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第五次聖杯戦争 本戦スレ
1
:
名無しさん
:2016/08/05(金) 21:38:34 ID:IzYCzDoE0
――――――――――――第五次聖杯戦争。正史より外れた、大幅なイフの聖杯戦争。
舞台は冬木。嘗て一人の少年が、ひっそりとその運命を踏破したその街では、予定されたとおりに聖杯戦争が行われる。
監督役は急遽用意され、如何にかして聖杯戦争の形は保たれることになった――――――少なくとも、その形式上は。
「セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。此処までは良い」
「アヴェンジャー、ビースト、モンスター、だと……聞いていない、聞いていないぞ……」
聖杯戦争監督役、丁嵐兎角は頭を抱えていた。
聖杯戦争とは、七騎の英霊を侍らせたマスターによる聖杯の奪い合い。七騎の基本クラスはセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。
但し、状況によって三騎士以外のクラスは入れ替わる事がある。酷い時には三騎士以外が基本クラスにかすりもしていない、と言う事もあり得るのだ……だが。
「何故、既定の英霊より三騎も多いんだ……!!」
そう、その前提が覆ったことは無かった。少なくとも、聖杯戦争というルールが制定されてからは。
規格外の英霊が、三騎も多く召喚される……異常と言うに他ならない状況であった。
無論、丁嵐兎角はそのことを知らされていなかった。正確な引き継ぎも何もなく、本来の監督役である人間は……理由は知らされていないが、『死亡』していたのだから。
「……言峰綺礼。一体、聖杯に何があったというんですか」
如何に悔もうと、如何に悩もうと、然し兎角には聖杯戦争を止める権限も力も無い。
全ての英霊は召喚を終えて、聖杯戦争は最早滑り落ちるように紡がれていく。かくして――――――聖杯を求める、魔術師達の血宴が始まった。
――――――――――――第五次聖杯戦争、開幕。
2
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/05(金) 22:11:35 ID:JZ00R4PI0
『これで大方、聖杯戦争についての説明は終わったな』
「なんでも願い叶えちゃう激ヤバアイテムの聖杯のためにライダーみたいなサーヴァントを召喚した7人の魔術師の殺し合いでしょ?
そんなのに巻き込まれちゃったかー……アタシ」
軍服の男、制服の少女。
こんな奇妙な組み合わせは人気の少ない夜の街を征く。
新都のビル街を抜けて、埠頭の方へ。
『しかし――よもや余の新たなマスターがただの一般人であったとはな……』
「えっ、わかんなかったの?魔力とか雰囲気とかソーユーのとか違うでしょ?」
『魔術師にしては多い魔力量、そして余を見つけたことから魔術師だと断定していた。
こんな一般人、貴様以外いない。』
「アタシスペシャル☆ってこと?マヂウケるー☆
……はぁ」
テクテクトコトコ。溜息なんか吐いたりしながら歩く二人。
この出会いは、お互いにとって災難でしかなかったのだ。
よきマスターかと思えば一般人。
覗いてみたら戦争に巻き込まれる。
なにが幸運Bだ、マヂウケる☆
『で、どこに行こうというのだ?』
「嫌なことがあったらよく行く場所。黙ってついてこい☆」
金髪ギャルと軍服の英雄。奇妙な組み合わせは埠頭へと赴く。
ただの憂さ晴らし。たったそれだけ――のはずだった
3
:
『”咲わないアリス”──否。”アリスのない嗤い”』
◆lpRlWn7hoA
:2016/08/06(土) 11:57:09 ID:9gQLm75Q0
某魔術師の家にて。召喚直後。
『とっりあえず〜〜〜♪』『使えそうなもの〜〜〜』
『マスター結構面白いもの持ってるねぇ!いい感じいい感じ凄くいい感じ!!』
『────ぜぇんぶっ、保存っ!!』
アリスのマスターたる魔術師は、魔術師としての実力も心許ない如何にも平凡な魔術師であった。
それが故の装備──だろうか??その家を物色すると、重火器に戦闘用ナイフ、日本刀、など様々な武具が溢れるように見当たった。
特に目を引いたのは重量感満載のガトリングガンで、よく手入れも行き届いている。用いればそれこそ文字通り”蜂の巣”にしてしまいそうなほど、凄まじい連射・速射が期待できそうである。
その全てを撫でまわすようにして見て回り、最後に威勢良く声をあげれば、その武具全てが其処から消失した。否、消したのではなくて”隠した”という表記が正しいかも知れない。
「♪〜〜〜〜〜」
次に物色し始めたのはクローゼットだった。一見、幼稚な言葉遣いで”頭の悪い”少女を演出する彼女であるが、真っ先に平凡なマスターを切り捨てるあたり相当な計画性・戦略性の持ち主である。
彼女が旅をしてきたのは好き勝手に創作された血みどろの世界。その大抵において”主人公”という大役を任される彼女は、”生き残る”のに必要な知識は全て網羅していた。
───故に、クローゼットの物色は”変装”の為であった。以下、独り言をお楽しみください。
「むぅ。可愛いお洋服とか期待してたんだけど、やっぱりこんなのしかないかぁ!」
「───でもそれも良し!問題なぁし!!」
「このアリスちゃんには何でも似合っちゃうんですもの☆よゆーよゆーしゃっくしゃくね!!」
「あらぁ!制服とかあるじゃない!!」「……あれ?でもなんであのマスターなのに女物??」
「……ま、どうでもいっかぁ!!あははっ──!!」
────────
─────
───
─
「というわけでぇ!!決まりました、不思議の国のアリスちゃん、現代社会忠実こすちゅぅうむっ!!」
「───我ながら完璧ね!!」
暫く時が経ち、家の軒先で変なポーズをとりつつも大はしゃぎする少女は”いかにも高校生風の学生服”を召していた。───何故こんなものがあるのか、という問いに関しては、武器のものと同じような回答で、返答とするものとする。彼女を召喚した魔術師は、平凡であるが故に用意周到だった。断じて、変態さんというわけではない。断じて。
かくして、”血みどろのゴスロリ”が醸し出していた視覚的な狂気は一度身を潜め、その少女は少し頭のおかしい”外国人女学生”へと変化したのだった。
「あはっ、あはははは!──あははははっ!!!」
見上げる空には澄んだ青が広がっていたが、少女の瞳に映るその空は紛れもなく真紅であった。
まるで手練れの暗殺者の如く、最後に彼女は言葉を遺す。
それは───”現実世界”という、”彼女にとっては何てことはない不思議の国の一つでしかない世界”への挑戦。
その声はかつて、マッドハッターを名乗る帽子屋のお茶会を同等の”狂気・凶器”で粉砕した時のように。
「さぁて。
────何処から”攻略”しようかしら♪」
本来ならば存在しえない”アリス”であるその少女は、ついに”新たな不思議の国”へと降り立った。
4
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/06(土) 13:13:25 ID:IzYCzDoE0
>>2
(『階級』は不詳、然して敵将首である事に事に間違い無し。であれば、撃ち殺して然るべき)
埠頭に並べられたコンテナの内の一つに、アーチャーはその背を預けていた。其の手に握るのは、長大な火縄銃。
目標――――――ライダー陣営との距離は、二百メートル程。本来であればもう少し距離を取るべきであったが、埠頭の平面さでは有効な狙撃地点が得られなかった。
埠頭に留まるまでの会話を聞く限りでは、敵の内のマスターは素人であることを掴んでいた。であれば、狙うのは"御しやすい方になる"。
卑怯などと、戦場では所詮は弱者の戯言に他ならない。アーチャーの戦場ではそうであった。飛んで跳ねて皿でも草履でもなんでも武器にして、兎に角相手を『殺す』。
それが『薩摩隼人』。それが『薩摩武者』であり――――――――――――火縄銃を、ゆっくりと持ち上げ。
(――――――――――――何者だ)
引き金に指をかける。その瞬間に――――――背後に気配を感じた。一気に、その銃口を其方側へと、弾かれるように突き付けた。
其処にいたのは、アーチャーのマスターだった。遠い北欧の少女……いや、それは今はどうでも良いことだった。問題は、"何故此処にいるのか"。
胸元で固めた両の手の拳を見る限り、それはつまり『がんばれー』ということなのだろうが。アーチャーは、前線には『出てくるな』と言った筈だったというのに。
念話を繋げる。
(……何故、前線に来た、主君よ)
(……え? あの、応援しなきゃ、えっと、あと……)
(……あい分かった、せめてここから距離を取って頂きたい。銃声と同時に、走り出せ)
こくこくと頷く主君に対して、アーチャーはあきれ顔で背を向けると、その銃の照準を再度合わせる。
イレギュラーが在れど。この距離は。アーチャーにとって――――――外すような距離では無いことは、やはり違いの無いことであった。
引き金に指を掛ける。それから――――――一呼吸置いた後。それを、思い切り押し込んだ。
乾いた炸裂音。それによって撃ちだされるのは、球状の鉛玉。更に其れは"宝具としての一撃"であった。
あらゆる防御、欺瞞を撃ち抜いて、その霊核を貫くアーチャーの技術が昇華された宝具――――――サーヴァントであるならば、例外なく脅威となる筈だ。
5
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/06(土) 13:35:18 ID:JZ00R4PI0
>>4
――――嫌な、予感がする
見られているような、或いは――
――何か、いるような…?
あいつの顔が視たくなくて顔を背けたその先に、何か……
はっきりとはわからないし――視えないけど
そのとき、銃声が奔った
『マスターッ!くぅっ…!』
「えっ――って大丈夫!?」
とっさに主人を庇おうとするライダー。が、それ故に銃弾は避けきれなかった。
左肩の肉を抉り、銃弾は刺さった。幸いにもまだ左腕は動くようだが……
『問題ない。それよりも奇襲ときたか。
敵は弓兵、または暗殺者か――まあいい、来い!
乗るがいい、明見よ。』
右手にサーベルを握り、それを振るえば一頭の馬と砲、そしてそれを操る砲兵が現れる。
ただの馬では、ただの兵ではない。これらは立派な宝具の一部であり、この騎兵と共に革命を為した者だ。
馬に跨り、己の主人に手を伸ばして乗らせれば馬は走り出す。
所謂二人乗りの格好で走り出す皇帝の名馬は、コンテナの林へと向かう。
その中ならば狙いにくいと思ってのことだった。
「ライダー、撃ってきた方向――たぶんあっち!
なんとなく視えた!」
『ほぉう、いい目をしているな。―――撃て!』
砲を出したはいいが、どこを狙えばいいものか。
思案していたライダーにかけられた言葉の主は、なんと明見であった。
射手のいる方角を正確に指さして見せた彼女。その違和感を考えることを今は放棄したライダーは砲に指示を出す。
地を揺るがす轟音。それと共に放たれた砲弾は――正確にアーチャーのいるほうへと放たれた。
6
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/06(土) 17:03:47 ID:bcAZ9TjM0
時は夕暮れ、今夜の夕飯の材料を買いに商店街は主婦を始めとした人々で溢れかえっている。
その人の群れの中を歩く一人の男、甚平を着て草履を履いた彫りの深い顔の男、彼の名は宍戸梅軒、又の名をアサシンと呼ばれるべき者であった。
彼の両手に握られるのは、彼の得物である鎖鎌───ではなく、野菜や魚、生活雑貨が入った袋だ。
「宍戸さん、何か必要な物はありますか?」
「……いや、特には」
「うーん…それじゃあ、茶碗も買いましたし、歯ブラシも買いましたし……」
彼の前を先導して歩くのは一人の女性、薄手のカーディガンを羽織りスカートを履いた、長い黒髪の女、名を比奈 椿と言った。
彼女の目は常に閉じられている、視界が開けていない代わりに杖をついて足元を確かめ、すいすいと慣れたように人混みを歩いていた。
「椿殿……用事があると聞いて来たのだが」
「あら、貴方の食べるご飯と、貴方の使う茶碗、それを貴方が運ぶのは当然の事じゃないですか?」
「それは…そうだが、何も俺の為にここまでしなくても」
「これから長い付き合いになるかもしれないのですもの、居候とは言え何時迄もお客様用の物では侘しいでしょう?」
「それに、買った食器とかは貴方が仕事を見つけて住む部屋も見付けた時に持って行けば良いんです、私からの早めの就職祝いですよ」
アサシンは沈黙し、溜息を吐いてそれ以上の文句を止めた、この女に甲斐性なしの男だと思われてるのは不本意ではあるが。
その内、椿は魚屋の前に来ると、店先にいた店主と二言三言会話を交わしてから選んだ魚を袋に入れてもらう、目が見えないのに売買が成立するのは、ここら辺の店の人間と馴染みであるが故だろう。
見えずとも虚偽無く勧めの商品を教えてもらい、頼んだ物を頼んだ分だけ、更に金銭の計算を任せても嘘無く釣り銭を返される。
それだけ椿が彼等を信用しているから、その信用に彼等も快く答えている、簡単な理屈ではあるが中々どうして難しい物である筈なのに。
アサシンはその流れの中に彼女の人となりを見たような気がした、自分を拾った彼女の心は、澄み切った清流のような物であると。
店主の差し出した袋を椿の代わりに受け取ると、椿は「居候の宍戸さんです」と勝手に自分を紹介した、一応会釈はするが、暗殺者の身分を余り方々に知らせるのはやめて欲しい、このままでは商店街から町中に自分の顔が知れるぞと危惧せざるを得ない。
いや、自分にも彼女にもその様なつもりは無いし気も無いのだが、中年以降の男女にその情報が渡ればどう歪んで広がるか本当にわからない、たまったもんじゃない。
「───ありがとうございます、宍戸さん」
買い物を粗方終えて帰路に着いている途中、アサシンは椿からそんな事を言われた。
「…何がだ?」
「ほら、私って目が見えないから、杖を着いているでしょう?だからいつもは少ししか買い物が出来ないんですよ」
「貴方がいるおかげで今日は沢山お買い物が出来ました、だからありがとう」
「…この程度、気にならん」
「それに、この中は俺が食う物も使う物もあるのだろう?ならば俺が持つのは当然のこと」
振り向き立ち止まって、微笑んだ椿を見て、思わずアサシンも釣られて笑う。
お人好しが過ぎるマスターだ、暗殺者のマスターに全く相応しくない最低のマスター、いつ何処で他のサーヴァントに狙われるかもわからないのに。
だがまあ、多少であるなら付き合ってやるのも悪くはないか、と、そう言う事を考えていた。
7
:
名無しさん
:2016/08/06(土) 17:42:43 ID:dwj4FOqM0
>>5
マスターを狙ったアーチャーの一撃は、然しサーヴァントが庇うという形で阻害される事になった。
アーチャーにとっては悲観する事ではなかった。その狙撃は必殺の一撃。サーヴァントの霊核すら傷付ける宝具にすら昇華されたもの。
仮に掠った、程度であったとしても。掠った、とい結果通りのダメージは与えられる。
目視で確認した限りでは、弾丸は突き刺さった。確実に、敵の戦力は削る事ができた。結果は良好、とアーチャーは考え。
「……見つかったか。勘が良いのがいるな」
一撃で位置まで悟られる事は、想定していた。サーヴァントに相応のスキルがあればありえない事ではない……が、見た限りでは。
どうもマスターに悟られたように見える。この暗闇でよく見つけたものだ、何かの魔術か……考えながら、出現した大砲が見える。
「アレを受ける訳にはいか……!?」
砲撃ともなれば、アーチャーにはひとたまりも無い。銃士であるからこそ、その脅威はよく理解出来ていた。
その対処を考える前に、それは飛び出していた……そう、『それ』は。ミリヤ・コスケンニエミ……アーチャーのマスターだった。
距離を取れ、銃声と共に走り出せ、というのを、ミリヤは『自分が援護するから突撃しろ』と解釈した。そして、一切の躊躇なくそれを実行した。
『―――――talvi―――――myrsky―――――』
『――――――――――toistaa!toistaa!toistaa!toistaa!!!!』
詠唱の時間は約2秒。小さな、蚊の鳴くような声でぼそぼそと、北欧の言葉で紡がれる詠唱により、現れるのは氷の壁。
そして後に続く一つの単語。意味は、『リピート』。合計5回、その回数の通りに同様の壁がアーチャーの前に突き立てられ、その砲弾の進路を遮る。
とはいえ、それが宝具である砲弾を防ぎきるほどの力があるかと言えば、否、であった。然し……アーチャーが姿を眩ませるくらいの、役には立った。
「何をしている、主君……此処から、退けと……!!」
氷の壁が突き立った瞬間、コンテナの陰に隠れて砲弾の射線上から離脱する。然し従来の陰に紛れながらの狙撃戦術は通用しない。
自分のマスターの白兵戦能力も分かっていない状態だが……やれる事と言えば、一つしかあるまい。
コンテナの上に立つ。そして照準を合わせる。目標は……サーヴァント。
『toistaa、toistaa、toistaa、toistaa……』
只管に再生を繰り返し、氷の壁を作り、それ。蹴り飛ばして加速する。そこに一切の迷いは無かった。
狙いはマスターであったが、この状況であればサーヴァントに突っ込むも同様。であるというのに、躊躇は欠片も持たず。
そして……ライダーに対して、弾丸が放たれる。それも今度は一発では無い。銃声は次へ次へと繋がり……五発。一斉に放たれ、ライダーへと突き進み。
『toistaa!』
そうして、接近したその手には……黒鍵に似た柄だけの剣。そして其処に形成された、氷の刃。
それを、ライダーのマスターへ。留まることなく、落下と共に振り下ろした。
8
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/06(土) 18:31:18 ID:JZ00R4PI0
>>7
「当たんなかった…っぽい!
コンテナの上!誰かいるよ!」
明見は奇妙な感覚を覚えていた。
周囲は暗い。ここもそんなに地形を把握していない。
でも――視える。
銃声で、砲の轟音で、氷が割れる音で、恐怖と共に感覚が鋭くなっている――みたいな?
『余にも見えたぞ――皇帝特権!矢避けの加護!』
マスターの助言を得て敵を――射手をライダーは視認した。
それと同時、皇帝特権を以て矢避けの加護を得ていることを「主張」した。
射手を視界に収めている間、射撃投擲からの回避が約束されたのだ。
五発の銃弾はいずれもライダーに当たることなく地面に刺さる。
『マスター自ら余に挑むか!しかし届かんわぁ!』
氷を生成しながら迫る敵射手のマスターと思われる女は明見に頼らずとも視認できた。
サーベルを振るい、新たな兵を三人召喚する――真名開放前ならば、これが限度だ。
氷の刃を、鋼の刃が受ける。
その刃の主もまた、騎兵であった。
だが――重い胸甲を、兜を身に着けていた。
彼らは胸甲騎兵。イギリス軍が近衛騎兵と誤認した重騎兵であった。
氷の刃を一人が受け止め、残りの二人は手にしたカービン銃で敵マスターを狙い、撃つ。
一方、先ほどの砲は敵サーヴァントそのものではなく、コンテナを破壊せんと再び砲撃をする。
その隙にマスターと皇帝を乗せた馬は下がり、敵マスターの射程から逃れようとする。
これら一連は、迅速に鮮やかに行われた。
自ら動くのではなく、「動かす」能力の高さは伺い知れよう。
――装備の質、皇帝特権を有すること、真名への手がかりも示されていた。
一方、明見は目にした敵の姿を見て思案していた。
まるで、戦国武将のようだ。大河ドラマにでてきてもおかしくはない。
そして、鉄砲。有名どころで言えば織田信長であろうが――
なんとなく、違和感を覚えていた。
9
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/06(土) 19:08:15 ID:x.rajKGA0
>>6
食材の香り。家庭というものを思い出させ、食を娯楽とする人間は思わず想像に脳を動かす。
日が沈みそうになる時間帯は小さな子供達ですら食欲を訴え、追随するようにして大人たちも帰路につく。
平和。極々平和な日常である。善でもなく、悪でもなく。あえて表すのなら中立と呼ぶのだろう。幸せそうで楽しそうで。
全くもって素晴らしい。
『俺みたいなクズはさ、そういう幸せそうな顔見ちゃうと…………。』
『ちょっかいかけずにはいられないのよネ。』
――――「悪」は、幸せが何なのかわからない。
ただ、それが自身にとって最も遠く。そして最も忌むべきものであるということだけは知っている。
――――
血液の匂い。鉄分を含み、錆を思わせる嫌な匂いだ。鼻が効くものであれば容易に、効かないものでも少し経てば嫌でもわかる。
明らかにナニカの殺傷が起きている。もしかすれば過去形かもしれない。濃密――――とまでは行かないが、二人分ほどのそれが空気中に漂っている。
気づかないふりをするのもいい。明らかに危険な香りがする。理解するまでもなく「何者か」が「何か」をしていることは明白であるのだから。
無視し、そのまま帰って食事を取るのが最善だろう。行ったところでメリットが有るというわけでもない。もしかすればあるのかもしれないが、現段階では不明である。
好奇心は猫をも殺す。人生に関係のない選択肢を選んでいれば、いずれ必ずハズレを引く。それが今である必要などどこにもないし、逆に言えばそれが今であるという確証もない。
考えるだけ無意味、無駄である。行くか、行かないか。選択肢は二つに絞られた。
――――
仮に、血の匂いに誘われて向かったとする。
しかし、其処には誰が居るわけでもない。正確には「誰かだったもの」は存在するが、「誰か」が居ない。濃い血の匂いが、広がっている。
地理的に言えば何の変哲もない公園であり、惨劇の現場は園内の公衆トイレにある。僅かに引き摺られたような跡があるため、処理されてからここに投げ込まれたのかもしれない。
乱暴された形跡は見えず、けれども衣類などは躊躇いなく破かれている。何か鎖のようなもので首を閉められたのか首元が鬱血しており、腹部には爪か何かで引き裂かれた痕がある。
人の仕業ではないことは即座に理解できるだろう。もし仮にそれがわからなかったとしても、残る魔力の残滓から何らかの「魔力存在」が居たのは明白である。
被害者は女性と女子。ちょうど母親と娘に当たる様な容姿をしており、苦しんで死んだのか失禁の痕が見える。手洗い場をよく見れば、其処には僅かな血液の残滓。
サーヴァントを付き従えているのならば当然のように「従者」は思い至るはずだ。「サーヴァントの仕業である」と。
もし思い至ることがなくとも、何からの魔術等によって引き起こされたことは推測できる。また、この犯罪に「隠す要素がない」ということもまた当然のように理解できるだろう。
――――
『処理とか面倒くさくね? 取り敢えず刻んで池に投げとけばバレないかな?』
「――――どうでもいいけど、君のせいで服が汚れた。」
『血って意外と落ちにくいからなぁ……。』
『どうでもいいなら気にせず行こうぜ? どうせ黒だしわかりゃしねぇよ!』
「そうかな。じゃあいいか。」
『そうそう! 少ない人生ノリよく行かないと損だって!』
「どうでもいい……。」
犯人は現場に帰ってくる。現場百回とはよく言ったもので、彼女たちが現場を見てから数分としないうちに声が聞こえてくる。
少年が一人。まるで一人二役でもしているかのように声が二種類聞こえてくるが、手品か何かだろうか。どうやら先客がいるとは――時期的には彼等が先客なのだが――警戒している様子もない。
仕掛けるは好機。此処から立ち去るにしろ、犯人だと思われる――其処は彼女たちの観察眼の鋭さによるが――者達に制裁を加えるのもいいだろう。
10
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/06(土) 19:38:44 ID:bcAZ9TjM0
>>9
「───……!」
帰り道、歩いている途中でアサシンはピタリと立ち止まった、後ろの足音が止まったのに気付いた椿もまた立ち上がり、振り向く。
「宍戸さん?」
「…………」
椿が首を傾げ声をかけるが、アサシンは黙ったまま明後日の方向を睨み付けて言葉を返さない。
すん、と鼻を鳴らして再び嗅ぎつけると、やはりその臭いに間違いは無いと確信する、濃密な血の臭い、嗅ぎ慣れた臭いだ。
ここでアサシンが考えるのは、この臭いの現況では無く、マスターである椿をどうするか───まだこの臭いに気付かない椿を連れて行く訳にはいかないが、罠である可能性を考えるとこのまま一人で返すのも危険だ。
そんな事を考え、迷っていると、やがて椿も鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。
「あら…?何か変な匂いがしますね、何だか鉄臭いような……」
気付いた、それが血の臭いであるとはまだ解っていなくとも、何かの異変である事に椿は気付き始めた。
そうであるなら、やがて彼女はそれに気付き確かめに向かう筈だ、そこがどうなっているかも知らずに、愚直に。
それだけは避けなくてはならない、彼女が自ら死地に赴くような真似だけはさせてはならない。
「……椿殿、先に帰っていてくれ、どうやら落し物をしてしまったようでな」
「あら大変、じゃあ私も───」
「いや───俺一人で大丈夫だ、安心してくれ、荷物は夕飯の準備迄には持って帰るから」
アサシンが取った行動は、椿を一人帰宅させ、自分一人でそこに向かう事だった。
ここで戦闘能力の無い彼女を一人にするのはリスクが大きい、しかし彼女が〝こちらの世界〟に足を踏み入れる前に原因は取り除いてしまいたい。
どちらにせよ、彼女がよく通るこの道に届く程の血の臭い、相手は近くにいるのだろう、ならばこちらの存在に気付かれる前に始末する方がいい。
買い物袋を持ったまま、アサシンは独り臭いの元に向かった。
────────────
其処に来た時には、既にその凄惨な場面が出来上がって時間が経っていたのだろう。
なんとも惨い事をする輩が居たものだ、多かれ少なかれ人の死に様を見て来たアサシンでも顔を顰めるような屍体が転がり、臭いの元がここである事は火を見るよりも明らかだった。
問題なのは、これをやった犯人───周囲に残る魔力の残滓から見るに、ただの人間では無い事は確か、魔力を持つ存在がいたのだという事は解る。
では、誰が何の為に───?それを考えていると、外の方から会話が聞こえて来た。
飄々とした話し声、どうやら二人組のようで、こっそりとトイレの外の木陰から、気配遮断スキルを使用してその声の主を確かめた。
───おかしい。どう考えても声は二つ、会話も成り立っているのに、そこにいるのは少年一人、独り言のようにも思えない。
やはり、何らかの魔力的存在か───アサシンが考察している内に、彼はある事に気が付いた。
(不覚───!)
少年〝達〟は気付くだろう、公園のベンチ、公衆トイレの近くのベンチに置かれた買い物袋に。
見る限りかなり新しく、少し前はそこには無かったもの───アサシンがここに来た時、両手を空ける為に置いておいたものが、彼の存在を知らせる為だけに今はそこに鎮座していた。
11
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/06(土) 19:59:58 ID:f.ATQujI0
>>8
カービン銃の弾丸、それを正直に受ける訳にはいかない。とは言え、回避はほぼ不可能と言えるような状況だ。
であれば、出来る限り最善の状態に持っていくほかない。当たるのは構わない。当たっても出来る限り問題が無い部位へと当てることさえできれば。
突き立てた刃が圧し折れると同時に、『リピート・マジック』によって更にもう一つ、巨大な壁が現れる。魔力を利用した暴力とも言える高密度の氷の壁。
然しその膨大な魔力を使用しても、英霊足るその力を同時に受け止めきる事は出来ない。一発はどうしようもない、通す他なし。
ばちっ、という感覚が右前腕部中ほどに奔る。着弾した其れはそのまま骨を粉々に砕いて向こう側へ――――――そして、それに押されるように"そのまま海に落ちる"。
大きな水しぶきを上げて夜の海へと消え失せるマスターに――――――――――――然し、アーチャーは一寸の躊躇も持たなかった。
「敵兵だ、南蛮のでも無い、朝鮮のでも無い、肌の白い兵士だ」
「分かり易い、"斬って撃って殺していい兵士"だ。"的は多い方がいい"、取れる頚は"多い方がいい"」
腰の長刀を引き抜いた。使い込まれた白刃であった。明確に、何人もの人間を斬ったと分かる、業物ではないが、十二分な"武器"に他ならなかった。
相手が高名な指揮官であることは最低限アーチャーにも分かった。異国の鎧に、異国の銃。呼び出された兵士に、然しそのアーチャーはより昂揚していた。
その男は非常に冷静極まりない男であった。狙撃手に必要な要素がそれであった。然し同時に兵士であった。どうしようもなく兵士であった。
薩摩と言う国には、そういう兵子しかいなかった。どうしようもなく、それはその血に刻まれた徹底的な"戦士"であった。
「敵将首に不足無し。鉄砲無尽に撃ち、『殺し』、刀抜き放ち斬り、『殺す』べし」
「――――――――――――そっ頚ィ、この俺が貰い受ける」
三連射――――――"本来火縄銃という銃では不可能な速度での三連射"。それも、今度は"構える素振りすら見せずに、無造作に振り抜いた様にすら見えた"。
火縄銃、という武器には"古い銃"という印象しかないのが大半の人間であろう。それ故に、現代兵器よりも威力が低い、と思われがちな節がある。
然し、その精度は"現代の物と比べれば確かに低い"が。その威力は。
鉄の鎧を易々と貫通するまでになる。
その破壊力は、現代の散弾銃によるスラッグ弾の一撃と並ぶか、或いはそれを上回るとすら言われている。
それが戦国乱世の日本にて銃をいち早く取り入れた、織田家、雑賀衆、そして――――――――――――"島津家"が、名を轟かせた理由にもなっている。
海に落ちたアーチャーのマスターが、アーチャーの疾駆と共に這い上がる。
アーチャーの敏捷は"B"。上から数えれば早い方だが、決して絶対的な信頼が出来る物では無い。であれば、それを補助してやればいい。
直線状に戦うだけでは、無意味なようならば。姿を現し晦まして、その繰り返しの内で、"加速させていけばいい"。
アーチャーの姿を覆い隠すように、白い氷の壁が現れる。不純物を含んだ氷は、それを反射して白く濁る。
そしてアーチャーの行く手には、規則性無く白い壁が並んでいた。戦闘機械たる"それ"は、その意味を直感的に理解した。
蹴り、横へ。白い氷の壁を右手に向かって、飛んで、更にその先に在る壁を蹴り飛ばして左右へと揺れ動きながら、前へ、前へと迫っていく。
『toistaa、toistaa、toistaa、toistaa……』
貫通したカービン銃による銃創は、氷を用いて無理矢理に応急処置が施されていた。
這い上がったは良い物の、やはりそれだけの魔力の使用は徹底的にミリヤ・コスケンニエミの身体を削り続けている。然し、魔力欠乏の症状は、"出ない"。
元より輝きなど一欠けらも無かったその瞳は、少々定まっていないように見えたが、それでも尚、"リピートを繰り返し続けていた"。
アーチャーの動きに合わせ、白い氷の壁を作る。定期的に、敵の視線を遮るようにする。そうして――――――最後の一枚、残り数メートル、というところに。
白い壁を立てた。左に動き、右に動き、上に動き続けていたアーチャーは――――――――――――
「――――――――――――死ね」
その壁ごと、ライダー陣営を"撃つ"。まるで機関銃であるかと見紛う程の"連射"であった。
壁の向こう側、姿が見えていないのならば――――――"銃など避けようもないだろう"。
12
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/06(土) 20:00:53 ID:x.rajKGA0
>>10
「――――。」
『どうした? 急に立ち止まったりなんかして――――はーん。』
緑色の髪を指先で弄りながら、見えている方の彼は視線を「買い物袋」に向いた。
ベンチにおいてあるそれはまさしく“それらしい”様相を備えていて、彼等がおいた記憶もなければ、先ほどちょっかいを変えた者達がおいていたものでもない。
であれば、結びつく情報は一つである。“何者かが居る”ということ。もしかすれば買い物袋をおいたまま何処かへ言ったしまったのかもしれないが、公衆トイレの惨状を見る限りそれもないだろう。
それに、彼の目が僅かに疼いている。幻想を見通す瞳が“痛み”という過程を通して“何か”が居るということを訴えかけている。
どこに居るのか、ほんとうにいるのかはわからない。ただ漠然と“居るかもしれない”という錯覚じみた確信だけが彼の脳髄を刺激し続けていた。
『人間が通った感じはねぇし、わっかんねぇなぁ。』
『しょーじき、やばそうなやつならとんずらしたいんだが……。』
『――――其処んとこどうなのよ、聞いてる?』
『一人で喋ってるのって思った以上に恥ずかしいんだよ。これが』
気配遮断。その可能性に行き着くことは先ず無いだろう。片方は魔術に関しては全くの素人であるし、もう片方はそれを意図的に忘却したふりをしている。
ソッチのほうが面白いから、と“笑みを浮かべながら”。サーヴァント――――アヴェンジャーは霊体のままでボソリとつぶやく。当然だが姿が見えることはない。
気配を消すこと無く、魅せつけるように。殺人犯はここであるという“煽り”すら入れながら、アヴェンジャーが取る方法は至極単純だった。
『……居ないんならいいや、アレ“処理”して“次行こうぜ”。』
「どうでもいい……。」
出てこないなら居ない。居ないのであれば、予めしようと思っていたことをするだけである。
頭の悪く、ひどく我欲的な行動原理。しかし、“次”ということは“前もあった”ということであり。
さらに言えば――――“前”と同じことを“次”もする。と言った意味に捉えることも可能だろう。
13
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/06(土) 20:38:07 ID:bcAZ9TjM0
>>12
(勘付かれたか…?)
