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【ファンキル】SSスレPart3

884兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:27:35
「二秒後九時の方角から五匹! 十秒後に六時の方角から大型が一体にゃ!」
「了解しました」

 敵は全方位から押し寄せてきていた。アイムールの視界の外はシストルムが索敵し、時に魔弾で応戦してフォローする。

(鉄球が欲しい)

 徒手空拳の戦いでは群れ相手には非効率的だ。鉄球があれば薙ぎ払うようにして一掃できたのに。

「ガアアアアア!」

 子供たちが集まっている荷車に雄たけびを上げてオーガスケルトンの巨体が迫る。

「ガ、……ア?」

 その進撃がズボっという音で停止する。
 アイムールの鉄のように黒いプロテクターに覆われた腕がオーガスケルトンの胸を貫通していた。腕は自分で開けた穴の縁をがしっと掴み、そのまま力任せにオーガスケルトンを地面に叩きつける。
 衝撃で局所的な地鳴りが起き、荷車が大きく揺れた。

「あ……」

 勢いで荷物が飛び出し、それを追って身を乗り出してしまったマライカの体が宙を舞った。
 頭から地面に衝突しかけた時、その首根っこがぐいと持ち上げられる。

「アンタ……」
「舌を噛まぬよう口を閉じてください。投げます」

 ぶん、と下投げでマライカはボールのように放物線を描いて飛んだ。

「取ったにゃ!」

 そのパスをシストルムが空中で受け取り荷車の中にマライカを退避させる。

「ちょ、ちょっと!」

 荷車の奥からマライカがアイムールに向けて何か叫んだが、アイムールの方は反応せず魔獣の群れに再び飛び込んでいった。


 アイムールの戦い方は乱暴で力任せだった。
 蹴り上げ、殴打。時には敵をそのまま武器のように振り回したりもしていた。そのダイナミックな戦い方がむしろ子供にウケたらしく紙吹雪のように魔獣が吹き飛ぶたび荷車の中から歓声が上がる。
 だが暴れぶりに反して過度な攻撃はせず障害物を処理していくような機械的な調子で戦い続けるのでかなり早い段階で魔獣の群れは全滅していた。

「戦闘終了。残骸を力に還元します」

 辺りに散らばった魔獣たちの死体や肉片を炎が舐めとって、飲み込んでいく。
 炎は海のように一面に広がっていったが、とある大岩の影、この大乱戦の中奇跡的に一切の被害を受けなかった赤い花畑に差し掛かると、

「…………」

 炎はまるで躊躇うように震え、花畑を綺麗に避けて魔獣たちの消化作業に戻っていった。
 魔獣たちの死体が消えるごとにアイムールについた傷がどんどん治っていく。

「でも花は食べないことにしたのかにゃ?」

 シストルムが声をかけてきた。

「平気です。損傷の回復に必要なぶんは賄えました」
「キミも心ってやつがわかったってことかにゃあ」

 面白がるようなニヤニヤ笑いでシストルムが見つめてくるがアイムールの方もそこまで自分で自分の行動がはっきりわかっているわけではない。

「キレイはわかりかねますが。気が進みませんでした」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その夜、アイムールとシストルム一行は約束の場所近くまで到達しつつあった。
 先日アイムールが行き倒れ、武具を失ったという場所である。
 ここまで来ると魔獣の生息源からも離れているので襲撃もあまりなく、トレイセーマの国境にも近いのでアイムールが離脱してもシストルムの力だけで問題ないだろうとのことである。
 子供たちが簡易テントで寝ている間もアイムールは屋外で周囲を警戒していた。

885兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:28:26
「ねぇ……」

 背後から話しかけられ首だけ回してそちらを見る。俯きがちで申し訳なさそうにしているマライカの姿があった。

「何か」
「あの……助けてくれたでしょあたしのこと」
「あなたたちを護衛することがシストルムとの契約ですので」

 荷車から落ちた時のことを言っているのだろう。そう返すとマライカは少し不満そうに唇を尖らせた。

「……結局あたしのことも護衛対象としか思っていないんでしょ」
「どういう意味です?」
「なんでもないわよ!」

 ばっ、とマライカが砂を投げつけてきた。さすがに避けられずもろに喰らってしまう。

「今日はこの程度にしておいてあげるわ!」

 捨て台詞を吐いてどこかへ駆けて行った。髪についた砂を払いながらそれを見送っているとどこからともなくシストルムが現れる。

「汚されたにゃあ」
「シストルム。あの少女はこれで私を殺害できると思っているのでしょうか?」
「なわけないにゃ」
「はぁ」

 シストルムは地面にシートを広げそこに横になる。リラックスした風に見えるが見張りをする気があるのだろうか?

「そもそもあの子は人を殺せないにゃ。真っ当に育ってるからにゃ。ご両親がいい人だったんだろうにゃあ」
「真っ当……ですか」
「最初にキミを刺したのだって手違いみたいなもんにゃ。死に際を見ちゃった故郷の村人たちの怨念に引っ張られただけで、人を傷つけられるような子じゃないのにゃ」

 人を殺すのはボクらみたいな人でなしだけにゃ。とシストルムはまとめた。
 そこからしばらくお互い言葉を発さずに夜の地平線を見つめ続ける。

「この地帯に植生が見られないのはおそらく私のせいです」

 唐突に言葉を発したアイムールに眠りかけていたシストルムが、ん? と瞼を開く。

「私は死神。炎は冥界へと繋がっております。その炎で生命を捕食することで私は傷を癒し、力を得てきました。空腹時には森や泉をまるごと取り込んだこともございます」

 アイムールは整列する兵士のように直立の姿勢まま淡々と話していく。

「私がそうして命を根こそぎ奪った積み重ねがこの乾いた大地です。あらゆる命の存在が許されぬこの地帯は私が作ったのです」

 昼間のマライカの昔話で確信を得た。やはり全ての原因は自分にあったのだ。
 昔はこの辺りも緑豊かだったらしい。そして草木が減少していった時期はおそらく自分がこの土地に訪れた時期と一致する。
 アイムール自身の記憶にも訪れた当時はもう少し自然が豊かだった記憶がある。

「多くのイミテーションたちが村を捨てラグナロク王国を目指したのは単純に飢えが原因だったのでしょう。そしてそのイミテーションの多くを私は捕食いたしました」

 おそらく、マライカがいた村もそうだったのだろうと推察する。
 子供たちが寝ているテントの方へ目を向けた。

「私が原因を作る。そして私が命を摘み取る。これでは死神そのものです。いえ、私は斬ル姫。兵器なのですからこのあり方は正しいのでしょうが……」

 アイムールにしては珍しく言葉が整理できていない。結局言いたいことも尻切れトンボで止まってしまった。
 ずっと無言で聞いていたシストルムが起き上がり、どこからか竪琴のような楽器を取り出した。弦は金属でできていて、小銭のようなものが連なっている。
 シストルムがそれを振ると澄んだ音が辺りに響く。
 しゃん、しゃんと一定のリズムで楽器を振りながらシストルムは大きく跳ねた。そのまま踊りだす。
 自分の作るリズムに合わせて跳ね、腕をうねらせるさまは夜の闇も相まって幻想的。やがてとん、とん。と足先でテンポをとりながら揺れる体の勢いを殺しゆっくりと制止する。

886兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:28:56
「と、こんなもんかにゃ。どうだった?」
「なぜ突然跳ね始めたのです?」
「やり甲斐のないやつにゃ。地元ではこれでお金がもらえるのに」

 鳴らしていた竪琴のようなものの縁を指でなぞりながら、

「シストルムっていう楽器にゃ。ボクに獣刻されたバステトが持ってた楽器も……まあボクのキラーズにゃね。それもこんなんだったらしいにゃ」

 ほい。とアイムールへ楽器を手渡す。アイムールは二、三度それを振ってみたがじゃん、じゃん、と騒がしい音が鳴っただけだった。シストルムのようにうまく響かせるには何かコツがあるらしい。

「ボクは兵器だけど楽器にゃ。観察が得意だし人も殺せるし演奏もできるし踊りもできるにゃ」

 バステトは一説には血を好む戦闘神であったという。また『太陽の瞳』とも称され地上の監視のために送り込まれた観察者でもあった。さらに音楽の神でもあり演奏と踊りを好んだと伝説にはある。
 一つの性質では捉えられない。様々な顔の神なのだ。

「キミも兵器だけど心も手足もあるにゃ。ならきっとキミだって奪うだけじゃない。他のことだってできるはずにゃ。まずそれを見つけることから始めればいいんじゃないかにゃあ」
「奪う以外のこと……ですか」

 先ほどの行為の意味はアイムールにはまったくわからないが。何かを諭してくれたのだと気が付いた。何となく応えなければならぬという気持ちになる。
 不思議と、常に感じる乾きが薄れたような気がした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 朝日が昇る。
 瞼を突き刺す光を感じてアイムールは覚醒した。
 立ったまま寝ていた。
 いつものことだ。

「はい、みんな起きるにゃー。点呼開始―」

 子供たちの眠るテントの方でシストルムが声を張り上げている。彼女は思ったより早起きだ。
 イチ、二、参、よん。と口々に寝起きの声が聞こえてきた。毎朝こうしているらしい。

「ん?」

 点呼の途中でシストルムの声が停まる。

「一人足りないにゃ……」

 アイムールは雷速で振り返った。
 その先では子供たちの顔を素早く順繰りに確認していくシストルム。

「マライカにゃ。あの子がいない……」
「いかがいたしましょうか」
「アイムールはボクと捜索! キミたちはこの場で待機、ボクらが戻るまで絶対に移動しちゃダメにゃ!」

 尋ねられた後のシストルムの行動も速かった。弾けるように野営地の外へ飛び出していく。アイムールもその後を追った。

「キミは西へ、ボクは東を探すにゃ! 見つからなければ三十分後にここに戻る! いいにゃ!?」
「了解いたしました」

 叩きつけるように指示を飛ばすと、斬ル姫たちは一気に二手に分かれた。風のような速度で走る二人の距離はみるみるうちに離れていく。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 赤く照らされた大地。
 砂を踏みながら空を見上げると自分を干上がらせんとばかりに照り付ける太陽あった。陽光に照らされた額から汗がだらりと流れ落ちる。
 日陰はない。水場もない。
 乾きと熱が支配するこの土地に生命の気配はしなかった。
 これが煉獄。生命の存在を許さぬ領域。
 これが――――あの斬ル姫が作り出した景色か。

「……なにをやってるんだろうあたし」

 マライカは真夜中に野営地を飛び出して一人あてもなくただ歩いていた。
 あの日、アイムールと話した後、たまたま彼女の独白を聞いてしまったのだ。

(村の人たちが暮らせなくなったのも、殺されたのも、全部あの斬ル姫のせい……!)

 どこまでも続く地平線に向けて足を進めるごとに彼女との思い出が浮かんでくる。

 彼女を刺した時。それから刃物を持つと手が震えるようになった。
 彼女に凶器を返却された時。あの時は本当に彼女の言っている意味が分からなかった。
 彼女に気を使われた時。心底腹が立った。
 彼女に――助けられた時。

 それらはなんだか暑い日に見る蜃気楼のように曖昧で、もしかしたら短い夢か何かだったのではないかと思ってしまう。
 なんだか煮え切らない。
 本来の自分はこんなはずではなかったはずなのに。
故郷の仲間たちの仇を見つけたらすぐに復讐するはずではなかったのか。
おまけにようやく出会えた仇には存在を忘れられていて、しかも護衛対象としか見られていなくて――――。
それになんで今、あたしは彼女から逃げるようにふらふら歩いている?

(あの斬ル姫は、みんなの仇なのに……)

887兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:29:34
 何の悩みもなさそうに転がっている小石に無性に腹が立った。
 苛立ちのままに小石を掴んで投げる。
 落ちた地点まで追いかけて行ってまた拾って投げる。マライカはそれを何度も繰り返し続ける。
 いくらやっても気持ちは晴れず、代わりに薄ら寒い虚しさだけが胸を締め付けた。

「あれ?」

 小石に目を取られて気がつかなかったが、少し先の方に不思議な球体がある。
 近寄ってみると、それは無数のトゲの生えた大きな鉄球だった。長い鎖までついている。振り回して使うのだろうか。

「これって……」

 アイムールが探しているという武具だ。
 長いこと放置していたので砂を被って汚れているがアイムールが言っていた特徴に一致する。間違いはないと思う。
 マライカはそれをしばらく見つめて、

「これを奪えば、あの斬ル姫はあたしのこと敵として見るのかな……」

 独り言だ。本気で思ったわけじゃない。
 試しにチェーンを持ち上げてみたがその部分だけでも子供の手にはずしんと重く引っ張って移動などもできそうになかった。
 その時、辺りがすっと暗くなった。
 雲だろうかと思い空を見上げてみると、真上に翼を広げた鳥のようなものが羽ばたいている。逆光で吸い込まれるような黒一色だった影から――――人が飛び降りた。
 ライトブラウンの髪をたなびかせ華麗に着地したのは長身の女性だった。

「どうしたの? イミテーションの子供が一人で、こんなところで」

 透き通るような青い瞳がこちらを覗き込む。
 体のラインを強調するような白のボディスーツが目立つが、マライカの目に真っ先に飛び込んできたのは女性が持つ巨大なランスだった。
 女性自身の身の丈をも遥かに上回るその鎗を軽々と片手で扱っているその女性は間違いなく――――、

「斬、斬ル姫……!」
「そうよ! 名乗るのが遅れたわね。私はソロモン・聖鎖・アテナ! 上で飛んでいるのはグラウよ!」
「あ、あ……」

 やけにハキハキした声で名乗りを上げたソロモンと名乗る女性は。真面目そうな顔で相手の反応を待っている。
 マライカの方は、既に背筋が寒くなって歯の根が合わなくなっていた。

(ヤバい、……ヤバいよこれ。どうすんのこれ)

 聖鎖、というのはハルモニアで使われるギアハックの名称だった。どうやら自分はハルモニアの斬ル姫と出会ってしまったらしい。シストルムと過ごしていることで慣れてしまっている自分がいたが、基本的に斬ル姫は何をしてくるかわからない恐怖の対象だった。
 嫌だ。逃げたい。怖い。怖い、怖い。

