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RPGキャラバトルロワイアル11

1SAVEDATA No.774:2011/07/31(日) 03:04:46 ID:b2pXRKlk0
このスレではRPG(SRPG)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画を進行しています。
作品の投下と感想、雑談はこちらで行ってください。


【RPGロワしたらば(本スレ含む】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/

【RPGロワまとめWiki】
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html

【前スレ(2ch】
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1307891168/l50

テンプレは>>2以降。

816さよならの行方−trinity in the past− 13 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:04:15 ID:8eyvrRuY0
「……そういうことですか。星を喰らうもの……やはり獣の紋章以上か」
説明を聞いたジョウイは漸く得心いったという様子を見せる。
唯一欠けていたピースをパズルにはめ込んだような様子だった。
ジョウイはしばし考え、やがて意を決したようにストレイボウへと向き直ると、その右手の紋章が輝き出す。
『マリアベルさんの仮説は概ね当たっています』
ストレイボウの脳裏に声ならぬ聲が伝わる。ストレイボウが握った首輪の感応石を経由して接続された思念が、ストレイボウに伝わる。
『ラヴォスの幼体――プチラヴォスの亡霊を憑依させたグラブ・ル・ガブルによる新生ラヴォス……
 それが、死を喰らうもの。死せるルクレチアの夢を見るモノであり、僕が蘇らせようと、否、誕生させようとするモノです』
そうして、ジョウイは感応石を用いたオディオに届かぬ思念話にて死喰いについて語り出す。
ラヴォスについての情報の対価か、あるいは……目の前の人物ならば、仕方がないというかのように。

『そんなものが、この島に……そうか、だから墓標<エピタフ>……』
ジョウイの説明を聞いて、ストレイボウは理解と共に立ちくらみを覚えた。
首輪などを通じてこの島で生じた怒り、嘆き、憎しみ――想いを喰らったラヴォスの亡霊が、
星の命そのものであるグラブ・ル・ガブルを肉として再び誕生する。
正負問わず、どのような想いも生と死の刹那に最大の輝きを見せる。
この島で戦い、惑い、そして死んだ者たちは、並々ならぬ想いを抱いて死んだだろう。
その輝く想いを喰らいて生まれるが故に――――『死を喰らうもの』。
敗者の存在を世界に刻みつけるそのモニュメントの存在に、ストレイボウは改めてオルステッドの憎悪の深さに気が遠くなる。
その慟哭に比べれば、生前にストレイボウが抱いた憎悪など無に等しいではないか。

『その想いをこの泥の中に留めたのが、あのルクレチア……はは、意趣返しにしちゃ上出来すぎる』

泥が静かに流れる海に、笑いが漏れた。
そうとしか言いようが無く、そう振る舞うより無かった。
オディオが――オルステッドがやろうとしていることは、そう難しいことではない。
つまるところ、ストレイボウが閉じこめられたあの牢獄を8つの世界にまで拡張したということだ。
それを、勝者に見せつける。勝者に敗者の存在を刻みつける。
「変わらないな、俺も、お前も……」
その笑いは、果たして何が生じさせたものだったか。ストレイボウには理解できなかった。

『で、お前はそれを誕生させようとしているわけか』
『……ええ。僕の目的を達するために』

ひとしきり体内の不明確な感情が吐き出された後、ストレイボウは改めてジョウイに向かい合う。
乾いた血のように赤黒い外套と、真白い軍服。相反しながらも相似する衣を纏う少年の返事に、ストレイボウは意を決し、手の中の感応石を握りしめた。

817さよならの行方−trinity in the past− 14 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:04:51 ID:8eyvrRuY0
『ここに――ここが分かっていた訳じゃないが――来たのは、お前とも話をしたかったからだ』
ジョウイは無言のまま、ストレイボウを見据える。
『ラヴォスがどんなものかはこれで分かったはずだ。お前の――いいや、誰の手にも収まるものじゃない。
 だが、それでも死喰いを力にしようとするんだろう。そこまでして願うお前の意志を、改めて聞かせてほしい』
『……言ったはずです。理想の実現。そのために、オディオの力――憎悪を継承する。それが僕の願いです』
ストレイボウの問いに、ジョウイが答える。その眼には険こそ無いものの、目を逸らすことはなかった。
『そのために、勝者となるつもりだった、ってことか。いつからだ?』
『……いつからと言われれば、最初から。それこそ、この島に呼ばれる前から。
 改めて名乗りましょう。僕の名はジョウイ=ブライト。ルカ=ブライトの義弟であり、ビクトールさん達の敵です』
揺らめく泥の輝きの中で淡々と告げられたその真実に、ストレイボウは、ああと納得した。
ビッキーの違和感、ビクトールとジョウイのやりとりの真意。
ジョウイは、ジョウイ=ブライトはルカ側の人間――ビッキーやナナミ達の敵陣営だったのだ。
『なのに、義兄を、ルカを殺そうとしていたのか』
『彼女の記憶があるのなら分かるでしょう。アレは殺しすぎますから』
なるほど、とルッカ越しにルカの姿を垣間見たストレイボウは唸った。
この世全ての人類を鏖殺しても飽き足らないルカの殺意は、道具として用いるには劇薬過ぎる。
だからお前達の中に隠れていたのだと、ジョウイは言外にそう含めた。
ルカや魔王のような強大な殺戮者と相喰らわせて数を減らし、最後に勝つためにいたのだと。

『……その最後に勝つための力が、あの魔剣であり、死喰いか』
『ええ。その力を以て貴方たちを倒し、オディオの力を手に入れる。
 世界を越えて通じるあの力、こんな無駄な催しなんかに使うのは宝の持ち腐れです。
 アレに使わせる位なら、僕が貰う。あの力を以て、僕達の理想の楽園を創る』

そう言ってジョウイは右手の紋章を翳してその野望を示す。
それはジョウイ=ブライトがこの島に呼び出された時から抱いた祈り。
ルカ=ブライトよりブライト王家を簒奪し、ビッキー達のいた都市同盟に破れた国王が、
オディオの力に魅せられ、今一度理想を再興するべく暗躍していたのだと。
間違ってはいない、とストレイボウは思う。
ピサロの話に拠れば、ジョウイはセッツァー達と接触していたらしい。
形の上ではセッツァーに出し抜かれた格好であるが、ことが全て明るみになった今では、自身が裏舞台に潜み続けるために立てた役者に過ぎないのは明らかだ。
間違ってはいない。嘘はついてはいない。理解は出来る。
そんなジョウイの回答に、ストレイボウは再び口を開いた。

 ・そこまでして優勝したいのか?
 ・……何故死喰いを動かさない?
 ・ああ、うん。お前疲れてるんだよ。お薬飲もっか。黄色いの。

→・……何故死喰いを動かさない?

『……どういう、意味ですか?』
ストレイボウの再度の問いに、ジョウイは眉をひそめた。表情には明らかな警戒が浮かぶ。
『言葉通りの意味だ。此処までの話を考えると、お前は今にも死喰いを誕生させられるはずだ。何故しない?』
ジョウイが語ったその目的と行動。ストレイボウがいぶかしんだのは動機ではなく、その行動だった。
今までのストレイボウならば、その動機についてさらに尋ねていただろうが、脳裏の歯車を刻む砂粒の違和感が、それを翻した。
『簡単ですよ。言ったとおり、死喰いは死を喰らってより完全なものとなる。
 ならば、より死を喰わせれば誕生したときにより強い力となる。
 なら、先に僕が貴方たちをある程度殺した上で誕生させれば、より確実に優勝できるじゃないですか』
何のことはない、とジョウイは理由を語る。死喰いを完全なものに近づけて、より強大な力を得る為なのだと。
『……ああ、そういうことか』
ストレイボウは改めて納得したように頷き、そして理解した。


『――――完成させた死喰いで、オディオを殺すつもりか』
ジョウイの答えの、裏側の真実を。

818さよならの行方−trinity in the past− 15 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:05:28 ID:8eyvrRuY0
『……なに、を』
『お前がただ力を盲信している奴なら、それでも納得できたさ。
 だが、そう考えるには頭の回転を見せすぎた。なんというか、科学的じゃないんだよ』
そう、ストレイボウが感じたのは違和感――ジョウイの行動の整合性のなさだ。
『もうセッツァーも魔王もいない今、待っていてもお前より先に俺たちが死ぬ可能性は限りなく低い。
 死喰いを成長させるには、お前が殺しに動くしかない。
 だけど、俺たちを殺すための武器を鍛えるために、俺たちを殺しに来るってのは明らかにおかしい。目的と手段の順番が違う』
そう、この順番こそが違和感の正体。ジョウイが優勝を狙うのであれば、
とにかく自分以外の誰かを生き残りにけしかけ、自分が動くのは最後でなければおかしい。
ならばとにかく不完全だろうが、死喰いを誕生させてストレイボウ達にけしかけ、弱らせたところを襲えばいいのだ。
先に生き残りを殺せば、より死喰いは強くなるかもしれないが、
生き残りを殺せば殺すだけジョウイが有利になり、死喰いそのものが不要になる。
あの立ち回りを見せたジョウイならばその程度の計算が出来ないわけがない。
その計算を破棄してまで完成を優先させ、待ちかまえている理由。

それがあるとするならば、ストレイボウ達全員を殺してなお、
完全なる死喰いの力を使うべき相手が残っているということに他なら無い。

『お前が死喰いを誕生させようとしてるのは、俺たちに向けてじゃない。オディオとの戦いを見据えてだ』

順番が逆なのではなく、順番に続きがあった。
優勝した後のことまで含めてジョウイは状況を見据えている。
それこそが、矛盾しかけたように見えるジョウイのロジックの正体だ。
『……本当に、混じってるんですね。手厳しさが違う』
そこで観念したようにジョウイは額に頭を中てた。
『ここに来るまでは、最初の予定通り、すぐに起動させてけしかけるつもりでしたよ。
 ですが、オディオと会話してこの墓標を知り、確信しました』
やはり当初の予定ではストレイボウの看破した通り、乱戦収束後に速やかに死喰いによる攻撃を仕掛ける腹積もりだったのだろう。
ジョウイ自身にも時間は無く、なにより彼の偉大なるオスティア候の死を奪ってまで得たものに報いることが出来ない故に。
だが、死喰いを知り、その本質を知り、ジョウイは方針を変えざるを得なかった。

『オディオは絶対に願いを叶えません。ことに、僕の願いだけは』

オディオが、ジョウイの願いだけは叶えないと知ってしまったが故に。

『どういうことだ?』
『僕の願いとオディオの願いは、本質的に相容れない。
 今、優勝すれば願いを叶えると口では言えても、必ず最後には否定する。否、そうせざるを得ない。
 それは絶対に絶対――“ユーリルが、救われぬものを救わないようなもの”なんですよ』
自嘲するように、ジョウイは細めて空洞の天井を見つめる。
それが、オディオを見つめていることはストレイボウにも理解できた。
『素直に渡して貰えるならば構わない。ですが、その備えを怠るほど莫迦にもなれない。
 そう思わせるほど、僕の願いは奴と致命的に相容れない』
ストレイボウが知らない何かを知ったその瞳が、明らかな敵意を湛えていることも。

819さよならの行方−trinity in the past− 16 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:06:08 ID:8eyvrRuY0
「……止めろ」
ストレイボウの言葉に、ジョウイはぴくりと眉を動かす。
「優勝したいというだけなら止めやしない。だけど、無駄死なら話は別だ。
 オディオには、アイツには勝てない。お前がどれほど策を練り、力を得ても、ダメだ。
 戦った俺だからわかる。アイツはそういうものじゃないんだよ」
自分が何を言っているのか、ストレイボウは言いながら気づいたが、言葉は止められなかった。
策を弄し、力を集め、どれほど絶望にたたき落としてもアイツは――オルステッドは立ち上がった。
その眩いばかりの光をどれだけ呪い、どれだけ疎んだか、ストレイボウは誰よりも知っている。
だからこそ、先駆者としてジョウイに諭す。
お前が今歩んでいる道は、紛れもなくかつて自分が歩んだ道なのだと。
だから往くな、その先には断崖しかないのだと。

「……なぜ分からないんだ……だからじゃないか……」
ぼそりと呟かれた言葉を最後に、会話が途切れる。
しばし、否、それなりの静寂の後、ジョウイがゆっくりと念を伝えた。
たっぷりの逡巡の後に、覚悟を決めたように“諸刃の剣を差し出す”。


『……貴方たちのいるC7の遙か上空。そこに隠れた八面体のモニュメントに、オディオは居ます』
「!?」


ストレイボウが驚くよりも早く、ジョウイは告げる。
『文化体系から見て恐らくは、ちょこちゃんの世界の構造物――奇怪な作りではありますが、城でしょう。
 ウィザードリィステルスか何かで位相をズラしてはいますが』
告げられたのは、オディオの居場所。ストレイボウが喉から手が出るほど知りたい情報だ。
そして、情報はそれだけではない。
『その空中の城には――最初から傷がありました。そして、其処に船があります。
 銀色の翼を持った船が2つ……彼女は、この名を知っているんじゃないんですか?』
ジョウイが、核識を通じて観た映像をストレイボウの脳裏に送る。
「し……ッ!」
突然浮かんだ光景は、あまりに不鮮明。周囲は暗がりに包まれ、整った石畳と怪しげな赤い文様。
そしてその一部に腫瘍のように白い船がめり込んでいる。
このモニュメントに突撃したのだろう。飛行船として要となる骨が幾つも破砕しており
一目見ただけでこれが使用不可能であることは想像に難くない。
だが、そんなものなどたちまち脳裏からはじき出される。目の前に見えたそれに比べれば。
叫んでしまいそうな言葉を慌てて口元を塞いで止める。
問題は壊れた船ではない。その格納庫に収められた翼だ。
そこに映ったのは、白銀の鳥のような機械――それをストレイボウ<私>は知っていたのだから。

『シルバード、だとぉ……ッ!?』

820さよならの行方−trinity in the past− 17 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:07:34 ID:8eyvrRuY0
操縦席も、装甲も、ジェット装置も、何一つ疑う余地もなく、彼女の知識がその存在を肯定する。
まるで方舟の代わりとばかりに置かれたのは、時を越える翼に他なら無かった。

『やはりですか。ですが、座標データがなければ航行もままなりません。それらはデータタブレットによって――』
『ちょ、ちょっと待て!』
続けて説明しようとするジョウイを、ストレイボウは手で制する。
『なんでそんなことを知っているか……はこの際置いておく。
 この局面でそんな嘘をついてもお前にメリットがないのも分かる……何故そんな話をする?』
沈黙するジョウイに、ストレイボウは言葉を続けた。
『お前は、俺たちを殺すつもりじゃないのか?』
『……したいように、あってほしい。それが貴方の願いでしたね』
ストレイボウの問いに、ジョウイは顔を歪めてそう応じた。
『貴方たちを皆殺して死喰いを真に完成させてれば、五分の勝負に持ち込める……僕はそう観ています。
 逆に言えば、そこまでいって漸く五分。今の不完全な状態で誕生させても、
 そこに“僕がかき集めたもの”を足しても……ゼロが幾つ付くか分かったものじゃない』
死喰い、始まりの紋章、魔剣、蒼き門、核識、亡霊、そして魔法。全てを擲ってジョウイが背負う力は絶大だ。
それでもなお、ジョウイとオディオの差は開いている。残る6人の屍を積み上げて、漸く剣が届くかどうかの距離だ。
『――――ですが、ゼロではない。それは努力次第で無限に広がるということ』
そのジョウイの言葉に、ストレイボウは黒鉄の英雄の背中を錯覚した。
彼ならば言いそうな言葉で、彼のような無表情で淡々と告げた。

『貴方たちを殺さずに済むのなら、奇跡に賭けてもいい』

本当に、阿呆のような素直さで、ハッピーエンドを目指してもいいと告げた。
唖然とするストレイボウの無言を肯定と受け取ったか。ジョウイは話を続ける。
『貴方たちにとっても、決して悪い条件ではないはずだ。
 ……というよりも、そも前提として貴方たちがオディオと戦う意味がない』
二の句を継ぐことすらできず押し黙るストレイボウに、ジョウイは言葉を続ける。
『アキラはヒーローになりたい。ピサロはロザリーの意志を継ぎたい。
 アナスタシアさんは生きたい。カエルは闇の勇者として闇の中の者の標になりたい。
 ……これらの願いは、オディオの有無に関係がない。
 オディオが王座にある時――日常<きのう>に帰れば出来ることです』
ジョウイは生き残った者達の願いを告げ、その共通性を語る。
これらは彼らの内側よりわき出た尊き祈り。オディオによって押しつけられたものではない、オディオと関係のない純粋な祈り。
故に“それは、オディオの統べる世界でも叶う祈りだ”。

『オディオに言わせれば、屍を積み上げた醜い祈りだというのでしょうが……そんなの言わせておけばいい。
 オディオにとって醜かろうが、貴方たちが光と信じるならばそれで十分じゃないですか。
 アシュレー=ウィンチェスターならば、恥じることなく言うでしょう。それこそが、自分が帰るべき場所なのだと』

821さよならの行方−trinity in the past− 18 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:08:06 ID:8eyvrRuY0
そう、たとえこの世界がオディオの言うおぞましき争いの世界だとしても、
それが今まで彼らが生きてきた荒野であるならば、そこで咲き誇ることになんの咎があろうか。
オディオが闇と言うもの、彼らが光と仰ぐものは“同じ”なのだから。
『故に、オディオと彼らが相対することに意味はない。
 彼らが言祝ぐモノも、オディオが呪うモノも同じなのだから』
故に無意味。道が同じで、進む方向も同じなのだ。
ただ、道が青く見えるか赤く見えるかという認識の違いだけでしかないのなら、衝突する道理がない。

「ならば、貴方たちがこれ以上戦う理由もないはずだ」

ジョウイは書物をそらんじるような平坦さで事実を告げる。
オルステッドが勝ってオディオを続けようが、ジョウイが勝ってオディオになろうが、世界は残る。
ジョウイの楽園か、オディオの地獄か――残った方の世界で生きていけと、ジョウイはにべもなく言っていた。

『ただ、シルバードで脱出するには、この世界の座標データが必要です。
 そしてそのデータは、データタブレットを3つ揃える必要がある。
 オディオなりの様式美でしょう。そしてそのうちの1つは――』

(何を、何を考えていやがる)

続くジョウイの言葉が、遠くなっていく。
もはや、ジョウイの言葉の整合性・信憑性を疑う気にすら起きない。
“なぜそこまで複数の世界の知識を掌握できているのか”
“なぜこの場にいながらそれを把握できるのか”
――そんな、本来ならば気にかけるべきことさえも、気にならなかった。
多分、ジョウイは本当のことを言っている。自分で調べ上げた情報を提供している。
だからこそ理解できない。それほどまでに、目の前の存在は真っ直ぐに歪んでいた。
ふつうに考えれば当然だろう。
ここまでの事をしておいて、戦うのを止めてもいい、などと言った人間を誰が信じられるか。
まだ、嘘をついてくれていた方がマシだ。
(なんでそんなに、甘くいられる)
だが、ストレイボウは分かってしまっていた。
こいつはは嘘をつけない。自分を偽れないから、こうなってしまっているのだから。
なにより、ジョウイが、本気でこちらの身を案じていることが否応にも分かってしまったから。
ジョウイは本気だ。本気で“妥協してもいい”と言っているのだ。
ストレイボウ達を逃がせばオディオ殺しが難しくなると承知して、現時点で最高のハッピーエンドを狙ってもいいと言っているのだ。

『貴方たちがオディオに向かわず、まっすぐシルバードに向かってくれるなら、僕はそちらにタブレットを転送しましょう』
(もし、もしもそれが出来るのなら……)

ジョウイから差し出された提案を、知らず脳内で弄んでいる自分がいたことに気づいた。
もし、ジョウイの提案を受け入れられるなら、話は早い。
ジョウイから送られた空中城の座標は脳内にある。アキラを介せばピサロに座標を送れるだろう。
つまり、ルーラかテレポートが使える。
次元をズラされているらしいが、聞くところによればアナスタシアのアガートラームは次元に干渉できる。

この2つを重ねれば空中城に行けるだろう。
後は真っ直ぐシルバードに逃げ込めば、ジョウイが最後のデータタブレットを渡してくれる。
それが手に入れば、後は俺<私>がシルバードを動かせる。脱出できるのだ。

822さよならの行方−trinity in the past− 19 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:08:39 ID:8eyvrRuY0
脱出。生還。生きて、帰る。
言葉にすればこれほど容易いはずの言葉は、ここまでの死線を潜り抜けたものにとって甘美なる至上の福音にすら聞こえる。

その差し出された掌を拒む道理など、あるわけがない。
ピサロは生きなければならない。ロザリーより受けた心を、生きて謳うために。
アナスタシアは生きなければならない。ユーリルに、ちょこに、そしてマリアベルに、生きて欲しいと願われたのだから。
イスラは生きなければならない。その英雄達より受け継いだ明日の為に。
カエルは生きなければならない。死を罰とするのではなく、闇の勇者として生きることこそが償いであるが故に。
アキラは生きなければならない。伝わった心を取りこぼさぬ、真のヒーローになるために。

そうだ。死んでしまえば、やり直すことすら出来ないのだ。
もう帰れない奴らだってたくさんいる。その事実は否定できない。
だが、否、だからこそ、生きなければならないのだ。

だから――

 ・提案を受けて脱出を目指す
 ・みんなで、生きて帰ろう!
 ・――――――――どこに?

→・――――――――どこに?

生きねば。生きて、帰らなければ―――――――どこに?

(あ……)

気づいた。“気づいてしまった”。
ジョウイの祈りが、あまりに真っ直ぐ過ぎて、その裏側に気づいてしまった。
「オルステッドは、どうなる?」
生きてほしいと願うジョウイの祈りには、1人、含まれていないと言うことを。
俺が帰るべき場所――が、ジョウイの楽園にはないということを。
ジョウイは無言のまま、眼を細める。
つくづく隠すことも嘘も下手なのだと、常ならばストレイボウも苦笑の一つでも見せただろう。

だが、その無言の肯定に、ストレイボウの血の気が喪失した。
これだけ人の死を忌む奴が“そいつだけは必ず殺す”と言っていたのだから。

「……もし、ここに来たのが貴方じゃなければ、こんな話はしませんでした。
 貴方が、ただ自分のことを願ってくれたなら、僕は迷わず踏みつぶせたのに」

823さよならの行方−trinity in the past− 20 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:09:10 ID:8eyvrRuY0
ジョウイは、観念したように溜息をつき、膝を地面に下ろした。
念話ではなく、言葉で告げられたのは、紛れもない謝意。
ハイランドの白装束が蒼き泥に汚れる。死喰いは今は鳴りを収めているらしく、
グラブ=ル=ガブルの美しい輝きの泥だった。

『シルターンという場所では、これが最上級の請願法と聞きました。
 細部は正式なものではないでしょうが、不作法は許してほしい』
何かの攻撃動作かとストレイボウはいぶかしんだが、殺意は感じられなかった。
そのままジョウイはそのまま尻を踵に下ろし、指を地面につけた。
『貴方の想像通りです。僕はオディオを、その玉座を奪う。
 それ以外は譲っても良い。戦略的優位も、この後の筋書きも。
 幸せも、勇気も、希望も、愛も、欲望も、未来だって投げ捨てても構わない。だから』
たゆたう泥が、鼻先にふれるかどうかというところまで頭が下げられた。
マント越しにも、その背中からわき上がるものが否応無く伝わる。
すまない。すまない。すまない。

『――――オディオを、譲って貰えませんか。貴方が傍らに立たんとするその場所は、僕が戴く』

貴方の願いだけは、僕の楽園では満たされない。

「なんだよ……なんだそれ……」
三つ指をつき額を泥にこすりつけて懇願するジョウイを見て、ストレイボウの唇がわなわなと震えた。
今から雌雄を決そう、あるいは殺そうとしている相手に頭を垂れられる性根に対する恐怖か、
オディオを――オルステッドを殺せると確信しているジョウイに対する怒りか、
あるいはその両方が彼を震わせていた。
胸から湧き出た衝動が言葉となって喉を逆流する。
許せなかった。許容ができなかった。こいつの願いにではない、その願いに対する姿勢にだ。
欲しい場所があって、どうしようもなく欲しくて、奪ってでも欲しい。
そんなジョウイの、持たざる者の渇きを、ストレイボウは理解できる。
だが、ストレイボウが最後まで言えなかった一言を、目の前の鏡は言い切ったのだ。

「……なあ、もうやめろ。お前1人でそこまでする必要なんて、どこにもない。
 お前の狙いがオディオだというなら、なおのこと俺たちと戦う必要なんてない。一緒に、アイツを止めよう」

座礼を崩さないジョウイに、ストレイボウは利かん坊をあやすように手を差し伸べた。
だが、それは同時に親に駄々をこねるかのような児気に溢れていた。
「そりゃあ、あいつが悪くないなんて言わない。この墓場を作るのに、あいつは殺し過ぎた。
 その中にはジョウイ、お前の大切な人がいたんだろう。それくらいは分かる。
 でも、でも! お前は生きている。楽園じゃなくても生きていけるんだ!!」
死にに行くなと、ストレイボウはジョウイの裾を引いた。
ジョウイが往けば十中八九、ジョウイが死ぬからであった。
ストレイボウは自身を真に恐れさせているのが十中八九がはずれてしまった場合であることに気づいていない。
気づかぬまま、生を尊び生を勧める。ほかの皆がそうしたように。
それこそが光だと信じて。憎しみこそが人を魔王にすると信じて。

「生きているなら、何度だってやり直せるんだッ!!」
「だったら、豚と蔑まれて死んだ者にはその機会すらないということだッ!!」

824さよならの行方−trinity in the past− 21 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:09:51 ID:8eyvrRuY0
だから、此処に来て初めての怒声に面食らう。

「貴方は間違っていない…………だけど、それでは足りないんだ」
ぞくり、と泥の海全てが震え上がる。死喰いが再び動いたのかと一瞬思いかけたが、直ぐに破却される。
この島が、震えているのだ。たった一人の想いによって。
「止めるだけでは、いずれ始まる。いずれオディオは蘇える。争いは再び始まる。
 そしてまた死ぬ。大切なものが、守りたいものが、温かったものが、消えて果てる」
背中を覆い隠す魔王の外套が黒く戦慄く。ぎちぎちと蠅声のように立ち上がるのは、彼が背負った声なき声か。
そんな凶音と共に、ゆっくりと、ジョウイが立ち上がろうとする。

「止めるだけじゃ足らない。終わらせる。勇者も英雄も、番人なんて残さない。
 全部終わらせて、暖かな平穏を、楽園を創る」

血と闇に満ちた外套の裏側で、闇が渦を巻く。
「欺瞞です。身勝手な理想だなんて、百も承知している!
 悲劇を生まない理想の前提として、僕は無数の悲劇と犠牲を強いてきた!」
ジョウイが奪って来たもの、魔王が奪って来たものが形を作って狂っている。
「未来を夢見て、今を壊して、そうして実現した理想が賞賛される訳がないッ!
 怨恨、憎悪、嫌悪、怨嗟、遺恨――あらゆる負の感情と悪意に満ちた視線に晒されるッ!」
この祈りのために、どれだけの血肉と怨嗟を捧げてしまったか。
憎悪と繋がってしまったジョウイはそれをハッキリと知ってしまった。
魔剣に集う想い出はイミテーションオディオと結びつき、若き魔王を責め苛む。
「当然だ。それだけ多くのものを、多くの人から奪ってきたんだから、当然だ」
その重みを耐えて背負い、その上体をゆっくりと押し上げていく。
押し潰されそうになりながら、泥に塗れながらそれでもギリギリのところで踏みとどまっている。
 
「だけど、この痛みの代わりに、理想が叶えられるのなら。
 戦争による悲劇が、二度と生まれないのなら。
 自分だけが傷つき怨まれ憎まれることで、他の誰も傷つかない世界が作れるのなら。
 温かな平穏の中で―――――――“あの子が、泣かずに済むのなら”」

立ち上がったジョウイの端正に整った相貌は泥に塗れていた。
だが穢れなど構わず泥の隙間から見つめる左眼は強い意志を湛えてストレイボウを射抜く。
その視線を前に、ストレイボウは一歩下がる欲求に耐えた。
脳裏をよぎるのは亡候の闘気。あの亡骸を満たしていたものに近い『何か』。
ストレイボウたちと共にいた時には無かった『何か』が、
どれだけ穢れても輝く『何か』が今のジョウイを満たしている。

「この道を往くことを惧れはしない。どんな汚名も恥辱も背負う。
 たとえもう一度敗北したとしても、後悔はしない。
 たとえこの身を焼き尽くそうと、自分出した答えを信じて進む道の為なら、天になっても構わない」

ジョウイが、眼帯代わりに巻いていた布を解き顔を拭う。
そして泥に崩れた布を捨て、その右眼を見たストレイボウは、嗚呼と嘆息して理解した。
きっと、ジョウイはこの泥の底で『答え』を得たのだ。
二度と揺るがぬ『答え』を。ユーリルが『答え』を得たように。

「覚悟はできている。 アナベルさんを手にかけたときから。
 自分が汚れ罵られる覚悟も、全てを背負う覚悟も、
 そして――貴方たちを、貴方の親友を殺す以上のことをする覚悟も」

瞼を削り取ってしまったかのように、その眼は真円を描く。
その周囲は頬から額にかけて、ひび割れたように亀裂を生んでいた。
その、人間以外の何かに変貌してしまった黄金の瞳で、ジョウイ=ブライトは誓いを謳う。
絶望の黄金に呑み込まれながら、それでも忘れえぬ誓いをストレイボウに突きつける。
槍の向かう先は示した。それでもこの道の前に立ち塞がるのなら、容赦はしない、と。

825さよならの行方−trinity in the past− 22 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:10:29 ID:8eyvrRuY0
「貴方たちを否定はしない。ただ進む道が違うだけだ。
 それに、貴方たちではオディオを終わらせることはできない。
 “まだオディオを魔王だと思っている”貴方たちでは。あの雷光に盲いた貴方たちでは」
「おい、それはどういう――――!?」

独り言のように呟かれたジョウイの言葉に、ストレイボウが聞き返そうとするが、
ストレイボウの上空に蒼き門の紋章が刻まれ、彼の身体を吸い込み始める。

「く、ジョウイ、お前……ッ!」
「じきに“始めます”。その時には、賢明な判断を望みます」

言葉を遮るようにジョウイが右手をかざすと、蒼き門は更なる輝きを放つ。
吸引力を強めたその送還に、ストレイボウもまた踏ん張ることもままならず、
持っていたデイバックすら手放し手近な岩を手でつかんだ。
だが、魔術師であるストレイボウの細腕ではそれも時間の問題だった。


 ・もう止められないのか……
 ・待ってくれ!