気配遮断スキル、その名の通り自身の気配を無にするスキルであるが、アサシンのそれの制度は飛び抜けて高いというものではない。
相手が何らかの探知方法を持っていれば正確な居場所は解らずとも、その存在には気付ける筈だ。
少年の様子を鑑みるに、こちらに気付いているかは微妙な所、しかし確実に自分がここに存在したという事実は自分から伝えてしまっている。
一か八か───気付かれていれば恐らく成功はしない、そして相手がマスター、若しくはサーヴァントである、どちらにせよ聖杯戦争に関係のある者だと断定して。
アサシンは、甚平の下から己の得物を静かに取り出した。
ヂャリ、という微かな音、金属が擦れ合う音が聞こえただろう、アサシンが攻撃体制に入った事で気配遮断のランクは下がり尚更その居場所に存在を感じる筈だ。
だが、それを補うのは有無を言わさぬアサシンの速さ、音が鳴って刹那の隙も無くアサシンはその得物を少年に向けて投擲した。
木陰から弾丸の様に投げ出された鉛の塊、鎖に繋がった分銅が少年に飛び掛かり、その重さを感じさせないスピードで絡みつこうとする。
14
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/06(土) 20:46:00 ID:JZ00R4PI0
>>11
氷を使う敵マスターの右手は奪えた。だが、海に落ちても油断はならない。
ひょっとしたら、海から這い上がるかもしれぬ。海から援護をするかもしれぬ。
それよりも―――
織田信長にしては、獰猛ではないか?
やや、戦士でありすぎるのではないか?
そう思った明見は敵が織田信長である可能性から離れる。
他に――他に火縄銃を取り入れたところは――――
『ほぉう。貴様、極東の戦士か―― 一度戦ってみたかったぞ。
倒してみたかったぞ。
この聖杯戦争でそれが叶うとはな。』
三連射、それを見た明見もライダーも驚愕に目を開くがそれらは回避できた。
先ほどの矢避けの加護のおかげだが――あれを備えなしで受ければひとたまりもない。
なによりも――あいつは、いつ構えた?
そびえたつ白い壁、氷の壁――敵マスターの、支援。
魂胆は分かった。矢避けの加護は“見えている”射手からの攻撃を悉く回避する。
が、見えねばその限りではない。
馬を奔らせ、下がる。
騎兵共に銃を撃たせてアーチャーを狙うも――当たらない。
速い、速くなっている。
ライダーの目にはその姿を捉えきれない。皇帝は初戦での敗退を覚悟して――――
しかし、皇帝の主人はそうではなかったようだ。
「急いで飛び降りてッ!」
鋭く放たれた言葉、ライダーはそれに賭けることにした。
愛馬たるマレンゴを捨て、マスターと共に馬を飛び降り、横へ跳ぶ。
次の瞬間、マレンゴは銃弾の嵐に消えた。
騎兵も、砲も、その巻き添えとなって消えた。
が――皇帝は、その主人は、健在であった。
『―――我が愛馬を、撃つか。』
皇帝、ここに健在也。
主人たる少女と共に立ち上がり、己の敵を見据える。
『出し惜しみは、やめるとしようか。
さあ―――革命のときだ』
己のサーベルを構え、敵に向ける。
あれこそが、倒すべき敵だと“指し示す”ように。
魔力が、ライダーに集まる。
魔術に、サーヴァントに詳しい者ならば誰だってわかるだろう。
宝具を、開帳するつもりであると。
明見は、自分の視界に戸惑いながらも砕けた氷の霧の向こうを視る。
どうして、どうしてこんなにクリアに視えるんだろう……ヤバい
そして、目当てのものを見つけて息を呑む。
あのマスターは間違いなく―――
消耗しすぎている
15
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/06(土) 20:53:24 ID:x.rajKGA0
>>13
「――――あ。」
気配。感知した瞬間にはすでに遅く、眼前にあるのは分銅と鎖の影。サーヴァントか、若しくは隠蔽に特化した魔術しか。
どうでもいい。“自身の命にすら無頓着”。そうすれば何も感じることはない。そもそもからして“何も感じない”のだから。
死が近づく。近づいている。マスターとしてどうでもいいと答えた夜に、少しばかり変化したそのセリフは、何を思うでもなく、絡み付こうとする鎖に纏わり付くだけだ。
『――――ってわけにも行かないんだな。これが』
絡み付いた物。確かに感じる手応え。しかし、おそらくは人間とは思えない程の筋力を感じさせるだろう。
サーヴァントである相手には比較的弱い力でしか無く、人間を上回るだけ。だが、紛れも無くそれは人としての肉体構造をしていなかった。
黒い髪、陳腐な半袖のシャツからはみ出る腕には無数の刺青が蠢いている。ズボンは比較的近代のものであるが、血を浴びたような黒い痕跡が残っていた。
右腕に絡みついた鎖を見て僅かに笑う。マスターを躊躇なく狙ってきたのは上々だと目がそう言っていた。見据える先にあるのは“敵対する魔術師・若しくはサーヴァント”。
木陰に隠れているため正確な背格好などは認識できないが、おそらくはそんなところだろう。今時犯人の確保に鎖を使う錯誤人もいまい。
『行動としては上々。多分オレより強いだろ、アンタ?』
『こっちとしては面倒だからさっさと逃がしてくれるか、殺されるかして欲しいんだけど』
『ま、そうも行かないよねぇ……。』
余裕ではなく、諦観。自身はきっとこうなるであろうという予測と、思い通りに事が運ぶことは絶対にないという確信。
幾つかの感情がない混ぜになった挙句、そのどれもを捨て去ったうえでの思考。アヴェンジャーは右腕に絡みつく鎖を軽く引きながら、明かりの前に出させようとするだろう。
しかし、おそらく筋力では先ず勝てない。力を入れさえすれば、容易くアヴェンジャーはそちらに引き摺られてしまうことだろう。
先ほどの反応から、マスターは比較的凡人であることも推測可能なはずだ。ならば、逆に近づくことでマスターをもそちらの射程に収めるということもできる。
どちらにせよ、どう動いても“此方に姿を晒す”ということは確定事項でもある。
――――宝具、若しくはスキルなどで“近付かずとも殺せる”術があるのであれば、必ずしもそうであるとはいえないが。
16
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/06(土) 21:26:32 ID:bcAZ9TjM0
>>15
鎖が巻き付いた手応えはあった、然しその手応えは思っていたものとは全く違う。
サーヴァント───鎖の先を右腕に巻き付け立っていたのは、紛れもなくそうだと一目で解る容姿と雰囲気をしていた。
これを、相手のサーヴァントを引きずり出したと見るか、攻撃が防がれたと見るか、どちらに考えようと次の一手を急がなければならない。
力比べではこちらの方が上のようだが、相手がサーヴァントである以上下手な事は出来ない、可能ならマスターであろう少年を狙うべきだが…。
(あのサーヴァント───一体何者だ?)
サーヴァント、アヴェンジャーから感じる気配、どのクラスとも予想出来ぬ禍々しく歪な気配が、アサシンの手を遅らせる。
何を仕出かすか予想が付かない、手を触れれば何が起こるかわからない得体の知れなさがある。
アサシンはわざと力を緩め、鎖に引かれるように素早く前に出、木陰から飛び出してアヴェンジャー達の前に姿を晒した。
だがそれはこちらの攻撃の為の布石である、地面に片膝をつく体制で攻撃体制を整えた状態で降り立つと、すぐさまもう片方の手に持った鎌を少年に向けて投擲する。
アンダースローで投げられた鎌は地面擦れ擦れを滑る様に少年に近付き、その射程に少年を捉えた所で上に跳び上がり、下から掬い上げる斬撃を加えるだろう。
大凡人間の手で可能なのか怪しくなる軌道、しかしそれを難なく成せるのがアサシン、宍戸梅軒という男の業であった。
17
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/06(土) 21:45:38 ID:x.rajKGA0
>>16
『オレってばどうしようもないクズだからさ。』
『こういう時盾になるモン持っとけばよかったな―って思うワケ。』
「――――鎌、なんか“変”だ。」
『見た感じサーヴァントっぽいし、まぁそうでしょうね……っと!』
前に出てきたサーヴァント。気配遮断があると仮定すれば“アサシン”だが、先ほどの捌きを見る限り“ライダー”の可能性もある。
推測などに興じる気分でもないが、命がかかってれば当然するだろう。だれだって痛いのは嫌なんだ。マスターである道方とは違い、アヴェンジャーには明確な痛覚がある。
“痛み”自体が悪に対する制圧だったのだから当然だろう。鎌、死神の持つ象徴。命を刈り取る概念。震えが来る。それが“面白い”。
殺せるのなら殺してみてくれ。死ぬ代わりに死なせてやる。“死滅願望”、その発露。全身に回す魔力は消費され、即座に“再循環”。
使えば使うほどに回復し、回復すればまた使う。無限軌道、暴走したエンジン。アクセルを全開にするように魔力を回して、そして行動。
殆どのステータスが死んでいるアヴェンジャーの唯一の取り柄は敏捷である。最高ランクのAを持ち、こと速度だけであれば“サーヴァント”にすら引けをとらない。
故に、此方にアサシンが来る事で僅かに緩んでいるはずの鎖を更に引っ張り、そしてマスターである道方の眼前に移動、下からすくい上げる斬撃に合わせて“右腕を縛っている鎖”を合わせようとする。
『手品師みたいだなソレ』
当然、この動きはアサシンにも見えているし、アヴェンジャーもそれを理解している。だが、行動としてはそれが最善であり、アサシンにとっては絶好のチャンスだ。
道方が戦闘能力のない魔術師であることがこれで“確定”され、アヴェンジャーはそれを守る形でしか動けない。状況としてはアサシンに分があり、且つ今の動きに介入すれば“右腕”の切断すら狙うことができる。
此方はアサシンの投擲した鎖で右腕を封じられ、それに力を込められれば当然動くことはかなわないだろう。よしんば動けたとしても僅かな範囲でしか無く、道方に斬撃があたってしまう可能性もある。
仮に斬撃に間に合ったとしても、対応するには右腕の鎖でなんとか防ぐといった手法を取るのが手一杯だ。ここで絡んでいる鎖を外してしまえば、斬撃に合わせてアヴェンジャーの右腕は切り落とされる。
そういった状況にありながらも、アヴェンジャーは諦観を崩さない。
マスターがやられてしまっても構わない。それならソレが“天啓”でもあるかのように迷いなく、興味もない。
18
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/06(土) 21:46:06 ID:f.ATQujI0
>>14
聖杯戦争に於いて、サーヴァントの知名度が低いというのは基本的にデメリットに他ならない。
実際、アーチャーは"出身、活躍の地である日本ですら知名度による補正がほんの僅かにしかならない"。日本人にすら、その名を知られていないのだ。
正確には、それ自体は『知っている』。恐らくは誰もが教科書で聞いた事があるだろう。だが、それもほんの一度や二度。それも、『名』までは教えられない。
知名度が低いという事は、候補の内に入る可能性すら少なくなるという事になる。これが、挙げられる唯一の"メリット"だろう。
天下を制す直前まで辿り着いた、魔王『織田右府信長』か。戦国最強の傭兵部隊の長、『雑賀孫市』か。
或いは――――――『島津』か? 何処まで辿り着くだろうか――――――それは敵のマスター次第だが。
少なくとも。彼我のサーヴァントは"立っている"。
「応、生きてたか」
先も言ったように、アーチャーの知名度は極端なまでに低い。日本における鉄砲伝来の立役者、と言える一族の内の一人。
その上、島津の鉄砲術は『アーチャーあってこそ』と言われていたほどの使い手であるというのに、だ。故に、大きな宝具を持ってはいない。
それだというのに、それは一欠片も恐怖というものを抱いていなかった。既に死亡した人間である英霊がそれなりに死の恐怖が薄らいでいるのは当然かもしれないが。
それでも尚、異常だと言える程に交戦意欲に溢れていた。サーヴァントが、宝具を使う、と理解していても、だ。
『ふ、ぅ。はぁーっ……"アーチャー"、敵が……』
「分かってる。下がってろ。心配せんでも、"死なん"。"殺す"。"死んでも殺す"」
それでも、ミリヤの魔力が枯渇する事は無かった。だが、その代わりに――――――その魔術回路が"酷く焼き付いていた"。
本来扱えるはずもない量の魔力を扱う魔術を次々に発動したのだから当然の話ではある。ミリヤ・コスケンニエミは、決して天才的な魔術師では無かった。
魔術を扱えば扱う程、様々な弊害が襲い掛かってくる。普通の魔術師が扱う魔術師の、何倍もの"肉体的負荷"が。
アーチャーは、知ったことでは無いとばかりにそう言った。敵が宝具を使う事も、ミリヤの身体がズタズタになっていることも、"知ったことでは無い"と断言した。
なぜか? 武者だから、それ以外に合理的な理由など、無いし、必要無かった。
火縄銃を背負い直す。其の手には太刀が一本、握られていた。
アーチャーの筋力の値は決してサーヴァントの中では高くは無い。ランクはD、下から数えた方が早いくらいだ……だが。
"それがどうした"。突っ走って、兜ごと頭を叩き割るか。鎧ごと叩き斬るか。首を?っ切るか。"敵よりも早く剣を振り下ろす"。結局のところ、それに尽きる。
すっ、と息を吸った。それが、アーチャーの身体を思い切り奮い立たせる合図で逢った。合戦の導であった。
「―――――――――――― オ ォ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ ! ! ! ! 」
絶叫の如き咆哮。今、そのサーヴァントが、その刀と、その"気迫"、ただその二つだけだった。
咆哮は敵を威圧する。気迫は敵を圧倒する。野蛮だと罵る武士がいるが、それすら"その武者たちの前に立てば震えあがる"。
「そっ頚ィ、 貰 っ た ァ !!!!!!」
疾走する。宝具の発動が間に合うか、間に合わないか、そんな事はどうでもいい。
ただ"殺す"。その一刀を以て、両断せんと――――――――――――その白刃をきらめかせ、振り下ろす。
19
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/06(土) 22:14:15 ID:bcAZ9TjM0
>>17
アサシンはアサシンのクラスであるが故、与えられた敏捷の値は高く、最高値に高い速さを獲得している。
だが、アヴェンジャーの敏捷もそれに肉迫する程に高いのが予想外だった、思った以上に素早く、その行動を見てから対応するのを許してしまう。
「……戦場(いくさば)で良く口が回るな」
殺るか殺られるか、戦いの場に於いて無駄口は不要、それだけにアヴェンジャーのように良く喋る奴は去勢を張っているか油断に溺れているかの二つに一つ。
少なくともアサシンが生きていた時代ではそうだった、彼の中で強者とは多くを語らず、腕で力を示していた。
アサシンもまた、それに倣った男、挑発もせず語らいもせず、淡々としてなすべき事を成す。
アヴェンジャーが鎖によって鎌を防ぐと、下から跳ね上げた鎌が弾き返される、行動が遅れたのかアサシンがアヴェンジャーの腕を引いたのはその後だった。
───否、遅れたと思わせるのが、自分の行動が成功したと思わせるのがアサシンの作戦。
弾かれた鎌に繋がる鎖の根元はアサシンの手にある、これを僅かに捻り引く事で自由自在に鎌や分銅を遠隔操作するのが彼の業。
片手でアヴェンジャーの腕に絡みついた鎖を引きながら、もう片方の手で鎖を人差し指に引っ掛けて鎌の軌道を操作する。
弾かれた鎌が再び空中で軌道を変え、今度は頭上から襲い掛かるようにアヴェンジャーに落とされた。
アヴェンジャーの防御が成功したのは、アサシンの妨害が遅れたからではない、わざと妨害を遅らせて、自分の行動が成功したと、そうアヴェンジャーに思い込ませる為。
そして、今までマスターばかりを狙っていたのを急に狙いをアヴェンジャーに変えたのは、アサシンがマスターを狙う戦法であると思わせる為。
20
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/06(土) 22:19:05 ID:JZ00R4PI0
>>18
『来たれ我が軍勢――革命の時は来たれりッ!』
敵は、迫ってくる。
完全に宝具を使うのは、間に合うまい。
言葉を紡ぎながら、策を練る―――
明見は、大きな魔力の流れに紛れて小さな流れが素早く起こるのを感じた。
大きなものを使う前に、同時に何か小さなものを起こそうとしてるのだろうか――?
ライダーがニヤりと笑う。
太刀で迫る強敵の、意表を突く策が思い浮かんで。
震えあがる明見、しかし皇帝は立ち続ける。
蛮勇、大いに結構。しかしそれでは――
届くまい。
刃が下ろされる直前、皇帝は一歩下がる。
その合間を埋めるように兵が一人、刃を振り下ろす武者の前に現れる。
兵は剣を構え、その白刃を止めて見せた。
皇帝に、絶対にその刃を届かせない。
強い意志、しかし力量足らず――まもなく、押し切られるだろう。
弓兵の乏しい筋力でも、簡単に。
されど―――
『“大陸軍”ッ!!!!』
ラ・グロンド・アルメ
一人の男の指揮の下、全ヨーロッパを揺るがしその大部分を攻め落として見せた最強軍隊。
その敏捷さは、その電撃的の一言に尽きる。
そしてなにより、この軍隊の指揮官は――――
『我こそはナポレオン・ボナパルト―――貴様の猛勇を称し、貴様を滅ぼす皇帝であるッ!!』
オォ――――
無数の咆哮。そして――
無数の、兵たち。
ナポレオンの後ろには、フランス陸軍があった。
ナポレオンの隣の主人は、その偉容に言葉を奪われた。
『敵は猛なり!されど余にはできぬことはひとつもなし!!
さあ――撃てッ!!』
サーベルを、下ろす。
刹那、兵たちは己の銃を撃ち放ち――武将へと迫る。
皇帝と武将が近いのにもかまわず、されども武将のみを正確に狙ってみせて。
目の前に現れた兵を撃破すれば、すぐそこに皇帝の頸はある。
されどもその皇帝は――絶対の自信を持って、笑った。
21
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/06(土) 22:40:09 ID:x.rajKGA0
>>19
『こんなこと。喋らなきゃやってらんないでしょ――!』
無駄口。確かにそうだった。アヴェンジャーは相手に返答させることで「隙」を作る。言葉というものは放つだけで酸素を消費し、戦闘のテンポを崩せるからだ。
ごく自然に染み付いているそれは戦闘という面で見れば邪道。正々堂々の勝負を望む相手であれば悪と映るかもしれない。だからこそ、アヴェンジャーにはソレができる。
アサシンのように口車に乗ってこない相手は正直にって“不利”であると言わざる得ないが、まだ手はある。たとえステータス上では完全に負けているとしても、“それだけで終わらない”のが英霊同士の戦いである。
『…………そうくるわけね。』
思わず呟いた言葉は遅く。鎌が頭蓋に入り込む音がする。脳内に刃が進入する音を聞きながら、アヴェンジャーはこれまでの動きが“ブラフ”出ったのかとようやく理解した。
アヴェンジャーは“愚者”である。悪とはひとえに人間としての悪性を持つ者を指し、彼はその体現者である。ならば当然のごとく“思慮が浅く”“向こう見ず”で“気分屋”。
人間の悪いところ全てを押し付けられた存在なのだから、七つの罪の一つたる傲慢。ソレは転じて慢心となり、彼に纏わり付く諦観を覆う。つまるところ、アヴェンジャーは楽観視しすぎていた。
――――いくら自分が簡単には死ねないとしても、あまりにも考えの薄い行動だったと言わさざる得ない。
『なんだかんだ言ってアンタも楽しんでるんだろ? “悪人”さんよ』
確かに驚いた。驚愕した。アサシンの腕は一流であり――超一流と表しておこう――アヴェンジャーは三流にすらなれそうもない。手のひらで踊っているだけの大根役者だ。
鎖鎌というやつだろうか? 此方の行動を封じる“鎖”。相手を断つための“鎌”。攻撃としても、防御としてもそれぞれに対応できる。マイナーとも言える武装ではあるが、使うものが使えばこんなにも恐ろしい。
しかし、それだけだ。斬られれば死ぬ。そんな単純な自然の法則が通用する相手であれば無双だろう。だが、少なくともアヴェンジャーはそうではない。
たとえ斬られようが、破壊されようが、そんなことは“関係がない”。死ぬということ、サーヴァントとしての消滅が“許されない”呪い。善の存在にしか殺されない究極の“因果律固定宝具”。
『須く悪に帰結し』。悪は悪であるかぎり不滅である。悪を滅するは善にのみよってなされる偉業であり、悪はどちらもが死す。そして悪はまた生まれ、善が来るまで延々と続いていく。
ソレを象徴化した宝具であるゆえに、アサシンにもわかるだろうか。“確実に脳髄を破壊したはずなのに、何故かがま生きているどころかピンピンしている”。
そして、頭蓋に刺さっている鎌を開いている左手で掴もうとするだろう。言葉遊びに興じないということは、アヴェンジャーに相手を見定める行為を行わせないという行為でもある。
アヴェンジャーはあらゆる悪の巣窟であるため、当然あらゆる見方は悪に帰結する。よって、仮にアサシンが善としての性質を持つサーヴァントであったとしても
『善悪二元論』によって“悪”と断定され、宝具の開帳を促してしまった。だが逆に言えば“先に宝具を晒すことに成功した”ということでもある。
『アンタが善だろうが悪だろうがどうでもいいけどさ』
『話もせずに急に襲い掛かってくるのは間違いなく――――“悪”だよな?』
もし鎌を左手でつかめたのであれば、そ乱雑に頭から引き抜き、適当に構え、大雑把に力を込めながらアサシンの方へと“投擲”する。
“投擲”のスキルを所持していないので狙いは甘く、回避は容易いだろうが“鎖”は未だアヴェンジャーと繋がったままのはずだ。
少し力を入れてやれば――――どうだろう。少しばかりは“脅威”になるだろうか。
(どうすっかな……ジリ貧だぜこりゃあ)
(マスター縦にして逃げるのもありっちゃあありだが、ソレすらもめんどくせぇ)
22
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/06(土) 23:07:57 ID:bcAZ9TjM0
>>21
確かな手応え、頭髪を断裁し頭蓋を貫いた感覚が鎖を通じ手に伝わる、確かに命を奪った感触。
その認識は改めなくてはならない、何故ならそれは人の命を奪ったが故の感覚ではなく、致命傷を与えたが故の感覚であったから。
───致命傷を受けて尚、生きている者がいたのなら、その意味合いは大きく違う。
「なん……だと……?」
脳に刃を突き立てられ、生きている者がいるだろうか?それが英霊であっても、人を模しているのならそうならないとおかしいではないか。
であるなら、アヴェンジャーは確かに〝おかしい〟存在なのだろう、アサシンがアヴェンジャーに感じていた違和感がここで目の前に形となって現れる。
殺しても死なぬ者、それがスキルか宝具かまではわからないが、アヴェンジャーが何らかの不死性を持っている事が明らかになる。
「糞……!貴様は!!」
目の前でアヴェンジャーが乱雑に頭から鎌を引き抜き、血と肉がこびり付いたそれを投げ返す。
アサシンはそれが自信に到達する前に鎌と繋がる方の鎖を引き寄せ軌道を調整、鎌を手元に持ってくると同時にアヴェンジャーの右腕の鎖を解き、これも引き寄せて距離を取る。
「……サーヴァント、であるならその不死は宝具か?」
「まさか、胴を斬り落としても腕と足が別々に動くとまで言うまいな」
手元で鎖をグルグルと回転させ、遠心力を畜力させながら相手を伺う、相手が不死であるのなら、そのカラクリを解かなくてはこちらが消耗するだけだ。
奇しくも、お互いに自分が不利であると踏んでいた、このまま膠着状態になればお互いに全く動けなくなってしまう。
何か空気の流れを変える物があれば話は別だが、そんなものは───
「───宍戸さん?そこに宍戸さんがいるの?」
「───ッ!?」
不意に掛けられた声に、アサシンは驚愕の表情を浮かべた其方を見た、その視線の先には、杖をついた女性の姿。
目を閉じ、黒い挑発を揺らす女性、アサシンのマスターが、先に帰らせた筈の彼女がそこにいた。
それは全く予期せぬ事、アサシンには隙が生まれ、元より隙だらけの椿は狙うにはこれ以上無い逸材だ。
23
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/07(日) 01:09:53 ID:IzYCzDoE0
>>20
――――――――――――嘆くべきであるか。少なくともアーチャーと言う男は、それを当然として生きてきた。
いや、アーチャーだけでは無い。薩摩と言う場所に産まれた兵子、それら一律にそうであっただろう。それら全てがそうである以外に知らなかったのだろう。
それは敵が目の前にいるというだけで、奮い立つという、最早精神病とも言える疾患であった。奮い立たなければならないという、強迫観念であったのかもしれない。
ぶちぶちぶち、と。鎧兵士の身体をブチブチブチと切り裂いた。最早押し切るというのが正しい。余りにも獰猛な、猛犬の如きであった。
一人殺せば、次を殺せ。そう骨身に叩き込まれている。殺してすぐさま、次を探す。目前に広がるは――――――"ナポレオン・ポナパルトの大陸軍"。
アーチャーの時代よりも、遥か後の軍勢。この日本における知名度すら、彼奴らは上回っている事だろう。
装備も、数も、圧倒的に劣っている。だが―――――――アーチャーは。それでも尚、戦う事を止めるという事を知らなかった。
一つの島国の中で、まるで孤独の様に殺し合いを繰り返した日本国の武者の中でも、そこは殺し合いを繰り返して繰り返して繰り返していた。
そこにいる武士達は、武士達は死ぬことが当然だと思っているようにすら考えていたという。其れも同じであった。唯々、只管に殺す事のみを考える兵器に他ならなかった。
刀を納める。決して終戦の合図などでは無い――――――であれば、何する物か。陣羽織の内側へと、その両手を突っ込んだ。
引き摺りだすのは――――――――――――"二丁の銃"。一つは、短筒。アーチャーが生きた時代にも存在していた、銃身を短く、取り回しをしやすく加工したそらだ。
そしてもう一つは、"散弾銃"……1887年に登場した、レバー・アクションによる散弾を撃ちだす銃の銃身を、先のそれと同じく短く切り詰めたものであった。
それは、アーチャーの死んだ数百年も後の武器だった。それだというのに――――――"それは、アーチャーの宝具として胎動していた"。
「――――――――――――敵は常勝。ふらんすの"大陸軍"」
「討ち取れば、大手柄に違いなし。であれば、変わらず」
狙いを定める兵士達へと向けて、左手に握る短筒の引き金を引いた。射程距離こそ、長筒のそれには劣るが――――――それもまた、『火縄銃』だ。
兵士達へと振り抜かれ、まるで短機関銃のように弾丸がばら撒かれ、それらは正確に"兵士達の眉間へと向かうだろう"。
それこそがアーチャーの『絶技』。最高峰に近い、A++ランクの『種子島』に付随する、同ランクの『射撃』と『早撃ち』の技能。
そしてそれと同時に、駆け出す。そして前方にいる兵士達へと、右手の散弾銃の引き金を引く。
宝具と化した弾丸が、前方広範囲へとばら撒かれる。一射目を終えたのであれば、レバーを軸にして手の内で一回転させ、排莢の後、更に第一射を放つ。
然しそれでも、これだけの数の相手を捌き切れるわけがない。であれば、ライフル弾がアーチャーの身体を抉るのは必然である。
解決策など無い。唯々、突っ走って撃つ。それ以外に策など一つも無かった。
無理矢理に抉じ開ける。鉛玉の嵐を鉛玉の嵐で返し、奔り続ける。一歩でも、一歩でも、一歩でも多くの歩数を稼いで。
絶対の自信など一欠けらも無い。其処に在るのは、唯々無尽蔵に湧き続ける狂気にすら似た勇猛のみ。
その一撃一撃が、宝具と化した一撃。"そして、その短筒は、一つ明確に目標を決め、狙いを定めて引き金を引いた。"
『――――――――――――あー、チャー……っ』
如何に燃費の良い宝具であろうとも、これだけの連射が行われればマスターの負担も極端に多くなってくる。
『右胸』を抑える。普通の人間ならば、心臓はその反対側に在るが――――――"其処に何かがある様に、ミリヤ・コスケンニエミ"は振る舞い。
そして、事実、そうであった。痛みを感じない身体であったが……明確に身体が異常となれば、"苦しい"という感覚は無論再現されるのだから。
24
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/07(日) 01:37:42 ID:JZ00R4PI0
>>23
『ゆくぞっ
奴はこれで下がるようには思えん。』
「散弾……銃……?」
兵たちが一人の猛者を相手に突撃をする最中、皇帝は主人の手を引いてさらに下がる。
万一、アーチャーが侵攻してきたときに備えて矢避けの加護が働くようにそちらを見ながら。
一方、手を引かれる明見は兵たちの合間から見える武将の獲物に驚愕していた。
あれが、あんなものがアーチャーの時代に存在したとは思えない。
なのに、あのサーヴァントは自分の手足のように散弾銃を連射する。
あのアーチャーの宝具は――火縄銃ではなく、銃の概念そのものとも思えて―――
ふと、遠くにいるはずの敵マスターが目に入った。
胸を押さえている。それはいい。
だが――なぜ右なんだろう?
