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ダイレン専用SS投稿スレ

1名無しさんニ改造スル:2008/07/23(水) 23:02:44
ヘルマリオンのみならず、何か考えたら……

2maledict:2008/07/25(金) 01:44:57
えーと、2レス目だからいいですよね。
>>1はダイレン様ですよね。スレ立て乙です。
ヘルマリオン以外も色々来るかもということですね。
楽しみにしてます!

3ダイレン:2008/08/17(日) 22:42:20
急ピッチでエピソード13とアティラス続編書いてます


遅れてすいません

4ダイレン:2008/08/19(火) 17:55:16
エピソード13:「ユダ」


紗耶との決着が着いてから、紗希は消息を絶った。政府の方へも連絡はとっていないようであったようで、自衛隊の中では死亡説すら噂されていた。
しかし、子供達は耳を貸さずに特訓を続けていた。学校すら休む日も何度かあるほど。
そして7月も中盤に入り、特訓もなおさら激しくなっていた。訓練地の地面は抉られていたり、隆起したような部分もあった。
「はぁ…………はぁ…………」
最初は特訓終了後に人間の姿へ戻ると倒れ込んでいたが、今はへばりながらも気を確かに保っていられるようになった。
由美達自身の体力自体も向上しているようで、大輔や純に至っては中学生としてもおかしくない程である。


シャワー室へ直行する女子達。夏の暑さが本格的に襲ってきたため、余計に求めてしまう環境である。
服を脱ぎ捨て、一斉にシャワー室へ入る。温度を38℃に設定するとすぐに捻って湯を出す。
「ぷはぁ………気持ちいい〜♪」
声を出したのは渚である。彼女は普段からスポーツを積極的にしているために、余計にこういう湯のありがたみを知っている。
「暑い中で熱いシャワーってのも、中々良いよね」
少し伸びた髪が湯を吸っていく。肌に当たっては流れていく湯が、由美を疲れという感情から癒しへと移行してくれる。
最近また大きくなってきた胸をぎゅっと掴む手があった。それは詩音であり、モミモミと指を動かしていた。
「あふ………な、何………?」
「あたしもこんな胸欲しい」
゙洗濯板゙の異名を持つ詩音。なぜか平均以上を持つクラスメートの中で唯一AAカップなのである。
揉むのをやめるとリンスを長い髪へ馴染ませていく。脇で見ていた由美は1年前を思い出していた。

5ダイレン:2008/08/19(火) 17:57:41
4年生の時にクラス替えがあった。当初、詩音はいつも独りで読書するような女の子であった。
友達がいなかったわけではないが、口数も少なくて親密という関係を築いてはなさそうだった。
あの頃に比べて詩音は明るくなったし、みんなとも付き合うようになってきた。今の胸揉みをその時には想像できなかっただろう。
(それにしても今のはキャラ変わりすぎじゃ………)

そのやり取りを見ている綾。また由美の胸が大きくなったというのを見せつけられた………というのが本音であった。
゙健一は水着姿で見る胸が好み゙という情報を得てから、自分で揉んだりして大きくする努力をしていたというのに。
「どうしたのさ?」
声をかけたのは渚だった。彼女は学年一の巨乳であり、近づいてみるとなおさら違いがわかる。
「あたしは全然胸が大きくならないなぁって、思って……」
どう考えても詩音に対しては嫌味にしか聞こえないような発言である。渚はシャワーを止めると出口へと向かう。
「そんな慌てる必要ないよ。あたし達の゙女゙はこれからだろ?」
大輔や健一達ば男゙の身体として逞しくなるのに、自分ば女゙の身体として成長していってるのだ。
一緒に野球やサッカーをしていても、周りの男子からの視線はもはや゙異性の高月 渚゙であるのはひしひしと感じる。
むしろ、詩音みたいな体型のが自分としては良く思ってしまう。
でも、やりたいことはやろう。男とか女とかに振り回されずに楽しい時間をすごしたい。それが自分の゙道゙なのだから。
そのためにも今は………

゙ブオオォォォ!!゙


「!!?」
警報が鳴り響いたと思ったが、どうやら違うらしい。警報が流れたのは巨大な振動が伝わったのと同時だった。

6ダイレン:2008/08/19(火) 17:59:05
着替える間はない。少女達はタオルを巻いて外へ出た。案の定、ヘルマリオンの強襲のようだ。
上空を覆い尽くすのは何百という飛行ユニットを搭載したプペロイド達。地上には4mはある巨大な怪獣がいた。恐らくソルジャードールであろう。
「渚!」
大輔が全裸で走ってくる。自分達と同じ様にシャワーの途中であったのだろう。数秒後、渚による股間への蹴りで゙戦闘不能゙に陥ったのは言うまでもない。
純は既に着替え終えていたが、タオルで巻いている少女達を見て赤面していた。
「どうする?あんな大軍……」
「何言ってんのさ。特訓の成果を見せるチャンスじゃない」
腕が鳴る、というのは今の渚の状態だろう。起き上がった大輔も涙目ながら賛同した。
「よっしゃああァァ!。いっちょやってみようぜ!!」
それぞれの属性が発現され、変身を完了する。2人3組3方へと分かれると、武器を取り出して敵軍へと向かった。


