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ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所8
1
:
管理人
◆h6U6vDPq/A
:2011/03/04(金) 23:23:21 ID:7A0XfQVw
ここはストライクウィッチーズ百合スレ避難所本スレです。
●前スレ
ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所7
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12483/1290357324/
●Janeで避難所を見る場合
・板一覧を右クリックして「新規カテゴリを追加」をクリック(板一覧が無い場合は「表示」→「板ツリー」→「板全体」で表示できる)
・カテゴリ名を入力してOKをクリックする(例:「したらば」)
・作成したカテゴリにカーソルを合わせて右クリックし、「ここに板を追加」をクリック
・板名を入力してOKをクリックする(例:「百合避難所」)
・URLに「
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12483/
」を入力してOKをクリックする。
253
:
ストライクウィッチーズIF 宮藤芳佳編 勇者は再び 1
:2011/08/10(水) 05:32:09 ID:lPCIYESI
1947年 扶桑皇国。
芳佳「はい、これでもう大丈夫だよ」
女の子「わあ、お姉ちゃんありがとう!」
芳佳「どういたしまして、でも、また転ばないように気をつけてね」
女の子「うん!」
女の子「バイバ〜イ!」
芳佳「怪我したらいつでも来てね〜」
芳佳「ふぅ・・・」
清佳「お疲れ様、芳佳、お茶でも飲む?」
芳佳「うん、ありがとう、お母さん」
私がロマーニャでの戦いを終えて、2年が経っていた。戦いで魔法力を全て失った私は、実家の診療所で働いている。
何事も無く、ただ平凡な日々を送る毎日だった。でも・・・
芳佳「お母さん、おばあちゃんは?」
清佳「部屋で寝ているわ、今のところ大丈夫みたい」
芳佳「そっか」
一年前、おばあちゃんは病気になってしまった。でも、安静にしていれば問題は無いようだ。私と違って魔法力はまだ健在であるにも関わらず、突然の病だった。こんな時、私に魔法力があったらと思うと、自分自身に腹が立つ。
芳佳(・・・今日も良い天気だな)
あの青い空を見ていると、かつてストライカーユニットで空を飛んでいた頃を思い出す。あの時の事が、何もかも夢だったようにも感じた。でも、一緒に戦った仲間と過ごした時間は決して夢ではないとわかっている。
芳佳(みんな・・・どうしているかな・・・あの空を今でも守っているのかな・・・)
ウゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッ・・・・・・
芳佳「!?」
突然、どこからともなく警報が鳴り出した。
清佳「何かしら・・・?」
みっちゃん「芳佳ちゃん!」
芳佳「みっちゃん!?どうしたの!?何があったの!?」
みっちゃん「さっき軍隊の人から聞いたんだけどね・・・ネウロイがこっちに近づいているって!」
芳佳「え・・・!?」
ネウロイ、私達が最も恐れる敵。世界を破壊し、人々の住む街を滅ぼす異形の敵。
芳佳「何で・・・何でネウロイが扶桑に!?」
みっちゃん「わからないけど、とにかく軍の人達が速やかに避難しなさいって言ってた!」
芳佳「でも、おばあちゃんが・・・」
芳子「私なら大丈夫だよ、芳佳・・・」
芳佳「あ、おばあちゃん!」
清佳「体は大丈夫なんですか?」
芳子「あぁ・・・これくらいなら大丈夫だよ」
芳佳「じゃあ、早く避難所に行かないと!みっちゃん、案内して!」
みっちゃん「うん!」
254
:
ストライクウィッチーズIF 宮藤芳佳編 勇者は再び 2
:2011/08/10(水) 06:12:13 ID:lPCIYESI
避難所
芳佳「本当にここで大丈夫なのかな・・・?」
みっちゃん「いざという時にはウィッチの人達が付いているから大丈夫だよ」
芳佳「だと良いんだけど・・・」
扶桑皇国海域
扶桑海軍兵1「ネウロイ発見!攻撃開始!」
ドンッ!!ドンッ!!ダダダダダダダダダダダダダッ!!
ネウロイ「オオオオオオォォォォォォォン・・・・・・」
バシュウッ!!ドオオォォォン・・・!!
扶桑海軍兵2「第一艦隊、大破!」
扶桑海軍兵3「くそ!化け物め・・・!」
海軍大佐「怯むな!何としても奴をこの場で仕留めるのだ!!」
全員「了解!」
芳佳「・・・・・・・・・」
みっちゃん「芳佳ちゃん、大丈夫?」
芳佳「うん、大丈夫・・・」
あの時と同じだ。赤城に乗っていた時、ネウロイに襲われて、おびえていたあの時と同じだ。でも、もう私には魔法力は無い。戦う力は何一つ残っていない。こういう時くらい、魔法力がほんの少しでも良いから出てほしい。そんな思いが込みあがってくる。
芳佳(・・・私、もう誰も守れないのかな・・・誰も助けられないのかな・・・)
オオオォォォォォォォォォン・・・・・・
芳佳「!?」
突然、聞き覚えのある音に私は震えた。ネウロイの咆哮が、扶桑に響きだした。
兵士1「ネウロイ出現!攻撃準備!」
兵士2「海軍の防衛は破られたのか・・・!くそ・・・!」
ネウロイ「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・」
外を見てみると、巨大なネウロイが黒い体をうねりながら空を飛んでいた。その姿に、私はあの時以上の恐怖を感じた。
カアアアァァァァ・・・・・・
芳佳(あ!あれは!)
ネウロイの身体が赤く光りだした。そして・・・
バシュウッ!!ズドオオオォォォォォォォォォン・・・!!!
赤い閃光が放たれ、地上を焼き尽くしていく・・・。私はただ、見ている事しかできなかった・・・軍と見習いのウィッチが、ネウロイの攻撃に苦戦している絶望的な光景をただ見ている事しかできなかった。
芳佳「・・・・・・」
みっちゃん「芳佳ちゃん!中に入って!危ないよ!芳佳ちゃん!」
芳佳「・・・・・・何で」
みっちゃん「・・・芳佳ちゃん?」
芳佳「何で・・・こんな事に・・・」
私は悔しかった。ロマーニャのネウロイの巣を破壊しても、ネウロイは必ずまたどこかに現れる。それがよりにもよって、私の故郷だなんて・・・。私は自分の無力さに涙を流した。
芳佳「私・・・何も守りきれてない・・・私は・・・私は・・・」
みっちゃん「芳佳ちゃん・・・・・・」
芳佳「うっ・・・うっ・・・」
何が守る事が出来ただ。何が願いが叶っただ。私はただ力を失ってしまっただけじゃないか。私は、何の為に力を使ったのか・・・。誰の為に使ったのか・・・。
255
:
アキゴジ
:2011/08/10(水) 06:13:56 ID:lPCIYESI
とりあえず、ここまでにしときます。芳佳ちゃんの2年後ってホントにどんなんだろ・・・気になって仕方がありません。
それでは失礼しました。
256
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/12(金) 22:53:22 ID:dHCB2zYQ
>>255
アキゴジ様
GJです。続き気になりますね。楽しみにしています。
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
257
:
snare 01/06
:2011/08/12(金) 22:58:50 ID:dHCB2zYQ
陽射しもようやく落ち着いてきた午後。
誰も居ない食堂で、ジュース片手にお喋りに夢中になる二人。
ブロンドの自称「天使ちゃん」は、オラーシャの娘を前に色々話を聞かせる。
それに呼応して銀髪の「天使」は、くすくす笑ったり、言葉を返す。
いわゆる「かしましい」状況がそこにあった。
だが会話の途中不意に、顔色を曇らせるサーニャ。
「どしたのサーにゃん」
首を傾げたエーリカはサーニャの顔を覗き込む。サーニャはエーリカの目をちらちらと見ながら躊躇いがちに言った。
「……エイラの事なんだけど」
「エイラねえ。またヘタれたとか?」
「違うの。私の為に、無理とか無茶し過ぎなんじゃないかって」
「無理に無茶、ねえ」
エーリカは自分の髪の毛をくるっと巻いたりして遊んでいる。
思い出すのは、高高度迎撃戦……エイラが無理矢理サーニャを護ったと言う、あの事。その他、色々。
「エイラって元々そう言うキャラじゃん」
「キャラって……」
「あーでも、分かるよ。好きな人の為に精一杯になる気持ちは」
「そう、ですよね。ハルトマンさんも、マルセイユ大尉と決闘した理由……」
「あー、あれね」
いつぞやの“対決”を思い出し、照れ笑いするエーリカ。
「手強かったよ」
「マルセイユ大尉が?」
「勿論トゥルーデに決まってるよ」
サーニャの質問に茶化すエーリカ。ふっと笑うサーニャ。しかし、胸に手を当て、呟いた。
「でも、私、たまに見ていて辛くなる事が有るんです」
「それはサーにゃんもエイラの事を大切に思ってることの裏返しじゃないの?」
「……」
言葉に詰まるサーニャ。
「じゃあ、確かめてみる?」
「どうやって?」
二十分程待っていると、埃まみれになったエーリカが部屋から出て来た。
「スーパーセクシーギャルの魔法の薬だよ」
にやっと笑うエーリカ。
化粧水の小瓶らしきものに入った謎の粉。
「それは一体?」
「前にウーシュから送られて来たんだ。何でも人の記憶を操作出来るって言う……」
「そんな物騒な」
「でしょ? それに冗談だと思って、何もしてなかったんだけど」
「で、それを?」
「お互い、使ってみようよ」
エーリカは口の端を歪めた。
258
:
snare 02/06
:2011/08/12(金) 22:59:19 ID:dHCB2zYQ
訓練の合間、椅子に腰掛けたままうたた寝をしているトゥルーデの脇にささっと忍び寄るエーリカ。
小瓶の封を解き、粉をトゥルーデの鼻先にふっと吹きかける。
「トゥルーデは私の事を忘れる。トゥルーデは私の事を忘れる。エーリカ・ハルトマンなんて知らない」
ぼそぼそと繰り返す。うなされた様に「う、うん、うーん……」と唸るトゥルーデ。
「使い方はこんな感じ。で、私隠れるからサーにゃん、トゥルーデ起こしてみてよ」
「は、はい……」
言われた通り肩にそっと手を掛けると、トゥルーデは、かっと目を見開き、何事かと辺りを見回した。
「な、何だサーニャじゃないか。どうした、何か急用か?」
「いえ。あの、ちょっと聞きたい事が」
「ああ。何でも言ってみろ。相談に乗るぞ」
「ハルトマンさんの事なんですけど」
“愛しの人”の名を聞いたトゥルーデは、一瞬溜め息を付いた後、きょとんとした顔をしている。
「?」
「あの、バルクホルンさん?」
「誰だ、それは?」
「えっ」
「そんな奴知らないぞ。有名な奴なのか? 軍人か? ……ん。私は何で指輪なんて付けているんだ」
ふと、自分の手を見て、指に煌めく指輪を不審に思うトゥルーデ。
「誰だ、私にイタズラしたのは。……まあいい」
トゥルーデは指輪をそっと外すと、大事そうに上着のポケットにしまった。
「バルクホルンさん、それ……」
「後で皆に聞いてみるか。誰かの大事なものだろうからな」
そう言うとトゥルーデは立ち上がった。
「あの、どちらへ?」
「ストライカーの調整で、整備員に言い忘れていた事を思い出した。ちょっとハンガーに行ってくる。
