したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

母の恋

1落下傘:2010/04/21(水) 22:52:29

 数ヵ月ぶりに会った母は、こころなしか以前より血色も良いようであった。
「ごめんなさいね、急に呼び出してしまって。仕事、忙しいんでしょう?」
 上品なシルクのブラウスを着た母は、わずかに眉を寄せて、心配そうな声を出した。
「そんなことはないさ。僕らの仕事は波があるからね。今はちょうど谷間の時期なんだ」
 私は当時、駆け出しのカメラマンだった。いや、カメラマン助手の駆け出しというべきか。写真学校を卒業して、ある事務所に所属し、そこでプロカメラマンの下についてさまざまな雑用を――主に荷物運びを――担当していた。
「それなら良かったけど」
 母はちょっと笑ってみせる。世間知らずな母のことだから、カメラマンがどんな仕事なのかということも、きっと何ひとつ分かっていない。ただ、ひとの言うことに疑いを持つことを知らない性格なので、息子が大丈夫だと言えば納得するのだ。
 そんな人だった。母はお嬢さま育ちで苦労知らずのまま、資産家の息子である父のもとに嫁いだ。その父がひとり息子の僕が5歳の時に亡くなってしまったのは、もちろん不幸な出来事だが、未亡人となった母には相応の遺産が残され、おまけに裕福な実家の援助もあって、経済的に苦労したことはない。ずっとそんな境遇だったので、母はおっとりとしたお嬢さま気質を崩されることなく、今年、40の坂を迎えた。
 そんなわけで多少浮世ばなれした母だったのだが、私はむろん母のことは好きだった。母は万事につけて寛容な性質で、たとえば私が「写真学校に行きたい」と言い出した時も、「じゃあ、そうしなさいよ」とあっさり許してくれた(これは、カメラマンの職業のことをよく知らないせいでもあったろうが)。私には母に叱られたという記憶がまったくない。いつだって穏やかな女性だった。
「今日はすこし暑いわね」
「そう? むしろ涼しいくらいだよ」季節は初夏だったが、このレストランは空調がよく効いていた。「母さんはあまり外に出ないで家にばかりいるから…」
「あら」母は不満そうに唇を尖らせた。そんな仕草は娘のように若い。「最近はそうでもないのよ。たまには散歩したり、旅行に出かけたりするわ」
「ふーん」と気のない返事をしつつ、私は真面目に驚いていた。何しろ私が実家にいたころ、母は1週間のうち、まるで外に出ない日もあったくらいだからだ。家には中年女性のお手伝いさんがいて、彼女が台所仕事など全部やってしまうものだから、母は手の荒れる作業をしなければいけないこともなく、ただ、趣味の花を生けたり習字をしたり読書したりして時間を潰していた。それでちっとも退屈している様子ではなかったのが、子供ごころにも不思議だったことを覚えている。
「散歩はともかく、旅行もひとりで行くの?」
 母にも学生時代の友人はいるのだが、向こうから訪ねてくるばかりだった。人ごみの中を出掛けるのがとにかく苦手なものだから、たとえ同窓会などがあっても、おっくうがって出席を避けていた。
「ううん…一緒に行くわ」
 誰と、ということを母は言わなかった。そのあいまいな口ぶりに違和感を覚えた。思わず母を見ると、母はすうっと視線を横に逸らした。私は不審なものを覚えた。このような、どこかためらうような母の様子を見るのは、常にないことだった。
「誰と――行くんだい?」
 私の問い掛けに対する母の言葉は、質問の答えではなかった。だがしかし、それは、今の今まで一度も想像すらしたことのない衝撃的な言葉だった。
「あのね……わたし、お腹のなかに赤ちゃんがいるの」