自衛隊の兵器はヘルマリオンが発する特殊電磁波によってあらゆる機器が使用不能になり、白兵戦で戦うしかなかった。
機銃もひらりと避けられ、通常では強力な火器であるバズーカでさえも1体ずつ斃すのがやっとである。
「くそ………こんなに強いなんて………うわあッ!」
骸教授の作製しだ電磁炸裂弾゙が自衛隊員の躰へと突き刺さる。すると、マイクロ波が彼の躰を駈け巡って膨れ上がっていく。
膨張していく彼は直視できないほどに醜くなっていた。やがて破裂し、肉片や内臓が飛び散っていく。
プペロイドのメインカメラが吹き飛んだのはその直後だった。シオンが風刃で切断したのである。
「こんな手で殺すなんて………ひどいわ」
扇状に纏めたフォックスメッサーを分解し、9枚の回転刃を生み出す。やがて増殖し、数は千枚へと達した。

7ダイレン:2008/08/19(火) 18:00:22
「怯ムナ………敵ハ1人ダ!」
数十体のプペロイドが一斉に゙電磁炸裂弾゙をシオンに向けて発射した。しかし、避ける姿勢さえ見せない。
「フハハハハ!潔ギヨイ!」
「たかが機械風情が、潔いなんて理解できてんの?」
直後に゙電磁炸裂弾゙が小間切れになっていった。着弾して相手へ流し込むことで効果を発揮するため、全く意味を持たなくなってしまったのである。
「゙サウザンド・チェリー゙。超音波を纏った千枚の花びらがあなた達を既に斬り刻まれてるわ」
「ワケノヲワカラナイコトヲ!………アレ?ナンダカ躰ガ……」
首、腕、胴、脚………あらゆる部分が一斉に裂かれていく。ピンク色に発光している超音波ブーメランが、狐を囲んでいるだけだった。
「おいおい………俺の分も取っておいてくれよな……」
そう言うジュンも既に数十体を氷柱へと閉じこめていた。既に停止しているプペロイド達が徐々に砕けていく。


K-1選手を改造したバッファローマリオン。銃を向けてくる自衛隊員に狙いを定める。
荒々しい吐息の間隔が短くなり、雄叫びと同時に一気に走り出す。逃げる自衛隊員達だが、次第に追いつかれて肉体をバラバラに砕かれてしまう。
「ムフゥ………俺の突進を止めれる奴などいるはずがねえ」
「どうだかな。意外とそばにいるかもしれないぜ」
駆けつけたダイスケは来いよという風に招いている。バッファローマリオンはその挑発に乗って、さっき以上に力を引き出して向かう。
近づいてくる敵を前にダイスケは揺るがなかった。ただ静かに、腕へ力を込める。
「ふうぅぅ……………しゃらああァァ!!」

゙バジィィィン゙

あまりの衝撃に周りの地面が盛り上がってしまう。バッファローマリオンは自分が止められたのが信じられなかったようだが、その間にもダイスケが右腕へど気゙を溜めていく。

8ダイレン:2008/08/19(火) 18:02:21
「後で人間に戻してやるからよ。ちぃと我慢しろや!」
右腕の゙気゙をバッファローマリオンへ注いで準備は整った。その巨大を持ち上げ、足腰を以て支える。
「うおおおぉぉぉ!!」
地面へと叩きつけると、同時に流入させたエネルギーが破裂するように爆発した。
バッファローマリオンはピクピクと震え、悶えるように手を上げていた。
「これが俺の゙樋熊落とじよ!」
その横ではプペロイドが機関砲をダイスケへと向けていた。が、照準が合うと水蛇が銃身を噛み砕いていくのである。
電磁サーベルを取り出してアヤへと向かっていくが、゙草薙゙からは既に゙八叉大蛇゙が放たれていた。
「゙八岐大蛇・花謳曲゙……………゙椿゙!」
上空へと水蛇達が昇り、互いに衝突し合う。破裂した水飛沫が描く形状は、演習場のライトに照らされで椿゙の花に見える。
「武士が出陣する時、椿の花が落ちると不吉とされていたわ。この水飛沫があなた達へ落ちる時が、落命する刻よ」
水飛沫は大量の雨となり、プペロイド達を撃ち抜いていく。残骸が原型を留めないほど粉々になるくらい、貫通力は高いのであった。


行方不明になっていた高校生アイドルユニットの笠原 みのりと高部 千草。両者は改造されて蟹型のクラブマリオンとザリガニ型のロブスターマリオンになっていた。
まさに彼女達は息の合ったユニットであり、パフォーマンスの踊りのように華麗に攻めてくる。
隙を作らず、ジャキンという音が響いていく。それは乱舞ではなく、精巧に練られた戦術的な舞なのである。
「フフハハハ!!私達の゙シザース・カーニバル゙のフォーメーションは破れないわよ!」
捌きながら後退していくユミとナギサ。2人は鋏の間に武器を仕込み、両者を引き離す。
「無駄よ!」
ロブスターマリオンがバックステップで素早くクラブマリオンへと寄る。ザリガニが見せる、危険を察知した時のように鮮やかであった。

9ダイレン:2008/08/19(火) 18:07:30
「あぁ〜、めんどい」
「1人だけでも斃せるけど………。少ない消費でまとめて斃すには………ナギサちゃん!」
「そうね。゙あれ゙やれば、一気にブッ斃せるし」
白鳥を象った刀に如意棒が添えられる。ユミとナギサに紅い光が迸っていく。
「あいつら、何かやる気ね」
対してロブスターマリオンとクラブマリオンも、゙気゙を集めて鋏から斬撃を放つ。
怯む事なく2人は一気に力を解放する。それは自信からではない。絶対にこちらが上回る確信からである。
「゙バリアンド!!」
光と火が合わさり、西瓜程の大きさの球が放たれた。ロブスターマリオン達の必殺技を消し去り、両者を吹き飛ばした。
空かさず光の羽で包み込み、ソルジャードールから人間へと戻す。
「合体技は思ったよりも使えるじゃない?」
「そうだね。早く他のソルジャードールも人間に戻さないとね………。ん?この気配は………」
感じる。強大な力、冷たさの中に愛おしいものを思わせる゙気゙…………。自分だけではない。これはみんなが知っている。
「ケンイチ君が………近づいてる………」