そうだ、何か相談が有るならいつでも私に言ってくれ。何でも聞くからな。501は家族だ、だから私を姉だと思って良いんだぞ」
トゥルーデはそう言って、部屋から出て行った。
隠れていたエーリカは、こそこそと姿を現すとサーニャに言った。
「ね。私に関する一切の記憶を無くしてる」
「ねって、ハルトマンさんの事、まるで存在すら無いかの様に」
「そう言う薬だもん」
説明するつもりが、少し強い口調で言ってしまうエーリカ。何故自分でもそんな気分になるのか分からない。
「あ、ゴメン、サーにゃん。サーにゃんに怒る事じゃなかったね。じゃ、エイラも試してみようか」
「う、うん……」
エイラは自室でぐっすりと眠っていた。
「やり方は私のを見ての通り。やってみて……やっぱりやめる?」
「ううん。エイラにとって、それが良いなら」
「じゃあ、やって」
サーニャは意を決して、エイラの枕元に立ち……小瓶から粉を少量出し、ふっとエイラの顔に吹きかける。
「エイラが私の事を忘れます様に」
うーん、とエイラが唸る。それっきり、変わらぬ寝息を立てる。
「さ、行こう。後でどうなるか、見物だよ」
エーリカは小瓶を受け取ると、ポケットにしまった。
259
:
snare 03/06
:2011/08/12(金) 22:59:47 ID:dHCB2zYQ
「おッ、見ない顔ダナ。新人カ? それともお客サン?」
夕食時、食堂でばったり顔を合わせたエイラとサーニャ。エイラは初めて出会ったかの様に言った。
「エイラ……」
「えっ何で私の名前知ってるンダ? 気味の悪い奴ダナ」
エイラは興味無い、と言った感じで自分の席に着いた。
「エイラ、お前新しいジョークでも思い付いたのか?」
シャーリーが声を掛ける。
「何の話ダ?」
「全く、からかうのも大概にしておけよエイラ」
トゥルーデも席に着き、エイラに小言を言う。
「何だヨ大尉二人して。私をからかおうってのカ?」
「はあ? どうしたエイラ」
「サーニャをあんまり虐めるのは良くないぞ」
「誰だソレ? 虐めるも何も、初めて会った奴にどうすれば良いんダヨ」
それを聞いたシャーリーとトゥルーデは顔をひきつらせた。
「ちょっと、堅物……エイラ大丈夫か?」
「これは問題だなリベリアン。まさかケンカでもしたのか、それとも……」
「あれ、何か有ったの?」
何食わぬ顔をしてエーリカが隣に座った。
「ああ、ハルトマン、聞いてくれよ。エイラ、またサーニャとケンカしたみたいなんだ」
シャーリーがサラダをもしゃもしゃと食べながらエーリカに言う。
「へえ〜」
あくまで平静を装うエーリカ。
「まったく、いつもは磁石でも付いてるかの様に仲が良いのに、喧嘩してどうするんだ……で、リベリアン」
「ん? どうした堅物」
「こいつは誰だ? 見た所カールスラント軍人に見えるが。501の来客か?」
エーリカを指して真顔で聞くトゥルーデ。
「はあ!? お前は何を言ってるんだ」
驚いてがたんと椅子から立ち上がるシャーリー。
「何をそんな大袈裟な。……有名人なのか?」
平然と構え、料理を口にするトゥルーデ。
「堅物までおかしくなっちゃったのかよ!」
シャーリーは頭を抱えた。
「大丈夫、シャーリー。理由は後で話すから」
エーリカがシャーリーのすぐそばに近寄り、ひそひそ声で説明する。
「おい、また何かやらかしたのか」
「ちょっとした実験。大丈夫」
「ホントかよ」
「今、トゥルーデとエイラ、少し言動がおかしいけど気にしないで」
「しないでって言われてもなあ。あたしらが気にするよ」
戸惑いを隠せないシャーリー。
「そこで何を喋っている? 食事の時間はきちんと食事に専念しろ。来客か誰かは知らないが、お前もだぞ」
エーリカに言うトゥルーデ。言葉がきつい。
エーリカとサーニャは、示し合わせて空き部屋に寝具を持ち込み、寝ることにした。
ヘタに接触してしまっては「実験」が台無しになると言う理由。だが、それよりも……
エイラもトゥルーデも、態度がきつい。それが妙に、心の隅にちくちくと刺さる。微かに見えるだけで抜けない棘の様に。
「みんな、何も言わなかったけど……」
心配顔のサーニャに、エーリカは強がって見せた。
「大丈夫、ミーナも少佐も『程々に』って言う程度だし。明日には直ってるんじゃない?」
「だと良いんだけど」
「大丈夫だって。さ、寝よサーにゃん」
260
:
snare 04/06
:2011/08/12(金) 23:00:14 ID:dHCB2zYQ
だが翌朝になっても、トゥルーデとエイラは変わらなかった。
「さて、今日も元気に訓練だ」
「あー、面倒ダナ」
本人達は全く変わらない様子だが、周囲は心配していた。
皆、何かを言おうとするも、エーリカとサーニャにそれとなく雰囲気で止められ、言うに言えない。
エイラは一人気ままにさっさと食事を済ますと、他の隊員達には興味ないとばかりにさっさと席を立ち、食堂を去った。
トゥルーデも普通に食事をしているが、その「普通」の感覚がより不気味に、そして奇異に映る。
「何だ、私に何か問題でも有るのか? リベリアン、言いたい事が有るならはっきり言ったらどうだ」
そんな皆の態度を不審に思ったのか、シャーリーを名指しして問うトゥルーデ。
「いや、お前さ。何かすんごい大切な事、忘れてね?」
朝食の蒸かし芋を一口食べながら、質問に質問で返すシャーリー。
「大切な事? ……はて、何か有ったか?」
腕組みし、真面目に考え始めるトゥルーデ。
「訓練プログラムは問題無い。食事当番も確認済みだ。スケジュールも……」
一通り考えを巡らせた後、トゥルーデは真顔で答えた。
「何も無いぞ」
「おい! ちょっと大丈夫かよ……」
「生憎だがお前に心配される程、私はまだ耄碌してないからな」
シャーリーの不安を鼻で笑うと、シャーリーの後ろ、トゥルーデから見えない位置に座っていたエーリカに向き直って、厳しい言葉を投げかける。
「で、そこのカールスラント軍人。せめて名前位は名乗ったらどうだ。昨日からずっと私の事を見てる様だが。監視員か?」
何か言おうとするも、咄嗟に言葉が出ない。ジョークを言える雰囲気ではなかった。
「何処の所属か知らないが、名前すら名乗らず、勝手につきまとうとは失礼じゃないか? 後で本国軍に照会するからな」
そう言うと、不機嫌そうにトゥルーデは席を立ち、早足で去った。
「ハルトマン、大丈夫かよ……」
シャーリーは呆れ気味にエーリカを見る。
「うーん。流石にちょっとまずいかもね」
言葉こそ余裕だが、困った表情をしている。事態は思ったよりも深刻だ。
エーリカはサーニャを見た。エイラとの関係が「無」になったサーニャは、どうして良いか分からない表情をしている。
「なあ、ハルトマン。何をしたか知らないけど、これは流石にまずいんじゃないか? 他の奴等もおかしいって気付いてるし
余計にややこしくなったら……」
「大丈夫」
とだけ言って、エーリカはサーニャの手を取り、食堂を後にする。
残された隊員達は、微妙に気まずい空気の中、もそもそと食事を続けた。
「さすがに、まずいですよね……」
「ちょっと、薬がきつすぎたかな。予想以上だね」
基地のテラスで、ぼんやりと呟くエーリカとサーニャ。
ちょっとした悪戯心、そして漠然とした不安感から決行した今回の「実験」は、エーリカとサーニャに想像以上のダメージを与えていた。
そよ風が二人の髪を撫でる。不意にやってきた一陣の風が、整えられた髪を掻き乱す。
んもう、と愚痴りながら髪をかき上げるエーリカ。サーニャも両手でそっと髪を直す。
ぽつりと、手摺に肘を付き、呟くサーニャ。
「本当に、私の事、わすれちゃったのかな……」
「サーにゃん、忘れて欲しいって言ってたじゃない」
「でも、実際、忘れられると……」
エーリカは寂しげに笑った。
「サーにゃんらしいね」
261
:
snare 05/06
:2011/08/12(金) 23:00:59 ID:dHCB2zYQ
「あ、こんな所に居タ!」
早足でやって来たのはエイラ。サーニャを無視してエーリカに詰め寄ると、いきなり怒り始めた。
「何か私にイタズラしたって本当カ? 一体何したんだヨ?」
「え、何の事?」
「シャーリーや皆に聞いたゾ。私に何のイタズラしたか言えヨ!」
「いやー、悪戯じゃなくて、簡単な実験?」
「勝手に人の身体で実験スンナ!」
「身体じゃないんだけどね」
「余計にタチが悪いゾ!」
「やめてエイラ。もう良いの」
「何だヨお前。……てか、この前からずっと気になってたけど、誰コレ?」
「エイラ……」
赤の他人を見る様な……しかもまるで興味ないと言った風に自分を見るエイラ。サーニャはそんな彼女を見ていられなくなった。
「イヤマア、そりゃ、なかなかの美人だし気になるけド、コイツ何て言うか……アァモウ!」
頭をかきむしるエイラ。
「もういい、エイラ」
耐えられず、立ち去るオラーシャ娘。髪を靡かせ、背を向ける。
「まっ、待ってサーニャ!」
ぽろっと、名前が出る。
「ん? サーニャ? ……そうだ、サーニャ。サーニャ!」
久々に愛しの人から呼ばれる事が、こんなに嬉しい事とは思わず、サーニャは立ち止まったまま、服の袖で目を擦る。
「エイラ、分かるの? 私の事」
「何言ってるんだバカ。忘れる訳無いダロ?」
「良かった、エイラ……」
涙ながらに抱きつくサーニャ。
「うわ、大丈夫カ。何が有ったんだサーニャ。もしかしてハルトマン中尉に悪戯されたのか?」
「それ、エイラ」
「えッ?」
エイラが振り返ると、エーリカの姿は無かった。
トゥルーデは自室でひとり報告書を書いていた。
扉が開く。
「ノック位しろ」
「ここ、私の部屋だもん」
「だからお前は誰なんだと聞いている」
「思い出すまで教えない」
「思い出すも何も、初対面でそんな事無いだろう。私はエスパーか? 良いから私の邪魔はするな」
「トゥルーデ……」
びくりと肩を震わせ、椅子から立ち上がる。
「!? 何で私の、その呼び方を知ってるんだ」
「やっぱり、本当にそっくり忘れちゃったんだね、トゥルーデ」
悲しそうなエーリカの顔を見て、トゥルーデはペンを置き、立ち上がった。
「……もしかして、私の知り合いか?」
「そんなんじゃないよ!」
怒るエーリカ。
「いや、でも、その顔を見ていると……待て!」
部屋から出て行こうとするエーリカの腕を握る。
エーリカの目に、うっすら涙がにじむのを見て、思わずトゥルーデは抱きしめた。
「お前が誰かは知らない。でも、過去に大切な関係であったなら」
「……」
「最初から、もう一度、お互いの事を知るのも良いんじゃないか? その、名前とか、そう言う……」
エーリカが身をトゥルーデに寄せた。少しよろける。
エーリカのがらくたに身体が当たり、どさどさっとモノがトゥルーデの「エリア」に侵入する。
「わ、私のジークフリート線が!」
トゥルーデは仰天した。そしてエーリカに言った。
「ジークフリート線は何人たりともも超える事は出来んのだ、ハルトマン! ……ん? はると、まん?」
自分の腕の中に居る、小柄な娘を見る。そして、頭の中の曇りが一気に晴れる。
「え……エーリカ。エーリカ」
ぽつりと、名を呼ぶ。繰り返し、反芻する。
「その呼び方、聞きたかった、トゥルーデ」
エーリカは涙を拭いて、そっとトゥルーデにキスをした。
262
:
snare 06/06
:2011/08/12(金) 23:01:24 ID:dHCB2zYQ
事の顛末を聞かされたトゥルーデとエイラは、ベッドの上に正座するエーリカとサーニャを見、溜め息を付いた。
「そんな事をしていたとは……私達を一体何だと思ってるんだ」
