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辺獄バトル・ロワイヤル【第3節】

1 ◆2dNHP51a3Y:2021/06/25(金) 21:22:55 ID:riCoyL6w0
―――ソラを見よ、血染めの月が、世界を侵食(おか)す

889魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:24:56 ID:uU1XxHMA0
 そしてそのままコントンのラブパワーのバックアップで本来消耗が激しい、
 広範囲の地面を泥化させる能力を人知れず利用したものの引っかかったのは一人だけ。
 しかも瀕死の奴だ。これで勝ち星を得たなどと勝ち誇るつもりは毛頭なかった。
 ブレインと言うわけではないが、相当キレ者がいることだけが分かっただけでも重畳だろうか。

「……そうだ、ムラクモが言ってた完全者って奴か!」

 辛うじて記憶の片隅にあった名前を、
 何とか引っ張り出しながら地面へと降り立つ植木。

「チッ、奴に会っているか。まあ予想通りではあるか。」

 ナスタシアに渡したビブルカードの方角からして、
 恐らくはこのあたりの方角にいるのは予想できたことだ。
 だから大して問題ではない。戦術もバレているだろうがそれについても問題なし。
 オアシスにコントンのラブパワーで強化されてる現状、筒抜けの情報など全て意味をなさない。

「ならばとっとと死ね。」

 オアシスで強引に溶かしたりして戻す作業をしたおかげで、
 番傘の弾道はぶれるものの、撃つこと自体は可能になっている。
 正直攻撃としての運用は余り期待できないだろうが、相手はそれを知らない。
 牽制の目的としては十分果たしており、植木も避けを優先せざるを得ないものだ。
 不規則な弾丸は良くも悪くも見切るのが難しくなっており、避けたつもりが頬をかすめることもある。

「この人数差で勝てるのかしら?」

 植木に対応してる間に迫る沙夜の持つ炎燐。
 シンプルな横薙ぎの一閃を番傘で相殺する。
 甲高い音が響かせながら火花を散らして弾き合い、軽い剣戟。
 フィジカルは近接戦が苦手な完全者よりも零児同様の森羅の技術、護業抜刀法が上。
 しかしコントンのラブパワーにより高まっているスペックは、互角以上の剣戟を行う。

「やあああ!!」

 此処に割って入るように歩夢が加州清光で斬りかかる。
 所詮素人の袈裟斬り。防ぐでもなく地面へと潜り、水面から魚が飛び出すように、
 番傘を突き立てながら飛び出し歩夢の鳩尾へと傘を突き立て、くの字に曲げて吹き飛ばす。
 そのまま銃撃をとも思ったが、植木の右ストレートが迫っていた為中断せざるをえない。
 折れてるスナップブレードを手折り、そのままゴミを木に変える力で鞭のように木が伸びる。
 枝分かれした木は無数で避けるのは容易ではないと判断し、地面へ潜るように逃げていく。
 地面から飛び出すと同時に、周囲へと番傘の銃弾を周囲へとばらまく。
 みらいと縫は自力で弾き、植木は木の盾で弾道をそらし、充たちは沙夜の八房が弾丸を弾く。
 歩夢は吹き飛んで転がっていたおかげで射程から外れて難を逃れているが、攻撃を受けたのは事実。
 せき込みながらお腹に手を当てながら、身体に鞭を打つようにしながら立ち上がる。

「こうも数が多いと……ん? 貴様、あの子娘と同じ学生か。」

「同じ学生……ってまさか、侑ちゃん!?」

「……あー、そんな名前だったな。そいつは死んでいたぞ?」

「!?」

 当然嘘だ。
 彼女が会ったのは愛であるし、都古からも宮下と呼ばれていた。
 だから彼女が高咲侑であることは絶対にない。だがこれは使えると彼女は判断する。
 先ほどから目の焦点が合ってない瞳。薬でもキメたような表情は彼女のいた世界では、
 そう珍しいものでもなく、場合によっては起爆剤になりうるいい材料だと判断したからだ。
 ディメーンの様子から乗った参加者の割合が少ないらしい。ならば利用しない手はない。

「ああ、言っておくが私は殺してないぞ。赤い服の小娘がやったのは記憶して……」

 これは予想外の広いものだと思い煽動していると、
 銃声と同時に鈍い痛みが背中に走る。オアシスがなければ、
 銃弾が突き抜けていた可能性が高いと言ってもいいぐらいの痛み。
 ジャギのショットガンは彼女の話を中断するのに、丁度いい銃声の響きをしており、

「歩夢ちゃん。聞く耳持つのはだめよ。」

 ごもっともな意見を彼女は述べる。
 相手は殺し合いに乗っている人物の言うことだ。
 何処までが事実かどうかは分からない。真実があるなら、
 数時間後に行われるディメーンの放送まで待つのが一番いいのだと。
 もっとも、彼女は理不尽を体現した男によって、最悪の事態に巻き込まれているのだが、
 当然、此処にいる彼女達にはそれを知る術などどこにも持ち合わせてはいない。

890魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:27:17 ID:uU1XxHMA0
「事実を述べたまでだ。それともただの一般人が生き残れる環境か?」

 ギース、伯爵、桐生と優れた参加者を何人も見ている。
 ただ体幹のいいだけでしかなかった小娘を筆頭とした一般人が、
 生き残れるには余りにも過酷な環境なのは目に見えている。
 希望的観測を持つのであれば、現実逃避してると言ってもいいだろう。

「随分人の口説き方がなってないのね。」

「口説く必要があるのか? 殺す相手だぞ?」

 会話を切り上げると地面を蹴り、走り出す完全者。
 否。走り出すと言うよりは飛ぶように一気に肉薄する。
 魔法を主とした彼女の戦術でアカツキやムラクモのような肉体派な行動はできない。
 しかし、長い時間使ってきたことでオアシスの使い方を理解できるようになってきていた。
 地面を柔らかくすることと同時に、地面を固く戻すことでバウンドする要領で加速を覚えている。
 このスタンドの持ち主であるセッコは地面をバウンドすることでラッシュのスピードを上げており、
 実質自身のフィジカルでスティッキィ・フィンガーズと互角以上のパワーとスピードを誇っていた。
 それと同じ要領で弾丸のように肉薄することに成功している。

(速い!)

 迫る攻撃を避けるのは間に合わず、
 両腕をクロスする形で完全者の攻撃を防ぐ。

「ふむ……こういう使い方もあると言うわけか。」

 徒手空拳は不得手な割には上出来なレベルだな。
 そう思いながら自分の手を見やるが、何も見るのは彼女だけではない。
 沙夜は腕で防いだものの、オアシスの溶解する効果は触れれば発生するもの。
 防いだ腕の皮膚グローブが軽く溶解してグズグズの状態になっている。
 この程度ならば軽傷と言えど、下手に攻撃を受けるのはまずいものだと判断に時間はかからない。

(でもあのスーツ、結構面倒ね。)

 問題はあれは攻防一体を兼ね備えたスーツであることだ。
 攻撃を手で防がれるだけでも得物も溶解してしまうことだろう。
 下手な一撃を続けては得物がなくなるし、防御力も銃弾程度では貫通もしない。

(となれば、対処法は一番楽なのを選ぶに限るわ。)

 刀を収めるとパン、と沙夜が両手を叩く。
 同時に沼の鬼が彼女の目の前の地面から現出。
 ここにきて初めての存在にみらい達以外は戸惑うが、
 完全者にとっては敵の使い魔か何かだと思うこととする。
 (首輪があることについては疑問として残ってるが、それについては後回しにした)

 迫る鬼の斬撃を地面に潜りかけながら回避し、
 先のバウンドの要領で拳を地面を利用しラッシュを鳩尾へと叩きこむ。
 元よりスティッキィ・フィンガーズと殴り合うだけの破壊力を持つソレを、
 生身で受け、かつ溶解するものを受ければあっという間に再起不能になるだろう。
 勿論、普通の存在であればの話ではあるのだが。

「チッ、やはり魔性の類か。」

 額の三本角の時点で予想はついていたことだが、
 人間ではないことは分かっていたのでさして驚きはしない。
 吹き飛ばされて身体を再生させながら立ち上がってくる鬼を前に舌打ちをせざるを得ない。

「しかし能無しだな。」

 愚直に突進してくるだけの畜生程度、
 敵ではないと言わんばかりに適当に殴りつけて近くの塀に叩きつける。
 バックアップやスタンドありとはいえ徒手空拳の素人の拳一発でこの程度だ。
 どうやら使い魔とかの類としては低級のレベルだろうと、もう一度肉薄しようとする。
 しかし、突如として完全者は地面へと落ちていく。まだオアシスの能力を使用などしていない。
 加えて視界は悪いが周囲は見渡せ、呼吸も息苦しいが可能とオアシスの地中とは何かが違う。
 何事かと疑問に思っていると、暗闇の中から先ほど吹き飛ばしたはずの沼の鬼が眼前に現れる。
 鋭利な爪による斬撃は番傘で防いだから傷にはならなかったが、背後から来る殺気に裏拳を放つ。
 しかし水中のような動きにくさから、余り決定打にはならず迎撃と言うよりは防御に近いものになる。

(此処は地面ではない、何かしらの能力か!)

