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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第111話☆

1名無しさん@魔法少女:2011/08/18(木) 16:34:39 ID:tcLNLZv.
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所です。


『ローカル ルール』
1.他所のサイトの話題は控えましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第110話☆
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1302424750/

838名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:34:24 ID:Kw1mynKU
おわり。ラーメン喰ってくらぁノシ

839名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:37:53 ID:6Z4zP0vE
乙。素晴らしい。

840鬱祭りSS:2011/11/05(土) 23:38:37 ID:HkX4IWZY
GJ
すばらしかった。

841名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:40:42 ID:HkX4IWZY
名前消すの忘れてた・・・

842名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:40:59 ID:zXGWw9KY
乙でしたー

843名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:49:26 ID:th311WiU
何が鬱SSだよこんなの認めないぞ。゚(゚´Д`゚)゜。ウァァァン
フェイトもなのはも良い子過ぎるよ……せつない

844名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:49:56 ID:th311WiU
GJでした

845名無しさん@魔法少女:2011/11/05(土) 23:50:25 ID:GKQJka4I
乙。ブラヴォー!
お美事としか言いようの無い素晴らしいSSでした。
鬱祭りでまさかこんな爽快なSSが読めるとは。ありがとうございました!

846名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 00:10:39 ID:ykh.OfGs
GJGJ
時を越えて思いがつながった…

>>808
たしか楽園の瑕のブリジットリン

847名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 09:43:34 ID:FKqCZSlI
上手いですねー、途中に小ネタを挟みつつも破綻させずにこの読後感…
素晴らしかったです、GJ!

848名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 14:22:06 ID:flIzJQ/M
今ここでKC版なのは読んでない者って
どの程度いるのかなぁ…?

849名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 16:06:24 ID:XZW25cKo
KCって何?

850名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 16:07:23 ID:uaDU6ViU
角川コミック。
この場合、ForceとViVidのコミックのことでしょ

851名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 17:18:07 ID:HfMQL7RQ
講談社コミックかと思った

852名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 17:51:02 ID:XZW25cKo
>>850
thx
一瞬>>848がコミックのつづり間違えてるのかと思った

853名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 18:40:06 ID:g1SAhs8Q
KCったら講談社コミックスだろ

854名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 21:32:51 ID:zVhdH5tI
>>788
いいじゃないか百合方面で
ここは別に百合禁止じゃないぞ?投下待ってるよ

855名無しさん@魔法少女:2011/11/06(日) 22:29:08 ID:p7cxwRPc
ああ、ユーノくんとヤりたい…

856ヤギ使い ◆p2QA1mcDKM:2011/11/06(日) 22:35:43 ID:fwSDDCec
鬱展開祭ってことで、それほど鬱じゃないですが、救いのないってことことで
一本おとさせていただきます。
タイトルは『破滅の刻』18禁 凌辱 スバ×ティア
NGはコテハンとかでよろしくです。

857ヤギ使い ◆p2QA1mcDKM:2011/11/06(日) 22:44:37 ID:fwSDDCec
「スバル、やめて。頼むからやめて」
そう懇願するティアナを無視して、ティアナの秘部を責めるスバルの目は虚ろで、鍛え上げられた体の股間からは、スバルに存在しないはずの異形の塊がビクンビクンと脈打っていた。
救助ミッション中に行方不明になったスバルがティアナによって旧六課の近くの廃墟で見つかったのが今朝のこと。その搬送の途中、背後からの打撃によって気絶させられ、ティアナが気づいた時にはすでにベッドに寝かされ、大の字の形に手足を拘束された状態だった。
スバルはシックスナインの体勢でティアナに覆いかぶさると、脇や太股を愛撫しながら、舌で秘部を執拗に攻める。そして、股間の異形をティアナの口へ押しつける。
「やっ、やめてっ。正気に戻って」
しかし、スバルは止めるどころか、舐めていた舌を秘部へと差し込むようにしたり、陰核を弄んだりといった激しいものへと変化せていった。
「だめ、やめて、スバルッ」
ティアナが再び呼びかけようとした瞬間、スバルの両ももがティアナの頭をまっすぐに固定し、一気に腰を突き出した。
喉の奥深くまで入り込んできた肉の塊に、ティアナは「ぐうぇっ」と言う声を漏らすが、それさえも許さないように腰を動かして口内を凌辱していく。
腰の上下に合わせて頭を無理やり動かされ、ティアナの意識は朦朧としてくる。
口内の塊が肥大化して大量の欲望が放たれた後、口が解放されるのを感じたティアナは、スバルの気が済んだのだと安堵して無意識のうちに脱力して意識を朦朧とさせていた。
しかし、それが更なる凌辱への過程でしかないと気づいた時には、すでにティアナはスバルの手によって腰を掴まれて持ち上げられ、秘部と異形がずれないように固定されながら楔を打ち込まれる直前だった。
「や、やめっ」
事態に気づいたティアナが静止の声を上げようとするが、その前にスバルは腰を突き出した。
男性の腕ほどの太さの楔がティアナの秘部を骨盤ごと無理やり押し拡げていく。その強烈な衝撃に、ティアナは声さえ上げられず、白目を剥いて空気を求めて口をパクパクと動かす。
そんなティアナに構わず、スバルは容赦なくティアナの奥深くへ突き上げていく。それによって与えられる衝撃によって、ティアナは強引に現実に呼び戻される。
骨格が軋むほど揺さぶられ、ティアナは抗う力さえ残っておらず、何度目かの絶頂を迎えた時に、とうとうティアナの子宮口は痙攣をおこして、楔の子宮へと侵入を許した。
筋肉の塊である子宮に侵入したことで、自然と楔への締め付けがに良くなり、スバルの方もリミットが来たようで、先ほどの倍はあろうかと言う大きさまで膨張すると、ティアナの子宮が膨らむほどのすさまじい量の欲望を放つ。
体内で強烈な衝撃を与え、子宮を膨張させるほどの量を子宮内に直に放出されて、ティアナは再び白目を剥いて気を失った。
ズルリ……と、ティアナの秘部から異形をスバルは抜くが、ティアナの秘部は一滴もスバルが出したものを吐き出さず、それどころかビクン……ビクン……とティアナの下腹部を脈打たせると、急激に萎んでいった。
数時間後、目覚めたティアナの目はスバルと同様に虚ろで、秘部にはスバルと同じ様に異形の塊が存在していた。
そしてこの数日後、時空管理局はティアナやスバルのような異形のモノを生やした集団によって女性局員が根こそぎ凌辱され、男性局員は性器を抉られるという死に方によって、再び壊滅することとなる。

    おわり

858名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 01:02:12 ID:le9v84Ck
もがれて死ぬのはいやだなぁ・・

859名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 14:29:30 ID:adqPlD8w
>>855
なのはさんが酔った勢いでユーノ君を押し倒すなんてのはギャグ系のネタで割とよく見るな
やっぱり柔和な優男は押し倒されるイメージが強いんだろうか?

860名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 17:54:48 ID:.fRaxvb2
GJGJ!
こういう、共に闘った仲間は、もういない。みたいなのは切ないなぁ。

861名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 21:02:46 ID:eFdLJDLY
>>802
GJ!
こういう話すごく好きだけど、なのはさんがただの愚か者になってるのが少し心が痛いぜ
あとこのすずかがなのはを実際に拒絶?してなのはさん大ショック的な話が見て見たくなった

>>838
GJすぎる
この手のネタ大好物だぜ……というか>>810で引用されてるの三年前の俺のレスじゃないか
書いてくれてありがとう。ほんとありがとう

862名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 22:40:57 ID:Ehh.iCvk
10分ほどたったら本日の投下いきます
作者氏は今夜都合で来れないためIRC経由の代理投下となります

タイトルは『一番悪い子だーれだ?』
作者は槍氏

863 ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 22:51:14 ID:Ehh.iCvk
鬱・ダーク祭り参加作品です。

【注意】
・非エロ
・キャラ性格改変あり
・百合要素あり
・ダーク

864だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 22:52:59 ID:Ehh.iCvk
 たとえばそれは"もしも"の話。
 1人で膝を抱えながら涙を流す少女と、1人で車椅子の上で過ごす少女がもっと早く出会っていたら。

 孤独が怖くて、孤独が辛くて、孤独を恐れる高町なのは。
 孤独を傍受し、孤独を享受し、孤独でない事を諦めた八神はやて。

 そんな孤独に苛まれる日常で2人が"最初に"出会っていたら。
 孤独を埋めあうように耽溺して、孤独を舐めあうように依存して。

 世界が2人だけの孤島だと思ってしまうほどに狭隘で。
 世界が2人だけの楽園ならと思ってしまうほどに寂寞で。

 桃源郷のように甘く永遠に続けばとも思うほどの幸せだった。
 けれど幸福があれば不幸があるように、幸せな時間は辛い人生と等価であるように。
 始まりがあって終わりがあるように、自ら始まらせて自ら終わらせるように。

「――誰やろうなぁ」

 それは、この物語においての八神はやてが最後に呟く言葉。
 それは、桃源郷が失楽園に崩れ落ちて最愛の人を奪われた少女の――。



 ■■■ 1

 八神はやてが睡眠から目を覚ましてまず行うのは、時間を知ることでも起き上がることでも背伸びでも深呼吸でもなく。
 何よりも先に自身と同じベッドで眠る少女の愛らしい寝顔を確認することだった。

「――よかった」

 "今日も、ちゃんと傍にいてくれる"。はやては安堵して、ようやく現在の時間を確認。
 時計を見れば長針は真下を向き、短針は真上を向いていた。早朝6時、起床にしてはまだ早い。
 二度寝しようにも、一度目が覚めてしまえばそれほど眠くない。どうしようか――はやてがそう考えた折、隣の少女が小さく寝言を呟いた。

「……はやて、ちゃ……ん……」

「……はいはい。私はここにいるで」

 繊細な宝物を扱うように、はやては栗色の美しい髪をそっと撫でた。
 くすぐったそうに「んん……」と吐息をつく少女。それがとても可愛くて、同時にとても愛しかった。
 ――しばらく、この子の寝顔を眺めていよう。1時間でも2時間でも、美しいものは幾らでも見ていたいから。

「私はずーと傍にいる。だから――ずっと私の傍にいてな、なのはちゃん」

 少女の名前は高町なのは。八神はやての大切な"ともだち"で、ただ1人の"かぞく"と呼べる存在だった。

865だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 22:54:35 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ 2

「――で、はやてちゃんは私より先に起きてたのに、どうして起こしてくれなかったの? 目覚まし時計も勝手に止めちゃってるし」

「なのはちゃんの寝顔が可愛すぎて、眺めるのに夢中で5時間ほど過ぎてることに気づかんかった。時計を止めたのは今でも反省はしてない」

 ベッドの上でバターを塗ったトーストを口で咀嚼するなのはは少々おかんむりといった様子。
 少し行儀が悪いとも思えるが、とある事情を八神はやてが“持っている”ので仕方のないことだ。
 八神はやての持つとある事情――“足”が動かないという原因不明の病気。
 それ故に、はやては日々をベッドの上か車椅子の上で過ごすことを余儀なくされている。

 だからこそなのはは朝食――というより今回は軽食だったからこそベッドの上で食べていた。
 はやてが動かずとも、はやての手の届く距離だから。無論、普段はリビングでちゃんとテーブルを囲んで団欒をとる。
 今回は時間がなかったのだ。そんな彼女の様子を知ってか知らずか、なんの悪気も見せないはやてはベッドに座るなのはを後ろから抱きとめる形でなのはの髪を梳いていた。

「はやてちゃんが反省してくれないお陰で今日も遅刻なの」

「目覚まし時計が壊れてたってことにしておかへん?」

「それは昨日の言い訳につかっちゃったよ」

「目覚まし時計のセットを間違えた」

「それは一昨日」

「目覚まし時計を盗まれた」

「それは三日前」

「目覚まし時計をガッちゃんに食べられた」

「それは四日前――あれ!? よく考えたら私って今週まともに学校行ってない!?」

「よく考えないでも平日の終わりに気づくことやないと思うんよ」

 現在金曜日、今日が終われば残った週は休日だけである。訂正、どうやら朝に限ってはキチンとしているわけではないようだ。
 さすがに四日連続で重役出勤は不味いと思ったのか――というか、もはや11時を回っているので大遅刻には変わりないのだがそれでもなのはは学校に急ごうと準備を始めた。

 畳まれた制服に身を包み、はやてに梳かされた髪をリボンで両結びに括りあげる。
 白を強調した私立聖祥大附属小学校の制服を着こなすなのはは可憐で、思わずはやては「ほぅ」――と感慨の溜息をついてしまう。

「相変わらず反則的、いや犯罪的な可愛さやね。お願いやから誘拐だけはされんといてな?」

「されないよ! いつも思うけど、はやてちゃんは私を過大評価しすぎ。そんなに可愛くないもん私」

「ちゃうって、なのはちゃんが自分を過小評価しすぎなんよ。そこまで自信がないなんてもはや自虐の域やで」

「だからそれははやてちゃんの感覚で……って、そろそろいかないと4時間目にすら間に合わない!?」

866だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 22:56:23 ID:Ehh.iCvk
 ばたばたと忙しなくなのはが動く。鞄を手に取り、お弁当(はやて作)をそっと入れた。
 最後は鏡で確認だ。おかしな所はないように思える。首筋に赤い虫刺されのような痕が出来ているが、いつものことなので気にしない。

「えー、ほんまに行ってまうん? おいてかないでー、わたしをすてないでー、がっこうなんていかずにわたしとあそぼー」

「うぅ……棒読みなのにそれでも引き止められそうな自分が悔しい!」

 このやり取りも毎度のことである。
 それでも毎回毎回、学校を休んではやてと過ごすという選択肢に後ろ髪を引かれてしまうのは愛故か。
 けれどその魅力的な提案を頭を振ってかき消して、部屋のドアノブに手をかけた。

