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ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所8
202
:
アキゴジ
:2011/07/23(土) 01:15:45 ID:HBC3wHnI
はい、以上です。前よりもスムーズにできたかな?と思います(少佐の扱いが前回同様なのは勘弁してくだせえ・・・)
203
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/07/23(土) 23:46:57 ID:Gm31Zd4I
>名無し様
王道のエイラーニャ小説ですが、王道とあってハードルは高いハズ…!!けど、そのハードルをいとも簡単に乗り越えられてる感じが!!
読んでて、とても癒されました〜!
>アキゴジさま
前作と違い、楽な気分で読めました!
芳佳「へ?じゃあ・・・お姉ちゃん!怒っちゃやだよ!」
バルクホルン「うぐっ・・・!」
シャーリー「お〜、止まった」
のやりとりが一番好きですw
さて、この間生放送のラジオを聞いてたら一般のリスナーさんに電話をする…というコーナーがあって、ガチガチに緊張されてた方が居たんですね。
それを思い出し、深夜に突発的に書いてみました!
204
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/07/23(土) 23:48:15 ID:Gm31Zd4I
【Belastung】
「…ではみんな、良い…?」
とても風の強い深夜…基地の窓はガタガタと音を立てている。
そんな中、501部隊の皆は基地の談話スペースに集まっていた…。
一番前にミーナが皆に声をかける。次に、
「覚悟して聞くようにな」
坂本が気合を入れる。
「リーネちゃん…」
「芳佳ちゃん…ドキドキが止まらないの」
「私も…」
「シャーリー…この空気、やだよお」
「がーまんだ、ルッキーニ」
「シャーリーも怖いの?」
「ああ、ものすごく怖いさ」
「サーニャ…怖いノカ?」
「エイラ、私…もう…」
「大丈夫だ、サーニャ…大尉は…きっとやってくれるサ」
「坂本少佐…」
「大丈夫、安心しろペリーヌ。バルクホルンなら…成し遂げてくれるに違いない!」
「そ、そうですわよね!大尉がヘマだなんて…!!」
談話室は、とても緊張した空気が流れる………。
「フラウ」
「………」
「フラウ?」
「…ミーナ、私…心配だよ…だってトゥルーデが…」
「…っ!!こんな、隊長の私が言うのもなんだけど…私も心配だわ」
ミーナは、隣で小刻みに震えていたエーリカを優しく抱きしめる...
「でも…仕方ないわ、あの娘が決めたことだもの…」
「でっ、でも…!!他のメンバーでも!!」
「トゥルーデが、断固として自分がやるって言ってたんだもの…私だって!代われるものだったら、代わってあげたかったわよ!!」
「ミーナ!落ち着け!」
感情的になったミーナを、坂本が止めた
「私だって…心配してるんだ」
「美緒も?」
「ああ…」
彼女が珍しく自信無さげな表情をし、気付いたら数分もの間沈黙の空気が流れる………。
「トゥルーデ…」
エーリカがボソッと名を呼ぶ。
「ねえトゥルーデ…なんで…無茶するの…?」
「フラウ、さっきも言った通りトゥルーデが決めた事なんだから」
「神様!お願い、何も…トラブルが起こらないようにしてください!」
そこにいた全員は口には出さないものの、エーリカと想いは一緒だった…。
そして、運命の時間がやって来た。
「おーい、そろそろ良いか?」
シャーリーが無理やり元気を出し、一番前に出る。
すると布を被った何やらを引き出してくるのであった
「ええ、お願いしますシャーリーさん」
「んじゃ、ほいっと」
布の中から出てきたのは…!?
***
205
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/07/23(土) 23:48:50 ID:Gm31Zd4I
ピッピッピッポーン♪
「こんばんは、ロマーニャ中央放送がお送りします『オールナイトロマーニャ』!深夜の水先案内人ことDJは私、フェデリカ・N・ドッリオが皆さまを眠れない夜に放送しちゃいまーす♪今夜のゲストは…現在ロマーニャの空を共に守ってくれるこの人!」
「………」
「…あれ?ゴホン、第501統合戦闘航空団のゲルトルート・バルクホルン大尉でーす」
「こっ、こんばんは!」
「はい、具体的に第501統合戦闘航空団はどのような任務に就いてるのーっ?」
「あ…はい!えーと…ネウロイをやっつけてます」
「…バルクホルン大尉は、どんな役割をしてるのかなー?」
「あ…はい!銃で撃ってます」
「…そうなんだあ、じゃあ第501統合戦闘航空団で好きな時間はどう過ごしてるのかなー?」
「あ…はい!クリスに手紙を書いてます!」
「…へえ!そもそも、どうして第501統合戦闘航空団が結成されたのー?」
「あ…はい!それはですね…」
「ごめんなさーい、時間来ちゃいましたー!今夜のゲストは第501統合戦闘航空団からゲルトルート・バルクホルン大尉でしたー」
***
後日この放送を、ミーナの居る執務室にて録音したものを再度聞くバルクホルン・エーリカ・ミーナの3人。
「「………」」
「…ふう、70点の出来だな」
「はあ?!どこが70点なのトゥルーデ!!0点だよ、0点!」
「そうねえ…まず、緊張し過ぎ」
「やっぱり生放送だと、私の実力が発揮できないな」
「そんなレベルじゃないよトゥルーデ!」
ソファーで寝そべっていたエーリカだが、ここぞとばかりと立ち上がる。
「これは放送事故だよ!?」
「何だと?!」
「戦闘航空団がネウロイをやっつけるのだなんて、大概はそうだよ!当たり前だよ!」
「いやあ…そのちょっとお茶目な所が、全世界の『いもうと』達の母性本能をくすぐるのではないかなと思ってな」
「はああ…」
ミーナは頭を抱えながら、
「ねえトゥルーデ、なんで…私やフラウ、もっと言えばシャーリーさんと交代しなかったの?」
「良いかミーナ、ラジオと言うのは聞いてる皆に戦局の情報やはたまたや安心させるための物だ。だからシャーリーのように、あんな浮いたヤツはダメだ!ここで冷静沈着でクールな現実主義者な私が…」
「何処が冷静沈着でクールなの!?全ての質問に『あ…はい!』って言葉が詰まってたじゃない!」
「いや、いざマイクの前に座るとだな…その…」
「はあ…だったらラジオ経験者のエイラさんとサーニャさんに頼めば良かった…」
「………スマン」
「最初っから謝れば良かったじゃん…」
「…スマン、2人とも…」
「皆に謝りなさいよ」
その後、『広報』の仕事を一切引き受けなかったバルクホルンであった…。
【おわれ】
206
:
62igiZdY
:2011/07/26(火) 21:30:35 ID:oBdTszHo
>>197
アキゴジ様
>>203
Hwd8/SPp様
感想ありがとうございます!
初投稿で緊張していたので嬉しく思います!
>アキゴジ様
トゥルーデ、シャーリー、ハルトマンに振り回される芳佳がかわいさに全力でニヤリとw
最後のミーナさんもかわいくてよかったです!
>Hwd8/SPp様
緊張して何も言えないトゥルーデがありありと目に浮かびました。
それとフェデリカさんのラジオがものすごく気になる!
続編を密かに楽しみにしていますw
前作『未来の先にあるもの』の続きのシチュエーションでちょっとしたものを書いてみましたので、よかったら!
207
:
どっちがお好み? 1/2
:2011/07/26(火) 21:33:25 ID:oBdTszHo
「ところでミヤフジ、さっきのはどういうことダ?」
それから、すごいですよー、と、ソンナンジャネーヨ、を一頻り繰り返したところでエイラが宮藤に問うた。
「さっきのって、私何か言いましたっけ?」
相変わらず察しが悪い宮藤に対して、エイラは一層ジトっとした目線を向けた。
「何か言ったのは私の方ダゾ。それに対してオマエは何も言わないでサラッと流したじゃないカ」
それでもまだ存ぜぬといった風の宮藤に、痺れを切らしたエイラは毅然とした口調で命じた。
「とりあえず、サーニャのいいとこすごいとこ十個挙げてけ」
「ええぇ、十個も」
思わず素で反応してしまったところで宮藤はハッと気付いた。気付いて口を押さえる仕草をするも時すでに遅し。目の前のエイラは更に睨みを効かせた視線で迫ってきた。
「も、ってナンダヨ、も、って。そんな失礼なこと言うようなヤツには、お仕置きが必要ダナ」
指をワキワキさせながら、表情をニヤニヤさせながら、近づいてくるエイラに対してその身を庇う、というか胸を隠すような体勢を取る宮藤。
こういうときに咄嗟に背を向けて逃げようものなら鷲掴みにされて格好の餌食となることを身を以て体験していた宮藤は、下手に逃げようとせずに対峙して隙を窺っていた。
しかし相手はスオムスが誇るスーパーエース、傷を知らないダイヤモンド、エイラ・イルマタル・ユーティライネンその人だ。
相手を逃がさんとする意思表示か、狐の耳と尻尾を現出させたエイラが不敵に笑う。宮藤が不覚を取るにはまだまだ早い。
一瞬の視界に映ったものに、あっ、と言わんばかりの表情を作った宮藤の隙を、見逃さないエイラではなかった。
サッと身を翻し、いとも簡単に宮藤の死線を横切ると背後を侵した。
そして素早い動作でエイラは宮藤の、お尻を揉みしだいた。
「ひゃあ!」
と情けない悲鳴を上げた宮藤だが、驚きの余りに逃げ出せない。
「お、おおぉ。オマエ、こっちもなかなか成長期じゃないカ?」
揉む力を更に強めるエイラに宮藤はいじらしく声を上げる。
それでも宮藤が動けないのは、物陰に隠れたもう一人の刺客のせいであった。
そしてその影は踊るように飛び出し、華麗で大胆な機動を描きつつも、宮藤に逃げる隙を与えなかった。
ヤツが仕掛けてきたときが好機と踏んで留まっていた宮藤だったが、このガッティーノもまたロマーニャの誇るスーパーエースであることを軽く失念していたのだ。
「よしかぁ〜、変な声出してな〜にしてんの?」
俊敏な動きで懐に入り込んだルッキーニによって、宮藤の胸は敢え無く陥落した。
つい先刻、宮藤の視界に入り、図らずも一瞬の隙を作り出したのがフランチェスカ・ルッキーニその人であった。そしてエイラとルッキーニ、おっぱい星人コンビの連携は見事な作戦成功を収めたのだ。
208
:
どっちがお好み? 2/2
:2011/07/26(火) 21:35:24 ID:oBdTszHo
結局、二人に捕らえられて揉みくちゃにされた宮藤は、撃墜寸前のところでようやく解放された。
「もー! ひどいよー。エイラさん、ルッキーニちゃん!」
「へへ、ナンテコトナイッテ。それにしてもミヤフジ、胸の方も少しは成長してるんじゃないカ? なぁ、ガッティーノ」
「まだまだ残念賞だけどね〜。あ、でももう少〜し成長したら努力賞あげてもいいかも」
二人のおっぱいマイスターによる勝手な品評会に、宮藤は大げさに溜息を吐いた。
「それにしても驚きましたよー。エイラさんがお尻を狙ってくるなんて……」
「不意打ちだったダロ? いつもいつも胸ばかり見てるからナンダナ」
さりげない指摘に宮藤は反論が出来ない。やっぱり皆からもそういう風に思われているのだろうか。
「そういえば、エイラー、私がいるのよくわかったね」
「私の固有魔法を忘れたのか? それくらい朝飯前ナンダナ」
相変わらず無駄なところでも能力を発揮するのは悪戯好きの本能だ。
「ときにミヤフジ。私の見立てによるとオマエ、胸よりお尻の方が大きいんじゃないカ?」
唐突に問われた宮藤は一瞬ギクリと身を震わせた。それを見逃さないエイラはニヤリとすると畳み掛けるように言った。
「ま、オマエくらいのサイズだったら気にすることでもないけどナー」
何気に気にしてることなのに! とこれには噴火せざるを得ない宮藤に、マジで気にしてたのかヨ、とエイラは面倒臭そうに応じる。
そしてルッキーニの無邪気でさりげない一言が、事態を更なる混沌の渦へと叩き落とした。
「お尻と言えば、やっぱりミーナ中佐が一番だよね〜」
刹那に悪寒を感じたエイラは神速の機動で物陰にその身を隠した。
その様子をポカンと見つめていた二人は、その意味を数秒後に知ることとなる。
談話室の入口付近から放たれる赤い閃光に、いち早く気付いたルッキーニは滝のような汗を流し出した。
キュッ、と何か不穏な音が聞こえた気がした次の瞬間、ルッキーニの背後には無慈悲な笑みを湛えたその人が立っていた。
「誰の何が一番ですって? フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」
据わりきった瞳で見下ろされるルッキーニは、最早カタカタと震える石像と化していた。赤毛の司令官、スペードのエース、女公爵ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐による先日の二百機目撃墜で、そのワードは隊内(豪放磊落で天然ジゴロな副官は除く)において暗黙のうちにタブーとなっていた。
ルッキーニは今まさにその禁を犯したのである。
「うじゅぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
奇妙な悲鳴を上げて連れ去られるルッキーニに宮藤は心の中で合掌した。と、不意に足を止めたミーナは談話室を振り返り、絶対零度の視線と声色で机の陰に隠れるもう一人の悪戯猫を射抜いた。
「そこに隠れてるエイラさんも、一緒に司令室に来てくれるかしら?」
疑問形なのに命令に聞こえるその迫力は何処から湧いて出てくるのか。そんなんだからさんじゅうはっさ、ゲフンゲフン、とか言われるんだよ、と心の中で悪態をつくエイラ。口に出そうものなら軍法会議をすっ飛ばして銃殺刑だ。
大人気なく固有魔法=三次元空間把握能力を発揮したミーナは、二人を引きずって談話室を後にした。
残された宮藤は絶対にお尻には手を出さないようにしようと胸に誓い、また胸のことばかりを考え始めた。
終わり
209
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/07/29(金) 21:32:17 ID:U8RwtutU
>>202
アキゴジ様
GJです。「いやぷに」のシーンが目に浮かぶようです。
>>205
Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJです。緊張して何も言えない、まさに「堅物」な大尉殿ですねw
>>196
>>208
62igiZdY様
GJです。登場キャラがすごい魅力的です。エイラもミーナさん大人げないw
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
210
:
lab=01 01/02
:2011/07/29(金) 21:33:20 ID:U8RwtutU
「おい、どう言う事だ、これは?」
トゥルーデが怒声を上げる。いつもの事かと思いきや、声色にどこか焦りが混じっている。
皆が声の主の方へ振り向くと、慌てて介抱している彼女の姿があった。
「どうしたよ堅物」
のんびりと箸をくわえたまま様子を見るシャーリー。
「どうしたもこうしたも有るか。夕食を食べた途端に……」
トゥルーデが介抱しているのは、501へやって来たウルスラ。
技術試験と称して様々な武器・ストライカーのテストに来た筈なのだが、夕食を半分位食べたところでぐてっと机上に突っ伏してしまったのだ。
「おい宮藤!」
夕食を作った芳佳を呼びつける。
「大丈夫ですかね、ハルトマンさん」
「何か変な物を入れたりしてないか?」
詰問するトゥルーデに、呑気に答える芳佳。
「まさかそんな事する訳ないじゃないですか。他の皆さんも普通ですよ」
周りを見るトゥルーデ。確かに、ウルスラ以外の誰もが、いつも通りである。
「何か混入したとか」
「……あ」
「何か思い当たる事でも有ったのか?」
「今夜の夕食、天ぷら蕎麦なんですけど」
「この付け汁で食べるヌードルに、アレルギーになる様なものでも有ったのか?」
「いえ、そばつゆ作る時にみりんがなかったので、お酒と砂糖で代用しました」
「それだけ?」
「はい」
トゥルーデはウルスラの蕎麦つゆが入った容器を観察する。そして、小指の先をつゆに浸し、ぺろりと舐めた。
「……これは、酒じゃないかっ!」
驚いたのは芳佳。慌てて問題の蕎麦つゆを一口舐める。
「あれ、お酒ですね。ちゃんと煮てアルコール飛ばしたのに」
「!?」
トゥルーデ、そして話を聞いていたシャーリーの二人が、一斉に美緒を見る。
酒と言えば美緒。
しかし彼女は……他の隊員同様、特に何処かおかしくなる様子もなく、とても美味そうに故郷の味を楽しんでいた。
「少佐は、何とも無いのか?」
「どうした、バルクホルンにシャーリー」
「少佐、ちょっと失礼」
シャーリーは美緒が手にしていた蕎麦つゆを取り上げると、ぺろりと舐めた。
「ありゃ、普通だわ。酒も何も無いけど」
「……本当だ」
「どうしたんだ一体。蕎麦つゆに酒など……いや、有ったか」
「え?」
「扶桑では昔、修行僧がこっそり酒を飲む為に、蕎麦つゆに酒を混ぜて食する事が有ってな」
笑う美緒。その横で、何故かちょっぴり不機嫌なミーナ。
「宮藤! お前一体何を!」
「私何もしてません! 本当です!」
「おいおい、宮藤を疑うのかよ」
「しかし……じゃあこの酒は一体」
「分かりません。……あ、そう言えばハルトマンさんが」
「ん? どのハルトマンだ」
「ええっと……」
「ハルトマンならついさっき夜間哨戒に出掛けた筈だが」
「そのハルトマンじゃなくて?」
「と、ともかく!」
トゥルーデはぐったりしたウルスラを抱きかかえ、立ち上がる。
「介抱しなければ」
211
:
lab=01 02/02
:2011/07/29(金) 21:34:57 ID:U8RwtutU
来客用の部屋に着くなり、ベッドにそっと寝かしつける。
呼吸も落ち着き、顔色も少しずつ戻りつつある。
「やれやれ。扶桑の酒で酔っ払っただけか……いや、それはそれで問題だな」
呟くトゥルーデ。横には申し訳なさそうな芳佳の姿が。
「すいません、私の不注意で」
「いや……。他の隊員は問題無かったのだから、宮藤が作った元々の食事は問題無かったんだろう」
「はあ」
「誰が酒を盛ったか、と言う事になるな。誰か心当たりはないか」
「ハルトマンさんが」
「どっちの」
「ええっと……」
説明に困る芳佳を見、溜め息を付くトゥルーデ。
「分かった、もう良いぞ宮藤。後は私が面倒を見る。お前は厨房係としての責務を全うするんだ」
「分かりました。では、失礼します」
芳佳は出て行った。
眠るウルスラ、そして傍らで一人見守るトゥルーデ。
だいぶ酒が抜けて来たのか、いつしか呼吸、胸の鼓動はいつもと変わらない感じに戻る。ぐっすりと眠るウルスラ。
トゥルーデはほっと一安心する。
しかし一体誰が? と訝る彼女の両目を、突然誰かが覆った。ひやっとした感覚を瞼に感じ、ぞくっとする。
「あー、上空の風ってやっぱり冷たいねえ」
エーリカの声と即座に分かったトゥルーデは、さっと両手を掴むと向き直った。
「おかえり、と言いたい所だが……」
「ありゃ、もうバレた?」
やっぱりお前のせいか! と怒鳴りかけたところで、手でしっかり口を塞がれる。
「静かに。ウーシュ起きちゃう」
声のボリュームを下げて、ひそひそと話す二人。
「お前なぁ。妹に何て事するんだ」
「これは姉なりの優しさだと思って欲しいな」
「優しさ? どうして妹の食事にアルコールを混入させる必要が有る」
「そうでもしないと眠らないからだよ」
「何?」
「トゥルーデ気付かなかった? ウーシュ、多分最近殆ど寝てないんだよ。顔色見ればすぐ分かるよ」
トゥルーデはウルスラの顔を見る。気付かなかったが、言われてみれば、確かに少々寝不足だった様に見えなくもない。
そして酒が抜けても、深い眠りのままである事から、確かにエーリカの言う事がその通りなのかも知れない、と思う。
「流石は実の姉、と言う所か」
トゥルーデはそう言うと、椅子に腰掛け、肘を付いて考えを巡らす。
「しかし、皆の居る前で彼女は突っ伏したからな……酒も入っていたし」
「こうでもしないとウーシュは寝ないよ。知ってるでしょトゥルーデも、ウーシュの性格は」
「それは、まあ……。だが、だからと言って……」
「もう、私のせいでいいじゃん」
「そう言う問題じゃない」
「違うの?」
「そうした所で、どうなる」
困り顔のトゥルーデ。普通に考えれば懲罰モノだが、色々考えると情けも湧いてくる。そして立ち上がる。
「私がミーナに話してくる」
「それじゃあ余計に混乱するよ」
肩を掴まれ座らされる。
「じゃあどうしろと。お前がまた謹慎だのトイレ掃除だのするのも……」
頭を抱えるトゥルーデ。そんな彼女は、愛しの人にぐいと押され、ウルスラのベッドに寝かされる。
「おい、何の真似だ」
「たまには三人で寝ようよ」
「何で」
「私が寝たいから。あとウーシュも同じだと思うな」
「何なんだお前達は……」
言いながらも、そっと優しく、二人をあやす様に寝かしつける。トゥルーデもいつしか浅い眠りに落ちた。
翌朝、ミーナから昨夜の夕食の件について問われたウルスラは
「少々私が疲労していただけで問題有りません。何も」
を繰り返し、(書類上)何も無かった事にした。ミーナも意図を察し、その様に扱った。
執務室を出た後、待っていたトゥルーデ、エーリカと合流するウルスラ。
「自分の身もそんな風に扱うとは……さながら、生粋の研究員だな」
半ば呆れ気味に言うトゥルーデ。
「理由は単純です。皆に迷惑を掛けたくなかっただけです」
いつも通りのウルスラ。
「私達の前では、無理しなくていいんだよウーシュ?」
エーリカが笑う。
ウルスラも笑った。
「だから、こうしてたまに、来るんです」
end
212
:
名無しさん
:2011/07/29(金) 21:36:19 ID:U8RwtutU
以上です。
トゥルーデはみんなのお姉ちゃん、と言う事で。
ではまた〜。
213
:
62igiZdY
:2011/07/30(土) 02:42:17 ID:0Zcd6fCM
>mxTTnzhm様
感想ありがとうございます!