→・待ってくれ!


既に体を浮かせたストレイボウの両腕が、岩を握りしめる。
爪はひび割れ、唇を切るほどに歯を食いしばり、それでもその手を離さない。
ここまま去るわけにはいかない。絶対にそれだけは許されない。

「なんでだ、なんでそこまでアイツを、オルステッドを憎むんだッ!?」
喉を裂くほどの絶叫が、門の吸引を破ってジョウイを打つ。
ジョウイの殺意をそのままにはしておけなかった。何故オディオが、否、オルステッドが討たれなければならない。
「リオウが死んだからか? ナナミが殺されたからかッ!?
 言っただろう、全ては俺が始まりだ! 俺のせいでこうなったんだ。憎まれるべきは俺なんだッ!!」
ああ、今ならば彼<彼女>は理解できる。
きっと、彼らがジョウイを愛していたように、ジョウイも彼らを愛していたのだろう。
それを引き裂いたのは、この墓場を作り上げたオディオ、オルステッドかもしれない。
だけど、それを言うならば、そもそもの始まりはこの自分のはずだ。
だから、償うべきは俺だ。悪いのは俺だ。死ぬべきは俺だ。
「なのに、なんで俺を助ける! さっきルクレチアから逃がしてくれたのはお前だろう!?
 救われるべきは俺じゃない、あいつだ。あいつなんだッ!!」
だからどうか、どうか“オルステッドを”。


「――――友に自分を殺させることが罪ならば、僕たちは最初から咎人だ」

826さよならの行方−trinity in the past− 23 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:11:00 ID:8eyvrRuY0
それでも、どれほどに懇願しても、目の前の魔王はただ一欠けらの憎悪も恵んでくれなかった。
代わりに与えられたのは、崩れ落ちてしまいそうなに柔い懐旧。
「ストレイボウさん。僕が貴方を本当に許せたのはね、貴方が羨ましかったからです」
ストレイボウを繋ぎとめていた最後の一欠けらが砕け、虚空へと再び吸い込まれる。
渦に呑まれながらストレイボウは、粒子と消えていくジョウイの左眼と視線を交えた。
「“僕達は、あの丘で殺し合うことしか選べなかった”。
 でも貴方は、僕が本当に欲しかったものの名前を失う前に言えたんだから」
その虹彩に映ったのは、遥かなる過去。
憎悪に満たされた右眼の黄金よりも輝く、小さく、儚く、しかし確かに暖かな何か。
ついに宙に浮き、ゲートに吸い込まれるストレイボウは諦めずジョウイに手を伸ばす。


「貴方は楽園で生きて下さい、ストレイボウ。“たとえ『全て』を失っても”、そこでなら、もう何も失わない」


しかし、その手が何かと繋がることは無かった。

827さよならの行方−trinity in the past− 24 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:11:39 ID:8eyvrRuY0
煌々と輝き続ける虹色の感応石の前で、ジョウイの意識がグラブ・ル・ガブルより浮上する。
ストレイボウと出会ったジョウイは、ジョウイが死喰いに干渉した時同様、感応石を介して送った精神体であった。
だが、ジョウイの肉体に全くの変化が無いわけではない。
体内ではちきれんばかりの憎悪はついにその右眼は黄金に染め上げ、先ほどストレイボウが見たそれと同じになっている。
形状も人間というよりは獣のそれに近い。ストレイボウを拾い上げて送還するのに、力を酷使した代償であった。

「づづづ〜〜〜〜〜〜っ。おっかえりー」

右眼を押さえながら声の方に振り向くと、其処にはいつもと変わらぬ占い師がいた。
いや、少しばかり様子が変わっている。顔の前に湯気が立ちこめ、眼鏡は真白に曇ってい。
手に持っていたのが杯ではなく椀であり、その中に入っているのは酒ではなく蕎麦であったか。
「……なにをしてるんですか?」
「見りゃわかんでしょーよ。八つ時よ八つ時。おやつの時間」
そう言いながらメイメイは目の前でぐつぐつ沸く鍋から箸で高く蕎麦を持ち上げ、
一度椀かけ汁にくぐらせてから喉で味わうようにずずいとすすり上げる。
蕎麦と唇の間をすり抜けられなかったかけ汁が飛沫とはねる。
「みんな休んでるし、私だけ水晶玉にらめっこしてるのも寂しいし。
 幕間の内に食べておかないとねぇ。……別に上に対抗した訳じゃないからね。
 地上も莫迦よねえ。米が余るならお酒つくればいいし、麺麭<パン>が余るなら麦酒<ビール>つくればいいのよ」
そう言いながら、眼鏡を曇らせたまま椀をおいてメイメイは酒を再び煽る。

「……」
「なに、欲しいの?。どぉーっしようかにゃー。支給品以外で食事させるのもルール違反っぽいしー。
でもまあ現地調達扱いだったらいいのっかなー。どーしても欲しいっていうなら〜」
「いえ、いらないです」
「即答、ですって……!?」

まったく興味を示すことなく傍を通り過ぎたジョウイに、メイメイは唖然とする。
「あかなべ印の蕎麦断る人初めて見たわ……あ、らーめんもあるわよ」
このままでは出落ちになると焦ったか、メイメイは指で鍋を指す。
よく見れば円形の鍋は上下を波打つ金属板で仕切られており、
蕎麦を茹でていたのはその半分で、残りの半分は醤油の芳しい香りとともに黄色い麺が茹で上げられていた。
「リィンバウムじゃ最新の料理なんだけど。名も無き世界じゃ298何某でこれが食べられるらしいけど、すごいわよねえ」
「それは――――」
どこの世界のごちそうデスか、と言おうとしたジョウイの言葉が内側からせき止められる。
突然で強烈な嘔吐感がせり上がってくる。だが、碌に何も食していないジョウイの体内からは吐き出るものはなく、
血混じりの胃液が口の中を濯ぐだけだった。

「っ、っは、がぁ、はぁ…………」
「――――もうそこまで感じるようになってる、か。
 せめて水だけでも飲んでおきなさい。そのうち、水のコトまで分かるようになったら、それもできなくなるわよ」

あきれたような表情で、メイメイは麺をもぐもぐと噛んで味わう。
蕎麦にしろらーめんにしろ、いや、干し肉にしろパンにしろ、
全ては加工されたものだ。茎を切り刻まれ種を鋤かれ、石臼ですり潰され、釜の湯で熱されるか猛熱で焼かれるか。
もしもそれが、自分の立場だったらどう思うか……それを人が理解することはできないし、してはならない。
だが、ジョウイはそれを識ることができてしまう。そういうものになってしまった。
犠牲とすら思われないもの達を、敗者にすらなれないもの達の想いまで、認識してしまう存在となった。
知ってしまえば、人間のままではいられないものを知ってしまったのだ。

「いえ、結構です。あの味を、忘れたくないんですよ……」

828さよならの行方−trinity in the past− 25 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:12:33 ID:8eyvrRuY0
両手を押さえ、胃からわき出たものを無理矢理戻す。
何一つ吐き出したくなかった。僅かでも外に漏らしてしまえば、あの焼きそばパンすら、消え失せてしまいそうだったから。

「それで、メイメイさん、さっきのこと……」
「にゃは? なんのこっとかしら?」

メイメイはとぼけたようにジョウイに聞き返す。
ジョウイが言い掛けたのは、当然ストレイボウとの邂逅だ。
万一を考えて感応石を介してストレイボウと会話したから会話内容までは分からないだろうが、
彼処での邂逅はそうはいかないだろう。特に、この傍観者の千眼からは誰も逃れられない。
だからこそ、どこまで見たのかと確認しておきたかったのだが……

「今、地上が熱いのよ。もう青春ドラマもびっくりの青臭いのが乱れ飛んでるのよ。
 そのくせ貴方、ずーっとそこに座って何もしてないじゃない。
 そんな放送事故みたいなの観てるくらいならおもしろい方を観るに決まってるじゃない。
 新米魔王なんて後回しよ後回し。にゃは、にゃははは」

らーめんをすすり終えたメイメイは再びぐいと酒を煽った。
そのわざとらしさにジョウイは少しだけ緊張を緩めた。
つまるところ、メイメイなりの気休めということだ。
オディオのこと、メイメイの眼に頼り切っている訳もないだろうが、多少の時間稼ぎにはなるかもしれない。

「ありがとうございます」
「……勘違いしないでよね。食べにくいものを後回しにしているだけよ。
 英雄の故事に曰く『十割より二八の方が喉越しがいい』ってね」

ぷい、と顔を背けるメイメイに、ジョウイは苦笑する。
なるほど、ならばジョウイの理想はさぞ喉越しが悪そうだ。
ならばそれを食わせるのは、料理人の手腕ということだろう。

ずん、と空が揺れ、メイメイが上を仰ぐ。
当然、この地下71階で空の揺れが分かるはずもなく、それはつまり上の階層の振動ということだった。
「……もう少し調練を続けたかったけど、潮時だな。なら……」
当然のこととばかりに呟くと、ジョウイは蒼き門を開く。
そこから出てきたのは、騎兵に跨がったクルガンだった。
金眼白貌、モルフそのものの姿であったが、ジョウイは彼が役目を果たしていたことを識っている。
クルガンが持った布袋をみる。人一人収まりそうな大きさだった。
ジョウイはそれを名状しがたい表情で見つめた後、微かに頷いた。
クルガンは何もいわずにそれをしかるべき場所へ安置しに向かった。
彼が生命の泥と模倣の未練で創られた人形<モルフ>であることをジョウイは忘れてはいない。

「国交は上手くいった。徴発も、この短い時間を考えれば十分だろう。
 この後の配備に時間を食うとしても……うん、ぎりぎり3時か。悪くない」

829さよならの行方−trinity in the past− 26 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:13:10 ID:8eyvrRuY0
ジョウイは算盤を弾くような明瞭さで、己の状況をまとめ上げていく。
まるで牢屋から抜け出す悪戯を考えつくかのように、その計算機は駆動していた。
あれだけの葛藤が、嘘であるかのように。

「…………実際、なにやってたのよ、本当」
「いろいろしながら、いろいろ考えていました。
 イスラ、カエル、アナスタシアさん、ピサロ、アキラ、そしてストレイボウさん。
 誰一人として弱い人なんていない。僕がまともに勝つ絵がまるで浮かばない。
 まともにぶつかったら、それこそ10分保たずに消し炭になるような気がします」

相手はこの死線を潜り抜けてきた強者6人、それぞれが一騎当千の英雄だ。
対してこちらはオディオより何枚も格落ちの新米魔王。勇者に討たれる存在だ。
しっぽも取れない赤子の蛙が、蛇を前に慢心などできるはずもない。

「だから、こっちのできることをします。
 僕が一番したくないことだけど、僕ができることはこれしかないから」

憎悪に染まった右目が蠢き、ジョウイの唇が吊り上がる。
ストレイボウに逃げて欲しいと言っておきながら、こんな準備をできる自分の人間性を笑いたくなったのだ。
あの土下座に、彼らに逃げて欲しいと思ったことに偽りはない。
だが、それと同時に、彼らを殺す算段を冷徹に編み上げてしまっている自分がいる。
本当に彼らが逃げると信じられるならば、こんなことをする意味はない。

死んでほしくないと想いながら、凶器を手放せない。
殺さなければいけないと分かっていながら、その手を振り下ろせない。
この中途半端、この不完全。反吐が出るほど最低だ。

「それでも、歩みだけは止めはしない」

だが、その顔は自分をあざ笑う諧謔の笑みすら浮かべることを許さなかった。
その全てを傷つける甘さすら背負って進む以外に、ジョウイは術を知らないのだ。
究極的には、力で他人を傷つけることしかできないと知りてなお、
そんな自分だからできることがあると信じて進む以外に。

蕎麦とらーめんの太極鍋からわき上がる湯気で眼鏡を曇らせたまま、
傍観者は目の前の役者を見つめて、その一言だけ告げた。

「貴方って、最低のクズだわ」

その言葉に、遺跡の震えが止まる。
そして、三人でいられなかった少年は感謝するように応じた。

「もっと早くそう言ってくれる人がいたら、きっと救われたいと願えたよ」

830さよならの行方−trinity in the past− 27 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:13:41 ID:8eyvrRuY0
【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 午後】

【ジョウイ=ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ:小 疲労:極 金色の獣眼(右眼)
    首輪解除済み 腹部に傷跡 『魔王』としての覚悟
    紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章
[スキル]:紋章術・蒼き門(Lv1〜4)、不滅なる始まり(Lv1〜3)
     フォース・クレストソーサー(Lv1〜4)
     アビリティドレイン、亡霊召喚、モルフ召喚
     返し刃のダブルアタック 盾の鼓動は紅く輝く 
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍 天命牙双:左 ハイランド士官服 魔王のマント
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1 基本支給品
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:地下71階で準備を完了させる
2:参加者を可能な限り殲滅し、その後死喰いを完全な形で誕生させる
3:ストレイボウたちが脱出を優先するなら見逃す
4:優勝しても願いを叶えない場合、死喰いと共にオディオと一戦行う
5:メイメイに関してはしばらく様子見
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき


[備考]
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。

※無色の憎悪の『始まり』を継承し、憎悪を限定的に制御できるようになりました。
 ただし、毒性はそのままのため、日没までには憎悪に喰われます。

※マリアベルの欲望の残滓を魔剣に取り込んだことで、アビリティドレインが使用可能。
 無色の憎悪を介して伐剣王が背負った(魔剣に想いを取り込んだ者)の能力を限定的に使用できます。
 ただし、その為には死の痛みも含めた全てを背負う必要があります。
 また、ロードブレイザーのようなジョウイの理想に全く繋がらない想いは背負えません。

※アビリティドレインにより『災いを招く者』の力と誓約しました。
 その力とグラブ・ル・ガブルにより、亡霊騎士をモルフ化しました。
 この2体のみ維持のための魔力コストがなくなりましたが、破壊されれば再召喚はできません。

※放送時の感応石の反応から、空中城の存在と位置を把握しました

※ロザリーが見たのは、死喰いに喰われたルクレチア@LALでした。
ルクレチア以外の場所(魔王山等)が死喰いの中にあるかは不明。
※召喚獣を使い、遺跡ダンジョンの地下1階〜地下70階までを把握しました。
※メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています
※死喰いの誕生とは、憎悪によって『災いを招く者の闇魔道』を起動させることで、
グラブ・ル・ガブルとプチラヴォスの亡霊をモルフとして再誕させることです。
ただし、現在は闇魔道の半分がジョウイの魔剣に封じられたため、
現時点ではジョウイにもオディオにも不完全な形でしか誕生できません。

831さよならの行方−trinity in the past− 28 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:14:20 ID:8eyvrRuY0
「おい、大丈夫かストレイボウッ!!」
必死な叫び声に、ストレイボウは目を覚ました。
開いた瞼の向こうには、覆面越しに安堵の溜息をつくカエルがいた。
「叫び声がしたと思って来てみれば、寝こけやがって。悪いユメでも見ていたのか?」
こめかみを押さえながら上体を起こすストレイボウに、カエルは水筒を差し出す。
それを反射的に受け取りながら、ストレイボウは周囲を見渡した。
澄み渡った青空に乾いた大地。何一つ転移する前と変わらない光景があった。
「なあ、ストレイボウ。アナスタシアのところに言ったついでに装備を見繕っていたのだが、
 俺の得物――天空の剣とブライオンがダブってしまった。
 どちらも馴染むからいいのだが、ガルディア騎士団は盾を商うから二刀流はあまり経験がない。
 お前はどっちが――おい、ストレイボウ?」
服の着こなしを確認するかのようなカエルの言葉もストレイボウには上の空だった。
空を見上げる。澄み渡ったはずの青空の上に、不可視の空中城が存在する。
大地に触れる。乾いた荒野の最下層に、死を喰らうものが存在する。
空から伝わる光は全てオディオの視線で、地面に感じる拍動はジョウイの心音。

「なあ、カエル。クロノとマールとルッカって、仲が良かったのか?」
その天地の狭間に立ちながら、ストレイボウはカエルにぼそりと尋ねた。
カエルはその質問の意味を推し量ろうとしたが、すぐに無意味と判断したのか、数秒間考えて答えた。
「……そうだな。時代の違う俺にはあいつ等の関係はよくわからん。
 だが、どれだけの時代を経ても、あいつ等が決別する光景は思い浮かばん」
たとえ、死でさえも、本当の意味であの『三人』を断ち切ることはできないのだろうと。

その答えにありがとうと言いながら、ストレイボウは右手を見つめた。
握り締めたゲートホルダーはひび割れて煙を吐いており、もはや修理の処方もないほどに機械としての命を終えていた。
壊れたそれを見て、あの世界での出来事が理想<ユメ>ではないということを思い知らされる。

散乱したバックから時計を取り出し、針をみる。
すでに、放送から2時間が経過していた。約束の時は確実に近づいている。
オディオの所在、脱出方法、死喰い、ジョウイの狙い、方針。
考えるべき、伝えるべきは山ほどある。だが、この瞬間何よりもストレイボウの頭を占めたのは。

(俺は、俺はどうする……?)

あのルクレチアで握られた両手の感触を思い出しながら、ストレイボウは手を摩る。
リオウとジョウイ。オルステッドとストレイボウ。
『三人』でいられなかった対極の2人を前に、己が為すべきコト。
定まったはずのストレイボウの『答え』は、未だ天地の間を揺蕩っていた。

832さよならの行方−trinity in the past− 29 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:15:10 ID:8eyvrRuY0
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 午後】

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
2:とりあえずジョウイから得た情報を皆に伝える
3:俺はオルステッドを、どうすれば……

[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ゲートホルダー及び感応石×4は過剰起動により破損しました
※ジョウイより空中城の位置情報と、シルバードの情報を得ました。


【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
    疲労:中 胸に小穴 勇気:真
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:ブライオン@武器:剣 
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)


<リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)>


【ドラゴンクエスト4】
 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ
 デーモンスピア@武器:槍

【アークザラッドⅡ】
 デスイリュージョン@武器:カード

【WILD ARMS 2nd IGNITION】
 データタブレット×2@貴重品

【クロノトリガー】
 “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減
 アクセサリ
 激怒の腕輪@アクセサリ

【ファイナルファンタジーⅥ】
 ミラクルシューズ@アクセサリ
 いかりのリング@アクセサリ

【幻想水滸伝Ⅱ】
 点名牙双@武器:トンファー

【その他支給品・現地調達品】
 海水浴セット@貴重品
 拡声器@貴重品
 日記のようなもの@貴重品
 
 双眼鏡@貴重品
 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
 デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中

833さよならの行方−trinity in the past− 30 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:15:42 ID:8eyvrRuY0
【用語解説:空中城と白銀の方舟】

空中城――技術大国ロマリアの技術の粋を結集して作り上げられた浮遊する城塞。
ロマリア国王ガイデルが世界征服のために建造した文字通りの切り札。
この世界において飛行技術は最先端の技術であり、そのほぼ全てはロマリアの掌中である。
その状況下で空対地攻撃が出来る機動城塞は、文字通り世界を一変させる兵器であった。
相手からの攻撃は届かず、こちらは一方的に攻撃可能という特性も、
ガイデル王の気質に見事合致した、まさにロマリアのための最終兵器と言えるだろう。
だが、その本質はロマリアを新世界に導く希望ではなく、
ガイデル王を通じてロマリアを操っていた闇黒の支配者が、文字通り世界を破滅に導くための絶望であった。
空中にそびえ立つ殺戮兵器は全世界の人間を絶望を一身に浴び、闇黒の支配者を封印から解き放ついわば負の象徴になる存在だったのだ。

だが、その奸計は新たなる七勇者達とその仲間達の手により打ち砕かれることとなる。
遙か上空に行かれてしまっては打つ手なしと判断した彼らは、彼らの母船【シルバーノア】による突撃を敢行。
多数のロマリア空軍の火砲をかいくぐりながら見事その城壁を貫き場内に進入。
場内のあらゆる罠や最後の将軍ザルバドを打ち破り、見事闇黒の支配者を封印した。

しかし、その結果として2人の勇者と聖母は命を落とし、墜落した空中城の二次災害によって大災害が引き起こされ、
さらに湖底に眠った空中城は異世界の魔王オディオの手によって再び殺戮の玉座として浮上したのだ。

“空中城に突撃したシルバーノア”とともに。

無論、勇者達を王城に送り届けた方舟は飛行船としての寿命を終えている。
だが、方舟の本質は絶望的な災害から、その船の中の希望を守ること。
船長以下乗組員を含め、人員に死傷者が確認されなかったことが、
シルバーノアが如何に堅牢であったかを物語っている。

そしてそれは人命に限らず、船内に格納された小型艇も同様である。

ゴッドハンター・エルクの所持するヒエンは空中城崩壊の際にシルバーノアから落ちてしまったが、
墜落後も修理すれば運用可能な程度の被害に留まっている。
ウェルマー博士の改修効果もさることながら、
それほどまでにシルバーノアの内部耐久性は高く、小型艇ドックは形状を維持しているのだ。

そしてオディオの手によって浮上した今、そこにはもう一つの翼が存在する。
ジール王国三賢者ガッシュの手によって作り上げられた、時を渡る翼【シルバード】である。
なぜそこにそれがあるのか、矮小なる人の身では魔王の思惑など推し量れないが、
朽ちた方舟に守られた銀の翼が、性能を維持しながら存在していることは確かである。

ただし、優れた船と操舵手がいたとしても海図とコンパスがなければ航海が出来ないように、
この催しが行われている場所の絶対次元座標<ディメンジョン・ポイント>が判別しなければ、航行は難しい。
そのデータは断章<フラグメント>として3つのデータタブレットに収められている。

現在所在が確定しているのは、元魔族の王ピサロの持つ2つだけである。
ジョウイ=ブライトは最後の1つを所持しているというが、それは所持している可能性を含め未だ確認されておらず、
それが某かの謀略に基づく詐称である可能性も否定できないのだ。
参加者所持の支給品の中にあったのか、あるいはどこかの施設に残されているのか。
最後の鍵は未だ闇黒の中にあると言って過言ではないだろう。

しかし、たとえどこにあろうともそれは確かに光への鍵だ。
その全てを揃えてシルバードに組み込むことで、銀の翼は真の方舟として帰りたいと願う者達を帰るべき場所へ送り届けるであろう。

異なる世界の二つの白銀は、王城の玉座よりもっとも遠い場所で、家に帰るべき命を待っているのだ。

834 ◆wqJoVoH16Y:2013/10/27(日) 19:16:28 ID:8eyvrRuY0
投下終了です。いろいろ食い込んでいるので、質問、指摘有ればぜひ。

835SAVEDATA No.774:2013/10/31(木) 18:02:40 ID:4./e3A2M0
投下お疲れ様でした!
まさかの邂逅が納得のルートで行われた!?
逃げてしまえはナナミルート思わせる幻水らしさ
でもストレイボウだけはそれじゃしたいことをできないんだよなー、ほんと

そしてちょいちょい混ざってるシンフォギアネタに吹いたw

836SAVEDATA No.774:2013/11/25(月) 08:25:18 ID:TPT.Xp/Q0
遅くなりましたが、執筆と投下、お疲れ様でした。
なんかもう、何度も読み返してて我慢出来なくなったんで、直近の話も絡めて感想いきます。

アナスタシアとアキラ・ピサロとイスラ、そして今回のストレイボウとジョウイ。
どの話もディスコミュニケーションというか「ケンカ」したり「相手のことが理解できない」という
気持ち(これは、瓦礫の死闘でのセッツァーとかもだったなと)が目立つなあ、と思いながら読んでいました。
そして、各々の話で出てきたこの要素に、少なくとも自分は強く惹きつけられた。
いくら絆をつくろうとしても、過去の想い出にすがろうとも、理解し合えないものはある。
そして、当たり前だけどちょっとしんどいだろう事実を前にしたって、全員が行動を諦めないところがたまらない。
序盤、ストレイボウが自分の指は女性のそれでない(だからルッカの記憶を活かして、首輪を解除することを
助けることは出来ない)と思う場面でも「男女」という境界が提示されて、けれどもルッカの記憶からサイエンスを知った
「今のストレイボウだからこそ」ジョウイの答えを引き出す理合いの流れ方が脳みそに嬉しくてたまらなかった。
ストレイボウとルッカのラインは、これまでにもカエルとの繋がりで活かされたりしてきたし、ジョウイのところに行くなら
ストレイボウだろうなとは「親友と対決した」繋がりで思っていたけれど、このタイミングで『クロノ・トリガー』の「三人」に触れられた点には
思考の死角をつかれた。それを想起させた根が、三人のうち、他の二人から離れた場にいたルッカなのが絶妙すぎてどうしよう、と。

>「もっと早くそう言ってくれる人がいたら、きっと救われたいと願えたよ」

で……だけどそういう言葉を、誰にも言わせなかったのがお前だろうが……!
ある意味では誰よりも他者のもつ<他者性>を考慮しながら、つらぬくと誓った理想の「そのまま」に進めるようになれたから
他者をダメにしてしまいかねないジョウイはたしかにクズで、だからこそいとおしいキャラクターだと思っています。
世界のあり方を憎みながらも、それでも世界には変革する価値があると思えるから、ここまでやれる。
掲げた「理想」自体が半端といえば半端で、だからダメな部分も出まくるのに惹かれたのだろうと……このジョウイにかぎらず、
原作ゲームをやっていた頃に覚えたモヤモヤする感じと再び向き合うように文章をなぞる時間が楽しいです。

そして、こういう面倒そうな側面をもつキャラクターたちを、面倒さを残したまま書いていく。
自分と相手の間には違いがあるのだ、という当たり前のことを、当たり前のように書いていく。
基本的に後戻りがきかない(リレー)SSだからこそ、今回の話で描写されたアナスタシアの姿勢のように、派手で
面白いことを魅せていきつつも「当然」を慎重に描き出していく筆の強靭に、胸が熱くなりました。
もう言いたいことがバラバラですが、端的に言って、自分は、氏の話やRPGロワのSSが好きなのです。
この感想がいいものか、悪いものか、喜んでもらえるものなのかは分からない。
ただ、これだけは伝えさせてください。いつも、「この話」を読ませてくださって、ありがとうございます。とても面白かったです。

837SAVEDATA No.774:2013/12/08(日) 22:31:37 ID:4KOmgTkM0
新予約きてたー!

