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【小説】よしけんが死んでいました。

6課長:2008/08/30(土) 09:20:16

 「信じ…るしかないわなあ…。つか、お前んちってホテルだったっけ?!」
 「あーいやー…違うんですけど、まあ、後で説明しますよ。簡単に言えば、親戚がやってたんですよ。」
 「…へ、へー…。」

 言葉にはしなかったが、健治も驚いていた。健治が知ってるのも課長が知ってるのも、ホテル支配人とは遠く無縁の仁であったのだから。

 「…なんかすげーな、よしけん。」
 「…ですね…。」

 敷地内へ入ってからホテルを見上げていたが、大きな建物は2つ。どうやら新館と旧館があるようだ。旧館に見える建物は6,7階建て。新館は10階ほどだろうか。
 二つの建物の周りには緑が多く、庭というよりはちょっとした雑木林のようになっていた。野球をしてボールが飛び込むと探し出すのも大変そうだ。
 玄関がある旧館らしき建物の入り口は建物の幅一杯がガラス張りで、外には二人のベルボーイが立っている。にこやかだ。うさんくさいぐらいににこやかだ。
 中へ入ると、エントランスホールは2階まで吹き抜けでとても天井が高い。中央にあるシャンデリアは、ジャンキーチェンがターザンごっこするにはでかすぎる。落ちてきたら下の人は即死だろうな。
 まあ、いかんせん、東横インとかそんなビジネスホテルに比べると、いや、引き合いに出すのがおかしいだろってぐらいに豪華である。いわゆるちょっとした高級観光ホテルだ。それが言いたかっただけ。

 フロントへ通された二人は、一応客扱いって事で、チェックインを済ませる。そしてロビーのソファーに腰掛ける。
 仁がフロントと話を済ませこちらへやってくる。

 「部屋はツインでいいですか?」
 「なんでもいいよ…。しかしまあ、未だに信じられん。どっかから『どっきり大成功!』ってプラカード持った赤ヘルの人とか出て来るんじゃないか?」
 「こんな手の込んだドッキリ仕掛けるなら、他にお金使いますよ。」

 ソファーの前のテーブルに置かれた小さな観葉植物を手に取る課長。

 「ここか!ここにCGIカメラとか仕込んでるんだろう!俺らを笑うために!」
 「しつこいですって…。それに、CCGですよ、小型カメラは。」
 「そ、そうだったな…。しかしまあ………すげー。すげーよ!」
 「ははは。驚かせるつもりは…なかったわけじゃないんですが。さっきもちょっと言ったけど、実は親戚がやってましてね。その人は子供に恵まれなくて前から冗談半分で『うちを継げ』って言われてたんです。で、一昨年それを本気にされて。そこからホテル勤務だったんです、実は。先月まで親戚に色々習いながら仕事して、今月から正式に支配人としてやる事になったんです。」
 「そんなシンデララストーリーみたいな事あるんだなー…。」
 「言えてませんよ…。と言っても、収入は前の支配人の親戚に今までと同額支払いするんで、俺がもらえるのはちょっとだけですよ。」
 「…ふーん。でもまあ、こうやって支配人として幅利かせられるのもいいじゃない。俺らも支配人のご友人って事ででかい顔できるし!」
 「…あまりでかくしないでくださいね。」
 「わーってるわい!」
 「よしけんは全然喋らないけど、大丈夫?疲れてる?」
 「あ、いや…。大丈夫です、はい。ただ、すごいなーと思ってて。」
 「あはは、そか。すごくないけどね。それにまだサプライズは実はあるんですよ。」

 何だよ今度は、と課長が聞こうとするとベルボーイがやってくる。

 「あ、部屋の準備ができたらしい。行きましょう。荷物らしい荷物はなさそうなんで、僕が案内するよ。」
 「あ、はい。では、ごゆっくりどうぞ。」

 相変わらずベルボーイはにこやかだ。うさんくさいぐらいににこやかだ。

7課長:2008/09/03(水) 09:01:26

 新館の9階。部屋番号は9010のドアの前で仁がカードをセンサーに通す。ピッ、カチャッと音がした後ノブを回してドアを開ける。

 「さ、どうぞどうぞ。」

 部屋に入って驚く課長と健治。

 「うわ…」
 「お前、もしかしてこれって…」
 「はい、スイートルームですよ。」またイタズラな笑顔を覗かせる。

 「おいおい…。わざわざこんな部屋じゃなくてもいいのに…。なあ、よしけん。」
 「ですね…。」
 「まあせっかくだし。いいじゃないですか。タダなんだし。」
 「こんなん払えって言われても、ローンじゃない限り払えねーよ。」

