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SS・イラストスレ

1メイル・クリウス:2012/12/13(木) 20:05:36
応援しましょ

2minion:2012/12/14(金) 10:49:30
 一千四五参戦SS『sweet memory』


 関西から、ならず者たちが攻めてくるという。
 関東では、それを迎え撃つ布陣を取るという。
 どちらもくだらない。どちらも与するに値しない。どちらも自分には関係ない。
 ──────────その筈だった。


 立ち上る黒煙は不吉の象徴だった。
 燃え上がる炎は破壊の象徴だった。
 関西からの強行偵察隊と、関東の巡回警備隊。両者共に意図しない遭遇は激しい戦闘を生み、平和な町を火の海に変えた。
 焼け落ちるその建物は、小さな教会。
 彼女の大切な記憶、大切な場所。
 聖地だった。
 ”お兄さま…………私、此処で結婚式、挙げたい…………”
 ”素敵な場所だね。良いと思うよ”
 脳裏に過る回想。微笑む兄の姿。繋いだ手の温かさ。
 この世で一番大好きな、かけがえの無い兄との思い出の場所であり、やがてもっと素晴らしい思い出が生まれるはずの場所だったのに。
 今は、もう無い。
 豪炎に焼かれ、ぼろぼろの廃墟と化した建物は黒く濁り、甘さの欠片もなく苦い。
 小さな魔女は、淀んだ瞳を地に落とした。
 喉を掻き毟り、苦悶の表情で息絶えている男たち。
 頭を叩き潰され、鮮血の海に沈んでいる男たち。
 彼らはどちらかが関西の者であり、どちらかが関東の者であったが、小さな魔女にとってはどうでも良かった。
 「これ、君がやったのかなぁ? 良くないなぁ……こういうのは」
 唐突に背後から声を掛けられる。気配を消して近付いたか、それとも空間を操る業か。それさえも小さな魔女にとってはどうでも良かった。
 「…………」
 「おや、答えてくれない? 困るなぁ」
 本当に困っているようには聞こえない、爽やかさと皮肉っぽさ、粘着質を程良くブレンドした声の青年。
 「神聖な教会を燃やしてしまうなんて、全く野蛮な連中だね。ま、天罰ってやつか」
 「…………」
 「知ってるかな。関西と関東には狗井田久美と牙勇次ってやつが居て、所構わず非道を行なっているんだ、こんな風にね」
 小さな魔女の無口を補うように、青年は饒舌に語り続ける。
 「おっと、申し遅れたな。俺はスズハラ機関の草鎌さと……」
 サトル、なのかサトシ、なのか。小さな魔女は言い終わりを待たなかった。
 「…………別に、誰でもいい」
 「へぇ?」
 「私とお兄さまの大切な場所を荒らす者は、許さない」
 淀んだ瞳に沈殿した泥が蠢く。
 ざわ、と空気が軋んだ。
 「…………いいね」
 世界を破壊する程の力を持つ存在、”転校生”。それに敵対する者として踏んだ場数は生半可なものではない草鎌でさえ、その静かな迫力に一瞬気圧された。
 「君はなかなか見込みがありそうだ。その年でその力、そして何より躊躇を知らない精神性…………気に入ったよ。俺たちと一緒に戦わないか?」
 利用しようとしているのは明らかだった。だが、その見え見えの甘言に小さな魔女は敢えて乗る。
 「…………案内して」
 小さな魔女に仄暗い炎が宿る。
 甘く幸せな思い出を穢した奴らに死の償いを。


                          <了>

3メイル・クリウス:2012/12/14(金) 10:51:39
わーいSSだー

4minion:2012/12/14(金) 10:59:29
ダンゲロスSSは終了しました……って誰が決めたんだよ!(注・GKです)。
ダンゲロスSSエピローグ兼東西戦プロローグSS『羽山莉子とチョコレートの小さな魔女』できましたー。

関連作はこちら。
tp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=750570
tp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=817114

以下、本編。


 『羽山莉子とチョコレートの小さな魔女』


 店内に流れる垢抜けない、野暮ったいながらも何処かほのぼのとしたBGM。
 あらかじめ録音されている店員の声が、ラジカセから流れて安売り品をアピールし続ける。
 合成樹脂タイルの床上を滑る、がらがらとしたショッピングカートの車輪音。
 子どもを連れ、買い物籠を肘に掛けた中年女性二人の喧しい話し声。
 その他諸々の雑多な声。音。音楽。
 調和を最初から放棄している猥雑な空気は、しかしそれ故に一個の完成された空間を形作っていた。
 ここはスーパーマーケット。
 混沌と団欒と平和の庶民世界。
 ──────その瞬間が訪れるまでは。