ナポレオンの策はこうだ。
兵の数に任せてアーチャーを圧し、海へと追い詰める。
その隙に後退をし、砲撃で殲滅――が、敵を見誤ったらしい。
敵は、消耗しつつも兵をなぎ倒しこちらへと接近しつつあったのだ。
『くっ……砲撃用意ッ!!』
「ライダーッ!!!!」
砲撃を指示したライダー。一気に片を付けるつもりらしい。
が、それはすぐ近くにいた彼女によって阻まれる。
明見――皇帝の主人が皇帝を突き飛ばしたのだ。
明見の背中を銃弾が掠め、未知の痛みに堪らず声を上げる。
それを救ったのは一人の兵士。彼は皇帝の指図で明見を担いで走る。
明見は――
「あはは…やった、ってね☆」
満足げに笑っていた。
それを見た皇帝は思案する。
この少女は、なぜ“銃を構える動作”が見えたのか。
いったいあの少女は――何を得ているのか。
砲は皇帝の指示でいつでも撃てる状態となった。
兵は数を減らしながらも懸命に銃弾を放ち、その進撃を阻む。
海へ、海へと追い詰めるべく。
25
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/07(日) 02:10:46 ID:IzYCzDoE0
>>24
血飛沫に塗れ乍らも進軍を続けるアーチャーの、"決死の一撃"。然しそれは、阻まれる――――――"敵方のマスターに"。
それは間違いなく決死の一撃であった。まさか相手もこの兵士の波を掻き分けて迫っては来ないだろう、という敵の意識に任せた力圧し。
如何に矢除けの加護と言えども、当たる本人が避けようと思わない限りは避けられる筈がない。然し、一度意識してしまえば、もうどうしようもない。
――――――アーチャーは、この判断を思考ではなく本能で行っていた。
身体に刻まれた薩摩の本能、武士の本能。戦闘の仕方。"格下から格上までの敵の殺し方"。当然、そうなれば直感的にその成否も理解出来る。
その表情の分かり辛い仏頂面が、更に顰められた。其処で足を止めて、一度自身の周囲へと短筒による掃射を行った。
そして、此処でアーチャーの進軍が止まった。文字通り、"血塗れ"になりながらの進軍が停止した。
「気を逸した、最早この戦に勝機は見えず。この身の死に足らず」
追い詰められる前に、自ら海の方向――――――それも、自身のマスターがいる方向へと全力で駆け出した。
それを見て、理解が出来なかったのはマスターであるミリヤであった。先程まであんなにも全身に固執していたのに、何故だからいきなり此方へと走り出した。
理解など及ぶべくもなく――――――――――――
『うぐっ……!?』
「――――――――――――御然らば」
無理矢理その襟首をつかまれると、そのまま引き摺られるように引っ張られ――――――再度、"海へと飛び込んだ"。
大きな水飛沫が放たれた後――――――それから、浮いてくるような気配は無かった。その水中の深く深くを、マスターを抱えたままアーチャーは進んでいた。
自身から流れる血も、この暗い夜の海ならば隠し通すだろうと。ブクブクと泡を出し続けるマスターを尻目に。
(敵将首喰らうに能わず。然し壱つ、確信を得たり)
(――――――――――――此度の戦、勝てぬ合戦に非ず)
そう、念話を用いて告げた。この交戦を以て掴んだ一つの確信を。
それを聞いているのか、聞いていないか、聞けていないのか――――――ミリヤ・コスケンニエミは。何を言う事も無く、暗い海に沈んでいった。
26
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/08/07(日) 08:30:37 ID:JZ00R4PI0
>>25
『―――ふむ、敵は海へと逃れたか』
サーベルを振るい、大陸軍を消し去ってつぶやく。
危ない戦いであった。最初から出し惜しみをしていなければもう少し楽だったろうが、それは結果論に過ぎない。
それよりも、手軽に相手の意表を突く策もあった。それは――
「やった――の?」
魔力の使い過ぎで座り込んだ明見の目、それについて明らかにすることだ。
今日の時点でもかなりこの目に助けられたが、まだ使いこなせていないようだ。
これが十全に使えれば、或いは――――
『帰るぞ。帰って休息を取る。』
「それよりここでいいから寝たい―――」
『殺されるぞ。』
溜息を吐きながら明見を小脇に抱え、家へと歩き出す。
さて、策を練ろう。
あの弓兵を倒せる、策を―――
27
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/07(日) 18:43:27 ID:x.rajKGA0
>>22
『何を隠そう“世界で二番目に弱い”サーヴァントってのはオレのことよ』
『――――やってみるかい?』
挑発。しかし状況はあまりいいとはいえないだろう。ソレがアヴェンジャーの特性であり、性質であり、本質であるからだ。
人の嫌がることをする人間は悪と呼ばれる。ならば、悪として召喚されたアヴェンジャーは当然のように備えている。
攻撃が通用しない。攻撃が意味を成さない。宝具などの概念武装を用いればまた話は別になるが、それでも今のアサシンが攻め手に欠けるのは間違いない。
見たところライダーかアサシン。大穴でキャスター、エクストラクラスという選択肢もあるが、大体はその辺だろう。剣と槍、弓を使っていない以上三騎士ではない。
理解はしたが、思考はない。たとえ相手のクラスが分かっても、ソレを戦術に適応することがない。アヴェンジャーは常に無能であることが条件である。
千日手。打つ手はない。しかし、このまま行動し続ければ間違いなくアヴェンジャーに勝機が来るだろう。なぜならば、アヴェンジャーに“魔力切れ”は存在しないからだ。
人間は動けば腹が空く、それと動揺にサーヴァントも行動すれば魔力を消費する。消費した量が貯蔵量を上回れば当然死に、契約は切れ、サーヴァントは敗退する。
アヴェンジャーは“其処に勝機を見出す”サーヴァントであった。圧倒的な火力を持つ宝具が少なく、比較的殺せば勝ちであるアサシンのクラスにとってアヴェンジャーは“天敵”と言ってしまえるかもしれない。
逆にアヴェンジャー自体は天敵であるが、マスターは非常に暗殺しやすい。このどちらもがハンデを抱えた状態であるからこそ、一瞬の油断が命を奪うことに繋がる――――
『どちらにしようかな――――っと!』
前傾姿勢――――そして加速。マスターである道方はそのままに捨て置いて、真っ直ぐ向かうのはサーヴァントであるアサシン――――ではなく、新たに現れた女性の方だ。
悪とは得てして人質を好む。もっと言えば、相手の大切なモノを破壊し、消し去ってしまうことが特に多い。大切な人間を消すというのは、人間にとって限りなく精神にダメージを追わせられる重要な手段であるからだ。
アヴェンジャーはまさに当たり前だとでも言うようにまっすぐ女性の方へと直走る。高い敏捷度を誇る彼に追いつけるのはアサシン、ランサー位のものだろう。通常であれば“絶対に助からない距離”。
だが、アヴェンジャーの獲物は自らの腕しか無いことが幸いした。悪はモンスターと混同され、その系譜を含む彼の右腕は先程とは異なる造形が生まれる。
爪が伸び、そして強固になる。筋肉が膨張し、収縮する。“悪魔の爪”とすら表現できるソレはひどく陳腐で、いかにも人を傷つけることに特化していた。
――――公衆トイレの死体にあった腹部の傷は、これによって起こされている。
まるで心臓を鷲掴むような動作で女性の腹部に手を伸ばすと、そのまま腹部の皮膚を裂き、中にある臓器を引き摺り出そうとするかのように力を込める筈だ。
しかし、其処には僅かな猶予がある。アサシンの速度と能力を加味すれば、追いつきかつ迎撃を加えるのはさほど難しいことではないだろう。
28
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/07(日) 21:18:18 ID:bcAZ9TjM0
>>27
何故だ───何故、ここに、彼女がいる。
刹那の内にアサシンの脳裏を過ぎったのは、疑問と困惑、そして焦燥。
巻き込むまいと別れた筈なのに、どうしてここに来ているのか、どうしてここにいるのが分かったのか。
偶然だとしても出来すぎている、いやそれは今どうだっていい、自分が相手の立場であるならこの状況に取る行動は決まっている。
「くぬッ!!」
アサシンが動き出したのはアヴェンジャーと同時だった、同時であるなら僅かな差でアサシンの方が速い。
アヴェンジャーの動きを追う様に高速で分銅が投げつけられる、その狙いはアヴェンジャーが振り上げた腕、生きているかのように絡みつき、その動作を妨害しようとする。
アヴェンジャーの腕に鎖が絡みついたならアサシンはその鎖を力一杯引き、アヴェンジャー自身を自分の方向へ引き寄せようとするだろう。
「椿殿ッ!何故ここへッ!?」
「宍戸さん?やっぱりそこにいたのね、一体ここで何を───」
アサシンの妨害が間に合わなければ、椿の言葉はそこで途切れる。
彼女は、戦場に立つには余りにもか弱く、無警戒過ぎた。
29
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/07(日) 21:44:59 ID:x.rajKGA0
>>28
『マジかよっ!?』
弱い方を狙うのは戦闘においての常套手段であり、彼もその他分に漏れること無くおそらくはマスター。若しくは協力者であろう女性に襲いかかった。
しかし、そう簡単に枯れの行動が実を結ぶことはありえない。なぜなら、彼はサーヴァントの中でも劣悪な素質しか持たない“凡人”でしか無いからだ。
概念的には非常に強力な“悪”として装飾されているが、所詮は凡人がサーヴァントと同等の力を手に入れているだけだ。
体の動かし方から戦闘方法まで、全てにおいてアサシンに優っている部分など無く、先ほどの攻撃だってアヴェンジャーの非常識な宝具があったゆえである。
故に、アサシンの妨害は思ったよりも簡単に行うことができるだろう。アサシンの筋力に任せた引き寄せに逆らう事無く、むしろ地面を蹴って自分から“突っ込む”形を取る筈だ。
(思いっきり邪魔されちまったが、ここは――――)
『――――結果オーライッ!!』
引っ張られるということは、必ずその支点となる部位が存在する。今回は鎖の巻きつけられた右腕であり、其処を戦闘にしてアサシンへと引き寄せられている。
ということは“腕をそのままの勢いてアサシンにぶつければ”妨害を攻撃として変換することも可能である。アサシンの鎖さばきによってはそのまま別の場所に・弾き飛ばすこともできるだろう。
しかし、彼は引き寄せられる前に自分から加速を入れる。地面を蹴るだけのちょっとした変化だが、相手の目測を狂わせるには十分と言ってもいいだろう。
この行動に対応できなければ当然硬化した爪が体の一部分を抉る。当たりどころが悪ければそのまま刺さる可能性もあるだろう。だが、彼の体重は其処まで重いという程でもない。
筋力次第では十分に対応することも可能な筈だ。
30
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/07(日) 22:06:06 ID:bcAZ9TjM0
>>29
手応えが、軽い───抵抗を全くしていない、寧ろこれを利用しているのだと、気付いた時にはもう遅い。
スピードに乗ったアヴェンジャーの爪が目前に迫りアサシンは咄嗟に身を躱す、ここまで来ても尚食らいつかんとする爪がアサシンの胸を裂いた。
それと同時にアヴェンジャーに絡み付いていた鎖が解かれ、二人を繋ぐ物が無くなる、アサシンはアヴェンジャーを追撃せずに椿の前に立ち、守るように構えた。
「ごめんなさい、お取込み中だったかしら…?余りにも遅いものですから探していたのだけれど」
「そこにいるのは……男の子かしら?二人いるみたいね、もしかして遊んでいたの?」
余りにも呑気、彼女の長所とも言える場所なのかもしれないが、そのような人間をマスターに持つという事は聖杯戦争においてデメリットしか目立たない。
目を閉じてアヴェンジャーと少年に微笑む彼女は、まさか目の前で血みどろの戦いが繰り広げられているとは露知らず、大方アサシンが子供とじゃれ合っている程度にしか思っていないのだろう。
「でも、もう遅い時間だわ、そろそろ帰らないと貴方達のお母さんが心配するわよ」
「……椿殿、悪い事は言わないから早くここから離れ───」
「宍戸さんも、食材を持ったまま遊びに夢中になっていましたね?もう、お夕飯が遅くなっちゃうじゃないですか!」
まるで彼女だけ別世界を見ているように───実際、何も現実が見えていないのだが───日常の一ページの如く、言葉を続ける。
演技ではない事はアサシンの態度を見るに明らかだろう、無垢過ぎる彼女に、危機感と言う物は一切無い。
31
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/07(日) 22:19:52 ID:x.rajKGA0
>>30
『おっとっと……。』
此方を支えていた鎖は解かれ、アサシンへ一撃を加えた後勢いを殺しきれずに数歩移動。そして振り向けば、ちょうど道方のいる位置に立つ。
相手もどうやら女性の方を守るつもりのようで動かない。ならばと此方も相手と同じような形で満ち方の前でだらりと構えを解いた。
そもそもアヴェンジャーに構えなど必要ない。何をするにしても死ぬことがないのだから対策を講じる必要がない。相手の攻撃を受けたうえで反撃可能というのは、かなりのアドバンテージとなる。
加えて武人気質なアサシンに対しての侮辱も含めて、構える気すら起こらないという煽り。女性を守らなければならないアサシンを見やり――――女性の言葉に首を傾げた。
『―――――へぇ。』
――――直後、直感的に理解する。“この人間は何も見えていない”。
この聖杯戦争についても、現在の状況についても、『何一つ理解できていないのだろう』
誰が見てもわかるだろう。目を閉じている。現状の把握ができていない。的外れな指摘。
どう考えても『ソレは明白だった』。
『ふふふ………………あははははは!』
『なんだそれ……!。アンタの“マスター”か? ソイツ?』
『だったらとんだお笑い種だぜ? オレのマスターよりヒデェや。』
「…………流石に不愉快だぞ“アヴェンジャー”。」
『あ、クラス言っちゃう? まぁいいや、うん。』
『今オレの関心は全部そっちにあるわけなのよね。他のことはどうでも良くなっちゃったワ』
一呼吸おいて
『――――“見えてない”んだろ? え?』
『単純に視界の問題じゃねぇ。アンタ“何も教えてない”んだろ?』
『っは。』『こりゃあ最高に――――“笑えるぜ”。』
32
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/07(日) 23:16:23 ID:bcAZ9TjM0
>>31
事実、アヴェンジャーの言う事は全て正しい、アサシンは何も知らぬ彼女に、何も教えていない。
彼女をこの様な無警戒なマスターに誰がしたかと言えばそれはアサシン本人だ、彼が彼女を聖杯戦争に巻き込んでおきながら、戦いを知らずに過ごしてほしいという矛盾がもたらしたもの。
「───黙れ」
言い返す言葉もない正論がアサシンを縛り、研ぎ澄まされた精神を鈍らせる。
自分を笑うのはいい、幾ら笑われようと構わない、然し彼女を笑う事は許せない、彼女に笑われる所以は無いのだから。
アサシンの目に殺意が深く宿る、今までのそれとは違う、怒りから来る殺意が眼差しに乗ってアヴェンジャーを貫いた。
それは、彼がこの国に生きていた頃、武芸の道に目醒める以前、あの剣豪と邂逅した時の荒くれの記憶と共に蘇る。
ただ殺す為、生きる為、彼の腕前はその為にあった、決して何かを守る為の力ではなかった。
「それ以上その口から彼女に言葉を吐いてみろ、その五体を引き裂いて───」
殺せずとも、殺してやる。
彼女に手を挙げる気なら、彼女にこの現実を教える気なら、その瞬間に出来る限りの暴力を持って答える、そのつもりであった。
その言葉に嘘偽りは無く、脅しなんかではないのはアヴェンジャーにも少年にもわかる筈だ、わからない者がいたとすれば───
「こらっ」
殺気、というものを生まれてこの方感じた事が無い人間くらいだろうか。
「盛り上がるのはいいですけど、そろそろお夕飯を作らないといけない時間です、帰りますよ宍戸さん」
「それに君達も、いくら遊びでもそういう風な言葉遣いを使ってはいけませんよ」
彼女からすればごっこ遊びかその延長にしか思えないのだろう、マイペースと言うには行き過ぎた自分の世界で語る彼女は、たった一人でもこの場の空気を歪ませるには十分だった。
彼女に優しい叱責を入れられたアサシンは、構えていた鎖鎌を甚平の下にしまい小さな溜息を吐くと、その殺気は消えていた。
「……ここは引く、お前達が何と言おうとな」
興が削がれた、という表現がしっくりくる態度で言ったアサシンは、今まで鎖鎌を持っていた手に買い物袋を持ち、アヴェンジャー達に背中を向ける。
大体、殺せぬ者といつまでも戦うなんて賽の河原じみたことはしていられない、その突破の糸口が見つかるまでアヴェンジャーとの戦闘を避けるのは悪い判断ではないだろう。
問題は大人しく引かせてくれるか、という事だが───そこはそこ、例え妨害があっても、何としてでもアサシンはこの場から椿との離脱を計るだけだ。
33
:
アヴェンジャー/道方
◆VB5lTdCAu.
:2016/08/08(月) 00:01:17 ID:x.rajKGA0
>>32
『――――。』
黙る。正確にはあえて発言をしなかったの出るが、はたから見ればアサシンの言葉に怖気づいたようにも捉えられるだろう。
事実、アヴェンジャーは痛みを嫌う。脳髄を鎌で刺されて平気な人間が居るだろうか。サーヴァントであっても、通常であれば即座に死んでしまうくらいには重症である。
しかしアヴェンジャーは死ぬことがない。裏を返せば、死ぬほどの苦痛を感じ続けることができるということでもある。精神に与える影響は凄まじく、アヴェンジャーでなければ当然発狂するだろう。
生前から『そうである』とされていたからこそ『そうなっている』だけ。ソレに、現在の彼はもう戦う気力など微塵もなく、むしろ歓喜しているようでもあった。
『いいぜ、今日のとこはこれで“終い”にしとこうや。』
ひらひらと軽く手を振り、飄々とした余裕は崩れることがない。此方が有利であるということはすでに確認した。ならここで仕留めるのが当然のことではあるのだが、アヴェンジャーは無論ソレをしない。
悪は愚者である。アヴェンジャーの持論であり、幸せそうな表情をした人間を大きく嫌う。本来であれば目の前の女性も『幸せそう』な範疇に入る。
しかし、アヴェンジャーは女性を襲うことはしない。ただ、その他一切のセリフを無視して一言、アサシンに言うのだ。
『――――オレは不幸な人間が大ッ好きだからな。』
処理することすら勿体無いと、彼はそのまま『笑み』を深めて『消えていく』だろう。
意味のない、意義のない、意思のない戦い。だが、アサシンは確実に彼等の“手札”を切らせている。
また、“聖杯戦争”の意向に従っていないことも明白であり、此処から“討伐”につなげていくことも当然可能なはずだ。
34
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/08(月) 00:25:33 ID:bcAZ9TjM0
>>33
「…………」
帰る道すがら、アサシンはアヴェンジャーの事を考えていた。
そも、アヴェンジャーというクラス自体が異質、七騎の内に当てはまらないエクストラクラスであり、その本質は前例が殆ど無い故に推し量る事が出来ない。
そのような歪な存在が何故か存在し、聖杯戦争とは別の目的で暗躍している。
あの不死の宝具の理屈はわからないが、あれをどうにか出来る方法が無ければアヴェンジャーを止める手立てはない。
生憎アサシンにはその心当たりはないが、他のサーヴァントであるなら或いはあるかもしれない、何にせよアヴェンジャーは聖杯戦争にとってはこのまま放っておいていい存在ではない筈だ。
それに、こちらの顔を覚えられた、自分だけならまだしもマスターの顔まで、またいつ襲われるとも限らない。
「どうしたんですか宍戸さん?考え事でも?」
「あぁ……いや…何でもない」
───彼女に、全てを話すべきか。
アヴェンジャーのあの笑い、あれはきっと殆どが自分に向けられた物、笑われても仕方のない事を自分がやっている自覚はある。
だが、しかし……
「…飯の準備が遅れたな、俺も野菜を切るくらいは手伝おう」
彼女には何も知らず、今までの生活のままを感じていて欲しいから。
/お疲れ様でした!