2名無しさん:2010/04/21(水) 23:02:09
良作の予感
どんどん投下して下さい

3名無しさん:2010/04/22(木) 23:21:04
君のような存在をずっと待っていたよ

4落下傘:2010/04/23(金) 00:05:15

 仕事終わりに、先輩カメラマンの酒向と飲み屋へ行った。
「ちゃんと遊んでるか? レンズってのは正直だからな、映す側の内面まで写真に映っちまう。つまらない人生を送っている奴の撮る写真ってのは、たいてい何かが足りないんだ」
 体格の良い身体に髭面と、どこからどう見ても男らしい外見の酒向だが、アルコールにはあまり強くない。ビール2杯ではや目もとを赤くして、お決まりの「写真哲学」を語り始めた。またか、と内心で顔をしかめたが、それでも私はこの人の良い先輩が好きだった。
「おれはお前がつまらん男とは思わん」弱いくせに、酒向はぐびりと豪快にグラスを乾す。「だが、あまり柔軟性があるとは思えんな。相変わらず独り身でいるのか」
「残念ながら」私は肩をすくめてみせた。
 なんでなんだろうなあ、と酒向はつぶやきながら、店員を呼びとめて追加の注文をし、終わると、また私の方に向き直った。その目はとろりとしている。今夜の「沈没」は早そうだ、と私は思った。
「お前、顔は良いし、性格だって優しい。実際言い寄ってくる女の一人や二人いるんだろう?」
「いませんよ、そんなの。今のおれは写真一筋」
「それが駄目だと言っとるのに」
「ははは。ともかく、何かそんな気分じゃないんですよ」
 酒向は「妙な男だ」とか、ぶつぶつ言っていたのだが、それから15分もしないうちに、これまた豪快な寝息をたてはじめた。私はため息をつき、タクシー会社に電車した。

(女か――)。
 マンションに帰りつき、いつものようにエレベーターを使わず階段を上りながら、私はもの想いに沈んだ。
 まるで女に縁がないわけではない。酒向の言うように、女の方から言い寄られたことも何度かある。なかには恋人関係になった女もいる。だが長続きしない。
 なぜだろう――と考えていて、母の顔が思い浮かんだ。息子の自分が言うのも何だが、母は美しい女だった。おかしな考えではあるが、そんな母のせいなのかもしれない。自分があまり身の回りの女に興味を持てないのは――。
 その母が、恋をした、という。
 おまけに、その恋の相手の子を孕んだ、という。
 辿り着いた自室のドアノブに鍵を差し込みながら、私は先日、母と会った時のことを思い返していた。


『妊娠――って』衝撃的な告白に、私の理解はにわかに及ばなかった。『それは本当なのかい?』
 うん、と母はちいさくうなずき、目を伏せたまま、アイスティーに口をつけた。水滴でひかるグラスを握った細く白やかな手を、私はしばし声もなく見つめたが、やがて気を取りなおした。
『相手の男は誰?』
『言っても分からないわ。あなたの知らない人よ』
『それはそうかもしれないけど。――じゃあ、仕事は何をしているのさ?』
 母は答えなかった。名前も、年齢も、出会いのきっかけも、『相手に迷惑がかかる』の一点張りで私に教えようとはしなかった。そんな母の態度が不審だった。
『ごめんね。何も言えなくて』
『そうじゃなくてさ、つまり言えないというのは――』相手には結婚の意思がないということか。
 母はシングルマザーになると言うのか。この歳にして、おまけに未亡人だというのに。
 私の問いに、母はうなずいた。
『ひょっとして相手は妻子持ちなの? それで…』
『ごめんなさい。言えないわ』
 あいまいな母の答えは、私の疑惑を肯定したも同然だった。

