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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

172名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:33:15
「だ、誰?姿を現せ!!」
工藤がその声に向かって吠えた
『いやいやいや、工藤、何言ってるの?姿見せたら作戦台無しでしょ?』
「さ、作戦?はる達を追い込むための作戦だと?」

『いやいやいや、そんなことひとっこともいっていないから
工藤、話しっかり聞く、状況考える、冷静になる。教わったでしょ?』
「お、教わった?」
きょとんとする工藤に暗がりから声がかかる
「そや、これはうちらの作戦や。そこでしっかりみとき」
「関西弁?ということは?」
月明かりが窓から差し込み、暗がりを照らした。そこには光井の姿、そしてその手にはトランシーバーが

「襲撃することは視えとった。せやから、次に何かあった時にはここにくるように新垣さんが佐藤にうえつけといたんや」
二日前に佐藤を褒めるように頭をなでている新垣の姿が思い出された
「あ、あのときですか?」

「それで愛佳がいるのはいいけど、何をする気なの?」
「・・・道重さん、やはりこの件は愛佳たちも手をかすべきやと思います
 もともとの原因がうちらにあるわけですから」
『そういうこと。さゆみん、私達も協力させてもらうからね』
トランシーバーから新垣の声が流れてきた

しかし、と鞘師は思う。いったい、どうやって新垣が亀井を捕えるのかと
『そろそろやすしが、どうするのかな?なんて思う頃だろうね』
自分の心を完全に読まれているようで、唇を少し噛みしめた
『さあ、その倉庫からでてみなさい。ただしゆっくりね』

「ゆっくりとってどういうことなんだろうね?香音の眼にはなんも見えないんだけど」
そういいさらに数歩踏み出そうとする鈴木
「! まってください、鈴木さん」

173名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:33:48
「ま、待ってっといわれても急には止まれない 痛いっ」
痛みを訴え倒れこんだ鈴木、その足首から血が流れていた
「・・・ピアノ線ですね。それも視えないくらいの細さ」
「ええ、はるの眼でようやくみえるくらいのピアノ線。それもこの倉庫群全部に張り巡らされています」
地面には鈴木のものと思われる血溜りができていた

「鈴木、動かないで。治してあげるから。ねえ、愛佳いつからこの準備をしていたの?」
「準備ですか?そうですねえ、作戦を思いついたのはこの前会う時より前ですね
 準備、という意味でしたら・・・数時間というところですかね」
「たった数時間で?」
驚くのも当然だろう。工藤の眼にみえているのは巨大な倉庫群だったのだから
そこにすべてピアノ線を張る、それがどれほどの労力がいるのか、精神力がいるのだろう
「・・・新垣さん、さすがやね」
『こら〜生田!感心している場合あったら、周囲を警戒する
 カメは私達を狙っているんだから、気を抜くと危険だよ』

しかし、と譜久村は疑問に思ったことを光井に問いかけた
「どうやって、亀井さんは私たちの居場所を把握しているんでしょうか?」
光井はニヤリと笑った
「それはな、愛佳と道重さんがおるからこそできる作戦なんや」
「作戦?」

「もともと私たちはリゾナンター、共鳴のもとに繋がっておることはみんなも知っとるやろ?
 今回は、その絆のために愛佳と新垣さんは亀井さんが復活したっちゅうことに気づいた
 っちゅうことは逆もありえるやろ?」
はっと気づいたように譜久村が手を口元にあてた
「お二人の共鳴の絆を頼りに私たちの居場所を突き止めることが亀井さんにできる」
「そういうことや。共鳴を逆手にとって亀井さんをここにおびきよせる」
『そして近づいたところを私が生け捕りにする』

174名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:34:47
「でも、風の刃でワイヤーを破壊することだって想定されるじゃないですか
 遠距離から攻撃してきたらどうするんですか?」
『だからこそ、そのためにこれだけ広範囲に結界をはっているの
 幾重にもワイヤーを断てば、風の刃の飛んでくる方向くらい簡単に解析できる』
穴はない、ってことですか、先輩、と鞘師は思う

「亀井さんは瞬間移動することはできへん、遠距離からの風または近づいてからの攻撃しかあらへん
 それにもしダークネスの瞬間移動装置を使ったとしても、この倉庫の周りにも幾重のワイヤーが張り巡らされてる
 近距離ならあんたらでも攻撃できるやろ?風の動きはこの使っていない倉庫にたまった埃で見えるようになっとる」
鼻を刺激する黴のような臭いが漂っているのはそのせいだった
「さすが愛佳とガキさんですね」
『何言ってんの、みんなにも協力してもらうんだからね。ただ自分の身は自分で守ってもらうよ、自己責任だからね』

先輩二人の作戦には落ち度はないように感じられた
新垣を攻撃する可能性もあるが、そこは新垣のことだ、安全な場所にいるのだろう
問題は亀井を捕えてから、ということも鞘師は考えていた
いずれにせよ、まずはその姿を捕えなくてはならないと、柄を持つ手にも力が入る

トクン、トクンと自身の心臓の刻むリズムが静寂を不気味に助長させる
一分が数時間にも感じられるような濃い時間が流れる

そして、その時が訪れる
「来るで」
『来た!!』
新垣の張っていたピアノ線が一斉に竜のように一か所に集まっていく

その中心には当然のように亀井の姿
目に見えないとはいえ、明らかに自分を狙っている何者かの気配を感じあらゆる方向にカマイタチを放つ
カマイタチにより切断された糸は地上にいる11人からは見えない
しかし、その後ろから新たなもピアノ線が次々と亀井の元へと集まっていくのだろう、亀井の手は動き続ける

175名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:35:21
「いける、これなら亀井さんを捕まえられます!」
「で、でも新垣さんは大丈夫なんでしょうか?あのピアノ線は新垣さんが全て操っているんですよね?
 あのピアノ線を辿れば新垣さんの元にたどり着くことになるんじゃ?新垣さんはいま、無防備なんですよ」

「だれが無防備なんだって?」
振り向くとそこには新垣が腕を組んでたっていた
袖からは操っているはずのピアノ線の束は全く見えない
「え?え?新垣さん?なんでここに?」
「新垣さんがここにいるのにどうやってピアノ線が亀井さんにむかっているんですか?」

「・・・あれはフェイクなんですね」
「そうや、もともと、ここの現場には詐術師が現れたっちゅう未来は視えとった
 新垣さんのワイヤー操作の根本は精神操作、それを阻害されたらすべて終わり
 せやから、新垣さんはこの工場を選んだ」
「そういえば、ここはなんの工場なんですか?」
その問いに答えたのは工藤であった
「繊維工場の倉庫ですね」
「御名答、前もって新垣さんはただの繊維に自身の念動力で亀井さんの位置をただ辿るように念をかけた
 そして、建物の周囲にだけ本物のワイヤーで亀井さんが攻撃をしてきたときに方角を把握できるようにした
 攻撃されたとき、その位置を座標で示し、念を込めた糸たちが自然と飛んでいくようにしただけや」
「・・・あの糸にはなんの殺傷力もない、ただ亀井さんの位置を示す、それだけの役割なんですね」
小田の眼をまっすぐにとらえて、新垣が満足そうにうなずく
「小田ちゃん、やるね」

「すごーい!!新垣さん!!それでこれからどうするんですか?」
生田の問いに振り返って新垣は袖から透明な糸を取り出した
「あの糸に集中している間に死角からこれで直接たたく。なるべく生け捕りにしたいからね」
無数の糸に絡み取られそうになっている亀井を地上から仰ぎながら、悲しそうな目でつぶやく
「カメを救わなきゃね」
そして、その糸を亀井めがけ、伸ばしていく

176名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:36:47
絶妙に亀井のカマイタチを避けながら糸は伸びていく
時折、新垣は「おりゃ」だの「およよ」だの呟きながらも集中力を欠かすことなく伸ばしていく
そして亀井にあと少し、というところまで伸びていったのだろう、小さく、「いくよ」と仲間達を振り返り力強く言った
ワイヤーが亀井の体をぐるぐると囲み、一気にその腕を縛り上げた
突然動かなくなり、縛り付けられた形になった腕を亀井は見上げた
地上からはその時の亀井の表情は判断できなかった

「さあ、みんな、ここからカメの動きを」

そこで新垣の言葉は途切れ、地面に吹き飛ばされた
突然、飛ばされた新垣に仲間達は驚き、慌ててかけよった

「新垣さん、どうしたんですか?」
「あ、愛佳、カメのヤツ、私のワイヤーをやぶった」

そんなはずはない、と鞘師は宙を見上げる
あのとき、『確実に』亀井さんの腕は動きを封じられていた
これまでの攻撃を見る限り亀井さんの風は掌の上から生み出されている
それをしってのうえで新垣さんは亀井さんの腕を縛り上げたはずなのに

そして、自分自身が風のように飛んでくる亀井の姿が目に映った
「な、やばい!こっちに来る!」
慌てて石田がリオンを呼び出し、鞘師が水の刃を生み出す
しかし、視えない風を相手に何ができるのだろう?
不安が急速に膨らんでいくと同時に、距離が縮まっていく

光井が叫ぶ
「2秒後、飯窪と譜久村、左に飛び込め!5秒後、佐藤、工藤と石田を抱え飛ぶ
 鞘師は鈴木につかまり、鈴木は透過を発動。小田は生田とともに倉庫の中に避難
 道重さんは9秒後に新垣さんの左腕を治してください!」

177名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:37:33
予言通り、7秒後新垣の左腕がはじけとび、道重が慌てて腕をつかみ患部同士を繋ぎ合わせる
「ちょっと、愛佳!!これはやばいんじゃない?」
「さ、佐藤、可能な限り早く、飛んで逃げるで」
「む、むり〜さっきの移動ですぐにはとべない!!」

こうしている間にも無表情の亀井は迫ってくる
目的はやはり、リーダーシップをとっている新垣、または光井か
それとも治癒を行える道重か、攻撃の要の鞘師か?

しかし・・・亀井はそんな4人を無視し、工藤達が逃げ込んだ倉庫へ向かいカマイタチを放った
轟音とともに屋根の一部が崩れ落ちる

「生田!小田ちゃん!」
道重は叫ぶが、次々とカマイタチが倉庫を襲いその声はかき消される
「な、なんであそこばかり?」
「そんなこといってられないですよ!このままじゃ、二人が」

豆粒ほどだった亀井の姿がもう肉眼でもその表情がはっきり見えるほどに迫っている
倉庫の二人以外に亀井の興味はないらしい、倉庫へ一直線

「こ、こうなったらえりがなんとかしなきゃいかんけん」
「・・・いやはや、きびしいですね」
倉庫の中の二人は臨戦態勢をとっているものの、能力は心もとない
小田が時を感じなくしてもカマイタチがなくなるわけではない、放っているカマイタチは存在するのだ
それを小田は避けられるかもしれないが、生田が避けられる保証はなかった
(・・・能力は使っても意味はない、ということですか)
万事休す、そう思ったのだろう、笑ってしまう
「なに笑っていると!さくらちゃん、構えると!」

178名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:39:12
どうすればいい、と鞘師はまたも考えをめぐらす
この距離でなにかできるのか?いや、できない。何もできないのか?後悔するしかないのか?
いやだ、いやだ、いやだ、でも・・・何もできない、のか?

そう思い、亀井の姿を目で捉えた
風になびく緩やかな黒髪、魅惑的なあひる口、柔らかそうな肌、仲間達に向けられた両手、ピンク色に輝く瞳
(・・・ピンク色?)

