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聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚 第二幕

1 : ◆devil5UFgA :2015/01/21(水) 01:25:47 o.6HvML60
ここは様々な作品のキャラクターをマスター及びサーヴァントとして聖杯戦争に参加させるリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開が含まれています。
閲覧の際は十分にご注意ください。



――現在、参加マスター&サーヴァントの登場話候補コンペを行っています――



――期間は、1/25(日) 24:00までとしています――



まとめwiki
ttp://www63.atwiki.jp/tokyograil/

前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1418701811/


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2 : ◆devil5UFgA :2015/01/21(水) 01:28:19 o.6HvML60
【ルール】
・版権キャラによる聖杯戦争を行うリレー小説です。
・参加者は世界を超えて現れた『紅い満月』に導かれて、聖杯内に再現された東京で最後の一組になるまで殺し合います。
・主従は『全18組』と考えていますが、場合によっては加減があります。
・基本的に一クラス二騎ずつですが、通常クラスの他にも『エクストラクラス』のサーヴァントの投下を許可します。
 ただしエクストラクラスが来なかったりした場合は通常の7騎から選びます。
・サーヴァントが投下されない場合、>>1がちまちま登場話を書いて投下するスレになります。


【設定】
・舞台はムーンセル・オートマトンと東京聖杯に再現された山手線区画内の東京です。
・聖杯戦争への参加資格は『月のない空間に紅い満月』を観測していることですが、割とその辺は適当でいいと思います。
・聖杯から毎日昼の0時に『通達』が行われます。

<時刻について>
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)

<登場話候補の募集について>
とりあえず現状で明確な期限は設けません。
一応目安としてある期限としては、個人的な都合で、1/25と考えています
最終締め切りは、どんなに遅くとも、三日前には通達させていただきます。
他の聖杯戦争スレからの流用も、同トリップからの投下なら構いません。

投下する主従は、クラスを一巡せずに同クラスをいくつ投下しても構いません。

その他細かいルールや質問があったら随時対応し、最終的なルールは参加者決定時に決めようと思います。

【その他】

>・NPC殺傷の制限等はありますか
制限はありますが、その裁定は魔人アーチャーが改造した聖杯自体が行います。
そして、突貫工事、かつ、ムーンセルという超級の聖遺物とシンクロしているために、魔人アーチャー自体も把握しきれていない『バグ』が多数あります

>・ここでは記憶を取り戻す予選などはなく、元世界で月を見た時から記憶が連続しているのでしょうか
>(その場合拠点などは聖杯から用意されているのか、それとも自ら探し出すのかどちらでしょうか)
聖杯が用意した『東京』という電脳空間での拠点や役割、いわゆる『日常』は聖杯によって用意されています。
記憶の有無にはバラつきがあります。
聖杯がこしらえた周囲のNPCのように元世界の記憶を失っていたり、月を見た瞬間から記憶を連続して月で生活している状況もあります


>・マスターまたはサーヴァントが死亡した場合、相方も電脳死?になりますか
> リタイアする方法はないということでよろしいのでしょうか
原則として、『何もしなければ』コンビを失った者もまた魂が死にます
リタイアの方法は、少なくとも、聖杯戦争のルールなどのような『聖杯から与えられた情報』には入っておりません


3 : ◆arYKZxlFnw :2015/01/21(水) 23:50:36 XfPiST/60
スレ立てお疲れ様です
さっそく自分ももう1作、投下させていただきます


4 : 真壁一騎&アーチャー ◆arYKZxlFnw :2015/01/21(水) 23:51:48 XfPiST/60
 東京は騒がしい街だ。
 寝ても覚めても見渡す限り、人と光で埋め尽くされている。
 生まれてこの方19年、ずっと島暮らしをしてきた人間にとっては、息が詰まるような場所だった。
「本物の東京も、こうだったのかな」
 今となっては知る由もないが、失われた日本の本土とは、こういうものだったのだろうかと。
 アパートの窓から街並みを見下ろし、真壁一騎は独りごちた。
「一騎は、この街が嫌いなの?」
「思ってたよりも、居心地はよくないな……なんというか、ざわざわする感じだ」
 言葉にしにくい感覚を、手探りで手繰るかのように。
 痕の残る左手を、握ったり開いたりしながら、一騎は問いかけに答える。
 問いを発した同席者は、黒いフードをかぶった小柄な少女だ。
 老人のような白髪と、闇に溶け込むような褐色肌が、どこかぼんやりとした印象を与えていた。
「それに聖杯のことを考えると、な」
「じゃあ、一騎は聖杯が嫌いなんだ」
 真に受け入れがたいのは街よりも、街を作り出した存在なのか、と。
 少女の問いかけに対して、一騎は沈黙で肯定する。
 聖杯がいかな存在であるのか――直接会ったことのない一騎にとっては、それは想像するしかない。
 それでも、人々を結界に閉じ込め、殺し合いを強いる行いは、彼にとっては間違いなく悪だ。
「俺は今まで、たくさんの死を見てきた」
 まだ高校生にもなっていない、幼かった友の死を。
 生まれてくる子供に会うことも叶わず、戦場に散っていった男の最期を。
「だから、身勝手に命を弄ぶ奴を、俺はどうしても好きになれない」
 それらの無念と後悔の記憶が、一騎に嫌悪を抱かせる。
 彼らが求め続けた明日を、叶わず届かなかった未来を、嘲笑い奪い去るものを、悪しき存在だと断定させる。
 語る一騎の手に力が籠もり、ぎゅっと握り拳を作った。
「それでも、一騎はここにいる」
 聖杯の性質を嫌いながらも、聖杯戦争の場に招かれている。
 その時は知らなかったとはいえ、聖杯の持つ願望器の力に、少なからず惹かれていると。
「聖杯の持っている力を、一騎はどこかで欲しがってる」
「……多分、そうなのかもな」
 遠慮のない少女の指摘に対し、一騎は、苦笑気味に答えた。
「他人を傷つけたくはない……そうまでして生き残りたいとは思えない。俺はそう思ってるつもりだった。
 だけど多分、それだけじゃないんだ……理屈じゃない根っこの部分では、それでも生きたいって思ってるんだ」
 真壁一騎の肉体は、限界まで酷使されていた。
 侵略者フェストゥムと戦い、同化現象に蝕まれ、身も心もボロボロにすり減っていた。
 表面的な症状こそなくなったが、蓄積されたダメージは、決してごまかせるものではない。
 齢19歳にして、既に真壁一騎という青年は、残り3年の命だと告げられているのだ。
「やっぱり、言えないよな。生きたくないなんてことは」
 それが恐ろしくないなんて嘘だ。
 あれほど目の当たりにしてきた死を、達観し完全に受け入れるなど、到底できることではなかったのだ。
 だからこそ一騎は、心のどこかで、紅い月に期待した。
 願いを叶える万能の器を、心の根本の部分で欲し、あの赤を瞳に映したのだ。
 たとえ願いの代償に、その赤で手を染めることを求める、呪われた星だったとしても。


5 : 真壁一騎&アーチャー ◆arYKZxlFnw :2015/01/21(水) 23:52:31 XfPiST/60
「分かるよ」
 と、少女は言った。
 意外にも黒ずくめの少女が口にしたのは、素直な肯定の言葉だった。
 これまでの様子が様子だっただけに、一騎は驚きの色を込め、瞳を少し丸くする。
「どれだけ痛くても、苦しくても……それでも生きたいって気持ちはなくならないし、それに嘘はつけないんだ」
 私は痛み以上の喜びを、生きていく中で知ったから、と。
 そう話す少女の語り口調は、相変わらず静かなものだった。
 それでもどこか、その言葉には、今までのそれにはなかった温度が、微かに感じられる気がした。
 であれば、それは本音なのだ。
 隠しも偽りもできない、この少女の本心からの言葉なのだ。
 それを聞いて、一騎は初めて、この少女のことを理解できた気がした。
「……俺、君のことを誤解してた。君もここにいたいんだな」
 静かで儚げな様子は、無関心の表れだと思っていた。
 かつての自分がそうだったように、ここにいることに執着がなく、むしろ消えてしまいたいのだろうと思っていた。
 それでも、違った。彼女もそこにいたがったのだ。
 生きることを肯定し、精一杯に生きたいと願い、最期まで生き抜いた命だったのだ。
 それを知って安心して、一騎は穏やかな笑顔を浮かべた。
「私も一騎と一緒だよ。生きていたいと思ったし……生きてほしいと思う人も、いる」
「だったら俺達は仲間だ。俺がこれからどうするにしても、君の手を借りなきゃならない時は、きっと来るんだと思う」
 無茶の利かない身の上だから、自分独りではできないことが、山ほどあることは理解していると。
 そして仲間が君であるなら、迷いも躊躇いも感じることなく、命を預けることができると。
「だから、その時は頼むな、アーチャー」
 真紅の紋章が刻まれた、左手の甲を返しながら。
 頼りにさせてもらうから、と、一騎は少女へと言った。
 まるで友人にかけるような、気さくで、信頼に満ちた言葉だった。
「うん」
 弓兵の名で呼ばれた少女は、一騎に対して短く返す。
 アーチャーのサーヴァント――名を、ストレングス。
 遠き夢の地を追われ、人界の地獄へと堕とされながら。
 傷を負って世界を知っても、それでも生きたいと願った少女。
 大切な友と半身を、命に代えても救いたいと願い、懸命に手を伸ばした少女。
 彼女は死と転生の果てに、再び人の世へ降り立ち、戦うことを決意する。
 新たに巡り会った仲間の命を、その手でもう一度繋ぐために。


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6 : 真壁一騎&アーチャー ◆arYKZxlFnw :2015/01/21(水) 23:52:52 XfPiST/60
【マスター】真壁一騎
【出典】蒼穹のファフナーEXODUS
【性別】男性

【マスターとしての願い】
一日でも長く生きたい

【weapon】
なし

【能力・技能】
家事
 男所帯で家事を一手に引き受けているため、高いスキルを有している。
 特に料理の腕は一級品で、手製の「一騎カレー」は島の名物になっている。

身体能力
 本来は天才症候群の影響もあり、オリンピックの金メダルを総なめにできると言われるほどの素質を持っていた。
 しかし体力が衰えた今では、その身体能力は失われている。

【人物背景】
宇宙から飛来したシリコン生命体・フェストゥムから、人類種を存続するために作られた人工島・竜宮城。
その唯一の喫茶店である「楽園」で、調理師のアルバイトをしている、19歳の青年である。
かつては対フェストゥム兵器・ファフナーを操縦するパイロットだったが、現在は第一線を退いている。

現在でこそ穏やかな物腰をしているが、過去に親友の皆城総士を傷つけたことから、
かつては強い自己否定に囚われており、近寄りがたい雰囲気を放っていた。
以来総士とも疎遠になっていたが、紆余曲折の末に分かり合い、性格も現在のように軟化している。

乗機であったファフナー・マークザインに蝕まれ、文字通りボロボロになりながらも戦い、パイロットとしての職務を全うした。
既に余命3年を宣告されており、彼は誰よりも強さを認められながらも、誰よりも安息を望まれていた。
しかし運命だけはそれを望まず、彼を新たな戦いへと誘おうとした。
本来の歴史に沿うならば、彼は聖杯戦争に招かれた日の翌日、再びフェストゥムの襲来に直面することになっている。

【方針】
未定。


7 : 真壁一騎&アーチャー ◆arYKZxlFnw :2015/01/21(水) 23:53:22 XfPiST/60
【クラス】アーチャー
【真名】ストレングス
【出典】ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)
【性別】女性
【属性】中立・中庸

【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ストレングスは人間・神足ユウとして、長きに渡って人間世界に留まり続けた。
 この経歴にもとづきストレングスは、破格のランクを保有する。
 ただし自力で魔力を生成することはできない。

【保有スキル】
怪力:C
 一時的に筋力を増幅させる。本来ならば魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

幻術:D
 魔術系統の一種。
 ストレングスは人間世界にいた間、このスキルで他者の認識を操作し、自らの存在を溶け込ませていた。
 ただしサーヴァントに対してはほとんど効果がない。

アンノウン:E
 逸話なき英霊。
 人の世に語り継がれることのない、夢の世界に生きたサーヴァント。
 そのためストレングスは、真名を看破されることによるデメリットをほとんど持たないが、
 代償として知名度によるパラメータ補正をほとんど受けられなくなる。

【宝具】
『掴み、明日へ繋ぐために(Orga Arm)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:30人
 ストレングスの体躯をも凌ぐ、巨大なサイズを有した機械腕。
 四本指の先端は機関銃となっており、この宝具こそがストレングスをアーチャーたらしめている。
 上述した射撃戦闘のほか、大質量を活かした格闘戦に用いることも可能。
 平時は両手に装備する二本腕だが、最大駆動時には四本腕に増やすことができる。

『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:50人
 かつて神足ユウが「虚の世界」に有していたテリトリーを、擬似的に再現する固有結界。
 マグマの海を見下ろす、浮遊した巨大なルービック・ミラーブロックス。
 この足場はストレングスの意志によって自在に変形し、彼女が有利な位置取りをする助けとなる。
 それ以上の効果は一切なく、あくまで得意な戦闘エリアを形成するための宝具。

【weapon】
なし

【人物背景】
人の夢の向こうに広がる、痛みと苦しみが具現化された「虚の世界」。
ストレングスは、神足ユウという少女が虚の世界に生み出した、もう1人の神足ユウである。
本来は感情を持たず、本能のままに戦う存在であったが、
唯一ストレングスには、ユウの尋常ならざる苦痛や悲嘆に引きずられる形で感情が発現。
それに目をつけたユウによって、人格を交代させられ、自身は人間世界のユウの肉体へと移されてしまった。

その後10年以上に渡って、女子中学生の姿のまま、人間世界に留まり続けていたが、
その中で友人となった黒衣マトが、虚の世界絡みで抱えていたトラブルを解決するために、
彼女を虚の世界へと誘うことを決断する。
しかし目論見は失敗し、マトともう1人のマト・ブラック★ロックシューターは暴走。
責任を感じたストレングスは、友を救い出すために、ユウに奪われた本当の肉体と同化し、虚の世界へと舞い戻った。
しかし戦闘の最中、ユウに肉体の主導権を奪われたことにより、戦況は最悪の方向へと進行する。
このままでは何も解決しないと考えたストレングスは、自滅を選ぶことで、ユウを虚の世界から、現実世界へと送り返すことを決断。
戦いの中で致命傷を負い、最後の力もマトへと託したストレングスは、人間世界で知った生きる喜びをユウへと伝え、消滅した。

かつて虚の世界にいた頃の肉体は、現在よりも貧弱なものだったが、
本聖杯戦争においては、年月を経て強化された肉体を、ユウから引き継いでいる。
また、ユウが人間世界へ戻った後に生まれた、新たなストレングスとは別の個体である。

【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら、ユウやマト達の幸せを願いたい


8 : ◆arYKZxlFnw :2015/01/21(水) 23:54:03 XfPiST/60
投下は以上です


9 : ◆RWOCdHNNHk :2015/01/21(水) 23:55:48 XsZhwBdg0
投下おつかれさまです。それでは自分も投下します


10 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/21(水) 23:57:37 XsZhwBdg0

 羽藤桂が紅い月の噂を耳にしたのは秋が終わろうとしていたころだった。
 何がきっかけで流行りだしたのかもわからない。いつの間にかネットで囁かれるようになり、
 気がつけば学校で噂好きの友達が普通におしゃべりのネタに出してしまう程度には静かに、しかし着実に人々の中に浸透し、共有されていることを肌で感じるようになっていた。

 所詮はただの他愛のないガセ――そう割り切ってしまうのは簡単だ。
 なのに頭のどこかでそれが常にこびりつき、鎌首を自分にもたげているような気がする。

 桂は知っている。世の中には人ならざる存在が跳梁跋扈していることを。
 人が文明を進化させ闇夜を眩い光で照らす世となっても、薄いレイヤーひとつ隔てた向こう側には魑魅魍魎が蠢く闇が広がっている。
 
 深入りしてはいけない。決して興味本位に覗いてはいけない。
 ただの噂と断じて斬り捨てよ。


 ――この噂は『本物』だと贄の血が騒ぐ。


 あの夏の一件があってから桂は極力オカルト的な話題には関わらないようにしていた。
 中にはただの――ほとんどがゴシップで終わるものばかりだが極まれに本物の怪異が混ざっている。
 闇を棲み処とする者が人界に災いをもたらさんと暗躍している。
 普通の人間ならそれを垣間見てしまっても運が良ければ見逃してもらえるだろう。

 でも、桂は違う。
 彼女に流れる血は人外の化生にとって極上の餌となるのだから。
 今まで生きてこられたの不思議なぐらい彼女が持つ血は妖を魅了し惹き付ける。
 そんな桂を十数年間影で見守り続けてきた者たちがいたことをあの夏の出来事で知らしめられた。

 かけがえのない大切な人たち。
 そのおかげで今の自分は生きていられるる。 
 とにかくその手の話題には関わらないこと、余計な心配をかけないためにも最低限の自衛の方法だった。

 だから、そんな紅い月の噂なんてまったくのデタラメで相手にするだけ無駄。
 それでおしまい――


11 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/21(水) 23:58:50 XsZhwBdg0











 東京よりムーンセルへ:羽藤桂ノ優先召喚ヲ要請。


 注意:恣意的な人物の選出は聖杯戦争の運営に予期せぬエラーを引き起こす可能性があります。


 東京よりムーンセルへ:ガイアカラノ龍脈遮断ノタメ『東京』ノパフォーマンス3%低下。今後正常ナ運営ガ困難ニナル可能性。予備ノ贄ヲ要求。

 
 協議中:当該人物の特別扱いは認められない、ただしサーヴァントを与え通常のマスターと同じ条件とするなら可。


 東京よりムーンセルへ:了承。





 羽藤桂をマスターとして召喚します。







 ■


12 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/21(水) 23:59:40 XsZhwBdg0
  
 世界が軋み剥がれ落ちる。
 青く澄み切った空は漆黒の夜へ変貌し、白く輝く太陽は血塗られた紅き月へと変貌する。
 
 東京は飢えていた。
 ムーンセルにより再現された空っぽの東京に訪れたイレギュラー。
 ある魔人が敷いた陣は魂なき都市を依り代に、命持つ魔都へと変貌させた。
 
 本来なら1300万の人間と闇に潜む魑魅魍魎たちが織りなす生と死のサイクルと、
 大地に根付く都市として地球から流れ込む地脈が東京の糧となってきたはずだった。

 しかしここは虚空に浮かぶムーンセルに再現された真なる模倣。
 地球のバックアップを受けられないスタンドアローンとしての存在。
 そして街で生死を営む人間の不在。
 魔人が呼び寄せた魑魅魍魎と、ムーンセルが用意した魂なきNPCだけではとても東京の飢えを満たすことができない。
 そして悠長に聖杯戦争に捧げられる人柱も待っていられない。

 だから、魔都は贄を望んだ。
 たった一人で万人を炉にくべるに等しい存在を。
 しかるべき儀式を行い贄を捧げるのが最良なのだがムーンセルはそれを認めない。
 ならばマスターとして聖杯戦争を戦ってもらい、あわよければ敗退し斃れその血がこの東京に流されてくれれば贄として十分機能する。
 それが東京がムーンセルと交わした妥協点だった。
 
 
 そんな魔都の意志など知るよしもなく羽藤桂は紅い月が座す異形の都市へ召喚される。






 ■


13 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/22(木) 00:01:16 EJoWvVwA0
 




 紅い月が浮かぶ東京の街並み。深夜のためか、それとも外界と隔絶された異界のせいなのだろうか人の姿は見えない。
 なのにべっとりと絡みつくような気配だけが桂の肌をちくちくとくすぐる。

「はぁ……これからどうしよう……」

 無人の公園のベンチにひとり腰掛けた桂は思わずため息をついた。
 不思議と取り乱してはいない。生来ののんびり屋の性分のせいか、はたまた夏に体験した出来事のせいか。
 桂は自分でも驚くぐらい冷静であった。

「変な出来事に慣れちゃうのも困りものだけどなあ」

 桂は右手を宙にかざす。
 月の光に紅く照らされた手の甲の紋様――令呪。
 この街に召喚されたと同時に聖杯戦争のルールも記憶に刻み込まれた。

「わたしの願い――そんなの……」

 願いなんてとっくに叶っていたはずだ。
 あの事件を通して得たかけがえのない人たちと共に生きること。
 それ以外なにも望むことなんて何もない。

 だから、こんな誰かの死を望むことが前提とする儀式は認められない。

 しかし――桂には力が無い。
 例え贄の血という極上にして膨大な燃料タンクを持つ身としても桂自身はそれを活用する術を持たない。
 他の誰よりも異界の存在に関わっていたのに自分は守られてばかり。
 元の日常に戻ってからも桂にとって密かなコンプレックスだった。

「……いるんでしょ、わたしのサーヴァントさん。どこの誰か知らないけど」

 ならば開き直って自分は燃料タンクだ。
 従者に思う存分活用してもらおう。

 桂は紅い月に向かってサーヴァントを呼んだ。


14 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/22(木) 00:02:33 EJoWvVwA0
 

「ハーイ、こんばんはー。とーってもきれいな夜ね。あなたが私のマスターさん?」

 紅い月を背にしてジャングルジムの上に降り立つサーヴァント。
 現れたのは赤みがかかった金髪と、空に浮かぶ月のごとく真紅に輝く瞳を持った少女だった。

「えー……と。どちらさまでしょう?」

 サーヴァントに選ばれるのは古今東西の英雄である。
 てっきり筋骨隆々の偉丈夫が現れると思いきや黒いセーラー服と首に白いマフラーを巻いた少女。
 どう見ても桂と歳が変わらなそうで、喋り方も軽そうで、とても英雄には見えなかった。

「こんばんは! 私はアーチャーのクラスのサーヴァント、真名は大日本帝国海軍、白露型駆逐艦夕立よ。よろしくね!」
「く、くちくかんゆうだち……?」

 駆逐艦。名前の通り軍艦。船である。
 おまけに大日本帝国海軍所属という半世紀以上前の存在。
 でも目の前のいたって普通の人間の女の子である。

「あーっ、もしかしてマスターは夕立のことハズレサーヴァントだと思ってるっぽい? こう見えても第三次ソロモン海戦ではけっこう頑張ったんだよ!」
「あ、ははは……」
「ところでマスターって魔術師さん? なんかすっごくいい匂いがするの」

 アーチャーはくんくんと鼻を鳴らす。
 少し跳ねた癖っ毛のせいでまるで犬のよう。

「あー……そういうわけじゃないんだけどね……わたしはちょっと特殊だから」
「普通の一般人にしては……ううん、魔術師としてもありえない量の魔力を感じるっぽい。普通の魔術師がドラム缶一杯分ならマスターはぎっしり燃料積んだタンカー、ふっしぎー」

 腕を組んでうーんうーんと唸るアーチャー。

「血。そう、マスターの血からそれを感じるの。そして――とってもイイ匂い……」

 とろんとした目に上気した頬。
 間違いない、このアーチャーも贄の血の香に当てられている。
 わかっていたこととはいえ難儀な体質である。


15 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/22(木) 00:03:39 EJoWvVwA0
 
「すこしだけ……ほんの少しだけマスターの血がほしいなー……」
「――いいよ。だってそれがわたし血だもん。人ならざる者を惹き付け力を与え、麻薬のように虜にする血――それがわたしの贄の血」
「えっ……ほんとに、いいの……?」
「こういうの慣れてるしね。でも約束してアーチャー、わたしといっしょに戦って」
 
 桂は自ら服をはだけさせて肩を晒す。白い肌が紅い月の光の下に露わになる。
 決してスタイルは良いほうではない桂の身体。それでもアーチャーにとってとてつもなく蠱惑的に見えた。

 ごくりと喉を鳴らすアーチャー。

「……やっぱりダメだよ。私もしかしたら理性をなくしてマスターをぐちゃぐちゃにして食べてしまう」
「大丈夫だよアーチャー、ううん夕立ちゃん、わたしは信じてるから。さあ早くきて――」

 その声がアーチャーの――夕立のタガをはずす。
 桂の両肩を押さえて夕立は大きく口を開けて首筋にかぶりついた。

「ぁ、んっ――……!」

 首筋に走る鋭い痛みはすぐに鈍痛になる。
 白い歯は薄い皮膚を裂き赤い血がにじみ出す。
 外気にあたった贄の血の芳香が夕立の思考を麻痺させていく。

 ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ。
 紅い水滴を犬のような舌使いで舐め取る夕立の表情は恍惚そのもの。
 ここまで甘美な快感に浸れるものだとは思いもしなかった。
 まるで高濃度の麻薬を直接血管に注入されたかのような快楽

 このままこの身体を引き裂き全身で贄の血を味わいたい。
 この華奢な身体に流れる贄の血を吸い尽くしたい。
 気が狂いそうになる欲求を夕立は必死に抑えつける。

 ここで贄の血の誘惑に屈して彼女を貪り喰ってしまえば下等な魑魅魍魎と同じ存在に堕ちてしまう。
 人類の守護者たるサーヴァントの矜持が最後の一線を越えまいと踏み留める。

 最悪令呪を用いれば夕立を引きはがすことは可能だろう。でも桂はそんなそぶりを一切見せない。
 ひたすら吸血への不快感に耐えているのだ。それは夕立を信じているからこそ。

 だから夕立もそれに答えようと理性を保ち続ける。
 二人で聖杯戦争を止めよう、そんな桂の想いが流れ込んでくる。
 彼女の生い立ちも。彼女が経験した記憶も血を介して夕立に流れ込んでゆく。

 ちゅるちゅる、ちゅるちゅる。
 血が吸われると同時に身体の全てを吸い出されてゆく感覚。
 血とともに流れ込む夕立の記憶。
 炎上する艦船。
 海に投げ出された無数の人々。
 それは夕立が持つ悲しい戦場の記憶。

 桂の意識が夕立と混じり合いひとつになってゆく。
 




 紅い月の下に重なる二人の少女の影。
 そこにはマスターとサーヴァントの関係を越えた血の契約が成されんとしていた。


16 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/22(木) 00:04:22 EJoWvVwA0

【クラス】
アーチャー

【真名】
白露型駆逐艦四番艦『夕立』@艦隊これくしょん

【パラメーター】
筋力D 耐久E 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具D

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:E
神秘度の低い近代の軍艦ゆえ最低限の対魔力しか保有していない。魔除けの護符程度。

単独行動:A
燃費の少ない駆逐艦のためマスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる。
マスターを失っても数日間は現界可能。

【保有スキル】
夜戦:A
闇夜に紛れ敵に肉薄し、必殺の一撃を与える水雷戦隊伝統の戦法。
夜間戦闘においてステータスが大きく上昇する。

水上戦闘:B
元が軍艦の英霊のため水上での戦闘にステータスの上方修正が加わる。

対空:E
スペック自体はごく標準的な駆逐艦のため航空機からの攻撃には弱い。
戦闘時空中からの攻撃に対し、命中と回避にマイナス補正がかかってしまう。

悪あがき:B
機関大破し航行不能となってもなお艦内のハンモックをマスト代わりにして戦闘続行しようとした逸話に由来する。
致命的な損傷を受けても一度だけフルパワーでの反撃を可能とする。


【宝具】
『61cm4連装酸素魚雷』
ランク:E 種別:対艦宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:4
白露型駆逐艦に搭載されている魚雷。数百キロに及ぶ弾頭は当たり所が良ければ戦艦の分厚い装甲すらも破砕する。
脚部に魚雷発射管を装備しているため射出時下着が見えやすくなる体勢になるのが難点。


『最っ高に素敵なパーティーしましょっ!(ナイトメア・パーティー)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100
狂化のステータスを自らに付与する代わりに自身の耐久以外のステータスに上方修正を加え第三次ソロモン海戦を再現する一種の固有結界。
月の出てない夜の海上に変貌した結界内を縦横無尽に駆け巡る夕立の姿はまさにソロモンの悪夢。
強制的に戦闘フィールドを夜かつ水上に変貌させるため自身の保有スキルを最大限に活用できる。
また第三次ソロモン海戦が日米両軍入り乱れた希に見る乱戦の逸話から戦闘に参加する者が多いほど戦闘能力が向上する。
ただし使用中は狂化してしまうため冷静な戦況分析ができなくなり、また耐久力の修正はないため集中砲火にあって致命傷を食らう危険性を孕んでいる。

【weapon】
12.7cm連装砲

【人物背景】
白露型駆逐艦四番艦の艦娘。お嬢様風の外見と「〜っぽい」という独特の口調で話す(ただし常に語尾にぽいをつけているわけでもない)
見た目によらず超武闘派な戦歴から改二が実装。少しとぼけたお嬢様な外見も大きく変わり、瞳は緑からさながら赤い攻撃色になり
不敵な笑みを浮かべ手に魚雷を持つ姿はさも狂犬のような風貌と言えよう。今回の聖杯戦争は改二の姿で召喚されている。

【サーヴァントとしての願い】
特に無し


【方針】
桂のサーヴァントとして桂を守る。


17 : 羽藤桂&アーチャー ◆RWOCdHNNHk :2015/01/22(木) 00:05:05 EJoWvVwA0
【マスター】
羽藤桂@アカイイト

【weapon】
なし。

【能力・技能】
あらゆる人ならざる者を魅了し惹き付ける『贄の血』を保持。
その品質は歴代の羽籐家の人間の中でも最上位であり彼女の血を啜った人外は強大な力を得ることができる。
とある妖怪曰く「非常に多くの人間の血を全て吸い尽くしても、贄の血を飲むことで得られる力には遠く及ばない」とのこと。

【人物背景】
アカイイトの主人公。16歳
たったひとりの肉親である母を病気で亡くし、遺産整理をしていたところ父親がある日本屋敷を所持していたことが判明し
それを処分するか決めるため父の故郷に一人で向かうところからゲームが始まる。
贄の血という体質のせいで様々な妖怪から吸血という名の百合行為の餌食となってしまう。
なお崖から転落したり、妖怪に腹をぶち抜かれたりするなど作中バッドエンドでやたら死ぬのが特徴。
普段はわりと頼りなくのほほんとしたアホの子な印象が強いが命が懸かった場面では驚くほど気丈な一面を見せる芯の強さを持っている。
贄の血は父親の遺伝であり、母親はとある退魔組織の出身で現役時代は当代最強と呼ばるなど、何気にサラブレッドな血筋である。
趣味は時代劇と落語鑑賞。また中の人と相まって作中最強の誘い受けである。

【方針】
アーチャーともに聖杯戦争を止め、元の日常に戻る。


18 : ◆RWOCdHNNHk :2015/01/22(木) 00:05:34 EJoWvVwA0
投下終了しました


19 : 名無しさん :2015/01/22(木) 00:21:37 XAVmLyyE0
締切間近にも関わらず質問してすいません
25日までなら既に投下した主従のステータス表の修正(スキル、宝具の調整及び追加など)はできますか?


20 : ◆devil5UFgA :2015/01/22(木) 00:26:13 4Mwb6CaQ0
おおう……新スレに移っても早速投下が二つ……!
悩む材料が増えるが、嬉しい!皆様投下お疲れ様です!

>>19
ステータス等の変更は受け付けております
当スレで該当箇所の変更部分を書き込んでください
専ブラをつかっておりますので、目に留まりやすく>>1へのアンカーをつけていただけると幸いです


21 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/22(木) 01:33:53 /InH66V.0
投下します。


22 : コジコジ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/22(木) 01:34:18 /InH66V.0


 空をふわふわ飛んでいる変な生命体がいた。
 マスコットっぽくて可愛い感じの小さい生物だった。

 そいつの名前はコジコジ。
 出身はメルヘンの国という、人間界からは遠く及ばない世界から、たまたまやって来たメルヘン生物である。

 まずはメルヘンの国について少しだけ説明しよう。
 メルヘンの国には、その名の通り、「半魚鳥」、「天使」、「雪だるまの精」、「やかん人間」といった空想の中にしかいないような夢いっぱいの生物がたくさん住んでいる。
 彼らは、ミッキーマウスやスヌーピーのように立派なキャラクターとして人間界に羽ばたこうと努力し、国民のお金で無償で学校に行くシステムになっていた。
 いや、しかし、努力というほど立派な事もせず、普通の学校生活を送りながら、「どうせミッキーやスヌーピーみたいにはなれない」と諦観して生きている者もいる。
 自分の使命を果たす為に努力する者も一定数いるのだが、多くの将来なき者は、人間界における学生の意識とそう変わらないかもしれない。

 大抵は、何かの種族であるが、コジコジは、一体何のキャラクターなのか、どういう血筋なのか、クラスメイトにさえ知られていない。
 一説によると、宇野千代と荒井注との間に出来た子供だとも言われているが、そもそも宇野千代と荒井注は夫婦ではないので確証はないだろう。
 それはコジコジ自身も知らない。コジコジ自身が、父や母に会った事がなかったのである。
 一度、実際に両親の声を聞いて、自分の正体を知ったはずであるが、コジコジはそれさえも忘れて、翌日からはまた普通に毎日を送っていた。
 何かの外的要因でコジコジの記憶が消えてしまったのではなく、単純にコジコジが絶望的に忘れっぽいだけの話である。



 そして、そんなコジコジは、普段通りその辺を飛んで遊んでいた。
 普段から、コジコジは空飛んで遊んで食べて寝て生きている。それ以外の事はあまりしない。
 一応、学校に来てはいるが、勉強は一度もした事がない。「将来何になるのか」という問いをされても、「コジコジは一生コジコジだよ」と答え、先生を絶句させたのがコジコジなのである。

 それで、ふらふら遊んでいたらいつの間にか赤い月を見て、「きれいだなー」と呟いて、気が付いたら聖杯戦争に来てしまったらしい。
 コジコジはそんな状況にも全く動じていなかった。
 自由に空を飛べて宇宙にも異世界にも行けるコジコジには、「不思議な事」は「当たり前の事」である。
 だから、赤い月を見て聖杯戦争に巻き込まれても、全く不思議に思わず、ちょっとした出来事としか捉えなかったのだろう。

 赤い月を見るのは初体験だが、それでも特に動じる事なく、今は普段と同じ呑気な表情で自分のサーヴァントと向き合っていた。

「ねえ、なんでお酒飲んでるの? アル中なの?」

「……」

 コジコジに呼ばれたサーヴァント≪バーサーカー≫は答えない。
 ただ、焼酎を片手に、半分開いた目でコジコジをぼーっと見つめるだけだった。

 バーサーカーの真名は、「にゃん五郎」という。
 元の世界では、妻帯者で娘一人、息子が一人いる。コジコジの数倍はあるバーサーカーの猫背の巨体は、まさしく二児の父の風格を放っていた。
 無精ひげを生やしてはらまきを巻いて酒を片手に持っている……という容貌は、一見すると駄目な父のようであろうが、実際は違う。
 彼は、ろくに仕事もせずに家で毎日ゴロゴロして、アルコール依存症で、時たま強盗や殺人や放火をする事を除けば、家族を愛する立派な父親なのである。
 家族や自分の為ならばこのコジコジを殴り殺す事もできるだろう。
 しかし、現段階でそんな興味はなかった。


23 : コジコジ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/22(木) 01:34:39 /InH66V.0

「……」

 バーサーカーは無口であった。
 コジコジに対して、特に何か意識が向いているようではない。そもそも、彼も状況を把握しているのか怪しい。
 アルコールに脳細胞を破壊されてしまっているのか、焦点の合わない目でじーっとコジコジの姿を眺め続けるだけである。
 そこには敵意もなければ、サーヴァントらしい忠誠心も仲間意識もなさそうである。
 まあ、コジコジもそうだった。

「……」

「しょーちゅー、おいしい?」

「……(げぇぇっぷ)」

 バーサーカーは、とりあえずげっぷを返した。
 酒臭い息が、空気の流れに乗ってコジコジの方に流れてくる。
 コジコジは、少しだけ嫌な顔をした。

「……」

「……」

「おならよりくさいね」




【クラス】バーサーカー
【真名】にゃん五郎@ねこぢるうどん
【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具B
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
狂化:−
 マスターの命令ではなく、アルコールによって精神状態が左右される。
 アルコールが切れた時は禁断症状で暴れ出す事があり、その姿はまさにバーサーカー。
 アルコールを飲んでいる内は、比較的温厚で、理性を持ったまま通行人や動物を殺していく。
【保有スキル】
不条理:B
 あらゆる条理を覆す力。
 彼らの世界観では、猫や豚といった動物たちが人間と同様の生活を送っている。
 その影響にある為、周囲のNPCや主従等も、「猫」の一家や人外キャラクターが暮らしている事を平然と受け入れ、人間と差別化したうえで生きていく。
 ただし、NPCへの攻撃がペナルティ化しているため、難しい。
【宝具】
『ねこぢる空間』
ランク:B 種別:固有結界 レンジ:1〜99 最大補足:?人
 漫画のねこぢるの世界観を仮想的に作り上げる。そこにいるNPCは通常のNPCと違い、豚や猿やワニといった生物も多く存在し、最悪の場合、共存しきれずに道端で殺し合ったりする。
 結界外のNPCには何の影響もないので、この空間に存在するNPCを殺害しても何のペナルティもない。
 メンヘラや薬中やホームレスや差別主義者やヤクザやキチ×イや痴呆老人なんかがいっぱい出てきて、結構あっさり殺し合い、内臓とか目玉とかが飛び出るグロい死に方をするようになるのである。
 バーサーカーはそこでこそ普段通り自由に振る舞う事が出来るのだ。
【weapon】
 しょーちゅー(焼酎)
【人物背景】
 ねこぢるが描いた「ねこぢるうどん」、「ねこぢるまんじゅう」などの一連の作品に登場する人物。
 主役となる猫の姉弟、にゃーことにゃっ太の父親であり、二人がピンチになるとすぐに駆けつけ、外敵を殺害し尽くして助けてくれる良い父親である。
 工場勤務であるが、働かずに家でゴロゴロしている事も多く、工場で働いている描写は少なめ。また、工場の責任者を殺害して金を奪うといった方法で生計を立てる事もある。
 狩りに出かけたり、食品を奪ったりする形でも家系を養っており、基本的には優しい父親である。
 猫族と長年の因縁があった猿族との戦争の際には、前線で活躍して殺しまくっている兵士としての側面も見せた。
 基本的には、何を訊かれても「……」しか喋らないが、アルコールが切れた時には、「あ゙ーっ」、「ふんごー」などと喋った事がある(正直雄叫びだが)。
 人間や動物は勿論、半魚人などの強化生物も殺害し、火だるまになっても頭から出血しても構わずに無表情で戦う物凄い戦闘力あり。
 多くの場合無表情だが、焦ったり、不審がったり……といった様子もたびたび描かれる。
【サーヴァントとしての願い】
 ……。


24 : コジコジ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/22(木) 01:34:56 /InH66V.0

【マスター】コジコジ@コジコジ
【参加方法】ふらふらしていたら月を見た。
【マスターとしての願い】ない。
【weapon】ない。
【能力・技能】
 念じるだけで宇宙を消滅させる事ができる(無自覚)。
 顔を自由に変形させてものまねする事ができる。
 飛べる。
 適当な返事で他人を論破する。ウザい会話ができる。
【人物背景】
 メルヘンの国に住む変な生物。その正体は、「宇宙の子」。推定年齢13億歳以上。
 一見すると可愛いが、マイペースかつ非常に頭が悪く、常識に囚われない発言やおバカな発言で周囲を困惑させる。
 空気が読めないように見えるものの、実際は意図的に他人に嫌がらせをしている節もある。
 コジコジが他人のペースに乗せられる事は作中ほぼなく、唯一少しでも悩んだのは、正体不明の自分の両親について考えた時くらいである。
 ただの暇つぶしで宇宙や世界の果て、パラレルワールドといった場所に飛んでいく事ができる。
 ちなみに宇宙の子である為、コジコジが本気になれば宇宙が消滅する。
【方針】
 どこかに遊びに行こう。


25 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/22(木) 01:35:14 /InH66V.0
以上で投下終了です。


26 : ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:52:01 YXwzAuzc0
新スレ&投下乙です。
私も投下させて頂きます。


27 : 首藤涼&エクストラクラス(ストレンジャー)  ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:53:23 YXwzAuzc0

「今日が誕生日だったんっスね〜」
「まあの」

黒組の裁定者である、走り鳰が話しかけてきた。

「おめでとうっス〜。あ!
 暗殺に成功すれば、それがそのまま誕生日プレゼントになるっスね〜」
「……そう願いたいところじゃの」

気の無い答えを返す。


―――そもそも、ミョウジョウ学園の力を持ってしても、願いは叶わないだろう。


「首藤さんの報酬は?
 そういえばまだ確認してなかったっス〜」
「……わしの望みは、普通に年をとって死ぬことじゃ」
「……? どういうことっスか?」

鳰は首を傾げる。

「わしの身体は病気に侵されておる。
 ……肉体の老いない病気じゃ」
「いつまでもピチピチでいられるなんで、最高じゃないっスか〜」


「―――本当にそう思うか?」


知らず、鳰を睨んでしまう。


自分一人だけが老いず、皆、わしを置いていく。

あのお方はわしの前から去り。
親しくした友人達は、娘から母となり祖母となって、自然に老いていく。

何がめでたいものか。
誕生日の度に、自分だけがその場でずっと足踏みさせられていることを再認識させられる。


暗殺者の世界に足を踏み入れたのは、いつだったか。
短い周期での関係性しか持続しない、この世界はわしに合っていた。



―――見事に暗号を解いた一之瀬晴を祝福し、わしは黒組を後にした。

「何でも願いが叶う」

という僅かな期待に賭けたが、元々現代の医学ではどだい無理な話ではあった。


「まあ、せめてこーこちゃんの爆弾、ちゃんと爆発させてやりたかったのう」


夜空を見上げ、月を見る。

赤い月は、わしを呼んでいるかのように、妖しく光を放っていた―――





28 : 首藤涼&エクストラクラス(ストレンジャー)  ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:53:58 YXwzAuzc0

―――東京都豊島区巣鴨。

いわゆる『おばあちゃんの原宿』である。


「まあ……それでもわしより若い子ばかりなんじゃがな」


地蔵通商店街を歩き、洋品店などが立ち並ぶ界隈をゆっくりと歩いていく。
それでもチラチラとこちらを見てくる人が多いのは、
恐らくは女子高生がこのテリトリーに入っているから、というだけではあるまい。

彼女達は熱っぽい視線をこちらの、正確にはわしの隣に浴びせてくる。


「なあ……我が主よ。注目を浴びているように思うのだが。
 霊体化しておくことを進言させて頂きたい」


黒い髪に背筋を伸ばし、着物風の着衣をつけた壮年の凛々しい男性がわしに訴えてくる。
その瞳は見ることができるが、表情全体は仮面によって窺うことはできない。


「このくらいの年齢の女性を侮ってはならんよ、ハク殿。
 仮面をつけたくらいでは、その魅力は隠しおおすことはできんじゃろう」
「い、いや。そうではなくて。
 白昼堂々、こんな仮面姿は怪しまれるのではないか」

辺りを見回すが、不審そうに見る女性は一切見当たらない。
わたしも後10年若ければ、などと思っている人が大半であろう。


「やれやれ、難儀な殿方じゃの。ではこっちじゃ」

わしはため息をつくと。
仮面の男性の手を取り、早歩きで誘導する。





29 : 首藤涼&エクストラクラス(ストレンジャー)  ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:55:34 YXwzAuzc0

入園料を払い、緑と静寂が漂う六義園の中へと入る。


「ふぅ……ああいう場所は勘弁願いたい、我が主よ」


冷や汗を拭って仮面の男性はため息をつく。
辺りは都会の中とも思えぬ静けさで、穏やかな空気が流れている。


「ふふ……ああ、善処しよう」


ゆっくりと園を見てまわり、出汐湊と呼ばれる池畔で落ち着くことにした。


彼の名は『ハクオロ』というらしい。
異邦人、ストレンジャーのクラスのサーヴァントだという。

直接戦闘よりは策と閃きで対処するタイプのようだ。
自分に合っている相手だと言って良い。


「―――さて。
 この地に呼ばれた、ということは、何か聖杯に願うようなことがある、ということかな」

ハクオロ殿はこちらに穏やかに聞いてくる。


―――わしは、鳰に語ったように、不老を治すことが願いであることを伝えた。


「まあ、十分に生きた故、そのまま死んでもいいんじゃがの。
 それでも、神様とやらがいるのなら、最後に我がままくらい聞いてくれてもいいのではないか、と思っての」

肩を竦め、わしは言葉を締める。

「―――そうか。
 取り残される思い、というのは、私にも分かる感情ではある」
「……ほう」

彼は池の奥を見つめるような仕草をした後。


「ストレンジャーのサーヴァント、ハクオロ。
 ―――主、首藤涼のために力となろう」


わしに向き直り、片膝をついて恭しく頭を垂れた。

「ふふ、なんじゃ、演劇の中にでも入ったかのようじゃの。
 では、よろしく頼むぞ、ハク殿」

彼の手を取り、立ち上がらせた。

――恐らくは最後の機会、やれるだけ、やってみようかの。


30 : 首藤涼&エクストラクラス(ストレンジャー)  ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:56:17 YXwzAuzc0

【マスター】
首藤涼@悪魔のリドル

【マスターとしての願い】
普通に年を取って死ぬ

【weapon】
神崎香子の残した爆弾

【能力・技能】
『ハイランダー症候群』
身体的に歳を取らず、かつ長命となる奇病にかかっている。
本人の見た目は女子高生、実年齢は100歳以上である。
非常に長寿ではあるが、臨界点を超えると一気に老化し肉体が崩壊する。
その時期は現代の医学では判明が不可能である。

『暗殺者』
裏稼業の情報についてかなり精通しており、
また、相手に察知させないまま首輪型爆弾をセットするなど、
暗殺者としての能力はそれなりに高いと考えられる。

【人物背景】
黒組出席番号7番。体を動かす事が趣味。お風呂も好き。
達観した性格で、独特のしゃべり方をする。

かつて1歳年下で誕生日も1日違いの大切な人がいたが、
歳を取らない彼女とは対照的にその相手はどんどん大人になっていき、
最終的には他の女性と結ばれ涼の元を去った。

【方針】
聖杯戦争に勝利する。
駄目ならば駄目で潔く諦める。


31 : 首藤涼&エクストラクラス(ストレンジャー)  ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:56:57 YXwzAuzc0

【クラス】
ストレンジャー(エクストラクラス)

【真名】
ハクオロ@うたわれるもの

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
異邦人:A
生まれ育った地と異なる時代または異なる世界において主要な活躍をした英霊に与えられるクラス。
見知らぬ土地の文化、風習、風土を理解し、戦略・戦術に活用することができる。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】
軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成できる能力。
火薬及び毒に纏わる道具の作成が可能。

【宝具】

『うたわれるもの』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人

大神ウィツァルネミテア、その半身を顕現させる。
令呪三つ分程度の魔力がなければ発動は不可能であろう。

【weapon】
鉄扇

【人物背景】
新興国家トゥスクルの白き皇。
外見年齢三十路前付近。外すことの出来ない仮面を着けている。
記憶喪失ながら安定した人格を保ち、時に優しく、時に厳しい父親のような性格。

自らを保護し、家族のように接してくれたエルルゥ姉妹や村の人々のため、圧政を行う領主に対し反乱を蜂起、
同じく苦しむ村々を糾合し、数々の策を立て反乱に成功し、新たにトゥスクル国を樹立、初代皇となる。


32 : ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 02:57:14 YXwzAuzc0
以上で投下終了です。


33 : ◆waFa5fGgBM :2015/01/22(木) 03:13:30 YXwzAuzc0
>>30
【weapon】の箇所
×神崎香子の残した爆弾
○神長香子の残した爆弾

が正となります。誤字申し訳ありません。


34 : ◆kRh/.U2BNI :2015/01/22(木) 18:09:23 XAVmLyyE0
>>20
ありがとうございます
では、お言葉に甘えて私が投下したキャスターアヴドゥルの宝具の記述修正と宝具を1つ追加します

>>1
【宝具】
『魔術師の赤(マジシャンズレッド)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:20
生命が持つ精神エネルギーが具現化した存在。所有者の意思で動かせるビジョン『スタンド』。
たくましい人間の男性のような肉体の上に鳥(猛禽類)のような頭がついた人型スタンド。
NPCはスタンドビジョンを視認することができない。
火炎や熱を自由自在に操る能力を持ち、鉄をもドロドロに溶かしてしまうほど高温。
さらに、キャスターの意思で点けたり消したりすることが可能。
『魔術師の赤』の炎は自然発火の炎ではなく、魔力にによって作り出された炎であり、
したがって、風に流されず重力に逆らえる。水をかけたり真空状態になっても消えない 。
他にも物理的な形状を持つ炎で相手を縛りあげて酸欠で気絶させたり、炎で瞬時に穴を掘って退避するなど、
様々な場面で応用が効く宝具。

『そして、集いし流るる星達(スターダストクルセイダース)』
ランク:A+ 種別:対DIО宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
固有結界を展開し、DIOを倒すためにエジプトのカイロへの旅路を共にした仲間(空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、花京院典明、ジャン・ピエール・ポルナレフ、イギー)をサーヴァントとして召喚する。
彼らが歩んだ旅路は語り継がれており、今では全員が英霊となっている。
心象風景はエジプトの砂漠。6人のスタンド使いが揃った場所であり、エジプトは旅の終着点でもある。
キャスターは厳密には魔術師ではないが、彼ら全員で心象風景を共有し、全員で術を維持するため固有結界の展開が可能となっている。
固有結界と強力なサーヴァントを5人も召喚するという特性上、魔力の消費が重く、使用できる回数は限られる。

また、この旅に関わった『スタンド』はほとんどがタロットの大アルカナやその起源の暗示を象徴した名前と能力を持ち、
同じ名前と能力を持つスタンドは見られていないという逸話から、
結界内では同じタロットの暗示を受けた能力を持つ者は二人以上現界することができないという弱点がある。
そのため、敵にタロットの暗示を受けた者がいると、それに対応する仲間は召喚されず、結界も維持しづらくなってしまう。
ペルソナシリーズを例にとると、『愚者』に属するペルソナが敵にいればイギーが召喚されない。

以上で修正を終了します
ただでさえ強力な固有結界と召喚系の宝具を追加するというかなりのアッパー調整になってしまったため、駄目でしたら言ってください
また、前スレの>>885とはトリップが違いますが、トリキーが割れていたので前スレの>>120のトリップを使っています


35 : 東京都山手線内のスイーツショップ ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/23(金) 06:28:41 g./tMtRc0
投下させていただきます。


36 : 東京都山手線内のスイーツショップ ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/23(金) 06:29:05 g./tMtRc0
別段、腹は空いていなかった。
俺はいつも通り仕事をし、品を納め、適当に腹を満たし、帰ろうとしていた。

「問おう。貴方が私のマスターか」

そんな折に、一人の外国人の少女に話かけられた。
東京という都市には観光客も留学生も別段珍しくは無い。
通りがかりの観光客に写真をとってやる事もあれば、
とはいえ、流暢な日本語で、意味の分からない問いを投げかける、
妙な衣装に身を包んだ外国の少女なんて言うのは、お目にかかったことが無いものだ。

「あー……」

こういう時には何と言えばいいのだろう
見たところ、アングロサクソン系のようだが、それにしては日本語が上手だった。親が帰化した二世だろうか。
にしては質問の内容がよく分からない。俺は女中の手配などした覚えはないし、手配されるにしても彼女は若すぎる。
それとも、マスターとは職業のことだろうか? もしかしたら、喫茶店のような所に行こうとしているのかもしれない。

「俺に言っているのかな?」

うーん、結局考えがまとまらず、当たり前のことを聞き返してしまったぞ。

「はい、貴方に聞いているのですが」

分かっていた事だ。視線からも態度からも、明らかに彼女の意識はこちらを向いている。
だと言うから、分からないのだが。彼女は一体俺に何の用があるというのだろう。

「失礼だが、君は誰かな?」
「私は貴方に充てられたサーヴァントですが。サーヴァント、セイバー。契約に従い馳せ参じました」

何を言ってるんだこの娘は。

とはいえ、実に育ちの良く聡明そうなお嬢さんで、無視して帰るというのも気が引ける。
山手線の中ならば、こういう年頃の娘を連れだって入る様な甘味所というのはすぐ見つかる。
男一人で入るには気が引けるような店にも、この子を連れてなら簡単に入れるのではないだろうか。
そう考えれば……、よし。

「とりあえず、どこかで腰を落ち着けて話さないかい?」

実際、俺は甘い物には目が無いのだ。


37 : 東京都山手線内のスイーツショップ ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/23(金) 06:29:35 g./tMtRc0

「何か食べたいものはあるかい?
 ここは持つから、なんでも頼んでいいよ」
「……。
 …………。
 ………………いえ」

なんだ今の間は。

「……サーヴァントは……その、魔力の供給があれば……食事は……」

遠慮しているのだろうか。よく分からないことをぽつり、ぽつりと漏らしている。
しかし、俺としたことが、滅多に入らない店に入れると浮足だっていたのか、おもいっきり怪しい行動をしてしまった気がする。
知らない少女を連れ込むなど警官に目を付けられてもおかしくは無いぞ。
もちろん、そんな気は無いのだが。

「話をするにもこういうのを決めてからでないと。ほら、遠慮せず」
「……いえ、その……私は結構ですのでどうかマスターだけ」

警戒しているのだろうか。ものすごく怪訝な表情をしている。
それなら、いっそこちらで多めに注文してしまおう。
丁度店員も良い位置にいる。

「すいません、いいですか。この……」


38 : 東京都山手線内のスイーツショップ ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/23(金) 06:30:05 g./tMtRc0
「うわあ」
「これは……」

こじゃれた小さなテーブルに所狭しと並ぶ、ケーキ、焼き菓子、そしてパフェ。
年頃の女の子がいくら食べるか分からないから適当に注文したとはいえ……。

「なんだか凄いことになっちゃったぞ」

心の底からそう思う。思えばこの小柄な女の子は、そこまで食べないのではないだろうか。
いや、しかし、押し付けるにはこれくらいで丁度いいのかもしれない。

「ちょっと、一人じゃ食べきれないなあ」

言いながら彼女の顔を見てみる。

「そう……ですね」

どうやら、彼女も観念してくれたようだ。
心なしか、少し嬉しそうにも見える。
やはりこのくらいの女の子は甘いものが好きなのだろう。

「好きなものを食べてくれて構わないから」

そういう自分も、けっこう高揚している気がする。
欲を言えば和食系の物が好きなのだが、こういう滅多に入れない店の物も悪くは無い。
どれ、一口。うん、これは悪くないぞ。




気が付けば、話を聞くつもりで入ったにも関わらず、二人で黙々と食べていた。
俺はもう食後のコーヒーに口を付けていたが、彼女はまだパフェに目を光らせている。
一人で食べるのもいいが、こういう嬉しそうに風に食べる人間となら一緒に入るのも悪くないように思える。
それにしてもおいしそうに食べる娘だ。
俺も、あの時結婚していたらこれぐらいの娘がいたのかもしれないな。今更考えても仕方が無いことか。
たしか、カウンターにフードケースがあったから、持ち帰りもできるはずだ。
せっかくだし、いくつか包んでもらおうか。


39 : 東京都山手線内のスイーツショップ ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/23(金) 06:31:01 g./tMtRc0
【クラス】
セイバー

【真名】
アルトリア・ペンドラゴン@Fate/stay night

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力B 幸運A 宝具A++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない

騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。


【保有スキル】
直感:A
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。

魔力放出:A
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせる。
瞬間的に放出する事によって、能力を向上させる。

カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

【宝具】
『 風王結界(インビジブル・エア)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1個
風を圧縮した結界。普段は所持する剣に纏わせることで光学迷彩めいたエフェクトを与え、剣の素性を隠すのに使用している。
解き放つ事でミドルレンジやロングレンジにカマイタチめいた攻撃を仕掛けたり、別の物を暴風で覆い、侵入を拒んだりもできる。


『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
人々の願いにより星に鍛造された、聖剣のカテゴリーでも最高峰の知名度を誇る一振り。
真名を解放し振るうことで強力な光と熱を帯びた斬撃を放てる。
実際強力だが、使用に莫大な魔力を消費し、見られるとセイバーが身バレするリスクを伴う。


『全て遠き理想郷(アヴァロン)』
ランク:EX 種別:結界宝具 防御対象:1人
『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の鞘。お付きの大魔術師曰くエクスカリバーよりこっちが大事。
後のスピンオフでセイバーの使用していた槍もエクスカリバー並の威力だった事が判明したため、かなりマジっぽい。
その驚愕の効果は、持っているだけで不老になり、ありとあらゆる負傷を回復させるというもの。
王という象徴をよりファシズムめいたものにするのに必携の逸品である。
さらに真名を解放することにより、存在を次元的に隔離するスゴイバリアを張れる。
五次元まで対応とのこと、これを作った泉の精霊たちは実際有能であった。  

【weapon】
『エクスカリバー』
かの有名なアーサー王の剣。
ドラ○エ以外の日本のファンタジーRPGなんかではかならずと言っていいほど手に入る。
それゆえに見られただけで正体がばれる。
その切れ味は並の英霊くらいなら鱠切りにできるだろう。
一応神造兵器なのでセイバー自身が神性を持たずとも、神性によりダメージを受ける相手には効くかもしれない。
公式的な発表はないので、実際の所は不明です。

【人物背景】
聖杯戦争の原点であるFate/stay nightのヒロインの一人。
FateEND後のアヴァロン(妖精郷)でのバカンスからの参戦。
一応ケーキにやたら食い付きがよかったのはそのためです。
聖杯戦争ではよく寝、よく食べ、よく戦争と言った感じの健康的な生活を送っていた。
実際には自分の腕前には誇りがあるものの、他の武勇を轟かせている英霊と比べると、
戦闘は仕事めいた雰囲気を纏っているため、別に戦闘行為自体が好きなのではないのかもしれない。
真面目な性格をしており、健啖家で負けず嫌い。
マスターの性格にもよるが、余程のことをしなければ裏切りの心配が無く、戦闘能力も随一。
よほど無計画、無鉄砲、非人道的でない限り計画的な行動にも支障はださないだろう。
世間では色々言われているが、魔力の都合さえ付けられればサーヴァントとしては実際かなりの当たりである。


40 : 東京都山手線内のスイーツショップ ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/23(金) 06:31:15 g./tMtRc0
【マスター】
井之頭 五郎@孤独のグルメ

【マスターとしての願い】
不明。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
古武道。
激高したおっさんや空手をかじった酔っ払い程度なら一瞬でアームロックに固められる程の腕前。コワイ。
また、作中では一人で飯を食ってばかりだが、個人で輸入雑貨の商いをしているにも関わらず、
かなり裕福な私生活が垣間見られるため、コミュニケーション能力は高いものと思われる。
職業柄、外国語も堪能かもしれない。

【人物背景】
個人で輸入雑貨商を営むおじさん。健啖家でよく食べる。
とはいえ、漫画的な大食いというほどでもなく、無計画に注文すると食べ過ぎで辛くなったり残したりもする。
無計画な注文をしては後悔する描写がよく見られるため、注文を好きにする事自体がストレスの発散になっているのかもしれない。
愛煙家ではあるものの酷い下戸であるらしく、酒に関しては作中で一切の拒絶を見せている。
白いご飯が大好きで、作中でも幾度となくご飯を催促している姿が見られる。
作中上着を脱いで上半身を露出する場面があるのだが、中年にも関わらずかなりいい体である。

【方針】
セイバーと話をしてみる。


41 : 名無しさん :2015/01/23(金) 06:32:12 g./tMtRc0
以上で投下終了です。ありがとうございました。


42 : ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:33:43 iOazIGaA0
皆様投下乙です。
それでは自分も投下させて頂きます。


43 : 相楽誠司&アーチャー ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:35:46 iOazIGaA0
 ひめとゆうゆうといおなちゃんは好きな友達だと思ってる。
 ひめと会えたおかげで新しい自分を見つけられたし、ゆうゆうは昔から何度も楽しく遊んでいて、いおなちゃんがいたからもっと強くなれた。
 みんながいたからあたしは頑張れたし、多くの人を幸せハピネスにできたと思う。その中にはつむぎちゃんがいた。
 ある日、幼稚園で出会ったつむぎちゃんっていう女の子。あたしはつむぎちゃんの心配事を解決したいと思っていたけど、逆につむぎちゃんを傷付けちゃった……
 でも、ひめ達が一緒にいたからつむぎちゃんを助けることができた。つむぎちゃんはまた踊れるようになって、幸せを取り戻すことができた。
 ブルーは大好きで、あたしにとって初恋の人だった。
 いつも地球に生きるみんなの幸せを願っていて、その為に世界中を回って頑張っていた。あたしはそんなブルーも幸せにする為に頑張りたいと思うようになって、ミラージュさんを助けた。
 そうやってブルーとミラージュさんは本当の幸せを取り戻す事が出来て、あたしも嬉しくなれた。


 ……けど、やっぱり辛かった。ブルーとミラージュが幸せになることが出来て嬉しかったけど、やっぱり悲しい。幸せになれて嬉しいはずなのに、胸は痛い。
 そんなあたしを支えてくれたのはひめ達と……誠司だった。みんなが励ましてくれたから、弱い心には負けなかった。
 特に誠司にはありがとうって言いたかった。憎しみと弱い心に負けそうになった時、誠司が来てくれたからあたしは立ち上がることができた。
 誠司は、あたしが生まれた時から隣にいてくれた大切な人。楽しいことや、嬉しいことや、悲しいことや、辛いことや、幸せなこと……いっぱい、一緒に見てきた。
 当たり前のように支えてもらった。当たり前のように隣にいてくれたから、幸せになることができた。だから、いなくなったらとか、考えたことがなかった。
 誠司がいなくなるなんて、ただの悪い冗談だとしか思えない。……だからだったのかな、誠司がいなくなった時、こんなにも胸が痛んだのは。誠司のことを何も考えなかったあたし自身が許せなかった。
 それでも世界に生きるみんなが支えてくれたから、立ち上がることができた。みんなの応援の背負って、みんなで月に向かって……誠司を取り戻した。


 誠司からはたくさんの愛を教えてもらった。いつもみんなの為に頑張りながら、あたしの為にも頑張ってくれた。あたしは今まで、そんな誠司に頼りっきりだった。
 だから今度は、あたしが頑張りたい。あたしが頑張って、誠司から貰った愛をたくさんの人に分け与えて、そして誠司を含めたみんなに幸せを届けたい。
 その為にも、いっぱい頑張って、いっぱい成長したかった。


 あたしと誠司は『好き』とか『恋してる』とか『恋愛』とか、そういうのじゃない。ただ、純粋に『大切』と思ってる。そんな誠司とは一緒にいたい。
 今までも、そしてこれからずっと先の未来も。


 ◆



 いつもと同じような一日だけど、どこか違和感を感じる一日でもあった。
 毎日を過ごしているぴかりが丘とは違う街にいるから……それだけではない。根本的に『何か』が違っていた。
 空に浮かぶ月はとても赤い。まるであの赤い惑星を見ているようで、妙に胸がざわついた。
 それに、脳裏に浮かぶ聞き覚えのない単語だって引っかかる。『聖杯戦争』、『マスター』、『令呪』、『サーヴァント』、『アーチャー』……どれも聞いたことがないのに、意味は瞬時に思い浮かんだ。
 そして、マスターとなった俺自身がサーヴァントと共に聖杯戦争を勝ち抜かなければならない。まるで当たり前のように、そんな思考も芽生えていた。

「それにしても、誠司があたしのマスターになっているなんてね」

 快活な笑顔と声を向けているのは、俺が赤ん坊の頃から一緒にいた女の子。
 人助けが大好きで、いつだって誰かの幸せを願い続けて、プリキュアとなって戦っていた……愛乃めぐみだった。
 理由は一つ。マスターとなった俺の元に召喚されたのがめぐみだった。単純だが、それだけに衝撃が大きい。これはつまり、めぐみと一緒に戦えということだ。


44 : 相楽誠司&アーチャー ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:36:40 iOazIGaA0
「俺も驚いたよ。まさか、めぐみが俺のサーヴァントになっているなんて」
「うん、あたしのクラスはアーチャーだよ! ……あ、だったら今は、誠司のことを『マスター』って呼ばないとダメかな?」
「よせよ。そういう堅苦しい呼ばれ方は好きじゃない」
「そっか……じゃあ、いつもみたいに『誠司』って呼ぶね!」
「そうしてくれ」

 これから戦いが始まるとは思えないくらい、穏やかなやり取り。
 幼い頃からずっと続けてきた日常の一ページ。それが、この世界でも繰り広げられていることに、ほんの少しだけ安堵を感じる。
 例え世界が変わっても、俺達を繋ぐ絆が変わることはない……そんな予感がしたから。

「そういえば誠司は願いを決めたの?」
「願い?」
「うん。聖杯があればどんな願いでも叶えられるの。誠司はそれを使って何を願うのかなって……ちょっと気になったんだ」

 めぐみは問いかけてくる。
 聖杯。万能の願望器であるそれに願い事を言えば、どんな願いでも叶うらしい。まるで、プリカードの大いなる願いのようだった。
 そういえば氷川は大いなる願いを使って真のキュアフォーチュンに変身できるようになったらしい。めぐみとひめと大森が頑張ったおかげだ。


 俺の願い……それは皆で幸せな毎日を過ごすことだ。
 めぐみ、真央、母ちゃん、ひめ、大森、氷川、神様、街のみんな……誰もが笑顔でいられる毎日。それはめぐみだって同じだ。
 ずっと前から叶っている願いだから、何かに頼る必要なんてないはず。それを手に入れる為にめぐみを戦わせなければいけないのか。

「……その前に、俺も聞いてもいいか?」
「聞きたいこと?」
「ああ。俺のサーヴァントになったけど……本当に戦っていいと思ってるのか? めぐみは、誰かを傷付けるかもしれないんだぞ?」

 聖杯で願いを叶えるには、この戦いで最後の一組になるまで生き残らなければいけないらしい。それはつまり、自分の為に誰かを犠牲にするということだ。幻影帝国やサイアーク達と戦うのとは違う。
 そんなのはめぐみが一番望まないことだ。こんな戦いをめぐみに強制させるなんて、俺だって嫌だ。他のみんなだって同じはず。
 仮に聖杯を手に入れたとしても、めぐみが不幸になるだけだ。それなのに、どうしてめぐみは俺の前で笑顔を見せているのか。
 そんな疑問に答えるように、めぐみは俺を見つめている。

「あたしも、誰かを傷付けるなんて嫌だよ。そんなことをして幸せになっても、本当の意味で幸せになれないから」
「じゃあ、何で笑っているんだよ?」
「誠司がいるから!」
「……えっ?」

 当たり前のように答えるめぐみに、俺は目を丸くする。

「だって、誠司がマスターだからあたしわかるの。誠司は理由もなく誰かを傷付けたりなんかしないし、誰かを不幸にする願いを持つわけがないって……誠司だったら、みんなを幸せをできる願いを持ってくれるって信じてるの!」
「めぐみ……」
「誠司がマスターになってくれてよかったって本当に思うんだ! 本当に……本当に、ありがとう!」

 その満面の笑みはとても眩い。空に浮かぶ奇妙な月どころか、世界全てを照らす太陽よりも輝いて見えた。
 ずっと昔から見てきた大切な笑顔。この笑顔を守りたいと思ったから、強くなりたいと願うようになった。その為に氷川道場に入門して、そしてプリキュアの活動を手伝うようにもなった。


45 : 相楽誠司&アーチャー ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:39:29 iOazIGaA0
「あたしの願いは……みんなを幸せでいっぱいにすること。誰も不幸にすることのないよう、一生懸命に頑張ること! その為に、誠司と一緒に頑張りたいんだ!」
「俺も同じだ。俺も、めぐみも、ひめ達も、街のみんなも、みんなが幸せでいられる世界で一緒に生きたい……それが俺の願いだ」
「誠司……! やっぱり、誠司も同じなんだね!」
「当たり前だろ」

 どうやら、今更聞くまでもなかったみたいだ。
 俺もめぐみも同じ願いを持ってる……お互いの想いをぶつけ合ったあの時から、とっくに分かりきったことだ。
 自分だけじゃなく、他のみんなも幸せになれるように頑張る。これが俺達の心からの想い……イノセントな想いだ。

「さて、その為に頑張るのはいいけど……簡単にはいかないだろうな。聖杯を手に入れる為なら、手段を選ばない奴だっているはずだから油断は出来ないぜ」

 俺はめぐみに釘を刺す。
 いくら俺達がみんなを幸せにしたいと願っても、そんな簡単にいけるほど世界は優しくない。悲しいことに、周りがいくら平和になっても不幸な事件は起こる。
 第一、幻影帝国だって世界中を滅茶苦茶にしていた。もしも幻影帝国みたいに非道な奴らがいたら、どんな汚い手でも使うはずだ。そんな奴が聖杯を手に入れてしまったら、また世界は最悪でいっぱいになるかもしれない。
 それだけは絶対に止めなければいけなかった。

「絶対に一人で突っ走ったりなんかするなよ。何かあってからじゃ遅いからな」
「大丈夫! あたしは誠司から離れないから!」
「本当かよ」
「本当だよ! 絶対に本当! あたしはサーヴァントだから、マスターを守らないといけないし!」
「……わかった。そこまで言うなら、絶対に勝手なことをするな。いいな?」
「うん!」

 めぐみは俯いてくれるが、俺は不安だった。
 めぐみは優しいし、人を滅多に疑わない。人を信じるのは素晴らしい事だけど、そこに漬け込む奴だって当たり前のようにいる。めぐみが狙われる危険だって充分にあった。
 誰か困った人を助けようとめぐみが一人で突っ込んで、それが原因でトラブルだって起きるかもしれない。昔から無鉄砲なめぐみだから、どうしても不安になる。
 だけど、ここまで言ってくれるのだから、疑う訳にもいかなかった。

「それじゃあ誠司、一緒に頑張ろうね!」
「……オッス!」

 心から信頼してくれているめぐみに、俺はそう答える。
 俺はマスターになって、めぐみは俺のサーヴァントになってしまった。だけど、めぐみは俺の家来なんかじゃない。めぐみは俺にとって家族のような存在で、そして大切な女の子だ。
 例え世界や立場が変わったとしても、俺達の関係は変わらない。いや、変わってはいけないんだ。だから俺達は同じ願いを持てている。
 これから先、どうなるのかはまだわからない。だけど隣には大切な女の子がいるから、負ける訳にはいかなかった。
 俺達も、そして他のみんなも幸せになる為にも…………

【クラス】
 アーチャー


【真名】
 愛乃めぐみ@ハピネスチャージプリキュア!

【パラメーター】
(通常時)
 筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:E 幸運:B 宝具:E


(キュアラブリーへの変身後)
 筋力:B 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:C 幸運:A+ 宝具:C


【属性】
秩序・善


46 : 相楽誠司&アーチャー ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:42:08 iOazIGaA0
【クラススキル】
 対魔力:E
 魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

(キュアラブリーへの変身後)
 対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など大がかりな魔術は防げない。

 単独行動:D
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクDならば、マスターを失ってから半日間現界可能。


【保有スキル】
 愛の光:C
 不幸を浄化し、幸せを生み出す光。
 精霊はプリキュアの力を高めていて、ラブリーは愛の精霊ポポが愛の炎パワーを与えてくれる。(注:この設定は本編に出ておらず、バ○ダ○より発売されたハピネスチャージプリキュア!  キュアラインで描写されている)

 心からの気持ち(イノセント):B
 誰かを傷付けることはあるかもしれないけど、人助けを止めたくない。そんな心からの想いに反応して、更なる力をプリキュアに与える。
 その気持ちに反応して新たなるプリカードが生まれて、イノセントフォームに進化することができる。

【宝具】
『世界に広がる巨大な愛(キュアラブリー)』
 ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1人
 愛乃めぐみがプリチェンミラーとプリカードを使用することで、愛のプリキュア・キュアラブリーに変身できる。
 凄まじい身体能力を発揮する他、癒しの力で敵を浄化することも可能。キュアラブリーはこの力を発揮して、多くの幸せを守り抜いた。
 また、その力をバットや剣などに変えることができる他、数多くあるプリカードを使用することでフォームチェンジをし、それに合わせた必殺技も発動できる。

『心からの想いを生み出す奇跡(シャイニングメイクドレッサー)』
 ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:1 最大補足:1
 アクシアの箱の真の姿であり、巨大な闇を浄化する力を持つ。
 プリキュア達のイノセントな想いに反応してイノセントフォームのプリカードを生み出し、その他にもプリキュア達が力を合わせて合体技・ハピネスビッグバン及びプリキュア イノセントプリフィケーションを使用できる。
 お化粧にも使える。

『勇気が生まれる愛(スーパーハピネスラブリー)』
 ランク:A 種別:対人宝具(自身)レンジ:− 最大捕捉:1人
 つむぎとの絆を結び、世界中の愛を集めたキュアラブリーがシャイニングメイクドレッサーに祈りを込めたことで進化した奇跡の姿。
 キュアラブリーの強化形態のひとつであり、全てのパラメータが1段階上昇する。
 世界中を不幸で満たそうと企み、クイーンミラージュを上回る存在となったブラックファングと互角に戦える戦闘力を誇る。キュアプリンセス・キュアハニー・キュアフォーチュンと力を合わせて『プリキュア・ミラクルラブモーション』を放ち、ブラックファングを浄化して世界に平和を取り戻した。

『世界に広がる永遠の愛(フォーエバーラブリー)』
 ランク:EX 種別:対人宝具(自身)レンジ:− 最大捕捉:1人
 赤い星の神・レッドを救いたいという想いから世界中の愛が集まり、新たなに生まれたプリカードをキュアラブリーが使用したことで進化した奇跡の姿。
 キュアラブリーの最強形態であり、全てのパラメータが2段階上昇する。

【weapon】
 プリチェンミラー、プリカード


47 : 相楽誠司&アーチャー ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:43:04 iOazIGaA0
【人物背景】
 アニメ「ハピネスチャージプリキュア!」の主人公。キャストは中島愛。
 ぴかりが丘学園に通う中学2年生の少女。いつも前向きで元気いっぱいであり、人助けが大好き。幼い頃から病弱の母・愛乃かおりを助ける為に頑張っていたので、家事も一通りできるようになった。また、手話もできる。
 自分の気持ちを「こころの歌」として楽しく歌い、嬉しい気持ちでいっぱいになると「幸せハピネス!」と大きく口にする。 
 他人の長所を見つけるのは得意で、一度信じた相手のことを決して疑わない。その反面、相手の気持ちを汲み取ることが苦手で、自分の善意を押しつけてしまう欠点もある。
 彼女の人助けが好きな理由は「誰かに愛されたいから」という一面もあり、無意識の内に自己満足で誰かを助けていて、アンラブリーからそのことを糾弾された。また、自分のせいで誰かが傷付いたことを知ってしまうと心が折れてしまい、つむぎや誠司のことを理解しなかったことを悔んでいた。
 何度か絶望に陥るも仲間達の励ましで乗り越えて、そこからどんどん成長しながら自分自身の幸せにも考えるようになった。その果てにめぐみは「ぴかりが丘でみんなと幸せにくらして、家族と友達と誠司と一緒に生きていきたい」という本当の願いを見つけた。 


【サーヴァントとしての願い】
みんなと、そして誠司が幸せになれるように頑張る。

【方針】
 今は誠司を守りながら、みんなの為にどうすればいいのかを考える。
 


【マスター】
相楽誠司@ハピネスチャージプリキュア!


【マスターとしての願い】
 めぐみをフォローしながらみんなが幸せになれる方法を見つける。

【weapon】
 なし。強いて言うなら武術。

【能力・技能】
 氷川流道場に幼い頃から通っていたおかげで、チョイアーク達と戦える程度には強い。また、チョイアーク達のビームを一斉に浴びても生きているので、それなりの耐久力もあるかもしれない。
 また、レッドによって憎しみの結晶を植え付けられた際にダーク誠司となり、プリキュア4人と互角に戦うほどの戦闘力を発揮した。
 勉強や家事も人並み以上にできる。

【人物背景】
 ぴかりが丘学園に通う中学2年生の少年。キャストは金本涼輔。(少年時は菅谷弥生)
 正義感はとても強く、テストで学年2位になれるほど勉強も出来て格闘技が強い。
 めぐみとは生まれた時からの付き合いであり、お互いのことを深く理解している関係だった。当初は兄妹みたいなものと考えていたが、めぐみが地球の神・ブルーに好意を持つようになったことをきっかけで、めぐみを好きだったことに気付く。
 めぐみには幸せになって欲しいが、めぐみと離れたくない。悩んでいるめぐみの力になれない……そんな葛藤が続き、そこをレッドに付け込まれて憎しみの結晶を植え付けられてしまう。
 憎しみの力でプリキュア達を追い詰めるも、キュアラブリーが本気の想いをぶつけたことで心を取り戻し、プリキュア・イノセントプリフィケーションの力で憎しみから解放された。

【方針】
 できるなら犠牲を出さないで願いを叶えたい。その為にどうすればいいのかを考える。
 悪人には立ち向かうが、そうじゃない相手なら話をしたい。


48 : ◆vPcR9pdcgg :2015/01/23(金) 22:44:06 iOazIGaA0
以上で投下終了です。


49 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:43:01 4WNtSg9s0
投下します


50 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:43:36 4WNtSg9s0
  月を見上げて吠える。
  何度も何度も何度も吠える。
  声が嗄れ、血を吐き、それでも吠える。
  灰色狼の嗄れ声は、地獄の底から響くよう。
  灰色狼の嗄れ声は、老いさらばえた魔女のよう。
  鳴き声は誰にも届かない。
  ただ、夜の闇と彼女を捉える冷たい檻に溶けていくだけ。

  地の果て、蝿の王(ベルゼブブ)の頭蓋。
  誰にも会えず、誰にも声が届かない世界。
  それでも、この蝿の王の頭蓋で灰色狼が天を仰いで吠え続けるのは。
  会いたい人間が居たから。
  遠い昔、灰色狼がまだ公爵家に閉じ込められていた頃、灰色狼は同じように吠え続けその喉を潰した。
  母を想って吠え続け、可愛らしかった声は老婆のような嗄れ声になってしまった。
  それでも母は会いに来てくれなかった。
  ならば今、喉を潰され、手足をもがれた灰色狼が想うのは?

  夜の闇によく似た漆黒の髪。
  夜の闇によく似た漆黒の瞳。
  煌く星々が頑固な瞳に宿る光によく似ている。

(会いたい)

  ちっぽけな自分の隣に居てくれた東洋人。
  自分を守ると言ってくれた友人。
  その手を握ってくれた少年。
  声はとうに枯れ果てた。
  だから、月を見上げて心の中で叫ぶ。
  もう叶わない願いを叫ぶ。

(もう一度でいい、君に会いたい)

  ちっぽけな灰色狼を見下ろす月は、怪しく紅く輝いていた。


51 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:44:29 4WNtSg9s0
   ***

  つまらない洋服を身に纏い、つまらない生活を送っていた。
  学校に通い、面白くない授業を聞き、誰ともかかわらずに帰る。
  毎日繰り返していた、なんの変わりもないはずの日常。

  でも、足りない。

  時計の音のように規則正しい足音が足りない。
  膝に落ちたお菓子の屑を払う音が足りない。

『ヴィクトリカ』
『もう、こんなに散らかして』
『君、少しは片付けを覚えたら』
『そうだ、ねえヴィクトリカ、今日こんなことが……』

  そしてあの、おせっかいで頼りない声が足りない。
  いつも困ったような表情のとぼけ顔が足りない。
  軟弱な見た目の頑固者が足りない。

  足りない。
  決定的な何かが足りない。
  そう気づいた彼女は、何故か図書館を目指していた。
  誰かと出会い、誰かと過ごした図書館。
  螺旋迷宮のような階段を登った先にある、二人だけの秘密の庭園。
  黒い死神と、金色の妖精が出会った場所へ。



  階段を登った先にあったのは、貴族の蜜月に使われたという植物園ではなく、ただの書庫。
  何もない。
  ふわふわのフリルも。
  甘いお菓子も。
  二人で植えた色とりどりの花も。
  いつか隠れた小箱も。
  無粋なドリルが出てくるエレベーターも。
  当然彼―――久城一弥も。

「……そうか。やはり君は、居ないのか……久城」

  そこで、彼女―――ヴィクトリカ・ド・ブロワはその記憶の全てを取り戻した。


52 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:47:01 4WNtSg9s0
  記憶を取り戻し、彼女はまずすぐ側の座席に座っていた白スーツの青年に歩み寄った。

「話せ」

  英字新聞に目を通していた青年が、鬱陶しげに顔をあげる。

「……何をだ?」

「君はこの図書館の正式な利用者ではない。ならば、この未知の記憶……『聖杯戦争』についての記憶にある、私の『サーヴァント』だろう」

  『聖杯戦争』『サーヴァント』。
  膨大な知識を蓄えていた少女の中に、忽然と現れた『未知』。
  正体不明の知識の数々。
  その答えを知るものが居るとすれば、それはおそらくその当事者のみ。

「なんだいきなり。探偵ごっこかい? ……生憎、お嬢ちゃんみたいな子供とお茶をする趣味はないぜ」

「……いいだろう。特別に言語化してやる」

  はぐらかす青年をまっすぐ見据え、叩きつける。
  彼女の頭の中で今もこんこんと湧き上がる知恵の泉が導き出す『答え』を。

「まず君の座っている場所だ。その席は唯一、階段の上、二階が見える場所であり新聞のストッカーからは最も離れた場所だ。
 NPCがわざわざ新聞を持って奥の奥まで来て、新聞を読むふりをしながら書庫の様子を伺うわけがない」
「さらに言えば、館内で目深に帽子を被っているのもNPCとしてのルーチンから外れている。図書館に白いスーツ姿というのもだ」

  図書館内で新聞が置いてあるのは入り口付近であり、図書館の階段とは真逆に位置する。
  入り口から最も離れた位置で、中折れ帽を被って新聞を読むふりをするNPCが只者なわけがない。

「どこで読もうが俺の勝手だ。その回答じゃ赤点だな」

  まるでけしかけるように青年が笑う。
  ヴィクトリカは小さくため息をつくと、今まで『あえて見ないふりをしていた』真実を追求した。

「なにより君が持っているその英字新聞……逆さまだよ。愚かな名探偵」

  そう、彼がカッコつけて読んでいる英字新聞は逆さまである。
  本当に新聞を読みに来たというなら、そんなミスを犯すはずがない。

「お、おっほん! OK、OK、合格だ! やるじゃねえか、名探偵!」

  青年はわざとらしく咳き込み、さっさと英字新聞を畳むとテーブルの上にそれを放り投げて立ち上がった。
  背は久城一弥よりもはるかに高い。
  だが、その黒い瞳と黒い髪、そして頑固そうな瞳の輝きは、ヴィクトリカのよく知る彼とそっくりだった。


53 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:47:59 4WNtSg9s0
「君は誰だ」

「俺か? 俺はライダー……それ以外には必要ないさ」

  中折れ帽で目元を隠して不敵に笑う。
  『ライダー』というサーヴァントについてはヴィクトリカにも記憶があった。
  何かに乗り、操って戦うサーヴァント。
  それが『青年』の正体。数々の逸話に。

「今必要なのは、アンタの涙を拭くハンカチだ。さあ、アンタの涙を拭きに来てやったぜ、マスター」

  そう言って胸ポケットからきざったらしくハンカチを差し出し、ヴィクトリカの目尻に浮かんでいた涙を拭う。
  あまりに唐突な行動に、ヴィクトリカが目を剥く。
  ライダーはそのまま逆側の瞳に浮かんでいた涙も拭くと、再びきざったらしくハンカチを胸ポケットに仕舞った。

「軟派な男だ。東洋には軟派か堅物かしか居ないのか」

  そう言われ、ライダーはまたもやきざったらしく含み笑いで返す。
  最初は面食らっていたヴィクトリカも、彼のそんなあまり似合わない様を見ていて次第にいつもの調子を取り戻してきた。

「君、真名はなんだ」

「言ったろ。俺は、ライダー……それ以外には」

「真名は」

  畳み掛ける。

「駄目だぜお嬢ちゃん、深い詮索は……」

「なんだと聞いている」

  畳み掛ける。

「……」

「真名はなんだ」

  更に畳み掛ける。
  するとついに、ライダーの方が折れた。

「……左翔太郎、それが俺の真名さ」

  ライダー『左翔太郎』はわざとらしく大きく肩を落とすと、そう答えた。


54 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:52:22 4WNtSg9s0
「ふんだ。この気障ったらしい、かっこつけの、軟派な、ぽんこつ探偵もどきめ。
 最初からそう名乗れば早いのに、なんでそう無駄なやりとりをはさみたがるんだ」

  つらつらと、溜まっていた澱を吐き出すように辛辣な言葉が飛び出す。
  生来彼女は気の長い方ではない。その生い立ちから人付き合いが苦手で、距離の測り方が下手だった。
  だからかどうかは分からないが、よく人を貶すような言葉を使った。

「そこまで言うかよ! 俺は嬢ちゃんの緊張を、少しでもほぐしてやれればと思ってだな!」

  つられてライダーが、先程までのきざったらしい振る舞いも忘れてつっかかってくる。
  これが彼の素なのだろう。

「君もそうだし、久城の奴もそうだった。自分勝手なことばかり言って、人のいうことに耳を傾けない。
 いいかね、君。東洋ではどうかはしらないが、もう少し礼節をわきまえるべきだ」

「それを嬢ちゃんが言うかよ! 礼儀について言うなら、まずは年上に対してもう少し敬意を払うべきだろ!」

  ついでに言えば、ライダーも直情的なタイプだった。
  人付き合いが苦手なものが貶し、直情的が受ける。
  当然生まれる売り言葉に買い言葉。
  言い合いは口論になり、次第にヒートアップしていきしまいには……

「お客様」

「む」

「あー……」

  図書館から追い出されてしまった。

  ***

「君のせいだぞ」

  昼の日差しの下、見知らぬ技術で彩られた街並を真っ黒なセーラー服と真っ白なスーツが並んで歩く。

「まあ、なんだ。しょぼくれてるよりはそうしてたほうがずっといいぜ、マスター」

「うるさい」

  灰色狼が、金色の妖精が、碧緑の瞳でまっすぐ見据える。
  見知らぬ土地、『東京』。
  月に願いを込めた先にある戰場。

「さて……おふざけもそこまでだ。
 記憶も戻った、すぐに動き出そう、ライダー。この『東京』には多くの謎が眠っている」

  灰色狼の餌は三つ。
  フリル、お菓子、謎。
  今の彼女の格好はNPC時代の指定制服、フリルとは程遠い。
  彼女は買い物を知らない。お菓子が手に入るのはまだまだ先。
  でも、彼女を飽きさせない謎がここにはある。
  混沌の欠片たちが漂っている。
  人を運ぶ深紅の月とは。
  舞台とされた東京とは。
  聖杯戦争の目的とは。
  月が彼女を選んだ理由とは。

「それを解き明かすことが、きっと私達の使命だ」

  学生鞄にしまってあった陶器のパイプを取り出して口に加える。
  火をくべ、喉の奥で煙を遊ばせながら空を見上げる。
  そこに真紅の月はない。あるのはどこまでも広がる青空だけ。
  空に浮かべて想うのは、やはり、『彼』のこと。

「全てが分かったら、ついでに久城のもとに帰ってやらんでもないかな」

「……素直に帰りたいって言ったほうが可愛げがあるぜ、マスター」

  吹き抜けた一陣の風が、二人の眼前に漂っていた紫煙を晴らした。


55 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:52:56 4WNtSg9s0
【クラス】
ライダー

【真名】
左翔太郎@仮面ライダーW

【パラメーター】
筋力E(D++→B++) 耐久E(D++→B++) 敏捷E(D→C) 魔力E 幸運A++ 宝具C

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:E(D++→B++)
魔法に対する軽減効果が得られる。通常状態ではやせ我慢程度にしかならない。
宝具を発動することでパラメータが上昇。

騎乗:E(EX)
バイクを乗りこなす事ができる。
更に宝具『今日も風都に風が吹く』で固有結界を展開すると、固有結界内に吹く風に乗り、強化変身してパラメータを上昇させることが可能。

【保有スキル】
ハードボイルド(半):B
いぶし銀な生き方・思想がスキルになったもの。
判断が感情に左右されず、精神攻撃や精神作用スキルを無効化する。
ただし彼は所謂ハーフボイルドであるため、スキル効果は半減する。
ランク下位の精神攻撃を受けた場合の無効化発動率は50%になり、無効化出来なかった場合ランク差分軽減される。
ランク上位の精神攻撃を受けた場合、無効化判定は起こらずランク差分の軽減効果になる。

帽子の似合う男:-
彼が師に言われた教えを全うした事によってついたスキル。
彼、もしくは彼に親しい者(マスターや同盟人物など)が窮地に陥った場合、上記のハードボイルド(半)のスキルがハードボイルドに変化する。

Wを探せ:-
正体を隠して街の平和を守り続けた逸話がスキルになったもの。
彼は宝具を展開しない限り戦闘能力を持たないが、宝具を展開するまで実体化していても魔力を消費せずサーヴァントとは気づかれない。
例え看破系の能力を持っていたとしても彼はNPCにしか見えず、パラメータも魔力反応も確認できない。
ただし、『左翔太郎=仮面ライダージョーカー』を知っている人物に対してはこのスキルは発動しない。

運命の切札:-
切札は常に彼の手の中にある。
逆転の一手に必要なピース、起死回生の一撃を放つタイミングと言った『切札となる存在』を引き寄せやすい。

正義の系譜:EX
連綿と続く正義の系譜を受け継いだもの。
悪に立ち向かう心は決して折れず、正義のために振るう拳は決して砕けない。
ライダーは窮地に追い詰められると筋力・耐久・幸運・対魔力が一段階ずつ上昇する。
しかし、正義の味方ゆえ罪のない者を殺めることはできない。
ライダーの場合宝具『お前の罪を数えろ』が発動しない限り敵にトドメを指すことが不可能となる。


【宝具】
『街の涙を拭うの漆黒のハンカチーフ(かめんライダージョーカー)』
ランク:E 種別:変身 レンジ:1 最大補足:1
ライダーの運命のガイアメモリことジョーカーメモリとロストドライバーを使って仮面ライダージョーカーへと変身する。
変身後のパラメータは以下のとおりである。
筋力D++ 耐久D++ 敏捷D 魔力E 幸運A++
ただし、この宝具の発動にはスキル『運命の切札』が必要である。

『お前の罪を数えろ』
ランク:E 種別:対罪 レンジ:1 最大補足:1
ライダーの風都での振る舞いが宝具になったもの。
基本的にあまちゃんであるが相手が罪人であるなら彼は容赦しない。
相手の罪を暴き、相手がそれを肯定した場合、彼の筋力・体力・幸運値は一段階上昇する。
そして、相手が罪人であると判断できた場合のみ、ライダーは相手をメモリブレイク(聖杯戦争から抹消)することが出来る。

『今日も風都に風は吹く(かめんライダーダブルサイクロンジョーカーゴールドエクストリーム)』
ランク:C 種別:固有結界 レンジ:99 最大補足:999
彼の心象風景である『風都』を固有結界内に再現する。
最低でも『フィリップの人格』『サイクロンメモリ』『ダブルドライバー』『エクストリームメモリ』『風都の風車』の5つが再現される。
以上の5つが揃うことで彼は一時的に仮面ライダーダブルサイクロンジョーカーゴールドエクストリームに変身が可能になる。
変身後のパラメータは以下のとおりである。
筋力B++ 耐久B++ 敏捷C 魔力E 幸運A++

『受け継がれる正義の系譜』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大補足:1
彼が消滅する際にのみ発動できる宝具。
彼は任意の相手(マスター・サーヴァント問わず)に対して宝具『街の涙を拭う漆黒のハンカチーフ』、スキル『運命の切札』、そして武器の全ての所有権を譲り渡すことが出来る。
ただし他スキルや他の宝具は受け継がれないため渡した宝具によるパラメータは以下のとおりとなる。
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運


56 : ◆tHX1a.clL. :2015/01/24(土) 02:53:46 4WNtSg9s0
【weapon】
ロストドライバー&ジョーカーメモリ
ハードボイルダー

【人物背景】
街を愛した男。
正義を愛した男。
切札に愛された男。
他に語るべきがあるとするなら、それは彼が『仮面ライダーであった』。ただそれのみ。

他に知りたいことがあるなら本編かwikiで確認よろしくお願いします。
服装はVシネ版の白スーツ・白帽子に黒シャツ赤ネクタイです。

【願い】
今はまず、少女の涙を拭いてやる




【マスター】
ヴィクトリカ・ド・ブロワ@GOSICK

【マスターとしての願い】
久城一弥と再会する

【能力・技能】
人間離れした天才的な頭脳を持つ。
とても痛がりでなおかつ貧弱、お腹を出して寝るとまず風邪をひくほどの虚弱さ
くしゃみが特徴的で可愛い

【人物背景】
二度目の嵐のために産み落とされた兵器。
灰色狼の末裔。
図書館の最上階に住む金色の妖精。
そして、久城一弥の大切な人。

出典は原作五巻ベルゼブブの頭蓋、ブロワ公爵によって修道院「ベルゼブブの頭蓋」に軟禁された場面より。
服装はNPC時代準拠なのでフリルお化けではない、ただのセーラー服です。

【方針】
聖杯戦争と東京についての混沌の欠片を集め、その仕組を解き明かす。


57 : 名無しさん :2015/01/24(土) 02:54:00 4WNtSg9s0
投下終了です


58 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:03:28 FgV5eQCE0
投下します。


59 : 月読ジゼル&アサシン ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:03:53 FgV5eQCE0



♪〜

ナレーション:ともさかりえ

 かつて山奥の村で起こった血なまぐさい連続猟奇殺人事件。
 七人目のミイラを名乗る殺人犯が作り上げた幾つもの死体の山は、今も異人館村こと六角村で怨念を放ち続けていると言われている。
 十人以上の人間の血を啜った飢え渇いたミイラは、一人の少年の活躍によってその殺人の連鎖を終え、深い眠りについた。
 しかし、まだあの殺人マシーンはどこかで生きているという噂が人々の間で囁かれていた。
 それは、ただのありきたりな噂なのか、それとも……。







 今宵、聖杯戦争の舞台となるこの月上──その一角の教会で、同じ世界の二人の人間が互いの姿を見合わせずに会話していた。

 片や、飾り気のない髪型で、遊びを感じさせない顔付の男。彼は祭壇に肩を乗せて寄りかかっている。
 片や、ゴスロリ衣装を身に纏ったロングヘアの少女。彼女は、そこと向かい合える最前列の席で俯いている。
 一方がマスター、一方がそのサーヴァントであった。
 同一世界の出身者である事だけではなく、二人はある一本の線で結びついており、それがまたお互いに厭に会話を弾ませていた。

「あの金田一の知り合い、ねぇ……」

 アサシンの英霊──飾り気のない髪型の男、六星竜一は、自らのマスターである月読ジゼルの全身を、厭らしい目つきで見流してからそう言う。
 何も、彼はジゼルに性欲を感じているわけではなかった。それは、彼の捻じ曲がった人間性が、相手の嫌がる行為を本能的に行った結果なのである。
 彼の本能下では、それなりの形の良い女性を見たとしても、性欲よりも、征服欲が優先されるのである。──殺人マシーンとなった時から、そのように書き換えられたのだ。
 その強い欲に身を任せ、ジゼルを不快がらせようと、このように迫るような目つきでジゼルを眺め見下ろしている。
 そうしなければ、マスターに余計な反抗をされ、サーヴァントの自由が束縛されかねないという危機感もあるだろう。
 効果はあるようで、ジゼルは目線を斜め下にそらして、小刻みに震えながら爪を噛んでいる。怯えている女性のしぐさだ。元々、気が弱い性質らしい事も手に取るようにわかった。

「……知り合い、と言っても、先ほど申し上げた通り、私にとってあまり良い思い出のある相手ではないわ」

 震える声でそうアサシンに言うジゼル。先ほどから、ずっとこの調子で二人は話している。
 滅多に合致しないであろう共通項を持ちながら、両名ともに相容れない形の性質であったのだ。
 その「共通項」の実行において、アサシンは快楽を覚え、ジゼルは不快を覚えた。だからこそ、これからまたそれを行う事にジゼルは怯えているのかもしれない。

「そりゃあ、俺にとってもそうさ……。"ローゼンクロイツ"さん」

 アサシンとジゼルは、────「殺人犯」という境遇で共通していたのである。
 ローゼンクロイツは、ジゼルがかつて犯罪を行った時の名前であった。

 二人の犯罪を見破った男が「金田一一」という少年であったという点も、また奇跡的な共通項であった。
 二人は、自らの殺人を隠蔽する方法を見出し、複雑な方法でそれを実行し、「完全犯罪」をもくろんだ天才的犯罪者だった。
 まったく、傍から見れば「不可能犯罪」としか言いようのない奇怪な死体を作り上げ、それによって何人かの人間に「復讐」を遂げてきたのだ。
 そんな経験のある人間は、世界中を探してもほとんどいないであろう。
 その奇跡的な共通項を持ちながら、二人は正反対のタイプであった。


60 : 月読ジゼル&アサシン ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:04:05 FgV5eQCE0

 アサシン、六星竜一は、「七人目のミイラ」の名を使って殺人を行い続けた犯罪者である。
 とある村に憎しみを抱えた母のもとに生まれ、母の復讐を代行する為に暗殺術を教えられた境遇から、彼は平然と他者を殺す殺人マシーンへと成長を遂げた。
 そして、私立不動高校の教師を殺害してその男になり替わり、一年近くも温厚な先生として過ごしつつ、不動高校に通う「ターゲット」に近づいた。
 そのターゲットを糸口に、無関係な第三者を装って村の有力者全員を殺害した彼は、まさしく「アサシン」であったといえよう。

 月読ジゼルは、「ローゼンクロイツ」の異名を持つ殺人鬼であった。
 自らの母を殺された復讐の為、四人の人間を殺害した経緯があるものの、己の殺人には限界も感じている。
 こうして、マスターとしてサーヴァントに殺人を一任する形で、母の蘇生を願うのが今回の参戦理由である。

「しかし、あの名探偵の坊ヤがあの後もしっかり名探偵をやってくれているとはな。どれだけ事件に巻き込まれれば気が済むのかね、あの坊ヤも……」

「……あの少年はそういう天命を持った星の下に誕生したのよ。何でも、偉大な名探偵の孫だとか……」

 金田一一という男はあくまで普通の男子高校生として生きているが、実際はその血筋に特異な点が存在する。
 彼の祖父は、日本で知らぬ者はいない偉大な名探偵なのである。
 その苗字から、その名前を察する事ができるだろう。ゆえに、何か事件が起きたとなれば、祖父譲りのその頭脳は凄まじい速さで回転する。
 世の中の多くの犯罪は、彼がその場に居合わせるだけで大抵解決されてしまうのである。彼自身が殺人事件の現場に偶然居合わせてしまう事もそう珍しい話ではなかった。
 金田一少年を自分のフィールドに招き入れてしまった二人は、軽率であり不幸であったといえるだろう。

 アサシンは笑った。

「天命、ねぇ……そいつはケッサクだ。それなら、あんたも同じだろ? なぁ」

「……」

 ジゼルは黙秘する。
 血縁が天命であるならば、ジゼルもまた同じだ。



 ──彼女は、金田一と敵対する犯罪コーディネーターの異母兄妹にあたる人間だった。



 ジゼル自身は自らの血縁者に犯罪者がいる事実を生理的に嫌悪しているのだが、一方では、自分が「復讐」を行う上で彼の存在が勇気にもなっている。
 しかし、やはりここでまた無関係な人間を殺す事に、一切の抵抗がないわけでもない。
 マスターの願いの為に、サーヴァントを使役するというシステムは、彼女にとって最も理に適った手法だ。
 それがこんな殺人マシーンであるなら、余計に勝率は上がるだろう。マスターを殺す戦法に実に合致している。

「俺の親父も狩猟して美しい剥製にするのが趣味だったからな。生物を殺して死体を飾り付ける星ってのがあるなら、見事に俺もそれにあたるわけだ」

 まるで、まるで自分への皮肉のようにそう言うアサシンであった。
 彼は決して、父親を嗜虐主義者だと思っているわけではなかった。むしろ、もしかすれば己の母の唯一の味方として評価しているかもしれない。
 しかし、もしある事件がなければ、父も、母も、自分も、こんな風にはならなかっただろうという確信も持っていたので、「天命」を信じてはいない。
 ジゼルは尚も、何も言わなかった。

「まあいいさ。……俺はあんたに協力してやってもいい」

 全く反応を示さないジゼルの気を引くかのように、ふとそう言った。
 ジゼルは目論見通り顔を上げた。その瞳が、「何故?」と問うていた。
 それは、アサシン自体が、他人の目的の為に利用されるような器ではないと思っていたからだろう。
 アサシンの性格を知る限り、彼は「芸術犯罪」を好んでも、他者の為に何かをする事はないと考えていたのだ。
 しかし、実際には、アサシンのかつての殺人の理由そのものが利己的ではなく、利他的であったのも事実である。

「……母親の為って動機が泣かせるからな」

「ふざけた嘘を……」

「本当の事さ……」

 遠い瞳で、過去を見つめるその瞳は、殺人マシーンにしては淡く煌めいていた。


61 : 月読ジゼル&アサシン ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:04:18 FgV5eQCE0




【クラス】
アサシン

【真名】
七人目のミイラ(六星竜一)@金田一少年の事件簿

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷E 魔力E 幸運C 宝具C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:A
 サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
 彼の場合は、普通の人間に紛れ、サーヴァントとしての本能を隠す事ができる。
 マスターのフリをしてマスターに接触し、殺害するといった戦法が可能なレベル。

【保有スキル】
不動高校:A
 強力な犯罪者の血と、それに付随する悲壮な過去。
 彼の場合は、愛している人間や無関係な人間も含め、十名の人間を躊躇なく殺害する事ができる殺人マシーンとしての特性を持つ。
なり替わり:B
 NPCをペナルティ殺害し、その戸籍を乗っ取って平然と「人間」として暮らす事ができる。
 特に「今度新しく付近の高校に赴任する事になった25歳〜30歳程度の高校教師」が有効手である。
 顔が変わるわけではないので、殆ど街の人間とかかわりのない人物としかなり替われない。
芸術犯罪:B
 殺人に芸術性を求め、死体に何らかの細工を施す趣向。
 彼の場合は、「かつての事件になぞらえて被害者の体の部位を大きく切断する」という行動をわざわざ行う(最初のトリックに必要だったとはいえ)。

【宝具】
『七人目のミイラ』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:1〜5 最大補足:1〜20
 都合良く殺人事件が起きる『金田一因子』を発動させ、殺人者側としてかなり手の込んだ殺人が何故か都合良く上手くいくようになる宝具。
 この宝具は常時発動しており、この宝具によって死んだNPCは「ペナルティ」には抵触しない(聖杯を以てしても止めようがない為)。ある意味究極のバグ。
 彼の場合、「直接手を下さなくても勝手に復讐相手が心臓発作で病死する」という高い精度を持つほか、「教会で死体が発見された夜に誰も教会を見張らず寝静まる」(その隙に死体を入れ替える)、「五塔夫人殺害の際にその場に居合わせた美雪が都合よく気を失う」、「金田一が通りかかる瞬間に何故か突然教会の十字架が降ってくる」、「集中線まで使って現れた警察が雑魚」、「高校側が何故か新任教師の顔を知らない」という感じで、この宝具をかなり上手に運用している。
 サーヴァント自身の低いパラメーターを補う強力な宝具であるが、マスターやサーヴァント自身が死ぬパターンが充分にありえるというのが問題点。

『芸術的な死体』
ランク:B 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
 父・風祭淳也から受け継いだ、「凄まじい速さで人体を解体して死体に細工する」という特異な力。
 彼の父である風祭は、燃え盛る教会の中、ナイフだけで死体×6を瞬時に解体して七人に見せかけるというトンデモない離れ業を行っている(狩猟が趣味で動物の身体構造をよく知っているから…らしい)。
 それと同様に「七人目のミイラ」も、死体を切り刻みまくっている。
 更に、「刻んだ死体を他人の家の鎧の中に入れる」、「隣で美雪が寝てる中で死体を切り刻んで館ごと燃やす」という行動を行いながら、誰にもバレずにそれを行っており、こうした行為に対する敏捷性が備わっていると考えられる。

『禁断の果実(エデンのリンゴ)』
ランク:B 種別:対作品 レンジ:∞ 最大捕捉:-
 他の犯罪者が利用したトリックを無自覚に盗む宝具。
 このトリックの運用により、書き手は投下作品そのものが闇に葬られかねないスリルを味わう事ができる。
 また、いかに有名なトリックであっても、他のマスターやサーヴァントが「あの小説で使われていたトリックだったから」という理由でトリックを暴いたりはしない。

【Wepon】
 ナイフ


62 : 月読ジゼル&アサシン ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:04:40 FgV5eQCE0

【人物背景】
 「金田一少年の事件簿」の「異人館村殺人事件」に登場する殺人鬼。
 多くの殺人者を輩出した実績のある私立不動高校の教師・小田切進の正体。

 普段は温厚な先生を演じているが、「本物の小田切進」を殺害してなり替わり、一年近くも平然と教師を続けてきた
 母ともども戸籍がなく極貧生活だった彼がどうやって高校教員レベルの知識を得たのかは謎だが、とにかく物凄く頑張ったのだろう。

 実は青森県六角村で生まれた風祭淳也と六星詩織の息子であり、父親の顔は知らず、母親と一緒に暮らしてきた。
 詩織はかつて、村にある大麻畑を告発しようとした両親を目の前で殺害され、自らの六人の姉妹と一緒に教会で生きたまま燃やされそうになってしまった過去を持っており、村人に強い憎しみを抱いていた。
 生き残ったものの、職と住まいを転々とする極貧生活を、生まれた子供と共に送り続ける母は、もはや復讐に狂う殺人鬼となり、愛する人との間に生まれた子供・竜一さえも復讐の道具に利用したのである。
 竜一は、そんな母によって、殺人術・格闘技などを教え込まれ(詩織はどこで殺人術を学んだんだ…)、感情のない殺人マシーンとして育てられる。

 「お前は母さんの代わりにあの連中に復讐するんだよ…お前はあいつらを殺す為に生まれてきたんだから!!」

 そんな彼は、さまざまな殺人術を仕込まれた上で、「最後の仕上げ」として母を殺す事を命じられた。
 涙ながらに母親を殺した後は、半ば感情を失い、「何人殺しても何も感じなくなった」と言っている。

 小田切進を殺害して不動高校に赴任したのはその後で、六角村の名家の娘・時田若葉をターゲットにする為に赴任した。
 若葉を利用する為にひとまず恋愛関係になって近づくも、ラブホテルから出てくる瞬間を激写され(六星の自演)、若葉の父親が怒って政略結婚させるために村に帰すところから物語は始まる。
 六星は金田一一、七瀬美雪とともに六角村に行き、そこでザルすぎる村人たちの監視を乗り切って、時田若葉、草薙三子、一色寅男、五塔蘭を殺害。兜霧子も若葉を教唆して殺害。復讐相手の一人である時田十三はこいつの凶行で娘を殺されたショックからか、心臓発作を起こして勝手に死んだ。
 さらには、金田一に真相を明かされて手詰まりと思われた段階からも、兜礼二、連城久彦を殺害。美雪を人質にしたり、金田一を猟銃で撃ったりと大暴れした。
 最終的に、父である風祭に殺害されるが、風祭は大麻畑を燃やしつつ、寄り添うようにして自害。
 その結果、この事件では、金田一、美雪、俵田(警察)、モブを除く、全ゲストキャラが見事全滅した。ここまでやったのは、20年以上の歴史ある金田一少年の事件簿でもこいつだけ。

 今シリーズでも彼に次いで異常な犯罪者である遠野英治、的場勇一郎もそれぞれ同じ不動高校の生徒と教師なので、もしかしたら高校内ですれ違った可能性さえある。そう思うと恐ろしい。

 人を虫けらのように殺す犯罪者としての側面を持ってはいるが、普通に育っていれば心優しい素直な人間に育っていたようで、若葉にはだんだんと愛情が芽生えていた模様。
 母や若葉を殺害する時には涙を流しており、殺人マシーンとなりながらもどこかで他人を愛していたようにも見える。

 メチャクチャ撃たれた為に死んだかと思われていたが、「金田一少年の一泊二日小旅行」にて生存していた事が発覚。
 六星に一瞬でやられた警官二名が実はメチャクチャ強い警官だった事や、連城が実は既に百人殺している殺し屋だった事が判明し、その耐久性や戦闘力の高さが化け物じみている事が明かされた。
 この設定を流用すれば、サーヴァントとして身体能力込みでそこそこ強い事になる。

 ちなみに、以上の内容は全て、「金田一少年の事件簿」の事件のネタバレになるので、本編を読んでから読むように。

【願い】
 不明であるが、他のマスターやサーヴァントを殺すつもりである。


63 : 月読ジゼル&アサシン ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:06:21 FgV5eQCE0




【マスター】
月読ジゼル@金田一少年の事件簿

【マスターとしての願い】
 母の蘇生。

【能力・技能】
 詩人として活躍するすぐれたポエムの才能。
 人間の体を杭で撃ちつけ、貫通して床まで叩きつける女性離れした腕力(その後、その杭を軸にして部屋のカーペットを糸で引っ張って回転させているので、超人的な筋力の持ち主と思われる)。
 館を一つ吹き飛ばす爆弾や毒薔薇を調達する行動力。
 薔薇やギリシャ神話などに詳しい博識ぶりは高遠に評価された。
 また、今回の登場人物ほぼ全員が有名な指名手配犯の顔を見ても気づかないのに対し、彼女だけは一目見て高遠だと気づいたので、ニュースも人並みにわかるはず。

【人物背景】
 「金田一少年の事件簿」の「薔薇十字館殺人事件」に登場する殺人鬼。
 「ローゼンクロイツ」という名前を名乗って薔薇十字館で連続殺人事件を発生させた。
 本名美咲ジゼル。月読は親戚の名前であり、詩集を出した時のペンネームである。

 表向きは、青い薔薇を見に薔薇十字館にやって来た花詠みの詩人であり、年齢は20歳。巨乳。18歳の時はショートヘアだが、20歳の時点ではロングヘア。お風呂に入る時は髪を結ぶ。
 常に黒いゴスロリを着ており、「蝶のように飛んでまいりました」などというアレな自己紹介をする。回想ではメイド服も着ており、その恰好のまま外出している場面まである。ポエムや服装は演技でも何でもなく、素。
 回想シーンでも痛いポエムを読んでいたり、何故かギリシャ神話に詳しかったり、おそらくは、元からそういう人なのだと思われる。

 かなりの美少女であるにも関わらず、美女に弱い金田一に避けられるレベルであり、「俺の苦手なプッツン系」と言われた。
 殺人事件の真っ最中でも空気の読めないポエムを読み続け、「うるさいのよあんたっ!」とキレられた神経の持ち主。
 美少女なのに残念すぎて登場人物ほぼ全員に嫌われてしまう可哀想な子。


64 : 月読ジゼル&アサシン ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:06:37 FgV5eQCE0

 実は、シリーズ最大の黒幕・高遠遥一の異母兄妹である(物語の開始時点で、「高遠の妹がこの中にいる」と言われていたが、23歳の高遠より年下なのがこの子しかいないので、結構バレバレだった)。
 お互いにそれを知らずに生きてきたが、あるきっかけでそれを知る事になる。

 2年前、新種の青い薔薇を完成させた母・美咲蓮花(ちなみに母子家庭)と共に、薔薇の博覧会の為にローズグランドホテルに宿泊。
 その際に、青薔薇を盗もうと企んだ皇翔、小金井睦、祭沢一心、禅田みるく、冬野八重姫の五名が、ホテルを放火し、鉢合わせた蓮花を衝動的に殴って気絶させた。
 その結果として、蓮花はジゼルとドア一枚を隔てて焼死してしまい、ジゼル自身も背中に十字型の火傷を負ってしまう。

 母が遺した五つの燃えた薔薇を頼りに、「薔薇の名前がつく宿泊者」を探しだし、彼らに復讐する事を決意。
 最初に皇翔を殺害した時点では、彼女には殺人への抵抗感もあったが、殺人の直後に、自分の兄が指名手配犯の高遠遥一である事を知り、「自分は殺人犯と同じ血を持っているのだから殺人ができるはず」と強く自分に念じる事になる。
 そして、今回の事件の罪を全て兄に被せる為に高遠を薔薇十字館に呼び、ついでに金田一がついてきてしまった。
 復讐相手のうち、冬野八重姫を除く全員を殺害した後、「全員が一つずつ薔薇の名前が入っている名前なのに、ジゼルだけ二つ薔薇の名前が入っている」という金田一の難癖によって犯行が発覚。

 この事件自体は久々のグロ死体や本格推理の舞台設定で、近年の作品にしては評価が高いものの、歴代トップクラスの難癖推理でもあり、ジゼルが「何となくそう思っただけ」と言えば言い逃れられるような状況証拠ばかり金田一が指摘している。
 逆に、毒薔薇で八重姫を殺害しようとした決定的瞬間を抑えられた時には、「私が薔薇を振り上げたのは放たれた殺人鬼に命を狙われる恐怖を薔薇に込めて詠んでみたくなったからですわ」という斜め上な言い逃れをしている。

 物的証拠は全て、「館の中にある指紋や髪の毛を後で警察が調べればいい」という投げやりっぷりであるが、それをカバーするかのようにすかさずジゼルは、館を爆破する起爆スイッチを取りだそうとする。
 …が、高遠の活躍でそれは回避され、高遠の催眠術で気絶したジゼルは金田一必殺の説教を受ける事もなく、そのまま逮捕されてしまった。
 「あんたの母親は復讐なんて望んでいなかったはずだ!」とか言おうにも、母親本人が思いっきり手がかりを残して復讐を助長してしまっているので言いづらいのだろう。
 ドラマ版では、藤井美菜が演じており、金田一の説教はちゃんとある。
 もし金田一単独なら解決できず、そこに美雪や警察勢が加わっても判明しなかった可能性が高いので、歴代犯人でも結構強力な部類。

 ・女湯の中でも、裸を見られるのを極端に嫌がり、事件の鍵となる背中ではなく体の前を隠す
 ・解決シーンでも、「男湯を覗いたわけでもない限り、あんたはこの事実を知らないはずだ」と言われて恥ずかしそうにする(この追求も難癖だが)
 ・重要な証拠はスカートの中、爆弾の起爆スイッチは胸元に隠している(「これで調べられないだろっ!ヘヘン」とか思っていたのかもしれない)
 ・男性である高遠に対して身体検査をしない

 といった描写から、メチャクチャうぶである可能性が高い。そのため、高い確率で処女と思われる(自己検証)。
 作中描写を見ていくと、両利きの可能性が高い(自己検証)。

 ちなみに、この事件ではほぼ言葉の端を抓まれて犯行が発覚してしまったが、その一部はわざわざ言わなくても良かったようなポエムである。黙っていればバレなかったかもしれない。
 ついつい余計な事を迂闊に喋ってしまうのは彼女の弱点の一つだろう。

 その他の弱点としては「火が怖い」という点が挙げられる。
 これは先述の火災によるものであり、家事になるとトラウマが再発して「お母さんっ!お母さんっ!」と叫んでパニックになる。ドラマ版では「オ゙ガ゙ア゙ザ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ン゙」に改変されている。
 そんな深いトラウマがあるにも関わらず、館を爆破して証拠を隠滅しようとする点は流石の執念といえよう。

 ちなみに、以上の内容は全て、「金田一少年の事件簿」の事件のネタバレになるので、本編を読んでから読むように。


【方針】
 アサシンと一緒に勝ち残って母を蘇生させる。
 アサシンは、殺人においても芸術性重視。しかし、秘匿しておきたい死体はなるべく隠す。


65 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 19:06:50 FgV5eQCE0
投下終了です。


66 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 22:36:30 FgV5eQCE0
投下します。


67 : Godzilla ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 22:37:25 FgV5eQCE0



 東京がある限り、奴は何度でもやって来る────。







 人間は過ちを犯す。
 過ちは犠牲を作り、犠牲が生まれれば憎しみが生まれる。
 そして、≪奴≫はその憎しみによって誕生し、街を破壊するのであった。

 ゴジラ。

 今更知らぬ者はいないだろう。日本を何度も襲い続けた不滅の怪獣王の名である。
 体長は、およそ50メートルから100メートルほど。
 人間を蟻のように踏み潰し、人々が時間をかけて作り上げた建物たちを通りすがりに瓦礫にしてしまう。
 それは、この地球上で最も大きく、最も孤独な生物である。彼と背を並べる者は滅多に現れない。
 何故、こんな巨大な怪獣が生まれ、文明を壊しつくしてしまうのか。

 ……それは、偏に人間が悪魔的な実験をしてしまったからだ。
 敵国を叩き潰し、自国を守り、地球を壊す為の禁断の兵器・水爆。
 それが、ゴジラの住まう海に放たれた時、彼は不死身の体を手に入れてしまった。

 野生の怪物は一瞬にして海底の平和を奪われ、戸惑い、人界に迷い出てしまった。
 静かな海から、喧噪の絶えない文明へ。

 ゴジラは、水爆を生みだし、戦争を生みだしたあの文明の地を、踏みつぶしていく。
 崩れるビル。燃える街。逃げ惑う人々。先の大戦を追体験するかのような光景。
 それは、忘れもしない──1954年の出来事であった。
 
 やがて、ゴジラは一人の科学者の苦悩と葛藤の末に、人類の手で撃退された。
 人が兵器で生み出してしまった悲劇は、人が兵器を使って幕を閉じた。

 しかし、果たして、彼はそう簡単に滅びるだろうか?

 誰も忘れるはずのない1954年のあの悪夢は、どの世界にも共通して起こった。その出来事を忘れた者はいないだろう。
 ある世界では、現実に。ある世界では、スクリーンの中に。

 それから、再びゴジラの現れなかった世界は殆どないとされる。
 それは、地上にまだ、戦争があり、決して戦争を風化させない為だ。
 世界で唯一原子爆弾を落とされたこの日本に住まう人々の悲しみが、ゴジラに乗り移った以上、ゴジラは何度でも形を変えて現れる。

 ゴジラは、その身を地上に現し、全てを破壊する事で、世界にそれを訴える。
 たとえ、それが月上の東京であっても、奴はこの街に迷い込むだろう。











「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァォォォォォォォォオオオゥン……………」









.


68 : Godzilla ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 22:37:42 FgV5eQCE0




【クラス】
-

【真名】
ゴジラ@ゴジラシリーズ

【パラメーター】
筋力EX 耐久EX 敏捷EX 魔力EX 幸運EX 宝具EX

【属性】
混沌・中立

【保有スキル】
怪獣王:EX
 魔力とか関係なくもう普通に巨大怪獣である。
 スキルは特にない。
異説:A
 ゴジラの伝説はあらゆる形で後の世に伝承されている。
 そのいずれのゴジラがこの東京に現れたのかはわからない。
 ただ一つ言えるのは、トカゲみたいなゴジラではない事である。

【宝具】
『破壊神降臨』
ランク:EX 種別:対全 レンジ:1〜100 最大補足:1〜100
 ゴジラとしての伝説級の破壊能力。
 放射能火炎を吐き、尻尾をふるい、東京の街を破壊する。
 巨大な怪物は、人類が作り出してしまった最悪の兵器を吐き出しながら、過ちを訴え暴れ尽くす。

【Wepon】
 なし

【人物背景】
 日本で一番有名な怪獣。

【方針】
 平常運転。東京の街を破壊する。

【対策】
 聖杯を破壊するかもしれないので、各マスターは彼の迎撃に備えるべし。
 マスター、サーヴァント、あるいは主催者も協力して戦え。


※現時点では、聖杯戦争が起きている山手線エリア内にはおらず、時間をかけてここぞとばかりに「上陸」し、街を破壊しながら波瀾を起こします。
※聖杯側が用意した存在ではありません。強いて言えば、「東京」が呼んだ存在です。


69 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/24(土) 22:38:02 FgV5eQCE0
投下終了です。


70 : ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:47:03 /sVNBjG.0
皆さん投下乙です。
自分も投下します。


71 : 海野藻屑&ビメイダー ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:48:12 /sVNBjG.0
少女の手に握られていたのは、一枚の紙切れだった。
A4大の紙には、幾つかの数式と、数行の計算式と、そして最後に、化学式のようなものが書かれている。
その化学式は、こう記されていた。


 H + I = H + 二三〇MeV
  <I = 真空の角度>


これが、と、少女は小さく呟いた。
これが、私を作る、唯一にして絶対の式なのだと。

 ◆◆◆

じめじめと湿っている。肌にまとわりつく湿気が汗と混じり、それらを吸った衣服がべっとりとはりついてくる。
雨が降っているわけでもないのに馬鹿みたいに高い不快指数が、少女の苛立ちをさらに増幅させた。
そう長いわけでもない髪もなんだかいつもより重い気がして、もっとばっさりと、まるで男の子のように切ってしまいたい衝動に駆られる。

少女は、海野藻屑という名を持っていた。悪い冗談のような名だ。
だけど、痩せぎすの身体をして、間違えて白の絵の具を入れすぎてしまっったような不自然な肌色をしている少女には、その不吉な名前が不思議とよく似合っていた。
藻屑がまとっている衣服は、0が四つも五つも印刷された値札を付けて売られているようなブランド品で統一されている。
青白い肌と細長い手足をした少女のシルエットは、まるで精巧に出来た仏蘭西人形のようだった。

だが、少女の格好にそぐわない異物が、彼女の手には握られている。
透明なミネラルウォーターがたぷんたぷんと揺れる、二リットルペットボトル。
ゴシックファッションに身を包んだ小柄な少女が持つにはアンバランスなそれに、藻屑はくちづける。
ごくりごくりと少女の喉が音を鳴らす。見る見るうちにペットボトルの中身は減っていく。
容器の半分ほどを一気に飲み干して、藻屑は、ぷはぁと息を吐いた。

藻屑が座っていたのは、ジャングルジムのてっぺんだった。
彼女の他には誰もいない深夜の公園で、寿命の尽きかけた電灯がぱちぱちという音を立てながら点滅を繰り返している。
手垢と赤錆にまみれたブランコが湿った風に揺らされて、きぃきぃと耳障りな音が響く。
静かな夜に一人でいると、まるで世界に自分一人しかいないような気になってくるよねと、藻屑は呟いた。

「ぼくは、逃げようと思ったんだ。山田なぎさとなら、どこまで逃げられるんじゃないかと思ってた」

藻屑は、静寂に耐えられなくなったかのようにぼそぼそと喋り始めた。
いつのまにか藻屑の手には携帯電話ほどの大きさの電子デバイスが握られている。
細長い指に力を込めて、藻屑はそれをぎゅっと握りしめた。

「ぼくはね、世界が嫌いだったんだ。こんなの全部うそっぱちの世界で、いつかきっと、本当のぼくの世界に行くんだと思ってた。
 ぼくは人魚なんだよ。本当は海の底でのんびりと生きて、食べたいときに食べて、飲みたいときに飲んで、寝たいときに寝て、遊びたいときに遊べる身分のお姫様なんだ。
 だけど人間たちが海に垂れ流す色んなものがぼくたち人魚にとっては猛毒で、だからぼくたちは汚染されてしまった」

藻屑のスカートのはしを少しめくれば、彼女の脚に青黒い痣がいくつもあるのが見えるだろう。
出来たばかりの新鮮なものから、古くなって黒ずんで、もう色が抜けないだろうものまで様々だ。
藻屑はそれを、人間の毒に汚染された結果だという。だけど、見る人が見れば、それは長年の虐待の結果だとすぐに分かるはずだ。

「人間たちがいったい何を考えてこんなことをしてるのか、ぼくは確かめてやろうと思った。
 地上に出て、田舎の小さな港町に住むことにしたんだ。ぼくはそこで、山田なぎさと出会ったんだよ。
 山田なぎさはね、美人なんだ。あの小さな町では一番可愛かったんじゃないかな。
 ああ、ぼくが来てからは二番目になっちゃったけどね」

人形みたいに美しく整った顔をくしゃくしゃにして、藻屑はけらけらと笑った。
山田なぎさという名前を口にするとき、藻屑は愛おしいものにそっと触れるように音にする。
目を細め、過去を懐かしむように、藻屑は話の続きを語る。


72 : 海野藻屑&ビメイダー ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:50:24 /sVNBjG.0
「山田なぎさと一緒にいるのは楽しかった。
 野球部の、ヘンなやつが邪魔をしてきたこともあったけど……あれ、あいつの名前、なんだったかな。まぁいいか、そんなこと。
 それでね、山田なぎさはぼくにこう言ったんだ。一緒に逃げようって。
 ぼくは頷いたよ。山田なぎさとなら、ぼくはきっとあんな偽物の人生から逃げ出して、どこかに行けるはずだった」

早口でまくしたてて、ろれつが回らないからところどころつっかえて、けほけほと咳き込む。
ぜぇぜぇと荒れた息を吐きながら、藻屑はペットボトルにくちづけて、残っていた透明な水を全部飲み干してしまう。

「山田なぎさと逃げ出す準備をした。山田なぎさはリュックにドライヤーとシャーペンと石鹸と着替えを入れていて、ぼくはへんなチョイスだよって笑った。
 ぼくは山田なぎさを家の前に待たせて、自分の荷物を取りに行って、でも、それっきり、山田なぎさとは会っていない」

藻屑は、そこで話を中断すると突然歌い始めた。
たどたどしいメロディーに乗せられた歌詞は、とある男と人魚の出会いを歌っている。
たった一度だけ出会った人魚の姿を追い求めて、男は何度も海へ出向いた。
再会した人魚に、男は声をかけ、手を伸ばす。人魚はその手を取って――

「ぼくの、おとうさんの歌なんだ」

歌い始めたときと同じように、唐突に藻屑の歌は終わった。
歌詞の続きはメロディーに乗ることなく藻屑の口から話される。

「この歌の続きでね、人魚は男に食べられちゃうんだ。刺身だよ、活け作りだよ。
 それでね、人魚の骨は薄桃色だなんて言うんだよ。――ぼくの骨も、そんな色だったのかな?」

藻屑の声は震えていた。飲み終えたばかりのミネラルウォーターが彼女の小さな身体の細い血管を通って、藻屑の目尻に浮かんでいる。
海野藻屑は、父親を愛していたのだろう。だからこそ彼女は父親のそばにずっといたのだし、いくら暴力を振るわれても逃げ出したりしなかった。
いつもなら藻屑がじっと我慢すればいつか父親の暴力は終わるはずだった。
だけど、海野藻屑が山田なぎさと逃げだそうとしたあの日、父親の振るう拳は何度も何度も藻屑の小さな身体を殴りつけて、その衝動はいつまでも収まることはなかった。

「ぶちんって、何かが切れたような感じがして、ぼくの身体はそれきり動かなくなったんだ。
 おとうさんはぼくが別のものになってしまったことにしばらく気付かなくて、そのまま殴ってた。
 そのうちぼくの様子がおかしいことに気付いて、ぼくの身体をゆすったりほっぺたをぺちんぺちんと叩いたりして、そしてようやくぼくを殺してしまったことを知ったんだろうね。
 ぼくの身体をぎゅっと抱きしめて、わんわんと子どもみたいに泣いていたよ。……ぼくが生きていたときは、そんなこと、一度だってしてくれなかったのに」

父の抱擁の感触を思い出すかのように、藻屑は己の両の手で自らの身体を抱きしめる。
それは、生前の藻屑が何よりも求めていたものだった。

「ねぇ、ばらばら死体の気持ちを知ってる?」

自分の身体がお風呂に運ばれて、大きな鉈で腕や足が切られるのを見るのは、いい気持ちがしないよ、と少女は言った。
旅行用のトランクの中に詰められて車で運ばれて、山の中でばらばらの身体を乱雑に積み上げられて、置き手紙一枚だけを残して父親が去っていくのを見るのは、とてもとても嫌なものだよ、と。

「不思議だよね。とっくの昔に死んでるっていうのに、周りのことはよく見えるだなんて。
 死んだ人は周りのことなんてなにもわからないもんだと思ってたよ。
 でも確かにあのときは、見えないはずのものがよく見えた。そう、見えないはずの――“紅い月”も」

藻屑は視線を空へ向けた。
空には、藻屑が今までに一度だって見たことがないような大きく紅い月が居座っている。

見えるはずのない事象を観測したとき。叶うはずのない夢を願ったとき。
人は月へ運ばれる。
それが、あのときだった。藻屑が世界に在ることを認められなくなった、あの瞬間に、藻屑の瞳は紅い月を映していた。

「ここは――逃げ出した先なんだよ。ぼくはあの偽物の人生から逃げ出して、ここにやってきたんだ」

でも、逃げ出した先に楽園なんてなかったね、と藻屑は言った。
ずっと握りしめていたデバイスを、空にかざす。この世界へやってきて初めて手に入れたものだ。
藻屑は自分の中から伸びている糸のような何かがこのデバイスの中にいる何者かと繋がっているのを感じていた。
その誰かを、このデバイスの中から引きずり出さねばならない。


73 : 海野藻屑&ビメイダー ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:51:20 /sVNBjG.0
呼び出すためには何が必要だろうか。呪文だ、と藻屑は直感した。
見えないはずの紅い月が見えたように――知らないはずの呪文は、既に藻屑の頭の中に刻み込まれていた。
ゆっくりと、噛みしめるようにその呪文を口にする。

「――天翔る星の輝きよ。時を越える水晶の煌めきよ。
 今こそ無限星霜の摂理にもとづいて、その正しき姿をここに現せ!
 ――アウェイキング!」

藻屑が呪文を唱え終わった瞬間に、その少女は藻屑の目の前に姿を現した。
魔女がかぶるようなとんがり帽子に、手の先まですっぽり隠れてしまうぶかぶかの服を着た少女は、藻屑の瞳を見ながら、こう尋ねた。

「…………あなたが、わたしのマスター……?」
「うん、そうだよ」
「………………わたしは……ビメイダー…………作られたもの…………」
「ビメイダー? それがあんたの名前?」

ビメイダーは首を横に振った。ビメイダーとは名前ではなく、少女に与えられたクラス名であった。
ビメイダーはそれきり口をつぐんでしまった。藻屑を拒絶しようとしているわけではない。
無口であるということが、ビメイダーの創造主が彼女に設定した個性であるというだけの話だった。

「あんたがぼくを助けてくれるのかな? だったらさぁ、今から飛び降りるから、ぼくを受け止めてよ」

藻屑はジャングルジムのてっぺんから、下にいるビメイダーへと声をかけた。
昔から調子が悪いぽんこつの片足は生き返ったあともぽんこつのままだった。ずるずると引きずるようにしか動かせない。
降りるときのことなんか何も考えずに登った結果、藻屑は降りるに降りられなくなっていたのだった。

ビメイダーが頷いたのを見て、藻屑は跳んだ。びゅうん。
着地点に待ちかまえていたビメイダーが、藻屑へと手を伸ばした。
ビメイダーも藻屑と同じくらい細い身体をしていたけれど、難なく藻屑の身体を受け止めてしまう。

藻屑が感じた感触は、柔らかさだった。
抱きしめられたまま、藻屑は手を伸ばして、ビメイダーの頬を指でつついてみた。
指先から返ってくる感触はぷにぷにとしていて、人間の頬をつついてみたときとなんら変わりない。

「ビメイダーっていうから、なんとなく、もっとロボットみたいなものかと思ってた。だけど、まるで、人間みたいだ」

まるで人間そのもの――それどころか人間以上に人間らしい造形をしていた。

「ビメイダーを作った人は、人間が作りたかったのかな?
 だとしたらその人は、とてもすごい人だけど、とてもばかみたいだね。
 ――人間なんて、男と女がいればいくらでも作れるっていうのに」

 ◆◆◆

どうして自分が生まれたのか、聞いてみたことがある。
周りの大人たちは私のいないところでこそこそと相談をして、それから、一枚の紙を私にくれた。
これが君の生まれた理由だと、彼らは言った。
そこに書いてある式は当時の私には難しくて、どういう意味があるのかさっぱり分からなかった。
ただ分かったのは、この式こそが私の存在理由であるのだろう、この意味を知るために私は生まれたのだろう、ということだった。

だからこそ私は、その式の意味と真実を知ったときに、殊更に虚無を感じてしまったのだろう。


74 : 海野藻屑&ビメイダー ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:51:45 /sVNBjG.0
質量傾斜理論は空間に新しい概念を与え、物質の移動を促す理論である。
空間に偏り――つまり、上と下というパラメータを与えてやることにより、物質は上から下へと流れていく。
この流れていく力は重力とは異なるまったく新しい概念であり、既存の物理学の常識を根本から覆しかねない発見であった。
この理論は物質のみならずエネルギーにも応用することが可能である。
いずれは空間偏倚から多大なエネルギーを取り出し――そしてそのエネルギーを質量に変換し、物質さえも自在に作ることが可能になるだろう。

それが私たちファンタジスタドールを作る仕組みだった。
そして、彼らはこの技術を用いて――女を作ろうとしたのだという。
彼らが目指していたのは、人間ではない。女だ。理想の女性こそが、彼らの望みだったのだ。
その裏にある真意まで聞くことはなかったものの、彼らの冴えない風体やくたびれた格好を見れば、わざわざ聞かずとも自ずと答えは導き出される。

彼らは、現実の代替品として私たちを作り出したのだ。
理想の肉体と精神に可愛いお洋服を着せるための、自分たちだけの着せかえ人形を愛でるために、倫理を踏み台にし、科学の粋を究めたのである。
これまで私に向けられた数多くの視線の意味を知ったとき、私は身体がぶるりと震えるのを感じた。
たった今感じた生理的嫌悪感さえも彼らがプログラムした結果だということに気付き、背筋に怖気が走った。
百にも及ぶ私たちの同属が一人残らず彼らの手慰みものになる光景を想像し、吐き気を覚えた。

だが――それでもなお、私にはどうすることも出来なかった。
私にプログラムされた個性は、他のファンタジスタドールと比べてもかなり主体性に欠けたものだったようだ。
他のドールたちが遊戯に興じ、みなで騒いでいるときも、私は何をするでもなくぼんやりと眺めていることが多かった。
そんな私だから、自らの境遇を知ったところで何らかのアクションを起こそうという気にはならなかったのだ。

やがて私は、ファンタジスタドールの運命に従って、一人のマスターのもとへ行くことになる。
マスターがどのような人間かを聞いたとき、私は淡い期待を抱いた。
なぜならば、私が仕えるマスターは女性だったからだ。
女性ならば、私たちファンタジスタドールを、女性の代替品としてではなく一人の個性ある人格として認めてくれるのではないだろうか。
しかし、そのような私の思いはすぐに打ち砕かれることになる。
私のマスターとなった少女も――私が代替品であることを求めていたのだ。

マスターは既に他のドールを所持していたのだという。
そして彼女たちは、マスターとドールという枠を越えてまるで親友のような信頼関係を築いていたそうだ。
だが不幸な事故によってドールのデータが消失してしまい、通常の方法では修復することが不可能になってしまった。
そこで白羽の矢が立ったのが、私だったというわけだ。
私はあくまで前ドールを復活させるための道具であり、それ以上の役割は求められていないのだということを理解した瞬間、私の心は諦めで満たされた。

 ◆◆◆

「ぼくはさぁ、ほんとの友達が欲しかったんだよね。たぶんそれは、山田なぎさだったんだ。
 でもここに山田なぎさはいないし、あんたは山田なぎさになれない。
 だってさ、ぼくはマスターで、あんたはサーヴァントなんでしょ」

藻屑の言葉に対して、ビメイダーは沈黙を守ったままだった。
藻屑はミネラルウォーターがたゆたうペットボトルを右手に握ったまま、左手をビメイダーへと差し出した。

「行こうか」

海野藻屑はビメイダーの手を握って、そう言った。

「どこに行けばいいかなんてわかんないけど、たぶん、きっと、ここよりはいいところだよ」

ビメイダーは、こくりと頷いた。


75 : 海野藻屑&ビメイダー ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:52:07 /sVNBjG.0
【クラス】
ビメイダー

【真名】
プロトゼロ@ファンタジスタドール

【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:B

【属性】
中庸・中立

【クラススキル】
従順:B
「作られた存在」であるビメイダーのクラススキル。マスターの指令を忠実にこなす。
令呪の範囲および効果が強化され、命令行動に伴う判定に補正がかかる。
しかし己の存在を否定する命令には抵抗の意志を見せることもある。

【保有スキル】
無にして虚:C
復活の受け皿という役割を持たされたビメイダーはあらゆるドールのパターンを受け止め、他のドールのどんな攻撃も通用しない。
高レベルな戦闘知識と技術を有している。

縮地:B
瞬時に相手との間合いを詰める技術。
高速移動という域を越え、瞬間移動とも言うべき速度を発揮する。

【宝具】
『理想の女性(ファンタジスタドール)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1

充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない――
既存の物理法則を完全に超越した技術によって作られたファンタジスタドールというシステムそのものが宝具と化している。
ユークリッドデバイスとカードを組み合わせることによって様々な効果を生み出すことが出来る。
傷ついたドールを回復させる「回復」、破壊されたものを元通りにする「修復」といったサポートから、周囲を森に変える「森」のフィールドカード、
対象の物体を何十倍にも巨大化させる「虫めがね」やカードの効果を100倍にする「×100」など用途は無限大。
ドールそのものも普段はカードの中に入っており、ユークリッドデバイスを使って召喚(アウェイキング)することによって現実世界に出てくることが出来る。

【weapon】
ユークリッドデバイス&各種カード。
ビメイダーが使用するわけではなく、あくまでマスターに行使権がある。

【人物背景】
アニメ「ファンタジスタドール」のラスボスである清正小町のドール。
ラスボスらしく戦闘面では他のドールを圧倒。最終話では1対15という状況でも五分以上の戦いをしてみせた。

普段は感情表現をする場面も少なく喋ることもほとんどないが、唯一本音を漏らしたシーンでは「生きたい」と涙ながらに訴えた。


【マスター】
海野藻屑@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

【マスターとしての願い】
本当の自分の世界で楽しく暮らしたい

【weapon】
ミネラルウォーター入りペットボトル(2リットル)

【能力・技能】
過去の虐待により左耳は聴力を失っており、片足を引きずるようにしか歩けない。
頭の回転は速く、独創的なアイディアで周りを煙に巻いたこともある。

【人物背景】
東京から父の故郷である田舎の港町へ引っ越してきた少女。
一人称は「ぼく」で、じぶんのことを人魚と言い張り、いつもミネラルウォーターを飲んでいる。
虚言癖や人を小馬鹿にしたような言動のせいで周囲から疎まれることが多いものの、外見は美少女そのものであるため異性として好意を抱いている男子は多い。
芸能人で歌手の父から日常的に虐待を受けているが、本人はそれを「愛情表現」と称し、父をかばうような言動をとっている。
これは作中の登場人物から「ストックホルム症候群」のようなものではないかと指摘されている。

【方針】
新しい世界がどんなところが見てみたい。


76 : ◆BATn1hMhn2 :2015/01/24(土) 22:52:29 /sVNBjG.0
以上で投下終了です


77 : ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:28:58 aw43qj8c0
投下お疲れ様です。
今日が最終日となりましたね、それでは最終日の先陣として投下させていただきます。


78 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:31:27 aw43qj8c0





【月が紅い理由――教えてやるよ】





右腕は動く。
彼が意識を回復してから真っ先に行った行動。無言で右腕を掲げる。
頭が暗い闇の底に眠っているみたいだ、思考機能が現実に追い付いていない。
廃墟の空間、何も生物らしさを感じない其処で彼は腰を下ろし壁に背を。
聖杯戦争――聞いたこともなければ見たこともない。嘘か本当かのお伽話だ。
願いが叶うなんて迷信や伝説、過去に残された歴史だけに許されている褒美と来たもんだ。
どんな状況や境遇でも有り得ない摩訶不思議な現象を餌に人間を釣る存在の思考は理解出来ない。

「……」

人間を釣る。その人間には勿論自分も含まれている。
彼は人間だ、人間である。外野が騒ごうが彼は人間で在り続ける。
その脳は無傷。寄生などされておらず思考、意思、想いは彼だけのモノ。

右腕を揺らす。
その行動に別段意味は無く、問いかけるように右に左に揺らし続ける。

……。

返答は無い。
そう――返答は無いのだ。
右腕を揺らすその行為に対する反射が返答。彼は何を求めているのか。
返答だなんて。まるで右腕を生物のように思っているのだろうか。

返答が無いならば仕方が無い。返ってこないならば、仕方が無い。
この状況を理解しようと本能が働き始める。

身体に傷はない。
最後に見た光景は夜空を不気味に飾る紅い月。
物珍しさに空を眺めていた、そんなある日に突然、意識が、彼が消えた。
その姿は世界から消え去り召されるは異形の地。聞くも見るも全てが初の感覚。
記憶の糸を辿るも出てくる情報は砕かれた欠片であり把握には繋がらない。
此処はどこだ、それは東京だ。之はなんだ、聖杯戦争だ。記憶に刷り込まれている。
だが重要なのは違う、何故、自分は此処にいるのか、何故、聖杯戦争に――。

ドクン。

……?

