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lily Crown Battle Royale

6鬼隠し ◆9rj3OvFOmY:2023/06/26(月) 02:42:34 ID:lVM5Sm.M0
「はっ、はっ、はっ……」
 赤座あかりは走っていた。
 鷹野三四と名乗る女によって一方的に宣言された《プログラム》の開催。
 自分の目の前で首がちぎれ飛んで動かなくなった女の子。
 自分と一緒にその一部始終を見聞きしていた、大事な大事なごらく部の仲間たち。
「さがさないと……みんなのこと、早く見つけてあげないと……!」
 あかりは決して強い少女ではない。
 月明かりに照らされたその顔をぼろぼろと涙が伝っているのを見れば分かるように、どこにでもいる等身大の中学一年生だ。
 ただ、それ以上にあかりは優しい子だった。見せしめとして殺された少女の無念と恐怖に本気で胸を痛め、この空の下どこかで怯えているだろう友人の身を本気で思い駆けていた。
 歳納京子、船見結衣、吉川ちなつ。
 みんなあかりよりもずっと強くて頼りになる子ばかりだ。
 それは分かっている。分かっているけれど、それは足を止める理由にはならなかった。

 みんなで帰るんだ。
 誰も殺し合いなんてしなかったら、あの鷹野さんって女の人も諦めてみんなをお家に帰してくれるに違いない。
 あかりは冗談でも何でもなく大真面目にそう信じていた。そのためにもまずは一人でも多くの参加者に会わなければならない。
 ごらく部のみんなはもちろん、それ以外の子たちにも積極的に会って「怖がらなくていいんだよ」と言ってあげなくちゃ。
 そんな優しい気持ちがあかりの足を突き動かしていて。
 そして少女の想いを月は聞き届けたのか、あかりは前方に人影を認めて足を止めた。
「あ……」
 不安に染まった顔がぱっと明るくなる。
 いた。人がいた。話をしよう、出会えた喜びを分かち合おう。
 そう思って手を挙げ大きくぶんぶんと振って自分の存在をアピールする。
 影が薄いとよく言われるあかりだからこそ、自分がここにいることを示す努力は惜しまない。
「お〜い! えっと、参加者の人だよね? あかりもそうなんだ、ほんと怖くて参っちゃうよね……!」
 相手もあかりの存在に気付いているらしい。
 少しずつ両者の距離は詰まってくる。
 返事くらいしてくれてもいいのにな、と思った。相手は何を語るでもなくただ歩いてくるばかりで、夜闇のせいもあってあかりが彼女の人相を認めるまでには少し時間がかかった。
(綺麗なひとだなぁ……)
 着物姿で、緑髪のポニーテールが揺れている。
 あかりよりも年上らしく背丈も顔立ちも大人っぽい。
 ほわ……と思わず見惚れてしまったあかり。
 だがすぐにはっとして、自分のほっぺたをぱちんと叩いて気合を入れるなり駆け寄っていく。
「はじめまして! 七森中学校一年の、赤座……」
 
 
 危機感の欠如。
 世界の優しさの過大評価。
 赤座あかりがこの状況に陥った理由はそんなところだろうか。
 あかりはとても優しい子だ。
 これが殺し合いの《プログラム》でさえなければ、その優しさは多くの人の心を癒やしただろう。
 しかしあくまで此処は殺し合いのゲーム盤。優しく、すぐに人を信じ、みんなで手を取り合って一緒に帰るなんて夢を抱けてしまう無垢な少女は葱を背負った鴨でしかなかった。
「あ……」
 せめて女の腰から下がっている剣呑な“それ”の存在さえ警戒出来ていれば、話はまだ違ったのかもしれない。
 だがあかりはそれすらも警戒しなかった。
 まさかそれが自分に向けて引き抜かれるなんて露も知らないまま近付いた、その結果。
 赤座あかりは緑髪の女が日本刀を振り上げる光景をただ見上げるしか出来なかった。
 自分に向けて落ちてくる鈍色の刀身。それを見ながらあかりは、ようやく自分の間違いを疑った。
(あ、れ?)
 あかりは優しい子だ。
 最後まで相手のことを疑いはしなかったし、自分が殺されかけていることすら理解していなかったかもしれない。
(なんか、ちがう)
 あかりが疑った間違いは相手の善悪ではなく自分の認識の方。
 月光を背にして刀を振り上げる冷たい形相。とても───背筋が凍るほど美しいその出で立ちに、あかりはこう思った。
(鬼、?)
 角もない。
 肌も赤くも青くもない。
 縞模様のパンツなんて履いてないし金棒も持っていない。
 それでもあかりはそう思った。
 刀身が首に食い込む直前、赤座あかりが最後に抱いた思考はそれだった。


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