 入り口から部屋へ通っている数歩の道を抜けてすぐ、20畳はあるリビングがある。西洋アンティーク風なカーペットが敷いてあり、同じ雰囲気の脚の低いテーブルと一人がけソファー椅子が4つある。壁にかけてあるテレビは30インチは裕に超えるサイズだ。
 窓際に歩いていくと、窓からは少し遠くだが海も見える。

 「…松島や…?」
 「です。松島も見えますよ。」
 「ああ…松島や…。」

 リビングから寝室へと入ると、キングサイズのベッドが二つ。そこからリビングを挟んだ逆側には、10畳ほどの和室があり、その奥にも茶室のような部屋がある。これだけで普通の旅館はまかなえそうなもんだ。

 「こんなに部屋いらねーんだけどな…。」
 「ですね…。」と言いながらリビングの椅子に腰かける二人。

 「まあ、家族等でいらっしゃる人もいるし、いろいろニーズってあるものなんですよ。」
 「ふーん…。てか、『いらっしゃる』とか、口調まで支配人っぽいもんな。前まではそんな言葉聞いた事なかったっつのに。」
  苦笑いを浮かべながら「はは…。たしかにそうですね。職業病ってヤツでしょうか。」と答える仁。

 「あ、そうだ。実はもう一つサプライズがあるって言ったんですけど、それを見せようかな。」
 「え?この部屋の事じゃねーのか。」
 「違います違います。もう少しすればわかりますよ。」
 「何なんだよ、今度は。わかるか?よしけん。」

 反応が少し遅く「…いや!まったく!」と慌てて答える健治。
 「…お前今半分寝てなかった?」
 「…えっ?…いえ…、あ、すいません。ちょっと寝そうでした。」
 「…お前、見ず知らずの部屋に入ったとたんにそれかよ。度胸あんなぁ…。」
 「すっ、すいません!」
 「俺は嬉しいけどね。すぐにリラックスできる部屋だって言われてるみたいで。」
 「お前もずいぶんなポジティブだなぁ。」
 「はは。そうじゃなければ支配人なんて出来ませんよ。」

 そうやって談笑してるうちに部屋のチャイムが鳴る。

8課長:2008/09/03(水) 09:02:15

 「あ、来たかな。」と仁が部屋の入り口まで行く。

 「さ、どうぞどうぞ。」と仁がリビングへ戻ると二人連れて来ていた。
 「課長、誰かわかりますか?」

 突然クイズを出された課長は二人の顔を見る。二十代中盤の男性と、もう一人…は…てか、一人?なのか?どうもロボットにしか見えないんだけど。
 ロボットに知り合いなんていたっけ…?そう疑問を脳に問いかけるが答えは出ない。

 「よしけんはわかるかな?」
 仁の問いかけに不意打ちを食らったよしけんは間髪入れずに「いえ、まったく。」と答えるしかない。
 すると、二十台中盤の男がニヤニヤしているのに気づく。あっちは自分たちを知っている…?

 「でしょうねー。」仁がクイズを打ち切る。
 「実は…彼が大倉くんで、彼女は…ロボです。」
 
 「えええっ?!」二人が驚く。
 大倉とロボ。課長と仁、よしけんがそうであったようにネットを通じて知り合ったネット上の知人である。いやもう知人というか友人というか、まあそれぐらいの間柄だ。
 するとそれまでニヤニヤしながら黙っていた大倉が堰を切ったように口を開く。「はじめまして課長、よしけんくん〜。」
 続いてロボも口を開く。「ハジメマシテ課長、ヨシケン。」

 「…は、はじめまして…。って、ホントに大倉とロボ?」
 「本物ですよ〜。」大倉は相変わらずニヤニヤしながら答える。
 「驚いてくれました?」
 「あ、当たり前だろ。まさかこんなトコで会うとは。」課長はとにかく驚く。

 そこでよしけんは「なんでここに…?」と自然な疑問を投げかける。
 「いや〜。実はね〜。」大倉が話を始める。
 「前にコーヒーショップで働いてたんだけど、ちょっと事情があって他で働くことになってさ。それで仁ちゃんに話をしたら、親戚のホテルでベルボーイの仕事なら紹介するって言われてさ〜。で、ダメだったらすぐ辞めてもいいよって条件だったし、興味あったからやってみたんだよね〜。そしたら意外にこの仕事が性に合ってるというか、結局ずるずると今もいるんだよね〜。」
 「へ、へー…。そう…なんだ。」課長は未だに信じられないといった感じ。
 すると「ロボは?って聞かないんですか?」と大倉が言う。
 「そりゃもちろん聞くさ。ロボはなんで?」
 「ワタシハバイト。夏休ミダケノ。」
 「…ふ、ふーん。バイトなんだね…。」