5落下傘:2010/04/23(金) 00:05:45
 何を言っていいものか、頭の中でぐるぐると様々な感情が渦巻いた。やがて、私が口にしたのは、極めて常識的な言葉だった。
『――賛成できないな』
 母は顔を上げて、私を見た。
『母さんはまだ若いし、良い人がいれば再婚するのも悪くないと思っていた』これは嘘だ。そんなこと、考えたこともなかった。『でも妻子持ちの男とそうなって、そいつが離婚もしないまま、ずるずると不倫して、それで子供を産むなんて……クレイジーだよ。馬鹿げてる。母さんが傷ついて、大恥をかくばかりじゃないか』
 熱くなって言葉を紡ぎながら、私は『子供』という単語に自分でぎょっとしていた。その子供は、おれにとって弟ということになるのか――いや、そんなことを考えてはいけない。私は言った。『はっきりと言うよ。堕ろした方がいい』
 唇を噛みしめ、左手で長い髪の後ろを触りながら、母はしばらく黙っていた。言うべきことは言ったので、私も黙っているよりほかなかった。先ほどまで空調が効いて肌寒いくらいだと思えたのに、私の握りしめた手のひらはじとっと汗ばんでいた。
 母が口にしたのは、思いがけない言葉だった。
『――好きなのよ、あの人のこと。わたし、恋してるの』
 そんな少女めいた台詞は、ある意味で母に似合いのものだったが、ことこの時に至っては、あまりに場違いだった。だが、母の顔は真剣で――そう、怖いくらいに真剣だった。
『40にもなって恥ずかしいけれど…わたし、今までこんな感情を知らなかった。あなたのお父さんとの時は、親が決めたことだったし…。それはお父さんのことは好きだったけど、今の気持ちとは違うの。…愛してる』
 頬を紅潮させて語る母の表情は、熱に浮かされたようだった。そのことが、なぜか、私の心に鈍い痛みを走らせた。
『わたし、あの人に尽くしたいの』
『尽くしたい…って言うけどさ』自分の声が抑制を失い、苛立ちを帯びるのを、私は他人事のように感じた。『赤ん坊ができたら、そいつだって迷惑だろう? 離婚する意思もないのに』
『違うわ。あの人はわたしに「産め」って』
『え』
 巧まない誘導尋問で、母は相手が妻子持ちであることを告白したのだが、それよりも別種の驚きが私を打った。
『そいつは……「産め」って言うの? 籍もいれずに、母さんをシングルマザーにさせて――』
『違うわ』と間髪いれず、母はまた言った。『わたしだって産みたいの。あの人の子供。赤ちゃんができたって分かった時、わたし、すごくうれしかった』
『質問の答えになってないし、そんなこと聞いてもいないよ!』
 思わず大声を出してしまった。瞬間、周囲の目が集まるのが分かって、私は口を閉じ、母も黙った。
 厭な汗が、つうっと背中から垂れ落ちた。
『もしも、そんなことに――子供を産むことに――なったら、大問題になる。父さんの家とは縁が切れるだろうし、母さんの方の親戚だって黙っていないだろ?』母の両親、つまり私の祖父母の一族は、古くから病院を経営する家柄だった。母が今まで苦労知らずに生きてこられたのも、その援助があったからこそだ。あのひとたちは体面を気にする。もしも、一族から素性も知れぬ男の子を産んだ女が出たとしたら――。母は勘当されるかもしれない。『そうしたら、もう今までの生活はできないよ。家も親もなくなって、母さんはひとりぼっちだ。どうやって暮らしていくんだよ』
 私の声は次第に哀願の調子を帯びていた。自分でそれが分かって、私は腹立たしく、悔しく、そして酷く悲しくなった。
 ゆっくりと両手をすり合わせながら、母は私の言葉を聞いていた。その姿がやけに小さく見えた。
 やがて母はぽつりと言った。
『それでもいいの。不幸になったって、わたし…』
 その先は聞こえなかった。

6名無しさん:2010/04/23(金) 09:06:14
うまい!うまいねぇ!胸がザックリきたよ、もう嫌だこんなの!けど・・・いいね

7落下傘:2010/04/23(金) 23:04:08

 母は騙されているのだ――と、私は考えていた。

 いや、それは正確な表現ではない。いいように利用されているのだ、というのが事実に近いのだろう。どちらにしても、胸の痛む事態だった。母にとって、私にとって。
 考えるたび、母の“恋の相手”という男に対して、たぎるようなふつふつと憎しみがわいてくる。
 母はお嬢さま育ちで、幸か不幸か、その後、夫の死を除いては世間の荒波にさらされることなく世を過ごしてきた女だ。良く言えば無垢であり、悪く言えば世間知らず。だからこそ40歳にして妻子持ちの男などに引っかけられ、あまつさえ子を孕まされて、そのうえ籍もいれないまま子供を育てるという、非常識極まりない提案を呑まされようとしている。
 そんなこと――絶対に許せない。
 先日の話では、母はまだ妊娠後2カ月ほどということだった。まだ間に合う。母は悲しむかもしれないが、中絶するのが最善の策だ。だが――
 ――“好きなのよ、あの人のこと”
 ――“わたし、あの人に尽くしたいの”
 切羽詰まったような母の台詞が、表情が蘇る。同時に、苦い唾が口中に湧き、私は無意識に顔をしかめていた。
 あの様子では、母を説得するのは骨かもしれない。母はもともと融通のきく性格だったが、しかし、わるい宗教に洗脳されたようなあの時の母を思い出すと、自信を失ってしまう。私はもともと母に弱いのだ。
 だが、そんな弱音を吐いていられる現状でもなく、ことは急がなければならない。こうなれば諸悪の根源をまず攻略するべきだ。私は決意して、週末を待った。

