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RPGキャラバトルロワイアル11

1SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:04:46 ID:b2pXRKlk0
このスレではRPG(SRPG)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画を進行しています。
作品の投下と感想、雑談はこちらで行ってください。


【RPGロワしたらば(本スレ含む】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/

【RPGロワまとめWiki】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html

【前スレ(2ch】
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1307891168/l50

テンプレは>>2以降。

852魔王への序曲 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:23:02 ID:9qS70r1M0
「お目覚め?」
瞼をあけて見上げた世界には、真っ赤に染まった酔っぱらいがいた。
まだ人間の形を保っている左眼で眼鏡の奥の瞳を見つめながら、ジョウイは仰向けになったまま尋ねる。
「どのくらいここにいました?」
「上階に上がったきり戻ってこないから見に来たのよ。15分くらいってとこかしらねぇ」
ジョウイはこめかみを押さえながら状態を起こす。
眠っていた、という実感はない。頭の中の回路がブツリと切れてしまっていた感覚だった。
その顔は精気が抜け落ち、白蝋のように窶れている。墜ちてしまったゴゴと同じ黄金の右眼だけが、爛々と輝いている。
「ずいぶん無茶をしたみたいね」
杯の酒を飲み干したメイメイは眼鏡を外し、玉座から正面を一望する。
血のように紅い絨毯は黒と白に染まっていた。
虻もわかぬほどに栄養を失った腐肉や、水気も残らぬ白骨が海のように敷き詰められている。
魔族が夢見た楽園としらず、ただ宝の山と勘違いした野盗ども。
わずかな楽園を侵させまいと王墓を守り続けた墓守の残骸。
遺跡ダンジョンに偏在する兵どもの夢の址。
なぜここにそれが集められているのか、どうやって集められたのか。
メイメイは敢えて観ていない。観る必要もなかったからだ。
「で、なにしてたのよ」
だが、それはジョウイが50階に上がる理由とは全く関係がない。
抜剣していない状態では歩くことも不自由するだろう消耗だろうに、なぜ本人が上がったのか、メイメイは尋ねた。
ジョウイはそれに答えるようにして、二枚の封筒を渡す。
丁寧に封蝋されたそれは上質な紙に華美な装飾が施されていた。まるでどこかの国書のごとき装丁の封書だった。

853魔王への序曲 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:23:49 ID:9qS70r1M0
「……なにこれ?」
「いろいろ考えたのですが、2つと思いました。1つは、彼らに。もう1つは」
「あなたは特殊なアホなの? アタシをポストか何かだと勘違いしてない?」
メイメイは叱るような目つきでジョウイを睨む。
「貴方は自分が何をしたのかを分かっている。あのギャンブラーの言葉を借りれば、
 貴方は“他人の金も場に乗せた”のよ。もう貴方は負けられない。
 いいえ、負けるという発想さえ烏滸がましい。その上で、保険でもかけようっての?」
遙かな空より見下ろす龍の如き天眼でメイメイはジョウイを見据える。
だが、ジョウイは困ったように頭を下げるだけだった。
誰よりも恥じているのだろう。
何もかもを使い潰そうとしながら、それを遺さずにいられなかった自分自身に。
あのときから何も変わっていない自分自身に。
「ねえ、一つ最後に聞かせて」
眼鏡を外して眉間を揉みながら、メイメイはジョウイに問いかける。
詰問する調子はもうない。女性のやわらかさと神の厳かさを併せ持った、静かな問いだった。
「そこまで悩むくらいなら諦めちゃえば? あるいはいっそ、あたしに手伝ってほしいっていえば?」
静寂の遺跡の中で、ジョウイは黙ってメイメイを見つめていた。
「負けが怖いんだったら、ズルしちゃえばいいのよ。
 あたしが手を貸せばオル様を倒すにせよ、彼等を殺すにせよ、1時間もあれば片づくわよ。
 ヒトカタでよければ人手の補充だってできる。あたしが本気を出せば、それくらいは朝飯前ってね」
にゃはは、と乾いた笑いがひとりきり木霊する。その音が止むころに、メイメイは一つ小さなため息をついて、杯に酒を注いだ。
「信じられない、か」
「いいえ、信じますよ。貴女の力を今更疑いはしません」
なみなみと注がれた杯から滴がこぼれる。ジョウイはゆっくりと首を横に振った。
「この魔剣を得たからでしょうか。貴女がどれほどの力を持っているのかは分かります。
 おそらく、やろうと思えばできるのでしょう。ですが、それはダメだと思うんですよ」
「どうして?」
「僕たちの戦いを、苦しみを、願いを――神や運命なんて言葉で片づけたくないから」
この剣を手にしたのは、紋章の呪いなどではない。抱いた魔法はジョウイ自身の祈りだ。
故に部外者に邪魔はさせない。
たとえレックナートであろうが守護獣であろうが幻獣であろうがエルゴであろうが精霊であろうが竜であろうが星であろうが。
この戦いは人間の、誰しもが持つ感情から始まった。
ならばその終わりまで、人間の手に委ねられるべきなのだ。たとえ、どのような結果になろうとも。
(だからこそ、私、か。観測者としてではなく、手出し無用の立会人として)
メイメイはジョウイの答えを含めるように酒をあおり、しばし虚空を見上げる。
実際は、運命を変えるほどの力が自分にあるとは思わない。
それほどまでに魔王オディオは、世界の憎悪は強大なのだ。
好き勝手に振る舞っているように見えるのは、その実なにもしていないから。
観る以上に直接的に干渉すれば、簡単に支配されてしまうだろう。
やはりメイメイには、何もできない。それはとっくの昔に分かっていたことだ。
ならば、なぜこうも苛立つのか。分からないまま、酒を再び煽る。
一人で全てを背負う、その在り方が、心の内側をかきむしる。

「それに、信じたいんですよ」


――――ですが、たしかにあの頃わたしたちは――――

854魔王への序曲 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:24:28 ID:9qS70r1M0
それに口を付けたとき、ジョウイが小さく呟いた。
「僕の魔法<りそう>は、がんばればヒトの手でちゃんと叶えられるものだって」

蒼白になった顔に、ほんの僅かな笑みが浮かんだような気がした。
だが、メイメイが瞼をしばたいた時にはすでに、乾ききった無表情で、そうであったという証すら残らない。
「……真なる理想郷、か」
ふいに口ずさんだ言葉と納得を、そのまま酒で流してしまう。
全てを一人で背負い、理想の楽園を祈る王。
やり方は異なれど、それは確かにあの日見送った背中だった。
ならば此度の自分の在り方も変わらない。ただ信じ、見届けるだけだ。

――――おおくのものを愛し、おおくのものを憎み……
――――何かを傷つけ、何かに傷つけられ……

「とりあえず、預かるだけ預かっておくわ。渡すかどうかは……この後の見物料にしておきましょう?
 ……そういえば貴方の“それ”、名前は決めたの?」
封書を胸の谷間にしまい込みながら、メイメイは玉座から下手を見つめて尋ねた。
ジョウイは何のことかとしばし首を傾げ、ややあってああ、と気づいた。
「必要もないと、考えていませんでした。そうですね……だったらオレンジ「ヴァカなの?」

ジョウイが言おうとした名前を、メイメイはばっさりと切り捨てる。
「名前っていうのはね、物事の本質を決定する重要なファクターなの。
 真名、魔名。言祝にして呪詛。名前一つでその人の運命が決まっちゃうことだってある。
 召喚獣にしたって概念にしたって、それは同じ。
 もし勇者が“ああああ”とかそういう名前だったらどうなると思うの?
 命名神もムカ着火ファイアーでへそ曲げるってもんよ」
「僕のセンスはああああ以下なんですか……」
熱っぽく語るメイメイに、ジョウイは無表情のまま答える。
だが、そのトーンはガクリと落ちて、明らかに気分が落ち込んでいた。
「そうねえ……じゃあメイメイさんがサービスで改名相談に乗ってあげる」
とん、と柏手を打ちながらメイメイは朗らかに歌った。
一瞬、いやオレンジとジョウイが言い掛けたのを敢えて右から左に流しながら、腕を組むことしばし。

「――――ってのはどう? 名も無き世界にて“旧き輪廻を断つ剣”っていう意味。
 少し歪つだけど、その方が貴方らしいでしょう」
「……なるほど、確かに“僕たちに相応しい”。ありがたく頂戴しますよ」

855魔王への序曲 6 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:25:04 ID:9qS70r1M0
ジョウイはメイメイから授けられたその真名の意味を噛みしめた。
それだけで、魔剣の中の力が活性化したような気がする。
召喚獣に名をつける際に、相性のよい名をつけることで召喚獣の力を引き上げるように、
名前もまたその力を決定づける要素なのだ。“どんな召喚獣であろうとも”。

「どったの?」
「……いえ、少し」
思案に耽るジョウイにメイメイが声をかけたとき、カンと靴音が響きわたる。
シードとクルガン、ものまねによって追想された未練。
モルフと化してなおジョウイに従う懐刀達だ。
その来訪に全ての準備が終わったとしり、ジョウイは二人から装具を戴く。
一つは紅黒き外套、一つは絶望の鎌より刃を落とした棍。
いずれも彼が奪い取り、同時に受け継がれた魔王たる証。
それらを背負い、彼は再び楽園へと降りた。

「それじゃあ、始め<おわらせ>にいこうか」

もう二度と魔王<これ>を脱ぐことはないと知りながら。


――――それでも風のように駆けていたのです……青空に、笑い声を響かせながら……

856英雄への諧謔 1 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:25:59 ID:9qS70r1M0
「……と、言うわけだ」

乾ききった荒野。太陽だけが降り注ぐその大地の上に沈黙が訪れる。
それはアナスタシアが定めた午後3時よりも僅かに早かった。
招集をかけたストレイボウが語った内容は、彼等を召集させ、また沈黙させるのに十分だった。
「死喰い、か。俺が識ったのは、そんなデタラメな存在だったとはな……」
「グラブ・ル・ガブルの墓碑か……因果かしらね、本当」
カエルが覆面ごしにぐぐもった笑いを漏らす。
工具の最終確認をしながら、アナスタシアが表情を陰らせた。
島の遙か下、星の中心で参加者の死を喰らい目覚めの時を待つ『死喰い』。
この島での殺戮が意味するところは、その墓碑の完成だったのだ。
「ンで、死んだ奴らが液体人間みたくモグモグ混ぜられてるのを、お空から見物してやがるってのか……オディオ……ッ!」
そのおぞましさに自分が戦った隠呼大仏を想起し、そのおぞましさを怒りに変えてアキラは空を見つめる。
たとえ見えずとも触れられずとも、オディオがこの殺し合いを天覧している『空中城』がそこにある。
「ご丁寧にそこに帰還の術を用意してあるとはな。嘗めているというべきか、あるいは……」
手に持った2種のデータタブレットを弄びながら、ピサロはその存在を反芻する。
空中城の中に存在する脱出のための乗り物、『シルバード』の存在を。
バトルロワイアル開催の意味、オディオの居場所、脱出の方法。
彼等が知ること叶わなかったほぼ全てが、齎されたのだ。
だが、その表情に憂いはあっても喜びは微塵もない。

ガン、と岩に拳が打ち付けられる音が響く。
その場の全員の茫洋とした感情を束ねるようにめいっぱいに叩きつけられた左腕の先には、
歯も折らんとばかりに食いしばるイスラの鬼気めいた表情があった。

「何が、妥協してやってもいいだ……ジョウイッッッ!!!」

目尻も裂けんとばかりに見開かれたイスラの瞳が見据えるのはジョウイ=ブライトの姿だった。
そう、これらの重要な情報をもたらした最後の敵であるはずのジョウイに他ならない。
そしてこともあろうに、オディオに手を出さず脱出するならば支援するとまで提案してきたのだ。
紅の暴君に適格したのであれば、おそらく情報自体に誤りはない。
そしていくら考えてもそれらの情報を伝えること自体に、ジョウイ側にメリットが感じられない。
つまり、本気でこちらのことを慮って停戦勧告をしているのだ。
あとはこっちでうまくやるから、君たちは逃げなさいと。
(ふざけるなよ、ふざけるなよジョウイッ! ここまでのことをしておいて、今更どんな面をするっていうんだッ!?)
ヘクトルの死を奪ったこと自体を責めはすまい。
だが、そこまでのことをしてしまった以上、あいつには今更聖人ぶっていいはずもない。
それはイスラがもっとも唾棄する偽善そのものだ。
(立ち位置を壊して、ふらふらして、みんなに害を振りまいて、まるで、まるで……ッ!!)
なにより、その在り方が否応無く思い出させるのだ。
築いたものを自分で壊し、避けられぬと分かっていながら甘い道を求め、
それでも願ったものを止められない――――まるで、どこかの誰かのように。
しかし、それだけならばここまで胸を締め付けられることはなかっただろう。
想起されるのが魔剣使いの背中なのは、先を行かれたという思い。
嘘と笑顔で自分自身を含めてごまかした自分とは違い、どれほど苦しもうが嘘だけは吐かぬと律した伐剣者。
先を行くものに、空を見上げる余裕を得た今でさえも、イスラは苛立ちを覚えずにはいられなかった。

857英雄への諧謔 2 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:26:44 ID:9qS70r1M0
「で、どうするんだ、ストレイボウ。正直切って捨てるには大きすぎる弾だぞ、これは」
「……本気で言っているのか、カエル」
イスラの葛藤に気づいてか気づかぬか、カエルはその情報を持ち帰ったストレイボウに尋ねた。
ストレイボウはその真意を読み切れず、思わずそう口をついてしまう。
死喰いの存在が事実であるのならば、彼の仲間ーー魔王やルッカたちの死も喰われてしまったということだ。
それを放置したまま逃げ出すことなどできるのかと。
「逸るなよ。確かに業腹ではあるが、ここであいつらの死を解放するために死喰いに挑めば死ぬかもしれん。
 それをあいつらが望むと思うか?」
「それは……」
「話を聞く限り、ジョウイもオディオも死喰いを消そうとはしていないのだろう。
 ならば一度元の世界に戻り、準備を整えて死喰いに――ラヴォスに挑めばいいだろう。
 それに、死喰いが完全な形で目覚めなければジョウイが負ける公算が高いのだろう?
 ならば時間をおけば、どう転んでもジョウイは自滅だ。おまえの望みにも叶うんじゃないか?」
 最後の言葉尻に、蛙特有の嫌らしさをたっぷり乗せながら、カエルはストレイボウに問いかける。
 その皮肉に、ストレイボウは顔をしかめる。否定する要素が見つからないからだ。
 目先の状況だけを考えれば死喰いを倒したくもなるが、正確に言えば死喰いは死せる者達の想いを喰っているのだ。
 死喰いを倒せば死者が蘇るというような話ではない。
 ならば危険を冒して死に、あのルクレチアで再会するほうが死者に無礼というものだろうと。
 撤退が最善と理性で分かっていながら、それを認めることができないのは、一抹の不安。
 オディオ――オルステッドとジョウイがぶつかるということについて。
別れ際にジョウイは言った。自分は友に殺されたかったのだと。
親友と殺し合う、その意味を知るジョウイがオディオを終わらせると宣言した。
そんなジョウイがオルステッドが交差したとき、何が起こるのか。
(何か、見逃している気がする……)
僅かに残った引っかかり。ルッカのサイエンスを会得した今でも、それは読めなかった。
逃げることが皆にとって最善であろうとも、
ストレイボウにとって致命的な何がが起きてしまうのでは……そう考えてしまうのだ。
(あ、そういうことか……)
そこまで思い至って、ストレイボウはようやくカエルの言いたいことを理解した。
皆の最善と自分自身の最善は異なる。その事実を敢えて指摘した理由はただ一つ。
“だから、お前はお前の望むように考えろ”と、不器用に教えてくれたのだ。
「……すまない、カエル」
「なんのことか分からんな」
ストレイボウの謝辞に、カエルは知らぬ顔で向こうを向き、覆面ごと頭からボトルの水をかける。
火傷まみれとはいえこの酷暑は両生類には厳しい。

858英雄への諧謔 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:27:14 ID:9qS70r1M0
「……正直、俺には理解できねえよ」
「それでいいと思うわよ。ジョウイ君は、私や貴方じゃ多分一生理解できないもので動いてるから。
 私が貴方を理解できないように、貴方が私を理解できないようにね」
アキラのつぶやきに、アナスタシアは嘲るようにして言った。
はっきり言えば、わざわざ死ぬ可能性の高い方向に進もうというだけで彼等にとってはナンセンスなのだ。
ジョウイを突き動かすものは磔の聖人――――殉死、犠牲のそれに近い。
ならばそれはユーリルが囚われた勇者像であり、アナスタシアが呪った英雄観であり、
アキラが吐き捨てた間違ったヒーロー像であるからだ。
それに対してアナスタシアが皮肉を発しないのは、魔王ジャキを討つために一時はともに戦ったからか。
あるいは、たとえ異なる価値観であろうとも、否定するだけが答えではないと知ったからか。
背中から走る暖かみを覚えなから、アナスタシアは背伸びをした。

「まー何にしても首輪解除しなきゃどうにもならないでしょ。
 準備できたし、そろそろ始めましょうか……どうしたの、デブ?」
「……次にその名で呼べば首を落とすぞ。おい、ストレイボウ」
ついに生者の首輪解除に取りかかろうとしたアナスタシアが、怪訝な表情を浮かべたピサロに気づく。
ピサロはそれをあしらい、ストレイボウに尋ねた。
「あの小僧は“始める”といったのか? “仕掛ける”でも“迎え撃つ”でもなく」
「あ、ああ。そうだ、確かに始めるといっていた」
その返事に、ピサロは眉間の皺をより一層に深めた。
ここまでジョウイが攻撃を仕掛けてくる兆候はいっさい無かった。
だから遺跡ダンジョンという中枢を押さえた以上、その地の利を生かした籠城を狙うものだと考えていたのだ。
(あの小僧が、あの乱戦の絵図を描いたのだとしたら――そこまで気長に待つか?
 あれの性根は、おそらく守勢よりも攻勢。ならば、奴はこの3時間何をしていたのだ?)

ジョウイの策略の一端を知るピサロは訝しむ。
悠長にこちらを待ちかまえるような可愛げのあるものが、あそこまでの大仕掛けを打てるはずがない。

――――出すのは早ぇし将来の後先は考えねぇ。とにかく当てることしか考えねぇ。
――――だから普通は早々潰れるが、女神はチェリーも嫌いじゃあない。
――――ビギナーズラックが回ったら…………一荒れくるぜ。

だから活きのいい新人<ルーキー>は性質が悪いのだと。
そのギャンブル評を思い出したとき、じゃり、と荒野を踏む音がした。
陽光燦々と輝く中、一つの陰と共に――――始まりが来訪した。

859英雄への諧謔 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:28:19 ID:9qS70r1M0
それは、まるで砂漠に立つ一本の枯れ木だった。
全身を襤褸布で覆い尽くした人間大の影。
他には何もない、ただ残ってしまったから立っていただけ。
生気は欠片もなく風さえ吹けばたちまち折れてしまいそうな、朽ちるのを待つだけの影だった。

この距離に至るまで全員がその存在に気づけなかったのも無理はなかったかもしれない。
形式的に各々戦闘の構えこそとれど、意識のギアを上げることもできなかった。
それほどまでに、目の前の存在は稀薄でこの世の存在として頼りない。

「……あの2人か? ジョウイに従った、あの」
「ヘクトルの骸を思い出せ。死せるとて存在の密度は変わらん。
 あの2人も、ここまで薄くはなかった……はっきり言って、弱いぞコイツ」
怪訝に思うストレイボウに、カエルは目を細めて否定した。
亡将も、あの双将も戦士として忘れがたいほどの重みを持っていた。
だが、目の前の存在はそれに比べ何枚も格が落ちている。しかもそれがたった1人。
いったい何なのか――――

【……ジョウイ様からの……】

そう疑問に思ったタイミングを見計らったかのように。襤褸布なかから音がする。
壊れかけた蓄音機が無理をして回転するように、ひび割れた音がボロボロこぼれる。

【ジョウイ様からの伝言を……お伝えします…………僕は、遺跡の下で待っている……】

機械じみた音律で告げられたのは、彼等の煩悶の中心に立つ人物からの伝言だった。
ジョウイ=ブライトはここにいると、高らかに宣言するためか?
否、ジョウイという男がそのためだけにメッセンジャーを用意するか?
【ジョウイ様からの伝言をお伝えします…………】
その襤褸布から手だけが現れる。誰もが息を呑んだ。
蝋のように真白い、人形の手に握られたのは魔力で形成されたであろう黒き刃。
共に戦う中で何度も見た、ジョウイ=ブライトの紋章の刃。
それが意味することは――――

【――――始めます。賢明な判断を望みます】
「ッ!?」

860英雄への諧謔 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:29:02 ID:9qS70r1M0
その時が来たということだ。
影が、ぬるりと前進し切り込んでくる。速い。だが、神速とまではいかない。
振り抜かれた剣を受け止めたのはカエル。たとえ燃え滓の身であろうともこの程度の剣戟捌けぬほどではない。
「この振るい……剣者ではないな。
 あの亡候を失って急拵えで用意したのかは知らんが、役者不足だ。
 伝言が済んだのならあの双将でも呼んで――――ぬぅッ!!」
本命を喚べと言おうとしたカエルの言葉が止まる。
ぶつけ合った刀身から、毒のような痺れが走る。
迎え撃った黒い刃から、紫の雷が蛇のようにカエルにまとわりつく。
「何処の誰か知らんが……貴様如きが、クロノの真似事とは烏滸がましいッ!!」
覆面の下で憤怒の形相を浮かべたであろうカエルは、痺れが全身に達しきる前に強引に剣で弾き飛ばす。
胴を薙いだその一閃が、襤褸布の下半分を切り裂く。細い足と軍靴が露わになった。
「……ッ!?」
その一瞬“彼”は固唾を呑んだ。その動揺を表に出さぬようにするので精一杯だった。
「大丈夫かカエルッ!」
「問題ない、が。気をつけろ。あいつ雷を使うぞ。威力は大したこともないが、麻痺させてくる」
駆け寄るストレイボウを心配させまいと声を張るが、カエルの膝は筋肉を失ったかのように痺れが這いずり回る。
雷撃を刀身に纏わせる攻撃法にクロノを思い出すが、カエルは首を振って雑念を払った。
威力が頼りない分、敵の雷は麻痺性に重きを置いている。
非道に手を染めた自分ならばともかく、そのような卑近な技にクロノを想起するなどあってはならない。
「とにかく、アナスタシア、この麻痺を回復して――」

命には問題ないと、判断したストレイボウがステータス異常治癒をアナスタシアに請おうとした瞬間だった。
影は吹き飛ばされた際の土煙の中から立ち上がる。それと同時に、影の周囲に浮かんだ雷球がいくつかの蛇となって彼等に襲いかかった。
これらも威力は見た目からしてなさそうに見えるが、ユーリルの雷に比べ禍々しい――というより薄汚い毒彩は、
見るからに触れれば麻痺を付与してくると伝えている。
体力の回復はともかく、状態異常回復の術が限られる現状では食らうことは好ましくない。

「小賢しいな、その程度の雷で怯むと思ったか。害したくば地獄より持ってくるか――その薄汚い魂の全てでも懸けてみろ」
接近戦は面倒。そう判断したピサロは引き金を引いた。
込めたのは小規模のゼーハー。当然のように全力ではないが、手加減と言うよりはこの程度でも十分破壊できるという目算である。
爆ぜた魔力が弾丸となって影――影であるべき何かの頭部へと迫る。
【ジョウイ様からの伝言をお伝えします……始めます……賢明な判断を望みます……】
しかし、影はするりと回避した。そのフードの闇の向こうから、しかと弾丸の流れ・速度を『見切』って。
余った襤褸布の一部が破れ、胴が晒される。その陣羽織はボロボロであったが明らかな軍装だった。

861英雄への諧謔 6 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:30:05 ID:9qS70r1M0
「嘘だろ……」
彼の中にこみ上げた不安を見透かすように、その装束に刻まれた瞳が見つめてくる。
その軍装を“彼”はよく知っていた。この島でそれをつけている可能性があるのは2人だけだった。

「……あの服、どーっかで見たような……」
不思議そうに目の前の影を見つめるアナスタシア。
その視線を感じたか、どこかの軍隊に所属していたであろう影は、
黒刃を握らぬ方の手で懐をまさぐり、神速の所作で抜き放つ。
放たれるは投げ刃。黒き刃ではない、しっかりとした実体を持つ忍びの投具。
それらが意志を持ったように彼女に向かって襲いかかる。
「危ないッ!」
寸でのところで形成されたストレイボウの嵐が、壁となって刃を弾き飛ばす。
あまりに慣れた手つきに、その影が投具使いであることは疑いようもなかった。

「チマチマチマチマ……うっとおしいぜッ!!」
投具を投げた瞬間を見計らい、アキラが突貫する。その表情には明確な苛立ちがあった。
雷、麻痺、投げナイフ、ひょろい外見。何もかもがアキラの疳に障った。
とりわけ最悪なのが戦い方だ。最初に麻痺を大袈裟に見せておいて、自分の雷に触れると不味いと刷り込む。
直撃しても致命傷にはならないものを、大きく見せたのだ。
そして、遠間から雷撃と投げナイフ。自分は傷つかない位置からちまちまといたぶっていくやり口。
どんな奴かは知らないが、心を読むまでもない。アキラの世界で吐き捨てるほどいたような輩だ。
暴力を無意味にちらつかせ、有りもしない器を大きく見せ、誰かを見下さなければ自分の立ち位置も定まらない屑野郎。
ジョウイのような理解不能な存在とは違う。この拳をぶつけるのに何の衒いもない。
怒りの正拳が布の向こうの顔面に直撃する。完全なクリーンヒット。これが人間であれば鼻骨は完全に砕けていただろう。
(なんだ、これ……“気持ち悪ぃ”!!)
だが、アキラの拳に伝わったのは骨の砕ける小気味良さではなかった。
まず粘性。ぶちゃぁ、とかぐちょ、とか。プリンを全力で殴ったような感覚だった。
そして、この気色悪さ。耳に舌をつっこまれたような、内股を頬ずりされたような……
とにもかくにも名状し難い不快感が蟻のように這いずり回り、殴るために込めた力が霧散していく。

――――イヒ、イヒヒヒヒヒッッ、ゲ、レレッ、ゲレレレレッッッ!!

