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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part6

1名無しリゾナント:2015/05/27(水) 12:16:33
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第6弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

13名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:54:10
「『首領』も含めた組織の総意、ねえ。自分、いつからそんなに偉くなったん?」
「…盗み聞きですか。貴方ほどの地位の人間がすることとは、思えませんが」

組織の本拠地の、もっぱら一般構成員が使うような食堂。
そんな場所で科学部門を統括する立場の紺野が食事をしているのも珍しいが、組織の長が席について
いるとなると。
最早、異常事態である。

さすがに、周囲がざわめき立つ。
もちろん、名目上のトップはダークネスと称する黒頭巾で顔を覆った謎の人物である。故に一般の構
成員たちは「首領」がそのような立場にあることを知らない。ただ、かなり高位にある人物らしいこ
とは理解していた。

そもそも彼女の地位については、こうやって幹部の人間と対等以上の会話をしている時点で推して知
るべきだろう。
紺野に上から目線で話ができる人間など、組織にそうはいない。

「ま、あいつらに関してはうちも堪忍袋の緒が限界迎えてたんやけど」
「その気になれば、いくらでも代わりはいる。ということですか」
「あちらさんが『先生』んとこや『理事長』さんとこを選択肢に入れてるのと、同じくらいにはな」

言いながら、紺野が大事に切り分けていた芋のひと欠けを拾い上げ、口にする。
あっ…私のおいも、という紺野の名残惜しい呟きを無視し、

「それはともかく。『天使の檻』がえらいことになってんなぁ」

と本題を切り出した。

14名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:55:04
「ご存じでしたか」
「あないな派手なことしとったらうちでも気付くわ。あの人のやりそうなことやな」
「私の、師匠だった人ですからね。それ以前に、ダークネス。いや、さらに源流へと遡った…」
「昔話なんて、どうでもええ」

紺野の言葉を遮る「首領」。
そこには有無を言わさぬ凄みすら感じさせる。

「なっちは…『天使』は、絶対奪われたらあかん。それは、分かってるやろな」
「ええ。ですから、切り札を差し向けました」
「豪華な取り合わせだこと。あの人ならきっと『ロックやな!!』って歓喜するやろ」
「まあ、全てが終わったら、改めてご報告いたしますよ。例の二人組の件も含めてね」

「首領」が例の二人組、という言葉に反応する。
誰を指しているのか、言うまでもない。

「改めて聞くけど。それは必要なことなんやろうな?」
「ええ。避けては通れない道です」
「ほんなら、ええ。そっちの件は、もとより自分に任せてるしな」

空間が、音を立てて裂け始める。
まるで生きているかのように鋭い切り口を開いたと思ったら、「首領」ごと呑み込み、そして跡形も
なく消えてしまった。
あっという間の出来事だ。表情を窺い知ることはできない。だが、紺野にはわかる。
あの時、彼女は二人組に決断を下せなかった。それはおそらく今でも、変わらないはずだ。

「さて。時間まではもう少し、あるはずですね」

すっかり静かになってしまった食堂。
紺野は壁掛けの時計を見やると、再びゆっくり過ぎるランチの続きを始めた。

15名無しリゾナント:2015/06/04(木) 13:55:40
>>12-14
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

短くて恐縮です

16名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:30:06
「3名様、禁煙席ご案内です!!」
女性スタッフの明るく元気な声が響く店内
「たまにはこういうチェーン店も悪くないやろ?」
光井は空いたグラスをドリンクバーで横に並ぶ鈴木に渡しながら、優しく声をかける
「フフフ、なんだか楽しいんだろうね」
テーブルには先に席に通され、腰を下ろした飯窪の姿

「よいしょっと。さて、今日は二人ともお疲れ様やったな
 無事に帰ってきたことに乾杯!!」
光井がグラスをかかげると鈴木も満面の笑みで乾杯と続いたが、飯窪はかぼそい小さな声だった。
鈴木は一気に飲み干し、カランと氷がグラスの淵にあたり陽気な音を奏でた
「ふわぁ〜おいしかった!光井さん、料理も頼んでいいですか?」
「もちろんええで、がんばったったしな、二人とも。
いつもどおりにポテトとシーザーサラダ、そやな・・・飯窪もおるし、ピザも追加するわ」
テーブル端に置かれたボタンに手を伸ばそうとするが飯窪の反応がないことに気づき、顔を覗き込んだ

「なんや?飯窪?遠慮なんてせんでええんやで。
鞘師なんて愛佳と二人で食事いったとき、遠慮せんでバクバクたべて、愛佳の心臓がバクバクなったことあったんや」
「い、いえそうではないんですが・・・今日のことがあってどうしても元気にはなれなくて」
飯窪の言わんとすることは当然―今日のこと、亀井の襲撃についてだ
「私、何もできませんでした」
飯窪も鈴木も逃げることしかできなかった

「リゾナンターなのに逃げるのが精いっぱいでした、頑張ってなんかいないんです」
飯窪は俯いたまま、鈴木が後を受けるように語りだす
「もちろん、経験の差があるっていうのはわかってるんです。
 でも、私達だってそれなりに経験を積んできた、つもりでした。だからこそ・・・悔しくて」
光井はグラスを手に取り、何も言わずに喉を潤す
「もちろん私の力が戦いに向いていないことは私自身が一番分かっていますよ。
 感覚を繋ぐことで仲間のサポートに徹することしかできませんし・・・
 運動神経だって普通、いや普通以下なんですよね、リゾナンターなのに」

17名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:31:26
『感覚共有』、それが飯窪の能力
5感、即ち触覚、視覚、嗅覚、味覚、聴覚を対象間で共有させる能力でたる
自分が視たものを相手の視覚として重ねたり、相手が感じた臭いを自分でも感じられるようになる力
当然のことながら肉体的ダメージを相手に与えることなどできない

「ペットボトルのふたを開けられないくらいの力しか私はないんですよ
 普通の女の子、くらいの腕力しかなくて、足も遅くて、跳び箱も人並みにしか跳べません
 性格だって鞘師さんやあゆみんみたいに強気ではありませんし、頭だって勉強ができるわけでもないんです
 こんな自分だから、できないのが嫌でせめて個性だけでも磨いてきたつもりでした、でも何もできなくて」
「ここまではるなんが悔しいって感情を出すの珍しいね」
「そうなん?」
「はい、はるなんは道重さんの次に上だからですかね?あまり香音たちに弱音を吐かないんですよ
 ・・・まあ、陰では道重さんに相談しているのは知っているんですけど」
「!! どうして鈴木さん、知っているんですか?」
鈴木がにやにやと白い歯をのぞかせて笑った
「だってまさきちゃんが見たっていうんだもん、あの子は隠し事できないんだろうね」

そこにウエイトレスがサラダを持ってきた
鈴木は笑顔でありがとう、といって取り皿に均等にサラダを取り分け始めた。
「はるなんには言ったことなかったけど、時々私はこうやって光井さんに相談してるんだ」
「そうなんですか」
「うん、ほら、私だって里保ちゃんみたいに強くないし、生田みたいに我も強くないからさ。
 聖ちゃんのように前から体を鍛えていたってこともないし、普通にやってもおいてかれちゃうんだよね
 同じときに出会ったのにスタートが違うんだよ。でも、それは悔しくなかったし、むしろみんなが強くて誇らしかった」
半熟卵を器用に崩し、フォークでそれぞれの皿に移す
「だから、みんなに近づきたくて『透過能力』をどうすればいいのか、って光井さんに相談していたんだ
 水限定念動力とか精神破壊に比べて地味、というかどうすればいいのかわからなかったから」
鈴木はフォークの柄をつかみ、飯窪の目の高さに掲げた

18名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:32:16
「始めは香音だって自分の意思で好きなように透過させることもできなかったんだよ
 だから、失敗ばかりで怪我ばかりして、道重さんのお世話になってばっかりだったし。
 ほら、香音だって運動神経よくないじゃん。でも、いろいろと光井さんに特訓に付き合ってもらって」
そこまでいい、フォークを自分の左手の甲めがけて思いっきり振り下ろした
何も知らない周囲の目があったら、狂気としか思えないその行動だが、飯窪は動かなかった
だって、大丈夫だと信じていたから
「おかげで、ほらこんなこともできる」
フォークが左手を突き抜け、柄の部分が手の甲に、端が掌からとびぬけた

「もともと鈴木の力は不完全やった。ただ、『すりぬける』だけの能力
 それだけでも愛佳は十分やとおもっとったけどな。攪乱や潜入にはもってこいやからな。
 前線におるんがすべてではない、と何回も諭したんやけどな」
光井は鈴木の左手を通り抜けているフォークをつかんだ
「鈴木は自分から、力をつけたい、戦いたいっていうてきたんや
 今でも覚えているで、『りほちゃんのためにも強くなりたい』って泣きながらきたんや」

「そ、そうでしたっけ?」
「なに、とぼけとるんや?鞘師が大怪我して腰痛めて動けなくなって、それでもあきらめなかった姿をみて感化されたやろ?
 フクちゃんと生田と鞘師との4人での何回目かの戦闘でな。なんとか愛ちゃんが間にあったけど、4人ともぼろ雑巾や」
そのときの話を飯窪はしっかりと知らない。4人の誰に聞いても、曖昧にはぐらかされてしまうのだ
その話を当然のように口にしない・・・それほどそのときのことは4人にとって悔しかったはず

「道重さんはまあ、なんというか、当然、いうたらあかんけど、鞘師を一番に治しはったわ
 そんなときでも自分を見失わへん、いうのもすごいなあ」
光井は笑った。
「ハハハ・・・そ、そうですね」
飯窪は笑えなかった。
「ま、あのときの負けっぷりも今日のに近いやろなあ」
「・・・今日はあのときよりもひどいかもしれないです、光井さん
 でも、あの負けがあるから香音は強くなれたんですから、必要な経験でしたよ」
「そやな」

19名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:32:56
思いっきりフォークを引き抜いた
抵抗なくフォークは鈴木の体を通りぬけた。

「あの日から訓練して、香音は『透過能力』を自分の意思で完全にコントロールできるようになったんだ、はるなん
『通り抜けるもの』と『通り抜けられないもの』を選ぶこともできるから、透過能力で戦えるようになったし」

応用として、銃弾をすり抜け、相手の体だけすり抜けられないようにして、全体重をかけてタックルをかける
地面に潜り、足元に手を伸ばし、敵の陣形を崩す
「今の香音ならそれなりに戦えると思う。」
そして・・・誰にも話していない透過の可能性を鈴木はみつめるようになった

ただ、と光井はポテトをつまみながらつぶやいた
「ま、その分、失った部分はあるんやけどな」
そしてコーヒーを飲み、サラダを引き寄せ、何かに気づいたのか、壁側に少し動いた
「どういうことですか?」
「なんも、言葉のまんまや。鈴木の透過能力は『無意識に』『完全に』『なんでも』通りぬけることができた
 せやけど、訓練することで『頭で認識』してからでないと通り抜けられなくなった
 そこには『意識』するという発動までのタイムラグが生じることになった。せやから」

ガシャーーーン  「冷たいっっっ」

「とっさの出来事に反応できなくなってしまった」
ウエイトレスが転び、お盆に乗っていたグラスがこぼれ、鈴木のスカートの上にこぼれてしまった
すみません、すみません、といいながらあわててほかのウエイトレスがおしぼりを奥からとってくる

「昔やったら危険を察知した瞬間に力が発動されて、なにもおきへんかったやろうな」
「・・・いま、光井さん、予知して、逃げましたよね」
「そなの?ごめん」
妙にあっけらかんとした物言いで悪びれた様子もない

20名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:33:27
「それならば、光井さんはいつ、予知されたんですか?」
飯窪はそうたずねながら、濡れた鈴木のかばんを拭いている
「!! 確かに、そうなんだろうね。今の話だと矛盾していますよ、光井さん
香音の透過にタイムラグが生じるのならば、予知能力にも起こってもおかしくないんだろうね
 時間が何時何秒なんてわからないんだから、対応できないことだってあるんじゃないんですか?」
おしぼりでテーブルを拭きながら光井は顔を上げずに答える
「まあ、もちろん、何時何分おこるわかっとるものもあるけど、そうじゃないものが大半やな
 せやけど、何が起こっても大丈夫なように備えるだけや。予知能力の本質を知っとるか?」
「え?未来をみること、ではないんですか?」
「そや、それだけや。未来をみるだけ、変えたりする力はあらへん
 よく、未来は変えられるいうけど、それは正しくもあり、まちがいでもある」
「??」

「例えば列車の脱線事故、これを愛かが見たとする。それもいつの何時何分までわかっとる
 せやけど、それを現実におこさせんようにすることができるか。
 できへんことはない。せやけどそのためにとても時間がかかる
 所詮、愛佳はほぼ自分の行動しか変えられへん。事故を未然に防ぐようなことはほとんどできへんやろ
 結局、事故は起こる、せやけど愛かはその列車に乗らんことで、事故にあうことは防げる」
「それって」
「残酷なことや。たくさんの人が不幸な目にあうことわかっとっても、変えられへん
 できることはしてるで。せやけど、何も知らん人がいきなり『おたくの電車を調べてください』なんていわれて信じるか?
 まともな人間なら取り合ってくれへんやろうな、きっと。いたずらやろうって
 下手したら愛佳を犯人なんやろって疑うこともあるかもしれへん。とにかく、能力は万能やない
 何もできへんことやってある。せやから今日の二人が何もできへんからって凹む必要はあらへん」

その言葉に飯窪は救われた気がした。
何かしなくてはならない、チームの一人として果たさなくてはならない役割を考えていた
知らず知らずに自分に枷をはめてしまったのかもしれない
それを知ってかしらずか、光井は淡々と語る

21名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:34:59
「できることなんてほんの一握りしかあらへん。努力してもできへんもんはできんやろ
 せやけど、それでも努力することだけでも大事やと思うで
 練習せえへんでできへんことと練習してもできへんことは意味が違う、わかるやろ?」
「一回みたものはほぼ完ぺきにしないといけない、ですね」
「そや、ちゃんと練習してきたん?」
今日初めて3人とも笑い出した