「ねぇ、ちょっとどうしたの?」

 ソロモンがこちらに手を伸ばしてきて、少女の混乱と焦りは臨界点を越えた。

「う、うわああああああああ!」

 腰が抜けた。すとん、と腰が落ちて地面に座り込んでしまう。焦りと混乱で足が震えるばかりで少しも動かない。掌だけが地面を無意味に撫でる。
 目の前ではソロモンが不思議そうに首を傾げていた。その様子を少し落ち着いて見ることができれば敵意など欠片も持っていないことがわかっただろう。だが怯え切った少女にはそれもわからなかった。ただ唇が勝手に動いていた。

「助けて」

 と。
 次の瞬間、

「きゃっ!?」

 ソロモンの胴体に、アイムールの飛び蹴りが叩きこまれていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そのまま走りなさい」

 アイムールはマライカの首根っこを掴み上げやや雑にその体を背後へ移動させた。そして地面に転がしてある鉄球の鎖をおもむろに拾い上げる。

「私の武具を探すために一人抜け出したのですね……!」
「そんなんじゃないから」
「そうなんですか……」

 やや感激気味なアイムールの勘違い発言を即刻訂正する。その後、促されるままにマライカは逃げた。緊張による体の麻痺はアイムールとの抜けたやり取りでいつの間にかほぐれていた。

「誰かな貴方は」

ソロモンはアイムールの体重を乗せた蹴りによって一旦は空中に吹き飛ばされたが空中で器用に一回転して着地していた。
 それなりに力を込めたはずだが無傷らしい。ダメージを一定値耐えるようなスキルを持っているのかもしれない。

「私はソロモン・聖鎖・アテナよ」
「私はアイムール・D. plug・モートです」

 雰囲気を戦闘に切り替えてソロモンは長いランスを構える。それでもやや当惑があるらしい。

「もしかして貴方は今その子を私から守ろうとしたの? だとしたら私たちには戦う理由はないんじゃない? 私はその子に危害を加えるつもりはないの!」
「そうでしょうか。ではあなたの目的を聞きましょう」

 用心深く腰を沈めながらアイムールは尋ね返す。ソロモンは背筋を正してきっぱり正直に答えた。

888兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:30:04
「私はティルヘルムの監視のためハルモニアから派遣された斬ル姫で……」
「捕食対象を確認。これより戦闘を開始します」
「なんで!?」

 凄まじい速度で横薙ぎに振るわれた鉄球を上半身をスウェーさせることでソロモンは回避、さらにバッグステップで距離を取る。
 鉄球はアイムールが扱うことにより炎のマナを帯びており顔を掠めただけで肌が火傷しそうだった。

「私に下された命令は、ラグナロク王国へ近づく者を殲滅することです」
「っ、戦うしか!」

 ソロモンが意を決した様子で踏み込んでランスを一閃する。それをアイムールはチェーンを巻き付けた腕で受け止めた。

「そこっ!」

 受け止めた途端、ソロモンの回し蹴りが胸元に炸裂。アイムールは瞬間的な酸欠に襲われ後ずさった。
 さらに追撃が来た。

「—――――ッ」

 風のようなランスの連撃突きを後方へ飛びのくことで避ける。だが空振りしたはず突きが無数の魔弾となって飛んできた。
 今度こそ直撃してアイムールは鉄球ごと吹き飛ばされ地面を転げる。

「……光、ですね」

 あのランスに見える武具の本来の用途は『魔銃』なのだろう。
 喰らった感触を解析するに間違いなく光のマナ。

「貴方の武具は」

 いつの間にか肌が触れ合うくらいの距離まで近づいていたソロモンがランスを一回転させて柄で側頭部を殴りつけた。一瞬視界がブラックアウトする。

「まともに受ければ全身どこでも粉砕骨折。直撃することが致命傷を意味する。仮に鉄球より内側に踏み込んでも体のどこかに鎖が絡まれば動きが鈍ってしまうわ」

 さらに態勢が崩れたアイムールの鳩尾をランスの石突で思い切り突き上げる。

「グッ……カッ」

 宙に浮いたアイムールの体へ撃ち込まれる掌底。内臓を直接揺さぶられるような衝撃が通り抜けていく。さらにソロモンは反撃の隙を一切作らせない。

「中距離での戦闘に最大特化。斬ル姫の膂力なら複数の兵士を一息で一掃するような多数対一の戦いも可能でしょう。だけど!」

 ランスの先を肌に押し付けたゼロ距離からの魔弾発射。

「鎖で振り回すという構造上、鎖に力を籠めてから鉄球が動くまでにはどうしてもラグがある! だから、私が選ぶのは超至近距離での絶え間ない波状攻撃! 武具を使う隙を決して与えない!」

 宙を舞いかけたアイムールへランスをまるでハンマーのように叩きつけ、地面にめり込ませた。

「これが! 私の最適解!」

 宣言と同時にソロモンはランスの切っ先を大地にめり込んだままのアイムールへ突き出した。青い光が穂先へチャージされていく。

「制限を解除」

 瞬間だった。
 ドン! という轟音と蒸気を伴った凄まじい熱波がソロモンの体を吹き飛ばしていた。

「熱っ……。何が……」

 全身に感じるヒリヒリとした痛みが熱であることをソロモンは感じ取る。
 その目の前、さっきまでアイムールが倒れていた場所ではもうもうと煙が立ち上っていた。
 大地が鳴動する。
 なにかを叩くような破砕音が連続して――――地面が噴火した。
 溶岩が間欠泉のように噴き上がる。その赤い噴煙や噴き出すマグマの中からぬっと黒いプロテクターに覆われた腕が伸び、煙から這い出すようにしてアイムールが現れた。

「稼働率を100パーセントまで引き上げます」

 体の各所が業火のように赤く染まっていく。しだいにその姿さえも蜃気楼のように揺らぎ始めた。踏んだ地面から炎を噴出させる。アイムールを中心とした上昇気流が発生し、周囲の物は空気の流れに従って引き寄せられた。

889兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:30:40
「グラウ!」
「逃がしません」

 頭上で旋回していたフクロウ型の機械獣がソロモンの呼び声に応えて急降下したところへ地面から火柱が噴き上がった。グラウは飛行方向を強引に屈曲させそれを回避。再び上空へ。

「離脱は無理ね……」
「逃がさないと言ったはず。アイムール。その意味は『撃退』。決して標的を逃がさぬ殲滅の斧」

 アイムールとソロモンの四方を囲むように火柱が浮上した。それらはみるみるうちに変形し、まるで門のような形に変わり、それらが合わさりあうとまるで檻のようにソロモンの退路を塞いだ。

「堕ちろ」

 地獄の底から響くような声と共に鉄球が繰り出される。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 マライカは言われた通り必死に逃げていた。

「はっ、はっ」

後ろからは何かが壊れる爆音が響き、異常な熱気が吹き付けてくる。
破壊音。炎。斬ル姫。
怖いもの全てが背後から迫ってきているような錯覚に陥る。だがそんなはずはないのだ。後ろではアイムールがソロモンと名乗る斬ル姫を押しとどめているはずなのだから。
それでも、後ろを振り向くことができなかった。