35
:
ミリヤ&アーチャー
:2016/08/08(月) 21:55:57 ID:3kGRwJ9Q0
冬木大橋手前、海浜公園。
海を区切る柵を乗り越える人影が一つあった。乗り越える……大方の場合は、地上から海側へ、ということになるだろうか。
だが、今回に限っては違っていた。海側から這い上がった人影が、そのままベチャリと地上へと叩き付けられたのだから。
夜中に戯れに寒中水泳……ふざけて飛び込むだのなんだのをする人種はいるにはいるかもしれないが、勿論それの周りには一つの影もなかった。
服装としてはシンプルなものであった。パーカーに、この季節には少々寒そうなハーフパンツに運動靴。序でに頭には大きなワカメが乗っている。
「……うぅ」
口から海水を吐き出しながら呻く。無論、この季節に海に叩き込まれたものだから、その身体は極端なまでに冷えていた。
だがその割には、『寒そうな素振り』というものを見せていなかった。震える身体を抑えたり、だとか、そういう動作をするということもなく。
何か言葉を発したのはそれっきり。ごろり、と仰向けに転がると、虚ろな瞳をゆっくり閉じて。
すやすやと、寝息を立て始めた。
服装は先の何の変哲も無いもの。ワカメが乗った髪は黒色で、後ろで青いリボンを用いて束ねている。
顔立ちは日本人のそれではなく、北欧系の白人のそれであった。
それから、その襟首から覗く頸。そこには……『奇妙な紋様』が、刻まれていた。
36
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/10(水) 20:12:29 ID:k401n/oE0
>>35
あの後ビーストから詳しい話を聞かされた。
私が巻き込まれた儀式の名は"聖杯戦争"。7人の魔術師による殺し合い、英霊の召喚という奇蹟とも呼べる所業。
しかしなぜ自分がマスターに選ばれて、そしてどうして私にビーストが召喚出来たのか。ビーストは私がマスターに選ばれた理由は分からないが召喚出来た理由は教えてくれた。
私は気付いていなかったがどうやら私の左手の甲には既に令呪の予兆、聖痕が刻まれていたらしい。あの場には、ビーストを召喚した部屋にはもう既にサーヴァント召喚のための魔法陣が刻まれていた。
ではそれを刻んだのは誰か、それは勿論私の両親である。
文香の両親は聖杯戦争を知っていて、娘の聖痕にも気づいていた。娘がマスターとして選ばれたことを理解していた。それを逃れられない宿命と理解した両親は、娘が誰かに襲われるかもしれないということも予期していた。
それ故に常に娘に使い魔を遣わせ、娘に気付かれないようにいつでも危機を知ることができるようにしていた。魔法陣を描き、"もしも"のときのために娘がサーヴァントを召喚し身を守れるように。
それは娘を一途に思ってのことであり、親の愛あってのもので。
願わくば、何事もなく平穏に、今までのように平和に暮らせますように─────
ついぞその願いは叶わなかったが両親の行いは報われた。
現に今、最愛の娘は生きているのだから。
勿論その全てを文香に知る由はなく、しかし魔法陣を誰が描いたか、触媒となった髪留め、それだけ分かれば両親の自分への想いは痛いほど知ることができる。
それほどに両親は私を愛してくれていたのだと──────
「聖杯戦争、かぁ……」
学校からの帰り道、ふとこれからのことを考えてみたりした。
ビーストは昨日一通り説明した後霊体化というもので姿が見えなくなりそれっきり。あの後の後始末はどうやら聖杯戦争の運営をしているらしい組織が片付けたようで表向きには強盗殺人ということで片が付いた。
次の日には学校に通えるようになった。だが学校には友達と呼べる人は存在せず、教師から呼び出され話を聞かれるくらいで終わった。
なにやら色々と学校では噂になっているらしいが関係ない。私は常に無関心でいなければならないのだから。
なのに、なのにだ。
「…………」
半端に誰かを助けようとしてしまう、見捨てられない自分に嫌気が差す。人と関わりを持つということの怖さを知っているはずなのに。
目の前に居るのは何故か全身ずぶ濡れの女の子だった。いや、居るのではなく寝ているというのが正しい。頭にワカメを乗せて寝ている姿は中々に目立つもので。
「大丈夫かな…この人……」
見たところ日本人では無いらしい。しかしこんなところで寝ていては風邪を引くのは明らか、生き倒れなのか何かはわからないがこんなところに放っておけない。
幸い、この時期は冷えるため私は学校には白のコートを着て登校していた。そうして冬眠中の少女の元に近寄れば自分のコートを羽織らせて試しに身体を揺すってみる。何か反応があればいいのだが……
「あの…風邪引きますよ〜…?」
────その時、襟首から僅かに覗いた『奇妙な紋様』、しかし文香はそれに気付くことが出来ず。
もしかすれば"眠れる獅子"を起こしてしまうことになるかもしれないということを文香は知る術も無いのだった。
37
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/10(水) 22:40:56 ID:IzYCzDoE0
>>36
ゆさゆさ、と揺さぶられる――――――その際に、下腹部やその周辺を触れたのならば、少々違和感を感じるだろう。
心臓の鼓動、というのは意識しなければ中々感じ取れないものである。だが、それが有する鼓動は、"少し触れただけで分かる程度に"大きいものであった。
――――――兎も角、揺さぶられたそれはゆっくりとその瞼を上げることだろう。
実に鬱陶しそうな……典型的な気持ち良く寝ていたところを起こされた熟睡者のそれと全く同一の反応を再現しながら、ゆっくりと其の上体を起こした。
それから、起こし終えるのとほぼ同時に頭に乗っている冷たいものの違和感を取り除くべく手を伸ばすと、指先で摘まみながらそれを目線の前に持っていく。
緑色の海藻に、実に何とも言えない表情を浮かべながら何処へともなく放り投げると、暫く飛んでベチッと叩きつけられる。
「……」
「…………」
「………………Hauska tutustua……あっ、初めまして……?」
先ずはどうでもいいことから処理していき、それから目の前の彼女へと視線を向ける。
本来であれば真っ先に処理すべき事柄であるのだが、元来人見知りで根暗でもあるミリヤの、後回し癖が此処で出てしまった。
小さい声で……聞こえるか聞こえないかの声でそう言った。最初に母国語を、次にそれではだめだ、という事に気づいて。
それから、自身にかけられたコートにようやく気付いて、急いでそれを剥ぎ取って、彼女へと差し出した。何せ、今の自分は海水塗れなのだから。
「……あっ、ありがとう……ございます……!!」
自分ではさっきよりも声を張ったつもりでも、声量は大したことは無かったが。
差し出した腕の右側……前腕部の中程には、穴が開いていた。服に、というものにはとどまらない……"腕に"、だ。
――――――アーチャーは、じっと息を潜めていた。この傷付いた身体ではサーヴァントと相対したら間違いなく敗北する。敗退は必至。
相手がマスターかどうか、知っている訳ではないが――――――可能性としては、有り得ないことも無い。だが、観測した限りの行動を見れば敵意は感じられない。
怪しい動きをすれば、即座に出てくる予定ではあったが。……絶体絶命の状況であることに変わりはない。
38
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/10(水) 23:27:48 ID:k401n/oE0
>>37
(……?やけに鼓動が大きいような……)
人間というのは極限に寒くなるとこんな風になるのだろうか。彼女が今までこの冷たい海の中に居たのならそれも考えられるかもしれない。
と、そこまで心臓の鼓動には触れはしなかった。今まで魔術というものにほとんど触れてこなかった文香からしてみればそれは当然の反応なのかもしれない。
「あ……」
どうやら目を覚ましたようだ。気怠げにゆっくりと身体を起こすと自分の頭に手を伸ばしワカメを手に取り遠くへ投げつける。
身体を痛めている様子はなくその立ち振る舞いは"至って普通"に見えた。そう、見えただけだ。彼女のその動きからそう感じているだけで実際は違う、だがそれを見抜くような観察眼は持ち得ていない。
"力"を使えば見抜けるかもしれないが今それを使うという判断をすることなどしないのだから結局分かるはずはない。
「いえいえ、自分からしたことですしお礼はいらないですよ
それにその格好だと風邪引きそうですしまだ羽織っていて大丈夫ですよ」
小さな声でだがお礼を言う少女を見て微笑むと、渡されるコートをまた返そうとするが────
「っ…!?」
ふと、見えてしまった。見間違いではない。この少女の腕、そこには確かに"穴"が空いていた。穴の周りは赤く滲んでいて。
何かに貫かれた痕だろうか。とにかく見ているだけで痛々しいその傷、痛みがないはずが無い。我慢をしているのだろうか、この少女はなぜそんなことを。
年齢は自分と同じくらいに見える、そんな彼女がどうしてこんな怪我を負っているのか。
考えている暇は無い、この傷ならば放っておけば酷いことになってしまう。それを知って見過ごすことなんてどのような人間に出来ようか。
こんなものを目の前にして、私に出来ることは────
「…乗って、今私の家に…!」
治癒魔術なんて使えない、だが応急処置程度ならばなんとかなる。家には確かまだ包帯はあったはずだ。治療の心得は無いがやれるだけのことはやらなければ。
少女に無理やりコートを羽織らせ、背中で背負って自分の家まで運ぼうとしゃがみ込む。もし少女が文香の背中に寄り添ったならばそこから立ち上がり急ぎ足で自身の家に向かおうとするだろう。
──────だが、そのときアーチャーの角度からならば見えただろう。文香の左手の甲に刻まれたマスターの証"令呪"が。
39
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/11(木) 00:34:22 ID:IzYCzDoE0
>>38
全く以て押しの弱い人間であった。突き返されたコートを返そうにも、そう言われてしまうと強く言えない性であった。
この聖杯戦争に於いて、こんな風に現地の人間と交流することに大きなメリットがあるとは、ミリヤは考えなかった。
出来ることならば、ここで関係を断っておきたかったが……精神的に破綻しているとはいえ、精神構造が大きく変わったわけではない。
飽く迄性格は性格。大きく変革することはできない。むしろだからこそそれは"そう"なった。で、あるからこそ……次に続く其れも、"断れなかった"のだ。
「えっ……あっ、でも……あ、そっか……」
乗って、と突然に言われて狼狽えるが、その理由は追って理解した。自分の腕に空いた"穴"。
凍結魔術による氷で覆う、などというイカれた応急処置をしていたが故に忘れていた――――――"痛みを感じない"が故に、忘れていたが。
一般人が見ればそれは大騒ぎするべき事柄だろう。腕に穴が開いている、などと非常識な怪我をしたのならば、当然。
強引にコートを羽織らせられたのならば、きょろきょろとあたりを見回したり、迷う素振りを見せ……結局、その背中に身体を預けることになるだろう。
(――――――――――――いかん、奴は――――――――――――)
この状況の危険性を理解しているのは、その従者だけだった。アーチャーのサーヴァント……それが、視認したのはマスターが背負われた直後。
それはそういう時代に"産まれた"が故に、そういう価値観が刻み込まれていた。"恩を無理矢理に拒絶するのは失礼にあたる"という価値観が、だ。
それを見送ろうとしたのは悪手だった。敵は、"マスター"だ。先にも言った通り、アーチャーは負傷している。
その上、強力なサーヴァントでもない。戦闘ともなれば、どうしようもないのだから"勝ちに行く"が、勝ち目のない戦いは出来る限り避けたいのが本音だ。
大戦力を覆すのが"島津"のやり方でもあったが。用意も無く、消耗しているともなれば。それもまた"難しい"。
ミリヤ……アーチャーのマスターは、指示される側の人間であり、指示する側の人間では無かった。
考えることが身体に染みついていない。また、戦士としても未熟である。"ただブレーキが壊れているだけ"だ。
ここで事実を伝えれば、間違いなく動揺する。であれば、敵のマスターが気付かなくとも、英雄である"サーヴァント"が勘づく可能性もある。
「Kiitos……ありが……とう……」
そんなことは露知らずとばかりに、背負う彼女に礼を言うマスター。
どうするか、此処で"殺せるか"――――――難しい。殺せる可能性も十二分にあるが、殺せない可能性も十二分になる。
アーチャーだけだったならば殺しにかかっていたが、間違いなくそれを生存させなければならない以上……やはり、穏当に済ませるのが一番だ。
黙りこくるしか道はない。それが露呈したときには――――――何時も通りの、絶望的な殺し合いをするほかない。
40
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/14(日) 21:21:02 ID:p9rY.6Ag0
>>39
「そんなお礼なんて……事情は知らないけれどこんな怪我をしてる女の子を放っておけませんから」
文香のその善意は奇しくも敵サーヴァントから襲われる危険性を減らしていた。この目の前の少女が文香がマスターであることに気付いていないのも大きいだろう。
もはやマスターの身柄は奪ったともいえるこの状況、ここに下手に攻撃を加えれば巻き添えはもちろん攻撃した瞬間にマスターを殺されるかもしれないという威嚇にもなる。
この距離ならばたとえ一般人であっても殺すのは容易いだろう、その相手がすぐ背中に居るのだから。
─────────
──────
──
そうして家にはすぐに着いた。ざっと10分程度だろうか。
見た目は普通の一般家庭と同じ一戸建ての住宅、とくに結界が張られているというわけでもなく魔術的な迎撃がある様子もない。そこは正真正銘"普通の家"だ。
鍵を開け、玄関を開けてもそれは変わらない。至って普通の家の中─────いや、ただ一つだけ違った。
そうしてリビングまでおぶってく。異常は確かにあった、リビングのソファに図々しくも偉そうに座り、テレビを眺めながら冷蔵庫の中に入れてあったはずのプリンを食べているそれこそ─────
『主人よ、これまた珍妙な来客だな?』
「……………」
言葉が出なかった。どこに消えたのかと思ったらまさかここまでくつろいでいるなんて。
いや、それどころじゃない。この少女に"ビースト"を見られた、一体どう言い訳をすれば。こんな見るからに普通の人間じゃないビーストを見られてどんな行動が正しいか。
「ち、違うの!この人はただのコスプレ好きでいつもこの格好をしてて……!」
と、そんなことを思えるのは文香がまだ魔術師として未熟なのとマスターとしての意識が足りないからだ。
もしもこの少女をマスターだと見抜けていればこんなことにはならなかったかもしれない。戦闘に発展すればそれこそ文香は一瞬で屠られる。そもそも誰かを殺すという覚悟すら文香はまだ持っていない。
そんな文香がこの聖杯戦争で勝ち抜くなど到底無理な話だ─────そう、今はまだ。
あたふたと慌てる文香を見てマスターは、そのサーヴァントは一体どのような行動にでるだろうか。
41
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/19(金) 03:22:13 ID:IzYCzDoE0
>>40
ミリヤ・コスケンニエミは魔術師としては二流。戦士としてもまた二流である。それがそれたらしめているのは、"躊躇が無い"という一要素以外に他ならない。
そしてそれは"サーヴァント"を視界に入れた。それの姿形がどうであるか、というのはどうでも良いことなのは流石にミリヤにも理解することが出来た。
犬耳、尻尾。そういったパーツ単位での判断ではない。それはその"在り方"を見た。それが、間違いなく"エーテルによって受肉した英霊であること"を確認した。
行動は早かった。一切の躊躇が無かった。ほぼ反射的に、と言っても過言では無かった。聖杯戦争での戦い方――――――それは。
敵のサーヴァントを打ち倒す事。そして……マスターを、殺害する事。
「――――――――――――へえ、そうなんだ」
「じゃあ、ごめんね」
何でもないかのような声を漏らした。唯々、目の前にある事象に対する反応でしかなかった。
背負われた状態、そうなれば必然的にミリヤの腕は目の前の少女の"首"へと回される事となる。それは――――――人間には、絶対的な急所である。
其の手の中には、氷が作り出されていた。詠唱破棄による小規模な魔術の強制的な発動。その氷は、鋭い刃を持った短剣の形を模していた。
それは、すぐさまにその喉を突き破らんとした。だが――――――それは、一つの介入によって"取り敢えず一度は"中断されることになる。
『壱つ待て、主君。"まだ"手を出すな』
そうして、それは具現化される。仮初の肉体を与えられた魂――――――"英霊"。この場に、もう一騎の"サーヴァント"が出現する。
戦国甲冑を身に纏った男だった。その上には陣羽織を羽織り、その双眸は猛禽の如き獰猛さを湛えていた。
腰元には一本の長刀。そしてその背中には、中筒と呼ばれる一般的な大きさの火縄銃。そして其の手には、それより幾分か小さい"火短筒"が握られていた。
古い銃……それが向けられるのは、自身のマスターを背負う少女に向けてであった。
「あ、あ、えっと、だ、だい、大丈夫なの……?」
『俺の判断に委ねてもらおう。主君はそういう"質"であると見た。であれば、俺は"そういう風に"振る舞おう』
「……うん、わかった」
霊基の質からして、格が違う事をアーチャーは理解していた。無論、やれ、と言われたら、やる……正しくは、やるべき時になったら、やる。
だが、ただ戦っても勝てる相手ではない、と。確かに、この状況は圧倒的に有利だ。だが、これを"覆されたらどうなる"。
一撃、外したらどうなる。手負いの低級サーヴァントと、魔力量だけは一流の二流魔術師の組み合わせなど、一息に吹き飛ばされる。
それほどの"差"だ。万全の状態で在れば、ここでマスターを殺し、最期の足掻きで襲い掛かって来たとしても凌ぎ切る、という状況を選ぶことも出来ただろうが。
アーチャーの現状では、それは出来なかった。外観から見ても――――――そのサーヴァントは、"傷だらけ"だった。
『どんな感情を抱いている、どんな考えが頭を巡っている。どういう風に動き、どういう風に放ち、どういう風に嗤おうと思う』
『……そのどれもが、俺を殺すに足るだけの選択肢があろう。そのどれもが、俺を屠るだけの選択肢であろう』
『だが一つ言う、これだけは確定させる。俺の命も、至らぬ主君の命も、何を、何に捧げようと、これだけは"決める"』
『お前が動き、俺を屠り、主君を殺す前に、俺は何に代えてでもお前の主の頭を"吹き飛ばす"ぞ』
この場合において、アーチャーがやるべきことは唯一つ。どんな手段を使ってでも、命だけは維持して脱すること。それ以外にはない。
その上で、先ず必要なのは"決死の覚悟"であった。矛盾しているように思えるかもしれないが……"生半な覚悟では、それは務まらないこと"であった。
マスターが読み取った、少なくとも数値上から読み取れる相手のサーヴァントのステータス……その殆どが、"アーチャーを上回っている"。唯一秀でている敏捷ですら、だ。
であれば……その差を埋めるには。その交渉を対等な条件にするのであれば、"言っている事に真実味を持たせること"。それ以上には無い。
決定的に、数値として現れている差すらも覆さんとするような"狂犬の如き覚悟"。それが必要であり――――――そして。それは、"確りとそれを持ち合わせていた"。
42
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/19(金) 16:01:39 ID:k401n/oE0
>>41
理解ができなかった。頭の回転は決して遅い方ではない、むしろ普通よりはよく回るはずだと思っていた。
だが、今現在のこの状況だけは理解することができなかった。一度は殺気を向けられたことがある、その相手は自らのサーヴァントであるビーストから。
しかし今回のこれはあまりに咄嗟なもので、そして何よりも殺気と呼べるものが"存在"しなかった。本当にただそれが当たり前であるかのように、彼女は私を殺そうとしたのだ。
文香はまだ聖杯戦争を、本当の殺し合いというものを深く理解していなかった。それは油断へと繋がり、そして今のこの現状がある。
これは言わば文香の不注意と覚悟の無さに原因するものでありつまりは"自業自得"なのであった。
だが未だ文香には意識があり辺りの景色を見渡せる。まだ私は生きている。
その要因となったのが、恐らくは今私に銃を向けている甲冑姿の男。一目でわかる、能力を使うまでもない。この男はきっと"サーヴァント"だ。
しかし文香になぜこのサーヴァントが私をすぐに殺さないのかということを理解するのは不可能だった。現在のこの状況で動揺しているのも原因だが、もっとも大きな原因はやはり彼女がほぼ"一般人"だからだ。
聖杯戦争に参加してしまったとはいえ元は魔術も扱えない、あるのはあまりに不出来で歪んだ"起源"のみ。そんな彼女に戦いのノウハウがあるとはとても思えないし実際そんなものは無い。故にマスターを殺した後にそのサーヴァントに襲われるかもしれないという発想に思い至ることが出来なかったのだ。
『なるほど、確かに貴様のその行動は正しい。例え私は主人が殺されたところで貴様を掻い潜りその少女の首を掻っ切ることくらいは出来よう』
『─────だが、自らの国の決まり事を守らぬのはどうかと思うぞ?この国では家中では"土足厳禁"なのだろう?』
そんな中、ビーストは恐ろしいほどに冷静だった───いや、冷酷だったの方が正しいだろう。
自分のマスターが殺されかかっているというのにその余裕、まるでマスターの命などどうでもいいというような立ち振る舞い。相手サーヴァントが手負いだからという理由ではあまりに足りない。
つまりビーストというサーヴァントはこの聖杯戦争という殺し合いに"本気で立ち会っていない"ということになる。
『まぁ落ち着けよサーヴァント、まずは茶の一杯でも飲めばどうだ?』
『私は主人の言うことであればそれに極力従う、私が動かないのは主人から何も指示を出されていないからだ』
『それに飽きるまでの一時の戯れだが、存外これも飽きぬものだな』
『─────まぁ、主人が貴様らを皆殺しにしろと言うのならば私はそれに従うまでだが』
ソファに踏ん反り返り、口元には笑みまで浮かべている。
元より対等な交渉なんてものをビーストはするつもりはない。それはビーストの仕事ではなくマスターの仕事だ。まぁマスターに交渉をしてこいと言われればそれも吝かではないが。
とにかく、これから起こる全てのことはビーストのマスターである沙霧文香に委ねられた。自分の命、それが残るか残らないかはその人本人の責任となったのだ。
様々な思惑が交差する中、ビーストのマスター、沙霧文香が出した答えは───────
「………と、とりあえず…話し合わない…?」
あまりにそれは間の抜けた答えだった。しかし彼女にはそれしか思い浮かばなかった。
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
きっと私はこのままでは死んでしまう、殺されてしまう、それを本能が告げていた。今背負っている少女や銃を向けられているサーヴァント、もしかすればビーストにかもしれない。
ここで選択を間違えば、私は間違いなく"何者かに殺される"という結論を掴み取った。それは無意識下で発動させた起源が自身の"死"を、"運命"を感じ取ったことからであるのだが本人はそれに気付かない。
とにかくこれからの行動がこれからの文香の運命を決定づける。
それは果たして文香にどのような運命を辿らせることになるのか、それは死を回避させることになるのだろうか───────
43
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/20(土) 04:24:52 ID:IzYCzDoE0
>>42
こいつには、最初から話し合いをする気はない。直感的にアーチャーは理解した。そう、それは"戦いに赴こうとしない人間"が放つ言葉と酷似している。
最初からこちらを屁とも思っていない人間がする態度。それには覚えがあった。大国の武将達の多くが、自分達へと向けてそんな態度で接してきた。
そしてその多くを、アーチャーは、否、『島津』は叩き潰してきた。薩摩武士は野蛮だと嘲笑う者達で大半だった。事実、飢えた野良犬の如き者達で溢れていた。
だからこそ――――――――――――『薩摩』は強かった。一切の油断無く、本能に基づいた計算と勇猛による、決死の戦闘こそがそれの唯一の武器であった。
相手が、踏ん反り返っているならば。相手が胡坐をかいているのであれば――――――万全を以てすれば、"勝てる"。アーチャーは、そう考えた。
『常在戦場。戦場で正座から始まってせいやと斬りかかることは無い』
『ことこの聖杯戦争に於いては特に、寝ても覚めても戦場よ。其処に何の『礼儀』が必要か。俺は知らん。"知らん"のだ』
それは血塗れだった。アーチャーだけの話ではない。薩摩の武士達全員がそうだった。血と死で自分の全てを塗り潰す。
それ以外のやり方を知らず、であれば戦場以外での生き方など知らない。殺して、殺されて、それ以外のやり方など知ったことではない。
無論、それ以外の事ももちろん"知っている"。やり方も分かっている。『礼儀』とやらがどういうものなのかも。だが……戦場に於いては。こうするしかない。
こうすることしか知らない、アーチャーは、何処までも。獰猛な"獣"にしかなり得ない。
「……話し合い? ……何を?」
話し合い。提案されたそれに対して、ミリヤ・ザカリアスは疑問をふわりと吐き出した。
其の手に握る刃を突きつけたまま。何を、と……つまるところ。それは、"殺す"以外の何かを一切考えていなかった。
目の前のサーヴァントに殺されることも理解した上で、"殺そう"と思っていた。壊れた機械の如く、一度考えたことに一直線に飛ぶことしか考えなかった。
故の疑問だった。「此処から先に、自分が彼女を殺して終わり」以外の選択肢があるものなのだろうか、と。黒々とした瞳を、ぽっかりと空けて。
『ほう、それでは。御前には、何かこの状況を打破する案があると』
『どちらかが指先一つ動かせば、間違いなくどちらも共倒れになるこの行き止まりを、双方が納得のいく形で抉じ開けることが出来ると』
『良い。話せばいい。何、間違えれば死ぬ。それだけの話よ』
アーチャーは、その交渉の言葉を、まず最初は相対者から引き摺りだしたかった。
先ず、このマスターがこの状況をどう把握しているかの物差し。そして、それがどこまで譲歩できるかどうかの取っ掛かりを手に入れる。
この状況をお互いに生存した状態で終わらせるには、お互いが引く、という形にしなければ解決することはできない。
でなければ、最低でもどちらかの死体が転がる。最悪の形ならば、両方がそうなる。ならば、少しでも有利な形で退きたいと考えたが故だった。
「……話しても良いって、良かったね」
刃を突きつけたまま、それはゆるりと笑いながらそう言った。まるで本当に何でもないような、会ったときから寸分違わない小さな声で。
まるで、境界など無いというように。腕や足を動かすように、それもまた何事もないとばかりに。
だが少なくとも、無条件の死が襲い掛かる、という事は無くなったと言えるだろうか。後は、彼女の言葉次第だが。
44
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/20(土) 20:48:45 ID:k401n/oE0
>>43
アーチャーが思ったことは最もだろう。アーチャーは武士であり戦士なのだ、その目線から見るのならばビーストに戦う意思がないと思っても不思議ではない。事実ビーストは現在は戦おうなどとは微塵も思っていない。
──────そう、現在は……だ。マスターからの指示は何も無い、こちらへと向けられる殺気などまるだ無いかのようにビーストは振舞っている。
しかしそれは所詮殺気だ、殺気だけでは人を殺せはしない。
故にビーストは何もしない。もしもアーチャーがこちらを殺そうとする動きをするのならば迷わずに迎撃する。だがそれが起こらない以上ビーストはただマスターからの指示を待つだけだ。
『あぁそうだ、そんな間抜けな戦場は戦場と呼べぬだろうな』
『貴様はどうやら立派で、そして愚直な戦士らしい。狂戦士のクラスで呼ばれても違和感はないだろうよ、その眼、"獣"よりも"獣"らしい』
それは皮肉のつもりだった。自分の正体を誰一人として知らないこの場に置いてそれは本人しか気づきようがないのだが。
そしてビーストは続ける。その傲慢不遜で舐めきった態度は変わらず、しかし下に見ているわけではない。ビーストのこれは持って生まれたものであり、きっと彼女の中に流れる"あいつ"の血の影響だろう。
『だが戦士であるからこそ分からぬこともあるだろう』
『戦場である以前に、我々は"戦争"をしているのだ。戦争というものはただ剣を鍔迫り合い、撃鉄を起こしているだけでは決して勝てぬ、戦士が幾ら居ようとそれでは勝てぬのだ』
『まぁ、見解の相違だな。貴様は戦場と見なし私は戦争と見なした、ただそれだけのことだ』
戦士として聖杯戦争を戦争と捉えれば確かに敵は皆殺しにしなければいけない。だが文字通りそれを戦争というところまで見方を広げれば敵はただの敵ではなくなる。
交渉をしたり、時には謀略を企てる。そうなればただ戦うだけではそれはあっという間に謀殺される。そうならないために此方も智恵を絞り、策を練らなければならない。
ビーストはつまりそう言っているのだ。あのマスターがあぁであってはなおのこと、襲撃か撤退以外の第三の選択肢を模索せよと。
「う、うん……」
そしてやっと文香は口を開けた。正直ビーストの話はちんぷんかんぷんだったが、発言の権利は与えられたようだった。だがもしも何か間違った発言をすれば私は即刻殺されDEADENDというわけだ。
と言ってもこんなものほぼ決まっているようなものだ。戦えば双方とも死にかねない、そんな両者が戦わなくて済む方法といえば──────
「共闘、しません…?」
少なくとも、今の文香にはこれくらいしか思い浮かばなかった。自分を一度殺そうとした相手だ、信用など出来る相手ではない。
しかし文香はそれを選んだ、それは一種の仲間意識からなのかもしれない。
文香は自分の起源に気付いてからは何かへ執着するということを怖がり、自分から自分を塞いだ。初めての命の危機というものに直面し、"自分の命"に対しての執着を持ってしまったもののそれは不可効力というものだろう。
そういう意味では、沙霧文香とミリヤ・ザカリアス・コスケンニエミはそれぞれ成り行きは違うものの"孤独"という一つの共通点がある。文香はそれを感じ取ったのかもしれない、或いはただそれしか思いつかなかっただけかもしれない。
だが文香が出した結論はそれであり、もう口に出してしまったのだから後戻りはできない。あとは答えを待つだけだ。
45
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/21(日) 02:44:13 ID:IzYCzDoE0
>>44
ビーストが飽く迄アーチャーを戦士と呼ぶ……それは酷く正確であった。
アーチャーは徹底的に戦士に徹していた。それは種子島家の当主という肩書をかなぐり捨て、砲術師であり、武士である、徹底的にそれで塗り潰していた。
言うなれば視点の違いだろう。戦場とみるか戦争とみるか――――――確かにその通りだ。そして、広い見方をしているのはビーストの方だ。
恐らくはそうすることができるのならば、最もそれが正しいのだろう。だが……アーチャーにとっては。"戦場での戦い方こそが最も適していた"。
適するように作り替える、適するように変形させられる。火薬と鉄と血に染める。それが、薩摩のやり方であり。
『応、俺は"いかれ"だ。俺だけじゃない、俺の周りはどいつもこいつも"いかれ"だった』
『『狂戦士』の方が余程ふさわしいだろうよ。今俺が、こうあることが不思議なくらいに』
『――――――――――――戦場でも戦争でも知らん。俺は、目の前にいる敵の喉元を食い千切るのみよ』
穿ち抜き、繰り詰め、取り次ぎ、繰り抜き、釣り野伏せ、捨て奸。その為ならば、目の前の敵を殺す為ならば、"何でも、何度でもやる"。
それ以上でも、それ以下でもない。それがアーチャーの限界であり、最高であり、最善だった。
「きょう、とう……?」
『――――――――――――ほう』
首を傾げるミリヤを他所に、アーチャーはそれに興味を持ったように振る舞った。
『共闘』……それはアーチャー陣営からしたら願っても無いことであった。これほどの霊格を持ったサーヴァントを仲間に出来る……嬉しいことではあった。
元々アーチャーのステータスとスキルは、どう足掻いても白兵戦には向かないものであった。