「さすがにこれ以上休むと“約束”が違っちゃうもん!」

「はぁー……わかってるよなのはちゃん、行ってらっしゃい。事故には気をつけな」

「うん、行ってきます!」

「――あ!? なのはちゃん、すぐに終わるからちょっとこっち来て!」

「え、なに?」

 はやてはなのはを自分の傍に呼び寄せると、「ちょっとしゃがんで?」とジェスチャーで伝える。
 そのジェスチャーを理解して、何をするんだろう? と不思議がるも、言う通りにしゃがみ込み――。

「わすれもの」

 ちゅ――と軽快な音を立てて、はやての唇がなのはの頬に触れた。
 瞬間、湯沸かし器がお湯を沸点まで煮えたぎらせるようになのはの顔が真っ赤に染まる。
 ぱくぱくと金魚のように口を開け閉め、古のロボットダンスのようにカクカクしながらなのはは立ち上がって再び玄関口に続く扉に向かう。

「……出来れば、早く帰ってきてな?」

「……ダ、ダッシュデカエッテクル」

 ちなみに、このやり取りも週一感覚でやっているのにも関わらず、未だに初々しいバカップルのような反応だというのは、あまりにもなのはが純粋すぎる為――だと思いたい。

867だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 22:57:44 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ 3

 運命というものがあるように、必然というものがあるように。
 その日。高町なのはは傷つき倒れたフェレット、ユーノ・スクライアとの出会いを果たした。
 誰かの助けを求めるような声を聞いて、なのはが寝付くはやてを起こさないように家をこっそりと抜け出せばそこにあった光景は超常現象不可思議奇々怪々の幻想で。

 デバイス。ジュエルシード――そして、魔法。
 その話を聞いて、手伝ってくれと言われて、“どこかのなにかの物語”たりえるような非日常に片足を突っ込んだ少女が何を思ったか、それは当人にしかわからない。

 とりあえず彼女は荒れ果てた道路を見て慌てて逃げ出しユーノを連れて家路を急いだ。
 玄関を開ければ、誰もが寝静まったはずの我が家から――といってもここには八神はやてと高町なのはしか住んでいないのだが、奇妙な声が聞こえてくる。

「――ぁ――――ぅ――」

 泣いているような、唸っているような。苦しんでいるような、悲しんでいるような。
 よもや、はやてに何かあったのではとなのはは2人の寝室に一目散で駆け出して扉を開けた。

「いな――なのはちゃ……ううぅ、ぁ――どこ……?」

 そこでなのはが見たものは――床に這い蹲って涙を流しながらガタガタと身体を震わすはやての姿。
 怯えて、怯えて、怯えつくしていた。その怯え方は尋常ならざるもの。例えるなら視界が見えなくなるほどの吹雪が舞う雪山で独り遭難したような、そういった表現がよく当てはまる。

「はやてちゃん、はやてちゃん!」

 なのはは駆け寄ってその震える身体を暖めるように抱きしめながら声を必死にかけ続けた。
 それから何分ほど経過しただろうか。焦点の合っていなかったはやての目に、憑き物が落ちたかの如く光が戻って――。

「――どこいってたん? こんな夜中に急にいなくなるなんて」

 そこに"いた"のはいつものはやてだった。さきほどまで震えていた声も別人のように透き通っていて、落ち着いて。
 "それ"を聞いたなのはもまた、必死になって荒げていた声は消え、いつもの通り、“何事もなかった”かのように。

「ごめんね、えっと……なんていったらいいのかな……ううん……簡単にいうと――」

 てへへ、となのはがはにかみながら、どこか誇らしげに呟く。

「私、魔法少女になっちゃった」

「……おジャ魔女?」

「どっちかというとプリキュア」

「ああ、ナノハナーみたいな」

「うん。それは完全に敵の名前だね」

868だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 22:59:53 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ 4

 ――意外にも、はやてはなのはが魔法少女になったことをあっさりと信じたようだ。
 「危ないことだけはせんといてな?」と母親が子供に言い聞かせるようなことを毎回告げることさえのぞけば、寧ろ応援するくらいの勢いだった。

 その後のなのはが辿った出来事を、省略に省略を省略して簡潔にその後のあらすじだけを述べるとしよう。
 傷ついたり、怖かったり、悩んだり、それこそ沢山のことがあった。つまらない思い込みで未然に防げたはずの被害を起こしてしまったり、何のために自分はユーノくんを手伝っているのだろう、と思い悩むこともあった。

 その度になのはははやてに相談して甘えて甘やかして。
 遊んで笑って泣いて怒ってもう一度笑いあって、沢山のことを乗り越えていった。
 なのはと同じ年頃の魔法少女が現れたりもした。名前を聞かせてと叫んだりもした。何度もぶつかり合ったりした。
 時空管理局という存在が介入してきたり、魔法少女の母親が介入してきたり、次元崩壊の危機に直面したり、最後にはフェイトという名前の魔法少女とリボンを交換しあったり。

 ハッピーエンドとはいかなかったかもしれないけれど、必死で頑張って手に入れた1つの未来、そして友達。
 後にPT事件と呼ばれるようになる事件は終了し、なのはとはやてに再びいつもの日常が戻ってきたかに思われた――はやての9歳の誕生日。

「家族が増えたよ!」

「やったねはやてちゃん!」

 守護騎士ヴォルケンリッターと呼ばれる存在が2人の前に現れた。
 話を聞けばはやては『闇の書』と呼ばれる魔導書の主に選ばれた存在であり、はやての望みのままに動く配下が彼女らヴォルケンリッターということらしい。

 最初は騎士達全員が全員堅苦っしく生真面目なものであった。
 だからコミュニケーションを取るのも苦労をしたものだけれど、それでも数ヶ月もすれば徐々に“人間らしさ”も浮かんできて、主君とその家族に対する気高い騎士“家族”に変わっていっていたのかもしれない。
       


 “そのまま優しいはやての元で幸せな日々を過ごせれば”――という、話ではあったが。
        


 フェイト・テスタロッサが“惨殺死体”で発見されるというニュースを皮切りに、第97管理外世界『地球』においてそこに生きる生命全ての終わりを告げるラグナロクの鐘の音は、悲しげに鳴り響くこととなる。






 『だーれだ』 おわり

869一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:02:09 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ 2『H』

 なのはが学校に出かけてから数分後。八神家は静まり返っていた。
 先ほどまで目を輝かしてなのはを弄り倒していた、ベッドに寝そべる少女の姿は、まるで別人のように雰囲気が違う。
 その表情は詰まらなそうに、退屈そうに。その眼は恨むように、妬むように。怒りとも悲しみともつかない禍々しさがそこにはあった。

「――学校なんて、いかんでええのに」

 “約束が違っちゃう”となのはが言っていた。それはなのはの両親である高町士郎と高町桃子との約束。
 その内容をはやては知っているし、若干9歳という少女達に与えられた“自由”に対する交換条件なら軽いものではあるが――。

「“学校は休まない、週に一日は実家で過ごすこと”……」

 その2つさえ守れば、高町なのはは週に6日という時間を八神はやてと共に過ごすことが出来る。
 なのはが学校に通う時間が6時間と過程して、一日換算で一緒にいられる時間は18時間。分数にして1080分、秒数にして64800秒。
 つまり6日で時数108時間、分数にして6480分、秒数にして388800秒――暗算で導き出したその答えに、はやては唇をかみ締めた。

 “たった、それだけしか一緒にいれない”のだと。

 なのはが学校にさえ行かなければ、実家にさえ帰らなければ、24時間一緒にいられるのに。
 一週間で時数168時間、分数10080分、秒数604800秒。時数なら60時間の損。分数なら3600分の損。秒数なら216000秒の損。
 八神はやてにとって、それが如何なる損失か。それがどれほどに多大なる損害か。

 実際は、なのははよく遅刻をしているし、はやてもはやてで病院に通わなければいけない時間などがある。
 そんな様々な差し引きは抜いているが、それでも惜しい、惜しすぎる。なのはと一緒にいられない時間など0.01秒たりともあって欲しくないというのがはやての願いなのだから。

870一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:04:18 ID:Ehh.iCvk
「なのはちゃんを“ひとりぼっち”にしてた癖に――よく“家族面”出来るもんや」

 本当に大事にしているなら、6日間も友達の家とはいえ泊まらせんやろ。
 だけど、そのお陰でなのはちゃんに会えて、家族になれたんやけどな。
 そう考えてはやては自嘲気味に笑った。それだけは、あの家族に感謝してもいい。
 しかし他は駄目だ。一切合切認めない。高町士郎も高町桃子も高町恭也も高町美由希も誰も彼も。
 なのはを傷つける者なんて、なのはを傷つけた者なんて、誰一人として許しておくものか。

 だから――はやてはいつか昔に高町士郎から、そして高町桃子からの“誘い”を断った。
 “一緒ニ住マナイカ”という誘い。或いはそれを承諾していればプラス24時間はなのはと一緒にいれたかもしれない。
 けれどその24時間もなのは以外の誰かといることが、その24時間もなのはが自分以外の誰かと過ごすのを“見る”のも我慢出来ない。

 学校もまた同意義。この足が自由に動いて四六時中なのはの傍にいられるなら聖祥大附属小学校に通うのも悪くはない。
 だが現実は車椅子生活というこのざまだ。例えば体育だったら見学は決定的、はやてとは違う誰かと準備運動をするなのはを見ることになるなんて気が狂いそう。

 だったら、見ないほうがいい。それくらいだったら、知らない方がいい。
 “殺意”を覚えて“実行”しかねないから。もしもそんなことになれば――なのはに迷惑がかかるから。
 勉学自体は身体障害を理由に通信教育でなんとか出来る。顔も知らないはやての保護者である“あしながおじさん”もそれでいいと言ってくれているし。

 衣食住に十分なお金、そして高町なのはという家族が揃った環境は八神はやてにとって楽園。
 “依存”という関係に浸りきった少女達に残された絶対に失ってはならない桃源郷。

「はやく――帰ってきて、なのはちゃん」

 消えるように呟いて、はやてはなのはの帰りをじっと待つ。
 一秒が何年にも感じられる地獄のような時の巡りを静かに、静かに。

871一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:05:33 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ 3『H』

 原因は、肌寒さだった。いつも自分を包み込んでくれていた太陽のような暖かさの消失。
 そんな違和感を感じて、はやては重い目蓋をゆっくり開くと――。

「……ん、ん」

 隣に寝ていたはずのなのはの姿が無い。

「…………」

 いない。いない。どこにもいない。

「…………“う、あぁ”……」

 身体が静かに震えていく。落ちつけ、落ちつけ。
 ひょっとしたらトイレかなにかで下にいるのかもしれない。
 ここは寝室、二階の部屋だ。“壊れる”のはまだ早い。早計だ、心臓の鼓動を落ち着かせろ。

 そう自分に言い聞かせて、ベッドの横の車椅子に乗ってバリアフリーの階段を下る。
 探した、それこそ草の根わけて、声すらあげて、なのはを探しつくした。でもいない。
 いない。いない。どこにもいない。なのはがいない。そこから先のことをはやては覚えていない。どうやって寝室に戻ったことすらも。

 だってなのはちゃんがいない。どこにもいない。靴が無かった。この家から出て行った?
 なのはちゃんはどんな特別な用事でも私に話さないで出て行くことはないし置手紙だってないってどういうことなんよ
 悪い人に攫われたのかなそれだったら逆に安心するんやけどだってそれなら不可抗力やなのはちゃんの意思やないから
 せやったら助けださんとでも私のこの足じゃどうにも助けられへんしそもそもなのはちゃんは本当に攫われたのかな
 ひょっとしたら私に愛想つかせてでていったってことはないよな大丈夫ないないそんなことないにきまってるけど
 でも本当にないかな私がしらないうちになのはちゃんのこと傷つけてたってことがほんとうにないかなわかんない
 わたしなのはちゃんのことすきなのになのはちゃんはわたしのことすきじゃないんかなこまったなどうしよう
 またわたしひとりになってまういややそんなのいややひとりはいややもうこわいこわいなのはちゃんどうしていないの
 すてないですてないでどこにいるんなのはちゃんあやまらせてかおをみせてなんでそばにいてくれへんのなんで
 どどうしようこわいよいきができへんなのはちゃんたすけてずっといっしょにわらってごめんねどうしようあいしてる
 あしたのあさごはんはどうしようなのはちゃんどこやあいつらがまたわたしからなのはちゃんをうばったのかかえせ

 ――ゃん

 どうしてふたりっきりにしてくれないんよわたしからにどもかぞくをうばうなんてかみさまはどれだけいじわるなんや

 ――ちゃん

 ごめんなさいあやまるからなのはちゃんをかえしてあまえさせてあまやかさせてきらいきらいなのはちゃんいがいぜんぶきら

「はやてちゃん!」

872一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:07:10 ID:Ehh.iCvk

 聞きなれた、それでいて愛しい声が聞こえたような。
 はやてはそこでようやく自分が誰かに抱きしめられていることに気がついた。
 温かい、人肌と呼ばれる人間特有の体温が齎す安らぎの安心感たるや、“壊れた”はやてを静かに落ち着かせるほどだった。

 はやてのぶれる視界に映りこむのはいまにも泣きそうななのはの姿。
 ああ、またやってしまった――とはやては心が痛む。“なのはがいなくなるとこうなる”のは、他でもなくなのはの為に治さなければならない“びょうき”なのに、と。

