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RPGキャラバトルロワイアル11

1SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:04:46 ID:b2pXRKlk0
このスレではRPG(SRPG)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画を進行しています。
作品の投下と感想、雑談はこちらで行ってください。


【RPGロワしたらば(本スレ含む】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/

【RPGロワまとめWiki】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html

【前スレ(2ch】
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1307891168/l50

テンプレは>>2以降。

2SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:05:20 ID:b2pXRKlk0
参加者リスト(○=生存、●=死亡)

2/7【LIVE A LIVE】
● 高原日勝/ ○アキラ(田所晃)/ ●無法松/ ●サンダウン/ ●レイ・クウゴ/ ○ストレイボウ/ ●オディ・オブライト
2/7【ファイナルファンタジーVI】
●ティナ・ブランフォード/ ●エドガー・ロニ・フィガロ/ ●マッシュ・レネ・フィガロ/ ●シャドウ/ ○セッツァー・ギャッビアーニ/ ○ゴゴ/ ●ケフカ・パラッツォ
1/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
●ユーリル(主人公・勇者男)/ ●アリーナ/ ●ミネア/ ●トルネコ/ ○ピサロ/ ●ロザリー/ ●シンシア
2/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】
●アシュレー・ウィンチェスター/ ●リルカ・エレニアック/ ●ブラッド・エヴァンス/ ●カノン/ ○マリアベル・アーミティッジ/ ○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/ ●トカ
1/6【幻想水滸伝II】
●リオウ(2主人公)/ ○ジョウイ・アトレイド/ ●ビクトール/ ●ビッキー/ ●ナナミ/ ●ルカ・ブライト
3/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
●リン(リンディス)/ ○ヘクトル/ ●フロリーナ/ ○ジャファル/ ○ニノ
1/5【アークザラッドⅡ】
●エルク/ ●リーザ/ ●シュウ/ ●トッシュ/ ○ちょこ
2/5【クロノ・トリガー】
●クロノ/ ●ルッカ/ ○カエル/ ●エイラ/ ○魔王
1/5【サモンナイト3】
●アティ(女主人公)/ ●アリーゼ/ ●アズリア・レヴィノス/ ●ビジュ/ ○イスラ・レヴィノス

【残り15/54名】

3SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:05:56 ID:b2pXRKlk0
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa?cmd=upload&act=open&pageid=40&file=rowamap.jpg

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

4SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:06:27 ID:b2pXRKlk0
【議論の時の心得】
・感想と雑談は、本スレ(ここ)で構いません。
流れを変えたくない場合や、現行のRPGロワ振り返りに参加したい場合は、避難所を再利用していただければ幸いです。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/11746/1219762310/l50
・議論は専用スレで行って下さい。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/11746/1219587734/l50
・修正、試験投下はこちらの仮投下スレでお願いします。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/11746/1219603025/l50
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。

【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全てここで行う。進行スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

・指摘や修正要求、疑問点の提示、不満の声も意見の一つです。
 おかしいなと感じた場合は臆せずに言いましょう。
 ただしその場合は、上記の修正要望要件を参考にするなどして、具体的な問題点や不満点、それを危惧する理由を必ず挙げてください。
・書き手がそれらの意見を元に、自主的に修正する事は自由です。

5SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:07:00 ID:b2pXRKlk0
【書き手の注意点】
・トリップ推奨。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付けた方が無難
・予約はしたらば掲示板の予約スレにて。期限は5日間。尚、三作以上採用された書き手に限り3日間の予約延長申請が認められます。
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効
 携帯からPCに変えるだけでも違います

6SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:07:36 ID:b2pXRKlk0
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。

7SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:08:10 ID:b2pXRKlk0
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
 →例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化

【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
 →魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
 →アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は原則発動できません

【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)

【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能

8 ◆iDqvc5TpTI:2011/07/31(日) 03:10:53 ID:b2pXRKlk0
◆iDqvc5TpTIです。
議論スレで出していただいた意見を元に、テンプレに若干の修正を施し、新スレを立ててみました。
何か至らぬ点があれば、指摘をお願いします

9SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 13:23:07 ID:MyQux8NE0
乙です
見た分では不都合はないと思います

10SAVEDATA No.774:2011/08/03(水) 05:48:04 ID:j7XZRfPQO
スレ立て乙です。予約期限は修正忘れかな?
それ以外には特に問題ありませんでした。

11 ◆iDqvc5TpTI:2011/08/03(水) 20:01:20 ID:5zLehMgo0
ご指摘感謝です
予約期限の方は単なる修正忘れです、申し訳ありません
正しくは以下のとおりです

>>5
【書き手の注意点】
・トリップ推奨。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので付けた方が無難
・予約はしたらば掲示板の予約スレにて。期限は7日間。尚、三作以上採用された書き手に限り7日間の予約延長申請が認められます。
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効
 携帯からPCに変えるだけでも違います

12 ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:15:39 ID:FOlMTglg0
遅くなりましたがスレ立て乙です!

では、こちらに投下をいたします。

13<ハジマリ>のクロニクル ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:17:13 ID:FOlMTglg0
 たいせつなものがあって。
 だいすきなひとがいて。
 みんな、それを守りたいだけ。
 たった、それだけ。
 
 ◆◆ 

 荒野となり果てたその場所の真ん中に、大人よりも一回り小さい石が佇んでいる。
 落ちているのでも転がっているのでもなく、確かにそこに佇んでいる。
 それは、とある少年が生きていた証だった。
 彼は確かに生きていた。
 迷い傷つき苦しみ道を見失いながら。
 両の足でその身を支え大地を踏みしめ、懊悩と憎悪と辛苦を昇華し、ほんとうの自分を知った。
 彼の一生は、余りにも過酷で短すぎた。
 けれど、不幸だとか可哀想だとか、そんな言葉を投げかけて同情を抱く者などここにはいなかった。
 敬意と感謝と親愛を。
 その全てを以って、その石にはこう刻まれていた。
 “勇者ユーリルに安らかなる幸福を”と。
 
 ◆◆
 
「そして、俺は……アシュレー・ウィンチェスターをこの手で殺めた」
 勇者の墓標の前、拳を震わせながら物真似師が懺悔する。
 誰かの物真似ではなく、ゴゴ自身の声音による告解は、広々とした荒野に溶けていく。
 訥々と語られたのは、ゴゴが憎悪に捉われた理由と原因、そしてそれによる結果だった。
「許されるとは思っていないが言わせてほしい。本当に、すまない」
 深々と頭を垂れるゴゴ。
 その前に歩み寄ったのは、破損個所を無理やり取り繕った着ぐるみ――ARMSの仲間としてアシュレーと共に在った、マリアベルだった。
「つまり、お主はたいせつなものを守りたかった。そんなお主を、アシュレーは信じた。
 ならば、頭を下げる必要などなかろう」
「だが……ッ」
「ねえ、ゴゴおじさん」
 小さな手が真っ直ぐに、真っ直ぐに伸ばされる。逡巡の後、ゴゴはそっとその手を取った。
 するとちょこは、嬉しそうにはにかんで、ゴゴの手を握り返してくる。
 
「ちょこ、覚えてるよ。おじさんと、手を繋いで歩いたこと」

 穢れない瞳が、覆面の奥にあるゴゴの目を映す。
「おじさんの手、あったかいの。あのときと同じなのよ」

 無垢な声が、覆面に覆われたゴゴの鼓膜を震わせる。

「アシュレーおとーさんの“命”を運んでいたあのときと、同じなのよ」

 純真なてのひらが、手袋に包まれたゴゴの手を握りしめる。

「だから、だいじょうぶ。だいじょうぶなの」
「ちょこ……」

 物真似師が名を呼ぶと、少女は嬉しそうに、ほんとうに嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
 ちょこの笑みの向こうで、ストレイボウが口を開く。 
「罪を背負っているのはお前だけじゃない。罪の重さだけで言うなら、俺の方が遥かに重い罪を背負っている」 
「じゃが、わらわたちは皆“救い”を受けた。ゆえにゴゴ、お主を責めはせぬ。
 そもそも、アシュレー自身が信じたお主を糾弾する道理などあるものか」

 マリアベルに口を挟む者も、反論する者もいない。
 ただ追従するように、ちょこが大きく頷いた。
「……感謝する。そして、よろしく、頼む」

14<ハジマリ>のクロニクル ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:19:02 ID:FOlMTglg0
「おかえりなさい、ゴゴおじさん!」

 覆面の奥で、かすかに目を細め、ゴゴはちょこの髪を撫でる。
 ただ、この少女が愛おしかった。

「ああ……ただいま」

 ◆◆
 
 手短な情報交換を経て判明した情報は様々で、現在の全ての生存者について、ある程度の情報が集まった。
 
「南の遺跡にカエルと魔王。
 座礁船より南――少なくともカエルたちよりも僕らの近くに、セッツァー、ピサロ、ジャファルがいる。
 彼らは手を組んでいて、既に行動を開始している。
 そして、これ以上の増援は期待できそうもない。笑えない状況だね」
 
 現状を纏めつつ、イスラはそれとなく横目でジョウイを窺う。
 彼が受けた傷は、セッツァーらに捕まって尋問されたためらしい。
 なんとか逃げ出してきたとは言っていたが、イスラの疑わしさは晴れなかった。 
 ジョウイが裏切りを企てている可能性はある。それが最悪のタイミングで実行された場合痛手は免れない。
 そのリスクを理解していながら、イスラはあえて詰問するのは避けていた。
 まだ敵は多い。
 続く戦いの前に、皆に下手な疑念を持たせるべきではない。
 マリアベルには話してあるし、イスラ自身が注意していればいいだろう。
 少なくともイスラだけは、希望的観測を捨てるべきだと思う。
 なにせ、みんな人がいい。
 この中で最もひねくれ者である自分がその役目を引き受けるべきだ。

「この一帯が荒野になったんです。セッツァーたちがここにやって来る可能性は高い。
 このまま遺跡へ向かえば背後を取られるか、挟撃されるか、あるいは疲弊したところを襲撃されるか、でしょうね」

 そんな疑心に気付いているのかいないのか、素知らぬ顔のジョウイが意見を述べる。
 イスラは内心で息を吐き、気分を切り替えた。
 とりあえずは彼を仲間として扱うことにして、作戦会議に集中する。
 
「数では勝ってる分、足は遅いからな。ここで迎え撃つってのはどうだ?
 視界も開けてる。奇襲なんてできやしないだろう」
  
 広がる荒野には大小の岩石がいくつか転がっているにせよ、遮蔽物はほとんどない。
 ヘクトルの言う通り、奇襲には不向きで迎撃には適している。
 だが、だからこそ。
「相手もそれは分かってるだろ」
 アキラが地図の一点、南の遺跡を指で叩く。
「俺らをスルーして先に遺跡へ行かれて、手を組まれたらさすがにキツイんじゃねーか?」 
 セッツァーたちとカエルたちが手を組んだとしても、頭数だけで考えるならこちらは倍だ。
 それでも、相手が精鋭揃いで容赦がないのは、これまでの戦闘で身に沁みている。
 合流は、させたくなかった。
 
「可能性の話をするなら、もう一つ問題が発生するかもしれないな」
 眩そうに天空を見上げるのはストレイボウだ。
 蒼穹は何処までも高く、遥か彼方まで広がっているように雄大だった。 
「そろそろ放送の時間だ。アイツが――オルステッドがここを禁止エリアに指定した場合、動かざるを得なくなる」
 オディオに命を握られていないのはゴゴのみである。
 枷の解体がまだである以上、禁止エリアによる行動制限からは逃れられない。
 極端な話、禁止エリアによって、北か南のどちらかにしか進めなくなるかもしれないのだ。

15<ハジマリ>のクロニクル ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:20:24 ID:FOlMTglg0
「だったら……こっちから行こうよ」
 ニノの呟きに、視線が集中する。
 彼女は臆さず、皆の視線を受け止めて拳を握りしめた。
「こっちから、行こうよ。ジャファルたちのところへ。それで――」
 小さな体から力が溢れ出ていた。
 大きな瞳には決意が輝いていた。
 そして。
「今度こそ、あたし、ジャファルを止める。絶対に、止めてみせる」
 言葉には、信念が満ち満ちていた。
 ニノはジャファルのことが大好きだ。 
 誰よりも何よりも大好きだ。
 だからこそ、命を踏み躙っているジャファルを認められない。
 いや、本当に許せない理由はそれではない。
 本当に許せないのは、ニノの気持ちを完全に無視していることだ。
 ニノはジャファルと一緒にいたい。
 大好きで大切なジャファルと、ずっとずっと一緒に生きていきたい。
 なのに彼は、ニノを置き去りにして、たった一人で闇を抱えて遠くへ逝くつもりなのだ。
 そんなの許せない。認めたくない。
 だからこの手で止めてやる。
 強くなって、泣かないで、ぜったいに止めてやる。
 負けたくはなかった。
 他の誰でもない、ジャファルに負けたくなかった。
 
「賛成だ。俺も、話をしたい相手がいる」
 ストレートなニノの意志表明に賛同したのは、物真似師ゴゴだった。
 セッツァー・ギャッビアーニ。
 共に空を駆け回ったゴゴの仲間も北にいる。
 ちょこの話によると、あの巨人――ブリキ大王というらしい――に乗っていたのはセッツァー本人だったようだ。
 正直なところ、アシュレーを殺すべく放たれた空からの一撃が、セッツァーによるものだとは考えられなかった。
 否、考えたくなかった。
 ゴゴたちに牙を剥き空を汚したのが他でもない、セッツァー自身であるなどと、決して信じたくはなかった。
 だが、すべての生存者の情報が集まった以上、確かな事実として向き合わなければならない。
 そのためにも、ゴゴは話がしたかった。セッツァーの真意が知りたかった。 
 けれど、先ほどの容赦のない攻撃を思い出すに、交戦は避けられそうもない。
 胸が痛まないと言えば嘘になる。肩を並べて戦えればどんなに幸せだろうか。 
 そんな懐古めいた感傷は、胸の中で確かにたゆたっている。
 だとしても。
 セッツァーと刃を交えることになれば、受けて立つ覚悟はできている。
 ゴゴは知っている。
 勝負を通して見えるものがあり伝わるものがあることを。
 それもまた、物真似を通じて学んだ真理だ。
 信じているのだ。
 ぶつかり合ったその果てから、もう一度、共に空を飛ぶことだってできると。

「よし、その方針で詰めるか。できるんなら、こっちから先に接触したいが――」
 そうして作戦会議は続く。
 マリアベル、アナスタシア、ちょこの三人を除いて、作戦会議は続いていく。
 
 ◆◆
 
 川が奏でる優しげな水音が鼓膜を震わせる。
 会議中のメンバーがいる場所から南にある川辺に、ちょこ、マリアベル、アナスタシアの姿があった。
 彼女らが会議に参加していないのは、未だ残っているわだかまりを緩和するためだ。
 アナスタシア・ルン・ヴァレリア。
 多かれ少なかれ、彼女への不信感は募っている。
「やっと落ち着いて話せるのう。時間が少ないのが本当に惜しい」
「おねーさん、また会えてうれしいの!」

16<ハジマリ>のクロニクル ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:21:21 ID:FOlMTglg0
 アナスタシアはちょこの髪を撫でてマリアベルに微笑みかける。
 上手に笑えているだろうかと思いながらも、それくらいしか、できることが思い浮かばなかった。
「……わたしも嬉しいわ。できるなら、ずっとずっとおしゃべりしていたいわね」
「そうじゃの。満月の下、美味い茶でもあれば更によいのじゃが」
 川べりに腰掛け、マリアベルが手招きをする。
 その隣に腰を下ろすと、間に割り込むようにちょこが飛び込んできた。
「ここ、ちょこの席ー」
 マリアベルが、くすりと笑った。
「ちょこ、じゃったな? アナスタシアを守っていてくれたこと、礼を言うぞ。ありがとうの」
「大丈夫よ。おねーさんのこと大好きだもん。ぬいぐるみさんは、おねーさんのお友達?」
「マリアベルじゃ。マリアベル・アーミティッジ。そう、わらわはアナスタシアの一番の親友じゃッ!」
「じゃあちょこともお友達ねー!」

 親友。
 マリアベルはそう言ってくれた。
 大好き。
 ちょこはそう言ってくれた。

 けれど、手放しに喜ぶ気にはなれなかった。
 疑ってしまうのだ。
 今の自分は、親友と呼ばれるに相応しいだろうか、と。
 今のわたしは、大好きと評されるに値するだろうか、と。
「わたしに……そんな価値なんてあるのかな」
 せせらぐ川面を眺めながら、アナスタシアは思わず零していた。 

「ねぇ、マリアベル。
 さっき、言ってくれたよね。わたしの代わりに命を捧げられたら、って。
 もしわたしがそう望んだら、死んでくれる?」

 思いがけず、答えは間髪いれずに返ってきた。

「喜んで捧げよう。笑顔で散り逝こう。わらわの命はお主のためにある」
 びくりと、心臓が跳ねた。
 余りにもすらすらと立て並べられた回答に、息が詰まってしまう。
 目を見開いてマリアベルへと顔を向けると、彼女は悪戯っぽく首を傾けていた。
「そう言えば、満足かの?」
「そんなわけないッ!」
 反射的に叫んでしまったせいで乱れた息を深呼吸で整え、繰り返す。
「そんなわけ、ないじゃない」
 そうだ。
 そんなわけがない。
 大切な人の屍の上で築いた生に、何の意味がある?
 ひとりぼっちで生きる命に、何の価値がある?
 そんなこと、分かり切っていたはずなのに。
 さっき、マリアベルが死にそうになるまで、思い出すことができずにいた。
「おねーさん。ちょこね、いろんな人に会ったよ。やさしい人たちに、会ったのよ」
 ちいさな手が、アナスタシアの手に重ねられる。
 かつてちょこを殺そうとした手の上に、重ねられる。
「でもね、遠くに行っちゃった人もいっぱいいるの。
 せっかく仲良くなれたのに、会えなくなっちゃった」
 大きな瞳が潤み幼い声が湿る。
 アナスタシアの手が、ぎゅっと握られた。 
「もう、お別れするのはイヤ。寂しいのは、イヤなの。ねぇ、おねーさんもそうでしょ?」
 ちょこの手が、小刻みに震えていた。
 いくら魔法が使えても、戦うことができても。
 この小さな胸の奥が、傷つかないはずがない。
 分かっていたのに、見ないフリをして。
 真実を隠し、都合のいい情報を吹き込み、自分だけが生き延びるために、こんな小さな女の子を利用した。
 それなのに、ちょこは言ってくれたのだ。

17<ハジマリ>のクロニクル ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:22:59 ID:FOlMTglg0
 大好き、と。
 
 気付けば、ちょこを抱き締めていた。
 アナスタシアを守ってくれた体は想像以上に華奢で、とても温かかった。
 その温もりはまさに命そのもので。
 それを感じられることが、たまらなく幸せで。

「わたしも……寂しいのは、イヤ……。
 生きたいよ。
 みんなと一緒に、生きたい……!」

 与えられた生に舞い上がり、本当の望みが見えなくなってしまっていた。
 こんなことなら、きちんと名簿を確認しておけばよかった。
 そうすれば、踏みとどまれたかもしれない。
 そうすれば、もっと素直に。
“勇者”に“救い”を求められたかもしれなかったのに。

「でも……ユーリルくんを殺したのは、わたしだわ」
“生贄”の共感と“英雄”の答えを“勇者”に求めた結果、彼は拠り所を失った。
 無自覚に無遠慮に心に入り込んで、アナスタシアはユーリルのたいせつなものを踏み潰した。
「そんなわたしも、生きていていいのかな? “救われ”ていいのかな?」
「お主がユーリルに何をしたのかは知らぬ。たとえ知っていたとしても、その問いに答えはやれん。
 お主の中に息づくユーリルの想いを、お主自身が汲み取るしかないからの」

 ボロボロになっても、ユーリルはその手で答えを掴み取った。
 たいせつなものを失くして、真っ暗闇に放り出されても、確かなものを手にした。
 あの力強い雷は、確かなヒカリは、その証。
“救われぬ者に救いの手を”。
 それこそが“勇者”ユーリルの生き様でありイノリであり祝福である。
 なればこそ、アナスタシアもまた、“救われない”はずがないのだ。
「わたし、話すわ。みんなに、今までのこと」
「うむ、そうか」 
 顔は見えないけど、頷くマリアベルがどんな表情をしているのかありありと想像できる。
「おねーさん。けじめを、つけるのね」
 見上げてくるちょこの目が少し赤い。
 そっと拭って手を離すと、ちょこは嬉しそうに微笑んで、アナスタシアの横に立つ。
「ええ。そうしたらちょこちゃんと――みんなと、もっと仲良くなれると思うから」
「うんっ! がんばって、おねーさん!」
 善は急げと言わんばかりに、ちょこが座ったままのアナスタシアを引っ張って駆け出そうとする。
「元気じゃの、ちょこは」
「うん、ちょこ元気!」
 その元気さが移ったかのように、マリアベルが飛び上がるようにして立ち上がる。
 つられてアナスタシアも立ち上がった、そのとき。

18<ハジマリ>のクロニクル ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:25:02 ID:FOlMTglg0
「え……ッ?」
 
 川に、異変が訪れた。
 突如、穏やかなせせらぎが水量と勢いを増加させていく。
 気温が急激に低下する。
 既に激流となった川に、無数の氷塊が浮かび上がってくる。 
 そして、異変は脅威と転じた。
 溢れだした水――否、氷河は意志があるかのように、溢れ出す。
 掻き分けるとか逆らうとか踏ん張るとか、そんな人の身でできる行為など、激流は許さずに。
 アナスタシアたちを、一瞬にして丸呑みにした。
 圧倒的な質量の凍てつく水がアナスタシアに叩きつけられる。
 等しく全身が殴打されるような激痛に体が反応し、唇が微かに開いてしまう。
 そこへ、凍てつく水が容赦なく侵入してくる。
 気道が塞がれ肺腑が支配され、空気が一気に追い出される。
 吐き気に似た不快な苦しみがアナスタシアを襲うが、苦悶の声を上げることすらできない。
 肌に触れる水は、極寒の地を否応なく連想させるほどに冷たく、一気に全身から熱を奪っていく。
 前触れもなく現れた死が、意識を奪い去ろうとする。
 
 ――イヤよ。
 
 だから。
 意識に、楔を打ち込む。
 
 ――死んでたまるもんですか。
 
 激流の中、指を動かす。 
 
 ――こんなところで死んでたまるもんですか。
 
 流れに負けじと、手を伸ばす。 
 
 ――これからなの。わたしは、これから始めるの。 
 
 伸ばした指先が、何かに触れる。
 
 ――わたしは、生きるのッ!
 
