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ジョジョ×東方ロワイアル 第八部

482黄金へ導け紫鏡之蝶 ──『絆』は『夢』 ──:2018/11/26(月) 01:25:08 ID:dCSol15U0
『八雲紫』
【夕方 16:30】C-3 紅魔館 地下道


 もしも。
 未来に起こるひどい出来事を、知ってしまったなら。
 確定された末路を、事前に知らされてしまったなら。
 人は、どうするだろう。

 抗うか。
 受け入れるか。
 更に絶望するか。

 柄にもなく、そんな無意味を考えてしまう。
 記憶の層が在る限り、未来が予定されているという事象は有り得ないのだから。
 明日何が起こるのか判らない。それこそが、私たちの暮らす当たり前の世界なのだから。




 どうしてこんな事になってしまったのか。
 大妖怪・八雲紫ともあろう賢人が、呆けから立ち直るまでに手間取っている。
 だから、だろうか。こんな無意味を考えてしまうのは。

 もしも。
 眼前で起こった悲劇の未来を、知ってしまったなら。
 確定された末路を、事前に知らされてしまったなら。
 私は、どうしただろう。

 …………。

 …………きっと、私は。

 ────…………いえ。


「本当に、無意味……ね。……〝私〟らしくもない」


 〝私〟か。
 今の〝私〟は、一体〝どっち〟なのかしら。

 〝八雲紫〟?
 それとも、〝マエリベリー・ハーン〟?

 宇佐見蓮子と向き合った時の私は、きっと〝マエリベリー〟に成りきろうとしていた。
 それは純粋に、蓮子の……ひいてはマエリベリーの為になると信じていたから。

 死にゆく蓮子の前でさえ、私は〝マエリベリー〟に成りきろうとしていた。
 だって、秘封倶楽部の二人は最後まで『再会』する事が叶いませんでした、なんて。


「───そんなの…………哀しすぎるじゃない」


 血で穢れた蓮子の口元を綺麗に拭い、冷たくなった身体をそっと横にした。
 蓮子の亡骸は、幸せそうな顔だった。
 まるで『夢』を見ているような。
 夢の中で秘封倶楽部の活動を再開し、いつもの日常に戻っているような。

 ……この娘の身体を、このまま暗い地下の底に置いて行く訳にはいかない。こんな血の滲み渡った仮初の箱庭などではなく、この娘の故郷へと還してあげたい。
 今の状況では難しいだろう。せめて、地上へ運んで土に埋めてあげるくらいはしなくては、マエリベリーに会わせる顔がない。彼女の顔を借りている身だけに、余計に心苦しい。
 
 本当に、私の心を占める人格が判らなくなってきた。
 マエリベリーには「八雲紫の力と記憶を少し分ける」と言ったが……実の所、元ある殆ど全ての力も、意思も、記憶も、彼女に与えていたのだから。
 最低限残していたのは、蓮子を肉の芽から救い出せる程度の力だけ。
 それすら叶わなかった今の私は、本当に───『普通の女の子』のようなもの。

 入れ替わりを著明にする為にマエリベリーから借り受けた記憶や意思が、現在の私を大きく構成する要素になりつつある。
 蓮子の前で披露した『演技』は……もはや演技とは言えなかった。私の中に渦巻く〝マエリベリー〟の意思が表に露出し、リアルな感情となって蓮子に吐き出されたのだ。
 そうであるなら、今となっては寧ろ〝八雲紫〟の意思の方が演技なのかもしれない。


 白状しましょう。
 マエリベリーに〝八雲〟の力を全て託す……これこそが、私たちの肉体を入れ替えた『本当の理由』、だった。
 罪深いことなのは承知している。これであの娘は、本当の意味でただの『人間』では無くなってしまった。
 けれどもそれは、きっと必要なこと。これからの未来で、必要になること。
 幻想郷の為? 私の為? マエリベリーの為?
 いずれにしろ私は近い将来に訪れる、自らの『滅亡』を予感していたのかもしれない。
 ずっと前から、こうなる事が分かっていたのかもしれない。
 罪無き少女に妖怪の力を託すことは、苦渋の選択であった。


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