置きブラッドスタークが狙いを付ける。
煙を描きながらロケット弾を発射、ジオウの蹴りに負けず劣らずの高火力だ。

『ATTACK RIDE CLOCK UP!』

だが届かない、破壊者から勝利を奪うには余りにも程遠い。
電子音声を聴覚センサーが拾った時点で、全員が地から足を離していた。
ジオウの蹴りは標的を見失い、反対に蹴り飛ばされ。
ブラッドスタークのロケット弾も外れ、胸部装甲から火花が散り。
斬月もまた無双セイバーのエネルギー補充を行うタイミングで、ライドウェア越しに拳が突き刺さった。

「――がっ!?」
「あぐ……!?ひぅ……痛い……」

何が起きたのか分からない。
気が付いたら地面へ倒れ、遅れて痛みがやって来たのだから。

『……っ、ああまたかよ!慣れたくねぇなこいつは!』

唯一攻撃の正体に察しが付いたブラッドスタークだが、毒吐く裏で内心で首を傾げる。
ディケイドが高速で移動するには別のライダー、ファイズのに変身した上で更にアクセルフォームになる工程が必要だった筈。
なのに今のは明らかにカード一枚の装填という、ワンアクションでやってのけた。
前回とは違う姿になっているのが原因なのか。

アクセルフォームと今回使ったクロックアップは別物だが、懇切丁寧に説明してやる気は皆無。
ライダーへの変身を挟まずにアタックライドを使える事も、一々教える義理は無い。

倒れ伏す三人へ求めるのはたった一つ、破壊による死だけだ。

273神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:46:45 ID:ZXaO4USg0



「っぶねぇ…!」

身を屈め横薙ぎの一閃をやり過ごす。
大ショッカーが作りし特殊鉱石の刃の犠牲となったのは白髪数本。
首は未だ繋がっており、血の一滴も流れてないなら上出来だ。

「ピカピカ〜!!(ひえ〜!お助け〜!)」

涙と鼻水で顔面を崩壊させながらも、でんこうせっかで蹴りを回避。
いきなり現れ破壊だ何だと物騒な事を言ったかと思えば、有無を言わさず殺しに来たのだ。
視界一杯に映り込んだ爪先へ、動くのが後ちょっと遅かったら可愛らしい顔がミンチとなっていただろう。

「仮面ライダーでなくとも逃がしはせん。大人しく破壊を受け入れろ」
「断るに決まってんだろうが!」

死ねと言われて、どうぞご自由にと返す自殺志願者なら今の今まで生き残ってはいない。
随分と勝手な言い草へ怒鳴り返し、顔面目掛けて銃剣刺突を繰り出す。
常日頃から戦闘とチタタプ用に研いでいたのだ、切れ味を侮ってもらっては困る。

尤も外れてしまえば肝心の鋭さも分からず終い、そもそも分かりたいとも思わない。
敵兵に反撃の機会を与えず突き殺した銃剣は呆気なく躱され、再度杉元へ刃が迫った。
軍刀とも日本刀とも違う種類の剣が、不死身の兵士の血を求め襲来。
電光石火もかくやの速さで歩兵銃を引き戻し、銃剣部分で弾き返す。

(重てぇし速過ぎんぞこいつ!遺影貼り付けて出来る動きじゃねぇだろ!?)

以前、白石と共に見付けた江渡貝剥製所にでも置いてそうな奇怪極まる見た目。
どう考えても動き辛そうなのに実際はどうだ、冗談かと思えるくらいに素早い。
次の動きへ支障が出ない範囲で実を捩り、時には銃剣で受け流す。
対処が間に合わず刃が柔肌を走るも、深い傷は一つも無い。

274神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:47:37 ID:ZXaO4USg0
(……おい、どうなってんだこりゃ)

左肩に浅い切り傷が丁度三つできた所で違和感に気付いた。
傷が再生していない。
幾ら完全再生までは時間が掛かると言っても、この程度の浅い傷なら1分も経たない内に治る筈だろうに。
傷が塞がり元の白い肌に戻る気配はまるでない。
何より不自然なのは巨人との戦闘で付けられた傷は問題無く再生してるにも関わらず、ディケイドに斬られた箇所だけが治らないのだ。

(こいつまさか…)

どういう仕掛けかはさっぱり分からないが、受け入れざるを得ない。
ディケイド相手に蓬莱人の不死は無効化される。
数時間前、エターナルメモリの影響で不死となったDIOを破壊したのと同じだ。
激情態のディケイドの前には永遠の命も無意味、問答無用で破壊される末路以外にない。

不死身の肉体はこの瞬間不死身では無くなった。
傷の再生が無効化される以上、恐らくあと一回の復活もディケイドが相手では発動されない。
殺されたら本当にそこで終わり、アシリパとの再会叶わず他人の体で死ぬ。
たった一つの命しか持たない、どこにでもいる人間と一緒。

つまりそれは

「今までと同じってだけだよな!」

歩兵銃を肩に掛け、間髪入れずに抜刀。
鬼の副長の愛刀が破壊者の剣を防ぎ、金属同士が擦れる不快な音が発生。
古今東西、どんな名刀も所詮は人の領域で打たれたに過ぎない。
大ショッカーの技術力を以て作り出されたライドブッカー相手では、砂糖菓子のように砕け散るのが関の山。

「うおりゃああああっ!!」

だが刀の銘は和泉守兼定。
新政府軍を斬り殺し、戦場に夥しい血の雨を降らせた剣豪の魂の一部。
人の身でありながら英霊に上り詰め、狂戦士として異界の闘争に馳せ参じた男の刀なれば。
破壊者だろうと安易に破壊は出来ぬものと知るだろう。

「ピカ〜!」

弾き返されたたらを踏んだディケイドの視界を塞ぐ、複数体の黄色い獣。
かげぶんしんの妨害も、目障りと口に出す事なく一振りで消滅。
まんまと逃げおおせた本体を見やり、急速に接近する殺意へ意識を引き戻された。

不死身の兵士は死を跳ね退ける。
肉体の能力ではなく、自分自身の力を駆使して。

275神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:48:29 ID:ZXaO4USg0


状況が悪いのは隠れているナナにも見て取れた。
ギニューと他二名の仮面ライダーを相手にしていた時は、戦兎達の勝利はほぼ確実だったというのに。
奇怪な姿のライダー、曰くディケイドと名乗った乱入者に全員が苦戦気味。
敵対中のギニュー達ですら、今はディケイドの猛攻を凌ぐのに手一杯の様子。

(マズいな…せめてしんのすけがいれば話は変わって来るのだろうが……)

ギニューが変身したアークワンをも追い詰めた、宇宙最強の戦士の体となった少年。
だが希望とも言える彼は今、ディケイドの手で身動きを封じられている。
離れた場所から見ていたナナには分かったのだ。
しんのすけを緑の光が包み、ディケイドの手元には奇妙な四角い物体が握られていたのを。

支給品か、ディケイド自身の能力か。
どちらにしても恐らくあの四角い物体にしんのすけは閉じ込められたのだろう。
それを奪えばしんのすけは自由を取り戻せる。
問題はディケイド相手に奪うという、特大級の難関をどう解決するかだが
念力でこっそり奪おうにも、ディケイドの反応速度は異常だ。
余計な真似に出たと分かれば即座に殺しに来る。
戦兎達ですら複数人掛かりで苦戦している相手に、自分が戦おうなどと命知らずになる気はない。

「なあ相棒の弟!俺っちいつまでこうしてんだ?あの音楽室野郎をどうにかしなくて良いんか?」
「ですから!今私達が出て行っても余計に足を引っ張るだけなんです!」

自分がいなかったら後先考えずに飛び出し、呆気なく殺されていたのは想像に難くない。
燃堂へ振り回されるのは今に始まった事で無くとも、つくづく頭が痛くなる。
というか音楽室とは一体何を言っているのか。
ややあってディケイドの見た目は確かに、音楽室へ飾られた著名な作曲家の肖像画のようだと納得。

276神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:49:22 ID:ZXaO4USg0
(いやそんなことはどうでも良くて……)

燃堂の馬鹿な発言に充てられてか、ついつい思考が脱線してしまう。
そんな場合じゃ無いだろうと頭を振って、気を引き締め直す。

ナナとて現状を打破できるものならそうしたいが、無策で戦場に突っ込むつもりはない。
今は隠れて様子を窺い、こちらでアシスト可能なタイミングがあれば動く。
最悪の場合は燃堂を連れて逃げる事も視野に入れねばなるまい。
そうなったら後々余計に頭を抱えるのは確実、しかしそうなる可能性も十分にある。
いざとなった時の決断も迅速に行わなければ、待ち受けるのは最悪の展開だ。

(とにかく、すぐに動ける準備だけでもしておかないと)

フリーズロッドを取り出し、必要とあらばいつでも振れるよう構える。
長続きはしないが凍結させれば多少の足止めは可能。
心情的にも念力を使うよりは、こういった道具に頼った方がマシな気持ちも無い訳ではないが。
一定の使用後は砕けるらしいが今の所その兆候は無い。
悪いタイミングで壊れるなよと思いつつ、戦況の冷静に観察し、





「お――――」






誰もが各々の戦いへ意識を向け、ナナも目を逸らさない中。
この場で最も弱い少年だけがソレに気付いた。

ヘブラ山頂の氷を精錬し作られたフリーズロッドは、未だ砕けず輝きを失わない。
透き通るような美しさの氷は鏡の役目も果たし、持ち主のナナを映し出す。

もう一体、本来ならば映る筈のない存在。
カメレオンに似た姿の、異形の化け物も。

277神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:50:24 ID:ZXaO4USg0
「――――」

その時燃堂が一体何を思ったのか。
変なのが映っているとナナに教える事も出来た。
目の錯覚と思い一度視線を逸らす事も出来た。
普段通りの呑気さで、鏡の中の化け物に声を掛けた可能性もある。

それらは全て、現実の燃堂が選ばなかったもの。
野生の直感とでも言うべき何かが、彼の中で働いたのか。
深く考えずにとりあえず動いてみようと思ったのか。
ナナも、闘争に身を委ねる者達にも答えは知り様がない。

或いは、斉木楠雄がこの光景を見ていたら。
もしかしたら、別の展開があったのかもしれない。

ドン、と横からの衝撃に倒れ。
突き飛ばされたとすぐに気付き、一体何の真似だと顔を顰め。
振り返った時には、言おうと思った文句の全てが頭から離れて行った。

「え……?」

自分の目に映っている光景が何なのか、理解が追い付かない。
思考放棄を許される場では無いだろうに、対能力者用の訓練を思い出せ。
そうやって厳しい言葉を紡ぐ自分の冷静な部分が、やけに遠く感じる。

「何で――」

何故、どうして。
目の前に化け物がいて、燃堂がそいつに爪で貫かれているのか。
この化け物はどこから来たのか、燃堂はどうやって存在に気付いたのか。
違う、そうじゃない、間違って無いけど、聞きたいのはそんな事では無くて。

278神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:51:51 ID:ZXaO4USg0
「相棒の弟」

斉木楠雄は超能力者である。
普通では無い彼の周りには、同じく変わった人間で溢れている。
両親と兄を始め、毎度毎度騒動を引き起こす個性的過ぎる面々が。

頭を抱えた事は一度や二度じゃない。
胸中で辛辣なツッコミを向けるのは最早日常茶飯事。
いい加減にしろと思ったのなんて、数える方が馬鹿らしくなるくらいだ。

だけど、どれだけ面倒に思っても。
本心から嫌いにはなれない、呆れながらもついつい超能力で助けてしまう。
変人揃いの癖に、友情は決して裏切らない連中だから。
海堂瞬も、窪谷須亜蓮も、そして燃堂力も。
そんな奴らだからこそ、超能力者としてだけではなく。





「ダチを助けるのに理由なんていらないだろ?」





一人の友人として、彼を死なせたく無かったのだろう。






ブチリと引き千切れる音がして、それっきり声はしなくなる。
ポニーテールを揺らす少女の顔は見当たらない。
不快な咀嚼音が耳へ届けられ、視線は地面に落ちた首輪から化け物口へ移る。

あの中かと思った自分がどんな顔でいるのか、柊ナナには分からなかった。



【燃堂力@斉木楠雄のΨ難(身体:堀裕子@アイドルマスターシンデレラガールズ) 死亡】

279神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:52:41 ID:ZXaO4USg0



「ピカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

誰もがそれに気付いた時、全て手遅れだったと現実を突き付けられた。
間に合わなかった、遅過ぎたという後悔と怒りを自らの力に変える。
この瞬間は、善逸の中から恐怖が完全に消失。
自らの不甲斐なさと死を振り撒く悪鬼達への憤怒が光となり、遥か頭上より裁きを下す。
さながら神の鉄槌の如き一撃が破壊者を貫いた。

「がはっ…!?」

苦悶の声を発し破壊者は膝を付く。
破壊衝動が高まりつつある中で己の意思とは裏腹に、体は命令に逆らい動かない。
かみなりの直撃はコンプリートフォームのディケイドだろうと、流石に無傷でやり過ごせなかった。
天候で命中率が左右される分、威力は10まんボルト以上。
全身の痺れに動きが鈍り、倍となった素早さもこれでは無意味だ。

殺すなら今しかない。
時間を置かずにディケイドは再び自由を取り戻す、その前に攻撃をするべき。
千載一遇のチャンスを捨てる馬鹿がどこにいる。

正論を捻じ伏せ杉元は踵を返し疾走。
今動かなければ死ぬ奴がいる、ここで走らねば本当の意味で無駄となってしまう。
鬼神もかくやの強さと容赦の無さを持ち合わせるのが杉元という男。
だけど同じく、情を決して捨てない男でもある。

接近を察知した化け物…バイオグリーザがぶつけるのは苛立ちの視線。
食事の途中で横槍を入れられ、満たされぬ空腹に溜まり続けたストレスは呆気なく爆発。
邪魔をするなら逆に捕らえ、腹の中で溶かしてやろう。
悪魔の実の力で得た獣の爪を叩きつける。
ミラーモンスターの腕力へ動物系の強靭な身体機能が加算されれば、地球上の動物を超える力も安易に発揮可能だ。

280神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:53:16 ID:ZXaO4USg0
「〜〜〜〜!?」

しかしバイオグリーザ爪が引き裂いたのは少女の体ではない。
弾ける感触が伝わったのも一瞬のこと、猛烈な痺れが体中を襲う。
皮肉にも服従した主と同じように。
爪が肉に食い込まれる寸前、杉元が投げ付けた黄チュチュゼリーがバイオグリーザの腕へ命中し破裂。
杉元自身も味わった支給品の効果は、かみなり程では無いが動きを止めるには十分だ。

「食いたきゃこれでも食ってやがれ!」

開けたままの口へ右手を突っ込む。
握られているのは明治時代にはない回転式拳銃、コルト・パイソン。
引き金を引くのに一切の躊躇も必要無し、装填された神経断裂弾が内部から喰い千切る。

動物系の高い生命力も、内側から傷付けられれば一溜りも無い。
数発の弾は貫通せず体内に留まったが、バイオグリーザには耐え難い激痛だろう。
対未確認生命体用の特殊弾はミラーモンスター相手にも効果を発揮。
破裂した弾丸が神経をズタズタに切り裂き、バイオグリーザは怪鳥のような悲鳴を上げ悶え苦しんだ挙句、やがて動きを止めた。

「っ…!」

獣の死に何かを思う暇も無く、再び破壊者の相手をしなくてはならないらしい。
背後で動き出す気配に振り返れば案の定、立ち上がったディケイドが善逸へ斬り掛かる場面があった。
10まんボルトを放とうにも、溜めの隙を作れない。
でんこうせっかを駆使し避けてはいるが、一撃もらえば死はほぼ確実。
予備の弾を装填する時間も惜しいと駆け出し、腰の刀を振り抜いた。

一部始終はバイオグリーザを従えた本人、ディケイドも把握している。
大方空腹に我慢が出来ず襲い掛かった、そんなところか。
仮にバイオグリーザが仮面ライダーとの闘争へ乱入したなら、相応の処罰を与えた。
しかし今しがた殺されたのは仮面ライダーでもなければ、戦う力も持たない只の人間。
破壊の対象に含まれているとはいえ、正直言って優先度は低い。

281神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:54:19 ID:ZXaO4USg0
「直に貴様たちも奴と同じ場所へ行く事になるがな」
「がぁ…っ!」

アルセーヌの蹴りを片手でいなし、もう片方のライドブッカーが切り裂く。
強化皮膚に覆われてはいても、耐久性をほとんど無視したような攻撃だ。
直に体を斬られたような激痛に眩暈がした。
霞む視界が元に戻るのを待っていられず、アルセーヌがスラッシュを放つ。
刀身を弾いた程度の一撃だが、跳び退くだけの時間は稼げた。

ジョーカーへの追撃を阻むかのように飛び出る複数の影。
尤もアークワン達に助けるという意図はない。
目下最大の脅威が別の敵に引き付けられた、だからそこを狙ったまで。

『SKULL!MAXIMAM DRIVE!』

装填されたメモリがスカルマグナムの威力を最大まで引き上げた。
後年に風都を守ったダブルと違い、スカルのマキシマムドライブはメモリ使用者をも死に至らしめる。
比喩ではない、正真正銘「必殺」の弾丸を撃つ。

『風遁の術!』

遠距離がスカルなら近距離での攻撃はプロトタイプビルドが行う。
四コマ忍法刀のトリガーを引く回数は3。
ペン型の剣先から発生した風を刀身に纏わせ、竜巻状に変化。
敏捷性に優れた忍者フルボトルの成分も駆使すれば、ロクな抵抗も許さず一刀の元に撃破可能な斬撃だ。
尤も、相手が世界の破壊者でなければの話。

――水の呼吸 弐ノ型 水車

足りない分はもう一本の剣で補う。
虹を構え横に回転、本来の動きと違いは有れど破壊力は一切劣らない。
広範囲を巻き込む技故に、回避しようとも決して刃から逃さない。

282神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:55:16 ID:ZXaO4USg0
三方向から脅威が迫り逃げ道を塞がれる。
相手が並の力しか持たない怪人程度であれば、オーバーキル以外のなにものでもない。
知らぬ者が見たら標的となった方へ同情の念を向けるだろう光景。

『ATTACK RIDE TIME!』

真に憐れまれるのは、攻撃を仕掛けた者達の方だが。

「ぐおおおおおおおっ!?」

悲鳴を上げたアークワン本人ですら、何が起きたか分からない。
自分達三人はディケイドへ一斉に技を放った。
全員が狙いは正確、間違っても味方を攻撃するようなヘマは犯さない。
その筈だったというのに、彼らの攻撃は互いを痛め付けるに終わった。

ディケイドのやった事を説明するなら、そう難しい内容でもない。
アタックライド・タイム。
スカラベアンデットの力で一定範囲内の時間を止める、所有カードの中でも特に強力な一枚。
但し既に脱落したスタンド使い達と違い、時間停止中は敵へ攻撃を行っても無意味。
ダメージを与えるには時を再び動かさなければまらない。
止まった時の中でディケイドは三人の攻撃の範囲内から離れた、それだけである。
後は自ら能力を解除すれば、本来の標的を失った事で互いへ命中。
この場にDIOや承太郎がいたら気付けただろう絡繰りも、彼らが死んだ今ではたらればでしかない。

『ATTACK RIDE KOTAEWA KIITE NAI!』

『ATTACK RIDE MACH!』

『ATTACK RIDE BLAST!』

「全員破壊してやる、答えは聞かん」

三枚連続でカードを装填、揃って怯んだ者達へ追い打ちを掛ける。
右手にはライドブッカー、左手にはデンガッシャー。
どちらもガンモードへ変形済み、そこへ加わるのはジャガーアンデットの脚力。
ほしふるうでわにより素早さが倍になった上で行う高速移動だ、ライダーの視覚センサーを以てしても捉えるのは困難を極める。
円を描くように駆けながら双銃を乱射、無数の光弾がアークワン達に当たっては弾け火花を咲かせた。
無論、ジョーカーも例外ではない。
拳とペルソナで弾き落とす余裕も与えられず、全身を襲う痛みに叫ぶしか出来なかった。

283神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:56:07 ID:ZXaO4USg0
銃撃が止み、立っているのは破壊者ただ一人。
アークワンとジョーカーは言わずもがな。
比較的軽症だった祈手達のライダーですら、ディケイドとの僅かな攻防で無視出来ない程の被害を受けた。
たった一人でここまで追い詰めたが破壊者の心は満たされない。
敵はまだ生きている、生命の灯火が消えない限りは湧き出る衝動も無くならない。

「まずは貴様だ」

指を差され最初に死を宣告されたのは風都の守り手たる骸骨。
言葉無く立ち上がる姿は非常に弱々しい。

スカルメモリは使用者に痛みを感じない体を授ける。
だがあくまで痛覚を失うに過ぎず、攻撃を受ければ当然傷は付く。
痛みが無いだけでダメージ自体は蓄積し、スカルの動きへ支障が現れ出した。
弱った相手に同情も情けも向けはしない。
破壊者が与えられるのは通り名が示すように、破壊以外に存在しないのだから。

『KIVA!KAMEN RIDE EMPEROR』

ケータッチの画面に表示されたクレストをタッチ。
電子音声が流れると共に、ディケイドの胸部に変化が起きる。
9人それぞれ異なるライダーのカードが、一瞬で同じカードになった。
だが外見の変化など些細なもの、真に驚くべき存在がディケイドの隣へ現れる。

蝙蝠を象った仮面は同じ、違うのは纏った鎧。
真紅の拘束具を脱ぎ捨て、目も眩む黄金に身を包んだ姿の何たる神々しいことか。
誰もが平伏し、口を揃えてこの者こそが王だと崇めるに違いない。
仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム。
全ての鎖を解き放った、ファンガイアの王の真の姿。

284神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:56:46 ID:ZXaO4USg0
コンプリートフォームとは、ディケイド自身のスペックを底上げするだけが全てでは無い。
その真価は士が絆を結んだライダー達を、最終フォームの状態で召喚させること。
と言ってもここにいるキバに自我は存在しない、あくまでディケイドの能力の産物。
本物の紅渡やワタルではないが、それでも破格の性能だ。
士本人ならともかく、BADANの大首領には傀儡としか見ていなかった。

『FAINAL ATTACK RIDE KI・KI・KI KIVA!』

カードを取り出しライドブッカーへ装填。
ディケイドと同じ動作を一ミリのズレもなくキバも行う。
召喚されたは共通してディケイドの行動に同調し動く。
ディケイドが高威力の技を放てばライダーも同様、通常形態のディケイドを遥かに超える破壊を生み出す。

蝙蝠が噛み付いた大剣、ザンバットソードを掲げる。
ファンガイアの王のみが持つ事を許された魔剣がライフエナジーを吸収。
紅に染まる刀身に合わせ、ディケイドのライドブッカーも輝きを放つ。
二振りの剣に魔皇力が最大まで溜められた今、最早斬れぬものは一つもない。
王と破壊者が判決を下す時が来た。

「や…めろ……!」

苦痛に苛まれる中で、絞り出した声は聞き届けられない。
震えて伸ばした手は何も掴めず、救えない。
あそこにいるのは鳴海荘吉の体だけ、精神は完全に別人。
そもそも自分と荘吉は赤の他人同士、気に病む必要はどこにもない。
分かっている、改めて考えずともそんなのは分かっている。

285神ノ牙 -BLOODY PALACE- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 19:57:33 ID:ZXaO4USg0
なのに

――『あの子を頼んだぜ…』

――『似合う男になれ』

真っ赤に汚れた白スーツが。
帽子を託した『あの人』の最期が。
自分自身の記憶のように、焼き付いて離れなかった。

真紅に染まった魔剣が振り下ろされる。
一切の抵抗を許されず、魔皇力はスカルを死へ誘う。
探偵であり父でもあった男を、親子の物語を奏でた戦士が終わらせた。

光刃が肉を焼き骨を断つ。
血は一滴も流れず、されど彼を生かすもの全部が流れ落ちる。
死体の如き体となった男は本当の死を与えられ、やはり言葉無しにこの世を去った。
祈手たる彼が何を思ったか、ここにいる誰にも知られぬまま。

「あ……」

その全てを目の当たりにして、ようやっと喉の奥から出たのはたった一文字。
『あの人』がどうなったかは見たものが全てだ。
記憶の中のように、言葉を残して去りはしない。
いたのは体だけが本人の、『あの人』ではないナニカ。
立場的には自分達の敵だったのだ、大手を振って喜びこそしないが深く悲しむ必要もない。

それでも、自分の中で欠ける感触があった。
目の前に落ちた、焼け焦げた白い帽子からどうしても目が離せなかった。



【ボンドルドの祈手@メイドインアビス(身体:鳴海荘吉@仮面ライダーW) 死亡】

286神ノ牙 -Law of the Build & Evolution ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:00:08 ID:ZXaO4USg0



「燃堂…!」
「うそ……燃堂さん……」

一人の少年の死は彼らの目にも届いた。
仲間が別の仲間を庇い、惨たらしい死体となり平静を保てというのは酷だ。
度を越した馬鹿っぷりに振り回されもしたけれど、殺されて良い人間じゃあない。
またしても死なせてしまった無力感、再会が叶った直後の死という衝撃。
動揺は彼ら自身を縛り付ける鎖となり、瞬く間に死が追い付く。

『お別れの言葉なら後にしとけ!』

高熱硬化弾をばら撒きながらの怒声が、意識を引っ掴んで戦場へ連れ戻す。
気遣いとは言い難い言葉だが正論なのは認める他ない。
未だ自分達はディケイドと戦闘の真っ最中。
集中力を切らせばあっという間に、燃堂と同じ場所へ送られる。

『ATTACK RIDE MAGNET!』

動揺からの復帰を律儀に待ってやるお人好しは不在。
敵が呆けた、なら隙を狙って動くのは何も間違ってはいまい。

「えっ、な、なに……!?」

我に返った斬月が慌てた時にはもう遅い。
左手に持った大型武器、ウォーターメロンガトリングが独りでに動き出し離れて行く。
見えない鎖で引っ張られるかのように宙を駆け。破壊者の手に収まった。

バッファローアンデットの磁力操作からは、アーマードライダーの武器だろうと逃げられない。
相当な重量のエンジンブレードですら、重量に関係無く引き寄せられたのだ。
高火力の銃が手に入った、となるとやる事は決まっている。

287神ノ牙 -Law of the Build & Evolution ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:01:22 ID:ZXaO4USg0
植物の茎を思わせる砲身が回転、轟音を奏で光弾を撃ち出す。
これが如何に強力な武器かは、斬月達もよく知るところ。
急ぎ回避に動いたブラッドスタークを狙い、身を隠した木々を次々粉砕。
当然残り二人にも等しく襲い掛かる。
元の使い手の斬月へ逆らうかのように光弾が殺到、武器をいきなり奪われたのもあり反応が追い付かない。

『KAME RIDE DRIVE!』

「ぐあああああ…!」

ジオウからドライブへ変身し、持ち前のスピードを活かし仲間を助ける。
彼女を抱えて避けるのは巨人を相手にした時と同じ。
違うのは重火器ながら精密な射撃を完璧には避けられず、背中に被弾してしまった事か。

僅かに動きが止まれば単なる的と一緒だ。
ドライブの赤い背中へ集中砲火、光弾が面白いように当たり火花で体が隠れる。
阻止しようと動きを見せたブラッドスタークには、反対の手でライドブッカーを連射。
嫌でも対処を取らざるを得なくなった。

「戦兎さん……!」

撃たれた際の衝撃で自分を落としたのなど気にもならない。
自分を助ける為に体を張り、今も自分を守ろうと己が身を盾にしている。
だが長続きはしないだろう。
対ロイミュードを想定し開発された特殊合金製の装甲は、ちょっとやそっとじゃ破壊不可能。
タイプワイルドやタイプテクニック程の防御力ではないが、ガトリングの掃射にも耐える頑強さだ。
とはいえウォーターメロンガトリングもまた、一般社会の科学技術では再現不可能な武器。
スイカアームズのプロトタイプだけあり、火力は戦極ドライバーを使うライダーの中ではトップクラスと言っても過言ではない。
率直に言って、このままではドライブに限界が来るのが先。

288神ノ牙 -Law of the Build & Evolution ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:02:10 ID:ZXaO4USg0
「ど、どうすれば……あっ……!」

焦りと自責の念に頭がこんがらがるも、ふと思い付く。
上手くいくか分からないが悩む時間は残されていない。
自分の判断の遅れのせいで彼を余計追い詰めるなど、絶対にあってはならないのだから。

『メロンエナジー!』

『ミックス!』

『メロンアームズ!天・下・御・免!』

『ジンバーメロン!ハハッー!』

装填済のロックシードを外し、変身解除の前に別のロックシードを二つ填め込む。
クラックから降って来たメロン同士が合体、陣羽織に似た装甲へと展開。

「む……」

斬月の目論見通り、ディケイドの手からガトリングは煙のように消え失せた。
ウォーターメロンアームズ専用の装備なら、別の姿に変身すれば自動で消失するんじゃあないか。
咄嗟の考えではあったが、結果は見事に成功だ。
安堵するのも束の間、新たに装備したソニックアローを射る。
ライドブッカーをソードモードに戻し防御、となるとブラッドスタークも光弾を防ぐ必要が無くなった。
高熱硬化弾とエネルギー矢を一人へ集中、先程とは攻守が逆転となる。

「…っ。悪い甜花、お陰で助かった」
「う、ううん……!甜花が武器、取られちゃったせいだから……」
『イチャつくのは後にして欲しいんだがねぇ』
「えっ、あ、な、し、してないよ……!?」

銃撃の嵐は止み、ここから再び攻撃に移れる。
受けたダメージは少なくないが痛みには慣れているのだ、耐えられない程でもない。
佐藤太郎の体へ酷を強いるのは申し訳なく思うも、戦わねば本当に全部守れなくなる。

289神ノ牙 -Law of the Build & Evolution ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:02:51 ID:ZXaO4USg0
『KAMEN RIDE SAVER!』

『勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!』

火炎を切り裂き炎の剣士が降臨。
邪悪を焼き払う聖剣を片手に、仮面ライダーセイバーが敵を見据える。
変身するのはこれが二度目。
本人に直接会った事はない未知の部分が多い戦士なれど、秘めたる強さの一端は巨人との戦いで知った。
故に此度も世界を守った剣士の力を貸してもらう。

『FAINAL ATTACK RIDE SA・SA・SA SAVER!』

ドライバーに聖剣を収納しトリガーを引く。
本来のセイバーが必須とする工程をカード一枚で済ませる。
ライダーカードに記録されたワンダーライドブックの力が、火炎剣烈火に灼熱の炎を纏わせた。
現在の変身者である戦兎にも熱が伝わって来るが、不思議と心強さを覚える熱さだ。

『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE』

対するディケイドもまた、剣一本での勝負を選択。
自身とセイバーを繋ぐカード状の道を出現、一枚一枚を潜る度に次元エネルギーを付与する。
敵を斬るまでの工程は通常形態と変わらず、しかし威力は遥かに上。
聖剣諸共破壊するべく剣を振り下ろした。

「ぐぅ…っ!」

一振りで炎を掻き消し、聖剣の防御も追い付かない速さの斬撃を見舞う。
何度目になるのか分からない、夜闇を照らす血飛沫代わりの火花。
ディケイドの攻撃はまだ終わりではない。
激情態とコンプリートフォームの力もあり、纏わせたエネルギーは通常時とは比べ物にならない程。
次元エネルギーが残留中の剣で続く二撃目が襲う。

290 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:06:35 ID:ZXaO4USg0
――ELECTRIC STEAM!――

二人のライダーの衝突を前に、ブラッドスタークも見物に徹していたつもりはない。
バルブ操作により銃弾へ特殊効果を付与し、三発連続で発射。
電撃を纏った弾丸を斬り落とす間、斬月もまた攻めに転じる。

『メロンオーレ!ジンバーメロンオーレ!』

カッティングブレードを倒し、ロックシードのエネルギーを引き出す。
ソニックアローのフレーム部分、アークリムが巨大な光刃に変化。
セイバーが跳び退いたのを見計らって振り下ろした。
威力は強大だが大振りな分隙も大きい、攻撃の瞬間を見極めれば回避は容易い。
まして相手がディケイドでは欠伸交じりでもやれる。
そこを妨害したのはブラッドスタークの銃弾、ライドブッカーの刀身越しに電撃を流し動きを鈍らせた。
と言っても命中した時程の効果は望めず、結局は避けられた。

光刃はディケイドの身を焼き潰すことなく、デイパックを掠めるに終わる。
未知の技術で作られてはいても、耐久性は一般的なリュックサック等と同じ。
一部分を焦がしながら切り裂き穴が生まれた。

ディケイドがデイパックの破損へ気付くより先に、ブラッドスタークが銃を連射。
目前に迫る銃弾と支給品袋の破れ目、どちらを優先するかは言うまでもない。
軽やかに跳躍し高熱硬化弾を躱すと、揺れが背後にも伝わったのだろう。
空いた穴からデイパックに収められた支給品が一つ、ガシャンと音を立てて地面に落ち、

291 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:07:26 ID:ZXaO4USg0
『―――――――――――――は』

ソレが何なのか分かった時、ブラッドスタークの中で優先順位が入れ替わった。

トランスチームライフルを持った手を下ろし、赤い影状に変化。
攻撃は出来ないが移動速度を瞬間的に上げられる力だ。
地面を這い、目的の物が落ちた場所で実体化。
手を伸ばすのを当然黙って見ているディケイドではない。
ライドブッカーの切っ先が頭部を狙い、拾おうとした手を引っ込め防がざるを得ない。

「蛇ではなくハイエナだったか」
『酷い言い草だなおい。自分の持ち物を返してもらうだけだぜ?』

軽口を聞く耳持たずで切り捨て、返答代わりに斬り付ける。
トランスチームライフルを巧みに振り回し、ブレード部分で鍔迫り合いに持ち込む。
向こうが足元のソレをどうこうする前に、こっちで蹴り飛ばし更に離れた方へ転がった。
さっさと拾いに行きたいが許してはくれない、ため息交じりに刀身を受け流す。
首を狙った一撃を弾き、至近距離で引き金を引けば避けられる。
チャンバラなら後で幾らでも付き合ってやる。だから

『お行儀良く待ってなさいってなァ!』
「っ!」

頭部の煙突型ユニットから蒸気を噴射。
顔面を覆い隠す黒一色に、ディケイドの動きが僅かに止まった。
ほんのちょっぴりの目晦ましにしかならないのは百も承知、だがそのちょっぴりの隙で問題無い。

スチームジェネレーターでブラッドスタークの機能を、ブラッド族のエネルギーで肉体自身を強化。
前者は短時間しか効果が無く、後者は長時間続ければ消耗死は確実。
行えるのは極僅かな間だけ、問題無いそれだけあったら釣りが来る。

292 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:08:18 ID:ZXaO4USg0
ライドブッカーを伸ばすも切っ先が触れる事はなく、赤い怪人は遠ざかる。
今この瞬間のみに限っては、ほしふるうでわを装備したディケイドの速さを上回った。
先程蹴り飛ばした場所へ降り立ち、今度こそソレを掴んだ。

「貴様……」

ソレはディケイド…JUDOがモノモノマシーンで手に入れた景品の一つ。
本来であれば既にディケイドライバーを持つJUDOにとって、不要の代物の筈だった。
だというのに破壊や放棄をせずにいたのは、以前の苦い記憶が原因。
プライドを砕かれ変身ツールも破壊された、ギニューとの初戦。
運良くタイムふろしきを見付けたからディケイドへ再変身が可能になったのであって、下手をすれば今も無力な人間のまま会場を彷徨っていたかもしれない。

あの時と同じ失敗を繰り返すつもりは微塵もない、しかし万が一が絶対にないとも言い切れない。
苦い敗北の経験は破壊衝動に呑まれたJUDOにも慎重さを齎し、ディケイドに変身不可能になった時の為にデイパックで眠らせておく事を選ばせた。
結果としては、その行動は拍手したい程の英断だったと言っても良い。
但しJUDOにではなく、ソレの本来の使い手にとってだが。

『KAMEN RIDE BUILD!』

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』

尚も追いかけようとするディケイドを止める、赤青二色の戦士。
再びビルドへ変身し、ラビットフルボトルの成分で一気に距離を詰めた。
手にはソードモードのドリルクラッシャーが、獲物を求めて回転数を速めている。

ブラッドスタークが何を手に取ったか、何をする気かはビルドにも分かった。
本心を言えば大反対だ、ビルド自身もまさかディケイドがアレを持ってるのは予想外。
アレの脅威が復活すると思うだけで、いつもの口癖が飛び出しそうだ。

293 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:08:51 ID:ZXaO4USg0
「最っ悪だ……」

本当に最悪だ。
アレの危険性を理解しつつ、ディケイド撃破に関して大きなプラスになると分かるから。
アレを持ち出さねばならない程に、ディケイドは相当な強敵なのだから。
そう分かっていて、アレの復活を見過ごす自分自身への不甲斐なさと怒りを刃に乗せて。
ヒーローは破壊者と斬り結ぶ。

ビルドの内心を知ってか知らずか、怪物は血濡れの装甲を脱ぎ捨て笑う。
戦闘が未だ継続中の場で、迂闊に生身を晒すのは自殺行為。
そんなもの、誰に指摘されるまでも無く理解している。
伊達や酔狂、勝負を捨てて自暴自棄になったのでは断じてない。
これより暫くの間ブラッドスタークは舞台袖を降り、代わりの演者へバトンタッチだ。

くつくつと低く笑う様は、人気アイドルの体とは思えぬ邪悪さ。
それも仕方ないだろう、コレが自分の手に戻る可能性は低いと思っていた。
人間だったらこういう時嬉しさでステップでも踏むのだろうか、一つ下らない事を考える。

火星の王妃に破壊され、地球に来る羽目になり早10年。
修復には成功するも小賢しい抵抗を受け、いらぬ骨を何度折らされたことか。
長かった、本当に長かった。
だがそれも終わりだ、ようやっと、ついに。

ついに、ついに、ついに!

294 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:09:25 ID:ZXaO4USg0
「ついに戻ってきたァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

『EVOL DRIVER!』

腹部に押し当てベルトが巻き付き、己が名をこの場の全員に知らしめる。
懐かしい感触に狂笑を上げながら、両手が掴むはブラッド族の力の結晶。
内包された地球人には解析不可能の成分、それらを最も活かす方法はエボルトが一番知っていた。

『COBRA!』『RIDER SYSTEM!』

『EVOLUTION!』

装填された二本の『エボルボトル』の成分を読み取る。
右手が掴むのはレバー部分。
ビルドドライバーと同じ形状なのも当然だろう。
何せ地球産のライダーシステムは、この『エボルドライバー』を参考に作られたのだから。

回転数を速め、ボトル内部の成分がドライバーに流れ込む。
流れ続けるパイプオルガンの演奏に似た音は、復活を祝福する歓喜の歌。
ビルドと同じに見えながらも、より禍々しいファクトリーが展開。
全ての準備は整った。
豊満な胸の前で両腕を交差、人間であれば万感の念が籠ったであろう言葉を口に出す。

「変身…!」

『COBRA…COBRA…EVOL COBRA!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

邪悪な笑い声を響かせ、とうとう怪物が君臨する。
黒地のボディースーツの上を纏う、目が焼けるような金色の鎧。
頭部から真横に伸びた鋭利なスキャンセンサーは、どこか悪魔を思わせるデザイン。
額に填め込まれた星座版が光を放ち、誰もその存在を無視できない。

仮面ライダーエボル・フェーズ1への変身が、今ここに完了した。

295 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:10:35 ID:ZXaO4USg0
(成程ね、流石は未来の俺ってとこか?)

本来の力を取り戻した裏で、エボルトは至極冷静に自身の状態を確認。
エボルドライバーは使えた、無事エボルにも変身出来た。
故にハッキリ理解する、これは元々自分が使っていたエボルドライバーではない。
エボル自体に不審な箇所はない、異変はエボルドライバーにある。
自分が使っていた物とは幾つか違う機能が搭載されているのに気付いたのだ。

エボルトの考えは間違っていない。
JUDOがモノモノマシーンで手に入れたのは、エボルトが近い未来で内海成彰に与えた複製品のエボルドライバーだ。
オリジナルのエボルドライバーがエボルトにしか使えないのに対し、複製品は人間でも使用可能。
でなければ幾らサイボーグとはいえ、内海がマッドローグに変身出来る訳がない。

複製品のエボルドライバーには自動認識装置が組み込まれている。
これは使用者が変身条件を満たしているか否かを判断、後者の場合は特殊微小体を生成し肉体の調整を行う。
この機能は殺し合いでも変わらず機能し、現在は千雪の肉体を対象に作用した。
外見上に変化はないまま、エボルドライバーが使用可能な状態になったのである。

当然ながら内海に忠誠を誓われる前、まだエボルドライバーを取り戻してもいない時期のエボルトは複製品の存在など知らない。
とはいえ大方未来の時間軸で自分がやったのだろうとは当りを付けるが、どういう状況かまでは分かる筈がなかった。

主催者が殺し合いで複製品の方を用意した理由も、分からんでもない。
特定の参加者しか使えないオリジナル品より、誰でもエボルに変身できる複製品の方が殺し合いを加速させられると踏んだのだろう。
巡り巡ってエボルト本人の手に戻って来た訳だが。

296 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:11:46 ID:ZXaO4USg0
『ま、考えるのはここまでにして…そろそろ始めるか』

エボルに変身し、それで万事解決ではない。
破壊者は健在、殺さなければ何も終わらない。
新たなライダーの出現にもディケイドから動揺は微塵も無く、ライドブッカーの刀身を撫でる。

「少し予定とは違うが、手間が省けたな」

元は自分が予備で取って置いたベルトでも、敵がライダーになったのであれば最早未練は無し。
むしろ様子を見るにベルトの本来の持ち主らしい。
であれば好都合、破壊するべきライダーが自分から姿を現したのだから。
エボルの登場に破壊衝動の高まりを実感しつつ、あくまで己の意思と受け入れる。

「結局こうなっちまうのかよ……」

仮面の下で苦虫を噛み潰したような顔になるのを、戦兎は抑えられない。
新世界にキルバスが現れた時と同じだ。
必要だと分かっても、簡単に割り切れる程この男との因縁は浅くない。
それでも今は渦巻く不甲斐なさを飲み干し、ディケイドに勝つ事だけを考えねば。
自分が使える最強の手札をここで切る。

『KAMEN RIDE BUILD!GENIUS FORM!』

『完全無欠のボトルヤロー!ビルドジーニアス!スゲーイ!モノスゲーイ!』

純白の装甲に突き刺さる、60本のフルボトル。
仮面ライダービルド・ジーニアスフォーム、三度目の変身。

殺し合いでは短時間のみ、それも再変身は2時間経過しなければ不可能。
制限を課せられたビルドジーニアスを、ここぞという時の為に温存したい気持ちが無かったと言えば嘘になる。
どの時間軸から参加してるのか分からないエボルトの前で、ジーニアスフォームの存在を明かすのはなるべく避けたかった。
しかし、その慎重さが燃堂の死を招いたのだとしたら。
もっと早くにビルドジーニアスを解禁していれば、燃堂を守れたのかもしれないなら。

もうこれ以上、悠長な考えで死者を出す訳にはいかない。

297 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:12:42 ID:ZXaO4USg0
(燃堂…悪い……)

自分の判断の甘さがこの事態を招いた、謝罪をしたって彼は帰って来ない。
無念も悔しさも全てを戦意に変えて勝つしかない。
隣に並ぶエボルトは視線をチラとだけ寄越す。
何を考えているのかは読み取れなかった。

「戦兎さん…」

並び立つ二人の仮面ライダーを見て、甜花の胸中はざわめきを増すばかり。
自分を助けて、一緒にDIOと戦った心強いヒーローの背中。
自分と妹が大好きなあの人の体を利用し変身した、おぞましい怪物の背中。
桐生戦兎とエボルト、ラブ&ピースのヒーローと星狩り。
地球の命運を懸けて死闘を繰り広げた彼らは現在、共通の敵相手に肩を並べて挑む。

『久々の変身なんだ、勘を取り戻すのに付き合ってくれよ』

先手を切りエボルが大きく踏み込む。
武器は持たない、真っ直ぐに拳を突き出す。
金色の爪を輝かせながら襲来する鉄拳へ、ディケイドは慌てず軽く身を捩る。
ほしふるうでわの力と現在のスペック、両方を兼ね備えていれば恐れる必要はない。

「ほう…」

僅かな感心は頬を掠めた一撃に対して。
完全に避けたつもりだったが、そうはならなかった。
どうやら多少は力を増したと見て良いだろう。
自分を倒すにはまだまだ足りないとの、大前提を付け加えた上で。

『おっと、速さの秘密を教えて欲しくなるねぇこいつは」

視覚センサーが急接近する刃を確認。
数ミリ身を引き躱し、反対に殴りつける。
直接拳が当たった感触は無い、引き戻されたライドブッカーの刀身で防がれた。
恐るべき反応速度への戦慄も、感情が無ければ行われない。
速さと精密性を兼ね備えた、四方八方からの剣。
回避し、或いは腕部装甲で防ぐもその度に腕へチクリと痛みが走る。

298 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:13:21 ID:ZXaO4USg0
(おいおい、どんな反則技だ?)

エボルの装甲は地球外の物質を圧縮・加工したものであり、地球のどの物体よりも強固。
たとえ並行世界の仮面ライダーだろうと簡単には破壊されない。
それがどういう訳か、耐久性の効きが妙に悪い。
仕掛けは不明だが、ディケイドは敵の装甲の強度に関係無くダメージを与えられるのか。
何とも面倒な相手だと今更ながら思う。

防御よりも回避に動いた方が良さそうだ。
軽く後方へ跳べば、逃がしはせんと距離を詰められる。

刃が再びエボルを狙う機会は失われた。
別方向からの脅威を察知、瞳に映るは複数の鉄球。
誰がやったと考え込むまでもない、ライドブッカーで目障りな撤回を斬り落とす。

「むっ!?」

鉄球をに刃が触れた瞬間、ディケイドが力を籠めずとも破裂。
内側から無数の針が飛び出し、至近距離から突き刺さる。
速さを生かし防ぐも数本は被弾。
鬱陶し気に体を振るい針を落とせば、横合いからの蹴りが間近に迫った。
回避し反対に斬るつもりが既に敵の姿は無く、背後からの殺意に体は自然と動く。

『悪くねぇ動きだな。後ろに目でも付いてんのかね』

自身の一撃を防いでの称賛へ、ディケイドは大きな反応を見せない。
ライドブッカーが阻むのはバルブ付きの短剣、スチームブレード。
エボルに変身しても、ブラッドスタークの武器は使用可能だった。

299 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:13:54 ID:ZXaO4USg0
尤もエボルになった今だからこそ可能な芸当も存在する。
自身に宿るブラッド族のエネルギーを、胸部リアクターの機能で増幅。
刀身に纏わせ長大化、リーチを上昇させ斬り結ぶ。
どちらも常人の目には目視不可能な速さで剣を振るい、自身へ迫る死を跳ね返す。
一歩も譲らぬ接戦を先に制したのは破壊者、斬り上げた剣がスチームブレードをあらぬ方へと弾き隙だらけの胴体へ死を叩きつける。

装甲部分を走る抜ける筈の剣は、寸前でピタリと止められた。
横から伸びた複数本の触手、吸盤が特徴的なタコの足で。
刀身に絡み付き、それ以上は1ミリも進めさせまいと縛り上げる。

『勘弁してくれよ。前も言ったろ?俺タコ嫌いなんだよ』
「知らねーよ」

どうでもいい軽口を無視し、触手を引き千切るべく手を伸ばす。
が、突如吸盤から大量の海水を噴射。
怯む間にも海水は勢いを増し、とうとう大波に変化。
周囲の木々諸共流され掛けるも、すかさずカードを装填し反撃を試みる。

『KAMEN RIDE KICK!』

ローカストアンデットの力が脚力を強化。
真上に跳躍し波の脅威から逃れ、ふざけた真似に出た白い標的を目視。
急降下の勢いを付けて飛び蹴りを放つ。
怪人数体を纏めて蹴散らす威力だ、ビルドジーニアスとまともに受けるのは危険。

ならば、当てられないようにすればいい。

ディケイドの動きが空中で停止、先程のように触手は巻き付いていない。
代わりに鮮血色のオーラが全身を包み、蹴りの放った体勢で固定していた。
エボルの腕部から放たれる力は、敵の動きを封じ込める役割を持つ。
このまま煮るも焼くもこちらの自由と行きたいところだが、ディケイドは仮面ライダーの天敵。
自らを縛るエボルの力をも破壊、オーラは消え失せ自由を取り戻す。

300 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:14:49 ID:ZXaO4USg0
『ATTACK RIDE SLASH!』

次元エネルギーを纏った刃が斬り落とすのは、緑色のエネルギー矢。
短時間だけでも動きを止められたのだ、誰もが即座に次の手へ動き始める。
ビルドジーニアスとエボルに力は劣れど、共に勝つ気は負けていない少女も同じだ。
ソニックアローのレーザーポインタにアシストされ、ディケイドへ正確な狙いの矢を放つ。
命中はせず叩き落とされるも構わない、動きを止めればそれだけでも効果はあるのだ。

斬月の期待へ応えるべく、ビルドジーニアスが右手を翳す。
現れたのは何とキリンの頭部、長い首を更に伸ばして打撃を繰り出す。
奇抜ではあるが直線的な攻撃だ、何の苦労も無く回避。

「っ…!」

だが次に起きたのはディケイドと言えども流石に驚いたらしい。
キリンの口が空いたかと思えば、口の中から強烈な輝きが発せられたのだ。
至近距離での閃光に、レンズ越しでも視界が白一色に染まる。

――STEAM BREAK!COBRA!――

『ロックオン!メロンエナジー!』

古典的ながら効果的な戦法、だが敵の復帰の速さは侮れない。
故に決断は迅速、各々ロックシードとフルボトルを武器に装填。
強化された弾と矢が我先にと向かう中、尚もディケイドに焦り無し。
目を潰された時既にライドブッカーよりカードを掴み取っていた。

『ATTACK RIDE MACH!』

素早さを上乗せし射線上から脱出。
視界を取り戻した時真っ先に見えたのは、哀れ自分の代わりに吹き飛んだ数本の木。

301 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:15:58 ID:ZXaO4USg0
そして自分目掛けて殺到するバイクとUFOの大群。

「なっ…!?」

次から次へと奇妙極まる攻撃の連続に、ディケイドと言えども困惑を隠せない
これらは全てビルドジーニアスが能力で引き起こしたものだ。
60本全てのフルボトルの力を自由に引き出し、更にベストマッチフォームとは違う組み合わせでの攻撃も可能とする。
それを証明するかのようにバイクはロボットアームを伸ばし、UFOはサメのヒレをカッター状に飛ばして来た。

『ATTACK RIDE STRIKE VENT!』

『ATTACK RIDE ONIBI!』

驚きはしたが手数に優れるのはディケイドも同じだ。
ドラグレッダーと鍛えた鬼、二つの炎を己が力として行使。
数を揃えていようと無駄だ、広範囲へ撒き散らし焼き尽くす。
炎は木々に燃え移り山火事が発生、だが広まる前にビルドジーニアスが対処へ動く。
クジラフルボトルの力で無数の水球を発射し、飛沫がディケイドの視界を遮る。

『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

水の壁の向こう側から響く声。
何が来るかを確かめるまでもない、迎え撃つべくカードを装填。
自ら狩られに来た獲物であると理解させてやるまで。

『ATTACK RIDE FAIZ SHOT!』

『FAINAL ATTACK RIDE FA・FA・FA FAIZ!』

デジタルカメラ型のパンチングユニットを装備。
フォトンブラッドを集中させた拳を放てば、敵が放つのもまた拳。
エボルボトルの成分を破壊エネルギーに変換し、強化グローブに纏わせる。
人類の進化系を滅びした一撃、惑星破壊の兵器が放つ一撃。
互いの腕をすり抜け、同じタイミングで叩き込まれた。

302 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:16:48 ID:ZXaO4USg0
「……っ!
『がっ……』

もしこれが乾巧、或いは尾上タクミの変身したファイズであれば。
エボルの装甲を貫くのは難しかっただろう。
しかし此度の敵は激情態のディケイド。
地球外の強固な防御性能もライダーである以上、破壊者の特性が働き防ぎ切れないダメージとなった。

されどディケイドもまた無傷ではない。
破壊者の力は問題無く働いている、それでも尚エボルは地球で開発されたライダーシステムを遥かに上回る性能。
まして変身者が最も力を引き出せるエボルトでは尚更の脅威だろう。
通常形態を上回るディヴァインスーツSt.ですら、完全防御は叶わなかった。

後方へ殴り飛ばされ、地面に背中から倒れる。
と言ってもそれはエボルだけ。
上位の力を持つライダー同士でも、肉体の差は埋められない。
ディケイドの元々の変身者である士の打たれ強さ故か、軽くない痛みを黙殺しカードを装填。
ここで動かねばどうなるか、レンズの端に映り込む二人の白いライダーがその答え。
受け身を取る前に追撃を受けるに違いなかった。

『ATTACK RIDE CLOCK UP!』

ディケイド以外の全員が加速の世界から弾き出された。
ただの高速移動であれば、ビルドジーニアスとエボルは難なく対処が可能。
しかしクロックアップは違う。
対抗出来るのはマスクドライダーシステムの資格者かワーム、若しくは時間そのものを止められるスタンド使いだけ。

『BLADE!KAMEN RIDE KING』

激情態を経てコンプリートフォームになった今でも、クロックアップの持続時間は短い。
故に1秒たりとも無駄には出来ず、ケータッチを操作。
ライダーの出現と同時にライドブッカーを振り抜き、ビルドジーニアスと斬月を斬る。

303 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:17:52 ID:ZXaO4USg0
「――っぐ!?」
「――っう!?」

クロックアップ解除の瞬間、訳も分からぬ内に味わう激痛。
散る火花は仮に血であったら、致死量確実の量。

ディケイドの隣に佇むのは、黄金を身に纏った王。
キングオブバンパイアとはまた別の、人間とは異なる種族の力を操る戦士。
13体の不死の生物との融合を果たしたその名は、仮面ライダーブレイド・キングフォーム。
友と世界の両方を救い運命に打ち勝った、剣崎一真の最後の切り札。
彼の戦いを汚すに等しい最悪の形で顕現を果たした。

「う、あ……――」

ライドブッカーのみならず、ブレイドの剣による痛みも加わりここで斬月に限界が来た。
ブレイラウザーの3倍の切れ味を誇る大剣、キングラウザーはラウズカードを使わなくとも破壊力は桁外れ。
全フルボトルと強化粒子により創られたビルドジーニアスの装甲と、戦闘での痛みに慣れている戦兎とは違い。
姉より運動能力は高くとも一般人の域を出ない甘奈の体の甜花では、これ以上意識を保つのは不可能と判断されたのだろう。
戦極ドライバーが外れライドウェア諸共装甲は消失、白いヒーローの姿を最後に瞼を閉じる。

10代の少女の痛ましい姿に欠片の同情も抱かず、二人揃って剣を振り上げた。
変身者と変身ベルト、両方を纏めて破壊する。

「させ…るかよ…!」

二本の剣に巻き付く鎖、茨の鞭、タコの触手。
三重の拘束とて数秒保てはマシな方、だがビルドジーニアスが動く為の猶予としては問題無い。
忍者の俊敏性とロケットの推進力を組み合わせ急加速、甜花を抱きかかえ回収し距離を取る。
木の根元にそっと下ろすと、いつの間にやら隣にはエボルが立っていた。

(甜花ちゃん…!?そんな……!)
『死んじゃいないが安心するにはまだ早いみたいだな。向こうはまだ暴れ足りなそうだぜ?』
「……言われるまでもねえよ」

すぐにでも甜花を安静にさせられる場所へ連れて行きたい。
焦る心を必死に押し殺し振り返れば、衰えぬ殺意をぶつける二人のライダー。
素通りさせてくれない相手をどうするか、方法はたった一つ。

決着の時は近い。

304神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:19:39 ID:ZXaO4USg0



『HIBIKI!KAMEN RIDE ARMED』

ディケイドの隣へ現れる新たなライダー。
赤く分厚い強化装甲を纏い、二本角はより鋭利な形状へ。
額へ刻まれた「甲」の紋章が装着完了の証。
猛子所属の中で最強の力を持つ鬼、アームド響鬼。
装甲声刃(アームドセイバー)とディスクアニマル協力の元、対魔化魍の切り札となった姿だ。

「デカいのを仕掛ける気だな…」

アームド響鬼から生体反応は感知されない。
分身のようなものだと察しは付くが、召喚されてから威圧感が膨れ上がったのは気のせいではないだろう。
敵は勝負を決めに来た、生半可な威力では無い大技を放つ気でいる。
一気に充満する濃密な死の気配を根拠にそう理解すれば、アークワンが打つ手も自ずと決定。
プロトタイプビルドに指示を出し、自らもベルトを操作する。

「おいそこの黒いお前!状況は分かっているだろう!死にたくなければ戦え!」
「……っ!」

ついでに膝を付いたまま俯き動かない戦士へ叫んで。
思わぬ者からの喝に白い帽子を握る手に力が籠った。

アークワンに善意で元気付けようなどという意図は微塵もない。
ただディケイド相手には戦力が多過ぎて困る事は無い。
敵同士とはいえディケイドの危険性を理解しているからこそ、ボディーチェンジを封じられた怒りを今この瞬間のみ抑え込んだ。

「マガツイザナギ…!」

アークワンへの感謝はない、一番最初に戦闘を仕掛けて来たのはお前だろうと言ってやりたい。
しかし言っている内容に間違いは無く、抗わねば本当に死ぬ。
喪失感と無力感に苛まれても、戦いを投げ出す選択だけは選べそうも無かった。
召喚に応じたマジンが長得物を地面に突き刺し、決着の為の力を集中。

『Ready Go!』

『悪意』

『恐怖』

『憤怒』

『憎悪』

『絶望』

フルボトルの成分を活性化させる横で、アークワンもまたスパイトネガの出力を高める。
全方位へ悪意の波動を解き放つ技をここで我流にアレンジ。
炭治郎の体では使えなかったが今は違う。
アークワンのスパイトネガ、ウィッチの魔法力。
これら二つを操れるのならば不可能は無い。

305神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:20:36 ID:ZXaO4USg0
『PERFECT CONCLUSION』

『LEARNING FIVE』

「ミルキーキャノン!」

片手に気を収束させて放つギニュー本来の技、此度は別の力で代用。
プロトタイプビルドもグラフ型の滑走路を滑り、必殺の蹴りを放つ。

『FAINAL ATTACK RIDE HI・HI・HI HIBIKI!』

決死の抵抗を嘲笑うかの如く、破壊者達の剣から斬撃が飛ばされる。
大型の魔化魍すら粉砕可能な音撃の刃はプロトタイプビルドを押し返し、ミルキーキャノンも勢いが弱まった。
後一つ、たった一つでも何かが加わらなければ勝敗は覆らない。

「セト!」

なれば、動くのはやはり切り札の名を持つ怪盗。

錬金術師との絆の証、黒竜が勇ましく咆え立て敵を威圧。
主の戦意に呼応し、勝ちを奪い取る気に溢れていた。
合図の号令を待つ竜へ向けジョーカーは言い放つ。

「ペルソナァッ!!!」

命令は出た、だったら応えない訳にはいかない。
両翼を一層激しく揺れ動かし、発射されるは銀の弾丸。
悪意の鎧を撃ち貫いた魔弾が狙うは破壊者、かのグロンギの王にも引けを取らない絶対悪。
よもやその悪意の化身と中身が違うとはいえ、共通の敵と戦うとは思いもしなかったが。

弾丸は音撃刃を砕き、その先の響く鬼をも仕留めた。
分身を失い急激な威力低下に、ここを逃ししてはならぬとアークワン達も畳みかける。
エネルギー砲と蹴りは破壊者を打ち砕き、その存在を欠片も残さず消し去った。

残ったものは何もない、分身故に当然だ。
一先ずこっちは勝てたと胸を撫で下ろすのはまだ先。
鉛を括りつけたように重い体を引き摺り、切り札は己の力が必要な場へ赴く。

306神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:21:43 ID:ZXaO4USg0



『FAIZ!KAMEN RIDE BLASTER』

勝負に出たのは分身一体だけではない。
響鬼とはまた違う赤を纏った戦士が出現。
銀の装甲は厚みを増し、高密度のフォトンブラッドが全身を駆け巡る。
仮面ライダーファイズ・ブラスターフォーム。
闇を切り裂き光を齎す救世主、ファイズの最終形態が破壊の道具として使われようとしていた。

「もう慣れちまったよこの展開は…!」

ヤバィ奴が明らかにヤバそうなのをどっからか呼び出す。
と来れば次に何が起こるかだって安易に予測可能。
新しく出て来た赤い奴の手には、露助だって持ってないようなデカい銃が一丁。
仮面ライダーという存在は使う武器も大概イカレてると、1日の内に十分な程知った。
つまりあれも手に持てる大きさでありながら、冗談にもならない威力を秘めているのだろう。

「それでもやるしかねぇだろ!」
「ピ、ピカ〜〜〜!!」

腹を括って両手に霊力を掻き集め、杉元に倣い善逸も充電開始。
数多の戦場と変わらない、戦って勝って生き残るのだ。

『FAINAL ATTACK RIDE FA・FA・FA FAIZ!』

ライドブッカーの刀身へエネルギーが充填され、剣のままで銃を撃つように構える。
ファイズの方も同じだ、フォトンブラッドが集まる先は己の得物の銃口。
両者共に構えた武器、ライドブッカーとファイズブラスターを突き付け発射。
オルフェノク達を屠り灰の山を築き上げた砲撃が、不死と人ならざる存在を消し去らんとする。
対するは雨霰と撃ち込まれる灼熱の弾幕、エターナルとも接戦を繰り広げたフジヤマヴォルケイノ。
そしてピカチュウが最も得意とする10まんボルトが、持てる全てを出し切る勢いで放たれた。

307神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:22:23 ID:ZXaO4USg0
着弾と爆発を繰り返し威力を削ぐ炎、僅かにでも押されれば負けだと己を振るわせ引かずに放射し続ける電撃。
だが敵も勢いは微塵も弱まりを見せない。
帝王のベルトの変身者をも敗北へ追いやった莫大なフォトンブラッドに、歴戦の戦士達もじわりと汗を流す。

「ペルソナ!」

故に勝負を左右するのは仲間の有無。

分身の一体を倒したその足で急ぎ駆け付け、ジョーカーが援護を行う。
召喚するのは再びセト、発動されたスキルが破壊者と救世主を直撃。
思わぬ横槍を受けるも痛みは全く感じられない。

「ヌゥ…!?」

しかし異変は即座に現れた。
体中が猛烈に熱い、杉元の放つ弾幕の熱と爆風の余波がディケイドに苦悶の声を出させる。
まるで直接火炎に炙られていると錯覚を抱きかねない苦痛だった。

火炎ガードキル。
セトが使うこのスキルは、火属性への耐性を無効化する効果を持つ。
妹紅の体の杉元を援護するには正に打って付けだろう。

強化スーツの耐熱性を消され、思わぬダメージに砲撃の狙いへブレが生じる。
この瞬間、勝利の天秤は大きく傾いた。

「俺は、不死身の杉元だ!!!」

傷が治るから、死んでも生き返れるから不死身なのではない。
生き汚く悪足掻き、食らい付き、己が生を勝ち取るからこその不死身。

火炎と雷撃が悲鳴一つ許さず焼き払い、黒ずんだ地面だけがそこに残った。

308神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:23:22 ID:ZXaO4USg0



消えたのはどちらも分身。
彼らを生み出した本物の破壊者は未だ倒れず、己が足で標的を見据える。
何度痛め付けようと敵は生きて破壊を逃れたまま、故にこの手で完全なる終わりを与えるまでのこと。

対するライダー達も引くつもりはない。
ヒーローの後ろには守ると約束した少女がいる。
ならば何があろうと、ここから先は一歩たりとも近付けさせない。

『決着が近いなら、ここらでお色直しといきますかね。アイドルが同じ衣装ばっかりじゃファンもシラケるだろ?』

緊迫した状況だろうと普段の調子を崩さず軽口を叩く。
傍らのヒーローと体の持ち主が呆れを向けるのもお構いなし。
それに丁度試しておきたい事もある。
城娘から譲渡された金色のボトルを取り出すと、横で目を剥く気配を感じた。

『DRAGON!』『RIDER SYSTEM!』

『EVOLUTION!』

『Are You Ready?』

「変身」

『DRAGON…DRAGON…EVOL DRAGON!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

ファクトリーを展開し、エボルボトルの成分を元に再構築。
胸部リアクターと黄金色の装甲は変わらないまま、先程とは違う仮面を被る。
青を基調としたデザインは、仮面ライダークローズと瓜二つ。

仮面ライダーエボル・ドラゴンフォーム。
正史においては万丈龍我の肉体へ憑依し変身可能となった、エボルのフェーズ2。
使用したのがグレートドラゴンエボルボトルの為か、本来のドラゴンフォームとは細部に違いが見られる。
と言っても殺し合いに参加したエボルトからすれば、ドラゴンフォームへはこれが初変身だが。

309神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:24:08 ID:ZXaO4USg0
敵の威圧感が数段上がったのを実感しつつ、ディケイドはそれすら上回り破壊を実行に移す気だ。
相手が仮面ライダーである以上は自分の破壊を防ぐ術が無い。
ライドブッカーから撫でるようにカードを取り出し、慣れ切った動きで読み込ませる。

『FAINAL ATTACK RIDE B・B・B BLADE!』

ライドブッカーとキングラウザーが輝き出す。
キングフォームの装甲にも引けを取らない金色の光は、美しさとは裏腹に絶望の象徴。
5枚のラウズカードの力を大剣に宿し切り裂く、ブレイドが持つ誇張抜きに最強の技。
トライアルシリーズですら一撃で消滅させた剣が二本、希望を感じろと言う方が難しい。

『FAINAL ATTACK RIDE BUI・BUI・BUI BUILD!』

『Ready Go!』

対峙中の二人の頭にあるのは負けるイメージではなく、打ち勝つという一点のみ。
60本全てのフルボトルがエネルギーを解放、グラフ型の滑走路を創り出す。
ラビットタンクフォームの蹴り技を最大威力にまで昇華させた、ビルドジーニアスが持てる全て。
迫りくる激突の瞬間に備えるのはエボルも同様。
胸部リアクターが高速回転し破壊エネルギーに変換、片足に纏わせる。
発せられる蒼炎はフェーズ1には無かった、クローズと同じ力だ。
万丈の体内で創られたボトルの特性故か、格闘攻撃を爆発的に強化するのが蒼炎の役目。

『EVOLTEC FINISH!』

『共同作業と洒落込むか!楽しくやろうぜ戦兎ォ!』
「こっちは全っ然楽しくねぇよ!お前となんざ二度と御免だ!」

ぶつけ合う言葉に友好的なものは含まれていない。
しかし跳躍のタイミングは毛先程のズレも生じさせず、完璧な同時攻撃を実現させた。
全身のフルボトルを発行させながら、ビルドジーニアスは滑走路を急加速。
横に並ぶは蒼炎を全身に纏い、隕石を思わせる勢いのエボル。
創造と破壊、背中合わせを司る両者の力が今正に叩き込まれようとしている。

310神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:25:13 ID:ZXaO4USg0
破壊者とて微塵も引けを取らない、むしろ凌駕せんとばかりに剣を振り下ろす。
双剣に付与されたエネルギーは光刃へと変わり、長大な二振りの得物と化す。
原典の世界で、異なる歴史においては邪神を葬った王の剣。
士が通りすがったディエンドの世界においては、フォーティーンと呼ばれる支配者を倒した圧倒的な威力。
変身者の精神が善か悪かは問わず、その力に翳りはない。

蹴り技と斬撃、2対2の構図で真っ向から激突。
勝負を譲る気は誰にも無い、どちらも自分が勝つ気でいるのは揺るがない。
それでも心意気だけではどうにもできない力の差がそこにはある。

「ぐっ……!」

衝突の余波は装甲強度関係なしにビルドジーニアスを痛め付ける。
仮面ライダーへの特攻を有する破壊の力はこんな時でも作用し、こちらを敗北へと蹴落とす。
歯を食い縛り集中力を乱さない。
たとえディケイドの力で再現された物に過ぎなくとも、ジーニアスフォームの力はこんなものじゃないだろう。
特殊変換炉がフルボトルの成分を更に活性化し、ビルドジーニアスの力へと変える。
想いの力で負けたつもりは無くとも、不利を強いられた状況には暗雲が濃さを増し、

『…………ハッ』

何かに気付いた星狩りの小さな笑い。
同時に蒼炎が勢いを増し、ビルドジーニアスと共に刃を押し返し始めた。

「ッ!!!」

力を緩めてはいない、なのにこちらが押し負けている。
一歩も前へ踏み出せない、これ以上剣を振るう事すら出来ない。
信じられぬ光景へ追い打ちを掛けるかの如く、光刃が掻き消されて出す。
敗北へ爪先だけでも引き摺られたなら、後はもうされるがまま。
消失は全く治まらない、むしろ頼りなさしか感じられない光へ真っ逆様。
最早そこに王の剣は無かった。

「ハァアアアアアアアアアアッ!!」

最大限の加速を以て、ビルドジーニアスとエボルが蹴りを届かせる。
しかし、しかしそれでも破壊者は敗北を受け入れない。
己を突き動かす破壊衝動に身を委ね、ダメージすらも捨て置き前へ突き進む。
足底が確かに敵を捉えたと分かり、同じく自分達へ刃が走ったのを認識。
威力は削がれても破壊者の剣だ、仮面ライダーを殺す為にあるとでも言いた気に斬り飛ばす。
打撃と斬撃の直撃に揃って後方へ弾かれる三人、痛み分けと言う他ない光景だった。

311神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:26:06 ID:ZXaO4USg0
「それが…どうした……!」

『FAINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』

終わらない、このまま倒れて終わりにはしてやらない。
蹴りが当たる直前、ディケイドの手は無駄を全て削ぎ落とした動きでカードを叩き込んだ。
アタックライド・メタル。
硬質化により防御力を上げ、無傷まではいかなくともダメージの軽減には成功。

だからといって平然と振舞える程の些細な傷ではない。
立っているだけでも全身を痛みと疲労が蝕み、仮面の下では脂汗が流れる。
破壊、仮面ライダーを、生ける全ての者を破壊。
強靭を通り越し異常の域へと達しつつある破壊者の使命を燃料に、己の体を突き動かす。
数十枚ものカードが終焉への道を作る、ライダー達を一撃のもとに下した蹴り技だ。

「しぶと過ぎんだろ…!」

ディケイドの執念に戦慄する間すら惜しい。
悪態を吐き捨て再びカードに手を伸ばす。
絶対に勝てる保障は無い、負ける可能性の方が高い気さえする。
ネガティブな思考を振り払い、

『戦兎ォ!』

聞き慣れた声に返事を返さず、投げ渡された物を受け取る。
一本の剣とボトル。
どちらも見覚えがあり、何の目的かは問い質す必要無し。
よりにもよって因縁深い男から譲られたとか、そういう苦々しさも全部後だ。
これの使い方が分からない筈がない。

312神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:26:49 ID:ZXaO4USg0
剣の名はビートクローザー、戦兎が開発したクローズ専用の武器。
旧世界での戦いでそうだったように、ドラゴンフォームエボルはクローズの装備も生成が可能。
そこへ疑問を挟む事も無く、一緒に投げ渡されたエボルボトルを装填する。

『SPECIAL TUNE!』

『ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!』

グリップ部分のスターターを三回連続で引き、軽快な音楽が鳴り響く。
喧しいだけの機能じゃない、ボトルの成分を武器内部に取り込み技の威力を高める。
まして使ったのはエボルボトル、フルボトルを超える力を解き放つ。

愛銃へボトルを装填するエボルを視界の端に捉えつつ、ビートクローザーを構える。
宿敵からの譲渡へ、余り嫌悪感を感じないのは緊迫した状況も理由の一つ。
けれどもう一つ、このエボルボトルは破壊を目的に創られたのとは違うから。
肉体を乗っ取られた自分を助ける為に、変身能力を失っまま立ち向かった青年。
あの筋肉馬鹿が決死の覚悟と想いを籠め、新たに生み出したボトルと知っているから。

――『俺の相棒は、桐生戦兎ただ一人だ!』

「一緒に勝つぞ!万丈!」

『MEGA SLASH!』

――COBRA!STEAM SHOT!COBRA!――

振り下ろされた剣と発射された銃弾。
蒼き龍と赤き蛇が競い合いながら、獲物を噛み砕かんと牙を剥き出す。
エボルボトルを使った斬撃と銃撃を無傷で打ち消すのは困難を極める。
二つの炎が形を変えた捕食者を前に、破壊者はどう出るつもりか。

313神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:27:31 ID:ZXaO4USg0
決まっている、真正面から捻じ伏せ破壊するのみだ。
成程確かに敵は手強い、ここまで生き残って来ただけのことはある。
だが最後に勝つのは自分、破壊から逃れる術など有りはしない。

真の破壊者に覚醒を果たし、そこから更に高位の姿へとなった。
多くのライダー達を敗北へ叩き落としたディメンションキックは、コンプリートフォームとなり威力は倍増。
他のライダーの力を借りない、純粋なディケイド自身の力だからこその脅威を秘めている。
ここからの逆転は有り得ないし認めない。
破壊者と狩られる者達との戦いの結果は、最初から決まっている。

「なん…だと……!?」

ならばこれは何だ、一体何が起きている。
龍と蛇を蹴り殺す筈が、押されているのは破壊者の方。
突き立てた牙と叩きつけられる全身に、次元エネルギーが剥がれ落ちて行く。
激突の直前、ディケイドは確かに感じ取った。
二体のライダーの力が爆発的に上昇し、瞬間的に自分さえも上回ったのを。
理解不能の現象を味わう最中見たのは、ライダー達のずっと後方に隠れ潜む鼠。

自分を睨み掌を翳す、メガネの少年を。

「貴様が――――」

言葉の先は言わせてもらえず、蒼龍と紅蛇が食らい付く。
周囲一帯共々二色の光に包まれ、破壊者の姿は誰にも見えない
光が消え元の闇を取り戻した時、そこには誰もいなかった。

314神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:28:27 ID:ZXaO4USg0



(上手くいったか……)

物陰に隠れたナナは手を下ろし、闘争の終わりにどっと息を吐く。
ディケイドがビルドジーニアスとエボル相手に押し負けた理由、それにはナナが関わっている。
激突の直前、ナナは隠れながら斉木の超能力を使用。
現在唯一使える念力は問題無く発動された。
但し、念力の対象となったのはディケイドではなく戦兎達の方。

ナナが放った力は火事場のバカ力という念力の応用法。
対象者の攻撃に合わせて念を飛ばす事で、威力を爆発的に強化し勝利へと導いた。
自分の手を使わず物を動かす、そう言ったシンプルな使い方以外にも活用方法が念力にはあるのだ。
ナナ自身は斉木の多岐に渡る能力全てを事細かに把握していない。
だが不思議と、今ならば火事場のバカ力が出来るという確信のようなものを感じた。
念力を使えるようになってからそれなりの時間が経ち、ナナの精神が馴染んだからか。
或いは、一人の少年の死がトリガーになったのか。

(……今は戦兎達と合流しよう)

頭の中を切り替え、優先するべき行動を選択。
目を逸らしているだけだとは、考えないようにする。

戦っていた者はほとんどが無事だ。
ジーニアスフォームの制限時間が切れ、周囲を警戒し続ける戦兎。
その近くにはエボルの変身が解除されたエボルトが、呆れたように腹部の機械を見下ろしている。
少し離れた場所からは、杉元に肩を貸された蓮と疲れ切った様子の善逸が。
ギニュー達の姿は見当たらず、恐らく逃げたのだろうと判断。

後は自分が彼らの前に出て行くだけだと足を引き摺り、





「貴様か、くだらん横槍を入れたのは」

315神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:29:25 ID:ZXaO4USg0
背後からの声に振り向く事も許されず。
腹部を痛みと熱が襲った。

「あ゛ッ…!?」

倒れ込んだ地面が熱いナニカで濡らされる。
自分の腹から流れる血だと気付くのに時間は掛からず、愕然と顔を上げれば案の定。
既にコンプリートフォームは解除され、十字の意匠が描かれた装甲へ戻っている。
それ以上に目を引くのは顔面部分だろう。

悪鬼を思わせる仮面の左側、丁度目の位置に当たる部分は砕け散った。
割れ目の奥から覗く瞳は額からの出血もあって、まるで血涙を流しているかのよう。
無事な右のレンズと合わせ、よりおぞましさを増して破壊者はナナを見下ろす。
傷を負いながらも、未だ現世に命を繋ぎ止めた状態で。

ディケイドの命を救ったのは、闘争の少し前に発現した能力。
オーロラカーテンを操り次元を超える、門矢士の力だ。
エリアを超える程の長距離移動は不可能でも、ごく近い位置ならば問題はない。
竜と蛇が完全に喰い殺す前に、どうにか離脱したのだった。

とはいえあの極限状況を無傷でやり過ごすのは流石に困難だったらしく、装甲の下では全身が悲鳴を上げている。
蓄積されたダメージも軽く見れるレベルを通り越している。
しかし死んではいない、世界の破壊者はまだ滅んでいない。
仮面ライダーの破壊を妨げた超能力者(無能力者)は、その代償を自らの命で払わされる。

316神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:30:28 ID:ZXaO4USg0
「しつけぇぞテメェ!!」

惨たらしい結末を回避すべく、異変に気付いた杉元が疾走と抜刀を同時に行う。
背後を見ないままにライドブッカーを振るい防御、押し返し反対の首を突き刺す。
助けに行って反対に殺されるのはお断りだ、身を屈めて回避からの斬り上げ。
難なく防がれ鍔迫り合いに持ち込む前に襲い来る剣を、多少の切り傷は捨て置き致命傷だけは寄せ付けない。

「ペルソナ!」

杉元がディケイドの意識を掻っ攫った隙に、蓮は焦りを露わにペルソナを出現。
ホウオウのスキル、リカームがナナの傷を癒し出血を止める。
戦闘不能状態の味方を復帰させる力により、死への誘惑を払い除けた。

『ATTACK RIDE THUNDER!』

「ピカ〜〜!?」

杉元と打ち合いつつもカードを装填、片手にブレイラウザーを装備し蓮に突き付ける。
電撃の放射で焼き殺す、それを阻むは善逸の10まんボルト。
杉元を援護しようと放ちかけたが、慌ててブレイラウザーからの電撃当て相殺。
蓮は無事だが杉元は違う、得物を増やし更なる猛攻を仕掛ける敵へ防戦一方だ。
弾幕を張る余裕すら与えてくれない連撃、一旦退こうにもすぐ後ろのナナが行動を抑制する。
出血は止まったが痛みと貧血で動きは鈍い、自力で立とうとしてはいるがどうも危なっかしい。
腕の一本は覚悟して火球を放とうかと腹を括り、

『Ready Go!』

『VOLTEC BREAK!』

別方向よりの援護にその必要は無くなった。
ドリルクラッシャーから斬撃が飛ばされ、ディケイドはそちらの対処を選択。
双剣を翳し防ぐも衝撃で後退、杉元が動ける隙の完成だ。
ナナの元へ急ぎ駆け寄り、起き上がれるよう手を貸す。

317神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:31:08 ID:ZXaO4USg0
「杉元!ナナを連れて逃げろ!」

叫ぶビルドの横では変身を終えたブラッドスタークが銃を撃ち続ける。
トランスチームライフルの精密射撃をも、ディケイドの双剣の前には届かせられない。
だが足止めにはなった。

「…分かった!もう一回会うまでお前らも死ぬなよ!」

仲間の声を受けて杉元は困惑や反論を蹴飛ばし撤退を受け入れる。
モタつけけばモタついた分、状況の悪化は確実なのだから。

「杉元さんの方に付いてやってくれ、ここは俺達がどうにかする」
「ピカ!?」

蓮からの頼みに思わず聞き返すも、口論の時間が無いのは善逸だって理解できる。
迷う素振りを強引に押し留め、頷きと共に背を向けた。
当然逃走をディケイドが見逃す理由は無く、ブレイラウザーをブラッドスタークへ投擲。
あっさり弾き落とされるが銃を撃つ手は止まり、新たなカードを取り出す。

「っ!」

ディケイドが逃走を許さないなら、他の者はディケイドの妨害を許さない。
蓮が煙幕を投げ付け、破壊者の視界いっぱいを黒煙が覆い隠す。
侵入者の気配に敏感なシャドウからの逃走を許す潜入道具だ。
多少の時間稼ぎにはなる。

「揃ってつまらん真似が好きらしいな」
「小細工は怪盗の専売特許だろ」

アルセーヌを呼び出し睨み合うも、疲労と傷で息が上がっている。
体中の倦怠感を噛み殺し、ディケイドの動きから目を逸らさない。
敵はしんのすけを捕らえたままだ、何とかして取り戻さねば。
戦意とは裏腹に勝ち目は薄く、向こうも分かっているのか速攻で斬り殺そうと踏み込む。

318神ノ牙 -道楽心情- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:31:37 ID:ZXaO4USg0
『おっとォ!相棒に用があるなら、まず俺を通してもらわなきゃ困るねぇ』

赤い影状で地面を這い距離を詰め、間一髪の所で実体化。
ブレードで防御したがこのままチャンバラを行う気は皆無。
胸部装甲からエネルギー体の大蛇を出現、至近距離での巨大な顎はディケイドも放置できない。

『KAMEN RIDE GHOST!』

『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・!ゴースト!』

ディケイドの妨害に動くのはもう一人の戦士、ゴーストも同じだ。
大量のパーカーゴーストは攻撃のみならず、敵の目を眩ませるのに持って来いの力。
色とりどりのフードを被った英雄眼魂に宿る偉人達が、大蛇と共にディケイドを近付けさせない。
目障りと言わんばかりに斬り払った時にはもう、蓮はブラッドスタークに運ばれた後。

「エボルト!まだしんのすけが…!」
『こっちは全員余裕が無いって分かるだろ?それに多分、あいつもしんのすけをすぐに殺す気はない。適当に言ってるんじゃないぜ?』
「……っ」

押し黙ったならさっさと逃げるに限る。
敵前で口論を続けた結果揃ってお陀仏なんて冗談にもならない。
トランスチームガンから黒煙を噴射、あっという間に4人全員を包み込む。

『CIAO♪』

ライドブッカーを振るうも何の感触も無い。
最後に聞いたのは風都タワーの時と同じ、腹立たしい声だった。

319神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:33:12 ID:ZXaO4USg0



「ごめんなさい杉元さん、面倒をおかけします…」
「気にすんなよ。それよりもうちょっと離れんぞ」

杉元に背負われたまま、ナナは戦場から遠ざかる。
隣では善逸が心配気な顔を向けながらも、背後へ気を配っていた。

(まさかこんな事になるとは……)

移動を杉元に任せたまま、ナナは内心で頭を抱える。
戦兎達と合流出来たと思えばまたもや別行動を余儀なくされた。
首輪解除への道がどんどん遠ざかっている気がしてならない。

だがそれ以上に問題なのは燃堂の事だ。
死なないように手を回したこれまでの苦労が全て水の泡。
間の抜けた顔で、「お?」とそこらの茂みからひょっこり現れる。
燃堂らしい馬鹿げた展開に期待しても無駄、彼はナナの目の前で本当に殺されてしまった。

燃堂の死がこれからどんな影響を齎すのかはナナにも分からない。
斉木が言ったような並行世界と同じ運命を辿るのか、全くの別の展開が待っているのか。
それとも何も起こらないのか。
流石に今すぐに異変が起きるとはならないだろうが、楽観的に大丈夫だなどとは言えない。

320神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:33:53 ID:ZXaO4USg0
「…………」

燃堂は馬鹿な少年だった。
殺し合いで会ったのが序盤では無くついさっきだったとしても、馬鹿という評価は覆らなかっただろう。
だけど、殺されて当然の悪人では無かった。
馬鹿であってもクズではない、むしろ善人に部類される少年だった。
間違っても人類の敵となる能力者ではない、正真正銘ただの人間。

そんな燃堂はナナを庇って死んだ。
意味の無い事を、とは思えない。
もしあそこで燃堂が動かなければ自分が死んでいた可能性を、ナナは否定できない。

自分を庇い燃堂は死んだ、自分が原因で燃堂は死んだ。
両親が殺された時と同じ、ナナが燃堂を殺したようなものではないのか。

「……っ」

不要な考えを起こしかけた自分へ、冷静になれと言い聞かせる。
それよりこれからどう動くか、頭を整理する方が重要だろうに。

その筈なのに、燃堂の最期が頭に焼き付き離れなかった。


【C-2(JUDOから離れた場所)/夜中】

【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労(大)、腹部へ斬傷(出血無し・痛みあり)、貧血気味、自分への不安、燃堂の死へ形容し難い感情、杉元に背負われている
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品×2、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜2(確認済み・燃堂の分含む)、病院内で手に入れた道具多数、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖(破壊済み)@なんか小さくてかわいいやつ、竈門炭治郎の日輪刀(刀身が半ば程で折れている)@鬼滅の刃、バギブソン@仮面ライダークウガ、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、松平の拳銃@銀魂、如意棒@ドラゴンボール、首輪(脹相、燃堂力)
[思考・状況]
基本方針:まずは脱出方法を探す。他の脱出方法が見つからなければ優勝狙い
1:今は杉元達と共にディケイドから逃げる。
2:燃堂の死に対して…………。
3:「かめ」主催者のボスのことか?ならボンドルドが介入した意味は何だったんだ?
4:「かめ」は「仮面ライダー」の可能性もある?ならば、主催陣営の誰かが変身するということなのか?まさか…さっきのビルドが?
5:斉木楠雄の精神復活は想定内だったのか?だとしたら何のために?
6:変身による女体化を試すべきかどうか…
7:首輪の解除方法を探しておきたい。今の所は桐生戦兎に期待
8:能力者がいたならば殺害する。並行世界の人物であろうと関係ない
9:エボルトを警戒。万が一自分の世界に来られては一大事なので殺しておきたいが、面倒な事になったな
10:可能であれば主催者が持つ並行世界へ移動する手段もどうにかしたい
11:何故小野寺キョウヤの体が主催者側にある?斉木空助は何がしたい?
12:斉木楠雄は確実に殺害する。たとえ本当に悪意が無かったとしても、もし能力の暴発でもして自分の世界に来られたらと思うと安心できない。
13:12のためなら、それこそ、自分の命と引き換えにしてでも…
[備考]
※原作5話終了直後辺りからの参戦とします。
※斉木楠雄が殺し合いの主催にいる可能性を疑っています。
※超能力は基本的には使用できませんが、「斉木楠雄」との接触の影響、もしくは適応の影響で念力が使用可能になりました。他にも使えるかもしれません。
※サイコメトリーが斉木楠雄の肉体に発動しましたが、今後は作動しません。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※貨物船の精神、又は肉体のどちらかが能力者だと考えています。
※小野寺キョウヤが主催に協力している可能性を疑っています。
※主催側に、自分の身体とは別の並行世界の斉木楠雄がいる可能性を伝えられました。今のところは半信半疑です。
※主催側にいる斉木楠雄がマインドコントロールを使った可能性を疑っています。自分がやったかどうかについては、否定されたため可能性としての優先順位は一応低くしています。
※並行世界の同一人物の概念を知りました
※主催陣営が参加者の思考までをも監視している可能性を考えています。
※「かめ」=仮面ライダーだと仮説した場合、主催陣営の誰かがビルド、斬月、エターナルのいずれかのライダーに変身するのではないかと考えています。

321神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:35:17 ID:ZXaO4USg0
【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、全身に切り傷(再生不可)、霊力消費(特大)、再生中、一回死亡、ナナを背負っている
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(0/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)+三十年式銃剣@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ
[道具]:基本支給品×6、神経断裂弾×26@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、魔法の天候棒@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜1(確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんにしろ主催者をシメて帰りたい。身体は……持ち主に悪いが最悪諦める。
1:柊を連れて一旦逃げる。桐生達も無事でいて欲しいが…。
2:あのカエル(鳥束)、死んだのか…。
3:俺やアシリパさんの身体がないんだよな!よしっ!
4:先生は死んじまったか……。いや本当に何で先生だけいたの!?
5:不死身だとしても死ぬ前提の動きはしない(なお無茶はする模様)。
6:エボルトの奴にはこっちでも警戒しとく。
7:何で網走監獄があんだよ…。
8:この入れ物は便利だから持って帰ろっかな。
9:本当に生き返ったのかよ!?蓬莱人すげえッ!
10:ラッコ鍋は見なかった事にしよう…。
[備考]
※参戦時期は流氷で尾形が撃たれてから病院へ連れて行く間です。
※二回までは死亡から復活できますが、三回目の死亡で復活は出来ません。
※パゼストバイフェニックス、および再生せず魂のみ維持することは制限で使用不可です。
 死亡後長くとも五分で強制的に復活されますが、復活の場所は一エリア程度までは移動可能。
※飛翔は短時間なら可能です
※鳳翼天翔、ウー、フジヤマヴォルケイノ、正直者の死、フェニックスの尾、月のいはかさの呪いに類似した攻撃を覚えました
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の時代から来たと知りました。
※ディケイドに付けられた傷は不死を無効化された為再生できません。JUDOの死亡orディケイドライバーの破壊で再生が行われるかは不明です。

【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大・処置済み)、全身に火傷、精神的疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:殺し合いは止めたいけど、この体でどうすればいいんだ
1:俺、また遅過ぎたのかよ……
2:お姉さん(杉元)達とあのおっかない奴(JUDO)から逃げる。
3:しのぶさんも岩柱のおっさんも、また死んじゃったんだな……
4:煉獄さんも鳥束も、あの人(神楽)死んじゃったのか……
5:無惨が死んだのは良かったんだろうけど……
6:炭治郎の体が…まさか精神まで死んでないよな……?
7:殺し合いが無かったことになるなら、炭治郎達も助かるのか……?
8:……かみなりの石?何かよく分からない言葉が思い浮かぶ…
[備考]
※参戦時期は鬼舞辻無惨を倒した後に、竈門家に向かっている途中の頃です。
※現在判明している使える技は「かみなり」「でんこうせっか」「10まんボルト」「かげぶんしん」の4つです。
※鳥束とギニュー(名前は知らない)の体が入れ替わったと考えています
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。また自分が戦兎達よりも過去の、杉元よりも未来の時代から来たと知りました。
※肉体のピカチュウは、ポケットモンスターピカチュウバージョンのピカチュウでした。

※どの方角へ逃げたかは後続の書き手に任せます。

322神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:36:39 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆


トランスチームガンの機能を使い撤退。
旧世界でブラッドスタークに何度も逃げられた方法で、今度は自分達が助かった。
複雑な胸中を明かさず、山道を抜けた一同はサッポロビールの宣伝カーで移動。
遠くに見えるのは広大な施設。
ここに杉元がいたら、嘗ての苦い記憶に目を細めただろう。
戦兎達4人は網走監獄が設置されたB-1に宣伝カーを走らせていた。

ハンドルを握ったまま、チラと背後に視線をやる。
帽子の青年がぐったりと腰掛け、隣には瞳を閉じた少女。
ディケイドとの戦いで気を失い甜花は未だ目を覚まさない、ただ顔色は少しだけ良くなったように見える。
蓮がホウオウのスキル、ディアラマを使い幾らか傷が癒えたからだ。

「助かった雨宮、無理させちまって悪い」
「謝らなくて大丈夫だ。俺達はもう仲間だし、これくらいは任せて欲しい」

心強い言葉とは反対にどこか暗い表情なのは、疲労だけが原因ではないだろう。
前々からの仲間であるしんのすけはディケイドに囚われたまま。
ようやっと再会できたのにまた引き離されたのだ、精神的な負担は少なくない。

尤もしんのすけがすぐに殺される可能性は低い、というのはエボルトの言葉だ。
無責任な慰めを口にしたのではなく、彼なりの根拠があってのこと。
先程の様子を見る限り、ディケイドは仮面ライダーの殺害に強い拘りを持っている。
となると、仮面ライダーで善人の戦兎や蓮はしんのすけ奪還の為に向こうからやって来る、そうディケイドは考えしんのすけを人質として使う。
仮面ライダーを誘い寄せるのに使えるなら、すぐには殺さない筈。
一応の筋は通っており蓮も一先ず納得した様子を見せたが、内心では居ても立っても居られないのが戦兎にも分かった。

323神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:37:33 ID:ZXaO4USg0
その根拠を説明したエボルトはと言うと、助手席で呑気に外を眺めドライブを満喫中。
何度目になるか分からないため息を吐いた戦兎の懐から、ヒョイと何かを取り上げた。

「おい……」
「んな睨むなって。こいつは俺が優し〜いファンから貰ったプレゼントだ。なら、返してもらうのは当たり前だろ?」

ボトルを渡した二人の内、しんのすけはともかくキャメロットが聞けば非常に困る事を口にして、自身の懐に仕舞う。
ディケイドを倒す為一時的に貸しただけだ、くれてやったつもりは無い。

(しっかしディケイドの奴も酷ぇことするもんだ。もっと怒っても良かったんだぞ?千雪ィ?)
(…何ですか急に)

訝し気な声にもケラケラ笑うばかり。
思い出すのは先程の戦闘、戦兎と共にディケイドとブレイドへ蹴りを叩き込んだ時だ。
その際に変身したドラゴンフォームのエボルには、コブラフォームには無い機能が搭載されている。
頭部に設けられた鋭利な青いフェイスモジュール。
これは変身者の感情の昂りで作動し、技の威力を何倍にも引き上げるのだ。
万丈の体内で創造したドラゴンエボルボトルらしい効果だが、感情を持たないブラッド族には利用不可能。

しかしエボルトは確かに感じた、ドラゴンフォームの発熱強化装置が作用するのを。
エボルトに感情は無い、だが体の持ち主の意識は違う。
気を失う程に甜花を痛め付け、甘奈の体に傷を付けたディケイドへ千雪が怒りを覚えるのは当然の話。
彼女の怒りに装置は反応を示し、結果ディケイドへ打ち勝つのに一役買ったのである。

感情が勝負を左右するのは、戦兎や万丈のハザードレベルを上げて来たエボルトが一番よく知っている。
故に、ここに来て千雪を利用価値が増えたのは悪くない傾向だ。
オリジナルでないのは不満だがエボルドライバーも手元に戻った。
勝手に変身が解除されたのはアークドライバーワンと同様、パワーバランスを考えての制限。
そこに関しては余計な真似以外の言葉が無い。
ともあれ、エボルドライバーが戻ったのは間違いなく大きな収穫。
後はパンドラボックスとエボルトリガーもあれば文句なしだが、流石に贅沢を言い過ぎか。

324神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:38:49 ID:ZXaO4USg0
他にも得られた情報として、やはり戦兎はエボルトの知らない未来の時間軸から参加している可能性が高くなった。
プロトタイプビルドに対し「葛城先生」と言ったエボルトへ、戦兎が何らかの反応を見せた形跡は無い。
実に奇妙ではないか。
エボルトが甜花と共に戦場へ駆け付けた時には既に、敵はビルドへ変身した後。
誰がビルドドライバーを使ったのか分からない状態で「葛城先生」と口にすれば、どうして分かるんだと問い詰められてもおかしくない。
実際にはそのような行動に出ておらず、エボルトが「葛城先生」と言ったのへ特別疑問も抱いた様子は無かった
少なくともエボルトのいた時間軸に置いて、戦兎は葛城忍の生存を知らない。
自殺を装った裏で生きており、エボルトに協力しているとは夢にも思っていないというのに。

(って事は将来的には葛城先生の事もバレるの確定か。あの姿も、アンタが何かしたのか?)