 それは、無慈悲な水流でも、冷徹な氷塊でもない。
 だから、握り締める。
 強く強く、あらん限りの力を込めて握り締める。
 それに応じるように。
 その手が、握りしめられた。
 直後、靴裏に力が触れる。
 それはアナスタシアを乗せたまま水を掻き分け、一気に浮上する。
 振り落とされる心配などしなかった。
 何故なら、アナスタシアの『手』はしっかりと繋がれている。
 そのまま水面を突破する。
 ひとしきり咽て水を吐き出して、新鮮な酸素をいっぱいに吸い込んだ。
「おねーさん、だいじょうぶッ!?」
 繋いだ『手』の先にいるちょこが尋ねてくる。 
「ええ、わたしは、大丈夫、だけど……」
 何度も何度も深呼吸を繰り返し、絶え絶えになりながら、あたりを見回す。
「マリア、ベルは……?」
 せり上がってきた岩の足場からは、ごうごうと音を立てる水流と氷の群れだけが見える。
 それほど深くはないが流れが速い。
 南から北へと流れる氷河を目の当たりにして、冷えた体に、更なる寒気が走った。
 あの着ぐるみは、間違いなく水を大量に吸収する。
 だとすれば、マリアベルは、まだ――。

「大丈夫なの! だって、この足場はぬいぐるみさんが魔法で作ってくれたのよ!」
 ハッとして、アナスタシアは足元に目を向ける。
 激流の中にあっても、氷がぶつかっても、その足場は崩れることなく確かにそこにある。
 マリアベルが構成したというこの足場が保たれている以上、彼女はまだ生きているということだ。
 けれど、それが完全な安心材料になるわけではない。
 何処かに親友の姿がないか、必死で目を走らせる。
 その目が、動く者を捉えた。
 
 流れゆく氷の塊の上を跳び移ってこちらへやってくるそれは、
 
 魔剣を携え、
 人外の姿をした、
 騎士、姿だった。

19なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:26:29 ID:FOlMTglg0
 ◆◆
 
 C7に転移した直後、首輪の反応が分かれたことをチャンスに思い、カエルたちは強襲先を数が少ない方へと設定した。
 C7寄りのC8へ移動した反応を、川の水と魔王の高い魔力を利用して範囲を大幅に拡大した氷河で一掃する腹積もりだったのだが。
 
 ――そう甘くはないか。当然だな。
 
 氷の上をカエルは駆け抜ける。
 目指すは即席の足場、そこに在る二人の女を斬り捨てるべく跳ぶ。
 人の身ならば足場はまだ遠い。
 それでも、この異形の身ならば、一足で辿り着く。
 脚に力を込め、氷が沈み込むほどの勢いで、氷を蹴り飛ばす。
 宙に舞い上がったその身に、風が絡みついた。
 違う、ただの風ではない。
 風鳴りを上げて逆巻くそれは、魔法によって生み出された竜巻だ。
「飛んでけぇッ!」
 真空が身を刻みカエルの軌道をねじ曲げる。
 このまま吹き飛ばされれば、確実に激流のなかへ落ちる。 

 だが、カエルは冷静だった。
 落下軌道に入るその瞬間、首をのけ反らせて口を開く。
 そして、思い切り舌を伸ばした。
 弾丸のように伸びる舌は敵のいる足場の端を離さないようホールドする。
 そのまま舌に力を込めて、全力で身を引き戻して着地し、間髪入れず地面を蹴る。
 確実に命を斬り裂く直進の斬撃。
 しかしそれは、誰の命にも届かない。
「な――ッ!?」
 魔剣の一撃は、一人の幼子の手によって留められていた。
 文字通り、手によって、だ。
「やらせないのッ!」
 驚愕は即座に捨て去る。
 魔剣を受け流した幼子が常人離れした速度で間合いを詰め、蹴りを繰り出してきた。
 速く鋭い蹴りをいなし、カエルは幼子の背後に回り込む。
 幼子の反応は速い。
 軸足を中心に回転し、カエルへと向き直ると更に攻撃を加えてくる。
 けれど、その攻撃は跳んだカエルには届かない。
 スピードとシャープさはある。
 しかし攻撃の単調さとリーチの短さを考慮すれば、十分に見切ることは可能だった。
 空中で、即座に魔法を放つ。
 幼子と女の周りに、無数の泡が生まれ弾ける。
 威力よりも速度を重視した牽制の魔法が終わるころ、カエルは地に降り立つ。 
 岩の足場でも氷の上でもない、濡れそぼった地面の上、佇む魔王の側に、だ。
 氷河は既に消え失せている。 
 代わりと言うように、未だ残る岩場の上に、暗黒の力場が発生した。
 不自然な岩場もろとも吹き飛ばすべく、暗黒物質は瞬時に広がって。

20なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:28:18 ID:FOlMTglg0
 爆発する。
 カエルがばら撒いた泡とは段違いの炸裂が破壊を生む。
 氷河によって削られていた岩場が粉塵を撒き散らしてくず折れる。
 それでも、カエルはキルスレスを収めない。 
 見逃してはいなかった。
 
 黒の爆発の直前、岩場の上に飛び込む者がいたのを、だ。
 
「そうじゃ、やらせぬ……ッ!」
 氷河に巻き込まれてもまだ生きている、その生命力はさすがと言ったところか。
「……忌々しいな」
 カエルは粉塵の奥に目を向ける。
 そこにある影は、三つ。
 鎌を握り締めた女と。
 先ほど斬撃を受け止めた幼子と。
 ズタズタになっている、見覚えのある着ぐるみだった。
 その着ぐるみ――マリアベルは、がくりと膝をつき、そして。

 ぼたり、ぼたりと。
 だらりと垂れ下げた右腕から、血だまりが出来るほどの鮮血を滴らせていた。
 
 ◆◆
 
 生きていてくれた。
 そして、無事でいてくれた。
 ほんの数秒前までは、本当に無事でいてくれたのに。
「マリアベルッ!」
 悲痛な叫び声が迸る。
「これくらい、ノーブルレッドにとってはかすり傷よ……ッ」
 対し、マリアベルの声はかすれていて、強がれるようなものではなかった。
「何言ってるの! そんなわけないじゃないッ!」
 倒れ込んだマリアベルの身を支え、アナスタシアは賢者の石をかざす。
 その淡く優しい光に照らされても、マリアベルの出血は止まらず傷は塞がらない。
「マリアベル! マリアベルッ!!」
「ぬいぐるみさんッ!」
 アナスタシアが呼んでも、ちょこが呼んでも、マリアベルは答えてくれなかった。
 着ぐるみは所々が破け、全身に数え切れない凍傷と火傷が刻まれていて、白い肌の面影は見られない。 
 そして何よりも痛ましいのは。
 
 右腕の肘から下が、完全に吹き飛んでいたことだった。
 
 その瞬間を、アナスタシアはその目で見た。
 黒い爆発が起こる瞬間に飛び込んできたマリアベルは、カエルの牽制によって回避が遅れたアナスタシアたちを突き飛ばした。
 そのため、マリアベルは爆発の中心にいて、直撃を被ったのだ。
 いくらノーブルレッドとはいえ、千切れた四肢は再生しないし、失われた血液はすぐには回復しない。
 このままでは、マリアベルの生命力が、冷えた体から確実に零れ落ちていく。
 だからこそ、敵は欠片の容赦も見せはしないのだ。

 カエルが深く身を沈め突撃を仕掛けてくる。
 魔王の魔法が殺意を突き付けてくる。
 マリアベルは動けない。
 ちょこ一人で全てを止められるほど、相手は弱くない。
 ただ、せめてマリアベルに、凶刃が及ばないように。
 アナスタシアは、傷だらけのマリアベルを、そっと抱きしめた。
 近づいてくる。
 死の気配が近づいてくる。
 アナスタシアの胸で燻るのは、恐怖ではなく悔しさだった。
 何もできない弱さに対する、歯がゆさだった。 
 唇を噛んで敵を睨みつける。
 それでも、敵は迫ってきて、そして。
 目を逸らさなかったアナスタシアの視界の中で。

21なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:29:24 ID:FOlMTglg0
 カエルの剣が止まり、魔王の術が相殺される。
 同時に。
 マリアベルに降り注ぐ輝きの数が、増していく。

 現れた彼らの存在に、アナスタシアは、初めて頼もしさを覚えられた。
 
 ◆◆
 
 紅の魔剣が翻り漆黒の魔力が狂い咲く。
 たった二つの殺意は、その強烈な意志力によって嵐を巻き起こす。
 突貫する魔剣の騎士に立ちはだかるは、線の細い黒髪の剣士だ。

「紅の暴君、返してもらうッ!」
 魔剣と天空の剣が交錯する。
「手に入れたくば力づくで奪い取ってみろッ!」
 衝突した刃の衝撃を、受け流し、カエルはイスラを跳び越える。
 降り立つ先にいるのは、因縁浅からぬ魔法使いだ。 

「カエルッ! 何故お前たちがここにいるッ!?」
「約定を果たせなかったことは詫びよう。だが、これも目的を果たすためだッ!」
 放たれる魔法に迷いはない。
 そのことに感心を覚えるが、今のカエルの狙いはストレイボウではない。
 故に、魔力の中へ正面から突っ込んだ。多少の傷は無視して強引に突破する。

「やらせないって、言ったのッ!」
 幼子が両手を突き出して立ちふさがる。
 カエルへと向かってくる炎の鳥に向けて、魔力を詰め込んだ水を叩きつける。
「後で相手をしてやるッ! 今はそこで、待っていろッ!」
 水蒸気の霧振り払い疾走する。
 すると見える。

 三人がかりで回復を受けるマリアベルの姿が、見える。
 氷河に巻き込まれダークボムの直撃を受け、片腕を失ったのだ。
 普通の人間ならそのまま死に至ってもおかしくはない。
 だが、あの女は普通ではない。
 確実に息の根を止めない限り、また立ち上がってくるかもしれないのだ。
 故に、カエルは駆け抜ける。
 敵の数を減らすチャンスを逃さないために。

 けれど。
 敵は決して、甘くない。
「カエルゥッ!」
「とまれえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
 大地を噴き上げ林立する火柱がカエルの往く手を阻む。
 背後から土塊が追い縋ってくる。
 強引なサイドステップで土を避け火柱をすり抜けた先で、切っ先が閃いた。
 身をのけ反らせるが避け切れず、横薙ぎがカエルの身を浅く裂く。
 この程度の傷は許容範囲だ。魔剣の力が治してくれる。
 それは相手も分かっているらしく、攻撃の手は緩められない。
 今はこの三人に時間を掛けている場合ではない。
 波状攻撃をいなし、反撃し、それでもカエルの瞳は、マリアベルを捉えていた。

22なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:29:58 ID:FOlMTglg0
 ◆◆
 
 大上段から叩き下ろされた斧の破壊力は、まさに雷のようだった。
 直撃すれば全身を両断されそうなほどの一撃を、魔王は余裕を持って回避する。
 続く魔法の衝撃波をマジックバリアで受け止めると、両刃の剣が突き込まれる。
 周囲を旋回するランドルフでそれを弾き飛ばしてから、魔王は魔力を解放する。

「――サンダガ」

 魔王の身から放射状に、雷光の帯が広がった。
 斧を構える巨漢が、剣を持ち直す奇妙な風貌の何者かが、緑髪の少女が、一斉に身を守るべく腕を翳す。
 魔王は構わず、雷撃で彼らを薙ぎ払う。
 手加減しているつもりはない。
 だが、彼らは倒れずに魔王へと再度向かってくる。
 魔王は再び詠唱を開始する。 
 天性の魔力を、復讐を果たすため磨き上げてきた。
 研磨された力によって繰り出される魔法の数々は、広範囲に渡って威力を発揮する。
 その力はガルディア歴600年において、訓練された騎士団を殲滅し人々を恐怖に陥れた。
 だからこそ、魔王は知っている。
 数だけの有象無象よりも、鍛え上げられた精鋭の方が遥かに脅威である、と。
 知っているが故に魔王は、最適な手を構築するために状況を分析する。

 足元で、緑の風が逆巻いた。
 少女の放った魔法が、魔王を引き裂こうと唸りを上げる。
 魔王は動じない。
 纏ったマジックバリアが風の刃を刃こぼれさせ、縄を引き千切る。
 魔法使いの少女。
 荒削りで素養はあるが、脅威にはならない。
 魔の王を魔の法で裁くには、彼女の力はまだ弱い。
 次なる魔法の発動を阻止すべく、巨漢が苛烈に攻めてくる。
 大地すら叩き割りそうな一撃が、魔王の眼前を通過する。
 その風圧だけで、威力がありありと想像できた。
 強烈な一撃で相手を粉砕する、典型的なパワーファイターだ。
 見切りやすいとはいえ、その重い攻撃は十分に警戒すべきであろう。
 そして、もう一人。
 高い跳躍力で制空権を得て、魔王の頭上から斬撃を繰り出してくる者がいる。
 重力の乗った斬撃をバックステップで回避する。
 着地した相手は靴裏が地面に着くや否や、即座に土を蹴り飛ばして来る。
 ランドルフで受け止め、魔王はすぐに気付く。
 この戦い方は、よく似ている。
 いや、似ているという次元ではない。同じと呼んでも差し支えがない。
 足運びは、剣捌きは、構え方は。
 跳躍力を活かした身軽な戦法は、まさに。
 
 ――グレンそのものかッ!
 
 だとするなら、その戦い方は熟知している。
 敵として、味方として戦い続けてきたその男のやり方はよく理解している。
 同時に。
 それが脅威であることも、思い知らされている。
 元より油断などしていない。
 それでも、魔王は改めて意識を集中する。
 負けられないのだ。
 いずれ戦わなければならない宿敵に酷似した相手がいるのなら、尚のこと負けられない。 

 首から下げた姉のお守りを揺らして。
 魔王は魔力をカタチにする。
 魔法は願いを叶えるチカラ。
 だというなら。 

 ――だというなら、私の魔法で、私の願いを叶えてみせようッ!

23なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:30:59 ID:FOlMTglg0
 ◆◆
 
 剣戟が断続的に続き、魔力が爆ぜる音が止まらず、雄叫びが響いている。
 激しさを増す戦音の中で、アナスタシアは賢者の石をかざしたまま、マリアベルの左手を握り締めていた。
 その左手は、ゾッとするほど冷たかった。
 同じように氷河に呑まれたアナスタシアの手もまた、冷えている。
 にもかかわらず、マリアベルの手を冷たいと思ってしまうのは、マリアベルの体温が限りなく低下している証左だった。
 アナスタシアの手は、握り返されない。
 そのことが不安で不安で、水を大量に飲み込んだ時よりもずっと、胸が苦しかった。
 馬鹿みたいに青い空が憎らしい。
 太陽さえ出ていなければ、ずぶぬれの着ぐるみを脱がせて、その身を温めてやれるのに。
 マリアベルの意識は戻らない。
 アキラとジョウイも回復してくれているのに、マリアベルは動いてくれない。

 もう、死んでいるのではないか。
 そんな想像がよぎり、血の気が引く。
 歯の根が合わず口が渇く。体は冷えているのに汗が噴き出し声が出せなくなる。
 せっかく会えたのに、また会えなくなるの?
 こんな形で、悲しみしか残らない別れを押しつけられるの?
 視界が滲む。涙が溢れる。
 世界が急激に色褪せていく。絶望が胸を埋め尽くす。
 抱えきれない分の絶望が、瞳から零れて頬を伝う。
 そのとき。

 くい、と。

 アナスタシアの手の中、動くものがあった。
「マリア……ベル……?」

 くい、くい。

「マリアベル! マリアベルッ!」

 くい、くい、くい。

 生きている。
 まだ生きている。
 絶望が安堵へと反転し、涙の質が変わる。
 助かる。
 マリアベルはきっと、助かる。
 そう信じた、その直後に。
 
「――おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!」

 絶叫めいた気迫が、世界を震撼させる。

 カエルだった。
 イスラを突き飛ばし、
 ストレイボウを押し流し、
 ちょこを振り切って、
 真っ直ぐ、只管に真っ直ぐ、向かってくる。
 疾い。
 どんなにイスラが追っても、ストレイボウが足止めをしても、ちょこが縋っても。
 その全てを振り切って来る。
 アキラも、ジョウイも。
 持てる能力に意識を傾けているせいで、即座に反応ができずにいる。
 今。
 剥き出しの殺意を阻むものは、何もない。
 手が震える。膝が笑う。 
 助かると信じた直後に叩きつけられた現実に、アナスタシアは圧倒される。
 絶望の足音が聞こえる。
 アナスタシアを踏み躙ろうとする足音が、聞こえる。

24なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:32:27 ID:FOlMTglg0
 もう、御免だった。

 潰されるのが、躙られるのが、押しつけられるのが、踏みつけられるのが。
 震えるのが怯えるのが泣くのが悔やむのが屈するのが諦めるのが。
 そして何より。
 たいせつなひとすら守れない自分でいることが。
 
 ――もう、御免だった。
 
 アナスタシアは立ち上がる。
 マリアベルの手を離し、賢者の石をジョウイに押し付け、絶望の鎌を携えて。
 
 武器が使えないから戦えない?
 戦い方を知らないから何もできやしない?
 そうじゃない。
 そうじゃないはずだ。
 
 肌に風を感じて、両腕に力を込めて、大地を蹴る。
 
 思い出せ。
 思い出せアナスタシア・ルン・ヴァレリア。
 
 あのとき。
 ファルガイアを焔の災厄が蹂躙した、あのとき。
 数え切れない諦めと、嘆きと、絶望が世界を呑みこんだ、あのとき。
 
 武器も使えない、戦い方も知らない、たった一人の女の子は。
 一体、何を望んでいた? 
 
 カエルとの距離が近づく。濃厚な殺意が迫って来る。
 よく見ろ。
 あれは。
 アナスタシア自身と。
 他ならぬマリアベルを、殺そうとしているんだ。
 
 体は、自然に動いた。
  
 鎌を振り上げる。
 威嚇ではなく、虚勢でもなく、蛮勇でもなく。
 ただ、自分の『欲望』に忠実に。
 
「マリアベルに……」

 ――わたしの、親友に。

25なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:33:16 ID:FOlMTglg0
「手を、出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」

 円弧状の刃が一閃する。

 その切っ先は、
 紅の魔剣と接触し、
 甲高い衝突音を立て、
 頭上へと撥ね上がり、
 くるくると回転し、

 アナスタシアの手を、離れた。
 
 ただ、呆然と見ているしかできなかった。

 止めることが、できなかった。
 
 カエルは舞い上がる。
 アナスタシアを一瞥もせず、左手で絶望の鎌を掴み取る。
 その左手をくるりと回し、投げつける。
 大気を裂くその刃は、迎撃に回ろうとしたアキラとジョウイの動作を鈍らせる。
 そして。
 紅の刃は、無慈悲にも。
 
 ノーブルレッドの、血を吸った。
 
 ◆◆

 着ぐるみが鮮血を吸い、赤黒く染まっていく。
 胸に深々と穴が空き、絶え間なく血液が吹き出している。
 かろうじて無事だった怪我の周囲の皮膚を、容赦なく降り注ぐ陽光が灼いていく。
「しっかりしろ! しっかりしろよマリアベル……ッ!」
 アキラが必死で陰を作り、ヒールタッチをマリアベルに掛けていた。
 それでも傷は塞がらず血は止まらない。
「アキラ、きみも戦闘に入ってくれ! これだけの深手では、きみの能力では追いつかないッ!」
 ジョウイがアキラを促すが、彼は動かない。 
「ふざけんなッ! 俺は諦めねぇッ! このまま、見殺しにしてたまるかッ!!」
「冷静になれッ! きみの力は深手を癒すのには向いていないんだ! 分かっているだろうッ!」
 唇を噛んで睨みつけてくるアキラに、輝く盾の紋章を見せつける。
「きみは、戦いに行くんだ。これ以上の被害を、出さないために」
 すると、アキラは少し俯いて、頷いた。

「……分かった。任せる」
 呟いて駆け出すアキラの背を横目で見送り、左手を翳す。
 碧の輝きがマリアベルを包み込む。

 目を閉じ、溜息を一つ吐く。 
 もう、助からないだろう。
 実のところ、止めようと思えば。
 カエルの一撃を、ジョウイは止められた。
 なのに、迫る敵を目の当たりにしても、ジョウイはそうはしなかった。
 マリアベルは、邪魔だったのだ。
 首輪解除になくてはならない頭脳の持ち主である上に、不死の存在であるという。
 気付かれない程度に緩めた回復を行いながら、どのように排除すべきか考えていたところにこの一撃だ。
 活かさない手はなかった。
「マリアベルッ! マリアベルッ!!」
 悲鳴のような声で名を呼びながらアナスタシアが駆け寄ってくる。 
 マリアベルの親友。
 それを思うと、心の奥が痛んで。

 左手の紋章が、疼いた気がした。 
 それをごまかすようにジョウイは、無意味な回復を行い続ける。
 償いのつもりすらない。
 ただ、アナスタシアを欺くために、紋章を輝かせる。

26なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:34:34 ID:FOlMTglg0
 ◆◆
 
 守ろうとした。
 戦おうとした。
 なのに力は足りなくて、強さは届かなくて。
 立ち向かわない方がよかったのかもしれないとさえ、思う。
 役に立たなかっただけならまだいい。壁になれたのならまだいい。
 下手に突っ込んだせいで、武器を奪われ、マリアベルを殺すために利用されたのだ。
 やらなければよかった。
 悔やみたくないと望んで立ち上がったのに、そのことを悔やんでしまうなんて。
「マリ、アベル、マリア……ベルぅ……っ」
 何も考えられない。
 涙と鼻水が息を引っ掻きまわす。
 苦しい。苦しいよ。
 イヤだよ。
「マリ……ア……っ」
 瞳に、温もりが触れた。
 熱い涙が拭われ、少しだけ視界が綺麗になる。
 
 着ぐるみに包まれた指が、アナスタシアの頬に触れていた。
「マリアベルッ!!」
 名前を呼ぶ。
「マリアベルッ、マリアベルッ!!」
 何度でも何度でも、親友の名前を呼ぶ。
 ゆっくりとそっと、マリアベルの手がうなじへと伸びる。
 そして、引き寄せられる。
 マリアベルの口元へと、アナスタシアは抱き寄せられる。
『アナスタシア、アナスタシア……』
 声が聴こえた。
 耳にではなく、頭の中に、直接声が聴こえる。
 首輪に仕込まれた感応石が、アナスタシアとマリアベルを繋いでいた。 
『聴こえるか、などと尋ねる必要もないの』
『マリアベルッ!』

『すまんの。もう、こうやってしか、話をすることができぬ。
 約束も、守れそうにない。
 本当に、すまぬ』

 もう。
 こうやってしか。
 約束も守れない。

 それらの意味を理解した瞬間、感情が爆発する。

『イヤ、イヤよそんなのッ! お願い、目を覚ましてッ!!』
『……すまんの』
 短い謝罪が、胸を強く締め付けた。
『のう、アナスタシア。わらわは、嬉しかったぞ』
 アナスタシアは言葉を紡げない。
 言わなければいけないことが、言いたくてたまらないことが、たくさんあるはずなのに。
『わらわを守ってくれて、本当に嬉しかった』
『守れなかったッ! それどころかわたしのせいで、あなたが――』

『それは違う。お主が立ち上がってくれたから、わらわはこうしてお主と話せておるのじゃ』
『どういうこと……?』
『わらわはずっと気を失っていた。ストレイボウらが来てくれる前から、ずっと』
 言葉に、詰まる。
 あのとき、アナスタシアの手の中で、マリアベルの指は確かに動いたのに。

27なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:35:54 ID:FOlMTglg0
『わらわが目を覚ましたのは、お主が雄々しく叫んでくれたからじゃ。
 マリアベルに手を出すな、とな。
 その声がなければ、わらわは意識が戻らぬまま、緩慢に朽ち果てておったに違いない。
 本当に、本当に、ありがとう』
『違う。わたしは、わたしが――』
『違わぬ。わらわがお主に嘘をつくわけがなかろう。
 何一つ悔やむことはない。むしろ、誇るべきじゃ』
『マリアベル……』
『のう、アナスタシア。一つ、お願いを聞いてくれぬか?』
『一つなんて言わないで! なんでも、いくつでも聞くからッ!』
『何、一つで構わぬ。構わぬよ』
 アナスタシアは心を澄ませる。
 マリアベルの願いを、望みを、気持ちを、想いを、何一つ取りこぼさないように。

『お主らしく、生きてくれ』

 シンプルに、短く。
 切なる願いが、伝わってきた。

『わたし、らしく……?』
『うむ、お主らしく、じゃ。
 高貴なるノーブルレッドであるわらわが認め、尊敬し――ええい、まどろっこしいのは止めじゃ』

 腕を組み、胸を反らし、得意げなマリアベルの姿を思い出す。
 懐かしくて、切なくて。
 哀しいのに、くすりと、笑ってしまう。

『――わらわの大好きな、アナスタシア・ルン・ヴァレリアらしく、生きてくれ』

 言葉が遠くなる。
 幼くて、強くて、優しくて、大好きな声が遠くなる。
 近づく別れの時を否応なく意識させられてしまう。
 悲しみが押し寄せる。寂しさが広がっていく。
 けれど。
 けれど、そんな別れの仕方はしたくない。
 涙に塗れ何も言えないまま別れてしまえば、絶対に後悔する。
 どうしても、別離が避けられないのなら。
 安心したまま、さよならがしたかった。
 きちんと、答えを言いたかった。
 だから、涙と悲しみと寂しさをまとめて嚥下して、アナスタシアは言い切った。
 
『分かったわ。約束する。ぜったいにぜったい、あなたの誇れるわたしでいてみせるッ!』

 マリアベルが、嬉しそうに笑った気がした。

『アナスタシア、アナスタシアよ。お主の欲張りっぷりが、移ってしまったようじゃ。
 もう一つ、お願いを聞いて欲しくなった。
 ――名前を、呼んでくれぬか?』

 その願いは、余りにもささやかで。
 もっと色んなことをしてあげたいのに、今この時は結局、ささやかな願いに応じるしかできなくて。 

 呑み下した感情が、一気に、決壊した。

28なまえをよんで ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:36:40 ID:FOlMTglg0
『……マリアベル!』

 止め処ない感情が迸る。
 堰を切った想いに突き動かされ、叫ぶように名前を呼ぶ。
 
『マリアベルッ! マリアベルッ!!』

 何度も何度も。
 親友の名前を、その存在を確かめるように。
 
 なまえを、よぶ。
 
『マリアベル――ッ!!』 

『ああ、幸せじゃ。本当に幸せじゃ、アナスタシア』

『マリアベルッ! マリアベルッ! マリアベル……ッ!! マリア、ベル……ッ』

 そして。 
 アナスタシアのうなじに回された手が、地に落ちた。

29Resistace Line ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:38:15 ID:FOlMTglg0
 ◆◆ 

「もう……いいわ。ありがとう」
「……すみません」
 ジョウイの謝罪に、アナスタシアは黙って首を横に振る。
「ぼくも、戦いに行きます。あなたはここで――」
 言いかけたジョウイを手で制し、見上げた。
 まだ涙の残る瞳で、真っ直ぐに、見上げた。

「――先に、行ってて」

 ジョウイが目を見開く。
 そのままアナスタシアを見つめてから、彼はこくりと頷いた。
 打ち捨てられたままの絶望の鎌を拾い上げ、ジョウイが駆けていく。
 アナスタシアは一度だけ、マリアベルを強く抱きしめた。
 その身はもう、決して動かない。 

「わたしらしく、だよね」
 目元を擦り鼻を啜る。 
 マリアベルのデイバックを拾い、背に担う。
 振り仰ぐ。
 戦いは熾烈さを増していた。
 剣と魔法が乱れ舞い、命の奪い合いが繰り広げられている。
 マリアベルが守ろうとした人が、マリアベルを守ろうとした人が、マリアベルを殺した人が、戦っている。
 夜雨の乱戦を思い出す。
 あのとき、たった一人戦っていなかったのは誰だったか。
 命惜しさに守られていたのは、誰だったか。
 
 ――あんなのは、わたしらしく、ない。

 “英雄”?
 “生贄”?
 “剣の聖女”?
 そのどれもが、他人が規定した呼称だ。
 だから、何とでも言わせておけばいい。
 “勇者”は自分自身で答えを見つけた。
 “救われぬ”者を“救う”者。
 アナスタシアはそうはなれない。
 きっと、そうなれる者なんてほんの少ししかいないのだ。
 だからこそ。
 自らの手でもぎ取ったその答えは、紛れもない“彼らしさ”であるのだろう。
 ならば。
 アナスタシアらしさとは何なのか。
 マリアベルの大好きなアナスタシア・ルン・ヴァレリアとは何なのか。
 その答えは自分の中にしかない。
 心の底から沸き上がるものこそ、他ならない、自分らしさ。
 だから。

 ――そんなの、分かり切ってる。
 
 既に取り戻しているのだ。
 たいせつな親友を守るべく立ち上がった、あのときに。
 もう、それを否定しない。
 否定したくなんか、ない。

30Resistace Line ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:38:49 ID:FOlMTglg0
 アナスタシアは一歩を踏み出す。
 もう、親友はいなくても。
 マリアベルの親友であるアナスタシアとして、生きたいから。
 
 アナスタシアは一歩を踏み出す。
 マリアベルの仲間を――ひいては、アナスタシアの仲間を、この手で守りたいから。

 彼らはまだ、アナスタシアを仲間と認めてはくれないかもしれない。
 それでも、認めてもらう。
 さすがはマリアベルの親友だと、そう言ってもらえるようになってやる。
 そのためにも、アナスタシアは一歩を踏み出す。
 失くすことを恐れずに、踏み出してゆく。
 
 そんな彼女を後押しするように。
 追い風が、吹き抜ける。
 その風に乗って。
 
 ――懐かしくて頼もしい遠吠えが、聴こえてきた。
 
 ◆◆
 
 眠りと覚醒の狭間をたゆたうまどろみに、全身を浸しているようだった。
 意識はぼんやりとしていて、不完全で、肉体があるのかすら分からない。 
 そんな不確かな暗闇の世界に、マリアベル・アーミティッジという存在が溶解する前に。
 知っている気配が、降り立った。
 溶けそうな意識から声なき声を絞り出し、意志疎通を図る。
 
 ――お主が来てくれるなどと、想像もしておらんかったわ。
 
 ――オレもまた、アシュレーと共に朽ちゆく定めだったがな。あの強烈な『欲望』が、オレを揺さぶり起こした。
 
 ――なるほど。さすが、と言ったところかの。しかし、もう一つ貴種守護獣の気配を感じたのじゃが……?
 