 羽山莉子(はやま・りこ)は緑色の買い物籠に、鼻歌交じりの上機嫌さで次々とチョコレートを放り込んでゆく。そのリズムに合わせて、ポニーテールも揺れていた。
 二月初旬のこの時期、折しも街はバレンタインデーを数日後に控え、恋人たち──────或いは恋人未満の男女を浮き足立たせていた。
 このスーパーマーケットも同じ事で、お菓子売り場では普段よりも格段に広げられたチョコレートのコーナーで、所狭しと様々なチョコレートが並べられていた。
 店の性格上、価格的には安価で本命向けよりも義理向けのものが多く販売されているのだが、手作り用の素材も同時に並べられている。
 どちらにしろ贈られた側にとっては嬉しいものに違いはないだろうし、どちらもそれぞれに需要のある、独特の価値ある品々なのだ。
 だが、この莉子の場合は少し違った。先程から次々と選んでいるチョコレートは全て自分用なのだ。
 「明日からしばらくチョコ禁だからね……今のうち今のうち」
 彼女の好きなものランキング堂々第二位のチョコレート。しかし、それも今日で一旦断ち切る事に決めていた。
 その理由は、柏木茉奈(かしわぎ・まな)。
 彼女の好きなものランキング堂々第一位の可愛い恋人である。
 その茉奈が、今度のバレンタインデーにチョコレートをくれるという。しかも、手作りのものを。
 それならば、万難を排して味わう以外の選択肢があるものか。
 莉子はそう決意すると、大好きなチョコレートをしばらく口にしない事に決めた。そうする事によって、その瞬間の喜びがより強く味わえると思ったからだ。
 そして、その苦行は明日から始めると決めた。つまり、今日がチョコレートを食べられる、当面の最終日なのだ。
 その先に待つご褒美を想像しながら、嬉々としてチョコレートを選んでいると──────。
 ふと、その視界の片隅にぴょこりと揺れた小さな影。
 「ん?」
 彼女の腰の辺りまでしかなさそうな、低い背丈。幼稚園児か、精々小学校に上がったばかりの年齢だろう。
 ビターチョコレートを溶かしたような色艶の髪は、生まれてこの方切った事が無いのでは、と思わせる程に長い。お菓子売り場に来たただの子どもには見えない落ち着いた──────或いは感情の薄い仄暗い印象を与える瞳は、沈殿したココアのように黒く濁っていた。
 そして、極めつけは奇妙なその風体だった。
 ハロウィンの仮装を思わせる、裾を引き摺るような魔法使いめいたローブ。鍔広で頭の先が折れ曲がった帽子。その幼女はまさに、ミニチュアの魔女だった。
 ──────学芸会の何かの帰りに、そのまま?
 なんとなく一番ありそうな可能性を当てはめてみるが、どうもしっくり来ない。
 いや、正確に言えばその逆だった。しっくり来すぎていた。
 その身に纏う衣装が。
 その身に纏う空気が。
 あまりにもその幼子に合いすぎていて。
 まるで、本物の魔女のようで。
 ──────まさか、ね。
 軽く頭を振り、莉子はその考えを彼方へ追いやった。

5minion:2012/12/14(金) 10:59:56
 「おいしそうなチョコ、ある?」
 その代わりに、気付けば彼女はその小さな魔女に声を掛けていた。見知らぬ子どもに関わる理由など何一つ無かったが、莉子の興味を引いたのはその子が淀んだ瞳ながらも熱心に陳列されたチョコレートを眺めていたからだ。
 「お母さんは? ひょっとして迷子になっちゃったのかな?」
 少ししゃがんで目線の高さを合わせ、話しかけてみる。まだ一人で店に来るような年齢には見えないし、保護者らしき姿も近くには見えない。迷子の可能性を考え、元々子ども好きな彼女は気遣いの言葉を掛けたのだ。
 しかし、その好意を裏切るように。
 或いは、その行為を切り捨てるように。
 「………………溶けて腐れ」
 固め損なったどろどろのチョコレートのような、憎悪と怨讐に満ちた呪詛の言葉と冷めた瞳が、彼女を拒絶した。
 ──────この子、ヤバい。
 遅まきながらも直感的に彼女は悟る。
 希望崎の魔人学生である莉子は、死と隣り合わせの青春を過ごしてきた。その感覚はぬくぬくと平和に甘える同年代の学生達とは比べ物にならない。
 まして彼女はつい先日に行われた魔人同士の戦闘トーナメントの出場者であり、その戦いにおいて二人の強豪を撃破している正真正銘の実力者であり──────戦士だった。
 その彼女の感覚が告げるのである。目前の幼児は尋常ではない、と。
 ──────うん、関わらないようにしようっと。
 莉子は至って常識的な判断の出来る人間だった。好き好んで危ない人間に近付く必要は無い。一応心配して一声掛けた訳だし、善良な市民の義務というやつも果たしたと言えるだろう。
 それに、今日の自分は色々と忙しいのだ。チョコレートを沢山買って、チョコレートを沢山食べて、それから──────。
 莉子は今日の予定にうきうきと心弾ませ、軽やかな足取りでその場を離れた。