838 ◆wqJoVoH16Y:2013/12/09(月) 01:06:11 ID:k26VvPGg0
アナスタシア、イスラ投下します

839イスラが泉にいた頃… 1 ◆wqJoVoH16Y:2013/12/09(月) 01:07:06 ID:k26VvPGg0
「あんたも水浴びかい?」

目の前に差し出された右手(の手拭い)は―――

(いやなにこの黒髪むっちゃ綺麗なんですけどっていうかえ?これナニ男性女
 性男女女ぽいってでも胸ゼロ?ステータスなのかしらてってか待ってまって
 OKOKBeCoolCoolCoolッ!ラジカセ片手に氷の計算機めいて整理しよわたしッ
 ようやく余りの首輪完全に改造できるようになって息ついたら背中も頭も髪も汗塗れのぐっちゃぐちゃであー黒髪きれーだなーって
 集中切れたら気持ち悪い汗がへばりついてて動きにくいし砂むっちゃ額にべたりんぐるんだもん
 そりゃ洗いたくなるっつーか顔の一つでも濯ぎたくなるでしょ空気読め?うっさいンなもん読めてたらこんなルートつっこんでないっつーの
 バカですかバーカバーカルシエドのオタンコナースアンタが先に周辺見てくれてたら
 こんなショボローグしなくてすんだよの気づいたら勝手に散歩なのかいないしどんだけ我が儘なのよ誰に似たのかしら
 飼い主見たら右ストレートでぶっ飛ばすと思わせて左ストレートでぶっ飛ばすから世界取れるからねわたしの左)

正確にアナスタシアの意識を捕らえ思考を揺さぶり典型的なテンパり状態を作り出した――――

(さすがにありったけボトルぶちまけてその場で洗うのもボトラーみたいで負けっぽいし
 ニートじゃないから、なんか誤解されてるみたいだけど生きたがりだけどニートじゃないからただいい男
 欲しいなあって思うだけで1000ギャラ貰える法律出来ないかなってちょっと思ってるだけだし
 肌白いなあマジ女の子みたいで地図見てたらここから北に泉があってしかも
 ギリ端っこが禁止エリアから抜けてるしこれは洗うしかないでしょマイハートッ!ってそりゃ
 行くわよあくまでも髪を洗いにあったりまえでしょいくら何でも野獣のような野獣が
 あと6匹もいるのよそりゃさすがの私だって自制無理でしたドッボーンッ!!)

「見栄切って時が来たらまた会おうって言っておきながら……? あれ……?」
そうだと予測した人物ではなさそうと気づいたイスラは
水に濡れて顔に張り付いた髪をかき分け――――

(ンギッモチイイイイイイイイッ!!!ってヌるってた汗が溶けてヘバりついてた砂が散って
 いいぞ私が純化されていくってくらい悦ってたこの身体がぁ!トロ顔でぇ!
 しかたないじゃん、女の子よ私!そりゃ男子は一週間くらい服も変えず垢まみれ汗塗れで
 ちょっとちびっても凍傷にならなければそれでいいんだろうけど無理、生理的に無理!
 半径20m以内に近づかないで!その臭気が肺胞<なか>に着床するとか耐えられないからッ!!
 でもまあかわいい女の子ならそれはそれでって、横向いたら柳のやうにひつそりと起つて居たのだ)

「あんた、カエルじゃない……?」
眼と眼が出会う瞬間、身体を濯いでいたイスラの怪訝な視線はアナスタシアをさらなる遠い世界に連れ去り――――

(濡れそぼつた髪は黒〃としながらも太陽に燦々輝き、肌は白磁のやうに艶やかなりけり
 数多の傷も霞けるいいぞ私はお前がうらやましいって女? 女の子? この島で?
 残り7人の中に女は私だけなのに? 未知の8人目だったら最高なんだけどそういうことにしたいんだけど、
 これ、やっぱ、つまり男でわたし今装備品フルリセットしちゃったんだけどえーあーうー、
 所謂一つのサムプライム演歌吽斗? ファイナル末法ワールド? サツバツ? っていうかやっぱモ)

「いやあああああああああああああああ!!!!!!!!!
 痴漢よぉぉぉぉおおおぉぉぉぉあおをぉおおぉおあおおそおおっっ!!!!」
「なんでだおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

(イスラの社会的人生の)全てを終わらせたッ!! その間実に2秒ッッ!!
乳房を腕で覆い、湖に勢いよく水没するアナスタシア。
異端技術を取り戻したベストコンディションの姿である。

840イスラが泉にいた頃… 2 ◆wqJoVoH16Y:2013/12/09(月) 01:08:18 ID:k26VvPGg0
「もぅマヂ無理……どぉせゥチゎ覗かれてたってコト……お嫁ィけなひ……入水しョ……」
「間違っても僕に責任はないし謝らないからな!」
湖の縁で湖面から赤らめた顔の上半分だけを出してうなっているアナスタシアは、
すでに水着に着替えていた。
心底面倒くさそうに応ずるイスラはすでに体を拭き、シャツを着ていた。
ただし、まだ熱が抜けていないのか、膝から下はズボンを捲り、湖に浸らせている。
「っていうか、なんで湖が元に戻ってるのよ……確かピザが枯らしてたでしょうが」
「略し方に悪意が籠もってない? ここはどうやら集いの泉らしいからね。
 4つの水源から集う泉だから。干上がっても、時間さえあれば集うさ」
そう説明するイスラもまた、それを見越してやってきたのだ。
ピサロとの訓練(?)の後、某かの踏ん切りをつけたイスラもまた、己に纏う汗の不快を感じ、この泉を求めたのだった。
カヴァーとはいえ帝国軍に属していた以上、我慢が出来ないほどではなかったが、
そのままでいることを良しと出来ぬほどに、雨上がりの真昼の太陽は彼らを照りつけていた。
(といっても、こんな早く溜まるものとは思ってなかったんだけど。
 せいぜい、その近くにある伏流が残ってるくらいしか期待してなかったのに)
何にせよ、大量の水があるのならばわざわざケチくさい真似をする理由はないとイスラは行水を選択した。
かつて心を閉ざしていたころならば、無意識にも出なかった選択肢を選んだのは、
ともすれば、ここに残る5人に対して知らず警戒心を薄めていたのかもしれない。
緩やかなる、しかして温かい変遷。

「へーん、やっぱデブピザロも大したことないのね」
(やっぱり警戒しておけよ僕ッ!)

それがこのざまである。
掌で鼻をかみながら臆面もなくこの場にいない者をけなす、この精神性。
イスラもまたカエル、そしてピサロと言葉を、刃を交え、少なくと分からない何かがあることを理解できたというのに。
やはりこいつだけは理解できないと思うには十分だった。

841イスラが泉にいた頃… 3 ◆wqJoVoH16Y:2013/12/09(月) 01:08:56 ID:k26VvPGg0
「そういえば、首輪はどうしたのさ。まさかあれだけ大見得切っておいて、できませんでしたとかいうんじゃないだろうね」
「わー、信じてないんだぁ。イスラ君に信じてもらえなくてしょっくだわぁ。しょっくすぎて手元が狂ってしまいそうだわぁ」
これ以上ないほどの棒読みで泣き言を言いながら、アナスタシアは首をすくめて湖面から手を出してやれやれと手を振る。
その小さな無数の傷を見てもなお悪態を言い返すほど、イスラはかつてと同じではない。
「……不思議なものね。貴方とまた話をするなんて思ってなかったわ」
イスラの微妙な変遷に気づいたか、皮肉げな瞳はそのままで、アナスタシアは指を絡めて腕を伸ばす。
「話が出来ると思わなかった、かな。早々死んじゃうと思ってたから」
「……ああ、そう思ってたよ僕も」
「そっか。今は違うか……うーん、そっちの予言は当たっちゃったわね」
青空に伸ばされた掌から零れた滴が、うなじを通り脇を伝い泉へと還っていく。
「“生き残るために足掻いて周りの人を苦しめて――殺してしまって本当に一人ぼっち”……どう、このペルフェクティっぷり」
「嘲笑ってほしいだけなら余所でやってくれよ」
「あら、それが君の生計(たっき)でしょう?」
コロコロと笑いながらアナスタシアは空を見上げていた。目を刺す陽光に瞼を絞りながら。
イスラはその様に言いようもない不快感を覚えながら、知らず言葉を紡ぐ。
「あんまり棘は見せないほうがいいんじゃない? もうちょこ…だっけ? も、マリアベルもいないんだ。誰も庇っちゃくれないよ」
「そうね。あの時は、ちょこちゃんがいたから」
どぷりと頭まで水につけた後、アナスタシアはゆっくりと浮かび、水の上で仰向けになる。
「もう、誰もいない。新しく手を伸ばしてくれた子も、まだ伸ばし続けてくれていた友達もいなくなって。
 それでも、私はこうして生きている。濁った未来、欠けた明日しか待ってなくても、私はこうして生きていく……君と同じね」
その結びに、今までのような険は無かった。どちらかと言えば、そうするのも億劫なほどに衰えていたと、イスラは感じた。
思考は、思想は、これほどに隔絶しているのに、境遇だけがやけに似通ってくる。
「そうでもないさ。僕には、今のアンタはくすんで見える」
「意外ね。私の値打ちなんて、君の中じゃ最安値だと思ってたわ」
「だって、アンタは言ってたじゃないか」
「何を?」
「かっこいいお姉さんになりたいって」

ちゃぷり、と波紋が揺蕩う。心臓の音まで波に変わってしまいそうな静寂だった。
「そういって、カエルに向かっていったときは、その、なんだろう。少しはマシに見えたよ。
 少なくともあの時アンタは、生きることに“上等さ”を求めていたように思った。僕が死に貴賤を求めたように。
「でも今のアンタは、ただ生きてる。前より酷い。“自棄になって生きている”違う?」
「……イスラ君、あなた一生に一度くらいはいいこと言うのね。死ぬの?」
「生憎と、今ここに生きているの意味を越えるくらいの死ぬ意味を探してるところさ」

ちゃぷちゃぷと足で水面を荒立たせながら、イスラもまた空を見る。
汗を落し小ざっぱりした形で見る空は、少し高いようにも思える。

「あぶ、足攣った!! アブアブアブアブアブアブゥゥゥゥゥ!!!!」
「アンタは空気読めよ本当にッ!!」

842イスラが泉にいた頃… 4 ◆wqJoVoH16Y:2013/12/09(月) 01:09:46 ID:k26VvPGg0
センチメンタルを弄んでいるうちに気づけば腕だけになっていたアナスタシアに、イスラは半ば反射的に手を差し伸べる。
だが、触れようとしたその瞬間、湖の中で頬が裂けそうなほどに笑っていたアナスタシアを見た。
まるで『待っていたわ……この瞬間<とき>をッ!!』と言わんばかりの悪魔もびっくりの笑顔だった。
気づいた時にはぐいと引っ張られ、全身が水の中に叩き落とされる。
如何な手際か、浮上したときには水着を脱ぎ捨ていつもの装束を纏ったアナスタシアが泉の淵で見下ろしていた。

「なーに偉そうなこと言ってんのよバーカバーカ水でもかぶって反省しなさい反省」
「こいつ本当に……ッ!」
「あ、そうだ。あの時の私がマシって言ったたけど、どこら辺がよ」
「……それは」

言いかけたイスラの言葉を、第三者の声が遮った。ストレイボウとカエルの声だ。
その息には感情が込められており、どうにも聞き流せるものではないらしい。
「ん、続きはまた後で聞かせて頂戴な。まあ、何よ。死にたがりよりはマシだと思うわよ、私も」
梳いた髪をまとめ上げたアナスタシアは聖剣を背中に、先に進む。昨日よりもほんの少しだけ歩調を速めながら。
その背中を、聖なる剣をイスラは見つめ続けていた。

死に価値を見出したイスラと生を渇望し続けるアナスタシアはどれだけ近づけど永遠の平行線だ。
なぜマシだと思ったのかは、自分でもよく分からない。
そう思ったのは後にも先にもあの一瞬だけだ。ただ。

生と死の境目に独り立ち、全ての災禍をそこより徹さぬと構えた女傑の姿は、
どこか、どこかあの紫を思わせたから。それはきっと、病床の小さな世界でも知っていた一番かっこいいものだったから。

交わらない平行線を貫くか細い共界線が、観えたような気がした。
例え交わらなくても、生きているのならば、いつか繋がるときがあるのかもしれない。
この空は2人だけでは広すぎるから。

843イスラが泉にいた頃… 5 ◆wqJoVoH16Y:2013/12/09(月) 01:10:38 ID:k26VvPGg0
【C-7 集いの泉湖畔 二日目 午後】

【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:びっしょり ダメージ:小、疲労:小
[スキル]:心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1〜4)
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:今はまだ、したいことはないけれど。“いつか”を望み、したいことを探し続けよう
1:『その時』は近い
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)


【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:こざっぱり ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6
[思考]
基本:生きて幸せになるの。ぜったいよ。それは、ぜったいに、ぜったいなのよ。そして。
1:『その時』は近い
[参戦時期]:ED後

*海水浴セットはそのまま湖の淵に置き捨てました


<リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)>

【ドラゴンクエスト4】
 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ
 デーモンスピア@武器:槍

【アークザラッドⅡ】
 デスイリュージョン@武器:カード

【WILD ARMS 2nd IGNITION】
 データタブレット×2@貴重品

【クロノトリガー】
 “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減
 激怒の腕輪@アクセサリ

【ファイナルファンタジーⅥ】
 ミラクルシューズ@アクセサリ
 いかりのリング@アクセサリ

【幻想水滸伝Ⅱ】
 点名牙双@武器:トンファー


【その他支給品・現地調達品】
 拡声器@貴重品
 日記のようなもの@貴重品
 双眼鏡@貴重品
 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
 デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中

844SAVEDATA No.774:2013/12/09(月) 01:11:40 ID:k26VvPGg0
投下終了です。

845SAVEDATA No.774:2013/12/09(月) 07:56:35 ID:kES8jEgs0
執筆お疲れ様でした。
ああ……これはもう、『“イスラ=レヴィノス”と生きたがりの道化』だなあ……。
誰もが、たとえ穏やかな話であってもシリアスになりがちな局面において、
笑いの種を提供してくれるアナスタシアの、その立ち位置こそが見ていてつらい。
もちろん、そうした位置に立つ経過も納得がいくし……原作的にも、記憶の遺跡っていう
「外側」から他の人物の行動を見て、茶々入れしながら引っ張っていく役は適任ではある。
この状態で、しんどいと言えば「生きたさ」がさらに濁るだろうってのも分かるんだよなぁ。
だけど、そうした「外側」から見た情報を持っていてさえモヤモヤする今の彼女に、
イスラはよく言葉をかけてくれたものだと思う。
内容がどうであれ、誰かと繋がれるかもしれない自分を想像出来ていたり、空に広さを覚えたりして、
だけどそれを嘆くだけにとどまらなくなったコイツは、たしかにマシになった……というか、
フォースを受け継いだOTONA(ブラッド)とも近くて遠い道を歩けそうだと思える。
それが、RPGロワの足跡のひとつだと思えるのがまた感慨深いなと。
……そして、そういうイスラがアナスタシアに目を向けたからこそ、地味に書き足されてる
アナスタシアの思考欄に気付いたときのため息は深かった。
首輪に向かっていてさえ空虚の輪郭が浮き彫りにされるってのも皮肉だけど、しんどいとさえ
言われなけりゃ頑張れとも言ってやれない。すくえないなあ、と思えばジョウイのことが思い出される。
怒涛のパロディから始まって、想い出と記憶に絡め取られる過程で覚えた感覚がたまりませんでした。

846SAVEDATA No.774:2013/12/11(水) 23:21:43 ID:at./ZTug0
投下乙です!
イスラがすっかりノリツッコミをマスターした!
アシュトカ時空を思わせるこのノリはWA2に関わったものの必然か……
でもあのイスラがアナスタシアとこんな会話できるというのも彼が生きようとする余裕みたいなものを得たからこそなんだよなー

847SAVEDATA No.774:2013/12/25(水) 17:10:26 ID:3NfFHQkI0
しかし今の予約、オディオ“など”なんだな
フォビアたちが書かれるのだろうか

848SAVEDATA No.774:2014/01/02(木) 11:09:58 ID:74XnPy1.0
RPGロワ本スレ初書き込み一番乗りは貰ったァーッ!

はい、年を越してしまい、クソ遅くなって申し訳なく思いながらの感想でございます

>さよならの行方−trinity in the past−

コレ、ジョウイの狂いっぷりがすごいわ
理性的で賢しくて冷静なのに、行動と思考のネジの外れっぷりが尋常じゃなくてゾクリとした
こいつが見てる理想の楽園に導けるのは、他の誰にもできやしねーって実感するね
こんな、突き抜けるほどの優しさを下地にした歪みを抱けるのって、弱さを抱えたジョウイくらいだろ
なにやってんだよ。もっと手はあるだろうに、なんでこんなことやってんの
そんなことも思うんだけど、それでもジョウイはひたむき過ぎる
ほんと、頭回る癖にバカで、夢見がちで人間臭いから、こいつは魅力的なんだよな

しかしこれ、ストレイボウはどうするのかな
死のルクレチアへと迷い込み、選択肢をつきつけられ、ジョウイの抱える深淵に触れてしまって
一度道を定めても、こんなものを見て、知ってしまったら惑って当然だよな
この話で得た知識と感情が、どこに辿り着くのか楽しみだわ


>イスラが泉にいた頃…

ここにきてサービスシーンきた!
イスラが羨ましいと思わないのは、アナスタシアの自重しない思考のせいだろうかw
アナスタシアとイスラ、交わらない位置にいる二人の、確かな変化を感じられて心地よかった

>生憎と、今ここに生きているの意味を越えるくらいの死ぬ意味を探してるところさ

このセリフと、、イスラが空を見上げるところが特に好き
歩いてるんだなって、生きてるんだなって感じられた
ただ生きたいと思うコトも、死に価値を見出そうとするコトも、きっと尊いんだろう
たとえ交わらなくても、そういうのを互いに感じ取ってるような気がしたわ
『剣の聖女と死にたがりの道化』を読み直したくなりました

849SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 00:12:10 ID:D7ww6E6w0
そういえばまだ言ってなかったかw>本スレ

あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします!

850魔王への序曲 1 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:21:25 ID:9qS70r1M0
――――はじまりは、何だったのでしょう?
――――運命の歯車は、いつまわりだしたのでしょうか?

夕暮れも深まった森道は朱く染まっていた。
風はなく、夕日に照らされた緑は暖かさだけを湛えている。
整備されているとは世辞にも言えないが、荒れ道というほどでもないその道を、一人の少年が歩いていた。
その衣類はすり切れており、本来は輝いていたであろう金の髪はくすんでいる。
だが、その足取りと表情には明確な精気が満ちていた。彼は――ジョウイは帰途にあったのだ。

犠牲にしたものの為、失われてしまったものの為、彼は魔王となる道を選んだ。
ありとあらゆる備えをし、勇者達を撃滅するつもりだった。

だが、ジョウイは、それを全て捨てた。
イスラの、アナスタシアの、アキラの、カエルの、ピサロの――――そして、ストレイボウの懸命な説得を受けて、目を覚ましたのだ。
亡くしたものは帰らない。だから私たちは生きなければならないのだと。

すでにねじ伏せたはずの言葉は、十重二十重と編まれより強靱な想いとなり、
ジョウイの魔剣を――“理想”を貫いたのだ。
当然、そこに何の感情もなかった訳ではない。
この島に来るまでに犠牲にしてきた人達。この島で彼を生かした者達。
己が魔法にて死を奪った英雄達。背負うと決めたそれら全てを擲つことがどれほどに恐ろしいことか。
だがその恐怖をジョウイは乗り越えた。否、ジョウイ達は受け止めると決めたのだ。
一人で背負うのではなく、ともに分かち合うのだと。彼らと繋いだ手が救ってくれたのだ。

争いを回避した彼らにもはや障害はなかった。
イミテーション・オディオを内包した魔剣は首輪の中にあった魔剣の欠片と共鳴し、
オディオの支配を遮断、首輪の効力は悉く無効化されて解除された。
そして、理想から解放されたことで黒き刃と輝く盾を失い戻った紅の暴君を手にしたイスラは、
それをグランドリオンの代替としてプチラヴォスを核とした死喰いの封印を行う。
後顧の憂いを絶った彼らは、すでに空中城への座標を突き止めていたこともあり、
聖剣にて貴種守護獣の力を束ね、参重層術式防護<ヘルメス・トリス・メスギトス>を突破。
ルーラとテレポートでオディオの元へたどり着いた。

死闘だった。
一歩手順を誤れば全滅、差配が滞れば誰かが死んでいただろう戦いだった。
なによりもオディオ――勇者オルステッドの憎悪こそが、どんな力よりも恐ろしかった。
だが、彼らは勝利した。今こうして歩く中でその戦いを追想しようとしても、
無我夢中で戦っていたジョウイには抜け落ちたように思い出せない。
だが、懸命だった。魔剣を喪い、ただの紋章使いになってしまったとしても、
自分に出来ることをしようと決意し、楯と刃を以て彼らのサポートに徹し、
オディオの最後の言葉とともに光に包まれ、気づけば終わっていたのだ。

851魔王への序曲 2 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:22:07 ID:9qS70r1M0
夕日が落ち掛け、暗くなりそうになったころ、
森が開かれ、仄かな明かりが目に映る。漂う夕餉の臭いが、目的地の到達を教えていた。
ハルモニアの辺境、誰の手も届かぬ辺鄙な場所に建つ家屋。
ジョウイはその扉の前でわずかに逡巡した後、扉をノックした。
木の床を叩く音が近づいて止まり、ゆっくりと玄関が開かれる。
その前にいたのはジョウイに残されたすべて、落日の王国で皇王が最後に残した愛と希望だった。

小さな希望が、目を大きく見開き、そして花のように顔をほころばせ、ジョウイの胸に飛び込んでくる。
その背中を抱き留め、その温もりを優しく撫ぜる。その小さな肩の先には、確かにこんな自分を愛してくれた妻がいた。
そう、たとえ経過が曖昧であろうとも、決め手に関われなかろうと、彼は生きてここにいる。
二度と帰るまいと思った世界へ、それでも帰るべき場所へ、帰ってきたのだ。

「ねえ、おとうさん」

ようやく収まりつつあった嗚咽の代わりに、子供が訪ねてくる。
あやしながら、ジョウイは先を促した。

「ナナミお姉ちゃんは……リオウお兄ちゃんは一緒じゃないの?」

日が落ちて、あたりは夜に包まれた。
もうなにも見えはしない。何も映ることはない。
そう問いかけた花の色も、そう問われた愚者の顔も。


――――時の流れのはるかな底からその答えをひろいあげるのは、
――――今となっては不可能にちかい……

852魔王への序曲 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:23:02 ID:9qS70r1M0
「お目覚め?」
瞼をあけて見上げた世界には、真っ赤に染まった酔っぱらいがいた。
まだ人間の形を保っている左眼で眼鏡の奥の瞳を見つめながら、ジョウイは仰向けになったまま尋ねる。
「どのくらいここにいました?」
「上階に上がったきり戻ってこないから見に来たのよ。15分くらいってとこかしらねぇ」
ジョウイはこめかみを押さえながら状態を起こす。
眠っていた、という実感はない。頭の中の回路がブツリと切れてしまっていた感覚だった。
その顔は精気が抜け落ち、白蝋のように窶れている。墜ちてしまったゴゴと同じ黄金の右眼だけが、爛々と輝いている。
「ずいぶん無茶をしたみたいね」
杯の酒を飲み干したメイメイは眼鏡を外し、玉座から正面を一望する。
血のように紅い絨毯は黒と白に染まっていた。
虻もわかぬほどに栄養を失った腐肉や、水気も残らぬ白骨が海のように敷き詰められている。
魔族が夢見た楽園としらず、ただ宝の山と勘違いした野盗ども。
わずかな楽園を侵させまいと王墓を守り続けた墓守の残骸。
遺跡ダンジョンに偏在する兵どもの夢の址。
なぜここにそれが集められているのか、どうやって集められたのか。
メイメイは敢えて観ていない。観る必要もなかったからだ。
「で、なにしてたのよ」
だが、それはジョウイが50階に上がる理由とは全く関係がない。
抜剣していない状態では歩くことも不自由するだろう消耗だろうに、なぜ本人が上がったのか、メイメイは尋ねた。
ジョウイはそれに答えるようにして、二枚の封筒を渡す。
丁寧に封蝋されたそれは上質な紙に華美な装飾が施されていた。まるでどこかの国書のごとき装丁の封書だった。