ビルドの最終形態、ジーニアスフォームもまたエボルトの知らない存在だ。
エボルトの知るビルドの強化形態は、フルフルラビットタンクボトルを使ったのが最新。
あれより上があるなど聞いた事も見た事も無い。
ライダーカードの効果で再現したに過ぎないとはいえ、間違いなくフルボトルの力を引き出していた。
未来においてジーニアスフォームはどのような経緯で生み出され、何をするのか。
まさかとは思うが、こちらの計画を大きく狂わせる真似をしでかすのではないか。
今の段階で存在だけでも知れたのは朗報かもしれない。

(まぁ…失くした物もデカいんだけどな)

エボルドライバーが手に入った代償とでも言うのか、自分の荷物はギニューに奪われてしまった。
今まで集めた道具を一辺に失った挙句、ナビとの連絡手段まで失う始末。
頭を抱えたくなるほどの大損失、一方でこうも考える。
これはある意味チャンスなんじゃあないのかと。

そう考えた理由として順を追って説明するなら、まずはナビが送ったギニューの襲撃を知らせるメッセージ。
時間が無かったのもあり考えるのは後回しにしていたが、あの内容には違和感を覚えた。
参加者の体には無い葛城忍と鳴海荘吉を従えていた事から、ギニューが主催陣営と繋がっている可能性は低くない。
ギニューは主催陣営から戦力を貸し出されたのだろう。
加えてメッセージの文言から察するに、ナビもギニューが主催者と繋がっているのは把握済みの筈。
なのにナビはメッセージ上で一度も、「ギニューが主催者と手を組んだ」と明確に言っていない。
曖昧な言い回しでぼかす必要がどこにあったのか。
むしろ蓮の命を心配する程の緊急事態なら、遠回しな言い方をせずストレートに「ギニューが主催者と協力しそっちに向かっている」等と書けば良いだろうに。
これではまるで、ギニューと主催者の繋がりをエボルトにギリギリまで理解させない意図があるみたいではないか。

325神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:39:51 ID:ZXaO4USg0
(いーや、みたいじゃなくその通りなんだろ?俺と仲良くしちゃいけませんって、誰かさんからのお叱りでも受けたか?)

蓮の危険も十分ある状況で情報を妙に出し渋るのは何故か。
仮説は簡単に立てられる。
後になってエボルトの危険性を知ったナビが情報の提供に躊躇を抱いた。
或いは、ナビと同じく主催者を裏切ろうとしている何者かが、エボルトとの連絡へ難色を示した。
後者であれば、今後もエボルトへ有益な情報が提供される可能性は低い。
ギニューと主催者の繋がりすら、直接教えるのは嫌ったくらいだ。
殺し合いの根底に関わる内容など、まず教えようとはしないだろう。

チャンスと考えたもう一つの理由、ギニューは自分からスマートフォンを奪うのが本当の目的だったのではという可能性。
そもそも何故主催者はギニューに戦力を貸し出してまで、戦兎達を襲ったのか。
首輪解除が可能な戦兎を、殺し合いの進行で邪魔に感じたから?
成程、確かに分からんでもない。
だがそれならわざわざギニューを動かさなくても、戦兎の首輪を爆破すれば良いだけの話だろう。
首輪解除を中止しなければ、甜花の首輪を爆破するとでも脅す方法だってある。
分かり易く自分達の命を縛る枷を有効活用すれば良いだろうに、幾ら何でも回りくど過ぎやしないか。

そこでエボルトが更に立てた仮説は先の通り。
戦兎殺害はあくまで建前上の理由であって、本当の目的はエボルトが持つスマートフォン。
主催者との連絡手段を手に入れる為に襲撃を行ったのでは?

恐らくスマホを奪えとの命令は、主催者全体の総意ではない。
もし「ボス」とやらにナビの裏切りが発覚し、自分からスマホを取り上げたいのなら。
それこそ首輪を爆破すると脅してスマホを要求するのが手っ取り早い。
しかし今回は戦兎殺害の建前を作ってまで、秘密裏にスマホを奪おうとした。
つまりギニューに指示を出した者はナビとは別の理由で裏切りを画策し、利用できる手頃な駒にギニューを選んだ。

326神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:40:50 ID:ZXaO4USg0
これらの仮説が正しければ、ギニューはスマホを使って指示を出した者と連絡を取る筈。
だから暫くはギニューを泳がせ、機を見てスマホを回収。
メッセージにこちらの知らない情報があれば利用させてもらおう。
ギニューをどうするかはその時の状況次第だ。

とはいえそう簡単に上手く事が運ぶかは賭けになるし、自分の考えが丸っきり外れているとも考えられる。
情報を得られる望み薄になり掛けているが、ナビとの連絡手段は主催者との重要なパイプだ。
いずれ取り返さねばなるまい。

(まっ、安心しろよ。嬉しい事に相棒関係継続を許されたんでね。もう暫くは守ってやるさ)

想定外の事態ではあれど、引き続き殺し合いに乗る気は無い。
これまで通り、蓮を死なせないよう立ち回るのも同じ。
背後へ視線をくれてやれば、今正に考えていた相手と目が合った。
黒い帽子の下で、何かを言いたげに口を動かし

「エボルト……いや、何でもない」

何だそりゃと呆れたように笑う助手席の女から目を逸らす。
自分でもおかしな事を言おうとしたと分かり、咄嗟に辞めてしまった。
こんな事を考えるのは、やはりこれまでの喪失が影を落としているからか。
仲間達を次々失い、ついさっきも話した事はないけど一人殺されて。
何より、精神が別と分かっても『あの人』の二度目の死を見た。

だからなのか。
「お前は、死なないよな」なんて、共犯者に向けるには妙に重いことを口走りそうになったのは。

327神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:41:43 ID:ZXaO4USg0
【B-1(車内)/夜中】

【桐生戦兎@仮面ライダービルド】
[身体]:佐藤太郎@仮面ライダービルド
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身打撲(処置済み)、ジーニアスフォームに2時間変身不可能、運転中
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ
[道具]:基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット(水勢剣流水無し)@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー、しのぶの首輪、神楽の首輪、工具箱
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1:ディケイドから離れ、それから杉元達と合流。こっからだと網走監獄が近いが…
2:燃堂…すまない…
3:父さんの体は主催者に利用されてるのか…?
4:甜花を今度こそ守る。一緒に戦うなら無茶しないようにしとかねぇと。
5:エボルトには要警戒。桑山千雪の体でおかしな真似はさせない。
6:広瀬康一はどうなってる?巨人以外にも何らかの力があったのか?
7:斉木楠雄が柊の中にいたのか?何故だ?何か有用な情報を得られればいいのだが…
8:佐藤太郎の意識は少なくとも俺の中には存在しないということか?
9:他に殺し合いに乗ってない参加者がいるかもしれない。探してみよう。
10:首輪も外さないとな。工具は手に入ったしそろそろ調べたい。
11:歴史の修復についてジューダスって奴から直接詳しい話を聞きたい。
12:柊に僅かな疑念。できれば両親の死についてもう少し詳しいことが聞きたい。
13:柊から目を離すべきでは無いと思うが…今はどうにもできないか。
[備考]
※本来の体ではないためビルドドライバーでは変身することができません。
※平成ジェネレーションズFINALの記憶があるため、仮面ライダーエグゼイド・ゴースト・鎧武・フォーゼ・オーズを知っています。
※ライドブッカーには各ライダーの基本フォームのライダーカードとビルドジーニアスフォームのカードが入っています。
※令和ライダーのカードはゼロワンとセイバーが入っています。
※参戦時期は少なくとも本編終了後の新世界からです。『仮面ライダークローズ』の出来事は経験しています。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ジーニアスフォームに変身後は5分経過で強制的に通常のビルドへ戻ります。また2時間経過しなければ再変身不可能となります。
※自分とエボルトがそれぞれ違う時間軸から参加している可能性を考えています。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、戦兎やナナ達への罪悪感、エボルトへの恐怖と嫌悪感(大)、深い悲しみ、決意、気絶中、乗車中
[装備]:戦極ドライバー+メロンロックシード+メロンエナジーロックシード+ウォーターメロンロックシード@仮面ライダー鎧武、PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
0:……
1:燃堂さん……。
2:戦兎さんの……力になりたい……。
3:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。
4:ナナちゃんも、無事で良かった……。
5:なーちゃん達……大丈夫かな……。
6:千雪さんを戦兎さん達と一緒に……助けなきゃ……!
7:殺し合いが無かったことになる……本当に良いのかな……?
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。

328神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:42:32 ID:ZXaO4USg0
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、SP消費(特大)、体力消耗(特大)、怒りと悲しみ(極大)、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情、喪失感(大)、乗車中
[装備]:T2ジョーカーメモリ+T2サイクロンメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、鳴海荘吉の帽子@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×6、ハードボイルダー@仮面ライダーW、ダブルドライバー@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル、耀哉の首輪、ジューダスのメモ、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
1:今はディケイドから離れるが、しんのすけを絶対に助ける。
2:『あの人』がまた殺されて、俺は……。
3:仲間を集めたい。
4:エボルトとの共闘は継続する。これで良い、筈…。
5:今は別行動だが、しんのすけの力になってやりたい。無事でいてくれ…。
6:どうして双葉がボンドルド達の所にいるんだ?助け出さないと。
7:アルフォンスはどこに行ったんだろう…正気に戻したいが…。
8:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
9:ディケイド(JUDO)、前よりも強くなってないか?
10:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
11:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う。
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※ベルベットルームを訪れましたが、再び行けるかは不明です。また悪魔合体や囚人名簿などの利用は一切不可能となっています。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。
※アルフォンスとのコープ発生により「塔」のペルソナ「セト」を獲得しました。

329神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:43:15 ID:ZXaO4USg0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[身体]:桑山千雪@アイドルマスター シャイニーカラーズ
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、千雪の意識が復活、エボルに2時間変身不可能、乗車中
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ライダーシステム、グレートドラゴン)@仮面ライダービルド、トランスチームガン+コブラロストフルボトル+ロケットフルボトル@仮面ライダービルド
[道具]:
[思考・状況]基本方針:主催者の持つ力を奪い、完全復活を果たす。
1:さぁて、やる事は山積みだ。
2:スマホはいずれ取り戻すが、ギニューを泳がせるのも一つの手かもな。
3:蓮達を戦力として利用。アルフォンスの奴は…どうしたもんかねぇ。
4:首輪解除は戦兎に任せる。天才物理学者様の腕の見せ所ってやつだな戦兎ォ?
5:有益な情報を持つ参加者と接触する。戦力になる者は引き入れたい。
6:自身の状態に疑問。
7:戦兎が未来の時間軸から連れて来られているかを調べたい。
8:エボルドライバーは一応取り戻せたか、どういう経緯で作ったんだこりゃ。
9:柊ナナにも接触しておきたいが、まーた離れて行っちまったよ。
10:今の所殺し合いに乗る気は無いが、他に手段が無いなら優勝狙いに切り替える。
11:推定殺害人数が何かは分からないが…まあ多分ミチルはシロだろうな(シャレじゃねえぜ?)
12:ジューダスの作戦には協力せず、主催者の持つ時空に干渉する力はできれば排除しておきたい。
13:千雪は今後も利用する。精々役に立ってくれよ?
[備考]
※参戦時期は33話以前のどこか。
※他者の顔を変える、エネルギー波の放射などの能力は使えますが、他者への憑依は不可能となっています。
 またブラッドスタークに変身できるだけのハザードレベルはありますが、エボルドライバーを使っての変身はできません。
※オリジナルではなく複製品のエボルドライバーで変身を行いました。その影響で現在千雪の体はエボルドライバーが使用可能な状態に調整されています。
※自身の状態を、精神だけを千雪の身体に移されたのではなく、千雪の身体にブラッド族の能力で憑依させられたまま固定されていると考えています。
 また理由については主催者のミスか、何か目的があってのものと推測しています。
 エボルトの考えが正しいか否かは後続の書き手にお任せします。
※ブラッドスタークに変身時は変声機能(若しくは自前の能力)により声を変えるかもしれません。(CV:芝崎典子→CV:金尾哲夫)
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※主催者は最初から柊ナナが「未来を切り開く鍵」を手に入れられるよう仕組んだと推測しています。
※制限で千雪に身体の主導権を明け渡せなくなっている可能性を考えています。
※自分と戦兎がそれぞれ別の時間軸から参加していると考えています。

330神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:44:08 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆


「ハァ…ハァ…ここいらで良いか……」

追って来るものは現れず、追撃の気配も察知できない。
これ以上は逃げる必要も無いと分かり、ギニューはどっと腰を下ろした。

草木で覆われた空間にぽっかりと空いた穴。
自然が作り上げた洞窟を発見したのはほんの少しだけ運が良い。
外から身を隠せる位置にまで進み、座り込んで息を吐き出す。
休めると分かれば思い出したように喉が渇き、デイパックから水を取り出し喉を潤す。

「〜〜〜〜〜〜っぷはぁ!」

一口二口のつもりががぶ飲みしてしまった。
水の存在をこれ程に有難く感じたのはいつ以来だろうか。
遠い過去へ想いを馳せそうになり、現実に引き戻したのは遅れて洞窟内に現れた人影。
もしや敵かと身構えるも、姿を見て肩の力を抜く。
ハワードから貸し出された戦力、葛城忍の肉体の祈手だ。

「脅かすな貴様……」

少々恨めし気に言うも相手は無反応。
今に始まった事でもないので、そこを一々気にするのは時間の無駄だ。

水分補給も済ませ、休める瞬間が訪れると考えるのは先程の戦闘の結果。
完全敗北とまではいかないが、かと言って大勝利とは口が裂けても言えない。
正直に言って今までと同じ、微妙という言葉が似合う終わりだった。

331神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:44:54 ID:ZXaO4USg0
一応の命令だった戦兎殺害は失敗。
これはまだ良い、ハワードからも殺せなかったからと言って首輪を爆発させたりはしないと言われている。
悟空の体をまた奪えなかったのは非常に痛い。
しかもしんのすけは現在ディケイドが確保したままだ。
そう簡単に殺されるような軟弱者ではないと言い切りたいが、それは精神肉体両方が孫悟空本人の場合。
精神がしんのすけのままではディケイドに敵わず、悟空の体共々死ぬんじゃないか。
折角手に入れるあと一歩の所まで来たというのに、こんな形で悟空の体が失われるなど冗談では無い。

「最悪の場合、奴の体は諦めるしかないか…くぅ〜!つくづく忌々しい!炭治郎め…あのガキが余計な真似さえしなければ!」

以前の戦いで確実に殺せていれば、せめてディケイドライバーを奪えていれば。
どんな経緯か再変身可能になった挙句、前回以上の力を身に着ける事態は防げただろうに。
既に殺された今でも炭治郎への怒りが湧き出す。

「しかしそうなると、孫悟空以外の体は誰にするかだが…」

他に感じる体と言えばやはり杉元佐一の肉体である不老不死の少女、藤原妹紅か。
一度だけ蘇生可能という強みを持つのは勿論のこと、先の戦闘では吹き飛ばされた頬が元に戻っていた。
不死身故に傷の回復速度も常人以上だとすると、これもまた殺し合いでの有用性は高い。
何より不老不死とは、フリーザがドラゴンボールを集めて叶えようとした願い。
自分が妹紅の体を手に入れ不老不死の秘密を手に入れれば、フリーザを復活させた後に献上する事が出来る。
仮に体が手に入らなければ、せめてプロフィールだけでも確保したいものだ。

戦闘能力の面で見ればディケイドも捨て難い。
ハワードが含みのある言い方をしていたのを察するに、ベルトだけ手に入れても意味は無い。
あの地球人の青年の体だからこそ、ディケイドの力を最大限に発揮可能なのだろう。

332神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:45:35 ID:ZXaO4USg0
「誰とチェンジするにしても、障害となるのは奴か…」

黒い戦士に変身した帽子の青年。
名前を知らないが、雨宮蓮こそボディーチェンジを行う際に優先して排除すべき存在と睨む。
翼の生えた大蛇で攻撃された直後、ボディーチェンジのやり方が頭から抜け落ちたのは記憶に新しい。
今でこそ思い出せているが同じ攻撃を受ければ繰り返しだ。
ギニューからしてみれば、桐生戦兎よりこっちを優先的に殺しておきたい程。

色々と納得のいかない結果になったが、収穫もあった。
エボルトから奪ったデイパックをチラと見やる。
アークワンという仮面ライダーのベルト以外にも、それなりの量の道具が入っている。
若しかしたらハワードが言っていたスマホも入っているかもしれない。

(奴と秘密裏に繋がりどうなるか分からんが、フリーザ様のお体を取り戻す切っ掛けくらいは掴めるか?)

網走監獄でハワードと接触した時から感じていたが、どうも主催者達はきな臭い部分が多い。
殺し合いと謳っていても、殺し合わせる根本的な理由も見えて来ない。
釈然としない部分は多々ある、しかしフリーザの体が利用されてるのもまた疑いようのない事実。
取り敢えずは奪った支給品を確認し、スマホが見付かればそこからどうするかを改めて考えよう。
順調なのかそうでないのかよく分からない現状にため息を吐き、デイパックの口を開いた。

333神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:46:17 ID:ZXaO4USg0
【B-2 洞窟内/夜中】

【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ
[状態]:肉体的疲労(大)、ダメージ(極大)、精神的疲労(特大)、腹部に打撲、背中にダメージ(大)、魔力消費(特大)、イライラ(大)、アークワンに2時間変身不可能
[装備]:圧裂弾(1/1、予備弾×1)@仮面ライダーアマゾンズ、虹@クロノ・トリガー、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン
[道具]:基本支給品×5、フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ、竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、フリーガーハマー(9/9、ミサイル×9)@ストライクウィッチーズシリーズ、ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ミニ八卦炉@東方project、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、スマートフォン@オリジナル、ランダム支給品0〜1(シロの分)、累の母の首輪、アーマージャックの首輪、ダグバの首輪、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、大人用の傘
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
1:体力の回復に努めつつ奪ったデイパックを確認する。
2:ハワードは主催側を裏切るつもりなのか?真意を知るために、秘密裏に繋がるという案に乗ってみたい。
3:孫悟空の体はいずれ奪う。オレが手に入れるまで死ぬなよしんのすけ。本当に死ぬなよ!?
4:あの時の女(杉元)の肉体が不老不死であることが少し気になる。場合によっては孫悟空の代わりに奪う候補になるかもしれん。
5:ディケイド(JUDO)も体を奪う候補として考えておく。
6:水の呼吸は使えたが、ヒノカミ神楽とかももう少しコツを掴めば使えそうな気がする。
7:帽子の男(蓮)を要警戒。ボディーチェンジをするのに奴の存在は厄介だ。
8:炎を操る女(杉元)、二刀流の女(ジューダス)、エボルトにも警戒しておく。
9:ここにはロクでもない女しかいないのかと思っていたが、さっきの絵美理とかいう頭のおかしいうるさい女と比べたら、他は全然マシなやつらだったかもしれん。
10:さっきの奴(絵美理)が気にしていたヒイラギにも警戒。何らかの力を隠し持っているのか?
11:エボルトとやら…フリーザ様関係無しに星を滅ぼし回っているらしいことが本当なら何か少しムカつくな。
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジによりバルクホルンの体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽は切っ掛けがあればまた使えるかもしれませんが、実際に可能かどうかは後続の書き手にお任せします。透き通る世界が見れるかも同様です。
 水の呼吸は可能となりましたが、炭治郎の体の時より技の精度は落ちるようです。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
※杖@なんか小さくてかわいいやつを使いました。

[特殊状態表]

【ボンドルドの祈手@メイドインアビス】
[身体]:葛城忍@仮面ライダービルド
[状態]:疲労(大)、ダメージ(極大)
[装備]:ビルドドライバー(プロトタイプ)@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド
[道具]:ラビットフルボトル&タンクフルボトル@仮面ライダービルド、忍者フルボトル&コミックフルボトル@仮面ライダービルド
[思考・状況]基本方針:ボンドルドに従う
1:今はギニューに従う
2:何も喋らない

334神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:47:27 ID:ZXaO4USg0
◆◆◆


木々が消し飛び、地面が焼け焦げた戦場跡。
奇跡的に無事だった岩に腰掛け、破れたデイパックから無傷の方へ中身を移し替える。
一作業を終えるとJUDOは夜空を睨み付けた。

先程の戦闘が上々の結果に終わったとは言い難い。
破壊したのはたったの二人、しかも片方は配下のモンスターが勝手に喰らっただけ。
到底満足には程遠い、ただコンプリートフォームの試運転としては悪く無かったか。
この先も存分にディケイドの真の力を振るい、全てを破壊する。
と言いたい所だが、強力な力には何らかの枷を付けられているのが今回の殺し合いだ。
コンプリートフォームもその例に漏れず、一定の時間か経過しなければ再変身出来ないようケータッチに細工済み。
オーロラカーテンと言い、本当に余計な真似をされた

「奴のベルトを奪えば、更なる破壊の力を我のものにできるやもしれぬ」

DIOからの情報に間違いは無く、色は違うも自分と同じディケイドライバーを使うライダーは存在した。
複数のライダーの力を使いこなしてはいる、だが破壊者の本領は発揮されていない。
戦兎と呼ばれていた男はきっと、本郷猛らプロトタイプと同じような理由で戦う者なのだろう。
であればディケイドの真の力を引き出せる筈がない。
ディケイドの本質は破壊、間違っても仮面ライダー1号達のような守護者では無い。

モノモノマシーンを使い手に入れたケータッチは一つだけではない。
色違いでもう一つ、そちらは自分が持っているディケイドライバーでは使えない代物だった。
恐らく戦兎が持っている方に対応した道具だ。
なら次に会った時は奪い取り、自分が行う破壊に役立てれば良い。

本来の歴史において、ネオディケイドライバーを使う士が激情態になった記録は存在しない。
その時間軸の士にとって激情態とは過ぎ去った過去。
今更全てのライダーを破壊する意味も無い。
だがもし、ネオディケイドライバーを使い激情態に変身し尚且つ更なる進化を遂げたとしたら。

21のライダーの歴史を支配下に置く破壊者が。
オーマジオウにも匹敵する、最低最悪の魔王が生まれるのかもしれない。

335神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:48:58 ID:ZXaO4USg0



(逃げなきゃ……)

見渡す限り全部が緑色の空間で、しんのすけは身動きを封じられていた。
彼にとっての幸運は、JUDOに今すぐ殺す気がないこと。
エボルトが推測した通り、仮面ライダーの蓮達を向こうから誘い出すのに使えると判断。
こうして捕らえたまま、命は奪われずに済んでいる。

そういった事情を知らないしんのすけが分かるのは、悪者に捕まってしまったという一点。
蓮達は一体どうなったのか、外では何が起きているのか。
これ以上大切な仲間を死なせない為にも早くここを出なければ。
思いの強さは本物でも、全身が酷く重い。
仮にしんのすけが万全の状態だったら、悟空の力を駆使し脱出が叶ったかもしれない。

今のしんのすけを苦しめるのはディメンションブラストの直撃による負傷。
そしてギニューが変身したあーくわん相手に使った界王拳の反動。
元々界王拳は精密な気のコントロールを要求される技であり、気の扱い方が拙ければ使用者自身への負担も莫大となる。
悟空の肉体に馴染んでいるとは言っても、たったの二回で界王拳を完璧に使いこなすのはしんのすけと言えども難しい。

(ミチルちゃんの……)

白いブレスレットはデイパックごとJUDOに奪われ、使いたくても使えない。
現状は更に深刻だろう。
望んだ場所に行けないとはいえ、脱出手段を一つ失ったのだから。

尤も、支給品に頼らずとも逃げる方法はしんのすけが既に持っている。
フリーザの宇宙船にいた時、東側エリアで蓮達がいると何故分かったのか。
悟空本人ならば苦も無く行える気の探知を、本人も意識せずに行えたから。
当然悟空と比べればかなり粗が目立つも、他者の気を探知する片鱗は掴めたのだ。
感覚を頼りに使いこなし、脱出の為の能力へ発展させられるかはしんのすけ次第。

破壊者の手から逃れ、無事仲間達との再会が叶うのか。
外に出るのは全てが手遅れになった後なのか。
待ち受ける未来を知る筈も無く、今はただ必死に藻掻き続けていた

336神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:49:45 ID:ZXaO4USg0
【C-2/夜中】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]疲労(大)、ダメージ(極大)、激情態、破壊衝動、コンプリートフォームに2時間変身不可能
[装備]ディケイドライバー+ライドブッカー+アタックライド+ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]基本支給品×10、アリナ・グレイのキューブ型結界@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝、ケータッチ21@仮面ライダージオウ、トビウオ@ONE PIECE、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ(次回放送まで使用不可)、警棒@現実、アクションストーン@クレヨンしんちゃん、海楼石の鎖@ONE PIECE、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、レインコート@現実、プロフィール(クリムヴェール、ピカチュウ、天使の悪魔)、シロの首輪、モノモノマシーンの景品×5
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。そしてこの世界の全てを破壊する。
1:次の闘争に備え休む
2:闘争を楽しむ。そして破壊する。
3:仮面ライダーは優先的に破壊する。
4:胴着の男(しんのすけ)は仮面ライダー達を誘い出すのに利用する。。
5:先ほどの者(志々雄)は、もし再会するようなことがあったらその時破壊する。
6:我と同じベルトを使う仮面ライダー…奴を破壊しベルトを奪えばより強大な力が手に入るかもしれん。
7:改めて人間どもは『敵』として破壊する。
8:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
9:我に屈辱を味合わせた剣士は生きていたのか?
10:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。そして、その優勝者の肉体を我の新たな器の候補とするのも一興かもしれん。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜キバのカードが使用可能です。
※ディケイド激情態に変身できるようになりました。
※破壊の力に目覚めました。本来は不死身である存在や、特殊な条件を満たせないと倒せない相手でも、問答無用で殺害することが可能であると思われます。
※ディケイド激情態の、倒した仮面ライダーをカード化する能力は制限で使えないものとします。
※ディケイド激情態が劇中で使っていた、ギガント等の平成一期サブライダーの武装のアタックライドカードは、ここにおいては無いものとします。
※アナザーディケイドウォッチの残骸に残っていた力を吸収した影響で、ディケイドのスペックが幾らか強化されました。
※オーロラカーテンによるワープが使えるようになりましたが、エリアを跨ぐ程の移動は時間を置かなければ不可能に制限されています。具体的な時間は後続の書き手に任せます。
※首輪×10をモノモノマシーンに投入しました。残りの景品の詳細は後続の書き手に任せます。

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(極大)、ダメージ(大)、決意、深い悲しみ、結界に囚われ中
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:悪者をやっつける。
1:この変なところから逃げないと…
2:ミチルちゃん…みんな……。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
5:オラの身体が悪者に使われなければいいが…
6:煉獄のお兄さんのお友達に会えたらその死を伝える。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです。(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるくらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※界王拳を使用しましたが消耗がかなり激しいようです。気のコントロールにより慣れれば改善されるかもしれません
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。
※気の探知を行いました。慣れれば瞬間移動が出来るかもしれません。
※現在アリナ・グレイの結界内に囚われています。

※ロストドライバー@仮面ライダーW、スカルメモリ@仮面ライダーWは破壊されました。
※バイオグリーザは死亡しました。

337神ノ牙 -Endless Journey- ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:50:39 ID:ZXaO4USg0
【ワケアリン@ペルソナ5】
ドラッグストアで入手可能な回復アイテム。
味方1体のHPを50回復+命中回避低下の効果がある。

【ウォーターメロンロックシード@仮面ライダー鎧武】
Vシネマ『鎧武外伝』に登場したロックシードの一種。
戦極ドライバーに装填すると、アーマードライダー斬月・ウォーターメロンアームズに変身可能。
スイカアームズの火力と装甲を従来のサイズで扱えるが、機動力に劣る。

『モノモノマシーンの景品紹介』

【がんばり薬@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド】
飲むとがんばりゲージを回復させる薬。
景品としてよういされたのはマモノ素材の他にガンバリカブトを使っており、回復量も多い。

【ケータッチ@仮面ライダーディケイド】
ディケイドを真の姿であるコンプリートフォームに変身させる携帯端末ツール。専用のライダーカードとセット。
ネガの世界でダークライダーたちが宝として保管していたが、数少ない人類の生き残りだった千夏と、ネガの世界に生きる夏海の活躍によって士の手に託された。
本ロワ独自の制限として変身後は10分経過で強制的に変身解除、2時間経過しなければ再変身不可能。

【ケータッチ21@仮面ライダージオウ】
ディケイドをコンプリートフォーム21に変身させる携帯端末ツール。
こちらは通常のケータッチと違い、ネオディケイドライバーにセットしなければ変身不可能。

【ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
カジノで手に入る景品の一つ。
装備した者のすばやさを2倍にする。

【アリナ・グレイのキューブ型結界@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝】
マギウスの魔法少女、アリナ・グレイが固有魔法で作ったキューブ型の結界。
対象に当てると大きさに関係無く結界内に閉じ込められる。
一度結界を解放すると自動で消滅する使い捨ての支給品。

【エボルドライバー(複製)@仮面ライダービルド】
本編38話でエボルトが内海成彰に渡した複製品のエボルドライバー。単品では意味が無い為エボルボトルとのセット。
装着者が変身条件を満たしていない場合、微小体により調整され変身可能になる。
エボルボトルの使用で仮面ライダーエボルに、フルボトルの使用で仮面ライダーマッドローグに変身可能。
本ロワ独自の制限として変身後は10分経過で強制的に変身解除、2時間経過しなければ再変身不可能。

【エボルボトル@仮面ライダービルド】
エボルトが仮面ライダーエボルに変身する際に使う、未知の物質が入ったボトル。単品では意味が無い為エボルドライバーとのセット。
エボルドライバーに装填し変身に使う他、フルボトルに対応した武器に装填し高威力の攻撃を行える。

338 ◆ytUSxp038U:2024/04/11(木) 20:52:56 ID:ZXaO4USg0
投下終了です
途中でタイトルがおかしくなりましたが、>>286から>>303までを『神ノ牙 -Law of the Build & Evolution』でお願いします

339名無しさん:2024/04/19(金) 19:11:39 ID:nMdfQaSk0
てすと

340 ◆ytUSxp038U:2024/05/21(火) 00:13:20 ID:cmO32Lv.0
遠坂凛、キャメロット城、魔王、志々雄真実を予約し延長もしておきます

341 ◆ytUSxp038U:2024/06/04(火) 14:14:18 ID:04.eloiE0
すみません予約を破棄します

342 ◆5IjCIYVjCc:2024/06/10(月) 23:32:05 ID:VRZ6l4j20
大首領JUDO、大崎甜花、桐生戦兎、エボルト、雨宮蓮、野原しんのすけ、ギニュー、それから主催陣営のボンドルドの祈手、ハワード・クリフォード、佐倉双葉、斉木空助、それとカブトゼクターも予約します。
また、延長も先に申請しておきます。

また急なことですみませんが、終盤も近付いて来たので、念のため、本ロワにおいて今後投下が可能な書き手は、これまで本ロワに投下したことのある者のみとさせていただこうと思います。

それからあらかじめ予告しておきますが、本ロワはもし最終章に入る段階になったらリレー性を取り止め、企画主である私1人だけで本編を書くようにすることを現在検討中です。
どんなタイミングからを最終章にするかどうかは、 まだ未定です。

343 ◆5IjCIYVjCc:2024/06/24(月) 21:36:17 ID:tci5jFxY0
すみません、現在私がしている予約についてですが、ギニュー、ボンドルドの祈手、ハワード・クリフォードを予約から外します。

344名無しさん:2024/06/25(火) 08:10:26 ID:MN7.8YOw0
了解した。まあ頑張れ。

345名無しさん:2024/07/06(土) 19:45:24 ID:WZO5oxyc0
余計な御世話だとは思うが期限が近いのでAGE

346 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/08(月) 23:31:34 ID:VoLQnBPM0
期限に間に合いそうにないので、予約は一旦破棄状態とさせてもらいます。
申し訳ありませんでした。

しかし、ずるい言い分かもしれませんが、あと一時間以内には投下開始できそうだとも一応言っておきます。

347 ◆ytUSxp038U:2024/07/08(月) 23:44:29 ID:aaRKyz2A0
自分としては一時間程度なら予約超過しても大丈夫かなぁと

348 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:50:38 ID:LueZvDC20
遅れてしまい申し訳ありません。投下を始めたいと思います。

349Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:51:44 ID:LueZvDC20
「ん……あれ?」
「起きたか、甜花ちゃん」

大崎甜花が目を覚まして真っ先に視界に入ったのは、札幌ビール宣伝カー内の天井だった。
そして戦兎は、車の外の方から甜花に話しかけてきた。
彼はそこでしゃがみこんで、手元で何かをいじくっているようだった。
同時に、どこか浮かない顔をしているようにも見えた。

「えっと…確か……あっ………」

目を覚ました甜花は自分が気絶するまでに何があったかを思い出そうとする。

「そうだ…燃堂さんが……!」

悲惨な記憶が甦る。
燃堂力は、柊ナナを突如として現れた怪物から庇って死んだ。

「それで、その後は…」

甜花はその後の戦いで、敵の技を受けて吹っ飛ばされ、気を失ってしまった。
そこから先のことは覚えてない。
あれから皆、どうしたのか。
敵…戦兎と同じベルトの色違いを持っていた奴もどうなったのか。
ここは一体どこなのか。
当然、甜花の中でそういった疑問が生じる。

「…敵は倒せなかった。俺たちは何とか逃げることはできた。だが、柊や杉元、我妻達とははぐれてしまった」
「ここは網走監獄。俺たち以外にここにいるのは、エボルトと雨宮だ」

戦兎はそう、現状を甜花に伝える。
それを聞いて、甜花は一つ思い出す。

「網走監獄…?それって、確か…」
「ああ、放送でモノモノマシーンとやらがあるとか言われてた場所だ。エボルトと雨宮は今、それを探しに行っている」

甜花が車内で目を覚ました時、近くには戦兎以外は誰もいなかった。
何故そうなっていたのかの理由が今、判明した。

「えっと…それは…大丈夫、なの…?」

甜花に少し心配な気持ちが現れる。
エボルトから目を離して良いのか、そんな風な考えが出てきていた。

「……俺だって本当は心配だ。雨宮も着いているとはいえ、な」
「だが…いつ何が起こるか分からないとかで、手分けして出来ることをした方が良いとか言われて、押しきられてしまった」
「俺に、今のうちに首輪の解析をやってみろとと言い残してな」

戦兎はばつが悪そうにそう話す。


「首輪…」

甜花は自分に付けられている首輪に触れながらそう呟く。
自分達の行動を縛っているこの首輪は、確かに外さなければならないもの。
そして戦兎はこの殺し合いが始まってから、一度も他参加者を殺害してないため、モノモノマシーンは首輪無しでは使えない。
戦兎の持つ首輪は、モノモノマシーンに使うくらいなら自分達に付けられているものの解除のために解析するのに消費した方が確かに良いだろう。
気絶している甜花の近くにも誰かがいてやらなくてはならない。
気絶した甜花を連れて、モノモノマシーン捜索を行うのも難しいだろう。
今この場にいるメンバーの中でそれをやるとしたら、所持している首輪をモノモノマシーンに使うわけにはいかない戦兎が適している。
そしてエボルト達がモノモノマシーンを探している間、戦兎は手が空く。
だから今この空いた時間で首輪の解析ができるかもしれないと、戦兎もエボルトも判断したのだろう。

「それで……どうだったの?」

自分が気絶していた間に行われたらしい首輪解析の結果を、甜花は尋ねる。
その言葉を聞いた戦兎の表情は、先と変わらず怪訝そうなものに見えた。


「………先に結果だけを言っておくと、俺は死体から外された首輪を一つ、安全に解体することに成功した」
「えっ!?」

それは、朗報と言えるものだった。
首輪の解析・解体は、甜花の意識の無い内だったが、戦兎は確かにできたと言った。
それが本当なら、自分達に付けられている首輪も、外すことが可能になったということだ。


しかし、戦兎はまだどこか浮かない顔をしていた。

「……?戦兎さん、どうしたの……?」
「………いや、実はな…」

戦兎の様子が少し変なことに甜花も気付く。
それに対し、戦兎も答えようとする。

しかし、話は遮られることになる。


「よお!待たせたな」

エボルトと雨宮蓮が、帰ってきた。



350Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:55:21 ID:LueZvDC20
「ん?………おいおい。戦兎お前、まさかいきなり首輪の解体に成功したってのか!?」

エボルトが戦兎の手元を見て気付く。
そこにあったのはまず、特に何も手の付けられてない首輪が一つ。
そしてもう一つは、バラバラに解体された首輪だったと思われる部品群だ。

戦兎が持っていた首輪は、胡蝶しのぶと神楽に付けられていたものの2つだった。
念のための予備も含めてのものとして、解析用の首輪として戦兎がそれら2つを所持していた。
しかし見たところ、解析に必要だったのはどうやら一つで済んだようだった。
ついでに言っておくと、ここでバラバラにされたのは神楽に付けられていたものだった。
どちらも見た目は同じため、自分がどっちに付けられていたものを解体したのかは戦兎は分かっているわけではなかったが。


「……何だ戦兎?お前よくやったじゃねえか。流石天才物理学者様ってところだな。なのにどうしてお前、そんな顔をしてるんだ?」

戦兎の様子が少しおかしいことにエボルトも気付く。
パッと見た感じ、首輪は完全にバラバラにされている。
中に入っていたらしい爆発物についても、安全に取り外せたみたいだった。
正直なところ、ここまで解析が進むとは思ってなかった。
あくまでも、時間が少し空いたからやるように言ってみただけで、この短時間で完了までするとは全く思っていなかった。
そこまでできているのなら、よくやったと本心から褒めてやりたいところでもある。

これでようやく、自分への制限を無くせる見通しも立つはずだった。
しかし桐生戦兎は、何か想定外の事態があったかのような顔をしていた。


「………簡単だったんだよ。何か、不自然な程にな」
「は?」
「何?」
「えっと……それって…どういうこと?」

簡単だったが、不自然。
戦兎のその言葉にこの場にいた全員が反応する。

「簡単だったてのはどういうことだ?前に俺達と一緒にいた奴…アルフォンスは、自分の錬金術とやらをそいつに使おうとしても弾かれたとか言っていた」
「アルフォンスの錬金術は少々特殊な力だったからってのはあるかもしれないが…例え純粋に物理的な技術力だけでも、そう簡単に行くとは思えないんだがな」

戦兎の発言に対し次々と疑問の言葉をエボルトはぶつける。
戦兎の技術力は評価している。
だが予想に反して首輪の解体が簡単だったと言われれば、納得はそう直ぐにはできない。

「だから言っているだろ、その辺が不自然だったって。それに…何か、足りない気がするんだ」
「足りない?」
「………首輪の中身についてだ」

戦兎が言うのは、首輪の中身を構成する部品についてだった。

「爆弾とそれを起爆するための発火装置、それを動かす指令を受け取る受信機らしきものはあった」
「おそらく、禁止エリア内に入った時に警告音を出すためだろう小さなスピーカーらしきものも入っていた」
「けれども、こちらの位置を伝えるための発信器といったものは見つからなかった」
「……」
「盗聴機らしきものもなかった。これについては、無い方がこちらにとっては都合が良いが…やはり、無いのは不自然に感じる」
「それと……この首輪には、身に付けている者の生死を判定するためのものも、無いみたいだった」

位置情報を伝えるための機器が無い。
周囲の音声を拾うための盗聴機も無い。
装着者の生死を判定する機能も無い。
これが意味するのはつまり、主催陣営は首輪から参加者達の情報を得ることは全くできないということだった。
これはどう考えても、とてもおかしなことだった。
これまでの放送での様子からして、主催陣営は明らかに参加者達の状態を常に把握していた。
そもそも参加者達の死亡状況が分からなければ、放送で死亡者発表だなんてことはできない。
主催陣営が参加者達に渡した・付けたものの中で、生死を判定できそうなものなど、首輪の他には考えられなかった。
全員の肉体に触れているものであり、何かしらの機械であり、共通しているものもこれだけだった。
しかし戦兎は確かに、首輪にはそんな機能が無いという解析結果を述べていた。

「それと…この殺し合いではこの首輪が爆発すればどんな奴でも死ぬって話だったが…それを可能にしそうな物も何も見当たらなかった」
「首輪の中身を構成しているのは、遠隔で爆破できる最低限の部品、そんなものだけだった」

351Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:56:50 ID:LueZvDC20
それが、この場における戦兎の解析結果の全てだった。
首輪は、最低限爆弾として機能する以上の用途は無いようだった。
普通の人間の肉体相手だったら、それでもそこまでの問題は無いかもしれない。
けれどもこの殺し合いにおいては、人智を超えた肉体を持たされた者達も存在していた。
ちょっとした爆弾首輪で爆破した程度では、再生するような肉体を持たされた者達は確かにいた。
けれども、今ここで戦兎が調べた限りでは、そんな者達を殺す力が首輪にあるとは、あまり考えられなかった。

「……どんな奴でも殺すって機能があるのは、爆薬の方だったりするんじゃねえか?」
「その可能性も考えられるかもしれないが、そこまでは流石にここで調べることはできない。もっと専用の設備が整ったところじゃないと…」

他に何かしらの特殊な機能がありそうなものな無いのなら、唯一残る怪しいものは爆弾を構成する爆薬のみとなる。
爆弾の中を少し調べた感じだと、爆薬は固体のものが使われているようだ。
これの種類がもし、未知の物質で無いとしたら、爆薬もどんな者でも殺害するための手段とは違うことになる。
…正直なところ、その可能性の方が高いと戦兎は感じている。
ここまで首輪の中のものが大きく特別感のあるものが無いと、爆薬の方もそうじゃないかみたいな考えも浮かぶ。

そもそも第一のこととしてやはり、何故だか急に首輪を簡単に解体できてしまったこともおかしなこととして上げられる。
もう少し手こずり、時間がかかる可能性の方が高いと考えていた。
甜花が目覚めるまでにも、外側のカバーを外すことまで進むようなものでは無いと思っていた。

にも関わらず、首輪はこうも簡単に戦兎の目の前でバラバラになった。
首輪の解析を試みようとした時、何故か解体のための手順が頭の中に思い浮かんだような感覚があった気もする。
何かとても、不気味な感じがあった。
まるで、何かに自分が操られるがままに先ほどのことを行っていたかのような感じがあった。
だとしたら、それは一体何なのか、戦兎には検討がつかなかった。


(首輪の中身が最低限のものしか無いってことは、アルフォンスが錬金術で調べられなかったのは精神の方への細工の可能性が高いってことか…?)

戦兎から今聞いた話から、エボルトはそんなことを考える。
首輪の中に、何かしらの特殊な力に影響を与えることができそうな物が見つからないとなると、その可能性の方が高くなる。
しかしそれは、エボルトが望んでいた結果だとは少々言い難かった。
首輪の中に何か仕掛けられていた方が、まだ話は早くてマシだったかもしれないからだ。
それならば、首輪の解除だけで、自分の力を取り戻せる可能性があったかもしれないからだ。
しかし今回判明したことで、その道に行ける可能性は低くなった。
それどころか、余計な謎が増えてしまった。

不安感――本来感情の無いはずのエボルトに、それが芽生え始めていた。
それはまるで、『桑山千雪』の感情が伝わっているかのようで――

(……話題を変えてみるか)

これ以上悩んでいても埒が明かない。
エボルトは次の行動に出る。



「あー…戦兎、首輪が何かおかしいのは分かった。だが、今はこのまま考え続けても納得のいく答えは出ねえんじゃねえか?それより先に、俺達が見つけたもんについて話させてくれ」
「モノモノマシーンのことか」

エボルトの話題変えに、雨宮蓮がそれに合わせた言葉を続ける。

「モノモノマシーン…そうか、見つけたのか」

戦兎もその話題に乗る。
今これ以上首輪の話をしても、進展が無いだろうと彼も判断した。

「俺達がモノモノマシーンを見つけたのは向こうにあった穴だらけでボロボロの建物だ。右から読みで『教誨堂』と書いてある看板もあったな」
「明らかに誰かと誰かがやり合った跡があり、足跡も複数種類残っていた。こんなに人が集まるようならもしやと思い中を調べてみれば…ビンゴだ。地下室の中に件のマシーンがあったってわけだ」

蓮とエボルトがモノモノマシーンを見つけた経緯を説明する。
色々と痕跡が多く残っていたために、彼らが発見するのにそこまで苦労はなかった。
地下室という分かりにくい場所にあったことについとも、足跡を辿っていけば問題はなかった。

「で、俺達は一回だけならマシーンを使えた。それで得られたものも見せてやる」

352Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:57:51 ID:LueZvDC20
モノモノマシーンは、他参加者の誰かを殺害していたら一回だけ首輪を入れなくとも使用可能。
エボルトも雨宮蓮もその条件を満たしている。
そうだという話は一応前に竈門家にいた時に少し聞いていた。
この事実を今も何気ない顔で語るエボルトに対し、戦兎も甜花も少し表情が険しくなるが、そこに一々突っかかっていたら話が進まないことくらい分かっている。

「俺が持っている首輪1つは一応まだ使ってない。もし、戦兎さんが持っていた2つだけで解析が足りない時のためにまだとっておいた」

雨宮蓮は産屋敷輝哉に付けられていた分の首輪を持っている。
それがまだ使われていないため、今ここでエボルトと蓮が新たに得たアイテムは計2種だった。



「そんでもって、俺がモノモノマシーンを引いてみて出てきたのはこいつなんだが……戦兎、これか何だか分かるか?」
「………そいつは…!」

エボルトが少し顔をにやけさせながら見せびらかすように新たなアイテムを一つ片手に持つ。
戦兎はそれに対し、見覚えがあるような反応を示す。
なお、桐生戦兎自身はそのアイテムの実物を視界に入れたことはあれど、よく見たことはなかった。
しかし実はそのアイテムは、本来の戦兎の肉体が使ったことのあるものだった。
けれどもその時、桐生戦兎の意識はなかった。
だから直接見たことがあるのは、エボルトがそのアイテムを武器に装填して使っていた時のみだ。

だが戦兎はそのアイテムを見た時、驚愕の反応を示してしまった。
忌まわしき記憶が、呼び起こされてしまったからだ。

エボルトがモノモノマシーンから新たに得たそのアイテムの名は「ラビットエボルボトル」。
本来の仮面ライダービルドの歴史において、エボルトが桐生戦兎に憑依した際に生み出したボトルであった。



(この反応…戦兎はこいつのことは知っているみたいだな。ということは、こいつの説明書に書いてあったことも本当ってことか?)

エボルトが引いたラビットエボルボトルには、説明書が同封されていた。
その説明書によると、このボトルはエボルト…自分自身が桐生戦兎の肉体から作り出したらしかった。
そんなことをした記憶は、このエボルトには全く無い。
そもそもそんなことをする理由も無いはずだ。
しかしそれは、現在のエボルトにとってはの話だ。
もしかしたら未来の自分は、何らかの理由で戦兎からこのボトルを作る必要性が出ることがあるのかもしれない。
こんなアイテムを作ることになる状況…思い付くとしたら、何らかの理由で戦兎の肉体に憑依しなくてはならなくなった時だろうか。
その何らかの理由に当てはまりそうなのは……例えば、戦兎を完全復活のためのエネルギーとして取り込もうとしたら、戦兎が自分もろとも自爆しようとしただとか……。

(…こいつの知っている未来の俺は、結構苦労させられたみてえだな。ま、その甲斐あってこいつは今俺の手にあるわけだが)

ラビットエボルボトルは、エボルトが今持つエボルドライバーに装填しての使用は可能なものだ。
これを使えば、エボルトは仮面ライダーエボルとしての新たなフォーム…ラビットフォームに変身できるようになる。
フェーズ3とも呼ばれるそのフォームは、ドラゴンフォームよりは攻撃力等は僅かに下がるが、スピードやジャンプ力等については上昇することになる。
これがあれば、何故だかスピードが大きく上がっていたディケイドに対しある程度はより対抗できるかもしれない。

「ま、お前がこいつのことをどう思っているかは今はどうでもいいだろ。それよりも、こいつを使うことも含めてどうやってしんのすけの奴を取り戻すか、そういったこととかを考えた方が有意義じゃねえか?」
「………」

エボルトの言葉に対し、戦兎の表情は相変わらず険しめだ。
けれども、その言葉の正しいことについてもまた、理解はしていた。
エボルトの手にある赤いボトルに対し苦い思い出はあるが、それもまた飲み込まなくてはならない。
さっきから最っ悪な気分はずっと続いているが、それも乗り越えなくてはならない。

「そんじゃ、今夜からはお前と俺でダブルビルドだな」
「……それを使ってもお前のはビルドとは言えないだろ」

ラビットフォームのエボルは、顔がビルドのものとそっくりになることをエボルトは察しがついていた。
その点からの思い付きで言われた冗談に対し、戦兎はため息をつきながら辛辣めな突っ込みを返す。

「ああ、でも葛城先生を入れれば3人か。これは粋な計らいだな」
「だからそれは違うだろうが…」

エボルトは面白くない冗談を続けようとする。
こちらへの鎌かけのつもりなのか、その真意を計り知れないまま、戦兎は呆れることしかできなかった。



353Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:58:43 ID:LueZvDC20
「それじゃあ次は蓮の引いたものだな。おい甜花、お前あのメロンがどうだとか言っていたベルトはまだ付けているよな?」
「え…?うん…」

ラビットエボルボトルの話を終えた後、雨宮蓮がモノモノマシーンから得たものについて話は移る。
そうなってすぐに、エボルトから声をかけられて甜花は少し驚く。
戦極ドライバーを付けているかどうかについて聞かれたことには、戸惑いながらも肯定の返事をする。

「そうか、じゃあこいつを持ってみろ」
「えっ?……おい、待て!」
「きゃっ!?」

エボルトはまだ宣伝車の中にいた甜花に対し何かを投げ渡そうとする。
それに対し雨宮蓮が少し慌てたような様子で待ったをかけようとする。
けれども彼はそれを止めれず、エボルトが投げたものは甜花の方に向かって飛んでいく。
甜花は突然何かが飛び込んできたことに驚きの声を上げる。
けれども、確かにそれをキャッチした。

「えっと…何これ?……実?」

甜花が受け取ったのは、毒々しい赤と紫の色合いをした果実だった。
大きさは手の平大程で、南京錠のU字部分のような形をしたヘタが付いている。

甜花はその果実の表面の皮を一枚少し剥いてみる。
気味の悪い色の皮の下には、寒天のような見た目の果肉が詰まっている。

「……美味しそう」

白っぽい果肉を見た甜花は果実に対しそんな印象を受ける。
何故だか、光輝いているように見える気もする。
未知の果物であるのに、食べてみたいという気持ちが出てくる。

「おっと、そいつを食うんじゃねえぞ。人間じゃなくなってしまうからな」
「え?」

果実を見ていたことで少し惚け気味だった甜花の意識が、エボルトのその言葉で覚醒する。

「そいつはヘルヘイムの森の実っつうものだ。そいつを食うと、インベスっていう理性の無いバケモンになっちまうんだとよ。もしそんなのになってしまって、俺や戦兎に退治されても良いって言うのなら…」
「イヤッ!!」

エボルトの脅すような口調の言葉が言い切られる前に、甜花は慌てて果実を車の外のどこか遠くへと投げた。

「あーあ、もったいねえ…」
「な、何を言っているの!?何であんなのを甜花に渡してきたのっ!?」

当然の如く、甜花はかなりの剣幕でエボルトに対し非難の言葉を浴びせる。

「いやさ…どうもあの果実は、お前の持っているベルトを付けたまま持てば、新たなアイテムに変化させるなんてことが本当なら出来るんだとよ」

本来、ヘルヘイムの森の実は、戦極ドライバーを身に付けた者が持てば、ロックシードと呼ばれるアイテムに変化する。

「けども、さっきのは所謂新種って奴らしくてな…そう簡単には変化させることが出来ないらしい」

しかし、近年…だいたい2020年頃に出現した新種は、戦極ドライバーを介してもロックシードにすることが不可能だ。
この場に在ったのは、その新種であった。

「な、何も起きないのが分かっているなら、何で渡してきたの…!?」
「そんな深い理由は無いさ。絶対に変化させることが出来ないって訳でも無いらしいからな…モノは試しに持たせてみただけのことだ」

エボルトは悪びれる様子もなく軽い口調のままそう言う。
本当にただ試しに渡してみただけのようだった。

「おいエボルト…お前流石にいい加減にしろよ!?」

戦兎も流石に怒りの声を上げる。

「蓮も何で自分が引いたのにエボルトに持たせてたんだ」
「………すまない。俺には扱えない代物ということで、預けていた。説明は後からしようということにはなっていた」

預かるように言ったのはエボルトからだったが、蓮はそこは伏せる。
この件についてこれ以上険悪な雰囲気にする訳にもいかなかった。

「まあ、食べたら人間じゃなくなるってことについては、絶対に完全に理性が無くなるって訳でもないらしいけどな。条件を満たすか、運が良ければ、より強力な力を得られる可能性だって…」
「待て、それ以上喋るな。甜花ちゃんはもう捨てたんだ。話はもう終わりだ」
「……はいはい。分かりましたよ」

ほんの一部の者に限ったことではあれど、ヘルヘイムの森の実に新たな力を得る可能性があることは事実だ。
けれども、戦兎からしてはそれが本当かどうかは分からなくとも、どっちにしても容認するわけにはいかない。
リスクとリターンのつり合いも取れてない。
というか、ネビュラガスとほとんど変わりないようなものの気もする。
それと同じように危険なものを甜花ちゃんにこれ以上関心を持たせるわけにはいかない。
本来こういったこととは全くの無関係であった彼女には、最後には元の女子高校生とアイドルとしての生活に戻ってもらわなくてはならない。
そんな彼女相手には人体実験のような真似はさせられない。
人間を止めるような選択肢を、彼女に与えてはならない。



354Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 00:59:33 ID:LueZvDC20
「とりあえず俺達が新しく手にれられたのはさっきので全部だ。……あの実はまあ、ハズレと呼ぶしかねえだろうな」

今回モノモノマシーンで得られたアイテムの内、役立つと言えるものはエボルトの引いたラビットエボルボトルのみ。

「さて…これだけであいつからしんのすけを取り戻せるかねえ?」
「「「………」」」

先の戦いでは野原しんのすけが大首領JUDOにより何らかのアイテムの中に封印される形で攫われた。
エボルトの推測では、しんのすけは自分達をおびき寄せるための人質にされるだろうということだった。
そしていつかは、奴から取り戻さなくてはならない。

だが前回は杉元達も含めて応戦したが、苦戦させられた。
これからしんのすけを取り戻すために奴の所へ向かおうとしたとしても、途中で杉元達と合流できるとは限らない。
ここにいる4人だけで戦わなくてはならないかもしれないのだ。
しかし新たな戦力がラビットエボルボトルだけでは、あのディケイドに勝てるとは…勝利まではいかずにしんのすけを取り戻すことだけにしても、正直難しいんじゃないかということはここにいる全員の脳裏に浮かんでいた。

「一応、もう一度モノモノマシーンに賭けてみるって手はあるが…首輪も2つは残っているだろ?」
「……だが、首輪についてはまだもう少し…」

現在彼らが持つ首輪は、鬼舞辻無惨の肉体だった産屋敷輝哉に付けれられていたものと、アリーナの肉体だった胡蝶しのぶに付けられていたものの2つだ。
なお、蓮が持っている輝哉の首輪については、誰に付けられていたものかはここにいる者達は把握できていない。
一応首輪の解体方法が分かっているのなら、これらももうモノモノマシーンに使っても良いのではとエボルトは言う。
しかし戦兎はまだ思うところがあるのか、これらの首輪ももう少し調べたいという旨のことを言う。

「それじゃあ…1つだけ使うってのはどうだ?もう少し調べるにしたって、ここまで出来ているのなら1つだけでも十分じゃねえか?」

エボルトがバラバラになった首輪を指差しながらそんな提案をする。
確かにまだ怪しいところがあるから首輪をもう少し調査したいという気持ちは分かる。
人によって首輪の中身が実は違ってた、なんてことももしかしたらあるかもしれない。
けれどもそれをやるならば、ここにおいては1つでも十分かもしれないと考えていた。
もし中身の違う首輪があるとするならば…本来なら首輪の爆破程度じゃ死なない奴らのものだけかもしれない。
そしてここにある首輪は、1つは確実に上記のことに該当しない。
もう1つは実は該当しているが、ここにいる者達はそれが分かっているわけじゃない。
確実にそういった者達に付けられていたものだと分かる首輪があるのなら、話は少し変わってくるが。

「……まあ確かに、1回くらいは賭けてみるべきか?」

戦兎が1回だけモノモノマシーンを回すことについて納得を示す反応を見せる。
やはり今のままでは先のディケイドと戦うには足りないかもしれない。
首輪の再解析も、1回で十分…かどうかはまだ少し不安ではあるが、状況的には仕方がないのかもしれない。

「だが今度は俺達も一緒に連れていけ。さっきみたいなことが無いようにな」

先ほどエボルトはヘルヘイムの森の実という危険物を唐突に渡してきた。
あんな悪趣味なサプライズはもうごめんだ。
それに、モノモノマシーンの現物は自分もこの目で確認しておきたいということもある。

「分かったよ。それじゃあ全員で向かおうか」


エボルトを先頭に4人は教誨堂を目指す。
それまで甜花が中にいた宣伝車は再び戦兎のデイパック内に仕舞われる。
エボルトは相変わらずの人を小馬鹿にしたような表情をとっている。
戦兎と蓮は決意を持った表情をしている。
そして甜花は、不安を隠し切れない表情になっている。





少し時間が経った。
やがて、ボロボロの教誨堂から4人の人影が現れる。
その内3人は、沈痛な面持ちをしていた。

「いやー、ものの見事に外れちまったなあ!」

4人の内1人、エボルトだけが意気揚々と声高らかに叫ぶ。

「こんな役立たずが出るくらいなら、さっきの実の方がマシだったかもな」
「いや、それだけは絶対に違うだろ…」

355Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:00:21 ID:LueZvDC20
エボルトの言葉に戦兎がツッコミを入れる。
その両手には、白い煙のようなものを吐き出す箱が抱えられている。
白い煙のようなものの正体は、ただのドライアイスから発生している冷気だ。
ドライアイスが入っているのは、食料品の保存というとても単純な目的のためだ。
そう、今回モノモノマシーンから出てきたのは、何の特殊な効果も無いただの食品だった。

「しかしこんな高いもの、殺し合いの最中じゃなければ当たりだったかもなあ」

箱の中の食品は高級品であった。
ちなみにそれは、『スイーツ』であった。

今回の首輪使用でモノモノマシーンから引き当てたのは、『最高級コーヒーゼリー3点セット』だった。
ちなみにこのコーヒーゼリーは1つ2950円、3つなら合計8850円ということになる品であった。
それとコーヒーゼリー1つあたりの内容量は55gである。
これは確かに、殺し合いや戦闘で役立てる方法の無い品であった。
商店街やデパート等の福引の景品だったら大当たりだっかもしれないが、ここはそんな場ではない。
ディケイドと再び戦う時のためにと思って首輪を1つ消費したのに、それが全くの無駄になってしまった。

「どうする?やっぱ戻ってもう1つの首輪も使うか?」
「……いや、それもまた外したら流石にマズいだろ」

元々残っていた2つの首輪の内1つは再解析に回すという話だった。
しかし、マシーン使用の結果が悪かったからと言って、予定を変えるのも問題かもしれない。
やっぱもう1つもマシーンに使うとしても、もしその結果も良くなかったら、空気が余計に居た堪れないことになるだろう。

ちなみに、今回使わずに残してある首輪は蓮の荷物の中にあったものの方だ。
戦兎が持っていた2つは、どちらとも着けられていた肉体に特に不死性等があるものではなかった。
だが、蓮の持っていた方はそういったことが特に分かっていない。
それはつまり逆に言えば、その首輪が着けられていた者の肉体に上記のような特殊性があった可能性も僅かに考えられる。
だからもしかしたら、首輪の中身も他の者達と違う可能性が残っているかもしれないのだ。

「じゃあ…とりあえずこのコーヒーゼリーでも食いながら今後のことでも話し合うか?」

コーヒーゼリーの使い道は、ただ食べることだけ。
少なくとも、ここにいる彼らにとってはそうであった。
それをしながら、今あるものだけでディケイド相手にどう対策するかの作戦会議等を行おうとエボルトは言った。

「でも…3つしか無いよ…?」
「…じゃんけんするか?」

甜花と蓮も会話に参加する。
彼らの指摘する通り、コーヒーゼリーは3つだけ、4人の内1人分足りないのだ。
ついでに言っておくと、食べるためのスプーンはコーヒーゼリーの数と同じだけサービスで付いていた。

「…いや、俺はいいよ。みんなが食べている間に、首輪のことをもう一度調べてみたい」

戦兎がそう言ってコーヒーゼリーのことについて断る。

「時間が惜しい。平衡して出来そうなことはそうしていかないと」

この網走監獄に来てからの時間はそれなりに経っている。
こうしている間にも、しんのすけや他の者達が危険な目に会っているかもしれない。
コーヒーゼリーを食べながらの話し合いと、首輪の再解析、これらを同時進行で行おうと戦兎は言っていた。

「分かったよ戦兎。そんじゃあお前の分まで美味しくいただくとしますかねえ」
「ゼリーとはいえ、少なくとも、お前の淹れるコーヒーよりは何万倍も美味いだろうな。高級品だしな」
「おいおい何だよ、何故今そんな話をする?」
「………」

【そんなことない】
→【うん、まあ…うん】
【確かに】

「おいおい!相棒までそんな微妙そうな反応をするんじゃねえよ!あのコーヒーは千雪の体で淹れたせいだっての!」
「蓮お前…アレを飲まされていたのか」
「何で千雪さんのせいにするの…?それは絶対に違う…!」
「(私のせいにしないでください。それだけは絶対に違います) うるせえな!」

エボルトの淹れるコーヒーはクソマズい。
景品がコーヒーゼリーだったこともあり、落ち着いて食べれる場所への移動中にそんな話題が出る。
以前蓮が飲まされたコーヒーについては、エボルトが肉体のせいにしようとするが周りは全く信じていない。
彼の脳内の『桑山千雪』も反論を入れる。
それに対するエボルトの反応は、周囲からの言葉への反応にも合致していたため、特に怪しまれることはなかった。



356Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:01:20 ID:LueZvDC20
そんなこんなで、彼らはやがて近くの適当な建物中に入る。
そこは網走監獄内において、所謂事務所の役割を果たす、庁舎と呼ばれる建物だった。
この建物は、前にギニューが監獄敷地内に居た時も祈手達に力試しの標的にさせていなかったためにまだ無傷であった。

4人は建物内にあった適当なテーブルに備え付けられた椅子に座る。
なお、戦兎は1人だけ他3人とは別のテーブルの席の方につく。
首輪の再解析のためにそうしていた。

他3人がついているテーブルには、既に最高級コーヒーゼリーがそれぞれ並べられている。

「……少ないけど、美味しそう」

甜花がそうポツリと呟く。
前にヘルヘイムの森の実を見た時のように特殊な力で魅了されているわけではない。
黒い表面に室内の照明が反射されて現る輝く光沢と、周囲にデコレーションされた生クリーム、そういったものらが純粋にそんな風に見せていた。
…いや、1個2950円の高級品という情報もそんな風に見せるフィルターをかけているかもしれない。

「それじゃあ早速、いただこうかねえ」
「……いただきまーす…」
「…いただきます」

3人はスプーンを手に取り、プルプルと柔らかいコーヒーゼリーを救い取ろうとする。





その時だった。

「えっ?」
「は?」
「何っ!?」

黒かったコーヒーゼリーが突如、灰色となった。

「!?っおい、どうした!?」

3人の声で戦兎も異常を察知し、彼らの方に顔を向ける。

「な、何これ…!?」
「ゼリーが突然、灰に…!?」

灰色と化したゼリーをスプーンで突いてみると、それこそまるで灰のように崩れ去る。
灰色となっているのはゼリーだけではない、その周囲に盛り付けられたクリームも同じようになっていた。


「!!…おいお前ら、どうやらもうゆっくりしている暇はねえぞ。構えろ!!」

エボルトがいつになく真剣そうな声で呼びかける。
彼が真っ先に、この場に現れた新たな存在の気配に気付いた。
そんな彼が向き直った方向に他の者達も顔を向ける。


「そんな…俺達を誘き出すつもりじゃなかったってことか…!?」
「―――確かにそのつもりもあったがな。少々、事情が変わった」

そいつがいたのは、庁舎の入口近く。
彼ら4人がここに来ることになった原因。
―――門矢士の肉体の中にいる大首領JUDOが変身するディケイド激情態が、そこにいた。


「「「――変身!!!」」」
「蒸血!!」
『KAMEN RIDE BUILD 鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』
『ソイヤッ!ミックス!メロンアームズ!天下御免!ジンバーメロン!ハハーッ!』
『JOKER!』
『ミストマッチ!コブラ…コ・コブラ…ファイヤー!』

相手が既に臨戦態勢にあることを察知した4人は、急いでそれぞれがなることのできる戦闘形態へと移行する。
なお、エボルトはまだ最後にエボルへの変身を解除してから2時間経っていないため、ブラッドスタークの方になっていた。
一応、あともう少しでその変身への制限は解除される状態ではあったが。

『…全く、そっちもまだ疲れているだろうにもう来たのかい?せっかちなもんだねえ』

ブラッドスタークへの蒸血が完了したエボルトが、先とは打って変わって軽めの口調でJUDOにそんなことを言う。
実際、JUDOにはまだ疲労もダメージも残っているはずだった。
だからこそエボルトは向こうの方から攻めて来る可能性は低いと考えていた。

357Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:02:08 ID:LueZvDC20
「先も言ったが、事情が変わった。――どれ、面白いものを見せてやろう」

エボルトの煽りを軽く受け流し、JUDOは次の行動に出る。

『…?何だそれは?』

JUDOは先ほどから片手にカードを何枚か持っていた。
しかしそれは、ディケイドライバーに装填して使うための、ライダーカードではなかった。
薄暗い紫の下地の上に赤い丸、その丸の更に上に黒い星が描かれたカードであった。

JUDOのもう片方の手には別のアイテムが握りしめられている。
それはまるで、懐中時計のように見えるものであった。
JUDOはまず、その懐中時計のようなアイテムを目の前に勢いよく突き出し、それの上部に付いたボタンを押した。

『ビルド!』
「なっ!?」
『何だと!?』

そのアイテムから鳴り響いた音声に戦兎とエボルトが驚きの声を上げる。
それと同時に見えたアイテムの表面には、怪人の顔が描かれているのも見えた。
――それはまるで、仮面ライダービルドを歪めたような顔をした怪人だった。

アイテムの形状だけなら戦兎に見覚えはあった。
かつて新世界を作り出した時、目を覚ました時に持っていたアイテムがそうだった。
そのアイテムには仮面ライダークローズの顔が描かれていたことを覚えている。
けれども、その時のアイテムよりは今目の前にあるものはとても禍々しく見えた。

JUDOが持つアイテムの名は『アナザービルドウォッチ』。
描かれているのは、仮面ライダービルドの力を持つアナザーライダーという種の怪人『アナザービルド』だ。


JUDOはウォッチのボタンを押した後、そのウォッチともう片方の手に持った何枚かのカードを自分の上に向かって投げ放った。
同時に、こう叫んだ。

「ノワール・ミロワール!!」

その言葉と同時に、『闇』が周囲を渦巻いた。
『闇』を纏ったカード群がアナザービルドウォッチの周囲を回る。
それらのカードはやがて自分達の中央にあったウォッチの方に向かって行き、貼り付く。
すると、黒いクリームのようなものがウォッチとカードの周囲に出現し、膨れ上がっていく。
膨れた黒いクリームはやがて破裂し、1体の「モンスター」をその場に産み落とした。
モンスターは2本足でJUDOのやや前辺りの方に着地する。


『――――ノワーーール!!!』

降り立ったモンスターが大口を開けてそう叫ぶ。
モンスターは人型だったが、その体は人の倍くらいには大きかった。
それは、そのモンスター…いや、怪人の本来の大きさとは違っていた。

「何だよ、こいつ…」

モンスターを見た戦兎は呆然となってそいつを見上げる。
その姿は彼のよく知るもの…というよりは、今丁度彼がなっているものの姿にそっくりなものだった。
しかし、完全に一緒という訳ではない。
一言で言えば、前述したように、「歪められた」姿であった。

仮面ライダービルドのアナザーライダー、アナザービルドの姿に、モンスターはなっていた。
けれどもその姿は、本来のアナザービルドとも違っていた。
まず前述したように本来のアナザービルドよりも体が大きい。
次に、腕や足に沿って、黒いゼリー…コーヒーゼリーとクリームのようなものがその体から生えていた。
また、本来のビルドにもある頭部の2本のアンテナの先端にも、それぞれコーヒーゼリーがちょこんと乗っている。
胸には大きく、赤い丸の上に黒い星が描かれているマークがあった。
これにより、本来のアナザービルドの右胸の方に斜めに書かれている「BUILD」の文字が一部隠れてしまい「BU」までしか見えないようになっていた。
腰につけられたベルト…ビルドドライバーに形の似ているベルトの、ビルドドライバーで言うところのレバーを回すことで同時に回転する機構、ボルテックチャージャーに似ている部分にも、同じようなマークがあった。
これらは、先ほどJUDOが持っていたカードに描かれていたものと同じものだった。
…そしてこれは、正面から対峙している戦兎達には見えないものだが、背中にも本来のアナザービルドと少し違うように見える部分があった。
実の事を言うと、ここにあったアナザービルドウォッチを使って変身した場合のアナザービルドの背中には、「2019」の年号が刻まれるはずだった。
これが歴史改変を目的として生み出されたアナザービルドであれば、「2017」が刻まれていたが、ここにあるアナザービルドにその役割は無く、その年号になるはずがなかった。
けれどもここにいるモンスターの背中にある「2019」には、「9」の部分が一部コーヒーゼリーで隠され、足りない角は白いクリームで補われ、「2017」に見えなくもないようになっていた。

358Last Surprise①〜ガチャは悪い文明〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:02:43 ID:LueZvDC20
ここでJUDOが使用したカードは、エリシオのカードという。
エリシオとはこのカードの本来の持ち主であり、ノワールという存在を主とした闇の勢力のしもべであった存在だ。
このカードは、何かしらの物体に貼り付けることでカードモンスターと呼ばれる怪物を作り出すことができる。
ただし、カードを使うには条件があった。
それは、何かしらの『スイーツ』に含まれる『キラキラル』というエネルギーを吸収することだ。
そうして生まれたカードモンスターは、吸収したキラキラルの元となったスイーツと素体にした物体の意匠を持つ巨大な怪物となる。
JUDOはスイーツを持っていなかったため、これまではこのカードを使うことができなかった。
けれども今回、戦兎達4人がモノモノマシーンからスイーツを引き当てた。
JUDOは網走監獄の近く外から、4人の様子を把握していた。
毎度お馴染み、クウガ・ペガサスフォームの力で4人の会話を盗み聞きしていた。
そもそも4人が今網走監獄にいることを把握するためにも、ペガサスフォームの力を利用した。
前の話でも書かれていたが、ディケイド激情態が使う場合のペガサスフォームでは、本来のクウガよりも使用の際のデメリットは少ない。
そうして耳を研ぎ澄ませ、『スイーツ』に関する単語が出てくるかどうかを待っていた。
出てこなければ、前から考えていた通り誘き寄せる方向するはずだった。
しかし運の良いことに…戦兎達にとっては悪いことに、スイーツが出てきてしまった。
だからJUDOは予定変更して彼らに近付き、カードの力でスイーツから『キラキラル』を抜き取った。
キラキラルを抜き取られたスイーツは、灰のようになる。
そして抜き取られたキラキラルは、カードの力で『闇』に染められる。
この闇の力で、カードはモンスターを作り出す。
このカードを、JUDOはアナザービルドウォッチに向かって使用した。

カードも、アナザービルドウォッチも、どちらとも以前JUDOがモノモノマシーンから手に入れた景品だ。
カードが使えなかったため、前回の戦いでは今回のような戦法はとらなかった。
そして更に、今回のことにもう少し付け加えて言うことがある。
JUDOは、アナザービルドウォッチも、カードに対して使用していたと言えるかもしれないのだ。

本来のアナザーライドウォッチは人、もしくはそれに準ずる存在にを素体にして使用するものである。
変身者のいないアナザーライダーは、一部の例外しかいない。
けれどもここにおいては、エリシオのカードから生まれるカードモンスターが、アナザービルドの素体になっているようなものであった。
逆に、カードモンスターの素体としても、アナザービルドがそれになっているような状態でもあった。
アナザービルドウォッチ内の仮面ライダービルドの力と、カードの中の闇の力が混ざり合い、今回出現した怪物の姿を形作っていた。
互いが互いを素体にすることで、この巨大なアナザービルドのようなモンスターが生み出された。
カードモンスターでありながら、アナザーライダーでもある。
それが、この怪物という存在であった。

「行け、ノワールビルド。奴らを叩き潰せ」
『ノワアアアアァァァーーールッ!!!』

怪物…JUDOからノワールビルドと名付けられたそいつは、雄叫びを上げながら目の前の仮面ライダー達に襲いかかった。

359 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:05:58 ID:LueZvDC20
名前が長すぎると出たため、先に第2編のタイトルをここに書いておきます。
第2編のタイトルは「Last Surprise②〜ノワール・ベストマッチ2017〜」とします。

360 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:06:37 ID:LueZvDC20
ノワール…その単語は、フランス語で黒を意味する。
雨宮蓮…心の怪盗団のジョーカーにとっては、一応は縁のある単語であった。
しかし、彼がここにおいてその単語に何か反応を示すことはなかった。
何故なら、彼がこの単語…ノワールをコードネームとして使う仲間が出来るのは、本来の歴史においてもう少し未来の話であるからだ。


『ノワアアアアァァァーーールッ!!!』

そんなことはともかくとして、その単語をひたすらに叫び続ける怪物…ノワールビルドと名付けられた存在は、目の前にいる者達に攻撃をしかけようとする。
ノワールビルドは雄叫びを上げながら腕を振り上げる。
そいつが巨体であるために、その腕は天井に届きそこを突き破る。
腕が振り下ろされる過程で、天井からぶら下がる証明も一緒に破壊される。
それにより室内から光が奪われ、周囲が一気に暗くなる。

『全員避けろっ!!』

エボルトの掛け声に3人が反応する。
咄嗟に後ろに跳び…やはり戦い慣れてない甜花だけは相手に背を向ける形で、ノワールビルドから距離をとる。
その際に、戦兎はテーブルの上に置いていた首輪もしっかり回収しておく。

『おいおい何なんだこのビルドのパチもんみたいなデカブツは!?』

いくら文句を言おうとも、ノワールビルドがどんな存在なのかは本人?も呼び出したJUDOも答えてくれない。
まさかこんなのが出てくるとは思わず、彼らはただ混乱させられる。
ただ、相手の身体から生えているコーヒーゼリーから、先ほど自分たちが食べようとしたコーヒーゼリーに起きた異変とも何か関係があるかもしれないことは、少し察しはついていた。
これはつまり、仕組みは不明だが、自分たちが改めてモノモノマシーンを使ったことでコーヒーゼリーを手に入れさえしなければ、この怪物は現れなかったかもしれない。
そのことを、全員少しずつ理解してきていた。

『ノワーーールッ!!』

距離をとろうとしても、ノワールビルドは追って来る。
その際に更に建物内の周囲の物品も次々と破壊していく。
4人がついていたテーブルと椅子も破壊され、その上にあったコーヒーゼリーの残骸とそれが乗っていた食器類も一緒に吹き飛ばされる。
ノワールビルドから離れようとする4人は、やがてそれに背を向ける形となって逃げる。
そして、網走監獄庁舎の外に飛び出ることになる。
それを追ってノワールビルドも壁を破壊しながら外に出る。

『チッ!』

外の広い場所に出て初めて4人側からの反撃が起きる。
エボルトはトランスチームガンのトリガーを引き、高熱の弾丸をノワールビルドに放つ。
しかし、弾丸は何発か命中したものの、それで怯む様子は全くなかった。
相手の体の表面から、弾かれているかのようだった。

仮面ライダーの力を宿した怪人に変身するためのウォッチ(時計)型アイテムの存在は、エボルトと蓮は承太郎から少し聞いていた。
というか、前々に風都タワーの方で戦った、新八が変貌していたものがそうだった。
それは、今自分たちを襲撃しているディケイドの力を持っていた。
しかしまさかビルドにまで同じようなものがあるとは思ってなかった。
いや、ビルにドにとってのそれがあるだけなら、驚きはすれどここまでではなかったかもしれない。
それが巨大化までしている上に体中からコーヒーゼリーを生やしているのだから、衝撃もその分大きくなる。

「えいっ、えいっ!」

甜花も慌てながらソニックアローを引いて矢をノワールビルドの顔に向けて放つ。
的が大きいためそれらはいくつか命中する。
しかしそれもまた、効いている様子は無い。
傷一つも付いていないようだった。

『ノワール!ノワール!』

ノワールビルドの両手にエネルギーの塊が形成される。
それは、本来のアナザービルドの変身者であったバスケットボール選手が作ったバスケットボール型のエネルギー弾と似たようなものであった。
ただしここにおいてそれは、ボールではなくコーヒーゼリーの形をしていた。
ノワールビルドはそのコーヒーゼリー型エネルギー弾を、甜花の方に向けて投げつけた。


「きゃっ!?」
「甜花ちゃん!」

ディケイドビルドになっている戦兎が咄嗟に庇うように甜花の前に出る。

「ぐあっ!」
「いやーっ!?」

ノワールビルドが放ったコーヒーゼリー型エネルギー弾は戦兎にぶつかる。
しかし、それで終わりではなかった。
エネルギー弾は、2発あった。
両手でそれぞれ1つずつ作られていた。
戦兎に1つ当たった後、そのすぐ近くの地面にもエネルギー弾は当たり、破裂する。
そうして発生した衝撃波により、戦兎も甜花も一緒になって吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされた2人は少し離れたところに着地する。
ノワールビルドはそのまま、自分が飛ばした2人の方に向かおうとする。

361 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:07:30 ID:LueZvDC20
「桐生さん!」
『避けろ!』
『ATTACK RIDE BLAST』
「うわっ!」
「くっ…!」
「我を忘れるなよ?」

エボルトと蓮はノワールビルドからの注目は外れる。
しかし、飛ばされた2人の方に気をかける余裕は無い。
ノワールビルドをけしかけて来たJUDOもまた、4人とノワールビルドを追って外に出てきたからだ。
JUDOはノワールビルドの位置がズレ、狙いを定められるようになると、すかさずアタックライドのカードをディケイドライバーに入れて技を放つ。
ガンモードになったライドブッカーの銃口からエネルギー弾がいくつも乱射される。
エボルトの声かけで蓮も咄嗟に回避のための行動をとる。
しかし完全には避けきれず、2人とも1発程度が体の端の方を掠めていく。
ある程度はこの監獄内で休めたとは言え、まだ疲労は残っているのだ。
それも構うことなく、JUDOは攻撃を続けようとする。
自身もまだ疲労が残っているのにも関わらず、ライドブッカーをソードモードに変えて自分から動き近付いてこようとする。
『ほしふるうでわ』で上昇した素早さに身を任せて仕掛けようとしているように見えた。
狙うのはブラッドスターク、エボルトの方からだった。

『チッ!』

エボルトは咄嗟にブラッドスタークの能力でスチームブレードを召喚する。
スチームブレードの刃の部分で、ライドブッカーの刃を受け止めようとする。

『FORM RIDE KUUGA TITAN』
『何ッ!?』

しかしここでのJUDOの行動は予想外のものだった。
ライドブッカーの刃を振り上げたのはブラフだった。
JUDOはディケイドライバーにフォームライド用のカードを差し込んだ。
すると何とJUDOの変身していたディケイド激情態が、クウガ・マイティフォームの姿を介さず、直接クウガ・タイタンフォームの姿へと変わった。
これまでのディケイドでは考えられないことであった。
ディケイドは他のライダーへの派生フォームになるためには、まずはカメンライドのカードでそのライダーの基本フォームへと変わる必要があった。
これまでのディケイドとの戦いからでも、カメンライドを介さないとフォームライドは使えないだろうことはエボルトも感じていた。
だから今回のようなことが起きるのを予測できなかった。

ディケイド激情態の本来の特徴は、カメンライドを介さずの他ライダーのアタックライドの使用であった。
この激情態がカメンライドを使ってみたらどうなるのか、その記録は我々の世界には無い。
そしてこの殺し合いにおいては、激情態でもカメンライドのカードはこれまで通りに使用できていた。
フォームライドのカードもそれに合わせて通常の使い方と変わらずに使っていた。
しかし前回の戦いが終わった後、JUDOはふと思った。
カメンライドを介さずに様々なアタックライドが使えるのなら、フォームライドでも同じようなことが可能なのではないだろうか?ということを。
もし次に戦う時がコンプリートフォームを使えない時を想定してみた時、フォームライドを使う時に一々カメンライドを使わなければならないのは面倒ではないか、隙を作ってしまう行為なのではないかと考えてしまった。
だから少し、ここに来る前に試してみた。
その結果は、成功であった。
JUDOのディケイド激情態は、フォームライドを使うのにも一々カメンライドを使う必要が無くなっていた。
少なくともこの場においてだけは、そのようになっていた。
JUDOが最初から感覚でこんなことが出来るかどうかが分からなかったのは、我々の世界においてこういったことが可能かどうかの記録が存在しないからであろう。

クウガ・タイタンフォームになったJUDOは、エボルトが受け身に構えたスチームブレードの方に手を伸ばす。
そしてスチームブレードの刃を、その手で握った。

『あっ、お前!』

スチームブレードは、刃の方からタイタンソードへと変わってしまった。
クウガ・タイタンフォームの手を介し、モーフィングパワーが流し込まれたのだ。

「ハアッ!」

JUDOがタイタンソードの刃部分を持った直後、蓮が仮面ライダージョーカーとしての拳を握りしめながら突撃してくる。
SPはほとんど無い状態であるため、ペルソナはまだ出すという判断をしていない。

「フン」

362 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:08:24 ID:LueZvDC20
JUDOは蓮の様子を一瞥すると、右手で持っていたライドブッカーをそっちの方へと突く動作をする。
同時に、左手で握っていたタイタンソードの刃を上方向に投げるように持ち上げる。
それによりエボルトの手からスチームブレードだったタイタンソードがすっぽ抜ける。
形状が変わったことにより持ち手を握る力が緩んだ一瞬の時に、引き抜かれてしまった。
上方向に少し投げたタイタンソードを、JUDOは続けて左手で剣の柄を掴んでキャッチする。

「フン!」

そしてJUDOは、右手のライドブッカーの突きの直後、エボルトに向かってタイタンソードを振り下ろそうとした。

「ガッ…!」
『チッ!』

ライドブッカーによる突きは、仮面ライダージョーカーの胸の方に当たる。
命中した箇所から火花が出て、蓮は苦痛を感じながら後方に追いやられる。
タイタンソードで斬りつけられそうになったエボルトは、何とか後方に跳んでその攻撃を避けられた。

『そっちも手癖が悪いこ…』
「フンッ!」『バキッ!』
『あっ!?』

JUDOと少し距離をとったエボルトは、皮肉めいた煽りを言おうとしたが、その言葉は中断させられる。
JUDOはなんと、せっかく作ったタイタンソードをその場で膝蹴りでへし折ってしまった。
タイタンソードは、へし折れた状態のままスチームブレードに戻る。
奪ったこの武器を相手がどうにか取り戻そうと考えるのは簡単に予測できること。
だから、それを不可能にしてやった。
どうせ手札は大量にあまり余っている、タイタンソードだけを使い続ける理由はなかった。

スチームブレードを破壊し終えたJUDOは、今度はライドブッカーの方をタイタンソードに変えて向き直る。
そうして再び、エボルトの方に向かおうとする。

(…早速だがこいつを使うしかねえか)

再び根らわれることを察知したエボルトは、JUDOが再び向き直る直前に、新たなアイテムの用意をした。
新たに手に握られたそれは、先ほどエボルトがモノモノマシーンで引き当てたラビットエボルボトルであった。
エボルトはボトルをトランスチームガンに装填する。

『フルボトル!スチームアタック!』
『これでどうだ!』

ボトルの力によりトランスチームガンを通じてブラッドスタークに加速能力が付与される。
同時に、トランスチームガンの連射速度も上がる。
これにより、エボルトはJUDOの攻撃を避けて移動しながら高速連射を相手に向けて浴びせる。

「くっ…」

JUDOはタイタンソードを側面が自分の体の前に来るように持ち変え、防御の構えをとる。
剣とタイタンフォームの装甲に阻まれ、弾丸はJUDOのダメージにはあまりならない。
しかしそうなったのは、エボルトのこの攻撃はどちらかというと牽制目的でもあったからという点もあった。
速度を上げたエボルトは、JUDOに向かって連射しながらも、目的の位置に向けて移動していた。
エボルトは、先ほどJUDOの攻撃を受けてまだよろけ気味な蓮の方に向かっていた。

『ほら、離れるぞ!』

エボルトはスピードを上げたまま蓮を抱き抱える。

(戦兎の方はどうだ…?)

