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SWリプレイ小説 【竪琴キルシュ亭の非日常】

14第一話≪シュヴァ一族の暗躍≫ 12:2014/02/08(土) 13:06:35


シルクの提案により、村長にはシュヴァイツァーの存在は伏せて報告された。

『ゴブリンは始末した、原因は分からない。自分たちが行く前にゴブリンが殺されたような形跡はあったが、その主犯は既に居なかった。気になるなら行って見てくるといい、もう危険はない』と。

原因の解明よりも、ゴブリンの脅威がなくなったことに村長は満足し、それ以上を追求されることはなかった。
礼金を貰い、また半日かけて竪琴亭に帰ってきた一行を、オルフェが出迎えた。
テーブルの上には大量にサクラ肉料理。それとエールとジュースの瓶、グラス。並べられた料理は、店主からの労いである。

「御苦労だったな。子供を抱えたままでも十分働ける実力があるようで安心した」
「そうかもね」

オルフェに答えつつ、シルクは本を片手にカップを傾けた。中身はエールでもワインでもなく、紅茶だ。
彼女は、アルコールは脳を鈍らせる薬物だとして嫌っている。人の飲酒を咎めたりはしないが、自分では飲まない。
その隣では、エールのグラスを傾けながら、オーギュストが馬肉のサンドイッチに齧りついている。
あっという間に一皿空けて、一瓶飲み干してしまう。

「あ、オルフェさん……厨房を貸してください。僕が、デザート作るから……」

ふと、ロースト馬肉のサラダをつついていたシュガーが、思いついたように立ち上がった。
オーギュストと一緒に国を出るまで、シュガーはパティシエとして働いていた。お菓子作りは好きだし、それを仕事に出来たのは楽しかった。
オーギュストが故郷を出るというので思わず付いてきてしまったけれど、冒険者を名乗ることになった今でも、むしろ本職はそちらだと思っている。

「プリン食べたい」

エプロンを締めるシュガーに、すかさずオーギュストがリクエストする。

「プリン?ここだとそんなに冷やせないから、おいしくできるか分かんないけど……」
「いいよ、いっそ蒸したてでもいいよ」
「うん、分かった……」

シュガーが厨房に篭ってしばらくして、甘いバニラの香りと共にできたてのプリンがやって来る。
喜んでがっつくオーギュストの横で、味見をするシュガーは難しい顔をしてレシピノートに何事か書き込んでいる。
シルクとオルフェの前にもプリンが一つずつ。

「ナー」

勝手口から猫の鳴く声がした。

「何だ、また飯を食いに来たのか?」

オルフェが戸を開ければ、黒い猫が行儀よくちょこんと座っている。
猫の町と呼ばれる程に、この町には猫が多い。野良猫も飼い猫も、縦横無尽に屋根や塀の上を散歩し、自由に振舞っている。そして住人達は、この町のそんな猫達の弁えた傍若無人さを許している。
シュガーが黒猫にビスケットを差し出す。猫はさっと咥えて持ち去って、少し離れたところで齧り出した。
夜も更けた頃、飲み潰れて熟睡したオーギュストをシュガーとオルフェが部屋に放り込んで、この騒々しくも有り触れた一日が終わった。


新米冒険者二人が、半人前冒険者になった日のことだった。



――第一話 完


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