 何が驚いたって、大倉やロボがそこにいたって事よりも、ネットでロボと呼ばれているその子がホントにロボットだったとは。それがとにかく驚きだ。
 そんなこんなで、そこに触れていいのかどうなのか悩みながら話を聞いている課長だったが、とりあえず今は触れないでおく事にした。

9課長:2009/04/27(月) 05:42:40

 数人は初めて顔を会わせた、そうは言ってもネットのチャットや音声通話でさんざん会話を交わした仲。
 最初こそ戸惑ったものの、あれやこれやと話が膨らむ。

 「そういえば、あの時さー…」
 「…そうそう、そうでしたよね〜。」
 「…ざっけんな、お前!あれは…」


 よしけんはその会話に入る事がどんどん減っていった。
 眠気が猛烈に催してきたのだった。
 今更になってバイクでの長距離移動とバスの中での睡眠不足がたたったらしい。


 ダメだ…眠い…だけど、初めて会ったのに寝ちゃうとか失礼…課長にも何言われるかわからないし…。


 会話するみんなの声が眠りを尚更連れて来る。雑踏の中で意識が飛ぶような感覚。
 そんな眠そうなよしけんをさておき、相変わらず会話は弾む。

 ん……寝ても平気かな……。



 ………。




 いつしか、よしけんは会話さえ耳から遠くなり眠りこけていた。
 


 「ん…あれ…よしけん…。」
 「寝ちゃったみたいですね〜。」
 「ふむ…眠かったみたいだし、寝かせておくか。しかし初対面で初めて入る部屋だってのに、こいつも肝が据わってるなあ?」
 「ま、ちょうど良かったんじゃないですか?」
 「だなぁ。コレ、いらなかったな。」

 そう言いながら課長はデニムのポケットから小瓶を取り出す。

 「なるべくなら使いたくなかったしな。」
 「無理に寝かせつけなくても、いくらでも他に場所を移す事は出来たでしょう。」
 「まあなー。万が一ってヤツさ。」

 「じゃあ、さてボクらはっと…。」大倉がおもむろに席を立つ。
 「業務に戻りますね。ロボも、行こうか。」
 「ウン、ソウネ。」
 「そうだね、じゃあ、よろしく頼むよ。」
 仁の言葉に「あいあいさ〜」と軽くふざけた挨拶をして、大倉とロボは部屋を出る。

 「ふむー。」
 課長がタバコに火をつけながら言葉を続ける。
 「大倉やロボまでいるって事は、総動員ってヤツ?」
 「ですね…。上はもう尻に火がついてるようです。」
 「カーッ!」苦虫を噛んだ様な顔をしながら、「結局現場が全部やるっつーのに。まったく、上の人間共は…。」
 「そんな事言わないでください。課長もちょっとは上の立場のはずですが?」
 「そういうお前もだろ。喜ばしい昇進なのかねぇ?この施設の責任者ってのは。」
 「あはは。喜ばしい事にしておいてくださいよ。…って、いくら寝てるとはいえ、彼の前でこんな話は…。」
 「おっと、そうだったな。場所を移すか。」
 「そうですね。」

 灰皿にタバコを押し付け消し、二人は部屋の出口へ向かう。
 よしけんに悟られないような声、普通の声でも反応はしないと思うが、念のため小さめな声で「開けてくれ」と仁が言うと外からドアが開けられた。
 「おつとめごくろーさん。」
 外にいたベルボーイに課長が一声かける。ベルボーイは無表情のままドアを開けながら立っていた。

 ホテルの廊下を歩きながら、進行方向の後ろを親指で指しながら、
 「なんだよ、さっきまでずいぶんにこやかだったのに、あいつ。」
 「今愛想振舞う必要ないじゃないですか。」
 「だけど、もうちょっとこう…少しぐらい愛想笑いしても良いと思わね?」
 「…課長ぐらいですよ、そんな事を言うのは。」
 「はいはい、そうね。そうかもねー。みんなカタいんだから、ったく。」

10課長:2009/04/27(月) 05:43:19
 少しの沈黙の後、先導していた仁がとある部屋の前で止まる。
 「では、ここで説明しますね。」
 「はいはい。あ、禁煙ここ?」
 「あ、いえ。」
 「なら、オッケ。」

 答えを聞くまもなく、仁はカードキーを通した。
 カタッと音を確認してドアノブを回す。
 中には誰もいない。ホテルの客室ではなく、ただの8人程度が収まる会議室のようだった。