853魔王への序曲 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:23:49 ID:9qS70r1M0
「……なにこれ?」
「いろいろ考えたのですが、2つと思いました。1つは、彼らに。もう1つは」
「あなたは特殊なアホなの? アタシをポストか何かだと勘違いしてない?」
メイメイは叱るような目つきでジョウイを睨む。
「貴方は自分が何をしたのかを分かっている。あのギャンブラーの言葉を借りれば、
 貴方は“他人の金も場に乗せた”のよ。もう貴方は負けられない。
 いいえ、負けるという発想さえ烏滸がましい。その上で、保険でもかけようっての?」
遙かな空より見下ろす龍の如き天眼でメイメイはジョウイを見据える。
だが、ジョウイは困ったように頭を下げるだけだった。
誰よりも恥じているのだろう。
何もかもを使い潰そうとしながら、それを遺さずにいられなかった自分自身に。
あのときから何も変わっていない自分自身に。
「ねえ、一つ最後に聞かせて」
眼鏡を外して眉間を揉みながら、メイメイはジョウイに問いかける。
詰問する調子はもうない。女性のやわらかさと神の厳かさを併せ持った、静かな問いだった。
「そこまで悩むくらいなら諦めちゃえば? あるいはいっそ、あたしに手伝ってほしいっていえば?」
静寂の遺跡の中で、ジョウイは黙ってメイメイを見つめていた。
「負けが怖いんだったら、ズルしちゃえばいいのよ。
 あたしが手を貸せばオル様を倒すにせよ、彼等を殺すにせよ、1時間もあれば片づくわよ。
 ヒトカタでよければ人手の補充だってできる。あたしが本気を出せば、それくらいは朝飯前ってね」
にゃはは、と乾いた笑いがひとりきり木霊する。その音が止むころに、メイメイは一つ小さなため息をついて、杯に酒を注いだ。
「信じられない、か」
「いいえ、信じますよ。貴女の力を今更疑いはしません」
なみなみと注がれた杯から滴がこぼれる。ジョウイはゆっくりと首を横に振った。
「この魔剣を得たからでしょうか。貴女がどれほどの力を持っているのかは分かります。
 おそらく、やろうと思えばできるのでしょう。ですが、それはダメだと思うんですよ」
「どうして?」
「僕たちの戦いを、苦しみを、願いを――神や運命なんて言葉で片づけたくないから」
この剣を手にしたのは、紋章の呪いなどではない。抱いた魔法はジョウイ自身の祈りだ。
故に部外者に邪魔はさせない。
たとえレックナートであろうが守護獣であろうが幻獣であろうがエルゴであろうが精霊であろうが竜であろうが星であろうが。
この戦いは人間の、誰しもが持つ感情から始まった。
ならばその終わりまで、人間の手に委ねられるべきなのだ。たとえ、どのような結果になろうとも。
(だからこそ、私、か。観測者としてではなく、手出し無用の立会人として)
メイメイはジョウイの答えを含めるように酒をあおり、しばし虚空を見上げる。
実際は、運命を変えるほどの力が自分にあるとは思わない。
それほどまでに魔王オディオは、世界の憎悪は強大なのだ。
好き勝手に振る舞っているように見えるのは、その実なにもしていないから。
観る以上に直接的に干渉すれば、簡単に支配されてしまうだろう。
やはりメイメイには、何もできない。それはとっくの昔に分かっていたことだ。
ならば、なぜこうも苛立つのか。分からないまま、酒を再び煽る。
一人で全てを背負う、その在り方が、心の内側をかきむしる。

「それに、信じたいんですよ」


――――ですが、たしかにあの頃わたしたちは――――

854魔王への序曲 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:24:28 ID:9qS70r1M0
それに口を付けたとき、ジョウイが小さく呟いた。
「僕の魔法<りそう>は、がんばればヒトの手でちゃんと叶えられるものだって」

蒼白になった顔に、ほんの僅かな笑みが浮かんだような気がした。
だが、メイメイが瞼をしばたいた時にはすでに、乾ききった無表情で、そうであったという証すら残らない。
「……真なる理想郷、か」
ふいに口ずさんだ言葉と納得を、そのまま酒で流してしまう。
全てを一人で背負い、理想の楽園を祈る王。
やり方は異なれど、それは確かにあの日見送った背中だった。
ならば此度の自分の在り方も変わらない。ただ信じ、見届けるだけだ。

――――おおくのものを愛し、おおくのものを憎み……
――――何かを傷つけ、何かに傷つけられ……

「とりあえず、預かるだけ預かっておくわ。渡すかどうかは……この後の見物料にしておきましょう?
 ……そういえば貴方の“それ”、名前は決めたの?」
封書を胸の谷間にしまい込みながら、メイメイは玉座から下手を見つめて尋ねた。
ジョウイは何のことかとしばし首を傾げ、ややあってああ、と気づいた。
「必要もないと、考えていませんでした。そうですね……だったらオレンジ「ヴァカなの?」

ジョウイが言おうとした名前を、メイメイはばっさりと切り捨てる。
「名前っていうのはね、物事の本質を決定する重要なファクターなの。
 真名、魔名。言祝にして呪詛。名前一つでその人の運命が決まっちゃうことだってある。
 召喚獣にしたって概念にしたって、それは同じ。
 もし勇者が“ああああ”とかそういう名前だったらどうなると思うの?
 命名神もムカ着火ファイアーでへそ曲げるってもんよ」
「僕のセンスはああああ以下なんですか……」
熱っぽく語るメイメイに、ジョウイは無表情のまま答える。
だが、そのトーンはガクリと落ちて、明らかに気分が落ち込んでいた。
「そうねえ……じゃあメイメイさんがサービスで改名相談に乗ってあげる」
とん、と柏手を打ちながらメイメイは朗らかに歌った。
一瞬、いやオレンジとジョウイが言い掛けたのを敢えて右から左に流しながら、腕を組むことしばし。

「――――ってのはどう? 名も無き世界にて“旧き輪廻を断つ剣”っていう意味。
 少し歪つだけど、その方が貴方らしいでしょう」
「……なるほど、確かに“僕たちに相応しい”。ありがたく頂戴しますよ」

855魔王への序曲 6 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:25:04 ID:9qS70r1M0
ジョウイはメイメイから授けられたその真名の意味を噛みしめた。
それだけで、魔剣の中の力が活性化したような気がする。
召喚獣に名をつける際に、相性のよい名をつけることで召喚獣の力を引き上げるように、
名前もまたその力を決定づける要素なのだ。“どんな召喚獣であろうとも”。

「どったの?」
「……いえ、少し」
思案に耽るジョウイにメイメイが声をかけたとき、カンと靴音が響きわたる。
シードとクルガン、ものまねによって追想された未練。
モルフと化してなおジョウイに従う懐刀達だ。
その来訪に全ての準備が終わったとしり、ジョウイは二人から装具を戴く。
一つは紅黒き外套、一つは絶望の鎌より刃を落とした棍。
いずれも彼が奪い取り、同時に受け継がれた魔王たる証。
それらを背負い、彼は再び楽園へと降りた。

「それじゃあ、始め<おわらせ>にいこうか」

もう二度と魔王<これ>を脱ぐことはないと知りながら。


――――それでも風のように駆けていたのです……青空に、笑い声を響かせながら……

856英雄への諧謔 1 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:25:59 ID:9qS70r1M0
「……と、言うわけだ」

乾ききった荒野。太陽だけが降り注ぐその大地の上に沈黙が訪れる。
それはアナスタシアが定めた午後3時よりも僅かに早かった。
招集をかけたストレイボウが語った内容は、彼等を召集させ、また沈黙させるのに十分だった。
「死喰い、か。俺が識ったのは、そんなデタラメな存在だったとはな……」
「グラブ・ル・ガブルの墓碑か……因果かしらね、本当」
カエルが覆面ごしにぐぐもった笑いを漏らす。
工具の最終確認をしながら、アナスタシアが表情を陰らせた。
島の遙か下、星の中心で参加者の死を喰らい目覚めの時を待つ『死喰い』。
この島での殺戮が意味するところは、その墓碑の完成だったのだ。
「ンで、死んだ奴らが液体人間みたくモグモグ混ぜられてるのを、お空から見物してやがるってのか……オディオ……ッ!」
そのおぞましさに自分が戦った隠呼大仏を想起し、そのおぞましさを怒りに変えてアキラは空を見つめる。
たとえ見えずとも触れられずとも、オディオがこの殺し合いを天覧している『空中城』がそこにある。
「ご丁寧にそこに帰還の術を用意してあるとはな。嘗めているというべきか、あるいは……」
手に持った2種のデータタブレットを弄びながら、ピサロはその存在を反芻する。
空中城の中に存在する脱出のための乗り物、『シルバード』の存在を。
バトルロワイアル開催の意味、オディオの居場所、脱出の方法。
彼等が知ること叶わなかったほぼ全てが、齎されたのだ。
だが、その表情に憂いはあっても喜びは微塵もない。

ガン、と岩に拳が打ち付けられる音が響く。
その場の全員の茫洋とした感情を束ねるようにめいっぱいに叩きつけられた左腕の先には、
歯も折らんとばかりに食いしばるイスラの鬼気めいた表情があった。

「何が、妥協してやってもいいだ……ジョウイッッッ!!!」

目尻も裂けんとばかりに見開かれたイスラの瞳が見据えるのはジョウイ=ブライトの姿だった。
そう、これらの重要な情報をもたらした最後の敵であるはずのジョウイに他ならない。
そしてこともあろうに、オディオに手を出さず脱出するならば支援するとまで提案してきたのだ。
紅の暴君に適格したのであれば、おそらく情報自体に誤りはない。
そしていくら考えてもそれらの情報を伝えること自体に、ジョウイ側にメリットが感じられない。
つまり、本気でこちらのことを慮って停戦勧告をしているのだ。
あとはこっちでうまくやるから、君たちは逃げなさいと。
(ふざけるなよ、ふざけるなよジョウイッ! ここまでのことをしておいて、今更どんな面をするっていうんだッ!?)
ヘクトルの死を奪ったこと自体を責めはすまい。
だが、そこまでのことをしてしまった以上、あいつには今更聖人ぶっていいはずもない。
それはイスラがもっとも唾棄する偽善そのものだ。
(立ち位置を壊して、ふらふらして、みんなに害を振りまいて、まるで、まるで……ッ!!)
なにより、その在り方が否応無く思い出させるのだ。
築いたものを自分で壊し、避けられぬと分かっていながら甘い道を求め、
それでも願ったものを止められない――――まるで、どこかの誰かのように。
しかし、それだけならばここまで胸を締め付けられることはなかっただろう。
想起されるのが魔剣使いの背中なのは、先を行かれたという思い。
嘘と笑顔で自分自身を含めてごまかした自分とは違い、どれほど苦しもうが嘘だけは吐かぬと律した伐剣者。
先を行くものに、空を見上げる余裕を得た今でさえも、イスラは苛立ちを覚えずにはいられなかった。

857英雄への諧謔 2 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:26:44 ID:9qS70r1M0
「で、どうするんだ、ストレイボウ。正直切って捨てるには大きすぎる弾だぞ、これは」
「……本気で言っているのか、カエル」
イスラの葛藤に気づいてか気づかぬか、カエルはその情報を持ち帰ったストレイボウに尋ねた。
ストレイボウはその真意を読み切れず、思わずそう口をついてしまう。
死喰いの存在が事実であるのならば、彼の仲間ーー魔王やルッカたちの死も喰われてしまったということだ。
それを放置したまま逃げ出すことなどできるのかと。
「逸るなよ。確かに業腹ではあるが、ここであいつらの死を解放するために死喰いに挑めば死ぬかもしれん。
 それをあいつらが望むと思うか?」
「それは……」
「話を聞く限り、ジョウイもオディオも死喰いを消そうとはしていないのだろう。
 ならば一度元の世界に戻り、準備を整えて死喰いに――ラヴォスに挑めばいいだろう。
 それに、死喰いが完全な形で目覚めなければジョウイが負ける公算が高いのだろう?
 ならば時間をおけば、どう転んでもジョウイは自滅だ。おまえの望みにも叶うんじゃないか?」
 最後の言葉尻に、蛙特有の嫌らしさをたっぷり乗せながら、カエルはストレイボウに問いかける。
 その皮肉に、ストレイボウは顔をしかめる。否定する要素が見つからないからだ。
 目先の状況だけを考えれば死喰いを倒したくもなるが、正確に言えば死喰いは死せる者達の想いを喰っているのだ。
 死喰いを倒せば死者が蘇るというような話ではない。
 ならば危険を冒して死に、あのルクレチアで再会するほうが死者に無礼というものだろうと。
 撤退が最善と理性で分かっていながら、それを認めることができないのは、一抹の不安。
 オディオ――オルステッドとジョウイがぶつかるということについて。
別れ際にジョウイは言った。自分は友に殺されたかったのだと。
親友と殺し合う、その意味を知るジョウイがオディオを終わらせると宣言した。
そんなジョウイがオルステッドが交差したとき、何が起こるのか。
(何か、見逃している気がする……)
僅かに残った引っかかり。ルッカのサイエンスを会得した今でも、それは読めなかった。
逃げることが皆にとって最善であろうとも、
ストレイボウにとって致命的な何がが起きてしまうのでは……そう考えてしまうのだ。
(あ、そういうことか……)
そこまで思い至って、ストレイボウはようやくカエルの言いたいことを理解した。
皆の最善と自分自身の最善は異なる。その事実を敢えて指摘した理由はただ一つ。
“だから、お前はお前の望むように考えろ”と、不器用に教えてくれたのだ。
「……すまない、カエル」
「なんのことか分からんな」
ストレイボウの謝辞に、カエルは知らぬ顔で向こうを向き、覆面ごと頭からボトルの水をかける。
火傷まみれとはいえこの酷暑は両生類には厳しい。

858英雄への諧謔 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:27:14 ID:9qS70r1M0
「……正直、俺には理解できねえよ」
「それでいいと思うわよ。ジョウイ君は、私や貴方じゃ多分一生理解できないもので動いてるから。
 私が貴方を理解できないように、貴方が私を理解できないようにね」
アキラのつぶやきに、アナスタシアは嘲るようにして言った。
はっきり言えば、わざわざ死ぬ可能性の高い方向に進もうというだけで彼等にとってはナンセンスなのだ。
ジョウイを突き動かすものは磔の聖人――――殉死、犠牲のそれに近い。
ならばそれはユーリルが囚われた勇者像であり、アナスタシアが呪った英雄観であり、
アキラが吐き捨てた間違ったヒーロー像であるからだ。
それに対してアナスタシアが皮肉を発しないのは、魔王ジャキを討つために一時はともに戦ったからか。
あるいは、たとえ異なる価値観であろうとも、否定するだけが答えではないと知ったからか。
背中から走る暖かみを覚えなから、アナスタシアは背伸びをした。

「まー何にしても首輪解除しなきゃどうにもならないでしょ。
 準備できたし、そろそろ始めましょうか……どうしたの、デブ?」
「……次にその名で呼べば首を落とすぞ。おい、ストレイボウ」
ついに生者の首輪解除に取りかかろうとしたアナスタシアが、怪訝な表情を浮かべたピサロに気づく。
ピサロはそれをあしらい、ストレイボウに尋ねた。
「あの小僧は“始める”といったのか? “仕掛ける”でも“迎え撃つ”でもなく」
「あ、ああ。そうだ、確かに始めるといっていた」
その返事に、ピサロは眉間の皺をより一層に深めた。
ここまでジョウイが攻撃を仕掛けてくる兆候はいっさい無かった。
だから遺跡ダンジョンという中枢を押さえた以上、その地の利を生かした籠城を狙うものだと考えていたのだ。
(あの小僧が、あの乱戦の絵図を描いたのだとしたら――そこまで気長に待つか?
 あれの性根は、おそらく守勢よりも攻勢。ならば、奴はこの3時間何をしていたのだ?)

ジョウイの策略の一端を知るピサロは訝しむ。
悠長にこちらを待ちかまえるような可愛げのあるものが、あそこまでの大仕掛けを打てるはずがない。

――――出すのは早ぇし将来の後先は考えねぇ。とにかく当てることしか考えねぇ。
――――だから普通は早々潰れるが、女神はチェリーも嫌いじゃあない。
――――ビギナーズラックが回ったら…………一荒れくるぜ。

だから活きのいい新人<ルーキー>は性質が悪いのだと。
そのギャンブル評を思い出したとき、じゃり、と荒野を踏む音がした。
陽光燦々と輝く中、一つの陰と共に――――始まりが来訪した。

859英雄への諧謔 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:28:19 ID:9qS70r1M0
それは、まるで砂漠に立つ一本の枯れ木だった。
全身を襤褸布で覆い尽くした人間大の影。
他には何もない、ただ残ってしまったから立っていただけ。
生気は欠片もなく風さえ吹けばたちまち折れてしまいそうな、朽ちるのを待つだけの影だった。

この距離に至るまで全員がその存在に気づけなかったのも無理はなかったかもしれない。
形式的に各々戦闘の構えこそとれど、意識のギアを上げることもできなかった。
それほどまでに、目の前の存在は稀薄でこの世の存在として頼りない。

「……あの2人か? ジョウイに従った、あの」
「ヘクトルの骸を思い出せ。死せるとて存在の密度は変わらん。
 あの2人も、ここまで薄くはなかった……はっきり言って、弱いぞコイツ」
怪訝に思うストレイボウに、カエルは目を細めて否定した。
亡将も、あの双将も戦士として忘れがたいほどの重みを持っていた。
だが、目の前の存在はそれに比べ何枚も格が落ちている。しかもそれがたった1人。
いったい何なのか――――

【……ジョウイ様からの……】

そう疑問に思ったタイミングを見計らったかのように。襤褸布なかから音がする。
壊れかけた蓄音機が無理をして回転するように、ひび割れた音がボロボロこぼれる。

【ジョウイ様からの伝言を……お伝えします…………僕は、遺跡の下で待っている……】

機械じみた音律で告げられたのは、彼等の煩悶の中心に立つ人物からの伝言だった。
ジョウイ=ブライトはここにいると、高らかに宣言するためか?
否、ジョウイという男がそのためだけにメッセンジャーを用意するか?
【ジョウイ様からの伝言をお伝えします…………】
その襤褸布から手だけが現れる。誰もが息を呑んだ。
蝋のように真白い、人形の手に握られたのは魔力で形成されたであろう黒き刃。
共に戦う中で何度も見た、ジョウイ=ブライトの紋章の刃。
それが意味することは――――

【――――始めます。賢明な判断を望みます】
「ッ!?」

860英雄への諧謔 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:29:02 ID:9qS70r1M0
その時が来たということだ。
影が、ぬるりと前進し切り込んでくる。速い。だが、神速とまではいかない。
振り抜かれた剣を受け止めたのはカエル。たとえ燃え滓の身であろうともこの程度の剣戟捌けぬほどではない。
「この振るい……剣者ではないな。
 あの亡候を失って急拵えで用意したのかは知らんが、役者不足だ。
 伝言が済んだのならあの双将でも呼んで――――ぬぅッ!!」
本命を喚べと言おうとしたカエルの言葉が止まる。
ぶつけ合った刀身から、毒のような痺れが走る。
迎え撃った黒い刃から、紫の雷が蛇のようにカエルにまとわりつく。
「何処の誰か知らんが……貴様如きが、クロノの真似事とは烏滸がましいッ!!」
覆面の下で憤怒の形相を浮かべたであろうカエルは、痺れが全身に達しきる前に強引に剣で弾き飛ばす。
胴を薙いだその一閃が、襤褸布の下半分を切り裂く。細い足と軍靴が露わになった。
「……ッ!?」
その一瞬“彼”は固唾を呑んだ。その動揺を表に出さぬようにするので精一杯だった。
「大丈夫かカエルッ!」
「問題ない、が。気をつけろ。あいつ雷を使うぞ。威力は大したこともないが、麻痺させてくる」
駆け寄るストレイボウを心配させまいと声を張るが、カエルの膝は筋肉を失ったかのように痺れが這いずり回る。
雷撃を刀身に纏わせる攻撃法にクロノを思い出すが、カエルは首を振って雑念を払った。
威力が頼りない分、敵の雷は麻痺性に重きを置いている。
非道に手を染めた自分ならばともかく、そのような卑近な技にクロノを想起するなどあってはならない。
「とにかく、アナスタシア、この麻痺を回復して――」

命には問題ないと、判断したストレイボウがステータス異常治癒をアナスタシアに請おうとした瞬間だった。
影は吹き飛ばされた際の土煙の中から立ち上がる。それと同時に、影の周囲に浮かんだ雷球がいくつかの蛇となって彼等に襲いかかった。
これらも威力は見た目からしてなさそうに見えるが、ユーリルの雷に比べ禍々しい――というより薄汚い毒彩は、
見るからに触れれば麻痺を付与してくると伝えている。
体力の回復はともかく、状態異常回復の術が限られる現状では食らうことは好ましくない。

「小賢しいな、その程度の雷で怯むと思ったか。害したくば地獄より持ってくるか――その薄汚い魂の全てでも懸けてみろ」
接近戦は面倒。そう判断したピサロは引き金を引いた。
込めたのは小規模のゼーハー。当然のように全力ではないが、手加減と言うよりはこの程度でも十分破壊できるという目算である。
爆ぜた魔力が弾丸となって影――影であるべき何かの頭部へと迫る。
【ジョウイ様からの伝言をお伝えします……始めます……賢明な判断を望みます……】
しかし、影はするりと回避した。そのフードの闇の向こうから、しかと弾丸の流れ・速度を『見切』って。
余った襤褸布の一部が破れ、胴が晒される。その陣羽織はボロボロであったが明らかな軍装だった。

861英雄への諧謔 6 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:30:05 ID:9qS70r1M0
「嘘だろ……」
彼の中にこみ上げた不安を見透かすように、その装束に刻まれた瞳が見つめてくる。
その軍装を“彼”はよく知っていた。この島でそれをつけている可能性があるのは2人だけだった。

「……あの服、どーっかで見たような……」
不思議そうに目の前の影を見つめるアナスタシア。
その視線を感じたか、どこかの軍隊に所属していたであろう影は、
黒刃を握らぬ方の手で懐をまさぐり、神速の所作で抜き放つ。
放たれるは投げ刃。黒き刃ではない、しっかりとした実体を持つ忍びの投具。
それらが意志を持ったように彼女に向かって襲いかかる。
「危ないッ!」
寸でのところで形成されたストレイボウの嵐が、壁となって刃を弾き飛ばす。
あまりに慣れた手つきに、その影が投具使いであることは疑いようもなかった。

「チマチマチマチマ……うっとおしいぜッ!!」
投具を投げた瞬間を見計らい、アキラが突貫する。その表情には明確な苛立ちがあった。
雷、麻痺、投げナイフ、ひょろい外見。何もかもがアキラの疳に障った。
とりわけ最悪なのが戦い方だ。最初に麻痺を大袈裟に見せておいて、自分の雷に触れると不味いと刷り込む。
直撃しても致命傷にはならないものを、大きく見せたのだ。
そして、遠間から雷撃と投げナイフ。自分は傷つかない位置からちまちまといたぶっていくやり口。
どんな奴かは知らないが、心を読むまでもない。アキラの世界で吐き捨てるほどいたような輩だ。
暴力を無意味にちらつかせ、有りもしない器を大きく見せ、誰かを見下さなければ自分の立ち位置も定まらない屑野郎。
ジョウイのような理解不能な存在とは違う。この拳をぶつけるのに何の衒いもない。
怒りの正拳が布の向こうの顔面に直撃する。完全なクリーンヒット。これが人間であれば鼻骨は完全に砕けていただろう。
(なんだ、これ……“気持ち悪ぃ”!!)
だが、アキラの拳に伝わったのは骨の砕ける小気味良さではなかった。
まず粘性。ぶちゃぁ、とかぐちょ、とか。プリンを全力で殴ったような感覚だった。
そして、この気色悪さ。耳に舌をつっこまれたような、内股を頬ずりされたような……
とにもかくにも名状し難い不快感が蟻のように這いずり回り、殴るために込めた力が霧散していく。

――――イヒ、イヒヒヒヒヒッッ、ゲ、レレッ、ゲレレレレッッッ!!