「アハハ、そ、そういえば、光井さん、リンリンさんとジュンジュンさんに初めてお会いしたんですけど、お二人とも強いですね
 リンリンさんの中国拳法と炎のコンビネーション、ジュンジュンさんのパワーとスピード
 あの二人が光井さんと一緒に戦っていた仲間なんですよね」
「そや、リゾナントにきたんは愛佳がすこしだけ先やったけど、ほぼ同じくらいに仲間になったんや
 始めはぜんぜん反りもあわんくて、特にジュンジュンとは喧嘩してたな〜懐かしいわ」
過去を思い出し、光井がほんのりと笑う
「ジュンジュンさんと喧嘩とか香音からすると怖くてできないんだろうね」
「そうでもないで。べつに誰とでも正面からぶつかってきたんや
 愛ちゃんとだって愛か喧嘩したことあるし、田中さんとも・・・田中さんとはないかな」
ポテトに手を伸ばす

「喧嘩いうても手が出るわけでもあらへんし、まあ子供の喧嘩みたいなもんやな
 言いたい事言い合えるくらいやないと、パートナーとして信頼できへん、そう愛佳はおもっとる
 せやから、鈴木が生田とぶつかったり、佐藤が、特に工藤とぶつかっていることは心配してへん
 それは成長するために必要なことやから。自分を否定され、他人から攻撃される。
 人格形成の時期やから、刺激は多ければ多いほどがええ
 今日が昨日と同じ、そんなことはありえへん。気づかんうちに変わってるんや、良い方にも悪いほうにもな」
最後の部分はあえて聞こえないように小さな声でつぶやいたことを二人は知らない

「二人とも仲間を大切にしたほうがええで」
「「はい」」

22名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:35:39
「そういえばはるなん、なんで今日は自分からここに来たいっていったんだろうね?」
「え?あ、ああ、そういえばそうでしたね、私からお願いしたんでしたね
 でも、もう答えはでました。ありがとうございました、光井さん」
「ん?別に愛佳は何もしてへんで」
なにもわからない鈴木を残し、光井は思わせぶりに笑う

「せやけど、不要かもしれへんけど、もうひとつアドバイスや、飯窪。ほんまに聴きたかったんはこれやろ?
 愛佳がさっき言い切った、『愛佳なら鞘師に勝てる』の意味を」
「・・・気づいていましたか」
「当然や、鞘師も知りたいようやったけどな。あの時グラスが揺れたから、ショックやったんやろうな
 自信家の鞘師にしてみたら、先輩とはいえ非戦闘員の愛佳に負けるとは思うてへんやろうからな、失礼やけどな」
里保ちゃんらしいな、と鈴木は心の中で思う。

「鞘師は強い。それは認める。普通に戦ったら、強さだけなら今のリゾナンターで1,2を争っても仕方ない
 ただ、それはあくまでも普通に戦った場合にかぎる」
自身の頭をコツコツと叩いて見せる
「普通なら、や。幸いにも愛佳には未来が視えるときがある。
 自分に有利な場、状況を作ることがある程度はできるんや。
 それが愛佳の能力の『長所』になる。それを使わんのは勿体無いやろ?
 なあ、飯窪、その『感覚共有』、5感をつなぐ力やろ?視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を同じように感じさせる」
「は、はい」
「飯窪、それだけの感覚を支配できるっちゅうことやろ?愛佳なら・・・」


ガチャーーーーン

またウエイトレスが転んだようだ

「ゴメンナサーーーーイ」

23名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:36:21
★★★★★★

笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う、笑う

わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、わらう、

warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau、warau

waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru、waru

わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる、わる

悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪、悪

さあ、笑おう、悪とともに。キャハハハハハハハ・・・・

・・・カナ★

24名無しリゾナント:2015/06/11(木) 22:37:06
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(10)です
開始して一年たって、このペースの遅さ(笑)
ホゼナンターさんありがとうございます。
完結まで頑張って書くよ

ここまで代理お願いします。

25名無しリゾナント:2015/06/12(金) 06:38:36
代理投稿行ってきます!!

26名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:12:06
>>12-14 の続きです



一方的な殺戮。
一言で表すなら、それがもっとも相応しかった。
圧倒的な生命力と、身体能力。そして、本能のままに行動する狂暴性。
しかし科学の作り出した歪な命たちは、能力者たちの前に全くの無力だった。

「うおおおっ!!!」

「戦獣」の頭上に落とされる、鋼鉄よりも硬い両拳。
須藤茉麻の一撃が、鍛え上げられた獣を叩き潰す。まさに必殺。

その一方、徳永千奈美の見せた幻術により自分たちが断崖絶壁の縁にいると勘違いした獣たち。
必死の思いで深淵とは真逆へと逃げたつもりが、ある獣は骨まで焼き尽くされ、ある獣は芯まで凍
てつかされる。

「…大したことないね。『戦獣』も」
「ほんと」

退屈だとばかりにぼやく、炎の使い手である夏焼雅と、氷の剣士菅谷梨沙子。
その向こうでは、熊井友理奈が戯れに戦獣を浮かび上がらせ、地面に叩きつけていた。
浮力と、その後の超重力によって哀れな獣はお好み焼きのように体を平たくして絶命した。

27名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:13:26
「うわーくまいちょー残酷ぅ」

地獄絵図に似合わぬ嬌声。
これまた戦場向きではないフリフリのワンピースを着た嗣永桃子が、本気とも冗談ともつかぬトーンで揶揄する。

「桃に言われたくないよ」
「ねー。自分が一番残酷な事してるくせにさ」

原型を留めぬほどにどろどろに「腐食」した肉の山で、体をくねらせアイドルポーズ。
残酷である以上に、異様な光景ですらある。

「声うざい、小指立ってるのうざい、うんこヘアーうざい」
「はぁ!?これは、天使の羽!て・ん・し・の・は・ね!!」

ところが、周りの同僚たちから思わぬ反撃を食らった上に、チャームポイントに対する侮辱。絶妙な曲線を描く
独特な二つ結びを振り回し激昂する姿はまるで水牛だ。

「さすが、その名を轟かせた『セルシウス』と『スコアズビー』」
「私たちの出る幕はない、って感じっすよねー」
「戦獣の心読んでもさ、つまんないんだよね」

ベリーズとキュートが獣たちを屠る間、高みの見物でその健闘ぶりを称える三人。
能登有沙。吉川友。真野恵里菜。
その表情を素直に受け取るか、「新参者」たちの活躍にいい思いをしていないのかは定かではないが。

28名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:14:40
「二人とも、そんなんじゃ新人たちに示しがつかないよ」

有沙が、敷地の隅のほうで奮戦する一団を指す。
彼女たちは「ジュースジュース」、今回の討伐団の中で一際若いグループだ。

戦場で派手に踊る、赤と黒。
しかしその戦果は思ったほどでもなく。
頼りなさげなリーダーが指揮を執るも、効率がいいとは決して言えない。
猿のような金切り声をあげて、喧嘩を始める二人組。また、別の二人も何やら様子が変だ。よく見ると、片方が
もう片方の尻を蹴り上げ、高らかに笑っている。

「…新人としても、ひどくない?」
「まるで幼稚園ね」

あきれ返る、「サトリ」こと恵里菜。
初陣なのだろうか。そのたどたどしさが、ますます先輩組の凄さ、手際のよさを際立たせる。

「しかし不意打ちを狙ったとは言え、立ち塞がる壁がワンコロちゃんだけなんて。拍子抜け」

ベリキュー無双、とも言うべきワンサイドゲームを眺めるのも飽きたのか、空に向かって大あくびをかます友。
その口の動きが、時を止められたかのように止まった。
空が、割れたのだ。

ひび割れた青空からゆっくりと姿を現す、黄金の女性。
黄金と言っても、髪の色だけだが、彼女の姿を見たものは大抵。
その輝きを目に焼き付けながら、息絶える。

29名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:15:27
「やっぱ裕ちゃんの能力借りてた時のほうがよかったなー。『ゲート』は疲れるし」

ひとりの女が現れただけだというのに、場の空気はまるで変えられてしまっていた。
金色の闇が、覆い尽くしている。
ここにいる全員の喉元に刃が既に突きつけられているような。
自分が死ぬかもしれないというリアルな現実が、そこにあった。

「…『黒翼の悪魔』。行方不明だって聞いたけど」

清水佐紀は、ぱたぱたと翼をはためかせ宙に浮く魔人を見上げながら、苦く笑む。
戦慄。それは他のベリキューの面々の表情を見ても明らかだった。

そんな中、頭の悪そうな、いや怖いもの知らずの舞と千聖が。

「は?何あんなのにびびってんの?うける。まじうける」
「つーかさ、あのきもい羽ぶち抜いたら終わりじゃん。『悪魔』ぶっ殺したとか、すげー功績になるし」

恐いもの知らずと言えば聞こえはいいが、無鉄砲にも思えるその発言。
しかし言葉の次からの行動は、早かった。
半獣化した舞の背に跨った千聖が、空中に浮かぶ「黒翼の悪魔」目がけて念動弾を放つ。
尋常でない数の弾が、集中砲火という形で襲い掛かった。

やる気のなさそうな顔をして、ふわりふわりとそれを避け続ける悪魔。
しかしその動きは、緩い割に正確。つまり、少しも被弾してはいない。

30名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:16:30
「生意気なやつだなー。ちょっとくらい当たれっての」
「ま、うちらの本領発揮はこれからっしょ」

狂暴な角をひと振るい。
まるで駿馬のように、舞が雄大なストライドで駆け出す。

それを見た梨沙子が、氷の刀を一振りした。
千聖たちの目の前に現れた氷の階段、大きく螺旋を描きながら、羽ばたく悪魔のもとへと伸びてゆく。

「ん…」
「そのとぼけたツラ、すぐに青ざめさせてやるよ!!」

大量の弾幕を張りつつ、一気に階段を駆け昇る千聖と舞。
その先には、「黒翼の悪魔」が待ち受ける。

ふと、舞の腰のあたりに何かが乗っている感覚。
見ると、梨沙子が絶妙なバランスで立っていた。

「ちょ、りーちゃん!」
「階段だけ作らせるなんて、虫のいい話」
「梨沙子が乗ったら、舞の腰折れちゃう!!」

と言いつつも、見た目ほどの負荷はなく。
二人と一頭、ベリキュー連合軍がダークネス最強の喉元に刃を突きつけようとしていた。

舞の剛き角がいくつも枝分かれして、悪魔の周囲を取り囲む。
その隙間を縫うように、千聖がありったけの銃弾をばら撒いた。

31名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:18:17
ど派手な包囲網。
苦笑する「黒翼の悪魔」の頭上が、暗くなる。
氷の刃を携えた、梨沙子だった。

「…剣士、か」
「もらった!!」

弓なりに跳躍した梨沙子が、「黒翼の悪魔」を一刀両断しようと、刀を上段に構える。
防御の間に合わない、絶好の攻撃タイミング。誰の目からしても、そうとしか見えなかった。

「うそ…太刀筋が見えな…」

鮮血。
空に赤い花を咲かせたのは、梨沙子のほうだった。
力を失い、ゆっくりと崩れるように墜ちてゆく。

袈裟懸けに斬られた梨沙子、悪魔の握る黒身の長刀は彼女の血でぬらりと濡れていた。
鍔迫り合いさえ許さない、圧倒的実力差の前に。
呆気に取られる千聖と舞もまた、黒血の魔刀からは逃れられない。

張り巡らせた鹿角の包囲網は、一瞬にしてばらばらに切り落とされ。
あっという間に間合いを縮めた悪魔は、彼女たちを攻撃の射程圏に入れてしまう。

ひゅん、という軽い音が二人の耳に届いたその瞬間には。
全てが終わっていた。

32名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:19:14
「舞!千聖!!」

舞美が、叫ぶ。
悪魔の羽が貫いた二人は、梨沙子を追うように大地へと吸い込まれようとしていた。

「黒翼の悪魔」が翼を畳み、落ちてゆく三人を追うように急降下。
止めを刺すつもりなのだ。しかし、それを阻むは強靭な肉体。

「させないよっ!!」

友理奈の浮力によって、大空高く舞い上がった巨体。
茉麻は「黒翼の悪魔」をその両腕でがっちりとホールドする。

顔色一つ変えない悪魔。
試しに、黒い刀身を二度、三度打ち付けるも、茉麻の体には傷ひとつついていない。

「…『よろしくおねがいします。受かったらゆいたいです』なんて言ってた子が大きくなったねえ。ち
ょっと大きくなり過ぎだけど」
「はぁ?あんたなんかに会った覚えは…!!」

訝る茉麻の脳裏に、突如として甦る記憶。
彼女たち「キッズ」が生を受けてすぐのこと。幼い顔立ちを固くして、横一列に並ぶ子供たち。
その初々しい様子を慈しむように、金髪の少女が眠そうな顔で、目を細めていた。

懐かしき思い出は、断ち切られた両腕とともに。
剛体化した茉麻をあっさりと斬り伏せた悪魔は、次の標的を求めてついに地上へと降り立った。

33名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:19:47
瞬く間に、四人がやられた。
その事実が、この場にいる全員に重くのしかかる。
忍び寄る死の影が、死の吐息が、すぐそこまで来ていた。
本当にここから、生きて帰ることはできるのか。

ゆっくりと、集団に近づく「黒翼の悪魔」。
そんな彼女の体が、びくっと痙攣した。腹のあたりからは、輝く切っ先が。
翼と翼の真ん中、ちょうど腰に当たる部分を背後から貫くものがいた。

「この瞬間を、待っていた」

暗殺。
エッグでも有数の使い手である北原沙弥香。
彼女は、悪魔に気配すら悟られることなく、凶刃を突き立てる。

「ありゃ。気を抜きすぎたかな」

けれど、「黒翼の悪魔」は止まらない。
何もなかったように手に収まる黒刀を握りしめたかと思うと。
背後の沙弥香の腹を、寸分の狂いもなく突き刺し返す。

「がはっ!!」
「よいしょっと」

それでも得物を握りしめ離さない沙弥香、「黒翼の悪魔」は虫でも払うかのように。
持ち手を、蹴飛ばす。何度も。何度も。
重くへし折れる、嫌な音。ぐにゃぐにゃになった両腕が、力なく垂れ下がった。

34名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:20:19
「おいおい、ちょっとまずいんじゃないのこれ…」

手練れの能力者たちが、まるで赤子扱い。とてもではないが想定できた事態ではない。
事実に思考が追いつかず、顔を引き攣らせ半笑いの友。

「そうだねえ。じゃ、いっちょあたしが出ますか」
「は?」

ゆっくりと前に出るリーダーの有沙を見て、冗談だろと呟いた。

「エッグ」を結成してずいぶんの長い時が経つけれど。
友は。いや、エッグの誰一人、彼女の能力を見たことがない。
能力的には大したことはないが、統率力のみでリーダーに選ばれたのだ。
口さがなく、そう言い切るものもいたくらいだった。