「止めろヨ、こんな事。誰が得するンダヨ」
口々に文句が出てくる。
エーリカとサーニャは声を揃えて答えた。
「反省してます」
「してます」
「全く……このまま私達が忘れたままだったらどうするつもりだったんだ」
呆れるトゥルーデ。エーリカは言った。
「それは、トゥルーデ言ってたじゃない。もう一度初めからって」
「わ、私はそんな事言ったか?」
急に焦るトゥルーデ。エーリカはエイラに理由を聞いた。
「で、エイラはどうしてサーにゃんの事どうして思い出したんだい?」
「頭の中でずっとモヤモヤしてて、何も思い出せないケド、サーニャが立ち去るの見て、そのまま行かせたらダメだって、
頭の中で声がした。気付いたら思い出してタ」
「なるほどねえ。で、トゥルーデは?」
「エイラと似た様なものだ」
「でも大尉、指輪は外してもずっと大切に持ってたんだナ」
「これは……何か、大事に持っていないといけない気がしてだな……」
エーリカがトゥルーデの指輪を手に取り、もう一度指にはめる。
「これで元通り。ね?」
「それで良いのか」
「良いの良いの」
一瞬の間。トゥルーデとエイラは立ち上がり握り拳を作る。
「と言うか、良い訳無いだろう!」
「そうだゾ? こんな屈辱、と言うかアブナイ事しちゃダメじゃないカ!」
怒るトゥルーデとエイラ。二人に向かって、エーリカがにやっと笑う。
「じゃあ、今度は私達が二人を忘れる?」
聞いたトゥルーデとエイラは仰天した。
「絶対に許さん」
「それは勘弁してクレ」
二人の言葉を聞いて、エーリカはにしし、と笑う。
「ね、サーにゃん」
エーリカはサーニャにウインクして見せた。
「やっぱり、大事なんだよ。分かった?」
「うん。何かハルトマンさんに迷惑掛けちゃったみたいで……」
「いいのいいの。サーにゃんだし」
くすっと笑い合う二人。
「とりあえず、お前は反省しろ、エーリカ」
「行こうサーニャ」
トゥルーデとエイラは、それぞれ「愛しの人」の腕を取った。
「サーにゃん、ミヤフジが前に言ってた扶桑の諺。『雨が降って地面が固くなる』って話。こう言う事じゃないかな」
「なるほど」
くすっと笑うサーニャ。エーリカとサーニャに嫉妬したのか、エイラはぐいと腕を引っ張り、部屋を出て行った。
部屋に残されたエーリカとトゥルーデ。
「ごめん、トゥルーデ」
溜め息をひとつついたトゥルーデは、苦笑した。
「分かった。もう良い。もう良いんだ、エーリカ」
そっと抱きしめ、口吻を交わした。
一日ぶりのキスが、とても愛おしく感じる。
今頃はサーニャとエイラも、同じ気分であるに違いない。きっと。
end
263
:
名無しさん
:2011/08/12(金) 23:02:40 ID:dHCB2zYQ
以上です。
特定の人だけの記憶(思い出)がなくなるとどうなるのかなーとか
色々考えてみましたが難しいですね。
ではまた〜。
264
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/13(土) 21:34:18 ID:GH11Mb2c
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
265
:
Le Tour de 501 01/03
:2011/08/13(土) 21:35:08 ID:GH11Mb2c
基地のハンガーの片隅に置かれた、フレームが煤けた一台の自転車。
トゥルーデは今まで気付きもしなかったその乗り物に目をやり、こんなモノがあったのかと首を傾げる。
「どうしたのトゥルーデ?」
エーリカがぽんと肩を叩いた。
「いや、あの自転車、どうしたんだろうな」
「基地の整備の人が使ってるとか?」
「それならあと数台は無いと不便だろう」
「ミーナに聞いてみたら?」
「ああ、あの自転車ね。確か何処かの軍からの補給品に混じっていたのだけど……」
昼食の最中、ふと聞かれたミーナは子細までは思い出せないと言った感じで首を横に振った。
「そうか。すまないな、急に」
「いえ、悪いわね、力になれなくて。それでトゥルーデ、あの自転車がどうかしたの?」
「いや……ちょっと気になっただけだ」
「そう」
自転車の事を聞きつけた美緒は芳佳に言った。
「ふむ、自転車か。よし、今度の訓練メニューに取り入れるか!」
「は、はい?」
突然の事に驚く芳佳。
「自転車か。堅物は乗れるのかい?」
ルッキーニをあやしていたシャーリーが興味深そうに聞いてくる。
「乗る位当たり前だ」
「でも話を聞くと、錆びてそうじゃないか。ここはひとつ、あたしに任せてみないか」
ニヤリと笑うシャーリー。
「リベリアン、お前……」
「何だよ堅物」
「まさか、自転車にエンジン積んだりしないだろうな」
「あれ、何で分かったんだ?」
「それは自転車じゃなく、もはやバイクだろうが!」
「あー、そう言われればそうかも。そう言えば、確かカールスラントのストライカーにジェッ……」
「断る」
「せめて最後まで言わせろ」
むっとするシャーリー、イラッとするトゥルーデ。
エーリカはそんな空気を吹き飛ばすかの様に、二人の間に割って入った。
「改造とかやめようよ〜。ねえシャーリー、普通に直せない?」
「まあ、錆取って少し直して部品に潤滑油塗る程度だろ? オーバーホールならおやすい御用だ」
「じゃあお菓子一袋でよろしく」
「乗った」
エーリカとシャーリーのやり取りを聞いて、やれやれと肩をすくめる堅物大尉。
266
:
Le Tour de 501 02/03
:2011/08/13(土) 21:35:58 ID:GH11Mb2c
午後非番だったシャーリーは、いとも簡単に自転車を仕上げて見せた。
「ほれ、出来た。自転車は構造も割合単純だし、動力源が人力だからな。簡単なもんさ」
見違える様に、美しくなった自転車。フレームは磨かれ銀色に輝き、タイヤやチェーンも万全だ。
「ニヒー さっすがシャーリー」
「ちょっと乗ってみるか」
シャーリーはサドルに跨がり、よいしょっとペダルを漕いでみた。後ろの荷台にひょいと飛び乗るルッキーニ。
均一に塗られたグリスのお陰か、滑り出しは悪くない。
しかし、漕いでいるうちにみるみる速度が上がる。
ルッキーニは、シャーリーが軽い試験運転でなく、とあるひとつの目的……スピードに傾倒しつつある事を、その加速で感じ取り恐怖した。
「しゃ、シャーリー怖い、はやすぎ! ウジャーシャーリー耳出てる耳! 耳!」
「何処まで加速出来るかなっ」
「こらーリベリアン、何をやっているんだ! ルッキーニを振り落とす気か!」
様子を見ていたトゥルーデに怒鳴られ、後ろを見る。必死でしがみついているロマーニャ娘を見、はっと正気に返る。
キキッとブレーキを掛け後輪を軽くスライドさせながら、惰性で皆の元へ戻って来るシャーリー。
「いやー悪い悪い、つい」
「お前は何でもかんでもスピード出そうとするからな……見ろ、ルッキーニが怖がってるじゃないか」
「ありゃ、ごめんなルッキーニ」
「グスン、シャーリーのばか! こわかった」
「ごめんよルッキーニ、この通りだ。気分転換におやつでも食べよう。ハルトマン、おかしひとつ貰うぞー」
「ひとつだよー」
ルッキーニの手を引き、自転車と工具をそのままにハンガーから離れるシャーリー。
「おいリベリアン、この工具と自転車は」
「あー、堅物乗ってて良いよ。工具は後であたしが片付ける」
「まったく……」
トゥルーデは仕方ないとばかりに、自転車に跨がった。
エーリカはそんな同僚を見、声を掛ける。
「トゥルーデ、乗れるの?」
「当たり前だ。乗る位はな」
「じゃあ私後ろね」
ひょいと荷台の部分に腰掛ける。
「足、スポークに巻き込まない様に気を付けろよ」
「大丈夫」
ゆっくりとペダルに力を入れ、ゆっくり、ゆっくりと進んでいく。
「トゥルーデ」
「何だ、エーリカ」
「もしかして、すいすい〜っとは乗れない?」
「そんな事は無い。ただ」
「ただ?」
「乱暴に運転するのはな。慎重にだな」
「トゥルーデはそうだよね」
「それに、後ろにお前が乗っている。無理は」
「心配してくれるんだ」
「あ、当たり前だろう」
その言葉を聞いたエーリカは、トゥルーデの背中に自分の身体を預けた。
腰に回される腕を肌で確かめ、ペダルを漕ぐ力をセーブしつつ、ゆっくりとハンガーから出る。
267
:
Le Tour de 501 03/03
:2011/08/13(土) 21:36:22 ID:GH11Mb2c
ハンガーを出ると、明るい陽射しが二人を包む。
「見ろ、エーリカ」
「どうかした?」
「こうやって自転車で基地の回りを巡ってみるのもいいものだな」
「そう言えばそうだね。ちょっと新鮮」
歩いている時とも違う。ストライカーで飛んでいる時とも違う、緩やかな速度。そよ風にも似た心地良い風が身体を撫でる。
景色も長閑に、ゆっくりと流れて行く。
午後のひととき、基地をぐるりと巡る「小さな旅」。凪のアドリア海を望む基地は海風も爽やかで……
いつしか、基地の端にまで来ていた。
「しまった。つい、遠くに」
「……うーん。どこ、ここ?」
「何っ? エーリカ寝てたのか?」
「ちょっと気持ち良くてウトウト」
「全く、お前という奴は」
「トゥルーデだもん。背中預けてるって言うかくっついてるから大丈夫だよ」
「あのなあ」
ふあー、と大きなあくびをひとつしたエーリカは、辺りを見て、基地の端に居る事を察する。
「随分遠くまで来たね。前にトレーニングのジョギングで来た様な」
「自転車なら割とすぐだな」
「でも、風が気持ちいいよね」
「ああ」
「今度は、ミーナに許可貰って、基地の外行くの良くない? せっかくだから自転車も増やしてさ」
「それはつまり、私達二人でか?」
「うん。楽しいよ、きっと」
「……かもな」
トゥルーデは笑顔を見せた。エーリカも共に微笑んだ。
end
268
:
名無しさん
:2011/08/13(土) 21:36:54 ID:GH11Mb2c
以上です。
ふたりでのんびり自転車でお散歩も良いかなと。
ではまた〜。
269
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/14(日) 19:52:53 ID:veyXaZ/o
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編、並びに
>>365-267
「Le Tour de 501」の続きとなります。
ではどうぞ。
270
:
Le Tour de 501 II 01/03
:2011/08/14(日) 19:53:48 ID:veyXaZ/o
基地のハンガーに置かれた自転車二台。
一台は、この前シャーリーが整備し再生させた銀色の自転車。
そしてもう一台は、同じフレームを使っている事こそ辛うじて判別できるものの、
他の部分はもはや原形を留めない程に改造された“自転車”。
半ば呆れ返りつつ、二台の自転車を見比べる501の隊員達。
「で、どうするんだこれを」
トゥルーデは、両方の“整備”を手掛けたシャーリーを呼んだ。
シャーリーは二台の自転車に手を置き、自慢げに話し始めた。
「こっちは普通の自転車。誰でも乗れるよ。で、こっちなんだけど、余剰の魔導レシプロエンジンを積んで……」
説明するシャーリーに口を挟むトゥルーデ。
「何故積んだ」
「そこにエンジンがあるから」
「載せるか普通」
「浪漫だからに決まってるだろう」
「リベリアン。確か、これとは別に普通の……サイドカーだったか、とにかくバイクを持っていたよな?」
「あれはあれ。これはこれで、あたしの力でどこまで限界に挑めるかチャレンジするんだ」
