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【習作】1レスSS集積所【超短編】

24>>19再投稿御免:2015/12/13(日) 08:39:00 ID:zxRi0QNM0
「これは…、不幸かな…。」

今、自分は幸福か不幸か、と問われたらの答えを私はひとり呟いた。
広い城の庭園を散歩中のことである。突然のにわか雨によって、私は四阿に避難を余儀なくされた。
私の種族が他のものだったならば、こんな雨など気にせず部屋まで濡れて帰るだろうが…。

「ひぅっ…!」

風に煽られた雨だれが、私の手の甲に落ちる。それだけで私は快楽を感じてしまう。
そう、背に負った翼のマント、血に染まった紅い瞳、血を啜るための牙…、私は、吸血鬼だ。

雨雫の届かぬ四阿の椅子に腰掛けて、真水のもたらす快楽の中、ある一人のことを夢想する。
幼馴染のあの子、身分の違いこそあれずっと一緒に遊んでた彼、人のままでは決して一緒になれなかった衛兵、今の執事服に身を包んだ従者。
彼のことを想うと、心が、キュンとなる。そして身体が火照りだす。心臓が、どきどきと早鐘を打つ。私は、アンデッドのはずなのに。

ふと、思う。もし、私が魔物にならなかったら。私は、政略のまま結婚し、彼は市井の娘と結ばれ…。
もしかしたら、彼にはその方がよかったのかもしれない。私はわたしの寿命分、彼を永遠という牢獄に繋ごうとしているのだから。

でも、でも…!

それでも彼と一緒になりたかった。好きだった。いつも私を守ってくれた。大好きだった。
ああ、彼の腕に抱かれたい…。彼のぬくもりがほしい…!彼の命の奔流で満たされたい…!

ふと、顔をあげると、こちらに続く道を、大きな傘をもって駆ける人影が。
ああ、彼だ、かれだ! 今、ここにいてほしい、彼が来てくれた!

彼は、そうして傘を広げて、従者然として身を正す。
でも、そうじゃない。私は傘を持つ彼の腕に、自分のを絡める。
頬を染めてくれる彼、そんな未来の夫と共に、二人並んで、歩き出す。

これで、よかったのだ。人の何もかもを捨ててでも、私は、こうなりたかった。
雨の道も、二人なら、怖くない。もう、私は一人じゃない。

「にわか雨とは、不幸でしたね、姫様。」
「ううん、いま私は、とぉっても幸せよ…。」

そうして、私たちは、この幸せな道を、二人並んで、歩んでいくのだった…。


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