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ジョジョ×東方ロワイアル 第八部

739ビターにはなりきれない:2020/11/04(水) 18:09:06 ID:UVCbRvCA0





「───……奈子さん?」



 暗い海に転覆していた視界が、光の下へ急激に引き揚げられる。


 神奈子の沈黙を不審に感じた少年が、目元を窺うようにして覗き込んできていた。神奈子は自身が思う以上に動揺していたらしく、こうして声を掛けられ、ようやっと意識を浮上させた。

「あ、あぁ。悪いね、私としたことが」

 その一言を以て、神奈子の強張りが抜けた。堅と柔を自由に応変させるその気質が、浮き足立つ気持ちに早急な挽回を促す。メンタルリセットという点で、こういった長丁場では重要なスキルと言えた。
 どうやら精神が一服を求めていることを自覚する。神奈子は息を吐き出し、小休止の意味も込めて支給品から一枚の紙を取り出した。
 手近な地面に落ちていた大きめの樹葉を数枚、手元に引き寄せて一箇所にまとめる。エニグマの紙を広げてひっくり返し、中からなだれ込んで来た菓子類を荒く落とした。樹葉は受け皿代わりだった。

「客側である私が言う台詞じゃあないが、まあ食べなよ。お茶請け代わりさ。茶は無いけどね」
「……菓子?」

 少年がいかにも怪訝そうに、神奈子の用意した菓子の数々を睨み付けた。
 当然の反応だ。あちらからすれば、神奈子は唐突に姿を見せた得体の知れない敵のようなもの。罠のひとつも勘繰らない方がおかしい。
 だが正真正銘、このお菓子はおかしくない。元々はヴァニラの所持していた支給品の一つであり、和菓子・洋菓子入り乱れる至って普通の菓子類だ。安物だが。
 戦場において糖分の類は貴重であり、重要な栄養ソースであるのは言うまでもない。言ってみればこの支給品はハズレの部類ではあるが、殺し合いが後半に進むにつれ、こういった『遊』の要素も精神的な支えになるのは自明だった。
 更に言えば、幻想郷に越したからには二度と御目にかかれないであろうと踏んでいたこの手の現代嗜好品に巡り会えたという点においても、神奈子の気休めになる程度には好感触だった。

「毒なんか入ってないよ。単なるおやつさ」

 自らの発言を証明するように、神奈子は色とりどりの菓子から一つ、適当に見繕って手に取った。日本ではどこにでも売られているような、ごく一般的なバタークッキーだ。
 手際良く包装を剥がし、心地よい音を刻みながらクッキーの半分に齧り付く。馴染んだ味わいの通りに甘ったるい感触が舌を通り抜け、胃の中が洗われるような小さな幸福感が口の中を支配した。
 やはり甘い物というのは良い。こうした甘味は戦前と現代とを比べれば遥かに流通も増大し、今日では気楽に手に入る嗜好品として広く親しまれている。神の視点から見た人間の歩み……その一つとして数えてもいい、慈しむべき美点に違いなかった。
 このスイーツという発明、ひいては食の発展そのものが、人の歴史に生まれた壮大なユーモアを体現しているみたいに感じられ、テイストも含めて神奈子は好きだった。
 残った半分のクッキーも放り込むように口へ入れ、神奈子は間食を終える。神が人間の目の前でポイ捨てを行うというのは流石にバツが悪く、残ったゴミも几帳面に紙の中へと戻しながら。

「どうしたの? 遠慮しなくていいわ。単に情報提供感謝の意味だから」

 撒かれた菓子をじっと訝しむ少年へ、今一度誘いをかけてみる。あくまで兜の緒を緩めようという趣向を含んだおやつタイムであり、実際神奈子にもそれ以外の他意などない。
 あるとすれば……儀式には既に前向きであろうこの少年の出方を見てみたい、というのが心底に隠された狙いといえば狙いだった。


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