「え〜い、これでもくらうと!えりぽん必殺!ワイヤー攻撃」
新垣と比較するとどうしてもその粗さが目立つが、ワイヤーが亀井向かって伸びていく
しかし、そのワイヤーの先端は亀井に触れる、その直前で淡雪かのように崩れていく
「な、なんやと?」
小田は思い出す
(・・・あの時と同じ、私が投げたナイフが消えていったのと同じだ)

迫りくる亀井を生田が恐怖に満ちた目で眺め、ぺたんと座り込む
「む、無理やって、これは、さすがに」
「・・・大丈夫ですか?生田さん?」
ハハ、と引きつり笑いをうかべながら弱弱しく答える
「大丈夫じゃないと」

そのとき、目の前が突然、太陽が昇ったかのごとく明るくなった
「イヤ」
誰かの声が届き、次の瞬間には緑色の炎がたちあがり、亀井を飲み込んでいた
「バッチリデス」
小柄な女性が残っている倉庫の屋根の上から顔をのぞかせ、笑って見せた

179名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:43:06
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(4)です
今のメンバーに興味がないわけではないですよ。だーいし面白い!
初期のメンバーばかり活躍させているけど、後半に現娘。メンが活躍するのでご安心を。
卒業までには完結は厳しいな。

ここまで代理よろしくお願いします。

180名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:49:57
■ コールドウォール −新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹− ■

「たっなっさっ!たーーーーーーーん!」
空を切って跳躍する影、猛烈な速度で田中の背後から迫りくるは、魔獣か悪魔か。
もういい加減うんざりとしながら身構える。
同時に強烈な激突、衝撃が背中を襲う。
「ぐはっ痛ったい!佐藤!」
「ぐふふふーひゃー!」
「うーるさい!」
「たっ田中さんすんません!もうまーちゃん田中さんから離れろよ!」
「やですよーだ!まーちゃんのたなさたんだもーん!」
「やめろ!『の』ってなんだよ『の』って!失礼だろっ!」
「べーっだ!まーちゃんのったらまーちゃんのだよーん!ねー?たなさたん!ねー?」
「いやちがうけん」
「ほらー!まーちゃんはなれろよー!」
「ひゃー!やだー!ぐひひひひ!」

「…いやー、なぁんか、上が騒がしいねぇ…」
「そうですねぇ、ええことちゃいますかぁ?」
階下では新垣、光井が並んで食後の洗い物。
「まぁねぇ、そうだねぇ…」
複雑な思い。
新垣はもう一度、天井を見上げる。

”あの”たなかっちがねぇ…

181名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:54:52
朝からなぜこんなに騒がしいのか。

近くのアパートメントに仮住まいしていた10期、
――先日の入院騒ぎの後、
いつのまにか、あの4人はそう呼ばれるようになっていた――、
は、現在、リゾナント前の通りを挟んで向かい側、
新築マンションの2部屋を買い取り、そちらに移り住んでいた。

ちなみに2部屋なのは凰卵女学院で寮生活を続ける9期、
――ついでのように、
譜久村、生田、鞘師、鈴木の4人までヘンテコな呼び名で通るようになっている――
も、いずれは卒業するだろうからで、
まあとにかくも、その結果、当然のように起床と同時に4人はリゾナントに殺到するようになっていたのである。

朝食の後、石田は凰卵学院へ、道重と飯窪は開店準備、そして佐藤と工藤のお世話係が…

”あの”たなかっち…

なのである。

田中は難しい人間だ。
人間嫌い、子供嫌い、干渉嫌い、まさに野良猫のような性格。
とても子供の世話が務まるような”出来た”人間ではない。
実際、10期が身を寄せた当初、田中は完全に、この4人を拒絶していた。

拒絶。

明確で、巨大で、分厚い…、冷たい、壁。

だが佐藤優樹は、そんな壁をものともせず、頭から突っ込んでいく。
何度も何度も何度も…何度も、である。

182名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:55:40
新垣は、佐藤が田中に罵声を浴びせられ、
冷たく拒絶される場面を数えきれないほど思い出せる。
そう、こんな短期間で、すでに数えきれないほど。

怒号。

ほかの10期が小さくなるほどに怯え、縮こまるほどの鋭い罵声。
そのたびに、佐藤は、げらげら笑いながら、こっちに走ってくる。
「ひゃー!にがきさーんたすけてー!たなたさ…えっと、こわいひと怒ってるー!」
「ちょ、アタシを巻き込まないでくれるぅ?」
そのたびに、新垣が返す言葉。

ほんとうに、アンタはすごいよ…アタシはさ、そう、アタシはたった一回で…

ズキリ、かつての傷が、新垣の胸を突く。
佐藤が罵声を浴びせられる場面は、数えきれないほど思い出せる。
だが、新垣は一度しか、思い出せない。
新垣自身が田中に浴びせられた罵声、冷たい拒絶、その場面を。
ズキリ、また痛む。

「いやーしかし、すごいよねーあの子は、さ。」

田中の難しさは何も新人にだけ向けられているものではない。
その拒絶の壁は初対面に近かったころには、すべてのメンバーが
一度は向けられていたものだ。

道重や光井は慣れたもので、もう最初からそういうものとして田中と接してきた。
機嫌が悪そうならそっとしておき、機嫌がいい時はそれなりに楽しく盛り上がる。

183名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:56:21
では新垣は違うのか?
いや、道重や光井と変わらない、もともと関係は悪くはなかったはずだ。
それに、今でも仲が悪いわけではない。
皆が集まってワイワイしている中でならば、普通に会話もする仲だ。
だが、二人きりになった途端、完全に会話が途切れてしまう。
やがて、どちらともなく、二人きりになる事自体を互いが避けるようになり…
そんな状態が現在まで続いている。

いつからだろう?やっぱり愛ちゃんがいなくなった、あの時の…
ズキリ、新垣は強く言い過ぎたのかもしれない。
ズキリ、そしてそれは田中も…
お互いに、それがわかっていながら…

184名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:57:07
あのとき、アタシも、もう一度、飛び込むべきだったの、かねぇ…

ドシーン!バターン!ぎゃひー!
怒号と足音が降りてくる。

「ちょっ?ちょい?なにぃ?」

勢いよくリビングへ飛び込んでくる佐藤。
靴下履きの足でフローリングを文字通り滑走、両手を突いて減速させると同時に、
一直線で新垣へ向かって突っ込んでくる。
「キャハハハハ!ひゃー!にがきさーん!たすけてー!」

満面の笑み。
この笑顔が、田中の心を溶かしたのだ。
自分には出来なかった、あの壁を、この子はあっさりと…

「もう怒ったけん!ガキさん!そんガキつかまえて!今日こそは!」
「だーからさーアータシは巻き込まないでって…」

もしかしたら、さ、また、アタシたちも、もしかしたら、さ…
ねぇ?たなかっち…

185名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:58:34
>>180->>184
■ コールドウォール −新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹− ■
でした。

186名無しリゾナント:2014/09/20(土) 09:24:16
>>179です
代理投稿ありがとうございました。
いつもありがとうございます。

187名無しリゾナント:2014/09/20(土) 13:56:59
>>158-161 の続きです



一方、彩花の精神世界に入り込んだ春菜は。

一面に草花が咲き誇る草原に立っていた。
見上げると、抜けるような青い空。それでも、春菜はその景色に違和感を覚えていた。
一番大きな違和感は、ここまで晴れ渡っているにも関わらず。
光差し込む源が存在していないということ。太陽が、ない。

吹き抜けるそよ風も、美しく咲く花も、どこまでも広がる草原も。
色彩だけが強調され、そこに温度と言うものが存在していなかった。
さらに、もう一つの異常な光景は。

目の前には、木枠に嵌った美しい絵画。
それと同じものが、無数に空間に浮かんでいた。

これが、今の和田さんの精神世界…

かつて春菜の前で絵の魅力について語った彩花。
だが、色彩だけが暴走し無数の絵画が不安定に浮かんでいる光景からは。
その片鱗すら、見受けられない。

188名無しリゾナント:2014/09/20(土) 13:58:26
それにしても、見たことのない絵ばかりだ。
絵画に関してはある程度の知識を持つ春菜だが、空間に浮かぶ絵画たちのタッチには見覚えがまるでなかった。
もしかしたら彩花の心が描くオリジナルのものかもしれない。

その絵画のうちの一つに、自然に目がいく。
そこには、繊細なタッチで描かれた四人の少女たちの肖像画があった。

これは…和田さん?

右手前に描かれた少女は、今よりも幾分幼さを残しながらも凛とした美しさを湛えている彩花。そして春菜は、他
の少女たちにも見覚えがあることに気づく。

この人たちは。そうか、そういうことだったんだ…

彩花の隣に立つ、色白で柔和な表情を浮かべる少女。
後ろに立つ、聡明そうな少女。その隣にいる、浅黒い活発そうな少女。
「スマイレージ」と名乗り、春菜たちに戦闘を仕掛けた三人の能力者たちだった。

― うちには隠し玉の『リーダー様』もいるしね ―

そして戦いの後、花音の残した言葉が春菜が見ている絵と符合する。
和田彩花こそ、彼女の言っていたスマイレージのリーダーなのだろう。
彼女が垣間見せた能力の一端は、その予測を補完するに十分であった。

彩花は春菜がリゾナンターだと知っていて近づいたのか。
否。春菜は首を振る。もし本当にそういうつもりなら、あの時に他のメンバーとともに姿を現すのが効果的だろう。
そのような小細工を弄するようなタイプにはとてもではないが、思えなかった

189名無しリゾナント:2014/09/20(土) 13:59:55
思い直した春菜の目に飛び込んで来たのは、傷だらけの四人が互いを支えあいながら辛うじてその場に立ってい
る絵だった。先ほどの絵とタッチは似ているが、そこには苦しさや忍耐のようなものが含まれているように思えた。
見ているだけで、胸が押しつぶされるような絵。息を呑むことすら忘れてしまいそうなプレッシャー。
この姿が、彼女たちが辿ってきた道だというのだろうか。

和田さん、どうしてここまで?

言葉と共に、自然に絵画に手が伸びる。
カンバスに手が触れた瞬間、電撃にも似た衝撃が春菜を突き抜けた。
とともに彼女の頭に流れ込んでくる、膨大な情報。
頭の中に描かれる、もう一つの世界。

190名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:00:30


人工能力者「エッグ」としてダークネスに育てられた、文字通りの能力者の卵たち。
とある幹部の思惑で組織を離れ、警察機構の手に渡る事になった彼女たちだったが、待ち受けていたのは苦難の連続だった。
ダークネス時代と変わらない過酷な実験、そして実戦さながらの訓練。

襲い掛かる苦難を耐え、そして地に伏せることなく立っていられたのは。
自分達が一人前の能力者として、認められたいという強い意志。
そして共に目標へと向かってゆく仲間の存在があったからだった。
だが無情にも、一人、また一人と脱落してゆく子供達。その中に、彩花が親友と呼んで憚らないある少女がいた。

いつもにこやかな笑顔を浮かべるその少女は。
人々を癒す力を持ちながらも、戦う力をほとんど持たなかった。
いつしか彩花が彼女を守り、傷ついた彩花を少女が癒す。
戦場で築いた絆はやがて永遠へと続いてゆくとすら思えた。しかし。

運命は彩花に苛烈な結末を与える。少女はとある訓練のさなかに命を落としてしまったのだ。

その少女を喪った悲しみ、絶望は計り知れなかった。
一度は闇の淵に落とされた彩花。
その心を救い出したのは、他ならぬ同僚の前田憂佳だった。
彩花は憂佳に心を預けるとともに、もう二度と「友」を喪わないと心に誓った。

191名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:03:14


どうやら、衣梨奈の能力と春菜の能力が共鳴しあった結果、通常ではありえない現象が起きているらしい。対象物に触れるこ
とでその情報を引き出すと言えばサイコメトリーとも言うべき能力であり、能力複写を得意とする譜久村聖の基本能力でもあ
る。それが春菜にも行えるというのは、一重に衣梨奈による精神世界の具現化と春菜の五感強化、さらに彩花の精神世界の中
にいるという条件が揃った結果の産物だった。

春菜は得心する。
「スマイレージ」の三人と交戦した時の、ともすればこちらが突き落とされそうになるほどの彼女たちのプライドの理由を。
彼女たちは、負けられなかったのだ。この程度の相手に遅れを取るようでは、先にある大きな目標など遠い夢。
確かに感じは良くはなかったが、彼女たちなりに高みを目指していたからこその態度。
彼女たちの未来へと足掻く姿と誇りが、目の前の絵には込められている。素直にそう思えた。

そこで初めて、春菜は疑問に感じる。
共に支えあった、目的を同じにした仲間たち。そんな仲間たちがいるのにも関わらず、今の彩花は廃人同然だ。一体、彼女の
身に何が起こったのか。

その答えは、無数に浮かぶ絵画たちの最奥にある絵にある。
そう春菜の直感が訴えていた。
その絵だけが、他の絵とは一線を画した禍々しい気に覆われている。
カンバスは黒く塗りつぶされていて、何が描かれているかもわからない。
それだけに、その絵画が今の彩花を形作る何かであるように思えた。

192名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:07:10
黒い絵に向かって、一歩踏み出したその時だった。
空間が激しく揺れ、所々に大きな歪みが生み出されてゆく。

「これはもしかして外の生田さんに何か…!?」

彩花の精神世界と言えど、それを形にしているのは紛れも無く衣梨奈の力。
その世界が揺らいでいるということは、明らかに彼女の身に何かがあったということだ。

だが、春菜には衣梨奈を手助けする術はない。
彼女自身は自らの意思で彩花の精神世界から脱出することはできないのだ。
いや。そんなことを考えること自体、衣梨奈に失礼な話。彼女は自分を信頼しているからこそ、サポートに回ったのだ。
自分が先輩である彼女を信頼できないはずがない。

ならば、やることは一つ。

あの絵を読み解いて、和田さんを助けるための鍵を絶対に…見つける!!