それはダイスケとアヤの行動領域に現れた。灰色の龍の鎧を纏っているマリオンザインと、付き従うマリオンズ・トゥエルブが5人。
それぞれがあらゆる神話を元にした容姿をしている。神々しさはまさに神が如し。
「ザイン様、もはや、末端のソルジャードールでは奴らに太刀打ちできません」
頭に響くような痛みを感じさせる原因。゙神゙に逆らい、゙神の子゙である自分を惑わす魔物なのだ。
奴を斃せば頭痛も消えるだろう。自らの手で消し去り、ヘルマリオンにおけるアイデンティティを確定させなければならない。

10ダイレン:2008/08/19(火) 18:09:44
「ザイン様、ウイングマリオン以外の奴らを捕らえるのは容易です。なぜなら………既に忠実な゙犬゙を放っていますから」
「マリオンホルス……奴らの中に裏切り者がいると?」
「いえ………奴らのいゔ絆゙とやらのために、奴らは敗れる………という意味ですよ」
その場へユミ達は到着し、幹部達と対峙していた。変わっているケンイチの姿を前に、初見のダイスケ達は驚いていた。
「あれがケンイチか…………?」
活発でありながら性格の根本は穏やかだっだ健一゙とは打って変わって、冷酷なまでのオーラを発している。
ザインもまた、眼前の反逆者達への視線を緩めなかった。ヘルマリオンが世界の統治をするために斃すべき敵………のはずなのだ。
「………お前達、ヘルマリオンに戻る気はないか?」
それを聞いたユミは確信した。ケンイチは苦しんでいる。゙マリオンザイン゙としての彼が揺らぎ始めていることも。
「ザイン様、奴らに情けをかけるのは時間の無駄です。我々が゙処理゙いたします」
5方へと散った幹部達。誘っている。それは自分達は負けることはないという、絶対的な自信から来ているのだろう。
ユミを残して5人はそれぞれ追跡していった。対峙しているのは互いに゙神゙の力を持っている者どうし。友であり、敵であり、そして…………。
「あなたはケンイチ君なんだよ」
「黙れ。私は黄龍・マリオンザインだ。゙神原 健一゙は最初からこの世に存在しなかったんだ」
「それでも、あたしはケンイチ君が戻ってきてくれると信じてる」
右手をユミへと向けるザイン。巨大な雷が発せられ、着弾した場所は抉り取られたような穴が空いていた。
空中に逃げていたユミはその威力を視ても表情を崩さなかった。推測される本気からはほど遠い破壊力だからである。
そう思い、ユミはパワーアップした自分の力をスワンサーベルへと込める。ケンイチを助けることが出来る。その念を含めだシャイニング・ハーケン゙をザインに向けて放った。

11ダイレン:2008/08/19(火) 18:12:09
アヤの水蛇が砕かれていく。左腕の蛇を振り回し、近づく攻撃をはねのけているのだ。
「カハハハハ!同じ蛇なら、蛇の王であるマリオンナーガ様に適うはずねえだろ!カハハハハ!」
「あなたは何番目の幹部なの?」
「あ?No.11だよ。文句あっか?」
それを聞いたアヤは少々がっかりしたように剣を下げた。クスッと笑い、゙気゙を溜めていく。
「何だ………どうりで弱いと思った」
「何ィィィ!?。アヌビスに手も足も出なかった貴様に言えんのかよ!!」
「もうあんたくらいなら楽勝で斃せるんだよ!」
左腕を伸ばしてくるマリオンナーガ。アヤは笑うように草薙を振った。
「八岐大蛇・花謳曲゙蓮華゙!」
「無駄だ無駄だァッ!」
勝負は決した。まるで河のように幾百もの水蛇が左腕からマリオンナーガを喰らっていった。


凄まじいまでの速さにシオンは驚愕した。扇状にしたフォックスメッサーから繰り出す風刃も当たらない。
当たったと思えばそれは残像であり、逆にシオンがダメージを負わされた。
「ククク………。貴様ではマリオンズ・トゥエルブ最速である俺、No.8・マリオンユニコーンは捉えられん」
「(階級が少し飛ぶだけで実力がこんなに違うのね……)なら、千枚の刃なら避けれるかしら?」
゙サウザンド・チェリー゙を発動し、超音波カッターが千枚空を舞う。花びらがユニコーンを捕捉すると、一斉に向かっていく。
10体の残像であろうと、百枚ずつ向かわせばどれかに当たる。1体ずつ貫いていき、やがて最後に残った者へ向かっていく。
花びらはドッとのし掛かるように上から降っていく。しかし、ユニコーンの躯をすり抜けていくだけだった。
「残像!?」
「クク………バカめ!10体も作る余裕があるのだ…………背後をとるくらい簡単だ」
ユニコーンの角を模した槍がシオンの躯を貫いた。だが、血は出ずに崩れていく。やがてシオンは桜の花びらへと変わっていった。

12ダイレン:2008/08/19(火) 18:16:00
「な…………」
「同じことをしただけよ」
首筋にフォックスメッサーが突きつけられている。いつの間にか背後をとられていた。