 土曜日になった。本来、カメラマンの仕事は規則的な土日の休みなど滅多にないのだが、その時はシフトの関係上、たまたまそうなっていた。
 早朝に私は家を出て、マンションから小1時間の距離にある実家まで行き、付近の公園に車を停めた。母の相手が勤め人だとしたら、2人は土日に会う可能性が高いだろう。その現場をつかまえて、直接、男をどやしつけてやるのだ。「何を考えているんだ」と。場合によっては手が出るかもしれない。
 それにしても、カメラマンの修行で長時間の待機や張り込みには慣れているが、まさか実家のそばで、母が出てくるのをひそかに待ち構える日が来ようとは――。

 待つこと3時間。午前10時ごろ、見慣れた家から人影が出てきた。
 母だ。黒のワンピースにベージュのカーディガンを着ている。先週会ったばかりだというのに、私の目は知らず知らず母の腹部を観察してしまう。まだ、お腹はふくらんでいないだろうかと、冷や汗をかくような心持ちで。少なくとも、服の上からではまだ兆候が見られないことに安心して、その後で、自分のそんな心理に惨めさを感じた。
 気を取り直して、私は車を降りる。慎重に距離をとりながら、おそらくは駅に向かってゆっくりと歩いていく母の後ろ姿を追った。

8名無しさん:2010/04/26(月) 21:49:31
続きを楽しみにしてます!

9落下傘:2010/04/26(月) 23:40:28

 結論からいえば、その日の尾行は失敗に終わった。

 母は駅から電車に乗った。私は距離を置いて気付かれぬよう、同じ車両に乗り込んだ。母は出入り口付近に立ったまま、ぼうとした表情で外を見ていた。
 私は母に背を向けて、時折ちらちらとその様子をうかがっていた。乗換えすることもなく、母はそのまま電車に乗ったきりで、三十分ほどが過ぎた。
 母は携帯をいじり始めた。例の相手からメールでも読んでいるのだろうか。こころがぞわりと騒ぐ――その時だった。
 停車していた電車がほとんど発車する寸前に、母はN駅のプラットフォームに降りた。突然の動作だった。あっと思う間に、電車は発進した。そのまま母の姿を見失ってしまう。私は思わず、長いため息をついて、近くの壁に握りこぶしを当てた。こんなことは仕事でも滅多にない。見事な失敗だった。
 それから私は次の駅で引き返し、実家の近くへ戻ると、夜中2時まで張り込みを続けたのだが、母はついにその日、帰宅することはなかった――。


 心身ともに疲労こんばいした身体で自分のマンションに戻り、一日中死んだように眠りこけ、そして月曜日を迎えた私は、いつも通り事務所に出社した。いったい何をやっているのだろう。そんな虚しさとともに、焦燥感だけがますます色濃い。
 それにしてもあの時の母の行動。あの急に駅へ降りた動作。まるで私の存在に気付いており、尾行をまこうとしたかのようだった。
 いや、たとえ私に気付いたとしても、相手は母だ。後をつけてきたのだとは疑いもせず、「こんなところで何をしているの?」と驚くくらいだろう。だとすれば――
 私の脳裏に、突然の降車の直前、携帯を開いていた母の姿がよぎった。まさか、私の存在に気付いていたのは。
 ――その時だった。考えごとに気を取られて、命じられた写真整理の仕事もおろそかになっていた私の耳に、事務所の電話が鳴る音が聞こえた。
 事務所には私しかいなかった。やれやれ、と口に出してつぶやき、私は重い腰を上げて、受話器を取った。
「もしもし、金原写真事務所の伊藤と申します」
 そんな私の口上に対して、返ってきたのはくぐもった笑い声だった。瞬間、私は何か厭な予感がした。
 そして、
「――伊藤香奈枝さんの息子さんだね」
 電話の主はそう言った。低くしゃがれた男の声だった。
「……そうですが。あなたは?」
 眉をひそめ、問うた私に、受話器の向こうの男は、またクスクスと耳障りな笑い声をたてる。それから、こう言った。
「わたしは君のお母さんの彼氏だよ」

