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母の飼い主 1

87母の飼い主 44:2014/01/12(日) 06:43:20
『次は伏せをしなさい』とマホが命じた。
『ワン』とこたえた母は、いちど四つん這いの姿勢になってから、全身をぴったりと床につけて《伏せ》の姿勢になった。できるかぎり縮こまった身体のなかでボリュームたっぷりの熟れ臀だけが、所在なさそうにもこもこと蠢いていた。
『でっけーケツ』と赤毛の青年がつぶやいた。
 マホが『ふふ、でかいケツって言われてるわよ、冬子』と楽しそうな口調で言うと、母は《伏せ》をしたまま、『クゥン…』と哀れっぽい鳴き声を出した。若者たちが弾けたように笑った。
『まったく馬鹿犬ねえ、冬子は。みんな呆れてるわよ』
『クゥン…』
『お詫びのかわりにチンチンしなさい。愛嬌たっぷりにやるのよ。もちろん笑顔でね』
『ワン』
 母は《伏せ》の姿勢からもぞもぞと上半身を起こした。腰を落としたまま、爪先立ちになって両脚をひらくと、まるめた両手を招き猫のように持ち上げた。それだけでも十分すぎるほど滑稽な格好だが、最後に母は無理やり貼りつけたような笑みをうかべ、犬のように舌を出してハッハッと息を切らしてみせた。
 息子の僕にとって、それはあまりにも正視に耐えない、とことん堕ちきった母の姿だった。
 だが、赤の他人である大学生たちにその芸は大ウケだった。これまでにもまして大きな爆笑と嘲笑が巻き起こった。
『わらいすぎて腹いてー』
『恥知らずってこういうことを言うのね』
『バーカ(笑)』
 蔑みと罵りの言葉を次々浴びせられるなか、母は強ばったつくり笑いを浮かべたまま、あいかわらず《チンチン》のポーズを保っていた。信じがたいほどの恥辱に加えて、爪先立ちの姿勢が相当きついのだろう、母の額にはふつふつと汗の珠が浮き、肢体は絶え間なくふるえていた。
『ねえマホ、記念に写メ撮っていい?』と一番大笑いしていたカーディガンの女の子が言い出した。
『もちろん、いいわよ。ねえ冬子?』
 半べそになりながら必死で笑みをつくっていた母は一瞬、許しを乞うような目でマホを見た。だが、『あら、何か文句でもあるの?』とマホから冷たくあしらわれると、しょんぼりとしたようすで首を横に振った。
『ふふ、そうよねえ。恥ずかしい姿を撮ってもらえるなんて、マゾ犬の冬子には最高のご褒美だもの。でしょ?』
『ワンワン』と母は鳴いたが、舌を出しているため不明瞭な発音にしかならなかった。代わりに、その目尻から涙の雫がすーっと流れおちた。しかし、そんなことは誰も気にとめなかった。
 カーディガンの子につづき、他の男女たちも『わたしも写メ撮りたーい』『俺も撮る撮る』と言い出した。携帯のカメラのシャッターが次々と切られた。
 全員の撮影がすむころになると、母はいまにも倒れる寸前だった。ようやくマホの許しが出ると、とたんにがっくりと崩れ落ちて、床に尻餅をついた。茹だったような顔は汗と涙にまみれていた。
『みっともない顔ねえ』とマホはおかしそうにわらった。『ほら、こっち向いて四つん這いになりなさい。もっと犬っぽくしてあげるから』
 母は疲れきったようすだったが、命じられて、おずおずと四つん這いになった。そんな母の正面にかがみこんだマホは、服のポケットからマジックペンを取り出すと、おもむろに母の鼻の頭を塗りはじめた。母は目を白黒させているばかりだった。
 やがて、鼻頭を黒く塗られ、頬に三本ひげを書かれた何とも珍妙な顔が、若者たちの眼前に公開された。
『どうかしら?』とマホがわらいながら訊く。
『そうねえ。もとの顔よりはマシになったんじゃない』とショートカットの子が辛辣なジョークを言い、みんなを笑わせた。


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