先のライダーとの戦闘ではそれをアーチャー自身の気迫のみでこなしていたが、しかしそれも限界というものがある。
乱戦に対して縫うように"一撃必殺を加える"。これがアーチャーの基本的な運用方法であり。他陣営と手が組めるのであれば、そのような"戦い方"も可能になる。
「いいよ、一緒に――――――」
『手を組むと。俺達と。成程、確かに俺達からしたら嬉しい話ではある』
『戦闘は有利になる。彼奴程のサーヴァントを味方につけることが出来たら心強い。だが……今、御前の従者は"謀略と謀殺"を肯定したぞ』
喋り出そうとするミリヤを遮って、アーチャーは言葉を繋いだ。
問題は"裏切り"だ。これに関しては最も警戒すべき事だった。特に……アーチャーという、決して強力では無いサーヴァントに関していえば猶更の話。
そしてビーストは、この聖杯戦争に於いて遠回しにそれを肯定した。であれば、場合によっては、アーチャー陣営を裏切ることも吝かでは無い、ということだ。
無論、最後には殺し合うことになるのは百も承知である。だが問題は、その"最後"……そうでなくても、その"直前"まで、その関係を続けられるかどうか。
つまるところ。
『――――――――――――示せ。"誠意"を。それが見られれば、この俺の"鉄砲術"、今すぐにでも貸してやる』
こう言う事が出来る、"大義"が必要であった。その申し出を、相手に言わせることこそが重要だった。
そうすれば、此方側から条件を突きつけることができる。此方側から約束を強要する事が出来る――――――それが、どれ程の価値を持つかは分からないが。
少なくとも、自分の方から頭を下げるよりは余程"良い方向"に迎える可能性は、高い筈だ、と。
「……」「……」「……」
「……死にたくない?」
ミリヤ・コスケンニエミは起源覚醒をしている訳でもない、二流の魔術師であった。
だが……その身体を流れる魔力の特殊性が其の体に些細な変化を起こさせていた。例えば何か、妙な物を感じ取る力、だとか、そういうものであった。
それに対して何を想おうと、其の手を止めることはないだろう。故にそれは、本当に些細な、何の意味も無い問い掛けである。
例えばそこにどんな感情を抱こうとも、其の体に反映されることは一切ない。一歩歩くように"殺す"。"ミリヤにとっては"、何の意味も無い問い賭けであった。
46
:
エイヴィンド/バーサーカー
◆uHIlZU.osM
:2016/08/22(月) 02:21:08 ID:wMyYTv8o0
───────冬木の街並み。
街は暗い闇に染まり、市街は昼の繁華とは打って変わった静けさを醸し出す。
新都と住宅街を分断する未遠川の畔もまた、例外ではなく。揺れる漆黒の水面に反射する街灯は、一種幻想的な風景を演出している。
だが、確かなる平和が在るはずの其処には────"一人"の異常が、物静かに佇んでいた。
『………────────』
痩せた長身にガスマスクを装着した、一人の"男性"。
長身に纏った黒いスーツからできる憶測は、その性別程度のものだろう。
……だが、其を解する者には感じるだろう。──────その人物から発せられる、確かなる強い魔力の気配を。
『……』
彼はただ一人、そこに立っている。……だが、彼は"独り"ではなかった。
川縁から少々ばかり離れた場所。何も無いように見えるが……確かにそこには、人には視えぬ気配がある。それこそ、あの不気味な男の"主人"。
エイヴィンド・ソルヘイムと、そのサーヴァント───────バーサーカーの姿であった。
「……バーサーカー。周辺に気配は?」
『───urgh』
エイヴィンドは姿を消したままに、その低い声を響かせて問う。
そのマスクの下から不明瞭な唸りを上げつつ、首を横に振る。
「……良し。では"実験"だ。"火薬"がどれだけの破壊力を持つか……確かめておく必要はあろうさ」
『Ahh……』
彼らがこの様な辺鄙な場所で、人目を避ける様な行動を取るのは、正しくそれが理由だった。
バーサーカーの力は、普通では目立ち過ぎる。……だからこそ深夜に、川の畔のような人の来ない場所で、確かめておく必要があったのだ。
「よし……先ずは1kgほどだ」
『Ugh.────………Oohhaaaaaaa!!!』
彼が支持を出す。それに呼応するように、バーサーカーは雄叫びを上げ─────みるみるうちに、ドサドサと舞い散る黒い粉……"爆薬"を、直ちに出現させてみせた。
これが、バーサーカーの宝具であり力。……爆弾こそ、彼の真髄。
「………BRASA(fire)!」
『Ahhhh!!!!!』
再び以って、バーサーカーの雄叫びが鳴り響く束の間──────空を震わす閃光と轟音が、辺り一帯に響き渡った。
「……ッ、Börk、よし、もう十分だ」
軽く穴の空いた地面に佇むバーサーカーを尻目に、爆風による砂埃でむせ込む声を上げる。
……今の爆発音は大したことはなかったとは言え、サーヴァントの聴力ならば、直ぐにでも嗅ぎつけて来るかも知れない。
「身構えておけバーサーカー。一先ず拠点に戻るとしよう。」
今の所、彼もバーサーカーも、これといった気配は感じ取っていない。
このままなら、彼らは誰にも見つかる事は無いだろう。……"アサシン"相手でも無い限りは。
47
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/22(月) 11:39:13 ID:UnsCIJRQ0
朝焼けの白さと対を成す様な特有の薄光に染まったアスファルトを何者かが打ち鳴らす様に踏みしめる。
他に雑踏や話し声は無く、この時間特有の虚無感が路面の一角を包んでいた。
滑らかな曲面を描く一足は鮮やかに輝きを反し、元の黒々とした合皮の色に一線指す橙色が今の時間が日沈む黄昏であると昂然と語っていた。
その靴と言えば合皮であるが元来靴の羽根を締め上げるべき紐が非ず、そもそも羽根すらも無い合皮のバンドが上から抑えるかのような独特なデザインである。
とは言え珍しいものでは無い。むしろ至極一般的なローファーのあるべき形状であり、男が好み以外でローファーを履く機会等非常に限られているだろう。
例えば “学生” であるとか。
男……いや、男と言うには些か若い少年が纏う衣服は上下共に枯葉か枯木か、ベージュと言うには色味が強く、土色と言うには少し赤みが強い。
一度見れば忘れる事も無い非常に珍しい色のその制服は私立穂群原学園の物に他ならず、冬木市に住めばこの制服を来た子供たちを否応にも見る事だろう。
少年の左手に握られているのは一般的な学生鞄だけで如何にも帰宅中の高校生と言った様で特に変わった様子はない。
尤もそれは傍から見た場合の話であって、ほんの少し近づけば彼が小さく独り言を話している事が伝わるだろう。
「ほら、特になんも起こらなかったじゃないか。」
少年の言葉は虚空に消えた。と思える。だが実際は彼の言葉は彼が伝えたかった相手に確かに、はっきりと伝わっていた。
『その考えが不用心過ぎると言ってるんだ。今日は良かったかも知れない。だがこんな事を毎日繰り返していたら間違いなく狙われる。
暴れ牛の前の丸腰で飛び出すか、生肉を持って獣の巣に赴くか、どっちにしろ唯の命知らずか死にたがりなのか君は。』
彼の耳には確かに女の声が聞こえてくる。姿は見えずともその声色は怒っているか呆れているか、もしくはその両方を含んでいると簡単に感じ得た。
その言葉に少年の表情も曇る、如何にもバツが悪そうに眉を顰める様から何故か母親に説教でもされた時を思い浮かべる。
「はいはい。それは何度も聞いたから。
大体どうしろってんだよ。冬木から出る訳でも無い、しかも出歩かなきゃいけないのに長期の休みなんて取れる訳ないだろ。
学校辞めろとか言うつもりかよ。」
少年は歩みを止める事無く、呼吸を整える物とは明らかに異なる様相で、呆れた様に腹の底から大きく弛んだ空気を吐き出してみせる。
尤も少年とは異なり“彼女”はその言葉に聞き捨てならない単語が含まれている事に目敏く気が付いて見せた。
『……なんだ。学校とは辞められる物なのか。』
ピタリと少年の足が止まる。
しまった。
とその表情にありありと描かれている。「絶対に言わないようにと気を付けていたのに。」と。
さてこの少年の一連の奇行。一般人から見れば正しく奇行その物で、少年の将来を危ぶむ者も居るかも知れない。
だが彼を取り巻く数奇なる状況を視認できる者からすれば話は別だ。
如何にも隙だらけなこの少年を捕捉したものが居れば――――の話であるが。
48
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/22(月) 18:27:52 ID:eRYHSFOw0
>>46
雄叫びと爆音、激しく鼓膜を震わせ脳液を揺らす轟音が爆ぜた後には、引き返す波の如く静寂が押し寄せる。
安寧な闇と無音、バーサーカー達を包むのはただそれだけだった。
突如としてバーサーカーとエイヴィンドは他者の気配を感じるだろう、それも徐々に近づいて来るようなそれではなく、正しく『急に現れた』ような感覚を。
続け様に彼等は鉄が擦れ合うような音を聞く事になる、それと同時に闇の中からバーサーカーの額目掛けて飛来するのは鎖に繋がれた鉛の塊。
それを防ぐにしろ、当たったにしろ、すぐにその『鎖分銅』は引き寄せられ、その引き寄せた先に彼の姿を見る事が叶うだろう。
「───面妖な、人ならざる声が聞こえたので来てみれば……」
「お前〝達〟、聖杯戦争の参加者だろう?」
ジャリ、ジャリ、と鳴る金属音は、彼───アサシンが手に持つ鎖鎌から鳴る音、草履履きの脚で河原を歩きながら、ある程度の距離を保って彼は立ち止まった。
甚平を着た彫りの深い顔の男、着てる服装も合わせて日本の人間のように見える。
「主人の願いの為だ、我が魔鎌にて、その命刈り取らせて貰う」
会話も早々に、アサシンは鎖鎌の鎌をヒュンヒュンと振り回し遠心力を貯め、サイドスローでバーサーカーに投げ付けた。
大きく迂回するように、しかし正確にバーサーカーの首を狙うその鎌は、その速さもあって空気を斬り裂く風切り音を唸らせながらバーサーカーに襲い掛かる。
とはいえ動きはまだ単調、いくら速いとはいえどこの距離であるなら回避はそう難しくはない。
49
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/22(月) 23:41:05 ID:jowl7WGA0
>>47
「はっ…はっ……ふぅ。やっぱり楽しいね!走るのは!」
おそらく涼しいであろう時間帯…もう夜に近くであろう時間帯…如何にもスポーツします!といった感じの服装を身に纏いそこそこ長い距離を走ったのであろうか息を切らしながらも笑顔でランニングする女性がそこにいた。スタイルは人並み以上に良く顔も人並み以上に良い。しかし他の追随を許さないほどかというとそうでもない。街中を探せば1人や2人はいるだろうといった見た目だ。
そんな女性が奇妙な高校生を見つける。見た事のある制服。近くの高校生であろうか。普通の高校生なら目に留める事はなかったであろうがその高校生は違った。はたから見れば奇妙で珍しい光景ではあるがその女性にとっては見た事があるいやむしろ自分もやった事がある行動だった。
ーーー虚空に向かいそれに話しかけるーーー
少し離れた距離そこで身に覚えのある行動を目にした。あぁ…この子もか。なぜこの子が…なぜこの高校生がこんな目に?しかもこんな身近に…
聖杯戦争に参加しているのかと。少し悲しく思えた。いざという時も考えて戦うための準備もしているがまさかこんな早くに戦う事になるとは…
念の為を思って彼女と虚空に話しかける。
そうサーヴァントに向かって。
「どうするの?モンスター?」
『さぁ…とりあえずは魔力をちらつかせ様子を見れば良いだろう仕掛けられたらやり返せばいい。』
『マスターお前は奇襲などするような姑息な真似は好かんだろう。気にくわんだろう。それは私も同じだ。』
「よし分かった!あなたの意見を汲むわ。」
やる事は決まった…少し休憩をしていたが再度走り始める。目標の彼に向かって。彼と虚空にいるもう1人は離れていても感じるだろうか?膨大な魔力の奔流を…しかしそれは魔術師や普通の『枠』にあるサーヴァントとは少し違う質のものであると。
そして彼に近づいたのなら彼女は微笑みこう言うだろう。
「こんばんは。1人で誰に向かって話してるのかな?私はおかしいとは思わないけど『普通』の人から見れば少しおかしく見えると思うよ?』
『良かったら私と『オハナシ』…しませんか?」
少しばかり意味深な言葉…
彼はこの提案をどう取るのだろうか…それは誰にもわからない
50
:
エイヴィンド/バーサーカー
◆uHIlZU.osM
:2016/08/23(火) 02:01:36 ID:wMyYTv8o0
>>48
『……Ghh』
「───────………!」
突如として、彼"ら"は歩みを止める。
それは寒空の中に、突如として現れた"異物感"への困惑と警戒であり。
波動のごとき力の波が、気配であるという事に気付くより前に───その存在感は、先に行動を起こしていた。
『!』
次の瞬間。バーサーカーはマスク越しの瞳に、眼前より飛来する、鈍く輝く塊を捉えた。
『……hhUghaaaaa!』
それと同時に、バーサーカーはすかさず左方へ飛び退き、それを避けた。
眼前のモノが異質な存在という事は、狂った頭でも考え付いたらしく。闇の中へ飛び込むことなく、その場でジッと闇の向こうを見据えていた。
間も無く、"それ"は正体を、徐々に虚空の内より露わにして行く。
そこで漸く、姿を隠したマスターは気付いた。バーサーカーに投げられたのは、鎖のついた─────分銅か。
それをジャラジャラと手繰り寄せながら、まるで風の如く。亡霊のように姿を見せる者の姿が、闇の向こうから現れ出でた。
その気迫と存在感は、姿から判断するまでもない。それは、間違いなく───
「……私に気付くか。"サーヴァント"……!」
姿そのものは消したままに、彼は突然の来訪者を睨みつける。感じ取っているのは人の気配のみであろうが、個人情報まで知られる覚えはない。
『Urghh……』
バーサーカーもその姿の前に一層に身構え、その殺気と魔力を充満させる。
いかにも日本人然とした姿の相手に比べて、こちらのサーヴァントは────洋服(スーツ)にガスマスクと言った、近代的な西洋英霊である事を想起させるようであり。
人種を超えた殺意の応酬に、この場は一瞬で、はち切れんばかりの緊張に覆われていた。
「(……どういう事だ。先程まで、それらしい気配など……)」
マスターが思考を完了させるよりも前に。先に動いたのは、アサシンの方であった。
『!』
回転する鎖、そして側面より迫り来る鎌。
高速で迫るそれは、確実にバーサーカーの首を捉えんと、一直線に走って行く。
だがバーサーカーも、狂っているとて間抜けではない。迫り来る刃の軌道を確りと視認し───獣のように姿勢を低くして、それを回避する。─────そして。
それは相手に叩き込む、次なる攻撃への起点となる。
『UGHHHOHHHH!!!!!!』
声ならぬ叫びを上げ、頭上に鎖が通過するのを確認した直後に……前のめりの姿勢を利用して、そのままアサシンへと突っ込んでゆく。
彼は狂えど、かつて科学者であった恩恵か─────発明や知識への低下はない。
だからこそ、"遠心力"といった力の特徴に関しても。
如何に速かろうが、どうしてもそれは「大きな隙を生むものだ」と知り、彼は一気に距離を詰めに行く。
だが、その速度はサーヴァントにしては大したものではない。相手が相当な使い手であれば、ギリギリ対応できるか、という程度の距離で─────
『Ohhhrahhhhhh!!!!』
雄叫びを上げ、バーサーカーは不意に空へと飛び上がる。そこに構えるは────"握り拳"。
そう。バーサーカーは単なる徒手空拳で、眼前の敵に挑もうとしているのだ。────だが、アサシンは気付くだろうか。その腕の周囲に、"黒い粉末"が舞っている事に。
先程彼らが行っていた"実験"をもし視認していたのなら、その正体は分かるだろうが─────
よしんば分からずとも、その拳は"妙な気配"も同時に含有している事は、理解できるだろう。
51
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/23(火) 03:41:38 ID:UnsCIJRQ0
>>49
「だ〜か〜ら〜、辞めたら最後取り返しが付かないんだよ。退学だけは絶対にダメだ。」
少年の声がほんの少しだけ大きくなる。尤もそれは今駆け寄ってくる女性に対してのものでは無く、先程同様虚空へ向かっての物だろう。
その言動から小さな口論をしていると見て間違いない、内容からその前後にどの様な問答が行われていたかを察するのは難しくはない。
「……ん?」
浮かぶ何かを見据える様に虚空に泳いでいた少年の視線が、ふと横に滑る。
それはただ自らの歩行速度とは違う物が視界の端に入り込んだが故の反射的な行動であった。
思い返せばその様な経験が多々ある事だろう、動物の本能とも言うべき仕草と言っても過言ではない。
そう、あくまで有り触れた仕草でしかなかった。何時もであれば。日常であれば。
そこに人がいて、ぶつからない様にほんの少し立ち位置をずらす程度で終わっていた。
だが視界に捉えたそれが――――――― 彼の“眼”には宛ら清水に浮かび上がる泥か。景色と決して交わる事の無いドス黒い油か。
どの様な例え方をしてもそれは心地の良い物に例える事は難しく。
明らかに日常から逸した、日常を破壊しうる何かである事を直感させることは容易かった。
「ッ、何だ!?」
近づいてくる女性に対して少年は咄嗟に後方へと飛び退く、近づいて来た女性とは一定の距離が開く事になるだろう。
女性も少年が溢れ出る魔力に気付いたとすぐに理解できるはずだ。尤もその気付き方が一般的な魔術師のそれとは異なる事に気付けるかは別の話である。
【魔力を感じ、そちらを見て、気づく】と言う女性が想定した本来在るべき一連の流れではなく。
【そちらを見て、魔力を感じ、気づく】と言う途中の工程が明らかに前後しているその挙動に。
「……こんばんは。見ず知らずのおねーさん。
ご心配をかけたようで申し訳ないです。脳内のお友達とのお話が楽しくってつい口から洩れてたみたいッス。」
近づいて来た女性の問い掛けに対し少年は明らかに警戒している。
黄昏の朱色の中にあって尚仄薄く緑々と輝いて見えるその両眼が女性から視線を外す事は無い。
視界の中央に完全に捉えその一挙手一投足すら決して逃す事は無い、ある意味では熱烈とも言える視線である。
「おねーさんもかなり“変わって”ますよね。変わった香水でも付けてるんッスか?」
ランニングをしていた人間が香水を付けている等普通の人間はまず考えないし普通は付けない。
となれば少年が香水と例えたのは女性から溢れ出ている魔力と見て間違いないだろう。
『……どうやら何か起こってしまったようだな。』
この状況では彼の側に居るそれが呟いた嫌味に答える事も難しい。
突発的に起こり得る物であるとは重々承知していたが、この状況は正に青天の霹靂である。
今となっては後の祭りであるが、この様な結果になるのであれば“彼女”が言っていたように自衛の為の武器でも仕込んで来れば良かった。
「それで、なんかごよーッスか?」
やせ我慢か、若干自棄になったかのように口端を吊り上げる程度の反応だけを見せた。
52
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/23(火) 20:57:23 ID:bcAZ9TjM0
>>50
アサシンのクラススキル、気配遮断───これがある故にアサシンは初手においてのみ圧倒的な有利さを誇る。
彼の持つそれのランクはCという決して高くは無いものなれど不意打ちには十分な効果が期待出来た、それ故に初手を回避されたのは痛い。
否、それは断じて否である、何故ならば彼にとっては初手の行動こそが今後のすべての行動の布石に繋がる、正に変幻自在な攻めを展開するサーヴァント、『鎌を投げる』という行動自体が妨害されなかった事は彼の有利に働く。
「正しく悪鬼の雄叫び、人の言葉を忘れたか?」
「その眼で俺の鎌をどこまで見切れるかな?」
鎌を掻い潜り迫り来るバーサーカーの拳を、背後に下がりギリギリで回避する、敏捷の値だけで言えばアサシンは遥かに上を行っている。
ギリギリで回避したのもそれが間に合わなかったからではない、頬に飛び散り付着した黒い粉末にも目もくれず素早い動作でアサシンが屈むと、今の今までアサシンの頭で陰になっていた方向から鎌が飛来してバーサーカーにを狙う。
アサシンは回避された鎌を最小限な動きで、手元で鎖に指を絡ませる程度のごく小さな動作で操作し、二人を大きく回りこむような軌道で鎌を自分の背後から向かわせていた。
(……この臭い…火薬か?)
ここでようやく、バーサーカーの撒き散らした粉末の臭いを嗅ぎ、その正体を考察する。
それが事実であるなら相手の攻撃の破壊力は計り知れない物だと考え、殊更このような接近戦は避けるべきだろう。
「足元ッ!!」
鎌での不意打ちを行いながら、屈んだ片足を伸ばしバーサーカーの脚を同時に狙う、足払いでの転倒を避ければ鎌が、鎌を避ければ脚が払われるという算段だ。
53
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/23(火) 22:22:23 ID:k401n/oE0
>>45
─────この男はある意味"純粋"と呼べるのだろう。
ただ戦うことしかできない、それしか知らない。このサーヴァントはそういう在り方を生前に示したのだろう。
しかしそれは果たして本人にとっての幸福だったのか。戦に生きるということはそれ以外を捨てるということ、そんな彼は人並みの幸福を、幸せをつかめたのだろうか。
それを知るのは本人のみで他に知る手段はない。いずれ語られるのならば彼はどのような語り部となるのだろうか──────
『ふっ、どうやら貴様は根っからの狂犬のようだ』
『だがそれでいい、貴様のその在り方は私の好みだ。敵が何であっても容赦なく喰い掛かる、あぁ実に良い』
『────貴様は私と同類だ、有り様は違ってもその在り方、それは私と同質のものだ』
誰であろうと関係無い、例えそれが"神"であったとしても喰らい尽くす。
たとえ生き様は違えど誰もを平等に喰らってきたビーストは、確かにアーチャーと同質の存在なのだろう。そういうところから見れば手を組むことを提案したのは正解だったのかもしれない。
「ど、どうです…?」
殺し合いと言っても手を組んではならないというルールは無い。一人でも殺さなくて済む相手が増えるのならばそれに越したことはない。
文香はこの聖杯戦争を勝ち抜く気など全くない、だがサーヴァントとの契約、これを解く勇気も無い。
一度殺されかけてしまったのだ、そんなことをすればきっと今度こそ私はこいつに殺されることになる。それはダメだ、まだ私は死にたくない、こんなところで死ねない。
それはきっと我が儘とも言えるのだろう。だがこちらは命が懸かっているのだ、我が儘くらい言ってもバチは当たらないはず。
『ほう、"誠意"と来たか』
「ど、どうしよう…何すれば良いのかな……」
誠意…そんなものどうやって示せば……
そう悩む文香を見て、ビーストをクスリと笑う。どうやらビーストには何か考えがあるようだ。
暫く悩む文香を眺めて満足したのかビーストは文香へと"答え"を示す。ただその答えが本当に最善で最良なのかは分からないが。
『前に話しただろう?手にある"それ"を使えば誠意としては十分だ』
「あ、なるほど…"令呪"を使えば……」
──────それはあまりにも普通は考えつかないことだろう。
確かに手を組むことができれば聖杯戦争を有利に進めることができる。だがしかしそれ以上に"令呪"というのは聖杯戦争での重要なものだ。
3回きりの絶対命令権、それを今使うというのはあまりにもリスキー過ぎる────そう、普通のサーヴァントを従えるマスターならば。
「そうだね、なら…!」
「令呪を以て命ずる─────えぇと…"今私の目の前に居る人達は決して傷つけないで────!"」
その手に宿る令呪が光を放ち消費される。そして文香が持つ令呪の使用回数は残り2回、これで聖杯戦争では周りに比べて不利になったというわけだ。
だが文香は何も知らされていないがビーストにとってビーストの行動を縛るような令呪は"意味を成さない"のだがそのことを知るのは本人であるビーストのみだ。
「…………うん、死にたくない。私はまだ死ねないの」
「─────でも、誰も殺したくもない。これが綺麗事だということは分かってるけど……」
「それでも、これが私の"本心"だから」
偽ることはしない、偽っても仕方がない。
死にたくないし殺したくもない。聖杯になんて興味はない、でも戦うしかない。なら私は戦ってその綺麗事を実行してみせる。
お母さんとお父さんは私をここまで育ててくれた、きっと両親は私を危険から遠ざけたかったのだ。両親のその願いを叶えることはできなかったけれど、せめてこれくらいは守りたい。でなければ私何も両親に報えない。
「………そういえばあんなところで寝てたけど…もしかして家とか無いの…?」
そう、こんなことになった全てのきっかけ。元はこの少女が何故か水浸しで寝ていてそれを人の良さから助けてしまったことが原因だ。
どうしてそんなことになっていたのかはやはり気になるところ、普通はあんなことをしたりはしない。
首を傾げ、あのときのことを思い出すとそう質問してみるのだった。
54
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/23(火) 22:51:00 ID:jowl7WGA0
>>51
「何だってちょっと怖い言い方だなぁ。私…そんな怖いことしましたか?」
明らかにわかりきっていた。自分から明らかにその場にそぐわない魔力を放っているのにあえてとぼけた答えを出す。
この行動には特に意味はない。
しかしニコニコ笑顔を浮かべながら悍ましい魔力を放っている様はどう考えても異質だ。
しかしどこか少年の行動に違和感を覚えた。
普通の魔術師とは違う反応…あまり魔術に携わっていないのだろうか。という考えがよぎった。
「そりゃあ声かけちゃうよ…私にもこわ〜い脳内のお友達がいるから気持ちはわかるんだけど…わからない人から見ればちょっと心配に見えちゃうから気をつけてね?」
少年の警戒する反応を見て、よしきた!と思い心の中でガッツポーズをする。やはりドス黒い魔力を見て少し違和感を覚えたはずだ。
「あはは…そんなに見られると恥ずかしいなぁ…そんな〜香水なんてつけてませんよ。
でも君が感じているモノは厳密に言うと私のものじゃないんだ。
それは君にもわかるんじゃないかな?」
やはりまじまじと体を見つめられると恥ずかしいものであるなと思いながらも聞きたいことを聞こうと率直に述べてみようと行動に移す。
「すこーしだけ用があってね…じゃあ率直に…あなたは聖杯戦争って知ってますか?」
55
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/23(火) 23:52:48 ID:IzYCzDoE0
>>53
その意味を知るのは、暫し先の事になるだろうか。
目前のそれが何なのか、理解していなかった以上、その言葉がどういうことなのか、理解していなかった。然し、それが振るう力を見た時、それを理解するだろう。
それは"獣"だった。その象徴に当てはめられた、恐らくその神話に於いて、"獣"という概念の頂点に立つ存在ですらあった。
『俺とお前が――――――同類だと?』
疑問を口は出したが、それ以上を追求する気はなかった独り言にすら近かった。
現状のアーチャーにとっては、それは唯々不可思議な一言であった。だが、それは間違いなく――――――"同様の性質を持った狂犬"だと言っても良いのだろう。
令呪の使用による絶対命令権――――――三画の令呪による三度の奇跡の行使。これはこの聖杯戦争に於いて、当然ながら"要"だ。
戦術における無理を通す場合にしろ。また言う事を聞かないサーヴァントに命令を強制する場合にしろ。それを扱う場面は、慎重に見定めなければならない。
はっきり言って、アーチャーという低級のサーヴァントに対して使うのは余りにも釣り合っていない。そして、だからこそ。
『――――――――――――良いな』
「……うん、いいね」
それはビーストのスキルの性質上、全く意味をなしていない。この場合に限り、令呪の価値というものは全くの零になっている、が。
仮にそれを後に知ったとしても、アーチャーはそれを無為にはしなかっただろう。アーチャーが示したのは、令呪の使用では無い。
"誠意"だ。自分達に対する"誠意"。それが起こす結果は重要ではない。その"心"こそが重要なのであり――――――それ故に。アーチャーの呟きに、ミリヤが小さくそう返した。
『俺はアーチャー。真名を――――――種子島左近太夫久時』
「ミリヤ・"ザカリアス"・コスケンニエミだよ……よろしくね」
突き付けた短筒を、人差し指を軸に回転させる――――――銃口を下にして、陣羽織の内側へとそれを納めた。
そして、その短い一言を納得と承諾の証明とした。"種子島久時"――――――その名を知らずとも、"鉄砲伝来"における"種子島家"の存在は知っているだろうか。
それがその、提示された『令呪の使用』という者に対する返礼だった……知名度が低い故に真名を悟られにくい。そのメリットを、手離す事によって。
ミリヤに関しては、アーチャーの後を追ったばかりであったが……突き付けていた刃を手離して、そう言った。
「家……?」
実はいうと、ミリヤには確りと拠点が与えられていた……正確には、拠点を得られるだけの資金は与えられていた。とは言ってもただのホテルではあったのだが。
然し少なくとも聖杯戦争中は何とかできる程度の物は"用意されるはずだった"。
根本の原因はこの未熟なマスターにあった。ホテル、しかも日本のそれになど泊まったことなど無いそれは、泊まるべきホテルと滞在日数を"間違えていた"。
超高額なホテルに、一週間ほど泊まる程度の契約となっていた。勿論、予算は総てそれに注ぎこんだものだから、持っている日本円は残り数千円程度。
フィンランドからの送金は依頼済みだが、届くまではしばらく時間がかかる……つまりは。
「今は無い……かな」
腕を組み、俯くアーチャーがあきれ顔で頭を左右に振っていた。当の本人は、何でもないかのように彼女へとそう言った。
56
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/24(水) 02:07:38 ID:UnsCIJRQ0
>>54
『飛成。お前が視ている魔力は竜のそれだ。』
少年の耳へと会話に割り込む一言が囁かれる。それは紛れもなく彼のパートナーの物である。
彼の眼には何か強大な力が揺蕩う事こそ解れど、それを理解しうる知識が彼には無く。
「竜の魔力……?」
聞き慣れぬ単語に、目の前に居る女性への返答を他所にそちらへと意識が向かい、思わず尋ねる様に声に出して繰り返してしまう。
竜と言うとあのドラゴンの事か。
帯の如く伸びる鱗を纏った巨躯に四肢を持ち、空を飛び火を吐く最強の幻想種と評されるあのドラゴンであろうか。
『それも大層邪(よこしま)な物だ。君が分からなくても無理はない。』
だが彼が従える(?)英霊はそれが何であるかを語り得るだけの知識があった。
それが人の身から溢れる事は決してない事を彼女は知って居たのである。
彼女の今尚語り継がれる武勇による物か、それとも彼女が持つ聖剣の加護よるものか。
『話をするにも、まずは姿を現して貰う必要がありそうだ。』
飛成が何か動く前に彼のサーヴァントがまずアクションを起こした。
先程会話に割り込んできた時と同じように、彼と女性との間に霊体であったその身を現世へと実体として降臨させたのである。
黄昏にあって尚、赫々たる金色の御髪を結い上げ
夕焼けの赤に容易く染まる白雲の如き無垢なる純白と、その中に在りながらも決して染まる事の無い蒼穹の青の二面を携えた外套でその左腕を覆い
その瞳は広大にして清麗な湖を思わせる深い深い青を持つ、麗人か貴人かと見まごう男装の“女”騎士であった
実体となった彼女のクラスが何であるかを尋ねる必要はない。何故ならば佩剣していたからだ。
それも左右の腰にそれぞれ一本ずつ、即ち二振りの剣を携えた双剣の騎士だったのである。
剣を用いるだけではそのクラスを特定する事は難しいが、二振りもの剣を用い、それを見える形で佩剣しているのであれば疑う余地も無いだろう。
“セイバー”
最優のサーヴァント。
女が尋ねた「聖杯戦争について知って居るか」と言う問いに図らずも答える結果となった。
だが同時にこれ以上の会話を続けたいのであればセイバーの一言を受け入れる必要があるのは間違いないだろう
57
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/24(水) 02:49:04 ID:jowl7WGA0
>>56
「あら…もうバレちゃった?あなたのサーヴァント凄いのね!」
少年の呟く竜の魔力という言葉に反応し思わず賞賛の声を上げる。
一瞬でバレてしまった…まあそれはしょうがない。相手方のサーヴァントは聡明であるのだろう。
「うわぁ…凄い綺麗!貴女が…彼のサーヴァント?
