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ジョジョ×東方ロワイアル 第八部

491黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ──:2018/11/26(月) 01:33:59 ID:dCSol15U0
『霍青娥』
【夕方 16:35】C-3 紅魔館 地下道


 柄にもなく、霍青娥は苛立っていた。
 いや、苛立つという表現は些か大袈裟かもしれない。
 面に出るほど気を立てているという自覚は少なくとも彼女に無いし、へそを曲げるといった可愛げのある表現ですらまだ言い過ぎだ。

 精々、なんか面白くないですわ程度の、蚊に刺された様な不機嫌。
 どうしてだろうか。

 愛しのキョンシー・宮古芳香をあんな酷い目に遭わせた式神風情の清算として、その保護者には死を以て償わせた。八雲紫はこうして無様な屍体へと成れ果て、報復は無事に終えることが出来たのだ。


 めでたしめでたし。


「……ち〜っとも、めでたくないですわね」


 孤独となった場所で、ため息と共に独りごちる。めでたくない理由など、とうに分かっている。
 それはひとえに、想像していた以上に紫がつまらない女だったからだ。


 青娥は別に、戦うことが大好きな戦闘狂ではない。力のある者は好きだが、その相手と競り合いを演じる事に至上の幸福を得るタイプではない。全然ない。太古より地上で猛威を奮っていた鬼たちを筆頭に、幻想郷にはその手の自信家や熱血漢は案外多いが、そいつらと同類にされても困る。
 青娥とて厳しい修行、秘術の研究を積み重ねて体得した仙術の数々を相手に見せ付けるのが趣味であるが、それもあくまで自慢が目的である。
 寧ろ、戦うのはキライだ。慣習的に襲撃を続けて来る死神連中を適度にあしらうだけで充分だと内心ウンザリしているくらいだし、他人のファイトを観戦するくらいが一番性に合っている。


(それなりに、期待してたんですけどねえ)


 冷たい床の上には、仲良く手を握り合う様にして倒れた二つの死体。
 形だけを見るのなら、メリーと蓮子の息絶えた姿。
 青娥はもう一度、ため息混じりに二人の亡骸を眺めた。


 “他人の欲を覗く”
 このバトルロワイヤルで邪仙の狙う目的らしい目的はと問えば、つまるところそれに終始する。DIOに仕えるのも、彼女の目的を叶える上で最も近道足り得る手段だから。
 何故なら彼は、人の心に澱む欲を引き出すのが非常に達者なのだ。秋静葉が強引に振舞っていた、本来には備わっていない貪欲さを彼はそっと抑え込み、心にすっかり沈澱させていた安息への欲求を逆に掬い上げた。
 彼女は秋の神だが、敢えてこう表現しよう。

 DIOは秋静葉を、人間へと戻した。
 戻した上で、更なる深みの〝悪〟の道へ誘った。

 また一見怪物の様に見えたあのサンタナの、内に燻る渇欲や名誉欲といった血生臭い欲求を手玉に取り、コントロールするといった老獪なやり口を披露したのには舌を巻いた。
 蚊帳の外から見ていた限りではこの上なく凶悪なあの鬼人を口八丁手八丁で丸め込み、何だかんだ懐刀に迎え入れようと画策したのだ。奴を本気で潰すつもりなら出来ていたろうに、感心を通り越して寒気を覚えるくらいの口巧者なのがよく分かる。

 一方で、あの『肉の芽』は青娥的には頂けない。あれは人の持つ欲を完全に上から抑え付け、似非忠義を強制させる様な代物だ。忠実なる下僕を作るには最適だろうが、傍から観察する分には勿体ないとさえ思う。だから蓮子の芽が解除された時は、彼女本来が最期に見せた欲を静かに見守る事を我が使命としたのだが。
 河童のスーツにより透明化を図り、わざわざ暗がりから観戦していたのが先の二人の交錯。DIOから彼女たちの確保を命じられはしたが、勿体ないと感じ取り敢えず傍観に徹していた。お陰様で優先して確保する対象の蓮子は死んでしまったが、それでもいいと青娥は満足する。

 実に人間らしい、お涙頂戴の物語。
 人と人の紡ぎ出す『絆』は、かくも美しいものか。
 弱者には弱者なりの、生きた証が見られた。
 『欲』を言うなら、彼処には〝八雲紫〟などという紛い物なのでなく、本物の〝マエリベリー・ハーン〟を用意して欲しかったという希望はあったが。


 だから青娥は、二人の邪魔をしようとは最初から最後まで考えなかった。


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