きらきらと目を輝かせるシャーリーに、あえて問うトゥルーデ。
「それで、何がしたいんだ」
「競争」
「貴様は馬鹿か!? かたや人力、もう片方は魔導エンジンを積んでいたら勝てる勝てない以前の問題だ」
「それは分からないよ。あたしが魔導エンジン積んだ方に乗って固有魔法を……」
「自転車で空でも飛ぶつもりかリベリアン?」
「じゃあ分かったよ。あたしが普通の自転車乗るよ」
「待て。こっちの改造しまくりの方は、誰が乗るんだ」
「堅物頼む、あたしと競争してくれ」
「ばっ、馬鹿を言うな! こんな物騒な物、乗れるか!」
「物騒って酷いな。ちゃんとカリカリにチューンしてるから大丈夫だ。ちょっとピーキーに仕上げてるけど」
「余計に無理だ」
「ははーん、そう言えば堅物は機械類は苦手だったっけ」
「言わせておけば……良いだろう、相手になってやる。但し壊れても知らないぞ」
「あたしがスッピンの自転車で勝てばあたしの魔法力のおかげ、堅物が勝てばあたしの技術力のお陰って事で
どっちも楽しいんだけどな」
それを聞いたトゥルーデは一歩退いて首を横に振った。
「……やっぱり止めておく」
「ちぇー、なんだよつまらない」
「なら、私が乗るよ」
はーい、と手を挙げたのはエーリカ。ぎょっとしたのはトゥルーデ。
「ハルトマン? 何でまた」
「楽しそうだし」
エーリカはにやっと笑ってシャーリーに言った。
「シャーリー、何だかんだで遊びたいんでしょ? 面白そうだしね、私もやるよ」
「そう来なくっちゃな」
シャーリーも頷いた。
スタートラインに二台の自転車が並ぶ。
既に魔力を解放させ、耳をぴんと張りスタートの瞬間を心待ちにするシャーリー。
スイッチやら動力やらを確かめ、自然体で望むエーリカ。
釈然としない表情で、しかし内心二人が(特にエーリカが)怪我をしやしないかと心配で仕方ないトゥルーデ。
芳佳が二人の間に立ち、指折りカウントする。
「行きます。五、四、三、二、一、スタート…うひゃあ!」
点火されたロケットの様に、二台の自転車はラインを超えて突っ走っていった。
271
:
Le Tour de 501 II 02/03
:2011/08/14(日) 19:54:24 ID:veyXaZ/o
シャーリーは魔力を解放してシャカシャカと軽快に自転車を漕いでいた。
ほぼ真後ろに、エーリカの乗るエンジン付き自転車が位置している。
「もっとスピード出して良いんだぞー」
「とりあえず自転車の手応え確かめないとね〜」
「なっ……あたしを色々試そうとしてるな?」
「どうかなー」
シャーリーは立こぎになり、固有魔法で自転車をかっ飛ばす。
一方のエーリカの乗るエンジン付き自転車は、魔導エンジンがエーリカの魔力を受け、車軸に動力を伝達していた。
速度は二人共拮抗し、平均して時速百二十キロ以上出ている。「普通の自転車」としては有り得ない速さだ。
コースは基地の中をぐるりと巡る様に設定されていたが、コーナーや路面状態の悪い部分が大半で、滑走路周辺、及び外部への通路付近の二箇所が最も状態が良い。
外部への通路付近に出た辺りで、シャーリーは一気に引き離しに掛かる。
魔力を最大限引き出し、猛烈な勢いでペダルを漕ぐ。翼を付けていれば飛び上がりそうな速度だ。
一方のエーリカも、引き離されぬ様、注意深く後を付けていた。
シャーリーの様な超加速の固有魔法を持たないエーリカにとって、これが今出来る精一杯の事。
双眼鏡片手に様子を見る一同。
「本当にあれ、自転車なんですの? ヘタなバイクよりも速いと思いますけど」
ペリーヌが呆れ気味に言う。美緒は魔眼で二人の様子を見ると、速いな、とだけ呟いた。
「二人共、速い……」
「どうするんダあの二人」
サーニャとエイラも呆気に取られた表情。
予想以上の速さに、一同はただ見守るのみ。ミーナはもし何か有ったら……とやや渋めの表情。
芳佳があっと声を上げた。
「シャーリーさんが少し離しました。でもハルトマンさんも頑張ってます! 真後ろに居ますよ」
トゥルーデは心配そうに、土煙を上げながら爆走する二台の自転車を見、呟く。
「リベリアンの真後ろに付けて空気抵抗を減らす作戦か……」
コースの先を見る。心配は尽きない。
「これからコーナーの多い部分か」
ルッキーニは楽しそうに二人のレースを見ている。シャーリーを指差して言った。
「シャーリーの方が小回り効くから良いんじゃない?」
「どうかな」
トゥルーデは腕組みしたままじっと見つめた。
「え、バルクホルンさん。ハルトマンさんに何か秘策でも?」
「ああ。恐らくは」
それだけ言うと芳佳に双眼鏡を託し、一人席を外す。
ラスト、ゴールへ続く滑走路周回に入る。路面状態も良く、ストレートで伸びを見せつけるシャーリー。
エーリカも魔導エンジンを宥め賺してひたひたと迫る。
折り返し地点を越えた所で、それは起きた。
ごうっと、風の音がした。
背後に迫る猛烈な空気の塊を感じたシャーリーは、殺気にも似た危険を感じ咄嗟に車体をスライドさせてかわす。
その僅か上を文字通り「飛行」するエーリカ。シュトルムをまとい、直線を一気に加速……いや、飛翔し、シャーリーを抜いた。
そのまま僅差で先にゴール。
ゴール前で待っていた隊員達が風に煽られ、ふらつく。
しかしエーリカの自転車はブレーキの制動力が追いつかず、止まらない。
ハンガー脇の壁に突っ込みかける。
誰もが息を呑んだ。
刹那、壁に伝わる鈍い衝撃と立ち上る煙。幾つかの部品が辺りに撒き散らされた。
ミーナと美緒は救護班の手配をと立ち上がったが、それは無用、と煙の中から声が聞こえる。
立ちこめる煙の中から、人影が見えた。
エーリカを抱きかかえたトゥルーデその人。
エーリカのお尻にひっついていたサドルをぽいと投げ捨てると、ふん、と鼻息一つ鳴らした。
272
:
Le Tour de 501 II 03/03
:2011/08/14(日) 19:54:53 ID:veyXaZ/o
「バルクホルンさん、一体どうやったんですか」
芳佳の問いに、トゥルーデは頭を掻きながら答えた。
「私の固有魔法を応用的に使っただけなんだが……」
「えっ、怪力で? どうやって」
「私の力をもってすれば、勢いの付いた物体から必要な部分を受けとめるなど容易いこと」
「おい! じゃああの自転車全部を抑えろって!」
シャーリーがバラバラになった自転車を見て悲鳴にも近い言葉を上げる。
「すまない、エーリカだけで精一杯だった」
「嘘だッ!」
「とりあえず怪我が無くて何よりだったな、エーリカ」
「ありがとトゥルーデ。でも何でゴールで待ってたの?」
「エーリカなら最後に仕掛けると思っていた」
「なんだ、作戦ばれてたんだ」
トゥルーデはふっと笑いエーリカを地面に下ろすと、辺りに散らばった部品を拾い始めた。
堅物大尉の意外な行動を見、自転車にまたがったままの姿で驚くシャーリー。
「何やってるんだ堅物」
「改造品とは言え、お前にとって大切な物じゃないのか?」
「そりゃあ、まあ」
「空飛ぶ自転車を掴まえるのは難しかった。すまない」
「いや……いいよ」
馬鹿正直に謝られても困る、と内心呟くシャーリー。トゥルーデはそんなお気楽大尉を後目に、部品を拾いながら言った。
「また作ってくれ。今度は、もう少し安全なものを頼む」
「分かったよ」
苦笑いするシャーリー。
夕食の席上、シャーリーはエーリカに聞いた。
「でも、途中よくあたしに付いてきてたよな。絶対無理だと思ってたわ」
「色々考えたんだけどね。私に出来る事ってあれ位だから」
「スリップストリームとか、最後の直線で固有魔法で飛ぶって事?」
「そう。シャーリー抜けるとしたらそこしかないじゃん」
「なるほど。あたしとしては最初にもっと先行逃げ切りモードでぶっちぎって離してないとダメだったって事か。作戦負けだなー」
あーくそ、くやしい、とシャーリーは歯がみした。
その姿を見て笑うエーリカとトゥルーデ。
「まあそう僻むなリベリアン。スピードで負けた訳じゃないんだから。スピードではお前の方が終始圧倒していたぞ」
「だから余計に悔しいんだよ!」
「まあまあ」
「慰めは要らないよ……」
「あれ、どっちが勝ってもシャーリー嬉しいんじゃなかったの?」
「ハルトマンが固有魔法使うのは想定外だった! あと壊れるのとか」
「それは……すまない」
「今度皆で組んでみようよ」
「ウジャーおもしろそう」
「まあ、部品は大体残ってるから、出来ない事はないけどさ……分かったよ。またやろう」
楽しみがまた増えたね、とエーリカに言われる。トゥルーデも同じ言葉をシャーリーに投げてみる。
苦笑いした501の“Speedstar”は、今度こそ、と決意を新たにする。
そんな賑やかな夕餉。
end
273
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 19:55:53 ID:veyXaZ/o
以上です。
シャーリーなら魔改造やりかねないなーとか思ったり。
お姉ちゃんの暴走自転車キャッチ、魔法能力的にどうなのとか
有りますけどまあその辺は「愛」と言う事でよしなに。
ではまた〜。
274
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 20:05:38 ID:veyXaZ/o
×
>>365-267
「Le Tour de 501」の続き
○
>>265-267
「Le Tour de 501」の続き
お詫びして訂正します。
275
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/14(日) 20:51:07 ID:veyXaZ/o
たびたびこんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
276
:
stay awake
:2011/08/14(日) 20:51:52 ID:veyXaZ/o
深夜、ふと目覚めるトゥルーデ。
横で一緒に寝ていた筈のエーリカが居ない。
トイレにでも起きたのかと思ってぼんやり微睡んでいたが、暫く経っても戻って来ない。
「夢遊病か」
毒づく口先とは裏腹に、愛しの人が心配で仕方ないトゥルーデは、パジャマ姿のまま部屋を出た。
エーリカは基地のバルコニーにひとり、佇んでいた。
手摺に両肘をつけ、ぼんやりと空を眺めている。
月のない空は満天の星空で、星明かりが、僅かに辺りを照らす。
「トゥルーデ」
エーリカは足音に気付いたのか、振り向いて笑顔を作った。
「エーリカ」
名を呼び、顔をじっと見る。
「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「珍しいな。どうしていきなり起きたりしたんだ」
「ちょっとね」
はぐらかすエーリカに、トゥルーデは手に腰を当てて呟いた。
「お前の事は、たまに分からなくなる。一体何を考えているのか、いきなり何処へ行くのか……」
その言葉を聞いたエーリカは、ちょっとすねた口調で答える。
「私だって、少しは考えたりする時間有っても良いんじゃない?」
そう言ったきり、エーリカは背を向け、夜空に視線を戻す。
「それは、そうだが……その」
言い淀み、そっと近付くトゥルーデ。
エーリカの表情は、いつもの天真爛漫なそれとは違い、何処か愁いを帯びた表情で……
自分を抑えきれなくなったトゥルーデは、後ろからそっとエーリカを抱きしめる。優しく、ガラス細工を触る様な繊細さで。
エーリカもそんな仕草に気付いたのか、ふうと息を一つ吐くと、トゥルーデに身体を預ける。