弛緩してしまったアキラをあざ笑うように、影は黒き刃を構えた。
自然と読心してしまった、夏場の蠅の羽音ような下卑た笑い声が脳内を満たす。
脳の皺に植えられた白い卵が、孵化する。そして眼から口から――――

「気持ち、悪いんだよクソがァァッ!!!」
「アキラ、そいつに触れるな」

862英雄への諧謔 7 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:31:16 ID:9qS70r1M0
一発の銃弾が、アキラを斬らんとした黒き刃をそらした。
その瞬間を見逃さずになんとか影との『憑依』を切り離したアキラはたたらを踏んで後退する。
その手に影の襤褸布をほとんどつかんで。

「……なんでだ。なんでよりにもよってそいつなんだ……」

向けたドーリーショットの銃口からフォースの光が拡散していく。
銃を向けたまま、イスラはその影から目をそらす。
だが、もはや偽る余地はなかった。その軍服は、帝国軍海戦隊のもの。
そして、それをこの島で纏う可能性があるものは2人しかいない。
一人は、アズリア=レヴィノス。第六部隊長にして我が姉。
もしも、彼女がジョウイの外法にて蘇ったのであらば。怒りこそすれ――――“まだ救いがあっただろう”。
それならば心おきなくジョウイを憎める。
よくも、よくもと、これまでの全てを擲ってあの外道を殺戮する機械になれただろう。

「他にいただろ、もっと使える奴がさぁ……」

もはや影を纏っていた布は、頭部くらいしかなかった。
だから分かってしまう。あの装束は隊長のそれではない。というより、女性のそれではない。
一般的な、男性の軍装。そして、それを纏うものは一人しかいない。

【ひ、いひひひひッ、ギヒヒヒヒヒヒヒッ……】
「あの笑い声、あれもしかして……」

蓄音機から壊れた言葉が響く。ジョウイからの伝言ではない。
もはや言葉も紡げぬほどに奪い尽くされた死の残響。
亀裂から漏れ出すはどうしようもないほどの妄念。
そこまで来て、ようやくアナスタシアが気づく。
あの服装を知っている。なぜなら、彼女たちを一番最初に襲った奴の装束だったのだから。
その名前も知っている。確か――――

「ビジュ、君……?」
「なァんでそいつを喚びだした、ジョウイ――――ッッッッッ!!!!」
【イヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッッ!!!!!】

薄汚い嘲笑と、張り裂けそうなほどのイスラの叫びが真夏のような空に響く。
それは、未来を向こうとするイスラの最大の汚点。
決して拭い落とせぬ両手の色彩だった。

863英雄への諧謔 8 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:32:21 ID:9qS70r1M0
何もない真っ黒で真っ白な街の中で、それは思う。
どれくらい経ったであろうか。よく分からない。
どうしてここにいるのか、なぜこうなっているのか。よく分からない。
一日のような気もするし、千年たったような気もする。が、やっぱりよく分からない。
もし、最初、があるとすれば。確かに最初は喚いた気がする。
いやだ、くわれる、たすけて、と泣き叫んだかもしれない。
だが、たぶん……そんなものは何の足しにもならなかったのだろう。

そういうものだと知っている。なぜなら、あのとき、あのとき縛られて、
殴られて、蹴られて、鞭をうたれて、眠りそうになったら水をかけられて、
口にやわらかい何かをつっこまれて“あつくてあつくてたまらないものを頬にこすりつけられた”ときに、そう知った。

この世には奪う側と奪われる側しかいない。どんなに綺麗事を言っても勝者と敗者が存在する。
だから奪ってやると決めた。奪う側に回り続ける。そうすれば何も奪われない。
そうきめた、そうきめたはずなのに。もうなにものこっていない。
だからいまも奪われた。いたみも、なげきも、どうしてと思うこころさえも。

なぜだ。なぜだ。なぜなにもない、なぜなにものこっていない。
だれかをきずつけたからか、だれかからうばったからか。

ふざけるな、ならなぜおれはうばわれた。だれもおれにあたえてはくれなかった。
だからうばったのだ、それがわるいなら、なぜおれはうばわれた。
いみがあると、かちがあると、さけんだのに。きかいのひとつさえあたえられなかった。

――――君が役に立たないことはよく知ってるよ。

そうけっていされたからか。むかちだと、むのうだと、おまえはさいしょからだめなのだと。

――――■は死ね♪

おまえは■だと。
うまれたじてんでそうあれかしときまっているのか。

――――志も力もない君が生きていても迷惑なだけだよ。

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
だれもそんなものくれなかった、めぐんでくれなかった。
だからうばったのだ、ちからを、かねを、おんなを。
うばうことがわるいのなら、さいしょからもってるやつだけしかだめなのか。
おれがごうもんをうけたのも、うらぎられたのも、■のまねをさせられたのもさいしょからだめだったからか。

なぜそうなったのかはもうわからない。だれがいっていたのかももうわからない。
とっくのむかしにうばわれた。このまちのおおきなものにたべられた。
いまさらとりもどしたいなんておもわない。

だけど、だけど。せめておしえてほしい。おれは、■だったのか?

864英雄への諧謔 9 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:32:59 ID:9qS70r1M0
――――違う。

こえが、きこえた。はっきりと、たしかなこえでそういった。

――――干渉できたのは、あなただけか。しかも、置き去られた喰いカス。
    これ以上は死喰いを刺激する……とてもじゃないが、他の人たちは無理だな。

なんだ、おまえはだれだ。いや、そんなことはどうでもいい。
おれはなんだ。■じゃないのか。

――――■と言われたのか。あの男以外に、そんなことをいう奴がいたのか。
    なら答えよう。違う。貴方は人間だ。

ならばなぜおれはこうなった。
なにもできず、なにものこせず、みすてられ、まけた。
しんだらおわりではないのか。むかちなのではないのか。

――――それでも、貴方の生に意味は確かにあった。“そうでなくてはならない”。
    貴方もまた犠牲であり、その敗北<いのち>が無価値などとは認めない。

だが、おれはひつようとされなかった。つかわれなかった。やくにたたなかった。
うばうことしかしらない、よわいものをたたくしかできないおれは。

――――ならば僕が貴方を必要とする。オスティア候の穴を埋めよう。
    どれほどに非道であろうと、どれほどに弱かろうと、そんな理由で拒むような世界は楽園などではない。

それでもいいのなら。■でなくなれるのならなんでもいい。
みじめでもくそでもいい、ただおれは、おれさまは――――■のままおわれない!

――――誓約を結ぶ。残滓と言えどこれで貴方の死は僕のものだ。もう何処にも行けはしない。
    だが、その犠牲<そうしつ>に意味を与える。“絶対に、僕は貴方を忘れない”。

そのてがおれをつかむ。こうしておれはうばわれた。
そのてはつめたくていたくておぞましかったが、ふれられないよりはよほどましだ。
だって、だれもてをさしのべてはくれなかったのだから。

865英雄への諧謔 10 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:33:57 ID:9qS70r1M0
【イヒ、イヒヒヒ……ジョウイ様からの伝言を伝えます……
 安心してほしい、イスラ。“君が彼に何をしたのか”を一々喧伝するつもりはない】
フードの中でぐぐもった笑いを浮かべる影――ビジュであろうものが再び投具を構えながらイスラに声をかける。
イスラはその声に、背中を震わせた。蓄音機越しの言葉で、感情も乗っていないのに、
自分が敵意を向ける人物が、どんな思いでそう言っているのかが分かってしまう。
敵意ではない――――失望だ。
漏らしたおしめを隠していることを一々言いふらすほど子供ではない。そんな値すらお前にはないと。
その失意に、イスラの心が砕けかける。褒められた、撫でてくれた感触さえ霧散しかけてしまう。
自分に価値があったと思ったことなどついさっきまで無かったのだ。
敵と思った相手に、敵とすら認められないことが、ここまでのダメージであるなどと知らなかった。
初めての体験に、イスラは膝を落としてしまう。それを十字架は見つめ続けていた。
その表情は洋として知れないが、影から漏れ出す嘲笑が全てを物語っている。
どんな気分だ、胴を解体して首を落として海に投げ捨てた奴が舞い戻ってくるのはどんな気分だと、そう言われている気がした。
価値がないと言われることがどれほどつらいかわかるかと。
「あ、ああ……!!」
「イスラ、おい、しっかりしろッ!!」
その事情を知らないストレイボウが声をかけるが、イスラの耳には嘲笑がこびりついて届かない。
変われると思った。そう信じられた。
だが……どうしても変わらないものがある。それこそが死だ。
生きていれば変えられる。だが、死はもう変えられない。
だから忘れた、都合のいい思い出で満たして、都合の悪いものを忘れようとした。
だが、決して死は変わらない。敗者は戻らない。
殺してしまえばそれで終わり――――その十字架は一生消えはしない。

【ジョウイ様からの伝言を伝えます……代わりと言っては何だが、彼は僕が奪わせてもらう。いらないのなら、異存はないだろう】

自分が捨てたものに捨てられるがいい、と言うように、投具がイスラに向かって放たれる。
銃で打ち落とそうとイスラは構えるが、視界が鈍る。見たくない、見せるなと標的を定められない。
だが、眼を背けようが聞かせてやろうと、そう示すかのように、十字架は彼岸の音楽を奏で続けている。
無意味にさせぬ、忘れさせないと――――ジョウイがそう呪っているかのように。

イスラに当たるべき刃は、しかし、一陣の風が吹き飛ばす。
影狼ルシエドの突進は、ただそれだけで風を生み、イスラを守ったのだ。

「はいはーい、そこまでー。見ないうちにずいぶんサドっ気があがったんじゃない?」

866英雄への諧謔 11 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:34:47 ID:9qS70r1M0
軽々とした声を響かせるのは、アナスタシア=ルン=ヴァレリア。
その背後には清浄なる波動を受けて麻痺を和らげているカエルがいた。
「貰うだとか奪うとか……おねーさんちょーっと失望しちゃったかな。
 ジョウイ君、そういうこという子だったんだ、って」
ルシエドまで使って前にでてしまったことを、少し後悔する。

なんとなく、であるが、最初に出会って情報を交換したときに気づいてしまっていた。
イスラ=レヴィノスはあの時点で既に手を血に染めていたことを。
それは情報の違和感であり、腐臭漂う後ろめたさであり、漠然でありながら確信するのに十分だった。
だから、この状況にある程度の納得を感じていた。
どんな風に殺したかは知らないが、イスラがこうなってしまうレヴェルのことをしたのだろう。
だが、アナスタシアは何故か口を出さずにはいられなかった。
聖剣を握る手を震わせるのは確かな怒り。
人をモノのように扱ったことか。人のトラウマを抉る真似をしたことか。
違うな、とアナスタシアは思った。アナスタシア=ルン=ヴァレリアはそんな聖人めいた理由で怒らない。
イスラなど関係ない。ただ猛烈なまでの喪失感。大切な所有物が穢されたのだという感覚。

「死んだ人まで蘇らせておいて、何が理想よ。死んだら帰ってこない、帰ってこないのよ。
 そんなに叶えたければ、生きた自分の手でつかみ取りなさいッ!!」

聖剣を突きつけ、アナスタシアは吠える。
それは人形を操るジョウイに向かって、というより自分自身に言い聞かせるようだった。
蘇ってはならない。もう帰ってこない。失ったらもう帰ってこない。
その喪失を超えて幸せを掴もうとしている彼女にとって、目の前の存在は毒の蜜だった。
うらやましい、と内側で響く声を押さえつけるように、彼女は自分を奮い立たせたのだ。

【イヒ、イヒヒヒ、ギヒギ、ゲベ、ゲゲゲゲゲ】

だが、それだけは言ってはならなかった。
ビジュであろう影の中から走る嘲笑が変化する。それは嘆きだった。
なぜダメなのだと、一方的に壊され、為す術なく奪われたのは自分たちのせいではないのに。

【ゲ、ゲレ、ジョウイ、レ、様からの、ゲレ、伝言をお伝えします……
 蘇らせることは、ゲ、できません。彼の死はもうほとんど喰われていて、
 モルフ1つ構成できるほどの残っていなかった。だから――“補いました”】

残った頭部の襤褸布がずるりと落ちる。
ならば刮目しろ馬の骨、お前が何を救って、何を救わなかったか。
お前が何を断じてしまったのかを。

【散った想いの、ゲレレ、破片を集め、レンッ、ガーディアンの、ゲレッ命にて形と為した。
 ゲレッ、ロザリー姫を再構成した貴女と同じです、レレン、アナスタシア=ルン=ヴァレリア―――ゲレレレレレレッ!!!】

867英雄への諧謔 12 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:35:31 ID:9qS70r1M0
その場に全員の表情が凍り付く。イスラとアナスタシアはそれを知っていた。
金の眼、白磁のような肌、漆黒の髪はことなれど、それは確かにビジュの顔だった。

だがそれは“半分”だけだった。アンパンをむしって開けたようにその顔は“虫食い”で、
代わりにそこにあったのは、饅頭のような何か。
霊界サプレスの召喚獣タケシー、道化にエサと喰われ、
死喰いに二度喰われ、参加者でなかった故に半端に喰い捨てられた亡魂だった。
右半分左半分などという規則的なものではない、
福笑いをまじめにやってしまったかのようにその破片がちぐはぐに乱雑にくっついている。
その糊の役割を果たすかのように、接合面からは泥が、生命そのものたるグラブルガブルの泥が垂れ流しになっている。
涙のように汚物のように血のように、ただただ零れている。

分かたれた召喚師と召喚獣は、死してなお共にあることができたのだ。
そう言えば美談になるかもしれない。このような形でなければ。
だが、そう言うには目の前の人形は余りに醜悪に過ぎた。死者の尊厳を蹂躙してすりつぶしてもこうはなるまい。

そんなものを創った奴に、同類だと言われたアナスタシアの胸中はあらゆる想像を絶していた。
あの愛に包まれた世界で起こした愛するもの達の逢瀬の奇跡、それがこれと同じだと言われれば無理もない。
違う、と口をつきたかった。だが、影の向こう側で魔剣を掴むジョウイの姿を想像して噤んでしまう。
ジョウイの魔剣もアナスタシアの聖剣も、本質は同じ感応兵器――想いを力と変える剣だ。
アナスタシアは届かぬ想いを形に変えて、ジョウイは幽けき嘆きを形に変えた。
自分ではできないから死者に縋ったのだ。そこに本質的な違いはない。
この島には、未練など、叶わなかったことなど星の数ある。
その中からアナスタシアは選んだのだ。救えなかったものを選んだのだ。
きれいなものをえらんで、きたないものをすてたのだ。

かっこよくありたいと願っておきながら、馬の骨だと自分を認めてしまった。

ならばいずれ、選んでしまうのではないか。理想の楽園を、失わないものを。
次元を超えるアガートラームを以て、未来に待つ餓えを満たすために、過去<うしなったもの>を喚ぶのではないか。

【ゲレ、イヒッ、ゲヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!】
「ッ!!」

その逡巡が致命的な遅れを呼ぶ。吹き飛んだ投具はまだ死んではいない。
タケシーの招雷能力を得たビジュですらないものは、その雷を吹き飛んだ投具に吹き込む。
雷の力で生まれた磁力が、散った刃に再び殺傷能力を吹き込んで、アナスタシアを狙う。
死にはしないだろう。だが、もし手に怪我を覆うものならば、もう首輪の解除は出来はしまい。
弱く、しかし確実に急所を狙った見事なまでに最悪の一撃。

868英雄への諧謔 13 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:37:00 ID:9qS70r1M0
「……フン、だからどうした」
だが、それは再び吹き荒れた風によって阻まれた。
ハイヴォルテックの一撃が、アナスタシアに迫る投具を全てはたき落とす。
「……ピサロ……」
アナスタシアは己の側に立ったピサロを見上げる。
常と変わらぬ傲岸不遜な表情に、なにを言えばいいのか。
「なにを迷う。お前は――――」
「――――ピサロ、後ろだッ!!」
だが、その逡巡はストレイボウの叫び声と、ピサロの背後から飛びかかる汚物の存在でかき消された。
遅れて気づいたピサロが、振り向きざまに銃剣を振り抜く。
ぐしゃ、と蠅が潰れるような音と腐汁のような泥をまき散らして人形の脇腹に深々と刃がめり込む。
「仮にも魔王を名乗るなら詰まらん細工はするな。こんな人形一つで覆る戦況ではないことは分かっているだろう。何が狙いだ」
ピサロは淡々と人形の主に問いかける。玉座を降りたとはいえ、その威容は何も損なわれてはいない。
その問いは至極当たり前のものだった。確かにこの駒ならばイスラとアナスタシアの精神を削ることはできるかもしれない。
だが、それまでだ。そんな相性を剥いでしまえば、ただのゴミで創った工作物に過ぎない。
尊厳だとかそういうものは差し置いて――この場を動かす駒としては圧倒的に不足している。

【ゲヒ、ゲヒヒヒ……ジョウイ、様、からの……伝言をお伝えします……
 無駄なものなど一つもない。彼は役割を果たしています。貴方からそれを拝領するために】
「!!」

その時だった。虚空に闇が集い、一本の黒き刃が射出される。
それはピサロと人形の間を過たずに貫き、その僅かな隙をついて人形はピサロから距離を置く。
その一撃は紛れもないジョウイの紋章術。ならば近くに潜んでいるのか。
いや、そもそも今の一撃ならば動けぬピサロを討つ絶好の好機ではなかったのか。
ならば、なぜ人形を助けるために――――否、そうではない。
この敵は、真っ当な論理で動いていない。

飛び退いた敵を見据えたピサロは、そのものが何かを握っているのをみた。
この戦場に不似合いな可愛らしい赤色の傘。ついで、自分の得物が僅かに軽くなったことを知覚する。
人形が持っていたのは、彼が狙っていたのは――銃剣に内蔵されたそのパラソルだった。

「ジョウイ様からの伝言をお伝えします……クレストグラフは貴方たちにも必要でしょうから妥協します。
 ですが、これだけは……“巻き込みたくなかった”。だから……」

その一言だけは、不思議な感情が込められている気がした。
その意味を理解できるものはここには誰もいない。
ただ、分かるのは――ジョウイが今から始めようとしていることは、それを巻き込むことであったということだ。


「――――――これでようやく、布陣できる」

869英雄への諧謔 14 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:38:25 ID:9qS70r1M0
その一言と共に、地面が震え上がった。精神的なものではない“物理的に大地が鳴動している”。
「ルシエド、アナスタシアを乗せろ! 絶対に傷つけさせるな!!
 残ったアイテムを拾えみんな! 仕掛けてくるぞッ!!」
「え、ちょっ」
ストレイボウの叫びに応じ、ルシエドがアナスタシアに有無をいわさず自身の背に乗せる。
何が起こるかなど分からない。だからこそ、絶対に首輪解除の要を傷つけさせるわけには行かない。


いつからだったか、眼下に広がる領地がやせ衰えたのは。
最初からだったか、大地より恵みが消え果たのは。
雲一つ無き蒼空に燦然と輝く太陽は砂を灼く。
広がり行く砂海は星を侵す症候群か。
照り続ける太陽は砂食みに沈めという裁きの光か。


「何が起きてやがる……!?」
「これは、真逆……ならこの異常な暑さは、その結果かッ!?」
何とか転ぶことだけを避けながら、異常に戸惑うアキラの横で、カエルがある可能性に気づく。
考えてみれば、ここまで昨日は暑くはなかった。
もし天候を操作するのであれば、オディオはそう宣言しているのだろう。
ではないとすれば、誰かがコレを操作している。
誰がしている――――決まっている。
何のため――――具体的には分からないがそれ以外にはない。
そんなことが本当にできるか――――理論上出来る。魔剣に触れたカエルには直感的に理解できてしまう。


それがどうした。
裁きの光よ来るがよい。
百度来たれど、百に意を加えて蘇ろう。
千度砂喰まれようと、千と銃を携えて舞い戻ろう。

たとえ土地に恵みがなくとも、我らには熱がある。
国を愛する心の熱が、鉄を鋳する窯の熱が。
我らは自然(おまえ)になど屈しない。
ここは人の世界。自然に打克てし技術の機界。

おお、讃えよ、王の名を冠せし、砂に輝く機械の城を。

870英雄への諧謔 15 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:40:02 ID:9qS70r1M0
震えが、どんどんと大きく――――近づいていく。
怒りのように、嘆きのように、狂うように。
小さな声が集い、淀み、大流になるように。


だが、双玉座に二度と兄弟が座ることは二度とない。
歯車に流れるは愚か者どもの流血のみ。
口惜しや、水が枯れども途絶えぬ血脈はここに潰えた。
慙愧に耐えぬ。玉無き王城に何の意味があらん。

国王を殺した人間(おまえ)を許さない。
玉座を穢した世界(おまえ)を許しはしない。
世界よ我らと共に震えて沈め、しかる後その上に楽園は建てられる。
ここは死の世界。恵みも人も無く歯車だけが回り続ける鋼の骸。

おお、畏れよ、お前達が滅ぼした、鉄と蒸気の墓碑銘を。


「そういうことかよ、ジョウイ……成る気か、お前……」
目の前の乾ききった大地がせり上がり、ひび割れていく。
その力の名前をイスラは知っている。
狂える怨嗟を束ね、共界線を繋ぎ、力と変えるもの。

「核識に……この島の主にッ!!」

其は島の意志――――狂える核識<ディエルゴ>の魔力。


争う者たちよ、この城を穢す者たちよ。我が歴史を終わらせし者たちよ。
一人残らず、この黄金の大海原にダイブするがいい!!


吠え叫ぶイスラ達の前にそれは現れる。
地質を変えて、水脈を操作し、ここまで通る道を造ったとはいえ、本来は砂漠航行用。
しかも一度遺跡にまで動かされている以上、2度の無茶な潜行によって外装も駆動部も少なくない損傷を負っている。


【ゲヒ、ゲヒヒヒヒ……ジョウイ様からの伝言をお伝えします……
 最後のデータタブレットは城に置いた。欲しければご自由に……ゲヒヒヒ、ヒヒヒッ!!】

取れるものならな、と嘲笑う声と共に、
悲鳴のような自壊音を奏でながら城は側面をアナスタシアたちに向ける。
地中潜行時には城内へ収納されるべき、空中回廊が向けられる。
それがどうした。
そんな痛みなど、血を、世界を失ったことに比ぶれば無に等しいとばかりに、
叫ぶように歯車が回転し――――左回廊が、復旧<とば>された。

ミスティック――――キャッスル・オブ・フィガロ

その崩れかけた左腕に血を纏いながら、亡城は嘆き続ける。
其は、その世界の最後の残滓。“敗者にすらなれなかった”残骸である。

871勇者への終曲 1 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:41:54 ID:9qS70r1M0
遺跡ダンジョン地下71階に門の力でビジュが得たパラソルが召還される。
ジョウイはそれに手を取り、しばし眼を閉じた後、それを咲き誇る花の中に優しく置いた。

「勇者とは、全てを救うもの――――ならば続けて問わねばならない。“救う”とはなんだろう」

そして、ジョウイは虹色に輝く巨大感応石に目を向ける。
この島にある全てと死喰いを繋くターミナルポイント、それはつまり、この島の全てと繋がる場所だ。

「傷ついたものがいたとしよう。そのものを救えるだろうか――――救える。痛いと言えばいい」

その感応石に右手を翳す。魔剣と始まりの紋章を取り込んだ右手ならば、この感応石を通じてこの島そのものに干渉できる。
接触の瞬間に、膨大な意識が右手を通じて膨れ上がる。

「ならばそのものが口が利けなかったとしよう。救いを求められない。
 そのものを救えるだろうか――――救える。その場にいる誰かが助けてと言えばいい」

西から嘆きが聞こえる。狂える皇子の無慈悲な一閃で、私たちは焼き尽くされた。
北から叫びが聞こえる。突如現れた隕石によって、僕たちは抉られた。ただ邪魔だと欠片も残さず焼き尽くされた。
南から悲鳴が聞こえる。壊れた道化師と、それを倒そうとしたもの達の戦いで砕け壊れ何も残らない。
島の中心で怨嗟が聞こえる。蒼い災厄が、紅い災厄が描いた軌跡が我らの半身をもぎ取った。
島が泣いている。燃やされ、地獄と冥府にすりつぶされ、天から降り注ぐものに全て滅ぼされた。
救いの雷さえも、その癒しにはなりはしない。私たちは、救いを求められないから。
遺跡が狂う。この楽園に、ささやかなる魔界に帰るべき王女はもういない。

「ならば、そのものがその状態を当然だと思っていたならどうだろう。
 貧困でも欠損でもいい、その傷は生まれたときからあって、そうであることが当然だと思っている。救いを求める動機がない。
 そのものを救えるだろうか――救える。とにかくそれを見た誰かにとってその状態が異常であればいい。
 本人の意思がどうかではない。誰かにとってその状態が不足であれば――こうではないのだと救いを求める理由に足る」

幽けき声が響き渡る。意図して行ったものも、意図せず行ったものも、
彼らを傷つけた原因は、もうこの世にはいない。彼らよりも大きなものが食べてしまったから。
もはや糾弾すべきものは誰もいない。そもそも彼らに責める資格などない。
彼らはあくまで道具であり、創造物であるから。

ならば、その声は何処にいけばいい。名も亡き声は、聞こえぬ叫びは、最初から無いものと同じなのか。
この嘆きに、意味など無いというのか。

872勇者への終曲 2 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:42:30 ID:9qS70r1M0
「ならば、解決策が見つからなければどうだろう。救われた後の状態が誰も想像できない。
 こうなればいいのに、という指向性がない。
 それならば救ってほしいと祈れるだろうか――――祈れる。
 帰る場所は分からないけど、ここは私のいるべき場所ではないのだから。だから帰してほしいと」

否定する。その声を聞く魔剣の王が否定する。
意味のない死など無い、喪失を無価値になどしない。
“僕は貴方を忘れない”

「つまり、その前提として、私はここではない何処かから来て、
 ここは私のいるべき場所ではないのだという確信が存在しなければならない。
 そして祈る――――あるべき場所へ帰りたいと。それが救いだ」

その声に全ての叫びが集う。
勝者敗者という前に、敗者にすらなれなかったもの達が集う
その存在を無意味にしないために、この嘆きに、確かな意味があったのだと信じたいがために。

「帰る場所――――そんなものは、ない」

その島の全てを背負<うば>ったジョウイは感応石を通じてその魔力を送る。
地下50階、玉座の間に集めた――集まった骸に、黒き刃を注ぎ込む。
ガタガタと骨が動き出す。ずるずると肉が脈動する。つぎはぎのそれらが一人分に集まっていく。
死骸を依代に、未練と憎悪だけで駆動する亡霊兵、その数50が一時の眠りから目覚める。

「僕たちは最初からここにいる。ここで失って、ここで死んで、ここで亡くし続ける。
 そんな場所に、最初からいるんだ。帰るべき場所なんて、ない」

ジョウイ=ブライトには何もない。
剣才はなく、紋章術の才はなく、棍とて一級ではあっても達人ではない。
あるのはただ理想一つ。数多の想いを染め上げて、束ねる狂気のみ。

「だから行くぞ僕は。
 ここではない場所へ、何も失わない場所へ、誰もが平穏にあれる楽園へ。
 たとえその果てに僕が、何もかもを失うとしても」

真なる27の紋章、その真に恐るべきは“戦争を引き寄せる力”。
戦争。何よりも忌み嫌うその行為だけが、ジョウイ=ブライトに残された術だった。

873勇者への終曲 3 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:43:09 ID:9qS70r1M0
空中城。遙かな高みに存在するオディオの城から見下ろされる光景は、悪夢そのものだった。
フィガロ城――だったものが突如浮上した。
その上、その中から50もの亡霊やアンデッドモンスターが現れればそうも思いたくなるだろう。
ましてや、それが規則正しく半分に分かれ、それぞれ行動を取り始めれば。

ビジュ――であったものの方についた半分の兵は、
その指示のもと、荒れ野となった大地に散乱する石礫を拾い、投げつけている。
それだけを見れば、子供の喧嘩のようだがミスティックが付与されたとあっては話が違う。
ジョウイを介し魔力と怨念を注がれた石は、それだけで凶器となる。
致命傷だけは喰らわぬ位置で、亡霊の隊長と収まった人形は、嘲笑を上げ続けている。

残る半分は対照的に、積極的に6人に襲いかかっている。
いや、襲いかかるというのは語弊があるだろう。彼らはとにもかくにも彼らにまとわりつき、動きを封じにかかっている。
それも当然。呪いのように蒸気を噴かせながら前進する城塞を見れば否応にも理解できるだろう。
自分たちが攻撃する必要など無い。ただ彼らの前を通過するだけで、彼らの死は約束されるのだから。

とはいえ、彼らとてここまでの死線をくぐり抜けた勇者たち。
まとわりつくグールも、石を投げ過ぎ逃げ遅れたスケルトンも、一太刀二太刀浴びせれば簡単に崩れさる。
だがそこはお約束と言うべきか、砕かれた死骸に力が注がれ、再び形をなす。
その核は、かつて一振りで何千もの兵士の傷を癒した輝く楯の紋章の輝き。
尽きせぬ傷つけられたこの島の嘆きが魔力となって疑似的な不死を形成している。