 能無しと思えば面倒な能力を持っていることに毒づきつつ、
 ほぼ泳ぐのと同義で闇の沼から飛び出ると同時に放たれる銃弾。
 無論予測していたことではあるので弾丸程度急所となる目元を中心に弾き飛ばす。
 オアシスで泳ぎに慣れたのは幸いだと思いつつ、地面の闇に番傘を突っ込み乱射していく。
 中で何が起こってるかは分からないし、水中のような空間であった以上弾丸の威力は期待できない。
 それでもなにもしないよりかはまし程度に牽制した後、今度こそ地面をバウンドするように蹴り肉薄していく。

891魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:30:08 ID:uU1XxHMA0
「よし、白井は脱出できた!」

 その間に植木はゴミを木に変える力を用いて、
 地面に埋まりかけていた日菜子の救出を行う。
 元々木の根はアスファルトをも貫通することがあるものだ。
 当然平安京の地面程度であれば、普通のでも十分に地面から取り出せる。
 ただ傷のせいで意識を失っており、回復系のスキルを使用することができない。

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 しおにできることは少ない。
 武器もなければ、今や基本支給品すらもない。
 できることはせいぜい日菜子の支給品を漁ることぐらいだ。
 出されたモノメイトで回復できる支給品があることを思い出す。

「そうだ! それを飲ませてくれ! 俺は針目の奴を───!!」

 みらいに任せることも危険ではあるのだが、
 縫を野放しにしてる間に何があるか分からない。
 だから必要は薄いとしても加勢しに行こうとするが、
 咄嗟に飛んでくる凶刃に対して、木の壁を作って何とか防ぐ。
 迫っていた先端のかけた刀身が壁越しに眉間に迫っており、
 届かなかったとはいえ軽い悲鳴と共に充は思わず腰を抜かす。

「何、してるんだよお前!?」

 凶刃の持ち主に植木は訴えかける。
 ぴしりと、壁に亀裂が入っていき崩れ落ちて下手人の姿が露になる。
 得物を持ちながらその手はガタガタに震えており、今にも落としそうで。
 人を斬ろうと言う確固たる殺意をその手に握りながらも青ざめた表情は、
 推理ドラマで誤って人を刺してしまったかのような、そんな顔色をしていた。

「だって、侑ちゃんが、殺されて……」

 上原歩夢。刃を向けたのは彼女だ。
 植木たちからすればいきなりすぎてわけが分からない。
 しかし、事情を知らないのと理解してないしお達と違って充だけが状況を理解している。
 みらいがノロのアンプルを打ち込んだことでアーナスからは難を逃れたようだが、
 その代償として、記憶の混濁や精神状態が不安定であると言うことを。
 元々侑が生き残る保障がどこにもないと言うことは自覚していたことではあるが、
 完全者に言われたことを鵜呑み、と言うよりは亀裂が入って精神に支障をきたしている。
 元々不安定なことから沙夜もある程度警戒していたが完全者の方を相手にしてるため余裕がない。

「白井さん、借りるよ!」

 傷のせいでまともに手を動かせない日菜子の持つ剣。
 今の状況ではまともに剣を振るうこともできない。
 回復もモノメイトをしおから飲まされる形で飲むことしかできず、
 事情を知らなければ、理解をしていないしおも含めれば即座に動けたのは充だけだ。
 青い剣を強奪するように手にしながら、そのまま迫る刃へと振るい甲高い音を響かせる。
 互いに剣技に関しては素人であり、一撃を受けると揃って身体がのけ反ってしまう。
 その後も二人の攻防が始まるのだが、理性が壊れかけてると言っても一介の女子高生。
 迫る刃に及び腰であり、充も蒔岡玲のような卓越された剣技を持ち合わせておらず、
 刃を避けると言うよりは逃げる形になっていて、

「なんだ、学芸会か何かか? あれは。」

 戦いに身を置くものからすれば、
 余りに見るに堪えない下らない戦いにしか見えなかった。
 番傘をダインスレイヴの代替に確実性のある飛び道具として、
 黒いビームとも言える技の一つであるゲッターカノーネを放つ。
 ブレブレな照準の銃撃ではなく真っ直ぐな一撃であり、
 咄嗟に回避行動に出た沙夜の頬を掠め、赤い筋を描く。
 転がりながらショットガンを放つも地面に潜る形で回避。
 地面から突き出される番傘は三本角の沼の鬼を壁にして防ぐ。

「彼らなりに必死なのよ。とはいえ、彼女はおいたがすぎるようだけど。」

 会話こそすれども彼女達は別に仲の良い間柄に非ず。
 くの字に曲がった沼の鬼を見ると同時に離れると、先のビームが沼の鬼の胴体を貫く。
 倒れる沼の鬼を置いて避けていた沙夜へ追撃せんと迫るが、二歩目を踏んだその瞬間。
 地面が黒く染まり、そこには今しがた倒したはずの沼の鬼が顔を覗かせていた。
 今しがた倒した鬼は後方で倒れているのを無意識に確認してしまうぐらいだ。
 確かに倒れてはいるのだが、そちらの方も起き上がろうと両手が地面をついており、
 ただの魔性の類ではないことを改めて理解するも、
 再び彼女は沼の鬼の領域へと引きずり込まれる。

「さて、と。」

 二度目とは言え、今度は沼の鬼を三体でけしかけることを選ぶ。
 これで多少は時間稼げるだろうと判断すると同時に、振り向きつつショットガンを放つ。
 銃口の先には、充が攻撃を防いで離れた瞬間一人で立っている歩夢の額にに直撃し、
 近くの路地を転がっていく。

「沙夜さん!?」

「ごめんなさいね。これが一番早いと思ったから。」

892魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:31:45 ID:uU1XxHMA0
「植、木……これ、どういう状況?」

「俺にも分からねえ。頭が悪いとかそういうのは関係ねえ。」

 植木も、モノメイトを飲んで回復してまともに喋れるようになった日菜子も抗議しようと思うも、
 彼女達がどういう経緯で行動してたのかも分からないし、一番手っ取り早いと言われたらそれは事実。
 現に二人は疑念こそ植木は抱いていたが一緒に行動を共にしていた仲間であり、マサオの時は共闘もしていた。
 だが同時に、少なくとも沙耶香を操っていた上に宮藤を殺害。更にその罪を日ノ元明に擦り付けようとしていた相手だ。
 一方で二人はそんな彼女を殺すつもりだったかどうかと言われるとストレートに答えることはできなかった。
 可能な限り無力化をしていきたいのが彼らの方針ではあるとしても、彼女が諦めるかどうかだとまずありえない。
 人を惑わし、他者に成りすまし、みらいとの戦いでもなおその飄々とした態度を崩すこともなかった。
 彼女は元からそういうことに慣れている動きだ。説得なんてものできたものではないだろう。
 現状首輪の解除の情報だってない。彼女を従わせるだけのメリットを用意することもできない。
 歩夢に対しても、説得しうるだけの材料を二人は当然として、同行してた充や沙夜も武力行使だ。
 先に同行していた二人ですらそれに行き着くのでは、彼女も止めようがないと言うことだと。

「まあ、お友達には悪いけど───」

 話の途中ではあるが完全者が闇の中から脱出。
 再びゲッターカノーネの黒い光線が辺獄の地を駆け抜ける。
 跳躍しつつ上空からの炎燐による斬撃を迎撃する形で防がれた。

「話の途中なのだけれど?」

「死んでからたっぷりとすればいいだろう。」

「あん、死人とならすぐ後ろにいるじゃない?」

「チッ、ネクロマンサーの類か!」

 沙夜からの攻撃を迎撃した後、
 背後から迫る爪の斬撃にも対抗するものの、
 事実上の四対一。文字通りの意味で手数が違い反撃の隙間から攻撃を浴びるものの、
 いずれもオアシスのスーツ越しなのもあって、軽い打撲に等しいものに軽減される。

「手伝ってあげるねー☆」

 そう言いながら縫が互いの間を割って入り、
 そのまま素通りしていきどこが手伝いだと毒づくも、
 即座に続いて彼女を追尾するため邪魔だと言わんばかりに、
 沼の鬼も含めて完全者達を全員両断せんとみらいのエクスタスが迫る。
 地面へ潜ることで身をかがめたことで何事もなかったが、
 沼の鬼はまとめて上半身と下半身が両断されてしまう。

「そっちも程ほどに、よ?」

「だったらおばさんも手伝ってよ。」

「こっちも愛が重くて大変だこと。」

 八房の骸人形は損壊状態は維持できないものの性能は担保されており、
 鬼であるため身体は再生できる一方で、無惨の作った鬼の特性など知る由もない。
 お陰で現状の彼女からすれば骸人形が使い物にならなくなってしまった認識に近い。
 死体人形である以上まだ動いてるとは言え、過度な戦力として期待は薄くもあり、
 数の利はないものとして一先ず扱い、番傘との剣戟へと持ち込むこととなる。

「立てるかい?」

「……一応は。」

 充から剣を受け取り、何とか立ち上がる日菜子。
 プリマのような衣装は血で染まってしまっているが、
 モノメイトのお陰で少なくとも大分ましなものになっている。
 一応栄光のアルカンシエルで回復するも、疲労感が襲い掛かる。
 やっぱり回復系のスキルにも制限がかけられていたかと理解し、
 まだふらつくところもまだあるが、そうも言ってられる状況ではない。
 状況的にこのまま休んでる暇はない。これ以上戦場が混沌とする前に、
 一人でも敵となる存在の対応をしておくのがベストなのだと思うものの、

「ッ!?」

893魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:32:43 ID:uU1XxHMA0
 既に凶刃はそこに迫っている。
 反射的に前に出て剣で咄嗟に受け止めるが、
 ありえざる光景に目を見開かざるを得なかった。
 先ほど、頭を撃たれたはずの歩夢がその刃なのだから。
 一見すればありえないとは思うも、この光景に覚えがある。
 彼女も、沙耶香の言っていた刀使なのではないかと。
 けれど、彼女と一致する情報に一致する人物はいない。
 刀使は少なくとも沙耶香の世界では公務員みたいなものなので、
 彼女が知らない刀使がいたとしても別におかしくないものの、
 ムラクモの考察から刀使のいる世界からは知り合いが集められてるのは明白だ。
 今になって赤の他人の刀使がいるとは思えないが、傷がなかったことになっていて、
 先程の銃撃で出血もしてない上にリフレクターが一般人の刃を抑えきれないのもおかしい。
 これが刀使の使う迅移や写シによるものならば、十分に辻褄が合うことではある。
 それが外的要因であることなど、知る由もないし彼女もまだ意識的に扱えてはいない。
 無意識に神力を引き出して扱っているだけに過ぎなかった。

 とは言え、経験値は断然日菜子の方が上である。
 コモンで長らくリフレクターとして戦ってきた経験は、
 いくら強引とは言え御刀の神力を引き出せるようになったとしても、
 スクールアイドルに過ぎない歩夢の実力では、差を埋め切れるほどのものではない。
 今はまだ劣勢と言うほどでもないが、かといって優勢になれる兆しは見えなかった。