見たところ…セイバーかな?」
眉目秀麗な少年のサーヴァントに思わず声を上げる。その姿は美しく同時に神秘的であり騎士であろう格好はその容姿にとても似合っている。
「出て来い!だってさ。貴方も出てきたら?」
『ふん…言われなくてもそうする。二度聞きは好みではない。』
そう気怠げに言い放つと彼女の従えるサーヴァントが少年とそのサーヴァントの前に現れた。
褐色の肌で肩まで伸びる黒曜石のような色の手入れされた髪を持つ。しかしどこかその姿は人間離れしておりその皮膚は鱗で覆われていた。
皮膚は鱗で覆われているがかなりの美男子全てを吸い込むような漆黒の瞳を持つ。
外装は何千年も前の王族といった格好で古びた様子である。しかし肩のあたりが不自然に尖っている。
『全く…初めて出会うのがこう最優のサーヴァントになるとは予想もしていなかったなぁ…全くやり合うにも骨が折れる。』
『クラスは予想もせんだろうから言っておこう。モンスターだ。この我を形容するのがこのクラスしかなかった訳だ。全く有り様を変えられ人でもなくなったとは…現代の人間はまあ我のことを嫌っているのだな。』
人ではない龍人のサーヴァントはそう語る。まあ彼自身このような姿になるとは思いも寄らなかったし
規格外のクラスに当てはめられることも予想していなかった。
『おおっとこちらばかり話してすまないな…貴殿も言いたいことがあるであろう美しき騎士よ。』
フェアなことを望む彼はセイバーに事を述べる順番を譲る。
58
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/24(水) 07:31:18 ID:UnsCIJRQ0
>>57
「モンスター?サーヴァントはセイバー・アーチャー・ランサー・ライダー・キャスター・バーサーカー・アサシンの7クラスじゃないのか?」
自らを“化物”と称したサーヴァント――――皮膚ではなく鱗で体表が覆われたその姿は正しく化物であり。
その鱗と言えば魚のそれや蛇のそれとはまた異なる、一枚一枚が持つ甲羅の様な独特な凹凸は生活の為に進化した物とは明らかに違っていた。
そう、言うならば戦闘用と言うべきか。
先程の情報も合わせれば恐らく“竜鱗”と称するべき物なのだろう。
彼の知識内に収めるならば目の前のサーヴァントはバーサーカーに相当するだろう。
『なるほど、“エクストラクラス”か。』
尤もマスターとは異なりサーヴァントの方は基本となる7クラスとは異なるクラスの存在を理解しているようだった。
「エクストラ……特別なクラス……。」
『その通り。察しは良いな。』
この様子から見ても、セイバーのマスターである少年は聖杯戦争について基本的な概要のみしか知らないのだろう。
だがサーヴァントが言った通りに察しは良い。
言葉の綴りと意味から特別なクラス、即ち基本クラスとは根本から異なるクラスであると説明されるまでも無く理解は及んだらしい。
「それで【モンスター】のクラスは何が出来るんだ?」
少年は己のサーヴァントへと問いかける。知らぬのであれば、該当しうる知識が無いのであれば次にこの質問が出てくるのも当然であろう。
『流石に分からない。エクストラクラスのクラススキルなんて幾ら私でも知る良しも無い。』
しかし当然と言うべきか。
同じサーヴァントとは言えエクストラクラスの持ちうるクラス特性・スキル等尋ねられた彼女も知って居るはずがない。
バーサーカーに近しい性質であろうとは考えられる故、精神汚染もしくは精神異常のスキルは保有している可能性は高いだろうと考える。
だが他に思い当たる節は無く、しいてあると言えばまず間違いなく“竜の因子”を持って居ると言う事のみ。
然し、このたった一つの情報こそがセイバーからしてみればそれだけで自らが有利であると確信しうる情報であった。
『言いたい事が無い訳ではないが、私の口から語る事は無い。
仮に私の一言がマスターの意志に揺らぎを与えてしまっては、それは騎士の主従に反する。』
許可なくして語る口は持たない、公平さを求めた“化物”に対し“騎士”は忠義を貫いた。
対し、ある意味では丸投げにされてしまった彼女の主人はと言えば、突発的なこの状況に対しそこまで頭も回る筈も無く。
「突然話しかけてきて、なんの用ですか?」
幼稚で、根本的な、然しある意味では的を得た事しか尋ねる事が出来なかった。
59
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/24(水) 12:52:47 ID:jowl7WGA0
>>58
「ええ…そうなの。私も初めて聞いたときはおったまげたんだよね〜」
『我自身でもビックリだ。まあ該当するようなクラスは少なかったからしょうがないものではあるが…
現界して初めて姿を見たときは驚いたものだ。
力自体もどうなってるかわからぬものでな。』
クラス:モンスター。それはこれまでの聖杯戦争には該当する訳でもなく非常に特異な例だろう。ゆえにどのサーヴァントもそして彼自身も力に対してわからないことだらけだ。
『何ができるか我自身もわからぬものでなぁ…全く困ったものだ。まあ1つ言えることは生前と違っているということだな心も体も何もかもがだ。
我をどう捉えるか…その全てが混じり合ってこの姿になったとみている』
何もかもが異なった此度の現界。しかしそれはとても胸の高ぶることだった。二度目の生を謳歌するにはちょうどいい。生まれ変わった新しい自分を体験できる。生前は退屈が過ぎた。しかしまあ今回は楽しめそうだ。
『そうか…ならばしょうがないな。騎士というものが存在しない時代から来たものであるが故…主の主義を理解出来ずにいたようだすまないな』
「用事っていうのはまぁ…あれなの。モンスターさんなんか戦いたくてウズウズしてるらしいの。もしあなた達が先に襲いかかってくるようだったら彼殺しにかかるつもりだったらしいけど…そうじゃなかったからとりあえず…」
『手合わせ願おうか。この身で戦うのは初めてなのだ…どういう戦い方をすればいいのかまあ全く分からないわけだ。そこで主に相手をしてもらいたい。
まあ殺し合いとは言わぬちょっとした小手調だ。』
『主も初めて戦うエクストラクラスのサーヴァントがどういうものが掴めると思う。悪い話ではないと思うが?』
ニヤリと笑い提案をしてみる。
60
:
エイヴィンド/バーサーカー
◆uHIlZU.osM
:2016/08/25(木) 00:42:47 ID:Csh1OD6w0
>>52
バーサーカーの強襲に対し、アサシンは一歩引く事でそれを回避する。……この場合、彼の"回避"という判断は正しかった。
何故なら。─────バーサーカーの拳は空を掠め、完全に体重を乗せた一撃は、そのまま地へと激突する。
瞬間。拳が地に着くと同時に、アサシンの眼の前にて、破裂するような燐光が瞬時に閃き、大気の裂ける轟音が轟いた。
地面を抉るその正体は、正しく"爆発"であり───このサーヴァントは"火薬を操る"という点を発見するのに、そう時間は要しまい。
だが、その急襲は避けられるに止まった。
瞬間にバーサーカーの視界に飛び込んできたのは───的確に足を狙う、アサシンの脚の動きである。
当然としてそれを回避しようと、右側面へ飛び退こうと姿勢を上げた。その瞬間────
バーサーカーの瞳には、眼前よりいつの間にか迫る"鎌"が映っていた。
『!』
地面を注視していたのと、鎖鎌という武器の性質。そして相手がいかなる使い手かという事を知らなかった故に、気付かなかったのだ。
出来る限り身体を捻り回避を試みようとも、もう遅い。その刃は彼のあばら肉を裂き、黒スーツから紅き鮮血を覗かせた。
『HolloooOAAAAA!!!!』
その痛みと怒りに人ならざる雄叫びを上げつつ、バーサーカーは傷を負いつつも、辛うじてアサシンの側面へと飛び込む。
左腕は万全に動かせなくとも、右腕は右足は左足は未だ、存分に動く。故にこそ彼は、殺す為に力を使い続ける。────その身が、たとえ滅ぼうとも。
バーサーカーとして召喚されるというのは────すなわち、そういう事なのだから。
『Ooooooarrrghhhhhhh!!!!!』
声ならぬ聲と共に、バーサーカーは火薬を纏わせた爆発の右拳を放つ。
続いてリーチの長い右脚からの回し蹴り、さらに後退されようとも対応できるよう、踏み込んでの飛び込み蹴りを放つだろう。
何れの攻撃も爆薬を纏い、また怒りからかその量は多くなりつつある。
ただし攻撃のスピードはやはり高速でもなく、また特殊な技量があるわけでもない。
確かに一撃は痛い。だがこれを全ていなすのは、場数を踏んだ"エキスパート"であればたやすい事だろう。
しかしアサシンは気付くだろうか。こうしている間にも辺り一帯には、彼の攻撃に合わせて"爆薬"が撒かれている事に。
あの攻撃は、本能に従ってただ殴る蹴るの行動をしていると見せかけるかのような、ある種の計画性を持っているという事に。
それが狂化を受けてなお、意図した物かは不明である。……だがこの場には確かに、ただの殴り合いを超えた、高度な駆け引きが存在しているという事は感じ取れるだろうか。
それはバーサーカーがたとえ人の意思を、言葉を失おうとも────単なる狂った獣とは一概に言い切れぬ事を、暗示するようでもある物であった。
61
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/25(木) 22:07:00 ID:D6HruP0U0
>>60
飛び散る土塊、爆ぜる音、それらが目の前で起きた時、単なる膂力によっての物ではないと判断するのにそう時間はいらなかった。
鼓膜を劈くような音がして耳が遠くなる、一瞬の強い瞬きは爆発の炎による物、それが拳の爆発によって引き起こされ、回避した筈のアサシンの感覚器を一時的に麻痺させる。
アサシンはしかし戸惑う様子を見せず、鎌をすぐに手元に引き寄せるとバーサーカーの反撃に備える体制を取った。
当然ながら、あのような爆発をまともに受ければ立ってはいられまい、アサシンの耐久は低いと言うほどでもないが、流石にあれを耐え切る事は不可能、運良く生きていても戦闘を続ける事は出来ないだろう。
それどころか逃げる事すら出来なくなる可能性がある、そうなってしまえば詰みだ、後はあの爆発で粉微塵になる他に未来は無い。
「くっ…!」
右拳を躱す、軽々と回避したようでかなりギリギリだ、立ち上がりながらの回避行動は体制を崩す。
続く回し蹴りを背後に飛びスレスレで回避、少し遅れていれば、僅かにでも擦ればその瞬間に爆発していた。
だが───更に続け様に放たれた踏み込みがアサシンを追い、捕らえた。
爆発、アサシンを覆う炎と煙の中でバーサーカーに見えるのは人一人が吹き飛び地面を転がる姿だろう。
収まっていく硝煙、地面に仰向けに転がっているアサシンは、どうやらこの一撃でダウンした訳ではなさそうだ。
「……まだ…まだだ……!」
煙が上がる元、爆発をまともに受けたのは、アサシン自身の体ではなく、両腕に厚く巻き付けた鎖。
咄嗟に防御体制を取って蹴りを受け止めたアサシンは、その衝撃に吹き飛ばされはしたものの、ダメージをかなり軽減する事が出来た。
とはいえ、バーサーカーの強力な一撃をこんな防御で防ぎ切る事は出来ない、体への、特に両腕へのダメージはかなり大きい。
「まだ負けぬぞ……この程度、あの男の一撃に比べれば…!」
それでも立ち上がり、鎖鎌を構えたアサシンは、バーサーカーの出方を見るようにその場で鎖を回す。
ダメージはあったが距離を離せたのは此方に有利だ、下手に隙を晒さず相手の動きに対応する行動をすれば、此方が優位である筈。
62
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/26(金) 10:51:09 ID:UnsCIJRQ0
>>59
『決闘を申し込むと言う事ですか。
前言を撤回するようですが……決闘を受けぬは騎士の恥。その申し出、受けましょう。』
真正面から叩きつけられた挑戦状が騎士の琴線に触れたか。
先の様子とは異なりマスターの承認を受ける前にほぼ独断に近い形でサーヴァントである彼女が了承する。
「ちょ…!!」
『但し!』
当然少年が黙っているはずも無い。
「先ほど語った騎士の矜持とは何なのか。」そう思わせる様なサーヴァントの勝手な行動に口を挟もうと一歩踏み出した少年の声を遮る様に彼女は声を荒げた。
そしてセイバーの言葉はこう続く。
『打ち合いは一合のみ、互いに一撃を打ち合う……それでも良ければ。』
受ける代わりに提示した条件は非常にシンプルな物だった。
一撃を放ち合う、一見すると宝具の真名を解放した一撃であればただ正面から戦うよりも容易く決着を付けられる可能性もある。
然し態々この様な内容にしてきたと言う事はそれを想定していない筈も無い。
何せ相手の戦闘力は互いに未知数、仮に真名を解放して倒しきれなければ相手に一方的に情報を与える事になってしまう。
聖杯戦争に於いて相手のサーヴァントの情報は極めて貴重な情報であり、それ一つで他の陣営と共闘する事も不可能ではない。
起こり得る結果を想定すれば想定する程、この場で決着を付ける事は極めて難しい条件である。
成るほど確かにモンスターの注文である『殺し合いとは言わぬ小手調べ』には丁度良い。
互いに条件が適応されるのであれば手に入る情報量はイーブン、後の事を熟考する必要も後腐れもなく互いのサーヴァントの力量を拝見できる。
だがそれ以上の思惑が、彼女には、セイバーにはあった。
『トビナリ、しっかりと見ておくと良い。サーヴァント同士の戦い……【聖杯戦争】と言う物を。』
聖杯戦争に対し疎い己のマスターに対し、自らが置かれている状況とは如何なる物か。
――― 現実を突きつける為に。
―――――― 聖杯戦争に対する認識の甘さをを正す為に。
それは彼女自らがこの戦争の勝利に必要なプロセスであると感じたから、それとも騎士としての主に対する献身であるのか。
恐らく彼女の口からその真意が語られることは無いであろう。
そして少年が如何に考えようとも答えを導き出す事は不可能であろう。
「……分かった。」
だからこそ少年はただ短く、己のパートナーの言葉を信じ、心を信じ、力を信じた。
『……どうだ、モンスター。この条件を受けるか?』
63
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/26(金) 22:01:47 ID:k401n/oE0
>>55
神代の獣、神をも喰らいし神話の怪物。
その正体を知ることとなれば、それはつまり"一つの神話"に、"最高神"に終わりを告げたそのものを理解するということだ。
通常であればこのような"反英霊"が召喚されることはない。このビーストの存在こそが此度の聖杯戦争が通常のものでは無いということを証明付けているのだがそれをビーストが教えることはない。それを知ることになるのだとしたらそれはきっと自分の力で解き明かす時だろう。
『いずれ分かることだ、そう"いずれ"な』
ビーストも同様にそれ以上はなにも口にしなかった。
確かに二人は狂犬だろう。その違いがあるとすれば"人の心"が分かるかどうか。
元々人でないのならそんなものは分かるはずがないのだから。
「種子島……え…!?た、確かその…サーヴァントの名前って……」
『みなまで言うな、つまりは"そういうこと"だ』
『種子島左近太夫々時─────いや、この場ではアーチャーと呼んだ方がいいだろう』
『そちらがそれを明かすのならば我らも明かすのが筋というもの───────が、私は真名は明かさぬ』
「……まだ私にも真名を明かしてない、なら今ここで明かしてもいいんじゃ?」
『なに、こちらは令呪を使ったのだ。それに主人よ、勘違いをしているぞ』
『これは協定とは言っても一時限りのもの。お互い"敵同士"になることに変わりはない』
『忘れるな、主人は一度"殺された"のだぞ?』
「それ、は……」
そうだ。あのとき彼らには文香を殺すことが出来た。そんな相手にそこまで尽くす必要など普通は無い。
確かにそれは正しいことで何も間違えていない、この聖杯戦争で令呪を使い更に真名まで告げるなどそんな馬鹿な話は無い。
それは文香にも理解は出来ていた、ただ納得は出来ていない。だがここは素直に引き下がるしか方法はなく、渋々文香は自分の名前だけを告げることにした。
「えっと…私は沙霧文香、うんミリヤちゃん、よろしくね」
『で、私はサーヴァントだ』
『クラスは───────"ビースト"』
それはどのクラスにも属さない、つまりは"エクストラクラス"であった。それをさも当然のようにビーストは口にした、まるでそれが当たり前かのように。
実際、このサーヴァントに"ビースト"というクラスはあまりにも当てはまっているのだから。
「……それなら私の家に泊まる?前まではお母さんとお父さんと暮らしてたから部屋の空きはあるよ」
ミリヤの返答を聞き文香はそんな提案をする。手を組んだのだからこれくらいは許されても良いだろう。
だがミリヤやアーチャー自身がどう思っているのかは分からない。いずれは敵同士になるのだから遠慮して受け入れないかもしれない。だがまぁそのときはそのとき、無理に強制する必要も無いだろう。
64
:
モンスター
◆CZECmLez0I
:2016/08/26(金) 22:18:08 ID:jowl7WGA0
>>62
『よし来た…!』
「やったじゃない!モンスター!」
真っ向からの挑戦状。素直に騎士は受け取ってくれたようだ。これでやっと己の力が図れる。
『但し?』
『そうか…一撃か。それも良い、喜んで受けよう。』
一撃…そうは言ってもどのような一撃を繰り出そうか。宝具の真名解放…それは絶対にないだろう。彼の宝具は周りを滅ぼす。そうやすやすと使えるものではない。ならばスキルを完全に解放した攻撃になるのだろうか。何れにしても殺しはしない範疇での全力を繰り出す心算でいる。
さてあと気になるのは相手の力量だ。どれほどの力を有しどれほどの宝具を持っているのか…果たしてどんな固有スキルを持っているのか…一撃でそう全てがわかるわけではないが一撃を見てみて真名が少しでもわかる確率があるかもしれない。
『おいマスター。少し離れていてはどうだ?死んでも責任はとらんぞ?』
「嘘!そんな本気で撃ち合うの?周りのことだけは考えてね?ね?」
この撃ち合いにおいてこのマスターも聖杯戦争ということの大きさをことさら認識させられるだろう。
『その条件喜んで受けよう。セイバーよ準備は良いか?』
モンスターはまるで子供のように喜んだ顔をしながらセイバーに言うだろう。
65
:
アーチャー&ミリヤ
:2016/08/26(金) 23:16:01 ID:IzYCzDoE0
>>63
『承諾しよう。其方は令呪を使い、此方は真名を明かす。天秤はそれで釣り合う筈だ』
『我等は味方に非ず。何れそっ首を毟らんと殺し合う身に在り。過度の共有は不要』
自身のサーヴァントが真名を明かさ名に事に納得していない……そんな風に見えた彼女に対して、アーチャーは助け舟を出すわけではないが、そう言った。
天秤は釣り合って然るべし。ただ利害関係だけで手を組みだけの相手に対して、それ以上の物は必要ない……それに。
『そう、そして、何れ"分かる事"だ』
勝ち残ったならば、ここにいる者達は必ず相対する事になる。
その時に、その名は必然的に分かる筈だ。そしてその時、同時に絶望する事になるだろう。一つの神話体系の、一つの終焉の名を。
そしてその時、種子島久時は、血を沸かせ、肉を躍らせるだろう。絶望の唯中を駆け抜ける――――――たった一人の"退き口"、"捨てがまり"。
「……いいの……!?」
「あ……でも……アーチャー……?」
声を張り上げた筈なのに、なぜか小さいという器用な声の出し方であったが。兎も角、彼女のその提案にミリヤは肯定の反応を見せた。
無理はない。寒さには強い北欧の人間とはいえ、屋根のない中過ごすのは余りにも辛い。その上今は腕に怪我まで追っている……身を落ち着ける場所が必要だ。
アーチャーはこれに関しては酷く否定的だった。曲がりなりにも敵の陣地の唯中で過ごす事の危険性、語らずともそれは分かるだろう。
だが、療養が必要なのも事実だった。元々特殊な体質をしている上に、魔術回路への過剰な負荷、体力の大幅な使用、そして大きな怪我。
これが"無痛"でなかったらとっくに死んでいたとしても不思議ではない。自身の回復もしなければならない……それ故に。向けられた視線に対して、小さく頷いた。
「……やったやった……! Ei kesta(ありがとー)……!!!」
その無言の了承を受けると、ミリヤは彼女への感謝の感情を、身体で表した。先の機械的な殺害の為の物とは違う、両腕で彼女の事を抱き締めてそう喜んだ。
表情は確かに嬉しそうに見えて、確かにミリヤはその通りに"喜んでいた"。"喜んでいたが、然し"――――――その両の瞳に光が灯る事は、依然としてなかった。
そして、その腕には確かに"穴が空いている"。それだというのに、ミリヤはそういうそぶりを一切見せることは無かった。
「これからよろしくね、フミカぁ……!」
取り繕っても、取り繕っても、必ずどこかで露呈する。ミリヤ・コスケンニエミは、やはり何処までも、嘘をつくのが"下手"だった。
『ビースト、か。そうか。七騎の英霊は、確かに召喚されていたな、主君?』
「……? うん、そうだと思うけど……」
『……ふん、そうか』
ビースト。エクストラクラスのサーヴァント……基本の七つに該当しない、例外。
聖杯戦争に於いて、エクストラクラスが存在するのは珍しくない……だが、それは"七騎の内に納まっているなら"の話だ。
七騎の英霊が存在しているというのに、エクストラクラスのサーヴァントが存在する――――――ミリヤは、そのことに疑問を持つ事はしなかったが。
アーチャーは、確かにそれを喉元にひっかけて。
66
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/27(土) 00:21:27 ID:UnsCIJRQ0
>>64
『提案を受けてくれた事、感謝する。』
セイバーは流れる様な仕草で己の左半身を半歩前に踏み込むと、そのまま右の腰に佩刀した剣へと手を掛けて制止する。
―――― 剣士、騎士、戦士。
争いの場に身を置く者であればその力量を推し量るに足る要素は一挙手一投足に存在する。
それは技の冴えであるとか、足や体の運びの洗練であるとか、戦況を見る慧眼であるとか。
その一つに構えも存在する。
偏に構えと言っても技術を学ぶ上で幾多も繰り返され洗練されて行く物から、死地に於ける実践にて的確に征する為に昇華された物の二種類が在ろう。
それぞれに優劣を付けるのは非常に難しいが、確実に言える事が在るとすれば、そのどちらもが十分すぎる程に担い手の技量を表してくれる。
彼女のこの構え、右の剣を引き抜かんとする形だ。
だが左の剣を引き抜かずに左半身を前に出しては右手でその剣を握る事も難しい、この語りではただ不利な要素しかない様に感じられる。
しかしその立ち姿を見ればその様な感想は一切湧いて来ない筈だ。
何せ剣に掛けられた手も、そして肝心の剣でさえも、正面に立つモンスターからでは一切視認する事が出来ないのだから。
セイバーの左肩に止められた白の外套が前面に出され、彼女の半身を覆い隠して居るのだ。
剣が横を向いて居るのか。
それとも縦を向いて居るのか。
実は右の剣ではなく左の剣を逆手で握って居るのではないか。
一見して邪道。しかし決闘に於いては王道。
形骸的な訓練や指導ではこの様な構えを教わる筈も無く、実戦に於ける一騎打ちを以ってしてのみ得られるであろう技術。
更にこの構えからでも決して打ち負けぬ初速を持つと言う力量をも予感させる。
『―――― 来い!』
セイバー、最優のサーヴァント。そのクラスを考えれば彼女の剣は間違いなく宝具。
得物は考慮する余地も無く伝承に記され伝説で謳われる超一級品。
それでも尚、踏み込めるか否か。
――――― 騎士と化物
果たして、どちらが先に動くのか ―――――――――――――――
67
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/27(土) 01:02:49 ID:jowl7WGA0
>>66
『なに…こちらこそ感謝が尽きん。』
『まあ貴様には悪いとは思っているが…生憎我…いやもうそんな堅苦しい言い方などやめるか。俺は得物がないものでな…貴様の想定しているモノとは違う一撃になることを覚悟していただきたい。』
モンスターは笑う。相手は相当の手練れ。見ればわかる。彼は戦士ではないが戦士をよく見てきた。己に挑む戦士に…
その経験からこの者の強さが理解できた。
『得物が視認出来んな…これでは避けようがないものをまあ良い近づく気はさらさら無いのでな。』
そう言うとモンスターはセイバーから距離をとる。
もちろん肉弾戦では勝ち目がない。いくら竜の鱗を持とうが手練れの剣士にとっては的にしか過ぎない。彼女の一撃に応えるために彼も至上の一撃を浴びせようと適切な位置につく。
『さあ相棒よ。久しき闘いの時だ…その姿を現せ。
…無辜の怪物。』
そう言うとモンスターの方から黒く太い二頭の蛇が姿を表す。ただの蛇とは思えない尋常では無い魔力。宝具にも引けを取らないその魔力は彼の真の姿に近づける。
『一撃…先に俺が撃たせてもらおう!…高速神言。』
そう言うと彼は誰もが聞いたことの無い言葉を高速で詠唱する。肩にいる蛇に魔力が集中する。その魔力は片方は膨大な熱量。もう片方は紫のドロドロとした固体へと変貌していく。蛇を螺旋階段のように絡ませ彼の胴体の目の前に持ってくるとその魔力の塊は合わさりその照準はセイバーに向けられる。
その塊をレーザーのように高速に
発射する。繰り出される魔力のレーザーは3つ…1つは赤く1つは紫もう1つは混合した黒のような色。色を見ればわかるかもしれないが毒と炎のレーザーだ。
相当な手練れの戦士であるセイバーにとっては避けることも可能なはずだ。
68
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/27(土) 02:58:41 ID:UnsCIJRQ0
>>67
「蛇ッ……!?」
少年は思わず声を荒げる。ただ蛇を使役するだけならば驚く事は無い。
しかし肉体を突き破り蛇が現れるとなれば話は別だ。それは普通の人間には、魔術師には出来る芸当ではない。
吸血鬼であるとか、霊体であるとか、そう言った完全な“化物”で無ければまず不可能な業だ。
「……じゃ、ない!」
だがその感想も更なる驚愕によって上書きされた。
一見して蛇のように見えたそれが行おうとして居る事は蛇が出来る芸当ではない。
仮にその開口から他を破壊する程の圧倒的な力を打ち出す事が出来るのであれば、それは最早“力を持った蛇”の範疇を超えている。
それは正に“蛇竜”と称するに相応しい存在では無いか。
放たれた三色の光束は大気を震わせ、夜風を薙ぎ払い、視界を焼く様な電光の如き。
「セイ ―――――!!」
小手調べや手加減とは言っていたが当たれば唯で済む訳が無い。
迫る蛇竜の一撃が差し向けられた先に立つ己のパートナーの名を叫ぼうとしたその刹那。
少年が視たのは彼女の眼前にて弾け拡がる三色の輝きであった。
――――― その光景は先程の邪悪な力が嘘の様で。
まるで線香花火か。流星雨の様に広がって。彼女の周囲に落ちて消えた ―――――
セイバーが己が右から引き抜いた旋る様な一振りが蛇竜の光熱を薙ぎ払ったのだ。
確かに高い対魔力を持ち、また宝具足る剣を持つセイバーであれば魔術を打ち払う事は可能であろう。
だがそれを竜の一撃に対しても、竜の魔力に対しても行えるのであろうか。
恐らくその真相を誰よりも素早く察知し、そして直感したのは少年ではなく。
竜の因子を持ち、彼のセイバーと対面しているモンスター自身だろう。
―――― 彼女が振り抜いたその剣は。
ほこさき しのぎ
―――― 白銀の鋒に金色の鎬を持ち。
あお
―――― 鍔に拵える蒼で切られた装飾は剣に与えられる最高の名誉。
名剣では無い。宝剣でも無い。
―――― それは数多在る剣に於いて最上の一振り。
“ 聖剣 ”
湖の如く揺らめく輝きに幾多の騎士が憧憬を持っただろうか。
高らかなる煌きを幾多の英傑が求めたで在ろうか。
その剣の瞬きに幾多の戦士が散り夢か露の如く消えて行った。
その剣は伝説の象徴たる竜をも降し、最強の聖剣を振るう騎士の王すら打ち取った。
嗚呼。一目見ただけでその名が脳裏に浮かび上がる。
彼女が。セイバーが振るうその“貴はか”こそ。
見紛う事無き “ 湖の聖剣 ” である。
『―――――――!』
剣に見とれる暇も無く、振り抜いたその勢いのままに騎士はその身を転身させる。
流れる刃は水面の如く情景を映し取り、彼女が踏み込むその一歩は宛ら疾風の如し。
聖剣を抜き放ってからは見違えるほどに疾い。
真にセイバーの剣が“湖の聖剣”であるとするならば、竜を撃ち滅ぼした伝説を持って相違無い。
どれだけ強大で在れ。最強の幻想種で在れ。“竜殺し”から逃れる術は存在しない。
『ハアアァァァァ――――――――――!!!』
偶然にもアスファルトに触れた聖剣の切先が火花を上げて戦場を駆けた蒼き華を彩った。
『騎士』は対面する『化物』へと迫り、薙ぎ払われたその一撃は――――――――
その眼前を霞め取る様に、空間を、大気を、互いの間合いだけを切り裂いて。
赤色が舞う事も無く。誰もその刃に触れる事は無く。それだけで虚空へ消えた。
69
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/27(土) 03:50:26 ID:jowl7WGA0
>>68
『クッハッハッハ!想像以上だ!その聖剣!素晴らしい!最高だ!』
おおよそ何千年ぶりに身震いする。驚愕のその聖剣。剣というその概念に置いて至上の一振り。数多の魔を滅ぼし数多の人を斬ったその聖剣は持ち手の清さも相まってより一層美しく見える。これほど美しい聖剣を見たことがなかった彼は心の底から嬉しかった。
『この程度の一撃防いで当然ということか…これが龍殺しの聖剣…初めて見るな。』
己の出した光線を弾き霧散させさらに己に近づき今まさに己の振るわれようとしている。しかし彼もその聖剣の輝きに目を離せずにいた。避けることなど考えずその聖剣を見つめていた。
流れるような動き素疾く卓越した技術と身体能力から織りなされる技にも見惚れていた。
『見事なり!セイバー!その素晴らしき剣技、美しい身のこなし、そして何より煌びやかに光る聖剣…どれを取っても最高だ!感謝…その一言に尽きる。
今まで見た中で最高の剣士だ。』
『これほどの剣技を見せてもらえたのだ。俺もそれ相応の礼をせねばならぬな…真名でも教えようか…』
「す…すごい!これがセイバー!最優のサーヴァント!はぁ〜憧れる!って貴方!真名は隠すんじゃなかったの!」
『いやはやこれほどの絶技を見せられたのだ…真名程度は述べねばならぬだろう。』
