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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part6

1名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:16:33
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第6弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

432名無しリゾナント:2016/04/16(土) 19:20:05
すれ違いざまに、二度、三度。
里保の放った剣戟は、「さゆみ」の体を切り刻んでいた。

「ぐっ!て!てめえ!!」
「無駄だ。その小細工は、うちには通用しない」

膝をついた「金鴉」は、ついに「さゆみ」の形を保てなくなる。
再び肌が煮立ち、顔が崩れ、崩壊の兆しが顕となった。

余計なことしやがって。
「金鴉」は「煙鏡」の奸計に乗ったことを後悔した。あの「緋の眼をした魔王」と再戦できるというから、
敢えてくだらない策を受け入れたというのに。
そのような意志を込めた視線を送るも、相手は素知らぬ顔で空に浮かぶだけだった。

「…ま、いいや。お前さえぶっ潰せば、全部終わる…」

気持ちを切り替え、改めて里保に目を向ける。
問題ない。こんな奴に、負けるわけがない。何故なら自分は、ダークネスの幹部。
「失敗作」などでは、決してないのだから。

「金鴉」に残された時間は、そう多くない。
早く「煙鏡」に処置を受けなければ。だがしかし、時間がないのは里保も同じ。
激戦のダメージは、徐々に限界へと近づいていた。
恐らく、次の段階はない。互いが、この戦いに決着をつけようとしていた。

433名無しリゾナント:2016/04/16(土) 19:24:39
>>427-432
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

そんなこと鞘師はしない的なリゾナント元は「旅立ちの挨拶」であって
決して「りほりほこわい」ではありませんw

434名無しリゾナント:2016/04/18(月) 03:04:08
 昨夜、モモコの熱心なとりなしで、険悪になっている
 ロックとリルカが話し合った。
 昔のような物語だけど売り出す会社に、仲の良い家族に戻ろうと。
 だがリルカに自らの経営手腕のなさから、弱さと愚かさを指摘された。
 ため息交じりの『いい加減に夢から醒めなさい』という一言。
 その一言で、ロックは逆上し拳を振り上げた。

 「しかし、拳をどうすることもできずにいるあなたに、リルカさんは
  静かにため息を吐いた。これが最後の引き金になったんですよね。
  あなたはリルカさんを突き飛ばして逃げた。
  モモコさんは雨の町中であなたを追いました。
  そのあとは警察の検死どおり、起き上がったリルカさんが書類棚に
  手をついた時に花瓶が頭に落ちて、倒れた拍子に頭を打って亡くなった」

残酷な事実を告げ、飯窪は心理を解剖していく。

 「モモコさんに説得された貴方は戻ってくると、二人で死体を発見。
  自分が殺したんだと勘違いして耐え切れなくなったあなたは
  逃げ場所を捜したんです。でも、会社にも家庭にもなかった。
  その瞬間、閃いたんですよね。
  唯一逃げられる場所が、貴方が愛した物語だという事に」

そうする事でしか自我の崩壊を押しとどめられなかった。

435名無しリゾナント:2016/04/18(月) 03:05:05
 「映画の中に居る鮎川夢子さんを演じるために自分が設定付けた
  シナリオと、誰かが必要だった。
  噂で聞いた自分と同じ正義の味方を語る誰かが。
  私達のお店を知ったのは単なる偶然ですか?」
 「……」
 「私、三番目のテーブルの窓際に座っているのを見かけた事があるんです。
  何度かお話もしたと思うんですが、覚えてますか?」
 「……」
 「漫画の話や映画の話、俳優さんや女優さんのことなども」
 「……」
 「私の人探しというのは、そのまま貴方自身を取り戻させるため。
  モモコさんや渋川さん達が話す自己像でロックさん自身を
  受け入れさせるためのものだったんです」

声が暗転する。

 「けれど、貴方は最後まで受け入れなかった。
  それを、貴方の息子さんが台無しにしてしまったんです。
  どうして教えてしまったんですか!?
  ロックさんを夢から引き戻す必要なんてなかったはずです!」

リルカが亡くなった以上、仲直りはできない。
リルカの力だけで成長した会社は、彼女の死によって衰退するか
崩壊していくのだろう。
息子たちは今まで以上に愛想を尽かしてしまうのも目に見えている。

436名無しリゾナント:2016/04/18(月) 03:05:28
ロック・オーケンの余生を満たすのはもう幻想しかないのだ。
鮎川夢子として居てくれたなら、その精神のままで安寧の心を
維持させることだって出来たのだ。
自分達はそうする事が出来る存在なのだから。

この世には醒めない方がいい夢もある。
 どんな悲惨な悪夢であっても、最悪の現実より酷い事はない。

だがロメロは毒蛇のようにクツクツと嗤った。

 「こいつだけ幸せな夢のなかにいるなんて許す訳ないだろ」

男の目には断崖絶壁の上にいる道化の幸福を指摘する悪意。
それ以上の激しい憎悪に満ちている。

 「母さんは弱いこいつに苦しんでいた。
  夢物語に没頭してまったく頼りにならないこいつに代わって
  会社を、家族を一人で支えたんだ。
  最後は過労からの事故死だって?過労になるまで追い込まれたのは
  こいつの、父さんのせいだ。
  元凶の男が一人だけ安楽な夢に逃げ込むなんて許されない!」

それは残酷なまでに、正しかった。
だが、それでは人は生きていられない。
弱い人間に過酷な現実だけを見つめろというのは、死を直視しろと
言っているのと同じことなのだ。
雨に打たれて、ロメロが哄笑をあげていた。

437名無しリゾナント:2016/04/18(月) 03:06:00
 「全部終わりだよ。兄さん達もモモコも見えていないんだ。
  全てを支えていた母が死んだ時点で会社も家も終わったんだ」

雨の紗幕が音の全てを消し去っていく。

 「………そうか」

女装した男の唇から、感情の断片が零れ落ちた。
雨に濡れてカツラが落下し、顔を上げる。
化粧が溶けて斑となり痩せ細った顔。
小さな瞳には、理性の光が灯っていた。

 「……僕は鮎川夢子ではなく、ロック・オーケンだったんだな」

それはまさに、完全なる自分を取り戻した彼の言葉。

 「僕は弱くて愚かで間抜けた男、僕自身であることが許せなかった」

全てを理解した顔に責めるように雨が降りしきる。
男は責め苦を受け入れる様に、両手を広げた。
両手で断罪の夜の雨を受け止める。

 「僕はこれからどうしたらいいんだろう。
  夢から醒めて哀れな男に戻った僕はどうすればいい?」

だれか ねえねえ だれか

438名無しリゾナント:2016/04/18(月) 03:06:30
夜の雨の底で、飯窪は何も言えずに無言で立っていた。
自分を守る傘を彼に差しだすことが出来ない。
ロメロが降りしきる雨よりも冷たい笑みを浮かべていた。
飯窪は奥歯を噛みしめて、結末を見届けた。

携帯端末を取り出し、依頼主を呼び出す。

 「ロックさんが正気を取り戻しました」
 「え?」
 「今から保護して頂けないでしょうか」
 「……という事は、父を見つけてしまったのですか?」
 「はい、お父様は生きておられました」

モモコが迷った声を出す。

 「困ったわね。会社と家督相続の資金捻出や会社のことで
  兄さん達ともめているし、子供の養育や離婚訴訟のことが
  あるので私の家ではとても……」

通信を切った。
携帯を戻すと、雨はロックとロメロに降り注ぐ。
同じように打たれながら、飯窪は雨に濡れる親子を眺めていた。
天から降る雨に、ただ自分だけを守って。

439名無しリゾナント:2016/04/18(月) 03:09:05
>>434-438
『雨ノ名前-rain story-』以上です。

次回で最終投下、後日談となります。
オリジナルキャラとして確立されそうだった時には思わず言いそうに
なってしまったんですが、こういう結果になって良い裏切り方ができたんじゃないかと。
ありがとうございました。

440名無しリゾナント:2016/04/19(火) 02:42:24
飯窪は見た事がある風景を見ていた。
自分があの会社と邸宅の前を歩いていることに気付き、足を止める。

 「飯窪さん?どうしました?」

小田さくらが隣に歩いていたはずの人影に声を掛ける。
だが飯窪は「うん」と曖昧な返事をしたまま顔を上げた。

建物の前には、売家の札が立っていた。
会社のほうはすでに別の人間が買収したらしく、ビルの入り口に
掲げられた社名は変更されていた。
一抹の寂しさとともに、再び歩き出した。
こればかりは慣れない。
慣れてはいけない。

異能者として強くなったとしても、人間としてはまたひとつの
欠片を失っていくのだから。

途中で歩道の人影とすれ違う。
一目で分かったのは、車椅子に座ったロック。
そして背後から押している人物、ロメロだった。
ロックは痛切な感情を込めた横顔で建物を見つめている。
ロメロの顔が動き、振り向く飯窪に気付いた。

唇の端を歪め、ロメロは例の皮肉な笑みを見せてくる。
全てを失った父を引き取ったのは、厳しい現実を突き付けたロメロだった。
意外な結末に、飯窪は複雑な感慨を抱く。

441名無しリゾナント:2016/04/19(火) 02:43:10
ロメロは車椅子を回転させる。
背中を向けて、父の車椅子を押しはじめた。
去っていく男の背中を見送ると、ロックが何かを語りかけ、ロメロが
鼻先で笑う光景が見えた。
耳を澄ませば、二人の会話が遠く聞こえる。


 「あんたの好きな夢物語は甘すぎるよ、これからは現実に
  則った話が売れるんだぜ」
 「何を言うんだ、物語は夢を語ってこそ物語なのさ」
 「寝ぼけてんじゃねえよ。
俺がおまえの夢を終わらせたから、今の再出発を始められたんだぞ」
「だから、全てを含めて今が夢の始まりなのさ。
いつの時代も、そういう苦難からの再生が物語の基本なんだ」
「再生すればいいけど、そう都合よくいくのか?」
「するしかないのさ」

飯窪は前に向き直り、工藤の元へと歩き出す。

「ねえ小田ちゃん、小田ちゃんはさ、物語好き?」
「物語?漫画や小説はたまに読みますが」
「私も好き。だって物語は救いなんだから」
「救い?」
「助けてくれる人が居て良かったよね、私達」
「…話が見えないんですが。あ、ちょ、飯窪さんっ?」

飯窪が唐突に走りだした事で、小田が叫ぶ。
だが数歩進んだところでバランスを崩した。
両手に持っていた荷物が揺れて体勢を保てなかったのだ。
「危ないですよー」と小田が手を差し伸べてくる。

442名無しリゾナント:2016/04/19(火) 02:44:25
「ちょっと二人―!そんな所でなにやってんの!?」

遠くの方からこちらに叫ぶ声があった。
前方に居た石田が手を振っている、片手には袋を持って。

「もう皆待ってるんだから。文句の電話がこないうちに帰るよ!」
「飯窪さんがこけちゃったんですよ、石田さんも手伝って」
「はあー?なにやってんのよもーっ」

文句を言いながらも戻ってくる石田に、飯窪は恥ずかしそうに笑った。
乾いた夏の風が吹き込んでくる。
まるで自身を取り戻したかのように、真上の雲が晴れていく。

久しぶりの蒼い日射しは夢のように綺麗だった。

443名無しリゾナント:2016/04/19(火) 02:50:14
>>440-442
『雨ノ名前-rain story-』これで終わります。
タイトルに関しては完全に比喩です。
こんな作品に付き合ってくださりありがとうございました。再び潜ります。

444名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:37:15
120話立てたけど眠いしレス消費で鞘石でもと思ったけど連投エラーで規制食らいました…w
見たいって言う人も居たけど貼れ無くてごめんなさい
いつまで規制なんだかもちょっと不明なので良かったら以下を転載よろー

って事でネタが古いけどレス消費のためやむなく投下
リゾスレ要素皆無・カプ要素有なので苦手な人はスルーしてくだされ


この前物販撮影をしてる時に亜佑美ちゃんの撮影を見てたんですね。
そしたら、初めて人の生写真を買いたい!って思ったんですよ。
自分の中で衝撃が起こったっていうか、何かが目覚めた気がしました。
タイプだったんだと思います―――

最近、亜佑美ちゃんと℃-uteさんをはじめとした先輩方との仲が良い。
どうも原因は、私達中学生メンバーは未だ参加できていない農作業系TV番組・SATOYAMAライフにて、
一見すると中学生位なのに、実際は高校生のお姉さんである亜佑美ちゃんの参加率が非常に高いってのがありそうだ。


同じ10期は仕方ないとしても。私と同期のフクちゃんだったり、香音ちゃんだったり、…道重先輩だったり、
私も尊敬してる鈴木愛理先輩だったり、光井先輩だったり。その他にも一杯。
ハロコンに向けて私自身も事務所の先輩達と過ごす時間が大幅に増え、
相対的にモーニング娘。としての仕事現場以外で一緒に過ごす時間はどんどん減っていった。

新人が先輩方と仲良くする事、それ自体はとても良い事だってのは分かっている。
分かっているのだけれど、複雑な乙女心が渦巻いて嫉妬と欲望に囚われる。

445名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:38:21
「それでですね、鈴木さんが…あ、愛理先輩の方なんですけど」
「譜久村さんって何だか一緒に居ると落ち着きますよね」
「光井さんに譜久村さんとこの間遊びに連れて行って貰って」
「矢島さんって背も高いしとっても優しいのに天然なところもあって」
「この間まーちゃんと須藤さんと菅谷さんと一緒の企画だったんですけど」
「はるなんが主に新しいネタ考えてくるんです。今日のは深海魚とか言ってて」

SATOYAMAでの先輩達との体験やら、
外で遊んだ時やレッスンの事とかも逐一報告混じりに話してくれるのはとても嬉しい。
後輩達が自分も尊敬している先輩達や同期達と仲が良いというのは喜ばしい事だ。
それに亜佑美ちゃんは後輩だけど年上だし、学校も違う。
大好きだけど同い年なフクちゃんとかちょっとズルイって思ってしまう。

それぞれに任せられる仕事の区分が違う時も多いという事も分かっている。
私としてはレッスンやお仕事で会う度に、亜佑美ちゃんの口からその様子が知れるのはとても嬉しい。
先輩達の素敵な部分を語る明るい亜佑美ちゃんも含めて微笑ましいし、
他人の良い面を見つけられるその姿に、負けず嫌いだけどそれを含めて素直で可愛いなって思う。
けれど、も・・・・

その口唇からは次々と私以外の名前ばかり出てくるのが何だか少しだけ面白くなかった。

「でも、どうせなら鞘師さんと一緒にダンス企画がやりたかったですよね〜…なんちゃって」
「ああー」
「って聞いてます?」
「うん」
「生田さんも心配してましたよ?鞘師さんが何だか最近特に上の空だって」
「そっかぁ」
「…鞘師さん、今何考えてるんですか」
「うん」
「私の事でも考えてるんですか…なーんて」
「そう」
「……じゃあこっち見て下さいよ」
「あー」

亜佑美ちゃんから発せられるのは、今日も相変わらず先輩達の話題ばかりだった。
最初は新曲の確認を口実に一緒に振りや歌の練習をしていたのだけれど、それも一通り済んでの帰り際。
優しくされてるというのは良いんだ。でも同時に先輩方にも優しく接してるんだろうなと勝手に嫉妬をしてしまう。

446名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:39:08
いや、もしかしたらとグルグル考え込んでいる内に、それ以外の話題も喋っていたかもしれない。
でも一生懸命話してる亜佑美ちゃんは可愛いなぁ等とどこか上の空で微笑みながらも、
今の私はただ次から次へと聞こえてくる話題に適当な相槌を打つのが精一杯だった。

暫らくして「へぇ」とか「そう…」と、生返事しか返さない私に業を煮やしたのか、
顔を覗き込みながら「鞘師さん、何か怒ってるんですか?」と尋ねられて、ハッと我に返った。
本人は全く意識していないだろうが、私にとっては戸惑う程に魅力的な上目遣いでつい視線を逸らしてしまった。

・・・あれ?なんで亜佑美ちゃんが泣きそうな顔してたの?