そんな人間が、自分が出ると言う。
友でなくとも、耳を疑うのも当然の話であった。

一方。
沙弥香の腹筋に刺さった黒刀、しかしそれはなかなか抜けてくれない。
沙弥香が力を振り絞り、筋肉を収縮させているのだ。

「うざいなあ、それ、何の意味があるの?」

刀が封じられても、彼女には鋭い翼がある。
二つの翼が細長く伸び、第二第三の刀として沙弥香を切り刻む。
それでも彼女の強靭な腹筋は力を緩めない。

35名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:22:52
防御の間に合わない、絶好の攻撃タイミング。誰の目からしても、そうとしか見えなかった。

「命と引き換えにしてでも…暗殺を成、功させる…暗殺者とは、そう、いう、ものだ…」

その冷徹な表情をして「Noel(静かな聖夜)」と仇名される沙弥香。
命と引き換えに、の言葉に嘘偽りはなかった。

「うん。立派立派。でもそろそろ終わりにするね」

指揮棒のように、右に左にと沙弥香の体を引き裂いていた翼が、ついに沙弥香の頭上で固定さ
れる。その時だった。悪魔は背後に別の気配を感じ、振り返る。

「…死にたくなければ、邪魔しないほうがいいよ。この子をやったら、ゆっくり相手してあげ
るから」

まるで少女と見紛う小さな体、幼い顔。
「エッグ」のリーダー・能登有沙は、悪魔の警告などものともせずに一歩、また一歩と近づい
てゆく。有沙の瞳には、悪魔の姿は映っていなかった。

「ごとー、そういうの、嫌いだな」

それまで気の抜けていた、悪魔の表情が険しくなる。
まるで特攻隊のような死を恐れない有沙。気に入らない。
命を捨てるのは、愚か者のすることだ。それは悪魔の美学に反する。侮辱とも言えた。
命は、燃やし尽くしてこそ輝くのだから。
その感情は、行動となってダイレクトに現れる。

細く伸びた翼が。
有沙の胸を貫通していた。
一撃。命のやり取りを至高の存在と考える悪魔が取った、侮辱への回答。
あっという間に命を奪われた有沙は、笑っていた。

36名無しリゾナント:2015/06/14(日) 01:24:36
意味のない、自殺行為。
なのに笑っているのは、何故だ。
答えは、自らの体の異変が教えてくれた。

ぽろぽろと、風化してゆくように。
有沙の体を貫いていた翼が細かく砕け、風に吹かれて消えてゆく。
それだけではない。沙弥香を刺し貫いていた黒刀さえ、形を維持することができずに崩壊しは
じめていた。

「どうして」
「…それが…あたしの能力だからねぇ」

息も絶え絶えに、有沙が言う。
顔面は既に蒼白、命はまさに尽きかけようとしていたが。

「血の不活性化(イナクティベーション)」。
血に関するあらゆる能力を封じる能力。それは「黒翼の悪魔」の体を駆け巡る黒血も例外では
ない。有沙の発動した能力により、黒血内のナノマシン群は、次々と沈黙していった。

対悪魔に最適とすら言えるこの力。一つだけ欠点があるとすれば。
この能力は、使役者が死亡することで初めて完結するということ。
「エッグ」の誰もが有沙の能力を見たこともないのは、当たり前の話だったのだ。

悪魔が自らの手の平を傷をつけ、血を垂らしてみる。
黒い血は、ゆっくりと軌跡を描いて地面に染みを作るだけだった。

「あはっ。結構ピンチかも」

「黒翼の悪魔」に向かって、突進してくる一人の女。
背中に水の竜神を纏った舞美が、悪魔の腹に拳を叩き込む。
ゴムが千切れるような、鈍い音。思い切りくの字に体を曲げた悪魔の頭を、力強い掌が掴み。

金髪が、固いアスファルトに叩きつけられた。

37名無しリゾナント:2015/06/14(日) 02:23:33
>>26-36
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

38名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:41:24
>>26-36 の続きです



核シェルター級に厳重な警戒態勢を敷いている、「天使の檻」。
その肝である防護壁が、自動ドアのようにやすやすと、開いてしまう。
つんくが帯同させている二人の能力者のうちの一人・石井の能力によるものだった。

「ここまで来たらもう少しや。調子は…ま、聞かんでもええか」
「……」

石井は。
全身から絶え間なく漏れ出している血によって、体を朱に染めていた。
自らの使役する電流を利用して、防護壁のセキュリティシステムと同期する。つまり自らをカ
ードキー化することで、防衛装置を作動させることなく建物内を通過することができるという
仕組みだ。

ただし、肉体への損傷は計り知れない。
事実、石井の体は限界に達していた。体組織は破壊され、全身からの血が止まらない。免疫系
統が機能停止(システムダウン)した何よりの証拠だ。
そんな姿を見ても、つんくは進むことをやめない。まるで最初からこの程度の犠牲は織り込み
済みだと言わんばかりに。

39名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:42:25
不意に、建物全体に轟く地響き。
外での戦闘が激化した合図だろうか。もう一人の能力者である前田が困惑気味に周囲を見渡す。

「紺野のやつ、ジョーカー切りよった」
「ジョーカー?」
「せやけど。切り札は切ったら…しまいや」

つんくの歩みが、止まる。
目の前に、巨大で重厚な防御壁が立ち塞がっていた。

「この先に、『天使』が待ってる。時間的にもぎりぎりやな。頼んだで」
「……」

答える気力もないのだろうか。
石井は床に自らの血を滴らせ、カードリーダーの端末に手を伸ばす。
電気を自在に操る石井の体が一瞬光ったかと思うと、大きく痙攣しはじめた。
口から、目から、いや、体じゅうの穴という穴から。激しい出血が止まらない。石井の体がカ
ードリーダーのセキュリティシステムと融合しようとしている。だが、その代償はあまりにも
大きい。

認証完了の、電子音が静かに鳴り響く。石井は。
そのまま自らが作り出した血の海に崩れ落ちる。
そして、二度と動く事はなかった。

40名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:43:37
石井の亡骸を、見下ろす形のつんく。
文字通り命を賭した部下にかけた言葉は。

「ご苦労さん。さ、前に進もか」
「は、はい」

前田は、改めて自らの上司の非情さを肌で感じる。
石井は自分が使い捨てになることを知っていた。知った上で、忠誠を示すかのように命を散らせ
ていった。それを、ご苦労さんの一言で済ませてしまう。

だが。
そこに芽生える感情など、大いなる目的の前ではまるで意味を成さない。
つんくは、ダークネスという巨大な組織に立ち向かうため、能力者を集めそして育て上げた。そ
のことがどれだけの労苦を齎したかは想像に難くない。

全ては、巨悪を倒すため。
前田もまた、任務のためなら命を投げ出す覚悟でいた。

劇場の幕が上がるように。
ゆっくりと、防御壁が上部に収納されてゆく。

徐々に姿を現す、透明なガラスによって中央を仕切られた部屋。
これが、「天使の檻」の中枢にして真の姿。
椅子に座っていた部屋の主は、訪問者の存在に気づき、驚きの声をあげた。

41名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:44:58
「つんくさん…?」
「おう。久しぶりやな」

派手な金髪に、白スーツ。
人を食ったようなにやけ顔は相変わらず。
その変わらなさが。

「天使」の表情を、強張らせる。

「何やねん安倍、感動の再会やのにそないな顔して」
「どうして、ここに来たんですか」

「銀翼の天使」の瞳に湛えられた、静かな、それでいて悲しげな怒り。
つんくはそれを、そよ風を受けるが如く流していた。

「藪から棒やな。俺が手塩にかけてプロデュースした逸材を訪ねに来た、ええ話やん」
「つんくさん。あなたは。『HELLO』を離れてから今まで…何をされてきたんですか?」
「そらもう、八面六臂の大活躍やがな。警察にヘッドハンティングされて、能力者による治安維
持部隊を編制。その傍ら、有望な能力者の卵たちをスカウトして、一人前の能力者に育て上げる。
能力者業界から表彰状貰ってもええくらいやで?」

椅子から立ち上がり、つんくを睨み付ける「天使」。

「何をそないに怒ってんねんな」
「私はあの日…組織の本拠地を抜け出して、新垣の。ううん、リゾナンターたちのもとを訪れた。
それは、彼女たちに会って伝えなきゃならないことがあったから」
「ほう…?」
「つんくさん。あなたの、本当の姿を」

42名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:46:16
つんくは。
ただにやにやとした笑顔を、浮かべ続けている。

「あなたは『能力者のプロデュース』と称して、能力者の子供達を各地から集めていた。能力の
開花。制御不能な未熟な能力を、正しい方向へと導く。そう言ったお題目の元に」
「おっかしいなあ。顔変えて、素性も変えて。『俺』やってバレへんようにしてたつもりやった
んやけどなあ」
「でも、裕ちゃんや圭ちゃんたちはその事実を、まるで見て見ぬふり。おかしいと思った。でも
ね、よっすぃが教えてくれた。本当のことを」
「はぁ。情報部の連中はそないなことまで調べてるんか」

「天使」は、その表情を少しずつ険しくしてゆく。
理性と感情の狭間、辛うじてそのバランスを取っている。

「集められた子供達。彼女たちは最初から、組織とあなたの共有財産だった」
「…ええシステムやろ?」
「ふざけないで!そのせいで、どれだけ多くの子たちが苦しんできたか…!!」
「そなの?ごめんね」

「銀翼の天使」が、純白の羽を広げる。
その羽の一つ一つが、高密度のエネルギーの塊。こぼれ落ちた羽が床面に落ちると、そこからあ
ふれ出した純粋な「力」が爆ぜる。それでも特殊合金製の床には傷ひとつ、ついていない。

43名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:47:20
「どうして!どうしてそんなことが言えるの!?なっちは、なっちは!!!!」
「つんくさん、『天使』の力が異常に高まってます!!このままでは危険です!!」

ダークネスの誇る超強化ガラスに阻まれてはいるものの、この状態は決して安穏としてられるも
のではない。
しかし前に出ようとした前田を、つんくの手が制する。

「俺としたことが、済まんな。まずは、邪魔なもんを取り払う」

前田の目の前に翳された手。
そのまま上に掲げ、そして、指を鳴らした。

ぱちん。

まるで、光り輝く雪のようだった。
前田は、はじめは「銀翼の天使」が能力を行使したのかと思った。
だが、そうではない。降り注ぐのは、それまで天使の檻が檻の体を成していた所以とも言える、
強化ガラスの欠片。
信じられないこと。それは、檻の向こう側にいた「天使」もまた同様であった。

あまりに突飛な出来事が、「天使」の組まれかけた武装を完全に解いていた。
それだけ異常な出来事が起こったということだ。

つんくは、能力者ではない。
それがここにいる人間の、共通認識だったはず。
しかし現実に、鉄壁の強化ガラスは、粉みじんに、跡形もなく崩れ去った。

44名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:47:56
「あなたは…」
「言っとくが、これは俺の『能力』ちゃうぞ」

いつの間に、背後に回り込まれていた。
迎え撃とうにも、ありえない行動速度の速さに「天使」の反射神経が追いつかない。
後ろから首を回し、顎を上げ、唇の隙間から「何か」を滑り込ませる。
吐きだそうとする「天使」、しかしそれはつんくが許さない。

「ま、専門分野やしな。薬の飲ませ方は心得ておま」

「天使」の喉に手を当て、口蓋の筋肉を弛緩させる。
小さな錠剤は、吸い込まれるようにして落ちていった。

つんくを突き飛ばし、床に突っ伏して咳き込む「天使」。
入れられたものを吐こうと、手指を突っ込んで嘔吐を試みる。が。

「無駄やで。飲んだ瞬間に胃に溶けて早く効く。それが俺の『プロデュース』した薬の特徴や」
「何を…飲ませた…の」
「安心せえ。効能は、『モルモット』で証明済みや」

その時だった。
天井に収納されていたアーム付きのモニターが、ゆっくりと降りてきた。
それとともに、液晶画面に映し出されるのは。

45名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:48:39
「『天使』さんに何を飲ませたのか。ぜひ、私にもご教授いただきたいものです」

白衣に身を包んだ、ダークネスの叡智。
組織の頭脳の統括者とも言うべき、紺野あさ美がそこに映っていた。
それを見上げるような格好になったつんくは。

「…世界ががらりと変わる、薬や」

厭らしく、唇を歪ませる。
そしてつんくは語り始める。弟子に、自分の研究成果を披露する。
ありのままに、全てを。

46名無しリゾナント:2015/06/23(火) 09:49:33
>>38-45
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

47名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:54:55
>>38-45 の続きです



治癒の力を注げど注げど、体を蝕む滅びの力は止まらない。
業を煮やした「金鴉」が取った行動は。

「しゃおらああぁあっ!!!!!!!!」

勢いよく噴出す、鮮血。
炭化した足の部位を鷲掴み抉り取るという、無茶苦茶な荒療治だった。

「…あんた、馬鹿なの?」
「ざまあみろっ!このボケナスが!!」

あきれ返るさゆみに向かって強がる「金鴉」だが、大ダメージは隠せない。
何せ腿の決して少なくない肉を抉ったのだ。動く事すら難しいはず。

「てめえの滅びの力なんざ、のんには効かねえんだよ!!」
「ふぅん。じゃあ自分の体が穴ぼこだらけのチーズになるまで頑張りなさいよ」

さゆみの視線は既に、背後の「煙鏡」のほうへ注がれていた。
今回の全ての計画を描いた人物。能力の強弱は不祥だが、警戒すべきは悪魔の頭脳。

48名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:56:06
「何や自分。あいぼんさんがそんなに可愛いからって、戦いの最中に見つめてたらあかんで」
「笑えない冗談ね。あんたはさゆみのタイプじゃないし」

余裕の軽口は、策を講じている証拠なのか。
幸い、目の前の相手は「もう問題ではない」。もう一人の相手の見せる余裕、その謎を解かなけ
ればならない。
さゆみは「金鴉」の怪力によって破壊された石畳の礫を拾い上げ、「煙鏡」に向って投げつけた。
すると、礫は奇妙なカーブを描いてあさっての方向に飛んでゆく。