 その彼女と入れ替わるように、お菓子売り場に足を踏み入れる少年。ダッフルコートのフードを被り、減量中のボクサーを思わせる痩せこけた凶相。だが、その目だけは不気味な光を爛々と湛えていた。
 ぶつぶつ、と何事か呟いているものの、その言葉は明確な単語とならずに底無し沼から生まれた不気味な泡のように、浮かんでは消える。
 消えているだけなら、良かった。
 だが、大きく膨らんだ泡が弾けて、有毒な瘴気をばら撒くように。
 その少年も爆発した。
 「…………何がバレンタインだ! どいつもこいつも踊らされやがって!!」
 横薙ぎに腕を振るうと、売り場のワゴンが飴細工のようにひしゃげて形を変え、吹き飛んで壁までめり込んだ。
 常人の力ではない。
 常人でなければ、それはすなわち。
 「チョコレートなんざ、なくなっちまえ!」
 突然の事態に悲鳴を上げて逃げ惑う買い物客の中で。
 魔人に覚醒した少年の狂笑が響き渡った。


 その騒ぎは、ちょうど会計を済ませて店を出ようとしていた莉子の耳にも入っていた。
 そして店から必死の形相で飛び出してくる買い物客達。何かから懸命に逃げてくるその様子を見れば、彼女にも店内で何が起こったかの想像はつく。
 街中での魔人覚醒は、取り立てて珍しい出来事ではない。
 例えば交差点での大型トラック同士の交通事故だったり、或いはビルの火災だったり。
 日常に起こり得る、惨事の一つに過ぎない。
 彼女自身が目撃するのも初めてではなかったし、そもそも魔人覚醒は自分も通った道である。彼女の場合は自宅での覚醒だったものの、一つタイミングが違えば街中でもおかしくはなかった。
 それ故に、莉子は自分がすべき事を理解していた。
 君子危うきに近寄らず。
 通報を受けてやってくる魔人警察が到着し、生まれたての魔人を確保する頃には、自宅に戻ってのんびりとチョコレートを齧っていればいいだけの話だ。
 そう考えてその場を離れようとした彼女の前を、子どもを抱き抱えた母親が逃げ去って行った。
 そういえば。
 さっきの小さな魔女は?
 あんな目立つ格好を見逃す筈が無いし、正面から出てきていないのは間違いない。
 別の出口から逃げたのかもしれない。
 それともやはり、うっかり見逃したのかもしれない。
 ──────でももし、そうじゃなかったら?
 彼女の脳裏に、茉奈の言葉が蘇る。
 ──────莉子ちゃんは、私のヒーローなの。
 その声を、言葉を思い出してしまったら。
 もう、選択肢は一つしかない。
 「…………ヒーローは辛いねー」
 莉子は買ったばかりの板チョコを取り出すと口に咥え、乾いた破砕音を響かせた。