突然跳ね上がる心臓。前触れもなく、息をするように。
それは分類するならば反射的な直感。本能が告げるのだ、考えるよりも早く。

此処はキケンだ、と。


79 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:34:45 aw43qj8c0

辺りは夜だ。否定するなど不可能であり決定付けられている。
視界は朧げながらも目の前に立っている異質な存在を捉えているのだ。
背けたいその存在は視界に立っている、背けたくても引き寄せられてしまう。
悪の美学――とでも言えばいいのだろうか。目の前の存在は紛れも無く社会に必要ない存在に見えるのだ。
彼はその男を知っているわけでもなく、初対面。素性も何もかもが不明。
完全なる第一印象で判断をしているが感じ取れる空気は穏やかではない。

その空気は鋭い、それもシャープではなく暗く、己の満足のために他者を斬り裂くナイフのように。

男の髪は白、サングラスの奥に潜む瞳は獣のように餓えていた。

血生臭く、初対面でも解る。
この男は屑だ、人間を何人も殺している、と。

「なーに見てんだよガキ、状況も飲み込めねぇのか」

退屈そうに呟くと男は指を鳴らし始める。
その言葉を聞いた男、泉新一は吹き返したように息をした。
止まっていた、目の前の男に気付いてから彼の時は止まっていたのだ。
視界に捉えた瞬間から襲いかかったのは恐怖、その領域は生物が本能的に察知する。
この男から感じる恐怖はまるで寄生の――。

「おいおい、こっちはよぉ。ったく……有り得ねぇ」

泉新一が言葉を紡げない中、対する男は独り言のように言葉を吐く。

「なんだこの身体は? 水銀の糞野郎も満足して逝っちまったんじゃねぇのか、メルクリウス。
 だったら俺は可怪しいよなぁ、【なんで俺はこんな事になってんだ】。しかもアサシン、何だコイツぁ」

水銀、メルクリウス。聞こえてくるのは恐らく固有名詞の類。
しかしそれらの断片は流れて行き、身体に刻まれる情報は無い。
鼓動が早い、本能が告げている、逃げろ、と。ならば――。


「お前は……誰だ」


不思議だ。
今は冷静になっている、心が、心臓が。危険な状況でも落ち着き始めた。
慣れた。
今は冷静になっている、心が、心臓が。危険な状況でも落ち着き始めた。
慣れてしまった。
今は冷静になっている、心が、心臓が。危険な状況でも落ち着き始めた。


「んなことも解んねぇのかよぉ、見れば解んだろ」


問に正答を送るワケでも無く、男は邪悪な笑みを一瞬浮かべると再度言葉を吐く。


「ガキ、俺はお前なんてどうでもいい。死んだって困らねぇんだよ。
 マスターなんていらねぇ、俺に首輪を嵌めるたぁテメェ如きじゃ無理だ。
 此処で遊ぶのも悪くはねぇけどよぉ。裏で語り部気取ってる奴が気に入らねえ」


男の表情から怒りを感じる。
しかしそれは野蛮な物ではなく、ある程度諦めているような、受け入れてる部類。
心当たりでもあるのだろうか。この男は何を言いたいんだ、全く解らない。

「お前は何なんだ……?」

「俺かぁ? 知りたいんなら黙って教科書でも読んで来いよ英霊様の御前だぞッてァ!」

世界は思ったよりも未知に溢れている。
その未知に触れると新しい道が広がる、迷惑な話だ。
現に目の前の男の蹴りを腹に受けた泉新一は後方に飛ばされ汚く転がった。


80 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:36:00 aw43qj8c0

受け身も取れずに転がる泉新一は適当な所で立ち上がり男を見る。
不意を突かれた一撃は躱せなかった、不意じゃなくても躱せるか怪しい。
呼吸を整えながら男を見つめる、視界から外せば此方が死ぬ。

「これでちったぁ目、覚したか? 俺が目の前に立ってんのに黙ってたからよォ、目覚まし代わりの一発だ」

男の発言で気付く。【最初からこの男は近くに立っていた】のだ、と。
其れは突然の出来事で脳が働かなかったのか。本能が認識する事を避けた結果なのか。
何方にせよ気付かなかった方が幸せだったのだろう。出会い頭に蹴りを入れる男だ。
マトモな生物じゃあない、関われば関わる程自分の身が危険になっていく。

生物。
この男は同じ人間だろうか。その見た目は人間と変わらない。
だが見た目は同じでも中身が違えばそれは異形の怪物だ。
泉新一は知っている。
人間社会に潜む、器に寄生している生物を彼は知っている。
しかし目の前の男からは無機質を感じないのだ。彼が知っている闇とは違う。
男はまだ感情があるように振舞っている、ならば。


「――サーヴァント、か」

「気に喰わねぇんだ、ソレ」


聖杯戦争の情報が脳に響き始めた。そうだ、泉新一、彼は聖杯戦争に参加した。
それは真意か本意か不本意か。本人にしか解らない。
戦争は一人で行わず、従者が存在する。

「じゃあお前が俺の……」

「気に喰わねぇって言ってんだろガキィ」

サーヴァントなのか。言葉を言い終える前に泉新一は外に出ていた。
彼がいたのは廃墟の内部、気付けば男に胸倉を捕まれ放り投げられていた。
片手で青年を放り投げる腕力は人間の領域では不可能だ、これで決定だろう。
目の前の男は相棒【パートナー】だ。
望んで参加しているワケではない戦争に選ばれた相棒は社会に適合出来ない獣。

黙って檻に入るなり自然に帰るなり……愚痴を零したくなる。
泉新一は着地と共に迫ってくる男の拳を左腕を使い軌道を逸らす。
そのまま腹に膝蹴りを放つも男は軽々と掌で受け止めた。

「喧嘩はしたことあんのか、でもよ……退屈だぜ」

男は掌に少し力を加える。泉新一の顔には苦痛の表情が浮かび上がった。
粉砕だ。彼の膝が粉砕せんと壓力を掛けられている。

「ッあああああああああああああああああああ」

叫びと共に渾身の力を振るい足を大地に突き刺すように降ろす。之により男の掌から解放。
そのまま勢いに任せ右腕の一撃を男の顔面へ、動作に隙も無ければ迷いも誤差も無い。
本能から繰り出された一撃は相手に悟られること無く吸い込まれ――。

「もうちっと樂しませてくれやァ!」

待ち構えていたのは顔面ではなく繰り出された拳。
不意を突いた一撃と確信していたが、男は一撃に合せ拳を重ねてきた。
本能による一撃ならばより獣に近い相手の方が上手。珠戦闘における経験では泉新一よりも男が上回っているのだ。

泉新一と男の拳、互いに衝突し鬩ぎ合う、事もなく泉新一が押し負け数歩後退する。
弾かれたように鑪を踏みながらも体勢を整えようと踏ん張るが男は刹那も待つつもりはない。
踏み込み何て要らない、力任せに再度拳を放つ。

「――あァ?」

風が舞う、屋外に自然とは別の異質な風が男の白貌を掠り取る。
この場には泉新一と男しか存在しなく彼らを邪魔する者など本来登場することは有り得ない。
ありきたりの筋書きに現れるは役者だ、それも特殊で特異な右腕。

『何をしているんだシンイチ』

名をミギ―。
泉新一の右腕に寄生した虐殺器官《パラサイト》。
その姿を異形で鋭利な刃物に変貌させ男のサングラスを削ぎ落した。

「カハッ、クク、そうかい。人間じゃねぇってか? 俺を下僕にすんだ、隠してんモン全部吐きだせやァ!」


81 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:38:55 aw43qj8c0

ミギ―に落とされたサングラスを自ら踏みつけ笑う男。
その笑い声に品など欠片も持ち併せず与える印象は不快そのもの。

『シンイチ、私にも聖杯戦争の概要の知識がある。つまりあの男が君のサーヴァントか』
「ああ……信じられないけど、な」
『解っているとは思うが君はあのサーヴァントには勝てない。規格外の存在だぞ』
「解っている、こんな状況でも心は落ち着く」

冷静さはある。だが全てが事態に追いついているかと言えば嘘になってしまう。
結果としてこの状況に対する打開策など見つからず、そもそも打開など出来るのか。
圧倒的自力の差、サーヴァントは人間に太刀打ち出来る存在では無いのだ。
無論、右腕に寄生生物を宿している泉新一でさえ目の前の男には遠く及ばない。

戦うだけ無駄だ、勝ち目など最初から存在していない。勝利へ辿り着く因子が不足している。
それに泉新一と男は主従の関係だ。命を殺り合う関係ではなく味方。
仲良しごっこで手を取り合う方がまだ好ましい。

「此処は城じゃねぇ、転生だの何だのあるだろうが俺にはどうでもいいんだ。
 テメェの右腕がキモかろうと、テメェ自身が怪物でも関係ねえ。
 でもよぉ……俺をこんな場所に招いたんなら樂しませろ。せめてもの、って奴だ」

男は言葉から察するに快楽を求めているらしい。その部類は自己満足、推定するに戦闘だろうか。
彼が言う城とは不明だがサーヴァントとして限界しているには不服があるようだ。
願いを叶える機会だと言うのに。

「……願いが、叶う?」

泉新一の脳内に齟齬が発生する。言葉と記憶と情報が反発しあう。
願いが叶う、紅い月、聖杯戦争。そうか、俺は参加していて権利を持っている。

『シンイチ、まさかとは思うが君は信じているのか?』
「い、いや。そんなワケ」
「目が泳いでるぞガキ、テメェの腹ン中にァ野心とか野望ってモンが無えのか?」
『耳を貸す必要は無いぞ、馬鹿な事は考えるな』
「俺は願いっつーか、まぁあるって事にしとくか。ソレを果たすのは俺自身だ、聖杯なんぞの出番何かありゃしねえ」

男は放つ。願いは己の手で掴み取る事象だと。
本来言葉に着飾らない彼だがその発言は英霊の志に近い。
多くの人間を殺してきた彼だが戦闘においては彼なりの美学と呼べばいいだろうか。
仲間意識も強く礼も辨えているのだ、之に関してならば彼は英霊の座に居座るだろう。

「シュライバー……テメェに言っても解ンねぇと思うけどよ、こうして存在してんだ。
 ならさっさと終わらせて俺は俺のケリを付けて来る。もう一度何てくだらねぇ戯言じゃねぇ。
 あの時俺は勝った、けどアイツは生きていて死んだ。だが、俺は英奴に、アイツも、だ。つまり」

男は紡ぐ。
彼は昔、シュライバーと呼ばれる気に喰わない奴が居た。
何処か似た匂いを発しその境遇も互いに血と狂気が漂う最終列車の塵箱。
底辺に溜まる社会の輪に馴染めない屍は互いを憎き殺すべき対象と見なしていた。
その狩りは他者の介入より中断、屍は黄金の獣に魅入りその忠誠を誓う。
しかし問題があった。
男の宿敵は白騎士《アルベド》の称号を手にした。男ではなく。
その力は男だって認めている、だが称号に釣り合うかは別の話であり、譲れない物がある。
幾つかの年月が過ぎた時、彼は黄金の獣に許しを受け、黒と赤の騎士から言葉を受けとり白騎士の座を争った。
その先に待っていたのは――なにも今此処で男の生前を解説しても意味は無いだろう。
泉新一に伝わるわけでもなく、彼には正直の所、男の過去などどうでもいいのだ。
事実ミギ―は男の背後から斬り掛かっていた。

「つまり、だ。俺は別に遊んでもいいけどよぉ、チンタラしてる暇は無いってワケだ。
 だからよォ、テメェが俺のマスターなら足を引っ張んな。癪だがテメェが死ねば俺も消えンだよ」

『――ッ!』

背後の攻撃を振り向く事無く掴み取る男。
そのまま力を強め握り潰さんと威嚇地味た行為をする。

泉新一は走りだす。ミギ―が殺されてしまう。ならば。
廃墟の欠片を握り締め男に振るう、素手で殴るよりも数倍マシだろう。

「頭使うってのは評価してやるよ」

「う、あぁ!」


82 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:39:39 aw43qj8c0

男は掴んだ右腕を振り回す。
右腕はミギ―である。しかしミギ―は泉新一の右腕である。
彼らは男の片手一つに振り回され宙を泳ぐ。止める術など無く――。

「ぐ――ッ!!」

大地に轟くは泉新一の着地音、着地の表現など生温く落下と言っても差し支えない。
痛みに表情を歪めるが黙って寝ている訳にもいかないため立ち上がる。

「俺は聖杯戦争なんて知らない、こんな所に居る必要はない!」

「だったらテメェはどうやって帰るつもりだ。
 電車か? 徒歩か? 迎えでも呼ぶのか? あァ? 此処はテメェ等の東洋の島国だろ?」

『シンイチ、挑発に乗るな。今から私があの男に攻撃を加える。
 その間君は少しずつ後退するんだ。そして私が合図をしたら全力で走れ、此処から離脱する』

「お前らみたいな寄生生物を俺は許さない……! お前は彼奴等と同じだ、人を殺す事に感情を持たない彼奴等とォ!!」

『シンイチ! 吠えても何も起きない』


「ガキ、テメェは思ったよりも早く死にてぇらしいな。少し眠ってろ」


その時泉新一は奇妙な事象を目撃した。
紅い月を見てから全てが奇妙だがこの瞬間は最大風速を更新する。

血だ。血の匂いが強烈に男から発せられる。
彼の身体の表面を塗り上げるように血生臭く、いや、之は血だろうか?
血に似た何かかも知れない。しかし重要な問題ではなく、男の行動事態が危険であることに変わりはない。

「ただの人間相手のタイマンにこれ使う何て普通は在り得ねえからな。
 テメェの魂、俺が吸うに値したワケじゃねぇぞ。
 聖杯戦争って奴を過ごす相棒になんだろ? だったら少しだけ見せてやる、涙流しとけよクソガキィッ!!」


血、血、血。


空気が軋む。
男から発せられる血の匂い、関わりたくない程の狂気。
滲み出る其れ等は生物の総てを嫌悪させ、黒い血が――爆裂するように跳ね上がった。


「これは……寄生生物?」

『いや違うぞ。私達の同類ではない。だが男の右腕の血は生きている、のか?』


人体から生えたソレは杭の形をした奇形の植物とでも呼ぼうか。
しかし葉もなければ花もなく、実もなければ樹木もなく、勿論根も存在しない。
その植物に必要なのは水でも養分でも日光でもない。
血だ。悍ましい程の狂気に彩られた黒い血、それが男の殺意の具現である牙。

「ミギ―、出来るか?」
『出来なければ死ぬ。私も君も此処で死ぬだけだ。それは望んでいないだろ?』
「お前……ごめん、な」
「どうよガキ、感想は?」
「最高に気分が悪い」
「そっちの右腕は」
『興味深いと思う。しかし近寄りたくはないな』

「そうかいそうかい、なら――」


83 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:43:15 aw43qj8c0

男が何かを仕掛ける。
右腕に生えた杭を飛び道具のように泉新一へ放つ。
対処しようとするもどう防げばいいのか。しかしそんな事を考える刹那など無く。

「ッ!!」

【気付けば杭が足と大地を繋ぐように刺さっていた】

その動きを泉新一とミギ―は視界に捉えていたが反応するまでもなく攻撃を喰らった。
ミギ―は弾き返そうと行動をするも杭はその動作よりも速く泉新一の足を貫いた。

『大丈夫かシンイチ!』

安否の声に黙って首を振る。痛くないと言えば嘘になる。
だが弱音を吐いた所で目の前の男が収まることは無いだろう。
従者ならば主に従って欲しいのだが生憎野蛮な獣を引き当てたらしい。
愚痴の一つや二つ、零したくなるが言葉が出て来ない。気力が吸われるかの如く意識が遠のいて行く。

薄らと見える男の周りは更に異形と化していた。
男を中心に大地や廃棄物、コンクリート。総てが消えて行く。
その現象は枯渇。男に生えた杭は総てを吸い尽くす邪悪の樹。


名を闇の賜物《クリフォト・バチカル》英霊として派生された世界で語り継がれるヴラド三世の結晶化した血液。


吸血鬼伝説を語る代名詞の血はその性質も吸血鬼のように総てを吸い尽くす邪悪の樹。
泉新一の足に刺さっている杭も例外なく同一の存在であり彼の生気を吸い付くさんと吸収している。
「ミ、ミギ―……コイツを頼む」
気絶寸前にまで追い込まれている泉新一は右腕に声を掛ける。
この杭が犯人ならば。除外すれば彼は何一つ吸われないで済むだろう。
無論一度開いた穴。杭を除外すれば大量の血が流れることになるだろうが構っている場合ではない。

「カハッ! まだ意識あンのか、少しは骨見せてくれるじゃねぇか。
 いいぜ、鞘替えは待ってやるよ。テメェが目を覚ましたらそっからはお樂しみの聖杯戦争だ。
 お前が何を願うかは自由だけどよォ、俺の邪魔だけはするな。したらテメェの存在ごと消すぞ」

男は泉新一を生かすらしい。そもそも彼が死ねばサーヴァントである男も消えるためその行動を実行することは不可能に近い。
【しかし男には例外のルールがあるのは別の話】
認める段階まではいかないがそのタフさは少しだけ評価してやる。そう言い放った。

『今から杭を抜く、踏ん張れよシンイチ』

ミギ―は身体を延ばし杭を抜かんと触れる。
『私まで吸おうと言うのか……ッ』
杭が総てを吸い尽くすならば。寄生生物であるミギ―も例外ではない。
時間を掛ければ掛けるだけ泉新一とミギ―の生気は杭に吸われ尽くされ男の糧となる。

「お前は……何がしたいんだ」

「決まってんだろ、勝つんだよ」

「勝つ……? そのためなら人間を殺したっていいのかよ、なぁ!?
 何が聖杯戦争だ、どうせお前らみたいな糞野郎共を満足させるためだけのくだらない宴なんだろ!」

泉新一の言葉は八つ当たりに近い。
何故自分だけ毎回面倒事に巻き込まれるのか。平穏な世界から離れるのか。
右腕も、クラスメイトも、母親も、あの子も、人間も、全部、全部、どうして離れていくのか。
自分が何をしたんだ、何がいけない、この状況を招いたのは自分じゃない。
見ているか聖杯。お前に願いを叶える力があるなら応えてみせろ。

「紅い月を見た奴は月に招かれて願いが叶うんだろ!? ならやってみろよ!
 此処は月、あの時俺が目撃した紅い月なら! 今すぐ俺を開放して、総てを元に戻して帰ろせろォ!!」

魂の叫び。
何一つ飾っていない本心からの叫び。
聖杯が願いを叶える願望器ならば総てを元に戻せ。
この身体も、母親も、日常も、何もかも総てを。
ミギ―との別れに感情を抱かないと言ったら嘘になる、それでも。

「クク、ハハハハハハハハ!!」

聖杯は何一つ応えるこなく、変わりに答えるは男の笑い声。
面白い事があったのだろうか。泉新一の叫びにコメディなど欠片も無い筈だが。
男は笑う、これ程笑う必要が在るのか。そう思える程に。


84 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:47:52 aw43qj8c0

「ガキ、テメェは今【紅い月】って言ったよな? 【紅い月】って言ったよな」


男は笑いを終えると挑発するように尋ねる、紅い月、と。
泉新一は何が面白いか理解出来ない、しかし紅い月は事実であり彼は月を見てからこの場に招かれた。
否定出来ない事実であり無言で首を縦に振る。この時ミギ―が足に刺さっていた杭を抜き彼らは平常に戻る。

「真ん丸輝く御月様が願いを叶えるってかァ! コイツは傑作だ、あぁ、やべぇな、おい。
 いいねぇ、俺の夜はまだ終わらないってことか。こんなくだらねぇ場所に呼ばれた時はクソと思ったけどよォ。
 その言い伝え……それに英霊ってのは考えりゃワケの解かんねえ奴もゴロゴロ居んだろ? ガキ、テメェの命は更に伸びた」

男は返答も待たずに勝手に独り、まるで歓喜に浸るように空を仰ぐ。
聖杯戦争を。彼の発言で表わすならば樂しむ事に決めたのだろうか。
しかし長引くことは泉新一にとっては迷惑以外の何者でも無く、願い下げである。


「いいぜ、だったら見せてやる。 出血大サービスって奴だガキ。涙流して感激しろよ、なぁ」
 テメェが今から見る夜は俺だけの夜、カズィクル・ベイの――夜だ」


そう呟いた男――カズィクル・ベイから杭の時と同じように感じたくもない空気が発せられる。
その言葉の真意は不明、吐き終えると同時に静かになったのが印象に残る。まるで嵐の前兆だ。
「コイツ、狂ってる……何を言ってるんだ」
『今更かシンイチ、だがどうする。君の命は伸びたらしいがあのベイと名乗った男は何かするぞ』
命を伸ばす、この発言を捉えるならば死なない事と同意義だろうか。
少なくともベイが聖杯戦争を樂しむならば魔力の供給源となる泉新一を殺す事はないだろう。

「お前、何をするつもりだ」
「言ったろ、俺だけの夜を見せてやるって。ただの人間風情が俺の気まぐれとはいえ薔薇の夜を拝めるんだ、死ぬまで持ってけ」
『――! シンイチ、その男から離れろ!』

泉新一が答えを聞くよりも速く。
ミギ―が移動を促すよりも速く。
カズィクル・ベイはこの世界を己の夜に塗り潰す。


「遅え――



     ――月が紅い理由――



               ――教えてやるよ」


総てが遅く、総てが運悪く、総てが因果の元へ。
ベイから放たれる殺気は鬼の如く、泉新一がこれまで相手にしてきた総ての虐殺器官を凌駕する。
そしてこれから紡がれる言葉は夜に羽ばたく悪への階段。

「Wo war ich schon einmal und war so selig
 かつてどこかでこれほど幸福だったことがあるだろうか」

聞こえる言葉はドイツの物、泉新一には聞き慣れない言葉だ。
その意味を理解することは彼に出来ない、出来ることはただ聞くだけ。
気になるとすれば【月が紅いワケ】だ。ベイは今から何を行うと言うのか。
ミギ―は逃げろと言った。その言葉は解る。此処は危険だ。しかし。何故だろう――足が動かない。

「Wie du warst! Wie du bist! Das weis niemand,das ahnt keiner!
 あなたは素晴らしい 掛け値なしに素晴らしい しかしそれは誰も知らず また誰も気付かない」

気のせいだろうか。
疲れの影響からか一瞬だけ。ほんの一瞬だけ夜が暗く見えた。
夜だから暗いの当たり前だ、それを差し引いても泉新一の瞳には夜が深く見えた。

「Ich war ein Bub'. da hab'ich die noch nicht gekannt.
 幼い私はまだあなたを知らなかった

 Wer bin denn ich? Wie komm'denn ich zu ihr? Wie kommt denn sie zu mir?
 いったい私は誰なのだろう いったいどうして 私はあなたの許に来たのだろう


 War'ich kein Mann,die Sinne mochten mir vergeh'n.
 もし私が騎士にあるまじき者ならば、このまま死んでしまいたい

 Das ist ein seliger Augenblick,den will ich nie vergessen bis an meinen Tod.
 何よりも幸福なこの瞬間――私は死しても決して忘れはしないだろうから」


85 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:49:44 aw43qj8c0

泉新一は黙ってカズィクル・ベイの謡を聞く。
思考を停止している訳ではない。
『シンイチ! 聞こえているのか、シンイチ!』
しかしミギ―の声は彼の耳には届かない。総てが遠く感じるのだ。
その答えは簡単だ。この夜はあの杭と同じく総てを吸い尽くす闇の夜だから。

この夜の主役はカズィクル・ベイだ。
聖杯戦争だろうがこの夜の時だけ、彼以外の存在は総て脇役に成り下がる。
之が世界、彼が望む深淵の闇、憧れ、己が法で世界を塗り潰さんと溢れ出る渇望。

「Sophie,Welken Sie
 ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ


              Show a Corpse
                 死骸を晒せ」

更に夜が深くなる。
鼓動する夜気、揺らめく闇夜。
総てを包み込む夜から感じるのは暖かい光ではなく冷たい闇。

「Es ist was kommen und ist was g'schenn,ich mocht Sie fragen
 何かが訪れ 何かが起こった 私はあなたに問いを投げたい

 Darf's denn sein? ich mocht'sie fragen: warum zittert was in mir?
 本当にこれでよいのか 私は何か過ちを犯していないか

 Sophie,und seh' nur dich und spur'nur dich
 恋人よ 私はあなただけを見 あなただけを感じよう

 Sophie,und weis von nichts als nur: dich hab' ich lieb
 私の愛で朽ちるあなたを 私だけが知っているから」

言葉が進む度に夜が深くなる。
泉新一は思う、之はゲームや漫画で言う所の詠唱なのだろう。
ならば終わる前に止めたいが、既に彼の力は先程の杭に吸い尽くされている。
黙ってベイの夜が訪れるのを待つしか出来ないのだ。


86 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:51:50 aw43qj8c0

だがミギ―はまだ動ける。
この状況でベイを放置するのは危険過ぎる。
その触手を刃物に変え彼の首を斬り落とさんと猛威に動き始める。



「Sophie, Welken Sie   ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ」



――もう終わるから黙ってろや。

ベイは刃を掌で抑えこむと最後の言葉を紡ぐ。



「Briah――Der Rosenkavalier Schwarzwald   創造――死森の薔薇騎士」



紡がれた呪言は世界を奈落へと誘う彼の叫び。
夜に夜を重ねる世界で誰も感じたことのない深淵。
総てが軋む、歪み、吸い尽くされ主たるベイを祝福する。

『遅かったか……』

「ククク、ハハハハハハハハハハハ! どうだコイツが俺の世界、総てを吸い尽くす薔薇の夜だ」

之が世界、総てを吸い尽くすのが世界の理と成り果てたベイの渇望。
夜が主役、夜に英雄となる吸血鬼、その力を今此処に具現化した。
夜を更に夜で重ねた闇、不快の塊である世界が総てを包み込む。

呆気に取られる泉新一、総てが規格外過ぎる。
戦力も、理も、世界も。どれも人間や寄生生物にさえ出来ない技だ。
之がサーヴァント、カズィクル・ベイの能力だと言うのか。

「感激して声も出ねぇのか? なら上を見てみろよ、なぁ――アレ、何だか解るか?」

ベイに促されるまま泉新一は空を見上げる。そして世界の闇を垣間見るのだ。
之は何だ、何だ、何だ。何がどうなっている。
総てを吸い尽くす薔薇の夜。ならば空に浮かび上がるアレは何だ。誰か説明してくれ。
聖杯戦争――招かれた嘘か本当か解らない謎の宴。正直な話、信じる方が難しい。
それでも願いを叶える権利は魅力的であり、日常を懐かしむ泉新一にとっては唯一無二の機会だった。
他人を殺す事など、人間を殺す事など彼には出来ない。それでも夢を見るに値する。

「あ、あぁ……ああああああああああああああああああああああ」

叫ぶ泉新一、笑うカズィクル・ベイ。
この夜の主役は主である人間ではない。支配するカズィクル・ベイだ。
故に総てがベイのために動いており、この状況でさえ薔薇の夜は泉新一とミギ―の総てを吸っている。
其処に追い打ちを掛けるように空で笑う月が一つ。紅く染め上げ夜を彩る月が一つ。


「どうだ、ガキ。テメェが言ってた紅い月だぜ? 感動して叫ぶことしか出来ねえのか?
 ってああ、そうだそうだ。お前さっき言ったよな? 紅い月が願いを叶えてくれるって。
 で、どうだ? 叶ったか? テメェの願いは叶ったか? なぁ教えてくれよォ。気になんだよ。

 なァマスター、聞こえってっか? 紅い月は願いを叶えて――ハハッ、アハハハハハハハハハハハ!!」


空に浮かぶは紅い月。都市伝説の紅い月。総てを叶える紅い月。
この月は誰が用意した。男だ。この男だ。カズィクル・ベイだ。
ベイは願いを叶えるのか。到底思えない。なら誰が願いを叶えるのか。それが聖杯。
ならば聖杯とは何だ。誰か教えてくれ。俺の希望を砕かないでくれ。助けてくれミギ―。俺はどうしたらいい。

誰も泉新一の問に答える事は無く、ミギ―もただ無言で状況を受け入れるしかなかった。
闇に響くは主であるカズィクル・ベイの笑い声。

主以外の総ての存在が絶望する中、泉新一の聖杯戦争が始まった。



【マスター】
泉新一@寄生獣

【マスターとしての願い】
――

【weapon】
――

【能力・技能】
右腕にミギ―と呼ぶ寄生生物を宿している。姿を鋭利な刃物に変質させ総てを斬り裂く。
また寄生された影響からか泉新一の身体能力はオリンピック選手を遥かに凌駕する。

【人物背景】
普通の学生だった彼はある日寄生生物が自分の右腕に侵入したことに気付き必死で抵抗を行った。
夢だと思っていが現実であり彼の右腕は寄生生物と同一となり名をミギ―として不本意ながら相棒となった。
生活していく中で世の中に寄生生物が潜んでいる闇を体験していき彼自身もまた戦闘に巻き込まれる。
その中で人間が死んで行き彼の母親も寄生生物に殺され、彼の心は深く、深く閉ざされていくことになる。

【方針】
――


87 : 月が紅いワケ ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:54:49 aw43qj8c0

【クラス】
アサシン

【真名】
ヴィルヘルム・エーレンブルク@Dies irae -Acta est Fabula-

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力C+ 幸運E- 宝具A+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【保有スキル】

エイヴィヒカイト:A
人の魂を糧に強大な力を得る超人錬成法をその身に施した存在。
本来ならばこの存在を殺せるのは聖遺物の攻撃のみだが聖杯戦争では宝具となっており、彼を殺すには宝具の一撃が必要となる。
また、喰った魂の数だけ命の再生能力があるが制限されており、魔力消費を伴う超再生としてスキルに反映された。
A段階に達すると己の渇望で世界を創造する域となる。

直感:B
つねに自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

戦闘続行:A

呪い:A
ある人物から彼の二つ名である魔名と共に送られたもの。
その内容は「望んだ相手を取り逃がす」
本人が望めば望むほど、その相手は横槍などにより理不尽に奪われていく。

【宝具】

『闇の賜物(クリフォト・バチカル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1
エイヴィヒカイトの第二位階「形成」に届いた者にしか具現化出来ない物
彼の其れは『串刺公(カズィクル・ベイ)』の異名を持つワラキア領主、ヴラド三世の結晶化した血液が素体。
能力は 「血液にも似た赤黒い色の杭を全身から発生させる」。
この杭は、突き刺した対象の魂や血を吸収し、所有者に還元する効力を持っている。
飛び道具、武具、空中での移動など様々な用途に応用出来る。
この聖遺物との親和性は他のエイヴィヒカイトとは群を抜いている。
クリフォトとはカバラの『生命の樹』と対をなす『邪悪の樹』の名であり、バチカルはその最下層を示す。

『死森の薔薇騎士(ローゼンカヴァリエ・シュヴァルツヴァルド)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
エイヴィヒカイトの第三位階、自身の渇望の具現たる「創造」能力。
元となった渇望は 「夜に無敵となる吸血鬼になりたい 」 。発現した能力は「術者を吸血鬼に変えて、周囲の空間を夜へと染め上げ、効果範囲内に存在する人間から力を吸い取る」こと。
渇望通り、吸血鬼と化して人間から精気を吸い上げる能力である。
発動すると周囲一帯が固有結界に似た空間に取り込まれ、例え昼であっても強制的に夜へと変わる。もっとも、夜時間帯に重ねがけした方が効力は格段に上がる。
この「夜」に居る人間は全て例外なく生命力をはじめとした力を吸い取られ、奪われた力の分、
この空間の主である吸い尽くした力を己の糧とし、それを抜いても己のを強化する。また、夜空には紅い月が浮かび上がる。
相手を弱体化させ己を強化し続ける卑怯な理だが弱点として【吸血鬼の弱点ソノモノが彼の弱点となる】

『???』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?
彼の中に眠るナニカ。性別、数――総てが不明。

【人物背景】
聖槍十三騎士団第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ。白髪白面のアルビノの男。
その体は日光を始めとした光全般に弱く昼はほとんど出歩かないが、逆に夜の間には感覚が鋭敏になるという吸血鬼じみた体質を持ち、
それを自らのアイデンティティとしている。戦闘狂であり彼の歩んできた道には屍の山が築かれている。

元は貧困街の出身であり父と姉の近親相姦で生まれ、「自分のちが汚れているならば取り替えればいい」と感じる。
その後彼は親を殺しこれまでの人生とは別に暴力に溢れた生活を送るようになる。
其処で遭遇したのが白き狂犬、其処で出会ったのが黄金の獣。そして彼の人生は世界の因子に成り得る奇妙な物語に巻き込まれる。

なお、仲間意識は強く同じ騎士団の仲間を家族のように思っている。

【願い】
樂しんで城へ帰還する。


88 : ◆B7YMyBDZCU :2015/01/25(日) 00:55:58 aw43qj8c0
投下を終了します


89 : ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:06:33 /HFogyeY0
皆様投下乙です。
此方も投下します


90 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:07:23 /HFogyeY0






――――約束しましょう、いつかは離ればなれになっても、再びここで見つめあえば、美しい花、咲き誇る









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







月が見える。
紅い、紅い月。

月は、人を惑わし、妖を狂わすという。
それは真円であれ、欠けたものであれ。
そのおぼろげな光は避けがたい力を持つ。


だと言うなら、この紅い月は、一体どんな力を持つのだろう。
血のように紅い色をしているコレは、心をどのように惑わすのだろうか。



「…………どうして、こんな事になっちゃったのかな」


紅い月光を浴びながら、夕焼け色した髪の少女は哀しげに笑っていた。
何が原因でこんな月になったのか。
何で自分がこんなものに巻き込まれてしまったのか。

そして、どうして、私達はこんなにも、ばらばらになってしまったのか。


「私は、私はね……もっと続くと……思った」



永遠に輝く太陽のような少女―――高坂穂乃果は、そっと呟く。



何時だって、彼女は太陽だった。太陽だった筈だった。
いつも笑って、真っ直ぐで、輝いている。


けれど、今、空には太陽なんて輝いていない。
ただ不吉な紅が空を支配していて。
そして穂乃果は、笑っていない。
輝くような笑顔は無く、ただ、瞳に暗く重たい光をともしているだけだった。

「私、ことりちゃん、海未ちゃんで始めたモノ、本当にそれは楽しかった……辛い時もあったけど、楽しかった」


元々、母校の廃校の危機のために何かしたいと思った。
それがスクールアイドルだと思った。
無茶な思いつきだったかもしれない。
無謀な賭けだったかもしれない。

実際、初ライブは失敗した。


それでも、続けた。


だって、楽しかったから。
だって、嬉しかったから。


三人でやれることが。


91 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:08:00 /HFogyeY0


「それがね、三人が、六人になって、七人になって、そして、μ'sになって」



やがて、その活動が、広がっていった。
一人の思い付きが、二人を巻き込んで三人に。
そして、三人より六人、七人。
最後には、μ'sになった。

それは、とても嬉しいことで、ずっとずっと続けばいいと思った。


「私はリーダーとして、頑張った。もっと、もっと先へ。 もっともっと楽しい事、私達の夢が続けばいい……って」



そのμ'sの中で、穂乃果はリーダーになった。
皆を引っ張って、皆と一緒に。
ずっと頑張ろうって。
楽しいから、嬉しいからって。
ラブライブ出場に向けて、全力でやろうって。
それが、今の自分の夢。

μ'sのなかで、いつまでも、夢が続けばいい。


できるのなら、穂乃果、ことり、海未と三人、ずっと一緒に。



「でも」



その夢が叶わないと知った。



「私……頑張ったよ……ううん、一人で頑張りすぎたのかな……」


穂乃果がライブの最中で倒れて、全てがまるで崩れ去ったように終わった。
ラブライブ出場に向けて頑張ってたののに、それがダメになって。
そしたら、母校は存続が決まって。


「何もかも、終わろうとしていて、そしたら、ことりちゃんが、留学するって」


幼馴染で、親友の南ことりは、穂乃果を置いて何処かにいくという。
もう一つの夢を取る為に。
それは、よかった。
いや、よくないけど、でも、哀しかった。

なんで、なんで。


「私にはいってくれなかったの……?」


相談されたのは、もう一人の親友、園田海未だけだった。
そして、海未はことりの相談に良く乗り、ことりの決断を促したという。



結果として。



いつも三人だったのに。


九人皆で、μ'sだったはずだったのに。




「私はひとりぼっちだった」




ラブライブ出場辞退も、聞かされなかった。
母校存続も唐突だった。
ことりは突然居なくなる。


そこに、穂乃果は居なかった。



だとするなら。



「もう、全部、どうでもよくなったような気がして、止めようと思った」


92 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:08:29 /HFogyeY0


μ'sなんか、止めようと思った。
アイドルなんて、止めたいと思った。
もう全部投げだそうとした。
そしたら。


「ことりちゃんは、泣いて」


南ことりは、責める様に、私を見て。
泣きながら去っていた。

その様子は、まるで、皆で見る夢、自分自身の夢に常に揺れているようで。




そう、南ことりは、『今』を見ていた。




「海未ちゃんは、私を叩いた」



園田海未は、穂乃果を否定するように叩いた。
ことりへの態度。
アイドルへの態度。
自分も楽しかったのに、全てを無にするような穂乃果を否定した。


海未は、その先を見て居たかったのだろう。
三人の仲が続く夢。
μ's、アイドルが続く夢。



きっと、園田海未は、『未来』を夢描いていた。


「じゃあ、私は、どうしたいの?」



それならば、高坂穂乃果は、何をしたいのだろう。


何もかも、否定されて。
何もかも、傍から離れていて。


追い込まれ、追い詰められ、孤独になって。


思うのは、


「あの時に、戻りたい」



三人で、集まって、アイドルやろうと言った時。
三人で、ぶつかって、泣いて、笑って。


それでも、夢を見続けていたいと思った時。



「あの時が、よかった。 あの頃の三人がよかった」


93 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:08:56 /HFogyeY0



全部がきらきら輝いてた時。




私達は、同じ場所で明日を見ていた、道が続いてくと信じていた、夢を。



終わらない楽しさを信じていた時へ。


私達のままでいれば、笑顔だった時を。



「希望をくれる夢を見ていた……あの時に戻りたい」



そう、高坂穂乃果は『過去』を望んでしまった。




だから、紅い月に魅入られたのかもしれない。



高坂穂乃果は哀しく笑い。



「ねぇ、私は、どうしたら、よかったのかな? どうしたら、何もかも続いてくれたのかな?」



教えてよと、彼女は言って。



「ねぇ、教えて……セイバー……アマちゃん」



そう、自らのサーヴァントに尋ねるけど。



「答えられる訳……ないか」



だって、自分のサーバントは。





「ワンッ!」



犬だったから。











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


94 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:09:44 /HFogyeY0








高坂穂乃果のサーヴァントであるセイバー、アマテラスがこの世界に現れ思ったのは、唯一つ。


なんて、禍々しい悪しき、紅い月なのだろうか。


それは、人を慈しむ太陽とは違う。
人を苦しませ、絶望へと落とし込む紅い月だ。

あの妖気では、妖が盛んに活動をするであろう。
そして、人を追い詰め、世界を闇に覆う。


そんな事は、あってはならない。


太陽も、海も、小鳥も、花も、星も、笑顔も、情熱も、青空も、希望も、皆、人のためにある。


自然は人を豊かにし、人は幸せをねがい、祈り、そして夢を見る。


その為には、あの月はあってはならない。


あれは、世界を覆ってしまう、妖に満ちた、月だった。



ならば、やる事は一つ。


大いなる慈母、アマテラスがやる事は一つ。




この世界に、太陽を、照らすこと。




それが、アマテラスの力なのだから。







けれど、まだ信仰が足りない。
太陽のような少女は、まだ自分を信じてくれない。
それに、自分を信じてくれる人はきっとこの世界には少ないだろう。

事実、筆調べで太陽を描いても、それがかなう事はなかった。



けれど、恐れる事はない。



「わっ、アマちゃん!?」
「ワン!」


穂乃果を自分の背に乗せて、地を駆ける。


95 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:10:24 /HFogyeY0






夢は叶うもの。



この少女の闇を晴らして、もう一度、太陽のような笑顔をこの子に。





何も、案ずる事はない。




そう、何故なら。



何処の世界だって、誰の顔にだって、必ず。






――――太陽は昇る。


96 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:10:53 /HFogyeY0








【クラス】
セイバー

【真名】
アマテラス@大神

【パラメーター】

筋力B 耐久C 敏捷A 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。


【保有スキル】

神性:A+
太陽神、であり主神である天照大神の化身が、神木村の白野威像に宿ったのがアマテラスである。
すなわち、天照大神の化身であるので、極めて高い神性を持つ。


信仰:D
アマテラスは信仰により、己の力を増すことが出きる。
ただし、現代では信仰が薄れ、力が弱まっている。

破邪:A+
妖を討ち、怪を祓い、邪を破る力。
妖や、怪、邪へ極めて高い優位性を誇る。


【宝具】

【筆しらべ】
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

アマテラスに宿る力。
世界に、介入し、筆による調べで模様を描き、あらゆる効果を起こす。
あわせて、十三の力があり、それぞれ干支と猫が力をつかさどっている。

※一つの一つ詳しくは、大神のwikiや動画を参考にしてください


【三種の神器】

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜10最大捕捉:10人

剣、勾玉、鏡からなるアマテラスが妖怪退治する時にする武器。
剣は近距離に使用、勾玉は遠距離に、鏡は中距離やカウンターに使用する。
今回はセイバーとして呼ばれているので、主に剣を使用する。



【信仰は慈しむ大神の為に(そして太陽は昇る)】

ランク:EX 種別:???? レンジ:???? 最大捕捉:????

アマテラス最大の宝具。
しかし、アマテラス自身では使用する事が出来ない。
マスターからの信頼=信仰は勿論の事、沢山の信仰を得て、初めて使用できる。
発動すると、全盛期のアマテラス=白野威(シラヌイ)化して、ステータス、スキルが軒並みが上がる。
そして、筆調べ、三種の神器の宝具のランクがEXになり、強化される。
三種の神器の剣が『天叢雲剱』に、勾玉が『八尺瓊勾玉』に、鏡が『八尺瓊勾玉』になる。

信仰を集めたアマテラス本来の姿であり、それは闇を払う太陽の光そのもの。


97 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:11:15 /HFogyeY0


【weapon】
三種の神器
セイバーなので、剣をメインで使う。

【人物背景】
アマテラスの化身であり、この世の闇を払う慈母神。
人を慈しみ、人々の願いを叶え続ける。
なお、性別はわんこである


【方針】

紅い月を祓い、太陽を昇らせる


【マスター】
高坂穂乃果@ラブライブ!(アニメ)

【マスターとしての願い】
過去に戻りたい?

【weapon】
-
【能力・技能】
特になし。
ただし、人を導く不思議な魅力がある。

【人物背景】
音ノ木坂学院存続の為にスクールアイドルを幼馴染三人と一緒に始めた。
μ'sのリーダーで明るく人を引っ張っていく力がある。
リーダーの資質が高く不思議と回りに人が集まってくる。
南ことり、園田海未と幼馴染で親友であるが、現在は仲たがいをして上手くいっていない。
それ故、全てを投げ出してしまった。
(アニメ後半の時期です)

【方針】
どうすればいいか解らない。


98 : 高坂穂乃果&セイバー ◆.OfI.CoB/2 :2015/01/25(日) 01:11:33 /HFogyeY0
投下終了しました。


99 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:12:15 hlYrHn0s0
投下します。


100 : 工藤俊作&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:12:43 hlYrHn0s0



 攘夷戦争時代──。
 その戦場には、「白夜叉」と呼ばれた、伝説の闘士がいた。

 まさしく鬼のように強かったその男は、敵にも味方にも恐れられていたと言われている。
 実際に戦争に参加していた期間はごく僅かでありながら、戦後も伝説として語り継がれたのは、その強さだけではなく、その外見の所為でもあった。

 着衣が、真っ白なのである。

 白に身を包む事に拘りがあるのか、戦場で白の召し物を羽織っており、またその頭部が全て銀髪であった。これが生まれた頃から銀髪であったのか、それとも染めたものなのか、若くして脱色してしまったのかはわからない。
 敵軍からは当然目立っていたし、特に、夜戦においては恰好の的であったはずだ。これが雪原での戦いならばまだしも、雪原で戦う機会などない。
 更に言えば、斬れば斬るほどにその白は赤黒く汚れていくので、毎度戦いの度に白を纏い続ける理由は誰にも謎であっただろう。

 どうしてそこまでその色に拘るのかもわからなかったが、考えてみれば、彼には、拘りなどなかったのかもしれない。
 ただ彼のずぼらな性格が、適当に選んだ服が偶然白だけだったのかもしれないし、白を派手な色彩と捉えていなかったのかもしれない。

 明くる日も明くる日も、その男は、癖のついた銀髪を血で濡らしながら、戦場で敵を斬り殺し続けていた。
 天人の敵兵の血を被りながらも、男は仲間と共に屍の上を駆けるのである。
 時折、斃れているのが自軍の屍であった事もあったが、それもまた踏まねばならぬ時はあった。
 それでも、刀が折れるまで──いや、仮に折れたとしても、命ある限り、白夜叉は魂で敵を倒し続けるつもりであった。
 それが彼の、「その時」の生き様であった。
 ある恩師を助ける為に。

 切腹か、足掻くかという窮地を味わった事もある。
 仲間か、師かのいずれかの命を選択せねばならなかった事もある。
 戦場は彼に幾つもの選択を提示してくる。普通の人生以上に重い選択をいくつも問いかけ続ける。
 彼は常に自分が正しいと思った方を迷わずに選び続けた。

 その結果、男は戦いの終わりとともに、どこかへと姿を消すという道を選んだのである……。
 それがやはり、その男が「伝説」になった最大の理由であった。
 その後の足取りを知る者がなくなり、話には尾鰭が付いて回っていく。

 名を、坂田銀時。
 この名はほとんど知られていない。
 ここからの事実もまた、ほとんど知る者はいない。

 後の世、銀時は、かぶき町で新しい仲間とともに万屋として生きていたと言われる。
 その頃の彼は、ただのぐうたらな貧乏人だ。
 血なまぐさい剣は木刀に持ち替え、敵が恐れたあの狂気の瞳は死んだ魚の目になっていた。
 
 しかし、剣術の腕と経験、そしてその魂は尚も、彼の中に残され続けていた。

 戦争を終え、万屋として過ごしているはずの男は、その後もまた何度となく戦いに巻き込まれる事になる。
 それは、週刊少年ジャンプで『銀魂』を呼んだ事のある人間ならば知っている話だろう。
 かつての戦争の面影や、どうしようもない人の情に触れながら──。



 その日も──。
 彼は、あろう事か、この話の読者こそが読むべき週刊少年ジャンプを読んでいた。
 銀時はジャンプの愛読者なのである。白夜叉がジャンプを購読していた事を知る者は後の世には少ない。
 尚、その時、銀時がどんな場所にいたのかは定かではない。
 少なくとも、ジャンプをだらけて読めるくつろいだ空間であり、殺伐とした状況ではない事は確かである。

 特別な出来事は、その瞬間まではなかった。
 しかし、その日、特別な瞬間がその時、その日に来たのは事実だった。

 光、である。


101 : 工藤俊作&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:12:59 hlYrHn0s0

 彼はその時、あまりに唐突に自分の真上に差しこんだ眩い光に、別段驚く事はなかった。
 ジャンプを読んでいたからだろうか。
 ジャンプを読んでいる真っ最中の人間にとって、頭上から唐突にさしてくる光は大した事象ではない。
 あるいは、その光自体が、どこか温かく心地よい光を発し、自然と銀時はそれを受け入れる事ができていたのかもしれない。
 今となってはどちらなのかわからない。

『俺を、呼んでいるのか……』

 太陽でも月でもなく、電灯でも小火でもない。
 それは、視える物でありながら、聞こえる物でもあったような気がする。
 誰かが呼んでいる声のようにも感じられた。

『どうして……今更俺を呼ぶのかねぇ……』

 これが、いつの時かはわからない。
 坂田銀時が生きている時か、死んだ後の話なのか。若々しい時なのか、老いた後なのか。
 少なくとも、白夜叉として戦った過去のある男を欲しているのは確かである。
 その他の情報として、最低限に得られるのは「彼がジャンプを読んでいた事」だけであった。

 それは、歴戦の勇士・「英霊」と認められたから起こった事である。
 戦場中に、敵味方問わず知られ、後の世でも何度も事件を解決してきた男である。
 認められる条件は出揃っていた。

『聖杯……戦争……か……』
 
 その光が自分をどこに導くのか、彼はその時に悟った。
 そう、これは自分を、ここではないどこかへ導こうとしているのだ──。
 導き手からは感情が見て取れない。
 ただ、自分が導かれる場所に、果たしてどんなものが待ち受けているのかは、わかっている。

 白く、黄色く、暖かく、どこか冷徹な光が銀時をまた新しい戦争へと。
 自分の身体が、全盛期の己の姿へと変わっていく感覚。
 しかし、戦いと仲間とがくれた経験だけは、脳裏に留めながら。

 聖杯戦争──。
 英雄たちの霊を集わせ、魔術師と英霊たちが手を組み、聖杯を狙う戦争に──。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆


102 : 工藤俊作&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:13:21 hlYrHn0s0







「──────問おう……お前がこの俺のマスターか」




 ……新宿、歌舞伎町。
 天人たちが現れなかった、彼らとは別の世界のその場で、坂田銀時は、英霊として再臨する事になった。
 もはや、その町には銀時が愛したかぶき町の面影はない。
 しかし、あそこと似て、やはりここも悪徳の栄える新宿歌舞伎町であるという事も、既によく知っていた。

 サーヴァントは召喚されたその瞬間から、その時代の常識を得る事ができる。
 そのシステムにより、銀時は聖杯戦争の存在を前から知っていたかのように感じる事ができたし、自分のクラスや宝具も何もかも頭に入っている。
 正確に全てを把握しているわけではないが、少なくとも、「サーヴァント」として振る舞う事は難なく可能である。

「……」

 英霊・坂田銀時は己が『バーサーカー』のクラスである。──よりにもよって。
 幾つもあるクラスの中で、唯一その人格を捧げなければならないクラスである。
 誰にとっても癪なクラスであろう。しかし、サーヴァントとして召喚された以上はやむを得ない事でもあった。

 マスターの顔を伺う。
 このマスターが、はたして、銀時を『道具』として扱う覚悟のできる人間であったら、実に不味い。
 銀時にとって、面白くない展開になる事は間違いないであろう。

(こいつは……)

 マスターの特徴を順に挙げて見よう。

 少なくとも顔立ちはアジア人のそれだ。おそらくは日本人。
 歌舞伎町らしい黒服だが中身は赤いシャツでどこかコミカルでおかしみがある。
 大きなサングラス。
 アフロヘアーに近い天然パーマは気が合いそうである。
 頭には中折れ帽子を乗っけている。
 銀時でさえ少し見上げるほどの長身。
 頬はこけていてやせ形。
 傍らに置いているのは愛車のベスパ。
 一言で言えば、ダンディズムの化身だ。


 ……あれっ、これテレビで見た事ある。



(優作じゃねェかァァァァァァァァァッッ!!!)



 どう見てもそれは、日本の名優・松田優作なのである。
 よくいる出来の悪いコスプレでは再現しきれない圧倒的なオーラがそこにはあった。
 そのオーラは、最早、ここに銀時を導いたあの光よりも遥かに鋭く大きい。銀時でさえも目を奪われる。
 成人男性である銀時が見下ろされる痩身は、およそ他に再現できる物はいない。
 誰がやってもこれ以上にならなかったあの恰好が、この世で最も似合う人物なのである。

 松田優作、というより、その『探偵物語』における主人公・工藤俊作であった。
 俊作は、もはや優作の代名詞ともいえるあの奇抜な服装の私立探偵である。
 まさか、聖杯戦争の自分のマスターが優作だとは銀時も思わなかっただろう。

(レジェンドじゃねえか! 何が『問おう、お前がマスターか』だよ! 俺がそんな事言える相手じゃねェじゃん!!
 まるっきり俺の元ネタじゃねえかっ!! 折角だからカッコつけようと思ったら、相手が優作とか予想外だよ!!)


103 : 工藤俊作&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:13:42 hlYrHn0s0

 銀時は言い直す事を決める。
 先ほどより少し声を高く、喉より上で声を出すような感じで。
 今からでも間に合うはずだ。
 当の工藤は全く無言であるが、もしかすれば機嫌を損ねるところまでは行っていないかもしれない。
 ここは、もう少しゴマを擦って……。

「あ、あの……すみません。あなたが私のマスターですか。わたくし、坂田銀時と申しまして……ええ……バーサーカーをやっております」

「何、急にへりくだってんだよ」

「えっ、いや、すみません。……あの、良ければサインもらえないかなーと思うんですけど」

 どこから出したのか、ペンと色紙を用意して言う銀時であった。
 サーヴァントからサインを依頼されても、全く動じる事なく、快くそれを受け取る優作、もとい工藤。

「松田優作と工藤俊作、どっちがいいの」

「あっ、じゃあどっちもで」

 いつ練習したのか、さらさらと書き終えた後で俊作がようやく本題に入った。

「で、聖杯戦争でしょコレ。バーサーカー使ってなんか敵倒して願い叶えるんでしょ」

「そうですね。いや、でも、マジで俺優作さんのファンなんで。ええ、できればこのままもっと話したいなぁって……狂化とかはナシに──」

「優作って言うなよ。そろそろシリアスモードに切り替えないとまたスタッフ一同、大の大人がそろいもそろって局のお偉いさん相手に頭下げに行く事になっちまうだろ」

 

(────やっぱりこいつ本物だァァァァァァッ!!!!)



 すらすらと出てくる長文のアドリブ。普通なら舌を噛んでもおかしくないほど長い台詞がすらすらと頭に回ってくる。
 まさに、銀時が知っている松田優作の『探偵物語』(テレビドラマのやつ)そのままである。

「あ。でも、マジで、狂化とかだけはやめてもらえます? ■■■■■しか喋れなくなったらそれもう銀さんキャラ死んじゃうんで。
 一応主人公なんで。主人公が■■■■■しか喋れなくなったらいくら連載が十年好調でも五週で打ち切りになりかねないんで。もうシリアス一辺倒で原作終わる直前くらいまで進んでるからホントに」

「下ネタ言いまくってると思えば変わらねえよ。ホラ、■■■!! ■■■!! ■■■!!」

「それ狂化じゃなくて、編集のささやかな配慮じゃねェかっ!! どっちにしろ■■■でページが埋まったら漫画としてやっていけねえよ! 今の原作それどころじゃないし!!」

 銀時が言うのも今更であるような気がするが、キャラクター人気が認められて長期連載されていた以上、銀時が狂化したらあらゆる問題が起こりかねない。
 俊作のペースには銀時も狂わされているようだ。

「……まあ、あれだな、ここで会ったのも何かの縁だと思ってさ。とりあえず、ホラ、そこにトルコ(※トルコ風呂。ソープの事)があるし、すっきりしてからこれからの事を考えようじゃないの」

「だから、こっちは少年誌なんだからそういうの駄目だって! ねえ、ちょっとォッ!?」


104 : 工藤俊作&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:14:00 hlYrHn0s0





【クラス】
バーサーカー

【真名】
白夜叉(坂田銀時)@銀魂

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具B

【属性】
混沌・中立

【クラススキル】
狂化:B
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。

【保有スキル】
戦闘続行:A
 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 往生際の悪さで立ち回る事ができる。
無窮の武練:A+
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
糖尿病:C
 若いうちはなりたくない病気の一つ。
騎乗:G
 原チャリに乗る事ができるレベルの騎乗スキル。

【宝具】
『銀魂』
ランク:B 種別:対人 レンジ:∞ 最大補足:∞
 バーサーカーが持つ侍の魂。たとえ狂化しても失われず、折れない魂の根っこ。
 仲間や人情を愛する心であり、決して失われずに自分の大切な何かを守り続ける。

『妖刀星砕』
ランク:D 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1〜5
 攘夷戦争より後の時代にバーサーカーが仕様していた剣。
 洞爺湖の仙人によって託された刀だと言われ、戦艦や巨大ロボットを前にしても、時として両断する凄まじい強度の木刀である。
 あらゆる化け物じみた強敵もこの刀一本で戦っており、一説によれば辺境の星にある金剛樹で作られたとされる。

【Wepon】
 白夜叉としての衣装(木刀ではない普通の刀含む)

【人物背景】
 攘夷戦争で活躍した伝説の闘士。
 詳しくはwikipedia「坂田銀時」の項目へ。

【願い】
 不明。





【マスター】
工藤俊作@探偵物語

【マスターとしての願い】
 不明。

【能力・技能】
 探偵としての調査能力。ハードボイルド。
 体力あり。知力微妙。愛車ベスパに乗って事件を解決する。
 拳銃を撃つ事ができるのは、やはりサンフランシスコで刑事をやっていた過去からか。でも外国人相手に適当な英語を話す場面も……。
 施錠されているドアを易々と外し、手錠をかけられても素手で外すことが出来る。
 コーヒーメーカーでコーヒーを淹れている様子が見られるが、オープニングでは不味くて吹きだしている。

【人物背景】
 名優・松田優作が演じた日本を代表するハードボイルド探偵である。
 東京都千代田区平河町に工藤探偵事務所を構える私立探偵。ユーモアと自由を愛する男。元サンフランシスコ刑事。
 「コーヒーに砂糖とミルクは入れない主義」、「午前中と日曜日は仕事をしない主義」、「職業蔑視はしない主義」、「手相は見ない主義」、「相手にかかわらず約束は守る主義」「家庭のトラブルは扱わない」など多くの主義を持つ。
 次々とアドリブで設定が増やされていくものの、だいたいwikipediaに書いてあるのでwikipedia参照。
 普段はコミカルで情けない探偵であるが、時折カッコよく決める。
 最終回、急にシリアスな話をはじめ、彼の仲間が次々と殺され、その復讐を果たした後、彼を逆恨みしたレジ店員にナイフで刺される。
 生きているのか、死んでいるのか……。最後に街を歩く彼の姿が映されるが、傘をよく見ると場面によって色が変わっており、ラストシーンの解釈は見た人間によって異なる。
 毎回トルコ(ソープランドの事)に行ってトルコ嬢と事件に関して話したり、なんやかんやで警察に疑われて捕まったりするのがお約束。
 次回予告では、ほとんど話の内容に関係ない予告をダラダラ話す。メタ発言も珍しくない。

【方針】
 トルコ(ソープ)に行く。


105 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 01:14:19 hlYrHn0s0
以上、投下終了です。


106 : ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:20:22 Shqz/R6U0
皆様投下乙です。私も投下しますね。


107 : 安藤潤也&アーチャー  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:21:25 Shqz/R6U0


 人の心から悪魔が生み出されたとするなら、いつの時代も、人が集う都市はそれ自体が魔界である。
 そしてその坩堝の底に立ち、人波の渦中に在りながら、揺るがず、己の運命を統べることが出来る者がいるのなら。
 人々はその者を、『魔王』と呼ぶのかもしれない。

 歳頃は十六歳ほどの、成熟した男への過程にある、しかし何処か幼さをまだ残した少年である。
 明るい色の髪の片側だけをヘアピンで留めたその姿は、人の目にはありふれた今風の若者と映るだろう。
 しかし、ただ、その目だけが違っていた。
 陰鬱な隈に縁取られたその瞳は、地獄の底を覗き込んだかのような、深淵の色をしていた。
 取り戻すことの出来ないもののために、血を吐きながら這いずり続けた人間の目をしていた。

 いずれ魔王と呼ばれる少年――安藤潤也。

 彼はその沈みかけた瞳に、東京を行き交う人々をただ映していた。

「あいつらはみんな、月に再現された人間……役割だけを与えられて生きているだけの、作りものか」

 NPC――ただ自分では何も考えず、何も疑問を持たず、流されるだけの生を送る者達。
 その存在自体が受動的であり、ゆえに、きっかけがあれば容易く誘導されていくだろう者達。
 ただ生きているだけ……かつて、潤也の兄が自分を重ねて涙した、あのみすぼらしい老人のようだ。

 だが、兄は死んだ。社会の流れに抗い、自分の出来ることをもって、世界と対決するために。

 あの群衆とは違う。兄は運命に立ち向かった。立ち向かい、そして――潤也の前からいなくなった。
 今でもそのことを思うと、潤也の胸は抉り取られるような喪失感を痛みとして感じる。
 《令嬢(フロイライン)》は壊滅させた。潤也の大切な人々と、兄の命の重みを弄んだ者達には報いを与えた。
 だが、何も終わっていない。
 兄の成そうとしたことを自分なりのやり方で成し遂げるには、まだ、何も。


「黄金と白銀とを縫い込んだ、天空の帳を持っていたならば。
 昼と夜と黄昏の、青と薄墨と闇色をした、煌めく空の帳を持っていたならば。
 私はその帳をあなたの足元に広げるだろう」


 傍らに立つ男の声を聞き、潤也はその落ち窪んだ目だけを向けた。
 黒ずくめの男である。その顔は整っていながらも鉄面皮そのもので、黒髪はオールバックに撫で付けられていた。
 何の感情も伺えないのにただ立っているだけで緊張感を周囲に与えるような、抜き放たれた銃のような男だった。
 先ほどの言葉は彼の口から発せられたものだが、しかし彼の言葉ではなかった。
 男は詩集を朗読していた。潤也のサーヴァントとして現界してから、男が最初に入手したがったものがそれだった。


「――しかし貧しい私は、夢を見るしかなかった。夢をあなたの足元に。そっと踏んでほしい、私の大切な夢だから」


 そう読み上げると、男――アーチャーはその仏頂面を変えるではなく、しかし何かに感じ入るように目を閉じた。


108 : 安藤潤也&アーチャー  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:22:24 Shqz/R6U0

「……ロマンティックな詩だな。誰が作ったんだ?」
「イェーツだ」
「イェーツ、イェーツ……聞いたことないな。まぁ、俺はもっと素朴な詩のほうが好きだけど」

 兄との今生の別れとなった朝に最後にした会話も、宮沢賢治の詩についてだったなと思い返す。

「だめでせう とまりませんな がぶがぶ湧いてゐるからですな 
 ゆふべからねむらず 血も出つづけなもんですから――だったかな」
「それが、その素朴な詩か」
「兄貴はさ、『不思議だけどとてもいい』って言ったよ。人が死ぬ詩なのに清々しさがあるって」

 声に出すだけで、あの朝を思い出す。
 ならば、アーチャーにとってもその夢の詩は、誰かを思い出させるものだろうか。
 そう聞くと、短く「同僚だ。私が殺した」とだけ返ってきた。潤也にとってと同様、愉快な話題ではないらしかった。

 潤也は既に、アーチャーの真名を把握している。

 男の名は、ジョン・プレストン。
 管理国家リブリアにおいて感情統制による均衡(Equilibrium)に対する叛逆(Rebellion)を成し遂げた英霊。
 二挺拳銃を用いた近接格闘術ガン=カタを極め、かつては優秀な特殊捜査官として文化と感情違反者を抹殺していた。
 しかし己の感情を取り戻した彼は、反逆者として社会へと立ち向かったのだという。

 恐らくその同僚というのは、詩集を所持していた罪により感情違反者としてプレストン自身の手で処刑されたのだろう。
 人が過ちを犯さぬように、感情と感受性を抑制された社会。
 確かにその社会では世界大戦の芽は摘まれ、感情違反者を除けば犯罪行為は発生しなかったのだという。
 潤也が追い求めるあの男――犬養舜二の言葉も、きっとそのような社会では誰の心も揺るがすまい。

「人間から感情を奪うことで『洪水』を止める……か」

 それもひとつの回答ではある、と潤也は思う。
 もっとも、兄が「とてもいい」と言った詩を同じように感じる心を奪うなど、潤也には考えられなかったが。

「きっと兄貴も嫌だって言うだろうしな。そんな何の楽しみもないような社会は。
 だけど、この東京みたいにただ流されるだけで生きていく社会も、きっと駄目なんだ」

 考えろ。兄ならばそう言う。
 NPC達は考えない。だがマスターである潤也は違う。アーチャーも、己の感情を取り戻しているがゆえに違う。
 自分達は考えることが出来る。
 この東京で何をすべきか。いつの間にか巻き込まれていたこの聖杯戦争を、どう戦うべきか。


109 : 安藤潤也&アーチャー  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:23:04 Shqz/R6U0

「アーチャー」
「何だ」
「俺、アーチャーの力を信じてないわけじゃないんだ。
 だけどさ、この聖杯戦争は人類史のあらゆる英雄が集まるんだろ?
 その二挺拳銃で、本当に立ち向かえるのか。聖杯に手が届くのか。俺は、それが知りたい」

 鉄面皮のアーチャーに問う。
 アーチャーは表情をほとんど変えないまま僅かに黙考してから口を開いた。

「ガン=カタを極めた者は無敵となる。故に敗北はない、そう答えただけでマスターが納得するとは思わないが――」

 そう言って、しかしその後に続いたのは十分に力のある言葉だった。 

「たとえでたらめでも自分を信じて対決していけば、世界は変わる。最初に出会った時にそう言ったのは君だ、安藤潤也」

 世界を変えた英雄、ジョン・プレストンがそう言うのだ。
 ならば、どうして潤也がその言葉を――兄が最後に残したメッセージを裏切れようか。

「ああ――決めたよ、俺は」

 潤也は頷いた。

 これはひとつの過程だ。

 この聖杯戦争は、潤也が犬養の言う「神様のレシピ」に立ち向かうための、大いなる過程のひとつだと解釈した。

 だから、対決するしかない。

 聖杯の使い途とか、勝ち残った後のことなどどうでもいい。

 今、この東京で運命への叛逆(リベリオン)を成し遂げなければ、自分も、兄も、生きてきた甲斐がないから。

 そう、だからこそ。


「対決だ、アーチャー」


 潤也は、そう言って魔王のように微笑んだ。


110 : 安藤潤也&アーチャー  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:23:56 Shqz/R6U0
【クラス】
アーチャー

【真名】
ジョン・プレストン @ リベリオン

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運A 宝具E

【属性】
中立・中庸


【クラススキル】

単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。



【保有スキル】

ガン=カタ:A+
「ガン=カタ」とは、二挺拳銃を用いて行う近接格闘術である。
基礎の動きを修得するだけで攻撃効果は120%上昇、一撃必殺の技量は63%向上する。
ガン=カタを極めた者は無敵となる!

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
あらゆる状況を活用し圧倒的劣勢を脱してこその第一級クラリックである。

千里眼:D
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
プレストンの千里眼スキルは遠方視よりも動体視力や観察眼が主となっている。


【宝具】
『均衡に死を(リベリオン)』
ランク:なし 種別:なし レンジ:1〜20 最大捕捉:50人

拳銃近接格闘術ガン=カタ、その究極。宝具に準ずるものとして扱われてはいるが、厳密には宝具ではなくプレストン個人の戦闘技術。

膨大な戦闘データの統計により、プレストンは相手の攻撃に対して常に有利な位置に立ち回りながら最小の攻撃で最大の戦果を得る。
さらにプレストンが英霊の座へと昇ったことにより、この戦闘技術にはムーンセルが蓄積した数多の並行世界の『統計』が反映されている。
そのためプレストンは例えば魔術のような生前一切無縁だった攻撃体系に対しても、統計学的な回避および反撃ができる。
本来ならばたかが二挺拳銃ごときでは立ち向かえないような敵との戦力差を覆し、齎すのは調和した運命への叛逆。


111 : 安藤潤也&アーチャー  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:24:16 Shqz/R6U0

【weapon】
「クラリック・ガン」
特殊捜査官グラマトン・クラリック専用のマシンピストル。
普段は両袖の中に仕込んであり、戦闘時は専用器具により自動で手のひらへ移動する。
グリップ部には打撃用の突起がせり出すギミックが搭載されており、格闘戦も可能。

なおガン=カタとは統計学と武術の型の融合こそが真髄であり、究極的には武器が何であるかを問題としない。


【人物背景】
映画『リベリオン』の主人公。
感情抑制剤により戦争の原因となる感情が抹殺された未来の管理国家リブリア。
そのリブリアを支配するテトラ・グラマトン党の特殊執行官グラマトン・クラリックであった男。
二児の父であり、妻は既に感情違反者として火刑にされている。
優秀なクラリックであったプレストンは任務として多くの感情違反者を処刑してきたが、
同僚パートリッジの死、そして偶然感情抑制剤を注入せずに世界と向き合ったことにより、
己の心を揺り動かす存在を知り、自ら薬の使用を止めて社会への疑念を募らせていく。
しかしその感情違反により追われる身になった彼は、地下のレジスタンスと手を組み叛逆を決意。
リブリアを独裁する指導者ファーザーの元へと向かい、そこで真実を知ることとなる。

作中に登場するガン=カタ使いの中では事実上最強であり、無敵に近い戦闘力を誇る。
また戦闘時はパラグラフが直線になるほどに極度の平静状態に身を置くことが可能。
その一方でまだ感情が芽生えて間もないせいか咄嗟の嘘や機転が不得手であり、息子にすら上を行かれている。




【マスター】
安藤 潤也 @ 魔王 JUVENILE REMIX

【参加方法】
《令嬢》を壊滅させた夜、赤い月を見て召喚された。
そのため、まだ安藤の真意を知ってはいない。

【マスターとしての願い】
聖杯に懸ける願いは考えていない。
しかし対決のため、聖杯戦争には必ず勝ち抜かなければならないと考えている。

【能力・技能】
『1/10=1』
十分の一までの確率なら、なんでも当てることが出来る能力。
コイントス(二分の一)やじゃんけん(三分の一)なら確実に結果を当てられる。
競馬も出走する馬が十頭までなら単勝狙いが確実に当たるため、潤也はこれで殺し屋を雇う金を稼いでいた。
安藤(兄)の死を境に発動した能力であり、潤也はこれを「兄貴がツイてる(憑いてる)」と表現している。

【人物背景】
第二章の主人公で、安藤(第一章の主人公)の弟。高校2年生(休学中)。
兄とは対照的で楽観的な性格だが、曲がったことが嫌いな行動派でもあり、どんな場面でも周りに流されることはない。
兄の死の真相について疑問を持ち、調べていくうちに犬養との「対決」を決意する。
その行動は次第に狂気を帯びていき、兄の想いを継ぐことと周囲の人々を守るためなら手段を選ばない「魔王」とも呼べる行動を起こしていく。


112 : ◆q4eJ67HsvU :2015/01/25(日) 01:24:31 Shqz/R6U0
投下終了しました。


113 : ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 01:53:30 codMhXBo0
皆様投下乙です!
締め切り最終日にも関わらず続々と……恐ろしい……!

ここで告知を
ルールに書いたと思ったら、書き漏れがあったので、明記をしておきます

――本編に参戦する18の主従は>>1の独断で決めさせていただきます――

18の主従の決定は1/26(月)にて発表します、具体的な時間は、未定とさせていただきます。
予約開始時間は発表時、同時に明記させていただきます

今更になっての発言で、大変失礼しました


114 : ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:28:49 T8Q5CpKU0
投下開始


115 : ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:29:24 T8Q5CpKU0



「師か仲間か、どちらでも好きな方を選べ」


 師を切り捨てず、仲間諸共に死に絶えるか。
 師を切り捨て、仲間とだけでも生き残るか。
 選択肢は二つ、それ以外を選ぶ資格は無い。


『あとの事は頼みましたよ。仲間を、みんなを護ってあげてくださいね』


 何よりも護りたかった人が、目の前に座っている。
 背中を向けた彼の首を刎ねれば、仲間を救い出せる。
 その代償に、断ち切られた首はもう二度と微笑まない。


『もし俺がおっ死んだら――先生の事を、頼む』


 護りたい者の為に戦った仲間が、背後に横たわっている。
 大切な者をこの手で斬れば、彼等は命を繋げられる。
 その代償に、砕かれる絆はもう二度と直らない。

 選ぶのに、そう時間はかからなかった。
 彼はきっと誰よりも、護りたい人の意思を理解していたから。
 分かっていたからこそ、手にした刃を振り上げる。


「――――――ありがとう」


 その一言が、師からの最期の言葉。
 一閃は首を断ち、理想を断ち、絆すらも断ち切る。
 そうして彼は、生存の代償に、全てを喪った。


 "努力"は実らず、"友情"を喪い、"勝利"すら掴み損ねた。
 そんな敗者の、たった一つの業の物語。


116 : 衛宮切嗣&セイバー ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:30:11 T8Q5CpKU0
■ ■ ■ ■ ■ ■


 ナタリア・カミンスキーを手にかけた瞬間は、今でも鮮明に思い出せる。
 屍者の揺り籠と化した飛行機、それを操縦するナタリア、そして海上で待機する僕。
 もし飛行機が無事に空港に辿り着けば、きっと何百人もの犠牲が出るだろう。
 僕は鴎が飛び交う中、一切の躊躇もなく重火器の引き金を引いた。
 煙を吐きながら墜ちていく飛行機、鴎達は歓迎する様に、僕の周りを滑空する。

 あの瞬間、僕は大勢の人間を救ったに違いない。
 無数の亡者とナタリアを犠牲にして、僕は正義に殉ずる事が出来たんだ。
 そう、出来てしまったからこそ、僕は正義に絶望した。
 打ちひしがれ、泣き叫んで、絶望して、心はすっかり冷え込んでしまった。
 あの頃からずっと、僕の瞳は光を写してはいない。

 あの嘆きがあったからこそ、僕は聖杯を求める。
 もう誰も犠牲にならない、どんな戦いも起こらない永遠の平和。
 僕一人の力では無理でも、万能の願望器の力があれば実現可能な願いだ。
 例えそれが、冬木の聖杯とは異なる、赤い月の聖杯だったとしても。

 薄暗い路地裏に、僕の傀儡は待ち構えていた。
 室外機を椅子代わりにして、少年雑誌を読み耽っている青年。
 僕のサーヴァント――セイバーは、一見すると極めて頼りない男だ。
 死んだ魚の様な眼に天然パーマ、一挙一動に気品さがまるで感じられない。
 僕自身を美化する様な言い方だが、どうしてこんな英霊が用意されたのか、当初はまるで理解できなかった。

 だが、あの夢を見てからその評価は見事一転した。
 戦場が臨める崖の上で、恩師の首を刎ねた銀色の侍。
 そうした罪の代価として、仲間を救い出した英雄的行為。
 たしかに奴は、僕の為のサーヴァントで間違いない。
 一を救って百を救ったという僕の過去が、あのセイバーを呼び寄せたんだ。

「夢を見たよ。君が恩師を殺す夢を」

 少年雑誌を捲る指が、途端に停止した。
 心の何処かで、恩師殺しの罪を重荷にしている証拠だ。
 ああも自堕落な風袋であっても、罪の意識はあるらしい。

「……だからどうしたってんだよ」
「どうもしないさ。ただ、心底気に喰わないと思ってね」


117 : 衛宮切嗣&セイバー ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:31:24 T8Q5CpKU0
「……だからどうしたってんだよ」
「どうもしないさ。ただ、心底気に喰わないと思ってね」

 そうだ、僕はこのサーヴァントが気に入らない。
 僕と同じ罪を抱えながら、僕とは真逆の生き方をするこの男が。
 元より英霊に好感など持てる筈もないが、彼に対する嫌悪感はそれとは全く異なる物だ。
 だが、具体的に何故嫌なのかと問われると、閉口する程度には不明瞭な感情でもある。
 とにかく、僕はセイバーに対し良い印象を持っていなかった。

「ッたくよ、気分悪いぜ。こちらとジャンプで士気を高めようとしてたってのに」

 露骨に悪態をつくセイバーも、僕への第一印象はそれほど良くないのだろう。
 彼はまだ、僕がナタリアを――親同然の存在を殺した過去を知らない。
 小指で耳をほじくり、掘り出した耳滓を息で吹き飛ばして、セイバーは言葉を続ける。

「大体、何が"夢は世界平和"だよ。そういうのはジャンプ適年齢の純粋な子供が見る夢なんだよ」

 不快な目に遭わされた仕返しなのだろうか。
 セイバーは僕を見据えながら、皮肉気にそう言った。
 ジャンプというのは、彼がついさっきまで読んでいた少年雑誌の事だ。

「死んだ魚みたいな眼したオッサンが見る夢じゃねえんだよ、そういうのは」

 そう言い残して、セイバーは僕の前から姿を消した。
 少年雑誌に興味を失くして、現界する理由も無くなったからだろう。

 セイバーが座っていた室外機へ歩み寄り、そこに置かれた雑誌を手に取る。
 上部に「ジャンプ」の字がでかでかと掲載されたそれには、ヒーローの姿が描かれていた。
 百と一のどちらを救うかと問われれば、百と一を救おうとする、そんなヒーローが。
 こちらを見つめる誌上の英雄の瞳は、僕なんかとは比べ物にならない程、綺麗な眼をしていた。
 "友情"と"努力"さえあれば、どんな敵にだって"勝利"できると信じて疑わない、そんな瞳だった。

 現実は漫画の様に上手くいかない。
 "友情"はいずれ朽ちるものだし、"努力"が実を結ばないなんてザラだ。
 そして、"勝利"が必ずしも幸福を齎すとも限らない。
 ナタリアを撃ち落とした、あの頃の僕と同じように。

 それでも、今はそう考えているとしても。
 僕にもかつては、純粋な瞳をしていた時期があった。
 純真な夢を描いていた僕の心は、夢と希望に溢れていて。
 絶望なんて露知らずのまま、ひたむきに理想を信じていたんだ。


■ ■ ■ ■ ■ ■


118 : 衛宮切嗣&セイバー ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:32:40 T8Q5CpKU0




 どうしても思い出せない。
 あの日、僕は彼女に一体何を言ったのか。




 なあ、シャーレイ。
 僕はあの頃、何になりたかったんだろう?





【クラス】
セイバー

【真名】
坂田銀時@銀魂

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:C 幸運:C 宝具:C(平時)
筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:C 宝具:C(白夜叉)

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:E
無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
セイバーはセイバークラスではあるが、科学技術が進歩した江戸という神秘の薄い時代の英霊であるため、申し訳程度のクラス別補正として得ている。

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。
現代の乗り物、特にスクーターなら乗りこなせる。

【保有スキル】
甘党:A
糖分過多で糖尿病寸前になる程度には甘いものが好き。
甘味の摂取による魔力の回復量が多くなる。

直感:B(A)
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に近い。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

心眼(真):B(A)
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

護国の鬼将:C(B)
特定の範囲を"自らの護る国"とし、その領域内の戦闘において、セイバーはD(C)ランク『狂化』に匹敵する戦闘力ボーナスを獲得出来る。
セイバーの剣が届く範囲が、彼の護る国である。なお、このスキルは"護る為の戦い"でなければ機能しない。

【宝具】
『白夜叉』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
攘夷戦争にて鬼神の如き強さを振るったという伝承が宝具となったもの。
戦闘が長引けば長引くほど、セイバーの中に眠る「白夜叉」としての技量が目覚めていく。
そして、それに呼応する様にステータス、及び各種スキルのランクも上昇する。

【weapon】
『妖刀・星砕』
辺境の星にある金剛樹という樹齢一万年の大木から作られた木刀。
通信販売で購入可能。お値段一万千七百六十円也。

【人物背景】
一(恩師)を切り捨て百(仲間)を救った侍。


119 : 衛宮切嗣&セイバー ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:33:25 T8Q5CpKU0

【マスター】
衛宮切嗣@Fate/zero

【マスターとしての願い】
恒久的世界平和。

【weapon】
『起源弾』
切嗣の肋骨の一本に魔術加工を施して作りだした魔弾。
この弾丸に対し魔力で応戦した者は、全身の魔術回路が暴走を起こし、肉体に壊滅的な被害が及ぶ。

【能力・技能】
『固有時制御』
衛宮家の研究していた「時間操作」の魔術を戦闘向けにアレンジした代物。
固有結界を自らの体内に展開し、自身の時流を制御する事で、高速移動等が可能となる。
解除時の反動が極めて大きい魔術な為、通常は二倍速が限度である。

【人物背景】
一(母親)を切り捨て百(民衆)を救った殺し屋。

【方針】
優勝狙い。


120 : ◆WRYYYsmO4Y :2015/01/25(日) 02:33:38 T8Q5CpKU0
投下終了


121 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:43:36 hlYrHn0s0
投下します。


122 : 平山周吉&ランサー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:45:11 hlYrHn0s0



平山周吉(東京物語)……明治生まれの老人。ランサーのマスター。

神崎すみれ(サクラ大戦)……同じく明治生まれだが、少女。太正時代に活躍した帝国歌劇団のトップスタァ。ランサーのサーヴァント。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 東京の街が映る。
 夜中にも関わらず、空から見ればネオンの光に包まれている。
 近づいてみると、まだ車のクラクションの音やバイクの排気音が聞こえる。
 特に、渋谷や池袋は騒がしい。そこら中が落ち着きを喪っている。
 それは、周吉やすみれが生きた時代よりも激しく進化した平成の街の姿であった。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 東京のとあるアパートの一室。畳みに布団が敷かれており、蚊取り線香が火をともしている。
 布団は一人分であり、部屋の大きさには不相応である。もう一人寝られるスペースが開いてあるが、そこにはちゃぶ台がどけられている。

 平山周吉は、布団に入りながらも、半身を起こして自分のサーヴァント・ランサーの方を向いている。
 ランサーは、布団の右横で姿勢よく正座している。きちんと着物を着ている。

 周吉は、のんびりと、自分のサーヴァントの若い女性と世間話を楽しんでいた。
 サーヴァントの方からすれば、こんな老人が何故自分のマスターなのか理解できないだろう。
 およそ戦闘とは無縁で、むしろ落ち着いた静かな老人である。普段から、にこにことした表情で、生来のやさしさがにじみ出ていた。

 彼が何故聖杯戦争に巻き込まれたのかといえば、それは単に、ほとんど事故のように赤い月を見てしまったからだ。
 妻・とみを亡くし、義理の娘・京子と少し会話をして、それから団扇を仰ぎながら、軒先で何の気なしに空を見上げていた。
 葬儀の時の慌ただしさは嘘のように静かになった我が家で、奇妙な落ち着きを感じながらぼーっとしていた。

 心が空虚になったわけでも何でもなく、身近な人が死んだ日常や、変わっていく子供たちを、「こんなものだ」と受け入れていた。
 老いるまでの人生に喪った物は少なくない。祖父、祖母、父、母、息子も……。そして、今度は妻。
 それでも、やはり寂しい心もあって、満点の星空を見上げようとした。
 尾道の夏の夜はまだ虫が鳴いていて、空が明るかった。そこに唐突に現れたのが赤い満月だったのだ。



周吉……「聖杯戦争かぁ……」

ランサー……「お嫌いですか?」

周吉……「戦争はもうこりごりでなぁ。広島にでっかい原爆が落ちてなぁ、それで、日本もぱぁっと、目が覚めたんだ」



 無理のない事だと思うた。
 ランサーこと神崎すみれが生きた時代からすれば、第二次世界大戦も未来の事であろう。
 平山周吉は、広島県尾道市に居を構える明治生まれの老人だ。今日の今日まで、これといって他人と変わった人生を送った事はない。
 しかし、この時代の人間のほとんどがもう忘れかけている「戦争」をいくつも経験した世代である。それは、神崎すみれも同様である。
 一度は戦争の始まりを喜んだかもしれないが、今はもう、戦争、と聞くだけで眩暈だってするだろう。


123 : 平山周吉&ランサー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:45:30 hlYrHn0s0
 


周吉……「この東京もな、大戦で焼野原になった」


 蚊取り線香が煙を伸ばしている。
 ランサーの鼻に少しかかった。


周吉……「それが、いつの間にか、また少し騒がしくなった。良い事だよ」

ランサー……「そういうものではないですか? この帝都の美しさは、何度でも蘇ります。散っては咲く桜のように……」

周吉……「ああ、そんなもんだよ」



 周吉は非常に落ち着いた口ぶりで言った。
 悲しい話をしているようでありながら、やはり表情はにこにことした表情のまま変わらなかった。
 ランサーは、蚊取り線香の煙が気になって、少し奥に手でどけた。



周吉……「でも、やっぱり戦争はしたくないなぁ。昔の戦争でな、息子が死んで、あんなに良い嫁さんを未亡人にしてなぁ」

ランサー……「……」(言葉を発しない)

周吉……「あんたもな、ええ人だ。誰かのお嫁さんになると良い。でも、戦争で死んじまうかもしれない軍人さんはいかんよ」



 神崎すみれの想い人は、まさしくその軍人であった。
 いや、もっと言えば、すみれ自身も軍人に近い。「帝国華撃団」という特殊部隊の一員として働いていたのである。
 すみれ自身、何度とない窮地を超えて今を生きている。
 ゆえに、すみれが同じ職場で出会った人間を好きになるのもまた仕方のない事であったかもしれない。
 大神一郎。──海軍中尉にして、帝国華撃団の隊長である。



ランサー……「ねぇ、平山周吉さん」

周吉……「何だね」

ランサー……「聖杯は、どんな願いでも叶えてくれるそうです」



 周吉は、それを聞いても特に目の色を変える事はなかった。
 そんな物があるのか、と思う事もない。自分が知らないだけで、世の中には色んな物が溢れ、いつの間にか色んな物が出てくる。

 

ランサー……「もしかすれば、あなたの妻も、あなたの息子も……生き返るのではないですか?」

周吉……「いやぁ……」

ランサー……「……」(言葉を発しない)

周吉……「どんなもんだか……」


124 : 平山周吉&ランサー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:45:47 hlYrHn0s0



 周吉は、蚊取り線香の煙がまたランサーの方に向いたのを気にして、団扇で壁に向けて仰いだ。



ランサー……「マスターとともに聖杯を手に入れるのがサーヴァントの務めです」

周吉……「……そんな事、せんでもええよ」

ランサー……「どうしてです」

周吉……「生き返った人間だって、どうせまた、死ぬよ。それで、だんだん死んだ人の事も忘れてしまう。そういうものだよ」

ランサー……「……それは、そうでしょうけど。一時の幸せの為に何かをしようとは思わないのですか」



 若いランサーには不思議な事だが、老いた周吉には特別気になる事ではなかった。
 生きている人間は、身近な人間が死んだばかりの時には悲しくて仕方がなくなる。
 しかし、やがてその人間の事を時折思い出さなくなって、普通に毎日を過ごしてしまう。
 だが、それは悪い事ではない。
 周吉も、もう妻が亡くなっても、寂しさが湧いても、大泣きする事がなくなった。



周吉……「ああー」

ランサー……「……」



 周吉は、団扇を体の左側に置いた。



周吉……「……思った事がないと言うたら嘘になる。でも、ええんよ」

ランサー……「どうしてですか」



 ランサーが聴くが、周吉はしばらくにこにことした表情をする。
 ランサーの顔、十二秒。
 周吉の顔、十二秒。



周吉……「人間っていうのは、そんなもんだよ。電気、消してくれんかな」

ランサー……「電気、消していいんですか」

周吉……「ああ、ええよ。早う消してくれんかね」

ランサー……「おやすみなさい」

周吉……「ああ、おやすみ」



 画面が暗転する。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆


125 : 平山周吉&ランサー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:46:02 hlYrHn0s0



 ランサー、アパートのドアを閉めて外に出る。
 ランサーは、紫色の長い着物を着ていた(いつものように肩を露出させて着ていたら、周吉に怒られたので、こうして外ではだけたのである)。
 一息つくように、溜息をついて、外の景色を見る。
 そこは、かつて彼女がいた帝都とは全く異なる場所だった。



ランサー……「……」



 ランサーは、今日までの芝居を思い出す。
 人が死ねば深く悲しみ、嘆き、まるでそれを周囲にアピールするかのように大きな声で叩きつけるように話す。
 しかし、周吉のように、妻を喪ったばかりの老人は非常に落ち着いていた。
 悲しんでいないわけでも嘆いていないわけでもないが、それを封じ込め、忘れていくだけの強さと冷淡さが人間にはある。
 冷淡でありながら、どこか落ち着く、優しい感情。それをランサーは己の中に感じていた。
 トップスタァ、神崎すみれが好む派手で華美な物とは正反対であるが、それでもれっきとした一つの演技の形式。



ランサー……「ふぅ」



 だが、あの老人は戦わなければ元の場所に帰る事ができない。それは、ランサーも同じである。
 敵が悪人ならば、勿論、ランサーは切りつける事ができるが、そうでなければ精神的に難しい。
 クラクションの音がランサーの耳に入る。



ランサー……「うるさい」



 小さく呟いた。





◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 周吉は、目を開けて天井を見ていた。
 とみの姿が電気に浮かぶ。
 一人の夜になると、やはりとみの姿が浮かんでしまう。



周吉……「聖杯かぁ」



 とみを生き返らせたいという思いは、明日の朝には消えてしまうだろう。
 左隣を見る。そこに、とみは寝ていない。
 もし、生きていたなら、もっといくらでも優しくしてやる事ができたのだなぁ、と感じる。
 しかし、聖杯を使って甦らせても、おそらく、とみへの態度は変わらないだろう。
 人間とはそういうものである。


周吉……「ええ人だよ、蘭さん(ランサー)は本当に」



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 東京の街が映る。
 夜中にも関わらず、空から見ればネオンの光が点々としている。
 近づいてみると、まだ車のクラクションの音やバイクの排気音が微かに聞こえる。
 特に、渋谷や池袋は騒がしい。そこら中が落ち着きを喪っている。
 それは、周吉やすみれが生きた時代よりも激しく進化した平成の街の姿であった。


126 : 平山周吉&ランサー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:46:17 hlYrHn0s0




【クラス】
ランサー

【真名】
神崎すみれ@サクラ大戦シリーズ

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の魔術は無効化する。大魔術や儀式呪法などを防ぐことはできない。

【保有スキル】
歌劇:B
 帝国歌劇団のトップスタァとしての歌唱力と演技力。
 娯楽好きな人間の心を震わし、感動を与えるレベル。
神崎風塵流:A
 神崎家のなぎなたの戦術。自分の周囲の相手に有効な手。
 すみれは免許皆伝レベルの腕前を誇る。
財閥の娘:C
 高い財力を持つ財閥の娘である為、金銭が自動的に舞い込んでくる体質である。
 しかし、一方で金遣いも荒く、趣味の買い物で結構派手に金を使ってしまう金銭感覚も併せ持っており、スキルの弱体化が始まると危険性が高まる。

【宝具】
『霊子甲冑』
ランク:A〜D 種別:対人、対獣、対機 レンジ:1〜5 最大補足:1
 所有者の霊力を引きだすシルスウス鋼製の甲冑。現代ではパワードスーツ、あるいは巨大ロボットの中間にあたる(サイズは3米ほど)。
 すみれ機は紫色。なぎなたを装備している。
 光武、光武改、神武、天武など、あらゆる機体を繰った伝説が残っているが、いずれの霊子甲冑が宝具として召喚されるのかは不明。
 この宝具によってランサーのパラメーターは一時的に底上げされる。

『世界の中心』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1〜5 最大補足:1
 コペルニクスもガリレオも、彼女の前では天動説(意味不明)。
 この世界は彼女を中心に回っている。

【Wepon】
 なぎなた(折り畳み)

【人物背景】
 太正十二年から太正十六年にかけて帝都の銀座帝国劇場・帝国歌劇団のトップスタァとして活躍した少女。明治四十年一月八日生。
 日本有数の財閥である神崎財閥の一人娘であるが、家出した後に上京し、帝国歌劇団に所属したとされる。母が銀幕スタアである冴木ひな(神崎雛子)であった事から、特に引き留められた様子はない模様。
 高い演技力と歌唱力から主役を多数張るものの、後に引退する。長刀の達人で、神崎風塵流の免許皆伝レベルであったと言われる。
 当時の記録では、学力は学院トップ。日本舞踊、華道、茶道、洋風ダンス、どれも皆伝の腕を持っていたとされる。
(公的な記録で残っているのはここまで)

 実は大帝国劇場が普通の劇場であったのは表向きの話。
 大帝国劇場は、秘密防衛組織『帝国華撃団』の拠点であり、舞台で踊る帝国歌劇団のスタアは全員、霊力を有している「花組」の戦士なのである。
 神崎すみれは、その一員として、活躍。霊子甲冑を動かして降魔らと戦ったが、「4」以降は霊力の低下が原因で引退。ちなみに、蜘蛛が苦手である。

【願い】
 不明。





【マスター】
平山周吉@東京物語

【マスターとしての願い】
 なし。

【能力・技能】
 なし。

【人物背景】
 小津安二郎監督の世間一般的な代表作であり、世界的にも評価が高い「東京物語」の主人公の老人。
 広島県尾道市に住んでおり、妻のとみと一緒に東京の息子夫婦のところに行くが、騒がしい東京で居場所をなくす。
 しかし、特に悲観的になる事もなく落ち着いており、息子や町が変わっていく姿を目にしながらも、にこにことした表情を崩す事はない。
 作中、妻のとみを亡くし、尾道で葬儀を行う事になる。息子の妻であった京子と会話し、彼女に自分の人生経験から些細な助言をして物語は終わる。
 とりあえず、参戦するかは置いといて、「東京物語」は日本人として見ておかなければならない名作映画の一本であるのは間違いない。

【方針】
 不明。


127 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 02:46:41 hlYrHn0s0
以上、投下終了です。


128 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:25:30 5elP8euE0
投下します


129 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:27:39 5elP8euE0


もう目の前には誰も居ない
もう奥から声も聞こえない


◆   ◇


僕には、何かが見えていたはずだった。
誰かの声が聞こえていたはずだった。
その何かのために、その誰かの為に、僕はずっと、ずっと、戦ってきたはずだった。

今はもう、何も見えない。
今はもう、何も聞こえない。

心にぽっかりと空いた穴はどこまでも広がる夜の闇のようで。
ああ、それなら。
あの空に禍々しく輝く月は――。

死した僕を蘇らせてまでこの地に呼び寄せた紅い月は――。

僕にとっての、一体何だと言うのだろうか。
僕に残されたものなんて何もないのに。
僕はただひたすらに空っぽなのに。

僕は所詮、神に捧げられし生贄に過ぎなかったから。
この身に詰まっていたはずのモノ全て、全部全部、捧げてしまったから。
空っぽな自分を満たしていたはずの神の力さえ、この身にはもう残されていないから。

だから――

「だからてめぇは空っぽだってか。中身の無い抜け殻だと。
 だったらさ、なんでてめぇはここにいる?」

僕には見慣れた存在が――天使が語りかけてくる。

……どうして、なのだろう。
どうして僕は、ここにいるのだろう。
紅い、紅い、紅い月。
どうしても叶えたい願いを持つものだけを呼び寄せる紅い月。
その紅い月に選ばれたというのなら、僕にも強い願いがあるということ。
神に捧げられたはずのこの身に、まだ心が残っているということ。

「僕は……僕は、何かを、願っ……た?
 でも、何、を。今さら、何、を?」

かつての僕には決意があった。
神の千年王国をこの地に。
地上に永遠の平和を。

そう願って戦い続けていたはずなのに。
からからと口は乾くばかりで。
当然だったはずの願いは言葉として音に乗らない。

「今更じゃなくて、今だからこそだろ!
 あのクソッタレな神様なんかの借り物じゃねぇ!
 あんたはあんた自身の願いを抱いた。
 あんた自身の心を取り戻せた!
 だからここにいるんだろ!」

……そう、なのだろうか。
僕は、もう、僕を信じることができない。
人としての身体を失い。
人としての命を失い。
人としての心も失い。
メシアとしての使命も、力も失ったというのなら。
やっぱり僕は空っぽのまま――

「あーっ、うざったい!!
 俺は自分のこと救世使としてばっか見られるのが嫌だったけど、てめぇは逆だ!
 自分のことを救世主としてしか見ていねえ!
 てめえのことをちっとも見ていねえ!」

ずかずかと近づいてきた天使に乱暴に掴みかかられる。
その背に輝く三枚の翼は僕の知るどの天使たちよりも美しく力強いというのに。
彼はちっとも天使らしくないどこにでもいる少年のように声を荒らげて。
ただ真っ直ぐに、どこまでも真っ直ぐに、僕を見つめてくる。


130 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:28:32 5elP8euE0
「いいか、耳ん穴かっぽじってようく聞け!
 なくなんねえよ! 人間はからっぽになんかなったりしねえ。
 たとえてめぇ自身が失くしたと思ってても必ず何かが残ってる。
 かつてのあんたの想いが、あんたに抱いた誰かの想いがここにあるんだ。
 それが愛だったとしても憎しみだったとしても……人の思いだけは決して…なくなったりはしねえんだよ」

彼は人間だった。
限られた刹那をひたむきにがむしゃらに生きる人間だった。
愛……。憎しみ……。
そうだ、かつての自分には確かにそんな感情が存在していた。
僕は、人を愛したことが、あったんだ……。

「――――」

声が、漏れる。
愛した人の名が音となり空へと消える。消える。
何と呼んだのか、自分でも覚えていない。
思えば救世主になって以来、あれほど愛し、この手で反魂させ涙した彼女の名前を呼ぶことはなかった。
その存在がなかったかのように、僕は、人を愛したことも忘れ、東京が洪水に呑まれ数多の人間が死にゆくさまを笑っていた。
きっと僕は憎まれていることだろう。
あの日の僕は、そんなことを思いもしないで正義をなしているのだと信じて疑いもしなかったけれど。
今の僕は知った。
僕が憎まれていることを。
思い出した。
僕が人を愛したことを。

「僕はこんなにも誰かを犠牲にしてきたんですね……」
「マスター。過去は消えない。あんたのしてきたことはあんたを支えたりしがらみとなって苦しめたりもする。
 あんたはかつてロウヒーローであったことを乗り越えて。その前の一人の人間だったことも思い出して。
 過去も現在も自分のものとしたあんたとして戦わなければ意味なんてないんだ」
「僕にできるでしょうか」
「……加藤故って奴がいてさ。そいつも死んだ後あんたみたいに色々あって大変で。
 自分が自分を何だと思っているか、誰だと思っているか意識し続けないと自分の姿も保てない身体になっちまってたんだ。
 この電脳空間にいるあんたも、身体を失ったというんなら、きっと似たようなもんだと思う。
 ……なあ、あんたは今、どんな姿だ?」

問いかけ、覗きこんでくる彼の真っ直ぐな瞳に僕が映る。
そこにいたのは僕だった。
救世主ではない、人間だった頃の僕の姿だった。

「ああ、そうか。僕は人間だったんだ……」
「だったじゃねえ、今からも、だろ?
 もうあんたはおもちゃの兵隊じゃない。願いだって分からないならこれから気づいていけばいいんだ」

そう言って笑う彼の笑顔が眩しくて、僕もいつ以来かの笑みを浮かべる。
貼り付けた能面の笑顔ではない、人間の笑顔を。


131 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:29:01 5elP8euE0

「とはいえマスター。正直俺はこの聖杯戦争に嫌な予感しかしない。
 物質界(アッシャー)東京……。霊気が集まる魔都市。
 人間と共に野望や怨念が集まってきてどんどん増大する無限物質地域(アカシック・ゾーン)を電磁界に再現。
 しかも願いを叶えるでけぇコンピューターでとか、ここまで来たら疑うなっつうほうが無理がある」

しばらく笑いあった後、真剣な表情で、彼はそう告げてきた。

「俺というエクストラクラスがここにいるってこと自体がトドメだ。
 救世使(エンジェル)のサーヴァント……。
 世界を救う者が呼ばれるってことは、この戦いが何らかの世界の危機と関わってる可能性が高い」

笑顔と変わらぬ真っ直ぐさで、自らの疑念を隠すことなく口にする。

「もし俺が思うとおりなら、俺は俺の因縁、こだわり、プライド、守るべきもののために聖杯さえも壊す。
 えらそーなこと言っておきながら、俺はサーヴァントとして失格だと思う」

ともすれば令呪で自害させられかねないようなことさえも大胆に言い放つ。
正直、彼はめちゃくちゃだ。

「だけどあんたがそんなサーヴァントでもその背を預けてくれるというのなら。
 約束する。俺はあんたの仲間として、あんたを裏切らない。
 俺が俺流に生きるように、あんたがあんた流を見つけられるよう、一緒に戦ってやる」

めちゃくちゃだけど、その力強い声には真実の迫力があって。
その背に輝く翼よりもずっと強烈な光を感じたから。

「俺は救世使のサーヴァント、無道刹那。あんたの答えを聞かせて欲しい」

答えは決まっていた。
僕は、彼の手に手を重ね、その言葉を口にすることにした。
失くならず記憶に残っていた、何度も聞いたその言葉を。

――今後ともよろしく、刹那


◇   ◆


もう目の前には誰も居ない
もう奥から声も聞こえない

だったら一度振り返ろう
歩いてきた道を戻ってみよう
きっとそこには何かがあるから
置いてきてしまった誰かがいるから……

GAME OVER
  OR
CONTINUE?


132 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:29:23 5elP8euE0
【クラス】
エンジェル

【真名】
無道刹那

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力B(EX) 幸運E+++ 宝具A+

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
救世使:A
天使と人との狭間の子。
選ばれし真の救世使。
物質界だけでなく、星幽界、地獄、至高天をも終末から救った彼のランクはかなりのもの。
意図するしないに関わらず、世界の危機に立ち向かう時、全てのステータスが1ランク上昇する。
――彼は救世“主”(メシア)ではない。救世“使”(エンジェル)である。

アストラルパワー:A+(EX)
魔力放出の上位スキル。
武器・自身の肉体に魔力(アストラルパワー)を帯びさせ、常時放出する事によって能力を向上させるスキル。
放出量を瞬間的に倍増させることで、魔力砲やバリアのような使い方もできる。
絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。
また、背中の天使の翼を大きく損傷すると上手く力を操れなくなり、使用不能になることも。


【保有スキル】
少女の祈り:B
正式名称大天使の加護。
刹那の愛した少女は、水の四大天使ジブリールの生まれ変わりであり、彼の守護天使でもあった。
水や水に関連するもの(鯨などの水生生物)が時に護ってくれ、水属性の攻撃などに耐性が付く。
――少年と少女は一生二人で戦い続けた。

カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
刹那自身の生還率も上がる反面、彼に魅せられた味方が犠牲になりやすい。
良くも悪くも真っ直ぐなその在り方は天使悪魔人間種族を問わず数多のものを惹きつけた。

神性:C
創世神の最高傑作であるアダム・カダモンより力を受け継いた有機天使の生まれ変わりである刹那の神性は本来Aランクである。
しかし、アダム・カダモン、有機天使、刹那に至るまで神に抗い、刹那は神殺し後ただの人間として生きたためランクが低下している。

時間魔術:C
聖隠者アダム・カダモンの力を分けられ生まれてきたため、刹那は失われた時間魔術を使用できる。
とはいえ刹那自身は一瞬だけ時間を操る、時間操作系能力に耐性を得る位の部分的かつ限定的な使用しかできない。
意識して使用するのも苦手なため、咄嗟に発動できればラッキー程度のスキル。


133 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:29:41 5elP8euE0
【宝具】
『七支刀御魂剣(ななつさやみたまのつるぎ)』
ランク:B+ 種別:対神宝具 レンジ:1 最大捕捉:一柱
通称:ななつさや。神剣にして魔剣。刹那のメインウェポン。
第五元素でできており、地球上で最も硬い。
また、戦う相手によって属性を変え、相手の弱点を突き、相手の武器や攻撃に耐性を得る。
かつて神に反旗を翻したルシファーの魂が封印されていたこと、有機天使アレクシエルによって神への反乱に使用されたこと、
刹那の手で創世神を遂に討滅したことから神や神性を持つ相手などには絶大な補正を得る。
刹那自身も神性を持つが、この剣自体も意思を持っており、刹那に願われない限り刹那を傷つけることはない。
加えて、四本腕の金属的な大女に変身することで自律行動もできる。

『運命に抗いし有機天使の三翼(アレクシエル)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
刹那の始まりの前世であり、自然無限物質(エーテル)の力を司り、火・風・水・土のルーンを操る有機天使アレクシエルの羽根。
救世使としての刹那の象徴でもある。
魔力が刹那本来のEXランクになり、強力な再生能力を得る。
また、この宝具により、刹那は魂の浄化や救済といった奇跡を起こせる。
ただしこの宝具が司ってるのはあくまでも正の力であり、自然に反するような奇跡は起こせない。
本来は自然界から魔力を無限に得られるのだが、今回の聖杯戦争は電子空間内のため、効率は悪くなっている。
尚、エンジェルはあくまでも無道刹那として召喚されたため、アレクシエルの人格が表に出てくることはない。
ちなみに宝具解放前は通常の二枚の天使の羽根を発現させている。

『その名は天使――(エンジェルサンクチュアリ)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:一柱
アレクシエルの双子の弟で電磁場無限物質(アカシヤ)の力を司る無機天使ロシエル。
彼が託してくれた『運命に翻弄されし無機天使の三翼(ロシエル)』を『運命に抗いし有機天使の三翼』と同時発動する。
『運命に翻弄されし無機天使の三翼』は負の想念や電子を力とするため、ムーンセル内の魔都東京とも相性が良い。
実際ロシエルは東京の電力と人々の負の念を糧に封印を解き復活したことがある。
両翼が揃うことで正負無機有機を網羅し無限の宇宙元素、力を得られる。アストラルパワーもEXになる。
使用後は翼の力で文字通り無限の力を生成できるため魔力消費は考えずに良くなる。
しかしその力は神霊級であり、ムーンセル内で無事発動できるかは不明。
できたとしても発動後はともかく、発動時に無限の魔力を消費するため、その一瞬だけでもマスターの命を奪うには十分である。

【weapon】
燃費の良い七支刀御魂剣やアストラルパワーで強化した肉体やエネルギーの放出。

【人物背景】
有機天使アレクシエルの生まれ変わりとしてその魂を内包する、救世使の少年。
単純だが底抜けに明るく、強烈なカリスマ性を持っている。
幼い頃から妹の紗羅を強く愛していた事で苦脳していたが、紆余曲折を経て結ばれた紗羅が刹那を庇って死んだ為、アレクシエルとしての力が暴走。
寸前で地球を救う為に時間を停めたアダム・カドモンの助言で、紗羅を蘇生させようと旅立つ。
天界・地獄・地球を股にかける戦いと、数多の出会いと別れを経て、すべての黒幕であり世界をリセットしようとしていた創世神を討つ。
救世使としての全ての力を使い果たし、羽根も失い普通の人間として、最愛の妹と一生二人で幸せに戦い続けた。

【基本戦術、方針、運用法】
七支刀御魂剣によりどんな相手とも堅実に戦えるが、スキルや宝具が救世・対神に偏っている。
また、アレクシエル発動前は決して燃費がいいとも言えず、発動したらしたで高確率で真名バレする。
願いを叶えるための純粋な殺し合いとしての聖杯戦争にはあまり向いていない。
悲業の死を遂げる呪いを輪廻に組み込まれ、神に翻弄され、幸運は最低クラスだが、その運命に打ち勝ったからこその彼でもある。
救世使としての状況にハマりさえすれば一気に大化けするサーヴァントである。

【サーヴァントとしての願い】
みんなで幸せになれたし、これ以上の願いなんてない。
そもそも願いは叶えてもらうものでもねえしな。


134 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:30:06 5elP8euE0

【マスター】
ロウ・ヒーロー……今は、まだ@真・女神転生?

【マスターとしての願い】
自分でもまだ分かっていない

【weapon】
なし

【能力・技能】
メシアとしての能力や装備は喪失し、人間の時の能力に戻っている。
秘められた力を持ち、特に回復補助魔法と衝撃系魔法に長ける。
ディアからサマリカームまで全て習得済み。
ある程度の武器も扱い慣れている。

【人物背景】

かつて、三人の少年が居た。

三人の少年は、悪魔に踊らされた。

三人は二人になり、二人は一人になった。

残った一人は真の救世主で。

消えた二人は偽の救世主だった。

それでも。その身がただの生贄だったとしても。

彼らもまたかつては一人の人間であり、そこに本物の何かがあった。


【方針】
人として抱いた願いをまずは取り戻す


135 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 03:30:20 5elP8euE0
投下終了です。


136 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:24:29 lfU7cAfk0
投下乙です。
自分も投下します。


137 : Eternal Punishment ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:26:20 lfU7cAfk0

……ぼくは母さん以外にも多くの人間を殺したが、結局、母親殺し以外の罰は受けることができなかった。

ぼくを罰してくれる人、あるいは赦してくれる人はもはやいない。
ぼくの頭という地獄の中に、罪も罰も赦しも壊れて全て消えてしまった。
あるいはこれが罰なのだろうか。罪を抱えて延々と地獄を彷徨うことが。

帰りがけに買ってきたスターバックス・コーヒーを飲みながら、ぼくはソファに腰かけていた。
届いていた新聞紙やらチラシやらは日本語で書かれていて、ぼくにはまるで読めない。ただの記号だった。
高層マンションの一角、無機質な調度品と読むことのできない文字に囲まれながら、ぼくはカップを握りしめる。
スターバックス・コーヒーは何故かアルファベットが躍っていて、それだけぼくにとって意味のある言葉としてこびりついていた。
スターバックス・コーヒーは言語を越えて存在していた。なるほどこれが普遍性というものか。

「全ての人間には意識と無意識がある。そして、当然にしてその狭間も……」

そこにじわり、と滲み込むようにして彼はやってきた。

「……それを君の友人は地獄と呼んだそうだな。
 地獄は頭の中にある。頭に詰め込まれた意識の中、それこそが地獄であり、罰であると……」

言葉が重ねられる。
奇妙な心地がした。その言葉は自然に、すっ、とぼくの意識の中に入ってくる。
だからそれは英語のカタチを被っているのだろうけど、しかしそれが英語であることがいささか面白い気がしたのだ。

言葉はただの音の塊ではない。
ぼくの脳内のモジュールに入り、意識内に意味を結ぶことで、初めてそれは言葉となる。
言葉はそれ自体にカタチはなく、音や記号に『乗る』のだ。

そうだからきっと彼も、言葉によく似た……

「慧眼だ。地獄は、這い寄る混沌は常に人の意識の中にある。
 それからは決して逃れることができない。何故ならば、その地獄こそがお前たち人間だからだ」

……その声に乗って、言葉と共に彼はその輪郭を得た。
最初は空白だった空間に、インクを垂らすようにそれは浮かび上がった。

それは青年のカタチを取っていた。
東洋人だ。その服を見るに学生だろう。
特徴的なのはその髪型で、茶色がかった髪の両端がぴんと跳ねている。いわゆるメルティカットという奴か。

一見して彼はただの学生だった。
日本の学生のスタンダードというものはよく知らないが、街を歩けば似たようなものを見つけることは可能に違いない。
しかし、彼がただそれだけのものでないことは、その深く濁った瞳を見れば明らかだった。

その瞳は別段恐ろしい訳ではない。敵意が滲んでいるとか、凶悪な眼光とか、そういう訳ではなかった。
寧ろ誘っているかのようだ。
誘いながら――濁っている。
様々な色をぐちゃぐちゃに混ぜ、それでできた漆黒を更に歪めた結果できた、深く恐ろしい色。
そんな色を、彼の瞳は湛えているのだ。

だから分かる。
彼のこの姿はあくまで仮初の物に過ぎないと。
言葉に乗ってきたように、どこかしらから取ってきた仮面(ペルソナ)を被っている。
どこにでもいそうな学生の姿――それを、こんなものが被っている。
その事実が最も恐ろしいことのように、ぼくには思えた。


138 : Eternal Punishment ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:26:38 lfU7cAfk0

「ふふふ……」

だが、同時に――知っていた。
目の前で愉快そうに微笑む彼が、決して遠い存在ではないことを。

「私をそれほど恐れていないようだな。
 お前は知っているようだ。なるほど、だから私を呼んだか。
 生に意味などない。答えに意味などない。故に闇があり、影がある。
 その真実をお前は知っている。知って――絶望している」

彼が彼たる言葉を聞きながら、ぼくはコーヒーを置いた。
そして、その瞳に広がる深淵と対峙した。

「ぼくは母を殺した」

ほう、と彼は愉快そうに声を上げた。

「母は馬鹿みたいな事故で一度死に、そして蘇った。
 適切な処理と機械――戦場でぼくらが使うものと同じだ――を使って、チューブに繋がれ母は『死』を免れた。
 それが『死』であるかを、ぼくに決めさせるために、だ」

彼は言葉を挟まない。ただ愉しそうに嗤ったまま、ぼくを見据えている。
だから、ここで喋っているのは、言葉を吐いているのは、ぼくしかいない。

「医者は生命には影響がないと言った。しかし意識については言葉を濁した。
 生命とは何か――なんてことは問わなかった。要するに脳の機能モジュールのうちの大半が喪われていた、ということだ。
 喪われていたが、しかし問題なく機能しているモジュールも存在した。
 それが果たして人の意識足り得るものであるかは分からなかった。少なくともその医者は知らなかったようだ」

だから決めたのはぼくだ、と言葉にして告げた。

「ぼくは母の治療を打ち切った。それが死んでいると、生命でないと、わたしはそこにはいないと、ぼくは決めた」

意識と無意識には狭間があると彼は言った。
そうだ。その通りなのだ。
意識という奴には曖昧な部分が数多く残されている。
脳死という形で白黒ついた時代はまだよかった。ここまで脳の機能を解体してみせても、意識の輪郭は見つからない。

「なるほど君はそうやって母親を殺した。
 それが――『罪』であると」

愉しげな言葉に、ぼくは頷く。
こくり、と小さく、しかし迷うことなく。

「そう、それは『罪』だった。だから――そう、救われたんだ。
 『罰』を受けることができた。
 なぜならばそれはぼくが選んだからだ。ぼくが母親を殺した。
 過去とか、遺伝子とか、どんな先行条件があったとしても、人は自由だ。
 そうである筈なんだ。人の意識というものは。
 だからこの『罪』はぼくのものだ。誰かに背負わされたのではなく、ぼくが選んだものだと肯定できた。
 ――してくれた人がいた」

罪を犯したものには、贖うべき罰が与えられる。
それは当然のことである筈で、救いでもある筈だった。

「でも、それ以外のことは、駄目だ。ぼくには結局『罰』が与えられなかった。
 国の殺し屋として、アメリカの為に働いて、数多くの人を殺した。
 ビッグマックやドミノ・ピザを喰い散らかす為に、ぼくは数多くの人を殺した。
 だが――それは果たして『罪』だったのか? それは国の為のことで、国が選んだことで、ぼくが選んだ事ではないのでは?
 そんな考えが、ぼくの『罪』を隠してしまい、結局『罰』と一緒にどこかに行ってしまった」

分からないままぼくは生きて、それで終わってしまった。
ルツィアの脳は炸裂弾頭に打ち抜かれ、マシュマロのように膨れ上がり、最後は真っ赤に飛び散った。
赦してくれるかもしれなかった人を、ぼくはもう喪ったのだ。

「では『罰』を求める為にお前はここに来たと」
「あるいは、そうかもしれない」
「紅い月の噂……その言葉に乗って、私は此度の戦争に呼ばれた。
 だが――残念だったな。私ではお前を赦すことはおろか、『罰』を与えることもできん。
 何故ならば私は、曖昧で仕方がない、しかしどうしようもなくそこにある、まさしくそういうものだからだ。
 私が居る時点で、お前の『罪』に『罰』が与えられることはない」

彼はぼくに向かって言葉を放つ。
愉しげな微笑みを崩さぬまま、


139 : Eternal Punishment ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:27:13 lfU7cAfk0

「ぼくはある意味で君という存在を知っている。
 君は地獄の住人だ。君がいるのは、つまりはここだ」

そう言ってぼくはとんとん、と己の頭蓋を叩いた。
骨を通して脳が揺れる。そこには人の意識が機能するのに必要なモジュールが詰まっているはずだった。
アレックスは言った。敬虔なカトリックである筈の彼が、こともあろうに脳こそが地獄であると、そんなことをのたまったのだ。

「君が本来いるべき場所があるとすれば、それは脳の中だ。
 意識と無意識の狭間に住まう、ネガティブマインドの象徴。
 あらゆる人の中には君というモジュールが組み込まれている。
 虐殺の文法と同じだ。君を発明したのは、ぼくたちで、ある意味で君はぼくだ」

その言葉は存外つまらなさそうな声色に乗った。
濁った瞳の中にはぼくが映っている。その顔を見つめながら、ぼくは言うのだ。

「だが君だけが全てだとはぼくは思わない。
 結局のところ、それだけでは複雑化していく状況に適応できなかったからだ。
 そこで人は、愛だとか思いやりだとか、そういったモジュールも発明した。
 君がネガティブマインドだとすれば、それはポジティブマインドだ。
 きっとその両方が、脳という地獄には搭載されている。それが進化というもので、人というものだ」

ゲーム理論のシミュレーションでも明らかなことだ。状況が複雑化していけば、利他的にならざるを得ない。
結局のところ、大局的にはそれが最もリターンが大きいからだ。
そこで良心というものが発明され、遺伝子にプログラムされることになった。

「だからぼくは別に君を恐れたりはても、否定はしない。
 君は虐殺の文法と同じだ。いやそのものだと言ってもいい。
 人間が進化の過程で手に入れた、今となっては時代遅れのモジュールに過ぎない。
 あるいは人が増えすぎた時にはまた使えるかもしれない。
 淘汰し、虐殺することが、種の為になるとき、そういう時が君の出番だ」

それはもしかすると今かもしれない。
使い捨ての紙コップが、テーブルの上でこてんと倒れている。

彼はしばし黙っていた。
ぼくの言葉を受け、何も発してないまま嗤っている。
しん、と世界が静まり返った。
言葉はない。言葉もまた人が発明したモジュールの一つだ。
偉大な発明だ。それがあるからこそ、ネガティブマインドを生むことができた。

「くくく……」

不意に、彼が静寂を破った。
それは嗤い声であった。
はっーはっはっはっ、と愉悦に震えるかのように、彼は哄笑していたのだ。

「面白い。面白いな……このようにして私を解体して見せる者がいるとは。
 全てを受け入れた上で諦めないこと……それをこういう形で体現するとはな」

受け折りだ、虐殺の王からの。
愛する国の為に、そう言って虐殺の文法を発明した王の顔を思い出しながら、ぼくは平坦な口調でそう言った。

「知っている。知っているからこそ、愉しいのだよ。
 お前は私に敗北することがない。私という存在を理解し、解体し、打ち倒せる。
 お前にとって私はただのモジュール……虐殺の器官に過ぎないからだ。
 そしてだからこそ――お前は絶望しているのだ。
 お前の『罪』と『罰』は私でさえ捉えることができん。
 赦されることも罰せられることもない地獄に、永遠に閉じ込められる。
 それがお前の絶望であり、願いだ。そうだろう?」

ぼくは何も言わなかった。
ただ息を吐いた。結局この言葉を吐いているのはぼくなのだろうな。
諦観に似た感情がぼくの意識に広がり、無意識に消えていった。

「力を貸そう」

彼は言った。
この戦争に勝ち抜くために、ぼくと共に戦うと。
愉快そうに、ネガティブマインドの象徴はうそぶいた。
それはきっと、ぼくの行き着く先がよほど彼好みのものであったからだろう。

そして彼は名乗った。
彼は『名』を持っていたのだ。
なるほど彼はある意味で誰でもあり、誰でもない。
そんなものは存在としてあり得ない。存在する為には、何かしらの『名』の皮を被らねばならないのか。

その『名』はぼくにしてみれば全く聞き覚えのないものだった。
しかし彼にとっては何か意味があるものであったらしい。
何故ならば……

「私は――周防達哉だ」

その『名』を口すること自体が愉しくて愉しくて仕方がない――
とでも言うように、彼が嗤っていたから。


140 : Eternal Punishment ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:27:42 lfU7cAfk0

【クラス】
ライダー

【真名】
周防達哉(ニャルラトホテプ)@ペルソナ2罪/罰

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運A+++ 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
騎乗:A+
……その噂は現実になる。
街に散乱する言葉に、たわいない風聞に、それは『乗って』やってくる。

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【スキル】
人間観察:EX
人々を観察し、理解する技術。
人類の影であるニャルラトホテプは、本人が否定したい、隠したい部分も含めた全てを把握している。
しかしその性質故に、希望や創造性を決して認める事はない。

変化 A
文字通り、「変身」する。
本来ニャルラトホテプに明確な貌はなく、ありとあらゆるものに変化することができる。
が、周防達哉の仮面を被っているため、ライダーが変身できるものは限られている。
……天野舞耶を始めとする彼の縁者と下記の「月に吠えるもの」にライダーは変身できる。

【宝具】
『影・尊き日輪の輝き(アポロ・シャドウ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:100人
周防達哉の仮面を被ったことで得た宝具。
周防達哉のペルソナ『アポロ』の対となるリバース・ペルソナを行使することができる。
炎と核熱の魔術に長けているが、神聖系に弱い。

『月に吠えるもの(ニャルラトホテプ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:100人
周防達也の仮面を外すことで自らの化身の一つである『月に吠えるもの』へと変化する。
普遍的無意識に存在する、神や悪魔の姿をした人格となる。
禍々しい異形であるが、本来ニャルラトホテプは無貌であり、この姿もまた一側面に過ぎない……

『這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:1000人
人々の普遍的無意識の世界に潜むニャルラトホテプという存在そのもの。
『意思』というものが全ての意味を持つ普遍的無意識の世界が存在する場合、ニャルラトホテプは全能の力を持つ。
それはニャルラトホテプが望めば世界の創造すらも容易く可能とするほどである。
ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである、正しく人間の考える『邪悪の権化』である。
人が己の中の影を見つめ続けない限り、ニャルラトホテプは悪意によって願望を叶え続ける。
すなわち、世界以外を嘲り笑うニャルラトホテプそのものが最悪の形で顕現し続ける『万能の願望器』なのである。

……この宝具を使うことで「噂は現実になる」
サーヴァントシステムを越えた行使はできないが、ライダーは「言葉」に乗り、現実に干渉する。

【人物背景】
『ペルソナ2罪/罰』の黒幕にしてラスボス(厳密には『異聞録ぺルソナ』においても)
全ての人類が意識の最底辺に抱え持つ普遍的無意識の元型。
ニャルラトホテプは人間のダークサイドが凝り固まった存在であり、ポジティブマインドの集合体であるフィレモンと名乗る存在とは表裏一体の関係にある。
フィレモンは強き心を持つ者を導き、ニャルラトホテプは弱き者を奈落へ引きずり込む。
この二者の対立は、人の内包する矛盾の象徴に他ならない。
ニャルラトホテプは全ての人間が抱え持つ影そのものである為、人が人である限り絶対に滅ぼせない。

本来は無貌であるが、サーヴァントであるが故に仮初の貌(ペルソナ)が必要になった。
そこでニャルラトホテプが選んだのは、かつてその在り方を最も愉しみ、弄んだ一人の青年の名であった。


141 : Eternal Punishment ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:27:56 lfU7cAfk0


【マスター】
クラヴィス・シェパード@虐殺器官

【参加方法】
不明

【マスターとしての願い】
『罰』を求める……?

【weapon】
拳銃とかあるかもしれない。

【能力・技能】
・特殊任務を数多くこなしてきた経験あり。

・虐殺の文法
人に原始的に備わっている虐殺器官。
それを呼び起こす文法のデータ。
言葉に乗せることで、現実に人は虐殺をする。

【人物背景】
『虐殺器官』の主人公にして語り部。
アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊大尉。
数々の特殊任務を経ていくうちに、ジョン・ポールと交錯する。父の銃自殺、そして交通事故により脳死状態に陥った母の生命維持装置を止めた過去を持つ。
映画と文学に明るい。言葉が好きであり、母親から「ことばにフェティッシュがある」と評されたこともある。
無神論者であり、カトリックを信仰するアレックスとは対照的であるが、「罪」や「神様」といった話はしていた。
だが、アレックスの「冒涜的なジョーク」を聞いた事が無いため、クラヴィスはアレックスのことを厳格なカトリックだと思っていた。

虐殺の王、ジョン・ポールを追う任務に就くうち、彼は人の意識に虐殺の器官が刻まれていることを知る。
ジョン・ポールは言語で虐殺の文法を流し、アメリカの平和を守ろうとしていた。
結局はその彼も倒れ、母についての記録に自身の言葉を見つけられなかった彼は、虐殺の文法を英語に使った。
結果アメリカの社会は崩壊。英語を話すあらゆる人間が殺し合う、虐殺の時代が訪れることになった。


142 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 05:28:14 lfU7cAfk0
投下終了です。


143 : ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:02:02 wqEWbjXM0
投下させて頂きます。


144 : 黒崎壱哉&ライダー ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:03:03 wqEWbjXM0
――月が出ているな。
黒崎壱哉は、そう口にした。

独り言である。
何かを思っての発言ではないし、誰かに向けた感情もない。
ただ、月は壱哉の手の届かぬ、遥かな上方に存在している。
壱哉がどれほど高い場所にいようとも、地に足を付けている限りは決してそこに辿り着けないのだ。
月からは――見下されるだけである。

「壱哉様、何か……?」
壱哉に声を掛けたのは、吉岡啓一郎である。
吉岡は、仕事からプライベートまで、壱也の全てをサポートする、忠実にして有能な秘書である。
「フ――いや、何でもない」
吉岡の主である壱哉もまた、英才と呼ばれるに相応しい能力を持つ。
業界新進気鋭の消費者金融・クロサキファイナンスの社長にして、クロサキ企業グループを治める若き青年実業家――それが黒崎壱哉の、表向きの顔だ。
もっとも、クロサキグループの実態は、世には殆ど知られてはいない。
そして、現在壱哉が巻き込まれている『聖杯戦争』……その渦中では、壱哉の肩書きは正しく仮初めのものに過ぎないのだった。

ソファに腰掛けた壱哉は、しばらく自らの秘書――正確には、それを模倣した存在――を観察していた。
だが、本物の吉岡との区別は、できなかった。

「――それでは、壱哉様……」
ただ壱哉の傍にあった吉岡が、居住まいを正して、言葉を発した。
「……壱哉様が為されようとしている事は、私には分かりません。私がそれに関わる事は――許されないのでしょうか」
「……くどいぞ、吉岡。俺は――」
「――いえ、いいのです。ですが……どのような事があろうとも、私は壱哉様の味方です。それだけを、お伝えしておきたかった」

吉岡は一礼し、壱哉に背を向けた。
壱哉は何も言わず、秘書が部屋を出て行くのを見つめていた。
頭の中には、吉岡の顔が――眼鏡の奥の憂いを帯びた瞳が、焼き付いていた。

視線を落とす。
その先には、自らに刻まれた令呪がある。
薔薇の形をしたそれは、サーヴァントを縛る鎖だ。
本来ならば、壱哉の前には姿を現す事すら無い存在。
――英霊。
今の壱哉は、それを服従させられるのだ。
だが。

(……つまらん)

面白くないと――壱哉は思っていた。

立ち上がる。
壱哉が向かったのは、自分の寝室だった。


145 : 黒崎壱哉&ライダー ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:03:43 wqEWbjXM0
――ベッドの上には、先客の姿があった。
人外じみたほど、美しい少年だった。

少年の物憂げな瞳には、絶望と虚無が宿っている。
深い深い金色の瞳。なのにそこに決して光は無く。
在るのは、わだかまる闇。泥のような闇。
闇黒よりも更に深い、無明の金色。

「――何をしていた、ライダー」

少年に――自らのサーヴァント・ライダーに、畏怖する事もなく、壱哉は語りかける。
自らの金色の髪を弄ぶ少年は、その声で壱哉に初めて気がついたようだった。
「さて――何を、という事もないが」
「お前なら他の連中を探すのも倒すのも簡単だろう」
氷河が流れるような冷たい声で告げた壱哉は、少年へと近づいていく。
そして、
「魔力が足りんと言うのなら――俺を抱けばいい」
当たり前のように、そう言った。

「お前にとっては俺の抵抗など、ただの愛撫のようなものだろう。それとも――俺にして欲しいか」
「――ク」
空気が凍てつく。
だが、それは少年に起因するものではない。

「…………」
音もなく、黒い少女が少年のすぐ傍に出現していた。
少女の瞳が壱哉を睨み付ける。
怒りと嫉妬が、そこにあった。
少年は少女の頭に掌を置く。
何処か優しげにも見える手つきで、その黒い髪を梳いた。
「良い――エセルドレーダ。下がれ」
「――イエス、マスター」
少年の一声。
それを受けた少女の姿は、その場から消え去った。

「ふむ――貴公は聖杯が欲しいのか」
サーヴァントの問い。
それに対し、壱哉はぶっきらぼうに答えを返す。
「さあ、な。くれるというなら貰ってやるし、丁度ワーカホリック気味な自分をどうかと思っていたところだ。
 だが――俺は聖杯よりも、お前に興味がある」


146 : 黒崎壱哉&ライダー ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:04:26 wqEWbjXM0
圧倒的な力。
全てを跪かせ、支配する力。
それを持ちながら――自分こそが何かに縛られている。
聖杯戦争も、マスターとサーヴァントの関係もない、何かに。
ライダーも。壱哉も。

「フ――貴公の運命の相手は余ではあるまい」
「関係ない。俺は、目をつけた男はこれまで必ず手に入れてきた」

ライダーの衣服から露出した肌に、壱哉は指を這わせてゆく。
腹から胸へ。
胸から項へ。
項から頬へ。

「――万能の願望機などと言っても、所詮は人の手が入ったモノ。
 如何なる魔術師、英霊、可能性が集おうと――余を満足させる愛しき宿敵はただ一人のみ」

表情を変えない少年に対する壱哉の行為はエスカレートしていく。
――鎖骨の窪みに舌を乗せる。
少年の心中を識る事は出来ない。
金色の闇が抱える絶望は、壱哉が抱えるものとは根本的に異なるものだ。

「しかし――或いは退屈凌ぎにはなるやもしれん。
 貴公の命に従い、未だ見ぬ英雄と刃を交えるのも一興か――」
「――俺を見ろ」

繰り返す。
繰り返す。
繰り返す。
言葉と、肉の音。
精神を踏みにじってやる喜びは、他の何よりも代え難い。
快楽に歪む顔を見せろ。
――お前を堕とす。


「俺の下で――あがくがいい、ライダー」


147 : 黒崎壱哉&ライダー ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:07:52 wqEWbjXM0
【クラス】
ライダー

【真名】
マスターテリオン@斬魔大聖デモンベイン

【パラメーター】
筋力A 耐久C 敏捷B 魔力A+ 幸運E 宝具A+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A+
騎乗の才能。幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

【保有スキル】
魔術:A+
空間転移、重力結界、原子分解等、多岐にわたる魔術を行使可能。魔術師として規格外の力量を持つ、世界の天敵。
キャスターではなくライダーのクラスで召喚されているため、陣地の作成、及びそれによって生み出されるモノのコントロールは現時点では不可能となっている。

神性:A+
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
外なる神の一柱たるヨグ=ソトースと人類最強の魔術師ネロの子であるマスターテリオンは最高クラスの神霊適正を持つ。
それに加え、邪神の██████████████。█████、███████████████████。
マスターテリオンに対する威圧・混乱・幻惑といった精神干渉は無効化され、正気度判定はパスされる。

【宝具】
『魔導書・ナコト写本(エセルドレーダ)』
ランク:A+ 種別:対魔術宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
人類誕生の5000年前に地球を支配した古の種族によって書かれたとされる最古の魔導書、及びその精霊。
マスターテリオンと契約を交わしており、盲目的な忠誠を誓っている。
魔術師・魔導書・鬼械神の三位一体こそが機神召還の真髄であるため、彼女無しでは鬼械神は真価を発揮する事が出来ない。

『鬼械神・法の書(リベル・レギス)』
ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1000人
高位の魔導書によってのみ招喚することができる神の模造品。
ナコト写本より召喚されるリベル・レギスは搭乗者であるマスターテリオンとエセルドレーダの能力も相俟って凄まじい戦闘能力を有する。


148 : 黒崎壱哉&ライダー ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:08:30 wqEWbjXM0
『輝くトラペゾヘドロン(シャイニング・トラペゾヘドロン)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:██ 最大捕捉:██
窮極呪法兵装。
本体は中核部分にある多面体結晶であり、剣のような形状をとっているのは結晶を封じている「函」が変質した物。
撃ち抜いた相手を触れた対象を異次元である偏四角多面体内へと吸収する。

本来は一つであったものだが、██████████████████。
██████████████████████████。

血塗れて、擦り減り、朽ち果てた聖者の路の果ての地で、我らは今聖約を果たす。
深き昏き恩讐を胸に。埋葬の華に誓って。我は世界を紡ぐ者なり

『這い寄る混沌(ナイアルラトホテップ)』
████:██ ████:████████ ██████:██ ██████:██
█████████。████████████。
██████████████、█████████████████████。
――█████████。███████。█████████。█████。████████████。
█████████████████████、████。████████████。

███████████。

【weapon】
各種魔術のほか、高層ビルさえも両断し、数千発のバルカンを薙ぎ払う光の十字架による近接戦も行う。
あとアッパーで巨大ロボを吹っ飛ばしたりする。

【人物背景】
最大最悪の魔術結社ブラックロッジの首領にして大導師。
「七頭十角の獣」「背徳の獣」「666の獣」等の異名を持つ金髪金眼の美青年。
その正体、そして目的は████████████████████████。
██████████████████、███████████。


149 : 黒崎壱哉&ライダー ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:09:09 wqEWbjXM0
【マスター】
黒崎壱哉@俺の下であがけ

【マスターとしての願い】
不明。

【weapon】
無し。

【能力・技能】
経営者としての能力の他、様々な工作活動を行える。
ターゲットの家に自ら侵入して水道を出しっ放しにしたり、壺を売りつけたり、ビルを崩壊させたり、大津波を発生させたり、隕石を落としたり。

【人物背景】
ノンバンク系金融グループ、クロサキファイナンスの社長。
目を付けた標的を罠に陥れて自分の奴隷にするのが趣味。
ターゲットを陥れるためなら手段を選ばないが、天然な面もあり、突っ込みを入れられる事も多々。でも基本的には鬼畜。
幼少期の家庭環境に起因するトラウマを抱えている。

【方針】
ライダーを手に入れる。


150 : ◆7bpU51BZBs :2015/01/25(日) 10:09:40 wqEWbjXM0
投下を終了します。


151 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 10:09:56 hlYrHn0s0
投下します。


152 : 上田次郎&キャスター ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 10:10:28 hlYrHn0s0



 東京の街を、二人の若い男女がふらふら歩いている。
 右脇では緑の壊れたトヨタ・パブリカが二人の歩く速度に合わせて自走している。
 デカい男の名は、上田次郎。日本科学技術大学の物理学教授である。
 もう一方の貧乳の女の名は、山田奈緒子。自称・天才美人マジシャンという胡散臭い肩書きの貧乳である。

 二人は、今回の「聖杯戦争事件」を解決して、とぼとぼと家に帰っていた。
 事件を解決しても、世間は冷たいもので、二人に見送り一つよこさない。
 しかし、普段は果てしなく遠い辺境の村から東京に向かうのに対して、「聖杯戦争事件」は都内の事件なので、比較的距離が短く、いつもに比べて苦労はなかった。
 その代り、上田と山田の談笑の時間も必然的に短くなった。

「いやぁ、しかし、今回の聖杯戦争事件は大変だったな……You」

「何が『大変だったな』だ……お前は何もしてないじゃないか!」

「実は、私は自分に催眠をかけて、夢世界で夢魔とこう、ハァッ!! デヤァッ!! ヘァァァァァァァッッ!!!!!!! と戦っていたんだ」

「気絶してただけじゃないか!!」

 二人は、巷で噂の「紅い月」と「聖杯戦争事件」が霊能力者によるインチキであった事を暴露した後であった。
 上田としても、最初から赤い月やら聖杯戦争やらはまっっっっっったく、これっぽっちも信じていないので、わざわざインチキだと証明しに行く必要もないはずだった。
 しかし、上田の歴代の著書を全て読んだ人間が、「娘が聖杯戦争に行ったきり帰って来ない」と泣きついて来てしまえば断る事ができないお人よしな上田なのである。

 今回もそうした経緯で、聖杯戦争サークルに乗りこみ、「聖杯戦争なんてインチキだ!これには何かトリックがある!」と高らかに叫ぶに至った。
 ……とはいえ、その時は珍しく、数千円の金を積んでも第6256番助手の山田奈緒子の協力を得る事ができず、困っていた。その日の山田は、まるで100万円のギャラの仕事にありつけたかのようにご機嫌だったのである。
 心細く、気が重かった上田が、いざ「英霊」を呼び出す段階に来ると、そこにいたのは、「キャスター・山村貞子」と名を変えた山田だった。これで流石に上田も聖杯戦争が嘘であると気づいた。
 山田は、ここでサーヴァントの短期バイトをして、インチキを手伝っていたのである。その額は、やはりと言うべきか、100万円だった。
 それから、ついでのように殺人事件が発生し、矢部がそこに居合わせ、それを上田と山田で解決し、こうして帰路についている。

「フン……だいたい、100万円ぽっちでよくまあ、ああもがめつくインチキの手伝いができるものだ。そこまで困窮しているのか、Youは」

「しょ、しょうがないじゃないですか! あのままだと家賃も払えないし……」

「祟りじゃ〜〜〜〜〜」

「言うな!!」

「何が『祟りじゃ〜〜〜〜〜』だ! あれは貞子じゃなくて八墓村だろッ。あれじゃあこの私じゃなくても気づくのに時間はかからないだろう」

「いや、だからあれは!!」

 山田は、キャスター・山村貞子として最初に現れた時、長い髪を真下に垂らしながら、「祟りじゃ〜〜〜〜〜」などと奇声を発していたのである。
 これが山田でなければ、光の中から現れたとしか思えないサーヴァントの姿に上田も気絶していたかもしれない。
 今回の事件で実際に気絶したのはその後である。

「……あ、そうだ。上田さん。そういえば、あの時、一体私に何を言おうとしたんですか?」


153 : 上田次郎&キャスター ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 10:10:43 hlYrHn0s0

 唐突に、山田がそう切りだす。
 今回の事件でも、二人が絶体絶命のピンチに陥った時、「この際だ……君に大切な事を言っておきたい」と上田が言いだしたのである。それを山田は唐突に思い出したのだ。
 そこから先、何やかんやの機転で助かったせいで、何を言おうとしたのかは聞きそびれてしまった。
 それを訊かれると、急に上田はしどろもどろになる。できればあのまま有耶無耶になってほしかったのだろう。

「あれはだな……そう、君は貧乳だ、それも超ド級の貧乳だ、とな」

「嘘をつけ! 私はその、超ド級というほどではなくてだな……」

「それよりYou、君も何か大事な事を言いそびれてるんじゃないか」


 



「……え? 何ですか?」

「今……9……」

「え?」

「今夜……9時……」

「ああ! そうだ! 大事な連絡って、めちゃくちゃ大事な事じゃないですか!」








「ハイ、今夜9時より、仲間由紀恵そっくりな天才美人マジシャン・山田奈緒子と」

「阿部寛そっくりな天才イケメン物理学者・上田次郎が、トリック史上最高のインチキ超能力を暴く、『トリック劇場版-ラストステージ-』がテレビ朝日系『日曜洋画劇場』で放送されます」

「地上波初登場だ……。上田、ちゃんとハンカチを用意しておくんだぞ」

「フン……今回は泣かないぞ。花京院の魂を賭けてもいい」

「そう言って毎回泣いてるじゃないか」

「それは、君の貧乳が可哀想で思わず同情して……」






 お見逃しなく!!


154 : 上田次郎&キャスター ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 10:10:57 hlYrHn0s0









【クラス】
キャスター

【真名】
山村貞子(山田奈緒子)@TRICK

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
陣地作成:E
 魔術師として有利な陣地を作り上げる技能。無理。
道具作成:E
 魔力を帯びた道具を作成できる。だが山田には無理。

【保有スキル】
手品:E
 インチキ手品を披露する。
 あまり人を惹きつける事ができない。
乳:A−
 このスキルのランクはAに近ければ近いほど女性的魅力が減っていく。

【宝具】
『本物の霊能力者』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大補足:?
 散々伏線として出てきた「本物の霊能力者」とは何なのか?
 その正体は今夜、明らかになる……。

【Wepon】
 不明

【人物背景】
 今夜の『トリック劇場版-ラストステージ-』で明らかに!

【願い】
 金ほしい(生還済)。





【マスター】
上田次郎@TRICK

【マスターとしての願い】
 今夜の『トリック劇場版-ラストステージ-』で明らかに!

【能力・技能】
 今夜の『トリック劇場版-ラストステージ-』で明らかに!

【人物背景】
 今夜の『トリック劇場版-ラストステージ-』で明らかに!

【方針】
 今夜の『トリック劇場版-ラストステージ-』で明らかに!


155 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 10:11:12 hlYrHn0s0
投下終了します。


156 : ◆SpFFtiBeDg :2015/01/25(日) 11:38:16 io6ppQZE0
皆様投下お疲れ様です。

そして>>1氏。
以前投下したアーチャーの宝具欄の一部を以下のように修正及び加筆させて頂きたいのですが大丈夫でしょうか?

『世界を照らす永遠の愛(フォーエバーラブリー)』
 ランク:EX 種別:対人宝具(自身)レンジ:− 最大捕捉:1人
 赤い星の神・レッドを救いたいという想いから世界中の愛が集まり、新たなに生まれたプリカードをキュアラブリーが使用したことで進化した奇跡の姿。
 キュアラブリーの最強形態であり、全てのパラメータが2段階上昇する。
 その戦闘力はレッドと互角に戦えるほど。必殺技の『プリキュア・フォーエバーハピネスシャワー』でレッドの憎しみを浄化して、彼の心に秘める愛を取り戻した。


157 : ◆SpFFtiBeDg :2015/01/25(日) 11:39:06 io6ppQZE0
ごめんなさい、上のトリは間違いです。


158 : 救世主の救い方  ◆TAEv0TJMEI :2015/01/25(日) 13:23:19 5elP8euE0
>>1
>>132
申し訳ありません
私が投下した主従のうち、サーヴァントの方の出典が抜けていました

無道刹那@天使禁猟区

です


159 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:52:06 sJD/N15w0
投下します。以前に下記の場所に投下した作品からサーヴァントのみを変更したので一部がそのままです。

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1409684845/422-425


160 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:52:38 sJD/N15w0
 燃える……燃える……国が燃える――――――

 燃える……燃える……俺が燃える――――――

 男が、女が、老人が、子供が、木材が、鉄が、国土が。生物と無機物が一緒くたに焼ける臭いが絶えず鼻腔を刺激し、熱波が肌を伝っていく。

 頭が、胴体が、いや、全身が好き勝手に炎に喰らわれていく。もはや感じ取れるのはただただ熱さと僅かながらに肉の焼ける臭いだけ。

 二人の男は目の前の業火をその目に焼き付けていた。
 一人は昭和の世にて燃え上がる帝都を見つめ、もう一人は新時代となる明治が始まろうかという時に自らを焼く火を目にする。
 男たちは、半世紀以上もの年月を隔てているにもかかわらず、赤黒い炎が起こす熱と臭いに同種の高揚感を味わっていた。

 ■  ■  ■

 びゅうびゅうと絶え間なく夜風の吹く高層ビルの屋上に、一人の男が突如として出現した。
 語るまでもないが、彼は今回の聖杯戦争に呼び出されたサーヴァントの一柱である。
 彼のクラスを示す腰に差す刀や、藍染めの着流しも目立つが、何よりも全身に広がる火傷を包帯でぐるぐる巻きにして覆い隠した姿が嫌でも注目を集めそうな男だった。

「よお、あんたが俺のますたーかい?」

 前方で自分に背を向けて立っている男にセイバー――志々雄真実は無造作に話しかけた。
 敬意の欠片もない口調だが、この男は端から誰かへの敬意など持ち合わせていないのだから仕方ない。
 一方、問い掛けられたスーツ(一見した限りでは高級品)を着た男は志々雄に一瞬だけ目を向けると、再び視線を前方に戻してしまう。
 お前など眼中にないとでも言いたげな態度だ。
 とはいえ志々雄も自分のような反英霊を呼び出してしまう人間に、まともな人格など期待していない。
 なので特に反応は返さず、つかつかと男に歩み寄っていく。
 ビルの端近くに立つ男の隣にまで行くと、同じように金網越しに広がる眼下の光景へと目を向ける。
 サーヴァントの発達した視界に映るのは数え切れないほどの人工の煌めきと建築物、更にNPCという紛い物の人々の群ればかり。
 一通りの現代知識は聖杯から与えられているのでさして驚きはないが、それでも実際に聞くと見るとでは大違いだった。
 明治の世とはまるで違う街の有り様を、志々雄が興味深げに眺め回していると、

「……どう思う?」

 男が始めて口を開いた。

「何がだい?」
「言わねば分からんのか?」

 志々雄の問い返しに、男は軽く鼻を鳴らす。


161 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:53:13 sJD/N15w0
 英霊とはそれほど鈍感なのかと暗に言っているらしい。
 普通の英霊なら怒りを露わにしてもおかしくないが、志々雄は男の傲慢な態度に面白そうに頬をつり上げた。
 ちらりと横目で見てみると、男は相変わらず仁王立ちのまま市街地に猛禽類を思わせる鋭い視線を送っている。
 オールバックに撫でつけられた黒髪と深いほうれい線の刻まれた強面の顔付き、更に本物の仁王像もかくやとばかりにスーツを押し上げる筋骨隆々とした肉体。
 そして、ただ居るだけで存在を意識せざるを得ない威圧感。
 誰が見てもただ者ではないと分かる。少なくとも堅気ではないことは窺えるだろう。

「この東京を見ての感想か? ならあんたと同じだと思うがね」
「ほお、ワシの考えが分かると?」
「分かるさ。あんた、無表情に見えるが明らかに不満たらたらだからな」
「そうか……つまり、キサマもこの街が気に喰わんのだな」
「ああ、心底くだらねえ街、いや国になっちまったなと思うぜ」

 もう一度、街中に目を移してみればそこには呑気な顔をして歩く人の顔ばかり。
 ある者は笑い、ある者は酔い、ある者は何かに怒り、ある者は泣いている。
 バラバラの様相の中でただ一つ共通しているのは、明日も大して変わらない平和な一日を送ると確信しているところだ。
 紛い物とは分かっているが、恐らくは元になった東京も大差はないのだろう。
 少なくとも弱肉強食を信条とする志々雄にとって、この場には唾棄すべきものしか見当たらなかった。

「生温すぎるな、これは」
「生温いか。確かにな。だが、何よりも腹立たしいのは……」

 男は一拍だけ間を開けてから、

「この程度しか発展しておらんということだ」

 街のすべてを見回すような調子で、心底憎々しげに言い放った。
 その言葉に、志々雄は自分が少しばかり思い違いをしていたと気付く。
 人に嫌悪感を抱いた志々雄に対し、男は街そのものに対して不満を抱いていたのだ。

「この程度、ね。繁栄自体はそれなりにしてるように見えるがな」
「足りん。これではまだまだ足りん」
「欲張りだねェ。ならどうする、聖杯を手に入れてこの国を強くするかい?」

 薄笑いを浮かべながら問う。
 もし肯定的な答えが返ってきたら叩き切るつもりだったが、男は志々雄の問いに冷め切った表情を浮かべていた。

「聖杯だと? 下らん、たかが杯ひとつにこいねがって手に入れたものになど価値はない」
「なら、あんたはこの戦でどう動く」
「ふむ……ああ、そういえば、ここは月だったな」
「一応な」
「なら決まりだ。とりあえずはさっさとこの戦争を終わらせて……次は月を奪うぞ」

 つま先で軽くアスファルトを小突いて、男はそんなことを言い放った。

「……なに?」

 思わず、志々雄は目だけでなく顔まで男の方に向けてしまう。

「図らずも人類未到の地に居るのだ。ならば先んじて手に入れておくのも悪くあるまい」

 先ほどとは打って変わったニヤニヤした顔付きで、男はアゴを撫でている。
 まるで愉快なイタズラでも思いついた子供のような気軽さで、本気で月征服を考えているらしい。
 狂気の沙汰である。
 だが、志々雄は彼の言葉に笑みを深める。
 嘲っているわけではない。こうまで予想外の答えを聞くとは思わなかったのだ。


162 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:53:48 sJD/N15w0
「月征服か。いいねェ、なかなか面白いこと考えるじゃねえか」
「なに、手慰みにするにはちょうどよいわ」
「慰みね。なら本番はなんだい」
「決まっておろう。日本よ」

 ますます笑みを深めながら、男は言った。

「あの国をこの手で強くし、自分の足で立とうとせず服従するままの弱国から再生させるのがワシが行うべき戦争よ」
「ハッ……ハ――――ハッハッハッハッ!!」

 もう声を抑えられなかった。
 たまらなく愉快だった。
 まさか、これほどまでに自分と似たような考えを本気で持つ者が居るとは思わなかったのだ。
 対する男は志々雄の高笑いに顔をしかめることもなく、こちらを見つめている。

「最高だなあんた。いいぜ、あんたとなら組んでやってもいい」
「たわけ。ワシが貴様と組んでやるのだ」
「どっちでもいいさ。ところで名前を教えてくれよ。誰かをますたー(主人)と呼ぶのはどうにも性に合わねえからな」
「鷲巣。鷲巣巌」
「志々雄真実だ。まあ、よろしく頼むわ」
「うむ、ではいくぞ」

 鷹揚に頷くと、鷲巣は背後に歩き出した。

「おい、俺には何も聞かなくていいのかい?」
「貴様の能力などすでに把握しておる。それ以外の出自や性格などにはさして興味はない。そもそもだ」

 そこで一度言葉を句切ると、鷲巣は立ち止まって顔だけを振り向かせた。
 ニィッとこれまで以上に口端をつり上げて笑う顔を見た志々雄は夷腕坊みたいだなと、配下の一人だった男の姿を思い浮かべる。

「このワシにあてがわれたサーヴァントが最強でないはずがあるまい」

 疑問の欠片も持っていない、確信に満ちた言葉だった。
 この男がどのような人生を歩んできたか志々雄は知らない。
 それでも、たった一つのことだけは分かった。
 この男にとって勝利とは太陽が昇るのと同じぐらいに当たり前のことなのだと。

「……そう言われちゃ否定はできねえな」

 彼には珍しい苦笑いを浮かべながら、志々雄は再び歩き出した鷲巣の後を追う。
 彼にとっては生前、地獄に続いて三度目の国取りがいま始まる。


163 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:55:21 sJD/N15w0
【クラス】セイバー
【真名】志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-

【パラメーター】
 筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:E 幸運:D 宝具:B

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 対魔力:E
 魔術に対する守り。魔術に対する逸話がないので気休め程度の効果しかない。

 騎乗:E
 乗り物を乗りこなす能力。大抵の乗り物をある程度は操縦できる。

【保有スキル】
 カリスマ:C
 軍団を指揮する天性の才能とカリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
 Cランクであれば小国を率いるに十分な度量。

 戦闘続行:A
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 直感:C
 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
 敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。

 勇猛:B
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

 地獄の業火の残り火:EX
 彼の最大の弱点ともいえるマイナススキル。
 全身に負ったヤケドにより発汗機能が失われているため、常人には考えられないほどの高熱を体内に宿す。そのせいで基本的に十五分しか戦えない。
 時間が経つごとに動き自体は良くなっていくので俊敏に+が付加されるが、限界を超えると体内の脂肪とリン分が人体発火を起こし自分自身が燃え尽きてしまう。

【宝具】
『壱の秘剣・焔玉(ほむらだま)』
 ランク:E 種別:対人宝具
 刀の切っ先を点火して斬りつける技。斬撃と火傷を同時に与えつつ、威嚇や目くらましの効果もあわせ持つ。

『弐の秘剣・紅蓮腕(ぐれんかいな)』
 ランク:D 種別:対人宝具
 相手を手で掴み、革手袋の甲部分に仕込んだ火薬を焔霊で点火して爆発させる。
 使用できるのは両の手袋で2回までだが、懐に入れた予備の手袋をはめ直すことで再度使用が可能となる。

『終の秘剣・火産霊神(かぐつち)』
 ランク:B 種別:対人宝具
 志々雄の最終奥義。
 強大な剣気を放ちながら刀身全体を鞘の鯉口にこすり付けて発火能力を全解放し、巨大な竜巻状の炎を発生させる。
 その斬撃を受けた者は巨大な業火に全身を焼き尽され消滅する。


164 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:55:49 sJD/N15w0

【weapon】
『無限刃』
 新井赤空の最終型殺人奇剣。
 通常ならば刃こぼれで切れ味が鈍っていく刀の発想を逆転し、刃全体をあえて鋸状にこぼすことで切れ味を犠牲にしつつも殺傷力を一定に保つことに成功している。
 この鋸目の間には志々雄が斬った人間たちの脂が染み込んでおり、刃を地面や鞘、相手の剣や大気との摩擦によって刀身の一部、あるいは全体を発火させることが可能。
 幕末期に剣心から人斬り役を引き継いだ時点で、この発火能力は発現していた。

【人物背景】
 幕末、長州派維新志士の新星として刃を振るっていた凄腕の剣客で、緋村剣心(抜刀斎)の後任として幕府要人の暗殺に当たっていた人物だった。
 志士の中でも実力は随一であったが、同じ維新志士達にその力と底知れぬ野心を恐れられた彼は戊辰戦争で同志により不意打ちを額に喰らい、
 昏倒したところに身体に油を撒かれ火を点けられる。
 どうにか生き延びはしたものの全身に大火傷を負ったため体中に包帯を巻いており、和装ながらファラオのミイラのような出で立ちになってしまった。
 その後は瀬田宗次郎、佐渡島方治を始めとした同士や配下を引き入れていきながら十年かけて組織を作り上げていく。
 この世は弱肉強食を信条としているので組織でも側近や部下を使い暴力による恐怖統制を敷いている。
 それでも末端の部下に自分よりも志々雄を侮辱されたことに怒りを覚えさせるほどの忠誠心を抱かせるなど、人心掌握には長けているもよう。
 体勢を整えた彼は明治十年に国家転覆を企てるが、立ちはだかった緋村剣心たちとの戦いで組織は壊滅状態に陥ってしまう。
 剣心との最終決戦においては一対一でこそ彼を追い詰めるものの、斎藤一たちに邪魔立てされたせいで仕留めきれず、最後は奥義の撃ち合いに持ち込まれた。
 結果、志々雄の奥義である火産霊神は不発に終わり、逆に剣心の奥義の直撃を受け、更に体温上昇の激痛が加わった彼は瀕死にまで追い詰められる。
 だが、自分の命乞いをした恋人である駒形由美ごと剣心を貫くことで形成を逆転する。
 そして、トドメの一撃を放とうとした瞬間、限界を迎えた彼の体は業火に包まれた。
 二度目の炎に包まれた志々雄は高笑いを上げながら跡形もなく焼失していき、その生涯を終えた。(作者によると勝負自体は志々雄の勝ち逃げとのこと)
 余談だが死後に地獄に墜ちた彼は、同じく地獄墜ちした由美や方治と共に閻魔を相手取った地獄の国取りに向かっている。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯戦争を勝ち抜いて月征服。


【マスター】鷲巣巌@ワシズ――閻魔の闘牌

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争を勝ち抜いて月征服。

【weapon】
 なし。強いてあげるならばその肉体と豪運が最大の武器。

【能力・技能】
 豪運
 人類としては最高ランクに位置する幸運。

 カリスマ
 その豪腕と豪運で活路を切り開く姿は良くも悪くも周囲の人間を惹き付け、あるいは畏怖させる。

 上流階級の嗜み
 絶対音感や東洋医学の経絡の知識で自らの三半規管の内二つを破壊するなど様々な知識や技能に精通している。

【人物背景】
『アカギ』においての赤木しげるの宿敵にして『ワシズ――閻魔の闘牌』の主人公。ワシズでの年齢は五十代後半。
 戦前は帝大を主席で卒業し、特高警察にて権中警視にまで出世するほどのエリートだったが、ミッドウェー海戦での敗北を機に日本の敗戦を予見し太平洋戦争中に退職。
 戦後は経営コンサルタント会社「共生」を設立し、巨財を築き上げていく。
 本編においてはとてもアカギでの彼と同一人物とは思えない筋骨隆々の肉体を誇り、時には米兵、時には巨大亀、時には巨大ロボットとも戦ったりする。(麻雀漫画の話です)
 性格は天上天下唯我独尊そのものであり、自分に敵対するものは徹底的に打ち負かす。
 とはいえ部下などの身内に対しては冷徹というわけでもなく、窮地において彼のために死を覚悟した部下を諫めるなど一定の優しさも見せる。
 余談だがアカギでは閻魔大王と戦ったりもしている。(麻雀漫画の話です)


165 : 鷲巣巌&セイバー ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 13:56:31 sJD/N15w0
投下を終了します


166 : ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 15:55:21 U9Qeez2E0
投下します


167 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 15:57:07 U9Qeez2E0



『人を救いたい』と。


救われるべきものも、そんな願いを抱く。






168 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 15:58:13 U9Qeez2E0

願いを叶えると、明日へと羽ばたくことができる。

きれいな夢へと呼び掛けるのは、勇気。

勇気を生み出すものは愛。

愛は誰もが持っている、空気のように当たり前のもの。
だから、誰もが勇気を持っている。
その勇気を持ってすれば、人は必ず美しい明日へと羽ばたくことができる。

ーー本当に?

君を叩いた手が痛む。
強い痛みに涙が出る。
涙は視界を曇らせ、羽ばたくべき明日が見えない。
私たちは、もう未来に行きたいと思えない。
勇気がなくなってしまった。

再び会えた時、私たちは変われるでしょうか。
新しい二人に。





169 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 15:59:56 U9Qeez2E0

――――世界で最も古く、同時に、世界で最も新しい伝説がある。


それは光と闇が生まれる前、滅びという概念だけが存在していた虚無の空間ですら。
あらゆる時間軸に存在し得る、光の伝説。

あるいは、闇を尽く塗り潰す光の戦士。
あるいは、闇と傍に寄り添う光の戦士。

最古の伝説である光の戦士伝説は、常に更新され続ける。
世界で最も古く、世界で最も新しい伝説。

『光の戦士伝説』

それは、人が人のまま、守護者となる伝説。
愛するものを護るために、ただ、想いだけを力にして、守護者へと姿を変える。

想いだけを力にする彼女たちには、その力を己の中に裏付けする背景がない。
あまりにも儚く、あまりにも危うい力。
ひょんなことが揺らいでしまう、不安定な力。

それでも、護りたいと思った。
特別な、尊い感情ではない。
お腹が空いたら食事をしたくなるような、そんな、何処にでもある感情。
そんな感情だから、人は生みだすことが出来、人はそれを力にできる。
愛はなくならない、世界が消えようとも。
自らの世界が消えたとき、憎しみが残り、幸福の残光だけを目にし、虚無を抱こうとも。
それは、世界を愛していたからだ。


貫いた光の先、拓いた空に私たちの未来がある。







170 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:01:23 U9Qeez2E0

「私はランサーのサーヴァント、愛のプリキュア。世界に広がる、ビックな愛、キュアラブリー。
……えーっと、その、今後とも、どうぞよろしく! マスター!」

ランサー<貫く者>のサーヴァント。
己自身をランス<貫く物>とし、人々に希望をもたらす存在。
光の戦士伝説としてはメジャーである、変哲もない少女が少女のまま英雄となった存在。

「サーヴァント……聖杯、戦争……」

ランサーのサーヴァントを呼び寄せた少女、即ちランサーのマスターである園田海未は確かめるように呟いた。
聖杯、奇跡へと導く万能の願望器。
聖杯戦争、聖杯へと魂を注ぐための争い。
そう、海未は、奇跡を願ったのだ。

渦の中にあった。
取り返しの付かない行動があった。
取り返しの付かない言葉を口にした、友人が居た。

後悔と忘我の中で、海未は『ここではないどこか』を願った。
恐らく、それは逃避としての願い。
そんなあやふやな願いを観測する紅い月が居た。
海未すらも気づいてないことだが、あるいは、誰かに引き摺られたのかもしれない。
海未とともにあった、二つの近似する願い。


――――『未来を拒絶する』という、重なった願いに。


『海未だけ』の願いを観測したのではなく。
限りなく親しい存在とともに抱いた願いを、紅い月が観測したのかもしれない。


171 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:02:31 U9Qeez2E0

「あなたに何ができるんですか?」
「えっと、何がって言われると難しいけど……マスターの助けにはなりたいかな。
だって、私達、これから友達になるわけでしょ!」

その憶測めいた真意を知らずか、海未は自身のサーヴァントへと問いかける。
そしてまた、サーヴァントもどこか呑気に応えてみせた。
友達という言葉に、感受性の豊かな少女の心がどう反応したのか。
それにも気づかぬように。

「……友達?」
「そう、友達! 手と手を結べば、もう友達!
素直になろー、笑顔になろー! 幸せハピネス!
……って、簡単にはいかないかな、聖杯戦争のマスターになっちゃうぐらいなら」

ハハ、と、ランサーは苦笑を浮かべる。
紅い月の聖杯戦争。
強烈な願いを抱いたものが紅い月に運ばれる、奇跡のための、蟲毒じみた儀式。
そんなものに訪れるぐらいの人間が、簡単に幸せになれるはずがない。

「友達だというのなら」

海未もまた、ランサーが気軽に口にした『幸せ』という言葉に、不快感を覚えた。
少なくとも、今の海未はかつてあった幸せに遠ざかっているからだ。

「例えば、私の友達がマスターなら、私の願いのために私の友達を殺すんですか?」
「えっと、それは……」
「例えば、私たちミューズ全員がマスターなら、全員が死なないように、元に返してくれるんですか?」
「それは、そのっ……」
「……」
「出来ない、ね……」

乾いた笑いを浮かべながら、ランサーは頬を掻いた。
海未は乾いた瞳をランサーへと向ける。
しかし、それは同時に、海未自身にも向けた瞳だった。
海未は今、ランサーを鏡として写していた。
ランサーが口にした、軽い言葉。
海未がそんな言葉を口にしていなかったと言えば
、それは嘘になる。


172 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:03:28 U9Qeez2E0

「何も出来ないくせに、責任も取れないくせに――――人のためにだなんて、簡単に口にしないでください」

それは自分に対しての言葉。
何も出来ないくせに、何でもしようとした。

『そんな人だとは思わなかった』

馬鹿らしい。
ならば、海未は穂乃果のことをどんな人間だと思っていたというのだ。
海未が穂乃果のことを親友だと思っていたように。
海未がことりのことを親友だと思っていたように。

高坂穂乃果と南ことり。
あの二人だって、大切な親友だった。
二人だけで終わらせなければ、いけなかった。
穂乃果を傷つけたのはことりじゃない。
もちろん、海未じゃない。

穂乃果を傷つけたのは、なによりも、穂乃果自身の気持ちだ。

ただ、その気持ちを生み出したのが、海未だった。
自らの行動が、『そんな人だとは思わなかった』と言ってしまうほど、穂乃果の気持ちを揺さぶったのだ。
傷ついていたのは、穂乃果だった、ことりだった。
海未が何をした。
壊しただけだ。
いつか、ことりから言い出して、そうなることだったかもしれない。
いつか、穂乃果が察して、そうなることだったかもしれない。
だけど、現実に壊したのは海未だ。
二人のなかで起こり、発展し、収束するはずだった出来事だったのに。

「何も、出来ないかもしれない」

そんなことを考えていた海未に、ランサーは言葉を続けた。
目は、哀しい色に染まっていた。
きっと、目の前の英霊は何も出来ない英霊なのだろう。
尋常でない伝説を残しても、根本的な部分で、人が本当に望むものを与えられない英霊なのだろう。

きっと、彼女には世界を救うことしか出来ないのだ。

人の痛みを救うために、声が嗄れるほどに叫ぶことしか出来ない。
何も出来ないことを、知っている。

「……何も出来ないんですね」
「何も出来ないかもしれないけど、何かしたいんだよ。
だって――――」

その先の言葉はわかっていた。
きっと、自分もそうだったから。
だけど、ランサー――――愛乃めぐみは言葉を飲み込んだ。
その理由も、わかる。
きっと、自分でもそうするだろうから。

――――友達だから。

ただ、今の自分がその言葉を口にすることが、酷く傲慢に思えたから。


173 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:05:16 U9Qeez2E0
【クラス】
ランサー

【真名】
キュアラブリー(愛乃めぐみ)@ハピネスチャージプリキュア!-人形の国のバレリーナ-

【パラメーター】
筋力E(C+) 耐久E(C) 敏捷E(B+) 魔力E(C) 幸運E(C) 宝具A++

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:-(B)
愛乃めぐみは通常時、対魔力スキルを持たない。
スキル・光の戦士を使用することで魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
その場合、大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
星神の加護:B
地球の神、ブルーが授けた愛の加護。
愛乃めぐみが持つスキルの多くはこのスキルから派生したもの。

光の戦士:A+
一個の個人としての存在を独立させたまま、人間<愛乃めぐみ>を守護者<キュアラブリー>へと変えるスキル。
愛乃めぐみは生涯で戦闘の修練と呼べるものを行っていない。
しかし、そんな前提を無視し、キュアラブリーは常に戦闘におけるを導き出す。
あらゆる状況に『対応するための技』を磨く通常の戦闘技術とは異なり、
キュアラブリーは『行使できるありとあらゆる技』が初めに無意識に浮かび、その内から技術を行使する『選択』が生まれる。
それは星の意思そのものとも言える、神とも呼ばれる最上位の精霊が相手であっても対等に戦うことができるほど。
また、水中・浮遊状態・無重力空間・その他異常空間であろうとも、高いスキルランクを誇るキュアラブリーはそこが生まれ育った地であるかのように、
熟練の達人、あるいは規格外の超人として動くことができる。
人が想いだけで戦うためのスキルである。

救世主症候群:B
愛乃めぐみは、無自覚に『不特定多数の他者』に依存して生きている。
秀でたものを持たないからこそ、他者への奉仕によって生まれる感謝の念でしか自己を肯定できないコンプレックスを抱えている。
他者から自己の奉仕や存在を否定する現実を突きつけられ、それを自らのなかで反論できない場合、
キュアラブリーのステータスは1ランクダウン、スキルランクは2ランクダウンする。


174 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:06:13 U9Qeez2E0
【宝具】
『勇気が生まれる場所(シャイニング・メイクドレッサー)』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

人が生み出す奇跡そのものが具現化した、『人々にとっての希望』。
人が持つ心の奥底に抱えた『イノセントな想い』に呼応し、人に力を与える。
光の戦士<プリキュア>として高い適性を持つラブリーですら、『イノセントな想い』が昂った際の真名解放による限定的な使用が限界。
もしも、正しく自在にこの宝具を使用できるのならば、あらゆる奇跡を引き起こすことができる。
『人の奇跡』という概念そのものであるからこそ、『人』がその真価を自在に引き出すことは容易ではない。

【weapon】
・プリチェンミラー
プリキュアへの変身、及び、様々な姿への変装を可能とする兵装。
正面に「Pretty change
mirror」と英字表記されている。
プリチェンミラーのフタを開くと「かわルンルン!」と発声が起こる。
三枚のプリカードを重ね合わせることで変身後の姿にしてプリチェンミラーのトレイにセットした後、ミラーボールを下から上へクルクル回すことで変身する。
プリキュアに変身完了後はプリチェンミラーキャリーに収納されて右腰前側に装着される。

・ラブプリブレス
プリキュアへの変身とともに現れるブレスレット型の兵装。
装着者の想像をそのまま形にすることが出来る。
この武器を使うことで、ラブリーは愛の光を用いて、聖なる剣や巨大な拳、光弾を創造することが出来る。
宝珠をつけたダイヤルを回して、ラブプリブレスの宝石が光った後、技を行使することが出来る。


【人物背景】
『ハピネスチャージプリキュア!』の主人公である14歳の少女、濃いマゼンタ色のポニーテールが特徴。
元気と笑顔があふれる愛嬌で人々から愛されているが、困っている人に節介をやくことで迷惑をかけることもある。
他人の長所をみつけるのが得意だが、不器用なためにウソや隠しごとをするのが苦手。
学業も運動も不得意だが、頭の回転は速く、力仕事が得意。また、嗅覚が優れている。

幼少の頃、病気がちの母から『ありがとう』と言われた言葉から感じた幸福を覚える。
以来、他者依存の一種である、救世主症候群<メサイア・コンプレックス>に似た感情を抱くようになる。
幾人もの『ありがとう』と幸福な笑顔を生みだすために、常日頃から行動をしており、その行為だけに奔走としている。
悪意もなければ、欲望も薄いが、他者からの依存を自己形成の一つとして依存している歪さを抱えている。

救われるべき歪さを抱えたまま、世界を救うことになった少女。


175 : 園田海未&ランサー ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:07:00 U9Qeez2E0
【マスター】
園田海未@ラブライブ!

【マスターとしての願い】
胸の中の後悔を消してしまいたい。

【weapon】


【能力・技能】
実家の関係で複数の武道を体験しており、また、部活動やスクールアイドル活動でのトレーニングによって同年代の女子高生の平均よりも高い身体能力を持っている。

【人物背景】
音ノ木坂学院に通う2年生、実家は日舞の家元でありる。高坂穂乃果、南ことりとは幼なじみ。
趣味は読書、書道。特技は日舞。弓道部に所属している。
真面目で意志が強いが、融通の利かない面もあり、穂乃果の提案したアイドル活動に当初は反対していたり(満更でもなかったようだが)、ステージ衣装のスカートの短さに苦言を呈することもあった。
また、実はポエマーであり、中学時代、穂乃果達に自作ポエムを見せていた。そのこともあり、μ’sでは主に作詞を担当。
他にはレッスンの指導も行っている。

高坂穂乃果と南ことりの間に起こった出来事に強い負い目を抱いている。

【方針】
救いたいし、救われたい。


176 : ◆devil5UFgA :2015/01/25(日) 16:07:19 U9Qeez2E0
投下終了です


177 : ◆wgOIRwTFb6 :2015/01/25(日) 16:19:46 Mny4Vq/I0
皆様、投下乙かれ様です
それと、拙作をwikiに収録していただきありがとうございます
この場を借りて、お礼申し上げさせていただきます
この度、自分が投下した>>36-40に一部コピペミスによる抜けがあったため、誠に勝手ながらwikiの方にて修正させていただきました
展開、ステータスに関わるものではないのですが、勝手にいじるのも問題かと思い申告させていただきました
大変失礼いたしました


178 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:37:11 lfU7cAfk0
投下乙です。
自分も投下します。


179 : 痛い ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:37:40 lfU7cAfk0


それは舌に乗せた途端に広がる、一瞬の甘さ。
冷たく鮮烈で、あっという間に溶けてなくなってしまう。
ひとときの慰み――







東京のどこかの話。
別にこれはどこでもよくて、出て来る人物はどこだっていい。
何故ならこれは怪談だからだ。細かい話は誰も気にはせず、聞く奴は出て来る“オバケ”のことばかり気にしている。

まぁだがここではそれは東京で、そんで出て来るのは女だ。
彼女は東京をぶらぶらと歩いていた。別にどこへいくでもなく、ただ暇だからぶらぶらと……

そこにヘンテコな物売りが近づいてくる訳だ。

「お客さん、とびっきりのアイスクリームはいかがですか」

……とな。

彼女はその姿を見てぽかんとする。
何故ならそいつは顔を緑色のメイクで覆っていて、目の回りには大きなハートマークが書かれている、妙な奴だからだ。

そいつは道化師なのである。
奇天烈な格好をした、妙ちきりんなピエロが突然現れて、ずい、とアイスクリームを差し出した
「いかがですか?」と。

当然彼女は顔を歪ませながら、苛々と言い放つ。

「悪いけど、私、アイスクリームって大っ嫌いなのよ。昔それですごく嫌な思いを……」

が、その途中で、はっ、とする。
そこに目の前に自分と道化師以外の、別の誰かが居たのだ。
それは可愛らしい女学生だった。黒く、上品な香り漂う制服を見にまとい、彼女は微笑んでいる。
お嬢様、という奴だろうか。そんな彼女が何時の間にか現れていて、そして、

「美味しいです」

……アイスクリームを食べているのだった。
コーンに乗ったミント色のアイスクリームを、彼女は目元を緩ませながら食べている。
その姿を見たとき、彼女は何故か、どき、としてしまった。
まだ十代半ばであろう彼女が、どういう訳か貧しい者を慈しむ女神のように見えてしまったからだ。

「どうです?」

彼女が何かに打ちのめされていると、ここぞとばかりに道化師がカップを差し出してくる。
ふわりと冷気の煙が立った。その中にはペパーミントグリーンのアイスクリームが、ちょこん、と入っている。
おいしそうではあるが、何てことのないただのアイスクリームだった。

仕方なく彼女はそれを買ってしまう。
値段自体は大したことないし、目の前の少女が食べる姿には何か心惹かれるものがあった。
それにこの道化師もそんなに悪い奴ではなさそうだし、

「えっ……!」

そして、驚きの声を上げる。
口に入れた瞬間、ミントの甘さがあっという間に舌に広がっていった。
その味わいは濃厚かつ繊細で、それでいて心の奥に、ずん、と力強く響いてくるのだった。

……それは覚えのある味だった。
かつて子どもの頃、彼女がまだアイスクリームを大好きだった時代、
母親に「こんなものばかり食べてはいけません」と激しく注意された時に食べていた、その味だったのだ。

(いやでも、これ……あの時のアイスクリームよりずっと、ずっと……!)