 なのはが自分の知らないところでほんの少しいなくなったというだけで。
 なのはがいなくなったのはひょっとしたら自分に愛想をつかしたのかもしれないと考えるだけで。
 はやては地獄に落とされたような気分になってしまう。麻薬に魅入られてしまった廃人の如く、なのはに依存しきった少女の末路はこんな“ざま”だった。

「――どこいってたん? こんな夜中に急にいなくなるなんて」

 “私の傍からいなくなったんじゃなかった”ということを確認できれば、もう怖いことはなにもない。
 もう身体は震えない、声だって擦れないし涙だって出ない。愛しい愛しいなのはがすぐそこにいるのだから。

「ごめんね、えっと……なんていったらいいのかな……ううん……簡単にいうと――」

 てへへ、となのはがはにかみながら、どこか誇らしそうだった。
 もしくは新しいイタズラを覚えたような、楽しそうな微笑だった。

「私、魔法少女になっちゃった」

 なんだ、そんなことか。よかった、そんなことだったら安心できる。
 そんな理由で居なくなっていたのか。ああ、今日も今日とて本当によかった――“なのはちゃんに嫌われてなくて”。

873一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:08:48 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ 4『H』

「ごめんね、危ないことしないでねってはやてちゃんに言われてたのに怪我して心配かけちゃって……」

「あの子フェイトちゃんっていうんだって。悲しい瞳をしてるんだ、なにがあって戦うのかな」

「なんでそんなにフェイトちゃんに構うのかって? うーん……友達に、なりたいからかな」

「うん、全部終わったよ。フェイトちゃんのお母さんのことは残念だったけど……フェイトちゃんは、プレシアさんの分も頑張らなくちゃと思うんだ」

「フェイトちゃんがビデオレターしてくれるって。にゃはは、世界一遠い文通だね」

 フェイト、フェイト、フェイト、フェイト、フェイトフェイトフェイトフェイト・テスタロッサ。
 なのはちゃんが魔法少女になって人知れず世界を救う手助けをして以来、なのはちゃんの口から出る言葉はそれだった。
 やめて、やめてや……なのはちゃんの口から、私以外の名前が出るなんて耐えられへんよぉ……なのはちゃん……。

 なのはが学校にいったので今はこの家ではやて独りきりだ。
 以前はそれに対して憤慨したものの、ここまで落ち込んだ時は数えるほど。
 なのはの“きもち”が“はやて”じゃない誰かに移ろうとしている。それはきっと確かなことで、いつもの“びょうき”から齎されるものではないことくらいはやてはわかっていた。

 どうしよう、このままじゃなのはちゃんが奪われてしまう。盗まれてしまう。どこかに本当にいなくなってしまう。
 ぎりぎりと心臓が締め付けられる。嗚咽がなる、呼吸が苦しい、目の前が揺れる、そもそもいま自分はどこにいるのかすらわからない。
 “なのは”という存在を知ってしまった今、それから離れてしまえばきっとはやては正真正銘完全に“ぶっ壊れ”るのだろう。

 そうなってしまえば、もう元には戻らない。どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 “居なくなってしまえばいいのに”と、どうしても考えてしまう。思ってしまう。

「奪われるくらいなら、なのはちゃんがいなくなるくらいなら、いっそ……ころ――」

 頭を振る。無理だ、そんなことが今の私に出来るはずがない。
 なのはの話を聞けば彼女は魔法使いであり相当な強さを誇っているらしいし、そもそもフェイトは遠いどころか次元すら違う別の世界にいるのだ。足も動かない、普通の人間な私にどうやれば彼女を――。

 ここではやてが悩んでいるのが“殺人という禁忌”ではなく“殺人の実行法”という時点で、もはやはやてに“正常な思考”は残っていなかった。

874一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:10:40 ID:Ehh.iCvk

 そんな時に、はやての元に現れた存在の間の悪さ――否、“良さ”は不幸だったのかそれとも逆なのか。
 闇の書と呼ばれる魔導書に選ばれたはやて。彼女が望めばどんなことでも行うと断言する守護騎士と呼ばれる存在。
 ああ、何たる行幸か。この者達はフェイト・テスタロッサと同じくして魔法使い。話を聞く限りではとても強力な力を有すらしい。
 だから、命令しようと思った。迷うことなく、あるがままに自分の願いを叶えてくれと。

「フェイト・テスタロッサという少女を■■■――」

 そう口にだそうとして、思いとどまった。殺人に対する禁忌なんて、論理なんて、理論なんてどうでもいい。
 どうでもいいけど――はやての大好きな少女がはやて以外の唯一“友達”と呼ぶ少女が死んだら、なのははどう思うのだろうと考えて。
 はやてはなのはを傷つける存在を何一つ許さないし許せない。なのに、自分がそれを行ってどうする、自分がなのはを悲しませてどうすると。

 奪われることを恐れる少女の持つ最後に残った理性の破片。
 孤独になることに震える少女の全てであるなのはに対しての感情。
 “八神はやて”がこのように壊れた人間性を有しているのはきっと自分しかしらないことなのだ。
 八神はやてはなのはに対して“ずっと一緒にいたい”と思われる対象でなければならないのだ。

「けど……このまま、どうすればいいんよ……」

 わからない。八神はやてにはもうなにもわからない。

 ――それに狂えるほどに思い悩む日々が続き、ついにその時は訪れた。

「はやてちゃん。私、少しずつでも、大人になろうと思うの。フェイトちゃんは一人で頑張ってるのに、私って凄いわがままだったんだな、って思って」

 それが、決め手だった。なのはが“相互依存”という関係に疑問を持つという、世界の終わりに等しき思考。
 “ふたりぼっち”という楽園から羽ばたこうと、自立しようという最高最悪の志。世界が音を立てて崩れ落ち、世界は色素を失った。

「な、なんで……急に……」

「うん……はやてちゃんには、家族が出来たから。本当の、家族。もう、私がいなくなっても独りなんかじゃないから。
 はやてちゃんは、私の大好きな友達だから。このまま私と過ごしてたらきっと駄目になる。もう駄目になってるかもしれない。
 それが嫌だから――私達、変わっていこう? 少しずつ、良いほうに、正しいほうに――大人に、なろ?」

875一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:12:24 ID:Ehh.iCvk

            
            
「なぁ、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ――みんなは、私が望めばなんでもしてくれるって、いってたやんな……?」

 傅く騎士とそれを虚ろな瞳で見下ろす少女という光景は一枚の壁画たりえる美しさすらあったように思える。
 はやての言葉に騎士達は声をそろえて進言する。

「はい、我が主。全ては主の望みのままに我らヴォルケンリッターは剣を振るいます」

「なら、お願いがあるんよ……“フェイト・テスタロッサ”って女の子をな――」
             
             
             
             
 守護騎士達が次元を越えて跳躍したのを確認すると、ベッドの上ではやては息を引き取るように静かに目を瞑っていた。
 なのはと暮らすようになって、守護騎士達と暮らすようになって、この家で独りになるのは本当に久々のような気がする。

「――誰やろうなぁ」

 誰だったのだろうか。
 八神はやてから高町なのはを本意にせよ不本意にせよ奪うことになったフェイト・テスタロッサが悪い。
 八神はやてをここまで腐らせておいて去ろうとする高町なのはも悪いし、そんななのはから抜け出せない八神はやても悪い。

 けれど、誰だったのだろうか。それでも、誰だったのだろうか。
 こんなことになってしまったのは、こんなざまになってしまったのは、“一番悪かったのは”――。

 いったい、誰だったのだろうか。

「一番悪い子、だーれだ」

876一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:13:35 ID:Ehh.iCvk

 ■■■ ?『N』

 あの日、私は近くの公園で独り泣いていた。独りで泣くことしか出来なかった。
 お父さんが事故で怪我をして、家族みんなはお父さんのことで、自分のことで、未来のことでいっぱいになってしまって私のことなんて気にする余裕がなかったこと、少しだけ大人になった今の私ならわかる。

 でも、あのときの私はそんなことわからなかった。いってくれなきゃ、お話してくれなきゃわからなかった。
 捨てられたと思って、居場所がなくなったと思って、構って欲しくて泣いていたのに、それでも誰も構ってくれなくて。

 そんなときだったんだよね。はやてちゃんが話しかけてくれたのは。
 嬉しかったなぁ。世界で一人ぼっちだった私に声をかけてくれたのははやてちゃんだけだったから。
 甘えさせてくれるのは、優しくしてくれるのは、私を抱きしめてくれるのは、同じ年頃の女の子だけだったもん。

 そりゃ、好きになるよ。恋狂うほどに愛してしまうよ。
 ふたりっきりの楽園で、閉じこもろうとしてしまうのも、当たり前だよね。

 でも、気付いちゃったんだ。はやてちゃんが本当に“私と一緒にずっといてくれるのか”って。
 もしもはやてちゃんの足が治ってしまったら、ひょっとしたら、はやてちゃんはその足で私から離れていくんじゃないかって。
 はやてちゃんの足が治るのは喜ばしいことだけど、その足で逃げられたら私はきっとはやてちゃんを捕まえられないから。

 はやてちゃんがいなくなったら、私はあの公園で泣き続ける日々に戻ってしまうから。
 だから、鎖が欲しかった。はやてちゃんをずっと私に繋いでおく鎖。最初は“嫉妬”で縛ろうとした。
 けど、弱いの。嫉妬なんて鎖はきっとすぐに断ち切れて、簡単に束縛を解いてしまう。

 だったら他になにがあるかな。そんなことを必死に考えてたら――。
 守護騎士ってプログラムさんがはやてちゃんの元に現れちゃった。
 私以外の存在がはやてちゃんの傍にいるようになっちゃった。まずいと思った、どうにかしなきゃと焦って、ようやくその答えに辿りつけたんだよ。

877一番悪い子だーれだ? ◆Yari//HqpE:2011/11/07(月) 23:16:18 ID:Ehh.iCvk
 “私の為に人殺しという罪を背負わせちゃえばいいんだ”って。
 はやてちゃんはとっても優しくて、とっても純粋な子だって知ってるから。
 きっとその人殺しの罪ははやてちゃんの生涯に纏わりついて、私という存在を永遠に覚えていてくれるから。
 私の為に人を殺すなんて覚悟は、生涯一緒に居て欲しいってくらいの気持ちがないと無理だと思うもん。
 私がはやてちゃんのことを大好きなように、きっとはやてちゃんも私を大好きだから。お互いに依存しきってるから、それくらいわかるんだよ?

 だから、たまたまはやてちゃんに嫉妬して貰うのに丁度いいかなって思ってたフェイトちゃんがいたから。
 フェイトちゃんを“やっちゃうように”誘導しちゃった。思いのほかうまくいって、笑いそうになっちゃった。

 順調、何もかも順調だよ。ふたりだけの楽園に部外者なんていらない。
 わたしたちにわたしたち以外の“かぞく”なんて必要ない。私たちはふたりでいい。ふたりだからこそいいんだもん。

 私って、結構強いみたいなの。魔導師ランクAAAって、少なくて貴重で強力なんだって。
 これくらいの力があれば、シグナムさんもシャマルさんもヴィータちゃんもザフィーラさんも倒せちゃうし、はやてちゃんに何かあっても守れるよ。

 闇の書なんて、いらないよね? 壊しちゃっても、かまわないよね?



 大好きな大好きで誇りたいくらい大好きな私の友達。
 愛して愛する壊したいくらいに愛してる私のかぞく。

 だから、はやてちゃん――ずっと、ずっとずっとずーと……。

           

  ワタシヲヒトリボッチニシナイデネ
 “私の傍で一緒にいてね?”
            

            

            
            
 『一番悪い子だーれだ』 おわり

878名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 23:19:17 ID:Ehh.iCvk
代理投下終了

それと保管庫司書様。お手数ですが、
>>846のプロローグの1行目、5行目、1章の4行目、13行目(2箇所)
計5箇所でつかわれている「" "」(半角)を「“ ”」(全角)に直していただけますでしょうか。
コピペのミスか、元データでは全角なのに半角になってしまいました。申し訳ない。

879名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 23:20:28 ID:Ehh.iCvk
>>846じゃなくて>>864だった……重ね重ね失礼しました


ついでに感想

オチとしては、はやてを掌のうえで躍らせていたNさんkoeeee!!になるんだろうけど、はやての歪みっぷりが濃すぎてむしろそっちが印象に残りました
なのはがいないいないと探し回るはやての狂態とか、一緒に住まね?って高町夫妻の提案を嫉妬のせいで蹴っちゃうところとか凄まじすぐる・・GJ

880名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 23:21:09 ID:56XhanQ.
投下乙

二人の寂しがりやはすれ違ったまま終わったのでした、と

881名無しさん@魔法少女:2011/11/07(月) 23:44:59 ID:l06wCU/Y
めっちゃ病んでるなぁ2人とも
ラグナロクの音って闇の書が発動したのか
てことはNさんやっちまった・・・
ところで槍氏ってアルカディアのあの槍の人?
なんにせよ投稿&代理乙、面白かった

882名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 00:07:56 ID:xIBAwMqY
閉鎖的な空間に閉じこもる少女たちってシチュ大好き

883名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 00:53:42 ID:k5lJ0WiU
何でこの子達はこんなにも病んでるのが似合うんだろう

884名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 05:15:14 ID:.S/DsTA6
ひょっとして「魔法」とは、貴女方の想像上の現象ではないでしょうか

885名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 05:55:15 ID:dRht7Co2
あれ?
したらばってこんなに左によってたっけ?

886名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 11:13:59 ID:qBA.GvCM
>>882
ここを覗いてる人間は大なり小なり閉鎖的空間に篭もってるだろうけどなw

887名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 13:09:47 ID:qcOcv4rI
良いな、実にヤンデレだ
依存しまくった病み少女は好物
GJ

888名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 20:34:40 ID:MWtXa7PE
>閉じこもる
大は地球圏から小は心の中まで

889しずひと ◆XCJ6U.apcs:2011/11/08(火) 22:53:10 ID:MWtXa7PE
欝・ダーク祭り投下準備よろし!