6minion:2012/12/14(金) 11:00:20
 「あちゃー…………参ったねこりゃ」
 幾度目かの攻撃がまたもや失敗に終わり、どうにか距離を取った莉子は舌打ちした。
 不運な事に、その少年魔人の能力は莉子にとって最も相性の悪いものだった。
 一般的には何の脅威とも思えぬ、無駄で無意味な能力。
 だが、彼女にとっては絶望的な能力。
 『反チョコ(アンチョコ)』。
 彼の能力は、自分の周囲半径3m以内のチョコレートを例外無しに消滅させるという、たったそれだけのくだらない能力だった。
 誰にも愛されず、バレンタインを憎み、その象徴を呪った能力。
 しかし、莉子の魔人能力は『メルティーボム』──────チョコレートを爆発させる能力なのである。
 いくら投擲したところで、爆発させる前に消滅させられる。
 さりとて、相手の能力範囲外で爆発させても有効なダメージを与える事が出来ないのは、優れた空間把握能力を持つ莉子には自明だった。
 それならば、能力戦を諦めて格闘戦で鎮圧する、という選択肢も選び難い。莉子は確かに運動神経抜群の肉体派であり、一般人や普通の魔人相手にはそうそう引けをとるつもりは無い。
 だが、この少年魔人は魔人能力がお粗末な分、肉体的な能力が戦闘魔人としても非常に高いレベルに到達していた。覚醒前にも何か格闘技を齧っていたと思われるその動きとパワーは、トップアスリートたる莉子をも圧倒していた。
 加えて、莉子の背後には。
 「………………」
 自分の身に迫った生命の危機に気付いていないような無頓着な眼差しで、小さな魔女が立ち竦んでいた。
 最悪の天敵と厄介なお荷物。
 唯一の救いは、覚醒したばかりの少年が今はまだ自分の魔人としての肉体を使いこなせておらず、動きに若干の無駄と粗が見られる事。だが、それも時間の問題である事は想像に難くない。
 ゆっくりと、少年魔人が近づいて来る。その瞳は追い詰めた獲物に止めを刺す肉食獣。
 魔人警官隊が到着するまで、何とか時間を稼がなければ。
 せめて、この子だけでも助けなければ。
 「ヒーローになる、って決めたんだし、ね」
 決意を新たに、身構えた莉子。その背後から。
 「…………チョコレート。大きければ、爆発も大きくなる?」
 ぼそり、と抑揚の少ない問い掛け。
 それは事実だった。莉子の『メルティーボム』は能力に用いるチョコレートが大きければ大きい程、爆発の威力を増す。しかし、莉子の手持ちや売り場に置いてあったチョコレートのサイズでは敵の能力範囲を超えられなかったのも事実。
 「そうだけど…………?」
 正面から目を離さず、声だけで答える。彼女の魔人能力を看破した子ども離れした観察力と理解力に舌を巻くものの、今は正直それどころではない。
 「………………はい」
 ずしり、とその手に載せられた重み。それは彼女が普段慣れ親しんでいるバスケットボール程もあるだろうか。
 「………………え?」
 目を見張った莉子の視界に映った、マーブル模様の大きな塊。ホワイトチョコもミルクチョコも全てがない混ぜとなっているものの、その甘ったるい独特の香りは間違いなくチョコレートそのもの。
 しかし、一体何処から──────?
 そしてそのチョコレート塊は莉子の手中で不気味に蠢く。まるで魔界の生物のように不吉に禍々しく。
 「………………来るよ」
 だが、疑問を発する余裕は無い。小さな魔女の声に莉子は迫り来る少年魔人へと向き直ると、慣れ親しんだフォームを取る。
 「美少女からのバレンタインチョコ、有り難く受け取ってね!」
 弾丸のようなチェストパスが敵へと迫り、同時に小さな魔女を抱き抱えた莉子は商品棚の陰にダイブした。