「いたっ! 大丈夫にゃ!?」
「きゃっ」

 正面からシストルムが四足走行で走ってきてタックルするように勢いよくマライカを抱きしめた。身長はさほど変わらないのに包み込まれているように安心感を覚える。

「な、なんでここに……」
「すごい音がしたからもしやと思ったんだにゃ。アイムールの方向が正解だったんだね。それでアイムールはどうしてるにゃ?」
「向こうで、ハルモニアの斬ル姫と戦っている」
「えぇっ!?」

 シストルムが驚愕の声を上げる。そしてマライカの後ろを『視て』納得したように頷いた。

「あの雲はそういうわけだったかにゃ」
「雲?」

 初めてマライカは後ろを振り向いた。

 視線の先には―――太陽まで届かんばかりの巨大な雲塊が立ち登っていた。

 その中心部で発生した膨大な熱による大規模な低気圧の影響だった。
 あそこでは、きっとアイムールが戦っている。
 単体であれほどまでの力を持つ相手に、自分は少しでも勝てると思っていたのだろうか。でも、その憎き仇は自分を何度も助けてくれた相手でもあって………………、



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ソロモンは自分の周囲に青いガラスのようなバリアを展開することで凄まじい暑熱に耐えていた。

『アイムールの中心温度1160度を突破。なおも上昇中』

 視界をサーモグラフィに切り替えたグラウから送られる赤外線分布を可視化した通信映像にソロモンは苦い顔をする。

「不味いわね」
『展開したバリア内の気温も40度を超えています。後数分でデッドゾーンに入ると予測』
「グラウに乗って離脱はやはり無理?」
『ソロモンとアイムールを囲む炎の檻へ突入した場合、二秒で外殻が融解、侵入は可能ですがそれ以後の飛行が不可能かと』
「わかったわ。逃げるのはなし。解析を続けて」
『了解です。ソロモン』

 通信している間にもアイムールからの攻撃は続いていた。一直線に飛んでくる鉄球の軌道を先読みし紙一重で躱していく。

「近づこうにもこれ以上近づいたら焼け死ぬわね。かと言って鉄球の届かない遠距離から射撃するとなると炎の壁が邪魔だわ」

 ソロモンがランスを突き付ける。切っ先から波動が発射された。

890兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:31:25
青いレーザー状の光は空間を真っすぐ切り裂いてアイムールへと突き進む。

「うっ!」

 直撃したアイムールの体が揺れた。レーザーに押されるようにザリザリと地面を抉りながら後ずさる。だが意を決したような呼吸の後、その瞳孔が蛇のように収縮した。
 鎖を巻き付けた右腕を前へ、レーザーを押しとどめるように突き出す。

「この身は冥府に繋がる門、飢えと渇きを携えた私は常に果て無き飢餓と共にあります。この程度の熱さ、飲み干せずして何が冥界か」

 より一層蒸気と熱を噴出し、なんとソロモンのレーザーを力任せに掻き分け激流を遡上するように進行を始めた。

「そう来るなら……!」

 ソロモンがレーザーの出力を一層強める。レーザーはさらに太くなり勢いはさらに強まった。だが動きが鈍くなっただけでアイムールは止まらない。近づいてくるごとにその灼熱は一層強まっていく。
 ソロモンの頬を伝う汗が出た傍から蒸発するほどまでに熱い。

「………む。ん」

ガクン、とアイムールの進撃は唐突に停止した。
 その体が電池の切れた機械のように動きを止め、レーザーの勢いを受け止めきれずに呑まれかける。

「……残存エネルギー残り僅か。主要部以外の臓器、および消化器系へのエネルギーの供給を停止。余剰分を運動エネルギーへ変換」

 だが停止したのも僅かな時間。仰け反った体を持ち直し、再び侵攻を開始した。

(もしかして……。限界が近い?)

 レーザーの照射を一切緩めないままにグラウへ通信する。

「今の状態は?」
『熱の上昇が停止。反応速度の低下、全体的なエネルギーの低下が見られます。さらに周囲の炎も若干ですが勢いが弱まっている模様』
「やっぱり……あれだけの熱を常時放出できるなら最初からやっているはずだもの。きっと最後の切り札とか、倒した敵のエネルギーを随時吸収して失ったエネルギーを補っているとか、普段はそうやって運用しているんだわ」

 ランスを持つ手に力が籠る。レーザーを照射している限りはアイムールは受け止めるのに精一杯で進んでくる以上の攻撃はしてこない。

「つまりこの勝負は貴方が私に辿り着くのが先か、貴方のエネルギー切れが先かと言うことね!」

 そんなソロモンの声が聞こえているのかいないのか、呼応するように、吠えるようにアイムールは蒸気を噴出させた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「マズいにゃ。アイムールが押されてる」
「えっ……」
 
 雲塊を見つめるシストルムが苦い顔をした。

「こりゃ負けるにゃ。ハルモニアの斬ル姫が追ってくる前にボクらだけでもここから逃げないと……」
「待ってよ! アイムールを置いていくの!? 助けないの!?」

 マライカを抱き上げて逃げる姿勢に入ったシストルムに思わず叫んでいた。

「だってボクが助けに行ってもやられちゃうかもだし、そもそもキミを一人にするわけには……」
「私も付いて行くよ! だから……」
「ボクだって辛いにゃ! でもキミが生きることが一番大事なのにゃ!」

 珍しく声を荒げたシストルム。本当に悔しそうに見えた。だからこそ、マライカも負けていられない。

「私だって! ずっと死ねばいいのにって思ってたけど! これじゃいけないの! 確かに私の村を焼いて、たくさんの人を殺したりしたのかもしれないけど! 私を助けてくれたアイムールだってアイムールなんだから!」

 アイムールに助けられた時、確かに『ありがとう』と思った。彼女に向ける思いには怨みや憎しみもあるけど、一緒に過ごしているうちにいつの間にか出来ていた『こいつ融通が利かないだけでそんなに悪い奴じゃないんじゃないか』という気持ちだってマライカ自身の気持ちなんだから。

891兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:32:01
「私だって自分がわかんない! 殺したいのか、許したいのか! でもきっとアイムールだって同じなんだよ! この土地を荒れ地にしたのは自分だって言った時、あの人、後悔してたでしょう!?」
「…………聞いてたんだね」

 全ての原因が自分にあるとシストルムに打ち明けた時のアイムールは辛そうだった。使命に準じた結果とそれによって生じた被害の狭間で迷いがあるようだった。

「アイムールだって自分がどうしていいのかわからないのよ! だから答えも出せていないのにこんなところで終わっちゃいけないの! 私も、あの人も、まだたくさん考えなきゃいけないの! だから見捨てないで……助けてよ……」

 気持ちを吐き出し続けて、最後の方は涙が溢れて鼻声になっていた。

「お願いだから……何でもするから、アイムールを置いていかないで……」

 途中から黙って聞いていたシストルムはしばらく「うー」と唸っていたが、

「うにゃ――――ッ!」

 気持ちを振り切るように大声を出すと地面に向けて魔弾を連射した。砂漠化しかけた土は柔らかいらしくすぐに子供が一人入れるくらいの穴が開く。

「ここで大人しく待ってるにゃ。もし二十分ボクが戻らなかったら死んでるからその時は一人でみんなと合流してトレイセーマを目指すにゃ」
「え……いいの……」
「猫は気まぐれだからにゃー。あんまり焦らすと行く気失せちゃうかもにゃ」
「う、うん! ありがとう! シストルム!」