驚いて顔を上げて、彼女は再度、はっ、とする。
そこにはもはや誰も居ないのだ。
涙のメイクをした妙ちきりんな道化師も、一緒にアイスを食べていた筈の女学生も、どちらも忽然と姿を消している。

ただ彼女の手にはなおもカップが握られている。
ペパーミントのアイスだけはそこに確かにあり、しかしそれもじわじわと溶け出していて、その柔らかな結合を永遠に失っていく……


こういう話だ。
どういうことかというと、別にどうってことはない。
だからこれは怪談なのだ。
世の中にオバケがいる。そいつは魔術師で、世界の敵で、しかし誰からも顧みられなかった。
あの死神さえも、彼を見逃した。何故ってそれは彼が愚か者だったからだ。

ただそれだけの……


180 : 痛い ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:38:08 lfU7cAfk0









浅上藤乃はかつて痛みを奪われた。
殴られようと、針で指を指そうと、何も感じることができない。
そうしているうちに、世界がどこにあるのか、実感できなくなった。

こつ、こつ、と杖で道を確かめながら藤乃は街を歩いていた。
頭上には澄み渡る空があり、様々な人が行きかっている。
紅い月に惹かれてやってきた街は、一見して彼女の知る街と変わらなかった。
彼らの存在を何となく把握しながら彼女は歩く。視力は大分落ちてしまったが、それでも視えない訳ではなかった。

「魔術師さん」

歩きながら、藤乃は話しかけた。
すると『なんだい』と声だけが響き渡った。
しかし彼女の周りには誰もいない。魔術師と呼ばれた人間は、どこにもいなかった。

「さっきのアイス、美味しかったです」

だが彼女はそう話しかけるのだった。
視えない筈の彼女には、しかし彼の存在を感じ取ることができたのだった。

『そうかい、そいつは良かった。
 君は茫洋タイプだからね。どんなアイスがいいのか具体的な答えがない……』
「茫洋……ですか」
『そうだ。痛みに鈍感か、そうでなければそもそも痛いってことがどういう訳か分からないタイプだね。
 ……玲や仁と一緒だ』

魔術師は滔々と語る。その声色は陽気なものだったが、しかしどこか寒々としたものがあった。
つらく哀しい、しかし決して忘れることのできない、とうに過ぎ去ってしまった思い出を語る時のような、一抹の寂しさがそこにはあった。

藤乃はそこにいる筈の彼と共に歩きながら、その言葉を考えた。
痛み、と彼は言った。
鈍感か、さもなくば痛みが分からない。そう彼は分析したのだ。

……それは事実的を射ていた。
つい最近まで、藤乃は痛いということは知らなかった。
世界と自分を繋ぐ痛みという架け橋を、彼女はずっと見失っていた。

痛いから、自分がここにいると分かる。世界がそこにあると分かる。
それを知らなかった藤乃は、痛みを取り戻したとき、罪を犯した。
痛い痛い痛い――それが愉しかった。
初めてのことだったから。痛みというものが分かっていなかったから。

今でも、世界に痛みが広がるようになっても、それは変らなかった。
じんわりと掴むことができている。しかし、戸惑ってもいる。

――そう。私は、茫洋としているのですか……

でも、痛みはある。
それを魔術師は言い当ててくれた。

『うんうん、とにかく気に入ってくれてよかった。
 アイスなら何時でも作ってくれるからさ。好きな味を言ってくれよ』

……そう無邪気に言う彼の姿は視えない。
見るだけでなく、視る――藤乃の異能の感覚を持ってしても、その姿を見つけることはできなかった。
陽気で、そして哀しい道化師の姿はどこにもない。

いや彼は絶対にどこかにいるのだ。
しかし、目を背けてしまう。
何故って、それは……

「痛いから、なんですよね」

ぽつり、と藤乃は言った。
痛い。痛いから、人は魔術師を認めることができない。

痛み。それが――キャスター・ペパーミントの魔術師の起源。

人の痛みを我が物とし、痛みと同化する能力――人は痛いということを直視できない。
痛みの起源に覚醒した彼は、もはや誰の目にも止まることはない。皆が皆、痛みからは目を背けてしまうから。
かろうじて自分が彼の存在を掴むことができるのも、マスターとサーヴァントという関係があるからだ。
そしてきっと、藤乃の痛みがとてつもなく茫洋としているからだ。


181 : 痛い ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:39:03 lfU7cAfk0

「魔術師さんは、痛いからアイスクリームを作っているんですよね」

それを分かった上で藤乃は魔術師に声をかけた。
彼の姿を探した。ともすれば見失ってしまいそうになる彼を、求めた。

彼のアイスクリームは、痛みを癒す。
痛いということを、かちん、と凍らせてしまう。
それは痛みに苛まれている人にとって、この上ない救いだろう。
だから求められたアイスクリームを、彼は作るのだ。

『僕は……』
「分かっています。でも、魔術師さんは――十助さんは本当は違うんですよね」

痛みを癒す。
凍らせて、アイスのように柔らかなものに包み込んでしまう。
そういう起源を、彼は生まれて持った。

……しかし逆なのだ。
彼自身は寧ろ正反対のことを望んでいた。
痛みを凍らせることは、結局逃げることでもある。
それは確かに心地いいかもしれない。痛いということを恐れ、忘れてしまえば、それではもう何もできなくなる。
痛みは心の中にあるのに、それからずっと顔を背けて、ただただ曖昧に笑う。
そんなことを、彼は望んではいなかった。

彼は何時だって――痛みと向き合って欲しいと、そう願っていた。
痛みをちゃんと視て欲しい。痛みをほったらかしにするのではなく、痛みを感じること。
その想いを胸に、彼はずっと、ずっとアイスクリームを作ってきた。
だって彼には痛みが分かったから。

……痛みをこの世から取り除ける力を持った人が、その実誰よりも痛みを大切に思う人だった。
言ってしまえばそれだけの、ボタンを取り違えたかのような、おかしな運命だった。

『藤乃はさ』

不意に彼は口を開いた。

『痛くて、痛みがあって、よかったと思うかい?』

そう問いかける彼の胸の中は、果たしてどんな想いがあったのだろう。
栄光も没落も、父親も友人も、過去も未来も、全て消え失せ、最後には死神――世界の抑止力からも忘れ去られた。
そんな彼は、それでもアイスクリームを作っている。
不意に人が痛みと向き合う時、彼はオバケとなって浮き上がる。

それは哀しくて、きっと、とても痛い――

「私は」

藤乃は立ち止まり言った。
彼女の視界は暗い。ほとんど何も視えはしない。
それでも、そこにある筈の痛みと向き合った。

「痛みが良く分かりません。茫洋としているから。
 でも痛いから、世界にいることができる。
 だから、私はいま痛いんだと思います。その痛みは、きっと大切なものなんです。
 もしかするとそれは黄金(きん)の色をした……」

そういったとき、

――不意に魔術師の姿が視えた。

緑の肌に涙のメイクという
妙ちきりんでヘンテコな、おかしな道化師だった。
それはアイスクリームがたくさんつまったクーラーを抱えていて、藤乃を見つめている。

彼は笑っていた。
涙のメイクを施し、泣きそうな顔をしながらも、しかし陽気に笑おうとしていた。
それが何とも、歪で、哀しくて、それでも彼は笑っているのだった。

「いるかい?」

そう言って彼はカップを差し出した。
その姿は何時かまた消えてしまうだろう。痛みをずっと見ていることなどできない。
彼の姿も柔らかに消え失せていく。


まるでアイスクリームのように……


182 : 痛い ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:39:30 lfU7cAfk0


【クラス】
キャスター

【真名】
ペパーミントの魔術師@ブギーポップシリーズ

【パラメーター】
筋力D+ 耐久D 敏捷B+ 魔力A 幸運E− 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
・道具作成(アイスクリーム) A
アイスクリームを作る。
彼はアイスクリーム作りの天才である。

・陣地作成(アイスクリーム) A
アイスクリーム作りに適した環境を作り上げる。
露店からフランチャイズまで、その形態は多岐に渡る。

【スキル】
・人間観察:A+
人々を観察し、理解する技術。
一目会っただけでも、その人物のアイスクリームの好みが何となく分かる。
……それは心の歪みをを花として捉える能力に似ていた。

・ホッパー B
瞬間的に筋肉を倍加させる。
その気になれば驚くほどの速さで駆けることができる。

・ミッシング A−
宝具により、誰からも認識されなくなり、忘れられる。
同ランクの『気配遮断』と『情報抹消』の効果を得ることができる。
更にこのスキルにより付与された『気配遮断』は攻撃態勢に移ってもランクが落ちない。
これにより彼は誰からも忘れられる。ただしサーヴァントとして記録されている以上、聖杯戦争においては一時的に存在が浮かび上がることもある。
また人としての痛みを知らない存在には機能しない。

【宝具】
『そのアイスクリームは、痛い(ペパーミントの魔術師)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
魔術師の作るアイスクリームは絶品である。
たとえ甘い物が嫌いでも彼のアイスクリームを前にしては涎を垂れ流すだろう。
人によっては「生きてて良かった」だなんて思うかもしれない。
美味しい美味しいアイスクリーム……それが彼の宝具である。

……魔術師の作るアイスクリームは人の痛みを消す。
生きている限り誰しもが抱え、どんな人間も目を背けざるを得ない、かといってそれで逃げることができた訳ではない。
その痛みを、彼のアイスクリームを食べたものは消すことができるのだ。

結果として、彼のアイスクリームを食べた者は誰も傷つけなくなる。
痛みを恐れ、誰の心にもお互い触れ合わなくなり、あらゆる努力が消失する。
そうして穏やかに世界は終わる。『世界の敵の敵』である死神をして最大級の世界の危機と言わしめた能力である。

――故にどれだけちっぽけでも、どれだけ穏やかでも、この宝具は対界宝具なのである。

『運命の失敗作(きつかわとすけ)』
ランク:E− 種別:対人宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:1000人
軋川十助はアイスクリームを作るのが好きだった。
誰に頼まれるでもなく、幼いころから彼はずっとアイスクリームを作ってきた。
職人としての栄光と没落を経ても、それは変らない。
その生き方、運命の中心となる力こそが十助のもう一つの宝具である。

彼は人の痛みを我が物とする能力を持っていた。
「痛み」そのものとなり、誰にも認識されないまま世界を殺すことだってできた。
彼の作るアイスクリームは人の痛みを癒し、結果として痛みごと消してしまっていた。

……しかし、実のところ彼は誰よりも痛みを分かって欲しいと思っていた。
それがアイスクリームを作り続けた理由であり、そこに込めた願いだった。
痛みを消す才能を持ちながら、彼の願いは全く逆のところにあったのだ。
なにもかもがまっすぐにはいかない。死神にさえ見逃される。そんな、運命の失敗作が軋川十助である。

――故にどれだけ恐ろしくても、世界を破滅に導きかねないとしても、この宝具は対人宝具なのである。


183 : 痛い ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:39:55 lfU7cAfk0


【人物背景】
出典は『ブギーポップ・ミッシング ペパーミントの魔術師』
統和機構の合成人間で「ノトーリアスI.C.E.」(悪名高い失敗作の意、I.C.E.はIncomplete Errorの略)と呼ばれる失敗作。緑色の肌をしていて血が青い。
経緯は不明だが、軌川典助に幼少の頃から保護されていた。彼の外見の問題から典助は自分の家の部屋から全く外に出さなかった(もっとも、このことは本人も納得していた)。

その為か世間知らずで子供っぽい性格だが、アイスクリーム作りには天才的な才能を見せる。
そこを寺月恭一郎に見込まれ、アイスクリームチェーンメーカーの社長になる。
その後、起きた様々事件を乗り越えたこと(事態に巻き込まれたようで、実際には彼の持つ「運命」の強さが全てを巻き込んでいた)で精神的に成長をみせた。
華奢な身体つきをしているが、その外見に反して驚異的な再生能力と怪力を備えている。
痛みという感情について強い拘りがあり、それを起因とした「人が自分自身で見ないようにしてきた心の痛みと同化する」能力を持つ。
これはシリーズの中でも最も強いMPLS能力の一つ。

ブギーポップは彼を”世界の敵”になりえる危険人物として監視していたが、彼に「世界に対して能力を行使する気が無い」ことを見抜き、彼を見逃した。
死神すら裁かれないという事実を知り、生まれて初めて心の痛みを知り、涙した。
それは彼が初めて流した涙だった。親しい者が死んでもどうすればいいのか分からなかった彼が、やっと涙することができた。

……その後世界にはまた一人オバケが増えたという。
どこかの街で誰かがヘンテコなメイクをした物売りからアイスクリームを買う。
それはとても美味しいが、はっ、としたときもうその物売りはいない。
ただ、それだけの話に……


【マスター】
浅上藤乃@空の境界 未来福音

【参加方法】
不明

【マスターとしての願い】
不明

【能力・技能】
・歪曲
その異能。その瞳を通して全てを凶げる
・現在視力は低下している。

【人物背景】
『空の境界』の登場人物。中ボス兼ヒロイン?
礼園女学院の生徒。黒桐鮮花の友人。荒耶宗蓮が両儀式のために用意した3つの駒の一人。
宗蓮曰く「死に接触して快楽する存在不適合者」。起源は「虚無」。
鮮花に「誰も憎まない娘」と評されるほど温和で穏やかな性格。
しかし、それは周囲に隠している無痛症によって外部の刺激および自らの身体を感じることができないために生への実感が無く、感情の抑揚そのものが乏しいためだった。
結果として、他者の痛みに共感する形でしか生への実感を得られなかったことで、感覚を取り戻した後は残虐に相手を殺して喜び・快楽を得るという暴走を招く。
視界内の任意の場所に回転軸を作り、対象の強度に関係なく“曲げる”能力「歪曲」の持ち主。作中では“超能力”として扱われているが、
藤乃の場合はある程度人為的な手が加えられているため、正確には魔術(魔眼)と異能(超能力)の中間。理論上は左右どちらか片方にしか曲げることができないが、
藤乃の場合は異能の回線を複数持つため、左右どちらにも曲げることができる。また、後述の理由・方法によって無理に能力を封じられていたことで、
より強大な能力へ発達させることになり、終盤では透視能力(千里眼)まで発現させ、橋の全景を視界に納めることで巨大な橋をもねじ曲げた。
しかし、橋を曲げた代償として失明している(原作中では明言されていない。作者は「そこで彼女は視力を失っています。橋壊しの代償として」と解説している。
また、『未来福音』において、視力はほとんど失ったと描写され、杖をついて歩く姿が描かれた。


184 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 16:40:10 lfU7cAfk0
投下終了です。


185 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:10:34 hlYrHn0s0
投下します。


186 : 真山徹&ホルダー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:10:59 hlYrHn0s0



 真山徹。立教大学卒。
 現職、刑事。階級、警部補。部署、捜査一課弐係。
 性格、粗野でいい加減。
 犯罪者を憎み、どんな事情を持っていたとしても犯罪者を憎悪する。
 相棒の名は、柴田純。

 そんな男が聖杯戦争に巻き込まれた。
 彼は聖杯ならば叶えられる強い願いを持っていたが、同時に、彼は殺人への憎悪も持ち合わせていた。
 それは刑事としてではなく、妹を殺された一人の人間として。

 妹が殺された。
 浅倉という男に輪姦され、殺された。しかし、奴は釈放された。
 そいつを捕まえたい。

 ……たとえ、殺された妹は蘇らないとしても。
 いや、蘇らないからこそ、真山は殺人者・浅倉を憎み、執着しながら生きてきた。

 浅倉が生きる部屋を監視しながら、浅倉に関わる事件を追い続けた。
 浅倉を憎む事が今の真山の生きがいであり、刑事としての人生とまでなっていたのである。

 刑事である真山は、妹が浅倉たちに輪姦される姿も、無残な死体も……捜査資料として何度も繰り返し再生した。
 その光景は、既に真山の脳裏で再生できるほど鮮明な物に、いつの間にか変わっていた。
 繰り返すうちに悲しみは癒え、代わりに憎しみばかりが日々強くなる。

 浅倉……お前を、殺したい。

 その憎しみもまた、否定はさせない。
 ゆえに、この聖杯戦争のゲームを──。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「ねぇねぇ、真山さーん」


 真山が呼び出したサーヴァントは、真山と同じく警部補という階級の女刑事であった。
 名前は、当麻紗綾。
 部署は、警視庁公安部未詳事件特別対策係。京都大学理学部卒。
 そんな経歴を聴くと、「英霊」という神々しさとは対照的で、厭に身近な存在に感じてしまう。
 いや、もうこれはれっきとした人間だ。真山と同じ、普通の血の通った人間に違いない。
 京都大学卒業、というキャリアが鼻につくものの、これがまた、例によって、「高学歴で警察に入った奇妙な女」という特徴の人物には真山にも心当たりがある。

 ……そう、真山の相棒、柴田である。ほとんど、この女は柴田の生き写しに近いと言っていい。
 特に、その臭いだ。およそ女性らしくない臭いを発し、たとえ美人でも生理的嫌悪を催す。
 柴田も風呂に入らない性格で頭が臭かったが、この女はそれを踏まえたうえで、にんにくの臭いがする。おそらく餃子を食べたのだろう。
 見てくれだけで言えば美人と認めざるを得ないが、実際に対面した男性の九割が不快感を催すと言っていい。

 柴田に紗綾と、こんな人間を持ってくるとは、警視庁も深刻な人材不足であるように感じる。それとも、人柄より学歴重視って奴なのか。
 しかし、それ以上に深刻な人材不足なのは、むしろ「英霊」という役職の方であろう。

 サーヴァントは、マスターの戦闘力を補う存在であるべきであるはずだ。
 このサーヴァントは、到底、マスターである真山の上を行く存在とは到底思えない。

 今のところ、真山がこの女に負けているのは学歴だけだ。階級も同じ、窓際部署なのも同じ、体力や身長においては真山の方が上だろう。
 ……何せ、この紗綾という女、左腕を怪我しているのか、ギプスで固定しているではないか。
 そんな有様で伝説の闘士たちと戦うのは難しい。
 世界には、英雄として伝えられる者は多数いたような気がするが、真山が思っているほど多くないのだろうか。


187 : 真山徹&ホルダー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:11:12 hlYrHn0s0

「真山さんもぉ、刑事なんすよねぇ〜」

「ああ、そうだが」

「じゃあ聞きますけど、捜査一課弐係ってどんな部署なんすか。教えて? 教えて?」

 作ったような微笑みで、しつこく聞いて来る紗綾。
 そんな姿に、言いようのないうざったさを感じながら、あからさまに嫌そうに皮肉を込める。

「未解決の事件を継続捜査する部署だ。警察の誰も手をつけなくなった時効間近の事件を捜査して、犯人を探す。
 こう見えても結構、解決したんだ。……それよりか、未詳事件特別対策係の方が遥かにヘンだと思うがね」

「ええ〜、どうしてですか」

「詳細不明の事件に特別な対策を施す部署、と書いて未詳事件特別対策係。そりゃ一体どんな部署だよ」

 真山は半分くらい興味がなさそうだが、皮肉の続きとしてそう答えた。
 それを言うなり、紗綾の方は嬉しそうに顔を歪めた。天使のような笑みだが、反面ではどこか邪悪にも見える。
 笑顔を作るのが下手な女だ。そこが柴田とは違う。柴田はもっと自然に笑う。こいつは自然に笑えない。

「聞きたい? 聞きたい?」

「あー、やっぱりいいわ」

「……チッ」

 紗綾は表情を変え、不快そうに舌打ちをする。不快なのは真山の方だ。
 しぐさ、臭い、それにこの舌打ち。……まったく、何もかもが不愉快な女である。柴田以上に可愛げがない。
 紗綾としては、よほど話したかったのだろう。しかし、紗綾は訊いてもいないのに続きを話し出す。

「未詳っていうのは、科学の常識を超えた超能力による不可能犯罪を解決する部署なんですよ」

「税金の無駄」

 ばさっと切り捨てる真山であった。特殊な部署である未詳の事を聞いても、全く動じない真山である。
 オカルトの領分としか思えない不可能犯罪なんかに税金を導入している暇があるなら、人員を一人でも増やした方がいいのではないか。
 変人ばかりの窓際部署や、この女を見ていると尚更そう思う。

「それが、そんな事もないんですよね〜。実際、こっちも弐係に負けないくらい活躍してますし」

「そりゃ良かったな。責任者の顔を見てやりたいね、一体どんな顔して仕事してんだか」

「それが、愉快なおじさんなんですよ。野々村さんって言って……」

 真山が顔色を変えたのはその時だった。
 野々村、という愉快なおじさんの刑事には、真山も一人心当たりがあるのだ。
 いや、そのくらいの共通項を持つ人間ならば数名いてもおかしくないが、刑事としての勘で妙に気になったのだ。

「あー……それちょっと待て」

 やっと、真山が本心から会話に参加する瞬間だった。
 しかし、野々村の下の名前がわからず、とにかく、野々村の特徴として思い出せるものをぱっと頭に浮かべ、その単語を乱雑に吐き出した。
 それが「野々村」であるなら、その言葉で伝わるだろうと思ったのだ。


188 : 真山徹&ホルダー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:11:32 hlYrHn0s0

「柿ピー」

「それ!」

「雅ちゃん」

「それ!」

「やっと議員になれたんです〜」

「それは違う」

「ゴリさん」

「うー、多分それ! ビンゴ!」

 そうした会話によって、ようやく話の輪郭が見えてきた。
 真山にとっても、だんだんと紗綾の話に興味が出てくるところまで来たようである。

「野々村光太郎さん、ですね」

「あー、それそれ! それだ」

「奇遇ですね。私の上司が、真山さんのお知り合いだなんて。同じ警視庁とはいえ、出来すぎだと思いません?
 それとも、そういう物なんですかね? 世界って案外狭いから」

 紗綾は笑った。先ほどより自然な微笑みだった。
 真山の方が、もう少し皮肉っぽく笑った。

「……ああ、まったく、奇遇奇遇。俺の部署の上司が、あんたの部署の上司でもあるなんて」

「ええ、英霊の特性上、私たちがいる時代はそれぞれ別であるかもしれませんからね。
 ちなみに真山さんが来たのは西暦何年ですか?」

「2000年」

「ブーッ、それブーッです。何故なら、私が来たのは201X年だから」

 近未来の数字を告げられてから、真山は溜息が漏れそうになる。
 とはいえ、聖杯戦争に連れて来られた身だ。非現実的でも受け入れなければならない。
 しかし、万が一ドッキリカメラだった場合を考えて、またも皮肉で返す。

「……つまり、あんたは未来人ってわけか。まるでドラえもんだな」

「真山さん、喩えが可愛いですね」

 真山が不快そうに睨むと、紗綾はニコッと微笑んだ。
 本当に、いつも空気の読めない不愉快な笑みばかり向けてくる。

「しっかし、警視庁は10年後も人事不足の税金泥棒かよ……」

「就職氷河期、少子化、汚職、SPEC HOLDERによる事件……日本も10年前と全然変わりませんよ。あっ、アメリカではでっかいテロとかも起こるんでご注意」

 遠くを見るような目で紗綾が懐かしんだ。
 紗綾の十年も、決して生易しい道ではなかったのだろう。
 その頃には、まだ紗綾には家族がいたのだから……。


189 : 真山徹&ホルダー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:11:53 hlYrHn0s0

「……ちょっと待て、SPEC HOLDER? 何それ」

「ああ、そっか。真山さん、前時代の人だからSPEC HOLDER知らないんだ。……ププッ。テラワロス」

 紗綾はノスタルジーを打ち壊し、いつもの調子になった。
 真山もこの女のノリには慣れ始めているはずだが、なおも腹が立つ。
 真山が何の反応も示さずに待っていると、すぐ不機嫌になって説明を始めるのだから、ある意味では扱いやすいともいえるが。

「SPEC HOLDERっていうのは、未詳が捜査する不可能犯罪を起こした使い手です。時を止めたり、未来を見たり、超人的な体力を持っていたり、まあ要するにそういう超能力者の事ですね」

「は? え? 何? 10年後にはそんな奴らがいるの?」

「ええ。いるんすよ、どういうわけか」

「……マジかよ」

 不可能犯罪、という言葉は、真山の中であの「浅倉」と結びついた。
 もしかすれば、彼もそのSPEC HOLDERなる犯罪者だというのではないだろうか。
 浅倉は他者の人格と入れ替わり、他人の精神をマインドコントロールできる犯罪者、というところまで来た。
 それが人間業でない事は真山も承知の通りである。
 そんな犯罪者が更に増えてしまえば、真山のような凡人警察にはお手上げだ。

「まあ、SPEC HOLDERみたいなのはこの聖杯戦争にもウジャウジャいますからねー。今の内に耐性つけといた方が将来的にも良いですよ、絶対」

「やだね。一生関わりたくないぜ、本当に」

「……そうっすか。やっぱりそうっすよねぇ〜」


190 : 真山徹&ホルダー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:14:37 hlYrHn0s0




【クラス】
ホルダー(エクストラ)

【真名】
当麻紗綾@SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力C 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
SPEC:A+
 「SPEC」と呼ばれる超能力を使用する事ができる。
 彼女の能力は、「死んだSPEC HOLDERを呼び出す」という物であり、作中では最強のSPECであると言える。
 現時点では、少なくとも「翔」までに死亡したSPEC HOLDERは呼び出せるはず。

【保有スキル】
奇人:B
 常人では考えられないような行動を平然と行うスキル。
 ほとんど一般常識とかけ離れた行動を取り、周囲の目を気にしない。空気が読めないとも言う。
 このスキルの代わりに、天才的な頭脳を有し、特に理学方面と語学方面に秀でている。
瞬間記憶:B
 一度見たものを完全に暗記するスキル。
 パソコンをスクロールしながら、その内容全てを把握する事ができるレベルである。
名推理:B
 難解事件を推理する超天才的な頭脳。
 事件内容を「書道」で纏める事で強く発揮される。

【宝具】
『封印されし左手(スペック)』
ランク:A 種別:対人 レンジ:1〜5 最大補足:1〜10
 左手を解放し、過去に死亡したSPEC HOLDERを地中から引きずり出す事が出来る宝具。
 あらゆるSPEC HOLDERと親しくなっていった「絆」の力であると言われる。
 死者は地面に沈んで死後の世界へと帰っていくが、呼び出した当麻が意識を失った場合はその場から消える。
 SPEC HOLDERの協力を得られなければ能力は無意味である。

【Wepon】
 キャリーバッグ(書道道具や捜査資料入り)

【人物背景】
 警部補。警視庁公安部未詳事件特別対策係(通称:未詳〈ミショウ〉)捜査官。IQ201。
 超能力者SPEC HOLDERの一人で、その左手を使って死んだSPEC HOLDERを呼び出す事ができる。
 高い頭脳で事件を解決していくが、性格に難があり、がさつで口が悪い。
 最終的に映画ではなんだかよくわからない事になり、先人類と戦ったり、無間地獄を漂ったりという、和製ドラマにしてはやたら規模のデカい話に発展した。

 「ホルダー」はサーヴァントでありながら、「複数のサーヴァントを呼び出す」という宝具を持ち、マスター同様人間として生活する。
 彼女が呼び出すSPEC HOLDERは全てサーヴァントとして扱われる(ほとんどのSPEC HOLDERは大した能力ではないが……)。
 おそらく、真名を用いて生活しながら、真山と同じ部署に転属されているだろう。ただ、今のところ自らがSPEC HOLDERである事を真山に積極的に話す事はない。

【願い】
 不明。





【マスター】
真山徹@ケイゾク

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争の真実を解明する。

【能力・技能】
 警部補としての装備と権限を有する。

【人物背景】
 警部補。捜査一課弐係(通称:ケイゾク)の刑事(主任)。
 浅倉裕人に妹を輪姦されて殺されるが、未成年で証拠不十分だった為に無罪放免となった過去を持つ。
 それゆえ、犯罪を強く憎み、毎回犯人に対して、精神攻撃や暴力で追い詰め、過剰な正義感を振りかざす。
 ある意味気持ちの良いくらい粗野でぶっきらぼうな男だが、根はやさしく、柴田純をはじめとする周囲の人間には本人なりの信頼を向けている。

【方針】
 不明。


191 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 17:14:51 hlYrHn0s0
投下終了です。


192 : ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 17:59:51 o4CRTgic0
投下します。


193 : 島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 18:01:09 o4CRTgic0

――彼女は、爆弾のスイッチを握っている。




  *   *   *




「……え、ええと、それで私はその……聖杯戦争というのに巻き込まれた、っていうことでいいんですよね……」
「ええ、そういうことになります」

ムーンセルという超常の存在は現代東京のありとあらゆるものを模倣した。
街を往く人々、雑多な建物の数々……無数のオブジェクトをそれこそ塵一つすら完璧に再現していた。
その内の一つであるチェーン店のコーヒーショップに一組の男女の姿があった。
年の頃はどちらも10代の中頃。
一見仲睦まじいカップルのようだが2人の間にいわゆる甘い空気はなく、特に少女の方は今にも倒れそうなほどに顔を青ざめさせている。

「……そ、その……でも……信じないわけにもいかないですよね……」

少女――島村卯月は震える手で目の前のアイスコーヒーを手にとった。

卯月の記憶はある瞬間を境に断絶している。
いつもどおり事務所でレッスンをこなした帰り道、彼女は何の気なしに夜空を見上げ、――そして血のように紅い月を目撃したその瞬間、彼女の世界はまるでドラマや映画のように唐突に切り替わった。

先ほどまで夜だったにも関わらず上空には燦々と太陽が輝き、周囲もいつの間にか人通りの多い大通りへと変化していた。
レッスンで疲れすぎて夢でも見ているのだろうか……最初はそう思ったが夢にしては周囲の様子はあまりにもリアル過ぎた。
更にその混乱に拍車をかけたのが、今現在対面に座っている赤毛の少年である。
彼は自身のことを"ライダー"と名乗り、卯月のことを"聖杯戦争のマスター"だと告げたのだ。


……当然のことながら卯月の混乱は更に加速した。
なにせ卯月は平和な世界に生きていたのだ。
いきなりサーヴァントや聖杯戦争といった単語を出されても『はいそうですか』と理解できるはずもない。
精々が『いつかはそういうTV番組や映画に出るのかな』と想像していたくらいだ。
だからこれも最初は何かのトリックで、ドッキリのようなものだと疑ってかかったのだ。

だがそんな卯月に対しライダーは証拠と言わんばかりに彼女を抱えたままビルからビルへと跳躍した。
宙に浮く感覚や風をきる感触はあまりにも現実的で、しかし起こっている状況はあまりにも非現実的で、彼が人間でないことを理解するのには十分であった。
だがそれを認めるということは彼の言葉を信じるということだ。
つまり、ここが本物の東京ではなく、更に言うならば聖杯戦争――マスターたちが望みを賭けて行われる殺し合いの舞台だということを――

そして混乱する頭を落ち着かせるために適当な店で腰を落ち着け……そして現在に至る、という顛末である。


194 : 島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 18:02:22 o4CRTgic0
「それでこれからのことですが……まずは今後マスターがどうするかを決めたほうがいいと思います。
 お聞きしますがマスターには何か"望み"はないのですか?」
「それは……あるにはありますけど……その……聖杯に望むものじゃないかなーって……」

"トップアイドルになる"という願いはあるが、あくまでそれは自分の手で叶えるものだ。
それに当たり前の話だが……それは決して人を殺してまで求めるものではない。
と、そこで卯月はライダーの話の違和感に気づく。

「あれ……でもさっきの説明だとライダーさんにも"望み"があるんですよね?」

だとしたらこの少年はその望みのために……人を殺すのだろうか。
その考えに至った卯月の背中を冷たい汗が伝った。
だがそれに対するライダーの返答は意外なものだった。

「……いえ、僕には聖杯にかける望みはありません。そういうサーヴァントなんだと思ってください」
「え……?」

その返答事態も意外なものだったが、何よりもライダーの態度に卯月は違和感を感じた。
今まで自分の質問に対し流暢に説明してくれていたライダーが一瞬戸惑ったように見えたのだ。
だがライダーはそのことについて追求しようとするよりも早く言葉を繋ぐ。

「……ああ、望みがないからといって心配しなくてもいいですよ。
 僕は全力であなたを守ります……サーヴァントとしてね」
「ふぇっ!?」

真正面から目を見て『君を守る』なんて、今どき少女漫画でも見ないシチュエーションだ。
そんな場合ではないとはわかっていても、どうにも照れくさくなって変な声を上げてしまう。
熱くなった頬をごまかすように卯月は立ち上がった。

「じゃ、じゃあとりあえず……その、協力できる人を探して元の世界に帰るって方針で行動しましょう!」
「マスター、それは危険です」

だが対するライダーは卯月の判断を否定する。

「ここはもう既に殺し合いの場所です。
 あなたにそういう気持ちがなかったとしても相手はきっとそうは思ってくれないでしょう。
 それよりも……協力できるなんて考えずに、どう生き残るかを探した方がいい」
「……それは、きっと違うと思います」

卯月は怯えながらも、まっすぐにライダーの目を見つめていた。
その目には先程までと違い、弱いながらも、確固たる意志があった。

「たった2人だけじゃ……そのきっと同しようもないことだって起きるって思うんです。
 でももっと沢山の人の支えがあればきっと……どんなことだって出来るって……その私は思うんです」

――島村卯月は色々な人に支えられている。

プロデューサーさんやちひろさん、凛ちゃんや未央ちゃんを初めとした事務所の仲間や仕事で出会う色んなスタッフ、それに両親や学校の友人……彼ら皆に支えられてアイドルをやっているのだ。
もちろんここが危ない場所で、世の中には悪い人間がたくさんいることも知っている。
でもそれを否定することは今までの島村卯月を否定するみたいでどうしても出来なかった。

「それに……その、本当に危ない時は……ライダーさんが私を守ってくれるんですよね?」

自分で言って少し芝居がかったセリフだったかな、と思い、また照れくさくなって少し頬を赤くする。

「ええ、前にも言いましたけど僕はあなたのサーヴァントですからね。
 ……わかりました。マスターがそう言うのであればその方針に従ってあなたを守ります」
「あ、ありがとうございます、ライダーさん!
 それじゃあ……島村卯月、頑張ります!」

笑顔を浮かべ、気合を入れなおす卯月。
それは今にも折れそうな自分を鼓舞するための必死の笑顔。
そう、落ち着いてきたとはいえ、未だ彼女は混乱の中にあった。
……だから気づくことが出来ない。
その笑顔を見たライダーの表情が僅かに歪んだのを。


195 : 島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 18:02:59 o4CRTgic0
   *   *   *


(……すまないマスター。だけど僕の願いを叶えるにはこうするしかないんだ)

ライダーは一つだけ嘘をついた。
それは彼に『確かな願いがない』という嘘だ。
それを彼女に伝えなかった理由は一つ。
"願いを伝えないこと"こそが、彼の望みに繋がるからだ。

――何故ならばライダーの望みは、"人類をもう一度試すこと"。

かつて生前のライダーが目にした人の本性は"悪"だった。
どんなに取り繕っていても窮地に陥れば保身に走り、他者を疑い、憎しみをぶつけあう醜い獣。それこそが人間の真実の姿だ。

『地球人に対するそんな考え方は捨てろ! 地球人は環境によって悪鬼に早変わりするんだ!』

一度は否定したかつての仲間の言葉にも、今ならば頷くことができる。
それほどまでにライダーの見た彼らは浅ましく、醜かった。

(――だが、それでは彼女は何だったのだ?)

ライダーの脳裏に浮かぶ黒髪のシルエット。
身元もわからない自分に親切にしてくれた彼女たちとは激しさを増す戦いの中で距離を取り、2度と巡りあうことはなかった。

『しかし驚いたな。よくこれだけ戦争をしていますね』
『そうね。昔は戦争ばかりしてたようね。でもそれは昔の話、今は違うわ。
 戦争というものがどれほどおろかな行為かみんな知ってるわ』
『それに残忍なことも平気でやっている』
『平気でやったのじゃなく、その人達が考え違いをしていたのよ。
 だからそれがわかった時、こうして非難をこめて書き記されているのよ』

かつて彼女と交わした会話がリフレインする。
わかっている。そんなのは上辺だけの、人類が長い歴史の中で続けてきた唯の言い訳にすぎない。
だが、だとしたら彼女たちの優しさもまたまやかしだったのだろうか。
最後の瞬間、彼女たちもまた浅ましい獣へと姿を変えたのだろうか……?

(……そうは、思いたくない)

それは心を埋め尽くす絶望の中で感じた、割り切れない何か。
全てを吹き飛ばした最後の瞬間、心の奥底に残ってしまった感傷。
だが決して無視できないそれはライダーの中でくすぶり続けていた。
だからこそライダーは聖杯に問うた。
『かつて地球を滅ぼした自分の行動は間違っていたのか』――その真実を。

(……そして僕はここに呼ばれた。ならば、そういうことなんだろう)

聖杯戦争という"窮地"において、目の前の少女がどのような決断を下すか。
それに出会うであろう他のマスターたちがどのような願いを抱いているか。
それらを通じて、人という生き物を再び見極める事……それこそが答えだと聖杯は判断した――この状況をライダーはそう解釈した。
故にライダーは自分の望みをマスターに伝えない。真実をより正確に見極めるために。

目の前の少女は特殊な生まれもなく、特殊な力も持たないどこにでもいる少女だ。
かつての『彼女』とはまったくタイプが違うが、同様の優しさを持っているように見える。
だからこそ彼女に判断を委ねることにライダーとしても異論はない。
この聖杯戦争の果てに待つのは"やはり"という諦観か、"もしかして"という希望か。

その思考を打ち切るように2人の間を一陣の風が駆けていく。
風に吹かれ、ライダーの燃えるような赤い長髪がなびく。
血のような、炎のような、火星(マーズ)のように真っ赤な髪が。



――彼女は、爆弾のスイッチを握っている。


196 : 島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 18:03:20 o4CRTgic0

【クラス】
 ライダー

【真名】
 マーズ@マーズ

【パラメーター】
 筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運E 宝具EX

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
・騎乗:D
 乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

【保有スキル】
・怪力:B
 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
 一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は「怪力のランク」による。

・神性(偽):C
 生前、神のような振る舞いをしたものが会得できるスキル。
「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果があるが、実際の神性よりも効果は劣る。
 かつて世界を滅ぼしたライダーは破壊神の一種として擬似的な神性を持ち合わせる。

・単独行動:B
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Bランクならば、マスターを失っても2日は現界可能。

・戦闘続行:B
 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 人造人間であるライダーは、高い戦闘続行能力を持つ。

・心眼(真):C
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 ライダーは戦闘経験こそ少ないものの、極めて高い学習能力を持ち、その能力を十全に活かすことができる。

【Weapon】
・人間離れした身体能力
 その腕力は岩を砕き、その足は疾風のように大地を駆けることができる。
 また髪の毛を硬質化させ、針のようにして飛ばすこともできる。

【宝具】
・軍神よ、光の力を振るえ(ガイアー)
 ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜300 最大補足:300
 ライダーの念波によって操縦される巨大ロボット。
 四肢はあるものの磁気を操ることで浮遊し、格闘戦を仕掛けることは滅多にない。
 だが特定の物体だけを引き寄せる引力光線、あらゆる攻撃を遮断するバリアー、一撃で物質を消滅させる光子弾と呼ばれるエネルギー弾を全方位に向けて発射可能であるなど、極めて高い戦闘能力を持っている。
 その戦闘能力は現行兵器では歯が立たず、同じ文明の六神体ですら一蹴するほど強大なものである。
 だがその強大さ故に魔力消費量も非常に大きくなっている。

・業火よ、裁きの日を呼べ(ガイアー)
 ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:∞ 最大補足:7,000,000,000
 "軍神よ、光の力を振るえ(ガイアー)"に内蔵された爆弾。
 アルティメットワンごと惑星を破壊する究極宝具にして全てを破壊する特攻宝具。
 星の加護を受けたものに対し、∞の追加ダメージを負わせる効果を持つ。
 ライダーはかつてこの宝具を発動させ、太陽系第三惑星を破壊した。
 ライダー自身の命が尽きる、すべての六神体を破壊する、ライダーの意志で発動させるなどの一定の条件を満たすと発動するが、救世主(セイヴァー)としての現界ではないため、この宝具は使用不可能である。

【人物背景】
人類の凶暴性を危惧した宇宙人が地球を破壊するために作った人造人間。
火山活動の影響で誤作動を起こし、予定よりも100年早く目覚めてしまう。
だが親切な親子と接触した彼は人類を絶滅させると言い放つ同胞に反旗を翻し、長い戦いの末にすべての六神体を撃破する。
しかしその直後に彼が見たのは互いに争い、血を流し合う醜い獣(にんげん)たちの姿だった。

「コレガ人間カ、ナントイウ醜イ姿ダ、自分ハ何故コンナ生物ヲ守ッテキタノダ」

人類に絶望したマーズはガイアーに内蔵された爆弾を発動させ、地球を破壊した。
そして物語は終局を迎える。
――しかしかつて彼が人を信じたのもまた真実の一片である。

なおかつて滅びによる救済を行ったため、エクストラクラス・救世主(セイヴァー)としてのクラス適性も持ち合わせる。
その場合は"業火よ、裁きの日を呼べ(ガイアー)"が常時使用可能であった。

【サーヴァントとしての願い】
人間が滅ぶべき存在かどうかをマスターを通じて見極める。


197 : 島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 18:04:16 o4CRTgic0



【マスター】
島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
直接的な願いはなし。
強いていうなら元の世界に帰りたい。

【weapon】
なし

【能力・技能】
・アイドル
 ……が、アイドルとしてはまだまだ駆け出しもいいところ。
 ダンスや歌唱力などはまだまだ発展途上……ではあるが、アイドルとしての潜在能力は極めて高い。

【人物背景】
トップアイドルを目指す駆け出しアイドルの一人。
「頑張ります」が口癖で、どんな時でも明るい笑顔で憧れのトップアイドルを目指す普通の女の子。
……なのだが『努力する』という一点については普通以上のものを見せる。
またカードイラストも笑顔のものが多く、その笑顔には多くの人達に力を与えている。


198 : 島村卯月&ライダー  ◆HQRzDweJVY :2015/01/25(日) 18:04:33 o4CRTgic0
以上で投下終了です。


199 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:28:57 lfU7cAfk0
投下乙です
自分も投下します


200 : ヨスガの縁 ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:29:43 lfU7cAfk0

夜の街。
そこは騒々しくも平和が保たれているはずだった。

……しかし、そこはまるで嵐が通った後のようだった。

「ああははっははははは!」

多くの血が流れていた。
数多くの死体ががあった。
ある者は脳を潰され、ある者はその身体を裂かれ、ある者はその肉片がぐちゃぐちゃに飛び散ってしまっている。

それは何の罪もない人間であった。
たまたまそこに居合わせただけの、単なる一般人。
しかし彼女にとって、そんなもの塵芥に等しかった。

「馬鹿ねえ、馬鹿ねえ……そんな力で、そんな弱々しい力で、生き残ることができると思っていたの?」

……その中心に、多くの鮮血と骸を踏みつけながら、彼女は居た。
彼女は、アーチャーはその手になにかを持っている。
身体中を殴打され、時節ぴくり、ぴくり、とその身を震わせるそれは、サーヴァントだった。

「本当に思いあがったサーヴァント! 
 そんな力で聖杯を! 世界を変えようとしていたの?
 記録される価値のないゴミみたいな力で!」

その罵倒と共に彼女は己が敵を殴りつけた。
何度も何度も何度も、彼女は殴打した。どん、とか、ばん、とか鈍い音が路地裏に響き渡る。
笑い声に重なる様に響くそれは、どこか滑稽なものがあった。

「馬鹿。どうしようもない屑。こんなものが英霊だなんて、笑わせるわ。
 力がない者、喰われるだけのもの、生きてる価値なんてないのよ。分かる?」

そう吐き捨てるように言って、彼女はサーヴァントを放り投げた。
それは綺麗な放物線を描き、鈍い音がしたかと思うとごろごろと転がって誰かの死体と重なった。
泥にまみれて情報の海に沈んでいくその姿は、まるで塵のようだった。

「あははははは! 力がないこと! 夢を見たこと! そして生きていること!
 その全てが貴方の罪よ。弱者は泥に還るがいい!」

そう言って彼女は再び哄笑した。
けたけた、とタガが外れたように笑っていた。


201 : ヨスガの縁 ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:30:07 lfU7cAfk0

「…………」

峰津院ヤマトはその凶行を冷めた目で見つめていた。
聖杯戦争に赴き、そして与えられたアーチャーのサーヴァント。

その真名はベル・アバター。

かつて唯一神に打ち倒された古き神の一柱。
引き裂かれたベル/バアルの力の破片の化身。
『ヨスガ』と名付けられた、弱肉強食のコトワリを啓いた者。
ヤマトが呼び出したのは、そんな魔神であった。

彼女、と呼ぶべきだろう。
白く禍々しいその姿は僅かに女性の面影が在り、甲高い声色も女性のそれだった。
とはいえそれはもう、明らかに人間ではなかった。
弱者をいたぶり、力なき市民など顧みず、己が敵を屠るその様は――悪魔と呼ぶにふさわしい。
最も、ヤマトにとって悪魔など使い慣れた道具であったが。

「おい」

この場に残ったもう一人の生者に声をかけた。
でっぷりと太った男ががくりと跪いている。彼こそ、今しがたサーヴァントを失ったマスターである。
彼は自身のサーヴァントがなすすべもやられたことが信じられないようだ。
放心し、だらしなくその口を開けている。

おい、ともう一度言い放つと、男はびくり、としてヤマトを見上げた。
ただでさえ醜いその顔が、汗と涎がさらに醜くなっている。
その瞳の奥には恐怖が滲んでいた。
ヤマトは冷徹に言い放った。

「お前は魔術師としてそれなりの力があるようだが、その力を俺に役立てる気はあるか?」

と。
男は言われたことが分からなかったようだが、が、それが生きるための一縷の望みであることに気付くと、「はい! はい!」と大仰に頷いた。
まるで犬だ。ヤマトがそう思っていると、後ろから鋭い声がかけられた。

「マスター。それは本気で言っている? 
 そんな薄汚い、さして力もない塵を使おうと?」

私は厭、と彼女はサディスティックに言い、その巨大な手を男の身体に向けた。
男がひっ、と声を上げる。汗が飛び散り、がくがくとその肩を震わしていた。
震わしながらも、彼はヤマトに頭を下げていた。汚い地べたに額をこすり付け、何とかして彼に取り入ろうとする。
ヤマトは平坦な声色で、

「どんな者であれ力があるのならば登用しよう。私は差別はしない。
 役立つのであれば迷いなく登用する。必要なのは実力だけだ」

そう言い放った。
男の顔が歪む。顔の皮膚がぎゅるると皺くちゃになる。
それはあまりの恐怖ゆえに笑みさえも歪んでいた。

そうして灯った希望を――

「だが、お前は駄目だな」

――ヤマトはその一言で切り捨てた。

はっ、と妙な声が漏れた。
それは男が漏らした声だった。何が何だか分からない。そんな感情を表しているかのような、場にそぐわない滑稽な音だった。


202 : ヨスガの縁 ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:30:37 lfU7cAfk0

「お前の能力は確かにそれなりの見所はあった。さして優れている訳ではないが、劣っている訳でもない。
 この状況だ。場合によっては、使ってもよかった。
 だが――お前は豚だ。何の意志も持たない。強者のおこぼれをもらうことしか考えていない、屑で愚鈍な、豚だ。
 いっそ私に突きかかって来るなり、敵意を滲ませるなりすれば、まだ考えた。
 だが、お前は駄目だな。見るべき価値は一切ない。こびへつらうだけの豚は――屠殺されてしかるべきだ」

そう言い放つのと、男の顔が絶望に歪むのは、同時のことだった。
そして次の瞬間には、男の身体は弾け飛んでいた。
豚は赤い塵になり、そして泥となり消えていった。

「あはははははっ! 世界はかくあるべき。
 弱肉強食。弱きものに生きる価値はない!」

アーチャー、ベル・アバターは哄笑している。
それを無言で見つめながら、ヤマトは今後について考えた。

彼が望むべき実力社会の実現。その創世の為に、彼は聖杯戦争に赴いた。
手に入れたカードは、なるほど中々強力なようだ。
これならば当面の戦力は問題あるまい。

寧ろ問題は――アーチャーの気質か。
弱肉強食を重んじ、集団に属しながらも個人の力を最上とする彼女は、その有り様が『単独行動』スキルで最も適合したアーチャーのクラスで現界した。
彼女にしてみれば、NPCなど塵と同じだ。気にする気など一切ないのだろう。
ヤマトもそれは同じだが、ルールに触れる可能性がある。
具体的にどのようなシステムが用意されているかは不明だが、あまり殺させると不都合がありそうだ。
単独行動スキルと併せて、如何に彼女を御するかが今後の課題になりそうだった。

ヤマトは冷静に今後について考える。
既にその頭には、今しがた死んだ男のことなどきれいさっぱり忘れている。
無駄なものにリソースを裂く必要はないし、気もない。

実力主義の美しい世界を創り上げる為、ヤマトは紅い月に惹かれた。
その縁<ヨスガ>が呼んだのは、魔神の力を孕んだ少女。
彼らにとって、力以外は何の意味もないのだ。


203 : ヨスガの縁 ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:30:53 lfU7cAfk0

【クラス】
アーチャー

【真名】
魔神ベル・アバター(橘千晶)@真・女神転生3 Nocturne

【パラメーター】
筋力A 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A+

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
・対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

・単独行動:A+
魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
このランクならば一週間、あるいはそれ以上現界可能。
ヨスガは個人の力を重んじる為、賛同する全ての悪魔がこのスキルを携えている。
コトワリを啓いた本人である彼女は最高ランクのものを持つ。

【スキル】
・魔術 A
ゴズテンノウの精を受けた彼女は魔術を操る
破魔系を中心に強力な魔術を放つ。

・汚れ無き威光
魔神としての力。
幸運判定に成功すると、相手の体力を現在の半分にする。

・獣の眼光 A
魔神としての力。
行動ターンを最大2ターン多くする。

・魔王の号令 -
配下の仲魔を召喚するスキル。
が、このクラスでは使用することができない。

【宝具】
『バアルの呪い』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:10人
千晶がその身に宿したベル(バアル)の力。
強者のみが生きる“ヨスガ”のコトワリに応じたバアルの力である。
神話に伝わりし、混沌の軍勢と戦い王権と結びついた魔神の力をその身に受けている。
数々のスキルを得るほか、その幸運に判定成功すると相手をFLY(蠅)にしてしまうことができる。

『縁<ヨスガ>』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
千晶が開いたコトワリ。
強者のみが生きる価値がある。弱肉強食にして徹底的な実力主義。
しかるべき場所にこのコトワリを解き放つことにより、世界を創世することができる。


【人物背景】
『真・女神転生3 Nocturne』のヒロイン……ではない。
元々は何の力もない、勝気なお嬢様だった。
東京受胎によってほんの少しの人間を除いて東京が死に絶えた。彼女は幸運にも生き残る。
そのプライドから主人公の助力も拒否していたが、悪魔が跋扈するボルテクス界で彼女は自身の力のなさを痛感する。
のちにその想いの結果、弱肉強食を至上とする『ヨスガ』のコトワリを開く。
ゴズテンノウからボルテクス界の王(魔丞)としての地位を獲得し、彼女は変貌する。

禍々しい姿となった彼女は王の力を行使して天使を従える。
そして弱肉強食のコトワリの下、弱者に対する虐殺を繰り返すようになる。
ひ弱ながらも寄り添い、生きようとしていた者たちを嘲笑いながら屠る。その姿はもはや人間のそれではなかった。

世界の創世を決める決戦においては、コトワリボスの一角として登場。
その思想故たとえ味方となる『ヨスガ』ルートにおいても彼女とは戦うことになる。
またルートによってはラスボスともなり得る恐ろしいお方。
ただ『ヨスガ』ルートのEDだけ少しだけヒロインっぽいかもしれない。


204 : ヨスガの縁 ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:31:18 lfU7cAfk0


【マスター】
峰津院大和 @デビルサバイバー2

【参加方法】
ジプスの調査で紅い月の噂を知った。

【マスターとしての願い】
実力主義社会の実現

【能力・技能】
・悪魔召喚アプリ
携帯にインストールされた悪魔と契約する為のアプリ。
が、東京に置いて仲魔を呼ぶことができるかは不明。

・スキルセット
アプリを通じて自身を強化することができる。

【人物背景】
『デビルサバイバー2』のヒロインではない。
気象庁・指定地磁気調査部、通称「ジプス」の若き局長。
ジプスの創始者一門である峰津院家の嫡男であり、17歳の若さで組織のトップとして局員を統率している。
傲岸不遜な性格で、弱者を激しく嫌うが、悪人ではなく、強者にはそれなりに敬意を払う一面もある。日本守護のためには手段を選ばない冷徹さも持ち合わせる。
現在の日本には守る価値がないと考えており、ポラリスに謁見し世界を作り変え、完全なる実力主義の世界を作り出そうとしている。
そのために一般人には価値を認めておらず、当初は主人公も見下していたが、セプテントリオンを打ち破ってみせた彼の実力を評価し、
それほどの力が市井に埋もれるような世界には価値無しとして強行に走る。
……実力主義を標榜しているが、ゲーム的にはステ振りの関係であまり強くない。
ルートの旗頭キャラであり、彼との関係が分岐に大きく関わってくる。

アニメ版では彼と主人公・響希を除くすべての人類が死に絶え、ポラリスを前にして決戦。
世界の行く末を決める戦いの末、響希は彼を抱きしめ、実力主義でなく世界のやり直しを求めた。
……新生した世界で、ヤマトと響希は再び巡り合う。
互いに記憶はない筈なのに、どこか惹かれるように……


205 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/01/25(日) 19:31:33 lfU7cAfk0
投下終了です。


206 : ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:36:44 01gxHYt20
投下します。


207 : アキラ&キャスター ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:38:04 01gxHYt20
あんた……、今しあわせか?
こっちは今すげーやっかいな事になってる。

あの魔王様がいうには、無事に帰れるはずだったんだが……
高原やサンダウン、共に戦った仲間たちが一人一人自分たちの戻るべき世界へ旅立っていき、自分の番が来た。
あの家に帰るんだ。そう強く思ったその時、俺は見た。
崩れゆく世界の中で、くっきりと妖しく輝く、赤い月を。


視界が再びはっきりとした時、俺が降り立っていたそこは確かに東京の街だった。
だがどうにも違和感が拭えない。
ただ知らない場所に着いたというでもなく、感覚的にはあの王国に飛ばされた時に近い。
気づけば頭に刷り込まれている未知の単語、『聖杯戦争』
勝ち残ればどんな願いもかなう?俺はうちに帰りてーだけなんだよ。

この街にチビッコハウスは存在しなかった。カオリや妙子たちもいない。
オレが帰るべき場所は、ここにはない。


208 : アキラ&キャスター ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:38:46 01gxHYt20

帰る方法や、聖杯戦争について考えるのはひとまず置いといて、だ。
さしあたって必要なのは、金だ。
帰るところがないという事は、住む場所がない。
金が無いなら最悪野宿も覚悟しなきゃならねえし、何もしなくても腹は減る。
幸いこちらの世界でもオレはたい焼き屋さんという事らしく、屋台や道具は一式用意されていた。
オレはいつものように、公園で屋台を出した。
客の入りはいまいちだったが、こうしている分には本当に元の生活に戻ったようだった。


人気も少なくなり、近くのベンチで横になってしばらくして、屋台の方をじっと見つめている子どもがいるのに気づく。
見た目の年はちびっこハウスにいるガキんちょ共とそう変わらない。
マントを羽織り、金髪とギラギラとした大きな目が特徴的で、その大きな口から滝のように涎を垂らしている。

「あー……おいっ!そこのガキんちょ!」
「ウヌッ!私のことか!?」
「他に誰がいんだよ……たい焼きくいてえなら早く来い!。金が無くても少しくらいサービスしてやるよ。どうせ今日はそんな売れそうにねえし。」
「なにっ!本当か!?」

金髪の少年は目を輝かせながら屋台に飛びついてくる。

「ちょっと待ってろ……ほらよっ!」
「おおっ……うまそうなのだ……本当に私が貰っても良いのか?」
「ああもういいって、いいって。とっとと食っちまえ」
「ウム!ではいただくのだ!」

そういうや否や、あげたたい焼き4つを一口で全て頬張り、完食してしまった。
いや食っちまえとはいったが、せめて一つ一つ味わって食えよ……


209 : アキラ&キャスター ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:39:18 01gxHYt20


「いやあ、久々のたい焼きであったが本当にうまかったのだ。アキラは本当にいいやつなのだ」
「……待て。なんでオレの名前を知ってるんだ?」
「ウムッ!それは私がそなたのパートナーだからだ!我が名はガッシュ・ベル!!よろしく頼むぞアキラ!」
「まじかよ……」

見た目はどう見ても子どもにしか見えねえぞ!大丈夫なのか!?
よく見れば確かにただの子どもとは思えねえような雰囲気を感じるが……
何よりの証拠に、こいつの存在に気づいたあたりからなんか妙に腕が疼くなあとか思ったら、見たこともねえ文様が浮き出てやがる。
これが令呪ってやつか……。
でもまあ……。


アキラは意識を集中させ、その異能の力を働かせる。


(アキラは絶対に家族の元へ帰してあげるのだ……!家族は一緒に暮らすのが一番なのだ!)


……悪い奴じゃなさそうなのは確かみてえだ。



「でだ、ガッシュ。お前がサーヴァントってのは分かったが、お前はこれから他のマスターを皆ぶちのめして回ろうってのか?」
「私がそんな事するはずなかろう!私はただそなたを助けるためにここへやってきたのだ!」
「じゃあここから帰るにはどうすりゃいいんだ?何か方法を知ってるのか?」
「…………ウヌウ」
「……気持ちはとてもありがたいぜ」


……さて、どうしたもんか。


210 : アキラ&キャスター ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:39:52 01gxHYt20
【CLASS】
キャスター
【真名】
ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!!
【属性】
秩序・善

【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:B++ 幸運:B 宝具:A+

【クラス別スキル】
陣地作成:E-
段ボールを使用し、脅威から身を隠す『秘密基地』の作成が可能。
野宿ができるだけのスペースと防寒作用がある。

道具作成:E-
かつてパートナーに作ってもらった、ロボットの友達『バルカン300』を作成する。
納得のいくものを作るにはお菓子の空き箱が必須。

【固有スキル】
戦闘続行:A+
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は「怪力のランク」による。

嗅覚:C
異様に発達した嗅覚を持ち、高い追跡能力を発揮する。

呪文:-
電撃を主体とする術を得意とする他、盾や身体強化の術などを習得しているが、魔界でなければ自力での使用はできない。


【宝具】
『絆紡ぎし赤き魔本(ブックオブエビル)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
パートナーの心の力を魔力に変換し、魔物に術の行使を可能とさせる本。
故郷の魔界では魔物自身の力で術の使用が可能であるが、異世界においては本の中身が理解できるパートナーによる詠唱が必要となる。
心の力の高まりや心を通わせた者たちの存在等によって、元の術の格を超える強さを見せる事もあり、その力が極限まで高められた時、魔本は金色に輝く。
魔物を現界させている霊格のような働きもあり、魔本が破壊され燃え尽きた時、ガッシュはこの舞台から退場する。


『全てを喰らう雷の巨龍(バオウ・ザケルガ)』
ランク:A++ 種別:対心宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
巨大な龍と化した雷が咆哮を上げながら顕現し、その牙で標的をかみ砕くガッシュの最大呪文。
魔界の王であったガッシュの父親が編み出した、魔界における脅威の一つとされる術。
その術の本質は憎しみや怒りの心を食らう事。
龍に蓄積されていく負の心を制御できなければ術者自身をも食らい、やがては全てを破壊する災厄と化す。
この術もまた心の力や仲間の存在などの影響で、その威力や形状、サイズが変化する。

【Weapon】
『魔法のマント』
ガッシュが普段から着用している、高価な魔法の布で作られたマント。
訓練次第では魔力を使用する事で自在に変化・伸縮可能で応用が効き、防御力も強化され『対魔力:C』相当の効果を発揮し、飛行も可能となる。
胸元にある特殊なブローチが付いていれば、破れても時間と共に修復される。

【人物背景】
先代の魔界の王の子の一人であり、100人の魔物の子による「魔界の王を決める戦い」の勝利者。
当初は誰よりも落ちこぼれの存在であったが、望まぬ戦いを強要された少女との出会いで「やさしい王様」となることを決意する。
戦いの中で多くの出会いと別れを経て成長し、見事最後まで戦い抜いた。

【サーヴァントとしての願い】
アキラを家族の元へ帰す。


211 : アキラ&キャスター ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:40:23 01gxHYt20
【マスター】
田所 晃(タドコロ アキラ)@ライブ・ア・ライブ

【マスターとしての願い】
戻るべき所に帰る。

【weapon】
グラブ

【能力・技能】
読心能力、念動力、テレポート、ヒーリングなど多様な超能力を持つが、
十分な集中が必要だったり、力の強さそのものはそれほどでもなかったり、コントロールが完璧でなかったりと決して万能ではない。
あとはエルボー、ローキックなど我流の喧嘩技。

【人物背景】
近未来編の主人公。読唇能力をはじめとする超能力の使い手。
親を早くに亡くし、妹のカオリと共にちびっこハウスという施設で育つ。
無法松という兄貴分がいたが還らぬ人となり、彼のたい焼き屋の屋台と愛用のハーレーを引き継いだ。
最終編にて魔王との戦いを終えた直後にこの舞台に召喚される。


【方針】
帰る手段を探す。聖杯戦争に積極的に関わるつもりはないが、黙ってやられる気もない。


212 : ◆EIyzxZM666 :2015/01/25(日) 21:40:54 01gxHYt20
投下終了です。


213 : ◆p52EXgvrnE :2015/01/25(日) 21:51:14 XyotV2Wk0
投下します


214 : バルバトス&セイバー ◆p52EXgvrnE :2015/01/25(日) 21:52:18 XyotV2Wk0
男が立っていた。そう、立っているだけだ。
だというのに。男が放つ途方も無い威圧感は、それだけで男が常人ではないと確信し得るものだった。
要塞の如き屈強な肉体。鋭い眼光。手に持つ禍々しき戦斧。
男は此度の聖杯戦争にて召喚されたサーヴァントだろうか? 答えは否。
男の眼前に描かれた魔法陣と、手の甲に走る令呪。
屈強なる戦士であると同時に優れた術士でもある男は、此度の聖杯戦争にはマスターとして招かれていた。

かつて英雄に比肩しうる力を持ちながら強者との戦いを求めるあまりに軍を裏切り、宿敵との戦いに敗れ。
その果てに、ついぞ男は英雄と呼ばれること叶わぬまま処刑の日を迎える。
処刑台に上がりながら、男は空を見上げた。
天に蓋をするように広がる大地、そこに空いた隙間に髑髏めいた月が笑っていた。
赤い赤い、満月だった。

かくして男は赤き月に誘われ、この地へと降り立つこととなる。
英雄集う戦争。男の望んだ舞台。しかし、聖杯の裁定は残酷であった。
男の役割、それは英霊――サーヴァントではなく魔術師――マスター。
英霊をサポートし、時には共に戦い勝利を目指す、英雄ではない存在。
それは『貴様は英雄ではない』と、聖杯にすらもそう言われているかのようで。

男には、それがただひたすらに不快だった。

------------


215 : バルバトス&セイバー ◆p52EXgvrnE :2015/01/25(日) 21:52:57 XyotV2Wk0
詠唱を終え、魔法陣に光が満ちる。
顕現は一瞬。次の瞬間には、そこにサーヴァントが立っていた。
蛇めいた眼。油断ならぬ佇まい。セグメント状に分割された奇っ怪な剣。
サーヴァントと男の視線が交わる。
その刹那、彼らは理解した。理解しないはずがなかった。
その目、その面持ち、そのアトモスフィア。眼前の男が、疑いようも無く自身と同族であると。
闘争を好み、闘争を求め、闘争に生きる、そんな紛れもない戦闘狂であると。
男たちの顔が、喜色に染まる。

「ほう。貴様が俺のサーヴァントというわけか。悪くない」
「ドーモ、マスター=サン。セイバー……ニーズヘグです」

ニーズヘグと名乗った男はサーヴァント――即ち、英霊だ。
それはニーズヘグもまた英雄であることを意味し、男にとっては気に喰わないことである。
だが、英雄であるかどうかといった段階以前の要素で、彼らは通じ合った。

「セイバー、貴様もまた英霊と呼ばれる存在。気に入らん、気に入らんッ! ……が、今日の俺は紳士的だ。運が良かったな」
「おうおうおう、ずいぶんと威勢のいい奴じゃ。わしは今ここでやりあうのもやぶさかではないぞ?」
「フン、どうせ最後に残るのは俺たちだ。他の英霊どもを屠ったあとで存分に相手をしてやろう」

男の言動に、ニーズヘグは目を細める。
自身の力量を疑いもせず、他のサーヴァントを下すことなど当然とし、なおイクサを求める。
力が伴わぬのであればただのサンシタの寝言にすぎないだろう。だが、男の場合はそうではない。
そしてその増上慢は、ニーズヘグにとっては実際好ましいものだった。

「ハ! こりゃあわしもついておるわ! 痛快なイクサに、痛快なマスターときた! 
 いいぞ、オヌシの下ならイクサに困ることはないわい!」

ニーズヘグは呵々大笑する。
イクサの相手は英霊ばかりで、マスターにも恵まれた。
ならば、あとは存分に戦って戦って戦うだけだ。元よりイクサのみが望みである。
それの何と喜ばしいことか。

男もまた笑う。
英雄として呼ばれなかったことはたしかに不快だ。
だが、数多の英雄を相手取れることに、そして殺せることに変わりはない。
さらに、勝ち残ることで得られる聖杯の存在。その力があれば、自身もまた――。

昂ぶる心に任せるように、男は吼える。

「俺の本能が叫ぶのさ、貴様らを殺せと!」

英雄に焦がれ、英雄を憎み、英雄を殺す者。男の名は、バルバトス・ゲーティアといった。


216 : バルバトス&セイバー ◆p52EXgvrnE :2015/01/25(日) 21:53:46 XyotV2Wk0
【クラス】セイバー
【真名】ニーズヘグ@ニンジャスレイヤー

【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:C 幸運:C 宝具:C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
魔術に対する守り。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。


【保有スキル】
気配遮断:C
自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
ニーズヘグはアサシンとしての適正も持つため、ランクこそ下がるがセイバーでもこのスキルを保有している。

直感:A
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
ザイバツ・グランドマスター位階としての高いニンジャ第六感持つ。

投擲(スリケン):B
スリケンを放つ能力。
通常のスリケンであれば生成することによってほぼ無限に投擲することができる。
また、後述のヘビ・ケンと同様の毒が塗られたアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンも使用可能。

対毒:A
毒に対する耐性。常人であれば掠っただけでハレツするような猛毒をも完全に無効化する。

【weapon】


【宝具】
「蛇剣(ヘビ・ケン)」
ランク:C 種別:対人宝具
ニーズヘグの愛剣である異形の剣。
刀身が5つにセグメント化されており、それを高伸縮性のモノフィラメントワイヤ束が繋いでいる。
単なる剣としても神器ヌンチャクと撃ち合える相当の業物であり、セグメントを分割することで鞭状にもなる。
各セグメントからは銛のような逆棘が生えており捉えた獲物を逃さず、また刀身には致死性の毒が塗られている。

「邪眼(イビルアイ)」
ランク:B 種別:対人宝具
ニーズヘグの奥の手。目より対象を石化する光線を発射する。この宝具の前では対魔力は意味をなさない。
高い水準のカラテあるいは類似する武術によって打ち払うことが可能である。

【人物背景】
ザイバツ・シャドーギルドのグランドマスター位階である強力なニンジャ。
武人めいた戦闘狂であり、「死と殺戮の中にしか喜びを見出せない」と地の文に評されるように、イクサを何よりも好む。
ザイバツに在籍するのも「痛快なイクサができればトノサマが誰でも構わない」からであり、後により大きなイクサに彼を誘ったダークニンジャの元に寝返ることとなる。
戦闘狂ではあるが、グランドマスター位階において必要となる複雑怪奇な礼儀作法も心得ており、駆け引きや心理戦もお手の物である。


【サーヴァントとしての願い】
大イクサ。聖杯に望む願いはなく、召喚された時点で願いが叶っていると言ってもいい。


217 : バルバトス&セイバー ◆p52EXgvrnE :2015/01/25(日) 21:54:31 XyotV2Wk0


【マスター】バルバトス・ゲーティア@テイルズオブデスティニー2

【マスターとしての願い】
英雄を屠る。あるいは、自身もまた英雄となること。 

【weapon】
「ディアボリックファング」
バルバトスが使用する禍々しい大斧。
宿敵であるディムロスが扱うソーディアンのような特殊な機能はないが、荒々しいバルバトスの使用に耐えうるほどの業物である。

【能力・技能】
「晶術」
テイルズオブデスティニー2の世界において、レンズと呼ばれる物質を用いて発動する魔術のようなもの。
バルバトスは戦士でありながら、晶術の最上級である具現結晶すらも使用可能。

「カウンター」
バルバトスの代名詞。
回復アイテムを使う、ガードする、晶術を使用する、後退する……などといった行動に反応してカウンターによる攻撃を行う。

【人物背景】
テイルズオブデスティニー2におけるボス。
かつて第一次天地戦争時代に地上軍に在籍していた軍人。
有能な戦士であったが、その冷酷かつ残忍な性格によって英雄と称されることはなかった。
その後、宿敵ディムロスへの対抗心や強者との闘争を求める戦闘狂としての欲求、ある女を得るため、などの理由により軍を裏切ることになる。
結果ディムロスの手によって倒された彼は「英雄」に対する強い憎しみを抱き、それに目をつけた聖女エルレインの手によって蘇生される。
「英雄」に対する憎悪は「英雄」になりうるだけの力を持ちながらも決して「英雄」と讃えられることがなかった無念の裏返しによるもの。
今回の聖杯戦争にはディムロスによって倒され処刑される寸前に赤い月を見て連れて来られた。


218 : ◆p52EXgvrnE :2015/01/25(日) 21:55:01 XyotV2Wk0
投下終了です


219 : ◆S8pgx99zVs :2015/01/25(日) 22:00:13 TANz5Wgw0
投下します。


220 : 失われた世界。私達は……  ◆S8pgx99zVs :2015/01/25(日) 22:01:00 TANz5Wgw0
――赤。


身体を溶かしどこかへと連れ去ってしまいそう――そんな茜色をした光の中にその青年はいた。

地上223メートル。日本の首都である東京のひとつの象徴であり、また霊的な要の一柱でもある東京タワー、その特別展望台。
彼の姿は西から射し込む夕日で真っ赤に染まったフロアの上にあり、そして彼はただひとりだけだった。
赤い光景の中で足元から背後へと細く長い影を背負ってる姿はどこか寂しい。

青年は片手に煙草を燻らせ、じっとガラスの向こう見つめている。
地平線の向こうに姿を消そうしている鎔けそうな赤さの太陽。その手前にはいくつものこの世界の“要”がシルエットを浮かび上がらせていた。
皇居、国会議事堂、サンシャイン60――遠くには新宿副都心。そして一番遠くには美しく日に染められた富士山。

なにを、思うものでもない。
思考はあっても情動はない。どのような光景を目に写そうとも、いかなる謀の中にあっても、心はいつも灰のようでしかなかった。
ただ、その中で、その奥で燻っているものが、それは希望の欠片と呼べるのか、それともただ思い浮かべるだけの幻か、
そんなことはもう本人にもわからない。ただただそれだけしかなく、いつもそれをどこかに追い続けるだけ。

青年は瞼を閉じるとゆっくりと煙を吸い込み、そして目を開きながら時間をかけてその煙を吐き出した。
長い睫毛が揺れる。青年の面立ちは細く、ひどく儚く美しい。彼には同じ顔をした姉がいた。その姉はもういない。
その姉を殺した仇が彼の心に残るたったひとつだった。それまでと、その時からの、ずっと変わらない唯ひとつ。


そして――。


青年は東京の風景から顔を背け、背後を振り返ると“それ”を見た。見て、僅かに訝しげな表情をその端整な顔に浮かべた。
そこにあったものは“朽ちたモノ”だった。伝説の成れの果て。物語の最後に天より堕ちた勇者。誰も知らない、誰も理解する者もいない終わりの姿。
展望台の中で狭苦しそうに犇めくそれはなんであるとも形容し難い。一言で言えば、黒い。そして醜い。
巨体は全身がささくれ立ちあらゆる所が煤で汚れ、ところによれば炭化し、その罅割れから濁った血を細々と床へ垂らしている。

「…………当てが外れたか?」

“それ”がしゃがれた声で口を利いた。そこで青年は目の前のこれが一体の生き物であることと、自らに与えられた“僕”であることに気づく。

「だが、お主も死んでいるようなものだ」

青年は否定しない。その通りだったからだ。

「そして、我もまた変わらぬ。……放っておけばこのまま朽ち、ただ消え去ることができよう」

パキリと音を立てて炭化した身体の一部が床に落ちる。落ちたそれは床を黒く汚すと、微かな魔力の粒子として空気に溶けた。
言葉の通りに、目の前のこれは召喚されたばかりだというのに朽ちる寸前なのだ。

「だが、微かでも生きて叶えたいと想うものがあるのなら、……我と『契約』するがよい」

大きな裂け目のような口の上で、なにかがきらりと光を反射する。それは眼だった。片目だけが瞼を開き、青年のことを貫くように見つめていた。
願うように、全てを見透かすように、助けの手を差し伸べようとするように、哀れを訴え導きを請うように、あらゆる感情をこめた視線。
いや、それは少し違う。目の前のこれがそう思っているのではない。その視線は青年の想いを跳ね返しているだけなのだ。

青年は迷った。いや、一切迷わなかった。彼にはもうそれを追い求めることしか生に意味を見出してはないのだから。
この、もうなんの価値もない生にただ一点のピリオドを打つ、それだけを追い求めて空虚な生を長らえているだけなのだから。
だから青年は迷わなかった。無言で首肯する。それだけで全ては通じ、『契約』は開始された。

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221 : 失われた世界。私達は……  ◆S8pgx99zVs :2015/01/25(日) 22:01:41 TANz5Wgw0
そして――。


変化は劇的だった。まず空気が大きく震えた。小さな雷のような音が立て続けに鳴り響き、桶一杯の銅貨を床にぶちまけた様な音が連続した。
それは目の前にいる“それ”の脱皮だった。口を大きく開いて咆哮し、巨体を揺するたびに炭の欠片が床へと大量に零れ落ちる。
足元へと床を滑ってきたそれを見て、青年は炭の欠片の様に見えたそれが黒く煤けた鱗だということに気づく。

そして……、ともすれば永遠に続くのではと思われたそれがぴたりと止むと、そこには一匹の“竜”が姿を現していた。
青年の大きな瞳が見開かれ、手から煙草が零れ落ちる。そこに現れた竜は、神秘の世界に身を置く彼からしても夢幻の様な美しさを持つ存在であった。
襤褸であった名残はもう一切なく、綺麗に揃った鱗は夕日を反射し赤く輝き、一対の角は力強く、長く伸びた尾はしなやかで、その存在は幻想。

「……『契約』は成った。互いの願いが成就するまで、我とお主はその身をひとつと考え、忠を尽くすことを誓おうぞ」

竜の言葉にまた無言で首肯する。
そして一時の興奮が過ぎ去ると、青年はそこでようやく自身の変化にも気づくことができた。
力だ。これまでにない“力”が自らに宿っている。全てを超越したのではとすら錯覚しかねない強大な力。竜の気が全身の霊脈に満ちていた。
青年は一度二度と拳を握ると余る力に肌を震わせ、そして何かを察すると自らの右目へと指先を触れさせた。

「竜の力に震えるか人間よ。……右目(それ)は、『契約』の代償だ。その眼の代わりは我が果たそう」

悪びれることもなく、当然だという風に竜は言う。契約の代償――そういった理由で青年の右目から視力は失われていた。
得られた力を考えればこれほどのことはなんでもない。むしろ、与えられた力は両目を失ってもお釣りが出るほどに強力なものだ。
しかし、ひどい喪失感があった。僅かな望みの、その半分を失ったのだから。
涙は――出ない。涙を流す機能も失われたのかもしれない。涙を流して拭えるような種類の哀しみではないからなのかもしれない。

「此処は狭い。空(そと)へと出るとしようぞ」

展望台の中に突風が吹き荒れる。竜が畳んでいた羽を伸ばしただけでこれだ。そして次の瞬間に展望台を囲っていたガラスが全て砕け散った。
もう一度突風。竜が羽を床へと打ちつけると、その姿は空にあり、青年はその背の上にいた。
赤い世界の中、冷たい風が頬を打つ。展望台よりも高く、遮るもののない雄大な景色に、やはり感慨はなく心は動かない。
だが、心の奥底にある期待は大きく膨らんでいた。今こそ自分の願いを叶えられるのではないかと。

青年――皇昴流(すめらぎすばる)は左手の甲にある逆五芒星を見る。
今こそこの印が意味を果たしてくれるかもしれない。

「では、往くぞ――――」

竜は羽を羽ばたかせる。加速し、その姿は暮れ行く街並みの中へと、彼らの願いがある所へと滑り込んでゆく。



そして――。



――物語は終わりを求める。





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222 : 失われた世界。私達は……  ◆S8pgx99zVs :2015/01/25(日) 22:02:02 TANz5Wgw0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【クラス】 ライダー
【真名】 アンヘル(Angel)
【属性】 秩序・善

【ステータス】
 筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:A
 
【クラススキル】
 レッドドラゴン自身はクラススキルを持たない。それは『契約』によりマスターへと付与される。

【保有スキル】
 飛行:A
  空中を自在に飛行する能力。
  レッドドラゴンは地上から上空数百メートルまでを自在に飛び回ることができ、飛行しながらの攻撃にペナルティを受けない。

 ブレス:A
  口から火炎の息を吐く能力。
  レッドドラゴンは全てを焼き払う高熱の火炎をその口から吐き出すことができる。
  この火炎は対魔力で防御することができる。

 念話:B
  『契約』を果たした人間とのみ、言葉を発さずとも頭の中で自由に会話することができる。
  この『契約』を果たした人間とは、自分と直接契約した者だけでなく、他のなにかと契約した別の人間も含む。

【宝具】
 『契約』
 ランク:A 種別:対人 レンジ:--- 最大捕捉:1人
 強いエゴを持つ人間と心臓を交換しあうことで互いの能力を飛躍的に高めることができる。
 契約を果たしたもの同士は運命共同体となり、どちらかが死ぬか契約が解除されるまで離れることは許されない。

 『浄化の炎(エル・フィーシオ・デ・ディオス)』
 ランク:B 種別:対人/対軍 レンジ:20〜150 最大捕捉:20人
 口から魔力で編みこんだ帯状のブレス(火炎)を一斉に吐き出す。
 これは狙いをつけた対象へと命中するまで追い続け、特別なスキルやレジストを持たない限り避けることはできない。

【weapon】
 『竜』
 レッドドラゴンの爪は人間が鍛えた如何なる剣よりも鋭く切り裂き、尻尾の一撃は人間が築いた如何なる砦さえも易々と破壊する。

【人物背景】
 出展は「DRAG-ON DRAGOON」
 物語の主人公であるカイムと『契約』し、彼女の妹であるフリアエを救うべく帝国と戦い東奔西走したレッドドラゴン。
 最終的には封印が破れたことにより現世への干渉を始めた『女神』と戦うことになる。
 その最中、戦いの場は何故か次元を超えて東京新宿上空へと移る。
 カイムとレッドドラゴンはそのまま女神を撃破するも、緊急発進した自衛隊の戦闘機F15-DJにより撃墜され、その躯は東京タワーに突き刺さった。

 《 本当に、本当にありがとうございました 》

 上位種である竜であることにプライドを持ち、自ら以外を見下す傾向があるが、人の業や営みのことをよく理解してもいる。
 普段は冷静であり争いごとを諌める立場を取ることが多いが、いざ敵対して戦闘となれば激情的なところを見せ容赦なく敵を撃滅する。

 竜に性別はないが、どちらかといえば女性寄りの性格を持っている。
 真名はアンヘル(Angel)であるが、真に心を許した者にしかその名は名乗らない。名前からわかるが、実は神の使いである。

【サーヴァントとしての願い】
 再びカイムと会う。

【基本戦術、方針、運用法】
 猪突猛進や見敵必殺などということはなく、上位の精神を持ち知識と経験もあるのでまずは目的に即した作戦立案をする。


223 : 失われた世界。私達は……  ◆S8pgx99zVs :2015/01/25(日) 22:02:19 TANz5Wgw0
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【マスター】 皇昴流(すめらぎすばる)

【マスターとしての願い】
 桜塚星史郎と会い、彼に殺される。

【weapon】
 『霊符』
 五芒星の書かれた霊符。幾枚も懐に忍ばせたこれを無数に使用し、陰陽術により攻撃する。

【能力・技能】
 陰陽術:A
  皇家当主として身につけた様々な陰陽術を使用する。
  霊障や霊そのものを払うことから、霊符を用いて結界を張ったり、火炎を吹きつけたり、霊符を鳥へと変じさせ突撃させる等々。

 契約:A
  レッドドラゴンとの『契約』による超人化。
  皇昴流は元より超人じみた運動能力や類稀な霊力を持つが、それが英霊クラスまで引き上げられ、行動や判定も英霊と同様に扱われる。
  契約中の皇昴流のステータスは以下の通り。

  【筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:A 幸運:E 宝具:---】

  契約の代償として右目の視力を失っている。

 騎乗:EX
  レッドドラゴンとの契約により授けられた騎乗スキル。
  契約したレッドドラゴンに対してのみ、幻想種をも乗りこなすEXランクの騎乗スキルが発揮される。

【人物背景】
 出展は「東京BABYLON」及び「X」
 陰陽師を生業とする皇一族の13代目当主。
 双子の姉と瓜二つの可愛らしい顔をしており、将来の夢は動物園の飼育員と、その内面も実に穏やかで可愛らしいものであった。
 陰陽師としての仕事をしている中で桜塚星史郎と出会い、付き合いの中で彼に惹かれてゆく。
 だが、彼の正体は『桜塚護』と呼ばれる陰陽術を使う暗殺者であり、最終的には彼に姉を殺され、その姿を見失ってしまう。

 その後、高校を中退した昴流は、陰陽師の仕事を続けながら桜塚星史郎の行方を追っていた。
 傍から見ると、姉の敵討ちをする為に桜塚星史郎を追っているように見えるが、実は彼に殺される為に彼を探している。
 その理由は、愛情や執着を持たないとする彼に、せめて殺す(排除する)価値のあるものとして認められ、僅かでも記憶に留めてもらう為。

 終始煙草を吸っているヘビースモーカーだが、吸っているのは喫煙を好むからではなくそうすると霊力が高まるから。
 なので、好みの銘柄などはなくその時その時で手に入る煙草を適当に吸っている。

【方針】
 この世界に桜塚星史郎が存在するのなら彼を探し出し、そこで願いを叶える。
 そうでなければ聖杯を求め、聖杯に彼との再会を願う。


224 : ◆S8pgx99zVs :2015/01/25(日) 22:02:38 TANz5Wgw0
投下終了しました。


225 : ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:48:48 t1mpZ4Jg0
投下します


226 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:50:10 t1mpZ4Jg0
「なあ」
───はい。
「アタシをアイドルにして何がしたいんだよ」
───何が……?
「……アタシは見ての通り、他のヤツよりかはどう見てもアイドルって柄じゃない。
そのアタシをここまで引っ張ってアイドルにしたのはアンタだ」
───ええ。
「他のヤツの方が可愛気があるヤツなんざ沢山いたろ。なのに、何でアタシなんだ」
───……笑顔です。
「……笑顔?」
───ええ。
「……アンタいつもそれだよな。他に、なんか、こう、ないのか」
───ないのかと言われましても……。
「……はぁ、まあアンタがそういうヤツだってのはわかってたけどな」
───すみません。
「まあ、いいさ。アンタの持ってきた仕事なら受ける……アイドルしてやるよ」
───ええ、ありがとうございます。
「見せてやるよ、アンタの腕は間違ってない。プロデュースの腕は凄いんだってな!」






それは、ある夜の誓い。
新しい自分と。
輝かしい自分を見せてくれた、彼への。









▲ ▲ ▲


227 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:50:53 t1mpZ4Jg0
最初に感じたのは『違和感』だった。
いつもと変わりなく渡された仕事をやり遂げる。
握手会。ライブ。写真撮影。インタビュー。
普通の、アイドルとしての仕事。
───でも何かが違う。
何が違うのかはわからない。
でも、何かが違う。
胸に引っかかる靄を感じながら───アイドル、向井拓海は一人呟く。

「……気持ち悪」

というより気色が悪い。
何と言えばいいのか、問題の答えが間違っているのは解るのだが、何処が間違っているのかと聞かれれば首を傾げるような───そんな、気味の悪さ。
ふと思い出した様に、スマートフォンを取り出す。
仕事の衣装───巫女服を身に纏ったまま電子機器を弄る少女は中々お目にかかれるものではないが、彼女はその程度のことを気にかけるほど礼儀正しくもない。
開くのは連絡先。
友達から家族、仲間のアイドルまで様々な番号を刻まれているそこから『プロデューサー』の七文字が刻まれた場所を開く。
特に意味はない。
このモヤモヤとした気持ちを、コイツなら理解できるかな───と思っただけ。
無表情で画面をタップし通信を始めると数コールの後、繋がった。

『はいもしもし。向井か、どうした?』
「いや、何でもねえけどよ───ん?」

おまえ何か声高くなったか、と。
自らのプロデューサーに訪ねようとした瞬間。
痛烈な、違和感。

(”違う”)

違う、と。

(コイツは”アイツ”じゃない)

自分のよく知る筈の声が、別の人間の声と重なった。
よく知る筈の声が聞いたこともない偽物に。
別の男な声が、とても愛おしく感じた。

”───笑顔です”

そう。
無愛想で酷く強面だが。
不器用で強い志を持った男の、声が。

『おい、向井?向井、大じょ』

プツリと通話を終了する。
理由は分かった。
何が違うのかも分かった。
───だが。
何で”アイツ”が此処に居ないのかが、わからない。

「……何だよ、ここ」

辺りを見渡す。
慣れたはずの東京が目の前に広がる。
紛れも無い、彼女が知る東京だった。

「……何処だよ、ここ」

だというのに。
頼りにしていた本当のプロデューサーの、声だけが聞こえない。

「……何だよ、聖杯戦争って───」

記憶と共に流れ込んだ知識に頭を抱えながら。
彼女は混乱のまま立ち尽くす。
そして。

「───おい、女」

とても低い声と共に、男の声が鳴り響く。
振り返った先に居たのは、服の上からでも分かるほどの筋肉を備えた男だった。

「おまえがおれのマスター……だな」

こくん、と頷く。
誰かはわからなかったが───手の甲に宿る赤い痣と流れ込んだ知識が『この男が己のサーヴァントだ』と告げていた。






▲ ▲ ▲


228 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:51:30 t1mpZ4Jg0
「───つまり聖杯に望む願いはない、と?」
「そうだよ。コッチは聖杯戦争なんて最初から知らないものに巻き込まれてんだよ、願いなんてねぇ。
……強いて言えば、元の場所に帰りたいぐらいだ」
「……そうか」

交わしたのはその言葉だけ。
巻き込まれたということと、願いはないということを教えただけでこの大男は黙ってしまった。
……なんというか、拍子抜けだ。
ガタイは日本人離れしているというのに口数は少ない。
漫画に出てくる昔の不良、という感じだ。

「その、アンタはあるのか。聖杯に託したい願い、とか」

その言葉をかけた瞬間、たっぷり三十秒ほど大男は固まった後大男は口を開く。

「……『ある』。消したい男がいる」

消す、ということは殺す、ということだろう。
慣れない言葉に巧海は怯むが───それを見て良心が痛んだのか、大男は付け足すように口を開く。

「……後、一人な。助けたい女がいる」
「女ぁ?恋人……ってやつか?」
「まあ、そんなところだ」
「お、おう……」

素直に返されると何故か此方が照れてしまう。
ほんのり頰が朱色に染まった巧海を横目に、男は少し黙った後───口を開く。

「『人殺しはしたくない』『だが元の場所には帰りたい』
マスターが言いたいのはそういうことか」

本題に入った大男の声に少し戸惑うが───頭を振り、冷静さを取り戻した頭で言葉を返す。
大男をキッと睨んだまま。

「そうだよ、悪いか」
「いいや、悪くない───息を吐くように人殺しを許可するマスターならおれは我慢出来ずに顔をブチ抜いてたかもしれねぇ」

大男はゆっくりと手を此方に伸ばす。
それが握手を求めているのだと気付いたのは少し後だった。
その大きな掌に負けないように───女だからと舐められないように力強く握り返す。

「始めに言っておくぜ。
おれのクラスは『スタンダー』。
真名を───空条承太郎」
「じゃあコッチも名乗ってやるよ!
アタシは天上天下喧嘩上等、特攻隊長向井拓海!
……まあ、帰るまでの付き合いだけど、宜しくな」
「ああ……マスターはおれが地上まで必ず送ってやる」

スタンダー。
そう名乗った男は───何処と無く、本当のプロデューサーと似ていたような気がした。
……不器用なんだろうか、コイツも。






▲ ▲ ▲


229 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:52:30 t1mpZ4Jg0
───空条承太郎の願いは『DIOとジョースター家の因縁を消し去る』ことである。
始まりの因縁を消し去り。
ディオ・ブランドーという男を、産まれる前に殺す。
理由はたった一つの、シンプルなものだった。

それは───『空条徐倫』が幸せに暮らす世界を作ること。
最終決戦において空条承太郎は娘、空条徐倫の盾になり死亡する。
時を止める能力のない彼らでは───あの後、死亡しただろう。
空条徐倫は。
父親の奮闘虚しく、死亡したのだ。
だからこそ。
だからこそ、空条承太郎は死後再び立ち上がる。
スタンダー───スタンド使いのクラスとして、再臨する。
父親として。男として。
空条徐倫がDIOの因縁などというものに巻き込まれない世界を作るために。
空条承太郎は再び立ち上がる。
既に、覚悟は出来ている。
しかし、月の聖杯で出会ったのは───何処か娘と似たような性格の、小娘だった。
外道なマスターならば利用して勝ち残るつもりだった。
しかし───空条承太郎は、娘と似たこの少女を見捨てることは出来なかったのだ。
やれやれだぜ、と。
空条承太郎は余計な荷物を抱いていることを実感しつつ、この聖杯戦争に望むのであった。


230 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:53:09 t1mpZ4Jg0
【クラス】
スタンダー

【真名】
空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険

【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具A+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
幽波紋:EX
スタンド。持ち主の生命エネルギーが創り出すパワーを持った像であり、その使い手はスタンド使いと呼称される
空条承太郎はそのスタンド使いの中でも『最強』と呼ばれるほどの実力と判断力を持ち、そのため破格のEXランクになっている。
宝具、スキルに関わらず『スタンド』の使用に使う魔力使用量を格段に減らすことができる。

【保有スキル】
誇り:A
『空条承太郎と共にいると誇らしい気持ちになる』という逸話がスキルへと昇華されたもの。
同ランクまでの勇猛の効果を得て、その効果は共に戦っているもの───マスターなどにも及ぶ。

憤怒:A
怒りそのものを表すスキル。
空条承太郎の怒りが最高潮に達した時、宝具の筋力が一段階上昇し短時間の間承太郎の身体より魔力が湧いてくる。

千里眼(偽):C
視力の良さ。
遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。
この効果は下記の宝具を使用している時のみに使用可能。

黄金の意思:A
気高き意思。
このスキルにより、どのような肉体・精神状況下においても十全の戦闘技術、頭脳を発揮できる。
そして、属性に悪とつくものに有利な判定を得る。

【宝具】
『星の白銀』(スタープラチナ)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-

彼が最強と呼ばれるその所以の宝具。
生命エネルギーが創り出すパワーを持った像を出現させる。
この宝具を使った場合、スキルの千里眼(偽)が使用可能になる。
『星の白銀』は筋力A+、耐久B、俊敏A級のパラメータを持ち、恐るべき精密動作を可能にする。

『星の白銀、世界よ止まれ』(スタープラチナ・ザ・ワールド)
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-

彼のスタンドの真骨頂。
この世界の時は彼の宝具を持ってして静止する。
しかし時を止めるのは五秒しか使用できず、一秒経過するごとに魔力を使用する。
尚、連続で使用は不可能であり一呼吸間を置く必要がある。

『因縁に塗れたその血の運命』(ファントムブラッド)
ランク:A+ 種別:対血宝具 レンジ:- 最大補足:-

───ジョースター家の英霊に必ず付与される運命の宝具。
この宝具が存在する限り、ジョースター家の末裔は吸血鬼ディオ・ブランドーの影響に振り回され、その場にいる悪の種と関わる運命が完成される。
空条承太郎の周りにはトラブルが付いて回り、彼の波乱の人生はこの聖杯戦争でも変わらない。
この宝具は彼の一族に纏わりつくものであり、破壊または放棄することは不可能。


【weapon】
なし

【人物背景】
空条承太郎。
高祖父のジョナサン・ジョースターと共に海に沈んだはずの吸血鬼DIOの目覚めによりスタンド能力に目覚めた男。
威圧的な外見と気性の激しい性格のために暴力事件を頻繁に引き起こしており、周囲からは不良のレッテルを貼られている。幼少期は素直で大人しい子供だったらしいが、実は当時から既に「やる時はやる」性格を持っていたようである。通っている高校の不良たちからは一目置かれ、周囲の女性からの人気も高いが、本人はまとわりつく女性を鬱陶しく思っている。
空条徐倫という娘がおり、家族より仕事を取った男でその娘からは憎まれていたがその本心は娘を事件に巻き込まないため。
機転や発想は一級品で、彼の活躍により事態が好転したことは数多くある。
今回の聖杯戦争では、サーヴァントとして『全盛期』の姿で召喚されたため17歳の姿であるが死亡までの記憶は持っている。
───彼が聖杯に託す望みは、宝具『因縁に塗れたその血の運命』を破却し、娘徐倫が平和に暮らせた世界を創ることである。
彼が徐倫を庇って死亡したその後、娘を守れたのか・最後まで生き延びて暮らしていたのか悩んだ空条承太郎は、おそらく徐倫は死亡したであろうと考えている。
娘を護るのは父親の役割。
救えなかった娘に、再び優しい人生を───そのために空条承太郎は聖杯戦争に望み、DIOとジョースター家の運命を完全に断ち切ることを望みとしている。
今の彼は17歳の姿だが。
その望みと背中は、間違いなく父親のソレだった。
そして彼のマスターは、どことなく娘と似て気が強そうな───アイドルであった。


231 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:54:21 t1mpZ4Jg0

【マスター】
向井拓海@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
願いはない。
強いて言うならば元の世界への帰還。

【weapon】
なし。
巫女服を纏っている。

【能力】
アイドルとしての基本的な技能。
特攻隊長としての喧嘩の実力もあるらしい。

【人物背景】
あるプロデューサーにアイドルに誘われアイドルを始めた不良系少女。
一度始めたことはやるという根性も持ち合わせているが、彼女にくる仕事は恥ずかしいものばかり。
文句を言いつつも結果的にはやり遂げるその姿は、面倒見がいいのか、それとも?
趣味はバイク弄り。


232 : 向井拓海&スタンダー ◆dM45bKjPN2 :2015/01/25(日) 22:55:06 t1mpZ4Jg0
投下終了です


233 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:55:24 hlYrHn0s0
投下します。


234 : 速水ペルシャ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:55:47 hlYrHn0s0



 上野動物園の閉園の時間は、午後五時であった。
 遊園地や動物園の閉園時間というのは寂しいもので、時間を告げる音楽を聞きながら、両親に手を引かれて帰っていく時には寂しさを覚えるものである。
 多くの子供は、あと一時間でいいからパークをもっと楽しみたいと思った経験があるだろう。
 逆に、もう一時間いたとして、ほとんど見つくし、遊びつくしてしまったために、やる事がない子供もいるが、それでも去る時には不思議と寂しさが胸に湧きあがる。
 しかし、我儘も言えないので、そのまま、他の家族たちが門をくぐって出ていくのを見て、自分たちも帰るのだ。
 時に、後ろを振り向いて。
 一日楽しませてくれた夢の場所にさよならを告げる。

 ──今日は、楽しかったね。

 ああ、だからこそ、もっとそこにいて楽しい時間を続けたいと思うのだ。
 それは、妖精の夢のように、儚い思い出となっていく。
 生きていけば、やがれ両親とこうして遊園地に連れて来られる事もなくなる。
 大人になり、やがてまた来るこの場所は、もっと狭く、つまらない場所になっている。
 それを心のどこかでわかっているのか。

 ──また来ようね。

 しかし、そんな言葉を告げたとしても、もう二度とそこには来ないかもしれない。
 永久の別れかもしれない。
 それが大人の階段。

 しかし、子供であるうちは、誰も妖精の夢を見続ける。



◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 月上にも、まだ妖精の夢を見続ける少女がいた。

 当然ながら、真夜中には上野動物園は、人っ子一人おらず、動物も殆ど休んでいて鳴き声一つ聞こえない。 
 明日の朝になればまたこの門が開くはずだが、それまでの僅か九時間の退屈を待てないのが子供である。
 しかし、この夜遅くに平然と起きて外出できるのは、その子供がまた特殊な境遇にあるからだといえよう。

 速水ペルシャ。十一歳。
 幼少期をアフリカで凄し、ライオンたちと共に生きてきた……。
 その境遇は、全く嘘偽りがない。この後、彼女は魔法少女になるのだが、魔法少女になるという出来事よりも、生まれてすぐアフリカでライオンと生きてきた境遇の方が遥かに異常なのだ。
 野生児として培った驚異的な身体能力は、この小さな少女には不釣り合いな次元に達している。
 計測された限りで、100メートルをなんと8秒台で走っている。

 これは、言うまでもなく、世界新記録を大きく塗り替え、永久に記録保持者の座を彼女のものに出来るレベルである。
 参考までに挙げておくと、今日までの100メートルの世界記録は、ジャマイカのウサイン・ボルトによる9.58秒という数字である。
 それは世界に衝撃を与えた超人的なタイムであった。
 そのボルトの半分ほどの身長もない少女が軽々と乗り越えてしまうのだから、人間の身体構造はいまだ謎だ。

 そして、そんな彼女は律儀にもこの上野動物園の門の前で、開園を待ちわびていた。
 門を飛び超えてしまう事も容易な事だが、それはいけない事だと承知している。


235 : 速水ペルシャ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:56:08 hlYrHn0s0

「うう〜ん、待ちきれないですの〜」

 ペルシャは、足踏みを止めない。
 この門の前で、我先に動物たちの世界に飛び込むのを待ち続けたい。
 今入っても、お休みの真っ最中には違いない。
 だから、待ちたい。……朝まで。
 あと9時間。気が滅入ってしまう。

 ペルシャ一人ならば、特別この動物園に行く事もなかっただろうが、今日は新しい友人がいる。
 そう、ペルシャ自身が、この聖杯戦争で呼び出してしまった「友人」が。

「……ウウッ、アウッー」

 サーヴァント、≪バーサーカー≫である。
 その現在の姿は、ペルシャと同じく、野生の中で生きたようにさえ見える少女であった。
 髪は自然と長く伸びきっており、様々な方向にぼさぼさと跳ねている。更には、時に四つん這いになって声を発する事まである。
 ペルシャと決定的に違うのは、人間の保護者がいなかったか、あるいは「教育する事ができなかった」ように思われる事である。
 無教育、無教養、ではなく、こう呼ぶ。
 ……知的障害、と。
 年齢相応の知識を吸収する事ができず、彼女の場合は野生動物のように這って歩いてしまうのだ。

 名前は、エレイン・リードと言った。しかし、真名として登録された別の名は、「ジェノサイバー」。
 かつて、彼女たちの世界で「神」となった最悪の兵器である。

 地球最後の大戦で、彼女は世界の敵となり、地球全土を滅ぼした。
 人間の醜さを知り、人間に敵対し、エレインの持つそのあまりに強すぎる力を行使した結果であった。
 精神的に幼く、──しかし、誰より中立的に世界を計れる少女が世界を滅ぼせる力を持った時、世界は滅び、また、「ジェノサイバー」も滅んだ。
 やがて、生き残り、また新しく文明が築かれた頃、僅かな人類は、前時代の遺産を目にして、ジェノサイバーの姿を神と称えたと言われる。

 しかし、彼女は神などにはなりたくなかった。

 人間として、友達を作り、ささやかな幸せを享受しながら生きたかったのだ。
 死んで神となり、転生し、身ごもった子供を産めないままにまた殺された。
 彼女は何度輪廻を超えても幸せになれない。
 再び世界を滅ぼす力となった後、その世界に存在するのをやめた。
 再び眠りにつき、誰にも見えないところで朽ちていく。
 それは、エレインにとって、死ぬ事と同義だった。

 だから、こうしてまた最初と同じような子供に戻れた時、エレインは、動物園に入るのを待ちわびていた。

 ああ、自分は、もう一度人間の姿になれた。
 人間という生物はたくさんいる。ジェノサイバーのように、この世にたった一つの孤独ではない。
 ずっと昔。あの時、一緒に遊んでくれた……今はもういないあの男の子のように、友達ができたのだ。
 エレインは思わず、歓喜の声をあげる。
 それははっきりした音声ではなかった。言葉にならなかった。喉から出したい言葉を発する事ができない。

 しかし、その歓喜の声を聞いて、ペルシャは先ほど、一緒になって喜んだ。
 彼女の咆哮が喜びを意味する物だと、ペルシャも知っていたのだろう。
 何故喜んだのかはペルシャも知らないが、とにかく楽しそうだったので便乗したという形だ。
 彼女はそういう少女だった。
 だから、言葉が通じないままに、二人は友達になった。

「……うぅ。でも、このまま待っていてもラチがあきませんの」

 ペルシャは、眉をつなげて言った。
 管理人らしき人もいない。訴えても門を開けてくれる者はいない。
 動物園に真正面から入る事はできないだろうし、9時まで寒空の中で待つというのは辛いものだ。
 友達のために、この中を案内してあげたかったが、そんな事をする前にエレインが風邪をひいてしまうだろう。

「ウゥ……」

「バーちゃん、また今度にしましょう」

 聾唖で真名を告げる事ができないせいで、ペルシャは彼女を『バーサーカー』のバーちゃんと呼ぶ。
 「エレイン」と名乗ったつもりだが、言葉が話せず、「エ・エ・イ・ン」としか言えない。
 どんなに強く発そうとしても、言葉がちゃんと通じるには時間がかかる。特に、固有名詞は誰でも解読が難しい。


236 : 速水ペルシャ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:57:43 hlYrHn0s0

「大丈夫ですの。明日になれば、すぐ開園します」

「アゥ……」

「わがまま言っちゃ駄目ですの。さ、行きますのよ」

 ペルシャは、まるで妹ができたような気分だった。
 まだ赤子のような言葉さえ離せず、世界を大雑把な感情だけで見つめるエレインの姿が、途方もなく幼い物に感じたのだろう。
 動物園に入れないだけでひどくしょんぼりするエレインを注意してあげたくなったのは、母性をくすぐられているからだと言ってもいい。

「ウゥゥ……」

 エレインは、ペルシャに腕を引かれながら、真後ろの門を何度も振り返る。
 ペルシャに促されるのを拒絶している。
 それは、久々のワガママであった。

 扉の向こうに行けば、色んな動物がいる。
 それを、友達と一緒に見ながら、駆けまわるのである。

 人がいる場所。
 たくさんの人の笑顔がある場所。
 友達がいる場所。
 しかし、かつて奪われていった平和な世界。

 それが、真後ろの小さな楽園にある気がした。
 無論、それはこんな時間に訪れても見かける事ができないかもしれないが……。

 そんなエレインの我儘を見て、ついにペルシャは少し声を荒げた。

「もう、バーちゃんのうっすらパー!」

「ウッ、ウア、アアー」

「動物園はまた明日! これはもう決めた事ですの。でも、明日になったら色んな動物を見られますのよ。
 今日はペルシャと一緒にもう寝ましょう。……あら、もうこんな時間。こっそり帰らないと怒られますの」

 その言葉で、エレインはペルシャに身を任せた。
 ペルシャに腕を引っ張られ、ペルシャと一緒に寝るのを少し楽しみにしながら歩く。
 動物園に行けないのは少し寂しいが、ペルシャと一緒に寝るのもまた少し楽しみだ。



 だが、エレインはまだ、真後ろにある動物園への未練を捨てきれなかった。
 もう一度、ここに来る事はできるのだろうか。
 これは、甘い白夜の幻で、また彼女の前から大事な人は消えてしまうのではないかと……。
 拒絶され、またエレインは一人になってしまうのではないか、と……。



 ────明日が遠い。



 ────明日が不安だ。



 ────明日が怖い。




『エレイン……私たちは、この世界にいてはいけないの』


237 : 速水ペルシャ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:58:11 hlYrHn0s0






【クラス】
バーサーカー

【真名】
ジェノサイバー(エレイン・リード)@ジェノサイバー 虚界の魔獣

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力C 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
狂化:C
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
 彼女の場合、宝具を使って一時的に発動するものであり、狂化スキル発動後に狂化をし続ける事はない。
 また、素体そのものが元から知的障害を患い、言語能力を持たないエレインである為、どちらにせよ狂化スキルの振れ幅は大きくない。

【保有スキル】
神性:E(A)
 神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
 変身時に高まる。
純粋:B
 邪心を一切持たない子供のような心。
 大切な存在を殺害された時には強い母性でそれを防ぐ力を発する。
知的障害:B
 彼女の場合、知能の限界が人より狭く、年齢よりも幼い振る舞いをしてしまう障害。
 しかし、純粋な人間とすぐに友人になる社会性を持ち合わせ、感情表現は豊かである。
 また、言葉を発する事はできないが、相手の言葉の意味を何となく理解する事ができる。

【宝具】
『脳奥の神秘(ヴァジュラ)』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1〜5 最大補足:1〜5
 彼女が先天的に持つ驚異的な生体エネルギー。
 超能力や念力に近いパワーを発揮し、最大時には敵を破裂させる事もできる。
 この力を覚醒させれば、空に飛んだり、物体を宙に浮かせたりもできる。

『人の夢(フェアリー・ドリーミン)』
ランク:C 種別:結界 レンジ:1 最大補足:1〜10
 エレインは悲しい夢を見る。
 友達になった少年は無残に殺され、娘のように慕ってくれた女性は狂ってしまう。
 虚界の魔獣(ジェノサイバー)となった彼女の孤独な運命も宝具であり、彼女と彼女に関わる存在に悲しい終わりを残してしまう。
 それが、この世界にいてはならない破壊神の宿命であった。

『虚界の魔獣(ジェノサイバー)』
ランク:A 種別:変身 レンジ:∞ 最大補足:∞
 「ダイアナ・リード」とシンクロする事で誕生する、人間より一回りほど大きい巨大な超生命体。
 この宝具の発動と共に、パラメーターは計測不能になる。全身からエネルギーを放出し、それだけで戦車やヘリを撃墜する。
 巨大な羽根で飛翔するグロテスクな異形を持ち、時として天使や神とさえ言われた。
 憎しみによって巨大化した時にはビル群ほどの大きさにもなり、大陸を滅ぼし、エネルギーでタイムスリップする事もある。
 ただ、大きさに関わらず、ジェノサイバーが世界を滅ぼす力を持つのは確かである。
 エレインの意志と無関係に暴走してしまう性質ゆえ、「この世界にいてはいけない存在」でもある。
 しかし、その力自体が通常の魔術師では操り切れない為、決して本来敵な力を発揮する事はできないだろう。

『理性の姉(ダイアナ・リード)』
ランク:B 種別:精神 レンジ:エレインの精神内 最大補足:エレインの精神内
 虚界の魔獣(ジェノサイバー)へと変身した際に、エレインに注意を呼びかける声。
 ジェノサイバーの体はエレインがになっているが、その際に双子の姉であるダイアナも精神融合しており、エレインに呼びかける。
 単独では暴走してしまう危険性のあるエレインに言葉を投げかけ続け、「自分たちはこの世界にいてはいけない」と必死で訴え続けている。
 つまり、感性で行動するエレインに対して、「理性」で彼女を抑える姉なのである。

【Wepon】
 なし

【人物背景】
 神秘の生体エネルギー・ヴァジュラを秘めた双子の少女の妹。
 双子の姉であるダイアナと精神融合し、虚界の魔獣ジェノサイバーへと変身する。
 その強大なエネルギーは、エレイン自身も制御する事ができず、時として暴走し、世界を滅ぼしてしまうほどの力を発動してしまう。
 彼女は、非常に純粋な心を持つが、親しくなった子供たちが戦争で殺されていく姿を見て、彼女は人類に仇なし、世界のほとんどを滅ぼした後で、長い眠りについた。

【願い】
 エレインのままでいい。
 友達や母や娘や姉と生きられるささやかな幸せが欲しい。


238 : 速水ペルシャ&バーサーカー ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:58:21 hlYrHn0s0


【マスター】
速水ペルシャ@魔法の妖精ペルシャ

【マスターとしての願い】
 なし。

【能力・技能】
 様々な職業に変身する魔法を使う事ができる。
 100メートルを8秒台で走る野生の身体能力を持ち、大の大人の男でも腕力で敵わないほどの馬鹿力を持つ。

【人物背景】
 アフリカで生まれ、自然の中で育った元気な少女。
 一応、虎に育てられたとかそういうわけではないので、普通に日本語を話す事ができる。
 11歳の夏に日本に向かう途中、ラブリードリームの妖精から、愛のエネルギーを集めるための魔法を託される。
 魔法の力で様々な職業のスペシャリストに変身する事ができ、言葉遣いも大人っぽく変化する。
 1年以内にエネルギーを集められなかったり変身する姿を他人に見られると、愛する人が女性に変わってしまうという制約がある為、正体を明かす事はできない。
 「やーの」、「わーの」、「うっすらパー」といった奇妙な言葉を使う。

【方針】
 不明。


239 : ◆CKro7V0jEc :2015/01/25(日) 22:58:36 hlYrHn0s0
投下終了です。


240 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:43:07 .c4TaJJM0
滑り込み気味になりますが投下します。


241 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:44:27 .c4TaJJM0

 ・――〈Mare Tranquillitatis〉


 遠くから潮騒の音が押し寄せてくる。
 輝く渚が氾濫して、シロエたちの足首を洗った。
 シロエはアカツキに微笑みかけた。この時間が終わるのだ。
 でもそれは再会へとつながっている。
 シロエはアカツキの頭に載せた手を少し動かして、困る。いつもならこのへんで、アカツキの飛び蹴りが来るはずだ。子ども扱いするな、とか。それが来ないうえ、アカツキは真剣な表情をしているから、やめるきっかけが見つからないのだ。
 アカツキはきょとんとした表情で何かを言いかけた。その声は水の音楽で聞こえなかったが、シロエは気にならなかった。指先にはひんやりした細い絹髪の感触が残っている。

 その柔らかさに、シロエは確かに救われて――


                             ――[データに欠落が発生しました]


242 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:45:07 .c4TaJJM0






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 Loading 《ELDER TALES》...

 [データを読み込んでいます]

 Loading 《ELDER TALES》...failed!!

 [データに不正な箇所があります][データが欠落しています]


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.


243 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:46:06 .c4TaJJM0


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 0101010100001010110111111010000001010010101010101010010110100000010100101010101010100101


 [データ欠落部に類似データを割り当てます]

 Loading PCS Version 1.01...............................................................
 .................SUCCEED!!


               「きっと希望だけじゃない…絶望だってたくさんあるだろうな…」


 「どんな未来になるかなんて、わからないけど…」


         「でも、俺達の未来は俺達のものだ! もう誰にも渡さないぞ!」


 「俺は自分の未来と戦う!みんなが創ってくれた未来と戦う!」


                   「誰かのためじゃない、自分のためにだ!」




         【できっこない…アンタなんかに何もできっこない!】
                『――それは違うぞ!』



                                                                    「――ありがとう、■■」
 0101010100001010110111111010000001010010101010101010010110100000010100101010101010100101
 1111100010010111000110101111100011010110000110010101010111011011011000101000100101011010








 [――ロードしたデータを用いてプログラムを再構築します]
 [ようこそ、聖杯戦争へ]




,


244 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:46:37 .c4TaJJM0

 ◆

[Re:load]


 ……そしてシロエは、『東京』へと降り立った。

「……ここは……!」

 秋葉原――<セルデシア>の<アキバの街>ではない、『地球』の『秋葉原』。
 <大災害>と呼ばれるなにかによって、異世界<セルデシア>へと飛ばされたMMORPG<エルダー・テイル>のプレイヤー――<冒険者>達が、切望して止まない本来の『現実』。

 ……いや、違う。
 『召喚』と同時にシロエの頭の中にインプットされた情報が、状況を正しく認識させる。

 ここはやはり『月』。
 <ムーンセル>――万能の願望機の演算上に作られた、仮想の東京なのだ。
 そして、ここで自分達に宛がわれた役割は一つ。
 聖杯戦争――聖杯を手に入れるための奪い合い、殺し合い。

 自分は――シロエは、その『サーヴァント』として召喚された。

 ……おかしい。
 これは明らかに『異常(イレギュラー)』だ。
 サーヴァントとは、死した英雄――あるいは、それだけの偉業を成した者が英霊と成った存在だ。
 確かにシロエは現在の<セルデシア>においては<円卓会議>の参謀として一部には名高いし、そうでなくとも史書にその名前は知られている。(こちらはそもそも、<セルデシア>がまだゲーム<エルダー・テイル>であった時代に長年プレイしていたプレイヤーならば大体がそうであるが)
 けれどシロエは、まだ生きている。
 いや、確かにこの東京へとやって来る直前、レイド戦闘においてシロエは死を経験した。
 しかし、<セルデシア>での死は、ゲーム時代がそうであったように、<冒険者>にとっては復活を伴うモノだ。
 経験値――そして、地球での記憶を代償に、<冒険者>は<大神殿>から復活する。

 故に、自ら死を選ぶ事ですら、<セルデシア>から逃れる事はできない。

 だというのに、シロエはここにいる。
 それが何故か――それにも、シロエは心当たりがあった。

 〈Mare Tranquillitatis〉――「静かの海」。
 死した〈冒険者〉が、復活するために地球での記憶を捧げていく場所。

 <エルダー・テイル>の14番目のサーバーであるそこは――『月』だった。
 大規模戦闘で死亡し、復活を待つシロエは、月に記憶を捧げたのだ。

 それがムーンセル――月の聖杯と混線しても、おかしくはない。

 ……だが、この推論が正しいのならば、それもまた問題となる。

 シロエは、月に記憶を――魂の一部を、捧げた。

 であるならば。
 ここにいるシロエが、<静かの海>で記憶を捧げた本人なのか、それともその『捧げられた記憶』に過ぎないのか。
 それを区別する事は、できないのではないか?

(……いや、あんまり考えるのはやめよう。今はそれどころじゃない。
 それに……)

 「静かの海」で記憶を捧げた時。シロエの隣には、アカツキがいた。自分を主君と慕う。小柄な――とても綺麗な女の子。

 ……今も、彼女が“いる”のを感じる。きっと、シロエが呼ぶことができれば、彼女は出てきてくれるだろう。
 彼女の存在は、おそらく聖杯戦争を戦う上で、大きな力となるに違いない。

(そして、もう一つ)

「……マスター、大丈夫かい?」

 シロエは振り向くと、そこにいるのだろう、自らのマスターを見据えた。
 『マスター』。彼は一見すれば、単なる男子高校生のように見えた。
 アンテナのようにハネた髪が特徴的な、どこにでもいる、ただの学生。
 彼は震えていた。一見すれば、それは殺し合いの場に投げ込まれた恐怖に見えたかもしれない。
 けれどその表情を見れば、彼を震わせていた感情はシロエにだって理解できる。


245 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:46:56 .c4TaJJM0

 それは怒りだった。

「こんなのが……奇跡だって言うのかよ……!」

 それも、ただ理不尽な死を目の前に翳された者の怒りではなく――理不尽な運命、それを突き付けた者への怒りだった。

「認めないぞ……これが運命、奇跡だなんて、コロシアイの先にしか未来はないだなんて、俺は絶対に諦めたりしない!
 俺の未来……聖杯にだって、好き勝手させたりはしない!」

 その怒りに。その気迫に。シロエは、一瞬気圧された。
 異世界のモンスターよりも、そのコトダマを放ったマスターが、強大であるかのようにさえ感じられた。

「……できると、思うのかい?」

 思わず、言葉が漏れ出す。
 その弱気を、彼は真正面からロンパした。

「できるさ。自分自身の未来を信じて飛び込んでいけば、きっと未来だって創れる……
 だって、これはゲームじゃない……そうだろ?」

 ……それは奇しくも。過去のシロエが言った言葉と、同等の響きを持っていた。


 ――けれど、もういい加減認識して欲しいことがあります。
 僕たちは、異世界にいるんです。
 この世界はどこかひどく奇妙で歪んでいる。
 〈エルダー・テイル〉の影響を受けているのは事実です。
 けれど、さっきの〈料理人〉の発見でも判るとおり、ただ単純にゲームの世界じゃない。もっとちゃんとした物理的な法則のある異世界です。


 シロエが11のギルドの長を説き伏せる為に使った言葉が、今シロエの胸を打っている。
 酷く奇妙な気分に襲われて、シロエは不意にくすくすと笑ってしまった。

「お……おい、大丈夫か?」
「ああ、ごめんごめん。大丈夫。
 ……わかった、信じるよ。マスター」

 いきなりの事に不安な顔を見せるマスターを、正面から見据えて、肯定の言葉を送る。
 驚いた顔を見せる彼に対して、シロエは、言葉を続けた。

「だから、マスター。君の名前を聞かせてくれないか?」

 その言葉に、彼のマスターは『そういや忘れていた』という顔をする。

「っと……そう言えば、自己紹介がまだだったな」

 そして、『聖杯と戦う』という、契約の言葉を放った。

「俺の名前は――日向創だ」


246 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:49:48 .c4TaJJM0
---


【クラス】フォーキャスター
【真名】シロエ@ログ・ホライズン
【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
計略:B
 事前準備による作戦遂行能力。
 相手の戦力を把握し、ある時は削ぎ落とし、ある時は相手の強みを殺し、ある時は自らの有利な陣地へ誘い込む。
 作戦・計画・戦術の成功率をアップさせ、より効率的に扱える。
陣地作成:C
 自らに有利な陣地な陣地を作成可能。
 フォーキャスターの陣地は、工房であると同時に野営地・駐屯地としての性格を持つ。
【保有スキル】
魔術:A-
 強化・弱体化・状態異常・魔力供給などの援護効果の付与魔術を非常に得意とする。
 攻撃魔術も扱えるが、威力は標準的なキャスターと比べると貧弱。
話術:D
 言論によって人を動かす才能と技術。
 交渉においては高い能力を発揮するが、反面感情の絡む会話となると鈍い面もある。
道具作成:B
 <筆写師>としての能力。
 マジック・スクロールの作成等が可能。
<口伝・契約術式>:?
 [閲覧不能データです][このスキルは既存データの仕様外にあります]
【宝具】
『夜明けの迷い子(アカツキ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 自らの従者、暗殺者(アサシン)のアカツキを呼び出す宝具。
 アカツキは気配遮断:B、単独行動:Dのスキルを所持する。
 一回の召喚に令呪一画を必要とし、12時間経った場合一端消滅する。

『全力管制戦闘(フルコントロール・エンカウント)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:24人
 フォーキャスターの真髄、前線での高速指揮能力。
 周囲で戦闘している人員の状況を完全に把握し、700秒先までの戦況を予測する。
 多人数での戦闘に特化した宝具。

【weapon】
〈滅びたる翼の白杖〉
 所有者の支援魔法の効果範囲を拡大する効果がある長杖。
 普段は何の変哲もない古木の杖だが、起動状態では翼型の力場が先端から展開され所有者の支援魔法の効果範囲が拡張される。
〈賢人の外套〉
 装備者に、その智慧に応じた守りの加護を与えるとされる幻想級防具。
 精神的なバッドステータスへの高い耐性を誇る。
〈月桂の華護り〉
 月に咲くという伝説の華を模した幻想級護符。
 魂の移ろいを祝福するとされ、死亡からの復活時に失われる経験値を減少させる。
 精神属性の攻撃魔法や防御魔法を強化する効果がある。

 その他にも〈エルダー・テイル〉時代の装備やアイテムを多数所持しているが、今回の聖杯戦争には持ち込めていない。
【人物背景】
 20年続く老舗MMORPG「エルダー・テイル」のプレイヤー。本名は「城鐘恵(しろがねけい)」で、工学系の大学院生。
 中学生の頃から8年間プレイしている古参プレイヤーで、俗に言う「廃人」。
 周到な計画立てを好む参謀タイプのプレイヤーであり、一度決めたらどんな手でも使う実行力や、自問自答を多用して状況を分析し作戦を練る癖(そのため、周囲にはシロエの思考の過程が読めない)などから、周囲には「腹ぐろ眼鏡」とあだ名されている。
 エルダー・テイルに慣れて来た頃の厭な思い出や、人に頼るのが苦手な悪癖などから人付き合いが苦手で、目つきの悪さもあって誤解されやすいのも原因である。
 かつて存在した伝説的なプレイヤー集団「放蕩者の茶会(デボーチェリ・ティーパーティー)」の元メンバーで、プレイ動画やログを分析し、ダンジョンマップを作成したり戦闘時の作戦を練るなどもっぱら参謀役を務めていた。

 エルダー・テイルのプレイヤーが異世界に転移させられた「大災害」では、当初は自分のことでいっぱいだったが、様々な出来事を経て「このままでは取り返しが付かなくなる」と発起。
 アキバに治安維持組織「円卓会議」を発足させ、自身もその参謀役となっている。
【サーヴァントとしての願い】
 なし。


247 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:50:49 .c4TaJJM0

<フォーキャスター>
 『軍師』のクラス。
 多人数での戦闘を得意とし、それに纏わるスキル・宝具を所持する。
 スキル特性は『計略』。事前の準備により敵軍を陥れ、味方軍を強化する。


【マスター】日向創@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
【参加方法】
 [データを閲覧できません]。
【マスターとしての願い】
 未来へ。
【weapon】
 なし。
【能力・技能】
 “超高校級の[データが読み込めません][データにエラーが発生しました][データ削除]”
【人物背景】
 『スーパーダンガンロンパ2』の主人公。
 一見何の取り柄もない無個性な人物だが、『超高校級の才能を持つ者だけが入学できる』という希望ヶ峰学園の生徒として、『コロシアイ修学旅行』に巻き込まれる。
 一種の記憶喪失があり、自らの才能を全く覚えていないが、事件発生時における観察力と推理力には目を見張るモノがある。

 その本当の才能は、
 [データが存在しません]。
 だが、実は、
 [編集済]
 であり、そして、
 [強制シャットダウンされました]。

 ――その後、より参戦。

【方針】
 聖杯に抗う。


248 : ◆ACfa2i33Dc :2015/01/25(日) 23:51:07 .c4TaJJM0
投下終了しました。


249 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 23:56:15 sJD/N15w0
ギリギリになりましたが投下します


250 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 23:56:42 sJD/N15w0
「――――じゃあ、おじさんはそろそろ、行くね」
「……うん。ばいばい、カリヤおじさん」

 背を向けてとぼとぼと立ち去っていく間桐桜を見送り、いざ地下の虫蔵に向かおうとして、間桐雁夜はふと窓の外に顔を向けた。
 特に理由はない。ただの気まぐれだった。
 しかし、そこにあった紅い月を目にした瞬間、雁夜の意識は途絶えた。

 ■  ■  ■

 薄ぼんやりとしていた雁夜の意識が最初に認識したのは、頬に当たる冷たく湿った感触だった。
 次いで嗅覚が感じ取った青臭さと併さって、自分はどこか原っぱのような場所に倒れているのだと霞がかった意識が考える。
 今まで間桐邸に居たはずの自分がどうしてこんなところに居るのかと疑問を覚えるが、はっきりしない思考では考えを上手くまとめられなかった。

「おじさん、大丈夫?」

 そうしていると、唐突に声をかけられた。
 幼い声の調子から子供かと思いながら、ようやく右目をゆっくりと開いた雁夜が目にしたのは、こちらを見下ろす少女の緑色の瞳だった。
 少女の腰まで届いている髪は薄く黄色がかった色をしていた。
 少女が着ている黒いセーラー服と合わさり、まるで夜空に浮かぶ月のような色合いだなと思ったところで、雁夜の思考に何かが引っかかった。

(月……そうだ、俺は)

 全てを思い出した雁夜は慌てて立ち上がろうとする。
 しかし、ほとんど麻痺しかかっている彼の左半身は立ち上がることすらおぼつかない。
 更に焦ったせいもあって両足が地面を踏んだ瞬間にずっこけたように左側へと傾いてしまう。

「わっとっと。危ないよおじさん」

 雁夜の急変に驚きつつも、ちょうど正面にいた少女が咄嗟に彼の体を支えていた。
 こんな少女に迷惑をかけていることに情けなくなりながらも礼を言おうとして、雁夜は気付く。
 自分と――正確には右手に刻まれた三画の文様と――少女の間に確かな繋がりを感じたのだ。
 まさかと思いながら、雁夜は呆然とした表情のまま少女を見つめる。


251 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 23:57:42 sJD/N15w0

「君が……?」

 雁夜の様子から何かを察したのか、少女はにっこりと笑いかけてくる。

「うん。夕だ、アーチャーがおじさんのサーヴァントだよ。よろしくね!」

 元気いっぱいな少女の答えに、雁夜は体調とは別の理由でめまいを覚えそうになった。



【クラス】アーチャー
【真名】夕立@艦隊これくしょん

【パラメーター】
 筋力:D 耐久:E 敏捷:C 魔力:E 幸運:C 宝具:C

【属性】
 中立・善

【クラススキル】
 対魔力:E
 無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
 魔術に対しての逸話がないので気休め程度の効果しかない。

 単独行動:D
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Dランクならば半日程度は限界可能。

【保有スキル】
 戦闘続行:B
 戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

 地形適応(水):B
 特定の地形において補正を受けるスキル。
 彼女の場合は水上に限り敏捷が1ランクアップする。

 勇猛:C
 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

 軍略:D
 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。
自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。

【宝具】
『ソロモンの悪夢』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大補足:1
 時間帯が夜である、敵の数(夕立の認識で)が自軍より多いという条件下でのみ発動可能となる宝具。
 この宝具が発動すると自身が轟沈するか敵軍が居なくなるまで撤退することができなくなる。
 発動すると筋力、敏捷、保有スキルのランクが1ランクずつアップし、戦場が水上であるならば更に筋力と敏捷が1ランクアップする。
 外見もいわゆる改二の状態となり瞳の色が緑色から赤色に変わり、側頭部の髪の一部が跳ね上がる。(絵師いわくスーパーサイヤ人的なイメージらしい)
 服装では首元に白いマフラーが巻かれ、装備には史実での逸話に倣ってハンモックが張られ、太ももに装着された魚雷発射管が肥大化し、
 魚雷も白色から赤色に変化する。

【weapon】
 12.7cm連装砲(通常時)→12.7cm連装砲B型改二(宝具発動時)

 61cm4連装魚雷

【人物背景】
 日本海軍の駆逐艦である白露型四番艦・夕立をモデルにした艦娘。
 艦娘が何なのかという詳しい説明は公式でも明かされていないが、二次創作では艦船の魂が転生したもの、少女に艦戦の力を宿した存在として扱われることが多い。
 モデルとなった夕立は太平洋戦争において数々の海戦に参加したが、その名を轟かせたのは1942年11月12日深夜-13日未明における第三次ソロモン海戦である。
 序盤から混戦模様となった戦いで、戦陣隊に所属していた同艦は米艦隊を挟んで反対側に取り残されてしまう。
 しかし怯むどころか共に先陣隊として行動していた春雨と共に米艦隊へ突進、春雨離脱後に再度突進。
 敵味方の判別すら困難な大乱戦において「防空巡洋艦1隻轟沈・防空巡洋艦1隻大火災・巡洋艦及び駆逐艦1隻火災」の戦果を上げたとある。
 32分に渡り暴れ回り遂に大破すると乗組員の救出後に米軍により沈められた。
 射耗弾薬は「巡洋艦三隻及び駆逐艦一隻に対し主砲150発以上機銃200発以上、巡洋艦二隻に対し魚雷八発」となっている。
 しかし前述の通り乱戦であったため確実なのは重巡ポートランド大破のみで、その他の戦果については疑問視する声もある。
 この戦果のあやふやなところが反映されてかゲーム中の彼女の口調は「〜っぽい?」というものが多い。
 性格は戦闘中の狂犬的な様子と相まって提督によく懐く犬のように扱われることが多い。
 改二になると外見は大きく変わり、戦闘能力もソロモン海戦での逸話から大幅に向上し、特に火力は重巡に迫るぐらいに成長する。
 今回は通常時は普通の状態だが、宝具発動時に限り改二となる。


252 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 23:59:07 sJD/N15w0

【サーヴァントとしての願い】
 おじさん(雁夜)の力になる。

【マスター】間桐雁夜

【マスターとしての願い】
 聖杯を手に入れて間桐桜を救う。

【weapon】
 蟲を使役する。
 即席のため本家である魔術師には遠く及ばない。

【能力・技能】
 間桐の人間による蟲の使役を用いる。聖杯戦争に間に合わせるために行った調整なので本来の力は出し得ない。
 しかし、蟲と言う存在は人間に無意識で不快感を与え、そして力が無い訳ではない。

【人物背景】
 間桐の家に生まれるが、それを嫌い家を飛び出し一般人として生活を送っていた。
 幼なじみである葵に好意を抱いていたが彼女の幸せを案じ手を出さないでいた。
 葵の結婚後も交流は続いていたが、ある日、彼女の娘の一人である桜が間桐の家に養子に出されたことを知る。
 桜を救うために間桐の家に戻った雁夜は己の身体を犠牲にしながら魔術師の道をもう一度歩む。
 残りの寿命を一ヶ月にまで削られた男が少女を救うべく戦うと書けば聞こえはいいだろう。
 だが、本人も気付いていないが本心では葵たちからの賞賛と愛を求めているので結局は自分のためである。
 それでも桜を救いたいという思いだけは本物なのは確かだ。
 今回は聖杯戦争が始まる直前、サーヴァントを呼び出す間際から呼ばれた。


253 : ◆UUn.BEaX4M :2015/01/25(日) 23:59:19 sJD/N15w0
投下終了です


254 : ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:03:42 t3GlmdbE0
すみません、ぎりぎりオーバーかも知れませんが投下させて頂いてもよろしいでしょうか。


255 : ◆devil5UFgA :2015/01/26(月) 00:03:56 UPARk8cY0
お時間となりました、こちらで締め切りとさせていただきます


256 : 名無しさん :2015/01/26(月) 00:04:18 ZbKGQY.w0
皆さま最期までお疲れ様です。とりあえず、全スレ最後の投下から締め切りまでの追加分纏めです。追加エントリーは34組!

【マスター】&【セイバー】
 【井之頭 五郎 @ 孤独のグルメ】&“セイバー”【アルトリア・ペンドラゴン @ Fate/stay night】 ◆wgOIRwTFb6(>>36->>39
 【高坂穂乃果 @ ラブライブ!(アニメ)】&“セイバー”【アマテラス @ 大神】 ◆.OfI.CoB/2(>>90->>97
 【衛宮切嗣 @ Fate/zero】&“セイバー”【坂田銀時 @ 銀魂】 ◆WRYYYsmO4Y(>>115->>119
 【鷲巣巌 @ ワシズ――閻魔の闘牌】&“セイバー”【志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-】 ◆UUn.BEaX4M(>>160->>164
 【バルバトス・ゲーティア @ テイルズオブデスティニー2】&“セイバー”【ニーズヘグ @ ニンジャスレイヤー】◆p52EXgvrnE (>>214->>217

【マスター】&【アーチャー】
 【真壁一騎 @ 蒼穹のファフナーEXODUS】&“アーチャー”【ストレングス @ ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)】 ◆arYKZxlFnw(>>4->>7
 【羽藤桂 @ アカイイト】&“アーチャー”【白露型駆逐艦四番艦『夕立』@ 艦隊これくしょん】 ◆RWOCdHNNHk(>>10->>)
 【相楽誠司 @ ハピネスチャージプリキュア!】&“アーチャー”【愛乃めぐみ @ ハピネスチャージプリキュア!】 ◆vPcR9pdcgg(>>43->>47
 【安藤潤也 @ 魔王 JUVENILE REMIX】&“アーチャー”【ジョン・プレストン @ リベリオン】 ◆q4eJ67HsvU(>>107->>111
 【峰津院大和 @ デビルサバイバー2】&“アーチャー”【魔神ベル・アバター(橘千晶)@ 真・女神転生3 Nocturne】 ◆Ee.E0P6Y2U(>>200->>204
 【間桐雁夜 @ Fate/zero】&“アーチャー”【夕立 @ 艦隊これくしょん】 ◆UUn.BEaX4M(>>250->>)

【マスター】&【ランサー】
 【平山周吉 @ 東京物語】&“ランサー”【神崎すみれ @ サクラ大戦シリーズ】 ◆CKro7V0jEc(>>122->>126
 【園田海未 @ ラブライブ!】&“ランサー”【キュアラブリー(愛乃めぐみ)@ ハピネスチャージプリキュア!-人形の国のバレリーナ-】 ◆devil5UFgA(>>167->>175


257 : 名無しさん :2015/01/26(月) 00:04:34 ZbKGQY.w0
【マスター】&【ライダー】
 【ヴィクトリカ・ド・ブロワ @ GOSICK】&“ライダー”【左翔太郎 @ 仮面ライダーW】 ◆tHX1a.clL(>>50->>56
 【クラヴィス・シェパード @ 虐殺器官】&“ライダー”【周防達哉(ニャルラトホテプ)@ ペルソナ2罪/罰】 ◆Ee.E0P6Y2U(>>137->>141
 【黒崎壱哉 @ 俺の下であがけ】&“ライダー”【マスターテリオン @ 斬魔大聖デモンベイン】 ◆7bpU51BZBs(>>144->>149
 【島村卯月 @ アイドルマスター シンデレラガールズ】&“ライダー”【マーズ @ マーズ】 ◆HQRzDweJVY (>>193->>197
 【皇昴流(すめらぎすばる) @「東京BABYLON」及び「X」】&“ライダー”【アンヘル(Angel)@ DRAG-ON DRAGOON】 ◆S8pgx99zVs(>>220->>223

【マスター】&【キャスター】
 【上田次郎 @ TRICK】&“キャスター”【山村貞子(山田奈緒子)@ TRICK】 ◆CKro7V0jEc(>>152->>154
 【浅上藤乃 @ 空の境界 未来福音】&“キャスター”【ペパーミントの魔術師@ブギーポップシリーズ】 ◆Ee.E0P6Y2U(>>179->>184
 【田所晃(タドコロ アキラ)@ ライブ・ア・ライブ】&“キャスター”【ガッシュ・ベル @ 金色のガッシュ!! 】 ◆EIyzxZM666 (>>207->>211

【マスター】&【アサシン】
 【月読ジゼル @ 金田一少年の事件簿】&“アサシン”【七人目のミイラ(六星竜一)@ 金田一少年の事件簿】 ◆CKro7V0jEc(>>59->>64
 【泉新一 @ 寄生獣】&“アサシン”【ヴィルヘルム・エーレンブルク @ Dies irae -Acta est Fabula-】 ◆B7YMyBDZCU(>>78->>87

【マスター】&【バーサーカー】
 【コジコジ @ コジコジ】&“バーサーカー”【にゃん五郎 @ ねこぢるうどん】 ◆CKro7V0jEc(>>22->>24
 【工藤俊作 @ 探偵物語】&“バーサーカー”【白夜叉(坂田銀時)@ 銀魂】 ◆CKro7V0jEc(>>100->>105
 【速水ペルシャ @ 魔法の妖精ペルシャ】&“バーサーカー”【ジェノサイバー(エレイン・リード)@ ジェノサイバー 虚界の魔獣】 ◆CKro7V0jEc(>>234->>238

【マスター】&【エクストラクラス】
 【“マスター不在”】&“ルーラー”【ラオモト・カン @ ニンジャスレイヤー】 ◆devil5UFgA(前スレ>>994->>996
 【首藤涼 @ 悪魔のリドル】&“ストレンジャー”【ハクオロ @ うたわれるもの】 ◆waFa5fGgBM(>>27->>31
 【“マスター不在”】&“クラスなし”【ゴジラ @ ゴジラシリーズ】 ◆CKro7V0jEc(>>67->>68
 【海野藻屑 @ 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】&“ビメイダー”【プロトゼロ @ ファンタジスタドール】 ◆BATn1hMhn2(>>71->>75
 【ロウ・ヒーロー @ @真・女神転生?】&“エンジェル”【無道刹那 @ 天使禁猟区】 ◆TAEv0TJMEI(>>129->>134
 【真山徹 @ ケイゾク】&“ホルダー”【当麻紗綾 @ SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜】 ◆CKro7V0jEc(>>186->>190
 【向井拓海 @ アイドルマスターシンデレラガールズ】&“スタンダー”【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】 ◆dM45bKjPN2(>>226->>231
 【日向創 @ スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園】&“フォーキャスター”【シロエ@ログ・ホライズン】 ◆ACfa2i33Dc(>>241->>247


258 : ◆devil5UFgA :2015/01/26(月) 00:04:57 UPARk8cY0
>>254
投下への時間が一時間や二時間とならずに、現在投下出来る状況でしたら受付させていただきますー


259 : ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:08:37 t3GlmdbE0
>>258
ありがとうございます!これより投下させていただきます!


260 : 坂上あゆみ&エクストラクラス  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:10:02 t3GlmdbE0
 走る。走る。ただ走る。
 自分の足音にさえ追いつかれないように、必死で足を動かし、体を前へ、前へ。
 喉がひりつくように痛いけど、そんなことで足を止めたら、きっともっと怖いことになる。

「なんで……なんでこんなことに……?」

 少女が、幾度となく繰り返した答えの出ない問い。
 不安を振り切るように路地裏へ駆け込み、散乱したゴミに躓きそうになりながら走る。
 土地勘なんてない。今どこを走っているのかも分からない。
 この道を選んだのもただの思いつきだ。ただ少しでも、あの「怖いもの」から逃げたかっただけ。

「お母さん……っ」

 この街にはいないはずの、大事な人を思う。
 せっかく心を開くことが出来たのに。勇気を持って、一歩を踏み出すことが出来たのに。
 いつも吠えられていた隣の犬とも仲良くなれた。学校でも、友達を作れた。
 自分をのけ者にしていると思っていたあの街のことを、大好きになれた。
 光になって空に溶けていった、大切な「ともだち」が見守ってくれている街を。

「それなのに……こんなところで、ひとりぼっちで……嫌だよぉ……っ」

 もう、走れない。
 いくら逃げたところで何処へも辿りつけない、その事実が、彼女から気力を奪っていく。
 足の進みは次第に遅くなり、すぐに歩くことすらままならず、少女は膝をついた。
 逃げるのをやめた自分のそばに、じわり、じわりと、嫌な気配が這い寄ってくるのが感じられる。
 肩で息をしながら、少女はそれでも震えをこらえて恐る恐る振り返った。

「…………っ!!」

 少女は知る由もない。
 この東京を、己の固有結界にて魑魅魍魎の跋扈する魔都へと塗り替えた魔人がいることを。
 社会の裏側に潜む魍魎どもは、普段は人目に付かぬ闇に潜んで息を立てずにいる。
 しかし今、そのまつろわぬ者どもは、少女の魂に惹かれて集まってきていた。
 その純粋なる魂……起こり得ない奇跡をも起こす、輝ける祈りの力に惹かれて。

「い、いや……来ないで……」

 一度へたり込んでしまうと、もう腰が抜けて立ち上がれない。
 スカートが汚れるのを気にする余裕すら無く、ただ後ろ向きにずり下がりながら少しでも距離を取ろうとする。
 だけど気配は確実に近づき、そこかしこから少女を狙っているのだ。

「誰か、誰か助けて――!」

 人通りの絶えたこんな裏路地で、こんなか細い声を上げたところで、誰の耳にも入らない。
 分かっていた。分かっていたけれど、助けを求めずにはいられなかった。
 死にたくなかったから。まだ、祈りを捨てたくなかったから――!


261 : 坂上あゆみ&エクストラクラス  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:10:43 t3GlmdbE0


「――――あゆみちゃん!!」


 声が聞こえた。自分の名前、坂上あゆみという名前を呼ぶ声が。


 目を開けると、目の前に少女が立っていた。
 自分と同じぐらいの年頃の、長い髪をポニーテールに結んだ、明るそうな印象の少女。
 彼女はあゆみを見てかすかに微笑み、そして高らかに叫んだ。

「――プリキュア! くるりんミラーチェンジ!」

 三枚のカードをアイテムにセットし、指先で小さなミラーボールを回転させる。
 一瞬にして少女を光が包み、降臨したそのシルエットにあゆみは驚愕した。

 あゆみは、その姿を知っている。

 彼女のことは知らない。だけど、彼女のような少女達を知っていた。


「世界に広がるビッグな愛! キュアラブリーッ!」


 世界が闇に染まる時、必ず現れるという伝説の戦士――!


「プリキュア! ピンキーラブシュート!」


 キュアラブリーが叫ぶ。
 ハート型の愛のエネルギーが、魑魅魍魎どもを浄化していく。 
 その光景に、あゆみはただ圧倒されていた。

「……私の知らないプリキュア……?」

 思わず呟く。

 あゆみはかつて、歴代のプリキュアたちと共に友達を助けに行ったことがある。
 だけどその時に、彼女の姿を見たことはない。

「久し振りだね、あゆみちゃん。大事な友達が困ってるんだもの、ほっとけなくてさ」

 それなのにそのプリキュアは、まるで自分のことを知っているかのように言うのだ。
 あゆみの頭のなかを疑問符が埋め尽くした。

「あの……私、あなたと会ったことなんかなくて、でも、私のこと友達って……」

 途切れ途切れにあゆみがそういうと、キュアラブリーは、全てを受け入れるように微笑んだ。

「私は愛乃めぐみ。この聖杯戦争に巻き込まれたあゆみちゃんを守るために現界した、あなたのサーヴァント」

 そして――そう続けながら、めぐみは、あゆみへと手を伸ばした。

「私はあなたの、『みらいのともだち』だよ」


262 : 坂上あゆみ&エクストラクラス  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:11:08 t3GlmdbE0


【クラス】
ザ・フレンド

【真名】
キュアラブリー@ハピネスチャージプリキュア!

【パラメーター】
筋力C+ 耐久C 敏捷B+ 魔力B 幸運C 宝具A

【属性】
中立・善


【クラススキル】
永遠のともだち:EX
大事な人に手を差し伸べる、ただそれだけのスキル。
このスキルはなにひとつ、目に見える効果やステータス補正をもたらさない。
あえて言うならば、このスキルによる心の繋がりは『勇気』を生む。それが全て。


【保有スキル】
伝説の戦士:A+
世界が闇に染まる時、必ず現れるという光の戦士プリキュア。
絶望へと立ち向かう時、キュアラブリーはステータス以上の力を発揮できる。
そして彼女の宝具が、このスキルから更なる力を引き出す。

対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

魔力放出(光/熱):B
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
キュアラブリーの場合、ラブプリブレスを介して光や熱を放出し、あるいは武器に変化させて攻撃できる。
なお、魔力を複数の属性に変化させられる魔力放出スキルは稀少である。

変化:B
プリチェンミラーおよびプリカードにより服装をチェンジし、自身に別の能力を付加できる。
ただし非変身状態の服装にチェンジする場合は、幸運以外の全ステータスがEまで低下する。


【宝具】
『絶対無敵の愛(ハピネスチャージ・キュアラブリー)』
ランク:A 種別:対絶望宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:自身
世界を照らす永遠の愛。英霊キュアラブリー、その信念自体が宝具。
この世界中の人々の願いにより無限の愛を生み出し、自身の魔力へと変換する。
さらに彼女を信じる者がいる限り、伝説の戦士スキルはあらゆる絶望に対して更なる力を発揮する。
もっともこの東京に暮らす人々は、あくまでNPCであるため強い願いを持つことはない。
そして聖杯戦争において彼女を純粋に信じる者はマスターひとりである以上、この宝具は十全には機能しない。
しかし、もしも東京中のNPC達が彼女を信じ、奇跡を願う想いを持つことがあるならば――。


263 : 坂上あゆみ&エクストラクラス  ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:11:23 t3GlmdbE0
【weapon】
『プリチェンミラー』
三枚のプリカードを重ねあわせてセットすることで変身に使用するアイテム。
変化スキルで使用する。

『ラブプリプレス』
ブレスレット型のアイテム。プリキュアの想像力を具現化する力を持つ。
ラブリーは魔力放出スキルによる魔力をこのアイテムで形にし、変幻自在の攻撃を繰り出す。


【人物背景】
「ハピネスチャージプリキュア!」の主人公。
元気と笑顔があふれる愛嬌で人々から愛されているが、困っている人に節介をやくことで迷惑をかけることもある。
学業も運動も不得意だが、頭の回転は速く、力仕事が得意。また変身後は驚異的な戦闘センスを発揮する。
偶然愛の結晶をぶつけられたことでプリキュアとなり、相棒の白雪ひめと共に幻影帝国に立ち向かう。
なお、その人助けへの強迫観念めいた思いは「なにかをしてあげないと自分を好きになってもらえない」という、
メサイアコンプレックスに起因するものであることが戦いの中で明らかになる。

キュアエコーこと坂上あゆみとは「NewStage3」で出会っているが、この時点でのあゆみはそれを知らない。


【マスター】
坂上あゆみ@プリキュアオールスターズNewStageシリーズ

【マスターとしての願い】
生きて大切な人達のところに帰りたい。

【weapon】
「エコーキュアデコル」
かつて彼女の祈りが生んだ奇跡の結晶。
これ単体では彼女は変身することは出来ないが……。

【能力・技能】
「キュアエコー」
あゆみのプリキュアとしての姿。
妖精たちの世界では、過去に一度だけ姿を現した幻のプリキュアとして語られている。
パートナーの妖精を持たず、また浄化技以外に一切の攻撃を行ったことのない異例のプリキュア。
妖精のバックアップがない以上再度の変身は困難なはずだが、彼女自身の祈り次第で奇跡は再び起こるかもしれない。

【人物背景】
「プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち」の主人公。
TVシリーズには登場しない、オリジナルキャラクターである。
横浜に引っ越してきたばかりの内気な中学二年生。街に溶け込めず、学校でも友達を作れず、
ひとりぼっちでいた時に謎の生命体「フーちゃん」と出会い、ともだちになる。
しかしフーちゃんはあゆみの願いを叶えるため暴走し、歴代プリキュアと敵対。
あゆみは本当の願いをフーちゃんに伝えるためプリキュア達と協力し、そして奇跡を起こした。

プリキュア史上ただひとり、妖精の補助を受けず純粋に思いの力だけで変身した少女。


【方針】
無用な争いはせず、生きて帰るための方法を探したい。


264 : ◆q4eJ67HsvU :2015/01/26(月) 00:11:54 t3GlmdbE0
投下終了しました。温情に感謝します。


265 : ◆devil5UFgA :2015/01/26(月) 00:17:07 UPARk8cY0
締め切りとさせていただきましたが、投下がすぐに出来る状況でしたら、投下宣言いただければ受付させていただきます

ないようでしたら、今度こそ締め切りということで


266 : ◆devil5UFgA :2015/01/26(月) 00:51:27 UPARk8cY0
では、参加主従をきめさせていただきます
少々お時間をば……


267 : ◆devil5UFgA :2015/01/26(月) 19:22:53 INAIR8Bo0
失礼いたします。ただいま漠然と候補としていた幾つかの作品をもう一度読ませていただいております。
まだ悩んでおりまして、もう少々お時間をいだたきます
明日の昼ほどになるかもしれません……大変申し訳ありません


268 : 名無しさん :2015/01/26(月) 22:40:50 0fCknMnM0
これだけの投下があった以上選ぶのにも時間はかかって当然かと
お気になさらず満足の行く名簿をお造り下さい


269 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:29:16 xhueywZE0
お待たせしました
登場する主従を発表させていただきます
ただ、前もって『18人/18騎/18組』とお伝えさせていだきましたが、枠を増加させていただいて、

――マスター21人・サーヴァント21騎――

――別枠:カイン(直哉)&魔人アーチャー+ルーラー――


こちらのとおりに本編を開始させていただきます


270 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:30:13 xhueywZE0

メシア教傘下の教会の一室。
いつものように、祈りを捧げる青年へと至ろうとしている少年が居た。
法衣は纏っていないが、しかし、法衣を連想させる白い服を着ている。
片膝を突き、無心に神へと何かを捧げる。
彼が時間さえあれば祈りを捧げていることを、この教会に通うものならば誰もが知るものだった。
そう、この教会に通うものは誰もが彼のことを知っている。
優しく、穏やかで、恐らく、最も心の清らかな人物。
『メシア教』が信徒を教科書に載せるとすれば
彼の名を知るものは、この場に居ない。
教会に通う信仰を胸に抱く人々は、ただ、彼のことを『先生』もしくは『牧師様』と呼ぶ。

そんな彼――――『ロウヒーロー』は、たった今、神へと捧げている祈りに、平時の祈りでは混じり得ない異物を感じていた。

この紅い月に導かれた東京の人々が抱くロウヒーローへの評価は真実ではあったが、偽りでもあった。
ロウヒーローのそれは、一度は天使に導かれただけのものだった。
彼の者の優しき心に生じるはずのない選民の意思。
それは天使に植え付けられたものだろうか。
違う。
ロウヒーロー自身が拒絶する。
あの選民の意思は、『優越』という感情は。
己自身が抱いたものだ。
恥ずべき想いだった。
もしも、ロウヒーローがそんな感情を抱いていないのだとしたら。

『なぜ、僕は彼女の顔を――――』

眉をひそめ、連想する顔があった。
その顔を、連想しない日々があった。
様々な想いを胸に秘めたまま、ロウヒーローは顔を上げ、十字架へと背を向ける。

「おや……おはようございます、一郎くん」
「おはようございます、牧師様。
 邪魔をしては悪いと思って、待っていました」

すると、そこには一人の少年が立っていた。
『松下一郎』、天才的頭脳を持つ人智を超えた存在だ。
かつて、偽りとはいえ救世主であったロウヒーローですら、異常であると感じる少年。
隠し切れない才覚というものがある。
ぎょろりとした『目』は、こちらの心を見透かしているかのような、不気味なものだった。
だが、不快なものではなかった。
もしも、それを不快に感じるとするのならば。
それは妬みから生まれるものだ。
己の届かないものに対する妬み。
恐らく、松下一郎は別のものを見ている。
そのことに対する、妬み。
松下一郎が、東京でメシア教の元に住む前の住居、奥軽井沢では『悪魔くん』と呼ばれていた。
悪魔的頭脳を持った精神的異能児。
人はそんな少年を神とは呼ばず、悪魔と呼んでいた。


271 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:31:14 xhueywZE0

「いえ、気を使わせてしまったようですね」

ロウヒーローは、胸の中から生まれる正体不明のものを誤魔化すように口にした。
空っぽではないと、己を励ました天使が居た。
その言葉の通り、己は空っぽではない。
胸の中に黒いものが生まれるように、己は空っぽではないのだ。

「それは、僕も祈りを。
 人々のため神の千年王国への道のり……遠く険しい旅のための祈りを」

人々が救われる寸前、導きの救世主の前に偽りの救世主が現れる。
偽りの救世主は倒されることでその使命を完遂する。
そう言った意味では、結局、ロウヒーローは救世主ではなかったのだろう。
目の前の少年が救世主である可能性はどうだろうか。
聡明な少年だ、恐らく、ロウヒーローの何倍も、何十倍も。
見えているものが違うとは、そういうことなのだろう。

松下一郎の父は大手電機メーカー、太平洋電気の社長だ。
全てが恵まれている少年は、しかし、そこに留まり続けるつもりはないようだった。
篤き信仰を、強い信念を持った、救世主となり得る存在だった。

彼もまた、聖杯戦争に参加し、規格外の存在である英霊を使役するマスターなのだろうか。

『……恐らく、マスターなのだろう』

可能性は高いだろう、隠し切れない何かというものがある。
もしも、NPCだというのならば、余りにも異常すぎる。
しかし、だからといって襲いかかるつもりはない。
悪魔くんの信仰が本物であるかぎり、ロウヒーローが悪魔くんと敵対する所以はないのだから。

「牧師様」
「はい」
「牧師様は、自分を使徒となり得る人物だと想いますか?」
「……僕は贄なのでしょう」

かつて、贄であった。
ならば、ここでも贄である可能性は否定出来ない。
それでも、同じ結末を歩むつもりはない。
神に捧げられた魂だとしても、本物があった。
その本物を見失うことだけはしたくない。
道を違えた、二人の友人のために。

「人は贄、ということですか?」
「いいえ、人は贄ではないありません。
 君は、贄などではありません。
 ただ、己の所業と想いの過ち故に、贄になってしまう人間が居るということです。
 そして、それが僕だった」

試すような言葉と、決断する言葉。

――――向き合う二人の背中に、不可視の二柱の天使。

世界は、誰に救われるのか。
誰が、世界を救えるのか。


世界は試されている。





272 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:31:47 xhueywZE0

試される者というと、ここにも二人いる。
整った設備のトレーニングルーム。
と言っても、通常のトレーニングルームとは、少々趣きが異なる。
ただ身体を鍛えるというよりも、ある種の指向性を持って、身体だけでない様々なものを鍛える場所だった。

「おはよ」

『渋谷凛』は、そんな室内へと入り込んだ。
ここはアイドル活動を支えるためのレッスンプログラムを行う、そんな場所だ。
ここは、アイドルがアイドルへと『成る』場所なのだ。

「あっ、おはよう、凛ちゃん!」

凛が訪れる前に先客が居た。
『島村卯月』
凛とは決して遠からぬ縁にある、仲間とも、親友とも呼べる間柄。
自分の世間的な評価の関係で、奇妙な感覚を抱きつつも、変わらない卯月が居ることに胸をなでおろした。
全てが夢の様な出来事の中で、卯月の存在だけが、凛に現実を感じさせた。
たとえ、偽りだとしても。
最初は、珍しいとは思わなかった。
ただ、それが奇妙なことに気づいた。

「……何時間?」
「へ?」
「何時間やってるの?」
「へ……へっと、何時間だろう?」

異常なまでのトレーニング量だった。
それは鍛えるというよりも、身体を動かすためだけのそれだった。
異常だった。
サボり魔なわけではない、サボり魔なわけではないが、それにしても異常なレッスン量だ。
異常ではないと思ったものが、異常だった。

その一方でまた、卯月も心のなかに消化しきれないものを感じていた。
上手く、感情で消化できない。
理論建てて理解もできない。
だから、身体を動かしてごまかしていた。

聖杯戦争、己だけが奇跡に至るために、他者を傷つける戦争。
そんな戦争に理由もなく耐えられるほど、卯月は強く、無感情な人間ではなかった。

二人に願いと呼べるものは、少なくとも、表面上には存在しないだろう。
故に、二人は試されている。
島村卯月は外なるものに試され、渋谷凛は内なるものに試されている。
渋谷凛は窓の外を眺め、島村卯月は静かに俯いた。





273 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:33:06 xhueywZE0

渋谷凛が視線を向けた場所で、一人の男が歩いていた。
『狡噛慎也』。
煙草に手をかけ、その手を止める。
常識として、街路は禁煙だ。
苛立ったわけではないが、無意識に舌打ちを鳴らす。
特別な用事はない、フリーな時間だ。
と、同時に、為そうと思ったことへの道のりも見えない。
フリーな旅だ。
敵対者とも、聖杯の使いも姿が見えない。
当然だろう、有利な戦いとは常に奇襲だ。
己の存在は隠すに限る。
ちらりと、不自然ではないように周囲を見渡す。
怪しげな人物は居ない。
誰かを怪しいと感じれば、全員が怪しく見える。
東京という街では誰もが早足で、誰もが不満気に街を歩いている。
そのくせして、誰一人として同じ顔をしていない。

狡噛は再び舌打ちがでかけ、止める。
ただ、己の後ろにサーヴァントである焔の存在を確認する。
焔もまた、特別に怪しいといった気配を感じていないようだった。
目的を見つけるために、目的もなく、歩き続ける。

そんな狡噛の姿を、一人の男が視界に捉えた。


その男、『衛宮切嗣』はその瞬間、意味もわからずに叫び声を上げそうになった。


それは、決して切嗣自身の叫びではなかった。
切嗣の意思とは別に、己の『右肩』に潜む最上級の妖だからこそ上げようとしている、あまりにも無様なまでの叫びだった。

喉まで出かかったその叫びを、必死の想いで飲み込む。
切嗣は認識していないが、それを発作だと思うことにした。
十年前、穢された冬木の大地と己。
それ以来、続いていた。
この聖杯戦争に訪れてからも、何度もうずきがあった。
恐らく、このうずきはサーヴァントと近づいて起こるものなのだろうと踏んでいた。
自身のサーヴァント、槍兵ではなく、すでに槍へとなったものを召喚の手順を考える。
奇襲に備えるためだ。

同時に、そのうずきが敵対者に悟られているかもしれないとも考えていた。
はっきりとはわからない。
だから、人混みに紛れ込むように動くことを決めていた。

しかし、それでもここまで激しい発作は初めてだった。
これも異常な聖杯戦争へと訪れたが故だろうか。
この先、どんどんと意味もなくうずきが増していくのだろうか。

答えは、ノーだ。
右肩に潜む妖が、激しい敵意と恐怖を抱いただけだ。
切嗣には、ただ、突如として右肩が激しく脈動しているようにしか感じない。
これもまた、正確ではない。
視界に映った無数の人々の中の一人、狡噛慎也――――の、さらに奥に居る存在に反応している。
切嗣の右肩から舐めあげるような目で、目ざとく見つけたその存在。
たとえ、姿を消していても、右肩の余りにも臆病な存在は見つけ出してしまう。

もしも、狡噛慎也が優れた魔術師で、サーヴァントが『本来の英霊の姿』として召喚されていたら―――

切嗣は右肩を握りつぶすように、左手で強く掴んだ。





274 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:33:41 xhueywZE0

おかしなことになっているのに、世界は周っている。
その事実に、どこか納得のいかない想いすら抱いてしまう。
『高坂穂乃果』はその事実に、納得が出来なかった。
まるで、何もかもに否定されているようだった。

ただ、居心地は悪くなかった。
誰もが笑っていたからだ。
釣られるように、穂乃果は笑った。
『南ことり』に釣られるように、穂乃果は笑った。
ことりは、本当に楽しそうに嗤っていた。
ただ、ことりが一人の時。
ふと、暗闇を見ては怯えるように、逃げ去るように駆け出すことを穂乃果は知らない。

そんな様子を、『園田海未』は見ていた。
かつての世界だ。
三人いれば、それだけで楽しかった世界だ。
表向きは、そうしようと、努めていた。
ただ、海未の中に納得できないものがあった。
このままでいいのか。
このままで良いのならば、海未の後悔の念と、ことりの苦悩の念と、穂乃果の自傷の念とはなんだったのか。
それでも、この世界に浸かろうとする自分が情けなかった。

この世界では。
絢瀬絵里も、東條希も、矢澤にこも、西木野真姫も、小泉花陽も、星空凛も。

――――彼女たちの、『特別』な存在ではない。

憎らしくも有り、同時に愛しくもあった。
ここは『かつての』幸せな日々。
ただ、聖杯があって、代わりに、μ'sがなかった。
それだけの違いであった。
だからこそ、その違いは大きな違いだった。
μ'sの代替が聖杯なのだとすると。

――――ひょっとすると、彼女たちにとって、μ'sこそがあらゆる願いを叶える、万能の願望器だったのかもしれない。

いつか、そう思う日が来る。
そんな日を、呼び寄せて、見せる。

三騎の英霊は、奇しくも同じ思考をしていた。
彼女たちを救いたい。
彼女たちが後悔していることを、深層で繋がった彼らは理解していたから。





275 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:34:37 xhueywZE0

二人の男女が居た。
まだ、男と女に成りきれてない男女だ。
少年と、少女。
平たくいえば、童貞と処女が居た。

「なんか、最近物騒な噂が多いね……死亡事故が多発っていうじゃないか」
「……そ、そうだね」

いつもからかけ離れない程度ににこやかな顔で、少年『峯岸一哉』は話しかける。
耳に付けた、ネコミミのようなフォルムをしたヘッドホンからは音楽は流れていない。
一種のファッションだ。
一方で、少女『谷川柚子』はぎこちない。
どこか、疑念を秘めた目で一哉を見ている。
あるいは、少年にではなく世界そのものに疑念を向けているのだろう。
嘘をつけない、普通の少女なのだろう。
ユズの豊満な胸が揺れた。
深い息を吐いただけで、揺れるのだ。

「どうしたの?」
「え、いや、その……」
「なんか、らしくないね」

その言葉に、ユズは俯いた。
一哉は少し苦笑を浮かべて、頬をかく。
似ている。
目の前の少年の動作が。
ユズの前から去る前の一哉と、似ているのだ。
だから、わかる。
きっと、目の前の一哉は本当の一哉ではない。

「……ごめん、ユズ」
「え?」
「さっきも言ったとおり、ちょっと用があるんだ。
 それじゃ……さっきも言ったけど、最近物騒だから気をつけなよ」

ユズは背中を見続けた。
偽物だと、直感的に理解できた。
正しく、その背中は峯岸一哉のものではなかった。

峯岸一哉が召喚したサーヴァントの宝具が一、『三つの下僕』。
その中で、隠密と索敵を主とする不定形生物ロデムが峯岸一哉に化けた姿なのだ。
ロデムは気配遮断に等しい能力を保持している。
故に、戦闘行為に移らない限り、気配察知スキルを持たないサーヴァントからは異常と確認されないのだ。

しかし、ユズは漠然とした違和感を抱いていた。
ロデムは峯岸一哉ではない。
そんな当たり前のことから生まれる違和感。
当然、ロデムもまた、そんな『峯岸一哉に違和感を覚えるユズ』を観測している。
そして、主であるバビル2世と峯岸一哉に報告を行っている。

お互いに疑心を抱いている。
しかし、二人は幼馴染であり、男と女だ。
確信したとしても、彼/彼女が敵対者であることを観測する勇気を持てるだろうか。

東京タワーへと偽装したバベルの塔は、ただ、佇んでいた。





276 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:35:10 xhueywZE0

『七原秋也』は違和感しか覚えていなかった。
まるでタイムスリップしたかのように、今までの日常が目の前で繰り広げられる。
だからこそ、誰も彼もが怪しかった。
死んだはずの人物が居るという異常に隠れて、小さな異常を抱えている

心を落ち着かせるように、メロディーを小さく口ずさむ。
しかし、それとは裏腹に緊張だけが高まっていく。
ひょっとすると、クラスメイトの中にも牙を研いでいるものがいるかもしれない。

劇的な何かが起こった。
だが、クラスメイトへの理解という意味では七原は殺し合いの以前と以後では何も変わっていないのだ
どいつもこいつも怪しい。
銃口を握っているからこその、緊迫感があった。

例えば、『桐山和雄』。

七原は、桐山が恐ろしい。
桐山とは『殺し合いをしただけ』の関係だ。
結局のところ、桐山の根本的な部分は何も知らない。
ただ、桐山は殺し合いにおいても、恐ろしかった。
その事実を知っているからこそ、七原は今でも桐山が恐ろしい。
殺し合いという異常の中で、目の前の存在が何かわからない。

今日もまた、街中で見つけた桐山の姿を視線で追っていた。
そして、桐山が人混みのなかへと消えていく。
少しだけ躊躇し、しかし、桐山を追いかけることにした。
いわば、尾行だ。
しかし、桐山だけに集中していた七原は近くにいる少女に気付かなかった。

「……あっ、すいません」
「え、あ、す、すいません」

ドン、と小さな音を立てて、少女を弾き飛ばす形になった。
尻もちをついた少女へと七原は手を伸ばし、引き起こす。
そして、何度か頭を下げた後、視線を上げる。
桐山和雄の姿は消えていた。
ふぅ、と息を吐き、歩を進めた。
目的はなくなっていた。


―――そんな七原を後にした、先ほど七原とぶつかったばかりの『羽藤桂』はふと、不思議なことに気づいた。


先ほど、桂とすれ違ったはずの、オールバックの少年。
その少年が、桂の前方に居た。
人混みの中を奇妙にくるりと一回転してきたことになる。
そして、再び桂とすれ違う。
桂が振り返ると、オールバックの少年が居て、その奥に長髪の少年が居た。

『七原秋也』『桐山和雄』『羽藤桂』

先ほどと全ての位置が逆転していることに気づいているのは、桐山和雄だけだった。





277 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:35:47 xhueywZE0

『神狩屋』、正式な名称は『鹿狩雅孝』と呼ばれる男は古物商のカウンターに座りながら、本を読んでいた。
霊体と化した自らのサーヴァントもまた何をするでもなく本を読んでいる。
二人は行動の重要性を知っているが、同時に待ちの重要性も熟知していた。
ただ、激しく動くときのために、静かにその身を止めていた。
ここには様々なものがある。
己のサーヴァント、カーズも気に入るとまでは言わないが、退屈を紛らわせる程度のものが。
待つことも、試すことも。
経験だけなら豊富だ。

古物商の扉が開いた。
神狩屋は己の中の感情とは裏腹に「いらっしゃい」と優しく言った。
神狩屋は眼鏡の奥の瞳を来客へと向けた。
白い男だった。
特徴の強い男だが、まず先に浮かぶものは白さだった。
神狩屋は、特別奇妙な感情は浮かべなかった。

白い来客、『槙島聖護』は店内を見渡す。
満足したように、小さく息を吐いた。

「いい店だ」

その言葉に、神狩屋は小さく微笑んだ。
槇島は、店内を見まわる。
神狩屋は静かに待った。
槇島はいくつかの品を見聞すると、海外輸入と思しき、グリム童話集に手を取った。

「『お父さんはミートパイにされてしまった』……店主はどう思う?
 グロテスクと呼ぶには、いささか、婉曲的で、それでいて悪趣味ではないかい?」
「その一文を物語として載せた解釈は幾らでも出来ます。
 ましてや、そのグリム童話集は決して原本ではありませんから」
「希釈され続けた物語だ、本来の物語と異なることもある……そういうことかい?」
「それでも、その物語にも原典があります。
 その一文には貴方を惹きつける、原典から生まれる人々のトラウマがあるのでしょうね」

会話を交わしながら、会計を済ませる。
お互いに、店主と客以外の素振りはなかった。

「また来るよ」

お互いに、その言葉が店主と客以外の意味を持つ可能性を理解していた。
それでも、お互いに激しい動きは見せなかった。






278 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:36:34 xhueywZE0

ダッジャール、偽りの救世主。
英霊としてのランクの低さを示すような、そんなクラス名にリエンス王は自嘲する。
まるで俺ではないか。

偽り、偽り、偽り。

聖杯ですら、自分は王のUTSUWAではないというのか。
UTSUWAでなければ、王にはなれないというのか。
それほどまでに、UTSUWAとは重要なものだというのか。

酒を呷った。
その近くで、自らの敵対する存在が居るかもしれないことは理解していた。
不覚を招くかもしれない、ここは戦場なのだ。
それでも、リエンスは酒を呷った。
聖杯という聖なるUTSUWAにすら選ばれないのではないか。
そんな疑惑が離れなかったからだ。

彼が幸運だったのは、傍にいるものもまたリエンスの存在に気づいていないことだ。
男は不自然に片目を瞑った男だった。
何かの呪いやではなく、本当に隻眼なのだろう。
隻眼の男、『ふうまの御館』は、強い酒を口内で転がすようにゆっくりと呑んでいる。
夜が本当に更けるのを待っているようだった。
時刻は十一時。
まだ外は、明るさとこの地の所有者である人々の存在が濃い時間帯だ。
己の従者である英霊が好み、最も強くなる時間からは少々離れる。

リエンスとふうまが同時に酒を呑んだ瞬間だった。

震えが走った。
二人はそれを理解した。
しかし、特別な動きは見せかなかった。
ふうまは財布を取り出した後、素知らぬ振りで立ち上がり、店を出るだけだった。
特別な素振りを見せなかった。
それが罠であるのかどうかもわからないが、それに乗じて罠を仕掛ける輩が居ることを承知していた。

リエンスは動かなかった。
ただ、酒を飲み続けた。


そんな中で、一人の銀髪の男も酒を飲んでいた。
薄く嗤った。
リエンスとふうま以外にも、世界が震えた意味を知っている男だった。







279 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:36:57 xhueywZE0


『始まるぞ、魔人アーチャー。
 聖杯戦争の、本当の開始だ。
 唯一神を殺すための、始まりの始まりを知らせる鐘だ』






280 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:37:53 xhueywZE0





"Oh, and you know the thing about chaos? "



"It's fair."








