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【ファンキル】SSスレPart3

824グレイプニル×マスター SS:2021/10/28(木) 16:03:42

マスターと旅に出て半年が経った。

愛を見て、絆を見て、多くの幸せに触れた。

色んな人に出会った。

色んなものを食べた。

色んな思い出を作った。

「グレイプニル、この半年間どうだった?」

「……皆様が望む平和がどういったものなのか、私にも理解できた気がします」

貧困に喘ぎ、キル姫となって罪を犯し、ユグドラシルに長く封印されていた私には縁の無かった幸せ。

見ているだけで終ぞ経験することが無かったのだから、理解できる筈も無かった。

「……私は間違っていたのですね」

「まるっきりそうという訳でもないよ」

マスターが私の考えを肯定してくれていると思っていなかったので、少し驚いた。

「君の言った通り、死ぬことでしか苦しみから解放されない境遇の人だっているかもしれない。それでも生き永らえさせることが正しいとは僕にも思えない。でも…」

優しさの籠もった目で真っ直ぐに見つめられ、トクンと心臓が跳ねる。

「死は苦しみを遠ざけてくれるかもしれないけど、それ以上に幸福を遠ざける。死ななくても苦しみから解放されるのなら、その原因を取り除いて幸せを掴んで欲しいと僕は思うな」

玉虫色の意見だ、非現実的だ、と突き放すことは出来なかった。

この半年間、名前も知らぬ会ったばかりの人に手を差し伸べてきた彼の姿を、傍でずっと見続けてきたから。

確かめてみたいと、思ってしまった。

「参りたい場所があるのですけど、お付き合い頂けないでしょうか?」

「もちろん」

近場の教会に足を運んだ。

私がまだキル姫では無かった頃、教会で多くの子供達と共に過ごしてきた。

毎日祈りを捧げようと、飢えに苦しむ私達を誰も助けてはくれなかった。

「……これが、幸せだったのですね」

教会には身寄りの無い子供達がたくさん預けられていたけど、そこには笑顔が溢れていた。

かつての私が望んでいた幸せがそこにはあった。

「……グレイプニル」

「私にもこんな感情が残っていたなんて、お恥ずかしい限りです…」

胸の内に暖かさが灯る。

涙が自然と溢れて頬を伝っていく。

「あなた様は、この幸せが続いていくとお思いですか?」

「……一時の平和を迎えても、人間はくだらない理由でまた争いを始めてしまう。バイブスやキラーズが無くなったとしても、次は国や肌の色の違いで争うかもしれない」

でも、とマスターは付け足し、微笑みながら己の答えを告げた。

「ーーーだからこそお互いを知って想い合うことが大切なんだと思う。僕達人間は言葉で想いを伝えて、分かり合うことができる生き物だから」

聞く人が聞けば夢物語だと笑うかもしれない。

そんなものは理想にすぎないと一蹴するかもしれない。

だけど、彼の言葉には確かな芯と温かさがあった。

何百年にも渡って凍りついた心が一人の青年に揺り動かされていた。

「素敵ですね」

「うん。そんな世界にしていきたい」

「……あなた様のことでございますよ」

「え?」

「ふふっ」

マスターのキョトンとした表情に笑みが溢れる。

そうして子供達がはしゃぐ様子を日が傾くまでマスターと見守った。


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