状況ははっきり言ってかなり良くない。
準備も何もできていない状況の強襲、更には相手は新たな戦力も呼び出して来た。
このままでは4人がかりでも勝率は限りなく低い。
できることなら、この場所からは一旦撤退したい。
さもなければ流石の自分の命も危ない。
たとえ相手が人質にしているしんのすけの命が、奪われるような結果になったとしても。
そして、首輪解除の要である戦兎と甜花も生かして一緒に逃げ延びたい。
先ほどの攻防の間に、少し離れてしまった戦兎達がどうなったのかを確認しようとする。



「甜花ちゃん、大丈夫か!」
「ううん…」

コーヒーゼリー型エネルギー弾の衝撃に飛ばされた後、戦兎は着地後直ぐに立ち上がれたが、甜花の方はまだ少し尻餅をついた状態にあった。

『ノワーール!!』

彼らを追ってきたノワールビルドが、腕を振り上げ、開いた手の平を2人目掛けて叩き付けようとする。

363 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:09:05 ID:LueZvDC20
「このっ!」
『ノワッ!?』

戦兎が前に出て、脚を大きく上げて回し蹴りを放つ。
ノワールビルドの手の横の方にディケイドビルドのキックが直撃する。
これにより、ノワールビルドの手の平は戦兎甜花のいる方から外れ、彼らの横の方を叩くことになる。
ノワールビルドは少しよろけ、手をついた側の片膝も地面につく。

「て、甜花だって…!」

ノワールビルドの攻撃から守られたことにより甜花も何とか体勢を立て直す。

『メロンオーレ!ジンバーメロンオーレ!』

そして甜花は腰の戦極ドライバーのカッティングブレードを2回倒す。
これにより、ソニックアローの刃…アークリムにエネルギーがチャージされる。

『ノワーーール!!』

ノワールビルドが地面についていないもう片方の手を握りしめ、甜花目掛けて斜め上から殴り付けようとする。

「えいやー!」

甜花はそのノワールビルドの拳目掛けてエネルギーのたまった刃を振るった。

『ノワール!!』
「えっ!?」

しかし、その攻撃はノワールビルドには全く効果がなかった。
矢を打った時と同じく、かすり傷一つも付いていなかった。
ノワールビルドの拳が、甜花の方へと届く。

「きゃあっ!」

拳に打たれた甜花は、斬月の姿のまま殴り飛ばされた。

ノワールビルドは、ある概念的な耐性を持っている。
それも、2重にだ。
1つは、アナザーライダーとしての特性だ。
アナザーライダーに変身するためのアナザーライドウォッチは、対応するライダーの力が無ければ破壊できない。
そしてここにいるノワールビルドはアナザービルドウォッチが変化したもの。
仮面ライダービルドの力以外の攻撃では、傷付けられない。
そして2つ目は、闇のキラキラルの力で生まれたカードモンスターとしての特性だ。
カードモンスター含め闇のキラキラルの力を持つ怪物たちは、『キラキラ☆プリキュアアラモード』が使うキラキラルの力で作り出されるクリームエネルギーを使った攻撃でないとダメージ効果が薄い。
そして完全に倒すためにも、プリキュアの力で浄化しなくてはならない。

つまり、これら両方の怪物の特性を持つノワールビルドを倒すためには、「仮面ライダービルド」の力を持つ者と「キラキラ☆プリキュアアラモード」のプリキュアが協力しなければならない。
そして今この場所に、「プリキュア」はいない。
だからこの場において、ノワールビルドを倒す方法は存在しなかった。
いや、もしかしたらディケイドが持つ「破壊の力」ならばまだ可能性はあるかもしれない。
だがここにおいてノワールビルドを呼び出し、操っているのがまさにそのディケイドだ。
そのため結局、この巨大な怪物をここで倒せる可能性は、0に近かった。


「甜花ちゃん!」
『ノワッ!』
「くっ!」

攻撃を受けた甜花の心配する暇もなく、戦兎は自分にも飛んでくる攻撃の対応に追われる。
先ほど蹴りで弾き飛ばした掌が戻ってきて戦兎を襲う。
それによる攻撃を戦兎は横跳びで避ける。

『ノワール!』
「!?」

次にノワールビルドがとった行動に戦兎はまたも驚かされる。
ノワールビルドの片手に、いつの間にかボトルのようなものが握られていた。
それは、戦兎もよく知っているフルボトルと同じように見えた。
ただし、実際のフルボトルよりはノワールビルドに合わせて大きなものであった。
ノワールビルドはそのボトルの先端を甜花の方に向けていた。

「え?えっ!?な、何で…!?」
「変身が解けた…!?まさか…!」

364 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:09:45 ID:LueZvDC20
大きなフルボトルの先端が甜花に向けられた直後、ボトルは甜花から「何か」を吸収した。
その何かが吸収された後、甜花が変身していた斬月・ジンバーメロンアームズが強制的に変身解除させられた。
それだけでなく甜花のベルト…戦極ドライバーから、メロンロックシードとメロンエナジーロックシードが消えていた。
また、ノワールビルドが持っていたフルボトルは、一度スマッシュボトルのような形状を経た後に、2つに分裂していた。
これらの光景を見て、戦兎は今何が起きたのかを察する。
戦兎自身にその記憶は無いが、かつて戦兎も似たようなことをしたことがあるからだ。

記憶を消される前の桐生戦兎…葛城巧は、かつて『エグゼイドの世界』に行ってその世界の仮面ライダーであるエグゼイドの成分をボトルを通じて抜き取った。
戦兎はそうして抜き取られた成分だということをよく知らずに石動美空に浄化させた際、ボトルはドクターとゲームの2種に分裂した。
それらと似たようなことが今起きたことを戦兎は察知した。
葛城巧がかつてエグゼイドの成分を抜き取り、変身能力を奪ったのは、最上魁星という男の野望を阻止するためであった。
しかし今似たようなことをしたノワールビルドは違う。
こいつはただ、自分の力とするためだけに甜花から斬月・ジンバーメロンアームズの成分を抜き取った。

『ロック』

ノワールビルドは今作り出したボトルの片方を少し振った後、腰のビルドドライバーに似たベルトの左側に差し込む。
差し込むと同時に、これまたビルドドライバーに似た音声がベルトから流れる。
ノワールビルドはベルトのレバー部分を回転させる。
レバーを回転させるごとに、本来のベルトにおけるボルテックチャージャー部分にある赤の円の中の黒星が一緒に回転する。

『おいおい…こいつフォームチェンジまでするのかよ!?』

このタイミングで蓮を抱えたブラッドスターク姿のエボルトが駆けつける。
それと同時に、ノワールビルドの姿に変化が起きた。
本来のビルドのタンクの青の部分が、くすんだ金色となる。
これは、本来のビルドがロックフルボトルを使用した時のものと似た色をしていた。
今のノワールビルドの姿は、ラビットの赤とロックの金の配色となっていた。
頭部と下半身の方は右が金で左が赤、腕は右が赤で左が金といった具合だ。
左腕の先には、本物のビルドがロックフルボトルを使った時と同じく、鍵のようなものが付いていた。
鍵の先端の方にも、小さなコーヒーゼリーがちょこんと乗っている。

本来、アナザービルドは人間を丸ごとボトルに吸収してその成分を扱う能力を持っていた。
しかしここにおいては、流石に人を一瞬で丸ごと成分に変えてしまうのは強すぎると判断されたのか、少し制限を受けているようだった。
そしてアナザービルドは、作り出したボトルを使っても特に見た目が変わることはなかった。
けれどもそれは、そのアナザービルドが使っていた水泳や弓道等の種類のボトルは、本物のビルドが持つボトルの中になかったからだとここにおいては解釈する。

この場においてノワールビルドに使われたロックの成分は、ロックシードがその名の通り錠前型であることから抽出された。
そしてロック:錠前の成分を持つフルボトルは、本物のビルドも使ったことがある。
だからここにおいてノワールビルドが使ってみても、それに合わせて体色が変わった。
アナザーライダーが元になったライダーのように能力に合わせて体色を変えること自体はアナザーWという前例がいる。
少なくともこの場においてはそれと似たようなことが起きていた。
なお、今のノワールビルド…言うなればラビットロックのトライアルフォームには、本物のビルドは変身したことはないのだが。
また、一緒に生成されたボトルにはメロンの成分が入っているのだが、ノワールビルドはそちらの方は使わずにどこかに仕舞った。


『ノワール!』

ノワールビルドは左腕の方から鍵にそって鎖を生成する。
その鎖は全て、いくつもの小さなコーヒーゼリーが連結されてできていた。
ノワールビルドはこのコーヒーゼリーの鎖を振り回しながら襲いかかろうとする。
狙うは先ほど近付いてきたばかりで、声を出したエボルトの方だ。

365 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:10:31 ID:LueZvDC20
『おっと!』

エボルトのブラッドスタークには先ほど使ったラビットエボルボトルの効果まだ少しだけ残っていた。
上昇したスピードのおかげで鎖による攻撃を避けられる。
コーヒーゼリーの鎖はまた別の方へと飛んでいく。
その先にいたのは、未だディケイドクウガ・タイタンフォームの姿をしているJUDOの方だ。
コーヒーゼリーの鎖は、JUDOが持つタイタンソードに絡み付いた。

「…真面目にやれ」
『ノワッ!?』

JUDOがタイタンソードを振るうと、絡み付いていた箇所のコーヒーゼリーの鎖が断ち斬られる。
斬られる直前に引っ張られたことで、ノワールビルドは再び体勢を崩す。

「!…おりゃっ!」

今が攻撃の隙であると戦兎は感じとる。
ノワールビルドのお尻の方目掛けて、飛び蹴りを放つ。

『ノノワッ!?』

尻を蹴られた勢いでノワールビルドが完全にバランスを崩し、転倒する。
その隙に、戦兎はノワールビルドを挟んでJUDOとは対岸になる位置に移動しようとする。
甜花やエボルト達も、そちら側寄りの方の位置にいた。
そしてノワールビルドの倒れ込む先には、JUDOがいた。
JUDOは手の中のタイタンソードをライドブッカーに戻し、そこからカードを一枚取り出す。

『FORM RIDE KIVA DOGGA』

JUDOはディケイドライバーにカードを差し込み、クウガ・タイタンフォームの姿から、キバ・ドッガフォームの姿へと変わった。

「ムンッ!」

JUDOの手に新たにドッガハンマーが握られる。
そのドッガハンマーを自分に向かって倒れ込んでいるノワールビルドの頭に向けて突くように押し込んだ。

『ノババッ!』
「うわっ!?」

ノワールビルドは倒れたまま顔面を地面に擦り付けられながら押し出される。
これにより、エボルト達の方に向かっていた戦兎の前が塞がれる。

『……意地でも俺らを逃がさないつもりか』

エボルトの方はと言うと、甜花のすぐ側の方にまで駆けつけることはできた。
甜花の変身が解除されていることには驚いたが、それを気にする暇はなかった。
戦兎が自分たち側に来ようとしているのを察知して、すぐ全員で逃げられるようにトランスチームガンのトリガーに手を掛けて煙幕を張る準備をしていた。
しかしそれは、JUDOの妨害でここでは出来なくなった。


「…貴様らは、こいつを助けたいとは思っていないのか?」

エボルトの様子を見たJUDOが、あるものを取り出してそれを見せびらかすように掲げる。
それは、前の戦いの時にJUDOが中に野原しんのすけを封印したキューブであった。

『………そいつには悪いが、俺もこんなところで死ぬ訳にはいかないのでね』
「そんな…」
「お……おい、刺激するようなことは…」

エボルトはJUDOの言葉を、ここで逃げるのならばしんのすけを殺すと解釈。
甜花はその現実的かもしれないが冷酷な判断に戦慄する。
気を持ち直してきた蓮はそんな発言をすれば本当にしんのすけが殺されるのではないかと感じ、エボルトの言葉を止めようとする。

「ならば、返してやろう」
『は?』

その言葉に全員呆気にとられる。
その間にもJUDOは行動を進める。
指で摘まんでいたキューブを前方に投げる。
それと同時に、キューブが大きく広がるように展開しながら消える。
そして、その中に封印されていた者を解放する。

「………アレ?オラ、どうして…?」

解放された者…孫悟空の姿の野原しんのすけも、自分に何が起きたのかを理解出来ていない様子だった。
キューブの結界の中に囚われてからも、どうにかして抜け出そうとは彼も考えていた。
そしてJUDOがこの網走監獄に来てから、近くにエボルトや蓮等自分の仲間達の気を何となく感じていた。
これを起点にして、どうにか出る方法があるかもしれないことも、何となく感じていた。
しかし、その方法が分かる前に、唐突にしんのすけは解放された。
この予想外の出来事に、しんのすけの行動も遅れることになる。

「……そうだ!やい!よくもオラを…」
『違う!そいつから離れろ!!』
「へ?」

何が何だか分からなくとも、悪者とは戦わなくてはならないと思いしんのすけは立ち上がりJUDOの方を向く。
それに対し何かに気付いたかの様子なエボルトが、大きな声で警告を出す。
しかし、それももう遅い。
そもそも警告を出さずとも、彼らのこの距離感では止めることはできなかった。

366 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:11:23 ID:LueZvDC20
『カブト!』

JUDOの手には、別のアナザーライドウォッチが握られていた。
これは、風都タワーでの戦いを通じて手に入れたものだ。
持ち主を転々としながら、巡り巡って、JUDOの手元に渡ってしまっていたものだ。

「フン!」
「ガッ…!?」

JUDOはボタンを押して起動したウォッチをしんのすけの胸に押し付ける。
ウォッチは、胸からしんのすけの肉体の中に入り込む。

「ヴ、オ、オ…ア、アア゛…!」

しんのすけは胸の辺りに手を押さえ、もがき苦しむかのような様子を見せながらふらつく。
やがて体の正面がエボルト達のいる方に向いた時、彼の体は黒いもやのようなものに包まれた。

「ウグアアアアアアアーッ!!!」

そのもやのようなものが晴れた時、彼の姿が変わったことが確認できる。

『クソッ、やっぱそういうことかよ!』
「そんな…!」
「………嘘だろ。何で、しんのすけが、アイツに…!」

JUDOの行いによって起こったことの結界を見て、エボルトは自分の良くない予感が当たったことに隠れている顔をしかめる。
甜花も、しんのすけに起きた事象に言葉を失う。
そして何よりこのことにより感情を大きく揺さぶられていたのは、雨宮蓮であった。
彼は今しんのすけの身に起きたことを冷静に受け止めることは不可能だった。
身体側の記憶に由来するものとは言え、鳴海荘吉の二度目の無惨な死を目撃したことにすらまだ感情の整理が終わっていなかった彼に、このことは耐え切れるものではなかった。

野原しんのすけはJUDOにアナザーカブトウォッチを埋め込まれ、その肉体をアナザーカブトのものに変貌させられていた。
それは、かつて蓮が感情に身を任せて殺してしまったメタモンが変貌した怪人と同じものであった。
かつて人を殺した時の拳の完食の記憶が呼び起こされる。
その時の相手の顔としんのすけ(孫悟空)の顔が段々と重なっていく。
過去の罪が、これまで何度も共闘した仲間を蝕みながら再び彼の前に現れた。



「ほら、行ってこい」

JUDOはアナザーカブトと化したしんのすけの背中を掴む。
そうしてアナザーカブトを持ち上げ、エボルト達のいる方に向けて放り投げた。

そんなアナザーカブトに対しても、飛び込んで来る者がいた。
それは、ディケイドビルドの姿をした戦兎だ。
戦兎はジャンプで倒れたノワールビルドを飛び越え、こっち側に来た。

「待てっ!」

戦兎は空中でアナザーカブトに飛び付いた。
そのまま彼らは勢いのまま地面の方に落ち、一緒に転がっていく。

「おいしんのすけ、大丈夫か!?」

戦兎立ち上がってしんのすけに向き直り、彼の意識がはっきりしているかどうか確認しようとする。

「アァ…ウゥ、ア゛…」

アナザーカブト姿のしんのすけは意識が混濁しているかの様子で頭を押さえながらふらつく。

「ウウ…アアッ!」
「クッ!」

やがて戦兎の存在に気付いた様子を見せた後、戦兎の方に向かって拳を振るってきた。
戦兎はその攻撃は予想の範囲内だったのか、すぐに後方に向かって避けた。

367 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:12:02 ID:LueZvDC20
『やはり、暴走させられているみてえだな…』

エボルトも予想が当たっていたのかそう呟く。
むしろ似たようなことをもしもの時の手段として、エボルトは一応考えていたことがある。
最初にしんのすけに会った頃、もしも自分に危ないことが起こりそうなら、しんのすけをネビュラガスでスマッシュ化させて肉壁にすることを考えたことがある。
しかしまさか、別の奴がそれと似たようなことをやってくるとは、何てことをエボルトは考えてしまう。
アナザーライドウォッチを使うことにより暴走してしまうことは、風都タワーでの志村新八という前例がいた。
しんのすけにも同じことが起きていることは様子を見た感じでは明らかだ。
しかも本人の意思と関係無く無理矢理変身させられたことから、その症状は深刻で、ちょっとやそっとのことでは正気に戻らないかもしれない。
それに、相手がアナザーライドウォッチを2つ持っていたこと、しかもそのもう一つがかつてメタモンが使っていたものらしいこともも驚きだ。
何故壊れていなかったのか、そして何故JUDOの手元に渡ってしまっていたのか、その理由はエボルト達には分からなかった。

「しんのすけ…どうして、何で…!」

蓮は未だに大きく動揺している。
今起きたことがよほどショッキングだったらしい。
そこに戦いを続けられそうな程の強い意思は、見られない。

「ウッ……変身」
『ウォーターメロン!』

一方甜花は、生身の甘奈の状態から新たなロックシードを取り出す。
メロンとメロンエナジーのロックシードはノワールビルドに成分として吸われたために消失した。
けれども、戦極ドライバーに装填していなかったものはまだ何とか無事であった。

『ロックオン!ソイヤッ!ウォーターメロンアームズ!乱れ玉、ババババン!』

前回の戦いにおいてしんのすけから柊ナナを経由して甜花に渡されたウォーターメロンロックシードが再び使われる。
と言うよりは、戦う手段となるものはもうこれしか残っていないため、使わざるをえなかった。
甜花の姿は妹のものから、斬月・ウォーターメロンアームズのものへと変わる。

「おい、いい加減貴様も行け」『ドンッ!』
『ノワッ!』

JUDOはドッガハンマーを地面に殴り付け、ノワールビルドを叩き起こす。
ノワールビルドは慌てて飛び起き、頭を少し振った後に立ち上がる。
そしてエボルト達の方に向き直り、構え直す。

『クロックアップ』

そのタイミングでアナザーカブトが再び動き出す。
アナザーカブトの体内からくぐもった感じの音声が流れる。
それと同時に、彼の体の時間は加速する。
本物の仮面ライダーカブトと同じく、クロックアップの能力を発動した。

「アアアアアッ!!」
「グアッ!?」
『ウオッ!?』
「ヒィン!?」『ガンッ』

アナザーカブトが高速で動きながら攻撃を仕掛ける。
まずすぐ近くにいた戦兎が攻撃を受ける。
次にアナザーカブトはエボルト達の方に向かう。
そうして放たれた拳を、甜花が咄嗟にエボルトと蓮の前に出て、ウォーターメロンガトリングの盾部分で防ぐ。
攻撃を防がれた後、アナザーカブトはまた別の方に向かう。

「ムッ」

アナザーカブトが攻撃を仕掛けたのはJUDOであった。
なお、JUDOの方に向かった頃にはクロックアップの効果は切れていた。
自分の方に向かってきた拳を、JUDOは咄嗟にドッガハンマーの拳で受け止める。

368 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:13:34 ID:LueZvDC20
暴走状態にあるアナザーカブトに敵味方を区別することは出来なかった。
ただ闇雲に、視界に映った者達に向かって無差別に攻撃しようとする状態になっていた。
これにより、アナザーカブトは戦兎達だけでなくJUDOの方にも向かって行ってしまった。

「行って来いと…言っただろうが!」
「ウアアアアッ!!」

JUDOはドッガハンマーの先端の大きな拳を開き、開かれた手の平でアナザーカブトを掴む。
そうして今度は、戦兎の方へと投げ飛ばした。

『KAMEN RIDE DRIVE』

アナザーカブトが再び自分に向かっていることに気付いた戦兎はネオディケイドライバーにカードを差し込む。
相手のスピードに対抗するためにと、ビルドから仮面ライダードライブの姿に変える。

『ノワール!』

戦兎の方がそんなことになっている間に、ノワールビルドが次の行動に移していた。
ノワールビルドは再び左腕の鍵からコーヒーゼリーの鎖を生成する。
そしてその鎖を今度こそエボルト達のいる方に向けて射出する。
ラビットエボルボトルの効果はとっくに切れている、エボルトがこれを避けるために全員連れ出すことは出来ない。

『チッ!』
「エイッ!」

エボルトがトランスチームガンを可能な限り速く連射する。
甜花はウォーターメロンガトリングの銃口を向け、そこから弾丸の嵐を放つ。
それらの弾丸は確かにノワールビルドが射出したコーヒーゼリーの鎖に命中する。
これにより、コーヒーゼリーの鎖は彼らに届かない。
しかしそれを黙っては見ていない者もいた。

「フンッ!」
「あうっ…!?」

JUDOがドッガハンマーを投げつけた。
そのハンマーは甜花に当たる。
これによりガトリングの照準がズレる。
弾丸が当たらなくなり弾き飛ばされなくなった分の鎖が襲いかかる。

「きゃあっ!」

斬月・ウォーターメロンアームズが自分のアームズウェポンごとコーヒーゼリーの鎖に巻き付かれる。
柔らかいゼリーでできていても、纏わりついてくるこの鎖を外すことを甜花は中々できなかった。
そして、ここから鎖に襲われるのは甜花だけではない。


「ッ!……アルセーヌ!」

甜花が対応できなくなった分襲いかかる鎖に対し、これまで動けていなかった蓮がようやく対応に入ろうとする。
徒手空拳では纏わりつかれる可能性があるため、ペルソナを出してそれで対抗しようとする。


「エイハ!………グアッ!」

しかしまず前提として、SPの残量がかなり少ないという問題があった。
咄嗟に出せたのはアルセーヌのエイハだけだった。
そしてこれだけで、コーヒーゼリーの鎖を止めることはできなかった。
エボルトの射撃と合わせても不十分であった。
こうして捌き切れなかった鎖はやがて、蓮にも届き、纏わりついてきた。
体に鎖が巻き付いたことでバランスを崩した蓮は、甜花と一緒に地面を転がる。

『…チッ!』

自分一人では鎖を捌き切れないと判断したエボルトは一旦後ろに跳んでノワールビルドから距離をとる。

369 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:14:23 ID:LueZvDC20
『KAMEN RIDE DECADE』

エボルト達3人が鎖の対応に追われている中でJUDOは最初のディケイド激情態の姿に戻る。

『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE』
『!』

エボルトがノワールビルドから距離をとったタイミングで、JUDOは必殺技用のカードをディケイドライバーに装填する。
ライドブッカーをガンモードにし、銃口をエボルトの方に向ける。
すると、その銃口からエボルトのいる位置にかけて、大きなカードのようなエネルギー体が何枚も並んで現れる。

『フルボトル!スチームアタック!』

JUDOの様子を見たエボルトは再びラビットエボルボトルをトランスチームガンにセットする。
相手が放とうとしている技を、避けるためにだ。
先ほど使った時のように体に加速能力を付与し、相手の攻撃の射線上から外れるために。
そして相手が銃口のトリガーを引いた瞬間に、エボルトは確かに相手がしてくるだろう砲撃の射線から外れた。

『何ッ!?』

しかしエボルトがそこから動いた瞬間、奇妙な現象が起きる。
銃口の方から並んでいたカードの列が、エボルトに合わせて移動した。
そうしてエボルトの動きに合わせて、曲がった道を形成する。

「ハアッ!」

JUDOがトリガーを引くと、銃口からマゼンタ色のエネルギー砲が発射される。
これは、先ほど出現したカードの列に沿って、曲がりながらエボルトの方に向かっていった。
――以前DIOに放ったディメンションキックと同じく、ライドブッカー・ガンモードを使った必殺技であるディメンションブラストにも、追尾機能があった。


(………ん?ちょっと待て。嘘だろ?まさか、俺はここで終わりか?)

JUDOの放ったディメンションブラストを見て、エボルトはそんなことを感じ取った。
このエネルギー砲はどれだけ逃げようとも、当たるまで追ってくる。
この場において、これをこのまま避ける方法は無い。
ピンチの中、フル回転した脳が、これを上手い事誘導してノワールビルドの方にぶつければ良いんじゃないかみたいなことを考える。
しかしそんなことを考えている間にも、ディメンションブラストは迫ってきている。

(一か八か…!)

エボルトは体の加速に任せて、ノワールビルドの方に向かおうとする。

(………げ)

方向転換してノワールビルドの方を見てみれば、状況は悪化していた。
鎖に巻き付かれて身動きの取れない甜花(まだ斬月に変身した状態ではあるが)を、ノワールビルドが両手で掴んで体の前の方に持ち上げていた。
このまま前述の考え通りディメンションブラストをノワールビルドに当てて避けようとすれば、甜花も巻き込まれるかもしれない。
ノワールビルドはそんなことを予測していたわけではなく、ただ単純に握り潰そうとしていただけだったが。

(……仕方ねえ。こうなったらあいつはお構いなく(――嫌!せっかく…再会できたのに…!)……千雪!!)

こうなれば本当に甜花が巻き込まれてしまっても構わない。
そんな風に考えた瞬間、エボルトの肉体が一瞬だけ止まった。
『桑山千雪』が、エボルトの考えを拒否してしまったためだ。
このままではどちらにしても甜花が犠牲になると言ってももう遅い。
このことが、この瞬間のエボルトにとって最悪の形の作用を引き起こしてしまった。

(おい…待て、嘘だろ、おい!)

そうこうしている内にも、ディメンションブラストは迫る。
一瞬止まってしまったせいで、避けることはもう不可能になってしまった。
せっかくここまで生き残ったのに、ようやく本来の力を取り戻す目途も立つかもしれなかったのに、それが全て無駄になる。

(やめろ……やめてくれ…!)

身動きのとれない蓮はこの光景を見ているだけしかできない。
目の前で最も恐れていたこと、『仲間』が失われようとしているのを止められない。
悲痛な思いを叫び、命を嘆願する暇も無い。

(この、俺が――!)

思考が可能な時間はもはや0.1秒も無い。
これ以上無念に思うこともできないまま、エボルトはディメンションブラストの光に飲まれた。
蓮もその光景を何もできないまま眺めているしかなかった。






………はずだった。







『――――ジョーーーーカーーーーッ!!!』

370 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:15:15 ID:LueZvDC20



『ノワワッ!?』


現れたものを端的に言い表すと、それは大きな黒い玉のようなものだった。
黒い玉には、ひび割れのような模様と大きな目と口のようなものが見える。
玉の周囲には赤いもやのようなものも見え、それはまるで太陽から吹き出るガスのようでもあった。
黒い玉はそれまで何も無かった空間から突如として現れると、まずはノワールビルドに体当たりした。
それに驚いたノワールビルドは、ダメージは受けずとも、うっかりして両手の中の甜花を離してしまう。

「……何?」

次に声を出したのはJUDOだ。
彼のその疑問の声は、黒い玉に対してのものではない。

「……?………これは……?」

ディメンションブラストが命中したはずのエボルトが、何事も無かったかのように立っていた。
エボルトは確かに、JUDOの必殺技によりダメージを受けたはずだった。
ダメージは確かにあったことを示しているのか、ブラッドスタークへの蒸血は強制的に解除されており、エボルトの今の桑山千雪としての姿を晒していた。
しかしその肉体に、ディメンションブラストによってできたと思われる傷は一つも無かった。

「今度は何…グアッ!?」
「ウアア!」

戦兎も黒い玉の方を見て驚きの声を上げる。
しかしそっちの方を気にしてしまった隙に、ドライブの姿のままアナザーカブトから一発殴られる。
戦兎はまだ、他のことを気にする余裕は無い。


「アレは…」

コーヒーゼリーの鎖に縛られている蓮も黒い玉を見上げる。
彼は、その黒い玉の正体を知らない。
けれども先ほど玉から聞こえたと思われる声はジョーカーと、彼のことを叫んでいた。
そして、アレが何なのかを何となく感じていた。
アレは、ペルソナであることを。
それが今、ノワールビルドに捕まっていた甜花を…そして、エボルトを、助けたのだ。


『……ごめん、ジョーカー。遅くなった』
「!その声は…!」

黒い玉からもう一度鳴り響いた声に、ようやく全員がその正体を察する。
その声を、ここにいる者達は皆、今から数時間前には聞いていた。


『ここからは…私も戦う!』
「双葉…!?」

黒い玉の正体は、「プロメテウス」の名を冠するペルソナ。
そして声の正体は、そのペルソナの主。

前回の殺し合いの定期放送を担当した、ルッカの肉体の佐倉双葉。
心の怪盗団のハッキング等サポート担当、コードネーム:ナビ。

そんな彼女が今、世界の破壊者と歴史の破壊者達を相手にする闘争に参戦した。

371 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:16:57 ID:LueZvDC20
次から第3編となります、
タイトルは「Last Surprise③〜Rivers In the Desert〜」とします。

372 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:17:21 ID:LueZvDC20
ディメンションブラストが直撃したはずのエボルトを救ったもの、それは佐倉双葉のコープアビリティと呼ばれる種類の力によるものだ。
これは、仲間が戦闘不能になるほどのダメージを受けた時、それを一度だけ無効化するというものだ。
ただし、使えるのは一度の戦闘につき一度まで。
つまり、この場においてはもうこの手は使えない。


「貴様は…先の放送の小娘か?殺し合いの主催陣営の貴様が、何故こ奴らに味方する?」
『………さっきからお前に都合の良いことばかり起きているみたいだから、バランス調整に来たんだよ!』

JUDOから投げ掛けられる疑問の声に、双葉はプロメテウスの顔部分を向けながら大声で答える。

「……フン。我にはどうでも良い。全てまとめて破壊してやる」

双葉の言葉が真実かどうかは関係無く、JUDOは再度この場にいる者達への殺意を膨れ上がらせる。
同時に、カードとは別の新たなアイテムを取り出す。
それは前回の戦いでも使用していたディケイドの強化アイテム、ケータッチだ。

「………ハハハッ!そうこなくっちゃあな!」

JUDOの様子を見たエボルトは、自分も新たにエボルドライバーを取り出す。
どちらも、制限のかけられていた時間が過ぎていた。

「……本当に助かったぜぇ、佐倉双葉。まさかこんなタイミング良く来てくれるとはな」
『……私が来た理由はさっき言った通りだ。とにかく、行くぞ!』

エボルドライバーを腰に巻き付けながらエボルトは双葉への感謝の気持ちを心から述べる。
なお、双葉が本当に主催陣営としてバランス調整目的で来たとは思っていない。
先ほど述べられた理由は、十中八九建前なのだろう。
明らかに、こちら側の救助を目的にして来たのだろう。
こんな行動に出た理由はおそらく、エボルトがギニューにスマホを奪われたからだろう。
しかしだからと言ってまさかこうして直接やって来るとは、流石に予想外なことであるが。

そしてどんな方法を使ったのかは分かっているわけではないが、今自分が助かったのは彼女のおかげであることは察していた。
ただ恐らくは、自分を助けたのは本人にとっては仕方なくだろうとは考えていた。
前まで持っていたスマホのメッセージからして、双葉は誰かから自分のことをあまり信頼しないようにと水を差されていたようだった。
それでも助けたのは、こうでもしないと今の状況を打開できないからなのであろう。
佐倉双葉が本当に助けたいのは、ここで出てきたばかりに叫んだ言葉からして、恐らくはまだそこで倒れている自分の「相棒」の方なのだろう。
都合の良いことだなと思いながらも、今はそんなご厚意にも甘えさせてもらう。
おかげで、生きてまだ戦いを続けられそうであった。
自分を追い詰めたディケイドへの、意趣返しの時間が来たと感じていた。

『ラビット!ライダーシステム!エボリューション!』
『KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTO DEN-O KIVA』


エボルトは桑山千雪の姿の上からエボルドライバーにボトルをセットし、操作する。
ここで使うのは、今回では初めてドライバーに装填するボトルだ。
対するJUDOはディケイド激情態の姿でケータッチを操作していく。

『Are you ready?』
「変身!」
『ラビット!ラビット!エボルラビット!フッハハハハハハハハハハ!』

エボルトは桑山千雪の姿から、仮面ライダーエボル・ラビットフォームの姿へと変わる。
ビルドとほとんど同じな赤い顔をしたエボル・フェーズ3が、新たにこの殺し合いの地に降り立つ。

『FINAL KAMEN RIDE DECADE』

それと同時に、JUDOもディケイド激情態のまま、ディケイド・コンプリートフォームへと再び姿を変えていた。

『さあ、ここからが第2ラウンドだぁ!!』



『今は負傷者たくさん!このままじゃマズい!だから…私が守る!』

戦闘が再開される前に、双葉がまた別のコープアビリティを使用する。
アクティブサポート…これを、雨宮蓮、エボルト、桐生戦兎、大崎甜花の4人に向けて発動した。
このアビリティにはまず前段階として、モラルサポートというアビリティの効果が先に起きる。
モラルサポートの効果は、攻撃力or防御力or命中・回避率の上昇、それかもしくは、体力の中回復だ。
ここにおいてはまず、その体力回復の効果が出た。
次にアクティブサポートの効果として、対象者全員の物理・銃撃の攻撃スキルの威力、そして魔法属性による攻撃スキルの威力がどちらも一度だけ2.5倍となる。
それぞれ、ペルソナのスキルのチャージとコンセントレイトと同じ効果だ。
それから、SPも回復する効果がある。
つまり、雨宮蓮は今、この戦いでこれまで使えなかったスキルを、使えるようになったのだ。

373 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:18:34 ID:LueZvDC20
「来い!!貴様らの出番だ!」

双葉が蓮達に回復とバフをかけた時、JUDOは突然何故か後ろの方に向かって何かに呼び掛けた。
すると、その声に応えるかのように、新たな物体がこの戦いの場に現れる。

『!?……いつの間にそんなのを出してやがったのか!?』
「………こんなこともあろうかと、初めからな」

それらは、地面に沿って低空飛行しながら現れた。
そこにあったのは、ホバーバイク「アギトトルネイダー」とそれの上に置かれた大剣「ブレイドブレード」。
それらが、破壊された庁舎よりもさらに奥の方から、高速で移動しながら現れた。
JUDOはこれらを、最初に姿を現す前から、庁舎の入り口から少し離れた所で隠すように待機させていたようだった。

「ハッ!」

JUDOはアギトトルネイダーの上にコンプリートフォームのまま飛び乗り、その上に置かれていたブレイドブレードを拾い上げる。
そしてそのまま空中を移動しながら、攻撃対象へと向かっていく。
ただしそれは、先ほどまで相対していたエボルトではない。
JUDOが向かおうとするのは、空に浮かぶペルソナ…プロメテウスの中の佐倉双葉の方だ。

『ノワール!』
「ひぃん!?」

このタイミングでノワールビルドも再び動き出す。
甜花は体力は回復したものの、コーヒーゼリーの鎖にはまだ巻き付かれて抜け出せず地面に転がったままの状態にあった。
ノワールビルドがそんな甜花に対し再び襲い掛かろうとしていた。

「(甜花ちゃん――!)………チッ!」

エボルトは『千雪』の意思に導かれるままに、双葉を襲おうとしているJUDOではなく、甜花を襲おうとしているノワールビルドの方に向かう。
今後他の主催陣営と戦うことを考えたら、そいつらに関する話を聞ける双葉の方を優先するべきだろうに、何故だかこの時の『千雪』の気持ちに逆らえなかった。

「グッ…」

一方、雨宮蓮の方はSPが回復したことで使う余裕のできたペルソナのスキル、アルセーヌのスラッシュを使う。
これにより、自分を拘束しているコーヒーゼリーの鎖を断ち切ることを試みた。
この試みは成功し、蓮はようやく鎖の呪縛から解き放たれる。
…なお、先ほど双葉がかけたチャージ効果による物理攻撃の威力上昇は、このスラッシュにより消費された。

「双葉!」

鎖から脱出できたタイミングで、JUDOが空中を飛んで双葉の方に向かっていることに気付く。
蓮は慌てて、遠距離攻撃のできるスキルを持つペルソナに切り替えてJUDOを止めるための攻撃をしようとする。
しかしそれは、間に合いそうにはなかった。
単純に、アギトトルネイダーに乗って飛んでいるJUDOの移動速度が速く、狙いを付けようにもそうしている間に双葉の方に届きそうであったからだ。

『KAMEN RIDE ZERO-ONE 飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a riderkick.』
「ハアアアァッ!!」
「ムウ!?」

だから、そんな蓮の代わりに先に動いた者がいた。
ドライブからゼロワンへと姿を変えた戦兎が、勢いよくジャンプして向かって来た。
戦兎は、やや上向きのライダーキックの姿勢をとって、JUDOに迫った。
それが自分にぶつかりそうになっていることに気付いたJUDOは、咄嗟にブレイドブレードの持ち手近くの面部分でライダーキックを防ぐ。
勢いあるライダーキックを受けたJUDOは体勢のバランスを崩し、アギトトルネイダーの上から落下、やがて着地する。
戦兎の方はキックの反動でJUDOから離れ、そのまま落下して着地する。

(…そうだ、しんのすけは!?)
「うぅ…」

戦兎が相手にしていたはずのアナザーカブトにされたしんのすけのことを気にし、蓮はそちらの方に顔を向ける。
見てみれば、今しんのすけは地面に倒れ込んでいるようだった。
アナザーカブトへの変身は、解除されていた。

374 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:19:13 ID:LueZvDC20


数十秒前…

「これは…?」

双葉のアクティブサポートの影響で、自分の体力と傷が回復されていることに戦兎も気付く。

「ウアアアアアッ!!」

アナザーカブトはそのことはお構いなしに襲い掛かり続ける。

(何だ…?どこかからか力が湧いてくる…?)

アナザーカブトの攻撃をドライブの姿で捌きながら、戦兎はそんな風に感じていた。
これまで、アナザーカブト相手に攻撃しても手ごたえは何故かあまり感じなかった。
けれども今なら、それを突破できるような、そんな予感がした。

今戦兎の目の前にいるアナザーカブトは、頑丈な孫悟空の肉体が素体にされている。
そのためか、他の者達が変身したものよりも更に攻撃が効きにくくなっていた。
しかし今、戦兎もアクティブサポートの影響でペルソナのチャージスキルと同等の効果がかけられた。
本来のチャージスキルの効果に、ペルソナによるスキル以外に効果があるかどうかは、不明だ。
ただここにおいては、少なからずの影響はあるようだった。

なお戦兎は同じ頃にエボルトがエボル・ラビットフォームの姿になっていることは認識している。
忌々しい思い出のあるその姿に思うことが無いわけではないが、今はそれを一々気にしている暇はない。


「痛いのは少し我慢してくれよ…!」
『FINAL ATTACK RIDE D D D DRIVE』

戦兎はネオディケイドライバーに必殺技発動用のカードを差し込む。

「オ、ウ…!?」

その直後、アナザーカブトの周囲を取り囲むように4つの大きなタイヤが回転しながら現れる。
同時に、戦兎の周囲に仮面ライダードライブ専用の赤い車…トライドロンの形をしたエネルギー体が現れる。
トライドロンは車体をタイヤが地面に沿うように90度傾きながら、戦兎の周囲を円を描きながら回り始める。

「フッ!ハッ!ホッ!ハッ!フッ!ハアアアアアァッ!!」
「ウワアアアアアッ!」

アナザーカブトはタイヤに弾き飛ばされてトライドロン型のエネルギーが作るサークルの中に放り込まれる。
戦兎はそこで回るトライドロンを蹴り、その反動で勢いをつけアナザーカブトの方にもキックを放つ。
一度蹴ったらその反動も利用してまた回るトライドロンの方に行き、それも蹴って反動で再びアナザーカブトの方に…。
この流れを繰り返し、まるで部屋の中を撥ね回るスーパーボールのように、アナザーカブトに複数回キックを浴びせる。
そして最後にはライダーキックの姿勢を保ち、アナザーカブトにその最後の一撃を与える。
これぞ、仮面ライダードライブの必殺技、スピードロップであった。
それが終わるとトライドロン型のエネルギーは消え、アナザーカブトは地面を転がり、その体内からウォッチを排出して元のしんのすけ(孫悟空)の姿に戻った。



「すまん…!少しやり過ぎたかもしれない」
「桐生さん…いえ、しんのすけが無事ならそれで…」

しんのすけが無事アナザーカブトの変身が解けたことに蓮は安堵する。
全くのノーダメージでは済まなかった点についてはしょうがないと受け入れるしかない。
戦兎が放ったドライブのファイナルアタックライドは、チャージの効果である程度強化されていた。
そのためにしんのすけからウォッチを弾き出せた。
なおこれにより、戦兎からチャージ効果は消えている。

蓮は今はただ、しんのすけがもうこれ以上暴走させられないようになったことについて戦兎に感謝している。
しんのすけの傷についてはペルソナのスキルで回復させてやれば良い。
これで後は、JUDOのディケイドとノワールビルドをどうにかするだけ。
そのはずだった。

『ATTACK RIDE CLOCK UP』
「「!」」

蓮がペルソナを切り替え、しんのすけに対し回復スキルを使おうとしたタイミングで、その音声が流れてきた。
地面に降りた後のJUDOが、技を発動してきた。
戦兎と蓮はそれによる攻撃が自分たちに来ると思い、身構える。
音声からして、今相手が発動したものは例の高速で動く能力であることは分かっている。
攻撃を防ぐため、後方に飛びながら防御のための構えをとった。

375 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:19:51 ID:LueZvDC20
しかし、2人の読みは外れることになる。
クロックアップを発動したJUDOは、2人の方に近付かなかった。
JUDOが向かった先は、しんのすけの方だった。

「しまっ…!」

蓮はJUDOのこの行動をしんのすけを殺すためだと認識する。
だからまた咄嗟に、今度はこれから救助するためのスキルを発動する準備を行おうとする。
だが、その読みもまた外れるために、更にもう一手遅れることになる。

『カブト!』
「なっ!?」

JUDOはしんのすけの近くに落ちていたアナザーカブトウォッチを拾い、これを起動する。
弾き出されたウォッチが壊れてなく、すぐに起動し直せることを蓮も戦兎も気付かなかった。
すぐに使い直せることについては、ウォッチの性質を知らなかったために仕方がないないことだろう。

「う……お兄、さ……」
「貴様にはまだ踊ってもらうぞ」
「ガッ…!」

意識がうっすらと戻ってかたらしいしんのすけが、蓮の方を見て声を微かに上げる。
しかしその言葉が最後まで紡がれる前に、JUDOは起動したウォッチを再びしんのすけに押し付け埋め込む。

「こいつもくれてやる」
「ムグッ!?」『ゴクッ』

しんのすけが再びアナザーカブトへと変貌する直前、JUDOはアクションストーンを取り出す。
そしてそれを、強引にしんのすけの口の中に捩じ込んだ。
突然口の中に入れられたそれを、しんのすけは飲み込んでしまう。
しんのすけはかつて本来の肉体でアクションストーンを飲み込んだことはある。
その時は自分から、飴玉と間違えたことによる誤飲だった。
しかしここにおいては、他者の意思で目的ありきで体内に仕込まれた。

「ウ、ギ、アアアアアァァァーッ!!!」
「くっ…!」

しんのすけ(孫悟空の姿)が倒れたまま再び黒いもやに包まれ、その姿を再びアナザーカブトへと変貌させる。
それと同時にアナザーカブトから発生する「気の波動」に気圧され、蓮と戦兎が少し後退りさせられる。
JUDOによって無理矢理飲み込まさせられたアクションストーン、そこから引き出されるエネルギーがアナザーカブトを「強化」していた。
蓮達が感じた「波動」は、それによって漏れ出したエネルギーの余波だった。

「そんな…」

雨宮蓮の心に再び暗雲が立ち込め始める。
せっかく助けられたかもしれないと思ったしんのすけが、再び自分に暗い因縁のある怪人の姿に変貌してしまった。
更に今気圧されたことから、前よりも手強くなっているかもしれないことを感じ取る。
状況は明らかに以前よりも最悪と言えた。


『ノワール!』
「ひぃんっ!」
「うおっ!?」

他の問題のことも忘れてはいけない。
エボルトが甜花を抱えながら、ノワールビルドから逃げながらこちら側の方へと近付いて来ていた。
甜花に巻き付いていた鎖は外されている。
エボルトの手には、新たなスチームブレードが握られている。
エボルドライバーの力で新たに生成したそのブレードで、エボルトは甜花を縛っていた鎖を切った。
そこから甜花を抱えてノワールビルドから離れようとしたところ、今のこの場にも近付きつつあった。

『ノッ!』

ここでノワールビルドが別のことに気付き、そちらに注目を移す。
それは、JUDOが落ちた後に彼の方に戻ろうと空中を移動する「アギトトルネイダー」であった。

『ノワール!』
「は?」

ノワールビルドは、そのアギトトルネイダーに向けて新たなボトルを向けた。
アギトトルネイダーは粒子となりながら、そのボトルに吸い込まれて行った。
この突拍子もない行動に、この場にいる何人かは動きを止める。
JUDOは、自分の操り人形のはずなのに自分が武装として出していたものを消滅させたノワールビルドに対し、呆れの声しか出せなかった。

『余所見するとは愚かだなぁ!』

その隙に、エボルトはエボルドライバーのハンドルを操作して必殺技の準備をしていた。

376 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:20:41 ID:LueZvDC20
『Ready Go!』
『エボルテックフィニッシュ!』

『ハアッ!』
『ノワアアアアアアアァァァーッ!!?』

『チャオ♪』

エボル・ラビットフォームの必殺キックがノワールビルドに突き刺さる。
元々高威力な上にチャージ効果の影響で威力が上がっているそれは、ノワールビルドを勢いよく後方へと吹っ飛ばす。
ノワールビルドは背後にあった監獄内の建物をいくつか破壊しながら飛ばされた後、やがて停止する。

『さーてと、これで後は…』
『いや、まだだ!!』
『何?』

今の自分のキックの威力が上がっていたことはエボルトも感じ取っていた。
このキックを受けて無事なはずがない、生きててもすぐ動けるはずがない。
そう思ってエボルトが発した言葉を、上空の双葉が否定した。

『ノワアァーールッ!!』

吹っ飛ばされて倒れ込んだものの、ノワールビルドはすぐに立ち上がっていた。
そしてその右手の中には、先ほどアギトトルネイダーを吸い込んだボトルが握られていた。
ノワールビルドはそれを自分のベルトの右側部分に装填する。

『ドラゴン』
『ロック』
『ベストマッチ』

「何!?」

今度驚きの声を上げたのは戦兎だ。
これまでも本物のビルドと似たような機能を使ってきたから、ベルトにベストマッチ判別機能もあるかもしれないことは頭の片隅にはあった。
しかしここでそのベストマッチの組み合わせ…と言うよりは、そのボトルの成分が来たことについては、反応せざるを得なかった。
ドラゴン…それは彼の相棒である、万丈龍我を象徴する成分であるからだ。

『封印のファンタジスタ キードラゴン』

ノワールビルドのドライバーがベストマッチを表すフォーム名を宣言する。
同時に、ノワールビルドの頭部左側、上半身右側、脚部左側のこれまでラビットの赤を表していた部分が、ドラゴンを示す青に染まる。
ノワールビルドは、本来のビルドのキードラゴンフォームに相当するベストマッチフォームへとビルドアップした。

ドラゴン…龍の成分は、アギトトルネイダーのアギトの部分から採取された。
仮面ライダーアギトは、龍をモチーフとされているためにその成分が採取できた。
主演の方が「アギトはクワガタでしたよ」とか言っていたらしいことについては、忘れてください。


『そいつらアナザーライダーは、同じ仮面ライダーの力を使って核となるウォッチを破壊しなければ完全には倒せない!』

佐倉双葉が上空から注意喚起を出す。

『カブトの方はいくら倒してもJUDOが復活させてくるだろうし、ビルドの方は元はウォッチそのもの。このままじゃ倒せない!』
『なるほどねえ…』

これにより、ようやくエボルト達にもアナザーライダーがどういう存在なのかが伝わる。
どうしてそうなるのか、詳しい仕組みを説明する時間は無い。
とにかく、特殊な条件下でないと完全な攻略はできない、そのことさえ伝われば良い。


「それなら…!」
『KAMEN RIDE BUILD 鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』

双葉の話を聞いた戦兎は、ゼロワンから再びビルドの姿になる。

「すまん、他は頼む!」
『あっ、ちょっと…!』

双葉の制止を振り切り、戦兎はノワールビルドの方へと向おうとする。
双葉は戦兎に向けた言葉を続けようとするが、それも言ってられなくなる。

「あとこいつも貰うぞ!」
『おい戦兎!』

向かう途中で、戦兎はついでとばかりにエボルトの腰のホルダーから、グレートドラゴンエボルボトルをすり取った。
エボルトも双葉と同じく戦兎を制止しようとするが、やはりこちらもそうも言ってられなくなる。
他の所からの攻撃が飛んでくるからだ。


『クロックアップ』
「ワアアアアアーッ!!」
『ったく…イヤイヤ期はいい加減にしろよしんのすけ!!』

アナザーカブトが再びクロックアップで向かってくる。
その攻撃を、エボルトが前に出て迎え撃つ。
高速で放たれたアナザーカブトの拳を、エボルトはスチームブレードで受け止める。

377 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:22:06 ID:LueZvDC20
『DEN-O KAMEN RIDE LINER』

JUDOの方は一旦ブレイドブレードを地面に突き立て、ケータッチを操作する。
JUDOの隣に、仮面ライダー電王・ライナーフォームが現れる。
電王・ライナーフォームの手にはデンカメンソードが握られている。

『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DEN-O』

JUDOはもう一度ブレイドブレードを手に持った後、カードを腰の右の方に移動させたディケイドライバーに装填する。
JUDOと電王・ライナーフォームの間に、電車の線路のようなものが形成されていく。
彼らは、同じ動きでそれぞれの剣を構えながら、その線路の上に並んで乗る。
そんな彼らに、時をかける列車:デンライナーの形をしたエネルギーが被さり中に入れるように現れ、彼らと共に線路の上を走って行く。
これは本来の電王・ライナーフォームが持つ必殺技、通称「電車斬り」。
他の名称もあるらしいが、ここでは割愛させてもらう。
この技が向かう先は、蓮のいる方向だった。

アギトトルネイダーを消滅させるという、明らかにこちら側の意図に反する行為をしたノワールビルドへの制裁等は今はしない。
一応はそれによってパワーアップはしているようだから、向こう側の方はあとは流れに任せるつもりのようだった。


『ジョーカー!」

このことに気付いた双葉がそちら側の方に注目を向ける。
双葉は同時に、プロメテウスの下からその今の彼女の姿を露出させる。
プロメテウスの下の方から機械のアームのようなものが何本か出現し、彼女はそれに掴まりながら出てきた。
その顔は、前の放送での立体映像と同じく、ルッカのものとなっていた。

「火炎ガードキルを頼む!」
「!?…分かった!」

双葉が突然ペルソナから外に出たことに驚くも、蓮はその言葉に従い咄嗟にペルソナをセトに切り替え、JUDOのいる方に向かって火炎ガードキルのスキルを放つ。
これにより、JUDO…よりも前で線路の上を走っている電王・ライナーフォームの火炎属性に対する耐性がゼロとなった。

「メガトンボム!」
「ムウッ!?」

双葉は蓮に迫るJUDOと電王・ライナーフォームに向かって爆弾を放った。
これは、今の彼女の身体であるルッカが持つ火属性の魔法攻撃の1つ、メガトンボムであった。
メガトンボムは、電車斬りが蓮に届く直前にJUDOの目の前に着弾した。
メガトンボムは爆発し、その爆風と熱で召喚されていた電王・ライナーフォームが消滅する。
火炎ガードキルで耐性を消されていたために、そのダメージに耐え切れなかったのだ。
JUDOもまた、爆風により少し吹き飛ばされる。

ディケイド・コンプリートフォームが放つ電車斬りは、不発になるというジンクスがある。
近年(2024年)においても、ディケイドに似ている某ゴージャスによるゴージャスなディケイド・コンプリートフォームの時も、不発であった。
そのジンクスが、この場においても適用されてしまった。

『ウォーターメロン・スカッシュ!』
「えーーーい!」

甜花もここで行動を起こす。
戦極ドライバーを操作して必殺技の発動状態にする。
そしてウォーターメロンガトリングの砲口を、JUDOの方へと向ける。
ガトリングからいくつものエネルギー弾が高速で連射される。

「グウウ…ッ!」

JUDOは前と同じようにブレイドブレードの面積の広い部分を前に出して防御する。
ガトリングから発射された弾丸のほとんどは、その大剣に命中する。

「ヌウ…!」

しかしやがて、弾丸の猛攻に押されて盾代わりにしていた剣をJUDOは手放してしまう。
甜花にも残っていたチャージ効果で、ウォーターメロンアームズとしての必殺技も強化されていた。
これにより攻撃に耐え切れず、JUDOはブレイドブレードを弾き飛ばされてしまった。
ガトリングによって大きなダメージを受けたブレイドブレードは、地面に落ちた後にまるで光が解れるかのように消滅した。

378 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:22:51 ID:LueZvDC20
「グアアアアアァァッ!!」
『さて、それじゃあこっちも決めてやるとするか!』

JUDOが少し吹っ飛ばされ離れたのを確認したエボルトはそう宣言する。
アナザーカブトとは何度か互いに攻撃を撃ち合わせていた。
アクションストーンのエネルギーで強化はされていたが、エボルの性能もまた強力、互角に撃ち合えていた。

やがてエボルトは、片手から念動力と思われるものを発生させて、直接触れない形でアナザーカブトの頭を掴むことに成功する。
アナザーカブトは足を地面から少し浮かせられて空中に固定された状態にさせられる。
エボルトは次にもう片方の手に持っていたスチームブレードを地面に突き立て、少し前と同じようにエボルドライバーのレバーを回す。

『Ready Go!』
『エボルテックフィニッシュ!』

今度の操作では、足ではなく手の方に必殺のエネルギーが充填されていく。

『さあ、躾の時間だ!!』
「アアアアアァァァーッ!!」

エボルトは念動力を発していた手を離し、そのままその手で拳を握りしめ、それでアナザーカブトを殴り飛ばす。
アナザーカブトもこれにより離れた場所へと吹っ飛ばされる。



『ノワール!』

数十秒前に更に一方、ノワールビルドは戦兎に対し攻撃を仕掛けようとしていた。
左腕の鍵からコーヒーゼリーの鎖を射出する。
それと同時に、右の拳を握りしめてそこから蒼炎を滲み出させる。

「そいつはなあ…お前みたいなのが使って良い力じゃねえんだよ!」

戦兎は片手にガンモードにしたドリルクラッシャーを構える。
そしてそれを使い、自分に向かってくるコーヒーゼリーの鎖を打ち落としながらノワールビルドに向かって走る。

『ノワール!』
「ハアッ!」

ノワールビルドが蒼炎を纏った拳を戦兎に向かって振り下ろす。
戦兎はその攻撃を横向きに跳んで避ける。
ノワールビルドの拳は地面に勢いよく突き刺さり、クレーターを作る。

『Ready go!』

戦兎は次に、ドリルクラッシャーに先ほどエボルトから無理矢理取ったグレートドラゴンエボルボトルを装填した。

『ボルテックブレイク!』
「ハア!」
『ノワッ!?』

戦兎がガンモードのドリルクラッシャーのトリガーを引いた。
銃口から先ほどノワールビルドの拳が纏っていたものと似た蒼炎がドラゴンのような形をとりながら発射される。
そのドラゴンはノワールビルドの足に命中する。
足に大きな衝撃を受けたノワールビルドはバランスを崩し片膝をつく。

『FINAL ATTACK RIDE BUI BUI BUI BUILD』
「さっさとケリを付けさせてもらう!」

戦兎はネオディケイドライバーに必殺技用のカードを装填する。

『ノ、ノワール!?』

突如として同じ形をしたグラフのようなものがノワールビルドの両側に出現する。
このグラフが何を表しているかは不明だが、Y軸のある部分をy0と置き、そこから仮にθと置かれた角度から放物線を描いている。
この放物線はX方向に進んでもX軸と交わることは無く、段々なだらかにX軸と平行に近づくような形で曲線を描いている。
ノワールビルドは、このグラフのX軸と放物線の先の方に横から挟まれる形で拘束される。

「ハアァ…!」

戦兎が一旦地面に突如現れた穴の中に落ちる…かと思いきや、すぐに一緒に落ちたはずの地面部分の上に立ちながら急上昇する。
上昇がグラフのy0の部分に近付くと、戦兎は上昇した部分から跳び、グラフの放物線の頂点部分に降りる。

「ハアアアァーッ!!」
『ノワアアアアァァァーッ!?』

そしてそこから、まるで滑り台のようにグラフの上をライダーキックの姿勢で滑り降りる。
そのキックはやがて、勢いを付けながらノワールビルドの腹部へと突き刺さった。
これぞ、仮面ライダービルドの必殺技、ボルテックフィニッシュである。
キックを受けたノワールビルドはまたまた、後方へと吹っ飛ばされる。

379 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:23:40 ID:LueZvDC20
「よし、これで…」
「待て!それでも駄目なんだ!」
「え?」

ウォッチの力で変身したアナザーライダーは、同じライダーの力で攻撃すればウォッチが破壊されて完全に撃破したことになる。
その先ほどの双葉の説明を聞き、ならばノワールビルドは同じく仮面ライダービルドの力で攻撃すれば倒せる。
そう考えて戦兎は今1人でノワールビルドに挑み、必殺の一撃を当てた。

しかしそれでも、双葉はまだ倒せてないと言う。
JUDOが少し離すことができたために、その分僅かな余裕ができ、先ほど続けられなかった話ができるようになっていた。

「確かにあいつを倒すにはビルドの力が必要だが、それだけじゃないんだ!何故そうなるのかは長くなるから説明を省くが、あいつは今『プリキュア』の力も一緒にぶつけなきゃ倒せないんだ!」
「何だって!?」
「原因は、あいつがウォッチと一緒に使っていたカードだ!」

双葉の言葉に戦兎は信じられないといった感じの反応を見せる。
『プリキュア』、それは戦兎にとっては未知の単語。
せっかくようやく倒したと思った敵が、実は完全に自分がよく知らないものも必要だなんて後から言われたら、うんざりとした気持ちが出てきてしまう。

「プリキュア…!?それって、ヴァニラ…さん、の…?」
「ヴァニラ……え?あいつが…!?」

プリキュアという単語に、この中では甜花だけ聞き覚えがあった。
この殺し合いにおいてヴァニラ・アイスが変身していたのがその存在…ということをDIOと一緒にいた時に聞いたことがあるような…気がした。
まさかの人物の名前が出てきたことに戦兎は驚く。
確かにヴァニラ・アイスは、放送の死亡者発表で出てきた画像と、実際に遭遇した時の姿に違いはあった。
それはつまり、実際に遭遇した時の姿が『プリキュア』に変身していたものである可能性を高くする。
そしてこれは、ノワールビルドを倒すには、そのヴァニラ・アイスの協力が必要だったかもしれないことを意味していた。
しかし、ヴァニラ・アイスは既に死亡している。
彼が持っていた『プリキュア』の力の出どころも不明。
そもそももし彼が生きていたとしても、自分たちに協力してくれるような奴だとは思えなかった。


『ノ、ノワ…』
『……本当にまだ生きてやがるな』

やがてノワールビルドが再び起き上がり、動き出す。
けれどもその動きは、これまでよりどこかぎこちないものになっていた。
ノワールビルドを完全に倒すにはビルドだけでなくプリキュアの力が必要。
けれども、ビルドだけの力でもノワールビルドにダメージを与えることは可能なようだった。
戦兎のビルドの必殺キックを受けたことで、ノワールビルドは少し弱ったようだった。

「おい!あんたはそのプリキュアとやらの力を出せるモノは何か持ってないのか!」
「………すまん!ない!」

戦兎は双葉にプリキュアの力を扱うためのアイテムがないかと尋ねる。
けれども、その返事はNo。
彼女は、そういった類のアイテムを持ち出すことまではできなかった。


「いつまで無駄話をしているつもりだ?」

ここで、JUDOが再び動き出す。

『RYUKI KAMEN RIDE SURVIVE』

JUDOの隣にまた新たなライダーの姿が現れる。
仮面ライダー龍騎サバイブ、生き残るために進化した赤き龍の騎士が、破壊者の隣に降り立つ。
龍騎サバイブはJUDOの動きに合わせて、専用武器であるドラグバイザーツバイを構える。

『FINAL ATTACK RIDE RYU RYU RYU RYUKI』

JUDOがディケイドライバーに必殺技用のカードを装填する。
同時に、JUDOはライドブッカーをソードモードに変え、龍騎サバイブもドラグバイザーツバイから刃を展開し、ドラグブレードと呼ばれる形態に変える。
2人の持つ刃にエネルギーが充填されていく。
次にJUDOは、その刃を振るう目標の方に顔を向ける。
それは、プロメテウスと共に空中に浮いている状態にある佐倉双葉だ。
コンプリートフォームと龍騎サバイブによるファイナルアタックライドは、斬撃を飛ばすことができる。
それを、佐倉双葉に向けてやろうとしていた。

380 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:24:21 ID:LueZvDC20
「待て!」

これを止めるために雨宮蓮が行動に移す。
セトのペルソナスキルの1つ、ワンショットキルをJUDOに向けて放つ。

「ムウ…ッ」

ワンショットキルが命中したことによりJUDOは後退る。
だが、まだ龍騎サバイブは消えていない。
JUDOは耐性を立て直そうとし、今度こそ双葉に必殺技を当てて殺そうとする。

「ギイイイイィィィーッ!!」
「グウッ…!」

そこに突っ込んで来るのは、暴走状態にあるアナザーカブトであった。
エボルの必殺技を受けて吹っ飛ばされた後も、その変身は解除されていなかった。
アナザーライダーは起き上がった後、溢れ出る力に任せてとりあえず目についたJUDOに襲いかかった。
それは、JUDOが丁度龍騎サバイブと共に剣を振るったタイミングであった。

「うわっ!』

自分に攻撃が届きそうなことに気付いた双葉は、慌ててプロメテウスの中に戻る。
その丁度真下を、JUDOと龍騎サバイブが飛ばした斬撃が通り過ぎる。
アナザーカブトが襲いかかったことにより、JUDOの攻撃の狙いが少し外れた。
このことと先に蓮がワンショットキルを放っていたことも合わせ、間一髪で双葉は攻撃を避けられた。
攻撃が放たれた後、龍騎サバイブはJUDOの隣から消え失せる。


『っ……桐生戦兎!あんたに頼みがある!』
「何だ!」
『モノモノマシーンを使うんだ!』
「…ハアッ!!?」

双葉からの突然の頼みごとに、戦兎は大きく驚く。
と言うのも、まずそもそも前回モノモノマシーンを使ってしまったせいで今酷い状況になってしまっている。
役立つアイテムが出ることも分かっているが、いきなりギャンブルをしろと言われてもそれで大丈夫なのかと思ってしまう。
それに戦兎が今首輪を持っているのは、もう一度解析するためだ。
確かに一度は首輪の解体に成功しているが、謎が残っているためにもう1つとっておいていた。
これも使ってしまっては、気になっている謎が解けなくなってしまうかもしれない。

『ノワールビルドを倒すにはこれしかない!今なら大丈夫なんだ!首輪の解除のことも心配いらない!頼む…信じてくれ!』

ビルドとプリキュアの力が無いと倒せない怪物、ノワールビルド。
それを倒すためにはモノモノマシーンを使うしかないと双葉は言う。
それはつまり、今ならモノモノマシーンからプリキュアに関連するアイテムが出るということを意味していた。
モノモノマシーンで得られるものはランダムのはずなのに、何故次に出るものが分かるのか、そんな疑問が出てくる。
首輪についても、ここで使ってしまっても後から解除できると言っている。
彼女の口振りでは、それは自分が生存参加者に付いている首輪を解除を試みても問題は起きないという意味なのか、それとも彼女の方で首輪を解除する手段があると言っているのか、それともまた別の理由か…。
この点についてもどれの意味で言っているのかは分からない。
彼女はさっきまで主催陣営に居たからと言って、情報を信じて良いのか、そんな思いも出てくる。

『頼む、時間が無いんだ!』
「……俺からも頼む!」

双葉の言葉に蓮も同調する。
蓮から見てみれば彼女は本来自分が知る双葉とは違う点も多々ある。
それでも、必死で信じてくれと希うその声は、自分の知る彼女と重なるようにも感じた。
この場所の戦いをここまで助けてくれた彼女を、信じてあげたかった。

381 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:25:00 ID:LueZvDC20
「……分かった!ちょっと待ってろ!」

蓮の後押しもあり、戦兎も双葉の言う通りにすることを決める。
モノモノマシーンの場所は先も行ったため覚えている。
戦兎の現在地からはそう遠くない。
取りに行くのにそう時間はかからない。
戦兎は全員に背中を見せる形をとりながら、モノモノマシーンの場所へ向けて駆け出す。



「行かせるか!」
「ギイイィィッ!」

JUDOもこのことを黙っては見過ごさない。
自分を襲っていたアナザーカブトを再びエボルト達のいる方へと放り投げる。

『…まだ躾が足りないみたいだな!』

またまたけしかけられたアナザーカブトの相手は再びエボルトが行う形になる。

アナザーカブトを放り投げた後のJUDOは、ケータッチを操作してまた新たなライダーを召喚しようとする。

「ダメ!」
「やらせるか!」
「ムッ…!」

JUDOを止めるべく甜花と蓮が動く。
甜花はウォーターメロンガトリングから弾丸を発射し、蓮は先と同じくワンショットキルのスキルを発動する。
その攻撃にJUDOは怯み、ケータッチの操作を中断させられて、更に後退りさせられる。

『ノ、ノ、ワーールッ!!』
『危ない!』

弱っていたノワールビルドも動き出す。
再び右腕の拳に蒼炎を纏いながら、蓮のいる方に突っ込んで来る。

「ッ…火炎ガードキル!」

双葉の声でそれに気付いた蓮がノワールビルドに向けてスキル名を叫びながらスキルを使用する。
蓮がその行動をとった後、双葉は再びプロメテウスの下からアームに掴まりながら出てくる。

「ファイア!」
『ノワワッ!?』

双葉がノワールビルドに対し、ルッカの身体が持つ火属性の魔法攻撃を行った。
その攻撃は顔の辺りに命中し、ノワールビルドは大きく怯む。
これまでノワールビルドは、少なくともビルドの力を持つ攻撃以外では、怯むことはなかった。
しかし今、火炎ガードキルによりノワールビルドの火炎属性に対する耐性がゼロとなった。
そのために今、ノワールビルドは火の攻撃で怯むようになっていた。
けれども、耐性が無くなったとはいえ、火炎で完全に倒しきることはおそらく不可能だろう。
どれだけ怯ませようとも、きっと何度でも立ち上がってこちら側に向かってくる。
闇の力で作られた怪物は、それと相反する力で浄化しないとそんな風になってしまうものなのだ。


『ATTACK RIDE MAGNET』
「わ、きゃあっ!?」

蓮がノワールビルドの方を向いた隙に、JUDOがディケイドライバーにカードを差し込む。
それは、前回の戦いでも使用した、仮面ライダーブレイドのマグネットバッファローのラウズカードの力だ。
JUDOは甜花の方に向けて手をかざし、磁力を発生させる。
その磁力により、甜花の持つウォーターメロンガトリングがこれまた前回と同じくJUDOのいる方へと引き寄せられていく。
甜花は磁力に負けてウォーターメロンガトリングを手離してしまう。
ガトリングはJUDOの方へと飛んで行き、JUDOはこれをキャッチする。
そしてJUDOはガトリングを構え、お返しと言わんばかりに銃口を甜花の方に向ける。
JUDOはガトリングのトリガーを引き、弾丸の雨を甜花に浴びせようとした。

382 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:25:37 ID:LueZvDC20
『ブオン!』
「そこまでだ!」
「わっ!」

バイクのエンジン音が鳴り響く。
同時に、甜花は首根っこの辺りを捕まれてその場から急に移動させられる。
これにより、ガトリングから放たれた弾丸は甜花がついさっきまでいた場所を通り過ぎるだけとなる。

「戦兎さん…」
「どうやら、間に合ったみたいだな」

甜花を弾丸に当たらないよう動かしたのは、戦兎であった。
彼は、ビルドの姿でバイクのライズホッパーに乗って現れた。
モノモノマシーンでの用が終わった後、素早くバイクに乗って急いで駆け付けたようだった。

『ノ、ワアァーーールッ!!』
「グア…ッ!」

戦兎の姿が再び見えたことにノワールビルドも反応する。
先ほどの必殺キックを受けたことを根にもっているのか、急に怒り始めたかのような反応を見せる。
その感情の増幅に合わせてか、ノワールビルドのパワーが急激に上がる。
それはまるで本物のビルドのライダーシステムのように、感情の高ぶりに合わせてハザードレベルが上昇し、強くなる現象と似通っていた。
これにより急に動きが早くなったことで、相手をしていた蓮がノワールビルドのキックを受けてしまう。
それにより蓮は少し吹っ飛ばされてしまう。
その後ノワールビルドは、顔を戦兎の方に向ける。
明らかに、これからそっちの方に突っ込んで襲い掛かろうとしていた。

「……ノワールビルド、さっきも言ったが、それはお前みたいな奴が使って良い力じゃない」

戦兎はバイクから降り、ノワールビルドに相対する。
仮面で顔は隠れていても、決意を漲らせていることは、その佇まいから察することができた。
ビルドというヒーローの名を汚す者に、次こそ引導を渡すために。

「今度こそ、お前を倒す!」

戦兎はそう言うと、1つのアイテムを片手に持ちながら自分の前に掲げる。
それは、ファンシーなデザインをした化粧用のコンパクトのように見えた。
そのコンパクトこそが、戦兎が今モノモノマシーンから新たに入手したアイテムだ。
そのアイテムは、かつてこの監獄内がスタート地点であった参加者が持っていたものと同じでもあった。

「さあ…実験を始めよう!」

戦兎はコンパクトを開き、蓋の裏側にある鏡にビルドの顔を映す。
そして次に、こう叫んだ。

「キュアラモード・デコレーション!」

383 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:25:58 ID:LueZvDC20

「キュアラモード・デコレーション!」

ビルドがそう叫ぶと同時に、その頭部、腕、脚を除く身体の胴体部分が淡いピンク色の光に包まれる。
また、ネオディケイドライバーもピンク色の光には包まれていない。
けれども、それが巻かれている内側の腰部分は光に包まれているようだった。

「ショートケーキ!」

ビルドはそう言うと同時に、小さな皿に乗ったケーキのミニチュアのようなものをパクト内にセットする。
次に、彼の手元にかなり小さな泡立て器のようなものが出現する。
ビルドはその泡立て器を掴む。

「愛(ラブ)と(&)!平和(ピース)を!」

そう言いながら、コンパクト内にある薄いピンクの星型のボタンを交互に押す。
これは、本来このコンパクトを使っていた者達とは違う、仮面ライダービルドこと桐生戦兎による、ここだけのオリジナルの変身口上であった。

「レッツ・ラ・まぜまぜ!」

そして次に、パクトの中の中央付近にある窪み…ボウルの中に小さな泡立て器を入れ、かき混ぜる動作を行う。
すると、その中で光輝く赤と白のクリームが作られていく。

クリームはやがて、パクトの中から大量に飛び出していく。
飛び出した2色のクリームは、螺旋を描きながらやがて混ざり合い、淡いピンク色のクリームとなる。
クリームが集まり、固まり、膨らんでいく。
膨らんだクリームはやがて弾け飛び、その中から巨大なケーキが現れる。

ビルドは跳び、空中でパクト内からピンクのクリームを取り出す。
クリームを円を描くように空中に置くと、それが集まって中央に苺を置いたかのような見た目になる。
それもまた弾けると、光の粒子となってビルドの頭の左側、ラビット側の耳型アンテナの付け根部分に集まってくる。
集まった光の粒子は、まるでケーキのような飾りを形作る。

ビルドは次に、先ほど形成された巨大ケーキの上に着地する。
すると、ケーキの上のクリームがビルドとしての足を覆うように上っていく。
そしてビルドの足の上から、新たにピンク色のヒール付きのブーツが形成される。
このブーツには両足ともそれぞれ、うさぎの尻尾を象ったかのような綿が付いている。
また、ブーツの外側のつま先部分は白く、うさぎの足の指を表現するかのような線が入っている。

ビルドが次に手の中の泡立て器を少し回してみると、そこから発生したクリームがその手を包む。
そして、これまた綿の付いた淡いピンク色の手袋をビルドの手の上に形成する。

今度は、ビルドは自分の体を中点として一周するように、クリームを円を描くように空中に置く。
すると、それらは搾ったホイップクリームと苺が繋がった輪のような形を作った後、ビルドの方に向けて収縮する。
その結果、ビルドの装甲の上に大きなスカートのついた薄いピンク色のドレス衣装が形成される。
そのドレスの腰部分の上には、ネオディケイドライバーは巻かれている状態となっていた。

ビルドは自分の体の手前でまた泡立て器を一振する。
そうして現れたクリームは、一度中央に苺のあるクリームの形をとった後、中央に苺の飾りが付いた大きなリボンへと変化する。
そのリボンは、先ほどのドレス衣装の胸部分に装着される。

次に、パクト内からまたクリームを取り出し、空中へと描くように飛ばす。
クリームは線でうさぎの形を作った後、空中でうさぎ型の飾りのようなものに変化する。
その飾りはビルドの頭部へと向かい、やがて光となって霧散する。
その光はビルドの頭部に集まり、やがて頭頂部から大きなうさぎの耳を生やした。

最後に、ドレスの腰部分のやや左寄り、ネオディケイドライバーよりは少し下の部分に、裏側にリボンの付いたポーチが形成される。
そのポーチの中に、先ほどからここでの変身に使っていたコンパクトが入っていった。

ここまで終わった後、ビルド…戦兎はポーズを決めながら、こう叫んだ。

「キュア仮面ライダーホイップビルド!できあがり!」

384 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:26:49 ID:LueZvDC20
次から第4編となります。
タイトルは「Last Surprise④〜明日を創って!キュアビルドできあがり!〜」となります。

385 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:27:13 ID:LueZvDC20
プリキュアへの変身というものは、本当なら本来の変身者しか変身することは出来ないものだ。
この殺し合いにおいては、中身が別人でも身体が本人のものなら変身出来ていたことはあった。
だがシリーズ作品によっては、肉体が本人でも精神が別人だと変身出来ない描写があったものも存在する。
まあ…その作品は現時点ではこの物語には一応関わりが無いため、これ以上は割愛する。
その作品自体でも、エピソードによっては中身が別人でも変身できるんじゃないかみたいな台詞は一応存在していた。

とにかく、プリキュアというものはそれぞれ本人しか変身できないもののはずなのだ。
今回、戦兎が使用したアイテムにも本来の持ち主がいた。
コンパクトの正式名称はスイーツパクト、変身に使っていたスイーツのミニチュアもそれ専用のアニマルスイーツと呼ばれる種類の1つ、うさぎショートケーキ。
宇佐美いちかという人物が、キュアホイップに変身するために使っていたアイテムだ。

戦兎がそれを使った結果変身した存在は、謂わば仮面ライダーにプリキュアのガワを被せたかのようなものだった。
仮面ライダービルドが、その上からキュアホイップの衣装を着たような姿になっていた。
正確に言うと、ディケイドビルドの上から被さっているものだった。
先ほどの名乗りも、「キュア仮面ライダーホイップディケイドビルド」となるのがおそらく正解だろう。
前述したように、基本的にはキュアホイップの衣装の方が上側だが、ベルトのディケイドライバーだけはホイップのドレス衣装よりも上側になっていた。

今の戦兎には、心身共に宇佐美いちかの要素は存在しない。
なのに本来本人専用のこのアイテムが使えたのは、主催陣営による調整があったから…というわけではない。
主催陣営はこのアイテムに何も手は加えていない。