「侑ちゃん……私、私───!!」

 いやだ。
 こんなところで終わらせたくない。
 必死に打開策を練ろうと思考を巡らせていき、
 距離を取りながら支給品の中からあれを取り出して、投擲される。
 投げられたものは、一見すると爆弾とかの類には見えない人形だった。
 典型的な市松人形ではあるが、コモンでは来夢がぬいぐるみを用いた攻撃をしている。
 となれば、あの人形にだって何かある可能性は十分にありうるものだ。
 だから回避を優先し、人形を一瞥するも自立して動く様子はなかった。
 その確認を終えると、距離の開いた歩夢へと斬撃を放つ。





 はずだった。
 少なくとも日菜子の想定では。

「……え?」

 確かに日菜子の判断は正しかった。
 彼女が投げた人形はただの人形ではないことまでは。
 一方で落ち度があったかどうかで言えば少なくともないだろう。
 天邪鬼がルール無用の逃避行の最中で用いていた呪いのデコイ人形は、
 攻撃をそちらへと集中させると言う初見殺しにも程がある呪いを持っていなければ。
 彼女が放っていたアヴェルスヴェリエの斬撃は、歩夢とは反対方向へと放っていた。
 つまり人形がまだある後方へ、つまり───後ろで戦場から逃れようと、しおの手を引く充の方向へ。
 迫る斬撃に気づくものの間に合わず、充が手を引く都合、攻撃はしおの背中を切り裂く。
 背中に真一文字の傷と共に血を噴き出し、充を握っていた手から力が抜けて倒れる。

「あ、れ……?」

「しおちゃん!?」

 理解できない。
 先ほどまで身を挺して戦ってた相手が、
 いきなり攻撃を此方へと向けてくる意味など。
 今までのが芝居だったのかと思うが、今までも嘘ではないはず。
 何故なんだ? そう充は問いかけたかったが、

894魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:33:50 ID:uU1XxHMA0
「どう、して……? なんで!? 私……!?」

 一番戸惑っていたのは攻撃した日菜子自身であり、
 動揺した表情を見てしまえば意図的なものではないのは分かった。
 二人へ攻撃するつもりなどなかった。けれどしてしまったのは事実だ。
 自分が何をしたのか分かっているのに分からないせいで、思考が纏まらない。
 違う、そんなつもりじゃない。充の『何故?』とでも言いたげな視線はそう口にしそうになる。
 どう見ても彼女がしおを狙ったとしか思えない一撃を、呪いのデコイ人形が地面を転がりながら、
 その光景を見届けているが、当然その致命的な隙を前にして歩夢は見逃すつもりはなかった。
 いや、まだ躊躇いについてはあったかもしれない。何とかぎりぎり一歩を踏みとどまっていたのを、
 表面張力で辛うじて零れずに保っている理性と言うコップへと、注がれた侑への想いと殺人と言う結果。
 それが全てを後押しする結果となった。しおはまだ生きているものの、ほぼ虫の息にしたのは日菜子ではなく歩夢の人形だ。
 元々は日菜子が二人へと刃を止める隙をついて、デイバックを奪うだけに留める可能性は残っていた。
 まだ人を殺すことへの、人間として当たり前のように覚えてきた道徳や倫理がほんの僅かだがそれを躊躇わせる。
 そこに訪れたのはしおが、ゲームやアニメのような斬撃を飛ばすような攻撃で倒れると言う結果だ。
 結果として自分の招いた行為で人を殺める。最早ただのスクールアイドルでいられなくなった。
 だから、もう迷うことはなかった。

「白井さん、後ろ───!!」

 充もそれに声を上げたものの、
 紡ぐと同時に日菜子の胸を加州清光の刃が背中のデイバックごと貫く。
 張り上げた声は他の五人にも届き、戦闘を僅かにだが中断をするには十二分な状況であり、

「白井ッ!!」

 一番早く行動できたのは同行していた植木だけだ。
 決めた相手にしか神器を使わないので木で移動しながら、
 続けて歩夢を捉えるべく力を行使しようとするもその前に、
 歩夢は日菜子のデイバックを斬り落として、支給品を丸ごと盗んで人形も回収する。
 しかし、迅移で速度を上げていたとしても、天界人のバロウにレベル1で食らいつけた能力。
 そこにアイドルとしての体幹があったとしても捕まらないと言うのは難しい。

「……貴様との戦いはお預けだ。」

 実によさげなものを拾えそうだと感じ、
 完全者が地面からの鎖を出すグレイプニルの拘束を狙うも、
 沙夜が先に気づき反射的に飛びのくものの、目的は地面に潜る時間が欲しいのでそれが正解だ。
 オアシスで地面に潜りつつ歩夢を捉えて、その足を掴む、

「ッ!?」

「逃げたいのなら手を貸すぞ?」

 沙夜もみらいも、この状況で味方してくれることはないだろう。
 差し伸べられた手は間違いなく悪魔の誘いだと言うことは察した。
 けれど彼女だけだ。自分に差し伸べてもらえるのは、もう悪魔の手しかない。
 静かに頷くと同時に地面へと引きずり込まれるように沈み、植木の攻撃を回避。

「逃げたければ手を貸すぞ!」

「わーい、じゃあお言葉に甘えちゃおっかなー☆」

 此処で戦闘が始まってからと言うもの、
 ずっとみらいが張り付いているせいで逃げようがない。
 彼女には擬態していても問答無用で殺しにかかる部分もあり、
 適当に擬態していたとしても逃げることは困難を極めるだろう。
 だったら逃げた方角が判断のつかない地面に逃げるのは正解であり、
 この二人はこっちにとって味方になりうる重要な存在でもあるので、
 その提案について乗らない理由がなかった。

「逃がすわけないじゃない!」

 当然みらいは逃がすつもりはない。
 余り幽鬼の姫としての力を行使すると後で説明が面倒になりそうなので控えていたが、
 エクスタスを振り回すよりも確実に殺せると踏んで背後に槍を作るも、

「逃げさせてもらうぞ。」

「わー、あっぶなーい☆」

「ッ!」

 番傘の銃口から放たれる弾丸。
 ずっと縫を追い回していたので相手の支給品を把握していない。
 その為、番傘による銃撃への対応で手いっぱいとなってしまう。
 別にこの程度ならば777の攻撃とかとそう変わらないので気にはならないが、
 彼女達を揃って逃がしてしまったことの方がよほど気にすることだ。
 もしも自分が幡田みらいだと知れば、絶対に幡田零の前で擬態するだろう。
 歩夢も一緒に逃げていたことは周囲の状況を見やれば把握できることだ。
 だからみらいに化ける可能性は余りにもありうることだった。

「いつかはこうなると思ってたけど、
 そっか……道は違うけど頑張ってね歩夢ちゃん。」

895魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:34:33 ID:uU1XxHMA0
 でもそうなったら殺すしかないかぁ、残念。
 残念がってる言葉とは裏腹にさほど気にしていなかった。
 元々ノロを入れた時点でいつかはこうなるだろうなぁと思っていたのと、
 彼女にとっては似た者同士ではあるがそれ以上の関係に至ることもなく。
 究極のところみらいが欲しいのは零だけなのだから。

「白井! そっちも大丈夫かよおい!」

「ダメだ、血が止まらない! 意識もないみたいだ、しおちゃんしっかりして!」

 だから他の誰が死のうと知ったことではない。
 とは言えガン無視するのも面倒くさいし視線は向けておく。
 しおの方はそもそも戦力外だったのでお荷物になるのが死んでスッキリ、
 と言うのが本音ではあるが流石にそれを口にするつもりはなかった。

「なあ、お前らの中に傷を治せる支給品とかねえのかよ!?」

「残念だけど持ってないわ。」

「あっても私やお姉ちゃんの時のために取っておきたいから無理かなぁ。」

 実際は確認してないので分からないのだが、
 結果的にとは言え彼女が最初大怪我を負ったのは自分が原因でもあり、
 少なからず日菜子からの印象は良くないのであるのは間違いないだろう。
 仮にあったとしても、それを彼女に消費するだけの価値を全く見出せない。
 情報も同行してた植木から入手すればばいいので気にするほどのこともなかった。

(ダメ……力が入らない。)

 起き上がることも、満足に喋ることもできない。
 ほぼ死が秒読みに迫ってきている中、しおを見やる。
 せめて、彼女だけでも助けたい。そう願ったものの、
 その力はしおにも届くことなく、二人とも命の燈火が消えていく。

「先に謝っておくわ。ごめんなさいね。」

 沙夜が一言謝罪を述べると、
 同時に二度目の刺突が心臓を貫く。
 突然の刺突に血を吐きながら息絶える日菜子。
 いきなりの行動を前に、植木は戸惑いながらも彼女の服の襟を掴む。

「テメd! 何を───」

 そのまま怒号を飛ばそうとするものの、
 日菜子が急に立ち上がったことで出そうになっていた言葉は思わず飲み込んでしまう。
 まさか何とかなったのかと思うものの、それだったら沙夜が最初から説明している。

「あれ、私、生き、て……」

 本来八房の骸人形には死者の生前の思考はあれども、意志が宿ることはない。
 だがメフィスとフェレスにより調整されていたことで死後も自我が存在する。
 てっきり生き返ったのかと少しばかり楽観的に思うものの、

「いいえ、残念だけど、貴女は死人よ。
 時間がなかったら合意が取れなかったけど、
 まずはこれについて、説明しておこうかしら。」

 この舞台において、反感を買うような行為は余りしておきたくない。
 ドミノ達と合流したことのある人物、彰と充が時間軸が違う様子。
 だから時間軸が違うかもしれないなら、零児が味方だった時か敵だった時なのか。
 一応は最低限の信用はえておく必要はあり、相手の了承は得るようにはしておきたかったが、
 命が尽きる寸前まで来ていた日菜子にはそれを確認する猶予もなく、確認を取らず骸人形にしたと。

