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千冊読書日記

1ぺろぺろくん:2016/05/01(日) 19:47:50
千冊読むのにどれくらいかかるだろうか?
2年ぐらいかなと楽観しつつも、5年かかるかもしれない。
このスレッドは便宜上、書き込み不可でいきます。

◇『SUDDEN FICTION―超短編小説70』 文春文庫

アメリカの作家による、ショートショートが70作。
誰にでも、夢にしか登場しない学校や、駅前のロータリー、病院の待合室があると思う。
私の場合には、夢にしか登場しないパチンコ屋というのが何軒かあって、必死にメモを取っているところで眼が覚める。
ショートショートのツボというのは、その夢にしか登場しない幻のスポットを現出させることだと認識した。
夢にしか現れない母親は、いつも戸口に立っている。
夢にしか現れない父親は、どこに行っても鼻つまみ者で、
>そのろくでもない役立たずの10セント新聞をいっちょう売っていただけますでしょうかね?
と、スタンドの売り子に無視されたのが最後の姿となってしまう。
夢にしか現れない犬は、ぼくは以前は犬だったのだよ、と語りはじめる。
夢にしか現れないエロ本は、父親の口から語られる。

354ぺろぺろくんん:2017/08/21(月) 21:16:14
◇キンセラ 『アイオワ野球連盟』

短篇の「野球引込線」をそのまま長篇に仕立てたものなので、導入は紛れもない
傑作だが、野球ファンタジーの盛りにはさすがについていけなかった。
なんといっても魅力的なのは、歩き巫女的な際限なく家出を繰り返す恋人のサニー
と姉のエノラ・ゲイだ。

>「父は死んだよ。シカゴに住む母と、ビルを破壊する姉がいる」
>「ありふれた一家のようね」と、サニーがいった。
>「人間だれでもアウトローの姉を一人持つべきだよ」と、ぼくはいった。

ビルを破壊する姉は欲しいな。

355ぺろぺろくんん:2017/08/22(火) 17:22:39
◇黒井千次 『見知らぬ家路』

どうしようもなく好きな作品でありながら、その良さをなんとも説明のしようの
ない傑作というのがある。
この「赤い樹木」という作品もそのひとつ。
新入社員の木立K子は、入社したその日に赤いオーバーを着て現れ、そのまま
暖房の効いたオフィスでも頑としてオーバーを脱ごうとしない。
「それを脱がなければ、もう来なくていい」
と、彼女はオーバーを脱がされると猛烈な悪寒に震えはじめる。
自宅に送り届けようと、タクシーに同乗すると平和島あたりの赤土の造成地で、
ここで引き返してくれと言う。
彼女は鉄条網を跨ぎ越すと、空き地のゆるいスロープを登りつめ、視界から消え
ていった。
>彼女が来ることを拒んだあの赤土の広大な傾斜の果てにあったのは、家庭など
>というものではなく、ぽつんと立っている一本の赤い木だったのではなかろうか。
いったいどこに感動すればいいのか、わからないと思う。
1970年の作品で、その赤土の造成地は私の遊び場だった。
その日初めてそこで顔を合わせて、夕暮れとともに「また明日な」と手をふって
丘の向こうへ帰っていったまま、二度と顔を合わさなかった子供たちのなんと多か
ったことか。

356ぺろぺろくんん:2017/08/22(火) 18:16:25
◇黒井千次 『指・涙・音』

>――冷蔵庫のコンセントを抜かぬこと。
>氷が溶けて水が流れ出すだけではない。電気を断たれた冷蔵庫は無用に重い白い函
>へと転落し、家の中にある根拠を失う。
家の中に居場所をなくした冷蔵庫や、家出した冷蔵庫は存在の根拠を失うともいえる。
自分が子供のころに、野っ原に捨ててあった冷蔵庫に入って遊んでいた子供が、出ら
れなくなって死亡したという事故があって以来、捨ててあるある冷蔵庫を見つけると、
必ず怖々と開けてみる。
もちろんそれで何かが出て来たことはない。
川にものを投げ込む遊び流行っていたときに、こいつを投げ込んでやろうとしてお巡
りに見つかって、こっぴどく叱られたことならあった。
電話遊びの時代に、家出人は毛嫌いされる傾向が強く、自分ももちろん家出人おちょ
くり派だったが、それは「傷つきさまよい歩く霊気を漂わせた動物」というよりも、
「ご家庭内でご不要になりました」感を漂わせている者が多かったからだろう。
たしかに、そこにある根拠を失ってしまったものは、暴力を誘発させるものがある。

357ぺろぺろくんん:2017/08/23(水) 21:02:48
◇松山 巌 『百年の棲家』

幕末から現在にいたるまでの、都市論・住宅論。
>記憶できない、のっぺらぼうな町が生まれつつある。
85年当時の著者の雑感だが、大衆的選択として町に顔があることを拒んだ
ということでもある。
一度見たら忘れることのできない街並みに、仏壇屋と仏壇屋の間にソープが
蟄居している町がある。
いや逆に、ソープが両脇に鶴と亀の如く仏壇屋を従えているのかもしれないが。
近所付き合いとかはどうするんだ!とか、疑問は山のように湧いてくる。
パチンコの換金所が小鳥屋さんとか、なにを考えていたんだ!
また、著者が10億円のマンション、41億円の別荘を視察に行くと、そこに
あったのは2LDKや3LDKの拡大版に過ぎない住宅であった。
すべての住居は仮住まいに過ぎない現況を認識することになる。
そこに住んで、暮らすという概念を喪失してしまったことを確認することになる。

358ぺろぺろくんん:2017/08/24(木) 21:34:56
◇別役 実 『都市の鑑賞法』

自分などが最後の世代になるのだろうか?
家と町が渾然一体となっていて、部屋には何ひとつ置かずに、書斎と応接間になる
喫茶店をまずキープして、タンス代わりのクリーニング屋をみつけて、おまわりと
茶飲み友だちになって一丁上がり。
それに食堂とバーになる女がいれば、おまえもやくざもんだぞ!と、言われた。
消防車が走っていれば後を追っかけ、床屋のねじり棒を見れば弓矢で撃ち抜くこと
を夢想する。
昔はそれが当たり前だったが、忘れてしまったこと、忘却のワンダーランドを見る
ようだった。
「自動販売機」の項を見ているときに思ったのだが、群棲している自動販売機の前に
座り込んでいれば、それはただのヤンキー化シンナー中毒にしか見えないが、一台だ
けポツンと置かれた自販機の前にしゃがみ込んでいると、亡霊か自殺志願者に見える。

359ぺろぺろくんん:2017/08/25(金) 21:22:13
◇リック・リオーダン 『ビッグ・レッド・テキーラ』

03年の刊行当時、誰だったかの好意的な書評が気になって、ワゴンで見つけてキープ
しておいたのだが、いったいなにを期待していたのかすら思い出せない。
帯タタキにある通りの「モダン・ウェスタン・ハードボイルド」。
12年ぶりに元恋人の頼みで、帰郷すると手配しておいた部屋にはデブが居座っていて、
まずはこいつをブチのめす。次から次にブチのめす。暗黒街の顔役ともなぜタメめ口を
きいても許される。出てくる女はいい女ばかり。
困ってしまうではないか。
心の病を患っているAV女優が、言っていたのを思い出す。
>下心が見え見えだからいいの
メンヘルのAV女優になるしかないではないか!

360ぺろぺろくんん:2017/08/26(土) 19:44:07
◇西村寿行 『無頼船ブーメランの日』

クソ暑くて夜中の三時に眼が覚めてしまったので、寿行の山に手を伸ばした。
まだ20冊以上あるのだが、なかなか手が伸びなくなってきている。
こういうきっかけでもないと読む気になれない。
いつものレギュラーメンバーの登場は控えめで、歴史ロマン色が強い。

361ぺろぺろくんん:2017/08/26(土) 19:44:51
◇西村寿行 『無頼船 緑地獄からのSOS』

このシリーズは6冊しかないにもかかわらず、シリーズ読破に30年近くかかった
のではないか。
オールスターメンバーの登場で、意外にも過去のエピソードが記憶に残っていたの
に、我ながら驚いた。
このシリーズの魅力はやはり、これに尽きる。

>「新しい生きかた?」
>「あるわけがあるまい。そんなものがあったらはなから無頼船などに乗り組んで
>はいねえ。孤北丸は沈んだ。陸に上がったわしらも手際よく沈没した」

362ぺろぺろくんん:2017/08/26(土) 21:45:37
◇小山内美江子 (編)  『日本の名随筆 (別巻65) 家出』

このシリーズも結構好きでワゴンで見かけると、ついつい買ってしまう。
当たり外れも大きいのだが、残念ながら後者のほうだった。
小山内さんという方、金八先生とかの著名の脚本家らしいが、ウィキで確認した
ところ「キー・ハンター」の外は、おもしろいと思った作品がない。
ちょっと毛色の変わった家出で、「お茶の間民族大移動」という一家総出でパチ
ンコにやってくる不思議家族があった。
下は曾孫と思われる4,5歳から、上は中学校の近くで「ハレルヤ商店」という
雑貨屋をやっていた牧師崩れのような80ぐらいのジイさんの、総勢10名ほど。
そのうち、玉を弾くのはひとりだけ。
残りの9人は王様のプレイをただ見守っているだけ。
やかましいわ、場所ふさぎだわで、ろくなもんじゃ無い。
常連客にはもちろんだが、店屋にもずいぶん嫌われていた。
テリトリーを移ると、そんな一家の存在はあっという間に忘れ去ってしまうのだが、
>お前がバカにしてた「お茶の間一家」あるじゃん、あれ一家心中したんだってな!
戸籍名も知っているので検索すれば、事の真偽は簡単に確かめられるのだが、調べ
ようとは思わない。

363ぺろぺろくんん:2017/08/28(月) 10:42:11
◇西村寿行 『蒼茫の大地、滅ぶ (上) 』

東北六県が、総重量2億トンにも及ぶバッタの軍団の襲来を受けるという、
壮大なスケールの動物・パニック小説。
リアルタイムでも中一だったから、読めないことはなかった。
実際、「八甲田山」は読んでいたのに、こっちは読まなかったというのは
単に、長いということだったのだろう。
これを中一で読んでいたら、人生変わったかもしれない。