それでも、戦兎がこれを使えたことについてはいくつか要素が混じった結果という仮説が立てられる。
1つは、モチーフの被り。
ビルドもホイップも、兎と別の何かを組み合わせた姿が基本のものだ。
そんな共通点があるために、ビルドとホイップは親和性があったのかもしれない。

次に、現在の戦兎達を悩ませている、ノワールビルドがいるというこの状況。
ノワールビルドはビルドとプリキュアの力が合わさらなければ倒せない。
けれども、プリキュアの力を使える者はこの場にいなかった。
たとえプリキュアのアイテムがあっても、それを使える者はいなかった。
このままではノワールビルドは無敵の存在となるかもしれない。
だから、それを防ぐために一時的にスイーツパクトが力を貸してくれたのかもしれない。
アニマルスイーツの中に残留していたキュアホイップの光で、この場で破壊者に利用されている闇のキラキラルを祓うために。

そして最後に、戦兎の『心』だ。
仮面ライダーもプリキュアも、基本的には戦う理由は同じ。
それはきっと、他の種類のヒーロー達にとっても。
彼らが戦う主な理由は、きっと、『守るために』だ。
たとえ陰謀によって創られたヒーローだとしても、戦兎は、仮面ライダービルドは、人々の愛と平和(ラブ&ピース)を守るために戦った。
宇佐美いちか/キュアホイップも、スイーツに込められた『大好き』の気持ちを、皆の笑顔を守るために戦った。
守るために戦うというのは、倒すためよりもきっと大事なことだろう。
そしてこの場においても、桐生戦兎は仲間を守るという気持ちを持って戦っている。
もしもこの場に宇佐美いちかが居れば、彼女も同じ気持ちを持って戦うだろう。

だからこそ、スイーツパクトは戦兎のその『心』に応えた。
ここで起きた現象の理由は、これまで述べた要因が混ざり合って起きたとしか考えられない。
これはきっと、今この瞬間にだけ許されていることなのだろう。
これはいわゆる、奇跡と呼ばれる現象であろう。

386 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:27:50 ID:LueZvDC20

「キュア仮面ライダーホイップビルド!できあがり!」
「「『『『「「……………」」』』』」」

戦兎がそう高らかに名乗るのを見て、この場にいる者達が皆凍りつく。
理性を失っているはずの者達も、そうだった。
それ程までに、今起きた現象の衝撃は大きかった。
仮面と装甲に包まれた男の子向けの格好いい印象を抱かせるヒーローが、一瞬でその上から明らかに女の子用のフリフリな可愛らしいドレス衣装を身に纏った。
その上、これまた可愛らしいポーズをしながら決め台詞を言った。
名乗ったヒーロー名も、何か異様に長くなっていた。
ポーズと名乗りが終わった後、背後に何故か出現していた巨大なケーキは消滅していた。

『……戦兎、何急にこのタイミングでふざけてるんだ?』
「…うるせー!何故か体が勝手に動いたんだよ!つーか、そんなことお前にだけは言われたくないわ!」

ポーズを解除した後、戦兎はエボルトの言葉に対し反論する。
実際に、戦兎はここまで何故か体が勝手に動き、決め台詞は勝手に言わされた。
確かに戦兎は力を貸してくれと言い、スイーツパクトとアニマルスイーツもそれに応えてくれた。
けれども、こんな姿になってしまうことまでは予想してなかった。
もっとこう…自分にも合う感じにデザインは調整してくれることを期待していた。
だが、それは流石に高望みだった。
そもそも使っているキュアホイップ用のアイテムをそのまま使っているのだから、キュアホイップをそのまま被せたかのような見た目になる方が自然だろう、多分。


『………ノワーールッ!!』

少し間をおいた後、思い出したかのようにノワールビルドが再び動き出す。
コーヒーゼリーの鎖を、再度戦兎に向けて射出する。

「うおっ!」

戦兎はそれを、咄嗟に跳躍で回避しようとする。
確かにそれで、ノワールビルドの攻撃は避けられた。
ただし、過剰に。

「うおおっ!?」

真っ直ぐにジャンプした戦兎は、空高く舞い上がった。
これは、本来のビルドのジャンプ力で行ける高さである55mを大きく超えていた。
暗い夜なせいであまりよく見えた訳では無いが、もし明るかったら戦兎も地上にいる者達も互いが小さく見えたことだろう。

キュアホイップも、とても高いジャンプ力を持っている。
そんなホイップとビルドの脚力が合わさり、今回の結果を作り出した。
その力の加減が出来なく、戦兎は天高く舞い上がった。
本来のキュアホイップの変身者、宇佐美いちかも初変身時に似たようなことを起こしてしまっていたりする。
戦兎は最高点まで到達した後、そのまま自由落下をし始める。



戦兎がそんな風になっていることを察したJUDOは、甜花から奪っていたウォーターメロンガトリングをどこか遠くに投げ捨てる。
そして腰からケータッチを取り外し、それを操作しようとする。
自由落下中の空中では、身動きが取りにくく隙が大きい。
そこを狙い、JUDOは戦兎に向かって大技を放とうとしていた。

『ガンッ!』「ム…」

しかし、JUDOのその行動は止められた。
何処からともかく、弾丸が飛んで来た。
弾丸はJUDOの手元の辺りに命中し、ケータッチの操作を中断させられる。

『戦兎はやらせねえぜ?やられる前に、やれってな』

JUDOに向かって弾丸を当てたのは、エボルトだった。
エボルトはトランスチームガンとスチームブレードを合体させ、ライフルモードにして狙いを定めて弾丸を撃った。

387 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:28:21 ID:LueZvDC20
…しかし、エボルトが今このような行動を取れたことは、JUDO視点だと少し不可解な点が存在していた。
ついさっきまで、エボルトはアナザーカブトの相手をしていた。
今みたいに冷静に狙撃を行う余裕は無いはずだった。
その答えは、何かを考える間もなくすぐに分かることになる。

「ウワアアアアアァァッ!!」

アナザーカブトが、JUDOの方目掛けて突撃しようとしていた。

これは、エボルトがそっちの方に向かうよう仕向けたわけではない。
とは言っても、今アナザーカブトにさせられているしんのすけが正気に戻ったからこうなっている訳ではない。
ただし、完全に理性を失ったままの状態というわけでもない。
先ほど起きたビルドによるキュアホイップへの変身、あれによりこの場にいる全員が一瞬呆けた。
それは、アナザーカブトも例外ではなかった。
その呆けた一瞬の間に、しんのすけの意識がほんの少しだけ浮上した。
そのしんのすけの意思が、一瞬視界に入ったJUDOの方を敵だと認識した。

「オラガ、ミンナヲ、オタスケ…!」

僅かに戻ってきたしんのすけの意思が、アナザーカブトの口から呻き声のような言葉を漏らさせる。

「くだらん」

JUDOはしんのすけが接近して殴りかかろうとすると読み、払いのける心づもりでいた。
しかし、それは外れることになる。

「アク…ション…」

アナザーカブトは肘と脇を閉め、前腕を体の前に向ける構えをとる。

「ビイィィィィィィィィームッ!!」
「ぐあっ…!」

アナザーカブトの前腕から、電撃のように光線(ビーム)が出た。
そのビームはJUDOの方へと向かっていき、命中してダメージを与えた。

自分の体の中を巡っているエネルギー、それが何なのかをしんのすけは感覚で掴んでいた。
以前もしんのすけが所持したことのあるアクションストーン、これがあれば、アクションビームが撃てることをしんのすけは知っていた。
未だほとんど暴走状態ではあれど、僅かに浮上した意識がアクションストーンのエネルギーでアクションビームを放つことを考えた。
だからアナザーカブトが、JUDOに向かってアクションビームを発射するなんてことが起きた。
本来なら、アクションストーンは体内に入れて使うものでは無いのではあるが。

「ウ、ア…」

アナザーカブトがアクションビームを放てた時間は短かった。
この殺し合いにおいて、アクションストーンを使ってビームを放つのには体力を消耗する。
元々素体にされているしんのすけが体力を大きく消耗していたため、アナザーカブトのアクションビームは長くもたなかった。
ビームを放つのを終えたアナザーカブトは、両膝と両手を地面につく姿勢となる。

『ホラホラ、今がチャンスだぞ!しんのすけに続け!』

それを見たエボルトが急かすように蓮達にも動くよう催促する。
同時に、スチームライフルのトリガーを何度も引いてJUDOに向けて弾丸を発射し続けていた。

「ッ!……喰らえ!」
「ナパームボム!」

エボルトからの催促に従い、蓮と双葉も攻撃し始める。
蓮が選ぶのは前と同じく、遠距離でも攻撃できるワンショットキルのスキルだ。
双葉はナパームボムの魔法を唱えてJUDOに向けて小さな爆弾を飛ばす。

ここでJUDOに向けて行動できたのは蓮と双葉の2人までだ。
甜花の方は今、こっちの方を気にしている暇じゃない。
戦兎が天高く舞い上がった後、ノワールビルドは彼女の方に向かって来ていた。
…このことについての描写等は、また後述とする。
今はまず、JUDOとそれを相手にしている者達についてどうなるかを先に記述するものとする。


388 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:28:50 ID:LueZvDC20
「チッ…」
『ATTACK RIDE TIME』

JUDOはエボルトからの弾丸を浴びながらも、ディケイドライバーにカードを装填する。
選んだのは、仮面ライダーブレイドが持つタイムスカラベのラウズカードの力。
これによりJUDO以外の時間が停止する。
ただし前に使った時と同じく、これによる時間停止の間は敵を攻撃することはできない。
単純な回避のために時は止められた。

時を止めたJUDOは少し前に出る。
進んだのは、蓮のいる方向でもあった。
これによりJUDOはやや蓮に近付いた形となる。
やがてタイムスカラベの効果が切れ、時は動き出す。
JUDOの背後でワンショットキルとナパームボムが着弾し、爆発を起こす。

『KUUGA KAMEN RIDE ULTIMATE』

爆発を尻目にJUDOはすかさずケータッチを操作する。
これは、先ほど止められた戦兎を狙う攻撃のためのものではなかった。
ターゲットは、蓮の方であった。
JUDOはケータッチを操作しながらでも、蓮のいる方に向けて走り続けた。
走りながら、同じ走行ポーズをとりながら新たなライダーがJUDOの隣に現れる。

禍々しき黒の装甲に身を包んだそれの名は、仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム。
聖なる泉が枯れ果てる時に雷の如く現れ、太陽を闇に葬らんと言われる凄まじき戦士が、破壊者の隣に降り立つ。
ディケイド激情態によって召喚されたためか、その目は究極の闇を象徴するかのような黒に染まっていた。

『FINAL ATTACK RIDE KU KU KU KUUGA』

JUDOはクウガ・アルティメットフォームを召喚後すぐに、必殺技用のカードをディケイドライバーに装填する。
この場における決着を、すぐにでもつけるつもりでいるようだった。

「グアッ!?」
「ジョーカー!?」

JUDOがドライバーから必殺技の音声を流した直後、JUDOとクウガ・アルティメットフォームが蓮に向かって手をかざす。
すると、蓮の体に異変が起きる。
彼の変身してる仮面ライダージョーカーの体が、発火した。
体に飛ばされた火を付けられたわけではない、ライダーのジョーカーの装甲の一部が直接に炎に変化したかのようだった。

クウガ・アルティメットフォームが持つ超自然発火能力、それが蓮に向けて一瞬使われた。
超自然発火能力は分子の動きを操ることで発火現象を起こす、簡単に避けられるものではない。
不幸中の幸いとして、これが使われたのはほんの一瞬であったために、致命的なダメージにはならなかった。
だからと言って安心できるものでは全くない。
JUDOとクウガ・アルティメットフォームは蓮が発火で怯んでいる間にも走って近付いてくる。
その2人の右手の拳は固く握りしめられて構えられており、それらにエネルギーが集まっているようだった。
明らかにその拳を、どちらとも蓮にぶつけるつもりのようだった。

『フルボトル!スチームアタック!』
『相棒をやらせるかよ!』

エボルトが腰のベルトから一時的にラビットエボルボトルを取り出し、スチームライフルにセットする。
スチームブレードと連結させる前の、トランスチームガンだった状態でセットした時と同種の効果が発揮される。
変身しているのがエボル・ラビットフォームであることもあり、その時以上のスピードでエボルトは加速する。

『オオオオオオオッ!!』
「グッ…」

エボルトはJUDOとクウガ・アルティメットフォームを中心に、その周囲を円を描いて高速でグルグル回りながらトランスチームガンから弾丸を連射する。
加速しているおかげで、JUDOがほしふるうでわで素早さを上げていても、蓮の近くに辿り着く前にこの攻撃を行うことはできた。
  
「どけェッ!!」
『グオアァッ!!?』

JUDOは弾丸の雨を浴びながらも、それに耐えながら突っ込んで来た。
弾丸はある程度の量はクウガ・アルティメットフォームが盾となっていたために、行動不能になる程のダメージにはならなかった。
そうしてエボルトが描く円の中央から外側に向けて移動してきた。
円に近付いて来た時、JUDOはクウガ・アルティメットフォームと共に腕を横向きに薙ぎ払った。
結果、クウガ・アルティメットフォームの拳がエボルトの胴体に掠めた。
その拳に充填されていたエネルギーがエボルの胸部付近で弾けた。
そして発生した衝撃波に、エボルトは遠くまで吹っ飛ばされる。
スチームライフルも手から離して落としてしまう。
エボルトを吹っ飛ばした後、クウガ・アルティメットフォームの姿は消える。
今ので溜めていたエネルギーが発散され、技が発動したことになってしまった。

389 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:29:35 ID:LueZvDC20
『あー、いってえなあ…』

地面を転がった後、エボルトはすぐに起き上がった。
変身は解除されておらず、意識も正常にあるようだった。
今回、エボルトはJUDOとクウガ・アルティメットフォームによる攻撃を諸に喰らったわけではない。
掠めただけだったおかげで、エボルトはまだ何とか変身を維持できる状態にあった。
ただし、遠く離れたためにこの瞬間に蓮の方に加勢に行くことはもうできない。

そうこう言っている間にも、JUDOは走り続けて蓮の方に近付いて行く。
素早さが上がっていることもあり、至近距離に着くのはすぐのことだった。
だが、問題はそこまで無い。
エボルトの円を描く攻撃は、時間稼ぎになってくれていた。


「マガツイザナギ」

エボルトが時間稼ぎをしてくれていた間に、蓮はペルソナをマガツイザナギにチェンジしていた。
そして、そのペルソナが持つスキルの1つであるヒートライザで、自身の攻撃力・防御力・命中・回避を上げていた。

『JOKER!MAXIMUM DRIVE!』

エボルトが吹っ飛ばされた辺りのタイミングで、蓮は腰に付けたロストドライバーにあるマキシマムスロットにT2ジョーカーメモリを装填した。
これにより、蓮の拳にメモリのエネルギーがチャージされていく。
それは…本来のメモリの性能を超えた高エネルギーであった。

ジョーカーメモリには使用者の感情の力で性能の上限を超える能力がある。
雨宮蓮は今、JUDOに対する激しい感情…怒りが存在していた。
特に、しんのすけをアナザーカブトにしてこちらを襲わせようとしたことに対して。
ただでさえ自分と因縁のある怪人の姿に変えただけでなく、無理に変身・暴走させられていることにしんのすけはとても苦しんでいる。
しかも途中で無理矢理なパワーアップをさせたせいで、しんのすけに更なる消耗をさせた。
蓮はこのJUDOの外道な行いを、絶対に許すことができないと感じていた。
そこには、とても暗く『黒い』感情が存在していた。
その感情は、自分がメタモンを一方的に嬲って殺した時にも存在していたことを、今は自覚していなかった。

その黒い感情のエネルギーが蓮の拳の中に溜まっていく。
今目の前でエボルトが吹っ飛ばされたことで、その分の感情も上乗せされる。
先ほど発火させられたことによる焼ける痛みは、この瞬間だけは感じていなかった。
近付いてくるJUDOは、クウガ・アルティメットフォームが消えたにも関わらず、拳を構えたまま突撃してくる。

「ライダー…パンチ!!」
「ハアアアッ!!」

JUDOと蓮が同時に右手でパンチを放つ。
どちら共の拳にも、相手を『破壊』するためのエネルギーが溜まっていた。
2人の拳は、どちらも黒い炎のようなものを溢れさせながら、残り約1㎝でぶつかり合いそうになっていた。

「ファイア!」

拳同士がぶつかり合う寸前で、炎がJUDOの視界を塞いだ。
佐倉双葉の放ったファイアの魔法が、JUDOの眼前に向けて放たれた。
このファイアは、JUDOへのダメージにはならなかった。
だが、これで十分であった。

「ウワアアアアアアァーッ!!」

蓮とJUDOの拳が僅かにズレながらぶつかり合う。
お互いの拳が滑り合いながら前に進む。
その際、JUDOの拳の勢いに飲まれ、蓮の右手の親指と人差し指は耐え切れずに『破壊』される。
やがて2つの拳と腕は、進みながら交差する。

JUDOの拳は少し狙いを外れ、仮面ライダージョーカーの顔の横を、左頬を切り裂きながら通り過ぎる。

そして蓮の拳は、ディケイド・コンプリートフォームの胸のライダーカードが入る部分、ヒストリーオーナメントに向けて進み、突き刺さった。


「グオアアアアアアァーッ!!?」

感情が籠められた一撃を喰らったJUDOは、後方へと吹っ飛ばされる。
同時に、ディケイド・コンプリートフォームの姿から、その前のディケイド激情態の姿の段階に戻った。
その姿のままJUDOは地面に落ち、滑って行き、やがて静かになった。



390 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:30:06 ID:LueZvDC20
ようやく、話をノワールビルドの方に戻す。

『ノワー…』

戦兎が天高く舞い上がった後、ノワールビルドは少しの間空を眺めていた。
しかしやがてすぐに、視線は上の方から外される。
今が真夜中であるため、空の彼方に飛んでった戦兎がよく見えなくなったからだ。
戦兎を見失ったノワールビルドは、地上にいる方の敵を捕捉する。

「ひっ…」
『……ノワーールッ!!』

ノワールビルドは、甜花に目を付けた。
彼女は今、斬月・ウォーターメロンアームズには変身している状態だが、武器は無双セイバーが1本だけだ。
他に使えそうだったものは全部奪われてしまった。

甜花は震えながら腰に差されている無双セイバーに手を伸ばす。

『ノワール!!』

甜花が無双セイバーを掴み、腰から引き抜くよりも早く、ノワールビルドは攻撃しようとする。
蒼炎を纏う巨大な拳を、甜花に向けて振りかざす。

「キラキラキラルン!ホイップ・デコレーション!」
『ノバマッン!?』

甜花にその拳が振り抜かれることはなかった。
それより先に、ノワールビルド目掛けて上空から巨大な生クリームの塊が高速で落ちてきた。
ノワールビルドは頭からクリームを被り、視界を塞がれる。
勢いよくぶつけられたことにより、ノワールビルドは腰を屈められ、頭を垂れさせられる状態になる。

クリームの塊は、空中にいる戦兎から発射された。
その手の中には、プリキュアの武器であるキャンディロッドが握られている。
プリキュアの力でこの武器を召喚し、技を発動してノワールビルド向けてクリームを飛ばした。
ホイップ・デコレーションのクリームでノワールビルドが怯んで間もなく、戦兎がようやく地上の元の場所に戻ってきた。
その際、ずいぶんと高い所から落ちてきたためか、戦兎は轟音を鳴らして地面を揺らしながら着地した。

「すまん甜花ちゃん!危ない目に合わせた!」
「あっ…うん…」

戦兎の言葉に甜花は曖昧な言葉にならない声しか返せない。
先ほどはすぐに上方向に跳んでいったためによく分からなかったが、こうして出てきたことで改めてその格好が確認できるようになる。
自分たちアイドルが着るようなもの並みにフリフリで可愛いドレス衣装。
それが、戦兎の変身するビルドというヒーローのガワの上から被せられている。
それはあまりにも異様な光景であった。
正直、反応に困る。
主に、カッコいいと思えば良いのか、それともかわいいと思えば良いのかについて。

『ノバ!ノワール!』

ノワールビルドが顔にこびりついたクリームを手で剥がそうとする。
空いた視界から覗かせた目で、戦兎に向けて敵意を込めて睨み付ける。

「ハアアア…ハアッ!」
『ノバーブ!?』

戦兎は次にキャンディロッドを左手に持ち、その先端を自分の前で回転させた。
それに伴い、戦兎の前に段々と大きなクリームの塊が形成されていった。
そして戦兎はそのクリームを、右手に持ったドリルクラッシャーを、ブレードモードでドリル部を高速回転させながら勢いをつけながら突いた。
すると、そのクリームはまるでドリルのような形を取りながら、高速回転しながら前方へと進んで行った。
ドリル型のクリームはノワールビルドにぶつかり、弾け、後方へと吹っ飛ばした。

「甜花ちゃん…色々あったけど、もう大丈夫だ。安心してくれ。今度こそ、あいつを倒す」
「戦兎さん…」

戦兎は甜花の方を向きながら穏やかな口調で話しかける。
戦える手段をどんどん失い、不安になっていく甜花を安心させるために。
甜花はそれまで手と体を震わせながら無双セイバーを上向きに持っていた。
だが、戦兎の言葉を聞いて震えを治め、無双セイバーの刃も下向きに下ろした。
そうして、彼の戦いを見守ろうとしていた。
彼の背は、(見た目に違和感はあるが)、大きく頼もしく見えた気がした。

391 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:30:41 ID:LueZvDC20
『ラビット』『タンク』
『ベストマッチ』『Are you ready?』
『鋼のムーンサルト ラビットタンク』

『ノワァーール……』

戦兎が甜花に話しかけていた頃、ノワールビルドは自分の姿を変えていた。
ベルトに差すボトルを最初のものに戻して、ビルドの基本フォームであるラビットタンクのベストマッチフォームを模した姿に戻っていた。
キードラゴンでは成果を出せている感じが無いからそうしたのか、それとも戦兎のビルドの姿に合わせて完全な実力勝負で決着をつけようとしているのか、その思惑は分からない。
分かるのは、この戦いはもうすぐ終わるだろうということだけ。
その証拠に、ノワールビルドは自身のベルトを操作し続けて、本物のビルドよろしく必殺技を発動する準備をしているようだった。

「……お前のその力の出所は俺には分からない。だけどな、何度でも言わせてもらうぞ」

「その力…仮面ライダービルドの力は、俺1人だけでできたものじゃない」
「愛と平和を胸に生きていける世界を創るため、仲間たちと共に創り上げてきたものだ!」
「あいつらのためにも、そしてここにいる今の仲間たちのためにも!その力をこれ以上悪用させたりしない!」
『ノワアアアァァァァールッ!!』

戦兎の言葉の意味をノワールビルドが理解しているかどうかは分からない。
けれども、戦兎に対する大きな殺意があることは見てとれた。
ならばもう、お互いにやることは同じだ。
戦兎も自分が巻くベルトに対し必殺技発動のための操作を行う。
ネオディケイドライバーだけはプリキュア衣装よりも上側に来ていたのは、このためのようでもあった。


『FINAL ATTACK RIDE BUI BUI BUI BUILD』
『Ready go』
「ハアッ!」
『ノワッ!』

戦兎とノワールビルドが同時に後ろ向きに跳ぶ。
どちらも着地した瞬間に、それぞれの足元からクリームがまるで噴水のように噴き出し、戦兎とノワールビルドは持ち上げられる。
違いは、戦兎の方は淡いピンクがかった白色で、ノワールビルドの方のクリームは黒かった。
そしてどちらともの前に、同じ形をした『グラフ』が出現する。
それは、前に戦兎がディケイドビルドの時にボルテックフィニッシュを発動する際に出したものと同じ形だった。
けれどもどちらともそれぞれ、その時のグラフとは異なる点が存在していた(グラフ上に記される点mのことではない)。

ノワールビルドのグラフは、コーヒーゼリーでできていた。
また禍々しいモヤのようなものを出す、黒色のホイップクリームのがグラフの原点0からX軸とY軸の両方にかけて等間隔に隙間を空けながらデコレーションされていた。
それらのクリームはまるで、グラフのメモリの代わりのようでもあった。

また、戦兎のグラフは白と淡いピンク色のクリームで出来ていた。
こちらのXY軸には、白のホイップクリームと赤い苺のようなものが交互に、こちらもメモリのように等間隔に並んでいた。

戦兎とノワールビルドは、これまた同時にクリームの上から跳んでグラフの曲線の頂点に降り立つ。
そして前に戦兎がやったのと同じく、ライダーキックの姿勢でグラフの上を滑り台のように滑りながら降りていく。
その際、お互いにそれぞれの色のクリームが飛沫となって飛び散っている。

それぞれが滑り落ちるグラフの先端は互いにぶつかり合う。
ぶつかり合ったことにより、それぞれの大きさが違うことが視覚的にも強調される。
もちろん、体の大きいノワールビルドのグラフの方が大きい。
戦兎の出したグラフの先端は、その巨大なグラフの先端に飲み込まれそうにも見えた。

やがて、滑り落ちてきた戦兎とノワールビルドの足もぶつかり合った。
光と闇の強大な力の衝突により、周囲に衝撃波が走る。

392 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:31:16 ID:LueZvDC20
『ノワール…!』

足のサイズが倍以上に大きいため、闇の波動が広がる範囲も広くなる。
それは今にも、戦兎ごと飲み込まんとする勢いだった。
ノワールビルドはその見かけ上の大きさに任せて、戦兎を闇の力でゴリ押して蹴り殺そうとする。
ノワールビルドは、これで勝てると思ったのか、口角は少し上げた。

「……そんなものが、通用するものか!」

だが、戦兎の方が押し返し始める。
同時に、ぶつかり合う足の裏の間から光輝くクリームが奔流する。

ノワールビルドは、目の前の相手をただ感情に任せて倒そうとしているだけ。
けども、守るべき仲間のいる戦兎の方が、背負う想いは遥かに強大だ!

「勝利の法則は、決まった――!!」

戦兎がそう宣言すると同時に、ホイップビルドのキックがノワールビルドの足裏を貫いた。
戦兎はそのまま体ごとノワールビルドの足を貫通する。
そしてその勢いのまま、戦兎のキックはノワールビルドの胸の黒星のマークにも突き刺さる。

『ノワール……ノワアアアアアァァァーーーーールッ!!!』

戦兎…ホイップビルドのライダーキックは、ノワールビルドの体も貫いた。
勢いで、ノワールビルドの体に穴が開き、戦兎はそこを通り過ぎた。
同時に、ノワールビルドは全身を淡いピンクがかったクリームに包まれる。
それが弾けると、中にいたノワールビルドの姿が消滅していた。
先までノワールビルドのいた位置には、その元となっていたアナザービルドウォッチとエリシオのカードが少しの間浮いていた。
それもやがて、まるで塵になるように消滅した。
破壊者によって産み出されたコーヒーゼリーの無敵の巨人は、遂に浄化された。
仮面ライダーとプリキュアの美しき魂が、邪悪な心を打ち砕いた。



「終わっ…た……?」

戦兎がノワールビルドを倒すところを見届けた甜花は、呆然としながらそう呟く。
その言葉の通り、ノワールビルドとの戦いは確かにこれで終わった。

「ああ……グウッ!?」

ノワールビルドを撃破した直後、戦兎に異変が起こる。
一瞬体がこわばったかのような様子を見せる。
その直後、腰の下の方に付いていたスイーツパクトがそれの入れ物ごと勝手に地面に落下した。
同時に、戦兎からプリキュア衣装が光の粒子になるように消滅し、ディケイドビルドの姿に戻った。
ノワールビルドを倒したため、プリキュアの力はもう必要なくなった。
スイーツパクトも役割を終えたため、力を貸すのを止めたようだった。

『あーあ、その姿もそこまでか。もしかしたら、美空辺りに見せたら喜ぶかもしれなかったのになあ』
「エボルト…」

エボルトも戦兎の方に話しかけてくる。
実は、戦兎がノワールビルドを倒したのと、蓮がJUDOをライダーパンチで吹っ飛ばしたのはほぼ同時に起きていた。
そのために少し会話をする余裕ができていた。

『俺のことも今の仲間と呼んでくれて嬉しいねえ』
「……言葉の綾だ。確かに今は協力するしかないが、お前は仲間とははっきりと言えない」
『ハッ!今更言うねえ…』

エボルトは一旦その場にどっかりと座り込む。
彼も、今回のことはかなり疲れたようだった。


「グアッ…」
「ジョーカー!」

突然、蓮が苦しみにあえぐ声を出しながら片膝と片手を地面に着く。
直前まで、JUDOに対する激しい怒りの感情により、体の痛みがほとんど麻痺していた。
その痛みが今、一気にぶり返してきた。
特に激しく酷かったのは、右手の親指と人差し指を失ったことと、体に火を付けられたことによる火傷の痛みだ。
これに対し佐倉双葉がプロメテウスから完全に離れて地上に降り、蓮の下へと駆けつける。

双葉により、蓮、エボルト、戦兎、甜花の4人にモラルサポートの効果が発動される。
これにより4人の体力と傷がある程度癒される。
今回は双葉も消耗しているためなのか、アクティブサポートまでの効果は発動しなかった。
傷が癒されたことで出血は止まったが、蓮の失われた指は再生しなかった。

393 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:32:05 ID:LueZvDC20



「グウ…アア…!」
「しんのすけ…」
「しんのすけ…君…」

このタイミングで、さっきまで動けなかったアナザーカブトがふらつき、体を少し回転させながら起き上がり始めた。
立ち上がったアナザーカブトは拳を振り上げて、ふと目に着いた甜花のいる方へとゆっくりと歩いて向かってくる。
甜花に対し、攻撃しようとしているようだった。
先ほどは一時浮上したしんのすけの意思が、再びアナザーカブトの力に飲まれたようだった。
一度アクションビームを使ったことで、体力と一緒にしんのすけの精神力も消耗したためにそうなったようだった。
肉体の体力はもうほとんど無いのだろうに、アナザーカブトの力が無理矢理にでも動かしているようだった。

「待て!」

そんなアナザーカブトに対し、戦兎が前に出る。
エボルトは、戦兎は何か考えがあって先に動いたのだろうと判断し、対処を任せて動かなかった。
蓮は、体の痛みにより動きたくても先に動けず、少し心苦しいがこちらも先に動いた戦兎に任せる形になった。

「しんのすけ…今助けてやるからな」

戦兎はそう言うと、新たなカードを1枚取り出す。
それは、戦兎はこれまで使ったことのないカードだった。
戦兎に支給されたネオディケイドライバーには、最初から20枚以上のカメンライド用のカードが付属していた。
しかし、戦兎がこれまで使っていたのはその内の約半分…それも、いわゆる平成二期と言われるシリーズの仮面ライダー達のカードがほとんどだった。
基本の姿も、ネオディケイドではなく本来の自分が変身していたビルドの方を主としていた。
平成一期と呼ばれるシリーズのライダー達のカードはディケイドも含めて一度も使っていなかった。
しかし今ここで初めて、戦兎はそのカードを使おうとしていた。

取り出したカードは、仮面ライダーカブトのものだ。
前に双葉が話した通りなら、野原しんのすけを変貌させたあのアイテムは、それの元となったライダーと同じ力をぶつければ破壊できるとのことだった。
現に、ノワールビルドを形作っていた方のアイテムも、ビルドの力をぶつけたことで確かに消滅していた。
そしてしんのすけが変貌させられた時、アイテムは「カブト」という音声を流した。
今戦兎が取り出したカードも、「KABUTO」と書かれており、描かれているライダーも今のしんのすけの姿を整えたものような感じはあった。
このカードのライダーが目の前にいる怪人…アナザーカブトの元になっていることは戦兎の目にも明らかだった。
元は見知らぬライダーで、カードをこれまで使ったこともなかったため、この監獄内の戦いでは今まで使わなかった。
しかしアナザーライダーの弱点が証明された今、これを使わない手はなかった。
これを使うことで、しんのすけの体に埋め込まれたウォッチを破壊し、2度とアナザーカブトが復活しないようにしようとしていた。

そして戦兎は意を決して、そのカードをネオディケイドライバーの中に装填した。




「……………違う!!駄目だ!!止めろおおぉーーっ!!!」
「え?」
『KAMEN RIDE KABUTO』

突然、双葉が必死な表情をしながら叫んだ。
戦兎に対し、今の行動を止めろと言った。
しかし、既に遅かった。
戦兎はもう、カブトへのカメンライドを終えていた。


『FINAL FORM RIDE KA KA KA KABUTO』

戦兎がカブトの姿になった直後、音声が鳴り響いた。
それは、戦兎の持つネオディケイドライバーから流れたものではない。

遠くに吹っ飛ばされたはずのJUDOが持つ、白のディケイドライバーから流れたものだった。

「グアアッ!!?」

直後、戦兎に新たな異変が起こる。
同時に、戦兎の体に一瞬だけ激痛が走った。
まるで、体を無理矢理折りたためられたかのような痛みだった。

大体、その通りの現象が起きていた。
音声が流れた直後、まずは戦兎の首が180度回転した。
同時に、背中部分に謎のパーツが新たに出現した。
そのパーツには、赤くて巨大なカブト虫の角のようなものが付いていた。
パーツは背中の方で下から上にかけて半回転する。
その回転に合わせて、戦兎は腰を前かがみに無理矢理折りたためられる。
折りたためられたことで、新たに現れたパーツのカブト虫の角部分が前に出る。
そのおかげで、戦兎が一体何の姿に変形させられたのかが分かりやすくなる。

394 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:32:47 ID:LueZvDC20
それはまるで、仮面ライダーカブトの変身アイテムであるカブト虫型のメカ、カブトゼクターをそのまま人間大に巨大化させたかのようなものだった。
「ゼクターカブト」、戦兎が変形させられたのはそう呼ばれているものであった。

変形させられたはずみで、戦兎が持っていたドリルクラッシャーやデイパック等はその場で地面に落ちる。
戦兎が変形させられたゼクターカブトは宙に浮き、その後目の前にいたアナザーカブトを無視して別の方に高速で飛んでいく。
その方角は、先ほど蓮に殴り飛ばされたJUDOがいる方角であった。


『クソッ!!』

エボルトが慌て気味に手の中に生成していたエネルギー弾をJUDOがいるはずの方角に向けて放つ。
しかし、そのエネルギー弾はその方角に向けて動かされていたゼクターカブト状態の戦兎に命中した。

「グアアッ!!」

エネルギー弾に当たったゼクターカブトは、ひっくり返った状態になって地面を滑る。
裏側を向けて滑り続けるゼクターカブトは、やがてある人物の体にぶつかって止まる。

それは、既に立ち上がっている状態となっていたJUDOだ。

「フン!」

JUDOはゼクターカブトの裏側の後部辺りにあった隙間に左手を突っ込む。
そこで、何かを無理矢理取り出そうとするような動作を見せる。

『ガチャッ』
「ガハッ!?」

JUDOはやがて、ゼクターカブトから目的のものを取り外した。
それは、戦兎がこれまで変身に使っていた「ネオディケイドライバー」だった。

それと同時に、戦兎がゼクターカブトから人型の姿へと戻る。
ただしそれは当然、さっき変身したディケイドカブトの姿ではない。
この殺し合いにおいて与えられた、佐藤太郎のツナギ姿だ。
戦兎は、自身の変身を解除させられてしまった。
ゼクターカブトから人型に戻った戦兎は、その反動で少し浮いた後、すぐに地面に叩きつけられる。

『戦兎ォッ!!』

エボルトが慌てるような様子を見せながら戦兎のいる方に向けて走り出そうとしていた。


「みん…」


エボルトの声に反応して、戦兎は地面に転がされた状態のまま何とか顔をそっちの方に向ける。
この殺し合いで出会った仲間達…左翔太郎/仮面ライダージョーカーの姿の雨宮蓮、ルッカの姿の佐倉双葉、孫悟空の姿(だったがアナザーカブトの姿にされた)野原しんのすけ。
あまり仲間だとは認めたくないが、(今は仮面ライダーエボル・ラビットフォームの姿になっている)桑山千雪の姿を与えられたエボルト。
そして、この殺し合いにおいて一番最初に出会い、大切な人の姿と望まぬ形で再会させてしまった、(今はアーマドライダー斬月・ウォーターメロンアームズの姿をしている)彼女。
自身の妹である、大崎甘奈の姿を与えられた大崎甜花。

距離を離されてしまったが、桐生戦兎はそんな彼らの姿を視界に入れ、声をかけようとする。

395 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:33:28 ID:LueZvDC20









『バン』


だが、戦兎の言葉は最初の一単語も最後まで発せられないまま終わらされた。
そしてその言葉の続きも、もうこれ以上聞くことは永遠に出来ない。

左手にネオディケイドライバーを持ったJUDOは、すかさず右手の方でライドブッカーを持ち、ガンモードに変形させた。
銃口が標的へと向けられ、トリガーもすぐに引かれた。
その際、JUDOは言葉を1つも発さなかった。
ぶっ殺すと思った瞬間に、既にその行動は終わっていた。

ライドブッカーから放たれたエネルギー弾は、佐藤太郎の赤いツナギを破りながら背中に侵入した。
そうして彼の体に穴が空き、そこから血液が噴出する。
JUDOの放った弾丸は、心臓を貫いていた。

「ゴフッ」

佐藤太郎の姿の戦兎の口からも血が吐き出される。
心臓が破裂して流れ出た血液が食道を逆流し、最後に吐血させた。
それを最後に、彼は顔を突っ伏して動かなくなった。

明日を創り出すことを信じて戦ってきた正義のヒーローは、まるで一般人のように呆気ない最期を迎えた。


【桐生戦兎@仮面ライダービルド(身体:佐藤太郎@仮面ライダービルド) 死亡】

396Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:34:17 ID:LueZvDC20
全てはJUDOの計画通り…と言うには、想定外のことも多々あった。
けれども、大まかなところはJUDOの思惑通りになってしまった。
JUDOが今回網走監獄の来たのは、もちろんここに来た者達の破壊のためだが…それ以外のことの方がどちらかと言えばメインだった。
JUDOは、最初から戦兎からネオディケイドライバーを奪うことを主な目的としてここに来た。

そのための作戦の一つとして、ファイナルフォームライドを使うことを考えた。
ファイナルフォームライド(以降、FFRと略して表記する)…それは、ディケイドやディエンドが持つ他のライダーを変形させる力だ。
変形させられたライダーは、基本的に元から味方していたものなら変形後も自由に動ける。
ただし、ディエンドライバーというアイテムによって召喚された意思の無いライダーや、ディケイド激情態の使用するFFRならば、例え味方でなくともFFRを発動したディケイドの望むように動かされてしまう。
ちなみに、その例となった召喚ライダー・ディケイドと敵対ライダーはどちらもブレイド→ブレイドブレードだったりする。
このFFRで変形させた相手を操り引き寄せる力には、何らかの方法で自力でFFRしない限りは逃れられない。

これを利用し、ネオディケイドライバーを持つ者を自分の下に引き寄せて奪うことを考えた。
ただし、この作戦には多くの問題があった。
まず、今のJUDOが持つFFR用のカードはクウガ〜キバまでの平成一期と呼ばれるシリーズのライダー達の分だけだ。
ネオディケイドライバーでそれらのライダーにカメンライドしてもらわないと、この作戦は使えない。
いや、そもそもの話として、ディケイドライバーで別ライダーにカメンライドした状態でFFRは効くのかという問題もあった。
ディエンドライバーのカメンライドで召喚されたライダーならばFFRは効くが、同じカメンライドでもディケイドが変わったものに効いた例は存在しなかった。

だからJUDOは、網走監獄に来る前に試してみた。
まずは前にも何度かやっていたように、アタックライド・イリュージョンの力で分身を2体作った。
次にそれらの分身にそれぞれアギト・ブレイドへとカメンライドさせた。
そしてそれらに対し、FFRを使ってみるという実験を行ってみた。
その結果は、成功だった。
ディケイドアギトとディケイドブレイドは、それぞれアギトトルネイダーとブレイドブレードへと変化した。
少なくともこの殺し合いの場においては、ディケイドライバーでカメンライドしたライダーでも、FFRの効果はあるようだった。
もしかしたら効果があったのは、ディケイド激情態だからこそだったからかもしれない。

そしてもしこの作戦を使う場合の最後の問題は、どうやってネオディケイドライバーで平成一期のライダーにカメンライドするよう誘導するかということについてだ。
それについては、モノモノマシーンから手に入れたアイテムであるアナザービルドウォッチがヒントになった。
そのウォッチを新たに入手したことで、アナザーライドウォッチは元になった同じライダーの力を用いないと破壊できないという性質があることを知った。
JUDOはそのアナザービルドウォッチを入手する前に、アナザーライドウォッチを1つ手に入れていた。
それが、檀黎斗から奪った荷物に紛れ込んでいたアナザーカブトウォッチであった。

JUDOはこれら2つのアナザーライドウォッチを利用して、FFRを用いる形での作戦を組み立てた。
まず第一として、アナザーライドウォッチは同じライダーの力でないと破壊できないことを相手側に理解させないといけない。
ただし、そのことを自分の口から言う訳にもいかないだろう。
自分から言ってしまっては、罠であることを看破される可能性がある。
だからまずは、相手がよく使っているビルドと同じ力を持つアナザービルドウォッチを用いる。
それを使ってアナザービルドを作り出してけしかけ、向こうがそれを倒せば、相手側もアナザーライドウォッチの性質を理解する。
そして次にアナザーカブトを作り出しけしかければ、相手側はそれを倒すためにカブトにカメンライドするだろう。
そこをFFRすることで、こちら側に引き寄せ、奪うことを考えた。

この作戦を実行するために必要なもの、それはアナザーライダーに変身させるための素体となる者だ。
その素体に使えそうな者を、JUDOは既に1人確保していた。
それは、先ほどの戦いでアリナ・グレイの結界キューブの中に閉じ込めた野原しんのすけだ。
この作戦を構築していた間は、まだしんのすけを人質にしておびき寄せる方面で考えていた。
そうしてのこのことネオディケイドライバーを持つ者が自分のいる方に来た場合、まずはしんのすけをアナザービルドにして暴走させるつもりだった。
そしてアナザービルドが倒され、ウォッチが破壊されたのならば、すかさずしんのすけを次はアナザーカブトにしてけしかけるつもりだった。

397Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:34:59 ID:LueZvDC20
ただし、これに少し変更を加えた作戦も考案していた。
それはもし、網走監獄にいる者達がモノモノマシーンからスイーツに該当する品を引き当てた場合のことだ。
前に述べたように、JUDOはクウガ・ペガサスフォームの力で網走監獄に桐生戦兎達がいることを探知し、そこでの会話を盗聴できるようにしていた。
そしてJUDOは、モノモノマシーンからエリシオのカードというアイテムを引き当てていた。
前にも記述したように、このカードはスイーツがあればそこに含まれるキラキラルというものを奪い、カードモンスターという怪物を生み出せるようになる。
もしこのカードをアナザーライドウォッチに対し使ってみれば、アナザーライダーの特性を引き継いだカードモンスターを生み出せるかもしれなかった。

しんのすけをアナザーライダーにする場合、もしかしたら何らかのきっかけで正気を取り戻してこちら側に歯向かってくる可能性も考えられた。
2度もアナザーライダーにする場合だと、耐性がついてそのリスクが上がるかもしれなかった。
だからもしカードを使うための条件がそろった場合は、こちら側から出向き、持っているアナザーライドウォッチの内1つはカードと共に使用することを考えた。
そしてもう片方はしんのすけに使い、カードモンスターや自分と共に襲わせようと思った。
どうせなら、向こう側にとって害になるものが多い方がより破壊しやすくなるだろう。

この作戦の場合だと、スイーツを食べられる前に手早くカードを使わねばならない。
そして最後にFFRでネオディケイドライバーを奪うことを考えると、こっちの場合でも使用するアナザーライドウォッチはビルドの方が先の方が良いだろう。
まあ、わざわざFFRを使わずとも全員ただ破壊することが出来れば、ネオディケイドライバーを奪うのも手間はかからないのだろうが。
とにかく、もしもの時のための作戦のため、ビルドのウォッチは先に使うべきだ。
そしてカードも早く使わねばならないことも考えると、カードはビルドのウォッチの方に使うことにしようということになった。
向こうが慣れ親しんでいるでらしいビルドでそういうことをやれば、向こう側に与えられる最初の衝撃も大きくなるだろう。
その後、タイミングを上手い事見計らってしんのすけもアナザーカブトにすれば、作戦が成功する確率も上がるだろう。

FFRで変形させた分身達については、一応出したままにしておくが、隠しておくことにもした。
これらは武器や乗り物として役立つ可能性はあったが、何らかのきっかけがあってFFRが解けて人型のライダーに戻る可能性も考えられた。
それを見られてしまえば、自分の作戦がバレてしまう可能性ももしかしたら僅かにでもあるかもしれなかった。
だから、何らかの異常事態が起きない限りは戦力として表に出さないことにした。

こうして色々と作戦についての考えをまとめた後、JUDOは網走監獄の盗聴を始めた。
そうしてしばらくして、網走監獄にいる者達がスイーツを入手したことを察知してしまった。
だからJUDOは、待ち伏せするのを止めて自分から攻める方の作戦に切り替えた。

途中、主催陣営の者が明らかにおかしな形で乗り込んで来る異常事態があり、隠して控えさせていたFFRさせた分身達を呼び出してしまった。
幸いそれがきっかけで作戦がバレることはなかった。
アギトトルネイダーの方は、自分が出したアナザービルド改めノワールビルドにボトルに吸収されて消されてしまうというハプニングはあったが。
本体ではなく存在の曖昧な分身体であったために、表面的にだけでなく全体が吸われてしまったのだろう。
それにより人型のライダーに戻らず、FFRのことがバレるきっかけにならなかったのは不幸中の幸いだったかもしれない。

398Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:35:43 ID:LueZvDC20
主催陣営の介入という異常事態があったために、ここまでの戦いで他の者達を破壊することは出来なかった。
だがこれがあったからこそ、アナザーライダーは同じライダーの力でないと完全に倒せないという情報が、明確にネオディケイドライバーを持つ者に伝わった。

途中、黒色のライダーであるジョーカーのライダーパンチを喰らった時は少し危なかったかもしれない。
JUDO自身のパンチにより相手の拳から親指と人差し指を奪っていたおかげで、威力が下がってコンプリートフォームの解除までで済んだのだろう。
それにこのおかげで、少しの間は動けないフリをすることもできた。

これにより、ネオディケイドライバーを持つ者…桐生戦兎が遂にこちらの思惑通りにカブトにカメンライドした時、FFR用のカードをディケイドライバーに装填することができた。
ゼクターカブトに変形させた桐生戦兎を自分の下へ引き寄せることができた。
念願のネオディケイドライバーは、遂にJUDOの手の中に入った。
本来はきっと自分(この肉体)のものであろう変身ベルトを勝手に利用していた不届き者の命も破壊できた。

21の歴史(物語)の力を持つ最低最悪の真の破壊者が、遂に降臨した。

もはや、誰にも止められない。





「…………戦………兎、さん……?」

甜花は、今目撃した出来事を理解できなかった。
理解したくなかった。

しんのすけを元に戻そうとした戦兎が突如カブト虫のような姿に変形させられたかと思うと、何かに操られるように飛んで行った。
飛んで行った先で、戦兎は変身ベルトを奪われたのか変身を解除させられて地面にうつ伏せに叩きつけられた。
そして倒れて身動きがすぐに取れない状態のまま、背中を撃たれた。

撃たれた戦兎から血が流れ、彼の周囲の地面を赤く染める。
離れた位置の甜花にはその様子がはっきりと見えたわけではない。
けれども、撃たれた後の彼が一度血を吐いたきりピクリとも動かなくなったのは見えていた。

桐生戦兎は…これまで自分を助けてくれていたヒーローは、死んだ。
最期に何かを言い残す暇もなく、理不尽に、あっさりと殺された。

「い……や…!」

少し時が経つにつれ、甜花は否が応でも理解させられていく。
彼女の精神はこれに耐え切れない。
絶望、甜花の中にその二文字が現れてきていた。
だが、このことに対くる悲鳴を上げている余裕もなかった。


「ウ、グ……ガアアアアーッ!!」
「きゃああっ!!?」

戦兎が居なくなったことで、アナザーカブトが再び甜花の方目掛けて襲いかかってきた。
これまでゆっくり目だった動きが、急に加速したようだった。
止めようとしていた戦兎がいなくなった瞬間、しんのすけの意識が更に暗闇の中に堕とされた。
これにより、アナザーカブトの『力』は、更に中の人の状態に構うことなく無理矢理に動こうとしていた。
このままでは、しんのすけの命も危ない状態にあった。



『甜花!クッ…!』

甜花の悲鳴を聞いてエボルトはそっちの方にも気を取られる。
だが、そちらの方ばかり気にするわけにもいかなかった。
エボルトはJUDOへの攻撃のためそっちの方に向かっていた。

399Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:36:21 ID:LueZvDC20
油断していたつもりはなかった。
戦兎がアナザーカブトの相手をしていた頃、気でも失っていたのか何故か動きを止めていた。
だがそれが動けないフリである可能性も考えていた。
だからもしもの時のために、JUDOのいる方にも気は配っていた。
スチームライフルは手元にないため、エネルギー弾を手の中に溜めて、向こう側が動いたらこれを放って攻撃するつもりだった。

だがまさか、戦兎の方に遠隔で変形させ、操る技を持っているなんてことまでは予想できなかった。
放ったエネルギー弾も、それのせいで戦兎が盾になってしまいぶつけることが出来なかった。
今になって思えば、向こう側は最初からこれを行うチャンスをずっと伺っていたのかもしれない。
こんなことができることを、この瞬間まで隠し通されてしまった。
そのせいで今、戦兎が殺されてしまった。
計画が全て、狂ってしまった。


計画を新たに練り直すにしても、そんなすぐに出来ることでもない。
まずは、再び立ち上がって来たディケイドをどうにかしないといけない。
逃げるとしたら、スチームライフル…の一部のトランスチームガンの力が必要だ。
それを拾うためには隙を作らなければならない。
そのためにも、JUDOの方に攻撃しに向かうのを止めなかった。
…だが、それだけじゃない所もあった。
戦兎を殺され、自分の計画を台無しにしたJUDOに対し、エボルト自身の「怒り」も微かに存在していた。
エボルトはまだそのことに対し、無自覚であった。

エボルトはそのままエボル・ラビットフォームの脚力に任せて、スピードを付けてJUDOに接近しようとしていた。
このままいけば、向こうが奪ったベルトを付け替える前に辿り着きそうではあった。
相手が奪う選択肢をとった以上、戦兎の持っていた方を使うことは向こうのパワーアップに繋がることは明白だった。
それをされる前に、変身ベルトを弾き落とそうとしていた。

その時、不思議なことが起こった。

『何ィッ!?』
「消えた…!?いや、これは…!?」
「ほう…」

ここで起きた現象を、エボルトだけでなく蓮と双葉も目撃した。
JUDOの持っていたネオディケイドライバーが突如、マゼンタの光となって解れるように消滅した。
消滅した際に出た光が、JUDOの腰の白いディケイドライバーに集まって行った。
その次の瞬間、白のディケイドライバーがマゼンタ色に染まった。
ネオディケイドライバーが消え、その代わりに通常のディケイドライバーがネオディケイドライバーに変化した。
本来のディケイドの手に渡ったことで、ネオディケイドライバーの力が吸収された。
それは以前、JUDOが風都タワーでアナザーディケイドウォッチの欠片から力を吸収したのと同じような現象であった。
過去と未来のディケイドライバーが一つになった。
そうとしか見えないだろう現象が、今この場で起きた。

エボルトが間に合わなかったのは途中で甜花の方に気を取られたからなのかもしれない。
そんなことを考えるのはもう後の祭りだ。
こうなっては、パワーアップを防ぐために攻撃するだなんてことはもうできない。
それでも、エボルトはこの瞬間もJUDOの方に攻撃を仕掛けるために向かうのを止められなかった。

『ハアッ!』
「フンッ!」

エボルトがJUDOに対しパンチを仕掛ける。
しかし、それはあっさりと避けられてしまう。
ベルトを付け替えるまでもなく力を吸収して一つになったことで、JUDOはもうネオディケイドの激情態となった。
それにより、スペックは更なる向上を遂げていた。
それに加えてほしふるうでわの効果で素早さが上がっていることもあり、エボルトの攻撃を避けるのも簡単だった。
例えエボルトが、エボル・ラビットフォームになって体力を回復していたとしても。

「このっ…!」
「待ってジョーカー!その体じゃ…!」

雨宮蓮もJUDOに対し莫大な怒りを抱いていた。
蓮もエボルトに続いて再び戦いに赴こうとする。
だが双葉が蓮の体の状態を気に掛けて、止めようとする。

その間にも、JUDOは次の行動を起こしていた。
新たなアイテムを取り出していた。
このアイテムの存在は前の山中での戦いの後にも言及されていた。
それがようやく、使えるようになった。

400Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:36:59 ID:LueZvDC20
『W OOO FOURZE WIZARD GAIM DRIVE GHOST EX-AID BUILD ZI-O』
『ZERO-ONE』

JUDOはそのアイテム…ケータッチ21を取り出し、これを操作する。
これにより平成二期、そして令和最初の仮面ライダー達の名が次々と詠唱される。
JUDOはネオディケイドライバーを一旦取り外して腰の横に取り付け、ケータッチ21をそれがあった腰の中央に取り付ける。

『FINAL KAMEN RIDE! DECADE COMPLETE 21!』

その音声が鳴り響くと同時に、大量のライダーカードが出現しディケイド激情態の全身を包み込む。
それらのライダーカードが集まって、ディケイドの新たなコンプリートフォームの姿を作り出す。
胸部のヒストリーオーナメントのカードの配置は右側に平成一期、左側にジオウを除く平成二期の最終フォーム、そして胸の中央にはジオウの最終フォーム「グランドジオウ」のカードが存在していた。
頭頂部のディケイド・コンプリートフォームの入っている部分、ディケイドクラウンには、その上に更にゼロワンの最終フォームである「ゼロツー」のカードが縦に並んで入っていた。
また、通常のコンプリートフォームには無いマントも出現していた。
そのマントの裏側には、平成ライダーシリーズの所謂1号(主役)ライダー、2号ライダー、ファイナルアタックライドのカード、ファイナルフォームライドのカードまで大量に貼り付けられていた。
まさに全身カードまみれのカード怪人、そう形用できるような存在だった。

仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム21。
実は私たちの世界においては真っ当に活躍できたという記録がまだ無いディケイドの強化された姿。
その顔面は、ディケイド激情態の姿に合わせて悪魔のような形相をしていた。
そんな新たな姿を携えて、破壊者はエボルト達の前に立ちはだかる。





場面を再び、大崎甜花と野原しんのすけのいる方へと戻す。
こちらでもまだ、戦いは続いていた。
…いや、ここで起きていることを戦いと言えるかどうかは、少し疑問が感じられるものかもしれなかった。

「ひぃ、ひぃんっ!」『ガンッ』『ガンッ』
「グガァアアッ!!」
「キャアアッ!!」

甜花は自分に対して向かってくるアナザーカブトに対し、必死になって残された無双セイバーを振るっていた。
無双セイバーの刃はアナザーカブトの体を何度か打つ。
しかし、効果は全くなかった。
甜花の無双セイバーはアナザーカブトの体表に傷一つ付けられなかった。

通常でも結果は変わらなかっただろうが、今の甜花では余計にそういったことをするのが難しい状態にあった。
戦兎の死のせいで、甜花の精神状態はボロボロだった。
このことを心の中で整理できていない状態のまま、まともに戦うだなんて土台無理な話であった。

甜花はアナザーカブトのパンチを受け、吹っ飛ばされる。
そのパンチの威力は高く、これにより甜花の変身が解除される。
戦極ドライバーに付けられていたウォーターメロンロックシードも、弾みで外れてしまっていた。

しんのすけが飲み込まされたアクションストーンのエネルギーは、まだアナザーカブトを強化していたようだった。
エボルならそれでもまだ何とか対応は出来ていたようだった。
だがエボルほど強くはなく、メンタル状態も良くない甜花ではこれに対抗できる確率は、0%だった。

「ウオォ…?」

甜花を殴り飛ばした後、アナザーカブトは地面に落ちたウォーターメロンロックシードに目を付けた。
アナザーカブトはそれを拾い、まじまじと眺め始める。
それがかつて、自分の下に支給された品であることを分かっていないかのようだった。

「ガヴ!」
『バキッ』

そしてなんと、そのロックシードを口元に運んで齧りついた。
齧りつかれたロックシードは、素体となっている孫悟空の肉体の筋力のおかげか、砕けてしまった。
ロックシードに付けられていたウォーターメロン(スイカ)の意匠を、本物と同じと認識し、食べ物だと思ってしまったようだった。
素体にされている野原しんのすけでも、本来だったら南京錠の形をしているロックシードに対しそのような認識をしてしまうことは無いだろう。
だが、しんのすけはやはりまだ5歳の幼稚園児であり、今は暴走状態で視界に映るものの認識がかなり曖昧だ。
本来
なら仲間である者達に対し襲いかかってしまっているのもそのためだ。
比較するには少々無理のあることかもしれないが、アクションストーンだってかつては飴玉と誤認して食べてしまったこともある。
口の中で舐めて溶かす飴玉と誤認したアクションストーンの時と違い、ロックシードのことをスイカと認識しているためか、口の中に入れたそれを歯で噛み砕こうとしていた。

『バリ』『ボリ』
「……ペッ!ペッ!」

だが、せっかく噛み砕いて口の中に含んだロックシードを、アナザーカブトは吐き出してしまった。
あまり美味しくなかったようだった。

401Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:37:43 ID:LueZvDC20
「ひぃ…はぁ…!」

アナザーカブトがウォーターメロンロックシードに気を取られていた隙に、甜花は倒れた状態から何とか立ち上がってアナザーカブトから離れようとしていた。


「あっ…!」

離れようとした先で、甜花はあるものが落ちているのを見つけた。
それは、ノワールビルドによりボトルの中に吸収されて消えたはずの、メロンロックシードであった。
ノワールビルドが浄化されたために、そのロックシードが復活したようだった。
近くにメロンエナジーロックシードの方は無い。
どうやら、ノワールビルドが浄化された時に起きたクリームの破裂により、バラバラに飛ばされてしまったようだった。
甜花はそのロックシードの方に駆けつけ、拾った。


なお予め先にここで記述しておくと、ノワールビルドの浄化によりボトルに吸われていたアギトトルネイダー…に変形していたディケイドの分身は特に復活したりはしていない。
成分を吸われた際に、ダメージを受けたのと同じ扱いとなってアタックライド・イリュージョンとしての効果は失われていた。
ノワールビルドがボトルを使えていたのは成分だけはその中に保存されていたためだ。



「へ、変身…!」
『メロン!』『ロックオン』
『ソイヤ!メロンアームズ!天下御免!』

甜花は慌て気味にロックシードを起動し、戦極ドライバーにセットする。
そしてすぐさまカッティングブレードを下げ、妹の姿からアーマドライダー斬月・メロンアームズの姿に変身した。

(戦兎さん…)

このロックシードが復活したのは、戦兎がノワールビルドを倒したおかげであることを甜花は察する。
戦兎の死はまだ飲み込めていないが、ほんの少しだけ戦う意志が再生してきた。
これを再生した彼のためにも、頑張らないといけないという思いが出始めて来た。


「オ、アア…」
「………やあああぁーっ!!」

甜花は新たに手元に出現した大盾のメロンディフェンダーと無双セイバーを構え、アナザーカブトに向かって突撃する。

「オアアッ!」
『ガンッ』
「ひぃ…!」

アナザーカブトが再びパンチを繰り出してくる。
甜花はそれを、メロンディフェンダーで何とか受け流す。

「やあっ!たあっ…!」
「グッ…アッ…」

再び、甜花は無双セイバーをアナザーカブトに向かってがむしゃらに振るう。
体を刀で打たれているアナザーカブトは、これに対し先ほどと違い苦悶の声を漏らす。
相手側の体力の低下と、甜花の精神状態が少し回復した影響か、ダメージを与えられているようだった。

「やあああーっ!」
「グバッ…!」

甜花は自分にできる限りの力を入れ、無双セイバーを一閃させる。
それに勢いよく打たれたアナザーカブトは、今度はそちらの方が地面を転がされることになる。

『メロンスカッシュ!』

甜花はカッティングブレードを一度倒し、必殺技発動の準備をする。
戦極ドライバーから音声が流れると同時に、甜花の持つ無双セイバーにエネルギーがチャージされていく。

「はあ…はあ…」

甜花は息を少し荒げながら、倒れたアナザーカブトに近付いて行く。
その際に力を込められるよう、無双セイバーを両手で握りしめるためにメロンディフェンダーから手を離して地面に落とす。

「やああぁ…!」

そしてトドメの一撃をアナザーカブトに当てるため、雄叫びを上げながら無双セイバーの切っ先を天に向けて振り上げた。


「ガハッ…!」
「ひっ…!?」

甜花が無双セイバーで勢いよく斬りつけようとしたその時、アナザーカブトが血を吐いた。
それを見た甜花は、刀を振る途中で手を止めてしまった。

甜花が刀を止めてしまった理由、それは先ほどの戦兎の死だ。
戦兎は死ぬ直前に、一度吐血した。
遠くからでも、それはギリギリ見えてしまっていた。
それからもう一つ、目の前にいるアナザーカブトは、本来なら仲間であるはずの人物が無理矢理変貌させられたものであることは甜花も分かっていた。
そしてその中身は、肉体は大人でも、本来は僅か5歳の幼稚園児の男の子であることも話は聞いていた。

吐血を見た甜花は思ってしまった。
このまま自分が刀を振るってしまえば、戦兎のように相手は死んでしまうんじゃないかと。
戦兎を殺したディケイドや、自分を洗脳していたDIO等の酷い人達と同じになってしまうのではないかと、そんな風に感じてしまった。
ただでさえ人間相手なのに、まだ5歳の子供となればなおさら抵抗感が出てしまっていた。

何故アナザーカブトが急に吐血したのか、その理由までは甜花はすぐに分からなかった。
けれどもそれは、とても単純なことだった。
先ほどウォーターメロンロックシードを無理矢理噛み砕いた際に、口の中を一部切ってしまっていたからだった。

そんなことも露知らず、甜花はアナザーカブトの前で大きな隙を晒してしまった。
アナザーカブトは甜花が動きを止めた一瞬の間に、片手の平を相手に向けた。

402Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:38:29 ID:LueZvDC20
「ハアアーッ!!」
「きゃああああぁぁーっ!!?」

アナザーカブトの手の平から、エネルギー波が発射された。
それは、素体となっている孫悟空の肉体が持つ技、かめはめ波の片手バージョンだった。
片手で放たれたのは一瞬、撃った者も体力のかなり少ない状態ながらも、威力は十分だった。
かめはめ波は斬月・メロンアームズの胸部辺りの装甲に命中した。
甜花はそのダメージにより変身を解除させられながら吹っ飛ばされる。
そして今回も、ダメージを受けたはずみで戦極ドライバーからロックシードが外れてしまっていた。





「ガヴ、ガヴ…」

甜花を吹っ飛ばした後、アナザーカブトは立ち上がった。
けれども、そいつはすぐに甜花の方に向かおうとはしなかった。
アナザーカブトは先ほどと同じように、甜花が落としたロックシードに対して果物の意匠を本物と誤認して齧りついていた。
暴走状態にあるためか、食べ物ではないということを学んでいないようであった。
体力が更に減って力を入れられないためか、先ほどよりは上手く噛み砕けずに苦戦しているようだった。

「うう……ふ、うぅっ……!」

甜花は吹っ飛ばされた先でうめき声を上げながら、体を震えさせながらゆっくりと上半身だけ起き上がらせた。
上半身を起こした後、やがて彼女の両目から涙が流れ始めた。
せっかく戦兎がロックシードを直して遺してくれたのに、それを上手く活用できなかった。
そのせいで、戦兎を喪ったことによる大きな悲しみと絶望がぶり返してきていた。
もはや、自分ではどうしようもできないという、多大なる無力感に苛まれていた。
前々からの、ダメダメな甜花に戻ってしまったと感じていた。

「………アレは……」

ふと横の方を見てみると、そこにまたロックシードとは別のものが落ちていることに気付いた。
甜花が"それ"を初めて見たのはこの網走監獄の中でのことだった。
甜花は体勢を変えて、這いながらそれがある方へと近づいて行った。

甜花は"それ"がある所に辿り着くと、拾い上げる。
その後いわゆる女の子座りと呼ばれる、両足の側面全体が地面にぺたんと着く座り方に姿勢を変える。
そして拾ったものの外側の皮を剥き、中に詰まっていた寒天のような果肉を取り出す。
それは、ここでエボルトから渡された後に甜花が投げ捨てたはずの、ヘルヘイムの森の果実であった。
その投げ捨てた先に、甜花は辿り着いてしまった。
果実は、これまでの戦いの余波にも巻き込まれなかったのか無傷だった。
…いや、もしかしたら余波には巻き込まれた上で、何度か吹っ飛ばされた先の最終的な到達地点がここなだけだったのかもしれない。
どちらにしても、直接的に攻撃に巻き込まれたことはなかったようだった。

「………これを、食べれば…」

甜花の中に、本来ならばするはずのない考えが出てきていた。
この果実を食べてしまうと、人としての理性を失い、怪人になってしまうと教えられた。
だが、人を超えた新たな力を手に入れられる可能性が僅かにあるという話も聞いた。

甜花は今、絶対にしてはいけないだろうことを考え始めていた。
その僅かな可能性に賭けてこの果実を食べ、新たな力を手に入れることを。

その選択肢は、はっきり言って最悪のものであった。
確かに、理性を残したまま新たな力を手に入れられる可能性は僅かながらにある。
しかしそうだとしても、人間でなくなってしまうことには変わりない。
しかも、食べるのは妹である大崎甘奈の肉体だ。
甜花は今、妹ごと人間を止めることを考えてしまっているのだ。

「…………なーちゃん……ごめん……ごめん…………ごめんなさい…!」

それでも甜花は、この果実を食べようとした。
ヒーローが居なくなってしまった今、他に手段がなかった。
…もしかしたら、絶望により自暴自棄気味になっているところもあるのかもしれない。
甜花の胸の中は、妹に対する多大な罪悪感でも一杯だった。
それでも、自身の行動を止められなかった。


甜花は泣きながら、自分(妹)の口に目掛けて、果実を運ぼうとした。


『ガシッ』
「…………え?」


今にも甜花が果実を食べそうになった、その時だった。
果実を持つ甜花の腕を、何者かが掴んだ。
甜花はその何者かのいる方に顔を向ける。
そこには、いるはずの無い者がいた。






そこにいたのは、桐生戦兎だった。

403Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:39:06 ID:LueZvDC20
…いや、それは甜花の知る桐生戦兎とは少しだけ違っていた。
その戦兎は、髪の毛が乱れていなかった。
服装も派手な赤っぽいツナギではなく、ベージュ色のコートを羽織っているのが目立つものだった。
顔は同じでも、まるで別人のようだった。

それもそのはずだった。
何故なら甜花の知る桐生戦兎は、佐藤太郎の姿をしているものだったからだ。
そして今甜花の目の前に現れたのは、本来の桐生戦兎であった。
…厳密に言えば顔は佐藤太郎のものに変えられたものであるが、それが正義のヒーロー・仮面ライダービルドとして活動していた桐生戦兎の姿であった。

甜花の腕を掴んだ戦兎は、口を閉じたまま首を横に振る。
『それだけはしてはいけない』、そう言っているかのようだった。

その後、戦兎は背後のやや上の方に顔を向ける。
すると、その先の空間に異変が起きる。

空間が一瞬、波紋のようなものを出しながら歪んだ。
その波紋の中央が光ったかと思うと、そこからあるものが出現した。

それは、先ほど戦兎が変形させられた物体…それを小さくしたかのようなものだった。
それもそのはず、その出現した者の方がそれのオリジナルだからだ。
仮面ライダーカブトの変身アイテム、カブトゼクターが突如この場所に出現した。
東の街で主を失ったそれが、元々備わっていたワープ機能でこの網走監獄までやってきた。

現れたカブトゼクターを戦兎と甜花は視線で追う。
そいつはやがて、甜花の目の前にやってきた。
カブトゼクターはしばらく、甜花を見つめていた。
その次の瞬間、奇妙な出来事が起きた。

カブトゼクターはまず、甜花の持つヘルヘイムの森の果実に近付いた。
すると、まるでその果実に粒子となって吸い込まれるかのように、カブトゼクターと果実が融合した。
融合したその果実は、形を変え始めた。

融合した果実とカブトゼクターは、ロックシードへと変化した。
新種であるためロックシードにならないはずだったのに、確かにそうなった。
このロックシードには、仮面ライダーカブト・ライダーフォームの顔の意匠が施されていた。

ヘルヘイムの森の果実が、別種のライダーのアイテムと融合してロックシードに変化するという現象の例は、過去にも存在した。
それが起きたのは、『武神の世界』と呼ばれる世界だった。
その現象と同じようなことが、今この場においても起きてしまっていた。

果実がロックシードになるのを見た後、甜花は再び戦兎の方に顔を向ける。
戦兎は『これでいい』と言うかのように首を一度縦に振った。

その直後、桐生戦兎はまるで霞のように消えてしまった。
まるで、最初からここにはいなかったかのように。
けれども、変化した果実…カブトロックシードは確かに、甜花の手の中に残されていた。

…甜花には全く知る由の無いことだが、今ここで起きた出来事は、かつて同じく新種のヘルヘイムの森の果実を手にしてしまったものが経験したことに、類似していた。


今見えたものはもしかしたら、ただの幻覚だったのかもしれない。
それでも、この出来事は確かに、甜花の心に変化をもたらした。
絶望しかなかった心に、希望が芽生え始めていた。


「……ごめんなさい。なーちゃん、戦兎さん。ありがとう。甜花……頑張りましゅ!……あうう…噛んじゃった…」

少し言葉は噛んでしまったが、彼女の中の決意はしっかりと立っていた。
今度こそ、戦兎が託してくれた想いに応えるために。
彼がいなくなった分も、自分がヒーローとなって頑張れるように!

さあ、祝え!新たなるヒーローガールの誕生を!


『カブト!』

ロックシードの起動と同時に、甜花の頭上でクラックが開き、展開前のアーマーが出現する。
そのアーマーは、仮面ライダーカブトの顔面の形をしていた。

『ロックオン』

甜花はロックシードを戦極ドライバーの中央にセットする。
それと同時に、変身者の出陣を盛大に知らせるためのほら貝の音を中心とした待機音楽が流れ出す。
そしてこれまでも何度か言った、自らを奮い立たせるためのあの言葉を叫ぶ。

「変身!」
『ソイヤ!』

甜花はカッティングブレードを下げ、妹の顔でカブトの顔面のアーマーを頭から被る。
アンダースーツも装着され、アーマーが展開していきアーマードライダーとしての形を作っていく。


『カブトアームズ!天の道!マイウェイ!』

アーマードライダーが一体何のアームズを装着したのかを知らせる音声が流れる。
こうして現れたその姿は、私たちの世界においてはアーケードゲーム上でしか戦う姿を見ることのできないものであった。
アーマードライダー斬月・カブトアームズ。
天の道を行き、総てを司る力を纏った青目を持つ紅白の武者が、この網走監獄の中に降り立った。

404Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:40:31 ID:LueZvDC20



『バリ』『ボリ』
「…ペッ」

先ほどよりも時間がかかったが、アナザーカブトはメロンロックシードも噛み砕いてしまった。
それもアナザーカブトはすぐに吐き出してしまった。
そして辺りを少し見回した後、その視線は再び甜花をロックオンする。

だが、その姿は以前と違う。
醸し出す雰囲気も、変わっていた。
彼女が向ける青の双眸が、覚悟を決めて迷いを捨てたことを伝えているかのようだった。

甜花の右手には、仮面ライダーカブトの武器である、カブトクナイガンも握られていた。
アーマードライダー特有のアームズウェポンとして、その武器が召喚されていた。
甜花はカブトクナイガンからクナイフレームを抜き取り、クナイモードへと変形される。
その次にカッティングブレードに手を伸ばし、それを2度下げた。

『クロックアップ』

その音声は、本来の仮面ライダーカブトのベルトから鳴るものと違い、戦極ドライバー特有の音声で流れた。

『クロックアップ』

それと同時に、アナザーカブトの体からも音声が流れた。

2人のカブトの力を持つ者が動き出す。
両者共に、同時にクロックアップの加速した時間の中に入門する。
これで、互いの動きはどちらともに通常と変わらないスピードに感じるようになる。

「ウオアアアアアァーッ!!!」

アナザーカブトが甜花のいる方に向けて突撃してくる。
それに対し、甜花は動かずに冷静に相手を見ていた。
甜花は、自分が狙うべき場所を見定めていた。

アナザーライダーの特性は甜花も聞いている。
同じライダーの力でなければ、変身アイテムであるアナザーライドウォッチを破壊できない。
しかし今、甜花は相手と同じカブトの力を持つ姿になっている。
ウォッチの破壊自体は可能な状態だ。
だから、あとはどうやって破壊するかだ。

しんのすけがどこにウォッチを埋め込まれてアナザーカブトにさせられたか、その場所を思い出す。
狙うべきは、そこだ。
そこだけ狙えば、相手を殺さずにも済むはずだ。


「アアアアアァァーッ!!」

アナザーカブトが甜花に対して腕を振り上げる。
一瞬、アナザーカブトの胸の辺りががら空きとなった。

「………やあああああああああぁぁぁーっ!!!」

甜花は手に握ったカブトクナイガンの刃を、勢いよくアナザーカブトに向けて突いた。
その刃は、アナザーカブトの胸の中央に突き刺さった。
そこは、JUDOがしんのすけに対してウォッチを埋め込んだ場所であった。

甜花の刃は、しんのすけの体内にあったウォッチだけを、的確に貫いた。

「オ、カッ…」

甜花が刃を刺し込んだ後、アナザーカブトは動きを止めた。
その時にはもう、お互いにクロックアップの効果は切れていた。

甜花はゆっくりとアナザーカブトの胸から刃を引き抜く。
すると、アナザーカブトの胸に空いた穴から、砕けたアナザーカブトウォッチの残骸がこぼれ落ちる。
同時に、アナザーカブトへの変身が解け、中から孫悟空の肉体の野原しんのすけが今度こそ出てきた。
その胸に、刃による刺し傷等は見受けられなかった。

ようやく孫悟空の姿に戻ったしんのすけは、体力の消耗が激しかったためか気を失っていた。
そしてそのまま、その場に仰向けに倒れ込んでしまった。

405Last Surprise⑤〜You are the HERO〜 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:41:03 ID:LueZvDC20


「お、終わっ、た……」

しんのすけが倒れた後、甜花もその場に座り込んだ。

「戦兎さん……甜花、やったよ…」

アナザーカブトを倒し、しんのすけを元に戻したことで、甜花の中に達成感が発生していた。
同時に、脱力感も感じていた。
決着は一瞬だったが、疲労感は凄まじかった。
けれどもこれで、問題は確かに1つ解決した。
ヘルヘイムの森の果実から自分を助けた戦兎に対して報いることもできたとも、感じていた。
甜花は安心したかのように、その場でへたり込んでしまっていた。


………だが、安心するのはまだ早かった。
戦いはまだ、終わっていない。



「グアアアアアアアアアアァァァーッ!!!」
「!?」

甜花の耳に悲鳴が入ってきた。
エボルト達のいるはずの方角からだった。

最低最悪の破壊者という脅威が、まだ残存していた。

406Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:43:52 ID:LueZvDC20
時間を、ディケイド激情態・コンプリートフォーム21が出現したところまで遡る。
新たな姿となったJUDOは、すかさずケータッチ21を操作し始めた。

『GAIM KAMEN RIDE KIWAMI ARMS』

最初にJUDOの隣に召喚されたのは、白銀の甲冑に身を包んだ武将。
アーマードライダー鎧武・極アームズであった。

『……そんなゴテゴテしたダセえ恰好になって、さっきみたいに動けんのかあ!?』

エボルトがそう言いながら、再びJUDOに対し攻撃を仕掛けようとする。
今の姿は見掛け倒し、そう自分に言い聞かせるかのように拳を振り上げながら襲いかかろうとしていた。
それに対し、JUDOは冷静に必殺技用のカードを腰の横のネオディケイドライバーに装填する。
隣に立つ鎧武・極アームズもその動きに合わせていた。

『FINAL ATTACK RIDE GA GA GA GAIM』
『イデッ!?』

ファイナルアタックライドの音声が流れた直後、どこからともなくハンマーのようなものがエボルト目掛けて飛んできた。
それは、本来ならばドングリアームズとなったアーマードライダーが使用する武器、アームズウェポンの一種のドンカチであった。
ドンカチは、JUDOと鎧武・極アームズの頭上の空間から突如として現れ、ひとりでに動いて飛んできた。
エボル・ラビットフォームの頭部にそのドンカチはぶつかった。

…いや、ドンカチだけではなかった。
JUDO達の周囲の空間には、他にも様々なアーマードライダー用の武器が出現していた。
バナナアームズの槍であるバナスピアー、ドリアンアームズの剣であるドリノコ、イチゴアームズのクナイであるイチゴクナイ、マツボックリエナジーアームズの槍である影松・真、等々…。
それら全てが何もない空間から現れ、ひとりでに動いて飛んできた。
その標的は、エボルトだけではなかった。
蓮と双葉に向けても、アーマードライダーのアームズウェポンは飛んできていた。

「ジョーカー、こっちだ!」
「うわっ!?」

それに対し双葉が、まずペルソナのプロメテウスを自分達のいる地上の方に近付けた。
そしてその下部分から出てきた片手でアームを掴み、もう片方の腕で蓮の体を抱きかかえ、共に上空の方へと逃げようとした。
これにより、飛んできたアームズウェポンの方はギリギリで何とか避けられた。

『クッ…!』

エボルトの方も、自分に向かって飛んでくるアームズウェポンを、避けたり弾き飛ばしたりしながらして対処していた。
そんな彼らに対し、JUDOと鎧武・極アームズの両者の手元に、今回の技による最後のアームズウェポンが出現する。
それは、この殺し合いにおいても何度か目撃した、ソニックアローというエナジーロックシードを使用して変身したアーマードライダー達の武器であった。
これはJUDOと鎧武・極アームズの両者どちら共の分、2つ分出現していた。
JUDOと鎧武・極アームズはそれぞれソニックアローを握り、構える。
その矢で狙う先は、空中にいる蓮と双葉の方であった。

「マハジオダイン!」

蓮はそれに対し、咄嗟にマガツイザナギのペルソナスキルの一つであるマハジオダインを発動させる。
この時、魔法攻撃スキルの威力を倍以上に上げるコンセントレイトの効果も発動していた。
双葉がこの網走監獄に最初に現れた時に発動したアクティブサポートの効果がまだ生きていた。
マハジオダインのスキルによって、雷がJUDOと鎧武・極アームズへと降り注いだ。
マハジオダインは敵全体に電撃属性で大ダメージを与えるスキル、コンセントレイトの威力上昇も相まって、さすがのJUDOも一溜りもないはずだった。

「…ッ」

しかし、JUDOはまだ健在であった。
JUDOの眼前に一つの大盾が現れていた。
それは、メロンアームズのアーマーライダーのアームズウェポン、メロンディフェンダーであった。
JUDOはこれで、蓮が降らせた雷による被害を可能な限り防いだようだった。
ただし、これを召喚した本人である鎧武・極アームズは、電撃に耐え切れなかったのかその場から消え失せていた。

「ごめんジョーカー…もう限界…うわあ!?」
「うわっ!?」

蓮がスキルを放った直後、双葉がプロメテウスのアームを掴んでいた手を離してしまった。
もう片方の腕に蓮を抱えていたため、その重さに耐え切れなくなってしまったのだ。
これにより、蓮と双葉は再び地面の方に落ちる。

407Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:44:25 ID:LueZvDC20
『…ありがとよ相棒!おかげでこれが回収できた!』

蓮と双葉が地面に再び降りた直後、エボルトがそう言ってきた。
先ほどのアームズウェポンの嵐の猛攻の中、エボルトはJUDOへの直接攻撃を諦めた。
そして、蓮がソニックアローで狙われ、それをマハジオダインで迎撃していた間に、あるものを拾いに行っていた。
それは、先ほど吹き飛ばされた際に落としたスチームライフルだった。

『それじゃあ、俺は一足先にお暇させてもらいますかね』
「何!?」

エボルトは、自分1人だけ先に逃げると宣言した。
戦兎が死んだ今、もはや他の奴らを見捨ててでも逃げて計画を練り直さなければならないとエボルトは感じていた。
今のままでは自分は生き延びられないと判断していた。
エボルトはスチームライフル…の一部であるトランスチームガンの機能を使い、煙幕を張って逃げようとした。

(……甜花ちゃんも見捨てて?)

(っ……またか?いい加減にしろ千雪!)

