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【個】『門倉姉弟の語り尽くせぬ四方山話』 第二話【ミ】
28
:
『ある種の異能は場所に憑く』
:2016/01/11(月) 01:38:31
店員の『うさぎ』さんが小気味よくメニューの紹介をしてくれる。
メニュー表はないが……そういう趣向なのかもしれない。
話を聞くと、健康志向のカフェのような品目。
夜の店というより昼間のひと時を優雅に過ごせるような、
ランチに最適なお店なのかもしれない。
「わたしはオレンジジュースと『抹茶あんみつ』!」
「ぼくはぶどうのジュースとね、あとはこの『森の恵みサンド』ってやつ!」
子供たちが思い思いの品を頼む。
母親はワインでも嗜もうかとも思ったが、
子供もいるし、そういう雰囲気ではないみたいだし、
『スムージー』と『カレー』を頼む事にした。
………
「ねえねえ! ママ、あれ! あれ見てよ!」
注文を済ませてから少しして娘が騒がしくなる。
彼女が指摘するほうを向くと、どういう仕組みかは分からないが、
木の動物がちょこちょこと、まるで音楽にあわせるように動き回っているのが分かる。
「ねえママ! あのドーブツ、『もしゃ』していい?」
娘が颯爽とカバンからクレヨンと画用紙を取り出す。
母親は軽いため息混じりに許可する。
父親が『漫画家』を目指している事もあって、娘は絵を描くのが大好きだ。
いまのところ父親の漫画は一銭の金も生んでおらず、
母親としては複雑な心境ではあるが………。
若かりしあの頃、夢を追う彼を支えると意気込んで
水商売の世界に入ったのは自分なのだから仕方がない。
………
「怪獣がね、炎を吐くのね!バーってね!
それでアイスの小人を溶かそうとしちゃうの」
あらぬ物思いに耽ってる間には
娘と息子の中で妄想話がエスカレートしているようだ。
「怪獣かよー。じゃあ兵隊が来てバーンとやっつけちゃうよ」
「えー、それはかわいそうじゃない?」
「じゃあどうするんだよー。アイス溶かすんだろー」
「ええと、ええと、ええとね、お花の妖精が魔法でお花に変えちゃうとか?」
「ええー、なんだよーそれ」
娘が話に出たものを片っ端から絵にしている。
父親の血をひいているからか、娘の絵は同じ年頃の中でも上手い部類に入るだろう。
「………でも、『上手い』だけじゃあダメなんだよね」
まるで芽の出ない『漫画』たちの事を思い、母親はため息をつく。
どんなに努力しても、勝たなければ意味がないのだ。
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