 マライカが焦って穴に飛び込むのを確認すると、シストルムは四足で地面を蹴って猫のように駆けた。
 目指すは雲塊の麓。ハルモニアの斬ル姫とアイムールのいる場所。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「私の粘り勝ちね」

 ソロモンが宣言した直後、エネルギーを使い果たしたアイムールが膝をついた。周囲を焼け野原にしていた炎も消え去り、今は僅かな火種と炭化した地面が残るだけである。
 ギチギチと油を差していない機械のようにぎこちなくアイムールが鎖の巻かれた腕を持ち上げる。

「一本でも、動くならば……」
「させないわ!」

 それより早くソロモンのランスが青色の輝きを放ち魔弾のチャージ動作に入った時、

「うにゃにゃにゃにゃ――――っ!」

 上空から間に割って入ったシストルムの爪撃がソロモンのランスを叩き軌道を逸らしていた。魔弾は見当違いの方向に放たれ岩をこぶし大の破片に粉砕する。

「新手!?」

 ソロモンは間を置かず急降下してきたグラウに飛び乗り上空へ退避。
 その隙にシストルムは緑色をした液体の入った小瓶を動かなくなったアイムールの口に含ませる。ガチン、と彼女の内部で歯車の噛み合ったような音がした。

「全回復とはいかないけどそれで動けるでしょ?」
「……内燃機関、再始動。残存エネルギー確認。冥府の門は使用不可。ですが武具の操作のみならば」

 膝をついていたアイムールが立ち上がり鎖を構えた。そこへ上空を旋回するソロモンから無数の魔弾が雨のように降ってくる。

「それ以上、回復の隙は与えないわ!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ソロモンは考える。
 乱入してきた斬ル姫は初めて見るタイプだが爪状のガントレットを主体とした戦闘を行うらしい。現れた時には驚いたが対空戦力はもたないだろう。
 さらにアイムールの方は多少動けるようになったらしいが未だエネルギーは枯渇寸前。たとえ炎を出せたとしても地面から放出する以上、空を飛行できるグラウには届かない。

892兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:32:38
(こちらが警戒するべきはアイムールが鉄球を投擲してくるという可能性ね……。もちろん予備動作があるはずだから目視からの回避は可能だわ。だから私は彼らの射程距離外である空から魔弾を放ち続けていればいい)

 だがさらに増援が来ないとも限らないし、撃てる魔弾には限りがある。
 つまり選ぶべきは早期決着。

(あえてこちらから鉄球の射程距離へパワーダイブをかけて二人の攻撃を誘発し、それを躱してカウンターを狙う!)

「行くわよ! グラウ!」

 ソロモンは最大出力で空へ飛翔した。その体が対流圏界面まで達するとぐりんと勢いよく頭を真下へ向け、加速をつけて落下を開始、あまりの速度に空気が押しつぶされ絶叫じみた爆音を、ソニックブームを発生させる。
 これほどの速度ならば単純なランスの刺突のみでも斬ル姫を倒しえるはず。
 直撃まであと五秒。
 こちらを見上げるアイムールの瞳孔が蛇のように収縮した。

(さあ、投げてきなさい!)

 四秒。じりとアイムールの足が踏み込むように後ろに下がり。

 三秒。—―――勢いよくシストルムを上空へ蹴り上げた。

「…………え?」

 一瞬、思考が停まる。
 正確にはアイムールはシストルムを蹴り上げたのではない。シストルム自身が振りかざされたアイムールの足の甲に器用に飛び乗って、カタパルトのように打ち上げられたのだ。
 こちらに真っすぐ飛んでくるシストルムが勝ち誇ったように、にやりと笑う。

(くっ。予測していなかったわけじゃない……!)

 ただあまりにも低い可能性だったから排除していただけだ。仲間を弾丸にして飛ばしてくるなんて誰が実行すると思うだろう。
 聖鎖される前のソロモンであるならば、可能性の大小に関係なくどちらも同じレベルの警戒をしたかもしれないが。
 決断力を得た代わりにそれらを捨てたソロモンには人間カタパルトに対する備えは思考にはなかった。

「だけど!」

 ぐるり、とドリルのように回転して砲弾と化したシストルムの爪撃を再び躱す。しょせん付け焼刃の奇策。回避できないはずもない。

「……っ!」

 だが、シストルムを突破したその先にはアイムールのモーニングスターが真っすぐ迫っていた。シストルムを打ち上げた直後、しっかり投擲も行っていたのだ。

「打ち上げた相手の体を使って鉄球を隠していたのね!」

 意を決してソロモンは正面からモーニングスターに突撃して、弾いた。
『護神の抵抗』。一定の攻撃を耐えるスキルが発動していた。ソロモンが今回の戦いで実際に喰らった攻撃が蹴り一発だけだったのが功を奏したのだろう。紙一重ではあったのだろうがモーニングスターの直撃を無傷で受けきることができた。
 これで相手の手は尽きた。速度は落ちたが勢いは十分。

「今度こそ終わりよ!」

 気合の声と共に力強くランスを正面に突き出す。

「ソロモン!」

 グラウの声が聞こえた。そう思った次の瞬間、背中へドンッ! という衝撃を受けてソロモンはグラウの背から投げ出されていた。
 宙に投げ出されたソロモンが真上へ顔を向けるとこちらに穂先が二股の杖を向けているシストルムがいた。

(あの斬ル姫、武器は爪じゃなくて杖だったのね)

 やられた。
 人間カタパルトはフェイント。裏の目的はアイムールのモーニングスター。だがその真の目的は背後を取らせた斬ル姫による魔弾だったとは。

(分析不足、ね)

 地面に向けて落下していくソロモンへ、シストルムの魔弾が殺到した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「負けちゃったにゃ」
「ええ」
「でも帰れるんだにゃ。子供たちの所へ」
「ええ」

 力を使い果たしたシストルムとアイムールは互いに背中合わせになって地面に座って休憩していた。
 すでにソロモンの姿はない。もうだいぶ前に去っていってしまった。
 代わりに幼い少女が二人の傍に無言で立っている。
 肩口で刈り揃えられた髪。丸くて大きな瞳。着ている貫頭衣は裾の方が少し焦げていた。残り火で焼いてしまったらしい。
 マライカだった。彼女はアイムールへ本日何度目になるかわからない言葉を繰り返す。

「あたしのおかげで生きているんだから忘れないでよね」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 あの時。シストルムが発射した魔弾がソロモンを仕留めるかに思えた。

「グラウ!?」

 ソロモンの前に割り込むように飛び込んだグラウが代わりに全ての魔弾を受けきった。その背で闇色の小爆発が連続する。
グラウとソロモンは互いに絡み合うようにして地上に落下した。
 ソロモンの腕の中でグラウがみるみる縮小していく。しまいには手で抱え込めるほどのサイズへと変わった。

893兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:33:20
「活動は停止してるけど……内部機構は壊れてない。よかった」

 所々焦げついているがグラウの生存を確認してソロモンはほっと溜息をつく。次の瞬間、今にも追撃をかけんとしているアイムールとシストルムをきっと睨みつけた。その目に浮かぶのは怒り。