弛緩してしまったアキラをあざ笑うように、影は黒き刃を構えた。
自然と読心してしまった、夏場の蠅の羽音ような下卑た笑い声が脳内を満たす。
脳の皺に植えられた白い卵が、孵化する。そして眼から口から――――

「気持ち、悪いんだよクソがァァッ!!!」
「アキラ、そいつに触れるな」

862英雄への諧謔 7 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:31:16 ID:9qS70r1M0
一発の銃弾が、アキラを斬らんとした黒き刃をそらした。
その瞬間を見逃さずになんとか影との『憑依』を切り離したアキラはたたらを踏んで後退する。
その手に影の襤褸布をほとんどつかんで。

「……なんでだ。なんでよりにもよってそいつなんだ……」

向けたドーリーショットの銃口からフォースの光が拡散していく。
銃を向けたまま、イスラはその影から目をそらす。
だが、もはや偽る余地はなかった。その軍服は、帝国軍海戦隊のもの。
そして、それをこの島で纏う可能性があるものは2人しかいない。
一人は、アズリア=レヴィノス。第六部隊長にして我が姉。
もしも、彼女がジョウイの外法にて蘇ったのであらば。怒りこそすれ――――“まだ救いがあっただろう”。
それならば心おきなくジョウイを憎める。
よくも、よくもと、これまでの全てを擲ってあの外道を殺戮する機械になれただろう。

「他にいただろ、もっと使える奴がさぁ……」

もはや影を纏っていた布は、頭部くらいしかなかった。
だから分かってしまう。あの装束は隊長のそれではない。というより、女性のそれではない。
一般的な、男性の軍装。そして、それを纏うものは一人しかいない。

【ひ、いひひひひッ、ギヒヒヒヒヒヒヒッ……】
「あの笑い声、あれもしかして……」

蓄音機から壊れた言葉が響く。ジョウイからの伝言ではない。
もはや言葉も紡げぬほどに奪い尽くされた死の残響。
亀裂から漏れ出すはどうしようもないほどの妄念。
そこまで来て、ようやくアナスタシアが気づく。
あの服装を知っている。なぜなら、彼女たちを一番最初に襲った奴の装束だったのだから。
その名前も知っている。確か――――

「ビジュ、君……?」
「なァんでそいつを喚びだした、ジョウイ――――ッッッッッ!!!!」
【イヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッッ!!!!!】

薄汚い嘲笑と、張り裂けそうなほどのイスラの叫びが真夏のような空に響く。
それは、未来を向こうとするイスラの最大の汚点。
決して拭い落とせぬ両手の色彩だった。

863英雄への諧謔 8 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:32:21 ID:9qS70r1M0
何もない真っ黒で真っ白な街の中で、それは思う。
どれくらい経ったであろうか。よく分からない。
どうしてここにいるのか、なぜこうなっているのか。よく分からない。
一日のような気もするし、千年たったような気もする。が、やっぱりよく分からない。
もし、最初、があるとすれば。確かに最初は喚いた気がする。
いやだ、くわれる、たすけて、と泣き叫んだかもしれない。
だが、たぶん……そんなものは何の足しにもならなかったのだろう。

そういうものだと知っている。なぜなら、あのとき、あのとき縛られて、
殴られて、蹴られて、鞭をうたれて、眠りそうになったら水をかけられて、
口にやわらかい何かをつっこまれて“あつくてあつくてたまらないものを頬にこすりつけられた”ときに、そう知った。

この世には奪う側と奪われる側しかいない。どんなに綺麗事を言っても勝者と敗者が存在する。
だから奪ってやると決めた。奪う側に回り続ける。そうすれば何も奪われない。
そうきめた、そうきめたはずなのに。もうなにものこっていない。
だからいまも奪われた。いたみも、なげきも、どうしてと思うこころさえも。

なぜだ。なぜだ。なぜなにもない、なぜなにものこっていない。
だれかをきずつけたからか、だれかからうばったからか。

ふざけるな、ならなぜおれはうばわれた。だれもおれにあたえてはくれなかった。
だからうばったのだ、それがわるいなら、なぜおれはうばわれた。
いみがあると、かちがあると、さけんだのに。きかいのひとつさえあたえられなかった。

――――君が役に立たないことはよく知ってるよ。

そうけっていされたからか。むかちだと、むのうだと、おまえはさいしょからだめなのだと。

――――■は死ね♪

おまえは■だと。
うまれたじてんでそうあれかしときまっているのか。

――――志も力もない君が生きていても迷惑なだけだよ。

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
だれもそんなものくれなかった、めぐんでくれなかった。
だからうばったのだ、ちからを、かねを、おんなを。
うばうことがわるいのなら、さいしょからもってるやつだけしかだめなのか。
おれがごうもんをうけたのも、うらぎられたのも、■のまねをさせられたのもさいしょからだめだったからか。

なぜそうなったのかはもうわからない。だれがいっていたのかももうわからない。
とっくのむかしにうばわれた。このまちのおおきなものにたべられた。
いまさらとりもどしたいなんておもわない。

だけど、だけど。せめておしえてほしい。おれは、■だったのか?

864英雄への諧謔 9 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:32:59 ID:9qS70r1M0
――――違う。

こえが、きこえた。はっきりと、たしかなこえでそういった。

――――干渉できたのは、あなただけか。しかも、置き去られた喰いカス。
    これ以上は死喰いを刺激する……とてもじゃないが、他の人たちは無理だな。

なんだ、おまえはだれだ。いや、そんなことはどうでもいい。
おれはなんだ。■じゃないのか。

――――■と言われたのか。あの男以外に、そんなことをいう奴がいたのか。
    なら答えよう。違う。貴方は人間だ。

ならばなぜおれはこうなった。
なにもできず、なにものこせず、みすてられ、まけた。
しんだらおわりではないのか。むかちなのではないのか。

――――それでも、貴方の生に意味は確かにあった。“そうでなくてはならない”。
    貴方もまた犠牲であり、その敗北<いのち>が無価値などとは認めない。

だが、おれはひつようとされなかった。つかわれなかった。やくにたたなかった。
うばうことしかしらない、よわいものをたたくしかできないおれは。

――――ならば僕が貴方を必要とする。オスティア候の穴を埋めよう。
    どれほどに非道であろうと、どれほどに弱かろうと、そんな理由で拒むような世界は楽園などではない。

それでもいいのなら。■でなくなれるのならなんでもいい。
みじめでもくそでもいい、ただおれは、おれさまは――――■のままおわれない!

――――誓約を結ぶ。残滓と言えどこれで貴方の死は僕のものだ。もう何処にも行けはしない。
    だが、その犠牲<そうしつ>に意味を与える。“絶対に、僕は貴方を忘れない”。

そのてがおれをつかむ。こうしておれはうばわれた。
そのてはつめたくていたくておぞましかったが、ふれられないよりはよほどましだ。
だって、だれもてをさしのべてはくれなかったのだから。

865英雄への諧謔 10 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:33:57 ID:9qS70r1M0
【イヒ、イヒヒヒ……ジョウイ様からの伝言を伝えます……
 安心してほしい、イスラ。“君が彼に何をしたのか”を一々喧伝するつもりはない】
フードの中でぐぐもった笑いを浮かべる影――ビジュであろうものが再び投具を構えながらイスラに声をかける。
イスラはその声に、背中を震わせた。蓄音機越しの言葉で、感情も乗っていないのに、
自分が敵意を向ける人物が、どんな思いでそう言っているのかが分かってしまう。
敵意ではない――――失望だ。
漏らしたおしめを隠していることを一々言いふらすほど子供ではない。そんな値すらお前にはないと。
その失意に、イスラの心が砕けかける。褒められた、撫でてくれた感触さえ霧散しかけてしまう。
自分に価値があったと思ったことなどついさっきまで無かったのだ。
敵と思った相手に、敵とすら認められないことが、ここまでのダメージであるなどと知らなかった。
初めての体験に、イスラは膝を落としてしまう。それを十字架は見つめ続けていた。
その表情は洋として知れないが、影から漏れ出す嘲笑が全てを物語っている。
どんな気分だ、胴を解体して首を落として海に投げ捨てた奴が舞い戻ってくるのはどんな気分だと、そう言われている気がした。
価値がないと言われることがどれほどつらいかわかるかと。
「あ、ああ……!!」
「イスラ、おい、しっかりしろッ!!」
その事情を知らないストレイボウが声をかけるが、イスラの耳には嘲笑がこびりついて届かない。
変われると思った。そう信じられた。
だが……どうしても変わらないものがある。それこそが死だ。
生きていれば変えられる。だが、死はもう変えられない。
だから忘れた、都合のいい思い出で満たして、都合の悪いものを忘れようとした。
だが、決して死は変わらない。敗者は戻らない。
殺してしまえばそれで終わり――――その十字架は一生消えはしない。

【ジョウイ様からの伝言を伝えます……代わりと言っては何だが、彼は僕が奪わせてもらう。いらないのなら、異存はないだろう】

自分が捨てたものに捨てられるがいい、と言うように、投具がイスラに向かって放たれる。
銃で打ち落とそうとイスラは構えるが、視界が鈍る。見たくない、見せるなと標的を定められない。
だが、眼を背けようが聞かせてやろうと、そう示すかのように、十字架は彼岸の音楽を奏で続けている。
無意味にさせぬ、忘れさせないと――――ジョウイがそう呪っているかのように。

イスラに当たるべき刃は、しかし、一陣の風が吹き飛ばす。
影狼ルシエドの突進は、ただそれだけで風を生み、イスラを守ったのだ。

「はいはーい、そこまでー。見ないうちにずいぶんサドっ気があがったんじゃない?」

866英雄への諧謔 11 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:34:47 ID:9qS70r1M0
軽々とした声を響かせるのは、アナスタシア=ルン=ヴァレリア。
その背後には清浄なる波動を受けて麻痺を和らげているカエルがいた。
「貰うだとか奪うとか……おねーさんちょーっと失望しちゃったかな。
 ジョウイ君、そういうこという子だったんだ、って」
ルシエドまで使って前にでてしまったことを、少し後悔する。

なんとなく、であるが、最初に出会って情報を交換したときに気づいてしまっていた。
イスラ=レヴィノスはあの時点で既に手を血に染めていたことを。
それは情報の違和感であり、腐臭漂う後ろめたさであり、漠然でありながら確信するのに十分だった。
だから、この状況にある程度の納得を感じていた。
どんな風に殺したかは知らないが、イスラがこうなってしまうレヴェルのことをしたのだろう。
だが、アナスタシアは何故か口を出さずにはいられなかった。
聖剣を握る手を震わせるのは確かな怒り。
人をモノのように扱ったことか。人のトラウマを抉る真似をしたことか。
違うな、とアナスタシアは思った。アナスタシア=ルン=ヴァレリアはそんな聖人めいた理由で怒らない。
イスラなど関係ない。ただ猛烈なまでの喪失感。大切な所有物が穢されたのだという感覚。

「死んだ人まで蘇らせておいて、何が理想よ。死んだら帰ってこない、帰ってこないのよ。
 そんなに叶えたければ、生きた自分の手でつかみ取りなさいッ!!」

聖剣を突きつけ、アナスタシアは吠える。
それは人形を操るジョウイに向かって、というより自分自身に言い聞かせるようだった。
蘇ってはならない。もう帰ってこない。失ったらもう帰ってこない。
その喪失を超えて幸せを掴もうとしている彼女にとって、目の前の存在は毒の蜜だった。
うらやましい、と内側で響く声を押さえつけるように、彼女は自分を奮い立たせたのだ。

【イヒ、イヒヒヒ、ギヒギ、ゲベ、ゲゲゲゲゲ】

だが、それだけは言ってはならなかった。
ビジュであろう影の中から走る嘲笑が変化する。それは嘆きだった。
なぜダメなのだと、一方的に壊され、為す術なく奪われたのは自分たちのせいではないのに。

【ゲ、ゲレ、ジョウイ、レ、様からの、ゲレ、伝言をお伝えします……
 蘇らせることは、ゲ、できません。彼の死はもうほとんど喰われていて、
 モルフ1つ構成できるほどの残っていなかった。だから――“補いました”】

残った頭部の襤褸布がずるりと落ちる。
ならば刮目しろ馬の骨、お前が何を救って、何を救わなかったか。
お前が何を断じてしまったのかを。

【散った想いの、ゲレレ、破片を集め、レンッ、ガーディアンの、ゲレッ命にて形と為した。
 ゲレッ、ロザリー姫を再構成した貴女と同じです、レレン、アナスタシア=ルン=ヴァレリア―――ゲレレレレレレッ!!!】

867英雄への諧謔 12 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:35:31 ID:9qS70r1M0
その場に全員の表情が凍り付く。イスラとアナスタシアはそれを知っていた。
金の眼、白磁のような肌、漆黒の髪はことなれど、それは確かにビジュの顔だった。

だがそれは“半分”だけだった。アンパンをむしって開けたようにその顔は“虫食い”で、
代わりにそこにあったのは、饅頭のような何か。
霊界サプレスの召喚獣タケシー、道化にエサと喰われ、
死喰いに二度喰われ、参加者でなかった故に半端に喰い捨てられた亡魂だった。
右半分左半分などという規則的なものではない、
福笑いをまじめにやってしまったかのようにその破片がちぐはぐに乱雑にくっついている。
その糊の役割を果たすかのように、接合面からは泥が、生命そのものたるグラブルガブルの泥が垂れ流しになっている。
涙のように汚物のように血のように、ただただ零れている。

分かたれた召喚師と召喚獣は、死してなお共にあることができたのだ。
そう言えば美談になるかもしれない。このような形でなければ。
だが、そう言うには目の前の人形は余りに醜悪に過ぎた。死者の尊厳を蹂躙してすりつぶしてもこうはなるまい。

そんなものを創った奴に、同類だと言われたアナスタシアの胸中はあらゆる想像を絶していた。
あの愛に包まれた世界で起こした愛するもの達の逢瀬の奇跡、それがこれと同じだと言われれば無理もない。
違う、と口をつきたかった。だが、影の向こう側で魔剣を掴むジョウイの姿を想像して噤んでしまう。
ジョウイの魔剣もアナスタシアの聖剣も、本質は同じ感応兵器――想いを力と変える剣だ。
アナスタシアは届かぬ想いを形に変えて、ジョウイは幽けき嘆きを形に変えた。
自分ではできないから死者に縋ったのだ。そこに本質的な違いはない。
この島には、未練など、叶わなかったことなど星の数ある。
その中からアナスタシアは選んだのだ。救えなかったものを選んだのだ。
きれいなものをえらんで、きたないものをすてたのだ。

かっこよくありたいと願っておきながら、馬の骨だと自分を認めてしまった。

ならばいずれ、選んでしまうのではないか。理想の楽園を、失わないものを。
次元を超えるアガートラームを以て、未来に待つ餓えを満たすために、過去<うしなったもの>を喚ぶのではないか。

【ゲレ、イヒッ、ゲヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!】
「ッ!!」

その逡巡が致命的な遅れを呼ぶ。吹き飛んだ投具はまだ死んではいない。
タケシーの招雷能力を得たビジュですらないものは、その雷を吹き飛んだ投具に吹き込む。
雷の力で生まれた磁力が、散った刃に再び殺傷能力を吹き込んで、アナスタシアを狙う。
死にはしないだろう。だが、もし手に怪我を覆うものならば、もう首輪の解除は出来はしまい。
弱く、しかし確実に急所を狙った見事なまでに最悪の一撃。

868英雄への諧謔 13 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:37:00 ID:9qS70r1M0
「……フン、だからどうした」
だが、それは再び吹き荒れた風によって阻まれた。
ハイヴォルテックの一撃が、アナスタシアに迫る投具を全てはたき落とす。
「……ピサロ……」
アナスタシアは己の側に立ったピサロを見上げる。
常と変わらぬ傲岸不遜な表情に、なにを言えばいいのか。
「なにを迷う。お前は――――」
「――――ピサロ、後ろだッ!!」
だが、その逡巡はストレイボウの叫び声と、ピサロの背後から飛びかかる汚物の存在でかき消された。
遅れて気づいたピサロが、振り向きざまに銃剣を振り抜く。
ぐしゃ、と蠅が潰れるような音と腐汁のような泥をまき散らして人形の脇腹に深々と刃がめり込む。
「仮にも魔王を名乗るなら詰まらん細工はするな。こんな人形一つで覆る戦況ではないことは分かっているだろう。何が狙いだ」
ピサロは淡々と人形の主に問いかける。玉座を降りたとはいえ、その威容は何も損なわれてはいない。
その問いは至極当たり前のものだった。確かにこの駒ならばイスラとアナスタシアの精神を削ることはできるかもしれない。
だが、それまでだ。そんな相性を剥いでしまえば、ただのゴミで創った工作物に過ぎない。
尊厳だとかそういうものは差し置いて――この場を動かす駒としては圧倒的に不足している。

【ゲヒ、ゲヒヒヒ……ジョウイ、様、からの……伝言をお伝えします……
 無駄なものなど一つもない。彼は役割を果たしています。貴方からそれを拝領するために】
「!!」

その時だった。虚空に闇が集い、一本の黒き刃が射出される。
それはピサロと人形の間を過たずに貫き、その僅かな隙をついて人形はピサロから距離を置く。
その一撃は紛れもないジョウイの紋章術。ならば近くに潜んでいるのか。
いや、そもそも今の一撃ならば動けぬピサロを討つ絶好の好機ではなかったのか。
ならば、なぜ人形を助けるために――――否、そうではない。
この敵は、真っ当な論理で動いていない。

飛び退いた敵を見据えたピサロは、そのものが何かを握っているのをみた。
この戦場に不似合いな可愛らしい赤色の傘。ついで、自分の得物が僅かに軽くなったことを知覚する。
人形が持っていたのは、彼が狙っていたのは――銃剣に内蔵されたそのパラソルだった。

「ジョウイ様からの伝言をお伝えします……クレストグラフは貴方たちにも必要でしょうから妥協します。
 ですが、これだけは……“巻き込みたくなかった”。だから……」

その一言だけは、不思議な感情が込められている気がした。
その意味を理解できるものはここには誰もいない。
ただ、分かるのは――ジョウイが今から始めようとしていることは、それを巻き込むことであったということだ。


「――――――これでようやく、布陣できる」

869英雄への諧謔 14 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:38:25 ID:9qS70r1M0
その一言と共に、地面が震え上がった。精神的なものではない“物理的に大地が鳴動している”。
「ルシエド、アナスタシアを乗せろ! 絶対に傷つけさせるな!!
 残ったアイテムを拾えみんな! 仕掛けてくるぞッ!!」
「え、ちょっ」
ストレイボウの叫びに応じ、ルシエドがアナスタシアに有無をいわさず自身の背に乗せる。
何が起こるかなど分からない。だからこそ、絶対に首輪解除の要を傷つけさせるわけには行かない。


いつからだったか、眼下に広がる領地がやせ衰えたのは。
最初からだったか、大地より恵みが消え果たのは。
雲一つ無き蒼空に燦然と輝く太陽は砂を灼く。
広がり行く砂海は星を侵す症候群か。
照り続ける太陽は砂食みに沈めという裁きの光か。


「何が起きてやがる……!?」
「これは、真逆……ならこの異常な暑さは、その結果かッ!?」
何とか転ぶことだけを避けながら、異常に戸惑うアキラの横で、カエルがある可能性に気づく。
考えてみれば、ここまで昨日は暑くはなかった。
もし天候を操作するのであれば、オディオはそう宣言しているのだろう。
ではないとすれば、誰かがコレを操作している。
誰がしている――――決まっている。
何のため――――具体的には分からないがそれ以外にはない。
そんなことが本当にできるか――――理論上出来る。魔剣に触れたカエルには直感的に理解できてしまう。


それがどうした。
裁きの光よ来るがよい。
百度来たれど、百に意を加えて蘇ろう。
千度砂喰まれようと、千と銃を携えて舞い戻ろう。

たとえ土地に恵みがなくとも、我らには熱がある。
国を愛する心の熱が、鉄を鋳する窯の熱が。
我らは自然(おまえ)になど屈しない。
ここは人の世界。自然に打克てし技術の機界。

おお、讃えよ、王の名を冠せし、砂に輝く機械の城を。

870英雄への諧謔 15 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:40:02 ID:9qS70r1M0
震えが、どんどんと大きく――――近づいていく。
怒りのように、嘆きのように、狂うように。
小さな声が集い、淀み、大流になるように。


だが、双玉座に二度と兄弟が座ることは二度とない。
歯車に流れるは愚か者どもの流血のみ。
口惜しや、水が枯れども途絶えぬ血脈はここに潰えた。
慙愧に耐えぬ。玉無き王城に何の意味があらん。

国王を殺した人間(おまえ)を許さない。
玉座を穢した世界(おまえ)を許しはしない。
世界よ我らと共に震えて沈め、しかる後その上に楽園は建てられる。
ここは死の世界。恵みも人も無く歯車だけが回り続ける鋼の骸。

おお、畏れよ、お前達が滅ぼした、鉄と蒸気の墓碑銘を。


「そういうことかよ、ジョウイ……成る気か、お前……」
目の前の乾ききった大地がせり上がり、ひび割れていく。
その力の名前をイスラは知っている。
狂える怨嗟を束ね、共界線を繋ぎ、力と変えるもの。

「核識に……この島の主にッ!!」

其は島の意志――――狂える核識<ディエルゴ>の魔力。


争う者たちよ、この城を穢す者たちよ。我が歴史を終わらせし者たちよ。
一人残らず、この黄金の大海原にダイブするがいい!!


吠え叫ぶイスラ達の前にそれは現れる。
地質を変えて、水脈を操作し、ここまで通る道を造ったとはいえ、本来は砂漠航行用。
しかも一度遺跡にまで動かされている以上、2度の無茶な潜行によって外装も駆動部も少なくない損傷を負っている。


【ゲヒ、ゲヒヒヒヒ……ジョウイ様からの伝言をお伝えします……
 最後のデータタブレットは城に置いた。欲しければご自由に……ゲヒヒヒ、ヒヒヒッ!!】

取れるものならな、と嘲笑う声と共に、
悲鳴のような自壊音を奏でながら城は側面をアナスタシアたちに向ける。
地中潜行時には城内へ収納されるべき、空中回廊が向けられる。
それがどうした。
そんな痛みなど、血を、世界を失ったことに比ぶれば無に等しいとばかりに、
叫ぶように歯車が回転し――――左回廊が、復旧<とば>された。

ミスティック――――キャッスル・オブ・フィガロ

その崩れかけた左腕に血を纏いながら、亡城は嘆き続ける。
其は、その世界の最後の残滓。“敗者にすらなれなかった”残骸である。

871勇者への終曲 1 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:41:54 ID:9qS70r1M0
遺跡ダンジョン地下71階に門の力でビジュが得たパラソルが召還される。
ジョウイはそれに手を取り、しばし眼を閉じた後、それを咲き誇る花の中に優しく置いた。

「勇者とは、全てを救うもの――――ならば続けて問わねばならない。“救う”とはなんだろう」

そして、ジョウイは虹色に輝く巨大感応石に目を向ける。
この島にある全てと死喰いを繋くターミナルポイント、それはつまり、この島の全てと繋がる場所だ。

「傷ついたものがいたとしよう。そのものを救えるだろうか――――救える。痛いと言えばいい」

その感応石に右手を翳す。魔剣と始まりの紋章を取り込んだ右手ならば、この感応石を通じてこの島そのものに干渉できる。
接触の瞬間に、膨大な意識が右手を通じて膨れ上がる。

「ならばそのものが口が利けなかったとしよう。救いを求められない。
 そのものを救えるだろうか――――救える。その場にいる誰かが助けてと言えばいい」

西から嘆きが聞こえる。狂える皇子の無慈悲な一閃で、私たちは焼き尽くされた。
北から叫びが聞こえる。突如現れた隕石によって、僕たちは抉られた。ただ邪魔だと欠片も残さず焼き尽くされた。
南から悲鳴が聞こえる。壊れた道化師と、それを倒そうとしたもの達の戦いで砕け壊れ何も残らない。
島の中心で怨嗟が聞こえる。蒼い災厄が、紅い災厄が描いた軌跡が我らの半身をもぎ取った。
島が泣いている。燃やされ、地獄と冥府にすりつぶされ、天から降り注ぐものに全て滅ぼされた。
救いの雷さえも、その癒しにはなりはしない。私たちは、救いを求められないから。
遺跡が狂う。この楽園に、ささやかなる魔界に帰るべき王女はもういない。

「ならば、そのものがその状態を当然だと思っていたならどうだろう。
 貧困でも欠損でもいい、その傷は生まれたときからあって、そうであることが当然だと思っている。救いを求める動機がない。
 そのものを救えるだろうか――救える。とにかくそれを見た誰かにとってその状態が異常であればいい。
 本人の意思がどうかではない。誰かにとってその状態が不足であれば――こうではないのだと救いを求める理由に足る」

幽けき声が響き渡る。意図して行ったものも、意図せず行ったものも、
彼らを傷つけた原因は、もうこの世にはいない。彼らよりも大きなものが食べてしまったから。
もはや糾弾すべきものは誰もいない。そもそも彼らに責める資格などない。
彼らはあくまで道具であり、創造物であるから。

ならば、その声は何処にいけばいい。名も亡き声は、聞こえぬ叫びは、最初から無いものと同じなのか。
この嘆きに、意味など無いというのか。

872勇者への終曲 2 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:42:30 ID:9qS70r1M0
「ならば、解決策が見つからなければどうだろう。救われた後の状態が誰も想像できない。
 こうなればいいのに、という指向性がない。
 それならば救ってほしいと祈れるだろうか――――祈れる。
 帰る場所は分からないけど、ここは私のいるべき場所ではないのだから。だから帰してほしいと」

否定する。その声を聞く魔剣の王が否定する。
意味のない死など無い、喪失を無価値になどしない。
“僕は貴方を忘れない”

「つまり、その前提として、私はここではない何処かから来て、
 ここは私のいるべき場所ではないのだという確信が存在しなければならない。
 そして祈る――――あるべき場所へ帰りたいと。それが救いだ」

その声に全ての叫びが集う。
勝者敗者という前に、敗者にすらなれなかったもの達が集う
その存在を無意味にしないために、この嘆きに、確かな意味があったのだと信じたいがために。