亡者が笑い、亡城が進撃し、嘆きが人の形を取って歩き続けるそれは、軍勢というよりは――――

「まるで葬列。喪主を気取るか、ジョウイ=ブライト」

墓場からあぶれたものを墓場まで連れて行こうとするような、その光景を見下ろし
オディオは淡々とそう吐き捨てた。
ジョウイの狙いなどオディオには分かっていた。それは読み合いのような小難しい話ではなく、
放送直前にフィガロ城が動けば、空からは一目瞭然というだけの話だった。
この葬列を構築しているのが、なんであるかも、オディオには検討がついている。
死喰いに死を喰わせるシステムを利用して、ディエルゴの真似事をしているのだろう。

驚くにも値しない。制裁を加えるにも値しない。だが、ただ。

「……お前は、何だ?」

不意に口ずさんでしまったのは、疑問。
制裁を加えないのは、余裕でも油断でもない。必要がないからだ。
ジョウイ=ブライトが今何をしているのかをオディオは正確に理解している。
ならば、ジョウイはとうの昔に死んでなくてはならないのだ。

驚きではない。ましてや恐れでもない。ただ不意に浮かんだ疑問。
空中城の感応石越しに見る、廃人間際の人間へのわずかな感情。


【――――――僕は、魔王だ。お前と違って】


だから、その想定外の返事に僅かに――虚を突かれた。“感情の手綱を外してしまった”。

874勇者への終曲 4 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:43:51 ID:9qS70r1M0
地下71階の楽園、その場所に突如4つの影が現れる。
クラウストロフォビア、スコトフォビア、アクロフォビア、フェミノフォビア。
オディオが来るべき来訪者を迎え撃つために用意した手駒ども。
腕や魔力を構えるその様は、明らかな攻撃意志を示している。
当然、オディオはそんなことを命じていない。
彼女たちが感じたのは、オディオが一瞬だけ、しかし確かに抱いてしまった殺意。
それを汲み取ってしまった彼女たちは、ジョウイに向かい攻撃を仕掛けようとする。

「勇者とは救われぬものを救うもの――――ならば問わなければならない。
 その対立者としての魔王とは一体なんだろう」

オディオがそれを制し、引き戻そうとする。
だが、それよりも一歩速く、フォビア達の動きが止まる。
まるで、より強い糸に絡め取られたように。
フォビア達に背を向けながら、ジョウイは淡々と語る。
その背のマントの一部が刃を形成し、フォビア達に触れていた。

「救われぬものを救う。ここにいるべきではない人を、ここではない場所に帰す。
 ならばその勇者に対立するのは――――彼らの居場所を変えてしまう奴のことなんだろう」

島の意志とは、文字通り島にある全ての意志を取り込むもの。
完全な形であれば、その島に存在するもの全てを意のままに操るという。
有線接続とはいえ、ジョウイが行ったのはまさにそれだった。
無論、確固たる意志を持つストレイボウ達に通じるわけもなく、
フォビア達にも通じるはずもない――――オディオが渡したくないと想いさえしてくれていれば。

「勇者が、人の想いを以て世界をあるべき場所に帰すのであれば……
 魔王とは、己の想いを以て誰かを……世界を変える者に他ならないッ!!」

フォビア達に干渉しながらジョウイは歌い続ける。
規模は関係がない。自分以外の何かを変えようとする者は須らく魔王。
変革者という意味では、オスティア候ですら魔王。
世界征服だろうと、姉だろうと、魔界だろうと、英雄と認める世界であろと、楽園だろうと。
自分の外側にあるものをここではない何処かへ変えてしまう者。

魔法<おもい>を以て、王<せかい>に至る――故に魔王。
変わりたくない、帰りたいと願う人の祈りを汲む勇者と敵対するもの。

875勇者への終曲 5 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:44:46 ID:9qS70r1M0
「ならばお前はどうだ、オディオッ!
 ルクレチアの全てを憎悪し、殺したお前は何故ここに止まっている?
 愚かさを知らしめる? そんなこと最初から分かっているッ!
 なぜそれを改めようとしない。お前は僕なんかよりずっともっときっと、力を持っているだろうッ!!」

今ならばオディオがフォビアを取り戻すのは簡単だ。
オディオとジョウイが真っ当に綱引きをすればどうなるかなど見えている。
だが、オディオにはそれが出来ない。なぜなら、彼女たちを呼んだのは裏切らないからだ。
裏切られるかもしれないから、そうならないように努力をするという人として当たり前の発想が、根本から抜け落ちている。
留めておきたいという想いがない力と、奪ってでも欲しいという狂気の籠もった力では、決定的な差が生まれる。

「答えられないなら教えてやるッ!
 お前には何もない、憎悪だけはあっても、殺意も、敵意も、願望もない。
 世界にこうあってほしいという想いが――魔法がないんだッ!!
 だからお前は全てを失った! 失っても取り戻すそうとさえ思えないッ!!」

力の差は歴然。だが、それでもこの綱引きでジョウイが負ける理由はない。
魔王を魔王たらしめる唯一にして絶対の核が、オディオには欠けている。
だから絶望するほどに試行錯誤をしたのに全ても徒労に終わった。
数多の敗者に機会を与えながら、何一つ満たされなかった。あたりまえだ。



「お前は、“お前に魔王であってほしい”というルクレチアの人々の祈りを叶えた――――“勇者でしかないからだ”ッ!!」
憎悪する<すくう>ことしか知らない勇者オルステッドでは、何かを変えることなど出来はしないのだから。


その一言が楔となったか、フォビアの腕が完全に垂れ下がる。
ジョウイによる支配が完了した証だった。

「言祝げオディオ、いや勇者オルステッドッ! 
 僕は弱いけど、吹けば飛ぶような存在だけど、それでも魔王だッ!!
 お前がいないと嘆いた魔王が、ここにいるッ!!」

ジョウイは迷うことなく門を開き、彼女たちを戦場へ飛ばす。
そこには、戦場で何千の兵を死地へと送ってきた第四軍の将の顔があった。

「だからそろそろ退けよ勇者――――お前がそこにいると、あの子が泣き止まない……ッ!!」

全ての欺瞞を奥歯で噛み潰すようにして、ジョウイは全てを奪い続ける。
奪った全てを積み上げて、偽りの魔王が座すその場所にたどり着くために。

876勇者への終曲 6 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:46:14 ID:9qS70r1M0
「やっちゃったわねえ。案外内心でマジギレしてるかもよ、オル様」
「……遅かれ早かれこうなっていたことです。それに、ちょっとすっきりしました」
後ろからその光景をずっと見ていたメイメイがジョウイに声をかける。
吹き出た鼻血を拭いながら、ジョウイは答えた。

「それに、遅かれ早かれ僕は僕でなくなる。なら制裁もなにもないでしょう」
「まあ、そうでしょうけどね」

今のジョウイは核識――――死喰いを除けば文字通りこの島の全てだ。
この島に刻まれた傷がジョウイの傷であり、
ビジュのダメージも、破壊される亡霊兵も、フィガロ城を動かした結果の大地の損耗も、全てがジョウイのダメージだ。
ひとえに肉体が滅んでいないのは、魔剣がジョウイを生かしているからに過ぎない。
何せ死を背負った今、現在の魔力はこの島の全て――致命傷ぐらいならば死ぬ前に甦る。
当然、それは肉体だけの話。精神は何度も死に、常人ならばとうの昔に砕けている。

「でも、僕はこれでよかったと想っていますよ。人を殺して感じる痛みで、死ぬことなんて無い。
 でも今は、それをちゃんと理解できるのだから」

それを好しと思えるのは、優しさか、あるいはもっとおぞましい何かなのか。
分類としては、間違いなく狂人のそれだろう。
壊れているものが、もうこれ以上壊れることがないように。

「でも、何で数で攻めることにしたの? そこがよく分からないわね」
「……今更陣形がどうだ、伏兵がどうだ、ということがしたいわけではありません。
 ただ……戦闘では勝ち目が見えないので、戦争にする必要があった」

戦争が本格化すれば、負荷はこれまで以上になるだろう。
そうなるまえに、ジョウイはメイメイの問いに答えた。
魔王対勇者、その構図では絶対に負けるとジョウイは確信している。
だが、魔王軍VS勇者軍という構図ならば、負ける“かなあきっと”程度には変わる。
その曖昧さこそにジョウイには重要だった。

「それに、僕もひとりじゃ、ありませんから」

ジョウイは右手を見つめながら、ぼそりと呟く。
その右手に集めた破片はどれも小さく、たよりないものだけど。
魔女の力も、核識も、冥府も、真紅も、モルフも。
それでも託されたもので、信じてくれたもので、決してなくしてはならないものだ。

877勇者への終曲 7 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:47:10 ID:9qS70r1M0
「貴方達をルカ以上と評価する。それが6人ならば、これが最低限だろう」

100の葬列、将が4人、フォビアが4体――――宿星<ほし>になれぬ屑石の群。
日没とともに諸共消える陽炎の如き軍勢。それがジョウイ=ブライトが賭けた全て。

逃げるならばそれでもいい。だが、この身は最早止まらない。
メイメイから伝えられた名前を告げる。
この剣にて死喰いへの扉を開き、偽りの魔王を玉座から叩き落とす。

「Sword murdering reincarnation antiquated―――――――」


偽りの楽園の片隅に、一つの腕があった。
そして、その掌の中には、汚れた頭飾りが一つ。
それらを背に、最後の魔王は世界で一番優しい地獄<らくえん>を創る。


「S.M.R.A――逆しまのARMS<ネガ・アームズ>――この一戦を以て英雄の輪廻を断ち切り、楽園を切り開くッ!!」


訪れるのは昨日か、明日か。齎されるのは、救いか、導きか。
勝者も、敗者も、そうでないものも。この島の全てを巻き込んで。
勇者と、英雄と、魔王を巡る、最後の決戦が切って落とされた。











RPGロワ159話「みんないっしょに大魔王決戦」


CAUTION!―――――――――――――――――戦争イベントが開始されました。リーダーを選定して部隊を編成してください。

878勇者への終曲 8 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:47:43 ID:9qS70r1M0
【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ:小、疲労:小
[スキル]:動揺(極大)心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1〜4)
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し ミラクルシューズ@FF6
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:十字架に潰される
1:???
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:動揺(大) ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6 いかりのリング@FF6 日記のようなもの@貴重品
[思考]
基本:私が、ジョウイ君と……同じ……
1:???
[参戦時期]:ED後

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品 “勇者”と“英雄”バッジ@クロノトリガー
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:???
2:俺はオルステッドを、どうすれば……

[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ジョウイより得た空中城の位置情報と、シルバードの情報をほかの参加者に伝えました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
    疲労:中 胸に小穴 勇気:真
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:ブライオン@武器:剣 
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:???
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)

【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:小
[スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ
[装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル
[道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック
    データタブレット×2@貴重品
[思考]
基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす
1:???
[参戦時期]:5章最終決戦直後
 ※バヨネットからパラソルが無くなりました。魔導系コマンドはそのまま使用可能ですが、魔力補正がなくなりました。

879勇者への終曲 9 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:48:31 ID:9qS70r1M0
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:大
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:???
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
※自由行動中どこかに行っていたかどうかは後続にお任せします


*以下のアイテムは城出現の際に破壊されました

【ドラゴンクエスト4】
 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ

【アークザラッドⅡ】
 デスイリュージョン@武器:カード

【幻想水滸伝Ⅱ】
 点名牙双@武器:トンファー

【その他支給品・現地調達品】
 拡声器@貴重品
 


【SMRA隊】

【反逆の死徒@???】
[状態]:クラス『モルフ崩れ』 軍服黒焦げ 
[装備]:蒼流凶星@幻想水滸伝2@城に投げ捨てられたもの 黒き刃@幻想水滸伝2 亡霊兵(25名)
    副将:フェミノフォビア(抜け道付加)、アクロフォビア(飛行付加)
[スキル]:暗器・凶毒針 状態付加・麻痺
     遠距離攻撃・召雷 ゲレハラスメント(憑依:攻撃力防御力20%減少)
     再生能力(毎ターンHP25%回復)俊敏、逆襲、狙い撃ち
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:距離をとって投石攻撃 ※周囲の石はミスティック効果にてアーク1相当にまで強化されています

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【反逆の死徒】
 かつて裏切り、裏切られたもの。死喰いに喰い尽くされたその残り滓に泥を与えられたモルフ未満の生命。
 特に欠損を補填するために融合させられたタケシーとの親和性から、タケシーの召喚術・特性を行使できる。
 また、亡霊兵を駆動させるエネルギー中継点となっていることから、再生能力もある。
 しかし所詮はそれだけ。並み居る英雄達には敵うべくもない。
 だからこそ掬われる。楽園を形作る礎となるために。

880勇者への終曲 10 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:49:28 ID:9qS70r1M0
【砂喰みに沈む王城@???】
[状態]:クラス『大魔城』外壁損傷 駆動部中破(スペシャルボディにて無効化)
[装備]:亡霊兵(25名)データタブレット@自由行動中にジョウイ(正確にはクルガン・シード)が捜索したもの
    副将:クラウストロフォビア(石化攻撃付加)、スコトフォビア(HP吸収付加)
[スキル]:ハードボディ、スペシャルボディ
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:敵に張り付き、移動を制限する

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【大魔城】
 王位継承者を喪い廃絶の決定した王国の城。それを良しとできない未練から伐剣王に終わりを奪われる。
 その蒸気はあらゆる物を灼き、左右の回廊は一撃必殺の腕。
 その城塞はあらゆる物理ダメージを半減させ、あらゆるステータス異常を無視する。
 ゴーストロード同様、ミスティックで強制的に能力を引き上げられため、動くたびに、進むたびに崩れゆく。
 だが城は止まらない、止まる必要がない。この城が守るべき国は、もうどこにもない。



【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 午後】

【ジョウイ=ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ:計上不能 疲労:計上不能 金色の獣眼(右眼)
    首輪解除済み 腹部に傷跡 『魔王』としての覚悟
    紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章
[スキル]:紋章術・蒼き門(Lv1〜4)、不滅なる始まり(Lv1〜3)
     フォース・クレストソーサー(Lv1〜4)
     アビリティドレイン、亡霊召喚、モルフ召喚 返し刃のダブルアタック 盾の鼓動は紅く輝く 
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍 天命牙双:左 ハイランド士官服 魔王のマント 亡霊兵×50
    副将:クルガン、シード(主将にしてユニット化可能)
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1 基本支給品
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:残る6人を殺害し、オディオを奪う。
2:部隊を維持し、六人の行動を見て対応
3:攻撃の手は緩めないがストレイボウたちが脱出を優先するなら見逃す
4:メイメイに関しては様子見
部隊方針:待機

[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているとき

*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。


[備考]
※無色の憎悪の『始まり』を継承し、憎悪を限定的に制御できるようになりました。
 ただし、毒性はそのままのため、日没までには憎悪に喰われます。

※マリアベルの欲望の残滓を魔剣に取り込んだことで、アビリティドレインが使用可能。
 無色の憎悪を介して伐剣王が背負った(魔剣に想いを取り込んだ者)の能力を限定的に使用できます。
 ただし、その為には死の痛みも含めた全てを背負う必要があります。
 また、ロードブレイザーのようなジョウイの理想に全く繋がらない想いは背負えません。

※アビリティドレインにより『災いを招く者』の力と誓約しました。
 その力とグラブ・ル・ガブルにより、亡霊騎士をモルフ化しました。
 この2体のみ維持のための魔力コストがなくなりましたが、破壊されれば再召喚はできません。

※メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています
※死喰いの誕生とは、憎悪によって『災いを招く者の闇魔道』を起動させることで、
 グラブ・ル・ガブルとプチラヴォスの亡霊をモルフとして再誕させることです。
 ただし、現在は闇魔道の半分がジョウイの魔剣に封じられたため、
 現時点ではジョウイにもオディオにも不完全な形でしか誕生できません。

881みんないっしょに大魔王決戦 ◆wqJoVoH16Y:2014/01/05(日) 01:50:40 ID:9qS70r1M0
投下終了です。意見、指摘有れば是非。

882SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 04:24:58 ID:xTqqe5.Y0
執筆と投下、お疲れ様でした。
幻水ったら戦争イベントだけども、。
ああ……「始まりの傷や痛み、夢を知って、それを自身の終点にはしない」。
これが氏の書く話の根幹にあるものだなあ、と思っているのだけど、
手筋というか、他の書き手さんへの問いかけとしても十二分に機能するなあ……。
そして、『みんないっしょに』。このタイトルには色々な意味で胸を衝かれる。
これだけ真剣で、なおかつこれまでのリレーで拾ったものと拾われなかったものとを
丁寧に見きったうえで「いま答えを出せ」と言わんばかりの白刃を振りかざすような問いをかけられて、
このSSやこの答えを導いた流れもだけど、リレー自体がどうなるか気になってしょうがない。
氏はこれまでも「さあ、みっつのパートに分かれて戦ってみようぜ!(瓦礫の死闘)」
みたいなフリをするコトはたくさんありましたし……今回にしても敵陣営の陣容などがきっちり整理されてる
点を差し引いても、ここまで身を切られるような「みんないっしょに」ってのは、そうそうないんで。
だから、どうしよう。ひとと遊ぶゲームが苦手な自分には良い話を読んだ、言いたいことを
言ってくれた、クロノ・クロスの要素やオレンジ隊、ハッピーエンドの先のコトをよく拾ってくれたッ!
……みたいなことを言えても、「分かった、今から編成画面(メモ帳)開くわ」とは言えない。
リレーであるかぎり、それが不向きだと分かった自分には、どうしても言ってやれない。
いい話を読んで、莫迦みたいにありがとうと返すことしか出来ない。それを、本当に申し訳なく思います。

でもそんな湿っぽい感想が一発目じゃあ悪いので、もう少しだけ。
魔王オディオの終曲は、自分にはよくやったとしか言えないくだりでした。
世界を変えるとの宣言に、「じゃあ自分はこうする」とすら言えないどころか、
原作からして主人公たちの答えを聞いて納得しちゃうし、SSでも何度か言及されたように
魔王を生み出す要因となった憎悪についてもどうにかしようとしないものなあ。
で、勇者ならば魔王を倒しうるか。それとも……と考えていくのも面白い話でした。
書き手でなくとも、考えることへの面白さを感じることが出来る。ゲームのプレイングを
とおして、ヘルプメッセージやシステムから「考える楽しみ」を知った自分にとって、
氏のSSを読んでいる間に感じるこの感覚も正しくゲームやってるようで好ましいのです。

883SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 04:31:41 ID:xTqqe5.Y0
熱くなって書き足してたら二文目がない、だと……?
戦争イベントだけども、状態表で色々整理してるとはいえその規模でくるか。
そういうコトを脳内で書いた気持ちになっておりました。
後半で書いてますが、だからこそこのフリは凄いなー、だったんですよね。
構図が魅力的すぎるのが分かってなお、このフリを選べる心胆が凄い、と感じたのです。

あと、せっかくなので、新年あけましておめでとうございました。
昨年から展開も最終盤に入って、一話一話が本当に重たいところにあると思いますが、
皆様の努力で楽園のように続いてきたこの企画と、それを支える方たちにとって、
今年がよい年でありまますように。微力ながら祈りつつ、可能な範囲で感想つけるなりはします。

884SAVEDATA No.774:2014/01/05(日) 12:29:32 ID:khVW4KmE0
執筆&投下おつかれさまでしたッ!
戦争イベント来たー!?
これは予想外だったが、27の真の紋章の特性を考えるとなるほどと思わされた!
ジョウイすげぇよ。まともじゃない。こいつが背負うものは底なしか……
反逆の死徒と化したビジュの再登場も驚いた
イスラに汚点を突き付けるだけじゃなくて、ロザリーを呼びだしたアナスタシアと同じって表現には唸らされた

>きれいなものをえらんで、きたないものをすてたのだ。

この一文は、ぐぁー、そう来たかぁ、と思ったね
あの場にあったものは、ただ綺麗なものであっただけで、本質は反逆の死徒と同じかぁ、うーむ、考えさせられるね

885SAVEDATA No.774:2014/02/03(月) 10:23:30 ID:FuUnUz/gO
予約来たか!!

886 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 19:18:50 ID:mMVbeUhI0
投下いたします

887 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 19:24:43 ID:mMVbeUhI0
と、すみません
ちょっと所用によりすぐに投下ができなくなってしまいました
今日中には投下いたしますので、一旦>>886を撤回させてください

888 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:18:13 ID:mMVbeUhI0
先ほどは失礼いたしました
今度こそ投下いたします

889 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:19:15 ID:mMVbeUhI0
 ――何も抱けないものは、どうすればいい。
 ――求めても手を伸ばしても希っても望んでも。
 ――そうやって足掻いても、何ひとつ手に入れることができないのならば。
 ――いったい、何ができるというのだ。
 
 ◆◆
  ______
 |部隊編成 |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | アキラ  
  | アナスタシア  
  | イスラ  
  | カエル  
  | ストレイボウ  
  |→ピサロ  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |→アキラ  
  | アナスタシア  
  | イスラ  
  | カエル  
  | ストレイボウ  
  |  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ピサロ
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | アナスタシア 
  | イスラ     
  | カエル     
  | ストレイボウ  
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ピサロ
  | アキラ
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
 →|決定|
    ̄ ̄ ̄

890其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:20:05 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 もうもうと立ち昇るのは、煙と蒸気だった。灰色の煙は空を舞う。蒸気は高熱の霧となる。
 そうして大気は、煤臭さと油臭さが孕まされ、熱を帯びていく。
 壊れゆきながら嘆きを叫ぶ、たったひとつの異様を中心として、だ。
 内燃機関が悲しみを吼え、駆動部各所が虚しさを訴え、無数の歯車が痛みを叫喚する。
 狂騒たる音の集合は、つまるところなきごえだった。
 顧みられることなく滅びるはずだった、異様たる偉容――砂喰みに沈む王城が上げる、矜持を掛けたなきごえだった。
 王城は往く。
 傷ついた外壁に構うことなく、壊れた駆動部を酷使して、嘆きのままに行進する。
 岩石が合成された人形と、下半身を黒球に埋めた人形と、倒れることを知らない不死の兵を率いて。
 ただただ王城は進む。その身が砕けても、崩れたとしても、止まることなどありはしない。
「城を手にし王を気取るか。成り上がったものだな」
 滅びゆく王城と対峙するのは、かつて魔族の王として君臨していた男だった。
 もはや王たる身ではないとはいえ、その高潔さは喪われていない。そんなピサロにとって、王城など恐れるものではない。
 城など所詮、王の所有物でしかないのだ。
 ならば止める。未だ潰えぬ誇りに掛けて止めるべく、ピサロはこの場で武器を取る。
「気に入らねェよ……」
 そのピサロの隣で、アキラが、絞り出すように吐き捨てる。
 彼は、灼熱する感情を宿した瞳で、真っ直ぐに軍勢を睨みつけていた。
「なんだよアレは。なんなんだよアイツらは……ッ!」
 アキラの拳は、わなわなと震えていた。
 掌に爪が食い込むほどに握り込んでも、その震えは止まりはしなかった。
 アキラの網膜に入ってくるのは、自壊しながら迫る王城と、そして。
 王城と共に進撃し、王城の移動に巻き込まれて潰される亡者たちの姿だった。
 屑のように潰された亡者たちは再生し、もう一度進軍を開始する。
 けれどその一部はまたも王城によって破壊され、再度蘇り、行軍を繰り返す。
 歪に狂い、圧縮された輪廻を思わせるその光景は、地獄としか思えなかった。
「この果てにッ! こんな地獄の果てにッ! お前の望んだものがあるのかよッ!!」 
 返答などあるはずもない。
 それでもアキラは、叫ばずにはいられなかった。
「認めねェ。俺は絶対に、こんなものは認めねェッ!」
 アキラを震わせるのは怖れではない。
 疲労もダメージも焼き尽くすほどに、激しく燃え盛る怒りだった。
「猛るのは構わん。だが、愚かにも吶喊だけはしてくれるな。我らの目的はあの城の足止めだ。奴らがケリを付けるまで、あれを止める」
 亡霊城より先行し、まとわりついてくる亡霊兵を駆逐しつつ、ピサロは告げる。
 その声は冷静で、熱くなる感情をいくらか冷ましてくれた。
「……ああ、気をつける。ここで突っ込んで死ぬなんざ、御免だからな」
「死にたくなくば自分の身は自分で護ることだ」
 冷たい言葉に、アキラは頷きを返し、ふと呟く。
「それにしても、あんたが足止めを買って出るなんて意外だったぜ」
 そんなアキラの感想に、ピサロは不機嫌そうに息を吐いてみせた。
「腑抜けた奴らを連れてはあの城を止められまい。奴らにはさっさとケリをつけて貰わねば困る」
 その手に握るバヨネットに魔力が装填されていく。
「演習の際に見せた意地が仮初でしかないのも」
 その横顔からは、感情は読み取りづらい。
「ロザリーの想いを形にした行為が、“あれ”と一緒にされるのも」
 ただその声音からは、失望の色は見て取れなかった。
「不愉快極まりないのでな……ッ!」
 だからやってみせろと。
 この場にいないものたちを、挑発するように告げて。
 そうしてピサロは、迷うことなく引鉄を引いたのだった。

891其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:20:43 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
  ______
 |部隊編成 |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | アナスタシア 
  | イスラ     
  |→カエル     
  | ストレイボウ  
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |→アナスタシア  
  | イスラ    
  | ストレイボウ   
  |   
  |  
  |  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆カエル
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | イスラ
  | ストレイボウ     
  |  
  |   
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆カエル
  | アナスタシア
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
 →|決定|
    ̄ ̄ ̄