「貴方たち……!」

 元より魔弾で仕留めきれなかった時点で負けである。二人がかりとはいえガス欠寸前のアイムールと戦闘要員ではないシストルムでは勝ち目などなかった。
 数分で二人は叩きのめされ眼前でランスの切っ先に青白い光が蓄積されていく。過去最大級の光線で確実に仕留めるつもりだ。

「やめて」

 その時、ソロモンの脇を追い抜いて少女がアイムールとシストルムの前に両手を広げて立ち塞がった。
 肩口で刈り揃えられた髪。砂ぼこりで汚れた粗末な貫頭衣。

「貴方、さっきの」

 その少女の名はマライカといった。
 ソロモンの目が細められ少女を認識した。しかしランスの照準は一切ずらさない。どかないようならば少女ごと打ち抜くという意思表示なのかもしれない。

「やめないわ。私はその人たちが許せないの」

 冷たく言い放つ。口調は静かだが怒りが隠せていなかった。ソロモンにとってグラウの存在は単なるサポーターではなく大切で特別な意味を持つのだろう。
 少女は唇をきっと結んだままその怒りを正面から受け止めて、ただ一言返した。

「仲間なの」

 長い沈黙が流れた。永遠にも感じる時間の中、最初に動いたのはソロモンの方だった。

「そういう言い方はズルいと思うわ」

 根負けしたように力なく肩を落とすとグラウを小脇に抱え、くるりと背を向けると地平線の果てへ向けて去っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 数日後。マライカはトレイセーマ擬人区にいた。
 今は空き家を借りて一緒に荒野で過ごしてきた仲間たちと暮らしている。
 シストルムはいない。到着と同時にトレイセーマの憲兵たちと合流してどこかへ行ってしまった。話によると別の任務へ配属されているらしい。
今でも時々、仕事の隙を見て擬人区にも顔を出しに来ていた。住民たちにお金や物資を届けに来てくれるのだ。
 今日は珍しくシストルムが来た日だった。
 早朝に到着してからずっとソファでだらりと横になっている。他の子供たちにつつかれても「にゃー」と唸るだけで我関せずだ。

「寝てばかりだと体が凝るよー」
「ボクは元々こんなキャラにゃー。戦場だと気を張ってばっかで疲れるにゃー」
「そうだっけ? でもご飯の時くらいソファから降りなよ」
「んにゃ? キミが作ったのこれ?」
「そう。ここで暮らして初めてわかったんだけど。あたししか料理できないの」

 マライカが食卓へ手際よく料理を並べていく。パン、乾燥させた果物、魚の香草焼きなどが土の器に盛られている。そして最後に、いつか見た薄赤色の花の茎の漬物をよそった小鉢が出された。
 シストルムの声色に懐かしそうな色を帯びる。

「アイムールは何してるのかにゃあ」
「さあ? まだあそこで何か燃やしてるんじゃない」
「燃やしてるって……」
「あのねシストルム。まだ持てないのあたし」
「何がにゃ」
「包丁」

 席に着いたマライカが唐突に話題を変えた。ぐーぱーさせた掌を見ながら話す。

「というか刃物なんでも。持つのはなんとかできるんだけどね。刺したり切るってなると駄目。手が震えて気持ち悪くて無理。ただの料理なのにね」

 アイムールを刺した時からマライカは刃物が使えなくなっていた。刃が肉にめり込む感触があの時のままにぞわり、と蘇って持っていられないのだ。

「傷つけるって難しいね」
「無理に慣れなくていいんだ。気づいたら使えるくらいでちょうどいいのにゃ」
「そういうものかしら」

 他人を傷つける、殺める。そういったものに嫌悪感が持てるというのはとても尊いことだとシストルムは語る。この世界ではそんな優しいだけの感性は不要だし無駄だけれど。

「そういう人たちが優しい心のままに生きていくために代わりに戦うのが斬ル姫なのかにゃって」
「本当にそう思ってるの?」
「うーん。ちょっとくらいにゃ」
「ちょっとかー」

 食卓に仲間たちが集まり始めて「いただきます」の声を待たずに誰かが手を出したのをきっかけに騒がしく昼食が始まった。

「あ! 雨!」

 誰かが声を上げる。彼が指をさす方角を全員が向いた。
 ここではない遠くの空で雨雲が発生していた。
 奇しくもそれはあの荒れ地の方角だった。
 なんとなくアイムールのことを考えた。

894兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:34:04

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 砂漠。岩が点々と並ぶばかりで生命の気配はない。
 そんな大地をアイムールは黙々と踏みしめていた。

「……低燃費状態で運転中……はぁ、お腹が空きました」

 何度目かの言葉を呟く。常に空腹は感じていたが数日前まではそれ以外にも考えることが幾つもあって少しは忘れられたのだが一人になってしまうとそれしか考えることがない。

「群れるのは好みません。けれど」

 何となく立ち止まった時。背後に動く物の気配がした。

「にゃあ」
「!?」

 よもやシストルムかと音速で振り返る。しかし背後には誰もいない。首をぐるりと回して、最後に目線を下へ落とすと足元に一匹の赤猫がいた。
 アイムールは(心なしガッカリしたような)無表情で来訪者の名を告げた。

「ヤグルシ、どうしたのですか?」
「わーい、大正解! さすがおねーちゃん!」

 赤猫がくるりと宙返りするとそこには赤髪の斬ル姫がいた。ボンデージを思わせる全体的に際どい衣装。ロングの赤髪の頂点には鉄の王冠のような髪飾りが付いている。
 この斬ル姫がアイムールの妹。ヤグルシ・D. plug・バエル。
 アイムールのキラーズの持ち主であるバアルと同一視される悪魔をD. plugされた斬ル姫だった。

「久しぶりー! ヤグ会いたかったよー!」

 ヤグルシは両手を広げ砲弾のような勢いで抱き着いた。強烈な衝撃がアイムールの腰に飛来するがアイムールは不動。
 慣れているといった風だ。この姉妹の間では日常茶飯事なのかもしれない。

「どうしてここがわかったのですか?」
「だいたいこの辺にいるってのはわかるからね。後は普通に痕跡を辿ればわかるよ。ほら」

 ヤグルシが腰に抱き着いたままアイムールの背後を指さす。振り向くと鉄球が引きずられることでできた跡が道のように刻まれていた。
 なるほど。

「では何をしに来たんですか?」
「おねーちゃんを迎えに来たに決まってるじゃーん!」
「は?」
「あのね! おねーちゃんの主人がいたじゃない。ほらラグナロク王国に近づく者をうんぬんかんぬんみたいな命令をした。あの領主こないだ死んだんだよー。戦死だって」
「……ということは」
「命令は破棄! おねーちゃんは自由!」

 そうか。これで任務も終わりか。
 結局あの命令の真意はわからなかった。そもそも知る必要もあまりない。大方ラグナロク王国に見られたくないモノでもあったのだろう。
 秘密の入り口とか。
 何かのカギとか。
 それは自分が考えても意味のないことだ。
 でね! とヤグルシは興奮気味に続けた。