「無駄やで。うちの『鉄壁』にはそんなん通用せえへん。そういう『ルール』やからな」
「ルール?」
「っと。サービスが過ぎたな」

自らの能力の性能を誇りたいが故の饒舌か、それとも。
考えあぐねていると、横からけたたましい声が聞こえてくる。

「てめえ!のんのこと無視してんじゃねーよ!!」
「別に。相手して欲しかったら立てばいいじゃない」
「こんなの…がっ!ぐううっ!!」

力んだ際に、撒き散らされる鮮血。
「金鴉」は生まれたての小鹿のように、よたよたとしか立ち上がれない。
しかしそんな姿を揶揄したのは。

49名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:57:08
「情っさけないな自分。全然相手にならへんやん。あんなんうちなら10秒で終わりやで」
「はぁ!?そこまで言うならあいぼん替われよ!」
「あほか。大将が出張るんは、先鋒が死んでからやろ」
「おいこら勘違い薄らハゲ。大将はのんの方だろうが」
「そんなボロクソに負ける大将なんておらへんわ。そらうちにも負け越すわな。つまり、負け越
しゴリラや」
「負けてねーだろ!1064戦1065勝、どう見てものんの勝ちじゃん!!」
「戦った回数より勝利回数が上回ってどうすんねん。相変わらず可哀想なおつむやな」
「は!可哀想なのはお前の死にかけの頭皮だろ!!」
「言うたな…この筋肉ゴリラ!」
「うるさいハゲ!」
「ゴリラ!」「ハゲ!」「ゴリラ!」「ハゲ!」

突如として始まった低次元な言い争い。
しかしさゆみはその状況に合点がいく。この二人、コンビを組んではいるが仲があまりよろしく
ないようだ。だから、二人一緒に攻撃を仕掛けてこないのだ。

「さゆみには、出来損ないのコントを鑑賞する暇はないんだけど」
「…ああそうかよ!!」

またも、ストックの血入り小瓶を取り出して飲み干した。
すると、どこからともなく集まってくる、黒い雲。いや、雲ではない。
やがて、空を劈くような無数の羽音が響き渡る。

「やっ!む、虫!!」

虫嫌いの聖が、近づいてきた「黒い雲」を見て顔を青ざめさせる。
そう、黒い雲のように見えたのはありとあらゆる羽虫の群れだったのだ。

50名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:58:23
「確かお前ら、『蟲惑』とやり合ったことあったんやろ。それはそいつの血の為せる能力や」

その名前には、さゆみたちも聞き覚えがある。
地獄から甦ったと自称していた、黒いプロテクトスーツを身に纏った女。ダークネスではない別
の組織に与したその女が、「蟲惑」の二つ名を名乗っていた。
となると。

黒い雲はやがて、「金鴉」の元に集まり姿を覆い隠す。
千切れた筋組織に食い込み、繋ぎ、補う。虫の寄生力が実現する、究極の超回復。
負傷していた足を、二、三振り。機能は問題なさそうだ。

「これで、動けるようにはなった。お前、ぜってーに殺してやるから」
「…その割には、あなたの虫さん、繋いだ先から死んでるけど」

さゆみの言う通り、滅びの力に侵された部位に食い込んだ虫は程なくして、その抗えない力の前
に命を散らしてゆく。だが、数が力を押さえつける。次から次へと死地へ赴く小さな軍隊は、指
揮官の命令を忠実にこなしていた。

「その虫の力がさゆみの『治癒の力』の代わりってわけね。でも、逆に言えば『滅びの力』への
有効な手段も失った」
「お前をぶっ殺す方法なんざ、いくらでもあるんだよ!!」

「金鴉」が、両手を広げてさゆみの前に突き出した。
鋭い羽音を立てて、黒い塊が襲い掛かる。ただ、避けられない速さではない。素早く身を屈めて
猛攻をやり過ごすと、まるでブーメランのように虫たちは帰ってくる。

51名無しリゾナント:2015/06/29(月) 02:59:17
再び交戦が、動に入った。
さゆみは駆け出しつつ、執拗に襲い掛かる虫たちを回避する。

「避ける事しかできねえのかよ、虫はどんどん増えてくぞ!!」
「…馬鹿ね」

挑発しながら、使役する虫を増やしてゆく「金鴉」。
一度人間の肌に止まれば、皮膚を食い破り中の組織へと潜り込む獰猛な虫だ。
しかしさゆみは、そんな虫たちを嘲笑うが如く、動きを止めた。
喜び勇んでさゆみの白い肌に着地した虫は、触れた足から即座に灰になってゆく。

「忘れたの?さゆみの体全体にも、『滅びの力』が行き渡っていることを」
「…ちくしょう!!!!」

どのような力を用いようと、「滅びの導き手」を打ち崩すことはできない。
それが例え複数の能力を「ストック」できる能力擬態の能力者でも。
自棄になった「金鴉」が、さゆみ目がけて突っ込んでくる。まるで先に命を散らした虫と同じよ
うに。

「金鴉」が纏っていた羽虫たちの一部は、主人からはぐれ、リゾナンターたちの周囲を煩く飛び
まわっていた。しかし、積極的に害をなすことはない。
香音は、気づいていなかった。
いつの間に、はぐれた虫の一匹が、密かに。
自らの首筋に、小さな噛み跡が、ついていることに。

懐に飛び込んだ挑戦者が、拳を振るう。
速い。しかし、避けられない類のものではない。
回避行動に入るさゆみの身に、「それ」は起こった。

52名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:00:34
「!!」

突然の、立ちくらみ。
いや、そんな生易しいものではない。
まるで体中の全ての力が、底なしの穴へと引き摺り込まれる様な感覚。
今までも、薬の副作用らしきものはあった。
けれど、これほどまでに強烈なものはなかった。
つんくからは、何も。何も、聞いていない。

躊躇、そして困惑。
目の前には唸るような「金鴉」の剛拳が迫っている。

問題ない。
さゆみはすぐに思考を切り替える。
回避したところを滅びの手で迎え撃つつもりではあったが。
直接攻撃を受け止めるのはややリスキー、しかし問題ない。
いかに相手の膂力が凄まじかろうが、さゆみの全身を覆う滅びの力によって拳の先から灰と化し
てゆく。問題は、インパクトの時に発生する衝撃をどう逃がすか。

それだけの、はずだった。
しかしさゆみが今、目にしているものは。

「道重さんっ!!!!」

春菜の悲痛な叫びが、こだまする。
「金鴉」の拳は、さゆみの胸の辺りを貫通していた。
当のさゆみの表情に苦悶の色は見えない。不可解、といった感じの表情。

53名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:01:44
してやったりの「金鴉」の顔が、徐々に変化してゆく。
この顔は。さゆみが見間違える、はずもない。

「あんた…鈴木の能力を」
「へへ。虫を飛ばしてあいつの血を頂いたんだよ。お前、のんが一度に一つの能力しか擬態でき
ないって勘違いしてたろ。あいぼんの言う通りだ、『弱いふりして油断させれば』相手は必ず隙
を見せるってな」

香音の能力「物質透過」。
「金鴉」はそれを盗み取ることで、自らの腕をさゆみの体に貫き通した。
何の殺傷力もない行動。それを、「金鴉」の厭らしい笑みが否定していた。

さゆみは重心を思い切り後ろに倒し、貫いた腕を引き抜こうとする。
だが、体はびくともしない。香音の能力で摺り抜けているはずの腕が、さゆみの体を離さない。

「みんな、道重さんを助けるよ!!」
「はいっ!!」

聖の言葉で、一斉にさゆみの元へと駆けつけようとするリゾナンターたち。
それも、見えない何かに阻まれ、近づくことすらできない。

「これからがええとこやのに。邪魔したらあかんで?」

「鉄壁」の能力。
香音が物質透過しようとも、衣梨奈がピアノ線で薙ぎ払おうとも、里保が一閃のもとに切り伏せ
ようとも。
びくともしない。亜佑美が戦ったスマイレージが一人・中西香菜の使役する「結界」には、まだ
物質的な感触があった。しかし。
「煙鏡」の操る「鉄壁」には、まるで手応えがない。あたかも、最初から切り抜けるのが不可能
かのような、絶望。
つまり。彼女たちの救いの手は、さゆみには届かない。

54名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:02:15
「ここで問題です。のんが今、物質透過能力を解いたら…どうなると思う?」
「…元あった物質が、入り込んだ物質を弾き飛ばす。つまりあんたの腕は」
「そう。のんの腕は強制的に抜き取られる」

さゆみは、気づいてしまった。
「金鴉」が、何をしようとしているかを。

「愉快な置き土産を置いてなぁ!!!!」

見えない力に吹き飛ばされるが如く、「金鴉」の小さな体が後方へと飛ぶ。
その腕には、穴あきチーズのような穴が、いくつも開いていた。
開いた穴から、幾筋もの滅びの煙を燻らせながら。

「道重さん!!!!!!!」

明らかにさゆみの様子がおかしいことは、すぐに後輩たちに伝わった。
顔は青ざめ、体が痙攣していた。もっと言うなら。
さゆみもまた、「金鴉」が拳を撃ち込んだ場所から、煙を立ち上らせていた。

「いっちょあがりや」

「煙鏡」の表情は、晴れ晴れとしていた。仕事を、終えたような顔。
そう、終わったのだ。その証拠に、彼女は既に「鉄壁」を解いてしまっている。

55名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:03:45
もうリゾナンターたちを縛り付けるものは何もない。
聖が、真っ先にさゆみのもとに駆けつける。今このメンバーの中で、治癒の力を使えるのは聖し
かいなかった。
風を切る迅さで、崩れ落ちかけていたさゆみを抱きかかえ、煙の出ている場所に手を翳す。
聖の血の気が、引いた。

「だめ…ふくちゃん…さゆみの中にはもう、滅びの…力が」
「そんな」

物質崩壊の使い手である以上、自らの力で自滅してしまう危険性は常に存在している。
それを防ぐために、全身に滅びの力の被膜のようなものを纏わせ、それを防ぐ。が。
あくまでも、体の表面だけの話。被膜を何らかの方法で突破されれば、体の内面は無防備そのもの。

こちらの弱点を的確に突くやり方、頭の悪そうな「金鴉」が思いつくわけがない。
どちらかと言えば、後ろに控える「煙鏡」のやりそうなことだ。
なのに、どうして。同時に戦うことすら嫌がる関係のはずなのに。
いや。違う。大きな、思い違いをしていた。もし本当にそのようなことが可能なら。
迂闊だった。自分の至らなさを悔やみつつ、さゆみの意識はぷつりと途絶えてしまった。

信じられない。いや、信じたくない。
だが、紛れもない事実だった。

物質透過によってさゆみの体を貫通した、「金鴉」の腕。
「金鴉」は。自分の足を支えている蟲のいくつかを、自らの腕に寄生させていた。
滅びの力によって、死にかけた蟲を。

そして、置き去りにされた蟲たちは。
内部から、さゆみの体を蝕み始める。そのスピードは、聖の持つ複写の治癒の力ではもう抗うこと
はできない。
そんな状況とも知らずに、後続のリゾナンターたちもようやくさゆみのもとに到着する。

56名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:04:35
「フクちゃん!!」
「道重さんが大変なの!すぐに、体の中の蟲を取り出さないと!!」

駆けつけた里保の顔を見て、緩みそうな気持ちを引き締める聖。
本当は、泣き出してしまいたい。けれど、そんな暇があったら一つでも多くの行動をすべきだ。
不安で崩れそうになる心を、強い意志が懸命に支える。

「どぅーは千里眼で蟲を探して!えりぽんは糸を使って何とか蟲を取り出す。香音ちゃんはサポート、
優樹ちゃんは道重さんの中にいる蟲を瞬間移動。小田ちゃんは時間停止を。はるなんはみんなの集中
力が続くように力をわけてあげて!!」

できそうなことから、一見無謀なことまで。
聖は今思いつく、さゆみを救うことができるかもしれない方法を全員に告げた。
とにかく、やるしかない。躊躇している場合ではない。でないと。

「えりちゃん、糸、物質透過かけたから!」
「生田さんそこですっ!」
「やった、獲った!」

連携作戦は、徐々にだが功を奏してゆく。
その場にいた全員が、さゆみの命を救おうとしていた。
今ここで、彼女を失うわけにはいかない。

57名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:05:37
里保たちが最初に喫茶リゾナントを訪れた時。
リゾナンターのリーダーは高橋愛だった。
ダークネスの襲撃によって崖っぷちまで追い詰められた当時の状況は、逆に言えば再起のチャンス
でもあった。弛まぬ努力は新垣里沙に受け継がれ、さゆみの代に結実した。

右も左もわからない新人たちが、曲がりなりにも能力者社会にその名を知られるレベルにまで成長
したのは。間違いなく。

だから、失ってはいけない。

春菜の表情が、強張る。
そして何かを探すように、さゆみの手を取り、言った。

「道重さん…息、してません…」

晴れていたはずの青空は、いつの間にか灰色にくすんでいた。
低く垂れ込める雲、一陣の風が吹き込むと、ぽつり、ぽつりと大粒の雨を落とし石畳に染みを作っ
てゆく。

「え…?」

言葉が、頭の中に入って来ない。
言葉の意味が、たった一つの事実に結びつかなかった。

58名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:06:25
「うそ…だよ、ね。だって道重さん、こんなに」

聖が掌を翳し、それまでよりも一層強く、自らの治癒の力を注ぎ込む。
ただ眠っているようにしか見えないさゆみの顔。けれど聖自身、よくわかっていることだった。
対象の肉体を癒すはずの治癒の力は、さゆみの体に留まることなく、消えていた。

「やだ!みにしげさん!みにしげさんおきて!!じゃないとまーちゃんみにしげさん嫌いになっち
ゃうんだから!!!!」
「よ、よせよまーちゃん!道重さんが死ぬわけないだろ!馬鹿なこと言ってんじゃねえぞ!!」

優樹はありったけの力を込めてさゆみの体を揺さぶる。
あまりの激しさに、そして優樹の発した言葉を否定するために大声をあげる遥。
それでも、既に泣き顔でぐしゃぐしゃになっている自分自身を隠す事ができない。

「は、はは。こんなの冗談っちゃろ。道重さんが、こんなことになるわけなかろうもん」
「ねえ。みんなを驚かせようとして寝たふりしてるだけですよね?そうなんすよね!?」