゙ビシャァ!゙

避けきれずに刃が首の中ほどまで斬られる。しかし、構わずに槍を振ってシオンと距離を置いた。
「やっぱりただのソルジャードールじゃない………」
「そう………。我々マリオンズ・トゥエルブは3人を除いて機械人形として造られた存在なのだ」
「機械人形………?そうじゃない3人ってのは誰なの?」
「No.4のマリオンヘイル、No.2のDr.骸…………そして、No.1・マリオンアーサーだ」
残像を作り出し、一斉にシオンへと槍を向ける。千枚の桜の刃を前面に張って防ぐと、尻尾を振って質問を続けた。
「あなた達が目指してる世界って何?」
「平和だよ………従うものには隷従を、逆らうものには死を!。我らが願望が叶う平和な世界だ!」
「なるほど……。それより、あなたが元人間じゃないのなら、本気で斃しにいけるわ」
花びらをいったんフォックスメッサーの形状へ戻す。尻尾を振り、超音波の発する金切音のようなものが暫く響く。
すると、再び花びらへと戻る。徐々に広がり、やがて辺り一面を覆い尽くす。
「ふん………数を増やしただけか。そんなもの………我が瞬速の前には無力!」
消え去るユニコーン。全力のスピードは既に縮地の領域に達するかと思わせる、゙目にも映らぬ速ざであった。
槍を向けてユニコーンは勝利を確信した。シオンは反応できてないと思えるからだ。
「死ねぇ!」
シオンへと槍先が届く。その寸での差だった。花びらが槍を防いだのである。しかも、あっという間に増え、槍そのものを小間切れにしたのである。
「何………?」
「千枚で捉えられないなら増やせばいい………どんな速さであろうと、天空を覆う10億の刃………避けれるものじゃないわよね」

13ダイレン:2008/08/19(火) 18:17:36
「10億…………だと?」
「゙ビリオネス・チェリー゙……………゙エアドームバンプ゙!」
「だ………大首領様あああああァァァァッッ!!」
全方位からの花びらがユニコーンを飲み込んだ。逃れようとしても不可能である。
次々と斬砕されていく躯には温度などない。赤い血ももない。ただ、機械がジャキジャキと斬られる音があるだけだった。


冷徹なまでに爪痕を刻んでいくジュン。それこそ視線も、相手に恐怖を与えるほどに鋭い。
「No.9だとか言ってたが……………。思ったより全然弱いな………マリオンホルス」
マリオンアヌビス戦から一番悔しい思いをしたのは彼だった。ユミの強さと危険性を見いださせてしまった。
自分が護らなければいけないのに。ケンイチがいないのなら自分が護る。それに情けない。好きな女の子に護られるなんて、男としては辛いものだ。
「ククク……………ここまで強くなっていたとはな…………これなら計画を遂行するにちょうどいい」
「何?」
ホルスが羽根を地面へ飛ばし、呪文を唱え始める。振り切るために躯を動かそうとするが、腕すら震えている。
「これは…………」
「簡単にヘルマリオンの基地を脱走できると思ったか?。我らは記憶をいじれるのに、改竄されたものとは疑わなかったのが致命的だな」
羽根の陣形が結ばれ、絃のようにジュンの躯に巻かれていく。すると、ジュンの左眼にある紋章が浮かんでくる。
「それば聖痕゙。大首領・マリオンニヒト様が貴様へ埋め込んだ。そして記憶を改竄し、来たる時まで泳がせていたのだよ」
「ふざけるな…………俺は………俺は…………うわ………アアアアアアアァァァァッッッ!!」
水色を基調として体色が、赤や黒へと変わっていく。筋肉も膨れ上がり、どんどん息が荒くなっていく。
躯も獸そのものに近い怪物になっていた。左右の肩甲骨の辺りから首が現れた。荒々しいほどに獰猛である。

14ダイレン:2008/08/19(火) 18:18:57
「まさにゴルゴダの丘におけるユダだな…………仲間とやらを喰らうがいい、ケルベロスマリオン」
「う……………ウガアアアアアア!!」


No.10のマリオンゴーレムの巨体が完膚なきまでに破砕された。ダイスケにとっては既に敵ではなかった。
「け………弱っちい奴だぜ」
頭を踏み砕いてトドメをさすと、虫のように邪念獸が湧いて出てくる。
「雑魚ばっかっつうのも面白くねえな」
腕と脚に力を集中させ、走って群れへ飛び込んでいく。蝉型の邪念獸の顔が砕かれ、時に腹を抉られる。
人喰い虎のようにダイスケば敵゙と定めた者を粉砕していく。
「ハッ!斃しがいがないぜ!」

゙ズバッ!!゙

「!?。何だ………?」
ダイスケの目の前には黒い躯となったジュンだった。暴狼と化した理由はわからない。
だが、不意打ちとはいえ特訓しておきながら大きなダメージを与えられたのは悔しかった。
もう戦う必要はない、と言わんばかりにその場を去っていく。ケルベロスマリオンはユミのいる方向へと行ったのである。
「冗談きついぜジュン………」
膝をついたダイスケ。周りは邪念獸とプペロイドの軍勢。ダメージを考えると、戦い抜けないことは実感してしまった。
「だけどよ…………俺が斃れちゃ…………゙リアルジャイアン゙の異名が廃るっつうもんよ」
体勢を立て直すと、もう一度吠える。囲んでいる軍勢が一斉にダイスケを飲み込んだのは言うまでもない。


悉くユミの攻撃はザインには通じていない。もちろん、ユミは本気を出してない。
とはいえ、それは相手もそれは同じ。戦っている内に、根本的に力の差が大きいことに一つのショックを覚える。
(このままじゃ、ケンイチ君にRHRを使えない………やっぱり、斃す気でいかないと駄目なのかな?)
対するザインもユミに大したダメージを与えてるわけではない。自分の中で葛藤が続いているからである。