364ぺろぺろくんん:2017/08/28(月) 20:04:49
◇黒井千次 『K氏の秘密』

アマゾンで価格の安いものを片っぱしから注文したうちの一冊だが、実物を手
にしていたとしたら買わなかっただろう。
身辺雑記的な連作掌篇集。
ただそれなりに拾いものもあって、氏の短篇にたびたび登場する「どこからと
もなくふらっと現れ、流れ星のほうきのような印象を残して去ってゆく」謎の
新入女子社員が、ここにもいた。
会社での時間にせよ、家庭での時間にせよ、予定調和の濃い世界である。
そこに風に吹かれたような人物が混入してくると、
はたして人は意味のために存在するのか?という根源的な疑問が込みあげてくる。
それがいいんだな。

365ぺろぺろくんん:2017/08/28(月) 20:49:02
◇西村寿行 『蒼茫の大地、滅ぶ (下) 』

動物パニック小説だったものが、下巻の中盤からは完全に「鷲」のシリーズに
なってしまう。

「風鈴騒音おばさん」殺人未遂事件というのか、サバのみそ煮をぶっかけたり
もしていたらしい、内田裕也の妹といっても通用しそうな白髪のおばんさん。
なんか、自分とは話が合いそうな気がするんだな。
あの狂信的な近隣住民とは仲良くできそうにはないが。
あそこはなんか変な信仰主教の聖地なのか?
その娘が My Little Lover の Hello Aegin を毎日大音量で流していたという
のには笑ってしまったな。
自分もそうだけど、思わずyoutubeで聞いてしまった。

366ぺろぺろくんん:2017/08/29(火) 21:27:50
◇高井 信 『ショートショートの世界』

ショートショートといったら、星新一でしょう、というのが大方の意見だろう。
人によって、プラス「筒井康隆」であったり「都筑道夫」であったり「阿刀田高」
であったりするだけでするだけで、あくまで個々の作家が代表するものであって、
ジャンルとして考察はまったくなかったようだ。
この日記でも取り上げた黒井千次の『星からの1通話』から、ショートショートに
可能性を感じて読んでみたのだが、文献小史としては非常によくできてい眉村卓
なんて人も読んでみたくなってきたから、良質な入門書だろう。
この分量だったら許される気持ちの悪さというのもあって、「夕焼けソープ団地」
とか「米子のレズビアン焼きそば」も、書けそうな気がするんだ。

367ぺろぺろくんん:2017/08/30(水) 21:06:18
◇松山 巌&川村 湊 『ミステリー・ランドの人々』

江戸川乱歩にはじまり、島田荘司いたる推理小説があぶり出す昭和史。
五十名にのぼる昭和の推理作家が描き出すパッチワークをあらためて
俯瞰すると、いい時代に居合わせたと思う。
全く読んだことのないのは、嵯峨島 昭(宇能鴻一郎の別名)、麗 羅。

368ぺろぺろくんん:2017/08/30(水) 21:26:56
◇黒井千次 『彼と僕と非現実』

73年の評論集。
>人間とは自分自身と対話するという独特の能力を賦与された生物である。
ドイツの作家ノサックからの引用だが、情報端末の発達とともに、放棄され
た能力でもある。
紋切り型と予定調和の浸食に無自覚になった結果、大量発生したのが、おうむ
返しとうなずきくん。
そこであらためて問うことになる、
>「自分自身との対話」を行うことのできる場所はいったいどこなのか?
そんなしゃれた場所などあるはずがない。
まず語り出すこと。
といったあたりは、普遍的なものがあるだろう。

369ぺろぺろくんん:2017/08/31(木) 23:24:21
◇西村寿行 『鬼の跫』

妻の不貞の現場に乗り込んだ鬼が、妻を射殺し不倫相手の膝頭を撃ち抜く
冒頭からして凄まじいが、ただひたすら逃げまくるしか能の無いインテリと、
どこまでも追いかけてくる鬼の執念だけで物語を牽引してゆく力業に脱帽。
筒井康隆の短篇「取的」に同趣向の不条理性があって悶絶した覚えがある
が、こちらは文庫400ページ近くの長篇だ。
追う者と追われる者がいつしか似通ってしまうのは、行動は言葉よりも能弁
ということだ。
しかし、芸を盗む、行いから何かを学びとることは学ぶ側の技倆が問われる
ことでもある。
ガタガタ文句を垂れてるだけの者には、学び得ぬものである。

370ぺろぺろくんん:2017/09/02(土) 16:52:31
◇黒井千次 『仮構と日常』

71年刊行の初エッセイ集。
「労働者」が〈苦しみ〉や〈団結〉の象徴の色合いが濃く、よくストライキで電車が
止まっていた時代で、振り返ればやはり遠くへきたものだと思う。
著者はその時代から、さらに50年近く前のプロレタリア文学の黒島傳治作品を回顧
し、経済の貧困ゆえの〈盗み〉と、その頃に現れた主婦のゲーム感覚の〈盗み〉を対
比すると、精神の貧困化、因果関係のあいまいさ、といったことが浮かびあがってくる。
黒島作品に代表されるような個々の人間がかわいそうだった時代からの断絶と継続を
考え直さなければいけないと認識する。
今から50年後、やはりあの時代はかわいそうな人が多かったと思われるのだろうか?
それから、統計的に見ると自分がいかに運に恵まれているかがよくわかる。
>「血のメーデー事件」の被告261人のうち、その18年後16人が死亡していて、
>癌の死亡者が4人いた。
癌の死亡者のうち3人は37歳以下だったというから、若者の癌はけっこう多いんだ。

371ぺろぺろくんん:2017/09/02(土) 17:14:24
◇黒井千次 『失うべき日』

↑と同時期に書かれた、こちらは短篇集。
>理由とか、目的とか、資格とか、原因とか、そういう湿っぽい前後の関係から一切
>きり離された、ただ闇雲に探すという物理的な行為への衝動とでも呼べるものが生
>まれていた
伝言のトリプル探しからしてそうだろうし、一般的にはボケモンがそうだろうし、刑
事物のドラマがその典型だろうが、本来希望に満ち溢れてしかるべき恋人探しにすら、
どこかしら湿っぽさがある。
探すとは、ないことを確かめ続ける行為である。
ある興信所で、毎年1000万円かけて家出人を探していた客があった。
12年後に新宿の簡易宿泊所で発見されたそうだが、その家出人はその後どうなった
のか?その一家にしかわからないことだが、自分の不在による探偵業界への経済効果
が一千万とは奇妙なものだろう。
同じテーマの安部公房の『燃えつきた地図』も読み返さないと。

372ぺろぺろくんん:2017/09/02(土) 18:28:25
◇吉行淳之介 『麻雀好日』

これも単行本初版は、昭和51年か……。
毎日新聞の連載だったらしいが、もちろんリアルタイムでは見ていない。
中3あたりだったか、ふと立ち読みしてみたところ、今でいうマージャン・
ブログといった印象で、一向に面白くなかった。
それは今回初めて通読しても、その印象は変わらなかった。
麻雀ものがこれだけつまらないということは、本職の小説は面白いはずだ!
という直感で、その後吉行作品に耽溺することになる。
解説で、阿佐田哲也がその発言を文末に引用している。
>俺は誰かが見てると吸いこまれるようにボーンヘッドをする。そのくせ我な
>がらほれぼれするような巧い手を打ったときには、誰も見ちゃいねえんだから
こういう人じゃないと小説を書いてもしょうがない。

373ぺろぺろくんん:2017/09/03(日) 21:37:35
◇黒井千次 『昼の目と夜の耳』

74年のエッセイ集は3冊目ということもあって、格段に文章がこなれてきている。
この年に勤めを辞めて専業作家となったことが大きかったのだろう。

歩行者天国に出現した「なにやら祭り」に著者は決定的な違和感を覚える。
>子供の頃の祭りは楽しくはあっても、どこかに必ず恐ろしさがつきまとっていた。
>昔の祭りはもっと暗いエネルギーに満たされていた。
昭和40年代にはすでに「祭りのもつ暗いエネルギー」は幻影の彼方に消えつつあって、
江戸川乱歩や横溝正史の諸作品にその影を追っていただけのかもしれない。
といってもそれは、トゥーリアの祭りが体現した暗いエネルギーではない。

374ぺろぺろくんん:2017/09/05(火) 20:15:51
◇黒井千次 『歩行する手』

75年のエッセイ集。「刑事コロンボ」を観た感想がよかったりする。
犯行を認めた男を車に乗せ、警察に向かう途中で男は独言をはじめる。
>「このほうが私にはよかったのかもしれない。じつは犯行を知った秘書の女から、
>それをタネに結婚してくれるようにと私は威されていたのだ。」
>と男はもう一つの自白をつけ加える。そしてつぶやくのだ。
>「男にとっては、結婚よりも刑務所のほうがまだましだろう……。」
そこまでひどい結婚をした人のことは知らないが、まあそういうこともあるだろう。

当時はまだコンピューターが未成熟で、単純なミスが多かった。
>コンピューターを信用はしてませんよ。毎日コンピューターと喧嘩しているみたい
>なものですよ。
製鉄所の作業員が語っている。
自動販売機で糸釣りをやったり、パチンコ台の攻略をやっていると蛇蝎の如く嫌われた
のは、人がコンピューターを育てていた時代だったからだ。
コンピューターを攻略することが、賞賛に変わったのは21に世紀に入ってからだろう。