笑い声を上げようとするもうまく行かず、乾いた呼気を漏らすことしかできない衣梨奈。
亜佑美は大げさに手をばたばたさせ、顔を引き攣らせて必死に目の前の光景を否定ていた。

「道重さんの時が…止まっちゃった…」

時を操り、時を統べる。
さくららしい発言と言えばその通りなのだが、あまりにストレートな表現。
何をふざけたことを、そう言いかけた亜佑美の言葉が文字通り止まった。

さくらは、顔を歪め、必死に歯を食いしばって。泣いていた。
声すら、あげずに。
そのことが、全員に一つの揺るがしがたい結論を齎す。

59名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:07:11
― 傍に、居て下さいね ―

月明かりの綺麗な晩のこと。
少女は、さゆみと一つの約束を交わした。
素直に自分の気持ちを表に出せない少女は、リゾナンターとして闇に立ち向かう自分の姿をただ見
ていて欲しいと伝えた。その背中から、何かが伝わればそれで自分は十分なんだと。
それが、その時の精一杯だった。

あの日話したことが、嘘になってしまう。
さゆみのせいではない。さゆみを救うことができなかった、自分自身のせいだ。
かつてその手を差し伸べながら、救えなかった友人のように。
すべては、自分の力が足りないから。

― お前の実力は、そんなものじゃないだろう。何を躊躇ってる? ―

その言葉が、先ほど一戦交えた塩対応の女のものなのか。自らの心に呼びかけた問いなのか。
里保は、区別がつかなくなっていた。
ただ、熱い。胸の奥が、滾っているかのように熱かった。
やがてその熱気が、心の全てを覆いつくしてゆく。

「里保…ちゃん?」

その場にいる全員がさゆみの状況に激しく取り乱している中。
香音だけが、親友の異変に気がついていた。
宙を彷徨う里保の瞳は。

燃えるように、緋く。緋く。

60名無しリゾナント:2015/06/29(月) 03:08:06
>>47-59
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

61名無しリゾナント:2015/07/15(水) 00:57:32
>>47-59 の続きです



「半分は偶然。半分は必然。そういうこっちゃ」

それが、紺野が師と仰いだ男と最初に交わした言葉だった。

「何で俺が自分を研究室長に抜擢したか。リストの中に入ったんは偶然、せやけどそこから俺が選
んだんは俺の意思や」

組織の科学力を統べる部門の中枢に入ってなお、遠くで見ているだけであった組織の科学部門統
括という存在。
直に会いそしてその目で見た感想は。科学者としてはあまりに俗の色が強いというものだった。
もちろん、派手な金髪や目に染みるような柄物のスーツだとか、見た目の事を言っているのではな
い。

紺野の知る多くの科学者は。
一様に表情が硬く、そして自らの知性を誇示するような物言いをしていた。
しかしどうだろう。目の前の男は、人を食ったような、惑わすような態度を取る。そしてその曖昧さ
は、不思議と不快ではなかった。

後にダークネス不世出の天才、「叡智の集積」とまで称される紺野だが、室長就任まではただの
一研究員に過ぎなかった。
そんな紺野が組織の研究室長、つま科学部門のナンバー2に抜擢されたその理由。
それが先の答えに繋がる。

62名無しリゾナント:2015/07/15(水) 00:59:18
「例えば。道歩いてたら、自動販売機がありました。喉渇いてたら、ジュース飲みたいわぁ、そう
思うやろ?」
「つまり、『喉が渇いていた』から『ジュースを買った』と。私にそういう役割を、求めているん
ですね」
「お、ええな。そういう返し。確かにお前の言う通りや。俺がこれから研究を進めてく中で、もの
すごく何かヒントをくれそうな、そんな予感がしたんやわ」

まるで論理的ではない、つんくの言葉。
しかし、裏を返せば「科学者」という枠に嵌らない人物とも言える。曲がりなりにも現在の組織の
科学面における基礎を構築した男、掴みどころの無い言葉にもそれなりの意味があるのだろうと紺
野は推測した。

「ところで。お前が研究室長っちゅうことは周りには秘密やで。『ダンデライオン』っちゅう隠
れ蓑もあることやし、しばらくはバレへんと思うけど」
「なるほど。あれは、貴方の差し金でしたか」

「ダンデライオン」。組織の上層部が結成を決定した特殊部隊。紺野の研究室長就任と、ダンデ
ライオンの入隊はセットであった。つまり、まさか組織の科学班研究室長がそんな部隊に編成さ
れるわけがない。と思わせる目論みだったのだろう。確かに降りかかる火の粉を振り払うのも億
劫な話で、持ち前の好奇心もあり了承はしていたのだが。

紺野とつんくの邂逅から、しばらくして。
つんくは、突如組織から姿を消す。そのことについて上層部からの言及すらないという、実に不
可解な話ではあったが。
紺野は、そうなるのが当然であるかのように、二代目科学部門統括に就任した。

63名無しリゾナント:2015/07/15(水) 01:00:46


「世界を変える薬ですか。それはまた大きく出ましたね」

モニターに大写しにされた紺野が、問う。
つんくの言葉の、真意。飾られた形容の奥に潜む、真実を。

「私が把握しているところによると…あなたが道重さゆみに投与した薬の効果は。『表』の人格
であるさゆみに対する『裏』の人格。確か、さえみとかいう…それを、自在に呼び出せるように
なる。という触れ込みでしたっけ」
「触れ込みて、失礼な話やなあ」

かかか、と笑いながら、つんくは先ほどまで「天使」が座っていた座椅子に腰かける。ちょうど
モニターの紺野を見上げるような形だ。

「天使」はと言うと、つんくに飲まされた「薬」の影響か、床に蹲ったまま動かない。

「私は、あなたの投与した薬剤は人格統合に関わる何らかの影響を及ぼす性質のものと踏んでい
ます。道重さゆみが本来姉人格が表出した時でないと使うのことの出来なかった『物質崩壊』の
力を使えるようになったのも、そう考えればかなり自然な形で納得がいきますしね」
「ほー、そこまで辿り着いたか」

人を食ったような、読めない態度は相変わらず。
懐かしさとも、呆れともつかぬ感情に思わず紺野は肩を竦めた。

64名無しリゾナント:2015/07/15(水) 01:02:02
「懐かしさのあまり瞳を潤ます、っちゅうんなら少しは可愛げもあるんやけどな」
「確かに、お変わりないようで何よりです。お顔のほうは大分変えてらっしゃるようですが」
「どや。なかなかイケメンやろ」
「顔の美醜は私には判りかねますが。ただ、あまりいい趣味ではありませんね」
「…結構気に入ってるんやけどな、これ」

やや芝居がかったつんくの言葉を無視し。
紺野は話を本題に戻す。

「結論から述べます。つんくさん。あなたは、『天使』…安倍なつみを、破壊の化身にしようと
している。違いますか?」
「…半分正解で、半分間違いやな」

つんくは言いながら、体を椅子の背に預けた。

「あなたはいつもそうだ。ダークネス科学部門の初代統括という地位を誰にも話すことなくあっ
さり捨てたように、真実を決して他人に見せようとしない」
「そういう自分も『俺の資質』、しっかり受け継いどるやないか。ほんまいつまでも本題に入れ
んで困るわ」
「…ではこちらからいきましょうか。私の言葉が半分不正解なのは…『天使』の力が制御可能か
不可能か。そういったところですか」
「優秀な弟子やと、話す手間が省けて助かるなあ」

つんくと紺野の、互いの肚を探るような、そうでないような会話。
前田はそのほとんどを理解することはできない。
ただ、一つだけ言えるのは。自分が目の前の「銀翼の天使」をつんくが手中に収めるためにここ
にいるということ。
そしてその目的は、果たされようとしていた。

65名無しリゾナント:2015/07/15(水) 01:04:23
「安倍の。本来の人格と、全てを破壊し尽くすだけの闇の人格。周期的に入れ替わる二つの人格、
この性質のせいで、お前らは安倍をこないなもったいつけた施設に閉じ込めざるを得なかった。
せやな?」
「そうです。現時点の彼女の力は、我々が自由に使うには手に余る」
「でもな。俺の作った薬があれば、本来の安倍の人格を保ちつつ、破壊的な能力を操る能力者が
誕生する」

まるで新しい遊びでも考案したかのように。
つんくの瞳はきらきらと輝いていた。

「…本当にそんな夢物語が実現するんでしょうか」
「俺がしょうがない夢追い人やったら、こないなとこまでけえへん。ブラザーズ5のおっさん煽
ったり、辻加護の暴走のタイミング図ったり、いろいろ下準備してまでな」
「やはりそうでしたか。あまりに一度に出来事が重なるものですから、恣意的なものは感じては
いましたが」
「はは、めっちゃロックやろ?」
「転がる岩のように、ですか。積極的に動く者は、決して錆びつかない。しかし、こうも言えます」

紺野が、やや垂れ下がっていた眼鏡のずれを、手で戻す。

「無駄に動き回る者には、何の利も身につかない」
「…言うとけ」

紺野の皮肉を鼻で嗤いつつ、前田に指示を送る。
床に倒れ込んでいる「天使」の額のあたりに、手が添えられる。

66名無しリゾナント:2015/07/15(水) 01:06:05
「この前田はな、精神操作のスペシャリストや。こいつの能力で融合過程にある安倍の人格の統
一を、サポートする。どや、完璧やろ」
「完璧…ですか」
「随分不服らしいな。『完璧です』、お前の口癖やん」

沈黙する紺野を、挑発するかのような言葉。
だがそれに対して返されたのは。

「つんくさん、あなたは」
「何や」
「外で遊んでいるうちに随分と耄碌されたようだ。私が常日頃『完璧です』と言っていたのは、
科学者が完璧などという言葉を口にしたら終わりだという皮肉のようなものです。いついかな
る時も真理を追求する科学者にとって、完璧などという可能性を全否定するような言葉は。愚
かしいまやかしに過ぎませんよ」

侮蔑。お前はこの程度の存在に過ぎないという、見くびった表現だった。
つんくはなおも薄笑いを浮かべている。だが、その目はもう笑ってはいなかった。

「なら、俺がお前に正真正銘の『完璧』を見せたるわ」

立ち上がり、一際高く合図の手を挙げる。
それを見た前田は自らの掌に意識を集中させた。
高度な精神干渉が「銀翼の天使」に襲い掛かる。前田はつんくが所有する手勢の中でも飛びぬ
けてマインドコントロールに長けた能力者。「御宮(ごく)」の異名を取る能力者社会の重鎮
・五木老の秘蔵っ子でもある彼女に比肩するものは、新垣里沙しかいないであろう。

67名無しリゾナント:2015/07/15(水) 01:08:08
前田の精神干渉の力は瞬く間に「天使」の精神世界を駆け巡り、特有の世界を構築してゆく。
すなわち、現在彼女の体内で活性化している「多重人格の統一」の薬効の、サポート機構。

傍目からは、どのようなやり取りが繰り広げられているのかはわからない。
ただ、つんくの表情を見ればわかる。
「銀翼の天使」。ダークネスの重鎮だった安倍なつみは、完全につんくの手中に落ちた。

「…しまいや。残念やったな、紺野。お前、俺が失敗すると思てたやろ」
「いえ。別に。逆に、いいものを見せて貰いましたよ。今後の参考にさせていただきます」

静かに、かつ確実に行われた「天使の奪還」。
興味深そうな表情をする紺野の言葉は、本心からか。ただの負け惜しみなのか。

「精々頑張りや。お前に『今後』があるかどうかは知らんがな」
「お気遣い、どうも」

「首領」は紺野に「天使」の死守を厳命した。
しかし、この体たらくでは彼女に厳罰が科せられてもまったく不思議な話ではない。

「上じゃドンパチやってるんやろ? お前の『切り札』のことや。せやけど、ジョーカーは『切
ったらおしまい』。俺の教えの通り、何枚も切り札仕込んどったみたいやけど、俺の方が一枚上
手。そういうこっちゃ」

満足げな表情を浮かべ踵を返すつんくに、「銀翼の天使」を肩で担いだ前田が追随する。
最早見るべきものは何も無いと判断したのか、紺野を映したモニターはゆっくりと天井へ収納さ
れていった。

68名無しリゾナント:2015/07/15(水) 01:09:21
>>61-67
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

69名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:38:28
>>61-67 の続きです

70名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:39:55
>>61-67 の続きです



はじめてその人に逢ったのは、じいさまの名代として東京に出てきた時のこと。

「方言がちょっと似ちょうね」

能力者同士の共同作戦。
自分以外は全員年上という状況で、舐められまいと標準語を使っていたはずなのに、地元が
近いと言うその人にはすぐに見抜かれた。
人見知りの自分には、それが嬉しかった。

それからしばらくして。
ふとしたきっかけで知り合った仲間と向かった喫茶店で、その人に再会した。
もちろん、嬉しかった。けれど、その感情を表に出すことができなかった。

そして一緒に時を過ごし、その人の凄さ、素晴らしさを肌で感じて。
尊敬に値するその人に、思ったことをうまく伝えられない自分は。

リゾナンターとして仲間たちの先頭に立ち戦う姿を見せることで、それを伝えようとした。
自分の背中を見て、それでその人が何かを感じ取ってくれればいいと思った。

それが、どれだけ伝わったのか。
今となっては知る事はできない。

機会は、永遠に失われてしまった。

赤い闇が静かに訪れ、私を呑み込んでいった。
残滓のような静寂。そこに私の感情など、存在しなかった。

71名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:41:28


雨脚が、強くなりはじめていた。
風が荒れ、空を覆う濁った雲が生き物のように蠢いて、絶え間なく地上に雨粒を叩きつけ続
ける。石畳を黒く濡らすそれは、瞬く間に水溜りとなって終らない波紋を描いていた。

降り注ぐ雨が少女たちの髪を、顔を濡らしていた。もっとも。
雨のことなど、少女たちにはどうでもよかった。

「道重さん…どうしてこんなことに…」

春菜の振り絞るような声。
まだ受け入れられない、そんな思いがそこにはあった。

誰かがうう、と泣き出したかと思うと、一斉に全員が嗚咽の声を漏らしはじめていた。
リゾナンターとなってから、さゆみと共に作ってきた思い出。それが、解けない魔法のよう
に彼女たちからいつまでも離れない。一緒に笑ったことも、そして後輩を思い泣きながら叱
り付けたことも。
それでもさゆみはもう、笑わない。ただ、安らかに瞳を閉じているだけだった。