15ダイレン:2008/08/19(火) 18:21:42
「もう一度言う。ヘルマリオンへ戻れ」
「あなたこそ、人間に…………ケンイチ君へ戻って!」
平行線の会話である。互いに殺意がなく、互いに誘い合う。思いは異種にして同じはずなのに。
「お願いケンイチ君!。あたしの………あたし達と過ごしたことを思い出して!」
「私は…………私は…………!?」
ザインの眼に映し出されたのは重力球だった。ユミへと向けられているその球を、スワンサーベルで斬って防いだ。
「この技………まさか………」
「No.4…………マリオンヘイルか」
轟音を響かせながら地上を走る少女がいる。その少女はフェンスを気にせずに壊してから向かってきた。
停止した少女はフランス人形のように可憐で、美しい面をしている。だが、その心は無邪気ゆえの残虐性を秘めた破壊魔である。
「ユミユミ…………久しぶり〜♪」
手を振るヘイル。ユミはザインとヘイルを前に脚が竦みそうになった。
「えへへ〜。遊ぼうよユミユミ。ねえ、いいでしょ?ザイン様〜」
少しザインは考えたが、静かに頷いた。ユミをあまりにも優しいような眼で視ると、姿を消した。
「あ………ケンイチ君………」
「やった〜〜!。………じゃあユミユミ………黒くなってよ」
望んでいるというのだろうか?自分が強くなっているので、ディアブロフォームの強さはあの時よりも上がってるだろう。
だからと言ってだせるようなものではない。ユミは中からの恐怖に怯えていた。
「だめ!あの姿には………」
「だったら力ずくで引きずり出してあげるね♪」
重力を利用した浮遊術でユミへと向かっていく。以前よりも強くなったはずなのに、ヘイルのスピードを遅く感じれない。
(しまっ…………)


――゙情けない………あたしが殺ってあげるよ゙――

ヘイルの拳を受け止めたユミの眼は橙色になっていた。そして、躯や翼も黒く染まっていく。
「起きてくれたんだ♪」
「まあね。お礼に殺してあげるよマリオンヘイル……………このウイングマリオン・ディアブロフォームがね」

つづく

17ダイレン:2008/10/06(月) 23:48:01
エピソード14:「白鬼王降臨」


地面が隆起していく。ヘイルは盛り上がっていくのを拳で砕きながら、その原因である者を視覚で捉える。
視線の先には悪魔そのものがいた。橙色の瞳に黒い羽衣と翼、美しいながらも人類の救済者とはとても思えない禍々しい゙気゙を放っている。
「どうしたの?逃げてるばかりじゃ…………」
邪悪なまでの黒刀・゙ノワールクレイン゙へ闇を集めていく。ドロッとしたような気が揺らめき、斬撃が地面に当たると一帯が隆起する。
これが何回も繰り返されていた。辺りは地上の雲といえるような、煙に覆われた大地がある。
煙を裂いたのはヘイル自身だった。躯を回転させながらユミへ接近してくる。
黒刀が振り下ろされても高速回転しているヘイルの腕に弾かれて、蹴りが数発浴びせられる。
「ユミユミ、前よりずっと強くなったね…………だから………」
両手をユミへ向ける。一帯の重力をユミの周りに集中させ、一つの球体へと閉じ込める。
躯を動かそうとしても身動きがとれない。自分へかかる重力が普段の何十倍へと変わっているからである。
「手加減しないよ♪」
両手から波動を受けた球体はユミもろとも地面へ向かい、激突した。黒い円陣を広げながら土を飲み込んでいく。
球体の消滅と共にユミの姿も消えていた。いくら本気とはいえ、肉体の全てを消滅させるような破壊力ではなかったはずなのだが。
「わかってるよユミユミ。隠れてるんでしょ?早く出てきてよ」
風が裂ける音が聞こえる。上空からそれはヘイルへ確かに近づいていっている。
「さすが……激突の瞬間に抜け出すなんて……」
黒刀を腕で防ぎ、その衝撃を利用してユミから距離を取る。スゥッと息を吸うと、光子を重力で抑え込んでグリーティングキャノンを発射する。
以前よりも広範囲である。ユミ自体にダメージはそれほどないが、ワイドレンジにされてるために身動きが取れない。
「く…………らああッッ!!」

18ダイレン:2008/10/06(月) 23:49:19
停止した戦車へと闇が迫る。ヘイルも斬撃によって皮膚以上は斬れていないが、ダメージ自体は受けていた。
「やっぱユミユミと闘るとワクワクする。どんどん強くなってる」
腕を擦り合わすヘイル。指も真っ直ぐにして、まるで行進するための人形のように固い。
それが崩れたのはヘイルが浮遊してからだ。今までとは違い、パンチではなくチョップで攻めてきた。
それだけではない。突きを掠った際には刃物で斬られたような傷が出来る。
「硬い皮膚を攻撃に転換し、腕をナイフのようにしたのね」
「だ・い・せ・い・か〜〜い♪。でも、腕だけじゃないんだよ♪」
左脚をユミへ当てると、思いっきり蹴り抜く。すると重力の刃が生じて腹の部分を斬った。
飛ばされたユミへとヘイルレインで追い撃ちしていく。地面に追いやってもそれは続き、トドメと言わんばかりにグリーティングキャノンを浴びせた。
「スーパーコンボ完成〜♪」
まるでゲームのようだ。ヘイルのラッシュが悪夢のように襲い、命を脅かしているのだから。
刀を地面に突き立て、ユミは立ち上がった。黒い羽がパサッと何枚かが落ちていく。この状況は間違いなくユミのピンチと言えるだろう。
「まだまだ大丈夫だよね。ううん、こんなの余裕でしょ?」
ヘイルの二の腕から血が出ている。あの怒涛のラッシュの中、ユミは一撃を浴びせていたのである。
通常の状態でも斬るのが困難なヘイルの皮膚を、刹那の間に斬ったのである。
「そうね………」
ノワールクレインに宿る゙闇゙が広がり、普段の何倍もの大きさになっていた。
「でも残念。゙時間゙が無いから、この一撃で終わりにするわ…………ん?」
紫色の氷が辺りを覆っていく。季節は夏なのだが、ここだけは極寒となりえそうである。
氷柱が四方に広がり、真ん中の空洞を通ってきたのはケルベロスマリオンと化したジュンだった。
「ちょっとわんちゃん、こっち来ない方がいいよ」