「帰る場所――――そんなものは、ない」

その島の全てを背負<うば>ったジョウイは感応石を通じてその魔力を送る。
地下50階、玉座の間に集めた――集まった骸に、黒き刃を注ぎ込む。
ガタガタと骨が動き出す。ずるずると肉が脈動する。つぎはぎのそれらが一人分に集まっていく。
死骸を依代に、未練と憎悪だけで駆動する亡霊兵、その数50が一時の眠りから目覚める。

「僕たちは最初からここにいる。ここで失って、ここで死んで、ここで亡くし続ける。
 そんな場所に、最初からいるんだ。帰るべき場所なんて、ない」

ジョウイ=ブライトには何もない。
剣才はなく、紋章術の才はなく、棍とて一級ではあっても達人ではない。
あるのはただ理想一つ。数多の想いを染め上げて、束ねる狂気のみ。

「だから行くぞ僕は。
 ここではない場所へ、何も失わない場所へ、誰もが平穏にあれる楽園へ。
 たとえその果てに僕が、何もかもを失うとしても」

真なる27の紋章、その真に恐るべきは“戦争を引き寄せる力”。
戦争。何よりも忌み嫌うその行為だけが、ジョウイ=ブライトに残された術だった。

873勇者への終曲 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:43:09 ID:9qS70r1M0
空中城。遙かな高みに存在するオディオの城から見下ろされる光景は、悪夢そのものだった。
フィガロ城――だったものが突如浮上した。
その上、その中から50もの亡霊やアンデッドモンスターが現れればそうも思いたくなるだろう。
ましてや、それが規則正しく半分に分かれ、それぞれ行動を取り始めれば。

ビジュ――であったものの方についた半分の兵は、
その指示のもと、荒れ野となった大地に散乱する石礫を拾い、投げつけている。
それだけを見れば、子供の喧嘩のようだがミスティックが付与されたとあっては話が違う。
ジョウイを介し魔力と怨念を注がれた石は、それだけで凶器となる。
致命傷だけは喰らわぬ位置で、亡霊の隊長と収まった人形は、嘲笑を上げ続けている。

残る半分は対照的に、積極的に6人に襲いかかっている。
いや、襲いかかるというのは語弊があるだろう。彼らはとにもかくにも彼らにまとわりつき、動きを封じにかかっている。
それも当然。呪いのように蒸気を噴かせながら前進する城塞を見れば否応にも理解できるだろう。
自分たちが攻撃する必要など無い。ただ彼らの前を通過するだけで、彼らの死は約束されるのだから。

とはいえ、彼らとてここまでの死線をくぐり抜けた勇者たち。
まとわりつくグールも、石を投げ過ぎ逃げ遅れたスケルトンも、一太刀二太刀浴びせれば簡単に崩れさる。
だがそこはお約束と言うべきか、砕かれた死骸に力が注がれ、再び形をなす。
その核は、かつて一振りで何千もの兵士の傷を癒した輝く楯の紋章の輝き。
尽きせぬ傷つけられたこの島の嘆きが魔力となって疑似的な不死を形成している。

亡者が笑い、亡城が進撃し、嘆きが人の形を取って歩き続けるそれは、軍勢というよりは――――

「まるで葬列。喪主を気取るか、ジョウイ=ブライト」

墓場からあぶれたものを墓場まで連れて行こうとするような、その光景を見下ろし
オディオは淡々とそう吐き捨てた。
ジョウイの狙いなどオディオには分かっていた。それは読み合いのような小難しい話ではなく、
放送直前にフィガロ城が動けば、空からは一目瞭然というだけの話だった。
この葬列を構築しているのが、なんであるかも、オディオには検討がついている。
死喰いに死を喰わせるシステムを利用して、ディエルゴの真似事をしているのだろう。

驚くにも値しない。制裁を加えるにも値しない。だが、ただ。

「……お前は、何だ?」

不意に口ずさんでしまったのは、疑問。
制裁を加えないのは、余裕でも油断でもない。必要がないからだ。
ジョウイ=ブライトが今何をしているのかをオディオは正確に理解している。
ならば、ジョウイはとうの昔に死んでなくてはならないのだ。

驚きではない。ましてや恐れでもない。ただ不意に浮かんだ疑問。
空中城の感応石越しに見る、廃人間際の人間へのわずかな感情。


【――――――僕は、魔王だ。お前と違って】


だから、その想定外の返事に僅かに――虚を突かれた。“感情の手綱を外してしまった”。

874勇者への終曲 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:43:51 ID:9qS70r1M0
地下71階の楽園、その場所に突如4つの影が現れる。
クラウストロフォビア、スコトフォビア、アクロフォビア、フェミノフォビア。
オディオが来るべき来訪者を迎え撃つために用意した手駒ども。
腕や魔力を構えるその様は、明らかな攻撃意志を示している。
当然、オディオはそんなことを命じていない。
彼女たちが感じたのは、オディオが一瞬だけ、しかし確かに抱いてしまった殺意。
それを汲み取ってしまった彼女たちは、ジョウイに向かい攻撃を仕掛けようとする。

「勇者とは救われぬものを救うもの――――ならば問わなければならない。
 その対立者としての魔王とは一体なんだろう」

オディオがそれを制し、引き戻そうとする。
だが、それよりも一歩速く、フォビア達の動きが止まる。
まるで、より強い糸に絡め取られたように。
フォビア達に背を向けながら、ジョウイは淡々と語る。
その背のマントの一部が刃を形成し、フォビア達に触れていた。

「救われぬものを救う。ここにいるべきではない人を、ここではない場所に帰す。
 ならばその勇者に対立するのは――――彼らの居場所を変えてしまう奴のことなんだろう」

島の意志とは、文字通り島にある全ての意志を取り込むもの。
完全な形であれば、その島に存在するもの全てを意のままに操るという。
有線接続とはいえ、ジョウイが行ったのはまさにそれだった。
無論、確固たる意志を持つストレイボウ達に通じるわけもなく、
フォビア達にも通じるはずもない――――オディオが渡したくないと想いさえしてくれていれば。

「勇者が、人の想いを以て世界をあるべき場所に帰すのであれば……
 魔王とは、己の想いを以て誰かを……世界を変える者に他ならないッ!!」

フォビア達に干渉しながらジョウイは歌い続ける。
規模は関係がない。自分以外の何かを変えようとする者は須らく魔王。
変革者という意味では、オスティア候ですら魔王。
世界征服だろうと、姉だろうと、魔界だろうと、英雄と認める世界であろと、楽園だろうと。
自分の外側にあるものをここではない何処かへ変えてしまう者。

魔法<おもい>を以て、王<せかい>に至る――故に魔王。
変わりたくない、帰りたいと願う人の祈りを汲む勇者と敵対するもの。

875勇者への終曲 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:44:46 ID:9qS70r1M0
「ならばお前はどうだ、オディオッ!
 ルクレチアの全てを憎悪し、殺したお前は何故ここに止まっている?
 愚かさを知らしめる? そんなこと最初から分かっているッ!
 なぜそれを改めようとしない。お前は僕なんかよりずっともっときっと、力を持っているだろうッ!!」

今ならばオディオがフォビアを取り戻すのは簡単だ。
オディオとジョウイが真っ当に綱引きをすればどうなるかなど見えている。
だが、オディオにはそれが出来ない。なぜなら、彼女たちを呼んだのは裏切らないからだ。
裏切られるかもしれないから、そうならないように努力をするという人として当たり前の発想が、根本から抜け落ちている。
留めておきたいという想いがない力と、奪ってでも欲しいという狂気の籠もった力では、決定的な差が生まれる。

「答えられないなら教えてやるッ!
 お前には何もない、憎悪だけはあっても、殺意も、敵意も、願望もない。
 世界にこうあってほしいという想いが――魔法がないんだッ!!
 だからお前は全てを失った! 失っても取り戻すそうとさえ思えないッ!!」

力の差は歴然。だが、それでもこの綱引きでジョウイが負ける理由はない。
魔王を魔王たらしめる唯一にして絶対の核が、オディオには欠けている。
だから絶望するほどに試行錯誤をしたのに全ても徒労に終わった。
数多の敗者に機会を与えながら、何一つ満たされなかった。あたりまえだ。



「お前は、“お前に魔王であってほしい”というルクレチアの人々の祈りを叶えた――――“勇者でしかないからだ”ッ!!」
憎悪する<すくう>ことしか知らない勇者オルステッドでは、何かを変えることなど出来はしないのだから。


その一言が楔となったか、フォビアの腕が完全に垂れ下がる。
ジョウイによる支配が完了した証だった。

「言祝げオディオ、いや勇者オルステッドッ! 
 僕は弱いけど、吹けば飛ぶような存在だけど、それでも魔王だッ!!
 お前がいないと嘆いた魔王が、ここにいるッ!!」

ジョウイは迷うことなく門を開き、彼女たちを戦場へ飛ばす。
そこには、戦場で何千の兵を死地へと送ってきた第四軍の将の顔があった。

「だからそろそろ退けよ勇者――――お前がそこにいると、あの子が泣き止まない……ッ!!」

全ての欺瞞を奥歯で噛み潰すようにして、ジョウイは全てを奪い続ける。
奪った全てを積み上げて、偽りの魔王が座すその場所にたどり着くために。

876勇者への終曲 6 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:46:14 ID:9qS70r1M0
「やっちゃったわねえ。案外内心でマジギレしてるかもよ、オル様」
「……遅かれ早かれこうなっていたことです。それに、ちょっとすっきりしました」
後ろからその光景をずっと見ていたメイメイがジョウイに声をかける。
吹き出た鼻血を拭いながら、ジョウイは答えた。

「それに、遅かれ早かれ僕は僕でなくなる。なら制裁もなにもないでしょう」
「まあ、そうでしょうけどね」

今のジョウイは核識――――死喰いを除けば文字通りこの島の全てだ。
この島に刻まれた傷がジョウイの傷であり、
ビジュのダメージも、破壊される亡霊兵も、フィガロ城を動かした結果の大地の損耗も、全てがジョウイのダメージだ。
ひとえに肉体が滅んでいないのは、魔剣がジョウイを生かしているからに過ぎない。
何せ死を背負った今、現在の魔力はこの島の全て――致命傷ぐらいならば死ぬ前に甦る。
当然、それは肉体だけの話。精神は何度も死に、常人ならばとうの昔に砕けている。

「でも、僕はこれでよかったと想っていますよ。人を殺して感じる痛みで、死ぬことなんて無い。
 でも今は、それをちゃんと理解できるのだから」

それを好しと思えるのは、優しさか、あるいはもっとおぞましい何かなのか。
分類としては、間違いなく狂人のそれだろう。
壊れているものが、もうこれ以上壊れることがないように。

「でも、何で数で攻めることにしたの? そこがよく分からないわね」
「……今更陣形がどうだ、伏兵がどうだ、ということがしたいわけではありません。
 ただ……戦闘では勝ち目が見えないので、戦争にする必要があった」

戦争が本格化すれば、負荷はこれまで以上になるだろう。
そうなるまえに、ジョウイはメイメイの問いに答えた。
魔王対勇者、その構図では絶対に負けるとジョウイは確信している。
だが、魔王軍VS勇者軍という構図ならば、負ける“かなあきっと”程度には変わる。
その曖昧さこそにジョウイには重要だった。

「それに、僕もひとりじゃ、ありませんから」

ジョウイは右手を見つめながら、ぼそりと呟く。
その右手に集めた破片はどれも小さく、たよりないものだけど。
魔女の力も、核識も、冥府も、真紅も、モルフも。
それでも託されたもので、信じてくれたもので、決してなくしてはならないものだ。

877勇者への終曲 7 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:47:10 ID:9qS70r1M0
「貴方達をルカ以上と評価する。それが6人ならば、これが最低限だろう」

100の葬列、将が4人、フォビアが4体――――宿星<ほし>になれぬ屑石の群。
日没とともに諸共消える陽炎の如き軍勢。それがジョウイ=ブライトが賭けた全て。

逃げるならばそれでもいい。だが、この身は最早止まらない。
メイメイから伝えられた名前を告げる。
この剣にて死喰いへの扉を開き、偽りの魔王を玉座から叩き落とす。

「Sword murdering reincarnation antiquated―――――――」


偽りの楽園の片隅に、一つの腕があった。
そして、その掌の中には、汚れた頭飾りが一つ。
それらを背に、最後の魔王は世界で一番優しい地獄<らくえん>を創る。


「S.M.R.A――逆しまのARMS<ネガ・アームズ>――この一戦を以て英雄の輪廻を断ち切り、楽園を切り開くッ!!」


訪れるのは昨日か、明日か。齎されるのは、救いか、導きか。
勝者も、敗者も、そうでないものも。この島の全てを巻き込んで。
勇者と、英雄と、魔王を巡る、最後の決戦が切って落とされた。











RPGロワ159話「みんないっしょに大魔王決戦」


CAUTION!―――――――――――――――――戦争イベントが開始されました。リーダーを選定して部隊を編成してください。

878勇者への終曲 8 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:47:43 ID:9qS70r1M0
【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ:小、疲労:小
[スキル]:動揺(極大)心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1〜4)
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し ミラクルシューズ@FF6
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:十字架に潰される
1:???
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:動揺(大) ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6 いかりのリング@FF6 日記のようなもの@貴重品
[思考]
基本:私が、ジョウイ君と……同じ……
1:???
[参戦時期]:ED後

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品 “勇者”と“英雄”バッジ@クロノトリガー
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:???
2:俺はオルステッドを、どうすれば……

[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ジョウイより得た空中城の位置情報と、シルバードの情報をほかの参加者に伝えました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
    疲労:中 胸に小穴 勇気:真
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:ブライオン@武器:剣 
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:???
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)

【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:小
[スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ
[装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル
[道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック
    データタブレット×2@貴重品
[思考]
基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす
1:???
[参戦時期]:5章最終決戦直後
 ※バヨネットからパラソルが無くなりました。魔導系コマンドはそのまま使用可能ですが、魔力補正がなくなりました。

879勇者への終曲 9 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:48:31 ID:9qS70r1M0
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:大
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:???
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
※自由行動中どこかに行っていたかどうかは後続にお任せします


*以下のアイテムは城出現の際に破壊されました

【ドラゴンクエスト4】
 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ

【アークザラッドⅡ】
 デスイリュージョン@武器:カード

【幻想水滸伝Ⅱ】
 点名牙双@武器:トンファー

【その他支給品・現地調達品】
 拡声器@貴重品
 


【SMRA隊】

【反逆の死徒@???】
[状態]:クラス『モルフ崩れ』 軍服黒焦げ 
[装備]:蒼流凶星@幻想水滸伝2@城に投げ捨てられたもの 黒き刃@幻想水滸伝2 亡霊兵(25名)
    副将:フェミノフォビア(抜け道付加)、アクロフォビア(飛行付加)
[スキル]:暗器・凶毒針 状態付加・麻痺
     遠距離攻撃・召雷 ゲレハラスメント(憑依:攻撃力防御力20%減少)
     再生能力(毎ターンHP25%回復)俊敏、逆襲、狙い撃ち
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:距離をとって投石攻撃 ※周囲の石はミスティック効果にてアーク1相当にまで強化されています

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【反逆の死徒】
 かつて裏切り、裏切られたもの。死喰いに喰い尽くされたその残り滓に泥を与えられたモルフ未満の生命。
 特に欠損を補填するために融合させられたタケシーとの親和性から、タケシーの召喚術・特性を行使できる。
 また、亡霊兵を駆動させるエネルギー中継点となっていることから、再生能力もある。
 しかし所詮はそれだけ。並み居る英雄達には敵うべくもない。
 だからこそ掬われる。楽園を形作る礎となるために。

880勇者への終曲 10 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:49:28 ID:9qS70r1M0
【砂喰みに沈む王城@???】
[状態]:クラス『大魔城』外壁損傷 駆動部中破(スペシャルボディにて無効化)
[装備]:亡霊兵(25名)データタブレット@自由行動中にジョウイ(正確にはクルガン・シード)が捜索したもの
    副将:クラウストロフォビア(石化攻撃付加)、スコトフォビア(HP吸収付加)
[スキル]:ハードボディ、スペシャルボディ
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:敵に張り付き、移動を制限する

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【大魔城】
 王位継承者を喪い廃絶の決定した王国の城。それを良しとできない未練から伐剣王に終わりを奪われる。
 その蒸気はあらゆる物を灼き、左右の回廊は一撃必殺の腕。
 その城塞はあらゆる物理ダメージを半減させ、あらゆるステータス異常を無視する。
 ゴーストロード同様、ミスティックで強制的に能力を引き上げられため、動くたびに、進むたびに崩れゆく。
 だが城は止まらない、止まる必要がない。この城が守るべき国は、もうどこにもない。



【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 午後】

【ジョウイ=ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ:計上不能 疲労:計上不能 金色の獣眼(右眼)
    首輪解除済み 腹部に傷跡 『魔王』としての覚悟
    紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章
[スキル]:紋章術・蒼き門(Lv1〜4)、不滅なる始まり(Lv1〜3)
     フォース・クレストソーサー(Lv1〜4)
     アビリティドレイン、亡霊召喚、モルフ召喚 返し刃のダブルアタック 盾の鼓動は紅く輝く 
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍 天命牙双:左 ハイランド士官服 魔王のマント 亡霊兵×50
    副将:クルガン、シード(主将にしてユニット化可能)
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1 基本支給品
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:残る6人を殺害し、オディオを奪う。
2:部隊を維持し、六人の行動を見て対応
3:攻撃の手は緩めないがストレイボウたちが脱出を優先するなら見逃す
4:メイメイに関しては様子見
部隊方針:待機

[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき

*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。


[備考]
※無色の憎悪の『始まり』を継承し、憎悪を限定的に制御できるようになりました。
 ただし、毒性はそのままのため、日没までには憎悪に喰われます。

※マリアベルの欲望の残滓を魔剣に取り込んだことで、アビリティドレインが使用可能。
 無色の憎悪を介して伐剣王が背負った(魔剣に想いを取り込んだ者)の能力を限定的に使用できます。
 ただし、その為には死の痛みも含めた全てを背負う必要があります。
 また、ロードブレイザーのようなジョウイの理想に全く繋がらない想いは背負えません。

※アビリティドレインにより『災いを招く者』の力と誓約しました。
 その力とグラブ・ル・ガブルにより、亡霊騎士をモルフ化しました。
 この2体のみ維持のための魔力コストがなくなりましたが、破壊されれば再召喚はできません。

※メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています
※死喰いの誕生とは、憎悪によって『災いを招く者の闇魔道』を起動させることで、
 グラブ・ル・ガブルとプチラヴォスの亡霊をモルフとして再誕させることです。
 ただし、現在は闇魔道の半分がジョウイの魔剣に封じられたため、
 現時点ではジョウイにもオディオにも不完全な形でしか誕生できません。

881みんないっしょに大魔王決戦 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:50:40 ID:9qS70r1M0
投下終了です。意見、指摘有れば是非。

882SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 04:24:58 ID:xTqqe5.Y0
執筆と投下、お疲れ様でした。
幻水ったら戦争イベントだけども、。
ああ……「始まりの傷や痛み、夢を知って、それを自身の終点にはしない」。
これが氏の書く話の根幹にあるものだなあ、と思っているのだけど、
手筋というか、他の書き手さんへの問いかけとしても十二分に機能するなあ……。
そして、『みんないっしょに』。このタイトルには色々な意味で胸を衝かれる。
これだけ真剣で、なおかつこれまでのリレーで拾ったものと拾われなかったものとを
丁寧に見きったうえで「いま答えを出せ」と言わんばかりの白刃を振りかざすような問いをかけられて、
このSSやこの答えを導いた流れもだけど、リレー自体がどうなるか気になってしょうがない。
氏はこれまでも「さあ、みっつのパートに分かれて戦ってみようぜ!(瓦礫の死闘)」
みたいなフリをするコトはたくさんありましたし……今回にしても敵陣営の陣容などがきっちり整理されてる
点を差し引いても、ここまで身を切られるような「みんないっしょに」ってのは、そうそうないんで。
だから、どうしよう。ひとと遊ぶゲームが苦手な自分には良い話を読んだ、言いたいことを
言ってくれた、クロノ・クロスの要素やオレンジ隊、ハッピーエンドの先のコトをよく拾ってくれたッ!
……みたいなことを言えても、「分かった、今から編成画面(メモ帳)開くわ」とは言えない。
リレーであるかぎり、それが不向きだと分かった自分には、どうしても言ってやれない。
いい話を読んで、莫迦みたいにありがとうと返すことしか出来ない。それを、本当に申し訳なく思います。

でもそんな湿っぽい感想が一発目じゃあ悪いので、もう少しだけ。
魔王オディオの終曲は、自分にはよくやったとしか言えないくだりでした。
世界を変えるとの宣言に、「じゃあ自分はこうする」とすら言えないどころか、
原作からして主人公たちの答えを聞いて納得しちゃうし、SSでも何度か言及されたように
魔王を生み出す要因となった憎悪についてもどうにかしようとしないものなあ。
で、勇者ならば魔王を倒しうるか。それとも……と考えていくのも面白い話でした。
書き手でなくとも、考えることへの面白さを感じることが出来る。ゲームのプレイングを
とおして、ヘルプメッセージやシステムから「考える楽しみ」を知った自分にとって、
氏のSSを読んでいる間に感じるこの感覚も正しくゲームやってるようで好ましいのです。

883SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 04:31:41 ID:xTqqe5.Y0
熱くなって書き足してたら二文目がない、だと……?
戦争イベントだけども、状態表で色々整理してるとはいえその規模でくるか。
そういうコトを脳内で書いた気持ちになっておりました。
後半で書いてますが、だからこそこのフリは凄いなー、だったんですよね。
構図が魅力的すぎるのが分かってなお、このフリを選べる心胆が凄い、と感じたのです。

あと、せっかくなので、新年あけましておめでとうございました。
昨年から展開も最終盤に入って、一話一話が本当に重たいところにあると思いますが、
皆様の努力で楽園のように続いてきたこの企画と、それを支える方たちにとって、
今年がよい年でありまますように。微力ながら祈りつつ、可能な範囲で感想つけるなりはします。

884SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 12:29:32 ID:khVW4KmE0
執筆&投下おつかれさまでしたッ!
戦争イベント来たー!?
これは予想外だったが、27の真の紋章の特性を考えるとなるほどと思わされた!
ジョウイすげぇよ。まともじゃない。こいつが背負うものは底なしか……
反逆の死徒と化したビジュの再登場も驚いた
イスラに汚点を突き付けるだけじゃなくて、ロザリーを呼びだしたアナスタシアと同じって表現には唸らされた

>きれいなものをえらんで、きたないものをすてたのだ。

この一文は、ぐぁー、そう来たかぁ、と思ったね
あの場にあったものは、ただ綺麗なものであっただけで、本質は反逆の死徒と同じかぁ、うーむ、考えさせられるね

885SAVEDATA No.774:2014/02/03(月) 10:23:30 ID:FuUnUz/gO
予約来たか!!