「へー、じゃあさっきのアレもおばさんが殺したの?」

「開始早々に出会っちゃって、色々ね。
 まあ人を食う鬼だったのは想像できたけども。
 その辺りは後で話してあげるわ。それよりも大事なことあるんじゃなくて?」

「って、そうだ、一応生き返ったならその子……!」

 リフレクターに変身できる。まだSPはある。
 だったらとしおに歩むものの、充が項垂れながら首を横へ振った。

「……君が、刺された時と同じぐらいの時には、息を引き取ったよ……」

 どういう言葉を口にすればいいか、言葉を詰まらせてしまう。
 あの時歩夢が回収していた人形によって何かがあったのだろう。
 だとしても、日菜子はしおを手にかけてしまったと言う事実は覆らず。
 しかし、あの状況に何より戸惑って青ざめた表情をしていたのは彼女だ。
 そして自分がしおだけでなく、日菜子にもちゃんと気を配っていれば彼女も生きていたはず。
 故に視線も、言葉も謝罪も何もかけることができない。何を言えばいいのか、彼には分からない。
 ドミノに、そして彼女の言うさとちゃんこと松坂さとうに対して何て言えばいいのか。
 そういった様々なものがないまぜにされており、言葉を発することができなかった。

「……お通夜状態のところ、少しいいかしら。白井日菜子であってる?」

「は、はい。えっと……」

896魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:36:12 ID:uU1XxHMA0
「沙夜よ。結論だけ言わせてもらうと、
 私は死体人形になった貴女をこの先も利用するわ。
 それがたとえ、首がちぎれたとしても戦わせることになるけど、
 流石にそんなグロテスクな戦法を無理強いさせたら坊やとかこの子にも色々言われるもの。
 だから此処で決めてもらえるかしら。貴女が死後も戦う気はあるのかどうかを。
 ないなら、今後も貴女を使役することはないけれど……どうする?」

 どんな姿になっても骸人形として扱われる。
 それがナジェンダからも死者を冒涜すると憤慨させる代物だ。
 死してなおも戦わされる。それは提案ではあるが同時に地獄でもある。
 人は死ねばそこで本来終わるものだ。安らかな死を約束されない帝具によって、
 復活してることを知り、今の自分が死人だと改めて分かると、
 青ざめた表情になって少し逡巡するものの。

「お願い、します……戦わせてください。
 本当は嫌なこともきっとあると思うし、
 来夢に何て言えばいいのか全く思いつかない。
 でも……私はこの子を殺した。その罪とも向き合わず、
 死んで逃げるだけなんてことは、したくないの。」

 ダンスができるだけの足を取り戻せたと言うのに。
 またユズとライムに再会できたかもしれないのに。
 こんなどこだか分からない場所で死んだのなんて受け入れるのは嫌だ。
 ありふれた女子高生らしい願い、記憶を取り戻した彼女らしい願い。
 そう言ったものはあるけれど。それ以上にこれ以上何かを失いたくなかった。
 まだ生きてる来夢、沙耶香やアリサの友人達を助けになれるのであるなら。
 歩夢や縫と言った凶刃から、死んでもなお誰かを守れると言うのであるのなら。
 自分が犯してしまった罪から目を背けたくない。そう言いたげにしおを見つめる。
 アリサとさほど年が変わらないような、小さな子供をこの手で殺めてしまった。
 その贖罪ができると言うのであれば、彼女は願う。リフレクターとしてまた戦うと。
 一人のプリマは参加者と言うスポットライトを浴びることはなくなり。
 ただの操られる死体人形と言う、残酷な立場を始める道を選んだ。

「とのことだけど……大丈夫よね、坊や。」

「本人が望んだんだからいいじゃない?」

 返答するのは植木ではなくみらいだった。
 彼女は自分の意志で自分がしたいことを選んだ。
 自分にとっては余り理解できることではないものの、
 他人に自分が望んだことをどやかく言われる筋合いはない。

「それにしても、死んでも会話できるなんて素敵だねその帝具。
 個人的にはそういう支給品が欲しかったなぁって思えちゃうけど。」

 これがあれば死んでもお姉ちゃんといられる。
 ずっと、ずーっと一緒にいてくれる自分だけのお姉ちゃんの完成だ。
 自分の為だけのお姉ちゃんが出来上がるなんて最高以外の感想はどこにもなく、
 日菜子に対する興味は殆どなく、八房の方を笑顔で見やる姿に日菜子は戸惑う。
 植木と余り年の変わらない少女は、一体何を考えてるのかが理解できなかった。

「とまあ、こんな面々ではあるのだけれど、
 少なくとも今のところはまだ話し合いの通じる相手よ?
 悼んだり後悔する気持ちは理解できないわけじゃないけれど、
 建設的な話をするのが、彼女の意を汲むことってことも忘れちゃだめよ?」

 才を殆ど失った植木でもそれぐらいは分かる。
 二人の死に対して何もできないことに歯がゆく思いながら、
 まずは情報の共有だけでもするべく、話し合うことを選ぶ。
 甘い生活の物語も、青きリフレクターの物語も此処で幕を下ろす。

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ 死亡】
【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 死亡】

【E-6/一日目/午前】

897魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:36:13 ID:uU1XxHMA0
「沙夜よ。結論だけ言わせてもらうと、
 私は死体人形になった貴女をこの先も利用するわ。
 それがたとえ、首がちぎれたとしても戦わせることになるけど、
 流石にそんなグロテスクな戦法を無理強いさせたら坊やとかこの子にも色々言われるもの。
 だから此処で決めてもらえるかしら。貴女が死後も戦う気はあるのかどうかを。
 ないなら、今後も貴女を使役することはないけれど……どうする?」

 どんな姿になっても骸人形として扱われる。
 それがナジェンダからも死者を冒涜すると憤慨させる代物だ。
 死してなおも戦わされる。それは提案ではあるが同時に地獄でもある。
 人は死ねばそこで本来終わるものだ。安らかな死を約束されない帝具によって、
 復活してることを知り、今の自分が死人だと改めて分かると、
 青ざめた表情になって少し逡巡するものの。

「お願い、します……戦わせてください。
 本当は嫌なこともきっとあると思うし、
 来夢に何て言えばいいのか全く思いつかない。
 でも……私はこの子を殺した。その罪とも向き合わず、
 死んで逃げるだけなんてことは、したくないの。」

 ダンスができるだけの足を取り戻せたと言うのに。
 またユズとライムに再会できたかもしれないのに。
 こんなどこだか分からない場所で死んだのなんて受け入れるのは嫌だ。
 ありふれた女子高生らしい願い、記憶を取り戻した彼女らしい願い。
 そう言ったものはあるけれど。それ以上にこれ以上何かを失いたくなかった。
 まだ生きてる来夢、沙耶香やアリサの友人達を助けになれるのであるなら。
 歩夢や縫と言った凶刃から、死んでもなお誰かを守れると言うのであるのなら。
 自分が犯してしまった罪から目を背けたくない。そう言いたげにしおを見つめる。
 アリサとさほど年が変わらないような、小さな子供をこの手で殺めてしまった。
 その贖罪ができると言うのであれば、彼女は願う。リフレクターとしてまた戦うと。
 一人のプリマは参加者と言うスポットライトを浴びることはなくなり。
 ただの操られる死体人形と言う、残酷な立場を始める道を選んだ。

「とのことだけど……大丈夫よね、坊や。」

「本人が望んだんだからいいじゃない?」

 返答するのは植木ではなくみらいだった。
 彼女は自分の意志で自分がしたいことを選んだ。
 自分にとっては余り理解できることではないものの、
 他人に自分が望んだことをどやかく言われる筋合いはない。

「それにしても、死んでも会話できるなんて素敵だねその帝具。
 個人的にはそういう支給品が欲しかったなぁって思えちゃうけど。」

 これがあれば死んでもお姉ちゃんといられる。
 ずっと、ずーっと一緒にいてくれる自分だけのお姉ちゃんの完成だ。
 自分の為だけのお姉ちゃんが出来上がるなんて最高以外の感想はどこにもなく、
 日菜子に対する興味は殆どなく、八房の方を笑顔で見やる姿に日菜子は戸惑う。
 植木と余り年の変わらない少女は、一体何を考えてるのかが理解できなかった。

「とまあ、こんな面々ではあるのだけれど、
 少なくとも今のところはまだ話し合いの通じる相手よ?
 悼んだり後悔する気持ちは理解できないわけじゃないけれど、
 建設的な話をするのが、彼女の意を汲むことってことも忘れちゃだめよ?」

 才を殆ど失った植木でもそれぐらいは分かる。
 二人の死に対して何もできないことに歯がゆく思いながら、
 まずは情報の共有だけでもするべく、話し合うことを選ぶ。
 甘い生活の物語も、青きリフレクターの物語も此処で幕を下ろす。

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ 死亡】
【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 死亡】

【E-6/一日目/午前】

898魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:36:45 ID:uU1XxHMA0
【幡田みらい@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康
[装備]:万物両断エクスタス@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(回復系であっても自分か姉にしか使わないつもり)
[思考・状況]
基本方針:管理人の思うようにはなるつもりはない。
1:お姉ちゃん、待っててね♪
2:歩夢ちゃんも頑張ってね。まあ殺すけど。
3:ゴミ(千)消えたんだ。別にどうでもいいけど。
4:あのおばさん(沙夜)何がしたいんだろ。まあ邪魔をするつもりはないみたいだしいっか。
5:アーナスにつくよりお姉さん(ドミノ)につく方がましかな。
6:最悪お姉ちゃんと殺し合いだけど、殺すのはこの状況だと避けたい。
7:あの女(針目)、お姉ちゃんに近づかないように早めに殺しておきたい。
[備考]
※参戦時期は六章(二週目)深間ノ街 萌芽から
※名簿を確認して姉の零、並びに千がいることを知りました。
※この殺し合いが魂と理念を集めが基本の軸となってないかと考えてます。
 また、紋章が白いのは生者ではないかと推測しています。

