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【個】『門倉姉弟の語り尽くせぬ四方山話』 第二話【ミ】
29
:
『ある種の異能は場所に憑く』
:2016/01/11(月) 01:42:45
運ばれてきた食べ物は美味しかったし、店の雰囲気によく合っていた。
―――が、極上品、というほどではない。
この店のウリはピアノを中心に醸し出される『雰囲気』なのだろう。
そして、それは少なくとも子供たちには大変、好評だったようだ。
子供たち、そして母親もよほどの事がない限り、この店に『投票』するだろう。
でもたぶん、 ・ ・ ・ ・ ・
このままじゃあ負けちゃうだろう、とも思う。
『繁華街』の夜の客層において、自分たちのような親子連れは例外的だ。
大抵は『右側のビル』のような店を求めて彷徨っている男たち。
そういう客層にこの『雰囲気』は、
『よほどインパクトのある更なるウリがなければ』、投票には至らないだろう。
もし、『客層』を選べるのだったら話は別だっただろうけど、と母親は思う。
もし『表通りでの勧誘』を事前に知っていたのなら、
女子大生とか親子連れとかをこの時間に来るよう、
『仕込んで』おけば随分と楽だっただろう。
もっとも、始まってしまった今、これはもう無理な話だし、
そもそもこの『ピュア』な店造りを見るに、
ここのオーナーはそういうグレーな行為が嫌いなタイプかもしれない。
そうでなければ、メイン客層である『男たち』にアピールする別口の方法………
『この店が男たちの役に立つ事を明確に伝える』事もいい手かもしれない。
『繁華街』のほかの店にはない『オンリーワン』の雰囲気を持つのは事実なのだ。
これを上手く使えれば………
………
「ママー、そろそろ行く?」
「となりにもいかなきゃ! なんでしょ?」
そんな他愛のない事を想像していたら、子供たちに急かされてしまう。
母親は苦笑して、レジで会計を済ます。
ほかの客はほとんど居ない。
この分だと、隣のビルを体験し終えた客が
順々に来て忙しくなるのはこれからか。
この『無料体験』と『投票』がどういう結果をもたらすかは知らないが―――
この店には残ってほしいものだ、と母親は心から思った。
―――娘がアイディアを描き連ねた『画用紙』を
席においてきたのに気付いたのは、
次の店に入った後だった。
まあしょうがない。
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