「せっかくだから私と一緒にこれから暮らそうよ! 今皇帝陛下の指示でお城で潜入工作やってるんだけどね。お城の伯爵さんも面白い人だよー。大丈夫! 痛い思いなんか少しもしないから」
「…………ふむ」

 悪くない。
 無所属になったからには次の仕事先を見つけなければならないのも事実だ。
 ヤグルシの紹介で皇帝陛下のものになるのもありだと思う。
 アイムールは一考して、答えた。

「少し、待っていただいてもよろしいでしょうか?」

 ヤグルシは腰にぶら下がった姿勢のまま姉を見上げ不思議そうな顔をする。

「どしたのおねーちゃん? 任務は終わったんだよ」

 じっとアイムールの目を覗く。その何も映っていない瞳から妹なりに何か読み取ったらしくヤグルシの声が真剣味を帯びた。

「何かあったんだね。話してよ。バエルの知恵を貸すよ」

895兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:34:38
 時間は数日前にさかのぼる。
 シストルムと子供たちとの別れの時。

「じゃあねアイムール。自分のHPくらい自分で管理するんにゃよ。次行き倒れても誰も助けてくれにゃいよ」
「善処します」

 契約満了。それなりの満足感がある。
 子供たちとも別れの挨拶を一人一人済ませた。それなりに名残惜しそうな反応をされたのは意外だった。そうして最後の子供との対話になる。
 マライカという少女だった。
 腕を組んでツンとした態度でアイムールに向かう少女にまず頭を下げた。

「ごめんなさい」

 少女が呆気にとられた顔でこちらを見つめる。

「おそらくあなたの村を焼いたのと、この土地もここまで枯らしたのは共に私です」
「知ってる」

 マライカは頷いた。そんなこと気にもしない風に続けた。

「謝らなくていいわ。だって覚えてないんでしょ?」
「はい」
「悪いとも思ってないんでしょ?」
「任務の成り行きですから。悪いことではない、と思います」

 悪い事とは思っていないが罪悪感は感じている。少なくともマライカにはそう見えた。そうであって欲しかった。
 今度はマライカが話す。

「これからは人の気持ちを少し考えて話した方がいいと思うよ。ほら、気持ちってキャッチボールだからさ。愛されたら愛し返して、嫌われたら嫌い返して。そうやってやり取りするもんだと思うの」
「できてませんか?」
「できてないよ。だから相手の気持ちには向き合ってあげて。それが敵同士でもさ。無視されると寂しいから」

例えば、アイムールに初めて会った時のマライカのように。こちらは過去の因縁を全てぶつけるくらいのつもりなのに相手が自分のことをただの子供としか見てくれていなかった時。自分の存在や過去を否定されたようで悔しかった。

「だから。そのことには気を付けてね。命令だから」
「ご命令ですか」

 ふっとアイムールが小さく笑った。ように見えた。
 結局、その場はそれだけでお開きになりアイムールとシストルムたちは互いに別々の方角に向かっていく。片やトレイセーマへ、片やティルヘルム国境付近へ。
 小さくなるアイムールの背にマライカは声を張り上げた。

「言っとくけど私はアンタを許したわけじゃないからね!」

 そして泣いた。どんな意味で泣いたのかは自分にもわからないがこの時、少女の中で一つの決着がついた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「自己修復完了。どうでしょうか?」
「いいわね! 焦げ目も残っていないし録音機能、録画機能、飛行、潜水、熱源解析どれも問題ないわ!」

 簡素な小屋で大声を上げたのはソロモン・聖鎖・アテナだ。
 ソロモンを庇って傷を負ったグラウが回復したので状態を確認していたのだ。
 小型サイズになっているグラウの体をくるくると回しながらあちこち覗くソロモン。

「ちゃんと確認したい機能があと200ほどあるけど。現実的に考えて時間がないわね。ああでも耐久力の向上だけはやっておくべきだわ! 次にあんなことがあっても問題ないように! よーしグラウ! 今日は君をオーバーホールするわよ! これが私の最適解!」
「拒否します」

 ソロモンの手から逃れるようにグラウが飛んだ。小屋の天井付近を旋回してから梁の部分に着地する。

「それにしても。なぜあの斬ル姫二人を見逃したのですか」
「そういえばグラウはあの時気絶してたのよね」

 あの時、ソロモンは問答無用であの斬ル姫二人を始末するつもりでいた。
 だがそれを庇った少女がいて、彼女は斬ル姫たちを『仲間』と称した。
 ソロモンは苦笑する。

「なんか毒気を抜かれたのよ。非論理的だけれど。まるで私が悪役みたいに見えてきてね」

 それに実力差もわきまえずソロモンの前に立ち塞がった少女の瞳が、自分を庇って傷を負った時のグラウの瞳に似ていたのだ。

「この瞳は液晶です。イミテーションの眼球と似ているはずがありません」
「まさか。私にはわかるわよ! グラウ、君の目から感情が読み取れるの!」
「ソロモンの目は機械か何かでしたか?」
「今のは冗談よ!」

 と他愛もないやり取りをしていると。グラウが何かを発見した。

「この小屋に接近する反応を確認。徒歩の速度で向かってきます。数は斬ル姫が三人。それにオートアバターが三体」
「あら、索敵能力が上がったんじゃない?」

 ソロモンはグラウと共にこっそりと裏口から小屋を出た。そのまま物陰に隠れながら謎の一団に近づく。

896兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:35:10
(あれは……カリス?)

 その一団の一人はソロモンがこの任務に着く前にハルモニアで共に過ごしていた斬ル姫だった。スキップ気味に進むカリスの隣には彼女のオートアバターであるキプルの姿もある。
 他のメンバーは一房だけ紫色が混じる浅葱髪の小柄な斬ル姫にそのオートアバターらしき紫の馬。その後ろに薄灰色の長い髪をした赤い目の斬ル姫。見たところ彼女が一番強そうだった。その手にはドラゴンを小さくしたようなオートアバターが物のように乱雑に握られている。

『あ! ティルヘルムとの国境が見えてきたよ!』
『そういや国境じゃなくてティルヘルムの監視をしてるって言ってたな……ソロモンの他にもハルモニア兵がいるんじゃねえか?』

 彼らの目的はどうやら自分らしい。カリスを脅すか何かして案内に使っているに違いない。許せない。
 ソロモンの胸に義憤の炎が燃える。

『……レヴァ、何か気になんのか?』
『……何でもない。それより、あの小屋』
『きっとあそこだよ! ソロモン、元気にしてるかなっ?』

 とうとう自分の拠点まで辿り着いてしまった。

(行くしかない)

 ソロモンはランスを構え、ついに彼らに接触する決意を固める。

「君達、その場で止まって」

 それが、運命が大きく変わる瞬間だとも知らずに。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「いっちばーん!」
「負けました」

 とんでもない量の土煙を上げながら砂漠を爆進する二つの影が同時に停止した。土煙の中から二人の斬ル姫の姿が現れた。
 アイムールと妹のヤグルシである。

「久しぶりにやると楽しいね! 追いかけっこ!」

 満面の笑みではしゃぐヤグルシと対照的にアイムールは周囲を冷静に観察していた。砂で隠れてはいるが地肌が黒い岩のような岩盤で覆われている。地上に露出したマグマが冷えて固まった跡だった。