ringシリーズいつも楽しみにしています。エーリカ、トゥルーデ、ウルスラの三人組はすごく和みます。
少しばかり長いですが、シャーリーさんが501へ配属されるエピソードを想像してみました。
シャーゲルへと至る物語です。よかったらどうぞ。
214
:
夢のかたち 1/6
:2011/07/30(土) 02:45:37 ID:0Zcd6fCM
この広い広い蒼穹に抱かれて、年頃の乙女に似つかわしくない重い重い鉄の塊を抱いて、
彼女は、酷く独りだった――。
『夢のかたち』
第501統合戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズ。
欧州における対ネウロイ戦が激化の一途を辿る中で、全人類の希望として設立された連合国軍統合戦闘航空団。ネウロイへの反攻作戦を視野に入れた文字通りの少数精鋭部隊にして各国の誇る英雄たちの掃き溜め。その第一番目の数字を冠する部隊、ストライクウィッチーズは、同じ蒼空を駆る魔女たちならば知らない者はいないほどのエースの中のエース、その名を地平線の彼方までも轟かせる七人の魔女たちによって構成されていた。
彼女たちの華々しいまでの活躍はまさに人類最後の砦。露と消えた欧州奪還の日も遠い未来ではないようにさえ思える。
そのような大勢の中で、対ネウロイという旗の下、連合軍の、引いては全人類の結束を目指して各国は欧州各地に展開する統合戦闘航空団への惜しみない支援を行った。
その一環として第501統合戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズへの戦力拡充が決まったのだ。
さて、名立たる英雄たちに連なる八人目の魔女は一体誰であるか。ダイヤのエースと同郷の極北のマルセイユか、はたまた侍、魔王と並び称されるリバウの貴婦人か、あるいは空飛ぶ要塞ワンマン・エアフォースか……。熱狂的な人々は日夜予想を並べ立て、ゴシップもまた様々な空論をでっち上げた。
遥か海を隔てた異国の地の情勢など外の世界の出来事でしかなかった彼女、シャーロット・E・イェーガー少尉にブリタニア行きの辞令が下ったのは、そんな折のことであった。
「ストライクウィッチーズ?」
最初にその命を聞いたときには俄には信じ難かった。
ストライクウィッチーズの名を知らなかったわけではない。むしろその有名すぎるほどの部隊名が出て来たことに実感が湧かなかったのだ。それは、蒼空の守り神として歴戦の英雄たちと肩を並べられることへの歓喜や、欧州奪還の要となるであろう部隊へ配属されることへの不安や、人類の明日はこの手で救ってみせるといった意気込み、からなどではなかった。
「なんで、あたしなんかが?」
それは率直な感想であり疑問であり、諦観であった。
各国のエースが集うストライクウィッチーズへの転属。それはリベリオンを背負って立つという名誉であり、実質的な昇進の話でもある。だがシャーリーにとってはそんなことはどうでもいい話であった。501への配属、それは良くも悪くも、原隊からの追放という風にしかシャーリーには感じられなかったのだ。度重なるストライカーの無断改造と軍規違反。自由奔放な性格の彼女にとって、軍隊という世界は少々窮屈過ぎたきらいがあった。
確かに、ストライカーを駆る魔女たちの姿に心を魅かれ入隊を志願したのは他でもない彼女自身である。ただ、このままでは彼女はその目標を達成することが出来ない、かもしれない。そういった焦燥と自らの選択に対する疑問がシャーリーを苛み悪循環の思考へと貶めていた。
上層部のお偉方にどんな利害関係が築かれているのか。考えても仕方ないと決め込んだシャーリーは、それでもこの昇進は事実上の左遷に他ならないと結論した。
それならもっとあたしのやりたいようにやらせてくれたらいいのに。
と内心で悪態をついても今更だと気付き、その意識を遥か海の彼方へと投じた。
215
:
夢のかたち 2/6
:2011/07/30(土) 02:48:34 ID:0Zcd6fCM
少尉任官後、欧州戦域を転々とした経緯を持っているシャーリーであったが、まだまだ軍に入って日は浅い。
撃墜数も両の手で数えられるほどでしかなく、目立った戦果もあげられていない。
何より欧州での悲惨な現状を目の当たりにし、戦場においての根本的な存在理由を模索するようになっていた。
「あたしはなんのために戦っているのだろう……」
海の向こうで見た空は、かつての輝かしい青さを失い、灰色に閉ざされていた。どんなに快晴な空であっても、何処か濁っているように感じられてならなかった。
人の気持ちがそうさせるのだろう。
国を追われた人々。
大切な誰かを失くした人々。
欧州の空に上がる乙女たちの多くもまた、それぞれ心の何処かに同じ傷を負った者たちであり、同じ標を追う者たちであった。
501に集う魔女たちもまた然り。
祖国奪還を悲願とする者、戦いに全身全霊を捧げる者、家族との再開を夢見る者。
ストライクウィッチーズの乙女たちが抱える傷の深さは、シャーリーが未だかつて触れたことのない、もちろん身を以て体験したこともない、ものであることは容易に想像出来た。
その想像が故に、シャーリーは悩んだ。
自らにストライクウィッチーズの仲間に入る資格があるのだろうか、と。
規律に厳しいカールスラント人と生真面目と評される扶桑人が仕切る部隊だ。
自身と馬が合うかも分からない。
むしろ自分の望む環境とは程遠いかもしれない。
戦う理由など特に考えもしなかった自分は、受け入れられないかもしれない……。
良くない想像の螺旋を断ち切るように頭を振ったシャーリーは、それ以上深く思い悩むことを止めてブリタニアへと発つ日を待つことにした。
それからの日々は音速で過ぎていった。
リベリオンでの残された時間を戦う理由など小難しく考えるのではなく、シャーリーはそれまで以上に自分自身であろうと務めた。相変わらず人の目を盗んでのストライカーの改造は継続した。自らの目標が何であるかを再確認するかのように。それを上官に見つかることもあったがもう咎められることはなかった。そのことはより一層シャーリーに疎外感を与えたが、実際にリベリオンを出るのだからと深く考えないようにした。
そして現在シャーリーは欧州へと向かう艦に揺られている。シャーリーの原隊は陸軍だが、今まさに乗っている艦は海軍の軍艦だ。
「見送りすらなしかよ」
我が身一つと相棒であるストライカーのみで乗り込んだ艦は、こんなにも大きいのにとても狭苦しく感じられた。
一週間の航海の後に辿り着いたブリタニアの空は、生憎の雨模様であった。
「ツイてないね、まったく……」
ロンドンの古風な街並みを彩る雨も、戦時中とあってはより深い陰を落としている。
シャーリーは諸々の手続きのため、まずはロンドンの連合軍総司令部へ赴き、その後単身でストライクウィッチーズ基地へ向かう手筈となっていた。だが予定以上にロンドンで時間を浪費してしまったシャーリーが基地へ辿り着いたのは、その日の夜遅くになってからであった。
「まさか、ロンドンで迷子になってて遅れました、なんてとても言えたもんじゃないなぁ」
本来なら今日の午後には基地に着いて着任の挨拶を済ませることになっていたのだが、まさかの大遅刻である。
「心象は最悪だね……」
どう言い繕ったものか、と考えながら基地に入ったシャーリーはまず司令室に通された。
「あなたが、シャーロット・E・イェーガー少尉ね。こちらに配属されてからは中尉に、ってことだったかしら」
司令室には長い赤髪と温和な笑みが印象的な女性と、黒髪に眼帯の一見怖そうな女性が待ち構えていた。
(この二人が、かの有名な女公爵とサムライか……。確かに風格が違うな)
「私が、第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズ司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。こちらは副司令で戦闘隊長の坂本美緒少佐よ」
二人分の軽い紹介を終えたミーナに対して、シャーリーは若干の拍子抜けしたような感じを覚えた。
(もっとこう、お堅い雰囲気を想像していたんだけど……)
「報告では、今日の午後には到着するとなっていたから、随分と心配したのよ。不測の事態にでも巻き込まれたんじゃないかって。でも無事に辿り着いてよかったわ。長旅、お疲れ様」
遅れたことに対してお叱りを受けるだろうと身構えていたシャーリーであったが、杞憂に終わったようだ。それだけでなく労いの言葉まで掛けられてしまった。
想像以上にここはやりやすいところなのかもしれない。
ここに来るまでの悩みの全てが杞憂に終わればいいと期待を抱いてシャーリーは司令室を辞した。
216
:
夢のかたち 3/6
:2011/07/30(土) 02:51:24 ID:0Zcd6fCM
結果から言えば、シャーリーの考えは甘かった。 しかし、着任早々の衝突が彼女たちの前進に大きく寄与するものとなったこともまた事実であった。
ブリタニアに来てからのシャーリーの日々は、原隊にいた頃と大きく変わるものにはならなかった。
ストライクウィッチーズ基地は、これだけの大きな基地であるにも関わらず詰めている人間はかなり少ない。ほとんど八人だけで使っていると言っても、過言ではない状況だった。そういった開放感からか、この基地には割と自由な風が吹いている気がした。
ストライカーの改造も再開していた。こればかりは誰かに認められてはまずいと人目を憚ってではあったが。
他の隊員との顔合わせも何事もなく終わり、やはり自らの勝手な想像と現実は違うものであると確認出来た。
しかし、なかなかシャーリーが気楽に話しかけられる相手が居らず、まだまだ隊員個人のことはよく判らないのが現状である。
そんな風にして二、三日が過ぎ、未だに出撃もなく束の間の平和な時間が基地を包み込んでいた、とある日の午後のこと。
この日もまた、シャーリーはハンガーの片隅で隠れるようにしてストライカーいじりに精を出していた。
そこを一人のカールスラント軍人が訪れたのだ。
「貴様が、シャーロット・E・イェーガー中尉か」
威圧感を隠さないその人の言葉に一瞬ギクリとしながらも、シャーリーも毅然として応じた。
「ああ、それでそういうあんたは?」
そう言って相手を視界に据えたところで、シャーリーは思い出した。
全体での紹介が一日遅れた関係で、一人、まだ顔を合わせていない隊員がいたことを。
「横柄な物言いだな、リベリアン。一応、私は貴様の上官にあたる。ゲルトルート・バルクホルン大尉だ」
不機嫌を貼り付けたような表情で自己紹介をするバルクホルン。
シャーリーは直感的に、相容れない存在であろう、と思った。
「ミーナから聞いてはいたが……。一体何をしているんだ、リベリアン?」
(やっぱり、あたしが無断改造の常習犯だって抜けてるよな)
ここへ配属されて以来、そのことについてはミーナからは何も言われなかったし、もちろん自分からも言い出すつもりもなかった。しかし、自身の前科は当然報告されているだろうから、シャーリーは見咎められるまで様子を見ることにしたのだ。
「ストライカーの改造です、大尉殿」
(知ってるくせに言わせるとは、感じ悪い奴だな)
心の中で愚痴を吐きつつ、言い訳をするつもりもなかったシャーリーは正直に答えた。
「貴様、ここが何処だか分かって言っているのか? そんな身勝手なことが許されるわけがなかろう。だいたいミーナもミーナだ。分かっていたのなら何故咎めない」
それからクドクドと小言を並べるバルクホルンにシャーリーは、想像していた通りの奴がここにいた、と溜息と吐いた。
「いいか! ここは最前線だぞ! 私たちは遊びでストライカーを履いているわけじゃ……」
そこまで言われたところで基地内を警報の爆音が走り抜けた。
それと同時に、敵襲! と叫ぶ大音声。
ようやく初出撃か、とシャーリーは徐に腰を上げた。
「まさか、その機体で出るわけじゃないだろうな?」
内蔵が剥き出しの戦闘脚を指してバルクホルンが呟いた。
「まさか、替えの機体がありますよ」
本当は相棒たるP-51Dで出撃したいシャーリーであったが、さすがにこの状態からの復元は間に合わないので、不測の事態に備えて持ち込まれたもう一台のストライカーを履くことにした。
「グリッド東07地域、高度一万七千、大型ネウロイが一機出現。バルクホルン大尉の後衛にハルトマン中尉、イェーガー中尉はユーティライネン少尉の後衛に入ってちょうだい。いけるわね、シャーリーさん」
「もちろんです、中佐!」
「ふむ、お手並み拝見といこうか、リベリアン!」
話の続きはこの戦闘が終わってからだ、と余計な一言を付け加えて空に上がったバルクホルンに軽く舌打ちをして、シャーリーも蒼空へと舞い上がった。
217
:
夢のかたち 4/6
:2011/07/30(土) 02:53:23 ID:0Zcd6fCM
戦闘に関してはある程度の自信があるつもりだった。
501へ配属されたのも、厄介払い的な要素が強いとはいえリベリオンだって恥をかくわけにはいかない、本当に使えない奴を最前線に送り込むわけがない。
シャーリーには比類なき才能があり、それは他人も大いに認めるところであった。
新人と呼ばれる期間もとうに過ぎ去り、欧州戦域の地獄も掻い潜ってきたシャーリーであったが、ここでの戦闘は余りにも次元が違い過ぎた。
人類史上最高のウルトラエースのロッテに、北欧が誇る無被弾のダイヤモンド。
その天才的な空戦技術の前に、シャーリーは何も出来なかった。
相対したネウロイが、これまでに見てきたものとは比べ物にならないくらいの巨大さと、戦闘力を誇るものであったこともまたシャーリーの動きを縛り付けた。
この日の戦闘はエイラの機転によってなんとかネウロイを撃墜して終了した。
だが、激しい戦闘を繰り広げていた三人よりも疲労困憊を隠せないシャーリーの姿が、そこにはあった。
這々の体で基地に帰還したシャーリーは、ハンガー内に倒れ込んだ。
「その程度でくたばっているようじゃ、ここでは使いもんにならんぞ、リベリアン」
実力の差を、その圧倒的なまでの戦力の違いを、思い知らされた戦闘だった。
ここでなら上手くやっていけるかもしれない。
そう思ったシャーリーの淡い期待は粉々に砕け散り、またリベリオンを発つ前の後ろ暗い幻想が鎌首をもたげてきた。
「何度でも言おう、ここは最前線だ。ストライカーの改造などというお遊びに精を出しているようじゃ、この先の戦闘の邪魔にしかならん。使えない奴はここにはいらない。今すぐ国へ帰るがいい」
言いたい放題言われたシャーリーだが、その全てが紛れもない事実であった。
いや、一つだけ認めるわけにはいかないことがある。
シャーリーはよろよろと立ち上がると、嫌味な上官に向かってその心を吐露した。
「遊びなんかじゃないさ……。ストライカーをいじるのは遊びでなんかじゃない。あいつはあたしの夢なんだ! あたしはそのためにここに居るんだ! いつかあいつで音速を超えてやる。そのためにウィッチになったんだ! お前にあたしの何がわかるってんだ!!!」
戦う理由なんて分からない。だがシャーリーにはシャーリーなりの、戦う理由が確かに最初からあったのだ。
その想いをこんなに感情的に吐き出すことは恐らく初めてのことであろう。
それはスピードを求めるが故にウィッチになるという本来のウィッチとはかけ離れた理由に、少しの後ろめたさを抱いていたからに違いない。
熱くなり過ぎたシャーリーの想いは、バルクホルンを爆発させるに充分であった。
「お前に何がわかるか、だと……。それはこちらの台詞だリベリアン! ここには夢を追われた少女たちも多く居る。それなのに夢を語るなど、貴様は軍隊をなんだと思っているんだ! ここはお前のためにある場所じゃないんだぞ!!!」
「トゥルーデ!」
ハルトマンの一喝でその場に沈黙が立ち込める。
お互いにどれだけ悲痛な叫びをあげたのか、シャーリーもバルクホルンも、今にも壊れそうな表情をしていた。
それきりバルクホルンは何も言わずにその場を立ち去り、シャーリーは膝からその場に崩れ落ちた。
バルクホルンの言ったことは、余りにも正しかった。
ウィッチになってまで夢を追う。
それは確かにシャーリーのエゴでしかないのかもしれない。
軍隊はそのためにあるわけがなく、ストライクウィッチーズもまた然り。
恐れていたことをそのまま告げられたシャーリーは、茫然自失の様相で自室へと向かった。
218
:
夢のかたち 5/6
:2011/07/30(土) 02:56:40 ID:0Zcd6fCM
この空は広い。
一人じゃ泣きそうなほどの、広い広い空。
シャーリーもまたその魅力に囚われ、空へと墜ちていった一人であったのかもしれない。
しかし、何処までも突き抜けるその青さは、ときに人を狂わせる。
翼を授かった乙女たちは、決して独りでは飛べないのだ。
果たして、シャーリーは独りであった。
ストライカーを改造するときも、欧州戦域を転々としたときも、そしてブリタニアへ来てからも。
何のために戦うのか。 その意識の違いを判然と自覚してしまった今となっては、シャーリーの翼はもう羽ばたけないだろう。
「シャーリー、いる?」
不意に控え目なノックの音が木霊する。
もう一度ノックが繰り返され、それでも返事をしないシャーリーであったが、部屋の扉は開かれた。
今は誰にも会いたくない。
そう思いつつも、鍵をかけたかどうかも定かではないほど憔悴しきったシャーリーは、ほんの僅かばかりの視線を扉の方へやることが精一杯だった。
そこには、酷く寂しそうな表情をしたハルトマンが立っていた。
何も言わないシャーリーに倣って、ハルトマンもまた何も言わずにシャーリーの隣に腰を下ろす。
暫くの沈黙の後、シャーリーは自らが涙を流していることにようやく気付き、口を開いた。
「変なとこを、見せちゃったな……」
消え入りそうな声音で呟かれた言葉は、それでも確かにハルトマンの心に届き少しの安堵をもたらした。
「私は、私たちはさ。シャーリーのこと、何も知らない」
そう切り出した金髪の少女は努めて穏やかな口調で、それでいて胸に突き刺さる想いを語った。
(あたしはさ、皆とは違うんだ)
戦う理由。
空を飛ぶ理由。
国を追われたわけでもなく、ネウロイの毒牙の届かないリベリオンは平和そのものだ、戦いの中で大切な仲間を失ったこともない。
まともな戦果だってあげられない。
あたしはここにいてはいけないんだ。
そうとさえ思えてならなかった。
「私はね、この戦いが終わったら医者になるんだ。いつ終わるか分からない戦いだけどね。私たちの故郷はネウロイに占領されちゃってるし、奪還できても復興にどれだけ時間がかかるか分からない。もし戦争がなかったら、なんて無意味なことを言うのは好きじゃないけどさ、それでもそれが私の夢だから。だから、飛ぶんだ」
夢のために飛ぶ。シャーリーと何が違うんだい?
同い年の少女とは思えないほどの達観した表情で語るハルトマンに、シャーリーはそう言われた気がした。
「私の家族は無事だよ。父様も母様も。私には双子の妹がいてね、あいつは今も、何処かの空で戦っているんだ。妹は頭は良いんだけど、運動はからっきしでね。私はすごく心配なんだ。姉として、妹を守ってやらなきゃって。そのためにも、私は飛ぶんだ」
誰かを守るために。
しかしそれはシャーリーには、理解の及ばない範囲であった。
守りたいものなんてあっただろうか。
そんなシャーリーのことなど意に介さず、ハルトマンはこれまでの自分のこと、そして共に空を駆る戦友のこと、知らないのなら教えればいいと多くのことを話した。
いつしかそこにシャーリー自身のことが加わり出す。
自らが話さねば解り合えない。
そういった無意識は、ハルトマンに促されるように、シャーリーの心をゆっくりと溶かした。
「ボンネビル・フラッツって知ってるかい?」
そう切り出したシャーリーの表情にはもう涙はなく、夢を語るその瞳の蒼さは、彼女たちが目指した空の輝きを取り戻していた。
219
:
夢のかたち 6/6
:2011/07/30(土) 03:00:03 ID:0Zcd6fCM
「戦う理由なんてあるのかな」
一通り語り終えたところで、ハルトマンはそう言った。
シャーリーの心の雲量は随分と少なくなっていたが、それでも深く陰を落としている、最後の問題でもあった。
「誰かを守るためにとか、国を取り戻すためにとか、夢を追いかけるためにとか。そんなもの人の数だけ存在するし、同じようで違うもの。だからね、シャーリーは皆となんにも違わないよ。皆それぞれの理由を抱いて、探して、苦しんで、悩んで、戦っているんだ。共感できる出来事がないからって、自分は仲間になれないなんて大間違い。私は、私たちは、同情から背中を守り合っているわけじゃないんだよ」
誰もが夢を抱えている。
そこに降りかかる痛みは違えど、それはきっと同じ空の中に。
「だから、シャーリーだって全力で自分の夢を守ってあげなよ。大丈夫、私たちがついてるよ。シャーリーは独りじゃない。私たち八人は家族なんだから。家族が家族を想うのは当たり前でしょ?」
ようこそ、ストライクウィッチーズへ!
そう言って手を差し出したハルトマンの笑顔は、一陣の疾風となって、シャーリーの心にかかった最後の雲を吹き飛ばした。
その手を躊躇いなく受け取ったシャーリーの瞳に、一雫の涙を残して……。
翌日は雲一つない快晴だった。
昨日の戦闘の痛みがまだ残った気怠い身体を起こして仰いだ蒼空は、晴々としたシャーリーの心を映しているかのようだった。
朝食を終えた後でシャーリーはミーナに呼び出されていた。
司令室に出頭したシャーリーは、ストライカーの改造のこと、上官に対して声を荒らげたこと、どんな懲罰が降ってくるやらと気が気でなかったが、覚悟を決めて向き合った。
ミーナに対して完璧な敬礼を見せたシャーリーは、驚いた表情のミーナに不意を打たれ立ち尽くした。
「あらあら、そんなに畏まらなくていいのよ。別にあなたを叱るために呼んだわけじゃないのだから。それで、何から話せばいいのかしら。そうね。まずは、ストライカーの改造の件かしら」
やっぱりそれか、と思わず苦笑いを浮かべたシャーリーであったが、続けたミーナの言葉には驚愕を声にせざるを得なかった。
「ストライカーは貴重なものよ。素人が簡単に扱える代物でもないわ。でも、報告によると、あなたは自らで改造したストライカーでそれなりの実績をあげていたみたいね。きちんと整備にも出して、問題がないことが確認されたら、改造したストライカーを履くことを許可します」
「えっと、それはつまり……」
「ストライカーの改造に関しては、ここではうるさく言うつもりはないということよ」
それを聞いた瞬間、喜びを爆発させ今すぐにでも相棒のもとへ向かわんとするシャーリーを、引き留めるようにミーナは続けた。
「それから、昨日は随分とトゥルーデ……バルクホルン大尉と随分と揉めたみたいね。彼女のことも分かってあげて、なんてまだ来たばかりで何も知らないあなたに、言えたことじゃないのかもしれないけれど。私たちは家族だから。これから上手くやっていってほしいの」
少し俯き、何処か悲愴な表情を浮かべるミーナに、シャーリーは言葉に出来ない何かを受け取った。
(その傷はきっと、今のあたしにはわからない、でも……)
優しく微笑むことで答えたシャーリーに、ミーナもようやく穏やかな笑みを浮かべた。
「私にも夢があったわ。いえ、夢がある。それを諦めるのは本当に辛いことよ。だから、あなたにも諦めて欲しくないの。家族として、あなたの夢を応援したいのよ」
その言葉に何も言えなくなって、シャーリーは揺らいだ瞳を隠すように、大きく頭を下げ感謝を伝えた。
220
:
夢のかたち EP/6
:2011/07/30(土) 03:02:26 ID:0Zcd6fCM
司令室を辞したシャーリーを待ち構えていたのは、何処か落ち着きのない堅物大尉であった。
シャーリーもいきなりの邂逅に不意に気不味く視線を落としてしまったが、すぐに持ち直してしっかりと向き合った。
「その……、昨日は、すまなかった。私もつい熱くなって、酷いことを口走ったと、思う。言い訳になるかもしれんが、真っ直ぐに夢を追いかけるお前の姿が眩しくて、辛いことをいろいろと思い出してしまったのだ。お前のことを、羨ましくも思う。私にはもう……」
そこで言葉を切ったバルクホルンに対して、シャーリーは何も言わなかった。
何も、言えるはずがなかった。
「正式な許可が下りたのなら、ストライカーの改造の件は何も言うまい。お前はお前の戦いをすればいいさ」
そこで踵を返そうとするバルクホルンを、シャーリーは片手でもって制した。
「あたしはあたしのやりたいことをする。でも、あたしも大尉の戦いの中に入れてくれてもいいだろ? 独りじゃないって。あたしたちは家族、だろ?」
羞恥に顔を赤らめたバルクホルンは、それでもその手を邪険にすることなく、静かに握り返した。
「あぁ、そうだな……」
少しだけ、ほんの少しだけ、バルクホルンのその顔に、微笑みが宿ったように見えた。
それを認めたシャーリーは屈託ない笑顔を見せるが、バルクホルンはそれきりで背を向けた。
今はまだ解り合えないことも多いだろう。
それぞれに抱えた痛みは深く、大きな隔たりは簡単には消えない。
それでも一歩ずつ、歩幅を合わせて歩けるようになればいいと、シャーリーにもまた一つ、空へと帰る理由が増えた。
その夢の果てを目指して――。
シャーリーとバルクホルンが、肩を並べて笑い合える日が来るのは、もう少し先の話になる。
fin...
221
:
62igiZdY
:2011/07/30(土) 03:05:45 ID:0Zcd6fCM
戦う理由と夢に関する物語でした。配分カウント見誤ったorz
以上です、長文失礼しました。
222
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/07/31(日) 21:22:57 ID:vQhU52.Y
>>197
アキゴジ様
GJです、お姉ちゃん可愛いですね。
個人的にはシャーリーやエーリカも結構芳佳のお姉さんしてると思います。
>>203
Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJです、お姉ちゃんとフェデリカ少佐のやりとりがシュールで面白いです。
特に、>「あ…はい!銃で撃ってます」がツボでしたw
>>206
62igiZdY様
おおー、エイ芳&ルキ芳キター!
芳佳関連のCPでは個人的に芳リーネの次に好きな組み合わせです。
芳佳ちゃんのお尻は本当素晴らしいですよね。
ミーナ中佐がエイラとルッキにお仕置きする話も見てみたいです。
>>209
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです、エーリカの気遣いとウルスラの最後の一言が素敵です。
>>213
62igiZdY様
GJです、芳佳と会う前の(鬱状態だった頃の)トゥルーデの心情が丁寧に描写されていて素晴らしいです。
エーリカマジ天使&シャーリーマジ女神!
こんばんは、IFエーゲルで思いついたネタを投下していきます。
ではどうぞ
223
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/07/31(日) 21:24:04 ID:vQhU52.Y
【愛妻弁当】
――1947年、カールスラント空軍JG52
「ハルトマン大尉、バルクホルン中佐がお見えになってますよ」
「え? トゥルーデが?」
ここはJG52の司令室、経費の削減だとか補給物資の明細だとか面倒くさい書類と睨めっこしてるところに、
この前ウィッチになったばかりの新米軍曹さんが、かつての戦友の来訪を知らせてくれた。
「はい。応接室で待って頂いてます」
「ありがと。それじゃ私はトゥルーデに逢ってくるから、訓練場のみんなには私が行くまで休憩するように言っといて」
「あ、はい。了解しました!」
――――――◆――――――
「久しぶり、トゥルーデ」
「エーリカ」
私が応接室に入るとそこには、髪を二つ結びにしたままのトゥルーデの姿があった。
一緒に飛んでいた時とほとんど変わらない――ううん、少し大人びたかな。
トゥルーデは私を見てほっとしたような表情を浮かべると、すぐに視線を逸らした。
「どうしたの? トゥルーデのほうから訪ねてくるなんて珍しいね」
私はトゥルーデの隣に腰掛けて、彼女の顔をじっと見つめながら話しかける。
「そ、その……今朝おかずを作り過ぎてしまってな、私とクリスでは全部食べきれないと思って、
お前に弁当を作ったんだ」
そう言ってトゥルーデは、お弁当箱を包んだ綺麗な布を私に差し出してくれた。
「へ? このお弁当をわざわざ私に届けにきてくれたの?」
「たまたまこの近くで会議があったからそのついでに……ほ、本当にたまたまだからな! それよりお前、
軍の仕事は真面目にやっているのか? お前の事だから面倒くさい書類は全部、部下に丸投げしてるんじゃないか?」
「失礼な、これでも毎日真剣に書類と向き合ってるよ。なーに? お小言を言うためにわざわざ来たの?」
「い、いや、すまん。そういうわけじゃ……とにかく、元気そうで良かった。それじゃ、私はこれで」
トゥルーデは頬を染めながらそう言うと、ほとんど逃げるように応接室を去って行った。
「……変なトゥルーデ」
あ、結局お礼言いそびれちゃった。まぁいっか、今日の夜にでも感想と一緒に電話で言えばいいよね。
おっと、みんなを待たせてるんだった。私も早く訓練場に行かないと……
――――――◆――――――
「はい、お疲れ様! 午前の訓練はこれでお終い! お昼にしよっか」
私が手を叩いて午前の訓練の終了を告げると、みんな安堵したようにその場に座りこんだ。
「あれ? みんなもう疲れちゃった? 午後も訓練はあるんだから、お昼食べて少し休んで、この調子で頑張ろう」
「は、はい!」
と、私の呼びかけに笑顔で答えてくれるウィッチ達。
うん、本当にみんな、素直ないいコ達だね。
「ふふっ、中々様になってるわね。ハルトマン大尉」
懐かしい声に呼ばれ、振り返るとそこには苦楽を共にしてきた戦友の姿があった。
「あっ、ミーナ! 来てたんだ!」
「ええ。ここの佐官の方々とちょっと打ち合わせをね」
と、2年前と変わらない笑顔でミーナは私に言う。
大佐となった今は各部隊の視察や指導で大変みたいだけど、それを感じさせない温かい笑顔だった。
「ヴィ、ヴィルケ大佐! お疲れ様です!」
座っていたみんなはミーナを見ると驚いたように一斉に立ち上がって、ミーナに向かって敬礼をする。
う〜ん、ミーナが怒ると怖いって認識はどの部隊でも共通なのかな。
さすがのミーナもこれには驚いたのか、少々戸惑いながらも私に向けたのと同じ笑顔でウィッチ一人一人に接する。
「そんなに畏まらなくていいのよ。私の事はミーナでいいわ」
「は、はい! ミーナ大佐」
「ねぇ、私たち今からお昼なんだけど、良かったらミーナも一緒に食べてかない?」
「あら、いいわね。それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「よーし、決まり! じゃみんな、早く食堂に行こう」
「はい!」
224
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/07/31(日) 21:24:47 ID:vQhU52.Y
――――――◆――――――
「わぁ、美味しそう」
ここは基地の食堂、みんなが今日の食事当番のウィッチから昼食のトレーを受け取る中、
私はトゥルーデが持ってきてくれたお弁当箱を開け、その中のおかずを一つ口の中へ運ぶ。
うん、とっても美味しい。
「ハルトマン大尉、美味しそうなお弁当ですね」
「へへ、トゥルーデが今朝持ってきてくれたんだ」
「わぁ、愛妻弁当ですか。羨ましいです」
「え!? あ、愛妻って私たち結婚してるわけじゃないし……」
「ふふっ、ハルトマン大尉顔真っ赤ですよ。可愛い〜」
「こ、こら〜! 上官をからかうな〜」
隊のみんなにからかわれて、私はつい声を荒げてしまう。
う〜ん、今ならエイラやシャーリーにからかわれていたトゥルーデの気持ち、ちょっと分かるかも。
「あら、トゥルーデも今日ここに来たの?」
と、私の隣に腰掛けたミーナが訊ねてくる。
「うん、何かこの近くで会議があるみたいで、そのついでにって」
「変ねぇ。私がついこの間、トゥルーデに逢った時はあの娘、しばらく会議はないって言ってたけど……
ひょっとして、久しぶりにあなたの顔を見たくなったんじゃないかしら」
「え?」
ミーナのその言葉を聞いて、私は自分の中で合点がいく。
考えてみたら今朝のトゥルーデ、妙にうろたえていたような……それに、このお弁当だって余り物のおかずを詰め込んだって
言う割には、彩りも飾り付けもすごく凝ってある。
じゃあ、おかずを作り過ぎたっていうのも嘘で、本当は私に逢うためにわざわざお弁当を作ってきてくれたのかな。
「もう、逢いたかったなら、素直にそう言ってくれれば良かったのに」
「ふふっ、でもあなたはトゥルーデのそんな不器用なところも好きなんでしょ?」
「うん、まぁね。そっかー、トゥルーデ、私に逢うためにわざわざ来てくれたんだ」
「わぁ、ハルトマン大尉、バルクホルン中佐とアツアツですね〜」
「だ、だから! 上官をからかわないの〜」
――――――◆――――――
――その日の夜、溜まってた書類の記入を全部終えた私は、トゥルーデの家に電話をかけた。
「もしもしトゥルーデ?」
『どうしたエーリカ? こんな時間に』
「ごめんね。書類が中々片付かなくて、電話かけるのも遅くなっちゃった。もしかして、クリスに本の読み聞かせでもしてた?」
『……お前、私の家に盗聴器でも仕掛けてるのか?』
「へへ、トゥルーデならやってそうだなって思ったんだ。あんまり難しい本だとクリスも混乱しちゃうだろうから、程々にね。
あっ、そうそう。今日のトゥルーデのお弁当、すっごく美味しかったよ。ありがとね」
『そ、そうか。喜んでもらえて何よりだ』
「トゥルーデのお弁当、また食べたいなぁ……ねぇ、良かったら今度また、お弁当作ってくれる?」
『……か、考えておく』
しばらくの沈黙の後、トゥルーデがそう答えてくれた。
電話越しからでも顔を真っ赤にしているのが伝わってくる。
「うん、よろしくね。そうだ! 何だったら今度は一緒にお昼食べよ」
『そ、そうだな。それも悪くない』
「うん、絶対楽しいよ。それじゃ、お休みトゥルーデ。クリスにもよろしくね」
『ああ。お休み、エーリカ』
トゥルーデにお休みの挨拶を告げた後、私はベッドの上でごろんと寝転がった。
明日からまた、忙しい毎日が続くけど頑張らなくちゃ。
自分やみんなのためにも、近いうちにまた『愛妻弁当』を届けてきてくれるトゥルーデのためにもね。
〜Fin〜
―――――――――――
以上です。トゥルーデはこれ以降、週1くらいのペースでお弁当を届けに行ってたりしたら萌えます。
ではまた
225
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/01(月) 22:05:58 ID:ZoKoYD0Y
>>221
62igiZdY様
GJ! 豊かな表現力とシャーリーの心情描写が素晴らしいです!