 ――奴は眠っている。このまま朽ち果てるかどうかは、人間次第だ。
 
 ――そうか。何にせよ、お主がいてくれれば安心じゃ。
 
 ――思い残すことは、ないか?
 
 ――そんなもの、星の数ほどあるに決まっておろう。じゃが、そうじゃな。一つ、わらわの心残りを持って行ってはくれんか。
 
 ――なんだ?
 
 ――わらわの知識を届けてもらいたい。伝えるべきことは伝えたが、奴らだけで首輪をなんとかできるかは不安じゃからの。
 
 ――残念だがそれは不可能だ。お前の知識は膨大かつ複雑だ。オレを解した時点でそれは希釈され、カタチを保てなくなる。だが。
 
 ――じゃが?
 
 ――お前が強く望むなら。心より、強く強く望むなら。それを、世界に書き込むことはできる。
 
 ――わらわの『欲望』次第と、そういうことか。
 
 ――そうだ。あの世界を支え構成しているのは強い感情。故に、それを超える想いがあれば、変異させることは不可能ではない。
 
 ――承知した。ならば望もう。この意識が消え果てるまで、強く強く望み続けよう。じゃから。
 
 そうと決まれば、他のことにかかずらってはいられない。
 こうして意思疎通を図るエネルギーも、全て『欲望』に注ぎ込まなければならない。
 間もなく潰える意識を、最期の時まで燃やしつくす。
 あらゆる感情を奥底に閉じ込めて、残響する親友の声だけを、胸に刻み込みながら。
 自分自身の全てを賭けて、たいせつなもののために、ただ望む。
 そうして薄れてゆく意識の中、誰にともなく、告げた。

 ――頼んだぞ。
 
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り14人】

31Resistace Line ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:40:35 ID:FOlMTglg0
 ◆◆
 
 指先を、空に翳す。 
 わたしはここにいると、そう宣言するように。 
 遠吠えが近づいて来る。
 力のある遠吠えに、わたしは安らぎすら覚えられる。 
 そう、その存在こそ、まさに。
 
“わたしらしさ”そのものなのだ。

 どくん、どくんと。
 胸の中、鼓動が高鳴る。
 脈打つ血潮を感じる。
 わたしはこの感覚を忘れない。
 生きている実感を刻み込む。
 ぜったいに、離さないために。
 ぜったいに、守りきるために。
 ぜったいに、生き抜くために。
 それがわたしの戦う意味。わたしがわたしである理由。
 
 それを実感できるから。

 今、わたしは“生きているッ!”
 
 聴こえる。
 遠吠えが、聴こえる。
 力強い遠吠えが、わたしに力をくれる。

「また、力を貸してくれるのね」

 ――ああ。今一度、お前と共に駆け抜けよう。今のお前にこそ、オレを飼い慣らす資格がある。
 
「わたしはわたしの『欲望』に忠実に我儘に、あなたを使役し利用し使い潰すわ」

 ――望むところだ。されど、お前の『欲望』が潰えしときは。

「そんな心配はいらない。わたしは――何処までも抗うだけ。全てを賭して抗い尽くしてみせるわ」

 ――十分だ。期待しているぞ、我が主。
 
「ええ。生きましょう――」

 息を吸う。
 深く強く、生命の源を取り入れる。
 それを起爆剤にして。
 生命の躍動を力に変えて。
 果てない『欲望』に、火を灯す。

「――ルシエドッ!!」

 欲望を司る貴種守護獣が咆哮する。
 世界が震えるような錯覚に昂揚を覚えながら。
 
 アナスタシアはその足で、荒野の戦場へと駆けだした。

32Resistace Line ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:42:27 ID:FOlMTglg0
【C-7とD-7の境界 二日目 早朝】

【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、全身に打撲
[装備]:キラーピアス@DQ4、絶望の鎌@クロノ・トリガー
[道具]:賢者の石@DQ4、確認済み支給品×0〜1、基本支給品
[思考]
基本:垣間見たオディオの力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(突出した強者の打倒優先)
1:魔王を潰すべく戦闘に参加。
2:生き残るために利用できそうな者を見定めつつ立ち回る。可能ならば今のうちにピサロを潰しておきたい。
3:利用できそうな者がいれば共に行動。どんな相手からでも情報は得たい。
4:とりあえず首輪解除の鍵となる人物は倒れたが、首輪解除を確実に阻止したい。
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき
[備考]:ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
    セッツァー達に尋問されたことを話しました。    
※紋章無しの魔法等自分の常識外のことに警戒しています。
※ピサロ、魔王を特に警戒。
※制限の為か、二人が直接戦わなかったからか、輝く盾の紋章と黒き刃の紋章は始まりの紋章に戻っていません。
 それぞれの力としては使用可能。また、紋章に命を削られることはなくなりました。
 紋章部位 頭:バランス 右:刃 左:盾

【イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極)、マリアベルの死に動揺。
[装備]:天空の剣(開放)@DQ4、魔界の剣@DQ4、ミラクルシューズ@FF6
[道具]:確認済み支給品×0〜1、基本支給品×2、ドーリーショット@アークザラッドⅡ
[思考]
基本:誰かの為に“生きられる”ようになりたい。自分と大きく異なる存在であるヘクトルと行動し、自分の感情の正体を探る。  
1:カエルを倒し紅の暴君を取り戻し、魔王を倒す。
2:ジョウイへの強い疑念
3:次にセッツァーに出会ったときは警戒。
4:首輪解除の力になる
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極)、心労(中)、自己嫌悪?、罪悪感? マリアベルの死に動揺。
[装備]:
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、記憶石@アークザラッドⅡ、基本支給品一式×2
[思考]
基本:魔王オディオを倒し、友としてカエルとオルステッドを救う。  
1:何故ここにカエルがいるのか分からないが、今度こそカエルを止める。
2:あいもかわらず勇者バッジとブライオンは“重い”が……。
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石にルッカの知識と技術が刻まれました。目を閉じて願えば願った人に知識と技術が転写されます
※記憶石の説明書の裏側にはまだ何か書かれているかもしれません
※偵察に出たジョウイについては、とりあえず信じようとしています。

【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:精神力消費(極)、疲労(極)、ダメージ(小)、マリアベルの死に激昂。
[装備]:パワーマフラー@クロノ・トリガー、激怒の腕輪@クロノ・トリガー、デーモンスピア@DQ4
[道具]:清酒・龍殺しの空き瓶@サモンナイト3、ドッペル君@クロノ・トリガー、基本支給品×3
[思考]
基本:オディオを倒して元の世界に帰る。
1:カエルを倒しマリアベルの仇を取り、魔王を倒す。
2:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)、ミネアの仇を取る。
3:首輪解除の力になる。
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。

33Resistace Line ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:43:32 ID:FOlMTglg0
【ちょこ@アークザラッドⅡ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極)、ずぶ濡れ、ぬいぐるみさんの死に動揺。
[装備]:なし
[道具]:海水浴セット、基本支給品一式、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、焼け焦げたリルカの首輪
[思考]
基本:みんなみんなおうちに帰れるのが一番なの
1:ぬいぐるみさん……。おねーさん、だいじょうぶかな?
2:カエルさん、ゆるせないの……ッ!
2:おとーさんになるおにーさんのこと、ゴゴおじさんから聞きたい
[備考]
※参戦時期は本編終了後
※殺し合いのルールを理解しました。トカから名簿、死者、禁止エリアを把握しました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※アシュレーのデイパックを回収しました。

【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]:アルマーズ@FE烈火の剣 
[道具]:ビー玉@サモンナイト3、 基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒して、オスティアに戻り弱さや脆さを抱えた人間も安心して過ごせる国にする
1:魔王、カエルを倒す。
2:ジャファルは絶対止めてニノと幸せにさせる
3:ゴゴとちょこから話を聞きたい。
4:つるっぱげを倒す。
5:アナスタシアとセッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※セッツァーを黒と断定しました。
※マリアベルの死に気付いていません。

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。ジャファルと一緒にいたい
1:魔王、カエルを倒す。
2:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。
※偵察に出たジョウイについてはとりあえず信頼しています。
※マリアベルの死に気付いていません。

【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)、首輪解除、アガートラーム
[装備]:ブライオン@ LIVE A LIVE 、ジャンプシューズ@WA2
[道具]:基本支給品一式×2(ランタンはひとつ)
[思考]
基本:物真似師として“救われぬ”者を“救う”というものまねをなす
1:魔王、カエルを倒す。
2:セッツァーに会いたい。
[参戦時期]:本編クリア後
[備考]
※本編クリア後からしばらく、ファルコン号の副船長をしていました。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
※セッツァーが自分と同じ時間軸から参戦していると思っています。
※内的宇宙に突き刺さったアガートラームで物真似によるオディオの憎悪を抑えています
 尚、ゴゴ単体でアガートラームが抜けるかは不明です
※マリアベルの死に気付いていません。

34Resistace Line ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:44:17 ID:FOlMTglg0
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(極)、胸部に重度刺傷(傷口は塞がっている)、中度失血、ずぶ濡れ
[装備]:44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、ソウルセイバー@FFIV
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、いかりのリング@FFⅥ、ルッカのカバン@クロノトリガー、感応石×3@WA2
    基本支給品一式×2、にじ@クロノトリガー、昭和ヒヨコッコ砲@LIVE A LIVE、マタンゴ@LIVE A LIVE
[思考]
基本:“自分らしく”生き抜く。
1:カエル、魔王を倒す。
2:今までのことをみんなに話す。
[参戦時期]:ED後
[備考]:
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ルッカのカバンには工具以外にルッカの技用の道具がいくらか入っています
※アナスタシアの身にルシエドが宿りました。ルシエドがどのように顕現し力となるかは、後続の書き手氏にお任せします。

【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION 、サラのお守り@クロノ・トリガー
[道具]:不明支給品0〜1個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う
1:出来る限り殺す
2:カエルと組んで全参加者の殺害。最後にカエルと決着をつける。
[参戦時期]:クリア後
[備考]
※ラヴォスに吸収された魔力をヘルガイザーやバリアチェンジが使える位には回復しています。
※ブラックホールがオディオに封じられていること、その理由の時のたまご理論を知りました。
※遺跡の最深部、危険なのはその更に地中であるということに気付きました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(小)疲労(小)自動回復中 『書き込まれた』若干の憎悪
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う
1:出来る限り殺す
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
[備考]
※イミテーションオディオの膨大な憎悪が感応石を経由して『送信』された影響で、キルスレスの能力が更に解放されました。
 剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚に加え、感応石との共界線の力で、自動MP回復と首輪探知能力が付与されました。
 感応石の効果範囲が広がり、感応石の周囲でなくとも限定覚醒状態を維持できます。(少なくともC7までの範囲拡大を確認)

[その他備考]
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。

※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)

※最強バンテージ@LAL、天使の羽@FF6はユーリルの死体とともに埋葬されました。

※首輪に使われている封印の魔剣@サモナイ3の中に 源罪の種子@サモサイ3 により集められた 闇黒の支配者@アーク2 の力の残滓が封じられています
 闇黒の支配者本体が封じられているわけではないので、精神干渉してきたり、実体化したりはしません
 基本、首輪の火力を上げるギミックと思っていただければ大丈夫です
 
※首輪を構成する魔剣の破片と感応石の間にネットワーク(=共界線)が形成されていることを確認しました。
 闇黒の支配者の残滓や原罪によって汚染されたか、そもそも最初から汚染しているかは不明。
 憎悪の精神などが感応石に集められ、感応石から遥か地下へ伸びる共界線に送信されているようです。

※世界のどこかに、マリアベルの知識が記録された可能性があります。
 記録されたかどうか、記録された場合、その場所、形など、後続の書き手氏にお任せします。

35 ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/07(日) 23:44:49 ID:FOlMTglg0
以上、投下終了です。
何かありましたらご遠慮なくお願いします。

36SAVEDATA No.774:2011/08/08(月) 18:12:46 ID:zcbauUoo0
投下乙!
マリアベルが、マリアベルがああああ!
お疲れさん、お前はほんと、よくやったおよ
対主催面子のまとめ役と言っても過言じゃなかった
そしてアナスタシアはようやく前を向いて、彼女らしい生きる意味を取り戻したか
ここでルシエドも燃える

しかし遂に全力でサボりだしたな、ジョウイw
いやサボるというのはおかしな話かもだがw

37SAVEDATA No.774:2011/08/08(月) 19:29:00 ID:OJYx5hXQ0
投下乙です

マリアベルさんはお疲れ様です…
確かにこれまでよくやったわぁ

さて、アナスタシアも参戦する気にはなったがカエル・魔王コンビは手強いぞ
もう一波乱、二波瀾あるかもな…

38SAVEDATA No.774:2011/08/08(月) 20:39:24 ID:wukGGK.U0
執筆投下乙でした

中世コンビの奇襲で誰かが犠牲になるかもと思ってたけど、
マリアベルか
…マリアベルかー…
反主催の旗印の一人として、初期からよく頑張ってくれたよ。合掌。

一方で、アナスタシアが調子を戻してきて、
原作時どころか、剣の聖女時代のレベルまで気力が充実してきてるな
原作でも見られなかったアナスタシアが見られると思うとwktkが止まらんとです

アガートラームが使えない今、どう想いを貫くのか
WA勢最後のキャラとして、カッコイイお姉さんの姿が見たいです

39SAVEDATA No.774:2011/08/11(木) 05:32:01 ID:l5369ILg0
投下乙! マリアベルゥゥゥゥゥゥッ!!!
やべぇ、カエル組怖すぎw これ、勝てるのか?w
こいつらラスボスかとも思ったけど、セッツァーより先にぶつかったか。
今まで逃げ続けてきたアナスタシアも、やっとこさ立ち上がったね。
親友を守れなかったが、大切なものは受け継がれたみたいだ。
もう続きが楽しみで仕方ない。だれか早く放送を!

40SAVEDATA No.774:2011/08/11(木) 12:42:57 ID:e5sBUW7M0
ところがどっこい!
更に予約がやってきた!
なんだか最近すごい加速だぞ、RPGロワ!
終盤って普通速度遅くなるはずなのに、うちにいったい何が起こってるんだ!?

41SAVEDATA No.774:2011/08/12(金) 01:17:59 ID:RNU39oOE0
◆6XQgLQ9rNgg氏へ
現在氏の作品をwikiへ収録中ですが、気になることがありましたので報告します
投下された作品のタイトル
Resistace Lineですが、これは
Resistance Lineではないでしょうか?
途中で放り出す形にはなりますが、氏の回答をもらうまでは一時wikiへの収録を中断させていただきたいと思います。
お返事お待ちしております

42 ◆6XQgLQ9rNg:2011/08/12(金) 07:46:16 ID:q//Lx8qk0
>>41
wikiへの収録とご指摘、誠にありがとうございます。
ご指摘通りでございます。すごく恥ずかしい…。

Resistace Line ⇒ Resistance Line

で、お願いいたします。

43SAVEDATA No.774:2011/08/12(金) 14:04:56 ID:Him8y8uI0
WAのOPの一つだっけ、そういえば
やっべ、WAの曲も結構使われたなーって思ってたわりに脱字に気付かなかったw

44 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:29:46 ID:k6.8CTsM0
それでは本投下します。

45龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:30:27 ID:k6.8CTsM0
既に太陽は御身の半分以上を海面から顕わにしていた。
空は僅かな星々が夜の名残をのこすだけで、紺色の空は青に転じようとしている。
雲はいち早く陽光を浴びて白く輝き、流れる風を受けて空を泳いでいた。
今日も暑く、長い日になるだろう。木々と葉に斑と隠れた森から見上げただけでもそう思うに十分な空だ。

そんな風戦ぐ森の中で、セッツァー=ギャッビアーニは寝ていた。
地面に茂った草を床に敷き、朝日の程良い熱を薄衣と自らに掛けて、手頃な厚さの書物を枕にして横になっている。
「随分と余裕だな。この殺し合いの中で他者の前で寝入るとは」
手頃な木々に腰かけたピサロは寝入ったセッツアーを嘲る。
その手に武器を備えている無粋を差し引いても、新緑の光の下で銀の髪を輝かせる男は、それだけで絵画のように世界に調和していた。
「こう見えても健康には気を使う方でね。幾夜を越えてギャンブルに興ずることもあるが、無駄な不養生を自慢する気もないのさ」
くく、と軽い嘲笑が森に木霊する。如何なギャンブラーといえど、自らの意識まで種銭にして眠り入るはずもない。
度胸と無謀の境を知る男は、眠ることなく、しかし限りなく眠りに近い形で休んでいた。
良く見ればその周囲にはパン屑と煮干の欠片が散っている。蟻や猫が見れば、これ天恵と巣穴に運ぶだろう。
「私の眼前で眠るのは養生と言えるか?」
「ああ、言えるね。旦那が目を光らせている、これほど安心できる“今”なんてそうそう得られるもんじゃあない」
セッツァーは横になったまま、ガサゴソとデイバックの中を漁り、水と食料をピサロに向かって投げた。
信用の証のつもりだろうか。ピサロは何も言わず、水だけを手にして口に含んだ。
賭けの場では全神経を張り巡らせるが、一度張ればそこに疑いも迷いも見せない。
いつの間にか『旦那』とピサロを称する、この妙な愛嬌もまたセッツァーの処世である。

「腹が減ってはなんとやら。一度戻ったのは正解だったな」
「どうだかな。腹が膨れたところで、人が死ぬわけでもなかろう」

寝返りを打ったセッツァーの眼の先に、天罰の杖の触り心地を確かめていたピサロがいた。

ブリキ大王の上で幼い少女を撃破した彼らが一拍を置いて先ず向かったのは対主催がいるであろう南ではなく西だった。
その目的は、彼らの最大の障害と成り得るアシュレー=ウィンチェスターの必死だ。
ブリキ大王一台を使い潰してまで得たものが『“これならきっと”アシュレーは死んだ“だろう”』では割に合わない。
『アシュレーは死んだ』でなくてはならないのだ。事実は短い方が善い。
故に彼らは西へ赴き、偉大なる死体を探した。
当然、死体でなければ死体にするつもりで。死体であればどれほどの奇跡を以ても蘇らない死体にするつもりで。
結果から言えば、彼らは然程労苦することなく目的を達した。死体を辱める必要もなかった。
そこには、何の抑揚もなく“崩された”人間の部品があっただけだったのだから。
(ハロゲンレーザーを破った金色の光、人間の業とは思えない死体……まさか、な)
セッツァーが与えたダメージと死体に残った痕の帳尻が合わない事実は、容易に理解できた。
それはつまり、アシュレーを“殺し直した”バケモノがいたということだ。
そしてそのバケモノの名前は、簡単な消去法によって自ずと浮かびあがる。
ゴゴ、下の下の物真似野郎。セッツァーの知らない誰か。

セッツァーは瞼を閉じてその時をトレースしていた思考を遮断した。
感情は選択の精度を鈍らせる。直観は信ずるべきだが、思い込みはギャンブラーにとって最大の毒だ。
アシュレーを殺したのがゴゴであると決め打つことに何のメリットもない。とびきり染みた化物の参加者が1人いる。それだけで十分なのだ。

46龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:31:13 ID:k6.8CTsM0
そう考えればアシュレーの武器と、デイバックを3つを入手できたのは“半分”僥倖と言えた。
武装の拡充、使い捨てできる糧抹の充達は確かに僥倖だ。
「余計なものさえなけりゃ、大満足だったんだがな。クソ」
栞を一枚指でヒラヒラさせるピサロの姿が面白くないのか、セッツァーは再び寝返りを打ってピサロから背を向けた。
確かに、あの花の栞が何枚もあったことは面白くない。
何故面白くないのかが理解できないことが、また面白くない。
面白くないのに捨てる気になれないのが、輪をかけて面白くない。
だが、何より面白くないのは振り向いた先にぽつねんと置かれた捩じれた首輪だった。

死体から回収されたものではない、明らかに首から引き千切られ、尚爆破していない首輪――――――“外された首輪”だ。

(もう外した奴が居やがる。オディオが大掛かりなアクションを起こしてないってことはまだ逃げた奴はいないだろうが……急ぐしかねえ)
1個出てきてしまえば、2個目を疑わぬ莫迦はいない。だが、勝者を目指す彼らは敗者の逃亡を許容できない。
首輪を外せる何某かの術が存在するという確かな光は、断固として摘まねばならないのだ。

「あまり焦りを表に出すな。お前が選んだ休息だろう。唯でさえ矮小な人間が、より小さく映るぞ」
「アンタがそれを言うのかい? あの光を見て、あれほどまでに取り乱した旦那が?」

そう言ってセッツァーがせせり笑おうとしたその瞬間、轟とピサロの手にあった栞が魔炎に包まれ、僅かに残った灰も手で握りつぶされた。
セッツァーは常と変らぬ素振りで鼻を鳴らしたが、その背中でつうと汗が垂れるのを感じた。
僅かなりともこの魔王と行動を共にしたセッツァーは、ピサロの理性と感情の境目を感覚的に理解し始めていた。
その上で、今のは踏み込み過ぎたと反省する。あと半歩踏み込んでいれば、この薄氷の如き盟約も一瞬で瓦解していただろう。

そう、本来ならばここで休息する暇は無かった。
アシュレーを倒し、少女を見逃した彼らは“先んじて遺跡に向かう心算だったのだ”。
それこそが、少女や物真似師を無理して追撃せず、敢えて見逃した理由だった。
ブリキ大王を用いるとはいえ3人を全員を倒そうとすれば何処かしらに無理が生じ、手傷を負う可能性があった。
故に彼らはその束ねた力をアシュレーの必滅に向け、残りには別の役割を与えたのだ。
それが、敢えて残党をヘクトル達の懐に潜り込ませること。
残党を意図的にもう一方のチームに送ることで、セッツァー達3人の存在を示し、ジョウイの計画をズラすことだ。
自分達の存在を知れば、容易にジョウイが目論む南征へと動けまい。後顧の憂いを絶つべくこちらを狙うことも考えるだろう。
ジョウイが獅子身中の虫である疑惑を含め、暫くは喧々諤々の云い合いが続くはずだ。
その隙に右脇を縫って遺跡へと先に入り魔王と同盟交渉を結ぶなり、いっそ遺跡を縦に潰す工作をするなり、優位を確保する。
そのハズだった。あの雷光を見るまでは。


『何故……何の故にだ、勇者よ! お前がそれだけの光を持っていたというなら、何故この光はロザリーに届かない……ッ!!』

47龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:31:50 ID:k6.8CTsM0
あの時のピサロの慟哭をセッツァーの鼓膜が思いだす。
移動を進めようと先ず東に戻ってきた矢先、黎明に輝く空に見たのは、莫大な雷の塊だった。
セッツァーにとっては賭け先を変え得るに足る脅威として、ジャファルにとっては疎ましき光の極点としてしか映らなかったもの。
だがこの魔王にとっては、その痩躯を怒りに漲らせて尚足りぬ光だったのだろう。
あの眩き光が真の光だとしても、否、真の光だから故に“世界が光に充たされぬことを知ってしまう”。
当り前だ。全てが光に照らされることなど無い。
ここにジャファルという闇がいるように。太陽と空の全てを求めるセッツァーがいるように。光を失ったからこそピサロがここにいるように。
全ての夢が叶うことなど、無い。星の全てを照らすことができぬように、全てが救われることなど無いのだ。

「それを言われちゃあ仕様が無い。とりあえず、ジャファルの調査を待とうぜ。
 あれほどの現象が起きたのなら、場は大荒れのはずだ。出目の張り直しをするしかないさ」

なんしか気を静めたらしいピサロを見ながら、セッツァーは再び寝転がって空を仰ぐ。
あの雷光を見てから表向きは平生を保っているが、それが逆にピサロの中で何かを渦巻かせていると教えていた。
ここで動くのは不味い。そうしてセッツァーは冷静に冷酷に、休息と調査に目を張ったのだ。
この中で一番斥候に長けたジャファルに雷光の着弾点周囲の状況調査を願い、放送まで休息することを選んだのだ。

こうして、彼らは緩やかな夜明けの陽光の中で休息を取っている。これが最後の休息になると思っているかのように。

「そこまで気にするかい、旦那」
「……瑣末だ。勇者という名前にも、魔王という名前にも。この想いの前にはな」
燃え散った花の栞の灰の一抹が風に浚われ切るまでを見届けたピサロは、誰に語るでもなくそう言った。
例え勇者が全てを救うのであっても、対を成す魔王が誰かを救っては成らぬ道理は無い。
否、救いたいと言う願いの前には、勇者と魔王の違いなど瑣末だ。
『ピサロ』が『ロザリー』を願う。その想いの前には、たとえ勇者の光であっても邪魔は許されない。