【城咲充@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:顔面腫れ、貧血(傷は止血済み)、精神疲労(大)、複雑な感情
[装備]:アークス研修生女制服 影@ファンタシースターオンライン2、柊樹@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:カンフーマンの首輪、カンフーマンのデイバック
[思考・状況]
基本方針:初音ちゃんとしおを殺し合いから脱出させる。
1 :沙夜さんと植木君と同行。松坂さんとドミノさんにどう言えばいいんだ。
2 :男物の服はないのか?
3 :初音ちゃんを探し、護る。無論、他の仲間たち(悠奈、修平、琴美、結衣、真島、はるな、大祐)も。
4 :脱出の協力者を探す。
5 :日ノ元さんとドミノさんの関係、余り聞けてないけど黒河君と真島君みたいなものなのかな。
6 :ドミノさんに初音ちゃんを護ってもらう。
7 :初音ちゃん、強姦魔(モッコス)とかヘルメットの人(ジャギ)に襲われないといいなぁ‥…
8 :蒔岡君に出会えたのはちょっと嬉しいかも。
9 :奴隷の次は下僕って何!?
10:工具あれば首輪を弄れるかも。
11:彼女(針目縫)と歩夢に要警戒。
12:白井さん……
[備考]
※参戦時期はDルート死亡後。
※メガンテのうでわの説明書を読みました。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエル、沙夜、みらい、一応歩夢と情報交換をしました。

【沙夜@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:疲労(小)
[装備]:炎燐@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD、死者行軍『八房』@アカメが斬る!、ジャギのショットガン@北斗の拳
[道具]:基本支給品一式×2(自分、沼の鬼)、ランダム支給品×0〜3(自分×0〜1、沼の鬼の鬼×0〜2。回復系はなし)
[思考・状況]
基本方針:情報収集。脱出が不可能となったら優勝狙い。
1:二人を安全と言える人に保護してもらう。坊やでも見つけて渡そうかしら?
2:本調子を出すには、あと刀一振りね……
3:坊やと出会ったら……共闘がいいかしら?
4:彼女(歩夢)、ダメみたいね……とは言え、仕方ないか。
5:彼女(針目縫)は何者かしら。その辺も聞いておきたいわ。

[備考]
※参戦時期は後続にお任せします。
※アーナス、アナムネシス、幡田みらいが双子と関わりがあると睨んでいます。
※名簿を確認して有栖零児がいるのを知りました。
※骸人形と化した沼の鬼達は上半身と下半身を切断されていますが、
 再生しているため再度使用すれば元に戻った沼の鬼が出るかもしれません。
 また、沼の鬼は沙夜の指示により喋ることはできない状態にあります。
 (八房の調整により本来喋ることがないはずの死体が自我を持っているため)
※躯人形と化した日菜子にどう制限がかかってるかは後続の書き手にお任せします。
 ただしSPは全快していません。回復系のスキルも生前同様の調整をされてます。
 また日菜子にはリフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣、ギャレンラウザー@仮面ライダー剣、顔のない王@Fate/Grand Orderが装備されてます。
※みらい、アナムネシス、歩夢、ドミノ、しお、充と情報交換しました。

899魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:37:54 ID:uU1XxHMA0
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:負傷(中)、疲労(小)、精神疲労(大)、溶解(軽微)
[装備]:立体起動装置&スナップブレード@進撃の巨人(ガス1/4)
[道具]:基本支給品、アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん 優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会、替えのブレード×3
[思考・状況]
基本方針:自分の正義を貫く。
1:森達のところに戻りたい…とは思うけど、殺し合いには乗らねぇ。
2:日菜子と行動を共に服部奪還を目指す。
3:空白の才が支給されていたらヤバイな……。
4:針目の奴……
5:ムラクモって男……針目に似たような雰囲気がするな。
6:銀髪の女(完全者)と赤髪の女(歩夢)も止めねえと。
7:こいつらと話をしておきたい。

[備考]
※参戦時期は16巻の第153話「最終決戦!!」にて、アノン相手に最後の魔王を撃った直後からです。
※「ワールドウィッチーズ」及び「キルラキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※神器やゴミを木に変える能力のレベル2にはある程度制限がかけられていますが、どれぐらいの制限がかかっているかは後続にお任せします。
※神器は自分の世界の神様を決める戦いに参戦している人間”以外の人間には使用しないと決めています。
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。(半信半疑)
※ムラクモを少しだけ警戒しています。(あくまで自分の勘)
 ただ
※ムラクモと情報交換をしました。



「まあ、此処らでいいか。」

 追ってきてないのを確認すると、完全者は歩夢と縫を地面から放り出す。
 地面が柔らかいと思って着地した二人だが、互いに地面の硬さに戸惑う。
 オアシスの先入観で思わず柔らかいと思ってしまったがそういうわけではない。

「さて、建設的な話をしようか? 少なくとも道中は同じようだからな。」

 此方も沙夜と同じように、
 この盤面を攻略するための話を進めていく。
 すべてはプネウマ計画の為。利用できるものはすべて利用する。
 縫も歩夢も同じだ。自分の目的のため、他者を利用して蹴落とす。
 たとえそれが魔女の誘いであっても、その覚悟は決まっていた。

【E-5/一日目/午前】

【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:ダメージ(大)、魔力消耗(中)
[装備]:神楽の番傘@銀魂@ONEPEACE、祝福の杖@ドラゴンクエスト7、オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険、焼夷手榴弾×3@バイオハザードシリーズ
[道具]:基本支給品一式、コントンのラブパワー@スーパーペーパーマリオ、ノワール伯爵のデイバック(基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済))、ノワール伯爵の首輪
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
 1:コントンのラブパワー。とんでもないな。
 2:ビブルカードについては保留としてたが、消えたか。
 3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
 4:首輪の解除手段の模索。この辺りはディメーンを利用できるか?
 5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
 6:童磨に警戒。
 7:伯爵の部下でも探しておくか。特にミスターLは必須。
 8:他に利用できる連中を手に入れておく。
 9:あの小娘(美炎)、まさかエヌアインのような存在か?
10:ディメーン……信用は出来ないが、利用はできるな。
11:ミスターLの状況は利用したい。
12:ギースは、まあ勝手にするだろう。
13:今思えば、あいつマネーラじゃないか?
14:こいつら(歩夢・針目)を利用しよう。特に前者は使い勝手がいい。
[備考]
※参戦時期は不明。
※モッコス死亡、プロシュート死亡により完全者の所持するビブルカードが消滅しています。
※ギースと情報交換しました。
※オアシスで地面を泥にしてから固めることを習得しました
※オアシスの制限は以下の通り
 ・地中に長時間潜ると消耗が大きくなる
 ・周囲の地面を泥化は消耗がかなり大きい
  三度もやればスタンドを維持できなくなる(十中八九地面に埋まって動けなくなる)
 なおコントンのラブパワーによるバックアップを受けたためこの辺り緩和されてます。

900魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:38:43 ID:uU1XxHMA0
【針目縫@キルラキル】
[状態]:負傷(大)、疲労(中)
[装備]:片太刀バサミ(赤)@キルラキル
[道具]:基本支給品一色
[思考・状況]
基本方針:優勝して元の世界に帰還する
1:利用できそうな参加者は利用する。そうでない参加者については明の姿で殺していく。
2:アーナスちゃんに関しては要注意だね☆
3:ナスタシアちゃんもがんばってねー。バイバーイ
4:完全者の話を聞くだけ聞く。
[備考]
※参戦時期は少なくとも鬼龍院皐月と敵対した後からとなります。
※名簿に関係者がいないことを把握しました。
※静夏・植木の世界について簡単に知りました。
※日ノ元明、植木、服部、ナスタシア、日菜子、みらいに擬態可能です。
 他の人物も可能ですが性格や声のどちらかを再現ができません。

【上原歩夢@ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:疲労(中)、ノロによる体の変化、意識混濁、身体能力向上、精神不安定、
[装備]:加州清光@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火
[道具]:基本支給品一式×2(自身、日菜子)、ランダム支給品×0〜2(自身×0〜1、日菜子×0〜1)、モノメイト(2/5)@ファンタシースターオンライン2

[思考・状況]
基本方針:自分の想いを果たす
1:私だけの侑ちゃんとする。たとえ■してでも
2:この人たち(針目、完全者)を利用しないと、侑ちゃんは……
3:ありがとう……みらいちゃん。貴方のお陰で、私は自分の本当の想いに気づけた。
4:同好会の皆に出会ったら……ううん。私は侑ちゃんを選んだ。だから■す。
5:沙夜さんは何を考えてたんだろう。

[備考]
※参戦時期は11話〜12話の間。
※ノロのアンプルを注入されたため、ノロが体内に入り意識が混濁しています。
 また、刀使としての能力に目覚めてます。今は殆ど無意識に行えてる程度ですが、
 そのうち慣れるかもしれません。また通常の刀使と違ってノロによるものなので、
 スイッチ形式でも強化はできます(意識的にできるかは現状不明)。
※名簿を確認して、侑並びにスクールアイドルの仲間たちがいることを知りました。

※E-6に神戸しおの遺体があります。

【こけおどし手なげ弾@ドラえもん】
針目縫に支給。ひみつ道具の一つであり、
強烈な光と音を放つので実質的にスタングレネード。

【呪いのデコイ人形@東宝Project】
歩夢に支給。弾幕アマノジャクにて正邪が使用するアイテム。
原作では使用したデコイ人形に自機を狙った弾幕を惹きつける効果だが、
本ロワでは『使用者を狙った攻撃を全てをこの人形に惹きつける』効果として扱う。
使用回数は3回までで、効果時間は12秒(原作における効果時間としては一番レベルの低い状態)。

901魔女の一撃 ◆EPyDv9DKJs:2025/07/28(月) 22:39:02 ID:uU1XxHMA0
以上で投下終了です

902 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/21(木) 23:59:14 ID:lYy8Inf60
投下お疲れ様です。 投下します。

903辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/21(木) 23:59:47 ID:lYy8Inf60
楽しい笑いは家の中の太陽である。
サッカレー

904辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:00:07 ID:cefofKkg0

はぁ……はぁ……

――――ズキズキ

はぁ……はぁ……

――――ズキズキ

あれから、ひろし達は北へと進路に定めると歩いていた。

「ここで、愛さんのダジャレショーの始まり始まりーー!」
「急ですね……なんでですか?」
「まぁまぁ幡田さん。せっかくだから聞いてみようよ。ね?」

愛の突然のダジャレ言います宣言に零は訝しむが、可奈美はなだめつつ場を取り持つ。

「ダジャレを言うのは誰じゃー、ふとんが吹っ飛んだー、アルミ缶の上にあるみかん!」
「走るってランランするよね!走る(ラン)だけに!……ぷ、うける〜〜〜っ」
「自分で言って自分で笑うのですか……」
「宮下さんって、ダジャレ考えるの上手なんだね」
「もー!カナミン、アタシのことは愛と呼んでっていってるじゃん」
「……うん。わかったよ、愛ちゃん!」

わいわいがやがや……

「おー!、んじゃ俺も……とある夏の暑い日に王様が寒いことを言ったOh〜サマーなんてな!」

「「「……」」」

「あ……あれ?」

「本当に、寒く感じました……」

病院での死闘の影響もあり、足取りは重かったが、愛の明るさが一行の歩みを手助けしていた。
ひろしの親父ギャグに零は寒そうに体を震わせていたが。

やがて、幾つかの住宅地が見えると――――

「俺の家じゃねーか!?」

ひろしは驚愕する。
それは当然。
まさか、この殺し合いの平安京にマイホームがあるのだから。

☆彡 ☆彡 ☆彡

905辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:01:17 ID:cefofKkg0

「だけど、野原さんの家があるなんて、驚きだよ」
「そうだね。でも、おかしいよね……野原さんの家って、たしか……」
「ああ。俺の家は埼玉の春日部にあるはずだからな」

一寸変わらぬ家。さらに庭にある飼い犬のシロの小屋もご丁寧に再現されている。
しかし、野原一家のマイホームは京都ではない。埼玉県春日部市にある。
それがなぜ京都にあるのか……ひろしたちは首を傾げる。

「……」
(おそらくあの双子の仕業でしょうか…)

しかし、ただ一人零は心当たりがある。
はじめて辺獄に迷ったとき、みらい・セレナと住んでいる自分の家があったため。
そしてそのあと、アナムネシスと初めて出会った。
しかし、あえて零は口を紡ぐ。
零の心の中にまだ“優勝”という道が残されているため。

「……」
ひろしたちは、無言で眺める。
やがて――

「んじゃ、いい機会だから、ここいらで早めの食事でもするとしようか」

ひろしは明るく食事を提案する。

「料理ですか?」
「ああ、どうやら家を再現してあるだけあって冷蔵庫にいくつか食材がある。だからこれらを使ってな」

どうやら家の外観だけでなく細かいところまで再現してあるようだ。
ひろしの提案に愛と可奈美が返答をしようとする。

だがその前に――――

「そんな暇あるんですか?」

「は……幡田さ「少し黙っていてください」

零の冷たい言葉に可奈美は口を挟もうとするが、それを先手で零はいなす。

「野原さん。野原さんは奥様と息子さんがこの殺し合いにいますよね?早く合流したくないんですか?私は、したいです。妹と一秒でも早く」
「大体、食事なんてそんなのデイバックにある食料で十分じゃないですか?」

「「「……」」」

シーンとする。
零のいわんとすることもわかるからだ。

906辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:01:58 ID:cefofKkg0
愛は同好会の皆を。
可奈美は刀使の皆を。
各自それぞれ探し人がいる。
当然、ひろしは愛する妻と息子。
だが、ひろしの、愛する妻と息子は死んでいる。
ひろしにとっての現実(じごく)はすぐそこに迫っている。

愛も愛で命を散らしたメンバーがいる。
可奈美もひろし同様に深刻だ。無理やり集められた参加者の中で2番目に多い刀使たち。可奈美は知る由もないが既に一人しかいない。
しかも、残りの一人である十条姫和は、辺獄の管理者たちにより八神将として心が。電撃蟲により体が穢され続ける討伐対象。
実質0といってもいいだろう。

愛にとっても可奈美にとっても現実(じごく)が待っている。

「はは、確かに零ちゃんのいうことはもっともだ。正直に言えば、俺も息子や妻を一刻も早く探したい」
「俺なんて家族がいなきゃだめな男だからな…けどな、闇雲に探しても心身が削れるだけだ。だからこそ気を保っていることが大事なんだ」

そこには先ほどの寒いダジャレをいう姿はなかった。
一家の家長としての目。
まっすぐ零の目を見て答える。

「それに良い仕事は良い昼メシからっていうんだぜ?」

「「「……」」」

「うんうん、愛さんはひろしさんの提案に賛成だよ!」
「うん、私も。ねっ、食べよ幡田さん」
「……はい」

零はしぶしぶといった風だが、ひとまず納得したと言う感じだ。

「……と提案した俺がいうのもなんだけど、実は、料理は普段、妻にまかせっきりか外食だから、独身時代の男メシになっちまうけどいいかな?」
「あ、それじゃあアタシも手伝います。愛の手料理をサポートするよ!愛だけに」
「私も手伝います!家事は当番制だったので。幡田さんは?」

ひろしの言葉に愛と可奈美も手伝いを表明する。
可奈美は零も料理する?と尋ねる。

「すみません。実は料理はあまり……いつも、妹がしてくれていたので」

零は妹の言葉を想起する。

家で料理してたことかな。スマホでレシピ探しながら、ああでもないこうでもない、って
ほんと、偏食な姉を持つと苦労するよ。主食が芋ってどうなの?

偏食気味な零のため、妹であるみらいが主に担当していた。

「うん、わかった。じゃあ、幡田ちゃんはゆっくりと待っていてね」
「それと……」
「「「?」」」
「あ、あの……椎茸は苦手なのでできれば……」

顔をほんのり赤くしながらおずおずと申告する。

「はは、わかったよ!」

零の言葉にひろしは苦笑しつつもOKとサムズアップした。
そんな零の姿に愛と可奈美は、安堵な表情であった。

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

907辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:02:24 ID:cefofKkg0

「んじゃ、さっそく作るとするか」
「野原さんは何を作りますか?」
「俺は、男メシだから、”主食”を作らせてもらおうかな」
「それじゃあ、愛さんは”副菜”を幸福を込めながら作るよ〜”ふく”だけに♪」
「えっと……愛ちゃん、ふくの漢字が違うような……。じゃあ、私は汁物を担当するね」

各自、分担を決めると動き出す。

「よっしゃー!さっきのダジャレでは、スベッたけど、男メシで零ちゃんを唸らせてみせるぜ!」

ひろしは、燃える闘魂で食材に手をつける。

☆彡 ☆彡 ☆彡

908辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:02:44 ID:cefofKkg0

「よーし!できたぞ」

お披露目の時間となった。
あれから、一人ずつ順番に料理を作った。
事前に知ると、驚きが無いので、ひろし、愛、可奈美はお互い、作った料理は知らない。

「んじゃ、順番にお披露目するとするか!」

「はいはーい!それじゃあ、まずは愛さんからだよ」

こういうとき率先して行動する。
それが愛の良さ。

「んっふふ〜。愛さんはこれだよ!」
「主食は野原さんが作るから。愛さんは副菜というわけ……じゃーん!」

宮下愛 副菜 アスパラガスとジャガイモの焦がしバター醤油炒め

材料 ジャガイモ アスパラガス ニンニク バター 醤油 黒コショウ オリーブオイル みりん


「アスパラだけに、ああ〜素晴らしい♪」

「……まさか、それが言いたいからアスパラガスのおかずを作ったのですか?」
「も〜レイレイ。流石に愛さんもダジャレだけで作らないよ。いい?アスパラガスは万能野菜なんだよ」
「万能……野菜ですか?」
「そう!アスパラはね、カロチンにビタミンBとCを同時に摂取できるんだよ。そしてアスパラガスに含まれるアスパラギン酸は、疲労回復や滋養強壮に役立つんだから!だからアスパラガスは……ああ〜素晴らしい♪」
「途中まで、素直に感心しましたが、やっぱり最後のそれがいいたいだけにしか聞こえません……」

ジト……零は愛を見る

「じゃ……じゃあ次は、カナミンいってみよー!」

愛はアチャーとしたリアクションで可奈美にバトンパスを送る。

909辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:03:46 ID:cefofKkg0

愛はアチャーとしたリアクションで可奈美にバトンパスを送る。

「うん。わかった」
「野原さんが主食で、愛ちゃんが副菜だから……私は汁物を作ったよ」

衛藤可奈美 汁物 納豆汁

材料 納豆 木綿豆腐 油揚げ だし汁 味噌 酒 醤油

「納豆汁か〜」
「カナミンは納豆がすきなんだ!」
「うん!納豆は筋肉の疲労回復にいいんだよ」

可奈美の家は剣術一家。
食の健康への意識は当然高い。

「うんうんこの匂い、寒い季節によく飲むよ」
「寒い季節……ですか?」
「ああ、俺の実家は秋田なんだけど、すり潰した納豆がみそ汁に溶け込むことで、とろみが生まれ冷めにくいんだよ」

野原ひろしは秋田県出身。
納豆汁は秋田県では、冬の風物詩で冠婚葬祭やハレの日の料理として定着している。

「つまり納豆汁を飲んだら、体がホッと納豆(なっと)く〜!」
「他人の料理でもダジャレをいうんですね」

ダジャレの愛、つっこみの零の構図が出来上がってきている。

「最後は俺だな!よっこらせっと!」

910辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:04:13 ID:cefofKkg0
「「「おーーーー!」」」