実際こうだったんだろうなーと思います。
>>224
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! お姉ちゃんの愛妻弁当羨ましいです!
エーリカはやっぱり愛されガールですね。
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
フミカネ先生のツイッターとイラストを見て閃いたネタをひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
226
:
riverside hotel 01/03
:2011/08/01(月) 22:06:30 ID:ZoKoYD0Y
雨降りしきる夜、激しく逃げ回るネウロイの群れを追うカールスラントのコンビ。
一機、また一機とネウロイを叩き落として行くも、ある時点で連絡が入る。
『追撃はそこまでだ。それ以上深追いはするな』
無線のインカムから美緒の声が聞こえる。
「少佐か」
『ネウロイはこのままロマーニャ北方の巣に後退するものと思われる。これ以上の深追いは無用、お前達は帰投しろ』
「帰投か……基地から大分遠くまで来たが、どうする」
『そうだな……二人の現在位置は把握している。帰りの魔法力は持つか? ギリギリじゃないか?』
「恐らくは」
『無理しないで。この天候下では方位を見失う恐れがあるわ』
「ミーナか」
『よし。連絡をつけて、付近に仮の宿泊施設を手配する。今夜はそこに宿泊しろ』
「地元の軍基地じゃなくて?」
『あいにく、距離がな』
「了解した。方位と距離の指示を頼む」
山をひとつ越え、言われた通りの場所にやって来たトゥルーデとエーリカ。
川沿いにぽつりと、小さな村がある。小雨に紛れる様に、小さな明かりがぽつぽつと灯っている。
村の端の方に、大きな民家らしき建物があった。軒先に何か小さな看板をぶら下げている。
「ロマーニャの言葉は分からないが……あれか?」
「どうだろうね。聞いてみればいいんじゃない?」
ゆっくりとホバリングしながら近付き、確かめる。
看板には何かが書かれているが、二人には読めない。
「はて」
そうこうしているうちに、中から一人の老婦人が出てきた。
「ああ、あんた達かい、軍のお客と言うのは。ようこそようこそ」
恰幅の良いその女将は笑って手招きした。
ストライカー整備の為、納屋の隅を借りると、濡れたストライカーユニットを置き、簡単な点検を行う。
「トゥルーデ、タオルとスリッパ借りてきたよ」
「ああすまない。私達のストライカーは恐らく大丈夫だろう。明日も問題無く飛べる筈だ」
「ありがとトゥルーデ。私のも見てくれたの?」
「機械は苦手だが、簡単な点検位はな」
エーリカからタオルを受け取り、顔を拭うトゥルーデ。雨中での作戦行動と言う事で、何気にびしょ濡れ。雫が滴る。
基地ならすぐに着替えてシャワーを浴びるべき状態だが、この状況ではそんな事も言ってられない。
「濡れてるからって、ついでに服も」
「随分気遣いが良いんだな。そこに置いといてくれ。点検が終わったら、シャワーを浴びたいところだが……」
「シャワーも用意してくれてるってさ〜」
気楽に答えるエーリカ。
「なら、先に浴びてくるといい」
「了解。お先に〜」
エーリカはさっさと何処かへ行ってしまった。
黙々と作業を続ける。一通りの点検が終わった所で501基地への無線通信を試したが、地理的な条件か、連絡は付かなかった。
「まあ、宿泊施設は、ここで良いのか……?」
宿屋の者は既に連絡を受けていた様だし、何とかなるか、と開き直る。取って食われる様な事は無いだろうと。
十分程経ってエーリカが戻って来た。
「先にシャワー浴びたよ。トゥルーデも行ってきなよ」
宿屋が用意してくれたのか、質素な寝間着……だぶだぶの大きさだが……を着ているエーリカ。
「ああ。エーリカ、そのパジャマは」
「借り物。トゥルーデのはそれ」
「ああ、これだな……」
服を広げてぎょっとする。
「な、なんだこの服は」
「パジャマじゃないの?」
「パジャマ? これが? 妙に黒々しいというか、雰囲気がその……フリルにリボンに」
顔を赤らめるトゥルーデ。まるで人形遊びで着せる様な服が、そのままサイズを大きくした感じだ。
「照れてる。かわいい」
にやにやするエーリカ。
「ちがう、そう言う意味じゃない」
「とりあえずトゥルーデびしょ濡れじゃん。風邪ひいちゃうよ。早く早く」
「だだ大丈夫だ」
服を前にたじろぐエーリカ。
「私達、また飛んで帰らないといけないんだよ?」
「ああもう、分かった分かった」
エーリカに押され、小さな浴室に入る。
227
:
riverside hotel 02/03
:2011/08/01(月) 22:07:00 ID:ZoKoYD0Y
熱いシャワーを浴びる。雨粒と汗にまみれた身体の嫌なコーティングが、うっすらと、ゆっくりと溶け落ちていく感覚。
生き返る。
ふう、と一息ついて脱衣篭に置かれた服を見る。
いささか気が滅入るが、他に着替えは無いのだから、仕方無い。
宿屋のセンスを疑いつつ、フリフリの衣装を身に纏い、エーリカの待つ部屋へと向かう。
木製のドアを開けると、きい、と蝶番の音がし、中からほのかに食欲を刺激する香りが漂ってきた。
「似合ってるよトゥルーデ」
いつの間に用意されたのか、簡単な夕食を前にエーリカが笑う。
「ふ、服の話は良い! と言うか、この食事は」
椅子に腰掛ける。
「今夜のご飯だって。用意してくれた。ロマーニャ料理らしいよ」
「そりゃ、ここはロマーニャだからな」
「何のスープかな? よく分からないけど。あとパンに、何かの肉のソテーとサラダ」
「何の肉か分からないのか……まあ食べられれば何でも良い」
「はい、あーん」
「私に毒味させるのか」
「宿屋の人の親切を、ダメだよそんな風に扱っちゃ」
「エーリカの態度を言っているんだ」
「まあとりあえずはい、あーん」
「……」
押されっぱなしのトゥルーデは、仕方なく一口、食べる。濃厚なソースに負けない、ガツンと強烈な“肉”の味。
「何だろう。牛肉か? 分からないけど、美味い事は美味い」
「じゃあ一緒に食べようよ」
「何か引っ掛かるが、……まあいい」
二人でもくもくと食事を済ませる。
食事が終われば次は就寝、と言う事になる。木製の大きめの寝床を前に、腕組みするトゥルーデ。
「で、ベッドは一つという訳か」
「トゥルーデ、床で寝る?」
「何故私が床に」
「じゃあ私?」
「どうしてそうなる」
「え、じゃあ二人で?」
「別に恥ずかしがる事も無いだろう……」
「顔赤いよトゥルーデ」
「エーリカこそ」
「トゥルーデ、そんな服着て、私を誘ってる?」
頬を手で隠すエーリカ。
「エーリカ、さっきからにやついてると思ったら理由はそれか。私が好き好んで着ている訳じゃ……」
「なら、軍服着て寝る?」
エーリカが指差すと、濡れた制服は揃って部屋の中に吊し干しされていた。明日の朝に乾くかどうか。
「参ったな」
「まあ、いいじゃん」
言うなり、ベッドに押し倒す。
「うわ、エーリカ」
「何か、こんな感じなのかな」
「?」
「新婚旅行とかさ」
「いきなりな話だな」
「だって、いずれはするでしょ? したいでしょ?」
「それは、まあ……」
「予行演習だね。事前に勉強しておかないと」
「どんな勉強だ」
「トゥルーデの服、フワフワして面白い」
胸に顔を埋めるエーリカ。ふんわりとした感触の奥に、熱い鼓動が脈打って聞こえる。
「こ、こらエーリカ」
「楽しいね」
「お前という奴は……」
エーリカを抱きかかえると、そのままポジションを変えるトゥルーデ。押し倒す格好になる。
「いやん♪」
「いやん、じゃない」
そこで、はたと気付く。ごろごろとベッドの中を動いているうちに、エーリカの寝間着がはだけ、脱げかけている。
肩は露わに、胸まで露出している。
「お、おい、エーリカ……」
「あ、やだトゥルーデ。私脱がせて欲情してるんでしょ」
「そ、そんな事……」
エーリカに軽くキスされる。飛びかける理性を抑えつつ、ごくりと唾を飲み込み、“愛しの人”の顔を見る。
トゥルーデの表情を見ての事か、小さな天使は少し頬を赤らめ、少し探る様な瞳の色を浮かべる。
「ねえ、トゥルーデ……」
「エーリカ、その、あの、」
「もう、何も言わなくて良いよ」
彼女の方が上手だった。言うなりきゅっと抱きしめられ、もう一度濃厚な口吻を受ける。
頭の片隅で何かが弾けた感触。
トゥルーデはエーリカの名を呼び、応えさせる間も無く、自ら積極的に彼女の唇を奪い、身体を奪った。
エーリカも負けじと“反撃”している間に……
夜も更け、二人はぐちゃぐちゃに乱れた服を絡ませながら、ベッドの中で浅い眠りに堕ちた。
228
:
riverside hotel 03/03
:2011/08/01(月) 22:07:24 ID:ZoKoYD0Y
窓から薄日が差し込む。どうやら雨は止み、晴れているらしい。
ゆっくり起き、身体を見る。もはや服だか布きれだか分からない何かを着、昨夜の愛し合った痕が付いているのを見、
恥ずかしくなって窓の外に目をやる。
昨夜の暗闇からは想像も出来ない、長閑で平和な、村の姿があった。
宿のすぐ脇には、緩やかな川が流れていた。雨の濁りも次第に消えつつある。
「あ、トゥルーデおはよー」
いつ起きたのか、先にエーリカが食事の準備をしていた。
「おはようエーリカ……ってなんて格好してるんだ!」
一糸纏わぬ……いや、申し訳程度にエプロンを付けている程度で、他には何も着ていない。
「服着るの面倒だから」
「服を着ろ! はかんか!」
「扶桑の新妻はこう言う格好するんだって」
「はあ? なんでそこで扶桑の話が出てくる」
「トゥルーデ、そう言いながらじっと見てるし。スケベ」
「どうしてそうなる! だから、その……」
「抱きしめても良いんだよ。にしし」
言いながらトゥルーデをそっと抱き寄せ、ぎゅっと唇を重ねる。
昨日の余韻が残っているのか、トゥルーデは反射的にエーリカの身体を抱くと、続きに耽った。
「はい、あーん」
「だから服を着ろと言うに」
「いいじゃん、なんか新妻みたいで」
「宿屋の人に見られたら困るだろう」
「別に。トゥルーデだってその格好……」
「服が乾くまでの辛抱だ……て言うかなんでこんなフリルの服だのエプロンだの……」
「まあいいじゃん。あーん」
リゾットをスプーンですくい、トゥルーデに食べさせるエーリカ。
「……うん。普通にうまい」
口をもぐもぐさせながら呟くトゥルーデ。それを聞いて表情が明るくなるエーリカ。
「ロマーニャの料理ってなかなか美味しいよね。そう言えば、ルッキーニは滅多に作らないけど」
「あれは食べる方専門だからな」
陽気でやんちゃなロマーニャ娘を思い出し、苦笑するふたり。そしてもう一口、食べる。
「なんか、こう言う素朴な料理、良いよね」
エーリカは微笑みながらリゾットを食べて、一言。
「美味しい」
「ああ。美味いな」
まるでゴシック調の服を着たドールの様なトゥルーデ。そしてエプロン一枚だけの、破廉恥な格好のエーリカ。
二人はもうお互いの格好に慣れた様子で、いつもと変わらぬ様子で食事を済ます。
帰り際、借り物を返し、宿屋の女将に大体の方角を聞くと、謝礼は後で寄越す旨を伝え、勢い良く二人は飛び立った。
服も乾き、元通りの二人。昨夜超えた山をまたいだ辺りで、501基地との通信が回復した。
『二人共、大丈夫だったか』
「問題無い。なかなか……」
「貴重な体験だったよ。ねえトゥルーデ」
「馬鹿っ、そう言う事を……」
無線の先で苦笑いしているミーナと美緒の感覚が伝わってくる。
「と、とりあえず。501基地への誘導を頼む」
トゥルーデは声を張り上げた。
「無理しちゃって。お土産話も出来たし、帰ってからも楽しめそうだよ。皆行きたがるんじゃない?」
「そうか? 普通の宿……でもないか」
何だったんだあれは一体、とトゥルーデは内心ひとりごちるも、結局分からず終い。
エーリカも彼女の考えを察したのか「深く考えちゃだめ」とばかりに、首を振って、くすっと笑った。
二人は揃って飛び、我が家へ……基地へと帰った。
end
229
:
名無しさん
:2011/08/01(月) 22:08:02 ID:ZoKoYD0Y
以上です。
お泊まりネタって色々有ると思いますが、
他のカプも妄想すると楽しいですね!
ではまた〜。
230
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/02(火) 00:25:16 ID:WT7saTSM
>>226
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
GJです。ゴスロリお姉ちゃんとはだエプエーリカの破壊力が凄いです。
お泊りシチュ、美味しく頂きました
さて、私もフミカネ先生Twitterの新妻エーリカを見てたら、いてもたっててもいられなくなったので
1本投下していきます。ではどうぞ
231
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/02(火) 00:25:52 ID:WT7saTSM
【新妻エーリカと裸エプロン】
――1947年、バルクホルン姉妹の家
「おはよ、トゥルーデ。ぐっすり眠れた?」
「な!?」
……あ、ありのまま今見た事を話そう。
『私が目を覚ましてすぐに水を飲みにキッチンに赴くと、裸エプロン姿のエーリカがキッチンで料理をしていた』
何を言ってるか分からないと思うが、私自身、今の状況を中々理解できずにいた。
とりあえず私は深く深呼吸をして、今言いたい事を全部エーリカにぶつける。
「な、何でお前が私の家にいるんだ!? 軍の仕事はどうした!? なぜ料理を作っている!? そもそも、その格好は何だ!?」
「質問が多いよ……簡潔に答えると、この前のお弁当のお礼にトゥルーデに朝食を作ってあげようと思ったんだ。
もちろん、軍からちゃんと休みは貰ってあるよ。あっ、この格好はトゥルーデを驚かせたくてやってみたの」
「……人の家に無断で侵入して、料理を作ってる時点で充分ビックリだ」
「無断とは人聞きの悪いなぁ。合鍵をくれたのトゥルーデじゃん。どう? このエプロン、似合ってるかな」
エーリカは悪戯っぽく微笑むと、エプロンを広げて私にウインクをしてくる。
(な!?)
エーリカがエプロンを広げた時に一瞬、彼女の大事な部分がチラリと見える。
さ、さすがに、朝から刺激が強すぎるぞ……
「へへ、どうトゥルーデ? ドキドキしてくれた?」
「ド、ドキドキしないわけがないだろう……馬鹿者」
「ふぁ〜あ、おはようお姉ちゃん……あっ、エーリカさん! おはよう」
と、キッチンにやってきたクリスが何気なくエーリカに挨拶をする。
いや、もう少しこの状況を驚いてもいいんじゃないか?
我が妹ながら少々天然だ。
「おはよ、クリス いいところに来たね。私特製のスープ、味見してみて」
エーリカが鍋の中のスープをすくって、それをクリスに飲ませようとする。
それを見た私は、思わず声を荒げた。
「や、やめろ!」
好意はありがたいが、こいつの料理の腕が壊滅的な事は他ならぬ私が一番よく知っている。
クリスの身に万が一、何かあったらどうするんだ!
私はエーリカからスプーンを奪い取り、それを自分の口の中へと運ぶ。
「まず……くない。いや、むしろ美味い」
エーリカのスープは驚くほど美味だった。
卵すら碌に割れなかったこいつに、こんな料理の才能があるなんて思ってもみなかった。
「へへ、でしょー? ほら、クリスも飲んでみて」
「あ、はい……わぁ、すごく美味しいです。エーリカさん」
「にしし〜、エーリカちゃん特製スープも完成した事だし、朝ごはんにしよ」
そう言ってエーリカは、テーブルの上に自分の作った料理を次々と並べていく。
朝食にしては少々豪勢すぎる気もするが、エーリカがせっかく作ってくれたのだから、残すわけにはいかない。
私とクリスは、椅子に腰かけエーリカ特製の料理に舌鼓を打った。
232
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/02(火) 00:26:36 ID:WT7saTSM
「エーリカさん、この芋料理すごく美味しいです」
「うむ。以前、宮藤が作ってくれた扶桑の『肉じゃが』とかいう料理に似てるな」
「へへ、扶桑の料理に詳しい後輩に作り方を教わったんだ。作り方をマスターするのに1ヶ月はかかったかな。
ねぇトゥルーデ、私料理上手くなったでしょ?」
「ああ。キッチンを爆発させかねなかったお前が、人並み以上の料理を作れるようになったんだからすごい進歩だと思うぞ」
「えへへー、これなら私、トゥルーデのお嫁さんになれるかな」
「な!?」
エーリカのあまりに唐突な発言に、私は思わず口に含んでいた芋を噴き出しそうになった。
「な、ななな何を言っているんだお前は!?」
私は何とか芋を飲み込んで、エーリカに言った。
自分の胸の鼓動が早くなるのを感じる。
エーリカが私の嫁……?
「あれ? 私が旦那さんのほうが良かった?」
「そ、そうじゃない! 何で嫁とか旦那とかそういう話になるんだ!」
「ほら、私たち出会って8年になるんだし、そろそろいいかなーって。ねぇ、クリスはどう思う?」
「私、エーリカさんがお姉ちゃんになってくれたらすっごい嬉しいです」
と、目をキラキラさせながらクリスが答える。
「お、おい、クリスまで何を……」
「決まりだね。それじゃ、改めてよろしくね。旦那様♪」
「……わ、私を『旦那様』と呼ぶな〜!」
――――――◆――――――
「ご馳走様」
途中、思わぬハプニングもあったが何とかエーリカ特製の料理を完食する事ができた。
さすがに少々腹がキツイ……
「わぁ、完食してくれたんだ。トゥルーデもクリスも美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があったよ。
さてと、食事の後にはお片付けしないとね」
そう言って立ち上がったエーリカを、私は引きとめた。
「片付けなら私がやるぞ」
「いいよ。私が勝手に料理を作ったんだから、後片付けも私がやる。旦那様はゆっくりしてて」
「だ、だから! その呼び方はやめろ! 後片付けをやってくれるなら、せめてズボンは穿いてくれ」
「えっ、何で? あっ、もしかして穿いてたほうが興奮する?」
「そ、そういう問題じゃない! その……目のやり場に困る」
「あっ、そういう事……じゃあ今日はズボン穿いてあげるけど、早く慣れてよね」
「な、慣れるか! 馬鹿者!」
「ふんふふん、ふんふん♪ あっ、クリス、そこの洗剤とって」
「はーい」
鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで食器を洗うエーリカの後ろ姿を見て、私は彼女のあの言葉を思い出す。
『私がしっかりしたら安心してくれる?』
エーリカにそう言われ、私は引退を決意した。
そして彼女はその言葉通り、見違えるほど頼もしくなった。
ウィッチとしても、生涯のパートナーとしても……
「……お前ならきっと良い嫁になれるよ」
私は食器を洗うエーリカの背中を見つめながら、彼女には聞こえないように小さくそう呟いた。
〜Fin〜
―――――――――
以上です。マルちゃんや伯爵を交えての花嫁争奪戦ってのも面白そうですが、
今回は平和に終わらせました。
ではまた
233
:
62igiZdY
:2011/08/02(火) 15:51:59 ID:yvQcdV/o
>>223
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
上官としてのエーリカの頼もしい姿にトゥルーデが涙したのがよく分かります。
相変わらず照れ屋さんなトゥルーデがかわいいw
>>226
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
ゴスゲルと裸エプエーリカでここまで描くとは、ご馳走様でした!
その不思議は宿屋の再登場を楽しみしていますw
>> 231 5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
エーゲルマジ夫婦!
シャーゲル派の私ですが、最近エーゲルの魅力に囚われ気味です。
非常にニヤリとできましたw
ペリーヌ、エイラと、サウナにて。ちょっと思いついたものを書いてみました。
よかったらどうぞ。
234
:
不器用な二人 1/2
:2011/08/02(火) 15:54:13 ID:yvQcdV/o
「なんだ、珍しいヤツがいるじゃないか」
サウナに入ったエイラは、蒸気で曇った視界の向こうに、先客を認め驚きの声を上げた。
「別に、私がサウナに入ってて何か可笑しいことでもありまして?」
「いや、充分オカシイって。ツンツンメガネが一人でサウナ……。あ、今はメガネかけてないか」
「だからその呼び方はおやめなさいとあれほど……」
お約束のやり取りをここでも繰り広げた二人は、やれやれと言った風に肩を竦めた。
「オマエ、サウナ嫌いじゃなかったのかよ」
ペリーヌの隣に腰掛けたエイラは白樺の葉で相手の身体をぺしぺし叩く。
「ちょ、ちょっと。それ、地味に痛いからやめてくださらない?」
「それがいいんじゃないか。ホレホレ」
いつもの小悪魔的な笑みを湛えたエイラを見て、ペリーヌは諦観した様子だ。そして水気を含んでもさもさになった金髪を弄びながら、エイラに問うた。
「あなたこそ、今日は一人なんですのね。確かサーニャさんは、今夜は哨戒任務じゃなかったはずでは?」
その言葉に白樺の葉を打つエイラの手が止まる。
痛いところを突かれたとばかりに、ギクシャクと身を震わせ視線を反らせた。
(わかりやすい人ですこと……)
それだけでだいたいの事情を察したペリーヌは、エイラの図星を容赦なく突き刺した。
「その様子ですと、またサーニャさんと一悶着あったんですのね」
「だ、だから……! なんでそこでサーニャが出てくるんダヨ! 私とサーニャは何も関係」
「関係ないはずないでしょう。だったらなぜ、そんなに慌てているんですの?」
「あ、慌ててなんか、いないんダナ。わ、私は別に、いつも通りダゾ!」
「はぁ……。そうですの……」
これでは押し問答にしかならないと判断したペリーヌは全力で溜息を吐き出し、ふと思い至ってエイラに問いかけた。
「あなたも、私に何か訊きたいことがあるんじゃなくって?」
そう口にしてからペリーヌは少しだけ後悔した。何を自ら墓穴を掘るような真似を。
「私がオマエに? 別にオマエのことなんか知りたくねーよ」
予想通りの反応が返ってきたことに目眩を覚えつつも、ペリーヌも食い下がる。
「だから! 最初にあなたが言ったでしょ! 珍しいヤツがいるって!」
やたらと食いつくペリーヌに、エイラは少しの憐れみを浮かべた表情で呟いた。
「オマエ、そんなに寂しかったのかヨ……」
バチバチ。
僅かばかりの電気の奔流に髪を逆立てたペリーヌの鬼気迫る様相に、トネールの一撃を恐れたエイラは大人しくペリーヌに従った。何よりこのままでは神聖なサウナが危ない。
「あぁ、もう。わかったよ! 落ち着けって! それで、ペリーヌはなんで一人でサウナに入ってたんダ?」
ようやく話に乗った、というか無理やり乗せた、エイラにペリーヌはおずおずと語り出した。
「それは、その……。今日の訓練で少佐にきつく叱られてしまって。それで、先ほどお風呂に入ろうと思ったのですけど、少佐も入られているようで、その、顔を合わせづらくて……」
いざ話してみるとなかなかに恥ずかしい。
なんでこんなことに。
と、自らの不器用さに辟易とした。
「なんだよ、割と思ったまんまじゃんか。ペリーヌは少佐のこととなるとアレだな、まったく。そんなの気にすることじゃねーぞ」
あっけらかんと語るエイラに、ペリーヌはいよいよ顔を赤らめ爆発した。
「そんなのはどうでもいいんです! さぁ、私も話したんですから、あなたも一人でサウナに来た理由を素直におっしゃい!!!」
「うぇー。なんだよそれ。それこそ関係ないじゃんか」
それでも話そうとしないエイラに対して、ペリーヌは低く唸りながら詰め寄る。そして根負けしたエイラはようやくその口を割った。
「わかった、わかったよ! 話せばいいんダロ。そうだよ、サーニャと、喧嘩したん、だよ……」
やっとのことで認めたエイラに、お互いに不器用だとペリーヌは同情を覚えた。
235
:
不器用な二人 2/2
:2011/08/02(火) 15:56:25 ID:yvQcdV/o
「それで、喧嘩の原因はなんですの?」
「えっとだな……。今朝も、夜間哨戒から帰ってきたサーニャが部屋を間違えて私のところに来たんだ。それでベッドに入ってきて、そこまではまぁいつもと同じだったんだけど。今朝のサーニャは、なんていうか、私にピッタリ寄り添ってきたんだ。いつもはそんなんじゃないんだけどな。それで私は、こう、居づらくなって……」
「ベッドから逃げ出したんですのね」
「う……、まぁ、そういうことナンダナ……」
「相変わらずヘタレですこと」
「ヘタ……、ああそうだよ、ヘタレだよ、ヘタレで悪かったな!」
気持ち良いほどの開き直りを見せるエイラだが、それではせっかくのイケメンが台無しである。
「でも、それだけだと喧嘩なんてことには」
「喧嘩というか……。ベッドから抜け出した後は床で寝てたんだけど、その後起きてきたサーニャに一言『エイラの、バカ』って」
余りにも鮮明に浮かび上がったその光景にペリーヌは頭を抱えた。
「はぁ、エイラさん。それは全面的にあなたが悪いに決まってますわ」
もちろんサーニャだって不器用なことには変わりはないのだが。
「うぅ、そう、だよなぁ……。でもさ、今朝のサーニャは、なんか妙に積極的だったっていうか。やっぱりどうしたらいいのかわかんなくなって」
「どうしたらなんて、そんなの決まってますでしょ? 優しく抱き締めてあげるだけ。それだけでしょ?」
ここ一番の重要なところでヘタレるエイラと、気持ちを上手く言葉に出来ないサーニャ。
二人の不器用さは度々すれ違い、それでも少しずつ近づいていっているのは明らかで、見守る周囲の人間にとってはもどかしい二人であった。
「優しく抱き締め……って、そんな恥ずかしいこと」
「出来ないはずないでしょ。本当に好きな相手なんだったら」
「す、好きな相手でも……。だったらオマエ、少佐がそんな風に寄り添ってきたら、抱き締められるのかよ!」
「それはもちろん、抱き締められるはず、ありませんわね……」
冷静になって考えてみれば、そんな状況になったら嬉しさの余り昇天するか、逃げ出すかしかない。やはり同じように不器用な二人であった。
「なんだよ、オマエもヘタレじゃないか。あー、やっぱりツンツンメガネなんかに話すんじゃなかったよ」
「なっ!? 人がせっかく相談にのって差し上げたというのにその言い草はあんまりですわ!」
「相談って、オマエが無理やり言わせたんじゃないかよ」
「元はと言えばなかなか話さないあなたが悪いんじゃなくって!?」
そしてまた、いつものように口論の繰り返し。一頻り言いたいことを言い合ったあと、どちらからともなく笑みを浮かべていた。
「結局のところ、お互いに不器用だったってことですわね」
「私とサーニャも、私とオマエも、な」
不器用なら不器用なりに、それぞれに気持ちを伝えるやり方がある。たまにぶつかることがあっても、それもまた前進なのだ。
「それじゃ、私はお先に失礼しますわ。ちゃんとサーニャさんに謝るんですのよ」
「わかってるってば。それくらい言えるさ」
サウナから出ていくペリーヌの背中に、アリガトナ、という言葉が投げられたことに、結局ペリーヌは気付かないままだった。
fin...