悲しみに暮れる中、一人の少女が立ち上がる。
誰も気に留めないその行動を、その危険性を、側に居た香音だけが肌で感じていた。

「里保ちゃん!!」

香音の叫びと里保が飛び出すのは、ほぼ同時。
否。誰も、里保が動き出すのを捉える事ができない。

72名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:42:52
その凄まじい殺気に「金鴉」が気づいたのは、すでに至近まで接近を許した後のこと。
雨粒を弾き切り裂く軌跡に、身の毛がよだつ。

「てめえ!!」

反射的に右手を「硬化」させ防御に出る「金鴉」だが。
里保の姿は目の前にはなかった。

「何処を見ている?」
「はぁ?!」

咄嗟に天を仰いだ。視界に飛び込む、黒い影。
里保の両手持ちで構えた刀が今にも、「金鴉」を一刀両断しようと振り下ろされる。
手首を交差させ迎え撃つも、刃先はがちりと硬化した皮膚にめり込んだ。

「ぎっ!!」

里保を跳ね返すも、硬化したはずの肉体に刃が打ち込まれた。
激しい痛み、そして出血。だが「金鴉」を青ざめさせているのは紛れもなく、目の前にいる
得体の知れない存在。

激しい雨に濡れ、里保は刀をだらりと下げて立っている。
その瞳は、赤く染まる不吉な月のような。濡れそぼった長い髪もまた、毛先からじわりと赤
が滲んでいた。

「なんだ、なんなんだよ」
「……」

斬られた箇所を蟲の力で修復しつつも、「金鴉」は里保に苛立ちを隠さない。
先ほどの急襲が、まったく知覚できない。そんなことは、彼女が能力者として生を受けてか
らただの一度もなかった。先ほどまでの里保とは、まるで違う。
手首への一撃も、もう少し反応が遅れていたら恐らく切り落とされていただろう。

73名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:44:05
対して、里保は。
表情を崩すことなく、ただ視線を向けている。そこには感情というものが見て取れない。
眼球をただ標的に向けて照準を合わせているだけのようにも、思える。

「なんなんだよてめえは!!!!」

初めてと言ってもいい、生命の危機。
恐怖はそのまま憤怒へと繋がる。「滅びの力」「蟲の力」そして「肉体硬化」をフル動員
させて、目の前の相手を叩き潰すべく攻勢に移った。

が。当たらない。
さゆみの時もそうであったが。いや、それとは比較にならない。
本気を出せば当たるかもしれない。そんな気すら起こり得ない。拳を振りぬこうが、蹴り
を浴びせようが、まるで手応えがないのだ。

ぬるり、ぬるりと猛攻をかわしている里保には。
色というものが、まるでなかった。
無表情のまま双眸だけをこちらに向けている様は、まるで機械仕掛けの人形だ。

「ふっざけんなぁ!!」

「金鴉」の使役する、黒い羽虫たちが一斉に里保に襲い掛かる。
たかられたら最後、骨すらしゃぶり尽くされる。しかし、彼らは里保に辿り着く前に。
悉く、斬り伏せられていた。雨に紛れ、細切れにされた虫たちがぱらぱらと空を舞う。そ
の隙間を、「金鴉」が突いた。

目晦まし。
最初からそのつもりだった。いかに動きが速かろうと、一度捕まえてしまえばこちらのもの。
膂力でそのか細い首をへし折るのもいいが、道重さゆみの「滅びの力」で朽ちさせるほう
が皮肉が利いているだろう。
描いたイメージを実行に移すべく、死滅の力を漲らせた豪腕が唸った。

74名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:45:14
「遅い」

「金鴉」が鷲掴みにしたのは、ただの空気。
里保は、虚ろな顔をして背後に立っていた。降り注ぐ雨から作った水の刀が四本。それぞ
れが、「金鴉」の四肢を貫く。そして、四肢の交差点を結ぶ中央に、銀の刃は突き立てら
れていた。
何をされたかすら理解できない。そんな不可解な顔をしている「金鴉」とは対照的に。表
情を変えることもなく里保は、刺さった刀をゆっくりと、抜く。
同時に噴出する鮮血が、水溜りに混じり不吉な模様を描きはじめていた。

崩れ落ちる体が跳ね上げる、水しぶき。
後ろを振り返ることもなく、里保は後方にいた「煙鏡」に目を移す。

こんなにあっけなく、「金鴉」がやられるなんて。
信じられない。いや、それ以前に。
こんな話は、紺野からは聞いていない。
仕入れたリゾナンターたちのデータには、鞘師里保がこのような力を持っているなどとい
う記述はなかった。今回の戦闘で偶発的に発生した、イレギュラーな事態なのか。それとも。

「…次は、お前だ」
「はっ!く、来るなや!!」

赤眼の剣士の矛先が自分に向いたことを知り、慌てる「煙鏡」。
直感で、理解していた。今の里保に、「鉄壁」は通用しないということを。

「のんはまだ…まだやられてねえぞ!!」

背後から「金鴉」が里保に掴みかかる。
そんな奇襲はお見通しとばかりに体を半身ほどずらした里保は、最短のステップで逆に
「金鴉」の後ろに回りこみ、手にした刀で「金鴉」の首を貫き通す。

75名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:46:34
「がっ…がはっ!!」
「蟲の生命力で擬似的に不死になってるのか」

そして、そのあどけない顔からは想像もつかない力技で、強引に「金鴉」の体を引き倒し
て石畳に刀の切っ先を突き立てた。四肢に刺さっていた水の刀も同様に、地に抉りこまれ
る。さながら、磔のように。

そして地に縫い付けられ身動きの取れなくなった「金鴉」に跨った里保は。
腹の中央に刺していた刀を抜き、そして。深々と、突き刺す。
一度ではない。二度、三度。体を貫くたびに噴き出す血が、里保の横顔を朱く染めてゆく。
肌も、瞳も、髪も。すべて。

「さ…鞘師さん…?」
「あれは一体、鞘師さんが、鞘師さんが鞘師さんじゃないみたい…」

獣の咆哮にも似た絶叫が何度も木霊する。
今までに見せた事のない無慈悲な立ち振る舞い。
亜佑美が、遥が、恐れおののいていた。血のように赤い目、そして同様の赤に染められて
ゆく黒髪。その姿を見ているだけで、自分の魂に無限の剣先が突きつけられているような
感覚に囚われてしまう。

汗が止まらない。喉が、酷く渇く。
降りしきる雨に晒されているはずなのに、狂気に満ちた熱と、相反するような背筋の寒さ
が各々の心にこびり付いていた。

それは、彼女たちよりも長く里保に接している聖、衣梨奈、香音も同じこと。
里保が、まるで里保ではない。口下手で、不器用で、でもいざ戦いに赴く際には最も頼り
になる少女。よく知っているはずの「鞘師里保」は、そこにはいなかった。

76名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:47:49
「てめ…え…ぜったいに…ゆる、さねえ…」
「まだ、死なないか」

顔を染める血を拭う事すらせずに、冷たく「金鴉」を見下ろす里保。
刀から手を離したかと思うと、荒ぶる天に向かってその手を掲げ、降り注ぐ水を巻き取り。
息も絶え絶えな「金鴉」の顔面に叩き込んだ。

「がぼっ!!」

顔面に思い切り鉄球を打ち込まれたような、衝撃。
いや、それは次に訪れる悲劇からすれば些細なこと。
張り付いた水が「金鴉」の顔を覆い尽くし、決して離れない。掻いても掻いても、指は水
を通り抜けてしまう。
待っている結末は、窒息。死。

「宿主が死ねば、お前の体で蠢く汚らしい蟲も死ぬだろう」

呟くようにそんなことを口にする里保を、「金鴉」は死のヴェール越しに睨み付ける。
瞳に焼き付けられる、果てしない憎悪と、そして恐怖。

「こんなの、こんなの里保ちゃんじゃない!!」

聖は、否定する。受け入れられない。
確かに相手は、敵だ。自分達を陥れ、そのためにリヒトラウムに遊びに来ていた多くの人
々を犠牲にした憎むべき相手だ。でも。

彼女を止めるべきか。
幸い、後方の「煙鏡」は自分が戦禍に巻き込まれたくないのか、強張った顔をして遠巻き
に様子を窺っている。割って入るなら今しかない。

77名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:49:00
それでも、誰一人、動かない。
いや、動けない。頭ではわかっている。わかっているはずなのに。
理屈ではない。生物としての、本能。今あの場に行けば、命を失う。
里保がそんなことを、自分達に刃を向けるはずが無い。信じている、はずなのに。

「衣梨が行く」
「えりちゃん!!」

前に踏み出す衣梨奈を、間髪いれずに香音が制止する。
衣梨奈の表情に、悲愴な決意にいち早く気づいていたからだ。

「『精神破壊』は使っちゃダメだ!!」
「邪魔せんで!里保を、里保を止められるんは、衣梨しかおらん!!」

かつて里保が精神操作能力者の手に落ちた時に彼女の窮地を救ったのは、他ならぬ衣梨奈。
最大の出力で「精神破壊」を使った結果、里保を傷つけることなく相手を撃退することに成
功していたのだが。

「今の鞘師さんに、生田さんの『精神破壊』は危険すぎます」
「どうして!!」
「狂気で、狂気を鎮める事はできないからです」

あの時里保が現実の世界に戻ってきたのは、衣梨奈の奔流のような能力と里保の強靭な意思
がうまく噛み合ったから。でも、今は違う。最悪、二人とも失ってしまう。
春菜が私情を捨て、冷静に判断した結果の結論だった。

「じゃあ、どうしたらいいと!このままやったら、里保が…!!」

里保は。
いや、返り血に染まった剣鬼は。
ずたずたに切り刻まれた「金鴉」の上に跨り、刺突の構えで切っ先を心臓に向けていた。

78名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:49:35
静かに、それでいて力強く。
落とされる刃に、眼下の相手が最後の悪あがきを仕掛ける。

まっすぐに突き出さようとしている掌。
問題ない。掌ごと、貫き刺すだけだ。
そんな時。聞こえるはずのない声が、里保の脳裏に甦る。

― やめて りほりほ!! ―

「………みっ、しげ、さん?」

里保の呟きと、振り降ろした刀が砕け散るのは、ほぼ同時。
全身に刻まれた赤の憎悪。それが、波が引くように消えてゆく。
ただそれは、彼女自身の限界をも意味していた。
意識が、消えてゆく。まるで血に染まった負の力が退くのに巻き込まれるように。

膝から崩れ、そして地に伏す里保。
雨はいつの間にか、止んでいた。

79名無しリゾナント:2015/08/03(月) 13:50:08
>>70-78
更新終了

80名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:38:26
パイプ椅子が二脚とスチール製の机、その上に置かれた机上灯
鼻をつく黴の酸いた匂いとタバコのくぐもった臭いで思わず鼻がまがりそうになる
おあえつらえ程度に作られた小さな窓にはセンスの悪い艶やかな色のカーテン

「・・・どういうことですか?」
「なにがだ?」
目の前に座っている人物に小田は問いた
「・・・こんな話はお聞きしておりませんが」
「確かにこの部屋はきれいとは言えない。いや、汚いな、その点は認めるし、謝ろう
 しかし十分にこちらとしては丁寧にもてなしているつもりだ。贅沢なものだ。
 時間はいっぱいあるんだ。のどが渇いたろう?お茶だ」
そういって腰をあげ、部屋の片隅に置かれた冷蔵庫から琥珀色の液体の入ったガラス瓶を取り出す
「・・・へんなものではないですよね」
「失礼だな。ただの日本茶だ。自白剤とか混ぜてなどいないから安心してくれ」
自分で言ったことが面白い、とでもいうように口元を綻ばせてみせた

「あらためて問うが、小田さくら、ダークネスが一から開発に成功した能力者だな」
「・・・その言い方は好きではありませんが、真実です」
瞳に暗い光が一瞬灯ったが、相手は気づかなかったのか小田は判断できなかった
「能力は『時間跳躍』、5秒程度の時間を自分だけが動けるようになる。その間、君以外は時間が止まったことを認識できない」
人気のアニメキャラクターが表紙を飾るメモに書かれたのであろう『報告』を読みあげながる
「・・・ええ、ただ、その間の出来事は消えるわけではないので、銃弾は認識されない5秒の間でも5秒分の距離を動きます」
「なるほど」

テープレコーダーのアナログな音が会話の空間を埋める
「素朴な疑問だが、その5秒の間、君にとって時間はゆっくりと進むのか?
 それともわれわれが感じる5秒、そのものの長さなのか?」
「・・・5秒は5秒です」
そういって小田はパン、パン、パン、パン、パンと5回手をたたいた
「・・・このくらいの時間と感じてください。その間に超速度で移動できる、とかそんなことはありません」
「認識できない時間になんでもできる、というわけでもなさそうだな」

81名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:39:10
「・・・その通りです。自分だけの時間を作る以外はたいしたことはできません
 ・・・超高速で動くにはまた別の力が必要ですね。それこそ別の能力、ですかね」
「随分と自分を過小評価しているものだな」
「・・・過大評価するどこかの誰か、よりは優れている、とだけお答えしましょう」
「それは、私も知っている人のことか?」
「・・・ご想像の内に」
無表情という表情を浮かべた

突然隣部屋から悲鳴があがった
「ぎゃああああああああ」
その声に小田は聞き覚えがあり、壁際に駆け寄り、耳を当てた。何か漏れてくる音がないのか
「・・・石田さんですか」
「そのとおりだ」
「・・・何をしているんですか?」
「さあ??私にも詳しくはわからない。ただ、はっきりしているのは、相棒があの子をとても気に入ったことだけだ
 ちなみに彼女は君と違い、私達のもてなしを十分に喜んでくれたぞ」

「いやあああああああ、もふもふしてるううううう」
なおも続く石田の叫びで小田は壁から離れ、椅子に座りなおした

「・・・しかし、心配ではないのか?」
女は覗き込むように机に肘をたて、小田に声をかけた
「・・・何がですか?」
「隣にいるのは仲間だろ?私の目には君の表情が変わっていないように見えるが」
「・・・あの人なら大丈夫ですよ。自分でなんとかするでしょうし。
 ・・・大声をあげる、ということは元気に生きている証に他なりません
 ・・・それに、あなたがたがそんな乱暴をするはずもないですし
 ・・・あと、たまには痛い目に合えばいい。調子にのってばかりでしたから。」
「ハハハ・・・君はやはり面白いな」
女につられて、小田も笑う