7minion:2012/12/14(金) 11:00:55
 そして、数分後。
 莉子によって半殺しにされた──────もとい、爆風で気絶した少年と魔人警官を乗せた救急車を、二人は見送っていた。
 「まぁ、頑丈そうだったし死にはしないでしょ」
 「何故、助けに来たの?」
 相変わらず澱が沈殿しているような瞳で、小さな魔女は彼女を助けたヒーローを見上げた。辛辣な言葉を吐いた、見ず知らずの他人を、何故? とその瞳は問うている。
 「んー、茉奈の前ではヒーローでいる、って決めたから、かな」
 そしてその彼女は、常に莉子の心の中に居る。いつも、見守っている。
 「…………恋人?」
 唐突な、しかし的を射た指摘の言葉に、ぶふっ!? と莉子は思わず噴き出してしまった。
 「い、いやいや、女の子の名前でしょ?」
 「でも、恋する乙女の顔だった。声だった。瞳だった。匂いだった」
 年端もいかぬ少女の言葉ではない。鋭すぎる洞察力だった。
 「隠しても分かる。………………だって、私もそうだから」
 少しだけ、ほんの少しだけ。注意して見ていなければ分からない程に、小さな魔女の顔に朱が差した。
 「へぇ〜、今どきの子はませてるね。同じクラスの子?」
 秘密を分け合う者に生まれた奇妙な連帯感と親近感から、彼女は尋ねた。
 訊かなければ良かった、と後悔する事になった。
 「私の愛する…………お兄さま」
 「へっ?」
 「他の女には絶対に渡さない…………私だけのお兄さま。近寄る雌犬どもには全員、特製のチョコレートを食わせて血と悲鳴を撒き散らせてやるわ…………フフフフフフ」
 病んだ笑い声を、無表情で上げていた。
 「え、えーっと?」
 「貴女はレズで恋人持ちのようだし、大丈夫だとは思うけど。もし、お兄さまに手を出したら…………」
 ヘドロのようにどんよりと濁った、腐った瞳が見上げる。
 「あ、あはは…………しないしない、手出しなんてしない」
 乾いた笑いと共に、彼女は後ずさる。
 ──────うん、やっぱり近寄らないのが正解。
 そう結論付けると、魔人警察の事情聴取に応じる事にしてその場を逃走した。
 彼女を胡乱な瞳で見送った小さな魔女は、やがて興味を失ったように眼差しを戻し──────呟く。
 「一お兄さま…………」
 チョコレートの小さな魔女──────その名も、一千四五(にのまえ・ちよこ)。
 彼女の幼くも一途な偏愛は、チョコレートのように甘くはない。


                              <了>

8minion:2012/12/14(金) 11:07:30
一千四五。試供品。
tp://s1.gazo.cc/up/s1_44426.jpg

9ムキムキドラゴン:2012/12/16(日) 16:14:08
 スズハラビル内部のラウンジカフェで、二人の男性が一角の席に腰を掛ける。一人はスーツ姿の紳士、一人は動物を引き連れた、いかにも研究者といった風体の男だ。
 ブラックコーヒーを片手に、紳士姿の男が話をはじめる。
「さて、私に聞きたいことがあるそうだね、霧生カガネくん。もっとも、予想はついているが」
「るあなたでなくても、僕のことを知っていれば予想はつきますよ、ムキムキドラゴン。いや……情報生命体ムキ=ムキと呼ぶべきか」
 ムキムキドラゴンは一口でコーヒーを飲み干す。
「まあいい。本題に入ろうか。単刀直入に言えば、君の生態を知りたいと考えているのさ」
「だろうな」とムキムキドラゴンは返す。
「少しだけ採取した君のDNAは、他のどの生物とも違う構造をしていた。通常の生物が二次元的で螺旋構造をしているのに対し、君のそれは三次元的だ。これがDNAの構造の複雑化、多様化を招いている。DNAの構成物質は通常の有機生命体と変わらない、それなのになぜこのような不可解な構造ができるのか」
「ふむ」
 ムキムキドラゴンは、考えるような素振りを見せる。
「単純に言えば変換ミスだろう。私達の住む四次元世界で三次元だったものをそのまま変換せずに持ってきたことが原因だ」
「答えになっていない」
「おっと、それは失礼」
 コーヒーカップを片手でいじりながら、ムキムキドラゴンは笑う。
「そこで僕はこのような仮説を立てた。生命が構成しているものをそのまま一次元増やしたのではないかとね。DNAなら二次元のものを螺旋構造にしていたものが、三次元的に構成され、ねじれは四次元的に発生している。タンパク質も、三次元構造から四次元構造になることでこの世界では存在し得ない物質が作られている。血管は線的で一次元の管が二次元である膜状、すなわち平面的になることで体内の血液循環をより容易なものにしている。呼吸器官たる肺は、三次元から四次元になることで表面積が増すためより小型化しているだろう」
 嬉々として仮説を語るカガネ。無表情のままカガネを見つめるムキムキドラゴン。
「……っと、ちょっと長く話しすぎたかな?」
「そんなことはない。君の慧眼に少々脱帽していただけさ」
「それにしてはほとんど無表情だったような気がするんだけど」
「ふむ。それはまだ感情表現の変換が完全ではないからだろう。無表情と笑う以外にはほとんど出来ない状態だ」
「ならいいんだけど……っと、そうだそうだ。わからないことがあるんだ」
「なんでも聞いてくれ給え」
 ムキムキドラゴンは二杯目のコーヒーを飲み干した。
「四次元世界から三次元世界への変換はどのようにして行われているのかということだ。僕は君を召喚する場に立ち会ったが、次元を変換するなんて並大抵のエネルギーは出来ないはずだ。おそらく、全宇宙の質量をエネルギーに変えるほどでなければ。それなのになぜ……」
「簡単なことだ。四次元から三次元に変換するために、媒体と触媒が存在するからだ」
「媒体と、触媒? と言うことは、四次元と三次元をつなぐ何かがあるということか」
「ああ。と言っても、四次元は概念上にしか存在しないため、この物質世界と概念世界を行き来できる存在でなければならない。ここまで言えばわかると思うが……」