886 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 19:18:50 ID:mMVbeUhI0
投下いたします

887 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 19:24:43 ID:mMVbeUhI0
と、すみません
ちょっと所用によりすぐに投下ができなくなってしまいました
今日中には投下いたしますので、一旦>>886を撤回させてください

888 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:18:13 ID:mMVbeUhI0
先ほどは失礼いたしました
今度こそ投下いたします

889 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:19:15 ID:mMVbeUhI0
 ――何も抱けないものは、どうすればいい。
 ――求めても手を伸ばしても希っても望んでも。
 ――そうやって足掻いても、何ひとつ手に入れることができないのならば。
 ――いったい、何ができるというのだ。
 
 ◆◆
  ______
 |部隊編成 |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | アキラ  
  | アナスタシア  
  | イスラ  
  | カエル  
  | ストレイボウ  
  |→ピサロ  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |→アキラ  
  | アナスタシア  
  | イスラ  
  | カエル  
  | ストレイボウ  
  |  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ピサロ
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | アナスタシア 
  | イスラ     
  | カエル     
  | ストレイボウ  
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ピサロ
  | アキラ
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
 →|決定|
    ̄ ̄ ̄

890其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:20:05 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 もうもうと立ち昇るのは、煙と蒸気だった。灰色の煙は空を舞う。蒸気は高熱の霧となる。
 そうして大気は、煤臭さと油臭さが孕まされ、熱を帯びていく。
 壊れゆきながら嘆きを叫ぶ、たったひとつの異様を中心として、だ。
 内燃機関が悲しみを吼え、駆動部各所が虚しさを訴え、無数の歯車が痛みを叫喚する。
 狂騒たる音の集合は、つまるところなきごえだった。
 顧みられることなく滅びるはずだった、異様たる偉容――砂喰みに沈む王城が上げる、矜持を掛けたなきごえだった。
 王城は往く。
 傷ついた外壁に構うことなく、壊れた駆動部を酷使して、嘆きのままに行進する。
 岩石が合成された人形と、下半身を黒球に埋めた人形と、倒れることを知らない不死の兵を率いて。
 ただただ王城は進む。その身が砕けても、崩れたとしても、止まることなどありはしない。
「城を手にし王を気取るか。成り上がったものだな」
 滅びゆく王城と対峙するのは、かつて魔族の王として君臨していた男だった。
 もはや王たる身ではないとはいえ、その高潔さは喪われていない。そんなピサロにとって、王城など恐れるものではない。
 城など所詮、王の所有物でしかないのだ。
 ならば止める。未だ潰えぬ誇りに掛けて止めるべく、ピサロはこの場で武器を取る。
「気に入らねェよ……」
 そのピサロの隣で、アキラが、絞り出すように吐き捨てる。
 彼は、灼熱する感情を宿した瞳で、真っ直ぐに軍勢を睨みつけていた。
「なんだよアレは。なんなんだよアイツらは……ッ!」
 アキラの拳は、わなわなと震えていた。
 掌に爪が食い込むほどに握り込んでも、その震えは止まりはしなかった。
 アキラの網膜に入ってくるのは、自壊しながら迫る王城と、そして。
 王城と共に進撃し、王城の移動に巻き込まれて潰される亡者たちの姿だった。
 屑のように潰された亡者たちは再生し、もう一度進軍を開始する。
 けれどその一部はまたも王城によって破壊され、再度蘇り、行軍を繰り返す。
 歪に狂い、圧縮された輪廻を思わせるその光景は、地獄としか思えなかった。
「この果てにッ! こんな地獄の果てにッ! お前の望んだものがあるのかよッ!!」 
 返答などあるはずもない。
 それでもアキラは、叫ばずにはいられなかった。
「認めねェ。俺は絶対に、こんなものは認めねェッ!」
 アキラを震わせるのは怖れではない。
 疲労もダメージも焼き尽くすほどに、激しく燃え盛る怒りだった。
「猛るのは構わん。だが、愚かにも吶喊だけはしてくれるな。我らの目的はあの城の足止めだ。奴らがケリを付けるまで、あれを止める」
 亡霊城より先行し、まとわりついてくる亡霊兵を駆逐しつつ、ピサロは告げる。
 その声は冷静で、熱くなる感情をいくらか冷ましてくれた。
「……ああ、気をつける。ここで突っ込んで死ぬなんざ、御免だからな」
「死にたくなくば自分の身は自分で護ることだ」
 冷たい言葉に、アキラは頷きを返し、ふと呟く。
「それにしても、あんたが足止めを買って出るなんて意外だったぜ」
 そんなアキラの感想に、ピサロは不機嫌そうに息を吐いてみせた。
「腑抜けた奴らを連れてはあの城を止められまい。奴らにはさっさとケリをつけて貰わねば困る」
 その手に握るバヨネットに魔力が装填されていく。
「演習の際に見せた意地が仮初でしかないのも」
 その横顔からは、感情は読み取りづらい。
「ロザリーの想いを形にした行為が、“あれ”と一緒にされるのも」
 ただその声音からは、失望の色は見て取れなかった。
「不愉快極まりないのでな……ッ!」
 だからやってみせろと。
 この場にいないものたちを、挑発するように告げて。
 そうしてピサロは、迷うことなく引鉄を引いたのだった。

891其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:20:43 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
  ______
 |部隊編成 |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | アナスタシア 
  | イスラ     
  |→カエル     
  | ストレイボウ  
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |→アナスタシア  
  | イスラ    
  | ストレイボウ   
  |   
  |  
  |  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆カエル
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | イスラ
  | ストレイボウ     
  |  
  |   
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆カエル
  | アナスタシア
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
 →|決定|
    ̄ ̄ ̄

892其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:21:13 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 ぐしゃりとした手応えと、べちゃりとした手応えと、薄布をなでたような手応えが、刃を通じてまとめて感じられた。
 投石をアガートラームで弾き敵陣へと真正面から突っ込んだアナスタシアの一閃により、アンデッドたる兵が数体、まとめて薙ぎ払われて崩れ落ちる。
 すぐに、アナスタシアは振り返る。
 離れた箇所に展開した亡霊部隊によって投擲された石礫が、アナスタシアへと迫っていた。
「ルシエドぉッ!」
 跳躍した魔狼が石礫を叩き落とす。
 だが、ミスティックによってチカラを引き出された石は、貴種守護獣にさえも手傷を負わせる。
 石を迎撃した前脚には傷がつき、爪が割れ、血液が飛び散った。
 亡者とは思えない統率された動きで、兵士は、機を得たりというばかりに次々と石を投げてくる。
 たかが石ころ。されどその一つ一つが、致命傷となり得る武器だった。
 まるで、路傍の石として顧みられず朽ちることを良しとしないかのように。
 まるで、見向きもされなかった石ころが、その意地を見せつけるかのように。
「ルシエド、下がってッ!」
 アナスタシアが叫んだ直後、ルシエドの姿がかき消える。
 ルシエドを呼び戻したことで、投石部隊がアナスタシアへと狙いを済ませる。
 そうして狙いを変える隙を付き、一気に距離を詰めるべく地を踏みつける。
 その足が、掴まれた。
 白骨の五指が、アナスタシアの足を掴み取る。
 それは先ほど、アナスタシアがなぎ払った兵のうちの一つだった。
 それを中心として、倒した兵が起き上がる。
 忘れるなというように。目にもの見よと、いうように。
 その様に、アナスタシアは、心の底から嫌悪感を覚えた。
「こン、のッ!」
 アガートラームを振りかざし、蘇った兵を容赦無く砕く。
 それでは足らないといように、戻したルシエドを聖剣として顕現させる。形状は短剣。
 小さい分、数を増やしたそれを、頭上に浮かばせるようにして呼び出して、降り注がせる。
 流星のように流れ落ちる聖剣は、亡霊兵たちを刺し、突き、貫き、砕き、壊し、破壊し破砕し貫通する。
 アナスタシアが思うままに、望むままに、亡霊兵を執拗に攻撃する。
 蘇ってくれるなと、二度と起き上がってくれるなと、そう願うように聖剣が降る。
 そうだ。
 死者は蘇るものじゃない。どんなことをしても、帰ってくるものなんかじゃない。
 決して、ぜったいに、なにがあっても。
 戻ってくるものなんかじゃ、ない。
 そうでなくては困る。
 そうじゃ、なきゃ。
 過去<うしなったもの>に手を伸ばしてしまう。
 だからアナスタシアは否定する。目の前で蘇り続ける亡者を否定する。
 そんなアナスタシアを嘲笑うように、亡者の群れは蘇る。我らはここにいると見せつけるように蘇生する。
 刮目せよと。
 貴様が起こした奇跡は、この光景と同質なのだと。
 亡者どもは、アナスタシアの否定以上に執拗に、囁いてくるのだ。
 故にアナスタシアは剣を握る。
 蘇りの果てへと至るべく、剣を振るう。
 そして。
 それだけの時間は、狙いを定め直された石つぶてが、アナスタシアへ飛来するには充分だった。
 生存本能が危機を察知するが、遅い。
 不死者を破壊し尽くすことに意識を割き切っていたせいで、プロバイデンスもエアリアルガードも、回避や防御でさえも間に合わない。
 その身は、完全にガラ空きだった。
 見開いた瞳に、大きくなっていく石つぶてだけが映り込む。

893其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:21:45 ID:mMVbeUhI0
 その石つぶてが、アナスタシアの目の前で。
 まとめて、弾き飛ばされた。
 横合いから、弾丸のように飛び込んできた剣によって、だ。
 その剣は弧を描くように大気を薙ぎ、アナスタシアを狙っていた投石部隊を急襲し、逃げ損ねた不死者たちを沈黙させる。
 剣の柄には、両生類の舌が巻きついていた。
 その舌が、まるでゴムのように、主へと戻っていく。
「落ち着け」
 覆面の奥に舌を戻し、カエルは剣を手にする。
 その様子は安っぽい怪奇小説に出てきそうなくらいには不気味であったが、それに言及する余裕を、アナスタシアは持ち合わせていなかった。
「助かったわ」
 ただそれだけを告げて、アナスタシアは、聖剣ルシエドの連撃を受けてなお立ち上がろうとする、足元の骨を苛立たしげに踏み潰した。
「落ち着けと言っている」
 カエルはアナスタシアの側まで跳んでくると、先の斬撃で仕留め損ねた兵が投げた石を迎撃する。
「放っておいたらまた復活するでしょ。だからこうして、動ける敵を減らさないと……ッ!」
「守りも固めずにか?」
 カエルに弾き飛ばされた石が、地面を穿った。
「たかが石と侮るな。これはもう、弾丸だ」
「わかってる。わかってるわよそんなことはッ!」
 当たり散らすように怒鳴りつけるアナスタシアに、カエルは溜息混じりで返答する。
「分かっているならば冷静になれ。苛立ちを抱えて勝てる戦ではない。戦に勝てなければ生き残れない」
 カエルは淡々と告げる。
 その淡白さが、当然の事実であると如実に表していた。
「生きるのだろう?」
 アナスタシアの奥歯が、ぎりっと音を立てた。
「……生きたいわよ」
 絞り出すようなその声は弱音めいていた。
「生きたいの。生きたいわよ! けど、だけどッ!!」
 その欲望に揺るぎはない。生を求める衝動に偽りはない。
 なのに、アナスタシアは揺れていた。彼女の内で揺れているのは、生き方だった。
「わたしは、弱いのよ……」
 そう零すアナスタシアの目の前で、亡霊兵が何度目かの蘇生を果たす。
「わたしは死者に縋った。想いを集めて、戻ってくるはずのない命を、一時的とはいえ、かえしてしまった」
 けれどアナスタシアは亡霊たちを見つめるだけだった。
「ジョウイくんと、同じように」
 くすんだ瞳で、見つめるだけだった。
「否定できなかった。違うって、言えなかった」
 距離を取る亡霊兵たちを、アナスタシアは、翳る瞳でぼんやりと追う。
「だって、いいなって思うんだもの。うらやましいなって、思っちゃうんだもの」
 遠ざかった亡霊兵が、石を拾い上げる。
「また逢いたいって、望んじゃうのよ」
 その更に向こうに、哄笑を上げるビジュだったものが目に入った。
 死んだはずの人間が、人とは思えぬ姿となりながらも、確かにここで嗤っていた。 
「新しい“わたし”をはじめるって、そう決めたのに」
 鼻の奥が、やけに湿っぽかった。
「なのに。ねえ、どうして――」
 胸の底が、いやにかさついていた。
「つよく、なれないの? かっこよく、なれないの?」
 呟いた直後、投石が殺到する。
 身体が動くままにそれを弾く。だが、アナスタシアは駆けられなかった。
 投石を繰り返す敵の元へと、駆けることができなかった。

894其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:22:31 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
  ______
 |部隊編成 |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | イスラ      
  |→ストレイボウ   
  |          
  |          
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ストレイボウ
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |→イスラ  
  |    
  |   
  |   
  |  
  |  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ストレイボウ
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |
  |    
  |  
  |   
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ストレイボウ
  | イスラ
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
 →|決定|
    ̄ ̄ ̄

895其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:23:16 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 笑い声が、耳の奥でこだまする。
 厭な声だった。
 下卑ていて品がない、その声は、聞くに耐えないものだった。
 もう聞くことはないと思っていた。聞かなくてもいいと思っていた。
 そう思い込むことで、蓋をしてしまおうといていたのかもしれない。
 けれどそれは破られた。
 不意打ちで、蹴破られたのだった。
【ゲヒ、ゲレ、ゲイヒヒヒヒヒレレレレッ!!】
 記憶でもない。幻聴でもない。
 今この耳が、この嗤い声を捉えている。
 粘性の液体から湧き出てきたような人形と、鳥と爬虫類を掛け合わせたような人形を侍らせて。
 そいつは、嗤い続けている。
 その耳障りな声に合わせ、亡霊兵が組織立った動きで投石する。
 ストレートに飛んでくる豪速の石が来る。放物線を描き頭上から石が落下する。曲線軌道を描き、側面から襲ってくる石がある。
 速度も軌道もまちまちながら、投げられた石らは決して互いを食い合わない。
 統率された遠距離攻撃は緻密に精密に、イスラとストレイボウを狙い撃ってくる。
 亡霊兵は疲労を覚えず、攻撃は乱れない。
 故に、その統率を乱すには、打って出る必要があり、
「レッドバレットッ!」
 そのための魔力が、ストレイボウから膨れ上がった。
 紅の火球が複数、枷から解き放たれた獣のように飛び上がる。
 火球は石を迎撃し撃ち落とし、そのままの勢いで亡霊兵へと突っ込んだ。
 爆ぜる。
 陽炎を立ちめかせながら燃え盛る業火に灼かれ舐められ、亡霊たちは崩れ落ち、投石の壁が薄くなる。
 それは、駆け抜けるには充分な空隙だった。
「走るぞッ!」
 ストレイボウの叫びに後押しをされるようにして、イスラは地を蹴った。
 得物を銃に持ち替え、荒れた土を踏み抜く。火炎から逃れた兵の投石を避けて駆け抜ける。 
 耳元に突然、生温い気配が現れた。
【ゲレレレレッ……ヒヒ、ゲレレレ、レレヒッ!】
 その気配が放つ耳障りな哄笑が、真横から響き渡った。
 背筋を猛烈な悪寒が駆け抜ける。それは危機感であり、嫌悪感であり、そして。
 十字架の重さだった。
 その重さは、イスラの意識を強引に引っ張っていく。
 ダメだと、見るなと、そういった気持ちを軒並み押し潰して、イスラの顔を隣へと向けさせた。
「っ!」
 ぐずついた泥を固定剤にしてバラバラに捏ね合わされた、ビジュのようにもタケシーのようにも見える、顔と呼ぶには余りにも冒涜的な物体が、視界いっぱいへと飛び込んでくる。
 あり得ない場所に接合された目が、泥を零しながらギョロギョロと動き回る。
【イヒッ、イヒヒヒヒヒヒッ……ヒヒ、ゲレレレ、イヒヒラララ!】
 その瞳が、イスラの視線と交差した。

896其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:23:58 ID:mMVbeUhI0
【ゲラゲレレレレレヒヒヒヒ、ゲレレヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!】
 かろうじて口の形を保った裂け目が開き、泥を撒き散らしながら声をあげる。
 そのおぞましさに、意識が灼きついた。
 足が止まり手ががたつく。目が見開かれ冷や汗が滲む。喉がかさかさになって胃が締まる。酸味めいた臭いがせり上がる。
 大きな背中が、撫でてくれた手が。
 笑えるかもしれないと想った、オスティアの幻想が。
 かけがえのない、想い出が。
 翳り、崩れ、遠ざかり。
 全身が、虚脱する。
「イスラッ!」
 崩れ落ちそうになる寸前で、ストレイボウの声がイスラを支えた。
 残っている力を意識し、取り落としそうになったドーリーショットを握り締めて銃口を突き付ける。
 笑いながら離脱する反逆の使徒に狙いを定め、引き金に指をかけて。
 ビジュを斬った記憶が、鮮明にフラッシュバックした。
 体から落ちる首。
 溢れ出る鮮血。
 むせ返るように濃厚な、ちのにおい。
 そして。
 楽しそうな、笑い声。
 あのとき、あの瞬間。

 ――どうして、僕は、笑っていたんだ。

 指が凍りついたかのように動かない。
 銃を握るその手には、ビジュを殺したときの感触が、生々しく蘇っていた。

 ――役立たずだと、どの口が断じられた?

 ビジュだったもの<笑いながら殺した相手>に向けた銃が、震える。
 もう一度殺すのか。
 こんな身になってまで、それでも願ってここにいるこの男を、もう一度殺すのか。
 そう願わせたのは、だれだ。

 ――いま、僕は。いったい、どんな顔をしている?

 想像した瞬間、怖くなった。
 銃口を、向けていられなくなった。
 そうしていることが、拭えない罪のような気がした。
 悠々と距離を取った反逆の使徒が、これ見よがしに手裏剣を取り出すのが見える。
【イヒ、ゲレヒヒ……】
 構える。
【ゲラゲレレレレレヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒッ】
 投擲される。
 その一連の動作を、イスラは呆然と眺めていた。
 イスラの意識は、もはやこの場所にはなかった。
 だから、気付かなかった。
 周囲に、冷気が立ち込めていることに、だ。
 その冷気は導かれるように収束し固形化する。
 空気にヒビを入れるかのような音を引き連れて分厚い氷が現れ、イスラを囲う。
 投具や投石から、イスラを守るように。
 イスラと反逆の使徒との間を、遮るように。
 氷壁の表面は、鏡のように顔が映り込んでいた。
 蒼白となったイスラの顔が、映り込んでいた。
「イスラ! 無事かッ!?」
 掛けられた声で、その氷壁がストレイボウの魔法によるものだと、ようやく気付く。
 瞬間、イスラの足から今度こそ力が抜けた。武器を、取り落とす。
 焦点がぼやけ、何を見ているのかが分からなくなる。
「僕は、僕は……ッ!」
 うわごとのように呟くイスラを嘲笑うように。
 へたり込むその姿が、見られているかのように。 
 氷壁の向こうからは、笑い声が響き続けていた。

897其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:24:46 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 不死なる兵どもは、雑兵と切って捨てられる程度の実力だった。
 その程度の者がどれほど集まろうと、ピサロの足は一切止まらない。
 纏わりついてくる敵をバヨネットの一振りで斬り伏せ、真空波で吹き飛ばして疾走する。
 進路上に立ちはだかる兵へと走る勢いのまま刃を突き立てる。その身を貫いて引鉄を引く。
 光線のように収束した魔力が射出され、背後に並んだ敵を射抜き切る。
 機械部品が展開し排熱の蒸気が立ち上る。その蒸気を払うようにしてバヨネットを横に薙ぎ、側面からの襲撃者を討ち取る。
 パラソルの魔力補助がなくなり機械側の負担が大きくなった分、近接武器としての取りまわしやすさは向上していた。
 そうしてピサロは雑魚を蹴散らし到達する。
 バヨネットとは比べ物にならないほどの蒸気を上げる、巨大な敵将に攻撃が届く、ギリギリの射程圏内に、だ。
 そしてそこは、敵将の攻撃がピサロに届く場所でもある。
 副将を控えさせて前に出るその敵将の左腕<左回廊>が、唸りを上げて縦回転する。
 鋼鉄の外壁がへし曲がり擦れ火花が散り、蒸気が溢れ返る。
 左腕<左回廊>を支点にし、挙げるように。
 地に付いていた左手<左塔>が、跳ね上がった。
 猛烈な砂塵が巻き上がる。それは蒸気で吹き飛ばされ、悪夢めいた砂嵐を作り出す。
 だがそれは、攻撃の副産物でしかない。
 本命の一撃は、左手<左塔>による突上打だ。
 ピサロはバヨネットの砲口を左に向け、右へ跳躍する。跳ぶと同時に発砲、爆風に乗って距離を稼ぎ、亡霊城の外側へ。
 直後、轟音と共に左手<左塔>の突上打が眼前を通過した。
 復活を果たしピサロへとまとわりつこうとしていた兵を軒並み潰して、左手<左塔>が天を衝く。
 スケルトンが粉々になりグールが肉片と化し亡霊兵が空へと消える。
 それは、必殺の一撃と呼ぶことすら生ぬるかった。
 熱っぽい湿り気を帯びた砂嵐がピサロを襲う。咄嗟に左手で庇うが、蒸気を帯びたそれは皮膚を侵していく。
 そこへ、長い影が落ちる。
 鉄と鉄が擦れ合う不快な轟音を重ねて、摩擦による火花を撒き散らして、亡霊城は旋回する。
 鉄塊と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる左手<左塔>を挙げたままで、だ。
 次の動作など、予測するまでもなかった。
 だからピサロは即座にバヨネットを掲げる。その指に魔力と、絶えぬ想いを注ぎ込む。
 魔導アーマーのパーツにチカラが流し込まれる。回路が励起し光を帯び、バヨネットの砲口に輝きが収束する。 
 その輝きは蒼。究極の名を冠する魔力光。絶えぬ想いをエネルギーとする、極まった力の奔流。
「アルテマ――」
 それを前にして、王城は動く。
 左腕<左回廊>の回転を逆にし、悲痛な軋みを迸らせ、打ち上げた左手<左塔>を動かす。
 単純な話でしかない。
 挙げた左手<左塔>を、今度は振り下ろすだけだった。
 超重量の一撃の初動。それを前にしても動じず、ピサロはトリガーを引く。
「――バスター」
 究極光が、解き放たれる。
 球状に広がるエネルギーは、左手<左塔>と正面からぶつかり合う。
 鋼鉄の腕を受け止め、その外壁を引っぺがし、もはや使う者のいない内装を吹き飛ばし、壁を床を柱を食い尽くす。
 左腕<左回廊>から左手<左塔>までの居住スペースが完全に吹き飛ばされ、錆びた内部フレームと砂を噛む駆動機構が露わになる。 
 王城のなきごえが、ひときわ大きくなった。
 剥き出しになった内部機構の各所で、無数の火花が舞い踊る。それは、いのちを燃やしているかのようだった。
 アルテマバスターの輝きは、フレームをひしゃげさせて歯車を砕く。
 それでも、左手<左塔>は止まらない。止まるはずもない。
 ボロボロになりながらそれは、重力を味方につけて、光の奔流を割って来る。
「ち……ィッ!」
 止め切れないと判断したピサロはバヨネットを下げる。
 手を掲げ力を込め、心に満ちる“想い”を意識し、ラフティーナの力を呼び起こそうとして。

898其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:25:46 ID:mMVbeUhI0
 左手<左塔>の軌道が、ブレた。
 ピサロを真上から狙うコースだったはずのそれが、アルテマバスターの光を斜めに斬るようにして、滑って行く。
 左手<左塔>が、空を切って地を叩く。鋼鉄の巨腕に打撃された大地が、怯えるように揺れた。
 ピサロを潰すはずだった左手<左塔>が岩石を破砕し地面を引き裂き痕を刻みつける。跳ね上がった石片が歯車に噛み潰されて砂礫と化す。
 いつの間にか城は、ピサロに背面を向けていた。
 ピサロの口角が、吊り上がる。
 この場で戦っているのは、ピサロだけではない。
 城の背面に、再度バヨネットを突き付ける。
 トリガーに指を掛けて、ピサロは、それが引けないことに気付く。
 魔力の増幅と制御を行っていたパラソルなしで放ったアルテマバスターは、莫大な負荷をバヨネットに掛けていた。
 機械部品が完全にオーバーロードしており、魔力を流しこめそうにはない。
 これを利用して魔力を射出するには、時間が必要なようだった。
 舌打ちをし、稼働する王城を睨む。
 かなりのダメージを与えたとはいえ、まだ左腕<左回廊>の駆動部は生きている。
 この程度では、じきにあの城は嘆きのままに進撃を再開するだろう。
 思案する。
 なにせ相手はあの巨体。この身では近寄ることすらままならない。
 だが、手はある。
 要は、蒸気の熱に耐えきり、真正面からぶつかることが可能な身があればよいのだ。
 そのような身体に変異させる呪文を、ピサロは心得ている。
 リスクは大きい。
 変異中は闘争本能が肥大化し思考力が低下する。インビジブルも使えないだろう。
 耳に届くなげきの声が、思考に混じる。敵は、すぐ側にいる。
 ピサロは、息を吐いた。
 迷っている時間が惜しい。
 だからピサロは決意する。
 王城の一撃を滑らせたあの思念を、無意識のうちに当てにして。
 ピサロは、詠唱を開始した。

 ◆◆

「畜生ッ!」
 倒しても倒しても蘇る兵どもに、もう何度目かわからない肘鉄やローキックを叩き込み、アキラは悪態をつく。
 何度でも起き上がる兵への苛立ちではない。この地獄絵図と、それを描いた者へ、アキラは憤っていた。
 アキラは感じ取る。
 この場に満ちる感情を、その心で感じ取る。
 特段心を読む必要もない。そんなことをするまでもなく、叫びは痛いほどに伝わってくる。
 それは声になどはならない。そんな風にかたちを規定できるほど、この嘆きは薄くない。
 城がさけんで兵が湧く。兵がなげいて城が啼く。
 止みはしない。その軍勢はもはや、他のことなど知りはしない。
 だから止まらない。
 究極光を受け止めて、悲痛な姿を晒しても。
 王城は、止まらない。
 たとえその身が砕けても。
 王城は、止まらない。
 その様は、アキラに思い起こさせた。

899其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:26:26 ID:mMVbeUhI0
「ちがうだろ……」
 自壊することも厭わずに戦い抜いた、義体の英雄の姿を思い起こさせた。
「そうやってさけんで」
 彼女の渇きを思い出す。
 彼女の望みを思い出す。
「叫びだけを残して」
 彼女の、死に顔を、思い出す。
「そうやって逝きたいわけじゃあ、ねェだろッ!」
 アキラが吼えた、その瞬間。
 軍勢を構成するすべての意識が、アキラへと集中した。
 叫びと嘆きと恨みと妬みと慟哭と。
 そして、大いなる絶望が、まるで集合体のように、アキラを睨みつけた。
 その集合意識は、重くくらく粘っこい。
 毒沼のようなそれは、アキラを沈めてしまいそうなほどに深かった。
 声にならない声がする。
 かたちにならない感情が、酸性の液体を馴染ませた暴風のように吹きつける。
 それは純粋が故に暴力的で、もはや精神攻撃の域に達していた。
「なめンな……」
 けれどアキラは俯かない。屈しない。膝をつかずに拳を握る。
「負けるかよ……ッ! 負けて、たまるかよッ!!」
 歯を食い縛り絶望の睥睨を睨み返し足を踏む。
 どくり、と。
 アキラの心臓が、一際大きく拍動する。いのちの底で輝くかけらが、そこにはある。
「お前らは、なんのためにここにいるッ!!」
 スケルトンの憎しみを拳の一撃で割り砕く。
「こんなことで晴れるのかッ!!」
 グールの怨みを肘鉄で叩き潰す。
「こんなことを繰り返して、満足なのかよッ!!」
 亡霊兵の嘆きを念で弾き飛ばす。
 それでも叫びは止まらない。それどころか、アキラが猛るほどに亡者の声は増していく。
 王城が、アキラへと迫る。
 黙れと、目障りだと。
 そう嘆くように、その威容は駆動音を鳴り響かせて吶喊してくる。
 壁に亀裂が走っても。黒煙がもうもうと立ち昇っても。剥き出しになった駆動部から、砕けた歯車が零れても。  
 そいつは、砂埃を纏いただその身だけを武器として、アキラへと迫る。 
 その城の、ボロボロになった左側面へ。
 アルテマバスターを受け、それでも動き続ける左手<左塔>へ。
 突っ込んで来る巨体が、あった。
 その巨体は、鋭い爪の伸びる両手を、進撃する王城へと突き出した。
 城の進撃が、押し止められる。それでも進もうとする城を、巨体は逞しい二本の足で踏ん張って止める。伸びる尻尾が、大地を擦った。
 王城が灼熱の蒸気を噴出させるが、美しい紅の鱗には火傷一つ負わせられなかった。
 巨体の頭部からは、天を貫くような雄々しい角があり、その背には一対の翼が生えていた。
 それは、王城に負けぬほどの威容と威厳を誇っていた。
 そいつが、アキラを一瞥する。
 その紅玉色の瞳には、見覚えがあった。
「ピサロ……?」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」
 その口から、雄叫びが上がる。
 音圧はびりびりと大気を震わせ、近場にいた亡者を伏せさせるそれは。
 龍<ドラゴン>、だった。