「いや、別に怒ってないよ?何で?」
慌てて手と首を振りながら全力で否定した。顔は引きつっていたかもしれない。
「ウソだ。絶対嘘だ。絶対機嫌悪いです。どうしたんです?私何か気に触るような事しました?」
「違うよ、何も。何もしてないよ」
と言うより何もないから色々考えていた、とは言えなかった。
「じゃあ、どうして。上の空だし明らかに私の話聴いてくれないし、その上さっきから何で一回も私の顔を見ないんですか、鞘師さん」
「………それ、は」
しまった。いつも通りの優しさに甘えて、ボーっとしてしまった上に困らせるどころか怒らせてしまったかもしれない。
そもそも言えるわけがないのだ。
あなたと私以外のメンバーとの仲に実は嫉妬しています、なんて子供じみた独占欲。
重苦しい沈黙が部屋を包む。
黙ったまま口を開こうとしない私に愛想を尽かしたのか、
「私には………言えないんですか」と言って立ち上がった。

「あっ………」
嫌われた?亜佑美ちゃんに?
いやだ。それだけはいやだ。
いや。嫌いにならないで。どこかに行かないで。


喉が渇く、息が苦しい。なんだこれ。こんなのしらない。こんなのいやだ。

447名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:39:59
「何ですか?…私と居ても面白くないんでしょう?」
気づくと、亜佑美ちゃんの腕を咄嗟に掴んでいた。この位置からでは亜佑美ちゃんの顔が見えない。
いつも通り明るい亜佑美ちゃんの声。
それなのに冷たく、どこか突き放すような言葉に聞こえて胸に突き刺さる。
「――やっぱり、私には何も言ってくれないんですね」
「……や」
「や?」

「いや。行かないで」
「…答えになって無いですよ」
都合が良すぎることは、自分でも分かっている。
これじゃ呆れられても文句は言えない。
でも。

「でも、いやなの。行かないで…!」
「鞘師さん、だから」
「嫌だ!」

静かな部屋に私の声が響く。


「……ごめんなさい。さっきの態度は私が悪かったです。言う通り上の空だったし、謝るから。
自分でも、都合の良いこと言ってるのは分かってる。…でも、嫌いにならないで。
お願いだから、一人にしないで。私から、いなくならないでっ……!ご、めんなさっ…ぃ」
心からの叫びだったのか、最後の方は喉が渇いて上手く声にならなかった。

亜佑美ちゃんの顔を、見ることはできなかった。リアクションも出来ない位驚いてるんだろうってのは分かった。
自分でもめちゃくちゃなことを言ってしまったのはわかる。
これでは、ただの駄々っ子。
勝手に嫉妬して、困らせて、勝手に不安になって、泣いて相手の気を引いて。
最低だこんなの。


なんとか呼吸をして、「ごめん、忘れて」と同時に掴んでしまった手を離し、壁際に身体を沈めた。
こんな自分に彼女を、年上の後輩を縛りつけてはいけないのだ。
目の前が暗くなるのを感じる。こんな薄汚れた感情は晒してはいけない。知られてはいけなかったのに。
どうしようもない程気分が落ち込むと、目の前が暗くなると言うけれど、そうか本当に暗くなるのか、と
渇いた心で考えていると、ぎゅっと抱きしめられた。気付いたら好きになってしまった亜佑美ちゃんの匂いがした。

448名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:40:30
「ごめんなさい、鞘師さん。気付かなくて。寂しかったんですね」
そう言って小さな子をあやすように、ぽんぽんと背中を優しく撫でられた。
なぜ彼女はこんなにも優しいのだろうか。私がメンバーだから?私が先輩だから?私が子供だから優しいのだろうか。
こんなに私はわがままなのに。好きな事以外には言葉足らずだし寝てばっかりだし、面倒くさいやつと思われても仕方ないのに。
「…ごめん。もう良いから。私のことは放っておいて、構わないから、行って…良いよ」
私なんかに、彼女は勿体ない。

「そうは言いますけど、鞘師さん。私の服、掴んだまま離してないですよ?」
確かに、見るとレースで縁取られたブラウスの裾を私の手ががっちり掴んでいた。
「あっ、これは、その…」
鼻を啜りながら服の裾を掴んで駄々をこねるなんて、本当に幼い子どものようだ。

その事実に気が付いて自分が恥ずかしく思える。
一体どうしてしまったんだ、私は。

「・・・どうしちゃったんですかって訊くのは簡単ですけど、話したくなるまで待ってますから」
そうして暫らく亜佑美ちゃんに撫でられていたらさっきの薄汚れた感情はだいぶ薄まっていった。
不思議だった。フクちゃんにこの気持ちを教えられた時、これからは隠し通さなきゃいけないって決めた時。
あの日、今と同じ様に慰めてくれた時にはこんなに薄まる事はなかったのに。

「………私は笑ってる鞘師さんの方が好きですよ?」
「ふぇっ!?」
笑いながらよしよしと頭を撫でられる。これじゃどっちが先輩なんだか分からない。
慰めてくれてるだけなのだろうけど、ふいに好きという単語を告げられてどうしたらいいか分からなくなってしまった。

意味なんて無い。
あったとしてもこれは親愛という意味での好きに決まっている。
私のような下心の好きではない。

「踊ってる鞘師さんも歌ってる鞘師さんも好きです」
「え、あ…」
「仕事に真面目な鞘師さんも、照れ屋だけど面白くて、ちょっと不器用な鞘師さんも好きです」
「あ、ありがとう」
亜佑美ちゃんの話し方があまりにもいつも通り過ぎて真意が掴めないけど、どうやら嫌われてないという事はよーく解った。

449名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:41:27
「それと、ですねっ」
「う、うん」
ふいに亜佑美ちゃんがニヤニヤしだした。こういう時はあまり良い予感がしない。
これが巷で話題のだーいし感というやつか。
「意外とお子様な鞘師さんも嫌いじゃないですよ」
「……あー」
「いやー、可愛かったですよぉ」
先程醜態を晒した身としては何にも言い返せなかった。
というより、立て続けに好きだの可愛いだの繰り返されて頭が沸騰しそうだ。


「鞘師さんは?」
「ん?」
「鞘師さんは今…何考えてるんですか?」
まただ、亜佑美ちゃんの今にも泣きそうな顔。ウチはそんな顔させたい訳じゃなかったのに。
そう思ったら自然と口が動いていた。
「…亜佑美ちゃんを泣かせたくないから言えん」
「そう簡単に泣きませんよ」
「嘘じゃ、泣き虫のくせに…」
「ふふっ…大丈夫です今日は泣きませんから」
なんか年上の余裕を醸し出してるみたいだけど、ドヤ顔にしか見えない。
笑った顔の唇も弾力があって美味しそうじゃなって無意識に思ってしまったのはいつからだったか。

「亜佑美ちゃんの唇が可愛い」
「またそういう…」
「事故じゃないチューしたい位」
「へ!?」
あ、今度は亜佑美ちゃんが真っ赤になってる。って唇を手で隠されてしまった。
この前の事思い出したのかな?あの時も真っ赤になってたっけ…フクちゃんに見られてたってのもあるけど。

「そ、そっ、そういう事はですね、あの、えっとす、好きな人とするものですし…」
消え入りそうな声で私は良いですけどって言うのがとても可愛くて、唇を隠した小さな手にそっと自分の手を重ねた。
「好きじゃよ」
「うあ…」
「唇だけじゃなくて、タイプって言うか亜佑美ちゃんが好き」
そこまで言うと、隠してた手の力がふわりと抜けていった。
「嘘じゃないですよね……もう一回、言って下さい」
「チューしたい」
「もう!そっちじゃなくて!」
「好きじゃよ」
言いながら重ねた手をゆっくり下ろした。
真っ赤になったほっぺと泣きそうな瞳とぷるっぷるの唇がもうウチを誘ってるようにしか見えなかった。

450名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:42:01
「ごめんなさい・・・鞘師さんの気持ち知ってたんですよ実は」
「はっ?」
OKなのかと思って近づこうとしたらごめんなさいってちょっと!!
バレバレだったのか!いやまあ唇唇言ってたのは否定できないけど。
「あの、ですね。私、譜久村さんに、相談に乗って貰ってて」
「・・・フクちゃん?」
あれ?私もフクちゃんに相談してて、って。えっ!?亜佑美ちゃんも?
「譜久村さんが、鞘師さんはバレバレだけど隠し通すつもりで居るから難しいかもよって言われて、それで」
「・・・・う」
「で、荒療治だけど嫉妬させてみたらって……ごめんなさい」
「うわー……めっちゃ恥ずかしい」
「でもちゃんと言ってくれて嬉しかったです」

「…亜佑美ちゃんは?」
「え?言いましたよね散々」
「えーーー…そうだけどさぁ」
「ふふふっ」
「わっ」
笑いながらスッと顔を近づけられた。このパターンは予測してなかった。
あれ?私から行きたかったのにと思った時には亜佑美ちゃんが近過ぎて慌てて目を瞑ってしまった。

「…私も好きです、鞘師さん」
名残惜しそうに離れた愛しい唇から待ち望んだ声が聞えたのは暫く経ってからだった。

451名無しリゾナント:2016/04/29(金) 00:48:44
以上でーす。古いネタ過ぎるスレ汚しでゴメンちゃいまりあ
連投し過ぎてエラー暫らく寝てろを喰らいましたし…大人しくしときますw
後は頼みますホゼナンターの皆様。・゚・(ノД`)・゚・。

452名無しリゾナント:2016/04/29(金) 22:27:27
>>427-432 の続きです



里沙が不退転の決意を固めてから、程なくして。
転機は、訪れる。
何もないはずの白の空間に、人の姿を見たからだ。
ただ、それは里沙が思い望む人物ではなかった。

静けさを表すかのような黒さを湛えた、ショートボブ。
そのふくよかな頬は幼さを感じさせるのに、瞳の色は妙に落ち着いていていた。
里沙は目の前の「少女」を、知っていた。
会ったことがあるわけではない。けれど、すぐに理解できた。
この人が、いつも安倍さんから聞かされていたあの人なのだと。

「もしかして、福田…さん?」

少女は答えない。
ただ、その場に立っている。
まるで、何かを守るために里沙に立ちはだかるように。
だが、里沙は確信した。彼女が、なつみがいつも話していた「福ちゃん」であることを。
そして。

「明日香」は、予備動作すら見せることなく。
何かを展開させ、そして里沙目がけ打ち放つ。その動き、そしてその軌跡。
里沙のよく知っている、ある得物。

「まさか、ピアノ線!?」

なつみから、福田明日香は精神操作のスペシャリスト、という話は聞いていた。
けれど、まさか自分と同じような戦い方をするなんて。
「明日香」の放ったそれをやっとの思いで回避し、態勢を立て直そうとする里沙は、思わず己の目を疑う

453名無しリゾナント:2016/04/29(金) 22:29:27
「違う…これは。福田さんの精神エネルギー、そのもの」

「明日香」が、里沙が使うピアノ線を扱うように。
自分の精神エネルギーを線状にして飛ばし、そして操っていた。
これはピアノ線という物体を媒介して精神の触手を伸ばすよりも何倍も効率がよく、そして効果的。

里沙も負けじと、自分の得物であるピアノ線を展開させた。
しかし、こちらがあくまでも物理的な制限によってその本数に限界があるのとは違い、相手のそれはあくまでも形のない精神エネ
ルギー。例えではなく、無数の条を編み出せる。

圧倒的な物量の差。
里沙はあえなく、「明日香」の操る精神の糸に絡め取られてしまった。

「く…これが…オリメン…の実力…」

かつては里沙も所属していた「ダークネス」。
その大元となった組織を作ったのはたった五人のメンバーだったと言う。

中澤裕子。
安倍なつみ。
飯田圭織。
石黒彩。
福田明日香。

彼女たちのことを、組織の構成員たちは敬意を表しオリジナルメンバー、「オリメン」と呼んでいた。彼女たちのすぐ後に組織に
入った「詐術師」こと矢口真里は時に自らのことを「オリメン」と嘯いたが、彼女程度では到底届かない高みがその称号にはあっ
たと言っても過言では無かった。

454名無しリゾナント:2016/04/29(金) 22:32:10
その称号に恥じない実力が今、形となって里沙を締め付け、そして縛り上げる。
精神の糸は容赦なく里沙の心を縛り、引き千切ろうとしていた。
それでも。

「こんなところで…あたしは…安倍さんを…安倍さんを助けるんだ!!」

強い意志が、叫び声となって放たれたのと。

「…もういいよ、『福ちゃん』」

柔らかな、春の日差しのような声が響くのは、同時だった。

精神の触手が、一斉に引き上げられる。
それとともに、「明日香」は掠れるように実体を失い、そして消えていった。
「明日香」と入れ替わるように。声の主は姿を現す。

白い世界に溶け込むような、白のワンピース。
その人の周りにだけ、さきほどの声と同じような、暖かな光が溢れているような雰囲気。

「『福ちゃん』がなっちの、『ガーディアン』だったんだねえ。こうなるまで、知らなかった」

「ガーディアン」。
高次能力者の精神世界において具現化されるという、世界の主を守護する存在。
かつて里沙がダークネスに所属していた時。上司の「鋼脚」の力を借りてとある能力者の精神世界に侵入した際に、中枢にて行く
手を阻んだのが、まさしく「ガーディアン」であった。ということは。ここは、精神世界の中枢であり。
目の前にいる人物は。呼吸が、意図せずに矢継ぎ早になってゆく。

栗色の、肩にかかるかかからないかの髪。
屈託のない笑顔。すべてが、里沙のよく知る彼女のままだった。

455名無しリゾナント:2016/04/29(金) 22:51:01
「待ってたよ、ガキさん」

ずっと、ずっと聞きたかった声。
そしてずっと、会いたかった。
深々と雪が降り積もる、聖夜の惨劇。あの悪夢のような事件を経てなお。いや、より一層。
多くの仲間が傷つき、リゾナントを去ることになってしまったにも関わらず。
心は、ずっと彼女を求めていた。

「あ、安倍…さん…」

今、目の前にいるなつみが現実なのか幻なのか。
それ以前に、今自分がどこにいるのかすらわからない。
それほど里沙の心は、激しく揺れていた。感情が、溢れそうになるのをただ堪えることしかできずにいた。

なつみが、里沙の目の前までやってくる。
そして、小さな体を、両手を思い切り広げて。
里沙を、抱きしめた。

「今までよく、がんばったね。なっち、ずっと見てたよ」
「そ、そんなことされたら…もう…なんでこう…」

普段は涙なんて、絶対に誰にも見せないのに。
どうしてこう、精神世界というものは自分の魂を剥きだしにしてしまうのだろう。
かつて親友の心の中で、堰を切ってしまった時と同じく。

里沙は、声を上げて泣いた。
まるで、なつみにあやされるのを求めるかのように。

456名無しリゾナント:2016/04/29(金) 22:58:05


どれほどの時が経っただろうか。
精神世界は現実の世界とは時の流れを異なものにする。
ただ、それほど悠長なことを言っている場合でもない。
里沙はようやく己の感情を収め、それからなつみと今一度、向き合った。

「安倍さん…これまでの経緯を説明していただけると、助かります」

里沙がここまでの危険を冒してなつみの精神世界にダイブした理由。
それは、なつみを救うために他ならない。ゆえに暴走とも言うべき今のなつみの状況を把握しておくことは、絶対不可欠であった。

なつみは、ゆっくりと、今まで自らの身に起こったことを語り出す。

ダークネスのやり方に異を唱え、自らの力を組織のために使うことを拒否したなつみを待っていたのは。
Dr.マルシェこと紺野あさ美の主導する「薬物による別人格の抽出」、そのための人体実験だった。
薬の強制的な投与により、日増しに自らの「闇」が深くなってゆくのを恐れたなつみは、ついにダークネスの居城を抜け出し里沙に
会うことを決意した。
しかし、その脱走劇さえも紺野の計画のうち。まんまと罠に嵌ったなつみは、喫茶リゾナントにおいて「聖夜の惨劇」を引き起こす。
紺野による野外実験の結果、なつみは表人格の面と破壊の権化とも言うべき別側面という、まるで異なる性質を不規則に繰り返す
ようになった。そうしたなつみの危険性を鑑み建設されたのが、「天使の檻」と名付けられたなつみのためだけに作られた隔離施設
だった。

ところが。
なつみの表の人格と、破滅的な力を振るう虚無の人格を融合させようと、警察機構の対能力者部隊の責任者であるつんくが動き
出す。かつてダークネスの科学部門の統括であった彼にとって、「天使の檻」のセキュリティはほぼ無力。まんまとなつみと接触し、
そして彼の開発した薬を強制的に服用させた。