82名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:39:45
小田のその表情を見て、女は真顔に戻った。一挙一動を逃さまいとする緊張感が再び部屋に満ちた
「ほう、ずいぶんいい笑顔だ」
「・・・どういう意味ですか?」
「いや、われわれの得た情報では、君は初め『笑う』という感情を持っていなかったと聴いていたからだ
 眉ひとつ動かさずに地下の組織を潰した、という報告もある
リゾナントでどういう経験をしたのかは知らないが、いい笑顔だ」
「・・・ほめ言葉として受け止めておきます」
「何も純粋な褒め言葉だ、それ以外の深い意味なんてない。笑うことはいいことだ。健康にも精神にも」

小田が女の常にあがった口角に目を注ぐ一方で、笑顔の女は手元に広げた別の資料にも手を伸ばした
「小田 さくら。誕生日、不明。血液型 不明。出生地 不明。まったく作る価値の乏しい資料だと思わないか」
「・・・そうですね。ただ何も無い、私は『無』から生まれた、と答えれば満足でしょうか?」
「満足はしないな。名前しかないなんて悲しすぎる」
小田は首を振った
「・・・ダークネスで教育された時には名前すらなかったですよ」
無言で女は資料を小田に手渡した。その資料に目を配り、沸々と怒りが込み上げてきたのか指先に力がはいる。

「ダークネスはコードネームを好むのか、わからないが、名前をつけたがる。万国共通だ
 私が把握しているのはGやAなんていうcodeもあるが、君のものはまた特殊だな」
「・・・いや、これはコードネームなんかじゃない」
憎しみで歯軋りを始め、爪が指に食い込むほどに拳を握りこむ
「・・・これはただの識別番号、ただの番号、私を人間ではなく、ただの兵器として存在させるだけのものだ」
資料を両手で細切れになるまで破き、破き、破き、地面に叩きつけた
いつの間にか立ち上がり興奮のためか肩を大きく上下させる小田を女は椅子に座ったまま見上げる

「水でものんで落ち着くがいい」
コップを差し出し、一気に飲み干した
「ただの水だが心を落ち着かせるには十分だろう。さあ、話の続きをしようか」
「・・・」

83名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:40:31
しかし小田は何も話そうとしない。沈黙に耐えきれず女が問いかける。
「どうして答えないんだ?何か不満でもあるのか」
「・・・はい。大いに不満があります」
小田は自身の前におかれつづけている、それを指差した
「・・・これはなんですか?」
「?? 何って、それは

 オリジン弁当ダ」

リンリンは満面の笑みで言った
「おいしいぞ。日本の誇る味だ」
「・・・いや、結構です」
「なんでダ?確かに刃千吏の経済事情でこんな古い日本支部の一軒家に連れてきてしまったことは申し訳ナイ
 だが、それ以外は一流のお茶葉に日本の名水、そして、美味しい日本の味だゾ」
カーテンはリンリンの私物だがそのファッションセンスが独特のため、小田には理解できなかったのだ

「・・・そこですよ。リンリンさんは中国出身ですよね」
「モチロンダ」
「・・・じゃあ、なんで中国料理でもてなしてくれないんですか!
 ・・・本場中国の料理を、炒飯を、麻婆豆腐を、そして小籠包を、小籠包を、小籠包・・・」
正直小田はリンリンにつれられてここに来るまでの間、非常に楽しみにしていた
刃千吏の総帥の娘でグルメがもてなしてくれる。期待せずにはいられようか
小田には無理であった。この家に到着するまでに口の中は唾液で満ち溢れていた
それなのに、それなのに
「・・・小籠包がないなんて」
「いや、そんなこといってもリンリンの地元は小籠包有名ではないからナ
 仕方ない、リンリンのオリジンのシュウマイを一個あげるから、機嫌を直して」
そこにぎゃあああとまた石田の声が響く

84名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:41:06
ついに我慢できなくなってリンリンは小田を連れ添い立ち上がり、隣部屋のドアを開けた
「うるさいぞ!ジュン!何しているダ!まだ小田ちゃんへのもてなしが済んでないんだ・・・?」
「・・・石田さん、なにしてるんです」
言葉を失いかけたリンリンともともと大きな眼をさらに広げた小田の目の前には
「あ、小田ちゃん、た、助けて」
「グルルル」
石田はジュンジュンもといパンダに抱きかかえられていた

「・・・ジュンはいったいどうしたんだ?」
興奮気味のジュンジュンに口をあんぐりさせたリンリンがようやく我に返り石田に問いかけた
「え、え〜と、リンリンさんと小田ちゃんがあちらで話されている間に私も弁当を用意されまして。
 それでジュンジュンさんがお茶を用意するといって席をたたれたんです」
じたばたとどうにか逃れようともがきながら答える石田の姿は捕えられた宇宙人の如く滑稽に映る

「それで、もてなしだと聞いていたので先にお弁当を選んだんですね
 ジュンジュンさんが帰られてお茶を出していただいたんですが、『石田ちゃん、そっちはジュンジュンのだ』って」
「・・・まさか石田さん、豪華なお弁当を選んだんではないですよね?」
「そ、そんなことない!ただ私はから揚げが乗っている弁当を選んだだけだ!!」
私は何も悪くないとでも言うように堂々と精一杯胸をはる石田だが、小田はため息をつく
「石田ちゃん、ジュンは肉食ダ。楽しみにしていたんだろう、その唐揚げを」
そうだとでもいうように「ガウッ」と吠えた

「え?パンダって草食ではないんです?」
「パンダだけどジュンジュンダ。肉が大好物だ。あと小柄でダンスが巧い子モ」
「!!」
慌ててまたじたばたと暴れだす石田をみて、小田はにやりとほくそ笑んだ
「・・・よかったですね。石田さん。最近、道重さんからの愛情が足りないってぼやいでいたところでしたからね」
「こらあ、小田ぁ!嘘いうなあぁぁ」
「ジュンジュンさん、石田さん、思う存分愛してほしいって言ってますよ」
それを聞いて俄然気合が入ったのか、道重には負けたくないと思ったのかジュンジュンは大きな体で石田を包み込む
「ぎゃああああああ」

85名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:41:40
それを一人冷静に見ていたリンリンはつぶやいた
「リゾナンターも変わったナ」

「ん〜もういい!自分でなんとかする!」
リンリンも助けてくれないと悟った石田はリオンを出現させた
「おう、青いライオンちゃんダネ」
動物好きなリンリンは目を凛凛と輝かせる
「ジュンジュンさん、怪我させたらごめんなさい」
十分にジュンジュンが自身を解放してくれるように力を抑えてジュンジュンの背中にとびかからせた
そのまま二人は床に倒れこみ、背中越しのジュンジュンを通し、石田にも相当な衝撃が走った
しかしジュンジュンのロックが緩んだ瞬間を逃さず石田は抜けだした

「イテテ。石田ちゃん、少しイタイネ」
パンダから人間に戻ったジュンジュンはリンリンの手を支えにして立ち上がった
「ジュンジュンさんが離してくださらないからです!」
「石田ちゃんがかわいいカラナ」
かわいいといわれて満更でもないが、あれほど長く抱き(かかえ)られたのは初めてであり当然身構える

「ん?ドウシタ?石田ちゃん、遊ぼうヨ」
「や、やめてください。も、もう・・・」
石田の構えをみて、小田が悪いことを考えたときの笑みを浮かべた
「・・・ジュンジュンさん、石田さんはジュンジュンさんと相撲をとりたいようですよ」
「 !! 」
慌てて首をふる石田だが、ジュンジュンはそうなのか、といって構えに入っていた
「うわわわわ、リ、リオーン」

ジュンジュンとリオンの立ち合いは大きな衝撃波を生み出した
空気が弾けたようにびりびりと窓ガラスが震え、リンリンの結いたポニーテールが揺れた
「すごいネ、石田ちゃん。ジュンに正面からぶつかるだけのパワーがある
 そして昼間の戦闘で魅せた機動力。実に頼もしいネ。そうは見えないが、度胸もアル」

86名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:42:17
それに同意するように小田は頷く。しかし、とリンリンは言葉を選びながら続けた
「小田ちゃんも気づいているんではナイカ?石田ちゃんの最大の弱点を」
「・・・弱点?」
小田は挙げることができなかった。石田はリゾナンターにしては珍しくバランスの取れたタイプと評価していたからだ
「そう、石田ちゃんは小田ちゃんが気づいているように突出した『何か』がない、そして何かが残念ダ」
当然気づいていると思いこんだリンリンは石田には聞こえないよう配慮しながらも断言した
「正確に言うならば、あと一歩、その一歩分の何かがタリナイ。すべてが平均以上ダガ、100点がナイ
 石田ちゃんらしさ、といってしまえばいいのかもしれないガ、実に残念ダ」
そう言っている間にジュンジュンに石田は再び抱え込められてしまっていた

「・・・残念ですか。それこそが石田さんの良さと私は思いますがね」
「それもまた真ナリ。長所は短所、短所こそが長所であるからナ」
じゃれるジュンジュンと必死になって逃げ惑う石田をみて小田は思う
(・・・それなら私の弱点はなんだろうか?時間を止め、自分だけが動ける空間を作る能力)

そうやって悩む小田を見てリンリンは細かく破り捨てられた小田の『番号』のことを思い出していた
(こうやって悩むなんて、リゾナンターに出会えてよかったナ
 誕生日もリゾナンターに出会ったあの日にしたそうだしナ
 君にはすでにいい名前が付いているから前を向けるだろう?)

「コラ、ジュンジュン、いい加減石田ちゃんと遊ぶのやめなさい!
今度はリンリンが石田ちゃんと遊ぶ番ダカラ!!」
そういいながらジュンジュンに駆け寄るリンリンのブーツから紙切れがふわりと舞い上がった
それは小田がびりびりに破った資料の一片

風になびかれて右に左に流れる紙切れ
何が記載されていたのか今は判断できないが、紙の中央にはたった一つの文字
それは終わりでもあり、始まりでもある、唯一の数字
破かれる前の資料にはこう記載されていた
『被験体名 小田 さくら(仮) : password is 0 』

87名無しリゾナント:2015/08/05(水) 00:49:51
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(11)です
久々。おひさ〜。なんてねw
はっきりいって保管庫がなくなっても俺はモチベ変わらんよ。書くときに書き、落とせたら落とすだけ。
作者は作者の役割果たすだけでいいんじゃない?
この回は「からあげ弁当たべて怒られるだーいし」と「小籠包な小田ちゃん」をかきたかったから満足♪
タイトルの意味も半分示せたので、次回からは展開しますよ。

ここまで代理お願いします。

まー修行は2日後!!

↑これは代理しないで、ここを見た人だけの特権。

88名無しリゾナント:2015/08/05(水) 06:33:40
転載行ってきます

89名無しリゾナント:2015/08/05(水) 06:54:35
転載完了
例の部分はカットでw楽しみに待ってます

90名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:24:19
>>70-78 の続きです



目を疑うような光景が、広がっていた。

非の打ち所の無い勝利のはずだった。
事実、自分たちはあの恐ろしい悪魔を無力化することに成功した。
そう、思っていた。

「天使の檻」襲撃チームのアタッカー部隊である「ベリーズ」「キュート」の波状攻撃に、なす
術もなく崩れ落ちた「黒翼の悪魔」。そして、ついに「ベリーズ」の展開した特殊空間陣によ
って闇の彼方に沈められた。
一度取り込んだら、決して逃がさない。
「七房陣」の恐ろしさは、苦楽を共にした「キュート」のメンバーなら全員知っていた。それな
のに。

あの悪魔は、いとも簡単にそれを破ってみせた。
全身を切り刻まれ満身創痍だったあの女を飲み込んだ異空間、それが弾けるように破壊し
尽され、地に伏した「ベリーズ」のメンバーの中心に「黒翼の悪魔」は立っていたのだ。

91名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:26:35
「いやあ、意外と時間がかかったねえ」

能登有沙の能力によって封じられたはずの、「黒血」。
しかし、悪魔は全身から漆黒の血液を流しつつも、その背中にはまごう事なき黒翼がはためいて
いた。

「ベリーズ」のキャプテンである佐紀が、地に伏せつつ信じられないものを見るような顔つきで
悪魔を見上げる。
いや、彼女だけではない。その場にいる全員が、不可解と恐怖の入り混じった視線をそこへ向け
ていた。

「そんな…うちらの『七房陣』、ううん、『八房陣』は完璧だったはず…なのに」

茉麻の悔恨に満ちた言葉が、むなしく響き渡る。
田中れいなに「七房陣」を破られてから。
「ベリーズ」のメンバーたちは自分たちの力を磨き、技はさらなる進化を遂げた。
その名は、今は亡き友のために。七つの力に、忘れないと心に誓った少女の名を添えて。「七房
陣」は「八房陣」へと生まれ変わった。

だが、蓋を開けてみれば、強固なはずの陣はあっさりと破られてしまった。

「まあ確かに厄介な陣だったけどね。けど、『キッズ』総出で甚振ってくれたおかげで、『悪い
血』が早く流れ出きったから。ある意味、助かったよ」

黒血とは、微小なナノマシン群によって構成される特殊な血液。
とは言え、血液を作り出すシステム自体は普通の人間と変わらない。能登の能力は、「現存する
」血液の力は完全に封じることができた。だが、彼女の死後「新たに作り出された」血液には効
果は及ばない。
そして外界から遮断された空間は、汚染された血を洗い流し、新たな血液を生み出すには格好の
場所となったのだ。

92名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:27:57
まさに皮肉な、結末。
苦悶と、無念の表情で次々と頭を垂れてゆく「ベリーズ」メンバーたち。

「あんたたちがごとーを隔離してくれなかったら、やばかったかもね」
「ま、舞波…」

最後まで踏みとどまっていた桃子も、ついに旧友の名を口にしつつ意識を失ってしまった。

「みんなを助けるよ!!」

リーダーの舞美の声が、一際大きく響く。
その声の力強さに我に返った「キュート」のメンバーが、瀕死のはずの敵目掛けて駆け出した。
「ベリーズ」が瓦解した理由はわからない。けれど、先ほどまでの優勢がそう簡単に覆るわけが。
しかしその侮りは、意外なものたちによって覆された。