春菜の強い願い。
それを嘲笑うかのように、黒く塗りつぶされた絵はゆらゆらと、歪んでゆく空間に浮かんでいた。

193名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:08:12
>>187-192
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

194名無しリゾナント:2014/09/23(火) 22:28:41
■ サンクスフォア −工藤遥− ■

キラキラと床に広がる白い霧、その中心に立つは白狼と3人の少女たち。

「うん…かっこいいよすごく」
「ウチも見せてあげたいよ、けっこう似てるのリオンに」
「どぅーきれーい…」

「ありがとう…」

みんなありがとう

この姿を見ても
誰もハルを嫌わなかった。
誰もハルを恐れなかった。
みんなハルを認めてくれた。

「でもちょっと寒いかなこの霧」
「そぉ?ウチは平気だけど」
「どぅーの毛皮冷たくてきもちいー!でっかいどーの雪みたい!」

「おいおい…」

みんなありがとう

じゃあ、みんな、いこうか

195名無しリゾナント:2014/09/23(火) 22:29:12

>>194
■ サンクスフォア −工藤遥− ■
でした。

196名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:09:35
■ モックコンバット−新垣里沙・田中れいなX9期・10期− ■

リゾナント地下、モニター室に座るは道重、光井。
二人の見つめる先、4面の大画面と10面の小モニターには、様々な角度から映される2つの部屋。

一方は新垣と9期メンバー4人の姿が
一方は田中と10期メンバー4人の姿が

9期10期…変な呼び方や。
ほんまに佐藤は変なことばっかり考えるんやから。

「新垣さんのAルームのほうは生田が先鋒みたいですね」
「生田かぁ。生田もずーっと新垣さん新垣さんよね」
「生田にとっては貴重な体験なんちゃいます?
思い切り能力使ってもびくともしない相手とやらんと、体得できないタイミングというか」
「ガキさんが言うにはそれでも相っ当!痛いらしいけどね、生田の【精神破壊】受けるの」

「けどこうやって分かれてみるとそれぞれの色…というか
4人集まったときの性格の違いみたいなんがはっきりでるもんですね」
「ええ…」

Aルーム、新垣に対する4人は生田を先鋒に一対一の模擬戦を開始するようだ。
ところが一方、Bルームは…

197名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:10:09
「もうはじまっとりますやん」
「前へ!前へ!って感じね」

総がかり。

あいさつもそこそこ、いきなり襲い掛かる。
最初から一対一なんて考えてもいない。
4人いるんだから4人で戦うのが当たり前、それが彼女たち10期の色。

「なんかずうっと喋ってますね」
「戦いながら作戦会議してる」
「手と口が同時に動くっちゅうか…あ、田中さん容赦なく飯窪行った、え?」
「佐藤が止める、あ、ふきとんだ…でもすごいね、読んでたんだ」
「あらー、田中さん飯窪への攻撃外しよりました?」
「モニター越しって面白いね、これ飯窪さんきっと自分の位置ずらしてるんだよ」
「そか飯窪のホントの場所がみえへんのや…
ある意味恐ろしい能力ですよね。あの田中さんですらあっさりかかってしまう」

「他の3人は見えてるの?飯窪さんをうまく庇いながられいなの左右に回り込んでる」
「そのようですわ、おー工藤当てた?いやぎりぎり避け、完全に引き裂きに行ったであれ、恐ろしい」
「速いね、狼になると。」
「あの子も思い切りええとこあります。普段は田中さんの目も見れんほどモジモジしとるくせに」
「うふふ。でも私とか愛佳には、普段からちょっと上からよねあの子。」
「生意気盛りで困ったもん…あー田中さんの膝が入った…全然効かんか…頑丈やなー」

198名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:11:11
「石田はほんと愛ちゃんみたいな戦い方するね」
「テレポートからの格闘…ほんまです。
でも攻撃が似てるだけに、読心術の有無の違いが浮き彫りになりますね。
田中さんもそのへんの差で石田を読み切って…あ、でも石田当てた!お、お、お、おおっ?あ!
ふー田中さん打ち終わりに合わせて一発、あの返しで連打を切りましたね、今のあぶなー。
目にも留まらんような連撃、キレっキレや…あの子、ホンマ強い。」
「【幻想の獣】は使ってないみたいね。たぶん禁止はしてないんだろうけど…ねえあれ、
飯窪さんあの子なにやってるの?ほふく前進?」
「あーこれは…無茶やなぁ…」
「これ、偽の自分にれいなおびき寄せて足掴んで引き倒す気?
もーそんな手、れいなひっかかるわけないとおもうけど…でも…面白いかも」
「佐藤が誘導役ですね、普段あんなんなくせにこういうとこ察しが早いねん」
「きた…れいなきたよ…もうすこしもうすこし…あっ」
「あっ、掴ん」
「ばれてるしー」
「残念、ほかの子の動きから飯窪の場所読まれてましたやん…あ、飯窪KO」
「移動が遅すぎて不自然だったのもあるかも、あ…石田」
「まともに入りましたね、こら立てへんわ。残りは工藤と佐藤ですかって言ってるそばから工藤、
3、4、5…わからんけど、いま田中さんが何度も蹴り込んだあたりに顔が埋まっとったんやな」
「あー溶けてる溶けてる…こっちは決着ね、佐藤もう笑っちゃってるし」
「でも惜しかったー…皆ガンガン攻めて、飯窪みたいなタイプ普通後方待機するもん思たけど
あの子らは迷わず全員で攻撃に参加するんですね、あぶないわー」
「なんか途中から不思議と応援しちゃってたね…あそういえばガキさんたちのほうは?」

「もう2人終わってますね、生田・譜久村と」
「あとで録画みなおしましょ…あーおしい、鈴木が…」
「自分が攻撃してるときに同時に見えない角度から打撃されると、
【透過】が間に合わないみたいですね…あとは鞘師か。」
「はーん!凛々しいりほりほもかわいいの…」

「……(ホンマこの人は)……」

199名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:11:46
――――

「やー完敗よ、もー鞘師には全然歯が立たないわ。
あーっと思ったらさ、もう腕も脚も極められちゃって。
ほぁー?って、もう参った。」

「でも新垣さんが【精神干渉】使ってたら逆に私たち全員何もできてないです」
「いーのいーの鞘師、細かいことは。
みんなも自信もってダイジョブだよー。前やった時よりみんな成長してる。」
「新垣さん!衣梨は?衣梨はどがいだったとですか?エリは?エリは?!」

「うー…なんでかなー?なんで上手くポンポンポンとこう、繋がってかないのかなー?うーっ」
「や、でもほら私たちだけであんなに協力してがんばれたんだし、みんなで
私の事、何度も守ってくれたし、私感動したの、あゆみんすっごい良かったと思うよ」
「……そう?」
「うん!すっごく!それに【幻想の獣】温存した状態であんなに戦えるなんてすごいよ!」
「えっ?そーかなぁ?えーっ?そーおぉ?」
「そーだよおー」「そーかなー?へへへっ」「そーだよおー」

「チェッ!チェッ!チェーッ!なんだよ!結局センパイに勝てたの鞘師さんだけじゃんか!
ちくしょー!つーかまーちゃん!なんで降参しちゃったんだよ!ちゃんと最後まで戦えよ!」
「だってどぅーがビターン!って倒れてビターンって、こんな感じ、ビターン!って!ぐひゃひゃ!」
「なっ、笑うな!モノマネするな!」
「ビターン!」
「やめろー!」


悲喜交々

リゾナントは今日もにぎやかだ。

200名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:12:30
>>196->>199
■ モックコンバット−新垣里沙・田中れいなX9期・10期− ■
でした。

201名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:44:54
■ アイエフブイ −鈴木香音・鞘師里保− ■

「もしかしたら、かのんちゃんの力って【物質透過】じゃないかもしれない」
あのとき、りほちゃんが言ってたことがなんなのか、
アタシには、まだよくわかんないんだけど、
それでも、りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
だから…

カカカカカカッ
シュシュシュシュシュ…
ズズズズズズゥンン!!ズシィン!!!

「うーぉっ!強烈っ!」
アタシは頭を抱える。
鼓膜がおかしくなりそうな轟音。土ぼこりがもうもうと巻き上がる。
アタシたちがなんでこんな目にあってるか、説明したいとこなんだけど、
いまちょっと取り込んでるんだよね。
だっからもーのすごく簡単に言うと、アタシとりほちゃん、
めっちゃくちゃ撃ちまくられてる最中なわけ…

…戦車に。

うわまた来た!

ズガン!ズズズズン!

戦車って言っても、なんだっけか?
ほへーせんとーしゃーりょ?なんかわからんけど、まあ戦車だよ戦車。

「やー、この位置、もうばれちゃってるねー」
もーりほちゃん冷静すぎてアタシのほうが焦るよ。

202名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:45:58
「りほちゃん、どーする?後ろに見えるあそこの瓦礫まで走る?」
「んー、突っ込もうか」
「うんわかった…え?」
「かのんちゃん、あれに突っ込もう」
「お、おういいね…詳しく聞こうじゃないか」

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
りほちゃんが「やる」といったことにアタシが反対する理由なんかない。
でも、さすがにそれはさぁ。

「こないだ練習してた時の事、覚えてる?」
「うん、もちろん」

格闘訓練、りほちゃんの攻撃、アタシが【物質透過】、りほちゃんの突きが身体をすり抜ける。
ふと、りほちゃんが動きを止める。
じっと自分の手を見る、曲げたり伸ばしたり。
「どったの?りほちゃん」
「かのんちゃん、もっかい」
言うが早いか突き、アタシ【透過】
ズボ!すんごい音がして突き抜ける。
で、今度はそのまま、んーとか唸ってる。
なんか、手をにぎにぎしたりとか、やってたみたい、アタシの後頭部だから見えんかったけど。
そのうち、両手を突っ込んだり、その手をパタパタ交差させたり、
スリッパもってきて片腕突っ込んだままアタシの上から落として透過させたり、
しばらく不思議な動きを繰り返して、
で、こう言ったんだ。

「やっぱり…ちょっとだけ…『ズレ』る」

203名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:46:29
ズズズン!ガラガラガラ!
うわぁ崩れてきたぁ!ここもとうとうオシマイだよ。

「そういうわけだから、かのんちゃん、今決めたリズムで突っ込んで。
あとはウチが合わせるから。」
「アタシはいいけど、りほちゃん戦車まで『そうする』つもりなの?」
「うん、だいじょうぶ、かのんちゃんとならウチやれるよ。」
そっかアタシとならやれるか…うん…じゃあやろう。

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
りほちゃんが「やる」といったことにアタシが反対する理由なんかない。

たしかに、忘れ物が多かったり、朝起きれなかったり、すぐ転んだり、
ちょっと足りないところもあるけど、大丈夫…
あれ?なんか不安になってきたよ?
まあいいや、とにかくやろう、うん、やっちゃおう。

「じゃあいくよ!かのんちゃん!」
「よし来い!りほちゃん!」

うおおおおおおおおおおおおおおお!

アタシは瓦礫から飛び出す!
【物質透過】全開!
足の裏を除く、全身を同時に【透過】、そのまま突っ込む!
ほんとだ、ギリギリ間に合う。
りほちゃんの言った通りの距離だ。

204名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:47:07
戦車の上の小さいほうの鉄砲がこっちを向く、いっせいに撃ってきた!
信じられないだろうね、無数の弾丸がアタシを通過していくけど、
アタシには一切当たらない。
毛ほどの傷も、アタシには付けられないんだ。
でも、さ、白状しちゃうと、この状況、アタシもギリギリなわけ。
長い時間全身を【透過】させ続けるのって、めっちゃしんどいんだ体力的に。
水の中で息止めてるみたいな、そんな感じの100倍きつい。

だからきっと、戦車に届くギリギリの距離だから、アタシは、もうそこで限界。
戦車まで、戦車まで行くのが…限界…、きっとそこで、アタシはガス欠。
そしたらもうアタシはオシマイ。
でも、大丈夫、なんも問題なし、だってアタシには、アタシには…。

戦車まであと少し、目がかすむ、もう少し、もうちょっとだ。
あたしは最後の力を振り絞る、戦車の正面、思いっ切り、突っ込む。

装甲を、突き抜ける!

戦車の中は、思ってたよりずっと狭かった。
そこらじゅうにゴテゴテと機械がくっついてて、しかもなによりびっくりしたのは
中にすっごいたくさん敵が座ってて、ぎゅうぎゅうなの。
でみんなこっちみて口あんぐりしてんのよ。
でもそれも一瞬、即座に武器を構えて、銃口がぜんぶこっちに…
アタシはさ、もう無理なわけ、もう限界、もう【物質透過】させ続ける力は、残ってないわけ。
だから、アタシは、ここで、オシマイ、だから、あとは…

あとは!