375ぺろぺろくんん:2017/09/05(火) 20:43:47
◇安部公房 『燃えつきた地図』

小説を読んで素直に感動してしまったら、小説を書く必要はない。
ときにはこちらの牙を抜かれてしまう小説というのもあって、ミラン・クンデラのいく
つかの作品とヘンリー・ミラーの『北回帰線』とこれだ。
30年ほど前、小説の可能性とその破壊力にぶちのめされてしまったものにリベンジ。
相変わらずラスト20ページの気圧の高さに、窒息しそうだった。
一例を挙げると、
電話を終えると思わずボックスの中でしゃがみ込んでしまう。隅に丸められた新聞紙が
あり、下から乾いた大便の端がのぞいている。その含有物から人糞であること類推し、
>都会という無限の迷路の中で、数えきれないほど存在しているはずの便器の中の、わ
>ずか一つの利用さえも許されなかった、孤独な男……その男が、公衆電話のボックス
>の中に、かがみ込んでいる姿勢を想像すると、ぼくは恐ろしくなってしまうのだ。
電話ボックスのウンコひとつから、世界一孤独な男をあぶり出す論理性と観察力と描写力
と想像力に感嘆しないわけにはいかない。

376ぺろぺろくんん:2017/09/07(木) 20:02:14
◇星 新一 『おみそれ社会』

最相葉月の『星新一 一〇〇一話をつくった人』 を読んだときに、彼の作品を失念
してしまっているのは不幸なことかもしれないと思い、手元のものからぼちぼち再読
しているが、下記のベスト50でもタイトルと内容が一致しているのは3分の1程度だ。

※星新一作品ベスト50を決めよう
https://matome.naver.jp/odai/2131531298702383801

ここでのベストは『キューピッド』。
留守番なり、債権の取り立てで上がりこんだ家に、次から次へと来客があるというシチュ
エーションの作品があるが、これは自分が電話遊びの中でよくやった
>今晩おまえ、眠れないよ!
>テレカジどものノックの雨が降りそそぐことになるからよ。
というのは、彼の影響ではないと思う。
人がいっぱいやって来るというシチュエーションが好きなだけだったと思う。

377ぺろぺろくんん:2017/09/09(土) 20:27:31
◇黒井千次 『眼の中の町』

>本当の名前は人がつけるものではなくてもともとある筈なのだ

ニュータウンやら〜ヶ丘ではなく、文字を追う行為の中に街の復権を目指した大傑作
になるはずだったのが、それは10年後の『群棲』を待たねばならなかった。
安部公房の呪縛から解放されたのと、街というレベルでは輪郭がはっきりしなかった
ものが、隣接する4軒という舞台をもってくっきりと像を結んだ。
でも、これはこれでけっこういいと思う。
最終章の駅の伝言板は、これからも何度も思い浮かべることになりそう。

378ぺろぺろくんん:2017/09/11(月) 21:19:24
◇西村寿行 『修羅の峠』

寿行先品ベストテンに入る名作。
木曽経文村の垰の守り神はちょっと変わっている。
十王像に取り囲まれるように、現代人がそこに混じっている。
その地蔵菩薩が盗まれ、その追跡を任された初老の村人が殺される。
というなんとも、魅力的な導入。
忘れかけていたことだが、かつて村には人の面倒をよくみて、世話をやくたちの男がいて、
要するに村から出ていった者を探し出して連れ戻すのだった。
出ていった者を説得して連れもどすのは正義であった。
千石イエスやオウム事件の初期あたりまで、連れ戻すのは大衆的正義だった。
しかし、そこは帰るところではなく年に一度墓参に訪ねる場所でしかないことを、79年の
時点で示唆していた。

379ぺろぺろくん:2017/09/13(水) 21:27:06
◇西村寿行 『妖魔』

不倫弁明記者会見の花盛りだが、どうやら下半身の言葉の翻訳能力は小学校4年生
レベルだと思われる。
普通の大人は下半身にものをいわせない。
というのは、恋愛は絶対的に先着順で、恋愛の自由よりも恋愛の断念の方が利便性
が大きいから、下半身にチャックをする。
だから下半身をブイブイいわせている人の言動には興味があるのだが、頭が悪いだ
けなんじゃないのか?
西村寿行の動物ものがいいのは、やはり動物はしゃべらないからだろう。
唯一、鴉の敵討ちのクロちゃんは口をきくが、言葉は10個しか知らないし、しか
もそのうちのひとつは
>コロスゾ、コロスゾ
だ。

380ぺろぺろくん:2017/09/14(木) 19:45:41
◇福永 信 『コップとコッペパンとペン』

昭和の時代に圧倒的に支持された西村寿行、女性週刊誌、東京スポーツに共通するのは
体液のメディアであったということだ。
血と汗と涙と精液でつづられたストーリーであったということだ。
それとは真逆の現代・非人情派ともいえるのがこの福永信。
>いい湯だが電線は窓の外に延び、別の家に入り込み、そこにもまた、紙とペンとコップ
>がある。この際どこも同じと言いたい
人情の入りこむ余地がどこにもない。
>ただ当たり前に使用されているのを見るだけで、もはや、もっとも目立つことになって
>しまったこの場所――公衆電話――は、
手に汗握る死闘が繰りひろげられるわけもなく、山尾さんや今井さんやベッキーが悶絶す
るようなシーンはもちろん皆無。
だから現代アートに近いのだろう、体液が溢れかえる現代アートというのはあるのだろうか?

381ぺろぺろくん:2017/09/14(木) 21:20:58
◇長嶋 有 『猛スピードで母は』

電車の中で隣のOL風の3人組が、You You 言ってるからてっきり♪誘惑の摩天楼
かと思いきや、長嶋有だったのでブックオフで仕込んでおいた。
それからもうずいぶんたったが、先日ラジオで著者が自作を語っているのを聞いて、
そのあまりの屈託のなさに、これでどんな小説を書くのだろう?と疑問に思ったとこ
ろで、著作が転がり出てきた。
自分は根っからのギャンブラー気質で、気を強く持たないとやっていけない。
博奕の勝ち負けなんてのはトータルすれば五分五分で、気合いで相手をすくませた分
でしか貯金は作れないという習性がある。
気が弱くては、損なことしかない世界に20年もいた弊害ではある。
気を強く張っていては読み取ることのできない微弱な電波というものもある、という
ことを教えられはする。
かといって、これが自分にとって必要な文学かというと、いらない。白石一文がある。
Youの本はもう一冊あるのだが、気が進まないなあ。

382ぺろぺろくん:2017/09/15(金) 21:41:18
◇長嶋 有 『泣かない女はいない』

かなり読者を選ぶ人だね、あいにく自分は選ばれていない。
表題作はタイトルからして、もう読む気なくす人続出だろうと思うのだが……。
カラオケでボブ・マーリーを歌うって……。
併録の「センスなし」を最初に読むのが正解だろう。
聖飢魔Ⅱの熱狂的ファンだという友人のお話。

>使い道がないのに消えない記憶や知識は、使えるときに使った方がいいんだ

まあ、ここみたいなもんだ。

383ぺろぺろくん:2017/09/16(土) 18:46:35
◇柴崎友香 『きょうのできごと』

夜に冷え込んだためか、悪い夢を見て夜中の3時に眼が覚めた。
ヤクザの事務所に7,8人で盗みに入って切り殺される夢で、自分の前にいる奴に
刀が振り上げられたところで眼が覚めるやつ。
3,4年に一度ぐらい見るやつだが、もうけものだと思って何か読もう!と思って
手に取ったのがこれ。
自分はまぎれもなく保坂チルドレンだが、氏の熱心な柴崎絶賛には理解に苦しむも
のがあった。
松浦寿輝にも共通することだが、評価の高さに面白さがついていけない典型じゃないか。
保坂の初期作品に見られるような魅力的な人物造形もなく、オーバーラップさせる
青春像がないと退屈することになる。

384ぺろぺろくん:2017/09/16(土) 19:11:43
◇柴崎友香 『青春感傷ツアー』

美人でスタイルがよくて投げやりでヴァイオレンスというと、さも魅力的に思えるが、
それが男で顔が悪いとパーゴリと呼ばれるだけだ。
そういうタイプは結構いて、ヘルスで働いているとシックスナインのときに客にやた
らとヘソを舐められるのだという。
その理不尽さがエキセントリックな性格に加担するところもあろうが、そういう話を
聞かされるとというヘソ舐めて〜不条理な欲求に襲われるが、腹を割った同士の信頼
関係からそれはできないけど、ヘソ舐めて〜というのが青春感傷ツアーだ。
パンツは被りたくないけど、ヘソ舐めて〜。
今度はこれは、解説が長嶋有だった。
テポドンよりもスズメバチのほうが恐い、というのが正しい文学者の姿勢だと思う。
深刻ぶってる文学者なんて、女性週刊誌の不倫ネタでしこってる主婦と変わらない。

385ぺろぺろくん:2017/09/17(日) 21:30:40
◇宮原昭夫 『あなたの町』

面倒見のいい人だったらしく、偏屈な女流作家の相談相手としてちょくちょく名前
の出てくる人。
つい最近も村田沙耶香の師匠として久々にその名を目にしたが、じつは作品を読む
のはお初。
昭和47年の本で、書店スリップもささったままで、こちらの方もお初のようだ。
やはりこの時代安部公房の影響力は強力だったらしく、表題作は『砂の女』風。
先に『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読んでいると、このラス
トにはズッコケルことになるだろうが、良い作品。
「風化した十字架」も傑作。
鴻上尚史の「トランス」の高度経済成長期版ともいえるかな。

386ぺろぺろくん:2017/09/17(日) 23:21:17
◇グレイス・ペイリー 『人生のちょっとした煩い』

痴情のもつれとか、可愛さあまってとかいった一般論は嘘だと思っている。
つい最近も少年が交際相手を刺し殺すなんていう事件が起こったが、ただの下等動物
か、野蛮人かのどちらかだろう、人間扱いするのは危険なことこの上ない。
いいかげん野蛮に対するロマンティシズムからは卒業するべき。

>彼女は未来に対して、常に心優しい言葉を持っている。六年か七年かのうちに、彼女
>は素晴らしい女性に成長するだろう。私は彼女の幸福を祈っている。それまでに私た
>ちは他人になっているだろうから。