281 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:38:27 xhueywZE0

「この世で本当に公正なものは混沌だ」

ルーラーのサーヴァント、シビュラシステムにより召喚された酒々井水絵は拘束されていた。
本来、英霊には程遠い存在だが、シビュラシステムを介在することで使い魔のように聖杯戦争の舞台を動く。
今回もまた、聖杯戦争参加者の違反の取り締まり、及び、NPCにバグが生じていないかの確認の見回りだった。
その中で、突然、脚が失われた。
動揺のなかで、しかし、自身の武器である『執り行うは聖人の白<ドミネーター>』を翳した。
だが、ついで、腕が失われた。
ドミネーターが地面に落ちた。
そして、闇の中で、ピエロが現れた。
『ジョーカー』
そのピエロの名を、酒々井は把握していた。
聖杯戦争参加者の一人で、率先してNPCへの殺害を行っているものだ。
ルーラーであるシビュラシステムから渡された情報に、確かに載っている。

「公平なのは数値じゃあない、数値こそ不公平だ」
「何も知らないから言える言葉ね」
「俺は何も知らない、ただ、アンタや他のやつより先が見えてるだけさ」

ジョーカーは言葉を途切らせない。
言葉こそがジョーカーが持つ唯一の特異な武器と言えた。
なぜここまでの異端児が居るのだろうか。
それは、対となる異端児が要るからだ。
ムーンセルがバットマンを観測し記録する限り、ジョーカーは存在する。
影を産まない光は、光でないのだから。
ジョーカーという存在は、バットマンが光である証左なのだ。
だから、ジョーカーは影で在り続けることが出来た。
ムーンセルの存在で、あらゆるバットマンの存在を確信できた。
だから、ジョーカーはどこかの人間ではなく確固たるジョーカーとして存在できるのだ。

「アンタより俺のほうがずっと公平なのさ」

そして、確固たるジョーカーとは、その精神性だけならば英霊にすらなり得るほどの規格外存在だ。
ジョーカーの主義というわけではないが、ジョーカーは公平に犯罪を行うことにした。
特別な理由がなく、犯罪を行う。
特別なものがないことを公平だとした場合、その行動に意味は問えない。
すなわち、混沌こそが公平なのだ。

『あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ』

空気を震わせる、不気味な音。
それは決して声などではない、言葉などではない。
あまりの強さに、己という存在を壊してしまった存在。
バーサーカーのサーヴァント、ギーグ。
突発的に暴れだす以外には、もはやジョーカーですらコントロールは出来ない。
だが、ジョーカーはそれで良かった。
混沌こそが公平なのだ。
自分だけが優位に立つわけではないというだけだ。


282 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:39:20 xhueywZE0

今回、東京を見まわる酒々井を捉えたのも、単なる偶然であった。
半ば癇癪じみたギーグの動きが、酒々井への攻撃となっただけ。
英霊であるギーグの超能力による攻撃は酒々井の右足を消し去り、同時に、麻痺状態に陥らせた。
癇癪の度に頭痛と気怠さが走るジョーカーだが、酒々井の傷を見た瞬間、それを消すように笑ってみせた。
そして、自らの寝所へと、酒々井を連れてきた。
そこからジョーカーは、犯罪を犯し始めただけだ。

「グサアアアアアアアアア!」

ジョーカーはわざとらしく、擬音を口にして刃物を太ももへと突き刺した。
しかし、酒々井は反応しない。
強がっているわけではない。
反応できないのだ。
その痛みを、感じることが出来ないから。
霊体とも言える酒々井をジョーカーが傷つける。
そんなことが出来るのは、凶器が『特別』だからだ。

凶器とはすなわち、ギーグによって破壊された右足の骨を突きつけられているのだ。
ブヨブヨとした白身と赤身が覗きこむ右足。
そんなものを、ジョーカーはユニークアイテムや宴会小道具のように、何の変哲もなく使う。

「俺ってどう思われてるんだ?」
「……ッ」
「わからないか、アンタじゃ」

ルーラーのサーヴァント、シビュラシステムから与えられていた宝具を蹴っ飛ばしながら、ジョーカーは嗤った。
丁寧に、皮を剥いでいく。
感覚がない。
ギーグの攻撃によって、全身が麻痺している。
それは超自然的な麻痺。
視覚は失っていないし、喉を震わせて声を発することはできる。
しかし、身体を動かすことが出来ず、また、痛みも感じない。

爪が剥がれる。
乳頭が切りつけられ、白い乳房に血が染まる。
グリッ、と柔らかい感触の後に硬いものを感じる。
右の視界が消える。
頬を、血と涙ではない体液が濡らした。

ジョーカーは酒々井を痛めつけているわけではない。
ジョーカーは人を傷つけることで快楽を得る体質ではないのだから。
ただ、犯罪を犯しているのだ。
ルーラーの使いである酒々井を、意味もなく公平に痛めつける。
聖杯戦争を管理し、ジョーカーを抑えつけようとするルーラーへと向かって犯罪を犯しているだけなのだ。





283 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:40:26 xhueywZE0



『シビュラシステムより東京及びムーンセルへ』
・ジョーカー及びバーサーカーのサーヴァント、ギーグによるルーラーへの反逆行為を確認。
・対象への『秩序齎す執行<デコンポーザー>』の使用を要求。

『東京よりシビュラシステムへ』
・否認、当件は東京及び聖杯戦争に害をなす行為ではない。

『ムーンセルよりシビュラシステムへ』
・条件付き承認、NPCの平均犯罪係数が常時の140%を超えた瞬間に使用。

『シビュラシステムより東京及びムーンセルへ』
・条件付き承認1、否認1。
・代替案、討伐クエストの告知。
・ジョーカー及びギーグの一定の情報を公開。
・さらに、討伐成功者に、令呪の一角と要求される情報を開示。

『東京よりシビュラシステムへ』
・承認、東京の澱みがより加速する。

『ムーンセルよりシビュラシステムへ』
・条件付き承認、開示する情報は東京及びムーンセル及び聖杯そのものに関連しないもの限定とする。
・他マスター、サーヴァントに関する情報の公開量はシビュラシステムへと一任する。

『シビュラシステムより東京及びムーンセルへ』
・承認1、条件付き承認1。
・条件付き承認にもとづき、只今より討伐クエストを告知する。

『東京よりシビュラシステムへ』
・承認。

『ムーンセルよりシビュラシステムへ』
・承認。







284 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:44:28 xhueywZE0


『高坂穂乃果』
――セイバー――
『アマテラス』


『鹿狩雅孝』
――セイバー――
『カーズ』


『南ことり』
――アーチャー――
『ヴィンセント・ヴァレンタイン』


『カイン』
――『魔人』アーチャー――
『織田信長』


『羽藤桂』
――アーチャー――
『白露型駆逐艦四番艦『夕立』』


『園田海未』
――ランサー――
『愛乃めぐみ/キュアラブリー』


『衛宮切嗣』
――ランサー――
『獣の槍』


『渋谷凛』
――ランサー――
『アドルフ・ヒトラー/<<検閲済み>>』


285 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:44:58 xhueywZE0


『松下一郎』
――ライダー――
『ザイン/<<検閲済み>>』


『峯岸一哉』
――ライダー――
『バビル2世』


『島村卯月』
――ライダー――
『マーズ』


『宇佐見蓮子』
――ライダー――
『伝説のモグラ乗り』


『マエリベリー・ハーン』
――ライダー――
『十四代目葛葉ライドウ』


『槙島聖護』
――キャスター――
『フェイト・アーウェルンクス』


『ふうまの御館』
――キャスター――
『加藤保憲』


『七原秋也』
――キャスター――
『操真晴人/仮面ライダーウィザード』


『狡噛慎也』
――アサシン――
『焔』


『谷川柚子』
――アサシン――
『復讐ノ牙・明智光秀』


『ジョーカー』
――バーサーカー――
『ギーグ』


『桐山和雄』
――ザ・ヒーロー――
『ザ・ヒーロー/◆◆◆』


『リエンス』
――ダッジャール――
『カオスヒーロー/▲▲▲』


『ロウヒーロー/■■■』
――エンジェル――
『無道刹那』


286 : DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:45:22 xhueywZE0




汝、導かれし騎士を従え、運命に挑む意思あらば。



――――自らの『最強』を示せ。




.


287 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:45:35 xhueywZE0
投下終了です


288 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:49:13 xhueywZE0

セイバー:高坂穂乃果&アマテラス/鹿狩雅孝&カーズ

アーチャー:南ことり&ヴィンセント・ヴァレンタイン/カイン(直哉)&織田信長/羽藤桂&白露型駆逐艦四番艦『夕立』

ランサー:園田海未&愛乃めぐみ(キュアラブリー)/衛宮切嗣&獣の槍/渋谷凛&アドルフ・ヒトラー(検閲済み)

ライダー:松下一郎(悪魔くん)&ザイン/峯岸一哉&バビル2世/島村卯月&マーズ/宇佐見蓮子&伝説のモグラ乗り
     /マエリベリー・ハーン(メリー)&第十四代目葛葉ライドウ

キャスター:槙島聖護&フェイト・アーウェルンクス/ふうまの御館&加藤保憲/七原秋也&操真晴人

アサシン:狡噛慎也&焔/谷川柚子&復讐ノ牙・明智光秀

バーサーカー:ジョーカー&ギーグ

エクストラ:桐山和雄&ザ・ヒーロー、リエンス王&カオスヒーロー、ロウヒーロー&無道刹那



マスター一覧
ttp://i.imgur.com/TUT6ltj.jpg

サーヴァント一覧
ttp://i.imgur.com/FEpR1xk.jpg

山手線内部、超簡易地図(拾い物)
ttp://i.imgur.com/vThaqiU.jpg


289 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 06:50:33 xhueywZE0
予約は本日の日付変更時

――01/27/24:00 = 01/28/00:00――

こちらの時刻から受付させていただきます


290 : 名無しさん :2015/01/27(火) 06:56:34 0bZYn7T20
150組近くの候補からここまで絞るのは大変だったと思います、投下乙です!
これまた豪勢な面子になりましたね、この21組がどの様な物語を紡ぐのか楽しみです。

あとすみません、ルーラー・シビュラシステムは参加者とは違った登場ということでしょうか?


291 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 07:02:31 xhueywZE0
ルーラーのシビュラシステムは、聖杯戦争というシステムを成り立たせる運営側としての採用とさせていただきました
なので、今回は投下いただいた候補のなかから絞った21組+オープニングで出場が決定していた魔人アーチャーを含めた、22組で聖杯の所有権を争う聖杯戦争が始まる、ということで


292 : 名無しさん :2015/01/27(火) 07:45:42 .nF25H2k0
あれ、秘封クラブ出番あった?


293 : ◆yy7mpGr1KA :2015/01/27(火) 08:36:14 bdIzQdqY0
拙作神狩屋&カーズの採用、心から感謝します。
ただ私カーズの略歴部分にまだ生きてるからアルトリアみたいに霊体化不可、と書いちゃったんですよね…
本格開始前ですし、正直そんなに意味のある設定でもないので必要ならその一文カットします
お返事お待ちしています


294 : 名無しさん :2015/01/27(火) 11:10:42 nFeLahvk0
>>1
>>270の『メシア教』が信徒を教科書に載せるとすれば
から先が消えていないでしょうか、確認をお願いします。


295 : 名無しさん :2015/01/27(火) 16:57:16 6I7r8BOU0
まずは多くの候補から絞っての投下乙です

個人的にはジョーカーとニャルラトホテプがかち合ったらどうなるかが気になる
超人的な悪意VS凡人の悪意の象徴・集積的な意味で
ペルソナニャルは神取とか須藤とかルサンチマンとニヒリズムいっぱい抱えてるけど
それに意味を持たせることができない無気力で根が凡人な人間の悪意の象徴的な面があるけど
ジョーカーはそこらへん突き抜けちゃった悪意だし


296 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 18:36:12 xhueywZE0
朝駆けの投下ということは理由にもなりませんが、幾つかのミスが有りました
失礼しました

>>292
秘封倶楽部の二人の部分が抜け出いたとは……orz
次のレスにて貼らさせていだきます


>>293
大変失礼しました、こちらのミスです

>霊体へと至ることのできない自らのサーヴァントもまた、古物屋の奥の奥、姿を秘して本を読んでいた。

こちらに差し替えさせていだきます

>>294
大変申し訳ありません

>『メシア教』があるべき信徒の姿を教科書に載せるとすれば、彼の姿がそこにはあるだろう。

正しくは上記になります、ご迷惑をお掛けします
ご指摘、大変有難うございます


297 : メリー&蓮子 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 18:36:46 xhueywZE0

『マエリベリー・ハーン』ことメリーは迷っていた。
己の相棒とも言える『宇佐見蓮子』は、見つけることが出来た。
出来たが、これからどうするかを決めあぐねていた。
これがメリーと蓮子だけならば話が早く、合流をするだけだ。
幸いというべきか、メリーのサーヴァントは使い魔を使役する術に長けている。
それこそ、四六時中、蓮子を『監視』し『護衛』することも可能だった。

「なにをしてるのかしら……」

蓮子は先日まで行っていた就職活動を、バッタリと辞めている。
間違いなく、記憶を取り戻している。
そして、意味もなくキョロキョロとしているのだ。
物陰を注視したり、ゴミ箱の裏を覗いたり、意味もなくロッカーを開けては閉めたりを続けている。
まるで、何か『宝探し』をしているようだった。

メリーのサーヴァントは、それが蓮子のサーヴァントの特殊能力である可能性が高いと言った。
なるほど、どこかに何かをマーキングする能力、あるいは、何かを生みだす能力なのかもしれない。
そう、そして、『蓮子のサーヴァント』こそが問題なのだ。
聖杯に奇跡を願うのはマスターだけではない。
生前、為すことのできなかった奇跡を求めるサーヴァントのほうが多いのだ。
『聖杯を求めていないメリー』を良しとしない可能性が高い。
メリーを蓮子に知られずに殺しにかかる可能性も高い。
ひょっとすると、蓮子がサーヴァントに操られている可能性だってある。
魔術師として突出した存在である『キャスター』のサーヴァントならば、あり得る可能性だ。

そんなメリーの心を知らない蓮子は、また、宝箱を空けるようにゴミ箱の蓋を開いた。
そこに何があるというのか。
蓮子ならば、未知の宝を求めてもおかしくはない。

小さくため息をつき、メリーは空を見た。
秘封倶楽部の中を引き裂くような、境界線が見えた。

絶対に会いに行く。
そのために、今は会わない。
今は、今は――――





298 : ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 18:42:09 xhueywZE0
まとめwikiにも訂正させていただきました
そして、遅くなりましたが、いつもまとめwikiを更新してくださっている方に深く感謝を
本当にありがとうございます


299 : ルール再掲 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 20:16:40 xhueywZE0
【ルール】
・版権キャラによる聖杯戦争を行うリレー小説です。
・参加者は世界を超えて現れた『紅い満月』に導かれて、聖杯内に再現された東京で最後の一組になるまで殺し合います。
・主従は『全18組』と考えていますが、場合によっては加減があります。
・基本的に一クラス二騎ずつですが、通常クラスの他にも『エクストラクラス』のサーヴァントの投下を許可します。
 ただしエクストラクラスが来なかったりした場合は通常の7騎から選びます。
・サーヴァントが投下されない場合、>>1がちまちま登場話を書いて投下するスレになります。


【設定】
・舞台はムーンセル・オートマトンと東京聖杯に再現された山手線区画内の東京です。
・聖杯戦争への参加資格は『月のない空間に紅い満月』を観測していることですが、割とその辺は適当でいいと思います。
・聖杯から毎日昼の0時に『通達』が行われます。

<時刻について>
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)

<登場話候補の募集について>
とりあえず現状で明確な期限は設けません。
一応目安としてある期限としては、個人的な都合で、1/25と考えています
最終締め切りは、どんなに遅くとも、三日前には通達させていただきます。
他の聖杯戦争スレからの流用も、同トリップからの投下なら構いません。

投下する主従は、クラスを一巡せずに同クラスをいくつ投下しても構いません。

その他細かいルールや質問があったら随時対応し、最終的なルールは参加者決定時に決めようと思います。

【その他】

>・NPC殺傷の制限等はありますか
制限はありますが、その裁定は魔人アーチャーが改造した聖杯自体が行います。
そして、突貫工事、かつ、ムーンセルという超級の聖遺物とシンクロしているために、魔人アーチャー自体も把握しきれていない『バグ』が多数あります

>・ここでは記憶を取り戻す予選などはなく、元世界で月を見た時から記憶が連続しているのでしょうか
>(その場合拠点などは聖杯から用意されているのか、それとも自ら探し出すのかどちらでしょうか)
聖杯が用意した『東京』という電脳空間での拠点や役割、いわゆる『日常』は聖杯によって用意されています。
記憶の有無にはバラつきがあります。
聖杯がこしらえた周囲のNPCのように元世界の記憶を失っていたり、月を見た瞬間から記憶を連続して月で生活している状況もあります


>・マスターまたはサーヴァントが死亡した場合、相方も電脳死?になりますか
> リタイアする方法はないということでよろしいのでしょうか
原則として、『何もしなければ』コンビを失った者もまた魂が死にます
リタイアの方法は、少なくとも、聖杯戦争のルールなどのような『聖杯から与えられた情報』には入っておりません


300 : ルール再掲 ◆devil5UFgA :2015/01/27(火) 20:19:15 xhueywZE0
≪状態票テンプレ≫

【X-0/場所名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【予約期限】
予約期限は5日間、延長要請で+2日間とさせていだきます
予約解禁は、投下終了後から『24時間経過してからの日付変更時』とさせていただきます


301 : ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 00:03:47 KI8q5Igg0
では予約解禁ということで、早速予約させていただきます
狡噛慎也&焔組で予約します

ところで今後、常守朱などの公安局員を予約したい場合は、そのキャラ名を挙げればいいのでしょうか?
あるいはシビュラシステム枠で予約すればいいのでしょうか?


302 : ◆devil5UFgA :2015/01/28(水) 00:25:30 5dCb9ozY0
>>301
同一人物の複数召喚は避けたいので、表記をお願いします
そして、大変遅くなりましたが、よろしければ時刻ですが

<時刻について>
深夜(0〜6)
朝(6〜12)
昼・夕方(12〜18)
夜(18〜24)

一日を6分割ではなく4分割に変更する、ということで対応をお願いできるでしょうか?
予約が始まってからで大変申し訳ありません


303 : ◆devil5UFgA :2015/01/28(水) 00:28:17 5dCb9ozY0
宇佐見蓮子&ライダーで予約します


304 : ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 01:20:42 KI8q5Igg0
狡噛慎也&焔分を投下させていただきます


305 : 追うべき獲物は ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 01:21:38 KI8q5Igg0
「すまない、風呂から上がったばかりなんだ。着替えるまで少し待っててくれ」
 偵察からの帰還早々、シャワー室のドア越しに声をかけられた焔は、そのまま部屋のベッドに座り、狡噛が出てくるのを待っていた。
 今彼女がいる場所は、狡噛が聖杯戦争中の住まいとして、割り当てられたアパートの部屋だ。
 聖杯戦争においては、この部屋が狡噛慎也の拠点であり、そして焔の拠点でもある。
(思えば、男の部屋に上がったのも初めてだな)
 1人でじっとしていると、色々なことを考えるものだ。
 部屋をぐるりと見回しながら、焔はそんなことを思考していた。
 かつて自分の命を狙った悪忍――家庭教師をしていた小路を、自分の部屋に上げたことはある。
 しかし逆に、自分が男の部屋に入るということは、実は今までにはなかった。
 当然小中学校という時分は、男女できっぱりとグループが別れるものだし、高校相当の蛇女子学園は、その名の通りの女子校だ。
 男勝りの焔だが、男友達との付き合いの機会というものは、実はこれまでの人生の中で、ものの見事に逃していたのだった。
(何というか……みんなこんなものなのか?)
 そんな初めての野郎部屋に対して、焔は渋い顔をしながら、そうした感想を抱いていた。
 一言で言うならば、この部屋は、飾りっけというものが全くない。
 最低限の家具だけが並べられ、反対に娯楽や装飾は一切見られないという、無味乾燥な有り様だった。
 ロマンもへったくれもないではないか。先ほど感じた感慨は、あっという間に消え失せてしまった。
 むしろ男の部屋というものは、みんなこうも生活感のないものなのかと、妙な心配感に駆られそうになる。
 もちろん、ここに戦場の仮住まい以上の意味を、狡噛が見出していないからなのかもしれないが。
 余談だが、執行官当時の狡噛の部屋は、西洋風のインテリアが並んだ、シックな様相の部屋模様であったことを付け加えておく。
「悪いな、待たせちまって。もういいぞ」
 と、そこまで考えたところで、頭上から狡噛の声が聞こえた。
 若干俯かせた顔を上げ、焔はマスターの方を向き、
「うっわぁ!?」
 と素っ頓狂な悲鳴を上げた。
 確かに視線の先の狡噛は、風呂から上がり着替えを済ませ、ちゃんと衣類を身につけていた。
 ただしそれは下半身だけだ。腰から上にあるべき衣服は、未だ彼の小脇に抱えられている。
 要するに履いているのはズボンだけで、上半身は丸裸なのだ。
 首からタオルをかけたそこには、鍛えた焔であっても目を見張るほどの、隆々とした筋肉が浮かび上がっていた。
 がっしりと硬質な印象を与えながらも、ところどころで描かれた曲線は、どこか優美で官能的だ。
 水も滴るいい男――風呂上がりの上気した肌に、薄っすらと浮かんだ水滴もまた、そうした印象を強めているように見えた。
「どうした?」
「ぜっぜぜ……全然良くないじゃないかっ! 上もちゃんと服を着ろぉっ!」
 そしてそんなムードに中てられ、すっかり顔を真っ赤にしていた焔は、それこそ生娘のように取り乱し、声を荒らげて怒鳴ったのだった。


306 : 追うべき獲物は ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 01:22:31 KI8q5Igg0


「まず、あんたに見せておきたいものがある」
 ひと通り落ち着いたところで、狡噛は床に腰を下ろすと、ガラスのミニテーブルの上に封筒を置いた。
 差し出し人の名前はない。既に封が切られており、向かい側に座る焔はそれを取ると、指で広げて中身を取り出す。
「討伐クエスト?」
 その中に入っていたものは、聖杯戦争の運営を名乗る者からの、極めて事務的な書面だった。
「どうやら開始早々に、やらかした奴がいるらしい。
 バーサーカーのサーヴァント……およびそのマスターの討伐が、聖杯から俺達参加者に命じられた」
 記載されていた内容は、こうだ。
 此度の聖杯戦争に、その妨げとなる者あり。
 彼はジョーカーという通称で呼ばれる、バーサーカーのマスターである。
 彼を野放しにしていた場合、今後の聖杯戦争の進行が、困難とする可能性がある。
 よって全マスターに対し、ジョーカーの討伐を依頼する。
 討伐を果たしたマスターには、令呪一角と望む情報とを、報酬として与えるものとする。
「ぐだぐだだな」
「最初から呼ばなければいいんだ。そんな目に見えて危なげな奴は」
 言いながら狡噛は腕を組み、やれやれといった様子で小さく唸った。
「で、どうするんだ?」
 焔が狡噛に向かって問う。
 このジョーカーの討伐クエスト、乗るのかあるいは乗らないのかと。
「当然、乗らない。たとえどんな形であれ、聖杯の思惑に乗るのは癪だ」
 それは俺の目的にはそぐわないと、狡噛はきっぱりと言い切った。
「いいのか? そりゃあ聖杯にとって不利になる情報はもらえないだろうが、令呪は手に入るんだぞ?」
「あんたな……俺とあんたの関係は、そういう無粋なもんじゃなかったはずだろう?」
 焔の問いかけに対して、狡噛がため息をつきながら言った。
 令呪とはすなわち強制権であり、命令に従わないサーヴァントを、強引に従わせるための装置だ。
 お互いに信頼と協力を誓い、目的を共有し合った自分達には、そんな拘束など必要ないだろう、と。
「そうでもない。令呪ってのは見方を変えれば、魔力を蓄えた結晶でもあるんだ」
 それでも狡噛の言葉に対し、焔はそう反論を述べた。
 令呪は単なる命令装置としてだけでなく、予備の魔力としても使えるのだと。
「たとえばマスターが、私に対して、『この令呪の魔力を使い宝具を解放せよ』と命令したとする。
 そうすればマスターの魔力を使わず、令呪の魔力を消費して、私の宝具を使えるんだ」
「魔力とやらに乏しい俺でも、他のマスターと同様に、あんたの力を引き出してやれるわけか」
「私の宝具はステータスアップ型だからな。長時間発動できる方が都合がいいのさ」
 既に焔の持つ宝具は、狡噛もデータとして確認している。
 『いざ、紅蓮の如く舞い散れ(えんげつか)』――彼女達忍の世界において、名の知れた名刀なのだそうだ。
 その刀は一度抜刀すれば、所有者自身の力をも引き出し、高い戦闘能力を発揮させるのだという。
 高威力の攻撃を放つのではなく、自身のパラメーターを向上させる宝具。
 なるほど確かにそうであるなら、持続時間に直結する魔力は、更に重要になってくるだろう。
「……だとしても、人命と引き換えにするほどのものでもない」
「危険な殺人者の命だったとしてもか?」
「なおさらだ。そんな野郎相手にマジになって、殺してしまった俺自身に、嫌気がさすことになるだろうさ」
 言いながら、狡噛は一度立ち上がると、冷蔵庫のある方へと向かう。
 さほど広くない部屋だ。居間とキッチンは一体化しており、扉を隔てるまでもなく、彼は洋酒の瓶を取り出せた。


307 : 追うべき獲物は ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 01:23:29 KI8q5Igg0
「ただ、利用できる点もある。報酬の譲渡がある以上、聖杯か、あるいはその使いが、クエスト成功者に接触する可能性がある」
 たとえばその手紙をこの家に届けに来た奴がな、と。
 グラスにバーボンを注ぎながら、狡噛が言う。
 慣れた手つきで酒瓶をしまうと、今度はボトルコーヒーを取り出して、別のグラスへと注いだ。
 いくらサーヴァントであるとはいえ、焔は正真正銘の17歳だ。大人になってからの楽しみは、20歳未満禁制だった。
「俺達が狙う獲物はそっちだ。その現場を横から押さえれば、あるいは聖杯戦争を叩く、最初の一打になるかもしれない」
「どっちにしろ、ジョーカーを探すことには変わりないわけか」
 そう言いながら焔はグラスと、スティックシュガーとを受け取った。
 口を破り砂糖を入れ、半分程で折りたたんで止める。彼女は無糖よりも微糖派だった。
「他のマスターも躍起になるはずだ。いつどこで戦闘が始まるか分からない。
 あんたには悪いが、今後は俺が出てる間以外も、外回りに回ってもらう」
 再び腰を下ろしながら、狡噛が言った。
 実際のところ狡噛も、ただ四六時中ふらふらと、マスター探しをしているわけではない。
 長く留まるつもりはないとはいえ、食費などの生活費を稼ぐ必要がある。
 口座に用意されていた預金は、戦闘の軍資金に当てねばならないのだから、なおさら日銭が必要だった。
 そうした小遣い稼ぎに出ている間には、先ほどのように焔と別れ、単独でマスターを探してもらっていたのだ。
 (他にも、たまたま見つけた薬物の売人をぶん殴り、売上を失敬してあぶく銭を得たこともあったが)
「分かった。そのかわり、そっちはそっちであまり出歩かないようにしてくれよ。
 私が追いつけないような所で、他のマスターに見つかったりしたら大事だからな」
 そう言って焔はコーヒーに手をつけ、ごくりと一口飲み込んだ。
「しばらくは引きこもりか」
 肩を竦めながら、狡噛が言う。
 アルバイトは運送屋の仕分け作業だから、関係者以外と会うことはほとんどない。
 だからこそ別行動ということもできたのだが、それ以外の行動はそうもいかない。
 そうして出歩くことができないのは、なかなかにストレスになりそうだが、
 それでも焔が単独で駆け回った方が、一緒にいるより広範囲をカバーできるのだ。我慢するしかないだろう。
「仕方ない。そのかわり何かあったら、俺に念話を飛ばしてくれ」
 状況を確認して指示を出す、と狡噛は続けた。
 この2人のうち頭が回るのは、焔よりも狡噛の方だ。決定権を握るのは当然の帰結だった。
 それを理解しているから、焔の方からも反論はない。
「そうする。あとそっちも、買い出しがしたいときには呼んでくれ。私も飯が食えないのは困るからな」
「ちゃっかりと贅沢しているな、あんたも」
 焔の言葉に対し、狡噛が苦笑した。
 最初の食事の後から聞かされたことだが、サーヴァントには本来ならば、睡眠も食事も必要ないらしい。
 それでも焔は相変わらず、一日三食を要求し、狡噛と食卓を共にしている。
 当然大したものは出せないが、それでも極貧生活の彼女にとっては、十分なごちそうなのだろう。
 気持ちは分からないでもないが、妙な方向にたくましさを発揮している根性は、少々笑いを誘うものがあった。
「お互いに苦労はすることになるが、装備が揃えば俺もある程度は無茶ができる」
 しばらくは耐え忍ぶとしよう、と言って、狡噛がグラスの酒を飲んだ。
 裏サイトを使って注文した銃火器が、今日明日にもこの部屋に届くはずだ。
 それさえあれば、無手よりは、マシに戦うこともできるだろう。
 サーヴァントには効かないにせよ、マスターは同じ人間であるなら、鉛弾で殺せない道理はない。
「……なぁ、マスター」
 と、そこまで考えたところへ、焔が声をかけてくる。
「何だ?」
「やっぱりあんただけじゃなくて……私も働いた方がいいんじゃないか?」
 これじゃあまるでヒモみたいだと、焔は狡噛に対して続けた。
「………」
 さすがにそうくるとは思わなかった。
 しばし狡噛は沈黙する。
 気まずい静寂が部屋に満ち、焔の眉毛がハの字を作った。
「……いや……あんたが人前に出るのは、余計にまずいだろう」
 仮にマスターが居合わせたなら、サーヴァントは視認された時点で、正体を看破されてしまうのだ。
 顔面を軽く手で覆いながら、狡噛は絞り出すようにして言った。


308 : 追うべき獲物は ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 01:24:08 KI8q5Igg0
【池袋/アパート・狡噛の部屋/1日目 深夜】

【狡噛慎也@PSYCHO-PASS】
[状態]若干アルコールが入っている
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]普通(一人暮らしができる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を中断させ、聖杯を打倒する
1.ジョーカーを討伐する気はない。
 そのかわりジョーカーを討伐した者と、聖杯およびその使いとの接触現場を押さえ、聖杯攻略の足がかりとする。
2.ジョーカー捜索は焔に一任。単独ではアルバイトの時以外、外出しないようにする。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※運送業者の倉庫で、日払いのアルバイトをしています。
※インターネットの通販で、いくつかの武器を購入しています。遅くとも2日目までには届く予定です。

【アサシン(焔)@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】
[状態]健康
[装備]『いざ、紅蓮の如く舞い散れ(えんげつか)』、刀×6
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:狡噛に協力する
1.しばらくは単独で市街を巡り、他のマスターを探す。特にジョーカーが最優先。
2.何かあったら狡噛に念話を送り、指示を仰ぐ。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。


309 : ◆arYKZxlFnw :2015/01/28(水) 01:24:23 KI8q5Igg0
投下は以上です


310 : 名無しさん :2015/01/28(水) 11:05:24 G1R0w.GAO
投下乙です

開始早々、一参加者への討伐クエスト
運営能力疑うわなw


311 : 名無しさん :2015/01/28(水) 16:33:05 5hY1Ad8o0
投下乙です!
誰だよこんなの呼んだやつ……!
対聖杯と呼べる組にも明確な目的が出来た辺り、運営側の行動というのはやはり大きいのか
情報ももちろんだしルーラーとの接触も大きいが、魔術師じゃないコーガミさんには令呪一画は重要だが……
直接的でないにしろ関わることに決めたがどうなる


312 : ◆gry038wOvE :2015/01/28(水) 16:50:42 QIP.wgqs0
七原秋也、キャスター(操真晴人)で予約します。


313 : ◆lnFAzee5hE :2015/01/28(水) 16:58:48 0nBMxz220
リエンス王、ダッジャール(カオスヒーロー)予約します


314 : 名無しさん :2015/01/28(水) 20:17:11 XL6ymQWI0
オープニング、そして記念すべきリレー第一話、投下乙です。

>>1
マスター同士が知らずにすれ違う流れ、気まずいアイドルたち、薄氷を踏むような状況なのにどこかユーモラスな尾行行列、就活学生から勇者にジョブチェンジした蓮子(はた目にはホームレスにしか見えない)、単にやけ酒してるだけなのにマスター発覚を逃れるリエンス、どれも良かったです!
なかでも、特にジョーカーの「犯罪」が実に凄絶で、そして何より狂気に満ちていて素晴らしかったです。
総じてこれから展開される物語への期待が高まる、良いオープニングでした!

>>309
あれ?討伐依頼状に、報酬で提供出来る情報に限度(聖杯や偽東京についての情報はダメ)があることの記載が無い?
さては、ルーラーが鮫噛さん相手だから手を抜いたか?
それとも……。

まあ、それはそれとして焔さんが可愛かったです(こなみかん)
狡噛さん、完全に男同僚と同じ扱いしてますね。
しかし、鯖の仕事ですか。
ステータス視認は鯖と意識して見ないと出来ないらしいから、バイトするだけならそこまで危険性は無いかもしれませんが……発見されたときのことを考えたら危険すぎますよね。
……ところで焔さん、メイドやアイドルに興味ありませんか?


315 : ◆vPcR9pdcgg :2015/01/28(水) 20:23:21 8Ao2YiWM0
園田海未、ランサー(愛乃めぐみ)を予約します。


316 : 名無しさん :2015/01/28(水) 22:20:59 keW6U.5c0
不躾な質問で申し訳ありませんが、本編ではなく、番外編を投下できる場所はありますでしょうか?


317 : 名無しさん :2015/01/28(水) 22:55:09 m0nqLScY0
投下おつー
一話目というのもなんか感慨深いよな
このコンビはほんと、中々にいい感じに馴染んでいるようで何よりだ


318 : 名無しさん :2015/01/28(水) 23:30:39 Ipg/IcSQ0
投下乙です
こーがみさんの上半身に悶える焔ちゃんマジ可愛い
討伐クエストは様子見っぽいけど、果たして吉と出るか凶と出るか
あとシビュラさん意外とアナグロなのねw>封筒で配達


319 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 01:15:18 IRHIBjF.0
投下お疲れ様です
第一作のスタートは狡噛慎也元執行官(元監視官)のサービスシーンから……これは実際マーケティング的にも正解ですよ
サーヴァントはヒモだというのはある意味では間違っていないが、聖杯戦争の戦闘では働くんだから、外で働くのはやめるんだ!w

>>316
こちらで投下していただいて大丈夫です
したらばは使わずに、という形で行こうと考えているので

Google Mapsで貼付け&貼り付け
見づらいかもしれないです
表記も追加させていただきました

ttp://i.imgur.com/NLi8hW5.jpg


320 : <削除> :<削除>
<削除>


321 : <削除> :<削除>
<削除>


322 : <削除> :<削除>
<削除>


323 : <削除> :<削除>
<削除>


324 : <削除> :<削除>
<削除>


325 : <削除> :<削除>
<削除>


326 : 名無しさん :2015/01/29(木) 03:03:53 73YxA1CI0
ええと、一つ確認させていただきたいのですが
この五組のキャラはすべて◆OSPfO9RMfA氏が執筆されたキャラでしょうか?

番外編というからには当選したキャラの番外編かなと最初は思ったのですが、これ落選作のキャラですよね
自分の作品なら何しようとまあ自由でしょうが、まさか他人のキャラで落選をネタにしたわけじゃありませんよね?


327 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 04:05:14 IRHIBjF.0
では、予約していた蓮子&ライダー組を投下します


328 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 04:07:28 IRHIBjF.0

古びれた学生マンションの一室。
投函された一通の手紙を、三人の男女が囲んでいた。
聖杯戦争における奇跡の願い手、宇佐見蓮子。
奇跡を叶えるための導き手、ライダーのサーヴァント・伝説のモグラ乗り。
彼の者の逸話の一つ、腐れ縁のメガネ相棒・オチタ。
三人は、首を横にひねり、ゴミ箱に叩きこまれた大量の封筒へと視線を移す。
そして、もう一度、卓袱台のうえに置いた封筒へと目を移す。

「またお祈りかな」
「これで最後でやんすかね」
「面倒くさいなぁ、なんで電子メールじゃないんだろ」
「この時代でも電子メールのはずなんだけど、なんでこうもアナログの多いんでやんすかね」
「いいから、開けちゃおうか」
「まーたお祈りかな……」

繰り返すようにそう言いながら、蓮子はテーブル上の封筒の封を切る。
チョキチョキとやや乱暴気味にハサミを使って、やはり乱暴に中身を取り出した。
蓮子が広げた文書を、ライダーとオチタが覗きこむ。

「お祈りお祈り……って、あら?」
「……これは」

そこに書かれた文章は最後に『お祈り申し上げます』と締めくくる在り来りなものではなかった。
事務的なもの、という点では同じだが、内容は大きく異なる。
今までのものは、与えられたキャラクターとしての宇佐見蓮子へ送られてきたもの。
だが、今回のものは。
正真正銘、宇佐見蓮子へと送られてきたものだ。

「ルーラーからの『通達』でやんす!」
「あら、ルーラーって本当に居たんだ」
「そりゃ居るさ……討伐、か」

オチタの叫びに対して、どこか感動の薄い二人。
内容を目で追っていくと、平たく言えば、違反者への討伐令だ。
聖杯戦争の運営を脅かすかもしれない主従。
かと言って、今の段階ではルーラー自身の粛清を行うほどの著しい行動ではない。
故に、参加者へと情報の公開に留めている、とのこと。

「令呪一画に情報の提供、これって破格なの?」
「まあ、情報の種類によるでやんすね。
 あと、サーヴァントにもよるでやんす。
 単純に敵サーヴァントの情報が弱点を知るという強み以上に、
 敵の情報を手に入れることで大きく自分の力を増すサーヴァントも珍しくないでやんすから」
「あと、このジョーカーとバーサーカーの戦力次第かな、何事も相対的だからね」

あまり、乗り気ではないようだった。
元々、ライダーは偵察や斥候に向いた能力は持ち合わせてない。
どちらかと言えば、襲いかかる敵に対して対処するスキルに長けている。
それはダンジョンに潜り続けたことで磨いた、状況判断の技術によるもの。
少し矛盾しているようだが、準備を整えて乗り込んだ上で受け身になる状態で真価を発揮できるタイプなのだ。


329 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 04:08:17 IRHIBjF.0

「さて、どうするでやんすか?」
「人殺すってのもどうなのかね」
「じゃあ、このジョーカーって違反者を助けるかい?」
「人殺しを助けるってのもどうなのかね」
「じゃあ、警察に突き出すのが一番でやんすね。
 ただ、今回はその警察に当たるルーラーがこっちに丸投げしてきてやがるでやんすからね」
「どうするかなぁ……」

攻めるにしても危険だ。
かと言って、無視するのもどうかと思う。
聖杯について調べる、という意味では、ひとまず聖杯の目論見にしたがって聖杯とコネクションを作るのも手ではある。
しかし、目的もないのに人を殺すというのも――――というより、蓮子も恐らくだが、出来ないだろう。
人の生死というのは、それほどのものだ。
少なくとも、蓮子にとっては。

「まあ、悩むといいよ。悩んでこその人間だしね」
「ただ、これで外を出歩きにくくなったでやんすね……
 他のマスターとサーヴァントも積極的に動く可能性が高いでやんす」
「危険ってわけね」
「当分は俺達が出歩くよ、マスターはゆっくりと考えるといいさ」
「考える考えるって、何を考えるって話?」

蓮子は寝転がりながらライダーへと問いかける。
ライダーはマグナムの手入れをしながら、応える。
これからの散策のための準備だ。
見れば、オチタも荷物をまとめている。

「例えば、聖杯と野球人形のこととか」
「オカルト?」
「浪漫のことさ……それから生まれる、浪漫のないこととかね」

野球人形。
部屋の片隅に置かれたゴーレム、長い時間を経って、一種の神秘を帯びたかろうじて聖遺物と呼べるもの。
今は眠るように、ぴくりとも動きを見せない。
この人形は野球という指向性を与えなければ、動くことをしないのだ。

「聖杯は聖杯そのものに特別な指向性を持たないからね。
 そういう、なんでも出来る物っていうのはね、危険なんだよ。
 人が使っちゃうと、浪漫のないものになる」
「安全装置は必要ってこと?」
「少し、窮屈な言い方になっちゃうけどね……使うものは万能でも、使う人間は万能じゃないから」







330 : 聖遺物A ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 04:09:03 IRHIBjF.0



聖遺物A


うた:宇佐見蓮子&伝説のモグラ乗り


◆上目遣いに 悩んでみている


◆誘う聖杯の 輝きがまぶしいわ


◇思わせぶりに かがやいてる


◇使い方は こっちできめさせてくる


◆いわゆる 普通の 聖遺物だわ(Foo)


◆奇跡のこと 知らなさすぎるのマスター……


◇願い叶える 仕方ないこと


◇似たようなこと 誰もが失敗してるのよ


◇わからない わからない


◇ダメに見えても 全部叶えてくれる


◆危ないんだ 危ないんだ


◆聖杯は聖杯よ 貴方じゃないわ


◆◇特別な器 それは貴方じゃないわ


◆◇せ・い・は・い 聖遺物A







331 : 聖遺物A ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 04:09:59 IRHIBjF.0

「俺がこれを好きなのは野球しか出来ないからだ」
「ああ、それは私も好きかな。なんていうか、浪漫だよね」
「便利な言葉でやんすね」

二人の会話に、どこか呆れたような顔を見せるオチタ。
蓮子は聖杯について知りたい。
この野球人形が、一種の神秘が語る浪漫を知った時のように。
未知への興奮。
それを求める心は、消えていない。
ただ、ライダーの語るように、それが危険であるかもしれないものについては認識した。

「深夜の動きは危険だから、俺達だけが動くよ。
 万が一があったら令呪で呼んでくれ」
「昼は?」
「危険だけどね……本当は危険だから動かないで欲しい」
「でも、オイラたちサーヴァントでやんすから」
「マスターに従うよ」

二人の発言は、ある意味では無責任なものだった。
そこからは、忠誠とは違った、確かなものを感じる。
全力を尽くす、ということなのだろう。
ありがたかったが、どこかむず痒かった。

「それじゃ、夜の間は二人に任せるよ。昼は一緒に動こうかな」

少なくとも、今日の夜に限って言えば、蓮子はそう決めた。
実際、ライダーの言葉通り、少しだけ考えてみることにした。
神々の住まう国、メリーと共に見ようと誓った不思議な世界。
月に兎が居ない時代に見つけた、浪漫世界。



【新宿・A-3/アパート・蓮子の部屋/1日目 深夜】

【宇佐見蓮子@東方Project】
[状態]
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]普通(学生として暮らせる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯について知りたい。
1.ジョーカーについては保留、メリーの探索を続ける。
2.ただし、捜索は伝説のモグラ乗りへと任せる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。


【ライダー:伝説のモグラ乗り@パワプロクンポケット10 バトルディッガー編】
[状態]健康
[装備]リボルバー拳銃
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子を支援し、浪漫を探す。
1.夜帯はオチタとともに市街を巡り、メリーを探す。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。


332 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 04:11:00 IRHIBjF.0
投下終了です


333 : 名無しさん :2015/01/29(木) 04:44:28 U1/Q5Z0A0
投下乙です!

>追うべき獲物は
東京聖杯のサービス担当は狡噛さんだな(確信)
それは冗談にしても狡噛さんと焔ちゃんのコンビはマスターの魔力供給以外では安定したいいコンビだな、お互いに刺々しさもないし!

>聖遺物A
UTSUWAパートがあからさまにー!?(ガビーン
しかし、聖杯自体ではなく、使う人間のことについて言及するのは、幻想を探していく秘封倶楽部の活動を考えると面白い
こっちも安定したコンビ(トリオ?)で穴がないぜ


334 : 名無しさん :2015/01/29(木) 12:06:59 CATLYC02O
投下乙です

何でもできるのは、浪漫が無い


335 : ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:10:51 nFkczxNk0
投下します。


336 : 夏の十字架 ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:14:00 nFkczxNk0



 HELP! あ、兄さん ばあさん
 HELP! ありゃーゆうべの夜
 HELP! 夢が破れた
 HELP!!!

 あの子供の頃は 心配なことも──それほど恐ろしいことじゃなかった
 でも大人になって気づいたことは──危ない世界に暮らしてることさ

 HELP US ベイビー どんなときでも
 HELP US 君を愛しているから
 HELP US 傷つけたりしないで
 Won’t you Please HELP US?







 渋谷駅では、夜にもまだ少し活気が残っていた。
 それは、どちらかといえば、悪い活気だった。いかにも……な若者がうろついている。中には、いい年こいて何をやってんだか、って思ってしまうような派手なオッサンもいる。それが、普段の深夜の渋谷駅だった。
 七原秋也もそちら側の人間と言っていいかもしれない。こんな時間にこんな街でロックを奏でる中学生というのは、不良というレッテルを貼られて然るべき人間だ。

 ああ、しかし、七原には、それが心地よい。──自由を謳歌していられる。

 この自由な東京で、たった一人で路上ライブをする。七原にとっては、ギターケースを開いて街中でロックを歌うなんていうのは、夢のまた夢だった。しかも、渋谷にはそんなストリートミュージシャンで溢れてる。七原が夢の夢のそのまた夢くらいに見ていた、プロの音楽家ってやつを叶えようとしてる人たちだ。
 かれこれ十曲歌っても一銭も入らないが、それでも良い。空っぽでも、街中でエレキを取りだして、街中で堂々と歌えるって事が──それが、充分嬉しいんだ。

 こんな簡単な自由さえ、俺たちの世界は手に入れられないのか、と……七原は思った。

 ここには憲兵はいない。もっと、もっと平和でやかましくない警官ならやって来るかもしれないが、そんなのは七原にとっては相手にもならない。反権力、反体制、何を訴えても叫んでも良い。
 さっきも、七原が訴えかけたロックを聞いて、「良い歌だね〜」となれなれしく微笑みながら、上手くご機嫌を取って補導を目論んだ警官がいた。そいつは、暴力を振るおうなんてつもりも怒鳴るつもりも一切なく、この反抗的な歌詞に共感さえしているようだった。職務だから捕まえないわけになんていかない、っていう程度の軽い意識。──歌われてる権力ってのは、あんたらの事なんだぜ?
 上手く取り繕って食い下がってやれば、「気を付けて」とこっちの身を案じて去ってくれる。あれは警官の中でも、良い警官だ。七原が反発してきた警官とは、つくりが違う。大東亜共和国は東西南北どこを探しても、あんな警官はいないのだ。

「なぁ、マスター」

 キャスター、操真晴人が、一曲の終わりと共に、横で七原に声をかける。まるで機を伺っていたようだった。キャスターは、いかにもロックが似合いそうな出で立ちでありながら、興味なさそうに手すりに寄りかかっている。その左手には紙袋が乗せられており、キャスターは中のドーナツをおいしそうに食べていた。
 ドーナツの味はプレーンシュガー。どちらかといえば、特徴の薄い顔立ちなキャスターにはぴったりだった。少し時間をかけて見てようやく美男子だとわかるような顔立ち。
 飄々としていて表情を作らないせいだろうか、雑踏の中に埋没する事もできてしまうほど、英霊らしからぬオーラだった。

 ……しかし、それはそれで好都合だ。
 問題は、七原の危機を救うのはこの男だというのに、それにしては随分と呑気な風にも見える事だろう。

「その歌、ビートルズのパクリじゃないの?」
「なんだ、今頃気づいたのか?」

 そんな七原の返答に、キャスターの口から自然と溜息が吐き出された。


337 : 夏の十字架 ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:15:28 nFkczxNk0
 そう、これはれっきとしたビートルズのパクリだ。言わずと知れた、最初のロック。
 誰も気づかなかったらどうしようかと思っていた。

「そりゃね。気づかない方がおかしいよ」

 いや、しかし──この東京ではみんな知っているのだ。あの、ビートルズを。
 だから、ビートルズをコピーする人間なんて、本当に──これは誇大表現でも何でもなく、五万といて、七原もその一人として埋没している。七原のつきつけるメロディに心惹かれる人間はいない。金を払ってまで素人のビートルズを聴く人間はどこにもいない。
 そんなにまでビートルズが有名なのは、戦争のない世界、平和な世界が美徳だと、この国が教えたからだろう。

「だって、ビートルズの歌は、子供だって知ってる」

『操真晴人』の世界も、そうだった。
 少なくとも、この東京にいて違和感を覚えるほどおかしな世界には生きていない。
 規範となる現代社会に生きて、ビートルズも東京も渋谷も知っている。第二次世界大戦から先の分岐も、「大東亜共和国」も、「プログラム」もなかった。アメリカも敵性国家ではない。

「……でも、俺たちのいた国なら、気づく奴の方がおかしかったんだ。国中の大人が、世界一有名なミュージシャンの名前を教えてくれない。いや、隠してるんだ」

 キャスターの言葉を聞いて、七原は気が変になりそうだった。この東京にいる間中、ずっとそうだ。
 超人的な力を持って、魔法なんていうものまで持って、怪物と戦ってきたキャスターよりも、ずっと最悪な世界に自分は生きている。
 英霊の生きる世界の方が、ずっとマシな世の中──。

「オーケー、わかってる。狂ってるのは俺の世界なんだよ」

 狂った世界。言いたい事も言えない、やりたい事もやれないそんな世の中。それを変える為に戦う。それが七原の目的だ。
 イカレた世界を変える為に、またイカレた行動をしなきゃならない。
 キャスターは、彼らの住まう世界でジョン・レノンが誰と結婚したのか、思わず気になったが、そんなデリカシーの欠如した質問をする気にはなれなかった。

 七原の方が、表情を変えて、少し楽な気持ちになってから聞いた。

「で、キャスター。どうだったかな? 俺のパクリは。上手くパクれてたかな」
「Very good. You rock.(超いいね、最高)」

 最上級の褒め言葉を発しながらも、キャスターの態度はどこかそっけない。感嘆符がつかないような言い方しかできないのだろうか。
 キャスターは気取り屋なのだろう。わざわざ英語で返す皮肉っぽさも鼻につく。簡単な英語であったため、英語が苦手な七原もすぐ意味を理解できたが、却ってそれも鼻につく。

 しかし、許してやろう。
 こうして隣で、周囲を警戒して七原を守ってくれているのは、他ならぬキャスターだ。たとえば、先ほどの警官がもし「敵」だったなら、このキャスターがすぐに気づいて七原を庇ってくれただろう(いや、今のキャスターの態度だけ見るととてもそうは思えないが)。
 わざわざ真夜中に用もないのに出歩くのを許しているのは、このキャスターが融通の利く性格だからでもある。

「お世辞でも、ありがとう」
「お世辞じゃないさ。そうだ、ブルース・スプリングスティーンのBorn to Runのパクリは特に良かった」

 キャスターは、また表情を変えずに言った。
 しかし、具体的な曲名が出てくるという事は本心なのだろう。
 ただ……。

「……それさ、パクリのそのまたパクリなんだ。俺が訳したわけじゃない」
「ああ、なるほど。道理で出来が良いわけだ」

 率直な感想が返されて、七原は思わず笑った。
 所詮、中学生。そんな物だ。キャスターから見れば稚拙な曲かもしれない。
 とはいえ、キャスターにしてみれば、ちょっとした冗談のつもりで、その他の歌もちゃんと聞いて、それなりに評価してはいた。

「──気は済んだよ、キャスター。ちょっとは不安が晴れた」
「それは良かった」


338 : 夏の十字架 ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:16:01 nFkczxNk0

 お世辞では、なかった。
 いや、もしかすればキャスターは見え透いたお世辞は言わない性格かもしれない。

「俺、明日も学校に行くよ。遅刻はするかもしれないけど」

 そう言う七原は、明日からの不登校を考えている身の上だった。それはできないとわかっていながら、まだ心にしこりが残っている。

 ある不安の種が七原の心に撒かれたのは、────先日の話だ。

 七原は気が付けば、いつもの学校にいた。普通に通学して、普通に自分のクラスに入る。その動作のどちらの間にも違和感があった。ノブが、三村が、杉村が、川田が、林田先生が……みんなが、いた。
 プログラムなんてなかった自由な世界の仲間が、いつもの日常を過ごしている。一緒に生きて帰った典子も、まるで何も知らないかのように過ごしてきた。
 キャスターに一度だけ促され、拒絶した「七原が叶えたい世界」。あのクソッたれゲームの事を忘れて、七原の愛する日常とクラスメイトが生きている世界。
 それは、七原が何度も見た夢とは違う。まぎれもない現実の光景だった。……しかし、夢にまで見た光景だというのに、七原の中に嬉しさがこみあげる事はなかった。

 七原の中に芽生えたのは、恐怖。
 少し前に死んだはずの人間がそこにいる。
 もっと言えば、殺し合っていたはずの人間である。同じように泣き、血を流し、叫び、恐怖し、裏切り、死んでいったクラスメイト──ただ楽しく日常を過ごしている姿を見ていても、素直に接する事なんてできやしない。
 いや、彼らが悪いって事はない。悪いのは、彼らじゃない。
 だって、彼らが悪いのなら──七原だって、この中の何人かを殺してるのだから。
 大木立道の顔を真っ直ぐ見る事ができない。ちゃんと出会う前の川田章吾との距離感が遠い(そういえば、川田は前のプログラムに来た設定なんだろうか?)。委員長たちのグループの何気ない会話の中にだって見えない棘を感じずにはいられないし、元木や織田みたいな「ちょっと嫌な奴」にだって、もっと本質的な嫌味を感じてしまう。

 そう、時が戻っても、他ならぬ七原自身が、日常に帰る事ができないのだ──。
 それをこの聖杯戦争の中で示された。やはり、世界のルールそのものを変えなきゃならない。──彼らが生きている世界に七原が連れて来られても、七原はそれを受け入れられない。
 どうしても、七原だけが狂った世界に取り残されてしまう。

 まるで、死人や典子を演じる機械のようにさえ見えた。
 だって、それは当たり前だ。彼らは世界にいてはならないのだから。
 彼らの死と、それに怒る七原の心が、あの政府が腐っている事の証明になる。それは奪われちゃいけない。彼はもう蘇らないからこそ、大東亜共和国がやった事は取り返しのつかない最低な独裁で、七原がそれをブッ潰す構図が出来上がらなきゃならない。
 だから、ここに彼らはいてはならないし、そんな理屈よりも前に、七原は──親友であるはずのノブや三村や杉村でさえ、何か「違和感」を齎し続けるのだ。

 それに、恐怖の種はもう一つある。この中に七原と同じ、「マスター」がいるかもしれない、という事だ。
 特に厄介なのは、桐山和雄だ。……もし、こいつだったら、どうする?
 七原は、あまりにも不安で、桐山の背中を追い続けた。桐山を監視し、彼が「マスター」でないか確認しておきたかった。結局、少し年上のお姉さんとぶつかって、桐山は見失ってしまったが……。
 もし、桐山和雄が敵だったら、──七原は、またこの怪物と戦えるのか?



 ────キャスターが訊く。

「マスター、遅刻は普段もしてたのかな」
「いや、そんなには、してなかった。優等生でもなかったけど」
「じゃあ、明日もしない方がいいかな」

 軽い口調に聞こえたが、表情は本気で七原の身を案じているように見えた。

「自分は普段と違う事をしている、ってクラスメイトに伝える事になる。それがただのクラスメイトなら問題ないけど、もし別のマスターがいた時の為にね」
「……そうだな」

 気づいて、七原は項垂れる。これからも、七原は普段通り、あの仮面学園に通い続けなければならない。それこそが一番堅実に生きる道であり、「戦法」なのだ。
 それがいかに息苦しい環境であっても、プログラムに巻き込まれなかったただの「七原秋也」を、あの中で演じ続けなければならない。


339 : 夏の十字架 ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:16:26 nFkczxNk0
 あの渇いた偽物のクラスの中で、いつも通りノブや三村や杉村に接しなきゃならないのだ。

 だって、もし、あの中にマスターがいるとすれば、おそらく────「プログラム」を知っている。
 だから、こっちも敵に「あの七原」なのだと感づかれちゃいけない。プログラムを知らない素振りをして、普段と違う行動はせずに、あの中で浮いたり、あの中で誰かに疑問を持たれたりしないようにしながら、クラスメイトを──特に、桐山を疑わなければならない。
 いざっていう時は、それが川田でも三村でも杉村でもノブでも、あるいは典子サンでも──疑って、疑って、またあの時みたいにやっていかなきゃならない。

「辛いかもしれないけど、君が生きる為には仕方ない」
「わかってる。また、みんなを騙して、俺も自由を忘れて誰かを演じて、息を潜めるんだ。でっかい願いを叶える為なんだから、わがままは言えない」

 しっかりしてやがる、とキャスターは内心で独り言ちる。
 これが殺し合いを経験した中学生、か。本来ならば中学生というのはもう少し無邪気で可愛げがあって、生意気なものだが──いやはや、大人びている。
 それが良い事なのか悪い事なのかはわからない。それは、キャスター自身もそんな責任感を持ち合わせて青春を送って来た共通項があっても、正しい精神なのかはわからず終いだった話である。唯一、何の責任もない子供に戻れる瞬間が、キャスターにとってはサッカーで、七原にとっては軽音楽だった。
 そんな共感があるからこそ、こうしてリスクを冒してでも街中で路上ライブをさせるのを許したのだろう。

 七原は、加えてキャスターに一つ訊いた。

「なぁ、キャスター。一つだけ教えてくれ。俺が街中で桐山の背中を追いかけたのって、軽率だったのかな?」
「軽率」

 そのまま単語で返され、七原はたじろぐ。キャスターは、やはり、お世辞を言わない。

「でも安心しろよ。そいつには使い魔をつけておくし、万が一の時には俺の方が何とかする。ただ、次から、怪しい奴を見かけたら俺に言ってくれ」

 軽率だと言った割りには、キャスターはそれほど危機感を覚えていないように見えた。
 使い魔という便利な道具があるから、でもあるだろう。

 使い魔──別名を、プラモンスターという。
 聖杯戦争に伴ってキャスターの保有スキルとなった『ウィザードリング作成』を運用すれば、レッドガルーダやブルーユニコーンといった「使い魔」を召喚し、偵察をさせる事ができる。能力値としては、他のサーヴァントに攻撃をうければ──あるいは、マスターにさえ場合によっては──あっさり倒されてしまうほどだが、何体か用意すれば、七原の危険をキャスターに連絡をするツールにもなる。
 中学校内に潜入するには些か目立ちすぎるキャスターにとっては、ミニマムな使い魔たちが丁度良い。
 使い魔には悪いが、いざという時は七原の盾になってもらう事だってできるはずだ。少しは彼の安全も保障される。

「さて、そうとわかったら、さっさと片付けて帰ろう。昨日の事なんて振り返っても仕方ない。夜更かしは聖杯戦争の天敵、ってね」

 アンプやマイクなど、機材の類を片づけて帰る準備を始める事にした。
 一人分なのでそうそう時間はかからない。もう日付を回っているのだから、さっさと帰って明日の朝に備えなければならないだろう。元々、彼の部活は朝の練習がないようだし、この程度のロスは何とかなる。充分、遅刻もせず、何事もなく通学できるラインだ。
 元々、中学生程度なら日付を変更するまで遊びほうけていても何の違和感もないし、それこそ相馬光子や桐山和雄なんかは毎日そうして生きているかもしれない。

「あ、そうだ。はいコレ」

 後片付けの中で、脈絡なく、キャスターは紙袋からドーナツを一つ取りだし、それを七原に突き出した。

「何だよコレ」
「プレーンシュガー」
「それはわかってるけど……」
「うまいよ」

 そうキャスターが言うが、七原は口をつけない。
 なんでまた突然、こんな物を差し出してくるのかわからなかったからだ。


340 : 夏の十字架 ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:17:57 nFkczxNk0
 それはただの差し入れとか、よくある半分こみたいな物かもしれないが、それでもやはり、「英霊」がドーナツを差し出してくる光景には裏を勘ぐる気持ちにもなってしまう。
 ドーナツには何か強い意味があるのだろうか。ドーナツが魔力や強さの秘訣? ──いや、そんなわけはないのだろうが。

「強いて言えば、さっきの曲のお代ってとこかな。自由で平和な世界に生きるあんたの、ロックシンガーとしての最初の報酬」

 そう、キャスターに言われると、七原も悪い心地はしなかった。薄くはにかみながら、ドーナツをかじる。

「うまっ」
「だろ?」

 準備を終えたところで、キャスターは堂々と『呪文詠う最後の希望(ウィザードライバー)』を発動し、『ウィザードリング作成』によってウィザードリングを装着した。
 宝具を発動し、魔力は微かにだけ消費される。

「んじゃま、バレないように」

 ──Connect──
 ──Please──

 魔法陣がキャスターの右側面に作りだされ、そこでキャスターのいる空間が、別の空間と「接続(コネクト)」された。
 アンプやマイクをそちらに放りこむと同時に、今度はキャスターの「愛馬」が召喚される。
 仮面ライダーウィザードが駆るバイク、マシンウィンガーである。──この雑踏がある渋谷の街で、あまりにも堂々とした行動だ。七原は開いた口が塞がらない。
 バレないように、と言うが、もしバレたらどうするのだろう?

「うっ……なんだ、俺は酔ってるのか?」

 会社員が通りすがり、こちらを凝視し、目を擦っていた。
 七原は、その瞬間、遂に「まずい」と思った。──見られた。しかも、よりによって、サーヴァントの迂闊な行為によって。相手がマスターだった場合、『殺す』しかない。いや、たとえマスターでなかったとしても──。

「いーや」

 しかし、当のキャスターの方は余裕たっぷりに言う。

「俺が魔法使いなだけ」
「ああ、なるほど……」

 納得して、狐に化かされたようにその場を歩いて行く会社員。
 しばらく後、全く納得できない理由だと思ってその会社員が振り向いた時には、そこに七原とキャスターの姿はなかった。
 その会社員は、疲れて変な夢を見ただけ、と自分を納得させただろう。この聖杯戦争のマスターでもない限りは、それくらいしか論理的な理由はなかった。







 七原はキャスターの背に凭れ、マシンウィンガーで公道を走っていた。目的地は、七原の寝泊りするあの施設である。
 そんな最中、七原の脳裏には、いや、もしかしてこのバイク──ナンバープレートがついていないのでは? とか、そんな疑問も浮かんでくる。
 今度は警官も許してはくれないだろう。未成年の深夜徘徊に比べると、結構大胆でレアな犯罪である。

 しかし、闇に紛れられるようで、時折大胆な行動もするこのキャスターという英霊。実に厄介な側面を持っている一方、却ってそれが、彼を闇に溶け込ませていた。
 あまりにも動じないもので、不自然な行為さえも自然に見せてしまう。あの会社員だって、あんな一言で納得してしまっているくらいである。
 あんな芸当は、やはり大物にしかできない。

「なあ、キャスター」
「何?」
「これって、あんたの方が軽率じゃないのか?」


341 : 夏の十字架 ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:18:43 nFkczxNk0

 七原は大物ではなかったので、やや不安げに訊く。

「へへっ」

 まるで舌を出すように、キャスターは笑った。
 冷や冷やさせるようでもあるが、ある意味では──七原以上に、ロック。
 思わず、七原の方も釣られて笑ってしまうほどだ。

 今の様子を見てみろよ、そこまで臆病になる必要はない、安心してみせろよ、と。
 彼は教えてくれているようにも見えた。
 普段と違いすぎる行動をしてみせる事は、却って危険で、体にも心にも毒であると。

 それは、現代を魔法使いとして生きてきた男だからこその助言とも言えるだろう。





 ────魔法の指輪、ウィザードリング。今を生きる魔法使いは、その輝きを両手に宿し、絶望を希望に変える。





【A-4 渋谷・渋谷マークシティ付近/1日目 深夜】

【七原秋也@バトル・ロワイアル(原作小説版)】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]エレキギター(メーカー指定なし)等
[所持金]少なめ(ただし、施設と中学で暮らしているので生活には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る。
0.今はこっそり帰宅する。その後、登校時間を守り通学。
1.クラスメイト(特に桐山和雄)に対して危機感を覚えている。
2.学校以外の時間は音楽で不満をぶつけていく。
[備考]
※桐山和雄と同じ中学校(少なくともクラスメイトの構成は城岩中学校3年B組と同一)のクラスメイトです。ただし、クラスメイトは全員、東京都民に改変されています。
※夜は施設を抜け出して駅前でストリートミュージシャンとしての小遣い稼ぎする事を目論んでいますが、初日の段階で一銭も入っていません。
※外出している為、まだジョーカー討伐クエストの連絡を受けていません。

【操真晴人(キャスター)@仮面ライダーウィザード】
[状態]健康
[装備] 『呪文詠う最後の希望(ウィザードライバー)』
[道具]プレーンシュガーのドーナツ
[一時的に召喚している道具]マシンウィンガー
[所持金]少しある?(小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの「最後の希望」になる。
0.七原を彼の住んでいる場所まで連れていく。
1.七原の学校生活には注意を向けておく。
[備考]
※外出している為、まだジョーカー討伐クエストの連絡を受けていません。
※七原の通う中学校に、「使い魔(プラモンスター)」を偵察させておく予定です。
 特に、警戒している桐山和雄の監視は学校外でも欠かさないようにするつもりです。


342 : ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 16:19:39 nFkczxNk0
以上、投下終了です。軽率なのは私でした。
感想、指摘、疑問点などありましたらお願いします。


343 : 名無しさん :2015/01/29(木) 17:25:35 QFLy/T.g0
投下乙です
七原の最大の懸念事案は見事的中、桐山の動向が気になるところです
平和の世を生きながらこれから戦いの渦中に身を投じていくであろう七原と晴人の会話はなんだかしんみりきました


344 : 名無しさん :2015/01/29(木) 17:33:05 CATLYC02O
投下乙です

どの程度までならバレないか判るのは、現代の英霊ならではか


345 : ◆gry038wOvE :2015/01/29(木) 22:20:48 nFkczxNk0
すみません、七原の所持品(装備)にベレッタM92Fを入れ忘れていたので付け加えておいてください。


346 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 22:58:07 IRHIBjF.0
投下乙です!
七原は自由を味わいながらも、その自由で演じなければいけない『押し付け』を感じている
本当に望むもののためには勝たなきゃいけないということか……
七原の行動は軽率なんだろうが、動こうとしていたからとも言えるな


347 : ◆devil5UFgA :2015/01/29(木) 23:00:06 IRHIBjF.0
高坂穂乃果&アマテラス、鹿狩雅孝&カーズ、衛宮切嗣&獣の槍
予約します


348 : 名無しさん :2015/01/30(金) 17:29:28 Ejhxcwss0
お二方とも投下乙です!

>聖遺物A

突然の歌は予想外すぎましたw
それはさておき、仲の良い主従の話で和みました。
聖杯がここまでディスられる日が来るとはw

たしかに野球しか出来ない野球人形はロマンです。
ですが、何の役にも立たないと決めつけてしまうのはどうでしょうか?
たとえば謎のストーカーMさん率いるチーム「ライダーとゆかいななかまたち」がマスターを奪いに来たとしても、野球でコミュニケーションを取れば和解出来るかもしれませんよ!
……あと五体は野球人形が無いと、チーム不成立で自動的に敗北しますが。

>夏の十字架
良い話でした。
幸せにしている七原って、本当にレアな気がします……。
なんだか目頭が少し熱くなりました。
不安、希望、喜び、恐怖。感情豊かな七原の抱える思いが伝わってきました。
この感情の振れ幅の大きさと、自由とロックへの思い入れは間違いなく七原です。孤児の先達として、しっかり七原を導く晴人も良い感じでした。
しかし、この二人が向かうのは過酷な殺し合い。
そしてキャスターは魔力量で戦闘力が大きく左右されるクラス。
諜報活動に徹するならともかく、他鯖に対して優位に立つにはNPCを含めた他人を犠牲にせざるを得ません。
今は和やかな二人ですが、果たしてこの先はどうなるのでしょうか……。


349 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:54:45 C.EXGgi60
投下します


350 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:55:07 C.EXGgi60

       東 京 大 破 壊 か ら 遥 か 未 来
THAT'S THE DISTANT FUTURE SINCE TOKYO DESTRUCTION

四方を山手線に囲まれた大地東京。
ここは犯罪と妖物の襲来により混迷を極めていた。
そこで聖杯を救う真の主を見極めるため、紅という色の月を見る試練が与えられた。
月に選ばれし者こそ真の主マスター。だが、選ばれた者は22人にも及んだ。
それはマスター同士を競わせ不要な人材を淘汰し、
本当の意味で聖杯を仕様できるマスターを選ぶ計画だったのだ。


【歌詞は表示されません】


351 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:55:40 C.EXGgi60


「ダッジャールよ、ジョーカーを討つぞ」
そう広くもないアパートの一室、過剰なまでに自己主張する尖りすぎる鎧を除けばこざっぱりしていると言ってもよい己の城、
スーツを脱ぎ捨てると同時に、王は唯一の部下にそう宣言した。
果たして退社からすぐ贔屓のスナックに行き、何杯飲んだものか。
頬は誰が見てもそうである赤みを帯び、その息は酒の臭みを帯びていた。
「酔っているのか」
積み重なった洗濯物の上に腰掛けて、呆れたようにリエンスを見上げるのは彼のサーヴァント、ダッジャールだ。
彼の従者として召喚されて数十時間、それはリエンスという人間を見極めるには十分すぎる時間だった。
部下に小馬鹿にされるリエンス係長、上司に怒鳴られるリエンス係長、新プロジェクトの11人に選ばれないリエンス係長、
スナックで泣くリエンス係長、スナックのママにまで見下されている節があるリエンス係長、それでもひたすらに酒を飲むしか出来ないリエンス係長。
短い付き合いになるだろうとはいえ、これが自分の主であると思うと泣きたくなる。

「バカが、俺が酔うかよ」
「酔っぱらいは皆、そう言うんだ」
「ふん……例え、酔っていたとしてもだ。いや、そんなことはどうでもいい。
いいか、わざわざ土産まで持たせてくれる美味しい敵だ、討たん手は無い。
そして、そんなことは俺以外のマスターも考えているだろう、先手を取った者の勝利だ」
「だからって、酒臭いまま殺しに行くかって言ってんだよ……シャワー浴びて、頭起こしてきな」
「いいか、俺はなぁ」
「頭を冷やせよ」

視線としてはダッジャールはリエンス王を見上げていた、だがあからさまに彼はリエンス王を見下している。
腰掛けている洗濯物は明らかに、ダッジャールにとっての玉座だった。
玉座を失った王は――。

湯が出るまでに多少の時間が出る、シャワーから放出される水で湯船を軽く洗いながら、
何の気なしに、己の右手の甲に刻み込まれた令呪を見た。
中央部に描かれる幾何学模様は、まるで己を表す尖りすぎる鎧の様に見えた、
その両脇のよくわからない模様もまた尖っている、二刀流――というわけでもないが、剣だろう。
今、己に真に味方するものがあるとするならば、今己の力と呼べるものは、これだけだ。

だからこそ、ジョーカー討伐は必須だ。
ダッジャールを真に従えようと思うのならば、己の器を示すことは須要である。
そして、お互いに戦士であるならば――それは戦いの中で示す他あるまい。
リエンス王は、従者に己を認めさせたいのだ。

――偽りの救世主、ダッジャール。ならば奴を召喚した俺も偽りの王ということか。
エクスカリバーも抜けず、十一人の支配者にも入れず、ただブリテンの賑やかしとして存在する噛ませ犬であるということか。
否!絶対に否!それだけは、認めない。認める訳にはいかない。
例え、誰が何を言おうとも――自分の心さえ、折れそうになったとしても、己は真の王であると吠え続けなければならない。

リエンス王が、ジョーカー討伐を焦る理由はダッジャールに力を認めさせたい――というものは確実にあるだろう。
だが、それだけではなかった。
誰からも、何からも認められず、リエンス王は酷い承認欲求を抱えていた。
エクスカリバーの剣を抜くアーサー王のように、王宮絵画のモティーフとなるような、試練に乗り越える己の姿を欲していた。
だからこそ、聖杯から与えられたジョーカー討伐クエストは、リエンス王にとって英雄譚の1ページのように、甘く、甘く、甘く、映った。

己の力を聖杯に認めさせなければならない。


352 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:55:58 C.EXGgi60


◇ ◇ ◇



聖杯の毒
うた:リエンス

聖杯から零れし 一滴の毒
それこそが試練と心得よ

親しげな顔で 酌み交わす毒
それこそが聖杯との契約の証

Ah…… ジョーカー 文字通りの鬼札よ
Ah…… バーサーカー 文字通りの 狂戦士よ
試練となるべく 選ばれた者達よ

彼らはただ 聖杯の毒
耐え切れぬ者を浮かび上がらせる

飲み干すことのできる者だけが
真に聖杯を手に入れる者

だから飲み干せよ毒杯
ぐっともういっぱい もういっぱい
飲んで 飲んで 飲んで まだいけるって

はい ちょっといいとこ見てみたい!
飲んで 飲んで 飲んで 飲んで 飲んで 飲んで 飲んで 飲んで 飲んで はいはいはいはい


353 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:56:13 C.EXGgi60






「ダッジャール、行くぞ」
過剰なまでに尖り、味方すらも傷つける黒き鎧。不必要に尖る剣。
やはり、この姿はスナックなどよりも戦場にこそ馴染むものだ、とリエンス王は思う。
シャワーを浴び、酔いを覚まし、やはり己の意思が変わらぬことを知ったリエンス王は戦場に出ることにした。
己を従者に認めさせる、己を聖杯に認めさせる、己を他の参加者に認めさせる、何もかもやり遂げてやろう。
そのような主の姿を見て、ダッジャールは肩をすくめ、笑った。
「いいだろうよ、王様……ちょっとだけ、マシだ」
カオスヒーローが洗濯物の束から、立ち上がった。
リエンス王と従者の目線が、等しくなる。

――まだだ、とリエンス王は思う。
求めたものは同じ目線の高さではない、ダッジャールが真に己を見上げることだ。
だが、スタートラインとしては丁度いい高さだろう。

「俺は……お前の王になる」
「やってみろ……無理だと思うがな」


354 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:56:26 C.EXGgi60




予告譚

とうとうジョーカー&バーサーカーペアの討伐に向かったリエンス王とダッジャール!
だが、ジョーカーの恐ろしい狂気が牙を剥いた時、リエンス王は正気ではいられない!
プロレスリングの四角い戦場にリエンス王の身体が横たわった時!
ジョーカーの必殺技【フィニッシュ】!フライング・キリング・ジョークがトドメをささんと猛攻を仕掛ける!
おーっと!ここで謎のマスクマン!カオスガーディアンの登場だ〜〜〜ッ!
さぁ!体勢を立て直したリエンス王、ここでバーサーカーの乱入だ!
ルール無用の狂悪レスラー!ジョーカー&バーサーカーに勝てるのか〜〜〜〜〜ッ!

次回 『聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚』!

「ラスト五秒の逆転ファイター」!

これは女房を質に入れてでもみなあかんな!!


355 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:56:39 C.EXGgi60






東京聖俳

セイバーと
アーチャー・ランサー
三騎士だ

           東京都 川島 太郎(8)



【リエンス@実在性ミリオンアーサー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]尖りすぎる鎧、尖りすぎる剣
[道具]なし
[所持金]普通(一般サラリーマン程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.ジョーカーを討伐しに行く
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです


【カオスヒーロー(ダッジャール)@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[装備]無銘の剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:リエンス王には特に興味はないが、救世主が己を救えたのか知りたい
1.ジョーカー討伐に付いて行く
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです


356 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 06:58:48 C.EXGgi60
投下終了しました


357 : 名無しさん :2015/02/01(日) 09:21:46 OfTfgCZsO
投下乙です

拡散性ミリオンマスター
百万組の主従で聖杯戦争したら大変


358 : 名無しさん :2015/02/01(日) 09:29:59 2/0C43/g0
投下乙です!
まあリエンスとしては行くしかないですよね
しかし毒イッキ……凄まじい死亡フラグを感じますw
というかジョーカーなら本当にノリノリでフライング・キリング・ジョークをやりそうなんですがw


359 : 王の試練 ◆lnFAzee5hE :2015/02/01(日) 09:53:01 C.EXGgi60
すいません、現在位置を忘れていました。

【千代田・B-3/アパート・リエンスの部屋/1日目 深夜】
です。


360 : ◆SpFFtiBeDg :2015/02/01(日) 17:49:23 XwDzozlU0
遅くなって申し訳ありません。
予約分の投下をさせて頂きます


361 : 理想と現実! 悲劇の聖杯戦争!! ◆SpFFtiBeDg :2015/02/01(日) 17:51:09 XwDzozlU0

 そこは武道の鍛錬を行う道場だった。
 木製の床は電気の光で反射していて、まるで鏡のように煌めいている。しかし、道場にいる人の心までは輝かせなかった。
 マスター・園田海未は胴着に着替えて弓道を行っている。ゆっくりと弦を引き、弓を放った。一直線に突き進んだそれは的の中央に当たる。続くように海来は弓を放ち、そして当てていく。
 とても正確で、百発百中と呼ぶに相応しい。その実力の高さは、海来が長年に渡って修練を重ねてきたことが伺える。
 誠司……それに、いおなやつむぎのように、彼女も一生懸命に頑張ってきていた。そんな海来の力になりたいと、愛乃めぐみ/キュアラブリーは思う。

「ふう……」

 海未は一息つきながら、頭を軽く振る。
 額から溢れる汗を拭いながら、彼女は振り向いてくる。

「凄いね、マスター!」

 キュアラブリーは満面の笑みを浮かべながらマスターを褒め称える。
 しかし、当の海未はしかめっ面を向けたままだ。

「ランサー」
「えっ、どうかした?」
「……この状況であなたはよくそんなに前向きでいられますね」

 その口から飛び出したのは、辛辣な言葉だった。

「今は聖杯戦争の真っ最中……私もあなたも、いつ殺されたっておかしくありません。それなのに、どうしてあなたはそんなに笑っているのですか?」
「それは……」
「もしかして、私を喜ばせようって魂胆なんですか? 『こんな時だからこそ楽しもう』とか『いつだって希望を忘れちゃいけない』とか、そんなことを考えているのですか?」

 キュアラブリーは言葉を失う。
 海未の口から出てきたのは、どれもキュアラブリーが言おうとしていたことだからだ。否定など出来るわけがない。
 違う理由を考えて誤魔化そうともしても、嘘が苦手なキュアラブリーには出来なかった。

「やっぱり……」
「えっと……どうしてわかったの?」
「あなたが単純だからです!」
「うっ……」

 キッパリと言い放ったことで、ラブリーは固まってしまう。
 そこから畳み掛けるように、海未の言葉は続いた。

「あなたはいいですよね。恵まれていて、何も失わないで、幸せな毎日を過ごしているのですから……ええ、確かに希望を持てれば楽しいでしょう。
 でも、私はあなたじゃありません! あなたの希望を私に押し付けないでください! 私は……あなたじゃないのですから!」
「マスター……」
「それに、みんなを『幸せハピネス』にするだなんて言いましたよね! じゃあ、あのジョーカーやバーサーカーという危険な奴らも『幸せハピネス』にしてくれるのですか!?
 それができればあなたは確かに嬉しいでしょう! でも、巻き込まれる私はどうなるのですか!? もしも奴らが話の通じない連中だったら、私は殺されてしまうかもしれませんよ!
 そうなったら、あなたはどう責任を取ってくれるのですか!?」

 海未の怒声は道場に響き渡る。
 ジョーカーとバーサーカーという危険人物を倒せとの『通達』が来た。彼らのことはわからないけど、きっとブラックファングやサイアーク達のように凶悪な相手かもしれない。
 海未の言うことは尤もだし、彼らが誰かを傷付けようとしているのなら戦わないといけない。だけど……


362 : 理想と現実! 悲劇の聖杯戦争!! ◆SpFFtiBeDg :2015/02/01(日) 17:51:28 XwDzozlU0
「……マスターの言うとおりだよ。その人達が悪いことをしているのなら、あたしは戦う」
「ええ、それが正しいでしょうね」
「でも、もしも助けられるなら……助けたい。その人達も何か理由があるかもしれないし、それに自分だけが幸せになるなんて――」
「甘えたことを言わないでください!」

 紡ごうとした言葉は、海未の口から出てきた叫びによって遮られてしまう。
 彼女の瞳に込められているのは怒り。サイアークを操っていたつむぎから向けられた感情と全く同じだった。

『何もできないくせに、助けるなんて簡単に言わないで!』

 そう言っていた彼女はとても悲しんでいて、泣いていた。つむぎの気持ちを理解しなかったせいで傷付けてしまった。
 あの時と同じことを繰り返そうとしている。みんなを幸せにしたいのに、これでは逆だった。
 重い事実が胸に突き刺さっていく中、唐突に海来の表情に込められた怒りが緩んでいく。そして、キュアラブリーから背を向けた。

「……私としたことが、熱くなりすぎました。申し訳ありません。少し、一人で精神統一をしてきます。ついてこないでください」
「えっ、でも……」
「一人にしてください!」

 明確な拒絶の言葉と共に海未は去っていく。そのまま部屋の中から出ていく彼女を、キュアラブリーは追うことができなかった。
 助けられるのなら助けたい。だけど、そのせいで誰かが傷付いてしまうかもしれない。そうなったら、どちらを選べばいいのか?
 みんなが幸せになるのは難しい。とっくにわかっていたはずなのに、今になってそれを実感することになってしまう。
 海未のことは守りたい。だけど他のマスターやサーヴァントの人達だって犠牲にしたくない。

(ねえ、誠司……こんな時、誠司だったどうするの? 誠司なら、マスターのことを助けてあげられるのかな?)

 不意に、彼女の脳裏に一人の少年の姿が浮かび上がる。
 相楽誠司。生まれた時から隣にいる、めぐみにとって大切な少年。彼はいつだって誰かの為に頑張っていて、めぐみもまた彼に助けられた。
 誠司だったらマスターの悩みを解決できるのか、誠司だったらこんな時でもマスターの支えになってくれるのか、誠司だったらどんな答えを見つけてくれるのか。
 誠司に相談したいけど、彼はここにいない。当たり前のようにいてくれた彼がいない事実を突き付けられただけで、とても不安になってしまう。
 今の彼女は伝説の戦士でも人助けが大好きな愛乃めぐみという少女でもない。ただ、自分の無力さを呪うしかできない一人の少女だった。
 身体の弱かったお母さんを助けることで、誰かを救う嬉しさを知った。それから、誰かを助けたいと思った。それなのに誰も助けられないことが、とても苦しい。
 海未を救う為にはどうすればいいのか……ただ、その答えだけでも知りたかった。






 心を落ち着かせる為に、園田海未は目を閉じながら黙想していた。しかし、胸のざわめきは収まらない。
 聖杯戦争と言う異常な状況を前に、少しでも平静を保ちたいと思って弓道を行ったが……気休めにもならない。むしろ、余計に動揺を強めるだけだった。
 平和だった頃の日常が胸の中に湧き上がってしまい、それに対する後ろめたさや苛立ちが湧き上がってしまう。あのランサーを見ていると、その気持ちが一層強まった。
 後先考えないで突っ走る……その姿が高坂穂乃果と重なって見えてしまった。

(私だって、誰かを傷付けるなんてしたくありません……でも、世の中はそんなに甘くないのですよ!)

 全ての人が幸せになる。それが実現できたらどれだけ嬉しいだろう。
 だが、現実はそんな絵空事で成り立っていない。アイドル活動だって、メディアに大々的に取り上げられて脚光を浴びるグループがいる裏では、夢と理想が裏切られて涙を流すグループだっている。
 華々しいように見える世界ですらそうなのだから、命を賭けた殺し合いでみんなが幸せになるなんて有り得ない。次の瞬間には、自分達だって殺されてもおかしくなかった。
 そうなっては自分達の夢は叶えられない……それを知らないで理想論ばかり口にするランサーがあまりにも腹立たしい。

(……いけません、今は落ち着かないと。その為にここに来たのですから)

 頭を振って、心の波を鎮めようとする。しかし、そうしようとすればするほど、思い出が湧き上がった。
 穂乃果やことりの笑顔。μ’sのみんなと過ごした日々。大変だったけど楽しかったレッスン。挫折と成功。どれも大切だった。
 それが失うかもしれないと考えただけでも怖くなる。だから逃げ出したいけど、そんなことはできなかった。


363 : 理想と現実! 悲劇の聖杯戦争!! ◆SpFFtiBeDg :2015/02/01(日) 17:52:08 XwDzozlU0



【東京・A-1/東京都立王子総合高 道場/1日目 深夜】



【園田海未@ラブライブ!】
[状態]健康、道着に着替えている
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:とにかく今は落ち着きたい。後のことはそれから考える。

【愛乃めぐみ/キュアラブリー(ランサー)@ハピネスチャージプリキュア!-人形の国のバレリーナ- 】
[状態]健康
[装備]プリチェンミラー、ラブプリブレス
[道具]なし
[所持金]一般女子中学生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:海未のことは守りたいし、誰のことも犠牲にしたくない。
0:……どうすればいいのかな。


364 : ◆SpFFtiBeDg :2015/02/01(日) 17:52:30 XwDzozlU0
以上です。
何度もトリを間違えてしまいすみません。


365 : 名無しさん :2015/02/01(日) 20:08:32 D.1KoW0U0
投下乙です!

突如非日常に巻き込まれた海未ちゃんの葛藤が伝わってきました。
海未ちゃんもキュアラブリーも追い詰められてますねぇ……。
友達に相談しようにも仲がこじれてるうえに、その友達とも殺し合わなければならないかもしれないときたもんだ。
それでもバトロワなら出会い頭に意図を問いただせば和睦出来るのですけど、聖杯戦争だと参加の有無すら不明瞭ですから下手するとやぶ蛇になるかもしれないのですよね……。
理想と現実の架け橋はどうやればかけられるのでしょうか。
まあとりあえず……深夜に高校に侵入している海未ちゃんとキュアラブリーは、セ○ムが来る前に脱出した方が良いと思います!


366 : 名無しさん :2015/02/01(日) 22:40:50 OqMaFVR60
月(の聖杯)に変わって、お仕置きよ!>セ○ム
言葉通りなら月のルーラーかな?

投下乙です
ラブライブ勢なら良鯖で安定だと思ったら早速不穏になってる
この先が不安になるけどそれが物語にしてみるとおもしろくなりそう(ゲス顔)


367 : 名無しさん :2015/02/01(日) 23:44:46 3on21Nww0
投下お疲れ様です!

>王の試練
とんがり童子はUTSUWAを大きくすることが出来るのか……
しかし、酔いつぶれるリエンス王を解放するダッジャールとか登場話から続く「無理だと思うがな」とか、
二人の関係性は、その、なんか萌えるね

>理想と現実! 悲劇の聖杯戦争!!
海未ちゃん幾らなんでも深夜に学校は……しかも弓道場で弓道をやるなんて!
相方には敵意も悪意もないけど、それだからこそ穂乃果が被っていら立ちが増す
うーむ、上手くいかないもんだぜ……


368 : ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:15:51 EwlfUBAI0
投下お疲れ様です

>王の試練
こいついつも酔っ払ってんな、そして再現される実在性ミリオンアーサー要素……くっ敗北感
しかし、カオスヒーローも癖もないしなんだかんだでリエンスに従うしで良サーヴァントだが壊れサーヴァントのギーグとなると不安要素も大きいぜ
どうなるんだこの二人は……!

>理想と現実! 悲劇の聖杯戦争!!
海未ちゃんボロボロやんけ……なんてことだ……
八つ当たりに近い苛立ちもあるし、歩み寄ろうとしてくれるサーヴァントが逆効果とは
ジョーカー組という危機が何時何処にでもあると考えると、今の状況は怖いぜ


369 : ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:16:24 EwlfUBAI0
投下します


370 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:17:35 EwlfUBAI0


「討伐令」
「ふん、無軌道な間抜けが出たということか……」
「君は、これを見て、『どこまで』ならやっていいと思うかな?」
「区切りがある、この伝達はその区切りを意図的に隠している」
「これは、ただの通達ではないね」
「我々へのメッセージという意味では同じだろうがな」
「そう。そして、ムーンセルからのメッセージではなく、ルーラーからのメッセージ」
「……ふむ」
「文面からすると、細かな『区切り』は掴めないが、『許容範囲』というものなら掴める」
「ルーラーへの攻撃行動……そこまで大胆に動くつもりはない」
「将来的にその動きはメリットが生む可能性は出てくるだろうけど、今はないだろうね」
「聖杯戦争の運営を損なう……NPCの大量殺害」
「それらしき案件は耳にしていないね」
「つまり、『一匹』や『二匹』の死自体は問題では無いということだ」
「可能性は高いね」
「ならば、食事の問題はないということ」
「試してみるかい?」
「当然だ、そして、情報収集」
「令呪の一画と情報は美味しいからね……ジョーカーか、こっちも身体を動かさない範囲で動いてみるよ」
「何をするつもりだ?」
「テレビとか、ネットとか、週刊誌とかだね。
 NPCがどんな風に動いているかわからないけど、何かしらの動きがあるかもしれないからね。
 確かな情報じゃなくて、僕らの未把握の集団には有名な噂話とかで蔓延してるかもしれない」
「無軌道な『標的』の動きは掴めなくても、『それ以外の人間』の動きから『標的』の動きを察することも出来る。
 ……ならば、その『それ以外の人間』へと働きかけ、人為的に流れを作ってみるとするか」
「じゃ、いってらしゃい」





371 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:18:32 EwlfUBAI0

性質上、カーズは霊体化へと至ることが出来ない。
黒いコートを羽織り(これは神狩屋から与えられたものだ)、夜の街を徘徊する。
徘徊することの危険性は重視している。
恐らく、マスターやサーヴァントがカーズを目撃すれば、カーズがサーヴァントであることはひと目でわかるだろう。
十万年を超える期間を永遠性そのものと言える肉と魂を維持して生存する、そんな元々の存在そのものが異常なのだ。
奇襲というアドバンテージを敵に与えてしまうだろう。
だが、高い不死性と幻想種級の対魔力を持つカーズは、不意打ちを主とする敵に対して非常に強い。
そういう意味では、この徘徊は敵への誘いでもあった。
応戦の際に打ち勝つ自信もある。
敵を減らさなければいけないというのに、敵がどこに居るのかもわからない。

「あ、お兄さん、どうすっか、この後! いい娘揃ってますよ!」
「……」

一方で、間抜けな人間には、その異常な存在性を認識できてないようだ。
あまりにも高過ぎる壁がどれほど高いのかを認識できないように。
この客引きには
カーズは無表情で客引きを見下ろす。
堀の深い顔立ちから発せられる鋭い視線に、客引きはゴクリと喉を鳴らした。
そのまま、カーズは古木の枝のような指を客引きの胸へと当てる。
そして、優しく押した。

「うわっ」

しかし、客引きは盛大に尻もちをつく。
客引きは一瞬だけ、きょとん、と間抜けな表情を作った後、怒りへ顔を染めてカーズを睨みつける。
しかし、カーズは客引きを無視し、綺羅びやかに光る看板を強く蹴りつけた。
看板は破壊され、ガラス片を撒き散らかす。
敵対行動だ。
当然、店の奥から『あからさま』な連中が出てくる。
カーズは逃げるように、誘うように路地裏へと消える。
遠巻きに見ていた人間も、そこから視線を逸らし、歩みを戻した。
酔った頭のおかしい男が、当然の報いと呼ぶには少々大きい報いを受ける。
もっとも、その事実を正しく認識できた人間は、この周囲には一人も居なかったが。

「……ねぇ、お兄さん。なんのつもりなのかね、アレ」
「……」

カーズはついてきた人間の数を確認する。
三人だ。
二人がカーズの前に出て、一人は裏路地から表通りを見張っている。
そのカーズの前へと出てきた長髪の男は舐めあげるようにカーズを睨みつける。
少し下がって、短髪の男が無言で睨みつけている。
その手には警棒のようなものが握られていた。
実質的に、この二人が件の店の用心棒<バウンサー>のようなものなのだろう。
なるほど、確かに『人間にしては』優れた肉体を持っている。
長髪の男がカーズの肩へと手を掛ける。
そこで終わらせることも出来たが、カーズはそれを一度だけ受け入れ、そして、優しく振り払った。
カーズにとってはこれ以上なく穏やかな挙動だったが、人間にとってはそうではない。
手が繋がっていること自体が奇跡だということを、目の前の人間は理解していないのだ。

「ッ!」

こめかみを引くつかせ、長髪の男は素早く拳を振り上げ、カーズの頬へと打ち付ける。
へへ、と笑ってみせた後、遅れて、大きな違和感を覚えた。
その瞬間に覚えなければいけない違和感。
しかし、『殴れば倒れる』という常識が先にあったから、その違和感を見逃してしまった。


372 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:20:07 EwlfUBAI0

「お、おい……!?」
「あん?」

違和感の発生源は右手。
いや、それは正しくない。

「お、俺の右手がねぇぇぇぇええっ!?」

『なぜなら、右手はすでにカーズに食い取られているから』だ。
カーズの全身は消化器官、触れれば、その生き物は喰われる。
すなわち、カーズに攻撃するということはカーズの巨大な口に飛び込むことと同義なのだ。

「おおおおおおおお!!!」

意味のない雄叫びを上げながら、人間たちはそのまま戦闘へと移った。
襲いかかる人間、襲いかかっているのかと不審に思うカーズ。
カーズにとって人間とはそんな相手だった。

数分後。
人間が無様に地面に転がっていた。

カーズは何もしていない。
ならず者達の『常識』からすると、避けることの出来ないはずの攻撃を避け続けただけだ。
狭い路地裏でならず者達は自分たちの動きによって、自らを傷めつけたのだ。
カーズは、コートの中から一つの魔具を取り出す。

血の運命紡ぐ石仮面<<ヴァンパイア・イヴ>>。

カーズの二つ所有している宝具の内の一つだ。
比較的傷の少ない短髪の男の顔へと仮面をつける。
そして、床に転がっていた特徴の薄い、見張りの男の顔を蹴り上げる。
見張りの男の頭部がサッカーボールのように転がった。
舞い散る血液が石仮面に付着し、石仮面は内部に仕込まれていた骨針を飛び出させた。
拷問器具と思えるそれは、しかし、脳みそを『刺激』する道具なのだ。

人間の脳が使用していない未知の能力を利用し、人を超人へと変える道具だ。

ならば、今、超人と向かい合っているカーズは危機なのか?
答えは否だ。
カーズはある意味では博愛主義者と捉えることも出来る。
花を踏みつけることはしない。
自らの利にならないのならば、リスのような小動物へと殺傷を行うこともない。
ひとえに、自らが偉大だからだ。
劣ったものへの興味の無さが、そうさせるのだ。
超人ですら、超越者であるカーズよりも劣った『餌』なのだ。
カーズは美術品のような自身の指を、その取るに足らない脳へと突き刺す。

「ファッ、アェ、アッ、エァ……アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ」

クチュクチュとかき混ぜるように脳をいじり回す。
味わうことのないはずの感触に、不気味に声を上げ続ける。
何かの遊び心だろう、カーズはその声を少々聞いた後、リズムよく脳を刺激する。
すると、ならず者は身体を激しく痙攣させながら、
ふと、頬を緩ませた。
超人もまた、超越者にとっては餌、いや、遊具にすら過ぎないのだ。





373 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:21:27 EwlfUBAI0

衛宮切嗣は同居人である褐色肌の少年、ラーマが寝静まった頃を見計らって自宅を出た。
まずは、酒屋にいって酒を飲む。
酔わない程度に、だらだらと飲む。
思考をまとめるための飲酒だった。
聖杯戦争。
気乗りはしない。
いや、気乗りのした出来事など、少年としての最後の日を境にトンと体験していない。
生命は失われる、当然のように。
数値こそが平等なのだとしたら、己のし続けていたことはこの上なく平等なのだろう。
同時に、違反に近づいた主従への討伐令を思い出す。
恐らく、まだどの主従も脱落していないのだろう。
意思を感じさせる、聖杯戦争を動かそうという意思が。
聖杯戦争としてはおかしな出来事だが、一つの企画として考えると分かりやすいほどの時期だ。

「ふぅ…………おっと」

気分ばかりが昔に戻り、煙草を吸おうとして、そもそも煙草を持っていないことを思い出した。
和装にヤニの臭いがつけば、少年に悟られる。
己の心を落ち着けるには役立つが、少年にとってはあまりよろしくないものだ。

「……」

切嗣は夜という夜を間酒屋で過ごし、和装のまま表通りへと出る。
東京は狭いが深い。
服としてしっかりと機能していれば、姿格好にとやかく言う人間は少ない。
歩きながら、思考を続ける。
聖杯戦争とはすなわち、奇跡を叶える手段。
根源への興味も薄く、聖遺物としての感激もない切嗣にとっては、そんな
いや、切嗣にとって言えば、聖杯とは『この世が生まれた際に生じる汚物』が注がれた器だ。
澄んだものがこの世に存在するのならば、不浄なるものも当然この世に存在する。
当然の成り立ちだ、何もおかしくはない。

「なんで……僕はそうじゃない……」

ふと、右肩が激しく疼き、同時に声が漏れた。
無意識の声だったのかもしれない。
切嗣はあの聖杯戦争以来、『おかしく』なっていた。
切嗣だけに感じられる変化だ。
何度となくアインツベルンへと足を運び、イリヤを連れ出すことも出来ない。
すなわち、自身の魔術回路は多くが焼き切れている。
魔術師殺しとしてすら稼働しない存在が、自分だ。
なのに。
『自分は五体満足で生きている』のだ。
ひょっとすると、魔術回路が完調だった頃よりも壮健になっている。
右肩が疼く。
その度に、背中に嫌な汗が流れる。
そして、憎悪が生まれてくる。
アイリを失ったこと、イリヤと会えないこと、正義の味方という呪いめいた存在になどなれないこと。
己の求めていものが、ただ、舐めあげるように見ることしか

それは間違いなく、自分自身の憎悪だった。


374 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:22:13 EwlfUBAI0

「……」

冷えた夜風に吹かれることで思考が冷静になると思っていた。
しかし、おかしくなってしまった自分でも許せないものがある。
ジョーカーとバーサーカーへの討伐令を思い出す。
意味のない感傷だ。
ただ、そんな人間が居ることと、人という数が簡単に減っていることが許せなかった。
切嗣はそう怒りの念を抱き、同時に、右肩が疼いた。
そういった、負の念を抱く度に右肩が疼くのだ。
疼く。
そう、右肩が疼く。
今までとは少々異なる風に、何かを示すように、右肩が疼く。

「……方角は、あっちか」

右肩の疼きが強まる。
サーヴァント。
切嗣は理解し、自身のサーヴァントは召喚した。
石蔵の中に『保管』したサーヴァントが飛び出る。
宙を裂き、切嗣の前へと現れた。
切嗣は迷いなく己のサーヴァント――――槍兵<<ランサー>>という名の槍を手に取る。
白髪の混じった短髪が生理現象を無視して地面に届くほどの長髪へと変わった。
切嗣の右肩の疼きと、ランサーの脈動が一致する。
敵は、どのテナントも入っていないビルの内部だ。
破壊するような乱暴さで、足を踏み入れた。
標的はすぐに見つかった。
何かを誘い出すかのように、分かりやすいほどに死体を弄っていた。

それこそ、セイバーのサーヴァント、カーズである。
カーズはあの後、放浪を続けた。
そして、同じように人を殺した。
と言っても、カーズが消去した人間の数は両手の指で足りる数。
ジョーカーが快楽的な殺人を犯すものならば、という場合のための誘い。
そのために、わざとゆったりと時間をかけて、児戯めいて遊んでいた。
そんなことを当てもなく続けていれば、すでに日の昇る時間も迫ってきている。
手駒を作ることはしなかったが、幾分かの栄養補給も済んだ。
神狩屋のほうも、ジョーカーへの直接的な情報は期待しないが、何がしかの足取りは手に入れたかもしれない。
ならば、とマスターの下へと戻ろうと腰を上げた。
そんな瞬間に、敵と出会った。
カーズの求めていた、首に賞金のついた標的ではないが。

「これは私じゃぁない。私は、食い散らかす人間とは違う」
「『これ』は?」

長髪の男だった。
白髪の混じった髪を、縛ることもせずに無造作に宙へと流している。
無骨で巨大な槍を構えるが、奇妙な気配をしている。
サーヴァントに違いないのに、サーヴァントだと確信できない。
そんな気配だ。

「わかっていたが、バーサーカーではないということだな」
「私も探している、これはその一環だ。撒き餌では効果がない可能性が高そうだがな」

そんなカーズを見据えながら長髪の男、衛宮切嗣は自身のサーヴァントである獲物を握りしめる。
獲物は霊的に脈動していた。


375 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:23:36 EwlfUBAI0

獣の槍<<スピアー・オブ・ビースト>>。

それ自体が宝具である、槍兵のサーヴァント。
マスターの身体能力を大きく向上させる、あらゆる逸話で例えられる『獣』を殺す槍。
魔力回路の殆どを失い、自身の魔術を満足に扱うことも出来ない切嗣をして超人へと変える槍。
その根源は、『太陽を憎むもの』への憎悪。
憎しみに囚われ、もはや、人から槍へと成った混濁した意識では目前の敵へ憎悪を向けることしかしない。
そんな『蒼月』を刻まれた槍と、自身の右肩から命令が伝わる。


憎め。
憎め、憎め。
憎め、憎め、憎め。
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め
憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め憎め

あまりにも露骨過ぎて、簡単に無視できてしまう命令。
しかし、戦いの最中、憎悪という色に染まった感情が切嗣へと流れこんでくる。
その感情を、どんな人間が無視できようか。
いずれ、切嗣を染めてしまうほどの濃厚な感情だ。
己の肩に潜むものに憎悪を唆され、己の槍の憎悪を扱う。
それは確実に切嗣を蝕むものだ。

「ふむ……まあ、良い」
「……」

カーズはそんな言葉を残すと、爆発するような空気の動きがあった。
弾け飛ぶ速さで、切嗣へと迫る。
獣の槍が、半ば自動的に対応した。
切嗣の首筋へと迫る刃を槍の刃が防ぐ。
その刃は、右の腕から直接生えている。

輝彩滑刀の流法<<モード・オブ・シャイニングブレ―ド>>。

チェーンソーのように微細な振動をする、骨を刃と化したその剣で槍を受け止める。
重い。
しかし、本来ならばそんな言葉では済まないはずの戦力差があるはずだ。
切嗣はカーズと何合か斬り合う。
次第に十合、二十合と増えていくが、変わらないことがある。
攻勢はカーズ、防勢は切嗣。
それでも防勢を維持できていることが異常だった。
獣の槍はそれほどに異常なものだった。
また、槍であることも有利に働いていた。
切嗣は、波紋のような、太陽と同じ波長のエネルギーを生みだす呼吸法を身につけていない。
ならば、カーズの全身を使った『食事』から免れることが出来なかっただろう。


376 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:24:26 EwlfUBAI0

「……」

同時にカーズもまた、獣の槍への、言語化しづらい感情を抱いていた。
親しいものは、常に抱いていた感情。
そうだ、太陽へ向けた感情だ。
己が受け入れられないものへと向ける感情である。
同時に、太陽とは異なっていることも理解していた。
憎悪を以って、輝くものへと抱く憎悪を討つ。
そんなものを原動力にするならば長くはない、直感的にカーズは悟る。
道具作成のスキルも持つカーズには、その槍の指向性が理解できた。
槍自身が槍として以外の作用を持っている類のものだ。
そんな、自らの破滅を原動力としているような輩を相手にするのも馬鹿らしい。
自分以外の誰かとともに破滅してもらうのが一番だ。
恐らく、槍にも探査能力もあるのだろう。

「……ふむ」
「ふぅ……っぅ……」

感情を整理するように、カーズは切嗣との距離を取り直す。
切嗣は肺に溜まった空気を吐き出した。
やはり、サーヴァント、すなわち英雄との差は大きい。
その差をここまで詰める獣の槍への畏怖も覚えた。
しかし、相手は恐らくまだ手札を残している。
自らもまた、上がある。
『封印の赤織布』と呼ばれる宝具を解放すれば、獣の槍はパフォーマンスを向上させる。

「……」
「……」

睨み合いが続く。
切嗣がどのタイミングで自らの手札を切るか決めかねている。
カーズは、獣の槍への嫌な予感が安易な攻撃を躊躇わせる。


「オンッ!」


その瞬間だった。
鋭い吠えが響いた。
それだけならば、二人の間に大きな変化は生まれない。
しかし、カーズは獣の槍に抱いた感情を超えるものを抱き。
切嗣は右肩がこれ以上なく疼きを発したことに気を取られ。
音の発生源へと視線を向けた。

「お……!」
「くぅ……!?」

口が開かれた。
そこから、音が飛び出た。


『――――――――!!!!!』


それは雄叫びだけだった。


377 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:25:32 EwlfUBAI0

『カーズ』は、憎悪と羨望。
『切嗣の肩に潜むもの』は、憎悪と恐怖。
その感情が込められた雄叫びだった。
その真っ白な犬を見た瞬間、カーズと切嗣の叫びが口から飛び出たのだ。
己が己であるかぎり、隠し切れない本能の叫び。

「――ッッ!」

『カーズ』『衛宮切嗣』『切嗣の肩に潜むもの』
その『三者』のなかで最も影響が少なかったのは、切嗣だった。
左片手に持ち替えた獣の槍を横薙ぎに振るう。
白犬へと激しい感情を取られたことで、右半身の動きが鈍いからだ。

右半身に違和感を覚える中、片手での薙ぎ払いという十分な攻撃ではなかったこと。
カーズ自身は弱点だと思っていた霊体でないという事実が獣の槍の霊体特攻を防いでいたこと。
遅れて輝彩滑刀の流法を用いた上での防御を取ったことによって、カーズを斬り裂くことは出来なかった。

斬り裂くことは出来なかったが、殴打としては十分な意味を持った。
カーズの腹部へと叩き込まれた一撃を、カーズを地面へと浮遊させる。
そのまま、ビルの外部へと弾き出される。
朝日の差さない裏路地へと、あるいは、隣のビルへと叩き込まれたかもしれない。
白犬も気にかかるが、そのまま、カーズの後を追おうとした瞬間。
白犬の方向から足音が聞こえた。

――――不味い。

恐らく、白犬のマスター。
切嗣もあそこで敵サーヴァントを仕留めたとは思わない。
白犬のサーヴァントへの反応を見る限り、先ほどのサーヴァントは白犬を敵視しているのは間違いない。
カーズがそのまま撤退を選ぶか、攻撃を繰り出してくるかは五分と五分。
切嗣はこの場に留まり、白犬とカーズへの迎撃を選んだ。
己を英霊へと高まらせる獣の槍を強く握りしめ、身構える。

「ね、ねえ、アマちゃん……さっきの叫び声なに……?」

その瞬間、組み立てていた考えが吹き飛んだ。
声には聞き覚えがある。
演技とは思えない、恐怖を怯えた色。
まだ年若い、少女の声。

「見るんじゃない!」

切嗣は叫んだ。
己の右肩が上がらないほどの疼きを堪えながら、叫んだ。
そして、現れた少女の前に立った。





378 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:26:51 EwlfUBAI0

時は少々遡る。

『オンッ! オンッ!』
「……」
『オンッ! オンッ!』
「……」

高坂穂乃果は先ほどから己だけに聞き取れる遠吠えを聞いていた。
布団を深く被っても、その鳴き声は消えはしない。
念話、というやつだ。
アマテラスの叫び

「あー、もう! なに、散歩!?」
『オンッ、オンッ!』

アマテラスは叫び続けている。
その口に、封筒を抱えていた。
不審な表情のまま封筒を手に取り、時計を確認する。

「うわっ、まだ五時……」
『オンッ!』
「……わかったって!
 そんな耳元で鳴かれたら、どっちみち寝られないわけだし」

そう言いながら穂乃果はジャージへと着替える。
思えば、朝練も行わなくなった生活にも慣れてきてしまっている。
元々そうだったとはいえ、何か、虚無感を覚えた。

『オンッ!』
「分かった、分かったから」

薄々、このアマテラスが穂乃果の置かれた状況を理解していることに気づいていた。
先程も、穂乃果は夢を通じて見たこともない世界の光景を見ていた。
恐らく、アマテラスの記憶なのだろう。
そこから知ることは少なかったが、同時に、アマテラスも穂乃果の記憶を夢で見ている可能性もある。
息をつく。

「はいはい、で、どこに……って、うわぁ!?」
「オンッ!」
「ちょ、ストップ、ストップ!」

穂乃果がジャージへと着替えて外に出た瞬間だった。
実体化したアマテラスは頭を低くして穂乃果の股間に潜り込み、勢い良く頭を上げる。
自然と穂乃果は前傾姿勢となり、アマテラスの柔らかな背中に鼻を打ち付ける。
四つん這いになったアマテラスの背中へ、逆向きに四つん這いの形で伸し掛かっている、といえばわかりやすいだろうか。

「本当に、これ、もう、やめてアマちゃん!」

アマテラスは背に穂乃果を乗せたまま、走りだす。
白い巨犬に乗り、夜明けを疾走する少女。
明らかに噂になるであろう、奇特な情報。
異様な速さで駆るアマテラスに振りほどかれないよう、叫ぶことすら出来ない。
穂乃果からすると、後ろ向きに高速で動いている状況だ。
慣れない感覚に、令呪の使用という考えすら浮かばない。

「オンッ!」

十数分ほどだろうか。
ひょっとするともっと短いかもしれないし、もっと長かったかもしれない。
目的地へと辿り着いたのだろう、アマテラスは歩を止めた。
穂乃果は地面へと転がるようにして、アマテラスの背中から降りる。
そして、アマテラスはテナントの入っていない空虚なビルの中へと走り去っていった。
穂乃果は息をついて、大きく伸びをした後にアマテラスの背中を追いかけようとする。


379 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:27:16 EwlfUBAI0


『――――――――!!!!!』


その瞬間、雄叫びが響き渡り、激しい轟音が響いた。
ピタリ、と穂乃果は歩を止める。
穂乃果は逡巡する。
この先には危険がある、それはわかった。
迷い、迷い、やがて中へと踏み込んだ。
危険だからこそ、見知ったアマテラスが恋しくなったのだ。

「ね、ねえ、アマちゃん……さっきの叫び声なに……?」

穂乃果はアマテラスへと問いかける。
アマテラスは、いつもの吠えを発しなかった。
おかしいとは思ったが、そのまま歩みを進める。
アマテラスの気配のするフロアを覗いた。

「見るんじゃない!」

低い声が響いた。
しかし、穂乃果はビクリと身体を震わせるだけで、目を閉じはしなかった。
だから、その奥にあるものが見えた。
首なしのしぼんだ死体と、目がえぐり取られた死体。
それは死体とすら思えないほどに異常な死体だった。
肉体というほどに膨らみと厚さがあるほどの人間の身体から、厚さがなくなっていた。
吸血。
あるいは、カーズの遊び。
もはや、生命でないものを見て、穂乃果は拒否するように叫んだ。

「え……え、え、あ、あああああああああ!?」
「……ッ!」

しかし、巨大な槍を握った異常なまでに長髪の男の身体でも隠せないほどに死体が転がっていた。
特異な死体だ。
ただ、人に刃を突き刺したから死んだ、といった死体ではない。
そのまま、逃げ去るように長髪の男は去っていった。

「なにこれ……なにこれ!?」
「オンッ!」
「アマちゃん、なんなの……ねえ、ねえ……!」

表面上は動揺しながら、穂乃果は次第に落ち着きを取り戻しつつあった。
これは聖杯戦争。
奇跡を求めるために、他者を殺す儀式。
つまり、穂乃果は死と近くにいるのだ。
そして、その生命は目の前の白犬に託されている。
何を考えているかもわからない、この白犬に。

「……アマちゃん、私に、何しろっていうの?」
「オンッ、オンッ!」

アマテラスは分かって欲しかった。
目の前の死体が、友人にならない可能性は決して低くないと。
穂乃果が動かなければ、自分も動けないことを。
誰もアマテラスを信仰しない今のままでは、アマテラスは神霊ではなくただの霊犬だ。
何よりも、マスターである穂乃果が自分を信じてくれなければ。
そして、自分を信じてくれなければ、穂乃果を守れない。
穂乃果の大事な者も守れない。

「わけわかんないよ……!」

穂乃果にその想いは伝わっていない。
ただ、呆然と。
まるで空気の抜けたタイヤのように絞れた死体を見て。
アマテラスの肌を抓るように、強く握った。




380 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:27:53 EwlfUBAI0

「お帰り」

カーズは、そのまま神狩屋の下へと帰った。
撤退。
あのまま、槍使い(切嗣)と白犬(アマテラス)と戦う選択はあり得なかった。
あのまま二人が戦って自滅してくれれば上々だ。

「おや、傷じゃないか」
「……聖杯戦争。なるほど、厄介なものかもしれんな。
 先ほどにしたって、食事を済ませていなければ無事では済まなかっただろう……」

シンクへと向かって口内から血を吐き出す。
カーズの追ったダメージは大きい。
強大な敵だった、破滅への道のりを原動力としているだけの馬力はある。
だが、それ以上に、それ以上に。

「こっちは上手く噛み砕けないね、もうちょっと待ってくれるから。
 幸い、君には休養が必要なようだしね」
「そうさせてもらおう」
「それで、敵はどうだったんだい? ジョーカー……ではなさそうだね」

カーズの表情を観察しながら神狩屋は問いかける。
カーズは複雑な表情をしていた。
彫刻や絵画の一級の美術品に描かれるような、深遠な表情だった。
それは、槍使い(切嗣)に向けられるものではない。
そう、カーズは、この場においても出会ったのだ。

「太陽だ」
「太陽?」

カーズは、宿敵と出会ったのだ。


【千代田区・古物屋・B-3/1日目 朝】
【鹿狩雅孝@断章のグリム】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]私服
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争のキャストとして動く。
1:情報を入手する。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。

【カーズ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]ダメージ(中)
[装備]なし
[道具]血の運命繋ぐ石仮面
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:身体を癒やす。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※アマテラスを『太陽』に親しい存在だと認識しました。
※切嗣(獣の槍)を憎しみを原動力に動く者だと認識しました。


381 : 俺たちは闇から光を見ている ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:28:25 EwlfUBAI0

【秋葉原・B-3/1日目 朝】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]健康、精神的動揺
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ジャージ
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:とにかく今は落ち着きたい。後のことはそれから考える。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握していません。

【アマテラス@大神】
[状態]健康
[装備]三種の神器
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:穂乃果と穂乃果の大事なものを護る。




【衛宮切嗣@Fate/Stay Night】
[状態]ダメージ(極小)、疲労(中)
[装備]獣の槍
[道具]和装
[所持金]ほどほど
[思考・状況]
基本行動方針:確固とした方針を定められていません。
1:ただ、憎しみを唆す想いだけが募る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※カーズをサーヴァントと認識しました。
※アマテラスをサーヴァントと認識しました。

【獣の槍@うしおととら】
[状態]なし
[装備]封印の赤織布
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:憎しみ
1:憎しみ。


382 : ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:28:39 EwlfUBAI0
投下終了です


383 : ◆devil5UFgA :2015/02/02(月) 00:36:31 EwlfUBAI0
本編には削除しましたが、某かのネタとしてお納めください
>>376->>377の間です




俺たちは闇から光を見ている


うた:衛宮切嗣&カーズ


カーズ:羨ましくなんかないぜ 俺は太陽を克服したぜ

    いつか朝日が登っても 俺は輝きの中を歩み続けるぜ

    輝きに潜むDarkness

    だけど、消えない恐怖が焼き付いてるぜ

    遮る闇を探しだして この闇に潜み続けてる

    Baby Come Back……


切嗣:日のない月を見上げ 語る夢

   癒える時がいつか来るのか 消えはしないこの憎しみ

   輝きに潜むDarkness

   諦めた光がしつこく輝き続けるぜ

   右肩が疼くんだ 届かぬ光を憎めと

   Baby Come Back……


カーズ&切嗣:Let's My Sunshine!

       光が遠すぎて 照らされる憎しみ Ah……

       胸によぎるのは いつかの想いか

       哭いている 叫んでいる 憎悪は募る

       激しく抱いている まばゆいものへの憎悪を

       あの闇へと逃げ込め 例え今だけでも

       Baby Come Back……


384 : 名無しさん :2015/02/02(月) 01:48:47 gR07Ffr60
次々と投下乙です
このロワは聖UTSUWA戦争異聞録だったのか……w
遂にミリアサ勢以外も歌いだしてるけど、個人的にはウィザードがなんか好きだ
そして遂に初戦だったけど、獣の槍ならではの長髪化や、アマテラスの双方へのクロスが素敵だった


385 : 名無しさん :2015/02/02(月) 03:56:38 80V2LTk20
投下乙です
闇の匂い色濃い一話だ…カーズの圧倒的な有り様にはやはり美しさがありますね
そして、獣の槍を手に取った切嗣の矛盾というか軋みというか…肩のあいつはやっぱり疼きまくりか
そしてそこへ現れる太陽神!ジョジョでもうしとらでも「太陽」は重要なワードだったし、アマ公との接触が生むものから目を離せないです


386 : 名無しさん :2015/02/02(月) 12:34:49 jHGN3TngO
投下乙です

サーヴァントがいずれも善性だし大丈夫だろうと思ってたラブライブ勢だけど、いきなり二人曇ったー!?
いやまあ戦争に巻き込まれてんだし、メンタルがボロボロになるのは当然か
友達と重なってかえって拗れてるめぐみ
意思を言葉で伝えられないアマテラス
どうなるんだろう

「自分で皆殺しにしなくとも、最後まで生き残れば良かろうなのだ」なカーズは、流石の貫禄

肩と槍の双方から憎悪を唆されてる切嗣も気になる


387 : ◆GOn9rNo1ts :2015/02/02(月) 22:09:46 wKtTWLws0
皆さん投下乙です

それでは私も渋谷凜&ランサー(アドルフ・ヒトラー)
そしてルーラー枠として東金朔夜を予約します


388 : 名無しさん :2015/02/02(月) 23:23:19 MZKD0xNo0
投下お疲れ様です

>俺たちは闇から光を見ている
太陽を憎むものたちと太陽神のアマ公の遭遇の場面いい……!
カーズの立ち振舞いも大物臭があるぜ
ここで繋がりができた三人と一匹がこれからどうなるのか楽しみだ


389 : 名無しさん :2015/02/03(火) 00:11:19 UE1oNESY0
ことり&ヴィンセントの登場話では「私たちには音ノ木坂学院がある」と、音ノ木坂学院が存続されていることが確定されていて、
DAY BEFORE:闇夜が連れてきた運命ではラブライブ!のメインキャラクターが同じ高校に通っているとも取れる描写がありますが、
理想と現実! 悲劇の聖杯戦争!!では海未組の現在地が東京都立王子総合高となっています。
これは海未は同校に通っているということでしょうか?


390 : ◆devil5UFgA :2015/02/03(火) 02:02:19 oim9Z5aQ0
ふうまの御館&加藤保憲、カイン(直哉)&織田信長、悪魔くん&ザインで予約します

◆SpFFtiBeDg氏に私からもご質問を
通う学校は悪魔くんの東京第一小学校と南ことりの音ノ木坂学院以外は明記されておりませんでしたので、
園田海未は音ノ木坂学院ではなく、東京都立王子総合高に通う高校生ということでよろしいのでしょうか?
よろしければ、ご返答のレスを頂ければありがたいです


391 : 名無しさん :2015/02/03(火) 02:41:56 IPZ4w6e60
通っている場合はことりたちの描写と矛盾するし、通っていない場合は、何故深夜に関係のない学校で弓道をやっているのか明記してもらわないとかなり不自然に見えると思う


392 : 名無しさん :2015/02/03(火) 03:42:06 .t/.FZMcO
あと、東京都立王子総合高校に弓道部はないみたいですね
当然弓道場もないと思います


393 : ◆SpFFtiBeDg :2015/02/03(火) 07:09:01 Bcn0fCBc0
あ、その点に関しては完全にこちらのミス&描写不足です。
もしも修正できるのなら、現在地を千代田区の某所にある弓道場という風に修正させて頂いても大丈夫でしょうか?
それに合わせて本文も修正する形で。


394 : 名無しさん :2015/02/03(火) 11:28:42 gsqEZEIE0
公共の弓道場は6時前には開いてないと思いますし、個人所有の弓道場にそんな時間に押しかけるキャラでも無いと思いますが


395 : 名無しさん :2015/02/03(火) 11:55:59 arnEHzas0
仮想の東京なんですから別に24時間営業の弓道場があっても良いと思います


396 : 名無しさん :2015/02/03(火) 12:26:10 SPTs5NqI0
流石に不自然な時間帯に開いてる弓道場を「仮想だから」で片付けると何でもアリすぎないか?
ボーリング場とかカラオケとかなら深夜もやってるかもしれないが、流石に弓道場はやってないだろう
調べても大抵は個人営業の弓道場じゃなくて、区が作ったスポーツセンターとかに入ってるもので、そういうところが深夜営業するわけがないと思う


397 : 名無しさん :2015/02/03(火) 12:28:24 OokViiUs0
なんかイチャモンつけて停滞させたがってる人がいるなあ
仮想の世界と分かってるんだからいちいち遠慮する理由もないでしょ


398 : 名無しさん :2015/02/03(火) 12:44:17 IPZ4w6e60
それから、最初に聞かれている海未の学校についても回答がないんですけど、海未は音ノ木坂に通ってるっていう事でいいんですか?


399 : ◆lnFAzee5hE :2015/02/03(火) 13:27:32 Ba/YCsKg0
桐山和雄、ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)予約します


400 : 名無しさん :2015/02/03(火) 16:14:52 Ge4BoSrI0
仮想の世界なのである程度施設に関する融通は利いていいと思いますが、
この際ですから、>>319のマップに最低限の施設(穂乃果、海未、ことりが通う高校や七原、桐山の通う中学校など)
を追加してみてはどうでしょうか
東京に住んでない私としても地理がほとんどわからないので…
丸投げですいません


401 : 一人×2 ◆lnFAzee5hE :2015/02/03(火) 18:08:52 arnEHzas0
投下します


402 : 一人×2 ◆lnFAzee5hE :2015/02/03(火) 18:09:46 arnEHzas0

「多分明日、七原を殺すことになる」
きっと明日は国語で、森鴎外の舞姫をやることになる――そんな日常を口にするかのように、
桐山和雄は作業中のパソコンから顔を上げることもなく、唐突に言った。
東京以前の七原秋也は少なくとも、クラスメイトを尾行するような趣味は無かった。
特に、不良グループのボスなどという人間を尾行するのならば、尚更であるはずだ。
ならば、考えられるのは、突如スリルを伴うそのような趣味に目覚めたか、NPCの暴走か、誰かに操られているか、あるいは自身がマスターであるかだろう。
この中の何が正解であるとしても、あるいは何一つ正解でないとしても、自分が聖杯戦争に参加する身である以上、七原秋也を生かしておく理由はなかった。

「――――」
部屋で、己の宝具――『悪魔召喚プログラム』の動作確認を行っていたザ・ヒーローは桐山和雄の言葉に顔を上げ、
肯定するでもなく否定するでもなく、再び作業へと戻った。
宝具が動作不良を起こすことはあり得ない、しかし百%の安全が保証されたとしても、ありえるはずのない百一%目を起こしうるのが悪魔という存在だ。
故に、ザ・ヒーローに安らぎの時はない、一人になってからは尚更で――そしてもう、誰と共にあったとしても一人でしかあれない。
楽器のように軽やかに響き渡るキーボードの音、それだけがこの世界に唯一存在を許された音だった。

「悪魔召喚プログラムを貸してくれ」
桐山の言葉に、悪魔召喚プログラムを内蔵したザ・ヒーローのコンピューター、アームターミナルが無造作に放り投げられる。
先ほどと比べて余りにも乱雑な扱いであるが、この程度の扱いで動作不良を起こされては実際の戦闘では全く役には立たない。
いや、そもそも作業自体がただの言い訳で、ただ染み付いた癖が抜けなかっただけなのかもしれない。
何が真実なのか、それはわからない。
ただ、受け取った桐山和雄は悪魔召喚プログラムのソースコードを流し読むと、アームターミナルをザ・ヒーローへと返した。
「悪魔召喚プログラムを作っている」
「――――」
桐山の発言に、ザ・ヒーローはやはり無言だった。
言葉だけでない、宝具を人的に再現するという行動に対して、感情一つ揺れ動いてはいなかった。
しかし、例え何か言葉を発するにしても悪魔召喚プログラムという存在の出処と、桐山和雄が神がかった天才であるということを考えれば、
掛ける言葉など、そうか――あるいは、やはりな――ぐらいしかなかっただろう。


403 : 一人×2 ◆lnFAzee5hE :2015/02/03(火) 18:09:56 arnEHzas0


「現段階での完成度は23%程だ、英霊との再契約、悪魔召喚、コンピューター上での電子的悪魔(デジタル・デビル)の再現、何を行うにも魔術的知識が足りていない」
「――――」
23%、この世界に召喚された日を考えれば恐るべき数字である、神ならぬ神の子の御業というならば、これ以上のものはあるまい。
しかし、そこまでだ。桐山和雄は神ではなく、神の子であった、であるが故に全知ならぬ身は知識という巨大な壁にぶつかった。
魔術は厳重に隠匿された現代の奇跡である、桐山が如何に天才でアウトローであるとしても――こればかりは出会えなければどうしようもない。

「近日中に図書館へ行く」
「――――」
ザ・ヒーローは答えない、ただ無表情なその目で一瞬だけ桐山の方を見て、悪魔召喚プログラムと向き合う作業に戻った。
図書館で魔術的知識が得られるか、その可能性は限りなく低いだろう。
しかし、この世界が偽りの東京であるあり、また己が魔術的知識を持ち得ない以上、
どこかに魔術師との優位を埋めるための手段があってもおかしくはない、そしてその手段が図書館にあるという可能性は無いとは言えないだろう。
この東京においては何事も試してみなければわからないのだ。

「眠る」
桐山和雄が眠るのは体力を癒やすためではない、ただ起きている理由が無くなったからに過ぎない。
ベッドに横たわり、目を閉じる。それだけで、すぐに睡眠へと移行する。
夢は見ない、深く眠ることもしない、何かがあればすぐに目覚める――それは、獣の眠りだった。

「――――」
悪魔召喚プログラムを仕舞い、己の武器であるM10サブマシンガンの調整を行いながら、ザ・ヒーローは扉と窓に気配をやる。
マスターは眠っている、当然何かあれば――いや、気配だけで目覚めるに違いない。そういう男だ。
だが、一応は眠っている以上、敵対者にとって今こそが襲撃の好機である。
英霊は眠らなくて良い、故に相手の襲撃にだけ用心していれば良い。
もう、悪夢に飛び起きることもない。

お休みの間悪魔に肉体をのっとられぬようお気をつけて――これは、誰の言葉だっただろうか。
少なくとも、眠らなくて良い以上、もう肉体が悪魔に乗っ取られることを恐れる必要はない。
もう、己の肉体は悪魔よりも恐ろしいものに満たされている。

「お休みの間悪魔に肉体をのっとられぬようお気をつけて……」
意味もなく、口に出して言ってみた。
それは、余りにも無意味な言葉だった。

ここにいるものは皆、悪魔さえ乗っ取ることが出来ぬほどに、空虚であるというのに。


404 : 一人×2 ◆lnFAzee5hE :2015/02/03(火) 18:10:13 arnEHzas0
【霞ヶ関・B-4/桐山の家/1日目 深夜】

【桐山和雄@バトルロワイアル(漫画)】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]イングラムM10サブマシンガン
[道具]制服
[所持金]中学生にあるまじき大金
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1:放課後辺りに七原秋也を暗殺する
2:図書館へ行く
3:魔術的知識を得て、悪魔召喚プログラムを完成させる

【ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[装備]無銘の剣、イングラムM10サブマシンガン、悪魔召喚プログラム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1:どうでも良い


405 : 一人×2 ◆lnFAzee5hE :2015/02/03(火) 18:10:28 arnEHzas0
短いですが投下終了します


406 : 名無しさん :2015/02/03(火) 18:34:21 n.7IoLKA0
投下乙です。
なんというか……死刑執行日の朝のように、特別な事は今何も起きてないのに、寒々しさと恐ろしいことか起きる予兆だけが満ちている、そんなSSでした。
実に、この二人いや、「一人」と「一人」らしいです。


407 : 名無しさん :2015/02/03(火) 18:38:58 SwP1GoVo0
投下乙です
お互いに淡々としてるけどソレ十分にやばいことだからねー!?
七原の命運はウィザード次第…あれ?キャスターが早期に攻められるってこれは……


408 : ◆SpFFtiBeDg :2015/02/03(火) 18:42:25 Bcn0fCBc0
投下乙です!
おお、なんて恐ろしいコンビ……もしも放置していたら、ジョーカー達よりもやばいことをやらかしそうです。

そして拙作に関してですが、海未の通っている高校は音ノ木坂という形にするつもりでした。説明不足ですみません。
弓道場が問題なら、現在地も音ノ木坂学園に修正して宜しいでしょうか?


409 : 名無しさん :2015/02/03(火) 18:46:46 YeRkfPeU0
投下乙
ザ・ヒーローが初めて発した言葉は余りにも機械的で余りにも空虚だった
桐山の計画の内容は物騒だがまるで帰りに立ち寄る場所を考えるような気軽さだった
こいつらにとってこの状況はその程度の物なんだと思うとゾクッとくる


410 : ◆yy7mpGr1KA :2015/02/03(火) 21:39:58 kofDKOv.0
投下乙です
一人と一人から漂う静かな殺意が怖い

槙島聖護&フェイト・アーウェルンクス予約します


411 : 名無しさん :2015/02/03(火) 23:14:52 tSD6C.8Y0
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!

あ、乙です


412 : ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:21:00 SwP1GoVo0
投下します


413 : 名無しさん :2015/02/03(火) 23:21:03 5yfLlULc0
この坦々ととんでもないことを口にしてるのが恐ろしい>七原殺す、COMP再現


414 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:21:54 SwP1GoVo0

<<犯罪係数 92>>

シンデレラガール、渋谷凜の朝は早い。
輝かしい偶像(アイドル)の頂点に立つ彼女の一日は、いたって地味な朝のランニングから始まる。
服装は動きやすさを重視したジャージ。公道を走るのに煌びやかなドレスは必要ない。
傍らには小鼠の変わりに飼い犬であるハナコ。手には彼女が粗相をした際に処理をするための手提げ袋。
かぼちゃの馬車のお出迎えもなく、向かうお城も、今はなく。ただただ体を動かすために。
その日も、凜は自分の足で静かに、しかし確かな足取りで、トレーニングと犬の散歩を兼ねた『毎日』を開始した。

いつからこの日課を始めたのか、凜は覚えていない。
ダンスのレッスンで体力不足を感じた時からだっただろうか。
デビューシングル曲が決まった時だっただろうか。
ライブへの出演が決まった時だろうか。それとも、はじめて総選挙の順位が発表された時だろうか。

分からない。

ただ、何か特別なことがあって、始めたのだろうなとは思う。
不足を感じたのか、向上を願ったのか。新たな階段を、登りたくなった。
いずれにせよ、この地道な一歩一歩が今の渋谷凜を、アイドルとしての渋谷凜を確立させていることは、疑いようのない事実だ。
最初は『特別』で始まったことが、今や日課と化すほどに『当たり前』となっていて。
例え、ほとんどすべてが偽物の街に放り込まれたとしても。
例え、誰かと殺し合いをしなければならないと知らされたとしても。
例え、得体のしれないおっさんと四六時中一緒にいなければならない日々に暗鬱を抱えても。
この当たり前を続けていることで、彼女は浮足立ちそうな現実に足をつけ、息が詰まりそうな空気にほ、っと一息をついている。
そんな気がした。

思えば、この世界を生き抜くためには無意味なレッスンに行き続けているのも『彼女』に会って『当たり前』を手にしたいから、なのかもしれない。

「おはようございます」

ともかく。

現実から逃避したいがための。
もしくは――現実にしがみ付きたいがための。

彼女の『当たり前』は。

かつて『特別』が始まったこの道で。

今回もまた、終わりを告げた。

「お会いできて光栄です、シンデレラガール」

彼は、黒のスーツを纏っていた。

「いえ、今はこう呼ばせていただきましょう」

彼は、三白眼だった。

「聖杯戦争参加者、渋谷凜さん」

彼は、突然に『特別』を与えに来た。

「貴女に、運営からの通達があります」

彼は、名刺の変わりに拳銃のようなものを凜に向けていた。

「……場所、移しても良い?」

これ以上、この『特別』が自分の『当たり前』を浸食していくのが厭で。
これ以上、彼女をシンデレラに変えてくれた『彼』との出会いを塗り潰されたくなくて。
凜は苦々しい顔を隠そうともせず、そう言った。


415 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:22:39 SwP1GoVo0



◇ ◇ ◇



「いやあ、助かりました。通常は封筒を郵送させていただくのですが、渋谷さんの場合はお家の方に先に開けられてしまう可能性もありましたので」

銃口を向けた無礼への謝罪を聞き続けながら辿り着いた公園で、彼――東金と名乗った男は開口一番そう言った。

「それにしても矢張りといいますか、全アイドルの頂点ともなるとこんな朝早くからトレーニングに励むものなのですなあ。
まだ年若いにも関わらず大人顔負けのプロ精神。感服するばかりですよ」

「それで、なに」

世辞など聞き飽きていると言わんばかりの必要最低限な反応。
もしくは、シンデレラへの階段を登り続けてきた中で自然と身に着けた「警戒すべき相手への対処法」とでもいうべきか。
そんなぶっきらぼうさに怯むこともなく、彼女より干支一周分は大人な男は言葉を続ける。

「わかりました。早速本題に入らせていただきます。
本日、聖杯戦争運営側から聖杯戦争参加者の皆さんへ討伐クエストが発令されました。
バーサーカー・ギーグ及びそのマスターであるジョーカーの討伐です」

「討伐?」

「詳しくはこちらをどうぞ」

眉をひそめる凜を尻目に、東金は手際よく封筒をポケットから取り出した。
どこにでもある普通の封筒だった。「聖杯戦争参加者の皆様へ」なんて文言が冗談のようにさえ感じられる。
早速封を切り、軽く目を通し始めた凜。
あくまでも冷静に、平静を保ちながら読み進めていく。


そんな彼女の見えないところで、東金の顔が悪鬼のように醜く歪んだ。


「やつらは聖杯戦争をする気がない」


凜の身体がほんの数ミリ揺れ、表情が一瞬強張った。
舐め回すように凜を観察していた東金は、あえて何も反応しなかった。


「やつらはクズだ。生きている価値のない、人以下のゴミクズだ。
信じられますか、渋谷さん。やつらは強盗にも、殺人にも、強姦にも、何一つ意味をもっていないんです」

意味もなく、犯罪を犯し続ける。
それがジョーカー。生粋の狂人。
罰を受けるべき罪人。

「そんな無秩序極まりない存在は、消さねばならない。
聖杯戦争に臨む覚悟もなく、自分のしたいことだけをして生き続ける。
決して許される存在ではない。そうは思いませんか、渋谷さん」

「……だからって、よってたかって殺す、ってのはどうなのかな」

「聖杯戦争のために生まれたこの世界における罪とは、何だと思いますか、渋谷さん?」

凜は、答えられなかった。
東金の目から逃れるように、手紙を読み続けるふりをして、ただひたすら目を動かした。
ただ、この時間が早く終わらないかと。等身大の、女の子のように。
東金は、楽しそうにそれを見つめていた。


416 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:23:25 SwP1GoVo0


「可愛いわんちゃんですね。私もよく、小さい頃に子犬と戯れたものです」


東金の腕がハナコの頭へと伸びていく。凜は、はっと顔を上げる。
何故か、意味もなく唾をのんだ。
頭を撫でる。ただそれだけの行為のはずなのに。
なんだか酷く、暴力的な気配を感じているように。


ハナコは尻尾を振らなかった。


代わりに大きく、欠伸をした。


ぱさり。


「おっと」


小型犬に手を伸ばそうとしゃがんだ拍子に、東金の内ポケットから一枚の写真が落ちる。


凜は見た。



東金とハナコから目を離せなかった結果。



見てしまった。



写真に写っていたのは、一見、何か分からない『物体』
奇抜な飾り付けをされた奇妙なオブジェ。
かの高名な芸術家の前衛的な作品ですと美術館で紹介されれば、信じてしまうかもしれない。

但し、それが公共の場では芸術作品足りえない理由がある。


その『物体』のちょうどてっぺんに。





『顔』が乗っていた。


417 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:23:54 SwP1GoVo0






明るい栗色の髪に、凜は見覚えがあった。




オブジェを飾りたてる襤褸切れの暖かい色合いに、凜は見覚えがあった。




オブジェの足元に何故かきちんと両揃えで置かれている、ぴかぴかに磨かれたスニーカーに、凜は見覚えがあった。






それは





それは





「失礼しました。忘れてください」


今、自分がどんな顔をしているのか、凜は分からなかった。
決して鏡で見たくないような、そんなアイドルらしからぬ顔だろうとは、想像がついた。

「……痛ましい事件でした。被害者は誰にでも好かれる、学園のアイドルだったそうです。
このような悲劇を一日でも早く終わらせるために、ジョーカーは倒さなければなりません」

ハナコが、また大きく欠伸をする。
凜は力が抜けたようにしゃがみ込み、震える手でハナコを抱き寄せる。
大丈夫、大丈夫、と。言い聞かせるように呟いた。

「貴女がどのような決断をするか、それは私の預かり知らぬところです。
ですが、少なくともご家族や友人やアイドル仲間の皆さんには、それとなく夜分の外出を止めるように勧めたほうが良いでしょう」

『彼女』は、最近ずっと遅くまでレッスンに励んでいるようだった。
『彼女』の家は、凜の家よりもレッスン場から遠いところにあった気がする。
凜はいつもレッスンの帰りに、『彼女』と凜の家の前で別れていた。

「最も、ジョーカーは他人の家へ当たり前のように侵入し一家惨殺を行っています。
サーヴァントを持たぬ人間にとっては、この世界で安全なところなどないのでしょうがね」

サーヴァント。超常の存在。凜が持つ、武器にして防具。
その力を行使すれば、ジョーカーを前にしても身を守ることができるだろう。

だけど『彼女』は?


418 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:24:17 SwP1GoVo0

「ああ、一つ言い忘れていました」

ひたり、と。
東金が、凜の前に一歩を踏み出す。
最後の一押しを、押すように。

「ジョーカーを殺した場合でも、貴女が殺人犯として捕まることはありません。
流石に、英雄として祭り上げられることはないでしょうが……討伐依頼書に記載の通り、報酬も御座います。
少なくとも、新聞一面に『シンデレラガールの知られざる一面!』なんてことはありえません。そのために我々運営がいます」

我々は、世界は、貴女の味方です、渋谷凜さん。
ジョーカーは悪で、貴女は正義だ。
人殺しの化け物を打倒し、大切なものを守る、正義の味方だ。

そんな毒が、零れ落ちていく温かい思い出に代わって、凜へ流し込まれていく。

「それでは、貴重なお時間をありがとうございました」

「…………」

お互いに、話すことはもう何もなかった。

凜は、胸に抱えたハナコの温かさを感じながら、走る。
悲鳴を上げかけているような顔で。今にも泣き出しそうな顔で。
それでもきっと、彼女は何事もなかったかのように家に着き家族に会い、何事もなかったかのように学校へ向かい友人たちと談笑するのだろう。
それぐらいは出来る演技力を、シンデレラガールは身につけてしまっていた。
だけど、それでも。
渋谷凜は『彼女』の――島村卯月の、太陽のような笑顔に一刻も早く会いたかった。


「頑張って下さい」


その言葉は、渋谷凜に届かなかった。



<<犯罪係数 64>>


419 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:24:44 SwP1GoVo0



◇ ◇ ◇



<<執行対象ではありません、トリガーをロックします>>

「なかなかに手強いですな」

東金朔夜は渋谷凜の姿が完全に見えなくなったことを確認してから、己の手に握られた拳銃に声をかけた。

「何度か挑発も行ったのですが……反応さえありません」

「マスターを守る気がないのか、守れるという絶対の自信があるのか」

「それとも、こちらの意図を読んでいるのか」

<<懸念事項、対象が解析系スキルもしくは宝具を持っていた場合、当騎の宝具を視認された可能性は今後に悪影響を与えかねません>>

「その点においては申し開きのしようも御座いません」

「軽率な判断でした。ただ」


「彼女の、シンデレラガールの今の色を見ておきたかったものですから」 


<<………………>>

「なに、御心配には及びません。マスターである渋谷凜は聖杯戦争へと臨む覚悟を決めたようですし」

「いずれ、サーヴァントの方も尻尾を出さざるを得ません」

<<東金執行官は引き続き任務に励んで下さい>>



「お任せください。全ては、シビュラによる完全統治のために」


420 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:25:17 SwP1GoVo0



◇ ◇ ◇



知っている顔 知らない貌


うた:東金朔夜&シビュラシステム


知っている顔 知らない貌


Who are you ?


貴女は シンデレラ ガール 
誰もが羨む ヒロイン
全国民の 知っている顔 

そしてお前は 従者
誰もが知らない 怪物
名前も分からぬ 知らない貌 

光に 紛・れ・て 闇は静かに ひ・そ・む

俺ら 全てを 支配しなくちゃ 気が済まねえ

DOMINATE!

知っている顔 知らない貌

お前たちは

秩序? 混沌? 

善か? 悪か? 




知りたいのさ




<<Sibyl System>>


421 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:25:39 SwP1GoVo0




<<深刻なエラーが発生しました>><<深刻なエラーが発生しました>><<深刻なエラーが発生しました>>




<<当システムのエラーを確認しました>><<エラーを引き起こしたバグへの対処を最優先で行います>>




<<汚染箇所を確認します>><<汚染範囲を測定します>><<汚染強度、狂>><<対処法を協議します>>




<<しばらくお待ちください>>




<<協議の結果、汚染範囲を廃棄することに決定しました>><<当騎における0.76%を廃棄します>>




<<バグの侵入経路を推測します>><<ケーブルから侵入の可能性、大>><<汚染範囲における電力供給ケーブルを切除します>>




<<調査の結果、該当ケーブルは千代田区の余剰電力を供給していたものと判明しました>><<対象地区の警戒度をD→Bに上昇させます>>




<<また、当騎の精神障壁を突破したことから対象バグの危険性を暫定的にAランクに認定します>>




<<監視官及び執行官の維持、問題ありません>><<禾生壌宗との同調、問題ありません>><聖杯との接続、問題ありません><<ムーンセル及び東京との連絡、問題ありません>>




<<全機能の復旧、並びに正常動作を確認しました>><<当騎の完全性は、保たれています>>




<<引き続きルーラーとしてご利用の程、宜しくお願い致します>>


422 : Who is in the center it is chaos? ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:26:13 SwP1GoVo0



◇ ◇ ◇



姫は騎士へと歩を進め。
狗はエモノを鋭く見つめ。
王はUTSUWAに毒される。


<…………フフフ>


復讐。義憤。愛情。正義。
大義名分の名のもとに。
闇へその身を沈ませる。


そして、この小話の語り部たる<私>は。


<ハハハハハハハハハハハハ!>


■■■■■■■■は、彼ら全てを高みから嘲う。


【A-4/渋谷/1日目 早朝】

【渋谷凜@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態] 精神的に少し不安定。犯罪係数64
[令呪]残り3画
[装備] 手持ちバッグ(散歩グッズ入り) ハナコ
[道具] なし
[所持金] 手持ちは高校生のおこづかい程度。
[思考・状況]
基本行動方針: 私は……
1. 今はただ、島村卯月に会いたい。
2. ジョーカーを……?
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。

【ランサー(アドルフ・ヒトラー)@ペルソナ2罪】
[状態] 健康。
[装備] ロンギヌス
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:愉しむ。
1.愉しい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※<検閲済み>


423 : ◆GOn9rNo1ts :2015/02/03(火) 23:26:52 SwP1GoVo0
以上で投下を終了します


424 : 名無しさん :2015/02/03(火) 23:37:04 5yfLlULc0
毒はただ一滴のみで毒である
ニャル怖い


425 : ◆devil5UFgA :2015/02/03(火) 23:57:02 oim9Z5aQ0
投下乙です

>一人×2
淡々としつつも行っていることがとんでもなく、標的には死が近づいている……なんと空々しく恐ろしい……
七原は不登校生徒になるしかないじゃん……!

>Who is in the center it is chaos?
凛ちゃんの周りには敵ばかりじゃないか……(呆然)
凛に毒を流し込んだ東金が、逆に毒を流し込まれている……
毒に囲まれて、どうなる


426 : ◆devil5UFgA :2015/02/03(火) 23:58:41 oim9Z5aQ0
そして地図のことについてですが、>>400の方や◆SpFFtiBeDg氏のSSについても、紛らわしい要素が多いので、
山手線内部ということについての変更はありませんが、幾つか手直ししようと思っています
大変ご迷惑をおかけしました


427 : 名無しさん :2015/02/04(水) 00:05:20 icL88znIO
投下乙です
凛ちゃんの運命やいかに
そしてシビュラなにされたん…?


428 : ◆devil5UFgA :2015/02/04(水) 03:49:33 c2Ex1zWs0
失礼致します
Mapの件ですが、少し見づらい、場所が分かりづらい
そして、当方の不手際で、A-1とB-1がそもそも山手線内ではないこともあり、
Mapを変更させていただきます、大変ご迷惑をお掛けします

ttp://i.imgur.com/Wqxq04L.jpg

(参考資料として山手線の路線図のようなものを)
ttp://i.imgur.com/jkYz8Er.png


429 : ◆devil5UFgA :2015/02/04(水) 03:50:59 c2Ex1zWs0
現在の現在地はこのようになります

・狡噛慎也&焔
【池袋/アパート・狡噛の部屋/1日目 深夜】

【池袋・A-1/アパート・狡噛の部屋/1日目 深夜】

・宇佐見蓮子&伝説のモグラ乗り
【新宿・A-3/アパート・蓮子の部屋/1日目 深夜】

【新宿・A-2/アパート・蓮子の部屋/1日目 深夜】

・七原秋也&操真晴人
【A-4 渋谷・渋谷マークシティ付近/1日目 深夜】

【A-3 渋谷・渋谷マークシティ付近/1日目 深夜】

・リエンス&カオスヒーロー
【千代田・B-3/アパート・リエンスの部屋/1日目 深夜】

【千代田・B-2/アパート・リエンスの部屋/1日目 深夜】

・園田海未&愛乃めぐみ(キュアラブリー)
【東京・A-1/東京都立王子総合高 道場/1日目 深夜】

【千代田区・B-2/1日目 深夜】

・鹿狩雅孝&カーズ
【千代田区・古物屋・B-3/1日目 朝】

【千代田区・B-2/古物屋『神狩屋』/1日目 朝】

・高坂穂乃果&アマテラス
・衛宮切嗣&獣の槍
【秋葉原・B-3/1日目 朝】

【秋葉原・B-2/1日目 朝】

・桐山和雄&ザ・ヒーロー
【霞ヶ関・B-4/桐山の家/1日目 深夜】

【霞ヶ関・B-3/桐山の家/1日目 深夜】

・渋谷凛&アドルフ・ヒトラー
【A-4/渋谷/1日目 早朝】

【A-3/渋谷/1日目 早朝】


430 : ◆devil5UFgA :2015/02/04(水) 03:54:02 c2Ex1zWs0
まとめwikiでも直ちに変更させていただきます

二次キャラ聖杯戦争パロディの当企画に参加してくださった
◆arYKZxlFnw氏、◆gry038wOvE氏、◆lnFAzee5hE氏、◆SpFFtiBeDg氏、 ◆GOn9rNo1ts氏、◆yy7mpGr1KA氏
並びに多くの方々に混乱を起こし、御迷惑をおかしたことをお詫びいたします
大変申し訳ありませんでした


431 : 名無しさん :2015/02/04(水) 11:30:56 997LFA12O
投下乙です

ジョーカーを殺す事は社会が、「この東京」が認める正義
正義を行う事に何を躊躇う?


