●「大いなる選別」加速する地方移住は米国の政治地図を塗り変えるか
>>共和党知事州の人口躍進
共和党知事州で次々と保守的な州法が成立している。2021年の州別人口動向をみると、テキサス州は増加率で7位(前年比1.1%増)、フロリダ州は8位(同1.0%増)だった。人口と出生数はほぼ比例関係にあり、人口でカリフォルニア州に次ぎ全米2位のテキサス州、3位のフロリダ州が上位に食い込むのは当然と思われるかもしれない。しかし、人口が増加した上位10州をみると、興味深いことが分かる。1位のアイダホ州(同2.9%増)を始め1〜5位、7〜8位、10位と共和党知事州が並んだ。民主党知事州は6位のデラウェア州(同1.2%増)と9位のネバダ州(同1.0%増)のみである。逆に、2021年に人口が減少した下位10州をみると、1〜6位まで民主党知事州(ワシントンD.C.のみ区長)が独占し、7〜10位に共和党知事州が入る程度だった。コロナ以前と比較してみよう。ここでは、知事ではなく2016年の米大統領選結果を基に分析した。2010〜19年で人口が増加した上位10州では、テキサス州やフロリダ州を始め、6州が共和党のトランプ候補を選出。人口の増加が小幅あるいは減少した下位10州でも、民主党のクリントン候補が勝利した6州が入った。コロナ前とコロナ後の人口増減をみても、保守派層の間で増加が顕著だったことが分かる。2021年を振り返ると、共和党知事州への人口の増加は州外からの転入者の増加が支えたといっても過言ではない。引っ越し業者大手ユナイテッド・バン・ラインズが州の転入者と転出者の比率を調査したところ、転入者比率が高かった上位10州はバーモント州を始めサウスダコタ州、サウスカロライナ州、フロリダ州と共和党知事州が7州を占めた。一方で、転出者比率が高い州はニュージャージー州やイリノイ州、NY州など民主党知事州が7州と多い。
>>共和党知事州へ転居の「政治的理由」とは
転居の「政治的理由」とは2021年に共和党知事州で転入者比率が高かった理由として、コロナ関連の規制環境が挙げられよう。業界団体ムーブ・ドットオーグによれば、州外へ転居する主な理由は職の機会、家族の事情、州ごとの税制、ライフスタイルなどが挙げられていた。しかし、2番目の要因として挙げられた回答のうち「政治的理由」は39%と、決して低くはない。実際に、ニューヨーク州からテキサス州へ引っ越した女性は「ここでは誰もマスクを着用しておらず、爽快な気分」と語り、コロナ禍の対応が一因と示唆した。プエルトリコから同州に転居した男性は「憲法で守られている医療上の自由が享受できる」と、ワクチン接種をめぐる対応にご満悦だ。カリフォルニア州からフロリダ州に移り住んだ夫婦は、「隣人から『私のテキサスにカリフォルニアを持ち込まないでほしい』と注意されたが、とんでもない! 私たちは、ここの保守的な空気を吸いに来たんだから」と大笑いしていた。少なくとも彼らは、政治的理念がリベラルな州では相容れず保守派色の強い州を選んだことが分かる。このように、自身の政治的理念を基に居住先を選ぶことを「sort=選別」と呼ぶ。ジャーナリストのビル・ビショップ氏が2008年にリリースした著書「大いなる選別:なぜ同じような考え方を持つ米国人が集まることで、米国が分断されるのか(The Big Sort: Why the Clustering of Like-Minded America is Tearing Us Apart)」に因む。「大いなる選別」は当時から確認され、政治科学者のラリー・サバト氏の調査結果によれば、2020年の米大統領選でいずれかの候補が80%以上の得票率で圧勝した郡は、2004年のたった6%から22%に増加していた。サバト氏は、結果を受け「クラッカー・バレルが多い郡では32%程度だった一方で、ホールフーズがある郡の85%がバイデン氏に勝利をもたらした」と語る。ホールフーズがオーガニック系のリベラル系スーパーである一方、クラッカー・バレルは南部料理を提供するレストラン・チェーンとあって、有権者が政治的理念を基に住む場所を考慮するようになった一つの証左と言えよう。