タイトルは『もう人間じゃない』

890しずひと ◆XCJ6U.apcs:2011/11/08(火) 22:59:30 ID:MWtXa7PE
欝・ダーク祭り参加作品

注意
・非エロ
・欝・ダーク属性

891名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 22:59:49 ID:oXXTuxKc
パンツ脱いで待ってる

892もう人間じゃない1:2011/11/08(火) 23:00:41 ID:MWtXa7PE

 あの日から随分と月日が立ちました。あの頃の私には、自分がこんなことになるなんて思いもよりませんでした。



 八神はやては、目を覚ますとぐぐっと伸びをした。
 カーテン越しに差し込んでくる日差しは、近づいてくる春を感じさせて暖かい。
 はやての傍らには髪を下ろしたヴィータが丸まっている。
 ヴィータの眼を覚まさないように、そっとベッドから立上がった。

 夜天の書の管制人格・リインフォースの消滅という形で『闇の書事件』が終息してから、二ヶ月が経とうとしていた。
 その二ヶ月の間に、良いことが二つあった。一つには来春から聖祥小学校へ編入することが決まったことだ。
 すずかはもちろん、アリサ・なのは・フェイトも、

「おめでとう!」
 
 と祝福してくれた。
 
 もう一つは、はやてが立ったのである。もうはやては杖もなしで歩き回れるほどに回復していた。
 はやての異例の回復に、主治医の石田医師は喜びつつも首をひねったものだ。

 最近のはやては、よく笑う。


 はやては歩いていた。
 
 歩けるようになってからは、はやては散歩を日課にしている。
 ヴォルケンリッターたちが闇の書から現れてからは外出する事も増えたが、それでも家に引きこもりがちだった事もあり、体力を養うべく始めた事だった。
 もちろんそれだけの事ではない。はやて自身も歩き回れる事が、

「めちゃ嬉しい」

 のである。
 ずんずんと歩くと、見慣れた筈の町の様子も車椅子を使っていた時とはまるで違って感じる。

 
 まるで生まれ変わったような気分だった。

893もう人間じゃない2:2011/11/08(火) 23:01:17 ID:MWtXa7PE
「はあ……?」
 
 どういうことだか理解できない。
 はやてはぽかんとしてマリエル・アテンザを見つめ返していた。
 マリエルの痛ましげに眼を伏せたのが実に不快だった。
 はやての身体は夜天の書由来の組織に置き換わって居るのだと言う。
 
 ヴォルケンリッターたちは、まるで取り返しの付かない失敗をした子供のように打ち拉がれた顔を並べていた。

「それで、どういうことでしょう。何か不都合が?」

 歩けるようになったのだ。リインフォースと同じ融合騎の肉体になったとして、何の不都合があるというのだ。


 当時の私は愚かにも、人間ではないと言うことの意味が理解できませんでした。
 あの日からもう随分と立ちましたが、私の身長はあの日から全然変わっていません。これから先もずっと変わらないことでしょう。
 次の年の春には、私たちは海鳴の家を引き払っていました。もうそれ以上は成長しないことを誤魔化して暮らしていくのは難しかったものですから。
 あの頃の友達で、生きているのはもう一人もいません。
 でも寂しくはありません。私にはヴォルケンリッターのみんなが居てくれます。

 そう、ずっと、永遠に……

894しずひと ◆XCJ6U.apcs:2011/11/08(火) 23:01:59 ID:MWtXa7PE
以上です。

お粗末さまでした。

895名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 23:05:08 ID:7VUt180g
乙ですー

896名無しさん@魔法少女:2011/11/08(火) 23:45:57 ID:3awHNBBQ
投下乙
しかし不老不死が欲しい人にとっては羨ましい話かもしれない

897名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 03:21:04 ID:6BbLZkAI
永遠のロリっ子最高じゃないか!!!

898名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 04:13:59 ID:W9t5Ix.w
>>896
つ火の鳥 未来編

899黒天:2011/11/09(水) 10:20:30 ID:G.ipdBF.
>不老不死が欲しい人にとっては羨ましい話かもしれない
そういえば戦闘機人組は老化とかしないんだろうか?
ナカジマ姉妹は子供時代があったけど、身体能力が高い若い姿に固定されたりするのかな。
何百年にも及ぶ次元航行に耐える為、老化を防ぐor遅らせる薬とかを開発した文明とかあったりして。

900名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 10:41:13 ID:WXg2Teyg
まるで00のイノベイターだな。そこまでいっちゃうと。
なのは風に解釈すると、夜天の魔導書のような蒐集行使型ストレージデバイスにデータとして保存しておいて、必要に応じて魔力で体を構成するという形にすれば、少なくともデータが正常である限り永遠にそのままだろう。
本体は本のほうのデータなので、体は破壊されても本が無事なら再生可能だし。

901名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 10:48:37 ID:r.Y4fAeo
リリカル世界の一部のキャラクターは『老化現象、何それ』を地でいくからなあ……別段、戦闘機人じゃなくとも若いままのキャラはいそうなんですが。
……その割りに合法ロリは少ないかも。

902名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 11:36:21 ID:iknGRFlA
>>901
リイン2やアギトは単なるチビだし、
実質ヴィータだけかな。
無限書庫の最奥掘り返せばロリババアくらいはいそうだし、
リンディさんはどうなってんのか知らんけどw

903名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 19:56:31 ID:iabtEGCw
耳も遠くなり鼻も利かなくなったザフィーラ
日がな縁側で一人で昔語りするシャマル
老境著しい八神シグナム斎
食事に下の世話にと介護に忙しいはやてとヴィータ

904サンポール:2011/11/09(水) 22:24:50 ID:7TKZmKX2
ユーノとキャロを書きながら少し振りに来たら欝祭りだって……!
思うが侭に荒削りなものを書いてしまいました。今日投下予定の方はいらっしゃるのでしょうか……?
いるならパンツ脱ぎます。

905名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 22:34:01 ID:2Bk7fvnc
you 投下しちゃいな yo !!

906名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 22:34:59 ID:/d1wV8ck
>>904
どうぞ。というかお願いしますw

907サンポール:2011/11/09(水) 22:39:05 ID:7TKZmKX2
鬼落とし


「生を」

「生一つですね、畏まりました」

「あ、僕はジントニックで」

「はい。生お一つジントニックお一つ。以上で?」

「はい」

「ありがとうございます」

賑わいが絶えず聞こえる。四方から楽しそうに話す声が届き、雑音のようで合唱のようにも聞こえる。

「クロノ、飲みすぎじゃない?」

「かもな」

二人の男が向かい合って腰を落としている。顔も赤く酔いが程良く回っている。
かたやクロノ・ハラオウンは艦長の職についているが、現在エスティアが調整中の為一時的に本局に寄港している。
何時までかかるかは、さだかでない。

「らしくないなぁ」

杯に残る酒に口づけながら、酔いで熱くなった吐息を柔らかな唇から逃がす。
男二人。クロノに時間ができたからと、ちょいとつまみと話を肴に酒を飲む次第。
主にクロノが愚痴を言い、ユーノがぽんと相槌を打ちながら聞くを繰り返す。

かれこれ二時間が経ち、程良く出来上がってきたがクロノの演説は終わりそうにない。
全て酔いに任せて思うがままに愚痴を並べていく。

「僕だって家族を思えばもっと近くにいたいと思うが、そう簡単にはいかないだろう」

「うんうん、そうだよね」


へぇ。
そうでございます。
へぇ。

かしずく小僧のように相打ちの言葉を並べていく。調子が良い、といえばそれまでだが
それもまた酒の魅力。気にするでもなく言葉は続く。

「正直に言うぞ、僕だってエイミィとしたいんだ。数カ月も妻に会えない気持ちが解るか?」

「そうだよね。ごめん。大変だよねクロノも」

「この前夢にまででてきたんだ…… それなのに連絡をすれば文句だったり、子供達はそっけなかったり……」

嘆きと共にテーブルの上に頭が泥船宜しく轟沈していく。確かに、夫婦生活の無い若い夫婦というのは空しさを覚える。
唯一の女を抱けないというのも、男にしてみれば苦痛だ。無論。普段のクロノ・ハラオウンならば一片たりとも漏らさない不満だろうが。
それもやはり酒の魔力か。酒は飲んでも呑まれるな。とあるが人間は脆い。

「でもエイミィさんを裏切らないあたりクロノも優しいよね」

「裏切れる訳ないだろう」

顔が揺れ上目づかい。

「だよね」

「だよねーじゃなくてだな」

あがる顔。
再び始まる話。

「うん、うん」

手頃な相槌が陽気に打たれる。
酔っ払いの大丈夫程信用におけるものはないのか、それともユーノ自身酔っているのか。
それは誰にも解らない。冗談、笑い声、食器の音。注文。周りの席から絶えず聞こえる合奏は心地よい。
枝豆を口に運び、舌上にて踊らせる。

一つ、二つ。
やれ三つ四つと手が伸びる。
酔えば頭は熱くなり思考が鈍くなる。
頼んだ酒がくればまた口づけて、酒の美味さに付け込まれ、酔いは深まる。

普段のクロノならばここまで深酒はなかろうて。
日頃の鬱憤か。はたまた、気を許せる友がいるためか。
顔も赤く酔っているのは一目瞭然だった。

その後も二人は呑み続け、店が閉まる少し前までいたのだが……クロノが呑み過ぎた為、
ユーノの家に泊まる事に。だが、そこにはなのはがいる。

「悪いから帰る」

とクロノは言ったが大丈夫と言ってユーノはきかない。

908鬼落とし:2011/11/09(水) 22:41:30 ID:7TKZmKX2
案外ユーノも酔っていたのかもしれない。一応なのはに連絡をとってから、帰宅することに。

「ほら、クロノ」

「ああ……」

酔ったクロノを抱えるようにタクシーから降りる。
風が程良く吹いては心地よいが、目の前には一軒家がある。

「ほら、後は寝るだけだよ艦長さん」

「ああ……」

酔っ払いの典型だった。そのままユーノは自宅にあがると、なのはに出迎えられる。

「御帰り、……クロノ君大丈夫?」

「ああ……」

珍しいものをみるように。なのはは目を丸くする。

「もうこのまま客室に寝かせちゃうから」

「うん、解った」

「ほらクロノ。後少しだよ」

「ああ……」

単調な返事に苦笑しながら、ユーノはクロノを客室へと運びベッドに寝かせる。
クロノは、楽になると意識を手放しアルコールで火照った体を眠りへと落とした。

「これでよしっと」

一息つく。ユーノは、静かに客室を後にした。
夜は静かに更けていく。梟の鳴き声もないが、クロノは眠りながらも熱い何かにうなされていた。
アルコールではない。別の何かだ。
何度も何度も、唸りながら寝返りを打つ。苦しさから逃れるように。

それでも、熱は消えない。

「…………ん゛」

目覚めると、自分がどこにいるのか全く分からなかった。
暗闇。静寂。静かに聞こえる時計の秒針。まだアルコールも抜けきっておらず、火照りも完全には消えていなかったが
居酒屋を出た時に比べれば、幾分マシに思えた。それでも、酷く喉が渇いていた。

「(水……)」

渇きから逃れたいが為に、水を求めた。
ベッドを這いずり、部屋を出る。部屋同様暗い廊下を壁伝いに歩いて洗面所を目指す途中。
扉が半端に空いている部屋がある事に気付いた。

人様の家だ。中を伺うのもよくないだろうと停滞した思考で考えたが、
中からは身心定まらぬ女の声が聞こえ、思わず足を止めてしまった。

途切れ途切れに、かつ抑揚のない抑えのきいた声だったが魅力的な声だった。
覗くべきか覗くまいか。足を止めたクロノは、己の心臓が早足になっているのに気付いた。
これも体に残るアルコールのせいではあるまい。

「……………」

唇は乾き体に緊張が走るが、周囲の暗闇に負けた。
そっと、部屋の中を覗くと衣服を纏わぬなのはがベッドの上で自慰に耽っていた。
途切れ途切れで、声を抑えて喘ぐその姿は妖しくもあり、美しくもあった。
目が離せない。

みるみる間に股間は勃起し、喉の渇きも忘れなのはの自慰に夢中になった。
今すぐ部屋に入って襲いたい衝動に襲われるが、一抹の自制心に待ったをかけられてしまう。
妻を数カ月抱いていないとはいえ、家庭と友人関係を崩す訳にはいかない。

喉の渇きも顕著だが、胸に植えつけられた熱い感覚も一入。
股間に指を当て擦る姿に魅せられる。
肉付きの良い女が一人乱れているのは、ある種の拷問だ。襲ってしまえ、とも頭の中で浮かんだが
ユーノがちらつき踏みとどまった。

「(…………ッ!)」

強姦はよくない。クロノは音立てぬようにその場を後にすると、洗面所で水をたらふく腹の中に流し込み、
トイレの中で一物を握りしめた。自慰もここ数カ月していなかったが、飢えた獣のように当て擦った。
残るのは荒々しい吐息のみ。

まだ火照る体は、さらに熱くなった気がしたが性欲は抑えられた。
理性を呼び戻し、これでいいと一人納得する。
ばれないように始末をすると、いそいそと客室に戻る。途中、なのはのいた部屋が気になったが、もう扉は閉められていた。
開ける気にはならなかった。

廊下同様暗い客室に戻ると、ベッドに突っ伏し眠りの中へ落ちて行った。
朝まで目覚める事は無かったが、なのはを抱く夢を見てしまった。

909鬼落とし:2011/11/09(水) 22:42:35 ID:7TKZmKX2
翌朝。アルコールもすっかり抜け二日酔いもない快調に目覚める。
リビングに赴くと、なのはがいた。