「一人暮らし時代の男に必要なのは、細かい料理技法じゃなくて量なんだ」

「そして、やっぱり男メシといったら”肉”だよな!」

野原ひろし 主食 ガーリックステーキ

「随分、肉肉しいですね!」
「う〜〜ん、愛さん早く食べたいよ!」
「……食べきれるでしょうか」

肉の濃厚な香りが部屋を包み込む。

「大丈夫!なんてたって……」
「男、野原ひろし!!出されたものは残さず食べる!!」

「「「おーーーー!」」」

ひろしの宣言に3人は拍手喝采。

「おーし!それじゃあ、食べるとすっか!」
「じゃあ、愛さんが号令するよ♪さ!みんな手を合わせてください」

愛の言葉に全員、両手を合わせる。
愛はそれを確認すると、あの言葉をいう。
そう、日本人なら定番のあの言葉を。

「それじゃあ、いくよ〜〜〜〜! いただきます♪」
「「「いただきます」」」

☆彡 ☆彡 ☆彡

911辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:04:36 ID:cefofKkg0

〜野原ひろし 辺獄の流儀〜

「それじゃあ、まずは……やっぱり肉からだな」

和食の作法では、始めに味が薄いものから順番に食べるのがよいとされている。
濃いものから食べると、繊細な味付けや風味が感じられにくいからだ。
寿司も同じ原理。
まずは、王道の白身からイカ・コハダ。次は味が濃いマグロや貝類。そしてお茶(あがり)で舌を一度休ませてから、脂が強いアナゴにいくら……トロ!!
だが そんなのかんけいねぇ!
食べたいものを食べる。それが食を楽しむ醍醐味。
勿論、伝統や作法も大切だ。それをおろそかにしてはならない。
だが、今は殺し合いという狂った場において作法だなんだというのが無作法だ。

箸で肉をつかみ取る。

これ!!これ!!
これぞTHE・肉って感じ!!
うう〜〜〜〜ん
この香りたまんねぇ 焼かれた肉の旨みが鼻孔を突き抜けるぜ
やっぱり、企業戦士には”肉”だな
よし……それじゃあ、かぶりつく!!

!!!??? これは……肉汁の旨み爆弾!
かめばかむほどあふれるこの深みのうま味!!
こいつはご飯を食わずにはいられない!!

もぐ もぐ

合う!! 合わないわけがない!!

少し食べたら味変もありだ。
塩コショウを軽く振ると……ぬふぅ〜〜〜〜ん!!
塩味とスパイシーな風味で深みがました〜〜〜〜!!
口の中でとろけるようだぜ!! 力が沸く。
これなら恐竜が相手でも吹っ飛ばせられる!

ご飯が進む〜〜〜〜っ!!

んじゃ、可奈美ちゃんの納豆汁を味わうとするか

―――ズズ

ああ……染み渡る〜〜〜〜っ!!
納豆のとろみがまたいい
そして汁によく馴染んでる
納豆と味噌……めちゃくっちゃ合う〜〜〜〜
やっぱり白メシには味噌汁だぜ!!
あのCMを見ると、まねしたくなるだろ?

もう一口

―――ズズ

止まらないぜ!

―――ズズ

おっとと、愛ちゃんのアスパラガスとジャガイモの焦がしバター醤油炒めも味わうぞ!

―――シャキシャキ

っ!!このうまさ!とまらないぜ
これならペロっといけそうだ!!

また、この焦がしジャガイモの芳醇な香りが、ジャガイモの甘みとアスパラの青みを引き立てる。まるで……融和。
そうこれは。

―― フレンチと和の融合 ――

それにしても、愛ちゃんも可奈美ちゃんも旨さに甲乙付け難い!(料理のことです)
どちらもそれぞれうまい!!

ブラボー!!
今日のメシデミー賞全部門賞を総ナメだぜ!!

今度、みさえにお願いして、この愛ちゃんと可奈美ちゃんの料理を作ってもらうとするか!

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

912辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:05:22 ID:cefofKkg0

「この味、ネバーギブアップだよ!ネバネバだけに〜」
「普通の感想はいえないんですか?」

愛の味の感想に零はあきれるようにつっこむ。

「んもう〜、レイレイ。愛さんなりの“おいしい”を表現しているんだよ」
「ありがとう!愛ちゃんのアスパラとジャガイモもおいしいよ。この味。まるで二刀流の連撃みたい」
「幡田さんはどう?おいしい?」
「……まぁ、はい。おいしいです」
可奈美の直球に零は小さな声だが、感想を伝える。

「よかった。幡田さんの味にあって」
「とかいって、レイレイ。ジャガイモばかりは偏食のもとだよ?バランスよく食べなきゃ」
「何いってるんですか?ジャガイモは野菜です。たくさん食べないと体に悪いんですよ?」
「お〜!零ちゃんはジャガイモが好きなんだな」
「……はい」
愛の指摘に零は顔を真っ赤にしながらも肯定する。
そしてまたジャガイモをとって食す。

そう偏食気味の零は芋……特にポテトが好きなことから妹からポテトイーター零ちゃんと呼ばれることもある。

「ははは、でも零ちゃん本当いい笑顔だな」
「……え?」
「さっきの俺への諫めのときの張りつめた顔と今は180度違うよ」
「やっぱり子どもは笑顔が一番。思いつめた顔で妹さんと会うわけにはいかないだろ?」
「それに愛ちゃんのアスパラとジャガイモ。2つの食材がうまく調和されている。人と人をつなげる……愛ちゃんらしいいいおかずだよ」」
「また可奈美ちゃんの納豆汁、すり潰した納豆がとろみを生んでる。そう、剣術に対する興味関心の強さ……可奈美ちゃんの粘り強さがそっくりだ」

「「「……」」」

本来より”褒めて伸ばす”が子供への教育方針だけあって、ひろしの言葉かけは、可奈美、愛、零の心に温かみを与える。

☆彡 ☆彡 ☆彡

913辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:05:49 ID:cefofKkg0

それから会食の会話が弾む。

「そんで、新入したてのとき、上司に怒られてさ〜……」
「お仕事、大変なんですね」
「まぁ……今は愛する家族がいるから、幸せだよ」
「いつまでも、ラブラブで愛さんも野原さんみたいな家庭を築きたいよ」
「はは!といっても、休日はゴルフや昼寝ばかりして妻にあきれられてしまうことが多いけどな」
「君たちも大人になって家庭を持つことがあったら、夫のささやかな趣味を受け入れてくれてあげてくれ」

――――ズキズキ

「いやー、あのとき食べたカレーのベリーホットにはまいったぜ!」
「愛さんも辛すぎるのはちょっとやだなー。レイレイは?」
「……私も食べたくありません」
「私はちょっと興味はあるけど…だけどよく食べられましたね」
「ま、そこは男の見栄もあったけどね。いやでもガムシロップを作った人に感謝だったよ」

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

「え〜〜!?一汁三菜ではなく、二汁零菜ですか!」
「ああ、混んでたおかげで、偶然新しく出会えたんだ」
「500円以内と安く済んだし具沢山で健康的だし腹いっぱいにもなれる!!とん汁定食最高の選択だったぜ!!」
「私は、ポテトフライが多ければそれで満足です」
「レイレイは本当に芋が好きなんだね」
「そーだ!愛さん、レイレイのことポテトイーターレイレイと呼ぼうか?」
「じゃあ、私はポテトイーター零ちゃんだね♪」
「……やめてください」

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

914辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:06:09 ID:cefofKkg0

「へー、愛ちゃんのお家はもんじゃ焼きなんだ」
「へっへー、そう!どんなもんじゃい♪」
「もんじゃ焼きか……」
「どうしたんですか?」
「いや……オレの部下に川口ってのがいてな」
「もんじゃ焼きではなく、お好み焼きを食べたときの話になるんだけど……」
「オレはお好み焼きと言ったら豚玉一択でね」
「うんうん、王道で愛さん、いいと思いますよ」
「だけど、あいつは真逆でコーン玉にトッピングでラーメンスナックだったんだ」
「ソースも少なめでマヨネーズなんか円を描くように大量にかけたんだ」
「さらにピザのように切ってね」
「?、それが変なんですか……?」
「えっと、確か東日本の方では、ピザ切りで関西地方では、格子切りが好まれているってきいたことがあるかな」
「え!?そうだったのか……・こりゃ、なおさら反省しなきゃだな」
「カナミンがいう通り、一般的にはよくそう言われているね」
「だけど、愛さんとしては、お好み焼きだけに「お好みで作っても構わない……ですか?」
「おー!レイレイもついにダジャレに目覚めたんだね!愛さん仲間が増えて嬉しいよ〜」
「いえ、目覚めていません」
「ははは、愛ちゃん残念だったね。それで気になって交換して食ったんだ。そしたら、ラーメンスナックのカリカリとした食感。にコーンの甘さ」
「マヨネーズ多めソース少な目の味付けで際立つこの組み合わせ」
「一見、ふざけているようで、ちゃんと食材のこと考えての行動だったことに気づいたんだ」
「いや、固定概念に囚われすぎてはいけないと教わったね」
「気づけて良かったですね」
「ふふん、ちなみに愛さんも一見、ふざけているようで実は計算があるんだよ」
「とてもそうに見えません……」

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

「そういえば野原さんは秋田県出身なんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「秋田県のおすすめグルメって何ですか?」
「秋田県のかい?」
「はい」
「そうだな〜……ここは横手焼きそばを推薦しようかな」
「日本三大焼きそばの一つでB-1グランプリで優勝1回準優勝1回の記録があるんだ」
「ワオ!愛さん、驚きだよ」
「うん。すごいね」
「そうですね」
「横手焼きそばの特徴は
「横手焼きそばといったらどっかり置かれた半熟の目玉焼き、つけ合わせは紅ショウガではなくて福神漬けなんだ」
「焼きそばっていったら紅ショウガのイメージがあるんですが、福神漬けなんですね」
「ああ、横手焼きそばのソースは甘口のウスターソースが特徴なんだ」
「福神漬けの甘辛い味がソースと合って太麺にもピッタリなんだ」
「つまり横手焼きそばとは……」

――――― 甘口ソース×半熟卵×太麺 ――――― の三重奏

「「「おー―――」」」

☆彡 ☆彡 ☆彡

915辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:06:34 ID:cefofKkg0

「可奈美ちゃんが通っている美濃関学園ってどこら辺にあるんだい?」
「岐阜県の関市です」
「岐阜県か〜、とすると特産品は飛騨牛(ひだぎゅう)だね」
「はい、そうです。」