これこそが人情というものだろう。
他人になるという希望をなしにして、誰かを愛することなんてできるか。

387ぺろぺろくん:2017/09/19(火) 21:01:05
◇小池真理子 『墓地を見おろす家』

国産モダン・ホラーの嚆矢として名高い作品だと思ったが、30年も経って
しまうとさすがに古い。
というか30年前でも十分に古かったと思う。
たとえば、
>「夏目漱石の小説に出てくる女みたいだ」
当時は自分も23だからだ断言できるが、こんなことを言う20代後半はあ
り得ない。
せいぜいあって藤谷美和子だろう。
細部は雑だが、ラストも拍子抜け、力業には感心するが、読者もずいぶんぬ
るかったというのを再認識。

388ぺろぺろくん:2017/09/20(水) 21:23:50
◇倉阪鬼一郎 『文字禍の館』

著者の『活字狂想曲』は大傑作で、以来著作を見かけるたびに積ん読してきた。
しかし、この漢字ホラーは激しく読み手を選ぶこと。
それだったらそのまま、白川静の『字統』をパラパラやった方がましなような。

389ぺろぺろくん:2017/09/22(金) 21:07:41
◇倉阪鬼一郎 『不可解な事件』

一般大衆に溶けこめない、非一般的作家が一般性の獲得を目指して見事なまでにこ
けたという、不可解さのみじんもない短篇集。
脳から出される指令には、不随意筋を動かしてしまう命令を含んでいるため、動き
がぎこちなくなる。
暴力になれていない人が殴ろうとすると、ぷるぷる震えてしまうあれだ。
渡世のベテランともなると、多かれ少なかれ無意識過剰なものである。
ここでは人生のアマチュアが、自意識に浸食されて瓦解してしまうパターンの作品
ばかりが描かれている。
それがエンターテイメントとして成立しているかといえば……。

390ぺろぺろくん:2017/09/24(日) 16:07:58
◇西村寿行 『咆哮は消えた』

昭和50年ごろに発表された、動物ものの秀作揃いの短篇集。

>狼は東に面した岩棚にいた。顎を前肢に乗せるようにして、蹲っていた。左脇腹に
>匕首が深々と喰い込んでいる。呼吸は絶えていた。茶褐色に灰の混じった体毛が風
>にそよいでいた。狼は山脈を見つめていた。ついにどこにも同族のいなかった不毛
>の生涯が山脈をみつめる眸にわびしさをあらわしているようにみえた。

表題作のなんとも痛ましいラストだが、ここの何を読み取るかは人それぞれだろう。
フーコーの『言葉と物』の翻訳が出たのもこの頃だった。
概略でしか読んでいないが、知的マーケットにおいては自立した思考というのはあり
得ず、その時代・共同体のショーケースの中からのチョイスにすぎないことを指摘した。
既成の観念に馴染めない咆哮を封じ込めようという動きか起こったのも、この頃からで
はないかと直感している。
顎を前肢に乗せるようにして、蹲っている精神を起こしてまわってやろうかと思う。

391ぺろぺろくん:2017/09/24(日) 19:52:19
◇倉阪鬼一郎 『田舎の事件』

著者の文章にはもう20年近く接しているのにもかかわらず、本書の中盤あたりまで
てっきり東京の人だとばかり思っていた。
田舎とか地方が板についていないというか、田舎に対して屈託がなさすぎるのだ。
田舎が地につかないというか、一般論としての田舎でしかなくて、それだけ活字の世
界だけに暮らしてきた人なんだろう。
その一方、東京に挫折して地方に中途半端な東京を持ち込む者に対してはやけに手厳
しく、お得意の自虐ギャグが冴えるのもその手の作品。
もう前世紀になるのか、「東京勝ち組日記」なるものがあって、自分は脳内翻訳して
ホラーとして読んでいたのだが、あの人たちはたしかに恐い。存在自体がホラー。友達
がまたみんな「東京勝ち組」で死霊の盆踊りだったりするの。
愛すべき東京人はというと、プログレのミュージシャンを目指してパチンコ屋でバイト
をしていたら、カウンターの女の子とデキ婚。嫁さんの影響で創価学会の熱心な活動家
になってしまうというような、東京の田舎だったりする。

392ぺろぺろくん:2017/09/24(日) 21:23:31
◇後藤明生 『笑い地獄』

ケロログのとき、「笑いにうるさい女」がいて、ひとつも笑えないどころか病気が心配
になってくる女がいた。
そもそもが笑いに貪欲な女とかオタクの女は、存在論的誤謬ではないのか。
エンジェルでやってた頃は、ハッカーさんから「ひきつった笑い」と、よく言われたが
それは後藤の読者だったからではなくて、破滅的な暴力性のゆえだったと思われる。
屋台にチャリンコで突っこんでいって、破壊された世界で店主と向き合い、「いやあ、
ブレーキが切れちゃって」とか、おサムイ言いわけをしながら熱気に囲まれる状況を夢
想していたからだ。
ここで描かれる笑いはよくわからない人が多いだろう。
「人間の病気」では、精神に支障をきたした友人を三人で病院に連れていくと、案の定、
分裂病であった。連れの一人は黒っぽいビニール袋をぶら下げていて、その中味は水泳
パンツだった。
>今日はひとつ、久しぶりに五百メートル泳いでやろう
どっちが病気なのかわからないが、さっきまで野球のユニフォームや、ゴルフウェアを
着ていた人が、突然、「さあ、もうお遊びはお終いだ!そろそろもう一丁やるか!!」
と言って、レジャーウェアをかなぐり捨てる軍服が出てきて、小銃や銃剣を手にしてい
る光景を思い浮かべて、大笑いしてしまうことがある。
それは笑いごとなのか?
自分はそれが笑いごとにしかならない、笑い殺される境遇に育ったと思う。

393ぺろぺろくん:2017/09/25(月) 22:46:13
◇工藤美代子 『日々是怪談』

同年代の中にも親の介護で、日々が怪談という者がちらほら現れてきた。
頻繁に電話がかかってくることから始まって、物がなくなる、会話の中に15年
ぐらい前に亡くなっている親族・知人の名前が飛び交う。
先日も、知人の母親が自宅に帰れなくなって電話をよこしてきていて、
>そこに何があるの?
>1と2がある
要領を得ない知人に代わって、私が電話に出たたところ、駅のホームらしい喧騒が
聞こえてきたので、「とにかくそこにいて」と伝えて迎えに行ったところ、案の定、
東海道線のホームにいた。
「1と2がある」はいいや、たしかにそこには「1と2」があったよ。
著者は著名なジャーナリストらしいが、怪異体験もなかなかなもの。
夫からは、こう言われる。
>あんたよく変なものを家に連れてくるから、頼むよ、気をつけて買い物しておくれよ
返す刀で、京都の骨董屋で見初めた人形を買って家に帰ると、なぜか顔が老婆のものに
成り変わっている。
続いて家族のものに重病人が相次いだのは言うまでもない。

394ぺろぺろくん:2017/09/26(火) 21:24:44
◇西村寿行 『頻闇にいのち惑ひぬ』

歳を感じるのは一時間でできることの可能性が小さくなっていくこと。
とくに朝早く眼が覚めたときなどは、今日はこれだけ読めるぞ!とテーブルの
上に六冊ほど並べたりするのだが、結果はショボいものだったりする。
今日も4時に目が覚めたのだが、読了したのはこれだけ。
駄作なのはわかっていても読んでしまうのは、解説の井家上隆幸氏も言っている
通り、魔力に感染してしまっているからだろう。
まあ今日一日をを象徴するような、ラストに近づくにつれショボくなる。

395ぺろぺろくん:2017/09/27(水) 17:38:32
◇西村寿行 『学歴のない犬〈上〉』

寿行の積読もやっとこ一ケタ台に突入。
まあ、斜め読みでポイしたのもずいぶんあったのだが。
これは「動物もの」かと思いきや、いつまでたっても犬が出てこない。
ここいらで思い切ってポイするかと思ったところで、「学歴のない犬」の
来歴が明かされ読み通せそう。

396ぺろぺろくん:2017/09/28(木) 20:13:57
◇西村寿行 『学歴のない犬〈下〉』

やめちまおうかと思ったら、そこでやめたほうがいいというのは何度経験しても
身に沁みないもんだ。
89年の作品だけに、もう時代的なリアリティから見放されている。時系列もシ
リーズもバラバラに乱読してるだけなのだが、神通力が通用していたのは80年
代前半までだったのかな。
しかしこれは、96年の文庫で12版と意外に売れていたのに驚き。
気になって、若い人がこれを読んだらどう感じるだろう?と検索してみたら笑った。

>西村さん、初読み。驚くぐらいつまらなかった。

今どきのサービス精神のゆきとどいたエンタメ作品に馴れているとそうだろう。

397ぺろぺろくん:2017/09/28(木) 21:04:37
◇青木正美 『古本屋群雄伝』

パチンコの開店まわりをやっていた30年前には、著者の店には毎月のように
足を延ばしていたが、最近はもう10年に一回程度になってしまった。
その度に変わらぬ佇まいに胸が熱くなるのだが、10冊以上の掘り出し物が見
つかってしまうのだから、仕入れの労には頭が下がる。
文庫500ページにも迫る大著で、付箋を30枚近く貼ってしまった。
ここに行ってみたかったなあと思う店は、自分が生まれる前になくなってしまっ
てた店だったりする。

398ぺろぺろくん:2017/09/30(土) 19:42:01
◇野村敏雄 『賭博放浪記』

モテモテのギャンブラーが、麻雀、トランプ、ルーレット、花札、競馬、果ては
選挙賭博にまで手を出して勝ちまくるという、たわいもないギャンブル小説。
1984年の本、いまでいえばライトノベルみたいなもんか。
当然パチンコも登場してくるのだが、手打ちの時代の話だろうが「パチン師」
なる呼称は耳にしたことがない。
84年には一年366日パチンコを打っていて、劇画マンガなどに封建的徒弟
制時代のようなパチプロが描かれていたが、その作者は気でもふれているので
はないかと思ったものだ。
まあ、でも10年違うと別世界だ。
モテモテの凄腕ギャンブラーというのも知らないわけではないが、それは手配
博奕の人たちで組の関係者ばかりだった。