236
:
6Qn3fxtl
:2011/08/06(土) 18:38:29 ID:DmchYHmI
>>235
62igiZdY様
不器用な二人、いい……。 結局のところ、二人とも大事なところでうまくいかないんですね。
その歯がゆさがまた魅力的です。
お久しぶりです。サーニャイラで1本投下していきます。
237
:
怖い お話(1/2) @ 6Qn3fxtl
:2011/08/06(土) 18:40:01 ID:DmchYHmI
「……ってなわけで、その日哨戒に出ていたメンバーは誰一人として、
基地には帰ってこなかったんだってさ」
「……ふーん」
「どうだ、怖いだろ?」
「……エイラの話なんて、全然怖くないもん……」
そんな強がりをいうルッキーニちゃんはシャーリーさんの軍服の裾を
きゅっとつかんだままで、本当はすごく怖がっていることぐらい、
誰の目にも明らかだった。
どうしてそういう流れになったのだったか、夕飯の後にみんなでお話していたら
みんなが知っている怖い話の話題になって。
お仕事のあるミーナ隊長と坂本少佐は作戦司令室に。
怖い話が苦手なリーネさんは芳佳ちゃんと一緒に自分の部屋に。
バルクホルン大尉とハルトマンさんは夜間哨戒にいってしまって、
残っているのは私とエイラ、シャーリーさん、ルッキーニちゃんの4人だけになっていた。
そして、ルッキーニちゃんが自分の話に怖がっていると気付いてからというもの、
エイラはずーっと、自分が知っている限りの怖い話を続けているのだった。
「シャーリーの影に隠れながらいっても説得力ないぞ。
ま、お子様にはちょっと刺激が強すぎたかな」
「……怖くないもん」
今にも泣きそうなのを唇をきゅっとかんで我慢しているルッキーニちゃんと
勝ち誇ったような顔をするエイラ。
エイラ、ちょっと大人げないよ。
「サーニャの前ではヘタレなくせに、偉そうにすんな、バカエイラ……」
「……なんでそこでサーニャが出てくんだよ」
ルッキーニちゃんの精一杯の反撃にちょっと顔がひきつるエイラ。
「だって本当じゃん、このヘタレダメダメスオムス人!」
「サーニャの前でそんなこというなぁ!」
「さーにゃー、さーにゃー」
「やーめーろー!!!」
「二人ともいい加減にしなよ! エイラも調子に乗りすぎ!」
「エイラ、やめなさい」
見るに見かねたシャーリーさんと私がついに仲裁に入る。
このまま放っておくと、子供の喧嘩になりそうだったし。
「だって、エイラが……!」
「はいはい、ヘタレエイラはほっといて、お風呂入って寝ような」
「うん……」
そうして、ルッキーニちゃんはシャーリーさんに抱きかかえられてお風呂へ。
ヘタレっていうなー!とエイラは抗議していたけれど、自業自得。というか真実。
「エイラも。小さい子いじめちゃだめでしょ」
「別に私はいじめてなんか……」
「反省しなさい」
「……ごめんなさい」
もう、本当に子供なんだから。少しは大人にならないとだめだよ、エイラ。
さぁ、私たちもそろそろ寝ましょう。
238
:
怖い お話(2/2) @ 6Qn3fxtl
:2011/08/06(土) 18:40:12 ID:DmchYHmI
「……エイラ、どうしたの?」
部屋に戻って、すっかり寝る準備を整えてしまった頃になっても、
エイラは部屋のなかを落ち着きなく行ったり来たり。
「いや……その……寝る、今寝るよ」
「そう……じゃ、こっちの明かり消すね」
「うわぁぁっ!!!」
枕元の小さな電球だけを灯して部屋の電気を消そうとすると、
エイラがものすごい勢いで飛んできた。
「だっ、大丈夫だから!私が消すから!サーニャは布団に入っててくれ、な!」
あまりにもいつもとは違うエイラの様子にピンときた私は、あえて何にも言わずにベッドに潜り込んだ。
お布団の中からエイラをみると、妙におどおどしながら戸締りを確認して、
ようやく電気を消す段になって、やっぱりもう一度戸締りを確認してと、ぜんぜん落ち着かない。
「エイラ……寝よう?」
「う、うん……」
「電気消してくれないと、眠れないよ?」
私が声をかけても、エイラはあいかわらず部屋を行ったり来たり。
「ねぇ、エイラ……?」
「ん?」
「もしかして……怖くなっちゃったの?」
エイラの動きが面白いくらいにぴたりと止まった。
「ばっ、バカッ!べっ、別に怖くなんて……!」
「じゃあ、早く電気消して?」
「いや、だからそれは……」
「怖いんだよね……?」
「うっ……」
困ったような顔で私の顔を見ているエイラと、見つめ返している私。
エイラがルッキーニちゃんに意地悪してた理由もなんとなくわかった気がする。
「……じゃあ、今夜だけ、だからね……?」
そういってお布団をめくり上げると、私の横をぽんぽんと叩いた。
「さっ、サーニャ……?」
「一緒に寝てあげる……」
「ええぇぇぇ!!!!」
いつも一緒に寝ているくせに、なんでそんなに驚くのだろう、この人は。
もしかして、本当に私がいつも寝ぼけてエイラのお布団に潜り込んでいるとでも思っているのだろうか。
だとしたら本当にヘタレダメダメスオムス人だ。
「でっ、でも……」
「じゃあ、一人で寝る?エイラちゃん?」
「うぅ……」
「エイラ、私もう眠いんだよ……?」
わざとらしくエイラを急かすと、今日だけだから、今日だけだかんな……と
お決まりのセリフを口の中でぶつぶつと呟きながら、それでもずいぶんと経ってから、
ようやく電気を消して、ベッドのふちにそっと腰掛けた。
「お、お邪魔、します……」
遠慮がちに入ってきたエイラにぎゅっと抱きついて、お布団のなかに引きずり込む。
エイラの顔がすぐ目の前にあって、なんだかこっちまでどきどきしてくる。
「エイラちゃん、今夜はずっと一緒にいてあげるからね」
「さ、さーにゃぁ……」
「ふふっ。いい子、いい子……」
エイラは口をぱくぱくして心臓が止まりそうな顔をしていた。
小さい子の頭を撫でるみたいにエイラのを撫でながら、こんなエイラだったら
子供のままでもいいなぁなんてことを考えながら、私は眠りに落ちていった。
さてさて。夜が明けて、手をつないだままだった私たちにエイラが大慌てをして
ベッドの柱に頭をぶつけて大きなたんこぶをつくったことや、
それ以来、リーネさんよりもずっと怖い話が苦手になったことなんかは、また、別のお話。
fin.
239
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/06(土) 22:35:43 ID:FctB5kzg
こんばんは〜!
>>226
mxTTnzhmさま
あの宿…何故にゴスロリ服があるんだ…?;;
そしてその流れからエーリカのエプロン姿に繋がるだなんて、スゴいです!勉強になります!
>>231
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2さま
早速フミカネさんのツイッターネタですね!
正直、あのイラストだけじゃエーリカの新婚生活的なのを想像出来なかったのですが…このSSで、イメージがだいぶ広がりましたw
へぇ、エーリカってこんな新婚生活を…!
>>234
62igiZdYさま
大好きです、エイラとペリーヌの組み合わせ!マイナーな組み合わせなために、あまり誰も書かれなくて…妄想の蓄えが無くなってきた頃に書いて頂けるとは!
お互いヘタレなコンビを見て、とても癒されます(*´Д`)
>>237
6Qn3fxtlさま
夏ですね!稲川淳二的な?…エイラってルッキーニをこうゆう風にからかってそうですね!あ、あとエーリカも!
てか、サーニャが菩薩みたいですね!エイラを注意したのに、最終的にはベッドに引きづり込むだなんて…まさに「魔性の女」です!
さて、自分もフミカネさんがツイッターにて描いていたヘルマの水着イラストを見てこの物語をひらめきました!
【ヘルマの発情】シリーズ最新作です、どうぞ!
240
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/06(土) 22:36:50 ID:FctB5kzg
【ヘルマの水泳訓練】
「水練に来たのに、ずっとひなたぼっこしてるじゃないですか」
どうも、最近暑いですね!ネットの通販でどこ製かわからないけど、扇風機を買いました!
第131先行実験隊「ハルプ」第三中隊所属、ヘルマ・レンナルツであります!
お給料の積立金から慰安旅こ…ゲフンゲフン、訓練の一環としてカールスラントが誇るリゾート地・ワルネミュンデに来てるであります!
…が!皆さん、趣旨がわかっていない模様;;
だってこれは訓練の一つなんですよ?!なのに…なのに全員ダラけ過ぎです!!どこの訓練にオイルを塗ったり、ビーチパラソルの下でスポーツ新聞読む輩が居るでありますか!
これは断固、上官に抗議です!
「フフ、そういう生意気は浮き輪なしで泳げるようになってから言いたまえ曹長」
「ムキ〜!こっ、これはですね…浮き輪じゃありません!!!!」
「………は?」
「これは………」
「これは?」
「………すっ、水泳補助道具です!」
「…わかった、訓練して来い」
「…はい…であります…」
すると…急に、
「ヒャッ!!??」
誰かに脇腹を触られたであります!誰です?!こんなに堂々と猥褻行為を働く輩は!?
「ちょっと!!」
すぐさま後ろを向くと…
「ん?」
そこにはたぶん、扶桑の人間が…は?!扶桑?!
だってこれはカールスラント軍の慰安旅行…じゃない、水練じゃあ?!
「ちょっとアナタ!何をするんです、と言うか誰ですか?!」
「ああ、忘れてたな」
さっきまで寝ながらスポーツ新聞を読んでいた上官が起き上がって、
「紹介する。連合軍第502統合戦闘航空団の下原定子少尉だ」
「はじめまして〜」
なんですかぁ…このフワフワした雰囲気は!!
「ごめんなさいね〜、可愛い物をみるとつい触ったり抱きしめたりしちゃうもので」
「うわあ…それ、私で良かったぁ;;街中で他の人にやったら明らかに不審者ですよ;;;」
「申し遅れました、扶桑の下原定子です」
「こ、こちらこそよろしくお願いします…あ!第131先行実験隊『ハルプ』第三中隊所属、ヘルマ・レンナルツです」
「いやあ…つるぺた幼女最高だわ〜!」
「っるさいですよ!余計な御世話です!」
何なんですか?!この人はぁ!!??
…ん?あそこにいるのはハインリーケ大尉?しかもその周りには…前屈みしている殿方がちらほらと…;;
「せっかく海に来て泳がんのか?全員前屈みでおかしな奴らじゃの」
「大尉…すいません、僕シャワー浴びてきます!」
「俺はトイレ行ってきます!」
「???」
あぁ…大尉、自らのミラクルボディの魅力がわからないんですねえ…;;;
で、でも…何を食べたらあんな大きく…(ゴクリ
…ん?さっきまで隣にいた下原少尉…あれ???
「んん〜…カールスラント最高ぉ」
えぇぇ!!??
なななななんで、なんでさっきまで私の横にいた下原少尉が大尉に抱きついてるんですかぁ?!
「レンナルツ!おい、レンナルツ!見てないで、コイツをどうにかしろ!」
「すいません…ってなんで、私が謝ってるんだろ;;」
「なんだ、お前は…ってなんだ、下原か」
「え?!ご存知なんですか?!」
「お互いナイトウィッチだからな」
「はい」
「へえぇ…」
「ヘルマちゃんヘルマちゃん」
241
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/06(土) 22:37:12 ID:FctB5kzg
「ヘルマちゃん?」
「いやあ…相変わらずプリンちゃんは良い体してるねぇ!」
「下原、妾をそんな名で呼ぶでない!」
「あ、あのう…」
こ、個人的に…プリンちゃん…じゃない、ハインリーケ大尉の体に興味が…(ゴクリ
えぇい、こればかりは下原さんに直接聞いちゃうであります!!そっと近付き…、
「何?ヘルマちゃん」
「どんな感じなんですか?大尉の体つきって」
「ん〜…ヘルマちゃんとはまた違うぷにぷに感だね〜」
「へ??」
「ヘルマちゃんが明るいぷにぷにだとしたら、プリンちゃんはエロスなぷにぷに」
「…え、じゃあデニーズとガストの違いみたいな物ですか?」
「ん〜…もっと明確な違いかな」
「じゃあスカイガールズとストライクウィッチーズとか?」
「ん〜、あながち間違いじゃないわね」
「千昌夫とコロッケとか?」
「残念、離れちゃったよヘルマちゃん!」
「美川憲一とコロッケとか?」
「コロッケから離れようよ」
「渡哲也と渡瀬恒彦?」
「ん〜、あながち兄弟ね」
「千葉妙子と世戸さおり?」
「ん〜、あながち坂本少佐ね」
2人でコソコソ盛り上がっていると…、
「やめんか2人とも!!」
「プリ…じゃない、ハインリーケ大尉?!聞こえてました?!」
「あぁ!レンナルツは主旨わかってないし、下原も『あながち』って単語が言いたいだけだろう!」
「プリンちゃん、ツッコミの腕上げたね〜!」
「うわあ…なんだか稽古してたくらい、綺麗なボケとツッコミですねえ;;」
***
ハインリーケ大尉と別れ、再び下原少尉と2人っきりになったであります。
人気のない海岸まで散歩をし………、
「ねえヘルマちゃん」
「はい、何でしょう?」
「水練に来たんじゃなかったの?;;私と油なんか売ってて良いの?」
「ハッ!!」
しまった!!つい下原少尉と一緒にいて、ずっとふざけてた気が;;
イカンであります!これもれっきとした訓練!今すぐ再開しなければ!;;
「そもそも、アナタが…」
「良いから良いから…ん?」
「どうしました?」
「そのさ…腰に付いてるのはなぁに?」
「…これくらい、扶桑にもあるでしょう!」
「ううん、わかってる。なんで水練に浮き輪なの?」
「ちっ、違うであります!これは水泳補助道具です!」
「…要するに浮き輪でしょ?」
「うっ…」
この女…なかなか鋭いであります;;;
「もしかして…」
「もしかして…?」
「ヘルマちゃんって、もしかして…」
「ああ〜っ!皆まで言うな!皆まで言うなであります!!!!」
「そっかそっか〜…へぇ…」
「………」
「………でも、そのままにしとく気?」
「いや、いずれかは…その…;;」
「その、ヘルマちゃんにとって『いずれか』はいつなの?」
「………;;」
「…よいしょっと!」
バシャーーーーンッ!!!!
すると、急に下原少尉が目の前の崖から海に飛び込んだであります;;
「しっ、下原少尉っ?!」
「おいでよ、ヘルマちゃん」
「でも…」
「良いこと教えてあげる。私ね、実は全然飛べなかったんだ」
「へ???」
「今では502部隊のエースって言われてるけどさあ」
「そんな事…自分で言います?!」
「まあまあまあ。最初、飛ぶのが怖くて怖くてしょうがなかった」
さっきまでの威勢は何処かへ行ったのか、急にしんみりした顔になったであります…。
「んで、どうゆうワケかリバウに転属させられて…とある鬼教官の部下になったんだ〜」
「…それで…?」
「続きは、下まで来たら教えてあげる」
「むっ、無理です!こんな高い所から飛び込みだなんて…っ」
「そんなに高くないよ?」
「…っ」
「さっさとしろぉ!!!!へっぽこ曹長!!!!」
「っ?!」
「…って、昔言われたよ。今、意を決するチャンスだよ!」
ここまで言われたら………あぁ、思い出が走馬灯のように…
ミーナ中佐…アレは嫌だったけど、テクは一流でした…
242
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/06(土) 22:37:32 ID:FctB5kzg
唯一、私が主人公のシリーズ物だったのに思わぬところで最終回とは…
「えぇい!」
バシャーーーーーンッ!!!!
あれ…?ここ、足がつくでありますよ?!
「あれ…?そんなに深くない?」
「でしょ?やれば出来る子じゃない」
「とっ、当然であります!」
「ここまで来たら…いってみよ〜!」
「………っ」
ハ…ハメられたぁ〜っ!!!!
「まずは10秒間、海に顔を付けてみようか」
「でも…」
「良いから良いから!」
***
「ふう…」
すっかり陽が傾きかけた頃、私は5m泳げるようになってたであります…。
もうヘトヘトで、砂浜に寝っ転がってます;;立つ気力もないという…;;
てかこの人、ほんわかしてる雰囲気なのに泳ぎの練習時は鬼ですよ!!??
「お疲れ、ヘルマちゃん」
「………」
「あれぇ、怒ってるぅ?」
「疲れてんです!」
「そうかぁ」
「ふう…」
「言いかけてた話の続き、話すね」
「どうぞ、ご勝手に」
「とある鬼教官…まあ坂本さんって名前なんだけど」
「501部隊の?」
「うん。出来ない事を後回しにしてたらね、こんな事言われたんだ」
「どんな事言われたんですか?」
「『明日やろうは、馬鹿やろうだ!わっはっは』って」
「………」
「まあ最後の笑いはどうでも良いとして、そうだよね…一度後回しにしちゃう癖が出来ちゃうと、この先ずっと逃げちゃう事になるんだよ?」
言ってる事は、一理ある…かも…
「その言葉で私は意識改革できたんだ〜。んで、今や502部隊のエースってワケ」
「一言余計です!」
「酷〜い!酷い。ヘルマちゃん!」
でも何だかんだ言って、下原少尉には感謝…してるでありますよ…?
***
「ただ今戻ってまいりました!」
2日後、私は基地へ戻って来たであります!
あ、ハルトマン中尉は低血圧な声(いつも?)で「私は…良い」って言って慰安旅こ…ゲフンゲフン、水練への参加を拒否したであります。
「おかえり、ヘルマ」
「あ、これお土産です。ワルネミュンデのタペストリーです」
「ありがとう…。どうだった?」
「はい…色々な事が学べました」
「そう」
「あの…」
「何?」
「お1つ聞いてもよろしいですか?」
「…構わない」
「ハルトマン中尉は数々の実験などをなさってますが、アイデアが思い立ったらすぐ行動に移すタイプですか?たとえ眠くても」
「ううん」
…へ??
「流石に私でも、睡眠欲や休憩したいって欲には勝てない」
「え…えぇぇ」
「私のモットーは『明日出来る事は、明日にでも出来る』だから」
「………;;;」
…まっ、まあ人によって考え方は様々ですね!;;
『明日やろうは、馬鹿やろうだ!』か『明日出来る事は、明日にでも出来る』でありますよ…ね?
【おわれ】
243
:
62igiZdY
:2011/08/07(日) 04:11:51 ID:OH44hhAk
>>237
6Qn3fxtl様
「じゃあ、一人で寝る?エイラちゃん?」
サーニャのこの台詞に全部もってかれましたw素晴らしい!
サーニャも苦労が絶えないですね。
>>240
Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
ヘルマの発情シリーズキター!いつも楽しみにしております。ヘルにゃんぺろぺろ!
振り回されるヘルマさんはかわいいですね。
ストライクウィッチーズ2第6話「空より高く」の外伝的なものを書いてみました。
502を舞台に片想いニパさん視点で。それでは、よかったらどうぞ。
244
:
願いのかたち 1/3
:2011/08/07(日) 04:15:13 ID:OH44hhAk
その日の昼間の流星は、赤と青の螺旋を描き、願い事が閃くよりも速く、ウラルの向こう側へと消えていった――。
『願いのかたち』
「高度33333メートル?」
最初にそれを聞いたときは、なんてキリのいい数字だろう、くらいにしか思わなかった。
「うん。そんなノッポなネウロイが出たんだって」
ノッポなネウロイってどんなんだよ……。
とりあえず私は、そのことを語った目の前のノッポな人を巨大化させて想像に置き換えた。
そして不覚にも吹き出してしまった。
「あ、ニパくん。今、ボクで変な想像したでしょ。やだなぁ、想像だけじゃなくて目の前にいるんだから。さぁ……」
ボクの胸に飛び込んでおいで! と、腕を広げて飛び込んで来た伯爵を、紙一重のところで躱した。
「飛び込んでおいでって言いながら飛び込んで来る人、初めて見たよ。それとあなたはエスパーか何かですか……」
そう言っておいて気付く。エスパーじゃなくて、ただの変態だったな、と。
頭の中はいつでも桃色。そんな人の前で隙を見せてしまった私も迂闊だったなと反省する。
そして気になる例の数字の話題に戻そうと、伯爵の方に向き直り、盛大に溜息を吐いた。
「ジョゼちゃん、あったかいよ、ジョゼちゃん」
「ちょ、ちょっと。一体、なんなんですかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
私が躱した伯爵は、飛び込みの勢いはそのままに、たまたま通りかかったジョーゼットさんに抱きついていた。
(ごめん、ジョーゼットさん。半分、私のせい)
心の中で手を合わせて、伯爵を引き剥がしにかかった。
「伯爵! ジョーゼットさんも困ってるじゃんか!」
「お、ニパくん。ようやくボクに飛び込まれる気になったのかい?」
「なってないし! そんな変な質問されたの初めてだよ!」
まったく、この人は、サーシャさんでも連れてこようか。
いや、そんなことしたらスーパー正座タイムが始まってしまう。
むしろ見つかる前に話を戻そう。
「そんなことより、伯爵、さっきの話ってなんだったの?」
「あぁ、ノッポなネウロイのことかい? なんてことはない、文字通りのことさ。細長い棒状のネウロイで、そいつのコアの位置が……」
「高度33333メートル……」
二度目にその数字を口にして、その途方もなさにようやく気付いた。
「そんなネウロイなんて、どうやって撃墜すれば……」
「聞いたところによると、ロマーニャ空軍が頑張ってたみたいだけど結局ダメで、501が引き継いだらしいよ」
第501統合戦闘航空団。
その名前が出た瞬間、どういうわけかアイツの顔が浮かんだ。
「いくら私たちウィッチでも、高度三万メートルなんて飛べるわけないじゃんか」
ストライカーでの限界高度は精々高度一万メートル。その三倍もの高さなど、前代未聞、前人未踏の領域だ。
「それが、501は墜とす気満々らしい。あそこの戦闘隊長の座右の銘の通り、不可能はない、ってね」
バカバカしい話だ。正直にそう思った。
いくら魔法力があるとは言え、生きて帰れるとは思えない。特攻でもするつもりだろうか。
「この基地からでも、そのノッポさんは見えていたらしいけど。南下してるみたいで、今はもう見えないかな。あ、でもちょっと空に上がれば、見えるかもしれない」
それほどの巨大なネウロイ。最早、全てが規格外だ。
そんな奴が相手だと、確かに真正面から挑むのが、一番なのかもしれない。
それでも……。
「それでも、無茶だと思うけどなぁ」
史上初の試みであろう任務に就かされる誰かに、少しの同情を抱いた。
それと、何故かアイツのことが頭から離れなかった。
アイツなら、こんな無茶もやりかねない。
そう思えてならなかったのだ。
「ねぇ、伯爵。その、任務に就くウィッチって、もう決まってるの?」
気付けば、伯爵にそんなことを訊いていた。それを知ったって、どうにもならないのに。
「あぁ。確か、リトヴャク中尉、っていうナイトウィッチだったかな」
アイツじゃ、なかったんだ。
そのことで少し安堵した自分に、酷い嫌悪を覚えた。
(私ってば、嫌なヤツだな。同じウィッチが危険な任務に就いてるってのに……)
そこまで回想した私は、とても重要なことを思い出した。
「リトヴャク中尉……、ナイトウィッチ……。それって……」
そうだ、私はその娘を知っている。
アイツの手紙の中で。
それだけじゃない。
一度スオムスに帰ってきたアイツと一緒にいた……。
245
:
願いのかたち 2/3
:2011/08/07(日) 04:16:14 ID:OH44hhAk
「サーニャさん……」
全身を、嫌な予感が駆け巡った。
それだけならまだしも、それ以上に恐ろしい暗い暗い真っ黒な感情の発露に、全力で頭を振った。
(何を考えているんだ、私。嫌だ……。違う、そんなの違う……!)