「心配なんだ、エーリカ。お前が」
トゥルーデの偽らざる言葉を聞いたエーリカは、僅かのこそばゆさと、大きな安心感に包まれる。そして呟く。
「分かってる」
「何か有ったら、私に遠慮なく言え。今更遠慮する間柄でもないだろう」
「分かってる」
繰り返すエーリカ。
そう。
エーリカは分かっている。
ただ、エーリカには心配な事がひとつ。自分がトゥルーデに甘え過ぎたら、今度はトゥルーデが、その“重荷”をどこにぶつければ良いのか? と言う事。
「私を心配してくれているのか」
何気ないトゥルーデの言葉にぴくりと身体を震わせるエーリカ。
いつもは鈍いのに、こう言う時だけ妙に鋭いのは……
「ずるいよ、トゥルーデ」
エーリカの小さな呟きを聞いたトゥルーデは、首を傾げた。
「どうしてそうなる」
「乙女心が分かってないな、トゥルーデ」
「何を言うエーリカ、私だって、その、一応女だし……」
「ごめん、ちょっと言い過ぎた」
「気にするな。お前が居てくれるからな。それだけでいいんだ」
思いも寄らない、答えが返ってくる。
(私の掛けた重荷を私にって事? それって一体……)
エーリカは少々混乱する。そんな軽い眩暈を覚えたエーリカを抱きしめたままのトゥルーデは、囁く。
「エーリカが居るから、私は私で居られる。エーリカだけでいい」
「そ、そう言う事じゃないよ、ばかばかトゥルーデ」
耳を真っ赤にして抗うエーリカ。だが逃がすまいとトゥルーデはぎゅっと抱く力を強める。
「今までもそうであった様に、これからも、ずっと好きだ」
ストレート過ぎる感情表現。思わず軽く吹き出してしまう。真面目な堅物が、どうしてこんな台詞を吐けるのかと。
「トゥルーデってば。酔ってる?」
「起き抜けだ」
「寝惚けてない?」
「エーリカと一緒さ」
腕の中で、ぐるりと身をよじり、顔を突き合わせるエーリカ。
いつになく真面目なトゥルーデを見る。吐息が混じり、潤む瞳が愛おしい。
そっと、口吻を交わす。優しく、何度もお互いを確かめる様に。
そっと唇を離したエーリカは、トゥルーデの胸に顔を埋め、呟く。
「ヤバイ。どんどんトゥルーデのこと好きになってる、かも」
「それは嬉しいな」
優しく頭を撫でられる。素直に心地良い。お互いがお互いの寄り何処であり居場所であり、回帰する場所である証。
二人は抱き合ったまま、空を見つめた。
夜空に一筋の光が走ってすぐに消える。流れ星。
「部屋に戻りたくないって言ったら、どうする?」
「勿論、付き合うさ」
たまには良いよね、とエーリカは微笑むと、トゥルーデの頬にそっと唇を当てた。
返ってきたのは、トゥルーデの濃厚なキス。
夜空の涼しさも、エーリカの憂鬱も蒸発する程の熱気を感じ、そのまま愛しの人に身を委ねた。
end
277
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 20:52:32 ID:veyXaZ/o
以上です。
ストレートな愛情表現も良いかなと。
ではまた〜。
278
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/14(日) 22:26:34 ID:veyXaZ/o
三度こんばんは。mxTTnzhmでございます。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編となります。
ではどうぞ。
279
:
destined soul mate 01/04
:2011/08/14(日) 22:27:03 ID:veyXaZ/o
一体どうしてそうなったのか、トゥルーデには全く分からなかった。
ただ、目の前には、まるで子供の遊びの如く……いや、何か無造作とも言えるべき感覚で、
あらゆる方向から別の場所へと、“それ”が張り巡らされていた。
運命の赤い糸、と扶桑などでは言うらしい。
詳しい由来は私も良く知らないのだが、と美緒からその逸話を聞いたトゥルーデは、何故私にだけ糸が見えるのかと正直な気持ちを吐露した。
「それは私にも分からないな。強いて言うならば、お前がウィッチだからではないのか?」
美緒の言葉に困惑するトゥルーデ。
「私の固有魔法ではないし、扶桑人でもない」
「まあ、確かにな」
ちらりと美緒はミーナに目をやった。
「ねえトゥルーデ。この事は、言いふらすと皆が混乱するだろうから……貴方だけの秘密にしておいて欲しいのだけど」
「それが命令とあらば」
「何処までも真面目ね、トゥルーデは」
苦笑するミーナ。
「私だって、好き好んで見たい訳じゃないぞ」
「それはそうよね。原因が分からないというのも困りものね」
ミーナは真面目に相談してきたトゥルーデを見、どうしたものかと考えを巡らす。
「軍医に診て貰うのはどうかしら」
「何処も異常は無い。至って健康だが」
「困ったわね」
ミーナはとりあえずメモ程度にトゥルーデの事を書き留めた後、はたと気付いたかの様にペンを置き、くすっと笑った。
「でも運命の赤い糸って、随分とロマンチックね、トゥルーデ」
「そうは言うがな、ミーナ。そこかしこに、まるで蜘蛛の巣みたいにぐちゃぐちゃに張り巡らされてる糸と言うのはどうも気味が悪い」
うんざりしながら言うトゥルーデ。
「それをお前が物理的に干渉したりは出来ないのか」
興味深そうに質問する美緒。
「ただ見えるだけだ、少佐。何も出来ない。……いや、大体、それに干渉してどうするつもりなんだ少佐?」
「引っ張って相手を連れてこられるなら、例えば訓練をサボる奴を……」
「美緒ってば、貴方訓練の事ばかりじゃないの」
呆れるミーナを見、冗談だと笑い飛ばす扶桑の魔女。
そう言えば……とトゥルーデは気付く。目の前の上官二人の小指にはしっかりと糸が結ばれて、互いに繋がっている。説明するまでもなかった。
これは言えないな、と目を明後日の方向に向けるトゥルーデ。少しの空白を置いて、ミーナに告げた。
「分かったミーナ。これは私と、そしてミーナと少佐だけの秘密事項だ。私が見た事は一切口外しない。約束する」
「そうして貰えると助かるわ。お願いね、バルクホルン大尉」
ミーナは満足げに頷いた。
280
:
destined soul mate 02/04
:2011/08/14(日) 22:27:50 ID:veyXaZ/o
執務室を出たトゥルーデは平静を装いながら、とりあえず朝食の為に食堂へ向かった。
嫌でも目に付く無数の糸は、まるで生き物の様にうねり、長さや張り具合を変えながら、そこかしこに張っている。
ただ見えるだけ、物理的に避ける必要は無いのだが、見えている手前、ついつい不自然な動き……避けようとしてしまう。
「どうした堅物。身体の調子でも悪いのか」
食堂に居たのはシャーリーだった。いつもと変わらずテーブルに頬杖をついて食事を待っている。
「別に何処も悪くない。至って普通だ」
身体そのものは何処も悪くない、これは事実で嘘ではないと言い聞かせるトゥルーデ。
「じゃあ今の変な動きは何だよ。カールスラントの新しい健康体操か何かか」
「何だと」
カチンと来たトゥルーデはまたも説教しようかと思ったが、ふと目に付いた“それ”を見、言葉を止める。
シャーリーの小指の先から、何処かへと糸が伸びている。
その糸はしなり、伸び縮みを繰り返している。糸と糸で結ばれた相手が近付いている証拠だ。
「オッハヨーシャーリー。ごはんまだー?」
ルッキーニだった。糸は途端に短くなり、最短距離でシャーリーと繋がっていた。
「なるほどな」
まあそうだろうな、と一人頷くトゥルーデ。
「何だよ、あたしとルッキーニ見て頷いて。気持ち悪い奴だな」
「キモキモー」
「やかましい! とりあえず食事だ。おい宮藤! 食事はまだか?」
「はい、ただいま!」
芳佳とリーネが厨房でかいがいしく料理と配膳を頑張っている。
「どれ、私も少し手伝うか」
シャーリーとルッキーニに変な目で見られているのに耐えられなくなったトゥルーデは、これ幸いとばかりに口実を作り席を離れた。
「あ、バルクホルンさん、良いですよ、私達の仕事ですから」
「いや、少しは手伝ってもいいだろ、う……」
芳佳の小指を見て、トゥルーデは絶句した。
おかしい。
リーネ小指と繋がっている強固な赤い糸。そしてもう一本、細く切れそうだが糸が小指から伸び……それは窓の外へと伸びていた。その糸の張り具合から、相当遠くの土地に……恐らく彼女の故郷辺りへ……伸びているのが分かる。
それは一体どう言う事だ?
トゥルーデは解釈に苦しんだ。これはいわゆる……いや、宮藤に限ってそんな不埒な事をする筈が無い、と納得させる。
「宮藤お前……いや、何でもない」
「? どうしたんですかバルクホルンさん。私の顔に何か付いてますか?」
きょとんとした表情でトゥルーデを見る芳佳。つられてリーネも顔を上げた。
「な、何でもない。何でもないんだ。すまなかった。本当にすまない」
配膳を手伝う事も忘れ、トゥルーデは顔を真っ赤にして食堂から脱出した。勿論食事をも忘れていた。
廊下で、眠そうなサーニャの手を引いて食堂に向かうエイラとすれ違う。
「あれ? 大尉どうしタ? 朝食もう済ませたのカ?」
反射的に二人の小指を見る。
“糸”と言うより既に縄に近い太さの赤い糸でがんじがらめに結ばれた二人の手を見る。
ぽん、とエイラの肩に手をやり頷くトゥルーデ。
「お前達はそうだろうと思っていたよ。安心した」
「な、何だヨいきなり。意味わかんねーヨ」
「まあ、見なかったことにしてくれ」
それだけ言うと、トゥルーデは早足で立ち去った。
「見なかったって、大尉の奇行をカ? 訳ワカンネ」
「エイラ、行こう?」
サーニャに促され、エイラは食堂へと向かった。
エイラとサーニャに遅れることワンテンポ、ペリーヌとすれ違う。
「あら大尉、朝食はもうお済みで?」
「いや、今日はちょっとな」
「? どうかなさったのですか? お身体の調子が悪いとか?」
心配そうに聞いてくるガリア娘を見て、気付く。
ああそう言えば、最近のペリーヌはカドも取れて少し優しくなって本来の彼女に戻りつつあるんだと改めて思うトゥルーデ。
そして条件反射の様に小指を見る。
無い。
糸がない。
そんな馬鹿な、とペリーヌの手を取り、目を凝らしてじーっと見る。
「なっ! いきなり……ど、どうされたのですか大尉?」
突然の行為に思わず赤面するペリーヌ。
実は見えない訳ではなかった。うっすらと、見える。その糸はどうやらこの基地の誰かと繋がっているのではない様で、窓の外、
何処か遠くへと伸びていた。
「強く生きろ」
トゥルーデはペリーヌに告げると強く頷き、駆け足で去った。
「ちょ、ちょっと大尉! 一体どう言う事ですの!? 意味が分かりませんわ!」
281
:
destined soul mate 03/04
:2011/08/14(日) 22:28:23 ID:veyXaZ/o
部屋に戻り、後ろ手に扉を閉めると、そのまま寄りかかり、呼吸を整える。
見たくないものまで、見えてしまう。見てもどうしようもない事が、見えてしまう。
こんなに「傍観者」というものが辛いのか、と天井を仰ぐトゥルーデ。
……いや、ある意味大体想像通りではあったが、実際に視覚で判明してしまうと如何ともし難い。
そしてこれは機密事項に等しい。口外は無用。と言うよりミーナの約束、いや命令とあっては、何も出来やしない。
苦悩するトゥルーデをよそに、ジークフリード線の向こう側のベッドの端が、もそもそと動いた。
「まだ寝ていたのかハルトマン! 起きろ! 朝食の時間だ!」
「あと三十分……」
「こら!」
ずかずかとガラクタの山を分け入り、エーリカの毛布を剥ぐ。
!?