「でもね。そんなつんくさんでも、読めないことがあった」

457名無しリゾナント:2016/04/29(金) 23:05:14
紺野は。
つんくが機を窺いそのような行動に出ることを予測していた。
そして最後の砦として、なつみに「本当の最後の切り札」を仕掛けたのだ。
つまり。何者かがなつみの人格に関わるような薬理的作用を施した時。虚無の人格がなつみのすべてを支配し、表人格を完全に隔離
してしまうという罠。
つんくはその罠にかかり、そして命を落とした。

「…つんくさんが」
「ガキさんも知っての通り、つんくさんは裕ちゃんが率いる組織の表も裏も知り尽くした人だけど。あの人にはそのこと以上の、罪
があったの」

現状を引き起こす最後の引き金を引いたのは、つんく。
そのことが、里沙に大きな衝撃をもたらしていた。
確かに、ダークネスの前身組織の礎を築き、そしてリゾナンター立ち上げにも関わっていたということは里沙も知っていた。また、
組織在籍時にはあまり聞こえのよくない実験もしていたということも、ダークネスの諜報機関に所属していたが故に把握していた。
つまり、現在の警察組織における能力者部隊を率いる正義の味方、などという人物ではないことを十分に理解してはいた。いたのだが。

「つんくさんの罪…って…」
「つんくさんは。能力者の卵をスカウトすると称して、幼い子供たちを警察とダークネス双方に引き渡していた。ガキさんは知って
るかわからないけど、数年前に矢口…『詐術師』がその子供たちを組織から掠め取った事件も、つんくさんが噛んでるはず」
「そんな!!」

里沙が感情を乱すのも当然の話。
以前リゾナンターを急襲した「ベリーズ」や「キュート」といった能力者集団は、元はと言えばつんくが各地から集めてきた子供た
ちだった。さらに、警察内の対能力者部隊を形成している「エッグ」もまた、つんくがスカウトしてきたという。とすれば、つんく
は自らが集めてきた人材を対立する集団同士に供給してきたと言うのか。

458名無しリゾナント:2016/04/29(金) 23:07:15
「だいたいそんなこと、何の目的で…!!」
「普通に考えれば、両者から利益を得るため。なんだろうけど、つんくさんの性格からしたらそれも違うと思う。あの人が何を目的
としてそんなことをしたのかはわからない。けど…」

言うか、言わないでおくべきか。
そんな風にも取れる表情を見せた後に、なつみは。

「つんくさんは、なっちに使った薬のプロトタイプを…リゾナンターの誰かに試していたのかもしれない」
「!!」

まさか、つんくがそこまでやる人間だったとは。
それに、一体誰をそのような薬のモルモットにしたというのか。
いや、一人だけ思い当たる人物がいる。なつみと同じように、自分の中にもう一人の人格を内包している人間を。

「まさか!さゆみんが!?」
「たぶん。ほんとにごめんね。なっちのせいで…」
「いや!そうじゃないです!!」
「いいんだよ」

なつみはそう言ったきり、俯いてしまう。
だが、里沙には伝わる。なつみの精神世界に足を踏み入れた里沙には、はっきりとなつみの声が聞こえる。

― なっちが、みんなを傷つけた事実は…変わらないから ―

「でも!それはあさ美ちゃんが!つんくさんが!!」

里沙はなつみの言葉を、必死に否定する。
確かに「銀翼の天使」は、あの日あの時に里沙の仲間たちを無残にも蹂躙した。結果、絵里はいつ目覚めるともわからない昏睡に落ち、
小春や愛佳は能力を失い、そしてリンリンとジュンジュンは祖国へ帰ることになってしまった。
「天使の檻」で起こった出来事に関しても、また然りだ。
それでも、そのことはなつみが意図してやったものではない。つんくと紺野という二人のマッドサイエンティストの思惑の果てに起こ
ってしまった不幸な事故だったのだ。

459名無しリゾナント:2016/04/29(金) 23:10:26
「なっちの中にいるもう一人のなっちはね。きっと自分を取り巻いているすべての人やものが嫌になって、『ホワイトスノー』を生
み出したんだと思う。その気持ちは、わからなくもないかな。だって、あの子となっちは、おんなじ根っこだからさ。けど、それは
間違いだった」
「そんな…何を…」
「本当に消さなきゃいけないのは。なっち自身だったんだよね」
「やめてください、そんな、嫌だ」

さびしそうに微笑むその表情。声のトーン。
里沙は狼狽え、頭を振り、懇願する。そんな、馬鹿げたことは。
何故、なつみが消える必要があると言うのか。

「なっちは…ずっと昔に、親友だった子。『福ちゃん』の能力を、この手で奪ってしまった。しょうがなかった。そうするしかなか
った。正当化すればするほど心が苦しくなって。だから、決めたんだ。『やれないことは、なにもしない』って」

なつみの言葉で、里沙は組織にいた時に彼女の時折見せる儚げな笑顔の意味をようやく知る。
なつみはいつだって、組織の動向に対し消極的だった。異を唱える時も、あくまでも自分の意見は出すこともなく。それは、今彼女
の言ったことが大きく影響していたのだろう。

「でもね。そうじゃなかったんだよ。なっちが『やるべきことを、なにもしない』せいで、より多くの人を傷つけた。より多くの人
の命が奪われたのかもしれない。今…こういうことになって、それがやっとわかったんだよ」
「安倍さん…」
「きっと、なっちが存在してる限り。紺野が。悪意ある人たちが。なっちを利用して、そしてもっと多くの人たちが苦しむことになる」
「そんな、そんなことないです!あたしが!安倍さんと力を合わせればきっと!!」

460名無しリゾナント:2016/04/29(金) 23:14:19
薄汚い、卑しい力と卑下されてきた、精神干渉の力。
しかしそれと同時に、里沙の力は今まで多くの人々を救ってきてもいた。
ハイジャックにより墜落しかけた機内では、偶然乗り合わせていた芸人を介して乗客の心を繋ぐことができた。
難病の子を抱えた母親の悲しき未来を、彼女の心に入り解きほぐすことで変えることができた。
そんな積み重ねや、仲間たちの支えが、やがて里沙自身の考えを変えてゆく。
この力は、人を救う道しるべにすることができる能力でもある。

だから、今は。
強い想いが、里沙の手をなつみへと差し伸べさせる。
しかし。

手に取ったはずのなつみの手は。
砂糖菓子のように儚く、脆く砕けてゆく。

「ガキさんの気持ちは、凄くうれしいんだ。けど。この世界を覆う『白い闇』はもう、なっちのことを蝕んでる」
「嘘だ!そんなことない!安倍さんは!安倍さんはあたしが助けるって!決めたのに!!」

受け入れられない。
認めることができない。
強く、叫ぶ。未来が、変えられるように。
けれど、あの日見た景色と同じ。
白く染められた空から、ふわり、ふわりと「雪」が降り始める。

「なっちね、もう決めたんだ。これ以上、誰のことも傷つけないって。もちろん、ガキさんのことも」
「あたしはどうでもいいんです!安倍さんが!安倍さんさえいてくれたら!!」
「…ふふ。ガキさんにも、できたんだね。ガキさんのことを慕ってくれる、後輩が」
「えっ」

光り輝く雪が、積もってゆく。
なつみの体だけを、掠め消し去りながら。
不意にかけられた言葉。里沙は思い出す。ただひたすらに自分についてきてくれる、たまに天邪鬼だけれども、まっすぐな瞳を。

461名無しリゾナント:2016/04/29(金) 23:19:44
その後輩が、窮地にいたら。
きっと自分は、その身を投げ出してでも救いに行くだろう。

「そんな…安倍さん…いやだよ…いやだよう…」

なつみの姿が、薄れてゆく。
おそらく今の自分の顔は、ぐしゃぐしゃなのだろう。
よくも衣梨奈に、「簡単に泣いちゃだめだよ」などと言えたものだ。
なつみを失いたくないという思いと、今の自分となつみを衣梨奈と自分へと置き換えてしまう思い。
その思いは矛盾することなく、里沙の心を駆け巡る。

「大丈夫だべ…どうしてもなっちと話したい時は、ほら…こうやって…」

消えてゆくなつみと同じように、やはり消えてゆく白い世界。
その中で、なつみは。自らの手首を口の前に持ってゆく。

見えないけれど、見える腕時計。

なつみと里沙が初めて出会った日。
父と母を亡くした里沙になつみが、不思議な腕時計型の通信機の話をした時の出来事が、鮮明に蘇る。
どこからどう見ても、手首に向かって独り言を言っている変な人にしか見えなかったが。真剣に通信機の向こうの「お母さん」と話
してみせるなつみを見ているうちに、知らない間に自分の心がほぐれてゆくのを感じていた。
そのことを話していた時のなつみは、まるで暖かな日差しのような笑顔を見せていた。

― この通信機があればね、いつでも。会いたい人と、話せるんだよ ―

そう、今まさに存在が消えゆくこの時に、見せているような笑顔を。

自らがこの世から消滅することを願った言霊は。
天使の温もりだけを残して、成就した。

462名無しリゾナント:2016/04/29(金) 23:22:16
>>452-461
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

463名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:06:07
>>452-461 の続きです



「は、はっ、な、な、なんだよこれはああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

溶ける。崩れる。剥がれ落ちる。
「金鴉」の体が、煙を立てて崩壊してゆく。
馬鹿な。10分にはまだ早すぎる。なのに、なぜこんなことに。
縋るような思いで相方のほうに目をやる。「煙鏡」は。

腹を抱えて、笑っていた。

「あああああああああああああいぼんてめえええええええええええええええ」

そこで、「金鴉」はようやく気付く。
自分が、「騙されていた」ことに。

「いやぁ、済まんなぁ。ちょっと時間間違えてもうたみたいや」
「ふふふふふふざざざざざざけけけけけけ」
「ま。そもそもうちの『鉄壁』でも、自分のオーバードーズは解除できひんかったけどな」
「はああああああああああああああああああああああ」

10分が限界など、真っ赤な嘘。
「鉄壁」で助けることができるというのも嘘だった。
最初から「金鴉」が助からないことを、「煙鏡」は知っていた。
いや、そうなるように自ら仕向けたのだ。

464名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:06:44
無意識のうちに、「金鴉」が自らのキャパシティーを超えて血液を服用するように。
それが勝利の、唯一の条件だと思い込ませるように。

「はあうああああああああああああああああああああ」

「金鴉」の顔が、目まぐるしく変化してゆく。
今まで擬態した人間の顔が同時に、多発的に浮かび上がり、そして消えてゆく。

形を、形を保たなければ。
「金鴉」は必死に自分の姿を脳裏に思い浮かべ、体を再構築しようとする。
だが。逆らえない。既に能力者の情報を限界以上に取り込んだことによる揺り戻しの力には。
それでも、この流れに従うわけにはいかない。
自分の。自分本来の姿を強くイメージすることで。形を。元の形を。
そこで、「金鴉」はようやく気付く。

本当の自分って、どんなんだっけ。

「擬態」を得意とする彼女は。彼女には。
元より本来の姿などないに等しかった。他者に姿を変え、そして能力すら変えてしまう。そして、元に戻る時に。
ほんの少しだけ、姿を変える前の自分とは違っていた。それが、何十、何百と繰り返されてゆく。
そのことに、気付かないはずはない。けれど。気付いてはいけなかった。

今ここにいる自分の存在さえも信じることができなければ、一体どこに足をつけて立てばいいのだろう。
何を拠り所にして生きていけばいいのだろう。わからない。わからない。わからなわからわかわかわわわわ

465名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:08:09
まるで、堰を切ったかのように。
手も、足も、筋肉も、骨すらも。ぐずぐずと音を立てて壊れ、腐り、流れ落ちる。やがて、頭だった塊を残し、
赤黒い液体の中に沈んでいった。

呆気に取られている春菜たちを尻目に。
「煙鏡」は、ゆっくりと赤黒い水たまりのほうへと降下してゆく。
心底汚らしいものを見るような目、それと、恨みがましく相手を見上げる目が合った。

「……」
「最後に言うとくわ。うちな。お前のこと…ほんまに嫌いやってん」

最早口も利けなくなった肉の塊に言いながら、「煙鏡」はそれに靴底を合わせ。
踏み潰す。
しんと静まり返った静寂に、鈍い音が低く響いた。

先程まで生きていた人間が、瞬く間に赤黒い液体に成り果てる。
燃え盛っていた命が、消えてしまう瞬間。
その場にいたリゾナンター全員の、魂が凍えてしまうような風が吹いた。

466名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:09:16
「ひ、ひどい…」

そして春菜からそんな一言が出るほどに。
「煙鏡」の行いには慈悲が無く、そして残酷だった。

「ひどい、やって? のんをこないな姿にしたんは、お前らやないか」

「煙鏡」は自らの行為をまるで悪びれないどころか、過酷な現実を突きつけた。
確かに、間接的に「金鴉」が自滅する原因を作ったのは自分たちだ。けれど、こんな結果を望んでいたわけではない。
抗議の思いは次々に言葉を迸らせる。

「うるせえ!ふざけんな!!」
「まさたちそんなことしてないもん!!」
「だいたい、こんな風になるように仕向けたのはあんたじゃないか!!」

香音が糾弾するのと。
「煙鏡」がいつもの高めの声を低くして言葉を発するのは同時。

「甘えたこと言うなや。うちらに牙剥いて、双方無事で済むと思うたんか。これは…殺し合いやで。もちろん、それは
うちとのんの間にも言えることやけどな」
「…少なくとも、私たちは殺し合いをしにきたんじゃありません!!」

結果はともかく。
きっと聖なら、同じことを言うだろう。春菜は、強く、そしてきっぱりと言い切った。
が。春菜の心はまったく「煙鏡」には届かない。

467名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:10:26
「おいそこの黒ゴボウ。お前は、うちの心に間接的に触れたはずや。せやから…もう知ってるやろ? うちが『コイツ』
んこと、どう思ってたか」

― うちは、こいつとは違う ―

それが、聖を通して春菜が受け取った断片的なメッセージだった。
にしても。それにしても。ここまで憎悪を滾らせるほどのものだったとは。

「さあて。お仲間もお目覚めのようやし。そろそろ『メインディッシュ』と行こうやないか」

「煙鏡」の言うように、「金鴉」に手ひどくやられていた衣梨奈や亜佑美も意識を戻しはじめていた。
しかし、戦うだけの力が残されてるとは到底言えない。

「その前に一つ、謝らなあかんことあんねや」
「は?今更お前が何を謝るってんだよ!」

思わせぶりな「煙鏡」に噛みつく、遥。
吠える子犬を往なすように手をやった「煙鏡」、刹那、その手のひらから電撃が迸る。

「うわああああっ!!」
「くどぅー!!」

敵の攻撃をまともに受け倒れる遥に、優樹が駆け寄る。
そこへ、今度は鋭い風のかまいたちが。足元を切られ、勢いのままに転倒する優樹。

468名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:11:38
「複数の能力を!?」
「お前ら知ってるか知らんかわからへんけど。うちらダークネスの幹部にはそれぞれ、誰にも明かせん『秘密』がある。
うちの能力は…ほんまは『鉄壁』とちゃうねん」

床に倒れつつ見上げるもの。膝をつき、動けないもの。
「煙鏡」の言葉は、リゾナンター全員を戦慄させた。

「うちの本当の能力は、一度見た相手の能力を。見ただけでコピーできる。『七色の鏡(ミラーオブザレインボー)』、
そういうこっちゃ」

高らかに笑い声を上げながら、漂う水の球体を出現させる「煙鏡」。
まさしく、倒れている里保の能力だ。

「そんな…そんなことが…」
「お望みとあらば、お前らの能力なんぞなんぼでも真似できるで? ま、全員分披露する前に…全員、あの世逝き
やろうけどな」

やっとの思いで「金鴉」を倒したのに。
里保を欠いた状態で、この敵に太刀打ちできるのか。
誰もが困惑と絶望に向き合う中。
ただ一人、「真実」を見つめているものがいた。

469名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:12:40


「天才」。
それが、彼女に与えられた最初の「二つ名」。
確かに、彼女はその名に相応しい活躍をしてみせた。
特に、悪魔の頭脳とも言うべき思考能力。標的を陥れ、知略の闇に葬り去る力は組織の上層部に賞賛されることになる。
しかし。それが彼女の欲するものに見合うものだったかと言えば。