「……くん、……パく……、ニパくん!」
伯爵に肩を揺さぶられていることにようやく気付いた私は、正気を取り戻した。
「どうしたんだい? いきなり顔を真っ青にして」
真面目な顔で心配してくれる伯爵。
珍しいものが見れたなぁ。
と、そういう思考が出来たことで、もう大丈夫だろうと思った私は、その場は適当に言い繕って自室へと向かった。
いつからだろう、アイツのことを追い掛けるようになっていたのは……。
柄にもなく在りし日のことを思い出していた私は、ベッドの上で幾度目かの溜息を吐き出した。
アイツは憧憬の的であり、羨望の的でもあり、嫉妬の的だった。
正反対の二人。
周囲にはそう映っていただろう。
かたや戦闘における被弾率ゼロパーセントの、無傷のダイヤモンド。
かたやユニット壊しの、ツイてない私。
それでも、何度となく撃墜されても必ず生還する私に対して、いつかのアイツはこう言った。
「私と、おんなじダロ」
絶対に被弾しない無傷のアイツと、どんな傷を負ってもたちどころに治って、無傷になる私。
嫌味でも皮肉でも気休めでもなく、曇りなき瞳でそう語ったアイツの言葉は、私の心に魔法でも癒せない、傷を残した。
(イッルと、同じ……。)
それからというもの、なにげないやり取りが、さりげない悪戯が、私の心を惑わせた。
夜も眠れないくらいの狂おしい気持ちが私を支配し、一向に傷を回復させない。
今までと同じはずなのに、何処か違った感覚。
赤面することが多くなった私を、アイツは、変なやつだ、と言った。
どうしてもいつも通りだったはずの距離感が保てない。
思い悩む私を、良くも悪くも救ったのは、より一層茫漠とした『距離』だった。
エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉の、ストライクウィッチーズへの転属。
アイツは、ブリタニアへと旅立った。
その旅立ちの日、私はボロボロで帰還して医務室のベッドの上にいた。
アイツを見送ることが出来なかったのは少し寂しかったが、それ以上に冷静になっていく私がいた。
もう、アイツと顔を合わせるたびに、胸を締め付けられる思いをしなくて済む。
これでこの傷も癒えるかもしれない。
それがどれだけ浅慮な考えだったか、すぐに気付くことになる。
アイツがいなくなってから、私の傷は更に深くなった。
それからの日々は、ただ我武者羅に大空を駆けた。
撃墜数も順調に伸びて、エースと呼ばれるに相応しいだけの、戦果もあげた。
私は、自分自身の空を飛んでいるつもりだった。
でも気付けば、いつもアイツの背中を追っていた。
アイツの幻を追っていた。
それは、どんな障害でもヒラヒラと避けて飛び続けるのに、私は途中でついていけずに墜ちていく。
どれだけ手を伸ばしても、決して届くことは叶わない。
触れることも叶わない。
墜ちていく私はアイツの名を呼ぶ。
チラッとだけ振り向いたアイツは、私なんて見えていないとでも言うかのように飛び去った。
その手を、私が掴むはずだった、その手を、黒い魔女と繋いで――。
246
:
願いのかたち 3/3
:2011/08/07(日) 04:20:52 ID:OH44hhAk
「イッル……!!!」
自分の声が浸透していく中空を見つめて、いつの間にか眠ってしまっていたと気付いた。
変な夢を見てしまった。
じっとりとした汗を握った手は、小刻みに震えている。
夢の中での私は何を思ったか。
私が掴むはずだったその手をとった、あの娘のことを。
(■チレバイイ……)
夢の記憶なんて、いつもはすぐに忘れるものなのに、どうしても頭から離れない。
まるで、それが自分の願いであると囁かれているようで、恐ろしくて、悲しくて、気付けば涙を流していた。
超高々度でのネウロイ殲滅作戦。
サーニャさんにその責が任されるとなると、当然アイツもついていくと言い出すだろう。
アイツはそういうヤツだし、それだけサーニャさんに惚れ込んでいる。
命の保証などない危険な作戦であることは明白だ。
それでもアイツは、例え命令違反を犯してでも、飛ぶのだろう。
それが容易に想像出来たからこそ、怖くなった。
(何を心配しているんだ……)
アイツは無傷のエースだ。
それは私が一番よく知っている。
それに、アイツ自身が言ったことだ。
私と、同じだって。
それは、どんなことがあっても、必ず生還するということ。
そう、大丈夫。
きっと、大丈夫。
自分に言い聞かせるように、任務の成功と無事の帰還を祈った……。
数日後、私は任務の空にいた。
あれから件のノッポなネウロイがどうなったのか、私は何も訊かなかったし、考えないようにしていた。
サーニャさんもアイツも、ずっと一流のウィッチだ。
ツイてない私なんかがあれこれ考えたら、むしろ良くないことが起きるような気さえした。
そのことを無理やりにでも忘れようと、ここ数日は危な気な戦闘が続いていたかもしれない。
出現したネウロイを全て墜とし、今日は私も墜ちることなく、空の中にいた。
作戦終了の報せにホッとした私は、なんとなく天を仰ぎ、目を細めた。
そして大きく目を見開き、それが何であるか気付いた瞬間、私は隊列を離れ飛び出していた。
空より高いその場所を流れる、一条の光を目指して。
それでも私には決して届かない。
限界高度より遥か上で描かれる赤と青の螺旋は、私の知らない世界の色を見せ、ウラルの彼方へと消えていった気がした……。
「おーい! ニパくん! 急に飛び出してどうしたんだい? 早く帰らないと、またクマさんに怒られちゃうよ」
追ってきた伯爵の声に、それでも私は天を眺め続けた。
「ねぇ、伯爵。伯爵は、流れ星を見つけたら、何を願う?」
唐突なその問いに、キョトンとした伯爵は、しかしいつもの笑顔で応えた。
「流れ星? こんな昼間にかい? まぁ、ボクが流れ星を見つけたらもちろん、世界中のかわいい女の子がボクのものになりますように、って願うさ」
この人に訊いた私がバカだった。
そして私は呆れるでもなく、溜息を吐くでもなく、少しだけ微笑んだ。
「なんか意味ありげな微笑だね。そんなニパくんもまた、なかなか……」
一層紳士的な笑みを深めた伯爵が詰め寄ってくるが、私はヒラリと躱して基地へと急いだ。
「お、ニパくん。今の機動、いい線いってたよ。ホントに、どうして今日は絶好調じゃないか」
少しだけ、アイツに近づけた気がした。
気がしただけで、いつもの私なら、そろそろお約束のエンジントラブルに襲われそうだけど。
今日の私なら、たぶん大丈夫。
「そう言えば、ニパくん。ニパくんは流れ星を見つけたら、何を願うんだい?」
今はまだ届かないその光。
それでも、いつか必ず。
「私の、願いは――」
fin...
247
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/09(火) 20:49:40 ID:/yldXPzQ
>>232
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! いいですねグっときますね! やっぱりフミカネ先生のEMT破壊力はハンパ無いです。
>>235
>>246
62igiZdY様
GJ! 不器用な二人良いですね! 二人共もっと素直になればともどかしいけど可愛いと言う。
ニパさんの話もせつなくて、けどとても素敵なお話しですね。
>>236
6Qn3fxtl様
GJ! どこか抜けてるエイラと、しっかりしてるサーニャが良いですね。改めて良いコンビです。
>>242
Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJ! 定子さんが怖かったり可愛かったりで楽しいです。ヘルマは愛されてるのか不憫なのか……。
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.1573「count your mark」の続きを思い付きましたので
少々書いてみました。
ではどうぞ。
248
:
count your mark!! 01/03
:2011/08/09(火) 20:50:33 ID:/yldXPzQ
午後三時きっかりに、再びその数字は現れた。
頭の上にピコンと表示されたその「数」は、減る者こそ居なかったが、おしなべて皆増えていた。
増え方に多少の……多少とも言えないばらつきは有ったが、確実に増加していた。
……ただ一人のウィッチを除いて。
再びの事態に混乱を来す501。先日の“首謀者”たるエーリカとルッキーニは「今度は何もやってない」と頑なに主張、
証拠らしいものも見つからなかった。しかしこうたびたびプライベートな事が露見するのは問題だと言う事になり、
501は暫く、(安全回避の意味合いも含め)他のウィッチ部隊との接触を禁じた。
「ひっつき過ぎですわよエイラさん」
「小さなサウナなんだからしょうがないダロ?」
サウナの中、汗だくで“密会”する二人のウィッチ。
相変わらず頭の上の数字がゼロのまま変動しないペリーヌ、そして幾らか増えてはいるが微妙な感じのエイラ。
「で、何で私がオマエにキスしなきゃならないんダヨ?」
口を尖らせるエイラ。
「貴方この前言ってたじゃないですの! 『サーニャと数が違うゾ〜』って」
「私の真似スンナ!」
「だから、ここはひとつ共同作戦と言う事でいかがかしら?」
「ちょっと待テ。何が共同ナンダヨ。私一つも得しないゾ」
「どうして。サーニャさんと数を合わせるのにちょうど良いんじゃ無くて?」
「だって、キスってしたくもない相手とするもんか普通?」
「それは……で、でも、わたくしにもプライドというものがありましてよ。ゼロだなんて……」
「それはドウカナー?」
エイラは一瞬にやりと口の端を歪めた後、不意に真面目な顔になって言葉を続けた。
「ツンツンメガネの家柄って、何だったっけ?」
「はあ? いきなり何ですの」
「確か貴族か何かだったよナ? そんな家柄のエラいウィッチが、結婚の前に実はしまくってましたとか知れたらどうするんダヨ」
「……なっ!」
「ほーれホレ、それでもキスしたいのカ?」
「ちょっ、何近付いて来るんですの! 嫌がらせですの?」
「今頃考え変わっても遅いゾ」
壁際に身体を押しつける。
「あ、熱っ! エイラさん、貴方わざと」
「こうでもしないと逃げられるからナー。私は先読み出来るからナ。私からは逃げられないゾ」
「そ、そうかしら」
249
:
count your mark!! 02/03
:2011/08/09(火) 20:51:21 ID:/yldXPzQ
ペリーヌの台詞と同時に、不意にサウナの扉が開いた。
「やっぱりここに居たんだ、エイラ」
サーニャだった。途端に身体が固まり、異様に別種の汗をかくスオムス娘。ペリーヌの言う通り、ここまでの先読みは出来なかったらしい。
「さ、サーニャ!? これには訳が」
「どんな?」
「こここ、これはペリーヌから言って来た事で、その……」
「ちょっ、ちょっとお待ちなさい! 何でそこでわたくしを悪者に!」
「分かってます、ペリーヌさん」
サーニャは微笑んだ。しかしエイラにとってその微笑みは獅子の咆哮よりも恐ろしく見えた。
「エイラ、私の数と合わせようとしたんでしょう?」
「な、何故それヲ!」
「エイラの考えそうな事だもの」
「じゃ、じゃあ聞くけド、サーニャは何で私より数が多いんだヨ!? おかしいじゃないカ!」
サーニャはその言葉を待ってましたとばかりに、薄い笑みを浮かべた。
「知りたい?」
「だ、誰とダヨ? まさか、宮藤か? 宮藤なのカ!? アイツなのカ!?」
「知りたい?」
繰り返される言葉。サーニャの底知れぬ恐ろしさに気圧され、エイラはごくりと唾を飲んだ。
「い……いや、知りたくナイ」
「エイラだって、501(ここ)に来る前に誰かとしてるかも知れないし……」
「そ、そんな事は……無いゾ……多分……」
「ほら、エイラだって」
「わあ、待ってサーニャ!」
「じゃあ、二人で数、増やす?」
「ふふ増やす! 増やしたい!」
サーニャに手を引かれ、エイラはそそくさとサウナを出て行ってしまった。
無情にもばたんと閉まる扉。
一人ぽつねんとサウナに残されるペリーヌ。
「な、な……なんですの一体!」
ペリーヌは一人立ち上がり、吠えた。
250
:
count your mark!! 03/03
:2011/08/09(火) 20:51:53 ID:/yldXPzQ
唐突にサウナの扉が開いた。興味深そうに中をひょっこり覗き込んでいるのは……
「何だ、誰かの大声がしたかと思ったらペリーヌか」
「その声は、しょ、少佐!? 申し訳ありません」
「どうした、歌の練習か? ここは熱いんじゃないか?」
冗談のつもりか、笑う美緒。そのままボディースーツも脱がずバスタオルも巻かずにサウナに入り込むと、ペリーヌの真横にどっかと腰掛けた。
「うむ。これがサウナか。扶桑の風呂とはまた違うな。こう、じりじりと灼ける熱さがまた良い」
またも笑う美緒。ペリーヌは至近距離で見える美緒の顔がほのかに紅い事に気付く。まだ入って数分もしていないのに何故? と。
「どうしたペリーヌ、悩み事か?」
「え? いえ、その」
美緒は眼帯をめくってペリーヌの身体を見た。そして微笑んだ。
どきりとするペリーヌ。
「はっはっは。身体の部位の大きさだの、ナントカの回数だの、気にしすぎなんだ皆は!」
大声で笑い飛ばす美緒。
「それに、操を守る事も大事なんだぞ。扶桑の言葉だったかは忘れたが」
思い出す様に、美緒は言葉を続けた。
「は、はあ」
頷くしかないペリーヌ。
「己の操を守れもしない者が、他人を守れるか、と言う事だ」
真面目に語り、ひっくと詰まった息をする美緒。思わず聞き入るペリーヌ。
「まあ、そう言う訳で、深く考えるなペリーヌ。お前はいい子だからな。何でも考え過ぎなんだ」
と言って、ペリーヌのおでこにちゅーをひとつする美緒。そして笑う。
ペリーヌの頭上の数字は……
その前に、純情なガリア娘は酔いどれ扶桑魔女の余りの突飛な行動について行けず……失神しかけた。
よろけつつサウナから出た時、突如として“その数字”は霞と消えた。
他の隊員も同じく、また消えていた。
あの時のおでこのチューは数に入るのかしら……とぼんやり考えを巡らせるペリーヌ。
美緒は酔ってそのままサウナで寝かけたところを、探していたミーナに見つかり“連行”された。
ミーナは、ペリーヌの事こそ気遣っていたが、それ以上に何やら別の事で殺気めいたものを感じ……、ペリーヌは何も言わなかった。
もう二度と現れない事を願いつつ……ミーナの再びの厳命により、全てが伏せられた。
ペリーヌはサウナでの出来事が気になっていたが、どうする事も出来なかった。
テラスで夜風に吹かれ、黄昏れるガリアの娘。
夜空に輝く無数の星々、そして一筋の流星。
ふう、とつく溜め息は、何度も繰り返された。
end
251
:
名無しさん
:2011/08/09(火) 20:52:05 ID:/yldXPzQ
以上です。
これ以上は更なる泥沼の予感が。
ではまた〜。
252
:
アキゴジ
:2011/08/10(水) 04:45:45 ID:lPCIYESI
どうも、アキゴジです。知らないうちにたくさん良作が出てきてますね!
ストライクウィッチーズIFで未登場の501部隊の残りがリーネちゃんと芳佳ちゃんの2人になりました。僕の予想では、リーネちゃんは恐らく故郷のブリタニアを守っていると思います。
で、今回は魔法力を失った後の芳佳ちゃんの話を書こうと思います。ただ、百合要素は無いかもしれません・・・(汗)
253
:
ストライクウィッチーズIF 宮藤芳佳編 勇者は再び 1
:2011/08/10(水) 05:32:09 ID:lPCIYESI
1947年 扶桑皇国。
芳佳「はい、これでもう大丈夫だよ」
女の子「わあ、お姉ちゃんありがとう!」
芳佳「どういたしまして、でも、また転ばないように気をつけてね」
女の子「うん!」
女の子「バイバ〜イ!」
芳佳「怪我したらいつでも来てね〜」
芳佳「ふぅ・・・」
清佳「お疲れ様、芳佳、お茶でも飲む?」
芳佳「うん、ありがとう、お母さん」
私がロマーニャでの戦いを終えて、2年が経っていた。戦いで魔法力を全て失った私は、実家の診療所で働いている。
何事も無く、ただ平凡な日々を送る毎日だった。でも・・・
芳佳「お母さん、おばあちゃんは?」
清佳「部屋で寝ているわ、今のところ大丈夫みたい」
芳佳「そっか」
一年前、おばあちゃんは病気になってしまった。でも、安静にしていれば問題は無いようだ。私と違って魔法力はまだ健在であるにも関わらず、突然の病だった。こんな時、私に魔法力があったらと思うと、自分自身に腹が立つ。
芳佳(・・・今日も良い天気だな)
あの青い空を見ていると、かつてストライカーユニットで空を飛んでいた頃を思い出す。あの時の事が、何もかも夢だったようにも感じた。でも、一緒に戦った仲間と過ごした時間は決して夢ではないとわかっている。
芳佳(みんな・・・どうしているかな・・・あの空を今でも守っているのかな・・・)
ウゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッ・・・・・・
芳佳「!?」
突然、どこからともなく警報が鳴り出した。
清佳「何かしら・・・?」
みっちゃん「芳佳ちゃん!」
芳佳「みっちゃん!?どうしたの!?何があったの!?」
みっちゃん「さっき軍隊の人から聞いたんだけどね・・・ネウロイがこっちに近づいているって!」
芳佳「え・・・!?」
ネウロイ、私達が最も恐れる敵。世界を破壊し、人々の住む街を滅ぼす異形の敵。
芳佳「何で・・・何でネウロイが扶桑に!?」
みっちゃん「わからないけど、とにかく軍の人達が速やかに避難しなさいって言ってた!」
芳佳「でも、おばあちゃんが・・・」
芳子「私なら大丈夫だよ、芳佳・・・」
芳佳「あ、おばあちゃん!」
清佳「体は大丈夫なんですか?」
芳子「あぁ・・・これくらいなら大丈夫だよ」
芳佳「じゃあ、早く避難所に行かないと!みっちゃん、案内して!」
みっちゃん「うん!」
254
:
ストライクウィッチーズIF 宮藤芳佳編 勇者は再び 2
:2011/08/10(水) 06:12:13 ID:lPCIYESI
避難所
芳佳「本当にここで大丈夫なのかな・・・?」
みっちゃん「いざという時にはウィッチの人達が付いているから大丈夫だよ」
芳佳「だと良いんだけど・・・」
扶桑皇国海域
扶桑海軍兵1「ネウロイ発見!攻撃開始!」
ドンッ!!ドンッ!!ダダダダダダダダダダダダダッ!!
ネウロイ「オオオオオオォォォォォォォン・・・・・・」
バシュウッ!!ドオオォォォン・・・!!
扶桑海軍兵2「第一艦隊、大破!」
扶桑海軍兵3「くそ!化け物め・・・!」
海軍大佐「怯むな!何としても奴をこの場で仕留めるのだ!!」
全員「了解!」
芳佳「・・・・・・・・・」
みっちゃん「芳佳ちゃん、大丈夫?」
芳佳「うん、大丈夫・・・」
あの時と同じだ。赤城に乗っていた時、ネウロイに襲われて、おびえていたあの時と同じだ。でも、もう私には魔法力は無い。戦う力は何一つ残っていない。こういう時くらい、魔法力がほんの少しでも良いから出てほしい。そんな思いが込みあがってくる。
芳佳(・・・私、もう誰も守れないのかな・・・誰も助けられないのかな・・・)
オオオォォォォォォォォォン・・・・・・
芳佳「!?」
突然、聞き覚えのある音に私は震えた。ネウロイの咆哮が、扶桑に響きだした。
兵士1「ネウロイ出現!攻撃準備!」
兵士2「海軍の防衛は破られたのか・・・!くそ・・・!」
ネウロイ「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・」
外を見てみると、巨大なネウロイが黒い体をうねりながら空を飛んでいた。その姿に、私はあの時以上の恐怖を感じた。
カアアアァァァァ・・・・・・
芳佳(あ!あれは!)
ネウロイの身体が赤く光りだした。そして・・・
バシュウッ!!ズドオオオォォォォォォォォォン・・・!!!
