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ジョジョ×東方ロワイアル 第八部
722
:
きっと。
:2020/10/25(日) 02:32:30 ID:KeTKQLrA0
「幽々子、さん。私……もう、待てません。無理です。そうこうしてる内に、メリーが殺されないという保証なんか、無いじゃないですか……っ」
「あの薬師の言う通り、もしメリーの隣に紫が居るのならば。ただの人間ならともかく、あの子を紫は放っておかないわ。迫り来る邪から、きっとメリーを護ろうとする筈」
「物事が万事如意に進む保証が、無いと言ってるのです。実際にメリーと紫さんが互いに手の届く範囲に居ることも、紫さんがメリーを護ろうと動くことも、紫さん自身が危機に陥っていないことも、何処にもそんな保証はありません」
ぐうの音も出ない、至極真っ当な反論だ。阿求の言は感情に寄ってはいるが、事態の視点を正しい高さで見据えられている。
一方の幽々子の意見は、不動であるべき態度を貫かんとするものだった。事実としてメリーが敵の牙城に囚われている現実。門を攻め立てるには、あまりに不確定要素が多すぎる。
ましてや目の前の少女は、戦力に換算するにも至らぬ一般人側の人間だ。幽々子の立場としては言うまでもなく迂闊な行動は控えるべきであり、少なくとも今は堪え忍ぶ時間だった。
そんなことは、分かっている。
「そんなこと…………分かってるわよッ!!」
間近で受けた、幽々子の怒鳴り。
普段の温厚な彼女を知るなら、似つかわしくない振る舞いだった。
「……誰に諭されずとも、紫のことは私が一番よく知ってるわ。彼女の今が、抜き差しならない状況に陥っている事ぐらい」
空気が萎むように、幽々子の調子は急落していく。無理やりに抑え込んでいた焦燥が、永琳からの一報でついには限界を迎えた。
何よりも紫の身を案じ、憂慮していた彼女だ。妖夢との一件……その真相はさておき、支えるべき友人という認識は未だ捨てられる訳もなく。凡その居場所が知れた今、即座に飛び出て接したい衝動は募るばかり。
それでも彼女は自身の立場を弁えた、ひとりの大人。全てを顧みず自分勝手な暴走を始めた結果は、目の前の阿求に刻まれた負傷が全て物語っている。
もうこれ以上、誰かを失うのは御免で。
そう判断した結果、今度は紫とメリーの命が危ぶまれている。
可能性に過ぎない話。そして、終わってしまえば「ああすれば良かった」と後悔する堂々巡り。
結局、何が正しいかなど誰にも分かりはしない。
分からないからこうして不安に襲われ、揺蕩し、己を見失う。
我が従者も同じように志半ばに斃れたのかもしれない。あの子は精神的にはまだまだ未熟なのだから。
そしてひょっとすれば、紫も同様なのかもしれなかった。彼女のイメージにはそぐわないが、誰であれ『落ち目』という時期は唐突にやって来るものだ。
率直に言って、幽々子は迷っている。
阿求を護るべきという立場を踏まえながら、これからの身の振る舞いを。
時間が許してくれるかすらも、正答は出ない。辺りはもうすぐ闇の支配する時間帯へ突入する。
「幽々子さん」
阿求の手が、いつの間にかテーブルに突っ伏しかけていた幽々子の両肩に添えられる。
「私は貴方の判断に従います。この期に及んで私一人だけでも向かう、なんて馬鹿な選択は選べません」
それを選べるほど、阿求は子供ではない。
けれどもジャイロらの帰還を待ってられるほど、冷静な大人でもない。
どこまでも半端な自分を押し留めるように、最終的に阿求は幽々子の意志に委ねた。
ズルい、と思う。
子供だから、とか。大人だから、とか。
強いから、とか。弱いから、とか。
こんな血生臭い戦場では何の言い訳にもならない、逃げ道とも取れる屁理屈を抱く自分。
それでも。阿求の掛けた言葉の中に詭弁や保身の類は欠片もない。
自分と同じように苦心する幽々子を案じた、真摯な信頼が含まれていた。そしてそれは、阿求という人間が根差すひとつの優しさだと幽々子は受け取った。
小さな溜息と同時に、幽々子の表情が柔らかく灯った。
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