「う〜…まぁ貴方がそう言うならしょうがないけど…」
この上なく嬉しい表情を見せ素直に拍手を送るモンスター一行。まあこの主従はなかなかに仲が良いのだろう。タイミングも何もかもが一緒だ。
少しの口論はあるが気にしなくていいだろう。
『良し!セイバーよ…俺の真名を貴様…いや君に教えてもいいだろうか?』
『それとも他の謝礼が欲しいのか?ならばそれにしようとは思うが…』
おそらくセイバーにとってはこの上無い情報を得られるチャンス…活かすかどうかはセイバーに委ねられた。
70
:
沙霧文香/ビースト
◆urfQ7AEfjs
:2016/08/27(土) 21:16:12 ID:k401n/oE0
>>65
これで双方が納得いく結果となった。
ビースト陣営は令呪の消費、アーチャー陣営は真名の開示。それは協定を組むのには十分と言っていいほどの交換条件であり、これならば蟠りなくこれから行動することができるだろう。
それはこの協定が必要なくなったときにも有効なはずで、しかしそのことに対して文香は目を背けていた。
文香は今も逃避している。この聖杯戦争という殺し合いから、誰かを殺さなければならないかもしれないという事実から──────
『まったく、我が主人はお人好しだな』
「協力することになったんだからこれくらいは別にいいと思って」
「それにこの方が情報の交換とかはやりやすいでしょう?」
『まぁ私は主人に従おう、たとえそれがどんなことであっても"今のところ"はな』
先ほど殺されかけた相手だ、それと一つ屋根の下というものは協定を組んだとしても危険には変わりない。
しかしそれは相手も同じことだ。本来は敵同士、お互いにそれは変わらないからこそ逆にその場での殺し合いには発展しないだろう。
それを思えば案外これは理想的なことなのかもしれない。
「う、うん。私からも、これからよろしくねミリヤちゃん」
「でもまずはその腕を治療しなくちゃ……ね?包帯が確かあったはずだから」
アーチャーのマスター、ミリヤの腕には確かに銃で射抜かれたような穴が空いている。
だというのにここまで痛みを隠せるものなのか。ここまでの怪我をしたことがない文香にはそれは分からずとりあえずはこのことに関しては保留しておくことにした。
──────ただ、一瞬ミリヤの瞳の奥底に真っ暗な"闇"が見えたような気がした。
とても、とても深い深淵。まるでどこまでも続く穴を見ているかのような"闇"だった。しかしそれも一瞬で文香にはそれがどのようなものなのか知る由も無かった。
こうして奇妙な共同生活が始まった、その先にあるのは希望か絶望か。誰もが救われる物語、そんなものは存在しない。
物語には悪役が必要であり、その悪役までもを救おうなどとはただの綺麗事だ。それはこの聖杯戦争でも同じである。
誰もが誰かにとっての悪役であり、きっと誰も救われない。この聖杯戦争はきっと誰も救えず救われない。それを覆すことができるのだとしたら、それは───────
71
:
エイヴィンド/バーサーカー
◆uHIlZU.osM
:2016/08/28(日) 06:17:19 ID:wMyYTv8o0
>>61
最後に放った、リーチを伸ばした跳び蹴り。その脚に確かな手応えを感じると共に、バーサーカーは地面に着地する。
舞い上がる土煙と硝煙に巻かれつつ、敵はその向こうへと吹き飛んで行く。
……だが、あの程度で死んだとは思えない。
土煙の向こうを見据えるように、バーサーカーはただ立ち尽くし、変わらぬ無表情のマスクで以って、ただ不気味な戦闘兵器のように其処に在った。
煙から再び姿を現すアサシンには、見えるだろうか。立ち尽くすバーサーカーに与えた先程のダメージ……左脇腹の傷。
其処から、得体の知れぬ煙が立っているように思える。……良く見ればその傷は幾分か塞がっているように見え、出血はもはや止まっている。
バーサーカーの第二の宝具『人理織り成す生命の業』による効果は、今まさに発揮されているのだ。
「Ohhhhhhaaaaaaaarrrrrrrgh!!!!!!!!!」
土煙の向こうから出てきたアサシンの姿に、バーサーカーは激昂したような雄叫びを上げる。
「何故まだ生きている」「早く死ね」そんな、殺意に満ちた聲を上げれば。
「────Ugh」
バーサーカーが前傾姿勢をとる。
ゆっくりと黒い爆薬が生成され、あたり全方位に流れ出る水のように舞ってゆく。
右腕に特に重点的に火薬を纏わせたのち、彼は前傾姿勢を解除し、不意にその右腕で前方にパンチを行う。
纏わせた火薬は、ただ起爆させるだけではない。
そのストレートの方向は、アサシンの方をこそ向いている。……彼は、アサシンへ火薬を飛ばしたのだ。
それを回避されようがされまいが、バーサーカーは間髪入れず、地面を思い切り蹴り踏んで、火薬へと衝撃を与える。
─────次の瞬間。彼が飛ばした火薬の軌跡に沿って、爆発の波が蛇のように、アサシンへと襲いかかるだろう。
72
:
比奈 椿/アサシン
◆FaqptSLluw
:2016/08/28(日) 18:47:51 ID:bcAZ9TjM0
>>71
気丈に振る舞ってはみたものの、ふぅふぅと肩で息をするアサシン、じっくりとバーサーカーを観察し、初動を何としても見切らんとする。
その内で、バーサーカーの傷が塞がりつつあるのが見えた、あれだけの力を持っていながら回復も出来るとは、何とも戦いとは不公平な物だ。
「俺が生きているのが気に食わんか」
理性を喪いその力を振り回すだけの狂気者、彼が元々どの様な人間であったのかはわからないが、その眼と叫びがそう言っているのは何となく理解出来た。
嘗ては自分もそう、生きる為、殺す為、略奪(うば)う為だけに磨いた武芸とは言えぬこの腕、殺せなければそれは気に食わない。
その気持ちは分かる、不愉快であろう、ならば何としても殺しに来い。
火薬が舞う、周囲を覆う暗雲の様に黒い粉末が月の光を遮り、これから来る破壊の嵐を予兆させた。
風を斬る魔鎌、その刃は空気を斬り裂き音と共に敵を引き裂く、風切り音を聞いた時にはもう遅い。
風を斬り裂く事が出来るなら、風に混ざる物もまた同じく。
バーサーカーが拳を突き出し飛ばした火薬に対し、アサシンは分銅を回転させながら投げ付けた。
無論、それで爆発を不発に出来る訳でもない、バーサーカーを始点にした爆発の連鎖はアサシンへと真っ直ぐに向かい、そして───到達する事なく、途中で連鎖が途切れた。
爆発の終着点から、上空へと跳ね上げられる分銅が見える、何が起きたかの理論は簡単だ。
鎌が風を斬るなら、分銅は風を巻き起こす、回転を伴った分銅は周囲の空気を巻き込みながら対流を作り、飛ばされた火薬がアサシンの方に来るのを妨害した。
結果、火薬と言う道を失った爆発はアサシンまで到達する事なく、巻き上がった爆煙がバーサーカーとアサシンの間を塞ぐ。
爆発の轟音が鳴り響いた後で正常に聴きわける耳があるなら、微かに風を斬る音をバーサーカーは聞くことになる。
爆煙の向こう、視界を塞いだ所で、アサシンはついぞ奥義を使った、それは宝具を持たない彼が宝具に対する武芸の極み、その攻撃には殺気も、気配すらも無い。
「───風切魔鎌・変幻自在」
それは地面を這う蛇の様に、擦れ擦れを滑りながらバーサーカーを狙う鎌。
爆煙の中から投げられたそれは、バーサーカーの足元に到達した瞬間に唐突に振り上がり、正中線を真っ二つにせんとする斬り上げとなる。
無窮の武練、例え腕が傷付いていようと、砕けていようと、彼の身に染み付いた技術が衰えることは無い。
73
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/28(日) 19:09:42 ID:UnsCIJRQ0
>>69
『我が御剣と精錬の末の技、賞賛の砌光栄の到り。』
『ですが私はその懇意を正面から受け取れる程の豪傑では無い。折角の言葉の裏を考え、悪意を想像せずに居られない賤しき身。
故に真名を賜ったとしても、それに答え自らの名を告げる事は出来ない。』
抜き放たれた聖剣が彼女が持つ鞘へと収まって行く度、その輝きもまた少しずつ黄昏の茜の中で薄まり溶けあって消えて行く。
彼女の弁は尤もだ。突如敵だと思って居た相手が自らの力量を賞賛し、ましてや極めて重要な機密をただの無償で授けようと言うのだから謀略や調略を考えてしまっても仕方が無い。
それでも仮に騎士道と言う物が在るのであれば、その想いに報いようと考えないはずも無い。
『……騎士である私には、“王の気概”と言う物が分からない事を許して欲しい。』
息を押し殺し続けられたこの言葉にこそセイバーの本心が詰まっていたのかもしれない。
彼女は王ではない、然しながら敵味方問わず多くの王と言う物を見てきた。
恐らく彼女は、目の前に立つ英霊から王の何たるかを自らの経験と直感によって感じ取ったのだろう。
―――――そう、王を視、王族を誰よりも近くで視てきた。
あの男と言えば王の血を引いておきながらそれはそれは賊成らず野生の獣でさえも逃げる程の荒くれ者だった。
多くの面倒事を押し付けられたし、あいつの為に態々骨を折った事もあった。
厄介者ではあったが――――― 時折見せるその表情は瞼を閉じれば思い出す事が出来る。それは自らには無い“王足る者”のそれだった。
もしかしたら、騎士として、友として、あの横顔と共にある事を誇りに思って居たのかもしれない。
『そして、名を聞いても友ではなく再び刃を向け合う敵となって仕舞うかも知れない事も許して頂きたい。』
それは彼女が信ずる騎士の矜持が故に。名を知り、言葉を交わそうとも巨悪と共に立つ事は出来ない。
一途と取るか頑固と取るかは受け手次第であるが、彼女は決して曲げる事は無いだろう。
同時に相手が巨悪で在れ賜った真名を他者に告げる事も無い。之もまたセイバーの信ずる騎士の矜持が故に。
74
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/29(月) 00:58:41 ID:jowl7WGA0
>>73
『そうか…研ぎ澄まされたその剣技を見れたことを誇りに思うとしよう』
『何きみが名乗る必要は毛頭ない。これは俺が俺のために言い始めたことだ。俺が名乗りたいから名乗るそれまでよ。それをどう受け取るかは君次第だ。俺がどうこう言えるものではない。』
『聖杯戦争とはそういうものだ。常に疑い、言葉1つ1つの悪意を汲み取らねばならぬ。
俺が楽観視しすぎているだけだ。
こんな馬鹿なことを言うのは俺くらいだろう。』
彼女の言うことはもっともだ。疑って然るべきもの。彼には特に悪意というものはない。生前が悪意の塊であったゆえ2度目の生くらいは少しは善に傾いてもいいだろう。
『ハッハッハ!構わぬ構わぬ。しかしなぜ俺が王とわかった?この肩の蛇か?全くもって聡明な奴だ。数多の王を見てきた…とかそういうものなのか?』
セイバーに王であったことを見抜かれ少し困ったような表情をするモンスター。彼にとってあまりいい思い出がなかったのであろうか。
『まあ王としては残虐そのもののような男であったがな…1000年ほど統治はしていたがそれは恐怖によって支配していたにすぎない。本物の王とは程遠い。ただの悪王、魔王だ。』
己の過ちを笑って過ごす。これが彼が悪と言われる所以であり決して変えることのできない悪の生き方だ。いくら善に傾こうとしようが己の本質というものはそうそう変わらない。それは彼もセイバーも一緒だろう。
『あぁ構わない。刃を向けられたとしても一度手合わせをした仲だ。名乗った仲だ。勝手に俺は友と呼ばせてもらおう。其方が刃を向けようが俺はそれを笑って受け入れるとしよう。』
『俺という存在は善に倒されるべき悪の王にすぎん。それ以上でもそれ以下でもない。其方のような高潔な騎士、勇猛な戦士、所謂勇者に打ち取られるのが我が定め…それは何度生まれ変わろうが覆ることはないだろうな!ハッハッハ!』
悪である定めをまるで楽しむかのように振る舞う。
そういう定めもアリだ。与えられたものを最大限に楽しむとしよう。死んでから分かった死んでから気付いた彼の答え。
『よし…では高らかに我が名を述べるとしよう。
我が名はザッハーク!アジ・ダハーカの化身にして1000年の蛇王。もとい龍王である。
これから殺し合う定めに会うかもしれないが悔いなく存分に楽しもうではないか!ハッハッハ!』
そう笑顔で、大声で名乗りをあげると聖剣を収めた聖騎士に手を差し伸べるだろう。
75
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/08/30(火) 10:37:22 ID:UnsCIJRQ0
>>74
「“ザッハーク”。……ペルシアの、邪王。」
セイバーには、そして少年にもその名に心当たりがあった。
ザッハーク。彼の征服王より更に以前に存命していたと言われる王。
悪霊に誑かされ、その身を邪竜へと墜としたと言われる悪王である。
彼の王は1000年の王国を築くも、その後英雄によって打ち取られたと言う。
その正体は邪竜アジ・ダハーカと同一であるとされる、竜の因子どころか紛れもなく人の身を持った“竜その者”の王である。
『納得いきました。邪なる竜の魔力を手足の様に扱えるのも頷ける。』
出会い頭に見せたあの魔力も、炎と瘴気によって編み出された先程の閃光も、全て邪竜の魔力に寄る物か。
それを理解すると同時に、決定的な真実もまた導き出された。
『王よ。御身の御手を取る事は私には出来ません。』
“友ではなく敵となる”それはセイバーが先程口にした言葉である。
セイバーはこの一言を伝えた時点で既に予感していたのかもしれない、対面する王と友となる事は出来ないと。
それは王が悪だったからでは無い。竜だったからでもない。
彼の騎士と彼の王が友となる事は事実上不可能であるのだ。
嘗て決闘を以って降し、友となった巨人の様に容易ではない。王は正しく彼女の敵その物を具象化した存在であるのだから。
何故ならば王はムスリムの王であり、騎士はキリシトの騎士であるから。騎士がその剣を振るった相手こそムスリムの戦士達であるから。
王が変わり国が変わろうともそれを違える事は出来ない。
騎士にとってムスリムの王であるザッハークは云わば宿敵であるのだから
『我が怨敵の王よ。御身と友の誓いを立てる事は出来ません。
ですが孰れ相見えるその時、我が剣の全力を以って御頸を打ち取らせて頂く事を誓いましょう。』
彼女が彼に対し出来る最大の敬意。全力を尽くし勝敗を決すると言う敵に対する最大の尊敬。
それこそがこの二騎の英霊が交わす事が出来る唯一の誓約であった。
76
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/08/30(火) 21:58:36 ID:jowl7WGA0
>>75
『ああそうだ、ペルシアの邪王だ。まあその時の俺とはかなり違うがな…心も体も。
まあいくら姿を変えようが倒される定めにあるのが悲しいところだがな』
彼は有名だ。なにせ悪の権化のような男であるからだ。かの有名な悪の化身ほどではないがその悪名は世界に轟いている。
しかし此度の聖杯戦争では彼のあり方は変わり心も変わっている。当時の彼とはかけ離れた存在となっている。
『その言葉褒めていると捉えてもいいのか?まあ良い感謝しよう。』
『ハッハッハ!そうかそうかならばしょうがない。
この手を取らぬ理由となれば考え得る限り原因は一つ。『異教徒』であるからだろうな。そんな丁重に断らなくて良い。首を貰う…そう伝えてくれればそれでいい』
セイバーの発言を聞き敵の正体に僅かながら心当たりが出来た。
『しかしまあそこまで敵対視しているということは思いつく宗教の中では一つだけだな。名前は言わないでおこうか…しかしまあ君の気持ちを俺に理解することは不可能だ。なんせ宗教には身が乗らぬものでな』
セイバーからすればこの男というものは今すぐでも首を奪いたい相手であろう。憎き異教徒。その王たる人物だ。仲間なんぞ死んでも御免彼女はそう思っているであろう。
『しかしまぁ…信じるものの違いで争いが起き、名も知らぬ相手と確執を持つことになるとは…なんともやはり恐ろしいものだ。邪なる龍よりなお恐ろしい。』
あーあという表情で頭を掻く。それもそうだろうこの事においては彼も予想していなかった。しかも相手は相当の手練れだ倒すのも一苦労。もしや倒せぬかもしれぬ相手だ。嫌がるのも無理はない。
『我を倒すのも我の首を取るのも何も文句は言うまい。再会の時を楽しみに待つとしよう。』
『しかし一つだけ忠告させてもらうとしよう。我に恨みを持って対峙はするな。貴様が真の勇者であるなら清き心持ちのみで我に挑むがいい。悪に似た黒き心を持って我に挑んで勝てると思うなよ。』
今までの笑顔とは打って変わって一瞬だけ睨みつける。邪悪で強大な威圧感がセイバーとそのマスターを襲うだろう。そうこれは彼の警告である。悪なる心を持って悪を制すなどということは彼が許さない。それはさらなる悪を生むだけにしかならないからだ。悪魔に誑かされ狂い悪となった彼だからこそ重くのしかかる言葉になる。
『では…そろそろ帰るとするか。もはや双方言うこともないだろう。刃を研ぎ澄まし、いずれ俺の首を取りに来てくれよ。楽しみに待っているとしよう。ハッハッハ。まあそれまでに死んでいなければ良いがな。』
「ちょっと縁起でもないこと言わないでよ!冗談でも言っちゃダメ!それじゃあね高校生!美しい女騎士さん。最後に一つ今度からは独り言しちゃダメだよ!
さっきの邪な雰囲気とはまた打って変わって笑顔に変わる。冗談を言ったつもりではいるが冗談ではない。本当に聖杯戦争というものは恐ろしいものだ。いつ首が飛ぶかもわからない。彼らの再会も叶わぬものになる可能性もある。
呼び止められるか攻撃でもされない限りはそのまま姿を消すだろう。
77
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/09/01(木) 08:13:57 ID:UnsCIJRQ0
>>76
「……行っちまったな。」
『そのようですね。』
黄昏の中に去って行く一人と一騎の背中を見送りながら、少年はふと己の制服のポケットに納められた携帯引っ張り出す。
まだほんの十数分しか経って居ないではないか。てっきり一時間以上は過ぎた物だと思って居た。
五感すら麻痺する程の濃密な時間であったと言う事か。
『トビナリ。』
「……へ、どうしたんだセイバー?」
セイバーの急に畏まった声に少年は思わず聞き返す。
見やれば、剣を納めた彼女は影法師を長くのばしたまま立ちすくみ、ふと再び口を開くと同時にその面をゆっくりと差し向けた。
『これがサーヴァント同士の戦い。
―――――― これが、君が呼び出したサーヴァントだ。』
そう言えばモンスターとの打ち合いが始まる折り、セイバーはこれから起こり得る事象をよく見ておけと口にしていた。
感想を求めていると言う事なのだろうか。
「……そうだな、セイ―――――」
まるで時間が消し飛んだかのような心的疲労と緊張感を感じた事。直接狙われた訳ではないにしろ命のやり取りと言うもに直に触れた事。
そんな思いの丈を伝えようとして物思いにふける様に落としていた視線を再び上げた時。自分が重大な思い違いをしていたことにハッとした。
彼女が聞きたかったのはそんな事では無くて、もっと重要で、もっと必要な事だったのだ。
肩口に少年を見やる彼女の瞳が訴えるものは何か。彼には分かった。それはきっと、“覚悟”なのだろう。
彼女が握る剣の様に鋭く、決して逸れる事も歪む事も無い一路な青の虹彩。
セイバーは自らを騎士と称した。それは他の誰であっても否や等在る筈も無い。マスターである飛成もそれに同意しよう。
しかし彼自身はどうか。マスターである彼は彼女の様な騎士を従えるに値する器であろうか。
騎士とは王に。国に。主に仕える。高潔な精神を持つ騎士が求める物は同様に高潔なる精神を求める主で相違無い。
彼女が求めた“覚悟”とは“運命を共にする“覚悟”。
この先どれだけの時を共にあるかは分からない。一週間か。一ヵ月か。或いは明日には互いの縁は切れているかもしれない。
自らも、そして英霊である彼女にとってもそれは後の人生を考えれば瞬きの様に短い邂逅でしかない。
それでも尚。いや、だからこそ。運命共同体として互いの背中を預け合う《聖杯戦争》の中でその歩調を合わせる必要性が在るのだろう。
セイバーが求める理想は恐らく高い。果たして彼女の力と、信念と、忠義と、理想に付いて行けるだけの覚悟が自分にあるのだろうか。
ある
とは言い切れない。だが彼女の言葉を思い起こせば無い等と言える筈が無い。
セイバーは言った。『サーヴァント同士の戦い』と。
確かに聖杯戦争は代理戦争だ。だが同時にサーヴァントとマスターの一組で戦う物である事は紛れもない事実。
先程の戦いは『ただサーヴァント同士が衝突した』だけ。つまり《聖杯戦争》ではない。
セイバーが語る、求める聖杯戦争とは『主と従が共に戦う』物に違いない。それこそがセイバーの、騎士の理想とする戦いの在り方なのだろう。
――――― なんだ。
そう思って彼女を見てみれば、その瞳に差し込む青は不安の青にも見えるではないか。
臆病……等と言っては後で何をされるか分からないが、今思い返せば彼女が執拗なまでに俺の進退を気に掛けていたのもその不安から来ていたのかもしれない。
こんな事に漸く気付くなんて自らの矮小さに赤恥すら感じる。
ただ日常にしがみ付いてたのもサーヴァントと言う異質を正面から受け止めるだけの器量が自らに無かったからだ。
受け入れよう。
《聖杯戦争》と。
セイバー
彼女 を。
「ああ――――― そうだなセイバー。君は間違いなく、俺のサーヴァントだ。」
だから。これからよろしく頼む。
78
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/06(火) 21:59:36 ID:jowl7WGA0
人気の少ない夜の街。その街角にある公園のベンチに女がいた。聖杯戦争という殺し合いに参加する女。
しかし彼女自体に殺意はなくできれば殺しは行わない。それが甘いということは彼女自身知っている。
無論喧嘩をふっかけられたのなら厭わず殺せる覚悟は持っているものの自発的に殺すことには抵抗があった。
その女は茶色のトレンチコートを身に纏い、かけている眼鏡に夜の街灯が反射し揺れるようにブランコに乗っていた。これだけなら普通の女だ。その身を取り巻いている邪悪な魔力を除けば。
「なんか良いことないかなぁ…誰かと会ったり〜楽しくお話ししたり。まあそんなこと求めてるのが間違ってるのかもしれないけど。聖杯戦争ほんと怖いわね。」
『何を今更なことを言っている。そうはいってももう元の生活には戻れんぞ?お前は死んでも良いのか?俺は許さんぞ』
「わかってます!覚悟を決めて戦わないとダメなのはわかってる!でも殺せって言われてもなかなか辛いものよね。かといってあなたの望みを叶えないわけにもいかない。困るよねホント」
「もういっそ誰か喧嘩ふっかけてこないかな…そうじゃないのやる気になれないよ…イヤイヤダメダメ!そんなこと言ったらホントに殺されかねないわ…」
端から見れば完全に変な人に見えるが心当たりのある人も少なからずはいるだろう
79
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/09/06(火) 23:19:40 ID:JZ00R4PI0
>>78
「へぇ〜お父さんの車、運転できちゃうんだ!ライダーすごっ!」
『ふっ、当然であろう。余は騎兵。この程度、あの暴れ馬より御しやすい。』
人気の少ない夜の道を征く車一つあり。銀色の、オープンカーだ。
明見の家でほこりをかぶっていた明見の父の車を、ライダーが拝借してドライブへと出かけたのだ。
サーヴァントでも探すということで、だ。
現世に合う服を、ということでライダーは白いワイシャツとズボンを明見の父から拝借して――ただし、無断で。
明見はというといつも通りラフに着こなした学生服で。
一見すれば、ライダーが明らかに東洋人でないこと以外は、親子のようにも見える二人組であった。
『で、明見よ。このような夜道であろうと視えるのか?』
「えっと、うん!バッチシ☆」
『ふむ………そなたの目、やはり超常なる目の可能性が高いな。
遠見、透視、夜目が利きすぎる――となれば』
「ライダー、なんか怪しそうなのがいるっ!」
始まるは明見の目の考察。
常々、明見の目はおかしかった。
見え過ぎる――人間の普通よりは、はるかに。
だが、考察は打ち切られる。
近くに見えた公園にいる、不審なそぶりをする少女を見つけた明見によって。
誰もいないのに、誰かと話しているように見える少女を見たことによって。
『――まだ、奴がマスターとは断定はできん。視ろ。そして明見よ、お前が判断しろ。
奴が、敵かどうか。
皇帝特権――《気配遮断》』
「う、うん!」
車は止まり、運転手だった男は消える――霊体化だ。
気配遮断、一時的に得たアサシンのクラススキルも併用して。
そして、明見は観察する。近くに見えた公園を。
そこにいる――眼鏡の少女を。
まだ、本人は気づいていない千里を見通す瞳を以てして。
80
:
丁嵐兎角&ルーラー
:2016/09/07(水) 00:00:42 ID:IzYCzDoE0
セイバー陣営……彼等に対して、監督役からの至急の招集命令がかけられる。位置は、冬木教会。
理由はその書状には書かれておらず、また誰かと連絡を取って何かあったか、と問いかけても、誰にも納得がいく返答を貰う事は、"恐らくない"だろう。
それも当然の話であり、これは丁嵐兎角――――――聖杯戦争監督役が、独自にセイバー陣営ただ一つに対して行った、"協力の要請"なのであった。
丁嵐兎角という男は、慎重を旨とする男であった。
若い頃は激しい性格をしていたが、加齢と激動の日々の反動からか、大きなことを余り望まないようになっていた。善悪を問わず、だ。
そんな男が、この聖杯戦争における"イレギュラー"に対して、何か物を考えないはずがなかった。
事前情報によれば、参加するサーヴァントの数は七騎。基本の七クラスか、或いはその中から幾つかを入れ替えた姿か……そのどちらか。
だが、発生した"異常事態"については――――――最早語るべくもないだろう。結果として、聖杯戦争は七騎に納まらない規模となってしまった。
それだけでも非常事態だというのに、更に其処から新たに問題が加わった。セイバー陣営を待つ丁嵐兎角には、"二十六のサーヴァント"が侍っているのだ。
否、正確には二十六騎のサーヴァント、ではない。その二十六を合わせて、"一つのサーヴァント"だった。聖杯戦争に発された異常に対して、抑止力が寄越した"機能"。
クラスを、"裁定者"と言った。
だが、それらは意思を持っているようには見えなかった。ただ、手を組んで、只管に主への祈りの言葉を紡ぎ続けていた。途切れることなく、唯々延々と、だ。
丁嵐兎角には、ルーラーという"システム"にすら見えた。それだけの事がこの聖杯戦争に起きている、と思うと、頭痛が止まらなかった。
兎も角、兎角はセイバー達が到着するのを待ち続けた。延々と、機械の様に捧げられ続ける祈りの言葉の中で。
81
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/07(水) 00:44:44 ID:jowl7WGA0
>>79
「よっし!考えても仕方がない!そろそろうちに帰ろう!」
「あ…誰かいる。もしかして年甲斐もなくブランコこいでるのバレちゃった?やばい超恥ずかしい…これめちゃくちゃ恥ずかしいよ…」
誰かを見つけた。人である誰かを…人気のない公園に現れた見知らぬであろう誰かを
『バレたくなければ乗らなければ良いものだろう。
考え事なんざ遊具に乗らずとも考え付くものだろう。』
「そんなこと言わないでよ!人が来るとは思ってなかったよ…これホント予想外…」
つい恥ずかしくいつもより声を荒げてしまう。
ブランコに乗ってるところを見られたにしろ虚空に向けて話しかけたのを見られたにしろどっちにしろ恥ずかしいということを彼女はまだ気付いていなかった。
「まあいっか…一応バレてないか分からないから聞いてみる…絶望的だろうけど」
そういうとこの人気のない公園に来たもう1人の来訪者のもとに向かう。
目が良い来訪者にはわかるだろう…右手に赤く刻まれた刻印があるということが
しかし今彼女にとって重要なことは恥ずかしい行為を見られてるか見られていないかということだ。
すかさず近寄り声をかける。
「あの〜すいません…もしかして『見た』りしてませんよね?…ね?」
見たという言葉を意味深に強調して言う
82
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/09/07(水) 18:37:07 ID:JZ00R4PI0
>>81
どうやら、気づかれたらしい。
まあ、仕方ない。しっかり見過ぎたって自覚はある。
ブランコに乗ってるのは……まあ、そんなときもあるだろう。
だが、虚空に話しかけるのは、そして右手のそれは。
明見にとっては、望ましくなかったものだった。見つけたくなかったものだった。
(やっぱ――マスターだったかーヤババ………)
視えた。視えてしまった。
右手の甲のそれが、赤い刻印が。
手の位置を調整する。刻印を見られぬように。隠すために。
そして、その手で一瞬丸を作る。――己の従者に、伝えるために。
「えっとー……な、なにを?」
ずかずかと歩み寄られ、いきなり質問を受ける。戸惑い。
いったい、何について見たのか問うているのだろうか――?
明見は、金髪サイドポニーパーマのJKはオープンカーの助手席に腰かけている。
少し考えれば気付くだろう。それはおかしいと。
なぜ、運転席が空席なのか。先ほどここに駐車したはずなのに。彼女は明らかに未成年なのに。
そして、明見はそのことに違和感を覚えていないことに。
83
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/07(水) 21:43:00 ID:jowl7WGA0
>>82
「良かったぁ!見てなかったってことで良いよね!
急に話しかけたりしてごめんね?もし見てたら…ううん何でもない!」
「あ、そうそう1つ気になったんだけど…運転手さんはどこかな?もしかしてあなたが運転してるとか?それともゴーストライダーとか?はたまた…『見えないお友達』とかいたりしちゃう感じ?…まあそれはないよね。でも無免許運転はやっちゃダメだよ!」
もしかしたら…とは思ってみたが自分の周りに彼以外魔力の反応はないと見えた。
しかし一応念には念を…少しサーヴァントという存在を匂わせる発言をしていた。
「あーそうそう!もう1つ。手の甲の赤いのは気にしないで!今流行りのタトゥーって奴?だから!」
『オイオイ…自ら匂わせる発言をしてどうする…もしかするとマスターの可能性もなきにしもあらず
少しばかりは気を付けろ』
(はいはい分かりました!そうします!)