19ダイレン:2008/10/06(月) 23:50:36
味方だと思っているのか、ヘイルは避難を呼びかける。ケルベロスマリオンは唸るばかりで、一向に下がる様子はない。
「ねえ、わんちゃ……」
゙ドクン゙


゙聖痕゙の宿る左眼と視線合わせた途端にヘイルの心臓が高鳴ってきた。頭の中では言いようがない、不可解なものが溢れてきている。

――゙ほー………ら………かい……高い゙――

顔はわからないが男性が高い高いをしてるのだろうか?。誰かにに対して優しく接している。

――゙………め……ひさ……………こっちに…………ちゃ………ダメ!゙――

今度は女性の声だ。断片的だが、誰かに対して逃げるように説いている。

――゙…………パパ…………ママ………え………゙――

今度は小さい女の子の声だ。誰だろう?。手にはべっとりと血が付いているようだが。
だが、そんな甘くはない。ヘイルの脳裏に映ったのは鏡を見ている自分だった。
では女の子は自分?しかし、炎の中で斃れているのはわからない。
「違う……あたしは………」

――゙パパも……ママも………え…………えちゃえ……゙――

「違う……」


――゙………消えちゃえ!!゙――

「いや……イヤ…………………やめてえええええェェェェッッッッッ!!!」
ヘイルのからは黒いオーラが現れ、周囲の地面が吸い寄せられていく。まるで、ヘイル自身が重力の塊になったようである。
体重も重力によって増えたため、内部共振による音波がさらに破壊活動を続けていく。
しかしパッとそのオーラと音波は消えた。ヘイルは泣き顔のままユミを見つめると、わけもわからないままどこかへと飛び去ってしまった。

20ダイレン:2008/10/06(月) 23:52:02
ユミと対峙するケルベロスマリオン。鼻息は荒く、どう考えても話し合いが通じる相手ではないだろう。
「でも………それが望みなら……」
元より話し合いなど論外。血と戦いを求めているのは自分だ。それがこの゙力゙を持った宿命。
「聴かせてねジュン。血の噴き出る音と、断末魔の嘆きを」
黒い刃から凝縮されだ気゙が放たれる。紫色をした氷もろとも砕きながらケルベロスマリオンふと歩みを進めていく。
それはヘイルの時よりも遥かに巨大な斬撃であり、今までのどんな技よりも強大だった。
ケルベロスマリオンは動く気配が不思議となかった。防ごうとすらしない。
「ジュン、避けろ!」
No.7のマリオンギャロップを熱殺したナギサが回避を促す。だが声は届いてない。例え烈火掌を使っても相殺できる威力じゃない。ただ、迫る闇を見ているしかなかった。
「ジューーーン!!」


゙ドゥヴァッ!!!゙

砂塵が巻き起こる。抉り採られた地面がケルベロスマリオンのいた方向へ延び、さらには二手に分かれていた。
「なぜだ?」
「………それはね、私が弾いたからよ」
銀色の西洋槍を持った者がケルベロスマリオンの前に立ち、口を開いた。
「サキさん………?」
黒と金で彩られた配色はまさに女帝。エンプレスフォームを完全に我がものとしたサキは、空白を得て帰ってきたのである。
「南君の推測通り………ユミちゃんは闇に飲まれてたか」
助けられたはずのケルベロスマリオンは爪をサキへ向けた。割って入ったナギサがそれを防ぎ、背中越しにサキに語りかける。
「その姿は?…………いや、ユミがどうなってるかわかるんですか?」
「ええ。私はユミちゃんにRHR能力を与えた………つまり、ユミちゃんを改造した人物と接触して全てを聞いたわ」
「え……?」
「詳しくは後でね。ジュン君はお願いね」

21ダイレン:2008/10/06(月) 23:53:24
゙ワルキューレ゙を振り回しながらユミへ向かっていく。鈍い金属音を響かせた後に、ユミは後方へ飛ばされた。
「な、何!?。あいつにこんな戦闘力があるなんて……」
エンプレスフォームの存在は知らなかったとはいえ、急激な戦闘力上昇にユミは驚愕した。
それはサキも同様であった。本来ならば気絶させるつもりだったが、予想よりも事態が危なっかしいので゙あの方法゙を急遽使わなくてはならない。
「元に戻るかはあなた次第………でも、あなた無しではヘルマリオンは斃せない。だから絶対に勝ちなさい」
ギュッと手を握り、掌から血を出す。それを空中へバラ捲く。すると、゙ワルキューレ゙が何本も精製されてユミの周りに落ちていく。
「これは…………体が………動かない……」
動きが封じられているユミへ注射をし、サキは離れた。ユミの手が震え始め、やがて刀も持てなくなっていった。
「………う、ワアアアアアアアァァァァァッッッッッ!!!!!」