10落下傘:2010/04/28(水) 00:06:12

 頭が真っ白になった。衝撃、驚愕、それから――
 それから、憎悪。
「あんた、いったいどういうつもりだ!」
 事務所に人がいなくて助かった。私はわれ知らず大声を出していた。
「大声を出すねえ。そこは君の職場じゃないのか? 周囲に人はいないのかね」
「そんなことはどうでもいい。どうして、ここの電話番号がわかった?」
「分かりきった質問をするものだな。君のお母さん――香奈枝から聞いたに決まっているじゃないか」
 香奈枝。
 含み笑いをしながら、男が母の名前を呼び捨てにする。
「先日は不首尾に終わったようで残念だったね。それにしてもカメラマン見習いにしてはお粗末な尾行だねえ。正直、笑いをこらえるのが大変だったよ。ともあれ、25歳にもなって、母親のあとをつけまわすとは。まるで、おむつの取れていないガキじゃないか」
「……ふざけてろ」怒りとともに吐き捨てつつ、私は先ほどの推理が正しかったことを知った。母の後をつける私の存在に気付いていたのは、この男だった。私はあの時、電車の中にいた乗客の顔を思い出そうとしたが、それらしい顔は心に浮かんでこない。
「なんで俺に電話をかけてきた」
「いいかげん母離れしろ、と衷心からの忠告をしたくなってね。大の大人になって、母親のプライベートに干渉するのはやめたまえ」
「なにがプライベートだ。妻子持ちのくせに母をだまして、もて遊んで、そのあげく――」
 妊娠までさせやがって。
「妻子持ち? それは香奈枝から聞いたのかね。――まあ、ほかにいないな。私の個人情報は一切言うなと命じておいたのに、しょうのない女だ。これはお仕置きが必要だな」
「いいかげんにしろ! もう母に関わるな!」
「それは決めることじゃない。――まあ、君の気持ちも分からんではない。大好きなお母さんが誰とも知らないよその男の子供を産むなんて、ねえ。悲しいだろう? 辛いだろう?」
 男の声に鼠をなぶる猫のような響きが混じった。
「だがねえ、それが現実なんだ。君のお母さんは妊娠し、そして心から私の子供を産みたいと願っている。そのためには何もかも失っていいとさえ言っている。もちろん、君のことも含めて、ね」
 ――この男は。
 いったい何を言っているんだ。
「君のお母さんは、生まれてこのかた、普通の女なら当然経験するような恋愛とも無縁に生きてきたんだ。いわば、私は40を手前に出会った、お母さんにとっては初恋の相手でね。君も男なら、生まれて初めて恋に狂ったお母さんの幸せを応援してやってもいいんじゃないか」
「……黙れ」
「黙るのは君だよ。いま、わたしは都内のホテルにいる。香奈枝も一緒だ」
 なん――だと。
「いま、香奈枝はシャワーを浴びているが、もうそろそろ出てくる頃合いだ。論より証拠。お母さんが私を心底愛している証拠を見せて――いや、聞かせてあげようじゃないか」
「どういう……ことだ」
 男は答えなかった。受話器の向こうで、男が携帯をどこかに置く気配がした。
 ドアの開く音、そして母の「お待たせしました」という声が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。

11名無しさん:2010/04/28(水) 09:41:06
たと母を文字で直すとこんな感じなんだろうね、うまいね。

12名無しさん:2010/04/28(水) 09:59:58
この後がもっとも重要

名作になってくれると信じてます

13名無しさん:2010/04/28(水) 10:45:23
そうだねこっからの表現が大事だね。

14名無しさん:2010/04/30(金) 20:38:46
上から目線の感想まがいに辟易されていることとは思いますが、続きを楽しみにしております。

15名無しさん:2010/04/30(金) 22:52:25
上から目線で申し訳ないです
もう少し言葉を選ぶべきでした

16名無しさん:2010/04/30(金) 23:25:51
>>14
自分の思いを人に押し付けてモノを言わないように。

17落下傘:2010/05/01(土) 23:30:01


 感想いただいた皆さま、ありがとうございます。

 現在、仕事が忙しくて、あまり書く時間が取れていないのですが、
なるべくいいものにしたいと思っていますので。
 感想、要望などは参考にさせていただきますので、どうぞご随意に、
よろしくお願いします。

18名無しさん:2010/05/02(日) 16:05:14
落下傘さんのような良作の誕生に本当に感謝してます
参考にはならないかもしれませんが
個人的には母が調教されて男好みの姿に変貌してしまい
子供を気にかけなくなってしまう展開を期待しています

投稿はあせらずマイペースが一番ですよ

19落下傘:2010/05/03(月) 04:08:44

“電話をされていらっしゃったのですか? お話し声がしましたけど…”

 受話器越しに。
 聞きなれた母の声が遠く響く。
 私の脈拍は早鐘のようだった。心臓の音が耳元まで聞こえるようだ。
 母がいる。この携帯電話の向こう側に。何も知らずに。
 男と一緒に。