「おはようクロノくん。よく眠れた?」

「あ、ああ……」

昨夜を思い出してしまい、少しぎこちなくなる。いっそのこと、ユーノがなのはを抱いているところを見られた方が
幸せだったかもしれない。

「朝ごはんもうすぐできるから座って待ってて」

「ありがとう、態々すまない」

「平気平気」

なのはは、いつも通り飄々としている。さすがにアルコールがぬけた状態でいきなり人の女に襲いかかる程クロノも獣ではないが、
なのはの尻を目で追っていた。それ以上もそれ以下もなく。

「おはよう、クロノ。酒抜けた?」

「おはよう。お陰さまで」

ユーノが現れるまで、頭の中は桃尻で一杯だった。
食事を終えるとユーノと共に本局まで出勤し仕事をする。
普段はエスティアの中で生活をしている為サラリーマンに似た行動はある意味新鮮だったが、ある種苦痛が伴った。

なかなかエスティアの調整が終らないのだ。
気にしない人間は気にしないだろうが、いつまでいるの? という眼差しを向けてくる連中も少なからずいるということだ。
人間多様である。そんな煩わしさも普段ならば平気だが、この際だからたまりまくった有給を使ってしまおうとクロノは決断する。
第98管理外世界。

地球の自宅へと赴く。
(一応)土産を手に、実家に赴くと

「どうしたのクロノくん!?」

と、妻に驚かれた。
嬉しいやら悲しいやら、だ。

「ホームシックにでもなったのかい?」

とアルフには突っ込まれ母親であるリンディにはあらあらと笑われる始末。
息子と娘にも顔を合わせると、

「お父さんだー!」

と喜んでくれたのは嬉しいが、適当に本局で買った物販のみやげ品の方が喜んでいたのにはとほほな気分であったとか。
苦笑いの紆余曲折あれど、やっぱり家族はいいものだとクロノは実感する。妻がいて息子達がいて、アルフもリンディもいる。
そういう空間にいると、ホッとするのを実感した。やはり、家族というものは大切なものだ。良いものなのだ。

そんなこんなでクロノの本局生活は続いたが、またある日ユーノと二人で飲む事に。
今度は店ではなく、最初からユーノ宅で飲む事に。悪いから、と最初は断りを入れたがユーノがいいからいいからと押し切った。
今回は前回のように潰れるまで飲まない、と誓ったが、気付いた時には前回とまったく同じ状態になっていた。

「(僕はこんなに酒が弱かったのか……?)」

ぐわんぐわんする頭で考える。リビングで、ユーノも潰れている。
キッチンで水道水を貰い、一息つく。そういえば前回は、ここでなのはが自慰を……と思い出した時。
ある考えが浮かんでしまった。

”変身魔法を使って、ユーノに化ければなのはとできるかもしれない”

「(いや、いやいやいやいやいや……!)」

なのはだって一流の魔導師だ。そんな事をしてばれないはずがない。
酔っている、と思いながらクロノは帰ろうと思ったが、もう時刻は零時を回っている。
転送ポートは深夜帯は稼働していないし、緊急時以外での私用の転送魔法は管理局法に引っかかる。

仕方なく、なのはに許可をもらおうと部屋に赴く。律儀な男だ。そして、もしなのはが寝ていたらリビングで雑魚寝させてもらおうと思ったが……
以前同様扉が半端に開いていた。期待と興奮と色んなものが織り交ざる。恐る恐る、中を覗くと、再びなのはは自慰に耽っていた。
そして

「クロノくん、クロノくん!」

自分の名前を呼びながら乳房をもみしだき、クリトリスをいじる姿に我慢はならなかった。
卑屈にも変身魔法で姿をユーノに変えると、バインドでなのはの視界を潰し、そのままなのはを抱いた。
背徳感の赴くままに、クロノはなのはを抱きユーノは静かに眠っていた。

910鬼落とし:2011/11/09(水) 22:43:55 ID:7TKZmKX2
2.

人生の汚点、とも言うべきか。クロノはなのはを抱いた事を墓場まで持って行く事にした。酔った勢いとは恐ろしい。
幸い、なのはにもユーノにも気付かれずに終わったようだが、自分を律するべくもう当面は酒を飲まないと決めた。
そしてユーノにも飲みに行かない事をクロノは誓った。本局でまじめに仕事に取り組み、堅実実直たるクロノ・ハラオウンを演じていた。

無難な日々をやり過ごすと、もうすぐ妻であるエイミィの誕生日を思い出した。こういうイベントを逃すと、妻や義妹から
こっ酷くお小言を頂く羽目になる。仕事が終るとちゃんと買い物にでかけ、帰路につくさなかエイミィに連絡をとる。
誕生日ぐらい、二人で食事を。と思った次第。連絡をとると、直ぐにエイミィは出た。少し乱れた吐息で。

「はっ……く、クロノくんどうしたの?」

「すまない、今は大丈夫か?」

「う、うん……平気だよ……?」

「そうか。来週の4日は君の誕生日だから、一緒に食事をと思ったんだけど都合は大丈夫か?」

「うん……へ、平気ー……た、楽しみにしてるよ……つ」

「僕も楽しみにしておく。それじゃ」

「ま、まったねー……」

そこで通信は終った。特に呼吸が乱れていたのを聞かなかったが、風邪かな? と考えた瞬間。嫌な考えが脳裏を走った。
つい最近、聞き覚えのある吐息をクロノは耳にしていた。なのはを抱いた時だ。息をおさえるようにしながら喘ぐその姿に
無性に興奮したのも他でもない自分だった。股間がむずむずするのも嫌だったが、エイミィが、誰かに抱かれながら連絡している姿を考えると、
死にたくなった。

「(ああ……っ)」

もう二度と浮気すまいと誓うクロノだった。
が、やはり浮気疑惑は消えなかった。あれは少し動いた後だから呼吸があがっていただけ。風邪気味なので声が変だっただけ。
この前自宅に行った時もそうだった気がする。あれは、後ろでアルフが笑わせようとしていただけ……息子達が笑わせようとして頂け。

「…………」

希望的観測が次々と立ち上がっては消えていく。自分がつい先日不倫をしたばかりなだけに不安だった。それまでのクロノ・ハラオウンは
堅実実直で浮気などありえないと言い切る事はできたが、酒の力とは恐ろしいものだ。今でも戻れるものならば、なのはを抱かずにやりすごすだろう。
過ちはやはり過ちでしかない。エイミィに直接聞くべきであったが、それを実行する勇気はクロノには無かった。

「(仮に浮気をしててもいい)」

なんて建前の言葉を浮かべても駄目だった。クロノ以上に。エイミィは女なのだ。
そう考えるとどうしようもない。悶絶の日々が始まった。

「……ハラオウン艦長どうしたんだ?」

「さあ、何か考え事じゃね?」

「そか」

周囲からみれば、そんな感じだった。結局、浮気じゃない。浮気をしているの考えがぐるぐると脳裏を巡りどうしようもなかった。
こんなところでチキンハートが目覚めてもしょうがないというに、さんざ迷った末、エイミィではなくアルフに連絡をとってそことなく聞いてみる事に。
これが仕事ならば、もっとスマートな対応もとれただろうに。不穏を胸に抱き、連絡を取る。

「あいよー、どうしたんだいクロノ?」

回線を開くなり、ひょうきんというか。陽気で普段どおりな声でアルフは出た。生憎と、それで安心するクロノではない。

「あ、ああ……すまない。ちょっと聞きたい事があったんだ」

「あたしに? うーん解る範囲だと嬉しいなぁ」

「大丈夫だ」

自分で言っておきながら自分で言い聞かせるような感じだった。腹の中に厄介な塊を抱えながら、いざとばかりに尋ねてみる。

「最近、エイミィに変わりはないか?」

「エイミィ? んーないねぇ。何だい浮気の心配かい?」

けたけたと笑うアルフに、笑えない心境だが苦笑いをしておく。

「ちょっと違う……何もないなら、それでいい」

「ああ、でもユーノとはよく会ってるかなぁ」









「え?」

911鬼落とし:2011/11/09(水) 22:44:35 ID:7TKZmKX2

「え?って何だい。ユーノだよユーノ。よく子供達用の本を借りたりしてるからさ。
二人で食事もいったりしてるのさ。リンディが子育ては疲れるからーって」

「あ、ああそうか」

「心配し過ぎだね、あんたもさー。っていうかユーノは結構前からだし
うちにきてご飯もたまーに一緒に食べてるよ」

「そ、そうだったな……」

これまた適当に笑ってやり過ごしておく。
なのはとの夜が脳裏を掠める。適当な話で区切りをつけて通信はきる。もしも、ユーノがなのはを抱いた事を知っていたら……?

「(いや)」

それはそれでおかしい。記憶を掘り返すと確かにユーノの話はでてきたような気が(した)。
大丈夫……と思いながらも、どうしても疑心暗鬼は消えてくれなかった。自分がこんなにも狭量だとは思わなかった。
他人を抱いた自分を、クロノは殺してしまいたかった。戻れない夜は過酷だ。

結局、不倫調査を海鳴の人間に依頼してしまった。
これで白ならば何もいうまい。エイミィの誕生日にこれでもかと祝おう心に決め、黒ならば
考えたくなかった。どうするかは、その先に決める事だと考えることを放棄した。連絡自体は割とすぐに来た。
海鳴の喫茶店で合い、結果報告を受けるのだが。

「資料はここに」

とだけ残して探偵の人間は去ってしまった。料金は先払いなので気にしなくていいが、恐る恐る。
テーブルの上のファイルを手にとってクロノは眺めた。
腹の中の淀みは、掻き廻される気分だった。

エイミィが、男と手を組みながらラブホから出てくる写真が何枚も出てきた。
黒だった。しばらくの間その場から動けなかった。

それでもクロノ・ハラオウンは人で生きている。
脱力した体で喫茶店を後にすると本局へと戻り執務室の椅子にどっかりと腰を下ろした。
これが夢であればどんなに嬉しいか。
離婚か。
それとも知らぬ存ぜぬを貫き通すか。
話し合うべきか。

息子と娘は本当に自分の子供なのかと疑いたくなってくる始末だった。
案外、知らなければ良かった事実だったかもしれない。

「…………………」

そうであれば、幸せであったろうに。
知らない男の種で実った他人の子供を育てている。そう考えると、不気味さと吐き気が現れてどうしようもなかった。

「……ん?」

丁度、光学端末から連絡のサインが入る。仕事用だった。
相手は、ユーノ。他の人間ならば無視しかねない状況だがとにかくでた。

「はい」

「あ、……ってうわ。凄い顔。大丈夫?」

「ああ……平気だ」

「無理って言いながら平気って言ってる感じだよクロノ。
体調悪いなら無理しないでね」

「君に心配されるとは世も末だな」

「酷いよ、それ。で、悩みがあるなら聞くけど?」

「いや……」

大丈夫、と切り返そうと思ったところでクロノは戸惑った。
本当にこいつに話して大丈夫なのか……? と思ったのだ。

「気にしないでくれ、体調も悪くはない。ちょっと考え事をしていただけだ」

「そっか。何か迷ってるなら、その大本のところにいくといいよ
あ、それで仕事の話なんだけど……」

そこからは本当に仕事の話だったが、ユーノのアドバイスはクロノの心に残った。
おおもとのところにいけばいい、ということはエイミィとちゃんと話せばいいということだ。
いくら逃げても、終りじゃない。ただ逃げてるだけなのだ。

よしと意気込むと、クロノは直ぐに行動に出た。
早々に仕事を終わらせると、花を買い海鳴に赴いた。が、家には誰もいなかった。

「………………」

伽藍としている。
息子達も、アルフも母もエイミィもいない。丸ごといない。
攫われたのか、という心配がよぎったが、カレンダーを見るとみんなでお泊り! と書いてあった。
落胆するクロノだった。

912鬼落とし:2011/11/09(水) 22:45:32 ID:7TKZmKX2
嬉しいやら悲しいやら空しいやら。なんともいえない気分だった。
既に時刻は夜。せっかく家にまで来ているのだから一泊することにした。
風呂に入り、冷蔵庫にあるもので簡単なものを作ってからベッドに……潜る前にある事を閃いてしまった。

「…………」

エイミィの品物を漁る、ということだ。本来やってはいけないことだが
この家で誰もいないという状況は酷く珍しい事だ。ましてや、エイミィにも言ってないのだから
品物を隠している筈も無い。(一応)二人の寝室をあさるも何も出てこない。予想外だ。

「……………」

次はどこを探す? リンディの部屋? アルフの部屋? 子供達の部屋? なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
キッチンに赴きビールを取り出すとプルタブをきって酒を流し込む。禁酒の誓いはどこへ行ったのやら。
一本二本と勢いよく開けていき、結局10本近くあけてからふらふらと自室へと戻る事にした。

途中、物置になっている部屋でぴたりと足が止まる。
今日来てから、というよりもここ数年入っていないかもしれない部屋だ。

もしかしたら……? という疑念からクロノは中へと入った。
真っ暗とほこり臭さが少し鼻についた。手さぐりで照明をつけると、
整理されて物が置いてある。別段、へんなものは何もないがこの世界特有の記録媒体(DVD)を見つける。
何も表記はされていない。

「……………」

疑心暗鬼とは恐ろしい。それを数本手にしてままリビングに戻り再生してみることにした。
何も写ってくれなければそれでいい。そうであってほしい。もう浮気の証拠は掴んでいるのだ。
そして、真っ暗な画面が明るくなると写ったのはエイミィではない。

リンディだった。

”ドキドキしますね”

”そうね”

そしてそこはラブホテル。でも、リンディの他に聞き覚えのある声がした。

「……!」

手は停止ボタンを押していた。母が誰に抱かれようと母の勝手だ。いくら身内だろうとそれは母の自由だ。
そう思いながらも股間を膨らみそうなクロノは自己嫌悪した。次のdvdをいれて再生する。

”ねえ、エイミィさん”

”ん? なーに? ユーノ君”

”今日ゴム無しでいい?”