205名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:47:55
「いっけえええええ!りほちゃん!」

きらめく水の刀、りほちゃんが飛び出す。

もうすごいんだ、りほちゃんは、あんな狭くて、立ってることもできないほど天井も低くて、
あんだけの数の敵がさ、いてもさ、もうすんごいはやさで動き回れるわけよ、
みんな同士討ちが怖くて、全然撃てなくてさ、あっという間にどんどん倒していっちゃうわけ。

そう、アタシの中にずっと入ってたんだ、りほちゃんは。
りほちゃんが言うには、アタシの中は、真っ暗で、何も聞こえなくて、息も吸えない、
でもりほちゃんはどこまでがアタシで、どこから外なのかわかるって言った。
だから、アタシの動きを全部読み切って、アタシと寸分たがわず動いて、アタシに重なったまま、
一呼吸もせず、ここまで走って来ちゃったんだ。
それで、あの動きだもん、まいっちゃうよ。

りほちゃんはこうも言った。
「大丈夫、かのんちゃんに重なってる物同士が接触することは、無いから」
つまり重なってる間にアタシに撃ちこまれる弾丸は、りほちゃんにも当たらない。
なんでそんなこと確信できるのか、アタシには全然わかんないけど、ほら、

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」こと、だから、さ。

あーこらもう勝ったよ、うん。
たぶん、だけど、たぶん、いやだってアタシはサ、もう…気が遠く…なって…

…りほちゃん…あとは…よろしく…。

206名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:50:18
>>201-205
■ アイエフブイ −鈴木香音・鞘師里保− ■
でした

スーツ設定も使いたかった…

207名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:22:57
光。闇。そしてまた光。
常夜灯で照らされたアスファルトを縫うように、十の影が駆け抜ける。
赤と黒に彩られた、異能の少女たち。
目指すは噎せ返るような闇の奥、白塗りの無骨な建造物。組織の研究所の一つだ。

だが、そうやすやすとは突破させてくれないようで。
彼女たちの行く手を漆黒の魔獣が阻む。
熊ほどの巨大な体躯に、特製のプロテクターを装着された「戦獣」。
その数、4、5頭ほど。陸自の一小隊に匹敵する戦力だ。

「ちっ、相変わらずこんなもの使って!」
「可哀想だけど…殲滅するよ」

生命を弄ぶ非道に憤る亜佑美。
その気持ちを汲みつつも、リーダーのさゆみが決断する。
彼女の言葉が合図となり、二つの人影が前方に飛び出した。

208名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:23:55
白のジャケットが基本デザインではあるが、肩から襟に取り付けられている赤い長布。
それが、踊るように撓り、そして鋭く魔獣の体を切り裂く。
赤く流れる閃光の布同様、血飛沫を上げる自らの体。激痛に身悶える異形の獣が、目の前に立つ少女の頭を叩き潰そうと剛
腕を振り上げたその時のこと。獣の腕は唸る太刀筋によって、あっさりと切断されてしまった。

「うーん、やっぱこっちのほうがしっくりくるかも」

自らの愛刀と、彼女の纏う戦闘服の機能による斬撃の鋭さを比べる里保。
自分の実力以外の何かに頼るのはあまり好まない性質ではあるが、実際戦闘が楽になっているプラス面は無視できない。
腕を斬り落とされ、それでもなお標的を食い殺そうと立ち上がる戦獣。
しかしその狂暴な顎が開くその前に、思いもしない方向から襲い掛かる音の塊によって聴覚器官が完膚なきまでに破壊された。

「なぁにさぼってんのさ里保ちゃん」
「大丈夫、信じてたから。かのんちゃんのサポート」

止めを刺してくれた親友に、里保は親指を立てて意思表示。
彼女の操る音もまた、戦闘服の赤い布によって増幅された代物だった。

一方、戦獣に立ち向かったもうひとつの影。
彼女は里保と違い、その手に得物を持っていない。
にも拘らず、漆黒の獣を飛び回るだけで分厚い毛皮が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
「時間跳躍」は彼女の所有する能力だが特筆すべきはそこではない。

209名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:25:29
端的に言えば。
さくらは、時間跳躍を最大限に活用することで「自分が一番効率よく相手にダメージを与えることのできる角度」に自分を移動
させることができた。ただの時間停止ならば相手が攻撃してくる方向を予測し防御することもできなくはない、がそれを許さな
いさくらの身のこなしと格闘センス。そして攻撃力は戦闘服の赤い布が補う。
だが、相手に致命傷を与えるよりもどの角度に自分を位置させるか。目的より手段が勝ってしまうことがままあるのは彼女の性
格ゆえか。

「小田ぁ!遊びすぎだぞ!!」

さくらが飛び跳ねている隙を見計らい、音もなく表れた少女が黒くごわごわした剛毛に覆われた獣の額に手をやる。
無限大の振動を加えられた戦獣の脳は、原型を留めないほどにシェイクされ、黒い巨体が地響きを上げて派手に倒れ込んだ。

「佐藤さん!私が戦ってたのに」
「いいじゃん、イヒヒヒ」

さくらと優樹がもめている間に。
同じ「赤組」の里保と香音、そしてさゆみが残りの戦獣たちを倒していた。

「これで全部かな」
「にしても凄いですね、この服」

辺りを見回すさゆみと、自らが纏う服の性能に改めて驚愕する香音。
戦闘力の高い里保とさくらだけでなく、本来は後方支援に向いている自分やさゆみまで飛躍的な攻撃力を発揮できるとは。
見た目は白のジャケットと黒のインナー。アクセントの赤い布が肩から垂れ下がっている。しかしこれが、戦闘服。
赤の布地は着用者の精神に感応し、時に武器となり時に能力増幅器官となり。また黒のインナーには防弾チョッキも真っ青な耐
久性が備わっているという。
あらためてこれを用意した、例の胡散臭い関西人のコネクションの広さに感心せざるを得ない。

210名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:26:26
「…まだ、みたいね」

さゆみの視線は、緩められることなくアスファルトで覆われた通用路の前方へ。
彼女たちが立っている場所から数十メートル。戦獣が全滅することなど計算のうちだったのだろう。
ロケットランチャーを構えた数人の男たちが、その矛先をこちら側に向けていた。

「ここは私たちが!!」

叫び声とともに、四人の少女たちが正面に踊り出る。
さゆみたちとは違い、白のジャケットは共通点としつつもインナーと肩の布が正反対。言わば「黒組」。

組織の警備兵たちが、濛々とした煙とともに一斉にランチャーを射出した。
勢いに任せた弾頭が、瞬く間に少女たちに肉薄する。だが彼女たちは微動だにしない。

「じゃあ聖がやるね」

そのうちの一人である聖が、一歩前に出る。
彼女の肩口からの黒い布が、大きく広がる。その大きさは、前方の視界を完全に塞いでしまうほどに。
まるで黒い何かの生き物のような布が、飛んできたミサイルを呑み込んだ。行き場を失ったそれが強制的に着弾し、凄まじい
爆発を起こす。それさえ、黒い布の前には衝撃ごと吸収されてしまった。

「な、なんだあれは」
「ミサイルが…食われた?」

呆気に取られる警備兵、そうしている間に三人の少女が一斉に走り出す。
我に返った兵の一人が小銃を取り出し、躊躇うことなくトリガーを引いた。

211名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:31:41
「だから、そんなん全然効かんとよ」

涼しい顔をして駆け抜ける衣梨奈。
彼女の黒い布はまるでプロペラのように高速で前方に回転、打ち出された銃弾をことごとく弾き返していた。

「今度はあたしが行きますね!!」

亜佑美の高速移動が、赤いインナーの身体能力増強によって切れ味を増す。
まさしく目にも止まらぬ速さで男たちに迫ると、同じく増強された蹴り技によって次々と警備兵たちをなぎ倒していった。

「おおー、さすがあゆみん。技のキレはピカイチだね!」
「太鼓鳴らしてるだけじゃなくてはるなんも働いてよ!!」
「みんながあまりにも凄すぎて、私なんかの出番はないかなぁって」

笑いながらそんなことを言っている春菜だが、倒れたふりをしていた警備兵の一人が不意打ちを仕掛けるのを余裕でかわし、
そして炸裂する裏拳。戦闘服の身体能力増強は、非力な春菜ですら立派な戦闘メンバーに変えていた。

さゆみたちが着ていた戦闘服とは違い、彼女たちの着ていた服は。
黒の布は伸縮自在の盾となり、身に降りかかるあらゆる攻撃を軽減または無効化する。
さらに、赤のインナーは着用者の身体能力を飛躍的に向上させる。仕組みは違えどこちらも戦闘服として絶大な効果を発揮
していた。

「今度こそ邪魔者はいなくなったかな。くどぅー、見てみて」
「よっしゃ、ハルの出番だぜ!!」

212名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:32:11
さゆみの指示で、後方に控えていた遥が自らの瞳の力を解放した。
物陰に潜む敵、研究所内に配備されている兵隊。全ての可能性が「千里眼」によって丸裸にされる。

「大丈夫っす。あとはもう『標的』しかいませんよ」
「そっか。ありがとね」

先程の警備兵たちが組織の最後の切り札だったらしい。
安心するさゆみに、亜佑美に伸された警備兵が苦しげに笑いはじめる。

「お、お前らはたどり着けない。お前らは、知らないのだ。『m0202』の恐ろしさをな」
「うるさい。おやすみ」

男の額を、刀の柄で一突き。
鮮やかな技を見せながらも、里保はさゆみに不安な視線を送らざるを得ない。

「だいじょうぶだよ、りほりほ」
「道重さん?」
「『あの子』のことは、さゆみが一番知ってるから」

胸に手をやりながらそんなことを言うさゆみは、里保を安心させているようにも。
そして自分自身に問いかけているようにも見えた。

大丈夫だ、この人を信じよう。

いつだって、自分たちを引っ張ってきたリーダー。そこに疑う余地など一片もない。
さゆみが先頭を切って歩き始めると、やがて後輩たちも後をついてゆくように先へと進む。
目指すは、闇深き研究所。

213名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:33:29
>>207-212
今日の結果を受けての撮って出しなので質はアレですが
単発もののくせに後半に続く…かも?w

214名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:14:58
あなたは何者なんですか?

私はごく平凡な家庭でうまれ、平均以上の愛情に包まれ、ごくごく幸せな日常を送りました
いろんなところに連れていってもらえました。動物園、水族館、博物館、そして教会
幼い私にとってはなにもかもが新鮮で、「あれはなに?」「これは?」「こっちは?」、いつも質問しては父を困らせてましたね
ただ、いつも笑顔で両親は私に教えてくれて、いい父でした

なんてことない普通の一日、父と母に連れられ、公園へ
帰り道、ふとめまいを感じ、座り込んだ。ほんの一瞬のめまい、目の前がゆがむような感覚
立ち上がり、ふと顔を上げると心配そうな父と母の顔がありました
しかし、私の目線は二人の上に向かわざるを得ませんでした。頭の上に数字が並んでいたのだから
『830』『826』、私は父に尋ねたんです。頭の上にあるその数字は何か、と

父は笑って答えました、何を言っているんだ?数字なんてないさ、と。
母も笑ってました。面白いことを言うのね、なんて言って
自分だけにしか見えない数字、その存在をその時は気にも留めませんでした

でもそれは冗談ではありません。周りを見れば、すべての生き物、人間だけでなく犬や鳥にも、数字が浮かんでいたから
『2000』『189』『3900』・・・いろいろな数字
そしてそれらはゆっくりと減っていて、そのスピードは個人差、いや種族差があるようでした

帰り際、近所の野良猫と出会ったのを覚えています―数字は『10』
頭を撫でようとするといつもなら逃げようとする、それなのにその日に限って静かににゃあ、と鳴くだけでした

家に帰ると飼っていた金魚の水槽にも数字が浮かんでいました、その数字は『8』
えさをあげると水辺にやってくるはずなのに、その日、沈んできた餌を食べていました

夜、夕食を囲んだとき、父と母の頭の上の数字は『750』『740』に減っていたんです

翌日、水槽を覗き込むと金魚が浮いていて、庭に行くと昨日頭を撫でた猫が倒れていました
あたまのうえに浮かんでいた数字はそれぞれ『0』になっていた

215名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:17:22
その時に直感的にわかってしまったんです
「この数字が0になったとき命が終わる」ことを
視えてしまっているのだ、他人の寿命を、なんて難しいことを今なら表現できます

そこに私の名前を呼ぶ父の声がして、金魚の墓を作ろうと提案してきました
父の頭の上の数字は『520』に減っていました

昨日から急激に数字が減っていたので、私は怖くなって父に抱き付いたんです
父は私が金魚がいなくなって寂しがっていると思い、大丈夫だよ、とやさしく抱きしめてくれました
父のたくましい腕が私の冷えた心を温めると当時に、すぐに恐怖のために冷えを感じていました

一日で300程度も減った父の数字
同じペースでへるなら明後日にも0になる
0になったとき父と私は永遠に別れなくてはならない
「ねえ、お父さん、お父さんはいなくならないでね」
「なにを言っているんだ?お父さんはずっとそばにいるからね」
・・・嘘だ。嘘だ。あと二日しかいられないくせに

いつも以上に両親にべったりだった私に両親はペットを失ったことの喪失感以上の原因がわからなかったと思います
だって誰が思います?明後日にも自分が死ぬ、なんて!!
朗らかに談笑する父も母も数字は明らかに減っていたんですよ

翌日も父と母と一日中、そばにいようとしたので、さすがに不思議がっていました。
適当に言い繕ってごまかしたのは覚えていますし、その一日のことは深く覚えています
夕食時には数字は100程度にまで減っており、眠れないの、といって両親の部屋で寝ることにしました
最後の夜になる、そう思っていましたから。

そして、その日の夜、暗がりの中でガラスの割れる音が響いたんです
その音に気づいた父が、母を起こし、動かないでいるようにと指示を出したのが耳に入ってきました
部屋を出ていく父の数字は一ケタになり、母の数字はもう3になっていました

216名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:18:11
突然、争うような音が起こり、ついでなにか固いものが倒れる音
母が私を起こし、押し入れの中に隠れるようにやさしくいってきました
私が戻ってくるまでここでいい子にしているのよ、なんて。
母は懐中電灯を手に、父を捜しに出かけた。暗闇でも光ってみえるカウントは2になっていた

幼い私は死ぬことよりもいなくなることが怖かったんです
はっきりいって死の恐怖というものを理解できなかった。ましてや自分が死ぬことは考えていなかった
だからこそ、私はこっそりと母の後を追って部屋を出ました

暗闇の中を壁伝いに歩いていくと、暗闇にあのカウントが浮かんでいたので、駆け寄りました
うつぶせに倒れているが、間違いなくそれは母でした
背中から殴られたのだろう、抱き起した私の手は血で濡れていて、その近くで壁に背をあずけている形で父もみつけました

私は父と母の名前を呼んで、起きて、と何度も大声で叫んだ
がたっと物音がし、振り返るとそこには黒い影と頭の上に光る数百万のカウント
「あ〜あ、ガキもいたのか。まいったな。ま、いいや、一緒にやっちゃえば」
私に向かってその影は蹴りを放ち、私の体は父と母の間に飛ばされる形となった
痛みで私は胃の中のものを吐き出しそうになりましたが、視線は男の陰に向いたままでした

私に止めをさそうと近づいてきた男の足をつかみました
必死の抵抗なのだが、所詮は子供、と思ったのでしょう、男は気にもせず、片膝をついて、私に話しかけてきました
「ムダで〜す、お兄さんには効きません」
その声はゲームをしているように弾んでいました

その時初めて、顔が見えないが、こんなやつに父と母を奪われるなんて、怒りを感じた
大好きな父と母の笑顔と目を見開いている今の父と母の表情
(許せない)
その怒りが天に伝わった・・・そう信じるしかない・・・でしょう
私の目に映る男の頭上のカウンターが数十万から急激に減少していったんです

217名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:19:09
・・・20万・・・10万・・・5000・・・・1000・・・500・・・100・・・50
そして、カウント5、4、3、2,1・・・0!