432 : ◆TAEv0TJMEI :2015/02/04(水) 12:18:14 YcE5OmiI0
ロウヒーロー&エンジェル(無道刹那)予約します


433 : ◆R1q13vozjY :2015/02/04(水) 18:41:23 KYjHRCY60
宇佐見蓮子を予約します。


434 : 名無しさん :2015/02/05(木) 01:19:32 8eK3Dnu20
投下乙です!
まさか一切ニャル様干渉しないとは。
にもかかわらずいい笑顔してるんだろうなぁというのが想像できてしまいますね……
そして最後のバグって……この聖杯、厄いものしか詰まってない……

>被害者は誰にでも好かれる、学園のアイドルだったそうです。
……そのNPC……もしかして……その……ニュージェネレーションの……


435 : 名無しさん :2015/02/05(木) 10:03:53 t51EBKKo0
卯月ちゃん、君のことは忘れないよ…


436 : ◆g33OtL8Coc :2015/02/06(金) 00:04:09 2TtD36jc0
マエリベリー・ハーン&ライダー(葛葉ライドウ)を予約します。


437 : ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 01:58:33 5RjezbD20
悪魔くん&ライダー(ザイン)、直哉(カイン)&魔人アーチャー(織田信長)、ふうまの御館&キャスター(加藤保憲)
投下します


438 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:00:52 5RjezbD20



彼は悪魔でありサタンである竜、

あの古い蛇を捕らえ、

これを千年の間縛って、

底知れぬところに投げ込んでそこを閉じ、

その上に封印して、

千年の終るまでは、それが諸国の民を惑わすことのないようにした。


サタンはその後でしばらくの間、解放されなければならない。




――――『ヨハネの黙示録』より








439 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:01:47 5RjezbD20

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、エロイムエッサイム」

メシア教の本部、品川に在処を置く教会の地下深く。
目覚めを待ち続ける伏龍へと、悪魔くんは呪文を唱え続けていた。

「我は求め、訴えたり!」

強い意思を感じさせる声で、呪文を唱える。
ぎょろりとした目が伏龍をじっと見つめ、しかし、伏龍は微動だにしない。
百も超えるほどの失敗。
ふぅ、と息をつき、悪魔くんは座り込む。
傍らには鍛え抜かれた身体と法衣を模した、しかし、軍服を連想させる服装を着た男が佇んでいた。
彼の者の名はザイン。
此度の聖杯戦争においてライダーのサーヴァントとして召喚した英霊だ。

「アプローチを変える必要がありそうだなぁ」
「『真の赤き竜』に載せられた、エロイムエッサイムでも目覚めないとなると、そうだろうな」
「隠秘術会の大スター、ソロモン王の残した呪文でも無理となると、そうなんだろうね」

そう言いながら、悪魔くんとザインは伏龍を眺めた。
これこそがザインの宝具『封印されし半身<セト>』である。
この宝具は、サーヴァントとしての力の大前提であるにも関わらず、その真名を唱えても、眠りから覚めることはない。
悪魔くんは首をひねる。
膨大な知識と異能の知恵を持ってしても、セトの解放手段が一向に思い浮かばないのだ。

「カエル男やふくろう女、ヤモリビトのような使徒が居ればセトが眠り続ける秘密もわかるかもしれないのだが……」
「それは駄目だ、悪魔くん。
 彼らは、魔術的な超秘境である奥軽井沢で、然るべき手段を持ってして、ようやく生み出せた使徒だ。
 この魔都でそれだけの隠秘術を行おうと思えば、他のマスターやサーヴァントに悟られる。
 使徒を作ることで生まれる可能性よりも、襲われる危険性のほうが高い」

ザインの発言に悪魔くんは頷いた。
使徒としてカエル男たちを呼び出せるのなら、すでに行っているからだ。
東京に眠る古代の魔術師を呼び出すというメリット。
その儀式を嗅ぎつけたサーヴァントの襲撃というデメリット。
この二つを考えた時は、圧倒的にデメリットが大きい。

「ヤモリビト達は大昔の魔術師だ、言ってしまえば、ライダーの他にも英霊を召喚するようなものだからなぁ。
 魔力の負担は別として、聖杯戦争のシステム以外に行おうとすれば、少なくともキャスターに感付かれる」
「あらゆる準備が必要だ」
「僕たちは弱いからなぁ」
「簡易性の悪魔召喚プログラムを作れれば復活も近づくかもしれないが、あれを僕の知識だけで作るとなると……
 実物があれば、デッドコピーとしての複製も出来るだろうが」

悪魔召喚プログラムとは、並行次元において差異が生じるが、無数の術式をプログラミング言語に翻訳・圧縮してようやく稼働するものだ。
また日本神話、ギリシア神話、スラヴ神話、果てはクトゥルフ神話からなる数多の神言語をも解読するプログラムも必要となる。
大本の悪魔召喚プログラムを所有していれば複製も可能だっただろう。
しかし、ザインの記憶と悪魔くんの隠秘術だけでは、それこそ気の遠くなるほどの時間が必要だ。

「ノロノロとしているわけにはいかない、ジョーカーなる無軌道な参加者が動き始めたそうじゃないか」
「特異な人間だ。
 社会的なルールや、自分だけの理論的なルールに基づいて動いているわけでもなさそうだ。
 裁きを行い、東京の穢れを正すべきだが……今の僕には力が足りない」
「参加者ではないとわかっている生命を奪っている……むむむ」

悪魔くんは唸った。
許せるものではなかった。
この事件こそが悪魔くんが真に恐れる、理論だった地獄の先に迎える末法のカオス世界であった。
人が堕落し魂として墮落した先にある、理性のない世界だ。


440 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:03:17 5RjezbD20

「『神よ、どこに居られるのですか』とも言いたくなる気分だね」
「神か……」

ザインはどこか、落胆するように呟いた。
神を殺したザイン。
それは、神もまた人々のように罪に塗れていたからだ。

「悪魔くん、神というものは、人々の心の奥底に眠っているんだ」
「神は人間の心の中に居る、というのかい?」
「それだけではニュアンス的に正しくない。
 まるで、神が存在しないかのようだ。
 あるいは、人々が神を一から百まで生み出しているようだ」

神は存在する。
しかし、人を堕落させる悪しき神ならば正さなければいけない。
そして、人間ではない超越者とは人間の世界に必要としないものだ。

「神と呼ばれる存在は往々にして、人間の身体が住む物理世界ではなく、人間の心が住む精神世界に眠っているのだ」
「精神世界、概念的な者が跋扈する世界か」
「その奥に眠るものが、真に人々の求めるものだ。
 人々が求め、訴えかける、名も無き存在。
 魔術師は根源や「 」とも呼び、我々は宇宙の大いなる意思とも呼んだがね」

人の『手』が届かない存在だから、人はそこに住まう者を信仰するんだ。
避けられない災害を神と称した心理と、大きな差はない。
ザインはそう続けた。

「……ザインの信仰を取り戻せば、セトは覚醒するのかい?」
「そういった一元的なものではないだろう。元々、神霊だ。
 ムーンセルと東京の聖杯に再現できなかった可能性も高い」
「それならザインのステータスが異常に低いのはおかしい」

悪魔くんは自身のサーヴァントの、不当に低すぎるステータスを持ちだした。
悪魔狩りの精鋭・テンプルナイトで歴代最強を誇ったザイン。
それが今では少々強い程度の人間ほどにしか力を発揮できない。
ならば、英霊ザインを再現するためリソースを、別のところに食われていると考えるのが自然であった。

「セトを再現するのに聖杯自身の魔力が足りない可能性は?」
「……両手の指で足りない数の英霊を再現したんだ、あり得ないわけではない」

冬木の聖杯では六騎の英霊を宿して、万能の願望器として稼働する。
そして、七騎の英霊を宿して根源へと続く『道』となる。
すなわち、聖杯自身の魔力が手に入れれば、より奇跡に近づくということだ。
サーヴァントはそのための燃料とも言える。

「聖杯に注ぐ『贄』が必要かぁ……牧師様の言うことは間違いではなかったことかな」

悪魔くんの言う牧師様とはメシア教の一員であり、悪魔くんが見るところの『マスター』であった。

「牧師……知っているよ、彼のことは」
「へぇ、ザインと同じ出自の人なんだ」
「『LAW HERO』……メシアになるべき存在として『造られた英雄』さ」

ザインは顔を伏せた、事象から目を逸らすような動きであった。
恐らく、『牧師=ロウヒーロー』も悪魔くんをマスターと気づいているだろうに、何も仕掛けてこない。
ザインが牧師の背景について詳しいのならば、何かしらの攻略の鍵となるかもしれない。
悪魔くんはザインの挙動に気づきながら、しかし、会話を続けた。


441 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:04:25 5RjezbD20

「でも、サーヴァントじゃないってんだね、嫌になる」
「そういうことになるな、厄介だよ。
 彼に並ぶ存在がもう一人居ることになるし、魔力供給という意味でも非常に優秀だ」
「ずるいなぁ、そう言えば名前はなんていうんだい?」

悪魔くんはロウヒーローの名を知らない。
不思議なまでに、その『名前』に連なるものが悪魔くんのもとには届かなかった。

「……『1』と名付けられたのは『アレフ』だ。
 天使たちの概念に、古代のヘブライに『0』はなかった。
 だから、ないんだよ」

ザインは小さく呟いた。


「彼に、名前はないんだ」



【B-4/品川・教会地下・セト像前/1日目 深夜】


【松下一郎@悪魔くん 千年王国(全)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:ザインの宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:ジョーカーの討伐報酬は魅力的に感じています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。

【ライダー(ザイン)@真・女神転生Ⅱ】
[状態] 健康
[装備] テンプルナイトとしての装備
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:自身の宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:今の自分ではジョーカー討伐は難しいと考えています。
3:ロウヒーローに対して、複雑な感情を抱いています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。


442 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:05:11 5RjezbD20






ここは巣鴨、寂れた教会の地下深く。
神も見捨てたような教会の奥で、人々は静かに熱狂していた。

――――Eloim, Essaim, frugativi et appelavi.

「第六天より来たりし魔王が現し世に顕現する。
 この世を救わぬ神を裁き、主上は我々を導くのです」

――――Eloim, Essaim, frugativi et appelavi.

悪魔くんが唱え続ける呪文と同意の言葉の面塗りを、激しいポップス調にして歌と化した音楽が流れる。
激しい振動を起こす音と、そこに載る電子の言霊は不思議と心を高揚させる。
集まった若者は顔に凶暴な笑みを貼り付けて、教祖の言葉を聴きながら激しく動き続ける。

「ここがガイア教か……」

ここはガイア教の本部。
悪魔へと落とされた祖神を崇める者達が集う邪教の館だ。
夜間、誰も立ち寄らぬ教会の十字架を反転させる。
すなわち、神への冒涜。
始めから逆十字である十字架と、十字架を反転させた逆十字は意味合いが異なるのだ。
そして、△と▽を重ねた六芒星の飾りを二つほど祭壇に置き、その中心に巨大な『男性器』を祀っている。

『本来ならば、山羊頭の邪神像が置かれるものだがな』

男女の境なく人々は服を脱ぎ、浴びるように酒を飲み、身体を擦り合わせるようにして踊っていた。
いわば、サバトだ。
血はまだ用意していないようだったが。

「俺はこちらのほうが好みだがな」

その邪教の儀式に足を運んだ『ふうまの御館』とキャスターのサーヴァント『加藤保憲』。
狭い会場に多くの人々が集い、息苦しさを感じる空間だった。
しかし、それがまた人々の興奮を高める。
本物の悪魔信仰者ではない、『いけないことをしている』つもりだけの若者の心をトランスさせるのだ。
往々にして、『集団』を構成する者の大多数は害のない存在だ。
公害をばらまく企業や、違法に公共事業を独占する企業だって末端は家族を愛する一般市民であるように。

『天魔波旬か、分かりやすい奴らだ。となると、敵は『あの』英霊だろうな』
「本物の神霊である可能性は?」
『低いな、聖杯戦争において神霊は呼べぬ。
 もっとも、あの『魔羅』が何かしらの仮面を被って現れた可能性もなくはないが』

例えば、神霊としての平将門である加藤保憲がそうであるように、だ。
加藤は言葉にはしなかったが、ふうまもそれを理解した。
局所的な状況で神霊としての力を振るう可能性も高い、ということだ。


443 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:05:54 5RjezbD20

『果てさて、疑わしきは罰せよというが、ここを絨毯爆撃で叩きのめすのが最も好手だぞ。
 サーヴァントが居なくても、信仰を集めるという彼奴らの企てを妨害できる』
「冗談はよせ、キャスター。
 もしも、サーヴァントが居たとしたら、貴様が英霊同士の単騎駆けで勝てる英霊か」
『で、どうする』
「様子見だ。
 本命は首に賞金の付いたジョーカーとバーサーカー、それ以外でこちらから仕掛けるメリットは薄い」

ふうまは加藤の言葉に、懐の封筒を握りしめた。
元々、この邪教の儀式を突き止めていたところにルーラーから送られてきたものだ。
この邪教がジョーカーの潜む本丸である可能性は、加藤曰く低いとのこと。
ルーラーの情報で、標的が無軌道な存在であることを察することが出来たために、その意見にふうまは同意した。
このサバトを仕掛けた主従へと同盟の申し出も僅かに考えたが、無策の接近は危険だ。
場合によっては行き当たりばったりに行動することもあるだろうが、今はもう少々、情報が欲しい。

「この信仰をお前の力にすることは?」
『露骨過ぎる、信仰とはそう単純なものではない』
「俺には単純なものにしか見えんがな」

不気味に熱狂する人々を覚めた目で見ながら、ふうまは呟いた。
狂うことすら決定権を他者に預けたようなサバトだった。
この者達は、狂っている振りをしているだけだ。
これでは、その『信仰』とやらも大したことはないだろう。
無軌道な学生が集って行う、過激なセックスサークルとなんの違いもない。

「こんなものが神事とは、神も安いものだ」
『神を己から名乗るものは、常に安っぽいものだ。
 さて、敵は第六天より来たりし魔王を名乗る覇王、あるいは覚醒者を裏切った使徒』
「男性器を信仰させることで強くなれるのならば、俺も十分英霊だな」
『ハ、ハ、ハ』

嘲るように加藤が笑う。
サーヴァントとは、英霊とはそういうものではない、と、笑う。
ほとんどの英霊が、ほとんどの英霊に対して勝機を持っている。
そう言った『出来ないはずのこと』を行うのが英雄なのだ、と笑った。

「それは置いておくにしても、敵サーヴァントの正体を探ることが出来るかどうか……」
『ふむ、邪眼による強奪か?』
「そうだ。お前がこの信仰を集める者の正体を突き詰め、俺はそのスキルか宝具を奪う。
 何の意味もなく、こんな集団を集めるような茶地な舞台設定を整える聖杯ならば唾を吐きかけてやるさ」

能力の詳細を知っていれば、邪眼において能力を奪うことが出来る。
ふうまは、サーヴァントの宝具、もしくはスキルを強奪しようと企んだのだ。

『無謀だな』
「俺が今のところ完全に奪えなかった能力は、『別世界との供給を常に受けていた能力』だけだ。
 サーヴァントとしてこの世界で独立された能力ならば、奪える可能性は高い」
『フ、フ、フ……まあ、良いだろう』

加藤は笑った。
ふうまの行動は、限りなく無謀である。
しかし、その戦法は成功さえすれば大きな効果を上げる。
壁は大きいが、試させる価値はある。

「……大きな動きはないな」
『今は準備段階といったところか……細かい奴らだよ』

加藤は吐き捨てるように、言い放った。
ふうまは興味なさげに聴きながら、手近な女性に声をかけた。
数度言葉を交わした後、ペッティングが始まった。
この狂った振りをする人々の群れに溶け込みながら、サバトの様子を観察し続けた。





444 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:07:41 5RjezbD20

『ちょっとちょっと……! なんかこの空気、楽しくなってきたぞ、わし!
 あー、いとおかし!(誤用)』
「気に入ってもらえて何よりだ……成功するかもわからんものだからな」
『楽しくなけりゃ最低だな』
「信仰とは単純なものではないが……この集まりは何かしらの利用価値はあるからな」

神代の時代から魂の不死を与えられたカインは、傍らに寄り添う従者に向かってニヒルに笑う。
カインが行ったものは、簡単な邪教の儀式だった。
血腥いものではない、大きな動きはデメリットも大きい。

「ジョーカー討伐も魅力的だが、やるべきことはやっておかなければな」
『無駄になるかもしれんことをコツコツと……大事だけどやっぱめんどいわこういうの』

ジョーカーという討伐対象のことは、二人もすでに把握していた。
しかし、勢い勇んで討伐に乗りかかるようなことはしなかった。
分かりやすい報酬が目の前に出たことで、多少のデメリットを承知で動き出す者が増えるだろう。
偵察という消極的行動に重視を置くものも多く居るはずだ。

「今はジョーカーの動きに任せるさ……減らしてくれるならば、願ったりだ」
『んで、このアホみたいなの続けるって? いや、ワシは楽しいけどさ』

二人が行ったこと。
それは悪魔崇拝者としてのNPCを利用しての、『信仰集め』であった。
そこらを歩く無軌道な若者などを集めての、『雰囲気づくり』だ。
どの時代でも現状への不満は渦巻いており、特に社会の歯車として留まっている若者は顕著だ。
そのため、『この世が上手く行かないのはこの世を成り立たせている者』の『敵対者』を祀り上げる。
すなわち、『社会の中心である富裕層』に『自分達』が取って代わるというものだ。
彼ら『若者』や『一般市民』は、ただのガス抜きとしてここに訪れている。
もちろん、立派な『宗教』として崇めているものも居るが。

「『直哉』さん」
「……ああ、アズマか。なんだ?」
「なにか、暗いですね。どうしたんですか?」

その中の一人ではあるが、『信仰』というよりはこのアンダーグラウンドの空気に魅せられた男が話しかけてくる。
カインは直哉と呼ばれている。
幾つもの名を持っている故に、すぐに対応できた。
目の前の男は、この集団の中で中核を担うことで、自分の心を満たそうとするタイプの男だ。
名は、確か『アズマ』と言っただろうか。

「そうでもないさ、いつもより機嫌が良いくらいだ」
「……珍しいですね、貴方がそんなことを口にするとは」
「教祖の頑張りのおかげだろうさ……いい具合に、人数が増えてきている」
『ネズミ入り込んでるかもしれんけどね』

信長はカイン(ここでは『直哉』としておこう)だけに聴こえる声で、ケケ、と笑ってみせる。
直哉は顔を伏せて、フフ、と笑った。
ここで敵が現れ、暴れだすのならば、それはそれで良い。


445 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:08:59 5RjezbD20

「……この集いも、大きくなりました。
 これも主上のご威光と教祖様の信念、そして、貴方のバックアップのおかげでしょう」
「何よりだ……俺も神を失望する想いは同じだ。
 教祖の力には幾らでもなろう」

アズマの言葉を聴きながら、直哉は目の前の男を笑ってみせた。
この男は、直哉の正体を知らない。
直哉という仮面を、直哉の全てだと思っている。
そう、アズマもまた、この『サバト』と、この『邪教』を、この『世界』を誤解しているのだ。
いわば、この無軌道で緩いサバトは撒き餌だ。
敵を呼び寄せ、その敵を人々の前で撃退してみせることで信仰を集める。
荒ぶる神ならば誰もが行う、人を犠牲にして人の信仰を集める手法だ。

「貴方に主上の加護があらんことを」

アズマは立ち去っていく。
直哉は壁にもたれかかりながら、その背中を笑った。
聖杯戦争という大局を知らず、偽りの箱庭の中で虚栄心を満たすことを目的としている。
直哉は、まるでかつての自らのようだ、と笑った。

『可愛いもんだ、あんなわかりやすく野心を燃やすとかさ。
 いや、前振り0な謎沸点のハゲとか、ガッツポーズしただけで仕官先の君主が死ぬ奴とかよりはいいけどさ』
「明智光秀と松永弾正か?」
『名前も聞きたくね―! 明智も、あれも、ほんと、あの糞、ほんとさぁ……』
「松永の方は日本で初めての爆死者らしいぞ」
『絶対嘘だわ。
 魔術とか普通にあるんだし、だったら爆殺ぐらいどっかで誰かしてんだろ。
 ヤマトタケルとかキックして怪人爆殺させれるだろ。
 あいつにそういうカッコイイ肩書あるとか、絶対嘘だわ』

格好良いかどうかは別として、信長が過去の敵に対して穏やかではない感情を抱いていることはわかった。
直哉は信長へと言葉を返した。

「裏切られるかどうかが問題ではない、ここでお前の肩書を祀り上げることで、お前の力が増すんだ。
 そのために動く者は、十分に利用できる」
『いや、裏切りとかどんなもんでも糞だぞ。特に一揆はアレだからな、一番糞いのって民衆だってわかるからね』
「俺もそこは知っているさ」

直哉は、そこで初めて笑みを消した。
信長はその変化が面白く、さらに笑みを深める。

「人こそが神の驕りの象徴だ。
 神が自らを模して人を作ったのならば、人は醜くて当然だ。
 千年王国を遠ざけているのは悪魔ではない」

直哉は、そこで笑った。
自虐の笑みだった。

「人間が、自らの意志で千年王国を遠ざけているんだ。
 神を信じるような愚か者だからな」

神に唆された人間は愚かだ。
直哉は自虐するように、そう言った。


446 : 誓いの爪痕 ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:09:25 5RjezbD20
【A-1/巣鴨・隠れガイア教教会地下・マーラ像前/1日目 深夜】


【ふうまの御館@対魔忍アサギ 決戦アリーナ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]忍者刀、苦無
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、『ふうま』を再興し、この暗黒の世界の支配者となる。
1:ジョーカーを討伐し、報酬を手に入れる。
2:このガイア教の裏にいるサーヴァントを調べあげ、宝具・スキルを邪眼で奪い取る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団に潜入できます。
※邪眼・魔門によってストックしてある能力は不明です。

【キャスター(加藤保憲)@帝都物語】
[状態]健康
[装備]関孫六
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:大和を、『東京』を滅ぼす。
1:加藤の中にあるものは『東京』を滅ぼす、その一念だけである。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ガイア教の裏に居るサーヴァントが『第六天魔王』の呼称を持つ、もしくは親しい存在であると考えています。


【直哉(カイン)@女神異聞録デビルサバイバー】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、ベルの王ア・ベルを完成させ、唯一神を殺す。
1:試しに、『第六天魔王』の信仰を作ってみる。
2:ジョーカーの討伐についてはじっくりと様子を見る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団の中核に存在しています。

【『魔人』アーチャー(織田信長)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 健康
[装備]圧切長谷部、火縄銃
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、日本を危機から救う。
1:試しに神様になってみる。
2:ジョーカーの討伐とかも正直面白そうだよね。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※信仰されれば強さが増すということにいまいちピンと来ていません。


447 : ◆devil5UFgA :2015/02/07(土) 02:09:36 5RjezbD20
投下終了です


448 : 名無しさん :2015/02/07(土) 03:16:52 pA9Yg0mY0
投下乙です!
すげー、聖杯戦争SSだけど伝奇小説と呼びたくなるような…!
各組の会話の自然さ、センスに舌を巻く
悪魔くんがちゃんと水木絵で再生されるのもすごいな


449 : 名無しさん :2015/02/07(土) 08:36:07 mRU0CH8w0

サバトの前で笑う魔人アーチャーちゃんとかもうたまらん


450 : 名無しさん :2015/02/07(土) 17:08:56 wB80ivog0
投下乙!
まさに伝奇の字がふさわしい、闇と煙の香りがする一話
悪魔くんザイン組、おやかた加藤組、直哉のぶのぶ組、それぞれの会話劇が素晴らしい
三者それぞれに思惑が蠢いてて先が気になるなあ


451 : <削除> :<削除>
<削除>


452 : ◆devil5UFgA :2015/02/08(日) 00:32:08 d3jFQ4YE0
とりあえず、峯岸一哉&ライダー(バビル2世)、谷川柚子&アサシン(明智光秀)を予約させていただきます


453 : ◆TAEv0TJMEI :2015/02/08(日) 07:52:00 onZ60Znw0
申し訳ありません
執筆時間を確保できなくなったため、予約を破棄させていただきます


454 : ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:11:05 lQ0at/i60
投下を開始します。


455 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:11:38 lQ0at/i60
 『第二面接 太平洋電機 ○○時〜』
 『家庭教師バイト 数学 □□ちゃん △△中2年 ××時〜』
 『第一面接 ★★プロダクション事務職 ××時〜』
 『講義 情報処理技術概論 ●●時〜』
  etc,etc....

「しかし、まあ、よくもこれだけの予定を詰め込んだものね・・・」

宇佐見蓮子は、パソコンのモニターを見つめて、呆れかえっていた。
液晶に写るのは、大学の講義に、アルバイトに、就職活動にと、朝から夜までびっしりと詰め込まれたスケジュール表。
過去の自分が今日からの自分に課した、過密で、過酷で、非人道的で、いっそ殺人的とも形容できるスケジュールである。

「この時代の学生って、みんなこんなに忙しいのかしら」

一応自分のことであるというのに、まるで他人事のように話す蓮子。
事実、数日前にライダーと合流し、元の時代の記憶を取り戻してからは
これらの予定はほとんどすっぽかして、コンピュータゲームの主人公のようにあちこちを探し回っていたのだ。
傍目から見れば、まるで人が変わったように見えたことだろう。

で、蓮子がどうしてパソコンを起動したかというと、まぁいってみれば、情報収集のためである。
あるのだが――

「うわ、この時代の渋谷ってこうなってたんだ。明日いってみようかな」

こんな調子で、ぜんぜん捗っていない。
蓮子の実家は東京であるが、蓮子の生まれた時代、日本の首都は東京から京都に移り、
東京のコンクリートジャングルは自然に還りつつあったのだ。
「過去」首都であった頃の東京の繁栄は、蓮子にとっては記録でしか見たことのない――
忘れられた幻想なのだ。

ここ数日、あちこち歩き回ったのは、親友であるメリーの捜索と、野球人形と宝具である戦車の部品収集のためがもちろんであるが
一番大きな理由は、観光のためといって過言ではない。




456 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:11:58 lQ0at/i60
♪浪漫は、永遠に
 原曲:幻想の永遠祭(『蓮台野夜行』収録曲)
 うた:宇佐見蓮子


♪♪♪


(前奏 10秒)

 ああ本でしか 見たことない
 東京の 在りし日よ
 聳える摩天楼 煌めく夜景
 ああ こんなにも 新鮮

 未来生まれと 私が
 思い出した その日に
 目に映るモノ 何から何まで
 目新しく 変わり

(間奏 39秒)

 ああ過去に消えた 幻想の
 東京の 在りし日よ
 PM2.5 すし詰め電車も
 そう 貴重な 経験

 ちょっと前の 私なら
 こんな街 飽き飽き
 同じ世界も 立場が変われば
 全然違って 見える

(間奏 28秒)

(転調)
 そう浪漫は どこにでも
 消える事なく 在るの
 聖杯じゃないの サーヴァントでもない
 この私の 中に

 浪漫 それは きっとね
 『探す』モノじゃ ないのだわ
 『見出す』モノよ だって人によって
 見えるモノは 違うから

 そう 浪漫が 欲しいなら
 追い求め 続けるの
 その心を 失わなければ
 浪漫は ずっと 永遠に

(転調)
 だから 私に 息づく
 浪漫 追い求めるわ
 聖杯の真実 解き明かすわ
 それが 私の 浪漫


457 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:12:15 lQ0at/i60


「んー、おいしー。天然モノが食べられるのは、この時代ならではだよねー」

調べ物を続ける内に小腹が空いた蓮子は、冷蔵庫に取っておいたショートケーキを頬張っていた。
近所のコンビニで売っているような安物のケーキだが、彼女にとっては高級品だった。
何しろ彼女の生まれた時代、人の食物はもっぱら化学的に合成されたものとなっており、
耕作、牧畜などによって生産される天然の食品は、極めて希少だった。
現在口に入れているケーキも、蓮子の生まれた時代は、とてもいち学生に手の出せる様なものではなくなっていた。

「もっと美味しい物一杯食べたいわね。せっかく天然の食べ物が食べられる時代に来た以上は」

などと、情報収集のためという建前も忘れて都内の名店を検索する蓮子。
それにしてもこの未来人、ノリノリである。
蓮子は知っていた。21世紀初頭のこの時代に、日本の人口はピークを迎え、それから減少を始めていた事を。
人口だけを尺度とするのは強弁も甚だしいが、日本という国が物質的な繁栄のピークを迎えていたのは、
まさにこの時代だったのかも知れない――と蓮子は感じた。

「……そういえば、どうしてこの時代の、この街なのかしらね」

浮かんだのは、時を超えて聖杯戦争に呼び出された蓮子ならではの疑問だった。




458 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:12:25 lQ0at/i60
♪なぜなぜマッシーン
 原曲:幻想機械 〜 Phantom Factory(『夢違科学世紀』収録曲)
 うた:宇佐見蓮子

♪♪♪


(前奏 43秒)


 どうしてなの? ねぇどうしてかしら?

 なぜ東京なの?


 どうしてなの? ねぇどうしてかしら?

 なぜこの時代なの?


(間奏 25秒)


 なぜなのかな? なぜ聖杯は?

 なぜ戦わせるの?


 なぜなのかな? 何でもできるのに?

 なぜ血を求める?





459 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:12:41 lQ0at/i60
「もしかして――殺しあうことそのものが目的だったりするの?」

何でも願いを叶えることができるという聖杯が、どうして願いを叶えるために殺し合いを行わせるのか?
願いを叶えるには、生贄として蓮子たち参加者の生命か、霊的なエネルギーを捧げる必要があったりするのだろうか?
願いを持つもの達を呼び出し、お互いに戦わせて勝ち残った一人だけの願いを叶え、残りを生贄とする。
それぞれの願いを賭けた、お互い同意の上での決闘。
それが聖杯戦争の仕組みなのか。

――違う。
生贄の儀式とやらのために、サーヴァントなどという
参加者に比べて余りに強大なエネルギーを持つ存在を用意するのはどう考えても割に合わない。
つい先ほど探索に出て行ったライダーも、見た目こそ平凡な青年だが、
いざ戦いとあらば戦車を呼び出すことのできる――英霊、英雄の霊(タマシイ)なのだ。

そんな存在を、わざわざ人の住む街中で何人も呼び出して殺し合いをさせるのは、危険だ。
そう、この街に住む人々、仮想の人格と頭で割り切るには、真実味を帯びすぎている。
他の主従と戦いとなったとしても、彼らを巻き添えにするような手段は蓮子にはとても取れないだろう。

そもそも、聖杯戦争に呼び出された蓮子だが、聖杯に叶えてもらう願いなど持っていない。
そんな蓮子たちまで呼び出して、殺し合いに参加させるなんて――蓮子は、主催者の悪趣味な意図を感じざるを得なかった。

「とすると、さっき来た『ジョーカー討伐依頼』の手紙は……」

参加者たちによる殺し合いを促すための罠、なのか。
罠だとすれば、『ジョーカー』なる参加者と、そのサーヴァントは実際に存在しないのかも。
この手紙に開示されている情報を元に調べれば、その真偽がはっきりとするかも知れない。
インターネットで調べてみる他に、図書館で調べてみても有用な情報は得られるだろうか。
インターネットの検索機能は便利だが、専門的な知識の量と質はまだまだ本には及ばない。

そして、それらの専門書は蓮子の通う東京大学の図書館や、この時代は永田町にあるはずの国会図書館など……
東京にいくらでも存在する図書館で見つけ出すことができる。
今のところジョーカーと積極的に関わる気のない蓮子にとっては優先度は低いが。


460 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:12:55 lQ0at/i60
この情報の真偽がいずれにせよ、依頼の賞品である令呪と情報を目当てに行動する参加者は増えることだろう。
すると、蓮子達も今まで通りのんびり観光しながら探索、という訳にはいかない。

「何か対策が必要ね……」

対策。……蓮子に戦う力などないから、ライダーの言うとおり、こうして大人しくしていることが最善だろう。
ただそれではメリーは探せないし、アイテムを探してライダーの戦力強化をする事もできない。
野球人形の部品も探せない。ここ数日の探索でようやく5体目が完成したのだ。
野球チームを作るならあと4体必要である。試合させるなら、あと13体。浪漫だ。
浪漫は自分の足で追いかけてこそ、である。

夜間は仕方ないとしても、昼の探索まで中止する訳にはいかない。
より安全に探索を行うための対策が必要だ。
まず思いついたのは、煙幕。
それさえあれば、ライダーは大抵の戦闘から離脱できるという。
――彼は忍者なのだろうか。ともかく、無用な戦闘を避けるためには、煙幕は必要不可欠だ。
オモチャ屋が開く時間になったら、花火コーナーでありったけ買いに行こう。

あとは、乗り物。
この時代の東京は、電車にさえ乗ればどこにでも行けるから、今まで乗り物の必要性は感じなかったけど。
戦車乗りの彼は、陸上を走る機械の乗り物なら何でもプロ級に乗りこなせるらしいから、
自動車でも買っておけば、戦いから逃げる時に便利かも知れない。
まさか敵に襲われる度に戦車を出すわけにもいかないだろうし。

と、ここで蓮子は気づいてしまった。この学生マンションに、駐車スペースなど、ない。
すると、バイクか。マンションの駐輪スペースにも、スクーターは何台か停められていた。
幸い、蓮子は運転免許証を持っていることになっていた。
童顔の蓮子は、昨日、それがなければ晩酌にありつけないところだったのである。

「……結構高価いのねー」

こうしてインターネットで都内の中古原付の売値を調べた蓮子であるが……学生の財布にはあまり優しくないお値段である。
財布の中身と通帳の数字を合計して画面に映る数字と見比べてみるが……。

「買ったら、今月の生活費ゼロだわね」

東京で一人暮らしするのは、何かと金が掛かるのである。
ましてや、数日前まで就職活動を行っていたのなら、尚更である。

はぁ、と、小さな溜息を付きながらパソコンを閉じようとした蓮子の目に、

『メールを受信しました』

の通知が映る。


461 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:13:28 lQ0at/i60
「どうせまたお祈りでしょ……」

たった今受信したメールを開くと、そこには

『秋葉原ビールフェア スタッフの選考に合格しました』

の文章が。
どうやら蓮子は明日秋葉原で開かれるイベントのキャンペーンガールに応募し、選考に合格していたらしい。
新手の詐欺を疑った蓮子。
しかし電子メールの送信ボックスには応募の記録が残っていたし、
イベント自体は毎年行われている、きちんとしたもののようだ。
だが今の蓮子は聖杯戦争を生き抜かなければならない身。
そんなイベントに参加する暇はない。断りのメールを返信しようとした蓮子だったが……。

「……このイベント、やけに給料良いわね」

そこに記されていたのは、スクーターを1台買ってもお釣りが来る程の金額だった。
学生の1日のバイト代としては、破格である。

「……どうしよ」

『参加の可否の連絡は、電話またはメールで、本日18時までに行って下さい』



♪戦の沙汰も銭次第
 原曲:彼岸帰航 〜 Riverside View(『卯酉東海道』収録曲)
 うた:宇佐見蓮子


♪♪♪


(前奏 27秒)

 良く 考えよー お金は「あ痛ぁ!!」





「いったぁ〜。 何よ、コレ……」


一旦ベランダに出て、今後の方針について考えをまとめようとした蓮子の頭を、何かが直撃した。
蓮子の頭にぶつかってきた何かは、一見すると長い柱のようだった。
包みを解くと現れたのは、何本も束ねられた細長い鉄の棒――否、これは銃身だ。
アクション映画などでもよく見る、『ガトリング銃』らしき物体だ。
ライダーの宝具『拾い物は俺のもの』で蓮子の部屋のベランダにいつの間にか出現したそれは、
部屋の中から死角となった位置で立てかけられて、今までずっと放置されていたのだった。
灯台下暗し。


462 : シナリオフック ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:13:44 lQ0at/i60
【宇佐見蓮子@東方project】
[状態]健康、頭にコブ
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ガトリング(ライダーの宝具『愚か者の鉄土竜(バトルディッガー)』の武装)
[所持金]普通(学生として暮らせる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯について知りたい。
1.メリーの捜索を続ける。夜間の捜索は伝説のモグラ乗りに任せる。
2.昼になったら、安全な捜索のために必要な物を買う。煙幕(スモーク花火)が最優先。スクーターも欲しいが、お金がない。
3.明日(2日目)の割の良いバイト(秋葉原ビールフェア)に出るか、考え中。返答は1日目の18時までに必要。
4.ジョーカーについては保留。必要とあらば、図書館で調べる。

[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※蓮子は東京大学に在学しています。
※現在、野球人形を5体完成させました。蓮子のアパートの押入れに保管中。
 それぞれの詳細は、後続の書き手さんにお任せします。


463 : ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:13:59 lQ0at/i60
投下を終了します。


464 : ◆R1q13vozjY :2015/02/08(日) 14:15:27 lQ0at/i60
場所と時間は、蓮子の前話と同じ【新宿・A-3/アパート・蓮子の部屋/1日目 深夜】です。


465 : 名無しさん :2015/02/08(日) 15:31:36 bhSDeaxc0
投下お疲れ様です
先立つものの当ては出来たが、急なイベントは怪しいぞ……!
しかしモグラ乗りの「歩けばアイテムが手に入る」って宝具は面白いなぁ
ムーンセルと聖杯がつくった電脳空間(?)みたいなものだから、なんとなく違和感も少ないし


466 : 名無しさん :2015/02/08(日) 15:47:56 4w/s4.Ic0
投下乙です!
じょじょに考察やフラグやアイテムが進んだり立ったり落ちてきたりしてる蓮子、他の一般人と比べると良い意味で安牌だなあ…w
お昼のお買い物は果たして平穏無事に済ませることができるのか


467 : 名無しさん :2015/02/08(日) 18:14:27 yEuBnIiMO
投下乙です

「仕事は明日」
「参加するかどうか、今日の夕方までに決めなきゃいけない」
「妙に高給」
「毎年やってる(ネット情報)」
これは怪しさ爆発ですねぇ


468 : ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:42:01 ejlmD9ug0
投下乙です。
私も槙島聖護&キャスター(フェイト・アーウェルンクス)投下します


469 : 誰も知らないあなたの仮面 ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:43:33 ejlmD9ug0
ぱらり。ページをめくる音が小さく響く。
ぱらり。ページをめくる感覚が指先に伝わる。
ぱらり。紙とインクのにおいが仄かに漂う。
ぱらり。文字を読み、行間を読み解く。
ぱらり。物語の全てを丹念に味わう。

ぱたん。しおりを挟んで本を閉じる。
最早おなじみになりつつある、サーヴァントがコーヒーを淹れる光景に目を移す。

「食事の後すぐによくそれが読めるね……
 ああ、砂糖がなくなりかけていたから買い足した方がいいかもね」
「ありがとう。ふむ、コレは習慣のようなものだからね。内容は二の次、とまではいかないがそう影響はしない。
 確かに些かグロテスクといえるところはあるが……それも含めて興味深い」

読んでいた本を収め、自分の分を受け取る。
本のタイトルは『グリム童話集』。先日古物商で購入したものだ。

「シビュラの管理下では刺激の強い物語は殆ど淘汰されてしまった。学術的資料として原典に近い物語を知ることはできたけれど、こうして童話に触れるのは貴重な経験なんだ。
 知識としても、物語としても、感覚の調整としても…とても有意義なひとときだ」

かちゃり、とコーヒーをテーブルに置く。
ちらり、とテレビのニュースに目を向け、そこに流れるアイドルの名を視界に収める。

「『シンデレラ』も希釈され、大きく形を変えた物語だ。魔法使いの生み出すカボチャとネズミの馬車が有名だが、この童話集にはどちらも登場しなかった。
 魔法使いの代わりに小鳥がシンデレラにドレスや靴を与えていたよ。そしてその小鳥はシンデレラの二人の姉が王子を騙そうとする不正を暴く。
 さらに姉妹の眼を啄んでシンデレラの周りから二人を完全に追いやり、彼女を幸せにする」

本を手に取り、きちんと本棚の一角に収めつつ語り続ける。

「〈小鳥〉とは〈臆病な大衆〉の象徴。〈目〉は邪視に始まる〈悪意〉、〈罪〉を意味する。体の一部を啄むのは鳥葬による罪の浄化、ひいては〈死〉のメタファーだ。
 つまり原典における『シンデレラストーリー』とは罪を負った人間を大衆が死罪にすることで幸せになること、とも解釈できるわけさ」
「……そう聞くとさほどおかしなものではないね。描写は大分残虐だったけど」

少しだけ目を通した物語を思い返し、その描写も想起して僅かに眉をしかめる。

「専門家が耳にすれば鼻で笑うようなものかもしれないがね。象徴学なんかは専門じゃないんだ。
 ……ちなみにその象徴学でネズミは疫病を媒介する死の象徴で、カボチャは愚鈍の象徴だ。昨今のシンデレラは死に引き回される愚者であるという解釈も成り立つのさ」

照れ隠しか、愉快なジョークでも口にするのか笑みを浮かべている。

「残虐だからと大切な本質を切って捨て、見た目を華美にすることに囚われて滑稽な物語を紡ぐ。実に愚かしいと思わないかい?」

それは物語のことでもあり、人間のことでもある。
そう、目で語る。


470 : 誰も知らないあなたの仮面 ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:43:59 ejlmD9ug0

「ここにきて幾度か食事を楽しんだ。シビュラの管理下での食事は99%以上がハイパーオーツという麦を基にした合成食品なんだ。
 もしかすると今まで生きてきて本当に『食事』をとったのは初めてかもしれない、そう思ったよ。そのくらいここでの食事や君の淹れてくれたコーヒーは……美味しかったよ。
 栄養価やバランスと言う意味では間違いなく合成食品の方が格段に優れているにも関わらずね」
「それは光栄だね」

簡素に答え、二杯目を注いだり配達物に目を通したり。
無関心気に、しかしその実噛みしめて、耳を傾けて。

「童話はより童に向けた物語になった。食事はより効率的になった。しかしその過程でより本質的な何かを失ってしまっている。
 ……人間もまた、その本質を見失っているんじゃないか」

原典の童話に描かれるような人間らしさを。
だからこそ興味がある。
NPCとは人間か?人形か?
自らの意思を、人間らしさを彼らは保持しているのか。

「だとしたらこれはその人間性の発露、といえるかな」
「ん?なにかな」

フェイトが手に取ってみせたのは配達物の中にあった封筒。
聖杯戦争参加者の皆様へ、と書かれたその封筒の中身はジョーカーと言うマスターに対する討伐令。

「こんな序盤から討伐令が出されるほどの違反。よほどの問題行為をやらかしたんだろう」
「……確かに機械的に従うことはしない、自らの意思で振る舞う人間らしい行動と言えるかもしれないね」

届いた書面に目を通し、その意図を吟味する。

「何らかの違反、もしくはルーラーに対する反逆行為をした者がいるわけだ。
 その動機は…ルーラーや聖杯戦争に対する反抗なのか、それとも無関係で身勝手な振る舞いの結果なのか?
 反抗であるならば『聖杯戦争』という現状を受け入れ難いか、もしくはただルーラーが気に入らないだけの単純なものか」
「幼稚な反抗であってほしくはないね。できれば僕の知るような義憤でもって反旗を翻す革命家であってほしいと思うけど…」

かつての友、造者主の唱えた救世を否定し、退けた英雄。
その父親、彼もまた造物主との戦いに勝利した偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)。
彼らのように殺し合いと言う現状を打開しようとした者ならば興味もわくが

「そうではなさそうだね」
「恐らくはそういった意思や思想のあるものじゃない、ただの犯罪行為でしかないだろう。
 白塗りの雑なメイクに加えてジョーカー、道化師という通り名。そして早期での違反行為……
 キラー・クラウン、殺人ピエロと呼ばれた男がいる。33人を強姦し、殺害した連続殺人犯だ。
 ジル、あるいはジャック・ザ・リッパーしかり悪名高い犯罪者にはこうした通称のようなものがつくことがある。
 ジョーカーと言う通称もそれではないかな。具体的な所業は分からないが、まず間違いなく典型的な無秩序型の犯罪者」
「だとすると、ただサーヴァントという力に酔ったというわけではないか」

断片的な情報から手配された男について考察。
容貌に加え、違反行為。バーサーカーという戦術構築においては戦力外のクラスにもかかわらずルーラーに処断されず、マスターに討伐令が下されている。
日常的に犯罪行為を行ってきた人物であろうと二人、共有する。
接触するか無視するか、褒賞に見合う程度の相手か。


471 : 誰も知らないあなたの仮面 ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:44:42 ejlmD9ug0

「動機は……物欲型や支配願望型の線は薄いかな。それなら聖杯戦争に違反するほどの動きにはならないだろう。
 神からの啓示などといって浮浪者や売春婦などに手を出す幻想型?滅ぼすべき集団がいると勝手に決めつける使命思考型?
 これらも物欲型などと同じ理由で考え難い。
 となると、快楽型か承認欲求型……もっとも不規則で理不尽な動機だ。それこそ、ルーラーに対して犯罪行為を行ってもおかしくない」
「分かりきったことだが、こうして要素を並べるととんだ危険人物だね……行くのかい?」
「『人間は人間にとっての狼である』。狩る者であり、同時に狩られる者でもあるんだ。それは個の意思と欲求で決まる。
 ジョーカーはきっと誰よりも己の意思を貫いている『人間』だ。原典の童話に描かれるような残虐で自由な『人間』だ。
 彼は僕らにとって狩る者なのか、狩られる者なのか、それを見分けることができる者なのか。
 その思想、意思、能力……とても、惹かれる人物だ。彼が承認に飢えているならば僕がそれを満たそう。ぜひ会って話してみたい」

この世に孤独でない人間などいない。
だからこそ人は人を知ろうとする。
フェイト・アーウェルンクスがネギ・スプリングフィールドに関心を抱いたように。
槙島聖護が狡噛慎也に興味を抱いたように。
ジョーカーもまた誰かを求めているのではなかろうか。

見せつけたい相手は特定の誰かなのか、不特定なのか。
それは……『槙島聖護』でも構わないのか。

「了解、マスター」
「では行こう。幸い縛られるスケジュールはもうない」

聖杯戦争の参加者に与えられる仮初の身分。
再現されたセーフハウスと同様槙島聖悟にもそれは与えられていた。
池袋近郊の女子校の教師。それが彼の『東京』における役割…のはずだった。

しかしすでにその職は辞している。
安定した収入や人脈を長期にわたって得られる職というのは数年単位で見れば魅力的かもしれないが、この聖杯戦争が数年にわたるということはまずない。
ならば日雇いの労働など即座にリターンが得られるものに従事する方が今は賢明だ。
この広い東京で職を辞する程度でマスターだとばれる危険は薄い。
もしばれるならそれは情報収集に相当長じているか身近にマスターが存在するということ。演じることで浪費する時間や労力を別のことに向けた方が有意義だ。

物品や住居などはもともとの自分の持ち物と変わらないのだから社会的地位のように捨てはしない。
しかし誰かが定めた職に就くなどという、かつて見てきたシビュラの奴隷のような真似はごめんだった。
だから己の意思で辞めた。

そうして得た自由な時間。
今まではNPCで色々試そうと準備を重ね、これから本格的に動こうとしていたがジョーカーのことを知った以上そちらを優先する。
NPCはいくらでもいるが、ジョーカーはもしかすると話す前に誰かに倒されてしまうかもしれないのだから。
準備の一つ、買い込んだ工具から釘打ち機と釘を取り出し、愛用の剃刀と共に持って出ようとする。

「君は僕の知っている教師とは随分違うよ……
 ああ、行くのは構わない。向かうのはここに書かれた場所だよね?でもこの手紙をどこまで信用していいものかも考えた方がいいんじゃないかな?」
「……裁定者のサーヴァントというはそこまで信を置けないのかい?」
「聖杯戦争もルーラーも皆平等にスタートなんて妄言、まさか信じないだろう?」

マスターの能力の差異はさておき、与えられるサーヴァントの実力差。
個性など言えば聞こえはいいが、こと単純な戦争ならばセオリー通り三騎士が有利。
参加者ごとの仮初の身分。
拠点に物資、職と大きなお世話も交じっているが恵まれている。しかし他全ての主従がこうであるとは限らないし、職が変われば生活スタイルも変わる。
それは戦争における時間の浪費と言う不平等を生み出す一因となる。
手紙を読むタイミング。
情報と言うのは刻一刻と価値を変える。
この手紙が届いたのは昨日配達物を確認してから次に確認するまでの間のいつか。
もしかすると昨晩の段階でこれを知った参加者がいるかもしれない。
もし今朝忙しくてこれの確認ができなかったなら、討伐令のことを知ったのは今日の夜にまでもつれ込んだかもしれない。

「確実に知らせるなら念話に映像投影、使い魔などを僕なら使う。それができなくとも直接手紙を渡すなりして参加者の認識の差異をなくすべきだ。
 にもかかわらずこの形式。褒賞の香りは確かに甘いけど、その下に毒があるんじゃないかと勘繰ってしまうね」
「手紙の内容にも何らかの意図や差異があるかもしれない、か」


472 : 誰も知らないあなたの仮面 ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:45:08 ejlmD9ug0
容姿を知ったことがマイナスになる可能性はある。
このピエロメイクは誰にでも真似できるものであり、逆にこれを解かれては誰がジョーカーか分からない。
NPCにメイクをして囮にされてしまうかもしれないし、メイクをせずに大衆に紛れての不意打ちなどを許してしまう可能性もある。
居場所の候補は有効な情報かもしれないが……
既にジョーカーが移動していた場合無駄足になる。
むしろ当てなくさまよう参加者が有利になることもないとは言い切れない。

情報は生ものだ。
時間が経ち腐ったそれの価値は激減する。
にもかかわらず伝達に遅れの生じる可能性のある手紙を用いた。

知らないという罪と不要な情報を知り過ぎる罠。
どちらも不利。
悪法もまた法なら悪平等もまた平等。そんなひねくれた仮説まで浮かんでしまう。
それを踏まえると……

「ジョーカーのことを知られたくない参加者、もしくは優先的に知らせたい参加者、あるいは褒賞をあたえたいお気に入りがいる。
 だが全員に討伐令を知らせないわけにはいかない。逆をいえば討伐令さえ伝えれば最低限問題はない。
 手紙に何か付記されていたり、逆に何か欠けていることがあるかも。確実に読んでほしければ手渡せばいいし、知られたくないなら乱雑に放って置いてもいい。
 つまりこの手紙も通達以上の意図が籠められている可能性があるということか」
「ジョーカーを探す、という方針はいいよ。ここは工房敷設に向かないから、引き続きの外出はキャスターとしても望むところだ。
 ただこの手紙をどこまで信じるか。丁寧に配達されたとみるか、粗雑に手渡されなかったとみるか」

僕らをジョーカーと接触させたいのか、させたくないのか。
あるいは警戒されているのか、贔屓されているのか。
もしくは……ルーラーサイドが何らかの理由で僕らとの接触を避けた、あるいは避けさせられているのか。

「もっと言えばこれが本当にルーラーからの手紙なのか。封と手紙さえ用意すれば偽造することも難しくはなさそうだよ」
「さすがにこれは本物だろうね。次からは警戒の必要もあるし、今後僕らが偽造することもあるかもしれないが」

僅かながら手紙への疑心。
根本になるルーラーへの、聖杯戦争への不信。
警戒心は高まる。
しかしそれでも彼の意思は変わらなかった。

「『この世は舞台である。誰もがそこで一役演じなければならない』。
 台本通りに動くだけでなくアドリブで魅せるのが名優だ。思い通りに動く演者などそれこそ人形で十分。
 ここがデウス・エキス・マキナの掌の上でも僕はハムにもマリオネットにもなるつもりはない。己の意思で動くだけさ。
 この情報を知らせるのがただの役目ではなく誰かの意思ならば、僕はその真意も知りに行きたい」
「……決まりか」

そこに意思があるならば、たとえ神でも問い質してみせる。
それが槙島聖悟の意思。


473 : 誰も知らないあなたの仮面 ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:45:48 ejlmD9ug0


【A-2/新宿区、歌舞伎町のマンション/1日目 朝】

【槙島聖悟@PSYCHO-PASS】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]剃刀、釘打ち機
[道具]釘打ち機のマガジン×2
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しみ、そのなかで様々な『人間』の意思を確かめる
1.ジョーカーに強い興味。会って話してみたい
2.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる
3.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。
※池袋近郊の女子校の教師として勤めるはずでしたが辞めました。
※NPC相手に色々試す準備をしていました。釘打ち機はその一環です。
 他にどんなことをしていたかは後続の書き手さんにお任せします。

【キャスター(フェイト・アーウェルンクス)@魔法先生ネギま!】
[状態]健康
[装備]指輪(魔法の発動体)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦いと、強い意志を持つ人間を求める
1.ジョーカーに関心。ショーゴと共に探す
2.工房敷設に適した霊脈を見つける
3.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる
4.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい

[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。


【道具解説】
釘打ち機@現実
通称ネイルガン。
装填数20発、使用空気圧2MPaくらい。威力はコンクリート壁に穴をあけるくらい。
マガジン交換で釘をセットするタイプなので、カバーあけてマガジンを排出・セットすればすぐにリロードできる。釘のサイズは32〜50mm。
射程距離は20mくらい、ただしまともに狙える有効射程距離は10mもあればいい方。
本来は先端に何かがふれていないと釘を打てないので銃器のようには使えないのだが、先端スイッチを改造することでフルオートでの発射が可能となる。
PSYCHO-PASS一期で槙島および手引きされたヘルメット集団が主に飛び道具として用いた武器。
現実出典とするがイメージはそこ。


474 : ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 18:46:30 ejlmD9ug0
投下完了です。
誤字他、何か指摘などあればお願いします


475 : 名無しさん :2015/02/08(日) 19:04:59 T9y6IthU0
投下乙です。

マキシマムとジョーカー、それぞれに独自の哲学?を持つ二人が出会ったらどんなことになるのやら…
そしてシビュラシステムと槙島聖悟、今回は接触はなかったけど生前の奇妙な関係が絡んでいるのか否か


476 : ◆yy7mpGr1KA :2015/02/08(日) 20:42:48 ejlmD9ug0
聖護になっていないところがいくつかありました。状態表まで誤字ってます、すいません
確認、修正次第私の手で収録は行います


477 : 名無しさん :2015/02/08(日) 21:32:01 FAZemhHc0
投下乙です!

>シナリオフック
まさかの一話三ソング。
そして考察が面白かったです。
秋葉原で高給が出るイベントのバイト(女性限定?)
怪しさ満点だけど面白そうです!
そして、ちゃくちゃくと集まる野球人形。
果たして彼らが試合が出来る日は……多分来ないけど、それはそれでロマンですね!

>誰も知らないあなたの仮面

>ここがデウス・エキス・マキナの掌の上でも僕はハムにもマリオネットにもなるつもりはない。
「ハムレットにもマリオネットにも」の間違いでは無いでしょうか?

槙島らしい考察と会話がなかなか面白かったです。
そうか、女子校の教師という縁もあるマスターだったんですねw

しかし、シンデレラの象徴学解釈ですか。
でも、華美な見掛けに隠された醜悪な真実に見える現代のシンデレラも、〈死〉(タナトス)を力とする〈愚者〉(フール)とするならペルソナ的には勝利フラグかもしれませんよ。
……まあ、死亡フラグであることには違いが無いのですが。
現代のシンデレラが乗る馬車は、どこへ向かうのか。
それはまた、別のお話ですね!


478 : ◆yy7mpGr1KA :2015/02/09(月) 21:26:06 dNkEkc.A0
>>475,477
感想ありがとうございます

指摘についてですが
確かに「ハムレット」でも大根役者と言う意味は含むようですが、「ハム」の方がハムレット(大根役者)としても不完全、お前なんかハムレットじゃなくてハムだというようなよりヘタなイメージを伴うようなので、このまま通したいと思います。
収録してきましたが他にも指摘などありましたらお願いします


479 : 名無しさん :2015/02/10(火) 00:39:24 Q8ZPhSdY0
お二方とも投下お疲れ様です!

>シナリオフック
蓮子ー!そのバイトはヤバイ!高額だが期限は即決条件は明らかにやばいよー!
そして、歩くだけで増えていく武装……!
元があくまで戦車一台分の兵装のモグラ乗りはこうやって強化されていくんだな!

>誰も知らないあなたの仮面
おお……マキシマムがマキシマムだ……候補話に続き、こんな上手く再現されているとは……
槇島もフェイトもハムでも大根でもないだろうが、標的とされたジョーカーも同じくハムでも大根でもない
槇島・フェイト・ジョーカーという三人の名演者候補と、ギーグという壊れた舞台装置がどう動くのかわくわくする!
再現度の高さで続く話への期待がうなぎのぼりだぜ


480 : ◆g33OtL8Coc :2015/02/11(水) 23:32:18 JFo87D6Q0
済みません。少し延長するかもしれません。


481 : ◆TAEv0TJMEI :2015/02/12(木) 00:33:23 fY7n7tzs0
皆様投下お疲れ様です
時間できましたのでロウ・ヒーロー&エンジェル(無道刹那)再予約します


482 : ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:48:07 XrlaYiOI0
投下します


483 : 私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:48:34 XrlaYiOI0





どれほど貴方を追いかけても、貴方の色にはなれないから。

貴方の記憶に残るように、私を殺して。







484 : 私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:49:07 XrlaYiOI0

癒えない傷はないと言うけれど、それでも決して癒えることはないのだろう。
傷という痕が薄くなり、痛みという想い出が忘れてしまうことがあっても。
忘れたものは無くなってしまった物ではない以上、ふと、いつかは思い出してしまう。

谷川柚子も、明智光秀も、そんな痕を抱えたものだった。

朝日に照らされる東京の中を歩きながら、目的もなく、ただ学校へと向かっていた。
着慣れた制服を押し上げる豊満な胸を隠すような前屈みの姿勢。
誰にも視線を向けることはなく、周囲に明るい髪色の頭部を向け続ける。
しかし、周囲もそんな柚子に視線を向けはしなかった。
慌ただしさだけが東京を這いまわり、朝日を眺めることもなく鬱陶しそうに目を細める。
不十分な自由を強制される、東京の再現のため用意された人々。
そう言った意味では、柚子も光秀も用意された舞台装置と大差なかっただろう。
能動的な方針を持たない彼女たちでは、ただ、聖杯に捧げられるための生贄に過ぎないのだから。

「……」
『……』

会話もなく、二人は歩いていた。
柚子は、一度抱いた願いを諦めた。
願って、願って、願ってやまなかったものを諦め、今ある世界を受け入れた。
誰よりも愛した人間を戻すために、世界を受け入れた。
彼だけが、『峯岸一哉』だけがあれば、あんな最低な世界でも良かったからだ。
その願いすらも、『峯岸一哉』自身に否定されたようだった。

「……」
『……結局のところ』

光秀は聖杯にかける積極的な願いはない。
したがって、現在の聖杯戦争における積極的な指針もない。
英霊であり戦国武将である彼女にとって、この聖杯戦争における脱落である死もまた、大きな恐れはない。
サーヴァント<従者>として方針を、マスター<主>に任せる。
光秀の考えは、現状ではそんなものだった。

『峯岸一哉は敵と見るべきなのかしら』
「……彼は」

その名前を光秀が口にした時、やはり俯いたまま、柚子は脚を止めた。
霊体化し、不可視の超人となった光秀へは視線を向けない。
光秀は背後からその背中を眺めた。
小さな背中だった、重荷には耐えられそうもない背中だ。

「……一哉は、一哉じゃない。だから、彼が東京に運ばれたわけじゃない」
『……』
「わかるよ、そんなの……一哉は絶対にあんな風じゃない。
 上手く、上手く、びっくりするぐらい上手く似せた……偽物」

柚子自身、もはや峯岸一哉の心境など理解できない。
だが、この場の『峯岸一哉』が何かしらの意図によって再現された『峯岸一哉でない何か』でないことはわかった。
決定的に違う、よく似せているからこそ、その違いがはっきりと浮かび上がっている。


485 : 私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:50:42 XrlaYiOI0

「もうどうでもいいよ……」
『……そうね、貴女が求めないのなら、私もなにもしないわ。
 死なない程度に、生きていきましょう』
「……願いなんて、私には」

柚子の全てを捨てて、万魔の王となった恋しい人。
その一哉が柚子に残した唯一のもの、それが柚子自身だった。
生かされているから、柚子は生きている。
願いはない、願うはずの存在に棄却されたから。

『言葉に出来ないものは、無理に言葉にする必要はないわ』
「……」
『生きたいように生きるって、難しいものだから』

あの人を愛しいと思ったのも、あの人を殺したいと思ったのも、全部自らが恋しい人の中に居たいから。
一番になれないということは、それほどに辛い。
その時、光秀はある気配を感じ取った。
マスターである柚子の周辺人物であるから、すでに覚えてしまった気配。
峯岸一哉の気配だ。

『……近づいていくるわね』
「彼かぁ……憂鬱、もう帰っちゃおうか……」

柚子はピタリと歩みを止める。
しかし、振り返ることはしなかった。
その先に峯岸一哉が居ることを知っていたから。
その顔を見るだけで、柚子は辛かったからだ。
そして、そのまま流されるように、偽りの峯岸一哉とともに学校へと向かうのだろう。

「おはよう、柚子」

どれだけ足掻いても、一哉の想いを、柚子は棄却することが出来なかった。
きっと、『柚子が扱う聖杯』では一哉を止めることは出来ない。
願えば、一哉を手に入るかもしれない。
しかし、それはきっと、この東京で出会う、目の前の偽物と同じ。
柚子が欲しくて、手を伸ばした者とは異なる存在だ。

「……おはよう」

柚子はあらゆる色が混じった感情を隠しながら、そう応えた。
生かしてくれた人が居たから、ただ、柚子は生きていた。
光秀はその想いを否定するつもりは欠片もなかったし、同時にその想いを晴らす方法も知らなかった。






486 : 私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:51:49 XrlaYiOI0

『バビル2世様、一哉様……いっそ、先に仕掛けますか?』
『焦るな、ロデム。目の前の少女はまず黒だが、行動に移るのは早い』

人工的な青に染まった学生服を纏ったライダーのサーヴァント、バビル2世は念話を続ける。
相手は自身の宝具『三つの下僕』の一体、不定形生物ロデムだ。
不定形であるロデムはいかなる姿にも変身できる。
そのスキルを活かして、主人であるバビル2世を召喚したマスター、峯岸一哉として動いている。
峯岸一哉はバビル2世を向き合っている。
表立って動くのは、常にロデムだ。
そこから情報を仕入れ、バビル2世と『三つの下僕』の他の二体で戦闘を行う。
峯岸一哉とバビル2世は、ひとまずの基本的な戦法として、そんな方法を取っていた。

「柚子……」
「間違いなく、敵マスターだ。聖杯を手にする資格を持つ」
「なんで、柚子なんだ」
「特別な理由なんてないさ、多くの人間は自らの手に届かないものを願う。
 彼女にそんな願いがないだなんて誰にも言い切れないし、願いがある以上、紅い月に観測される可能性も生まれる」

バビル2世はまくし立てるように言い切った。
一哉は谷川柚子がマスターであることに、
一週間にも満たないような、閉鎖された東京の暮らしによって麻痺していた感情が蘇ってくる。
何かをしなくてはいけない、そのために強い力を手にしなければいけない。
強い力を手に入れる過程に誰かの生命が失われることも、誰かの生命を奪う可能性があることも理解していた。

「…………」

しかし、その奪う可能性がある相手に、自らの友人が含まれることを直面した。
眉を寄せ、眉間に指をつけた。

「……柚子が失われなくても、聖杯を手に入れる方法はあるのか?」
「通常はない。通常はないが……聖杯、すなわち万能の願望器を手にする方法は、僕なら出来る可能性がある。
 この宝具『御主へと至る塔<バ・ベル>』は、あらゆる事象の抜け道だ」

バビル2世はその詳細は語らなかった。
ただ、外宇宙人が残した偉大なる聖遺物であるこの宝具は、ただの城ではない。
元々が外宇宙との交信用のために造られた電波塔なのだ。
ハッキング。
そこに意味がある、とだけバビル2世は言った。
バベルの塔が巨大な奇跡と結ばれることに意味があるのだと。

「……なら」
「だが、彼女を殺すかもしれない。彼女が向かってくれば、殺さざるを得ない。
 なにせ、相手は英霊だからね」
「……」
「いっそ、聖杯を諦めてしまうかい?」

バビル2世は興味がなさそうに言った。
砂漠のように乾いた言葉だった。
義務感だけで生きているようだ、一哉はそう思った。


487 : 私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:52:50 XrlaYiOI0

「聖杯を作り出すことが出来る……あるいは、聖杯に直結することが出来る。
 僕たちは、たった一組になるまで戦う必要がない。
 だが、それは誰とも戦わないということじゃない」
「……」
「戦いたくないというのならば、戦わなければいいさ」

ア・ベルではないベルの因子を持つ少年、バビル2世は突き放すように言った。
それが逃げであることを言外に含んだ言葉だった。

「……いや、戦うさ」
「世界を救うために?」
「そんな理念はわからないけど、あそこはダメだ。
 あそこは嫌なんだ、みんな……死んでいった」

様々な他者の言葉と姿が蘇る。
混乱した人々がそこにいて、悪魔が地上を跋扈する。
人が限界に達していたのが、閉鎖された東京の内部だった。
そこに神は居なかった。
救済を求める人と、悪魔だけが居た。
死んでいった人が居る。
地獄を救わなければいけない、そんな似合わない使命感を覚えてしまう。

「なら、僕が超能力で洗脳しても良い」
「それは……」
「そう。マスターは嫌がるだろうし、僕自身、何の罪もない人を洗脳するのは気が引ける。
 時と場合によりけりで、今はまだ、手段を選んでいられる時期だ。
 ……いっそ、マスターが交渉してもいい」

それは言外に、敵ならばどのような手段を取ることも辞さないと言っているようなものだった。
バビル2世がその良心を口にすれば口にするほど、そこに含まれない物への容赦の無さが浮かび上がってくる。

「………………ジョーカーについて考えよう」

露骨なまでに一哉は話題を変えた。
バビル2世は表情を動かさず、その話題に対して答えを口にする。

「その話題なら簡単だ、『ジョーカー』を殺すべきだ。
 ジョーカーを見つけ次第、隙が見つかるまでロデムを常に監視につける。
 後は、その令呪でジョーカーの場所まで飛ばしてくれればいい」

バビル2世は簡単に言い放った。
報酬である令呪一つを捨て、情報だけを手に入れるために。
アサシンとしてのクラス適正を持つバビル2世ならば、サーヴァントではない通常のマスターの暗殺はたやすい。

「……令呪は足し引きで0か」
「一つさ、他者に渡る令呪を妨害できるんだからね」

バビル2世は、とにかく事もなしに言葉を口にする。
感情というものは乾いたものしか感じ取れない。
砂の嵐に隠されているのはバベルの塔ではなく、バビル2世の感情だった。
その感情を発露させた時こそ、バビル2世は恐ろしい。
すなわち、バビル2世の敵として認識された時なのだから。


488 : 私の鳥籠の中の私 ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:53:06 XrlaYiOI0

【A-3/1日目 朝】

【谷川柚子@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:このままなんとなく過ごす

【アサシン(復讐ノ牙・明智光秀)@戦国コレクション(アニメ)】
[状態]健康
[装備]銃、日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:行動方針は柚子に任せる。特別な行動を起こすつもりはない。

【B-3/港区、東京タワー(バベルの塔)/1日目 朝】

【峯岸一哉@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:ひとまずはジョーカーを殺す。
2:柚子がマスターであることに動揺している。
3:混乱した東京を見たからこそ、自分が何かをしなければいけない
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※谷川柚子がマスターであると考えています。
※宝具『三つの下僕』の一匹であるロデムが一哉に変身して、一哉として生活しています。

【ライダー(バビル2世)@バビル2世】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:ジョーカーを殺す。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※谷川柚子がマスターであると考えています。
※宝具『三つの下僕』の一匹であるロデムとは離れていても念話で会話できます。


489 : ◆devil5UFgA :2015/02/12(木) 21:54:40 XrlaYiOI0
投下終了です


490 : 名無しさん :2015/02/12(木) 22:06:37 5FEo4JaI0
投下乙です!
柚子は未だ方針見つからず、生きる気力もありゃしない
しかし屍みたいな生活を他参加者が許してくれるかどうか…?
その一方でバビル二世はブレずに強いなあ、一哉の葛藤も鑑みつつ殺る時は殺るオーラがぷんぷんするぞ
令呪を使ってまでジョーカーを殺す理由に「他参加者に令呪を渡さないため」っていうのも、あのジョーカーの更に先を見据えた考えでおっそろしい


491 : 名無しさん :2015/02/13(金) 01:23:46 8Y4YqJv.0
投下乙です
柚子はやっぱりというか無気力で方針も定まらずか。本格的な戦いが始まってない今はまだいいけど、これからどうなるんだろうか
対する一哉も、ルート決定前だからかまだ迷いが残ってるのが現状か。だからこそバビルの容赦の無さが際立って目立つなぁw


492 : 名無しさん :2015/02/13(金) 07:39:15 dZ5ZsVqU0
投下乙です
柚子はまあ仕方ないとは言えどうするんだろうなあ
しかし、乾いたバビルの言葉が恐ろしい
砂の嵐に隠された…かー


493 : ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:49:49 vsTHUe6o0
投下します。


494 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:50:15 vsTHUe6o0

東京大学をはじめとして著名な日本の頭脳が集結し、かつては文豪たちも暮らしたという場所。
「文の京」の名は形の身に非ずと言わんばかりのこの場所に、一つのマンションがある。
この聖杯戦争に呼び出された一組の主従がここを拠点としている事を、まだNPC達は知らないだろう。

マンションの一室にいるのは一組の男女。
流れるブロンドが眩しい少女は、シャワーを浴びたばかりなのか寝間着に身を包んでおり、
その傍にいるのは黒い帽子に学生服という装いの少年である。
―――少女の名は「マエリベリー・ハーン」。少年の名は「ライダー:十四代目葛葉ライドウ」。
彼らこそ、このマンションに住まう一組の主従なのである。

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



「”ルーラーからの討伐依頼”、ねぇ……」
ベッドに腰掛けたメリーは茶封筒に入った通達を、今時随分古風だと思いながら読んでいた。
バーサーカーとそのマスター、ジョーカーの討伐。報酬に令呪一画と希望する情報提供。
どうやら討伐対象となった彼らは、相当の妨害行為を働いているらしい。

「そんなだったら、最初から呼ばなければいいのに」
通達をテーブルに置きながら、メリーは思わずつぶやいた。
そう思うのも無理からぬことだ。この通達を出すなど、
普通ならば「自分は反乱者を入れてしまうほど管理の出来ていないバカです」と言うようなものだ。

『確かにな。支障をきたすような要素は最初から除外する。
 聖杯戦争という大それた事をするのならば、そのような当たり前の行動を怠っているのは不自然だな』
そんなメリーの呟きに反応したのは、ライドウではない。ライドウと共にいる黒猫、ゴウトだ。
彼らはメリーに通達を渡す際に、既に内容を把握していたようだ。
ちなみに当のライドウは、台所でなにやらしているらしい。

『だが、一概にそう決めつけるのもいかんな。
 奴らが何を目的としているか、その動機を考えるというのも脱出への近道かもしれん』
「”彼を知り己を知れば百戦殆うからず”って言いたいの?」
『我らのしようとしている事次第では、この通達に載るやもしれんからな』
「その冗談は笑えないわよ」
可能性は否定できないけれどと、メリーは小さく付け足した。

と、台所からライドウがやって来た。
手には盆を持って、その盆の上にはカップが一つ。
暖かそうな湯気を出しているのは、どうやらホットミルクらしい。

「どうぞ」
「ありがとうライダー。気が利くわね」
「夜も遅いのでコーヒーではないが」
「そうね。明日も大学に行かなくちゃいけないもの」
渡されたカップを冷ましながら、メリーはミルクを一口飲んだ。
加熱されたことで引き出された甘みが口に広がる。ミルクの熱が体の芯から温めるような感覚を覚える。
これが天然物の味なのねと、彼女は一瞬だけだが至福の時を感じた。

『ちょうどいい。この討伐依頼の通達が何を意味するか、少し考えるとしようか』
「捜査会議か?」
『まぁ、そういったところだ』
ライドウの問いに、ゴウトは話を続けた。


495 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:50:35 vsTHUe6o0

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

『ジョーカーのような不安因子を入れてまで聖杯戦争を行うとしたら、どのような可能性が考えられるか。
 我ならば、主に三つを挙げる』
「順番に聞こうかしら」
『一つ目は、本当に偶然召喚してしまったまま開始した場合。有体に言えば、愚かとしか言えん事故だな』
「流石にそれはないと思いたいわね」
まだ湯気が立つカップを持ちながら、メリーは苦笑した。
『あくまで可能性だがな』
黒猫は続ける。

『二つ目は、必要な材料として召喚した場合。』
「材料?」
『聖杯戦争の形をとって、何かしらの儀式を行うために我らを呼んだという事だ。そうなれば、彼奴らのような輩も呼ぶ理由が出てくる』
「いわゆる”陰陽思想”を儀式に取り込んだと?」
ライドウが静かに呟く。それは気付くものが見れば、何かを思い出すような感じだった。

『そういう事だ。均衡を保つことにより、儀式を円滑に進める事を狙いとしているやもしれん。
 その場合は、他に理性的な者たちも呼ばれている可能性がある』
「具体的には何をするつもりだと思うの?」
『そこまでは分からん。判断するにも、まだ材料が足りなすぎる』
それもそうねと、メリーはカップを前にある小さなテーブルに置いた。どうやら飲み終わったらしい。

「でもそうなると可能性は二つだけじゃないの?」
『いや、三つ目の可能性がある。正確に言えば先の二つを合わせたものだが』
「二つを合わせた?」


『聖杯戦争に何者かの介入があるという事だ』


496 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:50:46 vsTHUe6o0

「”何者かの介入”って……黒幕みたいなのがいるって事?」
『おそらくは、だがな。しかしそうなれば説明がつく点もある。
 このお尋ね者も、主催者とは別の何者かが思惑のために入れたのであれば納得できる』
「でもその説が正しいとなると、さっきの二つの時より面倒な事になるわ。
 脱出するんだったら、その黒幕さんまで相手しないといけないんですもの」
メリーは一つ溜息をついた。憂鬱になりそうなのも無理はない。
唯でさえ答えがあるか分からぬ脱出と言う選択を実現するために、二回もラスボスを倒さなければならないかもしれない。

「マスター、落ち込まないでほしい」
そんなメリーに声をかける者がいる。ライドウだ。
「例え幾度の苦難があっても、自分はマスターと共にいる」

口少ない彼が、静かにメリーに告げた。
きっと気が沈まぬよう思ってくれたのだろう。
メリーはライドウの眼に、初めて会った時に見たあの輝きを見た気がした。
そんな彼の気遣いが、なんだかうれしかった。

「ありがとうね。ライダー」
「……」
メリーのそんな感謝の言葉に、ライドウは顔を隠すように帽子のつばを触った。
と、先ほどのホットミルクも効いてきたのか、メリーは眠たげに欠伸をした。

「とりあえず、今日はもう寝るわ。大学に行かないと怪しまれそうだし」
『一応聞くが、討伐依頼はどうする?』
「乗る気はないわ。リスクも大きそうだし、殺し合いも真っ平だもの」
お休みねライダーと言うと、メリーはベッドに横になった。
程なく、その呼吸は心地よさそうなリズムを刻むようになっていた。


497 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:50:58 vsTHUe6o0

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

マンションの屋上。「文の京」と言われるこの場所も、21世紀の不夜城の顔を持つらしい。
輝く夜景を見つめるのは、先ほどまでメリーと共にいたライドウとゴウトだ。

すると、その夜景の中を飛ぶものがいる。
鳥に見えなくもないが、その影は大きく、人間の子供ほどもあるようにしか見えない。
そうこうしている間に、影は屋上にいるライドウ達の元に着陸した。

影の正体は、一人の少女だった。
赤色の服に手袋を身に着け、その髪はまるで羽のように広がっている――いや、これは彼女の羽根なのだ。
彼女の名は「モー・ショボー」。ライドウの宝具「悪魔召喚皇」にて召喚した仲魔の一柱である。

「たっだいまー、ライドウ! 偵察終わったよ!」
戻ってきたモー・ショボーは、機嫌がよさそうだ。成果を持ってきたという事だろう。
疾風属の彼女はは「偵察」のスキルを持つ。宝具の効果により魔力消費の殆どない事も含め、索敵と相性がとてもいい。

「状況の報告を」
「えっとねぇ、マスターの友達は家に引きこもってるみたい。代わりにサーヴァントが出てったのがちょっと見えたよ」
どうやらモー・ショボーは、蓮子の事を監視していたらしい。

「キャスターの可能性は減ったか」
『構えた陣の中にこもるキャスターの基本からは外れているな。しかしこれで確定したわけではない。
 キャスターでなくとも洗脳できるサーヴァントはいるだろうしな』
「更なる調査が必要だな」

「だったらさぁ、もう少し監視する? 私はまだまだいけるよ」
話し合う二人に、モー・ショボーが提案する。
自身にまだまだ余裕がある事をアピールするかのように、宙に浮きながらくるくると回る。

「頼めるか」
「ライドウが良ければいくよ〜」
「なら、引き続き監視をしてくれ。次は宇佐見蓮子のサーヴァントの方を頼む」
「わ〜い、おつかいだ〜!!」
クルリと一回転すると、モー・ショボーは再び宵闇のなかへと溶けていった。


498 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:51:08 vsTHUe6o0


『……ライドウ、一ついいか?』
再び屋上に二人だけとなったとき、ゴウトがライドウに尋ねた。

『先ほどの捜査会議のときといい、まさかとは思うが』
「何か」



『うぬはもしや、「星命」の事で未練を感じてはおるまいな?』


”安倍星命”―――かつてヤタガラスの情報部に所属していた悪魔召喚師であり陰陽師でもある少年。
ライドウにとって初めてともいえる、同年代の友達でもあった少年。
帝都を地獄へと変えた秘密結社”コドクノマレビト”の首謀者だった少年。

……そして、ライドウ自身が手にかけた少年である。



「……」
『ライドウ、分かっているだろうが……うぬが取った行動は、帝都を護るという目的に対し何も間違ってはいない。
 仮にも友であった者をを殺めた事を悔いているのであれば』
「安心してほしい。自分も、その事が間違っているとは思っていない」
ゴウトの言葉を遮るように、ライドウが答える。

「自分も帝都守護を担う”ライドウ”の名を授かった者。自身の行いが過ちであるとは思っていない」
だが、と彼は続ける。
「マスターには、自分と同じ道を歩んでほしくはない。友を敵とし、刃を向けるような事を、マスターにはさせたくないだけだ」


ライドウのその言葉に、ゴウトはそうかと頷いた。
『ならば、我はもはや何も言うまい。やはりお前はライドウだな。
 出来る限り、宇佐見蓮子が潔白である証拠を見つけないとな』
「あぁ」

そして二人は屋上のドアへと向かう。部屋で眠るメリーの元へ戻るために。


499 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:51:18 vsTHUe6o0

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

夢だ。自分は今夢を見ているのだろう。
その光景を見たとき、彼女――メリーは真っ先に思った。
これまでも夢を通し、不思議な里や人工衛星、深き地の底へ行ったこともある。
そんな彼女にとって、どんな夢を見るのも慣れたものであった。

けれど、同時に思った。これは何処かへ向かうための夢ではないと。
これはきっと、自身のサーヴァントの記憶なのだと。

夢の中で、様々な場所にいるライダーを見た。
全てが赤い町中のときもあった。銀色の床と海の広がる黒い虚空の時もあった。
かと思えば金色の球が浮かぶ場所もあった。

だが、その全てで、彼は何者かと戦っていた。

ある時はいつか会いたいと思っていた神様と戦い、ある時は巨大な目玉を相手に、
ある時は大きなイナゴ、挙句の果ては戦艦と戦っている様まであった(流石のメリーも、戦艦相手に戦う彼の姿には唖然とした。)

サーヴァントとは過去未来現在に亘って英雄と言われる者たち。
なるほど、彼もまたその一員として、何もおかしくはないのだとメリーは勝手に納得していた。


……けれど、ただそれだけじゃなかった。


そこは街だった。地震か、それとももっと禍々しい力で建物が壊された街だった。
いつか見た大正時代の東京。赤レンガや西洋建築と、古来からある和が融合した華やかな街並みはそこにはない。
空は暗雲が覆いかぶさり、その穴から巨大な獣が現れる。
獣はその大きな口を開け、何か、命にとって大切な何かを全て吸い取らんとしているようだった。

そこに彼は、ライダーはいた。
ライダーの目の前にいるのは、メガネをかけた一人の少年だった。
メガネの少年は声高らかに何かを叫んでいる。終末を望む者の声、世を変えんと恐るべき力を手に入れた者の声に聞こえた。
その少年へと、ライダーは走り寄る。その手には鞘より抜いた己が刀を構え、そして……



一瞬だった。少年の身体にその刃が通ったのは一瞬の出来事だった。
けれど、メリーは確かに見た。そのときのライダーの顔を。
憎き敵を討つものの顔ではない。かつて語らい、傍らにいた友と別れるときの、悲しい顔だった。



(ライダー、あなたは……)
メリーには分かる。ここはライダーの記憶の世界。
だから、彼がその少年を友として、どれほど大切に思っていたのか痛いほどわかる。
自分にとっての蓮子のように、共にいる時間がどれだけ輝いていたのかを。

(だから、私と一緒にいてくれるのね……)



○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●


500 : Dear your friend ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:51:35 vsTHUe6o0

【B-0/文京区・マンション(メリーの部屋+屋上)/1日目 深夜】

【マエリベリー・ハーン@東方project】
[状態]健康、睡眠中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや多め(親役NPCからの仕送りが多い)
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と再会して、脱出する。
1.蓮子に会いたい。けれど今は会うべきじゃない。
2.明日は大学に向かう。
3.殺し合いはしたくない(襲われたら応戦はするつもり)
4.ジョーカーについては関与しない。
[備考]
※夢により、ライダーの記憶を知りました。
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。


【ライダー(十四代目葛葉ライドウ)@葛葉ライドウシリーズ 】
[状態]健康
[装備]赤口葛葉、コルトライトニング
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:メリーが蓮子と再会できるように護る。
1.モー・ショボーに蓮子のサーヴァントを監視させる。
2.メリーは全力を持って護る。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※蓮子のサーヴァントがキャスター以外である可能性を考えています。確信には更なる情報が必要です。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。


501 : ◆g33OtL8Coc :2015/02/13(金) 22:52:33 vsTHUe6o0
投下終了です。
誤字など、指摘をお願いします。


502 : 名無しさん :2015/02/14(土) 00:52:38 nU6giWvQ0
投下乙です。不穏な主従も多い中、この組は安定してるな。主従仲も良好でどちらも善良と来てるので見てて安心できるけど、聖杯戦争という非日常ではどこまで保てるのか……
それと蓮子ちゃんのところは安全だよ!100%白だよ!できればすんなり合流してほしいところだが、そう上手くいかないのが聖杯戦争なんだよなぁ


503 : 名無しさん :2015/02/14(土) 04:00:13 uVE/IzHk0
投下乙です!
モーショボーはやはり可愛い
それでいて有用
バビルもだけどこういう策敵できる使い魔系は結構便利だな
ジョーカーの存在についての考察や、ライドウの想い、それをメリーが知るなど見どころ満載でした
しかしライドウは頼りになるな


504 : 名無しさん :2015/02/14(土) 18:50:36 LFOVsnrY0
お二方とも投下乙です!
>私の鳥籠の中の私
歩く悪意放送局であるジョーカー組は、ある意味バビル2世の天敵のはずですがそんなことを問題にしない戦略を立てて来ましたか……バビル2世はとことんクールですねえ
やはり、彼の最大の武器は三つの下僕でも、塔でも、ましてや超能力でもなく、その精神性、「覚悟」なのでしょう
しかし、果たして彼のマスターはその「覚悟」を身に付けられるのでしょうか?
まあ、自分では聖杯で願いを叶えられないと思い込んでいる柚子よりはマシですが、あちらは学生生活で心境が変化する可能性がありますからね
日常を捨てた者と留まる者、果たして先に「覚悟」を決めるのは……?

>Dear your friend
>「文の京」の名は形の身に非ず
もしかして「形のみ」の誤字ではありませんか?

ライドウらしい考察が面白かったです
確かに、この聖杯戦争にはライドウに対応してそうなサーヴァントも居ますね
帝都守護者決戦はクラスの関係で難しそうなのが、ちょっと残念ですが
そして、親友同士の殺し合いですか……今のところ幸いにもそんな兆候はありませんが、いつ起こってもおかしくはありませんよね
モーショボーがスペルカードを使ったりしないように、今は平穏なこの偽東京で行われているのは弾幕ごっこではなく、紛れもない殺し合いなのですから


505 : ◆g33OtL8Coc :2015/02/15(日) 02:43:28 1YE7W2Wo0
>>504

誤字指摘有難うございます
自分自身でも誤字を見つけてしまいましたので、ここで修正箇所をいくつか

>>494
×「文の京」の名は形の身に非ずと言わんばかりのこの場所に、一つのマンションがある。
○「文の京」の名は形のみに非ずと言わんばかりのこの場所に、一つのマンションがある。

>>497
×疾風属の彼女はは「偵察」のスキルを持つ。
○疾風属の彼女は「偵察」のスキルを持つ。

>>500
×【B-0/文京区・マンション(メリーの部屋+屋上)/1日目 深夜】
○【B-1/文京区・マンション(メリーの部屋+屋上)/1日目 深夜】


506 : 名無しさん :2015/02/15(日) 23:51:10 TkRThxBA0
投下お疲れ様です
ライドウとメリーのコンビは安定している……
そしてメリーとライドウの共通性というか召喚に応じた理由が明かされつつ
石橋を叩いて渡るような堅実さを見せる一方で相方は危ないバイトに惹かれているが、秘封倶楽部の明日はどっちだ……!


507 : ◆devil5UFgA :2015/02/16(月) 00:15:48 95TU8CyQ0
渋谷凛&ランサー(アドルフ・ヒトラー)
島村卯月&ライダー(マーズ)
ジョーカー&バーサーカー(ギーグ)
予約します


508 : 名無しさん :2015/02/16(月) 04:07:28 YeEh75hc0
来たぜギーグの出番が


509 : 名無しさん :2015/02/16(月) 07:29:05 oGtG7XlA0
しまむー逃げてー、超逃げてー!!


510 : ◆TAEv0TJMEI :2015/02/16(月) 23:34:56 cYHMoCPw0
予約延長します
すごい予約が来て楽しみですw


511 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:01:17 zLq2MkXU0
投下します


512 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:01:46 zLq2MkXU0
夢を、見ていた。
懐かしい夢だった。
いや、夢を見ることそれ自体が久しぶり、なのかもしれない。
今まで気付きもしなかった事実に何とはなしに思い至り、苦笑する。
“ロウヒーロー”。“救世主”。
そう呼ばれるようになってから、夢を見ることがなくなっていた。
そもそも眠りにつくことすらあっただろうか?
死して蘇った後の彼は、一睡もせず、安寧も得ず、ただただ祈りを捧げ、神の下僕として働いてきた。
それは人の営みからは外れた供物への道。
導かれるまま安易に歩んでしまった、信念なき道。
その道を再び辿れと言わんばかりに、彼は今、夢の中で十字架に貼り付けられていた。
かつて見た夢。
懐かしい夢。
あの時は名前を呼んでくれる友がいた。
今は、いない。
だから夢を夢と認識すれども、夢の中で目を覚ます事無く、それの前へと差し出された。
それは、

その生き物の形は

“―――ー!”

熾(おご)れる炭の炎の如く松明の如し

“目を―――、――――!”

此彼(ここかしこ)に行き 雷光(いなびかり)いず 畏懼(おそろしかりし)その面 燦然と無数の遍く目あり

“目を覚ますんだ、――――!

その黄金色の玉の如しその生物に手足はなく 6枚の輝ける羽を頭部より生やし

“くそっ、起きろ、起きろ、――――!”

ああ災いだ 災いだ

“マスター!!”

胎ど――羽根が舞い、胎児が両断される。
かつて見た夢の再演は、見知らぬ結末で幕を下ろした――。




513 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:02:56 zLq2MkXU0
「……っ!? 今のは、一体……」

そうしてロウヒーローは目を覚ました。
ここは五反田にある一軒家の一室。
聖杯戦争に際して彼に宛てがわれた仮初の住居だった。

「大丈夫か、マスター! 
 悪い、嫌なものを見せちまった!
 くそっ、マスターとサーヴァントは夢で記憶を共有するとは聞いてたけどよりによってあいつの夢かよ!」

ベッドの傍らでは悪夢から起こしてくれた刹那が申し訳無さと苛立ちに顔を歪めている。
どうやら今の夢は、英霊である彼の記憶と、自身の記憶が混ざってしまったものらしい。
当たりをつけて、ロウヒーローは自責の念に駆られる刹那の肩に手を起き、なだめる。

「落ち着いて下さい、刹那君。僕なら君が起こしてくれたおかげで大丈夫です。
 それより今の夢に出てきた無数の目を持った巨大な赤ん坊は一体……」

英霊である彼がこうも取り乱すのだ。
夢でロウヒーローへと巨大な手を伸ばし、今にも掴んで咀嚼しようとしていたあの胎児は只者ではないのだろう。
そう予想こそできてはいたが、刹那の口から帰ってきた答えは、ロウヒーローの想像以上のものだった。

「あれはサンダルフォンだ……」
「サンダルフォン……!? 
 刹那君! サンダルフォンとはあの列王記に登場する預言者エリヤが天に登った姿であり、
 大天使メタトロンと兄弟とも同一存在とも語られるあのサンダルフォンですか!?」
「そのサンダルフォンだよ……。
 あいつは自らの醜く弱い身体を嫌い、愛される兄と兄を愛する世界を憎んだ。
 身体さえあれば……綺麗な身体さえあれば自分も……。
 そう妬んで願って自分に綺麗な子守唄を唄ってくれたライラや、メタトロンが懐いていた紗羅に自分を産ませようとしていたんだ」

苦々しげに答える刹那に対し、ロウヒーローが受けた衝撃は相当なものだった。
偽りとはいえメシアとして掲げられたこともあるロウヒーローだ。
かの大天使のことは勿論知っている。
人の身でありながら、神への信仰を捨てず、神の命のままに数多の屍を築いた果てに、火の戦車にて天へと登り天使となったと言われる存在。
メタトロンの双子の兄弟にして、ミカエルの代わりにサタンとの戦いを代行することさえあったとされる大天使。
言われてみれば確かにあの胎児は、メシア教の教えに記されたサンダルフォンを思わせるものであった。
曰く、サンダルフォンは誕生を控えた胎児の性別を決める天使であるという。
ならば胎児の姿をしていてもおかしくはない。
無数の目や、世界に匹敵する体の大きさにしても、メタトロンやサンダルフォンの伝承に謳われる通りのものではある。

でもあれは、あれではまるで!

剥き出しの感情。
あけすけな純粋なる憎悪。
子供独特の残虐性。

人間という存在が持つ、原初の“負”を押し固めたような。
それでいて無数のぎょろりとした“目”で、人の、天使の、悪魔の抱く欺瞞をどこまでも見つめ追ってくるかのような。
悪夢じみた存在。あれが、天使……?


514 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:03:15 zLq2MkXU0
天使が清廉潔白なだけでないことも、往々にして承知していた。
ロウヒーローという存在そのものがその証明である位だ。
それでも、そんな彼をしても、夢に見たサンダルフォンのおぞましさは常軌を逸するものだった。

「“夢”に憑かれるな、マスター。あいつは人の悪夢を喰う。
 それにあくまでもマスターが見たのは俺の記憶だ。
 あいつの執念は嫌ってほど知っちゃいるが、流石に実害はない。あってたまるかよ」

そうであって欲しいと言い捨てる刹那の様子に、サンダルフォンとの間に相当な因縁があったことを察する。
確かに、確かにそうなのだろう。
サンダルフォンがどれだけ大物の天使とはいえ、所詮は“夢”だ。
既に滅ぼされた存在であり、その妄念もまた祓われているという。
サーヴァントとして召喚され、因縁のある刹那のマスターであるロウヒーローに干渉してきたという可能性はどうか。
サンダルフォンは強大な神霊だ。
本来なら贋作の聖杯程度で本物の神霊を呼べるはずはないのだが……この聖杯は規格外のオーパーツ、ムーンセルと直結しているという。
自身のサーヴァント、エンジェルも限定的ながら神そのものに匹敵する力を発揮できる英霊だ。
刹那自身も危惧していたように救世使が呼ばれるような事態であることからも、邪悪な神霊を呼ばれている可能性もありえるのかもしれない。

「マスター……? おい、本当に大丈夫か!?」

考えこみ押し黙るロウヒーローの様子に、刹那がもしや本当に何らかの干渉をされたのかと心配し肩を掴んで揺さぶる。
少なくとも現時点で刹那の心配は杞憂だ。
ロウヒーローは神の力を失ったとはいえ、かつては常に神を感じていた人間だ。
自身が見た“夢”からは天使の力を感じず、ただの“夢”でしかないことくらいはとうに理解できている。
それでも、それをただの“夢”だと断じられないのは、“夢”だからこそか。
そうだ、かつてのロウヒーローの始まりは“夢”であり、その結末もまた“夢”そのものへと帰結した。
この“夢”もまた自らにとっての始まりなのかもしれない。
ロウヒーローがそう感じた矢先に、その想像を肯定するかのように、

カタリ

と、運命の歯車の回る音がした。




515 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:03:50 zLq2MkXU0
音の発生源は新聞受けに何かが投函されたからだった。
あまりのタイミングの良さに爆弾か何かかと警戒した刹那が、マスターを庇いながらも確認したそれは一見なんてことのない封筒だった。
いやいやまだ魔術的な代物の可能性もあると緊張したまま手に取るも、そこに記されていた差出人の名はルーラー。
本物か……?
一瞬そんな疑問が浮かび二人で顔を見合わせるも、裁定者の名を騙るなど、それこそ真っ先に罰せられる行為だろうと判断。
開けて下さいというロウヒーローの頷きに応え、念には念を入れて刹那が先に開封し眼を通す。
見る見る怒りに顔をしかめていく自らのサーヴァントから渡されたそれをロウヒーローもまた読み終えた。

「殺戮者ジョーカー、ですか」
「そんないけ好かない野郎を野放しにするなんてルーラーの奴は何やってんだよ」
「野放し、ということではないでしょう。現にこうして討伐クエストを告知してきている」
「ならなおさらたちが悪い! 俺たちへのぶん投げじゃねえか。
 くそ、こうしている間にも犠牲者が増えちまう!」

添付されていた犠牲者たちの写真の多くは、中高生の少女のそれだった。
思うところがあるのだろう。
かつて守れなかった誰かと重ねるように、焦りが募っていくのが見て取れる。
……ロウヒーローも同じだった。
純粋な怒りを抱ける刹那を羨ましく思い、どこか冷静な自分を恥じつつも、思い出すのはいつかの日々。
あの時も今と同じだった。
吉祥寺の井の頭公園で女の子が殺されたことを皮切りに動き始めた非日常。
警察がいち早く非常線を張ったこともあり、街は常にぴりぴりしていた。
しかし犯人は捕まることはなく、どころか、新たな事件が街を襲う。
同じ名前を持つ女の子が一人、また一人と消えていった。
誘拐か、殺人か。
何も分からないまま遂には、彼女が……。
………………。
…………。
……。

「刹那君。聞いて下さい。僕はジョーカーを追おうと思います」
「……それはルーラーの命令だからか?」

刹那の瞳が真っ直ぐにこちらを射抜いてくる。
彼とてジョーカーをどうにかしたいという気持ちは人一倍抱いているはずだ。
けれどそれはこれ以上、この東京の街で、彼の経験したいつかのように少女たちが犠牲になって欲しくないからだ。
ルーラーに命じられたからでもなければ、ジョーカーがルーラーに反逆したからでもない。
だからこそ彼はロウヒーローに問うてきた。
そこにあんたの意思はあるのか、と。
ルーラーに――法にまた従っているだけじゃないんだよな、と。

「いいえ。言ったとおりです、僕は、“ジョーカーを追う”と。
 “ジョーカーを討て”というルーラーの命にそっくりそのまま従うつもりはありません」
「ジョーカーを見逃すってのか!? いや、でも追うんだよな?
 どういうことなんだよ、マスター!」
「僕はジョーカーを、いえ、先ほど見た夢も含めた“今”を追うことで、僕自身の“過去”を追ってみようと思います。
 僕自身が捧げてしまったものを。ロウヒーローと呼ばれる前の人間だった頃の自分を。
 いいえ、ロウヒーローとなった後の自分さえも。
 僕は見つめ直し、君が言うところの自分流を見つけていきたいと思います」

ロウヒーローと呼ばれた少年は刹那に話した。
今という状況の尽くがかつての自身が辿った始まりを予兆させるものだということを。

「今の僕は人間だった頃の僕をどこか客観視していて、ロウヒーローとしての僕もようやく受け入れ始めたばかりです。
 そういう意味ではまだ、僕は僕に自信が持てていません。
 果たして本当に僕の行動は僕の意思なのか。
 かつての僕を無意識に辿っているだけではないのか。メシアとしての残滓に突き動かされているだけではないのか。
 ……だからちゃんと僕自身に向き合おうと思います。
 そしてジョーカーのこともこの目で見て、その時に生じた感情に従って自分でどうするか決めようと思います」
「分かったよ、マスター。約束したしな。
 けどあんたのやり直しがただの繰り返しになるようなら俺が止めるからな?
 あんたが夢<運命>の先に行けるようにさ」

彼が言うのなら、きっと上手く行くだろう。
何だかそう信じられる笑顔で告げてくるサーヴァントにありがとうございますと頭を下げる。
寄せってと刹那は頭をかいているが、紛れも無い感謝の念から出た行動だ、やめるつもりはない。


516 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:04:11 zLq2MkXU0
「あー、そういえば、さ。
 あいつはどうするんだ?
 一郎、だっけ。あんたがよく教会で会う子ども、マスター、なんだろ?」

照れたのだろう、あからさまに話題を変えてくる刹那にロウヒーローは頭を上げて答える。

「一郎君は今の僕の敵ではありませんよ」
「今の……?」
「彼の信仰は本物です。ですが、だからこそ、彼は“ロウヒーロー”の敵にはなり得たんです」

思い起こすのは彼の“目”。
あの目はロウヒーローよりも、対峙し続けた友に似ていた。
自らの信念のため、目指す世界のためならば悪魔の力を借り、自ら悪魔になることさえもよしとした彼らに。

「神の子は当時の政治・宗教・商業について様々な批判を行い、結果時の支配者たちに政治犯として処刑されました。
 神の子の在り方について“革命家”という解釈も存在する程です。
 その考えに従えば、松下一郎はまさにそうなのでしょう。
 一郎君は正しくメシアであり、そして悪魔です。
 きっと彼の夢見る神の千年王国は、僕達が思うそれよりもずっと遠い。
 彼がどれだけ善良な人間でも、彼の目指す世界がどれ程の理想郷でも。
 現在社会の倫理や常識と乖離しているのなら、彼は法の敵であり、世界を脅かす悪魔です」

かつて三人の少年がいた。
一人は悪魔の力にて自らを変え、強く自由に生きることを望んだ。
一人は神の力で世界を変え、地上に永遠の平和をもたらそうとした。
一人は人間の力で一歩を踏み出し、人が人のまま笑い合える世界を望んだ。
四人目の少年が、松下一郎が望む世界は、いかなるものだろうか。
きっとそのどれもであってどれでもないのだろう。

「そっか。あいつは天界を変えようと堕天し、影で反乱軍を率い戦い続けたザフィケルみたいなヤツなんだな。……それは強いな。
 たとえマスターが敵だと思っていなくても、いつかあいつの願いのために俺達の前に立ちふさがるかもしれない」
「そうですね。彼は強く――だからこそ異端とされ、独りなのかもしれません」

ふと、思う。
救世主が孤独だというのなら、真の救世主となったあの友は、どうだったのだろうかと。
この胸に剣を突き立てた時の友の表情は擦り切れたような疲れ果てたような大切な何かが砕け散ったようなそれでいて――。
大丈夫なはず、だ。
友には“彼女”がいた。
ロウヒーローの愛した人と同じ名前の“彼女”。
あまたの“彼女たち”から選ばれたたった一人の彼女。
その“彼女”と一緒なら、たとえ異端とされようとも幸せだったろうことは、己のサーヴァントが証明してくれている。
異端とされながらも一生二人きりで戦い続けたことを幸せだと嘘偽りなく誇る刹那を知っている。
けれどもし、独りになってしまったなら。
あの日の自分のように、愛するただ一人の人を失ってしまったなら。
友は、どうしたのだろうか。
目の前の天使のように、死した“彼女”を蘇らせようとしたのだろうか。
それとも、それとも……。

頭を振る。
いけない、どうも悪いように、悪いように考えてしまう。
どれだけ想像しても詮無きことだ。
ただ一つ分かったことは。

「すみません、刹那君。もう一つ、手伝ってもらうことが増えたみたいです」

どうやら自分が知りたいことは自らのことだけではないということだった。


517 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:04:35 zLq2MkXU0
【A-4/五反田・一軒家(ロウヒーローの家)/1日目 深夜】

【ロウヒーロー@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一人暮らしの学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:人として抱いた願いをまずは取り戻す
1.ジョーカーや夢といったかつてを思わせる状況を追うことで、今に至る自分自身を追い見つめなおす。
2.ジョーカーをどうするのかは自分の意思で決める。
3.救世主であり、友であった“彼”と“彼女”が二人でいられたのかが知りたい。
4.松下一郎は気がかりではあるが、今の自分は自分から彼の敵に回るつもりはない。
[備考]
※サンダルフォンの夢を何らかの予兆として捉えています。
 サンダルフォン@天使禁猟区についてエンジェルより情報を得ました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。


【エンジェル(無道刹那)@天使禁猟区 】
[状態]健康
[装備]なし(宝具は実体化させていない)
[道具]なし
[所持金]逃避行開始時の先輩からの選別込の所持金程度
[思考・状況]
基本行動方針:ロウヒーローの仲間として、彼が自分の生き方をできるよう共に戦う。
1.ロウヒーローとともにジョーカーを追う。
2.ロウヒーローが予兆として捉えた夢について警戒。
 ロウヒーローが再び生贄の道を辿ろうものなら何としてでも止める。
3.様々な符号からこの聖杯戦争の裏に、自分たちに知らされている以上の何かや何者かがいるのではと懐疑的。
4.松下一郎をザフィケルと重ね、現状敵でないにしてもその策謀やいずれには警戒。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※蓮子のサーヴァントがキャスター以外である可能性を考えています。確信には更なる情報が必要です。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。


518 : disillusion  ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:04:49 zLq2MkXU0
投下終了です


519 : ◆TAEv0TJMEI :2015/02/18(水) 23:45:48 zLq2MkXU0
と、すみません、刹那の状態表にコピペさせてもらったメリーたち組の一部が残っていました。
修正します
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。


520 : 名無しさん :2015/02/19(木) 19:28:04 gsCfDXdg0
投下乙です!
不仲な主従も居る中、刹那はロウヒーローとルームシェアしてる親友にしか見えなくて微笑ましかったです
しかし自分を再確認する、ですか
一度自分を失ってしまったロウヒーローらしいですね
仮面や犬の化身とはいえ、本物の神霊も参加しているこの聖杯戦争
彼等のジョーカー追跡行の先には、果たしてどんな運命が待ち受けているのでしょうか……?


521 : 名無しさん :2015/02/19(木) 23:29:59 29ia5Q.w0
投下乙です

悪夢じみた赤子の姿をしていて、全てを妬んでいるような存在……
ギーグと白面を思い出しつつ、その二体のサーヴァントと出会うようなことがあった時の刹那の反応が楽しみだ
ギーグは絶賛大多数から追われているジョーカーのサーヴァントだし
ロウヒーローの自分探しというか自分取り戻しの聖杯戦争も始まったばかり
悪魔くんを始めとして、どのような人間と出会ってどんな風に戻っていくのか
先が楽しみなコンビだ


522 : 名無しさん :2015/02/20(金) 02:31:36 LlJ2MuDk0
面子や能力・舞台も相まって、ロウヒーローの夢にサンダルフォンが出てくることの不吉な予兆っぷりったら…

参加作品に類似点や共通項がある一方で相違点もあるのが面白い
天禁世界では天使もまた神の束縛下で苦悩している感情的な存在だし、
悪魔くんが目指すメシアや千年王国像も既存の秩序とは対立するもので真1とはまた異なっているよね
異なる世界から集まった彼らの思想がぶつかり混ざる化学反応にワクワクする

救世主の孤独から連想的にロウヒがフツオのその後を気にかけるという流れが巧くて。アワワ…
どうなる、真1トリオの同窓会ー!


523 : ◆devil5UFgA :2015/02/20(金) 23:52:37 InPyoIbQ0
申し訳ありません、予約を延長させていただきます


524 : 名無しさん :2015/02/22(日) 03:12:17 OAJIUVCo0
投下乙!雰囲気出てるな
ロウヒーローの語る諸々が重いな
メシアとしての悪魔くんって形で触れられたのも面白い


525 : ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:28:35 MlhxWQ9E0
お待たせしました、投下します


526 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:30:54 MlhxWQ9E0


「それじゃあ、行ってきます」


島村卯月は暗い表情のまま、家の内に居る母親へと声をかける。
心配そうな声が帰ってくる。
卯月は、いつもとは異なる弱々しさで、笑顔を見せる。
母に背中を向け、制服に身を包み、しかし、普段の通学路は異なる道を歩き始めた。
卯月が向かう場所は自身が通う高等学校ではない。
葬儀が行われる会館へと向かうのだ。



――――本田未央の葬儀へと、足を運んでいるのだ。



「未央ちゃん……」

『裁定者 <<ルーラー>> 』の使いが現れたのは、今朝方の事だった。
まだ陽も登りきらない時間帯、早朝のトレーニングへと向かっていた卯月。
その卯月へと、『ジョーカー』なる『軽』違反者の討伐令を持って現れたのだ。
『彼』は『ジョーカー』と『バーサーカー』への怒りを露骨なまでに現した。
状況に戸惑っていた卯月には、どこか劇がかったような仕草に見えた。
まるで、テレビのニュースを見ているような感覚だった。

「……ッ」

その『怒り』と取れる感情を納めた『彼』は、少々言いにくそうに、言葉を告げた。
卯月は、そこで理解した。
聖杯戦争を、ではない。
聖杯戦争から生まれる死という意味を、だ。

『裁定者 <<ルーラー>> 』の使いである『彼』は、NPCとしての『本田未央』の死を、告げたのだ。

『彼』――――『東金朔夜』は大きな動きは行わなかった。
ただ、卯月にジョーカーの討伐令と、本田未央の死を告げただけだった。
大きな揺さぶりは行わなかった。
なのに、卯月の心は嵐に曝される吊り橋のように不安定なものになっている。
その不安定さのまま、東金朔夜は放っておいた。
渋谷凛へ行ったアプローチとは異なるアプローチであった。

『マスター』
「……なんですか?」

重い足取りの卯月へと向かって、ライダーのサーヴァントが念話によって話しかけてくる。
卯月はその歩みを止めることなく、短く返した。
そこの声は、足取りよりも重かった。
マーズは二の句を躊躇ったが、言葉を続けた。

『彼女は友人だったのかい?』
「……はい」
『これから、彼女を弔いに行くんだね』
「……はい」
『地球の人間は、どういう意図を持って、死んだものを弔うんだい?』

マーズの言葉に卯月はついに足を止めた。
目頭が熱くなるのをこらえ、なんとか言葉を口にした。
自身のサーヴァントは、答えを求めているからだ。


527 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:31:34 MlhxWQ9E0

「その、詳しくはわからないです」
『……わからないのに、その儀式に足を運ぶのかい?』
「きっと、意味は別にあると思うんです。
 でも、私にとっては、確かめるためなんです。
 確かめなきゃ、何も出来ないから……心が、落ち着かないから……
 その、未央ちゃんが本当に……その……」
『わかったよ』

マーズは卯月の言葉を遮るように応えた。
その言葉を、言わせることで卯月を傷つけたくはなかった。

『マスターを守る、その事実になんの変わりもない。
 僕は貴方のサーヴァントだ、従います……だから、しっかりと、確かめてください』
「……」
『大事なことです、親しい人をきちんと『知る』ことは……とても、大事なこと』

彼女は理解しきれていないのだ。
死という概念を、二度と会えないという事実を。
知識としては知っていても、それを現実のものだと捉えきれていない。
マーズが、人間というものの真の姿を知りたがっているように。
本田未央という存在の終わりを知ろうとしているのだ。

「それじゃあ、行きますね……わがままばかりで、すみません」
『いいさ……それが、人間だ』

マーズはその言葉を最後に、言葉を出さなかった。
卯月も、自身の中の感情を、上手く言葉に出来ないため、会話を行わなかった。
故に、マーズも卯月も、自身の思考を深めていく。
マーズの思考を深めていくのは、卯月と同じ、地球人への思いだった。
地球人のことは、鮮明に思いだせる。
最後の言葉を、幾らでも思いだせる。


『全部お前のせいじゃないか!』


『顔も見たくない! 消え失せろ!』


『俺たちはマーズなんてしらねえよ!』


『なんで俺たちだけこんな目にあうんだ!』



違う、マーズは地球を破壊させる爆弾の、直接的な引き金に過ぎない。
爆弾のスイッチを握ったのはマーズだ。
しかし、爆弾を作らせたのは人間だ。
人間の攻撃性だ。
地球を破壊させたのは、人間なのだ。
その想いに、マーズは納得していた。
しかし、しかしだ。


528 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:32:01 MlhxWQ9E0


『わたしの夫と息子を返して!』


『わしの息子を返せ! 家族を返せ!』


その言葉が、マーズの耳に響き渡る。
あまりにも醜い姿から飛び出した、哀しみを塗り固めた言葉。
爆弾を作らせたのは人間だが、人間とは、本当に悪なのか?
それがわからない。
マスターである島村卯月が見せるこの哀しみは、悪から生まれるものなのか?
人間は、醜い。
それは間違いない、と、思ったのだ。
その想いを、今でも抱くのかどうか。
それを確かめるために、マーズは、明日笑うために泣く理由を確かめに行く少女の後ろ姿を眺める。

『……マスター、ぶつかるよ』

いつの間にかついていた葬儀を行う会館ビルへと辿り着いていた。
マーズと同じように、卯月もまた、考え事をしていた。
そのため、目の前に置かれた『箱』に気づいていないようだった。
マーズは念話で注意を促し、卯月はハッとしたようにぶつかりそうなった身体を動かした。

「あわっ、す、すみません!」
「……」

卯月がぶつかりそうになった『箱』は、清掃用具を詰めた台車だった。
埃を遮るためにマスクをつけた清掃員は、卯月の声に振り返し、帽子を抑えながら軽く頭を下げた。
そして、神経質な性質なのだろう、心配そうに用具籠の中を覗きこんでみせる。

「あ、ありがとうございます、ライダーさん」
『君が怪我をすれば本末転倒だよ……しかし、彼は日本人ではないようだね』
「そうですね」
『……それほど珍しいことじゃないってことか』

卯月の相槌と呼べる簡素な言葉から、マーズは外国人の労働者など珍しいものではないと読み取った。
事実、この東京に限らず、この時代の東京と呼ばれる類の街には、様々な『人間』というものが詰め込まれている。
日本の各地から東京に集まり、また、外国からも様々な理由で東京に居着く人間が居る。
物理的な土地こそが狭いが、あらゆる『深さ』を持った都市だった。

その『深さ』を潜っていけば、あるいは、人間の本性というものが確かにわかるかもしれない。

『……それを僕に見せてくれ、マスター』
「えっ?」
『なんでもないさ、さあ、行こう』

マーズは思わず零れた言葉を誤魔化し、歩みを促す。
卯月は一瞬だけ不審な表情を見せたが、すぐに本田未央の葬儀の場へと向かった。
場所は五階、階段よりもエレベーターを使うべきだろう。
見れば、周囲には卯月と同年代の少年少女が集まっている。
未央の葬儀に参加するものだろう、みんな表情が暗い。
NPCという言葉に、未だに慣れを見せない卯月だが、こんな場所でも未央が皆から慕われていたことに、安堵した。

「っ………! 卯月、じゃない……」

どこか浮いたものを感じながらエレベーターを待ち続ける。
そんな卯月に、声がかかった。
聞き慣れた声だった。
恐らく、今一番聞きたかった声だ。


529 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:33:04 MlhxWQ9E0

「あ、あれ……? 凛ちゃん?」

居ても不思議ではない。
島村卯月と、渋谷凛と、本田未央。
ある意味、この三人は同じ場所にいて当然の存在なのだ。
卯月は前髪を無造作に流し、後ろ髪を無造作に縛っている。
そして、縁の大きな伊達眼鏡で顔の輪郭を誤魔化している。
見知ったものならばわかる、といった類の変装だった。

「あ、その、え、凛ちゃんも……」
「……今は、ね」

卯月の動揺の前に、凛は小さく人差し指を口元に当てた。
凛はトップアイドルだった。
ここで騒ぎ出せば、未央の葬儀に『未央を弔う』という意図以外のものを生みかねない。

「……今日は、静かに、ね」
「う、うん……」

ふと、死んでしまった『本田未央』のように、トップアイドルとして設定された『渋谷凛』が遠い存在のように感じた。
そこから生じる感情は、妬みでも祝福でもなく、心をざわつかせる孤独感だ。
それが深くなれば嫉妬へと変わり、それを乗り越えられれば祝福へと変わる。
そんな、別の何かを生みだす類の感情だった。

『マスター』
「……?」
『霊体化したサーヴァントは、マスターのような人間はもちろん、僕らでも殆ど認識できない。
 気配察知の類のスキルがあれば、別だろうけど、僕にはない
 ……だから、気を抜いちゃダメだ』

マーズの言葉の真意が分からず、卯月は曖昧に頷いてみせる。
言葉の裏に潜む、真意。
『渋谷凛は卯月の生命を狙っているかもしれない』
そんな意図を読み取ることが出来なかったのだ。
マーズはそれを明確な言葉にして、告げるようなことはしない。
相手の善性を信じているような卯月を悪戯に弄ぶようなことはしたくなかった。

「その、未央ちゃんの……」
「……今日の朝、偶然知ってさ。お通夜には行けなかったけど、せめて葬儀ぐらい」

ともに葬儀の行われる五階会場へと向かいながら、卯月と凛は言葉を交わす。
普段よりも少ない言葉数と、消すことの出来ない違和感を覚えていた。
『二人になった』という事実が、二人の間に重く伸し掛かっていた。

沈黙の中で、チン、とエレベーターが目的の階を知らせる音を立てた。
二人は、互いの間に蔓延する空気と同じような重い足取りで向かう。
そこには、喪主である本田未央の両親が居た。
凛が頭を下げながら、ペンを走らせる。
卯月も、習うようにペンを走らせた。

「あの、その……今回のことは……」
「……未央の、未央の顔を見てもいいですか?」

卯月が、どのような言葉を言えばいいのか迷っている中で、凛は柩へと顔を向けながら尋ねた。
親は顔を伏せた。
卯月は、哀しみと受け取った。
凛は、その一歩先を察した。


530 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:34:08 MlhxWQ9E0




「訳あって、その、未央……は、葬儀に……出ないことになっています」



両親の、何かを隠すような言葉。
卯月は『哀しみ』と『疑問』を相混ぜにした表情で、その言葉を受け止めた。
一方で、凛は心のうちに『哀しみ』と『怒り』を織り交ぜた。
凛の中で、八つ当たりから生まれる勇猛さが芽生え始めていた。
卯月は、ただ哀しみを深めた。







531 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:34:57 MlhxWQ9E0




僧侶が車から降りてきて、葬儀屋が出迎えた。

【筒のついた】【拳銃】

葬儀屋の背後に居た道化師が、サイレンサーのついた銃を取り出した。



空気を抜くような音を立てて銃口から銃弾が飛び出した。

【血の滴る】【法衣】

僧侶の額を綺麗に貫き、返す銃口で葬儀屋も殺した。



清掃員はズルズルと、物陰へと僧侶の死体を引きずっていく。

【転がる】【人間】

追い剥ぎのように僧侶の法衣を剥ぎとった。



道化師は懐から白塗を取り出した。

【手についた】【白塗】

幾度と無く塗り続けたために白く染まった指を使って、道化師は自身の顔を白く染めていく。


清掃用具入れの中から幾つかの銃器を取り出した。

【安っぽい】【爆弾】

そして、法衣の懐へとリモコンを入れた。







532 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:35:19 MlhxWQ9E0

隣だって座った卯月と凛の間に、言葉はなかった。
周囲も同じだ。
皆が、何かの人形のように、呆けた表情で時を待っている。
死体の入っていない柩を眺めていると、本当に、まるで悪い冗談なのではないかと思える。

『フフ』

そんな中で、凛にだけ聴こえる嘲笑があった。
歯を食いしばる音で、凛は自身が従えるランサーのサーヴァントであるアドルフ・ヒトラーへと不快感を訴えた。

『確かめに来たのであろう?』
「……」
『本田未央の死を……『死』は間違いではなかったようだ』
「……」
『マスター、これで歩くしかなくなったぞ。我が神聖にして魔に染まりし槍を持って、打ち払うしかなくなったぞ』

凛がここに訪れた意味は、ただルーラーの使いの言葉の真偽を確かめるだけではない。
ただ、顔を見なくなっただけで、実は本田未央は死んでなんかいないのじゃないか。
ここに来なければ、そんな想いを抱いたままに日々を過ごしてしまうのではないかと思ったからだ。
そして、それが葬儀の大きな意味でもある。
他者の死に直面することで、その死を確かに受け入れる。
それをどう受け止めるかわからない。
わからないが、受け止めなければ先に進むことが出来ない。
そこから生まれる感情が、善きにせよ、悪しきにせよ、だ。

「……静かにして」
『御心のままに』

ヒトラーは、やはり嘲るように言った。
不快感だけを募らせる言葉であった。
それを振り払うように、隣を見る。
曇った表情があった。
彼女もまた、この場に来て、落ち込んでいた。
胸が裂かれそうになった。
彼女を、守らなければいけないと思った。
そのためにも、自身こそが未央の死を受け入れ、乗り越えなければいけないと思った。
自身が、卯月を救うために。

「それでは、そろそろ住職さんが来てくださるそうです」
「……本日は、娘の葬儀にお越しいただきありがとうございます」

暗い表情のまま、未央の両親が
人が死ぬということが、理解出来つつあった。
もう二度と、誰も未央に会うことは出来ないのだと、そう感じた。
静寂が場を支配した。
エレベーターの扉が開いた。
ふと、ぴちゃ、と水温が凛の耳に届いた。

血だ。

『……マスター、どくんだ!』

凛も、卯月もその意味に気付かなかった。
マーズだけが反応した。
ヒトラーは、気づいていたが、反応しなかった。
攻撃を仕掛けようとして、その腕が動く姿が見えた。
マーズは実体化し、その姿を衆目に晒した。


533 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:36:35 MlhxWQ9E0

「ら、ライダーさん!?」
「……卯月、まさか、そんな!?」

卯月と凛の反応は、いや、周囲の人間の視線はライダーにだけ注がれる。
その全てを無視して、マーズは卯月と凛の前に立ち、髪を翻して硬化させる。
それで、マーズの燃えるような赤い髪を盾となる。
『銃弾』なら弾けるほどの、あまりにも強固な盾に。
しかし、その盾が覆ったのは、卯月と凛だけだった。
故に、葬儀のために呼ばれた住職、その姿をした道化師が手に持った銃器。
サブマシンガンという、人を殺す弾を幾つも弾き出す武器から守ることが出来るのは。
卯月と、凛だけだった。



「サプラァァーーーイズ…………パァーティィイー!!! 」





サブマシンガンは耳をつんざく音を立てて、銃弾を発射し続ける。
住職に扮したジョーカーは狂ったようにサブマシンガンの引き金を引き続ける。
人々の身体に穴が空いていく。
卯月や凛の心のように、穴が空いていく。
ジョーカーの嬌笑と耳をつんざく銃声が響いた。

「な、なに……なに!?」
「HAHAHAHAHAHAHA!!!!!!!!!!」
「ジョーカーとやらだろうなぁ」
「ジョー、カー……!」

気づくと、ヒトラーも実体化していた。
いや、ジョーカーが引き金を引いた瞬間から実体化していたのだ。
なんせ、凛が死ねばヒトラーも退場せざるを得ない。
それがルールだからだ。
故に、すぐに庇えるようにしていた。

「ああ……」

やがて、銃弾が切れると、ジョーカーをサブマシンガンを躊躇いもなく投げ捨てた。
そして、手袋を脱ぎ捨てる。
そこには、奇妙な刻印が刻まれていた。

「――――令呪を以って命ずる」

ジョーカーの手に刻まれた、捻くれた悪意のような刻印が光りだす。
銃声と硝煙によってチカチカと空間が歪む中で、光る令呪。
その令呪の光は、ピエロの嘲笑のようにも、赤ん坊の泣き顔のようにも見えた。


534 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:38:28 MlhxWQ9E0




「一緒にクソヤローどもをぶち殺しまくろうぜ、バーサーカー」




瞬間、空間が歪む。
そこに現れたものは、世界を侵食するものだった。
周囲が赤く染まる。
紅い月による月光ではない。
バーサーカーのサーヴァント、ギーグ。
もはや実態すら持たないそのサーヴァントは、周囲を歪めて、無数の赤ん坊のような黒ずみを生み出した。
その赤ん坊のような空間の歪みを、ジョーカーは『ギーグ』と呼んだ。

「HAHAHAHAHA!!! 楽しいか、おい、楽しいかバーサーカー!」
『アァァア……』

その者の持つ超自然的な力は、人の心に潜む悪を増長させる。
膨らみに膨らんだジョーカーを、興奮剤さながらに掻き立てる。
この安っぽい、それこそ一ヶ月の給与で買える銃器で人を殺すのも悪くない。
お前の生命は一ヶ月の労働で賄える、そんな悪いジョークを呟いているような気分になる。
しかし、ギーグで遊ぶのは、それよりも楽しい。

「HAHAHAHAHAHA!!!!!」

束縛してくるような法衣の中に溜まった熱気を吐き出すように、ジョーカーは笑った。
卯月は恐怖に瞳を歪め、凛は恐怖と怒りに瞳を染めた。
マーズは卯月からジョーカーを隠すように仁王立ちし、ヒトラーは凛の視線を遮らぬように並び立って実体化した。

「おう?」
「フハハハ! これは当たりだぞ、マスター!」
「……凛、ちゃん?」
「我が聖杯を手にした仮面の幸運とシンデレラの逸話、伊達ではないぞ。
 恐らく、我々が討伐競争の一等賞だ!
 おっと、同率一位というべきか。
 失礼したな、御友人」
「……………卯月、下がってて。逃げて」

卯月もまた、凛がサーヴァントのマスターであることに気づいた。
凛は、卯月の問には答えず、逃げるんだと言った。
自身の中に生まれる、抑えきれない怒りを、無謀な蛮勇へと変える。
しかし、凛の脚は震えていた。
蛮勇では覆いきれない恐怖の現れだった。

「リ、凛ちゃん……凛ちゃん……」

凛自身は逃げないのか、と卯月は問いたかった。
ただ、言葉が出なかった。
何を言えばいいのか、そもそも何が起こっているのか。
卯月は、何も理解が出来なかった。


535 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:39:43 MlhxWQ9E0

「眠るんだ、君は今、悪い夢を見ている」
「……ライダー、さん」
「……耐えられないことを耐える必要はない」

そんな卯月へと、マーズは、努めて優しく語りかける。
卯月は今にも倒れてしまいそうな目眩の中で、その燃えるような赤い髪を眺めた。
赤い髪が、まるで意思を持つかのように棚引いた。
その髪の毛が一本の針となり、ジョーカーへと向かう。

『ネス、サン……?』

しかし、その針はピタリと空中で止まった。
そして、空気を震わせない声が響いた。
バーサーカーのサーヴァント、ギーグの超自然的な声である。

『ネス、サン……ネスサン、ネスサン……ネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサン』

その声は力強さを増していき、ついに空気を震わせる。
卯月はおぞましさに顔を引き攣らせ、凛は自身を叱咤するように唇を噛み締めた。
それでも、恐怖は凛の蛮勇を嘲笑うように這いより、卯月の恐怖と共振し始める。

「……チッ!」

空気の震えは増していき、マーズから飛び出した針のような髪の毛は砕かれた。
そして、周囲の死体もまた震えていく。
パン、と、物体が弾けた。

「あっ…………」

本田未央の両親の死体だった。

『あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ』
「ああ……あ、ああ……!!」

釣られるように、周囲の死体全てが震えだす。
パン、パン、と。
時間差を置いて死体が弾けていく。
床を突き破って、死体が湧き上がっていく。
天上が崩れてきて、死体が落ちてくる。

「ああああああああああああああ!ああ!あああああああああ!!!!」
「……いや、これ……やっぱり、未央……!!」

ギーグの超能力によって、死体は弾けていく。
ただ、弾けるだけではない。
表面の皮膚だけを弾き飛ばされた遺体があった。
眼球が脳みそを突き破り、後頭部に両の目が埋め込まれた死体があった。
ギュルギュルと両腕と両脚、四本の棒を交差させて、シャンデリアのように天に突き刺さった屍体があった。
顔のない死体と、前頭部と後頭部に二つの顔がある死体があった。
腕が四本ある脚のない死体があった。
鼻の穴に目がある死体があった。
ギーグが震える度に、奇天烈な死体が増えていった。
ギーグに意思があるのだろうか。
それは違う。
ギーグと直接的なパスが繋がれたことで、ジョーカーのはただギーグを見るだけの人間よりも強く刺激されている。
それは同時に、ジョーカーがギーグへと影響を与えることも出来る、ということである。
ジョーカーの歪んだユーモアセンスが、ギーグの心へと影響を与えているのだ。
そのユーモアは、その死体を見たいからでも、死体を芸術品と見ているからでもない。
ただ、目の前の少女をおちょくるためだけのユーモアだった。


536 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:40:57 MlhxWQ9E0

「……ッ!」

その惨状を見て、マーズは怒りを露わにした。
言語化しづらいほどの怒りだった。
ただ、マーズは両手を天へと掲げた。
一度、そうしたように。
両手を天へと掲げた。
世界を破滅へと導く、その姿とその言葉。



「ガイアアアアアアアァァァァ!!!!!!」




蜃気楼の如き歪みの中から、巨大な『指』が飛び出る。
その指は光を放ち、卯月の身を包み始める。
これこそがマーズの宝具だ。
存在そのものが、地球規模で『例外』とされる人類に訪れる禁忌。

――――『軍神よ、光の力を振るえ<<ガイアー>>』の限定的な解放だ。

指から放たれる卯月とマーズを包む繭のようになり、ギーグの超能力を拒絶する。
念動力によって生み出される隔絶障壁は、ギーグの絶対的な超能力をも弾き飛ばすのだ。
もっとも、何時迄も防ぎ続けることが出来るわけではない。

その様子を見て、ヒトラーは小さく笑った。

『フフ』
「あっ……」

瞬間、卯月は気を失った。
膨大な精神的なショックと、大きな魔力消費が重なったことによる失神だ。

「面白い玩具を持っておるな」
「卯月……!」
「我がマスターも入れてくれんかね、このままでは首輪を付けられた野良犬になってしまうよ」
「……」

マーズはヒトラーの言葉を無視する。
ヒトラーは肩をすくめた。

「ならば、我が仮面で守るしかないと来たものだ……あまり、良いものではないぞ、マスター」

言葉とは裏腹に、ひどく嬉しそうに顔を歪めて、ヒトラーは槍を翻した。
血に染まった床から、青白い光が伸びる。
ヒトラーを円で囲むように照らすその光は、地から天空を照らす。


537 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:42:03 MlhxWQ9E0


「くとぅるふ・ふたぐん、にゃるらとてっぷ・つがー、しゃめっしゅ、しゃめっしゅ……」


ヒトラーの呪言が響き渡る。
凛に、マーズに、ジョーカーに、眠っている卯月にすら。
形容しがたい、悪寒と呼ぶのが最も近い感情が走った。
槍兵は、仮面のように張り付いた嘲笑をそのままに、言語化不能のおぞましさを増していく。
何かが変わったわけではない、だが、何かが変わっていく。
何が変わったかわからないのに、ただ、変わっていくことだけがわかる。


「にゃるらとてっぷ・つがー、くとぅるふ・ふたぐん……」


穂先を向ける槍兵の涅が這いよるような異常に、ジョーカーは笑みを深めた。
自らが従える槍兵から溢れだすおぞましさに、凛は目を背けた。
思いがけず、窓から外を覗く形となる。
いや、正確に言えば外を眺めることはなかった。
いや、しかし、そんな。
居るはずがない。
こんなものが、この世界に居ていいはずがない。


「にゃる・しゅたん、にゃる・がしゃんな……
 にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!」


いや、そんな!

あの手は――――あの顔はなんだ!

ああ!

窓に!


窓に!!!






538 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:42:29 MlhxWQ9E0



【Sainty Check】



・ジョーカー『成功』

・ギーグ『無効』

・渋谷凛『失敗』

・ヒトラー『チェック対象外』

・島村卯月『気絶中によりチェック対象外へ』

・マーズ『失敗』






539 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:44:17 MlhxWQ9E0

禁止された宝具の一部を掠め取って使用するスキル、『月に吠えるもの』を開放したヒトラー。

『あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああ!!!!』

ギーグはそのおぞましさを否定するように、攻撃を仕掛けた。
しかし、その超能力による攻撃は、正体不明の触手に弾かれる。
触手には、無数の仮面が張り付いていた。
ヒトラーと同じような、余りにも不快な嘲笑が張り付いた仮面だ。

「ぁあ…………」
「おやすみ、シンデレラ。靴のサイズを合わせる時には起こしてあげよう」

その仮面の群れを見た瞬間、凛の意識が途切れる。
膨大な魔力の放出……というよりも、理解の内から生まれる理解の外の存在を直面したがゆえの、精神的ショック。
同時に、ガシャン、と激しい音を立てて、窓の外から異形のものが乗り込んできた。
これこそが、触手の主。
ヒトラーのペルソナ、『月に吠えるもの』。

「ふははは! 太陽と並び立つ紅き月へと向かい、吠え続けるもの!
 これこそが我が仮面<<ペルソナ>>よ!」

人は誰しもが仮面を被って生きている。
その仮面、ペルソナを集合的無意識の中に眠る神霊などを媒体にして現界させる。
ヒトラーのペルソナは、スキル名と同じ、『月に吠えるもの』。
複数の触手を携えた、名状しがたき存在が窓を突き破り、ヒトラーの背後へとそびえ立つ。

「冒涜の偶像聖槍が貴様を貫く、存分に暴れさせてもらおう」

『神聖魔槍・失楽園<<ロンギヌス・オリジナル>>』と『偶像聖槍・失楽園<<ロンギヌス・コピー>>』。
月に吠えるものの触手は二つの槍を握り、存在すら曖昧に歪めたギーグへと向かって放たれる。
空気が、いや、ギーグが震え、槍を弾く。
月に吠えるものの触手が蠢く。
ギーグが染めた赤い空気が蠢く。
激しい音だけが、響き渡る。

「……ああ、アンタ知ってるぜ」
「ほほう」
「誰でも知ってるさ。俺たちアメリカ人と、会ったこともないドイツ人ならな。
 アレだろう、アレ」

ヒトラーはニヤニヤと嗤いを続け、ジョーカーもまた嘲笑いを作り続けた。
マーズは、覚めた目でその二人の様子を見ていた。
同時にこの狂気にその身を晒され、顔を歪めて気絶する二人の少女へと顔を向けた。
この二人と、目の前の二人。
同じ地球人だとは思えなかった。
そんなマーズを無視して、ギーグと月に吠えるものは攻撃を繰り返し、ジョーカーとヒトラーは笑みをかわし続ける。

「アンタ、『チャールズ・チャップリン』だろう」
「…………ほほう」

釣りあがった頬を、さらに釣り上げる。
ジョーカーもまた頬を釣り上げた。
マーズは不快感を募らせる。
『チャールズ・チャップリン』、すなわち、世紀の喜劇王だ。
恐らく、機会が機会ならば、サーヴァントとして召喚され得る人物。

ヒトラーを『演じた経験』のある、ある意味では、『アドルフ・ヒトラー』以上に『ヒトラー』に近い人物と言えるだろう。


540 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:46:01 MlhxWQ9E0

「なるほどなるほど、面白い男だ。殺すには余りにも惜しい」

ジョーカーとて、本気でヒトラーのことをチャップリンだと思っているわけではないだろう。
しかし、『ヒトラー』を『アドルフ・ヒトラー』と認識していなかった。
そして、ジョーカーを気に入ったというのもまた、真実だった。

「よく見たさぁ……喜劇は好きだ、大好きだ。
 ただ、今のアンタの姿の映画はちょっとメッセージ性が強すぎてな。
 もっと、馬鹿らしく行こうじゃないか……それがアンタの持ち味じゃないのかい?」
「同意見だ、演者に固めた仮面を与えるのは一時の間だけでいい」
「なら、一緒に遊ぶかい? 俺は別に、アンタと組んでもいい。
 いや、こいつはいい玩具だし、正直な話はアンタよりもバッツと遊びたいがね」
「貴様なら私を『バッツ』に出来るかも知れんぞ?」

その瞬間、ジョーカーは表情を固めた。
すぐに嘲笑ってみせるが、ジョーカーにとって、そのジョークは面白くないジョークだった。

「気を悪くするな……何、貴様のように、私もこういった悪意のないイタズラが大好きでね」
「悪意のない……悪戯だというのか?」

釣り上がった頬から生み出される、嘯くようなヒトラーの言葉。
その言葉に反応したのは、マーズだった。

「おおっと、そう怒るな……恐らく、ライダーのサーヴァントだろう?
 話し合おうじゃないか、我々はそのために言葉を持っている。
 違うかな、白塗の道化師に紅い騎兵よ」
「話し合うことなんてない、僕のマスターは傷ついている」

自身の感情は語るまでもない、と言外に伝えていた。

「造られた生命であり、与えられた設定とは言え、友達を失った……その痛みに癒やすための儀式さえも穢された。
 きっと、マスターの心は、もう癒えない。
 一生、その痛みを思い出すんだ。
 お前のマスターもそうなはずだ……なのに、なぜだ。
 なぜ、そんな弄ぶようなことが出来る」
「人間こそ、所詮は宇宙の中心で蠢く盲目にして白痴なる者よ、そう脆いものじゃあない。
 癒えない傷かもしれないが、しかし、お前のマスターはいつか楽しそうに笑ってみせるさ。
 本当に楽しそうに、幸せを謳歌してみせるさ。
 この惨状を忘れても居ないのに、幸せになってしまうさ。
 人間とは、そういうものだ。
 だからこそ、愛おしい――――」

『玩具なのだよ』

ヒトラーは笑みを深めこそしたが、その言葉は口にしなかった。
相変わらず釣り上がった頬はマーズに不快感を与えてくる。

「その言葉と行動で傷つけたんだ、お前たちの言葉はそういう類のものだ。
 知識はそんなものじゃないはずだ、言葉とはナイフになり得るはずのないものだ。
 そんな奴と、交わす言葉はない」
「私を理解したと?」
「そうさ、お前たちは、悪だ。死を笑うものだ」
「自分たちはそうではない、と。死を笑うことはない、と」
「そうだ、人が死んでいるんだ……なぜ、笑える」
「フハハ! お前も笑うさ、お前の仲間も笑うさ!」

人の死を笑う、とヒトラーは言った。
マーズは否定しようとしたが、ヒトラーの言葉が重なった。


541 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:47:01 MlhxWQ9E0

「汚いものが浄化されるさまを見て微笑むように、貴様も笑うだろうさ。
 笑みに上等も下等も有りはしない」
「世界は神様の出来の悪いジョークなのさ」

ジョーカーも言葉を続ける。
マーズはただ、その言葉を聞き続ける。

「この舞台に立たせてもらったお礼に、精々笑ってやろうじゃないか。
 出来の悪いジョークでも、相手を思うなら笑ってやるのが優しさってもんだぜ」

この世界こそがジョークなのだと語る。
本気になどなるな、と言っているかのように。
マーズは、その言葉で確信した。
目の前の二人は言葉こそ同じものを使っているが、会話が出来ない存在なのだと。

「話すことなんてない。
 そして、信じられない……君たちが人間であるかどうかすら」
「俺ぁ人間だよ」
「私は人間の模範存在だ、教科書にだって載るぞ」

戯けるような二人の言葉に、マーズは怒りを募らせた。

「……特別だよ、お前たちは。
 あの人達やマスターが、お前たちと同じ生き物だなんて思えない。
 あの醜い獣ですら、お前たちと同じだとは思えない。
 お前たちは、獣ですらない、醜くすらない、何かだ……
 お前たちが人間の全てなら、何千年も待つ必要はない。即座に爆破していたさ」
「しかし、人間だ」

ヒトラーの言葉を無視するように、マーズは光の中へと消えた。
卯月を優しく抱き上げ、月に吠えるものが破壊して吹き抜けとなった壁の穴から飛び降りようとする。
地上五階の高さだが、サーヴァントであるマーズには大きな意味はない。

「忘れるな、盲目の騎兵よ」

マーズの背中へと言葉を投げかける。
マーズはその類まれな聴覚で、その言葉を聴いてしまった。

「目の前の道化師は人間だ……ならば、全ての人間は道化師の可能性を持っておる。
 我と我が相対者すら見抜けぬ人間の本質を、貴様ごときが見抜けると思い上がるでないぞ」

嘲笑に彩られていた言葉。
ジョーカーは消えていったマーズへと、肩をすくめながら呟いた。

「俺が知りたいって言うなら、ナイフの刃を自分にむけて、口に咥えてみりゃいいのさ」
「その心は?」
「世の中のこと全部を笑いやすくなる」

ヒトラーはまた笑ってみせた。
出来の悪いジョークには、笑ってやるのが礼儀というものだからだ。


542 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:47:39 MlhxWQ9E0

「しかし……いっそのことお前のようなものの影となれば、私も楽なのだろう。
 だが、しかし、今の私は灰かぶり姫の影よ。
 もっとも、そこに不満などないがね。良き光となれる人材だよ、あの少女はね」
「交渉決裂だな、スポンサーとは不満ってわけだ」
「私をチャールズと称する貴様のセンスは……正直な話、大好きだよ」

ヒトラーは笑みを深める。
その答えこそを待っていたと言わんばかりの笑みだった。

「チャールズを気取るにしては、今の脚本には喜劇性が足りなくてね。
 舞台演出と脚本とスポンサーがぶつかり合っていて、『我輩』も第三帝国の領地から出られんわけだ。
 我輩なりに仮面を揃えようとしているのだが、なかなか上手く行かぬものよ。
 そんな中で、スポンサーの申し出は悪くない」
「じゃあ、遊べばいいさ。俺と一緒にね」
「ただ、状況が揃いすぎていてね。
 喜劇を演じようとしたところに、灰かぶりを導く道化師と死のメタファーが姫の前へと都合よく現れる幸運。
 いやはや、これは天啓……その礼に、一つ挨拶と行こうか」

ヒトラーは神聖魔槍を翻した。
ギーグの超能力と数十合打ち合ったその槍と偶像の聖槍には、傷ひとつない。
もっとも、代わりにギーグにも傷一つ与えていないが。
ギーグも、ヒトラーもただ刃を交えるだけで、本気で生命を狙いに行った一撃は行わなかったからだ。

「無貌の我、千の貌を持つもの……故に道化なり」

瞬間、ジョーカーは、ヒトラーの顔に自身の顔を幻視した。
しかし、それは一瞬と呼ぶのも馬鹿らしいほどの間であった。
単なる幻視にすぎない。


「我は◆◆◆◆◆◆◆◆、運命を嘲笑う者」



月に吠えるものが、蠢いた。
その奥に、更に潜む、形状し難き淀んだ土のような影が見えた。
ギーグを嘲笑で迎えたジョーカーですら、その背中を震わせた。
人だけを震わせる、闇だった。

「ふははは、機会があればまた会おうではないか!
 白い顔に、渾沌の仮面を持つ道化よ!」







543 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:48:11 MlhxWQ9E0

「フラレちまったよ、ギーグ」

契約を捨てて、ヒトラーと再契約を結ぼうじゃないかとすら言っていた口で、ジョーカーは着やすく語りかける。
しかし、ギーグの破壊された精神は、ジョーカーのその意図すら捉えない。
ただ、自身が赤く染めた空間を震わせるだけだ。
ジョーカーは肩をすくめた、しかし、不満はなかった。
ジョーカーと同じ聖杯戦争の参加者には逃げられたが、元々会うことすら予想外だったのだ。
今回は花火を上げるだけのつもりだけだった。
ジョーカーは懐から一枚の封筒を取り出した。

――――『討伐令』だった。

「――――『ジョーカー』と『バーサーカー』を倒したものに、令呪を与える。
 だってよ、HAHAHA!」

ジョーク、と言いたいところだが、そうではないだろう。
恐らく、本気でジョーカーにもジョーカーの討伐令を出したのだ。
ジョーカーが『ジョーカーとバーサーカー』を討伐した場合、ジョーカーに令呪の一画と情報が与えられる。
そう言った仕組みだ。

「まあ、もっと、笑ってやろうじゃないか。
 俺たちの笑い声さ、全員に聴こえるぐらいがいいだろう?」

ジョーカーは法衣を脱ぎ捨て、階段を伝って降りていく。
多くの人間が避難をしていた。
数少ない人間はギーグが内側から破壊していく。
ジョーカーは懐の栄養剤を口にした。
疲労は少ない。
恐らく、ギーグの攻撃に耐えられる人間というのは、本当に限られているのだろう。
ギーグは手の届かないところに手が届く。
ジョーカーが爆弾でないと出来ない殺人を、ギーグは動くような容易さで行うことが出来る。
そう、爆弾だ。
ギーグはあまりにもお手軽な爆弾なのだ。
爆発させて、自らも含めた全てを壊してしまう。
だから、自分たちの存在を爆弾で知らせてやるのだ。

清掃員の振りをして、ビルのあちらこちらに爆弾を仕掛けた。

それを爆破して、自身の存在を知らせてやるのだ。
ジョーカーはビルから離れながら、遠隔操作のためのリモコンを取り出す。
足元には血と赤で染まっている。

「Let's go!」

そら行け!と勢い良く、ボタンを押した。
そして、すぐさまに耳を塞ぐ。

「……Oh?」

しかし、爆音を響かなかった。
ジョーカーは眉を潜めて、何度もボタンを押す。
押して、押して、押して。
一向に反応をしない。
さすがに安上がりにし過ぎたかと、ジョーカーが思いかけた瞬間。

「おっ」

ドン、と音が響いた。
ジョーカーは満足そうに笑みを深め、遠隔操作用のリモコンを放り投げた。
背後から爆音が響く。
会場が壊れ、死体達は土とコンクリートの中へと消えていく。
世界が見せたジョークへの、ジョーカー流の反応だった。


時計の針が、十二時を指した。
ジョーカーの花火によって、新しい情報が記された。


544 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:49:26 MlhxWQ9E0


【A-3/渋谷/1日目 十二時】

【渋谷凛@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]気絶中。精神的に不安定。犯罪係数不明。間力を消費。
[令呪]残り3画
[装備]手持ちバッグ(散歩グッズ入り)、変装用の伊達眼鏡。
[道具]なし
[所持金] 手持ちは高校生のおこづかい程度。
[思考・状況]
基本行動方針:私は……
1:気絶中。
2:ジョーカーに対し強く敵意を抱きました。人を殺す……?
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報と容姿を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

【ランサー(アドルフ・ヒトラー)@ペルソナ2罪】
[状態]健康、魔力を消費。
[装備]ロンギヌス
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:愉しむ。
1:事件が起こって凄く愉しい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の容姿と情報を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

※<検閲済み>

【島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]気絶中。精神的にひどく動揺。魔力を消費。
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]手持ちは高校生のおこづかい程度。
[思考・状況]
基本行動方針:何もわからない。
1:気絶中。
2:ひどく動揺しています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報と容姿を把握しました。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。

【ライダー(マーズ)@マーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:人間を見定める。
1:ヒトラーとジョーカーへの強い嫌悪感。
2:ギーグの悪を刺激する有り様と、月に吠えるもののおぞましさを目撃し、無自覚に動揺しています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の容姿と情報を把握しました。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿とスキル『月に吠えるもの』を認識しました。
※<検閲済み>


545 : 禍々しくも聖なるかな ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:50:10 MlhxWQ9E0


【ジョーカー@ダークナイト】
[状態]魔力を消費。
[令呪]残り2画
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:この世界流のジョークを笑って、自分なりのジョークを見せる。
1:楽しい。
2:。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の全てを把握しています。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

【????@????】
[状態]??
[装備]??
[道具]??
[所持金]??
[思考・状況]
基本行動方針:??????
1:????????
[備考]
※??????
※??????
※??????
※??????



※ギーグの宝具が発動しているため、ギーグの状態表を閲覧できません。


546 : ◆devil5UFgA :2015/02/22(日) 04:50:21 MlhxWQ9E0
投下終了です


547 : 名無しさん :2015/02/22(日) 06:25:21 oRIgkXpA0
投下乙!
うわー、うわー、うわー
世界を滅ぼしうる三者の邂逅やべえよ……
なんでやらかした規模だとこの中でギーグがまだまし扱いなんだよ……
マーズの一言がいちいち重いんだけどそれすら吹き飛ばす二人の道化の会話のセンスが半端ない
ジョーカーもだけどニャルもマーズ的にはクリティカルだよな、そりゃ……w
しかしモバマスアニメの影響もあって時計が12時指すの脳裏に浮かんだけれどまさかこんなに早くでっかい花火打ち上げてしまうとは
サプライズパーティー、ジョーカーヤバすぎるぜ


548 : 名無しさん :2015/02/22(日) 07:09:19 Fas9apI.0
投下乙です
会話のかっこよさがすごい…ホントにヤバいやつらの会合だってのがビンビン伝わってくる
しぶりんと卯月がまだ日常感を出してるからそれがサプライズぶっ壊れした時の空気の塗り代わりを感じられたのもあるかもなあ


549 : 名無しさん :2015/02/22(日) 11:37:31 OAJIUVCo0
投下乙!!!
すげえ!マーズとヒトラーとジョーカーの世界観が三者相対してどれも損なわれてない…マーズの心象に胸打たれるからこそ、ジョーカーの犯罪の淡々とした記述に身の毛がよだつし、ヒトラーの大いなる嘲笑にかきむしられる
ガイアと月に吠える者とギーグ、各々の途方もない力のぶつかり合いは帝都聖杯の醍醐味をぎゅっと凝縮したような迫力と雰囲気でした
こういう、異なる作品の能力や存在がぶつかり合うシーンはすごくわくわくする
狂気の接触判定とかいちいち細かい演出も嬉しい

予約内容を見たときにどうなるんだろうと思いましたがすごい一話を読ませてもらいました!


550 : 名無しさん :2015/02/22(日) 12:52:08 UIYB.O3A0
投下乙
とても人間とは思えないモンスター二体だが確かに人間の可能性に秘められた存在なんだよなぁコイツラ
マーズ頑張れ!お前が狂ったらもうどうにもならないぞ!


551 : 名無しさん :2015/02/22(日) 15:56:49 19GGgXZg0
投下乙!序盤から凄い傑作だったと思います
ペルソナもクトゥルフも未把握なんですがジョーカーとあわせてヤベェエエっていうのが伝わってきました
本当にイキイキしすぎだろこいつら……
しまむーはマーズがいるにせよ虐殺現場を見ちゃってこれから大丈夫なんだろうか……


552 : 名無しさん :2015/02/22(日) 18:45:26 zMvCFVx20
乙っぱいぷるんぷるん
チョビヒゲホテプにとっちゃ三人目の『ジョーカー』か
チョビヒゲがジョーカーを呼ぶのか、それともジョーカーだからこそチョビヒゲという誘蛾灯に惹かれて来るのか…


553 : 名無しさん :2015/02/22(日) 20:43:24 tF5pbqws0
投下乙倉ちゃん。
SAN値チェックと、ニャル様をチャップリンと表する会話のセンスに脱帽ですわ。
グロ画像はちゃんみお確定か……ちゃんみお不遇。


554 : 名無しさん :2015/02/22(日) 20:48:31 CUbqPfyc0
投下乙です
まさに禍々しくも聖なるかな…すでにさんざん言われてますけどこのメンツのヤバい雰囲気をこれでもかと詰め込んだ凄まじい話でした
こんなどす黒い混沌の渦中に巻かれるしぶりんとしまむーはほんとにもう…


555 : 名無しさん :2015/02/23(月) 03:56:28 nroGGe6k0
投下乙です。
TRPGリプレイ的なSAN値チェックがシステムに管理された東京聖杯的にマッチしてて
何ともいい雰囲気を醸し出していました。
そして何より話の内容が濃い……超常的なサーヴァント×3+純粋な狂気……
一日目にしてコレだとしまむーとしぶりんのSAN値は持つのだろうか……w


556 : ◆HQRzDweJVY :2015/02/24(火) 03:53:31 ZY8/nFFw0
高坂穂乃果&セイバー(アマテラス)、園田海未&ランサー(愛乃めぐみ/キュアラブリー)、南ことり&アーチャー(ヴィンセント・ヴァレンタイン)予約します。


557 : ◆RWOCdHNNHk :2015/02/27(金) 22:55:56 dKbCg/lE0
自己リレーとなってしまいますが、羽籐桂&アーチャー(夕立)、ルーラー枠として常守朱を予約します


558 : ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:48:33 MlJqI9A60
羽藤桂&アーチャー(夕立)、常守朱を投下します


559 : Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:49:18 MlJqI9A60
 
 本当にここは異界なのだろうか――?

 恐る恐る帰って来た自宅のドアの向こうにはただ平凡な日常が広がっていた。
 死んだはずの母がいて、こんなに遅くまで何をしていたのと叱られた。
 でも母はとても優しくて、テーブルの上に置かれた夕食を温め直してくれた

 サーヴァントと契約したことで自動的に桂は自身の人生と、このイミテーションの東京で与えられた役割を思い出す。
 現実では死んでいるはずの羽藤真弓との二人暮らし。そう、あの夏の出来事が起こる前の何ら変わらない日常がこの東京では続いていた。

 桂はほとんど食事に手を付けないままリビングを後にして自室に篭もった。
 その時の心配そうな表情の母が温かく、そして痛い。

 どさっと着替えることもなくベッドに倒れ込む桂。
 そんな桂の気も知れず実体化した夕立はのほほんとした口調で言った。

「うーん、ムーンセルも結構エグいことするねー。さすがの私もこんなのされらたらちょおーっと嫌な気分になるっぽい?」
「わたし、どうすればいいのかな……」
「いっそのことここでずうっと暮らすのもアリじゃないかな?」
「そんな、だって……元の世界にはサクヤさんや柚明さんが――」
「でもお母さんはいないよ――?」
「ッ――!」

 夕立は桂の血を啜ったと同時に彼女の記憶も垣間見ていた。
 桂に起こった過酷な運命。でも桂はその運命に折り合いを付けて前を歩き出した。
 そんな彼女の決意を嘲笑うようなムーンセルが与えたキャスティングだった。

「夕立ちゃん……こういう時こんなの偽物だ。とかこんなのまやかしだって言わないんだね……」
「戦争でいーっぱい、いーっぱい人が死んだからねー。真っ暗な海が艦が燃える炎で真っ赤に染まって、鉄の残骸と人がぷかぷか浮いてるの。
 私がその時の戦場にいた人なら夢でも優しい世界にいたいっぽい?」

 サバサバと無邪気に語る夕立に少しむっと来たのか桂は逆に意地悪な質問をしてみた」

「じゃあ夕立ちゃん自身はどうなの? さっきのは戦争に行った人の例えでしょ」
「そんなの決まってるよ。私は軍艦、鉄火場に赴き敵と砲火を交え敵艦を撃沈するのが私の使命。その結果沈むことになるのもまた本望。
 ずぅっと温存されて、もう戦いが末期になったら動かす油すらも尽きて、戦争が終わったら核爆弾の標的なった艦よりは私は戦って沈んだぶん悔いはないかな?
 でもこうして人の身体と心を持ってるぶん、平和に暮らしたいっぽい?」


560 : Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:50:05 MlJqI9A60
「…………」

 軍艦として、人殺しの機械としての存在と、人の姿と心を持ったがゆえの平和な日常を望む存在が等価値で同居している。
 夕立は歪ではあるがあやふやでない存在だと桂は思った。

「そういやマスターって聖杯にかける望みって特に無かったよね。この際、お母さんも生きてる世界で暮らしたいと願ってみたらいいっぽい?」
「そ、れは……」

 願いなんてないと思っていた。
 母の死は辛いけどそれを乗り越えて、保護者役の浅間サクヤと羽藤柚明という大切な人たちと同居する現実。
 それに母が加わる。そんなあまりに都合が良すぎる世界。
 しかし、聖杯という万能の願望器はそれすらも実現する。

「……わたし、もう寝る」
「あれれ、機嫌悪くしたっぽい?」
「べつに」
「お風呂入らないのー?」
「入りたい気分じゃない」
「じゃあ私お風呂入るー」
「えっ!? お母さんに見つかったらまずいよ」
「大丈夫! マスターのお母さんならもう寝たし、仮に起きていてもマスターが入ってると思うっぽいー」
「大丈夫かなあ……」

 おっふろー、おっふろーと言い残し部屋を出て行く夕立。
 桂は布団をがばっとかけて潜り込む。
 ぐるぐる回る優しい世界の誘惑。
 柚明がいて、サクヤがいて、母が生きている世界。
 だけどそのためには他の参加者を――――

 自らに囁く誘惑の声を振り払うように耳を閉じる。
 そのうちに睡魔が訪れ桂は静かに眠りに落ちた。




 ◆




「行ってきまーす」

 朝。

 夕べ入らなかった風呂の代わりにさっとシャワー浴びる。
 長い髪をツインテールに結わえ制服に袖を通す。
 朝食をそそくさと済ませると鞄を引っさげて玄関を出た。
 昨日のことをなるべく思い出さないように。


561 : Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:51:10 MlJqI9A60
 
 一応この東京にも通学の義務はある。でも正直学校に行く気なんておきない。要はサボリである。
 桂はどこにいくあてもなく山手線を乗って適当な駅――池袋に降りた

『あれ? マスター学校はサボリ? 悪い子なんだあ』

 霊体化している夕立が耳元で囁く。

「こんな時に学校なんていってられないよ。それに今後もこともあるし」

 午前中の池袋駅の構内は本物の池袋と同じように人でごった返している。さすがにこんな場所で襲いかかってくる参加者もいないはず。
 桂は東口方面に歩いて行く。

『見て見て、ふくろうの置物があるよー。へえいけふくろうっていうんだって』

 東口に向かう階段の手前に奇妙なフクロウ型のオブジェクトが鎮座しており、多数の人がそこを待ち合わせ場所にしているせいか非常に混雑している。

『――! マスター誰かが見てるっぽい。気を付けて』
「えっえっ! ゆうだ……アーチャーどこ?」

 きょろきょろ見回す桂にぴったりと視線が合う人物がいた。
 キャリアウーマン風の衣装に身を包んだ二十代前半の女性。
 ショートボブの髪型に独特の目付きが何となく少年っぽい雰囲気を感じさせる。
 彼女は桂と視線が合うとぺこりと会釈をしてこちらに近づいてきた。
 夕立が何もアクションを起こさないので少なくとも敵意はないようだ。

「羽藤桂さん――ですね。私は公安局刑事課一係――じゃなかった。ルーラーの使いの常守朱と申します」
「ルーラー!?」
「あ、そんなに身構えなくてもいいです。今回はルーラーからの通達とちょっとした調査事項がありまして。ここで立ち話はあれなので近くのカフェででも」
「アーチャーは実体化していたほうがいいですか?」
「いえ、どこで誰が情報収集してるかわかりません。サーヴァントを晒すという参加者に不利益な行為はルーラーとして避けておきたいです」
「へえー、そんなことまでルーラーは考えてるんですか」
「ええ、私どものルーラーは公明正大をモットーとしてるそうですから」

 公明正大という部分にそこはかとなく毒を含んだ宮守朱。
 口調こそ事務的だがどこか親しみを覚える女性だった。


562 : Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:52:36 MlJqI9A60
 


「それで、わたしたちに一体どんな……」

 近くのカフェに移動した桂たち。朱はコーヒーを頼み桂はパフェを頼んだ。

「まずこれを」

 朱は懐から茶封筒を取りだした。

「内容は一読してもらったらわかりますが。本日、聖杯戦争運営から全参加者に討伐クエストが通達されました。マスター・ジョーカーとそのサーヴァント・ギーグの討伐です」
「討伐って……これって聖杯戦争ですよね?」
「ええ、しかしジョーカーは聖杯戦争に参加するどころか無関係なNPCに強盗に放火、殺人、――それに女性の尊厳を踏みにじる行為をただ無差別に繰り返す」

 朱の遠回しに述べた犯罪に桂は目を伏せる。
 そんな危険な人物がこの東京で好き勝手に暴れているというのだ。

「なんでっ、そんな人を呼んだんですかっ!」
「ほんとそう思いますね。自分で呼んでうまく動いてくれないから始末しろとは」

 どうもこの常守朱という女性、自分の上司――ルーラーを快く思っていないフシがある。 

「書面を見ての通り討伐成功には令呪等報酬が与えられますが、無理に討伐クエストに参加することはありません。自分の力量を見計らって挑むとよろしいでしょう。
 とりあえず討伐クエストの通達はここまでです。では本題に入ります」
「本題……ですか?」
「はい、単刀直入に言いますとあなたに聖杯戦争への不正参加の嫌疑がかかっています。証拠もなにもありませんが、運営の一部はそう疑っています」
「え、え、え? わたしが不正参加!? 勝手に連れて来られたのに!」

 思わず声を荒げる桂。
 当然だ。日常をぶち壊されて無理矢理聖杯戦争に参加させられたのに参加自体が不正とはあまりにもふざけている。

「落ち着いて下さい。まだ疑いの段階です。疑わしきは罰せず。それが法のあるべき姿ですから」
「不正と……判断されたらどうなるんですか」
「しかるべき処分が下されると思いますが詳細は私も伝えられていませんので。でもひとつだけわかりました。
 あなたは自力でムーンセルに介入し参加権を得たようには思えません」
「…………」
「あの、羽藤さん」
「はい……」
「これはルーラーの使いとしての言葉でなく、常守朱一個人の言葉ですが……諦めないでください。私も諦めませんから――」

 彼女は何かを伝えようとしている。
 とても大切な何かを。しかしまだ桂に彼女の真意に触れる術はなかった。





 ◆


563 : Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:53:16 MlJqI9A60
 
『常守監視官、いささか恣意的な言動だったように思えるが』


「恣意的? 都合の良いときだけ恣意的に解釈を変えるあなた達が私を恣意的だと弾劾するの?」


『……まあいいだろう。して羽藤桂の不正参加疑惑についてはどうかね』


「現状、彼女一人でムーンセルに進入できるような技量を持ち合わせていないわ。
 確かに資料に莫大な魔力を保有してるとあるけどそれを行使する魔術の知識もない
 なのにあなた達はどうして彼女にそこまで拘る」


『我々シビュラ、東京聖杯、ムーンセルは公正な聖杯戦争を求めるためお互いを監視しあっている
 その中で我々はムーンセル内において羽藤桂の召喚タイムチャートログに不審な抜けを発見した』


「それは東京聖杯もムーンセルを監視しているんでしょう? なら東京聖杯は何と」


『不正はないと報告している。だが考えても見たまえ、あのムーンセルがログを記録し忘れるはずがない――まあこの件は調査中としておく。常守監視官は通常の職務に戻れ』


「シビュラシステム、ひとつ質問がる。どうして東金朔也を使っている? あの男は参加者にどんな影響を及ぼすか分からない。それを分かっていて使っているのか」


『東金美沙子はすでに我々からは排除されている。彼にノイズを与える者はもはや存在しない。今や彼は立派なシビュラの番人だ。公正に職務を行うだろう』


「公正? 笑えるわね。あなた達の前に狡噛慎也や槙島聖護が現れた時、聖杯戦争の運営として公正な判断ができるか見ててあげるわ」

 



【A-1/池袋駅/1日目 午前】

【羽藤桂@アカイイト】
[状態]やや精神的に不安定
[令呪]残り3画
[装備]通学用鞄
[道具]なし
[所持金] 数千円
[思考・状況]
基本行動方針:戦わず聖杯戦争から脱出したい……はず
1:勝手に連れて来られて不正参加の疑いってどういうことなの……
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。



【アーチャー(夕立)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康、霊体化中
[装備] なし(装備を実体化させていません)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:桂の言うとおりに動く
1:マスターは願いについていろいろ考えてみてもいいっぽい?
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。


564 : Who is it that she was summoned? ◆RWOCdHNNHk :2015/02/28(土) 02:53:44 MlJqI9A60
投下終了しました


565 : 名無しさん :2015/02/28(土) 05:45:05 DsR0UUJU0
投下おつー
そういえば、登場話ではシュビュラ関与してなかったものな……w
メタ的にあの時はルーラー決まってなかったからでもあるけど、ほんと、それぞれの運営が手法違うせいでとんでもないことに
シュビュラさん、桂ちゃんに関して言えばむしろ東京が不正の塊ですよ―
夕立は軍艦としてのシビアさと少女としての在り方の二面性持ちかー


566 : 名無しさん :2015/03/01(日) 00:03:57 aH3Ddm7I0
投下乙です!
朱ちゃんは朱ちゃんだなー、なんか安心感ある
つーか夕立が面白いな


567 : 名無しさん :2015/03/01(日) 01:17:15 Xh9VrFwo0
投下乙!
そうか、桂ちゃんにも戦う理由が与えられてしまったのか……さて、どうなるか
夕立ちゃん、何気に長門をdisるのは止めて差し上げろw
朱ちゃんはどっかのマザコンと違って参加者に優しいなあ、ただシビュラと火花を散らしてる隙に参加者に足元掬われなきゃいいけど


568 : ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:00:46 Vw5gg1QA0
投下乙です!
シビュラシステムにしてみればイレギュラーもいいところだもんな桂ちゃん。
主催陣営もシステムそのものもきな臭すぎる……w
そして何故東金を使ってるのかと思ったらそういうことか。
引っ掻き回すのもシビュラにしてみたら"あり"なんだろうなぁ……

そして高坂穂乃果&セイバー(アマテラス)、園田海未&ランサー(愛乃めぐみ/キュアラブリー)、南ことり&アーチャー(ヴィンセント・ヴァレンタイン)投下します。


569 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:01:20 Vw5gg1QA0


わかってる

楽しいだけじゃない 試されるだろう その苦しさもミライ




――わかってる? 本当に?