飛騨牛。それは日本の5大ブランド牛に数えられる。

「甘みとコクが深いのが特徴で美味しいですよ」
「そりゃ、今度出張で行くことがぜひとも食べてみたいね」

――飛騨牛。
それは一刀両断の美学に通じる肉質。
火入れの技術は間合いに通じる。
精神と肉体のバランスを整える。

「そういえば牛といったら、この間、割引券があったから牛カツを食べたんだ」
「とんかつではなく、牛カツですか……?」
「ああ、とんかつというポピュラーなものがあるにもかかわらずあえて牛で勝負する……揚げてあるのに肉はミディアムレア!!ここまでとんかつと違うのかと初めは困惑したよ」
「余りの違いにまずは、千切りキャベツから口に運んだんだけど、とんかつと同じだからなのか安心したよ」
「そこで落ち着きを取り戻したオレは牛カツに向き合った。ワサビを乗っけて口に運ぶと、最初は衣のサクサク感!!」
「そのあとに牛の旨みが口中に広がる〜〜〜〜〜っ!!」
「トロけるような赤身肉の食感。熱々で肉汁があふれるトンカツとはまるで違う料理で、ワサビと醤油が和のテイストを引き立ててくれる」
「すごく上品に牛肉を味わってる気がしたよ」
「口直しに千切りキャベツ。味噌汁。」

「牛カツ最高〜!!」

「聞いているだけで愛さん。ヨダレがダラダラだよ」

「あと、素敵な言葉にも出会えてね」
「それってどんな言葉ですか?」
「それは……“枠にとらわれてちゃ新しい世界と出会えない”って言葉だよ」
「「おお〜〜〜〜」」
「……」
「さっきの川口とのお好み焼きのエピソードじゃないけど、やはり気づかされたね。仕事も食事も
「だってさレイレイ」
「……その言葉を否定はしませんが、私は結構です」
「ははは、まぁ零ちゃんの好きなものをとことん食べる姿勢もわかるけどね」

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

「野原さんのステーキ美味しいんですが、奥様と一緒になる前はよく自炊していたんですか?」
「ああ…とにかく金がなかったからね」
「そうそう自炊と言えば、急に猛烈に食べたくなったのがあってね。なんだと思う?」
「……ポテトフライですか?」
「んもー、それは野原さんではなくレイレイでしょ!」
「はは、ポテトフライも美味しいけど、違うよ」
「答えは何ですか?」
「答えは……ナポリタンだよ」

「「「ナポリタン!!!」」」

「おそらく当時、自炊で炒め物や焼き魚ばかりだったから洋食が食べたくなったんだな」
「んで、今はいろいろなソースが売られているけど、当時はミートソースの缶詰ぐらいしかなかったんだ」
「だけど、缶詰は高いし、量が余ってしまう。そこで辿り着いた答えはナポリタンなんだ」
「ナポリタンがですか?」
「味付けはケチャップだけで大丈夫だからね。また、具は玉ねぎにピーマン、ウインナーだけだしね」
「そんで、初めて作ったわりには結構い出来だったんだ」
「だけど、俺はナポリタンで気づかされたんだ」
「それは……」

「「「それは……」」」
ひろしの思わせぶりな間に3人はごくりと喉をならす。

「一人で作って、一人で食べて、一人で片づける……はぁぁ〜〜」

「一人でメシ食ってもさみしい〜〜〜〜〜」

「「「……」」」

――どっ!

「もう〜、野原さんの昼メシエピソード、面白すぎるよ〜」
「うん。本当だね。零ちゃんも興味深そうに聞いていたよね」
「……はい。偏食気味の私でも野原さんの話。面白いです」
「お!それは嬉しいね〜。じゃあ、もっと引き出しを増やしておかないとな」

楽しき笑い。つかの間の団欒。
けれど……ここは辺獄の殺し合い。
ハッピーシュガーライフなどない。

――――ズキズキ

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡

916辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:07:09 ID:cefofKkg0

食事を終え、軽い一服をしているとき、

「なっ!?なんだぁ!!」
「何?何?」
「地震でしょうか?」
「うん、おそらく!」

突如、鳴り響く轟音。
大きな揺れ。食器棚が崩れ落ち、皿が次々と割れる。
それは――――
残酷な世界から逃げ出したかった破壊の神による災いの散布。

――――ズキズキ

――――ズキズキ

☆彡 ☆彡 ☆彡

「こりゃひでぇな……」

轟音がした場所へ行くと、そこは地獄といってもおかしくない惨状であった。
パチパチパチと残火が燃え続ける。

そして、死体が……
謎の大巨人に狼と舌がでている宝箱。
一瞬、宝箱は関係ないかと思ったが、狼にも舌の一部が巻き付いていることからおそらく参加者だろう。

「……」
(この殺し合いで死体を対面してなければ、先ほど食べたばかりのをもどしていただろうな…これっぽっちも嬉しくもないが)

先ほどの食事で広がった空気が一瞬で冷えた。
巨人の行動は、4人をある意味で殺したといえよう。

もし、俺らがいる場所に投げ込まれていたとしたらゾッとするぜ……

ひろしは戦慄する。
もし、先ほどのような災害が妻であるみさえや息子のしんのすけに向けられていたと思うと。
ひろしの懸念は的中する。
巨人の行動が息子の命を奪ったことをひろしはまだ知らない。

みさえ……お前は俺が守るからな! 
しんのすけ……父ちゃんのカッコイイところ、見せてやるからな!

だから二人とも”放送で呼ばれないでくれ”

――頼む!

―――ズキズキ

『ミサエかシンノスケが死んだら、どうするつもりだ?』

―――ズキズキ……ズキズキ

917辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:07:33 ID:cefofKkg0

【E-4/一日目/昼】

【宮下愛@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
[状態]:頬に傷(処置済み)、肩に裂傷(処置済み)、耳たぶが少し削れてる(処置済み)、疲労(小)、精神疲労(中)、覚悟完了
[装備]:レッドカード@ポケットモンスターシリーズ、特注の日傘@東方project、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、
[道具]:基本支給品×2(自身、夕月)、ランダム支給品×0〜1(少なくとも愛に使えない武器、回復系でもない)、包帯×2、絆創膏×1、洸のデイバック(基本支給品、手榴弾×3@現実)、晄の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。でも戦わないつもりはない。
1:ゆうゆ(有)達を探しつつ首輪も何とかしたい。
2:みんな……無事でいてね……
3:病院の皆と合流しなくちゃ。
4:みっつん。少しの間待ってて。愛さん頑張るから。
5:あの変装をする何か(マネーラ)に警戒しないと……どうやって見分けよう。
6:愛さんも、戦うよ。
[備考]
※参戦時期はアニメ最終回後。
※マネーラの本来の姿を別の参加者を模倣した姿と思ってます。
 また姿だけですが立香、あかり、零の姿を覚えてます。
※右足のコンクリートはウォーハンマーで強引に破壊して元に戻ってます

【野原ひろし@クレヨンしんちゃん】
[状態]:左手粉砕骨折(止血済みで骨折の痛みではないがズキズキした感覚がする)、疲労(中)、精神疲労(特大)、罪悪感 
[装備]:こおりのいぶき×2@スーパーペーパーマリオ、スモークボール@大貝獣物語2×4、黒鍵×5@MELTY BLOOD、スピリット・オブ・マナ@グランブルーファンタジー、都古とギースの首輪

[道具]:基本支給品(水が少し減ってる)、予備のショットガンの弾、ランダム支給品×0〜1、包帯×3、都古デイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ニュートンの林檎×4@へんなものみっけ!)、ギースの写真@餓狼伝説
[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない
1:しんのすけ達を探しつつ首輪も何とかしたい
2:とりあえず今はロック達と病院で休む
3:都古ちゃん……すまねえ……!!
[備考]
※少なくとも『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』までの映画版での出来事は経験しています。


【衛藤可奈美@刀使ノ巫女】
[状態]:精神疲労(特大)、疲労(大)、左肩弾痕(処置済み)、右手に傷(包帯で処置済)
[装備]:孫六兼元@刀使ノ巫女、白楼剣@東方project、司城夕月の指輪、 悪鬼纏身『インクルシオ』の鍵@アカメが斬る!、仙豆@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品×3(自身、舞衣、ギース、ロックの分。舞衣とロックのみランダム支給品×0〜1×2)、スタミナドリンク100×4、黒河のPDA(機能使用可能回数:2回)@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage、包帯×2、ロックの首輪

[思考・状況]
基本方針:殺し合いはしない。姫和ちゃんやみんなを探したい。
1:幡田さんを放っておくわけにはいかない。
2:姫和ちゃんは千鳥がないと……ううん。それでも私が止めないと!
3:お母さん、薫ちゃん、舞衣ちゃん……私、生きるよ。
4:皆と早く合流しなきゃ。
5:フェザーさん……私、頑張るね!
6:アナムネシスの反応、どういうことなんだろう。
7:みらいちゃんを探して止める。

[備考]
※参戦時期はアニメ版21話、融合した姫和と戦闘開始直後です。
※舞衣の理念の残滓との影響で孫六兼元で刀使の力が使えるようにはなりましたが、
 千鳥と比べたら半分以下の制限となります。(人外レベルの相手は難しい)
※情報交換したため世界の違いに気付いてます

【幡田零@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:涙は流れない、精神不安定(極大)、疲労(中)
[装備]:代行者の衣装と装備、オチェアーノの剣@ドラゴンクエスト7エデンの戦士たち
[道具]:基本支給品一式×2(自身、はるな)、不明支給品×0〜2
[思考]
基本方針:???
1:私は……
2:千さん……
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
6:みらいが幽鬼の姫……? アナムネシスを殺したのはみらい?
7:この雰囲気、みらいに会わないと話が進まないような……
  とは言え、会って確かめないと……

[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
 ただし半信半疑なので、確信しているわけではありません。 
※彼女のこの舞台での経緯についてまだ聞いていません。
 つまり、マネーラのことも伝えていません。

918辺獄の流儀 ◆s5tC4j7VZY:2025/08/22(金) 00:07:45 ID:cefofKkg0
投下終了します。


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