違う。そうじゃない。
自分はもっと、評価されるべきだ。何故なら評価に相応しい才能の持ち主だから。
だが、現実に見合った評価がされているとはとても思えない。

― こいつらは、失敗作だ ―

遥か昔の記憶に残る声が、不吉な響きを持って囁いてくる。
うちが、失敗作やと? そんなはず、あらへん。
ではどうして。

答えはすぐに、導き出される。
「こいつ」のせいだ。この世に産み落とされた時から金魚の糞のようについてくる、不快な存在。
双子のようで、双子じゃない。そうだ。こんなやつと双子であってたまるか。
なぜなら自分は「天才」であり、「こいつ」は途方もないマヌケだから。
切りたい。切り離して、自由になりたい。
その思いを、組織の「首領」に訴えたこともあった。

― あかん。自分らは、二人でひとつのニコイチやからな ―

その言葉は、激しく彼女を苛立たせた。
ふざけるな。何故そのようなことを強制させられなければならないのだ。
「あいつ」と、あんな役立たずと死ぬまで離れられないなど、そんな理不尽なことがあってたまるものか。
彼女は決意する。
こうなったら、何が何でも独り立ちしてやろうと。
自分の影のようにくっついてくる「こいつ」さえ切り離せば、自分は真の「天才」として真っ当な評価を得られる。
そのためには、何だってやる。
彼女の血を吐き泥を啜る決意は、固まっていた。

470名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:13:56


「お前らも知っての通りや。うちとのん…『金鴉』は能力を扱う上で重要な精神力を共有しとった。逆に言えば、今はう
ち一人でその精神力を自由に使える」

言いながら、倒れている遥を指さし、さらなる電撃を振るう。
追い打ちをかけられた形になった遥は、びくっと大きく痙攣しそしてそのまま気を失ってしまった。

「そんな…あなたは『金鴉』と二人で一人のはず、一人きりでこんな力を使うなんて」
「うちが半人前扱いされてたんは、頭の悪いおまけがひっついてたせいや!」

今度は、氷。急激に冷やされた空気が白く煙る。
そして生成された氷柱が、春菜目がけて突き刺さる。
急所は免れたものの、鋭い氷の牙が肩と足の甲を深々と刺し貫いていた。
激しい痛みは、春菜の痛覚を限りなくゼロに近づける能力をもってしても決して消えはしない。

「さあ。次はどんな能力、見せたろか。ま、うちみたいな天才にできないことはないからな」

「煙鏡」の広げた両手から。
炎が。大岩が。風が。ありとあらゆる自然の力が。生み出されてゆく。
彼女の相方は、自らの体を犠牲にしてようやく複数の能力を扱うことができた。それなのに、目の前の相手はそのことを
軽々とやってのけている。そんな相手に、勝つことができるのか。

「大体や。うちがこないなヨゴレ仕事せなあかんのも、元はと言えばあの筋肉馬鹿がしくじったせいや。『蟲惑』ぶっ殺
せとは言うたけど、よりによって反感買う方法でやりおって…ほんま余計なことばかりしくさるわ」

リゾナンターを「力」で圧倒しているはずの「煙鏡」は。
激しく、苛立っていた。それこそ、過去の「金鴉」の失態を詰るほどに。
余計な足枷からようやく自由になれたというのに、何なのだ、この不快感は。
その理由は、程なくして明らかにされる。

471名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:15:41
「嘘つき」

意識のあるメンバーたちが顔を青くさせる中、その声が一際大きく響き渡る。

「…誰や。うちのこと嘘つき呼ばわりしたアホは」
「まーちゃんだよ!!」

叫んだ少女 ― 佐藤優樹 ― が、胸を張る。
先ほど「煙鏡」に斬られた足からは、痛々しいほどに血が流れていた。
それでも揺るがない心、揺るぎない意志。果たして、その言葉の意味は。

「何や…腹立つな。アホさ加減があの役立たずによう似てるわ」

そうか、うちの苛立ちの原因は、こいつか。
「煙鏡」は、一人平然と自分の前に立つ優樹にその原因を求めた。

「知らない!まーちゃんは、まーちゃんだ!!」
「さよか。さっさと死ねや、まー何とか」

声を張り上げる優樹に、鬱陶しげに掌を翳す「煙鏡」。
現れたいくつもの水球が、うねりながら優樹に向かって飛ぶ。
すると、不思議なことに。
凶暴な水の塊は、優樹に触れることなく消滅した。

472名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:16:47
「な、何やと?」
「だから言ったじゃん!お前は、うそつきだ!!」

明らかに、狼狽えた表情を見せ始めた「煙鏡」は。
身を低くし、床に手を添える。コンクリートを突き破り、現れたのは無数の人影。
ある者は片手が千切れかけ、ある者は腹を抉られ中の臓物が顔を覗かせ、そしてある者は顔の半分が欠けていた。
どこから呼び出されたのかはわからない。けれど、リゾナンターたちを取り囲んだのは紛れもなく、既に命を絶たれた亡
者たちだった。

「ははは、どや!死者を操る力や。うちの能力を一つ一つ披露しつつなぶり殺すつもりやったけど、気が変わったわ。う
ちのことを嘘つき呼ばわりしたお前が悪いんやで?」

虚ろな目をした亡者たちが、包囲網を狭めてゆく。
さくらさえ健在であれば、一瞬の隙をついて逃げ出すこともできるだろうが。
今戦えるメンバーでは、物理的に攻撃を凌ぐしかない。

「衣梨奈はピアノ線で防御するけん、亜佑美ちゃんはあのでっかい巨人で!」
「了解です生田さん!!」

戦闘態勢に入る衣梨奈と亜佑美。
しかし、優樹は二人の間に割って入る。

「優樹ちゃん!?」
「あゆみも、生田さんもあいつに騙されてる。そんなんじゃ、だめ」

いつも妙なことを言って周囲を困らせる優樹ではあるが。
こういう時の優樹の言うことは正しいのもまた、事実。

473名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:18:03
「うっさいクソガキ!ゾンビの餌食になってまえ!!」

号令代わりの叫び声とともに、優樹に向かって一斉に襲い掛かる亡者たち。
しかしその鋭い爪も。牙も。優樹の体を掠めることすら叶わずに、消えてゆく。まるで、最初から存在していな
かったかのように。
そこで「煙鏡」ははじめて、「ありえない」現実に気付く。

「う、嘘やろ…なんで、何でお前だけ」

失意は、その場に立つ気力さえ失わせる。
思わず膝をつく「煙鏡」。いや、そのことだけが原因ではない。

「嘘!嘘!全部ウソ!!お前の言ってることは、ぜーーーーーーーんぶ、ウソだぁ!!!!」
「や、やめろや!!それ以上は!!!!」

懇願空しく、「煙鏡」の呼び出した亡者たちはそれこそ煙のように、消えてなくなってしまった。
後に残るは、すっかり消耗しきった小さな少女のみ。

「よくわかりませんが。もしかして、『金鴉』さんがあなたの精神力を共有していたように。あなたも、『金鴉』
さんの体力を共有していたのでは?」

春菜の、鋭い一言。
もしそれが事実なら、「煙鏡」の急速なガス欠状態にも説明はつく。が。

474名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:18:39
「答える義務は…ないわぁ!!」

息も絶え絶えに叫び、「煙鏡」が何かを地面に投げつけた。
途端に溢れる、激しい光。

「せ、閃光弾!?」
「しまった!!!!」

すっかり油断していた。
閃光弾や煙幕のような道具は、強力な能力者は所持していないことが殆どだ。
何故なら、自らの能力があればそのようなものを使わずとも窮地を切り抜けることができるから。
その油断が、このような隙を作ってしまった。

さくらが起きていればまだしも。
突然の閃光に抗う術を持たないメンバーたちは、目を瞑らずにはいられない。
光がひとしきり退いた後には、既に「煙鏡」の姿はなかった。

「逃げられた!!」
「ちくしょう!はるの千里眼でも捉えられないなんて!!」
「あんなやつどうでもいい!それより、やっさんが!!!!」

「金鴉」に強烈な一撃を食らい倒れた里保のもとに、リゾナンターが集まる。

里保は、目を閉じて床に倒れている。
口からは、一筋の赤い血の跡が。
そして。

475名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:20:50
「…サイダー、いっぱい…しゅわしゅわ…ぽん…」

寝言。
どうやらただ、寝ているようだった。

「人騒がせな!!」
「でも、どうして無事で…」
「きっと、里保ちゃんに攻撃する前に『金鴉』の体は限界を迎えてたんだろうね」

香音の冷静な考察。
ともかく、里保の命には別状はなさそうだが。

「ひとまず、ここを出ましょう。譜久村さんたちの容態も気になります」

「金鴉」と「煙鏡」の撃退という一つの目的は果たした。
本来であれば無力化し身柄を拘束するのがベストではあったが、取り逃がしてしまったものは仕方がない。それ
に、あれだけの慌てぶりでは今すぐリベンジの為の何かを仕掛けるような余裕はないはず。
鉄骨の中に佇む巨大なロケットのことは気にかかるが、自分たちでどうこうできるような代物でもない。

「金鴉」によって荒らされた場所、今は静かな湖のような静寂を湛えている。
ただ、床にべっとりと広がる血とも肉ともつかないような液体が毀れ流れている。そのことだけが、この場所で
激戦が繰り広げられていたことを物語っていた。

「金鴉」は、死んだ。
それは、若きリゾナンターたちが経験した、最初の「戦闘による」能力者の死でもあった。
「煙鏡」の言うように、自分たちが望んでしたことではない、本意ではない結末であったとしても。結果的に
「金鴉」は死んでしまった。それだけは間違いない事実であり、少女たちの心に生涯に渡って焼き付けられる
であろう烙印だった。

それでも今は、その罪に膝を落とし蹲ることは許されない。
わずかに残された「煙鏡」の悪あがきの可能性に警戒しつつも、リゾナンターたちは地下のロケット格納スペ
ースから撤退を始めるのだった。

476名無しリゾナント:2016/04/30(土) 20:22:49
>>452-475
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

477名無しリゾナント:2016/04/30(土) 21:50:06
と思ったら1レスを残して規制されてしまいました
お手すきの方代理していただけるとありがたいです

478名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:02:09
こちらは番外編と言えば番外編なのですが
厳密に言えばhttp://www35.atwiki.jp/marcher/pages/1062.html のネタバラシ的な要素を含んでいます




「はーい、空いてますよ?どうぞ」

重厚な革張りの椅子に体を埋めつつ、部屋の主が促す。
扉を開けて入って来たのは、目に染みるような白のタキシード。

「おう、邪魔するで」
「ああ、いやいや、どうもお久しぶりです」

「煙鏡」は余所行きの笑顔を作り、軽く会釈をする。
対する来客者 ― つんく ― は、「煙鏡」の記憶と寸分違わずの砕けた対応。いつ見ても、胡散臭い。

「中澤に長いことお仕置きされてた言う話やけど、元気そうやな」
「そちらもお変わりなく…って敬語はここまでにしよ。今となっちゃ、あんたはうちらの『上の立場』でも何でも
ないんやからな。ざっくばらんにタメ語でいかしてもらおか」

ふと、現在の自分たちの立ち位置を思い出し、営業用の笑顔を引っ込める「煙鏡」。
今や自分はダークネスの幹部であり、目の前の相手は組織を抜けた何の関係もない中年である。そのこと
を強調するために敢えて、尊大な態度を取ることにした。

「…何や。俺の顔になんかついてるか?」
「はは、随分下品な顔に変えたみたいやけど、うちならあんたやってわかるわ。ま、座ってや。適当にお茶
でも出させたるから」

身なりや態度こそ記憶と一致しているものの、つんくの「顔」はとても同一人物とは思えないものであった。
ただ漂わせている胡散臭さは、本人であると納得させられるものがある。

479名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:03:39
おい、お客さんにお茶出しや。本場のアールグレイのやつやで。

社長室の外にいる事務員に聞こえるように、言う。
過去のしがらみはともかくとして。「煙鏡」はつんくが現在は警察機構の要職にいることを思い出してい
た。そんな人物が自分の元を訪れるということはすなわち、「もう戦いは、はじまっている」ということ。

「ずいぶん羽振りがええやないか」
「ああ、ぼちぼち儲けさせてもらってるわ。とは言っても前任のクソチビのシマ、そっくりそのまま貰ろ
ただけなんやけど。あいつも身内殺すようなマネせえへんかったら、こないな美味しいポジション失うこ
ともなかったのにな」

テーブルを挟み、「煙鏡」とつんくは相対する形となる。
組織から抜けたとは言え、目の前の人物が「煙鏡」のことをよく知っていた男であることには変わりない。
増してや、あの白衣の狸の師匠格的存在だったのなら猶更、警戒が必要だ。
もっとも、警戒するだけでは何も得ることはできない。おいしい情報を、いかに相手から引き出し自分の
利益とするか。

「なるほどな。矢口の後釜に入ったっちゅうわけか」
「アホ言え、あいつよりももっと稼いだるわ」
「おお、それは頼もしいな」
「せっかく娑婆に出たからには、腕の違いを見せ付けんとあかんやろ」

肚の探り合い。
「煙鏡」の最も得意とする分野ではあるが、そう簡単に相手も手の内を見せてはくれない。
搦め手が駄目となると。

480名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:04:53
「で、何の用や」

直球。
つんくがどうして、「敵」である自分の元へやって来たのか。
まずはそれを知る必要があった。

「俺も一応警察の人間やし。『組織』の現状がどうなってるか、気になってな」
「…なんでそんなんうちに聞くねや。ついこないだ戻ってきたばっかやぞ」

まだ本音を見せないか。
いや、組織について知りたがっているのは案外本気かもしれない。
「煙鏡」は、当たり障りのない範囲で情報を開示することにした。

「矢口さんと飯田さんと亜弥ちゃんは死んだわ。梨華ちゃんも半死半生。何でもリゾナンター、っちゅうや
つらのせいでそないなことになったらしいな。うちもよう知らんけど」
「…高橋の後輩たちか」
「せや、あのi914が率いてた連中や。今は代替わりしてるみたいやな。ま、そんなんどうでもええわ」

「煙鏡」が、苦い表情を作りつんくを一瞥する。
何が高橋の後輩たちか、や。自分、あの喫茶店を随分贔屓にしてるらしいやん。まったく白々しい。そう言
いたいのをぐっと飲み込み、つんくの次の言葉を待つ。

「そんな中。自分らが復帰したんは、組織にとったら渡りに船やったろうな」
「のんの奴はともかく、うちが帰ってけえへんかったらどないするつもりやったんやろ。美貴ちゃんも何や
おかしなことなっとるし、よっちゃんだけで孤軍奮闘してるみたいやで」
「ああ。吉澤のやつか。新人教育も兼務しとるみたいやし、めっちゃ忙しいやろな」
「って、知ってたんかい」

481名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:06:10
思わずそんな突込みが出てしまうのとともに。
「煙鏡」の心に、徐々に苛立ちの色がにじみ出る。話の内容に実がないのなら、いつまでもこの哀愁漂う
中年男と語らいを繰り広げている暇などないのだから。

「…うちに何の用で来たん?」

再び、ストレートに訊ねる。
しかしつんくの答えは。

「さっきも言うた通りや。組織の現状把握を踏まえた、顔見せ」
「は?ただの挨拶やって?そんなくだらない用事のためにわざわざ顔出しよったんか。はっ、弟子によう
似て食えないやっちゃ」
「はは、紺野のやつもええ感じになってるみたいやな」
「ええ、そうですそうです。あんたの弟子はあんたが見込んだ通りに立派に育ってますとも。底意地が悪
くて常に人をおちょくったような態度なんてソックリや!!」

ついに、溜まっていた怒りが爆発する。
もう心理戦はしまいや。こうなったら、とことん問い詰めたろうやないか。
苛立ちからかそれとも時間を惜しむからか。相手が望んでいることをこちらから敢えて口にすることにした。

「ところでほんまにそないな下らん挨拶しに来たん?大方あれや、うちらの動向探ろうと思て来たんやな
いか?」
「動向、と来たか。復帰して早速、動くつもりか」
「はっは、そんなん言えるわけないやん。何で部外者のお前なんかにうちの可憐な胸の内をオープンハ
ートせなあかんねん」

早速、ぶら下げた餌に反応したか。
内心、湧き上がる喜びを隠せない。さて、どうこいつを料理すべきか。
しかしつんくの次の一言は、浮足立った「煙鏡」に冷や水を浴びせる。

482名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:07:05
「久しぶりに『遊園地』にでも遊びに行くつもりか?」