892其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:21:13 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 ぐしゃりとした手応えと、べちゃりとした手応えと、薄布をなでたような手応えが、刃を通じてまとめて感じられた。
 投石をアガートラームで弾き敵陣へと真正面から突っ込んだアナスタシアの一閃により、アンデッドたる兵が数体、まとめて薙ぎ払われて崩れ落ちる。
 すぐに、アナスタシアは振り返る。
 離れた箇所に展開した亡霊部隊によって投擲された石礫が、アナスタシアへと迫っていた。
「ルシエドぉッ!」
 跳躍した魔狼が石礫を叩き落とす。
 だが、ミスティックによってチカラを引き出された石は、貴種守護獣にさえも手傷を負わせる。
 石を迎撃した前脚には傷がつき、爪が割れ、血液が飛び散った。
 亡者とは思えない統率された動きで、兵士は、機を得たりというばかりに次々と石を投げてくる。
 たかが石ころ。されどその一つ一つが、致命傷となり得る武器だった。
 まるで、路傍の石として顧みられず朽ちることを良しとしないかのように。
 まるで、見向きもされなかった石ころが、その意地を見せつけるかのように。
「ルシエド、下がってッ!」
 アナスタシアが叫んだ直後、ルシエドの姿がかき消える。
 ルシエドを呼び戻したことで、投石部隊がアナスタシアへと狙いを済ませる。
 そうして狙いを変える隙を付き、一気に距離を詰めるべく地を踏みつける。
 その足が、掴まれた。
 白骨の五指が、アナスタシアの足を掴み取る。
 それは先ほど、アナスタシアがなぎ払った兵のうちの一つだった。
 それを中心として、倒した兵が起き上がる。
 忘れるなというように。目にもの見よと、いうように。
 その様に、アナスタシアは、心の底から嫌悪感を覚えた。
「こン、のッ!」
 アガートラームを振りかざし、蘇った兵を容赦無く砕く。
 それでは足らないといように、戻したルシエドを聖剣として顕現させる。形状は短剣。
 小さい分、数を増やしたそれを、頭上に浮かばせるようにして呼び出して、降り注がせる。
 流星のように流れ落ちる聖剣は、亡霊兵たちを刺し、突き、貫き、砕き、壊し、破壊し破砕し貫通する。
 アナスタシアが思うままに、望むままに、亡霊兵を執拗に攻撃する。
 蘇ってくれるなと、二度と起き上がってくれるなと、そう願うように聖剣が降る。
 そうだ。
 死者は蘇るものじゃない。どんなことをしても、帰ってくるものなんかじゃない。
 決して、ぜったいに、なにがあっても。
 戻ってくるものなんかじゃ、ない。
 そうでなくては困る。
 そうじゃ、なきゃ。
 過去<うしなったもの>に手を伸ばしてしまう。
 だからアナスタシアは否定する。目の前で蘇り続ける亡者を否定する。
 そんなアナスタシアを嘲笑うように、亡者の群れは蘇る。我らはここにいると見せつけるように蘇生する。
 刮目せよと。
 貴様が起こした奇跡は、この光景と同質なのだと。
 亡者どもは、アナスタシアの否定以上に執拗に、囁いてくるのだ。
 故にアナスタシアは剣を握る。
 蘇りの果てへと至るべく、剣を振るう。
 そして。
 それだけの時間は、狙いを定め直された石つぶてが、アナスタシアへ飛来するには充分だった。
 生存本能が危機を察知するが、遅い。
 不死者を破壊し尽くすことに意識を割き切っていたせいで、プロバイデンスもエアリアルガードも、回避や防御でさえも間に合わない。
 その身は、完全にガラ空きだった。
 見開いた瞳に、大きくなっていく石つぶてだけが映り込む。

893其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:21:45 ID:mMVbeUhI0
 その石つぶてが、アナスタシアの目の前で。
 まとめて、弾き飛ばされた。
 横合いから、弾丸のように飛び込んできた剣によって、だ。
 その剣は弧を描くように大気を薙ぎ、アナスタシアを狙っていた投石部隊を急襲し、逃げ損ねた不死者たちを沈黙させる。
 剣の柄には、両生類の舌が巻きついていた。
 その舌が、まるでゴムのように、主へと戻っていく。
「落ち着け」
 覆面の奥に舌を戻し、カエルは剣を手にする。
 その様子は安っぽい怪奇小説に出てきそうなくらいには不気味であったが、それに言及する余裕を、アナスタシアは持ち合わせていなかった。
「助かったわ」
 ただそれだけを告げて、アナスタシアは、聖剣ルシエドの連撃を受けてなお立ち上がろうとする、足元の骨を苛立たしげに踏み潰した。
「落ち着けと言っている」
 カエルはアナスタシアの側まで跳んでくると、先の斬撃で仕留め損ねた兵が投げた石を迎撃する。
「放っておいたらまた復活するでしょ。だからこうして、動ける敵を減らさないと……ッ!」
「守りも固めずにか?」
 カエルに弾き飛ばされた石が、地面を穿った。
「たかが石と侮るな。これはもう、弾丸だ」
「わかってる。わかってるわよそんなことはッ!」
 当たり散らすように怒鳴りつけるアナスタシアに、カエルは溜息混じりで返答する。
「分かっているならば冷静になれ。苛立ちを抱えて勝てる戦ではない。戦に勝てなければ生き残れない」
 カエルは淡々と告げる。
 その淡白さが、当然の事実であると如実に表していた。
「生きるのだろう?」
 アナスタシアの奥歯が、ぎりっと音を立てた。
「……生きたいわよ」
 絞り出すようなその声は弱音めいていた。
「生きたいの。生きたいわよ! けど、だけどッ!!」
 その欲望に揺るぎはない。生を求める衝動に偽りはない。
 なのに、アナスタシアは揺れていた。彼女の内で揺れているのは、生き方だった。
「わたしは、弱いのよ……」
 そう零すアナスタシアの目の前で、亡霊兵が何度目かの蘇生を果たす。
「わたしは死者に縋った。想いを集めて、戻ってくるはずのない命を、一時的とはいえ、かえしてしまった」
 けれどアナスタシアは亡霊たちを見つめるだけだった。
「ジョウイくんと、同じように」
 くすんだ瞳で、見つめるだけだった。
「否定できなかった。違うって、言えなかった」
 距離を取る亡霊兵たちを、アナスタシアは、翳る瞳でぼんやりと追う。
「だって、いいなって思うんだもの。うらやましいなって、思っちゃうんだもの」
 遠ざかった亡霊兵が、石を拾い上げる。
「また逢いたいって、望んじゃうのよ」
 その更に向こうに、哄笑を上げるビジュだったものが目に入った。
 死んだはずの人間が、人とは思えぬ姿となりながらも、確かにここで嗤っていた。 
「新しい“わたし”をはじめるって、そう決めたのに」
 鼻の奥が、やけに湿っぽかった。
「なのに。ねえ、どうして――」
 胸の底が、いやにかさついていた。
「つよく、なれないの? かっこよく、なれないの?」
 呟いた直後、投石が殺到する。
 身体が動くままにそれを弾く。だが、アナスタシアは駆けられなかった。
 投石を繰り返す敵の元へと、駆けることができなかった。

894其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:22:31 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
  ______
 |部隊編成 |
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  | イスラ      
  |→ストレイボウ   
  |          
  |          
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ストレイボウ
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |→イスラ  
  |    
  |   
  |   
  |  
  |  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ストレイボウ
  |
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
  |決定|
    ̄ ̄ ̄
 ・キャラクター選択
   __________  
  |
  |    
  |  
  |   
  |         
  |          
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  
 ・部隊メンバー
   __________  
  |☆ストレイボウ
  | イスラ
  |
  |
  |
  |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ___
 →|決定|
    ̄ ̄ ̄

895其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:23:16 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 笑い声が、耳の奥でこだまする。
 厭な声だった。
 下卑ていて品がない、その声は、聞くに耐えないものだった。
 もう聞くことはないと思っていた。聞かなくてもいいと思っていた。
 そう思い込むことで、蓋をしてしまおうといていたのかもしれない。
 けれどそれは破られた。
 不意打ちで、蹴破られたのだった。
【ゲヒ、ゲレ、ゲイヒヒヒヒヒレレレレッ!!】
 記憶でもない。幻聴でもない。
 今この耳が、この嗤い声を捉えている。
 粘性の液体から湧き出てきたような人形と、鳥と爬虫類を掛け合わせたような人形を侍らせて。
 そいつは、嗤い続けている。
 その耳障りな声に合わせ、亡霊兵が組織立った動きで投石する。
 ストレートに飛んでくる豪速の石が来る。放物線を描き頭上から石が落下する。曲線軌道を描き、側面から襲ってくる石がある。
 速度も軌道もまちまちながら、投げられた石らは決して互いを食い合わない。
 統率された遠距離攻撃は緻密に精密に、イスラとストレイボウを狙い撃ってくる。
 亡霊兵は疲労を覚えず、攻撃は乱れない。
 故に、その統率を乱すには、打って出る必要があり、
「レッドバレットッ!」
 そのための魔力が、ストレイボウから膨れ上がった。
 紅の火球が複数、枷から解き放たれた獣のように飛び上がる。
 火球は石を迎撃し撃ち落とし、そのままの勢いで亡霊兵へと突っ込んだ。
 爆ぜる。
 陽炎を立ちめかせながら燃え盛る業火に灼かれ舐められ、亡霊たちは崩れ落ち、投石の壁が薄くなる。
 それは、駆け抜けるには充分な空隙だった。
「走るぞッ!」
 ストレイボウの叫びに後押しをされるようにして、イスラは地を蹴った。
 得物を銃に持ち替え、荒れた土を踏み抜く。火炎から逃れた兵の投石を避けて駆け抜ける。 
 耳元に突然、生温い気配が現れた。
【ゲレレレレッ……ヒヒ、ゲレレレ、レレヒッ!】
 その気配が放つ耳障りな哄笑が、真横から響き渡った。
 背筋を猛烈な悪寒が駆け抜ける。それは危機感であり、嫌悪感であり、そして。
 十字架の重さだった。
 その重さは、イスラの意識を強引に引っ張っていく。
 ダメだと、見るなと、そういった気持ちを軒並み押し潰して、イスラの顔を隣へと向けさせた。
「っ!」
 ぐずついた泥を固定剤にしてバラバラに捏ね合わされた、ビジュのようにもタケシーのようにも見える、顔と呼ぶには余りにも冒涜的な物体が、視界いっぱいへと飛び込んでくる。
 あり得ない場所に接合された目が、泥を零しながらギョロギョロと動き回る。
【イヒッ、イヒヒヒヒヒヒッ……ヒヒ、ゲレレレ、イヒヒラララ!】
 その瞳が、イスラの視線と交差した。

896其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:23:58 ID:mMVbeUhI0
【ゲラゲレレレレレヒヒヒヒ、ゲレレヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!】
 かろうじて口の形を保った裂け目が開き、泥を撒き散らしながら声をあげる。
 そのおぞましさに、意識が灼きついた。
 足が止まり手ががたつく。目が見開かれ冷や汗が滲む。喉がかさかさになって胃が締まる。酸味めいた臭いがせり上がる。
 大きな背中が、撫でてくれた手が。
 笑えるかもしれないと想った、オスティアの幻想が。
 かけがえのない、想い出が。
 翳り、崩れ、遠ざかり。
 全身が、虚脱する。
「イスラッ!」
 崩れ落ちそうになる寸前で、ストレイボウの声がイスラを支えた。
 残っている力を意識し、取り落としそうになったドーリーショットを握り締めて銃口を突き付ける。
 笑いながら離脱する反逆の使徒に狙いを定め、引き金に指をかけて。
 ビジュを斬った記憶が、鮮明にフラッシュバックした。
 体から落ちる首。
 溢れ出る鮮血。
 むせ返るように濃厚な、ちのにおい。
 そして。
 楽しそうな、笑い声。
 あのとき、あの瞬間。

 ――どうして、僕は、笑っていたんだ。

 指が凍りついたかのように動かない。
 銃を握るその手には、ビジュを殺したときの感触が、生々しく蘇っていた。

 ――役立たずだと、どの口が断じられた?

 ビジュだったもの<笑いながら殺した相手>に向けた銃が、震える。
 もう一度殺すのか。
 こんな身になってまで、それでも願ってここにいるこの男を、もう一度殺すのか。
 そう願わせたのは、だれだ。

 ――いま、僕は。いったい、どんな顔をしている?

 想像した瞬間、怖くなった。
 銃口を、向けていられなくなった。
 そうしていることが、拭えない罪のような気がした。
 悠々と距離を取った反逆の使徒が、これ見よがしに手裏剣を取り出すのが見える。
【イヒ、ゲレヒヒ……】
 構える。
【ゲラゲレレレレレヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒッ】
 投擲される。
 その一連の動作を、イスラは呆然と眺めていた。
 イスラの意識は、もはやこの場所にはなかった。
 だから、気付かなかった。
 周囲に、冷気が立ち込めていることに、だ。
 その冷気は導かれるように収束し固形化する。
 空気にヒビを入れるかのような音を引き連れて分厚い氷が現れ、イスラを囲う。
 投具や投石から、イスラを守るように。
 イスラと反逆の使徒との間を、遮るように。
 氷壁の表面は、鏡のように顔が映り込んでいた。
 蒼白となったイスラの顔が、映り込んでいた。
「イスラ! 無事かッ!?」
 掛けられた声で、その氷壁がストレイボウの魔法によるものだと、ようやく気付く。
 瞬間、イスラの足から今度こそ力が抜けた。武器を、取り落とす。
 焦点がぼやけ、何を見ているのかが分からなくなる。
「僕は、僕は……ッ!」
 うわごとのように呟くイスラを嘲笑うように。
 へたり込むその姿が、見られているかのように。 
 氷壁の向こうからは、笑い声が響き続けていた。

897其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:24:46 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 不死なる兵どもは、雑兵と切って捨てられる程度の実力だった。
 その程度の者がどれほど集まろうと、ピサロの足は一切止まらない。
 纏わりついてくる敵をバヨネットの一振りで斬り伏せ、真空波で吹き飛ばして疾走する。
 進路上に立ちはだかる兵へと走る勢いのまま刃を突き立てる。その身を貫いて引鉄を引く。
 光線のように収束した魔力が射出され、背後に並んだ敵を射抜き切る。
 機械部品が展開し排熱の蒸気が立ち上る。その蒸気を払うようにしてバヨネットを横に薙ぎ、側面からの襲撃者を討ち取る。
 パラソルの魔力補助がなくなり機械側の負担が大きくなった分、近接武器としての取りまわしやすさは向上していた。
 そうしてピサロは雑魚を蹴散らし到達する。
 バヨネットとは比べ物にならないほどの蒸気を上げる、巨大な敵将に攻撃が届く、ギリギリの射程圏内に、だ。
 そしてそこは、敵将の攻撃がピサロに届く場所でもある。
 副将を控えさせて前に出るその敵将の左腕<左回廊>が、唸りを上げて縦回転する。
 鋼鉄の外壁がへし曲がり擦れ火花が散り、蒸気が溢れ返る。
 左腕<左回廊>を支点にし、挙げるように。
 地に付いていた左手<左塔>が、跳ね上がった。
 猛烈な砂塵が巻き上がる。それは蒸気で吹き飛ばされ、悪夢めいた砂嵐を作り出す。
 だがそれは、攻撃の副産物でしかない。
 本命の一撃は、左手<左塔>による突上打だ。
 ピサロはバヨネットの砲口を左に向け、右へ跳躍する。跳ぶと同時に発砲、爆風に乗って距離を稼ぎ、亡霊城の外側へ。
 直後、轟音と共に左手<左塔>の突上打が眼前を通過した。
 復活を果たしピサロへとまとわりつこうとしていた兵を軒並み潰して、左手<左塔>が天を衝く。
 スケルトンが粉々になりグールが肉片と化し亡霊兵が空へと消える。
 それは、必殺の一撃と呼ぶことすら生ぬるかった。
 熱っぽい湿り気を帯びた砂嵐がピサロを襲う。咄嗟に左手で庇うが、蒸気を帯びたそれは皮膚を侵していく。
 そこへ、長い影が落ちる。
 鉄と鉄が擦れ合う不快な轟音を重ねて、摩擦による火花を撒き散らして、亡霊城は旋回する。
 鉄塊と呼ぶにはあまりにも巨大すぎる左手<左塔>を挙げたままで、だ。
 次の動作など、予測するまでもなかった。
 だからピサロは即座にバヨネットを掲げる。その指に魔力と、絶えぬ想いを注ぎ込む。
 魔導アーマーのパーツにチカラが流し込まれる。回路が励起し光を帯び、バヨネットの砲口に輝きが収束する。 
 その輝きは蒼。究極の名を冠する魔力光。絶えぬ想いをエネルギーとする、極まった力の奔流。
「アルテマ――」
 それを前にして、王城は動く。
 左腕<左回廊>の回転を逆にし、悲痛な軋みを迸らせ、打ち上げた左手<左塔>を動かす。
 単純な話でしかない。
 挙げた左手<左塔>を、今度は振り下ろすだけだった。
 超重量の一撃の初動。それを前にしても動じず、ピサロはトリガーを引く。
「――バスター」
 究極光が、解き放たれる。
 球状に広がるエネルギーは、左手<左塔>と正面からぶつかり合う。
 鋼鉄の腕を受け止め、その外壁を引っぺがし、もはや使う者のいない内装を吹き飛ばし、壁を床を柱を食い尽くす。
 左腕<左回廊>から左手<左塔>までの居住スペースが完全に吹き飛ばされ、錆びた内部フレームと砂を噛む駆動機構が露わになる。 
 王城のなきごえが、ひときわ大きくなった。
 剥き出しになった内部機構の各所で、無数の火花が舞い踊る。それは、いのちを燃やしているかのようだった。
 アルテマバスターの輝きは、フレームをひしゃげさせて歯車を砕く。
 それでも、左手<左塔>は止まらない。止まるはずもない。
 ボロボロになりながらそれは、重力を味方につけて、光の奔流を割って来る。
「ち……ィッ!」
 止め切れないと判断したピサロはバヨネットを下げる。
 手を掲げ力を込め、心に満ちる“想い”を意識し、ラフティーナの力を呼び起こそうとして。

898其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:25:46 ID:mMVbeUhI0
 左手<左塔>の軌道が、ブレた。
 ピサロを真上から狙うコースだったはずのそれが、アルテマバスターの光を斜めに斬るようにして、滑って行く。
 左手<左塔>が、空を切って地を叩く。鋼鉄の巨腕に打撃された大地が、怯えるように揺れた。
 ピサロを潰すはずだった左手<左塔>が岩石を破砕し地面を引き裂き痕を刻みつける。跳ね上がった石片が歯車に噛み潰されて砂礫と化す。
 いつの間にか城は、ピサロに背面を向けていた。
 ピサロの口角が、吊り上がる。
 この場で戦っているのは、ピサロだけではない。
 城の背面に、再度バヨネットを突き付ける。
 トリガーに指を掛けて、ピサロは、それが引けないことに気付く。
 魔力の増幅と制御を行っていたパラソルなしで放ったアルテマバスターは、莫大な負荷をバヨネットに掛けていた。
 機械部品が完全にオーバーロードしており、魔力を流しこめそうにはない。
 これを利用して魔力を射出するには、時間が必要なようだった。
 舌打ちをし、稼働する王城を睨む。
 かなりのダメージを与えたとはいえ、まだ左腕<左回廊>の駆動部は生きている。
 この程度では、じきにあの城は嘆きのままに進撃を再開するだろう。
 思案する。
 なにせ相手はあの巨体。この身では近寄ることすらままならない。
 だが、手はある。
 要は、蒸気の熱に耐えきり、真正面からぶつかることが可能な身があればよいのだ。
 そのような身体に変異させる呪文を、ピサロは心得ている。
 リスクは大きい。
 変異中は闘争本能が肥大化し思考力が低下する。インビジブルも使えないだろう。
 耳に届くなげきの声が、思考に混じる。敵は、すぐ側にいる。
 ピサロは、息を吐いた。
 迷っている時間が惜しい。
 だからピサロは決意する。
 王城の一撃を滑らせたあの思念を、無意識のうちに当てにして。
 ピサロは、詠唱を開始した。

 ◆◆

「畜生ッ!」
 倒しても倒しても蘇る兵どもに、もう何度目かわからない肘鉄やローキックを叩き込み、アキラは悪態をつく。
 何度でも起き上がる兵への苛立ちではない。この地獄絵図と、それを描いた者へ、アキラは憤っていた。
 アキラは感じ取る。
 この場に満ちる感情を、その心で感じ取る。
 特段心を読む必要もない。そんなことをするまでもなく、叫びは痛いほどに伝わってくる。
 それは声になどはならない。そんな風にかたちを規定できるほど、この嘆きは薄くない。
 城がさけんで兵が湧く。兵がなげいて城が啼く。
 止みはしない。その軍勢はもはや、他のことなど知りはしない。
 だから止まらない。
 究極光を受け止めて、悲痛な姿を晒しても。
 王城は、止まらない。
 たとえその身が砕けても。
 王城は、止まらない。
 その様は、アキラに思い起こさせた。

899其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:26:26 ID:mMVbeUhI0
「ちがうだろ……」
 自壊することも厭わずに戦い抜いた、義体の英雄の姿を思い起こさせた。
「そうやってさけんで」
 彼女の渇きを思い出す。
 彼女の望みを思い出す。
「叫びだけを残して」
 彼女の、死に顔を、思い出す。
「そうやって逝きたいわけじゃあ、ねェだろッ!」
 アキラが吼えた、その瞬間。
 軍勢を構成するすべての意識が、アキラへと集中した。
 叫びと嘆きと恨みと妬みと慟哭と。
 そして、大いなる絶望が、まるで集合体のように、アキラを睨みつけた。
 その集合意識は、重くくらく粘っこい。
 毒沼のようなそれは、アキラを沈めてしまいそうなほどに深かった。
 声にならない声がする。
 かたちにならない感情が、酸性の液体を馴染ませた暴風のように吹きつける。
 それは純粋が故に暴力的で、もはや精神攻撃の域に達していた。
「なめンな……」
 けれどアキラは俯かない。屈しない。膝をつかずに拳を握る。
「負けるかよ……ッ! 負けて、たまるかよッ!!」
 歯を食い縛り絶望の睥睨を睨み返し足を踏む。
 どくり、と。
 アキラの心臓が、一際大きく拍動する。いのちの底で輝くかけらが、そこにはある。
「お前らは、なんのためにここにいるッ!!」
 スケルトンの憎しみを拳の一撃で割り砕く。
「こんなことで晴れるのかッ!!」
 グールの怨みを肘鉄で叩き潰す。
「こんなことを繰り返して、満足なのかよッ!!」
 亡霊兵の嘆きを念で弾き飛ばす。
 それでも叫びは止まらない。それどころか、アキラが猛るほどに亡者の声は増していく。
 王城が、アキラへと迫る。
 黙れと、目障りだと。
 そう嘆くように、その威容は駆動音を鳴り響かせて吶喊してくる。
 壁に亀裂が走っても。黒煙がもうもうと立ち昇っても。剥き出しになった駆動部から、砕けた歯車が零れても。  
 そいつは、砂埃を纏いただその身だけを武器として、アキラへと迫る。 
 その城の、ボロボロになった左側面へ。
 アルテマバスターを受け、それでも動き続ける左手<左塔>へ。
 突っ込んで来る巨体が、あった。
 その巨体は、鋭い爪の伸びる両手を、進撃する王城へと突き出した。
 城の進撃が、押し止められる。それでも進もうとする城を、巨体は逞しい二本の足で踏ん張って止める。伸びる尻尾が、大地を擦った。
 王城が灼熱の蒸気を噴出させるが、美しい紅の鱗には火傷一つ負わせられなかった。
 巨体の頭部からは、天を貫くような雄々しい角があり、その背には一対の翼が生えていた。
 それは、王城に負けぬほどの威容と威厳を誇っていた。
 そいつが、アキラを一瞥する。
 その紅玉色の瞳には、見覚えがあった。
「ピサロ……?」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」
 その口から、雄叫びが上がる。
 音圧はびりびりと大気を震わせ、近場にいた亡者を伏せさせるそれは。
 龍<ドラゴン>、だった。

900其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:27:29 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 身体を龍へと変異させ、その圧倒的身体能力を得る呪文――ドラゴラム。
 ピサロは、龍の力と闘争本能を以って、王城と相対する。
 左手<左塔>のフレームを握り潰す。ひしゃげて折れたフレームを投げ捨て、歯車の群れへと腕を叩き込む。
 力任せに突き出した腕は歯車を一気にぶち抜いて破砕させる。部品の欠片が雪のように降り注いだ。
 黒煙がぶすぶすと沸き上がる。構わず龍は顔を突っ込んだ。
 口を、開く。
 鋭利な牙と赤い舌の奥で、火炎が逆巻いていた。
 息を、吐き出す。
 枷を解かれた灼熱の炎は鋼鉄の部品でさえも融解させる。それは、一兆度もの超高温を彷彿とさせた。
 左手<左塔>が爆砕する。発生した爆発は誘爆を呼ぶ。群れとなって連なる炸裂は左手<左塔>を壊していく。濃くなった黒煙が空を汚す。
 左手<左塔>が崩壊する。悲鳴を上げて崩壊する。
 破砕音に交じり、がぎん、と。
 硬い音が響き渡った。
 その音は、連なる破壊の音の中にあって、あまりにも異質だった。
 爆発の向こうで火花が散る。黒煙の彼方で蒸気が上がる。
 硬質の音を上げたのは、王城の意思だった。
 左手<左塔>はもう、動けずに滅びゆく。なればこそと王城は、左手<左塔>をパージしたのだった。
 本体が爆発に巻き込まれないようなどと、そのような温い意思ではない。
 捨てられた左手<左塔>に込められるのは、苛烈な叫びの結晶だった。
 眩い閃光が迸る。断末魔を思わせる爆音が、世界を揺るがせる。
 龍の至近距離で、大爆発が発生した。
 爆発の熱量など火龍の身には児戯に過ぎない。ただ、その衝撃波と吹き飛んだ残骸は、龍鱗を抉っていた。
 龍が、たたらを踏む。衝撃のダメージと、猛烈な閃光と爆音が、龍の感覚を奪っていた。
 吐き気そうな煤臭さと濃厚な黒煙が立ち込める。
 それを引き裂いたのは、王城の一撃だった。
 船が海を掻き分けるように砂礫をぶち割って、城が滑ってくる。 
 龍に左腕<左回廊>を突き立てるべく、城が駆動する。
 それは、左腕<左回廊>が潰れることを厭わない一撃だった。
 龍の本能が意識を覚醒させる。
 だが遅い。
 龍の身体は、その一撃を避けるには大きすぎる。
 だが龍は、危機感など覚えなかった。
 悲しみとにくしみと絶望の沼の真ん中で、熱く燃える思念を、感じ取っていたからだ。
 その思念は、王城の突進軌道をねじ曲げる。
 龍の真横を、左腕<左回廊>が突き抜けた。
 空を切ったそれを両腕でホールドし、根元に牙を突き立てる。
 へし折る。
 引き千切った左腕<左回廊>を、龍は握り締めて水平に構え、闘争心の赴くままに叩きつける。
 鋼鉄の亡霊に、龍のフルスイングが直撃する。
 鋼が衝突する撃音が鳴る。龍が握った左腕<左回廊>が砕け散り、王城のバルコニーが破壊され、それでも。
 それでも王城は停止することなく、愚直な突撃を繰り返すのだった。