トゥルーデは目を疑った。エーリカの小指には、糸が無い。
そして気付く。
トゥルーデ自身も、糸がない。誰とも繋がっていない事に。周りのことばかりに気を取られ、自分の事に今更気付いたと言う
そんな自分の愚かしさにも、愕然とした。
「そんな、馬鹿な」
ショックの余り、がくりと膝から崩れ落ちる。
「……どうしたのさトゥルーデ。貧血?」
エーリカの心配も余所に、トゥルーデはどうしてこうなったのか意味を解釈しようと試みた。
だがそれは出口のない迷路と同じで……答えが見えない。
息が荒い。深呼吸しようとしても、浅い呼吸がまるで気の抜けたふいごの様に繰り返されるだけ。
「ちょっとトゥルーデ。大丈夫?」
心配になったのか、エーリカがもそりと起き上がってトゥルーデの顔を見た。
「顔色、悪いよ」
「だ大丈夫だ、ももっ問題無い」
「ろれつも回ってないし。どうしたのさトゥルーデ」
「ちょっと、体調が……」
「トゥルーデらしくないよ。ほら、ベッドに」
エーリカはよいしょと起きると、トゥルーデの肩を持ち、ゆっくりと彼女のベッドに寝かしつけた。
「ねえトゥルーデ、私を見るなりなんかおかしくなったよね? たまたま?」
「そうだと信じたい」
らしくないトゥルーデの弱気ぶり。
「もう、ちゃんとしてよ。今、水持ってくるから」
「ま、待ってくれ」
トゥルーデはエーリカの手を取った。
そこでもうひとつの事に気付く。
トゥルーデもエーリカも、指輪を付けていない。
「エーリカ、私達の」
「どうかした?」
「指輪は」
「ああ。トゥルーデが昨日、綺麗にするからって、拭いてくれたじゃない。仕舞ったままだよ。はめる?」
エーリカは指輪ケースから指輪を取り出すと、はい、とゆっくりはめた。そして自分の指にもはめた。
……そう言えばそうだったな。糸などなくとも、せめて。
ぼんやりとそんな考えをしていると、傍らに座るエーリカは指輪を見て、ふふっと笑った。
「どうした、エーリカ?」
「私とトゥルーデ、やっぱりこれが無いとね」
「エーリカ」
「なーんてね。ちょっと感傷的になっちゃった」
頬を染めるエーリカ。トゥルーデの頬に手をやり、そっと唇を重ねた。
刹那。
物凄い勢いで……空気を裂くかの様に、二人の間に、太い、赤い糸が現れ、結ばれる。
ぎゅっときつくかたく二人を繋ぐ糸は、他の誰よりも、強く、美しく。
……やはりそう言う事か。そう、それでいい。トゥルーデは内心思う。
そして、糸を見届けたトゥルーデは満足そうな表情を浮かべた。
エーリカが何か言っているが、最後まで聞く事はなかった。
282
:
destined soul mate 04/04
:2011/08/14(日) 22:28:50 ID:veyXaZ/o
薄目を開ける。
「あ、起きた」
エーリカの声。
いつの間にか、トゥルーデのベッドの周りには501の隊員達が揃っていた。
心配そうに、皆トゥルーデの顔を見ている。
「あ、あれ? 私は一体……」
ふと思い出し、皆の手を、指を見る。しかし今はもう何も見えず……あれは幻覚だったのかと訳が分からなくなる。
「トゥルーデ大丈夫? 貴方疲れていたんでしょう」
ミーナが言う。
「いや、大丈夫だが」
「顔色が悪いぞバルクホルン。暫く休んだ方が良いな」
美緒も頷く。
「無理すんなって。お前が欠けたらどうするんだよ」
シャーリーも気遣う。
「トゥルーデ、良いわね?」
ミーナの声に圧されて、トゥルーデは了解、と応えるしかなかった。
「それでトゥルーデ倒れたの? だらしないなー」
トゥルーデから事の顛末……僅かな部分のみだが……を聞いたエーリカは、苦笑いしておかゆをスプーンですくうと
トゥルーデにあーんと口を開けさせて食べさせた。
「ん。美味い」
「元気になってよ」
「もう元気なんだけどな」
「ちゃんと百パーセント元に戻るまで、ダメだからね。ミーナも言ってた」
「分かった」
トゥルーデは約束した。
「で、トゥルーデ、もう糸とか何も見えないんだよね、今は」
エーリカの質問。
「ああ」
「結局、何だったんだろうね」
「それは私が知りたい。……エーリカ、まさかお前」
「私は何もしてないよ……って、疑うフツー?」
「いや、そう言う訳では」
「ま、いっか」
にしし、と意味ありげな笑みを浮かべたエーリカはおかゆをもう一口食べさせると、新たな質問。
「で、他の人のは見れたの? どんな感じだった?」
「それはミーナの命令で絶対に言えないな」
「ケチだなー。私はこう見えても口固いよ?」
「ミーナの命令だからな。隊員の結束を乱す訳にはいかない」
「何それトゥルーデ、糸に絡めたギャグのつもり? 微妙だね」
「そう言う意味じゃない! ともかく、言えないものは言えない」
「残念。……じゃあ、私とトゥルーデは?」
「それは言うまでもないな」
トゥルーデは微笑んだ。彼女の穏やかな表情から全てを察したエーリカは、にこりと笑うとトゥルーデを抱きしめ、
そっと口吻した。
end
283
:
名無しさん
:2011/08/14(日) 22:29:35 ID:veyXaZ/o
以上です。
実際に赤い糸が見えたらどんな感じなのかなとか
色々妄想して書いてみました。
実際はもっと複雑に絡み合ってる予感もしますが。
ではまた〜。
284
:
名無しさん
:2011/08/17(水) 07:45:32 ID:svYvelTA
>>278
GJです
あなたのおかげで盆休みの出勤もがんばれる!
285
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/18(木) 23:14:02 ID:YCk7WrP6
>>233
、
>>246
62igiZdY様
GJです。エイペリとニパがとても可愛らしいですね。
>>236
6Qn3fxtl様
GJ&お久しぶりです。ヘタレエイラ可愛すぎです。
>>239
Hwd8/SPp ◆ozOtJW9BFA様
GJです。定ヘルとはまた斬新な組み合わせですね。
定ちゃんの無双ぶりが素敵です。
>>252
アキゴジ様
GJです。2年後芳佳とは・・・大作の匂いがします。
>>247
、
>>256-283
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.c様
連続投下GJです。甘々なエーゲル素晴らしいです。
こんばんは。今日は芳佳とサーニャの誕生日という事で短いですが、
サニャイラで芳リーネな話を書いてみました。ではどうぞ
286
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/18(木) 23:16:42 ID:YCk7WrP6
【誕生日のお願い】
「待ってよ、リーネちゃん」
「へへ、早くおいでよ芳佳ちゃん」
今日は8月18日、私とサーニャちゃんにとっては一年に一度の特別な日。
お父さん、私16歳になったよ。
去年と同じようにみんなが私たちを祝ってくれて、本当に幸せな気分。
誕生会も終わって今は、私とリーネちゃんの2人きりの時間。
「2人きりでお茶会をやろう」っていうリーネちゃんのお誘いに乗って、私は基地のバルコニーへと向かっていた。
「ま、待ってサーニャ……」
バルコニーへと向かう途中、エイラさんとサーニャちゃんの部屋から不意にエイラさんの声が聞こえてきた。
普段のエイラさんからは想像できないくらいにとても弱々しい声だった。
「照れてるの? エイラ、可愛い」
今度はサーニャちゃんの声。
エイラさんの声とは対照的に透き通ったはっきりとした声だ。
「どうしたの、芳佳ちゃん?」
エイラさん達の部屋の前で立ち止った私を不思議に思ったのか、リーネちゃんが私のもとに駆け寄ってきた。
「うん。なんだか2人の会話が気になって……」
私は2人に気付かれないように、部屋のドアをそーっと開けてみる。
「よ、芳佳ちゃん!? 覗きはダメだよぉ」
「分かってるけど好奇心には勝てなくて……わぁ、見てリーネちゃん。すごい事になってるよ」
「えっ……うわぁ、ホントすごい事になってるね」
私たちの目に映ったのは、ベッドの上で横になっているエイラさんとその上に跨るサーニャちゃんの姿。
えっと、これってどういう状況……?
「サーニャ、な、何でこんな事……」
と、さっきより一層、弱々しい声でサーニャちゃんに呟くエイラさん。
「何でって、『今日はサーニャの誕生日なんだから、サーニャの願い何でも叶えてやるぞ』って言ってきたのはエイラのほうでしょ? だから……」
エイラさんの声を真似ながらサーニャちゃんはそう答えると、エイラさんの唇にそっと自分の唇を重ねた。
うわぁ、他人のキスって何だかすごく色っぽいや。
「サ、サーニャ……あぅ」
「これが私のお願い。あなたを私だけのモノにしたいの……」
サーニャちゃんはエイラさんの白い肌を撫でながら言葉を続ける。
「ねぇエイラ、私のお願い、叶えてくれるよね……?」
「は、はい……」
エイラさんのその言葉を聞くと、サーニャちゃんは満足げに微笑んだ。
「イイコね、エイラ。だいすき」
そう言って、サーニャちゃんはさっきより深いキスをエイラさんと交わした。
「サー……ニャ……んんっ」
「ねぇ芳佳ちゃん、これ以上見るのはやめようよ……」
と、顔を真っ赤にしたリーネちゃんが言う。
「そ、そうだね……」
私は開けた時と同様、2人に気付かれないように部屋のドアをそーっと閉める。
サーニャちゃん、エイラさんと末永くお幸せにね。
「……芳佳ちゃんは、私に何かお願い事とかある?」
「え?」
エイラさん達の部屋のドアを閉めてから少しして、リーネちゃんが私にそう訊ねてきた。
「その……芳佳ちゃん、私の事好きにしてもいいよ」
頬を真っ赤に染め、もじもじしながらリーネちゃんが私に呟く。
もう、そんな表情で誘われたら私、ガマンできないよ。
「ごめんね、リーネちゃん。2人だけのお茶会はまた今度にしよう」
「ふぇ!? 芳佳……ちゃん?」
私は魔力を解放してリーネちゃんを抱き上げ、行き先をバルコニーからある場所へと変える。
その場所は……
「ここって……」
「えへへ、ここなら誰の邪魔も入らないでしょ?」
私たちがやって来たのは基地のゲストルーム。
以前、ハルトマンさんとマルセイユさんが共同で使っていた部屋だ。
私はドアを開けて、リーネちゃんを部屋のベッドに押し倒す。
「きゃっ!」
「私のお願いはサーニャちゃんと一緒。リーネちゃんを私だけのモノにしたい……んっ」
私が口付けを落とすと、リーネちゃんは元々真っ赤だった顔を更に真っ赤にさせる。
もう、本当にリーネちゃんは可愛いな。
「リーネちゃん、愛してるよ」
「芳佳ちゃん、私も……んっ」
私たちはそれからしばらくの間、お互いの唇を重ね合った。
お互いの愛を確かめ合うように何度も、何度も。
〜Fin〜
287
:
5uxL6QIl
◆x.rTSKEoE2
:2011/08/18(木) 23:17:24 ID:YCk7WrP6
以上です。Mなリーネちゃんとエイラが書きたかったんです。
芳佳&サーにゃん、誕生日おめでとう!
ではまた
288
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/19(金) 02:08:31 ID:YyBZ63eE
>>284
様
有り難う御座います。貴方の応援のお陰で私もSS頑張れます!
>>287
5uxL6QIl ◆x.rTSKEoE2様
GJ! サーニャイラも芳ーネもえろくて素敵過ぎます! MでSなコンビおいしいです。 芳佳&サーニャ誕生日おめです!