 *   *   *


570 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:01:52 Vw5gg1QA0


少し肌寒い空気の中、高坂穂乃果は通学路を歩いていた。
だがその足取りはいつになく重く、その表情は沈痛そのもので彼女のトレードマークであるサイドテールも力なく揺れていた。

……あれからアマテラスの背中にしがみつくようにしてその場を離れた穂乃果は、家に帰っても布団を頭からかぶって震えていた。

瞼の裏に焼きついた、作り物めいた干乾びた死体。
鼻をつく、悪酔いしそうなほどの血の匂い。
そして自分に向けて言葉を放った、槍を構えた髪の長い男の人。
眠ろうとすると浮かび上がる非現実的そのものの光景は、穂乃果に"聖杯戦争"というものを意識させるには十分すぎた。

その光景を悪い夢だと思いたくて、普段は流し見で済ませる朝のニュースや新聞にもじっくりと目を通した。
ただ、『まだ事件が見つかっていない』という可能性に思い当たるのに大して時間はかからなかった。
そう、わずか数時間前の出来事なのだ。
たとえニュースになっていなくても、あれが夢だったという証拠になりはしない。
そのことに気づき、穂乃果は一人大きく肩を落とす。

『――発見された遺体は都内の高校に通う、本田未央さんと見て捜査を進めています』

代わりにニュースキャスターが起伏のない声で読み上あげたのは残酷なニュース。
事件現場は山手線のちょうど反対側あたり。
自分たちの住む場所と近くはない――だが決して遠くない場所で起こった凄惨な事件。
ただ普段ならそんなニュースも、日常の雑多な出来事に追いやられ、無意識の内に記憶の隅へとしまわれる。


571 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:02:23 Vw5gg1QA0
けれども今朝は違った。
穂乃果が生まれて初めて接することになった凄惨な"死"そのもの。
昨日までTVの向こう側にしか無いと思っていた死が足元にまで忍び寄ってくるような感覚を覚え、朝食を半分以上残してしまった。

また彼女の足取りを重くしているのはそれだけではない。
今朝の事件が起こる前に、アマテラスが差し出してきた封筒の中身だ

――"ルーラー"という人から送られてきた"バーサーカー討伐クエスト"。
封筒の中に入っていたのは白塗りのピエロみたいな顔写真と簡単なプロフィール。
討伐、狂戦士、殺人鬼……書類の上を踊る穂乃果の日常には似合わない言葉たち。

正直な所、穂乃果は聖杯戦争についてもサーヴァントについても正確に理解できているわけではなかった。
アマテラスが人語を介せないせいでもあるし、穂乃果自身が積極的に触れてこなかったせいでもある。
けれどアマテラスの差し出した封筒の中身に記された情報は、今朝の出来事と合わせて否応なく聖杯戦争を意識させた。
この日常の舞台裏では凄惨な殺し合いが行われているという現実を、否応なく突きつけられた。

廃校なんて噂すら無い音ノ木坂学院。
仲違いしていない二人の大切な友だち。
どちらも自分が望んだものだ。だからここは自分が望んだ世界なんだと思っていた。
代わりに失ってしまったものはあるけれど、優しい夢の様な世界だと思っていた。
けれどもそれは表面を取り作っただけのおぞましい悪夢ではないのか。
そう考えた瞬間、嫌な汗が背中をつうと流れた。

「穂乃果ちゃん、おはよう」
「あ……」

顔を上げた穂乃果が見たのは親友の一人だった。
考え事をしていたせいで近くに来ていたのに気づかなかったらしい。

「穂乃果ちゃん……大丈夫? 顔色悪いよ?」

こちらの様子を察したことりが心配そうに覗きこんでくる。

「そ、それが昨日夜更かししちゃって……ちょっと寝不足なんだ」

とっさに口をついて出た嘘。
本当のことを話しても、信じてもらえないことはわかっている。
ことりちゃんは聖杯戦争のことなんて何も知らないのだから。


572 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:02:55 Vw5gg1QA0

「うんうん、わかるよ。私もついつい取り貯めしてたドラマ見ちゃって――」

気づいているのかどうなのか、話を合わせてきてくれる。
そのまま他愛のない話をしながら通学路を進む。
なんて事のない会話。
しかし今まで過ごしてきた日常と何ら変わりないそれは穂乃果の心を癒していく。

「あれ、海未ちゃんじゃない?」
「あ、本当だ。おーい海未ちゃーんおはよ……って、ど、どうしたの海未ちゃん!?」

出会った海未の顔はひどいものだった。
血の気の引いた顔、少し腫れたまぶたとそこから覗く赤い目。
彼女にしては珍しい寝不足の顔であった。

「ごめんなさい……少し、考え事があって寝不足なんです」

悩み事……その言葉に思い出すのは"かつて"のことりだ。
私には言ってくれないのか。
また、私は一人ぼっちになってしまうのか。
そんな恐怖が顔に出ていたのだろう。海未は少し苦笑して答える。

「大丈夫ですよ。でも、これは私が一人で決めなきゃいけないことだから。
 決めたら穂乃果にもことりにも……ちゃんと言いますから、もうちょっとだけ待っててください」

あの日もらえなかった一言をもらい、自分でもわかるぐらいに安堵した息を吐き出す。
そんな二人の様子を見てことりが話しかけてくる。

「ねぇ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、放課後気分転換に遊びに行かない?」
「……遊びに、ですか?」
「うん、この雑誌に載ってる"しぶりん"のおすすめコーデのがすごく可愛いの!」

そう言って手渡されたのはティーン向けの情報誌だった。
ポップな字体で描かれた「シンデレラガール オススメコーデ」の文字。
そして表紙を飾るのは切れ長の目をした整った顔立ちの女の子だった。

――『渋谷凛』

この東京と穂乃果たちの知る東京にはいくつかの違いがあったが、そのうちの一つだ。

シンデレラガール。
何百人といるアイドルたちの頂点に立った灰かぶり姫。
この"東京"で、その姿を見ない日はなかったと言っていい。
街に繰り出せば有線から彼女の歌が流れていたし、クラスでは彼女の出演するドラマで話題が持ちきりだった。
もちろん穂乃果も何回もその姿を見ている。

――キラキラしていた。

確かに綺麗な子だが、それだけじゃなく人を引きつける"何か"があった。
そしてその"何か"を高坂穂乃果は知っている。
その輝きを、知っている。

「すごいよね……、私達と同い年ぐらいなのにこんなにキラキラしてて……」


573 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:03:21 Vw5gg1QA0

私達のやっていたことはプロの彼女たちから見たら子供の遊びみたいなものだったのかもしれない。
でも確かに自分たちはそのキラキラの中にいたのだ。
その輝きを犠牲にして、穏やかな過去を願ったのは自分だ。
でも、それでも……胸に穴が開いたような感覚は消えてはくれない。

「……いいなぁ」

口をついて出た無意識の言葉。
だがその言葉に劇的に反応した人物がいた。

「ことり……ちゃん?」

ことりが穂乃果の手にしていた雑誌をひったくるように取り上げたのだ。
そこに先ほどまでの笑顔はない。
その表情は今朝見た鏡の中に映っていた自分の顔によく似ていた。
何か形のないものに怯えるみたいな、そんな顔をしていた。

「ちょっとことり、どうしたの?」
「え……? あ……」

海未の問いかけに、やっと自分の行動を認識したかのようなことり。
その様子は明らかにいつもの彼女と違って見えた。
三人の間に、戸惑うような空気が流れる。

「あ、おっはよーっ!」

そんな空気を壊したのは後ろからかけられた明るい声だ。
そこにいたのはショートカットの少女とおとなしそうな少女。
星空凛と小泉花陽――彼女たちの後輩だ。

「おはようございます。ことりちゃん、何持ってるんですか……って、"しぶりん"じゃないですか!
 穂乃果ちゃん達もしぶりんのファンなんですか!?」
「おお……相変わらず綺麗な髪……同じ"凛"でもこっちの"凛"は女の子らしくて羨ましいにゃ……」
「……私は凛も十分に可愛いと思うけど……」


574 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:03:38 Vw5gg1QA0

二人の会話に加わる海未。
そして穂乃果達に投げかけられるアイコンタクト。
この話はここで終わり、という意味らしい。
その合図にはっとした様子でことりは慌てて頭を下げた。

「ごめんなさい……! そ、その学校が近くなってきたから先生たちに見つかる前にしまわなくちゃって思って……」
「う、うん。大丈夫だよ! こっちこそごめんね」

そんなはずはない。
尋常な様子ではなかった。
でも穂乃果はそこに踏み込むことを避けた。
その決断から、逃げ出した。

「……行こう、穂乃果ちゃん。置いてかれちゃうよ」
「……うん」

穂乃果は駆け出しながら、無意識のうちに自身の令呪に手を当てていた。
パスを通じて自身のサーヴァントのひだまりのような暖かさを感じる。

それと同時に自分に向けられた、アマちゃんの何かを訴えかけるような眼差しを思い出す。
何を言いたいかはよくわからない。
でも何かを促そうとしてることだけは明白だった。

(わかってる……でも、もう少しだけ……もう少しだけ、時間をちょうだい……)

周囲を徐々に侵食し始める血の香り。
僅かな、だが確実に軋みを上げ始めた3人の関係。
穂乃果も言葉に出来ないどこかで、日常の崩壊がすぐそこまで迫っていることを理解している。
でも、それでも、もうちょっとだけ彼女の望んだ過去に浸っていたかった。
誰も傷つかない、この優しくて愚かなぬるま湯のような世界に。


――高垣穂乃果はとにかく行動する少女だった。
何事にもひるまず前へと進む、そのエネルギーがμ'sの中核をなしてきたのだ。
けれども失うことへの恐怖は今や重い足枷となって彼女を縛り付けていた。
いつもなら何も考えずに踏み出せていたはずの足は、まるで縫い付けられたかのように動かなかった。



  *  *  *


575 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:05:31 Vw5gg1QA0


「しぶりんもいいですけど楓さんもいいですよね。大人っぽくて――」
「うーん凛は茜ちゃんが一番だにゃ」
「え、てっきり凛ちゃんはみくにゃんが好きなのかと……」

少し遅れてきた穂乃果とことりを加えてはずむ会話。
そんな4人を海未は一歩引いて眺めていた。
その瞳に浮かぶのはいつもの呆れながらも見守るような優しい色ではなかった。
代わりに浮かんでいるのは戸惑いと疑念の色だ。

――この世界は矛盾している。

それは世間的に見れば大きな矛盾ではないのかもしれない。
だが彼女たちにとっては見過ごせない矛盾だった。

――この世界には『μ'sは存在しない』、だが『μ'sメンバー同士は知り合いである』のだ。

彼女たちと知り合ったのはスクールアイドルを始めてからだ。
だから本来は『μ'sが存在しない』なら『彼女たちとも知り合いではない』はずなのだ。
けれどもここ数日、この東京で海未は彼女たちとある程度変わらない日常を過ごしている。

西木野真姫からCDを借りた覚えがある。
矢澤にことアイドルのやっているラジオについて会話した覚えがある。
絢瀬絵里や東條希と今度の文化祭について会話した記憶がある。
そして今、凛や花陽とも笑いながら話をしている。

それぞれ強いつながりではないが、先ほどのように出逢えば会話をする程度には仲が良い。
だれも傷つかない、ゆるやかな関係。
ただそれもついさっきまでは"そういう世界"なのだ、と割りきってきた。
……さっき、ことりの異常な様子を見るまでは。

後輩たちと楽しげに話すその姿はいつもと変わらないように思える。
けれどもさっきのことりは明らかにおかしかった。
そうでなくとも穂乃果を"アイドル"という存在から遠ざけるかのようなさっきの行動は、甘やかす傾向のある彼女らしくない――長い付き合いである海未はそう断言できる。
言ってしまえば異常――そう、異常である。
そして聡明な彼女はそれらから一つの可能性に至ってしまう。気づきたくなかった、目をそらしていた可能性に。

――すなわち"南ことりが聖杯戦争のマスターである"という可能性に。

音ノ木坂学院が存続しているというだけならばよかった。
それだけならば"学園内に他のマスターがいる"という可能性だけで済んだのに。
けれどμ'sに関する矛盾だけはそうはいかない。
μ'sと関係ないのならば、そのままの関係で存続しているか、それとも最初からなかったかの2択のはずだ。
逆に言えばこんな関係の取捨選択を行うのはメンバー以外ではありえない。


それに何よりあの出来事で傷ついたのは自分だけではない。
ことりも同じように傷ついた。
だからあの紅い月に願ってしまってもおかしくないのではないだろうか。
太陽の輝きがない代わりに、月の光のように優しい世界を。


576 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:06:01 Vw5gg1QA0
『……ランサー、聞こえますか?』
『……どうしたの、マスター?』

その声に不意に気づく。
ランサーはあれからずっと話しかけてこなかったのだ。
言いつけ通り、一人にしていてくれたのだ。
そのことに罪悪感を抱きつつも、それを表に出さず頭のなかで語りかける。

『放課後、ことりがマスターかどうかを確かめます』
『えっ……』
『不満があるなら今のうちに言ってください。
 それとも今更、"友達を疑うのは良くない"とでも言うつもりですか』

思わず責めるような口調になってしまい、自己嫌悪に顔を歪める。
こんなのは唯の八つ当たりだ。
けれどもランサーに対する苛立ちを止めることができない。
そんな海未に対し、めぐみはおずおずと声をかける。

『ねぇ、マスター……一つだけ聞かせて欲しいの』

沈黙を肯定と受け取り、めぐみは言葉を続ける。

『……もしもことりさんが、聖杯戦争のマスターだったら……マスターはどうするの?』
『それは……』

めぐみの問いに海未はとっさに答えることができなかった。

……どうするというのだろう。
聖杯戦争というルールに従って、殺しあう?
そんなことができる訳がない。
マスターであるということはすなわち彼女は本物の"南ことり"であるということ。
小さい頃からずっと一緒だった、大切な親友なのだ。

『……わかりません。でも、放っておく訳にはいかないでしょう』

今、この街には裁定者(ルーラー)ですら制御できない危険極まりない殺人鬼がいるのだ。
それだけじゃない。他のマスターやサーヴァントからも狙われるだろう。
それにサーヴァント自体が危険である可能性も捨てきれない。
目の前の少女が血だまりに沈む光景を想像してしまい、思わず顔がこわばるのを感じる。

『……わかった。私はマスターに協力するよ。
 でも覚えていて。私はやっぱりみんなを幸せハピネスすることを諦めたくないんだ。
 マスターも……ことりさんも、だよ』
「……もう、黙っていてください!」

最後の言葉は思わず口をついて出ていた。
これ以上話していたら更にきつい言葉を口にしてしまいそうで、そのまま会話を打ち切った。
正面に目を向ければ笑顔で会話することりたちの姿がある。
ずっと見てきた変わらない日常。けれども今の彼女にとってそれはひどく脆いもののように感じられた。



   *   *   *


577 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:06:20 Vw5gg1QA0

南ことりは幸せを甘受していた。
授業が終われば穂乃果や海未と遊びに行ける。
また一つ大切な思い出が増えていくのだ。

さっき自分が何であんな行動をとってしまったのか……自分でもよくわからない。
バイトのし過ぎで疲れているのかもしれない。
お願いして少しシフトを減らしてもらうのもいいかもしれない。
そうしよう。そしてその分彼女たちとたくさん思い出をつくろう。
大丈夫。これから時間はいくらでもあるのだから。
心配することなんて、何もない。

『マスター……確認したいことがある』
『アーチャーさん?』

頭のなかに響く超自然的な声。
あまりにも日常にふさわしくない声だが、今のことりはそれを受け入れている。

『……ルーラーからの手紙はいいのか?』
『え……だって知らない人からの手紙を開けちゃうのはダメじゃないかな?』

今朝、郵便受けに入っていた手紙は封も切っていない。
だってことりは裁定者(ルーラー)なんていう知り合いはいないのだから。
多分、郵便局が配達ミスをしてしまったのだろう。

でも、何も起こるはずがない。
だってこんなにも平和なのだから。
だってこんなにも平穏なのだから。
穂乃果ちゃんがいて、海未ちゃんがいて、誰も欠けることのない優しい日常がここにはある。
ずっとこんな平和な日が続きますようにという――私の願いは叶ったのだ。

『……そうか。いや、何でもない』

そのまま沈黙するヴィンセント。

『? 変なアーチャーさん』

首を傾げながら後輩たちのとの会話に戻る。
いつもと変わらない日常。
血の匂いも、不幸な出来事も全てはTVの向こう側にしか無い。
だから何も心配することはないのだ。
そのはずなのだ。

……なのに、この胸騒ぎは何なのだろう。





  *  *  *



重なりあったはずの3つの願い。
それはよく似てはいるが、けれども決して同一ではない。
その僅かな違いは違和感となり、次第に日常そのものを軋ませていく。
彼女たちが試される未来――それは、もう始まっているのだ。


578 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:07:02 Vw5gg1QA0


【B-3/千代田区 音ノ木坂学院前/1日目 朝】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]健康、精神的動揺
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:どうすればいいのか、わからない。
[備考]
※ ジョーカー討伐クエストについて把握しました。
※ 聖杯戦争について、資料で把握しています。

【アマテラス@大神】
[状態]健康
[装備]三種の神器
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:穂乃果と穂乃果の大事なものを護る。


【園田海未@ラブライブ!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:ことりがマスターであるか確かめる。

【愛乃めぐみ/キュアラブリー(ランサー)@ハピネスチャージプリキュア!-人形の国のバレリーナ- 】
[状態]健康
[装備]プリチェンミラー、ラブプリブレス
[道具]なし
[所持金]一般女子中学生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:海未のことは守りたいし、誰のことも犠牲にしたくない。
1:海未に従う。


【南ことり@ラブライブ!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:
1:日常を謳歌する。
※ ジョーカー&バーサーカーの情報を確認していません。確認する気もありません。

【ヴィンセント・ヴァレンタイン(アーチャー)@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]健康
[装備]デスペナルティ
[道具]なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守る。
1:マスターを守る。


579 : 僕らは■■のなかで  ◆HQRzDweJVY :2015/03/01(日) 02:07:23 Vw5gg1QA0
以上で投下終了です。
ご指摘ご感想をお待ちしております。


580 : 名無しさん :2015/03/01(日) 10:14:45 aH3Ddm7I0
おお、さらに投下が!乙です!
やっぱり、非日常を前にした日常が書かれてると胸に来るものがあるな
三人が三人とも同じように大事にしてるけど、今は少しずつ違ってもいるというのがよくわかる
しかしこれ下手するとことりが一番危うい気も


581 : 名無しさん :2015/03/01(日) 12:34:44 SqXtI8Mc0
投下お疲れさまです!
三者三様の学園模様。桂ちゃんの話でもあったけど敢えて優しい日常の世界を見せつけておくのが本当に嫌らしい……w
しかしことりは若干現実が見えてない感。学園で戦闘が起こってしまった時が危ういなあ


582 : 名無しさん :2015/03/03(火) 20:05:00 BcZNVIR.0
投下乙です!
いやー他のμ'sの子たちもいるなんて幸せな世界だなー(棒)
放課後は海未ちゃんのドキドキマスター診断もあるし、一波乱も二波乱もありそうな学園の未来はどうなる!


583 : ◆devil5UFgA :2015/03/05(木) 00:01:58 Z124Qq9Y0
失礼します、ルーラーも含めて全員予約させていただきます


584 : 名無しさん :2015/03/05(木) 00:13:35 5A/gZIPk0
!? >>1の手でこの序盤で全員予約、だと!?
これぞ俺ロワならではなのですごい楽しみ


585 : 名無しさん :2015/03/05(木) 00:36:14 OoNa.DWk0
全員だと…


586 : ◆devil5UFgA :2015/03/10(火) 22:58:02 t3M37UkY0
すいません、予約の延長をさせていただきます


587 : ◆devil5UFgA :2015/03/14(土) 21:11:08 80Lw5G9o0
すいません、現予約を破棄させていただきます
長らく書き込みもせず申し訳ありませんでした
想定していたのが少し無理が生じたので、次の予約する際には、その、全員ということはないです
大変申し訳ありませんでした


588 : 名無しさん :2015/03/15(日) 02:20:26 6QXgQnEA0
いえいえ無理なさらず
残念ではありますがご自分のペースで


589 : ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:07:35 aXXlUBoo0
全キャラではなく、予約なしのゲリラになり、少々中途半端な形になりますが、投下いたします


590 : 名無しさん :2015/04/02(木) 04:09:14 HUHVzUks0
はい


591 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:10:02 aXXlUBoo0

口笛を吹きながら、ジョーカーは人の目から避けるように裏通りを歩いていた。
ざわざわと沸き立つ街中。
誰もが視線を崩壊した建物が沸き上げる煙へと目をやる。
ジョーカーは黒手袋を外し、ポイ、と投げ捨てた。
いずれ浮浪者が手袋を回収してくれる。
生きるだけに必死な、みっともない人間はどこにでも居るものだ。
ジョーカーは機嫌よさげに笑みを作る。

「楽しいなぁ、ギーグ」

どこかに居るはずの無形の怪物、バーサーカーのサーヴァント――――ギーグへと語りかける。
ギーグはジョーカーのつぶやきに応えない。
釣れないねぇ、とつぶやきながらも、ジョーカーは言葉とは裏腹に笑みを深めた。

「なんというか、やっと相手が見えたって感じだな。
 どいつもこいつも、シャイで参っちまってただけに、嬉しいとは思わないか?」

ギーグへと語りかけるも、応えはない。
それでもジョーカーは笑みを作り――――目前に不可思議な『モノ』が飛び去った。
『モノ』は風に吹かれて舞う『物体』ではない。
『モノ』は自らの意思で宙を舞う『生物』だ。
しかし、『モノ』は『生物』と呼ぶには、あまりにも異様な存在だった。

「……鳥?」

ジョーカーは小さくつぶやき、すぐに心中で自身の言葉を否定する。
目の前の『モノ』は、不可思議な『モノ』だった。
『鳥』というよりも、『宙に根を張る植物』といったほうが近しいのもかもしれない。
球根のように膨らんだ頭部と、根を張るように不格好に形作られた身体。
ジョーカーは生物学者ではない、不明の一市民だ。
一市民だが、それは一目で構造上からして合理的でないと思わざるを得ない『モノ』だった。
生命と呼ぶのも憚れる、あやふやな『モノ』だ。

『キシャアアアア!』

甲高い声で鳴く鳥のような何か。
『合理的』『現実的』といった言葉からはかけ離れた生命は、その在り方にふさわしく『非合理的』で『非現実的』な行動を起こした。
炎が生まれたのだ。
まるで口の中にライターでも仕込んでいたかのように、その非合理的なモノは炎を『吐き出した』のだ。

『ア、ア、ア、ア、ア、ア』

しかし、その炎はジョーカーに届く前に、ギーグの超能力によって掻き消される。
ジョーカーは先ほどの戦闘を経て、ギーグが自身を他者の攻撃から守るように動く理由が分かりかけていた。
すなわち、ギーグは『勘違い』をしているのだ。
魔術的な『パス』によって繋がったジョーカーを、ギーグ自身と誤って認識しているのだ。
本来ならば、そのような勘違いは起きるはずはない。
人であるかぎり、離れた場所にある『物体』を『己自身』であると思うわけがないからだ。
だが、ギーグは例外だ。
ギーグは、無形と呼ぶにふさわしい、空間を侵食するような存在。
ギーグ自身がギーグという存在を破壊したために、『どこからどこまで』がギーグ自身なのか判断がついていないのだ。

「よーし、良い子だ」

ジョーカーは掻き消された炎が残した熱さに目を細めながら、ギーグをなだめるように褒める。
そのまま、ギーグは再び動いた。
ジョーカーが無形であるはずのギーグが動いたと認識できたのには、二つ理由がある。
一つは、衝撃にも似た不快感――――すなわち魔力供給が行われたため。
もう一つは、『鳥』と称すべき何かが内側から爆ぜるように肉片と化したため、だ。


592 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:11:01 aXXlUBoo0

ジョーカーは掻き消された炎が残した熱さに目を細めながら、ギーグをなだめるように褒める。
そのまま、ギーグは再び動いた。
ジョーカーが無形であるはずのギーグが動いたと認識できたのには、二つ理由がある。
一つは、衝撃にも似た不快感――――すなわち魔力供給が行われたため。
もう一つは、『鳥』と称すべき何かが内側から爆ぜるように肉片と化したため、だ。

「whew……」

ジョーカーはその余りにも呆気無い破壊に口笛を鳴らす。
やはり、ギーグは内側から破壊している。
でなければ、肉片が一方ではなく四方に散ることはない。
つまり、柔らかい部分を爆破させているのだ。
これは硬いものを破壊するよりも容易い、故に、超能力としての消費も抑えることが出来る。

「よーし、よし。食べていいぞ、ギーグ」

赤ん坊をあやす様に、ジョーカーは許可を出した。
同時にジョーカーの身体を走っていた、倦怠感のようなものが薄れる。
ギーグを現界させるための魔力供給が、ギーグ自身が魔力を取り込んだことによって薄らいだのだ。

「おっ、こりゃいいな……」

魂食い。
そう、その鳥には魂があった。
本来、鳥はデータに過ぎない。
このデータというのは、正真正銘、奇跡の宿らない数字の羅列だ。
数字の羅列に魂を載せた存在ではない。
存在ではないはずなのに、そこには魂があった。

『鳥』の名は『陰摩羅鬼<オンモラキ>』。

経を読むことを辞めた生臭坊主・破戒僧とも呼ぶべき存在の前に現れるとされる妖鳥。
すなわち、導かれることなく大地に眠り続ける死者の魂の澱み。
東京の大地には、魂が眠っている。
電子のはずの空間に、観測されるはずのない空間に。
聖杯戦争の参加者ではない、蹂躙された者達の魂が眠っているのだ。

「少し食事の時間と行くかい?」
『アー……』
「HAHAHA! 試合前のボクサーじゃねえんだ、たんまり食えよ」

相槌とも呼べないうめき声に、ジョーカーは一方的な言葉を返す。
集団の中で知られずに蠢く闇。
すなわち、ジョーカーの同種。
すなわち、ギーグの同類。
歩むべき『正史』に、統べるべき『正道』に、まつろわぬ者達だ。
すなわち、ある局所的な情報において、絶対の事実『しか』記録していなかったムーンセルすら上回る情報。
人の噂、想い、あるいは、霊魂。
そんな『あやふや』なものに影響を受け、事実とは異なる変化をした『闇』。
ここに満ちる魂とは、不定形の『闇』の塊である、魔人の固有結界によって生まれい出たものだ。
現在、この聖杯戦争は独立していない。
幻想と空想と真実と虚偽が入り混じれる、『帝都物語』の一節に内包されているのだ。






593 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:11:44 aXXlUBoo0

「リエンスか」

総合商社『鰤天』における企画部第ニ課のロット課長は怒りに満ちていた。
その原因、重役出勤を行った直接の部下であるリエンス係長の威圧めいた視線を向ける。
『十一人のプロジェクトチーム』の一員であるユリエンスやブランデゴリスは遠巻きに眺めていた。
今のロット部長は危険だ。
リエンスは酔っているのだろう、近頃酒の量が増えていると社内でも評判だった。

「ロットよ」
「敬語を使え」

傍若無人なりエンスの言葉に、ロット部長はこめかみを引くつかせる。
ユリエンスは顔を覆い、ブランデゴリスはしめやかに席を立つ。
ロットは肩を下ろし、息を吐いた。

「何度も言うが、入れぬぞ」
「何がだ?」
「どんな理由つけて話しかけてきても、我ら『十一人のプロジェクトチーム』には入れぬ、と言っておるのだ」
「フ、ハハハ!フハハハッ!!
 馬鹿め!
 このリエンスが、何時までもそんな小さなことに拘っていると思ったか!」

リエンスはロットの言葉を一笑に付し、立派な部長机に手を打ち下ろした。
叩きつけられた机の上には、一枚の封筒があった。
封筒には文字が記されている。
ロットは目を細め、封筒を眺めた。

「……なんだこれは?」
「ふん、文字も読めんのか?」

リエンスの気取った顔に、ロットは怒りを溜める。
怒りを溜める――――が、同時に奇妙なまでのリエンスの態度に戸惑っていた。
リエンスに従うように、封筒へと目を向けた。
そこには『辞職願』と達筆にかかれていた。

「辞表だ」
「……見ればわかる」
「本当に文字が読めんのかと思ってな」

リエンスは厭味ったらしくつぶやき、言葉を続けた。
シャワーの後で義理に、とリエンスが書き連ねた退職願。
何も言わずに無断欠勤を続けても良かったが、これをロットへと突きつけたい、という欲望に駆られた次第だ。

「俺は辞めるぞ、この会社を」
「……何を言っている?」
「『こんなお遊びも飽きた』と言っているのだ、どうせ貯金額も七桁はある。
 戦争の期間中にこれ以上金額が減ることもなければ、逆に大きく増えることもないのだ。
 いや、金がなくとも、消耗戦になれば奪い取ればいいのだ」

目の前のロットが、眉をひそめる。
明らかにリエンスのことを狂人としてしか見ていないのだ。
リエンスは目の前のロットが『ロット』ではないことを確信する。
ロットは言葉を選ぼうとして、リエンスの狂気が見え隠れする顔を見てソレを放棄する。


594 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:12:33 aXXlUBoo0

「……お前のそういったところが、我ら『十一人のプロジェクトチーム』に入れなかった理由だ。
 自分だけは優れていると勘違いしている、誇大妄想狂め。
 現実を受け入れられず、頭でもイカれたか」
「イカれているのはお前たちだ。自分が何かも知らず、偉そうにふんぞり返りおって」
「自分が全てを理解していると思っている尖っているやつよりはマシだ」
「貴様が自分を理解しているというのならば、なぜこんなことをしている」

ロットの突き返すような言葉に、リエンスは鼻を鳴らして応える。
何を言おうとも、右から左だ。
リエンスにとって、目の前の存在は現実ではないのだ。
それでも、巧妙な演技である可能性も捨てきれない。

「殺すなら今だぞ。もしも、俺がお前がならば、必ず殺す。
 先手を取るチャンスなのだぞ」
「リエンス、病院へ行け……頭の、だぞ。
 それまでこれは私のところで留めておいてやる」
「ハハハ! 何も知らぬバカどもめ!」

バサリと、外套を翻しながら振り返る。
もう、こんな会社に価値はなかった。
記憶を失っている頃、何よりもこの会社で成り上がることを目的としていた。
しかし、そんなものは偽りの情熱だ。

『鰤天』――――すなわち、リエンス王にとっての『ブリテン』の代替品。

真実のブリテンを手にするため、リエンスが向かう場所は偽りの会社ではない。
真の熱をそのままにリエンスは霊体で側に立つダッジャールのサーヴァント、カオスヒーローへと念話で語りかける。

「俺はやるぞ、ダッジャール」
『やり過ぎだ、馬鹿が』
「ジョーカーなど、所詮は王である俺の敵ではない。
 問題はバーサーカーのサーヴァントだ……まあ、とはいえ、ジョーカーを殺すだけでいいのだから話は簡単だがな。
 マスターを失ったサーヴァントは消滅を待つだけとなれば、まともに戦うなどバカのやることだ」

リエンスは過度の飲酒と、常より溜まっていたロット部長に対する鬱憤を晴らしたことにより気が大きくなっていた。
しかし、そのリエンスでもサーヴァントに対する恐怖は抱いていた。
自身のサーヴァントであるカオスヒーローは、別格だ。
それは『サーヴァントとして別格』という意味ではなく、『サーヴァントという存在が別格である』という意味だ。

『さて、どうしたものか……何をするにしても、敵の居場所を掴まなくては、な』
「貴様は気配察知に類するスキルを持っていないのか」
『俺の戦いは、襲い掛かってくる敵を斬り捨てるか、立ちはだかる強者へと向かっていっただけだ。
 潜伏するものを見つけるなど、その手の索敵は得意じゃない』

そう言いながら、会社を出る。
すると、すぐ後に爆音が響いた。
音の方向へと、リエンスとカオスヒーローは鋭い目つきで視線を向ける。
ガス爆発だろうか。
いや、ジョーカーという無法図な存在を把握している以上、爆発事件という可能性が先に頭に過る。
いずれにせよ、何かしらの火種だ。
リエンスが戦闘を求める以上、一も二もなく向かうべきだ。


595 : 名無しさん :2015/04/02(木) 04:12:54 HUHVzUks0
>十一人のプロジェクトチーム
三人しか居ない居ないしそう


596 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:13:13 aXXlUBoo0

「行くぞ、ダッジャール!」

高揚する戦意を隠そうともせず、リエンスは駆け出す。
しかし、従者であるカオスヒーローはそのリエンスの首根っこを掴み、強引に引き戻した。

『罠だ』
「罠、だと……? 馬鹿が、虎穴に飛び込まずに戦果が得られるか!」
『ジョーカーを殺す前に、便乗した奴らへの挨拶が先だろう』

カオスヒーローの言葉に、リエンスは視線をずらす。
ビルとビルの間、昼だというのに作られる闇。
威光を知らしめるように天へと伸びたビルが作った闇の中に、化け物がいた。

「こいつは……!」

リエンスは身構える。
煤のような真っ白な髪。
赤黒く滲んだ皮膚。
眉間に備えられた、見開いた単眼。
太い、太い、一本だけの脚。
異形の民、敗北し排斥され、実のない噂話によって吹聴された風評の末、『まつろわぬ民』。
魔人の固有結界、『帝都物語』に招かれた魂を持つ化け物へと堕ちたもの。

『ドンコウか』
「ド、ドンコウ……?」
『ドンコウ、『呑口』と書く……読んで字の如く、人を食らう悪魔だ。
 一本足で河と関係の深い妖怪となると、タタラ場で働いていたまつろわぬ民の末路と言ったところか』
 ここが日本であることを考えると、一本ダタラが出てきたほうが自然なのだがな。
 ……俺達に対する敵意と、けしかけたサーヴァントの意思によって人喰いの化け物としての性質を持ち、変質したか』

河、すなわち水は鍛冶や製鉄にとって必要不可欠なものだ。
一本足は、タタラ場での片足で踏み込みながら行う製鉄活動を意味し、片目は火傷による負傷を意味する。
タタラ場で生活していたものが、大和朝廷に追われ、まつろわぬ民として妖怪へと貶められた。
そこにけしかけたサーヴァント――――加藤保憲の悪意によって、人喰いの化け物としての性質も得た。
よって、この悪霊の如き存在は変質し、人喰いの妖怪であるドンコウとしての霊格に変質させたのだろう。
しかし、リエンスは顔をしかめて、怒声を放つ。

「俺にわかるように説明しろ!」
『……お前は、理解しようとしていないだけだろう。
 不自然な単眼は火を扱う過酷な作業から生まれた事故による消失。
 片輪の身体は物を押しつぶす作業から生まれた事故による消失。
 もはや、以前のように仕事をこなすことも出来ず、しかし、敗者であるために安寧を貪る事もできない。
 遂には、勝者によって人間であることさえ放棄させられた――――』

勝者を称えるために化け物として貶められる、『敗者の末路』という奴さ。
カオスヒーローは吐き捨てた。
その有り様に、己を重ねたからだ。

『所詮は『敗北者』として堕ちに堕ちた終端。
 同種でありながら英霊として畏れる余地を残した俺や、真っ当な他のサーヴァントにとっては敵ではない。
 ……が、お前には荷が重いか?』

カオスヒーローはそう言うと、この世に顕界する。
その鋭い瞳はリエンスを見据えており、リエンスはわずかにたじろいた。
リエンスとカオスヒーローの目前に現れたドンコウは、全部で四体。
カオスヒーローの言葉は誇張ではなく、サーヴァントにとっては敵とも呼べない戦力だ。


597 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:14:21 aXXlUBoo0

「馬鹿にするなと、何度言えばわかる」

そう言うと、カオスヒーローから長刀を受け取る。
カオスヒーローはマスクに隠した口元から、フッ、と笑みを零す。
リエンスは不快さを隠そうともせずに顔をしかめた。

「お前の言葉は全て虚構……強がりだ。
 粋がるのは勝手だが、死んでしまっては元も子もない……精々、気を張るといいさ」

篭手に包まれた両手を開手し、徒手空拳でドンコウと向き合う。
一匹のドンコウが迫り来る。
そのまま、前足を勢い良く突き出し、一蹴りで吹き飛ばす。
宙に高く、高く舞い上がったドンコウの一匹を無視し、カオスヒーローは駆け出す。
群れていた一匹へと向かってピンと伸ばした手刀で叩きつける。
傘とシルエットが酷似しているドンコウは、まさに傘そのものといった手軽さで粉砕される。
開手で硬い肉を安々と両断し、ドンコウは何も出来ずに二つに割れた。
まず一匹、ドンコウが息絶えた。

『亜羅……羅羅……!!』

続いて、カオスヒーローの両脇を抜けるようにして二体のドンコウが雄叫びを上げながら駆け出す。
英傑であるカオスヒーローには敵わない、ならば、せめて奥のリエンスを殺す。
憎悪すらも生存本能が前提にあるその様に、カオスヒーローは『弱者め』と心のなかで呟いた。
脇を駆け抜けようとする右側の一匹の肩を握りつぶすように掴み、逆側に投げ飛ばした。
その瞬間、最初に蹴り飛ばしたドンコウが目の前まで降り立って来て、その頭部を掴み、壁へと叩きつけた。
頭部は西瓜のように粉砕され、二匹目のドンコウは地に脚をつけることなく息絶えた。

「くっ、こ、こいつ……!」

その背後ではリエンスがドンコウを相手に切り結んでいる。
慣れない獲物ということもあり、手こずっているようだった。
しかし、カオスヒーローは目も当てない。
目の前で背後を見せて逃げようとするドンコウを逃そうとはしない。
損得による感情ではなく、ただ、カオスヒーローにとっての戦いはそういうものだ。
強者が弱者を殺すものだ。

――アギ――

小さく唱えた、ワンアクションの呪文はドンコウを焼き払う。
単純な火炎を引き起こすだけの魔術。
しかし、カオスヒーローの魔術師としての資質と内に眠る魔術によって規格外の威力を引き起こす。
ゆっくりと、ドンコウの肉を焼き払い、骨を炭へと変えていく。
時期に死ぬ。
唱えた瞬間から分かりきっていたために、カオスヒーローはすでにドンコウから目を切っていた。
そして、振り返り、もう一度呟く。

――アギ――

小さく唱えた、ワンアクションの呪文はドンコウを焼き払う。
すでにリエンスの斬撃を受けていたドンコウは突如現れた炎を回避することも出来ない。
そのまま、魂を焼失させていった。


598 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:14:59 aXXlUBoo0

「ふ、ふん!」

リエンスはカオスヒーローに対して特別な言葉は返さなかった。
カオスヒーローにしても、興味なさげにリエンスに目を向けるだけだ。

「これが、この化け物が、ジョーカーの召喚したバーサーカーの能力なのか?」
「その可能性もある……が、他のサーヴァントによる妨害の線が色濃いだろうな」
「妨害?」
「ジョーカーを殺すことで生まれる報酬を、俺達に渡さんとする主従が居るということだ」

さして興味もなさそうに、カオスヒーローは呟いた。
瞬間、わずかに期待はした。
このまつろわぬ民を使役しているものは、自身の仇敵/●●である『救世主』ではないか、と。
しかし、それは違った。
このドンコウには契約された悪魔特有の動きを感じ取れなかった。
この妖怪という名の貶められた悪魔は、はぐれだ。

「そう、上手くはいかんということか」
「ふん! どんな奴でも殺せばいい!
 これはそう言った戦争だ!」

カオスヒーローのポツリと漏らした声を、リエンスはバーサーカー以外の障害の存在に対する警告と受け取った。
リエンスは太刀を翻した後、投げるようにカオスヒーローへと渡した。
カオスヒーローはリエンスへと視線を向けず、しかし、その太刀を受け取る。
今のカオスヒーローに、一人の偽救世主と一人の救世主以外に関心を持つことはない。
ただ、夢の終わりに想いを馳せながら、手慰みのようにリエンスに付き従うだけだ。
救世主と出会うまでは、一種の真っ当な英雄として振る舞ってもいいと、カオスヒーローは考えているのだ。


599 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:15:58 aXXlUBoo0

【A-3/渋谷/1日目 昼】

【ジョーカー@ダークナイト】
[状態]魔力を消費。
[令呪]残り2画
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:この世界流のジョークを笑って、自分なりのジョークを見せる。
1:楽しい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の全てを把握しています。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

【????@????】
[状態]??
[装備]??
[道具]??
[所持金]??
[思考・状況]
基本行動方針:??????
1:????????
[備考]
※??????
※??????
※??????
※??????

※ギーグの宝具が発動しているため、ギーグの状態表を閲覧できません。



【B-3/港区・総合商社『鰤天』周辺/1日目 昼】

【リエンス@実在性ミリオンアーサー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]尖りすぎる鎧、尖りすぎる剣
[道具]なし
[所持金]普通(一般サラリーマン程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.ジョーカーを討伐しに行く
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。


【カオスヒーロー(ダッジャール)@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[装備]無銘の剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:リエンス王には特に興味はないが、救世主が己を救えたのか知りたい
1.ジョーカー討伐に付いて行く
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。





600 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:17:17 aXXlUBoo0

所を、魔都東京を魂の渾沌へと変えた魔人へと移す。
かつて退魔であった忍と、魔そのものである魔人は静寂に満ちた空間の中で向かい合っていた。

「この壺がそうか」
『蟲毒壷だ。
 蟲毒の末に生まれた毒は、同じものを作ることの出来ぬ新種の毒。
 触れるでないぞ、呪術とは理を超えて、純粋に生命を恨むものだからな』

キャスターのサーヴァント、帝都を憎む魔人、加藤保憲が厳重に蓋を閉めた壷を掲げる。
この壺は蟲毒壷。
毒を持った蟲を詰め込み、丁重に封をする。
壷の中では餌もない毒蟲たちが蠢き、生きるために他の毒蟲を食らう。
蟲たちはお互いに喰らい、喰らい、喰らい続ける。
その末に生まれるものは、一匹の強大な毒蟲だ。
その身体に異なる毒蟲を食むことで数多の毒を溜め込み、その魂に異なる生命を殺したために数多の憎悪を溜め込む。
よって、『純然たる呪い』としても『純然たる毒』としても秀でた毒蟲が生まれるのだ。

『憎悪と呪いの込められたこの毒は、解呪の法を持ってしなければ解毒できぬ。
 また、解呪の法を持ってしても蟲が本来持っていた人体に有害な毒は消えない。
 すなわち、解呪と医学的な治療を行わければいけない』

こともなさ気に加藤は毒の効用を解説する。
呪術、すなわち呪いに関しては加藤は超一流の魔術師だ。
蟲毒にしても、ただ毒蟲を集めればいいというものではない。
ある一定の段階を踏む必要があるのだ。

『と言っても、キャスターでなくとも一定以上の魔術となれば解呪できるがな。
 解呪という魔術そのものが医学的な意味も持っているのだからな』

そう言って、壷を懐へと納めた。
この毒もいつかは使う。
使うが、そのためには情報が必要だ。

「マスター一人を殺すために使うのも馬鹿らしい。
 使うのならば、有効的に使わなければいけない」
『単体を消すよりも、芋づる式に複数の主従の戦力を大きく低下させるのが有効打というものだ』
「……そんなものはわかっている。教師のように諭す口ぶりはやめろ、不愉快だ」

マスターを見つけて、毒蟲の毒を仕込む。
しかし、仕込むにしてもタイミングというものがある。
マスターの異変はサーヴァントにも大きく影響するのだから。
戦闘の起こっていない際に毒を仕込むよりも、乱戦の最中に毒を仕込むほうが、他の主従にも影響が現れる。
すなわち、毒を埋め込まれたマスター以外の主従にも、何かしらの効果が生まれるということだ。

「二十に届く主従、ならば、共闘の関係も出来ることも否定は出来ない」
『情報戦にはなるだろうな』
「ならば、毒を一つの手段になる。蟲毒は複数できるのか?」
『同じものを作ることは不可能だ、しかし、異なる毒蟲ならば幾らでも作れる』
「構わん、毒の種さえ分別は……『毒物A』なり『毒物B』なり適当に名前をつけてやればいい。
 名前など問題ではないのだからな」
『フ、フ、フ……浅はかだな。『名』とはそう単純なものではない』

加藤はふうまの言葉を一笑に付す。
ふうまは不快げに眉をひそめるが、加藤は言葉を続けた。


601 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:18:33 aXXlUBoo0

加藤はふうまの言葉を一笑に付す。
ふうまは不快げに眉をひそめるが、加藤は言葉を続けた。

『名が変われば身体は引きずれるように変化し、姿形が変われば別の名称で呼ばれる。
 わかるか、貶めるにはその名前の意味を変えてやればいいのだ。
 己のものではない名は心を蝕み、変化した心はやがて身体を侵す』
「……」
『そういうものだ。この地に眠る『魔』とされたものも、そうやって名前を変えられた。
 名前とはな、そういうものなのだよ』
「戯言だな、俺には関係のない話だ」

ふうまは吐き捨てるように言った。
その言葉に、加藤は笑みを深めた。
加藤は『ふうま』の根幹をすでに察知していた。
恐らく、日本に存在する魔に関わるものならば、この男の知らぬことはない。
この男が推理できないものはない。

『気づいておるまい、小童よ。
 貴様の『ふうま』が何の意味を持っているか……
 退魔の使命を帯びておりながら、魔に染まった野望によって、同じ対魔忍に討たれた貴様ら。
 文字を失った貴様は、気づいておるまい』

『ふうま』と音を同じくする『風魔』という一族が居た。
日本でも指折りの知名度を持つ草の者――――俗にいう、忍者だ。
『風魔』のルーツは単なる『風間』であった。
警備や諜報、そういった仕事を一手に引き受ける北条氏に仕える風間の一族が、北条氏滅亡の末に野盗へと堕ちた。
やがて、彼らは『風間』ではなく『風魔』と呼ばれるようになる。
これが堕ちるということである。
『風間』として築いた栄光から遠ざけることで、背景を所持しない単なる野盗へと貶める。
敵対者を貶めるために後に記す歴史に名称を変えることは、珍しいことではない。
邪悪な意図を持つ名前に当てはめ、勝者の正当性を高める。
そう言った意図を持った、一種の政治工作だ。

では、邪視を持つこの忍の者のルーツは『風間』であり『風魔』の一族であるか。

恐らく、この忍の血を辿れば異なる存在が現れるだろう。
『風魔』の影に隠れた、真の『ふうま』。
ふうまに伝わる最大の邪眼、異能を無効化し奪う、『魔門』の効力を考えれば。
ふうまとは『風魔』ではなく、すなわち――――

『【封魔の一族】……』
「……どうした?」
『フ、フ、フ……なんでもないさ、ふうまの小童』

奉られし守護神の、荒ぶる魂の一面。
加藤とはすなわち『魔』の一側面。
その加藤を使役する『ふうま』の一族。
東京に真なる混沌を持ち込んだ魔人は、嗤った。
混沌に包まれ、穢れを封じきれない魔都。
昇華されることなく地に穢れを溜め込んでいく東京。

「フ、フ、フ……」







602 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:19:11 aXXlUBoo0




BLACK CURTAIN
うた:ふうまの御館&加藤保憲


<<伴奏>>


◆何一つとして残されず 倒れていく物語があった。

◆生命が昨日また一つ 幻想へと堕ちていった。

◇愛の中に憎しみを 育みながら

◇終わりが今日また一つ 事実へと昇っていった。

◆俺たちはなんだ。

◇なにが俺たちだ。

◆◇誰かがつけた名前は 俺たちなのか。

◇◆俺たちがつけた名前は 俺たちなのか。

◆いつの日か、俺たちは自分を撃ちぬく。

◇いつの日か、俺たちは答えを撃ちぬく。

◆そこにあるのは光。

◇そこにあるのは答え。

◆◇俺たちが闇で隠したくせに、俺たちは闇がなんなのかも知りはしない。








603 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:19:48 aXXlUBoo0

「……さて」

ふうまは妖しく笑う加藤へと警戒心を強める。
キャスターとは、すなわち裏切りのサーヴァント。
英傑まで上り詰めた魔術のエキスパートが、己よりも劣る魔術師に従うことを是としないためだ。
そして、この魔術師の究極とも呼べる英雄たちは令呪や聖杯戦争のシステムに対する理解も早い。
ルールの間隙を突き、『マスターを必要としない』別の方法を見つける可能性も0ではないのだ。
反乱のための材料はこれでもかという積み重ねられている。
ふうまは純然な魔術師ではないため、上の条件には当てはまらない。
しかし、警戒を解くほどの信頼はない。

「俺は仕事に移るか」

ふうまは窓にかけた暗幕を外す。
外は騒々しい。
一人ひとりが声を潜めようとも、その潜めた声が重なって喧騒を生む。
それほどの人数が外に集まっていた。
外――――『東京第一高校』の校庭に集まった生徒達は、訳もわからずに集団下校の準備をしている。

「まさかここまで派手に暴れるとはな」
『気狂いの類だ、何かしらの策があるとは思えんな』

加藤は飛ばした式から発見した惨害を遠視しながら呟く。
戦闘の痕跡は、爆破によって大雑把に処理されている。
ひと目で分かる、これは神秘の秘匿が目的ではない。
これは、ただ、爆破したかったから爆破した。
そう言った目的の爆破だ。

「……全く」

ふうまは呟きながら、空き教室から立ち去った。
早足で校庭へと向かう。
ふうまは東京第一高校に務める非常勤職員として、校舎内に残った生徒が居ないか見回っていた。
なぜ、まだ太陽も高いこの時間に見回りを行っていたのか。
答えは単純だ。
ジョーカーによる爆破事件。
このテロリズムかどうかもわからない事件のために、午後の授業を行わずに早期に下校を行うためにしたのだ。
校庭に集まっている生徒は、集団下校のために集まっているのだ。

『逃げればいいのだろう、お前のストックしていた『催眠術』ならば何の問題もない』
「怪しまれるのは御免だ。
 俺がマスターと知られる可能性の芽は少ない方がいい」

ふうまは加藤と念話を交わしながら、早足で歩を進める。
校庭へと出る。
そこに立っていた姿を見て、ふうまは背筋が凍った。
反射だ、単なる反射に過ぎない。
ふうまは心を落ち着かせる。
あそこに居るのは、本物ではない。
それをはっきりとさせるために潜入したのだ。
ふうまは背筋を伸ばしたまま、『校長』へと報告を行う。


604 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:21:04 aXXlUBoo0

「……『井河』校長先生」

「山田先生」

校長――――『井河アサギ』はふうまを『山田』と呼んだ。
『山田』とは、ふうまが潜入の際によく使う偽名の一つである。
陳腐と思われるかもしれないが、凝った偽名を用いてもしょうがない。
しかし、それにしてもだ。
目の前の『東京第一高校・校長』という役割を与えられた人物。
十中八九、『NPC』であるその人物はふうまの御館も畏れる『井河アサギ』であった。
最強の対魔忍と呼ばれ、魔に連なる野望を持つものならば、その名前だけで震え上がる。
最初に目にした時には、心臓が飛び出る思いだった。

「東棟に生徒は残されていませんでした」

彼女が『マスター』というプレイヤーだったならば――――それは卑怯というものだ。
しかし、可能性は0ではない。
ふうまは事実を調べるために、『山田』という偽名と、ある対魔忍から奪ったままであった『催眠術』の異能を持って潜入した。
その結果、彼女はほぼ間違いなくNPCと確信出来た。
それでもまだ、反射的な恐れがあった。

「そうですか……点呼も問題ないようでしたし、下校へと移りましょう」

ふうまは額から汗を流しながら、報告を行った。
アサギという校長は柳眉を潜めながら、頷く。
万が一にも生徒に被害があれば『こと』だからだ。
こうして、日の高い内に集団で帰らせるのは合理的といえるだろう。

「第一小学校と第一中学校も居るんですね」

ふうまの記憶よりも生徒の数が多い――――そして、明らかに十に届かない児童も居た。
恐らく、隣接する『東京第一小学校』と『東京第一高校』の児童と生徒であろう。
なるべく集団で下校でさせようという考えか。

「やはり、なるべく大勢で帰ったほうが安全でしょうから、ええ……」

ふうまの思考を肯定するように、アサギは口を開く。
心中で舌打ちをする。
これでは下校を促すまで時間がかかってしまう。
さっさと抜けだして、ジョーカーの後を追う腹だったというのに。

『フ、フ、フ、つまらぬ潜入などするからだ』
「黙れ」
『対魔忍の育成学校……五車学園だったか?
 その幻影でも見たか?』
「聖杯によって『役割』を与えられるのならば、対魔忍どもは『学園』に潜んでいる可能性は高い。
 馬鹿げた考えだとは言わせんぞ」
『まあ、いいさ。式の話では、ジョーカーの周辺に居るまつろわぬ民が倒されているそうだぞ?
 フ、フ、フ……急がねば、先に首が取られるかもしれんな』

ふうまは舌打ちをした。
それでも、変に促すことはしない。
アサギが『マスター』ではなかったとしても、どこで別のマスターが見ているとも限らないのだ。

「それでは、早速生徒を下校させましょうか」
「はい、では、区域ごとに……」





605 : 名無しさん :2015/04/02(木) 04:21:06 HUHVzUks0
UTSUWA……やはり……!


606 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:21:59 aXXlUBoo0



爆破事件。
その文面を見た時、衛宮切嗣は、ゆっくりとテレビの電源を切った。
衣服を整え、外へと向かう。
右肩が疼く。
己の切り捨ててきたものが、穢れが右肩に溜まっていることを切嗣は知らない。

「ラーマ……」

同居人の名を、小さく呟く。
テレビに流れていたニュースは、爆破事件を知らせるニュースだ。
街ビルの一つが爆破された。
これはガス管との事故ではなく、明確な爆弾が扱われていたとのこと。

「……ジョーカーか」

切嗣は小さくつぶやき、玄関先へと向かう。
下手人は恐らく管理者側が討伐令を出したバーサーカーの主従だろう。

「……」

玄関を出ると、一つの封筒が届いていた。
陽が中天に登る時に、死亡者の発表が行われるという『情報』が埋め込まれている。
その伝達の術がこの封筒なのだろう。
冬木の聖杯戦争と異なる、『マスター』ということがバレやすいシステムだ。

「……いや、むしろ、バラそうとしているのか」

切嗣は感情を表に出さず、つぶやき、その封筒の中身を覗いた。
その封筒は余白が殆どだった。
死亡者なしの文字が、小さく書かれている。
つまり、ジョーカーは死んでいないということだ。
そして、ジョーカーはマスターであろうがそうでなかろうが、関係なく人を襲う。

「……」

切嗣はその脚を動かした。
向かう先は、小さな同居人が通う東京第一小学校だ。
午後の授業は中止になる可能性は十分にあり得る。
その際に、ラーマを一人で返したくなかった。





607 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:23:39 aXXlUBoo0

「気まずいなぁ……」

遠目から校舎を眺めながら、羽藤桂は呟いた。
あの後、常守朱が立ち去った後、たっぷりと喫茶店で時間を潰した。
だけど、何も思い浮かばず、さりとて遊ぶという気にもなれず。
ついには足は、学校へと向かっていた。
桂の頭に残るのは、一つの言葉。

『不正参加の嫌疑』

とんだ言い草だ。
連れてきたのはそっちなのに、こちらから来たように言うだなんて。
ひどい、としか言いようがなかった。

「学校はなにか慌ただしいし……やっぱり午後の授業だけでも、なんて思うじゃなかったかな?」

そうした悶々とした感情を抱いたままでは、慣れない『サボり』にも身が入らず。
ならば、いっそ午後の授業だけでも受けてみようか、と思った。
思ったのだが、どうにも学校が慌ただしい。
隣接している小学校や中学校からも高校の敷地へと人が入っていっている。

「うーん……今から入るのはさすがに無理かなぁ……」
『そのまま遊んでたらよかったのに……というか、マスターってなんか、遊びなれてないっぽい?
 せっかくの花の帝都だよ?』
「……ひとりだと、さびしいというか」
『あ、それ、一緒に遊ぶってお誘いっぽい?』

どこからか声が響く。
その声は、すなわち聖杯戦争において桂と命運を共にサーヴァントの音無き声だ。
アーチャーのサーヴァント白露型駆逐艦四番艦『夕立』はウキウキとした言葉で応える。
桂は曖昧な笑顔で応えた。

「一番いいのは、さっきの人ともう一度話したいけど……どこに行けばいいんだろ……
 なんで、わたしのこと『不法参加』だなんて……そっちのせいなのに」
『なんていうか……『奴』らも一枚岩じゃないっぽいからね』

『奴』と、どこか芝居がかったように言う夕立。
戯れの色が多分に含まれた言葉だ。
しかし、それが感じ取れたからと言ってどうなるのだ。

「とにかく、もう一度、話をしたいけど……」
『ルーラーと干渉するのってどうするかわかんないねー』

そうだ、一方的なコンタクトだ。
こちらから向こうに語りかける術を教えてもらっていない。
こちらから会いに行こうと思っても、どこに行けば会えるのかも分からない。
わからないことだらけだ。

『マスター怒ってるっぽい?』

そう考えると、なんだかむかっ腹が立ってきた。
勝手だ、桂はそう思った。
勝手に呼んできて、なのに、勝手に疑いをかけてきて。

――――勝手に、わたしの前にお母さんを出してきて。

勝手だった。
こっちの事情など、なにも考慮していないように思える。


608 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:24:29 aXXlUBoo0

「……よし!」
『遊ぶ?』
「……帰ろう」

ズコっと、夕立は霊体のままずっこける。
母のことを考えると、母の姿が見たくなった。
こうも勝手に押し付けられることが続くと、せめて、自分の意志で出来る事がしたくなった。
桂はくるりと振り返り、校舎に背を向ける。
そして、歩き出そうとした時、目前に一人の和装の男性が居た。
その男性は柔らかく微笑み、桂へと声をかけてくる。

「……少し、聞きたいんだけど」
『油断しないほうがいいっぽいよ、なんか、この感じ……ちょっと危ない』

和装の男――――衛宮切嗣は桂へと語りかける。
背後からは夕立からの警戒の言葉。
聖杯戦争に参加したマスター、その言葉が桂の脳裏に過る。
駆逐艦といえども索敵機能を持った夕立。
その彼女は、スキルとして載るほどではないにしろ、他のサーヴァントよりも多少は異常な気配に敏感だ。

「ひょっとすると、東京第一小学校の子どもたちは帰ってしまったのかな?」
「え、あ、いえ、その、まだ帰ってないかと……」

チラリ、と背後を見ながら応える。
そこには東京第一高校の校庭に集まる小学生の姿があった。
どのような意図があって、校庭に集まっているのかわからない。
しかし、まだ下校は開始されていないはずだ。

「ありがとう、君も気をつけて……」
「は、はい……ありがとうございます……」

桂は警戒を解かずに、立ち去っていく切嗣を眺める。
敵意は感じなかった、少なくとも、桂には。
夕立が居るであろう背後へと視線を移す。

『さっきの人、なんかいやーな気配。
 大きくなくて、見逃しちゃいそうだけど、こっちを見ちゃってるからわかっちゃうというか……
 暗すぎて夜の中から覗いてるみたいだから、私には逆にわかっちゃう感じ』
「そんな嫌らしい感じはなかったけど……」
『……なんか上手く言えない感じかなぁ。あの人がっていうより、あの人の……うーん、なんて言えばいいんだろう』

夕立が言葉に悩むように唸る。
唸っていたが、ある時、すっとうねりを止めた。
先ほどの警戒の言葉よりも、真剣味を帯びた声色で夕立から桂へと語りかけられる。

『なんか新しく、もう一匹、急に出てきたっぽい。
 今度は、凄く分かりやすい……他のサーヴァントが居たら、気づいちゃうかも、ってぐらい。
 すっごい、『魔っ!』って感じかな?』






609 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:25:19 aXXlUBoo0

午後の授業を休止した上での、急な集団下校。
そんな唐突で予定外の出来事が起こった。
起こったにもかかわらず、桐山和雄は七原秋也を視界に入れずに、七原秋也を殺す方法を考えていた。
集団で集まり、人混みへと逃げられることで今は殺しにくくなった。
NPCへと無闇な被害を与える行動はジョーカーの例を考えるならば避けるべきだ。
とは言え、殺しにくくなったが、ただ、それだけだ。
七原を殺す、それは『方法』の問題ではない。
桐山は七原はマスターだと確信した。
『だから』、殺す。
そう言った今後の『方針』だ。
今は『殺しにくくなった』だけだ。
殺さないでいい理由にはならない。
隙さえあれば、七原を殺す。

「悪魔を一匹、七原に」
『……』

遠く離れた場所に控えたザ・ヒーローへと、桐山は念話で合図を出す。
ザ・ヒーローは何も言わずに『悪魔召喚プログラム』を起動させた。
召喚した悪魔は校舎の屋上に現れた。
『悪魔召喚プログラム』は、あくまであらゆる悪魔召喚の儀式をプログラミングした装置に過ぎない。
そこに魔力の本流はない。
悪魔が現れる場所に邪悪な気配が湧き上がり、あくまでマグネタイトなどの対価は悪魔に直接渡す。
隠密性に長けた宝具でもあるのだ。

「……仕掛けられても放置だ」
『……』

これには目眩ましの意味も持つ。
『そこに超常の存在が居る』という事実を植え付けることで、相手の反応を伺う。
無視をするか、攻撃を仕掛けるか。
どちらにしても、囮だ。
仕掛けきたとしても、本星の主力であるザ・ヒーローが控えている。
いわゆる『後の先』が取りやすくなる。

『……』
「今は、目立つ行動は控える」

事務的な会話を続ける二人。
ザ・ヒーローは悪魔とともに移動を開始する。
悪魔は気配を残したまま街へと隠れ、ザ・ヒーローは桐山との距離を詰めた。

「では、皆さん。一人になることのないよう、また、一人にすることのないよう気をつけて下校を開始してください」

集団での下校が開始する。
と言っても、ニュースを見たのか、何人か保護者とともに帰っていく児童、生徒も見える。
そうでない生徒にしても電車通学の生徒も多い。
完全に最後まで一人にならないということは不可能だろう。

「よろしくお願いします、お兄さん」
「……ああ」

そんな中で、一人の児童が桐山へとペコリと頭を下げた。
松下一郎という児童だ。
帰宅する方向が同じであるために、桐山とともに下校することとなったのだ。
桐山は人を殺すための一手を打った直後とは思えない能面のような顔つきで児童と向き合う。
松下一郎――――悪魔くんのぎょろりとした目と、桐山の無感動な瞳が一瞬交錯した。

「……」
「……」

お互いに何も言わなかった。
お互いに、確信には遠いが、少し気にかかった。
ザインは桐山をじっと見つめた。
ザ・ヒーローは、感情を忘れたように黙し続けた。





610 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:25:53 aXXlUBoo0

「早く帰れると思ったのに、集団下校って……何年ぶりだよ」
「文句言うなよ、アツロウ」

谷川柚子は、木原篤郎と峯岸一哉の会話を聴きながら、呆けるように立っていた。
この二人が何事もないように会話をしているなんて、まるで夢の中のような出来事。
悪魔が居ないというだけで、こうまでも違うのか。
それを気にしている自分が場違いのようだ。

「柚子」
「……」
「柚子っ」
「……えっ、あ、な、なに?」

そんな気持ちを抱いていたからか、柚子は一哉とアツロウを見ながら、話しかけていることに気づいてなかった。
五里霧中、心ここにあらず、といった有り様だ。
一哉は演技がかった仕草で肩をすくめた。
その一哉を見て、柚子は『違う』と反射的に感じた。
目の前の峯岸一哉は、柚子の知る峯岸一哉と少し差異があった。
すなわち、偽物の峯岸一哉。
峯岸一哉以外によって再現された『NPC』なのだろう、そう柚子は思った。
そんなことお構いなしに、一哉は口を開いた。

「言ってやれ、アツロウ」
「あ、お、俺?
 えっと、まあ、ソデコ! 心配すんなって、警察も大きく動いてるらしいぜ?
 Twitter見るだけでも、なんか結構大事になってるみたいだし……逆に、それって安全だろ?
 警官の前で襲ってくるような犯罪者なんかいないって!」

柚子の考える通り、柚子の前に居る峯岸一哉は峯岸一哉ではない。
しかし、それだけでは50点だ。
目の前の峯岸一哉は峯岸一哉ではないが、同時にNPCでもない。
峯岸一哉のサーヴァント、バビル2世の従者、不定形生物『ロデム』が峯岸一哉を演じているだけなのだ。
その事実を柚子は知らず、柚子のサーヴァントであるアサシン――――明智光秀も気づいていない。
柚子は一哉が見せる違和感を、NPC、すなわち本物ではないからこそ生まれるものだと認識した。
気配察知のスキルを持たない光秀はロデムの気配遮断を見破れない。
故に、二人は目の前の存在が敵であることに気づいていなかった。

『マスター』
「……なに?」
『何かが現れた』

そんな中で、光秀が沈黙を破った。
滅多なことで話しかけてこない、生真面目な光秀をおざなりに扱うことはしない。
今から紡がれることは、間違いなく忠告の言葉だからだ。
光秀はそう言ったサーヴァントだ。

『邪悪な気配、ね』

悪魔の気配を、明智光秀は感じ取っていた。
悪魔を連想させる名を聴き、谷川柚子の鼓動は高まった。
東京は未だに、魔に支配されていることを、柚子は今、再認識した。






611 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:26:31 aXXlUBoo0

七原秋也の周囲には複数の主従が居る。
アーチャーのサーヴァント、白露型駆逐艦四番艦『夕立』とそのマスター、羽藤桂。
ランサーのサーヴァント、獣の槍とそのマスター、衛宮切嗣
ライダーのサーヴァント、ザインとそのマスター、悪魔くん。
アサシンのサーヴァント、明智光秀とそのマスター、谷川柚子。
キャスターのサーヴァント、加藤保憲とそのマスター、ふうまの御館。
ザ・ヒーローのサーヴァント、ザ・ヒーローとそのマスター、桐山和雄。

重要な事は二つ。
七原秋也はこのいずれの主従の正体を知らないということ。
七原秋也はこのいずれの主従をも殺す覚悟をしたということ。

定まった出来事は二つ。
ジョーカーの手によって、街中は警察が大勢でパトロールしているということ。
桐山和雄の手によって、一匹の悪魔が現れ、それは英霊ならば感じ取れるものだということ。

七原だけが知っていることは一つ。
中学校の付近にはキャスター、操真晴人の使役する使い魔が周囲を探っていること。

七原が知らないことは一つ。
桐山和雄はすでに自分を殺そうとしているということ。

不確定要素は、無限。
ジョーカーの存在、リエンスの存在、あるいは、ソレ以外のマスターの存在。
ギーグの存在、カオスヒーローの存在、あるいは、ソレ以外のサーヴァントの存在。
ひょっとすると、ルーラーであるシビュラシステムの介在もあり得るかもしれない。

確定された未来は存在しない。
未来は神のみぞ知る世界。

さて、七原秋也の運命は――――


612 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:27:49 aXXlUBoo0

【A-2/新宿・東京第一高校/1日目 昼】

【七原秋也@バトル・ロワイアル(原作小説版)】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]ベレッタM92F
[道具]エレキギター(メーカー指定なし)等
[所持金]少なめ(ただし、施設と中学で暮らしているので生活には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る。
1.クラスメイト(特に桐山和雄)に対して危機感を覚えている。
2.学校以外の時間は音楽で不満をぶつけていく。
[備考]
※桐山和雄と同じ中学校(少なくともクラスメイトの構成は城岩中学校3年B組と同一)のクラスメイトです。ただし、クラスメイトは全員、東京都民に改変されています。
※夜は施設を抜け出して駅前でストリートミュージシャンとしての小遣い稼ぎする事を目論んでいますが、初日の段階で一銭も入っていません。
※ジョーカー討伐クエストについて把握しているかしていないかは、後続のSSにお任せします。
※東京第一中学校に通っています。

【操真晴人(キャスター)@仮面ライダーウィザード】
[状態]健康
[装備] 『呪文詠う最後の希望(ウィザードライバー)』
[道具]プレーンシュガーのドーナツ
[一時的に召喚している道具]マシンウィンガー
[所持金]少しある?(小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの「最後の希望」になる。
0.七原を彼の住んでいる場所まで連れていく。
1.七原の学校生活には注意を向けておく。
[備考]
※外出している為、まだジョーカー討伐クエストの連絡を受けていません。
※七原の通う中学校に、「使い魔(プラモンスター)」を偵察させておく予定です。
 特に、警戒している桐山和雄の監視は学校外でも欠かさないようにするつもりです。
※ジョーカー討伐クエストについて把握しているかしていないかは、後続のSSにお任せします。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです



【桐山和雄@バトルロワイアル(漫画)】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]イングラムM10サブマシンガン
[道具]制服
[所持金]中学生にあるまじき大金
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1:放課後辺りに七原秋也を暗殺する。
2:図書館へ行きたい。
3:魔術的知識を得て、悪魔召喚プログラムを完成させる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※東京第一中学校に通っています。

【ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[装備]無銘の剣、イングラムM10サブマシンガン、悪魔召喚プログラム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1:どうでも良い
[備考]
※悪魔を召喚しました、どのような悪魔かは後続のSSにお任せします。


613 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:29:04 aXXlUBoo0

【羽藤桂@アカイイト】
[状態]やや精神的に不安定
[令呪]残り3画
[装備]通学用鞄
[道具]なし
[所持金] 数千円
[思考・状況]
基本行動方針:戦わず聖杯戦争から脱出したい……はず
1:勝手に連れて来られて不正参加の疑いってどういうことなの……
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※東京第一高校に通っています。

【夕立@艦隊これくしょん】
[状態] 健康、霊体化中
[装備] なし(装備を実体化させていません)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:桂の言うとおりに動く
1:マスターは願いについていろいろ考えてみてもいいっぽい?
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔の気配を感じ取りました。
※索敵能力の関係と、至近距離に接近することで、切嗣に嫌な気配を感じました。


【谷川柚子@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:悪魔……
[備考]
※峯岸一哉がロデムだと気づいていません。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔の気配を光秀から知らされました。
※東京第一高校に通っています。

【アサシン(復讐ノ牙・明智光秀)@戦国コレクション(アニメ)】
[状態]健康
[装備]銃、日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:行動方針は柚子に任せる。特別な行動を起こすつもりはない。
[備考]
※峯岸一哉がロデムだと気づいていません。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔の気配を感じ取りました。


【ロデム@バビル2世】
[状態]健康、峯岸一哉に変身
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:峯岸一哉とバビル2世に従う。
1:このまま峯岸一哉として振る舞う。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※東京第一高校に通っています。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


614 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:29:46 aXXlUBoo0

【松下一郎@悪魔くん 千年王国(全)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:ザインの宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:ジョーカーの討伐報酬は魅力的に感じています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです

【ライダー(ザイン)@真・女神転生Ⅱ】
[状態] 健康
[装備] テンプルナイトとしての装備
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:自身の宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:今の自分ではジョーカー討伐は難しいと考えています。
3:ロウヒーローに対して、複雑な感情を抱いています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


【衛宮切嗣@Fate/Stay Night】
[状態]ダメージ(極小)、疲労(中)
[装備]獣の槍
[道具]和装
[所持金]ほどほど
[思考・状況]
基本行動方針:確固とした方針を定められていません。
1:ただ、憎しみを唆す想いだけが募る。
2:ラーマを迎えに来た。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※カーズをサーヴァントと認識しました。
※アマテラスをサーヴァントと認識しました。
※ラーマを迎えに東京第一高校に来ました。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


【獣の槍@うしおととら】
[状態]なし
[装備]封印の赤織布
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:憎しみ
1:憎しみ。
[備考]
※今は衛宮邸の土蔵の中にあります。


615 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:30:06 aXXlUBoo0

【ふうまの御館@対魔忍アサギ 決戦アリーナ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]忍者刀、苦無
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、『ふうま』を再興し、この暗黒の世界の支配者となる。
1:ジョーカーを討伐し、報酬を手に入れる。
2:このガイア教の裏にいるサーヴァントを調べあげ、宝具・スキルを邪眼で奪い取る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団に潜入できます。
※邪眼・魔門によってストックしてある能力は不明です。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


【キャスター(加藤保憲)@帝都物語】
[状態]健康
[装備]関孫六
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:大和を、『東京』を滅ぼす。
1:加藤の中にあるものは『東京』を滅ぼす、その一念だけである。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ガイア教の裏に居るサーヴァントが『第六天魔王』の呼称を持つ、もしくは親しい存在であると考えています。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


616 : 遠き山に日落ちずとも -あるいは命堕ちる家路- ◆devil5UFgA :2015/04/02(木) 04:32:34 aXXlUBoo0
投下終了です
そして、御館様の状態表を間違えたのでこちらに修正
長らく独占する形になって申し訳ないです



【ふうまの御館@対魔忍アサギ 決戦アリーナ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]忍者刀、苦無
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、『ふうま』を再興し、この暗黒の世界の支配者となる。
1:ジョーカーを討伐し、報酬を手に入れる。
2:このガイア教の裏にいるサーヴァントを調べあげ、宝具・スキルを邪眼で奪い取る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団に潜入できます。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです

※邪眼・魔門によってストックしてある能力は催眠術系統の異能です


617 : 名無しさん :2015/04/02(木) 04:49:47 HUHVzUks0
投下乙です

すごい参加者密度だ……
お互いに参加者と気づいてないからこそのニアミスの嵐
誰かが動けばまず間違いなく始まる大乱闘
そんな緊張の状態で七原に向かって放たれた悪魔
何事もなく上手く立ち回れれば悪魔一体で収まるだろうけど、合計六組の主従に加えてジョーカー組、リエンス組、魔人の固有結界と不確定要素も多々ある
狙われるのが七原なら、まず鱒バレするのも七原、迎撃に出て逆に大打撃を被りかねない
これはどうなってしまうのかが今から気にな……

>あるいは命堕ちる家路

あっ(察し)


618 : 名無しさん :2015/04/02(木) 05:20:29 5Ls6QNbM0
投下乙です!
「魔」が蠢く帝都の雰囲気が良かったです。
しかし、七原は大人気ですね!


619 : 名無しさん :2015/04/02(木) 05:28:36 vx5MQh1o0
おお投下乙です
妖怪魑魅魍魎が跋扈しだし、一触即発の雰囲気があります
緊迫した場面におじさんたちの歌が細やかな笑いを届けてくれました


620 : 名無しさん :2015/04/02(木) 10:42:08 HHUlcrMo0
投下待ってた!乙です!
多くの参加者の交錯と状況の変化を描く面白さはすでに言われてる通り。個人的には、帝都物語を軸にしたまつろわぬ妖怪たちとこの東京の重ね合わせに唸りました。聖杯戦争SSなのに土俗的なフォークロアの面白さも併せ持ってる、これぞ帝都聖杯…!


621 : 名無しさん :2015/04/02(木) 21:11:03 JeNm9KcY0
投下乙です!
世界が違う魔すら容易く推理する加藤の器量の深さに驚きました
いよいよ山の手線内が「東京」と「聖杯戦争」の闇に包まれて
災害的な悲劇が起こりそうですね
あと七原は強く生きて


622 : ◆devil5UFgA :2015/04/13(月) 23:47:00 Kn5.0QwY0
神狩屋(鹿狩雅孝)&セイバー(カーズ)、
渋谷凛&ランサー(アドルフ・ヒトラー)、
槙島聖護&キャスター(フェイト・アーウェルンクス)、
ルーラー枠で常守朱を予約します


623 : 名無しさん :2015/04/19(日) 19:40:50 QRcxUuxY0
ジョーカーが原作から映画になったのはオリジンが諸説あるし原作読むのに敷居高いからか
仕方がないがどうせならTDKに絞らず書き手ごとに様々なジョーカー像を思い浮かばせるようにした方が面白みがあったな


624 : 名無しさん :2015/04/19(日) 21:48:14 JZerP5h20
そう…(無関心)


625 : ◆devil5UFgA :2015/04/22(水) 00:39:12 srTMEkkw0
明日の夜、もしくは明後日の夜に投下させていただきます


626 : ◆devil5UFgA :2015/04/23(木) 22:56:58 MfWkjLNg0
申し訳ありません
本日投下予定でしたが、間に合いませんでした
重ね重ね申し訳ありません


627 : 名無しさん :2015/04/23(木) 23:44:37 J6FBPVpA0
>>1のペースでいいんでゆっくり待ってます


628 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 02:58:12 0EbctRZs0
投下させていただきます
そして、すみません
ルーラー枠の常守朱ですが、書き進めているうちに、話から独立してしまい、予約分と関係ないものになってしまいました
今回投下するSSでは渋谷凛ランサー・槙島聖護キャスター・神狩屋セイバーの三組だけになります


629 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 02:59:51 0EbctRZs0


夢を、夢を生きているような人生だった。
間違いなく渋谷凛自身の人生なのに、自分のものじゃないような、そんな、夢の様な日々だった。
光が眩しすぎて自分のことすらよく見えなくなっていた。
それでも、隣にいてくれる人が居たから、その道を迷うことなく歩けた。

今も、輝けている。
皆のおかげで、隣にいてくれる人のおかげで。
凛は笑った。
クールだとか言われている彼女には似つかわしくない、しかし、あまりにも魅力的な。
童女のような、輝いた笑みだった。
楽しく、嬉しかった。
凛は笑った。

その瞬間だった。

「――――!」

観客が、隣にいる仲間が。
突然、仮面を被っている『ように』見えた。
いや、実際にはなんの変化もない。
みんな、いつものような顔だ。
自然な、はずの、顔。
それでも、凛の目には、突然仮面を被っているように見えた。
後ずさった。
後ずさり、後ずさり、後ずさり。
全てから目を背けるように、顔を覆った。

カポッ、と。

自身の顔から、今まで顔を覆っていた仮面を外したような音が聞こえた。







630 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:02:06 0EbctRZs0

パッと、目を覚ました。
全身から脂汗が流れ出る。
凛に不快感が襲いかかる。

「……ここは」

路地裏だった。
ご丁寧にシートを敷いて横になっていた。
誰がやったかなんて、考えるまでもない。
とにかく、凛へと威圧感を与える、嘲笑を常に貼り付けた自身のサーヴァントだ。
凛はランサーの姿を探す。
そこに、ランサーの姿はなかった。
代わりに、一人の青年が居た。

「……誰?」
「どうも、マルクと言います」

凛らしからぬ、初対面の相手に対する礼儀を逸した刺のある言葉だった。
マルク、と名乗ったドイツ人青年はそれを気にすることなく応えた。
それだけを見れば、好青年のように思える。
しかし、凛には目の前のドイツ人青年がただの青年でないことは理解できていた。
何かしらの理論に基づいた理解ではない。
ただ、魔術と呼ばれる類のオカルト的な不可思議な感覚と。

――――その口元に仮面のように張り付いた、全てを弄ぶような嘲笑が、凛に全てを理解させたのだ。

「我らが総統<<フューラー>>は少々お留守にしています。
 もちろん、その令呪で呼んで頂ければ飛んで来る、とのことです」
「……総統?」
「第三帝国、あるいは『最後の大隊<<ラストバタリオン>>』の偉大なる指揮官。
 『聖槍騎士団<<ロンギヌス・サーティン>>』ですら持てぬオリジナルの『失楽園<<ロンギヌス>>』を所有する人物。
 そう、貴方のサーヴァントであるアドルフ・ヒトラー総統です」

凛は深く息を吐き、眉をしかめた。
やはり、同一だ。
この人をおちょくったような口ぶり。
大層な言葉を言いながらも、人を小馬鹿にすることしか考えていない。


631 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:02:49 0EbctRZs0

「『月に吠えるもの』というスキルは、先ほどのように総統閣下のペルソナを呼び寄せるだけではありません。
 僕らのような存在も召喚することができるんです」
「……ッ!」

その言葉を聞いた瞬間、ガマガエルを口元に押し詰められたような不快感が襲いかかった。
『先ほどのように』
『総統閣下のペルソナ』
闇色の触手に、まるで吸盤のように張り付いた無数の仮面。
凛は脚が震え、助けを求めるように壁にもたれかかった。
そんな凛の様子を簡単に無視して、マルクと名乗った『仮面』の一つは言葉を続けようとする。
ああ、そうだ。
仮面だ。
あの仮面に、この青年の顔もあった。
吐き気が襲った。
いや、実際に嘔吐をした。
裏路地に黄みがかった吐瀉物がばら撒かれ、凛の口内に、ツン、とした酸っぱい臭いが広がった。
それでも、マルクという自身のサーヴァントの『仮面』はその嘲笑を消そうともしない。

「僕らは最低のランクではありますが、単独行動のスキルを所持していますので、貴方の負担にはなりません。
 サーヴァントに襲われればひとたまりもありませんがね」
「……じゃあ、さっさとそういうことはやっててよ」
「これは噂が広まったお陰です。
 本当、僕や親衛隊の方、そして、シュトロハイム大佐殿が顕現できたのもついさっきですから」
「まだ……居るんだ。アンタみたいなの」

半ば敵意に近い色を込めた言葉をつぶやく。
凛は目を一度つむり、ゆっくりと息を吐く。
やはり酸味の強い、胃液の臭いが鼻に広がる。
その臭いを無視して、凛は自身の震える脚を、パン、と叩いた。

「卯月のところ、行かなきゃ……」

震える脚と震える声で呟いた。
ジョーカーは、何とかしなければいけない。
そこで『殺す』と、心のなかでさえ思えないほどに、凛の心は不安定だ。
何とかしなければいけないが、殺意という一線は確かに存在する。
その中で、島村卯月と出会った。
ある意味、逃げ場が出来た。
卯月と話し、これからのことを考えるという逃げ場が。

その、問題を先送りにするような心中を読み取ったかのように。
マルクという『仮面』の嘲笑が深まった。







632 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:03:09 0EbctRZs0

「紅い月の話、知ってる?」

ガタン、ゴトン。
ガタン、ゴトン、と。
電車が走る音に掻き消されるような声量で、二人の少女の会話は続く。
肩を寄せ合うような距離で呟かれる、その会話。
側に走る電車の轟音によって、二人にしか聞き取れない、他者から秘匿するような会話。

「どうしても叶えたい願い事を持つ人の前に、月のない夜に紅い月が浮かんでくる。
 その月を見た人は、月に運ばれて夢を叶えてもらえる……でしょ?
 アンタが言ったんでしょ」

呆れたようにつぶやく少女。
問いかけた少女は、その答えを聞いてクスクスと笑った。

「じゃあさ、その続きのお話は知ってる?」
「知らないよ、そんなの」

半ばうんざりしたように、しかし、どこか楽しそうに応えた。
少女は、その相対する少女と語り合えること自体が楽しかったからだ。
もちろん、それを表立って口にすることはないが。

「紅い月の話には続きがあってね、残念ながら、簡単に願いは叶わないんだって」
「そりゃ、そうよね」

短く答え、次の言葉を待つ。
だというのに、おかしそうに笑う少女。
ムッ、と口を尖らせた。

「で、続きはなんなの?」
「続きはね」


――――聖杯戦争の話。






633 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:03:54 0EbctRZs0

『昨日か、明日か、あるいは、今日か。
 どこか遠い場所で、どこか近い場所で、あるいは、どこでもない場所で。
 奇跡を成し遂げた英霊たち。
 紅い月には、英霊が住んでいる。
 数は、二十ニ。
 紅い月に願いを込めた人たちは、英霊に助力を願い、自らの願望を叶えてもらう。

『英霊はその顔に仮面を付けられ、世界を救った己の超常の能力は限定される』

――剣士<<セイバー>>――

――弓兵<<アーチャー>>――

――槍兵<<ランサー>>――

――騎兵<<ライダー>>――

――魔術師<<キャスター>>――

――暗殺者<<アサシン>>――

――狂戦士<<バーサーカー>>――

――復讐者<<アヴェンジャー>>――

――救世主<<セイヴァー>>――

――淫毒婦<<ファニーヴァンプ>>――

――到達者<<モンスター>>――

――偶像<<ザ・ヒーロー>>――

――必敗者<<ダッジャール>>――

――救世使<<エンジェル>>――

――裁定者<<ルーラー>>――


『紅い月は、英霊と生命を包むこむ器となっている。
 紅い月には、欲望と願いが込められる。
 浮かぶはずのない月が紅いのは、人の血と願いが込められているからだ』

『人が死ねば大地に還る。
 すなわち、紅い月で人を殺し、月に生命が注ぐ。
 生命とは、奇跡の別名である。
 人は生きているだけで、奇跡なのだから』

『二十二の英霊が導く、二十一の選ばれた死。
 残った一つの生命だけが、その奇跡を所有することが出来る』

『英霊は戦い、人々は導かれる』

『願いを叶えられる術を手に入れることが出来る人物は、たったひとりだけ』





634 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:05:23 0EbctRZs0

「『聖杯戦争物語』、か」
「三流ゴシップ誌の一つに載っていたし、ネット掲示板のオカルト話の専門板でも専門スレが出来ているね」

神狩屋(鹿狩雅孝)はパソコンの前に座りながら、共謀者である英霊に語りかける。
背後ではその巨躯を屈めて、液晶のモニターを覗きこんでいる。
セイバーのサーヴァント。
人あらざる、あらゆる生命体を一度は超えてみせた存在。
ある意味では『生命』を超えさせられた神狩屋の同種とも言えるだろう。

「出処は?」
「ネット上のログでの初出はつい最近だけど、『すでに知っている』といった類の書き込みが頻出しているからね。
 このスレッドのPart数もまだ一桁だしね。
 それに、これも若干趣旨が変わってきているよ。
 小説投稿スレッドの旨もあるし、英霊の妄想の類もできてる」

ふむ、とセイバーは顎を触った。
節くれだった木々に生い茂る、八手の葉を連想させる指だ。
生の証であった。
セイバーという存在は、なんと生気にあふれた生き物なのだろうか。
最優のサーヴァントクラスとも言われるセイバーのサーヴァントに相応しい威圧感だ。
殺しても、とても死にそうにない。
そんな神狩屋の視線を気にもとめず、セイバーは言葉を発した。

「ムーンセル、聖杯、ルーラーによる流布の可能性は?」
「今は、なんとも……ただ、それは薄いんじゃないかな」
「根拠は?」
「こっちかな」

ブラウザ内のタブを移し、別のスレッドへと移行する。
眉をひそめる。
しかし、そこに記された文字を見た瞬間、目を見開いた。
目撃情報だ、白い、巨大な犬の。

「『白犬』、先ほどの、か。
 いや、しかし……アレは『狼』だぞ」
「現代人には犬と狼の違いなんて分からないからね。
 もしも英霊だとしたら、かなり意味合いが変わってくるんだけど」

犬の場合は『神の眷属』である可能性が高い。
しかし、狼の場合、それはもはや『神の化身』である可能性のほうが高い。
得てして、狼は害獣退治という『事実』から生じる『信仰』によって神へと昇華されることが多い。

「……特徴も異なるな。『アレ』は太陽を連想させる紅い紋様が刻まれていた」
「まあ、そこは英霊だからね、一般的な人たちには認識できないものだったりするんじゃないかな」
「本当に同一か?」
「この場合、大事なのは同一かどうかじゃないよ。
 齟齬は大きいけど、この噂話の基となり得るものが現実にあるってことさ」

神狩屋自身、会話を好んでいるのだろう。
セイバーも、会話の中に生まれる悦楽というものを否定しなかった。


635 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:05:55 0EbctRZs0

「後は、『ピエロと赤ん坊のサーカス団』なんてものがあるね。
 これは、噂話というよりも都市伝説的な『恐怖』が込められているね。
 実際に起こっている事件を絡めてるからしょうがないだろうけど。
 それ以外は……本当にただの噂話で止まっているね。
 例えば、こんな風にね」

『ピエロと赤ん坊のサーカス団』とは、十中八九、ジョーカーとバーサーカーのことであろう。
おおっぴらに動いていることは、ルーラーからの討伐令によって容易に察することが出来る。
画面に表示される情報からは、ルーラーより与えられた以上の意味はなさそうだった。
神狩屋の操作によって画面が入れ替わる。
セイバーは何度目にもなる不可解な表情を浮かべてみせた。

「『聖槍騎士団(ロンギヌス・サーティン)』……?」
「『最後の大隊(ラストバタリオン)』の類だろうね。
 『宇宙からの復讐のカタストロフィ』、俗にいう『大崩壊の日』に第三帝国が蘇るってものさ」
「……くだらんな」
「お話なんて、のめり込めなきゃそんなものさ。
 まあ、人をのめり込ませるものを持っているのがお話ってものだけどね」

簡単に斬って捨てるセイバーの言葉に、神狩屋は柔らかい口調で応えた。
神狩屋はそのままセイバーへと語りかける言葉を続ける。

「後、これも一応……ラストバタリオン関連かな。
 終末関連って言い換えてもいいんだけど」
「『ガイア教』に『第六天魔王』……悪魔信仰というやつか?」
「半分正しくて、半分違うかな。
 『ガイア』、つまり地球……引いて言えば、その大地を産む『大地母神』に連なる看板だね。
 そして、第六天魔王は『欲界』の最高位、すなわち色欲の象徴。
 古代バビロニアなどでは神に近しい立場である『巫女』は『娼婦』の一面もあり、性交は穢れたものではなかった。
 一神教の推進で悪魔へと落とされた神々、つまりは『祖神』を崇めようってことだろうね」

かなり乱暴な言い方だけどね、と。
神狩屋は付け加えるようにつぶやき、セイバーは短く頷いた。
視線だけで神狩屋の言葉の続きを促す。

「探って面白そうな単語だけなら他にもあるけど……
 いわゆる、サーヴァントの基となる英霊の情報。
 その英霊がこの東京に現れるといった趣旨の書き込み。
 もしも、こう言った類の情報をルーラーやムーンセル達、運営側が連想させるものを流してるのなら、
 少しばかり不公平ってものかな」

見つけたものだけならば、『アンゴルモアの大王<<軍神マルスの使い>>』と言ったものまである。
恐怖の大王アンゴルモアが世界に降り立ち、あらゆる破滅をもたらすという、一時期日本でよく流行ったオカルトだ。
カーズは眉をひそめた。
大崩壊の日に現れるという『最後の大隊<<ラストバタリオン>>』である『聖槍騎士団<<ロンギヌス・サーティン>>』。
この世を秩序のもとに統一している唯一神へと抗い、混沌という自由を齎す教義を持つ『ガイア教』。
そして、世界を滅びに導く『アンゴルモアの大王<<軍神マルスの使い>>』。

「どれもこれも、自分たちを殺すものだな。
 滅びたがっているのか、人間は?」
「そうだろうね」

神狩屋は頷いた。
人は無意識の部分で悪夢に侵されている。
人の心が棲む、奥の奥の、そのまた奥。
そこから浮かび上がった悪夢の『泡』。
人は、無意識にその悪夢を感じ取っている。


636 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:06:39 0EbctRZs0

「そんな中で、救われたがっているのさ。
 この『白犬』はそういうものだろうね、『綺麗』だとか、『可愛い』だとか。
 好意的な意見が多い……この白犬は、一種の希望でね。
 こういったものに救われることで」
「救われる……分からんな、自分で全てを成し遂げればいいだけだ。
 そもそも、滅びたいのならば勝手に滅びればいいだけだろうが」

セイバーは簡単に言った。
超然としたセイバーには、何かに頼る、と言った類の思想が遠いのだ。
神狩屋は笑った。

「そう言える人のほうがずっと少ないのさ。
 救われたいと想ってるけど、救われないと分かっている。
 だから、いっそ滅んでしまいたいと思っている。
 ネガティブなんだよ、人間は。
 君たちと違ってね」

そう言いながら、キーボードを叩く。
『白犬』に関連するスレッドへと書き込みを行っているのだ。
白い毛皮をした、目立つ狼だ。
噂は流布がつき、真偽が入り混じるが、それほど何もない

「セイバー、君に任せるよ」
「……」
「僕は君を応援するし、君の邪魔をしない。
 君が『ピエロと赤ん坊のサーカス団』を殺そうというのならば、それを手伝う。
 君がこの『太陽の狼』を殺そうというのならば、それを手伝う。
 主権は君にある」
「言われるまでもない」

セイバーは、半ば増上慢といった様子で言い切る。
セイバーはそう言った姿が、嫌味でもなんでもなく似合う、男だった。

「さあ、セイバー」

その瞬間。
神狩屋とセイバーは扉へと視線を移した。
正確には、その扉の向こうから漂う『サーヴァントの気配』へと視線を移した。

「『聖杯戦争』を始めよう」

先手必勝。
セイバーの幹のように太い脚が、扉を蹴破った。






637 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:08:48 0EbctRZs0

「キャスターは『TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)』はやったことがあるのかな?」

肌も髪も白い、白に塗りつぶされたような男が、虚空へと語りかける。
白猫のような生物的な白さというよりも、雪のような人の手から超越したものを連想させる白さだった。
その白い男の言葉に答えるように、背後へと一人の少年が現界する。
訪れたのではなく、そこに突然現れた。
男と同じく、白い少年だった。
ただ、こちらは自然物としての白というよりも、人工物としての白さを連想させる類の白さだった。
少年の整った唇が開かれ、言葉が紡がれる。

「経験はないね」
「僕もないんだ」

だから、ある意味では今回が初めてになるね。
男、槙島聖護は何が面白いのか、愉快げに笑った。
少年、キャスターのサーヴァントは黙って続く言葉を待った。

「複数人が集まってやる、役割演技ゲーム。
 コンピューターは要らないし、最悪サイコロと紙と筆記用具さえあればどうとでもなる。
 だけど、今回のTRPGでは実際に身体を動かすし、ダイスロールも僕たちの目には見えない。
 目的も知らなければ、GM(ゲームマスター)が提示してくる情報も限られている。
 ただ、ダイスを振って物語が動くことを待たなければいけない」
「この聖杯戦争はTRPGと言いたいのかい?」
「基礎は同じだろう?
 『僕たち』は『僕たち』という『役割』で動くことを割り振られ、
 『ムーンセルや聖杯』から提示された物語を独自に解いていく」

槇島の理念のようなものだった。
生まれ落ちた時、世界から何かしらの役割を与えられて、それに従うか、従わないかを決める。
世界は、ゲームだ。

「その理屈だと、NPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)はGMの管轄となるね。
 僕たちはムーンセルや聖杯には干渉出来ないが、NPCを通じてならGMに干渉することが出来る。
 だから、マスターはNPCに『働きかけている』のかい?」
「それも、少し違うかな」

キャスターの答えは模範的解答であり、槇島の言葉から続くものとしては自然なものだった。
しかし、槇島はそれを否定する。

「NPCが『管理の怪物』による、規格外のマルチタスクの可能性もある。
 僕がNPCに語りかけた言葉を、ムーンセルが処理し、NPCを通して応える。
 あるいは、高度なプログラミングによる自動処理での応答。
 可能性は高いだろうけど……僕は彼らにも夢が見たい」
「夢、かい?」
「彼らは高度に組まれたAIであっても、そこに電脳的生命として取り扱われるのならば、魂足りえるという、夢を。
 ムーンセルの神秘を宿すほどの高度なプログラミングだからこそ存在する、生まれるはずのない奇跡。
 雑多な記号の集合体が、新たな意思となり得る夢を」

槇島の言葉に、キャスターは首を振った。
キャスターはどのような言葉を返すことも出来たし、フェイトの思想を槇島にぶつけることも出来た。
しかし、今回は槇島の広げる『展開』に『乗る』ことに決めた。
やや、大げさに槇島へと否定の言葉をぶつける。


638 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:09:01 0EbctRZs0

「それは、猫がタイプライターでシェイクスピアを書き上げるだけの、ただの偶然だよ。
 僕らが魂が宿ったと勘違いしているだけで、実際はただのプログラミングだ。
 哲学的ゾンビに過ぎない、それを魂だと証明する手段はない。
 ムーンセルであるかぎり、『魂』はない。
 少なくとも、全員が魂を持ち得ているはずがない。
 それは『エラー』だから」
「だろうね」

その否定の言葉を、あっさりと肯定した。
キャスターは言葉を待った。
自身のマスターはこういった、半ば言葉遊びにも近い会話を好む。
正確に言えば、そこから生まれる、ある意味では無意味な脳の動きを好む。

「正直な話をすると、この場所にNPCなんて居ないんじゃないかな、って思ってね」
「…………?」

キャスターは眉をひそめる。
槇島は照れたように笑い、言葉を続けた。

「僕の妄言さ……何しろ、僕には知らないことが多すぎる。
 箱のなかに人が居ると幻視して、手裏剣をブラウン管テレビへ投げつけているようなものさ」
「彼らには魂が存在しないよ」

キャスターは、半ば自身すらも否定するようなその言葉を紡ぐ。
しかし、自身の背景とこの東京のNPCの背景では、定められた条件が違う。
ムーンセルは観測機だ。
それ以上であることを、それ以下であることを、ムーンセル自身が否定する。
意識というものを、魂というものを。
観測機であり続けるために、ムーンセルは何らかの『主観』を否定する。
キャスターの存在理由とは、明らかに異なる意思だ。

「さて……」

歩きながら話し続けていた二人は、目的について
そこには『神狩屋』と記された看板を掲げられている。
槇島では知る由もない昭和初期を連想させる年代物の店だった。

「古物、西洋アンティーク……相変わらず、この店自体が骨董品みたいなものに見えるけどね」
「『とても良い』、というやつさ。
 理論ではない魅力がある」
「そして、サーヴァントも存在する」

キャスターの言葉に、槇島は笑った。
今回、キャスターは現界している。
現界したサーヴァントには当然として神秘としての気配が生じる。
隠そうとも隠し切れない。
サーヴァントとは、それほどの存在なのだ。
二人は店内に足を踏み入れようと、キャスターが扉へと手をかける。
現界したキャスターが扉を開いた瞬間、激しい衝撃が訪れた。





639 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:09:49 0EbctRZs0

セイバーの巨大な幹のような脚が扉を吹き飛ばす。
同時に、扉の奥に潜んでいた、扉がキャスターの身体が吹き飛ぶ。
キャスターも事前にサーヴァントが潜んでいることは予想していた。
トップクラスの筋力を持つセイバーの蹴りの直撃は避けた。

すぐさま呪文を唱える。
人の呼吸を上回る、拘束詠唱。
ただでさえ簡略されたその詠唱は、神狩屋と槇島の瞬きの間に効果を発動する。
『石』が蠢いた。
地面から飛び出たその『石』は、カーズの彫刻のように細かく刻まれた腹筋へと襲いかかる。
それは『石の槍』、人を貫くもの。
暴れ狂う像すらも一撃で殺し得る魔の槍。

「……!」

しかし、『石の槍』はセイバーの身体に触れた瞬間、溶けるように崩れ去る。
セイバーの推進力を妨げることも出来ず、崩れるような形でフェイトは横に転がった。

「三騎士か……!」

キャスターは体勢を立て直しながら、強力すぎる対魔力に舌打ちを鳴らす。
セイバーの攻撃は止まない、繰り出された蹴りを掻い潜り、強化した拳を打ち込む。
特徴的な体捌き、中国拳法を連想させるものだ。
至近距離であり、崩れた体勢であっても打ち込まれる縦拳。
それでいて充分な威力を持つ。
それこそが『技』だ。

「……!?」

しかし、その拳がセイバーの身体を『打つ』ことはなかった。
キャスターの固く握った拳が、セイバーの身体へと吸い込まれていく。
まるで『消化』されるように、だ。

「波紋もなし、ならば、問題はない」

セイバーはまるで舌先で肉を転がすようにつぶやく。
そのまま、腕から己の宝具を展開する。
その宝具は『剣』だった。
キャスターは魔術が通用しないからこそ拳法を利用しての至近距離の攻撃に移った。
その距離が命取りとなる。

「スゥ……!」

キャスターは短く息を吸ってみせる。
一瞬、セイバーと視線が交錯した。
その後、刃が振り下ろされる。
そこからはもはや曲芸のような戦闘だ。
いや、戦闘とも呼べない。
もはや単なる回避。
剣が人工物のような白さを放つ髪が引き裂く。
その風速により、頬が血を流す。


640 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:13:39 0EbctRZs0

「ダ……メ……だ……ッ!」

ただ、逃げるだけではダメだ。
逃げることすら不可能に成る。
避けながら。
息を吐くという行為すら戦闘の邪魔となり得るほどの緊迫を感じ取りながら。
拳の失くなったキャスターは、血と肉がむき出しの腕を刃へと当ててみせる。
拳とは呼べなくなったその打撃で、セイバーの斬撃の流れを変更する。

「……弾かれ!」

しかし、そんな行動すらもセイバーへと届かない。
その刃がただの刃ではないとはわかっていた。
しかし、その刃が放つ光が、超振動による光の反射であるとは見抜けなかった。
ただでさえ鋭さを持った刃が振動することで、あらゆる硬度を持つ物体の切断を可能としているのだ。
事実、キャスターの腕は再び切り刻まれた。

「……ッ!」

キャスターは息を呑んだ。
目の前のセイバーは規格外だ。
十万年という規格外の年月が育んだ幻想の対魔力。
全身が消化器官である奇跡の肉体。

魔術も、拳法も、いずれも。

――――セイバーは『技』に頼る以前の、『不意の隙』すらもカバーする防御法を備えている。

「ッシ!」

キャスターの焦りを無視するように、セイバーの猛攻は続く。
振るわれる刃と蹴りからは、その筋力がトップクラスのものであることは充分に察することが出来る。
攻防において隙のない、まさしく最優のサーヴァント。
フェイトはセイバーの、一撃一撃が必殺である攻撃を避けながら、思考を深める。
半ば自暴自棄に近い考えのもとに、残った自身の片方の拳を石化させる。
石化により硬質させた拳を、セイバーの脚へと打ち込む。
蹴りにより弾かれるが、その拳は先ほどのように『捕食』はされなかった。
しかし、その蹴りも勢いこそ弱めたものの、小柄なフェイトの身体は吹き飛んでいく。

「……ッハァ!」

吹き飛ばされたことで、距離が生まれた。
セイバーは距離を詰めようとしない。
キャスターは身構え続け、次の攻撃へと備える。
自ら攻めるような事はできない、現状、キャスターからの攻撃は自殺の別名だ。
しかし、セイバーは動かない。
キャスターは、それを余裕だと判断したが、実際には異なる。
それ以上奥に入ると、隣家によって遮られている『太陽光』がセイバーの身体を刺す。
『聖杯戦争』の『限界』によって、『原初の一<<アルティメット・シイング>>』の能力は失われている。
それは一度は神に等しい力を手に入れたセイバー自身がよく把握している。
はっきり言ってしまえば――――弱いのだ、セイバーにとって、今の自分は。
キャスターを圧倒しながら、それでもなお、セイバーの基準では。


――――セイバーは、セイバーが失望するほどに弱いのだ。


.


641 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:14:23 0EbctRZs0

「凄い、凄い」

パチパチ、と。
ただキャスターを見据えるだけのセイバーへと向かって、槇島が手を叩いて賞賛を行う。
手と手を叩きながら、前へと進み出る。
それでも、キャスターの背後に留まるばかりだが。

「これが英霊というものなのかな。
 正直な話、これほどとは思わなかったよ。
 実に刺激的だ、シビュラが規制したフィルムでもこれほどの興奮は味わえないだろうね」

セイバーはマスターという、あらゆるサーヴァントにとってのウイークポイントとなり得る存在に目もくれない。
ただ、つまらなさそうに背後へと視線を向けた。
その先にはセイバーのマスターである神狩屋がカウンターに座っている。

「いらっしゃい」
「前に言った通り、また来させてもらったよ。
 今度は友人も連れてきたんだ」

キャスターは『何を今更』と、内心で憤りが湧きかける。
しかし、それはある種では理不尽な怒りだ。
ひと目で分かる。
これは『試験』のようなものだ。

「セイバー、どうかな?
 僕としては理想的な人たちだと見えたんだけど」
「悪くはない、キャスター――――だろうが」
「うん、キャスターみたいだね」
「これだけ出来るのならば、問題なかろう」

それはキャスターの実力ならば主導権はこちらが握れる、と言った意味合いの色が込められていた。
そうだ、セイバーと神狩屋は協力者を探していたのだ。
弱すぎず、しかし、強すぎない。
不愉快ではあるが、
セイバーが持つ異常なまでの、規格外という言葉すら子供騙しに思えるほどの対魔力。
魔術師<<キャスター>>である限り、セイバーは天敵以上の何者でもない。
もちろん、キャスターとて魔術以外の戦闘法を持ち得ている。
それでも、魔術という一つの手段を奪われることは事実なのだ。

「どうやら、友好的な関係になれるようだね」
「どうぞ、神狩屋へ。歓迎するよ」

そう言って、神狩屋は自身のステージへと槇島を誘った。
神狩屋は不死であるためにあらゆる攻撃に対して無警戒であった。
死こそが、己の求めるものだ。

「キャスター、良ければ扉を直してくれるかな?」
「……ああ、構わないよ」

やれやれ、と。
まだ痛みの残る身体を動かして、蹴破られた扉を軽く持ち上げる。
この程度の修復、超級の魔術師であるキャスターにとってはまさしく朝飯前と言ったところだ。

「相変わらず、静かな『良い』店だ……ここにいると時の流れから切り離されるようだよ」
「今の時代、過去を振り返る余裕なんてないものです」
「勿体無いことだよ。時代によっては、過去を振り返ることすら許されないというのに」

神狩屋の背中を追いながら、槇島は語りかける。
キャスターは無言だ。


642 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:15:02 0EbctRZs0

「店主の名前は?」
「鹿狩雅孝、神狩屋で構いませんよ」
「僕は槙島聖護……フフ、まるでお見合いだね」

キャスターを尻目に槇島は店内の奥、神狩屋の私室へと向かう。
ものの数十秒もしないうちに、キャスターも私室へと訪れた。
やはり、その室内自体がアンティークと言った様相の部屋だった。
二人は、年代物だと思われる椅子へと腰掛ける。

「先ほどの爆発、店主はどう見ているんだい?」
「ジョーカーとバーサーカーが関連しているでしょうね……襲いかかるなら今でしょうが」

そう言いながらも、神狩屋は動こうとしなかった。
前述のとおり、セイバーにとって太陽光は天敵だからだ。
神狩屋が動こうと思えば動けただろうが、万が一もある。
神狩屋にはその万が一は願ったり叶ったりといったところだが、セイバーが居る以上はそうは行かない。

「今は、ひと目が多すぎます……どうぞ」

そう言って、神狩屋はコーヒーを差し出した。
キャスターは一口だけ含み、眉をひそめた。
荒っぽい、インスタントの味だ。
コーヒーは好みではあるが、インスタントは好みではない。
槇島はそんなキャスターの表情を見て、クスリ、と笑った。

「友好の証……と言ってはなんだけど、これを差し上げようかな」

そんな二人に気づいているのか、気づいてないのか。
神狩屋は一つの仮面を差し出した。
石で出来た、何か、凄まじい『念』を感じる仮面だった。

「メキシコの方の骨董品かな……?
 あまり造詣が深くないから、詳しくはわからない、イメージの話だけど……地中海や北欧とも異なってるのように見えるね」
「それはセイバーが創りだし、この世に遺した、今なお現存している『宝具』さ」

神狩屋はコーヒーを口に運ぶ。
不精な神狩屋の入れたコーヒーはインスタント以上の味はない。
だが、不精な神狩屋はそれを気にしない。
槇島もまた、味にはこだわりはまだなかった。
キャスターだけが不満気に眉をひそめている。

「興味深いね」
「生前、セイバーは『そっち』の方を仲間とともに旅をして、多くの遺産を残してきたのさ。
 セイバー自身の目的のためと、ちょっとした人生のスパイスのためにね」
「スパイス……『食事』かな」
「正解だね」
「食事はいい、ここに来て実感したよ。
 味覚から生じる刺激は、僕の想像以上にニューロンを刺激する。
 紙の上の読書が調整に向いていると思っていたけど、食事もその代わりと成りかねないほどの刺激だ」

向かい合ったまま、二人はコーヒーを飲む。
キャスターから、食事を肯定するのならばコーヒーにもこだわれ、と言わんばかりの視線が刺さった。
槇島は、再び笑った。


643 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:15:41 0EbctRZs0

「それで、話はまずひとつ。
 一緒に聖杯戦争を繰り広げようということなんだけど……」
「構わないよ、店主」

石仮面を弄りながら、槇島は肯定した。
セイバーのような強力なサーヴァントと手を組むのは戦力的な意味でもメリットが有る。
そして、何よりも槇島は神狩屋を気に入った。
この存在自体がアンティークのような骨董店に居る、存在自体が神秘のような不思議な店主。
一目惚れというと大げさだが、槇島の好奇心をくすぐるには充分なものだった。
キャスターは言葉を挟まない。
マスターである槇島の言葉に異を唱えるつもりはなかった。

「じゃあ、続いて一つ。
 『聖杯戦争物語』というものに心当たりは?」
「あるよ」

『聖杯戦争物語』。
この偽りにして真の東京でまことしやかに語り継がれる都市伝説。
そして、その都市伝説は真実だ。
その真実を広めたのは、ある一人の男。

「僕がネットに書き込んだからね」

槙島聖護であった。
神狩屋は大きな驚きは示さなかった。
むしろ、参加者がわざと広めていたことを予期していたかのように言葉を続ける。

「なぜ、そんなことを?」
「僕はゲームを楽しみたいんだ、この世界というゲームを、ね」

神狩屋の問に対して、槇島は簡潔に応えた。
槇島の存在意義のようなものであり、人生の目的とも言えるものを。

「そのために、ルールをちゃんと把握しておきたかった。
 GMが意図的に隠しているような、細部のルールまでも」
「なるほど」

一人のPCとしてゲームを楽しむために。
ちゃんとしたルールを把握しておこうと考えた。
そんな現実味のない答えに、神狩屋は何を言うでもなく、ただ肯定の言葉だけを口にした。

「それに、NPCに対して働きかけることで……なにか変化が生まれることも期待した。
 彼らが、『聖杯戦争』というこの世界の真理を耳にして、何か異変を起こすことを」
「ふむ……君は、そういう人間なんだね」

対して興味もないように神狩屋は呟いた。
実際、神狩屋はNPCに対しては興味が薄かった。
故に、その会話を続ける気も薄く、話題を変えた。


644 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:16:27 0EbctRZs0

「それで、聖杯戦争に招かれるような、魔術的な儀式の経験は?」
「皆目、検討もつかないね」

槇島にオカルトの趣味はない。
正確に言えば、槇島の趣味と呼べるものは雑多に存在する。
しかし、それは広く浅く、といったものだ。
実際に行動に起こすほどの情熱はなかった。
その答えに、神狩屋は小さく頷く。
そして、一つの雑誌を取り出した。
ティーン向けの女性雑誌だ。
槇島は、寝癖もそのままのファッション性の薄い男が、この雑誌を買っている姿を想像してしまい、小さく笑みを零した。

「『ペルソナ様』に『ジョーカー様』……聞いたことはあるかな?」
「噂だけならば、NPCの女学生がよく口にしていたね」
「思春期の女の子と言うのは、オカルトが好きなモノだからね」

『ペルソナ様』と『ジョーカー様』。
それは単なる噂話であり、どこにでもあるような荒唐無稽なものだ。
しかし、この二つは、聖杯戦争とはまるっきり趣旨が異なるが、たったひとつだけ共通していることがある。
それは、『超常の存在が願いを叶えてくれる』ということだ。

「この『ペルソナ様』と『ジョーカー様』を行ったことは?」
「ないね……残念ながら、ここに来るまでそんなことは知らなかったんだ。
 店主は行ったのかい?」
「残念ながら」

槇島の答えに、神狩屋は困ったように笑った。
そんな時。
扉が開いた。
『Close』の看板を出していてにも関わらず、扉が開いた。
キャスターは立ち上がる。
セイバーも気づいているはずだ。
場を沈黙が支配する。

――カツ、カツ――

足音だけが響く。
ふと、槇島と神狩屋の背中に悪寒が走った。
二人をして珍しい感覚。
人間である以上、逃れられない感覚だ。
その悪寒が近づいて、近づいて。
やがて、神狩屋の私室のドアが開いた。

「これは……失礼したかな。なにやら、呼ばれた気がしてね」

ドアの先。
口元に髭を生やし、歪な嘲笑を描く初老の男性。
一目で分かる、サーヴァントだ、と。
位階はランサー。
真名はアドルフ・ヒトラー、としての仮面を付けた■■■■■■■■。
この世の影であるが故に、確固たる貌を持たず。
仮面を付けて顕在した■■。
風が吹いた。
カタリ、と仮面が動いた。
ペラリ、とページがめくれた。


645 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:17:56 0EbctRZs0

【A-3/渋谷/1日目 昼・夕方】


【渋谷凛@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]気絶中。精神的に不安定。犯罪係数不明。間力を消費。
[令呪]残り3画
[装備]手持ちバッグ(散歩グッズ入り)、変装用の伊達眼鏡。
[道具]なし
[所持金] 手持ちは高校生のおこづかい程度。
[思考・状況]
基本行動方針:私は……
1:気絶中。
2:ジョーカーに対し強く敵意を抱きました。人を殺す……?
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報と容姿を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

※ランサーのスキル『月に吠えるもの』によって、『最後の大隊』の一員としてマルク@ジョジョの奇妙な冒険が召喚されています。
※『月に吠えるもの』で召喚された『最後の大隊<<ラストバタリオン>>』の『仮面<<ペルソナ>>』は単独行動:Eを所持しています。



【B-2/千代田区・古物商『神狩屋』/1日目 昼・夕方】


【鹿狩雅孝@断章のグリム】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]私服
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争のキャストとして動く。
1:情報を入手する。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。

【カーズ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]ダメージ(中)
[装備]なし
[道具]血の運命繋ぐ石仮面
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:身体を癒やす。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※アマテラスを『太陽』に親しい存在だと認識しました。
※切嗣(獣の槍)を憎しみを原動力に動く者だと認識しました。


646 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:18:11 0EbctRZs0

【槙島聖護@PSYCHO-PASS】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]剃刀、釘打ち機
[道具]釘打ち機のマガジン×2
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しみ、そのなかで様々な『人間』の意思を確かめる。
0.目の前の男(ヒトラー)に嫌な予感。
1.ジョーカーに強い興味。会って話してみたい。
2.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる。
3.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。
※池袋近郊の女子校の教師として勤めるはずでしたが辞めました。
※NPC相手に色々試す準備をしていました。釘打ち機はその一環です。
 他にどんなことをしていたかは後続の書き手さんにお任せします。

【キャスター(フェイト・アーウェルンクス)@魔法先生ネギま!】
[状態]打撲、裂傷
[装備]指輪(魔法の発動体)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦いと、強い意志を持つ人間を求める
1.ジョーカーに関心。ショーゴと共に探す
2.工房敷設に適した霊脈を見つける
3.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる
4.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい

[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。


【ランサー(アドルフ・ヒトラー)@ペルソナ2罪】
[状態]健康、魔力を消費。
[装備]ロンギヌス
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:愉しむ。
1:事件が起こって凄く愉しい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の容姿と情報を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。
※噂が広まっていることによって、スキル、『月に吠えるもの』の能力限界が拡張されました。
※『月に吠えるもの』で召喚された『最後の大隊<<ラストバタリオン>>』の『仮面』は単独行動:Eを所持しています。

※<検閲済み>


647 : ◆devil5UFgA :2015/04/25(土) 03:19:38 0EbctRZs0
投下終了です
タイトルは GOSSIP→PERSONA です


648 : 名無しさん :2015/04/25(土) 11:20:12 /vRXTikk0
投下おつです!!
東京聖杯の魅力が詰まった一話でした
噂、怪異、この東京に渦巻くもの、それらを見つめる槙島の目線が面白い
カーズはやっぱ強いわ…クラスに恥じないクソゲー感がある
そしてヒトラーも着々と愉しんでますね
凛ちゃんを吐かせた仮面の描写とか、こういうところめっちゃ好きです


649 : 名無しさん :2015/04/25(土) 12:13:11 WPuJ0tM.0

スキルとリンクさせた噂話のシステムがいいですね
そして鹿狩と聖護の胡散臭さがすごいwww


650 : 名無しさん :2015/04/25(土) 19:03:46 f3RwNGMg0
乙でござい
しかしこのチョビヒゲ、機械兵(マシーネンゾルダード)でもなければ13騎士でもなく
最初にジョジョ勢呼ぶのかよw


651 : 名無しさん :2015/04/26(日) 10:15:14 K2ygJB5U0
投下乙です!
ちょうどカーズというジョジョ第二部出典がいるから、そっちのナチスも呼べるというマッチぶりがいいですね
しかもチョビ髭おじさんから仮面を借りているなんて、チョビ髭さんそんなにしぶりん好きなのですかw
…ところでマルクってどんな人でしたっけ?確か死亡フラグ発言して柱男に喰われた若者でしたっけ?

それと少しだけ指摘をさせていただきます。
しぶりんの状態表が「気絶中」のままになっています。
また「間力」って単語もありますが、何でしょうか?
以上です、お目汚し失礼しました。


652 : 名無しさん :2015/04/26(日) 18:07:59 jTJQLMLg0
投下乙です
カーズ様つえー!対魔力だけじゃなくて本人のスペックもくっそ強い、しかもこれで本人的にはまだ全然弱いとかやべー!
一方でマキシマンも神狩屋も一筋縄ではいかない曲者臭がぷんぷん…と思ったら一番やばい人がひょいっと現れたー!?
しぶりんは吐いたけどなんとか小康状態か、ニャルよりもまだマシなはずのシュトロハイムさんに慰めてもらえばいいんじゃないかな
フェイトくんは、うん、貴重な常識人ポジだぞやったね!


653 : ◆devil5UFgA :2015/04/26(日) 22:54:11 lRlfyMME0
>>651
ご指摘・感想ありがとうございます
誤字のほうはまとめwikiにて修正させていただきます


654 : 名無しさん :2015/04/27(月) 22:28:08 sMxeGHIQ0
投下乙です。

なるほど参戦作品でナチスだからこういうクロスオーバーもあるのか……という着眼点に脱帽。
ジョジョとペルソナのキャラが何の違和感もなく同一陣営にいるってところがすごい面白かったです。
一方フェイトくん思考的には一番一般人に近い(というか他3名が人を超えすぎている)から苦労人ポジションが似あう似合う……w
その、頑張れフェイトくん!


655 : 名無しさん :2015/04/29(水) 22:02:02 JMRAjh2s0
最新話を見て、東京聖杯エクストラクラスの解説(没作含む)というものを作ってみたんですが、
本筋とは関係ない上に没作の話も含むのでここに投下していいものか迷っている……


656 : 名無しさん :2015/04/30(木) 00:06:50 j82/gAbE0
良いんじゃないでしょうか!


657 : ◆devil5UFgA :2015/04/30(木) 00:10:46 oJrgc6QM0
読みたいのでぜひお願いします!


658 : GW特別企画:東京聖杯エクストラクラス勝手に解説 :2015/04/30(木) 00:19:05 V2QYfwd.0
ありがとうございます! では

【注意事項】
・これは3次創作であり各クラスの作者の意図とは異なります。
・また他の創作で同名のクラスが出てきた場合、まったくの無関係です。
・守護者(キーバー)、死神(デス)、軍師(フォーキャスター)
 陰陽師(エクソシスト)、反英雄(ダークヒーロー)については各登場話を参照してください。
・救世主(セイヴァー)、獣(ビースト)、裁定者(ルーラー)、復讐者(アヴェンジャー)については原作参照してください。



・偶像(ザ・ヒーロー)
 クラススキル:虚偽の英雄
 英雄のサーヴァント。
 人々が望むがゆえの英雄。絵に描いたような救世主。人間の希望が産んだ絶望的な存在。
 高いステータス補正と優秀なスキル、強力な宝具を誇る優秀なサーヴァント。
 だが人類総意に"個"としての意識が押しつぶされてしまうため、人間性をほぼ喪失する。
 アラヤの怪物とは似て非なる、人類の守護者/殲滅者。
 ザ・ヒーローに該当する英霊はたった一人。過去・未来・全平行世界においても"彼"しか該当しない。
 ……同時に"彼"でありながらも最早"彼"ではない、ある"無銘"のサーヴァント。

・艦艇(シップ)
 クラススキル:砲撃、索敵
 船舶のサーヴァント。
 高い敏捷値を持つ騎乗兵(ライダー)の派生クラス。
 騎乗兵(ライダー)と大きく異なるのは乗り物そのものがサーヴァントであるということ。
 そのため騎乗スキルを持たないが、その反面、高い機動性能・火力を持つ/またはそのような宝具を保有する事が多い。
 英霊としてはアルゴス号、エンタープライズ号@スタートレック、大和@艦隊これくしょんなどが該当する可能性がある。

・人形(ピノキオ)
 クラススキル:人間
 自意識に目覚めた人形のサーヴァント。
 該当する英霊に必要なのは"自我に目覚める"というプロセスであり、無から有を発生させた神秘を持つ。
 クラススキルにより人として扱われる――逆に言えば人類を害することのできる存在になったとも言える。
 従順ではないが純粋である。ある意味、人類種よりも"人間"らしいサーヴァント。
 フランケンシュタインの怪物、フロンティアセッター@楽園追放、ロビタ@火の鳥などが該当する可能性がある。

・機械神(デウス・エクス・マキナ)
 クラススキル:機械仕掛けの神
 万能の力を持ち合わせる人造の神。"人"という低次存在が創りだした高次存在の総称。
 サーヴァントに当てはめようとして当てはめきれなかった規格外の英霊が該当することがある。
 それが意味するのはサーヴァントの枠外の超常の力を持った存在であること。
 高出力/最悪の燃費の悪さを極限まで突き詰めた存在であり、
 また自身より低次の存在である"人間"との相性は最悪に近い。歩く危険物。
 Y.H.V.H@女神転生2、コウガネ@仮面ライダー鎧武などが該当する可能性がある。


659 : GW特別企画:東京聖杯エクストラクラス勝手に解説 :2015/04/30(木) 00:21:09 V2QYfwd.0
・到達者(モンスター)
 クラススキル:根源接続
 何らかの要因で根源に接触したものが本クラスに該当する。
 それ故に桁外れの力を持っており、通常のサーヴァントとは一線を画する存在である。
 だが根源に接続したものが精神を変質させることも多々あるため扱いづらさも群を抜いている。
 なお、とある月の聖杯戦争ではある女性が『モンスター』として観測されているが、本クラスなのかは不明。
 一説には超常の存在ゆえムーンセルが誤認識したのではないかとも言われている。
 ノストラダムス、シュバルツ・バルト@THEビッグオーが該当する可能性がある。

・船長(キャプテン)
 クラススキル:対魔力
 船長のサーヴァント。
 騎乗兵(ライダー)としての能力に加え、船という密閉空間の中を長期間過ごすことからカリスマスキルを持つ英霊が該当する。
 だが広い大海では人の手ではどうにもならない人智を超えた事象が度々起こりえる。
 人事を尽くした末に最後の一歩で勝利する"幸運"――それを持つものが該当する。
 ヴァスコ・ダ・ガマ、ルフィ・D・モンキー@ONEPIECEなどが該当する可能性がある。

・指揮官(コマンダー)
 クラススキル:指令、配下生成
 指揮官のサーヴァント。生前、多くの部下を率いて功績を上げた英霊が該当するクラス。
 総じて高い指揮・軍略系統のスキルを持ち、集団戦を得意とする。
 またそのスキルを活用するために、自ら軍団を作り出すスキルを保持するものも多い。
 ナポレオン・ボナパルト、ロード・バロン@仮面ライダー鎧武などが該当する可能性を持つ。

・蒼剣士(ネバーセイバー)
 クラススキル:SYSTEM ERROR
 "剣士"の派生クラス。クラススキルやステータス補正等はセイバーに準じる。
 該当するための条件は一つ、"確実に存在しないにもかかわらず、確実に存在する"剣士であること。
 様々な矛盾を内包した"彼女"だけのクラス。

・必敗者(ダッジャール)
 クラススキル:救世主(偽)、敗者に口なし
 負けることによって正しさが証明される、反英雄ならぬ偽英雄のためのクラス。
 "人為的な敗北者"としての側面を持つ英雄が該当する。
 ただし敗者としての有名な面を持つ英霊に無辜の怪物スキルが組み合わさることで条件を満たし召喚されることもある。
 また目立った特徴として敗北や死によって発動するスキル/宝具、また発動すると死に至る宝具などを必ず保持している。
 敗北することでこそ真価を発揮する必敗を運命づけられたサーヴァント。
 ダッジャール、ロット王、球磨川禊@めだかボックスなどが該当する可能性がある。


660 : GW特別企画:東京聖杯エクストラクラス勝手に解説 :2015/04/30(木) 00:21:33 V2QYfwd.0
・侵略者(インベーダー)
 クラススキル:侵食、単独行動
 国や陣地を侵食していくサーヴァント。
 個人で該当するものはほぼ存在せず、多くの場合"現象"に近いものが当てはめられるクラス。
 その特性から神霊に近いものが多く、それ故に強力な制限をかけられるものが多い。
 ランクにもよるがスキル"侵食"によってフィールドを覆い尽くす可能性があり、聖杯戦争という枠組みを破壊しかねない危険なクラス。
 "青ざめた騎士"、アバドン、デ・リーパー@デジモンテイマーズなどが該当する可能性がある。

・仮面屋(マスカー)
 クラススキル:仮面
 何処の誰でもなく、また同時に何処の誰でもある普遍性を持つサーヴァント。
 総じて仮面を被るため真名看破や精神攻撃に対し高い耐性を持っている。
 だが自身のマスターに対しても仮面をかぶり続けるため、総じてマスターとの信頼関係は築き難いという欠点を持つ。
 また複数人が同一人物を演じていた、という逸話を持つ英霊も該当する。
 そのためウィリアム・シェイクスピア、雑賀孫一、矢立肇、ジン・ジャハナム@機動戦士Vガンダムなどが該当する可能性がある。

・NINJA(ニンジャ)
 クラススキル:気配遮断(忍)
 暗殺者(アサシン)の派生クラス。
 本来忍者とは影に隠れ、人前に名前が出ることはない存在である。
 だが東洋の神秘と混合された"ニンジャ"はドハデで不可思議な術を使う、現代に蘇った妖怪を退治する、そもそも見た目がやたら派手である、やたら自己主張が激しく真名を名乗るなど隠密とは異なる行動を取る。
 忍者(ニンジャ)とは似て非なるクラス、それがNINJA(ニンジャ)である。
 児雷也、ナルト@NARUTO、アカニンジャー@手裏剣戦隊ニンニンジャ―などが該当する可能性がある。

・報道者(ジャーナリスト)
 クラススキル:気配感知、気配遮断
 報道者のサーヴァント。
 真実を求める正しき英雄としての側面と、自在に情報を歪める反英雄としての側面を矛盾することなく持ち合わせる両面英雄。
 多くの場合(正しいかどうかは別として)、"情報を世間に知らしめること"に強い使命感を持ち、そのために極めて高い生存スキルを持つ。
 該当する可能性の高い英霊はロバート・キャパ、射命丸文@東方Projectなど。

・挑戦者(スペランカー)
 クラススキル:無謀な挑戦者、リスポーン
 最大の特徴は『非常に死にやすい』ことであり、耐久値に強力なマイナス補正がかかる。
 生命力は首の皮一枚レベル。もはや呪いの域に達している。
 それでも何度でも立ち上がる不屈の精神……それこそがスペランカー最大の特徴である。
 多村仁、スペランカー@スペランカーなどが該当する可能性がある英霊である。


661 : GW特別企画:東京聖杯エクストラクラス勝手に解説 :2015/04/30(木) 00:22:27 V2QYfwd.0
・素人(ノービス)
 クラススキル:なし
 "クラスのないクラス"という矛盾したクラス。
 そのためクラス補正もクラススキルも一切存在しない、ただあるだけのクラス。
 だが聖杯戦争という枠組みに囚われないそのあり方は、ある意味聖杯戦争という存在に対する切り札(ジョーカー)なりえるサーヴァントである。
 "聖杯戦争としての顕現"であるなら極めてレアなクラス。
 その特性上、苦手分野での顕現であればすべての存在が該当するとも言える。(ただし例外的にスキル:専科百般を保つサーヴァントは該当しない)


・異邦人(ストレンジャー)
 クラススキル:異邦人、単独行動
 異邦人のサーヴァント。
 どの世界においてもあからさまな異物であり、一つの場所に長く滞在しない/することが出来ない、流浪を定め付けられた英霊が該当する。
 総じて高いランクの単独行動スキルをもち、また単独での戦闘もある程度得意とする優良クラス。
 自身の運命をニヒリズム的に捉えているものも多いため、マスター側のコミュニケーション能力が鍵を握っている。
 サン・ジェルマン伯爵、ジョン・タイター、ヒーロー@パワポケ8などが該当する。

・合成人間(ピメイダー)
 クラススキル:従順
 人造人間のサーヴァント。"作られた存在"かつ"人に奉仕する存在"である英霊が該当する。
 ピノキオとよく似たクラスだが、主従関係をアイデンティティとしたものが該当する。
 その成り立ちからして聖杯戦争という"主従のシステム"との相性がよく、
 余程のことがない限りマスターを裏切ることはない忠節のサーヴァント。
 だがそのあり方がシステマティックすぎるため、万能だが突破力に欠けるステータスになることが多い。
 該当する可能性のある英霊は薔薇水晶@ローゼンメイデン(アニメ版)など。


662 : GW特別企画:東京聖杯エクストラクラス勝手に解説 :2015/04/30(木) 00:23:03 V2QYfwd.0
・救世使(エンジェル)
 クラススキル:救世使、アストラルパワー(魔力放出)
 天使のサーヴァント。
 天使(エンジェル)という言葉がムーンセルの観測する世界によって様々な解釈・定義がなされる存在であるため
 同名のクラスでもクラススキルすら変動する可能性がある多様のサーヴァント。
 一般的に高い魔力値を持ち、神性によって攻撃を無効化することも可能な強力なクラスだが、その高潔な精神性は神秘を求める魔術師と相容れないものも多く、また強力なパワーは御しきれないことも多いため、聖杯戦争で意図して呼ばれることは稀である。
 メタトロン、天使@AngelBeatsなどが該当する可能性がある英霊である。
 

・保持者(ホルダー)、スタンド使い(スタンダー)
 クラススキル:SPEC/幽波紋
 名称は異なるが共にそれぞれの世界における超能力者の総称をクラス名として保持している。
 強大な力を持つものから、役に立つのかわからない力を持つものまで千差万別。
 その性格もまた吐き気を催す邪悪から黄金の魂を持つものまで多種多様。
 ある種『超能力者である』という大きすぎる括りであるが、強大な力を持つものは比例して扱いづらい精神性を持つことが多い。
 該当者は多いため省略。

・隣人(ザ・フレンド)
クラススキル:永遠のともだち
 一欠片の優しさがあればだれでも該当する、極めて特殊なエクストラクラス。
 総じて強力な宝具を持つが、"一人では扱えない"、"他者の願いを力にする"など他者との繋がりによって真価を発揮するものが多く、個人戦であり願い同士がぶつかり合う聖杯戦争というステージとは決して相性が良いとはいえない。
 だが存在自体が人類種の希望そのものであるため、正しき心を持つマスター以外に呼ばれることはなく、主従間の信頼関係は固いものとなることが多い。
 ……ある意味、エクストラクラス・偶像(ザ・ヒーロー)と親しい存在。
 だが彼ら/彼女らは極めて近く――だが決して交じり合うことのない背中合わせの存在である。
 なお特定人物への友情ではなくその有り様は人類愛(アガペー)に限りなく近いため、聖人のうちの何人かが該当する可能性がある。

以上となります。
読んでいただいた方ありがとうございました。


663 : 名無しさん :2015/04/30(木) 00:41:21 KfhN.DNM0
こういうのもいいな
読んでてわくわくする上に、そのクラスに他に当てはまりそうなキャラのチョイスになるほどってなった


664 : ◆devil5UFgA :2015/04/30(木) 01:00:54 oJrgc6QM0
おおー!
本文そのものもさることながら、ジョン・タイターやノストラダムスといった実在人物を該当する英雄として表記してるところが上手い……!
乙です!


665 : 名無しさん :2015/04/30(木) 01:23:38 89PQjuL20
おお、実に面白いです…!
解説の妙というか、性能や特性だけでなく、該当可能性の項目がすごい想像の余地をくれて楽しい


666 : ◆HQRzDweJVY :2015/05/08(金) 00:27:06 qbID1.D60
宇佐見蓮子&ライダー、マエリベリー・ハーン&ライダー予約します


667 : ◆devil5UFgA :2015/05/09(土) 11:27:15 OYKOt1z.0
狡噛慎也&アサシン(焔)、直哉&アーチャー(織田信長)を予約します


668 : ◆OSPfO9RMfA :2015/05/09(土) 23:29:43 55qBkVc20
先日の投稿は私から管理人様に連絡し、削除して頂きました。

皆様をご不快にさせ、ご迷惑をお掛けしてしました。申し訳ありません。
また、このように謝罪が遅くなったことについて、重ねて謝罪いたします。
今後、投稿するかはわかりませんが、その際にはこのような事がないよう注意します。


669 : ◆HQRzDweJVY :2015/05/12(火) 21:43:27 PZoj89520
申し訳ありません。
間に合いそうにないので早めに延長を申請いたします。


670 : ◆devil5UFgA :2015/05/13(水) 23:56:43 Xc.LXCl60
予約分を延長させていただきます、申し訳ありません……


671 : ◆HQRzDweJVY :2015/05/15(金) 00:18:21 Dwr9gqso0
間に合いそうにないので予約を破棄します。
申し訳ありません……


672 : ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:40:56 aJzhFmD20
投下させていただきます


673 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:41:47 aJzhFmD20

全体を短く刈り込んだ髪に対して、浮くように右の前髪だけが頬にかかるほど異様な長さを持っている。
常として細められた目は、視界と呼べるものが存在するのか不思議に思うほど。
一見すると細身だが、骨格の芯の部分はがっしりとした長身の男。
チェ・グソン。
半島出身のその男は、昼時だというのに空席の目立つ回転寿司店のカウンター座席に座っていた。
レーンに流れる寿司に手を付けず、備え付けの安っぽい緑茶で喉を潤す。

「いらっしゃいませぇ」

数分すると、銀髪の男と和人形の如き見事な黒髪の少女が店内へと入ってきた。
店員の気のない声を浴びながら、その二人組は店内を一瞥する。
チェ・グソンと視線が交わる。
チェ・グソンは片手を軽く上げ、銀髪の男が軽く笑みを浮かべた。
そして、チェ・グソンの側まで大股で近づき、空いている隣のカウンター席に腰掛けた。

「どうも」
「少し遅くなったな」
「早速ですが、どうぞ」

チェ・グソンは足元の鞄から封筒を取り出す。
そして、隣りに座った銀髪の男――――直哉へと差し出した。
直哉は頷くだけで、その封筒を受け取る。
そこで会話は終わる。
すぐさま、不審なほどに直哉は席を立つ。
チェ・グソンは、おやおや、とせっかちを咎めるように軽く笑う。
二つ隣に座った童女は目を見開いて、不満の声を上げた。

「ちょ、ちょっと待て!ちょっと待て、お兄さんよぉ!」
「俺に妹は居ない」
「奇遇じゃん、ワシも兄貴は殺しといたからもう居ないんだよ」

艶やかな黒髪を棚引かせ、駄々をこねる童女。
しかし、この童女は単なる童女ではない。
その名を織田信長、偉大なる英雄の一人である。
英雄真実その一、織田信長は源義経と同じカテゴリーである。
そう、女なのだ。
童女の姿のまま、不満に声を上げる。

「そうじゃなくてさ、なんで流れてる切り身を眺めるだけで出る気満々なのさ!?
 ワシらただの間抜けかよ、なんで食い物を眺めるためにメシ屋に来るんだよ!」
「食いたいなら食いたいと言え」
「食いたい!」
「なら、食え」

直哉は一度上げた腰を下ろす。
信長は目を輝かせ、回る寿司と寿司と寿司と寿司を眺める。

「やっべ、なんか楽しい。寿司が回ってるよ、寿司なのに。
 見ろよマスター、おい、寿司が回ってるぞ」
「これが止まって見えるのならお前との契約を考えなおすところだ」

そう言いながら、直哉はレーンに流れる皿を取る。
マグロだ。
オーソドックスなネタと言える。
だが、その動作を見て信長は、へん、と笑ってみせた。


674 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:42:52 aJzhFmD20

「いやいや、まずはタマゴじゃろ?
 タマゴの味でその店の味がわかる、ワシは詳しいんだ」
「漫画の知識ばかりが溜まっていくな、お前は」

直哉の素っ気ない態度に信長は不満気に鼻を鳴らし、周囲を見渡す。
そして、一つの蛇口を見つけた。
お湯、とだけ書かれた蛇口だ。
おしぼりは回転レーンの屋根に当たる部分に置かれているが、背の低い信長には見つけることが出来ない。
信長は、うん、うん、と頷いた。

「へぇ、便利なもんじゃん……手洗いは大事じゃしな」

そう言って、信長は黒いゴムに包まれたボタンへ右手を押し付ける。
あっ、と。
チェ・グソンが声を上げようとする。
だが、すでに遅い。
緑茶のために置かれた熱湯が信長の小さな手に直接掛かった。

「熱ぅっぃわぁ!」

奇声を発して右手を素早く引っ込める信長。
そして、左手で手元の冷水を取り、安っぽい紙のおしぼりで包んだ右手に浴びせかける。
ふぅ、ふぅ、と、息を吹きかけながら額に青筋を立てている。
このままでは店へと向かって間抜けなクレームを付けかねない。
チェ・グソンは呆れたように二つ隣の席に座った童女を宥めようとする。
だが、隣に座る直哉に制される。

「ふっ……」

直哉は信長の淡い唇に指を立て、ニヒルに笑ってみせた。
そのまま、レーンの屋根に置かれた湯のみを手に取り、醤油の隣に置かれた緑茶の粉末をすくう。
粉末を湯のみに入れて、湯のみを黒いゴムに包まれたボタンへと押し付けた。
湯のみの中にお湯が注がれる。
ポカン、と。
口を『お』の字に開けたまま固まる。
直哉はそんな信長を無視し、一巻目のマグロを口に運んだ。
たっぷり数分は固まっていた信長は、やがて直哉へと怒鳴りつけるように口を開いた。

「分かってたのなら教えろよな、テメー!」
「そこまで間抜けだとは思わなくてな」

二貫目のマグロを口につける。
わなわなと震える信長を嘲笑いながら、安っぽいマグロを味わう。
そして、空になった皿を手に取り、レーンに載せてみせた。
当然、チェ・グソンはその空になった皿を取り、直哉へと差し出した。

「旦那、皿は戻さないようにね」
「……」

空気が固まった。
その空気を壊したのは、腹を抱えてみせた信長だ。

「バッカでー!!!」
「……黙れ」
「わっかんだろ、普っ通さぁ! どうやって会計すんだよ!
 いやぁ、そこまで間抜けだとは思わなかったわ!」

単純にして鋭い罵声を浴びせる。
わなわな、と、直哉は震えた。
からから、と、信長は笑った。


675 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:44:37 aJzhFmD20





『回って食べる寿司』
うた:カイン(世紀前イスラエル出身、戦中日本暮らし)&織田信長(室町時代尾張出身、英霊の座暮らし)



◇知らなきゃいけないことが 今の俺達には多すぎる

◆テレビにも ラジオにも慣れた

◇ウォッシュレットが トイレの屋根を濡らすこともない

◆そして俺達は現代人になり 東京都民へとなってみせたわ

◇ここの寿司屋は日本一

◆小柱みたいにちっちゃな自尊心

◇俺のサーヴァントは卵が好き

◆やるせないじゃない、戦争は大トロ



◆◇まわって まわって まわって

◆◇まわって まわって まわって

◆◇まわって まわって まわって

◆◇食べて 食べて

◆◇食べて 食べる



◆◇まわって まわって まわって

◆◇まわって まわって まわって

◆◇まわって まわって まわって

◆◇食べて 食べて

◆◇食べて 食べる






676 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:45:07 aJzhFmD20

直哉と信長の騒動を眺めている影があった。
一人は白いシャツと黒いズボンの、野暮ったい黒髪をした体格の良い男。
もう一人はTシャツの胸部に書かれた『踊り子号』という文字を豊満な胸が押し出している、早熟の体型をした少女だ。

「……間違いないのか」
「間違い、ゴクン、ない……な。
 いや、あそこ、まで……ックン、あからさまだと、逆に、何かの罠かも……ゲフ、ゲフン、ゲフン!」
「食べながら喋るのは辞めた方がいいな」
「………………………………」
「すまん、言い方が悪かった。大事なことだから、食事はやめてくれ」

ボックス席で食事をしていた狡噛慎也と、そのサーヴァントのアサシン・焔だ。
焔が凝視する先には、信長の姿。
曰く、あの童女はサーヴァントである、とのこと。
騒がしい三人組に目を向けていた狡噛は、瞬時に気を張り詰めた。

(しかし、なんだ……あれが、『英霊』というのか?)

ただ、その張り詰めた気もすぐに途切れそうになる。
間抜け丸出しに笑い声を上げている、それこそ童女としか見ることが出来ない影。
アレが偉業を成し遂げ、超常の存在たる英霊だというのだろうか。
隣を見る。
黙々と寿司を食べている少女の影。
食べれるときに食べる、と言った行動理念だそうだ。
英霊とは、そんなものなのかもしれない。

「……っん。間違いない、アレはサーヴァントだ。
 プンプンと臭う、気配を遮断する気もなくこうも大っぴらに動くとは、豪快なことだ」

そう言った焔は、『サーヴァントとしての気配』を遮断している。
戦闘行為へと映らない、あるいは、サーヴァントとしての超常の力の片鱗を使用しない限り。
焔は、周囲からただの少女として認識される。

――――『忍ぶ者』と書いて忍者だからな。『草』としての教育も受けている。

彼女の気配遮断の技術には、『一般人になり切る』というものもあった。
すなわち、民衆の中に溶け込んで情報を得るための技術だ。
生前に生活苦のあまり、仲間たちと共にアルバイトでその日その日を凌いでいたという逸話もある。

「……」
「どうする……っと、席を立ったぞ」

信長の首の根っこを掴んで立ち去っていく直哉。
カウンター席には銀行の封筒が見える。
現金だろう。

「……今は、放っておく。それよりも気になるのは――――」
「あっ、おい、マスター!」

そう言って、狡噛は席を立った。
焔は慌てて立ち上がろうとする、が。
それを遮るように、両手で盆を持った店員が現れた。
盆の中心には、ゆるやかに湯気を見せる丼がある。

「お待たせしました、きつねうどんです」
「えっ、あっ、えっ…………あっ…………いただきます」





677 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:45:34 aJzhFmD20

「隣をいいか」
「どうぞ」

巻物を口に運んでいたチェ・グソンは、突然現れた男・狡噛慎也に薄い頬を釣り上げて笑いかける。
狡噛は、先程まで直哉が座っていた席とは逆隣に腰掛ける。

「アンタ、情報屋だろ」
「フリーライターですよ。
 『噂屋』とも呼ばれてますが、情報屋だなんてカッコイイもんじゃありません」

照れたように笑う。
しかし、狡噛は油断なくチェ・グソンを見つめる。
先ほど見えた、直哉に差し出した封筒。
そして、直哉が置いていった銀行の封筒の厚み。
単なる食事をしただけとは思えない。

「噂屋、か……なら、『ジョーカー』のことを知らないか?」

しかし、チェ・グソンが『噂屋』という立場を気取るならば、それに合わせてやる必要がある。
狡噛は途端に気安さを見せて、チェ・グソンへと笑いかけた。

「『ジョーカー』……? 『JOKER様』のことですかい?」
「……ジョーカー様?」
「おっと、別のことでしたか?」
「いや、教えてくれ……金がいるのか?」
「ハハ、金なんているわけ無いですよ……こんな旬も過ぎそうなメジャーなネタで金をとっちゃ、舐められちまうからね」

チェ・グソンは軽く笑ってみせた。
『旬も過ぎたメジャーなネタ』も知らない狡噛としては、曖昧に笑ってみせるしかなかった。

「旦那も携帯電話ぐらい持ってるでしょ?
 自分の携帯電話で自分での携帯電話の番号にかけるんですよ」
「……いや、そんなことしても通じないだろ?
 あっ、いや、話の流れからすると――――」
「ええ、『JOKER様』に通じるんですよ。
 正確に言えば、『自分の気に入らない人物を殺してくれる』JOKER様に、ね」
「……物騒なもんだ」
「バイオレンスでクレイジーな創作は、日常の良いスパイスになるもんですよ」

やはり、笑ってみせた。
言っているチェ・グソン自身がこんな話を信じていないのだろう。
しかし、狡噛にとってはそれは真実に近い話だと感じている。
なにせ、サーヴァントという存在を知っているのだ。
宝具、スキル、あるいはサーヴァントとしての在り方そのものと関わっている可能性は高い。
いや、その『JOKER様』こそが討伐令をだされたバーサーカーのマスター『ジョーカー』である可能性がある。

「JOKER様の隣には、狂ったような奴は居ないのか?
 そいつがジョーカーを名乗る怪人と一緒に人を殺してるはずなんだが……いや、事実じゃなくて、そういう噂だよ」
「……ああ、そいつは『ピエロと赤ん坊のサーカス団』ですかい?」
「多分それだ」
「そいつはJOKER様とは別口の話ですよ、有名な都市伝説ですがね。
 もっとも、こっちは噂によっちゃ実在の事件じゃないかって話ですけどね。
 ……ハハ、『噂話』のことについて『噂によっちゃ』なんて、シャレになっちまいましたね」

『ツボ』にハマってしまったように、チェ・グソンは先ほどまでの愛想笑いとは違う笑みを浮かべた。
狡噛も合わせるように笑い、しかし、すぐに言葉を繋ぐ。


678 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:46:17 aJzhFmD20

「そいつについて――――」
「これぐらいになりますね」

だが、チェ・グソンは狡噛が言葉を言い切る前に自身の携帯端末を小気味良く叩いてみせた。
金額だ。
狡噛は顔をしかめ、チェ・グソンは笑った。

「こいつは『噂屋』としてではなくて、『フリーライター』としての飯の種になりますからね。
 さっきは噂によっちゃなんて言いましたが、警察も動いてるんですよ。
 『ピエロの犯罪者』については、ね」
「そいつを、金も取らずに言っちまっていいのか?」
「旦那もとっくの昔に知ってることでしょうが」

チェ・グソンは相変わらず笑っている。
狡噛は少し考え、頷いてみせる。

「ピエロについての情報を頼む。
 恐らく、連続殺人鬼だ。
 殺害方法までは知らないが、あからさまに目立つ、『ジョーカー』を自称する怪人について調べてくれ」
「毎度……このアカウントでそれらしいつぶやきをしますから、この店にもう一度来てください」

そう言って、チェ・グソンは懐から別の携帯端末を取り出す。
そのアカウントを見、狡噛は自身の携帯端末を取り出した。

「……はい、っと。それじゃ、近日中には」
「明日にも連絡をくれ」
「気が早いね、旦那」
「近日中に、この事件は終わるだろうからな」

狡噛はそう言い残して、席を立った。
いつの間にか、『踊り子号』と書かれたTシャツを着た豊満な胸の少女が居た。
本当にいつの間にか背後に立っていた少女に、一瞬、作り笑いも忘れるほどの驚きを覚える。
少女、焔は手に持った席札を狡噛へと手渡す。
ちらり、と。
狡噛は元々居たボックス席に視線を移す。
想定よりも、多少、多い。
焔が中々の量を食している。
わずかにため息をつき、会計へと向かった。





679 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:46:51 aJzhFmD20


チェ・グソンは、しかし、と思った。


この短期間に『全く同じやりとりで』『全く同じ依頼』を受けることになるとは。
先ほど、銀髪の男に渡した情報もまた『ジョーカーを名乗る犯罪者』の情報。
つまり、渡そうと思えば、今すぐにでも目付きの鋭い男に情報を渡すことも出来た。
それをしなかったのは、単なる渋りだ。
頼めばすぐに情報が出てくると思われても困るし、すぐに出せるのならばもっと値段を抑えろと値切りを初められても困る。
チェ・グソンは寿司を口に運んだ。
腹はそこそこに膨れた。

「ごちそうさま」

ちらり、と。
店内に備え付けられたテレビを見ると、爆破事件のニュースが行われていた。
最近、何かと物騒だ。



【A-1/回転寿司店周辺/1日目 昼】



【直哉(カイン)@女神異聞録デビルサバイバー】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、ベルの王ア・ベルを完成させ、唯一神を殺す。
1:試しに、『第六天魔王』の信仰を作ってみる。
2:ジョーカーの討伐についてはじっくりと様子を見る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団の中核に存在しています。

※チェ・グソンからジョーカーの情報を受け取りました。

【『魔人』アーチャー(織田信長)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 健康、満腹
[装備]圧切長谷部、火縄銃
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、日本を危機から救う。
1:試しに神様になってみる。
2:ジョーカーの討伐とかも正直面白そうだよね。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※信仰されれば強さが増すということにいまいちピンと来ていません。


680 : 寿司を食えばぶん屋が儲かる ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:47:44 aJzhFmD20

【狡噛慎也@PSYCHO-PASS】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]普通(一人暮らしができる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を中断させ、聖杯を打倒する
1.ジョーカーを討伐する気はない。
 そのかわりジョーカーを討伐した者と、聖杯およびその使いとの接触現場を押さえ、聖杯攻略の足がかりとする。
2.ジョーカー捜索は焔に一任。単独ではアルバイトの時以外、外出しないようにする。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※運送業者の倉庫で、日払いのアルバイトをしています。
※インターネットの通販で、いくつかの武器を購入しています。遅くとも2日目までには届く予定です。

※チェ・グソンにジョーカーの情報収集を依頼しました。


【アサシン(焔)@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】
[状態]健康、満腹
[装備]『いざ、紅蓮の如く舞い散れ(えんげつか)』、刀×6
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:狡噛に協力する
1.しばらくは単独で市街を巡り、他のマスターを探す。特にジョーカーが最優先。
2.何かあったら狡噛に念話を送り、指示を仰ぐ。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。


681 : ◆devil5UFgA :2015/05/16(土) 03:47:57 aJzhFmD20
投下終了です


682 : 名無しさん :2015/05/16(土) 18:28:36 dLgi/qIM0
投下乙です!
信長ちゃんかわいいなぁ!
しかし、信長ちゃんは聖杯からの情報が足りなくて苦労してますが、その聖杯魔改造したのって彼女自身なんじゃ……やっぱりかわいいです!
そして、狡噛さんは手堅くその信長ちゃんたちをスルー
まあ、信長ちゃんのマスターは、暗殺の開祖といえなくもない人ですし、これは賢い選択でしょう
むしろ、信長ちゃんの方が暗殺しやすそうな気さえしてきました
やっぱりかわいいですね!


683 : 名無しさん :2015/05/16(土) 18:35:31 ZunvNqdI0
投下乙です
ナオヤさんとノブはギャグもこなせる万能感
回転寿司という舞台のチョイスが絶妙だと思いました
そしてジョーカー様とジョーカーのクロス、ペルソナ2チックなノリといいワクワクしてきました


684 : 名無しさん :2015/05/16(土) 18:48:06 Ex0kZWWE0
投下乙でござい
この帝都、その内空でも飛ぶんじゃなかろうか


685 : 名無しさん :2015/05/16(土) 19:13:34 hzbOPL2Q0
ブランデゴリスだったものとか出て来るんですかやったー!