「――――――――――名前、ねえ。“まさかあの女に感化されたか”旦那?」

強さを増す陽光に僅かに目を細め、セッツァーは不快を顕わに言った。
それを見たピサロが、最早値無しと鼻を鳴らして会話を打ち切る。
木漏れ日と木々のざわめく音だけが残り、セッツァーは再び瞼を閉じた。
その裏に浮かぶ、あの船で最後に起きた出来事を追い払いながら。

48龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:32:37 ID:k6.8CTsM0
―――――・―――――・―――――

今は昔。セッツァーとジャファルがピサロと仮初の盟約を結び、アシュレー達を討たんとする前の話。
そう、同盟を組んだ彼らが未だアシュレー達かヘクトル達か、どちらを攻めるか決めかねていた時のことだ。

いずれにしても座礁船に居座ることに意味は無く、船を出ることにした彼ら。
発つ前の餞別とばかりに、彼らは何かめぼしいものが無いかと船内を物色していた。
ジャファルが言うにはこの船の造りは彼らの世界の海賊船のそれであり、その船内には武器屋や道具屋もあったという。
流石に死者の落とし物が見つかるとまでは期待できずとも、せめてもう一度調査をせずに出るは惜しい船だった。

「やはり、めぼしいものは無いか」
「流石にそこまでアンフェアでもないか。いや、あのオディオなら当然か」

金銀財宝はあれど、経済の意味が異なるこの場所ではそれは宝とは言えない。
あらかたの調査を終えたジャファルに、セッツァーは首をすくめて手をひらひらと泳がせた。
今までの放送からもあからさまに伝わるオディオの人間に対する憎悪。余りに強い憎悪は、逆に言えばどの人間にも等しい憎悪だった。
聖人であろうが、道化であろうが、英雄であろうが、魔王であろうが、
幼女であろうが、勇者であろうが、人間である限り皆オディオの憎悪すべき対象なのだから。
故に、オディオが特定の誰かに過度に肩入れをするとは思えない。ある意味、オディオは黒一色のルーレットともいえる。
ならば、これ以上を思索と探索に費やしても仕様が無い。早々に調査を終えて、ヘクトル達の動向を抑えるべきか。

上から順に降りてゆき最後に辿り着いた酒蔵で、彼らはそのルーレットに僅かにあった『傷』を見つけた。
無法松があれほどに呑んでいた以上、酒蔵があることは承知だった。重要なのは、無法松が動かしに動かした樽の向こう、その紋章だった。

「紋章、魔力を備えると言うことは、唯の落書きではないな」
「これは……真逆、転移の紋章か?」

眇めるように紋章に流れる魔力を見定めたピサロと、その紋章に驚きを示すジャファル。
魔力と知識によって、唯の落書きは意味ある紋様となった。そして、ギャンブラーが手に取ったカードが、紋を門に変える。
「何か意味のあるサインだと思ったが、秘密の部屋への招待状ってか…?」
「まさか、ここにもあると言うのか。ブラックマーケットが」
紋章の周りの空間が歪み、秘密の店への扉が開く。
ブラックマーケット。選ばれた者だけが持つカードを持った者にのみ、戦場の何処かにある扉を開いて招く闇の市。
場所にもよるが、そこに並ぶ品はこの海賊船の品揃えとは比べ物にならないだろう。

「入るつもりか?」
歩を前に進めたセッツァーに、ピサロは大した感情もなく言い棄てた。危険を案じる要素は微塵もない。
「こんなものを用意してるってことは、何もありませんでしたってオチはないだろう。
 鬼が出るか蛇が出るか、俺達の新たな門出に運試しと行こうじゃないか」
そう言って、彼らは虚空の暖簾を潜る。
そこにいるのがある意味鬼であり、ある意味爬虫類であることも知らぬまま。

49龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:33:18 ID:k6.8CTsM0
ブラックマーケットと言えば、どんなものを想像するだろうか。
銃火器、薬物、お花、内臓etcetc。それは莫大な金額を積んで買い取るものか、自分のLvを売って得るものか。
いずれにしても、その名の通りブラック―――――闇の黒を想像するだろう。
光射さぬ闇の世界の商い、その最前線。薄暗い路地に、微かな灯りだけを導に商いを行う。そんなところではないのだろうか。

「……俺の知っているブラックマーケットと違う」

ジャファルはニノの関わらぬ状況では珍しく露骨そうに厭な顔を浮かべ、ぼそりとそう洩らした。
そういう意味では、この光溢れる真っ赤な部屋構えは明らかに闇市とは程遠かった。
朱で染め上げられた壁と柱。掛け軸には人体の構造図や巨大な手相を記したものが並んでいる。
四角をグルグルと重ねたような仕切りがあるだけで、部屋はそれほど広くは無く、奥にもう一つ暖簾があるだけだ。
狭い、店というには余りにこじんまりとした店だった。
目ぼしそうなものは、壁に寄せられた木製の薬棚と本棚、店の中心に置かれた四本足の机。そして空いた椅子と―――――

「……あんなところに乳があるな」
「ああ、乳があるな」

机の奥に見えるどんもりと乗ったおっぱいに、セッツァーはチンチロリンで六面全部ピンのサマ賽を振られたような面をしながら吐き捨てた。
一方ピサロは、本気で有象無象の脂肪の塊としか見ていない目で、事実だけを反芻した。

見なかったことにして帰ろうか。決して相容れぬ3人は奇しくもこの時意見を同じくした。
酒蔵の酒精に当てられたのだろう。潮風を浴びて目を覚ませば、元通りになるはずだ。
そう思いたかったが、部屋全体から漂う酒の匂いと、小刻みに震える双丘を見てはここを現と認めるしかなかった。

「あ゛〜〜〜〜〜ひゅへもにょ〜〜〜〜〜? だぁんみゃじにゃひ〜〜〜 にゃは、にゃはははははは」

グイ、と反りかえった背中が弓なりにしなり、漸く乳から上の形が繋がる。
紅い蓮のような、誰が見ても異文化体系の衣装<チャイナドレス>。端正の整った顔にズリ下がった縁なし眼鏡。
ピサロのように細長く尖った異形種の耳。酒に蕩けても蠱惑的な瞳。

「ん〜〜〜、え゛……もひかひてぇ……ぉたおぎゃくざんんん〜〜〜?」

海賊船の酒蔵の中には、酒臭い店。酒臭い店の中には、酔っぱらった女店主。

「――――――えー、コホン。はぁーい。メイメイさんのお店へようこそぉ♪」

今更に取り繕ったような営業スマイルを現わしながら、店主はその屋号を掲げた。
この頭痛を忘れる為に酒を呑むべきか、酒にやられてこの頭痛を生んでいるのか、セッツァーは賭ける気にもならなかった。

50龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:33:49 ID:k6.8CTsM0
「だーってさぁ、こうもお客が来ないと、これくらいしかすることないじゃない?」
店の主はケラケラと笑い、呑んでたらあぶり肉も欲しくなっちゃうわねぇなどと言いながら盃に充たした酒を呑む。
状況に追従し切れない客達は黙ってその盃が空になるのを待つしかなかった。
少なくとも、会員専用の秘密の店がが万人繁盛だったらそれはもう秘密でも何でもないだろう。
『いつでもどこでも気軽に利用出来ちゃう、それがメイメイさんのお店なのッ!』
とへべれけになって言われても、説得力が無い。どんな看板を掲げても偽り有りと云われるだろう。
「OK。アンタがアルコール中毒なのもここがどんな店なのかもとりあえず後回しだ。アンタ、誰だ?」
「私ぃ〜〜? メイメイさんはぁ、見ての通り、どこにでもいるぅ、普通の、敏腕せ・く・し・ぃ店主Aよぉ?」
やけにその4文字を強調して、店主は腕を上げて脇を見せつつ妙に腰をくねらす。
エドガーほどまでとは言わないが、マリアに扮したセリスを拐したセッツァーも女性の扱いは心得ている方である。
そのセッツァーが思った。いつ以来だろうか、女を本気で殴ってもいいかと思ったのは。
「あ、疑ってるでしょ〜〜〜。いいわ、ここで引いたら女もとい店主が廃るッ!」
その不満MaxHeartな表情を察したのか、店主は足元から何かを取りだそうとする。
3人は戦う気か、と僅かにそれぞれの武器に手を伸ばしたが殺意の無い店主の様子に、それ以上の動きは見せない。
「こうみえても私、占い師なのよ。貴方達が何者かは、店に入ってきたなりマルっとお見通しってなワケ」
「……入ってきたなり、仰向けで爆睡してたと思ったのは気のせいか。で、その証に俺達が誰だか当ててみせようってかい?」
眉間を揉みながら、セッツァーは辛うじて店主の云わんことを掴み取る。
まだ彼らは自分達が何者であるかを口にしていない。その中で賭士、暗殺者、魔王であることを一目見ぬいたということか。
「ふふーん。そういうこと。ここに来たのも何かの縁。お近づきの印にぃ、貴方達に必要なものをあげちゃう。はい、どーぞ!」
そう言って店主は机の上に ド ン 、と何かを置いた。セッツァー達の視線が机に集まる。
それぞれの職種を見抜いたというのならば、出てくるのは武器か、はたまた彼らにしか扱えない道具か。
もし、それ以上のことまでも見抜いた証拠を出してくるならば、始末も厭わないという決意で彼ら3人は机の上の品を見た。

「地図にコンパス。筆記用具に水と食料。名簿でしょ、時計でしょ? 夜の為にランタンも入ってる―――――貴方達には必要なはずよ?」
そう言って、店主は3人分の新しいデイバックを出して酒で焼けた小さな腕を組んだ。
セッツァーが3人分のバックをぐい、と掴みあげる。

51龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:35:04 ID:k6.8CTsM0
「貴方達も参加者……でしょ?」
天地開闢、森羅万象を眇めたような満面の微笑で店主は彼らを見た。
「有ってるが意味がねえじゃねえか!」
その言葉と共に、店主の頭上を3つのデイバックが覆い、落下する。
「…え? う、うひゃあ〜〜〜!!!!」
抗弁する暇もなく、椅子から転げ落ちた店主はデイバックの下敷きになってしまう。
この島にいるのであれば、54人中54人が参加者だろう。適当に言っても殆ど当たるに決まっている。
ルーレットで赤と黒に同額を賭けるようなもの、下手をすればカジノから追い出される賭け方だ。つまり、賭けにも占いにもなっていない。
「……もしや、特別なアイテムを得られると期待してたのか?」
「……してないな。ああ、してないとも」
ジャファルの問いに、セッツァーは広大な空の果てを見るようにして目を逸らした。
舌打ちをしながら、セッツァーは転げ落ちて「お、想ひ出がりょーくーしんぱんしゅにゅぅぅぅ……」とノびかけた女店主を見下した。
常のセッツァーならば相手が誰であれ、まず相手の価値を見極めているだろう。
あるいは、自分の夢にとって利になるか障害になるか、はたまた“それすらもできないか”を判断しているはずだ。
だが、眼の前の女の価値を彼は未だ見極められずにいる。価値がない訳ではない。ないかどうかさえ分からないのだ。
まるでオペラをブチ壊しにしかけたタコ野郎を思い出すほどに、掴みどころがない。
この店の中に充満する酒のせいか、ギャンブラーを常に救う直観、そのキレが僅かに鈍っているとさえ思う。
(スラムの女衒じゃあるまいに、何でこんな酔い潰れた女1人にここまで……?)
その時、セッツァーの鈍りかけた感覚が遅れて警報を発する。そうだ、この女は何故ここにいる?
セッツァーはピサロに名簿を渡す前にその名前を全て記憶している。そして“その中にメイメイという名前は無い”。
ならば55人目の来訪者? 否。この女はこの場所を自分の店といった。彼女が招かれざる客であるならば、
様々な世界の建造物を寄せ集めた何処の世界にも存在しないオディオの箱庭に、自分の店があるはずが無いのだ。
セッツァーが、床に突っ伏した女の首元をみて―――“そこに首輪が無かった”事実に、今更確信した。

(つまり、こいつは“招かれている”)
「戯れはそこまでにしておけ、女。私の眼は誤魔化せんぞ」

その確信に呼応するようにピサロは口を開き、残る二人がピサロと店主の間で交互に視線を動かす。
「モシャス? 否、貴様の纏う魔力―――――――もしや」
ピサロが感じたのは、酒精に紛れた微かな人ならざるモノの魔力である。
尤も、この様な場所にいるのが唯の人間と考えるのも無理がある話だが。
いずれにせよ、これほどの実力を持つ女を首輪も無しにオディオが野放しにしておく道理が無い。

「いやん、熱い視線だこと♪ まぁ、そこのあたりはぁ……乙女のヒ・ミ・ツ、ってことで♪」

にゃはは、と笑いながら立ち上がりグイと盃の酒を飲み干す女店主。
その振る舞いを見ても三人は気を抜くことなどできなかった。
「そう! メイメイさんは一見どこにでもいる、普通の、敏腕せ・く・し・ぃ店主A。
 ――――しかしてその実態は……『オルステッドさま』の忠実なるしもべで――――っすッ!」
後光でも発しそうなほどのポーズを決めながら店主は高らかにその正体を語るが、
3人は3人とも「誰だ、オルステッドって」という率直な疑問に気を取られた。
(オディオのことか? いや、オディオの配下にオルステッドって奴がいて、その手下って線もあるか)
「ほう、そりゃあ凄い。で、そんなアンタは何をするためにここにいるんだ?」
そこを問い詰めたところで優勝を目指す彼らにはさして意味が無い。
店主の調子に乗せられかけたが、あまり浪費できる時間もない。それよりもこの場所の役割をこそ聞くべきだろう。
漸くこの女の価値をテーブルに載せ始めたセッツァーは当然聞くべきことを聞いた。
特異な場所に配されており、ここに入るための符牒が支給されている以上、
ここを訪れた者に対してするべきことが言い渡されているはずだ。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたぁ!
 このメイメイさんの使命、それは――――――それは?――――――にゃは、にゃはははは……」

52龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:35:47 ID:k6.8CTsM0
堂々と胸を張ってそれを高らかに言おうとした店主が、途端に語気が弱まり、みるみる内に萎れていく。
「……忘れたのか?」「いや、この欠落の仕方だと最初から何も言われてないのかもな」
「にゃ、にゃにおう! そんなことあるわけにゃいじゃにゃい!」
毛並みを突然触られた猫のように店主はジャファルとピサロを威嚇するが、それは逆効果にしかならない。
「じゃあ、アンタここで今まで何してやがった。何でもいい、言ってみろ」
「何って……お酒飲んでー、お休みして―、お酒飲んで―、ツマミ食べて―、お酒飲んで―、お昼寝して―、それからぁ」
「もういい。呑んで寝るだけの簡単な仕事だってことはよっっく分かった」
自分の問いに指を折って答える店主を、セッツァーは制した。重ねて言うが、セッツァーも女性の扱い方は弁えている。
だから今、手持ちの水をありったけ顔面にブッかけてやろうと思っても、そこをぐっと堪えるのである。
幾らなんでもオディオ達がそのような自宅警備の真似事の為に配下を置く訳が無い。
だが、幾つもの真贋を見極めてきたセッツァーでも彼女の言動に嘘を感じることが出来なかった。ならば一体、この女の意味は…?

「ん、何やら莫迦にされた雰囲気。店主的に。それじゃあ、お店らしいことしちゃおっかしら?」

そう言った店主が店の奥から取りだしたのは、巨大なルーレットだった。
外周から半径の直線が引かれ、色の違う扇状のマスが作られている。
「運命の輪って言ってね。ま、軽い運試しのようなものよ。
 これからも外で頑張る貴方達の験担ぎにいかがかしら? 当たり所が良かったらステキな景品もつけちゃう!」
ダーツを1本差し出し、店主は蟲惑的な瞳を浮かべる。
このスチャラカなペースに着いていけずとも――あるいは、着いて行きたくなくとも――店主の云わんとすることは3人にも理解できた。
円の中の配色がそれぞれ異なり、そしてそれぞれの面積も異なる。恐らく面積の小さいものから順に1等から3等。
ダーツを投げて当たった場所に応じた賞品が手に入るのだろう。

「何を付けるつもりだ、女よ。勿体ぶるからには、相応のものを配するのだろうな?」
およそこの手合いのイベントから最も縁遠かろうピサロが、試す様に店主に問いかけた。
当然、魔族の王たるピサロが賞品が気になって尋ねているなどということは無い。
本気で欲しいのであれば、名簿のように力づくで奪い取るのがピサロだ。
だが、未だ酒精の奥にその実力の底を見せぬこの化生を相手取るほど愚かではない。
この殺し合いの参加者でも、憎むべきヒトでもなく、ましてやオディオに通ずる存在であるというのならば手をかける理由もない。
ピサロ、そして残る二人も、優勝してオディオの報奨を得ようとしている以上、ともすれば参加者よりも厄介な存在に労力を割く訳にはいかないのだ。
「そうねぇ。そしたらぁ、上から順にぃ“貴方達にとって役に立つもの”をあげちゃうわ」
そういって店主は蕩けた目付きで指を幾度と振って、セッツァー・ジャファル・ピサロの順に指を射止める。
だからこそピサロはむしろこの龍が何を見て、何を考えているのかにこそ興味を持った。

53龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:39:00 ID:k6.8CTsM0
「――だそうだが。どうする?」
ピサロはセッツァーの方を向き、その応手を伺う。1本しかないダーツ、そして景品はそれぞれにとって役立つ物。
誰が投げても、ダーツが何処に当たっても不和の要因になるだろう。
利害関係でしか成立していないこの即席チームに於いて、偏った利は害にしかならない。
このチームを呼び掛けたセッツァーの手腕こそが、図らずともこの女店主の手によって試されている。
「……外した場合は?」
「安心なさいな。ハズレでもタワシ位はあげちゃうから」
セッツァーが店主に問いかけ、その答えを聞いた後、指を顎に当てて考え込む。
既に「なんでタワシ?」などと口出しする気配もない。その眼は、魚が海に還ったように常の鋭い眼光を取り戻していた。
「外れて元々の話だ。ジャファル、お前に任せる」
「……待て、俺は……」
「俺もシャドウほど投躑が上手い訳じゃないしな。なら、一番得手そうな奴が投げるべきだろ。
 好きに狙いな。花束の一つくらい、当たるかもしれんぜ―――――、―――――――、―――。構わんな、ピサロの“旦那”?」

そう言ってセッツァーはジャファルに近付き、密着するような近さでダーツを手渡し、
ピサロに確認を求める。ピサロはそれが妥当な所か、とその選択を了と認めた。
誰の賞品が当たるにせよ、先ず的に当てられなければ話にならない。
であるならば剣を扱うピサロとギャンブラーであるセッツァーよりも、暗殺者であるジャファルが消極的適任ということか。

「誰が投げるかは決まったかしら? それじゃ、ルーレット・スタート!」
店主が扇子を広げると、ルーレットが独りでに動き出す。
如何な妖術を使ったのか、店主は扇を口元で戦がせるだけだ。
運命の輪が高速で回転する中、ジャファルはダーツを構えることなくだらりと腰に垂らしている。
しかしその眼光は鷹のように獲物を見定め、今にも喰いつかんと鬼気を発していた。
廻す、廻る。運命の輪が回る。弄ぶように輪廻が回向する。
翻弄されるその運命の渦から、たった一つの光を釣り上げる時を待つかのように、輪を見続ける。
「ちょっとぉ〜〜〜、慎重になるのは分かるけど、もう1分経っちゃうわよぉ……ってぇ!」
あまりの動の遅さに痺れを切らした店主が声をかけようとしたその時だった。
音もなく放たれたジャファルの一撃が運命の輪を穿つ。ジャファルの手から矢が離れた後、次第に輪はその回転数を落としていった。
暗殺者が貫いた運命、その色彩は――――――


「外した……だと……?」


ピサロがその結果に驚きを示す。自分のエリア<3等>が当たるとまで望むつもりはないが、真逆ルーレットにあたりもしないとは。
だが、どれだけ目を眇めようが凝らそうが突き刺さった場所は変わること無し。運命の一投は無情にも、光を掴むことはできなかった。
「あちゃー……ま、ま、こう言うこともあるわよ! 運勢なんてコロコロ変わるものだしねッ!
 っていうか、え、ちょ、タワシってウチの店にあったかしら……にゃ、にゃはははは……」
予想外過ぎる展開に、さしもの店主も動揺を隠せないらしい。
確かに、同じ暗殺者とはいえ、シャドウと異なりジャファルの本分は接近からの瞬殺である。
ましてや今は殺しとは程遠い遊興。実力を十全に発揮できるはずもない。
「ゴメンナサイ……探したけどタワシが無くって……その、ニボシで良かったら……」
店主はそう言って申し訳なそうにジャファルに魚臭い袋を渡す。善い出汁が取れそうな、猫も魚もまっしぐらの良質煮干である。
無言でそれを受け取るジャファルに、店主は乾いた笑いを浮かべながら手を振った。お帰りくださいという意味だろう。

「ちょっと待ちな。もうひと勝負、申し込むぜ」

54龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:40:19 ID:k6.8CTsM0
だが、その意を分かった上で敢えてセッツァーが店主に話を斬り込んだ。
そのタイミングの良さに店主は面食らったが、直ぐに目を細めて否定を解答する。
「……気持ちは分かるけど、それはちょっと不味いわねえ。試したのはあくまで貴方達の運気。
 もう一回やれば当たるとか、それは純然たる天運とは言えないわ。残念だけど、貴方達の運試しはこの一回―――――!?」
「なら、これでどうだい?」
勝負を切り上げようとする店主の言葉を断ち切ったのは、セッツァーが取りだしたもう一つのカードだった。
シルバーカード、メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。
「スプリット。俺達に一回分の権利しかないと言うのなら―――――こいつで、そいつを“半額”にさせてもらおうッ!」
セッツァーが二本の指で投げ飛ばしたカードを店主は中空で掴み取り、マジマジと見つめる。
そして暫く考え込んでから、軽く溜息を付いてもう一本のダーツを取りだした。
「もしかしてぇ……最初から、こうするつもりだったぁ?」
「偶々さ。偶々、ポケットの中にあったもんでね」
そう言って、誰が投げるとかとのやり取りもなく、ダーツを手にしたセッツァーが運命のルーレットの前に立つ。
そう、運命を賭けると言うのならば、ダーツに意思を託すと言うのならば――――――この男以外に有り得ない。

「おっけぇ。ギャンブラーさんの力、何処まで届くか試してあげる。ルーレット、スタートッ!」

誰もそうだと言っていないのにセッツァーをギャンブラーと嘯く店主が扇を開く、運命の輪が軋みを上げて太極を廻す。
本気で廻る世界に、人の意思など徹らぬと謳いあげるように。人はその回転に、ただただ翻弄されるしかないと笑うように。

「でも、それなら最初から貴方がやるべきだったわねえ。唯でさえ回転しているのに、
 ダーツが手元から離れて的に当たるまでの時間が分からないと何処で投げればいいか分からないわよ?」

店主が扇を煽いでギャンブラーの失策を笑う。最初から2回投げるつもりであったのならば2つとも自分で行うべきだった。
そうすれば、ひょっとすれば2人分の景品を得られたかもしれないのに。

「それとも、純粋に運を試すつもりかしら。さてま結果は―――――」
「1ツだけ教えてやる。メチルフォビア<アルコール恐怖症>」

軽口を吐きながら扇を再び戦がせる店主に、氷のように冷たい言の刃が突き刺さる。
まるで自分の喉元にそのダーツが穿たれかと錯覚するほどのギャンブラーの視線が、店主に突き刺さっていた。

「運命<こんなもの>は、ギャンブルとは言わねえんだよ。
 そいつを力でねじ伏せてからが、本当のギャンブルだ。分かったら――――」

セッツァーは運命の輪に見向きもしていない。その眼光は唯店主のその一点を見定めている。
当然だ。最初から何もかもを投げ出して運命などという“まやかし”にその身を委ねる者を女神は愛さない。
頭脳を、力を、己が持つありとあらゆる手管を用いてありとあらゆる運命を撥ね退け、
“その先に立ちはだかるもの”に、己が魂を賭してこそ、女神は漸く微笑む。

「“その特賞に当たったら、3つの景品を全部寄越しな”ッ!」

55龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:42:31 ID:k6.8CTsM0
店主の扇が“三度戦いだ”刹那、セッツァーの腕が疾った。
美しいフォームだった。ジャファルも、ピサロさえも微かにそう思った。
力みも逸りも気後れもない、自然体の一投。何度投げようとも決して崩れることのないだろうフォーム。
そこに種族も職能の違いもない。どのような目的であれ、研鑽の果てにある結晶は美しい。
一体何百回、否、何万回投げればこれほどのスローが可能になるのか。

「真逆“本当に”最初から――――」
「ああ、ジャファルに言ったとも。外せと、伸ばせるだけルーレットを回させろと」

驚愕に眼を見開く店主を前に、セッツァーは不敵に笑う。回転数を下げていく的を、最早見てもいなかった。
一投目は完全なる“見”。そして万一賞品を手にして、有耶無耶に終了させられないように敢えて外した。
そして、セッツァーはたっぷり1分を用いて、魔力で回転するルーレットと扇子の同期に気付いたのだ。

「そっちじゃなくて、特賞の方なんだけどぉ?」
「言わなきゃ気付かねえと思ったか? それこそ、舐めるな」

これこそが、セッツァーの感性が成せた唯一の幸運だった。とっかかりは店主の試すような目つき。
シルバーカードで普通に二回賞品を得ても、誰かの不満を招くこの状況。
もし、それを以て彼らの動きを見極めようとするのであれば抜け道が有ってもおかしくは無い。
抜け道があるという前提でルーレットに目を凝らせば……3等の中に微かに紛れた、4色目。
回転数さえ目算が立てば、廻っていないも同然だ。自分のダーツの技量など、自分が一番信じている。