「私が戦闘を行った爪痕ですね」

 ここはトレイセーマ軍が陣を張っていた場所だった。数日前にアイムールが突撃して壊滅させた。地形ごと爆破してしまったので当時の面影はない。
 あの戦闘がなければシストルムと行動することもなかった。

「おねーちゃんはさ。ようはいいことがしたいんでしょ?」

 思い出を振り返っていたがヤグルシの声で現実に引き戻される。

「いいこと?」
「まあ言い方はなんだっていいや。自分のせいで不幸になった、本来だったらおねーちゃんの敵にならずにすんだイミテーションたちのために何かしたいんでしょ」
「そうかもしれませんね」

 奪いばかりではなく他の事だってできるはず。とシストルムは言っていた。
 自分のせいで飢え、自分によって狩られた多くの村の住民たち。彼らのために自分にまだできることがあるかもしれない。

「うん! だからここに来たんだよ!」
「……ここで何ができるのですか?」
「おねーちゃんの話だと。ここは元々荒野のオアシスでトレイセーマ軍が湖の水を補給するために陣を敷いていたんだよね?」
「シストルムはそう言っていました」
「ならやってみる価値はあるね」

 頷くとヤグルシは戦斧を担ぎあげた。

「……地形解析完了。フィールドを掌握。バエルとのD. plug信号適正値へ移行」

 先ほどまでとは打って変わって冷たい声色で淡々と事実のみを述べていく。ヤグルシの瞳の奥で小さな光点がチカチカと瞬いた。

897兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:36:02
 その頬が、望ましい数値を叩き出せた研究者のように喜びで吊り上がる。
 ヤグルシの体から闇色のマナが噴き出し、それを衣のように纏う。

「自己強化完了、自陣にフィールドを展開。さあおねーちゃん! ヤグが導いてあげる!」

 そして戦斧を思い切り大地に叩きつけた。

 ビキ、ビキビキバキゴリバキ―――――!

 鈍い破砕音が大地の中で連続して、最後にバン! という炸裂音と共に地面からシャワーのように水が噴出した。

「やっぱり出口が塞がっただけで水脈は生きてた! さあ、おねーちゃん! この土地を全力で焼け野原にしちゃってよ! できるだけ広範囲でね!」
「え? はい。制限を解除――――稼働率を100パーセントまで引き上げます」

 その瞬間。
 地上に太陽が顕現したかのような灼熱が一帯を襲った。
 さらに火炎が溢れ濁流が如く地面を飲み込んでいく。
 それは上空から見ると花が咲く様を思わせた。アイムールを中心に炎で形作られた鮮やかな花弁が広がっていく。
 火災旋風を伴いながら空間そのものに拡散していく熱量は水源から噴き上がる大量の水分を水蒸気爆発と共に蒸発させていく。
 さらに地面が溶けるほどの暑熱はアイムールを中心とした低気圧を、強烈な上昇気流を発生させ全てのものを空へ舞い上げた。

「うん。そろそろ全部飛んだかなー。もういいよーやめて」
「わかりました」

 ブツン、とスイッチを切るようにアイムールは熱の放出を止める。しかし空は上昇気流と舞い上げた砂や灰で暗い雲ができていた。

「あの、これで何ができるのですか?」
「まあ見てて」

 すっ、と暗い空へ手をかざすヤグルシ。その手にポツリと水の雫が落ちた。
 雫はさらに勢いを増していく。見ると雲はアイムールが炎を広げた範囲以上に広がっているようでこの土地一帯に達しているかに見えた。

「……雨?」
「そう。言葉にするなら人工降雨とかになるのかなー」

 ヤグルシが解説する。
 広範囲の地面と空気が強く熱せられると上昇気流が発生し、空へ巻き上げられた水分は砂や粉塵と凝結しあい雲ができる。そこに大量の水分が含まれていれば雨となって地上に落ちてくることもあるだろう。

「地下水源の水をチマチマ汲んで撒くのも涙ぐましくて素敵だけど。雨にして一気に降らした方が手っ取り早いし効率的だよね」

 ヤグルシが地下水脈を刺激し地上に噴出させる。そこへアイムールが空気と大地を加熱して人工的に雲を作った。その中に一気に蒸発したオアシスの水分が溶け込んで雨が降ったのだ。

「うふふ。これがバエルの力。知恵の領域」

 ヤグルシが得意げに笑う。

「これを定期的にやれば、きっとここにも緑が戻ってくるよ」
「そう、ですか」

 モートはウガリット神話においてバアルの存在なしに語れない存在だ。
 彼らは常に戦いを続けており、豊穣神であるバアルがモートに敗れると自然世界からは一切の恵みが消え去り、逆にバアルがモートに勝利すると地上には雨が降り作物は実り豊穣が約束されるという。またどちらが死んでも必ず生き返り戦いは続く。
 その戦いは雨季と乾季を象徴しているともいわれている。

「ヤグルシ」
「なあに?」

 アイムールのキラーズの持ち主はバアル。・D. plugされたのはモート。
 命を奪う冥界の力。命を与え育む豊穣の力。
 彼女はどちらの力も持ち合わせ、きっと力の使いようでどちらにでもなれるのだろう。

「私はもうしばらくここにいることにします」
「いいよ。おねーちゃんが望むなら。ヤグは本国でいつまでも待ってるからさ。気が済んだら帰ってきてね」
「感謝します」

 アイムールは濡れた大地に腰を下ろした。湿った砂に体が沈む。

「そういえば……お腹が空きました」

 食べられるという赤い花のことを思い出しながら。雨音に耳を傾けて。
 そっと瞼を閉じた。


『END』

898兵器になれない彼女たち:2022/01/24(月) 23:39:38
SSというにはとてつもなく長いですが楽しんでいただけると嬉しいです。
こちらは何年も前に書いたやつを手直しした長編となります。書いた当時はモラベガが実装された辺りでした。

899名無しさん:2022/05/15(日) 03:49:00
ここ久々に来たけど廃れに廃れてるな〜

900名無しさん:2022/05/15(日) 03:50:14
まあ気に入らないのは排除しようとしてたやつ居るし読む側が偉いとか言う頭ネジぶっとんでる理論がまかり通ってたしまとめ記事でも追い出す流れあったしSSスレの初期から居た人に盛り上げてくれてた人も引/退してるし公式からの供給なんて人気キャラか新キャラぐらいでSSを書く気力とかあっても推しの情報がチョロチョロしかないなら書くにも限界はあるしで廃れるのはほぼほぼ必然だったな

901やす、:2022/07/04(月) 12:33:51
ロスラグアルマス×まどか☆マギカのssです!

良かったら読んでください


https://syosetu.org/novel/234368/183.html

902名無しさん:2022/07/04(月) 21:00:10
なぜさやかちゃんとアルマスを・・

903やす、:2022/07/04(月) 22:29:52
髪色が同じなのでつい、、、

904やす、:2023/01/19(木) 18:11:13
エルキュール×シンフォギアのSSです!至らぬ文ですが良かったら読んで下さい。https://syosetu.org/novel/234368/193.html

905やす、:2023/04/28(金) 20:31:24
キル姫達とマスターとのイチャラブを書いたSSです。

良かったら読んで下さい

https://syosetu.org/novel/312704/


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