399ぺろぺろくん:2017/09/30(土) 19:54:14
◇須永朝彦 『日本幻想文学全景』

ある程度は知っているジャンルだし、軽いおさらいのつもりで読み流すつもり
だったのだが、とんでもなかった。通読に一週間もかかってしまった。
「幻想文学」という呼び名は最近のものらしく、対立概念は「自然主義」とい
うことになるだろう。
想像力をもってして現実の超克を目指すという勇ましさより、その人の話を聞い
ていると現実がくだらなく思えてくるという毒を持った文学のこと。

400ぺろぺろくん:2017/10/01(日) 19:48:13
◇小林泰三 『玩具修理者』

表題作はずいぶん前に読んでいたのだが、併録の中編「酔歩する男」が未読だった。
というか、文章が熟れていないというか、あまりの稚拙さに投げてしまったのだ。
どちらかというとそっちの方が目当てだったのだが、98年あたりの本だが、その
ちょっと前に「桜庭章司のロボトミー殺人事件」刑が確定したこともあって、これ
ロボトミーものでは?と思ったもののただの出来の悪いタイムトラベラーだった。

こっちの方がずっと恐い。
「ロボトミー殺人事件」
http://www.maroon.dti.ne.jp/knight999/lobotomy.htm

401ぺろぺろくん:2017/10/02(月) 18:57:16
◇斎藤慎爾(編)『俳句殺人事件』

俳句をテーマにしたミステリーのアンソロジー。
蔵書の整理をしていたら、こんなの読んだっけ?と再読してみたところ、納得。
記憶が欠落していたのは、ホームランがないからだ。
このジャンルはこれといった決定打に欠けている。
印象深かったのも、実在の句にショート・ストーリーを付した企画物で、これは
作者が塚本邦雄と中井英夫だからまた別物。

>はんこ屋という秋風に近きもの【永末恵子 】

池上の駅前通りに、中州のように建っていたはんこ屋を思い出す。

402ぺろぺろくん:2017/10/02(月) 20:01:06
◇小林泰三 『肉食屋敷』

ちょっとひどいな。
ここまでひどいのは樋口毅弘ていうやつ以来だ。
デビュー作からしてトホホだったが、輪をかけてひどくなっている。

403ぺろぺろくん:2017/10/03(火) 20:47:14
ラスベガスの銃乱射事件の報道をみて、西村寿行の短篇「狂った夏」を
思い起こした人もいるのではないか?
山村の音楽フェスに詰めかけるヒッピーどもを呪った男が、猛毒を持った
毒蛾を飼育して、ライブ会場に向けて放つ話だ。

◇中島らも 『さかだち日記』

「酒断ち日記」で、日々の備忘録以上の内容ではない。
巻頭の野坂昭如とのアル中対談のみが読みどころ。
ビール・ワンケースなり日本酒一升程度の連日飲酒を約10年続けた時期が
あったが、結局25年前と今の体重は変わらない。
だから、ぶっ殺されない限り意外と長生きしちゃうんじゃないかと思う。

404ぺろぺろくん:2017/10/03(火) 21:20:46
◇木村 毅 『大衆文学十六講』

松本清張が『小説研究』のほうを絶賛していたのだが、そちらは高い本でしかお
目にかかったことがなく、こちらが目についたので入手しておいた。
大衆文学とは言っても、たいはんは岩波文庫にも入っているような海外の古典小説。
昭和8年に書かれたものだが、「探偵小説の展望」の章など現代のミステリーガイ
ドと比してもまったく違和感がない。
この読みやすさ、耐久性にすぐれた文章はお手本にしたくなる。

405ぺろぺろくん:2017/10/04(水) 20:50:09
◇中島らも 『中島らものたまらん人々』

さがしてた「らも」の山にようやくぶつかって、気がついたら自分も「らも」の死んだ
歳になっていたんだなあ。
これはずいぶん若い頃の作で著者のアル中時代だけあって、ギャグを利かせようと知る
ところは今となってはお寒いもので、冷めているところは今でいう宮沢章夫風で面白い。
一例を挙げると、

>タバコを値切っている人というのを俺はみたことがある。

>何か面白いビデオ持ってたら貸してよ、とたのんでみたところ、洋画のビデオだった
>らたくさんあるという。
>そんなんやなくて、ポルノかなんかないの?
>と、僕が言うと、彼女はキッとなって僕をにらみ
>「そんなもんかけたらビデオがイタむ」と、お答えになった。

406ぺろぺろくん:2017/10/06(金) 21:25:26
◇後藤明生 『笑坂』

いわゆる上級者向け作家というか、現代文学に特化した古本屋が店に置きたがる作家。
若いころに無理にして読んでる人もずいぶんいたが、そういうおいしくないことをす
る人は、やはりおいしくないツラをしていた。

>何故この3DKの中の生活が、このテレビの一時間よりも面白くないのだろう?
>しかし、そう思ったからといって、わたしはこの3DKの中の自分を生活を、面白
>おかしく変えたいとは、思わなかった。

いわゆる〈自同律の愉快〉、自分が自分であることが愉快で仕方がないという感覚を
会得してからでないとこの面白さは味わえない。
オウム真理教事件の関係者に後藤の読者が一人でもいたか?いなかっただろう。

407ぺろぺろくん:2017/10/07(土) 09:13:00
◇丸谷才一 『笹まくら』

一度読んでいるはずなのに、徴兵から逃げまわっている人の話程度の印象しか残っていな
くて、野坂昭如や米原万里が「完璧な小説」と絶賛しているのが気になっての再読。
果たして「完璧な小説」であった、……いまさらながら。
初読当時は自分はパチプロで「群衆の人」であった。
いまは群衆からも隔絶して、群衆との共通言語すら放棄した、百鬼夜行の世界に迷い込んだ
一つ目小僧ともいえる。
群衆の孤独はスローガンを生み出すが、自分と亡霊以外のなにも存在しない世界は対他的な
利用価値はゼロに等しく、これが小説的というものだろう。
「啓蒙的、正論的、メディア的」リア充という、ジョン・A・B・C・スミスさながらの亡骸が
フェイスブックやらインスタグラムには跋扈しているらしいが、ヒバゴンにしか見えない。
人間は放っておくと、啓蒙的で正論的で戦闘的という三悪に染まることになる。
だからこそ、小説という無用の産物が存在し続けるということでもある。

408ぺろぺろくん:2017/10/07(土) 09:52:09
◇中島らも 『変』

調子のいい時期だったようだ。
>「私って変なんですう」
>というような女の子を見ると、僕はそのまま段ボールにいれて国もとへ送り返し、
>「農家の嫁」にしてやりたくなる。

80年代だあ。歌舞伎町にも「明るい農村」という居酒屋があったな。

>「しかしねえ、せんずりもあんまりマニアックになってくると弊害がでてきますよ」
>「はあ、どういう」
>「自分の手を見ると興奮するようになってくる」
>「それはあるでしょうねえ。ビニールを見ると興奮する奴だっていますものねえ」

『チャート式 数IIB』をビニールにいれて、卑猥がってるやつがいたな。

409ぺろぺろくん:2017/10/08(日) 21:41:52
◇半村 良 『ぐい呑み―自選短篇集』

好みの作家の中に奇妙な共通項があって、家出女好きというのもそのひとつ。
ちょっと前に読んだキンセラの作品の中にも家出常習女が出てきて

>サニーはじっと一か所にとどまらないタイプの女なのだ。彼女がどんなデー
>モンと戦っているにせよ、それは一生の大半あちこち動き続けることを彼女
>に要求する。

>「わたしは猫より多くの命を持っているのよ」彼女はぼくの問いかけるよう
>な表情に答えていった。「たった今そのひとつを使いきったところなの。過
>去のことはもういいでしょう」

>彼女は家出してまた戻ってくる。そのたびにもう一度遠いところから送られ
>てきた家具のように微妙に変わってしまうんだ。

自分が家出をする側なので家出女のことはよくわからないが、数年空けて帰る
と同じような感覚になる。
一度遠いところから送られてきた家具とは、言い得て妙だ。

410ぺろぺろくん:2017/10/09(月) 19:27:44
◇岡 茂雄 『本屋風情』

いつもの古本屋本ではなくて、大正から昭和にかけて学術出版を手がけていた
社主の回想録。
どこまで学問をきわめたところで、性格の悪さはや女癖は治らないし、耄碌も
する。人品骨柄に接することなく、学術だけを享受できるのは幸せなことだ。
新村出氏のようなすぐれた人柄には、こうして書物で接することができる。
ソシュールの『一般言語学講義』が昭和3年に出ていたことには驚いた。
チョンコロやちゃんちゃん坊やをやっつけるだけが脳じゃなかったんだ!

411ぺろぺろくん:2017/10/09(月) 20:31:43
◇遠藤周作 (編)『現代ホラー傑作選1 それぞれの夜』

現代ホラーとはいっても、昭和文学の行儀の良い作品ばかり。
ホラーとは別の意味で恐かったのが三浦哲郎の「楕円形の故郷」。
金子光晴の「恋人よ。/たうとう僕は/あなたのうんこになりました。」
ではないが、あまりも何かを愛しすぎると人間とは違うものになってし
まう。

412ぺろぺろくん:2017/10/11(水) 09:52:19
◇佐藤 優 『功利主義者の読書術』

鈴木宗男事件に連座して長期拘留されたことで有名だが、結構な売れっ子になって
いるようだ。
「なにかのためにする読書は三文安い」と思っている自分とは真逆の人の読書談も
いいものかと読んでみたが、なんだか同じようなものを読んでいる。
宇野弘蔵の重要性を教えられたのが収穫かな。
5年違うとかなり違うもので、子供のころに工事で土砂山ができるとその山頂をめ
ぐって、なんだかごっこが始まるのは常のことだ。
それは著者の世代だと、「全学連VS機動隊ごっこ」だったという。
物騒でいいではないか。
自分らの世代だと、せいぜい仮面ライダーごっこだったり、怪獣ごっこのシチュエー
ションでしかなかったが、「全学連VS機動隊」は聞いたことすらなかった。