「生憎と、これでメシを喰ってきた。
 賽の目も、ルーレットも―――運命をねじ伏せられない程度の力で生きていける世界じゃないんでね」
「―――――――――お見事。特賞、大当たり!」

最早言うこと無し、と店主は扇子を閉じて勝者を宣言する。
ピサロが魔族を傅かせ、ジャファルが闇を統べると言うのならば。
セッツァーは、運命を跪かせる者―――――ギャンブラーなのだ。

56龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:44:48 ID:k6.8CTsM0
「3等賞。先ずは貴方ね、カッコイイ魔王様ぁ?」
「フン。やはり見抜いていたか。その眼、魔眼か?」
ルーレットが片付けられ、テーブルを挟んで魔王と店主が向かい合う。
「ちょーっとばかし魅了の力はあるけど、そんな大したものじゃないわよぅ」
ピサロに魔眼と評された店主は眼鏡越しのその瞳でピサロの痩躯を見渡す。
くすんだ銀の髪、疲労の色を隠すことはできないが、その表情に充実する気力を見とって店主は満足気に頷いた。
「煩悶は乗り越えた、ということかしら。貴方の内に根差す想いが――――貴方の憎悪すべき人間にもあるということに」
「……それがどうした。誰が何を想おうが、この想いは私だけのものだ。そして、誰にも邪魔は出来ん」
それは、邪魔立てすれば貴様だろうと屠るのみという店主に向けての魔王のメッセージだった。
その暗喩に気付いてか気付かずか、店主は盃の酒に唇を湿らせ、そして言った。

「それでも、貴方はその想いを邪魔したわ。貴方と同じように、唯“逢いたい”と願った1人の生徒の想いをね」

店主の眼鏡の奥に1つの光景が映る。
もう逢えないと、さようならと別れた教師と生徒。
生徒は誓った。もう一度逢いに行くと、今度は私が貴女を救いに行くと。
その願いは叶うはずだった。それは歪んだ時の成就であろうとも、生徒の願いを叶えるはずだった。
だが、それは叶わなかった。雷の奥に観た勇者の虚像に怒り狂った、魔王の所業によって。
「勘違いしないでね? 恨み事を言いたい訳じゃないの。
 貴方の想いもまたヒトの夢であり、また誰かの想いによって叶わぬユメと成り得るということよ」
店主はぐいと酒を飲み干し、新しく酒を注ぐ。そして、それを魔王へ向かって伸ばした。
魔王は何も言わずに、それを受け取りワインとは違う透明な酒を眺める。

「【アリーゼ=マルティーニ】。その想いを胸に抱いて進むと言うのなら、貴方が砕いた想いの欠片くらいは抱えておきなさい」

魔族の王は、店主の言葉に応ずるでもなく激昂するでもなく、唯酒を呑むことで応じた。
呑み慣れない酒を一気に煽ったその味わいは、魔王にしか分からない。
その呑みっぷりに満足したのか、店主は微かに笑んで誓約の儀式を発動する。

「名は命、性は星。忘れないで。オルステッド様がオルステッド様でない意味を、魔王が真名で呼ばれない意味を。
 ―――――――“貴方がデスピサロでなく、ピサロとして名簿に刻まれた意味を”」

テーブルの上に召喚された宝箱を開いて、魔王は唯それを掴んだ。

57龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:45:49 ID:k6.8CTsM0
「さて、お次は貴方ね? 暗殺者さん?」
「戯言など無用だ。品だけ渡せ」
拒否は認めぬとばかりに鋭い眼光を発しながらジャファルは店主に吐き捨てるが、
店主は何処吹く風と酒を飲みながらジャファルの身体をじろじろと眺める。
「その刺し傷、随分手酷くやられたのねえ。見てるこっちが痛くなっちゃう、にゃははは」
店主の何気ない笑いに、ジャファルは傷の痛みを錯覚した。
セッツァーのケアルラによって行動には支障ないレベルまで回復しているものの、
まだ一日と経っていない槍傷、この舞台で恐らく初めて喰らった直撃の記憶はジャファルにしっかりと刻まれていた。
「不思議なものね。どれだけ言葉を尽くしても届かないと思っても、たった一撃の槍が簡単に貴方の世界に証を遺す。
 貴方がたった一人以外の全てを望まずとも、彼女以外の全てが貴方に干渉する」
「……何が言いたい?」
無意識に脇腹を擦ろうとする右手を堪え、暗殺者は店主に向けて殺意を放つ。
何も知らぬ者が彼女の名前を口にしようものなら、刎ねてもいいとさえ思いながら。
「世界は広いということよ。このお酒でさえ極めようと思ったら、私でさえ道の途中。況や人の心は、ってね」

極めると言うことは、口にするほど簡単なことではない。ましてや武術など一朝一夕でどうなるものでもない。
それでも、それでも彼女はその事実を受け入れても前に進もうとした。
片腕しか使えずとも、剣でなければ振るえぬ技を、前に突き進むために技を究めようとした。
そこに至る感情を知ることはできずとも眼の前の傷をみれば、確かに刻まれた想いはここにある。

「【秘剣・紫電絶華】。世界は『光』と『闇』だけって訳でもないわ。貴方に刻まれた『雷』の本当の名前を忘れないで」

そう言って店主が渡した盃を、ジャファルは黙って見続けた。
清酒の澄み切った光を見つづけ、やがてジャファルはそれを無言で店主に返した。

「ありゃ、つれない。まあ、それもまた1つの答えよ。だけど気をつけて進みなさいな“若人”。
 お米と水でお酒は出来るけど、お酒から水を、お米を取り除くことはできない。
 例え出来たとしても、それは水でもお米でもお酒でもないものになる。貴方が作ろうとしてるのはそういうものよ」

そう言いながら召喚された宝箱の中身を、やはりジャファルは無言で受け取った。

58龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:46:21 ID:k6.8CTsM0
そして、ギャンブラーと占い師が対峙する。
「最初は適当にしてたから、油断しちゃったわ。もしかして、カマをかけられちゃってた?」
「いや、最初は本気でアンテナが立ってなかったぜ。アンタが俺にとってどういう存在なのか、見極められなかったからな」
目を合わせずに酒をちびちびと啜る店主に、セッツァーは笑い返した。
「酔っ払いのフリにだまされた? 殺し合いに場違いな空気に乗せられた? この当たりの酒の匂いに狂わされた?
 ――――――違うね。その中に僅かに滲んだ“アンタの敵意”こそが、最後まで分からなかった」
そう、それがセッツァーの感覚を鈍らせていたもの。理由の思いつかない一方通行の憎悪である。
「なあ、俺は一体アンタにとってどれほどの仇なんだい?」
「……安心なさいな。私がオル様の『護衛獣』である以上、オル様の意に反することはできないの。
 それに、私には貴方を糾弾する資格はないし、するつもりもないしねぇ?」
にゃは、にゃはは、と酒に焼けた笑いを吐く店主。だが、その飲酒のペースが僅かに速まっていることをセッツァーは見逃さなかった。
「なんでもいいさ。あんたには礼を言うぜ。ギャンブルの原点に立ち返られた。
 あのルーキーがどんな目論見だろうが、ヘクトル達が何を思おうが関係ない。
 その上で運命を越えてこそ、俺が夢を賭ける大勝負に相応しいってな」
「夢、夢ねえ。風を切って大空を駆ける――――――想像しただけで肴になるわ」
セッツァーの純粋な歓喜に、店主は愛想笑いを浮かべグイと盃の酒を飲み干す。そこには空の杯だけが残った。
「ありゃ、空っぽになっちゃった。これじゃお酒が呑めないじゃない」
空の杯を残念そうに見つめた後、店主は新しい酒瓶を取りだし並々と注いだ。
そこには表面張力限界まで満たされた杯が揺らめいている。
「空の杯には、またお酒を注げばいい。最初から満たされている杯なんてないのよ。
 いいえ。空の器にこそ、どんなお酒を注ごうかという趣がある」
セッツァーはそれを黙って聞いていた。自分が砕いた、2本の空き瓶を思い出しながら。

「―――――【アティ】よ。私がいつか呑もうと楽しみに取っておいたお酒のラベル。呑めなくなっちゃった以上は、仕方ないけどね」

しばしの無言が続く。机の上に置かれた酒をセッツァーは手に取ることもなく、店主は呑むこともなく永遠に似た1秒が連鎖する。
「これからもう一勝負ある。悪いが、酒に酔ってる暇はねえ」
「そ、残念ね。はい、一等賞」
店主は胸に手を入れて、小物をとりだす。それはダイスだった。
ただし、中に細工の施された――――『イカサマのダイス』が。

「貴方達のお酒が最後にどんな味になるか……機会があったら呑ませて頂戴な」
「ああ。機会があったらな」

セッツァーがそれを掴むと、店主は全ての役目を終えたとばかりに手を振った。
もうこの店には用事はない。目指すべきは、ルカ=ブライトを斃せしアシュレーの一党だ。
そうして3人は、入った入口へと進んでいった。


―――――・―――――・―――――

59龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:51:29 ID:k6.8CTsM0
陽光が緩く照らす朝の森の中、セッツァーは思い出した過去を苦虫を噛み潰す様に堪えた。
そこに茂みを踏む音が鳴り、ピサロ共々立ち上がる。
「来たか、ジャファル。で、首尾は――――」
「既に交戦が始まっている」
戻るや否や、告げられたその一言は彼ら2人といえど震えを呼ぶものだった。ただし、驚愕と歓喜を綯交ぜにしたものとして。
簡潔明瞭なジャファルの斥候結果を具に聞きながら、彼ら3人は状況の大まかなるを把握した。
南の遺跡にいるはずの魔王とカエルが、攻め上がりに来たのだ。
魔王の大規模魔法で戦況が混交し過ぎて、流石のジャファルといえど遠間からではヘクトル達の全人数は把握し切れていなかった。
「奴らが団結して南に下りなくなったから、攻め上がりに来た? いくらなんでも早過ぎるだろう。監視能力でも持っているのか?」
「そんなことは然したる問題でもないだろう。これこそが貴様の望んだ好機とやらではないのか?」
考え込みかけたセッツァーをピサロの一言が引きもどす。重要なのは現状の答え合わせでなく、現状をどう生かすかだ。
セッツァーは持てる感性の全てを動員して、次の一手を弾き出した。

「当然、背後から攻める。ただし、放送が終わってからだ」
「……何故だ」

追いすがるようなジャファルの眼を、その感情ごと理解したような眼でセッツァーは見返した。
「魔王共の攻めたタイミングにもよるが、あのガキが中にいた以上俺達のことは知られていると考えた方がいい。
 恐らく、俺達が来ることも読まれてるだろう。
 かといってこのタイミングを逸して魔王共がやられれば今度は10人近い連中と俺達が正面からぶつかることになる」
拙速に攻めればカウンターを仕掛けられる恐れがあり、巧遅に失すれば唯一の勝機を失う。
突くべきは最適な“今”―――――――即ち敵の人数を全て掌握した直後、オディオによって仕切り直された刹那である。
「僅かな間を持たせて、緩急を縫うか。王道ではないが是非もない――――して、何処から攻める?」
ギャンブラーの采配にとりあえずの及第点を与えた魔王が、いよいよ確信へと切り込む。
彼ら3人が集ったのは、1人では如何ともしがたい彼我の差を埋める為だ。
3人の力を拡散させるのであれば、この盟約は全くの意味を成さない。
一度混戦に入ってしまえば致し方ないが、初撃は戦力を集中するべきである―――――彼らが唯一恐れる、人数の差を潰すために。

「決まっている。ニノだ」
「ッ!!」

その名が告げられた瞬間、ジャファルの身体が猫のように跳ねあがりセッツァーの喉元に刃を向ける。
だが、セッツァーは皮一枚を血に濡らしながらも気にしていないように言葉を紡ぐ。
「言葉が足りなかったな。先ずニノを確保するって意味だ。
 混戦のうちに死なれてるかもって思ったら、アンタも気が気じゃないだろう? だから、周囲を撃滅して気絶なりさせちまう。
 どうせその近くにはヘクトルもいる。不意を付ける最後の機会だ、そろそろアイツが望む黒い俺として出てやろうじゃないか」
そう言ってセッツァーはぐぐもった笑いを浮かべ、その意思に淀みがないことを見取ったジャファルは刃を下げる。
「……感謝する」
「なァに。俺はあんたと共に戦うことに賭けた。それだけだ―――――よく耐えてくれた、もう少しだけ我慢してくれ」
セッツァーはそう言ってジャファルの肩を力強く掴んだ。
そう、魔王の魔法がニノを襲った時、ジャファルは飛び出して魔王に攻め入ろうとさえ思ったのだ。
ニノに牙を向けるのであれば例え相手が誰であれ、立場がどうであれ知ったことではない。
距離があろうが無かろうが、この手で瞬殺してしまいたい―――その衝動を、ジャファルは堪えたのだ。
(まだ、ニノの傍にはオスティア候がいる。まだだ、もう少しだけ、ニノを頼む)
求めるはニノにとっての安らぎ。その為には、ここで衝動に駆られて暴れる訳にはいかない。少なくとも、今は。
だからこそ、セッツァーの指針はジャファルにとって天啓以外の何ものでもなかった。それ以外の選択肢はなかったと言える。

60龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:53:59 ID:k6.8CTsM0
その意を固め誼を確かめ合う2人を尻目に、ピサロは寒気すら覚えた。
セッツァーにもジャファルにも、一切の淀みはない。アレは互いにとって確かな誓いなのだ。

―――――ってのが、ニノって娘の大方の姿だ。一目みればすぐ分かるとは思う。
     もし、これからの戦いでそのニノって奴と戦闘に入ったら、旦那の判断で消してくれないか?

だからこそ、ジャファルが斥候に出ていた時にセッツァーに持ちかけられた話が恐ろしい。
セッツァーは先のように寝転びながら、雲の数を数えるような気楽さでそうハッキリ言ったのだ。

―――――俺はジャファルに賭けた。それは間違いじゃねえ。あいつの夢は純粋で、信じるに足る。
     “だからこそ、ニノって奴が邪魔になる可能性が否定できねえ”。

彼ら3人は共に優勝を目指すと言う観点から利害を一致している。ただ、ジャファルだけはその指向性が僅かに彼らと違うのだ。
ニノはジャファルにとって刃を研ぐ石でもあり、刃を折る鉄でもあり、刃を誤らせる霧にもなるのだ。

―――――ニノって奴が無力な娘ならこうも迷わないが、少し話しただけでも気骨の強さがハッキリと分かりやがる。
     実力と意思が釣り合ってない奴は、えてして賭場を荒らすもんさ。

唯でさえ殺し合いに乗る参加者が少ない現状、ニノを守るためにジャファルが他の殺戮者と相喰むことになればそれこそ眼も当てられない。
ならば、いっそ“ジャファルもセッツァー達と同じ形に”なってもらった方がいいのではないか、と。

―――――正直、ニノを殺すべきか生かすべきか読めない。どちらに賭けても、失うものも得られるものもある。
     俺じゃ判断が鈍っちまう。だから“旦那に任せたい”。

だからセッツァーは委ねた。ジャファルとニノの関係に全く興味の無いピサロを公平なダイスと見立てて、その趨勢を賽に任せようとしたのだ。

(これが、ギャンブラーというものか。成程、人間に相応しい在り方だ)

ピサロは思惑を億尾にも出さず鼻息を鳴らす。
セッツァーの要望があろうがなかろうが、ロザリーへの道程を阻むものがいれば誰であれ屠るのみ。
それはニノという娘でも例外ではない。最も、その公平さこそをセッツァーは信じたのだろうが。

「アンタらも、まだあの店のアイテムを使わずに残してくれたようだしな。
 あのガキが俺達の装備を見誤ってくれてたら、更にラッキーな話だ」
セッツァー達はそう言って森を分けて進む。南へ、南へ。放送は近い。
「全く、あの店主サマサマだったな、まったく」
「……だが、お前はそれでよかったのか? “イカサマのダイスを放棄して”」
「なァに、やっぱりブリキ大王のような戦闘の道具は好まねえ。俺はこれで十分だよ」
ジャファルの問いに、セッツァーはポンポンと枕にしていた本を叩く。
唇を歪めたセッツァーに、ピサロは興味な下げに尋ねた。
「どういう風の吹きまわしだ? あの店主に感謝するなどとは」
「俺だって感謝したい時くらいあるさ。尤も―――――――――」

61龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 13:56:53 ID:k6.8CTsM0
エキゾチックな異国の店。その中で店主はちびちびと酒を煽っていた。
その向かいには3つの杯が、呑むべき相手を待つかのように置かれている。
だが、その酒が飲み干されることが永遠に無いことを店主は知っていた。
「よりにもよって、二重誓約を仕掛けられるなんてねえ……メイメイさんもしてやられちゃったわ、ホント」
今さら、其れについて猛ろうと思えるほど彼女は若くはなかった。
それが人の選択である以上、避けられぬ離別も逆らえぬ命運もある。彼女は幾度となくそれを見てきたのだ。
「哀れメイメイさん、籠の中の鳥……誓約の鎖に縛られたかわいそうなオ・ン・ナ」
今の彼女の仮主は人の自然に在る命運さえも捻じ曲げようとしている。それは運命の埒外、彼女としても承服は出来ない。
しかし、この牢獄に繋がれた以上、セッツァー達のように許可証でもない限り入ることも出来ない。
「にしても、あのギャンブラーさん。やっぱり目聡いわね。真逆、アレを持っていくなんて」
彼らが退出しようとしたあの瞬間を、店主は眼を閉じて想起した。

――――――――――――――――悪いが、やっぱ要らねえわコレ。

それは、振った賽の目が全て役を成す悪魔のサイコロ。それをセッツァーはカラコロと地面に投げ捨てた。

――――――――――――――――アンタ言ったな? 1等は俺にとって役に立つ物だって。
                だったら……それは俺が選んでこそだと思わないか?

そう言って店主を見つめるセッツァーの眼は、およそ運命と呼ばれるものを生業にする全ての職業を否定する光を放っていた。
その眼光を携えたまま、カツカツと店主の横を通り過ぎて本棚に立つ。

――――――――――――――――俺は、これにする。この店で唯一、明らかにインテリアから浮いているこの本をな。

セッツァーが手に取ったものを見て、店主は驚愕した。その、錠前のついた本に。

「アレは私の店のものじゃない。アレがあることを私は知らなかった。
 ということは、オル様がここに置いてたってことだから―――――出したら不味いんじゃないの?」
ここは鳥籠、扉が開かぬ限り入れぬ封印。ならばそこにある書物もまた、封印されてしかるべきものなのだだろう。
だが、しばし考えて店主はまあ、良いかと酒を飲み直すことにした。
「これでオル様の企みが崩れるならそれまでだしぃ? ひょっとしたら持ってかれること計算済みかもだしぃ?
 メイメイさん、悪くありませ―ん。無実無罪でーす。にゃははははは」
少なくとも今はまだ鳥籠の中で待つしかない。来ないかもしれない時を待つために。
それがあの闇の中で輝く者達の導としてか、憎悪の闇の尖兵としてかは分からないが。

62龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 14:01:13 ID:k6.8CTsM0
だが、世の中は酔夢ほど緩やかではない。
店主の後ろの本棚にある本の一冊が光り輝く。
その光に気付き、店主は気だるそうに本を手に取って開く。そしてその眠たげな眼を全開にした。
「夜族、高貴なる血……賢帝の破片にクラウスヴァイン、感応石……これって、首輪の?」
猛烈な勢いで書き変わる文章、そこに書き込まれていくのは首輪のことやこの世界に関する推察であった。
「にゃ、にゃにぃぃ〜〜〜!! 嘘、何でこんな場所に? よりにもよって? オル様の差し金? っていうか、不味い!」
店主は椅子を蹴飛ばしてセッツァー達が出て行った紋章へ手を伸ばす。
ここにコレがあった所で、あの島で戦う者達の役に立つことはない。何としても彼らの世界へ送り届けねばならない。

「何とか本だけでも送り届けないと…! 四界天輪、陰陽対極、龍命祈願、自在解門ッ!!
 心の巡りよ……希いを望む者たちに、導きの書を送り届けたまえ! 魔成る王命に於いて、疾く、為したまえ!」

剣指を刻み、呪文を唱えて店主は紋章に向けて力を送る。
だが、紋章はうんともすんとも言わず、本はいつまでも店の中にあった。
「え、なんで。幾らなんでもそれくらいのことは―――――――あ」
店主がその正解に気付いた時、酒で紅いはずの顔が真っ青になった。

―――――――ああ、機会が“あったら”な。

「ま、まさか……」

その脳裏に浮かんだのは、あのギャンブラーの最後の笑みだった。

「にゃ、にゃんとォォォォォォォォ―――――――――――ッ!!」


A−7の海岸。いち早く日の光を燦然と浴びて輝く海に、どこかの店主の慟哭が響いた気がした。
だが、それを聞くものなど誰もおらず。ただ“かつて船だった板”と既に薄い煙となった灰が残るだけ。

最早、座礁船と呼ばれたものは何処にもなかった。

63龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 14:01:53 ID:k6.8CTsM0
「―――――――――尤も、もう逢うこともないだろうがな」

そう言って、座礁船を焼き海の藻屑へと還した張本人が獰猛な笑みを浮かべた。
彼らはあの店を出た後、即座に紋章の周囲を重点的に破壊し、更に酒蔵の残った酒を全て船に撒き、火術で焼き払ったのだ。
正確に言えば、火を付けた時点で彼らは対アシュレー戦に向けて行動を開始した。
燃え尽きるまで待っている理由も無かった。彼らの目的は、あの入口を完膚なきまでに破壊し尽くすことだったのだから。
「万が一、あのカード以外に入る術があって、俺達のようにアイテム渡されたら堪ったもんじゃねえしな」
入口をなくせばいい。
セッツァーが取った方法は至極明快だった。それに、この方法ならばあの店主を閉じ込める効果もあるだろう。
あの店主がオディオに忠誠を誓っているか、はたまた虎視眈々と裏切りの機会を待っているか。
どちらに転んでもセッツァーに利する要素は何もない。ならば、永遠に客の来ない店番をして貰うのが最良だ。
「そう言えば、何故お前はあの女を毛嫌いする? 特に拘るようにも見えぬが」
「そりゃぁ、決まってる」
横を歩くピサロの何気ない問いに、セッツァーはさも当然のように答えた。

「自分で歩く路を決める俺<ギャンブラー>と、ここを進めと言うだけ言って自分で歩かない占い屋――――――――――相入れる訳がないのさ」

そう言い終わったセッツァー達の眼の前から木々が無くなる。
そこに広がるのはだだっ広いクレーターだった。そしてその遥か遠くで、魔法の煌めく光が陽光を超えて目に刺さる。

肌を刺す光、雨上がりにぬかるんだ熱が今日も暑くなると告げている。
セッツァーの口が歪む。魔王達の思わぬ奇襲によって、ジョウイがセッツァー達に伝えた計画は破綻したとみていい。
ここからは、恐らく最後になるだろうこの乱戦をどれだけ活かせるかが勝敗を握ることになる。

趨勢を決する大勝負。だからこそ、最後の作法だけは弁えよう。
汗にぬかるんだ掌を握り締める。慌ててカードを落とすなんて莫迦だけはゴメンだ。
そう言い聞かせるように、セッツァーは枕にしていた本をしっかりと握りしめた。
それは日記のようなものだった。古臭くはなく、かといって新しいものではなく。長年使ってきた日記という印象を受ける。
だが、それよりも眼を引くのが、巨大な錠前だった。
ピサロの魔力でも、物理的な解錠でも開かぬ錠前がこの日記のような本の中身を守り続けている。

唯分かるのは、表紙に書かれた、恐らくこの本の執筆者であろう名前――――――『Irving Vold Valeria』。
「さあ、俺達もカードを伏せるぜ。降りる奴なんていやしねえ。最高の、最高の賭けになりそうだ」

永遠に開かれること無い日記を手に掲げながら、セッツァーは高らかに謳う。ギャンブラーとして、1人の男として。
ああ、これだ。胸の動悸を確かめ、セッツァーは漸く自分の興奮を自覚する。
ありとあらゆる準備を整え、考え得る可能性を絞り出し、それでも殺し尽くせぬ死神の不運。
それにこそ立ち向かい、凌駕してこそ―――――――――彼が挑むべき最高のギャンブルとなるのだ。




「さあ、宣言しなオディオ! 『No more Bet―――――――――――It's a showdown』ッ!!」





日の出と共に、王の宣言と共に――――――――――これより、最後のゲームが幕を開ける。


今日も暑く、長い日になるだろう。

64龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 14:03:10 ID:k6.8CTsM0
【C-7クレーター北端 二日目 早朝】

【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式×1 メイメイさんの支給品(仮名)×1
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:放送後にヘクトル達に奇襲を仕掛ける。ただしニノの生存が最優先。
3:セッツァー・ピサロと仲間として組む。ジョウイの提案を吟味する?
4:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
5:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。

 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
  メイメイさんのルーレットダーツ2等賞。メイメイさんが見つくろった『ジャファルにとって役に立つ物』。
  あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがジャファルが役に立つと思う物とは限らない。

【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット(サイコロ破損)@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2 拡声器(現実) 回転のこぎり@FF6 フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ ゴゴの首輪
    天使ロティエル@サモンナイト3、壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3 、小さな花の栞@RPGロワ 日記のようなもの@???
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:放送後にヘクトル・ニノをメインに奇襲を仕掛ける。
2:ジャファル・ピサロと仲間として行動。ジョウイの提案を吟味する?
3:ゴゴに警戒。
4:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。
※ジョウイからマリアベル達の現在の状況を知りました。その他の情報については不明です。

 【日記のようなもの@???】
  メイメイさんのルーレットダーツ1等賞のイカサマのダイスを放棄してセッツァ―が手にした『俺にとって役に立つ物』。
  メイメイさんの店にあった、場違いな書物。装丁から日記と思われる。
  専用の『鍵』がないと開かないらしい。著者名は『Irving Vold Valeria』。

65龍の棲家に酒臭い日記 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 14:03:40 ID:k6.8CTsM0
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、心を落ち着かせたため魔力微回復、ミナデインの光に激しい怒り
    ロザリーへの愛(人間に対する憎悪、自身に対する激しい苛立ち、絶望感は消えたわけではありません)
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WA2、クレストグラフ(ニノと合わせて5枚。おまかせ)@WA2
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実  点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石)、
    天罰の杖@DQ4、小さな花の栞×数個@RPGロワ メイメイさんの支給品(仮名)×1 
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:放送後にゴゴ・ヘクトル達をメインに奇襲を仕掛ける。
2:セッツァー・ジャファルと一時的に協力する。
3:ニノという人間の排除は、状況により判断する
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:確定しているクレストグラフの魔法は、下記の4種です。
 ヴォルテック、クイック、ゼーバー(ニノ所持)、ハイ・ヴォルテック(同左)。

 【メイメイさんの支給品(仮名)×1】
  メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
  あくまでもメイメイさんのチョイスであるため、それがピサロが役に立つと思う物とは限らない。


*座礁船の秘密の扉の先に、メイメイさんの店@サモンナイト3がありました。
 中にメイメイさんがいましたが、店共々どのような役目を持っているのかは不明。
 メイメイさんの目的は不明ですが、魔王オディオの『護衛獣』であるらしくオディオに逆らうことはできないようです。
 その中に、マリアベルの知識が書き込まれた1冊の本があります。

*座礁船が燃え尽きました。紋章も燃える前に完全に破壊されており、そこからメイメイさんの店に出入りすることは不可能です。

66 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/20(土) 14:04:15 ID:k6.8CTsM0
投下終了です。今回は皆様の意見を頂戴出来たこと、ありがとうございました。

67SAVEDATA No.774:2011/08/20(土) 17:44:01 ID:RW9k3t9g0
投下乙です

軽妙なやりとりが楽しいですね
ここ最近、緊張感のある展開が続いていた中、良い息抜きになりました。

メイメイさんが今後どう関わってくるのか、あるいは関わってこないのか、
マリアベルの遺品が誰かの手に渡ることはあるのか、
ゲームのフィールドに手下を配置したオディオの意図、
3人が手にしたアイテムが何か、
今後の展開に大きく影響する要素が多数登場し、今後が一層楽しみです。



以下、誤字や修正の提案です。
>>51
「有ってるが意味がねえじゃねえか!」
→「合ってるが〜

>>52
だからこそピサロはむしろこの龍が何を見て、何を考えているのかにこそ興味を持った。
→龍であることは伏せられていますので、修正が必要だと思います。

>>54
シルバーカード、メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。
→シルバーカード。、メンバーズカードと〜 の方が意図に近い表現になると思います。

68SAVEDATA No.774:2011/08/22(月) 00:01:25 ID:frK6xzww0
投下乙です

セッツァーがどんどんカッコよくなっていきますな……w
このアイテムがどんな切り札になるか、これも終盤なだけにどんなすごいアイテムが出るのやら
アーヴィングの日記はWA2ファン垂涎のアイテム間違いなし
魔鍵ランドルフでしか開かないはずのこの日記にどんなことが記されているのか、想像するだけで脳汁が出まくるわ
どっちにしろ、この戦いが最後の山場になるのかな?