遊園地、という思わせぶりな単語。
「煙鏡」は直感で理解する。こいつは、自分たちが「夢と光の国」で何をしようとしているか、知っている。

「何やと。お前その情報どこで手に入れた」
「ま、俺も色々情報網持ってるからな。よりええ取引をするためのな。例えば…中澤との取引、とかな」

つんくの言葉が、「煙鏡」の肝を冷やす。
冗談じゃない。目的を果たすことなく再びあの牢獄にぶち込まれたまるものか。

「ちょ、待てや。それはあかん。せや、こんなんはどうや。うちは今日、お前と会ったことは綺麗さっぱり
忘れたるわ。べ、別に取引のええ材料見つけたとか思ってへんで。最初から秘密にするつもりやったわ。そ
の代わり。うちとのんがこれからしようとしてる事も組織には内緒や」
「…ええで。別に俺も本気でそないなことしようなんて思ってへん。それに、お前らの目的は大体想像つくしな」

いつの間にか、追い詰めるつもりが追い詰められている。

「…ほう。何となく目的はわかる、やって?目的はほれ、ただの遊びや。それ以上もそれ以下もあらへん」
「目的は。せやな、不思議の国に囚われた少女を『救い出す』、とかな」

先程から、冷や汗がぬるりと背中を流れている。
こいつは。こいつは、どこまで知ってると言うのだ。

483名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:08:34
「は?お前何言うてるん?」
「けっこうイイ線いってると思うんやけどな。で、その少女を使って何をするか、や」
「ええわ。言うてみ」
「ええんか?」
「あいぼんさんは心が広いから、お前の話が厨二病丸出しの最終ファンタジーでも聞いたるわ…」

それまで、にやけ顔をしていたつんく。
その緩んだ表情が、驚くほど急激に鋭く。

「長い長い、牢獄生活。そんなものを与えた組織への、復讐」

ふざけるな。
何なんだ、こいつは。なぜそこまで、こちらの考えていることを言い当てられる。
確かこいつは能力者でもなんでもなかったはずなのに。
どうしてこの男は、こちらの手の内をまるで最初から知っているかのように話すのだ。
「煙鏡」の嘆きは、心の中でぐるぐると蜷局を撒き始めていた。

「は、はは。意外とええ線言ってるやないか。まあ外れやけど」
「そら残念。顔引き攣るくらいに、不正解やったんやなあ」
「べっ別に顔なんて引き攣らせてへんわ」
「そか。お肌の調子が悪いんやな。日本の米食うたら直るで」
「アホ。ドアホ。はぁ…聞いて損したわ。うちの貴重な時間返せ。ったくお前のつまらん妄想話でうちの毛
根細胞1万個くらい死んでもうた」

言葉ではおどけてはいるものの。
「煙鏡」は、1秒でも早くつんくとの会話を切り上げたかった。
これ以上この男と話をしてはいけない。それは経験則でもあり、本能でもあった。

484名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:10:56
「毛根細胞と言えば。うちの能力はなあ、「鉄壁」言うてな。自分の精神力の強さで、周りの事象を「拒否」
することで絶大な防御力を得ることができる。理論上は核ミサイルの直撃も防げるんやて。別にそんなんに
使うつもりもないし、ほんまに防げるとも思ってへんけど」
「ほう。俺も科学部門の統括やってたこともあるけど、凄い能力やな」
「チートな能力やな、今そんな顔してたで? ただな…」

思えば、こいつがここに来てから、自分は煮え湯を飲まされっぱなしである。
一矢くらいは、報いさせてもらうで。
そんな思いで、自らの能力について「煙鏡」は話し始める。
確かに目の前の相手は自分たちの「生みの親」ではあるが、保有能力について全容を把握しているわけでは
ない。その無知を、思い知らせてやる。そんな意図を込めつつ。

「ダークネスの幹部が全員能力を二重底にしてるのはお前も知ってるやろ」
「そやね」
「自分の能力をひけらかす馬鹿は早死にする。つまりはそういうこっちゃ。うちかて、ただぼけーっとあの
地下で隔離されてたわけと違うからな。乙女の言葉にささやかな嘘はつきものやで?まあ、お前に今更こん
な講釈垂れてもしゃあないか。 とにかく、精神めっちゃ使うから、こっちに来んねん。おかげで能力使う
た翌朝は枕元に抜け毛がべっとり…」
「若ハゲも大変やな…」
「って何言わすねん! 誰が若ハゲじゃ、やかましいボケ」

「煙鏡」の話には、2つの目的があった。
一つは、先ほどのように、自分の能力はあくまでもブラックボックスであり、つんくの知りえないものである
ということ。そのことを知らしめてやること。これは知を武器とするものにとっては屈辱以外の何物でもない。
もう一つは、こいつから早く「Alice」の話題を遠ざけること。
だったはずだが。

485名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:12:06
「『金鴉』と、『煙鏡』。古代の双子のような太陽神を模してつけられた二つ名か。まったく、ようできとる。金
の鴉は、己の光で自らの輪郭を変えてみせ、そして煙る鏡は。漂う煙で鏡を覆い隠す。か」
「おいお前…どういう意味や」
「さて。そろそろお暇させてもらうわ。せや、うちのとこで開発したリラクゼーション靴下の試供品、おいとくわ。
興味あるんやったら、安くさせてもらいまっせ」

「煙鏡」がつんくの言葉を訝しむ暇もなく。
つんくはソファから立ち上がり、帰る支度を始めた。
いかにも胡散臭そうな、靴下一式を机に残して。

「は?もう帰る?まさかお前、ハナからそのくっだらないもん売りつけるんが目的やったんか」
「ばれたか。うちんとこも、新薬作ったりせなあかんから、研究費が嵩むねん」
「しょうもな。余裕のよっちゃんってやつか」

高笑いを残しつつ立ち去ろうとするつんく。
それを、「煙鏡」が呼び止めた。

「あんたが何企んでるか知らんけど、これだけは言うとくわ。近いうちに組織の勢力図は塗り替えられるやろな…」
「不思議の国の少女、でか?」
「せやから、さっきの話とは関係ない言うてるやろ」
「そなの?ごめんね」
「うっさい、ひつこいわ。もうとっとと帰り」

おい、お客様がお帰りや。そこらへんに塩撒いとき。何やったらその胡散臭い男目がけて直接塩投げつけてもええ
ねんで。

どうにも調子が狂う。
やはりこの男は苦手だ。話していると、自分の知の指針が、狂ってしまう。

「自分、長いこと幽閉されてた割には時代に敏感やん。ツンデレ、っちゅうやつやろ?」
「ってまだお前おったんかい。今日は午後からうちも出かけるんや。どこへ何でお前に話せるわけないやろ。
いい加減にしいや。あほ。ぼけなす。出てけ出てけ。その下品な顔二度と見せるなや」

486名無しリゾナント:2016/05/01(日) 13:13:53
>>478-485
『リゾナンター爻(シャオ)』番外編 「Answer」 了

487名無しリゾナント:2016/05/05(木) 22:41:50
「いててて・・・ちくしょう、あの小生物が!今度あったら、ボスに献上なんてしないでおいらのサンドバックにしてやる」
草原で目を覚ましたのはすでに眩しい太陽が頭上に現れることになっていた
アフリカの大地で無防備な状態で倒れていたというにも関わらず危険な肉食獣に襲われなかったのは幸運なことだった
「ああ、ちくしょう、リゾナンターも逃げてしまったし。まあ、おいらを恐れて撤退したんだろ
 命拾いだな、リゾナンター。キャハハハ。しかし、おいらの部下たちはどこにいったんだ?」

改めて視界のいい草原を見渡したもの、矢口の都合のいい黒ずくめの男達は一人もみあたらなかった
「おかしいな?転送装置はおいらが預かっているのに。ここにあるよな??
 しっかし、あついな・・・ま、いいやあいつらの代わりなんていくらでもいるし
 帰って冷たいビールでも飲むか。キンキンに冷やして、こう、喉元をくぅーっと潤して・・・!! 誰だ」
誰かに視られている、そう感じた詐術師は慌てて戦闘態勢を整えた
丈の低い叢に隠れているのであろう、人一倍空気を読むのが得意であった詐術師は誰かの臭いを感じていた

「ありゃりゃ、さすが詐術師さんですね。こっそり叢に隠れるようにしていたんですが。mistakeでしたね」
あっさりと姿を現した女を詐術師は知らなかった
「・・・誰だ?おまえ、おいらのことを知っているということは敵、のようだが」
素朴そうな肌の白い少女は特徴的な舌を巻いたような声で返した
「敵、で構いませんよ。あなたの部下は私が拘束させていただきましたので、詐術師さん、あなたにも来ていただきます」
「リゾナンターか?きさまも?」
「Resonanntor??」
「まあ、なんでもいい、おいらと会ったことを後悔しな」

少女に向かい駆け出し、一気に距離を詰める
手にしたナイフで少女の腹部を目がけて切りつけようと振るった
しかし少女は特に動揺することもなく、数歩後ろに下がり、しゃがみこみ、詐術師の足元を崩そうと足を突き出した
詐術師も幹部の名に恥じない動きで足を跳ね上がり躱し、その勢いのまま回し蹴りの体制に入る
少女は両手を地面につよく叩きつけ、倒立の姿勢になり、そのまま一回転
詐術師の回し蹴りをはじき、勢いのまま後方へとバック転で距離を置く

488名無しリゾナント:2016/05/05(木) 22:42:56
「おまえ・・・何者だ?」
こんなやつ、データにないと思いながら、詐術師は息を整える
「ふふふ、、、名前は教えませんよ」
一方少女はまったく疲れている様子はない
「でも、本気でいきますよ」
指揮棒を振るうように両手を掲げると、周囲に砂埃が巻き上がった
砂埃だけではない詐術師が手にしていたナイフが手を離れ、宙に浮いた
ナイフだけではない、詐術師の隠していたピストルも、鉄球も浮いている
「Oh! ずいぶんとdangerousなもの隠していたのですね」
「ちっ、まあ、いいや。まだおいらには武器があるんだから
 これ?おまえの能力だろ。ナイフに鉄球にピストル、砂埃
 金属だけが宙に浮いているんだから、磁力を操るってところか?
 キャハハ・・・無駄だよ、おいらの前ではすべての能力は無に帰す!!『阻害』発動!!」
余裕綽々な表情で笑いながら少女の顔向かい指さした

しかし・・・鉄球が落ちない、砂埃がやまない、ナイフの刃が元の持ち主へと向かう

「な、なんだと?能力を封じたはずなのに?も、もしかして、お前、ダブル(能力者)か??」
余裕綽々な笑顔は少女に移っていた。アニメ声で少女は答えた
「W??なんのことですか?」
指揮者のように両手を振るい、ナイフを右へ左へと操る姿をみて、詐術師は焦りを感じていた
「こんなやつ、データに入っていない。まずいぞ、ボスに伝えないと」
ポケットに手を伸ばす詐術師を見て少女は慌ててナイフを詐術師に跳ばした
指先がボタンに触れるのが一瞬早く、詐術師は姿を消し、ナイフは何も無い空を斬った

「・・・逃してしまいました、か」
構えを解くと砂埃は止んだ。自身も砂埃に目をやられてしまい、眼をこすりながら叢へと歩を進めた
何も言わずにナップザックから通信機を取り出し、起動させる
『Sorry. I miss Ms tricker. 』
『OK, I know, I know. But you tried hard, Chelsy.』
『Thanks, teacher.』     (まー修行番外編、『Chelsy』 episode0

489名無しリゾナント:2016/05/05(木) 23:01:03
>>
「Chelsy episode0」です。
おかしのチェルシーはCHELSEAが正しいスペルですが、code nameなのでChelsyにしました。
まー修行は完結。次はこっちを適当に書いていこうと思います。
まー修行を長い間読んでいただきありがとうございました。

490名無しリゾナント:2016/05/06(金) 23:34:47
転載ありがとうございます。
いや、単純にまー修行あげたし、一日に二作落とすのは14日しかもたないスレだからもったいないなって思っただけ。
もし、したらばで気づいた人いれば代理してくれるであろうし、そこは任せようかなっと。
別に深い意味はない(笑)

491名無しリゾナント:2016/05/07(土) 07:16:08
深読みし過ぎてしまったw

492名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:39:33


愛と里沙が作り上げた、光の鳥籠に里沙が突入してから。
愛は、その様子を固唾を呑み見守ることしかできずにいた。

「銀翼の天使」の精神世界へとサイコダイブしたのは間違いないが、そこでどのようなやり取りが繰り広げられて
いるかまでは愛には知りようがない。ただ一つだけ言えるのは精神世界における死は、肉体的な死となって能力
者に降りかかる。里沙に教えられたことだ。それでも、愛は信じていた。里沙が、無事で帰ってくることを。

不意に、鳥籠から光が溢れる。
天使が展開していた白き言霊、それらが、形を失いながら空中に溶けてゆく。
天使を天使たらしめていた、輝く翼もまた、消滅しようとしていた。
つまり。

「あぶないっ!!」

天駈ける翼を失ってしまえば、あとは落下するだけ。
「銀翼の天使」、いや、安倍なつみの身に何が起こったかはわからないが。
このまま地面に落下したら、無事で済むわけがない。

悪魔より授かりし黒き翼を尖らせ、ゆっくりと引力への抵抗を失ってゆくなつみのもとに飛んでゆく。
何とか間に合うか。だが、問題はそれほど単純では無かった。

493名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:40:54
「里沙ちゃん!?」

なつみとともにいるであろう里沙に声をかけようとした愛は、顔を青くする。
気を失っているらしき里沙は、なつみの後を追うように落ちてゆく。
どうして。その理由はすぐに判明する。里沙の体を支えているはずの黒い翼もまた、ぼろぼろと崩れはじめていた。

まさか、時間が来たのか!?

「黒翼の悪魔」が言っていた、タイムリミットが来てしまったのだろうか。
となると、自分の翼も危ない。いや、危機はもう迫ってきている。鋭い矢のように二人に向かい飛翔しているその
軌跡が、少しずつではあるが下へとずれ始めていた。

「こんな時に瞬間移動さえ使えたら!!」

思わず苛立ちが口に出る。
瞬間移動と精神感応の「二重能力者(デュアルアビリティ)」だった愛だが、自らの内包していたi914と呼ばれる
存在と意識を統合してからは、新たに光を操る能力者として生まれ変わった。瞬間移動能力は、もう使えない。

だが、そんなことを嘆いている場合ではない。
悩む暇があるなら、体を動かす。それは愛の信条でもあった。

失いつつあった推進力を振り絞り、何とか里沙のもとへは辿り着く。
だがそれだけでは駄目だ。なつみを、助けなければならない。ぐったりしている里沙を抱き寄せ、愛は地面に吸い
寄せられるように落下してゆく目標視界に入れる。愛たちも既に翼を失い、同じように落下していた。

494名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:42:02
このままいけば、三人ともアスファルトに叩き付けられて木端微塵。
そうならないためには、どうすればいいか。まずはなつみを捕まえなければならない。

終着地との距離は、すでに半分ほどに縮まっていた。もうあまり時間は無い。
そんな中、視界に飛び込んできたのはこの地に打ち据えられた頑丈そうな鉄塔。おそらく、「天使の檻」の通信機能
を担っていたものだろう。これを利用しない手は、ない。

残った力を振り絞り、手のひらから光を迸らせ、空に放つ。
普段は反動を抑え身を固めるが、思うままに放出した光の帯は愛の体を後方へと吹き飛ばした。だが、それでいい。
急速に近づいてくる太い鉄骨。愛は里沙を抱きしめたまま身を捻り、そして溜めた脚力で思い切り蹴りつけた。

衝突のインパクトが、骨を通じて強烈に伝わる。
ただ、痛みに怯んでなどいられない。自らの落ちてゆく軌道を、なつみのそれと重ねあわせて一直線に突き進む。
なつみと地面の距離、それと自身の距離。そのどれもが既に危険水域に達していた。一瞬の気の迷いが、最悪の結果
を生むことになりかねない。

風を斬り、空を裂く。
もしもなつみの身に何かあれば、里沙に顔向けなどできるはずがない。それは、里沙自身を失うことに等しかった。

里沙ちゃんの願いは、あーしの願い!!