900其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:27:29 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 身体を龍へと変異させ、その圧倒的身体能力を得る呪文――ドラゴラム。
 ピサロは、龍の力と闘争本能を以って、王城と相対する。
 左手<左塔>のフレームを握り潰す。ひしゃげて折れたフレームを投げ捨て、歯車の群れへと腕を叩き込む。
 力任せに突き出した腕は歯車を一気にぶち抜いて破砕させる。部品の欠片が雪のように降り注いだ。
 黒煙がぶすぶすと沸き上がる。構わず龍は顔を突っ込んだ。
 口を、開く。
 鋭利な牙と赤い舌の奥で、火炎が逆巻いていた。
 息を、吐き出す。
 枷を解かれた灼熱の炎は鋼鉄の部品でさえも融解させる。それは、一兆度もの超高温を彷彿とさせた。
 左手<左塔>が爆砕する。発生した爆発は誘爆を呼ぶ。群れとなって連なる炸裂は左手<左塔>を壊していく。濃くなった黒煙が空を汚す。
 左手<左塔>が崩壊する。悲鳴を上げて崩壊する。
 破砕音に交じり、がぎん、と。
 硬い音が響き渡った。
 その音は、連なる破壊の音の中にあって、あまりにも異質だった。
 爆発の向こうで火花が散る。黒煙の彼方で蒸気が上がる。
 硬質の音を上げたのは、王城の意思だった。
 左手<左塔>はもう、動けずに滅びゆく。なればこそと王城は、左手<左塔>をパージしたのだった。
 本体が爆発に巻き込まれないようなどと、そのような温い意思ではない。
 捨てられた左手<左塔>に込められるのは、苛烈な叫びの結晶だった。
 眩い閃光が迸る。断末魔を思わせる爆音が、世界を揺るがせる。
 龍の至近距離で、大爆発が発生した。
 爆発の熱量など火龍の身には児戯に過ぎない。ただ、その衝撃波と吹き飛んだ残骸は、龍鱗を抉っていた。
 龍が、たたらを踏む。衝撃のダメージと、猛烈な閃光と爆音が、龍の感覚を奪っていた。
 吐き気そうな煤臭さと濃厚な黒煙が立ち込める。
 それを引き裂いたのは、王城の一撃だった。
 船が海を掻き分けるように砂礫をぶち割って、城が滑ってくる。 
 龍に左腕<左回廊>を突き立てるべく、城が駆動する。
 それは、左腕<左回廊>が潰れることを厭わない一撃だった。
 龍の本能が意識を覚醒させる。
 だが遅い。
 龍の身体は、その一撃を避けるには大きすぎる。
 だが龍は、危機感など覚えなかった。
 悲しみとにくしみと絶望の沼の真ん中で、熱く燃える思念を、感じ取っていたからだ。
 その思念は、王城の突進軌道をねじ曲げる。
 龍の真横を、左腕<左回廊>が突き抜けた。
 空を切ったそれを両腕でホールドし、根元に牙を突き立てる。
 へし折る。
 引き千切った左腕<左回廊>を、龍は握り締めて水平に構え、闘争心の赴くままに叩きつける。
 鋼鉄の亡霊に、龍のフルスイングが直撃する。
 鋼が衝突する撃音が鳴る。龍が握った左腕<左回廊>が砕け散り、王城のバルコニーが破壊され、それでも。
 それでも王城は停止することなく、愚直な突撃を繰り返すのだった。

901其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:28:25 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
「悪い、ことなのか」
 弾かれ割れて転がり落ちた石片の中心で、カエルが呟いた。
 その隣にいるアナスタシアは黙ったままで、止まない投石を、ただ身体が動くままに弾いていく。
 それはまるで、“生きる”という命令を淡々とこなすだけの人形のようにも見えた。
「死者に逢いたいと望むのは、悪いことなのか」
 隻腕であっても、体力のほとんどを消耗していても、カエルの剣閃は精確で淀みがなく、投石一つさえ先には通さない。 
「俺は……そうは思わない」
 統率こそされており、石の威力は侮れない。その反面、兵自体の錬度はそれほど高くない。
 だからこそ、こうして語ることができる。
「俺は――俺たちは、死者を蘇らせたことがある」
 カエルは語る。
 先刻、イスラと話をしたときのように。
「死者を、“死ななかったこと”にしたこともある」
 カエルが弾いた石が、アナスタシアの弾いた石と衝突し、砕ける。
「シルバード。ストレイボウが――ジョウイが言っていたその翼で、俺たちは時を超えてきた」
 砕けた石は何処かへ弾け飛び、見えなくなる。もう一度と望んでも、きっとその石は見つからない。
「そうして俺たちは死した仲間を蘇らせた。仲間の母親を――死んだはずの人間を、救った」
 探しても探しても、きっともう、見つからない。仮に見つかったとしても、砕けた石はもう、戻らない。
 けれど、歴史を変えさえすれば。
 石が砕ける直前に戻ることさえできれば。
 もう一度、砕ける前の石は見つけられる。
 たとえその結果、カエルかアナスタシアが、傷ついたとしても。
「……反吐が出るわ」
 吐き捨てるアナスタシアに、カエルは苦笑を返すだけだった。
「それでも俺たちは、後悔はしていない。間違ったことをしたとは思っていない。身勝手だと、そう思うか?」
「思うわね」
 斬って捨てるような返答からは、深い苛立ちが感じられた。
「貴方達はそれでいいわよね。けれど、過去を変えたいって願う人がどれだけいると思ってるの」
 アナスタシアが、アガートラームを振り上げ、
「過去は変えられない。変えちゃいけない。そんなのは当たり前なの。そうじゃなきゃ、現在<今>を大切になんてできないじゃない」
 地を割りかねない勢いで、荒っぽく叩きつける。
「死んだ人<過去>は戻しちゃいけないの」
 飛んできた石が、まとめて砕け散った。
「いけない、のよ……ッ」
 それは、血が滲むような呟きだった。
 死者の“想い”を形にしてしまったアナスタシアが、血を流しているようだった。
「正論だな。ならば――」
 カエルはすうっ、と呼吸をし、目を細めて亡者を見る。
「悔いているのか?」
 アナスタシアは答えない。
 食い縛るように、耐え抜くように、彼女は押し黙って身を守る。
 晒される石礫に反撃をせず、されるがままに身を守る。
「悔いるなとは言えん。お前とジョウイが違うと、否定してやることは俺にはできん」
 カエルは言葉を区切り、ただな、と続け、
「ヒトは、多かれ少なかれ身勝手だ。だから俺たちは行動した。そうでなければ生きられん。
 そうでなくても生きられるのは、生粋の“勇者”くらいだ」
 あのとき、遺跡ダンジョンの地下で、共界線を通じて感じた“救い”と。
 アナスタシアに寄り添っていた魔狼を想い浮かべて、カエルは問うた。
「それは、お前もよく分かっているだろう?」

902其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:29:23 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 覆うような氷壁の中で、イスラはへたり込んでいた。
 そんなイスラの前に、ストレイボウはしゃがみ込む。その細い肩にそっと手を乗せると、震えが伝わってきた。
 血の気を失い俯くその姿は、よく似ていた。
 罪に苛まれ、苦しみ喘ぐストレイボウと、よく似ていたのだった。
「落ち着くんだイスラ」
 ストレイボウは、努めて落ち付いて語りかける。
 氷壁を外から叩く投石の音から、気を逸らせるように。
 氷壁の向こうで喚き散らすような笑い声を、意識から引きはがすように。
 時間に余裕があるわけではない。
 だがストレイボウは、ゆっくりと、子どもに話しかけるように、言葉を紡いだ。
「俺が、分かるか?」
 俯いていたイスラの顔が、上がる。
 瞳は見開かれていた。唇は戦慄いていた。顔色は、真っ青だった。
 見るからに痛々しい様子で、イスラは、ストレイボウを見つめ、そして、小さく頷いた。
「そうか、よかった」
 ストレイボウの顔に笑みが浮かぶ。
 まだ終わっていない。まだイスラは、堕ちていない。
 それでこそイスラだと、ストレイボウは安堵する。 
「イスラ。俺の罪を、憶えているか?」
 その問いに、イスラは呆然としたまま、首を縦に振る。
 それを見届けてから、ストレイボウは口を開く。
 胸の底の疼きを堪えながら、だ。
「俺の罪は、決して許されるものじゃない。たとえみんなが許してくれたとしても」
 忘れてはならない罪科が痛む。心に刻み込まれた咎が、ストレイボウを締め付ける。
 それでいい。この疼痛は、決して忘れてはならない。癒してはならない。
「罪は、決して消えない」
 その痛みと、ストレイボウは向き合う。
 誤魔化さず、逃げ出さず、真正面から立ち向かう。
 消すためではなく、受け止めるために。
 そうすることができるのは、胸に灯る、確かな“想い”があるからだ。
「その重さに関係なく、犯した罪は、消せないんだ」
 それは、独りでは得ることができなかったもの。
 それは、オルステッドを昏い瞳で眺めていたかつての自分では、決して手にすることができなかったもの。
「だから自分で、付き合い方を決めなきゃいけないんだと、俺は思う」
 そして、それは。
 イスラの心にもまた、灯っているはずなのだ。
「こうするべきだとか、そんなことは言わない。俺は、お前に答えを与えてはやれない」
 だけど、
「お前が自分で見つけた付き合い方なら、俺はそれを否定しない。それが、どんなものであってもな」
 イスラの肩から右手を離して握り拳を作る。
 その手を軽く、イスラの胸へと押し当てた。
 鼓動を感じる。
 イスラの鼓動を、その温もりを、イノチを、確かに感じる。
 あのとき、ジャスティーンを召喚した力は、きっと今も宿っている。
 だから大丈夫と、ストレイボウは思うのだ。
 それは信頼だった。
 たとえイスラが十字架に捕われて自分自身を信頼できなくとも。
 信頼する人間はここにいると、伝えるように、告げる。
「答えを、出しに行こうじゃないか」
 ストレイボウは立ち上がり、手を差し伸べた。
「俺も、俺の罪の証と――フォビアたちと、向き合いに行くよ」

903其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:31:03 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 砂埃が巻き上がり、蒸気が噴き出し、黒煙が吹き上がり、火炎が舞い踊り、炸裂が連続する。
 激しさを増す龍と王城の闘いは、命を掛けた舞踏のようだった。
 王城の損傷は激しい。左腕<左回廊>から先を損失し、半分以上の外壁が壊れ、駆動部は異音を立て続けている。
 されど王城は死を恐れない。
 その身が砕けても、壊れても、苛烈なる攻撃の手が止むことはない。
 その事実は、龍に防戦を強いていた。
 目的は足止めであり、時間が経てば城は自壊する。故に防戦自体は不利な要素ではない。
 ただしそれは、戦術的な目線で見れば、だ。
 これは、戦争なのだ。
 局所的な戦闘での勝利が、最終的な勝利に繋がるとは限らない。
 たとえば。
 時間を掛けた末に勝鬨を上げても、その瞬間に首輪が爆発してしまえば、それでおしまいなのだ。
 王城ほどではないが、龍も無視ができないくらいの傷をいくつか負っている。
 それでも龍は、致命的な一撃を受けていない。
 その状態を維持できているのは、アキラのサポートがあってこそだ。
「ら、あぁァ――ッ!!」
 アキラの念力が王城を惑わせる。
 龍を叩き潰すはずだった右手<右塔>が、地面だけをブッ叩いた。
 息をつく暇はない。
 スケルトンの斬撃が、すぐ側へ迫っている。
 避け切れないと判断したアキラは身を仰け反らせて防御する。皮膚の表面を刃が走り、血が噴き出した。
 脳が痛みを知覚する。その痛みに反応し、防衛本能が天使の幻像<ホーリーゴースト>を生み出す。
 天使の幻像<ホーリーゴースト>が、斬りつけてきたスケルトンを爆ぜさせた。
 セルフヒールで回復を行って体勢を立て直す。嘆きを呻かせて、亡霊兵どもがアキラに群がって来る。
 火の思念<フレームイメージ>でそいつらを焼き払い、逃れた敵にエルボーを叩き込む。
 矢継ぎ早に意識を王城へと移し、その攻撃を逸らさせるべく念を飛ばす。
 太い右手<右塔>が龍の片翼を掠める。その翼膜が、破かれた。
「糞……ッ!!」
 失敗したわけではない。
 念が、効きにくくなっているのだ。
 あらゆる状態異常を無効とするスペシャルボディであっても、アキラの“想い”が乗った強念による一時的な幻惑は防げない。
 意識が――感情があるのであれば、その思念を止めることなどできはしない。 
 そしてアキラの強念は、王城が抱く感情の対極にあるものだ。
 故にそれは効果的であり、同時に。
 抗いの意思を、呼び起こす。
 軍勢を突き動かす感情に、アキラが反発し続けるように、だ。
 軍勢が、力を増す。
 悲しみが、嘆きが、絶望が、より大きくなる。
 その様子は、酷く歪だった。
 アキラは、歯が食い込むほどに唇を噛み締めた。
 スケルトンを一体割るたびに悲しみが増える。
 グールを一体焼くたびに嘆きが大きくなる。
 亡霊兵を一体倒すたびに叫びが強くなる。
 そうして、絶望はぶちまけられる。アキラが輝けば輝くほど、この場に陰は落ちていく。
 それでもアキラは王城へ念を向ける。 
 負けられないのだ。負けたくないのだ。
 こんな、つめたい悲しみだけが満ちるものを。
 こんなつめたさの果てに、在るものを。
 アキラの想い描く“無法松”<ヒーロー>は、絶対に、ゆるさない。

「止まれ……!」

 念じる。
 王城の一撃は揺るがない。それを龍は、紙一重で回避する。
 
「止まれ……ッ!!」

 念じる。
 王城の攻撃は止みはしない。それを龍は、腕一本で受け止める。
 
「止まれェッ!!」

 念じる。
 王城は踊る。その衝撃で自身を破壊しながら、蒸気と火花を散らして舞う。

「止まり……」

 強く果てない“想い”を乗せて、心の底から念じる。

「やがれえぇェ――ッ!!」

904其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:32:50 ID:mMVbeUhI0
 しかして。
 王城は、止まる。

 耳を覆いたくなるような、痛々しい音と同時に、だ。
 王城は、停止していた。
 その右手<右塔>を、龍の身体を深々と突き破って、停止していたのだった。
 言葉を失うアキラの視線の先で。
 龍の身が、縮んでいく。
 角と翼と尻尾が、折りたたまれるように細くなり小さくなる。
 全身を包んでいた紅の鱗が、肌色に変わっていく。
 戻っていく。
 龍の姿から、戻っていく。
 右手<右塔>に引っ掛かり、屋上の端を掠め、王城にもたれかかるように倒れて。
 龍は――ピサロは、小さくなっていく。
 微動だにすることなく。
 声を上げることもなく。
「く、あ……」
 ピサロは小さくなって、アキラの目には、見えなくなった。 
 
「――――――――――――――――――――――――――………………………………………………………………………………ッ!!!!」

 アキラの口から、絶叫が迸る。
 それに呼応するように。それを、嘲笑うように。
 歯車が鳴る。駆動機関が声を上げる。
 王城が、再度動き出す。
 音を立てて、緩慢に。
 王城は、旋回する。
「……嘘、だろ」
 そう零さずには、いられなかった。
 右手<右塔>にべっとりと付着した龍の――ピサロの血液が、右手に浸透していく。
 まるで、啜るように。
 こぼれた命を、吸うように。
 すると。
 龍によって砕かれたはずの、バルコニーが。
 超過駆動によって吹き飛んだ、歯車が。
 直っていく。王城の破損箇所が修復されていく。
 そうして城は、千切れた左腕から先を除いて回復を果たし、アキラへと向きなおった。
 進撃が、再開される。
 直り切らなかった左腕<左回廊>から、火花を散らして。
 変わらぬ悲しみをあげながら。
 修復された外壁を、再び壊しながら。
「やめろよ……」
 壊れる痛みを知っているくせに、他の方法を知らないかのように。
「もう、やめろよ……」
 城は、自分を傷つけていく。
 悲しみの荒野にたった独り取り残され、未練を燻らせ憎しみを淀ませた果てに。
 たった一つだけ残された方法が、それだと主張するように。
 それしかないのだと、言うように。
 それこそが、絶望の深淵でみつけた、最後の最後の。
 ほんとうに最後の、たった一つだけ残された、“希望”だというように。
 そんな亡者たちから、王城から、軍勢から。
 伝わってくるものは、つめたいのだ。
 伝わってくるものは、苦しみを引き剥がそうと胸を掻き毟り、その結果自分を引き裂いてしまうような痛みなのだ。
 
「これが、こんなものが、“希望”だっていうならさ」

 どくり、と。
 アキラの心臓が、高鳴った。

「誰が、笑えるんだよ?」

 どくり、どくり、と。
 アキラの鼓動が加速する。

「どこで、誰が、笑えるんだよ?」

905其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:33:44 ID:mMVbeUhI0
 空を見続けたギャンブラーが手にした、希望と欲望のダイス。
 夢見るギャンブラーが潰えても、その力となった“希望”は、一万メートルの夢の果てで息づいている。
 アキラの血となり肉となり、胸の中で脈打っている。
 どくりどくりと。
 強く雄々しく激しく、鼓動<ビート>を刻み続けている。
 軍勢の中に蔓延する、暗く冷たく悲痛な“希望”めいたものではなく。
 アキラだけが抱く“希望”が、胸の奥に確かに在る。

「なあ、あんた」

 それに突き動かされて、アキラは呼び掛ける。

「あんた、今――」

 アキラは投げ掛ける。
 かつて、ここではないどこかの、顔も名前も知らない誰かへ向けた問いと、同じ問いを。
 この声の届くすべてのものへと、投げ掛ける。

「――幸せか?」

 悲しみが、膨れ上がった。
 くず折れ、重なり、霧と化していた亡者の兵が、音を立て、一挙に立ち上がった。
 蒸気が溢れ、すべての歯車が轟音を立てて回り出す。
 アキラの問いを押し流し引き潰そうとするかのように、軍勢が動き出す。
 突進が来る。
 それは、部隊全ての未練と憎悪を集めて殺意とした突進だった。
 濃厚で濃密で膨大で、底なしの殺意。触れた瞬間に消し炭にされてしまうほどの、圧倒的な暴力。
 過ぎ去った後には何も残らない、荒廃だけを呼ぶ、酷くつめたい悲しみの突撃。
 一片の幸せだってありはしないと、そう宣言するかのような進軍を、アキラは、真っ向から睨みつける。
 たった一人ながら、その身から揺らめく意志は、軍勢に劣るものでは、決してない。
 それどころか。
 アキラの意志は、軍勢を突き動かす巨大な感情と拮抗するほどに、強いものだった。
 認められない。
 そんなものが、“希望”だと。
 決して、認められない。
 アキラは、ただ鼓動を感じる。
 自分の中で確かに脈動する、その熱を感じ取る。
 それは力強さを増していく。
 目の前の絶望を前にして、果てないように強く拍動する。
 抗いのリズムを刻む。

906其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:35:21 ID:mMVbeUhI0
「ざけんなよ……」

 だからアキラは逃げない。
 こいつらに、背を向けるわけにはいかない。

「たとえ、たとえもう、ボロボロになって、壊れちまうことになったとしてもな……」

 目を、逸らさない。
 こいつらを、このまま進めさせるわけにはいかない。

「ほんとうに、ほんとうの“希望”を抱いていられるのなら……」

“希望”というのは、あたたかいものだと。
 それを分からないまま突き進み、勝手に逝かれるのは、我慢がならなかった。

「いつかきっと、笑えんだよ……」

 あたたかさを拒絶して、逝った先にあるものが。
 ほんとうに楽園である、はずがない。
 だから、アキラは叫ぶ。
 
「なあ」

 たったひとり、荒野の果てを彷徨って、ボロボロになっても闘って。
 それでも消せない“希望”を抱いていたから。
 今際のときに微笑っていられた、英雄の名を。
 アキラは、叫ぶのだ。
 それは、当の本人すら捨てた名前。
 捨てられても朽ちてはいない、確かな名前だった。

「――そうだろ、アイシャッ!!」

 轟音を立てて。
 西風が、吹き荒れた。

907響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:36:40 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆

 歯噛みしてカエルの言葉を聴くアナスタシアの髪が、雄々しい突風によってはためいた。

 ◆◆

 ストレイボウの手を取れるのか、取っていいものかと逡巡するイスラの頬を、強烈な風が撫でていった。

 ◆◆

 心臓が破裂しそうなほどに暴れている。沸騰しそうな血液がアキラの体中を駆け巡る。
 体が熱い。
 心が熱い。
 湧き上がる熱に果てはない。高まる熱量は風を起こす。
 突風に等しい西風を、巻き起こす。
 その熱に、風に、カタチを与えるべく。
 アキラは“希望”を思い描き、ヒーローをイメージする。
“希望”の鼓動<ファンタズムハート>が、思念に血を通わせる。
 
「アクセス……ッ!」
 
 想い出が、形になっていく。
 アキラに宿り融合したミーディアムが、アキラの念と血によって具現化する。

「PSY-コンバインッ!」

 太い金属の二足が、アキラの背後に着地した。
 それに支えられるのは、紅の模様が刻まれたメタリックボディ。
 その背にはミサイルのようなスラスターがマウントされている。
 無骨な両手が握り締められ、鋼の拳が作られる。
 その天辺、頭部には、黄金の冠が輝いていた。
 その姿は、“希望”の貴種守護獣とは似ても似つかない。
 当然だった。
 これは文字通りに、アキラが心血を注いで生み出した“希望”なのだ。
 アキラの中で、燦然と燃え盛る“希望”なのだ。
 故に吹く西風も、そよ風<ゼファー>には収まらない。
 荒々しく雄々しい西風が生み出す“希望”のカタチは、アキラが描くイメージに他ならない。
 もはや、その“希望”は。
 かけらなどでは、ない。
 それは、巨人だった。
 それは、王城と同じく、この島で朽ち果てるはずの巨人の姿だった。

「ファンタズム・ブリキングッ!」

 巨人の瞳に光が灯る。鋼鉄が唸り駆動する。
 その身を誇示するように、巨人は高々と両腕を突き上げた。
 眩い輝きを湛え、巨人が咆哮する。
“希望”の雄叫びを、咆え猛る。

 絶望の王城よ、悲しみの軍勢よ。
 よく見ておけ。
 お前らに心があるのなら、その底の底まで焼き付けろ。
 これこそが血の通った“希望”であり、そして。
 大王の、凱旋だ。

「ブリキ大王――我とありッ!!」

908響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:37:24 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆

 吹き荒ぶ風音が、ピサロを覚醒へと導いた。
 瞬間、左腕と胴体に激痛が走る。零れ出る血液によって衣服は汚れ、肌にべっとりと貼り付いていた。
 骨が完全に折れているらしく、左腕は動かせそうになかった。
 ともすれば命を落としかねない重傷だった。
 それでもまだ動けるのは、龍鱗が堅牢であった故か、あるいは、未だ衰えぬ矜恃故か。
 あたりを見渡すと、視線が高いことに気づく。
 激しく揺れる足元からは、耳障りな歯車の音が響いてくる。
 ここは、屋上だった。
 未だ動き続ける亡霊城の、屋上だった。
 ピサロは立ち上がる。
 異変に、気付いた。
 足が、随分重いのだ。
 失血のせいとも負傷のせいとも異なる違和感が、足にあった。
 歩く。
 やけに硬い足音がした。
 まるで、石で地面を叩いたかのような足音だった。
 傷よりも厄介な状態異常が、その身を蝕んでいるようだった。
 顔を、顰める。
 ピサロの身が、徐々に石化し始めていた。
 即座に石にならなかったとはいえ、看過するには重い問題だ。
 ひとまず傷を癒そうと、回復魔法を唱えようとした、そのとき。
 ピサロの前に、二つの影が舞い降りる。
 一つは、下半身を漆黒の球体に埋めた人形だった。緑色の髪からは角が伸び、その背からは翼が生えている。
 一つは、桃色の髪をした四本腕の人形だった。その腕のうちの二本と両足は、岩石と一体化していた。
 どちらも美しい顔をしており、それ故に、化物然としたその身はひどくおぞましかった。
 
「……控えていた副将か。好機とみて討ち取りに来たか?」

 人形どもは答えない。
 喋ることを知らないかのような無表情で、人形はピサロの前に立ちはだかる。
 虚ろさを漂わせるそいつらを、ピサロは鼻で笑い飛ばす。
 
「舐めてくれるな人形ども。貴様らのような持たざる者どもに、くれてやる命など微塵もない」

 断続的に襲い来る激痛と、失血によるふらつきと、這い寄って来る石化というハンディキャップを背負いながらも。
 ピサロは、まだ動く右手でバヨネットを握り締める。
 その瞳は、死にゆく未来を見つめてなど、いなかった。

 ◆◆
 
 ――分かるまい。持たざる者の気持ちなど、持っている者どもには分かるまい。
 ――故に、貴様らでは答えられまい。
 ――持たざる者<わたしたち>に答えなど、与えられはしまい。
 ――故に我々は求めない。貴様らなどに、求めたりはしないのだ。

909響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:38:09 ID:mMVbeUhI0
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】
【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ:小、疲労:小、動揺(極大)
[スキル]:心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1〜4)
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し ミラクルシューズ@FF6
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:十字架に潰される
1:伸ばされた手を、僕は、取れるのか……?
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:動揺(大) ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6 いかりのリング@FF6 日記のようなもの@貴重品
[思考]
基本:私が、ジョウイ君と……同じ……
1:今更になって何を言い出すのよ、何を……ッ
[参戦時期]:ED後

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品 “勇者”と“英雄”バッジ@クロノトリガー
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:イスラの力に、支えになりたい
2:罪と――人形どもと、向き合おう
3:俺はオルステッドを、どうすれば……

[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ジョウイより得た空中城の位置情報と、シルバードの情報をほかの参加者に伝えました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
    疲労:中 胸に小穴 勇気:真
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:ブライオン@武器:剣 
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:伝えるべくは伝えた。あとは、俺にできることをやるだけだ
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)

【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:やや大
    左腕骨折、胴体にダメージ大、失血中、徐々に石化
[スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ
[装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル
[道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック
    データタブレット×2@貴重品
[思考]
基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす
1:退け人形。貴様らでは役者不足だ
2:ダメージと石化の治癒はしておきたいが……
[参戦時期]:5章最終決戦直後
 ※バヨネットからパラソルが無くなりました。魔導系コマンドはそのまま使用可能ですが、魔力補正がなくなりました。