10ムキムキドラゴン:2012/12/16(日) 16:14:20
 思索にふけっていたカガネは顔をあげる。
「そうか! 魔人能力が媒体かつ触媒となっているのか!」
「正解だ。魔人能力は魔人の認識がもとになっていることはおそらく周知の事実だろうが、私達は言ってしまえば魔人能力、すなわち『認識』そのものなのだ。実体を持たずとも生存していられる生命体だからこそ、私たちは君たち魔人の上位存在として顕現している」
「最も、僕らは『転校生』だけどな」
「そういえばそうだったな。ならば、情報生命体は転校生と同等の存在といっても良いだろう」
「まあ、そうだろうな。僕は門外漢だが、その筋について研究している連中もスズハラ機関には腐るほどいる。だからそいつらに聞くのがいいさ」
 カガネもコーヒーを飲み干す。次いで現れた疑問をぶつける。
「君が魔人能力そのものといったが、それは同時に君の魔人能力でもある、という認識でいいんだな?」
「ふむ。私の場合はその認識で正しい」
 カガネはムキムキドラゴンの言い方に引っかかりを感じる。
「それは、遠まわしに例外が存在するということか」
「そうだな。魔人能力そのものであっても、この世界に顕現するときに、この世界で使える能力が自分自身であるとは限らないのだよ。しかし、私ほどの情報生命体であればそのようなことは起こり得ない。魔人能力の変換が百パーセントで完了しているからな」
「なるほど」
 カガネは、少し理解できたと言いたげに頷く。
「やはり竜だからこそ君の魔人能力はそうなったのか?」
「そうだろうな。竜というのは巨大な姿をしているからな、この世界で活動するには調度良いのだよ。もっとも、単純に美しいから、という理由のほうが大きいが」
「そんな理由で竜になれるのか」
「なれるとも」
 怪訝な顔つきをしてムキムキドラゴンを睨む。
「そうでなくとも、私たちはどんな生物にもなれる。活動の可否を気にしなければな。例えば……」
 唐突にムキムキドラゴンが席を立つと、突然その姿が縮んだ。次にカガネが見たものは、小さな姿女の子だった。
「……すごいな」
 カガネは声を震わせる。
「このように、幼子の姿になることもできる。だが、なるだけだ。歩こうとすれば間違い無くすぐに転ぶだろう。更に言うならば立っているだけで精一杯だ」
 そう言うと、一瞬で紳士姿に戻る。
「さっきも言ったが、私は魔人能力そのものであり、実体を持たない。だから何にでもなれる、ということだ。しかし当然、小さいものほど活動に制限がかかる。情報を圧縮するのに非常に時間がかかるためだ」
「それでもすごいさ」
「さて、他に何か聞きたいことは?」
「そうだな、竜の姿だとどれくらいのことができるか、だな」
「ふむ。具体的に言われると答えづらいが、簡潔に言えば『竜にできることなら大抵はできる』だな。その気になれば空だって飛べる」
 ムキムキドラゴンは何杯目かわからないコーヒーを飲み干した。
「そうなのか、ありがとう。あとは、君の『生物以外を破壊する』という魔人能力だが、それは今の姿でも使えるのか?」
「いや、それは出来ない。あれは竜の姿だからこそ使えるものだ」
「やはり制限とかがあるのか……しかし、地面に向けて撃てば地球を破壊できるような能力だからな、ほとんど意味をなしていない気もするが」
「さて、他に質問はあるかね」
 カガネは暫く考えこむ。が、これ以上は浮かばない。
「いいや、今は大丈夫だ。ありがとう」
「そうか。それでは私はここで失礼するよ」
 そう言うと、ムキムキドラゴンはラウンジカフェを後にする。
「ムキムキドラゴン……ぜひ解剖してみたいものだ」
 そう呟いて、カガネは会計を済ませる。
 ムキムキドラゴンが飲み過ぎたせいか、コーヒー代だけで万を超えていた。


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