トランスチームガンの煙幕機能を使おうとした瞬間、その指が一瞬止まった気がした。
体の主導権は自分にあるはずなのに、先ほどからどうも桑山千雪の意識も干渉できるようになってきている感じがあった。
千雪は、甜花も見捨てて逃げ出すことを拒否しているようだった。

(……まあいい、これの操作には間に合う。逃げ切れるはずだ)

JUDOが蓮達に気を取られている間に、その距離はできるだけ離しておいた。
これにより、指は一瞬止まったものの、ラビットフォームの脚力も合わせれば、煙幕での逃亡には間に合う計算だった。

『それじゃあ、お前達の無事も祈っているぜ。チャオ♪』

エボルトは軽い口調を崩さないようにしながら、スチームライフルのトリガーを引いて煙幕を張った。
これで、この修羅場から離れられるはずだった。


『EX-AID KAMEN RIDE MUTEKI GAMER』
『FINAL ATTACK RIDE E E E EX-AID』

「フンッ!!」
『ガハッ…!?』

しかし、エボルトは逃げられなかった。
エボルトが一瞬指が動かなかったことに戸惑っていた間に、JUDOはケータッチ21の新たな操作を終えていた。
新たに召喚されたのは、流星の如く輝く黄金のボディを持つライダー。
仮面ライダーエグゼイド・ムテキゲーマーであった。
召喚後直ぐにファイナルアタックライドが発動され、その音声がなった直後、JUDOが煙幕の中のエボルトのところまで一瞬で移動してきた。
JUDOの激情態コンプリートフォーム21は、エボル・ラビットフォームの首を掴んで持ち上げていた。
隣に立つエグゼイド・ムテキゲーマーもその動きに合わせて、何も無い虚空に向かって掴んでいた。

「何度もそう易々と逃げられると思うなよ?貴様に次はない。ここで、我に破壊される運命だ。敗者にふさわしきエンディングを見せてやろう…!」

JUDOは、怒気を多分に含んだ声でそう言った。

「ハアッ!」
『グハッ!』

JUDOはエボルトを投げ飛ばす。
投げ飛ばされたエボルトは、何とか踏ん張ってよろめきながらも立った状態を維持する。

『HYPER』
『CRITICAL SPARKING!!!』

どこからともなくそんな音声が流れたような気がした。
その後、JUDOとエグゼイド・ムテキゲーマーが共に光輝きながらその場で跳ぶ。

「ハアアアアアァァーッ!!」

2人のライダーの足からも、光が奔流する。
そしてその足を突き出して、ライダーキックの姿勢をとる。
彼らが向かう先はもちろん、エボルトのいる方だ。

「止めろ!」

蓮が再び、マハジオダインのスキルを発動する。
今度は、JUDOがエボルトに対し何か喋っていた隙にマガツイザナギのコンセントレイトのスキル効果を発動していた。
これで、今回のマハジオダインも威力は倍以上になっていた。
前と違いJUDOを守るものは無い、これで大ダメージを与えて止められるはずだった。
例え、エボルトが急に自分たちを見捨てようとしても、自分の仲間には変わり無いと認識していた。
再び仲間を失うのを恐れていた。
だから、何としても助けようとしていた。

408Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:44:54 ID:LueZvDC20
「なっ!?」

しかし、効果は全くなかった。
JUDOとエグゼイド・ムテキゲーマーの両者に、確かにマハジオダインは命中したはずだった。
けれども、彼らが纏う光に阻まれ、全くのノーダメージで終わってしまった。
エグゼイド・ムテキゲーマーのアーマーは、あらゆる攻撃を無効化する。
だからその名の通り、無敵なのだ。
その無敵の効果が、必殺技発動中はJUDOにももたらされていた。
更に不幸なことに、消耗の激しいマガツイザナギで強力な攻撃を連続で行ったため、蓮のSPはほとんどなくなっていた。

蓮の攻撃はJUDOを止められず、そのキックはエボルトの下へと高速…光速で向かっていった。

『グッ…!』

エボルトは、咄嗟に手の中にあったスチームライフルを胸の前に出して防御した。
これにより、キックの初撃自体はそこに当たった。

「フン!ハア!」
『ヌウッ!』

そして初撃を避けても、JUDO達は空中にいたまま方向転換をしながら何度かキックを浴びせた。
何度か蹴り終わった後、JUDOはエボルトを踏み台にして少し離れた場所へと跳び移る。

『………何だ?全然効いてねえじゃねえ…』

JUDOが離れた後、不思議なことにエボルトはダメージを受けた感じがしなかった。
てっきり、エボルの装甲のおかげで攻撃を防げたのだと、一瞬思ってしまった。
しかし、それは間違いだった。

『HIT!』

『グアッ!?』

少しの時間差で、エボルトの体に衝撃が走った。
その衝撃は、一回だけでは終わらなかった。
『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』
『GREAT!』『HIT!』『HIT!』『HIT!』『GREAT!』『HIT!』『PERFECT!』

『グアアアアアアアアアアァァァーッ!!!』

時間差でやってきた大量の衝撃に、エボルトは吹っ飛ばされた。
同じくキックを受けたスチームライフルも一緒に、破壊されていた。
接合前の、トランスチームガンとスチームブレードとしても、もう使用することは出来ない。

エボルトが吹っ飛ぶと同時に、腰のエボルドライバーからもラビットエボルボトルが衝撃で外れた。
外れたボトルは、JUDOの元へと転がっていった。
その隣に、エグゼイド・ムテキゲーマーの姿はもう無い。

「フン」
『グシャ』

JUDOは足元に転がってきたボトルを一瞥すると、足で踏み潰した。


『コブラ!コブラ!エボルコブラ!』

『ハア…ハア…やってくれたなあ……』

JUDOがそうしている間に、エボルトは姿を変えていた。
エボルドライバーからラビットエボルボトルが外れたことに気付いた後、急いで変身解除される前にコブラエボルボトルを取り出し、これを装填した。
そうして、エボルは仮面ライダーとしての最初の姿であるフェーズ1、コブラフォームとなった。

これを確認したJUDOは、もう一度ケータッチ21を操作し、新たなライダーを召喚する。
これが、とどめとなるようにするために。

『ZI-O KAMEN RIDE GRAND ZI-O』

JUDOの隣に、エグゼイド・ムテキゲーマーとはまた別の黄金に輝くライダーが現れる。
全身に20人の平成仮面ライダーの彫像、ライダーレリーフを纏うその姿はまさに仮面ライダーの王の如しだ。
仮面ライダージオウの最終フォーム、グランドジオウがJUDOの隣に降臨した。

409Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:45:28 ID:LueZvDC20


「何、あれ……お仏壇…?」

グランドジオウの姿を見て、そんな感想を呟いた者がいた。
それは、大崎甜花であった。
アナザーカブトを倒した後、彼女はエボルトの悲鳴を聞いてここへと駆け付けた。

『FINAL ATTACK RIDE ZI ZI ZI ZI-O』

JUDOは甜花の方を見向きもせず、ファイナルアタックライド用のカードをネオディケイドライバーに差し込んだ。
視線の先のメインターゲットは、今もエボルトのままだ。

「止めろ!!」
「待って!」

蓮が、JUDOの行動を止めようとして必死に駆け出した。
SPをほとんど失った今、再び徒手空拳で戦いを挑むしかなかった。
それに対し双葉は、そんな体では無理だと言わんばかりに蓮を止めようとしていた。
実際、体中の火傷も完治しておらず、右手の親指と人差し指を失い疲労も更に蓄積し始めている状態で戦いを挑むのは、ほとんど無謀だった。


「やあああぁーっ!」

蓮とほぼ同時に、甜花も自分のいる場所からJUDOに向かって駆け出していた。
たとえ今は中身が凶悪宇宙人になっていても、その肉体は自分の大切な人であることには変わりない。
桑山千雪を助けるために、動かない訳にはいかなかった。


蓮と甜花がJUDOの方に近付こうとした、その瞬間だった。
それぞれ2人の前方、その少し上の方の空間に、突如として近未来的な扉のようなものが現れた。
扉の裏側には、時計のようなものが多数浮かんでいるようにも見えた。

蓮の方の扉には、真ん中の付近に「2009」と赤いデジタルな文字が浮かんでいた。
甜花の方は「2013」だ。
その扉が開き、中からそれぞれ1つずつ人影が現れる。

「な、何!?」
『パインスカッシュ!』

2013の扉から現れたのは、アーマードライダー鎧武・パインアームズであった。
鎧武・パインアームズは足に果汁のようなエネルギーを纏うライダーキック…無頼キックをしながら現れた。
鎧武のキックは、甜花目掛けて真っ直ぐと突き進んだ。

「ひぃん!きゃああっ!?」

甜花は咄嗟に、カブトクナイガンを手前に出して防御の姿勢をとる。
鎧武のキックはその手の方に命中した。
甜花は手の中のカブトクナイガンを弾き飛ばされた後、吹っ飛ばされて地面を転がった。
斬月・カブトアームズへの変身は、まだ何とか維持できていた。
何も無かったはずの場所から突如として現れたライダーへの対応としては、これが精一杯であった。


そして、上手く対応しきれなかったのは蓮の方もまた同じであった。
ただし、彼の場合は甜花とは少し様子が違っていた。


「え…?」

2009の扉から現れたそのライダーを見て、蓮は凍り付く。
そのライダーは、半分は今の蓮…仮面ライダージョーカーとほとんど同じ姿をしている。
何故なら、それは前にも蓮が志村新八と共に変身したことのある、仮面ライダーWだからだ。
ただしここで現れたのは、前にWに変身した蓮…左翔太郎の肉体で変身するものではなかった。
この殺し合いで新八にあてがわれた肉体である、フィリップのもので変身するものであった。
右の白と左の黒の配色が目立つ、トゲトゲしいW。
仮面ライダーW・ファングジョーカーが空中の扉から現れた。

雨宮蓮自身がファングジョーカーの姿を見るのはこれが初めてだ。
けれども、その肉体の左翔太郎は覚えていた。
その記憶が、蓮の足を竦めさせた。
この殺し合いで死んだはずの本来の『相棒』の肉体が、突如として蘇って現れたかのようなものだったから。

W・ファングジョーカーは足から専用の牙…マキシマムセイバーを生やした状態で、足を横に伸ばして回転しながら現れた。
この形態のWの必殺技、ファングストライザーを発動しながら現れていた。
このWが突如として現れた精神的衝撃で、蓮はそもそも攻撃に対応するということ自体に考えが及ばなかった。
それどころか戦慄し、無意識の内に一、二歩程下がろうとしていた。

410Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:46:11 ID:LueZvDC20
「プロテクト!!」

双葉が慌てながら呪文を唱える。
ファングストライザーのキックが届く直前で、蓮はプロテクト状態となった。
これにより、物理攻撃により受けるダメージが約7割にまで落ちる。

「ぐあああぁっ!!?」

しかしあくまで、ダメージは割合に合わせて減少するだけで全く無くなるわけではない。
W・ファングジョーカーのキック力は13t、その7割は9.1t。
これでも通常フォームであるサイクロンジョーカーのキック力である6tより大きい。
それと、上記のキック力はあくまで通常時のものであるため、必殺技のマキシマムドライブを発動していたことにより上記よりも高い数値が出ていたかもしれない。
更に言うと、ジョーカーメモリの特性は使用者の感情の力で性能を上げるが…今の一瞬、蓮の精神力は少し低下した。
これに合わせて、仮面ライダージョーカーとしての防御力もその分下がってしまっていたかもしれない。
それに加えて、全くの無防備で攻撃を受けてしまった。
元々の負傷も他の者達と比べると多かった。
これらの要因により、威力は十分と言えるものになってしまった。

ファングストライザーを喰らった蓮は変身を解除され、吹っ飛ばされて地面を転がされた。
双葉によるプロテクトが無かったら、もっと重傷を負っていたかもしれない。

「う…あ…」

吹っ飛ばされた後の彼は、うめき声を1つ上げた後に意識を失って動かなくなった。
プロテクトがあってダメージが減っても、これまでの無理が祟ったのかもしれない。




「――――『暁(あきら)』!!」

……双葉は、必死な表情を浮かべながら、蓮とは別の名前を呼びながら彼に近付いた。





Wと鎧武がそれぞれ蓮と甜花を攻撃した後、彼らはそれぞれ光の粒子となりながらその場から消え失せた。
彼らは、それぞれが活躍した『歴史』の中からそのままの形で召喚されたものだ。
それが、平成の時代を生きた仮面ライダー達の歴史を継承した、グランドジオウの能力であった。

Wと鎧武の召喚は単なる露払いのため。
今こそ、JUDOの目の前にいる本命に対してこの能力が使われようとしていた。
ファイナルアタックライドの必殺技として発動した以上、グランドジオウにあるライダーレリーフを触る必要も無い。
後はほぼ半自動で、これまでに何度も自分を心の底から怒らせた愚か者の破壊が実行される。


『Ready go!』
『エボルテックフィニッシュ!』

『ハアアアァァ…!』

エボルトはエボルドライバーのレバーを操作して必殺技の発動をしようとしていた。
エボル・コブラフォームの拳にエネルギーが集まってきていた。

『ハアアアアアァァーッ!!』

エボルトは拳を構えながら駆け出し、JUDOに殴りかかろうとする。

それとほぼ同時に、あるライダーがJUDOとグランドジオウの前に出現する。
「2011年」の扉と共に現れたそれの名は仮面ライダーフォーゼ。
その最終フォーム、コズミックステイツだった。

フォーゼ・コズミックステイツの手の中には専用武器であるバリズンソードがあった。
バリズンソードは、ロケット型のカバーで刃が隠れたブーストモードとなっていた。
出現したフォーゼ・コズミックステイツは、背中に備えたブースターを噴射し、低空飛行しながらこちら側に走って来るエボルトの下へと向かって行った。

『この…!邪魔を…!ハアッ!!』

召喚されたフォーゼ・コズミックステイツはエボルトに抱き着き、空中へと連れて行った。
突然現れた青いロケットのライダーに対し、エボルトはエネルギーを溜めていた拳を放った。
エボルトの一撃を受けたフォーゼ・コズミックステイツは、光の粒子となってその場から消え失せた。


『……何ィ!?』

直後、異変が起きていることにエボルトは気付いた。
フォーゼ・コズミックステイツの役割は、エボルトへの攻撃でも進行妨害でもなかった。
フォーゼを撃破したと思った次の瞬間、エボルトは空中にいた。
それも、かなり高い位置だった。

フォーゼ・コズミックステイツの持つバリズンソードには、ワープドライブの機能が存在した。
この機能により、フォーゼはエボルトを高い空の上へと連れて行っていたのだ。
本来ならばこれは宇宙空間にまで行ける機能であるのだが、それは流石にここでは使えないようであった。
空高くに連れていかれた後、エボルトはそのまま自由落下し始める。

411Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:46:52 ID:LueZvDC20


『チッ、この程度で俺が死ぬなど…』

落下しながらも悪態をつき、エボルトは次の手を考える。
元々、仮面ライダーエボルの黄金の装甲パーツ・EVOマテリアルにはエボルトの特殊能力を増幅し、ワープ移動等も可能とする力がある。
ここにおいては元々力が大幅に制限されていたようであったため、長距離ワープなどは不可能だった。
しかし、短い距離なら、ある程度は可能かもしれなかった。
試したことはなかったが、これを応用すれば着地の衝撃を減らせるかもしれなかった。
元々エボルの装甲は頑丈であるため、それ込みで考えると自分がこれで落下死するなどあり得ないと考えていた。

しかし、すぐにそういったことを考える暇も無くなっていく。

地上にいるJUDOの上の方から、新たに「2010年」の扉が現れる。
扉が開かれると同時に、1つの赤い影が飛び出し、そのまま空の方へと昇っていった。

それの名は、仮面ライダーオーズ。
全身を赤に染めたその姿は、タジャドルコンボと呼ばれるものであった。

『プテラ!トリケラ!ティラノ!プテラ!トリケラ!ティラノ!』
『ギガスキャン!』

オーズ・タジャドルコンボはオースキャナーという変身の際に使う装置を、左腕に取り付けられたタジャスピナーという円盤型のアイテムに対して使っていた。
タジャスピナーの中にはプテラ・トリケラ・ティラノの恐竜の力を持つ3種のメダルが、プテラが3枚、トリケラとティラノがそれぞれ2枚ずつ、計7枚入れられていた。
オーズ・タジャドルコンボは、これをオースキャナーでスキャンすることでそれに秘められたエネルギーを解放していた。
……これは、仮面ライダーオーズが本来の歴史の最後の戦いで行っていたことであった。

空を飛ぶオーズ・タジャドルコンボは落下中のエボルトに近付いて行く。

『何だ!?』

エボルトはオーズ・タジャドルコンボが向かってくることに気付く。

『この…!』

エボルトは落下しながらでも、手の中にエネルギーを溜め、それをエネルギー弾として何度かオーズの方へ向けて放った。
これぞ、オーズの最後の戦い限定では放たれた必殺技、ロストブレイズであった。

『チッ…!』

しかし、エボルトの放つエネルギー弾はオーズに当たらなかった。
何も無いところから急に赤い大きな羽根のようなものが出現し、それがオーズの盾となった。

そしてオーズは、タジャスピナーに溜められたエネルギーを解放する。
タジャスピナーから放たれた紫メダルのエネルギー像が円環に並び、それが回転しながらエボルトの方に向かって行った。

『クソッ!』

エボルトは咄嗟に、横方向に向けてエネルギー弾を発射した。
それを放った反作用により、エボルトの位置が発射方向とは逆に向けて少しズレた。
それと同時に、増幅されているはずのワープの力も使おうとした。
こうして、ロストブレイズの進行方向から離れて避けようとした。


『グアアアアアアァァーッ!!?』

しかし、それで動けた距離は微々たるものだった。
エネルギー弾を発射するために伸ばした右腕の位置をまさに、ロストブレイズが通過した。
ロストブレイズはエボルの地球上には無い未知の物質でできた装甲をも貫き、その右腕を肘から先の辺りを切断した。
本来は難しいコアメダルの破壊をも可能にする紫のメダル7枚分の力が、こんなことまでもを可能とした。

ロストブレイズが放たれた後、オーズ・タジャドルコンボも光の粒子となって消えていった。
エボルトは仮面ライダーエボル・コブラフォームの姿のまま、右腕から血を大量に流しながら落下していった。


『クソオ!!この俺が、また、こんな…!』

それでも、エボルトはまだ意識を保っていた。
エボルの仮面の下で、歯を食いしばりながら痛みに耐えていた。
そうして、エボルトの中にまたまた感情が蓄積されてきていた。
これは、決して真似事なんかではない。
これでも本人はまだ無自覚だったが、激しい怒りがエボルトの中に確かに存在していた。

共に激しい痛みを感じる『桑山千雪』は、この痛みからはJUDOに対する恐怖の感情がほとんどだった。
余裕の無い彼女の分に呼応するかのごとく、エボルトにはっきりとした感情が芽生え始めていた。

そしてエボルトには、この感情を揺れ動かす更なる災厄が訪れる。

412Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:47:43 ID:LueZvDC20


『ラビット!ドラゴン!』
『!?』

『Are you ready?』

『ベストマッチ!』

落下しながら聞いたその音声は、エボルトにとっては聞き慣れたものであった。
それは確かに、ビルドドライバーから流れたものであった。
しかし、音声の組み合わせは不自然であった。
ラビットとドラゴン、それは桐生戦兎と万丈龍我を象徴する成分だ。
その2種の成分の入ったボトルが、一緒にビルドドライバーに装填され、変身、もしくはビルドアップに使われた音を聞いた。

それらのボトルは、どちらも有機物の成分だ。
ビルドドライバーにおいては、有機物と無機物の組み合わせでないとベストマッチにはならない。
なのにビルドドライバーの音声は今、ラビットとドラゴンの組み合わせをベストマッチだと宣言した。

そもそもの話として、ビルドドライバーを使っている音が聞こえてくること自体が異常事態だった。
まさかギニューとそいつが連れていた葛城忍の姿をした主催陣営の者までやって来たのかとも思った。
エボルトは、痛みを押し殺しながら、何とか音声が聞こえた方向に顔を向けた。

(……何だ、あのビルドは…?)

そこに見えたのは、エボルトも見たことの無い仮面ライダービルドの姿であった。
そのビルドは、エボルトが顔を向けた直後に消えた扉の中から現れたようだった。
これが意味することはつまり、そのビルドはギニューが連れていたものではなく、JUDOとグランドジオウが召喚したものであるということであった。

召喚されたビルドは、金と銀の2色であった。
エボルトの知るラビットとドラゴンの色はそれぞれ赤と青のはずなのに、それとは一致していなかった。
しかしそれは確かに、ラビットとドラゴンのトライアルフォームのビルドであった。

エボルトにとっては未来の話であるが、桐生戦兎と万丈龍我のハザードレベルが7.0に到達した時、二人のそれぞれのボトルが金と銀に変化した。
これはきっと、エボルトがとことん追い詰めたからこそ、それと戦うためにボトルが2人の想いに応えて変化したのだろう。

そう、そこにいた金銀のビルドの姿は、本来の歴史におけるエボルトとの最終決戦で誕生したものであった。

『Ready go!』

金銀のビルドは、ビルドドライバーのレバーを操作し、必殺技発動の準備をする。
レバーを回し終えた後、ビルドはその場で跳んだ。

『ボルテックアタック!』

その音声が流れると同時に、ビルド御なじみの巨大なグラフが出現する。
そのグラフの滑り台のようになっている部分は、エボルトの落下に合わせるかのごとくその真下に出現した。
一方ビルドは、グラフの頂点に着地し、そのままライダーキックの姿勢になりながら滑り始めた。

エボルトが丁度落下してきた時のグラフの点と、ビルドのキックが通過する点は、ぴったりと一致した。
ビルドの足と、エボルの腹部が、ぶつかり合った。


『ガアアアアアァァーッ!!!?な、何だこのビルドはあああああぁぁーっ!!?』

ビルドの性能はエボルトもよく知っている。
トライアルフォームでは、基本スペックがベストマッチフォームよりも落ちてしまうことも知っていた。
けれども、今エボルトが喰らっているビルドの一撃は、トライアルフォームでありながらどのベストマッチフォームのビルドよりも強力だった。
それどころかエボルトの知る限りでは、ビルドが持つ複数種類の強化フォームのものよりも、強力であったかのように感じた。

『馬鹿な…あり得ない…何故だ!この俺が、こんなところで…!!』

ラビットドラゴンのビルドのキックは、仮面ライダーエボルの腹部、そこにあるエボルドライバーを捉えていた。
奇跡のライダーキックを受けたことで、エボルドライバーに段々とヒビが入って行く。
それを察知すると同時に、エボルトは理解してしまう。
自分はもう、ここで終わりなのだと。


『ウオオオオオオオオオオオォォォーッ!!!』

エボルトが雄叫びを上げると同時に、ビルドはキックを続けながらもその姿を金と銀のラビットドラゴンから、何故か赤と青のラビットタンクの通常フォームへと変える。
本来のビルドの歴史通りの現象が起きると同時に、遂にエボルドライバーが限界を迎えて破壊される。
それと同時に、ビルドも光の粒子となって消え去った。

後に残されたエボルトは、右腕を失くした桑山千雪の姿で、地上までの残り数メートルの距離を落下していった。
地面に落ちた後、彼が動く様子は見受けられなかった。

413Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:51:11 ID:LueZvDC20



「終わったか」

JUDOがそうポツリと呟くと同時に、彼の隣にいたグランドジオウの姿が消滅する。
先ほどのビルド・トライアルフォーム(ラビットドラゴン)の攻撃をもって、今回のファイナルアタックライドは終了となった。

地面に落ちたエボルトは、右腕から流す血が作る小さな湖に浮かびながら、ピクリとも動かない。
これでもう奴の破壊は完了したものと認識し、JUDOは次のターゲットに視線を向ける。

「ち、千雪…さ…」

JUDOが目に付けたのは、大崎甜花の方であった。
甜花は、エボルトが千雪の姿で落ちてきて、動かなくなったのを目撃した。
エボルトと共に、千雪も死んでしまったのだと、認識した。
また、自分は大切な人を喪ってしまったのだと、思ってしまった。


「………うあああああぁぁーっ!」

戦兎が死んだ時と違い、ただ絶望に打ちひしがれて震えてへたり込むだけではなかった。
JUDOに対し、戦いを挑もうとしていた。

車を運転できる戦兎、煙幕を張れるエボルト、本来の逃走要員は皆居なくなってしまった。
こうなってはもはや、全員逃げ切れずにJUDOに殺されるだけだと。
この場にいる意識のある者達は皆ほとんどそう思っていた。

それでも甜花は、戦うことを選ぼうとしていた。
自分を守ってくれるヒーローも、自分の想い出を穢しながらも共に行動してくれていたエイリアンもいない。
挙句の果てにはそのまま戦いに負けて死んでしまい、このことに対して感情の整理のつけようがなかった。
それでも何故戦うことを選んでいるのか、それは甜花自身でもはっきりとは答えられるものでなかった。
もしかしたら、戦兎と千雪を殺されたことに対する敵討ちをしたい気持ちでもあるのかもしれない。
再び自暴自棄となっており、一緒に殺されることを望んでいるのかもしれない。

けれども、甜花としては自分は希望のために戦おうとしているのだと、信じたかった。
自分が戦えば、もしかしたら他の仲間、雨宮蓮と野原しんのすけ、それに主催陣営だったはずなのに自分達を助けようとした佐倉双葉が逃げるための時間を稼げるかもしれない。
そんな風にして、誰かを守りたいという気持ちも捨てないままに戦っているのだと、思いたかった。

『ライダーキック』

甜花は戦極ドライバーのカッティングブレードを3回下げた。
上記のような音声が鳴ると共に、甜花の足にエネルギーがチャージされていった。

「やあああぁぁーっ!」

甜花は、ぎこちない動きながらもJUDOに向かって飛び蹴りを放った。



「ハアッ!」
「きゃあぁっ!?」

しかし、その技は防がれた。
必殺技ではない、通常のパンチで甜花の技は弾かれた。
キックが当たった直後は少しの間拮抗したが、やがて押し返される結果となった。


やはり何の特訓もしてないままライダーキックを放とうとしたことと、今のJUDOが持つライダー特攻、そしてスペック差により、この結果がもたらされた。

弾き飛ばされた甜花は再び地面を転がる。
JUDOはそんな甜花に対し、ゆっくりと近付いてくる。

『ガチャ』
「えっ!?」

JUDOは甜花に近付くと、その腰にある戦極ドライバーに手を伸ばし、掴んだ。

「は、離して…きゃあっ!?」

嫌がる甜花の抵抗をものともせず、JUDOは戦極ドライバーを無理矢理外す。
これにより甜花の変身が解け、斬月・カブトアームズの仮面の下にあった彼女の妹の顔をそこに晒す。


「……小娘、貴様は本来ライダー共とは縁の無い存在だな?それも、心身共に」
「え?」

JUDOが何故かいきなりそんなことを見抜いて来た。
今の彼の、21の歴史を支配するディケイドの力がそれを知らせているのか、仮面ライダーの破壊者としての嗅覚がそれを察知させているのかは分からない。

414Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:52:00 ID:LueZvDC20
「貴様のような小娘には過ぎた玩具だったな」
『バキッ』
「あっ…!」

JUDOは手に持った戦極ドライバーをその場で握り潰した。
そこにセットされていた、カブトロックシードも一緒に。
せっかく戦兎がもたらしてくれたと思われる力が、あっさりと無に帰された。

「ライダーに何ぞならなければ、もう少しの間は破壊されずに済んだかもしれぬのにな」

JUDOはそう言いながら、ライドブッカーをソードモードに変えて構える。
特定の技などは使わず、これで甜花を殺すつもりのようだった。
それこそまるで、一般市民のようにあっさり殺された戦兎のように。

「……馬鹿に、しないで…!」

最後に甜花は、大粒の涙を流しながら啖呵を切ろうとする。

「で、できることが、あったから…甜花は、戦った…!だ、誰かの力に、なりたいって、思うことの……何がダメなの…!」

甜花はしどろもどろになりながら、頭に浮かんだ順に言葉を発する。
自分でも何を言いたいのかははっきりと分かっているわけではない。
それでも、言葉を続けることは止められなかった。

JUDOはそんな甜花の言葉を興味なさそうに無視する。
ライドブッカーの刃を振りかぶり、甜花に向けて振り下ろそうとしていた。

「っ…!」

最期の瞬間が来たと思い、甜花は目をつぶった。






「甜花ちゃん!!」

甜花もよく知る声が、彼女の前から聞こえて来た。





(……俺は、どうしたんだ…?)

地上に落下してから数分、動かなくなったはずのエボルトの目が開いた。
息も、確かにしているようだった。

(…何で、俺は、生きている…?)

目覚めたエボルトが最初に疑問に思うのはまずそこだった。
金銀のビルドの蹴りはすさまじく、エボルトは自分でも死んだと思った。
だが、何故か彼の命はまだ終わっていなかった。


そうなった理由は実は、佐倉双葉にあった。
彼女は、エボルトが最後のキックを喰らう直前に、プロテクトの呪文をかけてくれていた。
そのおかげでダメージが減り、エボルトは何とかギリギリのところで命を繋いでいた。

しかし、その2度目の命の恩人は今エボルトの近くにいない。
彼女が今どうしているかについては…また後述することにする。
そしてエボルトは、自分がこの瞬間に生きている理由を知ることはなかった。


(あいつは今、どうしている…?)

自分の生存理由を考えるのを止めたエボルトは、次に自分をこんな目に合わせたJUDOが今どうしているかを気にする。
辺りを見回してみれば、その答えはすぐに見つかった。

(甜花…あいつが今、引き付けているのか…)

甜花がJUDOの相手をしていることにエボルトは気付く。
何か話しているらしく、JUDOには隙があるように見えた。

(今の、内に…!)

そう感じたエボルトは、すぐさま立ち上がり、この場から離れようと思った。
甜花が考えていた通り、時間稼ぎをしてもらってその内に何とかして逃げ延びようと考えていた。
…今のボロボロの体で、本当に逃げられるかどうかも関わらず。

415Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:53:35 ID:LueZvDC20
(甜花、…ちゃん……ありがと、よ…)

エボルトは虚ろな頭でそう考えながら、痛みに耐えながら無理矢理にでも立ち上がる。
何とか歩けそうなことも確認し、とにかくこの場から離れようと思っていた。


……JUDOが甜花に向けて、ライドブッカーの刃を振り上げているところを見るまでは。
この瞬間、確かに甜花の命が奪われようとしていることを理解するまでは。
理解した瞬間、エボルトの体が勝手に動いた。





「ゴホッ………あ……?俺……何で………?」

体を切り裂く痛みが来ると思ったその瞬間、甜花に降り注いだのは生温かい液体であった。
それは、血液であった。

甜花に振るわれたはずだった刃を、死んだはずのエボルトが背中で庇って代わりに受けた。
彼は今、正面を向いて座り込む甜花と対峙している形になっている。
彼の桑山千雪としての顔の口から、血液の塊が吐き出されていた。
甜花が被ったものは、それだった。

「あ、え、あ…?」

エボルトの目は焦点が合って無く、自分が何をしているのかも分かっていないようであった。

しかしやがて、彼は目の前にいる甜花のことを認識する。
そして最期に、こう呟いた。


「て…ん花、ちゃ……生、き……」

『ドス』

最期の言葉が完了する前に、JUDOがエボルトの背中をライドブッカーの刃で貫いた。
これを最後に、エボルトは今度こそ動かなくなった。



まず最初にはっきりと言ってしまおう。
今回、エボルトと『桑山千雪』の2つの人格は、互いに融合し始めていた。

その原因として、グレートドラゴンエボルボトルを使ってしまったことが可能性として高いということをここで提唱する。
そのボトルの力のおかげで、エボルトはエボル・ドラゴンフォームになった時に『桑山千雪』の感情の力をパワーに変えることができていた。
感情の力の源は『桑山千雪』だったが、実際にパワーとして使っていたのはエボルトだった。
エボルトは『千雪』から感情の力を抽出していた。
そうやって力を使った際、『千雪』の感情とエボルトの精神が結びついてしまったのだと、仮説させてもらう。
その結びつきは、2つの人格が気付かないほどにほんの僅かなものだったのだろう。

一度結びついてしまった後は、例え件のボトルを使わないままでも異変が加速していた。
お互いに何か感情を揺さぶられる出来事が起きるたびに、『千雪』から移ったエボルトの小さな感情が、少しずつ大きくなっていたのだろう。
そして、『千雪』の意思も、ある程度は体の動きに反映されるようになっていたのだろう。

そうした感情の増幅の先に起きること、それは人格の融合だ。
金銀のビルドのキックにより倒れた後、エボルトと『千雪』の人格はほとんど融合していた。
それでも一応、主人格はエボルトの方のままだったのだろう。

けれども、甜花が殺されそうになっている場面を直接目撃したことで、『千雪』の感情が暴発した。
その結果、エボルトの意思に反して甜花を庇う行動に出てしまった。

感情を持たないはずのエイリアンは、人間の感情に負けて破滅した。

これが、ここにおける星喰いの宇宙人の結末であると、させてもらおう。


【エボルト@仮面ライダービルド(身体:桑山千雪@アイドルマスターシャイニーカラーズ) 死亡】

416Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 01:55:18 ID:LueZvDC20


「……千雪さん?」

自分の目の前で今度こそ死んだエボルトを見て、甜花はそう呟く。
これまでこの殺し合いにいたのは、自分の大切な人の肉体を乗っ取ったエイリアン、それだけのはずだった。
しかし、今自分を庇った彼/彼女には、確かにその大切な人…桑山千雪の面影があった。
…まるで、死んだのはエイリアンではなく、桑山千雪本人であったかのように感じた。


「……まだ生きていたか。まあいい。今度こそ貴様を破壊する」

JUDOは甜花を庇った者のことを気に掛けず、甜花に再び刃を振るおうとする。
甜花は今起きたことの整理がつかず、再び呆然とし始めていた。

避ける間もなく、その刃は今度こそ甜花の命も奪うはずだった。

…しかし、これもまた、結末は失敗であった。


「何ッ!?」

JUDOの前にいた甜花の姿が消えた。
それにより、ライドブッカーの刃は何もないところを打つ。
甜花は、ただ消えたわけではなかった。
何者かが、連れ去っていた。

JUDOはその者がいる方向を察知し、そこに顔を向ける。

「貴様は…!」

そこにいたのは、オレンジ色の道着姿の男だった。
孫悟空の姿をした、野原しんのすけがそこにいた。
彼の腕の中に、甜花は抱えられていた。

…甜花だけではなかった。
雨宮蓮と佐倉双葉も、一緒に彼に抱えられたり背負われたりしていた。

そしてしんのすけの頭には、ある変化も起きていた。
……まるで、斉木空助が付けていたものと同じアンテナのような物体が取り付けられていた。


しんのすけはJUDOの方を一瞥した後、甜花達を抱えながら額に指を置いた。
それと同時に、彼らの姿は忽然と消えてしまった。





「暁…ジョーカー!起きてくれ!」

ファングジョーカーに吹っ飛ばされた後の雨宮蓮を、彼のものではない名を呼びながら双葉は起こそうとしていた。

双葉がこの網走監獄に来たのはもちろん、彼を助けるためだった。
エボルトが推測していた通り、エボルトがギニューにスマホを奪われたためにここに来た。
スマホの強奪について知った時は、双葉も大いに焦った。

しかししばらくして、斉木空助がこう言った。
『そんなに心配ならば、もう直接自分で行けばいいじゃん』『奪われたスマホのことはこっちで何とかしておくよ』と。

双葉は悩んだが、やがて現在蓮達がかなりのピンチな状況にあることを知った。
そのため、意を決して彼女もアドバイス通りにしようとした。

このためにはまず、自分が殺し合いの舞台に行った後も、追手となる者達が来ないようにしなくてはならなかった。
そのため、斉木空助の協力を借りて、自分が殺し合い本部の転送装置を使って自分ごと網走監獄に送る際に、爆弾も仕掛けて来た。
追手がすぐに来ないところを見るに、爆弾は確かに転送装置を破壊したようだった。


また話を少し戻すが、転送装置を使うことになる前に、斉木空助からあるものを渡されることになった。
それは、斉木空助が付けているテレパスキャンセラーと同じものだった。
それも、これが用意された時点での殺し合い参加者の人数分+予備にいくつか、であった。
このテレパスキャンセラーを、空助はデイパックに入れて渡して来た。
これを渡して来た理由としては、これが無いとそもそも黒幕に操られる可能性があって、戦いにすらならないとのことだった。
双葉はその言葉を信じ、デイパックを受け取った。


そうして双葉が網走監獄に着いた後は、時々ヘルメットから無線通信で流れて来る空助のアドバイスも受けながら戦っていた。
アナザーライダーの特性や、戦兎がカブトにカメンライドした際に起きるだろう危険性なども空助が教えた。
後者については、間に合わなかったが。


やがて彼女は流されるままにJUDOとの戦いに参加し続け、現在の時間に戻る。

双葉は何とか自分の力で蓮を回復させようとしながら、彼のことを起こそうとしていた。

その時だった。

「ウッ…!?」

双葉の意識が、突然何かに塗りつぶされた。

417Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:00:29 ID:LueZvDC20


蓮を起こそうとしていたはずの双葉は、突如それを止めた。
その時は、エボルトがまだ空中でグランドジオウの出すライダー達と格闘していた。

やがてエボルトが追い詰められ、金銀のビルドのキックを受けた時のことだった。

「プロテクト」

双葉は何かに操られるかのように、エボルトにこっそりとプロテクトの呪文をかけた。
先ほどは双葉が呪文をかけたと言ったが、それは半分間違いでもあった。

次に双葉は、甜花がJUDOの相手をしている隙にこっそりと野原しんのすけの方に近付いて行った。
そうして彼の頭に、デイパックから取り出したテレパスキャンセラーを取り付けた。
同時に、自分のアビリティのモラルサポートの効果で、エボルト、蓮、甜花、そしてしんのすけの体力もこっそり回復させておいた。
エボルトが一度目覚められたのは、このこともあったからだった。

そこまで終わった後、双葉は突然意識を失ったように倒れた。
その次に、野原しんのすけの方が立ち上がった。
彼もまた、何かに操られるかのようであった。

動き始めたしんのすけは、孫悟空の肉体が持つスピードに任せて、双葉と蓮、そのついでに周囲に落ちていた品々を回収した。
先ほど体力を回復されたため、ギリギリこのような行動をとることも可能だった。
そして最後に、JUDOに斬られそうになっている甜花を抱きかかえた。
…エボルトまでは、間に合わなかったようだった。

そこまでやった後、しんのすけは指を額に当てて自分の知る者の『気』を探った。
気の場所を探り終えた後、しんのすけと彼が抱きかかえる者達は、その場所へと瞬間移動した。
それは、孫悟空が持つ技としての「瞬間移動」であった。
しんのすけは、まだこれを使えないはずなのに使用した。




やあ、みんな。僕だよ。

僕の名前は斉木空助、この殺し合いの主催陣営の一人だ。

それじゃあ、時間も押しているし手短に、今回起きた出来事について説明しようか。



そして今回の話での最後に起きたこと…佐倉双葉と野原しんのすけが誰かに操られたかのようになって網走監獄にいた者達を的確に助けようとしたこと。
そしてしんのすけがまだ使えないはずの瞬間移動まで使ったこと。
はっきりと言ってしまえば、これは僕の仕業だ。

後付け設定で申し訳ないが、実は僕のテレパスキャンセラーに新機能を付けたんだ。

それは、短い時間だけならば、僕の思うように人を操れる機能だ。

原作の僕にはこんなものを作ったことはないけどね。
でも原作の僕は、リモコン操作も可能な極薄のパワードスーツの作製に成功していた。
これでパワードスーツを着たうえでリモコン操作されたものは、ちょっとロボっぽくなる。

この技術と他の作品世界の技術を混ぜて応用して、今回の特性テレパスキャンセラーを作ったってわけさ。

とは言っても、使えるのは対象1人につき一度だけだけどね。

テレパスキャンセラーとしての機能も残さないといけないから、そういった機能を付けるスペースが限られていたんだよね。

佐倉双葉には少し悪いことをした…かも、しれないね。
まあでも、これが無いとそもそも黒幕との戦いにならないってことにも、嘘は無いからね。

強引だったかもしれないけど、これで危険からは一旦引き離せた。
…犠牲になった者達もいたけどね。
色々と原作だとやってないこともしている僕だけど、僕は僕でそれなりに弱体化しているからね。

それに、今回瞬間移動で行った先も、無事でいられる場所であるかどうかは分からないからね。
なんたって、そこの時間はまだ『創られて』いないのだから。
それでも、今回の話をまとめるにはこれしかなかった。

まあ、どうか大目に見てやってもらいたいね。
こっちだって、なりふり構わずにはいられない状況だからね。
例え、人道に反する手段を使おうともね。

さて、それじゃあ次は彼女との約束を果たしてやろうか…。

418Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:03:46 ID:LueZvDC20



「……ハア」

網走監獄に一人取り残された後、JUDOはその場でどっかりと座り込んだ。
色々と余裕ぶった振る舞いをしていた彼であったが、本当は今回のことはかなり疲れていた。
体力ももう、限界であった。

「まさかこの我が見逃してしまうとはな…」

今回、甜花を破壊できなかったことをJUDOは悔やむ。
すぐに殺さずに少しの間話すことを選んだのは、疲れで判断力が鈍っていたこともあるかもしれない。

「だが、ライダー共は何体か破壊できた」

JUDOとしては今回の成果は最低限十分であると感じていた。
ネオディケイドライバーを奪うことに成功し、更なるパワーアップを遂げた。

それからJUDOは、今回自分が殺した戦兎とエボルトは、精神の方も根っからのライダーであったことを感じていた。
同じくライダーに変身していた甜花と蓮の方は、違うと感じていた。

「奴の破壊を優先すべきだったか…」

けれども、蓮の方は精神は違えど、肉体の方は根っからのライダーであるとも感じていた。
エボルトを一度倒した後、甜花ではなく蓮の方を狙うべきだったかもしれないという考えがJUDOの中で浮かんでいた。

「次こそ、破壊してやる」

疲れた体でも、JUDOはそう宣言する。
最低最悪の破壊者はまだ、健在のようだ。

【B-1 網走監獄/真夜中】

【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS】
[身体]門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]疲労(特大)、ダメージ(極大)、激情態、破壊衝動、コンプリートフォームに2時間変身不可能、コンプリートフォーム21に2時間変身不可能、ビルド・ジーニアスフォームには変身可能
[装備]ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ケータッチ21@仮面ライダージオウ、ライドブッカー+アタックライド+ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち
[道具]基本支給品×10、トビウオ@ONE PIECE、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ(次回放送まで使用不可)、警棒@現実、海楼石の鎖@ONE PIECE、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、レインコート@現実、プロフィール(クリムヴェール、ピカチュウ、天使の悪魔)、シロの首輪、モノモノマシーンの景品×3
[思考・状況]
基本方針:優勝を目指す。そしてこの世界の全てを破壊する。
1:次の闘争に備え休む。
2:闘争を楽しむ。そして破壊する。
3:仮面ライダーは優先的に破壊する。
4:先ほどのグループにもう一度再会したら黒の仮面ライダー(雨宮蓮)を優先して破壊する。
5:先ほどの者(志々雄)は、もし再会するようなことがあったらその時破壊する。
6:改めて人間どもは『敵』として破壊する。
7:疲れが出た場合は癪だが、自制し、撤退を選択する。
8:我に屈辱を味合わせた剣士は生きていたのか?
9:優勝後は我もこの催しを開いてみるか。そして、その優勝者の肉体を我の新たな器の候補とするのも一興かもしれん。
[備考]
※参戦時期は、第1部終了時点。
※現在クウガ〜キバのカードが使用可能です。
※ディケイド激情態に変身できるようになりました。
※破壊の力に目覚めました。本来は不死身である存在や、特殊な条件を満たせないと倒せない相手でも、問答無用で殺害することが可能であると思われます。
※ディケイド激情態の、倒した仮面ライダーをカード化する能力は制限で使えないものとします。
※ディケイド激情態が劇中で使っていた、ギガント等の平成一期サブライダーの武装のアタックライドカードは、ここにおいては無いものとします。
※アナザーディケイドウォッチの残骸に残っていた力を吸収した影響で、ディケイドのスペックが幾らか強化されました。
※オーロラカーテンによるワープが使えるようになりましたが、エリアを跨ぐ程の移動は時間を置かなければ不可能に制限されています。具体的な時間は後続の書き手に任せます。
※首輪×10をモノモノマシーンに投入しました。残りの景品の詳細は後続の書き手に任せます。
※ネオディケイドライバーの力を吸収し、ディケイドライバーがネオディケイドライバーに変化しました。
※ネオディケイドライバーに入っていたカードも前の持ち主から受け継いでいます。
※ディケイドのスペックが完全にネオディケイドのものになりました。

※メロンエナジーロックシードが網走監獄内のどこかに落ちているかもしれません。

419Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:09:42 ID:LueZvDC20



意識の無いまま無理矢理使わされた瞬間移動の行き先、その場所はおそらく予測できる。
今の孫悟空の肉体で気を探れる相手、それはおそらく「柊ナナ」だろう。
つまり、操られたしんのすけに連れられた者達は、彼女がいる場所に向かったと思われる。
その場所に危険が無いかどうか、戦兎だけでなくエボルトもいなくなったことについて話がどう転がるか。
そういたことについては、また後の話になるだろう。




最後にもう一つだけ、明言しておくことがある。

佐倉双葉が、雨宮蓮のことを「暁」と呼んだことについてだ。

とは言っても、これについてそこまで深い意味は無い。
ただ、彼女が蓮の知る双葉ではないこと…並行世界上の同一人物ってだけのことを示しているだけだ。

それ以上の意味は、無いはずだ。


【C-2?(柊ナナ達のいる場所?)/真夜中】


【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、精神的ショック(特大)、戦兎やナナ達への罪悪感、エボルトへの恐怖と嫌悪感(大)、深い悲しみ、決意(大)、呆然自失、桑山千雪(身体)の返り血が顔に付いている
[装備]:PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:千雪さん……?
2:燃堂さん……。
3:戦兎さんが…いなくなった…。だから、甜花が、代わりに…!
4:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。だから、変わらなきゃ…!
5:ナナちゃんも、無事で良かった……。
6:なーちゃん達……大丈夫かな……。
7:殺し合いが無かったことになる……本当に良いのかな……?
8:首輪…簡単に外せるの…?
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。

420Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:16:43 ID:LueZvDC20
【雨宮蓮@ペルソナ5】
[身体]:左翔太郎@仮面ライダーW
[状態]:ダメージ(極大)、疲労(極大)、SP消費(特大)、体力消耗(特大)、怒りと悲しみ(極大)、ぶつけ所の無い悔しさ、メタモンを殺した事への複雑な感情、喪失感(特大)、気絶中、右手の親指と人差し指の欠損
[装備]:T2ジョーカーメモリ+T2サイクロンメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、鳴海荘吉の帽子@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品×6、ハードボイルダー@仮面ライダーW、ダブルドライバー@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、新八のメガネ@銀魂、ラーの鏡@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、2つ前の放送時点の参加者配置図(身体)@オリジナル、ジューダスのメモ、大人用の傘
[思考・状況]基本方針:主催を打倒し、この催しを終わらせる。
0:……。
1:ディケイドを倒したい。
2:『あの人』がまた殺されて、俺は……。
3:桐生さん…
4:首輪の解体は簡単なものだったのか?
4:仲間を集めたい。
5:エボルトとの共闘は継続する。これで良い、筈…。
6:しんのすけはどうなった?
7:どうして双葉がここに?まさか自力で脱出を?
8:アルフォンスはどこに行ったんだろう…正気に戻したいが…。
9:体の持ち主に対して少し申し訳なさを感じている。元の体に戻れたら無茶をした事を謝りたい。
10:ディケイド(JUDO)、前よりも更に更に強くなってしまった…。
11:新たなペルソナと仮面ライダー。この力で今度こそ巻き込まれた人を守りたい。
12:推定殺害人数というのは気になるが、ミチルは無害だと思う。
[備考]
※参戦時期については少なくとも心の怪盗団を結成し、既に何人か改心させた後です。フタバパレスまでは攻略済み。
※スキルカード@ペルソナ5を使用した事で、アルセーヌがラクンダを習得しました。
※参加者がそれぞれ並行世界から参加していると気付きました。
※翔太郎の記憶から仮面ライダーダブル、仮面ライダージョーカーの知識を得ました。
※ベルベットルームを訪れましたが、再び行けるかは不明です。また悪魔合体や囚人名簿などの利用は一切不可能となっています。
※エボルトとのコープ発生により「道化師」のペルソナ「マガツイザナギ」を獲得しました。燃費は劣悪です。
※しんのすけとのコープ発生により「太陽」のペルソナ「ケツアルカトル」を獲得しました。
※ミチルとのコープ発生により「信念」のペルソナ「ホウオウ」を獲得しました。
※アルフォンスとのコープ発生により「塔」のペルソナ「セト」を獲得しました。

※エボルトの死をまだ知りません。

421Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:17:53 ID:LueZvDC20
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[身体]:孫悟空@ドラゴンボール
[状態]:体力消耗(極大)、ダメージ(特大)、決意、深い悲しみ、斉木空助により精神操作中(後1秒もせずに解除)
[装備]:アクションストーン@クレヨンしんちゃん、テレパスキャンセラー@斉木楠雄のΨ難+オリジナル
[道具]:ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、サッポロビールの宣伝販売車@ゴールデンカムイ、基本支給品、ライズホッパー@仮面ライダーゼロワン、仮面ライダーブレイズファンタステックライオン変身セット(水勢剣流水無し)@仮面ライダーセイバー、スペクター激昂戦記ワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー、工具箱、コブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ロケットフルボトル@仮面ライダービルド、グレートドラゴンエボルボトル@仮面ライダービルド、スイーツパクト&アニマルスイーツ(うさぎショートケーキ)@キラキラ☆プリキュアアラモード
[思考・状況]
基本方針:悪者をやっつける。
0:……。
1:オラ…一体…何を…?
2:ミチルちゃん…みんな……。
3:逃げずに戦う。
4:困っている人がいたらおたすけしたい。
5:オラの身体が悪者に使われなければいいけど…
6:煉獄のお兄さんのお友達に会えたらその死を伝える。
[備考]
※殺し合いについてある程度理解しました。
※身体に慣れていないため力は普通の一般人ぐらいしか出せません、慣れれば技が出せるかもです。(もし出せるとしたら威力は物を破壊できるくらい、そして消耗が激しいです)
※自分が孫悟空の身体に慣れてきていることにまだ気づいていません。コンクリートを破壊できる程度には慣れました。痛みの反動も徐々に緩和しているようです。
※名簿を確認しました。
※界王拳を使用しましたが消耗がかなり激しいようです。気のコントロールにより慣れれば改善されるかもしれません
※悟空の記憶を見た影響で、かめはめ波を使用しました。
※気の探知を行いました。慣れれば瞬間移動が出来るかもしれません。
※現在アリナ・グレイの結界内に囚われていましたが、出されました。
※アクションストーンがお腹の胃の中にあります。
※斉木空助のテレパスキャンセラーによる精神操作により一度だけ瞬間移動を使えました。このことが今後影響するかどうかは後続の書き手にお任せします。

※戦兎とエボルトの死をまだ知りません。



※「カブトゼクター@仮面ライダーカブト」は、「新種のヘルヘイムの森の果実@仮面ライダー鎧武」と融合して「カブトロックシード@仮面ライダー鎧武」になりました。

※「トランスチームガン@仮面ライダービルド、ラビットエボルボトル@仮面ライダービルド、エボルドライバー(+コブラエボルボトル+ライダーエボルボトル)@仮面ライダービルド、戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、メロンロックシード@仮面ライダー鎧武、ウォーターメロンロックシード@仮面ライダー鎧武、カブトロックシード@仮面ライダー鎧武、アナザーカブトウォッチ@仮面ライダージオウ、アナザービルドウォッチ@仮面ライダージオウ、エリシオのカード(カードモンスター用)@キラキラ☆プリキュアアラモード」は破壊されました。

※「最高級コーヒーゼリーセット@斉木楠雄のΨ難」は灰になりました。


【特殊状態表】

【佐倉双葉@ペルソナ5】
[身体]:ルッカ@クロノ・トリガー
[状態]:気絶(すぐに目覚めるものと思われる)、MP消費(大)
[装備]:ルッカのヘルメット型テレパスキャンセラー@クロノ・トリガー+斉木楠雄のΨ難+オリジナル
[道具]:テレパスキャンセラー×21@斉木楠雄のΨ難+オリジナル
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止めたい。
0:……。
1:ジョーカーを助ける。
2:一先ず、斉木空助に協力してみる。
[備考]
※彼女にとっての「心の怪盗団のジョーカー」の名前は「来栖暁」です。
※なお、だからと言って彼女の出展は漫画版ペルソナだとは限らないものだとしておきます。
※殺し合いの参加者のジョーカーの名前が雨宮蓮と認識しているかどうかは、現状は不明としておきます。
※ペルソナは、プロメテウスとします。
※ルッカの呪文も使えるものとします。

422Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:18:54 ID:LueZvDC20
[モノモノマシーンの景品紹介]

【新種のヘルヘイムの森の実@仮面ライダー鎧武】
外伝作品の『グリドンVSブラーボ』に登場。
本来のヘルヘイムの森の実は、戦極ドライバーを装着した状態で持てばロックシードに変換できる。
しかし、この新種の果実の場合はそれができなくなり通常の手段ではロックシードにすることができない。
なお、作中においては初瀬裕二の霊?と思われる存在が手をかざしたら、ロックシードに変化するという現象が起きていた。
そのため、ロックシードにする手段が全く無い訳ではないと思われる。

【ラビットエボルボトル@仮面ライダービルド】
エボルボトルの一種。
桐生戦兎から生み出したボトルであり、ライダーエボルボトルと一緒にエボルドライバーに装填することで仮面ライダーエボル ラビットフォームへの変身を可能とする。

【最高級コーヒーゼリーセット@斉木楠雄のΨ難】
単行本3巻収録の第27χに登場。
斉木楠雄がある小学生が失くした野球ボールを見つけてあげた時、お礼として貰った最高級コーヒーゼリーの三点セット。
ちなみに、野球ボールを失くした原因は斉木楠雄のサイコキネシスで吹っ飛ばしたあり、そんなことをした理由は元々自分で買っていた最高級コーヒーゼリーにぶつかりそうになったからである。

【エリシオのカード(カードモンスター用)@キラキラ☆プリキュアアラモード】
闇の勢力、キラキラルを奪う存在の首魁ノワールの僕であるエリシオがモンスターを生み出す際に使用するカード。
闇の力が秘められており、スイーツ等に宿るキラキラルというエネルギーを吸収し闇の力に変換する。
そしてキラキラルを吸収したカードを「ノワール・ミロワール」の掛け声と共に何らかの物体に向かって使用することで、対象を大きなモンスターに変えることができる。
モンスターを倒すためには、プリキュアがキラキラルから生み出すクリームエネルギーの力で浄化しなければならない。

【アナザービルドウォッチ@仮面ライダージオウ】
仮面ライダービルドの力を宿したアナザーウォッチ。
使用者もしくはこのアナザーウォッチを埋め込まれた者をアナザービルドへと変身させる。
仮面ライダービルドの力を宿した攻撃でなければ完全な破壊は不可能である。

【スイーツパクト&アニマルスイーツ(うさぎショートケーキ)@キラキラ☆プリキュアアラモード】
「キラキラ☆プリキュアアラモード」におけるプリキュアへの変身アイテム。
コンパクト型のアイテムであり、中に変身アニマルスイーツをセットして変身する。
うさぎショートケーキの場合はキュアホイップとなる。
中にあるボウルをかき混ぜることでクリームエネルギーという攻撃にも使えるエネルギーを作ることも可能。

423 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 02:19:16 ID:LueZvDC20
投下終了とします。

424名無しさん:2024/07/09(火) 05:49:56 ID:wfwoFMzU0
投下乙です
いや…まさか、そんなことになるとは
戦兎…そしてエボルト
最終局面まで対主催を引っ張っていく、あるいは振り回していくと思われたビルド勢のふたりがまさかのまさかだ
首輪解除のハードルは低いみたいで、しんのすけも戻ってきて、甜花ちゃんは戦兎の分まで奮起して、双葉が味方として来てくれたとはいえ
マジで対主催ヤバくねえ…?
エボルト…まさか千雪の精神復活が、ここに来て自分自身の首を絞めることになるとは
最後まで味方してくれるか怪しかったとはいえなんだかんだ戦力として貢献しまくってくれてたから戦兎共々この離脱はかなり痛い
蓮はまた紡いだ絆…それも一番縁が深かった相手のを失ってしまったが、これでしんのすけまで失ったらメンタル的にも戦力的にもやっばい
JUDOは21ディケイドの力まで手に入れて、ほんとにもう止まるところを知らない…もうこいつ誰かどうにかしてくれ

425名無しさん:2024/07/09(火) 12:06:41 ID:063ApRrk0
投下乙
まあ期限が過ぎたのはたった一時間だけとは言え企画主が自分で決めたからにはちゃんと期限は守らないとな
書き手のお手本となるよう今後は気をつけるように

426名無しさん:2024/07/09(火) 15:42:29 ID:E0O1zUgo0
乙です
戦兎、エボルトのビルドコンビがこんな終わり方するとは
蓮の方に死亡フラグが立ってたかなと思ってたが、この結末をどう予想しろと
コーヒーゼリーやヘルヘイムの果実、JUDOの変身など、今さらながら作者の原作知識が凄い
JUDO倒せる未来が全く見えないが、ラストがどうなるか気になる

427 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/09(火) 19:05:25 ID:LueZvDC20
魔王で予約します。

428 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:52:07 ID:oL8ey2Pg0
投下します。

429 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:52:49 ID:oL8ey2Pg0
これを読んでいる者達にとってはもはや懐かしいことであろう場面から、今回の話を描写する。

魔王は現在、大雨に体を打たれていた。
そんな状況のまま、自分が殺した少女の姿をしていた者が持っていた荷物等を拾い集めていた。
自分が真っ二つにしたため、かなり酷い状態となっている遺体の方にはあまり目をくれないまま、黙々と作業していた。
先ほどは何が起きて自分が相手を殺せたかについては、推理できる材料も無いため考えても結局分からないという結論を出した。
これはまだ、殺し合いの第三回放送が始まる前の出来事であった。
そのために、彼はまだ大雨のシャワーの中にいる状態だった。

ある程度拾い集めた後、彼は近くにある適当な建物の中に雨宿りに入る。
雨具は持っているが、落ち着いて今後のことを考えるために一先ず屋内に入ることを選んだ。
その建物が前に入った時のものと同じであるかどうかは気にしていなかった。

魔王は建物の中に入った後、先ほど回収した荷物の中身を確認していた。
その途中で、定期放送を知らせるチャイムが鳴り響いた。



『よ、よぉー…。初めましてだな、みんな』
「……この娘、あの時の…?」

魔王が入った建物の中には、テレビが置かれていた。
そのテレビに、放送のための映像が流れていた。
そこで画面に映る人物の姿を、魔王は知っていた。

それは、魔王がこの殺し合いの舞台に連れてこられる直前のことだ。
かつて魔王は自分の城で、ラヴォスという存在を(自分の手で倒すために)復活させようとしていた。
そんな時に、カエル…グレンが修復された伝説の剣グランドリオンを携え、新たな仲間も連れて、自分と戦うためにやって来た。
その時のグレンが連れていた仲間の一人に、今画面に映っている娘もいた。
この娘が放ってくる火の攻撃等は、まあ厄介だったような記憶がある。
名は確か、ルッカといっただろうか。

ただ、魔王がこの娘と出会ったのはその時だけのはずだ。
敵対したことのある以上、全く関係の無い相手というわけではないが…そこまで深い縁があるとも言い難い。
……何故か、魔王城で戦うよりも前にどこかで会ったことがあるような気もしなくもないが、はっきりとは思い出せない。
だから、たぶん、気のせいであろう。

そしてこの殺し合いにおいて、肉眼に映る身体側の方で出てきた以上、その中身は自分が戦った時のものとは別人になっているのだろう。
何故この人物が身体側に選ばれているのか、その理由は魔王には思い浮かばなかった。

『私の名前は…佐倉双葉。身体の方は…ルッカという』
『えっと…まあ、私のことは置いておいて、とりあえず…死亡者を発表する』

画面の少女は名乗り、身体の方の名前も教える。
しかし、自分についてはそれ以上の情報を与えないまま、彼女はこの殺し合いの進行状況の報告を開始した。



(……まさか、そことそこが封鎖されるとは…)

死亡者、及び今回禁止エリアになった場所の情報まで話されたところで、魔王は少し頭を抱えた。

死亡者について魔王が注目した点としては、少し警戒していた坂田銀時の肉体の人物や、前にここから少し北の街エリアで戦った者達が何人か死亡したらしいことについてだ。
警戒していた相手や、自分が戦った時に強敵だと感じた者達がいなくなったことについては、もう戦う必要が無いことからこれ以上心配する必要がなくなった。
だから死亡者の件についてはこれ以上何か考える必要は無いはずだ。

430 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:53:25 ID:oL8ey2Pg0
問題は禁止エリアに指定された場所の方だ。
まず、自分が向かおうと考えていたモノモノマシーンがあったらしい場所が封鎖されたこと。
しかも、禁止エリアとして有効になるのはまだ後のことだが、マシーン自体は今すぐにでも使用不可能になったらしい。
こうなっては、自分がマシーンのある南の方に向かう理由が無い。
ならば、北の方に向かうのが自然な流れであった。

しかしそのすぐ北のエリアも、禁止エリアに指定されてしまった。
正式に禁止エリアになるのは2時間後であるため、そうなる前に今すぐ動いて通過するべきなのだろう。
それこそ、残されたモノモノマシーンのあるB-1の方に急いで行くためには。
ここから一つ西のエリアもとっくの前に禁止エリアに指定されているため、なおさらなことであった。

だが、今回指定された一つ北のエリアには、前に自分が戦った者達がまだ何人かいる可能性があった。
何人かは死亡したようではあるが、全員というわけではない。
そもそもその何人かが死亡した理由は、また別の敵が現れたからとも考えられ、残りの自分が戦った者達はそいつから逃げてもういない可能性はある。
だが、その新たな敵がまだその場に留まっている可能性も考えられる。

いずれにしても、自分が北の街を通り過ぎようとしたら、それらの敵にぶつかる可能性がまだ考えられた。
しかし今の自分は残りの魔力も無く、ダメージも大きく、疲労感も激しい。
もしこのまま敵と戦うことになるとしたら、生き延びられるかどうか正直怪しいかもしれない。
それこそ、戦っている内に禁止エリアになる時間が来て脱出が間に合わず死亡してしまう可能性も考えられる。
街を避け、現在いるエリアの北西の草原の方から出るとしても、もし北エリアから見て西側から脱出しようとする者が存在していたら、それとぶつかる可能性も考えられる。
何にしても、もし通り抜ける際に戦いが避けられないとしたら、それは正直自分にとって厳しいかもしれないことではあった。

ただ、このことについて今すぐの段階では考えをまとめることはできなかった。
放送はまだ、続いているからだ。



とは言っても、魔王は放送中にすぐに一旦気を抜くことになる。
放送はこれで終わりだと、一度宣言されたからだ。

その宣言があるまでに知らされたことについては、特に気にすることはなかった。
遠く離れているところで繋がっているらしい電話ボックスについては、繋がっているからといって何のことやらだ。
地図上に記される施設が全て見つかったらしいことについても、前に考えていた魔王城の存在の可能性が無くなっただけのことだ。
存在しないのなら、これ以上考える必要は無い。

放送がこれで終わりなら、再び禁止エリアについての考えをまとめようと思っていた。
しかし、そうもいかなかった。
放送終了の宣言があった後も、映像は切れなかった。
少し妙に思って見続けてみれば、やがて異変は起こった。



『私は、「亀」である』
『…………そして、今の私は、「カメラ」でもある』


「……ハア?」

突然画面の少女が驚き、焦ったと思ったら、急に殺し合いの黒幕からその正体に関する情報がもたらされた。
その情報に対し、魔王も呆れた声を出してしまった。
その後に、放送を担当していた少女も慌てながら本当の終了を宣言し、画面から消えていった。


「亀……亀…?」

突然もたらされた情報に、魔王も考えこんでしまう。
ただ報酬のため優勝を目指すだけならそこまで考える必要は無いだろう。
しかし、情報の内容のあまりにもの突拍子も無さに魔王も意識を向けてしまう。
普通の亀に殺し合いの黒幕が務まるなんてことは、魔王にも信じられない。
だからその亀に当てはまる存在が何なのか、魔王も考え込んでしまう。

やがて、それに当てはまりそうな存在を1つ、魔王は連想してしまう。


「……………まさか、ラヴォス…!?」

自分が復活させ、倒そうとしていたラヴォス。
その姿を、魔王は幼少の頃の本来生まれた時代の中で目撃していた。
ラヴォスの姿は確か、半球状の体に全身がトゲトゲしいもので、さながらウニかハリネズミのようであった。
……だが、そのトゲだらけの甲羅の下の方から頭部と思われるものを出すその姿は、亀のように見えなくもないかもしれない。
今ここで亀が黒幕だと聞かされたせいもあり、余計にそんなような気もしてきた。

431 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:54:38 ID:oL8ey2Pg0
「……もし、本当にラヴォスだとしたら………姉上は…!」

まだ可能性としては限りなく低いが、本当にラヴォスが黒幕だとしたらかなりの大問題だ。
ラヴォスの本来の生態は、地中深くの中で気の遠くなるようなとても長い時間をかけて大地の力を吸収するというもの。
そんなラヴォスに、こんな殺し合いを運営するだけの目的や意思などが存在していたかどうかは分からないところもある。
だが、自分の母親のようにラヴォスの力に魅入られ狂気に陥った者達がこの殺し合いを運営していたなんて可能性も考えられる。
先ほどは黒幕からの伝言だとされていたが、実際は表向きにそういうことにしているだけで実際はただ勝手にラヴォスを黒幕として崇めているだけの可能性も考えられる。
先の放送を担当した少女だけ無理矢理言わされているような感じがあったのは、体側の方は自分の口からラヴォスがどんな存在であるかが伝えられていたから…なんて考えるのは、無理があるだろうか。
この殺し合いの最初の方でボンドルドとやらが未来を切り拓く鍵がどうのこうの等と言っていたのは、母と同じように、ラヴォスの力で永遠の命を求めていたからなのだろうか。

何にしても、もし本当にラヴォスが関わっているとしたら、それは自分にとって一番最悪な展開だ。
何故ならその場合だと、例え自分が優勝したとしても、願いが叶わないだろうから。
大地を喰らうラヴォスに、自分の姉を元に戻す力は無いはずだし、あったとしてもやるはずがない。
そもそもラヴォスこそが、姉の仇敵なのだから。
もし運営側に本当に優勝者の願いを叶えるつもりがあったとしても、それを蹴らなければならない。
何故ならラヴォスは、自分の手で倒されるべき存在であるからだ。

もしこの突然浮かんだ高確率であり得なさそうな可能性が本当だとしたら、自分の戦う理由が変わる。
姉を取り戻すためではなく、黒幕を殺すために、優勝を目指さなくてはならないだろう。

……黒幕を殺すために、この殺し合いの打倒を目指す者達と協力するという道は、今は選ぼうと思えなかった。
元の世界でも多くの人間を殺害しているし、ここに来てからも既にそういった者も殺害してしまっている。
今更協力できるなどということは、魔王の方からでも少々考えにくいことではあった。
そもそも爆弾入りの首輪を着けられている現状では、黒幕の下に辿り着く最短ルートは、優勝しか考えられなかった。
首輪を外す方法等が、分からない限りは。



(……ラヴォスでないとしても、向こうに願いを叶えるつもりはあるのか…?)

殺し合いの黒幕ラヴォス説は、正直魔王自身としても飛躍していて少しこじつけがあるとは感じていた。
しかしラヴォスでないとしても、殺し合い自体に胡散臭さは感じてきていた。
ラヴォス以外でも、亀が殺し合いの黒幕だなんて、まともな発言じゃない。
しかも、今はカメラだと言っている。
参加者や他の主催陣営の者達の状態を考えれば、この発言は黒幕の身体側のことを話しているのだろう。
しかし、身体側がカメラだと言って、それはだったらどういうことなんだとも思ってしまう。

何がどこまで本当のことを言っているのか、分からなくなってしまう。
ラヴォスでなくとも、優勝者に願いを叶える権利とやらを、本当に与えるつもりがあるのか少し疑わしくなってしまう。
何にしても、このままで自分の目的を本当に果たすことが出来るのか、不安になってきているところが確かにあった。




(……先に、今後どうするかを考えるべきか)

魔王は、この殺し合いそのものについて悩むのを一旦後回しにした。
先に、今回指定された禁止エリアによって発生した問題についての考えをまとめようと思った。
殺し合いの黒幕のことについて考えていた間も、禁止エリアが有効になるまでの時間は刻一刻と近付いてきていた。


(………いや、むしろ……無理に通り抜ける必要は無いのか…?)

魔王にそんな考えが浮かぶ。
何故なら、わざわざこれから禁止エリアになる場所を通らなくとも、北やモノモノマシーンの近くの方に行けるかもしれない手段が存在していたからだ。

魔王が前回の戦いから新たに入手したアイテムに、ケロボールというものがあった。
このケロボールには、実は遠く離れた場所に一瞬で移動できるワープ、瞬間移動機能が存在していた。

432 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:55:48 ID:oL8ey2Pg0
(しかし今は使えず、どこに行けるのかも…)

ケロボールにも問題は存在していた。
1つは、これを使う場合どこに移動するのかは選べず、ランダムになってしまうこと。
もし前の戦いまでに自分が持っていたテュケーのチャームがあれば、それの幸運上昇の効果で、ランダムでワープするとしてもある程度は自分に有利な位置に行けたかもしれない。
けれども前の戦いでそれが壊れた今、ランダムでのワープは完全に自分自身の運に頼らなくてはならない。

もう1つの問題は、1度使ったら6時間はワープ機能を使えなくなってしまうこと。
どうも前の持ち主はこの機能を使ったらしく、あとだいたい4時間程度は使えないようであった。


(……逆に考えれば、使えるようになるまで疲労回復できるということになるか…?)

もしB-1のモノモノマシーンがある場所まで徒歩で目指す場合、そこまでにかかる時間はワープ機能が使えるようになるまでの時間よりも長くなるだろう。
その上、動く分体力も消費する。
疲労困憊のまま敵に遭遇する危険性もある。

それならばいっそ、どこに行くのかはギャンブルになるのを前提で、ワープ機能が使えるのを待つべきなのではという考えが魔王に浮かぶ。
敵と戦うにしても、疲労を回復させてからの方が良いだろう。
魔力残量が無い今なら、なおさらだ。

幸運に上昇補正が無いまま使うことになることについては、これはもう仕方がないと割り切るしかない。
もしかしたらB-1からは余計に離れた場所に行ってしまう…最悪の場合、いきなり戦場のど真ん中に放り出される可能性だって考えられる。
それでも、無理にこれから禁止エリアになる場所を通過しようとするよりは良いかもしれないと考えてきていた。
むしろ、ここで100%自分自身の運でも何とかしなくては、今後本来の目的を果たすこともままならないかもしれない。
そんな考え方を、するしかなかった。

また、現在いるこの街エリアには、食酒亭という名の施設があるらしい。
ケロボールのワープ機能が使えるまでの待ち時間の内に、その施設に向かい、そこで魔力を回復できる手段がないか探すという道もあるかもしれない。



結論として魔王は、今いるE-6の街エリアにケロボールのワープ機能が使えるようになるまで待つことにした。
どこに行ってしまうか分からない、確実性の無い完全に自分のみの運任せになるとしても、今の自身の状態ではこの方が最善であると判断した。
そしてまずは、食酒亭の方で使えるものが無いかどうか探しに行こうとした。

ある程度考えをまとめた魔王は建物の中から外に出る。
放送で伝えられた通り、大雨は既に止んでいた。


魔王はこれまで通りただ1人でこの殺し合いの舞台を歩んでいた。
……しかし、彼の中にある決意は、これまで通りとはいかなかった。
本当にこれまで通りに殺し合いを続けても、自分の願いを叶えられるのか。
もし本当に黒幕がラヴォスで、それを殺すために優勝目指して殺し合いを続けたとしても、他者の肉体のままで勝てるのか。
カメラだというのもそもそも何のことなのか。
疑念自体はこの舞台に連れてこられたばかりにもあったものだが、これまでは願いのためと思って無視していた。
けれども、今回の放送で自分の望みは本当にここで叶えられるものなのかという考えも生まれてしまっていた。

何にしても自覚している・無自覚な部分共に、彼の中には殺し合いそのものに対する疑念は確かに存在していた。

433 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:56:25 ID:oL8ey2Pg0
【E-6 街/夜】

【魔王@クロノ・トリガー】
[身体]:ピサロ@ドラゴンクエストIV
[状態]:疲労(大)、魔力残量無し、ダメージ(大)、貧血気味、不安気味
[装備]:破壊の剣@ドラゴンクエストシリーズ、
[道具]:基本支給品×5、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、電動ボート@ジョジョの奇妙な冒険、物干し竿@Fate/stay night、リンク@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド(身体)の死体、ケロボール@ケロロ軍曹(瞬間移動は約4時間使用不可)、魔神の斧@ドラゴンクエストシリーズ、エレン・イェーガーのプロフィール、「特級呪具『天逆鉾』@呪術廻戦、吉良の首輪、アドバーグの首輪、桃白白の首輪
[思考・状況]基本方針:優勝し、姉を取り戻す。……だが、本当にここでその願いを叶えることはできるのか?
1:食酒亭に向かい、魔力回復のためのもの等、何か使えそうなものが無いか探してみる。
2:ケロボールの瞬間移動機能が使えるようになるまで、現在いる街エリアに留まって疲労回復に努める。
3:2の機能が使えるようになったら、すぐに使ってどこかに行く。
4:どこに辿り着いても文句なしでそこからモノモノマシーンのあるらしいB-1を目指してみる。
5:半裸の巨漢(志々雄)は、再び遭遇したら殺す。
6:ギニューという者は精神を入れ替える術を持っている可能性が高いため警戒する。
7:殺しても止まらない気質を持ちそうな者達と戦う際は、例え致命傷を与えても油断するべきではないだろう。
8:モノモノマシーンを使う為に、可能な限り首輪も手に入れる。
9:黒幕だという「亀」とは、ラヴォスのことなのか?
10:……もし本当にラヴォスがいるのだとするならば、殺すために黒幕の下にどんな手段を使ってでも辿り着かなくてはならない。
11:主催陣営は母と同じくラヴォスの力に魅了されて狂った者達だったりするのか?
12:殺し合いの最初の方で未来を切り拓く鍵がどうとか言っていたのは、目的が永遠の生命だからなのか?
13:先の放送の娘(佐倉双葉)だけ様子が他と違うのは、肉体側があの時の娘(ルッカ)であることと関係はあるのか?
14:……ラヴォスが関係ないとしても、主催陣営に優勝者の願いを叶える気は本当にあるのか?
[備考]
※参戦時期は魔王城での、クロノたちとの戦いの直後。
※ピサロの体は、進化の秘法を使う前の姿(派生作品でいう「魔剣士ピサロ」)。です
※回復呪文は通常よりも消費される魔力が多くなっています。
※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。
※発表された黒幕だという「亀」の正体は、ラヴォスなのではないかという考えが浮かんできています。
※殺し合いそのものに対して、ほんの少しずつですが疑念を抱いてきています。

434 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/14(日) 22:57:43 ID:oL8ey2Pg0
投下終了します。
タイトルは「そういや、魔王(クロノ・トリガー)とピサロって、どっちも場合によっては仲間にできる魔王キャラだよね。……いや、別に…。ちょっと言ってみただけです。」とします。

435名無しさん:2024/07/15(月) 16:02:17 ID:AjOYlPcE0
投下乙です
亀=ラヴァス説…その発想はなかった
でもスタンス転向については低いかもだがもしかしたらあるかも、とは考えてた
マーダーとして戦い抜くには前回の戦いの消耗が激しいし、幸運補正も切れたし
タイトルの通りいざとなればそういう選択肢取れるキャラだと思ってたので
まあ今のところそこまでする気はないみたいだけど、これからどうなるのか

436 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/21(日) 01:42:14 ID:fr2hIPpk0
すみません、以前投下した魔王の話について、追記・修正することを報告します。

放送で発表された死亡者についての反応の部分を、以下のように追記・修正します。

【追記・修正前】
死亡者について魔王が注目した点としては、少し警戒していた坂田銀時の肉体の人物や、前にここから少し北の街エリアで戦った者達が何人か死亡したらしいことについてだ。
警戒していた相手や、自分が戦った時に強敵だと感じた者達がいなくなったことについては、もう戦う必要が無いことからこれ以上心配する必要がなくなった。
だから死亡者の件についてはこれ以上何か考える必要は無いはずだ。

【追記・修正後】
死亡者について魔王が注目した点としては、少し警戒していた坂田銀時の肉体の人物や、前にここから少し北の街エリアで戦った者達が何人か死亡したらしいこと、そしてギニューというものが更に肉体を変えたらしいことについてだ。
警戒していた相手や、自分が戦った時に強敵だと感じた者達がいなくなったことについては、もう戦う必要が無いことからこれ以上心配する必要がなくなった。
また、ギニューについては以前鳥束零太と入れ替わったことで手に入れたはずの竈門炭治郎が、脹相という別の者の精神と一緒に身体側の死亡者として発表された。
おそらく、また何らかの方法で肉体を入れ替えたのだろう。
今はどんな姿をしているのかは分からないが、肉体を入れ替える手段を持つ者がいることは変わらないため、これまで通り警戒を続ければ良いだろう。
…組み合わせ名簿をよく見てみれば、脹相の前に絵美理と入れ替わった可能性にも気付けたかもしれないが、今はそこまで気付ける余裕は無い。
そもそも、それが分かったところで何にもならない。だから何だって感じだ。
だから死亡者の件についてはこれ以上何か考える必要は無いはずだ。




また、状態表の備考欄の部分にも、以下の文を修正しておきます。

※ギニューと鳥束の精神が入れ替わった可能性を考えています。

※ギニューが鳥束と、その次に脹相と入れ替わった可能性を考えています。

437 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/21(日) 01:44:29 ID:fr2hIPpk0
>>436
備考欄の修正について、少し抜けがありました。
正しくは以下の通りになります。

※ギニューが鳥束と、その次に脹相と精神が入れ替わった可能性を考えています。

438 ◆ytUSxp038U:2024/07/22(月) 00:01:16 ID:wfXjTGMQ0
広瀬康一、アルフォンス・エルリックを予約します

439 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/25(木) 22:06:12 ID:qhHxJqeA0
専用したらばの仮投下スレのほうで、「Eにさよなら/流れ星が消えるまでのジャーニー」について内容を一部変更したいことについて書き込んで来たことを報告します。
大まかな内容に変化はありませんが、一部のアイテム等の最終状態について変更点があります。

440 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/27(土) 20:36:44 ID:xTEjYPFI0
先日、>>439で話した変更の件について、念のためここにおいても書き込んでおきたいと思います。

【修正前】

けれども、甜花としては自分は希望のために戦おうとしているのだと、信じたかった。
自分が戦えば、もしかしたら他の仲間、雨宮蓮と野原しんのすけ、それに主催陣営だったはずなのに自分達を助けようとした佐倉双葉が逃げるための時間を稼げるかもしれない。
そんな風にして、誰かを守りたいという気持ちも捨てないままに戦っているのだと、思いたかった。

『ライダーキック』

甜花は戦極ドライバーのカッティングブレードを3回下げた。
上記のような音声が鳴ると共に、甜花の足にエネルギーがチャージされていった。

「やあああぁぁーっ!」

甜花は、ぎこちない動きながらもJUDOに向かって飛び蹴りを放った。



「ハアッ!」
「きゃあぁっ!?」

しかし、その技は防がれた。
必殺技ではない、通常のパンチで甜花の技は弾かれた。
キックが当たった直後は少しの間拮抗したが、やがて押し返される結果となった。


やはり何の特訓もしてないままライダーキックを放とうとしたことと、今のJUDOが持つライダー特攻、そしてスペック差により、この結果がもたらされた。

弾き飛ばされた甜花は再び地面を転がる。
JUDOはそんな甜花に対し、ゆっくりと近付いてくる。

『ガチャ』
「えっ!?」

JUDOは甜花に近付くと、その腰にある戦極ドライバーに手を伸ばし、掴んだ。

「は、離して…きゃあっ!?」

嫌がる甜花の抵抗をものともせず、JUDOは戦極ドライバーを無理矢理外す。
これにより甜花の変身が解け、斬月・カブトアームズの仮面の下にあった彼女の妹の顔をそこに晒す。


「……小娘、貴様は本来ライダー共とは縁の無い存在だな?それも、心身共に」
「え?」

JUDOが何故かいきなりそんなことを見抜いて来た。
今の彼の、21の歴史を支配するディケイドの力がそれを知らせているのか、仮面ライダーの破壊者としての嗅覚がそれを察知させているのかは分からない。

「貴様のような小娘には過ぎた玩具だったな」
『バキッ』
「あっ…!」

JUDOは手に持った戦極ドライバーをその場で握り潰した。
そこにセットされていた、カブトロックシードも一緒に。
せっかく戦兎がもたらしてくれたと思われる力が、あっさりと無に帰された。

441 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/27(土) 20:38:53 ID:xTEjYPFI0
【修正後】


けれども、甜花としては自分は希望のために戦おうとしているのだと、信じたかった。
自分が戦えば、もしかしたら他の仲間、雨宮蓮と野原しんのすけ、それに主催陣営だったはずなのに自分達を助けようとした佐倉双葉が逃げるための時間を稼げるかもしれない。
そんな風にして、誰かを守りたいという気持ちも捨てないままに戦っているのだと、思いたかった。


『メロンエナジー!』

JUDOに向かって甜花の手には、また別のロックシードが握られていた。
それは、ノワールビルドに吸収されたはずのメロンエナジーロックシードであった。
前のメロンロックシードと同様に、ノワールビルドが倒されたために元に戻っていた。
そして甜花は先ほど鎧武・パインアームズに吹っ飛ばされて地面を転がった後、たまたま近くに落ちていたのを見つけて拾ったのだ。
甜花は起動したエナジーロックシードを、戦極ドライバーの左側のゲネシスコアに装填する。

『ソイヤッ!ミックス!カブトアームズ!天の道!マイウェイ!ジンバーメロン!ハハーッ!』

甜花は戦極ドライバーを操作し、新たな姿へと変わる。
頭上で仮面ライダーカブトの頭部型のアームズと、メロンエナジーのアームズが融合し、新たなアームズを形成する。
それを被ったことにより誕生した新たな形態、それは私たちの世界にも記録が存在しないものだ。
アーマードライダー斬月・カブト・ジンバーメロンアームズ、そう呼称できそうな形態へと甜花は変じていた。
見た目としては、カブトアームズの斬月の上に、通常のジンバーメロンと同じくメロン柄の陣羽織のようなアームズが乗っかっているようなものになっている。

『ライダーキック』『ジンバーメロンスパーキング!』

甜花は戦極ドライバーのカッティングブレードを3回下げた。
上記のような音声が鳴ると共に、甜花の足にエネルギーがチャージされていく。
カブトだけでなく、メロンエナジーのエネルギーも一緒にチャージされていった。

「やあああぁぁーっ!」

甜花は、ぎこちない動きながらもJUDOに向かって飛び蹴りを放った。


『ATTACK RIDE SLASH』

それに対しJUDOは、腰の横のネオディケイドライバーに対しアタックライドカードを一枚装填する。
JUDOはライドブッカーをソードモードに変え、その刃にエネルギーをチャージしていく。

「ハアッ!」

ライドブッカーの刃は振るわれ、甜花の足と激突する。
ぶつかり合った刃とキックは、少しの間拮抗する。

「きゃあああぁっ!?」

しかしやがて、甜花の方が押し返された。
足に溜められたエネルギーは散らされ、胴体はライドブッカーの刃に切り裂かれる。
甜花は弾き飛ばされ、同時に変身も解除されていた。
甜花は再び妹の顔を晒しながら、地面を転がる形となる。
溜められたエネルギーは十分だったかもしれないが、やはり何の特訓もしてないままライダーキックを放とうとしたことと、今のJUDOが持つライダー特攻、そしてスペック差により、この結果がもたらされた。
致命傷は防げていたが、着ているPK学園の制服の胸の辺りを切り裂かれていた。
その中にある下着も斬られて、乳房の下部分の肌が僅かに外から見えるようになる。
その部分も少し斬られており、胸の方から少量の出血があることも確認された。

JUDOはそんな甜花に対し、ゆっくりと近付いてくる。
甜花はそれに対し、今の攻撃で受けたダメージのこともあり、まともに動くことはできなかった。


「……小娘、貴様は本来ライダー共とは縁の無い存在だな?それも、心身共に」
「え?」

JUDOが何故かいきなりそんなことを見抜いて来た。
今の彼の、21の歴史を支配するディケイドの力がそれを知らせているのか、仮面ライダーの破壊者としての嗅覚がそれを察知させているのかは分からない。

「ライダーに何ぞならなければ、もう少しの間は破壊されずに済んだかもしれぬのにな」

JUDOのその言葉は、ライダーとして戦いの前線に出なければもう少し長生きできたかもしれないのに、といった感じの意味が込められているようだった。
同時に、ライドブッカーをソードモードの状態のまま構える。
特定の技などは使わず、これで甜花を殺すつもりのようだった。
それこそまるで、一般市民のようにあっさり殺された戦兎のように。

「……馬鹿に、しないで…!」

442 ◆5IjCIYVjCc:2024/07/27(土) 20:39:53 ID:xTEjYPFI0
甜花は今地面にへたり込んでおり、痛みもあり体を思うように動かせない状態にあった。
相手の攻撃を避けることはできそうになかった。
最後に、大粒の涙を流しながら啖呵を切ろうとする。

「で、できることが、あったから…甜花は、戦った…!だ、誰かの力に、なりたいって、思うことの……何がダメなの…!」

甜花はしどろもどろになりながら、頭に浮かんだ順に言葉を発する。
自分でも何を言いたいのかははっきりと分かっているわけではない。
それでも、言葉を続けることは止められなかった。

JUDOはそんな甜花の言葉を興味なさそうに無視する。
ライドブッカーの刃を振りかぶり、甜花に向けて振り下ろそうとしていた。


×


SSの修正は以上です。
他の内容の変更はありません。
また、状態表も以下の通りに修正します。

【大崎甜花@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[身体]:大崎甘奈@アイドルマスターシャイニーカラーズ
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(特大)、服や体にいくつかの切り傷(処置済み)、胸の辺りに切り傷、胸の辺りの服が破けて中が少し見えかけている、精神的ショック(特大)、戦兎やナナ達への罪悪感、深い悲しみ、決意(大)、呆然自失、桑山千雪(身体)の返り血が顔に付いている、出血(小)
[装備]:PK学園の女生徒用制服@斉木楠雄のΨ難、戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、カブトロックシード@仮面ライダー鎧武、メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品、デビ太郎のぬいぐるみクッション@アイドルマスターシャイニーカラーズ、甘奈の衣服と下着
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
1:千雪さん……?
2:燃堂さん……。
3:戦兎さんが…いなくなった…。だから、甜花が、代わりに…!
4:皆に酷いことしちゃった……甜花…だめだめ……。だから、変わらなきゃ…!
5:ナナちゃんも、無事で良かった……。
6:なーちゃん達……大丈夫かな……。
7:殺し合いが無かったことになる……本当に良いのかな……?
8:首輪…簡単に外せるの…?
[備考]
※自分のランダム支給品が仮面ライダーに変身するものだと知りました。
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※参加者が並行世界から集められている可能性を知りました。
※ホレダンの花の花粉@ToLOVEるダークネスによりDIOへの激しい愛情を抱いていましたが、ビルドジーニアスの能力で正気に戻りました。


それから今回の修正に合わせて、備考の方から「メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武」が網走監獄内のどこかにあるかもしれないという記述、「戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、カブトロックシード@仮面ライダー鎧武」が破壊されたという記述を削除します。

443名無しさん:2024/07/27(土) 21:23:10 ID:YyKNzL5M0
了解しました。

444 ◆ytUSxp038U:2024/08/10(土) 20:45:44 ID:S/Py14zo0
延長します

445 ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:37:48 ID:E2.EV8Bg0
投下します

446AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:40:52 ID:E2.EV8Bg0
巨人化が解除された影響で康一の思考には変化が訪れた。
と言っても、ケロボールの洗脳が解かれ正気に戻ったという事ではない。
呪いの王に唆された全てを滅ぼせとの命令、アマゾン細胞の本能が訴える食人衝動、何よりエレン・イェーガーの奥底で燻り続けた憎悪。
現在の康一を構成する三つは全て健在、翳りは微塵も無し。
全参加者殲滅に突き動かされるのは変わらず、しかし目的達成の為に標的以外の事柄にも考えを割く。
疲労が溜まれば休み、喉が乾けば水分を取り、現在位置を確認して目的地を決める。
自身が殺し合いに巻き込まれたという大前提も理解しており、基本的なルールも忘れてはいない。
当然、ニコ・ロビンとの出会いに始まる他参加者との交流もだ。
但し仲間達の記憶は康一を止めるには至らない、罪悪感や情など燃え盛る憎悪の前には焼け石に水同然だった。

ともかく現在、康一再びカラスアマゾンに変身し全力疾走を再開していた。
聖都大学附属病院を離れ、変わらぬ憎悪に支配されつつもまず行ったのは必須となる情報の確認。
即ち、現在位置はどこか。
康一がハッキリ覚えている最後の記憶は、春の屋でグレーテをどうにか落ち着かせた時。
以降は強制的に巨人化を促された為、非常に曖昧だ。
一体どういった経緯で春の屋から見知らぬエリアまで移動したのか。
分からないがまずは最低限の情報だけでも把握せねばと地図を広げ、少し遅れて気付いた。
禁止エリアが増えている、と。

嫌な予感に急かされ先程神楽を殺した時の光景を思い出す。
目の前の連中を殺すのと、疲労による不利から早急な撤退を選び詳しく周囲を見てはいなかった。
が、確かあの場には何らかの建造物が無かったか。
ほとんど瓦礫の山と化している中、辛うじて無事だった白い外観から連想される施設。
それは元々カイジ達と向かう予定だった場所。
聖都大学附属病院が設置されたエリアは両方共に立ち入りできないよう設定済み。
そんな所で呑気に地図を眺めているとしたら…

「っ!!」

乱雑にデイパックへ突っ込み、再度肉体を異形へと変える。
黒い体躯を持つ人喰いの怪物、カラスアマゾンが蒸気の爆発と共に出現。
コンパスを取り出し方位をチェック、脇目も振らずに駆け出した。

447AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:42:45 ID:E2.EV8Bg0
紅い夕日も顔を引っ込め、辺りを照らすのは月と星だけ。
虫の鳴き声一つ聞こえない草原を踏みしめ、前へ前へと突き進む。
決死の脱出を嘲笑うかのように、くぐもった声が響く。

『警告です。現在あなたは禁止エリア内にいます。5分後に首輪が爆破されますので、早急な移動をお願いします』

聞き覚えのある声は首輪から。
穏やかながらうすら寒いものを感じずにはいられない、ボンドルドの声だ。
伝えられた内容に康一の背中を冷たい感触が駆け巡る。
5分という猶予が長いか短いかはその者の現状によるだろうが、少なくとも康一は後者だった。

(じょ、冗談じゃあないぞっ!たったの5分しかないのか!?伸びたカップ麺が出来あがる程度の時間で、脱出しろってのか!?
 な、何て不親切なんだっ!電気コンロの説明書の方がもうちょっとマシじゃあないか!)