男は突然胸を押さえて倒れこみました

カウント0は終わりの印
この手で男の命を奪うことになった、それは恐ろしいほどあっけないものでした
自分が奪ったという実感はないのだが、それは事実、現実

それよりもこの男が両親を奪った事実、それがその時は何より大事でした
もうあの優しい声も笑顔も楽しい思い出もできない、それがつらかった
そこで私は気づいたんです。ガラスにうつった自分の頭の上に先程までなかった数字が浮かんでいることを
数十万の数字、それは先程、急激に減っていった男のカウント、そのままでした

もしかして、と思い、急いで父のもとにかけよりその腕を掴みました
(お願い、生き返って!!)
そう、願うと私の上のカウントは急激に減っていき、父のカウントが0から増えていくのです
0、1,2、3・・・・1000・・・50万!!
母の元にも駆け寄り、手をつかむとカウントを増えていきます
私の頭の上のカウントは0になっていたが、母のカウントは数十万まで上昇していた

そして、父がゆっくりと体を起こし、私の姿を見つけた父は私が無事なことを確認し、強く抱きしめてくれた
続いて、母もゆっくりと体を起こす。不思議なことに後頭部の傷は塞いでいるようだ
そして、倒れている男に気づき、警察に通報した

結局、警察は『犯人』の男が『突然死』したものと断定し、私達家族は「被害者」で事件は終了しました
後になってわかったことなんですが、この男は強盗殺人の常習犯でした
殺されずに済み、突然死を起こしたことが幸いでしたね、と警官は両親に話していました

218名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:19:53
でも、違うんです。私だけが知っている、父と母は『一度』死んだ、ということを。
それ以降も私の目には寿命のカウントは見える。ただ、あの日のようにほかの人のカウントを奪うことはありません

他の人の寿命が見える、それがどんな意味を持つのかわからない
ただ・・・見えてしまう。私は普通でないんです!!

だからこそ、カウントが見えない、あなたのことを私は知りたいんです
あなたは何者なんですか?

    −さゆみっていうの。よろしくね真莉愛ちゃん

219名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:25:17
>>
「カウントダウン」です。
思い付きだけで書いてしまった。
真莉愛ちゃんは共鳴系がいいってスレでは出ているけど、俺の中では真莉愛ちゃんは治癒能力系のイメージ
ま、名前からきているだけですが。真莉愛だし、あのビジュアルだから勿体ない!!
さゆの生命力増幅、マルシェの原子合成に続きあらたな治癒系として寿命の継ぎ足しを提案します
とはいえ、これは息抜き用に書いたものですから、スルーしていただいても構いませんよ

220名無しリゾナント:2014/10/05(日) 22:01:16
代理投稿行ってきます

221名無しリゾナント:2014/10/05(日) 22:13:37
代理投稿完了!うまくできてなかったらごめんなさい

222名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:42:00
☆ ★ ☆

「その子は、特殊な能力の持ち主でして」

モニターに映る、白衣を着た女。

「うちの組織の被験体、いわゆる『エッグ』というカテゴリーに属するんですが」

薄闇に佇むその姿は、いつ見ても嫌悪感しか催さない。
なぜならば。

「さゆ。あなたなら、知ってますよね? 彼女の能力の『本質』を」

画面の向こう側の女が浮かべる笑みは、命を弄ぶ人間のそれだからだ。
白と、赤と黒が交差する戦闘服を身に着けた十人の少女たちはそのことを痛感する。

「まあ、あなたたちがその子を連れだすことを阻みはしません。どうぞご自由に」

だから、本能的に理解できる。
彼女が投げかける、次の言葉を。

「ただし、『できるならば』ね」

223名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:42:48
☆ ★ ☆

部屋が再び、沈黙に沈む。
研究所の最奥、隔離されたような作りの部屋にその少女は立ち尽くしていた。
身柄を拘束されている感じではない。むしろ、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せるような。
そんな状況ですらあった。
現に、建物内には護衛の人間が誰ひとりいない。

作戦開始時は夕刻だったのに、いつのまにか日が沈んでいたようで。
窓から差し込むのは、淡い月光。
言いたいことだけ言って切れてしまったモニターの光源が消えると、部屋は頼りない月の光だけが頼りとなる。

窓際に近い場所にいた、白いワンピースの少女。
その顔には年相応よりは大人びた幼さと、儚さが同居していた。
青みがかった月の光に照らされ、神秘的にさえ映るその表情。
それがどこから齎されているものなのか、すぐに知ることになる。

「もう大丈夫、だよ」

聖が、少女を安心させるために声をかけた。
少女の体が、ぴくっと跳ねる。

「私たちは、あなたを助けるためにここまで来たの。だから、もう大丈夫。悪い人たちは全員やっつけたから」

亜佑美が少女に近づき、手を差し伸べようとしたその時だった。
それまで黙ってこちらを見ていた少女が。

「だめっ!近づかないで!!」

大きく、叫んだ。
意外な少女の反応に、異能の戦士たちの表情に戸惑いが浮かぶ。

224名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:43:27
「なんで!えりたちはあんたを助けに―」
「無理です。あなたたちに私を助けることはできない」

窓の外から、一匹の蛾が迷い込む。
何かに誘われるようにひらひらと舞っていた小さな生き物は。
軌道の途中で、白い煙を上げて消えてしまった。

「え」
「どうしたの、どぅー」

些細な、見落として当たり前の出来事を。
優樹に訊ねられ、遥が事実を語る。

「が、蛾が…真っ黒な灰になってぼろぼろに崩れたんだ…何だよあれ…」
「そこの人には、見えたんですね。私の『能力』が」

言い放つ少女の顔は、どこか悲しげで。
けれども、諦めにも似た響きを伴っていた。

「生きとし生けるものは。私に近づくことすらままならない。私の力は、人を傷つける」
「…私なら、平気です」

一歩前に踏み出したのは、さくらだった。

「私の話、聞いてなかったんですか?」
「触れることで能力が発動するなら、その前に時を止めればいいんです」

225名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:43:57
世界が、灰色になる。
「時間跳躍」によって止められた時を、さくらが縫うように突き進む。
目標は白いワンピースの少女。1秒で彼女を捉え、1秒でこちらへ引き寄せる。
その目論見は。

「きゃっ!!」

止められた時に、色が戻る。
大きな力に弾かれ、床に転がるさくら。
彼女が纏っていた戦闘服は、焼け焦げたように崩れていた。

「小田ちゃん!!」
「だから、言ってるじゃないですか。人は皆、いつかは死ぬものです。そしてまた生まれる。破壊と創造は…」
「常に表裏の関係なのです。だよね?」

諦めと悲しみで満たされていた少女の、はじめての驚く表情。
少女が言おうとしていた言葉は、さゆみによって先に言われてしまった。

「道重さん…」
「さゆみは。この子の力がどういうものか、知ってる」

胸に手を当てながら、さゆみ。
さゆみの中にいる、もう一人の自分。
その力を、目の前の少女は再現させられていた。

「だから、どうすればいいのかも、知ってる」
「やめて、近寄らないで」
「大丈夫。さゆみが全部、受け止めてあげる」
「来ないで!お願い!あなたもみんなと一緒で、死んじゃう!!!」

226名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:44:27
さゆみが、ゆっくりと少女に近づく。
一段と濃い闇に差し掛かったところで、さゆみの体から立ち上る白い煙。
少女の発する「滅びの力」の射程圏内に入ったのだ。

「たっ大変だ!道重さんが消されちまう!!」
「大丈夫だよ、くどぅー。道重さんは消えないから」

自分が見た蛾と同じようになってしまう、そう思い慌てふためく遥を春菜が落ち着かせる。
その言葉通りに、さゆみは安らかな表情のまま、少女に近づいてゆく。
戦闘服はあらかた溶けてなくなってしまってはいたが。
その肌には、傷一つすらついていない。

「ほんとだ…でも、どうして」
「きっと、滅びの力を治癒の力が中和してるんだろうね」

香音の言うとおりだった。
さゆみは自らの体に治癒の力を纏わせることで、身を襲う滅びの力を打ち消していた。
自らもまた滅びの力を操るからこそ、できる芸当ではあるのだが。

そして、ついにさゆみが少女の体を捉える。
はじめは抵抗していた少女だが、さゆみが自分の力によって消滅しないことを知ると、操り糸が切れた人形のように脱力してしまった。

227名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:45:41
「あなたは…平気なんですか…みんな、みんな私に触れる前に消えちゃうのに」
「ふふ。平気ってわけでもないけど。でも、ちっちゃい子をハグできる喜びのほうが」
「え?」
「それは冗談だけど。あなたにはきっと、さゆみの力が受け継がれてる。だから、あなたの力のことは、さゆみが一番良く
知ってる」
「そんな…でも…」
「さゆみなら。あなたがこの力をコントロールする方法を教えてあげることができる。それに、聞こえるよ? あなたが苦
しんで、心の底から助けを求めている声が」

最早、声にならなかった。
能力を発現させてから、誰も自分に触れるものはいなかった。
だから、今自分を包み込む優しさが懐かしくて。うれしくて。
感情の流れは、自然に涙と大声になって溢れだした。

「ねえ、ところで」

泣きじゃくる少女を抱きしめたまま、さゆみが後ろを振り返る。

「誰か、替えの服、持ってない?」

困った表情を浮かべるさゆみは、一糸纏わぬ真っ裸。
全裸の女性が少女を抱きしめる姿は、冷静に見るとあまり褒められるようなものでもなかった。

さゆみは、かつて戦闘の度に必然的に全裸になってしまう同僚のことを思い出し。
はじめて彼女が能力を使うたびにこの問題で悩む気持ちを理解したのだった。

228名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:46:57
☆ ★ ☆

「真莉愛ちゃん、おいで。ハグの時間だよ」
「はぁい」

それから数か月後。
すっかり喫茶リゾナント名物となった、不埒な行為、もとい能力コントロールの特訓。
そのためにはハグをするのが一番効果的、というさゆみの妙に説得力のある提案により始まったこの行為。
あの日助け出された少女 ― 牧野真莉愛 ― も意外と嫌がるそぶりは見せず、むしろさゆみに抱きしめられるのを喜ん
でいる節すらあるようだ。

「真莉愛ちゃんだけずるい!まさもみにしげさんとハグする!!」
「佐藤はあとでやったげるから。ほらほら特訓の邪魔しない」

軽くあしらわれ、頬を膨らませる優樹。
おそらく特訓以外の疚しい何かを感じ取っているのだろう。
そしてその抱擁の様子をじっと見ていた里保は、誰に言うともなく「あー、なんだか私もお腹が痛くなってきたなぁ」と意
味不明な独り言を呟くのだった。

さゆみに抱きしめられている真莉愛。
嬉しそうに真莉愛を抱くさゆみ。その頭上に、妙なものが見えていた。

数字の、羅列。

何故自分がそんなものを見ることができるのか。
そもそも、その数字が何を意味しているのか。
真莉愛にはわからなかった。自分の能力が関与しているのかどうかすらも。

あの白衣を着た女の人なら知ってるのかな…

思いかけたことを、必死になってかき消す。
もう、あんな生活には戻りたくない。この優しいぬくもりを知った今となっては。
今は、さゆみにずっと抱きしめられていたい。

けれど、真莉愛は知らない。
さゆみの頭上に浮かぶ数字が、少しずつ、減っていることを。

229名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:49:40
>>207-212 の続き
>>222-228 「闇を抱く聖母」 でした

設定の一部を直近の方からリゾナントしてしまいました
節操のなさにお詫びいたしますw

230名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:44:37
■ ロングレンジヘビーウェイト −鞘師里保・鈴木香音− ■

「えっそういうもんなの?」

鞘師にとっては意外な、そして鈴木香音にとってもまた意外な答え。

「刀と槍ってあんなに長さ違うじゃん」
「ん?んーそう?全体の長さはあんまり関係ないんだ」
「ぬぇー不思議だなー」
「不思議?ふしぎかなー」

鞘師にはその不思議がわからない。
刀と槍の優劣なんて比べること自体無駄なことだ。
目的が違うものを比べても意味はない。

先ほどまで二人は、銃剣付きの突撃銃を使った格闘を想定し汗を流していた。

そんな中「りほちゃん能力なしで刀しかなかったら、こうゆうときどうする?」
みたいな話となり、そこから槍の場合はどう?、という話となり、というわけである。
今は大きなエアコンの前、おせんべいとミネラルウォーター、休憩である。

本当はやって見せちゃったほうが早いのだが、今は、おせんべいだ。

「長いほうが遠くから戦えて有利なんじゃない?」
「あーそうかうんそゆことか。かのんちゃん、槍は全然遠くないんだよ」
「ぬぬ?アタシちょっとわからなくなってきたよ。遠くない?どゆこと?」
「えーとね…」

刀と槍に優劣はない。これは古典にもある真理である。
三尺三寸の刀、一丈の槍、長さにして概ね三分の一、
はるかに短い太刀に対し槍は相打ちとなる、
すなわち互角である、と。

231名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:45:08
もっともこの程度のことは古典にあたるまでもない、技の上達とともに勝手に体得する戦術上の真理だ。
「長い柄のついた槍でも、突いてくるなら尖ってるとこは自分の近くに来るじゃん。遠いのは持ってる人間だけでしょ」
「???」

俗にいう一足一刀の間合いと呼ばれるものがある。
実体的な距離のみではない、時間や心理といったものまで含んだ距離感。
あと一歩踏み込めば相手を斬れる、同時に相手にも斬られる間合い。
ここまでなら、だれでも容易に理解できる。
ではその次である。
両者の武器が同じならいい。
が、片方の武器だけ長ければ、どうなる?
長いほうは一歩踏み込まずとも当たり、短いほうは2歩3歩入らなければ当たらない。
それは明らかに長いほうが有利、ということではないのか?