”えー危ない日近いんだけどなぁ”

”大丈夫”

”駄目だよそれはぁ”


「…………………」

ユーノ

だった。

そして先の母のビデオもユーノの声だった。間違いない。
先のビデオも明るいホームビデオと思いたかったがラブホでそれはないだろう。
やってることはやってるだろう。

頭がパンクしそうになるのをこらえた。
もう酒を飲む気にはならない。酔いも感じなくなっていた。
頭を手で抑えたまま無言になる。
呼吸は乱れていないが…… とにかく、後始末をしてクロノは家を後にして本局へと戻っていった。
自宅にいるのは耐えきれなかった、とも言う。

本局の自室に戻っても眠れる事は無かった。
シャワー何度浴びても悪夢はさめてくれない。気づいたら朝を迎えていた。
仕事のはじまりだ。気持ちはやるといっても眠っていない体は素直にうんとは言ってくれない。
矛盾にやや苛立ちながらも、仕事をしていると昼ごろに知人からメールが入った。


”to:大丈夫?”


件名は何だ、と思ったクロノだがメールを開くとネットワークアドレスのリンクがはられ、
接続するとなのはとクロノの情事が映し出された。なのはには目線モザイクとやや声モザがかかっているが……

”局内で噂になってるよ?”

「…………」

913鬼落とし:2011/11/09(水) 22:46:18 ID:7TKZmKX2
ならばどうしろというのだ。もう何もかもが支離滅裂な気分だった。
でも仕事をする辺りクロノ・ハラオウンだったが、トイレに赴いたり用件で執務室をでて誰かとすれ違うたびに

あっあの人は!

という目で見られる。鬱陶しい事この上ない。
やはり苛立ちまじりに仕事をしていると、しらないアドレスからファイル送信がかかる。
受信早々削除、と思ったが動画ファイルの二つ追加。とあって指は開くを選択していた。

ユーノ


ユーノ
ユーノ
ユーノ
ユーノ

「…………………」


”クロノみてる? 今エイミィさんとやってるんだー”

”あっ…クロノくーん気持ちいいよぉ! ユーノくんの最高だよ!
もうお腹の中にユーノくんのあかちゃんいるのぉー!」

”リンディさんも良かったよ。でもババァだからスクライアの生み道具にさせてもらうね
あ、それと君の息子と娘ももらっといてあげる”


直ぐ消すと二本目の再生が始める。

”パパは何してる人?”

”解りません”

”パパには内緒?”

”はい。パパは僕達に仕事を教えてくれないので僕達も内緒です”

ユーノではないが、知らない男と女と息子達が絡んでいた。
不思議と、最後までみるとアダルトビデオを発売している会社名までしっかりと出ていた。
ミッドにある社名が。

再生を消す。


無気力だったが、動画の終了と共に文章ファイルが展開される。目が自動的に追いかける。
○月×日 ハラオウン宅へ。最初はやっぱりエイミィさんにしよう。
     次にリンディさん。小まめにエイミィさんと連絡をとるよう心がける。
○月□日 食事に誘った。感度良好。
○月○日 放っておいてもむこうから連絡がくるようになってきた。面倒が減って助かる。

エイミィ、リンディ、子供達に接触をはかったという日記だった。順々に書かれている。
最初は単調だが、次第に抱き始めると中出しした。どんなプレイをしたと書かれている。
生理を把握し、危険日にはしっかり中出しし、二人とも妊娠したとも書いている。

そうか。

あの物置にあったDVDは全て、身内のハメ撮りか。
しかも最後のは割と最近だ。エスティアが本局にとどまるかなり前から日記はかかれている。

妻も、母も、そして子供達までとられた。
もう、エイミィに尋ねる気力は残ってなかった。離婚という答えもなかった。
何も考えず蟻のように働く事を、クロノは選択する。髪は白髪が増え皺が刻みこまれた末の事。


クロノは死んだ。
クロノはエスティアのドッグで死体となった。
飛び降り自殺、という名目となっているが。
真相はさだかでない。

914鬼落とし:2011/11/09(水) 22:47:14 ID:7TKZmKX2

「ねぇ」

「ん?」

「お腹にね、クロノくんの赤ちゃんがいるんだ」

「それで?」

「HIVにも感染してるんだ」

「そっか。大変だねなのはは」

肩に手を置いて。
ユーノは笑った。
他人事のように。
何事もなかったように、去っていく。
惜別の想いで見送るなのはは、通信が入ったのを見てオンにする。

「はい」

「あ、なのは……」

フェイトだった。
今は誰とも話したくない気分だったが先を促す。

「どうしたのフェイトちゃん?」

「ごめんねなのは……落ち着いて聞いてね」

「ん……?」

「あのね……今海鳴にいるんだけど、桃子さんの行方が解らないんだって」

もう一度ユーノが去っていった方向を見た。
しかし、もう姿はない。

「なのは?」

フェイトの心配の声がかかる。そっと瞼を落とした。

「落ち着いてなのはっ」

何度も何度もフェイトの声がかかっているのを聞きながら、自分の母はスクライアで輪姦でもされているのだろうと
思った。なんで、何故あんな男を愛したのか自分でも答えはでないなのはだった。





鬼落とし 了。

915サンポール:2011/11/09(水) 22:49:42 ID:7TKZmKX2
以上です。拙い作品をご一読下さった方はありがとうございます。

916名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 22:56:57 ID:CNMOlqno
鬼畜ユーノか……



917名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 22:57:37 ID:BurHfuj6
投下乙

何が何だかわからない
……ホントダヨ?

918名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 23:12:22 ID:zOyVnRmU
うわぁ、これはうわぁwww
酷いな、正に欝、救いの欠片もない。


想像するにHIVあたりの単語から、ヤケクソになったユーノが暴走して、っていう感じなのだろうか。

919名無しさん@魔法少女:2011/11/09(水) 23:13:08 ID:hdvTQg8U
>>915
次からはエロ含むときは注意書き(>>1参照)つけてくれると嬉しい
NTRも好き嫌いが結構分かれる要素だから、エロパロ板の二次系スレで投下するときは一言いったほうが無難じゃまいかな
それはともかくとして話自体は非常にGJ。実に良い鬱だ。途中どうなるか予想しながら読んだけど外れたw

920サンポール:2011/11/09(水) 23:25:28 ID:7TKZmKX2
]>>919
御指摘ありがとうございます。祭りなのでいいのかなぁ?とそわそわしたのが裏目にでました。;;
申し訳ないです……。

>>コメントを下さった方々。
ありがとうございました。欝祭りと知って暖めていたネタを急遽落としたので
かなり荒削りです。いずれ完全版を気が向いたら投下させて頂くかもしれません。
その時はもっとみんなの動向を掘り下げてやりたいですー

ではでは。

921名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 00:30:20 ID:MiSEYw02
エロパロ避難所なのにエロに許可が要るとは之如何に
折角の鬱を事前予告で台無しにするのも如何なものかと

922名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 00:33:41 ID:MpVRGoMA
別にエロくらいで注意書きはいらんでしょ
ここエロパロスレだぜ

923名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 01:40:53 ID:lZPx3CZQ
>>921-922、ほかの皆さんも
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1237287422/l100

924名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 04:30:22 ID:Oza2cUns
いやいや、スレ移動する必要ないんじゃないか
会議スレは見てない人も多いだろうし、ちょっと違う話題出るたびにスレ代えたりなんてしてたら過疎る一方だよ
荒らしとか極一部の話題以外は全部ここでいいと思う

925名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 14:37:56 ID:SbpqcRpE
こいつ絶対、止さんだろ
転生でもしたんだ、間違いない

次はスクライア・バケーションですか?


>>945
暗にこの流れウザイって言ってんじゃないか?

926名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 18:46:08 ID:pLqmdq9U
まあスレの運営に必要な事を話し合う場所があるんだから活用したって良いじゃないか。
こんな良いSSが投下された後なんだから、議論するくらいなら感想なり鬼畜ユーノの話題なりで楽しめばいい。

927詐欺:2011/11/10(木) 22:27:49 ID:ZpGD01Ak
初めまして詐欺と申します
鬱祭りと聞いて飛び入りさせていただきました。

尚、当作は
・拙いエロ
・NTR
・オリジナル主人公
・捏造設定
・鬱
などがございます。ご注意ください

928SKY CLOTH:2011/11/10(木) 22:28:43 ID:ZpGD01Ak
彼女と出会ったのは夏の始めだった。
両親の協議離婚が成立し、夏季休暇を父の下で過ごすこととなった幼等部最後の年である。
私は仕事人間である父との交流は少なく、友人と離れ娯楽も何も無さそうな教会で生活することに不満だった。
しかし、その夏は忘れることが出来ない大切な思い出の日々となる。
初めて恋をし、愛する人を失った季節として。


「・・・・・・こうして天女は空へ昇っていき、再び男の前に姿を現すことはありませんでした。おしまい。」
ハープのように透き通る声で物語の結末が語られる。
聞き入っていた子供たちは、ふぅと息を吐いた。
僕はその様子を遠巻きに眺めながら、次の紙芝居の準備を始める。
子供相手とは言え大勢の前で語るのは多大な緊張を強いた。ましてや、これから相手をする子供たちは少しでも興味が失せると、茶々を入れたり別な遊びを始める難儀なお年頃ばかりだ。
一つ前に、英雄譚がいつのまにか特撮ヒーローものとなってしまったリベンジである!
そう意気込んで顔を上げた先には彼女がいた。
修道服に身を包みながら、子供たちに囲まれている。
「それじゃあ、何で天女が帰ってしまったか解る人手を上げてくださーい。」
笑顔を浮かべる彼女に目が引き寄せられていると、唐突に視線がぶつかった。
いつのまにか見とれていたことに気づき、顔が熱くなる。
そんな僕の心境を知ってか知らずか、童女のような無垢な笑顔で僕を手招いた。
一編ごとに交代で、紙芝居を語るのは前もって決めていたことだ。
前回のような無様な真似は晒さない。彼女のように、聞く子供たちの視線を額縁の中へ釘付けにしてやろう。
僕は揚々と出陣し、そして盛大に爆死した。


聖王教会の業務の一つには、孤児の保護という項目がある。
みなし子を放置し続ければいずれ治安の悪化へと繋がる。
となれば、聖王教会が社会福祉の一部を担うのも宗教組織として当然だといえるだろう。
しかし人手不足はどこの世もそうであるように、聖王教会の孤児院も例外ではなかった。
結果、運営や生活の資金や居住区はなんとか確保出来ているものの、教育などの分野は関係者の有志の協力に頼らざる得ないのが現状である。
さて、普段は神父やシスターが持ち回りで担当するのだが、今日は一人珍しい存在が教師側へ混じっていた。

929SKY CLOTH:2011/11/10(木) 22:29:33 ID:ZpGD01Ak
「あの、糞餓鬼どもがー!」
青い空へ溜め込んだ鬱憤が爆発させる。
孤児院からの帰宅途中に我慢できなくなってしまった。
人の話を全く聞こうとしない。唐突に立ち上がり追いかけっこに興じる。仕舞いには、合いの手代わりなのか話の途中で『う●こだ!』と大声を上げるりやがてそれは伝染し大合唱となる。お前らそんなにう●こが好きなら、う●こさん家の子になりなさい!
一通り脳内で罵るとようやくおちついて来る。
それを見計らったのか、ふわりと頭に手が乗った。
「ありがとうございます。
 あなたのおかげで、皆楽しそうでした。」
そういって髪を優しく撫でられる。
一瞬緩んでしまいそうな頬を引き締めた。
12も超えたら、大人のお世辞や慰めを見極められるようになる。
「・・・僕は何も出来なかった。
 あの子達は、ノイエしか見てなかったからね。」
隣を歩く女性を見上げながら恨みがましくそう呟く。
僕より20センチ程高い視線。
黒を基調とした修道服と、その下から布を押し上げる膨らみ。
長く伸ばした栗色の髪。
やや垂れ下がった瞳は琥珀のように深淵だ。
どの部分も見続けていると胸が高鳴り、視線を逸らさずにはいられない。
ノイエと言う女性は、僕を平常ならしめんと邪神の送り出した落とし子なのかもしれない。
「そんなことないです。
 子どもって、嫌いな人の前だと逃げ出したり逆に大人しくなったりするの。
 皆あなたがいい人だって解るんですよ。」
「そうかなぁ・・・?」
それが本当なら、ある意味において嬉しい。
けれど、もう一つの僕の願い。『彼女に認められたい』という欲求は満たされなかった。

ノイエと出会ってそろそろ二週間が経つ。
本来僕を受け入れるはずだった父は、その役目をシスターであるノイエに託した。
そのことに不満は無く、むしろ大歓迎でもある。
彼女は快く僕を受け入れくれ、共同生活が始まった。
一緒に食事をとり、同じ部屋で寝、時には入浴中に乱入された。
彼女との生活は時に波乱万丈で、時に心温まるものだった。
いつしか惹かれてしまっていたのも当然なのかもしれない。
だからこそ、大勢いる「子ども」の一人ではなく、「男」として認識してもらいたかった。
今日のように教会の業務を手伝うのも、そんな理由が三割ほど含まれている。