赤い閃光が放たれ、地上を焼き尽くしていく・・・。私はただ、見ている事しかできなかった・・・軍と見習いのウィッチが、ネウロイの攻撃に苦戦している絶望的な光景をただ見ている事しかできなかった。
芳佳「・・・・・・」
みっちゃん「芳佳ちゃん!中に入って!危ないよ!芳佳ちゃん!」
芳佳「・・・・・・何で」
みっちゃん「・・・芳佳ちゃん?」
芳佳「何で・・・こんな事に・・・」
私は悔しかった。ロマーニャのネウロイの巣を破壊しても、ネウロイは必ずまたどこかに現れる。それがよりにもよって、私の故郷だなんて・・・。私は自分の無力さに涙を流した。
芳佳「私・・・何も守りきれてない・・・私は・・・私は・・・」
みっちゃん「芳佳ちゃん・・・・・・」
芳佳「うっ・・・うっ・・・」
何が守る事が出来ただ。何が願いが叶っただ。私はただ力を失ってしまっただけじゃないか。私は、何の為に力を使ったのか・・・。誰の為に使ったのか・・・。
255
:
アキゴジ
:2011/08/10(水) 06:13:56 ID:lPCIYESI
とりあえず、ここまでにしときます。芳佳ちゃんの2年後ってホントにどんなんだろ・・・気になって仕方がありません。
それでは失礼しました。
256
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/12(金) 22:53:22 ID:dHCB2zYQ
>>255
アキゴジ様
GJです。続き気になりますね。楽しみにしています。
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
257
:
snare 01/06
:2011/08/12(金) 22:58:50 ID:dHCB2zYQ
陽射しもようやく落ち着いてきた午後。
誰も居ない食堂で、ジュース片手にお喋りに夢中になる二人。
ブロンドの自称「天使ちゃん」は、オラーシャの娘を前に色々話を聞かせる。
それに呼応して銀髪の「天使」は、くすくす笑ったり、言葉を返す。
いわゆる「かしましい」状況がそこにあった。
だが会話の途中不意に、顔色を曇らせるサーニャ。
「どしたのサーにゃん」
首を傾げたエーリカはサーニャの顔を覗き込む。サーニャはエーリカの目をちらちらと見ながら躊躇いがちに言った。
「……エイラの事なんだけど」
「エイラねえ。またヘタれたとか?」
「違うの。私の為に、無理とか無茶し過ぎなんじゃないかって」
「無理に無茶、ねえ」
エーリカは自分の髪の毛をくるっと巻いたりして遊んでいる。
思い出すのは、高高度迎撃戦……エイラが無理矢理サーニャを護ったと言う、あの事。その他、色々。
「エイラって元々そう言うキャラじゃん」
「キャラって……」
「あーでも、分かるよ。好きな人の為に精一杯になる気持ちは」
「そう、ですよね。ハルトマンさんも、マルセイユ大尉と決闘した理由……」
「あー、あれね」
いつぞやの“対決”を思い出し、照れ笑いするエーリカ。
「手強かったよ」
「マルセイユ大尉が?」
「勿論トゥルーデに決まってるよ」
サーニャの質問に茶化すエーリカ。ふっと笑うサーニャ。しかし、胸に手を当て、呟いた。
「でも、私、たまに見ていて辛くなる事が有るんです」
「それはサーにゃんもエイラの事を大切に思ってることの裏返しじゃないの?」
「……」
言葉に詰まるサーニャ。
「じゃあ、確かめてみる?」
「どうやって?」
二十分程待っていると、埃まみれになったエーリカが部屋から出て来た。
「スーパーセクシーギャルの魔法の薬だよ」
にやっと笑うエーリカ。
化粧水の小瓶らしきものに入った謎の粉。
「それは一体?」
「前にウーシュから送られて来たんだ。何でも人の記憶を操作出来るって言う……」
「そんな物騒な」
「でしょ? それに冗談だと思って、何もしてなかったんだけど」
「で、それを?」
「お互い、使ってみようよ」
エーリカは口の端を歪めた。
258
:
snare 02/06
:2011/08/12(金) 22:59:19 ID:dHCB2zYQ
訓練の合間、椅子に腰掛けたままうたた寝をしているトゥルーデの脇にささっと忍び寄るエーリカ。
小瓶の封を解き、粉をトゥルーデの鼻先にふっと吹きかける。
「トゥルーデは私の事を忘れる。トゥルーデは私の事を忘れる。エーリカ・ハルトマンなんて知らない」
ぼそぼそと繰り返す。うなされた様に「う、うん、うーん……」と唸るトゥルーデ。
「使い方はこんな感じ。で、私隠れるからサーにゃん、トゥルーデ起こしてみてよ」
「は、はい……」
言われた通り肩にそっと手を掛けると、トゥルーデは、かっと目を見開き、何事かと辺りを見回した。
「な、何だサーニャじゃないか。どうした、何か急用か?」
「いえ。あの、ちょっと聞きたい事が」
「ああ。何でも言ってみろ。相談に乗るぞ」
「ハルトマンさんの事なんですけど」
“愛しの人”の名を聞いたトゥルーデは、一瞬溜め息を付いた後、きょとんとした顔をしている。
「?」
「あの、バルクホルンさん?」
「誰だ、それは?」
「えっ」
「そんな奴知らないぞ。有名な奴なのか? 軍人か? ……ん。私は何で指輪なんて付けているんだ」
ふと、自分の手を見て、指に煌めく指輪を不審に思うトゥルーデ。
「誰だ、私にイタズラしたのは。……まあいい」
トゥルーデは指輪をそっと外すと、大事そうに上着のポケットにしまった。
「バルクホルンさん、それ……」
「後で皆に聞いてみるか。誰かの大事なものだろうからな」
そう言うとトゥルーデは立ち上がった。
「あの、どちらへ?」
「ストライカーの調整で、整備員に言い忘れていた事を思い出した。ちょっとハンガーに行ってくる。
そうだ、何か相談が有るならいつでも私に言ってくれ。何でも聞くからな。501は家族だ、だから私を姉だと思って良いんだぞ」
トゥルーデはそう言って、部屋から出て行った。
隠れていたエーリカは、こそこそと姿を現すとサーニャに言った。
「ね。私に関する一切の記憶を無くしてる」
「ねって、ハルトマンさんの事、まるで存在すら無いかの様に」
「そう言う薬だもん」
説明するつもりが、少し強い口調で言ってしまうエーリカ。何故自分でもそんな気分になるのか分からない。
「あ、ゴメン、サーにゃん。サーにゃんに怒る事じゃなかったね。じゃ、エイラも試してみようか」
「う、うん……」
エイラは自室でぐっすりと眠っていた。
「やり方は私のを見ての通り。やってみて……やっぱりやめる?」
「ううん。エイラにとって、それが良いなら」
「じゃあ、やって」
サーニャは意を決して、エイラの枕元に立ち……小瓶から粉を少量出し、ふっとエイラの顔に吹きかける。
「エイラが私の事を忘れます様に」
うーん、とエイラが唸る。それっきり、変わらぬ寝息を立てる。
「さ、行こう。後でどうなるか、見物だよ」
エーリカは小瓶を受け取ると、ポケットにしまった。
259
:
snare 03/06
:2011/08/12(金) 22:59:47 ID:dHCB2zYQ
「おッ、見ない顔ダナ。新人カ? それともお客サン?」
夕食時、食堂でばったり顔を合わせたエイラとサーニャ。エイラは初めて出会ったかの様に言った。
「エイラ……」
「えっ何で私の名前知ってるンダ? 気味の悪い奴ダナ」
エイラは興味無い、と言った感じで自分の席に着いた。
「エイラ、お前新しいジョークでも思い付いたのか?」
シャーリーが声を掛ける。
「何の話ダ?」
「全く、からかうのも大概にしておけよエイラ」
トゥルーデも席に着き、エイラに小言を言う。
「何だヨ大尉二人して。私をからかおうってのカ?」
「はあ? どうしたエイラ」
「サーニャをあんまり虐めるのは良くないぞ」
「誰だソレ? 虐めるも何も、初めて会った奴にどうすれば良いんダヨ」
それを聞いたシャーリーとトゥルーデは顔をひきつらせた。
「ちょっと、堅物……エイラ大丈夫か?」
「これは問題だなリベリアン。まさかケンカでもしたのか、それとも……」
「あれ、何か有ったの?」
何食わぬ顔をしてエーリカが隣に座った。
「ああ、ハルトマン、聞いてくれよ。エイラ、またサーニャとケンカしたみたいなんだ」
シャーリーがサラダをもしゃもしゃと食べながらエーリカに言う。
「へえ〜」
あくまで平静を装うエーリカ。
「まったく、いつもは磁石でも付いてるかの様に仲が良いのに、喧嘩してどうするんだ……で、リベリアン」
「ん? どうした堅物」
「こいつは誰だ? 見た所カールスラント軍人に見えるが。501の来客か?」
エーリカを指して真顔で聞くトゥルーデ。
「はあ!? お前は何を言ってるんだ」
驚いてがたんと椅子から立ち上がるシャーリー。
「何をそんな大袈裟な。……有名人なのか?」
平然と構え、料理を口にするトゥルーデ。
「堅物までおかしくなっちゃったのかよ!」
シャーリーは頭を抱えた。
「大丈夫、シャーリー。理由は後で話すから」
エーリカがシャーリーのすぐそばに近寄り、ひそひそ声で説明する。
「おい、また何かやらかしたのか」
「ちょっとした実験。大丈夫」
「ホントかよ」
「今、トゥルーデとエイラ、少し言動がおかしいけど気にしないで」
「しないでって言われてもなあ。あたしらが気にするよ」
戸惑いを隠せないシャーリー。
「そこで何を喋っている? 食事の時間はきちんと食事に専念しろ。来客か誰かは知らないが、お前もだぞ」
エーリカに言うトゥルーデ。言葉がきつい。
エーリカとサーニャは、示し合わせて空き部屋に寝具を持ち込み、寝ることにした。
ヘタに接触してしまっては「実験」が台無しになると言う理由。だが、それよりも……
エイラもトゥルーデも、態度がきつい。それが妙に、心の隅にちくちくと刺さる。微かに見えるだけで抜けない棘の様に。
「みんな、何も言わなかったけど……」
心配顔のサーニャに、エーリカは強がって見せた。
「大丈夫、ミーナも少佐も『程々に』って言う程度だし。明日には直ってるんじゃない?」
「だと良いんだけど」
「大丈夫だって。さ、寝よサーにゃん」
260
:
snare 04/06
:2011/08/12(金) 23:00:14 ID:dHCB2zYQ
だが翌朝になっても、トゥルーデとエイラは変わらなかった。
「さて、今日も元気に訓練だ」
「あー、面倒ダナ」
本人達は全く変わらない様子だが、周囲は心配していた。
皆、何かを言おうとするも、エーリカとサーニャにそれとなく雰囲気で止められ、言うに言えない。
エイラは一人気ままにさっさと食事を済ますと、他の隊員達には興味ないとばかりにさっさと席を立ち、食堂を去った。
トゥルーデも普通に食事をしているが、その「普通」の感覚がより不気味に、そして奇異に映る。
「何だ、私に何か問題でも有るのか? リベリアン、言いたい事が有るならはっきり言ったらどうだ」
そんな皆の態度を不審に思ったのか、シャーリーを名指しして問うトゥルーデ。
「いや、お前さ。何かすんごい大切な事、忘れてね?」
朝食の蒸かし芋を一口食べながら、質問に質問で返すシャーリー。
「大切な事? ……はて、何か有ったか?」
腕組みし、真面目に考え始めるトゥルーデ。
「訓練プログラムは問題無い。食事当番も確認済みだ。スケジュールも……」
一通り考えを巡らせた後、トゥルーデは真顔で答えた。
「何も無いぞ」
「おい! ちょっと大丈夫かよ……」
「生憎だがお前に心配される程、私はまだ耄碌してないからな」
シャーリーの不安を鼻で笑うと、シャーリーの後ろ、トゥルーデから見えない位置に座っていたエーリカに向き直って、厳しい言葉を投げかける。
「で、そこのカールスラント軍人。せめて名前位は名乗ったらどうだ。昨日からずっと私の事を見てる様だが。監視員か?」
何か言おうとするも、咄嗟に言葉が出ない。ジョークを言える雰囲気ではなかった。
「何処の所属か知らないが、名前すら名乗らず、勝手につきまとうとは失礼じゃないか? 後で本国軍に照会するからな」
そう言うと、不機嫌そうにトゥルーデは席を立ち、早足で去った。
「ハルトマン、大丈夫かよ……」
シャーリーは呆れ気味にエーリカを見る。
「うーん。流石にちょっとまずいかもね」
言葉こそ余裕だが、困った表情をしている。事態は思ったよりも深刻だ。
エーリカはサーニャを見た。エイラとの関係が「無」になったサーニャは、どうして良いか分からない表情をしている。
「なあ、ハルトマン。何をしたか知らないけど、これは流石にまずいんじゃないか? 他の奴等もおかしいって気付いてるし
余計にややこしくなったら……」
「大丈夫」
とだけ言って、エーリカはサーニャの手を取り、食堂を後にする。
残された隊員達は、微妙に気まずい空気の中、もそもそと食事を続けた。
「さすがに、まずいですよね……」
「ちょっと、薬がきつすぎたかな。予想以上だね」
基地のテラスで、ぼんやりと呟くエーリカとサーニャ。
ちょっとした悪戯心、そして漠然とした不安感から決行した今回の「実験」は、エーリカとサーニャに想像以上のダメージを与えていた。
そよ風が二人の髪を撫でる。不意にやってきた一陣の風が、整えられた髪を掻き乱す。
んもう、と愚痴りながら髪をかき上げるエーリカ。サーニャも両手でそっと髪を直す。
ぽつりと、手摺に肘を付き、呟くサーニャ。
「本当に、私の事、わすれちゃったのかな……」
「サーにゃん、忘れて欲しいって言ってたじゃない」
「でも、実際、忘れられると……」
エーリカは寂しげに笑った。
「サーにゃんらしいね」
261
:
snare 05/06
:2011/08/12(金) 23:00:59 ID:dHCB2zYQ
「あ、こんな所に居タ!」
早足でやって来たのはエイラ。サーニャを無視してエーリカに詰め寄ると、いきなり怒り始めた。
「何か私にイタズラしたって本当カ? 一体何したんだヨ?」
「え、何の事?」
「シャーリーや皆に聞いたゾ。私に何のイタズラしたか言えヨ!」
「いやー、悪戯じゃなくて、簡単な実験?」
「勝手に人の身体で実験スンナ!」
「身体じゃないんだけどね」
「余計にタチが悪いゾ!」
「やめてエイラ。もう良いの」
「何だヨお前。……てか、この前からずっと気になってたけど、誰コレ?」
「エイラ……」
赤の他人を見る様な……しかもまるで興味ないと言った風に自分を見るエイラ。サーニャはそんな彼女を見ていられなくなった。
「イヤマア、そりゃ、なかなかの美人だし気になるけド、コイツ何て言うか……アァモウ!」
頭をかきむしるエイラ。
「もういい、エイラ」
耐えられず、立ち去るオラーシャ娘。髪を靡かせ、背を向ける。
「まっ、待ってサーニャ!」
ぽろっと、名前が出る。
「ん? サーニャ? ……そうだ、サーニャ。サーニャ!」
久々に愛しの人から呼ばれる事が、こんなに嬉しい事とは思わず、サーニャは立ち止まったまま、服の袖で目を擦る。
「エイラ、分かるの? 私の事」
「何言ってるんだバカ。忘れる訳無いダロ?」
「良かった、エイラ……」
涙ながらに抱きつくサーニャ。
「うわ、大丈夫カ。何が有ったんだサーニャ。もしかしてハルトマン中尉に悪戯されたのか?」
「それ、エイラ」
「えッ?」
エイラが振り返ると、エーリカの姿は無かった。
トゥルーデは自室でひとり報告書を書いていた。
扉が開く。
「ノック位しろ」
「ここ、私の部屋だもん」
「だからお前は誰なんだと聞いている」
「思い出すまで教えない」
「思い出すも何も、初対面でそんな事無いだろう。私はエスパーか? 良いから私の邪魔はするな」
「トゥルーデ……」
びくりと肩を震わせ、椅子から立ち上がる。
「!? 何で私の、その呼び方を知ってるんだ」
「やっぱり、本当にそっくり忘れちゃったんだね、トゥルーデ」
悲しそうなエーリカの顔を見て、トゥルーデはペンを置き、立ち上がった。
「……もしかして、私の知り合いか?」
「そんなんじゃないよ!」
怒るエーリカ。
「いや、でも、その顔を見ていると……待て!」
部屋から出て行こうとするエーリカの腕を握る。
エーリカの目に、うっすら涙がにじむのを見て、思わずトゥルーデは抱きしめた。
「お前が誰かは知らない。でも、過去に大切な関係であったなら」
「……」
「最初から、もう一度、お互いの事を知るのも良いんじゃないか? その、名前とか、そう言う……」
エーリカが身をトゥルーデに寄せた。少しよろける。
エーリカのがらくたに身体が当たり、どさどさっとモノがトゥルーデの「エリア」に侵入する。
「わ、私のジークフリート線が!」
トゥルーデは仰天した。そしてエーリカに言った。
「ジークフリート線は何人たりともも超える事は出来んのだ、ハルトマン! ……ん? はると、まん?」
自分の腕の中に居る、小柄な娘を見る。そして、頭の中の曇りが一気に晴れる。
「え……エーリカ。エーリカ」
ぽつりと、名を呼ぶ。繰り返し、反芻する。
「その呼び方、聞きたかった、トゥルーデ」
エーリカは涙を拭いて、そっとトゥルーデにキスをした。
262
:
snare 06/06
:2011/08/12(金) 23:01:24 ID:dHCB2zYQ
事の顛末を聞かされたトゥルーデとエイラは、ベッドの上に正座するエーリカとサーニャを見、溜め息を付いた。
「そんな事をしていたとは……私達を一体何だと思ってるんだ」
「止めろヨ、こんな事。誰が得するンダヨ」
口々に文句が出てくる。
エーリカとサーニャは声を揃えて答えた。
「反省してます」
「してます」
「全く……このまま私達が忘れたままだったらどうするつもりだったんだ」
呆れるトゥルーデ。エーリカは言った。
「それは、トゥルーデ言ってたじゃない。もう一度初めからって」
「わ、私はそんな事言ったか?」
急に焦るトゥルーデ。エーリカはエイラに理由を聞いた。
「で、エイラはどうしてサーにゃんの事どうして思い出したんだい?」
「頭の中でずっとモヤモヤしてて、何も思い出せないケド、サーニャが立ち去るの見て、そのまま行かせたらダメだって、
頭の中で声がした。気付いたら思い出してタ」
「なるほどねえ。で、トゥルーデは?」
「エイラと似た様なものだ」
「でも大尉、指輪は外してもずっと大切に持ってたんだナ」
「これは……何か、大事に持っていないといけない気がしてだな……」
エーリカがトゥルーデの指輪を手に取り、もう一度指にはめる。
「これで元通り。ね?」
「それで良いのか」
「良いの良いの」
一瞬の間。トゥルーデとエイラは立ち上がり握り拳を作る。
「と言うか、良い訳無いだろう!」
「そうだゾ? こんな屈辱、と言うかアブナイ事しちゃダメじゃないカ!」
怒るトゥルーデとエイラ。二人に向かって、エーリカがにやっと笑う。
「じゃあ、今度は私達が二人を忘れる?」
聞いたトゥルーデとエイラは仰天した。
「絶対に許さん」
「それは勘弁してクレ」
二人の言葉を聞いて、エーリカはにしし、と笑う。
「ね、サーにゃん」
エーリカはサーニャにウインクして見せた。
「やっぱり、大事なんだよ。分かった?」
「うん。何かハルトマンさんに迷惑掛けちゃったみたいで……」
「いいのいいの。サーにゃんだし」
くすっと笑い合う二人。
「とりあえず、お前は反省しろ、エーリカ」
「行こうサーニャ」
トゥルーデとエイラは、それぞれ「愛しの人」の腕を取った。
「サーにゃん、ミヤフジが前に言ってた扶桑の諺。『雨が降って地面が固くなる』って話。こう言う事じゃないかな」
「なるほど」
くすっと笑うサーニャ。エーリカとサーニャに嫉妬したのか、エイラはぐいと腕を引っ張り、部屋を出て行った。
部屋に残されたエーリカとトゥルーデ。
「ごめん、トゥルーデ」
溜め息をひとつついたトゥルーデは、苦笑した。
「分かった。もう良い。もう良いんだ、エーリカ」
そっと抱きしめ、口吻を交わした。
一日ぶりのキスが、とても愛おしく感じる。
今頃はサーニャとエイラも、同じ気分であるに違いない。きっと。
end
263
:
名無しさん
:2011/08/12(金) 23:02:40 ID:dHCB2zYQ
以上です。
特定の人だけの記憶(思い出)がなくなるとどうなるのかなーとか
色々考えてみましたが難しいですね。
ではまた〜。
264
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/13(土) 21:34:18 ID:GH11Mb2c
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
265
:
Le Tour de 501 01/03
:2011/08/13(土) 21:35:08 ID:GH11Mb2c
基地のハンガーの片隅に置かれた、フレームが煤けた一台の自転車。
トゥルーデは今まで気付きもしなかったその乗り物に目をやり、こんなモノがあったのかと首を傾げる。
「どうしたのトゥルーデ?」
エーリカがぽんと肩を叩いた。
「いや、あの自転車、どうしたんだろうな」
「基地の整備の人が使ってるとか?」
「それならあと数台は無いと不便だろう」
「ミーナに聞いてみたら?」
「ああ、あの自転車ね。確か何処かの軍からの補給品に混じっていたのだけど……」
昼食の最中、ふと聞かれたミーナは子細までは思い出せないと言った感じで首を横に振った。
「そうか。すまないな、急に」
「いえ、悪いわね、力になれなくて。それでトゥルーデ、あの自転車がどうかしたの?」
「いや……ちょっと気になっただけだ」
「そう」
自転車の事を聞きつけた美緒は芳佳に言った。
「ふむ、自転車か。よし、今度の訓練メニューに取り入れるか!」
「は、はい?」
突然の事に驚く芳佳。
「自転車か。堅物は乗れるのかい?」
ルッキーニをあやしていたシャーリーが興味深そうに聞いてくる。
「乗る位当たり前だ」
「でも話を聞くと、錆びてそうじゃないか。ここはひとつ、あたしに任せてみないか」
ニヤリと笑うシャーリー。
「リベリアン、お前……」
「何だよ堅物」
「まさか、自転車にエンジン積んだりしないだろうな」
「あれ、何で分かったんだ?」
「それは自転車じゃなく、もはやバイクだろうが!」
「あー、そう言われればそうかも。そう言えば、確かカールスラントのストライカーにジェッ……」
「断る」
「せめて最後まで言わせろ」
むっとするシャーリー、イラッとするトゥルーデ。
エーリカはそんな空気を吹き飛ばすかの様に、二人の間に割って入った。
「改造とかやめようよ〜。ねえシャーリー、普通に直せない?」
「まあ、錆取って少し直して部品に潤滑油塗る程度だろ? オーバーホールならおやすい御用だ」
「じゃあお菓子一袋でよろしく」
「乗った」
エーリカとシャーリーのやり取りを聞いて、やれやれと肩をすくめる堅物大尉。
266
:
Le Tour de 501 02/03
:2011/08/13(土) 21:35:58 ID:GH11Mb2c
午後非番だったシャーリーは、いとも簡単に自転車を仕上げて見せた。
「ほれ、出来た。自転車は構造も割合単純だし、動力源が人力だからな。簡単なもんさ」
見違える様に、美しくなった自転車。フレームは磨かれ銀色に輝き、タイヤやチェーンも万全だ。
「ニヒー さっすがシャーリー」
「ちょっと乗ってみるか」
シャーリーはサドルに跨がり、よいしょっとペダルを漕いでみた。後ろの荷台にひょいと飛び乗るルッキーニ。
均一に塗られたグリスのお陰か、滑り出しは悪くない。
しかし、漕いでいるうちにみるみる速度が上がる。
ルッキーニは、シャーリーが軽い試験運転でなく、とあるひとつの目的……スピードに傾倒しつつある事を、その加速で感じ取り恐怖した。
「しゃ、シャーリー怖い、はやすぎ! ウジャーシャーリー耳出てる耳! 耳!」
「何処まで加速出来るかなっ」
「こらーリベリアン、何をやっているんだ! ルッキーニを振り落とす気か!」
様子を見ていたトゥルーデに怒鳴られ、後ろを見る。必死でしがみついているロマーニャ娘を見、はっと正気に返る。
キキッとブレーキを掛け後輪を軽くスライドさせながら、惰性で皆の元へ戻って来るシャーリー。
「いやー悪い悪い、つい」
「お前は何でもかんでもスピード出そうとするからな……見ろ、ルッキーニが怖がってるじゃないか」
「ありゃ、ごめんなルッキーニ」
「グスン、シャーリーのばか! こわかった」
「ごめんよルッキーニ、この通りだ。気分転換におやつでも食べよう。ハルトマン、おかしひとつ貰うぞー」
「ひとつだよー」
ルッキーニの手を引き、自転車と工具をそのままにハンガーから離れるシャーリー。
「おいリベリアン、この工具と自転車は」
「あー、堅物乗ってて良いよ。工具は後であたしが片付ける」
「まったく……」
トゥルーデは仕方ないとばかりに、自転車に跨がった。
エーリカはそんな同僚を見、声を掛ける。
「トゥルーデ、乗れるの?」
「当たり前だ。乗る位はな」
「じゃあ私後ろね」
ひょいと荷台の部分に腰掛ける。
「足、スポークに巻き込まない様に気を付けろよ」
「大丈夫」
ゆっくりとペダルに力を入れ、ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。
「トゥルーデ」
「何だ、エーリカ」
「もしかして、すいすい〜っとは乗れない?」
「そんな事は無い。ただ」
「ただ?」
「乱暴に運転するのはな。慎重にだな」
「トゥルーデはそうだよね」
「それに、後ろにお前が乗っている。無理は」
「心配してくれるんだ」
「あ、当たり前だろう」
その言葉を聞いたエーリカは、トゥルーデの背中に自分の身体を預けた。
腰に回される腕を肌で確かめ、ペダルを漕ぐ力をセーブしつつ、ゆっくりとハンガーから出る。
267
:
Le Tour de 501 03/03
:2011/08/13(土) 21:36:22 ID:GH11Mb2c
ハンガーを出ると、明るい陽射しが二人を包む。
「見ろ、エーリカ」
「どうかした?」
「こうやって自転車で基地の回りを巡ってみるのもいいものだな」
「そう言えばそうだね。ちょっと新鮮」
歩いている時とも違う。ストライカーで飛んでいる時とも違う、緩やかな速度。そよ風にも似た心地良い風が身体を撫でる。
景色も長閑に、ゆっくりと流れて行く。
午後のひととき、基地をぐるりと巡る「小さな旅」。凪のアドリア海を望む基地は海風も爽やかで……
いつしか、基地の端にまで来ていた。
「しまった。つい、遠くに」
「……うーん。どこ、ここ?」
「何っ? エーリカ寝てたのか?」
「ちょっと気持ち良くてウトウト」
「全く、お前という奴は」
「トゥルーデだもん。背中預けてるって言うかくっついてるから大丈夫だよ」
「あのなあ」
ふあー、と大きなあくびをひとつしたエーリカは、辺りを見て、基地の端に居る事を察する。
「随分遠くまで来たね。前にトレーニングのジョギングで来た様な」
「自転車なら割とすぐだな」
「でも、風が気持ちいいよね」
「ああ」
「今度は、ミーナに許可貰って、基地の外行くの良くない? せっかくだから自転車も増やしてさ」
「それはつまり、私達二人でか?」
「うん。楽しいよ、きっと」
「……かもな」
トゥルーデは笑顔を見せた。エーリカも共に微笑んだ。
end
268
:
名無しさん
:2011/08/13(土) 21:36:54 ID:GH11Mb2c
以上です。
ふたりでのんびり自転車でお散歩も良いかなと。
ではまた〜。
269
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/14(日) 19:52:53 ID:veyXaZ/o
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編、並びに
>>365-267
「Le Tour de 501」の続きとなります。
ではどうぞ。
270
:
Le Tour de 501 II 01/03
:2011/08/14(日) 19:53:48 ID:veyXaZ/o
基地のハンガーに置かれた自転車二台。
一台は、この前シャーリーが整備し再生させた銀色の自転車。
そしてもう一台は、同じフレームを使っている事こそ辛うじて判別できるものの、
他の部分はもはや原形を留めない程に改造された“自転車”。
半ば呆れ返りつつ、二台の自転車を見比べる501の隊員達。
「で、どうするんだこれを」
トゥルーデは、両方の“整備”を手掛けたシャーリーを呼んだ。
シャーリーは二台の自転車に手を置き、自慢げに話し始めた。
「こっちは普通の自転車。誰でも乗れるよ。で、こっちなんだけど、余剰の魔導レシプロエンジンを積んで……」
説明するシャーリーに口を挟むトゥルーデ。
「何故積んだ」
「そこにエンジンがあるから」
「載せるか普通」
「浪漫だからに決まってるだろう」
「リベリアン。確か、これとは別に普通の……サイドカーだったか、とにかくバイクを持っていたよな?」
「あれはあれ。これはこれで、あたしの力でどこまで限界に挑めるかチャレンジするんだ」
きらきらと目を輝かせるシャーリーに、あえて問うトゥルーデ。
「それで、何がしたいんだ」
「競争」
「貴様は馬鹿か!? かたや人力、もう片方は魔導エンジンを積んでいたら勝てる勝てない以前の問題だ」
「それは分からないよ。あたしが魔導エンジン積んだ方に乗って固有魔法を……」
「自転車で空でも飛ぶつもりかリベリアン?」
「じゃあ分かったよ。あたしが普通の自転車乗るよ」
「待て。こっちの改造しまくりの方は、誰が乗るんだ」
「堅物頼む、あたしと競争してくれ」
「ばっ、馬鹿を言うな! こんな物騒な物、乗れるか!」
「物騒って酷いな。ちゃんとカリカリにチューンしてるから大丈夫だ。ちょっとピーキーに仕上げてるけど」
「余計に無理だ」
「ははーん、そう言えば堅物は機械類は苦手だったっけ」
「言わせておけば……良いだろう、相手になってやる。但し壊れても知らないぞ」
「あたしがスッピンの自転車で勝てばあたしの魔法力のおかげ、堅物が勝てばあたしの技術力のお陰って事で
どっちも楽しいんだけどな」
それを聞いたトゥルーデは一歩退いて首を横に振った。
「……やっぱり止めておく」
「ちぇー、なんだよつまらない」
「なら、私が乗るよ」