「誰かが叫んでる」
崩壊した世界の中でユミは1人立っていた。空は常に朱く、生きる者も屍もない。
ヘイルと会ってから急に意識をうしないます、気がついたらこの〈夢の中〉にいた。そう、今は自分は現実ではないのだろう。
「くそ………あの女……よくも……」
どうやらディアボロフォームの自分も降り立ったらしい。現実でも夢でも、自分がその世界にもう一人存在してはいけない。
「あなたはあたしの影………もう好きにはさせない!。あたしはあなたを斃す!!」
「ふざけるな!。お前は綺麗事ばかり………ペルソナはお前だ!」
両者は体色が真逆なだけで、同様の容姿と同等の能力を持っている。
ただし、戦闘能力を躊躇なく発揮する点ではディアボロフォームが優位であるのは間違いない。
だからこそ勝たなくてはならない。自分が自分であるために。光と闇がそれぞれ太刀をぶつけ、火花が散った。

22ダイレン:2008/10/06(月) 23:54:49
氷の塊が砕け散ると散弾銃のように破片が飛び散る。広範囲に拡散した烈火掌を放ち、全ての氷を溶かす。
今はまだ出してないが、特訓によってジュンは絶対零度を会得している。ケルベロスマリオンになった現状は、それを使うことを躊躇わないであろうことは予想できる。
(相性では勝ってるけど、本来の力はあっちが上か……)
如意棒を地へとつけ、超熱波を注いでいく。紅い線が地を這いながらケルベロスマリオンへ達し、円陣を描いて囲い込んだ。
「よし……紅蓮五式・゙熱円旋゙!!」
円陣の領域から火柱が上がる。その場だけに火が集中し、天にも届こうかと思える。
「これでしばらくは大丈夫………なわけないか」
予測した通り、火柱はすぐに凍結してしまった。消化されることなく、火柱のまま凍っているのである。
「ヤバ………」
氷柱が崩れていく中でケルベロスマリオンは破片を気にすることなく歩んでいる。
その狂犬からは一気に氷結空間が広まっていく。ナギサば炎舞王゙を使って自身が凍るのは防いだが、それでもヒヤリとしたのを味わった。
その後すぐに突進してきたケルベロスマリオンに体当たりされ、後方まで飛ばされていった。
「何て強さ………」
゙烈火掌゙をワイドレンジにして逆噴射し、反発力を利用した突撃を行う。もう片方の手で超熱球をケルベロスマリオンに当てようとするが、氷の壁を作って相殺されてしまう。
溶け出す中で腕が現れ、ナギサは頭を掴まれる。すると、氷河と化した地形を引きずっていく。
「ウアアアアッッッ!!」
バギバキという音は氷だけでなく、ナギサの躯を砕く音にも聞こえる。雄叫びを上げながら、ケルベロスマリオンは歩みを止めなかった。

駆けつけたアヤとシオンが視線で捉えた時には、ナギサは針のように尖っている氷山の目の前だった。
「ナギサちゃん…………」
「合体技を!」
空かさず声を出すシオン。風を媒介に水を宿した飛刃が生み出され、氷山へと向けた。
「゙鎌衣綱゙(カマイズナ)!!」

23ダイレン:2008/10/06(月) 23:56:36
まるで鎌のように振り下ろされる刃は氷山を微塵切りし、ケルベロスマリオンは歩みを止めた。
隙を見逃さず、ナギサは腕を払って脱出した。さらにケルベロスマリオンを水蛇が拘束し、一時的な捕獲が成功した。
「大丈夫?」
「助かったよ……」
「いえ、残念なお知らせよ。自衛隊がヘルマリオンの援軍をキャッチしたって。たくさんの邪念獸やプペロイドの反応が………」


大空を染めているのは夥しい数のヘルマリオン軍である。それを見つめるのは自我を内に秘め、外界からは暴走としか見えないユミ。もう一人は、それを監視するサキであった。
「さあ………ますますあなたの力が必要になったわ。ユミちゃん………自分に甘えるな!」
ワルキューレを押し当て、地面へ押し付ける。黒い刃を手放し、苦しそうに悶え始める。
(そろそろ制限時間のようね………さあ、答えを出すのよ!)


夢の世界でユミはディアボロフォームと押され気味の状態にいた。属性効果は相殺され、力においては発揮し切れていない。
「はぁ………はぁ………くっ……」
「フフ……ペルソナは所詮ペルソナ。本物には到達しえない」
刀を振るおうにも、捌かれてはもう一人の自分から攻撃を受けてしまう。一歩劣ってしまう。その一歩さえ何とか出来れば……。
「いつも良い子ぶって、自分一人で抱え込む。笑顔を振りまく外観とは裏腹に、内側は暗くて寂しい……そう、あたしこそが本当の……」
「違う!あたしは……」
「でも叫んだじゃない。死にたくないって………他を犠牲にしても、結局は自分さえ生き残れればそれでいい!」
「違う……違う、違う!!」
鍔迫り合った状態からはねのけ、ユミは焦った。みんなが命を賭けて戦ってるというのに自分は情けない。
ディアボロフォームに言われた通り、命がこんなにも惜しい自分が悔しい。

24ダイレン:2008/10/06(月) 23:57:58
「聞こえるわ。心の声が………命が惜しい、死ぬのは怖い、そんなんで戦士が務まるのかしら?」
「…………」
「刀と鞘の違いがわかる?斬れる斬れないとか幼稚な質問してるわけじゃないわ……容姿が似てるのになぜ役割が違うのか」
わからない。そんなの考えたことなんてないし、どういう意味かもわからない。
「それはそう…………゙本能゙よ!」
ユミの左肩から血飛沫が上がる。続いて、黒い刀が赤みを帯びながら膨らむ右胸を貫いた。
「かはっ…………」
「あたし達の脳髄の深い場所で眠り、戦いになれば相手を殺し、血肉を喰らうという殺戮本能。それを使いこなせないものには、死しか待ってない!」

―――本当にそうなの?