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編、
>>279-282
「destined soul mate」の続きとなります。
ではどうぞ。
289
:
red line 01/02
:2011/08/19(金) 02:09:08 ID:YyBZ63eE
目覚めると、何かが変わっている事に気付いた。
「はて。……この糸は何だ」
赤く染められた糸がそこかしこに張られている。伸びたり縮んだり、生き物の如く。
何かの錯覚かと思い、試しに魔眼を使って辺りを見たが、さしてネウロイの痕跡も見えず……
「そう言えば、バルクホルンが前に言っていたな」
思い出した美緒はさっさと着替えると、愛用の扶桑刀を手に取り、自室を出た。
「邪魔するぞ」
ノック無しに扉を開けると、下着姿で抱き合ってすやすやと寝るカールスラント娘が二人。
只ならぬ気配を感じたのか、間も無くトゥルーデがガバッとはね起き、毛布で身体を隠す。
「な、なんだ。少佐か……こんな早朝にどうした?」
「ああ、すまんな寝ている所を……」
トゥルーデの言う通り、まだ夜も明けきっておらず、ようやく朝の薄日が差し始めたと言う時間帯。
エーリカは二人のやり取りを聞いて、むっくりと身を起こした。
「こっこらエーリカ! 服を着ろ! せめて毛布で隠す位……」
慌てて自分の毛布を掛けて、仲良くくるまる格好になるカールスラントのコンビ。
「あー、いや、今でなくても良いんだ」
逆に気を遣う美緒。
「少佐。朝一に部屋に来ておいてそれはないだろう」
「ノックも無しでね〜ふわわぁぁ」
トゥルーデと、あくび混じりのエーリカから言われ、頭をかいて苦笑いする美緒。
「いや、すまん……はは」
着替えを済ませた二人は、美緒と共に部屋を出、とりあえず執務室で話をする事にした。
部屋では誰が聞き耳を立てているか分からないし、もし聞かれでもしたら厄介だから、と言う理由だ。
執務室のドアを開けると、机上に蹲る様に寝ているウィッチが一人。
「ミーナ……また徹夜したのか」
トゥルーデが心配そうに、ブランケットをそっと肩に掛ける。疲れが溜まっているのか、起きる気配がない。
エーリカは、眠る直前までミーナが使っていたであろう万年筆を机の脇から拾い上げると、キャップをしてペン立てに戻す。
「私も手伝ってやりたいのだが……ミーナが一人でやると聞かなくてな。生憎私も事務仕事は苦手で……」
ミーナを見て、心配と困惑が少し混じった表情の美緒。トゥルーデは微笑むと言った。
「私から言うのも何だが、少佐も、たまにはミーナを手伝ってやって欲しい」
「そーそー。何かお茶淹れる位でも違うと思うよ?」
「そ、そうか。なら今度」
エーリカの提案を受け、やる気を出す美緒。ぴくり、とミーナの耳が動いた気がしたが誰も気付かなかった。
そんな501の隊長を寝かせたまま、三人は本題に入る。
「さて、ここなら安心だろう」
「そうだな」
部屋のソファにそっと腰掛け、頷く美緒とトゥルーデ。そして何故かワクワクして話に参加しているエーリカ。
「ハルトマンは良いのか」
美緒がエーリカを指差す。
「ん?」
「楽しそうだし、いいじゃん」
「お前は誰かに言いそうだからな……」
「こう見ても私、口カタイよ?」
にやにやするエーリカを前にどうしたものかと悩むトゥルーデ。
しかし美緒はお構いなしに話を切り出した。
「バルクホルン。話と言うのは他でもない。私にも見える様になったんだ」
「見える? 見えるって何が……ま、まさか」
先日トゥルーデ自身が体験した“未知なる世界”を思い出し、戦慄する。
「ああ。この前、お前が言っていた赤い糸だ。私も見える様になった理由は分からない。これと言った原因や切欠が無いんだ。だが、実際に見える」
美緒はそう言って頷いた。
「確かに、私も理由は思い当たらなかったな。気が付いたら目の前が糸だらけと言う感じだった……でもまあ、少佐だから」
「私だから、何だ?」
「少佐なら魔眼の延長線上の事かも知れないし」
「ふむ、なるほど。なら普通通りに……」
「ダメよ美緒!」
突然の声にぎくりとする一同。いつの間に起きたのか、ミーナが美緒の手を握ってふるふると顔を振った。
「例え見えても人に言っちゃダメよ! トゥルーデだって約束は守ったんだから。ねえトゥルーデ?」
「あ、ああ」
「私には話してくれたよ」
あっけらかんと言うエーリカ。
「なんですって?」
冷気を纏ったミーナに、慌てて釈明するトゥルーデ。
「わ、私とエーリカの間の事だけだ。他は何も。本当だ」
「……ならいいわ」
にっこりと笑うミーナ。寝起きなのに隙がない。
290
:
red line 02/02
:2011/08/19(金) 02:09:34 ID:YyBZ63eE
「しかしミーナ、見えてしまうものは仕方ないんじゃないか」
困る美緒に、ミーナはすっと、とあるものを渡した。
「眼帯をもうひとつ用意したから、今日は」
「待て! 眼帯を両目に付けるって、見た目からして残念な姿になってしまうじゃないか! それは勘弁してくれ」
「なら、両目を目隠しで……」
「待て待て。私が何も言わなければ良いのだろう」
「美緒はつい何か言いそうだから怖いのよ!」
泣きつくミーナ。
「そんな事は無いぞ。例えばバルクホルンとハルトマンはとても太い糸で……あれは紐に近い太さだがしっかりと」
「そういう所がね……」
何故か自信たっぷりの美緒、呆れるミーナ。
「へえ、少佐にもそう見えるんだ。やったねトゥルーデ、私達本物だよ」
「だから、前に私が言った通りだろうエーリカ」
喜ぶエーリカ、当然だと言う感じで答えるトゥルーデ。
「で、どうなの? 美緒と私は?」
「な、何ッ!?」
言われて自分の小指を見る。自分の指に結ばれ、すっと伸びる赤い糸は、確かにミーナと繋がっている。
「う、うぉぅ」
突然のフリに気持ちの整理が付かず……思わず手を引っ込める美緒。
「ちょ、ちょっと、今の動作は何!?」
「退けミーナ! こう言う関係はまずい!」
すらりと扶桑刀を抜き放つと、ぶんと宙を一振り。
「危ない! ミーナを斬るつもりか少佐!」
慌てて美緒の手元を握り動きを封じるトゥルーデ。
「いや、糸だけを……」
「私と美緒は繋がってるのね? と言うか何故斬ろうとするの!? そのままで良いじゃない!」
意図を察したのか、美緒に詰め寄るミーナ。躊躇う美緒に、トゥルーデは言った。
「聞け少佐! 私も前言った通り、この赤い糸に物理的な干渉は一切通じない。例え少佐の扶桑刀でも……え、少佐?」
「私の魔力を込めた一撃なら!」
ゴゴゴと音が出そうな雰囲気の妖気を纏う美緒を見、ミーナが一喝する。
「執務室で烈風斬は禁止よ美緒!」
「ぐっ……ミーナに止められた。一体私はどうすれば良いんだ」
「そもそも何で斬ろうとするの!? おかしいでしょ!? 斬って何が変わると言うの?」
「そ、そう言われれば……」
気落ちしたのか、扶桑刀を鞘に戻すとへたり込む美緒。
「少佐」
いつの間に用意したのか、トゥルーデとエーリカが美緒の前に立った。
「ん? どうした二人共……っておい、お前達何を」
「悪いがミーナの言う通りにさせて貰うぞ」
がっしりとトゥルーデが美緒を押さえ込み、そのスキにエーリカが美緒の眼帯をさっと外し、目隠しで両目をきゅっと覆う。
「こ、こら……これじゃ囚人か罪人じゃないか」
「悪いけど坂本少佐、今日から暫くは貴方にそうして貰います」
「な、何故ッ!? 私が一体何をした!?」
「貴方が見てはいけないものがあるの。見えなくなるまで、そのまま執務室待機を命じます」
「な、何だそれは!?」
「これは命令です。貴方の目が元に戻るまで、バルクホルン大尉とハルトマン中尉に監視して貰います。良いですね?」
「了解した」
「りょうか〜い」
「ちょ、ちょっと待てお前達。その対応はおかしいんじゃないか?」
「これも隊を思ってのことなのよ……美緒」
泣きそうな声で言うミーナに、美緒は汗を一筋垂らし、呟く。
「本当にそうか?」
「命令です」
ミーナのきんと冷たく響く声を聞いて、ああ、これは私の負けだと悟る美緒。
「分かった。仰せのままに隊長殿」
「必要な時は私が介助しますから大丈夫よ」
何故か嬉しそうなミーナ。
「はい、口を開けて」
「こ、こうか?」
目隠しをされたまま、スプーンから食事を与えられる美緒。
「ちょっと、口の周りこぼれてるわよ?」
「す、すまん。見えないから」
「もう。拭いてあげる」
くすっと笑い、ナプキンで美緒の口元をそっと拭くミーナ。そしてシチューをひとすくいして美緒に与えるミーナはとても幸せそうで……
「ねえトゥルーデ、これは」
様子を見ているエーリカの問いに、トゥルーデはあっさりと答える。
「まあ、良いんじゃないか?」
「どうして?」
「少佐だし。こうでもしないとな」
「まあねー」
やれやれ、と肩をすくめるトゥルーデ、同意するエーリカ。
執務室で続く二人の奇妙な蜜月は、美緒の「目力」が元に戻るまで。
それがいつまでかは……赤い糸だけが知る秘密。
end
291
:
名無しさん
:2011/08/19(金) 02:10:35 ID:YyBZ63eE
以上です。
もっさんが「赤い糸が見える」とか言い出したら
多分周りが全力でとめるだろうなーと……。
ではまた〜。
292
:
名無しさん
:2011/08/19(金) 23:04:14 ID:PFuddR6s
>>291
GJです
〜いっしょにできること〜
に収録の眼帯ネタを思い出して吹き出しました
293
:
mxTTnzhm
◆di5X.rG9.c
:2011/08/20(土) 22:06:46 ID:Qq8Znqd.
>>292
様
感想有り難う御座います。
確かに、両目に眼帯で……、と言うネタ有りましたねw
こんばんは。mxTTnzhmでございます。
ふと思い付いたネタ? をひとつ。
保管庫No.0450「ring」シリーズ続編、
>>289-290
「red line」の続きとなります。
ではどうぞ。
294
:
red line II 01/02
:2011/08/20(土) 22:07:39 ID:Qq8Znqd.
芳佳は、夜中にふと目覚めると、トイレに向かった。
用を済ませ、ぼんやりと、うつらうつらとしていた目が冴えてくるうち……
何かが変わっている事に気付いた。
「やだ。……何、この糸」
赤く染められた糸がそこかしこに張られている。しかもまるで生き物の如く、動いたりしている。
「ま、まさか、ネウロイの仕業?」
気味が悪くなった芳佳は、手近な部屋へ駆け込んで、助けを求めた。
「それで、ノックも無しに執務室へ飛び込んだと言う訳か」
事情を聞いたトゥルーデから呆れられる。エーリカはソファーですやすやと眠る。
ミーナは机の上で変わらず書類整理を進め……美緒はと言うと、眼帯を外し目隠しをした状態でソファーに座っている。
「坂本さん、一体どうしたんです? 目が悪いとか?」
「お前と一緒だ、宮藤」
「へっ?」
「お前も先程言っただろう。見えると。何が見えたのかもう一度言って見ろ」
「いえ、ですから、基地の中に赤い糸が沢山……」
「……貴方も見えるのね。流石、この師匠にしてこの弟子あり、ってところよね」
ミーナも呆れ気味。
「そう言う言い方はちょっとな」
むすっとした様子の美緒。
意味が分からない芳佳は、えっ? っと辺りを見た。
部屋の中も赤い糸が幾筋も伸びていたが、そのうち最短で結ばれたふたつの糸を見る。
ミーナと美緒。
トゥルーデとエーリカ。
それぞれが結ばれている。
「あっ! 赤い糸!」
結ばれている糸、そして対象者を思わず指差す芳佳。
「知っている」
「バルクホルンさん、何で知っているんですか」
「私も知っているがな」
「坂本さんもですか? どうしてです?」
美緒の代わりにトゥルーデが説明し始める。
「私達も過去に同じ経験をしている。もっとも少佐はまだ見えるらしいが。私とエーリ……いや、ハルトマンはどうだ?」
「今話した通り、繋がってます」
「ミーナと少佐は」
「はい。同じく」
「では、お前の小指はどうなっている?」
「え、私?」
トゥルーデに言われ、自分の小指を見る。
二本有った。一本の太い糸は基地の何処かへと伸び……もう一本は窓の遥か彼方へと伸びていた。
「あ、あれ? あれれ?」
「私も前からその事を聞きたかった。何故、お前は二本有るんだ?」
「そ、そんなぁ。私知りませんよ〜」
「まさかミヤフジ、二股? それは相手が悲しむよ」
いつ起きたのかエーリカにもニヤニヤ顔で言われる。
「宮藤に限ってそう言う事は無いと思っていたが……」
無念そうな美緒。
「ごっ誤解です! 多分何かの間違いです!」
大袈裟にぶんぶんと手を振る芳佳。美緒は目隠しを外し、芳佳の手を掴んでじっと見た。
「やっぱりな」
「や、やめて下さい! 私そんな……」
「お前にも見えるだろう?」
「見えますけど……でも、違うんです!」
「何が違うんだ」
「わ、私は、その……」
「一本はリーネと結ばれている。それは私も確認した」
「トゥルーデ、さらりと言わないの」
「この際だ。そしてもう一本は誰と、と言うのが知りたい」
「ぷ、プライベートな事は!」
「トゥルーデ、尋問になってるわよ」
苦笑するミーナ。
295
:
red line II 02/02
:2011/08/20(土) 22:08:07 ID:Qq8Znqd.