はーい、と手を挙げたのはエーリカ。ぎょっとしたのはトゥルーデ。
「ハルトマン? 何でまた」
「楽しそうだし」
エーリカはにやっと笑ってシャーリーに言った。
「シャーリー、何だかんだで遊びたいんでしょ? 面白そうだしね、私もやるよ」
「そう来なくっちゃな」
シャーリーも頷いた。
スタートラインに二台の自転車が並ぶ。
既に魔力を解放させ、耳をぴんと張りスタートの瞬間を心待ちにするシャーリー。
スイッチやら動力やらを確かめ、自然体で望むエーリカ。
釈然としない表情で、しかし内心二人が(特にエーリカが)怪我をしやしないかと心配で仕方ないトゥルーデ。
芳佳が二人の間に立ち、指折りカウントする。
「行きます。五、四、三、二、一、スタート…うひゃあ!」
点火されたロケットの様に、二台の自転車はラインを超えて突っ走っていった。
271
:
Le Tour de 501 II 02/03
:2011/08/14(日) 19:54:24 ID:veyXaZ/o
シャーリーは魔力を解放してシャカシャカと軽快に自転車を漕いでいた。
ほぼ真後ろに、エーリカの乗るエンジン付き自転車が位置している。
「もっとスピード出して良いんだぞー」
「とりあえず自転車の手応え確かめないとね〜」
「なっ……あたしを色々試そうとしてるな?」
「どうかなー」
シャーリーは立こぎになり、固有魔法で自転車をかっ飛ばす。
一方のエーリカの乗るエンジン付き自転車は、魔導エンジンがエーリカの魔力を受け、車軸に動力を伝達していた。
速度は二人共拮抗し、平均して時速百二十キロ以上出ている。「普通の自転車」としては有り得ない速さだ。
コースは基地の中をぐるりと巡る様に設定されていたが、コーナーや路面状態の悪い部分が大半で、滑走路周辺、及び外部への通路付近の二箇所が最も状態が良い。
外部への通路付近に出た辺りで、シャーリーは一気に引き離しに掛かる。
魔力を最大限引き出し、猛烈な勢いでペダルを漕ぐ。翼を付けていれば飛び上がりそうな速度だ。
一方のエーリカも、引き離されぬ様、注意深く後を付けていた。
シャーリーの様な超加速の固有魔法を持たないエーリカにとって、これが今出来る精一杯の事。
双眼鏡片手に様子を見る一同。
「本当にあれ、自転車なんですの? ヘタなバイクよりも速いと思いますけど」
ペリーヌが呆れ気味に言う。美緒は魔眼で二人の様子を見ると、速いな、とだけ呟いた。
「二人共、速い……」
「どうするんダあの二人」
サーニャとエイラも呆気に取られた表情。
予想以上の速さに、一同はただ見守るのみ。ミーナはもし何か有ったら……とやや渋めの表情。
芳佳があっと声を上げた。
「シャーリーさんが少し離しました。でもハルトマンさんも頑張ってます! 真後ろに居ますよ」
トゥルーデは心配そうに、土煙を上げながら爆走する二台の自転車を見、呟く。
「リベリアンの真後ろに付けて空気抵抗を減らす作戦か……」
コースの先を見る。心配は尽きない。
「これからコーナーの多い部分か」
ルッキーニは楽しそうに二人のレースを見ている。シャーリーを指差して言った。
「シャーリーの方が小回り効くから良いんじゃない?」
「どうかな」
トゥルーデは腕組みしたままじっと見つめた。
「え、バルクホルンさん。ハルトマンさんに何か秘策でも?」
「ああ。恐らくは」
それだけ言うと芳佳に双眼鏡を託し、一人席を外す。
ラスト、ゴールへ続く滑走路周回に入る。路面状態も良く、ストレートで伸びを見せつけるシャーリー。
エーリカも魔導エンジンを宥め賺してひたひたと迫る。
折り返し地点を越えた所で、それは起きた。
ごうっと、風の音がした。
背後に迫る猛烈な空気の塊を感じたシャーリーは、殺気にも似た危険を感じ咄嗟に車体をスライドさせてかわす。
その僅か上を文字通り「飛行」するエーリカ。シュトルムをまとい、直線を一気に加速……いや、飛翔し、シャーリーを抜いた。
そのまま僅差で先にゴール。
ゴール前で待っていた隊員達が風に煽られ、ふらつく。
しかしエーリカの自転車はブレーキの制動力が追いつかず、止まらない。
ハンガー脇の壁に突っ込みかける。
誰もが息を呑んだ。
刹那、壁に伝わる鈍い衝撃と立ち上る煙。幾つかの部品が辺りに撒き散らされた。
ミーナと美緒は救護班の手配をと立ち上がったが、それは無用、と煙の中から声が聞こえる。
立ちこめる煙の中から、人影が見えた。
エーリカを抱きかかえたトゥルーデその人。
エーリカのお尻にひっついていたサドルをぽいと投げ捨てると、ふん、と鼻息一つ鳴らした。
272
:
Le Tour de 501 II 03/03
:2011/08/14(日) 19:54:53 ID:veyXaZ/o
「バルクホルンさん、一体どうやったんですか」
芳佳の問いに、トゥルーデは頭を掻きながら答えた。
「私の固有魔法を応用的に使っただけなんだが……」
「えっ、怪力で? どうやって」
「私の力をもってすれば、勢いの付いた物体から必要な部分を受けとめるなど容易いこと」
「おい! じゃああの自転車全部を抑えろって!」
シャーリーがバラバラになった自転車を見て悲鳴にも近い言葉を上げる。
「すまない、エーリカだけで精一杯だった」
「嘘だッ!」
「とりあえず怪我が無くて何よりだったな、エーリカ」
「ありがとトゥルーデ。でも何でゴールで待ってたの?」
「エーリカなら最後に仕掛けると思っていた」
「なんだ、作戦ばれてたんだ」
トゥルーデはふっと笑いエーリカを地面に下ろすと、辺りに散らばった部品を拾い始めた。
堅物大尉の意外な行動を見、自転車にまたがったままの姿で驚くシャーリー。
「何やってるんだ堅物」
「改造品とは言え、お前にとって大切な物じゃないのか?」
「そりゃあ、まあ」
「空飛ぶ自転車を掴まえるのは難しかった。すまない」
「いや……いいよ」
馬鹿正直に謝られても困る、と内心呟くシャーリー。トゥルーデはそんなお気楽大尉を後目に、部品を拾いながら言った。
「また作ってくれ。今度は、もう少し安全なものを頼む」
「分かったよ」
苦笑いするシャーリー。
夕食の席上、シャーリーはエーリカに聞いた。
「でも、途中よくあたしに付いてきてたよな。絶対無理だと思ってたわ」
「色々考えたんだけどね。私に出来る事ってあれ位だから」
「スリップストリームとか、最後の直線で固有魔法で飛ぶって事?」
「そう。シャーリー抜けるとしたらそこしかないじゃん」
「なるほど。あたしとしては最初にもっと先行逃げ切りモードでぶっちぎって離してないとダメだったって事か。作戦負けだなー」
あーくそ、くやしい、とシャーリーは歯がみした。
その姿を見て笑うエーリカとトゥルーデ。
「まあそう僻むなリベリアン。スピードで負けた訳じゃないんだから。スピードではお前の方が終始圧倒していたぞ」
「だから余計に悔しいんだよ!」
「まあまあ」
「慰めは要らないよ……」
「あれ、どっちが勝ってもシャーリー嬉しいんじゃなかったの?」
「ハルトマンが固有魔法使うのは想定外だった! あと壊れるのとか」
「それは……すまない」
「今度皆で組んでみようよ」
「ウジャーおもしろそう」
「まあ、部品は大体残ってるから、出来ない事はないけどさ……分かったよ。またやろう」
楽しみがまた増えたね、とエーリカに言われる。トゥルーデも同じ言葉をシャーリーに投げてみる。
苦笑いした501の“Speedstar”は、今度こそ、と決意を新たにする。
そんな賑やかな夕餉。
end
273
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 19:55:53 ID:veyXaZ/o
以上です。
シャーリーなら魔改造やりかねないなーとか思ったり。
お姉ちゃんの暴走自転車キャッチ、魔法能力的にどうなのとか
有りますけどまあその辺は「愛」と言う事でよしなに。
ではまた〜。
274
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 20:05:38 ID:veyXaZ/o
×
>>365-267
「Le Tour de 501」の続き
○
>>265-267
「Le Tour de 501」の続き
お詫びして訂正します。
275
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/14(日) 20:51:07 ID:veyXaZ/o
たびたびこんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
276
:
stay awake
:2011/08/14(日) 20:51:52 ID:veyXaZ/o
深夜、ふと目覚めるトゥルーデ。
横で一緒に寝ていた筈のエーリカが居ない。
トイレにでも起きたのかと思ってぼんやり微睡んでいたが、暫く経っても戻って来ない。
「夢遊病か」
毒づく口先とは裏腹に、愛しの人が心配で仕方ないトゥルーデは、パジャマ姿のまま部屋を出た。
エーリカは基地のバルコニーにひとり、佇んでいた。
手摺に両肘をつけ、ぼんやりと空を眺めている。
月のない空は満天の星空で、星明かりが、僅かに辺りを照らす。
「トゥルーデ」
エーリカは足音に気付いたのか、振り向いて笑顔を作った。
「エーリカ」
名を呼び、顔をじっと見る。
「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「珍しいな。どうしていきなり起きたりしたんだ」
「ちょっとね」
はぐらかすエーリカに、トゥルーデは手に腰を当てて呟いた。
「お前の事は、たまに分からなくなる。一体何を考えているのか、いきなり何処へ行くのか……」
その言葉を聞いたエーリカは、ちょっとすねた口調で答える。
「私だって、少しは考えたりする時間有っても良いんじゃない?」
そう言ったきり、エーリカは背を向け、夜空に視線を戻す。
「それは、そうだが……その」
言い淀み、そっと近付くトゥルーデ。
エーリカの表情は、いつもの天真爛漫なそれとは違い、何処か愁いを帯びた表情で……
自分を抑えきれなくなったトゥルーデは、後ろからそっとエーリカを抱きしめる。優しく、ガラス細工を触る様な繊細さで。
エーリカもそんな仕草に気付いたのか、ふうと息を一つ吐くと、トゥルーデに身体を預ける。
「心配なんだ、エーリカ。お前が」
トゥルーデの偽らざる言葉を聞いたエーリカは、僅かのこそばゆさと、大きな安心感に包まれる。そして呟く。
「分かってる」
「何か有ったら、私に遠慮なく言え。今更遠慮する間柄でもないだろう」
「分かってる」
繰り返すエーリカ。
そう。
エーリカは分かっている。
ただ、エーリカには心配な事がひとつ。自分がトゥルーデに甘え過ぎたら、今度はトゥルーデが、その“重荷”をどこにぶつければ良いのか? と言う事。
「私を心配してくれているのか」
何気ないトゥルーデの言葉にぴくりと身体を震わせるエーリカ。
いつもは鈍いのに、こう言う時だけ妙に鋭いのは……
「ずるいよ、トゥルーデ」
エーリカの小さな呟きを聞いたトゥルーデは、首を傾げた。
「どうしてそうなる」
「乙女心が分かってないな、トゥルーデ」
「何を言うエーリカ、私だって、その、一応女だし……」
「ごめん、ちょっと言い過ぎた」
「気にするな。お前が居てくれるからな。それだけでいいんだ」
思いも寄らない、答えが返ってくる。
(私の掛けた重荷を私にって事? それって一体……)
エーリカは少々混乱する。そんな軽い眩暈を覚えたエーリカを抱きしめたままのトゥルーデは、囁く。
「エーリカが居るから、私は私で居られる。エーリカだけでいい」
「そ、そう言う事じゃないよ、ばかばかトゥルーデ」
耳を真っ赤にして抗うエーリカ。だが逃がすまいとトゥルーデはぎゅっと抱く力を強める。
「今までもそうであった様に、これからも、ずっと好きだ」
ストレート過ぎる感情表現。思わず軽く吹き出してしまう。真面目な堅物が、どうしてこんな台詞を吐けるのかと。
「トゥルーデってば。酔ってる?」
「起き抜けだ」
「寝惚けてない?」
「エーリカと一緒さ」
腕の中で、ぐるりと身をよじり、顔を突き合わせるエーリカ。
いつになく真面目なトゥルーデを見る。吐息が混じり、潤む瞳が愛おしい。
そっと、口吻を交わす。優しく、何度もお互いを確かめる様に。
そっと唇を離したエーリカは、トゥルーデの胸に顔を埋め、呟く。
「ヤバイ。どんどんトゥルーデのこと好きになってる、かも」
「それは嬉しいな」
優しく頭を撫でられる。素直に心地良い。お互いがお互いの寄り何処であり居場所であり、回帰する場所である証。
二人は抱き合ったまま、空を見つめた。
夜空に一筋の光が走ってすぐに消える。流れ星。
「部屋に戻りたくないって言ったら、どうする?」
「勿論、付き合うさ」
たまには良いよね、とエーリカは微笑むと、トゥルーデの頬にそっと唇を当てた。
返ってきたのは、トゥルーデの濃厚なキス。
夜空の涼しさも、エーリカの憂鬱も蒸発する程の熱気を感じ、そのまま愛しの人に身を委ねた。
end
277
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 20:52:32 ID:veyXaZ/o
以上です。
ストレートな愛情表現も良いかなと。
ではまた〜。
278
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/14(日) 22:26:34 ID:veyXaZ/o
三度こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
279
:
destined soul mate 01/04
:2011/08/14(日) 22:27:03 ID:veyXaZ/o
一体どうしてそうなったのか、トゥルーデには全く分からなかった。
ただ、目の前には、まるで子供の遊びの如く……いや、何か無造作とも言えるべき感覚で、
あらゆる方向から別の場所へと、“それ”が張り巡らされていた。
運命の赤い糸、と扶桑などでは言うらしい。
詳しい由来は私も良く知らないのだが、と美緒からその逸話を聞いたトゥルーデは、何故私にだけ糸が見えるのかと正直な気持ちを吐露した。
「それは私にも分からないな。強いて言うならば、お前がウィッチだからではないのか?」
美緒の言葉に困惑するトゥルーデ。
「私の固有魔法ではないし、扶桑人でもない」
「まあ、確かにな」
ちらりと美緒はミーナに目をやった。
「ねえトゥルーデ。この事は、言いふらすと皆が混乱するだろうから……貴方だけの秘密にしておいて欲しいのだけど」
「それが命令とあらば」
「何処までも真面目ね、トゥルーデは」
苦笑するミーナ。
「私だって、好き好んで見たい訳じゃないぞ」
「それはそうよね。原因が分からないというのも困りものね」
ミーナは真面目に相談してきたトゥルーデを見、どうしたものかと考えを巡らす。
「軍医に診て貰うのはどうかしら」
「何処も異常は無い。至って健康だが」
「困ったわね」
ミーナはとりあえずメモ程度にトゥルーデの事を書き留めた後、はたと気付いたかの様にペンを置き、くすっと笑った。
「でも運命の赤い糸って、随分とロマンチックね、トゥルーデ」
「そうは言うがな、ミーナ。そこかしこに、まるで蜘蛛の巣みたいにぐちゃぐちゃに張り巡らされてる糸と言うのはどうも気味が悪い」
うんざりしながら言うトゥルーデ。
「それをお前が物理的に干渉したりは出来ないのか」
興味深そうに質問する美緒。
「ただ見えるだけだ、少佐。何も出来ない。……いや、大体、それに干渉してどうするつもりなんだ少佐?」
「引っ張って相手を連れてこられるなら、例えば訓練をサボる奴を……」
「美緒ってば、貴方訓練の事ばかりじゃないの」
呆れるミーナを見、冗談だと笑い飛ばす扶桑の魔女。
そう言えば……とトゥルーデは気付く。目の前の上官二人の小指にはしっかりと糸が結ばれて、互いに繋がっている。説明するまでもなかった。
これは言えないな、と目を明後日の方向に向けるトゥルーデ。少しの空白を置いて、ミーナに告げた。
「分かったミーナ。これは私と、そしてミーナと少佐だけの秘密事項だ。私が見た事は一切口外しない。約束する」
「そうして貰えると助かるわ。お願いね、バルクホルン大尉」
ミーナは満足げに頷いた。
280
:
destined soul mate 02/04
:2011/08/14(日) 22:27:50 ID:veyXaZ/o
執務室を出たトゥルーデは平静を装いながら、とりあえず朝食の為に食堂へ向かった。
嫌でも目に付く無数の糸は、まるで生き物の様にうねり、長さや張り具合を変えながら、そこかしこに張っている。
ただ見えるだけ、物理的に避ける必要は無いのだが、見えている手前、ついつい不自然な動き……避けようとしてしまう。
「どうした堅物。身体の調子でも悪いのか」
食堂に居たのはシャーリーだった。いつもと変わらずテーブルに頬杖をついて食事を待っている。
「別に何処も悪くない。至って普通だ」
身体そのものは何処も悪くない、これは事実で嘘ではないと言い聞かせるトゥルーデ。
「じゃあ今の変な動きは何だよ。カールスラントの新しい健康体操か何かか」
「何だと」
カチンと来たトゥルーデはまたも説教しようかと思ったが、ふと目に付いた“それ”を見、言葉を止める。
シャーリーの小指の先から、何処かへと糸が伸びている。
その糸はしなり、伸び縮みを繰り返している。糸と糸で結ばれた相手が近付いている証拠だ。
「オッハヨーシャーリー。ごはんまだー?」
ルッキーニだった。糸は途端に短くなり、最短距離でシャーリーと繋がっていた。
「なるほどな」
まあそうだろうな、と一人頷くトゥルーデ。
「何だよ、あたしとルッキーニ見て頷いて。気持ち悪い奴だな」
「キモキモー」
「やかましい! とりあえず食事だ。おい宮藤! 食事はまだか?」
「はい、ただいま!」
芳佳とリーネが厨房でかいがいしく料理と配膳を頑張っている。
「どれ、私も少し手伝うか」
シャーリーとルッキーニに変な目で見られているのに耐えられなくなったトゥルーデは、これ幸いとばかりに口実を作り席を離れた。
「あ、バルクホルンさん、良いですよ、私達の仕事ですから」
「いや、少しは手伝ってもいいだろ、う……」
芳佳の小指を見て、トゥルーデは絶句した。
おかしい。
リーネ小指と繋がっている強固な赤い糸。そしてもう一本、細く切れそうだが糸が小指から伸び……それは窓の外へと伸びていた。その糸の張り具合から、相当遠くの土地に……恐らく彼女の故郷辺りへ……伸びているのが分かる。
それは一体どう言う事だ?
トゥルーデは解釈に苦しんだ。これはいわゆる……いや、宮藤に限ってそんな不埒な事をする筈が無い、と納得させる。
「宮藤お前……いや、何でもない」
「? どうしたんですかバルクホルンさん。私の顔に何か付いてますか?」
きょとんとした表情でトゥルーデを見る芳佳。つられてリーネも顔を上げた。
「な、何でもない。何でもないんだ。すまなかった。本当にすまない」
配膳を手伝う事も忘れ、トゥルーデは顔を真っ赤にして食堂から脱出した。勿論食事をも忘れていた。
廊下で、眠そうなサーニャの手を引いて食堂に向かうエイラとすれ違う。
「あれ? 大尉どうしタ? 朝食もう済ませたのカ?」
反射的に二人の小指を見る。
“糸”と言うより既に縄に近い太さの赤い糸でがんじがらめに結ばれた二人の手を見る。
ぽん、とエイラの肩に手をやり頷くトゥルーデ。
「お前達はそうだろうと思っていたよ。安心した」
「な、何だヨいきなり。意味わかんねーヨ」
「まあ、見なかったことにしてくれ」
それだけ言うと、トゥルーデは早足で立ち去った。
「見なかったって、大尉の奇行をカ? 訳ワカンネ」
「エイラ、行こう?」
サーニャに促され、エイラは食堂へと向かった。
エイラとサーニャに遅れることワンテンポ、ペリーヌとすれ違う。
「あら大尉、朝食はもうお済みで?」
「いや、今日はちょっとな」
「? どうかなさったのですか? お身体の調子が悪いとか?」
心配そうに聞いてくるガリア娘を見て、気付く。
ああそう言えば、最近のペリーヌはカドも取れて少し優しくなって本来の彼女に戻りつつあるんだと改めて思うトゥルーデ。
そして条件反射の様に小指を見る。
無い。
糸がない。
そんな馬鹿な、とペリーヌの手を取り、目を凝らしてじーっと見る。
「なっ! いきなり……ど、どうされたのですか大尉?」
突然の行為に思わず赤面するペリーヌ。
実は見えない訳ではなかった。うっすらと、見える。その糸はどうやらこの基地の誰かと繋がっているのではない様で、窓の外、
何処か遠くへと伸びていた。
「強く生きろ」
トゥルーデはペリーヌに告げると強く頷き、駆け足で去った。
「ちょ、ちょっと大尉! 一体どう言う事ですの!? 意味が分かりませんわ!」
281
:
destined soul mate 03/04
:2011/08/14(日) 22:28:23 ID:veyXaZ/o
部屋に戻り、後ろ手に扉を閉めると、そのまま寄りかかり、呼吸を整える。
見たくないものまで、見えてしまう。見てもどうしようもない事が、見えてしまう。
こんなに「傍観者」というものが辛いのか、と天井を仰ぐトゥルーデ。
……いや、ある意味大体想像通りではあったが、実際に視覚で判明してしまうと如何ともし難い。
そしてこれは機密事項に等しい。口外は無用。と言うよりミーナの約束、いや命令とあっては、何も出来やしない。
苦悩するトゥルーデをよそに、ジークフリード線の向こう側のベッドの端が、もそもそと動いた。
「まだ寝ていたのかハルトマン! 起きろ! 朝食の時間だ!」
「あと三十分……」
「こら!」
ずかずかとガラクタの山を分け入り、エーリカの毛布を剥ぐ。
!?
トゥルーデは目を疑った。エーリカの小指には、糸が無い。
そして気付く。
トゥルーデ自身も、糸がない。誰とも繋がっていない事に。周りのことばかりに気を取られ、自分の事に今更気付いたと言う
そんな自分の愚かしさにも、愕然とした。
「そんな、馬鹿な」
ショックの余り、がくりと膝から崩れ落ちる。
「……どうしたのさトゥルーデ。貧血?」
エーリカの心配も余所に、トゥルーデはどうしてこうなったのか意味を解釈しようと試みた。
だがそれは出口のない迷路と同じで……答えが見えない。
息が荒い。深呼吸しようとしても、浅い呼吸がまるで気の抜けたふいごの様に繰り返されるだけ。
「ちょっとトゥルーデ。大丈夫?」
心配になったのか、エーリカがもそりと起き上がってトゥルーデの顔を見た。
「顔色、悪いよ」
「だ大丈夫だ、ももっ問題無い」
「ろれつも回ってないし。どうしたのさトゥルーデ」
「ちょっと、体調が……」
「トゥルーデらしくないよ。ほら、ベッドに」
エーリカはよいしょと起きると、トゥルーデの肩を持ち、ゆっくりと彼女のベッドに寝かしつけた。
「ねえトゥルーデ、私を見るなりなんかおかしくなったよね? たまたま?」
「そうだと信じたい」
らしくないトゥルーデの弱気ぶり。
「もう、ちゃんとしてよ。今、水持ってくるから」
「ま、待ってくれ」
トゥルーデはエーリカの手を取った。
そこでもうひとつの事に気付く。
トゥルーデもエーリカも、指輪を付けていない。
「エーリカ、私達の」
「どうかした?」
「指輪は」
「ああ。トゥルーデが昨日、綺麗にするからって、拭いてくれたじゃない。仕舞ったままだよ。はめる?」
エーリカは指輪ケースから指輪を取り出すと、はい、とゆっくりはめた。そして自分の指にもはめた。
……そう言えばそうだったな。糸などなくとも、せめて。
ぼんやりとそんな考えをしていると、傍らに座るエーリカは指輪を見て、ふふっと笑った。
「どうした、エーリカ?」
「私とトゥルーデ、やっぱりこれが無いとね」
「エーリカ」
「なーんてね。ちょっと感傷的になっちゃった」
頬を染めるエーリカ。トゥルーデの頬に手をやり、そっと唇を重ねた。
刹那。
物凄い勢いで……空気を裂くかの様に、二人の間に、太い、赤い糸が現れ、結ばれる。
ぎゅっときつくかたく二人を繋ぐ糸は、他の誰よりも、強く、美しく。
……やはりそう言う事か。そう、それでいい。トゥルーデは内心思う。
そして、糸を見届けたトゥルーデは満足そうな表情を浮かべた。
エーリカが何か言っているが、最後まで聞く事はなかった。
282
:
destined soul mate 04/04
:2011/08/14(日) 22:28:50 ID:veyXaZ/o
薄目を開ける。
「あ、起きた」
エーリカの声。
いつの間にか、トゥルーデのベッドの周りには501の隊員達が揃っていた。
心配そうに、皆トゥルーデの顔を見ている。
「あ、あれ? 私は一体……」
ふと思い出し、皆の手を、指を見る。しかし今はもう何も見えず……あれは幻覚だったのかと訳が分からなくなる。
「トゥルーデ大丈夫? 貴方疲れていたんでしょう」
ミーナが言う。
「いや、大丈夫だが」
「顔色が悪いぞバルクホルン。暫く休んだ方が良いな」
美緒も頷く。
「無理すんなって。お前が欠けたらどうするんだよ」
シャーリーも気遣う。
「トゥルーデ、良いわね?」
ミーナの声に圧されて、トゥルーデは了解、と応えるしかなかった。
「それでトゥルーデ倒れたの? だらしないなー」
トゥルーデから事の顛末……僅かな部分のみだが……を聞いたエーリカは、苦笑いしておかゆをスプーンですくうと
トゥルーデにあーんと口を開けさせて食べさせた。
「ん。美味い」
「元気になってよ」
「もう元気なんだけどな」
「ちゃんと百パーセント元に戻るまで、ダメだからね。ミーナも言ってた」
「分かった」
トゥルーデは約束した。
「で、トゥルーデ、もう糸とか何も見えないんだよね、今は」
エーリカの質問。
「ああ」
「結局、何だったんだろうね」
「それは私が知りたい。……エーリカ、まさかお前」
「私は何もしてないよ……って、疑うフツー?」
「いや、そう言う訳では」
「ま、いっか」
にしし、と意味ありげな笑みを浮かべたエーリカはおかゆをもう一口食べさせると、新たな質問。
「で、他の人のは見れたの? どんな感じだった?」
「それはミーナの命令で絶対に言えないな」
「ケチだなー。私はこう見えても口固いよ?」
「ミーナの命令だからな。隊員の結束を乱す訳にはいかない」
「何それトゥルーデ、糸に絡めたギャグのつもり? 微妙だね」
「そう言う意味じゃない! ともかく、言えないものは言えない」
「残念。……じゃあ、私とトゥルーデは?」
「それは言うまでもないな」
トゥルーデは微笑んだ。彼女の穏やかな表情から全てを察したエーリカは、にこりと笑うとトゥルーデを抱きしめ、
そっと口吻した。
end
283
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 22:29:35 ID:veyXaZ/o
以上です。
実際に赤い糸が見えたらどんな感じなのかなとか
色々妄想して書いてみました。
実際はもっと複雑に絡み合ってる予感もしますが。
ではまた〜。
284
:
名無しさん
:2011/08/17(水) 07:45:32 ID:svYvelTA
>>278
GJです
あなたのおかげで盆休みの出勤もがんばれる!
285
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/18(木) 23:14:02 ID:YCk7WrP6
>>233
、
>>246
62igiZdY様
GJです。エイペリとニパがとても可愛らしいですね。
>>236
6Qn3fxtl様
GJ&お久しぶりです。ヘタレエイラ可愛すぎです。
>>239
Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJです。定ヘルとはまた斬新な組み合わせですね。
定ちゃんの無双ぶりが素敵です。
>>252
アキゴジ様
GJです。2年後芳佳とは・・・大作の匂いがします。
>>247
、
>>256-283
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
連続投下GJです。甘々なエーゲル素晴らしいです。
こんばんは。今日は芳佳とサーニャの誕生日という事で短いですが、
サニャイラで芳リーネな話を書いてみました。ではどうぞ
286
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/18(木) 23:16:42 ID:YCk7WrP6
【誕生日のお願い】
「待ってよ、リーネちゃん」
「へへ、早くおいでよ芳佳ちゃん」
今日は8月18日、私とサーニャちゃんにとっては一年に一度の特別な日。
お父さん、私16歳になったよ。
去年と同じようにみんなが私たちを祝ってくれて、本当に幸せな気分。
誕生会も終わって今は、私とリーネちゃんの2人きりの時間。
「2人きりでお茶会をやろう」っていうリーネちゃんのお誘いに乗って、私は基地のバルコニーへと向かっていた。
「ま、待ってサーニャ……」
バルコニーへと向かう途中、エイラさんとサーニャちゃんの部屋から不意にエイラさんの声が聞こえてきた。
普段のエイラさんからは想像できないくらいにとても弱々しい声だった。
「照れてるの? エイラ、可愛い」
今度はサーニャちゃんの声。
エイラさんの声とは対照的に透き通ったはっきりとした声だ。
「どうしたの、芳佳ちゃん?」
エイラさん達の部屋の前で立ち止った私を不思議に思ったのか、リーネちゃんが私のもとに駆け寄ってきた。
「うん。なんだか2人の会話が気になって……」
私は2人に気付かれないように、部屋のドアをそーっと開けてみる。
「よ、芳佳ちゃん!? 覗きはダメだよぉ」
「分かってるけど好奇心には勝てなくて……わぁ、見てリーネちゃん。すごい事になってるよ」
「えっ……うわぁ、ホントすごい事になってるね」
私たちの目に映ったのは、ベッドの上で横になっているエイラさんとその上に跨るサーニャちゃんの姿。
えっと、これってどういう状況……?