686 : 名無しさん :2015/05/16(土) 20:18:25 Dk8VjN3U0
投下来てたか!乙です!
回転寿司www
信長可愛いなあ
しかしギャグ回かと思いきやコーガミさんの情報交渉でしっかり渋いとこを見せつけていきますね


687 : ◆devil5UFgA :2015/05/24(日) 22:45:58 12iHjjKA0
高坂穂乃果&セイバー(アマテラス)
神狩屋&セイバー(カーズ)
南ことり&アーチャー(ヴィンセント・ヴァレンタイン)
園田海未&ランサー(キュアラブリー)
渋谷凛&ランサー(アドルフ・ヒトラー)
島村卯月&ライダー(マーズ)
槙島聖護&キャスター(フェイト・アーウェルンクス)

以上のキャラで予約します


688 : 名無しさん :2015/05/24(日) 23:10:37 mrlz9QRw0
すごい予約だ


689 : ◆devil5UFgA :2015/05/29(金) 23:52:06 chxP4.Pg0
延長します


690 : ◆devil5UFgA :2015/06/07(日) 11:59:19 s.k6eBYE0
失礼いたします、予約分ですが私情により破棄させていただきます
連絡が遅くなり、大変申し訳ありませんでした


691 : ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:42:04 qLBuokPQ0
失礼します

高坂穂乃果&セイバー(アマテラス)
神狩屋&セイバー(カーズ)
南ことり&アーチャー(ヴィンセント・ヴァレンタイン)
園田海未&ランサー(キュアラブリー)
ランサー(アドルフ・ヒトラー)
槙島聖護&キャスター(フェイト・アーウェルンクス)

前回の予約分の渋谷凛と島村卯月&ライダー(マーズ)を除いたメンバーで投下します


692 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:42:53 qLBuokPQ0






?トイレの花子さん









693 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:43:29 qLBuokPQ0


曰く、特別教棟の女子トイレには『花子さん』なる人物が居座っている、とのこと。


南ことりがその噂を聞いたのは、単なる偶然のことだった。
何処にでもある、学校であった怖い話。
真偽は定かで無いと言いつつも、誰も信じてなど居ない与太話。
『友人の友人から聞いた話』が繰り返されることで、気づけばその友人が話の当事者そのものになっている矛盾。
普段ならば、その場で怖がって、次の朝には忘れてしまうような物語。
しかし、今の南ことりは普段の南ことりではない。
ことりが『自分は普段の南ことりに過ぎない』と思うとしても。
現実のことりは、聖杯戦争という言葉が魚の小骨が喉に引っ掛かったように心に残っている。

「花子、さん……」

あるいは、その聖杯戦争という概念を飲み込んでしまえば、楽になるのかもしれない。
しかし、『願いを叶える紅い月』と『月で行われる願いの闘争』を同一に結びつけることが出来ない。
正確に言えば、それを結びつける勇気が、現在のことりはない。
色々なことが、起こりすぎた。
一度、一度だけでも逃避に逃げた心は、簡単に現実に向い合ってはくれない。
忘れようと努めることは、すなわち忘れるために何を忘れるか常に思い出そうとすること。
ことりの心に、日常の中に潜む異常がじわじわと侵蝕してきていた。

『……』

小さな背中が日に日に縮こまっていく姿を見つつ、アーチャーのサーヴァントは行動を起こさなかった。
その小さな背中を、外敵の恐れから守ってはいる。
事実、這い寄るように訪れる小さな魔は撃ち落としている。
クラス固有のスキルである単独行動を持つアーチャーならば、ことりへ負担を与えずに戦闘行動を取ることが出来る。
もちろん、それも相手次第だが、現在この東京に蠢く魔物ならば問題はない。

そう、外敵からは幾らでも守ることは出来る。
今、南ことりを苦しめているのは、南ことりの心だ。
いかなる時でも、己の罪を責めるものとは、己自身である。
己自身が己自身に対して嫌悪を覚えぬのならば、それは決して罪ではない。

『マスター、そろそろ教室に戻ったほうが良い。
 休憩も終わりだ』

ある種、それはヴィンセント自身がそうあって欲しいと願う主張にすぎない。
罪を裁く者は己であって欲しいという願望。
罰を与える者は己であって欲しいという幻想。

「あ、そっか……ありがとう、アーチャーさん」

ことりの声は、挙動は、日を追うごとに鈍くなっていく。
その変化に対して、ヴィンセントは何も働きかけない。
ギチギチ、と音を発てていることりの心に対して、何の言葉も与えない。
気遣ってはいるが、何もしない。

『――――オンッ!!!』

そんな二人の、静かな空気の中で一つの吠え声が響いた。
透き通った声は、この淀んでいた学校の空気を塗り替えてしまうようなもの。
この世に存在するものには必ず『流れ』というものがある。
生物にとっての血流であるように、惑星に対するライフストリームであるように、だ。
そう言った流れの中で『淀ませていた』ものが、追い出されるような感覚。
ヴィンセントは一度だけことりを眺め、気付かれぬようにその場を去った。





694 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:44:09 qLBuokPQ0

「いい店だ、蒐集心というものを煽る」

ニヤニヤ、と。
顔面に嘲笑を貼り付けた髭面の中年男性がへと向けて、穏やかな笑みを向けて槙島聖護は語りかける。

「『大衆の理解力は小さいが、忘却力は大きい。彼らは熟慮よりも感情で考え方や行動を決める』」

一文を諳んじるその様は、凪を迎えた海面のように静かなものだった。
長く細い足を組み換え、形容しがたい異様さを発するその男性。
『アドルフ・ヒトラー』。
恐らく、激動の世紀たる20世紀において世界で最も有名な政治家。
嘲りを深めるヒトラーと向かい合い、槙島は柔らかく唇を動かし続ける。

「『その感情は単純であり、彼らが望むのは、肯定か否定か、愛か憎しみか、正か不正か、真か偽かのわかりやすさだ』」

神狩屋は眼鏡の奥の細い目を伏せ、珈琲を口にした。
フェイト・アーウェルンクスも同様だが、唯一の違いは珈琲を口にした瞬間に顔をしかめたということだ。
三人を代表するように、槇島は言葉を滑らせる。

「第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの供述を記した『わが闘争』の一節。
 と言っても、あの『奇書』と呼ぶのも躊躇う、その場の想いをただ書き連ねただけの『報告書』。
 ナチス党員と支持者……いや、当時のドイツ国民の住居にはその本が一冊は存在したというそうだ。
 思想や支持に関係なく、ね」
「政治家にとって舌は二枚あって当然のもの……と、格好をつけてみても、所詮は思想書の体も成していない。
 実際のところは、『講義の資料』の名目で買わされる教授の出版本となんら変わりもない。
 後は、まあ……証明書だよ、変な思想を抱いていないことに対するな」

つまるところは、『政治資金を必要としたナチス』と『ナチスの取締を回避したい国民』の思惑の合致というのが真相だ。
ニタニタと笑みを深めて言葉を紡ぐ。

あらゆる事象を否定せず。
あらゆる事象を肯定することで。
あらゆる事象を嘲笑う存在。

名状しがたき嫌悪感を抱かせる存在を前にして、平常心は保てる。
しかし、それでも心の奥底に染み込んだ
同時に、神狩屋は得体の知れない感情を抱いていた。
理解できないが、懐かしい感情でもあった。

「さて、いらっしゃい……というべきかな。
 申し訳ないけど、今は臨時閉店なんだ。
 つまり、貴方は私的な客人と考えていいのかな?」

神狩屋が槇島から対応を受け継ぐ。
明らかなる、神的な異端を前にしても槇島と神狩屋の態度は変わらない。
変わらないように、努めている。
目の前の不定形の異形は慇懃無礼に口を開く。

「私的といえば私的か、あるいはお前たち聖杯戦争の参加者という役割を考えれば公的と言うべきか?
 なんにせよ、此度の聖杯戦争において槍兵<<ランサー>>の位階、そして、悪魔<<THE DEVIL>>を象るサーヴァントだ。
 もはや、隠す必要もないだろうが……やはり、礼儀として真名は隠させていただこうか」

ランサーのサーヴァント、すなわちアドルフ・ヒトラーは嘲笑を隠そうともせずに言い放った。
アドルフ・ヒトラー。
槙島聖護も、神狩屋も、フェイト・アーウェルンクスも。
その顔には見覚えがある。
二十世紀の怪傑の顔写真と演説映像は世界中に出回っているのだから。
おまけに、ご丁寧に鉤十字<<ハーケンクロイツ>>まで掲げているのだ。
ここまで隠す気もなければ、逆に何かしらの罠を疑ってしまうほどだ。


695 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:45:33 qLBuokPQ0

「ランサーのサーヴァントということは宝具は、聖槍なのかい?」
「おっと、我が神聖にして魔性の槍も見せることは出来んぞ?
 そんなことをしてしまえば、さすがに、我らが姫に大目玉を食らってしまう」

槇島が興味深そうに尋ねると、嘲笑を消さずにヒトラーは応える。
そして、何を言うでもなく余っていた椅子に腰掛ける。
礼儀も何もない無礼な行いに対して、しかし、咎めるものは居ない。

「さて、いい店だ。いい店だが、私の蒐集欲を完全に満たすものとなると……難しそうだな」
「あの第三帝国が所持した、数々の神秘を求められれば頭を下げて謝るしか無いね」
「おぞましき『宝物庫<<アーネンエルベ>>』に秘蔵したという聖遺物、興味深いものだよ」

暴言にも近い言葉を、これまた取り繕う様子もなく口にするヒトラー。
対して、相変わらず怒りというものを浮かべない二人の男。
恐怖にも似た異常を感じ取っているが、それを表面には出さない。

「それじゃ、つまらないものだけど、お客さんに珈琲でも――――」
「僕が入れる」

神狩屋の言葉を引き継ぐ、というよりも半ば奪い取るようにフェイトが言葉を発した。
神狩屋は目を丸くしてフェイトを眺め、フェイトは手元の珈琲を眺める。

「セイバーのマスター。君の珈琲は……少しばかり、不精すぎる」
「……お願いしようかな」

苦笑を浮かべて、上げた腰を落とした。
そして、店主にして、ホストとして、招かれざる客であるヒトラーへと語りかける。

「それでは、貴方の目的は?」
「目的など無いさ。
 ただ、ありとあらゆる事実が沈んだ深海から浮かび上がり、海面に揺蕩う泡の如く、弾けて消えるのみ……
 そう、我々サーヴァントの有り様に忠実であるだけだ」

煙に巻くランサーに対して、柔らかく微笑む。
この微笑みが、あらゆる事象に対する興味の無さに似たものだと、ランサーはもちろん槇島も感づいている。
そのままにフェイトが入れてみせた珈琲に口をつけ、そこで初めて目を見開いた。

「これは……」

その後、僅かに苦笑を零す。
この珈琲を入れられるのならば、自分のお座なりなものは飲みたがらないだろう。

「さて、『噂』のことだけど……呼ばれたと言っていたね」
「フハッ!」

槇島の言葉に、ランサーは演技がかった笑みで応える。
『呼ばれた気がした』という言葉。
単なる冗談と流すことも出来るが……何やら、含みがある言葉だ。


696 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:46:32 qLBuokPQ0


「『ペルソナ様』のお話をしていたのだろう?
 あらゆる事象には、物語には、原典というものがある。
 そこを辿れば真実が見えてくる……そして、真実が訪れる」

だから、と。
ランサーは付け加えて、張り付いた嘲笑をさらに捻じ曲げた。

「お前たちにその気がなくとも、私のことを知りえなくとも、現実として、私は現れた。
 口にした言葉は決して腹の中に戻りはしない……気をつけるべきだよ」
「世界というものは、人間の心の奥に眠る言葉で形作られているからね」

その言葉に神狩屋が引き継ぐ。
気に入ったのか、何度も珈琲を口に運んでいる。
そして、何かを求めるように笑ってみせた。
今までの笑みとは、少々趣の異なる笑みだった。

「声にしてしまったもの、あるいは、文字にしてしまった言葉は、心の中から飛び出た泡……
 泡が吹き出て、はじけて、それは現実へと浮き上がる。
 ある意味では、現実は神秘で作られているとも言えるし、全てが現実である以上、世界には神秘なんてないとも言える」
「素晴らしい」

瞳の奥を覗きこむような目で、ランサーは神狩屋を見つめる。
視線を逸らさずに、柔らかく笑ってみせる。

「では、一つ、物語を暴いてもらおうか。
 テーマは……学校であった怖い話。
 我が姫に近しい場所で眠っている、我が欠片を……どれ、解き明かして見せてもらおうか」







697 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:47:01 qLBuokPQ0

「はぁ……っと」

思わず溜め息が漏れ、それを是正するように背筋を伸ばした。
良くないことだ。
暗い感情で支配されては、いけない。
しかし、伸ばした背筋もすぐに猫のように丸まっていく。
周囲を見渡す。
空々しいほどに、穂乃果の記憶にある日常と同一の世界だ。
だからこそ、僅かに生じる違和感が際立って見える。
例えば、今。
人々が賑わっている購買から眼を離し、別の場所を見てみるとしよう。
例えば、使う人間の少ない特別教棟の一階トイレの窓を眺める。
すると、ぺたり、と。
小さな、小さな、小さな手を幻視した。

「……ッ!」

穂乃果は、ふるふる、と頭を振った。
頭がおかしくなりかけているのだ。
短い人生の中でも、衝撃的な出来事がこの短期間に起こりすぎた。
自身の揺れる気持ちを宥めるように、パック牛乳にストローを突き刺した。

優れない気分のまま、廊下を歩いて行く。
昼休みも、もうすぐで終わってしまう。
本来なら憂鬱になるところだが、授業中は教師が考えることを与えてくれるために、多少は楽な気分になる。

さて、いくらか歩みを進めていけば、人集りが見えた。
グラウンドに面した窓に、群がるように少女たちが集っている。
不思議そうに眺めながら、穂乃果は見知った顔に語りかけた。

「どしたのー?」

穂乃果はパック牛乳をストローで飲みながら、窓辺に人垣を作り上げたクラスメイトに問いかけた。
一人の女生徒が振り向く。
年頃の少女らしい柔らかな頬を緩ませた、締りのない顔をしている。
恍惚、と言い換えることも出来る。
いきなりの表情に、半ば『引いた』ように穂乃果は後ずさった。


698 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:47:22 qLBuokPQ0

「ワンちゃんだよ、ワンちゃん」
「犬?」

つまり、犬が迷い込んだらしい。
ただ、それだけの話。
しかし、本来ならば存在すべきでないモノが存在するということは非日常の香りだ。
代わり映えのしない、退屈だが幸せであるべき日常のちょっとした変化に女子高生が浮き足立っている、といったところだ。
穂乃果は身をかがめ、女子高生の群れを進んでいく。

「よいしょ……っと」
「ほら、あそこ。結構おっき――――」

ひょい、と。
女生徒の言葉を聞きながら、人垣の間から首だけを出してグラウンドを眺めたその瞬間。


「―――――!!!?!?」


牛乳を飲んでいたことも忘れて、穂乃果は激しく吹き返す。
気道を通っていた牛乳は逆戻りし、鼻へと書け登っていく。
つん、とした痛みが眉間に走り、身をかがめる。
苦しげに咽る穂乃果を尻目に、生徒たちは食い入るようにグラウンドを駆けまわる『白狼』を眺める。

「かわいー……!」
「毛並、すっごい艶々してるよ」
「首輪してないから野良? あんなに小奇麗なのに?」

口々にはしゃぐ生徒たちの声を背中に受けながら、穂乃果は滝のように汗を流す。
あの犬は、いや、さらに正確に言えば狼なのだが、普通の犬ではない。
偉業を成し遂げ、崇められた英雄の魂なのだ。
早太郎の猿神退治に代表されるように、動物が英雄となることはさして珍しいことではない。
サーヴァントと呼ばれる役割に押し込められて顕界した英霊。
白狼のサーヴァントの主こそが穂乃果なのだ。

「なんで……?」

咽た呼吸も落ち着いたところで、穂乃果は脳内に無数のクエスチョンマークを浮かべる。
元々、奔放な癖のある白狼のアマテラスだ。
しかし、性根が歪んでいるわけではない……はずだ。
直感に近いものだが、悪い存在ではないと思える。
そのアマテラスがここに現れた。
何か嫌な予感がした。

『オンッ!!!』

アマテラスが吠え、風が走った。
憂鬱な想いの中で、清涼な風が心を撫でるように穂乃果に吹いた。





699 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:50:02 qLBuokPQ0

少女は、弾かれるように外へと飛び出た。
音ノ木坂学院の制服とは異なる、白と赤の服を纏った、特徴の薄い顔をした少女だった。
自身の自宅とも呼べるトイレを眺める。
殆ど無意識な動きだったため、自らの城に戻ろうとする。
あの『吠え声』は、嫌なものだ。
綺麗で、澄んでいて、正しいものだ。

なんて――――嫌な音。

自身の存在を否定するような、それでいて奥底にあるものを肯定してくる音。
表面上の淀んだ物を否定し、奥底に眠る澄んだものを呼び戻してくる音。
嫌な音だ――――己を変えてくる、嫌な音だ。
少女はトイレへと戻ろうとし、ふと、背後に誰かが立っていることに気づいた。
赤い外套を纏い、重厚で無骨な銃を掲げている、昏い男だった。
悪寒が走った。
今度は、先ほどの音のような、柔らかな不快感ではない。
純粋な恐怖から生じる、少女を急かし立てる悪寒だ。

男――――ヴィンセントは銃口を少女へと向ける。

赤と白で構成された衣服を纏った少女は、ヴィンセントから逃げるように、怯えるように後ずさる。
しかし、その脚はすぐに止まることになる。

『オンッッ!!』

再び、鋭い吠え声が響く。
後ずさった足をピタリと止める。
前門の狼、後門の虎と言った風体だ。
少女――――『トイレの花子さん』は邪な存在だ。
そして、狼の遠吠えは聖なるものであり、邪を撥ねつける力を持っている。
害獣退治の逸話から生まれる一種の概念的な力だが、現実、トイレの花子さんには大きな障害となっている。

「……」

ヴィンセントは、明らかに『不味い』相手だ。
『まつろわぬ民』であり『悪霊』にすぎない花子さんと比較して、『英霊』であるヴィンセントはまさしく別格の存在。
まともにぶつかり合えば、死は免れない。

『なんで……』
「何故、と聞くか」

ヴィンセントはトリガーを絞る。
銃口から銃弾が飛び出し、花子さんの肩の肉をえぐった。
花子さんは苦痛に顔をしかめ、しかし、不思議そうに傷口を眺めた。
目の前の存在、英霊ならば花子さん程度は一撃で殺してしまうと思っていたからだ。
しかし、銃弾は大きな威力を持っていなかった。

「この場所では生命の流れが澱んでいる、そして、お前はいつか生命を刈り取る……いずれ、私のマスターにも及ぶ。
 ならば、例えマスターの選択でもなくとも――――私はお前を殺さなければいけない」
『まだ、まだ……殺してない』
「単なる時間の問題だろう」

ヴィンセントは、カツカツ、と地面を叩いて花子さんへと近づく。
あの銃弾に、花子さんを即死させる力はない。
正確に言えば、まだその力は宿っていない。
『罪と罰<<デス・ペナルティ>>』、ヴィンセントの宝具は生命を奪うことで力を増していく。
現在の罪と罰では、低級とはいえ悪霊という神秘である花子さんを殺すことは出来ない。
だが、ヴィンセント自身の膂力ならば別だ。
罪と罰を鈍器として扱い、殴り殺すことは出来る。


700 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:50:44 qLBuokPQ0

「……そう、時間の問題だ。
 いずれ、わかりきった結果が来る」

ヴィンセントは顔をしかめた。
現実を見つめずに、世界に溺れる南ことり。
どれだけ心地よくても、溺れていれば、やがて息が出来なくなる。
目の前の悪霊が、その歪んだ在り方として、殺人という当然の結果を生み出すように。
南ことりもまた、いつまでも理想という海に浸り続けることは出来ない。
呼吸を行うために、いつかは海面から顔を出さなければいけない。
その時に、果たしてことりは正気を保っていられるだろうか。

「……いつかは向き合うことになる、己の罪と、な」

そう言って、ヴィンセントは罪と罰を掲げた。
勢い良く振り下ろされる罪と罰。
花子さんの頭蓋を砕いて余りある一撃を前にしても、花子さんは動けなかった。
死という圧倒的な恐怖を前にしては、悪霊と人間は大きな違いはないのだ。

「――――ァァァ!!」

その時だった。
ヴィンセントと花子さんの頭上から、甲高いが力に溢れた叫びが聞こえた。
瞬間的にヴィンセントは後方へと下がる。
花子さんとヴィンセントが向かい合った空間、その中心に一つの影、あるいは光と呼べるものが舞い降りた。
一も二もなく、至近距離に現れた新手に対してヴィンセントはトリガーを引く。

「ハァァァッ!!」

新手は『銃弾を掴む』と同時に、槍めいた右前蹴りをヴィンセントの腹部めがけて叩き込む。
ヴィンセントは後ろへと跳ね跳びながら、左手で払い落とそうとする。
しかし、左手がその脚を掴みかけた瞬間、ピタリ、と止まる。
タイミングがズレ、体勢が僅かに崩れる。
新手の右脚が動きを再開し、ヴィンセントの腹部に触れてから、押し出すように柔らかな蹴りを入れてきた。
痛みは、ない。

「待った!待った!」

白と桃を貴重とした服の上に黒いベストを纏った少女は、赤桃色のポニーテールを揺らしながら新手は叫ぶ。
気配でわかる、間違いなくサーヴァントだ。
花子さんとヴィンセントの間に割って入ったそのサーヴァントは両手を伸ばして『待った』をかける。

「私がやるから、待って!」
「……?」
「貴方じゃ殺しちゃうから……殺しちゃうから、待って!」

要領を得ない言葉を聞きながら、『罪と罰』を掴む手に力を込める。
しかし、トリガーには指をかけない。
その様子を見たサーヴァントは、笑みを浮かべた。
ふと、顔を逸らしてしまうほど、温かい笑みだった。
その笑みはヴィンセントではなく、花子さんへと向けられる。


701 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:53:24 qLBuokPQ0

「……大丈夫だよ」
『……?』
「変わることは怖くないし、元に戻ることは怖くないよ。
 最初は、そうだったんだから。別に、おかしなことじゃないんだよ」

ヴィンセントへと背中を見せる。
しかし、隙はなかった。
襲いかかれば、代わりにヴィンセントの顔面へと拳が叩き込まれる。
そんな予感がした。
魔獣の因子を発動させ、モンスターへと変態すれば別かもしれないが。

「……ね?」
『……』

そう言いながら、新手のサーヴァントは手首につけたブレスレットへと指を伸ばす。
薄桃色の光が溢れた。
花子さんの身体を、その光が包んでいく。
同時に、昏い煙が花子さんの身体が出て行く。
サーヴァントは、ブレスレットの飾りを回しながら、光を発しながら、言葉を続けた。

「知ってるよ、お母さんから聞いたんだ」
『……え?』
「トイレには、女神様が居るって。
 わたしを産む時も、元気な子を産めますようにって、お掃除をしてたんだって。
 わたしを産んだら、死んじゃうかもしれないぐらい身体が弱いのに、掃除をしてたんだって」

昏い煙が、サーヴァントを攻めるように包みだす。
サーヴァントは、花子さんへと向かって手を伸ばした。

「ありがとう」
『……』
「わたしを元気に産んでくれて……お母さんを、殺さないでくれて。
 ごめんね。
 こんな風に、汚しちゃって。
 貴女は、幽霊じゃなくて、神様なのにね」

光が強さを増した。

「本当は、大事にしなきゃいけないのに……トイレの神様は、女の子を守ってくれるのに、ね」

強く、強く、強く光り――――やがて、花子さんの姿が消えた。
そこには、人形と花のようなものが落ちていた。
薄汚れてところどころ体の一部が欠けた人形と、すっかりしおれて枯れ切った花。
淀んでいた生命だ。


702 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:53:46 qLBuokPQ0

「……」
「……」

その人形と花を見つめた後に、サーヴァントは目を伏せ、ヴィンセントへと向き合った。
ヴィンセントは銃を下ろした。

「正体は、知らん……だが、私のマスターと近しいものだとはわかる」
「きっと、そうだと思う」

お互いが、お互いに自身のマスターと相手のマスターの関係に感づいた。
刃を交えるつもりはない。

「何も言えない」
「うん、わたしも何も言えないから、何も言わなくてもいいよ。
 なにか言ったら、マスターを裏切っちゃうから」

そんなことしたら今より嫌われちゃうからね、と。
苦笑混じりにつぶやいた。
ヴィンセントはマントを翻し、ことりの元へと戻った。
恐らく、目の前のサーヴァントもことりの親友へと戻っただろう。

同時に、あの強烈な光のことを思い出していた。
柔らかな光だが、特別な光ではなかった。
恐らく、人間が持つ光だ。
きっと、あの光を誰もが持っている。
だから、あの光によって生まれる闇も、誰もが持っているのだろう。

トイレの花子さんが、正しい一面を持っていたように。
トイレの花子さんが、淀んだ一面を持っていたように。


――――自身のマスターであることりが、昏く澱んでいるように。






703 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:54:28 qLBuokPQ0



「それでは、総統の期待に応えて……
 普遍的な『風土信仰』が、細部がオミットされて『噂』に変わる例を一つ。
 題は『トイレの花子さんの荒御魂』、祟りというもので」

神狩屋は相変わらずに穏やかな目つきで言葉を紡ぐ。
柔らかな言葉を耳に心地よく、毒すらも受け入れてしまいそうな声色だった。
薬も毒も興味のない神狩屋の在り方が生み出す、他者が意識しては決して出すことの出来ない特殊な声色なのだろう。

「『厠神信仰』はご存知かな?」
「ああ、勿論」
「厠……トイレの神様かい。日本の風土的な宗教と聞いているけど」

頷いた槇島と、確かめるように問いかけるフェイト。
ヒトラーはといえば、相変わらず、嘲笑を貼り付けて黙したままである。
眼鏡の奥の瞳を優しげに染め、神狩屋は頷いた。
そして、言葉を続ける。

「水場であり下水に繋がる『厠』は、風水的にも神話的にも大きな意味合いを持つんだ。
 厠は最も身近な『境界線』、厠は『あの世』と近いために穢れが非常にたまりやすいんだ。
 だから、人々は厠に大きな意味を求め、汚い場所であるからこそ清潔を求めた。
 その場が穢れていることは、『この世』と『あの世』の境界がずれて、良くないことが起きると考えられているからね」

神狩屋は続ける。
ヒトラーは嘲笑を貼り付けたまま、珈琲に口を含んだ。

「そして、この世で境界に近づく瞬間は『生誕』と『死亡』……だから、厠信仰には妊婦と赤子とは関係が深い。
 身重の女性が精を出して厠掃除に励むことは、むしろ推奨されていたほどさ。
 『出産』という大仕事を抱えている妊婦にとって、身近に存在するあの世との境界を清めることは大事な仕事なんだ。
 穢れがたまれば、良くないことが起こるんだから。
 ただ、それでもやはり万全とは言えない。どれだけ綺麗にしても、やはり手の届かない場所というものはある。
 だから、次善の策が必要となる」

そこで、神狩屋は言葉を切り、珈琲に口をつけた。
フェイトが入れ直したその珈琲に頬を緩ませる。
ゆっくりとした動作でカップを元に戻し、講釈を続ける。
元々の性質として、話したがりなのだろう。

「つまり、『人形』という代替物。
 どの文化に置いても『穢れ』は人形に任せることが多い。
 『身代わり』としての人形だね。
 流産した子供の供養に人形を使われることは、いろんな地方でもあるから」
「こけし人形に関係する『子消し』の俗説は、そこまで間違っていなかったことかい?」
「俗説は俗説だけどね」

槇島の言葉に、神狩屋は笑ってみせた。
『こけし人形は身売りに出した子供を思って作った人形』といった説ははっきりとした確証がない。


704 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:55:16 qLBuokPQ0


「俗説というよりは、創作話が広まってしまったって言うべきかな。
 確たる証拠がない以上は、単なる言葉遊びの域は出ないよ。
 っと、話がズレた上に、前置きが長くなってしまったね」


本当は『水子とヒルコ神』の関係性を『人形』という要素を踏まえた上で語りたいのだけど。
神狩屋はその言葉を飲み込み、本題に移った。
すなわち、『トイレの花子さん』だ。


「怪談――――つまり、少年少女達の噂話である『トイレの花子さん』も、この厠神信仰に大きな影響を受けているんだ。
 トイレに人形や『造花』、すなわち生命の代わりが置かれることは風土民話や厠神信仰として何ら不自然ではない。
 ただ、厠信仰の薄れた現代では不思議に映ってしまうんだ。
 花と人形が組み合わさり、厠神信仰における妊婦の存在。
 ここまで来て男性の存在が浮き上がることはあり得ない、よって、『花子』という名前を持つ『少女』が生まれる」


少女であることには意味がある。
もちろん、トイレの花子さんの噂話をし始めた者が少女だったからかもしれない。
しかし、物語には必ず『原典』というものが存在する。
骨格が必要であり、それは噂話のような簡単なものでも例外ではない。


「そして、『排泄行為』は『出産行為』としての類似性を所持している。
 排泄物が汲み取られ肥料になる排泄行為、大地に生命が満ちる出産行為。
 互いに大地母神へと直接的に関わる行為だ。
 また、大地母神による『生誕』・『出産』の要素とは別の部分で――――厠には『死』がついて回る」


神狩屋は声のトーンを落とす。
知識は豊富だが、語りはそれほど秀でているわけではないようだ。


「厠っていうのはね、本当に『死』に近い場所なんだよ。
 ただでさえ、境界線として見られているからね。
 特に、日本という場所では『を水に流す』、いわゆる水洗式の厠は古事記のある一節を連想させる」

「『ヒルコ神』、日本神話における水子の象徴だね……そういえば、平安の時代にも水洗トイレがあったらしいね」

「そう、日本の一部の層においては『厠』は『出産』と同時に『堕胎』を強く連想させるんだよ。
 だから、厠を神経質なまでに気を使った。
 『厠』に宿るものは、神であると同時に、絶対に『死』を司る化け物になるんだ」


話す言葉の物騒さとは裏腹に、神狩屋は柔らかく笑った。


「本来は造花と人形の象徴であり、大地母神の化身とも言えるはずの『トイレの花子さん』。
 彼女に荒ぶる神とも言える、あまりにも物騒な話がついて回ったのは、そんな理由なんだね」





705 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:55:53 qLBuokPQ0

突然、倦怠感が海未の身体に生まれた。
魔力の消費だ。
海未の召喚したサーヴァントはランサー、アーチャーの持つ単独行動スキルを持っていない。
ある程度の動きを行えば、必ず海未の消費に繋がる。
覚悟していたことだ、なんてことはない。
僅かに歪めた顔をすぐに戻し、ピン、と背筋を伸ばした。

「……」

背後に、気配を感じた。
しかし、そこに視線を向けても誰も居ないだろう。
さすがに慣れてきた感覚。
言葉にせず、背後の存在へと語りかける。

「サーヴァントでしたか?」
『サーヴァントじゃなくて、サーヴァントが居たよ』

園田海未は眉をひそめる。
背後の存在、すなわち、自身の召喚したサーヴァントは度々要領の得ない言葉を繰り出してくる。
ようするに、説明と呼ぶには一言が足りないのだ。
ランサーのサーヴァント、キュアラブリーは少々正直すぎる嫌いがある。
自身の親友とよく似た、直情的な、明るい少女だ。

「……わかりやすくお願いします」
『私が感じたのはサーヴァントじゃなかったけど、そこには別のサーヴァントが居た。
 ――――きっと、そのマスターは……』
「わかっています」

園田海未は目を伏せ、長く息を吐いた。
分かっている。
ここには、自分以外にも聖杯戦争の参加者が居る。
そして、その参加者もおおよその見当がついている。
認めたくないが、認めなければいけない事実。
恐らく、南ことりは聖杯戦争に参加しているマスターだ。
方針がどうであれ、どのような経緯があれ、『参加者』としてカウントされているのは間違いない。

「……ことりを尾けましょう」
『心配だから?』
「事件があったようです……爆破事件だとか。
 別の学校だと、午後の授業を打ち切って集団下校を行ったとか」

昼休み中に、知り合いが言っていたことだ。
Twitterだったか、LINEだったか。
友人とのSNSを通して知り得た情報の又聞きだ。
爆破事件。
それは、聖杯戦争の一端かもしれない。
海未の脳裏に嫌な想像が生まれる。
それは、穂乃果が、ことりが、真姫が、花陽が、凛が、絵里が、希が、にこが。
μ'sのメンバーが聖杯戦争に巻き込まれる想像。
そして、生命が消えていく光景。
身体が震えた。
そんな現実だけは、絶対に我慢できない。


706 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:56:12 qLBuokPQ0

『心配なんだね、本当に』
「心配がないわけ……ないじゃないですか」

海未は平静を装って口にする。
しかし、内に眠る激情は隠し切れない。
辛いのだ。
穂乃果とことりが、普通に接している姿を見ることが、何よりも辛いのだ。
本来あるべき姿を、海未は壊した。
その引き金を絞ったのは、海未だ。
壊した一因は、海未なのだ。
だから、海未はあの二人の側に近寄れなかった。
優しいものだから、歪みに気づいてしまう。

「……ランサー」
『何?』
「私は、貴方のことがあまり好きではありません。
 脳天気で、図々しくて、正しいからと平気で言葉を口にする」
『……手厳しいなぁ』
「それでも……恥を忍んでお願いします。
 貴方を、英雄だと信じて」

たはは、と恥ずかしげに苦笑を浮かべるキュアラブリー。
そのラブリーに向けて、海未はつぶやいた。
今にも消えそうな、か細い感情だった。

「私達を、助けて下さい」



【B-3/千代田区 音ノ木坂学院前/1日目 昼・夕方】

【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]健康、精神的動揺
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:どうすればいいのか、わからない。
[備考]
※ ジョーカー討伐クエストについて把握しました。
※ 聖杯戦争について、資料で把握しています。

【アマテラス@大神】
[状態]健康
[装備]三種の神器
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
0:穂乃果と穂乃果の大事なものを護る。


707 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:56:33 qLBuokPQ0

【園田海未@ラブライブ!】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:ことりがマスターであるか確かめる。

【愛乃めぐみ/キュアラブリー(ランサー)@ハピネスチャージプリキュア!-人形の国のバレリーナ- 】
[状態]魔力消費(小)
[装備]プリチェンミラー、ラブプリブレス
[道具]なし
[所持金]一般女子中学生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:海未のことは守りたいし、誰のことも犠牲にしたくない。
1:海未に従う。


【南ことり@ラブライブ!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]制服
[所持金]一般女子高校生のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:
1:日常を謳歌する。
※ ジョーカー&バーサーカーの情報を確認していません。確認する気もありません。

【ヴィンセント・ヴァレンタイン(アーチャー)@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]魔力消費(微)
[装備]罪と罰(デスペナルティ)
[道具]なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守る。
1:マスターを守る。





708 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:57:20 qLBuokPQ0

神狩屋の薀蓄が終わった頃。
気だるげな表情で、カーズが現れた。

「これは、そいつの犬か?」

カーズは室内へと向かって、巨大なボールのような何かを放り投げる。
いや、それはボールではなかった。
手足がもぎ取られ、不自然なまでに、頭部が鼻先まで胴体に打ち込まれた人間だった。

「おお、ドノヴァン! 死んでしまうとは情けない!」
「……総統、閣下。生きております」

ぷはっ、と。
頭部を引きぬいたヒトラーへと切れ切れの声をかける。
今にも死んでしまいそうなほど顔を苦痛に染め、しかし、その唇には張り付いたように嘲笑が浮かび上がっている。

「それでは、サーヴァントは見つかったということかね?」
「……はい」

ドノヴァンは笑った、やはりその笑みは嘲笑だった。
ランサーはその情報をすでに知っている。
ドノヴァンもまた、ランサーだからだ。
ランサーは『アドルフ・ヒトラー』であり、『最後の大隊』そのものであるからだ。
全てを知っている。
ランサーは息も絶え絶えのドノヴァンを無視し、視線を向ける。
視線の先には二組の主従。
セイバー・カーズを従える神狩屋と、キャスター・フェイトを従える槇島。
ランサーは、口を開いた。
『物語の一片』を『確定』させる、言葉を世界へと解き放った。


「君たちが望むのなら、太陽の場所を教えてあげてもいい」


笑った。
ヒトラーが、フェイトが、カーズが、神狩屋が、槇島が、ドノヴァンが。
この場にいる全ての存在が笑った。


709 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:57:39 qLBuokPQ0

「諸君――――もう、物語は初めてしまっているのだよ。
 白い太陽は現れ、星に眠った兵器は目を覚まし、光は照らされ初められている」

そう言って、ランサーはゆっくりと椅子にもたれかかった。

「聖杯戦争の物語はまだ途中だ……だから、貴様らの好きなように動かせばいい」
「君はブックを書かないのかい?」
「私は脚本家ではない、演出家だ。
 どのような脚本であっても、私は私の思うように、物語の結末を変えずに、脚本を自分の好みに変えるだけさ」

槇島の言葉にランサーはなんでもないように応える。
槇島は、それならば、と会話の流れを受け取った。

「太陽は輝き、星は生命に溢れ、光は照らし続ける。
 しかし、物語である以上そのままでは終わりはしない、変化のない物語なんて、つまらないだろう?
 太陽は沈み、星は死に、光は――――やがて、闇に呑まれる。
 そう言った物語にしないかい?」
「チープな物語だ、三流の物書きでも書けるものになりそうだな」

槇島の提案にカーズが笑う。
槇島は怒りを見せずに、やはり笑みを浮かべる。

「殺し合いをゲームとする馬鹿げた催しなんだ、チープなぐらいがちょうどいい」

槇島は、穏やかに笑った。
神狩屋もまた、笑った。
ランサーの顔には、嘲笑が張り付いていた。


肉食獣の捕食の際の表情は、人間の笑みによく似ているという。


710 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:58:12 qLBuokPQ0



【B-2/千代田区・古物商『神狩屋』/1日目 昼・夕方】


【鹿狩雅孝@断章のグリム】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]私服
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争のキャストとして動く。
1:情報を入手する。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。

【カーズ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]ダメージ(中)
[装備]なし
[道具]血の運命繋ぐ石仮面
[所持金]潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:身体を癒やす。
2:ジョーカーとバーサーカーを倒して、報酬を手に入れる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※アマテラスを『太陽』に親しい存在だと認識しました。
※切嗣(獣の槍)を憎しみを原動力に動く者だと認識しました。


【槙島聖護@PSYCHO-PASS】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]剃刀、釘打ち機
[道具]釘打ち機のマガジン×2
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しみ、そのなかで様々な『人間』の意思を確かめる。
0.目の前の男(ヒトラー)に嫌な予感。
1.ジョーカーに強い興味。会って話してみたい。
2.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる。
3.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。
※池袋近郊の女子校の教師として勤めるはずでしたが辞めました。
※NPC相手に色々試す準備をしていました。釘打ち機はその一環です。
 他にどんなことをしていたかは後続の書き手さんにお任せします。


711 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:58:22 qLBuokPQ0

【キャスター(フェイト・アーウェルンクス)@魔法先生ネギま!】
[状態]打撲、裂傷
[装備]指輪(魔法の発動体)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:戦いと、強い意志を持つ人間を求める
1.ジョーカーに関心。ショーゴと共に探す
2.工房敷設に適した霊脈を見つける
3.NPCに意思を持つ者がいるか確かめる
4.ルーラーや聖杯に意思があるならそれも知りたい

[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ルーラー、もしくはその上位存在が討伐令に思惑を挟んでいると推察。
 手紙に書かれた情報の差異など参加者への扱いは平等ではないのではと考えています。


【ランサー(アドルフ・ヒトラー)@ペルソナ2罪】
[状態]健康、魔力を消費。
[装備]ロンギヌス
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:愉しむ。
1:事件が起こって凄く愉しい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の容姿と情報を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。
※噂が広まっていることによって、スキル、『月に吠えるもの』の能力限界が拡張されました。
※『月に吠えるもの』で召喚された『最後の大隊<<ラストバタリオン>>』の『仮面』は単独行動:Eを所持しています。


712 : 学校であった怖い話。 ◆devil5UFgA :2015/06/25(木) 02:58:33 qLBuokPQ0
投下終了です


713 : 名無しさん :2015/06/25(木) 18:01:19 40n8Jfho0
乙です
今回出てきたのって花子さん@女神異聞録personaでしょうか?
学校にいる三組も、サーヴァントたちの光で立ち上がってくれることを祈るばかりです
そしてヤバい三組にさっそく居場所がばれたアマ公が心配になる素晴らしい展開でした


714 : 名無しさん :2015/06/25(木) 18:34:21 CFS78SW20
花子さんは2罪にも出てくるよ
噂悪魔として


715 : 名無しさん :2015/06/25(木) 19:00:43 40n8Jfho0
>>714
あ、失念してました


716 : 名無しさん :2015/06/25(木) 20:35:13 teI/ZtKM0
投下乙です!

花子さん、君は呪殺と自爆が凶悪すぎるのが悪いのですよ‥‥‥‥
いやまあ、滅殺じゃなくて浄化されてほっとしましたが
ともかく、今回も面白かったです
ラブライブ組も神狩屋組もどちらのキャラも生き生きとして魅力的でした
ついにキュアラブリーに心を開いた海未ちゃんに、〈太陽〉を餌に戦乱を巻き起こそうとするニャル
静かに、しかし着実に変化が起きているこの雰囲気がすごく好きです
しかし、すっかり伝奇民俗学講義になってきましたね、いや、こういうの大好物ですし、すごく面白いから良いのですが

しかし、髭おじさんことニャルラトテッブが〈悪魔〉ですか
ジョジョキャラも居ることですし、サーヴァントをタロットに当て嵌めて色々考えてみるのも面白そ‥‥‥‥まさか、そうなると〈皇帝〉と〈法皇〉はあの二騎!?
うわぁ、なんともジョーカー好みのブラックジョークですねえ
そして頼みの綱の「希望」を象徴する〈星〉は、本文中でも語られている「彼」ですか
ううむ、なんという先行きの暗さ
しかし、それでもこの物語の続きには期待したいですね
伝奇にせよ、チープにせよ、続かなければ物語は完成しませんし、続いていくならそれはそれ自体が一つの希望だと思いますから
と、言うわけで、私の場合、とりあえず毎週五分ずつ雑文を書くところから始めようと思います

未熟なのは自業自得とはいえ、目標は遠いなぁ‥‥‥‥


717 : 名無しさん :2015/06/25(木) 21:03:30 yGi4vtnY0
投下来てたー!乙です!
帝都聖杯はこの蘊蓄を読むのが面白い
何せチョビ髭初め語り騙るに足る役者が揃い過ぎてるし
笑みに触れた最後の一文の背筋の総毛立つような感じ賀が素晴らしい
あと、ヴィンセントの「罪と罰」への細かな言及なんかも良かったです
しかしこれはいよいよ混沌が加速するなあ


718 : 名無しさん :2015/06/25(木) 23:01:16 VKCOYfrU0
投下乙です
相変わらない伝奇的面白さに加えて
μ's組とそのサーヴァント達(アマテラス除く)の繊細な心理描写も合わさって凄い面白いな
トイレの花子さんという有名な都市伝説を間に挟んでいよいよヤバイ奴らが動き出しそうだな…


719 : 名無しさん :2015/06/26(金) 01:45:48 pSkgABEg0
投下お疲れ様です!

花子さんの下りで放たれる「ありがとう」「ごめんね」という言葉がいいなぁ
ご利益への感謝と悪霊化させてしまったことへの謝罪で浄化させるというね
怪異的な存在に対するそれぞれの関わり方も見逃せなさそう
前半イイハナシダナーと思ってたら黒そうな連中はそうきたか…
こいつらが笑ってるとか本当にろくでもない絵面だ


720 : ◆devil5UFgA :2015/07/16(木) 23:08:23 MotsmhPE0
宇佐見蓮子&ライダー(伝説のモグラ乗り)
マエリベリー・ハーン&ライダー(十四代目葛葉ライドウ)
予約します


721 : ◆devil5UFgA :2015/07/22(水) 23:53:39 do1Y1yoU0
すいません、延長させていただきます


722 : ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:23:00 24LFNVh60
投下します


723 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:23:47 24LFNVh60


家系ラーメン。


日本神奈川県横浜市磯子区・西区発祥とする、豚骨醤油ベースで太いストレート麺を特徴とするラーメンのことだ。
ラーメン店「吉村家」を源流とするが、定義は曖昧であり諸説がある。
横浜ラーメンと呼称されることも多いが、より以前から存在する横浜市中区ルーツのラーメンとは異なる。

「へい、お待ち!」

胸元にポエムを白字で描かれた黒のシャツに、白タオルを頭に巻いた店員はどんぶりを三人の前へと置く。
どんぶりから立つ暖かな湯気と鼻を包む香り、そして、茶褐色のスープに浮く脂身。
触覚・嗅覚・視覚で食欲をそそってくる。
『おぉ……!』と、感嘆の声を上げる三人組。

「単純に美味しそう」
「白シャツでラーメンを食べるのって中々のチャレンジャーだよね」
「オイラ達は作業服みたなもんでやんすからね」

上から順に、
白と黒のツートンカラーで衣装を固めた二十前後の少女と大人のモラトリアム満喫中、宇佐見蓮子。
青を貴重とした服に茶色の帽子と赤いマフラー、帽子にゴーグルを掛けたまま夢を追い続ける大きな子供、伝説のモグラ乗り。
伝説のモグラ乗りと揃いの衣装を纏い、ただ、マフラーのみ色の異なる緑色のそれを身につけた眼鏡の男、オチタ。
、である。

「割り箸なんだ」
「清潔感あるでやんすね」

その大量生産の箸を、パチリ、と軽快な音を立てて割ってみせる。
ライダーとオチタは、示し合わせたかのように箸をどんぶりの中へと潜り込ませ、ラーメンを啜った。
その二人を見て蓮子は、あっ、と音を漏らし、軽く目を開いて咎めるような言葉を続けた。

「あー、ダメダメ。こういうのはスープから飲むもんなんだって」
「自分が食べたいものを食べるのが一番だよ」
「形から入るタイプでやんすね」

レンゲで掬った自然的な茶褐色のスープを飲む蓮子に対して、二人は笑いながら応える。
蓮子は茶褐色の、極僅かに白く脂を浮くスープこそをトップバッターと捉えた。
湯気を見せながら、口に含んだ時に感じる熱と口内を染め上げるような濃厚の味付け。
対して、ライダーとオチタは一も二もなく、淡黄色の太麺を啜る。
啜り、啜り、啜り、載せられたチャーシューや小松菜を食す。
小松菜で広がった、今までの豚骨醤油味を塗り替える味付けを、レンゲで掬ったスープで流し落とす。
そして、思い出したように太麺を再び啜る、その繰り返しだ。

「あー、身体に悪いもの食べてる感じがサイコーッ……!
 『良薬口に苦し』、すなわち『毒薬口に甘し』ってところかぁ」
「今、毒素がオイラ達の腹の中を駆け巡ってるでやんすね」
「こういう味懐かしいなぁ……」

ライダーは目を細める。
生前・史実におけるのライダーは考古学者的な一面も持っている。
『超古代文明の遺産』そのものとも言える、世界各地に『突然現れる』理解不能の遺跡の探索を続けていたからだ。
門前の小僧ではないが、ライダーも学舎で学んだ経験こそないが、超古代文明の知識に秀でている。
それはとにかく経験から生まれるものだ。
その経験を産み出すために巡った世界各地で、あらゆる食を食い尽くしてきた。
もちろん、高価なものは口に出来なかったが、ドヤ街などの屋台などではよく舌鼓を打っていた。
このラーメンからは、そのドヤ街での屋台の味を思い出させるものがあった。


724 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:24:49 24LFNVh60

「いやぁ、最初は『ラメーン』って何かと思ったら、普通に『ラーメン』が出てきて助かったよ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」

ライダーがそんな感慨を抱いて呟いた言葉に対して、蓮子とオチタが声を上げる。
二人の驚きの声と、非難めいた視線に対してライダーもまた声を上げる。
そして、恐る恐る、といった様子で言葉を続けた。

「……これ、『ラーメン』だろ?」
「違うでやんす、『ラメーン』でやんす」
「『ラーメン』と『ラメーン』の違いが分からないのは正直どうかと思うわ、ライダー」
「ええ……?」

目の前の物体と、蓮子とオチタの顔を何度も見比べる。
ライダーにとっては、蓮子の家で食べたカップラーメンやインスタントラーメンの上等なものという認識だった。
しかし、蓮子とオチタの言葉は違う。
そもそもとして、別物だと言う。
食べたらというか見ればわかるだろう、と言わんばかりの視線もつけて、だ。

「ライダー君は体育会系のガテン系の、しかも、食事は腹に溜め込めれば良いっていうがさつな男でやんすから。
 オイラや蓮子ちゃんみたいな美食家<グルメ>と違って、この繊細な味の違いが分からないんでやんす」
「可哀想なライダー。化学調味料と疲労で舌が馬鹿になってるのね。
 食は大事よ、この苦しい人生で食は数少ない生への活力なんだから」
「……そ、そう言われると、なんか、なんか」

二人の断言する言葉に押されて、うっすら汗を浮かべる。
恐る恐る、味を確かめるように咀嚼する。

「うん……うん、うん! ラメーン美味しい!ラーメン、美味しい!」

周囲の客に聞こえないように、自分自身に言い聞かせるように、ライダーは呟いた。
満足気に頷く蓮子とオチタ。
ライダーも嬉しそうに顔をほころばせて『ラーメン』、いや、『ラメーン』を啜っていく。

「……あぁ、美味しかったぁ」
「旨いものは人を幸せにするでやんすね」
「単純幸福最大理論ね」
「なにそれ、どんな理論」
「今私が名前だけ考えたから知らない」

そう言いながら三人は店を出て行く。
ありがとうございました、という意味を持っているであろう崩れた言葉を背中に受けた。


725 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:25:35 24LFNVh60

「バイトどうしよっかなぁ」
「俺達はマスターに任せるよ」

三人は店の前で談笑を始めた。
蓮子がバイトの件について、独り事のような口振りでライダーとオチタに対して語りかける。
バイト、秋葉原ビールフェアの破格のアルバイト代を掲げたものだ。
その言葉を受けて、ライダーは簡単に応えた。

「ライダーってそればっかり、そういうところあるとさ、モテないんじゃない?」
「そういうのやめろよ! そういう、そういうのは、本当、な! やめろよ!」
「えっ、本当? ライダーってそういうタイプなの?」
「普通でやんすよ、普通。ただ、ちょっと鈍い癖にそういうの気にするだけでやんす」

突然、慌てるように声を荒らげたライダーに、蓮子は怯えるというよりも僅かに引いた。
そして、蓮子は鞄の中からカメラを取り出した。
せっかくの東京巡り、蓮子は事あるごとにカメラで記録を取りたがる癖があった。

「んじゃ、オチタくんよろしくぅ」
「リョーカイでやんす」
「さ、ライダー、撮ろ撮ろっ」

蓮子はオチタくんに安っぽいカメラを渡してみせた。
オチタがカメラを構え、蓮子はライダーの肩をぐっと掴むと自身に引き寄せた。
ライダーも苦笑しながら、しかし、蓮子の肩を抱いてみせる。

「あれ、そういえばライダーとオチタくんって写真に写るの?」
「悪霊や邪神じゃないんだから、写真に収まるし鏡にだって写るよ」

ライダーはなんとなしに応えた。
オチタがカメラを構える。
すると、ふと店内で声が響いた。

「……あれ、おい。これ『ラーメン』じゃなくて『ラメーン』になってるぞ!
 直しとけよ、おい!恥ずかしいったらありゃしねえ!」

その声は店外にいて、シャッター音に重なったために三人には聞こえなかった。





726 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:26:58 24LFNVh60


所変わって、あるマンションの一室。
ゆったりとした服で身体のラインを隠す、少女から女性へと変わったばかりと言った風体のマエリベリー・ハーンが存在した。

「近くないかしら、あの二人」

マエリベリー・ハーン、メリーは目をつむり、不満気な声を漏らす。
メリーは『二人』と言ったが、この室内でその言葉が示すと思われる情報は存在しなかった。
本などは綺麗に書棚に片付けられているし、テレビやパソコン、ラジオと言ったものも起動されていない。
ただ、円を描くようにメリーと、書生風の少年と、小柄な黒猫が座っていた。
共通点が中々見つけられない組み合わせの中、共通点といえば、互いが目を瞑っているところだけだろうか。

「アレがサーヴァント? ひどく堂々としてるわね」
『マスター、『ラメーン』と『ラーメン』はそんなに違うのか?』
「あれ、単なるメニュー表のミスプリントよ……オフィシャルホームページだとちゃんと『ラーメン』になってるし」

送られてくる視覚情報を脳内で咀嚼しながら、メリーは黒猫・業斗童子の言葉に応える。
ラーメンを食べていたサーヴァント、蓮子や眼鏡の男は堂々と『ライダー』と呼称していた。

「でも、あの眼鏡の彼は何者? サーヴァントって一人だけでしょう?」
『使い魔と考えるのが妥当か』
「要注意っていう曖昧な判断しか出来ないわけね」

ふぅ、と息をつくとメリーは目をぱちりと開いた。
可愛らしい大きな目は薄紫の瞳が光に照らされ、開いたばかりの目を薄く細めた。
メリーが先ほどまで瞑っていた瞳で見ていたのは、メリーの存在する場所から遠く離れた光景。
メリーのサーヴァント、十四代目葛葉ライドウの使役する悪魔と視覚を共有しているのだ。
ライドウも簡易的な視覚共有の魔術をメリーに教えてみせ、メリーはいとも簡単にその魔術を身につけた。

『しかし、マスターの友人、蓮子だったな、彼女は何を考えてる……?』
「東京観光って想いも強いだろうけど、なんだかんだで本線はジョーカーのことかしらね。
 あの子のことだから、探して見つけ出してやろうと考えてもおかしくないわ」
『危険だな』
「蓮子に危険は付き物よ」

簡単に言い切ってみせるメリーに、ゴウトは目を閉じて小さく息を漏らした。
その瞬間、インターホンが鳴り、ライダーが無言で立ち上がる。

「頼むわ、ライダー」

メリーはライダーの背中に声をかけ、ライダーは小さく頷いた。
そして、ふぅ、と息をこぼして、疲労を取るように肩を動かした。

「しかし、本当に変な感じ……身体まで別の場所に居るみたいだったわ」
『こうも簡単に視覚共有の魔術が使えるということは、マスターは目が良いのだろう』
「普通よ、普通。最近測ってないけど、1.0ぐらいよ」
『そう言った意味ではない、霊視の問題だ。
 『祈願見鬼』……鬼、すなわち霊を見んことを祈り願う、というやつだな。
 会話する方面の術ではなく、知覚する方面の術となる』
「鬼はオーガ……怪物の類でしょう?幽霊とは趣が異なるんじゃないかしら?」
『マスターの言うとおり、この日本では『鬼』とは堕ちた化け物のことを指す。
 しかし、大陸の『鬼』とは姿なく言葉を交わせない、知覚できない『霊』を指すのだ』

そう言った才能を持つものは視覚に付随する魔術に対して高い適正を持つものだ。
ゴウトはそう続けた。
その講釈を続けてるうちに、ライドウが戻ってきた。
手には寿司桶を抱えていた。


727 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:27:56 24LFNVh60

「あら、早かったのね」
『少し遅れたが、食事と行くか』

注文していた出前寿司が届いたのだ。
ライダーは寿司桶をテーブルに置き、そのまま食器等を用意し始める。
メリーは待つことが仕事だと言わんばかりに、静かにゴウトと向かい合っている。

『生来のお嬢様気質か』
「人間、それぞれの役割というものがあるもの」

ゴウトもまた動かずに、ライドウもまた不満気な様子は見せない。
ライドウが用意した箸を持ち、また、ライドウが用意した茶を手元に置いて鮨へと箸を伸ばした。

「いい仕事してるわ、このお寿司」
『この寿司、少々小ぶりではないか……?』
「そうかしら? 私には、少しだけだけど、大振りに思えるけれど」

東京のベースは2010年代中期。
メリーの知る東京とも、ゴウトの知る東京とも異なる東京だ。
それは食文化にも現れる。
明治や昭和初期では、寿司は今のそれよりも大振りなものだった。
それから段々と寿司は小ぶりになっていく。
高等していく物価が故に一貫を小さくしたと考えてくれて構わない。

『……むっ。妙なカスゴだな、これは?』
「そう? 普通のカスゴでしょ?」
『カスゴの味とは少し違うぞ、どちらかと言うと……キダイを連想させる』
「そりゃあ、カスゴはキダイの稚魚のことだからでしょ?」
『カスゴはチダイだろう』
「キダイとマダイの稚魚もカスゴって呼ぶらしいわよ」

名称は変化する。
それは学説の変化や風説によるものであったり、単なる勘違いがそのまま知れ渡ってしまった場合であったり、様々だ。

「……それで、マスター」

一貫食べては言葉を交わすメリーとゴウトを眺めるばかりで、これまで口を開かなかったライダーが口を開いた。
メリーは箸を一旦止め、ライダーへと視線を合わせる。
相変わらず、静かな男だった。
浮き沈みの少ない、夜の湖面のような男。
瞳を覗きこめば吸い込まれるような、深さを持った男。

「これから、どうする?」
「様子見ね」
「先ほどの爆発事件、聖杯戦争の動きと見て問題ない。それでも、か?」
「ライダー、様子見というのは何もしないことではないわ。
 何が起きてもすぐに行動できる状態のことを指すのよ」

メリーはライダーの言葉を寿司に舌鼓を打ちながら応える。
先ほどの爆発。
間違いなく、ことが動き出そうとしている。
思えば、ジョーカーの討伐令が始まりだった。
今日が聖杯戦争のある意味でのターニングポイントとなる可能性は高い。
ならば、同じ様子見でも内容は異なってくる。

「爆発がジョーカーの仕業であってもそうでなくとも、何かが起ころうとしている。
 その兆候が現れたのよ?
 今までの『様子見』とこれからの『様子見』では対応の仕方が違うわ」
「では、どうする」
「悪魔を多く放って、多少の負担は構わないわ。
 貴方もまた、すぐに動けるように――――戦える状態に備えておいて」

戦闘を行うつもりはない。
しかし、ここには親友が居る。
ならば、戦うこともあるだろう。
大事なものを守るためならば、それ以外は失くしてしまうこともある。
メリーは、蓮子と結んだ手を覚えている。
結んだ手と手は、交じり合うことはない。
己のものとは異なる温もり。
まるで境界線のような自身の手と蓮子の手の違いを感じながら、ただ、その温もりが心地良かった。
少なくとも、現在のメリーにとっての戦う理由は、それ以外になかった。


728 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:28:31 24LFNVh60

【A-1/池袋/1日目 昼・夕方】

【宇佐見蓮子@東方project】
[状態]健康、満腹
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ガトリング(ライダーの宝具『愚か者の鉄土竜(バトルディッガー)』の武装)
[所持金]普通(学生として暮らせる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯について知りたい。
1.メリーの捜索を続ける。夜間の捜索は伝説のモグラ乗りに任せる。
2.昼になったら、安全な捜索のために必要な物を買う。煙幕(スモーク花火)が最優先。スクーターも欲しいが、お金がない。
3.明日(2日目)の割の良いバイト(秋葉原ビールフェア)に出るか、考え中。返答は1日目の18時までに必要。
4.ジョーカーについては保留。必要とあらば、図書館で調べる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※蓮子は東京大学に在学しています。
※現在、野球人形を5体完成させました。蓮子のアパートの押入れに保管中。
 それぞれの詳細は、後続の書き手さんにお任せします。

【ライダー:伝説のモグラ乗り@パワプロクンポケット10 バトルディッガー編】
[状態]健康、満腹
[装備]リボルバー拳銃
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子を支援し、浪漫を探す。
1.夜帯はオチタとともに市街を巡り、メリーを探す。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。


【B-1/文京区・マンション(メリーの部屋)/1日目 昼・夕方】

【マエリベリー・ハーン@東方project】
[状態]健康、睡眠中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや多め(親役NPCからの仕送りが多い)
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と再会して、脱出する。
1.蓮子に会いたい。けれど今は会うべきじゃない。
2.明日は大学に向かう。
3.殺し合いはしたくない(襲われたら応戦はするつもり)
4.ジョーカーについては関与しない。
[備考]
※夢により、ライダーの記憶を知りました。
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。

【ライダー(十四代目葛葉ライドウ)@葛葉ライドウシリーズ 】
[状態]健康
[装備]赤口葛葉、コルトライトニング
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:メリーが蓮子と再会できるように護る。
1.モー・ショボーに蓮子のサーヴァントを監視させる。
2.メリーは全力を持って護る。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※蓮子のサーヴァントがキャスター以外である可能性を考えています。確信には更なる情報が必要です。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。


729 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:28:53 24LFNVh60
投下終了です


730 : 1/2 ◆devil5UFgA :2015/07/24(金) 04:33:13 24LFNVh60
ついで、以下のキャラクターを予約します

羽藤桂&アーチャー(夕立)
衛宮切嗣&ランサー(獣の槍)
松下一郎&ライダー(ザイン)
峯岸一哉&ライダー(バビル2世)&ロデム
七原秋也&キャスター(操真晴人)
ふうまの御館&キャスター(加藤保憲)
谷川柚子(ユズ)&アサシン(復讐ノ牙・明智光秀)
ジョーカー&バーサーカー(ギーグ)
リエンス&ダッジャール(カオスヒーロー)
桐山和雄&ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)
ロウヒーロー&エンジェル(無道刹那)


731 : 名無しさん :2015/07/24(金) 07:10:05 bH/a9wKk0
乙です
この蓮子完全に東京観光楽しんでやがる……
こんな癒し系の風景があんな邪悪どもの茶会と同時期に展開されてるなど誰が想像できましょう
にしても、どっちの主従も仲良いなホント


732 : 名無しさん :2015/07/24(金) 09:22:36 EWS/ARKQ0
投下乙です。

ラメーンとラーメン。
貴様、パワポケをやり込んでいるな!? パワポケを知っていたらニヤリと来るものがありますね。このネタ
ラメーン、とても美味そうでした。深夜に読まなくてよかった。

あと、寿司って時代を追うごとに小さくなっていったんですね……
秘封の時代にはどんなサイズだったのでしょうか。
そもそも、オーガニック・スシは存在したのでしょうか。

・・・そして、モノの名称が一貫してこの作品のテーマとなっているのは、伏線とみて間違いないのですね?

秘封コンビが肥っていきそうなほのぼの幕間回、面白かったです。


733 : 名無しさん :2015/07/24(金) 10:00:44 XdB9T8j60
今から大体200年くらい昔のプロトタイプ寿司のシャリの量は、現在の物の4〜5倍くらいだったらしいしな


734 : 名無しさん :2015/07/24(金) 11:22:43 ktZjsox.0
投下乙です
グルメ回と見せかけて色々仕込んでますねえ
帝都聖杯は雑学も楽しいものだ
次の大量予約も楽しみでならない


735 : 名無しさん :2015/07/24(金) 20:18:35 bH/a9wKk0
メリーの状態表において、状態の欄が睡眠中から更新されていないようです


736 : 名無しさん :2015/07/25(土) 18:19:02 MqNKkM1I0
投下おつー
これは夜に読まないでよかった飯回w
メリーの蓮子に危険は付き物よってセリフすごい好きだわ
後結構メリーは頼りになりそうだし

そして次の予約は遂に真1メンバー勢揃いな大予約!?


737 : 名無しさん :2015/07/25(土) 23:41:23 5umIrCh.0
ラーメンと寿司がおいしそう、和やかな主従だ
さりげない会話の中でも地域と時代によって「名前」が示すものが変わることが仄めかされてるね
大予約の面々に縁と因縁の強い組み合わせが複数ある・・・!


738 : ◆devil5UFgA :2015/08/02(日) 00:53:08 hrfBCQKw0
申し訳ありません、現在の予約を破棄させていただきます
大変失礼しました


739 : ◆HQRzDweJVY :2015/10/13(火) 01:07:04 T9a0rIjI0
宇佐見蓮子&ライダー(伝説のモグラ乗り)
マエリベリー・ハーン&ライダー(十四代目葛葉ライドウ)
カイン(直哉)&魔人アーチャー
予約します


740 : 名無しさん :2015/10/13(火) 01:28:03 Jw3XsYrQ0
お、久しぶりの予約が。
アイドルの人か


741 : ◆devil5UFgA :2015/10/13(火) 01:43:05 pMvxt3Do0
羽藤桂&アーチャー(夕立)
衛宮切嗣&ランサー(獣の槍)
松下一郎&ライダー(ザイン)
峯岸一哉&ライダー(バビル2世)&ロデム
七原秋也&キャスター(操真晴人)
ふうまの御館&キャスター(加藤保憲)
谷川柚子(ユズ)&アサシン(復讐ノ牙・明智光秀)
リエンス&ダッジャール(カオスヒーロー)
桐山和雄&ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)
ロウヒーロー&エンジェル(無道刹那)

予約します


742 : ◆HQRzDweJVY :2015/10/18(日) 01:09:39 2GrCtJYU0
申し訳ありません。延長させていただきます。


743 : ◆devil5UFgA :2015/10/19(月) 00:34:54 l/qpPjFk0
申し訳ありません、延長します


744 : ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:42:07 /xuVjIQE0
投下します。


745 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:42:58 /xuVjIQE0
"東京"、というのは不思議な場所である――宇佐見蓮子はつねづねそう思う。
街の中心にいると綺麗な建物が延々と連なっているように錯覚してしまうが、適当な駅で降りてものの5分も歩くとごく普通の住宅街が顔を覗かせる。

――どこか書割じみている。
それが誰向けに作られたものかはさっぱりわからないけれども。

『――しもし、もしもし? 宇佐見先輩、聞こえてますか?』
「あっはい。聞こえてる聞こえてる。
 ……ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてたわ」

そんな取り留めのない妄想を遮ったのは電話越しの声だ。
スピーカー越しに聞こえてくるのは、年下とは思えない落ち着いた声色。
その声の主は蓮子の通う大学の後輩だ。

『もう……、あまり心配させないでくださいね。
 数日前から就活もバイトもしなくなったって、皆心配してたんですから。
 就職活動のし過ぎで……その……疲れてしまったのかと』

いい子だから必死に言葉を選んでいるが、外側から見るとここ数日の自分の奇行はそうとうアレだったらしい。
確かに一切の活動をやめて街を徘徊しているとか言い訳がしづらいほどにアレだ。

「うん、ごめんごめん。ちょっと優先しなくちゃいけないことが出来ちゃって。
 だからちょっと家庭教師とかやってる暇がなくて……。
 宇佐見蓮子一生のお願い! 美波ちゃん、ごめん! お願い! このとーり!」

見えないと知りつつ頭を下げると、スピーカー越しに困ったようなため息が聞こえる。

『もう……ちょっと待ってくださいね……うん、はい、大丈夫そうです。
 ……ええと、その……亜里沙ちゃんっていう子の家庭教師を引き継げばいいんですね』
「うん。美波ちゃん、確か音ノ木坂のOGでしょ? 話も合うと思うの。
 あと美波ちゃんはロシア系の女の子と相性が良いような気がするの。何となくだけど」
『……え、ええと妙に力強く断言するんですね先輩……』

ただの勘だがなんかそんな気がするのだ。
ともあれ、最後の心配はこれで片付いた。

「……ありがとね美波ちゃん。いつも助かってる」
『ふふ、もう慣れちゃいましたよ。
 先輩が何をやっているかはわかりませんけど、たまには大学にも顔を出してくださいね。
 それじゃあ、電話切りますね』
「うん、ありがとね。それじゃあ、また」

蓮子は"通話終了"のボタンを押し、会話を終了する。
そのまま腰掛けたベンチの背もたれに体重を預け、リラックスする。


746 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:44:19 /xuVjIQE0
「マスター、バイトの引き継ぎは終わったのか?」
「うん、快く引き受けてくれました、と。これも人徳のなせる技ね」

蓮子達がいるのは昼下がりの公園だった。
色鮮やかな遊具の点在する公園内には自分たち以外にも、親子連れや散歩中だろう老人たちの姿がある。

「あれ、そういえばオチタくんは?」
「ああ、アイツなら飲み物を買いに行ってるよ」

『そっか』と答え、なんともなしに隣の青年に視線を向ける。

「……ライダー、私の事おかしいって思ってない?」
「……いや、いきなりどうしたんだ?」

ライダーは心底不思議そうな顔で蓮子を見返す。

「いやだってさ、バイトの引き継ぎとかする必要ないじゃない。
 だって東京(ここ)はあくまで再現された場所でしかなくて、彼女たちも単なるNPCなんだもの」

ここは幻の町で、電話越しに会話した後輩もそういう設定のNPCにすぎない。
彼女が本来在籍している京都の大学には、そんな後輩はいなかった。
バイト先の引き継ぎ探しだって何の意味があるのかと問われれば『そんなものはない』と返すしかない。

「じゃあ逆に聞くけどマスターは何でそれをしたんだ?」
「それは……」

それは、心になにかすっきりしないものが残っていたからだ。
彼女たちが哲学的ゾンビ的な存在だったとしても。
彼女たちと過ごした記憶が聖杯によって与えられたものだったとしても。
彼らは/彼女たちは生きているように見えたからだ。

曰く、NPCと人間の違いは魂の有無だという。
だが今の蓮子には魂の有無など確認しようがない。
だからなるべく彼らには普通に接したい、とおもったのだ。

「……呆れた?」
「まさか。むしろ安心したよ。
 人間かそうじゃないかで態度を急変させる奴は信用ならないからね」
「ふーん、そういうもの?」
「ああ、そういうものさ」

なるほど、そういうものらしい。
ともかくこれで心置きなく探索に集中できるというものだ。

「……よし、決めた」

スマートフォンを慣れた手つきで操作し、メールを送信する。

「バイト、受けるのか?」
「ええ。やっぱり騎乗兵(ライダー)なのに乗り物がないのはかっこつかないでしょ?」
「まあ、戦車を町中で乗り回す訳にはいかないしな……」

まぁいざとなったらやるしかないのだろうが、それは本当に最後の切り札だ。
さて、これで今後のおおまかな行動は決まった。
となると次は――。


747 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:45:28 /xuVjIQE0

「コーヒー買ってきたでやんすよー」

眼鏡の青年が缶コーヒーを抱えて近づいてくる。
受け取った缶のプルタブを開け、口をつける。
蓮子の舌を刺激する適度な甘みとほろ苦さ。
うーん、さすが飽食の時代。缶コーヒー一つとっても単一ではない味わい深さがある。

「さて、それじゃあ作戦会議を始めますか!」
「うーん、それこそさっきラーメン……もといラメーンを食べながらでも良かったんじゃないか?」
「だってせっかくだし味に集中したいじゃない」
「うーん、そういうものかな?」
「ええ、そういうものよ」

言い切る蓮子にライダーは仕方なさそうに苦笑する。

「あと俺達はそろそろ霊体化してたほうがいいと思うんだけど……」
「そうでやんすね。おかげでラメーンが食べれたことには感謝してるでやんすけど」
「んー……。もうちょっと。せめて、この話が終わるぐらいまで」
「それはまたどうしてでやんす?」
「口に出すことで整理がつくことってのもあるのよ。
 それに私は貴方たちのことも知りたいしね――あなた達の口から、直接ね」

そう言って二人の顔を見る。
彼らサーヴァントは存在自体が浪漫の塊と言っても過言ではない。
人類史に刻まれた名だたる英雄。人々の口に上る伝説の具現。
言葉をかわしてみたい。一緒に街を歩いてみたい。その口から話を聞いてみたい。
一緒にやりたいことは両手の指では足りないほどにあるのだ。

「……マスター、モテるだろ。目を見ながら言われるとちょっとドキッとするぞ」
「そ、そう? そう言われたことはあんまりないけど……」

決して自分を卑下するつもりはないが、世の男性諸君の視線は相方の方に向けられていたように思う。
蓮子がマニッシュな服装を好むのもあるが、女として見られてはいなかったように思う。

「いや、こういうタイプは異性より同姓にモテるタイプでやんすよ」
「ああ……それは思い当たるフシがなくもないかも……」

残念なことにそっちは心当たりがあった。
蓮子にそっちの趣味はないが、妙に熱っぽい視線を向けてくる子は定期的にいた気がする。

「まぁでもモテないよりマシか……」
「うん、それ俺に対して言ったよな? そういうのよくないぞ? 本当に良くないからな?」
「落ち着くんでやんすライダー君! ……ってこの呼び方、仕方ないこととはいえ違和感があるでやんすね」

さて、こういう取り留めのない会話をしているのも楽しいが、それだけというわけにもいかないだろう。
まずは先ほど買ってきたものを確認からはじめよう。

「それにしてもこれでよかったの?」

蓮子がそう言ってビニール袋から取り出したのは発煙筒である。
先ほどカーショップで購入したものだ。
煙幕という観点で花火よりも煙の量が多いだろうと判断したためこちらを購入したのだが……

「煙玉ってほどじゃないのよね……」

着火から煙が出るまでの間にタイムラグはあるし、発煙量もそこまで多くはないだろう。
とっさに役に立つとは思えないが……。

「まぁ無いよりマシでやんす。他にも候補があれば改めてそっちにすればいいだけでやんす」
「そっか、それじゃ改めて、午前中の探索結果を聞きましょうか」


748 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:46:24 /xuVjIQE0

ライダーは少し考えるような素振りを見せる。

「そうだな……じゃあマスターは"残念なお知らせ"と"割と残念なお知らせ"と"とても残念なお知らせ"のどれから聞きたい?」
「何それ。普通はいい知らせと悪い知らせじゃないの?」
「残念だけど現実は甘くないでやんす。それにいい知らせはもう報告済みでやんすよ」
「え?」

疑問符を浮かべる蓮子に向かってライダーは困ったような笑みを向ける。

「あの美味しいラーメン……もといラメーン屋の噂のことだよ」

なるほど。
昼食に何がいいか聞いたら即答でラーメンと返ってきたのはそういうことか。
まぁ、たしかに美味しかったけど。

「んー、……じゃあ残念なお知らせの方から。
 夏休みの宿題は後半までとっておくタイプなのよ」
「ああ、わかった。
 まず最初の残念なお知らせは……君の友達に関する手がかりを見つけることが出来なかったことだ」
「……そっか」

確かに残念なお知らせだ。
だがある程度予想していたことでもある。
この大都会において人一人を探すのは砂粒の中から針を見つける作業に等しい。

「まぁ本格的に活動開始して数日だし、仕方ないわね。じゃあ次に割りと悪い知らせは?」
「東京じゅうに大量の使い魔が出現している。種類によっては襲いかかってくる奴もいる」
「使い魔って……オチタ君みたいな?」
「ひどいでやんす! オイラは聖杯戦争のシステム上使い魔扱いだでやんすけど、どあんな凶暴な奴らと一緒にされたくないでやんす!」
「ごめんごめん。そんなに怒らないでって。
 じゃあネコとかフクロウとか……ってそんなわけないよね」

もしそんなお伽話に出てくるような使い魔ならわざわざ報告してくるはずもない。

「ああ、見るからにモンスターって感じの奴らだ。
 玉葱みたいな頭の羽のない鳥とか……この国だと"妖怪"っていう名前なんだっけか。
 そんな感じの明らかに異物とわかるような外見をしていたよ」
「探索中に2,3回、路地裏で遭遇したでやんす」
「そんな野良猫みたいな……」
「流石に野良猫より出現頻度は低いけどね。
 おそらくは他のサーヴァントの仕業……規模を考えると何らかの宝具かもしれない」
「もしくはキャスターの大規模な魔術って線でもあるでやんすね」

そんなのが大量に発生しているのだろうか。
何ともゾッとしない話だ。

「まぁ、ありがたいことに強さはそこまででもないけどね。
 戦闘慣れしていればただの人間でも対処が可能だろうし、俺達サーヴァントなら宝具無しで複数を相手してもお釣りが来るぐらいだ。」
「ただしとにかく数が多いんでやんす。それに今後強くならないって保証もないでやんす」
「つまりは要経過観察って感じかしら」


749 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:48:12 /xuVjIQE0
とはいえ中々無視できない事態だ。
スクーターも欲しいが蓮子自身も何らかの自衛手段を持っていたほうがいいのかもしれない。
ああ、尊きもの。汝の名はお金なり。

「じゃあ一番悪い知らせは?」
「俺達は昼ごろ渋谷区にいた。そこで何が起こったのか……マスターも知ってるんじゃないのか?」

蓮子は思わず息を呑み、手元のスマートフォンを操作する。
ブラウザを起動し確認するのはメジャーなニュースサイト。
そのトップに位置するのは爆発するビルの写真とニュース記事だ。

    "ガス爆発か 渋谷区のビルで爆発事故"

本日正午ごろ、多くのテナントの入った渋谷区の某ビルが突如爆発、崩落した。
周囲では多数の重軽傷者がでており、ビル内部にいた人についての安否は情報が錯綜している
特に内部にある葬儀会場では多数の高校生がいたとの情報もある。
TVも、ラジオも、ネットもその話題で持ちきりだ。
またそのせいで電車のダイヤは乱れ、都内の学校の中には集団下校を行っているところもあるという。

「……で、それをワザワザ言ってくるってことは……」
「ああ、マスターの想像通り、あれは聖杯戦争絡みの案件だ」

ライダーは断言する。

「そこまで近くにいたわけじゃないが、凄まじい魔力を感じた。
 十中八九、あの場所にいたサーヴァントが宝具を開放したんだろう」

魔力感知系スキルがなくとも霊体そのものであるサーヴァントにとってそれは音のようなものだ。
距離があっても大きな魔力変動があると感覚として感じられるものだ……と蓮子は聞いている。

「しかもアレ、少なくとも2回は発動してるでやんすよ」
「ああ、少なくとも俺達の宝具に匹敵するか、それ以上の魔力量だったからなぁ。
 元々俺達はそこまで強い英霊ってわけじゃないとはいえ、切り札で上回られると流石に傷つくな……」
「そうなの?」

話に聞くだけでも『愚か者の鉄土竜(バトルディッガー)』なんかはかなり強力に思えるのだが。
オチタのメガネがキラリと光る。

「英霊は大きく"神話体系(マイソロジー)"と"史実体系(ヒストリア)"に分けられるでやんす。
 前者が神話の住人、後者が歴史上の人物……オイラたちはどちらかというと後者でやんすね。
 蓮子ちゃんやこの世界にとっては"平行世界の史実体系英雄"ってくくりでやんすね」
「例外はいるがだいたい前者のほうが強力な英霊で、とんでもない宝具を持ってることが多いんだよ。
 騎乗兵(ライダー)が強力な宝具を持っているクラスと言っても、俺達のはそこまで神秘があるわけじゃないし……何より今はパーツが足りないしな」

ライダーの宝具、『拾い物は俺のもの(ローグライク・ロールプレイング)』 によって相変わらずアイテムは増えている。
だが昼ごろからドロップするものは二束三文のガラクタばかりであった。
『ドロップするアイテムの質は操作できないからなぁ……』とぼやいていたのが印象的だ。

「そういえばサーヴァントといえば爆発の前にビルから脱出するサーヴァントを目撃したでやんす!
 赤い髪の男で女の子を抱えていたでやんす」
「そうだな。流石に遠かったから女の子の顔は見えなかったけどな」
「じゃあ、そのサーヴァントが宝具か何かを使ってビルを爆破した可能性が――」
「――いや、実はそうじゃないんだ、マスター」

二人の顔つきが険しい物になる。

「オイラたちが魔力を感じたのはビルが爆破される前だったんでやんす。
 ……でもビルが爆破した瞬間はまったく魔力を感じなかったでやんす」
「え――」

それが何を意味するのか。
蓮子がそれを考える前にライダーは続きを口にする。

「断言してもいい。あのビル爆破には何一つ神秘は使われていない。
 つまりどっかの誰かが爆弾かなんかでビルを爆破したんだ。
 ――何十人、下手すれば何百人って人間(NPC)を巻き添えにしてね」

蓮子の背中を冷たい汗が流れる。
爆破を行ったやつは、NPCなど所詮はデータの塊だと割り切っているのだろうか。

「それに素人が爆弾を適当に取り付けたぐらいであんなにうまく爆破はできない。
 ……つまり犯人は恐ろしいほどに"ああいうこと"をやり慣れてるってことさ」

だがそれすらも違うのだと暗にライダーは告げてきた。
犯人は元々"そういう行為をやり慣れている"のだ、と。
この東京には人を人とも思わない危険なマスターがいるのだ、と。


750 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:51:19 /xuVjIQE0

「それにオイラ達、それをやりかねない人物をルーラーから提示されているでやんす……」

ルーラーから配られた資料にあった白塗りの男の顔写真。
ピエロのフェイスペイントに歪んだ笑みを貼り付けた男。
突如として現れた生々しい死の感覚に全身を震わせる。

「……まぁ、その点、俺達はラッキーだったよ」
「え?」
「NPCのことを気にする優しいマスターで良かったってことだよ。
 サーヴァントとして召喚された以上、どうせなら正しい心を持ったマスターに従いたいものだからね」
「でやんすね。しかも女の子だし言うことはないでやんす」

なんともまぁ下手くそな慰め方だとは思う。
話題の切り替えが不自然だし、女性の扱い方が上手いとも思えない。
でもその心遣いは今の蓮子にとってちょうどいいものだった。

「まぁそんなとびきりの危険人物がこの東京にはいるってことだ。
 だからマスターも今以上に危機管理をしっかりとして――」

だがそこでライダーの言葉が不自然に途切れた。
蓮子が伺うような視線をライダーに向けると緊迫した顔つきがそこにはあった。

「? どうしたのライダー?」
「……マスター、下がるんだ」

ライダーは立ち上がり、蓮子を庇うように前に出た。
いつの間にか隣りにいたメガネの青年の姿は消えている。
そういえばオチタ君は言っていたではないか、『戦いはライダー(コイツ)に任せる』と。
そのライダーの険しい視線の先にいたのは、奇妙な組み合わせの二人組だった。

一人は長身の青年だ。
整った顔立ちにシミ一つない綺麗な銀髪。
それだけならどこかのモデルでもやっていそうではあるが、量販店に売っているような特徴の無い服の上にどてらと下駄という異次元なコーディネイトが奇妙な人物であるという印象を強く抱かせる。

そんな青年と連れ立つのは黒髪の少女だった。
年の頃は蓮子よりも遥かに若い。中学生とかそこらに見える。
だがその顔に浮かぶ自信満々な笑みは明らかに歳相応のものとは思えない。

ライダーの緊張した表情とあまりに奇妙な二人組。
だから言葉がなくても蓮子にも理解できる。
目の前の二人組が聖杯戦争の関係者……マスターとサーヴァントだということに。

「……まさか実体化させている奴らが他にもいるとはな」

呆れているのか感心しているのか、どちらかともとれない調子で青年はつぶやく。

「なーなーお二人さんよ。何か面白そうな話してんじゃんかよ!
 あの現場の近くにいたとかさー、ワシらにも詳しく話してくんない?」

どうやら二人の会話を聞いていたらしい。

『……だから念話にしようって言ったんだ』

ごめん、と心の中で頭を下げる。
それにしても白昼堂々と話しかけてくるとは……と、そこで周囲を見渡して気付く。
先程までいた親子連れや老人たちの姿が消えている。

「ん? ああ、有象無象共にはお話に邪魔だったから席を外してもらったぜ」

そう言って黒髪の少女は一歩踏み出した。


751 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:51:55 /xuVjIQE0

「というわけでオッスオラ、魔人アーチャー! いっちょやってみっか!」

そして――何かのモノマネだろうか? 奇妙な声色で話しかけてきた。

「……ふぅむ、ノリが悪いのう」
「いや、こっちとしては戦うつもりはあまりないっていうか……」
「ん? だって相当自信があるんじゃろ?
 実体化させてバリバリに連れ歩いてるってことはそういうことじゃろ?
 体を動かさんと鈍るから、そろそろ誰かにしかけてみるのも一興と思ってたところじゃったしのう」

蓮子がライダーを実体化させていたのはただ話したいというという理由からだ。
だが目の前の二人組は違う。
どこからかかってきても圧倒的な力でねじ伏せる――その自信の表れというわけだ。
実際、蓮子が読み取った魔人アーチャーのステータスはライダーを凌駕している。

「いや、マスターの意向で実体化してるけど俺は平和主義者なんだ。
 だからできれば平和的に話し合いなんかで決着をつける方向で……」
「……ふぅん。まぁワシとしてはお前の主張なんか知ったこっちゃないが――」

パァン、という破裂音。
それが銃声だと気づいたのは、魔人アーチャーの手に握られたものを目撃してからだ。
いつの間にか少女の手に握られた火縄銃。
その銃口からは純白の煙がもうもうと上がっている。

「――気が緩み過ぎじゃねーか、とは思うわなぁ?」

ライダーを見るが怪我をしているようには見えない。
そして自身にも怪我はない。
わざと外したのか――そう思った蓮子の耳にドサリ、という何か大きな落下音が飛び込んでくる。

視線を向けたその先に倒れこんだのは少女のような何か。
"何か"としか言いようがなかったのは、その背中に生えた真っ黒な翼のせいだ。
だがその姿は徐々に空気に溶けこむように消えていく。

「――お主ら、あの"アクマ"に後をつけられてたぞ」

嘲るように魔人アーチャーは笑った。

「いやー、あの悪魔もバレないようにしてたけど、ワシ生前奇襲とか暗殺とかそういうの多かったからなんとなく気づいちゃうのよね。
 辛いわー! できる英霊過ぎて辛いわー!」

おどける魔人アーチャーだが、相対するライダーは一切笑っていない。

「ま、追跡に気付けなかったのは減点じゃが……。
 とっさに状況を判断してその銃を撃ち返さなかったのはポイント高いぞ、騎乗兵(ライダー)」

言われてみればいつの間にか拳銃を腰だめに構えている。

「……話を聞きたがってるのに蜂の巣にはしないだろう。
 それに銃口は明らかに俺達とは別方向を向いていたしな」
「おお、更にプラス1ポイント! そういう計算が瞬時にできるやつはワシ的にかなり高評価!」

軽口とは裏腹に二体のサーヴァントの緊張は高まっていく。
そんな中、銀髪の青年が一歩進み出る。

「ではお前たちに話してもらおうか」
「……情報を交換しようってこと?」
「いや、情報をよこせって言ってんの。わかるかのう? この意味が」

その言葉が意味するのは一方的な搾取。
事実この場を支配しているのは魔人アーチャー側だ。
だが情報を絞りとられた後、残されるのは一体何か。


752 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:52:24 /xuVjIQE0

――答えは簡単。何も残らない。
そして残された先に待つのはそこで処分される可能性も高い。
だったら先んじて手を打つしかない。

「……情報渡すだけでいいの?」
「ん? そりゃどういう意味じゃ?」
「簡単に言うと、どうせなら協力しましょって言ってんの」

蓮子が思いつくのはこの手しかなかった。

『おい、マスター正気か!?』
『だってあの子、相当強力な英霊なんでしょ?
 だったら協力したほうがいいでしょ!』

一瞬、仕切り直しスキルによる逃走も考えた。
だがさっきの銃撃を見る限り、発煙筒に着火させてもらえる隙があるとは思えない。
そして逃げられないなら利用するしかない。

「んー、……でもそれ意味なくね?
 ワシら最終的には聖杯を奪い合い中になるんだしのう」
「あ、それなら安心して? 私は聖杯なんて欲しくないもの」
「ほほう?」

黒髪の少女は興味を引かれたような表情を受かべる。

「私が一番興味が有るのは聖杯そのもの。
 あれがどこから来て何処へ行くのか。そういう浪漫あふれることを私たちは探しているの」

高圧的にならないように、かつ必要以上にへりくだらないように。
慎重に言葉を選んでこちらのアピールポイントを、利害の一致を強調する。
だが魔人アーチャーの顔に浮かぶのは、つまらなそうな顔を向ける。

「何でそんなわかりきったことを調べとるんか知らんが、つまらんなぁ」
「……え?」
「察しが悪いのう。此度の聖杯を用意したのはこのワシ、魔人アーチャーよ?」

魔人アーチャーの返答は蓮子の予想を上回るものだった。
呆然とする蓮子たちに向けられる視線からは先ほど見せた好奇の色は完全に失せていた。

「聖杯に対する浪漫といったか……そんなものワシらにとって何の価値もないものよ。
 ――ああ、つまらんなぁ。
 情報もらったら見逃すつもりだったが、これはさっさと聖杯の礎になって貰った方がいいかもしれないネ」

まずい。
蓮子の全身から汗が吹き出す。
魔人アーチャーの口調はふざけているが、その全身から溢れ出す重圧は見えない嵐のようだ。
そんな蓮子を庇うようにライダーは一歩前に進む。

「ほほう、騎乗兵(ライダー)ごときがワシに銃撃戦を仕掛けるか?
 こう見えて騎乗兵相手には一家言あるのよねワシ!」
「……だとしてもマスターを守るのが今の俺の仕事でね」
「――で、あるか。じゃあ仕方ないな」

まずい。
まずい。まずいまずいまずい。

ライダーは『準備を整えて乗り込んだ上で受け身になる状態で真価を発揮できる』特殊なタイプだ。
だがこの状況では全然準備が整っていない。
『愚か者の鉄土竜(バトルディッガー)』は完成に程遠く、スモークも撤退には使いにくい。
このままだと確実にライダーはやられてしまう。
だが焦れば焦るほど、混乱は加速していく。


753 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:53:00 /xuVjIQE0

――ドサッ


だがその瞬間、蓮子の耳に何かの音が響いた。

「ん? どうしたライダー?」

見れば同様にライダーもその音に反応している。
だが自分たちの会話を聴きとったはずの魔人アーチャーは。
自分たちには聞こえて、アーチャーには聞こえていない物音。
そんな音に蓮子は一つだけ心当たりがあった。

『……ライダー、私に全部任せてくれる?』
『俺達は君のサーヴァントだ。……言っただろ、君に全部任せるって』

一蓮托生だと言ってくれた。
大きく息を吸って、できるだけ大きな声を出す。

「ええと……魔人アーチャーさん、もう一度私の話を聞いてくれる?」
「ん?」

もはや興味が失せたとでも言いたげな瞳を向けられ、一瞬怯む。
だが『これは圧迫面接か何かだ』と自己暗示をかけながら、何とか声を振り絞る。

「ちょっとだけ……あのゴミ箱の裏側を探していいかしら?」

無言を許可と解釈し、ゴミ箱の裏を軽く探す。
そして見つけたのだ。見慣れた人形の頭を。

「……人形の頭? それがどうかしたのか?」
「それはライダーの宝具、『拾い物は俺のもの(ローグライク・ロールプレイング)』で出現したアイテムよ。
 私たちはランダムでアイテムを手に入れることができるの」
「……お主、どういうつもりじゃ?」

蓮子に向けられる怪訝そうな顔。
それはそうだろう。切り札たる宝具の効果を説明するなど、本来なら自殺行為だ。

「そしてそれは『野球人形(キングダム王立野球軍)』のパーツ。
 その効果はただ野球するためだけのものよ。結構な確率で落ちたりするの」
「……なんじゃそりゃ。全く意味のない宝具ではないか」
「そうね、少なくともこの殺し合いでは何の意味も持たないでしょうね。
 そもそもライダー自身にも何の意味があるのかわからないらしいわ」

でもその宝具の説明を受けた瞬間、蓮子は"浪漫"を感じてしまったのだ。

「でもそこには浪漫がある。
 誰がいつ何のために作ったのか――そんなことに思いを馳せることができる。
 ねぇ、あなた達が聖杯を持ってきて把握しているというのなら、1つ答えてほしいの」

ここで間違えれば私の聖杯戦争は――いや、人生ですらそこでおしまいだ。

「そもそもこの舞台を用意したのは何故?
 あなた達がそう設定したの? それとも――何故かこの時代の、この場所になってしまったの?」

ただ街を用意するなら架空の都市でいいはずだ。
そうでなくとも蓮子のいた京都でもいいし、ライダーから聞いたチャンバの街とやらでもいいのかもしれない。
でもこの舞台を――大都会東京を選んだ意味はきっとあるのだ。

宇佐見蓮子も伝説のモグラ乗りもこの東京にとっては異物だ。
だからこそわかることがある。
この東京という街の書割(けしき)は、なにか特別な意味を持っているのだと。


754 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:55:05 /xuVjIQE0

「……」

対する魔人アーチャーは無言を貫いている。
その態度が、問いかけが当たっているのか、それともこちらの様子を探っているだけなのかは蓮子には計り知れない。
それでも蓮子は言葉をつなげる。

「それを含めて器を用意した貴方たちにも、きっと知らない、未知の部分がこの聖杯には残されている」

秘め、封じられた何か。
そこには思いを馳せる余地がある。だからこそ彼女たちはそれを探す。
それが器自体になのか、それともそれに注がれる"何か"なのかはまだわからないけれども。

「聖杯に関する謎はすべてが解き明かされたわけじゃない。
 まだ不思議は残っている――だから、浪漫は、死なないわ」

そう言い切って魔人アーチャーの目を真っ直ぐに見た。
目の前のサーヴァントは一瞬の迷いもなく人型のアクマを撃ち殺した。
目の前の存在は苛烈にして峻厳。言葉で表すならそういう人種だ。
一瞬でも目をそらせばまず間違いなく、その手に握られたものが彼女の命を奪うだろう。

「……いいだろう」

蓮子にとっては永遠にも感じられる数秒。
その沈黙を破ったのは、事の成り行きを見ていた銀髪の青年の方だった。

「……え?」
「お前たちと同盟を組むと言ったんだ。
 異論はないな、アーチャー」
「おーう。わしもこのねーちゃん気に入ったし問題ナッシンじゃぞ。
 見た目より度胸はあるし、何よりワシと同じ"うつけ"よ。
 ハ、聖杯戦争に巻き込まれ、命の危機に晒されてもなお浪漫探しを主張するとは――うつけもうつけ、おおうつけの類だわ!」

どうやら提案を受け入れてもらえたらしい――そう理解し、蓮子は胸をなでおろす。
それでもライダーに謝らなければならないことがある。


755 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:56:14 /xuVjIQE0

『……ごめん、宝具バラしちゃった』

アドバンテージの喪失という意味合いだけではない。
宝具とは英霊自身と切っても切り離せないもの、そうライダーは語っていた。
だからさっきの行為は"伝説のモグラ乗り"という英霊に対しても侮辱にあたるのではないか。
だがライダーは笑う。

『気にすることはないよ。
 元々俺達はただのモグラ乘りで、英雄って言われるとムズムズするかんじの人種だ。
 そりゃあ男だしプライドってものはあるが、その使いドコロは間違ったりしないさ。
 さっきのは中々見事な交渉だったと思うよ』
『……ありがと』

メリーとはぐれ、訳もわからないまま聖杯戦争に巻き込まれた。
いくら聖杯という浪漫あふれる代物があったとしても、客観的に見れば不幸のどん底と言っても差し支えない状況だ。
だがそれでもこのサーヴァントを引き当てたことは自分にとって幸運だった。
蓮子は改めてそう感じた。

『それに危険な橋を渡らないと"宝物"は手に入らないってのはどの世界でもきっと同じことなんだろう。
 それが遺跡に潜るか、強者との交渉っていう違いはあっただろうけど……俺達はそれなりに強力な宝を手に入れた……そう考えていいんじゃないかな』

今後もこうやって命の綱渡りをしていく場面は出てくるのだろう。
けれどそうでもしなければ、恐らく何かには近づけないのだ。
メリーにも、この聖杯戦争の真実にも。

『それにしても浪漫は死なない、か。
 ……俺達はほんといいマスターに恵まれたよ』

しみじみとつぶやく声に視線を向ける。
帽子のつばを下げたため表情は読み取れないが、どことなく嬉しそうだと感じるのは蓮子の気のせいだろうか。
蓮子としてはそれが気のせいでなければいいと思っている。
しかし、そういえば自分たちを監視していたあの使い魔……もとい悪魔の目的は一体なんだったのか。


756 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:56:58 /xuVjIQE0

『……もしかしてマスターの友達じゃないのか?
 彼女が使い魔を使って俺達を見てたんだとしたら、理屈が合うと思うけど……』
『うーん……でもメリーなら私にまっさきに声をかけない理由がないのよね』
『うーん、確かにな……もしかして問題はサーヴァントの方か?』
『……ありえるわね。
 メリーは賢いから口八丁で騙されてるとは思わないけど、脅されてるとかそういう可能性は頭に入れておいたほうがいいかも』

その相手がまったく同じ危惧を抱いているなどとは夢にも思わない二人であった。

「おーい、二人で何を話しとるのかは知らんが、そろそろ落ち着いて話のできる場所に移動するぞー」

手をバタバタと振る魔人アーチャー。
確かに早々にここから離れたほうがいいだろう。
平和な日本とはいえ、先程の銃声で誤解されると問題だ。

――ともあれ、事態は動いた。
蓮子としても、聖杯戦争としても。
目の前の二人の正体、街にあふれる悪魔、自分たちを追跡していた悪魔、ビルで起こったらしい"何か"。
本格的に動き始めた"聖杯戦争"。
そんな中で脳裏に浮かぶのはこの街のどこかにいるはずの親友の姿だった。

(無事でいてよ、メリー……)

宇佐見蓮子は必死に祈る。
ただ、親友の無事を祈りながら。

「いやー姉ちゃんも大分うつけっぽいがこうみえてワシも若い頃は色々とやったもんじゃよ?
 親の位牌に焼香ぶっかけたりしたし!」
「いやそれはちょっと……」
「アレ? ドン引きされとる!? なんで!?」
「いや、それはないだろ……」「でやんす」
「同じサーヴァントにも!? っていうか、えっ誰じゃお前?」
「ああ、それはないな」
「……ってよりによってお前が言うんかい!
 ないわー! お前にだけは言われたくないわー!」


757 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:57:17 /xuVjIQE0

【A-1/池袋/1日目 昼・夕方】

【宇佐見蓮子@東方project】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]発煙筒、野球人形の頭部
[道具]ガトリング(ライダーの宝具『愚か者の鉄土竜(バトルディッガー)』の武装)
[所持金]普通(学生として暮らせる程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯について知りたい。
0.同盟を組むために情報交換を行う。
1.メリーの捜索を続ける。夜間の捜索は伝説のモグラ乗りに任せる。
2.明日(2日目)の割の良いバイト(秋葉原ビールフェア)に出る。
3.ジョーカーについては保留。必要とあらば、図書館で調べる。
4.何らかの自衛手段を検討する。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※蓮子は東京大学に在学しています。
※現在、野球人形を5体完成させました。蓮子のアパートの押入れに保管中。
 それぞれの詳細は、後続の書き手さんにお任せします。

【ライダー:伝説のモグラ乗り@パワプロクンポケット10 バトルディッガー編】
[状態]健康、満腹
[装備]リボルバー拳銃
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子を支援し、浪漫を探す。
1.夜帯はオチタとともに市街を巡り、メリーを探す。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※赤毛のサーヴァント(マーズ)の外見を把握しています。


【直哉(カイン)@女神異聞録デビルサバイバー】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、ベルの王ア・ベルを完成させ、唯一神を殺す。
0:とりあえず情報交換する。
1:試しに、『第六天魔王』の信仰を作ってみる。
2:ジョーカーの討伐についてはじっくりと様子を見る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団の中核に存在しています。
※チェ・グソンからジョーカーの情報を受け取りました。


【『魔人』アーチャー(織田信長)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態]健康
[装備]圧切長谷部、火縄銃
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、日本を危機から救う。
0:同盟組むのとか久々じゃなぁ
1:試しに神様になってみる。
2:ジョーカーの討伐とかも正直面白そうだよね。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※信仰されれば強さが増すということにいまいちピンと来ていません。


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758 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:57:33 /xuVjIQE0

ビルの屋上を飛び石のように跳躍し、疾駆する影がある。
書生風の男……マエリベリー・ハーンのサーヴァント、十四代目葛葉ライドウである。
彼が一路向かうのはモー・ショボーの反応が消えた公園だ。

令呪を使い強制転移させるという手もあった。
だが転移先の状況が全くわからないことから何らかの形であの二人の逆鱗に触れ、蓮子を危機に陥れる可能性を考えるとそれも出来なかった。
更には人の目についてしまうことを考えると移動用の悪魔を召喚するのも愚策だ。
故にライダーはその身一つで東京の町を駆ける。

『……それにしてもあのサーヴァントは油断ならんぞ』

ゴウトが唸る。
全身から隠すこと無く発せられた魔力。
銃を扱うことから史実体系(ヒストリア)に属する英霊なのは間違いないはずだが、その全身から溢れ出すMAGの量はあまりに強大なものだった。

『恐らくは何らかの手段で補正を得ているのだろうが……あのサーヴァントには注意すべきだな』
『……いや、本当に注意すべきはあの銀髪の男かもしれない』
「そうねライダー。私も同意見よ」
『何だと?』

確かに正確無比な射撃でこちらを撃ちぬいたのはサーヴァントの方だ。
だがゴウト以外の二人は異なる見解を持っていた。
モー・ショボーと視界を共有していたメリーは確信している。
信じられないことだが――あの男は悪魔を通じて、メリー自身を視ていたのだ。

『バカな……マスターはあくまで悪魔を通じて視界を共有していたに過ぎない!
 それを通してマスターを目視するなど……ありえない!』
「理屈ではそうなのかもしれない……でも、私は確かに"視られた"のよ」

メリーの脳裏に焼き付いた彼方と此方の境界線を侵すような怜悧な視線。
視線が交錯したのはほんの数秒だったが、嘲るような笑みはその時間だけでメリーのすべてを見透かしたかのようだった。
あの男が何者であるにしろ、危険な存在である確率は高い。
そして今、そんな男と蓮子は相対しているのだ。

『ライダー、できるだけ急いで……お願い……!』
『ああ、わかっている』

そこで念話は途切れる。
移動に集中し始めたのだろう。
こうなればもうメリーにできることは何もない。

(蓮子……お願い、無事でいて……)

マエリベリー・ハーンは必死に祈る。
ただ、親友の無事を祈りながら。

【マエリベリー・ハーン@東方project】
[状態]健康 、魔力消費(少)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]やや多め(親役NPCからの仕送りが多い)
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と再会して、脱出する。
1.蓮子に会いたい。けれど今は会うべきじゃない。
2.明日は大学に向かう。
3.殺し合いはしたくない(襲われたら応戦はするつもり)
4.ジョーカーについては関与しない。
[備考]
※夢により、ライダーの記憶を知りました。
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。

【ライダー(十四代目葛葉ライドウ)@葛葉ライドウシリーズ 】
[状態]健康
[装備]赤口葛葉、コルトライトニング
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:メリーが蓮子と再会できるように護る。
1.蓮子の元へ向かい、保護する。
2.メリーは全力を持って護る。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※蓮子のサーヴァントがキャスター以外である可能性を考えています。確信には更なる情報が必要です。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。


759 : Fate /occult suvivor  ◆HQRzDweJVY :2015/10/20(火) 00:59:03 /xuVjIQE0
以上で投下終了です。


760 : 名無しさん :2015/10/20(火) 04:04:26 E0hk6bTw0
投下おつー!
まさかの同盟が成り立ったー!?
同性に好かれるフラグが速攻回収されたけど、これは信長に気に入られるのも分かる面白いやつな魅力。
蓮子チームはオチタも込でほんと、いいチームしてるなー
そして確かに信長もカインにだけは親不孝言われたくねえw

新田さんはデレステ祝いかな。祝になるのかこのロワだと分かんないけど……w


761 : 名無しさん :2015/10/20(火) 06:28:09 UEOPjuHk0
投下乙です!
軽妙なやり取りが楽しくて、その分後に続く遭遇と交渉の緊迫感が凄かったです。
魔人アーチャー、ノリは軽いけど容赦が全く無いですね…………!
あとノリの再現度高かったです!
そして、蓮子の情熱で押しきる交渉も彼女らしくて、すごく良かったです。
まさか、野球人形が役に立つ日が来るとは予想外でしたよ。
うつけ同盟はこれからどうなるのか、メリーはどう動くのか、音ノ木坂とシンデレラプロジェクトに結ばれた縁が再び拾われる日は来るのか、と色々と今後が楽しみになる一話でした!


762 : ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:38:55 tMAquNfU0
投下乙です!
まさかの同盟……!?
モグラ乗りくんの優しいマスターで良かったもイケメンだし、蓮子のロマン優先思想もカッコイイし、なんというイケメェンコンビ
神秘が薄いモグラ乗りと神秘増し増しの敵ほど強くなるノッブとの相性は良いのか……?
メリーはどう動く、どう動いちゃう。
秘封倶楽部の今後が気になるじぇ


763 : ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:39:32 tMAquNfU0
投下します


764 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:40:23 tMAquNfU0



どうやら、俺の望んだ御伽話は死んでしまったらしい。






765 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:41:13 tMAquNfU0

蒼黒の長髪を風に棚引かせ、色を失ったように蒼白に輝く槍を持ち、純白の鎧を纏った戦士。
握った槍のように鋭さを持った、黄疸に溜まった白濁の瞳が眼下に広がる光景を認識する。
ケルト神話に名だたるアイルランドの大英雄、妖精クー・フーリン。
本来ならば召喚すべき手順を簡略・省略して顕界した真正にして偽証に塗れた悪魔。
近代科学の粋、現代に蘇ったソロモンの鍵。
ザ・ヒーローの所有する宝具、『悪魔召喚プログラム<デジタル・デビル・プログラム>』。
ハンドベルトコンピュータから発信された情報は、宇宙遙かへ跳び、償還すべき悪魔情報の発信を促す。
発信された悪魔の構成情報は端末を通じて受信され、周囲の空間に存在する暗黒物質を編成させる。
暗黒物質、すなわち第六架空要素の近似物質である『マグネタイト』。
人に憑き、その願いを歪んだ手段で叶えてみせる、肉の世界とは異なる次元に生じる物質。
発生したマグネタイトをタンパク質などに変えて悪魔の肉体を構築する。
そのマグネタイトは、驚くほど簡単に入手できる。
何故ならば、あらゆる生命体が悪魔の標的となっている以上、マグネタイトとはあらゆる生命体が所持しているのだから。

「さて、と」

ヒュン、と。
手に持った蒼白の槍を翻す。
夥しいほどの敵意を感じる。
英雄クー・フーリンの貶められた一面である妖精クー・フーリン。
その本質そのものが変質してしまった、堕ちた英雄。
英霊として崇められる地位から、悪魔として蔑まれる場所へと貶められた存在。
堕ちた英雄は好戦的な笑みを浮かべ、校庭に広がった人混み目掛けて足を踏み入れようとした瞬間。

「……なんだ」

その脚を止めた。
側に感じた強烈な魔力の出現に、止められたのだ。
蒼白の槍が向けられる先、本来は立入禁止であるはずの校舎屋上に立つ一人の青年。
その服装は、指定の制服でも教師然とした公的な服装でもない。
黒いフードを被った、茶色に染まった髪が除き見える男だ。
体格は細身であり、日本人男性としては平均よりは少々高い。
それでも、大英雄たるクー・フーリンと比較すれば、余りにもか細い。


「出会い頭に『なんだ』とは、穏やかじゃないねぇ」


笑いながら、フードを取る。
穏やかな顔つき、整ってはいるが覇気と呼べるものはない。
街を歩いていれば間違いなく目を引くが、畏怖を覚えさせる超常の雰囲気は存在しない。

「なるほど、テメエみたいなのがマスターの言う『敵性サーヴァント』ってやつか」
「そういうアンタもサーヴァント……ってあれ、そういうのじゃない感じ?
 じゃあ、戦う必要もなかったりするのかな」

クー・フーリンに立ちふさがる眼前のサーヴァントはとぼけた様子でつぶやく。
そして、無骨な指輪を嵌めた自身の片手を、ベルトのバックルに手をかざす。

――DRIVER ON――

――PLEASE――

すると、魔術的な指向性を持った電子音声が響き渡る。
同時に、通常の飾り気の少ないバックルは、突如として奇妙な手形のバックルへと変化した。
左手を翳したまま、指輪のサーヴァントは右手でバックルのガジェット部分を動かしてみせた。


766 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:42:31 tMAquNfU0


――CONNECT――


指輪を嵌めた手を虚空に差し出すと、その手は歪んだ空間の中へと消えていく。
蒼白の槍を持つクー・フーリンの手に力が篭もる。
目の前のサーヴァントは何喰わぬ顔で右手を戻すと、そこには先程まで存在しなかった紙袋が握られていた。

「親交の証に、表と裏が逆になっているプレーンシュガーを差し上げよう」

早速とばかりに紙袋から取り出したものは、ドーナツだ。
表と裏が逆だ、と笑いながらくるくるとドーナツを見せびらかすように動かす。

「宝石魔術の使い手……キャスターのサーヴァントと見た」
「見ての通り、ね。色々と出来るかもしれないよ」

クー・フーリンの推測通り、指輪に込められた術式とベルトのバックル――――ウィザードライバーによって魔術は発動する。
この指輪のキャスターは魔術発動に要する自身の詠唱を指輪とドライバーというガジェットに預ける類の魔術師だ。
それだけわかれば十分だ、とばかりにクー・フーリンは前傾姿勢を取る。
闘士湧き出ると言わんばかりのクー・フーリンに対して、指輪のキャスターは小さく口笛を吹いてみせた。

「おっと、『容赦はない!』ってやつ?」
「やることは一つだろう、そのために、テメエもわざわざここまで来たんだろう?」
「いや、サーヴァントにしては明け透けな気配に気になったってのもあるし、偵察っていうマスターからの命令もあるんだけど……
 話し合いでもいいかな、って俺自身は思ってたわけ」
「話し合いが成立しない、なら、どうする?」
「それならやることは一つだ」

そう言うと、左手に一つの指輪を嵌め込み、装飾と思しきパーツを動かす。
さながら仮面のような形状へと変化した指輪を、もう一度ベルトのバックルへと左手を翳した。

ベルトのバックルから『歌』が流れだす。

これが魔術礼装だというのならば、なんらおかしなことではない。
始原の時代、言葉に境界は存在しなかった。
そして、音の連なりが生む『歌』こそは境界の存在し得ぬ言葉。
すなわち、聖なる四文字を翳す唯一神が砕いた言葉の欠片。
魔術的干渉を行うならば、『歌』以上に優れた媒体は存在しない。


767 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:43:33 tMAquNfU0


―― Sha-Ba-Do-Bi TOUCH HEN-SIN!!Sha-Ba-Do-Bi Touch HEN-SIN!!!――


使用者が『歌』に込められた意味を理解せずとも、原初の言葉である『歌』は効果を発揮する。
何故ならば、原初の言葉とは世界そのものに働きかける言葉なのだから。


―― FLAME ――


定石の歌の後、宝石に込められた術式を解読し、宝具『呪文詠う最後の希望<<ウィザードライバー>>』が呪文を唱える。
先に歌い上げられた呪歌に一つの単語を加えることで、宝石に込められた術式が完成する。
指輪のキャスターの左隣りに、一つの魔法陣が浮かび上がる。
この魔方陣こそが指輪、ウィザードリングに込められていた術式そのものなのだ。


―― PLEASE ――


指輪のキャスターを促すように、ウィザードライバーは音を発した。
そのまま、ウィザードリングを嵌め込んだ左手をかざす。
磁石が結びつくように、魔法陣が指輪のキャスターの身体へと迫ってくる。
顔に不敵な笑みを浮かべ、指輪のキャスターの身体を魔法陣を包み込む。


―― 『火』『火』『火』『火』『火』――


『火』という五大元素の一を、ウィザードライバーは連なる音に載せて歌う。
そこに現れた魔術礼装を身に纏った一人の『魔法使い』の姿。
黒い外套と、頭部全体を覆う仮面に、燃えるような紅い複眼。
始原の時代、奇跡としか思えない事柄が溢れかえっていた世界。
その時代から連なる、ある類の魔術師のことを、従来の意味とは異なる意味合いで人は『魔法使い』と呼んだ。


「さぁ――――」


右手で左手首を締めるような動作をし、腰元のウィザードソードガンという兵装を構える。
クー・フーリンが頬を釣り上がらせ、指輪のキャスターは己の刀を舐め上げるように撫でてみせる。
視線と視線が交錯した、その瞬間。


「ショータイムだ」


英雄と悪魔。
二つの『異常』が、学校の屋上でぶつかった。






768 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:44:15 tMAquNfU0

突如として生じた、凄まじい音。
タイヤがパンクした時に生じる破裂音に似た、しかし音量は比較にもならない爆音だった。
その音に、校庭に集まった少年少女のざわめきが増す。

「落ち着け、静かに帰宅の準備だ」

まだ若い、体格の良い男が生徒たちを促すが、ざわついたまま歩みを止める。
動揺というよりも、好奇心に溢れた様子だった。

「……ちっ」
『聞こえてるぞ、不注意極まりないな』
「黙れ、貴様に言われずともわかっている」

一方で、破裂音の意味を知っている一人である、ふうまの御館は小さく舌打ちをした。
間違いなく、サーヴァント同士のぶつかりが存在したのだ。
しかも、舞台は屋上と見た。
面倒事が起きる前にこの場から離れてしまいたいが、しかし、下手な行動は出来ない。
どこで他のマスターが見ているのかわからないのだ。
それこそ、先ほどの舌打ちこそ信じられない程の失態だ。
それを理解しているからこそ、自身のサーヴァント、怨霊のキャスターの忠告に反発してしまう。

『仮面の男と、蒼白の槍を持った男だ。
 ……しかも、驚いたな』
「なんだ、端的に言え」

怨霊のキャスターは見鬼として優れた才を持っている。
己の放った式と視界を共有し、一級の魔術師である指輪のキャスターとルーン魔術に秀でたクー・フーリンに気取られることなく監視を成功させていた。
怨霊のキャスターは常として含むような口振りを好む。
そして、その口振りをふうまは好まない。
ク、ク、ク、と怨霊のキャスターは音を立てて笑う。

『これは面白い、片方はサーヴァントではないぞ』
「……使い魔というやつか?」
『うむ……間違ってはいないだろう。
 間違ってはいないだろうが……それを肯定することは、中性子爆弾を重火器と呼ぶような違和感が生まれてしまうな』

喉を震わせて笑う加藤に釣られたように、目の前の教師の背中がブルリと震えた。
怨霊のキャスターの声が聞こえているわけもなく、身体が見えているわけもない。

『フ、フ、フ……』
「ぶつかり合って両者ともに潰れてくれれば都合が良いが、上手く行きそうか?」
『どちらかが消える可能性は高い。
 今の状況ならば、サーヴァントでない方が幾分か利がある』
「利、だと?」
『地の利と――――数の利だ』

そのまま、カサカサに乾いた唇をゆっくりと動かす。
ゾクリ、と周囲の気温が下がったような気がした。
怨霊のキャスターの一挙一動がおぞましさを想起させる。
ふうまは、未だにこの怨霊のキャスターの妖気に慣れないままだった。


769 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:44:50 tMAquNfU0

『セ・イ・メ・イ』
「……なんだ?」
『誘っているだけだ・『アレ』にとって、あの名は心穏やかになれるものではないだろうさ』

やはり、喉を震わせて笑ってみせる。
怪訝な表情を隠そうともせずに、ふうまはそれとなく周囲を見渡す。
忍びの者として、そして、泥の中から這い上がるため。
鍛錬に鍛錬を重ねたふうまでも、ざわつく生徒と教師の気配しか感じ取られない。

「……ん?」

しかし、ふうまは違和感を覚えた。
音とは別方角。
影の中、蠢く気配。
耳を澄ませば、奇妙な音が聞こえる。
そして、心のなかを高揚させるような音だ。
目を凝らすと、そこに一匹の獣を見えた。

『ようやく気づいたか』
「狐、青い毛並……妖狐というやつか?」
『物事を正しく認識しろ。
 この世の全ては無数に存在する認識の共通集合の結果だ』
「お前の言うことは、とにかく回りくどいんだよ」
『……フゥ』

ふうまの言葉に対して、大きな失望を隠そうともせずに怨霊のキャスターは溜め息をついた。
ふうまは忍術や魔に近しいが、研究者ではない。
だから、実感はしていても理解できていないのだ。

『良いか、この世は『肉の物質』で構成され、『肉でない物質』を隠している。
 『言葉』とは、この世界で肉ではない物質に親しいものなのだ。
 その存在の真名を、正しく認識しろ。
 古来、死者や権力者の正しい名を隠蔽していた、『諱<<いみな>>』というものだ。
 名は体を表すとも言い、また、契約の呪法に置いて署名は強い拘束性を持つ。
 『真名』とはな、それだけでその存在の根底に関わるものだ。
 我々が真名を秘匿し、『霊体』という肉の檻から離れたためだ。
 肉は己の真とするものを隠すが、霊体である我々はその真とするものが剥き出しとなる。

まくし立てるように言う怨霊のキャスターの言葉を、ふうまは半分も理解できてない。
ふうまからしてみれば、キャスターの言葉は総じてロジックの振りをしたオカルティックだ。

『浅い見地に居る、西洋の魔術師たちはそれが歴史的見地による弱点の露呈と語るが、それは違う。
 『広く知られた真名』とは、それだけでその霊体の方向性を決定づけてしまうのだ。
 そして、お前の『邪視』は、その『真名』を正しく見ぬいた時に悍ましき虹彩を放つ。
 『器』に隠しこんだ我々の真名を、お前は知る必要がある』

しかし、今のこの場こそがロジックで固めたオカルティズムなのだ。
目的にたどり着こうと思えば、このイカれた呪術師の論法を肯定をしなければいけない。

「器、か。
 剣士<<セイバー>>、弓兵<<アーチャー>>、槍兵<<ランサー>>、騎兵<<ライダー>>、魔術師<<キャスター>>、暗殺者<<アサシン>>、狂戦士<<バーサーカー>>。
 英霊を再現するために用意した七種の器、だったか」
『正確には、七種にさらに特殊な器がいくつか用意されている。
 特殊な役割を行っていた、その存在のある一面を明確に映し出すための特殊な器だ。
 『強い』、『弱い』……そう言った言葉とは切り離された、特殊な存在を顕現させるために必要とする器だ』
「エクストラクラスのサーヴァントか」
『では、話を戻すぞ。あの狐だ。
 アレはサーヴァントではないが、サーヴァント、いや、英霊に近しい存在だ。
 アレこそ、『広く知られる』ことで『歪められ、結び付けられた器』に閉じ込められた英霊の極地と言える』


770 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:45:23 tMAquNfU0

視線こそ向けず、唱うように周囲に悪意を巻く存在について語り始める。
目下のところの問題が、あの狐だ。

(しかし、そこまで行くまで長かったぞ)

語りたがりのサーヴァントにそう言ってしまえば、また倍の時間がかかるだろう。
ふうまは口を閉ざし、目で怨霊のキャスターに続きを急かした。

『アレはな、『お稲荷さん』さ。
 この日本で最も有名なお狐さまだろう。
 荼枳尼天……加護を得るためには、命と信仰を最期まで求める、嫉妬深き神。
 天に煌く太陽とは一つきりであるために、己の存在以外に目を奪われることを許さない。
 日本の奥地の奥地では、天照大御神とも同一視させる存在』

神仏習合。
土着の信仰を潰さず、しかし、姿を変えて信仰に潜り込むことで新たに信仰を得る方法は珍しくない。
仏教にしてもそうだ。
明治以前、廃仏毀釈運動が行われる前、神社の神事を近所の寺院の坊主が執り行うことなど珍しくなかった。
それは奥地に行けば行くほどそうだ。
もはや、神道と仏教といった括りで分けることが不可能なほど、あらゆる教えが混ざり合って生まれた新しい邪教が溢れていた。
すなわち、神仏の類はあらゆる関連性を持つ。
ダキニ天が大日如来の化身であり、大日如来が太陽の神格を持つことで天照大御神と統合された。
ダキニ天は霊狐を駆る。
霊狐とはダキニ天の使いであり、使者であり、化身である。
稲荷を奉ることは荼吉尼天を奉ることなのだ。

『そのダキニ天がな、魔術を展開している。
 精神感応の類だ、アレらしい周囲を高揚させ、惑わせる類のものだ』
「魔術だと……!」
『何、心配するな。
 お前につけた『蟲』がその魔術の影響を引き受け、お前の精神にはなんの影響もない』
「……ちょっと待て、そんな話は聞いていないぞ!」
『言っておらんからな……害はない、魔術に対する避雷針のようなものだ』

狐から目を離し、怨霊のキャスターへと問いかける。
怨霊のキャスターは蟲術を得意とする呪術師だ。
毒と呪いを箱のなかに閉じ込め、全ての呪いと執念を一つの存在へと注ぎこむ。
それは怨霊のキャスターの有様そのものだ。

「くそっ、なんだ、俺の中にサナダムシでも居るのか!?」
『何度も言うが、お前に害はない、心配するな』
「気持ちの問題だ!気色が悪いんだよ!」

ふうまの非難の声をどこ吹く風とばかりに受け流す怨霊のキャスター。
怨霊のキャスターを忌々しげに睨みつけるふうまも、やがて諦めたように周囲の警戒を強める。
監視は無数の目を持つキャスターが行う。
ならば、自らは他者に異常を悟られないようにするだけだ。
仕掛けてくるならば別だが、敵方も静観を決め込んでいるのならば、わざわざ藪を突く必要はない。

『……ム』
「今度はなんだ!」

キャスターの、己だけがわかっている反応に痺れを切らし、小さくだが声を荒らげる。
だが、今度はキャスターに笑みは存在しない。
薄い頬を引き締め、鋭い瞳はさらに鋭さを増し、虚空を眺めている。

『……そう言った類のサーヴァントか』
「……こっちの様子を気づかれたのか?」

怨霊のキャスターの変化に、ふうまは顔を引き締める。
突如として退っ引きならぬ威圧感が生じた怨霊のキャスター。
監視を気取っていたが、気づかれたのかもしれない。

『いや、あくまで標的は目の前の名状しがたき、サーヴァントではない敵なのだろう。俺と貴様には気づいてもいない。
 ただ……』
「ただ?」

その時だった。
ぞわり、とふうまの背筋に冷や汗が走る。
先ほど、異常を見せないようにと決めたばかりなのに、思わず上空を睨みつけてしまいそうな悪寒だった。
見ずとも分かる、上空には何かが居る。
その正体を、ふうまはおおよその見当がついた。
竜種とよく似た、しかし、決定的に違う威圧感。

『俺の宝具が裏目に出たか。少々不味いな。
 真の竜には到底至らぬ亜竜止まりの魔獣だが』


――――ある意味では、これ以上ないほどに幻想としての竜でもある。





771 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:46:18 tMAquNfU0

先ほどまでの闘いでは、圧倒的にクー・フーリンが有利。
手数が違う。
指輪のキャスターが一度剣を振るう間に、クー・フーリンは二度槍を振るう。
それでもキャスターとクー・フーリンの戦闘が長引いている理由は一つ。

―― Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! ――

瞬間、クー・フーリンの脚が止まる。
そして、槍が再び凄まじい速さで動くと同時に、周囲に魔法陣が現れた。

―― BIND ――

この補助魔法だ。
クー・フーリンが『決め』にかかる瞬間、周囲に魔法陣が浮かび上がり、金属の鎖が拘束せんと襲いかかる。

「鬱陶しいぞッ!」

速さにこそ長所を持つクー・フーリンは瞬時に鎖を薙ぎ払う。
単なる拘束の鎖だが、タイミングが神がかっている。
恐らく、このキャスターのサーヴァントは一対一の戦闘に慣れている。
一騎打ちとは戦争とはまた異なる闘いだ。
これが軍を率いて戦うのならば話は別だが、現実は一対一の一騎打ち。
一騎打ちには一騎打ちの呼吸が存在し、戦争には戦争の呼吸が存在する。
キャスターとてクー・フーリンとも十分に戦うことができる。
現に、もう一度仕切り直しとばかりに距離を取られている。

「ちっ……おい、このままじゃテメエのジリ貧だぞ! わかってんのか!」

すでに最初の屋上から別の場所へと移っている。
クー・フーリンの攻めに対応できず、キャスターが後退を続けたがためだ。
クー・フーリンが痺れを切らして、しかし、愉しそうに叫ぶ。
指輪のキャスターはと言えば、そんなクー・フーリンの言葉に対して反応する様子を見せず、腰元の指輪に触れる。

「……」
「だんまりかよ」

ウィザードへの警戒を解くことはせず、蒼白の槍を翻す。
ヒュン、と風を切る音が響くと、指輪のキャスターはクー・フーリンへと視線を戻した。
腰元の指輪を手に取り、左手の指にはめ込む。

「ああ、悪いね。なんか、変な感じがしててさ」
「あん?」
「いや、こっちに来てからずっと思ってたんだけど、そういうもんなのかなぁって気にしてなかったんだ。
 ただ、実際に戦ってみると、こいつは……」
「何が言いたい」
「ハハ、簡単な話さ」

指輪のキャスターが再び宝具を展開する。
電子音声が音を奏で、誘惑するように妖しく光る。
手形に彩られたガジェットへと指輪を嵌め込んだ左手を翳し、宝具を起動させた。


772 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:47:37 tMAquNfU0


―― Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! ――


「ここからが本番ってことさ」


―― DRAGO RISE ――


天高く、世界へと通告する如く響き渡る呪歌。
始原の昔より積み重ねてきた魔術と人知の粋、最後の希望とはすなわち歌である。
特殊な言葉を特殊な音と間を用いて、世界へと発散する。
そこで起こる世界を変化させる事象が魔術なのだ。


『――――相変わらず面白い、奇妙なことにばかり巻き込まれおって』


空からやってきた幻想は、竜の姿を形作っていた。
まるで鎧のように金色に光る一部の皮膚と、全体を覆うメタリックカラーの皮膚のコントラスト。
見るものに荘厳さを感じさせるその姿は、しかし、闘志を隠そうともしない。

「英霊なんて柄じゃないんだがね、約束しちまったもんだからさ。
 マスターの最後の希望になっちまったんだ」

指輪のキャスターが使役する、ともすれば、指輪のキャスター自身も喰い潰してしまう余りにも猛々しい魔物。
本来ならば、指輪のキャスターの心象風景に存在し続けるだけの、幻魔、『ファントム』と呼ばれる人の心の中に棲まう魔物だ。
人知を越えた魔力量は、指輪のキャスターの核となり、その魔術の行使をサポートする。
そして、心象世界へと入り込めば実体化し、キャスターとともに敵を焼き払う。
この『東京』が魔人の拓いた『固有結界』であればこそ、現れた竜。
指輪のキャスター――――操真晴人/仮面ライダーウィザードの宝具。

「だから、力を貸せよ……『心淵に棲まう竜<<ウィザードラゴン>>』」
『俺の力は常にお前とともにある!
 お前が俺にとって愉悦をもたらす限り、それは永遠だ!』
「面白いもん持ってんじゃねえかよ、おい!!」

雄々しく吠えたウィザードラゴンを前にし、クー・フーリンが興奮を押し隠そうともせずに叫ぶ。
怯みもしない様子に、キャスターは仮面の奥で苦笑を浮かべる。

「しかし、参った参った……本当に出せちまうと、マスターに怒られちゃうな」
「竜……! ドラゴンスレイヤーってのも面白いかもなぁ!」

それでもなお闘志沸き立つ。
ある意味では、戦闘に目を曇らせている。
英雄クー・フーリンならば、あらゆる視点からあらゆる駆け引きを繰り広げる。
しかし、この悪魔は目の前のキャスターとの戦闘に身を費やしている。
悪魔へと堕ちるということは、そういうことなのかもしれない。

二騎の英雄が撃ちあう中、燦々と紅に染まった不可視の満月が煌めいていた。





773 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:48:32 tMAquNfU0

「なに、アレ?」

その声が誰の声なのかは、柚子にはわからなかった。
現に今でも分かっていないし、元々分かったところで意味など無い。
ただ、重要なのは声が見つけた『モノ』だ。
柚子は釣られたように上空へと目を向けた。

「なっ……!?」
「ん、どしたの? えっ、ちょ、本当になんだアレ!?」

釣られるように顔を上げた友人の木原篤郎の動揺の声を聴きながら、柚子は絶句する。
わかる、アレはただの動物ではない。
間違ってもそんな陳腐な生命体ではない、柚子たちと同じ法則で生まれたものではない。
それは、『あの東京』で生き延び続けた柚子ならば簡単に分かる。
あれは、あれは。
『悪魔』だ。

「すっげー、ドラゴン? ドローン? 新手のSFガジェット?
 日本やっぱ未来に生きてんな。
 何センチぐらいだ……?かなりでかいよな、メートルある?
 ドローンっていうかロボットじゃん」

柚子が動揺のあまり言葉も出せない横で、アツロウは感嘆の声をあげながらCOMPのカメラ機能を使って連写を続ける。
とっておきの一枚を撮るというよりも、とにかく数を撮ってその中から比較的綺麗に撮影されたものを残すという類の撮影法だ。
そして、背後から艶やかな声が響く。

『亜竜の類ね』
「……あ、亜竜?」
『亜竜、デミ・ドラゴン……竜の紛い物。竜種と言っても下級の竜と考えてくれて構わないわ。
 あの竜は、恐らくそういう竜よ』

柚子のサーヴァントである裏切のアサシンが、艶やかな濡れ羽色の髪を揺らしながら語りかける。
怨霊のキャスターが見立てた先ほどの観察よりも一歩浅い観察。
戦国の時代、幻獣相手ではなく、人と人との闘いに凌ぎを削っていたアサシンには仕方のないこととも言える。

『どうする、マスター? 竜以外にもサーヴァントやおかしな気配もするけど』
「……このまま、離れるに決まってるじゃない。なんで、あんなのと関わらなきゃいけないのよ」

柚子は現実から目を背けるように、上空を飛ぶ亜竜から目を逸らした。
そして、パン、と手を叩き、そのまま乱暴にアツロウの背中を押していく。

「ほら、帰ろ!せっかく早く帰れるんだからさ!」
「ちょ、押すなよ!ソデコ!」

慌てた様子でCOMPを仕舞いこみながら、渋々といった様子でアツロウは歩みを進める。
柚子にしても、ここから立ち去ることばかりを考えて、周りを見ていなかった。
竜を注視し、視線を鋭く研ぎ澄ませる峯岸一哉の姿を。
柚子は気づいていなかった。





774 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:50:07 tMAquNfU0

人々の心の海に住む竜に駆る、宝石魔術を操る仮面の騎士。
それだけで真名が察せられることが出来そうなほどの、全力。
ウィザードラゴンと、自身のバイクであるマシンウィンガーを融合させ、龍を駆る。
ドラゴンライダーとしての一面も持つ指輪のキャスターは、宙を泳ぎながら地に立つクー・フーリンへと攻撃を開始する。

―― Ca-Mo-Na! SHOOTING-SHAKE HANDS!――

ウィザードラゴンの背に跨がり、自身の兵装であるウィザードソードガンをソード・モードからガン・モードへと変化させる。
そのまま、ウィザードソードガンに備え付けられた手形のガジェットへと指輪を翳した。

―― FLAME! SHOOTING STRIKE!――
――『火』・『火』・『火』――
――『火』・『火』・『火』――

炎を纏ったウィザードソードガンを構え、容赦なくトリガーを引く。
銃口が存在しないその銃は超高温の炎を銃弾さながらにはじき出す。
上空から炎弾が降り注ぎ、クー・フーリンは蒼白の槍で質量の存在しないはずの炎弾を弾きのける。
魔槍の代表格である『刺し穿つ死棘の槍<<ゲイ・ボルグ>>』ならば、神秘を以って炎弾を弾き返すことぐらい容易いことだ。

「埒が明かねえ……もうかなり離れちまったし、やるしかねえか……!」

すでに移動に移動を繰り返し、東京第一高校の校舎屋上からは離れている。
それに合わせて、サポートとしてともに召喚された『仲魔』も移動していた。
『ハピルマ』、感情を向上させる魔術を使用するための仲魔だ。
戦闘意欲に対する高揚、恐怖よりも先に好奇心を抱かせる精神の方向性を指定する魔術。

「オラ、降りてこいや!」
「降りたらあんた、俺のこと殴っちまうだろ?」
「殴りゃしねえよ! むしろ、降りなきゃきつい一発やるから、今のうち降りてこい!」
「降りたら降りたで刺しちまうだろう?」
「当然だ!」

降り注ぐ炎弾を難なく捌きながらも、上空への攻撃方法が限られているクー・フーリンは怒りを隠しもせずに叫ぶ。
そのまま、右脚に力がこもる。
大きく隆起した右脚。
クー・フーリンは炎弾を弾き飛ばしながら、その槍を突如として手放した。
重力に従い、ゆっくりと地面へと落下していく。
蒼白の槍が地面とキスをする直前、クー・フーリンの右の足指が槍の柄を掴む。

「刺し穿つ――――死翔の槍<<ゲイ・ボルグ>>!!!」

右上段回し蹴り。
指で掴むという弱々しいはずの握りは決して離れない。
天高く、投槍とはとても思えない、傍目から見れば稲妻を連想させる神速の槍。
クー・フーリンの肉体ほどに膨れ上がった

「なっ!?」
『むぅ!?』

地から天へと昇る稲妻とも呼ぶべき投槍。
耐えずに炎弾を放ち続けていたがために、視界を遮られている。
その槍が正確に放たれていたならば、死は免れなかっただろう。
しかし、現実はキャスターとウィザードラゴンのわずかに横を飛び交っていった。
生じた衝撃波でウィザードラゴンが大きく慄く。


775 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:51:12 tMAquNfU0

「だぁ、クソが!」

不十分な体勢からの投擲であり、『悪魔』という貶められた霊格からの変貌。
『必中』を代表として多数の概念を有していた槍は、『神速』という概念のみに堕ちている。
悪魔の記憶の中にある本来の結果とは異なる結果。
しかし、戦場とは一秒ごとに状況が変化し、妖精クー・フーリンは戦場を駆ける大英雄の堕ちし魂。
投擲の次の瞬間には別の行動へと動いていた。
衝撃波に姿勢を崩し、立て直そうとするウィザードラゴンへと飛び向かい、その鉤爪を掴みとる。
グラリ、とウィザードラゴンの体勢があからさまに傾く。
山脈のように盛り上がった背筋が蠢き、蠢きに合わせてウィザードラゴンの体勢は崩れていく。
器用なもので、クー・フーリンはその肉体を素早く動かし、ウィザードラゴンの背中へと乗り込んだ。
ウィザードラゴンの背の上で、指輪のキャスターとクー・フーリンが向かい合う形となった。

「ッ!」

指輪のキャスターはウィザーソードガンの引き金を素早く引く。
そして、三発、エーテルの塊とも呼べる魔術的な質量弾が放たれた瞬間にウィザーソードガンのガジェットを発動させる。

―― Ca-Mo-Na! SLASH-SHAKE HANDS!――

ガンモードであったウィザーソードガンがソードモードへと変わる。
しかし、遅い。
クー・フーリンは苦し紛れの銃撃など、当たりはしない。
機敏な動きで全て避けた後、弓をひくように大きく拳を振り上げた。

「殴りに来たぜぇ……!」

強烈な一撃が指輪のキャスターの仮面へと直撃した。
たたらを踏む指輪のキャスターと、すぐさまに拳を振り戻して二撃目を放つクー・フーリン。

―― Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! ――

無様とも取れるほどの無茶な動きで、とにかく直撃だけは避けながらウィザードライバーを起動させる。
クー・フーリンの動きは止まらない、そして、視線だけで周囲を警戒している。
これは予備動作だ。
指輪のキャスターは魔術の施行をウィザードライバーという特殊な礼装に任せている。
それはどんな強大な魔術であろうとも、必要とする詠唱時間を大幅に短縮にできるという利点が存在する。
同時に、その発動が察せられやすいという弱点も存在する。

―― BIND ――

加えて、<<拘束>>の魔術はクー・フーリンとの戦闘で幾度と無く使用した魔術だ。
クー・フーリンは空中に浮かび上がった魔法陣へと注意を向ける。
飛び出る鎖は幾度と見た、一級の英雄であったクー・フーリンを拘束するには弱い。

「なっ!?」
『貴様!?』
「おっと……!」

しかし、鎖が向かった先はクー・フーリンではない。
鎖はウィザードラゴンの鉤爪。
突然の拘束にウィザードラゴンは大きく体勢を崩し、指輪のキャスターとクー・フーリンは空高くに放り出される。
いや、正確に言えば、虚空へと放り出されたのはクー・フーリンだけだ。
ウィザードラゴンを掴んだ鎖とは別の鎖が、指輪のキャスターの手を捉える。
姿勢を直した指輪のキャスターは、ウィザードライバーを起動させる。


776 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:51:48 tMAquNfU0

「来い、ドラゴン!」

指輪のキャスターは鎖を消し去り、竜、ウィザードラゴンへと叫ぶように語りかける。
急激な停止を強いられていたウィザードラゴンは、その言葉に意図を理解する。
くるり、と、指輪のキャスターは宙で前転していく。


「さあ」


―― Ca-Mo-Na! SLASH-SHAKE HANDS!――


呪歌を奏でる宝具。
真下を見ず、ウィザードラゴンが着地に合わせるように指輪のキャスターを背にのせる。
自由落下の法則に則って落ちていくクー・フーリン。
指輪を嵌めた手を、ウィザーソードガンの掌を模したガジェットへと、握手をするように翳す。


―― FLAME! SLASH-STRIKE! ――


――『火』・『火』・『火』――


――『火』・『火』・『火』――



変幻自在の剣は炎を沸き上げながら、天へと翳される。
強く握りしめ、今まさに剣を振るう。
槍を失い、宙へと放り出されたクー・フーリンは、ただ不十分な姿勢で迎え撃つ。


「フィナーレだ」


ウィザードラゴンの突進力をそのままに、炎を沸き上げる刃が振るわれる。
突きつけられたクー・フーリンの拳と、指輪のキャスターが振るった剣がぶつかり合う。
炎に溶けるように、拳がぐにゃりといびつに砕けた。






777 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:52:56 tMAquNfU0


「クー・フーリンが死んだぁ!あの人でなしぃ!」

校舎の隅。
青い毛並をした妖狐が、九本の尾を振りながら小さく叫んだ。
その声には悲嘆の色は一切なく、ケタケタと笑う喜悦に満ちた色だけがあった。

妖獣タマモ。

かつては双尾と伝えられていた青い尻尾は、江戸時代の浄瑠璃や能、歌舞伎に彩りを加えられた物語の影響で九尾へと変化している。
傾国の美女としての、妖狐の怪物としてのバックボーンを強めるため。
玉藻の前伝説は、中国は殷の時代に存在した妲己等の妖狐伝説と意図的に混同されたためだ。
日本に現れる前、つまりは藻女として子供の居ない夫婦に拾われる前。
玉藻の前は淫猥堕落の象徴として大陸を荒らしまわっていた、という『物語の前史』が『後から』付け加えられた。
そのため、当初は『二尾』として伝えられていた尻尾は『辻褄』を合わせるため、『初めから九尾の狐』であったと変更されたのだ。
物語は劇的なほど民衆に好まれ、民衆は変化によって生じる些細な疑いよりも新たに生まれた多大な興奮を優先する。

「しっかし、タマモは歌えばいいだけ、と言っても、退屈といえば退屈ですねぇ」

タマモは小さく呟きながら、それでもその『歌』を止めようとしない。
妖艶な色を隠そうともせず、この世を弄ぶ『歌』を奏で続ける。
その歌は他の誰が歌っても同じ効果は得られない。
しかし、別の手法で同じ効果を得ることは出来る。
手段は異なるが、確実に同一の結果を得る。
手段は得てして重要ではなく、その結果だけを指して、『スキル』と呼ぶ。
その『スキル』の名を、『パピルマ』と呼ぶ。
『パピルマ』にしても、また異なる名称を持つが、それは置いておこう。
重要な事は、今、タマモの奏でる『歌』は、人々を悦楽の渦へと巻き込んでいるということだ。


「あ、マスターマスター。なんかお稲荷さんっぽいよー」


同時に、その渦の中心は目立つ。
その位置を察することは、感知の類に秀でた英霊ならば容易い。
事実、怨霊のキャスターは呪歌の起こりの前にタマモの存在を察知していた。
ただ、接触を避けただけだ。
逆に、接触を図ったものも居る。
その一人が、タマモの背中に立つ英霊だ。

「……やっちった」

尻尾を器用に動かし、まるで人間が顔に手を当てるように視界を覆う。
タマモは青い尻尾を棚引かせながら、ゆったりと振り返った。

「気づかれなかったり、気づかなかったりするのは得意だから」

軽やかな笑みを浮かべながら、少女が立っている。
少女自身の華やかな顔つきとはかけ離れた、物々しい砲口がタマモの頭へと突きつけられた。





778 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:53:44 tMAquNfU0

時は遡る。
水兵服を連想させる黒い服を来た少女と、やはり同じく水兵服を連想させる白い服を来た少女が視線を校舎へと向けていた。
校舎から漂う妖気。
立ち去っていた和服の男から流れ出る邪気。
背筋を舐めるような、心地良い気配。
あらゆる要素が、今、戦闘の起こりを告げようとしている。

「それで、どうするの?」

黒い水兵服もどきの少女。
見るものが見れば、その小さな小さな身体に宿った怨讐の念とも使命の念とも着かぬおぞましい気配に気づいただろう。
この人型の何かは、決して人ではない。
かつて人であったのか、それとも、人ではなかったのか。

「一発、行っちゃう?」

水雷艦のアーチャーは、あどけない表情で問いかける。
どちらでもいい、と。
白い水兵服もどきの少女、すなわち、自身のマスター――――羽藤桂へと選択を委ねる。

「……楽しいのに、怖いって変な感じだね」
「言うほど変なもんじゃないよ?」

はぐらかすような、それでいて本気でそう思っているマスターの言葉に、なんてこともなく水雷艦のアーチャーは応える。
軽やかというよりも軽薄な表情。
水雷のアーチャーは人ではない。
忘れそうになっていた事実を思い出し、背筋に嫌な感覚が走る。
同時に、その感覚が懐かしくて、嫌な気持ちと暖かな気持ちが交じり合い、桂の胸に不思議な感情が生まれた。

「哀しすぎると楽しくなるし、怖すぎても楽しくなっちゃう。
 訳が分からなくなると楽しくなっちゃうから、怖い気持ちと楽しい気持ちって平気で両立できちゃうっぽいの」
「……」
「まー……楽しい気持ちも哀しい気持ちも、結局は全部海に沈んじゃったけどね」

終わっちゃえば一緒だよ。
そう言って、言葉を切る。

「アーチャー」
「ん?」
「アーチャーは、何なの?」
「白露型駆逐艦四番艦『夕立』っていうんだ、よろしくね」

真に迫った桂の言葉に、水雷のアーチャーはおどけた口振りで応える。
しかし、そこで言葉は終わらなかった。
水雷のアーチャーは、もっとも、と言葉を付け足し会話を続ける。


779 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:54:27 tMAquNfU0

「貴方の知ってる白露型駆逐艦四番艦『夕立』なのかって聴かれると……ちょっと困るかな」
「そうだよね、人間じゃなくて船だもんね」
「そう、船なの。人間じゃないの」

とある著名な作家が言った。

『これからの時代、英雄と呼べる存在は、人間自身ではなくなるだろう。
 恐らく、英雄と呼ばれるような、たった一騎で戦局を左右するような存在が居るとするのならば』

「私は、一度も人間だったことなんてないんだ。
 船員さん達の今際の際の想いと、作った人たちの想いと、船員が胸に潜めてた女の人の髪の想い。
 そんな、いろんな人の想いを載せたから、人の想いがいっぱい詰まったから、船じゃなくて人間の器で現れた」


――――『それは、単なる兵器なのかもしれない』、と。


「白露型駆逐艦四番艦『夕立』、それが私なの。
 よろしくね」

艦娘ではない。
『紅い月自身の願い』によって連れてこられた桂は、異端<<イレギュラー>>中の異端<<イレギュラー>>。
そして、異端<<イレギュラー>>が呼び寄せる存在は、異端<<イレギュラー>>である
艦娘という伝説に基づいて、艦娘とは異なる存在が訪れた。
『少女の形をした戦艦』という存在を、『戦艦が少女の形』をして現れたのだ。
何度でも言おう。

あらゆる人々を載せ、ソロモンの悪夢の一旦を担った、白露型駆逐艦四番艦『夕立』。

それが彼女だ。

「……アーチャー」
「ん?」
「行って、お願いね」
「りょーかい……欲を言えば、『お願い』じゃなくて『命令』って言ってくれたほうがしっくり来るんだけどなぁ。
 あ、決断の理由、聞いてもいいかな?」

水雷のアーチャーは、敵と定めた存在へと視線を外さない。
外さず、桂へと理由を問いかけた。

「……何もしないよりは、何かをした方がいいかなって」
「ありがと」

口にした言葉は、嘘だ。
桂自身、何をすれば良いのかわからない。
水雷のアーチャーがいる限り、もはや首を突っ込まないなんて方法は取れない。
特殊な存在は、それだけでおぞましき思惑の渦中へと突き飛ばされてるのだ。
そして、首を突っ込まないなんて考えていて、大事な人が失われてしまうとすれば。
それは、それだけは、避けたいことだった。
例え、それが偽りの命だとしても。





780 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:55:18 tMAquNfU0

「さあ、最っ高に素敵なパーティーしましょ」
「パーティー、ですか」

華やかに、あるいは獰猛に笑う水雷のアーチャー。
夕立の言葉は、宝具の真名と合致していたが、決して宝具の解放を意味しない。
戦闘をパーティーと結びつける夕立は、ある意味では狂っていた。
あの一夜が、白露型駆逐艦四番艦『夕立』という存在を構築する存在の集合体を狂わせていた。

「なんともまあ、舐め腐ってくれたものですね」

青毛多尾の狐は、小さく溜め息をついた。
妖獣であるタマモとして、闇へと堕ちて幾百年。
想いの年季が違う。
ある意味、同種である夕立の本質をタマモは理解している。
舐められるわけにはいかない。
その口元を愉快げに歪めた。

「『何』に語りかけてるか、どうやら分かっていないと見ましたね」

堕ちることで力を増す存在と、落とす存在は分かたれる。
例えば、先ほど指輪のキャスターに消滅させられた悪魔、クー・フーリンは前者だ。
彼の者は、まごうことなき英雄だ。
夜空に煌めく鮮烈なる光だ。
悪魔へと貶められることで、その光は濁り、力は淀む。
淀んだ力は方向性を失い、歪む。
歪んだ霊格は、本来発すべき力の出力をすぼめる。

しかし、水雷のアーチャーの目前で蒼い毛並をふつふつと蠢かせる妖狐は後者だ。
『淀む』ことでその邪性を強め、霊格を強固なものへと変える。
器そのものが強大となることで、その力は増していくのだ。
相手が悪いと言えば、悪い。
数多の弓兵適正を持つ英霊の中でも、最低ランクの対魔力。
渦潮のように唸る悪意を祓うには、水雷のアーチャーは特殊な逸話を持たない。
そもそもとして、水雷のアーチャーが最大の戦果を発揮するのは混戦だ。
誰が味方で、誰が敵かも分からない、ただの己だけを見つめる戦場。
誰も彼もが狂ったように誰も彼もを殺していく雨後に生じる泥のように惨めな戦争。
そんな戦場とも呼べぬような、死が大口を開けた地獄の入り口でこそ、彼女は最大の戦果を発揮するのだ。

「ちょーっと、ワクワクしてきたかな?」

それでも、水雷のアーチャーは笑った。
自信というよりも、躁状態に近い。
兵器でありながら魔に近づいた水雷のアーチャー。
『英霊』として座に登録された人格を持たぬ兵器が、『サーヴァント』として顕界されるために与えられた仮初の人格。
感情の記憶と経験も存在せぬまま、最初に与えられた恍惚。
その恍惚が、幾日を経てもなお忘れることが出来なかった。
大怨霊を前にしても、彼女の心に残っているのは薄暗い恍惚のみだった。
その恍惚を前にして、タマモまた嗤った。
そして、語った。

己が出自を。
己が罪を。
己が威光を。

その全てを示す、己が名を。


781 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:56:38 tMAquNfU0


「この白面金毛九尾の狐を前にして、海の塵芥へと消えた残骸風情が――――」


『白面金毛九尾の狐』
己の全てを示す真名を呟いた、その瞬間だった。
タマモの言葉が、この世界に刻まれることはなかった。

遠き宙を流れる星よりも速く。
沸き立つ原初の海よりも無慈悲に。


――――ただ一本の『槍』が、妖獣タマモを貫いた。


妖獣タマモという、堕落の果てを迎えた魂を、安々と刈り取った。
彼の者を刈り取るためだけに、混沌の泥を蒸発させるためだけに撃ち鍛えられた一本の『槍』。

水雷のアーチャーの全身が泡立つ。
まるでこの器が液体へと変わってしまったのではないかと思うほど、身体の奥底から皮膚表面まで『恐怖』という感情が支配する。
煌めく刃。
長い柄で、それが槍だということは分かった。
分かったが、いわゆる『槍』という単なる武器とは認識することを意識が拒んだ。
それは、もはや『武器』ではなく『兵器』であった。
そう感じた瞬間、水雷のアーチャーはストンと納得した。

ああ、そうか。

この世の中で、最も純粋な英霊を呼ぼうとするのならば。
なるほど、確かにそれは。
『兵器』に帰結してしまうのだろう。
神が人と結びつなごうとした、かの。


――――『天の鎖』のように。


「……ちょっと、ヤバイっぽい?」

人ならざるものを憎みすぎた故に、人ならざるものへと変わり果てた獣<<ケダモノ>>のランサー。
そんな槍と、幾多もの人を載せた人ならざる器は相対した。





782 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:57:14 tMAquNfU0

『西洋魔術には三つの位階がある』

校舎から離れながら、怨霊のキャスターは自身のマスターへと語りかける。
怨霊のキャスターは感じ取っていた。
ここにいてはならない。
先ほどのように、ここにいては命という命を刈り取られる。
『アレ』は、駄目だ。
『アレ』は、泥を消滅させるものだ。
そこに泥の意図など必要ない。
憎悪を持って憎悪を討ち祓う。
彼の大怨霊の荒御魂としての側面を抜き取られた怨霊のキャスターにとって、あの槍は決して触れてはならぬものだ。
故に、怨霊のキャスターは逃げる。
己が工房へと足を運ぶ。
さなかに、余りにも無知なる自身の召喚主に講釈を垂れている。

『一つは自然現象に介在して行う自然魔術、いわゆる化学だ。
 人間が扱うことの出来る魔術は、少なくとも表向きは、この段階までとなっている。
 俺の持つ呪術の数々も、基本はこの自然魔術に当たる』

ふうまは怨霊のキャスターの連なる言葉に耳を傾けながら、人知れず学校を離れていく。

『二つは天空の星々の力を借用して行う天空魔術。
 宇宙は目には追えぬ速度で流転し続けている。
 それを利用するには人間にはあまりにも早すぎる、表向きはそう言われている』
「裏ではそうではないと?」
『星の及ぼす影響は非常に大きなものだ、誰も彼もが利用しているよ。
 俺の持つ三つの龍のうちの一つ、天の龍の覚醒を意味する永遠の満月の方程式もまた、この天空魔術に属するものだ』

『天の龍』という言葉に、ふうまは小さく呼吸を崩す。
興奮がゆえだ。
この東京には、怨霊のキャスターが三柱の龍を潜めてある。
『龍の解放』は『東京の死』を意味する。
多くの無辜の民を殺し、発展した文明を殺し、広がる大地を殺し、『東京という概念』を殺し尽くす。
それは奇跡を秘匿すべき聖杯戦争において、相応しくない殺傷力。
しかし、『東京の聖杯戦争』において、秘匿性という意味ではこれ以上ないほどに長じている。
地震という天災は、大和の国には振り返るのも馬鹿らしくなるほどに前例が存在する。
強力なる宝具だが、解放は三度だけ。
一度放たれた龍は、二度とふうまとキャスターのもとには帰ってこない。
ただ、命と文明を連れて虚無へと行く。

『そして、三つ目は儀礼魔術。
 この世あらざる天上の神々――――いや、神霊とすらも異なる、上位存在へと直接語りかける術。
 根源、『 』、宇宙の大いなる意思、全知全能の神、 全てを生み出す力、全てを食いつくす力、盲目にして白痴なる全能の神。
 総称して、魔術を飛び越えた『魔法』だとな』
「この『サーヴァントではない存在』を生み出しているサーヴァントが駆使している魔術は、『魔法』だと?」
『いや、もどきだな。
 魔法ではない……魔法とはな、『どうあがいても手に届かないもの』にこそ当てはまる言葉なのだ。
 いいか、あの呼びだされた歪んだ魂とはな、契約で容易く結びつくことが出来る。
 神に近しい古の世から、宇宙へと手を伸ばし続ける現代まで。
 歪んだ魂とは、容易く手を結ぶことが出来る。
 魔法ではないのだよ、あの歪んだ魂が関わっている限り、な』

歪んだ魂。
すなわち、悪魔。
悪魔と結びつくことは、余りにも容易い。
勿論、容易いのは結びつくことだけだ。
結びついた後に幸福となるか不幸となるかは、別の話なのだ。


783 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:57:52 tMAquNfU0

『いいか、アレには絶対に関わるな」
「ほう、そう言われると――――」
『アレは人を憎むものだ……俺のようにな』

ふうまの言葉を遮るように冷たい言葉を放つ。

『悪魔は人に貶められた。故に、悪魔は人を憎む。
 人が悪魔はそうであると決めたのだ』
「なに?」
『人は牛を食う、牛はシヴァ神に連なる聖なる命だというのに。
 そんな些細な事で神格は犯され、悪魔へと貶められる』

それが怨霊のキャスターのあり方だからだ。
憎むために生まれた。
憎むための命。
そう決められた。
誰にだ?
人に、だ。
人より魔に堕ち、魔を鎮めるために神へと昇華される。
荒御魂にして守護神。
その地とその地に住む人を守護すると同時に、その地と人を殺さずには居られない。
矛盾する二つの神格が鬩ぎ合い、東京を滅ぼすために分かたれた。
そんな怨霊なのだ。

『故に、あの類の存在には関わるな。可能な限りな。
 アレは歪んでいる、歪まなければいけない存在なのだ。
 歪みを直視すれば、お前も歪む。
 歪めば、二度と真っ直ぐには戻らない』





784 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:58:12 tMAquNfU0

『発信された情報は宇宙遙かへ跳び、召喚すべき悪魔情報の発信を促す。
 発信された悪魔の構成情報は君たちの端末を通じて受信され、周囲の空間に存在する暗黒物質『マグネタイト』を編成させる。
 マグネタイトをタンパク質などに変え、悪魔は自身の肉体を構築する。
 それが悪魔召喚プログラムの基本システム。決して、悪魔の存在そのものデータ化しているわけではない』
「……」
『その『術式』を発信しているのだ。
 悪魔と結んだ契約書の膨大な集まり……そう言った類のものなんだ、あのプログラムは』

耳元で語られる言葉に、松下一郎は表情筋の一つも動かさない。
なぜなら、彼は悪魔くんだからだ。
悪魔くん。
それは決して嘲りのための名ではない。
恐怖によって生まれた名だ。
自身が理解できていないものを、自身よりもずっと幼い少年が何もかもを理解している。
未知の物を知っているという未知の者。
そこから生まれる、当然の恐怖と嫉妬。

『悪魔召喚プログラムが起動している。
 ならば、現れる一柱や二柱では終わらないだろう』
「……」
『離れよう、マスター』
「お兄さん」

悪魔くんは自身のサーヴァントである法のライダーを無視し、目の前の中等部の生徒へと語りかける。
そして、少し離れて前を歩く中等部の生徒を指差した。
指差した相手は七原秋也だった。

「…………なんだ?」
「あの人、お兄さんと同じ中等部の人だと思うんですが、辛そうですね」
「そうだな……」
「普通に歩いている振りしているけど、大丈夫でしょうか?」
「……本当にダメなら、教師が気づくだろう」

お兄さんと呼んだ相手、桐山和雄は大して興味もなさそうだ。
カマをかけたが、失敗だったか。
あの顔色の悪い生徒はマスターである可能性が高い。
サーヴァントと悪魔の戦闘と同時の体調の変化、余りにもタイミングが良すぎる。
罠である可能性はある。
マスターである誰かが、あからさまに魔力を引き出されている魔術師を装うための鼠である可能性も高い。
それでも、そんな人物を見つければ

『少し、踏み込み過ぎではないか?』
「他の人は楽しそうですね、僕も嬉しいですけど」
「……」

周囲の人物もまた、興奮している。
ガス爆発ともテロ活動とも呼ばれている破壊活動という非日常と、早くの集団下校という幸運が交じり合っている。
何も知らないものからは、そう見えるだろう。
実際は魔術の行使だ。
悪魔が人を高揚させているのだ。

(ライダー)
『なんだ?』
(今は、おとなしく小学生をやるよ。
 だから、そんな口うるさく言わなくていいよ)
『む……すまない』





785 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:58:59 tMAquNfU0

ダッジャールを率いたリエンスは歩いていた。
もはや、ジョーカーは爆発地点付近には居ないだろう。
犯罪者とは逃げ足だけは早い。
ホシは現場に戻るというが、それはある程度の時間が経ってからだ。
となれば、とにかく運に頼るしかない。

「学校だな」
「なに?」

そんなリエンスへと、ダッジャールは声をかけた。
学校。
そこに敵が居るという。
リエンスは理由を問う。

「魔力の行使の気配だ」
「ならば行くぞ!敵だ!」

魔力の行使。
すなわちそれはサーヴァント、あるいは魔術師の活動を意味する。
そして、その言葉通り、空中に竜が現れた。
リエンスはニヤリと笑みを浮かべる。
敵、すなわち戦い。
戦い、すなわち聖杯戦争。
聖杯戦争、すなわち願望が叶う瞬間。
己の欲望を想起した瞬間、リエンスはダッジャールに突き飛ばされた。

「な、なにを!?」


「――――奇跡だ」



カツカツ、と。
リエンスが文句を言おうとする瞬間、ダッジャールの前に現れる一つの影。
同時に、ダッジャールの右手、すなわちリエンスが居た場所、へと狙いすましたように、
地中から凄まじい勢いで『槍』が生え、肉を貫く。
歴戦の戦士であるダッジャールは、あまりの激痛に声ならぬ叫びを上げた。

「――――ッッ!!?」
「奇跡だろう。奇跡である。奇跡でなくてなんと口にすればいい!
 神の試練か!?
 悪魔の善意か!?
 あるいはクピトの悪戯か!?
 いや、やはり……これこそが主の奇跡だろう!
 奇跡と呼ばざるを得ないぞ!
 そうであろう、我が血の契約の主よ!」

長ったらしく語り続ける新手の言葉を聞き流しながら、ダッジャールは判断した。
毒だ。
今、ダッジャールの身体を犯しているものは毒だ。


786 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 00:59:39 tMAquNfU0

「なんという運命なのか!
 汝が魂を結んだ盟友には、裏切りをもって報いられ!
 汝の生涯を支えた伴侶は、その名も忘れてしまった!
 ああ、何よりも……何よりも!
 神を殺め、鬼を犯し、龍を堕としてみせた稀代の英傑!
 汝は、他ならぬ汝を崇め奉った人によって貶められた!
 そう、かようにも汝の全ては砕かれたのだ!
 愛を見失い、愛を否定され、残されたのは名も無き怪物としての側面のみ!」

それもただの毒ではあるまい。
神をも殺し得る、概念性を以って魂を犯す毒だ。

「自由の旗を掲げるように鎖で拘束された、あの虚偽の英雄の姿に震えを抑えられるものなど居るものか!
 崇高な理念など一欠片もなく、ただ、ただ、純粋な想いだけを持って剣を振るう。
 比べ、なんとおぞましき獣よ!
 ――――泥に溺れながら夢を貪る獣に、分かるか!」

次いで、二本目がカオスヒーローの左手に槍が突き刺さる。
三本目、地中から迫り来る槍が右足と左足の甲を縫い付けるように貫いた。
十字架に捧げられる救世主を連想させる姿勢を強制される。

「聖痕を刻まれし罪深き羊たちよ、聖杯を求めし奇跡の願い手たちよ、我が言葉を胸に刻むが良い!
 この世は残酷だ。
 神を裏切った我々にとって、楽園を追われて辿り着いた、この世そのものが地獄なのだ。
 誠意を持って生き、ただただ純然で矮小な幸福を願っても、結果は常に裏切りを以って磔刑へと捧げられる。
 おお、神に捧げられた魂よ!
 獣の数字を背負い、なおも救済を求め、地獄を歩むものよ!
 汝の名は人間!」

夜魔ヴァンパイア。
吸血鬼の総称であるはずのその悪魔は、しかし、ある一人の英雄を模して現れた。
ヴァンパイアのパブリックイメージ。
全てを観測する管理の怪物、ムーンセル・オートマトンの観測結果。
ムーンセルを通して発信される悪魔召喚の情報。
幾万もの精兵を串刺しにし、血の河を築き上げた救国の鬼。
貶められた鬼を呼び寄せた。

「前口上だけは……神霊級だな……!」

両掌と両の足平に打ち込まれた杭を、自身の炎魔術で燃やし尽くしながら呟く。
肉を貫かれる痛みと、呪いによって齎す痛みの相乗効果に眉をしかめた状態だ。

「悪魔に説法されるほど堕ちたのか、俺は……?
 なあ、おい。俺はそこまで惨めな男か?」
「惨め以外の何者だというのだ?
 賢者は愚者たる己を知るという!
 無知の知こそが知の証という!
 その凄惨な堕落を知り得てない今の貴様を、惨めと呼ばずになんと呼ぼうか!」
「ムカつくな、お前……だが、悪くはない」

迫ってくる無数の杭を焼き祓い、あるいは殴り飛ばし、ダッジャールはヴァンパイアを見据えた。
いやらしい笑みを浮かべた敵。
そして、自身の仮面の奥に浮かべているものは、種類こそ違えど言葉にすれば同じになってしまうような、そんないやらしい笑みだ。

「思い出してきたというよりも、目が覚めてきたぞ。
 不快だ……殺すしか無いだろうな、この殺意を収めるには」

コキコキと首を鳴らしながら、カツカツと地面を叩いて、ヴァンパイアへと迫る。


787 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:00:25 tMAquNfU0

一歩歩く度に、襲いかかる無数の杭。
しかし、悪魔を犯すための杭は悪意に染められた。
ならば、混沌の大英雄であるダッジャールにとって、本来のある大英雄の『宝具』に比べれば塵のようなものだ。
背後に居るリエンスがよろめく様子を無視して、ヴァンパイアへと歩み続ける。
近づく度に、杭の数が増えていく。
捌ききれずに幾つかの杭がダッジャールの身体に突き刺さる。
走る激痛、しかし、無視する。
ダッジャールにとって痛みとは親しいものだ。
いくつも蹂躙された。
屈辱を呼び起こしながら、懐古の念が胸中に広がる。

「不快だな、お前は……なぜ、俺に生前を思い出させる……!」
「主の愛も知らぬ蛮人!過去を過去としてしか捉えぬ愚!
 己が振るう炎より熱き杭に焼かれよ!」

唇と唇が触れ合うほどの超至近距離。
ダッジャールを突き刺す杭が、ダッジャールの身体を貫通しヴァンパイアへと突き刺さる。
ヴァンパイアを焼き払う上級単体炎魔法<<アギダイン>>の炎が、ダッジャールの身体にも触れ合う。

「『ジバブー』……」

小さく、ダッジャールの声が響き渡る。
ヴァンパイアの身体が、不意に硬直した。
緊縛の魔術だ。
その隙に、ダッジャールの左手が、ヴァンパイアの首にかかった。
ヴァンパイアは嘲笑に顔を歪める。
ゴキ、ゴキ、と。
耳を塞ぎ込みたくなるような不快の音が響き渡る。
ダッジャールの右手がヴァンパイアの肩に置かれる。

「終わりだ」

肉と肉が裂ける。
ヴァンパイアの皮膚と肉を炎魔術で焼き、溶かしながら、脊髄を引き抜く。
骨と肉を結びつけた神秘の粘着性は炎に焼かれ、意味を無くす。
最後まで笑みを浮かべていたヴァンパイアに笑みを返し、ダッジャールはヴァンパイアの命を奪い取った。

フン、と空気を吐き捨て。
ダッジャールは手に持ったヴァンパイアの首を投げ捨てた。
悪魔の肉体を構成していたマグネタイトが霧散していく。

「こいつはサーヴァントなのか?」
「見れば分かるだろう、単なる悪魔だ」
「悪魔だと!?」

ダッジャールの言葉に、リエンスは目を見開く。

「悪魔、そう言った霊を召喚するサーヴァントが居るということか?!」
「そう珍しいことじゃないだろう、今はそいつを探すか?
 それとも、ジョーカーか?」
「何でもいい、参加者を減らすのが俺のひとまずの目的だ。
 そして、聖杯を手にする」

ただ、それだけだ。
リエンスは胸を張って応える。
ダッジャールは、そうか、とだけ応える。
ダッジャールにとって聖杯とは重要なものではない。
願いは途中で破綻したが、満足はした。
己の身を焦がしてでも得たい願いと呼べるものはもはやない。

いや、あるといえば、あるのかもしれない。


788 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:02:23 tMAquNfU0

「リエンス、こんな童話を知っているか?」

もしも、カオスヒーローという魂に、叶えたい願いあるとすれば――――

「なんだ、さるかに合戦でも語り出すつもりか?」

リエンス王の茶々を無視し、ダッジャールは語り出す。
消し炭となったヴァンパイアを見下ろし、その塵と灰を靴で踏みにじる。
口元を完全に覆い尽くす仮面の奥から、くぐもった声で物語が紡がれていく。


「『昔々、
  人間たちは同じ言葉を使って、
  気持ちを分かり合い、
  幸せに暮らしていました。


  しかし、ある日。
  神様に会うために高い高い、
  天まで届くような、
  高い、高い、塔を立てると、
  神様の怒りに触れてしまい、
  言葉を別けられました。


  それ以来。
  人と人は思いが通じずに、
  争ってばかりいます』」


どこか懐かしむような声。
初めて聞くその音色に、リエンスは少々おっかなびっくりに声を返した。

「……それは、神話じゃないのか?」
「俺がこいつを童話だと言いたいのはだな、リエンス」

リエンスの思い至った神話は創世記に登場する有名な逸話、バベルの塔。
ダッジャールとしても、それが神話として語り継がれていることを知っている口振りだ。
だのに、ダッジャールはその神話を童話だと語る。


「同じ言葉を使っていれば気持ちが分かり合えるだとか、
 気持ちが分かりあえばみんなが幸せだとかいう、
 そんな、馬鹿みたいな考えが根底にあるからだ」


分かり合うことが出来る、それが願いと言えば願いかもしれない。
ザ・ヒーローと呼ばれた天秤の主と。


「そう思うだろう、お前も」


眼前に現れた秩序の救世主と分かりあえたら、鼻で笑うぐらいには笑顔になれるだろう。





789 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:03:11 tMAquNfU0

衛宮切嗣は人知れず校舎に忍び込み、ある霧散していく物質を眺めていた。
第六架空元素に類似した暗黒物質、マグネタイト。
悪魔の鍵となり肉となる謎めいた物質。
少なくとも、切嗣にとって未知の物質である。
だが、何を引き起こすのかは理解できた。
召喚だ。
人と異なる異常なる生命体の召喚。
無辜の民を殺して回る、そんな怪物。
理性の云々は問題ではない。
そうしようと思えば、そう出来てしまう類の怪物だ。
本当に万全を期すならば、この学校を解体し、妖しき人物を殺すべきだった。
おあつらえ向きに、先程までグラウンドに集まっていてくれたのだろうが。
この東京に潜む幾万の民のことを思えば、巻き込まれる生徒と教師の数は微細な――――


―――おぎゃあ。


また、だ。
あの日以来、忘れることの出来ない夢の終焉の日以来。
感情を切り離そうとすれば、右肩ひどく疼く。
喜ぶように、肩が疼く。
もっと、もっと、と。
餌を求める雛のように。
感情の泥を求めるように。

「……ランサー」

切嗣は小さく呟いた。
何処かで暴れている獣のランサー。
自律行動可能な兵器。
自身のランサーが何に怒っているか、理解できる。

―――必ずや。

アレは奪われた側だ。

―――必ずや。

命を、命ときちんと理解できている兵器だ。

―――この『剣』で。

戦闘を美化などしない、死を尊いと崇めはしない。

―――滅ぼしてやる。

ただ、目的を成すためだけに、必要な物を捨て去った兵器だ。

―――父も、母も、みんなお前に殺された!