69 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/22(月) 22:27:38 ID:pBbNVYuE0
>>67

ご指摘ありがとうございます。
>>51
誤:「有ってるが意味がねえじゃねえか!」
正:「合ってるが意味がねえじゃねえか!」

>>52
誤:だからこそピサロはむしろこの龍が何を見て、何を考えているのかにこそ興味を持った。
正:だからこそピサロはむしろこの女が何を見て、何を考えているのかにこそ興味を持った。

>>54
誤:シルバーシルバーカード、メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。
正:シルバーシルバーカード。メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。

と修正します。

70SAVEDATA No.774:2011/08/23(火) 12:04:03 ID:kBKghiIk0
投下お疲れ様です
ルーレットと扇の連動や、WA2最大の謎の一つの日記など、RPGロワ住人にとってにやりとできる要素満載の話でした
シルバーカード(修正ミスってますが)の使い方にはその手があったかとすごい感心しました
しかし最後のセッツァーのセリフがほんとに最終決戦到来を実感させるなー
これ以上上乗せできる札はなし。後は、全てをかけて闘うのみ!

71SAVEDATA No.774:2011/08/23(火) 20:42:11 ID:NZWF9QWA0
どうなるかと思ったけど、生存者全員揃っての決戦になったか
3つ巴になると、人間関係が絡みあって戦局が読みにくいだろうな

セッツァーやジョウイは正面衝突になったら
他のマーダーに敵わないだろうから
どう立ちまわるのか見ものだな

72 ◆wqJoVoH16Y:2011/08/24(水) 19:17:22 ID:WN2FpMuw0
指摘ありがとうございます。修正の修正です。

>>54
誤:シルバーカード、メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。
正:シルバーカード。メンバーズカードと同様ジャファルの世界の符牒。その意味は商品価格の半額である。

本当に恥ずかしい…すいませんでした。

73SAVEDATA No.774:2011/08/24(水) 22:09:51 ID:kAkS8FDE0
遅くなったけど投下乙!
セッツァーかっこえぇえぇぇぇぇえぇ!
セリフ回しといい駆け引きの上手さといい、素敵過ぎる。
こんなにカリスマ性があるキャラになるとは思わなかったぜ。
メイメイさん、アーヴィングの日記、マリアベルの本といった、
トリックスターとなり得る要素が散りばめられていて、今後がますます楽しみだ。

74 ◆wqJoVoH16Y:2011/09/19(月) 04:06:02 ID:d.0iTSfg0
拙作「龍の棲家に酒臭い日記」において
ピサロの状態表をwikiで修正しました。
(アシュレーの遺体の周辺のアイテムを回収していたのに
 バヨネットを入れ忘れていたので、それをピサロに保有させました)

1月近く見逃しており、申し訳ありません。

75第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:18:12 ID:VxJ5WXK60
それでは本投下を開始します

76第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:20:06 ID:VxJ5WXK60
ロマリア空中城。
それはかつてロマリア王ガイデルが居城としていた名前の通りの空に浮かぶ城であった。
愚王の引き起こした"大災害"と呼ばれる世界の崩壊に際してさえ、かの城は天空にて威容を誇り続けた。
噴火によりどれだけ街が焼き払われようとも。
地割れによりどれだけ大地が引き裂かれようとも。
大津波によってどれだけ人の命が呑み込まれようとも。
大空に座すロマリア空中城を揺るがすことはなかった。
自分一人だけ安全な場所にいて、多くの命を弄んだガイデルにはまさしくお似合いの居城だったろう。

そのガイデルはもういない。
一時は世界を掌中に治めかけた身の程知らずの王は、自らが復活させた闇黒の支配者に用済みとされ消し飛ばされた。
そして、闇黒の支配者もまた、勇者アークと聖母ククルの命を賭けた封印により、新たな聖柩へと葬り去られた。
かくて主人を失った空中城は、哀れ、地に堕ち、天より降り注ぐ涙雨により生じた湖底で眠りに着くこととなる……はずだった。

そうはならなかった。
二度にわたり主を失ったはずの天空城は、三度、主を得て新たな姿で蘇った。
ロマリア王、人間の王に続く三人目の主人が冠せし称号は、魔王。
言うまでもない、魔王オディオこそが、今の空中城の主であった。

何もオディオはガイデルのように、城にある聖柩に封印された闇黒の支配者の力を求めていたわけではない。
どころか、新たな聖柩代わりの勇者の剣だけは、元の世界に残して来た。
オディオの手にかかれば封印を解くことは叶わずとも、封印の剣に干渉し呼び寄せることはできただろう。
それを欲深き人間に支給すれば、いつかは封印が解かれることも目に見えていた。
しかしながら、オディオは知っていた。
自らが手をくださずとも、後の世に闇黒の支配者が復活することを。
なればこそ、広くアーク達の後の世に、人間達の愚かさを知らしめるためにも剣は置いてきたほうがいい。
首輪に暗黒の支配者の力を用いはしたが、あれはあくまで敗者の力にて勝者達の命を握ることにこそ意味があったに過ぎないのだ。

オディオが欲したのは単に、空中城そのものだった。
空中城の機能は、殺し合いを運営するにおいてこれ以上なく都合のいいものだった。
現在、この殺し合いに幕を引き得る戦いを見届けんとC-7直上に移動させたように、何処へも空中城は移動できる。
また、空高く聳えるというその性質から、人間達の殺し合いに巻き込まれることも、余波を受けることもほぼ皆無だ。
人間に希望を抱き、反抗を企てる者達に、不用意に発見される可能性も殆ど無い。
フェイクとして、不自然な地下施設を、幾つも用意したのも、全ては空より注意を逸らすためだ。
無論、時として強大な力や、運命の女神の気まぐれにより、空中城が攻撃や視線に晒されることもあるだろう。
だが、そんな僅かな希望さえも、オディオという存在がこの城に君臨する限り起こりようがない。
時空を操る魔王は、空中城の位相をずらし、通常空間とは少しだけずれた世界へと潜伏させているのだ。
ただ、あまりにもずらし過ぎると、感応石による送受信に不備が発生するため、ずらしている位相はほんの僅かだが。
外界からの影響と外界への影響を遮断するにはそれで十分だった。
空中城は文字通り見ることも触れることもできないステルス性を得て生まれ変わったのだ。

77第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:20:41 ID:VxJ5WXK60
ああ、けれども。
いかに外からは見ることも触れることもできない城であっても。
その“雷”の輝きから主を護ることは不可能だった。
“破壊”ならぬ“いのり”から、主を護ることは不可能だった。
あらゆる災厄から逃れたいという臆病な願いから生み出された城は。
皮肉にも、天空にあったが故に、主を誰よりも間近に“雷”へと晒してしまった。

“雷”が、オディオを貫く。

所詮それは、イメージにしか過ぎない。
空間をずらしている以上、どれだけオディオが“雷”に貫かれたように見えても、実際は紙一重さえ触れてはいない。
オディオも、空中城も、“雷”に貫かれる前と何一つ変わることなく、そこにあり続けた。
表面上は。表面上、だけは。

「……それが、君の答えか。“勇者”ユーリル」

“雷”は、届いていた。
“雷”そのものは届かざるとも、その輝きは、確かにオディオの瞳に焼き付いていた。

オディオの瞳、昏く淀んでいた瞳に、一瞬だけ、否、一瞬でも確かに、光が宿る。

「“誰か”ではなく、“人”も“魔”も、“誰も”を“救う”。
 “敗者”でも“勝者”でもなく、ただ“救う”者。
 それが君にとっての“勇者”か」

“勇者”の命の答えを、拒むでもなく、羨むでもなく、憎むでもなく。
“魔王”たるはずのオディオが純然と受け入れていた。
懐かしい記憶を呼び起こすその輝きを、美しいとさえ感じていた。

「認めよう、君の出した答えを。君が掲げた“いのり”を」

それはオディオがユーリルに望んでいた答えとは程遠いものであれども。
あるはずのない、受け入れていいはずのない“救い”を、自身の模造にとはいえもたらしたものではあれども。

それでも、それでもオディオは肯定した。
心から、“勇者”ユーリルの在り方も、また一つの在り方だったと肯定した。


何故ならば、何故ならば。


“勇者”ユーリルも今や“敗者”だからだ。
“いのり”を成就させることなく、オディオを救えずに死んでいった“敗者”だからだ。

78第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:21:18 ID:VxJ5WXK60
故にこそ、オディオはユーリルの“いのり”を受け入れた。
敗者の王として、“敗者”の言葉を受け入れた。

敗者はかえりみられなければならない。

オディオは思い出す、“勇者”ユーリルの“雷”の輝きを目にし、連想した、二人の人間を。
この殺し合いよりもずっとずっと昔の、オディオがまだオルステッドだった頃に看取った二人の敗者を。

“勇者”ハッシュ。
“僧侶”ウラヌス。
人間の愚かさを十分に知りながらも、それでも、最後まで人間を信じようとした存在。
信じて、信じて、信じて、信じようとして、信じたかったのに、利用され、裏切られ、朽ちた者達。
今でも、彼らのことは覚えている。
強く、強く、この胸に刻んでいる。
殺し合いの始まりを告げた場にて、オディオに攻撃してきたわけでもない“僧侶”クリフトを殺したのも、感傷故ではないとは言い切れない程に。

「あなた達は、正しかった……」

ハッシュ達が痛感したように、人間は余りにも弱い。
信じるものに縋らなければ、人は誰かを護ることはできない。
そして、信じて尚、誰も“救えなかった”ならば。
信じて尚、裏切られたならば。
人はその時、“魔王”となる。
果てしない“憎しみ”のままに、満たされることなく、自分さえ救えぬ者となる。
そのあり方はまさに、ユーリルが説いた、“救う”者たる“勇者”の対たる存在そのものではないか。
そして、ハッシュやウラヌス、ユーリルを肯定したように。

「お前達もまた、間違ってはいなかった……」

最後まで仲間を信じ抜いた“最たる勝者だった”男達のことも。
愛ゆえに誰かを勝者にしようとし手を汚した女達のことも。
人間に幻想を抱き続けた人ならぬ者達のことも。
欲望のままに生き、再び敗れ去った敗者達のことも。

自身が掲げる“いのり”のままに、魔王オディオは全ての“敗者”を肯定する。

お前たちは間違っていなかったのだと。
この世に間違いがあるとすれば、それはお前たち敗者をかえりみない者達――即ち人間なのだと。

さあ、此度も刻みつけよう、お前達、敗者の存在を。
己の勝利に酔いしれ、時には他者の勝利さえ我がものとし、果てしなく欲望を抱いていく人間達に!





79第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:23:05 ID:VxJ5WXK60



「……時間だ」

手にした感応石に思念を込める。
小ぶりな感応石は、空中城に安置した巨大感応石に共鳴。
更に遺跡ダンジョン地下71階へと設置された、もう一つの巨大感応石と連動。
島中へと、オディオの声を拡散させていく。

「諸君達の中には、放送どころではない者もいよう。
 既に誰が死に、誰が生き残っているかを正確に認識している者もいよう」

そして島中の全ての者へと声を至らせられるということは、転じて島中の全てを見聞きできるということだ。
こうして放送を手がけている間にも、玉座の間に幾枚も設置された大鏡に、生き残った者達の姿が転写されている。
闇の王が哀れなガイデルに声を届けるために使っていた媒介を模した大鏡が、今はオディオに、参加者たちの声と姿を届けていた。

だからこそ、オディオとて理解している。
この放送の半分以上は、意味を成さないものだということを。

カエル達の襲撃に始まったこの島最後やも知れぬ大戦。
剣を手にし、魔法を唱えながら駆け抜ける者達には、放送どころではない者もいるであろう。
或いはもはや、放送など、聞くまでもなく、此度の死者を把握している者さえもいる。
それでも

「されど心して耳にせよ」

オディオは言う、心して、耳にせよ、と。

「禁止エリアの発表からだ。
 7:00よりD-6、D-7
 9:00よりD-5、A-8 
 11:00よりB-8、F-7
 ここまでだ」

それは彼ら“勝者”達の命を縛る禁止エリアについてのことか。
違う、言うまでもない。
禁止エリアなど、所詮はオディオにとっておまけに過ぎない。
そのようなもので追い詰めずとも、愚かな人間達は己が欲望の為に殺し合ったはずだ。
人間達の遭遇率を高める為だというのなら、初めからもっと小さな島で殺し合いを開催すればよかった。

禁止エリアを設定した真の目的は一つ。
驕れる勝者達に、否が応でも放送を聞かせ、敗者たちの存在を知らしめるためだ。

「続いて此度の死者達の名だ。
 アシュレー・ウィンチェスター。
 ユーリル。
 マリアベル・アーミティッジ。
 ――彼ら三名が新たなる敗者だ」

勝者達は敗者たちの存在を思い知らされることで、人が、己が、欲望のままに他人を殺す存在だと知らしめる。

80第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:23:35 ID:VxJ5WXK60

「彼らの名を聞き、たったの三人だけかと思った者はおらぬだろう。
 その一人一人が、大きな意味を持つ者達であったことを、諸君達は知っていよう。
 それでいい。
 敗者はかえりみられなければならない。
 彼らはお前達の成り得た姿だ。
 そして明日の姿でもあり得る。
 お前達勝者とて、彼ら敗者同様、自らの欲望のままに、感情のままに生きているに過ぎない!
 お前達と彼らとの違いはただ一つ!
 お前達が勝ち、彼らが敗れた、それだけだ!」

同時に、自分が殺した者達を、誰かに殺された者達をかえりみさせる。
それこそが、放送の意味!

「なればこそ、勝者達よ!
 敗者たることを否定せし者達よ!
 勝者たり続けて見せろ。最後の勝者になって見せよ。
 自らの願いこそ、あらゆる敗者達を押しのけてでも叶えるにたるものだと証明してみせよ!」

そして真なる勝者たらんとしている者達が感知した2つの存在――“ラヴォス”と“メイメイ”。
彼女達もまた、死者をかえりみる為にオディオが呼び寄せたのだ。

ラヴォス。
この島の遥か地下、背塔螺旋の伸び行く先に、泥のガーディアンの代わりとばかりに星の核に根を下ろさせし存在。
かのものは、正確に言うならば、ラヴォスであってラヴォスでない。
ラヴォスと呼ばれクロノ達と対峙した鉱物生命体は、いずれ時の復讐者に成り得る未来があることから、闇黒の支配者同様、手出し無用と判断。
ならばと自らの力で復讐するには足りないラヴォスの幼体――プチラヴォス、プチラヴォスR達の怨霊を召喚。
クロノ達に敗れ去ったかの者達の憎しみを核に、新たな成体のラヴォスとして束ね、新生させたのだ。
無論、この新たなるラヴォスは、生まれたてが故に、クロノ達が戦った個体に比べて、数段階弱い。
ラヴォスの最大の特徴たる星への寄生及び、生物の遺伝子を収集しての進化を未経験なのだから、仕方がない話だ。
しかし、その欠点すらも、オディオからすれば喜ばしいことだった。
何故ならば、白紙の存在であるが故に、この新たなるラヴォスは、純粋にこの島での殺し合いの記憶のみを刻んだ存在へと進化させられるからだ。
そう、オディオがラヴォスに望んだのは、かの者が持ちし、あらゆる生命を記憶するというその性質。
加えて、魔王ジャキの姉サラを取り込み、夢喰いへと進化することで見せた、負の感情との融合という新たな可能性。
それらに目をつけたオディオは、この殺し合いが始まって以来のありとあらゆる記憶をラヴォスに喰らわせた。
星を喰らわせるでもなく、夢を喰らわせるでもなく、時を喰らわせるでもなく、敗者達の死を喰らわせ続けた。
勝者達が戦えば、戦うほど、彼らの生体データや遺伝子、時間と努力を費やして得た剣技や技、知識や想像力をラヴォスは学んだ。
敗者達が生まれれば生まれるほど、彼らの憎悪や絶望、恨み、悲しみ、怒りに未練や無念といった負の感情をラヴォスは吸収していった。
結果、今や新たなラヴォスは、この殺し合いそのものであり、新たなるオディオと言ってもいい存在へと生まれ変わった。
もしも、オディオを討たんとする者達が現れるなら、その時は、かの者――“死を喰らうもの”が立ち塞がるであろう。
時の復讐者ならぬ、敗者達の復讐者として。

81第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:24:12 ID:VxJ5WXK60
とはいえ、ラヴォスは特性上、あくまでも、この殺し合いや敗者達のことを自らが進化するためのデータ、餌としか見なさない。
それらを喰らい進化したラヴォスを目にし、オディオ自身や、勝者達が、敗者たちをかえりみることはあっても、自らが敗者をかえりみるわけではない。
ラヴォスが糧とするデータ自体も、ラヴォスが必要とするものだけを選りすぐった偏りの激しいものだ。
これでは真に敗者をかえりみてるとは言いがたい。
そこで、ラヴォスと対になる存在、敗者達の能力や負の感情ではなく、想いや願いをかえりみる存在として、オディオはメイメイを招いた。
かの占い師もまた、マリアベル同様、人間に幻想を抱きし人ならざる存在だ。
だがそれ以上に、人間達の心や未来を見抜く力がありながらも、彼女はあくまでも、傍観者として徹する。
たとえその先に待つのが悲劇であっても、メイメイは止めはせず、人々の選択を善悪によらず肯定し、全てを見届けようとする。
そのあり方こそを、オディオはよしとした。
彼女以上に平等に、この殺し合いの行く末を見届けてくれる者はいないだろうと。
敗者の王たるオディオも、この殺し合いを強要した立場である以上、平等性に欠く。
とあるギャンブラー風に言うのなら、オディオはこの殺し合いの元締め、ゲームマスターだ。
皮肉にも、敗者の王は、自らが集めた勝者達に対して圧倒的に、勝利に近い位置にいる。
なればこそ、君臨する王ではなく、オディオをも含めた全ての者達を平等に見届ける存在をこそ、オディオは求めた。
事実、メイメイは、セッツァー達勝者に、敗者をかえりみさせたように、オディオが望んだ以上に、上手くやってくれている。
本人は、何をしているつもりもなく、それどころか、何もできないことを歯がゆく思っているだろうが。
契約で繋がっているオディオは知っている。
一見呑んでは寝てばかりいるメイメイが、その実、自らの力を行使して、この島で起きている全ての出来事を見通していることを。
未来を詠み、今を視る度に、呑む酒の量を増やしていっていることと、その意味を。

「その果てに魔王を討たんとしている者達よ。
 確たる望みもなく、数多の願いを踏みつぶし、私へと至らんとする英雄達よ。
 それもまた良かろう。
 我が手により潰えるか、我が前に現れる前に殺し合いの中で力尽きるか。
 どちらにせよ思い知ることとなるのだからな。
 真の勝者は誰だったのかを!」

ならばこれ以上、オディオにとって必要なものはない。
No more Bet,It's a showdownとはよく言ったものだ。
あの日記に目をつけるだけのことはあるということか。
まあいい。
たとえ首輪を解除した者がいようとも。
これから後に更に現れようとも。
オディオはただ待ち続けるだけだ。
人形を侍らせ、復讐者を共とし、傍観者に見届けられる中、全ての答えが眼前に示されるその時を。





※オディオの居城は墜落したロマリア空中城@アークザラッド2をオディオの力により改修したものです。
 現状では、遺跡ダンジョン地下71階にある感応石と連動する巨大感応石を搭載していることや、
 最深部のガイデルのいた場所がOPENINGでの玉座の間に改修されていることが確定しています。
 他にも、幾つかの変更点、追加点があるかもしれません。お任せします。
 現在は、C-7上空に待機しています。
 オディオの空間操作能力で、触れることも触ることも不可能ですが、メイメイさんの店のように強力に隔離されているわけではありません。

※カエルが察知した存在は、クロノ達に敗れたプチラヴォス達を進化・融合させて生み出された新たなるラヴォス“死を喰らうもの”でした。
 本文中にて、クロノ達が戦った個体よりかは劣ると記述しましたが、それは誕生時点でのことです。
 強者達の戦いの記憶と遺伝子を収集し、敗者達の憎悪をはじめとした負の感情を吸収した今、かなりの力を持つと思われます。
 姿形能力など、細かい点を含め、後々の書き手の方々にお任せします。
 ただし、“死を喰らうもの”は“時を喰らうもの”@クロノ・クロスとは別個体であり、
 オディオが自らやこの殺し合いに関係しない思念が混ざることを望まなかったころもあり、時間と次元を超越する能力は備えておりません。

※メイメイさん@サモンナイト3はあくまでも、傍観者としてオディオは召喚しました。
 オディオは彼女を自身の戦力としては絶対に扱いません。

82第五回放送  ◆iDqvc5TpTI:2011/09/20(火) 20:27:28 ID:VxJ5WXK60
以上で、放送の投下を終了します

83SAVEDATA No.774:2011/09/20(火) 22:09:14 ID:LOx3aAQQ0
乙でした

あれがロマリア空中城だったと思うと
OPENINGもまた違って見えてくるなー
感慨深い

84SAVEDATA No.774:2011/09/23(金) 01:41:38 ID:OfHikMiU0
投下乙です

オディオも色々と凝ってるなあ…
そうか、未来の事を考えたらそういう風に動くか

85SAVEDATA No.774:2011/09/24(土) 15:04:19 ID:FKp.UFyQ0
一応こちらでもご報告を
本日0:00をもって予約が解禁されました
また、元の本スレ10において、参戦作ごとのRPGロワ振り返りが企画され中です
興味のある方はぜひ

86SAVEDATA No.774:2011/10/30(日) 15:57:02 ID:0TNSfWnE0
予約来たぞw

87 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:06:42 ID:dlqrrOpU0
投下します

88世界最期の陽 1 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:08:11 ID:dlqrrOpU0
 お前では充ち過ぎている。彼では、届かない。君では嵌まらない。それでも?
<You are not agreement. ―――――――――――――――Notwithstanding?>



陽光降り注ぐ森の中、その滑り気のある表皮を“てからせ”ながら、カエルはその内の1本に寄りかかっていた。
心臓のあたりを鷲掴みにしながら、苦しそうな呼吸を漏らす。その滑りの半分は紅かった。無論、自分の血ではない。
ぜいぜいと荒く吐かれる息は、森の清涼な空気を以てしてもそう収まるものではない。
(……近い、3人!!)
何かを察した瞬間に、カエルは息を飲み込んで舌を大きく突き出し、別の樹の枝に巻きつけて一気に飛び上がる。
目を閉じてまったく何も見ていなかったはずのカエルの挙動は、それ故に最速だった。
そしてその瞬間、今の今まで寄りかかっていた樹に衝撃が走り、くの字にへし折れていく。
「ウォータガ!」
紅く輝く剣を杖のようにして折れた樹の方に向けると、大量の水がそこに降り注いだ。
避けられたことを認『識』。だが、牽制にはなった。再捕捉しての攻撃には数十秒は要するだろう。

すぐさま樹を降りて、緑の中に緑を隠すカエルは一連の動作において敵を見ていなかった。
呼吸を整えながら、剣に意識を集中するカエル。その閉じた瞼には、線で繋がる淡い光が写っていた。
キルスレスによる共界線干渉の応用――――生体の首輪探知によって周囲の参加者の位置を把握する。
戦闘中に剣に向けられる集中量では距離、精度は完全探査時と比べるべくもないが、
それこそが、多数の敵を一人で相手取るカエルの生命線だった。

だくんだくんだくんと脈打つ血ならぬ血液の音を聞きながら、カエルは回復魔法を自分に重ねがけする。
視界・行動ともに障害物の多い森は、多人数である敵に不利であり、視界がなくとも位置を認識できるこちらに利がある。
逆にこの場所でなければ、放送が終わる前に勝敗は決していたであろう。
(動揺は少ないか。すべて知っていた人間だったようだな)
放送後も、カエルに対する攻勢は衰えることはなかった。だが、同時に攻勢が強まることもなかった。
カエルは放送を大雑把にしか聴いていない。精々、マリアベルの死が保障され、
あのウォータガを消す厄介な技を恐れなくてすむという安堵だけだ。
劣勢側であるカエルはそんなことよりも、敵を排除することに集中しなければならない。
「新手が増えたか」
真紅の鼓動と回復魔法の相乗効果で無理矢理体調を“抉じ開けた”カエルは、すくと立ち上がった。
剣に伝わりて感じる、新たなる人間の感情がカエルの心をざわめかせる。

「“とりあえず、上手く行った”というべきか。後は、魔王の手腕を信じるとしよう」

89世界最期の陽 2 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:09:36 ID:dlqrrOpU0
カエルはそういって獰猛な笑みを浮かべながら髭を撫でた。
これで良しと、油断はなく、されど喜色を滲ませながら。
カエルの仕事は、この『おばけかえるの森』に迷い込んだ連中を閉ざすことだ。
正確に確かめる暇はないが、あの重ね方だと恐らく南側は完全に閉ざされ、ここも直に潰されるだろう。
だが、いざとなれば魔王がカエルを転移させる段取りになっている以上、禁止エリアは恐れるに足りない。

「もっとも、ここで仕留められれば何も問題はないわけだがな」

笑んだカエルの瞳が赤に輝く。その色は、よくよく見知った色だった。
もう逃がさない。ここには蛇はいない。後は蛙の舌に巻かれて呑まれるだけだ。

―――――――殺せ憎ィ死ネ不要焔廃棄ね痛メ病め苦死穢レ災厄焼かレ不合膿マ英雄怨嗟怨混不適悪憎不格
―――――――自らの願いこそ、あらゆる敗者達を押しのけてでも叶えるにたるものだと証明してみせよ!