910響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:39:37 ID:mMVbeUhI0
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:極大
[スキル]:PSY-コンバイン
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:この俺の希望を、見せてやるッ! 見せつけてやるッ!
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
※自由行動中どこかに行っていたかどうかは後続にお任せします

【PSY-コンバイン】
 アシュレーの命に宿り、セッツァーの夢に応えたミーディアム『希望のかけら』は一万メートルの夢の果てで、アキラと融合し血肉となった。
 それはもはやアキラの一部であり、アキラの超能力と溶け合い、希望のイメージを体現する。
 ブリキ大王の姿を取るそれは、アキラが希い望む力を原動力として駆動する。
 希望が絶えない限り、バビロニアの王はヒーロー技さえ使いこなせよう。
 他でもないアキラ自身の力。それ故に、その負担は肩代わりなどできはしない。
 変身亜精霊の力を借りないコンバインは、莫大な集中力と想像を絶する莫大なエネルギーを要する。
 他の超能力にリソースを割こうものなら、それは即座に露と消える。
 仮に無茶な稼働や乱用をしたとすれば、アキラの意識は二度と戻らず、希望は潰えてしまうだろう。

911響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:40:16 ID:mMVbeUhI0
【SMRA隊】

【反逆の死徒@???】
[状態]:クラス『モルフ崩れ』 軍服黒焦げ 
[装備]:蒼流凶星@幻想水滸伝2@城に投げ捨てられたもの 黒き刃@幻想水滸伝2 亡霊兵(25名)
    副将:フェミノフォビア(抜け道付加)、アクロフォビア(飛行付加)
[スキル]:暗器・凶毒針 状態付加・麻痺
     遠距離攻撃・召雷 ゲレハラスメント(憑依:攻撃力防御力20%減少)
     再生能力(毎ターンHP25%回復)俊敏、逆襲、狙い撃ち
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:距離をとって投石攻撃 ※周囲の石はミスティック効果にてアーク1相当にまで強化されています

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【反逆の死徒】
 かつて裏切り、裏切られたもの。死喰いに喰い尽くされたその残り滓に泥を与えられたモルフ未満の生命。
 特に欠損を補填するために融合させられたタケシーとの親和性から、タケシーの召喚術・特性を行使できる。
 また、亡霊兵を駆動させるエネルギー中継点となっていることから、再生能力もある。
 しかし所詮はそれだけ。並み居る英雄達には敵うべくもない。
 だからこそ掬われる。楽園を形作る礎となるために。

【砂喰みに沈む王城@???】
[状態]:クラス『大魔城』外壁損傷 駆動部中破(スペシャルボディにて無効化) 左腕<左回廊>から先を損失
[装備]:亡霊兵(25名)データタブレット@自由行動中にジョウイ(正確にはクルガン・シード)が捜索したもの
    副将:クラウストロフォビア(石化攻撃付加)、スコトフォビア(HP吸収付加)
[スキル]:ハードボディ、スペシャルボディ
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:敵に張り付き、移動を制限する

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【大魔城】
 王位継承者を喪い廃絶の決定した王国の城。それを良しとできない未練から伐剣王に終わりを奪われる。
 その蒸気はあらゆる物を灼き、左右の回廊は一撃必殺の腕。
 その城塞はあらゆる物理ダメージを半減させ、あらゆるステータス異常を無視する。
 ゴーストロード同様、ミスティックで強制的に能力を引き上げられため、動くたびに、進むたびに崩れゆく。
 だが城は止まらない、止まる必要がない。この城が守るべき国は、もうどこにもない。

912 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:40:56 ID:mMVbeUhI0
以上、投下終了です
何かありましたらご遠慮なくー

913SAVEDATA No.774:2014/02/11(火) 22:44:31 ID:lLRLLgU2O
投下お疲れ様です!
ついに戦争始まったな。フィガロ城怖いよフィガロ。

914SAVEDATA No.774:2014/02/11(火) 23:04:46 ID:Z6CnFU2.0
投下乙です。
ジョウイが亡霊達に与えた希望もまた良いものだ、って思っていました。
だけどそれに対してこういう風に答えを返せるのは、"ヒーロー"だなって。
この場にいる中で一番一般人に近い能力しかないアキラだったけどやっぱりカッコイイ。

915SAVEDATA No.774:2014/02/11(火) 23:27:56 ID:rD8i29EM0
乙でした!
島本泣きで叫ぶアキラが幻視できるようでした!
この局面で未だモヤモヤを抱えるアナスタシアとイスラに、希望の西風が吹く描写がたまらなく良かった!
あと何度も思ったことだけど、今回も言わせてもらおう。
ストレイボウ…お前、ほんとにキレイになったなあw

916SAVEDATA No.774:2014/02/17(月) 09:21:50 ID:MSer4OvUO
修正吹いた。サモンナイト過ぎるw

917SAVEDATA No.774:2014/02/17(月) 12:17:48 ID:fLQ6oJhQ0
投下乙でした!
城は進撃してきて轢殺するだけかと思ったら格闘戦してやがるー!?
ピサロドラゴラムといい、ブリキングといい、実にダイナミックなお話でしたw
希望の西風いいなー、ほんとにw

918SAVEDATA No.774:2014/03/09(日) 17:59:18 ID:ZTwsuBUc0
ひとまずうちのWIKIは流出外だった

919 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:01:18 ID:VTWE.qHQ0
アキラ投下します。

920Beat! Beat the Hope!! 1 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:02:00 ID:VTWE.qHQ0
潮騒の音だけが揺蕩っている。
寄せては返す波が、砂に刻まれた足跡をかき消していく。
まるで、命のように。人が生きた証なんて、時の流れに呑まれてしまうだけなのかもしれない。
そんな大きな大きな海を、アキラは砂の上で見つめていた。
海の中にそれでもその存在を示し続ける、ブリキ大王を見つめていた。

「こんなところに、あるなんてなぁ……」

アキラは年老いた馬を見るような気持ちで、感慨深く呟いた。
アナスタシアと話をしたのち、自分の中にあるもやもやとしたものがどんどんと膨らんでいって、
アキラの足は自然と北に――座礁船へ向かっていった。
その理由を意図的に無視して、枯れ果てたはずが既に満たされた泉を横切ってたどり着いた場所には、何もなかった。
船の残骸さえも、海の底に沈んでしまったのか。焦げ臭い潮風が、鼻につくだけだった。
あの漢の生きた証など何一つないこの場所に留まる必要などなく、アキラが踵を帰そうとした時、
アキラは、西から棚引く線香のように細い煙をみたのだ。
天に延びるように真っ直ぐに伸びる煙につられ、アキラは海岸を歩き続けた。
そして、左手に村が見えたあたりでアキラは煙の根本をみた。
浅瀬に横たわる、大王の遺骸を。

水筒を逆さにして、喉に直接水を流す。
すぐ近くで補充したそれは、アナスタシア達が持っていた物よりも冷えており、この汗ばむ暑さには有難かった。
セッツァーがブリキ大王を操ってアシュレー達と戦ったことは、ゴゴとピサロから聞かされていた。
そのまま西へ流れて行ったそうだが、そのままここまで来て落ちたようだ。
よりにもよってここ、というのは何の因果だろうか。
アキラは口を手で拭いながら、朽ちた大王を見つめる。
酷い損傷だった。金色の憎悪――オディオを模倣したゴゴの手によって穿たれた傷は
構造の要まで達している様子で、いつ自重で壊れてもおかしくない。
天を飛翔する翼は、ぶすぶすと煙を上げ続けるだけだ。
かつて栄華を誇ったバビロニアの魔神とて、今や飛べもせず、ただこの海に浚われ沈んでいくだけの存在だった。

「お疲れさん、ブリキ大王」

その存在を労り、別れを告げるように言うと、アキラの中にどっと疲れがわき上がった。
肉体と言うよりは、心因によるものだろう。アキラはたまらず砂浜に尻を沈めた。
「……なんも残ってねぇなあ」
アキラはガムをうっかり飲み込んでしまったような表情で、ぼつりと呟いた。
もし他の誰か……アナスタシアでもいようものなら、絶対に見せない表情だった。
ごそごそと、ズボンのポケットから一枚のカードを取り出す。
それは、その村にあったちびっこハウスにあった、微かに輝いていたカードだった。
アキラが守れなかった一人の女性が最後に引いたカードだった。

「『塔』……っへ、ドンピシャ引いてくれるじゃねえか、ミネア」

『塔』のカードを見つめながら、アキラは力無く笑った。
ジジイ上がりの科学知識はあるが、世辞にも学があると言えぬアキラが、大アルカナの意味を知っているはずもない。
だが、そのカードを引いたミネアの心から、それがろくでもないカードであることは理解できた。
破滅、崩壊、全ての喪失……なんにせよ、ろくでもない未来を指し示すカードだ。
だが、それを引いたミネアを責めるつもりなどさらさらなかった。否、責める資格などなかった。
実際に当たっているのだし、なにより、その破滅の中には、ミネアも含まれているのだから。

921Beat! Beat the Hope!! 2 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:03:32 ID:VTWE.qHQ0
アイシャ、ミネア、リン、ちょこ、ゴゴ……そして、無法松。
救いたい、と願ってきた。世界なんてもやっとしたものではない、
自分が守りたいと思う人たちを守れるような、そんなヒーローになりたいと願ってきた。
だが実際はどうだ。ルカに、シンシアに、ジャファルに、セッツァーに、彼を取り巻く理不尽を前にして、アキラは何ができただろうか。
触れ合えるのはいつだって手遅れになってからで、巻き込まれるばかりで当事者の位置からは程遠くて。
守りたいと言っておきながら、いつだって守られているのは自分だ。
守りたいといいながら何一つ守れていない……それで、何がヒーローか。

「すげえよ、ユーリル。お前は、救いきっちまったんだからよ」

カード越しに見上げる蒼天に、勇者の背中を垣間見る。
かつて罵倒した少年は、その言葉を歯が折れるほどに噛みしめて、それでも答えを出した。
救いたいから救ったんだ、文句あるか、と。
痛快に過ぎて笑いしか出てこない。見返りも感謝も要らず、望みはただ救われること一つ。
そのついでに結果として世界が救われるのなら、何も言うことはない。
それは、紛うことなき“ヒーロー”に他ならなかった。

ならば自分は? 救いたいものすら救えず、こうして生きながらえている自分はなんなのか。
アナスタシアと話してから、その意識がこびりついて離れない。
まるで自分が穢らわしい何かになったみたいで、
その汚れを皮膚ごとむしり取りたくてたまらない衝動に駆られるのだ。
その穢れこそが、アナスタシアが耐え続けているものだと気づかず、
アキラは立ち上がり浅瀬に座礁するブリキ大王へ近づいていく。

自分はどうするべきなのだろう。ストレイボウの問いが心に渦巻く。
守りたい物もほとんどなくなった今、この拳は、足はどこに向かえばいいのか。
オディオやジョウイを殴り飛ばす為か。そこまでのモチベーションが自分にはあるだろうか。
さまよう祈りは、吸い込まれるように大王の元へ行く。
既に腰下まで身体は海に浸かっていた。足跡など何もなく、そこにアキラが歩んだ痕跡など何もない。
これまでどおり、大きな流れに呑まれて、掻き消えていくだけなのだろう。

胸まで浸かった時、ブリキ大王はアキラの手の届く場所にいた。
生き残りの中でも、単純な戦闘力では自分が下位の部類に入るのは分かっている。
頼みの綱であるこの巨神すらこの手に零した今、アキラにはもう何もない。
「なあ……どうすりゃいいんだよ、俺は……なあ――――」

922Beat! Beat the Hope!! 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:04:24 ID:VTWE.qHQ0
――――ンなこと知るか。

バンッッ!!と背中を強く叩かれる。
跳ね上がった波か、それにしては強すぎるほどの力に、アキラはたまらずバランスを崩した。
肺の空気が漏れ出て、海水が体内を満たす。
海面に伸ばした手が掴みたかったのは、命か、光か。アキラには分からなかった。

――――死に恥晒して無様に待ってりゃ、なんだそのザマ。

そのアキラの後ろから、海底から吠えるように何かが聞こえた気がする。
記憶の底の魂に刻んだ、忘れられるはずのない幻聴<こえ>だった。

――――カスい死人に聞いてんじゃねぇぞ。どぉしても聞きたかったら、ここに聞けやァァァァァッッ!!

その声に振り向くより先に、再び撃ち抜かれた衝撃が背中に走る。
拳大にまで濃縮された何かが、心臓を貫く。血液の刻む鼓動が上がっていく。
ただのポンプなはずなのに、血液以外の何かが駆け巡っている。
心臓<ここ>に、命<ここ>に、俺<ここ>に、確かなものがあるのだと示すように。

(ああ、そうか……そうなんだな……)

伸ばした手を胸に添えながら、アキラは知る。
何も掴めていないこの手は、だからこそ何かを掴むことができる。
そしてそうあれるのは、他ならないみんながいたからだ。

アイシャが、ミネアが、リンが、アシュレーが、ちょこが、ゴゴがいてくれたからこそ、
この手のひらは鼓動を感じることができて、
アンタがいてくれたからこそ、
この血潮の熱さを、感じ続けられている。

何も残っていない? そんなわけがない。
この血潮の熱こそが、生命こそが、
何もこの手に掴めていない俺が、
それでもヒーローを目指せる俺こそが、確かに残っているものなんだ!

(そうだろ……なあ……)

その言葉をいうよりも前に、その背中を支えてくれていた掌の感触がなくなる。
満足そうに、これで十分だというように、消えていく。
その願いは、きっとこの海に消えていく。
後には何も残らず、そう、人の命のように、時の流れに浚われていくだろう。
だか、それでも。この鼓動が響き続ける限り、きっと忘れはしない。

忘れない限り、きっとそれは、確かにありつづけるのだ。

923Beat! Beat the Hope!! 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:07:15 ID:VTWE.qHQ0
「ん、うぁ……」
瞼を開くと目尻から塩水がしみ込んできた。アキラはたまらず上半身を起こし、首を振る。
揃えた髪の毛からびしょびしょと海水が飛び散る。
どうやら溺れはしたものの、幸運にも浜側に引き寄せられたらしい。
一歩間違えれば、死に直結していたはずだが、アキラはへへらと笑った。
そして傍には、あの塔のカードがあった。もう一度それを見る。だが、そこには自嘲も自虐もなかった。
何もないかもしれないが、何もない自分が確かにここにいるのだから。

その意志に満足したかのように、タロットは淡く輝く。
直後、ブリキ大王に雷が奔った。雷が落ちたようにも、雷が昇ったようにも見えた。
救いに似た光と共に、巨神の体が崩れていく。
溺れる間際、ブリキ大王に触れたアキラには分かっていた。
本当は、もうとっくの昔に崩れ落ちているはずだったのだろう。刻まれた憎悪はそれほどだったのだ。
それでも、遺り続けていたのかもしれない。最後の最後まで、あの鋼に込められた思いを届けるために。

「伝わったよ。ありがとな、ブリキ大王」

その言葉を聞いて満たされるように、大王は完全に崩れ、海の四十万に消えてゆく。
寄せて帰す波と一つになる。どのように偉大なものとていつか終わりが来るように。
その崩御を、アキラは最後まで見続けた。悲しみはない。その心臓に、また一つ熱が籠ったのだから。
「っと、もうそんな時間か。そろそろここもやべえか。びちゃびちゃだけど……ま、戻るころには乾いてるだろ」
アキラは髪を掻き上げ、ポケットに手を突っ込んでゆるりと歩いていく。
孤児院<はじまり>と、ブリキ大王<おわり>に背を向けて、明日へ歩いていく。

「行ってくるぜ、みんな」

彼は何も変わらない。ヒーローになる。その想いはここに来る前と何も変わらない。
それでも、その祈りは、決して揺るぐことはないだろう。
あの雷のように、その心に燦然と輝き続ける巨神が息つく限り。

924Beat! Beat the Hope!! 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:07:54 ID:VTWE.qHQ0
あなたの 運命を示すカードは塔の 正位置。

すべてを失います。けれど――――――

その中から やがて希望も見えてくるでしょう。



  アキラ は PSY-コンバインを覚えたッ!!



ラッキーナンバーは 5。
ラッキーカラーは 真紅。


失ったものに こだわらないで。
希望<あなた>の目の前には、こんなにも青い空が広がっているのだから。




……そして今、輝ける希望を以て、永久に満たされぬ絶望に、挑む。




【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:極大
[スキル]:PSY-コンバイン
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:この俺の希望を、見せてやるッ! 見せつけてやるッ!
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージを受信しました。かなり肉体言語ですので、言葉にするともう少し形になるかもしれません。
※自由行動中に、座礁船・村(ちびっこハウス)に行っていました。

925 ◆wqJoVoH16Y:2014/07/21(月) 22:08:40 ID:VTWE.qHQ0
投下終了です。繋ぎのようなものですが、意見質問等あればぜひ。

926SAVEDATA No.774:2014/07/25(金) 20:41:45 ID:64XYs5wU0
投下お疲れ様でした!
遂に松の声が届いた!
背中をどんってのが実に松らしい
下手に姿現したりしなかったのがなんか好きです
そしてほんとにブリキ大王お疲れ様!
というかWA2のガーディアンロードイベントっぽくていいなー、うんw

927 ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:48:07 ID:JmVc2pRQ0
投下します。

928錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:49:58 ID:JmVc2pRQ0
魔王オディオによって作られし死の島……
このゲーム巣食わんと、憎悪さえ奪った伐剣王ジョウイが、オディオの座を狙って最終戦争を開始した!
その尖兵となりしは、島の憎悪を注がれた骸と、何一つその身に残せなかった砂漠の王城。
しかし、嘆きと未練のままに全てを破壊せんとする哀しき魔城の前に、敢然と立ちふさがるヒーローがいた!!
今は昔のバビロニア、
そして、新生したブリキ大王を駆る日暮里のヒーロー、男・田所晃ッ!

これは、己が全てをかけて戦う、ヒーロー達の物語であるッ!!

929錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:50:54 ID:JmVc2pRQ0
太陽が天頂より降り始めた空の下、朽ちし巨神の遺志を継いで光り輝く幻想希神<ファンタズム・ブリキング>、
繰り手たるアキラはその19mもある体躯の目線にて世界を見渡した。
本来のブリキ大王ならばコックピット越しに見るべきヴィジョンは、アキラの瞳に直接刻まれた。
それだけではない。
天を衝く鋼のこぶしの感触が、大地を踏みしめし両足の感触が、その装甲を撫でる西風の感触が、アキラには自分のように感じられた。
否、それこそが真実。これはバビロニアの機械魔神にして機械魔神にあらず。
アキラの想いがミーディアムの欠片とブリキ大王の祈りを通じ、チカラというカタチをとったもの。
その存在の輝きを以て、見るものの心に『灯火』宿す『希望』の体現――――『ヒーロー』そのもの。
故にアキラと『ヒーロー』の個我境界は限りなく零であり、この巨神こそがアキラなのだ。

ヒーローと化した今だからこそ分かる。
この島全てが今、悲鳴を上げていることが。
傷痕が痛いのだ、爛れて苦しいのだと。もがき苦しみ、悪念を叫び、狂い始めている。
物言わぬ嘆きは模倣する憎悪を得て狂気となり、その狂気のまま、彼らはこの大地の中心に集い始めている。
ことりと落とされた角砂糖に群がる蟻のように、砂漠の中で唯一のオアシスを見つけた者たちのように。
唯一の『希望』めいたおぞましいものに集まっていく。
砂浜が崩れ、崖はボロボロと岩を海に落とし、町並みは風化し、森の木々は枯れ始めている。
災厄の戦いなどで抉られた場所だけではなく、まだ形を保っている場所も崩れてゆく。
(待っててくれてありがとよ、ブリキ大王。ギリギリまで粘ってくれたんだろ)
潮が満ちるように、島の外側からその身を崩しながらイノチが集まってゆく。
砕けた骸に、朽ちた亡城に注がれてゆく。まるで、誰かが“奪っている”ように。
もし、アキラがあの浜までブリキ大王に出会わなければ……あの雄姿さえも“奪われていた”のだろう。

(それが、希望だなんて……楽園だなんて、反吐がでらあッ!!)

はっきり言って、アキラにはジョウイの理想なんてこれっぽっちも理解できない。
学がないだとか、先見がないだとか言われればああそうだと首肯しよう。
だが、そんな奴にだって分かることがある。
これは絶対に許してはならないということなのだ。
形はどうであれ、それが誰かの笑顔を踏みにじって作る世界であるならば、
それは陸軍とシンデルマン博士がやろうとした理想郷<全人類液体人間化>と何一つ変わらない。

「そのためだったら……男アキラ、無理を通してみせるッ!」

城がその輝きを押し潰さんと再び迫る。破損した駆動部から蒸気の血と軋む歯車の悲鳴を上げながら。
故にアキラは拳を握る。その身を以て魔王の楽園を否定するために。
その冥き希望に魅せられ、囚われてしまったあの城(もの)たちを解き放つために。
加速からの、残された右回廊が亡城から射出される。
故障というステータス異常を無視した一撃は、この状況に置いても最速の攻撃となった。

だが、それをアキラは避ける。その眼で、風切る拳を鋼の肌で感じながら、
人間のような滑らかさで、巨体同士の戦いとは思えぬ紙一重で見事に避けきった。

「先ずは挨拶代わりだッ!!」

930錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:51:32 ID:JmVc2pRQ0
そのまま流れるように、左腕を城の側面にアッパーを繰り出す。
王城はその破損した地下潜行機能の残骸を駆動させ、緊急的に沈み込むことでその腕を
かろうじて避けた。そう見えた。
だが、拳が空を切るその瞬間、その左腕に刃の煌めきが輝く。

「“我斗輪愚”ゥゥゥゥゥゥ―――― 一本義ィッ!!」

幻想希神・機巧ノ壱――左腕に内蔵されたブレードが亡城の煉瓦の隙間を切り裂く。
ぶじゅりと、煤混じりの黒い蒸気を吹き出しながら、城は――或いは、その向こうにいる魔王は――驚愕するように震えた。
“ブリキ大王の情報はあった”。だが、このような機構は存在しないはずだ。
「終わるかああああああッ!!」
アキラはアッパーの推力を生かし跳躍する。その様は、もはや機械の駆動というよりというより人間の武技だ。
だが、我唯人に非ずというように、脚部に強烈なエネルギーが集い、
アキラは自身と城を結ぶ線を軸として敵を穿つ螺旋となって城の外壁を削り、
着地の衝撃を脚部から背を通じて腕部へ導通させ、刃の威力へと転じて薙払う。
幻想希神・機巧ノ弐と参――螺旋状に束ねたエネルギーを纏いての急降下攻撃と巨大ブレードによる薙払いが、
本来前進しか出来ぬ亡城を、無理矢理に退かせる。

「メタル、ヒィィィィィィィットゥッッ!!!!」

その開いた間合いの中で、十分に加速する距離を得たアキラの右拳が、亡城の正面城壁を打つ。
亡城は衝撃に揺れながら、ようやく収納した右回廊を構えるが、アキラは既に軽やかに距離をとっていた。距離が離れ、亡城の正面に出来た拳大の大穴が陽光に晒された。
戦術プログラムを遙かに越えた、流れるような連続技からの右ストレート直撃。
自壊はあっても、竜の攻撃でも魔砲によっても削れども破れなかった城壁が初めて貫かれた瞬間であった。

心臓にぽっかり空いた虚空を晒すように棒立つ亡城に、感情を定義するのであれば2つ。
ありえない。ありえない。この城壁が徹されるなどありえない。
この鋼の躯<ハードボディ>を唯の刃、唯の拳、唯の物理攻撃が害するなどありえないのだ。
「わかんねーのかよ」
その心を見透かすかのように、目の前の希神は左拳を天に翳す。
「わかんねーよな。本当に守らなきゃいけないもんが、わかってねーんだからよ」
その様に、亡城のもう一つの感情が膨れ上がる。
許さない。許さない。この身を、この躯の内側を害したな。
彼らが帰るべき場所を、安息するべきだった、そうあるはずだった場所を、害したな。
守るべきもの? それを守れなかったからこそ、この骸はここにいるというのに!

「それが分かってねえってんだよ――――――“我斗輪愚”・日暮里ィィィィッ!!」

931錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:53:29 ID:JmVc2pRQ0
希神に輝きに満ちる。超能力と似て非なる意志の力――フォースが充填され、アキラの、希神の左腕がその機構を変化させていく。
「お前が守りたかったのは、その誰もいない城かッ!?」
五指は収納され、手首は太くなり、そこから出たのは雄々しき勇者の螺旋。
螺旋は動き始め、瞬く間にその溝も見えぬほどの高速で回転し始める。
「違うだろうがッ!! なんもない、空っぽの夢を追いかけて……
 ボロボロになって、それでも戦って、朽ち果てて、それで笑える訳、ねえだろがッ!!」
怒声とともに、夢を形に変えし幻想希神・機巧ノ肆――有線式螺穿腕が発射される。
次は徹さぬと、城は収納した右回廊を楯として己が躯を、誰もいない城内を守る。
「オラァッ!」
だが、腕に食い込んだ螺旋より繋がるそのワイヤーが逆巻き、亡城をアキラまでぐいと引っ張り上げる。
「辛かっただろうさ、苦しかっただろうさ。てめえらも、ヒーローがいなかったんだろ。
 だけど、それに負けちまったら……誰かの守りたいものを奪うようになったら……
 英雄の敵に……“魔”になっちまうんだよッ!」
どれほど自分を傷つけても充たされることなく、永遠に喘ぎ続ける虜囚。
そんな怪物に墜ちてしまった城を引き寄せ、アキラは両足に力を込める。
「だから、俺が祓ってやるッ!!」
今のアキラは、脳の全てをこの希神の具現に費やしている。
イメージはおろか、心を読むことさえもままならない今、彼らの持つ未練に触れることさえ出来ない。
だが、繰り出された機巧ノ伍――刃の如き踵落としと続けて穿たれた宙返蹴り上げは確かに亡城に確かな傷を与えていた。
「最後まで、魔に、憎悪に抗い続けたアイツのように」
この希神は、アキラの抱く夢の形。アキラがこうありたいと希うヒーローの顕現。
この世の憎悪全てを凝縮した狂皇子に立ち向かうように、
己の脳の領域全てで呼び起こした希神は、どこまでもアキラの祈りに忠実だった。
「最後の最後には、温かいものを掴めた、アイツのように」
宙返りの体勢から、再び脚部を城に向ける。だが、今度は両足ではなく片足で、回転などしない。
其は偉大なるバビロニアの一撃。古代より現代を貫きし、神の一撃。

「バベルノン・キィィィィィィィッックゥゥゥッッ!!」

雷のように落ちた神撃は、僅かに逸れて左の城壁のほとんどを破壊する。
アキラの抱くヒーローに確かな形を持たせた紅き英雄。
そのイメージが、希神のつま先から王冠までを紅く充たしている。
モンスターを刈る為の人間暗器に過ぎなかった機巧は、ブラウン管越しに焼き付いた憧憬となって真なるイメージを宿した。
故にその武装、その一挙手一投足全てが、凶祓いの属性を備えているのだ。
ならば新たなる魔王の導きにて『魔』に墜ちた亡城を相手どれば如何なるか。
その答えこそがこの光景――攻撃全てが特効<クリティカル>となるッ!!