悶々とした気持ちに浸っていると、隣の足が止まっていることに気づいた。
「どうしたの?」
「ほら、後ろを見て。」
ノイエの視線を追いかけて振り向くと、これまで歩いてきた石畳に一人の少女が立っていた。
モジモジと視線を足元とこちらの間で泳がせている。
少女は読み聞かせをしている最中、端っこの方で大人しく座っていた子だった。
悪餓鬼共の中で、少数の大人しい子は逆に目立っていたので記憶に新しい。
「・・・あなたに用があるみたいよ。」
「僕?」
そっと背中を押され、一歩、二歩進み出る。
少女は一瞬肩がビクッと震えたものの、逃げ出す気配は無い。
「どうしたの?」
「ア、アノ、こ、これっ」
しゃがみ込んだ僕の手に何か押し付けられる。
手の中にあったのは、白い花で編み上げられたクラウンだった。
ぱっと見るだけで100輪近くの花が並んでいる。さぞ苦労したのだろうと見て取れた。
「これを僕に?」
少女はコクンと大きく頷く。
「そっか、ありがとう。」
そう言うと少女は走り去っていく。
横道の花壇の間へ入ると、そこに同じ年頃の少女達が待ち構えていた。
合流した少女たちは、キャアキャア言いながら花壇の陰に隠れてこちらを伺う。
僕は花冠を頭に乗せそちらの方へと手を振ると、今度こそ彼女たちは黄色い声を上げながら建物の陰に消えていった。

930名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 22:30:06 ID:ZpGD01Ak
「あの子、つい最近入った子ですよね。」
「うん。知ってたの?」
「知ってますよ。
 苛められていたのをあなたが助けてあげたんですよね。」
ノイエはいつになく嬉しそうに、こちらを見る。
何故だか解らないが、一歩引いてしまった。
「・・・一緒に遊んだだけだよ。
 ま、まあ、友達できたならよかったよね?」
「そうですね。ふふ。
 きっと、あの子にとってあなたは王子様なんでしょう。」
思わず噴出してしまう。
「ど、どうしてそうなるの?!」
「あら?
 女の子は辛い時に助けられると王子様に見えちゃうんですよ。」
そんなこと言われても、困る。
僕が好きなのはノイエであって。
君に好かれたいからこそ、人に優しくなれるんだから。
「・・・・・・。」
「ごめんなさい。怒っちゃいました?」
「・・・別に。
 ・・・・・・。
 ノイエもそうだったのかなって」
あまりにも素っ気無さ過ぎたかと心配して、余計な一言を付け足してしまった。
こんなことを聞いてどうするつもりだよ。
思い出すように視線を宙に泳がせるノイエを見て、胸がきしんでいく。
そしてようやく思い出したかのようにこちらへ向くと、想像外の答えを返した。
「『天女は何故空へ帰っていったのでしょうか?』」
「・・・・・・え?」
「『天女は男と夫婦になり幸せに暮らしていました。
 なのに、どうしてそれまでの幸せを捨てて天へ帰ってしまったのでしょう?』」
それは先ほどの紙芝居でノイエが子どもたちに投げかけた問題だった。
何故今更、このタイミングでと思ったがノイエはこう続ける。
「あなたがこの問題に答えられたら、私の『王子様』のことも教えてあげますね♪」
救われたと思った反面、やはり居るのかと呻いた。
それ以上に、照れ隠しの笑顔が眩しかった。

931名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 22:30:59 ID:ZpGD01Ak
『羽衣伝説』
世界各地に伝承される最もありふれたおとぎ話の一つだ。
地域によって細部は異なるものの、その大筋はこうである。

天から女が降りてきて、男はその女に恋をする。
男は女の羽衣を盗み、女は天に帰れなくなる。
天に帰れなくなった女は男と夫婦となるが、やがて男が隠していた羽衣を見つけてしまう。
天に帰った女に男は悲しむ。

昔話にありがちな無骨なプロットで、このままではあまり面白くない。
なので市販されている絵本や紙芝居などでは、作者による脚色がされているのがほとんだ。
それは教育的な暗喩だったり、またはその後女が再び現れるハッピーエンドだったりと様々だ。
さてノイエから出された『宿題』の題材はスタンダードなタイプである。
女は帰ってこないし、勅語めいた風刺も無い。
強いてあげるとすれば、夫婦生活の描写に尺が大きく取られている。
男が羽衣を隠している場所に、女を近づけさせないよう四苦八苦する過程がコミカルに描かれていた。
例を上げるとすると、かまどの中に羽衣を隠した男は、料理をしようとする女を止めて自分が炊事を請け負うと宣言するシーン。
または、畑仕事をしようとする女に、お前の綺麗な手を汚したくないんだと、一人でクタクタになるまで働くシーンなどである。
そこに男の下心は見えるのだが、二人が本当に仲睦まじい夫婦であることを示していた。
だからこそ、女は何故天へ帰ったのだろうか。
女にとって男との生活は所詮、天に帰るまでの仮宿に過ぎなかったとは思えないし、思いたくはない。
これは、男女が互いに愛し合ってたからこその問題なのである。

結局、正解はその場では出せず後日に持ち越された。
別に褒賞の景品には興味なかったが、ノイエとの形の無い約束のように思えて僕は毎日のように新しい答えで挑み続ける。
いつのまにか、【回答は一日一回まで】とルールが出来上がっていた。
こうして彼女とともに過ごす夏の日々は過ぎていく。

932名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 22:31:29 ID:ZpGD01Ak
それは一際暑い日だった。
冷房など設置されていない孤児院の面子と、湖のほとりに涼みに来ている。
子どもたちは午前中はしゃぎ疲れたのか、昼食を食べ終えたころには木陰でお昼寝会となった。
僕もまた、いつのまにか眠り込んでたみたいで、気づいたらノイエに膝枕されている。
まだ目が覚めたことに気づいていないのか、彼女の視線は対岸の白い建物に注がれたままだ。
聞いた話によると、そこは教会が崇める聖王の遺産が保管されている場所らしい。そして、父の職場でもある。
ギリッと奥歯に力が入った。
「・・・何見てるの?」
「あら、起きてたんですね。
 ・・・ちょっと考え事をしていました。」
膝の上から頭をあげ横に座る。
ハッとして口元に手を当てるも涎を垂らした形跡はなく、胸を撫で下ろした。
サワサワと髪に何か当たる感触。
横目でノイエの方を見ると、櫛を持ち膝立ちとなっていた。
「動かないでくださいね。
 うふふ、元気に跳ねていますね。」
後頭部に僅かに櫛の歯が当たる。
「いいよ、そんなことしないで。」
「駄目です。妹みたいなこと言わないでくださいっ
 折角かっこよく生まれてきたんですから、無精なんか許しません。」
見栄えにこだわるのは男らしくない気がするのだけど、そんなことを意に介さず髪は梳かれていく。
決して、お世辞に気分を良くしたからではない。
「妹さん、いるんだ。」
「はい。
 これが手のかかる妹で、好きなことには夢中になるのにそれ以外は全然ダメなんです。
 この間里帰りしたときも、ご飯食べるのも忘れて研究ばかりしていたんですよ。
 あの娘も女の子だからもっと身だしなみに気をつければいいものを、お風呂にも入らずほったらかしにしてるから、癖っ毛がひどいことになってしまって・・・。」
内容とは裏腹に、その口調は楽しそうだ。
ノイエが妹を大切に思ってることがよく伝わってくる。
「二人姉妹?」
「いいえ、姉が一人に妹が三人。
 さっきの話は、二つ下の妹の話です。
 あ、けれどもうすぐまた一人妹が産まれるんですよ?」
「凄いな、大家族じゃないか。」
「まあ、その分母親が居ないんですけどね。
 今では姉と二人で母親代わりですよ。」
あっけらかんと話す口調に暗い陰はない。
たぶん本当に気にしていないんだろう。
僕は家族について話すのは憂鬱な出来事だった。
別に不幸が何かあったわけでもなく、平均的家庭だと思う。
離婚が決まるまではそう考えていた。
だけど、こうして嬉しそうに家族の話をするノイエを見ていると、そうではないと思い知らされる。
僕たちはただ一緒に生活しているだけで家族なんかじゃなかった。
「・・・それで、どうしました?」
「ううん、気にしないで。
 それよりも、三番目と四番目の妹さん達の喧嘩はどうなったの?」
自分でも不思議なほど感慨はわかなかった。
本来なら、ここで泣くか喚くかするべきなのかもしれない。
けれどそんな気にもなれなかった。
ノイエの家族の話は眩し過ぎて、うらやましいとも思えないかもしれない。
ただ遠くにある存在。
きっとそうなのだと思っていた。次の彼女の発言を聞くまでは。
「だから、『あたらしい家族が出来た』と伝えたら、妹が慌てて連絡してきて。」
「・・・えっ?」
「はい、あなたのことを話したらどうやら焼餅をやいちゃったみたいで。」
「あの、それは、僕がノイエの家族・・・・・・てこと?」
「勿論ですよ。」
「け、けど僕は一緒に暮らしているだけで、家族ってわけじゃ・・・」
「一緒に寝起きして、一緒に御飯食べれば、それはもう家族なんです。
 お母さんもそう言っていました!」
何を今さら。
そんな風に溜息交じりに返されては、なんだか僕が小さなことで思い悩んでいたように思えてくるじゃないか。
「・・・あ、もしかして嫌でしたか。
 あははは、ちょっと馴れ馴れしかったか『そんなことない!』・・・え?」
「・・・う、嬉しかっ・・・た。
 ノイエにそういってもらって嬉しいんだぁ。」
高鳴る心臓に、語尾が上ずる。
ちゃんと言えただろうか。
夢中だったから、言葉になっていたか怪しいところがある。
ノイエは僕を胸元に抱きしめた。
「私もあなたみたいな弟ができて嬉しいですよ。」
弟という単語に引っ掛かりは感じるものの、布越しのおっぱいの感触に逆らえるわけがなかった。

933名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 22:32:00 ID:ZpGD01Ak
扉を開けると若干のカビの匂いが香る。
薄暗闇の中、扉の外から光線が室内の埃を映し出した。
それはこの部屋への来訪が、久方ぶりだということを示している。
彼女は意に介さず、積もった埃にブーツの足跡を刻んでいった。
室内は青白く淡い光に照らされている。
入口から細長い床が一直線に伸び、両脇にはガラスで隔離されたショーウィンドウ。
博物館や美術館の順路のように、通る者に展覧物を誇示している。
そのラインナップは様々で、衣服や剣刀、果ては頭蓋骨まで並んでいた。
二つだけ博物館と違う様相を上げるとすれば、展覧物にその銘や由来のプレートが備わっておらず、単に数字アルファベットが近くに設置されていること。
もう一つは、そもそもここは一般公開されておらず、聖王協会の関係者しか入室できないことだ。
聖王教会歴算室第二研究棟。聖遺物の中でも特に重要度が高い代物が納められている建物である。
文化的に貴重なだけではなく、一般に秘匿となるもの、または多くの犯罪者に狙われるものがここには納められる。
普段は厳重に施錠されているが、不定期に信用のおけるものが変化が無いか確かめることとなっている。
彼女、シャッハ・ヌエラもその一人だった。

懐中電灯を片手にシャッハは進んでいく。
この任を受け持つのは何度目だろうかと思いだす。
既に両の手では足りぬほどの回数を受け持ち、正確な数字は出せなかった。
ここに納められている物の品目は既に頭の中に入っており、一つ一つ脳内と視覚からの情報を照らし合わしていく。
もし精巧な贋物とすり替えられていた場合彼女に真贋をつけるのは不可能に近い。そういった場合にも備えて、専門の知識を持った者もこの任に充てられる。
では何故シャッハが選ばれているかというと、些細な痕跡から侵入者の気配などを感じ取れるのではと期待されてのことだ。
十数年前の聖遺物紛失の一件以来、特定聖遺物と称された品々には細心の注意が払われることとなった。
やがて、三分の一を過ぎたところだろうか。シャッハの足が止まる。
これまでで特に異常は確認されていない。
シャッハは油断してはいなかったが、同時に今日もまた何事もなく終わるだろうと考えている。
事実この任について二年になるが今まで起こったことは、梅雨時のガラスケースにナメクジが一匹張り付いていたぐらいだった。
では何故止まったかというと、それは彼女の視線の先の聖遺物が原因のようだ。
2×1メートル程の白い布地。
織られてからかなりの年数が経っていることは明白で、黄ばみや一部四角く切り取られている。
かつて聖王が身に着けたとされるその聖骸布は、一二を争うほど重要度は高い。
一度紛失し、ある事件において重要なアイテムとなったことも理由の一つである。
シャッハも事件当時は鉄火場に躍り出ていた。
しかし、シャッハが足を止めたのはそのことが理由ではない。
それは事件の十年以上も前、まだ十にもならない頃まで遡る。
その一件は未だに後悔という色で彼女の記憶に残っていた。
シャッハの『初恋』の記憶として・・・。

「・・・今頃、彼はあの人と再会しているのでしょうか?」

もうここには居ない男女の事を想う。
涙を流すには時が経ち過ぎていた。

934名無しさん@魔法少女:2011/11/10(木) 22:32:33 ID:ZpGD01Ak
『あの日』のことは今でも覚えている。忘れられるものか。
僕はまだまだ子どもで、ノイエが僕以外の男に目を向けるのが許せなかった。
だからちょっとした悪戯のつもりで、同時にこれまで放っておかれた父への意趣返しのつもりだった。
事が露見しても、数時間叱られれば済む。
元より希薄な親子関係だ。最後にこんなありふれたイベントが起こっても、子供だから許してもらえる。
いつか再び父と会った時に、会話のネタを作っておきたかった。
こう思えるようになったのは、ノイエのおかげだ。
彼女が僕の居場所を作ってくれた。
帰れる場所があるということは、勇気の源泉となる。
だから、諦めかけていた父子の関係を少しだけやりなおしたいと僕はいつしか考えていた。