僅かに記憶に残った、放送の最後を思い出してカエルは笑い続けた。
そして、跳躍する。その手に紅き剣を煌かせながら。
皆まで言うなオディオ。無粋を重ねずとも了解しているさ。

「証明するまでもない。我が剣にかけて、全てを殺し、我が願いを真としよう!」

そうして、この先何がどうなろうが決して崩れぬだろう誓いを胸に、カエルは躍り出た。
緒戦は成功。これより、こちらの戦いも本番となる。



【C-7とD-7の境界(D-7側)二日目 朝】

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:『覚悟の証』である刺傷。 ダメージ(小)疲労(小)自動回復中 『書き込まれた』憎悪
[装備]:紅の暴君@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う
1:魔王がC7側を制圧するまで、敵勢力を引き付ける
2:魔王と共に全参加者の殺害。特に仲間優先。最後に魔王と決着をつける
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
[備考]
※イミテーションオディオの膨大な憎悪が感応石を経由して『送信』された影響で、キルスレスの能力が更に解放されました。
 剣の攻撃力と、真紅の鼓動、暴走召喚に加え、感応石との共界線の力で、自動MP回復と首輪探知能力が付与されました。
 感応石の効果範囲が広がり、感応石の周囲でなくとも限定覚醒状態を維持できます。(少なくともC7までの範囲拡大を確認)


[その他備考]
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。

※首輪に使われている封印の魔剣@サモナイ3の中に 源罪の種子@サモサイ3 により集められた 闇黒の支配者@アーク2 の力の残滓が封じられています
 闇黒の支配者本体が封じられているわけではないので、精神干渉してきたり、実体化したりはしません
 基本、首輪の火力を上げるギミックと思っていただければ大丈夫です

※首輪を構成する魔剣の破片と感応石の間にネットワーク(=共界線)が形成されていることを確認しました。
 闇黒の支配者の残滓や原罪によって汚染されたか、そもそも最初から汚染しているかは不明。
 憎悪の精神などが感応石に集められ、感応石から遥か地下へ伸びる共界線に送信されているようです。

90世界最期の陽 2 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:10:36 ID:dlqrrOpU0
勇者の雷によって荒野と化したC7。虫一匹一木一草、命の欠片も残っていない場所に小鳥が囀る。
「うそ、マリアベル。なんで、なんで!?」
駆けながら叫ぶニノの表情の蒼さは、走り疲れたからではない。
放送によって伝えられる、つい先ほどまで生きていたものの死。
そしてなにより、この殺し合いの中で様々なことを教え導いてくれた人の死。
バトルロワイアルという闇の中、彷徨えるニノの足元を照らしてくれた月明かりだったのだ。
そして、その月は砕けた。心のどこかで、ずっと照らし続けてくれるものだと思っていた灯りが途絶えた。
それが、彼女にとってどれほどの意味を持つかは想像に難くない。
何故、何故殺しあうのか。誰も彼もが救われてなお命は零れ落ちるのか。
「落ち着け、ニノ! 前を見ろッ!!」
狼狽するニノを抱きかかえてヘクトルが大きく跳ぶと同時に、爆炎が広がった。
赤く煌く焔と煙の向こうに、幽鬼の如く静かに立つ影が浮かぶ。
「……ダークボム」
幽鬼の声とともに更なる闇の力が爆ぜて、炎もろともヘクトルたちを更に後方へと押し飛ばす。
煙火が晴れ、幽鬼の姿が露になる。魔の鍵を周囲に浮かべながら佇むは魔の王。彼らを冥府に送り届ける者。
「あいつは……爆炎ではぐれちまったか……クソッ! ここは俺がッ!!」
魔王はどうにも放送などお構いなしなのか、只管大規模の術を行使し続けている。
狙いが甘いのか、飛び退く事で何とか避けられているが、
もう一人いたはずの仲間とはぐれてしまった以上、ここは自分が魔王を制するしかない。
だが、突撃しながらもヘクトルは砂を噛むような不快感を消せなかった。
先ほどから、少しずつその不快は増していた。根拠はない。しいて言うなら戦者の直感というべき、経験則か。

『トリスタンを開錠。開け――――――冥府門ッ!!』

魔王が魔鍵を天に“挿し込む”と、扉の隙間から流出するかのごとく紫の邪気がヘクトルへと襲い掛かる。
その直感に助けられたヘクトルは自身が邪気に飲まれるよりも早く、後方へと飛びのいた。
「その技、マリアベルの言っていた…!」
「もとは、お前たちを迎撃する心算だったのだ。まさか、遺跡で無為に過ごしていたとでも思ったか?」
元々南征をするつもりだった彼らは、魔王・カエルの戦力について分析を行っていた。
魔王本来の技については、幾度となく戦ったジョウイがその恐ろしさを語り、その得物についてはそれを善く知るマリアベルが語った。
魔鍵『ランドルフ』。異界の扉に干渉し、そのエネルギーを召還・操作する魔具。
魔王はこれまで鈍器あるいは転移用アーティファクトとしてしか用いていなかったが、本来の使用者達がそうしていたように、攻撃に用いることも可能だ。
そして、遺跡の中でその術式機構を解析していた魔王は遂に本来の使い方を得ていたのだ。
毒・病気・ダウンハーデット・能力封印・眠り。扉を開き、ありとあらゆる悪性エネルギーを召喚して相手を攻撃する技を。

「『ゲートオブイゾルデ』……!」
「ほう……“こちらの方は”そういう名前なのか」

再び開いた距離の狭間でオスティアの候と中世の魔王が相対する。
イゾルデの威力は兎も角、悪性効果は回復手段の欠ける現状では危険すぎる。
ここは距離をとって隙を伺うしかない―――――――――?
「ヘクトル、ごめん……」
「気にすんな。それより、魔王から眼を逸らすなよ。またバカスカ魔法を撃ってくるだろうからな。食らったら一溜まりも……」
「……違う。あの魔法、なんか変だよ。見た目ばかりで、力が感じられない」
呼吸を整えながら、ニノがその違和感の核を穿つ。この島で魔の道に触れ、魔力という概念を認識できるようになったニノはその感性で気づいたのだ。
魔王の術からどんどんと力がなくなっていることに。確かに見た目は上級魔法のそれだが、そこに込められた魔力は多く見積もっても中級にも至っていない。
なるほど、これならば確かにバカスカ撃つことも可能だろう。
「じゃあ、いったい何の為に……ッ!!」
ヘクトルの戦理に、最後のピースが嵌め込まれる。
いかにも上級術と見せかけ、その癖避けやすくしたのは、こちらに上級術を警戒させて引かせるため。
ゲートオブイゾルテを用いてまで接近を避けたのは、前に出られるのを防ぐため。
周囲を見渡す。そこはもう森ではなく、荒れ果てた野。ここまで―――――“押し込まれた”。

「ニノ、禁止エリアはどうなってた!?」
「うえ!? そ、そんなのいきなり言われたって、書く暇無かったしッ!」

91世界最期の陽 4 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:11:19 ID:dlqrrOpU0
突如禁止エリアの位置をヘクトルが尋ねるも、ニノには答える術が無かった。
魔王の張子の猛攻の前ではメモをとる余裕などあるはずもなく、その記憶もマリアベルの死によって霧散した。
もっとも、それはヘクトルも同様だ。そんな隙を見せれば、魔王は容赦なく本命の魔撃を繰り出していただろう。
だが、おぼろげに記憶する禁止エリアの形からして、何か“不味い”ことになりかねない。自分たちが、そして何より、他の仲間たちが。


「――――――――――――――7:00からD-6、D-7。9:00からD-5、A-8。11:00からB-8、F-7だぜ。折角の情報、メモぐらいは取っておきな。ヘクトル」


突如響く、新たなる人間の声に二人は反射的に驚く。
だが、その驚きは直ぐに止んだ。“北側から響いた”その声の主を、二人ともよく知っていたからだ。

「つまるとこ、俺たちみんな纏めて最後のルーレットにブチ込まれたってことだよ。オディオの奴も随分と“粋”なことをしやがる」
「……セッツァー。セッツァー=ギャッビアーニ」

黒のコートと銀の髪を棚引かせながら、一人の男が悠々と歩いてくる。
流離のギャンブラー、セッツァー。ヘクトルと川の畔で出会い、雨の中にヘクトルと別れた男。
この島では珍しい三度の邂逅を果たしたセッツァーは、莫逆の友を抱きしめるかのように気楽に言った。
鍵を滞空させながら攻撃の手を止めた魔王を一瞥した後、セッツァーがヘクトルに視線を向ける。
「手強そうな状況だな。手を貸すぜ?」
「……お前に三度逢ったら何を聞こうか考えてたんだけどよ。敢えてこれを聞くぜ」
「何をだ?」
「『単刀直入に聞く、あんたは殺し合いに乗ってるのか?』」
魔王に意識を向けながらも放たれたヘクトルの問いに、セッツァーは僅かに眉根を寄せた。
忘れるはずも無い。それは始まりの邂逅でヘクトルがセッツァーに問うたことだった。
そして、その問いの結果が、今ある現実の一端を構成している。
「おいおい、いきなり何を言うかと思えば。こちとら、夜を駆けずり回ってジャファルを探しても見つからないから、お前たちの援護に――――」
「手前が船で何をやってたか。ちょこ達に何をしたのかは知ってる。四度は言わない。『単刀直入に聞く、あんたは殺し合いに乗ってるのか?』」
わざとらしく否定するセッツァーを、ヘクトルは胸倉を掴むように問い詰めた。
セッツァーの瞳を真っ直ぐに射抜くその瞳には明確な怒り、そして、僅かに匂う淡い期待が滲んでいる。

「『まさか……冗談じゃない』―――――というに決まってるだろう。そんな屑手をいきなり切る素人相手なら、特にな」

ヘクトルの迷いを断ち切るかのように、酷薄な笑みを浮かべるセッツァー。
その瞬間、西側から高出力のエネルギーが砂煙を巻き上げながらヘクトルめがけて射出される。
「やっぱりかよッ……糞が!!」
射線に垂直に回避し、体を転がしながら立ち上がったその砂塵の向こうには、もう一人の魔王ピサロ。
だが、その手には剣しかない。一体あの光線はどこから……?
頭をぼりぼりとかきながら、僅かに思考した上で放たれたセッツァーの言葉がピサロに向かったヘクトルの意識を引き戻す。
「『やれやれ……あのルーキー、いつの間に逃げたかと思えば、やっぱり舞い戻ってやがったか』」
「ってことは、ジョウイの言ってたことは本当だったのか!?」
「今思ったことの逆が正解だよ、ヘクトル」
「な……!? ど、どっちだって!?」
ジョウイは味方だと思う。セッツァーの言もそれに合致する。だが、今まで嘘を塗り固めてきたセッツァーが嘘をついている可能性もあって。
しかもジョウイは今、森のほうにいるはずで、裏切られたら、でも、味方なら逆に――――
セッツァーの難解な言い回しで頭を“わやくちゃ”にされるヘクトルのザマを見て、セッツァーはにやりと笑った。
ここでジョウイの正体を明らかにするのは容易い。だが、嘘をつき続けてきたセッツァー達の言葉では仲間割れを狙う詐術にも聞こえてしまう。
そうでなくとも『セッツァーに誘われた、でもやっぱり仲間は裏切れない!』とでもジョウイが言ってしまえば今度はセッツァーが道化になる。
仮にジョウイが寝返ったとしても頭数が1増えるだけで、獅子身中の虫を今更引き込むデメリットと釣り合わない。
ここは『ジョウイが敵“かもしれない”』というカードをちらつかせるのが最上だ。現にヘクトルの意識は南に向き―――――絶好の瞬殺点が生まれる。

「―――――――――――――ッ!」

92世界最期の陽 5 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:12:05 ID:dlqrrOpU0
ヘクトルの中に生まれた『不安』の影から、東よりジャファルが影断ちの速度で斬り込む。
ヘクトルが気づいたときには、既にジャファルはその殺害半径にヘクトルを捕らえていた。アルマーズでは防ぎきれない。
「ジャファル!!」
「……クッ―――――どいてくれ」
ヘクトルとジャファルを結ぶ直線状に、ニノが割り込む。ジョウイに対する考えの度合いが、僅かにニノを早く行動させたか。
だが、この好機は逃せない。半歩踏み込み直すことでジャファルは直線からニノを外し、ヘクトルに襲い掛かる。
半歩遅れたとはいえ、ヘクトルの対応は間に合わない。これで――――

「『それは大きなミステイクだがな!!』」
「ちぃっ!!」

晴れた朝に、澄み渡る剣戟音が響く。瞬殺不可能と断じた瞬間にジャファルは後退し、突如現れた妨害者を見やる。
影縫いの一撃を防いだのは、勇者の剣。そしてそれを握るのは、もう一人のギャンブラー。
「まったくな……俺が知ってる『俺』だったらこんなチャチな細工はしねえはずなんだが……
 今の『お前』を真似ようとしたら、こうなるとしか思えなかったぜ? セッツァー」
「物真似。なるほどな、理性で見定めるのはこれが初めてか、三下野郎」
ゴゴ。無数の布を巻きつけた異彩の風貌にして、セッツァーと思わせるその物真似こそが、彼を彼と足らしめる。
物真似師は布に覆われた隙間からチラとピサロの持つ銃剣を見抜き、軽蔑するように言った。
「鉄を纏うだけじゃ飽き足らず、アシュレーの武器まで漁っていたとはな」
「――――あぁ、落し物は拾っておくものさ。そのギル2枚が、億万長者の道につながることもあるんでな」
「そっくりそのまま返すぜ。俺の知ってる『俺』は超一流だが、今のお前は三流に劣る」
「……ゴゴ! 今までどこに」
「すまなかったな、ヘクトル。ちっとばかし大地に物真似させてもらってた。放送は聴かなきゃならんだろ、ん?」
そういって不敵に笑うゴゴが、まるでセッツァー本人としゃべっているかのようでヘクトルは苦笑した。
恐らくはセッツァーがこのタイミングでやってくることを警戒していたのだろう。
魔王の魔法で散り散りになった隙に大地と同化して、身を隠していたのか。
聞けば桜の物真似までできるとは聞いていたが、実際に見るとなんとも不可思議である。

「さて、これでお前の札はこれで出揃ったか? キャプテン」
セッツァーの物真似をしたゴゴがセッツァー、そして周囲に散開する2人を眺める。
「ジャファル……来たよ、わたし。ここまで来た。ジャファルに会いに」
「ニノ……」
ジャファル。四牙の一角にして、ニノに無くてはならないもの。
あの雨で完全に絶たれた二人が、この朝日の中に再び出会った。
「名前は聞いてるぜ、魔族の王。俺の仲間たちが、随分と世話になったみたいだな」
「――――名前か、フン」
ピサロ、そしてヘクトル。
片や不敵に、片や不快そうに、人魔をすべる二人の主が睨み合う。
「大方、魔王達との争いに割り込んで漁夫の利を得ようって腹だろ。禿鷹みたいな真似をするなよ。それは俺の領分だ。
 あんたは鴎だろう! 誰にも縛られず、自由に空を泳ぐ鳥だろう!!
 夢を忘れたのか! あんたが駆るのはあんな鉄の羽じゃない。鷹の白翼だろう。ファルコン・セッツァー、キャプテン・セッツァー!!」
ゴゴが吼える。セッツァーとして、自分が知るセッツァーとして、目の前のセッツァーが知らない、知るべきセッツァーとして。

雨の中で傷ついた者達を集め再興されたマーダーチーム。その全容と彼ら3人が対峙する。

93世界最期の陽 6 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:13:02 ID:dlqrrOpU0
「ふ、クク、ハハハハハハハハハ、ハァーッッハッハハッハ!!!!!」
だが、その中心。セッツァーは大きく笑った。淫らに、侮蔑的に、ありとあらゆる宝石を貶めるように。
「ククク、そうか、そうかよ……ただの三下ならまだ可愛がりもできたが―――――――暴きやがったかよ、ダリルの夢を」
それは逆鱗だった。セッツァーにとって侵されてはならない聖域だった。
経緯はわからない。だが、こいつは確実にファルコン号のことを知っている。
友との誓いにして、勝ち残ったセッツァーが掴み取るべき夢を、目の前の物真似師は穢したのだ。
「違う! お前は何か勘違いを―――――――」
「勘違いしてるのは手前ェだよ、墓暴き<グレイブローバー>。お前の騙る俺は、まァったく以って話にならねえ。
 漁夫の利を狙う? 莫迦が。“ここは最初っからお前たちの狩場だよ”
 あえてもう一度聞くぜ。『手強そうな状況だな。手を貸すぜ』―――――なぁ、魔王サマよ!!」

セッツァーの怒りを孕んだ裂帛の声は、3人を通り越す。
彼ら三人が向いたその声の向け先の魔王はセッツァーの言葉を否定しなかった。


―――――・―――――・―――――


「動いた。C7からC8側へ3人移動だ」
キルスレスを地面に突き刺し、意識を集中するカエルがそう呟いた。
C7へランドルフの力で転移した魔王とカエルは、今一度参加者の探査を行ったのだ。
「好機だな。あの近くには川があったはずだ。利用すれば巻き込むは容易いだろう」
魔王はマントを翻し、進撃を始めようとする。寡兵であるこちらは、この機を逃せない。
「待て、魔王。これは……B7に3人。動かずにいる奴等がいる」
魔王を制したカエルが認識したのは、新たなる首輪の存在だった。遺跡よりも北に来たことで、認識できる半径も北上したのだった。
「アシュレーとやらか? 否。ならば態々B7で足を止める必要が無い」
オディオが導いたあの夢の中で、魔王はアキラとアシュレーという人間がまだ出会っていない仲間たちであると知った。
この3人の存在は、アシュレーを含めたチームだろうか。
だとするなら、カエルの識った戦いの傍にいながら救援にもいかなかったということになる。
折角夢の中で存在を知った者同士が、そのようなことをするだろうか。いや、しないだろう。ならば。
「俺たちと同じ、優勝を目指す奴らか。恐らくはあの雨の生き残りだろう」
自分たちのように、優勝をするために一時的に協力を選んだ者たちだ。
その事実を前に、カエルはしばし考え込んだあとその思いを述べた。
「魔王。この奇襲、なんとしてでも成功させる。2人か、最悪でも1人、殺してみせる」
「……その後のことか?」
「ああ。おそらく、直接奴らの命を狙いにいく俺の方に敵は戦力を集めてくるだろう。
 お前にも敵は当たるだろうが、その人数は俺よりも少ないはずだ」
「何が言いたい?」
「――――――――俺に当たる連中は、意地でも俺が引き付ける。その間に、お前に当たる連中を北に“捻じ込んで”欲しい」
カエルの策を、魔王は余すところ無く了解した。カエルが敵主力を引き付け、魔王にあたった寡勢を北に誘導。
B7にいる同業者に“あててやる”。漁夫の利を以ってB7の連中を“利用してやる”のだ。
「存在が知れた以上、使わぬ理由は無いか。だが、分かっているのか? お前の方が格段に危険だぞ」
「これしかない。おそらくその3人のうち1人はピサロだろう。
 徒党を組んでいるのならば、ある程度は冷静なのだろうが、俺では情勢を無視して矛先が俺に向かいかねない。
 なにより、俺ではお前のような殲滅力が無い。だが、持久戦ならばできる。俺とお前が2人とも勝つには、この分担しかない」
広域魔法に長けるが、単独行動力に劣る魔王。回復を完備し単独でも戦いぬけるが、決定打に不足するカエル。
なるほど、分担はこれしかない。二人で組んだところで、敵は10人近い徒党――――彼らは綱渡りを続けるしかないのだ。

「さあ、何にせよ先ずは『一撃』だ。何、勝算の一つも無く向かうわけじゃない。ここは俺に任せろ―――――――だから、頼んだぜ」

そういい切ったカエルの表情が笑顔だったかどうかは、魔王には分からなかった。


―――――・―――――・―――――

94世界最期の陽 7 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:13:39 ID:dlqrrOpU0
「探知機か、探知術か分からんが――――あんたら、何かしら俺たちの位置を理解する術もってるだろ。
 俺たちを当て馬にして、漁夫の利を狙うか相方の元へ戻る……大方、そのあたりか」
カエルと魔王の決死の策。それを、初めて相見える銀髪の男はいとも簡単に看破した。
それもそのはず。ギャンブルの鉄則は、相手の狙い――すなわち、欲望を見極めることだ。
相手が狙っている役を理解せずに、ディーラーの、カジノオーナーの狙いを理解せずに勝ち続けることなどできない。
強い強い自我<エゴ>があればあるほど、その感情はゲームに浮かびギャンブラーが狙うべき筋を明らかにする。

「両生類を前に出さなかったあたり、話をする気はあるんだろ? どうだい、ここは共同戦線を張るってのは!?」
「セッツァー!?」

セッツァーの真似をするゴゴは一歩遅れてセッツァーの思考を理解する。
こいつが敢えて手札をすべて晒すように現れたのは、この為かと。
だが、左右をピサロとジャファルに挟まれたこの状況ではこの交渉を止めようが無い。
「……私が南へ引き返そうとすれば、背後から狙う心算だったくせに、よく言ったものだ」
「おおっと。気を悪くしたなら謝るぜ。そりゃあ俺だって矮小な人間サマよ。利用されるだけ利用されるなんて、我慢ならねえさ」
「お前と私は初対面のはずだ。なぜその申し出が効くと思う?」
「あんたは信用できる! あんたの相方はあんたより苦境にいる。
 つまり、アンタの相方はアンタが戻ると信じて苦境にあるってことだ。これが信頼じゃなくてなんというよ!?」
朗らかに放たれるセッツァーの語りは、魔王の心を“擽った”。
同時に、カエルの身を魔王に案じさせる。ここは一刻も早く片付けて、カエルの援護に向かわなければカエルが危うい。
この提案を蹴れば、6人を同時に相手せざるを得なくなる。
そしてここを一刻も早く片付ける方法は、皮肉にもこのギャンブラーの差し伸べた手の先にしかなかった。

「フン、まるでビネガーのような男だな。うっとおしい」
「腐ってるってか? せめて貴腐ワインと言って欲しいね。OK、了承と受け取った!
 ただし、悪いがここの3人を片付けるまでの期間限定だ。これ以上大所帯になっちまったら天秤が崩れるんでな」

睨み付けるような魔王の視線を、セッツァーは狂気に等しい笑みで返した。
魔王を懐柔される様を為す術なく見守るしかなかった3人はようやく、セッツァーの“恐ろしさ”を理解する。
本来は魔王達がセッツァーを利用するという目論見だったはずの計画を、即座に自分の目論見に“摩り替えた”この手癖の悪さ。
この期に及んでも、魔王懐柔の賭けを即興で仕掛けるこの飽くなき勝負欲を。