刀が落ちる。パリパリと自分の体が崩壊していくのが感じられる。もう終わりだ、それ以外に考えられなくなってしまった。

―――死にたくない。まだ…………ん?まだ?

生きたいと思うのは本当に゙本能゙からなのだろうか?確かに生物の本質は命にある。
だが、ただの遺伝子や細胞の塊に刻まれている゙本能゙だけで死を回避しようと思うだろうか?

―――違う………あたしは死にたくないんじゃない………

赤なのか黒なのか既に判別がつかないほどに血が刀を染めている。ディアボロフォームがユミの喉元へと、刀を向けた。
「最後だ!消えろ!!」

―――あたしは………あたしは………

「生きたい!!」
「!!?」
喉へ突き刺さる瞬間に素手で刀を掴んだ。その事に驚いているのはディアボロフォームである。
さっきまで風前の灯火だったユミの魂が力を取り戻したのである。
「あたしには、戦士になるような覚悟はない。でも、護りたい人達がいる………その人達とあたしは生きていきたい……だから………」

25ダイレン:2008/10/06(月) 23:59:34
暖かく見守ってくれている家族、絆を時間をかけて培ってきた友達、戦いの中で見つけた仲間………。
人が人であるゆえに感じる心の場所。それは相互に大切に思い、歩んでいける世界。
普通の少女である彼女が見つけた答えは誰しもが知っているはずの見解。生きるということの意味。
「あたしは………」
掴んだ刀を奪い、ディアボロフォームの胸へ刺した。血が出ずに黒い羽が傷口から天空へと昇華されていく。
「大切な人達と明日を生きたい!。そのために戦う!!」
「…………それが………答えか……」
消えていく黒いユミ。同時に空は蒼くなり、地上もユミの知る街並みへと戻っていった。
振り向くと笑顔がある。それはきっと昨日にあり、今日にも感じ、明日も望む人々の姿だった。



「グギャアアアアアア!!!!!」
突然ユミは苦しみはじめ、繭とも卵ともとれる白い球体に囲まれていった。サキはハッとし、その場を離れた。
「言ってた通り………これで全ての条件はクリアされたわ」
その球体はやがて8枚の翼へと変わっていった。形成されていくのは人の姿。命が孵るようにゆっくりと産まれていく。
「これが光の………」
声に反応するように飛び立った。それは天使でも悪魔でもない。ただ1人の少女が選択した姿であった。
巨大な閃光が天空を覆うヘルマリオンの四分の一を消滅させる。さらに、突き抜ける光があったと思えば、その軌道にいる邪念獸やプペロイドは斬殺されていった。


「あれは……ユミ?」
ただ上に目が向いてしまう。その圧倒的な戦闘力は見る者を惹くほどに、美しい光を放っている。
「ええ。あれがユミちゃんの新たな力………ウイングマリオン・アルビオンフォームよ」
「サキさんは、あれを知ってるんですか?」
ナギサの言葉を聞きつつも、目は光の線へと向けられている。想像以上の力を発揮しているようだ。

26ダイレン:2008/10/07(火) 00:02:11
「サキさん……」
「私は彼女にRHR能力を与えた張本人に接触したわ。それで、彼女の秘密について聞いたの」
驚いたのはその発言か、それとも同時に空一面に広がる光か。ナギサ達は光が完全に人の姿へと変わる様にただ呆然と見るしかなかった。
8枚の白い翼を持ち、周りには純白のオーラを放っている。所々に金色の装飾を施した羽の鎧を身に纏っているようだった。
「閃け………゙アークソウル゙」
閃光が走った。雷かと思ってしまうほどに辺りを照らし、ユミの位置は瞬きする間に変わっていた。
「゙エンゼルロザリオ゙」
ヘルマリオンには十字架のようなが傷が刻まれ、やがて消滅していく。地上へ向かってきて、ケルベロスマリオンの前へ降り立った。
ユミを見た途端に聖痕が強く浮き出て、拘束を力ずくで解いた。
「グギャア!………が…………グ……」
爪が空を裂く。既にユミは背後に回っていた。邪念獣に現れた十字傷がケルベロスマリオンの全身に現れ始め、雄叫びと同時にジュンの姿へと戻った。
「お、俺は………何を………」
「説明は後よ。今は雑魚を片づけましょう。数が多いから、一騎当千の気構えでね」
サキが声をかけると、全員がヘルマリオンに向けて攻撃を仕掛けた。それから約15分、ヘルマリオンの全滅という形で戦いは終わった。
参加していたソルジャードールは全てユミの攻撃に触れたら十字傷が浮かび上がり、人間に戻ったのである。


「…………以上のことから、アルビオンフォームは存在そのものがRHR能力で、アンチヘルマリオンであると言えます」
自衛隊の面々に向けてサキは説明している。会議室では嬉しがる隊員が多かった。その中でサキは一つの不安を覚えた。
ヘルマリオンとの戦いが終われば、人類は自分達に牙を向く可能性がある。ないにしても、ヘルマリオンの技術を軍事的に利用するだろう。
その不安は予想よりも早く的中し、以上の出来事が起きてしまうことをこの時点では知らない。

つづく


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