413ぺろぺろくん:2017/10/12(木) 19:54:02
◇山下 清 『日本ぶらりぶらり』

「裸の大将」の放浪記。
徳川無声らにそそのかされて、浅草のストリップに連れこまれたところが面白い。

>ぼくはこんな大人のストリップよりの小学生ぐらいの女の子のストリップが見たい。
>小学生のストリップは珍しいし、おもしろいだろうがなぜやらないのだろう。法律
>でいけないことになっているのかな。ぼくはまだおちちの大きくならない子どもの
>ストリップがあったら、毎日みにゆきたい。小学生のはだかのおどりをなんとかし
>てみたいものだ。そのほうが商ばいのストリップよりも、きっとおもしろいにちが
>いないと思います。

性欲が欠落しているため、ロリコンというのではない。
おとなの女の裸は目の当たりにすると、バツが悪い。
それが一方的な欲情となるのは、食いこんでいるとか、透けているとか日常性の侵食
であったり、元有名アイドルが、現役スッチーがといった降臨であったり、裸を衣裳
として記号化しているプロのストリッパーであるかだろう。
ここでいう「子どものストリップ」というのは、物語性を必要としない、欲情の対象
以前の、内在的な質感としての「裸体」をいうのだろうが、陵辱のストーリーとは別
種のエデンの園的な「裸体」感というのもあるだろう。

414ぺろぺろくん:2017/10/12(木) 20:36:35
◇荒俣 宏 『本朝幻想文学縁起』

新・騒音おばさん「小松徳子」の続報はなく、フェードアウトしてしまったようだが、
「マイラバ」をたれ流し、サバの味噌煮をぶちまけるという暴挙を仄聞して、

>宇宙全体の常態はごく一部のアブノーマルによって支えられている

と、思った人は、まあいないだろう。
しかし、鴎外の「雁」を連想した人は少なからずいたはずだ。
下宿の夕飯が「サバの味噌煮」だったために、図らずも友人の恋路を邪魔することに
なってしまった、というような話だったと思う。
トランプという人にもうちょっと洒落っ気があったら、平壌は「サバの味噌煮」で埋め
つくされて、イスラム国には「豚足」の雨が降ったと思う。
安部さんとかいう人がのさばるようになってから、それ以前からそうなんだろうけど、
現実の稚拙さが露呈されてきた。
そこで、こうやって幻想文学のおさらいをしているわけだ。

415ぺろぺろくん:2017/10/13(金) 19:36:02
◇村上春樹 『職業としての小説家』

自伝的エッセーだけに、使い回しのネタがあまりにも多い。
『E・T』という映画は上映館には20回ぐらい入っているのだが、まったく
観たことがない。
というのは、映画館が寝泊まりの場であったからだ。
だから、こんな有益なシーンがあったことも見逃していた。
E・Tが物置から雨傘とか電気スタンドだとか食器だとかレコード・プレーヤー
だとかのがらくたをひっかき集めてきて即席でありながら本格的な通信機器を作
り上げてしまう。
小説を書くというのはそういうことではないかと、村上は指摘している。
たしかにその通りで、やたらと難しい漢字や古語や観念を操作するのは、暴走族や
変態さんのセンスに通じるものだろう。

416ぺろぺろくん:2017/10/13(金) 20:44:20
◇高橋克彦 『眠らない少女 高橋克彦自薦短編集』

著者には致命的な甘さがあって、そこで好悪の分かれるところだろうが、なんかの
選評で石川淳の語っていた「未完成の部分がある」、そこを敢えて埋め合わせよう
とはしない意地とみる。
ナイーブの敵と目されることも多い自分だが、意外と甘かったりもする。

本格貧乏の消失は、昭和50年代前半かと思う。
本書の中にも、刈り入れの終わった田んぼに藁でこしらえたインディアンのテント
のような小屋を見つける。中に踏みこんでみると、真ん中に炉が切ってあって鍋が
グツグツと煮えていて、奥の方には赤いランドセルが置かれていた。
限界貧乏にはある種の運命があって、裕福に耐えられない貧乏には犯罪性がある。

417ぺろぺろくん:2017/10/14(土) 21:31:05
◇都筑道夫 『きまぐれ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ』

今年の初めあたりに、カバンに放り込んであったものを読了。
このシリーズ10冊ちょっとあるけど、ちょうど半分くらい読んだか。
月に数回程度使うカバンに放り込んでおくのにちょうどいい。
一気読みよりも、細く長く付き合いたいシリーズ。

418ぺろぺろくん:2017/10/15(日) 20:09:35
未読のホラー的要素の強い本をひとかたまりにまとめてみたら、300冊近く
あるじゃないか……どうすんだ?

◇小林恭二 『したたるものにつけられて―自選恐怖小説集』

基本的に純文学の人だから、ホラーといっても不条理小説になってしまう。
そしてまたそれが、抜群に面白い。

419ぺろぺろくん:2017/10/15(日) 20:45:57
◇吉田健一 『怪奇な話』

霊感が強かったり、霊を見る人たちは可愛い子が多い。
当然のことだ。ひとりでいることに耐え難く、目に見えるものに全幅の信頼を置い
ていて、頭の回転の速い子たちだからだ。
一方、自分自身の中に霊をかこっている人たちは、何年も人と口をきかなくても、
ひとりの部屋で自分以外の声が聞こえても、それが人為的なものでなければ何とも
思わない。
社交外生命体とでもいうのか、こういう心性の持ち主は
>生活そんなものは召使いにまかせておけ!
というリラダンの台詞に、早い時期に感化された人が多いようだ。
ドストエフスキーとか、リラダンなんていうのは分別がつく前に読まないと意味が
ないんじゃないかとも思う。

420ぺろぺろくん:2017/10/16(月) 20:57:24
◇森 雅裕 『あした、カルメン通りで』

85年の乱歩賞で東野圭吾との同時受賞によって明暗を分かつことになったが、
受賞当時の評価は森さんのほうが圧倒的に上だった。
解説の松村栄子さんも語っているが、当時は日本全体が芸術の空気に憧れていたと
いうこともあって森さんへの期待は大きかった。
その後も『さよならは2Bの鉛筆』あたりまでは読んでいたが、その後は例によっ
ての積ん読。この際だから、どの辺からつまらなくなったのかを見極めてみようかと。
デビュー当初から版元との折り合いが悪くて、常にもめていたようだ。
森さんもしんどかったろうし、講談社もよく我慢して6冊も出してたし、読んでる
ほうも辛かったな。
殺人事件が起きるわけでもないのにハードボイルド風のスケッチ頻出して、戸惑う。
それが魅力でもあり、版元との騒動の一因でもある“くそシリアス”という一面が
作品を曇らせている。

421ぺろぺろくん:2017/10/17(火) 15:55:40
◇平井呈一編 『怪奇小説傑作集 1 』 (創元推理文庫)

海外の怪奇小説は意外と読んでいなくて、超有名作揃いなのだろうが、
半分ぐらいは初読だった。
イギリスの御三家は、やはりすごい。
なかでもアーサー・マッケンの「パンの大神」は時と所を変え、今でも
繰り返し変奏され続けている。
近いところでは、宮部みゆきの『火車』がそう。
虐げられて育った女が魔性化して、人を破滅させてまわるお話。

422ぺろぺろくん:2017/10/17(火) 20:34:48
◇森 雅裕 『会津斬鉄風』

幕末を舞台にした連作短編集。
くそシリアスな作風と時代がマッチして快作だが、相変わらずミステリー仕立て
を要求されて苦心しているところもうかがえる。
つくづく乱歩賞で出たのが災いしたようだ。

423ぺろぺろくん:2017/10/17(火) 21:34:42
◇富岡多恵子 『当世凡人伝』

かなり定評のある短篇集で、一度読んでいるのだが未読のままの文庫本が出て
来たので読み直したところ、やはり名作だった。
「リア充」という言葉の衝撃は何度かここでも書いたことがあるが、「リアルは
不幸であたりまえ」という共通認識がないと共有されない用語だからだ。
不遇を蹴散らすだけの活力さえも無効化させる階層社会が眼前に立ちはだかって
いるのか、ただの欠食児童が口の利き方だけが一人前なのかはわからない。
人間のバランス感覚として当然あるはずなのは、こういうことである。

>人間は幸福になるのが当たり前であって、不幸におぼれ、不幸に陶酔してはな
>らないのだ。

こういった当たり前のことを語れるのが小説かもしれない。

424ぺろぺろくん:2017/10/20(金) 20:01:16
◇吉行淳之介 『原色の街・驟雨』

煽り運転の石橋容疑者はじめ、世間もようやくパーゴリ狩りの醍醐味に目覚めたようだ。
パーゴリを怒らせて、できることならオレをぶちのめしてやりたいとか思ってるだろう。
でもな、オレに手を上げるとただじゃすまないぜ!オレのバックには水野がついてっか
らよお!!、とかやるのが大好きだ。
吉行さんもパーゴリが大好きで、内田裕也をとっつかまえて
>きみ、歌うまいんだってねえ、あれやってよ、ナタリ〜ってやつ。
>アレー、きみ怒ったの、でもねきみ、きみがオレを殴るとオレ死んじゃうよ……。
>オレ病人だから。
いい大人のやることじゃないが、大人になったからといって、稚拙プレーから解放される
わけじゃなくて、意志でやらないか、やるかの違いだけなのだ。
これが純文学なんだと意識して読んだのは、吉行作品が初めてだったと思う。
ドストエフスキー、ヘミングウェイ、三島由紀夫も風俗的関心からだった。
しかし30数年ぶりに読み返してみると、巨大な勘違いをしていたことに気がついた。
娼婦と縄のれんをくぐって、コップ酒片手に蟹をほじくるというのをある種の文学的シーン
と認識していたのだが、縄のれんをくぐったのは一人でだった。
ちょっと過去を振り返ると恥ずかしいことが山のように出てくるが、この小っ恥ずかしさこ
そが自分だろう。

425ぺろぺろくん:2017/10/20(金) 20:59:39
◇安部公房 『カーブの向こう・ユープケッチャ』

小六年の時にS・カルマ氏にまったく相手にされなくて、中二になって読んでみたら
わかった気になるのが中二病である。

>この電話番号が、どこかでぼくの過去につながっていることだけは、たしかなのだ
>から、そこがつきとめられれば、しぜん過去への通路も開けてくるにちがいない。
>逃げ出した記憶がおかした、唯一の失敗だ。どんなものにも、完全などということ
>はありえないのだ……。