いま鈴木香音の頭の中にある疑問もこれだろう。
当然の疑問である。
至って正しい考察、とくに現代人ならば、普通の感覚だ。

ところが鞘師は、そんな疑問を抱いたことすらない。
彼女のそれは「技術」を最初から、一足飛びで、身に付けてしまった者特有の感覚である。
戦術はそれを発想する者の「技術」によって決定される。
「技術」の低い者には高い「技術」を前提とした戦術は生み出せない。
推測することすら、できない。
鞘師の普通、それは鎌倉時代や戦国時代の、武に生きる者の「普通」なのだ。

相手の得物が長いならば、相手の「得物」に対して「一足一刀の間合い」を取ればよい。
それが答え。
武に生きる者は、誰に教わるでもなく、この解答を直感しうる。

232名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:46:04
「ええっ?ますますわからないよ」
「相手が持ってる槍だって突いたり叩いたりしないとウチをやっつけられないわけじゃん」
「うん」
「だったらさ、ウチに向かって突いてくる槍自体を切っちゃえば、いいんだよ」
「えーそんなことできんの?」
「長いってことは重たいってことだしね、そんなにひょいひょい動かないし難しくないよ」

ちょちょちょ、ちょっとまてまて、鈴木は心の中で突っ込む。
鞘師が槍を扱う、確かにその姿こそ鈴木は知らないものの、6尺棒8尺棒、あるいは、
それに準ずるような、長い棒を扱う姿なら、鈴木は数限りなく見てきている。

りほちゃん、あんたいつもとんでもない速さで突きまくって叩きまくってるけど?
あれで「そんなにひょいひょい動かない」って言われても説得力ゼロだよ。

「…そんなもんかなぁ、でも切っちゃうの難しくない?りほちゃんしかできない気がするんだけど」
「切り落とせなくても、たとえば切込み付けただけで相手は槍を手繰れなくなるから、
それでも相当の攻撃を封じられるし…というか、うん、なんでもいいんだよ、そうゆうのは。
柄を切ってもいいし、掴んでもいいんだけど、そういうのはなんでもよくて、その前に…」

すでに別の話。
より高度な、さらに、さらに高い技術を前提とした…

鞘師はおせんべいとストローの生えたペットボトルを向き合わせる。
「この真ん中の線を割って、相手の線を反らしちゃえば、ウチには当たらなくなるんだ。長さは関係ないんだ」
「あーりほちゃんがたまにいうやつね、でもアタシそれ全然わかんないんだ」
「そっかー」

鈴木は別に鞘師の弟子というわけでもない。鞘師も水軍流そのものを教えるわけではない。
格闘についてのレクチャーの際、鞘師の口から出る言葉は平易でシンプルなものばかりである。
もっともそれは鞘師自身が持つ武術的な言葉の知識が少ない、というのが実際のところなのだが。

233名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:47:46
鞘師が言っている事、これは正中の話である。
槍だの刀だのという些末なことで優劣が極端に変化するのは、
「ここ」を抑える技量のない者同士の世界のことであって、
鞘師が住む、戦国の技量の世界では、そもそもが考えるだけ無駄なことなのである。
だがこの「考えるだけ無駄」ということが、現代の人間には理解できない。

「無駄」?そんなことはないはずだ。
もし無駄なら、そもそも槍を生み出す意味がない。
なぜ槍がある?それは刀より強いからに決まっている。

そう考えてしまう。
その考え自体が初めから間違っている、とは思い至らない。

刀や槍、それらが実用されてきた時代において、
両者はどちらに対してどちらが強いか、といった理由ではなく、「何を」目的とするかで選択されてきた。
「何を」そう、両者の優劣が如実に変化するとしたらそれは戦術ではなく「戦略上において」、なのである。

ではある、のだが…

「でも一番いいのはやっぱり」
「やっぱり?」

鞘師は言葉をつづける。
それは、今までの話を根底から―――

「こっちもでっかい刀使うのが一番いいね」
「え?」

「だって、武器は、でっかいほうが有利だからね」

ずこーっ

234名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:48:41
今までの話を根底からご破算にする、身も蓋もない回答。
もう、なにがなにやら―――



―――戦国時代より前、鎌倉時代より後、この時代、武士たちの駆る得物は巨大化の一途をたどった。
より重く、より長く、そして、さらに重く…

武器の長さなど関係ないなどと言っておきながら、この時代の武器は信じられぬほどに長く、そして重かった。

大太刀、長巻、まさかり、大槌、金砕棒…

現代人では、振るうどころか、持ち上げることすら困難な、巨大で長大な『鉄と木の化け物』たち。
これを当時の武士は、それこそ尻の青い10代の少年であれ、軽々と、操ってのけた。

大きな得物には大きな弱点が「本来は」ある。
その重さゆえに、その長さゆえに、軽く手頃な太刀の動きについていけない。
それどころか、下手をすれば、振り上げて、振り下ろすことすら、できない。
だが武士は、この弱点を単純な「力」ではなく「技術」によってねじ伏せた。

一般的な日本刀の重さが約1kg前後、対して、
実在する大型武器の重さは大きいもので8kg程度、実用最大クラスでなんと20kgに到達。

これは、とても人に克服しうる重さではない。

ではどうしたか?
彼らはこの重さを、「克服」するのではなく、「活用」しつくした。

鞘師は完全な静止状態から一瞬でトップスピードまで加速する術を知っている。
すなわち戦国の武士たちも、その術を知っている。

235名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:49:49
己の体重の変化から全身に小さな落下エネルギーが生まれる。
部分部分は小さくとも、それが全身一度に起こったのなら…

瞬間的に加速された肉体は己の体重に比して大きな慣性力をもつ。
人の体重…少なくとも50kg以上、8kgの武器でも6倍以上ある。
その慣性力によって大型武器も同時に加速される。
その加速が大型武器による高速で激烈な一撃を生む。

加速された大型武器にはその重量に応じて大きな慣性力が生じる。
その慣性力に引っ張られ、いや、「乗る」ことで、
次なる体の変化、移動が引き起こされる。

身体が生んだ慣性により武器が奔り、武器の生んだ慣性により身体が奔る。
連関する重さと速さの天秤が無限に循環していく。

それが、大きな得物の大きな弱点をねじ伏せた「技術」。

技術によって武器の長さによる差をなくし、
さらに進んで、技術によって武器の重さによる差をなくした。

だからこそ「長いほうが有利、重いほうが有利」となった。

まさに今鞘師が口にした―――そして、到達しつつある境地。

236名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:50:55
武器の長短は関係ない、武器の軽重も関係ない、
だからこそ、一周回って、武器の長短と軽重は、やっぱり関係ある。

だが、まて、ちょっとまて、ということはだ。
そこまでの技術があるなら何も無理に「長く重いもの」を使わなくても、
手ごろなもの、すなわち「普通なもの」を使えば、より存分に技を発揮できるのでは?
それもまた真理、長すぎるもの重すぎるものは、やはりそれより短く軽い物に劣る。
あれ、では短く軽い物のほうが有利なのか?あれ?それは?え?

ぐるぐるぐるぐる…

ぐるぐるぐるぐる…いつまでも輪転する二匹の蛇。

ぐるぐるぐるぐる…ぐるぐるぐるぐる…

真ん中の線が反れるとかなんとか言う話どこいっちゃったんだっけ?
本当に回転する蛇が見えそうな気分だよ、りほちゃん。

だめだこりゃ、結局、鈴木には、何も理解できなかった。

237名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:51:56
>>230-236
■ ロングレンジヘビーウェイト −鞘師里保・鈴木香音− ■
でした。

238名無しリゾナント:2014/10/11(土) 09:22:12
■ サバーアップ −光井愛佳− ■

「黒い、人狼ですか?」
「そやぁ…知らんか?」
「そうですね、狼型の【獣化】能力者自体は、組織にも複数いるはずです。
でも、今のお話にあるような人狼が、あの施設の警備の中にいた記録は残っていなかった…
…私の方でも少し、調べてみましょうか…」
「うんたのむわぁ…いっつも堪忍な、困ったことがあるたび話聞いてもろて…」
「いいんですよ、私でよければいつでも…そう、さっきの話ですけど、
その…『保管庫』と呼ばれる場所で、黒い人狼に『喰われて』いた、
という大きなリボンの女の子についてですが、何かほかにありませんか?」
「いや、さっき話したんで全部や」
「そうですか…」
「ん?」
「いえ…それにしても工藤遥さん…でしたっけ?すっかり元気になったみたいで」
「そや!そやぁ!あの生意気盛りめ…
…でも、ほんまや、ほんまそうやってん…必死やってんな。
組織の人間やって負い目があってんな…みんながそれ知ったら追い出されるかもしれん…
…嫌われるかもしれん…そんなんなこと抱えて、言えへんかってんな…
一時期ずうっとふさぎ込んでる時期あってな…表向きは頑張ってな、
新垣さんつかまえて能力の制御にめっちゃ精出しとったけど、そんなんバレバレや…
でも、なんや、ふっきれたみたいでな、いろいろと過去の話も…してくれるようになってん…」

「はい…」

239名無しリゾナント:2014/10/11(土) 09:22:46
「最近なウチ…うれしいんや…後輩がな、みんなええ子やん?
いままでずうっとウチが後輩で、年上ばっかと付き合うてきてんから、
意外と、後輩の扱い不器用やってん…
それで、譜久村とか鈴木とかにな、
きついこと言うたり…そんたびにああまたやってもうたって…
…また嫌われるて…」

「ええ…」

「でも、だあれもウチを嫌わへんかってん。
みいんな光井さん光井さんゆうて寄ってきてくれはるんや…
…なんや、ウチも同じや…工藤とおーんなじ…はは…ほんま可愛くて可愛くて…」

「…」

「…あれ?ウチなんでこんな話?今日ってたしか久しぶりに凰卵の卒業生の子らと…
そのあとみんなで居酒屋来て…あれ?…」
「やだなぁ光井さん、そのあと『同じリゾネイターである私』と、酔い覚ましに来てるんですよ」
「ああ?……ああ、そうや…そうやった…」
「それより光井さん、フクちゃ…いいえ譜久村さん?でしたっけ?彼女は最近どんな…」

240名無しリゾナント:2014/10/11(土) 09:23:21
>>238-239
■ サバーアップ −光井愛佳− ■
でした。

241名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:21:51
>>187-192 の続きです



衣梨奈の鼻先には、鈍色の空を映すナイフが突きつけられている。
ナイフの持ち主は先ほど衣梨奈が気絶させたはずの、電車の運転手。
そしてその背後に、不敵な笑みを浮かべつつ立っている少女の姿があった。

「この前のリベンジにしては、せこいやり方っちゃね」

意識を集中しなければならない時に、まさかの状況。
衣梨奈は目の前の少女に対し、憎まれ口を叩くことしかできない。

「あの時の屈辱を、って言いたいとこだけど。今日はあんたには用は無い」

そして衣梨奈を急襲した少女 ― 福田花音 ― は。
以前会った時より幾分余裕をなくした表情で、衣梨奈に告げた。
それでも、立場の揺らぎを悟られないように表情に笑みを貼り付けることを忘れない。

「何であやちょとあんたたちが一緒にいるか知らないけど」

花音が一歩前に出るのと同時に、衣梨奈が男を押しのける。
鮮やかな手際で男を後ろ手に縛り無力化すると、身を挺して花音の正面に立ち塞がった。

「…なんのつもり? そこにいる子はあたしたちの仲間なの。返してくれない?」
「あんたの態度からは、そうは思えないっちゃけど」

花音の能力によって操られた男、そのナイフの切っ先から殺意が滲み出ているのは衣梨奈も感じ取っていた。しかしこうやって
本人と対峙していると、すぐにその過ちに気づく。