目測距離、5メートル。

組織に居た頃、里沙はいつもなつみのことを愛に、自分のことのように誇らしく話していた。
時には姉のように、そして時には母のように。

目測距離、3メートル。

そして愛もまた、そんな里沙のことを微笑ましく見ていた。

1メートル。

だから絶対に。
里沙にとって希望の光でもある存在を奪わせては、いけない。

495名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:42:52
雲を掴む思いで必死に伸ばした愛の手が、ようやくなつみの手を捉える。
素早く引き寄せ、里沙とは逆の脇に抱えた。
だが、その時既にはアスファルトの粗い目までもがはっきりと見えるくらいに、地上に近づいていた。

どうする。
たっぷり加速のついた軌道はもはや変えようがない。
このまま地面に激突し惨めなミンチに姿を変えるのか。光の力で自らの身を覆えばあるいは。
いやだめだ。先ほどの軌道変更のために、力はあらたか絞り切ってしまった。自分自身ならまだしも、三人分を賄う
ほどの余力は愛には残されていない。

答えは最初から決まってる。
やらないで後悔するより、やって後悔したほうがいい。
限界のさらに先まで、生命エネルギーを光に変換する。自分はどうなったって構わない。なつみと、里沙が無事であ
るのなら。

愛が覚悟を決めた数秒後。
岩盤を抉り込むような重苦しい音が、遥か遠くまで響き渡った。

496名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:44:00


結果から言えば。
なつみも。そして里沙も。堅いアスファルトの上で、静かに横たわっている。
まったくの、無傷。なつみや里沙はもちろんのこと、愛にもかすり傷一つついていない。
光の加減、落下時のダメージ、当たり所。全てが幸運によってうまくいったとしても、これほどまでの成果が出せる
とは、いくら愛とは言え俄かには信じられなかった。

「なんやこれ…どうして…」

思わずそんな呟きが口をついてしまうほど、この状況は信じがたいものだった。
奇跡なのか。これは神が自分たちに気まぐれで与えた、人智を超えた奇跡なのか。

あれ…ちょっと…調…が…ああ、いけません…これ…の…

不意に、空から聞こえる声。
途切れ途切れではあるものの、愛には。
その神の声が、誰のものか瞬時に理解する。
降り注いだ奇跡に喜びさえ感じていた心は、急速に冷え切ってゆく。

「…あ、直った。あー、あー。聞こえますか。聞こえますか」
「あんたの声なら、嫌でも聞こえてるやよ」

姿なき声に、向けられる敵意。
愛は自然と、立ち上がった状態で戦闘態勢を作っていた。

「やだなあ。そんな顔しないでよ。せっかく『友達』のよしみで助けてあげたのに」
「いつもの慇懃無礼は口調はどうした。正直、虫唾が走るやよ」
「『友達』と話す時は、いつもこうだよ。愛ちゃん」

497名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:45:21
空を引き裂くように現れた、真っ黒な空間。
漆黒のスクリーンに徐々に色彩が加えられ、やがて愛の良く知っている人物が大写しになる。

「まさかあの状態から逆転勝利するなんてね。さすがは愛ちゃん、『最強のリゾナンター』の名は伊達じゃない」
「ドクター…マルシェ!!」

染みひとつない、真っ白な白衣。
それとは真逆の、自身の闇を現したかのような黒髪。
二つのまるで違う色彩は、狂気の頭脳により相克することなく存在している。
Dr.マルシェ。紺野あさ美は、眼鏡のレンズ越しに、愛を見下ろしていた。

「ただ、詰めは甘かったかな。駄目だよ、『遠足は家に帰るまでが遠足』って言うじゃないか」
「あーしらが無傷なのも、あんたの仕業か」

愛は、紺野の言葉で理由を察する。
おそらく、重力制御装置か何かを遠隔操作で使ったのだろうと。

「まあね。愛ちゃんやガキさんはもちろんのこと、安倍さん…『銀翼の天使』もこんなところで失うわけにはいかない」
「よくもそんなことを…あんたのせいで!絵里も!小春も!ジュンジュンやリンリンも!何よりガキさんの心もみんな
みんな…傷ついたんやろ!!!!」

我慢の限界だった。
どの口が自分たちを失うわけにはいかない、などという綺麗事を紡げると言うのだ。愛の感情はすでに、臨界点に達し
ようとしていた。

「そのことは、それなりに申し訳ないとは思ってる。けど、私にも『夢がある』んだよ」
「夢ってなんや!どうせ組織の幹部連中が嘯いてる『能力者たちのための理想社会』を作ることやろ!そんな下らない
ことのために、みんなが、みんなの想いが踏みにじられていいはずがない!!!」

愛の怒号が、空しく空に響く。
困ったような、諦めたような表情を浮かべた紺野は。

498名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:46:19
「愛ちゃんには教えるけど。私の夢は、そんなちっぽけなものじゃない」
「なっ!?」
「とにかく。今日は口論をしに姿を現したわけではないんですよ」

困惑する愛をよそに、紺野の口調はいつもの「叡智の集積」のものへと戻っていた。
すなわち、目的を遂行するための、態勢。

横たわるなつみを、漆黒の空間が覆い尽くす。
遥か遠方の地すらも目と鼻の先へと近づける、空間転移。ダークネスが誇る科学技術、「ゲート」。

「あんた!一体何を!!」
「『銀翼の天使』は返して貰います。彼女には、もう一働きしてもらわないといけないのでね」
「そんなことさせ…ぐうっ!」

攫われてゆくなつみを奪還しようと立ち上がろうとする愛を、尋常でない力が押し返す。
愛たちを救った重力制御装置が、今度は救いの手を阻もうとしていた。

「一連の戦いで力を使い果たしたあなたには、これを跳ね除けることは不可能なはず。それではごきげんよう。ガキ
さん…新垣里沙にもよろしく伝えておいてください」
「待て!待てやぁ!!!」

いくら四肢に力を入れようと、声を枯らして叫ぼうと、重力は決して緩まない。
愛には、ただ黙ってなつみが消えてゆくのを見ていることしかできなかった。

「くそっ!くっそおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

空に映し出された紺野の姿もまた、消えてゆく。
怨嗟と憤怒の叫び声も、それとともに空に彷徨いそして掻き消される。
後には、当てつけのように澄んだ青空しか、残らなかった。

499名無しリゾナント:2016/05/14(土) 16:49:49
>>492-498
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

500名無しリゾナント:2016/05/15(日) 12:43:14
>>492-498 の続きです



「『銀翼の天使』の、帰還を確認いたしました」
「状態は」
「意識レベルにおいては確認できませんが、目立った外傷はないようです」
「結構。すぐに、総合医務室に搬送をお願いします」
「はっ!!」

ダークネス本拠地。
「天使の檻」からの中継画像が消えてゆくのを眺めながら、紺野はゲート発生装置前に待機している構成員に指示
を出す。
装置は本来、紺野以外に操作できる人間はいないのだが、先ごろ開発した技術によりこうして紺野の私室からでも
遠隔操作が可能になっていた。

501名無しリゾナント:2016/05/15(日) 12:45:29
さて。あとは…「あの子たちの『帰還』」を迎え入れるだけですかね。

あと、少し。
あと少しで、紺野の思い描く計画の下準備は全て整う。
かつて巨大な電波塔にて実験した、拡散電波の威力。田中れいなから抽出した、共鳴能力。そして、「彼女」たち。
それらの欠けたピースを嵌め込めば。それもじき、手に入る。

「…さすがに無傷、というわけにもいかないんですね」
「あはっ。さすがこんこん。部屋を訪ねる人間には敏感だねえ」
「ここの人たちには、部屋のノックをするという習慣がないみたいですから」

背後に感じる、強い気配。
「黒翼の悪魔」は、体を壁に凭せ掛け、いかにも疲れましたといった表情を作っている。

いつもはシルクのような艶を持った金髪は、埃と汗と血に塗れ、金色の光をくすませていた。
戦闘服だよと嘯くチューブトップやミニスカートも、ところどころが破れ、裂かれている。それは彼女が先程まで
繰り広げていた戦闘の激しさを暗に物語っていた。

502名無しリゾナント:2016/05/15(日) 12:52:42
「任務、ご苦労様です。あなたの働きがなければ、『天使』の身柄はあちら側に移されていたかもしれません」
「だねえ。今頃裕ちゃんに詰められてるかも」
「ええ。想像するだけで、生きた心地がしませんよ。研究に没頭できるのはありがたいですが、異空間の牢獄には実
験器具を持ち込むわけにいきませんからね」

冗談はさておき。
そう言いつつ、回転椅子をモニターから反転させた。
紺野の目に、「悪魔」の姿が入る。

「それにしても、ずいぶんと満身創痍なんですね」
「しょうがないじゃん。『キッズ』やら『エッグ』やらとの交戦、なっちとの戦い。つんくさんが総力戦って銘打っ
てただけのことはあるねえ、うん」
「楽しそうでなにより」
「できれば、『まともな状態の』なっちと戦いたかったんだけどね。あとまあ、愛ちゃんやガキさんと一緒に戦うっ
てのも新鮮だったかな」
「ほう。もう、満足ですか?」
「まっさかぁ。ごとーを満足させるには、まだまだ足りないねえ」

言いながら、力こぶを作ってみせる「悪魔」。

「空元気もそこまで出せるなら、心配無用のようですね」
「確かに。早く部屋に帰ってさあ、モンハンの続きやりたいもん」
「…それでは、締めの仕事をお願いしますか」

そう来ると思ったよー、と肩を落としつつ。
「黒翼の悪魔」からは、ある種の力が漲ってくる。

503名無しリゾナント:2016/05/15(日) 12:54:06
「『黒翼の悪魔』さんにお願いしたいのは」
「わかってる。『あの子たち』の回収、でしょ」
「やけに乗り気じゃないですか。何か、それ以外の目的があるみたいですね」

是非聞かせてもらいたいものです、そう言う前に。
悪魔の姿は、既に部屋から消えていた。

気の早い人だ。
まだゲートの再起動もしていないと言うのに。

呆れつつも、紺野は「黒翼の悪魔」のために次の転送先を手元の端末装置に入力しはじめる。
自分と、ダークネスの幹部たちは果たして「同じ夢」を見ているのだろうか。
ある時の幹部会議での自分自身へのエクスキューズだ。
答えはある意味イエスで、ある意味ノーだ。そもそも、彼女たちは紺野の本来の目的など、知る由もない。

そして、目的の障害になる人間は悉く排除した。
まずは、目的を達する手段に異を唱えそうな「詐術師」。
さらに、紺野の目的をいずれは予知したであろう「不戦の守護者」。
「赤の粛清」や「黒の粛清」の暴走と敗北は想定の外ではあったが、いなくなって困るかと言えばそうでもない。

「金鴉」と「煙鏡」の敗北もすでに、紺野は把握していた。
このような形の幕引きはさすがに紺野も考えてはいなかったが、高橋愛の意志と力を引き継ぎし若きリゾナンターた
ちなら、乗り越えられない壁ではなかったのかもしれない。彼女たちにも、引き続き自分の演出する「舞台」に上が
ってもらうつもりだ。となれば、役者に力が伴っている方が都合がいい。

504名無しリゾナント:2016/05/15(日) 12:55:04
つんくは。
かつて紺野が師と仰いだ人物は。
持てる才覚をフルに使い、自らが演出していた「舞台」を盛り上げようとしていたように、紺野の目に映っ
ていた。
だが、彼は気付いていなかった。彼もまた、「舞台」を構成するただのいち役者に過ぎなかったことに。だ
から、志半ばで「舞台」を降りることになるのだ。今回のつんくの失態を、紺野はそう分析していた。

だが、紺野は自分自身を舞台のいち役者。ゲーム盤の「駒」に過ぎないことを自覚していた。
逆に言えば、「駒」だからできること。「駒」にしかできないことも、理解している。

最良の一手(チェックメイト)は、すぐそこだ。

505名無しリゾナント:2016/05/15(日) 12:55:44
>>500-504
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

506名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:22:02
>>500-504 の続きです



くそ…最悪や。

「煙鏡」は、煌びやかな内装のエレベーターに身を預け、顔を顰める。

まさかうちの力が…あないなクソガキに見破られるなんて…ああ、胸糞悪ぅ!

絶対の自信を誇っていた能力が。
少女の、佐藤優樹のたった一言で覆されてしまう。
あのまま撤退を決意していなかったら、優樹の強い想いはやがて仲間たちに伝わってしまっていた。
あのタイミングの撤退は、最悪の中でも最良の手段でもあった。

「煙鏡」の能力は、全ての脅威を寄せ付けない「鉄壁」でも。
増してや、一目見ただけでその能力を行使できる「七色の鏡」でもない。
彼女の能力の本質は、それこそ優樹が糾弾したように、「嘘」なのだ。

507名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:23:20
ただし、ただの「嘘」ではない。
対象の精神に働きかけ、決して消えることのない足枷を嵌めることのできる「嘘」だ。
言うなれば精神干渉の一種であり、新垣里沙が得意とする記憶の改竄に近いものではあるが。
里沙の能力よりもずっと限定的で、そのかわりに比較にならない強力な効力を持つ。

「嘘つき針鼠(ライアーヘッジホッグ)」、「煙鏡」は自らの能力を親しみを込めてそう呼んでいた。
この能力の特筆すべき点は二つ。一つは、自らに悪感情を抱く人間にだけその効力を発揮するという点。も
う一つはその感情が消えない限りは、その効力は半永久的に持続するという点だ。

「煙鏡」はこの力を使い、自ら宙に浮遊しているように見せ、さらには相手の攻撃を全て、外させた。認識
を誤魔化し、まるで見えない何かに攻撃を阻まれているのだと思い込ませながら。

向けられる悪感情を操るのに「煙鏡」のパーソナリティが大いに役立っているのも、彼女が優秀な「嘘つき
針鼠」となるまたとない条件であった。「煙鏡」の、子供のような外見とは裏腹の賢しい物言いは、対する
相手を必ずと言っていいほど苛立たせる。この時点で既に針鼠の嘘はその身に突き刺さっていると言えよう。

リゾナンター相手にも、その能力は遺憾なく発揮された。
特に彼女のパートナーである「金鴉」が圧倒的な暴力によって、リゾナンターたちの悪感情と恐怖を引き出
していたのも大きい。

ただ、無敵の様に思える能力にももちろん、弱点はある。
一つは、恐怖や悪感情すら抱かないバーサーカーのような状態の人間には針鼠の嘘は刺さらない。暴走状態
に陥った鞘師里保に「煙鏡」が恐れおののいたのはこの理由からである。
もう一つは、何かを信じて疑わないような、純粋な人物にもこの能力は効き辛い。どういう契機でそう思っ
たかはわからないが、一旦「煙鏡」の能力自体を疑ってしまった優樹の心を再びねじ伏せることはできなかった。

508名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:27:17
うちの、うちの精神力さえ保てば!!