 つづく男の声は冷淡だった。
“そんなことを聞いてどうする? お前に関係があるのかね?”
“…すみません。余計なことでした”
“わたしはせんさく好きの女は嫌いだよ”
“申し訳ありません。もう余計なことは申しませんから”

 慌てたような母の声は、従順そのもので。
 わたしの胸を、ひどく締め付けた。

“バスタオルを取れ。いつものように、生まれたままの姿を見せてみろ”
 男が命じた。
“はい”というか弱い返事がする。

 しばらくの間(ま)があった。私にとっては耐えがたい間だった。

 やがて、男が言う。
“まだ、腹は膨れていないな”
“恥ずかしい…”
“隠すな。わたしが裸を見せろといったら、両手は横に、気をつけの姿勢を取れ。何度言わせたら分かる”
“申し訳ありません”
“ふふふ。いったい、何をそんなに恥ずかしがる? 四十路の年増女なら四十路の年増女らしく、堂々と素っ裸を晒したらどうだね”
 からかうように男が言う。
“…女はいくつになっても、明るいところで肌を見せることを、恥ずかしがるものです”
 そんな母の言葉には、男に対する媚のようなものが感じられた。私が今まで聞いたことのない響きだった。
“とくに男の種を孕んだ身体は、か”
“いや”
“事実だろう。ふふふ。それでなくても、年増らしく熟れた身体をしている”
“おっしゃらないで”
“年増、年増と言われるのが気に入らないのかね? わたしは褒めているんだ。むっちりした胸も、でかいケツも、わたし好みに熟している。だが――そうして見ると、股の間だけがいかにも不釣り合いだな”

 くすくすと――低い笑い声。

“貫録たっぷりの女体なのに、そこだけは、まるで未通女(おぼこ)じゃないか”
“ひどいおっしゃりよう…あなたがこうさせているのに”
“手で隠すな。「こうさせている」とは、どういうことだ? ちゃんと言葉に出していってみろ”

 男が携帯電話を押し当て、耳をそばだてている私を意識したような発言をした。

“お前の股はどうなっているんだ?”
“小さな女の子みたいに……つるつるになっていますわ”

 恥じらいを含んだ声で。
 母は答えた。

“ふふふ。その通りだよ。これから赤ん坊を産もうという女にはとても見えないね”
“いや”
“ちゃんと言いつけどおり、三日に一度剃っているのか”
“はい”
“場所は? どこで剃っているんだね”
“そんなこと……言わせないでくださいまし”

 母の返事は蚊の鳴くようなか細さだった。

“……ご存じのくせに……あなたがそうお言いつけになりましたのに……”
“お前の口から聞きたいんだ。「いや」は許さないよ”
“………自宅の”
“どこだね?”
“……亡くなった主人の、仏壇の前です”

 そんな――背徳的な言葉を。
 母が口にした。

 私は鈍器で頭をがあんとなぐられたような衝撃を受けた。

“おやおや。その時、お前はどんな格好をしているんだ”
“……何も身につけておりません”
“素っ裸か”
“はい”
“ふふふ。素っ裸で、死んだ旦那の前で、あそこの毛を剃るか。あの世で欲情した旦那が化けて出てきそうな光景だな。それで、剃った毛はどうするのかな?”
“……お供えいたします”
“仏壇にか”
“はい”
 ひゅう、と男が口笛を吹いた。“最高の供養じゃないか。そうして、お前は気兼ねなく、わたしのような男との逢瀬に出掛けられるというわけだな”
“ああ………”
“今度からは、毛の処理をした後に、サービスでオナニーも見せてやれ。「あなたが逝ってから、わたし、こんなにいやらしい女になりました。あさましく発情しているわたしを見てください」と報告してからな”
“……………”
“返事はどうしたんだ”
“……はい”
“どうするんだ?”
“……下の毛を剃って……お供えした後で………あのひとに……恥ずかしいことをしているわたしをお見せいたします”
“言葉だけは、いつまでたってもお上品だな”
 男はまた笑った。

20落下傘:2010/05/03(月) 04:12:57

 とりあえず続きです。

>>18さん

 ありがとう。参考にさせていただきます。

21<削除>:<削除>
<削除>

22名無しさん:2010/05/10(月) 22:07:59
一部の常識のない方の発言は気にしないほうがいいですよ

23名無しさん:2010/05/11(火) 00:48:31
ですね

24<削除>:<削除>
<削除>

25<削除>:<削除>
<削除>

26<削除>:<削除>
<削除>

27名無しさん:2010/05/11(火) 22:06:51
この掲示板を管理している人がいるなら>>26みたいなのは規制かけてもいいと思うんだが

28管理人:2010/05/12(水) 10:38:04
>>27
規制しました。
できるだけ規制しないようにしてますが、あまりにもひどいものは今後規制しますね。