捨て去った先に残ったものが、『槍』となった。

―――そして、妹も!!

右肩の疼きが収まった。
校舎の開いた窓から、獣のランサーが飛び出る。
蔵へと戻るだろう。
あそこは聖杯と繋がる場所だ。
すなわち、サーヴァントの召喚陣。
あるいは、ランサー自身が土蔵という大きな括りに意味を抱いているのか。
意味は無い。
遠目から見るに、生徒たちは皆学校から立ち去ったようだ。
ラーマと合流し、家に帰ろう。
たとえ、切嗣が離れても、ここはすぐに戦場となる。
ご丁寧に、高揚の魔術で人払いまでしているのだから。

肩の疼きと同時に、どこか肩が重くなったような気がした。
何故か、切り捨てたものがそこに溜まっているような気がした。





790 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:04:48 tMAquNfU0

校舎へと逃げ込んだ、水雷のアーチャーは走る。
階段を昇り、廊下を走り、階段を降り、時には砲撃で応戦する。
そんな水雷のアーチャーを迫り来る『槍』は、槍そのものである獣のランサーは、水雷のアーチャーを串刺しするためだけに走る。
憎悪に曇らせた刃/瞳に、ただ泥だけを映して、槍は蠢く。
水雷のアーチャーの弾丸が襲いかかるが、ランサーの強烈な突撃は全てを弾く。
壁に幾つもの穴を開け、水雷のアーチャーの肩を獣のランサーがえぐりとった。

「……ッ」

走る痛みに、声にならぬ音を漏らす。
肩に突き刺さった槍を抜き取ろうと、水雷のアーチャーは柄を握る。
その瞬間だった。
元々、特殊な出自であり、兵器というランサーとの共通点を持つアーチャー。
そして、ランサーの溢れ出る、抑制と感情すらも忘れて隠すこともない憎悪に溺れた意思の波動。

赤い布に包まれた、数少ない露出した刃の中に、幾つもの顔を見た。

ああ、こうなるのだ。
なってしまうのだ。
感情が極まった時。
憎んで、憎んで、憎んで。
あるいは。
怯えて、怯えて、怯えて。
感極まった時、人は叫び喚いて、こんな顔になるのだ。

――――血走った目に不釣り合いな笑みが、幾重にも重なって、刃に写り込んでいた。

まるでその憎悪を拒否するように、水雷のアーチャーは獣のランサーを放り捨てた。
身体に走る、強烈な倦怠感。
獣のランサーが持つ、魔に対する特効性は水雷のアーチャーもまた例外の対象ではなかったようだ。
崩れ落ちそうな身体に鞭を打ち、油断なく構える。

あの顔は、覚えている。
自身もまた、あの顔をした人間を、幾つも載せて戦ったからだ。
地獄とは、敵味方入り乱れて戦ったからではない。
何が何だか分からなくなって。
誰を攻撃していいかわからなくなって。
なんだか、『笑えて』きてしまったのだ。
笑いは、狂気のスタート時点だ。

事実、水雷のアーチャーもまた、笑みを浮かべ始めていたのだから。


791 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:05:05 tMAquNfU0

「……っぽい?」

そんな、戦闘意欲が高まっていた中で、ランサーは踵を返した。
元々、水雷のアーチャーへの興味は薄かったのだろうか。
令呪の行使は感じなかった、マスターの命令だろう。
兵器となった故に、単純な命令は聞くようだ。
気の抜けたように、水雷のアーチャーは肩を落とす。
落とすと同時に、足音が聞こえた。
カツ、カツ、と。
ゆったりとした足音だ。
そしてまた、特殊な気配。
サーヴァントだ。
入れ代わり立ち代わりとはまさにこのことだ。
廊下の端、階段口から一人の青年が現れた。
翠緑の軽装で、ハンドベルトコンピュータを装着し、剣を携えた青年だった。
三度目となる悪寒が、水雷のアーチャーを襲った。
ただ、今回は前回までの比ではない。
全力の悪意を突きつけたタマモよりも、濃い。
どこかの誰かへとぶつける憎悪を撒き散らした獣のランサーよりも、濃い。

水雷のアーチャーへと、死を明確に伝えてくる悪寒。

目の前から、翠緑の青年が消えた。
瞬間、腹部に激しい痛みが生じた。
まるで、その腹部から痛みという感覚以外が消え去ってしまったような鈍痛。
理解が追いつく前に、剣が光った。
反射的に、砲撃。
弾は当然のように斬り裂かれ、剣の柄で、水雷のアーチャーを叩きつける。
生前の砲撃すらも容易く上回る、強大すぎる未知の衝撃。
衝撃。
衝撃。
衝撃。
そんな未知が、幾度と無く繰り返される。
命を繋いでいる事自体が、不思議なほどだった。
水雷のアーチャーが階下に吹き飛ばされ、階上から青年は見下している。
不思議と、屈辱はなかった。
そうなるのが当然であるという納得まで浮かんできたほどだ。
青年は水雷のアーチャーから視線を切り、手に携えたハンドベルトコンピュータを起動させた。
幾つかキーを打ち込むと、光が満ちる。
光の中から一匹の蒼銀の毛並みをした獣が現れた。
瞬時に理解した。
タマモを召喚した、サーヴァントであると。

ザ・ヒーロー。

人以外の全てを消滅させる英雄の姿が、人あらざる戦艦の前に立っていた。






792 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:05:52 tMAquNfU0

そこには、綺麗に洗濯された白を基調とした蒼いラインの入ったシャツとズボンをまとった青年が立っていた。
柔らかな風貌と、雰囲気。
そして、見開いた目。
リエンスは、嫌な予感がする。
その目には驚愕の色がある。
しかし、それは未知へと向ける類の驚愕では、断じてない。
それは既知への驚愕だ。
すなわち、目の前の青年は聖杯戦争におけるマスター。
それも、恐らく、これは推測だが。

「……君は、サーヴァントなのか」
「そういうお前は違うみたいだな」

ダッジャールの姿を見ただけで真名を理解する、既知たる知人。
ダラリ、と嫌な汗を流すリエンスとは対照的にダッジャールは嗤った。
嘲りに似た、しかし、親しみの情も感じさせる笑い。
その笑みに、どこか懐かしく、不可思議なものを覚える白い青年、すなわちロウヒーロー。

「ダッジャール」
「……偽救世主<<ダッジャール>>?」
「今は、そう呼べ。それがマナーってやつだろう?」

くつくつと喉を鳴らしながら、マスクに人差し指を立てるダッジャール。
ダッジャール、救世主の威光を示すためだけに現れる、人を悪魔へと導く偽救世主の名。

「しかし、その名は……あんまりにも、不吉だ」
「俺は名前を捨てた英霊だ……名前を捨てることで、超常の英雄となれた存在だ。
 そんな奴が呼ばれるには、ちょうどいい塩梅だろう?」
「そんな言い方……」
「なんだ、必死だな。
 もっとも、お前にだって俺の称号が与えられるだろうから、当然と言えば当然か?
 俺がマスターで、お前が必敗者<<ダッジャール>>。
 状況によっては、そんなこともあっただろうさ」

ダッジャールのからかうような言葉に、ロウヒーローを肩を落とした。
その目には哀れみと諦めが交じり合っていた。
不快ではなかった。

「皮肉と自虐を同時にやるのは、やめたらどうですか。
 君は、いつもそんなのばかりだ。
 君は、君としての名前がない。僕にも同じだ。
 決して偽りの救世主、ダッジャールではない」

ロウヒーローの声を、ダッジャールは笑う。


793 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:06:26 tMAquNfU0

「名前に意味はない。
 ただある存在のために、存在することだけを望まれる……そんな人間も居るということさ。
 カオスヒーローという真名もお前は把握している。
 その名ならば、有名なのかもしれない。
 しかし、その奥に眠る俺のもう一つの真名がある。
 覚えているか?」
「……」
「天使に何もかも奪われたか」

笑った。
ダッジャールがいくども浮かべた笑みの中で、その笑みは特別に不快だった。

「ならば、誰も決してこの名を知ることは出来ない……もっとも、知ったところで、何の意味もないだろうがな」

同時に、哀しみも覚えた。
ダッジャールが笑っているのはロウヒーローに対してだけではない。
恐らく。


「その名前を持つ人間には、何の価値もない……ただの飢えた魂だ」


ダッジャール自身のことも、ダッジャールは笑っているのだ。
ギラついた様子の、過去の混沌の青年の姿が、ロウヒーローの脳裏によぎった。
戦闘を警戒する。
カチャリ、と。
剣を携える音が聞こえた。
ロウヒーローのサーヴァントともまた、戦闘態勢を取っている。
ロウヒーローとリエンスは、小さく汗を流す。
サーヴァントは超常の存在。
その超常の存在をぶつけることで、聖杯を完成させる。
リエンスにとって、ロウヒーローにとって。

ようやく、『聖杯戦争』が始まろうとしていた。


794 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:07:57 tMAquNfU0


「まあ、お前も上手くやれよ」


だというのに、ダッジャールは簡単に刀を収めた。
戦意は、なかった。
ロウヒーローはあっけに取られたように表情を崩し、リエンスはダッジャールを睨みつけた。

「……変わりましたね、君も」
「お前も死んでみると良い」
「一度も死にましたよ」

そこで、表情を止めた。
リエンスは、ゾクリと、背中を震わせた。
そこには表情があって、表情がなかった。
先程までいきいきと動いていた『人間』が、突然、『マネキン』に変わってしまったようだった。

「そして……変わってしまった」
「今は、様子が違うようだな。そちらさんのおかげか?」
「俺は何もしてねえよ、それに、『変わった』状態から、もっかい『変わる』のはこっからだ」

友好的、とは違うかもしれないが、敵対とも異なる関係。
ロウヒーローのサーヴァントは実体化を行う。
女のように整った、しかし、男特有の筋張った肉をした優男。
絹糸のような髪を流しながら、乱暴な言葉づかいでサーヴァントは答えた。

「……そう、そして、そのことで教えてもらいたいことがあります」
「おっと、勘違いするなよ」

ロウヒーローに表情が戻り、言葉を切り出すと、ダッジャールは静止させた。
リエンスの視線を一度受け取って、言葉を続ける。

「俺たちはあくまで敵で、しかも、俺は従者<<サーヴァント>>だ。
 簡単に応えると、大目玉を食らっちまう」
「その通りだ!」

やっと会話に割り込める、と言わんばかりにリエンスは言葉を受け取った。
ダッジャールの背後からではあるが、見下すような視線をロウヒーローへと向ける。
ロウヒーローの表情は変化がなかったが、サーヴァントは顔をしかめた。

「交渉だ。
 こちらから情報を出すなら、そちらからも情報を出してもらおう。」
「なるほど……なら、必要はありません」
「……なに?」
「無理して聞きたいことではありません、ゆっくりと、僕自身の答えをみつけたい。
 それに……貴方は警戒しているようだ。
 そう言った人を、より警戒させる術は避けたいんです」

柔らかな笑みを浮かべる。
人間の笑みとマネキンの笑みが交じり合って、不気味な笑みだった。
ダッジャールは喉を鳴らして嗤った、リエンスは僅かに気圧された。


795 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:09:11 tMAquNfU0
「ここは『無益な戦闘をしない』ということで手を撃ちましょう。
 思想は異なるかもしれませんが、お互いに全力を出したいのは『ジョーカー』との戦闘でしょう?」
「それは……まあ、その通りだが」
「ですから、手打ちをするために、一つだけお見せします」

そう言った、その瞬間だった。

屋上から、悪魔が降りてくる。
妖鳥バイブ・カハ。
ケルト神話にて伝わる死と破壊と戦を司る三女神の象徴。
戦の鳥の名を持ち、人を死と破壊へと導く声を持つ妖しき鳥。

妖獣タマモの死と入れ替わりに召喚された、人々を高揚へと導く魔術の主。

屋上から直角に滑空する。
その羽は打ち付ければ象が潰れ、その嘴を突きつければ獅子が両断される。
その妖鳥を。
ロウヒーローのサーヴァントは、一瞥し。
瞬間、周囲に強烈な『圧』が生じた。
リエンスは、まるで巨漢の男に押されたようにたたらを踏む。
そんなリエンスを無視し、サーヴァントは剣を翻し。

一閃。

ただ、その剣は振るわれただけだ。
迫り来る悪魔は、激しい『圧』が発生すると同時に『砕かれた』。
斬り裂かれるなどといった様子ではなく、剣が肉体を斬り裂く前に。
その圧倒的な一閃が起こした衝撃によって、肉片を砕かせたのだ。

そう、『天使の一閃』は死を意味する。

人は四足から二足になると同時に武器とは牙と爪だけでないことを知った。
人が二本の脚で立ってから、人は拳を握るすべを手に入れた。
その手に、牙と爪の代替物を握ることを覚えた。
以降、人が研ぎ澄まし続けた術がある。
武器を振るう術だ。
しかし、今の一閃には、その術と呼べるものは特殊なそれではなかった。
ただ、剣を振るっただけだ。
その剣に秘められた神秘を開放する真名は唱えられていない。
本当に、ただ、剣は振るわれただけなのだ。

救世使<<エンジェル>>。

この世界とは異なる、濃密な高純度な魔力に溢れた世界がある。
そこで振るわれるアストラル力は、もはや魔力とは種類が異なると言ったほうが良いほどに純度が違う。
おかしな例えになってしまうが、石油と石炭のようなものだ。
火を石炭で起こしている他人と比べ、エンジェルは石油を以って火を起こす。
エンジェルはそのアストラル力の放出を最上位のスキルランクを誇っている。
宝具が持つ逸話から生じる特殊にして強大な効果を無視し、火力だけに限れば。
エンジェルのアストラル力を放出して行う一撃は、並のサーヴァントの宝具すらも容易く凌駕してしまう。

「僕のサーヴァントの、一撃です。
 彼なら、その方向性が理解できるでしょう」
「ふん」

鼻を鳴らして笑うダッジャール。
リエンスはといえば、その比類なき戦闘力に動揺を隠し切れない。


796 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:09:39 tMAquNfU0

「行くぞ、リエンス」
「何処にだ」
「何処にでも良いだろうが……ジョーカーが何処に居るか分かっていないのに、変わりはないんだ」

そう言うと、ダッジャールはリエンスを引き連れて一度だけダッジャールは振り返った。
あざ笑うような、しかし、何処か親しみを感じる色を瞳に浮かべていた。

「まあ、元気にやれよ……どうせ、死ぬだろうがな」

ロウヒーローは、ダッジャールの背後を見つめ続けていた。
名前が、思い出せない。
天使により救世主として捧げられた際の、天使に施された超常の残骸が残っている。
共に歩んだ記憶は鮮明に覚えいるのに、彼らの、まだ英雄でなかった頃の顔と名前は靄がかかっている。
哀しみが胸中を襲う。
奪われたように感じた。
これもまた、試練だというのだろうか。

「で、どうする、マスター?」

斬撃の窮極とも言える一閃を放ったエンジェルは、何でもない様子で語りかける。
ロウヒーローもまた、天使の残骸が肉体に残っている。
元より、救世主として高い適性を誇っていた。
互いの力の方向性と親しい事も含めて、エンジェルを使役する上でロウヒーローはこの上ない存在だ。
エンジェルが生前行ったような、強力な宝具の連続解放ともなれば別だが、通常戦闘は問題なく行える。

「思ったよりも、皆さん落ち着いているようです」
「不自然なぐらいにな」
「魔術の行使でしょう……それ自体は、悪くありません」

心中では、精神の方向を固定する魔術に対する嫌悪感を抱いている。
それでも、混乱のさなかに居るよりは、ずっといい。
そう自身を納得させて、ロウヒーローは言葉を続ける。

「周囲に悪魔が居ないか、探索しましょう。
 戦闘後を見るに、中級の位階に達する悪魔が居ます。
 今までの、下級の悪魔が蠢いている状況とはわけが違います」
「仕掛け人は別々だろうな」
「……でしょうね」

悪魔を使役する。
その言葉に、ロウヒーローの脳裏に一人の青年がよぎる。
普通ならば、連想するのは七十二柱の悪魔と契約を結んだソロモン王であるべきだ。
しかし、ロウヒーローが連想する人物は違う。

「行きましょう、エンジェル」

悪魔を使役する術は幾十も存在する。
悪魔が居るだけで、あの人物が居ることの証明にはならない。





797 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:11:37 tMAquNfU0

「さて……乗り込むか」
「油断するなよ」
「お前もヘマをするなよ。
 死ぬのは勝手だが、さすがにこれだけ俺の行動を口うるさく言っておいて、勝手に死なれては笑えん」

ダッジャールは校舎へと忍びこむ。
リエンスもついていこうかと思ったが、さすがにそれは不味い。
サーヴァント同士の戦いに巻き込まれればただでは済まない。
それは、先ほどのエンジェルの一撃でよく分かった。
おとなしく待機をする。

「鬼が出るか蛇が出るか」
「出るのは英霊だ!」
「単なる『言い回し』というやつだ、外人はこれだから困る」

軽口を叩きながら、足を踏み入れる。
廊下を歩み、階段をのぼる。
その時。


「あらら、逃げ遅れちゃった」


仮面と外套をまとった戦士。
隠し切れないサーヴァントとしての気配。
獲物だ。
マスクに隠した口元を歪めた。
ロウヒーローの前では郷愁が強すぎた。
ダッジャールの生前は、すでに『完結』している。
その因縁を掘り起こすのは、彼が見た『温かい夢』を穢すものだ。
戦意は湧きづらかった。
だが、顔も名前も知らない相手となれば別だ。
戦い。
幾度と無く重ねた自慰のような興奮の経験。
ダッジャールは太刀を抜いた。
仮面の戦士――――指輪のキャスターも剣を構えた。

戦闘が、始まった。

「ハァッ!」

ダッジャールの一閃。
指輪のキャスターは撃ちあうことはせず、脚さばきで避けてカウンターの斬撃を行う
その一瞬の戦闘で、ダッジャールは理解した。

「チッ……」

目の前の相手は、『中立』の属性を持つサーヴァントだ。
自身の全力とは程遠い一閃だった。
ならば、搦手を必要するだろう。


798 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:12:35 tMAquNfU0

「『ジバブー』」
「おっと!?」

唱えられた魔術の意味を指輪のキャスターも察した。
意味を理解するということは、すなわち抵抗性が高まる。
自身を拘束してくるイメージを打ち破るイメージを行う。
身体を巡る魔力の流れが少し変わり、呪縛の魔術を引き裂いた。

瞬間、ダッジャールの太刀が振るわれ、指輪のキャスターは慌てて剣で受け止める。

指輪のキャスターとて歴戦の勇士ではあるが、秀でた剣技を持っているわけではない。
そして、ダッジャールは自身よりも強い相手との戦闘経験は抜きん出ている。
クラススキル、救世主(偽)の効果によって、中立・善の属性を持つ指輪のキャスター相手にステータスがダウンしている。
技術を持って、対等に戦う。
一合。
二合。
三合。
四合。
幾度と無く刃がぶつかり合う。
隙を見せない戦闘。
クー・フーリンとの戦闘にように、指輪のキャスターが距離を取り直してバインドの魔法を試みても、先に束縛の魔術が襲いかかる。
動くことで照準を合わせないが、それは相手に行動の優先権があるということだ。
ガンモードに切り替えてみても、同等の、あるいは銃弾を凌ぐ炎魔術が襲いかかる。
一番効果的なのは、原始的ではあるが接近戦においてステータス差で押しつぶすことだけだ。
しかし、それも上手くは行かない。
誘導というのだろうか。
隙を見つけて攻撃を仕掛けても、それはダッジャールにとっての隙ではなく。
延々と決定打に欠けたまま、戦闘は続いていた。
先に、『本当の隙』を見せた相手が負ける、そんな戦闘だ。

「……ッ、来い!」

先に痺れを切らしたのは、指輪のキャスターだ。
多少の束縛の魔術を追ってでも、切り札を出す。
心淵に棲まう竜<<ウィザードラゴン>>の召喚だ。
間をおかず、空から竜が再び現れる。
廊下で撃ちあっていた二騎の英霊の前に、窓から覗きこむように、大きな顎を開いた竜が現れる。


ダッジャールが幾度目ともなる舌打ちを零した、その瞬間だった。


「っぷっはぁ!」


天上の一部が抜け、一人の女が降り立ってきた。


水雷のアーチャーだった。





799 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:13:10 tMAquNfU0

ザ・ヒーローと相対していた彼女は、息も絶え絶えと言った様子だった。
今にも死んでもおかしくない。
そんな様子が当てはまる姿だ。
それでも、瞳は爛々と光っていた。
戦意をまるで失っていない。
むしろ、狂気に犯されたように光っている。
その瞳を指輪のキャスター直視していまし、思わず身が凍った。
そして、水雷のアーチャーと同時だった。

『ぉぉぉぉおおぉぉぉお!!?』
「ドラゴン!?」

現れたばかりのドラゴンが、悲鳴を上げた。
ドラゴンの背には翠緑の鎧をまとった青年が一人。
首を大きく殴りつけられ、余りにも容易くドラゴンは地へと縫い付けられた。
あまりにも、呆気なさすぎる。
怪物を倒すことだけに特化した英霊だろうか。
ならば、ドラゴンは相性が悪すぎる。
しかし、幾らなんでも戦況が一瞬で変わりすぎた。

水雷のアーチャーの狂気の瞳と、突如撃沈したウィザードラゴン。

二つの予想外が襲いかかり、一瞬、硬直した。
それは、確かな『隙』だった。

「っぽい!?」
「っとぉぉぉお!?」

床に転がる水雷のアーチャーを蹴り上げるダッジャール。
吹き飛ばされた指輪のキャスターにぶつかる。
英霊であり、勇者でもある指輪のキャスターがそのまま倒れこむようなことはない。
しかし、一瞬だけ視界を封じ込められた。

「――――アギダイン」

最上級の単体炎魔術の行使。
ワンフレーズではあるが、それは世界を震わせる魔言。
人間のものである魔術とは、まるで異なるロジック。
廊下一帯を包み込む炎を前にして、指輪のキャスターは転がるように空き教室へと飛び込んだ。
生前の行いに釣られるように、水雷のアーチャーを抱きしめたまま、だ。

「……ふん」

ダッジャールは、そんな英雄のパブリックイメージに似つかわしい行動に、不機嫌に顔を歪めた。
そして、すぐに窓へと視線を映す。
先ほどの、ウィザードラゴンを追い落とした新たな敵を迎え入れるためだ。
最初に飛び込んできたのは、蒼銀の獣だった。

目を見開く。

その獣の名を知っている。
獣が、魔獣となる前の姿も知っている。
動揺。
しかし、容赦なくその顎を撃ち払う。
魔獣の一撃は回避される。
魔獣の名は、ケルベロス。
ただの、ケルベロスではない。
ダッジャールはその種族名ではない、個体名を知っている。
そして、その特殊な魔獣ケルベロスの影から、一人の英雄が現れた。


――――翠緑の鎧を纏い、傷だらけのハンドベルトコンピュータを装備した青年。


「ぉ、ぉぉおおおおお!!!」

ダッジャールは、叫んだ。
己の中の動揺を隠すためだった。
歓喜でも、疑惑でもない、ダッジャール自身も理解できない感情を隠すためだ。
青年、ザ・ヒーローは無言だった。






800 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:13:27 tMAquNfU0




ザ・ヒーローとダッジャールの視線が交錯し。

次いで、刃が交じり合った。








801 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:14:19 tMAquNfU0


DIGITAL DEVIL PROGRAM


うた:妖精クーフーリン
ばっくばんど:妖獣タマモ・夜魔ヴァンパイア



―――光の御子―――大神の化身―――救国の王―――

全てが偽り――――泥に塗れた栄光

DIGITAL・DEVIL・PROGRAM!

何もかもが偽りに満ちたこの世界で、俺達は偽りに固められた!
何もかもが正しく、何もかもが正しくない!
宇宙の底に眠る遺体にかけられた泥!
地獄の空に広がる雲を照らす太陽!
悪魔を讃える準備は良いか!

DIGITAL・DEVIL・PROGRAM!
DIGITAL・DEVIL・PROGRAM!

0と1に浮かぶ泡<<Bubble>>!

0と1に沈む泥<<CLAY>>!

虚偽!
詐称!

犯し!侵される前に!
奪い!奪われる前に!
因果の代償を受け、共に行こう!

――名前のない怪物――


802 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/21(水) 01:15:01 tMAquNfU0
一旦ここまで投下して、今週の土曜日の24:00に後編投下します


803 : 名無しさん :2015/10/21(水) 03:06:20 GgE/yOos0
前編乙です。
感想書いていいか迷いましたがこの調子だと後半も合わせたらすごく長くなりそうなので書いときます。
なにこれすげえ。VSFateじゃん。悪魔召喚プログラムをこう扱うとは……。
笛チックな悪魔と英雄たちの戦いに心揺さぶられつつ、ふうまやランサーが死んだにくすりとしたり、
タマモが獣の槍に貫かれたのにそりゃなとなったり、槍と夕立の共通点に唸らされたり、ロウヒとカオヒの再会に哀愁を抱いたり。
そして最後の一言じゃ表せないカオヒのダッジャールの感情がごちゃまぜになった叫びが心に響いた。
後半も楽しみにしております。


804 : 名無しさん :2015/10/21(水) 18:01:34 8e6fWYm20
最初に無粋ですが誤字報告
>>780
>堕ちることで力を増す存在と、落とす存在は分かたれる。
の下りの、前者と後者がひっくり返ってるみたいです。
>>799
>その瞳を指輪のキャスター直視していまし、思わず身が凍った。
直視してしまい、

『名前』に込められた意味や意義、『言葉』の一つ一つへのこだわりが伝奇的ですごい読み応え。
違う人物を背景につなげた展開が、共通点を持ってリレーされていく流れが読んでてホントに心地いい。
クロスオーバーする認識や、魔術的知見に則った解説フェイズが面白い。
何より因縁深いヒーロー達の会合から伝わってくるモノが、こんな話が見たかったんだって心から揺さぶられる。
最後の最後のうたには不意を打たれて笑わされたw
土曜日が今から待ち遠しいです、乙でした。


805 : 名無しさん :2015/10/21(水) 21:49:30 FmBrlMmU0
ついに来たウィザード&ウィザードラゴンの戦いだとか悪魔としてのクーフーリンだとか東京の魔人たる加藤の台詞回しの妙だとか悪魔くんの有り様への言及だとか獣の槍の前で禁忌の名を口にしちまったタマモだとか艦娘と獣の槍の奇妙な鏡写しとか…そして何よりメガテン組の邂逅が…!
地の文であらゆる要素が民俗的伝奇的に紡ぎ合わされるのもすごい
後半も楽しみにしてます


806 : 名無しさん :2015/10/22(木) 01:05:18 ODvEhtbs0
前半投下乙です。
いつも以上の魔術的クロスオーバーに交じり合いまくった女神転生とFate。
各キャラクターが入り混じった大乱戦に真・女神転生連中の邂逅などまだ前半だけだというのにすごい密度の話でした
艦娘ではない、という夕立の解釈も面白い。
(なるほど、道理でフルネームで記述してあるのだなぁと感心してしまった)
ああ、土曜日が楽しみだ!


807 : 名無しさん :2015/10/22(木) 01:52:09 3d2sKEbk0
>Fate /occult suvivor
モー・ショボーが!!
緊張感と癒しが同居する話でした 
なんといってもモグラ乗りの人柄がとてもいいです
聖杯を用意した本人に「浪漫は、死なない」 と言い切る度胸は凄い

>名前のない怪物
とにかくクロス力がすげぇ…!
タイトル通りの内容やら真1悪魔3体が笛仕様やらウィザードの戦いやら何もかも白熱!ついにカオヒとザ・ヒーローの邂逅だぁぁぁぁぁ!!
その前のロウヒ&カオヒのやり取りも、この二人カテドラルでずっと言い争いをしてたっけと込み上げてくるものがあった。
分かり合えるかもしれないという幻想は捨てようと思っても捨てきれないものだと思う
脳手術を連想してしまう流れでダウナー気味になってしまうロウヒの闇は深い

夕立と獣の槍の共通点も面白かったです。タマモはその名前を出しちゃったのが…
どちらもその在り様は名も無き多くの人間の思いを内包した存在した「兵器」ですね
あと加藤の話が長いと思いつつ黙って聞いてたり、仕込まれた蟲を嫌がったりするお館様に笑ったw

後編待機


808 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/24(土) 23:59:34 kAxkPNuQ0
すいません、少しお待ち下さい。
矛盾を見つけて、手直ししてます。
恐らく1時には投下出来るかと


809 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:00:54 INDC8ho60
後編、投下します


810 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:01:35 INDC8ho60


――――夢を見ていた。


視界に広がる一面は砂漠であり、そこには生命の香りを感じさせなかった。
砂漠にだって生命は存在する。
だのに、その一帯には誰も彼もが近寄ろうとしなかった。
いや、近寄ることが出来なかった。

舞い上がる砂の嵐の中で、聳え立つ城塞の如き塔。

城の内部で、噎せ返るような砂の気配を感じながら、外を眺めていた。
秘匿された裁定者の居城。
そこに触れてはならない。
あらゆる存在がその城を手に入れようとして、あらゆる方法で死に絶えた。
あるものは砂漠に呑み込まれ。
あるものは影豹に食い殺され。
あるものは怪鳥に貫かれ。
あるものは狂人に踏み潰された。
その存在を知っているのに、誰も近寄ることが出来なかった。
塔の主の名は誰もが知っている。
しかし、城の主の姿を知っているものは限られている。

塔の主、『その名は101』。

あるいは、バビル2世。

与えられた主<<ベル>>の名と、定められた孤独を持つ少年。
神にも悪魔にもなれる力を持ったが故に、人間に戻れなかった約束された少年。
孤独を埋めるための慣れ合いは欲しなかった。
それが、世界に不幸をもたらすことを知っていたから。
少年は異端なのだ。
母親の胎から生まれながら、父の遺伝子を受け継ぎながら、少年は両親の子ではなかった。
そのことに覚醒しながらも、記憶が消えたわけではない。
少年は当然のように父を愛し、当然のように母を愛し、当然のように友人を愛した。
故に、孤独を選んだ。
少年の血を流し込まれた人間は、少年に次ぐ超能力を得ることとなる。
少年の下僕は、それだけで一国の軍と戦うことが出来る。
少年の塔は、すなわち世界を支配するための偉大なる管制塔だ。
誰も彼もが少年と、少年の下僕と、少年の塔を求める。
だからこそ、少年は一人で居なくてはならなかった。

少年は人々を愛していた。
だから、孤独を選んだ。

彼は生涯、砂の嵐に隠されたバベルの塔に住んでいた。
ただ、自身の愛した世界の安寧を守り続けるために。






811 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:04:03 INDC8ho60

峯岸一哉は目が覚めると同時に、軽く頭を振って歩き出した。
この夢は自身の記憶から生じるものではない。
サーヴァントとの契約によって生じた、サーヴァントの記憶の混同だ。
気になった。
脚が自然と動いた。
超常者となった少年は、如何にして真っ当なる英雄でい続けることが出来たのか、聞くために。

「目が覚めたかい?」

宝具である塔に中枢に位置するメインルームに足を運ぶと、コーヒーを飲む一人の少年の姿があった。
聖杯戦争にてライダーのクラスにて顕現した、塔の主である自身のサーヴァント。
塔の主。
その言葉が頭をよぎり、周囲を見渡す。
重厚なる内部。
機械仕掛けの怪物に呑み込まれたような空間。
『ハイ・テクノロジー』という単語で思い浮かぶ古めかしい様相。
しかし、この塔こそが人類が未だに辿りつけないオーバー・テクノロジーの塊。
塔であり、城であり、観測機である神秘の宝。
一哉は頭を軽く振った。
そんな一哉に、ライダーは宙空へと視線を向けた。

「バベル」
『なんでしょうか、『ライダー』』
「寝起きのマスターに、現在の戦況を教えてあげてくれ」
『了解しました』

宙空へと語りかけるライダーと、何処からか響き渡る
静かな、確かな機動音も聞こえる。
椅子に座り込んだ一哉は

『それでは、峯岸一哉様。現状の変化をご説明します』
「……あ、ああ」

丁寧な口調の機械音声に一哉は落ち着かない様子で、椅子に腰掛けた。
すると、空中へとホログラフが示される。
インターネット上のニュースサイトのようだ。
『ガス爆発か?』と言った見出しが目についた。

『端的に言いますと、ジョーカーの動きを確認しました』
「!」
『つい先程、本日正午に起こった渋谷区画に存在するビルの爆破事件。
 表向きには原因を調査中とのことですが、情況証拠から察しますにジョーカーの所業と思われます』
「……ロデムは?」
「待機中だよ、君の代わりを立派に果たしている。
 調べさせに行っても良かったが、」

塔のメインコンピューターに代わり、ライダーが応える。

『情報が錯綜していますが、怪人物の目撃情報が目立っています。
 爆発直前にビルから一人の男が出てきた、その前に四階ほどの窓から一人の男が飛び出した。
 また、突然として精神を乱した人物が数人見受けられ、救急車の出動も確認しています』
「……聖杯戦争」
「だろうね」

事もなさげに応えるライダー。
心の乱れ、というものを感じさせない。
もちろん、強い自制の結果なのだろう。
それもまた、超常者としての覚悟の結果の一つと言えるだろう。


812 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:06:15 INDC8ho60

「だが、ロデムは動かせない……と言ったら言い過ぎか。
 この序盤に、わかりやすい動きは取りたくない」
「……何があった? 昼休みの間だけなら問題ないんじゃ?」
「不審人物、事件性の高いものだと通達があったんだろうね。
 四時限が終わった後、多くの小学校では集団での下校に移っている。
 マスターの所属する東京第一高校も、隣接する東京第一中学、東京第一小学校と一緒に集団下校だよ。
 集団で帰れば帰るほど危険は少ないというのは、あまり間違ってないね」
「そんな時に離れれば目立つ、ということか」
「マスターだって友人に気取られたくないだろう?」

友人。
谷川柚子。
ビクリと震えた手が、あからさまな動揺を示している。
目の前のライダーのようになれるほどの覚悟がないということだろうか?

「ロデムではなく僕が行くこともできるが……」
「……いや、良いよ」

どうする、と問いかける瞳に対して言葉を返す。
ライダー自身も言っていた。
まだ、序盤だ。
悠長に構えるのも問題だが、慌てるほどの時期じゃない。
それに、認めよう。
一哉は、まだ覚悟ができていない。
聖杯を手にするということの意味は理解できている。
聖杯の主となること。
それは、神に抗うことか、悪魔を滅することか。
それは、神に侍ることか、悪魔を率いることか。
その決意を出来ていない以上は、覚悟が出来ているとは言えない。

「ライダー」
「なんだい」
「この塔からは何が見える?
 バベルの塔は、神様と会うために建てられたというぐらい高い建物なんだろう?
 ライダーは、いつも何を見ていたんだ?」

一哉の言葉に、ライダーは考えこむ。
長く、長く、長く考えこんだ。
間髪なく答えが帰ってくるものだと思っていただけに、少しだけ意外だった。


813 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:08:18 INDC8ho60

「キャシィという女の子が居たんだ」
「……?」
「可愛らしい女の子でね、いつも大好きな人形を抱いてた。
 本当に、普通の女の子だった。
 多分、似たような女の子なら、街を出歩けばすぐに見つけることが出来るよ」

優しい声だった。
今までの感情を隠した声ではない。
やわらかな言葉だった。
コーヒーを口に運んだ。

「でも、殺されたよ」

一転して、固い言葉になった。

「僕を殺すために、大好きな人形に爆弾を仕込まれてね。
 僕はすぐに気づいたんだけど、キャシィは人形が宝物だから従わなかった。
 最後まで人形を抱きしめて、キャシィは爆弾の爆発で死んだんだ」

伏せていた瞳が、一哉の瞳と交錯した。

「仲良くしすぎたんだね、僕とキャシィは。
 もちろん、キャシィが悪いわけもないし、僕が悪かったわけじゃない。
 殺した奴が悪いに決まってる。
 でも、そういう世の中なんだ。
 人間と人間が結びつけば、そこに意味が生まれる。
 キャシィは普通の女の子だったけど、僕と関わることで、超能力者の友人を持つ女の子になったんだ。
 だから、殺された」

身震いするような、冷たい瞳だった。

「マスター、塔の中から人間は見えないんだ。
 砂塵で外から中が見えないように、中からも見えない。
 僕はそれでいいと思った。
 見えるのは人影と、その人影の動きだけでいいと思った。
 僕はもう普通の人間じゃない、だから、普通の人間と関わろうと思えば、おかしなことになるんだ。
 支配者になるか、人形になるか。
 どちらかしかないんだよ。
 人間を相手にした場合、どうしてもそうなってしまうんだ」

それが回答だった。
塔が高ければ高いほど、人間との距離は離れていく。
ライダーはそれでいいと言った。
それも一つの答えなのだろう。


814 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:09:48 INDC8ho60

「君の境遇を完全に把握しているわけじゃないが」

少し、棘のある声だった。
思い出したくはない記憶だったのだろう。

「君は、人間に生きる価値があると思うかい?
 身近な人の話じゃない、人間の、全体の話だ。
 大事なことだよ……君は、人間ではなくなろうとしているんだから」

その言葉に返す言葉はなかった。
木原篤郎は大事な友人だ。
価値と言われると分からないが、死んでほしくなど無い。
谷川柚子は、大事な大事な、幼馴染だ。
思えば、記憶の中には常に彼女が居たような気がする。
彼女が居ない、という自分の姿が連想しづらいほどに。
死んでほしくなど無いと言える。

『飢えていた彼らの一人に、おばあさんが食料を分け与えようとしたんだ』

だが、人間はどうなのだろうか。

『すると、彼とその仲間はそのおばあさんを殴り殺し、残りの食料も全て奪ったんだ』

人間に我慢が出来なくなった一人の少年の、『高木圭介』の姿と言葉を思い出す。

『人の心は弱い。悪の誘惑に揺れることも、あると思うよ。
 でもね、それを耐えるから人なんだ。
 誘惑に負けて、他人を傷つけてまで、自分が楽な道を進む奴なんて……人間じゃない!』

人に生きる価値があるのかは、分からない。
ただ、大切な友人たちとの日常を取り戻したい。
今はそれだけだった。

『そんなことをする奴は……死ねばいいんだよっ!』


――――でも、それだけじゃダメなのかもしれない。






815 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:10:54 INDC8ho60

一合。
撃ちあった瞬間に、雷に撃たれたようにダッジャールの腕に強烈な痺れが走る。
獲物である太刀を取りこぼしそうになる。
口元を覆った仮面の奥で歯を食いしばる。
返す刀が襲い掛かってくる。

「ッ!」

一撃が重い。
力量差というものを感じる。
不快感が胸のうちに広がる。
相性の差もあるだろうが、これが、正当なる救世主と堕ちたる偽救世主の差だとでも言うのだろうか。
不快だった。
実力差も不快だったが、何よりもザ・ヒーローの視線が不快だった。


――――まるで、悪魔を見るように俺を見やがってッ!


嫉妬にも似た感情から生まれたその言葉を口には出せない。
ただ、その目に写る色を忘れるように、剣を避け、太刀を振るった。
互いの剣閃が空を斬る。
ぶつけ合う剣戟ではない、互いに剣を避け合う剣戟。
故に、終わるときは一瞬だ。
そんな緊張感に支配された空間で、ダッジャールは違和感を覚えた。

言葉には出来ない。
あるいは、能が理解を拒んでいる。
『そうあって欲しい』という英雄への偶像崇拝。
それが揺るがされようとされている。

ダッジャールは、その生涯と宝具故に、『ある気配』には敏感だった。
天から見下してくる視線。
全てを塗り潰す真っ白な翼。
首輪をつけることを当然だと驕り高ぶる超常者。
天からの御使。

おかしなことだった。
ダッジャールは距離を取り直す。
ザ・ヒーローは追いかけることはせず、ただ、剣を正眼に構えてダッジャールを見据える。
見れば見るほど、その気配がする。

『天秤』を司っていたはずの、『中立なる英雄』から。
『秩序の天使』の気配がする。

喉がカラカラと乾いていた。
乾いた喉を、無理矢理に動かして、言葉を繰り出す。
触覚から感じる、天使の気配。
聴覚から感じる、人々の賛美。


「お前……空っぽ、なのか?」


ダッジャールの第三の眼から見えたものは。
天使と。
人間と。
人形と。
糸。
ダッジャールは、理解した。



――――人は英雄に縋り、奴隷へと貶めたのだと。






816 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:12:10 INDC8ho60


「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


死体の眠る大地の奥深く、まさに死者の国から響き渡るような冷たい轟音。
魔獣ケルベロス。
地獄の番犬。
だが、この番犬は死者の世界である冥界へと踏み入れるものを拒みはしない。
この番犬は、生者の世界へと還ろうとする死者を食い殺すのだ。
死者は冥界に、生者は大地に。
冥界の神ハーデースが示した法を忠実に守るための怪物なのだ。
故に。

『死者のみが刻まれる英霊の座』から『生者の世界へと抜け出した存在』である『サーヴァント』に対して。

魔獣ケルベロスは凄まじきまでの暴威を振るう。

「こンのッ!!」

水雷のアーチャーの砲口が火を噴き、生者を殺すには十分すぎる暴力が飛び出す。
しかし、死者すらも殺してみせる魔獣の前では意味を持たない。
確かに痛みを感じ、傷をおっているが、ケルベロスの突進は止まらない。

―― Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! ――

水雷のアーチャーの砲撃に間髪を入れず、指輪のキャスターは自身の宝具を起動させる。

―― BIND ――

ケルトの大英雄であるクー・フーリンとの戦いにて使用した呪縛魔術。
宙空に描かれた儀式陣から飛び出す鎖が、ケルベロスの五体を結びつける。

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

だが、それでも足りない。
一瞬だけだが動きが停止するも、すぐに咆哮を上げて鎖を突き破る。

「ミートボールいっとくぅ?」

甘ったるい声で、水雷のアーチャーは大口を上げたケルベロスへと向けて砲撃を行う。
蒼銀の毛皮は、それ自体が鎧だった。
策もなく砲弾を撃ちこむだけでは、肉にすら届かない。
ならば、肉そのものへと打ち込む。
すなわち、口中及び喉及び胃。
発射された砲弾がケルベロスの口内へと飛び込み。

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

その砲弾は、ケルベロスの喉から吐き出された超高温の炎弾によって溶かされた。
ファイアブレス。
焔の波が水雷のアーチャーへと襲いかかる。
水雷のアーチャーは高い敏捷性を活かし、回避行動へと移る。

「あわわ……」

右腕がやられる。
だというのに、水雷のアーチャーはおどけた様子で横転するのみだ。
むしろ、その顔には笑みが深まっている。


817 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:13:50 INDC8ho60



―― Ca-Mo-Na! SHOOTING-SHAKE HANDS!――


そんな水雷のアーチャーの背後から、銃を構える指輪のキャスター。
炎が舞い踊る。
銃の標的は、当然魔獣。
水雷のアーチャーが、自然と囮を引き受けてくれた。
この一撃。
直撃すれば、魔獣とでただではすまないだろう。

―― FLAME! SHOOTING STRIKE!――

――『火』・『火』・『火』――

――『火』・『火』・『火』――


直撃。
だが、ケルベロスは一瞬として身動ぎしない。
むしろ、その獰猛な笑みを深めた。

「あらら……炎は大好物ってわけ?」

概念的な面で、この魔獣には炎が逆効果であることを悟る。
だとしたら、今の指輪のキャスターに勝ちの目は『ない』と断言できる。
となれば、取るべき行動は一つだ。

「おたくはまだやる気みたいだけどさ」

水雷のアーチャーの背中へと言葉をかけ。
一つの指輪を取り出す。
煙のような模様が刻まれた指輪だった。

「ちょっと、逃げさせてもらうよ」

そう言うと、宝具を起動させる。
新たな気配に、ケルベロスと水雷のアーチャーが身構える。

―― Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! Ru-Pa-Chi MAGIC TOUCH GO! ――

仮面の奥で、指輪のキャスターがわらった。


―― SMELL ――


「■■■■■■■■■■!!!??」
「くっさぁ!?」

番犬の名に相応しく、ケルベロスの嗅覚は秀でている。
そして、スメルウィザードリングによって発動した汚臭魔術が生んだ汚臭は単なる汚臭ではない。。
魔術的な概念を持った、決して消えることのない悪臭だ。
悪臭を取ろうと、ケルベロスは咆哮を続ける。
目からは涙のような体液がこぼれている。

そうして、数分が経った頃だろうが。
場に残されていた残り香も消え去り、ケルベロスがやっと落ち着いた頃には。

「…………ゥゥ」

指輪のキャスターと。
それに乗じた水雷のアーチャーの姿は消え去っていた。





818 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:17:45 INDC8ho60

「なんで……そんなことになった?
 そんなザマが結末だというのなら……お前は、なんのために、戦ったと言うんだ」

幼い声だった。
マスターであるリエンスが聞けば、耳を疑っただろう。
嘲笑うような、偉業を成したという英霊らしい余裕を持った言葉。
その色が全く無かった。

「友と、明日のために……とでも言うつもりか?」
「……」
「馬鹿なやつだな、お前は……お前と俺達が友達だとでも言いたいのか?
 お前を見限って、勝手にくたばっていただけの俺達が、お前の友人だと言うのか?」

怒り。
ザ・ヒーローに対する怒り。
人々に対する怒り。
天使に対する怒り。
そして、夢を見ていた自身に対する怒り。

「何も捨てられずに……結局、何もかも失くしちまいやがって」

飢えた魂が怒りに焦がされる。
泥を貪るような人生で見つけた、唯一泥ではないと感じた瞬間。
その末路を直視して、ただ怒りだけが魂の奥底から湧き上がってくる。

「宝具を解放させてもらうぞ、リエンス」

ここには居ないマスターへと語りかける。
念話を用いたわけではない。
ここからは、独断だ。
己の怒りに沿って、己の欲望に従って、久方ぶりに混沌の泥と化した己の感情を開放する。

「……お前には悪いが、運命だと諦めるんだな。
 所詮、俺なんていう『偽物』を召喚できてしまうお前は――――」

だが、どこか親しみのある色を瞳に宿らせて。
リエンスではなく、怒りに顔を染めながら、しかし、自身を嘲笑うように。


「―――器じゃないんだよ」


フッ、と。
マスクに隠した口元を小さく歪めて、ダッジャールは獰猛に笑った。
リエンスのことを、ダッジャールは嫌いではなかった。
嫌いではなかったが、だからといって、思い入れがあるわけでもなかった。
少なくとも、ダッジャールにとってのリエンスとは、力を求めるかつての自身の陽炎にすぎない。

「渾沌の英雄の真名を持って、今、この世の秩序を破壊してやろうじゃないか」

カオスヒーローにとってのリエンスとは。
無惨に堕ち果てた仇敵/旧友を前にして湧き上がる衝動を無視させるほどの存在ではなかっただけの話だ。


819 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:19:23 INDC8ho60


「聞け、俺の宝具の意は――――」


         『偽りの救世主の末路』
<<デビルリング/そして 夢は 終わる/バイバイエンジェル>>



「――――夢をもう一度、だ」


周囲に炎が走り、世界を侵食する。
あるはずのない天井が現れ、太陽の光を遮断する。
周囲は不自然なまでに、塗り固めた絵の具のような、安っぽい薄暗さが支配する。
ダッジャールが世界を塗り替え。
その腕にいびつな腕輪が嵌められ。
その眼には秩序への反抗という絶対性が燃え上がった。
宝具の同時解放。

「……固有、結界」

ザ・ヒーローが、初めて言葉を発した。
ダッジャールはその言葉に笑いながら、世界を肯定する。
己の末路を、己の在りようを。
その象徴である魔術宝具を。

「そうだ……『悪魔』へと変わり果てた俺が、当然として持ち得る―――力の象徴だ」

元来、『固有結界』とは悪魔や精霊が持ち得ていた、世界を塗り替える異界常識だ。
ならば、魔術師でなくとも、悪魔と融合したダッジャール――――『カオスヒーロー』は当然として固有結界を所有する。
悪魔が、文字通り這い寄るように、わらわらと現れる。
ムーンセルと聖杯によって再現された『カオスヒーロー』の魂に刻まれた『約束の地<<カテドラル>>』。
ここは、『必敗者<<ダッジャール>>』によって再現された地。
悪魔も、『必敗者<<ダッジャール>>』と魂を共にした、歴史と人によって敗北を定められた偽りの神霊。

一柱一柱が並のサーヴァントを容易く凌駕する、正しく規格外の存在。

死と詩を司った主神すらも殺し得た妖獣フェンリルが牙を輝かせ、咆哮する。
大地を守護する龍王ペンドラゴンが悠然として、巨体を震わせる。
イナゴを思わせる薄暗い緑色のヘドロそのものである堕天使アバドンが、全てを飲み込むように口を開く。
赤黒い毛皮をした野獣ともざんばら頭の老婆とも映る鬼女ランダが、魂を呪うべく小さな呪言を繰り返し呟いている。
白髭を蓄えた赤豹の姿をし、すべてを見通しつつも人間を堕落さすべく偽りに塗れた言葉を堕天使フラウロスは口にする。

いや、その四柱の悪魔だけではない。

夜魔サキュバス。
堕天使サマエル。
龍王ヤマタノオロチ。
鬼女ハリティー。
夜魔ヴァンパイア。
堕天使フルーレティ。
鬼女カーリー。
邪龍サーペント。
幽鬼リッチ。
邪龍ファフニール。

数多の悪魔が跋扈し、その遍く全てを平等に崇めるガイア教徒の暗殺者が暗闇に隠れるように蠢く。


820 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:20:54 INDC8ho60


万夫不当の英霊達よ、心せよ。

――――この場を生き抜く術など、この世に存在はしない。

例え、神であろうとも。
例え、悪魔であろうとも。
祝福を与えようとすべく天使の軍団へと向かった祖神と、聖地を奪わんとすべく祖神の集団を相手に取った天使。
約束の地に集った幾万の悪魔を相手にして、例え、神霊であろうとも生き残れる道理など存在しない。
もしも、そんな道理が与えられた存在が居るとすれば、ただ一人だけ。


――――無数の肉と魂が重ねられた、神魔の残骸で成り立つ丘を登り続ける救世主だけだ。


「千年王国樹立、あるいは聖地奪還。
 お前の求めたものはどちらだ。
 あるいは、どちらでもないのか?
 ……ああ、どちらでもないんだったな」


群れをなす悪魔は、まるで壁を作るように二人の周囲へと並び立つ。
二人の救世主が、他の英霊から阻害され、円形の決闘場が出来上がる。
これで、誰も二人の間に入ることは出来ない。
ザ・ヒーローが悪魔を召喚しようとも、カオスヒーローの固有結界に存在する悪魔が迎え撃つ。
第三者が横槍を入れようとも、円形に陣形を組んだ悪魔達は邪魔を許さない。
混沌の英雄と天秤を司る英雄と戦うための世界。
それが、ダッジャールの宝具。

ダッジャールはあらゆる感情が渦巻いた混沌という泥のような瞳でザ・ヒーローを睨みつける。
ザ・ヒーローもまた、無感動な瞳でダッジャールへと向き合った。

「……」
「……」

そこからは、お互いに言葉などなかった。
ザ・ヒーローの召喚する悪魔も、カオスヒーローに導かれた悪魔も、二人の間に立つことはない。
ザ・ヒーローとダッジャール、互いが虚ろな瞳で睨み合いを続ける。
渇いた瞳と渇いた瞳がぶつかり合う。
ダッジャールは刀に上段に構え、ザ・ヒーローは地を舐めるほどの低さで下段に構える。


821 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:23:34 INDC8ho60


「……」/「来い、救世主様よ……!」

ザ・ヒーローとダッジャールの姿が消え、空間が弾ける。
瞬間遅れて互いの中心部、僅かにダッジャールへと寄った位置にて、爆発が起きる。


「……!」/「もう一度……………ッ!」


ダッジャールの太刀と、ザ・ヒーローの無銘の剣がぶつかり合った衝撃。
当然のように、ダッジャールの太刀は砕かれる。


「――――!」/「俺を殺してみせろぉぉ!!!」


両手に走った衝撃を口から吐き出すように、ダッジャールは叫ぶ。

もはや用をなさない太刀を直ぐ様に放棄し、右拳を固める。
振り向きながら、その拳を振り落とす。
チョッピング・ライトとも呼ばれる、単純だが必殺の威力を持つ殴打の技術。
高い位置から振り落とされたザ・ヒーローの頭蓋を粉砕するための拳。
その拳は、しかし、ザ・ヒーローの被弾を恐れぬ、懐へと踏み込む一歩によって空振りに終わる。

懐へと潜り込まれた。
ザ・ヒーローは躊躇うことなく無銘の剣をダッジャールの腹部へと突き刺す。
そのまま、ザ・ヒーローは自らが誇る強大な腕力を利用して銅を切り払った。
ダッジャールの身体から、力が失われ、杖のように短くなった太刀を地面に突きつけ、そのまま、膝をついた。


――――必敗者は、当然のように救世主に打ち払われた。


渇いた瞳で自分を見下ろすザ・ヒーローと、やはり渇いた瞳で見上げるダッジャール。
これが終わりだった。
夢の果て、全てに置き去りにされた虚ろな英雄の姿。
幻想ではなく現実に夢を求めた、使い潰しの救世主の姿。
ダッジャールは、偽りにして真の東京で自身の罪をつきつけられた。


822 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:25:46 INDC8ho60

「……涙も忘れちまったんだな、俺達は」

ダッジャール――――カオスヒーローの名を持つ英霊。
偽りの救世主は、この偽りの東京に足を踏み入れて、初めて、怨嗟の声を上げた。

しかし、ザ・ヒーローは、その声を聴いていなかった。
もはや、ザ・ヒーローの耳に、カオスヒーローの声は聞こえていなかった。
右からも、左からも、ザ・ヒーローには声が聞こえない。

カオスヒーローは立ち去り。
ロウヒーローは立ち去り。
ザ・ヒーローは、ただ、前に進んだ。

その意味を、カオスヒーローは知ってしまった。
ザ・ヒーローは、一人で進んでしまった。
所詮は、破壊されただけの世界を、進んでしまったのだ。
掛ける言葉は、「こちらに来い」ではなかったのだ。

――――「その先には、なにもないぞ」

そう、投げかけるべきだったのだ。


「…………そうか」


カオスヒーローは小さく呟き、動かぬはずの身体を動かした。


「そういう、結末だったのか」


虚ろな足取りで消え去っていくカオスヒーローへと、ザ・ヒーローは背中を追おうと動く。
小さな背中に、無慈悲な一撃を叩き込むために。
もはや、感傷も抱かなくなったように。
その姿に、ザ・ヒーローという名を抱く前の少年の姿を察することは出来ない。
たとえ、カオスヒーローだとしても。
たとえ、ロウヒーローだとしても。
誰であろうとも。
それは、『彼女』であろうとも例外ではない。


823 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:27:10 INDC8ho60


「――――可哀想な人」


その声は、水雷のアーチャーの言葉ではなかった。
ましてや、指輪のキャスターの言葉ではなかった。
気配なく響いた声に、ザ・ヒーローは剣を構える。

「本当に、変わってしまったのね」

カオスヒーローの背中を守るように一人の女が立ち塞がった。
裸体に蛇を纏わせ、瞳に妖しげな色を携えた艶やかな女。
ザ・ヒーローは剣を握る手に力を込める。

力の入った剣を握る手を見て、女は目を伏せた。
蛇の舌を連想させる赤い赤い唇が妖しく蠢き、言葉が絞り出される。

「忘れたんじゃなくて、気づいてなかっただけかもしれないけど」

その剣に目を向けずに、ザ・ヒーローの瞳に視線を合わせて女は語り始めた。

「彼はね、貴方のことを愛していたのよ。
 もっとも、彼自身は否定するでしょうけどね」

カオスヒーローの名を呼ぶ声には愛情はあったが、恋慕はなかった。
つまり、女とカオスヒーローの関係はそう言った類のものだった。

「こっちも気づいてなかったんでしょうけど。
 あんなことを言ってしまって、あんなことがあっても。
 私も、本当に貴方を愛していたのよ」

女、『リリス』は哀しげに視線を逸らした。

「それと……あの女は最期の最期まで貴方を愛していたわ」

記憶の中の姿から変わり果てたザ・ヒーローを見ること、それ自体が罰そのものだと言わんばかりに。


「――――せめて、それぐらいは分かっていて欲しかったけど、ね」


瞬間、世界が砕けた。
空を覆っていた屋根は消滅し、無数の神霊は虚空に消え。
窓から覗く紅い月が、救世主を嘲笑っていた。

ザ・ヒーローは脚を止めていた。
グルル、という喉を鳴らす声へと視線を向ける。
水雷のアーチャーと指輪のキャスターのコンビネーションを前に、敗北という形で戻ってきた魔獣。
その頭を、ザ・ヒーローは優しく撫でた。
キャスターとアーチャーには逃げられた。
だが、それでも良い。
『大して大きな疵も負わず』、サーヴァントを一騎堕としたのだから。

――――そうだ、この戦闘で、ただ一つだけ確かなことが一つだけある。

女の声も、男の刃も。
ザ・ヒーローには届かなかったという事実だ。






824 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:30:13 INDC8ho60


「ただいまぁ〜……」
「あ、アーチャー!?」

傷だらけで、しかし、朗らかに笑いながら帰ってきた水雷のアーチャーに羽藤桂は叫び声をあげる。
黒く焦げた、今にも取れてしまいそうな右腕。
いびつに膨らんだ右頬。
額から流れ出る血。
悍ましい戦闘の残響が、自身のサーヴァントの身体に刻み込まれた。

「ごめんね、マスター。負けちゃった……」
「大丈夫?!」

桂は近寄る。
同時に、自分の選択の意味をようやく理解した。
どこか、夢を見ていたようだった。
だけど、この世界はこういった世界なのだ。
自身の代わりに、誰かが血を流す世界なんだ。
誰かが死ぬのは嫌だ、なんて言ってたくせに。
私と戦って、なんて言ったくせに。
その結果、傷を負うのは自身ではない。
普段と変わらずに笑う水雷のアーチャーを前に、その意味をやっと理解した。

「……いっぱい、飲んでいいよ」
「いいの!?」

桂が襟元を開けると、水雷のアーチャーはその妖しい瞳を輝かせた。
そして、傷を負った身体を素早く動かして、桂と密着する。
少女の体と体と触れ合い、息と息が交じり合う。
水雷のアーチャーが口を開け、その歯を煌めかせる。
首元に歯を突き立てる直前――――アーチャーは、思い出したように言葉を発した。

「あ……嬉しいけど、でも、ちょっとにしとくね」
「別に、もっと飲んでもいいよ」
「マスターの言葉に甘えちゃいそうだけど、その、『あんなこと』の後だと……」

水雷のアーチャーの頭によぎるのは、サーヴァントとの戦闘。
ただ貫かれ、殴られ、斬られ、叩き伏せられた、戦闘とも呼べぬ戦闘。
しかし、それも戦闘だ。
負け戦も戦。
命の奪い合いには代わりはない。
あの狂ってしまった悪夢の一部だ。
故に、昂ぶっている。
その昂ぶりのままに、あの魔を刺激するご馳走を欲望のままに貪ってしまえば。


――――マスターを食べちゃいそうだから。


毒もなく、水雷のアーチャーは朱い目をして笑った。







825 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:32:40 INDC8ho60

ダッジャールは校舎に持たれこむように倒れこみ、震える手で仮面を取り外した。
すぐに吐血し、泥に汚れた手で拭う。
懐かしい味が口中に広がった。
伏せていた顔を挙げる。

「君は、負けたんですね」

そこには、紅い満月と、懐かしい顔があった。

「……ったく、まだ帰ってなかったのか」
「戻ってきたんですよ、あんなものを見せられたら、帰ってもきますよ」

ダッジャール――――カオスヒーローは、懐かしい人物の懐かしい瞳を見ながら、忌々しげに呟いた。

「なんで、最期がお前なんだ」
「教えて下さい」

カオスヒーローの声を無視するように、ロウヒーローは問いかけた。
その瞳は真っ直ぐで、歪んでいなかった。
檻にも、閉じ込められていなかった。
カオスヒーローはその意味が理解できた。
ロウヒーローの側に立つ『天使』は、あの類の『天使』ではないということを。

「英霊は、歴史と逸話を知っていると聞いています。
 ならば、カテドラルの行き着く先も知っているはずです。
 天使の千年王国は、悪魔の聖地奪還はどうなったんですか?」
「歴史書だ」
「はい?」
「所詮は知識、真実の全てじゃない。
 お前、ロミオとジュリエットの話に泣けるか?
 あんな出来損ないの、頭の悪いガキの逃避行に?
 言葉も足りずに死んじまうようなバカどもに共感しろと?
 ……ああ、いや、お前なら泣いちまうか」

ククク、と力なく喉を鳴らす。
不可解に思いながら、ロウヒーローはカオスヒーローの瞳を見返した。
やがて、耐え切れないという様子で、カオスヒーローは視線を逸らしてきた。
らしくない様子に、ロウヒーローの疑問を深まった。

「文字の連なりでしかないんだよ。
 昔、そんなことがあったと言われても、そんなこと知るか。
 俺は見てもないし、聞いてもない。
 そこに俺の名前が乗っていようが、他人の目からじゃ、実感がわかないんだよ。
 お前が過去を語る言葉は、俺の目から見た過去じゃないんだ」

カオスヒーローの言葉は、要領を得ない。
何を見、何を知り、何を語ろうとしているのか。

「そう思ってたから、俺は分かっていなかったんだ」
「……どういう、ことですか?」
「そこに眠るのは人間の想いであり、それを記したのが人間であることの意味を、俺は分かってなかっただけだ」

声が震えていた。
それは死を迎えようとする身体を動かそうとしているからか。
それとも、自身の行いを悔いるためか。


826 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:33:21 INDC8ho60

「そうだ、結局、俺は何も分かっていなかっただけだった」
「……?」
「何時だってそうだった。
 俺達は何も分かってないくせに、何も持っていないくせに。
 何もかもを分かりたくて、何もかもが欲しくて――――大事なものを無くしちまう。
 夢は夢だってことを、あんなに思い知らされたはずなのに。
 人間なんて奴らが平気で天使を頼ってしまうことも、その意味も、汚さも、全部知ってたはずなのに。
 夢にもその先があるってことを知ってたはずなのに、忘れちまってた」

ロウヒーローの言葉は、消えかかっているカオスヒーローへと届かない。

「何を、言って……?
 君は、一体何を見て――――」

カオスヒーローが見たものは、ただの人形だ。
ただ、瞳に人形の姿が映っていた。
その体には糸が巻きつけられ、
その糸を操る人間の集団にもまた糸が巻きつけられ、
その糸を操る天使の姿が映っていた。
涙が、こぼれた。

『お前の求めたものはどちらだ。
 あるいは、どちらでもないのか?』

あの時、カオスヒーローは聞きたかったのだ。
全てを知っているからこそ。
夢の終わりを迎えたからこそ。
全てが終わった今なら、その言葉を笑って受け入れるような気がした。

――――人間のために。

ただ、それだけで笑えるような気がしたのに。
現実には、伽藍堂の瞳をした人形が居ただけだった。

「リエンス……なぜ、俺を起こした」

血が流れ出る。
割れた額は血を流し、閉じることを拒絶するような乾いた瞳を濡らす。
世界が朱く染まり、嘲るように紅い月が赤い世界を照らす。

――――そうだ、何故、忘れてしまっていたのだろうか。

世界は何時だって、少年に優しくなどなかったことに。
世界は何時だって、少年を嘲笑い続けていたことに。
世界は何時だって、少年の想いを否定し続けていたことに。

「……せっかく」

この世界を進んだ先にあるものなど、所詮は破壊の跡だけが残された虚無だけだということを。


「――――いい夢を見ていたというのに」


【ダッジャール(カオスヒーロー/真名喪失)@真・女神転生 消滅】







827 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:35:27 INDC8ho60


――――マスターを食べちゃいそうだから。


その言葉にゾクリと体を震わせ、自制する。
桂ではない。
水雷のアーチャーが、だ。
己の欲望を、自制しなければいけない。

「いいよ」

だというのに、マスターである桂は、その自制を容易く壊そうとしてきた。

「だから」
「殺されても、いいよ。アーチャーは、私の大事なものを守ってくれるんでしょう?」

桂を殺してしまう。
そう言ったも同然なのに、桂は怯えを見せなかった。
桂を撫でるような動作だけで殺せるのは水雷のアーチャーなのに。
今の水雷のアーチャーは、桂の視線から目を逸らせなかった。
逸らしてしまえば、殺されてしまうのではないか。
そんな、深い、深い色があった。
まるで、自身が沈んだ海色のような瞳だった。

「だったら、いいよ」
「……マスターって、女殺しだね」

ジゴロだ、スケコマシだ。
そう言ってアーチャーは笑った。
もう、容赦しない。
誘ったのは桂だ。
桂はアーチャーの牙を受け入れようとした瞬間。


「あ……ちょーっと、邪魔しちゃったかな」


空気の読めない男が現れた。
お気楽そうな、緩い表情の男。

「いや、その、そういう特殊な性癖は理解があるつもりだよ。
 そういう人、身近に居たし。
 だから、止めるつもりはないんだけど、話があるんだ」

だが、水雷のアーチャーはすぐに解った。
サーヴァント、しかも、先程まで一緒に居た指輪のキャスターだ。
砲口を向ける。

「ストーップ」

しかし、指輪のキャスターは両手を上げて『降参』のポーズを取る。
水雷のアーチャーと、桂は眉をひそめる。
何が目的だろうか。


828 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:38:09 INDC8ho60

「手を組もうじゃないか」
「……手を、組む?」
「一緒に戦おうってことさ。
 あんな幾らなんでも強すぎるサーヴァントが居るんだ。
 そういう思考が出てきても、不思議じゃないだろう?」

水雷のアーチャーへと同意の視線を求める指輪のキャスター。
だが、水雷のアーチャーは戸惑った。
方針に従うことは慣れている。
だが、方針を決めることは不慣れだ。
なぜなら、水雷のアーチャーはあくまで兵器なのだから。
水雷のアーチャーは、縋るように桂へと視線を向けた。

「お姉さん、ここの生徒だろ?」
「……」
「手を結んでくれるなら、明日、マスターが会いに行く。
 もちろん、俺もついて。
 そこで話そう……強い相手は多い。
 それに、マスターも緊張で倒れそうなんだ」

お姉さんみたいな綺麗な人と一緒なら、それも休まるさ。
人懐っこい笑みを浮かべながら口にする指輪のキャスターの言葉に邪気はなかった。

「……わかりました」
「いいの、マスター」

水雷のアーチャーは止めはしなかったが、不安そうな視線を向けた。
元より船であり物である水雷のアーチャーに状況判断というものか誰かが決めてくれるものだった。
だから、何が正しいのかはわからない。

「止まってても進まなさそうだしね」
「決まりだ」

指輪のキャスターは、パチン、と指を鳴らした。
そして、語りかける。

「キャスターの陣営と……えーっと」
「アーチャーです」
「キャスターの陣営とアーチャーの陣営は共同戦線だ。
 非力なりに頑張ろうってね」

手を差し出す。
シェイクハンズ、握手だ。
桂は少し迷い、迷い、その間に水雷のアーチャーがその手を握った。






829 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:41:12 INDC8ho60


「……ここまでか」
「はい、ありがとうございました」
「気にするな」

中学生が小学生を見送り、小学生は教会へと入っていく。
小学生、すなわち悪魔くんは何をするでもなく振り返った。
そこでは中学生、すなわち桐山和雄がポケットから取り出したコインを指で弾いていた。
おまじないだろうか。
気にはなったが、問いかけることはしなかった。

『マスター』
「……どうしました、ライダー」
『『竜』が動いた』

ピタリと。
方舟のライダーの言葉に、悪魔くんの脚が止まった。
『竜』。
すなわち、方舟のライダーの力の源。
今は眠り続ける、悪魔くんと方舟のライダーが聖杯戦争を勝ち抜くに当って最も重要な要因。
それが、動き出したという。

『完全に目が覚めたわけではない。
 翼が動いたわけでもない。
 瞳を開けたわけでもない。
 咆哮を上げたわけでもない。
 だが、動いている。
 今までピクリとも、まるで死んだようだった竜が、動いている』

方舟のライダーの声は喜色ばんでいた。
悪魔くんは口にしなければ思ってもいなかったが、役立たずなのではないかという想いがあったのだろう。
竜が動き出せば、間違いなく全サーヴァントの上位には食い込める。

「なぜ……?
 学校であったサーヴァントの戦闘?」

一方で、悪魔くんは冷静―――というよりも、苛立っている様子だった。
悪魔くんは学校の上空に現れた竜を思い出す。
あの竜の影響?
それとも、別の要因?
はっきりとは分からない。
竜が動いたことは喜ばしいことだが、何故動いたのかを理解しなければいけない。
それも、自身から働きかけたことではなく、自身の把握していない要因によって覚醒の兆しが見えた。
竜の覚醒は喜ばしいが、コントロール出来ない要因の発露は喜ばしいことではないのだ。

悪魔くんは知らない。
この東京の地で、今、『倒されるべき偽の救世主』の一人が倒れたことを。
人類史に永く記された、『約束された刻』の物語が再現されたことを。





830 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:41:54 INDC8ho60





さて、あと一仕事が残ってるってところかな。









831 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:42:57 INDC8ho60

ザ・ヒーローは眉をひそめた。
十分な距離を取って現れた、一騎のサーヴァント。
新手ではない。
先ほど、ケルベロスから逃げ出したはずの指輪のキャスターだった。
疑問を持ちながらも、駆け出す。
殺す。
殺意だけを持ち、剣を振るう。

「七原秋也」
「……」

ピタリ、と。
ザ・ヒーローの剣が止まった。
訝しむように、指輪のキャスターの顔を見つめる。
七原秋也。
ザ・ヒーローのマスターである桐山和雄のターゲット。
十中八九、聖杯戦争に参加したマスターである少年。
指輪のキャスターは笑みを作り、さらに唇を動かした。

「桐山和雄」
「……」
「とと、ストップストップ!」

その名が呟かれた瞬間、剣が翻った。
それを必死に避け、会話を続ける。

「手を組もう」
「……」
「お互い、悪い手段じゃないだろう?
 そちらさんの宝具にも限界があるみたいだし、俺も魔術師<<キャスター>>ってだけあって打てる手数だけは多い。
 確かに顔が知られちまったら殺すのが最善だろうが、別の手段だってあるだろう」

そう言って、指輪のキャスターは懐からある宝石を取り出した。
魔法石、それ自体に魔力が強く宿った宝石だ。
この膨大な魔力を加工し、特殊な方向性を持たせることで指輪のキャスターの宝石魔術は起動する。
エイジャの赤石と呼ばれる宝石もまた、『太陽』と『覚醒』という概念と深い結びつきを持つ魔法石だったと言われている。

「悪魔<<ファントム>>だろう?」
「……」
「聞いたことある、ある場所に特殊な悪魔<<ファントム>>は宝石を欲しがるってね。
 その魔力を自身の力に変えられるってね。
 俺達、魔法使いみたいに加工しなくても良いっていうのはちょっと妬いちゃうね」

指輪のキャスターを聴きながら、これは命乞いだとわかった。
『手数』に自信があると言ったが、その『手数』においてザ・ヒーローを上回るサーヴァントは限られている。
何故ならば、ザ・ヒーローが出来ぬことも出来る悪魔をザ・ヒーローは召喚できるのだ。
今だって、桐山和雄の周囲には護衛の悪魔が憑いている。
一方で七原秋也はどうだ?
指輪のキャスターが離れている以上、暗殺の危機が迫っているということだ。
念話を扱い、桐山和雄へと問いかける。

「……」

いつでも殺せる。
このサーヴァントも、ケルベロスから逃げ出すのが精一杯だった。
少なくとも、今は脅威ではない。

「マスターから、返答があった」
「へえ」

指輪のキャスターは余裕を見せつけているが、その実では緊張の糸が張り詰めているのは隠しきれてなかった。
だが、ザ・ヒーローには強者の優越感などなかった。
ただ、システムアナウンスのように、淡々と声を発する。

「手を結ぼう、とね」

コインは表でも出たかな。
ザ・ヒーローは空虚な瞳を指輪のキャスターへと向けたまま、そう考えた。






832 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:43:49 INDC8ho60



谷川柚子は、ベッドへと倒れこんだ。
傷を追ったわけでもない。
疲労が溜まったわけでもない。
ただ、眠りについて、この世界が夢だと想いたかった。
私が蝶になっている夢を見ているのか、それとも蝶が私になっている夢を見ているのか。
できれば、今の私が夢であって欲しかった。
本来の意図ではなく、表面上の見方で考えながら、そう思った。

「……」

何をするでもなく、スマートフォンを開いた。
SNSの一つを開くと、友人である木原篤郎が嬉しそうなコメントとともに写真をアップしていた。
竜。
苛立つ心を自覚した。
乱暴に放り投げ、枕で顔を覆う。
何もかもが嫌になっていた。

「……会いたいよ」

漏れた言葉は、恋の情に塗れていた。
いつも一緒に居た。
いつも一緒にいてくれた。
なのに、今は一緒に居ない。

「会いたいよ……一哉……」

枕が濡れていた。
ただ、寂しかった。
心が、折れそうだった。






833 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:45:20 INDC8ho60

「キャスター、どうだった?」
「やってきたよ、二正面作戦だ」
「……ん、それ、使い方、正しいのか?」
「なんか違うっぽいね」

ハハハ、指輪のキャスターは笑った。
七原は肩を落とし、大きく息を吐いた。
今日を生き延びた。
指輪のキャスターから『悪魔』の存在を聞かされた時は、心臓が止まるかと思った。
桐山和雄は自身に気づいている。
あの『幸せプログラム』での行動で、七原秋也の中の桐山和雄という人物像は大きく膨れ上がっている。
しかも、恐ろしいことに、恐らくその巨大なイメージ像は大きく間違ってはいない。
桐山和雄は、あらゆる面で七原秋也を上回っている。
その『桐山和雄』が、『聖杯に選ばれないわけ』がない。
おかしな話だが、どこか確信があった。

「これで、『アーチャー』と『桐山和雄』の陣営と手を組めたわけだ」
「バレたら、殺されちまうな」

シリアスに顔を伏せる七原に対して、指輪のキャスターは朗らかだった。
緊張感に欠ける。
戒めるような視線を向けると、指輪のキャスターはまた笑った。

「忘れるなよ、マスター」
「何をだよ、キャスター」
「お前は、絶望に踏み入れようとしてる。
 希望は、その先にあると知ってるからだ」

キャスターの声は、責めるものでも戒めるものでもなかった。
包み込むような、父親のような声だった。
ふと、良心が傷んだ。
七原は今、人を殺そうとしている。
人を騙している。

「お前が希望にたどり着かずに絶望に沈んでしまいそうになっても、俺がいる」
「……」
「キャスターは、裏切りのサーヴァントだ。
 だから、俺はアーチャーも桐山和雄も裏切ってる」

裏切り。
その言葉に、七原の身体が震える。
もしも、指輪のキャスターが裏切ったら。
聖杯を手に入れるために、七原よりも優秀なマスターについたら。
しかし、その不安を見透かすように、指輪のキャスターは真っ直ぐに七原をみつめる。

「だけどな、お前の希望だけは、俺は裏切らない。
 何度でも言う、忘れないでくれよ」


指輪のキャスター――――希望の魔法使い、操真晴人は、トン、と七原の胸を叩いた。


「俺がお前の最後の希望だ」





834 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:46:16 INDC8ho60

「まさか……あり得ない」

それは、リエンス王はすぐに理解した。
ダッジャールが踏み込んだはずの学校の一部が変化し、自身に激しい虚脱感が襲いかかった。
それが一分か、あるいは数分ほど続いた後、虚脱感は薄らいだ。
代わりに、巨大な喪失感が訪れた。
その喪失感の正体は、結合されていたサーヴァントの喪失。

「あの馬鹿が……負けやがった!
 なんて、使えない!」

罵倒の言葉が繰り出され、怒りで頭が沸騰しそうになる。
しかし、その感情もすぐに鎮まった。
サーヴァントの敗北。
すなわち、マスターの死。
それがいつかは分からない。
前兆が始まるのは一秒後か、一分後か、一時間後か、明日か、一週間後か。
分からない。
ただ、遠くな未来に死ぬ。
それだけははっきりと分かっていた。

「なぜ俺が……王となるべき、この俺が!」

死の前に、無様を世界へと見せつけるようだった。
だが、そんな自分を客観視出来る余裕など、今のリエンスにはない。

「誰か俺を救ってみせろ!」

民を救うべき王が、虚空へと向かって救済を求める。
その瞬間だった。
背後から、コツリ、と。
靴が地面を叩く音が響いた。
そして、その音に遅れて、人の声が聞こえた。
その声は若い男のようにも聞こえたし、年老いたよう男の声のようにも聞こえた。
その声は理性に溢れているようにも聞こえたし、正気を失った気狂いのような声にも聞こえた。
はっきりと分かることが一つあった。
危機が迫っている。



「――――こんなジョークを知ってるかい?」



そこには、一人の道化師が居た。

荒々しく白に塗られた肌。

乱暴に紫へ染められた髪。

血のように真っ赤に染まった唇。

すぐにその人物が何者かわかった。


835 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:48:57 INDC8ho60



「一人の男が、精神科医を尋ねてこう言ったんだ。

 『人生に希望が持てないんです』

 震えた声で言った男は、心底疲れきっていた。
 人生に希望というものを見失った声だった。
 だのに、精神科医はパッと笑ってみせた。

 『それなら有名なピエロのパリアッチのショーを見なさい。明るくなりますよ』

 すると男は突然泣き崩れた。

 『でも、先生……私が、パリアッチなんです!』

 ってな!

 HAHAHAHAHA!!!!!」



『ジョーカー』。
全身から血の気が引いた。
状況が悪い。
薄気味悪いほどに感じていたダッジャールとの結合の喪失。
消え去っていく聖殿。
朱く歪んでいく空間。
浮かび上がる赤子。

「あ……ああ……」

震えた声がリエンスの喉から出る。
その震えに応えるように、宙に浮かぶ無数の紅い赤子も震える。
身体が空間という海へと溶けたような、不気味な赤子。

「令呪――――だろう?」
「あ……あ、あ……」
「『ママー!助けてー!』だなんて、呼ばないのか?
 呼んでいいんだぜ?
 ママにとっちゃお前は何時までも大事な子供だ。
 反抗期や親離れなんて言葉忘れちまいな。
 何時だって俺達は親の子供なんだからよ。
 サーヴァントもそれと一緒だろう?
 強い奴に頼って悪いことなんて無い。
 お前は呼んでいいんだよ!」

そう言って額と額がくっつくほどに顔を近づける。
狂気に染まったその人物と、ある予想にリエンスは動くことが出来ない。
何よりも、狂気と悪意に満たされた空間に魂が呑み込まれている。
そのリエンスを見て、ジョーカーは小さく呟いた。
リエンスだけに聞こえるように、小さな、小さな声で。
だけど、はっきりと、リエンスの耳に届くように。


「死んじまったか」


裂けた口が、大きく歪んだ。


836 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:49:28 INDC8ho60

「なあ、アンタ何時消えるんだ?
 明日か、明後日か、一ヶ月後か?
 それとももう消えかかっちまってるのか?
 サーヴァントが死んだら、マスターも消えちまうんだろう?
 なあ、何時死ぬ?
 あと、何処で死ぬんだ?
 見せてくれよ、消えていく奴なんて見たこと無いんだよ。
 いろんな殺し方はしたけどよ、皿にこびり付いた油汚れみたいに消えるような死に方は見たことないんだよ!」

消滅、それは事実だ。
ムーンセルのみだというのならば、サーヴァントの敗退はすなわちマスターの消滅だ。
だが、この聖杯戦争は冬木市の大聖杯を基に組み上げられ、織田信長によって改造された東京の聖杯が共同で創りだされている。
故に、『消滅が何時訪れるもの』なのかは知らされていない。

「一蓮托生だってのに、サーヴァントはお前の知らないところで死んじまったってわけか。
 親の居ない子供だな、アンタは」
『ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア』
「ギィィィィィグ………泣くんじゃねえよ。
 哀しいか?
 お前も親に捨てられたか?
 安心しろ、俺も親に捨てられたさ。
 猫も犬も、今じゃ鹿だって簡単に捨てられちまうのさ。
 俺もお前も、親にとっちゃ犬も猫も同じだったってことさ。
 ペットと変わりないのさ。
 『笑え、笑え、子供なら笑え』って言われてナイフを咥えられさせたさ。
 真っ赤な口紅をつけて、
 誰よりも大きく笑って見せたら、
 『気持ち悪い』と言われてそれっきりさ!」

ジョーカーは傷口を指差して笑ってみせる。
その言葉に真実はない。
ジョーカーは狂っていた。
狂った口から真実は決して語られない。

「なあ、アンタ、俺も一緒だ!ギーグも一緒だ!
 だから一緒に住もう。
 安心しろ、俺もギーグも優しいんだ」

そう言って、ただでさえ大きな笑みがさらに歪んだ。
瞬間、リエンスの身体のバランスが崩れた。
痛みはなかった。
途端に、左側が重くなったのだ。
視線を映す。
移すと、腕が落ちていた。

「俺もギーグも、母親がケチでよ。
 新しい玩具を買ってもらえなかったわけだよ。
 ずっと同じ玩具で遊ぶことには慣れてるんだ。
 だから、安心しな」

リエンスの腕だ。
腕が動いた。
リエンスの意思によってではない。
ジョーカーがリエンスの腕を『拾い』、そこに刻まれた令呪を撫でた。


「アンタの手足が無くても、ちゃんと最後まで一緒に遊んでやるよ!」


死は絶対の終わりだが、絶対の絶望ではない。
この世には、死よりも辛いことが多く存在する。
絶望は、何時だって曲がり角で待ち構えている。


837 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:50:34 INDC8ho60



アア、神ハ告ゲル。

真ノ世界ヲ。


838 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 01:54:45 INDC8ho60
状態表忘れてた……投下は終了です
今、状態表張ります


839 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:10:23 INDC8ho60

【A-2/新宿・東京第一高校付近/1日目 夕方】

【七原秋也@バトル・ロワイアル(原作小説版)】
[状態]魔力消費(大)
[令呪]残り三画
[装備]ベレッタM92F
[道具]エレキギター(メーカー指定なし)等
[所持金]少なめ(ただし、施設と中学で暮らしているので生活には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る。
1.二つの陣営と共同戦線に成功、上手く立ちまわってみせる。
2.学校以外の時間は音楽で不満をぶつけていく。
3.明日、羽藤桂と会う。
[備考]
※桐山和雄と同じ中学校(少なくともクラスメイトの構成は城岩中学校3年B組と同一)のクラスメイトです。ただし、クラスメイトは全員、東京都民に改変されています。
※夜は施設を抜け出して駅前でストリートミュージシャンとしての小遣い稼ぎする事を目論んでいますが、初日の段階で一銭も入っていません。
※ジョーカー討伐クエストについて把握しているかしていないかは、後続のSSにお任せします。
※東京第一中学校に通っています。
※桐山和雄&ザ・ヒーロー、羽藤桂&夕立と同盟を結びました。

【操真晴人(キャスター)@仮面ライダーウィザード】
[状態]魔力消費(中)、全身負傷
[装備] 『呪文詠う最後の希望(ウィザードライバー)』
[道具]プレーンシュガーのドーナツ
[一時的に召喚している道具]マシンウィンガー
[所持金]少しある?(小遣い程度)
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの「最後の希望」になる。
1.七原の学校生活には注意を向けておく。
2.二つの陣営相手に上手く立ちまわる。
[備考]
※外出している為、まだジョーカー討伐クエストの連絡を受けていません。
※七原の通う中学校に、「使い魔(プラモンスター)」を偵察させておく予定です。
 特に、警戒している桐山和雄の監視は学校外でも欠かさないようにするつもりです。
※ジョーカー討伐クエストについて把握しているかしていないかは、後続のSSにお任せします。
※桐山和雄&ザ・ヒーロー、羽藤桂&夕立と同盟を結びました。



【羽藤桂@アカイイト】
[状態]やや精神的に不安定、魔力消費(微小)
[令呪]残り3画
[装備]通学用鞄
[道具]なし
[所持金] 数千円
[思考・状況]
基本行動方針:戦わず聖杯戦争から脱出したい……はず
1:指輪のキャスター(操真晴人)と同盟を組む。
2:勝手に連れて来られて不正参加の疑いってどういうことなの……
3:明日、指輪のキャスター(操真晴人)のマスターと会う。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※東京第一高校に通っています。
※七原秋也&操真晴人と同盟を結びました。

【夕立@艦隊これくしょん】
[状態] 魔力消費(小)、全身負傷、兵装損壊
[装備] 12.7cm連装砲
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:桂の言うとおりに動く
1:マスターは願いについていろいろ考えてみてもいいっぽい?
2:ちょっと本気になっちゃうよねぇ。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔の気配を感じ取りました。
※索敵能力の関係と、至近距離に接近することで、切嗣に嫌な気配を感じました。
※七原秋也&操真晴人と同盟を結びました。


840 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:12:21 INDC8ho60

【B-2/千代田区/一日目 夕方】


【桐山和雄@バトルロワイアル(漫画)】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]イングラムM10サブマシンガン
[道具]制服
[所持金]中学生にあるまじき大金
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1:図書館へ行きたい。
2:七原と同盟を組む。
3:魔術的知識を得て、悪魔召喚プログラムを完成させる。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※東京第一中学校に通っています。
※七原秋也&操真晴人と同盟を結びました。

【ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)@真・女神転生Ⅰ】
[状態]魔力消費(小)
[装備]無銘の剣、イングラムM10サブマシンガン、悪魔召喚プログラム
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し
1:不明
[備考]
※悪魔を召喚しました、どのような悪魔かは後続のSSにお任せします。
※七原秋也&操真晴人と同盟を結びました。



【松下一郎@悪魔くん 千年王国(全)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:ザインの宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:なぜ竜を目覚めた……?
3:ジョーカーの討伐報酬は魅力的に感じています。
[備考]
※『封印されし半身<セト>』が反応を示しました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです

【ライダー(ザイン)@真・女神転生Ⅱ】
[状態] 健康
[装備] テンプルナイトとしての装備
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:自身の宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:竜の目覚めの兆しを感じ取り、高揚状態。
3:今の自分ではジョーカー討伐は難しいと考えています。
4:ロウヒーローに対して、複雑な感情を抱いています。
[備考]
※『封印されし半身<セト>』が反応を示しました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


841 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:13:28 INDC8ho60

【A-3/渋谷区・谷川柚子宅/一日目 夕方】


【谷川柚子@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:悪魔……
[備考]
※峯岸一哉がロデムだと気づいていません。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔の気配を光秀から知らされました。
※東京第一高校に通っています。

【アサシン(復讐ノ牙・明智光秀)@戦国コレクション(アニメ)】
[状態]健康
[装備]銃、日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:方針はない。
1:行動方針は柚子に任せる。特別な行動を起こすつもりはない。
[備考]
※峯岸一哉がロデムだと気づいていません。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔の気配を感じ取りました。


842 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:14:39 INDC8ho60

【B-2/衛宮邸付近/一日目 夕方】


【衛宮切嗣@Fate/Stay Night】
[状態]ダメージ(極小)、疲労(中)
[装備]獣の槍
[道具]和装
[所持金]ほどほど
[思考・状況]
基本行動方針:確固とした方針を定められていません。
1:ただ、憎しみを唆す想いだけが募る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 情報の精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※カーズをサーヴァントと認識しました。
※アマテラスをサーヴァントと認識しました。
※ラーマを迎えに東京第一高校に来ました。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


【獣の槍@うしおととら】
[状態]なし
[装備]封印の赤織布
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:憎しみ
1:憎しみ。
[備考]
※今は衛宮邸の土蔵の中にあります。


843 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:15:12 INDC8ho60

【A-2/新宿/1日目 夕方】


【ふうまの御館@対魔忍アサギ 決戦アリーナ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]忍者刀、苦無
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、『ふうま』を再興し、この暗黒の世界の支配者となる。
1:ジョーカーを討伐し、報酬を手に入れる。
2:このガイア教の裏にいるサーヴァントを調べあげ、宝具・スキルを邪眼で奪い取る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※『ガイア教』という悪魔崇拝の宗教の集団に潜入できます。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです

※邪眼・魔門によってストックしてある能力は催眠術系統の異能です


【キャスター(加藤保憲)@帝都物語】
[状態]健康
[装備]関孫六
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:大和を、『東京』を滅ぼす。
1:加藤の中にあるものは『東京』を滅ぼす、その一念だけである。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ガイア教の裏に居るサーヴァントが『第六天魔王』の呼称を持つ、もしくは親しい存在であると考えています。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。

※ザ・ヒーローが召喚した悪魔はサーヴァントもしくは魔術師ならば感じ取れるものです


844 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:15:43 INDC8ho60

【B-3/港区、東京タワー(バベルの塔)/1日目 夕方】

【峯岸一哉@デビルサバイバー オーバークロック】
[状態]健康、憂鬱
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:ひとまずはジョーカーを殺す。
2:柚子がマスターであることに動揺している。
3:混乱した東京を見たからこそ、自分が何かをしなければいけない
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※谷川柚子がマスターであると考えています。
※宝具『三つの下僕』の一匹であるロデムが一哉に変身して、一哉として生活しています。

【ライダー(バビル2世)@バビル2世】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1:ジョーカーを殺す。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも居場所の候補と容姿は把握、具体的な所業は知りません。
 他の情報や精度については、後続の書き手さんにお任せします。
※谷川柚子がマスターであると考えています。
※宝具『三つの下僕』の一匹であるロデムとは離れていても念話で会話できます。


845 : 名前のない怪物 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:16:35 INDC8ho60

【A-2/新宿/1日目 夕方】

【ジョーカー@ダークナイト】
[状態]魔力を消費。
[令呪]残り2画
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:この世界流のジョークを笑って、自分なりのジョークを見せる。
1:楽しい。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の全てを把握しています。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

【????@????】
[状態]??
[装備]??
[道具]??
[所持金]??
[思考・状況]
基本行動方針:??????
1:????????
[備考]
※??????
※??????
※??????
※??????

※ギーグの宝具が発動しているため、ギーグの状態表を閲覧できません。


【リエンス@実在性ミリオンアーサー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]尖りすぎる鎧、尖りすぎる剣
[道具]なし
[所持金]普通(一般サラリーマン程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.ジョーカーを討伐しに行く
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。


【カオスヒーロー(ダッジャール)@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[装備]無銘の剣
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:リエンス王には特に興味はないが、救世主が己を救えたのか知りたい
1.ジョーカー討伐に付いて行く
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。


846 : ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:16:47 INDC8ho60
投下終了です


847 : >>845修正 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:20:16 INDC8ho60
【A-2/新宿/1日目 夕方】

【ジョーカー@ダークナイト】
[状態]魔力を消費。
[令呪]残り2画
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:この世界流のジョークを笑って、自分なりのジョークを見せる。
1:楽しい。
2:リエンス王を連れて帰る。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の全てを把握しています。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。
※島村卯月をマスターとして認識し、マーズの容姿と宝具の一部を把握しました。

【????@????】
[状態]??
[装備]??
[道具]??
[所持金]??
[思考・状況]
基本行動方針:??????
1:????????
[備考]
※??????
※??????
※??????
※??????

※ギーグの宝具が発動しているため、ギーグの状態表を閲覧できません。


【リエンス@実在性ミリオンアーサー】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]尖りすぎる鎧、尖りすぎる剣
[道具]なし
[所持金]普通(一般サラリーマン程度)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.…………
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
 少なくとも彼らの現在位置については掴んでいるようです。
※ジョーカーが起こした爆破事件を知りました。
※カオスヒーローの脱落を感じ取りました


848 : >>845修正 ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 02:26:02 INDC8ho60
度々申し訳ありません、リエンスの
>[状態]健康

>[状態]右腕欠損
です、失礼しました


849 : 名無しさん :2015/10/25(日) 04:00:45 5JWvSWZo0
投下乙です
カオスヒーローの最期が悲しすぎてやばい
いい夢を見れたと満足して逝った男が起こされて夢の先を見させられてしまった……
ザ・ヒーローやロウヒ、そして自らへの一言一言が物悲しい
真1の行き着く先は真2でロウ寄りの世界で。それは人々がザ・ヒーローを畏怖の存在として、願いを叶える使いとして祭りあげて神のようにしてしまったからなんだな……。
宝具の3種同時解放してでさえ届かない、いや、してしまったが故のどこからどこまでも必敗者の最期か。
リリスはそうだよな、お前ならこの宝具の中にいられるよな。

真陣営以外もすごかったです。
塔の中から人間は見えないとか、まさかの立ち回りをなしたウィザードとか、コイントスで決めちゃう桐山とか、
よりによってこの話で夢であって欲しいと願っちゃう柚子とか。
リエンスは死よりも酷い悲劇で喜劇に見舞われておおう。消滅云々には恐ろしくも納得させられちまった。
面白かったです。


850 : 名無しさん :2015/10/25(日) 04:13:25 5JWvSWZo0
と、あれ。
ロウヒたちの状態表抜けてるような?


851 : ◆devil5UFgA :2015/10/25(日) 05:56:19 INDC8ho60
>>850
oh……以下、ロウヒーローとエンジェルの状態表です
感想、指摘、ありがとうございました!


【A-2/新宿・東京第一高校付近/1日目 夕方】

【ロウヒーロー@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一人暮らしの学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:人として抱いた願いをまずは取り戻す
1.カオスヒーローは、いったい何を見たのだろうか。
2.ジョーカーや夢といったかつてを思わせる状況を追うことで、今に至る自分自身を追い見つめなおす。
3.ジョーカーをどうするのかは自分の意思で決める。
4.救世主であり、友であった“彼”と“彼女”が二人でいられたのかが知りたい。
5.松下一郎は気がかりではあるが、今の自分は自分から彼の敵に回るつもりはない。
[備考]
※サンダルフォンの夢を何らかの予兆として捉えています。
 サンダルフォン@天使禁猟区についてエンジェルより情報を得ました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。
※カオスヒーロー及びザ・ヒーローの真名を忘却しています。


【エンジェル(無道刹那)@天使禁猟区 】
[状態]健康
[装備]なし(宝具は実体化させていない)
[道具]なし
[所持金]逃避行開始時の先輩からの選別込の所持金程度
[思考・状況]
基本行動方針:ロウヒーローの仲間として、彼が自分の生き方をできるよう共に戦う。
1.ロウヒーローとともにジョーカーを追う。
2.ロウヒーローが予兆として捉えた夢について警戒。
 ロウヒーローが再び生贄の道を辿ろうものなら何としてでも止める。
3.様々な符号からこの聖杯戦争の裏に、自分たちに知らされている以上の何かや何者かがいるのではと懐疑的。
4.松下一郎をザフィケルと重ね、現状敵でないにしてもその策謀やいずれには警戒。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。


852 : 名無しさん :2015/10/25(日) 07:07:24 I3BHbvWM0
後編投下乙、いやぁ素晴らしいもん見せてもらいました
話の中心となったメガテン組の因縁の一画の結末までは勿論、登場した全ての主従が生き生きと色濃いのが凄い
バビル二世の淡々とした凄烈さの切なさやら、千年王国悪魔くんの彼らしい探求心に疑念など、好きなキャラだけにいちいち唸らされます
七原組のというか晴人の活躍も非常に面白い、一気にこの帝都におけるキャラを強めたなぁと
そして必敗者を引いてしまったばかりにリエンス王…振り返ればジョーカー&ギーグってそんなのないぜ…
子どもと玩具のくだりは寒気がしました


853 : 名無しさん :2015/10/25(日) 08:09:10 2BYcL9/g0
乙です
これ真1の二次創作と見てもすごいよく出来てるよね
因果律に定められ、聖地に集った秩序の英雄、天秤の英雄、混沌の英雄が各々の志を元に戦った夢の果てが
どう行き着いても人間の奴隷、天使の操り人形という悲しすぎる末路
真1のOP時とはまったく違う意味の、「なぜ夢から起こした」という必敗者の最後の言葉は泣ける


854 : 名無しさん :2015/10/25(日) 11:14:06 YD3431DA0
悲しすぎるカオスヒーローの最後。
いい夢を見て旅だったはずの彼につきつけられた無慈悲な世界の末路。
最後のセリフが重すぎて、悲しい。

またそれだけでなくどの組も魅力的に動いていました。
英雄の過去を垣間見て決断をし始めた一哉組
決断しつつも妖しい雰囲気を漂わせる桂組
最強かつこの場を支配している桐山組
そして上二組とギリギリのやり取り繰り広げる七原組
切り札の胎動を感じ取り、嬉しがる従者と疑惑を抱く主人の悪魔くん組
カオスヒーローを看取り、何かを思うロウヒーロー組
ただ一哉を思い動かない/動けない柚子組
そして新しい玩具を手に入れてしまったジョーカー組

よくこんな人数を動かせたなと思う大作、本当に乙でした。


855 : 名無しさん :2015/10/25(日) 21:07:26 xthFu98.0
とても良い話でした!
リエンスかわいそう…。このまま死んじゃうのか…


856 : 名無しさん :2015/10/25(日) 21:25:45 eN1uXJ0I0
投下乙です、何ともやるせなさに溢れて胸に突き刺さるような話でした。
「人々のために」と戦ってきても報われないザ・ヒーローの人生は虚しいし、
自分が知り得なかった彼の胸中と末路を突き付けられたカオスヒーローの心情も悲しい。
左右からの声やいい夢といった作中からの引用がここで違うニュアンスを持って迫ってくるのが叫びそうになるくらいのインパクトだった
あの日々の中で一人の少年だった彼は少しずつ削れていなくなってしまった、出来上がったのは
英雄や救世主という華々しい言葉で呼ぶのをためらってしまう偶像で「名前の無い怪物」。
リリスの言葉も哀愁に満ちていて良かったです

一哉とバビル2世の会話も、塔の高さと人間との距離という言葉が印象的だった。
自分の異能を自覚せず人の悪性から目を背ける甘さが死人を増やす可能性だってある、という重み
人間の価値を問われた場面で思い出されたケイスケのあの台詞は言葉につまったなー

ウィザードの振る舞いや夕立と桂との関係もいいなー 
最後のパートはこっちがリエンスの気持ちになってゾワリとした…


857 : 名無しさん :2015/10/26(月) 02:52:24 I5rjzqYs0
投下乙です!
 まさか、あのウィザードの効果音が、ローマ字になるだけでここまで格好良く見えるなんて…………!
 と、いうのはともかく、すごく面白かったです!
魔法と科学をウィザードと悪魔召喚プログラムが繋ぎ、Fateと悪魔を「名前の呪縛」が繋ぐ、帝都聖杯ならではのクロスが見事な潤滑油となっていて、スムーズに物語に入り込むことが出来ました
 そして、原作は未把握ですが、ダッジャール〈必敗者〉として死んだカオスヒーローの哀しみには、胸を打たれるものがありました
彼が探していたものは、そこには何も無く、ただの伽藍堂
勝者でさえも、アクマの操り人形に過ぎなかった…………
 一方、今回一番意外だったのがウィザードです
かなり不利な条件にあるはずなのに、この大活躍!
戦えて、策謀も出来て、精神サポートも万全、と七原にとってはかなりの当たり鯖ですね!
 ただ、二つの対立する勢力に取り入るその姿は、彼の師匠の事を否応なしに思い出させて不吉です
やはり、仮面ライダーは怪人と紙一重の存在なのですね…………
 ともかく、波瀾万丈なストーリーで、すごく楽しめました!


858 : ◆devil5UFgA :2015/11/04(水) 01:15:56 IdLAZGlI0
南ことり&ヴィンセント・ヴァレンタイン
園田海未&愛乃めぐみ
渋谷凛&アドルフ・ヒトラー
予約します


859 : ◆devil5UFgA :2015/11/14(土) 23:26:41 u8Sa7O7E0
申し訳ありません、現在の予約を破棄させていただきます
ご報告が遅れて大変失礼しました


860 : ◆HQRzDweJVY :2015/11/19(木) 00:31:40 .1kOg84.0
島村卯月&マーズ予約します。


861 : ◆HQRzDweJVY :2015/11/24(火) 00:41:44 acrfDt9A0
申し訳ありません。
プロットを見なおしている最中矛盾点を見つけたので予約を破棄します。
申し訳ありませんでした


862 : 名無しさん :2015/12/17(木) 17:03:11 m7BTYibk0
七原、本当にいいサーヴァントと会えたな
七原組は自分が唯一どちらも知っている陣営だということもあって
今一番応援したい陣営です!
果たして他のスタイルは来るのか…


863 : 名無しさん :2015/12/17(木) 17:14:32 m7BTYibk0
そう言えば、七原も晴人も
ある人が守ろうとした女性を
守ろうとしたんだよな…意外な共通点(?)。


864 : ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:38:25 cjDX8VEc0
島村卯月&マーズ予約します。


865 : ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:38:46 cjDX8VEc0
続きまして投下します。


866 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:39:34 cjDX8VEc0
ホールに響き渡る歓声と音楽。
天から降り注ぐスポットライト。
見渡す限りに揺れるサイリウムの光。

――それは島村卯月がずっと夢見ていた世界だ。

アイドルとファンが一体になって作り上げる幻想空間。
たくさんの夢が詰まった、灰かぶり姫達のステージ。
その舞台の上で卯月は歌い、踊る。二人の少女と一緒に。

彼女たちの名前は"本田未央"。そして"渋谷凛"。
卯月にとって仲間であり、ライバルでもあり、そして何より友達である大切な二人。
そんな彼女たちといつの日か共に憧れの舞台へ立つ。
そう思いながら日々のレッスンをこなしていたのだ。
そして今、その成果を舞台の上で遺憾なく発揮している。

何時になく身体が軽い。喉の調子もいい。
ファンのコールも盛り上がっている。
ああ、なんて楽しい、なんて幸せな時間だろう。

島村卯月の絵描く、幸せな世界の姿。
だが突如として、その至福の時間は終わりを告げた。
大音量でスピーカーから卯月の知らない曲が流れ始める。

――それは、頌歌(キャロル)だった。

綺麗な旋律に載せられたのは透き通った、美しい歌声。
だがその歌は同時に何か不吉な響きを帯びていた。
美しいが、それ故に聞くものの内面を揺らすような何かを持っていた。
自身の内側からせり上がってくる不吉な予感に対し、助けを求めるように背後を振り返る。
そこには頼りになる友人の、本田未央の姿があるはずだった。

だがそこに彼女の姿はなかった。
代わりにあったのは『赤色の水たまり』と『ばらばらになった■■の手足』。
そしてその中心で、歪んだ笑みを浮かべる白塗りの男。

気付けば周囲にあったはずの客席の光は消え、歓声は苦痛を訴える悲鳴に変わっている。
一瞬で様変わりしてしまった世界。
でもその中で凛だけはいつもどおりの渋谷凛としてそこにいた。
けれどそれは何故か風前の灯のように卯月には感じられた。

(――凛ちゃん!)

不安に背中を押されるまま、必死に駆け寄って手を伸ばそうとする。
けれども伸ばした手の先で、渋谷凛の顔はぐにゃりと歪み、パァンとはじけ飛んだ。
瞬間、卯月の耳がとらえたのは音楽を掻き消けすほどの大きな音。
それが自分の叫び声だと気づいたのは、喉の痛みを自覚してからだった。



――そんな無様な姿を見て、誰かが嗤った気がした。



  ■  ■  ■


867 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:40:08 cjDX8VEc0


「……スター。目をさましてください、マスター」

ぼんやりとした視界に映り込む赤色。
それが自分を心配そうに見下ろす少年の髪の色だと気づくまで数秒の時間を要した。

「ライ、ダーさん……?」

青年の背後に映る照明に、卯月は自分が横になっているのだと気づく。
しかもその照明の色形には見覚えがあった。

「……安心していい。ここはマスターの部屋だ」

ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。
壁にはられたポスター、使い込まれた机、窓辺に並べられたぬいぐるみ。
そのどれもが見覚えのあるものだ。
確かにマーズの言うとおり、ここは自分の部屋だ。

「私……何で……」

けれどもここに至るまでの記憶が曖昧だ。
確か自分は別の場所にいたはずだ。
そう、昼ごろに本田未央の葬儀に向かおうとして――



           『サプラァァーーーイズ…………パァーティィイー!!! 』




その瞬間、卯月の脳裏に甲高い声が反響する。
その声が引き金となり、次々と光景がフラッシュバックする。
血に染まった僧衣/白面の道化が笑う/耳をつんざく銃声/楽しげに笑う声/悲鳴/硝煙の匂い/血の匂い。
そして、――次々とはじけ飛ぶ■■。

「――!!」

瞬間、口を抑えながらトイレに駆け込んだ。
そして必死の思いでたどり着いた瞬間、堰を切ったように胃の中の物を吐き出した。
胃酸が喉を焼く。呼吸が阻害され、涙がぽろぽろと流れ出す。
それでも背筋を這い上がる悪寒は卯月の胃を無理やり動かし続けた。
そしてえづきながら、胃が空っぽになるまで戻し続け、その場にへたり込んだ。

「大丈夫かい、マスター?」

マーズの言葉にも返事を返せない。
今もせり上がってくる吐き気を我慢するだけで精一杯だ。

「うっ、あっ………」

ギーグによって、超常の力によって弄ばれた人間の体。
それは島村卯月が想像したこともない死に方だった。
残酷で、無残で、凄惨で――人間としての尊厳を陵辱し尽くされた死体。
さっきまで動いていた人間が、動かない"モノ"に――いや、"モノ"ですらない何かに変えられる。
それは島村卯月という普通の少女には、あまりにも衝撃的な死の形だった。

身体にうまく力が入らない。
立ち上がろうとして、ふらつき、壁へと倒れこみそうになる。
だがその身体はすんでのところでマーズに抱きとめられる。


868 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:41:05 cjDX8VEc0
「無理をしてはいけない。……少しだけ、失礼します」
「あ……」

そのまま抱きかかえられ、自分の部屋へと運ばれる。
マーズは卯月の細い体を優しくベッドに寝かせつけた。

「この水で口をゆすぐといい」

言われるままに差し出された水で口の中をゆすぎ、タオルで口の周りを拭う。
たったそれだけで人間というものは大分落ち着くものらしい。
口の中に広がっていた苦味が消えると、徐々にだがゆっくりと息ができるようになった。

「ありがとう……ございます……」
「……礼は言わないでください。
 マスターを守ると言っておきながらこんな有様です。……サーヴァント失格ですね」

そんなことはない、と卯月はフォローする。
事実、彼女の身体にはかすり傷一つない。

「いえ、僕の宝具である<軍神よ、光の力を振るえ(ガイアー)>は強力だが、その分消耗も激しい。
 バーサーカーに対抗するためとはいえ、強い精神的ショックを受けていたマスターに負担を強いてしまったのは事実です」

そう言ってマーズは不意に視線を窓の外へと向けた。
その先に見える町並みは夕暮れに沈み、ポツポツと明かりが灯っている。
今何時だろう、と視線を時計へと向ければ、すでに針は一直線に並ぼうとしている。
あれからもう6時間も経っているのだ。
だからあの場所で何があったとしても今更出来ることなどない。
もしあの場所で取り返しの付かないことが起こっていたら――それを確かめるのが怖い。
けれど確かめないといけないことがある。

「その……凛ちゃんは……凛ちゃんはどうなったんです……?」
「……彼女は無事です。
 貴方が倒れた後、彼女のサーヴァントが宝具を展開し、バーサーカーを退けました」

最悪の事態は避けられたことを知り、大きく安堵の吐息を漏らす卯月。
だが一方でその端的な言葉の中に聞き逃せないものがあったことにも気づき、再び体をこわばらせる。

「……ライダーさん。その、……"彼女"のサーヴァントって……」
「……ええ。マスターの友人は間違いなく聖杯戦争のマスターだ。
 クラスは恐らく槍兵(ランサー)……マスターも見た、あの軍服の男です」

その返答に卯月は思わず息を呑む。
マーズが実体化した時の凛の顔を思い出す。
驚きと悲しみの入り混じった顔。
きっと今の自分もそんな顔をしているのだろう。

「……そ、う……ですか」

そう、口にだすのがやっとだった。
凛もこの聖杯戦争に巻き込まれていたのだ。
いや、卯月だってあの時にわかっていたのだ。
そのことを口にすれば認めなくてはないけないようで口にしたくなかっただけなのだ。
でもそのことを認めなくてはどこにも歩き出せない。

「……それで……その、今、凛ちゃんは、どこに……」
「詳しくはわかりません。バーサーカーを退けた後、彼女も気を失い、サーヴァントと共に何処かへ消えました」

正直なところを言えば引き止めて欲しかった。
けれど気絶していた自分の安全を再優先にしてくれたのだろう、と考えると言葉に出せるはずもない。
それにあえて前向きに考えるならば、マスターの中に確実に信頼できる相手ができたということでもあるのだ。

「マスター、これから先のことを考えましょう。
 彼女たちに対して、どのように対処するか決めなくてはいけません」

だがマーズは表情を変えずに、淡々とそう言い放った。
卯月は、何故そんなことを今更確認するのだろうか、と不思議に思った。
そんなのは決まりきっているのに。
凛と協力して、ここから帰るのだ。
だがそんな卯月の答えにマーズは首を横に振った。

「……マスター、無礼を承知で忠告します。
 彼女たちと協力するのは――いえ、これ以上接触するのはやめたほうがいい。
 彼女自身には何の問題がなくとも、あのサーヴァントは危険過ぎる」
「……!!」

歴史に詳しくない卯月だって、ランサーの顔には見覚えがあった。
世界史の教科書にも乗っていたその顔。それは決して肯定的な意味合いではない。
いや、そうでなくともあのランサーが正しい意味での英雄だとは思えない。


869 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:41:33 cjDX8VEc0

だって笑っていたのだ。
銃で撃ち殺される人々を見て、楽しそうに――まるでお笑い番組を見るかのような気安さで笑っていたのだ。
『もしかしたら伝え聞く人物像とは違うのかもしれない』。
そんな幻想を打ち砕くような、悪意だけで形作られたような嘲笑。
それは卯月の知る"笑顔"とは正反対の、人を貶め、汚す笑顔だった。
初対面の人に悪感情を懐くことは少ない卯月でさえ、嫌悪感を感じる笑みだった。

「でも……! だったら余計に凛ちゃんを助けないと……!」
「サーヴァントとマスターは魔術的なパスで繋がっています。
 サーヴァントが健在な以上、互いの場所や状況はある程度筒抜けになってしまうので、物理的に離すことにさほど意味はありません。
 かといってあの槍兵を排除すれば、彼女もまたこの世界から排除されてしまうでしょう」

サーヴァントを倒せばマスターである凛も死ぬ。
前にも聞いた聖杯戦争のルールを改めて告げられ、卯月は黙りこんでしまう。

「それに、もしかしたら彼女はマスターの知る彼女ではないかもしれません」
「え……?」

かつてマーズから受けた説明は卯月にとってわかりにくいことだらけだったが、それでもマスターは再現されたNPCとは違うという説明は覚えている。
それはつまり彼女は自分の知る"渋谷凛"その人だということだと思っていたのだが、違うのだろうか。

「マスターはパラレルワールド、というものを知っていますか?」

耳になじみの無い言葉だ。
マーズは少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。

「そうですね……"もしも"の世界と考えてくれればいい」
「もしも……ですか?」
「ええ。"もしもマスターが別のプロダクションに入っていたら"……そもそも"もしもマスターがアイドルを目指していなかったら"。 そういう"もしも"の世界……それがパラレルワールド。
 平行世界と呼ばれる、限りなく近く、極めて遠い世界です」

卯月にも想像した覚えがある。
"こうしていたら"、"こうしていなかったら"の世界。
そういう世界が実際に存在するのだとマーズは言っているのだ。

「例えば彼女は……そう、"トップアイドルになった"世界から来たのかもしれない。
 いえ、彼女がその状況を受け入れていたということは、その可能性のほうが高いとすら僕は思います。
 つまり……彼女はマスターの知る"彼女"ではないかもしれないんです」

人間という種は状況によって悪鬼にすら変貌する。
そのことをマーズは痛いほどに知っている。
だからこそ忠告する。外見が同じでも周囲を取り巻く環境が異なれば、全く異なる性格をしているかもしれないのだ、と。

「……ううん、あれは間違いなく凛ちゃんです。凛ちゃんなんです」

だが島村卯月はそう、断言した。

「だって……凛ちゃん、悲しそうな顔をしてたんです……」

その視線は机の上においてある写真立てへと向けられている。
そこにはジャージ姿の彼女たちの姿があった。
肩を寄せ合い笑い合う卯月と凛と、未央の姿。

賢い彼女のことだ。
NPCという存在のことを自分よりも正しく理解していただろう。
それでも未央の死を悲しんでいた。
傷ついた自分を慰めようとしてくれた。
そしてあの惨劇を前にして、自分に逃げろと言ってくれた。
だから信じられる。
たとえ自分の知らない世界から来たのだとしても、彼女は間違いなく"渋谷凛"なのだと。

「だから……私は凛ちゃんに会いたいんです。
 私に何が出来るかなんてわからないけど……それでも……」
「それがどれだけ危険な行為だと理解した上で……ですか?」

こちらを試すようなマーズの言葉。
そう、あのランサーだけじゃない。
この東京(まち)にはまだ見ぬマスターとサーヴァントがいる。
それがあのピエロのような殺人犯である可能性はあるのだ。


870 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:41:54 cjDX8VEc0

だが、それでも卯月の答えは変わらない。
震えながら、マーズの赤銅色の瞳を正面から見つめ返した。

「ならば一つだけ聞かせて欲しい。マスターは怖くないのか?」
「怖い――です」

怖くないわけがない。
先ほどの惨劇は卯月の中にあった死のイメージを、ぼんやりとしたものから生々しい実態を伴ったものに変容させた。
だからありありと想像できてしまう。
自分が"ああ"なってしまう光景を。
一瞬で、訳もわからないまま、ヒトとしての形を保てない何かに変えさせられる光景を。

それは卯月にとって未知の恐怖だった。
残酷な何かに作り変えられてしまうこと。
自分が自分でなくなってしまうこと。
それはきっと普通に死ぬよりも何倍も怖いことだと思う。
けれど、

「……でも凛ちゃんが、その、し、死ぬのは……もっと……怖い、です」

凛が死ぬ。
口にするとその光景をより生々しく想像できてしまう。
前衛的なオブジェのようになった彼女の姿。
悪夢の中のような死に方を想像し、思わず口元に手をやる。

――ああ、今更だが理解してしまった。
"死体がない"、という未央の両親の言葉の意味を。
彼らの仕業かどうかは分からないが、きっと"そういうこと"なのだ。

そう、この世界の未央は死んだ。
少なくとも数日間、この東京で共に過ごしてきた彼女は死んだのだ。
けれど未だ彼女の死を受け止めきれていない。
それはきっと突然過ぎて、そしてその気持ちに区切りをつける機会も奪われたせいだろう。
ただ、胸にポッカリと穴が空いたような感覚があるだけだ。

けれど凛の場合は違う。
彼女はまだ生きている。そして彼女に危機が迫っていることを既に知っているのだ。
それでも動かなかったら。
あんな、残酷な"何か"になってしまったという知らせを受けたら。
……それは卯月にとって自身の死と同じぐらいに恐ろしいことだった。

その時、卯月の震える肩に手が置かれた。
その手の主であるマーズはまっすぐに卯月を見つめている。

「……試すような言い方になってすみませんでした。
 前にも言ったけれど、君に従うのが僕の使命だ。
 マスターの願いどおり、ランサーのマスターを探そう。すべてはそこから決めていけばいい」
「あ、……ありがとうございます! ……じゃあ、早速探しに……あ、あれ?」

だが立ち上がろうとした卯月はふらりと体勢を崩した。
ベッドから落ちそうになった身体をマーズが支えた。

「……ただし一つ条件があります。
 マスターは今、想像している以上に疲労しています。
 彼女を探すのは、せめて動けるようになってからにしましょう」

その言葉で引きづられるように強烈な睡魔が卯月を襲った。
身体が、まぶたが、鉛で出来ているかのように重くなる。

「今は眠るんだ、マスター。貴方には休息が必要だ」

マーズの優しい言葉。
けれどその言葉に必死に抵抗する自分がいる。
それは恐怖からだ。
あの悪夢の中に戻ることへの恐怖が、卯月の意識を保っていた
だが睡魔は最早嵐のようで、卯月の意識を容赦なく削り取っていく。
しかしその時、ふいに記憶もおぼろげな昔に、母親にしてもらったことを思い出した。

「ライダーさん、お願いがあるんです……」
「僕に出来る事なら、何でも」
「……手を……手を、握っててもらえますか?」

マーズは無言で手を差し出し、卯月はそれに触れる。
男の人特有のすこしゴツゴツした手。
けれどその手は見た目よりもずっと柔らかく、暖かかった。
その温もりにすがりつくように、卯月はその手を握りしめる。
何もかもが不安定な世界で、ただその暖かさだけが卯月をつなぎ留めてくれそうな気がした。


871 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:42:46 cjDX8VEc0


  ■  ■  ■




眠りについた卯月の寝顔を見る。
その顔は安らかで、規則正しい寝息を立てている。

だが目覚める直前、彼女はうなされていた。
――恐らくはあの惨劇を夢に見ていたのだろう。
あの事件によって彼女は心に深い傷を負った。
もはや夢の中でさえ、彼女にとって安息の地にならないのかもしれない。

「……すまない」

その謝罪は先ほどの自分の言動に対してだ。
彼女は深く傷ついていた。そんな彼女に対し、理由はどうあれ『親友に近づくな』と言ったのだ。
さらに彼女を問い詰めるような言い方までしてしまった。
自身のさっきの言動は無駄に彼女の不安を煽っただけだ。
更には平行世界の存在などという不確定な情報を与え、思考を誘導するなど自身の目的にも反している。
では何故自分はそんなことをしたのだろうか。

(――動揺しているのか? 僕は……)

人の悪性を煮詰めたようなバーサーカーのマスターと人の心を笑顔で踏み躙るランサーのサーヴァント。
彼らとの会話を思い出すだけでも、心がざわつくのを感じる。
マスターの方針に従うと決めた今、そのうちの一体とはいずれ再会することになるだろう。
そう、あの魔槍を振るうあの男とは。

「……あの男は一体何なんだ」

その真名は知っている。
ランサーのサーヴァント、アドルフ・ヒトラー。
生前、人類を知るために読んだ歴史書にも乗っていた悪名高き第三帝国の総統。
彼ほどの知名度があれば史実体系の反英雄として呼ばれる可能性は十分にあるだろう。

――だが、"あれ"はなんだ。

ランサーの振るった魔槍。
直視するだけで精神を苛む忌むべき"何か"。
あんなおぞましい、触れてはならないものを振るう近代英雄だと?

そんなものはありえない。あってはならない。
あれが真に"アドルフ・ヒトラー"だというのなら。
あれが真に"人類史に刻まれた史実系の英雄"だというのなら。
人類そのものをもう一度試すまでも無い。
たった一人でこの世全ての悪を体現するかのようなその有り様は、人の本質が悪だということの証明そのものではないか。


872 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:43:03 cjDX8VEc0

『目の前の道化師は人間だ……ならば、全ての人間は道化師の可能性を持っておる。
 我と我が相対者すら見抜けぬ人間の本質を、貴様ごときが見抜けると思い上がるでないぞ』

去り際に聞こえたランサーの言葉。
あの男の言うことなど真っ向から否定すればいい。
ジョーカーだけが特別だと。人類の中に生まれた特異点(イレギュラー)だと否定すればいい。
だが何故だ。
何故あの男の言葉はこれほどまでに心に残る?
アドルフ・ヒトラーが底知れぬ異様なサーヴァントだからか。
いや、それ以上に、

「僕は……恐れているのか……?」

かつてマーズは互いに争う獣たちの姿を見た。
だがそれすらまだ"浅い"のだとあの槍兵は言外に告げているのだ。
奪い、殺し、己の望みのために他者を踏みにじる醜い獣。
そんなものは序の口だと。人類の本性などではなく只の仮面の一つだと。
あの日マーズを支配した絶望には更なる深淵があると槍兵は言っているのだ。

マーズが知りたいと願ったのは人類の本質が"卑しい獣"と"救うべき知性体"のどちらかという二択であったはずだ。
だがあのサーヴァントは提示してきたのだ。
"獣ですらない邪悪"という可能性を。
"希望"でも"諦観"でもない、更なる"絶望"という第三の選択肢を。

「ん……」

ピクリと、握りしめた小さな手が動く。
彼女らしい、柔らかい手。
だが人類はその小さな手でも赤子の首を締めることが出来る。
目の前の心優しい少女にも仮面(ペルソナ)の下には、あの道化の如き悪意があるというのだろうか。

――天秤の支柱が、定めていた筈の心が揺れる。
それを支えていたはずの絶望が、より深い絶望に徐々に侵食されていく。

「……僕は……」

続く言葉はない。
ただ、手のひらの温もりにすがりつくように少しだけ力を込めて握り返した。



【B-3/卯月の自宅/1日目 夕方】
【島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]睡眠中。精神的にひどく動揺。
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]手持ちは高校生のおこづかい程度。
[思考・状況]
基本行動方針:何もわからない。
1:気絶中。
2:ひどく動揺しています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報と容姿を把握しました。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。


【ライダー(マーズ)@マーズ】
[状態] 健康。精神的に動揺。
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:人間を見定める。
1:ヒトラーとジョーカーへの強い嫌悪感。
2:ギーグの悪を刺激する有り様と、月に吠えるもののおぞましさを目撃し、無自覚に動揺しています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の容姿と情報を把握しました。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿とスキル『月に吠えるもの』を認識しました。
※<検閲済み>


873 : 人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY :2015/12/21(月) 06:43:30 cjDX8VEc0
以上で投下終了です。


874 : 名無しさん :2015/12/21(月) 12:57:27 Eo6JWk6gO
投下乙です

殺されるよりも恐ろしいこと
殺し合うよりもおぞましいこと


875 : 名無しさん :2015/12/21(月) 20:01:50 1pkvsyUw0
うおお、投下乙です
島村さんとマーズ、両者のすごく良質な掘り下げ回でした…
サプライズ・パーティーの爪痕が主従ともに色濃いけれど、それでも凛ちゃんを想って勇気ある選択をした島村さん、強い子だ
そしてマーズによる独白と回想、彼を通したヒトラー(ニャル)の有り様が実に雰囲気出てる
仮面を前にして、人類に対する第三の選択肢を幻視させられるとはなんともはや
揺れる心の中、互いに何かにすがるように手を握りあう二人の行く先に幸あらんことを願わずにいられません


876 : 名無しさん :2015/12/23(水) 03:28:15 yXOYS2dU0
待ってました!
心情表現が丁寧で素晴らしかったです
身体を芯から冷やすニャルの悪意と、しまむらさんの温もり
マーズは、果たして悪意に立ち向かい続けることが出来るのでしょうか?
…………それはそれとして、手を握りっぱなしとか羨ましいです


877 : ◆HQRzDweJVY :2016/02/01(月) 02:44:07 pecbOZKg0
ロウヒーロー&刹那、松下一郎&ザイン予約します。


878 : ◆HQRzDweJVY :2016/02/06(土) 21:41:29 uldxKupU0
連絡が送れて申し訳ありません。
延長いたします。


879 : ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:19:58 TuGX3B.Q0
投下します。


880 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:27:01 TuGX3B.Q0
東京・品川区。
22キロ平方メートルの土地に40万人近い人口を押し込んだこの土地にも人数の偏りというものは当然あり、
メシア教教会は比較的人口密度の低い高級住宅街の中に立地されていた。
そのため日の落ちた今、教会の礼拝堂もまた静寂に包まれていた。
今晩は前述の理由に加え、"ある事情"により定例のミサが中止になり、シスターたちは早々に宿舎の方へ戻ってしまっているのだ。

だが礼拝堂には最低限ながらも明かりが点っている。
かすかな光に照らされた、メシア教のシンボルである十字架。
その前に一人の青年が跪き、ただ静かに祈りを捧げている。

彼は周りの人間からは"牧師様"と呼ばれている。
とはいえ教会から正式に認可を受けた、いわゆる職業としての牧師ではない。
だが敬虔な祈りを捧げるその姿を見れば、そのような呼び方をされているのも納得できるだろう。
そんな彼だから部外者にもかかわらず、『人がいない間、一人で祈らせてもらえないか』という無茶な願いにも、シスターたちは笑顔で許可を出してくれたのだ。
そして今、彼……ロウヒーローは食事も取らずにただ祈りを捧げている。
いや、祈るというのはポーズにすぎない。
今、彼の心を埋め尽くすのは信仰心ではなくある記憶だ。
ロウヒーローは思い返す。
自分の目の前で消えた男の、最後の言葉を。


『せっかく――――いい夢を見ていたというのに』



意味の分からない、うわ言のような言葉。
だが腹の底から絞りだすようなその声は、いつまでもロウヒーローの中を反響していた。

(……一体、彼に何があったのでしょうか)

あれだけの傷を負ったということは別の主従と戦ったのだろう。
そこで神のごとく強大な力を持つサーヴァントに倒されたのか。
それとも悪魔のごとき智謀を持つマスターに敗れたのか。

……いや、どちらにしても彼があんな表情を浮かべる理由にはならない。
彼が力によって敗れたとしたら、浮かべるのは怒りと渇望を混ぜたような表情だろう。
だが露わになった素顔に浮かんでいたのは、悔恨の色。
後悔と絶望に彩られた、虚ろな表情。
身体よりも、何より心に死に至るの傷を刻まれたような顔。
彼のそんな顔をロウヒーローは見たことがなかった。
だが彼の心をそれほどまでに揺さぶる人物について、たった一人だけ心当たりがある。


881 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:28:11 TuGX3B.Q0

(……まさか。それこそありえない)

脳裏に浮かんだその答えを頭を振って否定する。

この東京にはマスターもサーヴァントも何らかの"願い"を持つものが集められているという。
それは自分を含め、きっとどうしようもない願いを聖杯に託している人々だ。
だが"彼"は秩序におもねることも、混沌に依ることもなかった。
だからきっと聖杯などという奇跡にすがることなく歩めるはずだ。
それに……例え"彼"が立ち塞がったとしても、混沌の英雄はあんな表情はしないのではないかと思った。
確証はない……だが、それはロウヒーローの中で確信に近いものとしてあった。
何故ならばかつて自分と彼は同じ境遇であったからだ。
かつて理性たる秩序の偽救世主である自分が"彼"に倒された瞬間に得たのは"納得"であった。
それならば感情たる混沌の偽救世主であるカオスヒーローが得たのはきっと……"親愛"に近いものではないのだろうか。
だがそれならば尚更わからない。
何故彼はあんな顔をして――

「……マスター、そのへんにしとけよ」

自分に投げかけられるため息交じりの声。
その声は自分の傍に降り立った美しい少年のもの。
その背中には純白の翼が生えている。

「気が済むまでやらせようと思ったが、やめだ。
 祈るのはいいけど食べるもんも食べなきゃ倒れるぞ」
「……大げさですよ」
「大げさなもんか。あれから何時間経ってると思ってんだ」

促されるままに時計を見てロウヒーローは驚く。
自分にしてみればものの数十分のように感じていたが、相当な時間が経過していた。
そんなロウヒーローの姿を見て、刹那は呆れたような表情を浮かべる。

「まさかその様子だと気づいてなかったのか?
 確かに友達が倒されたのはショックだろうけどな、気を確かに持てよ。
 まだ聖杯戦争は始まったばかりなんだからな」

注意を促すだけの刹那の軽い言葉。
だがその中に含まれていた言葉を思わず反復してしまう。

「……"友達"、ですか……」
「何だよ、はっきりしない言い方だな。
 あいつはマスターの友達じゃないのかよ?」

怪訝な表情の刹那にロウヒーローはぎこちない笑みを返す。


882 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:29:23 TuGX3B.Q0

「……どう、なのでしょうね。
 ただ……かつての僕たちは道を違え、敵対した。
 それどころか神の名のもとに殺そうとすら思っていた。
 そんな彼を友達と呼ぶ資格があるのか……」

かつて自分は秩序の側に立ち、彼は混沌の側に立った。
最後は天使の糸に絡め取られたとはいえ、最初にその道を選んだのは自分だ。

それに自分たちは僅かな道中を共にしただけの仲だとも言える。
自分と彼、そして"彼"。
奇妙な運命の中でのみ出会い、そして分かたれた三人。
友達と呼ぶ資格どころか自分たちは結局のところ赤の他人なのかもしれない。

「……すまんマスター。先に謝っとくぞ」

何のことだろう、と思う間もなく頭に響く衝撃と痛み。
数秒経ってやっと頭を思い切り殴られたのだと気づく。

「馬ッッ鹿じゃねぇの、お前!」

拳を握りしめたままの刹那は、呆れと怒りを混ぜこぜにしたような表情を浮かべている。

「友達ってのは"これをしたから友達"だとか、そういう資格がいるもんじゃないだろ!
 それどころか喧嘩ですら無い、苛立ちのぶつけ合いやってた仲だって、ちょっとしたきっかけで友人になることがある……そんなもんだろ」

何かを懐かしむような眼差し。
ここではないどこかを見るような視線の先にはきっとロウヒーローの知らない誰かがいるのだろう。
『それに』と刹那は言葉を続ける。

「……一度や二度殺しあったからなんだってんだ。
 友達は友達だ。そこに運命だのなんだの……そんなややこしい物があろうとなかろうと簡単に変わるもんじゃないだろ?」

そういって、刹那は笑う。
その笑顔はとても尊いもののようにロウヒーローには感じられた。

「それにな、マスターは相手が"友達じゃない"って言ったらそこで綺麗に切り替えられるのかよ」
「それは……」

言葉に詰まるロウヒーロー。
確かに、それは難しいことだ。
それにその考え方は――


883 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:30:57 TuGX3B.Q0

「そうだ。それは結局誰かの言いなりになってるってことだ。
 今のマスターは違う道を――自分の意志で進める道を探しているんだろ?
 だったらそういう決断からも逃げちゃいけない。
 最終的に決めるのは俺でもない。あのダッジャールでもない。ましてや神様でもない」

ロウヒーローの目に映るのは、自分を指差す天使の姿。

「――アンタだ、マスター。アンタが決めて、アンタが背負うんだ」

目の前の少年にもかつてきっと多くの選択と、それに伴う後悔があったのだろう。
だがそれでもそれを否定しないと言っているのだ。
歩んできた道を、自身の選択を肯定するのだと。

「……そう、ですね。
 そう……決めることから逃げてはいけない……」

おぼろげな過去の記憶に思いを馳せる。

悪魔の現れる東京、金剛神界、変わり果てた街……
家族や恋人とも生き別れ、襲いかかる悪魔と戦い続けた旅路だった。
幾度と無く意見は食い違い、喧嘩したことも一度や二度ではない。
そして最終的には道は別れ、互いに殺し合った。
だが。
だが、それでも――。

「……ああ、そうですね。彼は私の"友達"……だったんですね」

短い旅路の中でも笑い合うことは何度もあった。
そうだ、彼らと一緒にいることが、嫌ではなかったのだ。
それは否定してはならないことだったのだ。

「ありがとうございます刹那君。………貴方が僕のサーヴァントで本当によかった」
「よせよ。そういうのは願いを叶えた時に言ってくれ
 ……ま、安心しろよ。
 少なくとも俺の目から見たら、アンタたちは友達以外の何物でもなかったからさ」

『説教なんて柄じゃないんだよ』と照れたように顔を背ける、天使だがどこまでも人間的なサーヴァント。
聖杯戦争が開始してまだ一日も経っていないが、それでも確信する。
彼が自分のサーヴァントで本当に良かった、と。


884 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:32:38 TuGX3B.Q0
その時だった。
礼拝堂のドアを叩く音が聞こえたのは。
刹那は瞬時に霊体化し、礼拝堂には再びロウヒーローの姿だけが残される。

普通に考えるならばドアをノックしたのはシスターや教会に務める誰かだろう。
もういい時間だ。礼拝堂を施錠する時間であってもおかしくない。
だが、何故かそうではないという予感があった。

「――どうぞ」

ロウヒーローの声に応えるように、重いドアが開く。
そして、その向こうからひょっこりと顔を出したのは小さな少年だった。

「こんばんは、牧師様」
「ええ、こんばんは。一郎くん」

少年の名は松下一郎。
このメシア教会で生活する少年だ。
大手電機メーカーの御曹司だという彼が、どうしてこの教会に預けられることになったのか。
その詳しい経緯について、ロウヒーローは知る由もない。
だがその目を見れば何となく予想はできる。そのすべてを見通すような目を見れば。

「こんな夜分にどうしたのですか?」
「ええ、今日はいろいろあったので、寝る前に祈りを捧げておこうかと思いまして」

そう言って西の空へと視線を向ける。
その先にある事故現場に思いを馳せているのだろう。
正午ごろ、新宿区で起こった謎の爆発事故、あるいは爆破テロ。
数時間たった今でも情報が錯綜しており、実際どちらであったのか未だはっきりしない。
だがどちらにしろ確かなのは、多くの犠牲者が出てしまったということだ。

「では共に祈りましょう。彼らの魂の安らぎのために」
「ええ。それでは僕は彼らの魂の安らぎと――平和なる千年王国のために」


885 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:33:48 TuGX3B.Q0

二人並んで黙祷をささげる。
長いようでもあり、短いようでもある静謐な時間。
それを破ったのは少年のほうだった。

「……牧師様。一つだけ質問してもいいでしょうか」
「ええ、僕に答えられることならば」
「牧師様は魂があるとお思いなのですね?」

それは奇妙な質問だった。
魂の実在。それはメシア教徒である以上肯定するしか無いものだ。
聡明な少年にそのことがわからないはずはない。
つまり、そんな質問をした意味とは――

「ええ、霊魂なんて、目の前に空気があるように"あるにきまっている"のです。
 千年以上の歴史の中でそれは既に実証されていると言っても過言じゃない。
 僕が言っているのは"彼らにも魂があるか"――そういった類の話ですよ」

――NPCの魂の有無について。
そのことに彼が言及した意味は一つしかない。
暗に自分が彼らとは異なる存在……つまり聖杯戦争のマスターだと告げてきたのだ。
警戒し戦闘態勢に入ろうとするエンジェル。
だがそんな彼をロウヒーローは手で制する。
あえて明言しないのは、宣戦布告などではないという意思表示なのだろう。
そうであればこちらも敵対することはない。
ただ問いかけに答えるまでだ。
……心の、望むままに。

「……ええ。一郎くんの言うとおり、僕は彼らにも魂があるのではないかと疑っています。
 正確に言えば"魂に至る何か"、ですが」
「ほう。それは興味深い答えですね」

一郎少年は身を乗り出す。
真っ直ぐな鋭い視線がロウヒーローを見つめている。
その瞳の奥にかつての友人のような強烈な意志が渦巻いているのをロウヒーローは感じた。


886 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:34:47 TuGX3B.Q0
「魂とは物体の記録であり、世界側からの記憶体、肉体に依存しない存在証明だと言われています。
 では――極めて高密度な情報体は魂と見分けがつくのでしょうか?」

この教会に務めるシスターや、言葉をかわすメシア教徒の人々。
買い出しに行くスーパーの店員やすれ違っただけの通行人。
ロウヒーローはこの"東京"で目覚めてから、様々な人々をつぶさに観察してきた。
だが正直な所、まるで見分けがつかなかった。
NPCと呼ばれる彼らはいずれも自らの意志で行動しているように見えたのだ。
それが極めて高度なAIだと言ってしまえばそれまでだ。
だがそれを言えば科学的に見れば人間の思考とて、脳の生み出す電気信号にすぎない。

「そして僕たちは超高密度の情報から構築された魂、その実例を目にしている」
「なるほど。サーヴァントとは、言わば無限情報サーキットたるムーンセルが観測した英雄たちの情報を元に構築された霊子生命体。――それは最早一種の魂とも呼べるのかもしれないですね。
 事実、調停者(ルーラー)とやらはサーヴァントと使い魔、NPCを明確に区別していますし」

流石に理解が早い。
『一を聞いて十を知る』という言葉を体現するかのような少年の頭脳に感心しながら、ロウヒーローは話を続ける。

「流石に彼らにサーヴァントほどの情報密度はないでしょう。
 ……ですが決して"0"ではない。
 故に僕は考えるのです。ルーラーがNPCと呼ぶ人々にも魂やそれに準ずるものがあるのではないか、と。
 だから彼らにもきっと神の身元へ行くことが出来ると信じ、祈りを捧げるのです」

0と1に還元される無機質なデータだけではないと。
その生には意味があったのだと。
そう、ロウヒーローは考えている


887 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:35:19 TuGX3B.Q0

「……なるほど、それは面白い考え方ですね。
 ですがそれが真実だとすると、本来の聖杯戦争とは無関係なことが起きているということになる」
「ええ、ですからこれは単なる僕自身の妄想に近い。
 結局は亡くなった彼らにも魂があって欲しいという、身勝手なエゴなのかもしれません。
 ですが……」

ロウヒーローは一度言葉を切り、一郎の瞳を正面から覗き込む。

「……ですが、そうでなかったとしても正直な所……この聖杯戦争がただの願望機の奪い合いとは……思えない。
 確固たる証拠はありません。
 ですが、どこかに誰かの意図が垣間見えるような気がするんです。
 ……それもとても危険な"誰か"の意図が」

この聖杯戦争の裏側には何者かがいる。
それも世界の危機のような、極めて危険な何者かが。
己のサーヴァントである刹那が、救世使(エンジェル)が呼ばれたことはその証左なのではないか。
いや、そうでなくともかつての自分の背後に天使がいたように――或いはかつての彼の後ろに悪魔がいたように――何者かが見えない糸を引いている……そんな想像が頭の何処かに消えてくれないのだ。
そんなロウヒーローの言葉を聞いた一郎は、少し考えこんだ後、口を開いた。

「……牧師様、一つお願いがあります。僕の使徒になっていただけませんか?」
「使徒?」
「ええ。僕の理想とする、つまらない争いのない千年王国。
 その世界を築きあげるための同士となってほしいのです。
 あなたはかつて自分のことを贄だといった。
 ですが今のあなたはきっと……真剣に世界と向き合える人だ」

その言葉は、かつて聞いた天使たちの言葉によく似ていた。
だが目の前の少年は祭り上げるのではなく、『共に』と言った。
それに瞳には苛烈な意思だけではない。
ある種の誠実さと本気で人間という種の未来に対する憂いがあった。
現代の価値観を破壊する革命児。
その有り様は混沌(ケイオス)であり、メシア教徒よりもむしろガイア教徒に近いと言える。
だがその眼に宿った確固たる何かが、無軌道なガイア教徒とは一線を画していると感じられる。
真の救世主とは彼のような人間のことを言うのだろう。
彼ならば或いは真の救世を成せるのかもしれない。
だが――


888 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:36:46 TuGX3B.Q0
「……いえ、遠慮しておきます。
 僕には僕のやるべきことがある。……少なくとも、今は」
「そうですか。残念です」

傍から見れば意外なほどにあっさりと引き下がる一郎。

「牧師様はそう答えるような気がしていました。
 それに……貴方の眼には未だ迷いがある」

やはり見透かされている。
そう思い、ロウヒーローは苦笑する。

「ええ。正直な所、今の僕は未だ確かな僕である自信がない。
 未だに確かな自分を取り戻していないような感覚がある。
 それでもかつてと違う道を、自分の意志で選ばなくてはいけない。
 今の君のように」
「……ふふ、やっぱりあなたは面白い人だ」

そう言って一郎は微笑む。
笑い慣れていないせいか、それは些か不気味では合ったが心の底からの笑みだった。
何せ元の世界では同世代の子どもたちはもちろんのこと、世の大人たちも自分と真正面から向き合おうとはしなかった。
両親ですら自分の姿から目を背け、見ようとはしなかった。
だが目の前の青年は"松下一郎"をまっすぐに見つめている。
恐れるでもなく、馬鹿にするでもなく、ただまっすぐに見つめようとしている。
だからこの"牧師様"と呼ばれる青年は一郎の興味を引いた。
それは自分が呼び出したものしか信用しない"悪魔くん"にとっては非常に珍しい事だった。

「……あなたの出す答え、僕も興味があります。
 もしも答えが出た際はぜひ聞かせてくださいね」
「ええ、僕も一郎くんに聞いて欲しいと思っていましたから」

悪魔くんの笑みに合わせるようにロウヒーローもその顔に微笑みを浮かべる。
礼拝堂に広がる奇妙な沈黙。
だがそれは決して不快なものではなかった。
不意にロウヒーローが口を開く。

「……それにしても君によく似た人を知っています。
 顔も、性格も、そのどれも似ていませんが、その意志の強そうな目が。混沌すら乗り越えそうなその目が」
「へえ。それは珍しいことがあったものだ。
 もしかしてお友達ですか?」
「ええ、僕の……友人です」
 それだけじゃない、きっとあの男にも――」

ロウヒーローの言葉が途切れる。

「あの男?」
「ああ、その……ここで話すにはふさわしくない名前だったので」

そう言ってロウヒーローは苦笑する。
礼拝堂、メシア教のお膝元で話せない名前といえば一つしか無い。
すなわち、"悪魔"に関することだ。

「ふふ、いいことを教えてさし上げましょう。
 ぼくは同級生から"悪魔くん"と呼ばれていたのです。
 ここに住んでいてこういうことを言うのも何ですが、ぼく以上にここにふさわしくない人物はいないと自負していますよ。
 ですから牧師様がその人の名前とやらをごまかしたところで今更なんですよ」

それは彼なりのユーモアだったのだろう。
少年に気を使わせてしまったことを恥じ、口を開く。
その男を見たのは救世主として祭り上げられた際に見たデータの中だった。
ガイア教の幹部にして、その正体は唯一神に歯向かった明けの明星。
その名は……

「ルシファー。仮の名前は確か――ルイ・サイファー、と」


889 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:38:16 TuGX3B.Q0

  ■  ■  ■  



「……まったく、無茶をする」

部屋に戻ってきた主を見てザインは大きくため息をついた。
マスターは自分を部屋に待機させたまま、丸腰で敵陣に一人乗り込んでいったのだ。
普通に考えれば自殺行為だ。
だというのにこの少年は汗一つかいていない。
それどころか機嫌が良さそうですらある。

「無茶ではないよ。彼は敵ではないからね。
 むしろ僕達の求める千年王国に住まうべき善良な人間だ」

無傷で帰ってきている以上その言葉は真実だろう。
だがザインは主を戒めるように口を開く。

「………だが、彼も何かの願いがあってこの聖杯戦争に参加したのだろう。
 それが僕達の目的と違う可能性は――」
「ああ、わかっているって。
 もし僕達の前に立ち塞がることを選んだ時は容赦はしないよ。
 僕達には成し遂げるべき使命があるのだから」

誰もが幸せに暮らせる千年王国。
幾多の聖者が夢に見て、ついに到達できなかった幸福な世界。
それに手が届くであろう聖杯戦争という舞台は松下一郎にとって千載一遇のチャンスだ。
みすみす逃すつもりはない。
……例えそれが何者かの思惑通りであったとしても。

「……それにしても僕をこの東京へと誘った悪魔が君たちの世界の悪魔だったとはね。
 ぼくらが魔界と呼ぶ場所は、案外君たちの世界に通じているのかもしれない」

しかし何にせよ、あまりよろしくない事態だ。
この聖杯戦争は少なくとも悪魔の干渉を受けている。
ならば自分がまだ知らないだけで他にも外部から干渉を受けていると考えるのが妥当だろう。
果たして裁定者(ルーラー)はこのことを知っているのだろうか。

「やれやれ、困ったことになったなあ。
 まったく仮にも調停者(ルーラー)と名乗ってるんだから、管理ぐらいちゃんとしてくれないと困るよ」

一郎はそのままベッドに寝転がり、目を閉じる。

「マスター、眠るのか?」
「まさか。ちょっと明日以降のことを考えなきゃいけないから集中するだけさ」

億劫ではあるが呆けていて事態が好転することはないのだ。
明日は何かしら行動を起こさねば。
しかし盤面は一日目にして複雑怪奇なものになっている。

(さあて、どう動くべきかな……)

教会の一室で深く、静かに悪魔的頭脳は回転を始める。
それはある種の冒涜的な魔術めいていて――。


890 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:38:33 TuGX3B.Q0
【B-4/品川・メシア教教会/1日目 夜】

【ロウヒーロー@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一人暮らしの学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:人として抱いた願いをまずは取り戻す
1.ジョーカーや夢といったかつてを思わせる状況を追うことで、今に至る自分自身を追い見つめなおす。
2.ジョーカーをどうするのかは自分の意思で決める。
3.救世主であり、友であった“彼”と“彼女”が二人でいられたのかが知りたい。
4.松下一郎は気がかりではあるが、今の自分は自分から彼の敵に回るつもりはない。
[備考]
※サンダルフォンの夢を何らかの予兆として捉えています。
 サンダルフォン@天使禁猟区についてエンジェルより情報を得ました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターだと確信しました。
※カオスヒーロー及びザ・ヒーローの真名を忘却しています。
※NPCと呼ばれる人々にも魂があるのではないかと考えています。


【エンジェル(無道刹那)@天使禁猟区 】
[状態]健康
[装備]なし(宝具は実体化させていない)
[道具]なし
[所持金]逃避行開始時の先輩からの選別込の所持金程度
[思考・状況]
基本行動方針:ロウヒーローの仲間として、彼が自分の生き方をできるよう共に戦う。
0.ルシファー、か……
1.ロウヒーローとともにジョーカーを追う。
2.ロウヒーローが予兆として捉えた夢について警戒。
 ロウヒーローが再び生贄の道を辿ろうものなら何としてでも止める。
3.様々な符号からこの聖杯戦争の裏に、自分たちに知らされている以上の何かや何者かがいるのではと懐疑的。
4.松下一郎をザフィケルと重ね、現状敵でないにしてもその策謀やいずれには警戒。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターだと確信しました。



【松下一郎@悪魔くん 千年王国(全)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:ザインの宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:なぜ竜が目覚めた……?
3:ジョーカーの討伐報酬は魅力的に感じています。
4:ルイ・サイファーは何故僕を東京に送り込んだ?
5.ロウヒーローを使徒の一人として迎えたいと思っています。
[備考]
※『封印されし半身<セト>』が反応を示しました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと確信しました。


【ライダー(ザイン)@真・女神転生Ⅱ】
[状態] 健康
[装備] テンプルナイトとしての装備
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:自身の宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:竜の目覚めの兆しを感じ取り、高揚状態。
3:今の自分ではジョーカー討伐は難しいと考えています。
4:ロウヒーローに対して、複雑な感情を抱いています。
[備考]
※『封印されし半身<セト>』が反応を示しました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと考えています。


891 : 悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY :2016/02/08(月) 02:39:00 TuGX3B.Q0
以上で投下終了です。


892 : 名無しさん :2016/02/08(月) 13:43:10 gydhnPmAO
投下乙です

魂食いできるんだから、魂っぽい何かは持ってるんだろうね


893 : 名無しさん :2016/02/09(火) 02:20:11 SkmoVUnI0
投下乙です!

おお、刹那がすげえ刹那している……。
真っ直ぐで本当に真っ直ぐで。友達のことをこいつがいうとめっちゃ重いし説得力が……。
そうだよな、殺しあった相手もいれば、殺してしまって後悔した後で友だちになったのもあったりしたくらいだものな。
ロウヒがカオヒを友だちだと気づいたところでぶわっときた。
そして悪魔くんとの会話の内容もさることながら、真剣に向き合ってるのすごいいい。
聖杯の裏側にも考察が行ってこの先どうなるのか楽しみだわ


894 : 名無しさん :2016/02/09(火) 19:47:02 uJZZf1tA0
投下乙です!

かつて救世主と呼ばれた男と、救世使となった青年、そして、これから救世主になろうとする少年
互いの人格を認め合い、向き合おうとする三人の対話が、爽やかで気持ち良かったです


895 : 名無しさん :2016/02/09(火) 22:21:31 r7ynIHlQ0
投下乙ですー 2つのやり取りがぐっときました
道中を共にし、互いに助け合い、身を案じていた日々は確かに存在していた…
物語を経た後の刹那が放つ言葉に重みがあって
ヨシオが彼らを友達だったと言えるようになったのがとても良かったです
悪魔くんが悪魔くんらしくて、真摯で、ヨシオが彼に閣下と似たものを感じていることを告白するところもいい


896 : 名無しさん :2016/02/25(木) 23:23:10 J5yWSsiQ0
投下乙
表題、よくよく考えたら確かに悪魔くんも笛吹く存在ですね
この帝都ではソロモンの笛は現れるのだろうか
ロウヒーロー組との会話も、帰宅後の飄々とした様子も彼らしくていいな


897 : 名無しさん :2016/03/13(日) 22:58:52 yb40yHIE0
只者ならぬオーラがにじんでいるぞこの悪魔くん…
悪魔とはそれを呼べる力を持つ者こそ悪魔、的な佐藤の言葉もあったし
そいや「鬼太郎対悪魔くん」じゃ地獄を制服して地上と地獄を統一すべく
魔王クラスの悪魔を従えて東京占領を行うというトンデモないこともやってたね
実に似ている


898 : ◆devil5UFgA :2016/04/27(水) 01:59:14 ale0IgKM0
ふうまの御館&キャスター(加藤保憲)
狡噛慎也&焔
予約します


899 : 名無しさん :2016/05/21(土) 22:16:09 jf17vf7g0
三週間経過ですね


900 : 名無しさん :2016/05/22(日) 22:29:55 b0Q0M0Ag0
そうだね…どうしたんだろう?


901 : ◆HQRzDweJVY :2016/07/22(金) 00:15:58 bY9kNxEA0
羽藤桂&アーチャー(夕立)
七原秋也&キャスター(操真晴人)
桐山和雄&ザ・ヒーロー(ザ・ヒーロー)
予約します


902 : ◆devil5UFgA :2016/07/27(水) 01:19:41 32lR6WXg0
お久しぶりです。
>>898にて予約を入れておりましたが、破棄させていただきます
リアルで立て込んでいたものの、報告をしないままで大変申し訳ありませんでした
破棄をした予約分だけでなく、時間が取れれば本スレを進めたいとは考えています
ご迷惑をお掛けしました


903 : ◆HQRzDweJVY :2016/07/28(木) 02:50:40 aDfHjeb20
申し訳ありません。
リアルの建込もあいまって間に合いませんでしたので、一度破棄します……


904 : 管理人★ :2017/07/01(土) 22:02:24 ???0
本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。


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