文句をどれだけ言っても爆破までの時間は伸びない。
喧しく鳴るアラーム音が焦りと苛立ちを加速させ、死が近付きつつあると嫌でも実感。
無論、こんなつまらない最期を迎えるなど真っ平御免だ。
まだ全てを滅ぼしていない、絶対に死ぬ訳にはいかない。
意思とは裏腹にアラームが止まる気配は無く、どこまで走らせる気だと怒りが湧き出す。
タイムリミットが迫り、余りにも呆気ない終わりが現実と化すのは時間の問題。

「エコォォォォズ!!僕を加速させろォオオオオオオオオッ!!!」

カラスアマゾンの脚力だけで不十分なら、もう一つの力を使うまで。
浮遊する奇妙な生物、広瀬康一のスタンド能力。
Act2のエコーズが本体の指示に従い尻尾を操作、二本の脚に文字を貼り付ける。
「ビュオッ」の効果音がコマ一面に描かれそうな、ジェット噴射と見紛う爆発的な速度。
仮に生身の肉体で行えばタダでは済まない勢いも、アマゾン化したなら問題なし。
隣接するエリアまでの距離を一気に短縮、アラーム音が聞こえなくなるのと同じタイミングで急停止。
つんのめり草原とキスする羽目になったが、頭が吹き飛ぶよりはずっとマシだ。
どうにか助かったと理解し再度変身を解除、大の字に横たわり安堵のため息を重く吐き出した。

「ボ、ボンドルドめ…マラソン大会でもさせようってのか!?舐めるんじゃあないぞクソッタレがっ!」

一息つけば途端に溢れ出す憤怒。
洗脳の影響もあってか普段の康一よりも短気、というか常に他者への憎しみを抱え込んでいる状態だ。
主催者達とて例外ではなく、必ずや連中も滅ぼしてやると息巻く。

とにもかくにも禁止エリアからは無事脱出に成功。
後はどこかで暫し身を休め、再び参加者の殲滅に動く。
疲労が重く圧し掛かる体を起こし――



「―――――ッ!!!!!!!!!!!」



獣がそこにいた。

448AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:43:27 ID:E2.EV8Bg0



空腹が抑えられない。
早急なタンパク質の確保を命ずる声が消えない。
本能が数え切れない程に訴える。
食え、生きる為に喰い殺せ。

真紅の砲撃から逃れた後も、獣が正気を取り戻す事は無かった。
心優しき錬金術師の意識は未だ泥の奥底に沈んだまま。
肉体を操る主導権を握るのは依然として獣。

殺し合いを理解してはいない。
何故自分がこんな場所にいるのだとか、そもそも本来の精神でないとか。
そういった参加者としての大前提も獣には無関係。
抱く願いはただ一つ、生きる。
生きる為に喰らう、生きる為に殺す、生きたいから生きる。

「―――――ッ!!!!!!!!!!!」

咆哮が周囲一帯を震わせ、開戦を知らしめた。
目の前にはタンパク質の塊、同族と別のナニカが交じり合った臭い。
関係無い、腹を満たせるのならそれでいい。
アマゾンネオ・オリジナル態の意思に従い触手が一斉に動き出す。

449AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:44:06 ID:E2.EV8Bg0
「なっ……」

禁止エリアから逃れられたのも束の間、今度は怪物に襲われた。
愚痴を吐き出す暇は無く、敵の正体を呑気に探ってもいられない。
何となく見覚えがある気がしないでもないが、思い出すのに意識を割けばあっという間にバラバラ死体の完成。
避けねば、防がねばと頭で考えるよりも先に肉体が反応。
聖剣・流水を翳しながら飛び退き回避。
躱しきれない分は刀身が阻み、一先ず無傷で凌ぐ事に成功。

康一本人の体であったらまず不可能な反応は、エレンの肉体の恩恵だろう。
訓練兵団時代に鍛え抜いた甲斐もあり、優れた身体能力は別人の精神だろうと健在。

しかし仮面ライダーへの変身も行わず、まして4Cが扱う銃火器も無しにこのまま相手取れる敵ではない。
康一自身も肉体の運動能力によるごり押しだけで勝利を奪えると、甘く見てはいなかった。
眼前の怪物は何者なのかとか、至極当然の疑問は頭から追い出す。
そんなものより、相手を駆逐する一点の方が遥かに重要だ。

「エコーズ!」

肉体機能の差で劣るなら、敵には無い力で仕留める。
少年の呼びかけに応じ現れるは、緑のボディを持ったスタンド。
現在は恋人となったクレイジーな少女、山岸由花子との戦いで開花したACT2。
パワーとスピードは並でも、それを補えるだけの能力を発揮可能。
触手を掻い潜り尻尾を貼り付ける、当然擬音に変化させた上でだ。
「ビリリリリ」、オリジナル態の胴体を音が聞こえてきそうな電撃が襲う。
黒焦げか大火傷か、痺れてまともに動けなくなるか。
どうなるにしろ攻撃は決まった、軽症では済まないダメージを確信する。

450AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:45:05 ID:E2.EV8Bg0
「なっ、なにぃ〜〜〜〜〜〜!?」

だが現実にはどうだ、オリジナル態の体には傷一つ付いていない。
そればかりか怯む素振りすら見せず、平然と触手を宙に揺蕩わせているじゃあないか。
スタンドの不調を疑うも、ついさっき禁止エリアからの脱出で使ったばかり。
自分の能力が原因で無いとするなら、答えは簡単。
オリジナル態には電気の用いた攻撃が効かない。

(どういうことだ!?僕のエコーズは電気コンロなんかとは訳が違うんだぞっ!?まっ、まさかコイツ…僕と同じだって言うのか!?)

電気に耐性を持つ異形で真っ先に思い浮かぶのは、他ならぬ康一自身。
神楽を喰い殺し、善逸の放った電撃を浴びた黒い異形。
どうして急にあのような姿へ変身できたのか、残念ながら理由は分からない。
少なくとも春の屋にいた時は、姿を変える力と言えば巨人化能力とアナザーカブトウォッチの二つだけ。
エレンのプロフィールにも、巨人以外の変身能力など記載されていなかった。
己に起きた異変を疑問には感じたが、深くは考え込まず参加者の殲滅に使えるなら構わないと放置。
正気ならばともかく洗脳下故に強く問題視はせず、今になって原因と思しき存在が現れたという訳だ。

自分が急に化け物になったのは、オリジナル態に何かされたせいなのか。
問い質そうにも向こうは唸り声を上げるのみで、人語は一切口にしない。
望んだ答えは返って来ない、そもそも会話をしていられる余裕が無い。
急ぎエコーズを近くに戻し、直後触手が殺到。
スタンドの操作と流水を振るい防御に出るも、圧倒的に手数で劣る。
スタープラチナやザ・ワールド、或いはクレイジー・ダイヤモンド程攻撃性能に特化していないのがエコーズだ。

「チィ…ッ!!エコーズ!」

尤も、ACT2まではだが。
康一の命令を受けてスタンドヴィジョンが変化、より人型に近い姿となる。
吉良吉影の追跡の最中覚醒を果たした、エコーズの新たな力。
迫り来る触手を狙い拳を打ち込む。
数が多かろうとオリジナル態の体の一部、なれば重くし動きを封じるのも可能。

451AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:46:09 ID:E2.EV8Bg0
「ぬぐぅっ!?」

予想は再び裏切られ、重くするどころか康一の肩に痛みが走った。
拳が当たる寸前、まるで意思を持ったかのように触手が軌道を変え回避。
空振りではエコーズの能力も発動には至らず、反対に肩を貫かれたのだ。
フィードバックによるダメージが襲い、流れる血が衣服を汚す。
一度怯めば致命的な隙だ、前後左右からエコーズを触手が狙う。
迎撃を考えるもまた触手の変則的な動きに翻弄されれば、串刺しになるのは肩だけでは済まない。
急ぎスタンドを解除、今度はオリジナル態の攻撃が空振りと化す。

(どうする…!変身を…いや、僕の方にはあんまり余裕が……)

襲われた為対処に出たとはいえ、康一は元々大きく疲弊している。
東の街と病院前での戦闘を休みなく行い、此度は全力疾走直後の遭遇。
ほんの数十秒大の字に寝転がっただけで疲れが取れる筈が無い。
戦闘続行よりどうにかして逃走する方が良いんじゃあないか。
第三者がこの場にいても、撤退を選ぶのが賢い選択と言うだろう。

(…………ちょっと待て。逃げる、逃げるだって?)

逃げた方が良い、天秤が傾きを見せたタイミングで強引に秤を止められた。
康一を支配する憎悪が、逃走の選択を塗り潰す。
焦りを露わに浮かべた顔は徐々に険しさを増し、悪鬼も裸足で逃げ出す修羅の形相へ。
何も知らぬ者が見たら、どうしてこれ程までに憎めるのか不思議でならない苛烈な表情であった。

452AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:47:00 ID:E2.EV8Bg0
「おかしいだろ…出会い頭に小便を引っ掻けた野良犬にビビって、すごすご引き下がれって言うのか…?
 おニューの靴をアンモニア塗れにされて、甘い顔を見せろってことなのか?
 舐めるんじゃあないぞっ!何で喧嘩を売られた僕がっ!そんな下手に出なきゃあならないんだっ!!!」

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
合理的な判断は憎悪の渦へと飲み込まれ、奥底へと沈んで行く。
逃げるという選択は完全に消え、敵の殲滅だけが残った。
最初から康一の内心へ興味を持たない相手が触手を伸ばすも、憎悪に呼応し起きた爆発で消し飛ぶ。
流れ落ちる体液すらも瞬時に蒸発する熱が引いた頃には、既に変身を終えた後。
頭部と肩部には羽をモチーフにした装飾、エレンの面影を一欠片も残さない人喰いの化け物。
カラスアマゾンが聖剣片手に疾走、アマゾン同士による殺し合いの始まりだ。

「――――」

触手を掻い潜り、時には剣で切り裂きながらも足は止めない。
距離を詰めつつあるカラスアマゾンの姿は、オリジナル態にもしかと見えた。
脳裏へ走るノイズ、理由も分からず心がざわめく。
生きる、たった一つの本能へ余分な何かが顔を出し掛ける。
僅かに止まった触手を再度動かすまでに、カラスアマゾンは更に接近。

刃の範囲内へ入ったと、そう理解するもオリジナル態とて長々と案山子のようにはならない。
正面からは六腕、四方八方からは触手で以て迎撃。
針金を思わせる千の翼もさることながら、純粋な身体能力もアマゾンの枠に漏れず非常に高い。
六腕による殴打をモロに受けては同じアマゾンであろうと、殴殺という末路も有り得る。

だがカラスアマゾンもまた喰われるだけの餌に非ず。
抵抗し、反対に喰らい殺せるだけの力の持ち主。
別個体のカラスアマゾンがそうだったように、強化された敏捷性を駆使し猛攻を防ぐ。
剣を振るい、腕を振るい、脚を振るい、四肢と得物を操り続ける。
康一にはスタンド同士の戦闘はあれど、武器を使った経験は皆無。
エレンもまた巨人討伐の際にはブレードを用いるが、剣士としての戦い方は学んでいない。
カラスアマゾンの身体能力のごり押しでも対処は不可能ではない、しかし長続きはしない。
未だ手数はオリジナル態に遠く及ばず、ましてアマゾンのランクも雲泥の差。

453AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:47:57 ID:E2.EV8Bg0
「エコーズ!」

故に再度スタンドを使い、開いた差を補う。
今度は触手を狙うまでもなく、敵はエコーズの射程距離内だ。
六腕の内一本が拳を放つのに合わせ、こちらも腕を伸ばす。
スタンド越しに痺れる左手、構わない。
敵を「殴った」という結果こそが何よりも重要。

「――――!?」

オリジナル態を支える二本の脚が膝を付く。
否、脚のみならず胴体が地面にめり込み始めた。
異変はそれだけに留まらない、雲のように宙を揺蕩う触手が一本残らず落下。
見えない鎖が巻き付き引っ張られたかの如き、不可思議な光景。
嘗て、吉良吉影の過去への逃走を阻んだ能力はアマゾン相手にも有効。
必死に藻掻くオリジナル態を見下ろし、聖剣を逆手に構える。
心臓を貫き無駄な足掻きも一瞬で終わりだ。

「死ねェェェーーーっ!!」

絶体絶命の状況にオリジナル態の本能は叫び続ける。
生きる、生きる、生きる。
生きる為にやれる事をやれ。
腕も触手も自分の体とは思えない程に重い。
人外故の身体機能だからか、ほんのちょっぴりなら動かせるとはいえ防御も回避も不可能。
必死こいて腕を動かすよりも、剣が振り下ろされる方が速い。
生きる方法を模索すればする程、突き付けられるのはどうしようもない詰み。

454AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:48:49 ID:E2.EV8Bg0
それでも尚、オリジナル態からは生きる意志が無くならなかった。
生存方法を探す。
何かある筈、何かが見付かる筈。
腕は無理、脚は無理、触手は無理、オリジナル態の能力では無理。

――じゃあ、■■■■■■の力なら?

力の仕組みを正確に理解などしていない。
ただ本能に促されるまま、記憶の欠片の中から引き出す。
僅かに動く二本腕が掌同士を重ね、地面に置いた。

「なん…だとォオオオオオオオオオオオッ!!!??!」

一体自分は何度敵の死を確信し、その度に裏切られるのか。
切っ先が肉を貫き命の核を刺すまで数秒あるかないかのタイミング。
地面が盛り上がったかと思えば、土の鞭へと姿を変え襲来。
咄嗟に流水を翳し防御の体勢を取り、殴打の直撃には至らない。
但し、直撃にならなかっただけで勢いは相当なものだ。
吹き飛ばされ、康一の意思に反してオリジナル態から遠ざかった。

「がっ…はぁ…」

何よりの大きな被害として、土の鞭を防げたのはあくまで康一本人のみ。
能力を解除させる訳ににはいかない以上、スタンドを付近に出現させたままなのが悪い方に響いた。
弾き飛ばされたエコーズは消え失せ、康一を重い鈍痛が襲う。
アマゾンの生命力が無ければ耐えられたかは怪しい。
飛びかけた意識を連れ戻すのは脳裏に響く「滅ぼせ」の命令と、間近へ迫りつつある殺意の群れ。

455AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:49:54 ID:E2.EV8Bg0
「くっ…そォオオオオオオオオッ!」

触手だけなら見飽きた攻撃だが、生憎そうはいかない。
起き上がったオリジナル態は再び掌を合わせ、地面に置く。
土の鞭と同じ現象だ、草花共々地が変化を見せた。
今度は一本では済まない、複数本同時に出現。
オリジナル態自身の触手よりも数は少ないが、太さは倍だ。
先端は杭のように鋭利と化し、標的を睨み付ける。

対処は先程と変わらない。
速さを活かして剣と四肢を振り回し、時にはスタンドで迎え撃つ。
が、ただでさえ手数で勝る相手が別の能力まで使い始めたのだ。
斬った傍から数十本の触手が襲い、辛うじて避ければ鞭がすぐ傍で牙を剥く。
とてもじゃ無いがエコーズの手を借りても、まるで対処が間に合わない。

限界はすぐに訪れた。
振り下ろした聖剣をするりと躱し、触手が胴体と両脚を絡め取る。
地べたに引きずり降ろされ、自由の利く両手で拘束を脱脱さんと試みるも無駄。
土の鞭が上空より襲い、左腕に突き刺さり地面に固定。
痛みを噛み殺しエコーズを呼び出そうにも、土の鞭が邪魔だ。
殴るより先に粉砕され兼ねない。

残った右手と聖剣は動かせる。
これで触手を斬れば脱出可能となるも、オリジナル態が許すかは別。
胴体と脚を縛る力が急激に強まり、引き千切られると嫌でも理解。
このまま悪ガキの餌食となったウルトラマンのソフビ人形のように、惨めなバラバラ死体となるのか。
肥大化の止まらない憎しみ諸共、腹の奥で溶かされるのが末路だとでも?

456AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:51:34 ID:E2.EV8Bg0
「み、と、めるかぁぁぁ―――っ!!!」

否、そんな馬鹿げた終わりは絶対に認めない。
これがお前の最後だと押し付けられたって跳ね除けてやる。
その為の力なら、もう持っているじゃあないか。

「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!!!」

生物とは到底思えない雄叫びを発し、聖剣を振るう。
煌めく刀身が冷たい夜風を裂き、草原をドス黒い血で汚す。
斬り落としたのは触手…ではない。
拘束された左腕を刃が食い千切り、巻き付いたままの触手諸共落下。
人間以上の生命力を持つアマゾンとて、痛覚と無縁ではない。
焼けるような激痛が切断面を襲うも、それすら憎悪が上回る。
憎い、憎い、憎い。
憎いから殺す、憎いから滅ぼす。
スタンドでもアマゾンでもない、もっと相応しい力で死をくれてやる。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」

天が震える、大地が泣き叫ぶ。
雷鳴を轟かせ、絶望の化身が降臨。
剥き出しの歯を打ち鳴らし、瞳に宿るは決して消えない憤怒の炎。
見上げる巨体に誰もが怯え逃げ惑うしかできない。

エレン巨人体。
遠くない未来、世界を踏み潰す厄災と化す宿命を背負った魔王。
だがもしここに、本来のエレンを知る者がいれば困惑を隠せないだろう。
見上げる程の巨体は変わらず、なれど明確な変化が表れている。

肩部装甲を思わせる形状の羽、両手両足に生えた鉤爪。
何より、夜の色に染まった全身は鎧を纏ったかのよう。
溶原性細胞の影響が巨人化後も表れたのか、カラスアマゾンの特徴を兼ね備えた未知の巨人がそこにいた。

457AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:52:29 ID:E2.EV8Bg0
「――――ッ!!!」

巨人の出現にオリジナル態の本能が最大限に警鐘を鳴らす。
これは駄目だ、これがいては自分は生きられない。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
二文字の言葉が脳内をあっという間に埋め尽くす。

触手全てを向かわせるだけでは足りない。
掌を合わせ錬金術を行使、限界まで錬成エネルギーを流し込み地面を無数の凶器に変える。
賢者の石のブースト抜きで行える、最大火力と言っても過言ではない。
突起物が、鞭が、巨大な手が、刃が。
刺し殺し、抉り殺し、殴り殺し、斬り殺し、ありとあらゆる手段で排除に動く。
殺さなければならない、殺さなければ生きる事は不可能な故。

尤も、簡単に殺せないからこそオリジナル態がここまで焦りを露わにしたのだが。

全て消し飛ぶ。
触手は千切れ、錬成物は粉砕されるのに5秒すら掛からない。
体液と土の雨が降り注ぐ中で、オリジナル態は立ち尽くす。
何が起きたかへの理解が追い付かず、次に取るべき行動へ動けない。

458AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:53:42 ID:E2.EV8Bg0
脚を振るい殺到する凶器と触手の群れを蹴散らした。
巨人がやったのは複雑なものに非ず、言ってしまえばそれだけの単純極まる動作。
ただの蹴りと侮るなかれ。
「カラスアマゾンのスピードを上乗せした」蹴りだ。
元々巨人は肉体の密度が薄く、巨体に反して動きは素早い。
だからこそ調査兵団や殺し合いの参加者達も手を焼いて来たが、今見せたのはこれまで以上の速さ。
本能に従うオリジナル態を僅かな間硬直させるくらいには、脅威的と言えるだろう。

そしてこの後に起こる展開も変えられない。

巨人がもう一度脚を振るった時には手遅れ。
触手の再生は間に合わない、錬金術が間に合ったのは奇跡に近い。
自身と巨人を阻む壁を複数錬成、ただの銃弾程度ならば十分盾になった。
無駄な足掻きなのは誰の目にも明らかだ。
多少勢いを削ぐ役目を果たし木っ端微塵、土煙が視界を覆い間髪入れずに蹴り飛ばされた。

吹き飛び、やがて重力に従い落下。
人間なら大きく引き離された距離も、巨人には数歩で到達。
見下ろす先で動く気配は皆無。
六腕を投げ出し、起き上がる様子はまるで見られない。
エコーズの能力で重くさせられた時とは違う、命というものが感じられなかった。

459AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:55:09 ID:E2.EV8Bg0
「……っ」

だがすぐに前言撤回せざるを得ない。
羽を毟られた害虫のように蠢き、呻き声にもならないナニカが口から漏れる。
太さとは裏腹に頼りない動きで腕が腰へと伸びる。
指先が触れたのは自分の肉体とは違う、硬く冷たい金属。

「ァ……ゾ……ン……」

『NEO』

本来の体の持ち主に与えられた武器であり、拘束具を身に纏う。
オリジナル態と似通いながらも、メカニカルな姿。
アマゾンネオ、捕食者ではなく狩人としての千翼の代名詞。
爆発の中心に立ったアマゾンネオを一言で表せば、満身創痍の四文字以外に無い。
二本足を地に付けている、たったそれだけで生命力が瞬く間に衰退。
瞬きを終えた直後に息絶えたとて不思議はなかった。

「生…き……な…きゃ……」

康一と同じく限界間近の体力消耗に加え、今しがた受けた蹴り。
数あるアマゾンの中でも上位に位置するオリジナル態だろうと、決して不死身ではない。
皮肉にも死へ大きく近付き意識が薄れた事で、肉体の主導権を奪い返せたのだ。

視界がボヤける、音がやけに遠い、痛いとかそういう次元ではない。
終わりへ一歩一歩近付く体で、アルフォンスは自身の状況を正確に理解出来なかった。
思考もままならない程のダメージ、この期に及んでまだ生を渇望する本能。
これが本当に自分自身の考えなのかも分からず、ドライバーに手を添える。

生きなければならない。
死を遠ざけて、生き続ける理由が自分にはあった筈。
諦めるなと言ってくれた人がいた気がする。
自分を仲間と受け入れてくれた人も、確かいたような。
そういえば、自分の方が諦めるなよと言った相手もいなかったか。
それから、そうだ、泣かせたくない女の子の事も忘れちゃ駄目だろう。

あとは、あとは、あとは――

460AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:56:32 ID:E2.EV8Bg0
――『オレが元の体に戻してやる』

――『千翼……私、楽しい』

『AMAZON SLASH』

「ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

右腕から突き出たブレードを構え、跳躍。
忘れたくない、忘れちゃいけない人達の元へ帰る為に。
生きて帰る為に、聳え立つ死を切り裂く。
奥底で喚く本能を慟哭が喰らい尽くす。
何かを手に入れるには、何かを為すには、戦うしかない。
それだけが自分の、自分達の、一つだけの宿命(こたえ)だから。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」

なればこそ、巨人の役目は絶望を与える事に他ならない。
片足を振り上げ、足底が天を睨み上げる。
踵部分の鉤爪が硬質化、二体の化け物の力を一つに。
己以外が生を求めるなど認めない、己以外に命が存在するなど許さない。
自由を愛する少年の体で理不尽極まる不自由を強いる、憎悪の化身が鉄槌を下す。

「――――――――――――」

訪れるのは分かり切った結末。

最初から、勝てる筈のない戦いだった。
魔術師も、城娘も、強欲も、怪盗も、星狩りも、ソーディアンマスターも。
血を分けた家族も、誰も彼の傍にはいない。

己を生かす全てが砕け散り、感覚が一つ残らず消え行く中で



(兄さん……)



この世でたった一人の兄の顔だけが鮮明に映っていた。



【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師(身体:千翼@仮面ライダーアマゾンズ) 死亡】

461AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:57:30 ID:E2.EV8Bg0



「…………っ!ハァ、ハァ、ハァ…クソッ!」

巨人化能力は全参加者の中で特に強力だが、制御不能のデメリットがあった。
しかし現在、康一は自らの意思で巨人化を解除し、物言わぬ肉塊を脱ぎ捨てたではないか。
ジョースターの血統が持つ黄金の精神を杜王町を守ったスタンド使いの康一も持っており、強靭な意思によって制御可能となった。
などとそんな理由の筈がなく、原因は当然宿儺が行ったケロボールの洗脳に始まる呪いの連鎖。
殲滅命令、食人衝動、憎悪。
これら三つが見事に噛み合った結果、参加者を滅ぼすという決してブレない意思を手に入れた。
主催者達が想定した制御方法では無いだろうが、現実に今回は暴走が起きていない。

参加者をまた一人殺した康一に喜びの感情は見られない。
生きている連中はまだ残っており、たかが一人潰して浮かれていられるものか。
何より、達成感以上に肉体の疲労の方が遥かに大きい。
禁止エリアから抜け出せた時と同じく、地べたに寝転がり荒い呼吸を繰り返す。
一刻も早く死を逃れ続ける参加者を殺したいが、流石に無視できる状態ではない。
非常に腹正しくあるも、休まなければ全員滅ぼす前に消耗死も有り得る。

いっそこの体勢のまま体力回復に努めようかと思い、すぐに首を振って否定。
アマゾン同士の戦闘ならまだしも、巨人の姿を見られた可能性がある。
そっちから来るなら好都合と言いたいところ、但し自分が万全の状態ならだ。
今のままでは殺してくださいと言っているのと変わらない。
早急にエリアを離れ、別の場所で暫く身を潜めた方が良いだろう。

「道具は……無理か…」

殺した相手の死体は原型を留めておらず、使っていた支給品も同じ。
デイパックも切り裂かれたらしく中身が散らばり、少し離れた所ではスクーターがスクラップと化してるのが見えた。
得られた物は何も無い、とはいえ滅ぼす為の力なら既に持っている。
残念に思うもそこまで後を引きはしない、切り替え鉛のように重い体で立ち上がった。

462AMAZONZ ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:58:20 ID:E2.EV8Bg0
「ああでも、腹の足しにはなるかな」

肉片を拾い口の中で転がす。
暫しコリコリという感触を楽しみ、命だったものが辺り一面に転がる場所へ背を向けた。

康一はアルフォンスが原因でアマゾンとなり、アルフォンスはアマゾンの力を得た康一に殺された。
呪いの連鎖が終わりを迎えるのは果たしていつか、断ち切る事など本当に可能なのか。
呪術師無き地にて、呪いの物語は未だ続く。


【D-4/夜中】

【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:エレン・イェーガー@進撃の巨人
[状態]:疲労(超絶大)、ケロボールの洗脳電波により洗脳中、謎の憎悪、溶原性細胞感染、食人衝動
[装備]:水勢剣流水@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品、タケコプター@ドラえもん、精神と身体の組み合わせ名簿@チェンジロワ
[思考・状況]基本方針:全て滅ぼす
1:一旦どこかで休む
[備考]
※時系列は第4部完結後です。故にスタンドエコーズはAct1、2、3、全て自由に切り替え出来ます。
※巨人化は現在制御は出来ません。参加者に進撃の巨人に関する人物も身体もない以上制御する方法は分かりません。ただしもし精神力が高まったら…?その代わり制御したら3分しか変化していられません。そう首輪に仕込まれている。
※戦力の都合で超硬質ブレード@進撃の巨人は開司に譲りました
※仮面ライダーブレイズへの変身資格は神楽に譲りました。
※放送の内容は後半部分をほとんど聞き逃しています。具体的には組み合わせ名簿の入手条件についての話から先を聞き逃しています。
※元の身体の精神である関織子が活動をできることを知りましたが、現在はその状態にないことを知りません。
※アナザーウオッチカブトは宿儺に無理やり奪われました。
※ケロボールによる洗脳は、時間経過により解ける可能性はあるものとします。具体的に何時解けるかは後続の書き手にお任せします。
※エレンの肉体の参戦時期は、初めて海にたどり着いた頃のものとします。
※オリジナル態の体液が傷口から入り込んだ為、溶原性細胞に感染しました。カラスアマゾンに変身が可能です。
 またその影響で巨人化時にはカラスアマゾンの特徴が表れるようです。

※ネオアマゾンズレジスター@仮面ライダーアマゾンズ、ネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、銀時のスクーター@銀魂は破壊されました。
※グレーテ・ザムザの首輪がエリア内に落ちているか破壊されたかは後続の書き手に任せます。

463 ◆ytUSxp038U:2024/08/11(日) 22:59:07 ID:E2.EV8Bg0
投下終了です

464 ◆5IjCIYVjCc:2024/08/12(月) 00:29:02 ID:MBLi0dX.0
大首領JUDO、ギニュー、それから主催陣営のボンドルドの祈手、斉木空助、ハワード・クリフォード、関織子、あと幽霊のジャン=ピエール・ポルナレフで予約します。

465 ◆5IjCIYVjCc:2024/08/24(土) 22:59:08 ID:KKFpE.jg0
予約の延長を申請しておきます。

466名無しさん:2024/08/25(日) 09:38:42 ID:ZhLBIjdo0
1週間延長無くして最初から期限を1ヶ月にすれば?

467 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:20:44 ID:pXczJh9A0
投下します。

468仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:22:26 ID:pXczJh9A0
それは、網走監獄での戦いの結末、野原しんのすけが他の者達を連れて瞬間移動で離れてからまだ10分程しか経っていない時のことであった。
戦いは終わったと判断したJUDOは、まず前の戦いで殺害した者達の首を切断して首輪を取り外した。
それを終えたら変身を解除して落ち着ける場所に移動し、改めて休息をとろうとしていた。
そのための場所として、首輪を景品に変換できる教誨堂の方に向かおうとしていた。

しかし、すぐにそうするわけにはいかないことになる。

「!」

JUDOは歩いている途中で、自身に向かって何かの気配が近付いて来ていることを感じ取った。
同時に、前方のやや斜め上の方から、エネルギーの塊の弾丸が何処からともなく高速でJUDOの方へと飛んできた。
それは、ガンモードのドリルクラッシャーから放たれたものであった。

「変身!」
『KAMEN RIDE DECADE』

何者かが近付いていることを察したJUDOは、先ほど解除したばかりのディケイド激情態の姿に再び変わる。
同時に、自分に向かって飛んできたエネルギーの弾を、後ろに向かって跳びながら避ける。
着弾地点で爆発が起きるが、変身のエフェクトに守られてこれによるJUDOへのダメージはなかった。

JUDOが再変身した直後、2つの影がどこか遠くから跳んで来る形で出現する。
そいつらが、JUDOの前に土を巻き上げながら勢いよく着地する。
そうして現れた者達の姿を、JUDOは見たことがあった。
1人は、紫と黄色の螺旋に彩られたライダー、仮面ライダービルド・ニンニンコミックフォーム。
そしてもう1人は、黒のアンダースーツに白の胸部装甲、そして禍々しい形相の白い仮面と怪しく赤く光る左目を持つライダー、仮面ライダーアークワン。
これら2種のライダーが、JUDOの前に黙って並び立っていた。



「…成る程、我が疲弊したこのタイミングを狙ってきたということか」

目の前の2人が現れたことに対し、JUDOはそう解釈する。
彼らはおそらく、さっきまでの自分達の戦いの様子をどこか遠くから伺っていたのだと考えた。
その戦いの果てに、JUDOは1人取り残された。
しかも、新たな力も手に入れてより強くなった。
だからおそらく、こう判断したのだろう。
戦いに大いに疲れている今の内に、直ぐ様JUDOを潰しておくべきだと。
そうして、可能な間に今後の脅威を減らしておくべきだと。

「ならば、その判断が愚かなものだということを今、分からせてやろう…!」

JUDOは目の前の者達に対する殺意、憤怒、破壊衝動を増大させる。
先の戦いで白の仮面のライダー…アークワンの中身は、島の中央付近の街で戦った相手だということは察知した。
前の山中での戦いでは出来なかった雪辱を晴らす破壊を、今度こそ実現させようとしていた。



『分身の術!』

ビルド・ニンニンコミックフォームが手に持った4コマ忍法刀のトリガーを1回押す。
すると、JUDOの周りにその分身達が現れる。
分身は、合計6人出現していた。
6人の分身はそれぞれ4コマ忍法刀を構え、一斉にJUDOに襲いかかろうとする。
それに対しJUDOは、新たなカードを取り出してネオディケイドライバーに装填する。

『FORM RIDE OOO GATAKIRIBA COMBO』『ガ〜タガタガタキリッバ!ガタキリバ!』

JUDOは、仮面ライダーオーズ・ガタキリバコンボの姿へとその身を変えた。
クワガタ・カマキリ・バッタの昆虫系コアメダルの力を最大限に発揮する、緑のオーズの姿がそこに現れていた。
本来のディケイドである門矢士の肉体がネオディケイドの力を手に入れたことで、平成二期シリーズ(と一応令和)の仮面ライダー達のフォームライドの力も解禁されていた。
そして前回と同じく、ディケイドの姿から直接他ライダーのフォームライドを使えていた。

ディケイドオーズ・ガタキリバコンボの姿となったJUDOは、その脚であるバッタレッグの脚力でその場で跳躍する。
跳躍はギリギリ間に合い、ニンニンコミックの分身達は先ほどまでJUDOがいた場所で互いが持つ刃をぶつけ合うことになる。
JUDOは確かに今疲弊している状態だが、ほしふるうでわによる素早さ上昇の効果もあり回避には間に合っていた。

469仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:24:54 ID:pXczJh9A0
攻撃を避けられたニンニンコミック達は、直ぐ様次の行動に移ろうと跳躍したJUDOのいる方を見るために顔を上げる。
そこで、空中のJUDOのディケイドオーズは、分身していた。
分身の結果、ディケイドオーズ・ガタキリバコンボは合計4人となっていた。
この分身は、オーズ・ガタキリバコンボが持つ能力の1つであった。
なお、その人数は本来のガタキリバコンボが出せるものよりも遥かに少なかった。
本来のガタキリバコンボなら、一度に約50人は分身を出すこともできた。
今回こうなったのは予算の都合のため…ではなく、現在のJUDOが抱えるダメージと疲労のため、これだけ出すのが限界となっていた。


分身した4体のガタキリバの内、2体が空中にいるまま動き出す。
互いに右脚の膝を深く曲げ、その足の裏をその場で合わせた。

『ダンッ』

そして2体の内片方が、曲げた脚を勢いよく伸ばし、もう片方を蹴り飛ばした。
バッタレッグの脚力もあり、蹴られた方は遠くへと飛ばされる。

それを見ていたニンニンコミックの分身達はそれを見て、空中で飛ばされた方に向かって2体の分身が追った。
残る4体のニンニンコミック、そしてそれを呼び出した最初の1体とその隣のアークワンは、空中に残る3体のガタキリバから目を離してなかった。


アークワンが自身のドライバー、アークドライバーワンに備わった3Dプリンター機能を使い、武器を1つ生成する。
ここで生成したのはアタッシュショットガン、アークワンはそれを両手で持ち銃口を空中のガタキリバ達へと向ける。
分身と本体、どちらも含んだニンニンコミック達も4コマ忍法刀を構える。

『風遁の術!』
『火遁の術!』

本体と分身の内1体のニンニンコミックが4コマ忍法刀のトリガーを操作する。
2人が発動した風と火の術が合わさり、炎を纏った竜巻を形成する。
炎の竜巻は次第にその大きさを増し、空中から落下中のガタキリバ達に向かって行く。

また、ニンニンコミックの残る3体の分身は、他2体が生み出したその炎の竜巻の中に飛び込んだ。
彼らはその竜巻による上昇気流に乗り、空の方へと昇って行く。
やがて彼らはガタキリバ達に近付き、そのまま刀を振るおうとする。

「「「フンッ!」」」

JUDOの3体のガタキリバは体勢を上半身の方が下になるようにする。
そうして腕に取り付けられたカマキリソードで、それぞれ4コマ忍法刀の刃を受け止めた。
その衝撃により、それぞれ3体ずつの分身は空中で一瞬だけ静止する。

「「「ぐっ…」」」

刀の刃は止められたものの、炎の竜巻はまだ消えてなかった。
それの熱により、JUDOの分身達が少し苦悶の声を漏らす。
熱によるダメージを受けているのはニンニンコミックの分身達も同じはずであるのだが、彼らはそれを感じているような様子は見受けられなかった。

『バンッ!』『バンッ!』『バンッ!』
「ぐあっ!?」「ぎっ!」「がっ!?」

ニンニンコミック達とのぶつかり合いで一瞬静止した隙に、アークワンがアタックショットガンのトリガーを何度か引き、ガタキリバ達に向けて発砲する。
それから放たれたエネルギー弾はガタキリバ達に次々命中し、ダメージを与えて吹っ飛ばしていく。
ガタキリバの分身達はやがて地面に落ちて転がり、少ししてその場から消滅する。
分身達もJUDOが抱えていた大きなダメージを引き継いでいたため、この程度でも耐え切れなかった。
ガタキリバ達が消えた後、ニンニンコミックの3体の分身達は地面に降りる。
そして本体とアークワンと共に、自分の分身2体も追いかけていった、先ほど飛んで行ったガタキリバ…おそらくJUDO本体がいると思われる方に視線を向けた。



オーズ・ガタキリバコンボの力で作り出した分身に蹴らせる形で、JUDOは襲撃者の本体から一旦距離をとろうとした。
しかしそんなJUDO本体も、敵方の分身の内2体が追って来ていた。
敵の移動速度は何故か前よりも少しだけ素早くなっているようで、このままでは着地と同時に攻撃を受ける可能性が高かった。

470仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:26:17 ID:pXczJh9A0
『ATTACK RIDE ADVENT』

JUDOは空中にいる状態のままベルトにカードを装填する。
選択したのは龍騎が持つアドベント(召喚)のカードの力、これにより龍騎の契約モンスターであるドラグレッダーがこの殺し合いにおいて3度目の登場を果たす。
出現した赤の龍は空中を横移動するJUDOの下の方に向かう。
そしてJUDOは、オーズ・ガタキリバコンボの姿のままドラグレッダーの背に掴まる。
JUDOを乗せたドラグレッダーは上昇し、地面から離れていく。


それに対し地上の2体のニンニンコミックも追いかけようとする。
2体の内片方が、バレーボール競技のレシーブのような構えをとる。
そしてもう片方が少し離れ、助走をつけて片方の方へと向かう。
助走で勢いを付けた方は、もう片方が握り構えた両手に足をかける。
そこを足を乗せられた方が勢いよく腕を上げ、もう片方の分身を上空へと打ち上げる。
打ち上げられて高く跳んだニンニンコミックの分身が、上昇するドラグレッダーに追いつく。
ニンニンコミックの分身は、片手でドラグレッダーの尻尾を掴んだ。

『GAAAAA!』

尻尾を掴まれたドラグレッダーが、体ごとその尾を勢いよく揺らしてニンニンコミックを振り落とそうとする。
けれどもニンニンコミックはしっかりと尾を掴んだまま離すまいと耐えていた。

『ATTACK RIDE AKANE TAKA』

それに対しJUDOがカードを一枚ベルトに装填する。
ドラグレッダーが体を揺らすことで振り落とされそうになっているのはJUDOも同じだったが、何とか片手で掴んで耐えながらもう片方の手でカードとベルトを操作した。
選んだのは仮面ライダー響鬼が所有するアイテムの一つ、ディスクアニマルの茜鷹、これをアタックライドとして使用した。
茜鷹はJUDOの側で一瞬だけディスク状態で召喚された後、すぐに赤い鳥型に変形して空中を舞う。
空飛ぶ茜鷹はドラグレッダーの尻尾の方へと向かい、そこに掴まるニンニンコミックの分身へ攻撃を仕掛け、手を離させようとする。

『ガンッ』『キィッ!』

しかし茜鷹は、近づいた瞬間にニンニンコミックが片手で振るった4コマ忍法刀に弾かれた。
刀に斬られた茜鷹はバランスを崩して重力に従って落下していき、やがてすぐに消滅した。

『ATTACK RIDE RURI OOKAMI』

けれどもJUDOは、茜鷹が打ち落とされる直前にもう一つのアタックライドを発動させることに成功していた。
今回召喚されたのも仮面ライダー響鬼が持つディスクアニマルの一種、だがまた別の種類のものだった。
召喚されたのは狼型のディスクアニマル、瑠璃狼。
最初はディスク状態で出現したそれは、変形して狼型となった後にドラグレッダーの背の上に着地する。
そのままドラグレッダーの背の上を走り、尾の方を目指していく。
激しく揺れ動くため走りにくいだろうその背の上を、瑠璃狼はスイスイと苦も無く進んでいく。
瑠璃狼が元来持つ、足場の悪い荒れた山中等を走破するための走行能力のおかげで、この芸当を可能としていた。
また、ドラグレッダーの上を走りながら瑠璃狼は透明となり、注意深く見ないといることが分からない状態となる。
これもまた、瑠璃狼に備わっているステルス機能によるものであった。

瑠璃狼はやがてドラグレッダーの尾の方に辿り着く。
先ほど茜鷹を攻撃したばかりのニンニンコミックの分身は、瑠璃狼の方を対応することは出来なかった。
瑠璃狼はドラグレッダーの尾を掴むニンニンコミックの手に嚙みついた。
それにより、その手はドラグレッダーから剝がされることになる。
掴んでいた片手を離したニンニンコミックの分身は、そのまま地面に向かって落ちていくことになる。
それと同時に、役割を終えた瑠璃狼もその場から消失する。
自分を掴んでいた者が離れたことにより、ドラグレッダーも落ち着き体を揺らすのを止めた。


『ATTACK RIDE MAD DOCTOR』

ドラグレッダーの動きが落ち着いた瞬間、JUDOはまた新たなカードをベルトに装填した。
分身に蹴り飛ばさせて距離を取り、ドラグレッダーに乗って空に昇ったのは、元々このカードを使うためでもあった。
ここで発動されたのは仮面ライダードライブが持つシフトカーの一種、救急車型シフトカーのマッドドクターの力であった。
ベルトから音声が鳴り響くと同時にマッドドクターの治療用の装置である円盤型の物体のキュアクイッカーと、注射器型の治療用ユニットが3本、JUDOの周囲の空中に出現する。
キュアクイッカーはJUDOの真上に移動してスキャンを行い、どんな治療が必要かを特定する。
やがて注射器の針先から、電撃ビームのような形で治療用のエネルギーであるトリートエナジーが注ぎ込まれる。

「グッ…ガアッ…!!」

471仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:27:34 ID:pXczJh9A0
マッドドクターの治療は確かにJUDOが抱えていたダメージを高速で癒していく。
けれどもその代償として、治療中はJUDOの肉体に激痛が走っていた。
けれどもJUDOは、痛みに耐えながら必死にドラグレッダーから手を離すまいとしていた。



空中でそんな治療を受けている最中のJUDOを、ビルド・ニンニンコミックフォーム達とアークワンは見つめていた。
残されたガタキリバの分身達を消滅させたことで、離れていったJUDO本体の方に全員で気を向ける余裕が出来ていた。

今もなお空を飛んでどんどん離れていくJUDO、それに対抗するためかニンニンコミックの本体が新たなアイテムを1つ取り出す。
だがそのアイテムは、ビルドの中身であるボンドルドの祈手(肉体:葛城忍)も、彼が今一応従っているギニューも、前の戦いが終わった段階では所持していなかったはずの品であった。
彼がそのアイテムを手に入れたのは、実はこの網走監獄内でのことだった。
網走監獄の敷地内にある教誨堂、その地下にあるモノモノマシーンに、ギニューが所有していた首輪を使った。
ほんの少し前、JUDOが前の戦いを終えた直後の頃に、彼は網走監獄及び教誨堂内にビルド・ニンニンコミックフォームに変身した状態で侵入していた。
ニンニンコミックフォームの力で気配を消し、首から背中にかけて垂れ下がるオンミツスカーフの力で全身を覆い隠し周囲の景色と同化して、こっそりと入っていた。
運良く何とか気付かれることはなく、そこでモノモノマシーンも利用しながら準備を整え、その後すぐに教誨堂の方から跳んできた。

そして今、ビルド・ニンニンコミックフォームはその新たなアイテムを構え、そこに付いているボタンを押す。

『ハザードオン!』

入手したアイテムの一つは、彼が今身に着けているビルドドライバーに使用可能な代物であった。
ハザードトリガー、それがその手の平サイズの赤い装置の名であった。
ビルド・ニンニンコミックフォームはハザードトリガーをビルドドライバー右側上部にある窪みに装填する。

『ドンテンカン!ドンテンカン!ドンテンカン!ドンテンカン!』

ハザードトリガーの背っとと同時に、そんな待機音声が鳴り響く。
ベストマッチ判別機能の無いプロトタイプのビルドドライバーであるため、『スーパーベストマッチ!』の音声は流れない。

『ガタガタゴットン!ズッダンズダン!ガタガタゴットン!ズッダンズダン!』

ビルドドライバーのハンドルが回され、音声がそんな風に変わる。
同時に、ビルドドライバーから前方と背後の方に向かってパイプのようなものが伸び、それぞれその先で漆黒の金型が形成される。

『Are you ready?』

その音声がなった後、両サイドの金型が一気に閉じてビルドを挟み込む。
そして「チーン」とオーブン等を使ったような音が鳴り、金型が開く。

『アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!』『ヤベーイ!』

金型が開くと、中から漆黒に染まったビルドが姿を現す。
複眼はそれぞれ右と左で黄と紫のまま変わらない。
だがその漆黒に染まった姿は、全てを破壊してしまうかのような威圧感を醸し出している。

仮面ライダービルド・ニンニンコミックハザードフォーム、それがこの場に現れたビルドの名だ。
なおこのニンニンコミックのハザードフォームには、本来のビルドである桐生戦兎も、この場に肉体としている葛城忍も、変身したことは無いものであった。

本体であるニンニンコミックがハザードフォームになったことにより、分身達にも変化が現れる。
本体が4コマ忍法刀を一振りしてみると、何と分身達も姿が漆黒のハザードフォームのものへと変化した。
本体含め7体のハザードフォームとアークワンは、一斉に空中をドラグレッダーに乗って飛ぶJUDOを睨みつける。



ついでに言っておくと、彼はモノモノマシーンから得られた品を他にも1つ使用済みの状態であった。
前の戦いが終了した時点で彼らが所持していた首輪は3つ、モノモノマシーンもその分だけ利用できた。
そうして彼が入手されたものの1つ、それはゴーゴー焼き山菜というものだった。
ゴーゴーニンジンという食材を使って作られたそれは、食すことで少しの体力・ダメージの回復と移動速度の上昇の効果をもたらす。
ただし、速度上昇については約3分だけのことではあったが。
けれども、ほしふるうでわで素早さを上げているJUDO相手には、例え僅かな間だけでもそんな効果があるのはありがたいことではあった。
この効果がある内に、ここでやらなければならないことを行おうとしていた。



472仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:28:23 ID:pXczJh9A0
ニンニンコミックハザードフォームの本体は空の方を見ながらまた別のアイテムを1つ取り出す。
これは先ほど手に入れたものではなく、ギニューから預かったものだ。
ギニューが前回の戦いの結果手に入れたミニ八卦炉、それをハザードフォームが空に向けて構える。
ハザードフォームの全身を駆け巡る万能強化剤「プログレスヴェイパー」が、その手の平を通じてミニ八卦炉へと充填され、魔力代わりのエネルギーに変換される。
そんなハザードフォームの腕にアークワンが手を添える。
空飛ぶドラグレッダーに確実に命中させるために、アークワンの予測能力を利用して、腕を支えながら狙いを定めさせる。

やがてミニ八卦炉へのエネルギーチャージは完了し、八角形の太極図が描かれた面の中央から漆黒のレーザーが発射される。
レーザーは光速で真っ直ぐと進み、ドラグレッダーを貫いた。

『GAAAAAAA!!』

レーザーに体を貫かれたドラグレッダーは叫び声を上げながら消滅する。
これにより上に乗っていたJUDOも重力に従って地面に向かって落下していく。
マッドドクターによる治療は既に終わっていたようで、キュアクイッカーと3本の注射器はとっくに消えている。

空中を落下していくJUDOは無防備な状態となる。
それを狙ってか、ハザードフォームの分身達がJUDOの落下地点目掛けて駆け出していく。
ミニ八卦炉を連射することはできないため、彼らに任せたようだった。
このために、予め彼らのこともハザードフォームの力を分け与えたようだった。


これに対するJUDOの方も、ただ黙って落ちるだけではなかった。
JUDOはまだ、オーズ・ガタキリバコンボの姿のままでいた。

「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」

ガタキリバの力で、空中でJUDOは再び分身する。
その人数は、先ほどよりもかなり多くなっていた。
予算の都合がついたから…ではなく、マッドドクターの力である程度治療出来た分だけ体力的な余裕が出来たため、その分だけの分身を増やすことが出来ていた。
その人数は、20人以上に及んでいた。

「「「ハアッ!」」」

JUDOの落下地点に向かっていたニンニンコミックハザードの分身達を、ガタキリバの分身の内の何人かが空中から攻撃を仕掛ける。
カマキリソードを用いての攻撃が、再び4コマ忍法刀で受け止められる。
その後ガタキリバ達は地面へと着地し、相手方の分身達と打ち合いを始める。
そうして分身達が足止めしている間に、JUDO本体を含めた残りの分身達は更に距離をとる。

『マックスハザードオン!』
『ガタガタゴットン!ズッダンズダン!ガタガタゴットン!ズッダンズダン!』

ニンニンコミックハザードフォームの本体がアークワンと一緒に小競り合い中のその場に走って近付く。
移動中の間にベルトのハザードトリガーのボタンを押し、ハンドルを回し必殺技の発動の準備をする。
ハザードレベルが上昇するオーバーフローモードへと移行し、瞬間的な戦闘力が上昇する。
その影響は、今ガタキリバ達と戦っている分身達にも及ぶ。
本体と分身達の刀を持つ手が、黒紫のもやのように見えるエネルギーを纏う。

『Ready go!』
『オーバーフロー!』『ヤベーイ!』

本体と分身、どちらものハザードフォームがエネルギーを込めた手でガタキリバ達向けて刀を構える。
アークワンも同じように、虹という刀を構える。

――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り(?)

ガタキリバ達に近付いた8人全員が、一斉に同じ技を放つ。
本来彼が使うものじゃなかったその鬼殺隊のための技を、この殺し合いで使えるようになったギニューから教わったようであった。
とは言っても、肉体が覚えているわけでもないその技をそんなすぐに使いこなせるものではない。
本来の使い手達ほど刀の振り方は整ってはなく、流れる水を幻視できる程の美しさは無かった。
けれども、今この場においては別にこれでもよかった。
彼ら8人による一斉攻撃は、ガタキリバの分身達の首や胴等を一瞬で切り離した。
オーバーフロー状態での必殺技発動と全集中の呼吸のモノマネでほんの僅かだけ上乗せされた威力、そして人数差により1体辺り2人で同時攻撃できたこともあり、ここでは分身達を切り裂くという結果が出せた。
これにより、足止めをしていたJUDO側の分身達は消滅する。
足止めをする者達がいなくなったことで、ハザードフォームは再びJUDO本体のいる方に向き直る。


JUDOもまた、離れた場所で自分のガタキリバの分身達と共に横一列に並んでいた。
……いや、1体だけはその横一列の更に少し後ろの方に居た。
本体も含めてそこにいたガタキリバ達は合計23人。
後ろの1人を除くと、22人が横一列に並んでいた。

これを確認した後、ハザードフォーム達とアークワンは一斉に駆け出す。
例え今度は自分達側の方が人数が少ないとしても、それに関わらず攻撃を仕掛けようとしていた。

473仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:30:08 ID:pXczJh9A0
「貴様らに面白いものを見せてやろう」

相手側に向けてJUDOはポツリとそう呟く。
同時に、一緒に横に並んでいる分身達と共にそれぞれ1枚ずつカードを取り出した。
そしてそれらのカードを、一斉にそれぞれのベルトへと装填した。

『KAMEN RIDE KUUGA』
『KAMEN RIDE AGITO』
『KAMEN RIDE RYUKI』
『KAMEN RIDE FAIZ』
『KAMEN RIDE BLADE』
『KAMEN RIDE HIBIKI』
『KAMEN RIDE KABUTO』
『KAMEN RIDE DEN-O』
『KAMEN RIDE KIVA』
『KAMEN RIDE DECADE』

『KAMEN RIDE W』
『KAMEN RIDE OOO』『タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!』
『KAMEN RIDE FOURZE』
『KAMEN RIDE WIZARD』『ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!』
『KAMEN RIDE GAIM』『オレンジアームズ!花道オンステージ!!』
『KAMEN RIDE DRIVE』
『KAMEN RIDE GHOST』『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ!ゴースト!』
『KAMEN RIDE EX-AID』『マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!』
『KAMEN RIDE BUILD』『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!』
『KAMEN RIDE ZI-O』『仮面ライダージオウ!』

『KAMEN RIDE ZERO-ONE』『飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a riderkick.』
『KAMEN RIDE SABER』『ブレイブドラゴン!烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!』

22人のディケイドオーズ・ガタキリバコンボはそれぞれ、歴代の平成仮面ライダー達(+α)のカメンライドカードを装填した。
1人1人が、ガタキリバの姿から歴代ライダー達の姿へとそれぞれの変身シークエンスを通じて変わっていく。
後ろに1人だけでいるガタキリバは、分身の維持のために控えているようだった。
その1人を除けば、ネオディケイドライバーにカードが付属していた20人の平成ライダーと2人分の令和ライダー、22年の歴史を紡いできた平成・令和の仮面ライダー達がここに勢揃いしていた。
この使い方はきっと、他のライダーの力を自由自在に使えるディケイド激情態だからこそ出来ている点もあるだろう。



『『『『『『『分身の術!』』』』』』』

22人のガタキリバがそれぞれ別々のライダー達の姿に変わったことを確認すると、7人のニンニンコミックハザート達が、4コマ忍法刀のトリガーを操作した。
すると本体と分身どちらも含めて、1人につき2人の分身を作り出した。
これによりニンニンコミックハザート達の人数は計21人に、アークワンを含めれば22人となり相手側の人数に匹敵することになった。
通常のニンニンコミックではここまでの分身は出せないはずだった。
しかし、ハザードトリガーにより強化されていることもあり、このような芸当を行うことに成功した。
もっとも、一人あたりの力はその分少し下がっている可能性もあるが。


「頭数を揃えたところで…ム?」

ハザードフォームが増えた後、本体とアークワンの2人が集団の中から離れていった。

「チッ…」

JUDOはそれを見て、自分本体はそっちの方を向かおうとする。
本体のディケイド激情態、そしてディケイドビルドとディケイドゼロワン、この3人で離れようとするハザードフォームとアークワンを追って行った。

「こいつを使え」
「フン…」

他の分身達から離れる前に、JUDOの本体は一枚のカードをディケイドセイバーに投げ渡した。
相手側が2人、こちら側が3人で離れれば、残された分身同士でぶつかる時は相手側が20人、こちら側が19人と1人少ない。
一応こちら側にはもう1人ガタキリバの分身が残っているが、それは分身維持のために今のところ戦いには出すつもりは無い。
そのため、その1人の人数差の分を埋められるかもしれない戦力としてカードを渡した。
ここで本体が投げ渡す形となったのは、そのカードは最初のディケイドライバーとネオディケイドライバー、どちらにも元々付属していなかったものだからだ。
そのカードは、前にJUDOがモノモノマシーンを使用した時に手に入れたものであった。
前回・前々回の戦いで使わなかったのは、単純に使う機会が無かったからだ。

474仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:31:25 ID:pXczJh9A0
『ATTACK RIDE REKKA DAIZANTOU』

ディケイドセイバーが渡されたカードを自身のネオディケイドライバーに装填する。
すると、その片手に新たな武器が出現した。
切っ先の側面に赤く大きく「火」と書かれた全体的に赤が目立つ巨大な刀、烈火大斬刀。
本来なら仮面ライダーとは関わりの無い「シンケンジャーの世界」の武器がそこにあった。
かつて本来のディケイドである門矢士がその世界に訪れた際、その武器を手にした際に現れたのが、今使用されたカードであった。
本来のそのカードは、本来の持ち主である志葉丈瑠/シンケンレッドから貸し出された時に、力を取り戻したカードであった。
このカードの使い道は本来、本物の烈火大斬刀を先に持った状態で技を発動するために使うカードであった。
しかしここにおいては、実物がここに無くともカードを使用することができた。
その結果、烈火大斬刀がカードを使用したディケイドセイバーの手に出現するという効果が現れることになった。
こうなったのはおそらく、あらゆるアタックライドをそのまま使えるディケイド激情態の力の影響があったためかもしれない。
このカードがディケイドライバーの中に無くモノモノマシーンを通じての入手となったのは、本来仮面ライダーとは無関係の力のカードのためだろうか。


ディケイドセイバーは火炎剣烈火と烈火大斬刀、2つの烈火の名を冠する聖剣と大刀による二刀流を披露しながら、ハザードフォームの軍団に向かって行く。
ビルドとゼロワンを除くクウガ〜ジオウの姿になったディケイド達も共にそれぞれの拳や武器を構えて突撃していった。
そうして、2つのライダーの軍団がここで激突した。



逃げるように離れていくハザードフォームとアークワンをJUDOとその分身達が追う。
だが、彼らはいつまでも逃げていくわけではなかった。
やがてハザードフォームが立ち止まって振り向き、手に持ったドリルクラッシャー・ガンモードの銃口をJUDO達に向けて来た。
またアークワンも同じように止まって振り向き、3Dプリンター機能で作ったアタッシュショットガンの銃口を向けた。
それぞれの銃口からエネルギーの弾丸が発射され、ディケイドの姿のJUDO本体目掛けて飛んで行く。

「ハアッ!」
「フンッ!」

それらの攻撃に対し分身のディケイドビルドとディケイドゼロワンが対応する。
ドリルクラッシャーの弾丸を、ディケイドビルドがこれまた同じくドリルクラッシャーのソードモードを振るって弾いた。
ディケイドゼロワンはアタッシュカリバーを取り出し、これをアタッシュケース状態で振って側面をアタッシュショットガンの弾にぶつけて弾いた。
攻撃を弾かせた後、JUDOは分身2人の間を通り抜けて引き続き追おうとする。

(ム?)

このタイミングで、相手側に少し異変が起きる。
ハザードフォームとアークワンのどちらもが、何かにあてられたかのように頭を垂れる。
その後すぐに顔を勢いよく上げ、視線を強く向けた。
その時、彼らから発せられる「圧」が何倍にも膨れ上がっていた。

『ビュンッ!』

ハザードフォームが手に持ったドリルクラッシャーをソードモードにし、それを豪速球でぶん投げた。

「フン!」『バキンッ!』

JUDOは自分に向かって投げられてきたドリルクラッシャーを、ソードモードにしたライドブッカーでドリルの先端から刃を入れて真っ二つに切り裂いた。

『ビュンッ!』

その直後、また別の剣がJUDOに向けて豪速球で投げられてきた。
それを投げてきたのはアークワンであった。
なお、投げられたものは先ほども使っていた虹という刀や3Dプリンター機能で作られた武器等ではなく、また別の品であった。
実はそれは、先ほどモノモノマシーンを使用した際に入手した最後の品であった。

475仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:32:29 ID:pXczJh9A0

この剣は…君が父さんに突き立てた、ブラフォートの剣だァーッ!!


『カアンッ』

君が父さんに突き立てたブラフォートの剣は、あっさりとライドブッカーの刃で弾かれた。

ただ投げた側としては別にこれでもよかった。
一瞬だけでも虚を突いて行動できる隙を作れれば十分だった。

『マックスハザードオン!ガタガタゴットン!ズッダンズダン!ガタガタゴットン!ズッダンズダン!』
『悪意恐怖憤怒憎悪絶望パーフェクトコンクルージョン』

ハザードフォームとアークワンがどちらも高速でベルトを必殺技発動のために操作する。
それはまるで何かに急かされているかのようでもあった。
ハザードフォームは、長時間使用したりオーバーフローモードを連続で使ったりすると、ハザードトリガー内の強化剤が脳の深い所にまで浸透して自我を失うという副作用が存在する。
そうなると、変身者は精神を破壊衝動に支配され、目に映るものを無差別に、ただひたすらに破壊しようとするようになってしまう。
そして今、ここにいるハザードフォームもその状態に至ってしまっていた。

『火遁の術!』
――水の呼吸 肆の型 打ち潮(?)
――ヒノカミ神楽 灼骨炎陽(?)

自我の無い暴走状態のまま、ハザードフォームとアークワンが手に刀を持って技を繰り出そうとする。
ハザードフォームの方は4コマ忍法刀に術で火を纏いながら水の呼吸のモノマネをする。
アークワンは刀の虹を握りしめて、ヒノカミ神楽のような形で刀を振ろうとする。
可能な限りの全速力を出しながら、彼らは刀を持って突撃しようとして来る。


『KAMEN RIDE BUILD GENIUS FORM』『完全無欠のボトル野郎!ビルドジーニアス!スゲーイ!モノスゲーイ!』

刃が届く前に、ディケイドビルドが先にカードをベルトに装填する。
1度使えば変身解除後に2時間使えなくビルドの最強フォーム、ジーニアスフォーム。
温存しておくかどうか少し迷っていたが、向こう側の雰囲気が変わったため使うことに決心がついた。

『ガキイイィィンッ!!!』

ジーニアスフォームとなったディケイドビルドは、ハザードフォームの前に出た。
そうしてすぐに、ダイヤモンドのフルボトルの力を発動し、目の前にダイヤの盾を展開して攻撃を受け止めた。
オーバーフロー状態で火も刀に纏った状態、それに特定の技の型を組み合わせたその斬撃の威力は確かにとてつもなく高かった。
けれどもジーニアスフォームが展開したダイヤモンドの盾の硬さは、この斬撃をも防ぐことに成功した。

「ハアッ!」

攻撃を防ぎダイヤモンドの盾を解除した後、ディケイドビルド・ジーニアスフォームはパンチを一発繰り出した。
そのパンチはハザードフォームの胸部に命中し、相手は背後の方へと吹っ飛ばされた。



『ATTACK RIDE MACH』

ディケイドビルドがジーニアスフォームになるとほぼ同時に、ディケイドゼロワンも別のカードをベルトに装填していた。
それは本来、仮面ライダーブレイドが持つラウズカードの一種であるマッハジャガーの力だ。
本来ならゼロワンでは使えないそのカードも、ディケイド激情態の力で使用可能とした。

ディケイドゼロワンはジャガーマッハの力で走力を上げ、アークワンの横の方に素早く移動し、その場で身をかがめながら低い位置から水平に飛び蹴りを放とうとした。
それに対しアークワンも、自身の予測能力でそれを予測し、攻撃の方向をディケイドゼロワンのいる方へと素早く変更しようとした。

『ATTACK RIDE KICK』
『バキイィッ!!』

476仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:33:41 ID:pXczJh9A0
しかし、その攻撃は防がれる結果となる。
ディケイドゼロワンは跳び蹴りを放つ前にアタックライドのカードを一枚装填していた。
それは仮面ライダーブレイドが持つ、ローカストアンデッドが封印されたキックローカストのラウズカードの力だった。
これにより、ディケイドゼロワンのキック力は上がっていた。
けれども、アークワンはそれも込みで予測はしていたはずだった。
灼骨炎陽の刃の軌跡はディケイドゼロワンの足が来る位置を捉えていたはずだった。
だが、スピードとパワーをディケイドゼロワンの方が上回った。
灼骨炎陽の型による回転斬りは確かに速度が付いていていたが、ディケイドゼロワンの足が斬られる前に、足裏が刃を捉えた。
5段階のチャージを行ったパーフェクトコンクルージョンの発動によるエネルギーも上乗せされているはずなのに、本来なら威力が下のはずの跳び蹴りで刀が押し返された。
ディケイドゼロワン側もディケイド激情態の力とキックローカストの力が上乗せされているとはいえ、だ。
押し返された後、ディケイドゼロワンの蹴りはアークワンの手の方にもぶつかり、アークワンは刀を手の中から弾き飛ばされてしまう。
刀を弾き飛ばされたアークワンはよろけ、ディケイドゼロワンは蹴りの反動で後ろに下がって距離をとった。




「……さて、そろそろ気付いてやる頃か?」

JUDOがふとそう呟く。

『ロックオン』
「そこか!」

JUDOが呟くとほぼ同時に、新たな気配が背後に現れる。
その気配に気付き、JUDOはライドブッカーをガンモードに変えて構えながら背後を振り向く。



そこには、オレンジ複眼にメロンの装甲・白いアンダースーツが特徴的な武者、アーマードライダー斬月・真が立っていた。
斬月・真はソニックアローにメロンエナジーロックシードを装填した状態で、その弓を強く引き絞っていた。

『メロンソーダ!』

斬月・真はJUDOに存在を気付かれたことを気にも留めずに、引き絞った弓から手を離し大きなエネルギーを纏った矢を放った。

『ATTACK RIDE BLAST』

斬月・真が矢を飛ばすのとほぼ同時に、JUDOはアタックライド・ブラストのカードをベルトに装填した。
ガンモードのライドブッカーが光の残像を出現させ、それらの銃口からエネルギー弾が高速で連射される。

『ガガンッ』
「クッ」
『ドン』

いくつかの弾丸は矢に命中し、その威力をある程度相殺する。
JUDOは少し後ろに避け、先ほどまでいた足下辺りに矢が着弾する。
その場で爆発が起き、JUDOも少し爆風に押されるが、大したダメージにはならなかった。

『ガガガンッ』

JUDOが撃った弾丸の残りは斬月・真の方に命中した。
斬月・真はダメージを受け、怯んで体勢を少し崩してしまう。


「やはり、向こうのは偽物だったか」

斬月・真が現れたことでJUDOはそれを確信する。
今はディケイドゼロワンが相手をしているアークワンは、以前島の中央付近で初めて戦った相手…ギニューではないということを。

山中での戦いではそいつがアークワンに変身していたため、途中まではその中身は同じだと思っていた。
けれども、次第に違和感を感じるようになってきた。
前回、前々回の戦いとは違い、全く喋ろうともしていなかった。
これまでの戦いでも無口な感じは無く、今はちょっとしたことでも一言も発さないのはおかしい気がした。
そのことに気付いてから注意深く観察してみれば、刀の振り方も妙な感じがした。
刀を用いた技の型は同じ感じだったが、あまり使い慣れていないような感じがあった気がした。

そのために、この可能性があるかもしれないという考えに至れた。
今まで戦っていたアークワンは、奴(ギニュー)とは別の人物が変身しているのではないかということを。
別の誰かに変身ベルトを使わせて、自分(ギニュー)がここにいると見せかけようとしているということを。
更にはそれを囮にして、別の場所から攻撃を仕掛けようとしているのではないかということを。

そして今、JUDOは確かに別方向から現れた別種のライダーからの攻撃を受けた。
不意打ちを行おうとしてきた新たなライダー斬月・真に対し、JUDOはこの瞬間、その中身こそが今度こそギニューなのではないかと認識した。
これまでずっと隠れていて、今更になって背後から攻撃しようとしてきたのだから、そう考えるのも当然であった。
先ほどからアークワンとハザードフォームが刀を用いて全集中の呼吸の技の物真似をしていたのも、ギニュー自身ここにいると見せかけるためだったのだろう。
しかしそれもまた、考えの甘い小細工だっただろう。

「貴様の策は、浅はかなものであったと思い知らせてやろう…!」

JUDOは更に相手方に対する殺意…"激情"を膨れ上がらせる。

477仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:35:13 ID:pXczJh9A0

「ハアーッ!」「ダアァーッ!」「トアァーッ!」

それとほぼ同じタイミングで、残された20対20の分身達の戦いにも決着が迫っていた。
その戦いは、ディケイドの分身達の方が優勢となっていた。
ハザードフォーム達はそれぞれ、怯まされたり投げ出されたり等の状態となっている。
どちらの方も、JUDO側が相手側を追い詰めていると言える状態であった。


『FINAL ATTACK RIDE KU KU KU KUUGA』『A A A AGITO』『RYU RYU RYU RYUUKI』『FA FA FA FAIZ』『B B B BLADE』『HI HI HI HIBIKI』『KA KA KA KABUTO』『DE DE DE DEN-O』『KI KI KI KIVA』

JUDOの分身達がそれぞれベルトにファイナルアタックライドのカードを装填する。

『D D D DOUBLE(W)』『O O O OOO』『F F F FOURZE』『WI WI WI WIZARD』『GA GA GA GAIM』『D D D DRIVE』『GHO GHO GHO GHOST』『E E E EX-AID』『ZI ZI ZI ZI-O』
『SA SA SA SABER』

各々の分身達がそれぞれ必殺技の構えをとる。
その内ディケイドセイバーは、火炎剣烈火と烈火大斬刀の2つの刀剣に炎をの力を込めていた。

「今こそ、貴様らを破壊してやる」
『FINAL ATTACK RIDE BUI BUI BUILD』『FINAL ATTACK RIDE ZE ZE ZE ZERO-ONE』
『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE』

ディケイドビルド・ジーニアスフォームとディケイドゼロワン、そして本体であるJUDOのディケイド激情態も、合わせてファイナルアタックライドのカードをベルトに装填した。

『マックスハザードオン!ガタガタゴットン!ズッダンズダン!ガタガタゴットン!ズッダンズダン!』
『悪意恐怖憤怒憎悪絶望闘争殺意破滅絶滅滅亡パーフェクトコンクルージョン』
『メロンエナジースカッシュ!』

ハザードフォーム、アークワン、斬月・真も対抗してそれぞれのベルトを高速で操作する。
ハザードフォームはハザードトリガーのボタンを押して直ぐ様ビルドドライバーのレバーを高速で回す。
アークワンはアークドライバーワンの上部にあるボタンであるアークローダーを連続で素早く10回押し込み、終わったらベルト横から挿入されているアークワンプログライズキーを壊してしまいそうな程の勢いを付けて急いで押し込んだ。
斬月・真はメロンエナジーロックシードをゲネシスドライバーに戻し、そのベルトのレバーを一回押し込んだ。
そして彼ら3体のライダー達は跳び上がり、それぞれのライダーキックの姿勢となった。

「「「ハッ!」」」

ディケイド激情態、ディケイドビルド、ディケイドゼロワンもそれに合わせて跳び上がり、ライダーキックの姿勢をとる。

ディケイドビルド・ジーニアスフォームの前に虹色に輝く滑り台のような形の曲線のグラフが現れる。
ジーニアスフォームは全身のフルボトルから虹色の液体を噴射し、その反作用で前に進みながらグラフの上を滑り降りながらライダーキックを放つ。
ハザードフォームもそれに対して、漆黒のエネルギーを足に集中させながらジーニアスフォームに向かってライダーキックを放っていた。
漆黒と虹色、2つのエネルギーがぶつかり合う。

「…ハァッ!」
「ガハッ…!」

僅かに拮抗するまでもなく、そのライダーキックの打ち合いの勝負はついた。
この勝負は、ハザードフォームの方が打ち負けた。
ジーニアスフォームが持つネビュラガス中和機能のこともあり、ネビュラガスを利用した強化剤を使っているハザードフォームのキックの力は弱まわってもいた。
それによりハザードフォームの足もすぐ弾き飛ばされた。
ジーニアスフォームのキックはハザードフォームの腹の方に突き刺さった。
これまでずっと黙り込んでいたハザードフォームの中にいる変身者も、思わず苦悶の声を漏らしてしまっていた。


アークワンとディケイドゼロワンのライダーキックも、今にもぶつかり合いが始まりそうになっていた。
今回のアークワンは10段階パーフェクトコンクルージョンをチャージしており、そのエネルギーを全て足に集中させている。
前とは違い拮抗させることはできるはずだと、予測能力は結論を出していた。

『ATTACK RIDE CLOCK UP』
『FINAL ATTACK RIDE O O O OOO』

しかし、その計算結果は結局狂うことになる。
分身の維持のために離れていたはずのディケイドオーズ・ガタキリバコンボの1体の分身、それがアークワンのいる方に近付いて来ていた。
ほしふるうでわの効果に加えて、仮面ライダーブレイドが持つラウズカードの一種のマッハジャガーのアタックライドカードも使い、その分身は素早く距離を詰めて来ていた。
これによりアークワンが予測能力から導き出した最適な行動ができるようになる前に、その最後の分身に先に攻撃させることを許してしまう。

478仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:39:07 ID:pXczJh9A0
「セイヤー!」

ガタキリバの分身は両腕のカマキリソードにエネルギーを込め、バッタレッグの力で高く跳躍する。
そして空中でライダーキックの途中の状態でいるアークワンに向かって攻撃してきた。
アークワンは空中で身を捻る。
しかしガタキリバからの攻撃は避けきれず、カマキリソードがアークワンの尻の辺りを掠め斬る。
これにより、アークワンの空中でのライダーキックの姿勢のバランスが崩れる。
そして、アークワンとディケイドゼロワンの足がぶつかり合う位置もズレてしまう。
…ぶつかり合いは拮抗することなく、アークワンの足は弾き飛ばされ空を切った。

『ラ』『イ』『ジ』『ン』『グ』『イ』『ン』『パ』『ク』『ト』

「ハアァーッ!!」









グ イ ン パ ク ト

ディケイドゼロワンのライダーキックも、アークワンの腹部の辺りに突き刺さった。


そして最後に、ディケイド激情態と斬月・真のライダーキックもぶつかり合いそうになっていた。
斬月・真は足に黄緑のエネルギーを纏いながら突撃し、対するディケイド激情態はいくつものカードの像を通り抜けながら相手の方に向かっていた。
…分かる人にとっては、この対決がどのような結果になるのか、直ぐに想像できるものであるだろう。
それでも、どういった理論でその結果が導き出されるのかの根拠を、少し記させてもらいます。

まずはスペック差。
斬月・真のキック力は18.2tであり、ネオディケイドのキック力は36.4tと丁度2倍だ。
それに加え、激情態には全ての仮面ライダーの破壊者としての仮面ライダー特効もあると思われる。
斬月・真がネオディケイド激情態に対し、ライダーキックの打ち合いだけで敵う道理など、あるはずがなかった。

「フンッ!!!」

ディケイド激情態は斬月・真の脚を容易く弾き飛ばし、その腹部にライダーキックを深々と突き刺した。
ディケイド激情態も、ディケイドビルド・ジーニアスフォームも、ディケイドゼロワンも、何れのライダーキックも相手の腹部…その付近に存在するそれぞれの変身ベルトにも命中していた。

『ドン!!』『バキッ!』

ハザードフォーム、アークワン、斬月・真の三体のライダー達は、いずれもそれぞれに取り付けられていたベルトにヒビを入れられながら後方へと吹っ飛ばされていった。


そしてそれらと同時に、JUDOの分身達の方もそれぞれの必殺技を命中させていた。
マイティキック、ライダーキック(アギト)、ドラゴンライダーキック、クリムゾンスマッシュ、ライトニングソニック、音撃打・火炎連打の型、ライダーキック(カブト)、俺の必殺技パート2(エクストリームスラッシュ)ダークネスムーンブレイク、
ジョーカーエクストリーム、タトバキック、ライダーロケットドリルキック、ストライクウィザード、無双斬、スピードロップ、オメガドライブ オレ、マイティクリティカルストライク、タイムブレーク、
そしてディケイドセイバーが放った火炎剣烈火による烈火十字斬と烈火大斬刀による百花繚乱、これらの技によりハザードフォームの分身達は瞬く間に一掃されていた。
それぞれの攻撃を終えた後、役割を終えた分身達はビルドとゼロワン、オーズ・ガタキリバも含めて消え去っていた。

479仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:41:57 ID:pXczJh9A0



「グッ…」

分身達が消えた後、JUDOは大きく疲弊した様子を見せた。
元々、仮面ライダーオーズのコンボ形態は消耗が激しいものだ。
それに加えて大量に分身してそれぞれにカメンライドとファイナルアタックライドを使ったためか、JUDOは大きく体力を消耗してしまっていた。
要は、分身一体一体に溜まった疲労感が1つにまとめられたようなものだ。
分身の内何体かは倒されたことについては、本体にまとまる前に消えたためダメージにはならないが、精神面では何かが欠けたかのような感覚がある気がする。
ペガサスフォームの時とは訳が違う。
けれどもこれで、敵対者達をあっという間に片付けることが出来た。
今回の戦果としては、これで上々…の、はずだった。


「………?」

ここでJUDOはある違和感に気付いた。
JUDOは、自分が今必殺技を放った斬月・真が前々にも戦った者、ギニューだと認識していた。
けれども、そうだとしてもおかしな点があることに気付いた。
斬月・真も、アークワン同様何かしらの言葉を発することが全くなくずっと黙ったままだったのだ。
それはつまり、斬月・真の中身もギニューではなかったかもしれないということだ。
このことに気付いた後、JUDOはたった今自分が吹っ飛ばしたばかりの斬月・真がいる方に視線を向ける。

倒れた斬月・真のベルト…ゲネシスドライバーには大きく破壊の跡が残っている。
中央に取り付けられていたメロンエナジーロックシードも破損しているようだった。
これによりベルトの機能を失ったため、斬月・真の変身が解除されてその中の人を外にさらけ出す。

「なっ…!?」

現れたその中身を見て、JUDOは大いに驚愕する。



黄色と紫色の複眼を持つその顔は、仮面ライダービルド・ニンニンコミックフォームのものだった。
紫と黄の螺旋の姿をしたそのライダーが、本来のベルトとは違う破損したゲネシスドライバーを巻いた状態でそこに倒れていた。

そして、JUDOがこの光景を目撃した直後のことであった。
そこにいたニンニンコミックフォームは、一瞬でまるでインクのような黒い液体になって原型を崩して溶けた。
溶けた後は、地面に染み込むように黒い液体は消滅した。
あとには、壊れたゲネシスドライバーしか残っていなかった。


――そして、JUDOは直接見ることはなかったが、アークワンの方でも同じことが起きていた。
倒れたアークワンは、その姿をベルト以外はニンニンコミックフォームに変えた後、黒い液体となって崩れて溶けて消えた。
そこにも、あとには壊れたアークドライバーワンしか残されていなかった。



「………まさか、最初からどちらも分身の偽物だったということか…!?ならば、本物は何処だ…!」

JUDOは狼狽えながらも辺りを見回す。
アークワンだけでなく斬月・真も中身の違う偽物の囮なのだとしたら、また別の場所から仕掛けてくるに違いない。
そう考えながらギニューの姿を探す。


『ガチャッ』
「!」

JUDOが見回し始めた時、そんな物音が聞こえた。
その音は、先ほど自分の分身に倒させたビルド・ニンニンコミックハザードフォームがいるはずの方向から聞こえた。

「まだ息があったか…!」

JUDOがそちらの方に視線を向けてみれば、変身解除されたニンニンコミックハザードの中身…葛城忍の肉体の人物、ボンドルドの祈手の一人がいた。
流石にこちらも分身の偽物ということはなかったようだった。
彼は倒れたままの状態ながらも何とかもがき動こうとしていた。
だが、彼は起き上がるのは難しそうであった。
それほど、ジーニアスフォームから受けた攻撃が効いていたようだった。
ベルトのビルドドライバーも他のものと同様に既に壊れているようだ。
今まだ生きているだけでも奇跡的なのだろう。
彼は今、倒れたまま手の中で何かを動かそうとしているようだった。

480仮面ライダーSPIRITS WONDERFUL 大首領と22のカメンライド ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:42:58 ID:pXczJh9A0
その動かそうとしている何かとは、圧裂弾だ。
それもまた、彼がギニューから預かっていたものの一つだった。
彼は今、その圧裂段の引き金に何とか指をかけようとしていた。

「その程度のこと…!」

JUDOはライドブッカーをガンモードに変えて銃口をボンドルドの祈手に向ける。
そしてすぐさまトリガーを引いて相手を殺そうとした。
本物のギニューへの警戒を解いたつもりは無いが、今視線を向けている相手は銃火器系の武器らしきものを使おうとしている。
だから先にこちらの方を対処しようとした。

「!?」

だが、JUDOは発砲する直前で一瞬指を止めてしまった。
一つ、相手がにわかには信じられない行動をとったからだ。

ボンドルドの祈手は、自分の手に持った圧裂弾の銃口を自分の体の方に向けていた。
そしてJUDOが発砲するよりも先に、圧裂弾をそのまま発射した。


『ボンッ!!!』
「グウッ…!!?」

圧裂弾が撃ち込まれた体の中で炸裂する。
ボンドルドの祈手…その外側である葛城忍の肉体が内側から膨らみ弾ける。
身に着けていたビルドドライバーなどだけでなく、ベルト横のホルダーに付けられていたフルボトルや近くに落ちていたドリルクラッシャー、圧裂弾の発射器具や予備弾なども巻き込んで大きな爆発を起こす。
予備弾も誘爆し、その爆発は本来の2倍も莫大なものとなる。
発生した凄まじい爆風にJUDOは大きく押される。
爆炎の光により辺り一面も照らされることになる。
周囲の網走監獄内の建物も爆風による破壊と爆炎の引火が起こる。
周囲の建物に火が付いたことにより、この辺りが照らされる時間が延びる。

「こいつ、何を…」

爆風に耐えながらJUDOは相手に対する疑問の言葉を漏らす。









『ゴォン!』
「っ!?」

爆風が晴れると同時に、空の上から何かが降って来た。
その何かは地面に落ちるて爆発した。
落ちて来たものは、1つのミサイルだった。

ミサイルが落ちて来たことに驚き、JUDOはそれが落ちて来た空の方に向けて顔を上げた。


































空から、大きな声が降ってくるように聞こえた。

そこでは、ストライカーユニットを履いた状態のゲルトルート・バルクホルンの姿をしたギニューが、頭を下にした真っ逆さまの状態で叫びながら落下してきていた。

481薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:45:00 ID:pXczJh9A0
時間をしばらく遡る。
それはギニューが山中での戦いの後、B-2の洞窟にたどり着いた後のことであった。
ギニューは、自分が連れていたボンドルドの祈手に洞窟の外の見張りをするよう頼んだ。
そして先ほどの戦いで入手したデイパックの中にあるものをある程度まで確認した後、1台のスマートフォンを見つけてこれを取り出した。
ギニューは今から、これでハワード・クリフォードとのメールでの密談を試みる。
このことはおそらく、ボンドルドを含め他の主催陣営の者達には秘密になることだ。
前に皿の下の方に残されていたメッセージにも、他の者には誰にも見られないようにとあった。
これから行われることを、ボンドルドの祈手に見せる訳にはいかない。
そうしなければ、ボンドルドに自分達の企みがバレてしまうかもしれないから。
祈手とボンドルドもどこで繋がっているのかも分からない、おそらくはまだバレていないであろう間に用心しておくにこしたことはない。
だからボンドルドの祈手には誰か来ない限りは自分が良いと言うまでこちら側は見ないようにとも言っておいた。
もっとも、今のギニューの視点ではハワードも本当に信用できるかどうかは怪しいところもあったが。



ともかくとして、ギニューは洞窟内でスマートフォンを起動した。
付いたスマホの画面には、SNSアプリアイコンが1つだけ表示されていた。
ギニューはアイコンをタッチしてアプリを開き、その中身を確認する。

映し出された画面には、これまでこのアプリを使った者達の対話の記録が残っていた。
その直近の内容は、どうも自分が近付いてくるといった感じの内容であった。
それを見たところ、どうやらこのスマホをエボルトに渡した奴…ナビと名乗る何者かは、特定の誰かを守りたいという極めて個人的な事情で動いていたらしい。
画面の左側寄りに表示されているナビのメッセージには、それぞれ同じアイコンが横の方に表示されている。
誰が送ったメッセージなのかを分かりやすくするためのものだろう。
しかしスマホは今はその誰かに近しい者ではなく、また別の主催と繋がろうとしているギニューの手に渡った。
果たしてギニューがこれを手にしたことで、このスマホを最初にこちら側の舞台に送り込んだ者がここで何か反応を示すのか、それとももう出てこなくなりギニューにこれを奪わせた者が出てくるのか。
ギニューは自分から何か書き込むことはせず、メッセージが来るのを待ってみた。

『こんばんはギニュー。まずはご苦労様と言っておこう』

やがて、そんなメッセージが表示された。
そのメッセージは、ナビのものとは別のアイコンと共に表示された。
ギニューがこの文章を見た直後、また新たなメッセージが表示される。

『私はハワード・クリフォード。前の網走監獄の時は色々とすまなかったな』

そのメッセージは、前に皿の中に文章を残した"H"が確かにハワード・クリフォードであったことを示していた。

『全くだ。首輪の爆弾で脅しやがって。それに、こいつを手に入れるのにもかなり苦労したぞ』

ギニューもまたそんな皮肉交じりな返信を書く。
今はこうしてスマホ越しの密談にも応じているが、ハワードに対する不満感自体はまだ消えていなかった。

『あの時は私自身も何か余計なことを言わないかと見張られていたからな』
『話す内容の指示の書かれたカンペも見せられていたからな』

ハワードはそんな言い訳じみた返事を返してくる。
それで不満感が完全に消える訳でも無いが、これをいつまでも気にし続けても話は進まないだろう。
ここはさっさと本題に入るべきだ。