父の部屋から鍵を拝借するのは思いのほか簡単だった。
既に陽は沈み、夜の帳が訪れている。
僕は群青色の野球帽を目深に被り、石畳の端を早歩きした。
目指すは父の職場でもある、湖のほとりにある白い建物。
そこに悪戯のキーアイテムがあった。
何度も背後を振り返りながら進み、とうとう建物にたどりつく。
いくつかの窓からまだ明かりが見え隠れしていたので裏口へと回りこむ。
表の荘厳な雰囲気の両開きの扉とは違い、こちらは普通の金属製の錆びたドアだった。
ポケットから鍵束を取り出し、形の一致しそうなものを一つずつ試していく。
一つめ・・・ダメ。二つ目・・・ビンゴ!
鍵はクルリとターンし、確かな感触を握る指先に伝えた。
ジャラリと鍵束をポケットに戻すときの音が耳に付く。
深呼吸してからドアノブを回した。
が、ガキリと鈍い音を響かせ、ドアは数ミリだけ手前に動いただけで開くことはない。
首から上の血管がドクンドクンと脈打ち、頭の中は「どうしてどうして」とパニックになる。
逃げ出そうかと勝手に足首が横へ向いた。
しかしここであることに気づき、再びポケットに手を入れる。
先ほどと同じ鍵を掴み再び鍵穴へ・・・。一度回すと同じ感触。今度は『聖王様っ!』と祈りながら反対方向へ廻した。
カタリ。
指先の感触だけでなく、闇の中に確かにその音は響く。
震える手でゆっくりとノブを引くと、ドアの厚さを越えた隙間ができた。
僕はそのままゆっくりとドアを閉め壁に寄りかかりそのまま座り込む。
長く息を吐きながら、今度はゆっくりと息を吸う。
心臓が落ち着いてくるのに、それから五分ほど時間を要した。


それはどこにでもある有り触れた布きれにしか見えない。こんなのが本当に貴重なものなのかといぶかしんだ。
特に障害もなく目的の部屋までたどりついた僕は、自分でも恐ろしいほどの手際でショーウィンドウを開け、ソレを手にする。
予め用意していたバッグに詰め込みながら、泥棒の才能があるかもしれないなと一人ごちた。

なんでもこれは、聖王の花嫁衣装の一部なのだという。
ノイエは聖王家に仕えた家の末裔であり、少なからず聖王としての血も引いているらしい。
残念ながらこれを誂えられた時の聖王は、身に纏うことなくこの世を去ったのだけれど、衣装は大切に宝物庫に保管されていたらしい。
だが戦乱の時代は王国をも飲み込み、これは長い間行方不明となる。
ノイエの家はせめて衣装だけでもと探し回ったそうだが、叶わず今日まで見つからなかった。
いつの日か、コレを自分たちの手で歴代聖王の墓前に供えることが悲願らしい。
秘密ですよ。と前置きして祈りながら彼女はそれらを僕に教えてくれた。
おそらくそれらは難しいと思う。
聖王協会は貴重な聖遺物を持ち出すことは許さないだろうし、ノイエの話の信憑性も低い。
清掃という名目でここへ入ることができるようになるまでも、数年の時間が掛ったのだ。
それでも彼女の夢が叶う日がくるといい。
モップを片手に祈りながらそう思ったんだ。

ノイエにこれを渡したら彼女はどうするだろう。
喜ぶだろうか?怒るだろうか?
どちらでもいいとは思うものも、やはり期待はしてしまう。
おそらくは訥々と反省を促した後に、顔をほころばせるだろう。
ただ自らの喜びに酔うだけなのも、ただ正論を振りかざすのも、彼女には似合わない。
そんな浅い女だったら僕は好きになんかならなかった。

935SKY CLOTH:2011/11/10(木) 22:34:13 ID:ZpGD01Ak
建物を出て真っすぐ父の部屋へと向かう。
いずれは露見するだろうが、時間は稼いだ方がいい。
鍵が無くなってることに気づけば、すぐに僕を探し出そうとするだろう。それは困る。
父の私室の前に辿り着くと、わずかな隙間から部屋の中を覗いた。灯りはついておらず幸いなことに人影はない。
無事あるべき場所に鍵束を戻し、部屋を後にしようとしたときだった。
人の泣き声のような音が耳に入ってくる。
最初は気のせいだとおもった。しかし、ドアノブを握ったとき先ほどよりもはっきりと聞こえてくる。
この部屋の出入り口は二つだけ。今握っている廊下に面した扉と、奥の寝室へ続くものだけだ。
誰かいる。父にしては声が高すぎる。
一瞬の逡巡。僕は声の源を確かめることに決めた。
足音を立てぬよう、すべるように体重を転がしていく。
寝室への扉は・・・開いていた。
僅かにしか聞こえなかった声はもうハッキリと聞こえる。女の声だ。そして、僕は聞き覚えがある。
中指の第二関節でなぞる様に扉を押した。
寝室からの光が僕の眼を焼く。
やがて眼が慣れてきたときの光景に僕は目を疑った。


「・・・・・・んんっ!ああっ、司祭さまぁんっ!
 ハァ、ハァ、イヤァァァァァァンっ!!」

白い肢体が弓なりに反りかえり、輝く汗が宙を舞う。
ベッドの上のシーツはぐちゃぐちゃに捩れ、皺が『ソレ』の足に集まる。
グチュグチュと熱いシチューをかき混ぜるような音は断続的に響き、同じく黄色い吐息が恐ろしいほど耳に届いた。

一体、アレは何なのだろう?

ベッドの上には謎の生き物がいる。
全体的に白いのだが、上部は黄色がかっているが下部は桃色に染まっていた。
八本の手足は人間の物に酷似しているが、そんな生き物は存在しない。
ソレは自らの身体を抱きしめながら律動を繰り返していた。
ソレが裸で絡み合う男女であることに気づいたのは、頭の一つが父のものだったからだ。
いつも怯えたような眼をしている父は、まるで肉食獣のような形相で女を後ろから犯している。
腰が往復するたびに輝く女体が、艶めいた悲鳴を上げる。女の顔はこの位置からは見えなかった。
それだけでは足りないとばかりに、右手を先ほどから突かれる度に揺れている乳房へ。左手を女の脇腹から結合部へと伸ばした。
「アッ・・・アッ・・・、ひゃっ、・・・・・・だめっ、ですぅ・・・ど、同時になんてぇ・・・」
その言葉が形だけのものであることは容易に想像がついた。
それを知ってか、父の手は止まらない。
「・・・駄目なわけがあるか。
 おまえのここはこんなにも私を求めているではないか。」
「そ、それはぁ・・・ダメなのに、ヒィィィッ・・・・・・許されないのに、どうして、私ぃ・・・っ」
ビクンビクンと女の身体が跳ね、背後から圧し掛かっている父の身体ごと踊る。
二人の結合部からは、プシュッと水滴が数度噴き出した。
「はははは、逝っているのか!
 ずっと、ずっとこうしたかった!
 美しいお前を、喘がせたかった。私の下で虐げたかったのだ!」
女の腕を掴み、上半身だけ引き起こす。
海老反りとなり男は女に深い結合を強制させる体勢だ。
「・・・ひ、ひどいですっ・・・・・・ああっ、奥に、当たって・・・・・・っ」
「な、何がひどいかっ!
 君がそうさせたのだ!
 私は、静かに生活出来ればそれでよかった。
 それをっ、君さえ現れなければっ!・・・私は、私はっ!
 ・・・・・・っ!
 ・・・・・・・・・こんなにもっ、愛しているんだぁ!」
「・・・・・っ!・・・司祭、さまぁ・・・」

936SKY CLOTH:2011/11/10(木) 22:34:51 ID:ZpGD01Ak
腰の動きが加速していく。
女は男の言葉に何も答えられずに、ただ嬌声を上げるだけだ。
媚、哀願、いくつもの女特有の音色が声に映し出される。
それはまさしく男を受け入れた証だった。
腰を動かす男に合わせて、女自らの尻を震わせる。
同時に背後に腕を廻し、唇を重ねた。
「ンチュ・・・・・・チュフン・・・んんっ、
 ・・・お、お願いですっ・・・私が、司祭様のものだって、っ!・・・証明、してくださいっ。
 ・・・・・・もう、元に戻れないなら、私は・・・っ」
舌を絡ませ途切れながらも女はそう告げる。
どれほどの葛藤を経たのだろう。遂に女は自らの敗北を宣言した。
男は愉悦に顔を歪め肢体を抱きしめる。
「ああっ!
 君は・・・っ、お前は・・・っ、ノイエ・ノートマンは私のものだっ!」
「・・・カハッ、イヤァァァッァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
男が女の首筋に歯を立て、女の喉から空気の零れる音が漏れる。
同時に男は指先で両の乳首をひねりつぶした。
たまらず絶叫をあげる女に、男は腰を強く強く打ち付ける。
ドクンドクンと、見ているものにまで脈動が聞こえてきそうな射精だった。
女の子宮口に打ち込まれる度に、女の手足と首が痙攣を繰り返している。
十数度の波が引いた後、男と女はベッドの上に崩れ落ちた。


僕はいつのまにか、ズボンの上から股間を抑え込んでいた。
父と女・・・が一緒に達した時に、それまで父の陰に隠れていた女と逢った目が脳裏に焼き付いている。
それは凄く厭らしい目で、彼女と視線が交差した瞬間、ズボンの下で何かが爆発したのを感じた。
「・・・はぁはぁ、・・・・・・どう、して・・・」
頭が全く働かない。
下半身から血が抜け、床に座り込みながらもノイエの肢体から目が離せなかった。
時間が経つにつれ、ズボンの中が冷たくなってくる。それでも頭はのぼせたままだ。
父とノイエも崩れ落ちたまま動かなかったが、やがてノイエが頭だけを起こす。
何を、と虚ろな頭で考えていると、再び目が合った。
さーっと一気に全身が冷えて行く。
彼女の目はしっかりと僕を捕えている。しかし、そこに何の感情も浮かんでいない。
まるで、路傍の石でも眺めているかのような無関心さだ。
僕は跳ね上がる心臓そのままに、四つん這いで父の部屋から転がり出た。
そのまま当てもなく逃走し続ける。
自分がどうして逃げているかは分らない。
けれど、どこまで逃げても彼女の無機質な目が追ってきてるように感じた。

937SKY CLOTH:2011/11/10(木) 22:35:28 ID:ZpGD01Ak
夜の空気が頬に冷たく当たる。
シャワーを浴びた後髪は乾かしたが、素肌のままの首から上はやや寒い。
身体にはスーツの上から、カモフラージュ用にいつもの修道服を身につけている。
これで例え誰かに見咎められたとしても、いきなり攻撃されるということなどない。
ただ、顔だけは長年使っていた『ノイエ・ノートマン』から、本来の自身のものへと戻している。
もう彼女が現れることはない。
スカリエッティ博士の最高傑作である戦闘機人『ナンバーズ』。
その二体目『ドゥーエ』は今夜、聖王教会から立ち去るのだから。聖遺物である聖骸布と共に。


最後の扉を開ける。
ここまでの侵入は問題なし。
あまりにも簡単すぎて拍子ぬけしてしまう。
安全策で、確実に情報を収集していたが、これならば1・2年早く任務を終わらせることもできただろう。
目的の場所まで歩きながら感慨に耽る。
思えばここでの生活も長かった。
初めての長期任務。考えれば、生まれてから半分以上の年月をここで過ごしたのだ。
色々なことがあった。
それらは、嫌なことや忌々しいことだけではなく、むしろ楽しいこと新鮮に感じたことが多い。
存外、『人』としての生活はそう悪いものではなかったと今更ながらに感じた。
そうでなかったら、父からの命令だったとしてもここまで続かなかっただろう。
しかし、と考え直す。
それは彼らが私を人だと思っていたからだ。
明日以降、私の正体が知れた時彼らはどんな顔をするだろうか?
それを思い浮かべると、喉の奥から愉悦が漏れ出た。
私は、騙した対象がそれに気づいた時の表情が好きだ。
最初は冗談だと思い込み、やがて焦り僅かな希望に縋り、一瞬の呆け、そして絶望。最後に何ともいい憎しみの表情を浮かべるのだ。
短い時間の内に様々な変化を見せる様は火花のように、儚く美しい。
最後に最も醜い顔を浮かべらときは思わず笑い出してしまいそうになる。
今回はそれを見ることができずに残念だ。

だが、と思う。
ポーチの中から、花冠を取り出し指先でクルクルと回した。
これは先ほどまで私を貪っていた男の部屋に落ちていたものだ。
持ち主に心当たりがある。男の息子だ。
この夏生活を共にし、情報収集に大いに役立ってくれた。
彼のおかげで、他の人間に監視されることなく目標への経路や巡回の情報を集めることができた。
おまけに父子揃って、同じ女に惚れたと来る。
私と父親の交わりを見ていた絶望の顔を忘れられない。
一瞬しか見せなかったが、彼はそのとき射精していた。
部屋から出た際、青臭い精の匂いを感じたから間違いないだろう。
全く、全くまったくマッタク!
彼はどれだけ私を楽しませれば気が済むんだ!
今彼はどうしているんだろう?
ベッドの上で布団に包りながら、全てを忘れようとしているだろうか?
それとも、私の肉体を思い出しながら劣情のままに自慰に耽っているのかもしれない!
どちらにせよ、泣いているだろう。
その泣き顔を思い浮かべるだけで、私は逝ってしまいそうになるほど昂った。
出来ることならこのまま任務を放り投げて、彼の元へ赴きたい。
そして、泣きじゃくる少年を押し倒し、犯しつくしてやりたかった。
清楚な憧れのお姉さんが、淫乱だったと心身共に思い知った時の壊れる音が聴きたいのだ。




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