どこかの誰かが、こんな電話をかけてくるのかもしれないと思うのも中二病だ。
要するに、世間の人間関係というものが謎としか理解できないのが中二病で、それを
疑似体験させてくれるのが安部文学ともいえる。

426ぺろぺろくん:2017/10/21(土) 21:02:36
◇森 雅裕 『流星刀の女たち』

地口やユーモアに独自性があるわけでもなく、テンポで読ませるタイプの
作家は才能の涸渇が早いのかも知れない。
ちょっと悲惨で読んでいられなかった。
この内容でも出していたのだから、講談社との確執云々以前に純粋に作品
の質の問題だろう。

427ぺろぺろくん:2017/10/22(日) 19:40:39
◇半村 良 『女帖』

半村良の酒場人情ものは、シャランQの読み物版みたいなものだったのだろう。
水商売の男女だから、色恋に大はしゃぎしたりすることはない。
それでも時として、タガが外れてしまうことはあって

>インポだの短小だのとひどい罵りかたをした挙句、
>「シモヤケのほうがまだましよ」

なんでシモヤケかというと、
>「シモヤケを掻くと気持ちいいんだもの」

428ぺろぺろくん:2017/10/22(日) 21:06:02
◇森 敦 『月山・鳥海山』

昭和を代表する小説とか、印象に残る芥川賞作品ということになると必ず
上位にランクインする名作。
また、文学を必要としない者にとっては全くの不要品。
十年に一度は読み直したいものだが、じつは三十年で二度目。
毎年読み返したい。

429ぺろぺろくん:2017/10/24(火) 21:25:29
◇色川武大 『百』

今の若い人で阿佐田哲也ではなく色川武大の読者は存在しているのか?と検索してみた
ところ、伊集院静の『いねむり先生』経由で発生しているのがうれしかった。

なにが少数派かといって、アンチ経済成長派ほど少数派はないだろう。
経済なんてもんはとっとと破綻して、手元に残ったちっとも優れていない大部分の持
ち物に対して

>「どうにも、しょうがないね」
>「しょうがないんだ」

ふっ、と嗤いながら、人間性を回復していくしないだろう。

430ぺろぺろくん:2017/10/25(水) 20:08:13
◇『笙野頼子三冠小説集』

90年代前半に、芥川賞、三島賞、野間文芸新人賞を総ナメにした3作を所収。
リアルタイムで読んで感心したことは覚えてはいても、内容はまったく覚えて
いなかった。
身近な所には笙野頼子の読者を公言する者はいないが、結構読んでいたりする。
人に勧めるものではなくて、自分で辿りつくものなのだろう。
唯一内容を覚えていたのは「タイムズリップ・コンビナート」だが、「男女7
人秋物語」のロケ地にも、ここだとは知らなかった。
ラスト近くのこんな描写が泣かす。

>電車が走り出すと、振り返って大きな表示を見落としていたことに気付いたの
>だった。東芝工場の壁の文字だ。工場と二十一世紀に向かって限りなく前進し
>よう、と書いてあった。

431ぺろぺろくん:2017/10/28(土) 19:02:57
◇吉行淳之介 『悪友のすすめ』

昭和40年代の終わり頃、吉行50歳のときに雑誌連載された交友録。
こんなものを今どき読むのはよっぽどの物好きだが、結構拾いものがあったりする。

>バタフライを着けないと警察の手入れを食うという時代に、
>『全スト!!』
>と大々的に看板を出して、何をやったかといえば、五歳の女の子を素っ裸にして舞台
>に出した。全ストにはちがいないわけだが、客は全然笑わないで、逆に怒ったという。

大人の女の裸に飢えていた時代だったのだ。
>全然笑わないで、逆に怒ったという。
ほどに。まあ、今だったら逆に変態さん大喜びだろうが。
振り返ってみれば、昭和50年代の初めあたりまでは、子供の裸がノーカットで載った本
が大っぴらに一般書店で数百円で売られていた。

432ぺろぺろくん:2017/10/28(土) 19:40:28
◇田中小実昌 『かぶりつき人生』

ストリップ小屋の小間使い、香具師、辻占い師といった遍歴時代を綴った処女作。
またここでも消えてなくなる女の話が目に止まった。

>チュウを飲むと、よく勝ちゃんがはなしてたが、勝ちゃんの前の女房は、とても
>きれいだったが、毎年、夏になると(春さきとはちがう)頭の調子がくるい、フラ
>フラッとどこかにいってしまったらしい。そして、ある夏、いったきり、とうとう
>帰ってこなくなったんだそうだ。

>そのうち、あきみがいなくなった。もともとかげがうすいというより、かげだけあって
>実のほうがないみたいな娘で、空気のなかにとけこんだような、静かな消えかただった。

433ぺろぺろくん:2017/10/31(火) 19:34:53
◇『島田雅彦芥川賞落選作全集 (下)』

島田作品をリアルタイムで読んでいたのは「未確認尾行物体」までで、以後は
「彼岸先生」を読んだきりになっている。
しかし読み返してみると、「ぼくは模像人間」は極め付けの傑作だ。
89年のリアルタイムで読んでいないとインパクトは弱くなるのだが、その真
の衝撃は三年後にやってきたという先見性以上に、
>人生はドラマを破壊するドラマである
ということまで予見していた傑作ある。
ポコチンは人生を破壊する。
そういう事件が実際に起こったのだ。

【浦和・高校教師夫妻による息子刺殺事件】
http://yabusaka.moo.jp/urawamusuko.htm

その息子が「模倣人間」を読んでいたかどうかは知らないが、恐らく読んでいな
かったであろう。
セックスなんかできなくても、ウンコをすればいいと著者は訴えているのだから。
文学の同時代性が確認できた最後のときになるかも知れない。

434ぺろぺろくん:2017/11/02(木) 21:00:15
◇久世光彦 『触れもせで―向田邦子との二十年』

再燃ブームのやむことがない向田作品だが、じつはTVドラマで風吹ジュンの出てた
『阿修羅のごとく』を見ただけで、まとまった文芸作品は読んだことがない。
目利きの山本夏彦が
>突然あらわれて、ほとんど名人である
と評しているのを目にした久世は、
>私はふと向田さんがどこかへ行ってしまいそうな、そんな寂しい予感が少しだけした
ある種の純粋な才能には、突然現れて突然消えてしまう無常を迫ってくるものがあって、
自分も敬して遠ざけてきたところはあったと思う。
向田さんは、死ぬまでソープや遊郭の存在を理解できなかったという。
真の才能には、自身の感受性を傷つけるものが目に入らない才も併せ持つものである。
二十歳を過ぎるまで鶯谷のラブホテルの用途を理解していなくて、深夜の作業を終えた
美術関係者が泊まるところだと思っていた女性を知っているが、やはり世評は高かった。
そのほうが人間は幸福なのだから、当然と言えば当然だ。

435ぺろぺろくん:2017/11/03(金) 21:03:02
◇久世光彦 『マイ・ラスト・ソング―あなたは最後に何を聴きたいか』

久世さんの過剰なセンチメンタリズムが爆発する、音楽エッセイ集。
職業的なライターとしては、炎上商法は別としても、音楽を媒介にして友好を
はかることは難しい。
それは観念的で、露悪的に、排他的になものになりやすいからだ。
自分の祖母は中森明菜のお父さんの肉屋さんの常連で、見たことはなかったか
どういうアイドルかは察しはついていた。向かいの姉さんの学友は浅野温子で、
従兄弟の友達は演歌歌手、同級生の学友は尾崎豊。
>不幸と美しさを見境なく身につけている
そういうタイプばかりがスターになっていった。
それが学年が一つ二つ違うだけで、近所の高校に「おニャン子クラブ」のメンバー
がいるという世代になってしまい、アイドル観がまったく違ってしまう。
一気に読むにはちょっと辛いが、感傷的音楽エッセイの限界点を示した好著。

436ぺろぺろくん:2017/11/05(日) 20:42:05
◇藤森照信, 増田彰久 『建築探偵 東奔西走』

ロフト付き六畳のワンルームに、各部位ごとにクーラーボックスに区分けされた
遺体が九つて、ちょっと想像してみただけでもトラウマになる。
ここで扱われている物件はそれとは真逆の、主に明治の洋館。
豪邸、監獄、教会、大学、銭湯といった名建築。
遺体をバラバラにてクーラーボックスに収納しなくてしなくても、いくらでも置
いておける。
白石の事件は公共放送では、ひとり山岳ベース事件とも和製ジェフリー・ダーマー
とも喧伝されないが、ある程度の年代の人はそう思うだろう。
津久井のひとりで19人殺しもそうだが、やはり数には説得力がある。
そんな庶民レベルの「数の一般概念」を凌駕してしまう建築というものもある。

437うさぎ:2017/11/06(月) 01:09:10
http://ssks.jp/url/?id=1451

438ぺろぺろくん:2017/11/08(水) 21:17:38
◇村田 基 『恐怖の日常』

文庫帯には「新しき時代のための恐怖」とあるが、初出は30年前なの
ですでに古典の佇まいすらかもし出している。
その後のホラーの王道となる作法がふんだんに列挙されていて、当時と
してはかなりレベルの高い短篇集だっただろう。
しかし、ここ二十年ばかりは不遇をかこって、発表の場がないようだ。
いかんせん暗黒面が浅いというのがウィークポイントだったのかも知れない。
作者名で検索すると、魚釣りのプロが出てきてしまうのがチャーミング。
ご本人は時事ネタブログをやっているが、電波系になりきれない、おやじ
の小言ブログと化していて、歳を取るとつまらなくなるものだという宿命
を痛感させられる。