『何故俺にこの端末を奪うようにメッセージを残した?』
『貴様は俺に何をさせようとしている』
『言っておくが、何もかも思い通りに出来ると思うなよ。俺はあくまでもフリーザ様のために動くからな』

ギニューはそうあくまでまだ信用していないことを強調する。

『そうだな…ならばまずは、最初にしてもらいたいことを伝えようか』

『君が前にも戦った仮面ライダーディケイド…今はその精神となっているJUDOとボディ・チェンジを行い、門矢士の肉体とディケイドの力を手に入れろ』
『実はその肉体こそが、この殺し合いの本当の目的に繋がっているのだ』

482薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:46:13 ID:pXczJh9A0
アプリ上でハワードは語り出した。
――その話は、以前主催陣営本部内で斉木空助とポルナレフが佐倉双葉に語ったものとは異なっていた。
しかし今はまだしばらく、そのことは一旦気にせずに話を読み進めてもらいたい。

何だったら読み飛ばしていただいても構いません。



『まさか、そんな話を信じろと言うのか!?』
『その通りだ。この殺し合いの黒幕である亀…「テラパゴス」の企みを出し抜くには、君の協力が必要だ』

テラパゴス、それがこの場でギニューが黒幕のものとして伝えられた名前であった。
ハワードがいたポケモンと呼ばれる生物が存在する世界において、「伝説のポケモン」と称される程の特別な力を持った亀、それがテラパゴスだと説明された。

『そのテラパゴスが宿るカメラ…「ディケイドライバー」を手に入れ、その力を私たちの思うように使おうではないか』

そして以前の放送でも伝えられたカメラ、それが前にギニューも何度か見たことのあるディケイドライバーがそうであると伝えられた。

『だがしかし、全く信じられないぞ!まさかアレが黒幕だったなどと、突拍子も無さすぎないか!?』

ディケイドライバー…それは、ギニューが風都タワーの戦いでうっかり壊してしまったものだが、JUDOと再会した時には何故か直っていた変身ベルトだ。
理屈としては、あのベルトの中央にある透明のカバーが実はカメラのレンズに相当する部分だということらしい。
ベルトの仕組みとしても、中に入れたカードに描かれた仮面ライダーの図を撮影し、それを自分の体を写真用紙に見立てて写し撮る形で変身したり姿を全く別のライダーに変えたりしていると言われた。
正直、理屈としては無理がないかみたいなところもあると感じる。

ただもし本当のことなら、これが意味することはつまり、黒幕はずっと支給品としてこの殺し合いの表舞台に出ていたということだ。
殺し合いの黒幕としては、あまりにも危険で迂闊な行動とも感じられる。

『だがあのカメラ…ベルトは、君が以前破壊したにも関わらず何故か直っていただろう?その理由こそ、アレが殺し合いの黒幕だからだ。奴自身の力で、修復したということだ』
『奴は不死身だ。だからこの殺し合いの舞台に自らの身を置くことが出来ているのだ』

その点についてはギニューも疑問に感じていた。
あんな風に刀で突き刺して壊してしまったのに、まるで何事もなかったかのように元に戻っていた。
それがベルト自体持つ自己修復機能によるものなら、一応そうだったのかと少しは納得できる。
自己修復が出来るのであれば、殺し合いの表舞台に立つなどという迂闊なこともある程度は問題解決していることになるのだろうか。

『けれども、本当にお前の言う通りにすればそいつの力を思うがままに扱えるようになるのか?そもそも、世界を破壊して作り替える力がそいつらにあることもまだ信じ切れないのだが』

ギニューがここで伝えられたこの殺し合いが開催されるまでの経緯は、以下のようなものであった。
まず最初にきっかけを作ってしまったのは、大ショッカーと名乗るあらゆる時空を超える技術を持つ組織だとのことだ。
ディケイドライバーも、元はその組織で作られたものらしい。
その大ショッカーが、ある時ハワードの住んでいた「ポケモンの世界」に現れ、テラパゴスを発見・捕獲することに成功した。
テラパゴスを使い、大ショッカーは実験を行おうとした。
テラパゴスの力を、ディケイドライバーに移そうとしたとのことだ。
しかし、そこで事故が起きた。
力を移そうとしたら、人格も一緒に移ってしまったらしい。
ディケイドライバーは元々大ショッカー首領の門矢士専用アイテムだった。
その変身ベルトの意識となったテラパゴスが、自身を装着した門矢士の意識をも乗っ取り、大ショッカーも乗っ取ってしまったということだ。
更に言うと、ベルトの人格となった時点で、テラパゴスの精神は大きく変質してしまったらしい。

そんなテラパゴスが何故殺し合いの黒幕になったかと言うと、殺し合いの計画自体は元々は大ショッカーが立てていたものだったかららしい。
テラパゴスがディケイドライバーになったきっかけとなった実験も、殺し合いに向けたディケイドライバーの強化実験の一環だったとのことだ。
そしてディケイドライバーに意識が移ったことで変質したテラパゴスは、より強くなることを望むようになっていた。
その強くなるための方法として、テラパゴスは大ショッカーの殺し合い計画を利用しようとした。

483薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:47:57 ID:pXczJh9A0
殺し合い計画が立てられるきっかけとなったのは、とある1つのアイテムの存在だった。
それは、マーメイドアクアポッドというアイテムらしい。
そのアイテムは元々カメラとして使えたこともあり、ディケイドライバーとは相性が良かったらしい。
ただそのアイテムは、別に人の精神を入れ替える機能があった訳ではなかった。
本来のそのアイテムは、やる気から生じる「やる気パワー」と呼ばれるエネルギーを、それを奪う怪物から奪い返すためのものである。
しかしそのやる気パワーとやらは、どうも精神と深い繋がりがあるようで、アイテムの中でそのエネルギーが何らかの要因でごちゃ混ぜになると、結果的に精神の入れ替え現象が起きてしまうようだった。
大ショッカーはこのアイテムの副作用に目を付けた。
このやる気パワーを利用する方法で精神入れ替えを行い、その結果どんな変化が起きるかを観察しようとした。
やる気パワーは集めるて特殊な器に注ぎ込めば、不老不死になれるという記録もある。
そのため、そのエネルギーの利用方法について様々な観点から研究を行おうと思い、その1つとして精神入れ替えがあった。

調査を進めていく内に、もう1つ似たような別種のエネルギーも発見された。
そのエネルギーは殺意から生まれ、「殺(や)る気パワー」と名付けられた。
このエネルギーもまた、やる気パワーと似たような利用が可能かもしれないとされた。
そのため、これらのエネルギーを利用するためのより大規模な実験の1つとして、殺し合いが企画された。
様々な世界の者達の精神を入れ替えた状態で殺し合いを強制してみて、結果やる気パワーや殺る気パワーがどんな変化をするのかの観察を行おうとした。
他人の身体で動くことによる殺し合いを通じれば、やる気と殺る気、どちらのパワーによるエネルギーでもより高くなるだろうと予想されていた。
主催陣営の者達も精神入れ替えを行ったのは、実験であることと、特定の参加者のやる気・殺る気に影響を与えるための煽り以上の意味合いは無いようだ。
そのため、ハワードも全てが終わればフリーザの肉体を無事に元の持ち主に返してやると言っている。
フリーザの精神も、別の場所で安全な状態にあるらしい。
ともかく、殺し合いで発生したそれらのエネルギーについては、上記のマーメイドアクアポッドの機能を解析・応用した機能を首輪に付けて、参加者が死亡する直前に回収できるようにしたとのことだ。

ここまで計画を立てたところで、大ショッカーはテラパゴスに乗っ取られた。
そして計画のことを知ったテラパゴスは、これを自分のために利用しようとした。
しかもただ利用するだけでなく、自分自身も支給品として参加することで直接やる気パワー・殺る気パワーを集めようとした。
実は前にも述べた強化実験において、ディケイドライバーにもそれらのエネルギーを回収する機能が付けられていた。
そこでテラパゴス自身も、殺し合いの中でエネルギーの回収を行おうとした。
そのために参加者の中に自分の使用者となる門矢士の肉体を紛れ込ませ、他の参加者と条件を合わせるためにその精神に別の者を入れた。
またこれは、門矢士=仮面ライダーディケイドは、世界の破壊者と呼ばれる存在でもあり、世界を破壊と同時に新たな創造を生み出す力も秘めているらしく、その力の変質・強化・発展させることも狙ってのことだった。
その世界の破壊がまだ起きていないのは、テラパゴスがベルトの中から操作して使わせないようにしているかららしい。

そして結果としては、実験の目論見は成功だったらしい。
以前ギニューが再会した時に相手が変身した姿の顔つきがいかつく変わっていて、より強くなっていたのは、やるき・殺る気パワー良い感じに集めて利用することができたからだと言う。
なお、現在黒幕…ディケイドライバーを装着している参加者は、そこまでのことは分かっていないらしい。
自分自身の力だと認識しているとのころだ。

『そしてそいつ…JUDOはこれから、桐生戦兎達が向かった網走監獄の方にこの後追撃しに行くだろう』
『君も確認しただろうが、彼はディケイドライバーの上位互換版のベルト、ネオディケイドライバーを持っている』
『テラパゴス=ディケイドライバーはJUDOを操り、ネオディケイドライバーと融合するつもりだ』
『このため網走監獄で戦闘が起こるだろうから、それが終わって疲弊したところを狙え』



484薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:51:34 ID:pXczJh9A0
ハワードが言うには、ネオディケイドライバーの方にもやる気パワー回収機能は付けられているらしい。
テラパゴス=ディケイドライバーを持っている方は殺し合いに乗っているが、ネオディケイドライバーを渡されている桐生戦兎は殺し合いに乗るような人物ではない。
だが、殺し合いを止めるために力を尽くす正義感の高い人物である。
そのため、JUDOとはまた別種のやる気パワーを集めて強化し、後で回収するためにネオディケイドライバーを持たせたとのことだ。
大ショッカー内での強化実験が、通常とネオで分けて行われていたため、このようなことができたとのことだ。


『正直、お前の話は全然理解できないし、信じて良いのかも分からない』
『だがとにかく、奴の肉体を奪えということで良いのか?孫悟空の方よりも優先して?』

『確かにシンプルな力ならサイヤ人の孫悟空の方が上回る可能性はあるが、それを手に入れるのは別に殺し合いが終わった後でも良いだろう』
『とにかく今は、ディケイドの力を手に入れることに専念した方が良い』
『どんな過程を踏もうとも、おそらくは向こうの戦いの結果は、桐生戦兎率いる集団は全滅するか、運が良ければ生存者達が逃亡し、JUDO一人だけが網走監獄に取り残されることになるだろう』
『JUDOは今も孫悟空の肉体の参加者をアイテム内に捕らえている状態だ、むしろ先にJUDOから肉体を奪えれば自動的にそいつもついてくる』
『前に言った桐生戦兎を狙えといった指令のことは、忘れてもいい』
『と言うよりは、そのことについてだが、次はお前にどう動いてもらうかはまだ決まっていないのだ』
『だから、動くのなら今の内が最良だとも考えられる』


『だが、いくら疲弊しているかと言って、それだけで勝てるものだろうか?』

ハワードの話はギニューにとっても初めて聞く単語が多く、はっきり言ってちんぷんかんぷんだ。
だけれども、今はJUDOが持つディケイドとやらの力がこれまでの想像以上に凄まじいものらしいことは分かって来た。
力の源となっているらしい支給品のベルトが実は黒幕自身だったと聞くと、この殺し合いはそもそもとんでもない出来レースだったことになり、その点への怒りも感じてくる。
出し抜くことが出来るのならばそうしたいとは思う。
本当に世界を破壊し作り替える力があるのなら、孫悟空の肉体よりも優先して確保するべきかもしれない。
そもそも、孫悟空の肉体がJUDOに囚われているらしいことからも、先にそれを囚えているJUDOから肉体を奪えれば、孫悟空の肉体を何時でも奪える状態になれるということも確かだ。

しかしやはり、そう上手くいくものなのかという疑問も浮かんでしまう。
本当にベルトが黒幕で装着者を操る力があるなら、それを装着している肉体が疲弊しているからと言ってそれに関わらず凄まじい力を発揮してくるんじゃないか、みたいな考えが浮かぶ。
それが無く、もし風都タワーの時のように自分が相手を追い詰めたとしても、本当に向こうが危なくなったら首輪を爆破されるんじゃないかみたいな考えも浮かぶ。
その前の風都タワーでの戦いの時は、こっちから離れたためにそういったことはなかったのだろうと考えられる。
もし肉体を奪えたとしても、自分が操られたら元も子もない。
ディケイドライバーとのボディ・チェンジはおそらく出来ない、相手に顔が無いのだから。
何にせよ、ハワードの話が本当なのだとしたら、それこそ言う通りに相手の身体を奪いに行くの簡単なことではないと感じていた。

『それならば、私に良い考えがある』

悩めるギニューに対しハワードが提案してきた。

『今は外で見張りをやらせているあの祈手…奴を最大限にまで利用しつくしてやろう』



ここで出てきた提案…それは、祈手をビルド・ニンニンコミックフォームに変身させた後、分身を作らせ、それを前にギニューが変身してみせたアークワンにして、本物のギニューの存在を一時的に隠す囮作戦であった。
祈手が持たされたアイテムは本人しか使えないよう細工がされてあるが、本来参加者用のアイテムを使う分にはそういった制限は無く使用させることは可能のため、このような作戦も立てることができた。

ニンニンコミックの分身には実体がある。
だが、その体に存在する機能の全てが本体と同じではない…というよりは、そうであるかどうかは不明と言えた。
ここでは、ニンニンコミックの分身の仕組みは、4コマ忍法刀の先端にあるリアライズペンエッジというペン型装置のに備わっている絵を実体化させる機能の応用だと解釈する。
この機能で絵から実体化された物体は、描き手のイメージ通りの能力や効果を持つ。
逆に考えれば、描き手のイメージさえあれば、不必要な能力を付与しない・外すことも出来るのではないだろうか。
そしてこれを更に応用できれば、ニンニンコミックの分身からベルトを外した状態で実体化させることも可能なのではないだろうか。

485薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:53:06 ID:pXczJh9A0
これを確かめるために一旦、祈手を呼び戻して実験してみた。
祈手をビルド・ニンニンコミックフォームにして前述のような分身を作れないかどうかをやらせてみた。
その試みは、成功した。
また、その上に更に別のライダーの変身ベルトを付けて使わせてみるという実験も、上手くやることができた。
もっとも、アークドライバーワンの方は、一度使えば2時間使えなくなるらしいため、ここに来てから新たに存在を確認したゲネシスドライバーの方を使わせることになった。
結果、ニンニンコミックの分身を斬月・真の姿に更に変えることが出来た。
この結果を受けて、アークドライバーワンの方も同じような使い方が可能と結論付けられた。
実験が終わった後は、祈手にはもう一度見張りの方をやるようにと言って遠ざけることとなった。

なお、アークワンの方については、ニンニンコミックの分身に変身させてもそこまで強くならないだろうという懸念事項もあった。
アークワンは変身者の悪意を力に変える機能を備えているのだが、本体に操られるだけの分身体に悪意は存在しない。
おそらく、アークワンとしては最弱の状態になるのだろう。
けれども、今回はそれでも問題はなかった。
今回の目的は相手を倒すことではない、むしろ倒してしまったら困るところだ。
アークワンとしての力が弱まるのは、むしろ都合の良いことだ。

ともかく、ニンニンコミックの分身に対する実験結果を元にして、JUDOに対する襲撃計画はより練られることになった。
まず第一段階として、祈手にギニューが持つアイテムの内必要そうなもの…ベルト2つと武器類、それにモノモノマシーンで使う用の3つの首輪を渡して一人で網走監獄の方に行かせることになった。
今のタイミングで3回もモノモノマシーンを使えれば、祈手が1人でJUDOと戦う上で役立つものが出てくるとのことだった。
どのタイミングで突入させるかは、JUDOが1人になったタイミングを見極めてハワードの方から連絡してくると言ってきた。

ただ、この第一段階においても、大きな問題はあった。
それは、祈手はギニューからあまり遠くへは離れられない・離れようとしないようになっていることだった。
しかしそれは、ある方法を使えば誤魔化せるものかもしれなかった。

それは、ギニューが今の肉体であるゲルトルート・バルクホルンのウィッチとしての力と専用装着アイテムのストライカーユニットの力で、空高い場所で待機するという方法であった。
物理的な距離としてはかなり離れた場所だとしても、地図を上から見た時のXY座標上では離れてなければ、重力に任せて落下して行けばすぐに合流出来るほど近い距離として判定してもらえるかもしれないと考えられた。
こじつけな詭弁であるかもしれないが、祈手自身を説得してこの理論を飲み込んでもらうことは出来るものであった。
ボンドルドの方も、これで祈手を連れ戻さないようにハワードの方から説得するという話になった。


またギニューが上空で待機するということには、もう1つ利点があった。
それは、空の上から落下しながらボディ・チェンジを成功させることが出来たならば、そのまま相手を地面に叩きつけて落下死させることに繋がるということだ。
そしてこれこそが、この作戦の要の第二段階でもあったのだ。

タイミングが合わず失敗したら死ぬのはギニューの方になるかもしれないが、もしもそういうことになりそうならば、地面との衝突をギリギリ回避して曲線を描くようにその場で再び飛ぶことを注意深く意識してみれば良いと言われた。
ギニューの方はもしものために体勢を整え直す心の準備をしていたとしても、相手側は突然入れ替えられたらそんなことはできずになす統べなく地面に叩き付けられるだろうと言われた。

相手に上を見られたらバレる可能性があることについては、今は暗い真夜中であることと、かなり高いところまで昇っておけば見つかりにくいだろうと言われた。
それでもまだ心配ならば、デイパック内にある「魔法のじゅうたん」を使ってみれば良いことを指摘された。
この絨毯は本来、人を乗せた状態では低空飛行しか出来ないほどに浮くための推進力はそこまで強い訳ではない。
それでも、例え高いところに持っていったとしても、浮こうとして絨毯の下からは浮力が発揮されるはずだ。
これならば、例え絨毯単体で飛ぶことはできなくとも、高い場所でも地面に対して水平な状態になれるかもしれない。
その絨毯で自分の姿を下から見えないように隠してみると良いかもしれないとアドバイスを受けた。
それこそ真っ暗な真夜中であるため、絨毯の下…裏側の方は色も暗く、星や月の光で影ができ、遥か高い場所なら下から上空を見てもより分かりにくくなるだろうとのことだ。

486薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:55:48 ID:pXczJh9A0
そしてこの作戦におけるもう1つの問題として、そもそも分身をアークワンにしても中身がギニューではないこともいずれバレるだろうということもある。
分身は全く喋らないし、動きもギニューとは違う。
だからその対策の一つとして、祈手にギニューが覚えた全集中の呼吸を少し教えることになった。
ちょっと教えた程度じゃ物真似程度の不自然な技しか出来ないことは百も承知。
ヒノカミ神楽も今の身体では使いこなせる状態になく、ここで教えられるのはそれっぽい形だけになるが、それも大きな問題にはならない。
あくまで、ほんの一瞬だけでも誤魔化せればそれで良い。
むしろ、そこも気付く要因になってくれて、ギニュー側のことを迂闊な奴らだと少しだけ侮ってもらえれば良い。
本命の対策としては、ニンニンコミックの分身をもう1つ出して、それを斬月・真に変身させた状態で待機させることにあった。
アークワンが偽物であることに気付いた頃に斬月・真が不意打ちしに来れば、そちらの方をギニューだと認識する可能性も考えられる。
そうなれば、本物は上空の方にいることに気付くのにより遅れてくれることになる。
斬月・真の方も偽物だと気付くのも時間の問題だろうが、その頃に相手にとって致命的なタイミングでの落下中のボディ・チェンジが出来るようになっていれば良い。

ギニューにとっては、もし本当にJUDOと入れ替わることに成功したとしても、ディケイドライバーに操られる可能性があることも問題の一つだ。
それについては、入れ替わった直後ならばディケイドライバーの中のテラパゴスも驚いて一瞬だけ隙が出来るだろうとアプリの中のハワードは言う。
その隙に、急いでベルトだけ先に外せばその瞬間に操られる心配は無いと言ってきた。
ベルトを外すことが出来た後は、自分にもう一度連絡するようにとも言われた。
その時、次にどうすれば良いのかを教えるとのことだった。

また祈手を囮にする都合上、祈手が敗死する可能性もある。
だがむしろ、そちらの方が都合の良いとのことだ。
今は一応ギニューに着いていっているが、祈手は本来完全にボンドルド側の存在だ。
いつまでも残しておくと何をしでかすか分からない。
利用できるだけ利用したら、後は処理してしまった方が良いとのことだ。
何だったら、今のところは死ねと言われたら死ぬようにはなっているから、空にいるギニューへの合図として盛大に自爆してもらうという手もあった。
そのために使えそうなアイテムとして、圧裂弾というものもあった。
暗くて見えにくいのはギニューも同じこと。
だからタイミング良く自爆してもらい、その明かりでJUDOの位置を分かるようにすれば良いとのことだ。

遥か高い場所に行ってしまうと、自由落下するだけでは時間がかかるかもしれないことも考えられた。
その場合だと、ボディ・チェンジが可能になる距離まで来る前に気付かれて、避けられる可能性も考えられた。
けれどもそれについては、ストライカーユニットを稼働させて加速して落下速度を上げれば良いと言われた。
その方が、もしもの時に空に再上昇するのもやりやすいだろうとのことだ。

また、デイパック内にあったフリーガーハマーという銃火器のミサイルを使うことも提案された。
祈手が爆発してまだ驚いている最中の時にミサイルを先に落とせば、JUDOは空の方を見上げてしまうだろうということだ。
それならば、ボディ・チェンジもやりやすくなるというものだ。




『しかしその作戦は良いとしてだな、更にもう1つ問題がある』
『今の俺はどうも魔力というものが足りないかもしれない。作戦通りに空中で待機することが出来ないかもしれない』

ギニューにはもう1つ懸念事項があった。
これまでの戦いにより、今は肉体内の魔力を多量に消費してしまっている状態だった。
そのため、使用者の魔力を動力とするストライカーユニットを空中で静止するために使い続けられるかどうか、難しいかもしれないことと感じていた。

『それならば、もう一度デイパックの中のもっと奥の方を探ってみるといい』

487薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:56:38 ID:pXczJh9A0
ギニューの言葉に対しそんな返信が返ってくる。
それを見たギニューは少し考え込んだ後、少し渋い顔をしながらデイパックの中を探り始める。
デイパック内を探すこと自体は、少し前に既にやったことだった。
しかしその時は特に魔力回復に役立ちそうなものは見つからなかった。
そのため、自分が見付けられてないだけで本当に役立つものがあるのかどうか、少し懐疑的な気分になっていた。
それでもギニューは一応、デイパックの中をもっと深いところまでということを意識しながら探ってみていた。

そしてやがて、ギニューの手が何かを掴んだ。
それは、何やら生温かくて、ヌルヌルしているような感触があった。

ギニューは恐る恐る、そのままデイパックの中から手を引き抜いていった。
やがて出てきたその手の中には、確かにギニューがこれまで確認できていなかった物体が握られていた。


それは、まるで男性器(ち○こ)のような形状をした、大型の気色の悪い虫のような生物であった。

「…………………ヴ゛ィ゛ーーーーーッ゛!!!???」

ギニューは驚きのあまり、変な声を出しながら気持ち悪い虫を洞窟の奥の方に思いっきりぶん投げてしまった。
投げられた後のその虫は、地面に叩き付けられそこを少しバウンドしながら、ピクピクとその場で少し痙攣しているかのような様子を見せる。

『その虫は刻印虫というものだ』
『そいつは5歳の女の子の純潔を破ってそれで流れた血を啜ったものらしく、その結果魔力をたくさん体内に蓄えたものらしい』
「な、何だそりゃ!?気色悪っ!!!」

概要は見た目以上におぞましいものだった。
何でそんなものがここにあるんだと思ってしまう。
これまで色々な星でフリーザに命じられるまま様々な非道を働いてきたギニューではあったが、流石にこの虫がしたことにはドン引きだった。

『魔力を回復がしたいなら、そいつを食えばいいだろう』
「嫌だよ!!!!」『嫌だよ!!!!』

思わず、スマホでの返信より先に大声を出してしまう。
そのすぐ後に、返信の方でも同じことを書いて送っていた。
魔力回復のためとはいえ、こんな色んな意味でヤバい代物を口にするなど絶対に考えられないことであった。
こんなゲテモノ食いはサイヤ人の領分だ。
そんな風に思いながら、ギニューは嫌悪感を多いに露にしていた。
そんな時だった。

『ピクッ』
「えっ?」

放り捨てた虫が勝手に動き始めた。
虫は自分の体勢を変え、ギニューと顔を向き合うような形になった。

『ズザザッ』
「うおおっ!?」

虫は地面を這いながら、すごいスピードでギニューのいる方に近付いて来た。
ギニューはそれに対応しきれず、止められない。
急に激しく動き出したことに驚いて、つい口を大きく開けてしまう。
そこに目掛けて、虫は跳んできた。

「モガッ!?」

虫はギニューのバルクホルンとしての肉体の口の中に無理矢理潜り込んできた。
そして、ギニューがそれに対して歯を立てる暇もなく、喉の奥の方へと進んでいった。

『ゴクン』

ギニューはその虫を、完全に飲み込んでしまった。

「ぐっ…があ…っ!?」

虫が喉元を通り過ぎたと感じた時、異変が起きる。
腹の中を起点として、激しい痛みがギニューを襲った。
まるでそこから、内臓の肉を噛みつかれているかのような感触があった。

「う゛お゛え゛えええぇぇぇぇ……ぐえ゛ええぇぇ…」
『おい かってにはいってきたぞ』

ギニューはえずきながら、手を震わせながらメッセージを送る。
メッセージの文字を漢字に変換する精神的余裕はなかった。
額には、彼が怒りを感じていることを表す青筋も浮かんでいた。

『君の魔力が少ないことを察して、自分から回復させてやろうとでも思ったんじゃないか?』
『もしくは、嫌だと言われてプライドが傷ついてムカついて、そんな言うなら食ってみろとでも思ったのかもしれんな』

「んなわけあるかあ…」

ギニューは痛みに悶えながらそんな声を漏らす。
だが、返信の内容を否定しようとしても、それで何か変わるわけではない。
虫のことを吐こうとしても、出すことはできない。
虫は今、蓄えた魔力を宿主に供給するために、内側の肉を食い破ってそこから直接魔力を与えられるように一部を作り替えている。
ギニューが感じているのは、それによる苦しみだ。

488薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 20:59:19 ID:pXczJh9A0


「ぐうう…(くそっ…確かに魔力とやらが回復しているような感覚も出てきた…)」

ギニューはかなり気分を悪くさせられたが、虫の効果は本物のようであった。

(………やはり、言う通りに奴の肉体を奪いに行くべきか?)

ギニューは段々とそんな気分になっていく。
アプリのメッセージ越しのハワードの話はどこまでが本当のことかは分からない。
JUDOの着けていたベルトが本当に黒幕で、肉体の方を奪ってそれをすぐ外して無力化できたとしても、そこから本当にどうにかできるかも疑わしい。
だがもし本当のことだったら確かにそうでもしないと出し抜けないし、本当じゃないとしても元々向こうが持つ力は強力な方だ。
それに孫悟空の肉体を何らかのアイテムの中に確保していることも、やはり先にJUDOの方から奪うことはどちらにしろ自分にとって良い手だとは考えられる。
その方法として立てられた作戦はどちらかと言えば卑劣なものであり、あまり気が進まないところもあったが、それもこの際仕方がないところがあった。

それともう一つ、ギニューは今の身体を捨てたいと正直思っていた。
今、虫を食ってしまったからだ。
体の中に虫がいると思うだけで気分は最悪だった。
それ以外にも、体の中を食い破られるような苦痛もまだ続いていた。
出来ることなら、すぐにでもこの身体から離れたかった。
だから、ハワードの話にも乗ろうかという気分になっていた。


『こうなったら仕方がない。とりあえず今回はお前の言葉に乗ってやる』
『そうか、感謝する』

ギニューは了承の返答を送る。
それに対する感謝を表す返事を確認する。
そこまで見た後、アプリを閉じて荷物をまとめる。

そして洞窟の外で見張りをやらせていた祈手に声をかけ、作戦の内容の詳細な説明を行った。
もちろん、誰と相談しながら立てたものかは伏せてだ。
そして、JUDOに対する誤魔化しのために、全集中の呼吸による剣術の型をこの時少しだけ教えておいた。
ここまである程度までの準備を終えたら、共に作戦のための次の目的地に向けて移動し始めた。


◆◇◆


それから少し歩き、網走監獄の外の方で待機を始めた。
少し待った後にスマホにJUDOが1人になったという連絡が来て、そこから作戦は開始された。
ギニューはボンドルドの祈手に対しストライカーユニット、魔法のじゅうたん、フリーガーハマーのミサイルを1つ、それからスマホ以外の持ち物を祈手に預けた。
祈手には作戦の要となる部分について説明し、他の細かい部分はお任せする形になった。
そしてストライカーユニットのフラックウルフFw190D-6を装着し、魔法のじゅうたんも持ちながら真上の方へと上昇していった。
スマホについては、自分が持ったまま落下したらその衝撃で壊れてしまう可能性もあるため、クッション代わりに前に奪ったもう1つのデイパックの中に先に入れてから、そのデイパックごと元々持っていたデイパックの方に入れる形にしておいた。
落下したら壊れてしまう可能性があるものとしては、フリーガーハマーも同じため、必要となるだろうミサイルを1つだけ持っていった。
専用の砲台から発射するのではなく、手で投げて使うためだ。

そして空のかなり高い場所にまで上昇し、そこで体の腹の方を下ににしながら魔法のじゅうたんも片手で掴みながら自分の下に広げた。
もう片方の腕ではミサイルを抱えておいた。
その後網走監獄の敷地内の上の方にまで移動し、そこで待機を始めた。
この間もずっと虫による腹の苦痛は続いていた。

祈手もそれと同じ頃にニンニンコミックフォームになり、気配を消しながら網走監獄の方に侵入した。
祈手はその後教誨堂の中に入り、そこでモノモノマシーンを使った。
そこで出てきたアイテムを確認し、すぐに使えるもの…ゴーゴー焼き山菜はその場でさっさと食した。
その後教誨堂の中で分身を2体出して、それぞれアークワンと斬月・真に変身させた。
そして作戦通り斬月・真の分身の方はそのまま教誨堂で隠して、アークワンの分身と共に外に出て跳躍してJUDOの方に向かった。


ギニューが空の上で待機を始めてすぐの頃に、戦闘音が聞こえてきたため祈手が動き出したことを察知した。
下の方を覗いてみた時、赤い龍が空を昇って行くところが見えた時も少し慌てさせられた。
だが幸いにも何とか、自分の存在をそこからで察知されることはなかったようだった。
やはり今が真っ暗な真夜中であることと、下の方にじゅうたんを持って体を隠していたことが功を奏したのだろう。
赤い龍がやがて倒された時は安心した。

489薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:00:43 ID:pXczJh9A0
全貌が確認できたわけではなかったが、下の戦闘の際に発生した火花等でJUDOの様子が少し見えたこともあった。
その時、何かJUDOが何十人にも分身しているように見えた時は、本当に作戦通りいけるのか心配になった。
けれども最終的には、下の方で大爆発が起きた。
規模はこれまでより大きかったが、それが圧裂弾によるものであることはすぐに分かった。
だからそれを合図とし、ギニューは魔法のじゅうたんから手を離して、相手が死にやすいよう頭を下に向けながら急降下していった。

爆発による爆炎で、辺りは少しの間照らされた。
短い時間だったがそのおかげで、ギニューは上からJUDOの位置を確認することができた。
そこからミサイルを、JUDOの少し前の方を狙って投げた。
ゲルトルート・バルクホルンの怪力の魔法を使いながら勢いよく投げたため、ギニュー自身が急降下するよりも速く地上に向かって行った。

ミサイルが地面に着弾すると同時に、ギニューはJUDOの方を見ながらボディ・チェンジのために叫んだ。


◇◆◇


そして今、2つの時間が合流する。


大首領JUDOは、叫びながら落下してきたギニューと目を合わせた。
その次の瞬間に、JUDOの視界が変わった。
JUDOの視界一杯に映ったのは、天地の逆転した世界だった。

ギニューに与えられた作戦は、成功という結果となった。
仮面ライダーディケイドに変身していた状態でも、ボディ・チェンジの効果は発動されていた。
門矢士こそがディケイドの存在そのものとも言えるためか、たとえディケイドの顔でも素顔とほぼ同じと言えるかもしれないため、ライダーの仮面を被った状態でも精神の入れ替えは可能だったのだろう。

JUDOが空の上のギニューに気付けなかったのは、きっとギニューが仮面ライダーではなかったから。
ギニューは一度変身したことはあれど、そのためのアイテムももう捨てたような形になっていた。
それに対しJUDOは、仮面ライダーしか見てないような状態になっていた。
仮面ライダーに変身した状態の祈手とその分身達しか見てなかったから、上に隠れていたギニューに気付けなかった。
一時的に仮面ライダーの力を手離した状態になっていたために、JUDOはギニューの気配を感じ取るのが難しくなっていた。

ゲルトルート・バルクホルンの肉体に入れ替えられたJUDOは、そのまま速度を引き継いで急降下していく。
元々ウィッチだったわけでもないのに、この状態から急な方向転換ができるわけがない。


『グシャ』

そうして成す術なく、JUDOは頭から地面に叩きつけられる。
かなりの高所から勢い付けられたそれによる衝撃は、ゲルトルート・バルクホルンとしての肉体の脳天を砕き、全身の骨も粉砕し、内臓も潰れる。
頭部から潰れていったことで、見ただけではそれが元々誰の肉体だったのか分からないくらい頭部・顔面も酷い有り様となる。
脚に履かれていたストライカーユニットのフラックウルフFw190D-6も、落下の衝撃で壊れてバラバラになっていた。
そんな風に無惨な肉塊となったそれは、体を逆さに頭が先端だけ地面に少しの間埋まった形になった後、やがて仰向けに倒れ込む。
それから少しした後、空の上からギニューが持っていた魔法のじゅうたんがひらひらと近くに落ちて来た。

こうして、古より人類の歴史の陰で暗躍し、様々な悪の組織を操ってきた大首領、
彼の世界における仮面ライダーの祖と言える存在であり、今は仮面ライダーの破壊者となっていたそいつは、ここで自分に何が起きたのかも認識できるようになる前に、その精神を砕かれた。
因縁深い仮面ライダー達と全く無関係な形で、その巨悪は滅ぼされることとなった。



【大首領JUDO@仮面ライダーSPIRITS(身体:ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズシリーズ) 死亡】

490薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:02:00 ID:pXczJh9A0


ボディ・チェンジが成功した後、ギニューは直ぐ様腰からディケイドライバーを少し強引気味に取り外す。
それにより彼は手に入れた門矢士としての姿をその場に晒す。

「スゥー…ハァー…」

ギニューは一度深呼吸する。
その後腹を押さえながら、前の身体にあった腹痛が今の身体では存在しないことを確かめる。
その後、辺りを見回して現状の様子を確認する。

(生きている奴は誰もいないようだな…)

そうしてギニューは、この網走監獄にいるのが今は自分1人だけであることを確かめる。
先ほどの連絡でもあった通り、桐生戦兎が率いていた一行の生存者達は、この場から既に逃亡してしまったようであった。

(!………そうか、奴らが死んだか)

見回している内に、ギニューは今自分が作ったもの以外の死体を2つ発見する。
それこそまさに、前に自分が狙えと指示された桐生戦兎の肉体であった佐藤太郎と、自分が少し腹立った宇宙人であるエボルトの肉体となっていた桑山千雪の死体であった。
これらは、自分達が来る前の戦いでJUDOが殺害した者達なのだろう。
死体は2つとも首を切断されており、首輪を取り外されている。
外された首輪はどちらも、現在自分が背負っているデイパックの中の方に入れられている。
そして桐生戦兎が死亡したことは、以前の指令にあったように彼を狙う必要が無くなったということだ。
彼は首輪を外せる可能性があったらしく、もうこれで彼を頼りにして首輪を外すことは考えられないこととなった。
もっとも今のギニューとしては、首輪はもう外す必要は無いかもしれないと認識しているが。
本当にこの手に持つディケイドライバーが黒幕で、その力を引き出すには今の肉体の門矢士も必要なら、今着けている首輪も爆弾の無いダミーのものかもしれないと考えているからだ。
また、桐生戦兎が殺されていることは、彼に支給されていたネオディケイドライバーもJUDOに奪われたことを意味する。
その証拠に、今自分が奪った肉体に装着されていたのは、ネオディケイドライバーの方だった。
おそらく、先ほどの話にあったように白いディケイドライバーとの融合を果たしたのだろう。
今はまだ確認していないが、その証拠として確かにディケイドライバーはJUDOが持っていた荷物の中からは消滅していた。

(……アレらも壊されたか)

ギニューは次に、祈手に渡した変身ベルトが2つとも粉々に破壊されてしまっていることを確認した。
もっとも、今のギニューにとってそれらはもう必要は無さそうなものであった。
ディケイドライバーに自己修復機能があると聞いたために、前の自分がやったみたいに壊されたとしても、すぐに直るものだと認識していた。
それならば、代わりのベルトは必要無い。
むしろ、何かのきっかけで敵に奪われて使われたりでもしたらと考えると、それを防ぐために破壊してしまった方が良いのかもしれない。
それこそ例えば、前回の戦いで自分がエボルトから荷物ごとベルトを奪って使ってみた時のように。



そういったことまで確認した後、ギニューはゆっくりと歩きながら先ほどまで自分が中にいた肉体の死体の方に近付いていく。
そしてその背に背負われたデイパックを取り外し、中からもう1つのデイパックを更に取り出し、その中からスマホを取り出す。
ハワードはここまで終わったら次にどうすれば良いかの連絡を行うというメッセージを送っていた。
だからやることが終わったことを報告し、次に何をさせるつもりだったのかを聞き出そうとしていた。

ギニューがスマホを起動してみると、アプリのアイコンにメッセージが来ていることを表すマークが付いていた。

(………何だ?通知がたくさん来ている…?)

ギニューはアプリに付いた通知のマークを見て違和感を覚える。
そのマークは、アプリに来ている新たなメッセージが十数件も来ていることを表していた。
まだこちらの状況を報告していないのに、大体は言われた通りのことをやってみせたのにこんなに連続で多量のメッセージが来ているのは何かおかしいような気がした。
ギニューはアプリを開き、新たに来ていたメッセージを画面に表示した。





『この大馬鹿者が!!!』
「!?」

491薄霞 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:04:05 ID:pXczJh9A0
アプリを開いて早々に現れたのは、大きな怒りを表す言葉であった。
上に少しスクロールしてみれば、『おい』『待て』『一旦止まれ!』『やめろ!』『話を聞け!』『こっちを見ろ!!』等といったメッセージがいくつか届いていた。
まるで、ギニューが先ほどまでやっていたことを止めようとしていたかのようだった。
自分に今回の作戦をやるように提言したのは、これらのメッセージを送ってきたハワードのはずなのに。
何故このようなメッセージが届いていたのか、その答えはすぐに分かることになる。

『ようやく見たか!』

ギニューがメッセージを開いたことで既読の印が付き、相手側もギニューが今メッセージを見たことを認識した。

『おい、どうした?』

ギニューはそれに対し疑問を呈する返事をする。
これに対する返答も、すぐに来ることになる。

『最初に言っておく。これまでお前とここで対話していたのは、私ではない!』
『私が本物のハワード・クリフォードだ!』
『さっきお前が知った殺し合いの真実の情報は全てデタラメだ!』
『テラパゴスは黒幕でないしやる気パワーは集めておらんしディケイドライバーに自己修復機能は無い!』
『お前は騙されていたんだ!!』
「…………は?」

新しく届いていたメッセージ群の意味、それはギニューが先ほど山中の洞窟でやり取りしていた相手は、ハワードになりすましていた別人だったということだった。

492偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:07:44 ID:pXczJh9A0
(くっ……ようやく届いたか。奴が何とか生きているのは不幸中の幸いだったか…)

主催陣営本部のとある場所、そこでフリーザの肉体のハワード・クリフォードはスマホの画面を眺めながら顔をしかめていた。
実のことを言うと、ギニューの肉体を門矢士のものにチェンジさせられたことについてはハワードの考えに対する不都合はあまりない。
けれども、チェンジに至らせるまでの方法がギニューの命も危険に晒すものであったため、馬鹿者というメッセージを送ってしまった。

ハワードは元々、スマホを通じてギニューと秘密裏に繋がるとしても、ギニューがスマホを手に入れてからしばらく後にするつもりだった。
具体的に言えば、佐倉双葉の無力化が出来てからのつもりだった。
何故なら、佐倉双葉の本業はハッカーだからだ。

彼女が元は天才的なハッカーだったという情報はハワードも知っていた。
スマホをただギニューに奪わせるだけでは、遠隔で何か妨害を受ける可能性も考えていた。
だから、ギニューが確かにエボルトから荷物を奪えたという情報を確認したら、彼女が怪しい動きをしていたとこの殺し合いの『ボス』に提言しておいた。
そこで話し合いがあった結果、彼女には刺客が差し向けられることとなった。

だがそれに対し、彼女の方は何とこの主催陣営本部から逃げ出すという選択肢をとった。
しかも、そのために本部内に設置されていた転送装置を使い、しかもそれを時限爆弾で爆破・破壊してしまったとのことだ。
しかし彼女はその際に、転送先を戦闘が行われている最中な網走監獄の方にしてしまった。
そのようにした理由は、実は彼女の想い人がピンチな状況だったらしい。
だがそれはともかくとして、この方がハワードにとっては都合が良かった。
彼女が戦闘に参加していれば、こちら側に遠隔のハッキングで干渉することはより難しくなる。
本当にそこまでのことが出来る技術を持っているかどうかはともかくとして、結果的に彼女をこの本部の外に追放することができた。
これで安心してギニューに話ができると思っていた。

しかし、異変は起きてしまった。
いざアプリを開いて対話を始めようとしたその時、スマホが自分の操作を受け付けなくなった。
そしてメッセージアプリの画面の上では、勝手に自分の名前を騙った書き込みが次々と出てきたのだ。
これにはハワードも驚愕した。

スマホの操作権は何とか取り戻そうとはしたが、思うように動かなかった。
けれども何故だか急に、自分の操作を受け付けるようになった。
そうなったのは、ギニューが空の方に上がり始めた頃だった。
そのためにハワードが慌てて送ったメッセージはなかなかギニューに届かなかった。
まるで、犯人はもうこのスマホの操作は必要としていないかのようだった。

ハワードが動かせるようになる前に書き込まれた勝手なメッセージの内容は、どれもこれもデタラメな内容ばかりだった。
テラパゴスという名前の伝説上のポケモンは、確かに一応ハワードのいた世界にも残っていた。
しかしその詳細は全くもって不明なもの、どんな力があるのかもはっきりとは分かっていないはずだ。
それがまさか、確かに伝説上では亀の姿をしているらしいからといって、ここでこんな形でその名前が出されるとは思ってなかった。
マーメイドアクアポッドややる気パワーがどうたらこうたらは完全にここが初耳な単語だ。
一体全体どこからこんな嘘話を持ってきたのか、何の目的があってのことなのかと思ってしまう。
参加者の支給品の1つが黒幕だっただなんてのも、あまりにも大胆な嘘だ。
おかげでギニューが、それを奪って有効活用しやすくなるボディ・チェンジを行おうという話に乗るきっかけになってしまった。

ギニュー自身はそれらの内容に対しては半信半疑のようだった。
けれども最終的には、ハワードを名乗る別人の話に乗ってしまった。
この段階では、たとえ嘘で騙されているとしても自分に有利な方向にリカバリー可能だと判断してしまったのだろう。
孫悟空の肉体の参加者を、JUDOがアイテム内に確保していることもきっと理由の1つだったのだろう。

493偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:09:00 ID:pXczJh9A0
そして、今回ギニューにこのようなことをさせた目的については、ある程度まで想像がつく。
1つは、この殺し合いにおける危険人物であるJUDOを排除すること。
そしてもう1つは、門矢士/ディケイドの肉体の中から「激情態」の力を失わせることであろう。
激情態の力は世界を破壊するという「覚悟」に由来するもの。
そのため、その力は精神との結び付きもあると考えられる。
それにJUDOが激情態を入手できたのは、彼がこれまでの戦いで門矢士の肉体に馴染んできたからというのもあった。
それが急にその肉体に慣れてない別人と精神を入れ替えるなんてことをしたら、激情態の力は消えてしまうだろう。
実際、ギニューと入れ替わった瞬間に、ディケイドは激情態ではなくなっていた。
これらの結果を作り出したことは明らかに、この殺し合いを妨害しようとしているものだった。

(今回のこと…まさか、奴の仕業か?…いや、もしくは…)

ハワード・クリフォードは、今回起きた出来事の「犯人」について考えていた。

今回のことについて、ハワードが最初に疑いを向けたのはボンドルドだった。
自分が佐倉双葉の動きに気付けたのはボンドルドの言葉がきっかけだったため、その時からこうなることを予見して自分の思い通りにしようとしていたのではないかと思った。
だが、落ち着いてみるとそれは違うのではないのかという思いも出てきた。
今回のことで、ボンドルドの部下である祈手が1人死んだ。
まだ使えるようにする方法はあっただろうに、あんな風に死ぬように誘導するのも違和感があった。
それに、彼がこの殺し合いを妨害しようとするのも考えにくかった。
自分たちの中では、どうも彼がこの殺し合いの黒幕に最も近しい立場にいるようであったからだ。

だから、犯人は別にいるとハワードは考える。
条件に合うのは、今回のことを起こせる技術力を有している・使える状態にある者であり、この殺し合いを妨害する何かしらの理由も有している者だ。
該当する相手は、1人だけ考えられた。


斉木空助、弟の肉体が殺し合いの参加者の1人にいるあの男が、今回のことの裏にいるのではないか。

ハワードがそこまで考えを巡らせた、その時であった。



『ドォンッ!!!』
「!?」

ハワードのいる場所よりも離れた、主催陣営本部内のどこかで大きな爆発音が鳴り響いた。
その直後に、本部内で非常事態を知らせる警報アラームも大音量で鳴り始めた。




『すまない、こちらの方で緊急事態が起きた』
『また後で連絡する』

「えっ、あっ、おい!」

スマホの画面に、ここでの対話を一旦打ち切るという旨のメッセージが表示された。
実は先ほどの山中でメッセージを送ってきた人物は別人の偽物、殺し合いの真実についての話も嘘っぱちだということは分かった。
だがそれ以上の詳細な話は中途半端な状態のまま終わってしまった。
ギニューはアプリに『おい』『どういうことだ』『説明しろ!』といったメッセージを送るが、それに対する返信は来ない。
送ったメッセージに既読マークも付かない。
ギニューこのまま、正体の分からない誰かに騙されてこの状態になったという意識を抱えながら動かなければならなくなった。


「…………ま、まあ……俺もあまり信じてはなかったし、な……」

ギニューは振り絞るようにそう言いながら、無理矢理立ち直ろうとする。
けれどもそこには、動揺が隠しきれていなかった。
騙されたことに対する悔しさを、無理にでも隠そうとしていた。

「邪魔な奴は片付けられたし、こいつの肉体が強力なのは確かなのだし……それに、しんのすけのことも確保している…のだからな」

そういったことも自分に言い聞かせて、今のこの状況に問題は無いと思おうとしていた。
確かに、今回のことで今後の殺し合いの大きな障害になるであろうJUDOは始末できた。
前の肉体にもそれにしかない長所は存在していたが、今の肉体もこれまでの戦いを通して大きな力があることが分かっているため、リカバリー可能だと思っていた。
ベルトも黒幕じゃないのなら、むしろ今後これを使うことに対する問題も無かった。
自己修復機能が無いのなら、壊されないように注意する必要は出てきてしまった。
けれどもそういったこともされないくらい力で圧倒出来れば、その心配も無いはずだ。

強いて言うなら、騙されたのであれば、本当に前にJUDOと戦っていた者達がこの近くから逃げていったかどうか怪しくなるところだろう。
特にその集団の中には、技の使い方を忘れさせる技の使い手(雨宮蓮)がいるはずだ。
警戒すべきあの相手も含めて急な奇襲をしてくる可能性があることについては、不愉快で困らされることである。

494偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:10:40 ID:pXczJh9A0
だが、ギニュー自身はこの時点ではまだ気付いていない大きな問題が存在していた。
1つは、前の戦いでギニューも感じていたパワーアップ…ディケイド激情態の力が、ボディ・チェンジを行った瞬間に失われてしまったこと。
そして2つ目は、JUDOが封印していた孫悟空の肉体の参加者…野原しんのすけを、前の戦いでJUDOの作戦に利用するために解放してしまったこと。
その結果確かにJUDOの思い通り桐生戦兎を殺害し、その結果手に入れた力でエボルトも倒した。
だが最終的には、しんのすけは他生存者たちを連れてこの網走監獄から脱出してしまったのだ。
ギニューが考えている、今の肉体が結局使えなさそうであればしんのすけを解放してボディ・チェンジを行って孫悟空の肉体を手に入れるという企みは、もう不可能になってしまっているのだ。
ギニューがそのことに気付くのは、時間の問題だろう。

495偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:11:38 ID:pXczJh9A0
【B-2 網走監獄/真夜中】

【ギニュー@ドラゴンボール】
[身体]:門矢士@仮面ライダーディケイド
[状態]:肉体的疲労(大)、ダメージ(小)、精神的疲労(特大)、イライラ(大)、動揺、コンプリートフォームに約2時間変身不可能、コンプリートフォーム21に約2時間変身不可能、ビルド・ジーニアスフォームに約2時間変身不可能、ボディ・チェンジを約2時間使用不可能
[装備]:ネオディケイドライバー@仮面ライダージオウ、ケータッチ21@仮面ライダージオウ、ライドブッカー+アタックライド+ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、スマートフォン@オリジナル
[道具]:基本支給品×10、トビウオ@ONE PIECE、賢者の石@ドラゴンクエストシリーズ(次回放送まで使用不可)、警棒@現実、海楼石の鎖@ONE PIECE、逸れる指輪(ディフレクション・リング)@オーバーロード、サソードヤイバー&サソードゼクター@仮面ライダーカブト(天逆鉾の効力により変身不可)、ぴょんぴょんワープくん@ToLOVEるダークネス、精神と身体の組み合わせ名簿×2@オリジナル、レインコート@現実、プロフィール(クリムヴェール、ピカチュウ、天使の悪魔)、シロの首輪、モノモノマシーンの景品×2
[思考・状況]
基本方針:ジョーカーの役割を果たしつつ、優勝し、主催を出し抜き制裁を下して、フリーザを完全に復活させる。
1:このオレが騙された…?誰が?何の目的で?
2:本当に騙されたのであれば、ここから逃げていったであろう者達(大崎甜花、雨宮蓮)が急襲してこないか警戒する。
3:ハワードは主催側を裏切るつもりなのか?真意を知るために、次の連絡を待つ。
4:……次の連絡もちゃんとハワード本人が来るよな?正直少し心配だが。
5:孫悟空の体はいずれ奪う。何なら、次にボディ・チェンジが使えるようになればすぐにでも解放して奪ってもいい。
6:あの時の女(杉元)の肉体が不老不死であることが少し気になる。場合によっては孫悟空の代わりに奪う候補になるかもしれん。
7:水の呼吸は使えたが、ヒノカミ神楽とかももう少しコツを掴めば使えそうな気がする。
8:帽子の男(蓮)を要警戒。ボディ・チェンジをするのに奴の存在は厄介だ。
9:炎を操る女(杉元)、二刀流の女(ジューダス)にも警戒しておく。
10:ここにはロクでもない女しかいないのかと思っていたが、さっきの絵美理とかいう頭のおかしいうるさい女と比べたら、他は全然マシなやつらだったかもしれん。
11:さっきの奴(絵美理)が気にしていたヒイラギにも警戒。何らかの力を隠し持っているのか?
12:ち○こはもうしばらくは見たくない…
[備考]
※参戦時期はナメック星編終了後。
※ボディチェンジによりバルクホルンの体に入れ替わりました。
※全集中・水の呼吸、ヒノカミ神楽は切っ掛けがあればまた使えるかもしれませんが、実際に可能かどうかは後続の書き手にお任せします。透き通る世界が見れるかも同様です。
※水の呼吸は可能となりましたが、炭治郎の体の時より技の精度は落ちるようです。
※主催側のジョーカーとしての参戦になりました。但し、主催側の情報は何も受け取っていません。
※ボディチェンジは普通に使用が可能ですが、主催によって一度使用すると二時間発動できない制限をかけました。
※杖@なんか小さくてかわいいやつを使いました。
※野原しんのすけ(身体:孫悟空)が囚われたアリナ・グレイのキューブ型結界が手元に無いことにまだ気付いていません。
※門矢士の肉体から激情態の力が消えましたが、そのことにまだ気付いていません。
※ディケイドとしての力は現在クウガ〜ジオウ+ゼロワン、セイバーのカードが使用可能です。
※アナザーディケイドウォッチの残骸に残っていた力を吸収した影響で、ディケイドのスペックが幾らか強化されました。
※オーロラカーテンによるワープが使えるようになりましたが、エリアを跨ぐ程の移動は時間を置かなければ不可能に制限されています。具体的な時間は後続の書き手に任せます。
※残りの景品の詳細は後続の書き手に任せます。
※ネオディケイドライバーの力を吸収し、ディケイドライバーがネオディケイドライバーに変化しました。
※ネオディケイドライバーに入っていたカードも前の持ち主から受け継いでいます。
※ディケイドのスペックが完全にネオディケイドのものになりました。

496偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:14:10 ID:pXczJh9A0
※「虹@クロノ・トリガー、基本支給品×5、竈門炭治郎の斧@鬼滅の刃、フリーガーハマー(9/9、ミサイル×8)@ストライクウィッチーズシリーズ、ミニ八卦炉@東方project、魔法のじゅうたん@ドラゴンクエストシリーズ、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、大人用の傘、アタックライド烈火大斬刀@仮面ライダーディケイド、君が父さんに突き立てたブラフォートの剣@うろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険」が周囲に散らばっています。

※「圧裂弾@仮面ライダーアマゾンズ、アークドライバーワン+アークワンプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、フラックウルフFw190D-6@ストライクウィッチーズシリーズ、ゲネシスドライバー+メロンエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、ビルドドライバー(プロトタイプ)@仮面ライダービルド、ドリルクラッシャー@仮面ライダービルド、忍者フルボトル&コミックフルボトル@仮面ライダービルド、ラビットフルボトル&タンクフルボトル@仮面ライダービルド、ハザードトリガー@仮面ライダービルド」は破壊されました。



[支給品紹介]
【桜の純潔を破った血を啜った刻印蟲@Fateシリーズ(Fate/zero)】
魔術師の間桐臓硯が使役する虫である刻印蟲(淫虫)の1種。
遠坂桜が5歳の時に間桐家の養子となって間桐桜となってすぐの頃、桜の純潔(処女)を破って流れた血を啜った。
Fate/zeroにおいては、第四次聖杯戦争の戦いで瀕死となった間桐雁夜を回復させるために食わせるという形で使われた。

[モノモノマシーンからの景品紹介]
【アタックライド烈火大斬刀@仮面ライダーディケイド】
仮面ライダーディケイドが扱うアタックライドカードの一種。
『シンケンジャーの世界』において志葉丈瑠/シンケンレッドとの共闘中に出現したカード。
ディケイド・コンプリートフォームがシンケンレッドから借りた烈火大斬刀を持った状態でディケイドライバーに装填して使うと、百花繚乱という名の火炎の斬撃を飛ばす技を発動した。

【ハザードトリガー@仮面ライダービルド】
ビルドドライバーの機能を拡張させるデバイス。
仮面ライダービルドのベストマッチフォームをハザードフォームへと強化する。
中にはネビュラガスの成分から開発された万能強化剤「プログレスヴェイパー」が充填されており、使用中はこの強化剤が徐々に変身者に浸透してハザードレベルを上昇させる。
強化剤の浸透が脳にまで達すると、変身者は自我を失い、破壊衝動に呑まれて暴走してしまう。

【ゴーゴー焼き山菜@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド】
食べると体力の回復と一時的に移動スピードが上昇する効果がある野草を炒めた料理。
ここに登場したものは、ゴーゴーニンジンから作られていた。

【君が父さんに突き立てたブラフォートの剣@うろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険】
ジョナサン・ジョースターがディオ・ブランドーとの戦いに使用したはずの剣。
たしか、ディオがけしかけた騎士のゾンビのブラフォードを倒した後、ブラフォートからもらったもの。
もともとはLUCKの文字が持ち手に刻まれていたが…たしかブラフォートが血でPと書き足してPLUCKにした。
ジョナサンはこの剣を君が父さんに突き立てたと言いながらディオを斬ったが、ディオは別にこの剣を父さんに突き立ててはいなかったはず…多分。
この剣の出展をうろ覚えで振り返る承太郎の奇妙な冒険としてるけど、第一部のファントムブラッドの方も同タイトルシリーズの動画で出ているから…この出展でも何も問題はないとは、思う。

497偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:15:17 ID:pXczJh9A0



時間をまた…細かく言えばハワードが爆発音を聞いた少し前の頃に遡る。

主催陣営本部内の廊下、そこの曲がり角の近くで壁を背に向けながらビクビクしながら角の向こう側の様子を伺っている者がいた。
紫の髪の高校生の少年、鳥束零太…その肉体を与えられた旅館の若おかみの少女、関織子だ。
壁に背を隠すような形で立っているため外から見たら少し分かりにくいが、彼女は首に引っ掛ける形で中に何かが詰まっている風呂敷を背負っているようだった。
また、頭には同じ主催陣営の男の斉木空助が頭部に着けている装置…テレパスキャンセラーと同じものを着けていた。
彼女は、自分が角を曲がって進もうとしている先に誰かがいるかどうかを確認しようとしているようだった。

『安心しろ。今なら誰もいない。それよりも早く急いで離れよう』
「ひっ…!?」

頭の中だけで男の声が響く。
その声に織子は驚いてしまう。

『……今は周囲に人影は無いようだから問題ないが、そう一々反応していたら良くないことになるかもしれないぞ』
(ご、ごめんなさい…)

織子は頭の声に対して謝罪する。
彼女は元々既に、その声の主とはこの状態になることを了承していた。
けれどもこうして頭の中で第三者の声が内側から勝手に響く感覚は、まだ慣れないものだった。
そのためつい、声を漏らしてしまった。

織子の聞いた声の主は、ジャン=ピエール・ポルナレフの霊のものだった。
彼女は今、肉体の鳥束零太の肉体の能力である「口寄せ」によりその霊を憑依させている状態にあった。
これができるようになったきっかけは、斉木空助の部屋を訪れたことであった。



関織子がボンドルドから頼まれた子守の仕事…それを行う直前に聞いたポルナレフからの頼みごとを、彼女は既に終えていた。
織子はS.K.…斉木空助の部屋に時間が空いた時に赴き、そこで重要な話を聞いた。
今、自分達と同じ状況にある者達が殺し合いを行わされていること、その目的、自分が子守を頼まれた子供たちの正体、全てを聞かされた。

はっきり言って、織子はそれらの話についていけなかった。
殺し合いを行っていること自体信じられなかった。
確かに仮面で顔を隠して全身黒ずくめなボンドルドやその部下の人たちは色々と怪しいところがあるとは思うが、あれだけ優しいあの人たちまで積極的に殺し合いに協力しているなんてことは、簡単には受け入れられなかった。

だが最終的には、その話を信じるしかなかった。
証拠として、死体を1つ見せられた。
かつてギニューを主催陣営のジョーカーとする際に渡した木曾への支給品、それを海中から回収する際に一緒に付いてきていた村紗水蜜の肉体の死体、それを見せられた。
斉木空助はその死体を自分の部屋に運び込んで保管していた。
刀によって付けられた大きく凄惨な斬り傷のある死体を見せられて、殺し合いが本当のことであることを嫌でも信じさせられてしまった。
それを見せられた時はとても戦慄し、同時に大いに悲しい気持ちにさせられた。
人の死というものへの関わりとしては、ユーレイ(幽霊)とは違い、完全に物言わぬ死体と向き合うことになるのは両親が事故で亡くなった時以来だ。
相手は初めて見る相手であったが、その時のことを思い出して、動悸が大きく乱れたこともあった。
けれどもおかげで、殺し合いについての話を真剣に聞かざるをえなくなってしまった。

そして織子は、今後において自分にやってもらいたいことを空助から頼まれた。
その一つが、ポルナレフの霊を今の自分の肉体の中に匿うことであった。
これは、いざという時に織子が精神的に動けなくなったら、代わりにポルナレフが体を動かすためでもあった。
それから、もしもの時に「悪魔憑き」という能力を発動できるようにするためというのもあった。
悪魔憑きは元々、空助が鳥束の能力を研究して発現させることに成功した能力だ。

498偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:16:15 ID:pXczJh9A0
悪魔憑きは口寄せにより霊を肉体に憑依させている時にしか使えないものである。
霊が憑依している状態で殴られる等して肉体に誰かから直接的に衝撃を与えられると、肉体から鳥束自身の魂が飛び出し、自身に衝撃を与えた相手から魂を追い出して肉体を乗っ取るという能力だ。
この際に残された鳥束零太の肉体の方は、口寄せで憑依させていた霊だけが残って肉体を動かすことになる。
織子がこの悪魔憑きを使うことになる際は、織子が相手の肉体を乗っ取り、ポルナレフが鳥束の肉体を使うことになる。
その際、鳥束の肉体は確定でダメージを負ったものとなるが、ポルナレフはそれを引き受けようとしていた。
そんなことになったとしても、織子の魂を守るためだ。
織子はそのようにダメージを他人に押し付ける形になることに思うことが無いわけではない。
だが、まだ実際にその能力が必要な状況になっていないことには、強くは拒否できない。

そういったことも含めて織子の役割が黒幕にバレないようにするために、テレパスキャンセラーも付けさせられた。
そして織子に与えられた役割は、ただポルナレフと共に行動することだけではない。
もっと重要なことがあった。
そのために必要なものは、今も背負われている風呂敷の中に入れられている。


織子とポルナレフは今後、斉木空助の代わりを果たさなければならないのだ。





「よし、これでもう返してあげられたね」

斉木空助は自分の部屋の中で、パソコンを操作していた。
彼はそれを使って先ほどまで、ハッキングを行っていた。
ハッキング先はハワード・クリフォードが持つスマートフォンだった。
そうして彼は遠隔でそのスマホの操作を一時的に奪い、ハワードのフリをしてギニューとSNS上で会話していた。
ハワードの推測通り、ギニューを騙して危険な存在であるJUDOを排除させるために。
たとえ、ゲルトルート・バルクホルンの肉体が犠牲になったとしても。

どうやってハワードのスマホをハッキング下かと言うと、実はポルナレフの霊を利用してのものだった。
現在彼らがいるこの世界において、幽霊は生前の思い入れの深いものであるならば触れることができるようになっていた。
それは元々、空助のいた「斉木楠雄のΨ難の世界」で確認された現象だった。
これを利用して、ポルナレフとは彼が生前持っていたパソコン越しにコミュニケーションをとっていた。
そして今回、ポルナレフがここで唯一触れるそのパソコンをハッキングに利用した。
ポルナレフのパソコンからパーツを一部取り外し、空助が自作したスマートフォンにも接続可能なメモリ端子の外側カバーに組み込んだ。
そうすることで、そのメモリを霊のポルナレフにも持ち運べるようにした。
メモリにはコンピューターウイルスが仕込まれており、それが空助のパソコンからでも操作できるようプログラムを組み替えられるようになっていた。
ポルナレフはこのウイルス入りメモリをハワードの下まで運び、こっそりとスマホに差し込んだ。
コンピューターウイルスはメモリを差し込むだけでもウイルスを仕込めるようにできていた。
目的を果たした後のメモリはポルナレフが空助の部屋にまで持ち帰った。

こうして遠隔操作することを可能な状態にして、ギニューがスマホを起動したタイミングでSNSをハワードのフリしてメッセージを送信した。
けれども空助はギニューへの用が終わった後は、遠隔操作を止めてハワードにスマホの操作権を戻した。
もう、自分側が動かす必要が無いからだ。
ハワードが今後元々やろうとしていたギニューとの対話をやろうとすることについても問題は無いと判断した。
ハワードが今回の騒動の犯人が自分であることを察するだろうことについても、問題は無い。
何故なら、今から自分はいなくなるからだ。


『コンコン』
「ようやく来たか」

空助の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
その音の主は、ここに来るように言っていた関織子ではない。
彼女は前に既にここに来て話をつけた。
ポルナレフと共に今後は自分の役割の代わりをやってもらうことも説明した。
殺し合いの舞台の方に行ってしまった佐倉双葉との通信も、今後は彼女がやることになるだろう。
そんな織子は今、これからこの部屋で起きることに巻き込まれないようにするために気持ち急ぎ目に離れているところだ。

499偽ニセモノ物バカリ量 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:24:47 ID:pXczJh9A0


空助の部屋の前には、ボンドルドの祈手達がいた。
ここにおいて彼らは3人いて、その内1人がドアをノックした。
彼らはそれぞれ、3種の仮面ライダーに変身していた。
白いフードと琥珀色の仮面が目立つ白い魔法使い(ワイズマン)、白い眼をした野性味あふれる赤いピラニアのようなアマゾンアルファ、
そして黒い体の上に蛍光的な緑が映える姿をしたゲーム:仮面ライダークロニクルの伝説の戦士、クロノス。
これらに変身している祈手の肉体は、それぞれ本来の変身者である笛木奏、鷹山仁、そして壇正宗のものとなっていた。

彼らがここに来たのは、斉木空助の拘束、もしくは粛清のためだった。
前に起きた佐倉双葉の主催本部からの脱出、そして前の網走監獄の戦いにおいて双葉と野原しんのすけの動きが急に不自然なものになったこと。
それらの裏に斉木空助が関わっているという疑いがかけられていた。
斉木空助は、主催陣営を裏切っているかもしれない者として扱われることとなった。
そのためにまず逃げられないようにするために、3人はいざとなったら力を行使できる状態でここに来た。
こんな事態になった遠因の一つに、自分達を従えている者もいることにも関わらず。

3人の内、白い魔法使いがドアノブに手をかける。
ドアノブを捻り、空助の部屋に突入しようとした。

『カチリ』

ドアノブが捻られると同時に、空助の部屋の中からそんな音が聞こえた。





「それじゃあ、さよならだ」








『ドォンッ!!!』

斉木空助の部屋が、大爆発を起こした。
3人の祈手達はそこで発生した爆炎に呑まれた。
爆炎と爆風は、部屋に隣接した廊下も埋め尽くす大規模なものだった。




【備考】
※斉木空助と、笛木奏・鷹山仁・壇正宗の肉体のボンドルドの祈手達については、しばらく生死不明なものとしておきます。

500 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:26:08 ID:pXczJh9A0
投下を終了します。

>>466
ご意見ありがとうございます。
確かに、本ロワの内容の進行の現状と私の執筆速度を考慮すると、基本の予約期限を3週間のままとするのは確かに短いかもしれません。
そのため、基本の予約期限を4週間に変更したいと思います。
なお、延長制度は無くさずに1週間あるままにしたいと思います。

501 ◆5IjCIYVjCc:2024/09/08(日) 21:49:50 ID:pXczJh9A0
少し修正の報告です。
ギニューの状態表の道具欄に、桐生戦兎の首輪、エボルトの首輪を追加しました。

502名無しさん:2024/09/08(日) 22:53:11 ID:yJP8uChY0
投下乙です
いやあ…これがここ数話絶好調だった反動というやつか
まさかここでJUDO退場とは
やっぱボディチェンジ、大逆転の切り札だけども、入れ替え前のチートスペックを発揮できなくなった辺り、原作で悟空とボディチェンジした時のギニューっぽい

内紛勃発主催陣営は、空助は、どうなったのだろうか

503名無しさん:2024/09/29(日) 17:50:59 ID:Ks5y4MZw0
続きが楽しみです!

504<削除>:<削除>
<削除>

505 ◆5IjCIYVjCc:2024/12/15(日) 21:31:23 ID:7DmLLHHk0
志々雄真実、キャメロット城、遠坂凛で予約します。

それからついでですが、本ロワは第四回放送となったら、そこからを最終章とし企画主である私1人で書くことにすることを考えていることを報告します。

506名無しさん:2024/12/16(月) 20:54:12 ID:V4MSuSIU0
了解した。

507 ◆5IjCIYVjCc:2024/12/30(月) 16:17:32 ID:6yt69eKE0
申し訳ありません、急病のため予約を一旦破棄します

508 ◆5IjCIYVjCc:2025/01/06(月) 23:19:41 ID:Qmq09S..0
改めて、志々雄真実、キャメロット城、遠坂凛で予約します。

509 ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:04:21 ID:eNjl2nDw0
投下します。

510Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:05:28 ID:eNjl2nDw0
「何の成果も得られなかったわね…」
「ええ、そうでしたね…」
『ったく。無駄に期待させやがって』

キャメロット城と遠坂凛の2人は今、急ぎ気味で街の中をマシンディケイダーに乗りながら駆けている。
2人の顔には、大いに陰りがあるように見えた。
グリードもキャメロット城の中で悪態を付く。

彼女らは、自分達が今いるエリアが禁止エリアとして有効になる前に、ここにあるエレン・イェーガーの家の中を調べようとしていた。
そのために、多くの協力者達とも別れることになった。
しかし、期待していたような成果は全く得られなかった。

凛はこの舞台の施設のどこかに、主催者内の裏切り者が置いたかもしれない物を見つけることを期待していた。
地図上の施設情報が後出しだったことから、そんな物がどこかに存在することを期待していた。
けれども、そんなものは無いかのように思えてきた。

……実は、エレン・イェーガーの家の中には、一応ある情報が記されている物は存在していた。
けれども、凛達はそれを見つけられなかった。
そこまで探す時間が無かったからだ。
それにもし見つけられたとしても、それは彼女らが期待していたような情報ではない。
そこにあったのは、「進撃の巨人の世界」についてのある真実が書かれた手記のだ。
エレン・イェーガーの父親であるグリシャ・イェーガーが地下室の中に隠して遺したものだ。

地下室自体は凛達も見つけていた。
地下室の扉はキャメロットに無理矢理こじ開けさせて中に入った。
しかしその部屋の中を探しても、役立ちそうなものは見つけられなかった。
前述のグリシャ・イェーガーが遺した手記は、机の引き出しの中の底板の更に中の方に隠されていた。
短い時間の中では、そんな細かいところまで探すことはできなかった。

結局、凛もキャメロットも最終的に諦めてエレン・イェーガーの家を後にした。
2人はバイクに乗り、キャメロットの運転で禁止エリアの中からの脱出を目指した。
何も見つからなかったことにグリードはふてくされ、バイク運転中に表に出てこようとすることはなかった。



街中でバイクに乗っている途中、禁止エリアとして有効な時間になったためか、2人の首輪からアラームが鳴った。
同時に、ボンドルドの声で5分後に首輪が爆破されるという旨の音声が流れた。
その時はバイクの速度を上げ、首輪の爆破から逃れるために急いだ。
それからの禁止エリアからの脱出はすぐだった。
2人は道路に沿いながら北から街を出て、そのまま禁止エリア範囲から外に出た。
首輪からの音声が消えたことでそれは確かなものとなった。
禁止エリア範囲から出た2人はそのまま道路の上を走り、西側の方を目指した。
そちらの方に向かった協力者達と合流するために。

バイクに乗った2人は道路の上を走り続けていた。
そうして走っている途中のことであった。

511Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:06:23 ID:eNjl2nDw0
「!」
『キキィッ!』
「キャッ!?」

キャメロットがバイクに急ブレーキをかけた。

「キャメロット、どうしたの?」

キャメロットの背中の方にしがみついている状態の凛は前が見えなくて何故急ブレーキがかけられたのか分からない。
しんのすけの小さな身体ではなおさらだ。
けれども少し冷静になれば、何が起きたのかの予測はできる。

「まさか…」
「はい、凛。…誰かいます」

キャメロットの視線の先の道路には、大男が1人立っていた。
その男はほぼ半裸な露出度の高い格好をしていた。
男の周囲の道路や草原は戦闘による破壊の跡が見える。
もっとも、それはその男の仕業ではなかったが。
しかしそうは言っても、キャメロットは男のことを警戒せざるを得なかった。
立ち塞がる男からは、凄まじい殺気が醸し出されていたからだ。

凛もキャメロットの後ろからひょっこりと顔を覗いて相手の姿を確認する。
異様な威圧感を出す半裸の大男と言うと、アインツベルンのバーサーカーのサーヴァントを思い起こす。

「……あなたは何者ですか?…この殺し合いに、乗っていますか?」

初対面の相手にキャメロットはそう質問する。
彼女のその態度は、警戒を色を隠していなかった。

「ハッ、乗るだとか何だとか、そんなこと聞かずとも分かんだろ?」

男は一笑に付してそう返す。

「戦いに来たんだよ、俺は。どっちが生き残るべき強い奴か、決めるためになあ!」

男…志々雄真実は、手にしたエンジンブレードの刃の凛とキャメロットに向けながらそう力強く宣言した。



この殺し合いの舞台における南西の森エリア、そこで志々雄真実は電話ボックス が使えるようになった後にそれを使用した。
その結果たどり着いたのは、放送でも伝えられた通りC-5の村の中であった。
志々雄が電話ボックスによるワープで来たその村において、まず目に入ったのは盛大に倒壊した旅館だったと思われる建物の残骸の山だった。
さらに近くを見てみると、何やら巨大な足跡らしきものもあった。
その足跡は、自分直属の部下である十本刀の一員に入れていた巨人と呼べる程の体躯を持つ男、不二のものよりも一回り大きなもののように見えた。
旅館…地図上において春の屋と記されたその施設を破壊したのはこの足跡の主である巨人だと考えられた。
この足跡の持ち主のことや、そいつがどこに行ったかについては興味を惹かれたが、これを追うのは止めにした。
足跡も何時のものなのかは分からない、追っていっても無駄足を踏むかもしれない。
それよりは、前々から考えていた通りB-1の網走監獄を目指すことにした。
もしかしたら足跡の主も、モノモノマシーン狙いでそちらの方に向かう可能性も一応は考えられた。

志々雄は歩いて村を出た。
そして地図上において、C-4にかかっている橋の方を渡って、そこから山を越えて網走監獄の方に向かおうと考えた。
橋を渡るために、そこに繋がる道路の方へと向かった。
そして道路の方へとたどり着き、そこから少し歩いたところで、志々雄は一旦足を止めることになる。
その周囲では、おそらく戦闘行為によってできたと思われる破壊の痕跡が見られたからだ。
これを見つけたことで足を止めた志々雄は、さらに別のことに対しても気を引かれることになる。
志々雄はそこで、遠くからだんだんと近付いてくるエンジン音を聞いた。
何かが近付いてくることを察した志々雄は、その何かを確かめるためにその場で待つことにしたのだ。

そしてやがてその音の発生源…バイクのマシンディケイダーに乗ってきた者達が現れた。
現れたのは若い女に弱そうな小さな子供、しかしこの殺し合いの環境ではそんなことは関係ない。
人が来たのなら網走監獄に向かうのは一旦中断。
ここからは、殺し合いの時間だ。

512Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:08:03 ID:eNjl2nDw0


「……あなたがそのつもりでいるのなら、私は止めさせていただきます」

殺意を向けてくる志々雄に対し、キャメロットもバイクから降りて一歩前に出る。
そして装備していたエターナルソードを抜剣し、刃を志々雄に向けて構える。
さらに剣には風王結界(インビジブル・エア)で風を纏わせて光の屈折で透明に見えるようにする。
こうすることで、間合いを測りにくくする。

「ほう、味な真似をするじゃねえか」

剣を透明化させたことに対して志々雄は感嘆する。
風を操り、空気の層による光の屈折で透明化するなんて芸当は、今の志々雄の身体であるエシディシの仲間、ワムウも行っていたことだったりする。
志々雄がそれを知っていて今のような反応を示した訳では無いが。

「凛は一先ず下がっていてください」
「キャメロット…」

キャメロットは後ろ手で凛を制しながら下がるように言う。
凛は心配そうな顔をしながらも、バイクから降りて言われた通り数歩後ろに下がる。
今の凛には戦う手段がほとんど無い。
全く無いわけでもないが、回数が限られている。
相手のことがほとんど分からない今は、そう簡単には動けなかった。
歯痒い思いがありながらも、凛は一旦様子見の姿勢をとっていた。

「それじゃ…早速行くぜ?」

相手もやる気になったことを確認した志々雄は次の行動に移す。
何もなかったもう片方の手に小物、ヒートメモリを取り出して持つ。
そのメモリを手に持つエンジンブレードのスロットの中に差し込む。
前回の戦いでは色々あって使えなかったそのアイテムを、今回は使った。
出し惜しみなく、自分に使える技を発動しようとした。

『HEAT! MAXIMUM DRIVE!』
「壱の秘剣、焔霊」

エンジンブレードにヒートメモリ熱き記憶から熱が充填され、刃が赤く染まり炎を纏う。
これは本来は無限刃のギザギザの刃に染み込んだ人間の脂を摩擦で発火させて使用する技、前々の戦い等でもやったものと同じくその再現だ。

「シャアアアッ!」

志々雄は地面を勢いよく蹴り、スピードをつけてキャメロットに接近してくる。

「!」

アルトリアの身体の直感…が変化したスキルである輝ける路が発動し、キャメロットにほんの少しだけ未来を読ませる。
しかし、彼女が感じ取ったのはあまり良い予測とは言い難かった。
相手の技をまともに受けるべきではないという警鐘が彼女の脳内を駆け巡った。

「クッ!」

キャメロットは咄嗟に、後ろに下がりながら剣を自分側に引くように少し上げる。
そのようにしながら同時に、風王結界の風を少し解放する。
それらの風は、周囲に散るように解放された。

志々雄の剣に纏っていた炎が、その風に飛ばされる。
炎はキャメロットの方には向かわず、彼女の周囲の方に散らばされる。
しかし、全てがそうなった訳ではない。
少し小さくなったものの残った炎を纏いながら志々雄の剣は確実に相手目掛けて振るわれる。
その刃に対しキャメロットは先ほど述べたように剣を少し引いて受けの姿勢をとっていた。

『ギイィンッ!!』
「…ッ!」

受け止めた剣の重さにキャメロットは苦悶の表情を浮かべる。
気を抜いたら直ぐにでも剣を弾き飛ばされそうだった。
エシディシの身体の腕力とエンジンブレードの重さから放たれた一撃は、ステータスが低下しているとはいえサーヴァントの身体でも伝わる衝撃は凄まじかった。

513Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:09:02 ID:eNjl2nDw0
「そらそらどうしたァッ!」
『ギンッ』『ガンッ』
「ぐっ……かっ…!」

志々雄の猛攻にキャメロットは押され始めた。
相手の最初の技の発動を許してしまったことで、体勢を不安定にさせられてしまった。
そうしてできた僅かな隙を逃さず、志々雄は連続で何度も斬り込んできていた。
キャメロットは今は自分の身を守るので精一杯だった。
相手の持つ剣からは強い熱もまだ発せられており、熱さによる焼けるような不快感も悪影響を及ぼしていた。

「ッシャアッ!!」
『ガアァンッ!!』
「!しまっ…」

志々雄はやがて、それまでよりも強い力を込めて剣を切り上げた。
その一撃により、キャメロットは剣を大きく上げされられた。
それに連なって両腕も頭の上の方にまで上がることになり、胴ががら空きになる。

(もらった!)