落下傘さん
規制が遅れて申し訳ありません。
くだらないレスよりも応援レスをみましょう。
私も小説を書いていたので、小説を書くことの苦労はわかりますし、早く書かないからと批判するのはお門違いだと思います。
それよりもあなたの作品を待っている人にあなたのペースでお願いします。


みなさんへ
規制はできるだけするつもりはないのですが、明らかに人を馬鹿にするためだけに書き込まれてる人は規制します。
そのラインは大甘なラインですが、投稿が遅いとか気に入らないとかそういう自分勝手なレスは慎みましょう。

29落下傘:2010/05/15(土) 22:26:54

“それにしても、ずいぶん長いシャワーだったな。そのでかい胸も尻も、さぞ、ぴかぴかに磨いてきたんだろう”

 ゆったりともったいをつけたような調子で、男が言葉をつづける。

“どうなんだ?”
“あ……はい”
“はい、じゃ分からん”
“はい……あ、ごめんなさい。胸もお尻も磨いてまいりました”
“頭のわるい女だな。お前の胸と尻はどんな形で、どう磨いてきたんだ?”

 ねちねちと男は言葉で母を嬲る。蛇が蛙に相対しているように、圧倒的な優位に立って。

“ごめんなさい……わたしのでかい胸とお尻を、ぴかぴかに磨いてまいりました”
“ほほう、そうかね。だが、まだ肝心なところは見ていないな。立ったまま、足を開け。そのまま両手で、おま※このびらびらを掴んで、中身を見せてみろ”
“は……い”

 しばしの間。
 受話器の向こうで、母が屈辱的な姿勢を取らされるまでの――間。

“もっと拡げろ。――そうだ。ふふふ、鏡でも見てみるかね。実に恥ずかしい、みっともないポーズだな”

 男が嘲笑う。

“つるつるだから、びらびらも掴みやすいだろう。しかし、こうして明かりの下で見てみると、エロというよりもグロだな。まあ、孕んだ四十女にしては、黒ずみも少ない。きれいなお※んこをしている”
“……………”
“褒めてやったというのに、礼もなしかね”
“申し訳ありません。ありがとうございます。嬉しゅうございます”
“動くな。わたしがいいというまで、そのままの格好を続けろ”
“は……い”
“ふふん。それにしても、どこもかしこもきれいに磨いてきたじゃないか”
“……あなたに……可愛がっていただくためですわ”

 はにかむような、母の気配がした。

“可愛がる――なるほどねえ”

 本当に可笑しそうな声で、男が低いわらい声を立てる。

“もしや、お前はまだ勘違いしているんじゃないかね? わたしがお前を可愛がるのは、自分の愛人としてじゃない。せいぜいペットとしての愛情くらいだ”

 そんなことを。
 男が言った。

“愛人なら、もっと若い女がたくさんいる。何を好き好んで40女を選ぶものかね、ふふふ”

 男がまたわらう。母を愚弄してわらう。

“――とはいえ、四十女のペットというのは、なかなか風情がある。まして社会人の息子がいる母親が、わたしの前ではただの牝犬ペットになって、主人の機嫌を取るためにそのでかいケツを振るというのは、滑稽で愉快じゃないか? だが、それも飽きるまでだよ。わたしは要らなくなったものは、すぐに捨てる主義でねえ”

 吐き気がするような口調、言葉だった。

“お前はそれでもいいと言うのかね。そんな男の子供を孕んで、産んで、家族連中から嫌悪されてもいいのか? それでもペットとして、わたしに捨てられるまで尽くすというのかね? 考え直すなら、今のうちだよ”

 家族連中。
 その単語が耳に響いた。

 “どうなんだい?”