花音の殺意は、自分ではなく明らかに彩花に向けられているということに。

242名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:23:07
「この子を、どうすると?」
「言う必要はない。早くそこをどいてよ」

確かに衣梨奈と彩花は今日会ったばかり。
おまけに会話すら交わしていない。衣梨奈が現場に駆けつけた時には既に彼女は正気を失っていた。それでも。

「どかん。この子は…はるなんの大事な友達やけん」

直接春菜に聞かなくてもわかる。
五指をずたずたに引き裂いてまで助けようとした人間が、大事な友達じゃないはずがない。
その春菜は今、衣梨奈の能力に身を委ねてその友達の心の闇を打ち払おうとしている。
だったら、守るしかない。

「はぁ?そんなわけないじゃん」

ただ、衣梨奈の意志は花音には届かない。
それどころか。

「あやちょはあたしたちにすら心を開かないのに、そんなやつと友達? 寝言は寝てから言ってよ」
「生憎衣梨は目覚めがいいけん、寝言やなかよ」
「そう。だったら、あんたを…『排除』するまで」
「へっ。そんなことできると? 衣梨奈知っとうよ、あんた自身は大して強くないって」

慈悲の無い声で処刑を告げる花音に、衣梨奈は余裕の笑みを見せる。
彼女たちと直接戦った聖たちから、花音の能力は既に聞いていた。人を洗脳し操る能力の持ち主だが、あまり戦闘向きではないと。

243名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:24:18
「あんたごときに言われるとはね。でもまあ、確かに花音自身はそんなに強くない。あんたみたいなガチバカっぽいのと戦うなんてま
っぴら御免。でもね」

花音が、すっと片手を上げた。
停車した電車の陰からぞろ、ぞろと現れる群集たち。
サラリーマン、OL、工事現場の作業員、ご丁寧に警察官までいる。

ゾンビ映画に出てくるゾンビのように緩慢に、しかし確実に衣梨奈を取り囲んでいった。
あっと言う間に人間バリケードの完成だ。
その群集たちの中心に立ち、誇らしげに花音が言い放つ。

「あたしには百の…ううん、千の軍勢がいる。自分の手を汚さずに、目的を果たすことができる。これってすごいことじゃない?」
「…最低っちゃね」

目的さえ果たせればいかなる手段も厭わない。それではダークネスと一緒ではないか。
衣梨奈は憤るが。花音を糾弾している暇はない。一分一秒が、惜しい。今は衣梨奈の力は春菜が彩花の精神世界を潜行するのに割かれ
ている。集中力が途切れればそれで終わりだ。

「最低で、結構」

言うより迅く、衣梨奈たちを取り囲んでいた群集たちが一斉に襲い掛かる。
先ほどの緩い動きとは打って変わっての、野生の狼を彷彿させるような鋭い猛襲。だが哀れなるかな、理性を奪われた獣たちは悉く衣
梨奈の張り巡らせた罠に絡め取られた。

244名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:25:31
「能力を使わずに相手を無力化する…ねえ。馬鹿っぽいくせに頭使うんだね」
「衣梨奈は天才やけんね」
「あっそ。ところであたしが昔、何て呼ばれてたか知ってる?」
「そんなん知らん」
「…神童」

糸に絡め取られ、身動きの取れないはずの人々。
だが、機械的に動かされた手が、足が糸に逆らう。強靭な糸に阻まれた肉体はやがて切り裂かれ、血の筋を走らせはじめた。

「あんた何を!!」
「別にそいつらが傷つこうが、あたしは痛くも何ともない。いくら切り刻まれてもいい。手が足がちぎれたっていいの。最終的に目的
さえ果たされれば」

冗談か何かの類であれば。そう願わずに居られなかった。
けれど花音は、笑ってはいなかった。
衣梨奈に突きつけられる、二つの選択肢。
彼らを解放し餌食になるか、彼らを縛りつけ傷つけるか。

「ねえ、どうする? 正義の味方リゾナンター様は、罪も無い人々を傷付けるくらいなら自らの身を犠牲にする? それとも、正義を
貫くために敢えて心を鬼にでもしてみる?」
「……」
「苦しい? でもね、あんたたちみたいな『温室育ち』の感じる苦しみよりも…あたしらがここまで上り詰めるのに味わった絶望のほ
うが、何倍も辛いんだから」

245名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:27:06
その時、衣梨奈は花音の背後に暗い情念を感じた。
自分達を温室育ちと揶揄するほどの背景とは。
確か彼女たちは警察機関の所属だと言っていたことを衣梨奈は記憶していた。
とするならば、国の機関が彼女たちに「そのような絶望」を経験させたというのか。

そうしている間にも、花音の忠実な僕たちは血を流し、肉を切り裂きながらも糸の包囲網を打ち破ろうとしている。
躊躇している時間はなかった。

五指から伸びる、ピアノ線。
衣梨奈は瞳を閉じ、それから意識を集中させる。

まるで電気のように伝わる、鋭い力。
糸の中でもがく花音の軍隊たちは、体を大きく痙攣させ、そして動かなくなった。

「な、何をしたのよあんた…」
「ほんのちょびっとだけ。衣梨奈の『精神破壊』を開放した。あんたが操ってるおかげで、ダメージも少ない。やけん、あんたのほう
もこの人たちをコントロールできんやろ?」

正確無比な里沙の「精神干渉」と比べ、衣梨奈の「精神破壊」は文字通りの破壊する力。里沙のように必要最低限の干渉で対象を支配
下におくのは至難の業と言ってもいい。能力者ではない人間がこの能力に晒されれば、文字通りの精神の破壊を引き起こす。

しかし、対象が既に他の能力者によって精神的支配を受けていれば、話は別。
互いの能力への干渉によって、言わば双方の支配が及ばない状態にすることができるのだ。
対精神系能力者への対処。精神干渉の分野においてトップクラスである里沙は、事あるごとに衣梨奈に相互無力化の原理を教えていた。
そのことを思い出した、会心の一撃。

確かに一人の能力者としては、花音のほうが上手だった。
しかし、里沙を師匠に持ち、彼女の経験と知識を受け継いだ衣梨奈の思わぬ一手にしてやられた形となった。とは言え、衣梨奈はその
貴重な知識の都合のいい箇所しか覚えてはいないのだが。

246名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:27:59
振り出しに戻った戦況。
それでも花音の見下すような表情は変わらず。

「…言ったでしょ。あたしの兵隊は百…千、無限だって」
「させるかっ!!」

自らの能力「隷属革命」により新たな僕を呼び出そうとする花音に、衣梨奈が飛びかかる。
もとより戦闘力に乏しい花音、あっという間に衣梨奈に組み伏されてしまう。
能力の相克はあくまでも布石、本命は自らが勝るフィジカルの勝負に持ち込むことだった。

「くそっ、離せ!離せ!!」
「はるなんの仕事が終わったら離してやるけん、それまで大人しくしてるとよ」

大の大人でさえ、糸を手繰ることで鍛えられた衣梨奈の腕力から逃れるのは至難の業。
増してや、自らの手を汚したことのないか弱き細腕では。

「何が仕事よ!あんな、あんな胡散臭いやつにあやちょを救えるはずない!!だったらいっそあたしが!!」

激しい憎悪。それとともに伝わる、深い絶望。
おそらく彼女なりに、手を尽くしたのだろう。その上で、自らの手で終わりを選択するという結論を下した。衣梨奈はそう判断した。
だからこそ。

247名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:28:41
軽い破裂音が、花音の頬を打つ。
平手で叩かれたのだ。

「なっ…」
「黙って見とき。はるなんが、『あんたの友達』を助ける」

反論しようとする花音だが、両手首を掴まれ、身動きすらできない。
衣梨奈は、倒れている彩花と春菜のほうを見やる。

はるなんなら、きっとやってくれる。

そこには仲間への、揺るがない信頼があった。

248名無しリゾナント:2014/10/19(日) 01:30:50
>>241-247
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
間を置いた割には短くてすみません

249名無しリゾナント:2014/10/24(金) 02:25:27
■ ジョイフルドライブ −新垣里沙・田中れいな・光井愛佳− ■

高速を疾走する大型四輪駆動。
運転するは新垣里沙、助手席に光井愛佳、後部座席に田中れいな。
車内から溢れるは、絶えることのない笑顔、笑い声。

「…ぎゃっはっはっは!それで?それで?ガキさん!」
「ほぉ!そーで佐藤が言うのよ!『ガキさん鬼ごっこしましょ』って!」
「うそやぁん!そんな…ひひっ…そんな!」
「ほーんとよ!もー今!アンタ本気で怒られたばっかでしょうが!ってアータシもびっくりしちゃって」

倒れこみ、足をバタバタさせる田中、話し続ける新垣。
二人と共に笑いながら、光井は思う。

なんかええなぁ…お二人がこんな楽しそうにしてるん、ひさしぶりや…ええなぁ…
まるでピクニックや…ああ…ホンマこれがピクニックやったら、もっとええのに…

『N県山間部』

爆発、火災、たなびく煙…
組織に関わる、なんらかの施設があったと思われる、あの廃村。
その調査に3人は向っている。

きっと、この旅で「知りたくなかった」そんな陰鬱な事実を目の当たりにする。
きっと、この旅は「嫌な思い出になる」、わかっとるんや。

わかっとる、わかっとる…でも…それでも、ええやん。

うん、ええやん、それでも二人が、いま、こんなに楽しそうなら…

うん、きっと、ええこと…

250名無しリゾナント:2014/10/24(金) 02:26:37
>>249
■ ジョイフルドライブ −新垣里沙・田中れいな・光井愛佳− ■
でした。

251名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:51:22
>>241-247 の続きです



春菜の目に、鮮やかな色彩が飛び込んでくる。
原色を基調とした部屋の中には、たくさんの子供達がいた。
ビビットな色に反比例して際立つ、白いワンピースを着せられた少女たち。
数人でかたまって無邪気に遊具で遊ぶものもいれば、一人で座り込み虚空を見つめているようなものもいる。そして彼女たちを。

マジックミラー越しに見ている、白衣の男たち。
春菜は、今自分が見ている光景が「研究所」のものだとすぐに理解する。
なぜなら、彼女もまた似たような環境に置かれていたから。

部屋の裏手にあるドアが、かちゃりと音を立てて開錠される。
現れた白衣の男。少女の一人に声をかけ、手を引いて外へ出て行った。

あの子は…それに、もしかして…

幼いながらも、はっきりとした顔立ち。浅黒い肌。
連れ出された子は、間違いなくこの精神空間の主である彩花。そして連れ出した男の目的は。

252名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:53:18
場面が暗転する。
部屋の中央に、機械仕掛けの椅子。その中に幼い彩花がすっぽりと納まっていた。
椅子の周囲には大小さまざまの計数器。一人の研究員がクリップボードを片手に、彩花に話しかけている。が、彩花の顔は青ざめ、
額には珠の様な汗を滲ませていた。

突然、男が片手をあげる。
それを合図に、ガラス越しに見ていた他の研究員たちが目の前の機器を操作する。
走る電流、痙攣する彩花。計数器の針が大きくぶれ、モニタのグラフが激しく上下した。

やっぱり。これは…「人体実験」。

春菜もまた、新興宗教団体が抱える研究機関によって同じような経験をしていた。
表向きは異能開発のための諸実験。だが、内容はとてもではないが人道に配慮したものとは言えなかった。目を固く瞑りたくなる
ような、耳を塞ぎたくなるような、そして声を枯らして叫びたくなるような記憶が蘇る。

いけない。私自身が後ろを向いてる場合じゃない。和田さんを、助けなきゃ。

そんな春菜の心情を反映するかのように、再び場面が転換する。
場所は先ほども見た、子供達の収容場所。そこに、背丈は変わらないが明らかに成人した金髪の女が入り込んでくる。

「あれ、矢口さん…こんな夜中にどうしたんですか?」

少女の一人が、訝しげな顔をして矢口と呼ばれた女に問いかける。
矢口は天使のような微笑を精一杯作り、こう言った。

253名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:55:15
「なあお前ら、ここから抜け出したくないか?」
「え…それってどういう」
「抜け出すってなに?」
「面白いこと?」

蜂の巣を突いたように、矢口に群がる子供達。
そんな様子に辟易しつつ。
お気に入りらしき牛柄のパーカーが上下左右に引っ張られるのを振り解きながら、

「ここから、脱走すんだよ。お前らは自由だ」

と半笑いの表情で言った。
子供達の熱狂が頂点に達し、牛柄パーカーは千切られるのではというくらいに引っ張られ、捻られる。ったくだからガキは嫌いな
んだよ、あいつら思いだすんだよこんにゃろ、と小さく呟きながら。全員に呼びかけ、部屋を後にする。
原色で彩られた部屋から、白が消えた。

春菜の感覚を、肌寒さが襲う。
一面の雪吹雪。唸るような風の音が鳴り止まない。
白く染められた世界を、尾根伝いに進む一行があった。吹き付ける鋭い風と雪に塗れ、それでもただひたすらに前を向くしかない
少女たち。

「ねえ、これ…本当にただの訓練なの…」
「警察の人もうそつきだ」
「いやだよ、まだ研究所のほうが…」
「なに言ってるの、あんなとこに戻るくらいなら」
「寒いよ…おなかすいたよ…」