 そのうちの椅子の一つ先にドカッと座る課長。
 ゆっくりとその対面に仁は腰をおろす。

 「確認だが…」 課長が言う。
 「…実行は避けられないのか?」
 「はい。」 仁は間髪を入れない。
 「相手側もどうやらこちらの行動に感づいてるらしく。これが、相手側上層部での会話を録音したファイルです。後ででもよければ確認してください。」
 「ふーん…。どちらにも内通者はいるってか。嫌だ嫌だ…。」
 「スパイってのも立派な職業ですからね。」
 「まあ、それもわかるけどさ…。あーつか、実行つっても、初っ端から監禁ってワケではないんだろ?そのための施設だろう?」
 「はい。ただ、この施設、つまり監視下にある状態ならば良いです。」
 「それはそれで難しい注文だ事で。1,2日なら簡単だけっどさ。」
 「しばらくは問題ないでしょう。僕と課長がいれば。」
 「そうかもしんねーけどね…。あー外出は?せっかくだから、松島とかも見たいじゃん?」
 「んーそれはどうでしょう…。あとで確認してみます。」
 「おいおい…。ダメって事はないだろう。1時間もかからない距離なんだから。」
 「それに伴って警護もつけないとダメですからね。確認は必要ですよ。」
 「はぁー。そうですかー。あーあー。もう。くだらん計画なんて立てるから、俺の仕事が変な方向に。」
 「いいっこなしですよ、それは。」
 「で、あちらの計画ってのはかなり進んでるんだ?」
 「はい。」

 今までで一番真剣な表情を仁が見せる。
 「今年中には暗に発表されるでしょう。」
 「へー。ずいぶん有能者揃えたもんだ。恐れいったねこりゃ。あはははは」

 乾いた笑いを課長は発する。

 「あ、ここってホテルって事は、あんだろ?露天風呂か何か。」
 「ええ、ありますよ。」
 「んじゃ、風呂いってくるわ。カタい話はあとでまた、な。」
 「…わかりました。」
 「ういーセンキュー。」

 そそくさと部屋を出る課長。
 仁は一人部屋に残って物思いにふける。

11課長:2009/06/19(金) 07:23:44

 「ええーっと…何階だ?」

 課長がエレベーターの前で露天風呂の階を確認する。どうやら最上階より一つ下らしい。
 上へ向いた矢印のマークのボタンを押す。が、押したか押してないかのタイミングでエレベーターが突然開く。

 「おっとぉ。」

 中には一人の女性のベルガールと、20歳前後のまだあどけなさの残る少女がいた。

 「あっ。申し訳ございません。すぐ降りますので…。」ベルガールが先に口を開く。

 「ん、あいよー。そんなに気を遣わないでいいよー。」と課長は自分のできる限りの愛想笑いを二人に向けた。

 そして、その少女の顔へ瞬間的に興味を注いだ。


 ベルガールと少女はエレベーターを降り、部屋へと向かう。そのすれ違いざま、何かを暗示するようにベルガールと課長は一瞬目を合わせた。

 しかし二人の後姿をもう一度目で追う事もなくエレベーターへ乗り込む。そしてドアを閉める。
 上へと動き始めたエレベーターの中で課長がぼそっと独り言を言う。

 「さてはて…。一体何人になるんだかねぇ…。」







 仁は課長と話した部屋にまだいた。課長が出て行っておよそ5分は一人で何か考えていた。

 すると、ホテル従業員用の小型通信機が音を鳴らし始める。それを取り出し応答する。

 「何だい…?」

 「あ、支配人。ご指示通り氷室様も9階の部屋へお通しいたしましたが…。よろしいんですよね?」

 「うん。問題ないよ。」

 「あ、はい。そのご報告だけですので…。では、失礼いたします。」

 「はい。ありがとう。」

 無線を切って、「今日はこれで全員、か。」と小さくつぶやく。

 少しの間を空けて、また通信機を手に取る。そして今度は自分から発信をする。

 「…ああ、大倉くん?明日か明後日、課長が松島へ出かけたいと言ってる。あの人の事だから、きっと実行すると思うんだ。そのとき、数人警護を回せるかな…?」

 「ああ、課長ですか〜。相変わらず困った人ですね〜。」と大倉は笑いながら続けて「大丈夫ですよ。出迎えさえこなせば人は余るほどだと思いますんで。」と答える。

 「そうか。じゃあ、また具体的に時間がわかったら連絡するよ。お願いします。」

 「あいあいさ〜。」

 大倉が無線を切るのを確認して、自分も無線を切り通信機をしまう。

 「どちらが先に化けの皮をはがれるのやら…。」




 よしけんはまだまだ部屋で眠りからさめる様子はなかった。


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