相手が上げられた腕を下げる前に、志々雄は素早く剣を引いて構えを変えて、その空いた胴に目掛けて突き刺そうとする。
キャメロットも腕と剣を下げる暇もなく、相手の剣先は自分目掛けて真っ直ぐに吸い込まれようとしていた。

『代われ嬢ちゃん!』

『ガキンッ!』
「!?」

志々雄の剣先は確かにキャメロットの体…具体的に言うと胸の辺りを突いた。
しかし、その刃は深々とは刺さらなかった。
何かとても硬いものに阻まれた。
相手は鎧等を着込んでいない状態のはずなのに。

「ソラアッ!」

志々雄が驚愕して一瞬動きを止めた隙にキャメロット…ではなく、グリードが攻撃する。
志々雄の剣を止めるため、グリードが強制的に自分の方を表に出した。
これにより彼らのアルトリアの身体、相手の刃が迫っていた胸部を最強の盾…体内の炭素を操作して作ったダイヤモンドの盾で覆った。
そして確かに志々雄の攻撃を防ぐことができた。
グリードは上げられていた剣を志々雄に向けて振り下ろそうとする。
グリードの方が表に出たことにより、その剣は風王結界の風を維持できず、元のエターナルソードの姿を現していた。

『ザンバシッ』
「…なっ!?」

グリードが振るった剣は、志々雄に受け止められた。
ただ、今の驚きは受け止められたことそのものによることではない。
自分に剣が迫っていることに気付いた志々雄は、咄嗟に剣を持っていない左手を前に突き出した。
それも、相手に手の平を向けた状態でだ。
結果、エターナルソードの刃は志々雄の左手の人差し指と中指の間の方に入っていった。
その刃は、それらの指の股の方にまで食い込んだ。
しかし、刃はそこから少し斬り裂いたところで止められた。
志々雄が人差し指と中指を閉じて力を込めて締めてきたからだ。
刃は一応手の平の中央付近までは斬り裂けていた。
けれども、指の付け根から斬られたことの痛みを苦しんでいる様子はなかった。
グリードが驚いたのはその点についての方だった。

514Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:09:57 ID:eNjl2nDw0
「さてと……てめえ、一体どうなってんだ?その体のこともだが、急に人が変わったみてえじゃねえか」
『ギュウウ』

志々雄は、刃が刺さった左手をその状態のまま握り込む。
左手の剣に斬られた部分は柱の男の肉体の特性で再生したため、そんなこともできていた。
そんな状態のまま志々雄は相手に話しかける。
志々雄も相手が急に人格までが変わった様子であることには気付いたようだ。

「ハッ!そっちもずいぶんな体してんじゃねえか。お前もホムンクルス…って訳じゃなさそうだが」

グリードも志々雄に対して悪態をつく。
しかしその顔には微かに冷や汗がかかれていた。
相手の握力はかなり強いらしく、剣を刺している状態でも固定されていた。
グリードでもそこから動かすことはなかなか難しかった。

だがそれでもやはり、相手は自分の手の平を貫通しているという普通は無いだろうシチュエーションで刃を掴んでいる。
いくら握力が強くても、完全なる固定は難しいようだった。
直ぐには無理でも、力を加える回数を重ねれば少しずつならずらして抜くことも出来そうな感じがあった。
その間に相手が自分の剣で攻撃してこようものならダイヤの盾で防御すれば良い、まだこの状況からでも挽回は出来そうだと判断していた。

「フン、この状態でも諦めねえのは良い根性してんじゃねえか」

グリードが自分の剣を志々雄から外そうとしていることには志々雄自身も直ぐに気付く。

「だが、そう上手くいくかな?」

そして志々雄もまたそれを放っておくことはしない。
ここで自分から攻撃しても相手は謎の硬化能力で防ぐかもしれないことは察している。
だから、これまた別の手段をとろうとする。

志々雄は自分が右手で持つエンジンブレードの剣先を、自分の左手の甲の方にまで素早く持ってきた。
左手の甲には相手方の剣先が貫通して突き出ているが、それのやや上辺りの方に刃を一瞬置いた。

「弐の秘剣、紅蓮腕!」

そう叫ぶと同時に、志々雄は自分の左手の甲を斬りつけた。
その際、相手方の刃に自分の刃を擦り付けながら自分の剣を引いた。
斬られた甲から、血が大量に吹き出て、周囲に飛び散っていった。

勢いよく噴射された血液は、グリード&キャメロットの方にも降り注ごうとしていた。
それに気付いたグリードは、急いで自分の上半身の方を黒いダイヤモンドの盾で覆っていった。

「……グアアアアッツゥッ!!?」

相手が急に血液をかけてくるという得たいのしれない行動に対し、咄嗟に体を盾で覆ったところまでは良かった。
しかし、ここで引き起こされた事はグリードの想像を越えてきた。

エシディシとしての肉体に流れる血液、その温度は500℃程という超高熱だ。
そんな高温の液体が、グリード(達)の上に全体的にかかってきた。
上半身を覆う黒ダイヤにより皮膚に直接血液がかかることは防がれた。
ダイヤモンドの発火点はおよそ600〜800℃らしく、それにより500℃の血液により体を直接燃やされることはギリギリ避けられた。
だが、ダイヤモンドは熱伝導が高い。
質量数12の炭素原子が99.9%で構成された単結晶合成ダイヤモンドの室温における熱電導率は銅のおよそ5倍程はあり、これは全ての固体物質中で最も大きいと言われる(wiki調べ)。
それにより、盾を通じて超高温は内側の体の方に直ぐに伝わっていった。
おかげで、盾で守っていたにも関わらず体の方には火傷が負わされた。
また、体の方は発火点まではいかずとも、服はそうはいかなかった。
血液がかけられた部分から発火し、結局のところ上半身はある程度炎上した。

「ソォラアッ!!」
『バキィッ!』
「ガハッ!」

志々雄は更に追い討ちをかけてきた。
熱にグリードが苦しみ始めた瞬間に左手から相手の剣を引き抜き、そのまま拳に握り固めた。
そしてその左の拳を、相手の胸元目掛けて放った。
拳は胸に直撃し、グリード達は後方に吹っ飛ばされた。

志々雄が噴射させてばらまいたエシディシの血液は、グリードの剣を握る手や腕の方にまで飛んできていた。
それによる突然の高温に驚き、グリードは自分が持つ剣を握る力が弱まっていた。
そして今殴られて吹っ飛ばされた衝撃により、剣も完全に持てなくなっていた。
彼らが持っていたエターナルソードは今、志々雄の目の前に落ちていた。

515Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:11:43 ID:eNjl2nDw0


エシディシは、自分の体の中の血管の位置をある程度なら操作できると考えられる。
この殺し合いにおいても、志々雄は自分が扱うエシディシの手の爪の間から血管を飛び出させて血液を噴射することができていた。
それの応用で、志々雄は自分の左手の甲付近に血管をある程度集め、血圧も上げることを試みた。
そこを自分で斬りつけることで、本来の自分の技である紅蓮腕の再現をやってみようとしたのだ。

「……あまり、再現できたとは言い難てえか?」

本来の紅蓮腕は、自分の手甲に仕込んだ火薬を無限刃を擦らせて発生する火花で着火して爆発させる技だ。
今回の志々雄はその代わりに、今の自分の身体を流れる高温の血液を爆発的に撒き散らした。
…とはいっても、実際に爆発が起きた訳ではない。
思い付きでやってみたが、技の再現としては少し甘い部分があったように感じた。
上手いこと剣を擦り合わせたことで発生した火花が、飛び散った高温の血液や脂に連鎖的に引火して爆発のようになってくれたらなんてことも少し期待していたが、流石にそう簡単にそんな現象は起きなかった。
結局は爆発を起こしているのではなく液体を撒き散らしただけのため、もっと別の技として扱った方が良いかもしれない。

「だがまあ、効果はあったな」

志々雄は自分の目の前に落ちたエターナルソードを拾い上げる。
今回の技により相手から武器を手離させることに成功した。

「ほう…なかなか良い剣みてえじゃねえか」

エターナルソードが秘める力を知ってか知らずか、志々雄は剣をまじまじと見つめる。


「スゲーナ・スゴイデス!」
「!」

志々雄が剣を眺めていた隙に、新たな動きがあった。
これまで戦いを静観していた遠坂凛が、一枚のトランプを掲げた。

「アクション仮面参上!」
「カンタムロボ参上!」
「ぶりぶりざえもん、再び参上」

トランプが掲げられたと同時に発生した光の中から、アクション仮面、カンタムロボ、ぶりぶりざえもんの影が召喚された。
彼らを召喚できるトランプはもう残っていない、これが最後だ。
だが、出し惜しみするわけにはいかなくなった。
今キャメロットらだけで戦わせてみた結果、彼らは大きなダメージを負ってしまった。
今後のことがどうとか言っている場合ではない、使える手札は何でも使わなければここを乗り越えることは出来ない。
今戦っている相手はそれ程のものであると、凛も判断していた。

「しんのすけ君!また会えたな!」
「そういうのは後!あんた達、とにかくあいつをやっちゃって!」
「了解した!」

凛は一先ずアクション仮面達に攻撃を指示する。
再会の挨拶等はしている暇は無い。
凛の言葉に応え、彼らも指示に従い志々雄に対し攻撃を仕掛けようとする。

「アクションビーム!」
「カンタムパーンチ!」

アクション仮面はアクションビームを、カンタムロボはカンタムパンチをそれぞれ繰り出す。
彼らの放った光線とロケットパンチは、志々雄の方へと真っ直ぐに向かう。

「フンッ」
『ビシャアアア』

攻撃に対し志々雄はまず、エンジンブレードとエターナルソードを体の前で交差させた。
先に飛んできたビームがその刃に当たり、防がれた。

「シャアアッ!」
『ガキンッ』『バキンッ』

次に飛んできたカンタムロボのパンチの方も、その両手に持った剣をどちらも振り回し、それらをぶつけて防いだ。
剣を叩き付けられるように凪払われたロケットパンチは、大きな斬り傷を付けられながらあらぬ方角へと吹っ飛ばされた。
しばらくした後、ロケットパンチはカンタムの腕に戻った。

516Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:13:25 ID:eNjl2nDw0
「やはり一筋縄じゃいかないようね…」

先の攻防の中で、相手は確かに左手の平を剣が貫いていた。
しかし今はそんなことがなかったかのようにその手で2本目の剣を握って振り回している。
相手は明らかに、再生能力を備えているようだった。
自分で自分の体を傷付けることに躊躇が無いことからも、それが伺える。

「ここはやはり、もう一度私の出番のようだな」

考察をしている凛の隣を、同じくらいの大きさの影が1つてくてくと歩きながら通り過ぎる。
そいつ…ぶりぶりざえもんは志々雄真実の方に近付いていく。

「あんたまさか…」
「……?」
凛はぶりぶりざえもんがやろうとしていることを察する。
志々雄はその謎の豚がのこのこと自分に近付いていくことが理解できず、とりあえず観察して何をするつもりなのか確かめようとする。
志々雄の目の前まで来たぶりぶりざえもんは、振り返って志々雄に背を向けながら凛達のいる方を向く。
そして刀(千歳飴)を構えながら、前の時と同じようなことを言う。

「さあ、どこからでもかかってくるがいい!」
「やっぱり!」

ぶりぶりざえもんの行動に、凛は呆れ果てた。

「前にも言っただろう、私は常に強い者の味方だと」
「あんた本当いい加減にしなさいよ!?」

ぶりぶりざえもんの裏切り行為は前にもあったことだ。
その時は結局悪影響はそれほどなかったため、そこまで本気では怒っている感じはない。
けれども、今はこんなことでふざけている場合ではない。

「ふん、もっともらしいことを言うじゃねえか。豚野郎」

ぶりぶりざえもんに対し、志々雄はわざとらしく感心したように言う。

「さあご主人様、今からコイツらを私の刀の錆にしてご覧にいれ…」
「それじゃあ、早速役に立ってもらおうか」
『ドスッ』
『ガシッ』
「え?」

志々雄はぶりぶりざえもんの言葉を無視しながら一歩前に出て近付く。
左手に持っていたエターナルソードを、近くの地面に突き刺して置いておく。
そして空いた手をぶりぶりざえもんの頭に置き、そのまま鷲掴みにした。

「あの、何を…」
『グイッ』
「わわっ!?」

志々雄はぶりぶりざえもんを真っ直ぐに持ち上げる。
その時の志々雄の目は、とても冷たいものになっていた。

『グンッ!』
「えっ!?」

志々雄は持ち上げたぶりぶりざえもんを、自分の体に押し付けた。
具体的に言えば、腹の部分に押し付けた。
ぶりぶりざえもんは、押し付けられた所から志々雄の…エシディシの肉体に取り込まれていった。


「…熱っ!うアッツ!!アッッチャアアアアアァァーッ!!?」

取り込まれていくぶりぶりざえもんは、高熱による苦しみの声を上げた。
取り込まれていく部分から、エシディシの高温の肉体によりその身を焼かれていった。
500℃の血液が流れるその肉体の中はまさしく、鉄板焼きの上のようなものだろう。

「あっあっあっ、止めて、チャーシューにしないであ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…………」

柱の男は、体全体で他の生物を補食することができる。
自分の体に触れた相手を取り込み、細胞の一つ一つから消化液を出し、細胞の一つ一つで喰っていくのだ。
志々雄は今、エシディシの体を利用してそれをやっていた。
しかもエシディシには前述したように超高温の血液が流れている。
これによりぶりぶりざえもんには今、「焼く」と「喰う」の工程が同時に行われていた。

「この世の摂理は弱肉強食、真に強い者の側に付くのは間違っているとは言わねえ。だがな……何もせずただ強者の隣で甘い汁を啜ろうとするだけの奴はいらねえ」

志々雄がそう言い切ると同時に、ぶりぶりざえもんは完全に取り込まれた。
志々雄の言葉は、もう相手には届いていないようだった。

517Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:15:57 ID:eNjl2nDw0


「……何、何なの、あいつ…」

志々雄の行動に凛は戦慄していた。
自分の体全体で他の生物を喰らう、そんな存在を見るのは初めてのことだった。
再生能力を持つ命を直接的に喰らう存在、これだけだと吸血種の一種か何かのようにも思える。
だが今対峙している存在は、もっと別の何か、そんな気も感じていた。

「き、貴様…何てことを…」
「何もそこまで…」
「フン、こっちに近付いてきて背中を見せる方が悪いのさ」

志々雄の行いに戦慄しているのは残されたアクション仮面達も同じだった。
それに対する志々雄の態度は、何てことも無いかのようだった。
志々雄にとって、今回のことはどちらかと言えば実験的な意味合いが強かった。
柱の男の能力の1つ、体全体を使った補食を試すチャンスがあったからやってみただけのことだ。
相手が人間ではなく豚の姿をしていたことからも、抵抗は少なかった。
もっとも、人間相手でも必要そうなら躊躇わずにやるつもりもあったが。
補食によるエネルギー補給で少しでもの体力回復も狙っていた。
これまでに傷付いた体の再生にエネルギーは使われているはずなので、その消費した分の回復もしたかった。
その目論見もその通りとなり、志々雄はぶりぶりざえもんを食った分の体力が回復している感覚があった。

(……ぶりぶりざえもん…)

凛は先ほど悲惨な最期となったぶりぶりざえもんのことを考える。
あいつは確かに二度も自分達を裏切ろうとしたし、全く役に立たなかった。
それでも、心の中に何かモヤっとしたものが残った感じがあった。
あんなのでも、おバカな言動が多少は心の清涼剤になっていたのかもしれない。
…いや、それは流石に過大評価か。

(とにかく、あいつはどうすれば…)
「くっ…」「ムウ…」

凛達は志々雄の所業に驚き、動きが少し止まっていた。
身体のどこからでも捕食するという能力を見せられたことで、攻めあぐねているところがあった。
機械の体のカンタムロボは取り込まれる可能性は低いが、アクション仮面の方は接近戦を行おうとすれば体を食われる可能性がある。
カンタムロボは接近、アクション仮面は遠距離から攻撃しようとすればカンタムロボもアクション仮面の攻撃の巻き添えを喰らう可能性がある。
となるとどちらも遠距離から攻撃するしかないが、前と同じように攻撃を防がれるかもしれない。
凛はここからどうするのがベストなのか、考えを巡らせていた。

そうなっていた時に、凛の考えに関わらずに新たな動きを見せる者もいた。


『ビュン!』
「あっ、ちょっと!」

それは、先ほど志々雄に殴り飛ばされたグリードだ。
両手が黒のダイヤモンドに覆われていることから、まだキャメロットに戻っていないことが分かる。
そして片方の手には、志々雄に奪われたエターナルソードの代わりに別の武器が握られていた。
アルトリアとしての青いドレス衣装は、ところどころ一部が焼け焦げてボロボロにもなっていた。
火傷の方は、ホムンクルスとしての再生能力により治っている。
そんな状態のグリードは、凛の隣を素早く駆け抜けて、志々雄のいる方へと向かっていった。


「その刀は…!チッ!」

志々雄がその武器を見て驚いたような反応を見せる。
それでも志々雄は手に持つ剣を相手に向けて構える。
先ほど近くに刺し置いたエターナルソードも念のためもう一度拾っておき、迎撃に備える。

グリードが今持っている武器…刀の名は逆刃刀。
志々雄真実にとって人斬りとしての先輩であり生前の最後の宿敵である男、緋村剣心が「不殺」の誓いのために所持していた刀だ。

「オリャアッ!」

グリードは跳びながら逆刃刀を振りかぶり志々雄に叩き付けようとする。
先のことのおかげで、自分の体で直接攻撃しようものなら大火傷することは分かっている。
とは言っても、盾も無しでは結局他の攻撃等から身を守れない。
だから今はダイヤモンドの盾を展開しながらも逆刃刀で攻撃しようとしている。

518Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:17:05 ID:eNjl2nDw0
『ガアァンッ!』

逆刃刀とエンジンブレードの刃がぶつかり合う。
それと同時にグリードは着地し、そのまま志々雄と鍔迫り合いを始める。

「まさかここでその刀を見ることになるとはな。そんな斬れない刀を使って、てめえも誰も殺さないようにするつもりか?」
「ハッ!これしか無いから仕方なく使っているだけだ!」
「まあそうだよな。そんな奇特な奴、あいつしかいねえだろう」

片手で持ったエンジンブレードだけで受け止めながら、志々雄はグリードに声をかける。
志々雄の表情は、喜ばしさと忌々しさ、どちらも混ざったような複雑な感じになっていた。
実際彼の内面もまた同じで、表情はそれがそのまま反映されていた。
自分と相容れない最期の宿敵が扱っていた武器を見て、忌まわしいという気持ちとほんの少しでもリベンジになるかもしれないという気持ちがない交ぜになってきていた。
そんな気持ちになりながらも、志々雄はその刀をまだ押し止めていた。
これに対してグリードが両手で握って力を込める形に変えても、状況は変わらなかった。

「!」
「アクションビーム!」

グリードとの鍔迫り合いの隙に、アクション仮面が攻撃を仕掛けてきた。
志々雄から見ればエンジンブレードを持つ右側に向けて、アクションビームを撃ってきた。
その方で持つ剣を今別のことに使用中のため、ビームを防ぐのに使えないであろうことからそちら側の方からアクション仮面は仕掛けた。

「フン!」
『ギャリッ』『ガンッ!』
「グッ…!」

アクション仮面が行動しようとしていることに気付いた志々雄は、素早くエンジンブレードを動かして相手の刀を切り払った。
刀の側面に沿って手首のスナップで刃を少し上げて走らせて、相手の体勢をほんの少し崩す。
その後に腕を動かして刃を反対側に少しずらし、腕を勢いよく戻して横から強く刀を叩き、それでより相手の体勢を崩す。
そうした直後、志々雄は後ろ向きに跳んだ。
志々雄は、アクションビームをギリギリのところで避けれた。

「カンタムパンチ!」

志々雄がビームを避けた直後で、カンタムも攻撃を試みる。
ロケットパンチを右腕だけ飛ばし、志々雄の左側の方から攻めさせる。

「シイィィッ!!」
『ガンッ!』『バキンッ!!』

これに対しても志々雄は素早く反応する。
両手の2本の剣を振り上げ、順番にロケットパンチに向けて叩き付ける。
最初にぶつかったエターナルソードの刃が、飛んできたパンチの威力を殺して止める。
直後に振り下ろされたエンジンソードの刃が、前に斬った時に付けた傷を捉えた。
その傷から刃がロケットパンチの中に入り、そこも切り裂いていった。

『ボンッ!』

エンジンブレードはやがてロケットパンチを完全に両断し、直後にその拳は爆発した。
この瞬間、カンタムロボは片腕だけで立ち尽くすことになってしまっていた。


(私と代わってください!奴に対抗するには剣技が必要です!)
『けどよ…またあの血をかけられたらどうすんだ?盾があってもアレなら、直はもっとヤバいかもしれねえぞ』
(それは…そうかもしれませんが…)

これまでのことから、相手は高い剣技を持っていいることが考えられる。
そしてキャメロットとグリードなら、キャメロットの方が剣の扱いを心得ている。
だからここはキャメロットの方が相手により対抗できるかもしれない。
しかし、キャメロットでは相手の攻撃を素肌のまま受け止めてしまうかもしれず、そうなってはグリードの盾越しの時より酷いダメージになるかもしれない。
盾があっても熱は貫通するため先ほどでもダメージは酷かったが、それでも無いよりはマシだったかもしれない。
ダメージを受けた時にそれを治すのもグリードじゃないとできない。
そういったこと等を考えると、代わることに躊躇する気持ちも少し出てくる。
攻撃を防いだりダメージ回復の時だけ代わるにしても、それだと短時間で何度も代わることになりそうで、これはタイミング等の問題で難しそうに思える。

519Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:18:51 ID:eNjl2nDw0


「なあ、お前…やっぱその刀だと戦いにくいだろ。こいつを返してやろうか?」
「何…?」

志々雄は突如、先に奪ったエターナルソードを見せびらかすような持ち方をながらそんなことを言ってきた。
その直ぐ後に、志々雄は左腕を地面に対して水平寄りに動かしながら、エターナルソードを後ろの方に振りかぶる。

「そら、受け取れ!」

志々雄はエターナルソードを、横向きに力を込めて思いっきりぶん投げた。
エターナルソードは地面に対して水平な状態で高速で回転しながら空中を飛んで行った。
しかしそれは、剣を獲られた張本人であるグリードの下には飛んで来なかった。

「え…」

エターナルソードの行き先は、後ろの方で戦いを見守っていた凛の方であった。

「危ない!カンタムブーメラン!」

カンタムロボが咄嗟に背中のウイングを残った左手で取り外し、ブーメランとして投げつける。
ブーメランは空中のエターナルソードの方へと向かう。

『ドスッ』『ボンッ!』

エターナルソードはブーメランに突き刺さる。
ブーメランとなっていたウイングのブースターが壊れたことにより、爆発する。
カンタムロボはこれで右腕だけでなく背中のウイングも失うことになった。
爆風によってエターナルソードは凛のいる方とは別方向に飛んで行く。
ただしそれは、グリードらのいる方から離れていく方向であったが。

「っのやろ…!」

エターナルソードが投げられたことでグリードは一瞬凛のいる後方へ視線を向けさせられた。
けれどもカンタムロボによって阻止されたことで、再び志々雄へと対峙しようとする。

「…!?」

しかしグリードは再び動きを止めてしまう。
異様な光景がそこで見て取れた。

志々雄の左手の平から、刀の先端が生えてきていた。
その刀は、ニョキニョキと少しずつ這い出てきていた。
やがてその先端は、"折れた"状態で手の平の中から完全に飛び出て来た。
志々雄はその折れた刀の先端を左手の平で摘まむようにキャッチする。

「もう一発(いっぱぁつ)!」

志々雄は刀の先端も、凛のいる方へと投げつけた。
刀の先端も、ブーメランのように地面に水平に回転しながら凛の下へと飛んで行った。

「うおおおおお!!」

これに対して動けたのはアクション仮面だった。
アクション仮面は凛の下へと駆け出した。

「しんのすけ君!」
「きゃ!」

アクション仮面は走りながら自分の膝下くらいの大きさのしんのすけボディの凛を抱きかかえる。
走って移動しながら抱きかかえたことで、ギリギリ凛のいた場所を刀の先端が通過したところで避けさせることができた。



志々雄が今投げた刀の先端は、前の南西の森での戦いでDIOが持っていた時雨のものだ。
志々雄が折ったためにDIOが捨てたその刀を、志々雄は念のため回収していた。
電話ボックスが使えるようになるまでの待ち時間の時、試しに周囲を探してみたら発見できた。

そしてその刀の先端を、自分の体内に隠すことを思いついた。
突如として身体の中から飛び出させてみれば、不意を突けるかもしれないと考えた。
再生能力と肉体操作能力のある柱の男の肉体ならば、体内に刃物を隠していても戦闘能力への影響は少ないとも考えられた。
隠し場所には左腕の中を選んだ。
腕の中ならば咄嗟に取り出してすぐに手に持って扱えるためだ。

念のため、折れた時雨の残りの部分と、もう1つのDIOが落としていった黒刀である秋水も探して拾って回収しておいた。
これらは本当に一応回収しておいただけで、今後使わない可能性の方が高そうだが。

それに今投げた先端の欠片は、ずっと高体温の身体の中に入れていた後に思いっきりぶん投げたため、もうボロボロになって使いものにならない可能性が高いだろう。




「おい!…くそっ!」

凛の方へ向けて二回も連続で攻撃が仕掛けられたことにグリードは注意を逸らされてしまった。
結果的に何とかなったが、どちらもグリードは止められなかった。
このことにより、グリードは集中力を大きめに乱された。
それでも何とかもう一度志々雄に向き直ろうとする。

520Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:21:55 ID:eNjl2nDw0
「余所見ばっかしてんじゃねえぞ!」
「ガッ…!?」

しかし、完全に向き直る前に志々雄の行動を許してしまった。
志々雄は空いた左手を伸ばし、それでアルトリアとしての顔面を掴んできた。
その際、志々雄は左手の親指を口の端に引っ掻けてきた。

「なへるんひゃ…」

グリードは顔から全身にダイヤモンドの盾を展開する。
相手が熱でも攻撃するのが分かっているのではあれば、まだ耐えやすい。
盾越しでもダメージは受けるが、その先から治していけば良い。
先は突然のことだったため剣を奪われるという失態を演じてしまったが、今度はそうはいかない。
グリードは心構えをしながら、反撃しようとしていた。

しかし、グリードには1つ知らないことがあった。
グリードは今、相手が血で攻撃するためには自傷行為が必要だと認識していた。
前の攻撃の時はそのようにしていたからだ。
けれども、それはエシディシの肉体の能力の本領ではない。
エシディシは肉体操作により、わざわざ道具で傷口を作らなくても血管を外に出すことができた。
志々雄はかなり前の戦いでもそれを行えていた。
そして今、志々雄はグリードの顔を掴んだ左手親指の爪の間から、血管を外に出していた。

更にもう1つ、グリードには誤算があった。
グリードが最強と自負するダイヤモンドの盾には、穴があった。
原作でそんな描写がある訳ではないが、ここではそうだと解釈する。
それは、呼吸のために必要な穴だ。
目の部分であるならば、透明なダイヤモンドで覆えば良い。
しかし、呼吸穴ならばそうはいかない。
体内にまでも盾を張り巡らせる訳にもいかない、肺を塞ぐようなことをすればやはり酸素が体に取り込まれず窒息してしまう。

これらのことが意味することはただ1つだけだ。

「溺れな」
『ドピュルルル』

志々雄は、グリードの反撃がある前に左手親指から口の中に血液を流した。

「ぐぼっ…ごばぼぼぼぼぼぉっ!!?」

グリードの口内に灼熱が広がった。
超高温の血液は、喉奥の方にまで流れていった。
焼かれることによる激痛が、口から体中を駆け巡る。
気管や食道を焼きながら流れていく血液はやがて肺や胃へとたどり着き、そこに穴を焼き開けて更に下へと流れ出る。
そうして他の内臓をも沸騰する血液が焼いていく。
体は発火点を越え、口の中から火も吹き出してくる。
口の中から溢れた血液や体の中から外に貫通して流れた血液により上半身の服にも火がつき、燃え広がる。
目にも高熱は伝わり、眼球内の水分が沸騰し視力も奪われる。

『熱い!熱い!熱い!!熱い!!!』

内臓を焼かれながらも、ホムンクルスとしての再生能力が直ぐに治していく。
このおかげで、彼らの命までには届かない。
しかし治しても治しても、また直ぐに焼かれていく。
燃焼と再生が連続で繰り返されることで、死ぬこともできず余計に地獄のような苦しみがグリードを襲う。
ダイヤモンドの盾で体を覆うこともできなくなっていく。
再生に必要な賢者の石の中の命も、毎秒消費されていく。
――この感覚を、グリードはどこかで味わったことのあるような気がした。
――しかし、今はそれを思い出している暇は無い。



「ん゛ーーーっ!!ごぶお゛―――っ!!!」
「その人を離せ!」

グリードを体の内側から焼かれている志々雄に対し、カンタムロボが止めるべく向かって来た。
カンタムロボは志々雄に向かって走りながら跳び蹴りを繰り出した。

「ソラッ!」
『ブンッ!』

志々雄は左手で口を掴んでいたグリードを持ち上げる。
そしてそれを、カンタムロボに向かってぶん投げた。

『ドンッ』
「ぐおっ…!」

グリードとカンタムロボは空中でぶつかった。
カンタムロボは怯み、志々雄にキックが届く前に地面に落ちた。
グリードも別方向の地面に落ちて倒れる。
口の中から飲まされた血液を垂れ流しながらピクピクと痙攣していて、起き上がる様子はなかった。
投げられた際に右頬の肉が引き千切られ、口の右側は裂けていた。
千切られた小さな肉は、志々雄の指からエシディシとしての肉体の方に吸収されたようだった。

高熱で攻められていた際に背負っていたデイパックの紐が切れたようで、それも投げられた時に地面の別の所に落ちていた。
けれども逆刃刀はまだ、手から離さず握っていた。

『HEAT! MAXIMUM DRIVE!』
「それじゃあ、次はお前にもご退場願おうか」

志々雄は空いた左手で、エンジンブレードにヒートメモリを抜き差しする。
その視線の先には、何とか立ち上がろうとしているカンタムロボがいた。

「シャアアッ!」

志々雄は剣に炎を纏い振り上げながらカンタムロボの方に向かっていく。

521Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:23:24 ID:eNjl2nDw0
「くそおっ!」
『バンッ』『ボロッ』
「うおっ!?」
『スカッ』

志々雄はカンタムロボに対し剣を斬りつけようとした。
しかし刃が届きそうになった瞬間、カンタムロボは残った左腕で地面を叩いた。
その衝撃で、カンタムロボの上半身と下半身が分離した。
本来なら分離するたまには背中のブースターを推進力にしないといけないのだが、それは破壊されてしまった。
そのために地面を叩いた衝撃の反動を利用して分離し、志々雄の攻撃を避けた。
しかし、ここからかこんな状態で動くための方法が無い。

「カンタム…パーンチ!!」
「ぐおおっ!?」

これがカンタムロボにできる最後のことだった。
残った左腕をロケットパンチとして志々雄に撃ち出した。
ロケットパンチは志々雄に命中し、後方へと吹っ飛ばした。

「ふん…まあ最後っ屁としては及第点といったところか」

しかし、志々雄はそこまで遠くに吹っ飛ばなかった。
エシディシの身体とエンジンブレードの重さもあり、片腕だけのロケットパンチではあまり動かすことはできなかった。
カンタムロボ自身もこうなることは分かっていた。
自分に出来るのは、少しの時間稼ぎだけだもいうことも。
志々雄はまたカンタムロボの方に近付いてくる。
ロケットパンチの腕はカンタムロボの方に戻ってきたが、これをもう一度撃つ隙はもう作れない。

「わ、私が消えても、正義の魂は消えな…」
『ザンッ!』
「があっ…!」
『ドスッ』

志々雄はまだ火を纏っていたエンジンブレードでカンタムロボの上半身を斬りつけた。
左腕でカンタムロボは防御しようとするが、その意味もあまり無い。
斬りつけて大きな傷を作った後、ダメ押しに志々雄は剣をカンタムロボの胸の辺りに突き刺した。

「じゃあな」
『バチッバチッ』『ボンッ!!』

志々雄が剣を引き抜き、少し離れた後にカンタムロボは爆発した。
残された下半身もそれに伴い、その場から消滅していた。



「ハアアアッ!」
「!」
『ガキィン!』

カンタムロボを破壊した後の志々雄に攻撃が仕掛けられる。
志々雄が攻撃をエンジンブレードで防いだことで金属音が鳴る。

「次の相手は私だ!」

攻撃してきたのは、エターナルソードを持ったアクション仮面だ。
先ほど志々雄がカンタムロボの相手をしていた隙に、剣を拾っていた。

「……私ももうすぐ消える。けれども、最後までお前の相手をするぞ!」
「あなた、まさか…」

凛はアクション仮面が今からどうしようとしているのかを察する。
そしてそれが、この場において最適解であることも。

自分たちだけではもう、目の前の大男に敵わない。
これまで出会った、他の協力者達の手も借りなくてはならない。
だが、そう簡単に相手から逃げられるとも思えない。
だから、トランプの効果の時間制限のあるアクション仮面が一人残り足止めしようというのだ。

「そいつは妙案かもしれねえが…お前が消えた後でも俺はあのガキに追い付けたら全部無駄だろ」

志々雄が問題点を指摘する。
今の志々雄の認識では、逃げるとしてもしんのすけの身体の凛が一人だけとなっている。
身長のかなり低いしんのすけの身体では、最初にここまで来るために乗っていたバイクを運転出来ない。
その身1つだけで走って逃げても、アクション仮面が消えるか倒された後に、大きな体で身体能力も高い状態の志々雄に追い付かれるかもしれない。

「それには及びません!」
「!」
『ガキンッ!』

別方向から志々雄に向けて新たな攻撃が飛んで来た。
志々雄はエンジンブレードを咄嗟に振ってそれを防ぐ。

「ほお…まさかまだ生きていたとは」
「……ええ、彼のお陰で」

志々雄に攻撃してきたのはアルトリアの姿をしたグリード…ではなく、キャメロットだ。
少し見ない間に人格が切り替わっていた。
内側から焼かれたことによる大ダメージは治っているようだった。
顔の引き裂かれていた右頬も元に戻っている。
頭の後ろで纏められていた髪はほどけ、下ろされた状態になっていた。
そんな彼女の服装についてだが、とても酷いものになっていた。
何と、ドレスの上半身がほとんど燃えたり破れたりして失われていて、ほぼ半裸な状態となっていた。
右腕の袖どころだけでなく、パフスリーブまでもが焼失して両腕両肩が丸出しになっている。
胸の小ぶりな乳房や腹回りまでもドレスが焼失して露出しているが、それを恥じる様子は無い、と言うよりは恥じている余裕が無い。
体中の至るところに張り付いている燃えカスや煤等が彼女がどうしてこんな格好をしているのかを示すものとなっている。


志々雄としては、キャメロットがまだ生きていることには驚いている気持ちがあった。
最初に負わせた火傷を治してきたことから今の自分と同じく自己再生能力があること自体は予測していた。
しかしまさか、超高温血液を大量に飲ませても復帰してくる程のものだとは思っていなかった。

522Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:26:03 ID:eNjl2nDw0
キャメロット側の方も、今は全く平気という訳ではない。
ダメージはグリードが治してくれたが、それによる消耗は激しかった。
再生のために賢者の石の中の命をほとんど消費してしまっており、そのことも申し訳ない気持ちが出てきている。

また、実は今はグリードの意識は眠っている状態になってしまっている。
高熱でかなり苦しめられたことと、全力で再生に力を注いだことで精神力をほとんど失ってしまったようだった。
次に彼が何時起きてくるかは分からない。
賢者の石の力をほとんど使ってしまったらしいことを考えると、もう再生能力ばかりに頼るわけにもいかなくなる。
致命的なダメージを受けないように、要注意しなければならない。

「ウ、グッ…ゲホッ、ゴホッ」

後遺症もまだ残っていた。
飲まされた血が固まったものが気管等に残ってしまっているようで、その影響で咳き込んでしまう。
それに熱もまだ残っているようで、頭がクラっとしている感覚がある気もする。

「おいおいどうした?体調が悪そうに見えるが」
「……それでも、動かなくてはならないのです。守りたいものを守るために!」

志々雄も指摘する通りだ。
だけども、今はそれを気にしている場合でもない。
ここを生き延びるためには、自分がバイクを運転して凛を乗せて離れるしかないのだ。



「デエェヤアッ!」「ヤアアァッ!」
「シイィ!」
『キンッ!』『カアン!』

アクション仮面とキャメロットがそれぞれ武器を志々雄に振るう。
志々雄はそれを自分が持つ剣で捌く。

「ヌオオォッ!」
『ギインッ!』『ギリギリ…』

やがて、アクション仮面と志々雄とで鍔迫り合いの形になる。
アクション仮面は元々剣術も芸達者だ。

「そのままでお願いします!」
「ヌウ…?」

アクション仮面が一時的に志々雄を押さえた形になったところで、キャメロットが後ろ向きに跳んで少し離れる。
そこで彼女は、刀に風を纏わせ始める。
ただしそれは、この戦いの最初の頃にやったような風の結界を張ることを目的としたものではない。

「離れてください!」
「ハアッ!」
「ヌッ…」

キャメロットの言葉にアクション仮面が後ろに跳んで志々雄から離れる。

「風王…鉄槌(ストライク・エア)!」
「グオオ!?」

アクション仮面が離れた瞬間に、キャメロットは刀を突いて圧縮した風を志々雄に向けて解き放った。
志々雄は風に押され、離れた所に飛ばされる。

「しんのすけ君!今の内に!」
「分かったわ!」
「凛!行きましょう!」

志々雄が離れた隙に、凛とキャメロットが停めてあったバイクの方に急いで向かう。
志々雄は離されたといっても、全重量の関係でそこまで遠くまで行っていない。
ここは時間との勝負だ。

「君!これを!」
「えっ?あっ!」
『パシッ』

キャメロットがバイクに乗ろうとした直前、アクション仮面がエターナルソードを投げ渡してきた。
キャメロットはそれを咄嗟に受け取る。

「その刀だけじゃ扱いづらいだろう!持って行ってくれ!」
「ですが、あなたは…」
「大丈夫だ!何とかするさ!」
「っ…分かりました!」

キャメロットは武器を手放したアクション仮面を気遣うが、問題ないと返される。
急がなければならない現状、そう言うのなら信じて飲み込むしかない。
キャメロットは逆刃刀含め自分が持っている武器を凛のデイパックに入れさせてもらう。
バイクに跨がり、エンジンをかけて出発の準備をする。

523Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:27:19 ID:eNjl2nDw0
「しんのすけ君…いや、凛君!」
「え?」

凛もバイクに乗ってキャメロットの腰辺りに掴まった所で、アクション仮面に声をかけられた。
アクション仮面はその時初めて、しんのすけではなく凛の名前を呼んだ。

「時間を稼ぐのはいいが…別に、アレを倒してしまっても構わないのだろう?」
「……………ええ、遠慮はいらないわ。がつんと痛い目に合わせちゃって」
「そうか。ならば、期待に応えるとしよう!」

アクション仮面が背中を見せながら言ったことに凛はそう返す。
もし本当にアクション仮面がそれを実現できるだけの実力があったとしても、時間制限的にそれは不可能なのことはアクション仮面自身も分かっている。
それでもそんな言葉をかけてきたのは、自分を奮い立たせるため、そして少しでも凛達の心に余裕を生ませるため。
それもまた分かっているからこそ、凛は上記のような言葉を返した。

「行きます!」
『ブン!』

凛がアクション仮面と最後のやり取りをした直後で、キャメロットはバイクを発進させた。
キャメロットのコンディションの影響で蛇行運転気味になってしまったが、何とかこの場から離れていった。


◆◇


「お前…本当に1人で俺を倒せるつもりなのか?武器まで手放してしまってよ」
「さあな……だが、何故だか彼女には、この場ではああ言うべきだと思ってしまったのさ」

戻ってきた志々雄とアクション仮面が相対する。
志々雄は剣を構えて、殺意を向ける。

「それじゃあ本当に丸腰でもやれるかどうか、確かめてやろうじゃねえか!」

志々雄は走りながら剣を振りかぶり、アクション仮面を斬りつけようとする。

「アクションパンチ!」
『バキッ』
「アクションキック!」
『ゴンッ』
「ぬ…」

アクション仮面はパンチやキックで剣による攻撃を弾く。

「シャアッ!」
「ムンッ!」

それでも力任せに斬りつけようとする志々雄に対し、アクション仮面は地面を転がりながら避ける。

「アクションビーム!」
「グウウ…」

避けた先でアクション仮面は片膝を着きながらアクションビームを放つ。
志々雄はそれをまたもエンジンブレードを前に出しながら防ぐ。

「この…!」
『ドッピュン!』
「くっ…!」

ビームを防御しながらも、志々雄は指の爪の隙間から血管針を伸ばす。
そしてその中から沸騰した血液を発射する。
アクション仮面はビームを取り止め、またも地面を転がって攻撃を避ける。

「どうした、このままで本当に俺を倒せるのか?」
「ぐう…」

今の状況はアクション仮面にとって芳しくない。
制限時間はもうすぐそこまで迫っているが、このままでは大したダメージも与えられずに終わってしまう。

「む?」

そんな中、アクション仮面はあるものが落ちていることに気付く。
それは、キャメロット(とグリード)が戦いの中で落としてしまったデイパックだ。

「これは…」

デイパックの口は開いており、そこから1つの品がこぼれ出ていた。
アクション仮面は思わずそれを拾って手に取る。
それは、赤く輝くとても美しい大きな宝石であった。

「凛…キャメロット……私に、力を貸してくれ…!」

この宝石が一体何なのかは全く分からない。
けれどもこれは、キャメロットたちが持っていたものであることは確かだ。
だから、彼女らの想いも背負っているんだと自分を奮い立たせるために、宝石を強く握りしめる。

「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」
「……志々雄真実だ」
「そうか。ならば志々雄真実!私の最後の一撃を受けてみろ!」

アクション仮面はアクションビームの構えをとる。
そこに、今まで以上の力を込めて。

「アクション……ビーームッ!!」

524Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:29:04 ID:eNjl2nDw0



「…?」

アクション仮面がビームを放とうとした時だった。

『ボゴン』
「グアアアッ!?」

宝石を握りしめていた右手から、その手の甲を貫きながらレーザービームのようなものが放たれた。
そのレーザーは、アクション仮面が手の甲を前に向けて構えていたため、真っ直ぐに志々雄の方に向けて高速で飛んで行った。
アクションビームよりも速かった。
もっと細かく言えば、レーザーは志々雄の顔に向かって行った。

「うおおっ!!?」

志々雄は咄嗟に頭を横に振って避けようとする。

「ガアアアアアアァァァッ!!?」

しかし、完全には避けきれなかった。
レーザーは志々雄の左目に命中した。

「あっ…ぐあ…」

左目を貫かれたことで志々雄が体をぐらつかせ、片膝をついて崩れ落ちた。
レーザーに貫かれた時、志々雄にはこの殺し合いが始まってから今までで一番の"痛み"が走った。
脳も傷ついたのか、気分も急激に悪くなった。

「な、何だあ、こりゃ…?」

左目から開けられた穴に志々雄は違和感を覚える。
そこに開いた傷は、再生速度が遅くなっているようだった。

「く…そ…」

志々雄に焦りの感情が生じる。
今の攻撃で受けたダメージは今までで一番大きなものだ。
このままでは、相手は本当に自分の命に届きうる。
志々雄は左目を手で押さえてよろめきながらも立ち上がり、剣を構え直す。
やられる前にやる、そうしようと思いながらアクション仮面の方に向き直る。


「ああ……もっと早く気付けていれば……」

しかし志々雄が立ち上がった時、アクション仮面は甲が貫かれた右手を見ながら悔しそうな顔をしていた。
その視線の先には、先ほど拾った赤い宝石があった(手に穴が開いたといっても、宝石が通り抜けて落ちる程の大きさではない)。

その直後に、アクション仮面の姿がかき消えた。
トランプの効果の制限時間が来てしまったのだ。
アクション仮面が消えた後、彼が持っていた宝石は地面に落ちていった。



「…………ちっ、締まらねえ最後だな」

志々雄は顔をしかめながらアクション仮面が消えた場所に近付く。
まさかこのタイミングで相手側が時間制限で消えるとは思わなかった。
自分が大きなダメージを負わされた直後にこんな結果になったことには、まるで勝ち逃げされたかのような気分にさせられる。
どうせなら自分の手で直接殺したかったような気持ちにさせられる。

「しかしあいつ、何を見てたんだ?」

志々雄はアクション仮面が立っていた場所までたどり着く。
そしてそこの地面に落とされた物体を探し始める。

「これは…」

志々雄にとって、その物体…宝石は初見のものだ。
しかし、その身体側であるエシディシにとってはそうではなかった。

この宝石に光が入り込むと、光は中で何億回も反射され、やがて一点から凝縮されて発射される。
その威力はまるでレーザービームのようなものだ。
更にこの宝石には、今の志々雄の肉体である柱の男の弱点である太陽光、それと同等のエネルギーである"波紋"を増幅して発射する効果も持つ。

アクション仮面はこの宝石を握り込んだままアクションビームを発射しようとした結果、宝石の中でビームのエネルギーが凝縮され、手の甲を貫きながら発射された。
アクションビームは波紋ではないが、赤石の中でエネルギーが増幅されたことで僅かながらに太陽光に近いエネルギーを持ってしまったようだった。
それにより、レーザーを受けた部分だけ傷は治りが遅くなっていた。


宝石の名前はエイジャの赤石。
柱の男が究極生命体になるためにも必要なものでもある。

525Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:31:27 ID:eNjl2nDw0
【C-5とC-4の境目付近 道路/夜中】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[身体]:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん
[状態]:疲労(大)、精神的ショック(大)、乗車中
[装備]:
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜2(煉獄の分、刀剣類はなし)、煉獄の首輪、逆刃刀@るろうに剣心、エターナルソード@テイルズオブファンタジア
[思考・状況]基本方針:他の参加者の様子を伺いながら行動する。
1:奴(志々雄)から離れて雨宮君達との合流を目指す。
2:あいつら(アクション仮面達)…無茶しちゃって…………1人自業自得かもしれないけど……
3:キャメロットと行動、グリードはどうしようかしら、そもそもまだ生きてんの?
4:サーヴァントシステムに干渉しているかもしれないし第三魔法って、頭が痛いわ。
5:私の身体に関しては、放送ではっきり言われてもうなんか吹っ切れた。
6:身体の持ち主(野原しんのすけ)を探したい。多分雨宮君達の方が先に見付けそうね。
7:アイツ(ダグバ)倒せてないってどんだけ丈夫なの。っていうかもっとヤバくなれるってなんなのよ。
8:アルフォンス、ちょっとマズいことになってない?
9:施設とかキョウヤ関係者とか、やること増えてきたわね……
10:亀?カメラ?どういうことなのよ。
11:ある程度戦力を揃えて、安全と判断できるなら向かうC-5へ向かいたかったけど……もうそれどころじゃないわ…
[備考]
※参戦時期は少なくとも士郎と同盟を組んだ後。セイバーの真名をまだ知らない時期です。
※野原しんのすけのことについてだいたい理解しました。
※ガンド撃ちや鉱石魔術は使えませんが八極拳は使えるかもしれません。
※御城プロジェクト:Reの世界観について知りました。
※地図の後出しに関して『主催もすべて把握できてないから後出ししてる』と考えてます。
※城プロ、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました
※ゲンガーと情報交換してます。

526Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:31:57 ID:eNjl2nDw0
【キャメロット城(グリード)@御城プロジェクト:Re(鋼の錬金術師)】
[身体]:アルトリア・ペンドラゴン@Fateシリーズ
[状態]:グリードとの肉体共有、マスターによるステータス低下、疲労(極大)、上半身ほぼ裸、服の破片や煤等が体中に貼り付いている、スカート部分が破れてる、精神疲労(大・キャメロットの精神)、複雑な心境(キャメロットの精神)、運転中、体温上昇、咳気味、グリードの精神の沈黙、賢者の石内の命がほぼ枯渇
[装備]:マシンディケイダー@仮面ライダーディケイド
[道具]:
[思考・状況]基本方針:一人でも多くの物語を守り抜く。
1:奴(志々雄)から離れて雨宮さん達との合流を目指す。
2:凛さんを守る。
3:アーサー王はなぜそうまでして聖杯を……
4:白い弓兵、ディケイド、銀髪の剣士を警戒。これ以上あの弓兵の被害が広まる前に……
5:グリードの物語も守ります。ですが、もし敵に回るなら……
6:リオン・マグナス……その名は忘れません。
7:アクション仮面達のことも忘れない
7:かなり大変な格好になってしまいましたが、今は気にしている場合ではありませんね…
8:エターナルソード、使わせてもらいます。
[グリードの思考・状況]基本方針:この世の全てが欲しい! ボンドルドの願いも!
0:………
1:欲しいものを全て手に入れる。けどどういう手順で行くかねぇ。
2:取り敢えずキャメコに力を貸してやる。もし期待外れなら……
3:親父がいねえなら自由を満喫するぜ!
4:あの野郎(志々雄)…
[備考]
※参戦時期はアイギスコラボ(異界門と英傑の戦士)終了後です。
 このため城プロにおける主人公となる殿たちとの面識はありません。
※服装はドレス(鎧なし、FGOで言う第一。本家で言うセイバールート終盤)です
※湖の乙女の加護は問題なく機能します。
 約束された勝利の剣は当然できません。
※『風王結界』『風王鉄槌』ができるようになりました。
 スキル『竜の炉心』も自由意志で使えるようになってます。
 『輝ける路』についてはまだ完全には扱えません。
 (これらはキャメロットの精神の状態でのみ)
※賢者の石@鋼の錬金術師を取り込んだため、相当数の魂食いに近しい魔力供給を受けています。
 →賢者の石の中の命がほとんど消費されました。魔力供給量が減るかもしれません。
※Fate/stay nightの世界観および聖杯戦争について知りました。
※Fate、鋼の錬金術師、ポケダンのある程度の世界観を把握しました。
※グリードのメモ+バリーの注意書きメモにはグリードの簡潔な人物像、
 『バリーはちょっと問題がある人だから気をつけて。多分キャメロットさんが無事なら乗らないと思う。
  後産屋敷さんはまともに喋れてないのもあるから、殆ど人物像が分からないのも少し気をつけておいて。』
 の一文が添えられてます。
※グリードに身体を乗っ取られましたが現在は彼女に返しています。
※グリードが表に出た時スキル、宝具がキャメロット同様に機能するかは別です。
 湖の乙女の加護は問題なく発動します。
※グリードの記憶は少なくとも二代目(所謂グリリン)であり、
 少なくとも記憶を取り戻す前のグリードです。
※グリードが表に出た時はホムンクルス由来の最強の盾が使えます。
 最強の盾がどう制限されてるかは後続の書き手にお任せします。
※キャメロット城の名前をキャメコと勘違いしてます。
※一度石化された後腕が砕けたので右腕の袖が二の腕までになってます。
 →服の上半身部分がほとんど消失しました。ほぼ半裸です。服の破片や煤なども体中に貼り付いています。
※ゲンガーと情報交換してます。

527Awake ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:32:43 ID:eNjl2nDw0
【C-5 道路/夜中】

【志々雄真実@るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-】
[身体]:エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険
[状態]:疲労(大)、左目から後頭部にかけて貫通する大穴(この部分のみ再生力低下中)
[装備]:エンジンブレード+ヒートメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品、炎刀「銃」@刀語、アルフォンスの鎧@鋼の錬金術師、時雨(三分の一程折れている)@ONE PIECE、秋水(鍔が一部欠けている)@ONE PIECE
[思考・状況]基本方針:弱肉強食の摂理に従い、参加者も主催者も皆殺し
1:この石(エイジャの赤石)は…
2:奴ら(凛、キャメロット)を追う
3:首輪を外せそうな奴は生かしておく
4:戦った連中(魔王、JUDO)を積極的に探す気は無い。生きてりゃその内会えんだろ
5:再びあいつ(JUDO)と戦う時が来たら、自分の身体が再生能力を持っていることは忘れる
6:未知の技術や異能に強い興味
7:日中、緊急時の移動には鎧を着る。窮屈だがな
8:一人殺したってことは、”ものものましーん”が使えるんだよな?
9:だが、自分の首輪を外すためには、残しておくための首輪の予備も必要になるか?
10:あいつ(DIO)は…もうダメだな
11:まさかこんなところであの逆刃刀を見ることになるとはな…
[備考]
※参戦時期は地獄で方治と再会した後。
※JUDOが再生能力を封じて傷を付ける能力に目覚めたと認識しています。
※DIOはもう死んだものだと認識しています。
※スゲーナ・スゴイデスのトランプで召喚されたぶりぶりざえもんを捕食しました。
※アルトリア(グリードと肉体共有中)の肉の欠片を吸収しました。

※周囲に「基本支給品、エイジャの赤石@ジョジョの奇妙な冒険、グリードのメモ+バリーの注意書きメモ、銀時の首輪」が落ちています。



【支給品紹介】

【エイジャの赤石@ジョジョの奇妙な冒険】
エイジャと呼ばれる宝石の一種。
中でもここにあるのは、ローマ皇帝も所有していた純度の高いスーパー・エイジャと呼ばれるものである。
この石は光を当てると、中で何度も反射しながら光を増幅させ、一点に凝縮・放出してまるでレーザー光線のようにしてしまう性質を持つ。
放出された光線はとても高い威力を持つようになる。
柱の男の一人であるカーズは、この石の力が自分の求める効果を持つ石仮面の完成に繋がると考え、仲間達と共に狙っていた。
また、波紋のエネルギーも増幅、光線のように放出させることもできる。

528 ◆5IjCIYVjCc:2025/01/27(月) 23:33:07 ID:eNjl2nDw0
投下終了です。

529 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/23(日) 16:28:06 ID:MA60bkdU0
【リレー制度の停止のお知らせ】
ご無沙汰しております、企画主です。
この度は、チェンジロワの今後の進行について重要なお知らせをしに来ました。
本ロワはもう私以外に話の予約をする人がいないようなので、ただ今をもちましてリレー制度を廃止することにしようと思います。
今後は私1人で執筆することになります。
書き手用ルールも全て撤廃し、今後は私の自由に書かせてもらいたいと思います。

今後の進行については、予約期限のルールも無くなるため、私がキリの良いところまで書けたと感じたら話を投下する形になるかと思います。
なお、何の連絡も無いまま待たせ続けることになるのも問題かもしれないとも感じますので、月に一度は進捗を報告できたら良いなとは考えています。
私については自分でも遅筆だと感じているために投下は不定期になり、完結までには時間がかかることになると思います。
前述した進捗報告についても、絶対に月に一度は出来るとは、必ずそうするといった約束は出来ません。
私が他の企画で書きたい話がある場合や、リアルの事情でしばらく書けない時期が出てくる可能性もありますが、それらの点についてはどうかご了承願います。

先に報告しておきますと、5月〜6月にかけてはリアル事情で執筆することが難しく投下できないです。
4月も少々活動し難くなる可能性もあります。
一応、こちら側に全く顔を出せなくなるものではないはずです。
けれども、こちらでの進捗報告に来ることもこの期間の間はおそらく無いかと思います。

ここまで企画を続けて来られたのは、本ロワのリレーを進めてくださった書き手の皆様や、感想をくださった皆様のおかげです。
誠にありがとうございました。

530名無しさん:2025/03/25(火) 20:37:36 ID:stCOAhJs0
相分かりました。楽しみにしています。

531 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 20:48:56 ID:CykjoBsE0
閑話を投下します。

532 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 20:52:19 ID:CykjoBsE0
※今回の話は演出等の都合上、登場人物達の名前を出さずに進めます。ご了承ください。
※今回伏せ字になっているものが何なのか、今後明かされることはありません。

「オラオラオラーッ!!邪魔するぜぇ!!」
「ケンカの話の時間だ!!『ガンッ』コラ痛(ッタ)…」
「あ……お邪魔します…」

「「「!!?」」」

牢獄の中に、突如として3人の人物が現れた。
……その者達の内2人は、人の姿をしていなかっが。
1人は、ピンク髪の少女。
1人は、オレンジ色のなんかトゲトゲした一頭身。
1人は、全身水色でプルプルして角ばったやつ。
以降、彼らのことはそれぞれピンク、オレンジ、水色と呼ぶ。

彼らは突如として、狭い牢獄の中に3人で出現した。
その内のオレンジが叫びながら牢の鉄格子を蹴ったが、逆にそれにより足を痛めて踞った。
ピンクだけ礼儀正しくあろうとしているように見えた。

彼らが現れたことに対し、牢獄の外にいた2人の看守と、この空間の主の立場の者が驚いたような反応を見せる。

「……ってアレ!?■■■の奴がいねえぞ!?」

復帰したオレンジが、周囲を見て驚いたような反応を見せる。

「くっ…やはりあのバリアには敵わなかったということか」
「ちくしょう!こうなるんだったらもっとたくさん海苔を貼り付けておくんだった!俺がおにぎり食べたかったばかりに…!!」
「いや……それでも結局■■■■■■■さん達は入れなかっただろうし、そもそもここ4人で入れる広さじゃないでしょ」

大袈裟に後悔するような反応をする2人に対し、ピンクが冷静にツッコミを入れる。

「じゃあ■■■の方に巻いたら、おにぎりになって通れたんじゃねえか?」
「いや■■■■■■■さんに海苔を巻いてもおにぎりにはならないよ!!?」

更に畳み掛けられたボケた発言に、ピンクはツッコミの声を大きくしてしまう。


「おい……何だお前ら?どこからどうやって入ってきた?」

牢獄前の2人の看守の内の1人が質問する。
看守達は少女の姿をしており、青い看守服に身を包んでいる。
彼女らはそれぞれ右目、もしくは左目に眼帯を着けている。
先ほど質問したのは、右目に着けている方だ。
ついでにもう1人いる主という者は、空間の中央辺りで机の前で椅子に座っており、顔は長鼻があるのが特徴的だ。
以下、彼らのことは右眼帯、左眼帯、長鼻と呼称する。

「どこから入ったって、外からに決まってんだろ」
「どうして入れたかっつーと……奇跡の光が導いてくれたの!後は終盤だからってのとリレー制度が無くなってなったからってのもあるな」

右眼帯からの問いに水色とオレンジが答える…が、いまいち意味不明な回答だった。

「……あなた達は何者かという質問にも答えてください」

左眼帯が更なる返答を求める。

「えっと……実は私たちは、本当ならここに存在しちゃいけなくて…」
「……それは当然だろう。我々にとってお前達は招かれざる客…」
「あーいやいや、そーゆーことじゃねーんだよ。これはもっと深ーい意味での話でなー」
「……何の話だ?」

先ほどよりも更に要領を得なくて曖昧な感じの返事に疑問符が浮かべられる。

「ま、お前らには理解できないだろうな。このレベルの話は✨」
「…………(イラッ」

まともに話を取り合おうとしないように見える相手達に対し、イラつきが溜まっていく。

「………話を変えよう。お前達の目的は何だ?」

長鼻は一先ず、次に気になることについて聞い出そうとする。

「あの…すみませんが、少しだけこの場所を使わせてください!一応、ただここに居させてもらえればそれで良いんです!」
「ほう……それは何のためにだ?」
「えっと……詳しいことはまだ話せなくて……。ただ、ここが監獄であることが都合が良いらしくて……」

質問に対しピンクが答える。
しかし彼女も、まだ話せないこともあるようだった。
彼女らもまた、自分達が何故ここに来なければならなかったのかの理由の全てを知っている訳でもないようだった。

533 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 20:57:44 ID:CykjoBsE0
「そんな態度で、お前達のような得たいの知れないものをこのまま置いておくと思うか?」

長鼻は威圧的な言葉を投げ掛ける。

「ここから出ていけ。さもなくば死ね」

そして冷たい声で、そう言って突き放した。

「面白れぇ…やってやろうじゃねえか…!!」
「げっへっへ!!このまま何もせずに待っているのも癪だと思ってたんだ!!」
「ちょっと2人とも!そんな煽らなくても良いでしょ!?」
「俺たちだって暴れてえんだよ!!!ずっと何も出来なくて我慢していたからなあ!!!!」
「全員が出られる訳じゃないところからせっかく選ばれたんだ!!!爪痕くらい残させろよ!!!」

ゲスな顔で小物臭い態度取りながら好戦的な様子を見せるオレンジと水色に対し、ピンクが諌めようとする。
それに対する気迫に満ちた反論は、またまた一部意味不明で変なところもあった気がした。

「主、ここは我々にお任せを」
「こんなやつら、私たちだってこれ以上一秒たりとも見ていたくはありません」

少女看守の2人が牢に近付く。
彼女らもまた謎の侵入者達を追い出そうとしている。

『ガチャ』『ギィ…』

オレンジ達のいる牢の扉が開かれる。
これでもう後は、戦うだけだ。

「おい、アレの用意は大丈夫か?」
「ああ!!バッチしここにあるぜ!!!」
「よし、それじゃあ行くぞ!!!」

オレンジと水色がそれぞれどこからそれぞれあるものを手元に取り出し、構える。

それらは、どちらも、にんじんであった。

「この聖剣ニンジンカリバーの錆にしてくれるわ!!!!」
「この聖槍ニンジミニアドで貫いてみせる!!!!」
「「うおおおおおおおっ!!!!」」

2人はにんじんを構えながら牢の外に飛び出て、看守少女達に向かって突っ込んでいった。
※ニンジンソードとは別物です。


◆10秒後……


「「負けちゃった…」」
「だろうね」

残念でもなく当然、負けました。
ボッコボコにされました。
むしろよく10秒ももった方です。


「さて…では早速消えてもらうとしようか」
「囚人未満の不法侵入者達にここにいる資格はありません」
「今すぐ回れ右して出ていくなら、見逃してやらんこともないぞ」

改めて、長鼻達が殺気を放ってくる。
看守少女達が、互いに警棒とカルテを手の中で弄びながらじわじわと近付いて来る。

「や、ヤバいよ2人とも…」
「くっ…!」
「こんな時、アイツがいてくれたら…!!」

3人もこの状況には流石に慌て始める様子を見せる。
オレンジと水色は尻餅をついた状態のまま後ずさろうとする。
その時だった。



「フォーッ!!」
『ガシャアンッ!!』

まず、掛け声と共に牢の鉄格子が破壊される音が聞こえた。

『ボウッ!!』『ジュワッ』
「「!」」『ダッ』
「「ぎゃああああああああああぁぁぁぁっ!!!!?」」

次に、破壊音が聞こえてきた方角から火炎が放射された。
看守少女達はそれに気付き、咄嗟に後ろに跳んで回避した。
炎はオレンジと水色を飲み込み、焼いた。

「わー♪美味しそうに焼けてるー♪」『メラメラ』
「いただきまーす♪」『パチパチ』

炎が晴れた後、焼かれた2人は手に持っていたにんじんを見ながら笑顔で目を輝かせた。
炎により、にんじんが丁度良い感じに焼けていた。
彼ら自身にも、火は燃え移っていた。


「火火火(ヒヒヒ)。よくここまで耐えてくれたな」
「フォーフォフォ。お陰で我らも来られたぞ」
「あ、あなた達は…!」

新たに2つの声がこの空間に響いた。
ピンクはそれに対し、その声の主を知っているかのような反応を見せる。

534 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 21:00:07 ID:CykjoBsE0
「……まさか新手が来るとはな」

声の聞こえてきた方にあるのは、ピンク達が出現したものとは別の牢だ。
その牢の鉄格子の扉が、壊されて開けられていた。
そして牢の中には、2つの人影が存在していた。

1人は、アイスホッケーのマスクのような顔をした、背中から巨大な左手を生やした大男だった。
もう1人は、帽子を深く被って、煙草を咥えている、顔に大きな火傷の痕もある男だ。

今後は彼らのことをそれぞれ、左手男と煙草男と呼称する。


左手男は、背中の巨大な左手で強引に取り外したことでひしゃげた牢の扉を掴んでいた。
『ガシャン』
男はその扉を投げ捨て、空いた巨大左手を自分の体に背中から掴ませる。
巨大左手の人差し指の先にはもう1つ手が存在しており、その手の平は男の頭を掴むように置かれた。


「無礼者共め……これ以上この場を荒らされてたまるか!」
「おっと、落ち着けよお嬢ちゃん。俺たちはここには争いに来た訳じゃねえんだ」

煙草男はそう右眼帯に言って話を続けようとする。

「……いきなり仲間ごと焼こうとする者たちを、信用できると思いますか?」
「フン、こいつらは仲間ではない。ただ行動を共にせざるを得ない状況になっているだけだ」
「あっ、おい。変に煽るなって」

左眼帯の発言に対して不遜気味な態度を取る左手男に対し、炎を放った張本人である煙草男が諌めようとする。


「何人で来ようとも無駄だ。我らがお前たちを認めることはない」
「火火(ヒヒ)っ。いつまでも粘り強く交渉させてもらうさ」
「我らには果たさねばならぬ使命があるのでな」

威圧的な長鼻の言葉に、男たちは怯まずにそう答える。
彼らの間で、新たな睨み合いが開始されていた。



「おいし♥」「おいし♥」『『モグモグ』』『『メラメラ』』
(……本当に大丈夫なのかなあ…)

一触即発な状態の者達を尻目に、オレンジと水色はにんじんの丸焼きを美味しそうに食べていた。
彼らの体はまだ燃えている状態のままでだ。
ピンクだけは、この状況に対して不安そうにしていた。

535 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 21:01:08 ID:CykjoBsE0
投下終了です。
タイトルは「閑話:サバイバー」とします。

以前にも連絡していた通り、5月と6月はリアルの事情でこちらでの活動は難しく、投下や報告をすることは無いと思います。
改めて、ご了承願います。

536 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 21:01:44 ID:CykjoBsE0
また、ついでの連絡ですみませんが、以前私が投下した「Jの奇妙な冒険/懐玉」と「Jの奇妙な冒険/玉折」のタイトルを、それぞれ「Jの奇妙な冒険/ファントムブラッド」と「Jの奇妙な冒険/戦闘潮流」に変更したいと考えています。

変更されるのはタイトルだけで内容は変わりません。

537 ◆5IjCIYVjCc:2025/04/30(水) 21:08:29 ID:CykjoBsE0
先ほど投下した話について、最後に以下の1文を追記します。




あっ、今回の時間帯は真夜中としておきます。

538 ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:43:15 ID:ioGcflzI0
連絡が遅れてしまい申し訳ありません。
今回の投下を始めます。

また、今回からの状態表についてですが、リレー形式を終了させていることと、調整に手間がかかることから、今後は一部の記載を省略したいと思います。
主に、思考・状況の欄と備考の欄を省略したいと考えています。
どうか、ご了承願います。

539早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:44:49 ID:ioGcflzI0
結局のところ柊ナナは、燃堂力という人物のことを最後まで理解することはできなかった。
少なくとも、彼女自身はそう認識していた。
彼は結局、最後の瞬間まで自分が置かれていた状況を理解していなかった。
それなのに、彼はナナのことを庇って死んだ。

どこまでもお気楽マイペースで、こんな環境の中でもいつでも明るく振る舞っていた。
少々空気の読めないところもあったかもしれないが、不思議と不快感はそこまで無かった気がする。
それは、見た目が可愛らしいアイドルの女の子になっていたこともあるかもしれない。
もしかしたらこのことが、この陰鬱な殺し合いの環境の中で、誰かに対する励ましになっていたかもしれない。
しかし、そのようなことにはもうならない。
彼はもう死んでしまった。
実質的に、ナナが殺したも同然のような形で。
実態はどうかとして、周りがどう思うかはともかくとして、彼女自身はそのように感じているところもあった。
自分が余計なことをしなければ彼は死ななかったのでは、という考えが脳裏の片隅にどうしても残っていた。

『ダチを助けるのに理由なんていらないだろ?』

彼女…彼の最後の光景が、頭からこびりついて離れない。
自分のせいで燃堂の顔が失われてしまったのだという気持ちが出てくる。

(……いや、あの顔は燃堂のものではなかったな)

思い返せば、アレは堀裕子という別人の顔である。
ここで申し訳なく思うべきなのは、その名前の少女に対してである。

(だが、奴自身の体ももう……)

しかし、どちらにしても、燃堂力自身の顔…肉体も失われたものと言えることもナナは知っている。
前の放送で、身体側の死亡者だと発表されたからだ。
その時、宇宙船内のモニターに映し出された顔を、ナナは覚えている。
ほんの少しの間しか見れなかったが、特徴的な顔をしていたため一応覚えていた。
はっきり言ってその顔は、カタギとは思えない程の凶悪そうな人相であった。
一見だと高校生だとは思えないような顔だった。
あまりにもヤクザっぽいその顔は、前までのアホっぽくもまあ良い奴なんだろうなって雰囲気を出していた少女の本来の肉体であるという事実が、微妙に納得できない程だ。
流石に印象が違い過ぎるものだから、人と人が関わり合う上での外見の重要性というものを改めて再認識させられた気分になる。

(見た目だけで判断するのも良くないと思うが、本当にイメージと違った顔だったな……)

思い返すと、今でもその顔が詳細に思い浮かぶようだ。
まるで今も、目の前に現れているかのようだった。



(そうそう、確かこんな感じで……)

『どーした相棒?腹でも痛てーのか?を?』

「……………………………………」

それは確かに、ナナの目の前に現れていた。

頭頂部で目立つ黄色いモヒカン。
側頭部やや上の謎剃り込み。
口の上のちょびっとだけ生えたひげ。
片方の目に縦線の傷。
尖りのある耳。
ケツアゴ。

前に定期放送で見た写真での本来の燃堂とそっくりな顔の人物が、
白装飾を着て頭に白い三角巾を着けたコッテコテの幽霊のようなスタイルで、
まるでずっと近くにいたかのような態度でナナに向けて話しかけてきた。
それも、互いの顔面が目と鼻の先にある超至近距離で。

540早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:45:59 ID:ioGcflzI0


「………キャアアアアアアアァッ!!!???」
「ピ!!?」
「おい、どうした!?」

ナナは、すっとんきょうな上擦った大きな声で悲鳴を上げた。
その言葉に驚き、先行していた杉元と善逸も足を止める。

『なんだどーした!?ライオンでもいんのか!?』
「……ッ!!」
『ブンッ』『スカッ』

悲鳴の元凶でもある幽霊の燃堂?が、そのことを分かってないのか的外れな発言をする。
ナナはこの燃堂?に対し、咄嗟に腕を横に振って攻撃しようとする。
しかし、それはすり抜けた。
腕が当たった部分だけは一瞬煙のように霧散したように見えたが、それもすぐに元の形に戻った。
そして、ナナの腕の方に何かが触れたような感覚は全く無かった。

「ど、どうした柊……?何かいたのか……?」
「ピ……?」

杉元はナナに対し怪訝そうな表情を向ける。
善逸の方も同じような感じだ。
2人とも、ナナと違い燃堂?のことが全く見えていないようだった。

ちなみに今の内についでで言っておくと、ナナ達3人は先ほどまでは山奥の竈門家の方へと戻ろうとしていた。
前回の戦いで桐生戦兎達とはぐれ、状況の大部分がリセットされてしまった。
それに、その戦いで襲撃してきた者(JUDO)が自分達の方に追撃してくる可能性も考えられた。
一先ず落ち着けるかもしれない場所として、建物である竈門炭治郎の家の方に一旦避難しに行こうとしていた。



ちなみにナナは現在、自分の足で立って移動している状態にある。
前の戦いの時で負傷し、そのため杉元に背負われていたが、今は降りていた。

前の戦いの時に腹を斬られたが、現在は雨宮蓮のおかげで傷は塞がれている。
最初のしんどい内は杉元に移動を任せていたが、ある程度進んで敵が追って来る気配が無くなり、体力も少し回復したと感じてからは、自分の足で歩くことを決めた。
その方が、杉元の体力の温存にも繋がると考えてのことだ。
もしもの時は、もう一度すぐにおんぶしてもらって行こうという話になっている。



とにかく、竈門家の方に戻ろうと決めて、進み出してから少しした時に、ナナが突然大声で悲鳴を上げた。
杉元達は当然、いきなり何事かと思い、困惑しながらも辺りを警戒しながら足を止める。
しかし、周囲に新たに何かが現れたかのような様子は無い。
これではますます、彼らの混乱が深まるばかりだ。
先ほどのナナの攻撃も、何も無いところに向かって腕を振り回したようにしか見えなかった。

(なんだこれは………なんなんだこれは!?一体、何が起こっているんだ!?)

しかし何より、今の状況で最も混乱しているのは、ナナ自身であった。
前に茂みの方からひょっこり現れてくれないかと考えてみたことはあったけど、まさかこんな登場の仕方をするとは思わなかった。

(これも、斉木楠雄の能力なのか…!?いや、でも、こういう霊能力は鳥束零太の領分じゃなかったのか!?いや、斉木楠雄も幽体離脱とかは出来るみたいな情報もあったはず……?)

ナナは混乱しながらも、自分が持っている情報を何とか思い返して現状を考察しようとする。
斉木楠雄の肉体の影響で、自分も幽霊を見る能力を得てしまったのではないかという考えが浮かんできていた。
その瞬間までは、目の前にいる存在を、燃堂力の幽霊だと認識していた。

541早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:47:11 ID:ioGcflzI0
(…………ちょっと待て。他の幽霊はいないのか?)

しかしここで、ナナの中に1つの疑問が生じる。
それは、燃堂以外の幽霊が周りに見当たらないということだ。
燃堂以外にも、ナナや杉元達の前で死亡した者達はいる。
もし本当に死ぬと幽霊になるのであれば……鳥束や脹相…ナナは死ぬところを見たわけでは無いが杉元達は見た、悲鳴嶼や神楽等といった彼らもまた近くにいても、おかしくはないはずだ。
しかし、ここにいるのは燃堂だけのようだった。

(つまり、こいつは幻覚……?)

『なー、おい。無視してんじゃねーよ?を?』『ホジ ホジ』
「………………」 『ブン ブン ブン ブン』

燃堂しか見えないのならば、自分の中にある罪悪感とかから作られた幻覚なのだろうかという考えも浮かぶ。
ただ、それだけだとも思えないような要素も感じられる。
燃堂?は、幻覚にしては何か変に絡んでこようとしているのだ。
本当に罪悪感から出た幻覚とかなら、恨み言の1つでも言ってこればいいものの、目の前のそいつがそんなことを言う 様子は無い。
そしてついさっき、こいつは幽霊のくせにアホらしく鼻の穴をほじりながらナナの身体にめり込むくらい頭を近付けて来ていた。
それをナナは鬱陶しそうに両腕を振り回して離そうとしていた。
これにより燃堂?は上半身が一瞬霧散するが、すぐに元に戻ってしまう

「なあ柊……お前、本当に大丈夫か?顔色もすごい悪いぞ?もう一回おぶってやろうか?」

ナナの様子を見た杉元が、心配して声をかける。
実際、今のナナの顔色はかなり悪く、体調も良いようには見えなかった。
やはり、ナナは自分が背負って運んでやった方が良いのではと考えていた。

『確かにオメー、何かちょーし悪そーだよなー。熱でもあんじゃねーのか?』

そして、杉元の言葉を受けて、十中八九現在の体調不良の原因と思われる6割幻覚だと思っている奴も、ナナのことを心配するような様子を見せる。



「いえ……私はまだ、大丈夫で………」

『ドオンッ!』

『「「「!?」」」』

ナナは杉元に対し返答しようとした。
しかし、それは中断される。
彼らへの理不尽な災難はまだまだ終わらない。





『ドスン!』『バタン!!』『バキバキバキッ!!!』
『グォオオオオオッ!!!』
「何だ!?」

突如として、かなり大きな破壊音と、雄叫びのようなものが聞こえた。
それらの音の発生源は彼らの近くからではない。
音を出したと思われるものが何なのかも、ここからでは見えない。
けれども遠い訳ではないようで、大きな音による空気の振動が彼らの体にも深く響いた。
振動は空気だけでなく、山の地面にも伝わって来ていて、彼らの立つ地面も大きく揺れた。
咆哮のこともあり、何か巨大な生物が暴れているかのようだった。


「こんな時に…………ウッ!!?」『ピキッ』

ただでさえ燃堂?に悩まされている時に更なる異常が起きたことに、ナナは歯痒い気持ちになる。
けれどもそれもまた、新たなる異常の前触れに過ぎなかった。
ナナの頭に一瞬、鋭い痛みが走った。
それと同時に、脳裏に奇妙な映像が出現した。

542早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:52:07 ID:ioGcflzI0




◆◇◆

それは、前の戦いで目撃した存在……ディケイドだった。
ただしそれは、とても不可解な姿をしていた。
前に見た胸辺りに仮面ライダーの顔が描かれたカードを並べて張り付けたような姿、コンプリートフォームに近かった。
ただし、それよりもカードの枚数が多かった。
マントも着けられており、そこにもカードが大量に貼り付いていた。
特に目を引いたのは、頭頂部の2枚縦に並べられているカードだ。
……ぶっちゃけ、ダサいと感じてしまった。
それはナナの知らないはずの、コンプリートフォーム21と呼ばれる姿だった。

けれども、異様なのはその姿になっていることだけではなかった。
そのディケイドは、巨大化していた。
ナナは映像の中で、そいつを見上げていた。



そこまで認識したところで、映像は途切れた。

◇◆◇



「は?………え?………は?」

脳裏をよぎった映像に、ナナの困惑が更に加速させられる。
何が起きたのか、自分が見たものが何だったのか、すぐには飲み込めなかった。

「おい、どうする?向こうに何があるか確かめてみるか?」

そんなナナをよそに、杉元は目下問題となっている轟音と地響きの正体の確認に行くかどうかを聞く。
向こうの方を警戒していたため、ナナの新たな異常の方には気付いてないようだ。
善逸も同じ感じだ。

『おいおいなんだあ!怪獣でいんのかぁ!?』

燃堂?も向こう側の方に注目していた。
こちらは何故か目が輝いているところもあった。
怪獣等にロマンを感じる感性はあるらしい。
そんなものを感じている場合じゃない。

「……それとも、やっぱあっちの家に戻って休むか?」

杉元はナナに対し当初の予定通り竈門家に向かう選択肢も提示する。
ナナが頭痛を感じたことに気付いているわけではないが、それによりナナは更に憔悴した顔つきになっていた。
それを感じ取り、ナナの休息を優先することを提案する。
向こう側に本当に巨大な存在がいるのなら、この状態のナナを連れていくのは危険だろう。



「…………いえ、どちらにしても向こう側にいるらしき"何か"がどこに向かうかは分かりません。逃げ場は、無い可能性の方が高いです」

しかしナナはその選択肢を否定した。
新たな巨大存在(仮定)が敵ならば、山の中の竈門家の方に向かったとしても遭遇する可能性はある。
方角的には、元の進行方向的には左右逆な感じだが、そこから竈門家の方に向かう可能性も考えられるくらいの方向だ。
むしろ相手が巨大ならば、遠くを見渡せるために先に発見される可能性がかなり高い。

「やっぱりいっそのこと、あの音の方に向かってみるってことか?」
「ええ、むしろその方が良いかもしれません。向こうにいるのが何なのか、確かめた方が…」
「ピ、ピイ!?」
「え、本当に行く気?」

逆の考え方が提示される。
轟音が聞こえる方角に向かい、巨大存在(仮定)の正体を確かめに行こうというのだ。
それに対し善逸だけは、驚き怯えるような反応をする。
善逸だけは、正体不明の巨大存在に対し恐怖の感情を抱いている部分があった。
言葉にはしなくとも、反応でその気持ちは伝わっていた。
杉元は恐怖は感じていないようだが、ナナに対し心配する気持ちはまだあるようだった。
一度は音の方向に向かうことに肯定気味な返事をしたが、ナナがこのまま本当に行くことを考えているらしいことには意外そうな反応をする。

「不安な気持ちは分かりますが、正体の分からない敵に怯えるよりは少しでも近付いて確かめた方が今後のためになると思いますよ」

この中だと一番疲弊しているはずのナナが、危険な調査に赴くべきだということを押し進めようとする。
ナナがこんなことを言うのは、先ほどの頭痛の際に見えた映像も理由の一つだった。
先ほど見えたものは、斉木楠雄の能力の一つ、予知の可能性があった。
確か、斉木楠雄が頭痛を感じる時、未来の出来事をほんの少しだけ予知することができるという情報があったはずだ。
尤もそれは、眠る時に夢の形で見る予知夢よりは短いというものだったはずだ。
先ほどのものが本当に予知だったのかの確証はない。
けれども、映像で見た敵…ディケイドの姿は、ナナの見たことのない姿に変わっていた。
知らないはずのものが見えるということが、見えたものが本当に予知だったという可能性を引き上げる。
更に本物の斉木楠雄に近付いた気がして、嫌な気分も出てくる。

543早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:53:17 ID:ioGcflzI0
それに、予知の中のディケイドが巨大化していたことも気になる。
巨大ということは、今こちらを騒がしている地響きを起こしているものもそうであると推測されている。
こんな条件が揃っていれば、地響きの原因が予知で見た巨大ディケイドがそうなんじゃないかということも考えてしまう。
自分たちが逃げて来た方向とは正反対のため、この考えは間違いかもしれない。
しかし前回の戦いでディケイドは瞬間移動を使ったかのような挙動を見せた時もあった。
それを考えると、いつの間にか全く違うところに移動している可能性も無くはないかもしれない。

地響きがあるということは、向こうも新たに戦闘が行われている可能性が考えられる。
逃げて離れるにしても、向こうの状況を正確に把握しなければ更なる不測の事態が起きるかもしれない。
推定予知との関連も気になるし、ナナとしてはやはり確認に行きたかった。

なお、自分が予知を見たかもしれないことは杉元達にはここでは言わないことにする。
余計な混乱を招くかもしれないからだ。
少なくとも、地響きの正体を確認するまでは何も言えない。

『おー、あっち行くのかー?あー、でもなあー……。あっちもなーんか気になるんだよなー……』

燃堂?がナナに対して何か言いたそうな様子を見せる。
彼は、ナナ達がこれまで歩いて進んできた後ろの方を気にするように何度かちらちらと視線を向けていた。

「とにかく、まずは向こうにあるのが何なのかを確かめに行きましょう」
「お、おう。お前が本当に大丈夫だって言うんならそれで良いけどよ…」
『を?あっちは良いんか?』

杉元は不安そうながらもナナの話に乗る形の返事をする。
そしてナナは、燃堂?の言葉を無視していた。
今まで進んできた道を戻る理由はない。
死んだはずの燃堂の幽霊が見えて、そいつが何か気にしているからって理由で引き返そうなんて言ったら、杉元達に本気で頭がどうかしてしまったんだと思われてしまう。
正体もまだ完全に分からない内に、こいつの言葉を信じるなんてことはできない。

「さあ、行きましょう」
「あっ、おい、待てよ!」
「ピカッ!!」

ナナは時間が惜しいとばかりに、一人ずかずかと前に出て歩き出す。
杉元達は調子の悪そうだったナナが急に積極的に動き出したことに対し何か引っ掛かりは感じるが、今は止められない。
とりあえずは、彼らもナナの後ろをついて行った。

『でもよー……うーん……気になるんだけどなー……』

燃堂?はまだ背後の方を気にしていた。
怪訝な表情を浮かべながら、宙を浮遊しながらナナ達の後ろをついて行った。

【C-2とC-3の境目付近/真夜中】

【柊ナナ@無能なナナ】
[身体]:斉木楠雄@斉木楠雄のΨ難
[状態]:精神的疲労(極大)、腹部へ斬傷(出血無し・痛みあり)、貧血気味、自分への不安、燃堂の死へ形容し難い感情、燃堂の幽霊?への困惑
[装備]:フリーズロッド@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド
[道具]:基本支給品×2、ライナー・ブラウンの銃@進撃の巨人、ランダム支給品0〜2(確認済み・燃堂の分含む)、病院内で手に入れた道具多数、精神と身体の組み合わせ名簿@オリジナル、杖(破壊済み)@なんか小さくてかわいいやつ、竈門炭治郎の日輪刀(刀身が半ば程で折れている)@鬼滅の刃、バギブソン@仮面ライダークウガ、アタッシュショットガン@仮面ライダーゼロワン、松平の拳銃@銀魂、如意棒@ドラゴンボール、首輪(脹相、燃堂力)

【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:藤原妹紅@東方project
[状態]:疲労(特大)、ダメージ(中)、全身に切り傷(再生不可)、霊力消費(特大)、再生中、一回死亡
[装備]:神経断裂弾装填済みコルト・パイソン6インチ(0/6)@仮面ライダークウガ、三十年式歩兵銃(3/5)+三十年式銃剣@ゴールデンカムイ、和泉守兼定@Fateシリーズ
[道具]:基本支給品×6、神経断裂弾×26@仮面ライダークウガ、ラッコ鍋(調理済み・少量消費)@ゴールデンカムイ、鉄の爪@ドラゴンクエストIV、青いポーション×1@オーバーロード、魔法の天候棒@ONE PIECE、ランダム支給品×0〜1(確認済)

【我妻善逸@鬼滅の刃】
[身体]:ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:疲労(特大)、ダメージ(大・処置済み)、全身に火傷、精神的疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:なし

544早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:54:35 ID:ioGcflzI0

◆◆◆


今回ナナが視認したものは、燃堂力の幽霊ではない。
けれども、確かに幽霊ではあった。

こいつの正体は、燃堂力の父親の幽霊だ。
(なお、「斉木楠雄のΨ難」において幽霊は生前の記憶を失うということと、そもそも息子が生まれる前に亡くなったことから、本人に燃堂力の父親だという自覚は無いのだが)

燃堂父は、息子である燃堂力とは初見では見分けがつかない程瓜二つでそっくりだ。
性格や口調もほぼ同じだ。
息子との違いは、目の傷の位置が左右逆(息子は左、父は右)なのと、口癖が「お?」ではなく「を?」となっている点だ。

けれどもナナは、今回はその違いに気付けなかった。
だがそれも無理はないだろう。
結局、本当の燃堂力の顔を見たのは前の放送での一回だけ、目の傷の正確な位置などは覚えていない。

そしてこの燃堂父は、実は鳥束零太の守護霊でもあった。
ただし、彼はこの殺し合いにおいて、最初は竈門炭治郎の肉体となっていた鳥束を守護したりはしていなかった。
彼は、鳥束の精神ではなく肉体の方にくっついていた状態にあった。
鳥束の肉体と一緒に、主催陣営に囚われた状態にあったのだ。

しかし彼は、解放された。
そのタイミングは、鳥束の肉体が関織子の精神と組み合わされた時だった。
鳥束の肉体の条件を本来のものと合わせるためだったらしい。

けれども彼は、守護霊としての役目を果たさなかった。
原作からしてもそうだったが、彼は基本的に守護霊の役目をせずに自由気ままにどこかに勝手に飛んで行ってしまう奴だった。
そして彼は、織子がその存在を確認する前に、何かいつの間にか主催陣営本部を抜け出してしまっていた。
抜け出した後の彼は、自由気ままに島中を回っていた。
誰かに憑いていくこともせず、探検したり昼寝していたり等で適当に過ごしていた。

しかし彼はやがて、何か気になる気配を感じた。
その気配につられて、彼は山の方にふら〜っと向かった。
そこで彼は、ナナ達を見つけた。
その時のナナ達は、前のJUDOとの戦いが終わった直後くらいだった。
燃堂父は、ナナの身体となっている斉木楠雄のことを知っていた。
というか、息子と同じく斉木のことを相棒認定していた。
知り合いを見つけたと思って、燃堂父はナナに近付いた。
ナナは前の戦いの影響で大いに疲弊、意気消沈気味だったことで、燃堂父が近付いて来ていたことに気付かなかった。
そして気付いた時には、超至近距離までの接近を許してしまっていた。

本来、斉木楠雄に幽霊を見る力は無い。
「斉木楠雄のΨ難」の世界において、幽霊を見ることができるのは基本的に鳥束零太だけだ。
だが、燃堂父の幽霊だけは、限定として何故か斉木にも見えるようになっていた。
何故にそんなことになっているかの理由は不明だ。
けれどもだからここで、ナナは燃堂父の幽霊を自分だけ視認することになってしまったのかもしれない。

そして燃堂父は、ナナのことを斉木楠雄だと認識して、ついていこうとしていた。
ナナはそんなことも知らないし、そしてこいつをどうにかすることも出来ないため、放置するしかない状況になってしまった。


けれども、まだ誰も気付いていないし本人にも自覚が無いが、燃堂父にはもしかしたら有用な使い道があるかもしれないのだ。
離れてしまっていても、燃堂父は鳥束零太の守護霊だ。
だからもしかしたら、その肉体がある場所を察知することができるかもしれない。
それはつまり、その場所……主催陣営の本部にまで、ナナ達を案内できるかもしれない可能性があるという仮説をここに提唱する。
まあ……気付けなければ意味は無いことだが。

545早すぎるΨ会? ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:57:23 ID:ioGcflzI0


最後にもう1つ、記しておきたいことがある。
燃堂父は何か気になる気配があって今ナナ達がいる山まで来たと前に述べた。
しかしその気配とは、斉木楠雄の身体を持つナナのことではない。
その気配は、彼らがここまで進んで来た背後の道の先にあった。
前々に記したやり取りの中で、燃堂父が最後に気にしていたものだ。
その先にあるのは、前の戦いでの戦場だ。



JUDOとナナ達を始めとした対主催グループ、そしてギニュー達の三つ巴の戦いが起きた前の戦場跡に、1つの死体が遺されていた。
それは、本来なら消えなければならないはずのものだった。

それは、ミラーモンスターのバイオグリーザの死骸だった。

本来、ミラーモンスターは死ねば体は消滅するものだ。
そもそも、ミラーモンスターは本来の生息地のミラーワールドではなく、現実世界に長時間いると存在を保てなくなり消滅するものだ。
そして消滅した後には、エネルギーの塊が光の玉のようになって飛び出るはずのものだ。
しかし、ここにおいてバイオグリーザは死体として残っていた。
前にここにいた者達はミラーモンスターのことなんて知らないため、放置されてしまっていた。
前の戦いの時に消える描写もなかった気がするので、こんな風にしてもおそらく問題は無いはず、です、多分。

とにかく、杉元に口内を銃で撃たれて死んだはずのバイオグリーザの肉体が、まだここに残っていた。
けれども、これが意味することはバイオグリーザ『が』まだ生きているということではない。
『バイオグリーザ』の意識は、この場から完全に消滅している。
それだけは、絶対に確かなことだ。










『ピクッ』

しかし、その死骸の指先が、僅かだけでも動いた気がした。



※今回の話の最終時間は、146話「Last Surprise」シリーズよりも前とします。

546 ◆5IjCIYVjCc:2025/07/28(月) 23:58:01 ID:ioGcflzI0
投下終了です。

547 ◆5IjCIYVjCc:2025/08/29(金) 20:34:41 ID:Zddcj.go0
月連絡です。
もう月末ですが、8月中の私の投下は無いということを伝えておきます。
もし今後も月ごとに投下が無い場合、月末近くに連絡するかもしれないと思います。

548名無しさん:2025/08/30(土) 19:35:34 ID:yuvPswAc0
相分かりました。

549 ◆5IjCIYVjCc:2025/09/01(月) 15:17:58 ID:3IH1gw2Q0
ペットが亡くなりました。
落ち着くまでの間、こちらでの活動は控えることになるかと思います。
少なくとも、今月の9月中は私が投下することは無いかと思います。


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