最悪の相性の敵を前に、魔城はかつてないほどの損傷を刻まれていた。
それを窮地と見るや、死兵どもは希神に殺到する。リッチのような飛行可能なものたちは希神の周囲へ、グールや亡霊兵などは希神の足下へ殺到する。
だが、希望を漲らせたアキラにとってはもはやものの数ではない。

「手前らもだッ!!――――――“我斗輪愚”・三宮ッ!!」

932錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:54:06 ID:JmVc2pRQ0
再びドリルと化した左腕を上方に突き上げると、
機巧ノ陸――その回転が生んだ風が錐揉みのように旋風となって、周囲の兵どもを花びらのように巻き込んでゆく。
「あんたらの『魔』を、『邪悪』を、『穢れ』を『呪い』を『厄』を『禍』をッ!」
希神の纏うフォースが、真紅にまで輝いたとき、その胸に赤い光が収束する。
この技は、アキラが見たことのない機構だ。だが、アキラの心臓は識っている。
希望のかけらを生んだ一人の男、紅の英雄の半身たる男の想い出が、欠けた機構を十全に駆動させる。
渦に巻かれた屍たちが、渦の中心に集まっていく。
そこに向けられる光は、炎の集合体。だがそれは災厄の焔に非ず。
アキラがその目に焼き付けた炎。全ての魔を焼き祓い清める、浄化の炎。

「全部纏めて、祓ってやらああああああああ!!!!!!」

機巧ノ漆――胸部極熱収束砲が放たれ、旋風を炎の嵐に変えながら、一直線に突き進んでいく。
さらにだめ押しとばかりに、藤兵衛印のジョムジョム弾を各部から射出。
渦の外側を爆破していき、幸運にも渦から飛び出ようとしたものたちを撃破していく。
その魂、天へ届けと手を伸ばすように、赤線が空へと突き抜けた。

「何度でもいってやるッ! これが、本当の希望<ヒーロー>だッ!!」

その強さ、一機当千。偽りの希望なんとする。
幻想希神・ファンタズムブリキング――――此処に有りッ!!


「これが、とっておきたいとっておき、って奴か……?」
天を駆ける炎嵐を見つめながら、ストレイボウは呆然としていた。
アキラにあんな隠し玉があると思っていなかった、という思いも無論あるが、
なによりも、真っ向から闇に立ち向かい、祓っていく輝く機械神の偉容に圧倒されていた。
揺らめく天秤を弄んでいたところに、極大の重石を載せられたような感覚だった。
「俺の時に出していなかったということは、アキラも自覚はないのだろう。
 全く、見せ場というものを心得ている奴だな」
口にくわえた半紙で天空の剣に付いた腐肉を拭い落としながら、カエルは皮肉気味に答えた。
ストレイボウと胸中は同様だった。自分の中のあらゆる葛藤が白日に曝され、断罪されていくようだ。
許せぬものは許せぬ。悪いものは悪い。正しいものは正しい。
魔を問答無用で祓い続ける希神は、その善性の体現だ。
もしも、あの神をもっと早く見つめていたのならば、自分の人生の右往左往の半分は省けたかもしれない、と思う。

933錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:54:38 ID:JmVc2pRQ0
「なんにせよ、これで形勢は逆転したか」
そんな妄想を振り落とし、カエルは現状を見つめた。
アキラの想いを核にコンバインされた希神の登場によって戦局は大きく反転した。
ほとんどの兵があの巨大な希神に注力しており、こちらへの攻め手は牽制以下のものになっている。
そのおかげでストレイボウとカエルは合流し、一呼吸を置くことができた。
「しかし、いきなりすぎて考える暇もなかったが……あの兵士たちは一体……?」
「兵隊どもは地下の遺跡で見た覚えがある。おそらく遺跡に転がった骸に魔力を与えて動かしたのだろう。ビネガーでもあるまいに」
「……確かに、あの亡霊騎士たちのように全て魔力で実体化させるより効率はいい。
 だが、それにしても50も動かすなんて……」
魔術師の見地からジョウイが行った外法にあたりをつけるが、ストレイボウはそれでも驚愕を隠せない。
だが、カエルはその認識の過ちを正す。
「その数は適切ではないな。奴はおそらくこの島全てを掌握しているはずだ。
 歩兵が百万人が固まって俺たちに向かって行軍している姿を想像しろ。今見えている50は、その先端だ」
紅の暴君を通じて、この島に流れる憎悪に触れたカエルだからこそ理解できる。
ここまでの戦いを通じて蓄積され、共界線を通じて島の中枢に集う怨念ども。
ジョウイが掌握しているのがアレならば、ジョウイの兵力とはこの島全てに等しい。
それが一歩ずつ確実に進軍し、この戦場に送られ、最前線の兵が死ぬ度にそれを踏み越えて次列が蘇っているのだ。
「そんな魔力、一体どこから……」
砕けた骨が接がれ、散った腐肉が再び集って兵を構築していく光景を見て、ストレイボウは顔をしかめる。
憎悪する亡霊たち、届かなかった叫びは傷つけられたこの島のものだとしても、
それをに形を与え蘇らせているのはジョウイだ。都合6人で100、200は確実に破壊し、そして蘇っていた。
「……奴は、絶望の鎌を持っていたな」
今はもうない右手を見つめながらカエルはつぶやく。
「ああ、だがアレは仲間の死と引き替えに力を……真逆」
「“味方が死せる瞬間に力が手に入る訳だ”。どうやって武具から魔力を引き出しているかはわからんが……最悪だな」
ジョウイが鎌を振りかざし亡者を指揮する姿を思い浮かべ、カエルは蠅を食らったような顔をした。
刃を失った絶望の鎌の行き場のない力を軍勢の維持に利用しているのだろう。
死して得た力が、屍を動かして死を作る。背負われた死が、ジョウイの誓いを、魔法をより強固にする。
アキラをして歪んだ輪廻といわしめたこの光景の一翼を、魔王の冥力が担っている事実はカエルにとって、業腹以外のなにものでもない。
もしも本気で全滅させるならば、この島全てを滅ぼすしかないだろう。
(もっとも、俺の考えが正しければ、亡霊が亡ぶ度に死ぬほどの苦痛を味わっているはずだが……とてもではないが、正気とは思えん)
紅の暴君と厄災の焔に乗っ取られたカエルだからこそ、ジョウイの行動に空恐ろしさを覚える。
カエルが紅の暴君の交感能力を生かして戦っていた時、大地が傷つけられただけで自分の身が斬られた痛みを覚えた。
それを支配能力にまで引き上げたとすれば、今ジョウイが受けている苦痛が如何ほどか。
それを僅かなりとも想像できるカエルは、覆面の中で舌を巻くしかなかった。

「……だが、いくら何でも50もの屍を暴走させるならともかく、
 兵隊として統率するなんて……そうか、だからあのモルフと城が必要なのか。
 やつらは指令の中継局であり、本陣までの兵站路を兼ねている」
カエルの経験談を聞き、ストレイボウは魔術師と技師特有の論理的思考を以て、この軍勢の輪郭をつかむ。
50体以上の屍をジョウイが直接操作すれば、操作がもつれて必ず破綻する。
それを回避するためジョウイは部隊長となる存在を置き、
そこを経由させて『部隊ごとへの命令』を行うことで、制御を簡素としているのだ。
加えて、これならば亡霊復活のための魔力供給の効率もよくなる。
途中で増員されたフォビアたちは、そのサポートのためだろう。
命令系統と補給路の確立。まさしく軍人の発想だった。
此処まで見せてこなかったジョウイの裏の顔を想像すると同時に、
ストレイボウは否応なく思い知らされてしまう。今行われているのが、戦闘ではなく戦争だということを。
そして、そうしてでも理想を叶えようとしているジョウイの覚悟を。

934錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:56:18 ID:JmVc2pRQ0
だが、そんな機略は質量差の前には無意味とばかりに、希神はフォースチャージを完了させて駆動し始める。
依代の屍に大きく損傷を受けた亡霊たちの蘇生は完了しておらず、希神の拳を妨げるものはなにもない。
「それならば話は早い。頭を潰せば、兵隊どもは蘇生出来ん。
 アキラがあの城を潰せば、少なくともこの戦場は終わる……のはずだが、浮かない顔だな、ストレイボウ」
「……1つは、ただの感傷だ」
決着を見つめるカエルからの問いに、ストレイボウはゆっくりと答える。

現れた闇を、勝負の場にすら立てず烙印を押された敗者たちを、ヒーローのより強大なる正義の光で焼き祓う。
この光景を見下ろしてオルステッドはどう思っているのか。
これこそが、オルステッドのいう勝者と敗者の構造と何も変わらないのではないか。
しかし、この光が正しくない訳がない。この光は正真正銘、真実だ。
ならば、誰が間違っているのか。何が間違っているのか。
本来あの光に焼かれるべきストレイボウは、迷わずにはいられない。

「……もう一つは、ジョウイだ」
そして、あの魔城を率いる魔王のこと。
音に聞こえしルカ=ブライトならば、この段階であの魔城を使えぬと切って捨てるだろう。
だが、敗者を想い過ぎるあの少年が、この状況を看過するとは思えなかった。
「アイツは、ジャスティーンの存在を知っているはずだ。
 だったら、あの城を引っ張ってくれば貴種守護獣との勝負になることは分かっていたはず。
 いや、最初から織り込み済みだろう。だったら……」

ジャスティーンはあの亡きオスティア候の骸が全てを賭けて得た情報。
それを識るジョウイが、誰も見捨てないあの魔王が、ここで手を差し伸べない道理がない。
違和感の核を掴んだストレイボウは、ここまで気配を見せていなかったもう一体の部隊長……反逆の死徒を見た。
希神の攻撃に反応できるほどの距離をあけ、希神が城に迫り来る姿を見つめ続けている。
まるでタイミングを計るかのように。

――サポート能力発動ッ! 直接火力支援ッ!!――

希神の拳が構えられた瞬間、綺羅星のような蒼光が、青空の向こうに光った。
それにストレイボウとカエルが気づいて見上げた空は、真っ二つに割れていた。
そう表現するよりなかった。真白い光の束が、空の果てから希神に降り注ぐ。
「さ」
遙かな高みから混沌とした下界に秩序を示す、神の杖のように。
「衛星攻撃<サテライト>だとォォォォッ!?」
未来世界でも実用段階とはいえぬ、超々高度からの砲撃に、ストレイボウは愕然とする。
ギリギリでその一撃に気づいたのか、希神は振り上げた拳を退き、胸を反らせて上空へハロゲンレーザーを発射する。
天地の狭間で衝突した2つの輝きは、太陽の光さえもかき消す。
全力と全力の砲撃は五分。
だが、絶妙なタイミングで攻めの枕を崩され反応を遅滞させた分、アキラは不利な体勢で踏ん張るしかなかった。
そして、空からの光束が細くなって安堵した瞬間を、弱者が狙わない道理はなかった。
かろうじて体勢を整えた魔城が、機構を振り絞って右拳を構える。
噴煙は黒く噴き出し、油は血のように爛れ落ちている。
撃てば自壊もやむなしの一撃。だが、魔城には自らが砕け散ることへの怖れなど微塵もない。
あるのは、目の前の光に対する怒り、嘆き、嫉妬。
抱くことかなわなかった光を惜しげもなく晒し、
あまつさえ幸せの有無を問う巨神に、それ以外の何を想えというのか。
彼らは“幸せになれなかった”者たち。“もうやり直せない”者たち。
そうであることすら誰にも知られることなく、餓えて枯れて朽ちていく者たち。
ただ一つ与えられた“導き”に縋り、忘れられた滅びに意味を求めた者たち。

935錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:56:59 ID:JmVc2pRQ0
確かに彼らは『魔』だ。憎悪にまみれ、化外に墜ちた存在だ。
だがその祈りさえも『魔』と否定するのか。
弱さを悪と貶め、持たざるを罪と弾劾し、その光で裁こうというのか。

その判決に対する反逆を載せた回廊が、発射される。
ついに深刻な域に達した破損のせいで速度は鈍り、威力は十全にならないだろう。
それでも、振り上げられた拳は収まらない。
失ったものを背負い進む城に、歌が響く。

なげかないで。
いらないものなんてないよ。
おちこぼれなんていないよ。
げんきをだそう。

それは、地より響く歌。己の弱さを嘆き、それでも前を向いた少女の歌<イノリ>。
故にその歌は、持たざる者にどこまでも染み入り、神秘のチカラとなる。
毒のように甘い魔女の呪い<イノリ>は、敗者であればあるほどにチカラに変わる。

この城に向けてドリルとは片腹痛い。
いいだろう。ならば刮目しろ。
もう続かない歴史をその身に刻め。

射出された右回廊が音を鳴らして蠢く。
オディオによって参加者が使用できぬようバラバラにされた『商品』が、壁や機関に組み込まれてゆく。

だいじょうぶ。魔法はなんでもできるチカラ。
だいじょうぶ。あなただけの魔法をしんじて。
だいじょうぶ。どんなときだって、あなたは、ひとりじゃない。

だから――――へいき、へっちゃら。

先ほどのドリルへの返礼とばかりに、回廊が先鋭化し、けたたましく回転する。
希神ドリルとは真逆の回転を成すドリルが、希神の脇腹を無慈悲に蹂躙する。
そんなに自慢するならその光を寄越せとあざ笑うように、振動とともに輝きが廃油に解け合い、魔城へと吸われていく。
これが本物のドリル――――機械大国フィガロの、技術の総算也ッ!!

936錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:58:01 ID:JmVc2pRQ0
ストレイボウたちは絶句したまま、希神の脇腹に大穴が開く瞬間を見ていた。
上空からの射撃が止まったことでアキラはとっさに距離を取り追撃を回避することには成功した。
しかし、希神の輝きを吸って城塞の機構を復旧する魔城は、息吹を得たりと歯車と蒸気の音をけたたましく鳴らす。
全快とは世辞にも言えないが、最低限の機構を取り戻した魔城は退くことなく右の回廊を回して希神へと果敢に攻める。
だが、迎え撃つべく精神力をさらに注いでボディを復元したアキラの拳は先ほどに比べ僅かに鈍っていた。
「無理もない。あの魔城、突撃こそすれど拳は残していやがる。
 こちらの大技にカウンターで差し違えるつもりだ」
カエルは苦々しげに唸る。人間並みの精度と駆動で動く希神相手では
魔城のドリルなどあたりはしない、アキラの拳が魔城に届く瞬間以外には。
故に、魔城は己が軍勢の吸収能力だけを頼りに、差し違えようとしている。
それが分かっているからこそ、アキラは反撃を回避できるよう余力を残した攻撃しか出来ない。
「それに、あの戦場外からの砲撃――――あれを見せつけられたら、もうアキラは動けない。封殺だ」
ストレイボウがつぶやく。希神がその威勢を鈍らせた最大の理由――それはあの戦場外からの砲撃支援に他ならない。
大気圏外から撃たれたあの一射。もしもアキラが全力のハロゲンレーザーで相殺していなければ、
この戦場の相当な領域が何度目かの焦土になっていただろう。
そして、希神と一つになっていないアキラ以外の者たちがどうなっていたことか。
何発撃てるのか、制限はあるのか、再射撃に何分かかるのか。最悪、もう二度と来ない砲撃かもしれない。
しかしその確証もない以上、アキラは常にあの射撃を警戒し続けなければならないのだ。

「折角の反撃の機会をこんな形で潰されるなんて、あの砲撃さえなければ……」
「いや、むしろ厄介なのは――――ッ!!」 

カエルが何かを言おうとした矢先、怨嗟を轟かせながら蘇った亡霊たちが突貫してくる。
依代となった遺体さえも損傷しているが、それを補うかのように鬼気を迫らせている。
「カエルッ!!」
「ちぃッ、合わせろよッ!!」
目配せもせずに、カエルとストレイボウはそれぞれに魔法を展開した。
カエルは印を組んだのち、口の中に発生させたウォータガをぴゅうと亡霊たちの前列に吹き付ける。
そこで進軍が止まった瞬間を見逃さず、ストレイボウが魔術をふるうと、
カエルのウォータガが、兵ごと凍り付き、巨大な氷壁を成した。
既に突撃の勢いの付いていた兵たちは止まることもかなわず、壁にぶつかり、
後ろからさらにぶつかった兵によって潰れてゆく。

「間一髪か」
「でも、なんでいきなり……しかも、さっきまで投石をしていた奴らまで」
「今だからこそ、だ。兵と俺たちを混交させることで、実質的にアキラからの広域攻撃を封じてやがる。
 しかしこれで確信した。この差配は、明らかに現場の指示だ……あの小物、もしやそこそこ優秀だったのか?」
潰れてもなお壁を破らんとばかりに襲いかかる兵たちは、先ほどまでの倍以上に膨れ上がっていた。
投石を行っていたものたちも、魔城の随員だった兵も全てがこちらに投入されている。
ストレイボウたちは破れそうな壁に魔力を注いで繕いながら、その差配をしたであろう反逆の死徒を睨みつけた。
その視線すら心地いいのか、卑猥な嘲笑を浮かべながら敗者は口の下の瞳をぐるぐると回していた。

937錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 22:59:19 ID:JmVc2pRQ0
「どうみる、ストレイボウ」
「……控えめに言って最悪、としかいいようがないな」
ストレイボウは冷や汗を浮かべながら応じた。
頼みのブリキ大王は敵の連携網に絡め取られて拘束された。
敵の軍勢はこちらに集中し、水際での防戦一方。
しかも、兵たちをいくら倒しても島全てが兵力たるジョウイには致命傷になり得ない。
このままでは泥沼に嵌まり続けることになる。
抜け出すためにはこちらの体勢を整えなければならないが、こちらの体勢はガタガタに崩されてしまっている。
ストレイボウはちらりと後ろを向いた。その視線は、カエルたちの後ろで呆としている2人へと向いていた。
イスラは未だ顎を下げず軍勢を見続けるのが精一杯で、アナスタシアは髪を垂らせ俯いている。
どちらもピサロや亡将を相手取った時ほどの気迫はなく、とても戦域に晒せる状態ではない。
逃げるにしても首輪が、空中城に行くにしても亡城のデータタブレットが問題となる。
(イスラとアナスタシアはまだ動けない。アナスタシアには首輪を解除するという仕事が残っている。
 ピサロは竜化が解けて行方不明。実質戦力は半分――埒が開くはずもない)
拳を振り上げる余力もなく、そも拳を向ける先も見抜けない。
故に泥縄。遙か先の禁止エリアで軍勢を維持するジョウイに主導権を取られ続けてしまう。

(……せめて、ブラッドか、ヘクトルが、マリアベルがいてくれればまだ……いや、いないからこその戦争か)
ストレイボウは三人の人材を思い浮かべ、すぐに打ち消した。
この状況が生み出している最大の不利は、彼らに大規模な集団戦闘の経験が圧倒的に不足していることだ。
6匹の獅子は、50の羊などもとのもしないだろう。
だが、そこに1人の人間が混ざることで1つの群れとなった今、ただの6匹は羊の群れに追いつめられている。
もしもここに彼らのようなリーダーとなりうる存在が居たならば、6人が1つに纏まれればこうはならなかったかもしれない。
だが、現実的に彼らは集ったばかりの烏合の衆であり、それ故に、ジョウイが狙うべき唯一の弱点となった。
もはやこの戦争を突破するより、勝利はないのだ。

「……やれることをやるしかない、か」

ストレイボウは深呼吸をして酸素を脳漿に澄み渡らせる。
焦るな、焦るなと言い聞かせ、状況を組み立てて優先順位をつけていく。
「何にせよ先ずはピサロの安否だ。だが、どこにいるか……」
「見つけるのは存外容易いかもしれんな」
カエルの視線の先には、空を飛んで魔城に向う2匹が居た。
希神と魔城の戦いに、奴らは直接的な意味を持たない。ならば考えられる理由は一つ。
「狙いは城の中のピサロかッ! 俺が行くッ!!」
「確かに膠着状態に入った今こそが城に入る好機……が、何か考えがあってだろうな」
「ああ、あの城が機械だとすれば、この場は俺しか行ない」
迷いなき瞳で魔城を見つめるストレイボウに、カエルは嘆息を付いた。
そこまで確信を持たれてしまっては反論も野暮で、自ずとやるべきことも定まる。
「全く……なら、いっそ全員で中に入ってしまうというのはどうだ。
 少なくともあの城からの攻撃はなくなるぞ」
「生き埋めにされるだけでしょう」
冗談のつもりで言ったカエルの軽口に予想外の方向から反応が返ってくる。
狼に戻したルシエドを侍らせたアナスタシアだった。
俯いたままの彼女の表情は分からなかったが、代わりにルシエドがトコトコと
ストレイボウの側まで行き、背中の毛並みを見せつけてくる。
「アナスタシア……」
「わかんないわよ。どうすればいいのか、どうしたいのか。
 頭ン中ぐっちゃぐっちゃで、もう訳わかんないのよ」
アナスタシアは手袋のまま、少し濡れた髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。
「だから、分かってる奴に貸しとく。この子も、迷ってる私といるよりはいいでしょ……」
進む道が闇に覆われ、進めずとしても。その手だけでもその先を望み僅かに伸ばす。
憔悴した彼女の精一杯を受け取って、ストレイボウとカエルは互いに頷いた。
「道を作る。合わせろよストレイボウ」
「カエル、お前……」
腰溜に剣を構えるカエルに、ストレイボウはその意を察する。
この状況に相応しい二人技。だが、その技は、カエルと彼女の。
「あれだけ見せられて気づかんとでも思ったか。理由は問わんさ。
 だが、確かにお前の中に彼奴は、ルッカはいるのだな」
精神を研ぎ澄ますカエルに、ストレイボウは言葉を返すことなく、フォルブレイズをめくり詠唱を開始する。
「ならば、採点してやる。俺が捨てたものが、俺以外の誰かに確かに息づいているのだと……見せてくれッ!!」
「ああッ! 彼女の炎が、彼女の思い出が、まだ此処にあることを示そう――――ラインボムッ!!」

938錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:00:27 ID:JmVc2pRQ0
神将器から放たれた焔を天空の剣に纏わせ、カエルが城めがけて一閃を放つ。
氷壁を割り、一直線に延びる炎は、不死なる者たちに触れた瞬間に爆ぜて道を造る。
炎が止めばすぐに蘇り、閉ざされるだろう道は、しかし魔狼が駆け抜けるには十分な道だった。

「……ルッカとは、昨日出会った。もう、会ったときには、死ぬ間際だった」
ルシエドに跨がるより前に、思い出したようにストレイボウは言った。
「そのとき、彼女を背負っていたのが、ジョウイだった」
ストレイボウはクレストグラフを翳し、カエルにクイックを駆けながら世間話をするような調子で語る。
「あの時、あいつは確かに彼女を生かそうとしていた。打算でも何でもなく、零れ落ちる生命を抱き留めようとしていた」
「……ルッカの最後は、どうだった」
続けてハイパーウェポンを重ね掛けされたカエルは、ストレイボウに尋ねる。
今此処でこの話を切り出された意味を薄々感じながら。
「泣いているんだと思った。理不尽な死に、未来が潰えたことに。
 でも今なら、生い立ちを、死に様を、名前を知った今なら……
 最後の想い出は、碧色の輝きに包まれていたから、きっと――許されていたんだと思う」
最後にプロテクトをカエルに掛けながら、ストレイボウはそう結んだ。

あの優しい碧光を放つ左手を思い出しながら、ストレイボウはさも今思い出したように虚空に呟いた。
「ああ……そうだった。あの時だった。あいつも、
 真っ正面から誰かの死を受け止め過ぎて、押しつぶされそうになっていた」
ジョウイの名に反応したか、イスラは僅かにストレイボウに視線を上げるが、
ストレイボウは省みることなく、ルシエドに跨がる。

「だから――――お前も立ち上がれるって、信じてるよ。イスラ」

不意に呼びかけられ、イスラが頭を上げた時、欲望の狼は瞬く間に魔城に向けて駆けだしていた。
何かを言おうとしていたはずのイスラの口は、半分開いたままだった。

「彼奴の言いたいことが分かったか、適格者」
天空の剣を素振りしながらカエルはイスラに尋ねた。
答えを返すより先にカエルが二の句を継ぐ。
「有り様はどうであれ、あの核識もお前と同じくらいに死を想っている。そうでなくばこれほどの死を背負えまい」
ヘクトルも、あの城も、島の亡霊たちも、そしてイスラの罪たるあの死徒も、全てを背負うが故のSMRA。
そこに、イスラを意図的に貶めようとする浅慮があったなら、たちまちジョウイはこの群れに呑まれていただろう。
割り切れないから、流せないから、真正面から受け止めるしかなくて、死を背負った。
かつて笑い、割り切ったはずのビジュの死を、真っ直ぐに苦しみ続けている今のイスラのように。
同じくらいに不器用なほど、2人は死を想い続けている。

「そんな奴にお前は負けるはずがないと、彼奴は言ったんだよ」

イスラが俯いたまま、時間切れの怨嗟が響く。
ラインボムの爆破が止み、氷壁の割れた部分へと兵たちが再び殺到し始めたのだ。
「俺から言えるのは此処までだ。後は自分で考えろ。なに――――」
だが、カエルは天空の剣を振るい亡霊兵を薙払い、ベロで掴んだブライオンを一気に振り回して遠くの敵を両断する。
カエルにのみ許される、歪な勇者剣二刀流だった。