歯軋りする思い、後悔。
結局最後は、「金鴉」と共有していた精神エネルギーが半減していたことでガス欠を起こしてしまう。すな
わち、その場にいる全員を騙し通せるほどの余力はなくなってしまっていた。非常用の閃光弾を携帯してい
なければ、どうなっていたか。
長年の監禁生活が微妙に影響したのかもしれない。リゾナンターとやる前に、ある程度の噛ませ犬とでもや
り合うべきだったのかもしれない。

とにかく、一時退避には成功した。
戦闘を続行せずに速やかに撤退したのは正解。おそらく、優樹一人の意見ではあの場にいた全員の認識を覆
すのは不可能だろう。しかも、意識を失っていたものもいた。期間を空けて襲撃すれば、間違いなく針鼠の
嘘は効果を発揮するだろう。邪魔な優樹は、前もって仕留めればいいだけの話だ。

エレベーターが、地上階に着いたことを知らせる電子音が聞こえる。
垂直ではなく、斜めに軌道を持つこのエレベーターは、施設の中心からはほど遠い場所に入口を構えていた。
リゾナンターたちが「煙鏡」たちを追跡時にこの場所を見つけられなかったことはもちろん、彼女たちに気
づかれることなくこの地を去ることにも役立つ、というわけだ。
元々はリヒトラウムの真のオーナーである堀内専用のエレベーターだという。お忍びで地下のロケット格納
庫を訪れるには都合のいい移動手段、とも言えた。

それにしても。あいつらを惑わす「偽の地図」くらいは後に残してもよかったかもな。

自らが消え去った後に、思わせぶりな地図を残しておけば。
もしかしたら逃走経路の地図だと勘違いし、地図の通りに動いてくれたかもしれない。
ただ今回は、そこに罠を張るまでの余裕はなかった。まあいい、それは今度会った時にでも使ってやろう。

そんなことを考えている間に。
高級感溢れる扉が、音もなくゆっくりと開かれる。
そこで、「煙鏡」は予想もしなかった人物と対面することとなった。

509名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:27:49
「あいぼん、お疲れ」
「な、なっ!!」

度肝を抜かれる、とはこのこと。
手に入れた情報では、こんなところにいるはずのない人間だった。

「ど、どないしたんや・・・ごっちん・・・」

「黒翼の悪魔」。
この地から遠く離れた「天使の檻」で、つんく率いる能力者集団と戦闘しているはずの悪魔が。
目の前に、立っていた。

「迎えに来たんだ」

髪は乱れ、体中のあちこちに黒い血糊がこびり付いていたが。
それでも「悪魔」は、満面の笑みを「煙鏡」に向けていた。

510名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:28:56


さっきまで昇っていた軌道を、今度はゆっくりと下ってゆく昇降機。

「…なんや。紺野の差し向けた『迎え』っちゅうことか」

不機嫌そうにぼやく「煙鏡」。

「うちはてっきり、教育係やったごっちんがうちのこと心配して来てくれたんやとばっかり…」

言いながら甘えた顔をしてみせると、当の「教育係」はふっ、と鼻で笑う仕草をする。
こうやって子供じみた態度を取っていると、誰もが「煙鏡」のことを侮る。それもまた、彼女の手口なのだが。

愚にもつかない言葉を重ねつつも、「煙鏡」はお得意の深慮遠謀を張り巡らせる。
まずは、紺野の懐刀である「黒翼の悪魔」がここに来た理由。
「煙鏡」の本来の目的 ― ダークネスの本拠地に「Alice」を打ち込む ― からすれば、「黒翼の悪魔」が
不在の粛清人に代わり「煙鏡」を粛清する目的でやって来たとしても、何ら不思議はない。
けれど、「黒翼の悪魔」が未だ組織にとっては行方不明扱いであるということ。さらに紺野が反逆者の粛清など
ということに執心するような人物ではない。

となると、どういう目的でこの地にやって来たのか。

511名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:30:17
「ま、うちみたいな脅威の頭脳の持ち主を、紺野が…いや、『組織』が放っておくわけないもんなあ。ごっ
ちんクラスの大物がお迎えに来たとしても不思議でもないんでもないか」

当然のことながら、自分ほどの人材をダークネスが手放すことなどありえない。
「鋼脚」の手のものが自分と「金鴉」の居場所を突き止め、さらにはリゾナンターたちと交戦していること
を知った。そこで紺野はその成果を真っ先に知るべく「黒翼の悪魔」を使いに出したのだろう。
そう、踏んでいた。

「で。その天才ちゃんは、リゾナンターとはどうだったのよ」
「ははは。あんなやつら、屁でもなかったわ。今回は色々あって見逃してやったけど、あないな連中、ダー
クネスが注目するような存在と違うわ。聞けば代替わりしてめっちゃ弱なった、って話やしな」
「ふうん、そうなんだ」

悪魔は納得してるのかしてないのか。
相変わらず読めない表情、そしてその口から。

「つーじーは、どうしたの?」

感情が読み取り辛いからこそ、こちらの心理が抉られる。
まさか、邪魔な存在だったからリゾナンターを利用して謀殺してやった、などとは口が裂けても言えない。
取りあえずは「下のフロアにいる」とだけ話し、それで来た道を戻ってきているわけだ。

「…まあ、百聞は一見にしかずや」

ここで饒舌になるのはまずい。
あくまでも、相方の死を悲しむ、そしてその事実が言えずにいる。そう、装わなければならない。
必要最低限の言葉を、選ばなければならない。

512名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:31:42
必然的に、沈黙が続く。
それでいい。そのことが、「金鴉」の死は避けては通れないものだったという演出に繋がる。
組織には必ず復讐してやる。だが、その前に尻尾を掴まれることだけは、あってはならい。

「ところでさ」

意外にも、静寂を破ったのは「黒翼の悪魔」だった。

「あいぼんたちさぁ、『Alice』に、何の用だったの?」

思わず、心の中で舌打ちした。
紺野と繋がってるからには、当然この場所がどういう意味を持つかも知っているだろう。「煙鏡」が新人の頃、
そして「悪魔」がその教育係を担っていた時から。ぼーっとした顔をしているくせに、時たま核心を突くこと
を聞いてくるのだ。

「たまたまや。あいつらがリヒトラウムに遊びに行ってることを知ってなあ。うちとのんで急襲かけたんや。
そしたら、ちょうどいい具合に隠し通路が見つかってん」
「とか何とか言って。『Alice』をダークネスの本拠地に向けて発射するつもりだったんじゃないの?」
「まさか!そんなんやったら、中澤さんに殺されるわ!!」

冗談めいた悪魔の口調に、全身で否定のポーズを取る「煙鏡」だが、内心は穏やかではない。

「そっか。でもまあ、疑われてもしょうがないシチュエーションだし、気をつけな」
「あ、ああ、肝に銘じとくわ」

悪魔に姿を見られてなければ、激しい勢いで睨み付けたことだろう。
うっさいぼけ、あのババアの操縦方法はうちがよう知っとるんや。子供らしく、無邪気に、そして傲慢に。
たまに甘えた顔もする。それだけで、あいつのガードは甘なるねん。知ったふうな口を利くなや、この力
だけのボンクラが。

513名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:33:03
ただ確かに、「黒翼の悪魔」の言うことも一理ある。
自分たちは、幹部殺しの罪で長年収監されていた要注意人物だ。それが、「Alice」の格納庫にいたとなれば、
よからぬ想像をする輩がいるかもしれない。

それを払拭するのが、これからの見せ所だ。
床に流れる、惨たらしい赤黒い液体。自分たちは「組織のために」リゾナンターと激しい戦いを繰り広げた。
結果、相方は命を落とし自らも何とか死地を抜けるのがやっとだった。そのことだけで、茨の視線を抑える
ことができる。

「…それよりごっちん。ずいぶん、ぼろぼろやん。どないしたん?」

もちろん理由は知っている。
「銀翼の天使」を奪いに来たつんく率いる能力者たちの相手をしたから。戒厳令が敷かれているダークネス
の中で、紺野が唯一自由に動かすことのできる駒は、「黒翼の悪魔」を置いて他にいない。
だが、下層につくまではまだ時間がある。暇つぶしにその話を聞くのもまた一興だろう。

「まあ、色々ね。でももう、回復してきたかな」

何の変哲もない、会話の返し。
だが、「煙鏡」はそうは取らなかった。
何故、今になって回復具合を確認している。何のために。それは。

突如出現してきた黒い槍が、深々と刺し貫く。
「煙鏡」の右頬の、わずか数センチ。「黒血」が生み出した漆黒の槍が、エレベーターの壁面に突き刺さっ
ていた。

「ご、ごっちん…どういう、つもりや」
「見ればわかるじゃん。あいぼん…死んでよ」

ふわりと笑う、その笑顔の影に今ははっきりと見て取れる。
確かな、殺意の形を。

514名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:34:21


「うちを…殺す? 冗談やろ。だって、さっきうちを『迎えに来た』言うてたやん」

尻を地につけ、「煙鏡」は信じられないといった表情で「黒翼の悪魔」を見上げる。

「冗談でもなんでもないってば。ごとーは、あいぼんを殺しにきたんだから。それに。迎えるのはあんたじ
ゃない。下にいるつーじーのほうだよ」
「な、何やて…」

少ない情報の中から、「煙鏡」は自らの置かれている状況について分析し、そして激しい怒りを覚える。
うちが殺される? さっきの「Alice」の質問が思わせぶりやなと思ってたら、やっぱりうちを粛清しに来
たんか!!
せやったら、何でうちが殺されてあいつが迎えられんねや!? こいつの言ってることはおかしいやろ!!

「う、うちが粛清されるんなら…あいつも…のんも同罪のはずや」
「少なくとも、こんこんはあんたよりつーじーのことを評価してたみたいだけど」

頭の血管がぷつぷつと切れるような感覚。
「煙鏡」の怒りは既に何周もその小さな体を駆け巡っていた。
あいつがうちより優秀やと?ふざけんなや!!こいつ、うちの教育係やと思って優しくしとったら!付け
上がりおって!
最早、公然と悪魔のことを睨み付けていた。

515名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:35:21
「なあ…うちを殺すんなら、もうちょっと待ってくれんか。のんがどこにいるか、知らへんのやろ…?」

まずは、時間を稼ぐ。
確かに目の前の人物は、「銀翼の天使」と双璧をなす組織の最強能力者。ではあるが、今は激戦を経てやっ
と戦える程度の回復具合。付け入る隙は、十分にある。そうでなくとも。

「駄目だね。あんたは、このエレベーターが格納庫に着く前に、殺す」

悪魔は、今、こちらに悪意を向けている。
「嘘つき針鼠」の能力を発動させる条件は、整った。
煙に巻かれて、鏡の放つ一撃に斃れるがいい。
「煙鏡」は、懐に忍ばせていたダガーナイフの位置を、頭の中で確認していた。

「黒翼の悪魔」は、自らの背後にいくつもの黒き刃を浮かび上がらせる。
なるほどこれでうちを串刺しにするつもりか。せやけど。
うちも、「能力」使えるくらいには体力、回復しとるんやぞ。うちのこと舐めたこと、後悔しながら死に晒せ。

「じゃあね。バイバイ、あいぼん」

命を奪う切っ先は、「煙鏡」を避けるように四方八方へと逸れてゆく。
それだけは、確実に起こる出来事。
そこから先は、懐のナイフだけが知っている。

ぶっ殺してやる。
あんなマヌケをうちの上に置いたこと、たっぷり後悔させてやる。
このナイフで心臓を一突きするのもいい。趣を凝らして、無限の加速度の往復でその頭を爆ぜさせるものいい。
さあ、刺し貫いて見せろ。

516名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:36:46
エレベーターが下層に到着する、電子音。
黒き悪魔の槍は一斉に「煙鏡」へ向け放たれ、そして小さな体を次々に刺し貫いた。
夥しい量の血が、悪趣味な内装に彩りを添える。

「な…?!」

悪夢でも見ているかのような、信じがたい光景。
だが、現実は四肢を貫く、気絶するような激しい痛みとなって襲い掛かる。

「がぁ!!!!なん…で、や!なんでうちに、騙されへんのやあぁあぁ!!!!!!!!!」

用を果たした黒血の槍は消滅し、解き放たれた「煙鏡」は両膝を付き悶え苦しむ。
「煙鏡」は俄かにはこの状況を受け入れることができなかった。体力を消耗しているとは言え、たった一人
の人間を、なぜ術中に嵌めることができない、と。

「ごとーはさ」

そんな中、「黒翼の悪魔」は、静かに口を開いた。
静かすぎるくらいに。

「あんたの顔を見た時からずっと…殺したくて殺したくてしょうがなかった」

激しすぎる、憎悪。
それが、自分の「嘘」を打ち消したとでも言うのか。
馬鹿な。ありえない。組織の反逆者を粛清する程度で、ここまでの憎悪を込めることなどできるものか。

517名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:42:25
「たかが…粛清ごときで、このうちを」
「あんたさあ、何か勘違いしてるよね。ごとーがあんたを殺すのは、組織のための粛清でも、こんこんに頼
まれた仕事だからでもないよ」
「は…?」

地にうつ伏せになっている「煙鏡」の、小さな頭。
そこに、ゆっくりと「悪魔」の靴底が押し付けられる。
これは。この形は。

「うちがのんにしたことと、同じことするつもりか!!」
「は?つーじーのことなんて知らないよ」
「くそっ!のんはな、うちが殺したんや!のんにどんな用事があったか知らへんけど残念やったなぁ!!」

相手の意図を理解し、意趣返しとばかりに元相方の殺害を高らかに宣言した。
これで精神が少しでも揺らげば、まだ「嘘つき針鼠」の嘘が突き刺さる可能性はある。
だが、「悪魔」は首を振る。そんなことはどうでもいいとばかりに。
そして、静かに、言った。

「あんた、いちーちゃんを殺したでしょ」

いちーちゃん。
言葉は耳に入ってきても、その意味はしばらく頭の中で形を成さない。
すぐ目の前まで迫ってきている死という現実に、意識が追い付かない。いや、それ以前に、なぜそれが悪魔
の憎悪の理由になるのかが、理解できない。

518名無しリゾナント:2016/05/16(月) 13:42:58
「イチイ…ああ、うちらがぶっ殺した、まぬけな…幹部」
「いちーちゃんは、ごとーの大切な人だった。それを、あんたたちが虫けらみたいに殺したんだよ」

かつて悪童たちが葬り去った「蟲の女王(インセクト・クイーン)」は。
悪魔の、組織内における教育係であった。そしてそれ以前に、心の拠り所となる存在だった。
そのことを、「煙鏡」が知らないはずがない。ただ、あまりにもその事実を軽視していた。

組織の最強能力者が、今は亡き、落ちぶれかけていた幹部職のことを今も心の裡に留めているなど。
想像だにしていなかった。

額に、顔全体に。
悪魔の全体重を乗せた、いや、それ以上の圧が掛かる。
このままでは、頭を潰されてしまう。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。それだけは、どうしても避けなければ。
渦巻く恐怖とそこから逃れるための方策が入れ替わり立ち替わり脳内を駆け巡る。

「ううううううちを殺す気か!このうちを!組織に有用なこの頭脳を!!」

そうだ。敵方を陥れるのに、これだけ優秀な頭脳が、能力が潰えていいはずがない。
実利という、実に判りやすい取引材料だが。

「あんた。そうやって命乞いしたいちーちゃんのこと…助けてくれた?」

無駄だった。復讐に心を奪われた人間に、理屈など通用するはずがない。
自らの能力が通用しないのと同様に。

深い絶望に覆われるとともに、目の前が暗くなる。
優秀な頭脳を自称した頭は、鈍い音を立てて爆ぜ、脳漿をまき散らした。

519名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:21:59
私は嵐 あなたは・・・なに?

★★★★★★

カランコロンと音を立ててドアが開き、制服姿の少女が飛び込んできた
「ただいま〜まさ、ジュース!」
カバンをカウンターに放り投げ、元気に手をあげて注文をする佐藤に道重は笑顔を向けた
「お帰り、まーちゃん。工藤もいらっしゃい。同じいいかな」
「こんにちは、道重さん、ありがとうございます。ほら、まーちゃんもお礼言って」
「ありがとうございます、みにしげさん」

奥の冷蔵庫から桃色と黄色の液体の入った容器を掲げてみせ、まさきちゃんはどっちがいいかな?と問いかける
オレンジ!!と元気な返事が返ってきて、譜久村は瓶のふたを開けてグラスに注いだ
お盆にのせたところで、ふと思い、コーヒーカップを二揃え加えた
サイフォンから零れるコポコポとした音と芳醇な香りが気持ちを安らげる
「道重さんもどうぞ。聖がいれました」
「あら、フクちゃん、ありがとう。うん、美味しいよ」
自分は砂糖をひと欠片カップに加えたのちに、口元に運んだ。熱さに舌をやられて、舌をだしたまま恥ずかし気に下を向いた

「ほらほら、そこどいて、どいて、私もせっかく自信作作ったんだから、食べてよね」
「あら、石田も作ったの?何かな、ロールパン?」
「え〜まさ、あんぱんがいいなう」
ストローで一気にジュースを飲み干した佐藤が足をぶらぶら振りながら不満げな顔で石田を見つめた
「はるはクロワッサンがよかったな」
「・・・なんでみんなパン限定なのかな?」
「・・・石田さんですから」
「はあ?小田ぁ、私だってホットケーキくらい作るんだよ!」
いつも通りの落ち着いた日常

520名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:23:19
「・・・ところでどうして生田さんは気持ちが沈んでおられるのですか?」
けだるそうに机に突っ伏している生田の向かいに小田が座った
普段なら「エリはそんなことないと!」と過剰演技気味に反応するのだが、今はぴくりとも動かない
「・・・生田さんの元気な姿、小田としては是非拝見したいところなのですが、昨日、リンリンさんから指導されましたので」

「え〜なになに?小田ちゃんはリンリンさんにダメだし食らってたわけ?」
にやにや笑いながら石田が飲んでいたコーヒーを机に置きながら、目を爛々と輝かせ、るんるんとしている
恋々とした思いにあふれた少女のような、姿を見て小田はカンカンになりそうだが、懇々と
心身を落ち着かせるように戒める
(・・・一晩中ジュンジュンさんに延々と淡々と抱かれていた方に怒ってはいけません)
そんな思いを知ってか知らずか、カンカンなのは佐藤だ。
「あゆみん、小田ちゃんにそんないじわるするなんて、まさ、あゆみん嫌いになるよ」
「確かに優樹ちゃんのいうとおりかもしれないですね。あゆみん、言い過ぎよ」
「うん、そうだよ。いいすぎだって」
同期として仲のよい三人に同時に攻められ、石田はじょ、冗談だよと大げさに手を振るいながらごまかす

