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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第115話☆

100闇と時と本の旅人 ◆UKXyqFnokA:2012/12/30(日) 00:18:12 ID:ZZJjIJQU
 部屋の照明は落として、窓はカーテンも引いているので、再び、暗闇に戻っている。
 八神家があるあたりは広い庭付きの一戸建てが多い閑静な高級住宅街なので、この時間帯では道路端の街灯以外には照明はない。
 明かりをつけるかどうかアインスは尋ねたが、クロノは暗いままの方がいい、と答えた。

 目が慣れてくると、カーテン越しに差し込む月明かりで部屋の中が青くぼんやりと浮かび上がってくる。

 本当に平和な、平穏な市民の家。
 同じ家の中に、同じ屋根の下に、世界を震え上がらせるロストロギアがいる。そのことがにわかに信じられないようだ。
 今、自分が寝ているベッドは、闇の書の主が用意したものだ。
 しかし、自分は処刑台に乗せられているわけでも、霊安室に入れられているわけでもない。
 生きている。クロノは、ひたいに腕を載せて自分の存在を確かめようとする。

 アインスが、そっと手のひらをかざしてクロノの頬を撫でる。それは深い慈しみを持っていた。

「──僕は、何をすればいいんでしょうか」

 口をついて出てしまった。あるいはクロノの中で、アインスが管理局員としての同僚から、より近しい関係になったという認識の変化かもしれない。
 執務官として、部下にあるいは同輩に、迷いは絶対に見せてはならないと誓っていた。
 アインスになら、頼れる。頼ってもいい。すがっても、いい。

 自分の出した言葉に、クロノは喉がつまるような感覚を味わう。

「闇の書がすぐそばにあるのに、いざ面と向かってみると何をしていいのか……今更のように、僕でさえ……いや、僕だからこそ、闇の書を偏った見方でとらえていたと気付いたんです。
絶対の悪だと思い込んでいた……管理局員として、中立的な立場を守るようにしていたのに、どこかで、思い込みがあった」

「どういうものだと思っていた?」

 アインスは静かに問う。クロノは、静かに言葉を積み重ねる。

「転移させられて、ここの庭に落ちた時、──正直、戦闘を覚悟していました。市街地で、二次被害を避けるためにどう戦えばいいかを考えていました──
闇の書がまだ蒐集を始めていないのは、闇の書の主が機会をうかがっているからだと思い込んでいました──本当に何も知らない、ということに考えが及ばなかった──
巧妙な作戦を立てられる人間、あるいは大っぴらに動きにくい社会的立場のある人間、という可能性が高いと考えていて──、まさか小さな女の子だなんて」

「八神はやてというそうだ──彼女の年齢では、ロストロギアの概念を理解しきることは難しいだろう」

「しかも、闇の書が必ずしも彼女に忠実に従うわけではない──命令を無視して動き出す可能性もある──それが一番ショックです」

「クロノ」

「僕でさえ……っ!理解しようとしていた、理解できていたつもりだったんです……!」

 歯を食いしばり、腕をかぶせて目を伏せる。
 この悔し顔を、アインスに見られたくない。

「感情に負けて……僕は、まちがっていた……!」

「落ち着け、クロノ」

 頬を撫でていた手を、わずかに握りを強めてあごを押さえる。ひきつけを起こさないよう、そっと落ち着かせるように顔をさする。

 クロノの言葉が止まったことを確かめ、アインスは座椅子を降り、ベッド横の床にひざまずいた。
 ベッドに寝かされているクロノに、顔の高さを合わせ、そっと語りかける。

「そう自分を責めるな……。自分の感情は、否定するな。お前は間違ってなどいない──」

「アインスさん──」

 部屋が暗いので、表情は見えないだろう。
 わずかに腕を上げ、アインスの方を見る。
 ベッドに肘をつき、クロノのそばに、子供を寝かしつける母親のように。クラナガンの自宅で、幼いころ、リンディがこうやって枕元でみていてくれたことがあるような気がする。
 赤ん坊のころのことだ、と思って、忘れそうになっていたが、それは大切な思い出だ。
 健全な成長には、母親に愛されることが必要だ。
 クロノはそれを、自分から遠慮してしまっていた節があった。はやく一人前の管理局員になって、母のために働きたい、母に心配はかけられない、そういう思いがあった。
 それはかえってリンディを寂しがらせることになってしまっていた。
 後悔は、してはいけないということはないが、しっ放しでもいけない。
 大切なことは今、そして未来。
 これから先どうしていくかということだ。




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