「その時間は稼いでやる。何分でも、何時間でも、何日でも――――たとえ、十年だとしてもッ!!」

ありったけの補助魔法を受けて、カエルは修羅と化した。
ストレイボウへ敵が行かぬよう、アナスタシアとイスラの下へ行かせぬよう
氷壁の開いた部分に殺到する兵たちを蹴散らしてゆく。
屍体に込められたミスティックが天空の剣で祓われいくが、
一人二人分が解除されようが他の兵たちと分け与えることであっという間に戻されてゆく。
しかし、補助効果が途切れればたちまち粉砕されるであろうカエルは、なんとも軽やかに敵を屠っていた。
弱きものとして、闇にあるものとして、欲望をもつものとして、清濁を合わせ呑んで目の前の敗者を裁いていく。

アナスタシアは見つめる。永遠にでも持ちこたえそうなほどに思えてしまう背中を。
イスラは俯き、感じる。大地に突いた両手に感じる戦場の振動を。
その遙か遠くで、卑しく嘲笑う声を聞きながら。

939錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:02:07 ID:JmVc2pRQ0
希望を纏いし巨人と激突する魔なる王城。その最上階、双玉座の間で銃声が響く。
少量の魔力によって散弾のように放たれた弾丸が部屋の壁を抉っていく。
だが、その中に金属の擦れる音が混じる。
銃口の先、巌の如きの手のひらが、射線を塞ぐようにそびえ立っていた。
否、それは巌めいているのではなく、真正、岩石でできた掌壁であった。
その衝立の上から飛翔して迫る影が一つ。一条の光とて戻ることなき暗黒物質を纏った女が射手へ襲いかかる。

応射は間に合わぬと舌打ちをし、射手は一言二言呪文を刻んで手を大地にたたきつけた。
滑らかな石畳と掌に生まれた空隙から風が爆ぜるように吹き上がり、術者たる射手を大きく跳躍させて女の攻撃を回避させる。
女の死角を取る格好となった射手は中空で銃口を向ける。
だが、そうすることが分かっていたかのように、着地地点に回り込んでいた岩石の拳を供えた女が射手の着地と同時に拳を振り抜く。
これほどの質量を振るわれれば、射手の貌など爛熟した果実のように弾け落ちるだろう。
「無駄だ、お前たちでは我が身体を――我が愛を侵すことなど出来ん」
しかし、射手の貌は何一つ傷ついていなかった。
拳は皮膚と外気の境界より先で止まり、くすんでなお美しい銀髪が、女の腕を優しく撫ぜる。
女の手如きで男の肌を害せない――などという次元ではなかった。
幽霊が生者を害せないように、2次元が3次元を害せないように、その拳と内と外は存在の強度が違いすぎる。
これこそが、彼がこの地獄で手にした愛の奇蹟。
たった一つの不朽不滅の愛を以て、己を絶対防御せしめるインビシブル。
これがある限り、射手は勝ちは無くとも負けは無い――はずだった。

振り抜かれなかったもう一つの拳が、射手に触れる。
じゅう、と焼き鏝を当てるような不快な音と共に、拳が射手の頬に触れる。
直立のまま、彼は驚きその拳をみる。威力はなく、蠅が触れた程度の感触しかない。
だが、その感触があるということが問題だった。
この技は、彼の持つ愛の体現。それに干渉したということは、彼の愛を侵したということ。
そして、干渉が出来るならば――“彼奴”のように障壁ごと吹き飛ばすこともできる。

拳を振り抜かれた彼は玉座に吹き飛ばされる。
驚きでインビシブルを解除してしまった彼は、背中を強く打ち付けられたが、痛みに惑う余裕はなかった。
とっさにクレストグラフを構え、風の壁を作って2人の女を遠くへ押しやり、その隙の裏へと隠れた。
すぐさま別の部屋へと移りたかったが、それは叶わない願いだった。

息を乱し、青ざめた肌に汗と砂と埃が張り付く中、彼はじっと足をみる。
最初は足だけだった石化が、膝のあたりまで進行していた。

「まったく……これでは奴らになんと言われるか分かったものではないな」

省みるまでもない2体の化外に追いつめられ、衝立の裏で息を切らす。
泥まみれの頬を擦るこの無様こそが、かつて魔王と呼ばれたピサロの現状だった。

「しかし、なぜインビシブルが破られる。もしやこの泥が関係しているのか」
『それこそは、創世の泥。星の原型<アーキタイプ>たる泥のガーディアン――グラブ=ル=ガブルだ』
「……ラフティーナか。貴様の鎧も存外当てにならんものだな」

脳裏に響く声を感じ、ピサロは懐から金色のミーディアムを取り出す。
その間も、銃だけを玉座か跳びさせて、適当に魔弾をばらまいている。

940錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:06:05 ID:JmVc2pRQ0
『……ガーディアンの権能とは即ち想いの力だ。汝も知っての通り、此処は憎悪という想いに染められし異界。
 我ら貴種守護獣はミーディアムを具現するだけでもファルガイア以上に消耗を強いられる。
 故に、同位――同じ貴種守護獣に達するほどの想いであれば、我が守りとて十全ではない』
「あの女のように、か。ならばあの小僧も何か守護獣を得たというのか」
『より性質が悪い。あれは我ら貴種守護獣……否、全ての守護獣の母たる“始まり”の守護獣の一部。ならば……』
「子が親に勝てる道理はない、か? 下らん」
ピサロは忌々しげに舌打ちをし、玉座の後ろから女たちを見つめる。
命無き人形が城が、生命の泥を纏って、ヒトの輝きを奪いにくる。
その皮肉に、人形の主たる魔王の性根の悪さを感じずにはいられなかった。

「しかし、どうするつもりだ。その足は我でも治せんぞ」

しかし、劣勢であることに疑いはなかった。
回復魔法はあれど状態回復魔法無き今、石化はすでに歩行もままならぬほどに進み、
呪文はろくに唱える暇さえ与えられず、
絶対防御は絶対ではなく、敵の不自然なほどの連携で、一撃必殺を狙うこともままならない。
有り体に言って絶対絶命だった。

(しかし、力押しで命を取りに来ることもできるはずだが、連中何を待って……)
『上だッ!』

ラフティーナの声に反応し、上を向いたピサロが見たのは天井を滑るように現れた流液と爬虫の女たち。
新たに現れた増援に唸りながら、ピサロは弾幕を張りつつ後退する。
だが、もはや杖無しでは歩けぬ足では如何ともしがたく、すぐに壁に追いつめられてしまう。
敗者が、生命を持たぬ人の形か、勝者を、命あるものを追いつめていた。
「4人の雌に囲まれるというのは、人間の雄共ならば興趣尽かぬ状況であろうな。
 だが、私には無用。消えよ端女ども。貴様等共に食わせる肉などないと知れ」
それでも己が高貴を曇らせることのないピサロに、疎むように4人が殺到する。
ピサロは銃を構えた。最後の最後まで己が性を貫くために。

「ピサロッ!!」

掛けられた名とともに、豪炎が石畳を走る。
炎はたちまち女共――フォビア達の周囲をまとわりつき、彼女らの足を止める。
その瞬間、月が閃く。研ぎ澄まされた狼爪の軌跡を、女の血が彩った。
ストレイボウと影狼ルシエド、ある種この場で最も安定した援軍だった。

941錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:07:11 ID:JmVc2pRQ0
フォビア達の姿が、狼の背に跨がったストレイボウの背中に遮られる。
アナスタシアの眷属であるはずの魔狼と共にある姿は、不思議と違和感がなかった。
突如の乱入に、フォビアは4人と集まり、ストレイボウを見つめ続けている。
「退いていろ、貴様では――」
勝てぬ、とまるで気遣いのようなこと言おうとしたのは、太陽の下で少なからず会話をしたという事実故か。
だが、ストレイボウの背中から迸る何かが、ピサロに恥をかかせなかった。
手負いとはいえピサロを追いつめるほどの者たちを前にしたストレイボウの表情は伺えない。
しかし、あの矮小の極みだった背中が大きく見えるのは、決して狼上にあるだけが理由ではないだろう。
決意、というよりは……歓喜にも似た高揚に、ピサロには思えた。

「「「「―――――――――――」」」」
「なっ!?」

だが、ストレイボウの期待を裏切るように、流すように、フォビア達はわずかな膠着の後、素早くバルコニーから逃亡する。
鮮やかとさえ言える遁走に、甲高い一歩が響く。
フォビアに向けて踏み出したストレイボウの右足は小刻みに震え、そして何とか収まった後、ピサロへ向き合った。

「大丈夫……だなんて言うなよ」
「まさか、貴様に助けられるとはな……」

ストレイボウの視線がピサロの足に向く。この応酬の間も石化は進行し、もはやピサロは直立もままならない有様だった。
ひとまずストレイボウは肩を貸し、ピサロは玉座に身体を預けながら、互いの状況を確認し合う。
「まだ奴らはくすぶっているのか」
苛立つようなピサロの感想に、ストレイボウは苦笑いを浮かべた。
「だけど、立ち直るって信じてるんだろう」
「……当然だ。こんな持たざるもの共如きに砕かれる程度なら、とうに私が砕いていた」
図星を突かれたピサロはそっぽを向いてそう答える。だが、ストレイボウは逆に目を細めた。
「持たざる者、か」
回復魔法を自分に施すピサロは、彼の寂寥な声色に眉根を潜めた。
屍に人形たち。小者の残骸で出来た小兵に、王を気取るように示された誰もいない廃城。
そんな有象無象をかき集めて急造された魔王の軍勢に、いいように追いつめられている。
そこに不快こそあれ、噛みしめるようなものなどピサロには無かった。
「……多分、今もこの城はアキラと戦っている。その割りには静かだと思わないか」
ストレイボウは城の内壁を撫で、指先に苛烈な振動を感じながらひとりごちる。
「この城がどれほどに未練を抱いたかなんて想像もつかないが、この城が凄いってことは分かるよ」
ルシエドと共に城内を駆け抜けたストレイボウの、技師としての感想はその一言につきた。
耐候性、居住性を持たせながら、これほどの大規模な構造物に砂漠潜行機能を持たせる。
落成から相当な年数を経ているだろうに、機能としてのかげりを微塵も感じさせない。
おそらくは、作られてから幾度も修繕と改良と試行錯誤を繰り返していたのだろう。
ルッカの視点から理解できるこの城の想い出に思いを馳せれば、
この城が愛されていたことと、この城のある国を愛した者たちと、そしてこの国を束ねた国王を思わずにはいられない。
この城は王を飾るためでも、国の威光を示すものでもなく、きっと砂漠に生き続けた彼らの……“家”だったのだ。

「フィガロ。名は聞いていたが、きっと素晴らしい国だったんだろうな」

942錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:07:56 ID:JmVc2pRQ0
ルクレチアのように、国民全員が未練を抱えて亡霊に堕ちるような国ではなく、
と苦笑いするストレイボウの背中に、ピサロは慄然とする。
己を誰よりも敗者だと思うストレイボウは、それ故この場で誰よりも公平に敵と味方を想えている。
翻って自分はどうか。
力によって絶対の順列を決する魔界の秩序では、城など王の付属物に過ぎなかった。
それ以外のものなど、想像すら出来なかった。
それは彼が高潔で、世界に匹敵する個我を持つがゆえの皮肉だった。
彼が知ったものこそが世界で、それ故に、彼の世界は完結している。
愛を知ったのではなく、彼女を愛する自分を知っただけで、
人の愚かさを悟ったのではなく、愚かな自分を知っただけで。
魔族の願いで、邪神官の計らいで、誰かの命を懸けた魔法で、聖剣と愛が起こした奇跡で、
誰かが触れなければ、誰かが与えなければ、永遠に変わることはない彼は。

「……自分を省みることはできても、奴らを省みることはできんということか」

自らが口ずさんだ言葉で我に返り、ピサロはストレイボウへと視線を向ける。
あわよくば、とピサロは思ったが、ストレイボウの耳はその言葉を拾っていた。
「……そんな大層なことじゃないさ。俺だって、何が変わったわけでもない。
 偉そうなことを言ったって、ただの妄想に過ぎないかも知れないんだ」
ストレイボウの唇が咎人の諧謔に卑しく歪む。今更に聖人を気取っている己の姿に自嘲が無いはずもない。
「結局のところ、どこまで言っても俺は一番の罪人だ。だから、誰も呪えないだけなのかもしれない。
 あるいは……俺が許されたいだけなのかもな。
 俺がお前を許すから、俺を許してくれって、浅ましく思ってるだけかもしれない」
誰よりも罪深く、許しと償いを乞い続ける原初の咎人。その煤けた笑顔に、ピサロは唇を強く結んだ。
他者を想い、罪を思い、償いを為す。それは彼女がピサロに願ったこと。
それを体現する男は、それでもまだ罪深いと十字架を背負い続けている。
「ならばどうすれば、許される? お前が立ちたいと願うあ奴への傍らに、いつたどり着ける?」 
「許されないかもしれない。たどり着けないかもしれない。
 それで当たり前。俺がしたことは、それくらいのことなんだ」
薄々と予感していた答えを先駆者に言われ、ピサロは押し黙るしかなかった。
ピサロとストレイボウでは罪の認識が根本的に異なる。
自分が背負うものを、”彼女が罪だと言うから罪”だと思っていた程度の罪だと、思っていなかったか。
たどり着けない道を永劫に歩き続ける覚悟が自分にあっただろうか。
「それでも歩き続けられるのは……なぜだ」
「……“聖者のように、たった一言で誰かを悲しみから救うことはできない”。
 俺たちは、軽いんだ。それでも俺たちは、一言で全てを解決してしまうような……
 そう、“魔法”みたいな何かを期待する。俺もそうだった」
 懐かしむように紡がれた答えに、ピサロは面食らう。
「そうしたら、こう言われたよ。でも、だからこそ――――」
変わりたいと思っても変われない自分に苦しむ姿が、かつてのストレイボウとピサロに重なる。
そこに、暖かな木漏れ日のような言葉が染み渡る。

「『でも、だからこそ、私は何度でも言葉を重ねることしかできません」』
渇き苦しむ罪人に、両の小指を沿わせて掬った水を差し出される。
仄かに甘く薫るその水が、喉を潤してゆく。
「『たとえ一晩中でも、夜明けまで重くなる瞼を擦りながら……欠伸を我慢しながらでも話したいと思います……」』
頭を上げた先の、その聖人の顔を、罪人が間違うはずがなかった。
「それでも、歩き続けるしかないんだ。
 たった一歩で届くことはなくても……歩かなきゃ、絶対にそこには辿り着けないんだ」

全てを理解したと察したストレイボウは、先駆者としてそう言葉を締めた。
たどり着けるからではなく、たどり着きたいから。
何度でも語り続けよう、何歩でも歩き続けよう。
その意志の果てに叶わない夢はないのだから。

「そうか……君は……生きているのだな……」

943錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:09:20 ID:JmVc2pRQ0
何かを噛みしめるようなピサロの呟きに満足したストレイボウは、この後について考える。
ピサロの石化をどうにかしなければならないが、回復手段はアナスタシアのリフレッシュしかない。
とすればピサロを彼女のもとまで運ぶ必要があるが、ここに来るまでに見つからなかった以上もう一つ仕事が残っている。

「しかし、何でフォビア達は退いた? 
 ここで分断された俺たちを見逃す手は無いはずだが……それよりも重要な攻略点なんて――――」
フォビアが4体まとめてピサロを攻めたのは、ピサロが弱体化した上で孤立したからのはずだ。
増援があったとはいえ、依然としてピサロ崩しの好機だったのは間違いない。
それを見逃す理由はいったい何か? まるで、ストレイボウがここまで来た時点で目的を達したかのような――

「真逆ッ!?」
「リレミトッッ!!」

ストレイボウの気づきよりも僅かに早く、呪文を唱える暇を漸く得たピサロが光となって飛翔する。
ルーラを応用したその呪文は、ピサロを光に変えて城から脱出させつつ、一直線に兵士たちの密集区へと向わせた。

「……俺のバカ野郎が……ッ!」
自分の肺を握りつぶすように息を吐きながら、ストレイボウは弾かれたように階下へと降りていく。
『どこに行くつもりだ』
「今から俺たちが行っても間に合わない! 初撃はあいつらに任せて、その後に供えるッ!!」

ルシエドの問いに、ストレイボウは自分に言い聞かせるように答えた。
ルシエドは一瞬考えた後、ストレイボウを背中に乗せる。
『俺が行けばお前は何も出来まい。
 それに、お前を助けた方が結果的に助けになるのだろう? 敢えて聞かせろ、敵の狙いは?』
ルシエドに感謝を込めて毛並みを撫でながら、ストレイボウは地下に目を向けながら走る。

「頼んだ、みんな。敵の狙いは、狙いは――ッ!!」

944錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:10:19 ID:JmVc2pRQ0
アナスタシアの頬に、鮮血が降りかかる。噎せ返るほどの血と泥の匂い。
豊かな髪にまで透った血の中で、かろうじて血を浴びなかった左目が、
氷の壁に見えた、わずかな亀裂をくっきりと映し出す。
壁の向こうで、両生類が叫んでいるが、上手く聞き取れない。
遠く遠く、私たちを嘲笑い続けていた声も聞こえない。

ぼすり、と業物の苦無が地面に刺さる。
禍々しい毒の色と、ばちばちと纏う雷の色が地面で赤色と混ざる。

暗器・凶毒針。かつて彼女を裏切った男の、障害を抜いて狙い撃たれた奥の手が完了する。

ルシエドという最後の守りすらも手放した莫迦な女は、きっと格好の餌食だったのだろう。
たとえ死に至らずとも、このか細い腕を害せば、もう首輪は外せないのだから。

そしてそれは、私に向けて冷徹に実行され、炸裂した。
兵を運動させて混乱させ、人形を遣い兵力を誘引し、火力支援を利し、
弱者たる彼女に向けて、完璧に、誰にも読ませないまま完璧に穿った。

「……無事?」

ただひとつ、たったひとつ狂いがあったとするならば。
この世界を覆う血が、私のものではないということ。

左目が、目の前の黒い何かを見つめる。
線の細い左半身と、きめ細かい女のような黒髪。

「そう……なら……」

舌の上で脂以外の触感がする。
粉々に、弾け飛んだ、肉の柔らかさと、骨の硬さ。
ねえ、イスラ君。また私に私以外の何かを失えというの?
ねえ、イスラ。なんでお前の腕がないの?


「よか―――――――――――――」


欠けた腕から鮮血を散らせながら、安堵そのものの吐息を漏らして少年は崩れ落ちる。

私は血塗れた手を伸ばすけれども、繋ぐ手は届かなくて。
倒れたイスラに、かける言葉が見つからなくて。

ただ、幽か、聖剣から稲妻の奔る音がした。

945錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:15:04 ID:JmVc2pRQ0
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】
【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:左腕完全破壊 麻痺 ??? 
[スキル]:???
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し ミラクルシューズ@FF6
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:???
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)


【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:血塗れ 動揺(極大) ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド(※現在ルシエドがストレイボウに同道中のため使用不可)
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6 いかりのリング@FF6 日記のようなもの@貴重品
[思考]
基本:???
1:――――――――イスラ……?
[参戦時期]:ED後

※現在ルシエドをストレイボウに貸しているためせいけんルシエドは使用できません。
 使用する場合はコマンド『コンバイン』を使用してください。
 ただしその場合、ストレイボウからルシエドが消失し、再合流まで貸与はできません。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死 最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
    疲労:中 胸に小穴 勇気:真 ステータス上昇付与(プロテクト+クイック+ハイパーウェポン)
[装備]:ブライオン@武器:剣  天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:イスラ、アナスタシアッ!!
2:伝えるべくは伝えた。あとは、俺にできることをやるだけだ
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)


【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:大、疲労:大、精神力消費:極大
[スキル]:PSY-コンバイン  フォース・バウンティハンター(Lv1〜4)
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:クソッあんな空からの攻撃だとッ!? 防ぐしかねえってのか!
2:この俺の希望を、見せてやるッ! 見せつけてやるッ!
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージを受信しました。かなり肉体言語ですので、言葉にするともう少し形になるかもしれません。

946錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:16:28 ID:JmVc2pRQ0
【SMRA隊】

【反逆の死徒@???】
[状態]:驚愕 クラス『モルフ崩れ』 軍服黒焦げ 
[装備]:蒼流凶星@幻想水滸伝2 黒き刃@幻想水滸伝2 亡霊兵(25名)
    副将:フェミノフォビア(抜け道付加)、アクロフォビア(飛行付加)
[スキル]:暗器・凶毒針 状態付加・麻痺  
     遠距離攻撃・召雷 ゲレハラスメント(憑依:攻撃力防御力20%減少)
     再生能力(毎ターンHP25%回復)俊敏、逆襲、狙い撃ち
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
2:一番弱くて弱い奴を嬲る
部隊方針:アナスタシア、イスラ、カエルに突撃。フォビア4体も到着後投入。


[備考]
※部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。


【砂喰みに沈む王城@???】
[状態]:クラス『大魔城』外壁損傷(大) 駆動部中破(スペシャルボディにて無効化) 左腕<左回廊>から先を損失
[装備]:亡霊兵(25名)データタブレット@WA2
    副将:クラウストロフォビア(石化攻撃付加)、スコトフォビア(HP吸収付加)
[スキル]:ハードボディ、スペシャルボディ コマンド:きかい(どりる)
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
2:あの鋼の光は破壊する
部隊方針:フォビア含めて反逆の死徒の指示に従う


[備考]
※部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

947錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手だけは離さない ◆wqJoVoH16Y:2014/11/02(日) 23:17:35 ID:JmVc2pRQ0
【フィガロ城内部 二日目 日中】

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大 ルシエド貸与中
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 
    マリアベルの手記@貴重品 “勇者”と“英雄”バッジ@クロノトリガー
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:みんな、アナスタシアを頼む……ッ!
2:イスラの力に、支えになりたい
3:罪と――人形どもと、向き合おう
4:俺はオルステッドを、どうすれば……

[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ジョウイより得た空中城の位置情報と、シルバードの情報をほかの参加者に伝えました。


【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:リレミト中(ルーラ同様移動に時間がかかります)
    クラス『ピュアピサロ』 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:やや大
    左腕骨折、胴体にダメージ大、失血中、徐々に石化@現在膝上まで進行中
[スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ
[装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル
[道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック
    データタブレット×2@貴重品
[思考]
基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす
1:……まったく、世話のかかる……
[参戦時期]:5章最終決戦直後
 ※バヨネットからパラソルが無くなりました。魔導系コマンドはそのまま使用可能ですが、魔力補正がなくなりました。


【用語解説:謎の衛星攻撃】

優勢だった幻想希神へと狙い撃たれた超々高度からの光学射撃。
ストレイボウとカエルは未来時代の知識から衛星攻撃と類推しただけであり、詳細は不明。
上空からの攻撃となると天空城からの攻撃とも疑えるが、
この戦いに干渉の動きを見せないオディオの仕業とは考えられない。
とすれば、ジョウイの仕業と見るのが妥当だろう。
核識として島の状況を知ることのできるジョウイならば、タイミングを計ってピンポイント攻撃も不可能ではない。
肝心の攻撃方法だが、紋章にも遺跡にもこのような技はないため、ジョウイが持つ最後の支給品の可能性が極めて高い。
ただ、それはちょこが所持した「アナスタシアから見て生き残るのに役に立たないモノ」であるため、
単純に兵器を所持しているとは考えにくい。ひょっとすれば、鍵のようなそれと理解できなければ使用できないものかもしれない。

いずれにせよ、巨大兵器戦をジョウイが想定していたことは疑う余地もないだろう。

948SAVEDATA No.774:2014/11/02(日) 23:19:50 ID:JmVc2pRQ0
投下終了です。途中までのテキストを再構成していますので、
?と思うところもあるかもしれませんが質問疑問意見あればどうぞ。

この後も書くつもりではありますが、続きがあればぜひどうぞ。

949SAVEDATA No.774:2014/11/02(日) 23:49:50 ID:GJuZNHBc0
投下おつでした!
おお、すごいところで続いた―!
巨大ロボ決戦はアイシャパワーによる仕込み武器がかっこ良かったり、空からなんか降ってきたりすごいことになってるw
というか衛星攻撃はWA1思い出した。アースガルズ、アースガルズ助けてくれ!
ピサロはひとまず危機を脱した上で、ここでストレイボウ越しにロザリーの言葉届いたんだけど。
ジョウイからすれば本命なアナスタシアたちが代わりにピンチに陥ってしまったか……
果たしてどうなってしまうのか、楽しみです!

950SAVEDATA No.774:2014/11/03(月) 13:32:12 ID:JD4L8OJg0
執筆・投下お疲れ様でしたッ!
ブリキングかっけー!
アキラが見たヒーローの技が、アシュレーの心臓によってカタチになって、すごく眩い!
でもだからこそ、持たざるものやオルステッドが認められるものではないんだよなー…
そんな持たざるものどもへ囁かれる魔女の囁きがヤバい。持たざるものの気持ちが、あの子は理解できてしまう
へいき、へっちゃら
このフレーズがここまで魔性を帯びて見えたのは初めてだ
んでもって、ストレイボウの安定感が半端ない。ここまで頼もしく見えるストレイボウもまた初めてである。カエルとのやり取りもいちいちカッコいい
そう、カエルといえば、今回の作品で一番印象強かったのは、

>「その時間は稼いでやる。何分でも、何時間でも、何日でも――――たとえ、十年だとしてもッ!!」

このセリフ
燻り続けてきたカエルが言い切るからこそ、このセリフは熱い
さらにその後の、

>ありったけの補助魔法を受けて、カエルは修羅と化した。

この一文がすごく感慨深かった
かつて、シュウの前で修羅への道を踏み入れたカエルとの対比がすごく上手いなと

ただ、そんなカエルがいても衝撃の展開を防ぐことはできなかったわけで
続きがどうなるか気になります!

951SAVEDATA No.774:2015/01/01(木) 00:38:28 ID:vZTgRqKY0
あけおめー。今年もよろしくお願いします。
お年玉とばかりに予約が来てますね


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