「どういうつもり?」

打ち放たれた千聖の念導弾。
それを「黒翼の悪魔」に届く前に無効化した相手に向かって、舞が問う。
赤と黒のコントラスト。黒目がちな瞳が、嬉しそうに細くなった。

「どういうつもりも何も。最初からこうするつもりだったんですよ?」
「あんたたち、まさか」
「そのまさかだよっ!!」

赤と黒の影が、早貴を襲う。
咄嗟に回避行動に出たものの、その鋭い爪は早貴の二の腕あたりを掠めていた。
先ほどの少女と同じような赤い帽子を被った、猿に似た少女が血に染まった爪を見てほくそ笑む。

93名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:30:21
「なるほどねえ。『ジュースジュース』は、ダークネスのスパイだった、と」

愛理が、いつものとぼけた口調で事実を確認する。
敵であるはずの「黒翼の悪魔」に従うその様子。操られているようにはとても見えない。

「ええ。潜入は楽でしたよ」

「黒翼の悪魔」を守るように、立ち塞がる四人の少女たち。
彼女たちの中での一番の年長者が、こともなげにそんなことを言った。

「さて。私たちの任務は二つ。ひとつは、警察機構の対能力者部隊に潜入すること。そしてもうひ
とつが…」
「ちょっとうえむー、何やってんの!!」

猿顔の少女が、慌てたようにその名を呼ぶ。
そうだ。確か「ジュース」は五人組の構成だったはず。ではあと一人は。

「ああああっ!!!!!!」

すらっとした長髪の少女が、嬉しそうに誰かを抱きしめている。
いや、違う。強靭な両腕は、がっちりと相手を捕らえて離さない。足が地面に届かないのか、もが
くようにばたつかせている。
抱きしめられていた小柄な女が、潰された声を上げていた。

「佐紀!?」

顔を青白くさせ悶絶しているのは、「ベリーズ」のキャプテン清水佐紀。このままでは彼女の命が
危ないのは明白だった。
泡を吹き、血さえ流しているのを見た舞美が助けに入ろうと、ベアハックを極めている少女へ突進
したその時だ。

94名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:38:23
足元に突き出た、黒鉄の牙。
気づくのがわずかでも遅かったら、貫き刺されていた。

「ダメだよー。後輩の邪魔しちゃ」
「くっ!!」

ふわりと微笑む「悪魔」、舞美は彼女を睨み付けることしかできない。
「ジュース」のメンバーたちは、全てを切り裂く鋼翼に守られていた。

歯軋りをするような思い。
今の舞美を支配している感情だった。
目の前の、美しすぎるほどの金髪と正式に対面したのは、ダークネスの幹部からリゾナンターの殲
滅を拝命した時のこと。
あの時は、圧倒的な実力差に何もできずに異空間に送り込まれた。
当時より強くなったと思えるくらいの研鑽を重ねてきた。はずなのに、突付けられたのは無力な自
分という現実。
このままでは、呑み込まれてしまう。

一方。佐紀を甚振るのに飽きた少女は、今度は傍らに倒れていた雅に目をつける。
佐紀を投げ捨てると雅を抱え上げ、そのままぐるぐると回し始めた。

「あははは、楽しーい」
「もう、うえむー!遊んでないでこっち来て!!」
「えー、めっちゃ楽しいよこれ」
「いいから早く!」
「はーい」

キーキー喚く少女に辟易したのか観念したのか。
遠心力で雅を打ち捨て、四人のもとへ走る少女。ここに、五人の赤と黒が揃う。

95名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:42:01
「申し遅れました。私たちは『ジャッジメント』。空位になった粛清人の、新たな継承者です」
「粛清…」

リーダーらしきその女性は、はっきりそう言った。
最初に顔を合わせた時のままの、困り顔。けれど、今ははっきりと見える。困惑した表情の奥に潜
む、黒い感情が。
そして、「粛清人」。
そのキーワードは一度でも闇の側に身を置いた人間なら、誰もが震え上がるほどの響きを持っていた。
しかし「黒の粛清」「赤の粛清」の後継が、彼女たちだとは。

「『セルシウス』『スコアズビー』…いや、今は『キュート』に『ベリーズ』か」
「組織が命により、あなたたちを粛清します」
「暴れちゃうよー」
「というわけで。覚悟!!」

若き粛清者たちが、一斉に襲い掛かる。
相手は5人、対するこちらも5人。まともなら、各個撃破も可能だろうが。

「悪いけどさぁ。今は、待ってる暇はないんだよね」

再び舞美たちを狙う、黒き槍。
「黒翼の悪魔」も加えたこの軍勢、攻撃を凌ぐのが精一杯。
いや、負傷している「ベリーズ」の面々のことも考えるとこちらの不利は明白だ。

ふと、目の前の景色が揺れる。
まだ攻撃は受けていないはずなのに。舞美が周囲を見渡すと、早貴が顔を青ざめさせているのが見えた。

96名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:42:33
「ばっかだなあ。『毒のジャッジメント』はもう始まってるのに」

猿顔の少女が意地悪く微笑む。
咄嗟に舞美が周囲に霧状の水を巻いて希釈を試みるも、最初の一撃で毒を受けていた早貴には効果が薄い。

「リーダー、ごめん…」

早貴の苦し紛れの言葉と、その傍らで舞が「ジャッジメント」の一人に吹き飛ばされるのは、ほぼ同時。
拳を薄紅色の結晶状の何かで固めた女が、薄ら笑いを浮かべていた。

「なんかむかついてきたぞー」
「むかついてるのはこっちのほうなんだよ!!」

やる気満々の女に向け、千聖が念動弾の構えを取る。が、肝心の弾は一向に発射されない。

「あれ?何だこれ、ちくしょう!体が、動かな…」

自らの体の異変に戸惑う千聖に、先ほどまで佐紀や雅を蹂躙していた少女が急襲した。
強烈な拳を腹に受け、声すら出すことなく倒れてしまう。ここまで、あっという間の出来事。

「いやいやいや…こりゃ全滅かな」

「黒翼の悪魔」と「ジャッジメント」たちを遠くで見ているのは、吉川友と真野恵里菜。
彼女たちは既に、戦況の敗色が濃厚と見ていた。しかし、どことなく他人事な様子の真意とは。

97名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:43:29
「まのちゃんどうする?」
「どうするも何も。うちらだけで何とかできるわけないじゃん。さぁやものっちもみんな死んじゃったし」
「だよねえ」

つんくの仕掛けた、総力戦ではあるが。
ここで総員玉砕することに、何の意味も無いのは確かだった。
育成中の後輩能力者たちがいる限り、対能力者部隊自体がなくなることはない。あわよくば、実力者の生き
残りということで今より待遇が良くなる可能性すらある。

恵里菜の判断に頷く友。
瞬間、激しい閃光が二人を襲う。
敵の攻撃か。しかし、目が眩んだ隙に何かを仕掛けるわけでもなさそうだ。
光が退いた後に彼女たちが目にしたのは。

天使。

純白の羽根を広げた、人の形をした光。
その存在を「銀翼の天使」と認識するまで、恵里菜と友は棒立ちしたままの姿を晒していた。
恐怖のあまりに体が動かない? それとも目の前の敵を倒すという闘争本能?
その、どちらでもなかった。

雨上がりの空。
雲間から現れる太陽、その光を浴びたいと思う自然な欲求。
恵里菜は。その光の中を覗きたい欲求に駆られる。彼女の能力ならば、それは容易いことだった。
本能は、絶えず警鐘を鳴らしていた。
逃げろ。引き返せ。それでも。

恵里菜は覗き見てしまった。
光の奥にある、闇の深淵を。

98名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:45:07
「ぅあああああぁあああぁ!!!!!」

白目を向き、引きつったように体を仰け反らせ昏倒する心の読み手。
深淵の闇に何を見たのか。髪は一瞬にして白くなり、顔は干からびたように枯れていた。
彼女の心はもう、息をしていなかった。
天使は。空ろな表情で、その様子を見ている。

「ちょ、だ、だれか…」

想像を絶する出来事に、思わず腰が砕けてしまう友。
宙を彷徨っていた天使の視線が、動いた。動くものに反応する、形あるものを虚無の彼方へ送るだけの目。

「あーあ、やっぱこうなっちゃうんだ。つんくさんも大したことないねえ」

半ば失神しかけていた友の前に降り立つ、黒き翼。
彼女がピンチに駆けつけてくれたヒーローでも何でもないことは、見るからに明らかだった。

闇夜のような羽を携え、「黒翼の悪魔」が「銀翼の天使」と向き合う。
こうして対峙するのは、「さくら」を連れて来た時以来だろうか。その時の彼女は心を乱され、溢れる狂気
をこちらに向けている状態だった。しかし今から思えば、その時のほうがまだ人としての佇まいを残してい
たかもしれない。

少なくとも、今のような「人の形をした別の何か」ではなかった。

「せっかく檻から出られるようになったってのにさ。残念だよ」

悪魔は肩と背中の小さな羽を竦め、がっかりした顔をする。
しかしそれも、束の間のこと。

「でも。こうなったらこんこんも許してくれるよね? 全力で殺しにかからないと、ごとーが危ないからさ」

口にする危機感とは裏腹に。
悪魔の顔は、歓喜に満ち溢れていた。

99名無しリゾナント:2015/08/22(土) 07:46:18
>>90-98
『リゾナンター爻(シャオ)』更新終了

参考資料
https://www.youtube.com/watch?v=u2m04De8bSk

100名無しリゾナント:2015/08/22(土) 14:44:45
本スレ
>>520-524の続きです。

101名無しリゾナント:2015/08/22(土) 14:47:14

今度は、春水の身体が勝手に動き出す
右手が左手首に延びる

「え、え? どういうこっちゃ? てか、コレなんか関係あるん?」
「あるはずさ」

外したのは、静電気防止のリストバンド
それに
春水が愛用してる黄色の腕時計

「両方預かる」

春水の意思と関係なく、傀儡師にリストバンドと腕時計を渡してしまう
まるで操り人形みたいに

「なるほど……〝傀儡師〟っちゅうんは、そう言う事やったんか。てか、それ返せや!」
「力尽くで取り替えすんだな。さあ来い。遠慮はいらないぞ」
「言われんでも!」

──油念動力──オイルキネシス

動きを止めてた油が、傀儡師に向かって地面を進んで行く

「コントロールが不安定なのか? ただ地面を這うだけじゃないか」
「やかましいわ! まだ能力者デビューしたてや!」

浮け!
飛べ!
当たれ!
なんでもええから起これ!

102名無しリゾナント:2015/08/22(土) 14:47:54

「うおっ!?」

いきなり春水の足元が動いて倒れそうになる

「なんや!?」

いつの間にか、春水の足元に油が集まって来とった
倒れそうになったんは、これが動いたから?

「何をやっている、能力のスタミナ切れか?……思っていたのと違うな」
「やかましいわ! 勝手に期待しといて勝手に落胆するなっちゅうねん!」

後ろに下がり、傀儡師から離れる
すると、油が春水を追う様に流れて来た

「不安定やけど、なんとなくわかってきたで。この能力の使い方が!」

多分、春水に近い油が動かしやすいんやろ

油と言ったら滑る
滑ると言うたら

「これしかないやろ!」

──油念動力──オイルキネシス

足元の油に集中してコントロールする
常に地面に油がある様にすれば

「春水は誰よりも自由に動けるんやで!」

103名無しリゾナント:2015/08/22(土) 14:48:51

交互に両脚で地面の油を蹴って進む

「得意のフィギュアスケートか。急に人が変わったな」

傀儡師の周りを移動しながら加速する
充分なスピードが出た所で

「これでも喰らい!」

回転しながらジャンプ
そして、足元から油を撒き散らす

「うわ!」

撒き散らされた油は辺りに飛び、もちろん傀儡師にも掛かった

「……これだけか?」
「必殺! オイル・ダブルトゥループや!」

ドヤァ!

「……これを頼む」
「オッケー」

傀儡師が変身女子(略)にタブレットを渡す
そして、壊れた一斗缶を拾った

「オラァッ!」

ガコーンッ!

104名無しリゾナント:2015/08/22(土) 14:51:52
>>101-103

多忙を言い訳に、半スレ振りの投下です。
爻さんみたいになりたいです。

105名無しリゾナント:2015/08/22(土) 14:55:06
>>104

また忘却しました。
代理お願い致します。

106名無しリゾナント:2015/08/22(土) 20:48:09
転載行ってきます

107名無しリゾナント:2015/08/23(日) 22:51:30
本スレ
>>962-964の続きです。

108名無しリゾナント:2015/08/23(日) 22:55:24

傀儡師に蹴られた一斗缶が、春水の顔面に向けて猛スピードで飛んで来る

「うおっ!?」

上体を後ろに反らして一斗缶を避けた
つもりやったけど

「掠った! 今ちょっと鼻の先を掠ったで!?」
「遊んでる暇は無いんだよ」

──精神干渉──

春水の腕時計を握る傀儡師
その手には、力が入っていた

「おい! アカンって! それは春水の

バキィッ!

傀儡師の手の中で、腕時計が砕けた

春水の腕時計が、壊れた
よくも
よくも!

──油念動力──オイルキネシス

樹の間から大っきなドラム缶が飛んで来て、傀儡師に向かって行った

「ようやくか」

──精神干渉──ライン・マニピュレート

109名無しリゾナント:2015/08/23(日) 22:55:57

傀儡師の手元から金属製のワイヤーが伸び、ドラム缶に巻き付く
傀儡師に向かっていたドラム缶は、軌道を変えて春水達から離れた場所に落ちた

「まだまだやぁっ!」

──油念動力──オイルキネシス

ドンッ!

ドラム缶から液体が溢れ出す
あれは

「油とちゃうんか?」
「あのドラム缶の中身はガソリン、一応は油だ」

傀儡師がワイヤーをしまい、春水から離れる

確かに臭い
てか、油やったらなんでも操れるんやろか?
いや、細かい事は気にしとれん
とにかく今は

「逃がさへんで!」

溢れたガソリンと一緒に傀儡師に迫る

「……あたしらの結論、教えてやるよ」

110名無しリゾナント:2015/08/23(日) 23:01:45
>>108-109

短いですが。
代理お願い致します。

ちなみに『秋氷』の時点で油念動力と気付いた方はいますか?


>>106
転載ありがとうございます。

111名無しリゾナント:2015/08/24(月) 00:11:28
転載行ってきます

112名無しリゾナント:2015/08/27(木) 22:43:05
前スレ
982-983の続きです。


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