 母の返事は短かった。
 短くて、そして、わたしにとっては最も聞きたくない言葉だった。

“……いいです”

“何が「いい」んだ?”
“ペットで、いいです。あなたのペットとしてでも、お傍に置いていただければ、それでいいです。たとえ親戚や……あの子に嫌われても”

 そして母は、わたしが聞いているともしらず、こんな残酷なことを言う。

“それよりも、あなたに嫌われたら、わたし、どうしていいか分かりません”

 あなたのことが好きです。
 誰よりも愛しています――

 母はつぶやくように、同時に切羽詰まったように、そんな台詞を口にした。

“四十女にしては純情な愛の告白だな”それに応える男の声は、対照的にからかうような調子だった。“そんなにわたしのことが好きか? 愛しているというのか?”
“はい。愛しています”
“ならペットらしくケツを振りながら、言ってみせろ。――待て、ま※こは拡げたままだ。誰が手を離していいと言った。みっともなくおっぴろげたまま、牝犬のケツ振りダンスをしながら、今の台詞を言ってみろ。わたしがもういいと言うまでだ”
“はい……”

 そうして。

 愛しています、愛しています、愛しています、愛しています。
 愛しています、愛しています、愛しています、愛しています、愛しています、愛しています、愛しています、愛しています――――

 延々と同じ台詞が、受話器から流れてきた。聞きなれた母の声で。苦しげな吐息や、切なげな喘ぎが、時折、その声を乱す。だが母は懸命に、狂おしくその言葉を繰り返していた。大げさでなく、発狂するような心地でわたしはそれを聞いた。

30名無しさん:2010/05/16(日) 15:17:51
清純な母が男に服従している
素晴らしいシーンです
更新感謝!

31名無しさん:2010/05/18(火) 00:55:06
えろいなw

続き期待してます。

32<削除>:<削除>
<削除>

33名無しさん:2010/05/27(木) 19:41:00
続きを楽しみにしています。

34名無しさん:2010/06/08(火) 18:04:33
作者さんはいなくなったようなので
明日から俺が続きを書きます。

35名無しさん:2010/06/09(水) 08:25:45
どうぞお引き取りください

36名無しさん:2010/06/09(水) 13:36:37
どうぞ続きをお願いします

37名無しさん:2010/08/19(木) 14:12:23
↓今、この人妻の部屋を生中継してるぞwww
http://www.x.se/ka25

38名無しさん:2012/10/17(水) 22:43:42
続きをお願いします

39名無しさん:2012/11/11(日) 01:25:32
一体、どれほどの時間がたったのだろう。
ようやく男が口を開いた。
"香奈恵、こっちに来なさい"
母は返事をしなかったが"愛してる"が聞こえなくなったので
従ったのだろう。
"言わなくてもわかるだろ?"
男のニヤついた声が聞こえた。
母が返事をすると、カチャカチャとした音が聞こえた。
おそらくベルトを外した音だろう。
"香奈恵がご奉仕させて頂きます"
暫くするとジュボジュボとした音が聞こえた。
"香奈恵はコレが大好きだな。"
男が笑いながら言う。
"そうだ。こないだの整形の話考えといてくれたか?
香奈恵の容姿なら少しの整形で充分に若返るぞ。
それにこの黒ずんだ乳首だってすこしは綺麗な色になる。
信頼できる医師もいるし、金もあるんだろ?"

40名無しさん:2012/11/11(日) 12:13:56
微妙な続きが来たw
まあ期待してみようかな。

41名無しさん:2012/11/11(日) 20:24:46
この男は一体何を言ってるのだ?
母を孕ませてその上整形?
俺はもう発狂してしまいそうだった。
"でもそんなことをしたら息子になんて言われるか…"
母は流石に拒否の姿勢を示した。
"香奈恵は私のペットなんだろ?
そんなことを気にする必要があるのか?"
男が笑いながら言った。
"そうそう、香奈恵。お前にはお仕置きをしなければならない。
なぜかわかるか?"
"いえ。わかりません"
"お前、息子に俺のことを話たみたいだな?
私のプライベートに関して一切話すなと言ったはずだ"

42名無しさん:2012/11/12(月) 20:24:19
微妙か?

43名無しさん:2012/11/13(火) 23:37:44
"お仕置きは…"
俺はもう耐え切れなかった。電話を切った。

"お仕置きは香奈恵の後ろの処女だ。これからお前は毎日自分で拡張しろ。
拡張の仕方は好きにしていい。寛大だろ?"
"はい。ありがとうございます。あなたに処女を貰って頂けるなんて。"
男は笑った。
"何を勘違いしてるんだ。俺は調教されてない女のケツの穴なんて興味がない。
香奈恵の処女を奪うのは……お前の息子だ。"
香奈恵は耳を疑った。でも男の笑った顔を見て改めて理解した。
本気なんだと。本当に息子にそんなことをさせるつもりなんだと。

44名無しさん:2012/11/15(木) 01:08:45
ありゃ

45<削除>:<削除>
<削除>


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板