「さあて、待たせたなボンクラ共。ジャファルは俺と一緒にヘクトル! “旦那はニノの嬢ちゃん”! 魔王サマはそこの三下を頼むぜッ!!」

その賽が投げられると同時に、東西南北を囲んでいた4人が一斉に襲い掛かる。
「待て、ニノは俺が――――」
「あんたじゃ嬢ちゃんの気が済むまで殴られてやりそうだからな。俺じゃ殺すのは兎も角、抑え続けるのは無理だ。
 魔王は論外。この場じゃ旦那に押え付けてもらうのが張り所だよ」
セッツァーの振り分けに抗弁しようとするが、先の瞬殺を仕損じたことを仄めかされジャファルは口を噤む。
「なァに、お前の気持ちも分かる。“これさえ終われば、心配事もなくなるさ”」
「……ああ、そうするか。先ずはオスティア候、貴様からだ!」
「へ、二人がかりか。ニノより先に俺とは、嬉し過ぎて涙がでらあ。それよりセッツァー! いいのか、ゴゴはお前に会いに来たんだぜ!?」
「生憎と盗人の仲間は一人しか知らんな。それに、札には切る“順番”ってのがあるんだよ。先ずはお前だ、ヒヨコの王様!!」
セッツァーがブリザラで援護する中、ジャファルがヘクトルに斬り込む。
迎え撃つはアルマーズ。天雷の斧を両手で握り締め、白球を打ち返す様に構える。

「来いよジャファル、セッツァー!! 手前らまとめてぶっ飛ばして、無理矢理でも俺の国に連れてくぜ!!」

95世界最期の陽 8 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:15:08 ID:dlqrrOpU0
ヘクトルの大喝が割れんばかりに朝空に響き渡る中、魔王と物真似師の鍵戟が鳴り続ける。
「ニノ、ヘクトル!! く、セッツァー!!」
「余所見をする余裕があるのか?」
直接手で動かしているように、否、それ以上の精度で魔王の魔鍵がゴゴを打ち据えていく。
しかし、ゴゴの剣も魔王に負けじと剣を早め、否、“剣術そのものが加速していく”。
「うっとおしぃ! 虎影斬ッ!!」
虎の牙の如く加速し、魔王に肉薄するゴゴの一撃が魔王を大きく後退させる。
「バリアチェンジのようなものか。属性はおろか存在まで変化させるとは、面白い」
「ちぃ。両剣じゃキレが乗らねえかよ。だが、これ以上ちんたらやってる暇は無ェんだ。道を開けろクソ魔王ッ!」
「黒き風は吹けども未だ泣かず。されど時間が惜しいのはこちらも同様、貴様の叫喚にてその供物としよう」
魔王の両手に闇の力が対流し、魔道の極限が拓かれる。
ゴゴはブライオンを“居合い”て、輝く道を斬り開く力を溜める。

「問答無用に救わせてもらうぜ。アイツをなんとしてでも大地に引き摺り下ろすッ!!」

絶刀開門。剣と魔法の大“暴”険が、陽光の中で激突した。
ヘクトルVSジャファル&セッツァー。ゴゴVS魔王。いずれも拮抗した名勝負になるだろう。
それに比べれば、コレは聊か物足りないかもしれない。

「どっけぇぇぇぇ! ハイ・ヴォルテック!!」
「……“バギ”」

呪文とともに、二つの旋風が独楽のようにぶつかり合う。それぞれを使役するニノとピサロの手には魔の札があった。
クレストグラフ。彼らとはまた別の世界にある汎用魔法デバイス。この世界に存在するのは知りうる限り、5枚。
それらは本来は5つ揃っていたのだ。5つの持ち主たちのように、仲良く揃っていたのだ。
だが、それは雨の中で2つに分かたれた。ある一人の女性の死によって。
そして、クレストグラフは遂に再び集う。約束の手形のように噛み合うように、但し、敵と味方として衝突する。
二つの風が相殺し、ニノは蹈鞴を踏んで後退る。だが、尻餅をつくような無様だけはこらえ、更に攻撃術を発動させる。
「ゼーハー!」
「“ピオリム”」
ピサロの位置に無属の力が発生するが、それよりも速くピサロは回避してしまう。
失敗を悔やむ余裕などニノにはなかった。ピサロの位置を見失ってはならない。“あの砲撃が来る”。
「――『装填・“マヒャド”』」
ピサロが手にした得物をニノに向けて突き出す。伸び切った腕では、それ以上斬撃を延ばすことなど出来ないが問題はなかった。
その得物はヴァイオレイターでもヨシユキでもない。銃剣というには、あまりにもゴチャゴチャし過ぎた砲剣だった。
「『ブリザービーム』」
ピサロの指が撃鉄を叩き、異世界とはいえ本当の魔法を込められた青き魔導の力が直線状に放出される。
アシュレー討伐の副産物である蜥蜴印のバヨネットもとい、ディフェンダー改。パラソルまでついて一見ふざけたような見栄えの武器だったが、
そこに魔導アーマーの機構が組み込まれていることを知ったセッツァーは、これをピサロに渡した。
自前で術力を補充でき、魔法と剣技を両方使うことの出来る『魔剣士』ピサロへと。
「なるほど、雑多なカラクリは性に合わないが、馬鹿と鋏は使いようなのも確かか」
何度目かの砲撃の後、ピサロは皮肉るようにその剣の使い勝手を評した。
充填さえしてしまえば、発動は任意。範囲こそ狭まるものの、速射性と威力の集約は目を見張る。
世界の理であるはずの魔法を、より効率的な殺人法へと人の業のなんと愚かなるか。
だが、今はそれをおいて置く。変則的ながら剣の間合いで魔法が使える、ピサロの為に誂えたような武器なのだから。

「やっぱり、あんた、手を抜いてたのね。私でそれを試してたの?」
「ふん……どうやら力量の差を見抜けないほど蒙昧でもないらしい」

96世界最期の陽 9 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:16:22 ID:dlqrrOpU0
ニノが片膝を突きながら息を荒げてピサロを睨むが、ピサロは涼しげにその敵意を流す。
いや、そもそも敵と認められているかも怪しい。マントの端が凍っているのを見ながら、ニノは悔しそうに唇を噛んだ。
薄々と、いや、はっきりと分かってしまっていた。ハイ・ヴォルテックとヴォルテックがぶつかり合って相殺。
ニノの目でも十分判るほどに加減された射撃。クイックを使いながら、直接剣で襲ってこないその戦い方。
脳裏に過ぎるのはストレイボウとの決闘―――――――そう、ぐうの音も出ないほどに、ニノはピサロに“遊ばれていた”。
わずかなりとも戦いの真似事になっているのは、ピサロが接近戦を仕掛けてこないからだ。そうであれば、魔道士であるニノに打つ手は無い。
そして、その魔の力においても、ニノはピサロにとって新しい得物の具合を確かめる野兎程度の扱いである。
「ならば、大人しくしていろ。蟻を潰さぬように踏むのは難儀だ」
「だからって……諦められない!!」
“なぜ遊ばれているのか分かってしまっている”ニノは両手で地面を押し上げ、その反動で前に出た諸手を突き出す。
それだけは我慢できないと、右と左には火の力、その二つを自分の前で合わせピサロに向けて放出する。
「デュアルキャスト<メラ×メラ>! メラミッ!!」
「――――――ほう、そんなやり方でメラミを放つ者がいるとはな。面白い師でもいたか。だが」
発動したメラミに驚きを見せながらも、ピサロは緩と剣を突き出す。しかし、そこには肝心の魔法が装填されていない。
怪訝に思うニノの目の前で、その圧倒的回答が展開された。
「充填・メラミ――――『魔封剣』」
砲剣についたパラソルの切っ先に触れたメラミが、吸い込まれるようにして砲身へと収束していったのだ。
魔導機構に頼る形とはいえ、魔と剣を兼ね備えるピサロの技量が常勝将軍の秘奥を再現する。
相手の魔法さえ食らう封填。そして、
「『ファイアビーム』。私と相対するには未だ遠い」
そこからの射撃を、ニノは辛うじて右に転がって回避した。その挙動に、ピサロは僅かに眉をひそめた。
片頬に伝う魔の熱を感じながら、ニノは震えた。死と隣り合わせた恐怖と、それでも死ぬことの無い怒りに。

(やっぱり、強い……私じゃ、だめなのかな……)

これが事実だ。未来の大賢者は、今大賢者じゃない。魔王と渡り合うには、何もかもが足りない。
ストレイボウと決闘をして「余程のことがない限り勝てない」ならば、これはもはや「余程のことがあっても勝てない」。
ピサロと『今の』ニノを分かつ差は、それほどまでに無慈悲だった。
それでも今二ノが生きているのは、結局のところピサロ達と共にジャファルがいるからに他ならない。
ニノが死んでしまったらジャファルがどうなってしまうか、なんとなく想像がつく。それはきっとこいつ等にとっても困ることのはずだ。
剣戟音が近くで断続的に響いている。ヘクトル達は自分達の敵に手一杯だ。とてもニノを守りながら戦う余裕は無い。
だから、まだニノは殺されない。ピサロという強者の一角を当てて、ヘクトルたちを倒すまで隔離しておくだけだ。
そして、ヘクトルたちも渋々それを良とする。ニノの安全が敵によって保障され、あまつさえピサロ1人を戦線から外してくれるのだから。

お人形の13歳。おちこぼれの、学の無い、唯の人間。全てが暴かれ、死と暴力が謳歌する現世にニノは“そういうもの”でしかなかった。
大人しくしていれば、それでいい。少なくともまだ殺されはしない。その価値が無い。
全ては力あるものがそれを決する。価値を、意味を、方向を、速度を、命を、抜かりなく完璧に決そう。

――――そんなことを言っちゃダメ。 落ちこぼれだなんて、自分を見限っちゃダメ。

「決められる、ものじゃない! あたしは、ジャファルと生きるんだ……!!
 ダメだって、グズだって、ジャファルにだって、あんたにだって、決められないんだよ……!!
 これだけ想っても、あれだけ想われてても、分かってくれない貴方達には――――ピサロッ!!」

97世界最期の陽 10 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:16:58 ID:dlqrrOpU0
人間が立ち上がる。その銀髪を揺らすほどの明確な敵意と、齢十三の少女とは思えぬほどの、静かで強固な意志を湛えた瞳が魔王を穿つ。
ピサロは何処かで見たようなその瞳を見てあることに気付き、手に持った“全2枚”の魔法札を見た。
ものは試しと使ってみたが、察するに、それはあの少女の持つものと同種のもの。
先の魔封剣返しの回避は、撃つよりも先に回避していた。まるで、自分の癖を知っているかのように。
なにより、あの強い瞳は決して唯の敵には向けられない。あれは“相手が誰か分かった上で向けている目だ”。

「……私はお前を知らない。私のことを、誰から聞いた…?」

ピサロが剣を構えながら翠の少女に尋ねる。すでに答えは分かっていたというのに、それでも聞かずにはいられなかった。
ニノは応ずるように、すくと背筋を伸ばす。
支えてくれたのは、自分を自分と認めてくれた人の言葉。幾度ニノが否定しようと、何度でも肯定してくれた人の想い。
ああ、なんで、気付かなかったんだろう。自分は今どこの誰と向かい合っているのか。
何度も何度も私を想ってくれた人が、本当に想いを伝えたかった相手じゃないか。
「貴方が一番大切に想ってて、貴方を一番大切に想ってた、強くて強くて、とっても優しい人にだよッ!!」

片手にメラミを“握りながら”、ニノはピサロに向かって走った。
これはただの戦いじゃなかった。彼は、ニノを救ってくれた人が、救いたいと望んでいた人じゃないか。
そんな人が、よりにもよって、未だ“こんなことをしている”。届いていない。まったく、何も届いてない。
ならば、届けなければならない。伝えなければならない。
これは、これだけはジャファルもヘクトルも関わりの無いこと。
マリアベルが、サンダウンがいない今、ニノが成さなければならないことなのだ。

―――― 一緒に行きませんか? このままではサンダウンさんの言うように危険だし……
     それに、一人でいるより私達と一緒に居た方がきっと安全です。
     勿論、一緒にいられない理由があるなら無理にとは言いませんけど……

「ロザリーと、共にいたのか……」
「いたよ。助けてくれて、手を伸ばしてくれて! あたしはロザリーさんと一緒にいた!
 いる間中、ずっと聞いてたよ。会いたい人がいるって、心配だって、ずっと、ずっと言ってたんだよ!!」

インファイトの距離に突っ込んできた猪娘をあしらおうとピサロは剣を振るう。
だが、その振り抜きの一歩手前でニノの空いた手に風が巻き起こり、ニノはピサロの緩い斬撃を回避する。
そして、振り抜き直後の隙をめがけてメラミを発射。魔封剣が間に合わず、ピサロは腕でガードするより無かった。

――――ピサロ様のお名前が呼ばれなかったことに、安堵してしまいました……。
    それが嬉しくて、堪らなく安心できて、亡くなってしまった方々へ、涙を流すことすら叶わないのです……!

「誰も死んでほしくないと想うくらい優しいのに、それでも、それでも貴方の無事を喜んでたんだよ!
 ピサロ、貴方が生きているだけで、彼女はそれで嬉しかったんだよ!!」
「…………」

魔法と魔砲がぶつかり合う。ニノはまるで獣のようにピサロの周囲を駆け回り、
唱える呪文に、喉の奥から競り上がる記憶を吐き出しながら術を連発していく。
ピサロは押し黙り、魔封剣で充填し、砲撃で相殺するが、何度か裁き切れずにガードを重ねていく。
まるで、吐き出される言葉を、一言一句漏らさず聞き取るかのように。

――――憎しみに囚われちゃだめよ。 そうなってしまった人の末路を私は知っているから……

「それくらい想われてたんだよ。愛されてたんだよ。なのに、何で貴方は“そこ”にいるの!?
 それを一番心配してたんだよ、ロザリーさんは!! 声は、届いたんでしょ? なのに、何をやってるのよ!!」

98世界最期の陽 11 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:18:16 ID:dlqrrOpU0
ピサロが放とうとしたイオナズンにニノがメラミを当てる。本来ただの炎であるはずのメラミが、爆発した。
その現象を見て、ピサロの表情から余裕が消える。たった何合かの打ち合いで、ニノはイオの要諦を掴み始めているのだ。
経験とは、相手が自分よりも格上であればあるほど得られるものだ。
魔族の王ピサロと“戯れた”ことで、皮肉にもそれは図らずもニノにとって何物にも変えがたい『授業』となっていたのだ。
だが、ピサロは今の拮抗を崩そうとはしなかった。それよりも、真っ向から向けられる想いに耳を傾けていたかった。
それは記憶だった。ニノがロザリーに出会い、マリアベルに出会い、再びジャファルとヘクトルに出会った想い出だった。
ヘマもした。落ち込みもした。怒られもした。でも、楽しかった。
殺し合いの中で“場違いすぎる”だろうが、それでも偽れない楽しい想い出だった。
ジャファルとあの雨の中で出会うまで、ニノがニノでいられたのは、きっとその想い出があったからだ。
想い出に、ニノは救われた。辛いときにも思い出せる想い出がある限り、人はまだ前を向ける。諦めずにいられるのだ。

「貴方が何のために戦ってるかなんて、今更聞かない。けどそれは、絶対にロザリーさんが望んでいることじゃない!!
 それでも、まだ分からないっていうのなら―――――――デュアルキャスト<ゼーハー×ゼーハー>」

両手のゼーハーを、自分の胸の中で一気に限界へと導く。まだ未完もいいところの隠し技だったが、躊躇は無かった。
ピサロに必要なのは、言葉ではなく『想い出』だ。彼が案じてきたものが、どれだけ見当違いだったかを伝えることだ。
だから、ニノは伝える。想い出を分かち合うために。今のロザリーの想い出だけじゃ足りないというのなら、この想い出を知れ。
ヘクトル達といたときじゃない、私が『この島で歩んできた想い出』の、総決算を!

「あたしが、ロザリーの代わりに、目を覚まさせてやるんだからッ――――――アカシックリライターッッ!!!!」

極小範囲とはいえ、原初の遺伝子すら書き換えかねないほどの『無』の力が、魔王に向かって放出される。
直撃ならばピサロとて無事では済まない一撃。しかも、無の力となると魔封剣で凌げる保証が無い。
「……バイキルト。『装填・イオナズン』」
本来ならば回避するべき一撃を前にピサロは足幅を大きく取り、自らに攻撃力倍加を、砲剣に爆裂の属性を付与した。
力には力。全てを真っ向から受け止めると決めた、魔族の王の構えだった。

「爆ぜろ――――まじん斬りッ!!」

ピサロの視界が爆震する。無が破裂するという矛盾が、現象となって世界を揺らした。
力の霧散のなか、ピサロは剣の手応えを感じた。砲身は壊れてはいない。これで――――
「今のは、マリアベルとの想い出。あたしは馬鹿だったから難しいことは分からなかったから、
 ロザリーさんも、難しいことはマリアベルに相談してたんだよ」
突如響くニノの声。ピサロはその声の方を向く。だが、“そこには誰もいなかった”。
「『パープルミスト』。これも、私の想い出。憎しみは消えない。でも、消えなくても、抱えて、前を向かなきゃいけないんだよ」
本当の声が、ピサロの背後から聞こえる。マント越しに僅かに伝わる熱は、それが最上級の業火であることを教えていた。

「だから、受け取って。これが、あたしとロザリーとの想い出の、最後。魔法3倍段<メラ×メラ×メラ>――――――――」

導きの指輪が赤く輝き、ニノとピサロの狭間で、第二の太陽が生まれた。
それは、マリアベルの世界にも無い力。ニノだけが、ニノだから得られた、三重魔法。
ロザリーが開いたメラの扉の先に、ニノは終ぞ至った。

「『必殺』のッッ―――――――メラ、ゾーマァァァァァッッッ!!!!」

99世界最期の陽 12 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:19:48 ID:dlqrrOpU0
荒涼たる大地と、雨上がり澄み渡る青い空。
その大地の下で炸裂したその一撃を、誰もが見た。
ジャファルも、ヘクトルも、セッツァーも、ゴゴも、魔王も僅かに戦いを止めた。
見くびっていたとはいえ、手を抜いていたとはいえ、あのピサロが、一撃貰った。
誰もが予想し得ない番狂わせが、そこにあった。

だが、ピサロは倒れなかった。そのマントを消し炭となくしながらも、二本の足でしっかりと大地に立っていた。
いつまでも力強いその背中を見て、ぜえぜえと息を切らせながらニノは、力なく笑った。
「やっぱ、無理か……はは、やっぱ、あたしじゃ、誰も救えないかぁ……」
ゴメン、とニノは想い出の中の人達に謝る。あたしじゃ、どうがんばっても、無理なものは無理だったよ。
「何故。誰も救えぬという」
ニノが寄り掛かった背中から、声が響いた。小さく、しかしニノにはっきりと聞こえる声で。
「え、だって、あたし……」
「一ツだけ、教えて欲しい。ロザリーはお前達と共にいたとき、笑っていたか?」
ダメージはあるはずだ。だが、それでもピサロの声に淀みは無かった。
ニノはそのとき、言われるがまま問われるがまま、うんと頷いた。
あれほどまでに張り詰めていた敵意が、霧散している。間近でも感じるほどにピサロから戦意が消失していた。
「そうか。笑えていたのか……ならば、お前は救っている」
え、という吃音さえ、ニノの咽喉につっかえた。
「お前の言葉には、紛うこと無きロザリーがいた。だからこそ、分かるのだ。お前達と共にいて笑うロザリーが。
 ならばお前は救っている。お前がロザリーを救ったように――――“ロザリーもまたお前に救われていた”」
それはピサロにしか断言できないことだった。ニノの言葉が真であり、ピサロの中に息づくロザリーが真であるからこそ断言できた。
この島に投げ出されたロザリーは、いつ果ててもおかしく無かっただろう。外敵に襲われるよりもそうだが、
なにより、優しすぎるが故に命が潰えているという事実に心を痛め、苦しみ続けたかもしれない。ピサロが、ロザリーが居るという事実に気付かない間に。
だが、そうはならなかった。彼女はずっとピサロの知る優しい彼女のままだった。
それはきっと、自分よりも幼くそして傷つきやすい少女に、優しさを向けられたからだろう。
その優しさがニノを救えたからこそ、彼女もまたその優しさを疑うことなく前を向くことができたのだ。
「でも、あたしは……」
ニノの中の一番重たい扉が軋みを上げる。それは、何処か遠くの国の言葉にも聞こえた。
だからそれは、きっと自分には無縁の言葉だと思っていたのだ。足手まといの、役立たずの、クズの私には。
くしゃ、と翠の髪が擦れる音がし、ニノの頭に微かな重みが乗った。ピサロの手のひらが、ニノの頭を不器用に撫でる。

「ニノと言ったな。他の人間がお前のことをどう思っているのかなど知らぬ。
 だが、少なくとも、私にとってはお前は意味があった―――――ありがとう」

ニノの頬に涙が流れた。それは、きっと欲してやまなかった言葉だった。
そして、その手のひらから伝わる感情がそれが嘘ではないと教えてくれる。
乗せられた手のひらから腕をとおり、見上げてその表情を見た。僅かな笑みも無い無表情だが、生真面目な誠意がある。
同情でもない、慰めでもない。腹に突き刺さる真っ直ぐな刃。
今まで出会ったことの無い人から、確かに自分の行いだけからのみ生じた敬意、そして感謝。

――――ニノちゃんは落ちこぼれじゃないの。 落ちこぼれなんて言って、自分の限界を決め付けたりしないで。
    ニノちゃんはいつも頑張ってる、笑顔の素敵な、かわいい女の子だって知っているから。

「……う、うん。どぅ…………いたぢ、まして……ッ」

初めての返事は、嗚咽でまみれて実に不恰好になってしまった。
伝わった。伝わるのだ。例え雨の中、夢の中で届かなくとも、この澄み渡る青空の下に届かない祈りなど無いのだ。
だから、きっと、ジャファルとも分かり合える、合えるんだよ。


「何をやっている、ピサロォォッォォオォォォォォ!!!!!!!!」

100世界最期の陽 13 ◆wqJoVoH16Y:2011/11/03(木) 21:20:53 ID:dlqrrOpU0
だから、最初、最後にいつ聞いたかも忘れたジャファルの叫び声にびっくりした。
そして、それが何のことを言っているのかを、ニノは見上げたその瞳を下に降ろして漸く理解した。
“私のお腹に、刃が突き刺さっている”。
「『ヒールフォース』――――最後に覚えておくといい。これが、ベホマだ」
ニノには何も理解できなかった。痛みが無くて、刺さっている刃とそこから流れる血液を見ていないと刺さっていることさえ忘れてしまいそうになる。
最後、最後って“なに”? そして、もう一度ピサロの表情を見る。そこには、先ほどと変わらない表情。感謝と、敬意と、誠実だけ。
騙された? 僅かな思考が過ぎるが、実体の伴わない思考は即座に血流と流れる。突き刺さる刃に、嘘などかけらも無かった。

感謝と、敬意と、誠実な気持ちだけで、彼の刃は人を殺す。


「なん、ニノ……なんで……ッ!!」
ニノ達とほどなく離れた戦場でその光景を見たヘクトルは、その光景を信じられなかった。
ピサロの刃が、ニノの腹に突き刺さっている。意味は分かる。だが、その意図が分からなかった。
まだピサロには余力があった。殺す必要は無かった。なのに、何故このタイミングでニノを殺すのか。
今ニノを殺せば“どうなるか”など、分かりきっているというのに。
ジャファルの体が、撥ねるようにニノへと駆けていった。当然だ、これでも遅いくらいだ。
そう、分からないのはそれだけではない。“何故ジャファルは、気付かなかった?”。
ジャファルのことだ、他の連中にとっても今ニノを殺すことにメリットが無いということが無いと分かっていても、
その視線は常にニノのことを懸念していた。ニノを殺そうと思うだけで、ジャファルはそれを察知し、ニノを守りにいくだろう。
(いや、というか、今、いつ刺した!? 殺気なんて無かったぞ)
何より、ピサロからはまったくといっていいほど殺気を感じなかった。殺すという意思が、完全に欠落している。
計画も無い、殺意も無い殺害――――そんなものが、あっていいのだろうか。いや、それよりもまず、ニノを助けないと――――

「く、ニノ……!」
「“お手つきだぜ、ヒヨコの王様”」

ニノの方へ体を向けようとしたヘクトルの耳に、死神の羽音が侵入する。
これは、誰にも予想できなかった状況。誰もが望んでいなかった状況。それに、ヘクトルもジャファルにも対応できなかった。
故に、この場で一番速く動けたのは―――――――この状況を“覚悟”していたギャンブラーだけだ。

「ンGOOOOOOOOLDEEEEEENNNNNNッッッ!!!!!!」

ヘクトルが死神の方を向く。羽音だと思っていた鎌の音は、秒間千回転以上の唸りを上げる回転のこぎりだった。
食い込めば肉はおろか背骨まで輪切りになるだろうそれが、ヘクトルの眼前にあった。
「う、うぉおあおッ!!」
思考に気をとられていた矢先に、この凶器を前にしては、ヘクトルも慌てざるを得なかった。
とっさにかち合わせたアルマーズがのこぎりを破壊するが、のこぎりの回転とかみ合い吹き飛ばされ、ヘクトルの体が大きく仰け反ってしまった。
「安い。安いな、ヘクトル。そう簡単に手札をポロポロ落とすもんじゃねえよ、丸見えだぜ? お前の考えていることがな」
「セッツァー、手前、まさか――――――」
強烈に瞼を見開くセッツァーの瞳の奥に、ヘクトルは最悪の予感を想起する。
「『ジャファルを切るつもりか!?』ってところだろ、お前が言いたいのは? “それは、この後次第さ”」
だが、セッツァーはそれを見越した上であざ笑い、その手元に2枚のカードを握る。
回転のこぎりはフェイク。ヘクトルに生まれた『虚』を更に揺さぶり、大きくこじ開けるための演出道具。
そして、アルマーズを手放し、上体を崩したヘクトルに本命の2射が放たれる。


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