901其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:28:25 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
「悪い、ことなのか」
 弾かれ割れて転がり落ちた石片の中心で、カエルが呟いた。
 その隣にいるアナスタシアは黙ったままで、止まない投石を、ただ身体が動くままに弾いていく。
 それはまるで、“生きる”という命令を淡々とこなすだけの人形のようにも見えた。
「死者に逢いたいと望むのは、悪いことなのか」
 隻腕であっても、体力のほとんどを消耗していても、カエルの剣閃は精確で淀みがなく、投石一つさえ先には通さない。 
「俺は……そうは思わない」
 統率こそされており、石の威力は侮れない。その反面、兵自体の錬度はそれほど高くない。
 だからこそ、こうして語ることができる。
「俺は――俺たちは、死者を蘇らせたことがある」
 カエルは語る。
 先刻、イスラと話をしたときのように。
「死者を、“死ななかったこと”にしたこともある」
 カエルが弾いた石が、アナスタシアの弾いた石と衝突し、砕ける。
「シルバード。ストレイボウが――ジョウイが言っていたその翼で、俺たちは時を超えてきた」
 砕けた石は何処かへ弾け飛び、見えなくなる。もう一度と望んでも、きっとその石は見つからない。
「そうして俺たちは死した仲間を蘇らせた。仲間の母親を――死んだはずの人間を、救った」
 探しても探しても、きっともう、見つからない。仮に見つかったとしても、砕けた石はもう、戻らない。
 けれど、歴史を変えさえすれば。
 石が砕ける直前に戻ることさえできれば。
 もう一度、砕ける前の石は見つけられる。
 たとえその結果、カエルかアナスタシアが、傷ついたとしても。
「……反吐が出るわ」
 吐き捨てるアナスタシアに、カエルは苦笑を返すだけだった。
「それでも俺たちは、後悔はしていない。間違ったことをしたとは思っていない。身勝手だと、そう思うか?」
「思うわね」
 斬って捨てるような返答からは、深い苛立ちが感じられた。
「貴方達はそれでいいわよね。けれど、過去を変えたいって願う人がどれだけいると思ってるの」
 アナスタシアが、アガートラームを振り上げ、
「過去は変えられない。変えちゃいけない。そんなのは当たり前なの。そうじゃなきゃ、現在<今>を大切になんてできないじゃない」
 地を割りかねない勢いで、荒っぽく叩きつける。
「死んだ人<過去>は戻しちゃいけないの」
 飛んできた石が、まとめて砕け散った。
「いけない、のよ……ッ」
 それは、血が滲むような呟きだった。
 死者の“想い”を形にしてしまったアナスタシアが、血を流しているようだった。
「正論だな。ならば――」
 カエルはすうっ、と呼吸をし、目を細めて亡者を見る。
「悔いているのか?」
 アナスタシアは答えない。
 食い縛るように、耐え抜くように、彼女は押し黙って身を守る。
 晒される石礫に反撃をせず、されるがままに身を守る。
「悔いるなとは言えん。お前とジョウイが違うと、否定してやることは俺にはできん」
 カエルは言葉を区切り、ただな、と続け、
「ヒトは、多かれ少なかれ身勝手だ。だから俺たちは行動した。そうでなければ生きられん。
 そうでなくても生きられるのは、生粋の“勇者”くらいだ」
 あのとき、遺跡ダンジョンの地下で、共界線を通じて感じた“救い”と。
 アナスタシアに寄り添っていた魔狼を想い浮かべて、カエルは問うた。
「それは、お前もよく分かっているだろう?」

902其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:29:23 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 覆うような氷壁の中で、イスラはへたり込んでいた。
 そんなイスラの前に、ストレイボウはしゃがみ込む。その細い肩にそっと手を乗せると、震えが伝わってきた。
 血の気を失い俯くその姿は、よく似ていた。
 罪に苛まれ、苦しみ喘ぐストレイボウと、よく似ていたのだった。
「落ち着くんだイスラ」
 ストレイボウは、努めて落ち付いて語りかける。
 氷壁を外から叩く投石の音から、気を逸らせるように。
 氷壁の向こうで喚き散らすような笑い声を、意識から引きはがすように。
 時間に余裕があるわけではない。
 だがストレイボウは、ゆっくりと、子どもに話しかけるように、言葉を紡いだ。
「俺が、分かるか?」
 俯いていたイスラの顔が、上がる。
 瞳は見開かれていた。唇は戦慄いていた。顔色は、真っ青だった。
 見るからに痛々しい様子で、イスラは、ストレイボウを見つめ、そして、小さく頷いた。
「そうか、よかった」
 ストレイボウの顔に笑みが浮かぶ。
 まだ終わっていない。まだイスラは、堕ちていない。
 それでこそイスラだと、ストレイボウは安堵する。 
「イスラ。俺の罪を、憶えているか?」
 その問いに、イスラは呆然としたまま、首を縦に振る。
 それを見届けてから、ストレイボウは口を開く。
 胸の底の疼きを堪えながら、だ。
「俺の罪は、決して許されるものじゃない。たとえみんなが許してくれたとしても」
 忘れてはならない罪科が痛む。心に刻み込まれた咎が、ストレイボウを締め付ける。
 それでいい。この疼痛は、決して忘れてはならない。癒してはならない。
「罪は、決して消えない」
 その痛みと、ストレイボウは向き合う。
 誤魔化さず、逃げ出さず、真正面から立ち向かう。
 消すためではなく、受け止めるために。
 そうすることができるのは、胸に灯る、確かな“想い”があるからだ。
「その重さに関係なく、犯した罪は、消せないんだ」
 それは、独りでは得ることができなかったもの。
 それは、オルステッドを昏い瞳で眺めていたかつての自分では、決して手にすることができなかったもの。
「だから自分で、付き合い方を決めなきゃいけないんだと、俺は思う」
 そして、それは。
 イスラの心にもまた、灯っているはずなのだ。
「こうするべきだとか、そんなことは言わない。俺は、お前に答えを与えてはやれない」
 だけど、
「お前が自分で見つけた付き合い方なら、俺はそれを否定しない。それが、どんなものであってもな」
 イスラの肩から右手を離して握り拳を作る。
 その手を軽く、イスラの胸へと押し当てた。
 鼓動を感じる。
 イスラの鼓動を、その温もりを、イノチを、確かに感じる。
 あのとき、ジャスティーンを召喚した力は、きっと今も宿っている。
 だから大丈夫と、ストレイボウは思うのだ。
 それは信頼だった。
 たとえイスラが十字架に捕われて自分自身を信頼できなくとも。
 信頼する人間はここにいると、伝えるように、告げる。
「答えを、出しに行こうじゃないか」
 ストレイボウは立ち上がり、手を差し伸べた。
「俺も、俺の罪の証と――フォビアたちと、向き合いに行くよ」

903其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:31:03 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆
 
 砂埃が巻き上がり、蒸気が噴き出し、黒煙が吹き上がり、火炎が舞い踊り、炸裂が連続する。
 激しさを増す龍と王城の闘いは、命を掛けた舞踏のようだった。
 王城の損傷は激しい。左腕<左回廊>から先を損失し、半分以上の外壁が壊れ、駆動部は異音を立て続けている。
 されど王城は死を恐れない。
 その身が砕けても、壊れても、苛烈なる攻撃の手が止むことはない。
 その事実は、龍に防戦を強いていた。
 目的は足止めであり、時間が経てば城は自壊する。故に防戦自体は不利な要素ではない。
 ただしそれは、戦術的な目線で見れば、だ。
 これは、戦争なのだ。
 局所的な戦闘での勝利が、最終的な勝利に繋がるとは限らない。
 たとえば。
 時間を掛けた末に勝鬨を上げても、その瞬間に首輪が爆発してしまえば、それでおしまいなのだ。
 王城ほどではないが、龍も無視ができないくらいの傷をいくつか負っている。
 それでも龍は、致命的な一撃を受けていない。
 その状態を維持できているのは、アキラのサポートがあってこそだ。
「ら、あぁァ――ッ!!」
 アキラの念力が王城を惑わせる。
 龍を叩き潰すはずだった右手<右塔>が、地面だけをブッ叩いた。
 息をつく暇はない。
 スケルトンの斬撃が、すぐ側へ迫っている。
 避け切れないと判断したアキラは身を仰け反らせて防御する。皮膚の表面を刃が走り、血が噴き出した。
 脳が痛みを知覚する。その痛みに反応し、防衛本能が天使の幻像<ホーリーゴースト>を生み出す。
 天使の幻像<ホーリーゴースト>が、斬りつけてきたスケルトンを爆ぜさせた。
 セルフヒールで回復を行って体勢を立て直す。嘆きを呻かせて、亡霊兵どもがアキラに群がって来る。
 火の思念<フレームイメージ>でそいつらを焼き払い、逃れた敵にエルボーを叩き込む。
 矢継ぎ早に意識を王城へと移し、その攻撃を逸らさせるべく念を飛ばす。
 太い右手<右塔>が龍の片翼を掠める。その翼膜が、破かれた。
「糞……ッ!!」
 失敗したわけではない。
 念が、効きにくくなっているのだ。
 あらゆる状態異常を無効とするスペシャルボディであっても、アキラの“想い”が乗った強念による一時的な幻惑は防げない。
 意識が――感情があるのであれば、その思念を止めることなどできはしない。 
 そしてアキラの強念は、王城が抱く感情の対極にあるものだ。
 故にそれは効果的であり、同時に。
 抗いの意思を、呼び起こす。
 軍勢を突き動かす感情に、アキラが反発し続けるように、だ。
 軍勢が、力を増す。
 悲しみが、嘆きが、絶望が、より大きくなる。
 その様子は、酷く歪だった。
 アキラは、歯が食い込むほどに唇を噛み締めた。
 スケルトンを一体割るたびに悲しみが増える。
 グールを一体焼くたびに嘆きが大きくなる。
 亡霊兵を一体倒すたびに叫びが強くなる。
 そうして、絶望はぶちまけられる。アキラが輝けば輝くほど、この場に陰は落ちていく。
 それでもアキラは王城へ念を向ける。 
 負けられないのだ。負けたくないのだ。
 こんな、つめたい悲しみだけが満ちるものを。
 こんなつめたさの果てに、在るものを。
 アキラの想い描く“無法松”<ヒーロー>は、絶対に、ゆるさない。

「止まれ……!」

 念じる。
 王城の一撃は揺るがない。それを龍は、紙一重で回避する。
 
「止まれ……ッ!!」

 念じる。
 王城の攻撃は止みはしない。それを龍は、腕一本で受け止める。
 
「止まれェッ!!」

 念じる。
 王城は踊る。その衝撃で自身を破壊しながら、蒸気と火花を散らして舞う。

「止まり……」

 強く果てない“想い”を乗せて、心の底から念じる。

「やがれえぇェ――ッ!!」

904其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:32:50 ID:mMVbeUhI0
 しかして。
 王城は、止まる。

 耳を覆いたくなるような、痛々しい音と同時に、だ。
 王城は、停止していた。
 その右手<右塔>を、龍の身体を深々と突き破って、停止していたのだった。
 言葉を失うアキラの視線の先で。
 龍の身が、縮んでいく。
 角と翼と尻尾が、折りたたまれるように細くなり小さくなる。
 全身を包んでいた紅の鱗が、肌色に変わっていく。
 戻っていく。
 龍の姿から、戻っていく。
 右手<右塔>に引っ掛かり、屋上の端を掠め、王城にもたれかかるように倒れて。
 龍は――ピサロは、小さくなっていく。
 微動だにすることなく。
 声を上げることもなく。
「く、あ……」
 ピサロは小さくなって、アキラの目には、見えなくなった。 
 
「――――――――――――――――――――――――――………………………………………………………………………………ッ!!!!」

 アキラの口から、絶叫が迸る。
 それに呼応するように。それを、嘲笑うように。
 歯車が鳴る。駆動機関が声を上げる。
 王城が、再度動き出す。
 音を立てて、緩慢に。
 王城は、旋回する。
「……嘘、だろ」
 そう零さずには、いられなかった。
 右手<右塔>にべっとりと付着した龍の――ピサロの血液が、右手に浸透していく。
 まるで、啜るように。
 こぼれた命を、吸うように。
 すると。
 龍によって砕かれたはずの、バルコニーが。
 超過駆動によって吹き飛んだ、歯車が。
 直っていく。王城の破損箇所が修復されていく。
 そうして城は、千切れた左腕から先を除いて回復を果たし、アキラへと向きなおった。
 進撃が、再開される。
 直り切らなかった左腕<左回廊>から、火花を散らして。
 変わらぬ悲しみをあげながら。
 修復された外壁を、再び壊しながら。
「やめろよ……」
 壊れる痛みを知っているくせに、他の方法を知らないかのように。
「もう、やめろよ……」
 城は、自分を傷つけていく。
 悲しみの荒野にたった独り取り残され、未練を燻らせ憎しみを淀ませた果てに。
 たった一つだけ残された方法が、それだと主張するように。
 それしかないのだと、言うように。
 それこそが、絶望の深淵でみつけた、最後の最後の。
 ほんとうに最後の、たった一つだけ残された、“希望”だというように。
 そんな亡者たちから、王城から、軍勢から。
 伝わってくるものは、つめたいのだ。
 伝わってくるものは、苦しみを引き剥がそうと胸を掻き毟り、その結果自分を引き裂いてしまうような痛みなのだ。
 
「これが、こんなものが、“希望”だっていうならさ」

 どくり、と。
 アキラの心臓が、高鳴った。

「誰が、笑えるんだよ?」

 どくり、どくり、と。
 アキラの鼓動が加速する。

「どこで、誰が、笑えるんだよ?」

905其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:33:44 ID:mMVbeUhI0
 空を見続けたギャンブラーが手にした、希望と欲望のダイス。
 夢見るギャンブラーが潰えても、その力となった“希望”は、一万メートルの夢の果てで息づいている。
 アキラの血となり肉となり、胸の中で脈打っている。
 どくりどくりと。
 強く雄々しく激しく、鼓動<ビート>を刻み続けている。
 軍勢の中に蔓延する、暗く冷たく悲痛な“希望”めいたものではなく。
 アキラだけが抱く“希望”が、胸の奥に確かに在る。

「なあ、あんた」

 それに突き動かされて、アキラは呼び掛ける。

「あんた、今――」

 アキラは投げ掛ける。
 かつて、ここではないどこかの、顔も名前も知らない誰かへ向けた問いと、同じ問いを。
 この声の届くすべてのものへと、投げ掛ける。

「――幸せか?」

 悲しみが、膨れ上がった。
 くず折れ、重なり、霧と化していた亡者の兵が、音を立て、一挙に立ち上がった。
 蒸気が溢れ、すべての歯車が轟音を立てて回り出す。
 アキラの問いを押し流し引き潰そうとするかのように、軍勢が動き出す。
 突進が来る。
 それは、部隊全ての未練と憎悪を集めて殺意とした突進だった。
 濃厚で濃密で膨大で、底なしの殺意。触れた瞬間に消し炭にされてしまうほどの、圧倒的な暴力。
 過ぎ去った後には何も残らない、荒廃だけを呼ぶ、酷くつめたい悲しみの突撃。
 一片の幸せだってありはしないと、そう宣言するかのような進軍を、アキラは、真っ向から睨みつける。
 たった一人ながら、その身から揺らめく意志は、軍勢に劣るものでは、決してない。
 それどころか。
 アキラの意志は、軍勢を突き動かす巨大な感情と拮抗するほどに、強いものだった。
 認められない。
 そんなものが、“希望”だと。
 決して、認められない。
 アキラは、ただ鼓動を感じる。
 自分の中で確かに脈動する、その熱を感じ取る。
 それは力強さを増していく。
 目の前の絶望を前にして、果てないように強く拍動する。
 抗いのリズムを刻む。

906其の敵の名は―― ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:35:21 ID:mMVbeUhI0
「ざけんなよ……」

 だからアキラは逃げない。
 こいつらに、背を向けるわけにはいかない。

「たとえ、たとえもう、ボロボロになって、壊れちまうことになったとしてもな……」

 目を、逸らさない。
 こいつらを、このまま進めさせるわけにはいかない。

「ほんとうに、ほんとうの“希望”を抱いていられるのなら……」

“希望”というのは、あたたかいものだと。
 それを分からないまま突き進み、勝手に逝かれるのは、我慢がならなかった。

「いつかきっと、笑えんだよ……」

 あたたかさを拒絶して、逝った先にあるものが。
 ほんとうに楽園である、はずがない。
 だから、アキラは叫ぶ。
 
「なあ」

 たったひとり、荒野の果てを彷徨って、ボロボロになっても闘って。
 それでも消せない“希望”を抱いていたから。
 今際のときに微笑っていられた、英雄の名を。
 アキラは、叫ぶのだ。
 それは、当の本人すら捨てた名前。
 捨てられても朽ちてはいない、確かな名前だった。

「――そうだろ、アイシャッ!!」

 轟音を立てて。
 西風が、吹き荒れた。

907響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:36:40 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆

 歯噛みしてカエルの言葉を聴くアナスタシアの髪が、雄々しい突風によってはためいた。

 ◆◆

 ストレイボウの手を取れるのか、取っていいものかと逡巡するイスラの頬を、強烈な風が撫でていった。

 ◆◆

 心臓が破裂しそうなほどに暴れている。沸騰しそうな血液がアキラの体中を駆け巡る。
 体が熱い。
 心が熱い。
 湧き上がる熱に果てはない。高まる熱量は風を起こす。
 突風に等しい西風を、巻き起こす。
 その熱に、風に、カタチを与えるべく。
 アキラは“希望”を思い描き、ヒーローをイメージする。
“希望”の鼓動<ファンタズムハート>が、思念に血を通わせる。
 
「アクセス……ッ!」
 
 想い出が、形になっていく。
 アキラに宿り融合したミーディアムが、アキラの念と血によって具現化する。

「PSY-コンバインッ!」

 太い金属の二足が、アキラの背後に着地した。
 それに支えられるのは、紅の模様が刻まれたメタリックボディ。
 その背にはミサイルのようなスラスターがマウントされている。
 無骨な両手が握り締められ、鋼の拳が作られる。
 その天辺、頭部には、黄金の冠が輝いていた。
 その姿は、“希望”の貴種守護獣とは似ても似つかない。
 当然だった。
 これは文字通りに、アキラが心血を注いで生み出した“希望”なのだ。
 アキラの中で、燦然と燃え盛る“希望”なのだ。
 故に吹く西風も、そよ風<ゼファー>には収まらない。
 荒々しく雄々しい西風が生み出す“希望”のカタチは、アキラが描くイメージに他ならない。
 もはや、その“希望”は。
 かけらなどでは、ない。
 それは、巨人だった。
 それは、王城と同じく、この島で朽ち果てるはずの巨人の姿だった。

「ファンタズム・ブリキングッ!」

 巨人の瞳に光が灯る。鋼鉄が唸り駆動する。
 その身を誇示するように、巨人は高々と両腕を突き上げた。
 眩い輝きを湛え、巨人が咆哮する。
“希望”の雄叫びを、咆え猛る。

 絶望の王城よ、悲しみの軍勢よ。
 よく見ておけ。
 お前らに心があるのなら、その底の底まで焼き付けろ。
 これこそが血の通った“希望”であり、そして。
 大王の、凱旋だ。

「ブリキ大王――我とありッ!!」

908響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:37:24 ID:mMVbeUhI0
 ◆◆

 吹き荒ぶ風音が、ピサロを覚醒へと導いた。
 瞬間、左腕と胴体に激痛が走る。零れ出る血液によって衣服は汚れ、肌にべっとりと貼り付いていた。
 骨が完全に折れているらしく、左腕は動かせそうになかった。
 ともすれば命を落としかねない重傷だった。
 それでもまだ動けるのは、龍鱗が堅牢であった故か、あるいは、未だ衰えぬ矜恃故か。
 あたりを見渡すと、視線が高いことに気づく。
 激しく揺れる足元からは、耳障りな歯車の音が響いてくる。
 ここは、屋上だった。
 未だ動き続ける亡霊城の、屋上だった。
 ピサロは立ち上がる。
 異変に、気付いた。
 足が、随分重いのだ。
 失血のせいとも負傷のせいとも異なる違和感が、足にあった。
 歩く。
 やけに硬い足音がした。
 まるで、石で地面を叩いたかのような足音だった。
 傷よりも厄介な状態異常が、その身を蝕んでいるようだった。
 顔を、顰める。
 ピサロの身が、徐々に石化し始めていた。
 即座に石にならなかったとはいえ、看過するには重い問題だ。
 ひとまず傷を癒そうと、回復魔法を唱えようとした、そのとき。
 ピサロの前に、二つの影が舞い降りる。
 一つは、下半身を漆黒の球体に埋めた人形だった。緑色の髪からは角が伸び、その背からは翼が生えている。
 一つは、桃色の髪をした四本腕の人形だった。その腕のうちの二本と両足は、岩石と一体化していた。
 どちらも美しい顔をしており、それ故に、化物然としたその身はひどくおぞましかった。
 
「……控えていた副将か。好機とみて討ち取りに来たか?」

 人形どもは答えない。
 喋ることを知らないかのような無表情で、人形はピサロの前に立ちはだかる。
 虚ろさを漂わせるそいつらを、ピサロは鼻で笑い飛ばす。
 
「舐めてくれるな人形ども。貴様らのような持たざる者どもに、くれてやる命など微塵もない」

 断続的に襲い来る激痛と、失血によるふらつきと、這い寄って来る石化というハンディキャップを背負いながらも。
 ピサロは、まだ動く右手でバヨネットを握り締める。
 その瞳は、死にゆく未来を見つめてなど、いなかった。

 ◆◆
 
 ――分かるまい。持たざる者の気持ちなど、持っている者どもには分かるまい。
 ――故に、貴様らでは答えられまい。
 ――持たざる者<わたしたち>に答えなど、与えられはしまい。
 ――故に我々は求めない。貴様らなどに、求めたりはしないのだ。

909響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:38:09 ID:mMVbeUhI0
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】
【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ:小、疲労:小、動揺(極大)
[スキル]:心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1〜4)
[装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し ミラクルシューズ@FF6
[道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル
[思考]
基本:十字架に潰される
1:伸ばされた手を、僕は、取れるのか……?
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)

【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:動揺(大) ダメージ:中  胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6 いかりのリング@FF6 日記のようなもの@貴重品
[思考]
基本:私が、ジョウイ君と……同じ……
1:今更になって何を言い出すのよ、何を……ッ
[参戦時期]:ED後

【ストレイボウ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大
[スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品 “勇者”と“英雄”バッジ@クロノトリガー
[道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン)
[思考]
基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる
1:イスラの力に、支えになりたい
2:罪と――人形どもと、向き合おう
3:俺はオルステッドを、どうすれば……

[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※ルッカの記憶を分析し
【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。
※ジョウイより得た空中城の位置情報と、シルバードの情報をほかの参加者に伝えました。

【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷
    疲労:中 胸に小穴 勇気:真
[装備]:天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2
[道具]:ブライオン@武器:剣 
[思考]
基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。
1:伝えるべくは伝えた。あとは、俺にできることをやるだけだ
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)

【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:やや大
    左腕骨折、胴体にダメージ大、失血中、徐々に石化
[スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ
[装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル
[道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック
    データタブレット×2@貴重品
[思考]
基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす
1:退け人形。貴様らでは役者不足だ
2:ダメージと石化の治癒はしておきたいが……
[参戦時期]:5章最終決戦直後
 ※バヨネットからパラソルが無くなりました。魔導系コマンドはそのまま使用可能ですが、魔力補正がなくなりました。

910響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:39:37 ID:mMVbeUhI0
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:極大
[スキル]:PSY-コンバイン
[装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー
[道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:この俺の希望を、見せてやるッ! 見せつけてやるッ!
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
※自由行動中どこかに行っていたかどうかは後続にお任せします

【PSY-コンバイン】
 アシュレーの命に宿り、セッツァーの夢に応えたミーディアム『希望のかけら』は一万メートルの夢の果てで、アキラと融合し血肉となった。
 それはもはやアキラの一部であり、アキラの超能力と溶け合い、希望のイメージを体現する。
 ブリキ大王の姿を取るそれは、アキラが希い望む力を原動力として駆動する。
 希望が絶えない限り、バビロニアの王はヒーロー技さえ使いこなせよう。
 他でもないアキラ自身の力。それ故に、その負担は肩代わりなどできはしない。
 変身亜精霊の力を借りないコンバインは、莫大な集中力と想像を絶する莫大なエネルギーを要する。
 他の超能力にリソースを割こうものなら、それは即座に露と消える。
 仮に無茶な稼働や乱用をしたとすれば、アキラの意識は二度と戻らず、希望は潰えてしまうだろう。

911響き渡れ希望の鼓動 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:40:16 ID:mMVbeUhI0
【SMRA隊】

【反逆の死徒@???】
[状態]:クラス『モルフ崩れ』 軍服黒焦げ 
[装備]:蒼流凶星@幻想水滸伝2@城に投げ捨てられたもの 黒き刃@幻想水滸伝2 亡霊兵(25名)
    副将:フェミノフォビア(抜け道付加)、アクロフォビア(飛行付加)
[スキル]:暗器・凶毒針 状態付加・麻痺
     遠距離攻撃・召雷 ゲレハラスメント(憑依:攻撃力防御力20%減少)
     再生能力(毎ターンHP25%回復)俊敏、逆襲、狙い撃ち
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:距離をとって投石攻撃 ※周囲の石はミスティック効果にてアーク1相当にまで強化されています

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【反逆の死徒】
 かつて裏切り、裏切られたもの。死喰いに喰い尽くされたその残り滓に泥を与えられたモルフ未満の生命。
 特に欠損を補填するために融合させられたタケシーとの親和性から、タケシーの召喚術・特性を行使できる。
 また、亡霊兵を駆動させるエネルギー中継点となっていることから、再生能力もある。
 しかし所詮はそれだけ。並み居る英雄達には敵うべくもない。
 だからこそ掬われる。楽園を形作る礎となるために。

【砂喰みに沈む王城@???】
[状態]:クラス『大魔城』外壁損傷 駆動部中破(スペシャルボディにて無効化) 左腕<左回廊>から先を損失
[装備]:亡霊兵(25名)データタブレット@自由行動中にジョウイ(正確にはクルガン・シード)が捜索したもの
    副将:クラウストロフォビア(石化攻撃付加)、スコトフォビア(HP吸収付加)
[スキル]:ハードボディ、スペシャルボディ
[思考]
基本:ただ導かれるままに
1:皆殺し
部隊方針:敵に張り付き、移動を制限する

[備考]
*部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。
 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。
 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。
 部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。また、副将を倒せば更に弱体化します。

【大魔城】
 王位継承者を喪い廃絶の決定した王国の城。それを良しとできない未練から伐剣王に終わりを奪われる。
 その蒸気はあらゆる物を灼き、左右の回廊は一撃必殺の腕。
 その城塞はあらゆる物理ダメージを半減させ、あらゆるステータス異常を無視する。
 ゴーストロード同様、ミスティックで強制的に能力を引き上げられため、動くたびに、進むたびに崩れゆく。
 だが城は止まらない、止まる必要がない。この城が守るべき国は、もうどこにもない。

912 ◆6XQgLQ9rNg:2014/02/11(火) 20:40:56 ID:mMVbeUhI0
以上、投下終了です
何かありましたらご遠慮なくー

913SAVEDATA No.774:2014/02/11(火) 22:44:31 ID:lLRLLgU2O
投下お疲れ様です!
ついに戦争始まったな。フィガロ城怖いよフィガロ。

914SAVEDATA No.774:2014/02/11(火) 23:04:46 ID:Z6CnFU2.0
投下乙です。
ジョウイが亡霊達に与えた希望もまた良いものだ、って思っていました。
だけどそれに対してこういう風に答えを返せるのは、"ヒーロー"だなって。
この場にいる中で一番一般人に近い能力しかないアキラだったけどやっぱりカッコイイ。

915SAVEDATA No.774:2014/02/11(火) 23:27:56 ID:rD8i29EM0
乙でした!
島本泣きで叫ぶアキラが幻視できるようでした!
この局面で未だモヤモヤを抱えるアナスタシアとイスラに、希望の西風が吹く描写がたまらなく良かった!
あと何度も思ったことだけど、今回も言わせてもらおう。
ストレイボウ…お前、ほんとにキレイになったなあw


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