439ぺろぺろくん:2017/11/10(金) 21:05:51
◇車谷長吉 『妖談』

あまり妖しい話はなくて、その大半はヘテロセクシャル・ドリーミングを呪った話。
そんなものを呪うのはそれはそれで妖しいが、そんなものを呪ってどうするんだ?
と思ってしまったとき、もう車谷文学の世界には入れてもらえなくなる。
人間の愚かさというものは、常人の分別をはるかに越えたものであり、「自殺」と
いう究極的に個人的な選択をすら、誰かと共有したがるほどに愚かなのだ。
車谷長吉はいつからつまらなくなったのか?ではなく、どうして自分は必要としなく
なったのか?ということだ。
車谷の最も嫌う自尊心、虚栄心、劣等感の強い高学歴プチブル家庭出身のアホ女と、
自殺常習男とはどこか共通点があるのだ。

440ぺろぺろくん:2017/11/10(金) 21:29:56
◇小山清 『落穂拾い・犬の生活』

太宰治の弟子でも、師の墓の前で自殺をした田中英光とは対照的な弟子。
また車谷以上に悲惨な境遇にもかかわらず、いい人しか出てこない小説を書いた人。
小山の亡くなった1965年は、自分の生まれた年でもあり、大物作家物故の当たり年
で、大坪砂男、高見順、江戸川乱歩、谷崎潤一郎、中勘助、山川方夫とあって、小山の
名は挙がっていない。
決していい人しか出てこないわけではなくて、
>鬼の念仏とか鬼瓦とかいうやつはよく見ると、恐くもなんともないのだ。かれらには
>人間に見かけるような悪相がない。むしろ人間を恐怖するあまりにあんな顔つきになっ
>てしまったのだ。
今生は恐ろしいもので溢れかえっているから、書かないのだ。

441ぺろぺろくん:2017/11/14(火) 21:28:26
◇車谷長吉 『忌中』

2003年のものだが、もうこの時点で車谷は出がらしになっていたのがわかる。
アトラクションという用語が定着したのはいつ頃なのだろうか?車谷は、純文学の
アトラクション化に初めて成功した作家として記されることになるだろう。
九人殺しの白石を見ていると、マネーの時代は終わったのがよくわかる。
金銭目的というのはリップサービスで、「闇の力」に負けましたというのが正しい。
本能的な殺人者にとっては、名大の殺人女子大生にしてもそうだが、もう「闇の力」
に抗えない時代がやってきた。
その「闇の力」というのを対象化したのは、若き日の車谷だった。

>。俊夫叔父がくれたアメリカ合衆国一弗銀貨を手にした時の喜びは、「大きいおば
>あちゃん。」がくれる5円玉の比ではなかった。近所の年上の女の子にそれを見せ
>ると、いきなり、
>「くれ、くれ、くれッ。」
>と叫んで近寄って来、平手打ちを喰わされて取りあげられた。銀貨の美しい輝き、
>それは闇の力だった。私が見せびらかしたのも、女の子が悲鳴を上げたのも、その
>闇の力の輝きがさせたのだ。

経済が殺人者の後押しをする貧しい殺人も、理念に基づいた殺人も結局は同じことにな
るのは、宿命的貧乏も選択的貧乏も変わりがないのと似ている。

442ぺろぺろくん:2017/11/16(木) 21:37:15
◇吉行淳之介 『鬱の一年』

昭和53年の文庫エッセイ集。
>高見順氏の小説の一節に、
>「街角にある赤い電話というのは、ロマンチックでいいものだ」
>という意味のことがあって、同感した。
考えてみると、現役の赤電話の設置場所は思いつかなくなっている。
うちに近くのコンビニ脇に設置されている緑色の裸公衆電話は利用者が限定
されていて、車椅子横付けおやじ、マスクマン、シケモク婆さんといった面々
で、ロマンチックというより、マジカルミステリーツアーの様相だ。
公衆電話の利用者が世相を映すという面もあるだろうが、はたしてそれはどう
いう世相なのだろうか。

443ぺろぺろくん:2017/11/30(木) 20:10:33
すっかり遠のいてしまったが、資料を読むのに忙しくて純粋な読書をしていませんで
した。

◇タッカー・コウ 『刑事くずれ/ヒッピー殺し』

グリニッジ・ヴィレッジ、ヒッピー、新興宗教、ヘロインと、妖しさ満点の道具立て
にも関わらず、淡々と静かにストーリーが進行していく。かえってこの静けさが不気
味なのだが、最後には、グロテスクなロマンチストの像が明かされる。思いつくうち
の最も堕落している行為に対する欲望に掻き立てられる時期、たしかにそういう時期
がある。そういう時期があった。
時代が時代なだけに牧歌的で、大味なところはあるが、今のもうちょっと洗練された
グロテスクなロマンチストを書いてみたくなる。

444ぺろぺろくん:2017/12/11(月) 20:17:40
◇石田 千 『役たたず』

・ひとり暮らしの仮住まいは、気ままとひきかえに聖地をつくる幸福を手放している。
・お金で買えない豊かさには、めんどうな手間がかかる。
・役にたたないと切り捨てる。それは、ほんのいまにだけ有効な手段で、日々の生活や
 人生にはあてはまらない。

と、まっとうな感性の人と過ごす時間はとても有意義だ。
コジキばっかりやってると、品性までコジキになるから、しっかり本も読もう。

445ぺろぺろくん:2017/12/15(金) 21:32:15
◇永田守弘 『官能小説の奥義』

著者は1933年生まれということだから、84歳か。
その名著、『官能小説用語表現辞典』は机の下に常備しているが、まとまった
著作を読むのは初めて。
ひとことで言ってしまえば、「ビニ本の世界」。ビニ本丸出し。
浜崎あゆみ以降の、官能表現は見当たらなかった。
あの舐めたらマズそうなツラを舐めたら……。
本当に不味くてガッカリしたとか、いや、意外なことに、もちろんそういう官能
小説はあるのだろうが、ここでは触れられていない。
個人的には、セックスがいかにも不味なそうの先を描くところに、今日的な官能
小説のリアリティがあることを力説してきたが、取り合ってはもらえなかった。
まあ、セックスに夢をみたいのだろう。
でも現実的には、山尾さんやら、斉藤由貴、今日は藤谷か、それに松居。
ゲロを吐いてしまいそうな人のセックスばかりが注目を集めているではないか。
でもよく考えてみれば、セックス・ディストピア小説は官能小説ではなくて、純
文学なんだな。
いま某所のチャット・ワークで官能小説のプロジェクトを進めているのだが、どう
も波長が合わない。
買い取りを拒否されて一般公開になった際には、ここでも告知いたします。

446ぺろぺろくん:2017/12/31(日) 22:10:40
◇豊崎由美 『ニッポンの書評』

学術的なものではなくて、ネットに溢れる「素人書評」批判。
すごい書評をいくつか読めたのは収穫だが、ゴミ書評めった斬りをやり
たかったようだが、ストップがかかったみたい。
個人的には、書評対象とは全く関係のない話を書いていながら、それが
結果的に書評になってしまっているというのが理想だが、それは名人芸
の域だろう。
これまでに読んだ中での最高の書評は、狩猟、射撃、釣の雑誌『野原と
渓流』というイギリスの雑誌に出たもので、
「かたっぱしから払いのける面倒さえいとわなければ、『チャタレイ夫
人の恋人』は、ミッドランドの森番の仕事を魅力的に描いて見せてくれ
るし、害虫駆除や、キジの育て方のヒントなどを教えてくれる……」
読みたいところだけを、読めばいいんだよね。

447ぺろぺろくん:2018/01/02(火) 17:44:47
◇東海林さだお 『東海林さだおの弁当箱』

文字通り文庫800ページも迫る弁当箱。
結局3年ほど枕元に置いてあったのをようやく読了。

448ぺろぺろくん:2018/01/02(火) 17:45:52
◇山本文緒 『恋愛中毒』

もう20年近くも前になるのか……。
編プロをやっている知人が、この作品を甚く気に入っていた。
その熱気に浮かされるように、買うだけはかったのだが、読み始めるのに
こんなに時間がかかってしまう。
今にして思えば彼がこの小説に入れ揚げていたのはよくわかる。
この作品の中の登場人物が彼に似ているのだ。
まじめな熱意を持った人というは、忘れらないものである。
この人は確かに上手い。
ストーカー女の嫌な話なのだが、途中まで全然気がつかなかった。
ある一線を越えた途端に別人格が顔を現すタイプがあることは知っていた。
それをかろやかにかわすのも甲斐性のうちと思っていたが、全然かわせてい
なかったのを十数年知らないでいたのには驚いた。

449でんでん:2018/01/17(水) 01:38:08
さっき名前入れるの忘れてた。↑はでんでんなのでした。ではでは。

450でんでん:2018/01/17(水) 01:54:42
す・すまん↑誤爆っす。

451ぺろぺろくん:2018/01/28(日) 19:54:35
インターネット缶拾いに忙しくて、読む時間が圧迫されているので、まとめて。

◇絲山秋子 『ばかもの』

豊崎の本で見た書評の、主人公のあまりのダメっぷりに惹かれて読んだのだが、
ダメにはダメな自意識が絡まないと、ただの風俗小説になっちゃうかな。
なぜかというと、ダメな人には限界がある。こういう風な
>ヒデの時間は今日と明日しかない。そして明日はいつもヒデを裏切ってまる
>で今日と同じ日なのだ。ヒデが昨日のことを覚えている必要はない。昨日は
>今現在の、まさにさいげんされているのだから。

452ぺろぺろくん:2018/01/28(日) 20:38:01
◇柳 広司 『ジョーカー・ゲーム』

09年だったのか、ずいぶん話題になってはいたスパイ・ミステリー
だが、ハズレ。
どこをどう評価されたのかは、今となっては謎。

453ぺろぺろくん:2018/01/28(日) 20:47:30
◇松本清張 『三面記事の女』

「密宗律仙教」が入っていたので、買ったのだが、やはりこれだけは
タイトルから逸脱しているようでいて、そうでもないか。
平安末期に誕生し、鎌倉時代に隆盛を迎えたセックス宗教立川流の再
興を計ったような新興宗教団体の話で、ほとんどミステリーになって
いない。
マスメディアの時代では、性は宗教に昇華することでしか共有できな
かったのだろうが、インターネットの時代でなら性を生臭いもののまま
共有することも可能だと思う。
P2Pとかの共有じゃなくて、観念的なものの共有ということでね。


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