「とりあえず、他の奴等に接触せずすぐ我々に報告したのは賢明な判断だった。それは誉めてやろう」
「だねー」
言いながらトゥルーデは背後から芳佳をがっしりと掴み、エーリカは目隠しで芳佳の両目を塞いだ。
「えっ? ちょっ? これってどう言う……」
「命令です。その症状が直るまで……糸が見えなくなるまで、宮藤さんはゲストルームに謹慎して貰います」
「な、何でですか!? 私何も悪い事してません!」
「美緒もまだ元に戻らないと言う話だから、そうね。二人で一緒に暫く過ごして貰いましょう」
「何? 宮藤と一緒か?」
「外出の際は目隠し着用を義務付けます。これは命令です」
「あの、私が何か、迷惑を……」
「他の皆に掛けない様に、と言う意味だ。察しろ宮藤」
「えー」
「バルクホルン大尉とハルトマン中尉が監視と世話役をしてくれるそうよ。何か有ったら二人に言うといいわ」
「了解した。行こうか、少佐」
「さ、行こ〜ミヤフジ」
「ミーナ中佐、納得いきません!」
「諦めろ、宮藤」
美緒がげっそりした表情で呟いた。
「色々見たかったなあ……」
「見ると後悔するぞ」
「あう……バルクホルンさん、一体何を見たんですか」
「ミーナに言うなと言われているのでな。残念だが」
「相談しに来ていきなり目隠しとかもっと残念ですよー」
「はいー歩いて歩いて」
芳佳は美緒と一緒に、執務室から出て行った。監視役のトゥルーデとエーリカも一緒に部屋を出た。
一人残されるミーナ。
「赤い糸、ねえ」
ぽつりと呟く。
まるで伝染病の様に広まる「不思議な視覚」。
幾分ロマンチックではあるが、隊員同士の関係を暴き出す非道なものでもある。
ミーナは、その危険性を排除する方向に決めた。
「今もきちんと繋がっているのかしら、美緒と」
自分の小指を見、頬を赤らめるミーナ。
「部屋の中では目隠しを解いても良いそうだ……やれやれ、参ったな」
美緒はうんざりした表情で呟いた。
「どうしましょう、坂本さん」
「私が知りたい。原因も分からぬ、いつ元に戻るかも分からぬ。まあネウロイの仕業ではないだろうが」
「そんなネウロイ居たら困りますよ」
「案外ネウロイかも知れないぞ。何しろ基地に忍び込んだのも居たからな」
「でも、実害は出てないです」
「今の所はな……。我々が色々喋ると、問題が起きるとミーナは考えたのだろう」
「バルクホルンさんも見えてたって言ってましたよね」
「もう見えないらしい」
「はあ……」
殺伐とした……必要最低限のものしか無いゲストルームに閉じ込められ、二人は溜め息を付いた。
「どうしましょう坂本さん」
「ミーナの命令とあらば仕方ない……。とりあえず、部屋で出来るトレーニングでもするか?」
「いえ、こう言う時に訓練とか止めましょうよ」
「あー、二人共悪いが、もう少し静かにしてくれないか?」
外からトゥルーデに諭され、更に落ち込む扶桑の魔女二人。
「どうしたもんかな」
トゥルーデは扉の外で、後ろ手に腕を組んで天井を見た。
「元はと言えば、トゥルーデが最初に見たからじゃないの?」
エーリカの指摘に、ぎくりとする。
「どう言う意味だそれは」
「見た者に伝染する、とかね」
「それじゃあ今頃、皆に赤い糸が見えて大変な騒ぎになっているぞ」
ははは、と笑うトゥルーデ。汗が一筋垂れる。エーリカも笑みがひきつる。
「ま、まさかな」
「まさか、ねえ」
二人は乾いた笑いで誤魔化した。
end
296
:
名無しさん
:2011/08/20(土) 22:08:38 ID:Qq8Znqd.
以上です。
このあと501がどうなったかはご想像にお任せします……。
ではまた〜。
297
:
名無しさん
:2011/08/24(水) 20:38:07 ID:rKJOLZg.
>>296
GJです
リーネが芳佳の糸をみたらwww
298
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:48:44 ID:oGbLH.VU
>>294
mxTTnzhm ◆di5X.rG9.cさま
赤い糸って…本当にあるのかもしれませんね!
…ごめんなさい、ちょっとロマンチスト風に書いてみました。
けど、芳佳のもう一本の糸ってみっちゃn………?だったらリーネちゃんがハサミで何のためらいも無く切りそうですねw
こんばんは!今夜は隅田川花火大会でしたね!
さて、今回も『ヘルマの発情』シリーズです。今更ですが、フミカネ先生のツイッター見ててifシリーズに何故ヘルマがないんだ!と思い勢いだけで書いちゃいました;;
あと出向先ですが、ローソンで缶コーヒーのBOSSを2本買ったらルフトハンザ航空の模型が付いてきたんで、これもネタに使おう!と即座に思いましたw
それでは、張り切ってドウゾ!
299
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:49:49 ID:oGbLH.VU
【ヘルマのif】
コンコン...
「失礼します!」
「入れ」
ガチャッ!!
おごそかな空気の中、ヘルマは執務室のドアを開ける。
ロマーニャ解放から5年後、バルクホルンは少佐へと昇進していた。
そして背や胸、顔つきなど年相応に成長したヘルマの姿がそこにあった。
彼女は現在、実験部隊で活躍する傍らバルクホルンの第二秘書を務めている。
「本日のスケジュールをお持ちしました!」
「済まない、今手が離せないんだ。読み上げてくれないか?」
「はい。この後10時より実験隊の方々と打ち合わせ、12時よりそのまま昼食を兼ねた意見交換会。15時より新人ウィッチへの講演です」
「ふむ」
「そして17時まで残った書類仕事、19時よりハルトマン中尉…ってもう軍人じゃないんですよね…」
「…ハルトマン?」
「ええ、1週間前に言いいましたが…もしかしてお忘れに…?」
「済まない、教えてくれないか」
「えと…」
ヘルマはスケジュール帳をめくる
「ハルトマン元中尉の医師免許取得記念パーティーです」
「そうかそうか…って今日か?!」
「…わかりました、少尉が意見交換会している最中に私が走って花を買いに行ってきます」
「それには…及ばないな」
「へ???」
バルクホルンはデスクの下から、フラワーショップで揃えてもらった綺麗な花々を出した。
「なんだ、覚えてらしたんですね」
「勿論だろう、済まないなヘルマ。からかってしまって」
300
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:50:12 ID:oGbLH.VU
「いえいえ!…こんなに柔らかい少尉、久々です」
「は?」
「いや…最近、笑われてなかったので…」
「…そうだった…のか?」
「ええ…正直申しますと…」
「あはは…私だって冗談のやり取りだってするさ。でも最近…ちょっと私でも疲れたかなと思ってな…」
「少佐…」
「イカンイカン、私はカールスラント軍人だ。これくらいでへこたれちゃダメだな」
「でも少佐、やはり休暇を取られては…?」
すると、今までヘルマの方に向けていた椅子を急に窓の方へと方向を返る。
「なあレンナルツ」
「はい」
「お前は…この軍が好きか?」
「ええ、とてもやりがいを感じています」
「そうか…」
「あの…それが何か?」
「もし…異動命令があったらどうする?」
「ヘルマ・レンナルツ、命あればどこへでも赴任いたします!」
「そうか…」
しかし、この時何かおかしいと感じ取っていたヘルマであった…。
「あの…少佐、何か…?」
「実はな…お前に異動命令が出てるんだ」
「それは…遠い所なのですか?」
―――でも本心は…我儘を言うと、嫌だった。憧れのバルクホルン少佐の下でサポートする役職に就いたのに、異動だなんて…
「ロマーニャ…ですか?」
バルクホルンは首を横に振る
「ワイト島ですか?それとも、ア…アフリカとか?」
それでも首を横に振る。
「じゃあ…一体、どこですか…?」
「カールスラント・ルフトハンザ航空だ」
「…へ??」
「知ってるだろう?」
「ええ、民間の航空会社ですよ…ね?」
「そこへ…出向してくれ」
「…それって」
知らぬ間に、ヘルマは両手を握りしめていた...
「私が…私が戦力外って事ですか??!!」
―――なんてことだ、上官でもあり憧れの人に対し…大声を上げてしまった…
「………」
「私は…頑張って、この地位まで辿り着いたんです!なのに、なのに民間の航空会社に出向って…いくら上官命令だからと言っても酷いです!」
「これは上官命令だ、レンナルツ!」
「断固拒否します。だったら、私は軍を辞める覚悟であります!!!!」
「辞めたら意味がないだろう!!!!」
ヘルマに釣られ、ついバルクホルンも大声を上げてしまう…
「良いか、よく聞けレンナルツ。お前はこの5年以上、ずっとジェットストライカーの開発に携わり今では我が軍で実用化されたとても大切な物を作ってきた」
「………はい」
やや不満げに返事をする。
「でも…今度は、不特定多数の人々にその知識や技術を教える番だと私は思うんだ」
「…どうゆう事でしょうか?」
「現在、人々の足として使われている飛行機は遅い。けどお前たちの開発した技術を民間に転用すれば、より良い環境づくりが出来るとは思わないのか?」
「それは…その…」
「レンナルツ!…お前は今度から彼らの生活の『幸せのため』に技術を教えてやってくれないか?」
「少佐…っ」
「もちろん、過去のお前の実績を見通しての出向だ。決してお前を戦力外だからと言って飛ばす訳ではない、むしろ惜しいくらいだ」
「もっ…申し訳ございませんでしたっ!!!」
深々と頭を下げるヘルマ
「生意気な口を利いて申し訳ございませんでしたっ!!!」
「頭を上げろ、レンナルツ。私も誤解を招くような表現で悪かった」
「でっ、でも私…上官になんて酷い事を…」
301
:
Hwd8/SPp
◆ozOtJW9BFA
:2011/08/27(土) 23:50:30 ID:oGbLH.VU
「…悪いと思うんなら、一生懸命働け。そして人々を喜ばせろ。人々の喜びは、私の喜びだ」
「しょ、少佐…っ!!!!」
***
「しょうさぁ………」
「起きなさい…起きなさいってば!」
「はっ!!??」
場所は変わり、軍の食堂。
「あれ、シュナウファー大尉?!」
「珍しいわね、あなたが昼寝だなんて。ヨダレが出てるわよ?;;」
「へ?へ?へ?」
「何、寝ぼけてるの?」
「えと、私っていつから異動でありますか?」
「はあ?」
すると、
「あれっ!?胸が…ないであります!!」
「それはいつもの事じゃない」
「え…;;でっ、でも胸がこう…ばいんばい〜んって。パイオツカイデーなチャンネーでしたもん!」
「何言ってるの?ヘルマ;;医務室行く?」
「だって少佐が…」
「は?」
その日、ずっと支離滅裂な事を言っていたヘルマ。
バルクホルンとのやり取りが、実は夢であったと言う事を翌日に知ったヘルマであった。
「…二度目の夢オチでありますか?!」
【おわれ】
302
:
管理人
◆h6U6vDPq/A
:2011/08/28(日) 11:28:35 ID:tHS5XxCA
皆様乙です
500KBに達しましたので次スレを立てました
ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所9
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12483/1314498311/
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