「あなたが普通の人で良かったわ!もし普通じゃなかったら…っていうパターンもあったけどそれはなし。」
少しだけ緩んだ表情を見せる。が、少々発言は怖い。気にするかどうかは目の前の少女次第だろう。
84
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/09/07(水) 22:01:11 ID:JZ00R4PI0
>>83
「えぇっと………」
目を白黒白。少女の言葉の連撃に押され、戸惑い戸惑う。
見えないお友達。間違いなく、間違いなく彼女は――
「タトゥー?もう流行ってはいないと思うんだけどなぁ………」
におわせるような言葉。反応してはならないと隣のライダーが念話で告げている。
が、表情を抑え切れてる自信はなく―――
『―――ほぉう。』
そんな焦りを抱いていたとき、彼が姿を現した。
限界を、悟られた。だから、隠すことを止めたのだ。
もう気配を遮断することもなく、堂々と運転席に顕現した。
金の炯眼は、少女を射る。
『聞こうか。貴様の作戦を。
さあ、言え。実行に移すことが叶わぬ貴様の計画とやらを。
こいつは、普通ではないぞ?』
現世に適応した服装。だがそんなものは関係ない。
違うのだ、その他有象無象とは決定的に、風格が。
王者?違う、そんな玉座に座すだけの愚者ではない。
魔王?違う、そんな倒される舞台装置などではない。
英雄?悪魔?いいや、違う。もっと相応しい言葉がある――――
それは、“皇帝”であろう
85
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/07(水) 23:01:50 ID:jowl7WGA0
>>83
「いろいろ質問しちゃってごめんね?急にだと答えられないよね。」
いろいろあぶり出してみようとは思ったがさすがにいろいろ聞きすぎたと少々反省している次の瞬間であった。
「やっぱり…やっぱりいた。薄々そんな気がしてた。」
『全く…これだから…戦いたいのかそうじゃ無いのかはっきりしたまえ』
「知ってる…見ればわかる。あなたはサーヴァント。普通じゃない…私の作戦?そんなものは無いよ。
見られたく無いものがあったからそれを見たか聞いただけ。それのついでに貴方の隣にいる女の子が普通の人かマスターなのか…それを見分けたかっただけ。」
今にも破裂しそうな心臓を抑えながら緊張を隠しながら目の前のサーヴァントに接する。
その次の瞬間見てられないと踏んだのだろうが彼女のサーヴァントも姿を表す。
『随分と馴染んでいるようだが貴様…この現世は楽しいか?』
『しかしなかなかの威圧感…本当に普通の人間でも普通の英霊でも無いな。その霊格高いと見た。』
とてつも無い威圧感を放つサーヴァントに負けじと恐怖と邪な瘴気をこれでもかと放つ。
双方マスターには戦意はないだろうが英霊同士ならどうなるかはわからない
86
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/09/08(木) 00:43:59 ID:JZ00R4PI0
>>85
明見は緊張をしていた。
ひょんなことからこの偉大な皇帝と共に戦わねばならなくなって、実際に一戦して、ちょっとは役に立った。
だが、その矢先にこれだ。
――恐ろしい。
これが、これこそが、人の上に立つ人――――
目の前の少女、否敵マスターを座したまま見据える。
金眼は決して逃しはしない。その緊張を、動揺を。
言葉を、弁明を、ただ座して聞く。
そして、応える。
『ふむ。たったのそれだけか。』
それだけ。たったの、それだけだ。
評価は決定し、興味を完全に喪失し、殲滅を決意し――――
そのとき、気の流れが変わった。
この世に魔王という称号があるのは、きっと彼のためだろう。
いいや、王とは人に贈られる称号だ。彼はきっと、最早人ではなかろう。
異様なのだ。僅かに覗く口には牙。舌も長く見える。
そして、肩だ。明らかに人の隆起ではない。
そして、好みを苛む恐怖と邪気だ。ライダーのそれは相対的な正であろうが、彼のは絶対なる負だ。
おおよそ、真っ当に生きて手に入れられない――明見はここまで考察をし、固唾を飲んだ。
『ああ、楽しい。楽しいぞ。
そして、気に入っている。
我が精神が、時を超えてこの世に広く広がり法とまでなっているのだからな。
我が道の正しきが示されているのだからな。』
故に、この男はこうも自信がある。
自身の行いが、精神が、偉業が、評価されてこの世に息づいている。
だからこそ、彼は現世を好んでいた。あの波乱な世も好みではあったが、この火薬庫の如き現世もまた気に入っていた。
だが、彼は自信に溺れるほど小さな器ではなかった。
『そういう貴様は、王とみた。それもただの王座を継ぐ者ではない。
野心と邪な念に穢れきった邪なる王。
だが、余は貴様のような王こそが、好みだ。』
そして、恐怖にも邪な気にも屈する器でもなかった。
真正面から撥ね退け、車上からこの場に君臨し続ける。
野心、野心だ。
彼らに共通するは野心なのだ。
その根源は何であるかは今は関係などない。しかし、彼らは知ってしまっているのだ。
力で、王座は獲れると。
明見は、身を震わせた。
こんなところで、戦うのか、と。
ライダーの実力は目に焼き付いている。
彼の砲は容易に家を吹き飛ばす。
彼の兵は芝のように人をなぎ倒す。
彼の戦いは、闘いではないのだと――理解しているが故の恐怖。
皇帝は、その恐怖を感じた。
本来ならば、皇帝は何にも拘束はされない。
だが、今は一従者。主人の意向には従うが役目。
故に、皇帝として。一騎のサーヴァントとして。目の前の王へと交渉を持ちかける。
『会い見えたはいい。が、お互い矛を見せ競うは今は止そうではないか。
見えぬか、この家々が。眠りに就く民たちの姿が。
人の上に立ち、統治をする身ならば分かるであろう。その眠りは不可侵だと。
我らの矛は容易に不可侵を侵してしまうと。』
『王同士の戦いは闘いに在らず。
―――即ち“戦争”である。』
87
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/08(木) 01:45:47 ID:jowl7WGA0
>>86
「私は売られた喧嘩しか買わないの!自分から殺しに行くなんて真っ平御免です!まあそれが綺麗事だってわかってる、それが甘さだってわかってるけど最後の最後までその手段は取りたくないの。」
『全く…変に正義感が強いものだ。まあそこが良いのだがな。』
常軌を逸した存在感を放つ敵方のサーヴァント。おそらくサーヴァントの中でも強く清い者なのだろう。数多の勇者と相対したからこそわかる。この者は強いと。
『そうさな…せっかく与えられた二度目の生だ存分に楽しみ存分に暴れ存分に君臨せねばならぬ。そうでもないとつまらない。限られた時間すら有効に使えぬ者に未来はない。』
『法か…人類の元となる法…かくも素晴らしい精神を持っているようだ。という事になると貴様はかなり有名だな。まあ詮索する気はないがな。お互い果たし会う時高らかに名の名乗りその名を聞く。そうでなければつまらない。』
この一騎は聡明であり崇高であるのだろう。言の葉の節々から見える自信。王をも超え得る圧倒的なカリスマ性が見て取れる。
『あぁ…我は王だ。それも普通とは違う…悪に溺れ、非道の限りを尽くし、壮大な野心を抱き、世界を焼き、1000年の統治を行った所謂魔王だ。邪王とも呼ばれていたな…しかし1000年も王と呼ばれると流石に飽きがくるものよ…あの頃ほど尖ってはいまい。
まぁ…根元の部分では全くもって変わらないのだがな。』
『我は望んでいる…世界を救う勇者を!いかなる悪も攘う戦士を…貴様のような崇高な王を。
此度の戦争…幾百幾千の時を超えて至福のひと時となるだろう。』
幾千の時を経て彼自身にも歪みが出始めたのだろうか…悪たる彼は善に討ち滅ぼされることを定めとしそれを受け入れ目を輝かせる。いかなる崇高な者が自分を討ち果たすのかそれが気になって気になってしょうがない。
『当たり前だ。我1人ならこの身の限り破壊を行っていたところではあるが生憎我は王である前に彼女の従者だ。彼女の好まぬものを進んで行うなど従者としても英霊としても失格だ。
王たる者、民の安寧を願うのは民の安息を願うのは必然である。』
『クッハッハ!そうだ!我らの戦いはもはや闘争の枠には収まらぬ。国1つを優位に滅ぼし世界を戦火の渦中に巻き込む。
まさに戦争だ。
兵を束ね大いなる野心を抱き我が道を突き進む。障害となる敵は攘い。屍の山を築き上げる。醜くもあるがそれと同時に夢のある
究極の善であり究極の悪の行為だ。』
『しかし我と戦う時は覚悟せよ。そこいらの兵では話にならぬ。清き心で微塵の悪意もなく善たる勇士を集めることだ。』
88
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/09/08(木) 04:24:57 ID:UnsCIJRQ0
>>80
「どうだ、セイバー。」
時を同じくした丁度教会の外。大扉を眼前に備えて立ち尽くす少年の姿があった。
“先程”とは異なりその出で立ちは明らかに私服と言える物で、上着は強い灰みを帯びその緑色に深みを備えた老緑と言える渋めの色のパーカーを纏い
下は黒色のチノパンで、総じて言うなれば地味。別の言い方をすれば『普通』と言うに正しい姿だった。
取り急ぎ着替えたのか身嗜みを最低限整えたらしく、恐らくは洋服ダンスの一番手前の服を適当に引っこ抜いて来ただけなのだろう。
『複数の気配を感じる……ですが、これは……。』
同じく扉の前に並んで立つ“それ”は扉に触れる寸前の位置に構え、内部の気配を注意深く探っていた。
無論これにも、と言うかこの状況にも理由があった。
先程“聖杯戦争の監督役”と名乗る人物から緊急の連絡があった。その内容は「至急出頭すべし。」の一点のみ。
理由は勿論記されておらず、どれだけのマスターに声を掛けられたのかも分からない。
総括を行う監督役の署名であり一種の中立地帯であるこの教会に呼び出された以上は罠だとは思わないが、他のマスターとの接触はそれだけで一触即発の事態に成り得る。
だからこそ直接邂逅する前に間接的にも内情を把握しようと考えたのであるが……セイバーの表情は険しかった。
複数の気配と言えばマスターとサーヴァントが複数存在しているという事と考えるべき事案だ。
しかしセイバーは言う。
『人間は一人――――― 英霊が二十三……いや、二十三“当分”?』
その聞き慣れない単位に彼女のマスターも眉を顰める。
二十三当分等と、元来一つである物がまるで二十三つに分けられていると言う様な言い方ではないか。
それに人間が一人と言うのも気になる。マスターとサーヴァントは大抵の場合等しい数になる筈だ。
仮に二十三もの英霊と契約等と言う法外な行為の結果だとしても、それだけの数を維持するだけの魔力を人間が発生させるのは不可能のはず。
セイバーの釈然としない反応も全くだ。
「……分かんないなら、開けるしかねぇな。」
どちらにせよ呼び出しを受けた時点で参加する腹積もりで居たのだ。
考えても理解しえぬ状況ならばいっそ清々しく開けてしまえば良い。
蛇が出るか邪が出るかは分からないが、こうすればこの疑問も直に解決する。
セイバーも飛成の意見に同意するようで、彼の行いを止める様子はない。
少年はその手を扉に当てると、そのまま力を込めてゆっくりと扉を押し開いた。
金属が鈍く摩れる様な音と木材が軋む音のデュエットが響き渡り、扉の向こう側の世界が、二人の前に広がった。
そこで待って居たのは―――――――。
89
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/09/08(木) 21:06:55 ID:JZ00R4PI0
>>87
「あー……それ、分かるかも」
皇帝と少女との問答。それに口をはさんだのは意外にもギャルの少女――明見であった。
「アタシも殺すとか殺されるとかショージキ嫌。
できるんなら避けて通りたいって思うよ。」
ライダーは感心をしていた。
自分と魔王の放つ気に圧倒され、小さくなっているのみだと思っていた。
だが、違った。言葉を、自らの心を述べてみせた。
『時は金なり。東洋の諺だ。
分かっているではないか。それでこそ余と同じく現世に召喚された英雄というものよ』
『であれば余も貴様の素性は探らぬ。
戦争を、一心不乱の大戦争を起こすときまでの楽しみにしようではないか』
敵への称賛。なるほど、この男も流石英霊だ。
そして、果てなく悦を欲する暴君だ。
相手にとって、不足なし。
『千年を統べる魔王か!ますます面白い!
我が一生は短い。あまりに短い!
だが、約束をしよう。我が一生は、余は貴様を打ち倒すに値するものであると!』
良い、好い、よい!
この聖杯戦争とは面白い!
現世には荒ぶる戦士がいる。千年を生きた魔王がいる!
あと四騎、四騎もこのような猛者がいるのだ。
これがどうして、面白くないのか。
笑う。笑う。自然と、口が綻んでしまう。
ああ、余はこの聖杯戦争を、彼の王との戦争を――
楽しんでいる
『よかろう。ならば機を計りて待とう。場を選びて待とう。勝ち残って待とう!
貴様との戦争を、大戦争を!
策を練り、兵を高め、貴様との戦争を待とう!』
『貴様との戦争。この聖杯戦争の最大の山場としてみせよう!』
90
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/08(木) 22:57:48 ID:jowl7WGA0
>>89
「だよね!そうだよね!家のアレで参加はしているけど…私自身はそれは避けたい。」
思わぬ共感を得て嬉しくもあり複雑でもある。
『金では買えぬモノの数少ない一つが時間だ。
英霊とて永遠に居れるわけでもない。生前より限りなく短い時間だ。』
『ハッハッハ!久しいな戦争など!何千年ぶりか…
実に興が乗る!』
『そうさな…それまでの楽しみだ。俄然やる気が出てきた!刹那に終わる戦争であろうがこうも素晴らしいとは…予想をはるかに上回る。』
眼前のサーヴァントとは気が合いそうだ。
嗚呼この者と本気の戦争が出来るとは一生者の思い出であろう
『ハッハッハ!存分に楽しみにしてくれ給え。
貴様の期待に応えるように我もどんと構えるとしよう。我を打倒するか…それでこそ英霊だ!我の求めていたモノ。』
やはり聖杯戦争というモノはいつも彼の予想を上回る。美麗なる双剣士。目の前に居る圧倒的カリスマ性を持つ皇帝。他にも何騎も彼の予想を上回る兵がいると考えると嬉しくて嬉しくてたまらない。
王である前に1人の男。強い者と戦わずにはいられない。
『無論だ。我も尋常に貴様との戦争に臨むとしよう。存分に英気を養い互いの一生に残る世紀の一戦と行こうではないか!嗚呼楽しみだ。これほどまでに昂ぶるとは…聖杯にありつく前にこれ程の…言葉も見つからん。』
91
:
川澄明見☆ライダー
◆8DhFXRguMA
:2016/09/08(木) 23:42:09 ID:JZ00R4PI0
>>90
「実は私も……ってあんまり喋っちゃダメかな、怒られちゃう。
ま!お互いできるだけ死なず殺さずできるようにがんばろうよ☆」
いつものように、ちょっと弾けてみる。
嬉し気で、複雑な表情をみたらちょっとだけ緊張がほどけた。
ライダーは、何も言わない。
戦争!戦争、戦争!
ライダーは皇帝だ。一軍の将だ。戦士ではない。
だが、心が躍る。踊ってしまう。
猛者を計略に嵌め、我が軍勢の機敏なるを以てして攻め落とす。
ああ、軍勢同士のぶつかり合いもよかった。それはすでに生前に味わった。
だが――今は、今は一騎当千の将を計略で攻略できるのだ!
その相手が、このような男なのだ!
心躍らずに、どうしようというのだ。
『フハハハッ!楽しみだ、余も柄にもなく高揚している!
しかし、今夜はここで別れるとしよう。自陣にて互いの矛を磨こうではないか!
機が満ちれば戦えるよう。存分に戦えるように!
では、しばしの別れだ!さらば!』
この逸る気持ちのままこの男と会話を続ければ、開戦しかねない。
そう思った皇帝は車のエンジンを目覚めさせる。
現代の馬は、乗り手とその主人を乗せて動き出す。
言葉を交わせるとしたら、これが最後。
なぜなら、なぜなら―――
次は、互いに開戦を宣言するのだから
92
:
丁嵐兎角&ルーラー
:2016/09/08(木) 23:42:13 ID:IzYCzDoE0
>>88
『――――――――――――天におられる我らの父よ』
扉を開いた先に、広がっているのは。
『御国が聖とされますように』『御国が来ますように』『御心が天に行われるとおり』『地にも行われますように』『私達の日ごとの糧を今日もお与えください』
『私達の罪をお赦しください』『私達も人を赦します』『私達を誘惑に陥らせず』『悪からお救いください』
先ず、其処には"神聖"があった。一切の霞みの無い、純然たる祈りによって満たされていた。
セイバーの観測の通りに、其処には二十六を以て、"一騎"のサーヴァントが教会の中を、まるで取り囲むように立っていた。
『Amen.』 『Amen.』
『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』
『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』
『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』『Amen.』
只管に、それらは祈り続けていた。
その姿形は様々であった。全てが男性である、ということ自体は共通しているのだが。
年齢、人種、性別、身長、体重、体つき。それら全てが千差万別で在り、確かに"別の個体"であることは分かるだろう、が。"その顔は、塗り潰されていた"。
まるで空間に上書きでもされたように。モザイクを掛けられたかのように、それらの"顔"の部分は徹底的に蠢く"ナニカ"によって隠されていた。
それが、"真っ当な英霊では無い"ことはすぐに理解できただろう。それは――――――
「気にするな。そして、よく来てくれた、セイバーと、そのマスター」
中央の通路に、聖杯戦争監督役、丁嵐兎角は立っていた。
カソックを身に纏った、背筋の曲がった隈の濃い中年の男は、ウンザリとした様子を隠そうともせず、彼等を迎え入れた。
後頭部を掻きながら、かつりかつりと歩み寄っていく。視線は二人に定められたまま。一応は、この丁嵐兎角は中の中程度の代行者だが、戦いの構えはしていなかった。
「此奴らは"ルーラー"のサーヴァント。この聖杯戦争を"取り締まる"ために召喚された……システムのようなものだろう」
そして、うんざりした口調でそう言った。
曖昧な言葉だった。何せ、ルーラーが"語らない"以上は、丁嵐兎角も正確な事が分からないのだ。だが、大体の予測は付いている。
そして、それを今から彼等セイバー陣営へと説明しなければならない……考える為の沈黙が、数拍おかれた後。
「……お前達には事前に説明してあるだろうが……いや、したかな……まあいいや。今回の聖杯戦争は、十騎のサーヴァントが召喚されている」
「セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー、アヴェンジャー、ビースト、モンスター」
「……これは本来は言ったら不公平になる、ほんとはダメな情報なんだが、まぁいい。このうち、ランサーとアヴェンジャーが現在脱落した」
彼等も知っている通り、聖杯戦争は既に進行している。早くも二騎のサーヴァントが脱落している。
本来、監督役であり、中立でなければならない丁嵐兎角は、このような情報をセイバー陣営に漏らすなど言語道断と言わざるを得ないものである。
だが……これは兎角の独断に近いものであったが、然し仕方のないものでもあった。なぜならば……"それこそがきっかけになるからなのだ"。
「ここからが本番だ。お前達に、聖杯の現状調査への同行を願いたい」
「本来、聖杯戦争というのは七騎のサーヴァントを使って行われる物、の筈だ」
「しかし今回は本来の予定から、三騎もそれらがオーバーしている。これは、"以上"だ。聖杯戦争という形式が存在しなかった、一次以来の」
「だが、事前調査では聖杯に異常は見られなかった……そこで。二つの魂が還ったことで、聖杯に何か変化が起こったか。調査をしたい」
「無論、俺も行く。俺も行くが……俺は不本意に死にたくはない。万が一があったら、"嫌"だ」
丁嵐兎角という男は、酷く慎重な人間だった。
聖杯の調査……それで仮に異常が起こっていた時、自分がどうにかなっては堪らない。それ故に、彼等に対して同行を依頼しようというのだ。
勿論、彼等にとってはたまったことではないだろう。唐突に聖杯戦争を中断させられて、そんなことを提案されるのだから。
だが、兎角にとっても"たまったことでは"なかった。言い方は悪いが、旅は道連れ、という感情もあったかもしれない……兎も角。
「監督役としての命令だ。"従ってくれるな"?」
その立場を利用して、彼等へと命令を下した。
93
:
モンスター
◆06bARKsA0s
:2016/09/09(金) 00:45:49 ID:jowl7WGA0
>>91
「そうだよね…次会うときは敵同士だから…
そうだね!頑張ろう!!」
嬉しそうな顔に少し笑顔に尚且つ元気に応えてみる
仲良く会話をしていてもすぐに敵同士になってしまう…本当に恐ろしい戦争だ。
しかし彼はこれから起こる戦争に胸の高鳴りを抑えられずにいた。相手はどんな手を使ってくるのかそれを自分はどう返すかそれ考えるだけで身体が疼く。
一度は嫌だと思った相棒も疼く。
『そうであるな…素晴らしい胸の高鳴りだ今夜は眠れそうにもないなぁハッハッハ!
あぁ…存分に鉾を磨くとしよう。我が全霊を込めて
貴様と対峙しよう。
別れは惜しいが仕方がないな。さらばだ!』
柄にもなく冷静に居れずにいた。このままではおっぱじめない。彼も身を翻し帰宅の途につこうと試みた。それは相手方も同じだったようだ。
さて今夜は帰るとしよう
次会う時全てをかけて戦うと誓って。
好敵手の背中を見届けた。
「さぁ!そろそろ帰りましょう?」
『あぁ…そうだな。
それはそうと君には本当に感謝している。
此度の戦争呼んでくれてありがとう…君といる時間は一生残り続ける記憶になるだろう…
改めてよろしく頼むぞ…佳奈。』
「あっ!初めて名前で呼んでくれた!こちらこそありがとう!貴方となら素晴らしい時間を過ごせそう!」
これから先何が起こるかはわからない。但し今日の彼らとの出会いが幸か不幸か彼らを強くした。
さぁ…戦争の時間の始まりだ。
94
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/09/09(金) 07:11:37 ID:UnsCIJRQ0
>>92
酷く居辛い空間だった。
元々飛成はとてもじゃないが信心深い方ではない。むしろ神頼みと言う物を忌諱している節すらある。
それは彼の幼少の生活環境もあるし、何よりも彼の“眼”について教えてくれた人物の性格も多大に影響しているのだろう。
“あの人”はむしろそういうのとは対極に居る性格で、神の力よりも人の力を信条にしているように見えた。
少年も同じだ。「祈る時間があるならば行動をすればいいのに。」と。
だが同時にそれが愚か者か力ある者の発想である事も知っている。
自分は年齢的に言っても人生経験で言ってもペーペーだ。こんな発想を持ってしまうなんて自分は愚か者なのだろうと。
現を抜かしていた少年に横から声が掛けられる、見やれば確かこの教会の神父をしている男が立って居た。
同時にセイバーとかなり距離が開いている事に気が付いた。神父もどちらかと言えばセイバーの前に立って居ると言った風だ。
彼女はこの場に“居辛さ”と言う物は感じていないのだろう。セイバーの出自を考えればそれも当然の事か。
『貴方が監督役ですか。私がセイバー、そして彼が私のマスターである飛成です。』
自己紹介の必要は恐らくないであろう、何せ相手はこちらを特定した上で要請を送って来たのだ。
だがセイバーは名乗った。それは『友好的な人物との初対面に対し名乗るべきである』と言う至極当然の帰結による物であった。
『十騎、そんな数の英霊が召喚されていると?』
「もう2人も脱落してるのか。」
パートナーでありながら二人の反応は異なった。
サーヴァントはその数の異常さに驚き、マスターはまだ開始から月日も浅いのに既に2名も脱落者がいる事に驚いた。
だが両者共に共通の見解が二つあった。
“アヴェンジャー” “ビースト” “モンスター”。この内アヴェンジャーは既に脱落し、モンスターとは既に邂逅している。
残る『ビースト』と称されたクラス。これもエクストラクラスの一つなのだろう、“獣”と言う名からして大方の想像は出来る。
そしてもう一つ。上げられたクラスの中に“裁定者”が、ルーラーが存在していなかった事だ。
兎角はルーラーを『システムの様な物』と比喩していた、つまりサーヴァントとしての頭数には数えないと言う事だ。
「聖杯の調査!?調査って……聖杯って調査出来る様な物なのか?」
余りにも突拍子もない申し出に少年はたじろいだ。
それも当たり前だろう、少年達は何の為に戦っているのか。他でもないその聖杯を手に入れる為に命を賭けて戦っているのではないか。
その優勝商品を見て欲しいなんて余りにも不公平で危険だ。
何せ参加者の大半は喉から手が出る程に聖杯を欲している、それを目の前に晒されれば奪うと言う選択肢も十二分にある。
尤もセイバーの真意は不明であるが少年の方は其処まで聖杯を求めている訳では無かった。
だからか、少年の興味は聖杯と言う存在その物に集約していた。
聖杯とは杯と称されては居てもエーテル体の様に不確かで、物質ではなく存在として定義された物と言うイメージがあった。
安直であるが光の塊であるとか、そう言った抽象的な物であると。
だが兎角の言い分では現段階であっても調査出来る、即ち物質として確かに存在している物だと仮設できる。
『確かに。召喚された英霊が多いと言う事はそれだけ器である聖杯を満たすのに必要な魂が多いと言う事。
前例として七騎で十分であったのに突然十騎必要になったとなると妙な話だ。』
物事には理由がある。サーヴァントが多く召喚された事にも何か理由がある。
そしてサーヴァントの魂は聖杯に還る事を考えれば、聖杯に異常が起こっていると言う考察も馬鹿には為らない。
兎角の申し出に対し一騎と一人は顔を見合わせる。
仮にこの戦いに勝利したとしても聖杯が使い物にならない等と言う事になられては完全に無駄になってしまう。
聖杯の安全は何よりも重要な事だ。それこそこの聖杯戦争の根底が破壊されると言っていい。
そして――――― 自分達が求める聖杯と言う存在に対し好奇心とも言える興味がある。
頷きあう彼等は、兎角に向き直ると首を縦に振った。
95
:
丁嵐兎角&ルーラー
:2016/09/17(土) 19:30:35 ID:IzYCzDoE0
>>94
「正確には、聖杯の器、の調査だ。如何な物質であれ、"受け止める器"が必要だ。二騎のサーヴァントが脱落した今、それを確認する」
大凡あらゆる願いをかなえられるだけの魔力が、なみなみと注がれた器―――― それこそが、聖杯だ。
だが、それには形式上とは言え"杯"が必要だ。そして聖杯に"魂"が注がれた今、調査をするのならば少なくとも良い機会のうちの一つであろう。
確かに、聖杯を欲する者に、聖杯の調査を手伝え、というのは、間違いなく"危険"だ。それが、未だ未完成なものであったとしても。
だが、徹底的な素性の調査。そして、"ルーラー"の存在と、自己保身を優先する兎角の性質が、それを決断にまで導くこととなった。
「ついてこい。"聖杯"は―――― "下"にある」
彼らが頷いたのならば、兎角は彼らへと背を向けて、ゆっくりと教会の奥へと向かっていった。
幾つかの扉を開き、それから"下"への階段が見つけられる―――― 以前は孤児院として使われてもいたようだが、兎角が赴任した頃には、そこに面影は一切無かった。
更に幾つかの魔術的な防御が施された扉を解錠して、下へ、下へと進んでいく。
中途から、見るからに壁や階段、照明が、"真新しい"ものに変わっていくことだろう。ここ最近増設されたもの、ということはひと目で分かることだろう。
やがて、なんでもない一つの扉にたどり着く。それに手をかけて、兎角もまた、なんでもないように"扉を開いた"。
其の瞬間に、感じ取ることができるだろう―――― どれほど未熟な魔術師であろうとも、それが通常の"礼装の類"とはあまりにも比べ物にならないほどの。
「―――――――― これが聖杯だ。拍子抜けしたか?」
それは、本当に"黄金の杯"の形をしていた。
静かに、物言わず佇み続けるそれは、だが確かに、未完成とは言え、"大きな魔力を蓄えている"。
「第四次聖杯戦争までは、聖杯はもっと"別の"形をしていたらしい。どんなものかは、まあ、知らないが」
「これをこんな形にしたのはつい最近だ。全く、何の捻りもないし……」
「……心配して拍子抜けした」
少なくとも、"兎角"はそう聞いていた。以前はもっと、聖杯は別の形をしていたと。
それがどんなふうに作られたものなのかも、兎角には知らされていない。ともかく、兎角はそれを見つめていた。
見た目には、何かあるように見えない。以前来たときと、何も変わってはいない。兎角は大きく肩を落として、それから安堵のため息を吐いた。
―――――――――――― 聖杯は汚濁を孕んでいた、一つ目の"復讐者"を喰らったときから、大いに。
―――――――――――― 聖杯は汚濁を孕んでいた。二つの"復讐者"を喰らってから、急速に。
―――――――――――― 聖杯は、息を潜め続ける。静かに、その"泥"を流動させて。
96
:
飛成/セイバー
◆R7QnFcJZcI
:2016/09/18(日) 04:36:26 ID:Onu04ZIk0
>>95
少年は壁に手を付ながら、女性はちらりと地形を一瞥だけして階段を下りてゆく。
(何となく教会の地下には墓地があると思ってた。)
所謂カタコンベ、地下墓地と言う物だ。昔に観光番組で見た教会の地下にはそれがあった気がした。
ゴツゴツとした岩肌に天井から垂れる鍾乳石。
自然の洞窟を使った地下墓地の映像は正にファンタジーの世界と表現するべき光景で、幼心に一抹の恐怖と大いなる高揚感を感じた物だ。
……残念ながらこの教会にあるのはただの地下室であったが。
加えて今更魔術的な封印や施錠を見ても当たり前になってしまって高揚感を感じる事も無い。
そう思って居た。
ふと突然視界が開ける。理由はただ単純に周囲の壁が遠くなっただけである。
廊下を抜けて部屋に入った。漠然とであるが確実にそう感じられた。
同時に――――――――
目の前にあった “ それ ” から眼を放す事が出来なくなった。
少年の後ろに居た剣士もまた同じだった。数多の聖遺物を眼にしてきた彼女にとっても、それは過去感じた事も視た事も無い物体であったのだ。
これが “ 器である ” と言うことが信じられない。それだけの力を器だけで持って居た。
これ程の力がある器であれば水を入れただけでも極めて強力な聖水へと変貌するだろう。血を垂らすだけで万能の妙薬となるだろう。
聖杯戦争と言う行為の本質に戦慄すら感じる。
これに魂を、それも莫大なエネルギーを持った英雄の魂を複数収めようと言うのだ。
万能の願望機――――― 少年は信じていると口にしても、内心ではどうしても信じ切れなかった。
現物は圧倒的だ!
出来る。どんな願いでも。
確信させる力がそこにあったのだ。
手に取ろうと飛成が腕を伸ばした時、それを遮る様に別の腕が横から現れ、彼の腕を捉えた。
蒼い衣に白い袖を覗かせるその腕の指はすらりと細く、切りそろえられた爪は艶やかに橙色の証明を照り返している。
セイバーの物だ。
『飛成。私たちは聖杯に触れるべきでは無い。』
窘める彼女の表情は強かで、同時に力強さすら感じ得た。
切れ長の瞳に長い睫毛は憂いを帯びて張って居た。すらりと流れる鼻が荒く動く事も無く落ち着いていた。。
セイバーが聖杯を求める理由を彼は漠然とであるが知って居る。彼女は真剣だ、彼女の願いは彼女だけの物ではないのだから。
「……セイバー、どうかしたのか?」
そんな横顔をじっと見ていたからこそ、そこにある違和感にマスターは気づいた。
投げかけられた疑問符にはっと目を見開いた彼女は一瞬詰まると、言葉を選びながらその奇妙な感覚を口伝えした。
『いえ、何かこう……これで“合っている”のか、と思って……。』
合っている。合っているのだ。間違いなく、理論的には、動作的には極めて正常だろう。
だと言うのに、この聖杯からは自身の手にする一振りとは全く異なる力を感じるのだ。
彼女の佩剣の一つは数多在る聖剣の中でもある一点に於いて頂点に位置する。
王を選定する最強の聖剣であっても、親友が振るった絶世の一振りであっても、その一点に於いては決して敵わない。
それは尤も聖剣らしいと言える一点。彼女の剣は如何なる剣よりも―――――― 聖らか なのだ。
目の前にある杯も聖らかなる一品のはずであり、収まる英雄がどれだけ邪な意志を持って居ようが魂を純粋な力として還元する以上それが影響を及ぼす事はありえない。
ではこの違和感は何だ。
その回答を彼女は見出せない。儀式の影響で仕方なくそうなっている可能性もある。
故に彼女は口を噤むしかなかった。
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