「でも生田さんがこれほど静かなのもなんだか落ち着かないっすね」
コーラを片手に工藤が生田に近寄り、飲みますか?と言いながら、肩を叩くが生田は無反応
「生田らしくないんだろうね。新垣さんになにか言われたでもしたのかな?」
「え、ええ、そうなの香音ちゃん。実はね・・・」
譜久村が語りだそうとすると急に生田が起き上がり、ダメーっと大きな声を出した
「なに聖勝手に昨日のことをみんなに教えようとすると!!
 仲間っちゃけど、隠しておきたいことだってあるとよ。友達っちゃろ?
 昨日のことは聖の胸の中にだけしまって欲しいとよ!
 まだまだ半人前っていわれたとか、戦闘に向いていないとか、私を目標にしないでって新垣さんに言われたとか!」
鈴木がぽつりと「自分で言っちゃってるし」と呟き、聞こえないふりをしていた仲間たちの間に気まずい沈黙が走る

521名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:24:26
「そ、そういえば昨日、私、光井さんからとってもタメになるアドバイスをいただいたんですよ」
あわてて飯窪があえて場の空気を変えようと明るい口調で語りだした
「へえ〜愛佳がね。愛佳はやさしいし、とても頭がいいからね。それに後輩思いだしね。
 それで何を教えてもらったの?さゆみにも教えてくれる?」
「ええ、私の『感覚共有』、その本質、とは何かということについて考えていただきました。
 感覚とはそもそも、脳が認識する・・・光の反射を・・・微粒子の・・・」
「・・・うん、うん・・・脳の中の小人が・・・れーなのから揚げの味を・・・」

道重と話し込む飯窪は興奮した様子で昨日のことが充実していたものであったことを物語っていた
「はるなんがあんなに興奮しているなんて、何かきっかけになったのかもしれないね」
「うん、手帳にいろいろメモしていたよ。でも、香音には難しすぎて、何をいっているんだか??疲れていたから寝ちゃった
 なんだか、認識がどうこうとか、聴覚は空気の振動である、とか云々・・・ふわぁぁああ、また眠くなってきた」
鈴木がへこんだまま突っ伏している生田の頭の上に器用にメニュー表をのせる遊びをしながらあくびを噛み殺しもせずに堂々とみせた
あくびが移ったのだろう、石田も大きく口をあけてあくびをした
「ふ、ふぅわぁあああ・・・私も昨日は暖かかったからついつい寝てしまったよ」
「え?昨日はあんなに外が寒かったのにあゆみん何言っているの?」
石田はあわてて、こ、こっちの話しよ、とあわてて逃げ出した

「あれ?もうみんな着てるんだ」
そこにカランコロンと音を立てて鞘師が入ってきた
「・・・なんでえりぽんの上におてふきとお皿とグラスとコースターが置かれているの?」
「鞘師さん、こんにちは」「りほちゃん、おかえり」「りほりほ、ようこそなの」
遅れて、というが決してここに集まる約束をしていたわけではない
ただ、なんとなくこの店に来ることが日常になっているだけなのだが、遅れた、という感覚に自然となっているのだ
「それ?危ないよね?」
「大丈夫、生田は今、落ち込んでいるから」
「??」
事情を知らない鞘師には当然困惑の色が浮かんだが、触れてはいけない約束のように感じた

522名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:25:24
「道重さん、体調はもう大丈夫なんですか?」
昨日、泣き疲れて泥のように眠った姿を誰よりも知っている鞘師は道重が何よりも心配であった
高橋から道重の抱えていた重荷を知った鞘師には道重の顔色は決して良いように見えなかった
「あ、うん、大丈夫。ありがとうね、元気になったよ」
微笑んだ頬にうっすらと残るうつぶせで眠った痕に鞘師は安心したが、作り笑いに思えて仕方なかった
「そう、、、ですか」

「あれ?そういえば里保ちゃん、高橋さんはどうされたんですか?
 昨日、ここに泊まるっておっしゃってましたけど、どちらにもおられないんですよね」
「高橋さんはもう出かけたよ。道重さんを起こさないように気を付けようとしたんですが・・」
朝早く、こっそりと布団から抜け出し、足音を立てぬように移動する高橋だったが、鞘師はその気配に目覚めてしまった
鞘師が起きたことに気付いた高橋は声にださずに、いってきます、と伝えてみせた
「残念だな〜愛ちゃんに朝ごはん作ってほしかったのにな〜」
本当に残念そうに道重は石田のパンケーキに手を伸ばした
「うん、おいしいよ。石田、また料理上手くなったんじゃない?」
「ありがとうございます!!」

「鞘師さんも食べます?」
お皿を差し出した石田だったが、その時、全員に頭痛が走り、数秒の映像の欠片が飛び込んできた

タイルの上に散らばった無数の書類
宙に舞い、闇へと落ちていく工藤
緑色の炎に包まれうずくまる石田
掌に眼球を乗せて笑う飯窪
手首から血を流して虚ろな眼で刀を構える鞘師
そして、、、自らの首にナイフを当てる無表情な女、亀井絵里

「い、いまのは?」

523名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:26:14
「な、なにこの映像は?どうして?」
「こ、怖いよ・・・はる、落ちていってた」
「なんで私で笑っているの??」
「・・・」
鞘師は何もいわず、テーブルにおいた鞘に眼をむけた
(こ、これって??)
一方で他のメンバーの視線を痛いほどに道重は感じていた
何か言わなくてはならない重圧を感じ、ゆっくりと言葉を選びながら口を開く
「さゆみも初めてみたけれど・・・もしかしたら、これは未来の姿かもしれない」
「未来?」
「そう、愛佳が視える未来は断片的に写真のように飛び込んでくるって教えてくれた
 今視えたみんなの姿はどれくらい先のことかはわからないけれども、起こりうる未来なのかもね」

黙り込む一同、特に工藤と石田は明らかな危険な状況であったためひと際深刻な表情を浮かべている
(・・・高いところから落ちているよね??怪我しちゃうよ)
(炎に包まれて無事ってことはないよね?それよりもあの色の炎って・・・)

「・・・大事なことはそれがいつで、どこかっていうことでしょうか」
比較的精神的に強い小田は冷静に状況をまとめようとする
「・・・私には見覚えのない場所でしたが、室内でした。あとは書類でしたね」
「そうね、小田ちゃん。でも、どこかでえり、あの場所をみたことがあるような??」
「えりぽんも?みずきもなにか見覚えがあるんだよね」
何人かは見覚えがあるようだが、はっきりと思い出せないようでむず痒い感覚を抱いていた
それを打破したのはある意味意外な人物だった
「びょーいん」
「まーちゃん?」
「病院! まさ、いったことある!壁に見覚えある」
「まーちゃんが知ってる病院って一つしかないよね??」
脳裏に浮かぶのは全員が同じ病院であった
「そうよ、えりが入院していた病院」

524名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:53:54
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(13)です
間隔空きすぎですね。3人いなくなってもうた・・・
ズッキ笑顔をありがとう。君の活躍があるからね!

525名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:54:31
>>518 の続きです



いつからだろう。
自分の中に、「おねえちゃん」が存在するようになったのは。

さゆみは、自らの意識の中を漂い続けながら、そんなことを考えていた。

金鴉によって自分が「倒された」のは、よく覚えている。
愛する後輩たちを、守れなかった。押し寄せる後悔を消し去ったのは、それ以上に自分の無念はその後輩たちが必ず晴ら
してくれるという確信だった。彼女たちはもう、ただ守られるだけの存在ではない。小さな背中たちは、いつの間にか頼
もしい背中たちになっていた。そのことは、見守ってきたさゆみが一番良く知っていた。

自分の命は失われたのかもしれない。
とも思ったが、先ほど里保と思しき赤い意識と触れ合った感覚があった。
内容はよく覚えてはいないのだが、そこでさゆみは自分が「生きている」ことを確信する。
それは生と死を司る能力を持つさゆみならではの直観でもあった。

里保と「別れ」、再び取り留めもない意識の中へと沈み込むさゆみが考えていたのが、先ほどの疑問。
何故そんな疑問が生まれてきたのかはわからない。が。

気が付けば、側にいた存在。
リゾナンターに関わりのある人間は、彼女のことをさゆみの「姉人格」と定義づけた。
それはきっと、正しいのだろう。
それでも、さゆみはどこかで信じていた。

さえみは。
「おねえちゃん」は、本当のおねえちゃんなのだと。

526名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:55:28
― 確かに。かつて…あなたには、本当の姉がいた。 ―

「おねえちゃん?」

さゆみは、自らに問いかける声の主がさえみであることに気付く。
桃色を帯びた意識の雲の中で、さゆみが。そしてさえみが、形を成していった。

「こうして、お互いを認識するのははじめてね」
「そうだね…って、おねえちゃんって、こんな顔してたんだ」

さゆみは、初めて自らの中で具現化したさえみを見て驚く。
確かに自分に似てはいる。しかし、その肌の色はさゆみよりさらに白く、そして髪の色もさゆみとは違い栗色であった。

「あなたの目にそう映るなら…きっとそうなんでしょうね」
「それより…さっき言ったことって」
「ええ。あなたが生まれる前のこと。あなたには、生まれてすぐに亡くなってしまった『姉』がいたの」
「え…」

そんなこと、あの両親は一言も言ってくれなかった。
最も、さゆみの能力にだけご執心だった彼らにはどうでもいいことだったのだろうが。

「あなたは知らなくても、心のどこかで『姉』の存在を感じ取っていたのね。だから…私はさゆちゃんの中に『生み出さ
れた』んだと思う」

そうだ。
物心がついた頃にはすでに、さえみは存在していた。
最初は受け入れられなかった。自分の中に、別の誰かがいるなんて認めたくなかった。
けれど、紆余曲折があり最終的には現実を受け入れた。すると、心がすっと楽になったような気がして。
そこからは。
寂しい時。辛い時。いつもさゆみの中にはさえみがいて、時に励まし、時に慰めてくれた。
実の両親からは愛を与えられなくとも、さゆみが孤独に潰されることはなかった。

527名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:57:43
だが、さえみは自分が孤独から逃れるために作り出した想像の「おねえちゃん」で、本当はそんな存在はどこにもいなの
では。そう思った時もあった。だが。病院の屋上で亀井絵里に出会った時。

― へえ、素敵な「おねえちゃん」だねぇ 絵里も欲しいな。おねえちゃん ―

絵里と一緒に出かけた先に、高橋愛に出会った時。

― あんたの中には、「おねえちゃん」がおるんやね ―

彼女たちは、さえみの存在を受け入れてくれた。
れいな。小春。愛佳。ジュンジュン。リンリン。そして、里沙。リゾナンターの仲間たちも、決してさえみのことを一
笑に伏さなかった。そのことは、さえみが存在しているというさゆみの認識を、より強くさせた。

「でもおねえちゃん、急にどうして…」

言いかけたさゆみの言葉が、止まる。
さえみの姿は、ゆっくりと、けれど確実に形を失い始めていたからだ。

「そろそろ、お別れの時みたいね」
「う、嘘。どうして!どうしておねえちゃんが消えなくちゃいけないの!?」

取り乱すさゆみ。
だが、さえみは妹を優しく諭す。

「おそらく…あなたを助ける時に、わたしは力を使い果たしてしまった。私と言う存在はさゆちゃんの中から消えてしまう」

話しているそばから、さえみの姿が、声が、少しずつ消えてゆく。
なぜ、どうして。思い当たる節はひとつしかない。

528名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:58:55
「まさか…つんくさんの薬が」

― ただし、揺り戻しはきっついで? ―

任意に表人格と裏人格を入れ替えることができるという薬を渡された時に。
つんくは確かにそう言った。
揺り戻しとは何を意味するのか。わからないまま、その薬を服用し続けていた。
でも、まさかこれが、このことがそれを意味するなんて。

「つんくさんを恨んでは駄目よ。だって、こうやってさゆちゃんと同じ時を共有できるのは、間違いなくつんくさんの作
った薬のおかげなんだから。それに、私が消える理由は…それだけじゃない」

金鴉に胸を貫かれ、滅びの力を体内にねじ込まれた時。
さゆみは自らの命が消えてゆくのを感じていた。しかし、今、自分は生きている。
その理由が、まさか、さえみの力によるものだったとは。

「駄目なの!おねえちゃんが消えるなんて!そんな、そんなこと!! ねえ、何とかならないの?」

元の人格が一つとは言え、二人いるのだから何か回避策を思いつくはず。
そう思考を仕向けてみても、結果はわかっている。
証拠に、さえみが悲しげに首を横に振る。彼女の消滅は、最早避けようのない事実と化していた。

対象の生命活動を活発化させるという、さゆみの治癒の力を暴走させ、最終的に生命そのものを終焉に導く「滅びの力」。
だが、その恐ろしい力の印象とは裏腹に、さえみはあくまでも穏やかな、優しい人物であった。
さゆみの中で生み出されたせいか世間知らずなところもあり、さゆみの知らないところで愛や絵里と仲良くなっていたり、
里沙に失礼な態度を取ったりと問題がなかったわけではないが。

思えば思うほど、さえみとの思い出が甦る。
人も羨む大病院の娘として生まれながらも、両親の愛情に恵まれなかったさゆみにとって、さえみは「唯一の肉親」と言
っても差支えのない存在だった。それが、今、失われようとしている。

529名無しリゾナント:2016/05/28(土) 23:59:59
駄目だ。自分のためにさえみが犠牲になるなんて、耐えられない。そんなことになるくらいなら。
けれど、優しき姉はそのことすら既に読み取っていた。

「あなた。りほりほに言ったじゃない。『それ』もひっくるめて、自分自身なんだって。わたしが消えても、さゆみはき
っと、さゆみのまま。だから私は、安心して消えていける」
「やなの!やなの!おねえちゃんが消えるならさゆみも…」
「駄目よ。私が消えるから、さゆみは生きなさい」

さえみが、優しく微笑む。
けれどその言葉は力強く、さゆみの中で響く。まるで弱気な自分の背中を、押し出すように。

わた…が…きえ…ずっと…見…ま…も……

さえみの声が、姿とともに薄れてゆく。
何度も、何度も「姉」の名を呼ぶさゆみ。けれど、呼べば呼ぶほど形はおぼろげになっていって。
そこで、自分自身が光に包まれる感覚があった。
行かなければならないの。その声はさゆみのものなのか。さえみのものなのか。

もう、わからなかった。

530名無しリゾナント:2016/05/29(日) 00:03:21
>>525-529
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

ラス1のさえみさんの台詞は『Vanish!Ⅱ〜independent Girl〜』からの引用です

531名無しリゾナント:2016/06/03(金) 13:31:03
>>525-529 の続きです



ここは、社会の縮図だ。
ダークネスの首領・中澤裕子は自らの私室の奥にあるこの部屋に入るたび、そう実感する。
大小さまざまなモニターが裕子を取り囲み、そして一際大きな画面が、五つ。
現代日本を思いのままに操る妖怪たちの、支配系統がそこにはあった。

「また派手に暴れてくれたようだな」
「我が国最大級の娯楽施設であのような騒ぎなど」
「揉み消すのにどれだけの金と労力を費やしたのか、わかっているのか」
「しかも騒動の主はあの忌まわしき悪童どもらしいではないか」
「聞くところによるとリゾナンターに始末されたというが」
「それは喜ばしい。だが問題はそこではない」
「彼奴らが生きていようが死んでいようが、罪からは逃れられんぞ、中澤」
「わかっているのだろうな」

矢継ぎ早に、浴びせられる非難。罵倒。
ある者は、警察組織のご意見番として。ある者はマスコミを陰で操る重鎮として。その他の者たちも、この国を形成する
ありとあらゆる権力機構の上に立つものとして。いずれもその地位にいることで利益を貪り、肥え太ってきた怪老ばかり。
そのご老体たちが、思いつくままの呪詛を浴びせ続けていた。
折り込み済みではあるが、いつ聞いても耳の腐る思いしかない。
滲み出そうになる嫌悪感を、裕子はかろうじて抑えていた。

ふと、罵詈雑言の流れが収まる。
降臨したのだ。彼らを束ねる五人の長「ブラザーズ5」が。


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