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ジョジョ×東方ロワイアル 第八部
492
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黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ──
:2018/11/26(月) 01:36:42 ID:dCSol15U0
深い欲も、浅い欲も。
高尚な欲も、凡庸な欲も。
個々人によって大小の差はあれ、その差別こそを楽しむのもまた一興。それが青娥の、普遍的な価値観。
勿論、欲にも彼女なりの嗜好が出る。傾向としては、強者であるほど欲に深みが現れ、観察する楽しみも格段に増す。
強い相手を好むという彼女の性質は、身を焦がすほどの欲を愛し、耽溺し、自分を満足させてくれる割合が破格だからという本意的な部分を基点としている。
故に、八雲紫ほどの大妖怪ともなれば、最期に醸し出す欲の度量──肝に当たる部分は、さぞや美味なる品質に違いないと期待していた。
他者から見れば『嘘っぱち』の秘封倶楽部を最後まで見届け。ようやくメインディッシュの八雲紫を、報復と共に突き崩すチャンスが訪れた。彼女の欲はそんじょそこらの凡夫とは一味違う筈だから。
舌舐めずりを抑えながら開いてみたディッシュカバーの中身は……期待に反し、青娥の興味欲を一層削いでしまった。
蓋の中から飛び出した紫の欲は、深いようであり、浅いようでもあり。
高尚なようであり、凡庸なようでもあり。
早い話が、欲ソムリエである青娥をして“よく分からない”であった。
何故なら彼女の最後の抵抗は、想像以上に『普通』だったのだから。
いや、抵抗と呼べる行動すら起こさなかった。本当に、普通の女の子そのものの力だった。
ガッカリ。
面白くない。
つまんない。
ビミョー。
さっきから青娥の頭をグルグル回るのは、それらの単語ばかり。口先をアヒルみたいに尖らせながら、何をするでもなく、こうして二つの亡骸をトボトボと見比べてはションボリと項垂れる。
こちらが勝手に、一方的に期待していただけ。紫を愚痴るのはお門違いというものだ。
その実態を理解しているだけに、何とも遣りようのない萎縮が肩透かしの形となって、青娥の口から「はぁ〜」と吐き出されていく。
「ねえ、紫さま〜……。貴方は最期に何を思い、何を見ていたのかしら」
紫が天を仰ぎながら零した、最期の言葉。
あの大妖怪が遺す最期の言葉というのだから、青娥も内心胸を高鳴らせていたのに。
その末路は、どうにも解せない。
『───うん。わたし、“普通の女の子”になりたかったの』
言葉の意味はこの際、重要とはならない。表面のみを捉えれば紫の遊び心とも言える。
戯言も同然の台詞。それは裏を返せば、遊べるだけの余裕があの瞬間の紫に発生した。
その余裕の根源が青娥にはよく分からない。わざわざ直前に、式神の暴走行為まで示唆してやったというのに。
いや、少なくともあの瞬間までの紫は相応の──青娥の期待通りの反応を見せてくれたのは確かだ。
その直後。
『夢』を語る最中の彼女に、理解し難い変貌が訪れたのだ。
「満足……? ちょっと、違うわね」
感覚としては近いが、紫は決して全てに満足を覚えながら逝ったようには見えなかった。
賢者を冠する彼女にも、幾つもの心残りを憂うような顔の相は垣間見えた。
満足というよりは、妥協と呼んだ方が更に近い。
「恐怖……? それこそ似合わない」
自身の消滅を怯えない妖怪などいない。大妖であろうと、例外は無く。
少なからず彼女に恐怖はあったろうが、存在を脅かす敵へと震え上がるような弱音ではなく、この世に憂いを残すことによる無念さが際立っているようだった。
「諦観……? だとしたら、一番不愉快なパターンだけど」
何もかもの敵対事象に対し、両手を上げながら諦める。それは言うなら、青娥の最も毛嫌いする、マイナス方面での無欲だ。紫に限ってそれは無いと断じたいものだが、少なくともあの時の彼女は、ある種の諦めも見えた。
仏教において『諦め』とは、物事への執着を捨てて悟りを開く事とも云う。自分などより数倍胡散臭いあのスキマ妖怪に悟りが開けるなどとは全く思わないが、『執着を捨てる』という線はかなり近いように思える。
その線で考えたなら、執着を捨てたというのはつまり、『執着を持つ必要がなくなった』とは言い換えられないだろうか?
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