「サーニャ、な、何でこんな事……」
と、さっきより一層、弱々しい声でサーニャちゃんに呟くエイラさん。
「何でって、『今日はサーニャの誕生日なんだから、サーニャの願い何でも叶えてやるぞ』って言ってきたのはエイラのほうでしょ? だから……」
エイラさんの声を真似ながらサーニャちゃんはそう答えると、エイラさんの唇にそっと自分の唇を重ねた。
うわぁ、他人のキスって何だかすごく色っぽいや。
「サ、サーニャ……あぅ」
「これが私のお願い。あなたを私だけのモノにしたいの……」
サーニャちゃんはエイラさんの白い肌を撫でながら言葉を続ける。
「ねぇエイラ、私のお願い、叶えてくれるよね……?」
「は、はい……」
エイラさんのその言葉を聞くと、サーニャちゃんは満足げに微笑んだ。
「イイコね、エイラ。だいすき」
そう言って、サーニャちゃんはさっきより深いキスをエイラさんと交わした。
「サー……ニャ……んんっ」
「ねぇ芳佳ちゃん、これ以上見るのはやめようよ……」
と、顔を真っ赤にしたリーネちゃんが言う。
「そ、そうだね……」
私は開けた時と同様、2人に気付かれないように部屋のドアをそーっと閉める。
サーニャちゃん、エイラさんと末永くお幸せにね。
「……芳佳ちゃんは、私に何かお願い事とかある?」
「え?」
エイラさん達の部屋のドアを閉めてから少しして、リーネちゃんが私にそう訊ねてきた。
「その……芳佳ちゃん、私の事好きにしてもいいよ」
頬を真っ赤に染め、もじもじしながらリーネちゃんが私に呟く。
もう、そんな表情で誘われたら私、ガマンできないよ。
「ごめんね、リーネちゃん。2人だけのお茶会はまた今度にしよう」
「ふぇ!? 芳佳……ちゃん?」
私は魔力を解放してリーネちゃんを抱き上げ、行き先をバルコニーからある場所へと変える。
その場所は……
「ここって……」
「えへへ、ここなら誰の邪魔も入らないでしょ?」
私たちがやって来たのは基地のゲストルーム。
以前、ハルトマンさんとマルセイユさんが共同で使っていた部屋だ。
私はドアを開けて、リーネちゃんを部屋のベッドに押し倒す。
「きゃっ!」
「私のお願いはサーニャちゃんと一緒。リーネちゃんを私だけのモノにしたい……んっ」
私が口付けを落とすと、リーネちゃんは元々真っ赤だった顔を更に真っ赤にさせる。
もう、本当にリーネちゃんは可愛いな。
「リーネちゃん、愛してるよ」
「芳佳ちゃん、私も……んっ」
私たちはそれからしばらくの間、お互いの唇を重ね合った。
お互いの愛を確かめ合うように何度も、何度も。
〜Fin〜
287
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/18(木) 23:17:24 ID:YCk7WrP6
以上です。Mなリーネちゃんとエイラが書きたかったんです。
芳佳&サーにゃん、誕生日おめでとう!
ではまた
288
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/19(金) 02:08:31 ID:YyBZ63eE
>>284
様
有り難う御座います。貴方の応援のお陰で私もSS頑張れます!
>>287
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! サーニャイラも芳ーネもえろくて素敵過ぎます! MでSなコンビおいしいです。 芳佳&サーニャ誕生日おめです!
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編、
>>279-282
「destined soul mate」の続きとなります。
ではどうぞ。
289
:
red line 01/02
:2011/08/19(金) 02:09:08 ID:YyBZ63eE
目覚めると、何かが変わっている事に気付いた。
「はて。……この糸は何だ」
赤く染められた糸がそこかしこに張られている。伸びたり縮んだり、生き物の如く。
何かの錯覚かと思い、試しに魔眼を使って辺りを見たが、さしてネウロイの痕跡も見えず……
「そう言えば、バルクホルンが前に言っていたな」
思い出した美緒はさっさと着替えると、愛用の扶桑刀を手に取り、自室を出た。
「邪魔するぞ」
ノック無しに扉を開けると、下着姿で抱き合ってすやすやと寝るカールスラント娘が二人。
只ならぬ気配を感じたのか、間も無くトゥルーデがガバッとはね起き、毛布で身体を隠す。
「な、なんだ。少佐か……こんな早朝にどうした?」
「ああ、すまんな寝ている所を……」
トゥルーデの言う通り、まだ夜も明けきっておらず、ようやく朝の薄日が差し始めたと言う時間帯。
エーリカは二人のやり取りを聞いて、むっくりと身を起こした。
「こっこらエーリカ! 服を着ろ! せめて毛布で隠す位……」
慌てて自分の毛布を掛けて、仲良くくるまる格好になるカールスラントのコンビ。
「あー、いや、今でなくても良いんだ」
逆に気を遣う美緒。
「少佐。朝一に部屋に来ておいてそれはないだろう」
「ノックも無しでね〜ふわわぁぁ」
トゥルーデと、あくび混じりのエーリカから言われ、頭をかいて苦笑いする美緒。
「いや、すまん……はは」
着替えを済ませた二人は、美緒と共に部屋を出、とりあえず執務室で話をする事にした。
部屋では誰が聞き耳を立てているか分からないし、もし聞かれでもしたら厄介だから、と言う理由だ。
執務室のドアを開けると、机上に蹲る様に寝ているウィッチが一人。
「ミーナ……また徹夜したのか」
トゥルーデが心配そうに、ブランケットをそっと肩に掛ける。疲れが溜まっているのか、起きる気配がない。
エーリカは、眠る直前までミーナが使っていたであろう万年筆を机の脇から拾い上げると、キャップをしてペン立てに戻す。
「私も手伝ってやりたいのだが……ミーナが一人でやると聞かなくてな。生憎私も事務仕事は苦手で……」
ミーナを見て、心配と困惑が少し混じった表情の美緒。トゥルーデは微笑むと言った。
「私から言うのも何だが、少佐も、たまにはミーナを手伝ってやって欲しい」
「そーそー。何かお茶淹れる位でも違うと思うよ?」
「そ、そうか。なら今度」
エーリカの提案を受け、やる気を出す美緒。ぴくり、とミーナの耳が動いた気がしたが誰も気付かなかった。
そんな501の隊長を寝かせたまま、三人は本題に入る。
「さて、ここなら安心だろう」
「そうだな」
部屋のソファにそっと腰掛け、頷く美緒とトゥルーデ。そして何故かワクワクして話に参加しているエーリカ。
「ハルトマンは良いのか」
美緒がエーリカを指差す。
「ん?」
「楽しそうだし、いいじゃん」
「お前は誰かに言いそうだからな……」
「こう見ても私、口カタイよ?」
にやにやするエーリカを前にどうしたものかと悩むトゥルーデ。
しかし美緒はお構いなしに話を切り出した。
「バルクホルン。話と言うのは他でもない。私にも見える様になったんだ」
「見える? 見えるって何が……ま、まさか」
先日トゥルーデ自身が体験した“未知なる世界”を思い出し、戦慄する。
「ああ。この前、お前が言っていた赤い糸だ。私も見える様になった理由は分からない。これと言った原因や切欠が無いんだ。だが、実際に見える」
美緒はそう言って頷いた。
「確かに、私も理由は思い当たらなかったな。気が付いたら目の前が糸だらけと言う感じだった……でもまあ、少佐だから」
「私だから、何だ?」
「少佐なら魔眼の延長線上の事かも知れないし」
「ふむ、なるほど。なら普通通りに……」
「ダメよ美緒!」
突然の声にぎくりとする一同。いつの間に起きたのか、ミーナが美緒の手を握ってふるふると顔を振った。
「例え見えても人に言っちゃダメよ! トゥルーデだって約束は守ったんだから。ねえトゥルーデ?」
「あ、ああ」
「私には話してくれたよ」
あっけらかんと言うエーリカ。
「なんですって?」
冷気を纏ったミーナに、慌てて釈明するトゥルーデ。
「わ、私とエーリカの間の事だけだ。他は何も。本当だ」
「……ならいいわ」
にっこりと笑うミーナ。寝起きなのに隙がない。
290
:
red line 02/02
:2011/08/19(金) 02:09:34 ID:YyBZ63eE
「しかしミーナ、見えてしまうものは仕方ないんじゃないか」
困る美緒に、ミーナはすっと、とあるものを渡した。
「眼帯をもうひとつ用意したから、今日は」
「待て! 眼帯を両目に付けるって、見た目からして残念な姿になってしまうじゃないか! それは勘弁してくれ」
「なら、両目を目隠しで……」
「待て待て。私が何も言わなければ良いのだろう」
「美緒はつい何か言いそうだから怖いのよ!」
泣きつくミーナ。
「そんな事は無いぞ。例えばバルクホルンとハルトマンはとても太い糸で……あれは紐に近い太さだがしっかりと」
「そういう所がね……」
何故か自信たっぷりの美緒、呆れるミーナ。
「へえ、少佐にもそう見えるんだ。やったねトゥルーデ、私達本物だよ」
「だから、前に私が言った通りだろうエーリカ」
喜ぶエーリカ、当然だと言う感じで答えるトゥルーデ。
「で、どうなの? 美緒と私は?」
「な、何ッ!?」
言われて自分の小指を見る。自分の指に結ばれ、すっと伸びる赤い糸は、確かにミーナと繋がっている。
「う、うぉぅ」
突然のフリに気持ちの整理が付かず……思わず手を引っ込める美緒。
「ちょ、ちょっと、今の動作は何!?」
「退けミーナ! こう言う関係はまずい!」
すらりと扶桑刀を抜き放つと、ぶんと宙を一振り。
「危ない! ミーナを斬るつもりか少佐!」
慌てて美緒の手元を握り動きを封じるトゥルーデ。
「いや、糸だけを……」
「私と美緒は繋がってるのね? と言うか何故斬ろうとするの!? そのままで良いじゃない!」
意図を察したのか、美緒に詰め寄るミーナ。躊躇う美緒に、トゥルーデは言った。
「聞け少佐! 私も前言った通り、この赤い糸に物理的な干渉は一切通じない。例え少佐の扶桑刀でも……え、少佐?」
「私の魔力を込めた一撃なら!」
ゴゴゴと音が出そうな雰囲気の妖気を纏う美緒を見、ミーナが一喝する。
「執務室で烈風斬は禁止よ美緒!」
「ぐっ……ミーナに止められた。一体私はどうすれば良いんだ」
「そもそも何で斬ろうとするの!? おかしいでしょ!? 斬って何が変わると言うの?」
「そ、そう言われれば……」
気落ちしたのか、扶桑刀を鞘に戻すとへたり込む美緒。
「少佐」
いつの間に用意したのか、トゥルーデとエーリカが美緒の前に立った。
「ん? どうした二人共……っておい、お前達何を」
「悪いがミーナの言う通りにさせて貰うぞ」
がっしりとトゥルーデが美緒を押さえ込み、そのスキにエーリカが美緒の眼帯をさっと外し、目隠しで両目をきゅっと覆う。
「こ、こら……これじゃ囚人か罪人じゃないか」
「悪いけど坂本少佐、今日から暫くは貴方にそうして貰います」
「な、何故ッ!? 私が一体何をした!?」
「貴方が見てはいけないものがあるの。見えなくなるまで、そのまま執務室待機を命じます」
「な、何だそれは!?」
「これは命令です。貴方の目が元に戻るまで、バルクホルン大尉とハルトマン中尉に監視して貰います。良いですね?」
「了解した」
「りょうか〜い」
「ちょ、ちょっと待てお前達。その対応はおかしいんじゃないか?」
「これも隊を思ってのことなのよ……美緒」
泣きそうな声で言うミーナに、美緒は汗を一筋垂らし、呟く。
「本当にそうか?」
「命令です」
ミーナのきんと冷たく響く声を聞いて、ああ、これは私の負けだと悟る美緒。
「分かった。仰せのままに隊長殿」
「必要な時は私が介助しますから大丈夫よ」
何故か嬉しそうなミーナ。
「はい、口を開けて」
「こ、こうか?」
目隠しをされたまま、スプーンから食事を与えられる美緒。
「ちょっと、口の周りこぼれてるわよ?」
「す、すまん。見えないから」
「もう。拭いてあげる」
くすっと笑い、ナプキンで美緒の口元をそっと拭くミーナ。そしてシチューをひとすくいして美緒に与えるミーナはとても幸せそうで……
「ねえトゥルーデ、これは」
様子を見ているエーリカの問いに、トゥルーデはあっさりと答える。
「まあ、良いんじゃないか?」
「どうして?」
「少佐だし。こうでもしないとな」
「まあねー」
やれやれ、と肩をすくめるトゥルーデ、同意するエーリカ。
執務室で続く二人の奇妙な蜜月は、美緒の「目力」が元に戻るまで。
それがいつまでかは……赤い糸だけが知る秘密。
end
291
:
名無しさん
:2011/08/19(金) 02:10:35 ID:YyBZ63eE
以上です。
もっさんが「赤い糸が見える」とか言い出したら
多分周りが全力でとめるだろうなーと……。
ではまた〜。
292
:
名無しさん
:2011/08/19(金) 23:04:14 ID:PFuddR6s
>>291
GJです
〜いっしょにできること〜
に収録の眼帯ネタを思い出して吹き出しました
293
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/20(土) 22:06:46 ID:Qq8Znqd.
>>292
様
感想有り難う御座います。
確かに、両目に眼帯で……、と言うネタ有りましたねw
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編、
>>289-290
「red line」の続きとなります。
ではどうぞ。
294
:
red line II 01/02
:2011/08/20(土) 22:07:39 ID:Qq8Znqd.
芳佳は、夜中にふと目覚めると、トイレに向かった。
用を済ませ、ぼんやりと、うつらうつらとしていた目が冴えてくるうち……
何かが変わっている事に気付いた。
「やだ。……何、この糸」
赤く染められた糸がそこかしこに張られている。しかもまるで生き物の如く、動いたりしている。
「ま、まさか、ネウロイの仕業?」
気味が悪くなった芳佳は、手近な部屋へ駆け込んで、助けを求めた。
「それで、ノックも無しに執務室へ飛び込んだと言う訳か」
事情を聞いたトゥルーデから呆れられる。エーリカはソファーですやすやと眠る。
ミーナは机の上で変わらず書類整理を進め……美緒はと言うと、眼帯を外し目隠しをした状態でソファーに座っている。
「坂本さん、一体どうしたんです? 目が悪いとか?」
「お前と一緒だ、宮藤」
「へっ?」
「お前も先程言っただろう。見えると。何が見えたのかもう一度言って見ろ」
「いえ、ですから、基地の中に赤い糸が沢山……」
「……貴方も見えるのね。流石、この師匠にしてこの弟子あり、ってところよね」
ミーナも呆れ気味。
「そう言う言い方はちょっとな」
むすっとした様子の美緒。
意味が分からない芳佳は、えっ? っと辺りを見た。
部屋の中も赤い糸が幾筋も伸びていたが、そのうち最短で結ばれたふたつの糸を見る。
ミーナと美緒。
トゥルーデとエーリカ。
それぞれが結ばれている。
「あっ! 赤い糸!」
結ばれている糸、そして対象者を思わず指差す芳佳。
「知っている」
「バルクホルンさん、何で知っているんですか」
「私も知っているがな」
「坂本さんもですか? どうしてです?」
美緒の代わりにトゥルーデが説明し始める。
「私達も過去に同じ経験をしている。もっとも少佐はまだ見えるらしいが。私とエーリ……いや、ハルトマンはどうだ?」
「今話した通り、繋がってます」
「ミーナと少佐は」
「はい。同じく」
「では、お前の小指はどうなっている?」
「え、私?」
トゥルーデに言われ、自分の小指を見る。
二本有った。一本の太い糸は基地の何処かへと伸び……もう一本は窓の遥か彼方へと伸びていた。
「あ、あれ? あれれ?」
「私も前からその事を聞きたかった。何故、お前は二本有るんだ?」
「そ、そんなぁ。私知りませんよ〜」
「まさかミヤフジ、二股? それは相手が悲しむよ」
いつ起きたのかエーリカにもニヤニヤ顔で言われる。
「宮藤に限ってそう言う事は無いと思っていたが……」
無念そうな美緒。
「ごっ誤解です! 多分何かの間違いです!」
大袈裟にぶんぶんと手を振る芳佳。美緒は目隠しを外し、芳佳の手を掴んでじっと見た。
「やっぱりな」
「や、やめて下さい! 私そんな……」
「お前にも見えるだろう?」
「見えますけど……でも、違うんです!」
「何が違うんだ」
「わ、私は、その……」
「一本はリーネと結ばれている。それは私も確認した」
「トゥルーデ、さらりと言わないの」
「この際だ。そしてもう一本は誰と、と言うのが知りたい」
「ぷ、プライベートな事は!」
「トゥルーデ、尋問になってるわよ」
苦笑するミーナ。
295
:
red line II 02/02
:2011/08/20(土) 22:08:07 ID:Qq8Znqd.
「とりあえず、他の奴等に接触せずすぐ我々に報告したのは賢明な判断だった。それは誉めてやろう」
「だねー」
言いながらトゥルーデは背後から芳佳をがっしりと掴み、エーリカは目隠しで芳佳の両目を塞いだ。
「えっ? ちょっ? これってどう言う……」
「命令です。その症状が直るまで……糸が見えなくなるまで、宮藤さんはゲストルームに謹慎して貰います」
「な、何でですか!? 私何も悪い事してません!」
「美緒もまだ元に戻らないと言う話だから、そうね。二人で一緒に暫く過ごして貰いましょう」
「何? 宮藤と一緒か?」
「外出の際は目隠し着用を義務付けます。これは命令です」
「あの、私が何か、迷惑を……」
「他の皆に掛けない様に、と言う意味だ。察しろ宮藤」
「えー」
「バルクホルン大尉とハルトマン中尉が監視と世話役をしてくれるそうよ。何か有ったら二人に言うといいわ」
「了解した。行こうか、少佐」
「さ、行こ〜ミヤフジ」
「ミーナ中佐、納得いきません!」
「諦めろ、宮藤」
美緒がげっそりした表情で呟いた。
「色々見たかったなあ……」
「見ると後悔するぞ」
「あう……バルクホルンさん、一体何を見たんですか」
「ミーナに言うなと言われているのでな。残念だが」
「相談しに来ていきなり目隠しとかもっと残念ですよー」
「はいー歩いて歩いて」
芳佳は美緒と一緒に、執務室から出て行った。監視役のトゥルーデとエーリカも一緒に部屋を出た。
一人残されるミーナ。
「赤い糸、ねえ」
ぽつりと呟く。
まるで伝染病の様に広まる「不思議な視覚」。
幾分ロマンチックではあるが、隊員同士の関係を暴き出す非道なものでもある。
ミーナは、その危険性を排除する方向に決めた。
「今もきちんと繋がっているのかしら、美緒と」
自分の小指を見、頬を赤らめるミーナ。
「部屋の中では目隠しを解いても良いそうだ……やれやれ、参ったな」
美緒はうんざりした表情で呟いた。
「どうしましょう、坂本さん」
「私が知りたい。原因も分からぬ、いつ元に戻るかも分からぬ。まあネウロイの仕業ではないだろうが」
「そんなネウロイ居たら困りますよ」
「案外ネウロイかも知れないぞ。何しろ基地に忍び込んだのも居たからな」
「でも、実害は出てないです」
「今の所はな……。我々が色々喋ると、問題が起きるとミーナは考えたのだろう」
「バルクホルンさんも見えてたって言ってましたよね」
「もう見えないらしい」
「はあ……」
殺伐とした……必要最低限のものしか無いゲストルームに閉じ込められ、二人は溜め息を付いた。
「どうしましょう坂本さん」
「ミーナの命令とあらば仕方ない……。とりあえず、部屋で出来るトレーニングでもするか?」
「いえ、こう言う時に訓練とか止めましょうよ」
「あー、二人共悪いが、もう少し静かにしてくれないか?」
外からトゥルーデに諭され、更に落ち込む扶桑の魔女二人。
「どうしたもんかな」
トゥルーデは扉の外で、後ろ手に腕を組んで天井を見た。
「元はと言えば、トゥルーデが最初に見たからじゃないの?」
エーリカの指摘に、ぎくりとする。
「どう言う意味だそれは」
「見た者に伝染する、とかね」
「それじゃあ今頃、皆に赤い糸が見えて大変な騒ぎになっているぞ」
ははは、と笑うトゥルーデ。汗が一筋垂れる。エーリカも笑みがひきつる。
「ま、まさかな」
「まさか、ねえ」
二人は乾いた笑いで誤魔化した。
end
296
:
名無しさん
:2011/08/20(土) 22:08:38 ID:Qq8Znqd.
以上です。
このあと501がどうなったかはご想像にお任せします……。
ではまた〜。
297
:
名無しさん
:2011/08/24(水) 20:38:07 ID:rKJOLZg.
>>296
GJです
リーネが芳佳の糸をみたらwww
298
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:48:44 ID:oGbLH.VU
>>294
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.cさま
赤い糸って…本当にあるのかもしれませんね!
…ごめんなさい、ちょっとロマンチスト風に書いてみました。
けど、芳佳のもう一本の糸ってみっちゃn………?だったらリーネちゃんがハサミで何のためらいも無く切りそうですねw
こんばんは!今夜は隅田川花火大会でしたね!
さて、今回も『ヘルマの発情』シリーズです。今更ですが、フミカネ先生のツイッター見ててifシリーズに何故ヘルマがないんだ!と思い勢いだけで書いちゃいました;;
あと出向先ですが、ローソンで缶コーヒーのBOSSを2本買ったらルフトハンザ航空の模型が付いてきたんで、これもネタに使おう!と即座に思いましたw
それでは、張り切ってドウゾ!
299
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:49:49 ID:oGbLH.VU
【ヘルマのif】
コンコン...
「失礼します!」
「入れ」
ガチャッ!!
おごそかな空気の中、ヘルマは執務室のドアを開ける。
ロマーニャ解放から5年後、バルクホルンは少佐へと昇進していた。
そして背や胸、顔つきなど年相応に成長したヘルマの姿がそこにあった。
彼女は現在、実験部隊で活躍する傍らバルクホルンの第二秘書を務めている。
「本日のスケジュールをお持ちしました!」
「済まない、今手が離せないんだ。読み上げてくれないか?」
「はい。この後10時より実験隊の方々と打ち合わせ、12時よりそのまま昼食を兼ねた意見交換会。15時より新人ウィッチへの講演です」
「ふむ」
「そして17時まで残った書類仕事、19時よりハルトマン中尉…ってもう軍人じゃないんですよね…」
「…ハルトマン?」
「ええ、1週間前に言いいましたが…もしかしてお忘れに…?」
「済まない、教えてくれないか」
「えと…」
ヘルマはスケジュール帳をめくる
「ハルトマン元中尉の医師免許取得記念パーティーです」
「そうかそうか…って今日か?!」
「…わかりました、少尉が意見交換会している最中に私が走って花を買いに行ってきます」
「それには…及ばないな」
「へ???」
バルクホルンはデスクの下から、フラワーショップで揃えてもらった綺麗な花々を出した。
「なんだ、覚えてらしたんですね」
「勿論だろう、済まないなヘルマ。からかってしまって」
300
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:50:12 ID:oGbLH.VU
「いえいえ!…こんなに柔らかい少尉、久々です」
「は?」
「いや…最近、笑われてなかったので…」
「…そうだった…のか?」
「ええ…正直申しますと…」
「あはは…私だって冗談のやり取りだってするさ。でも最近…ちょっと私でも疲れたかなと思ってな…」
「少佐…」
「イカンイカン、私はカールスラント軍人だ。これくらいでへこたれちゃダメだな」
「でも少佐、やはり休暇を取られては…?」
すると、今までヘルマの方に向けていた椅子を急に窓の方へと方向を返る。
「なあレンナルツ」
「はい」
「お前は…この軍が好きか?」
「ええ、とてもやりがいを感じています」
「そうか…」
「あの…それが何か?」
「もし…異動命令があったらどうする?」
「ヘルマ・レンナルツ、命あればどこへでも赴任いたします!」
「そうか…」
しかし、この時何かおかしいと感じ取っていたヘルマであった…。
「あの…少佐、何か…?」
「実はな…お前に異動命令が出てるんだ」
「それは…遠い所なのですか?」
―――でも本心は…我儘を言うと、嫌だった。憧れのバルクホルン少佐の下でサポートする役職に就いたのに、異動だなんて…
「ロマーニャ…ですか?」
バルクホルンは首を横に振る
「ワイト島ですか?それとも、ア…アフリカとか?」
それでも首を横に振る。
「じゃあ…一体、どこですか…?」
「カールスラント・ルフトハンザ航空だ」
「…へ??」
「知ってるだろう?」
「ええ、民間の航空会社ですよ…ね?」
「そこへ…出向してくれ」
「…それって」
知らぬ間に、ヘルマは両手を握りしめていた...
「私が…私が戦力外って事ですか??!!」
―――なんてことだ、上官でもあり憧れの人に対し…大声を上げてしまった…
「………」
「私は…頑張って、この地位まで辿り着いたんです!なのに、なのに民間の航空会社に出向って…いくら上官命令だからと言っても酷いです!」
「これは上官命令だ、レンナルツ!」
「断固拒否します。だったら、私は軍を辞める覚悟であります!!!!」
「辞めたら意味がないだろう!!!!」
ヘルマに釣られ、ついバルクホルンも大声を上げてしまう…
「良いか、よく聞けレンナルツ。お前はこの5年以上、ずっとジェットストライカーの開発に携わり今では我が軍で実用化されたとても大切な物を作ってきた」
「………はい」
やや不満げに返事をする。
「でも…今度は、不特定多数の人々にその知識や技術を教える番だと私は思うんだ」
「…どうゆう事でしょうか?」
「現在、人々の足として使われている飛行機は遅い。けどお前たちの開発した技術を民間に転用すれば、より良い環境づくりが出来るとは思わないのか?」
「それは…その…」
「レンナルツ!…お前は今度から彼らの生活の『幸せのため』に技術を教えてやってくれないか?」
「少佐…っ」
「もちろん、過去のお前の実績を見通しての出向だ。決してお前を戦力外だからと言って飛ばす訳ではない、むしろ惜しいくらいだ」
「もっ…申し訳ございませんでしたっ!!!」
深々と頭を下げるヘルマ
「生意気な口を利いて申し訳ございませんでしたっ!!!」
「頭を上げろ、レンナルツ。私も誤解を招くような表現で悪かった」
「でっ、でも私…上官になんて酷い事を…」
301
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:50:30 ID:oGbLH.VU
「…悪いと思うんなら、一生懸命働け。そして人々を喜ばせろ。人々の喜びは、私の喜びだ」
「しょ、少佐…っ!!!!」
***
「しょうさぁ………」
「起きなさい…起きなさいってば!」
「はっ!!??」
場所は変わり、軍の食堂。
「あれ、シュナウファー大尉?!」
「珍しいわね、あなたが昼寝だなんて。ヨダレが出てるわよ?;;」
「へ?へ?へ?」
「何、寝ぼけてるの?」
「えと、私っていつから異動でありますか?」
「はあ?」
すると、
「あれっ!?胸が…ないであります!!」
「それはいつもの事じゃない」
「え…;;でっ、でも胸がこう…ばいんばい〜んって。パイオツカイデーなチャンネーでしたもん!」
「何言ってるの?ヘルマ;;医務室行く?」
「だって少佐が…」
「は?」
その日、ずっと支離滅裂な事を言っていたヘルマ。
バルクホルンとのやり取りが、実は夢であったと言う事を翌日に知ったヘルマであった。
「…二度目の夢オチでありますか?!」
【おわれ】
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