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母の飼い主 1
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母の飼い主 29
:2013/10/28(月) 01:12:50
髪や顔を撫でおえると、洋治さんのごつごつした手は母の唇に向かった。母は何のためらいも見せずその指先を咥えると、じぶんのつけた汚れを舌で舐めとるかのように、一心にしゃぶりはじめた。
『今日は若いカップルさんの前でたっぷり恥をかいたな。つらかったか?』
先程と同じように優しげな洋治さんの声が響く。
しゃぶっていた指先から唇を離すと、母は『ワン』と小さく鳴き、媚びるようになよなよと身体をくねらせた。
『最後のケツ振りはなかなかの見ものだったぞ。こんど《黒鴉》の店でも披露させるとするか』
『ワン…』
『なんだ、イヤなのか?』洋治さんの笑い声にはいつもの嘲弄するような響きはなかった。『イヤでもやらせるぞ。なにしろ、お前は私のペットだからな』
そう言うと、洋治さんは手を伸ばして母の頭をまた撫でた。そして言った。
『冬子は私の可愛いペットだ』
母は「おすわり」したまま、放心したように洋治さんを見上げた。
『その顔はどうした? 不服なのか?』
からかうような洋治さんの問いかけ。
母はあわてたように首を横に振った。そして次の瞬間、母は前屈みになって洋治さんの足元に顔を寄せた。
あたかも飼い主に甘えかかる犬のように、母は、みずからの頬を洋治さんの革靴にこすりつけた。そうしながら、白い満月のような臀を左右に大きく振っている。
全身を使って母は媚びていた。その姿はまったく一匹の獣といってよかった。
『可愛いぞ、冬子』と洋治さんはもう一度言った。『私に飼われてうれしいか?』
『ワンワン』
『私の命令ならどんなみっともない真似でもできるな?』
『ワン』と鳴きながら母はいっそう臀を揺すった。
『よし。ならもう一回カップルさんの前で恥をかいてこい』と言った声はいつもの冷酷な響きに返っていた。
洋治さんはどこからか青いボールを取り出すと、母の眼前にかざした。ソフトボールくらいの大きさの玉だった。
『どうすればいいのか分かるな?』
『ワン』と母は素直にこたえたが、その顔にはちらりと哀しみの気配がうかんだようだった。それでも母は、洋治さんの手からボールを咥えとると、四つん這いの犬歩きで、カップルのほうへ進んでいった。
そのとき、はじめてビデオの視界に若いふたりの姿が入った。映されたのは顔から下ばかりだったが、派手な服装を見るかぎり、いかにも今時のちゃらついた若者という感じだった。
カップルの前にたどりつくと、母は青いボールを咥えたまま、誘うように臀を振ってみせた。
『なんですかーこれ?』と彼女のほうが笑いながら訊いた。
『そのボールを投げてやってください。こいつがどこまでも拾いにいきますから』と洋治さんがこたえた。
『へー、おもしろそう』
彼氏のほうが母の口からボールを取ると、十メートルほど向こうに放り投げた。
母は『ワンワン』と鳴きながら、四つ足でボールを追いかけていく。それにつれて、豊かな胸乳が上下に弾むように動き、透けるように白い太腿や、しっとりと息づいた腰まわりの肉が小波のように揺れた。
そのさまを見て、観客のカップルは腹を抱えて笑っていた。洋治さんがこの場につくりだした加虐の雰囲気に、若い彼らは完全に呑まれていた。
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