極低温に晒され、もがき苦しむ言葉ですらも途切れ途切れの幼い子供達。
どうやら先ほどの研究所から別の機関 ― 恐らく警察組織なのだろう ― に彼女たちは所属したようだ。が、目の前の光景を
見る限りはとてもではないが、彼女たちが苦難から逃れられたとは思えない。

254名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:56:07
「あ…」

一行の最後尾、ついてゆくのがやっとだった一人の少女がバランスを崩す。
よろけた先は断崖絶壁、深淵に吸い込まれるように身を預けた少女。
春菜はもちろん、息を呑むことしか出来ない。たとえその手を差し伸べたところで相手は記憶の幻だからだ。
けれど追憶は春菜の思いを汲み取るかのように流れる。今にも闇に飲まれそうな小さな手を、掴むものがいた。

「桃香ちゃん!!」
「あ、あやか…ちゃん?」

間一髪で少女の命を救ったのは、彩花。
ただ、その力はあまりにもか弱く。

必死にその手を繋ぎ止めようとするも、無情にも桃香と呼ばれた少女は少しずつ、彩花の手からずり落ちようとしていた。

「あやかちゃん、もう、いいよ…このままだと…」
「なに言ってるさ!桃香ちゃんはあやが絶対に助けるから!!」

力強い言葉とは対照的に、抜けてゆく力。
彩花の体は桃香に引っ張られるように、絶壁へと近づいていた。

その時だった。
彩花の手を強引に振り解き、奈落の底へと桃香が落ちていったのは。

― もう、こんな思いをするのは、いや ―

春菜の視界が、黒く染められる。
響き渡るのは彩花の声だけ。

255名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:56:38
― だから。だから、スマイレージのみんなだけは失いたくなかったのに ―

黒の一部が切り取られ、そこに映るは。
赤い死神。崩壊したビルの瓦礫の山で、圧倒的な力でもって対峙する少女たちを屠ってゆく。

― 失いたくなんか、なかったのに ―

全身を吹き飛ばされ、無残に転がる彩花。
肉片すら残さず塵と化した、紗季。

心臓を貫かれ、崩れ落ちる憂佳。

― いらない。もういらない ―

春菜たちがさくらやれいなを救出するため孤島に赴いたのと時を同じくして。
このような無残な戦いが繰り広げられていたとは。
結果、今彼女を取り囲んでいる状況は。精神世界の入口で見た黒く塗りつぶされたカンバスと一緒だった。

塗り込められる、怒り。悲しみ、嘆き。それらを通り越した、絶望。
黒く歪んだ空間から彩花の悲痛な心の叫びが降り注ぐ。

256名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:57:55
時を同じくして、春菜の立っていた場所に亀裂が走る。
世界の崩壊。あまりに黒い、光無き闇が形をなすことにすら耐え切れず崩れ落ちようとしていた。

私が、私なんかが救えるような話じゃなかったんだ。

軋轢が、やがて破壊へと変わる。
砕けた闇は、さらなる深淵へと吸い込まれていった。
彩花の絶望をまともに身に受けた春菜は、いつ終わるとも知れない落下に身を任せながら思う。地獄のような試練の連続の果てに
彩花が辿り着いたのは、周りから誰もいなくなるような孤独。
そこに、過去に自らに降りかかった悲劇を重ねていた。

一片の希望すら差さぬ、闇。
春菜もまたその境遇を経験していた。教団の道具となるための悪夢のような日々。それを身を持って体験しているからこそ、春菜
は彩花を否定する事ができなかった。自分だって、あの時さゆみたちが助けに来てくれなければやがては同じような絶望に苛まれ
ていたかもしれない。

窮地を救ってくれた、さゆみたちリゾナンターと邂逅した時に見た、眩しい光。
それを思い出し、少しだけ春菜の心は温かくなった。
けれども、それすらも深い闇は呑みこんでゆく。

生田さん…みんな…ごめんなさい…

そして春菜の意識もまた、彩花の精神世界に溶け込むようにして消えていった。

257名無しリゾナント:2014/10/31(金) 00:58:38
>>251-256
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

258名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:48:57
【注意書き】
・冒頭で期待されるかもしれませんが娘OGのみで話が進みますw

『黄金の魂』


トリック・オア・トリート!!

不意を突かれて一瞬固まっちまった。
ああ、そういえば今日はそういう日だっけ。

髪を伸ばせばとびっきりの美少女になるだろうに、敢えてそうなるのを拒否しているかのような娘。
まっすぐ育てば白黒の頃の映画女優みたいな美人に仕上がりそうな雰囲気を漂わせた娘。
要するにこまっしゃくれたガキ二人がお菓子のおねだりをしてきたってわけだ。

目障りだ、くそガキどもが!
そんな風に言いたいのは山々だった。
ただそれをしてガキどもに泣かれたり、騒がれたりして時間を費やすと困る事情がこっちにはある。
だからジャージのポケットに突っ込んでいた酢こんぶをガキどもの前に差し出した。

「悪いがこれしか持ってねえんだ」

古風な美人顔のガキはきゃっきゃきゃっきゃと喜んでいるが、ショートヘアのガキはどこかすまなさそうな様子で礼を言ってきた。
どうやらこいつの方が飼い主らしい。
いいさ、と鷹揚に手を振りながら目的の場所に重い足を進めていく。
まーちゃんもお礼を言ってという飼い主の声を背中に聞きながら溜息を一つ吐く。

アタシはいま喫茶リゾナントのある町のメーンステーション、JRの在来線の駅前商店街を歩いている。
目的はアタシが所属している組織の同僚、というか先輩の一人に呼び出されて、指定の場所に向かっているわけだ。
正直に言うと気が重い。

259名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:49:29

バックれていいならとっととバックれたいところだが、もしそうしたらいま感じている気の重さの何倍もの精神的負荷を味合わされることになる。
だから体調や気分に余裕があるいまのうちに済ませておきたいというわけ。

ああ、にしても憂鬱だぁ。
私は一軒のカラオケボックスの前に立っている。
建築法だか消防法だかを厳密に適用すればほぼ確実に指導を受けそうなボロっちいビル。
ここの四階にアタシを呼び出した当人がいるわけだが…。

このビルたった今崩れればいいのにと思いながら自動ドアを潜った私の目に映った物、それは…。
人外だ。
人外の化け物どもが、闇から這い出てきた魑魅魍魎どもがカラオケボックスのロビーにたむろしていた。
息を止め、黙ってムーンウォークで店外に脱出したアタシは深呼吸した。

これはもう、二週間ぐらい高飛びする覚悟で呼び出しを無視するしかねえ。
そんな私の思いを見透かしたかのよう、メールを受信した旨を知らせる着信音が鳴った。
多分早く来いという催促のメールだ。
こんなことならさっきの電話に出るんじゃなかった、まったく。
やっぱ着信音とか細かく設定しとかなきゃなあと後悔したところで手遅れだ。

しょうがない、もう一度だ。
もう一度だけ、店に入ってみて人外どもが跋扈していたら全速力で離脱してその足で高飛びしよう。
意を決して再度、自動ドアを潜ると意外なことに十二、三匹いた人外どもの影も形も無い。
どうやら客として上階のボックスに入ったのだろう。
かちあわないことを祈りながらエレベーターに向かう私を呼び止める声。

「カラオケチェーン CYOIKARA へようこそ。 お客様はお一人様アルかっ、おお前は…」

一応は客に向かってお前呼ばわりする不届きな店員を睨んで震え上がらそうとしたアタシ。
店員の顔を見て意表を突かれる。
向こうも同じ思いなのか暫くの間、睨みあう形になった。

260名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:50:11

「お前は、リンリンじゃねえか!」
「氷の魔女、ミティ!!」

カラオケボックスの制服に身を固めた少女…いや、もう少女という歳じゃねえ。
アタシの仇敵にして旧敵。
喫茶リゾナントを拠点に活動する能力者集団、リゾナンターのオリジナルメンバーにして中国の国家機関、刃千吏の機関員。
銭琳ことリンリン。
いや、こういう場合はリンリンこと銭琳っていうのが正しいのか。
どっちにせよやつがロビーのカウンターに猫足立ちで身構えながら、目を緑色に輝かせている。

「悪い魔女は火あぶりアルね!!」

言い放つリンリンの手にはカウンター脇に置いてあったらしいパンフレットの束。
どうやらいきなり緑炎で攻撃してくるつもりらしい。

「ちょ待てタンマ。この状況で火熾せば火災報知器が発動して、スプリンクラーで店内水びたしになるぞ」
「心配ナイ。消防の査察がある時以外は報知器はちゃんと切ってアルね!」
「ちゃんとじゃねえ。物凄く心配だよ、大丈夫かCYOIKARAチェーン。 もしも火事とか出したらどうすんだよ」
「そんな時の為にニートの引きこもりを役員待遇で飼ってアルね。そいつに遺書を書かせて首を吊らせたらそれでしまいネ」
「しまわねえよ。もし犠牲者とか出たら保証もあるだろうし、営業だって出来なくなるだろうが」
「保証は誠意を以って対応するネ。店の利益から月額五百円でも支払ってる限り追求は出来ないアルね」
「しかし店の名前が報道されたら客足だって鈍るだろうが」
「その時は頭の CY を削って OIKARA にするネ。百円ショップで仕入れたサイリウムを千円で売ってぼろ儲けするアルよ」
「うりゃおい! うりゃおい! っていい加減にしろよ。 つうかさっきから聞いていると。お前相当深くブラックな経営に関わってるみたいじゃねえか」

アタシの言葉を聞いたリンリンは凄みある笑みを顔に浮かべた。

「ちっばれちまったらしょうがない。死人に口なしとはよく言ったものアルね」
「待て待て。どうでもいいから。 CYOIKARAの諸事情とかどうっでもいいから。そもそもお前とここでバトる気もねえし」

261名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:50:42

ともかく発炎能力を解除して気を落ち着かせるようにという説得を不承不承受け入れたリンリン。
どの程度の深さで店の経営に参画してるのかはわからないが、やはり金蔓の中で騒ぎは起こしたくないと見える。

「お客様はお一人さまアルか。今夜はハロウィンナイト特別キャンペーンを実施中アルね」
「だからアタシは先客に呼ばれ…、ってハロウィンナイトのキャンペーンって何だ」
「今宵ハロウィンのコスプレをして来店されたお客様にはお一人様五百円の御食事券をサービスサービス」
「ありがたいっつたらありがたいけど、これまた微妙な金額だな」
「CYOIKARAを見くびったらいけないアルね。 更に魔法少女のコスプレをされたお客様には魔法少女世界一決定戦への出場権が与えられるアルね」

要するにまどかだか、なのはだか。
はたまたクリィミーなマミだかプリティなキュアだか。
魔法少女のコスプレをしてそのアニメの主題歌を歌って高得点を出せば賞品が出るイベントがあるらしい。
全国規模で。

「一等賞品はなんと、だららららららららららららららららららららららららららっじゃじゃん♪ おこめ券五千円分」
「反応に困るわ。それは五千ありゃあ五?は買えるけど」

アタシの言葉を合図に朗らかな営業スマイルを浮かべていたリンリンの顔にどす黒い闇が翳った。

「ごご五千円で五?ってまじアルか。 お前金持ちアル」
「あんまし気にしたことはねえけど魚沼産の特Aとかだとだいたいそんなもんじゃね、あれ、もうちょっと安かったちょ待て」

明確な殺意を目に宿したリンリンが能力を発動しようとしていた。

262名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:51:30

「このブルジョワジーな小日本人。 魚釣島是一个独特的中国領土」
「どさくさにまぎれて政治的主張を行うな。つうかお前ん家だって中国じゃ名士の部類に入るんだろうが」
「アノクソオヤジ」
「はぁ? つうか待て。お前の親父スレのオリジナルキャラの中じゃ結構人気ある方だぞ。それをお前」
「わたしまだまだまだまだ日本で学ぶことたくさんあるアルよ。だからリゾナンターを離れても留学を続けたいって言ったらあの頑固親父」
「そういう金は自分で稼げって言ったんだな」

反抗期をこじらせた中国娘が不満そうに頷いてみせる。

「いやっそれはお前には厳しく思えるかもしれないけど、親父さんの言ってることももっともだと思うぜ」

アタシの慰めが耳に入ったのか入ってないのか。

「あ〜あ。昔みたいにパンダの密猟を見逃して結構な金が入ってきた時代が懐かしいネ」
「はい↑」

知らず知らずのうちに声が裏返っていた。

「あのなお前ちょっと言葉には気をつけてだな…」
「生きたパンダ一頭密輸すれば家が一軒立ったネ。 病死したパンダの毛皮を剥いでも車一台ぐらい」
「こら待てこら」
「何目を白黒させてるアルか。こういうの役得いうアル。、中国じゃ常識のことネ」
「いやほんとに待てしゃべるの止めろお前今すぐ」

全力で不測の事態を回避しようとするアタシに対してリンリンは素のままの様子だ。

「お前それ以上話したら、いろんなものが終わっちまうぞ」

263名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:52:04

アタシの言葉を耳にしたリンリンが不敵な笑いを浮かべ、掌に緑炎を宿す。

「では終わりの始まりを始めようアルか」
「火は止めろ火は」

終わりを始めようとか大層な台詞、カラオケボックスで働いている奴の言うことじゃねえし。

結局のところパッチリ眼の中国娘はなにやら日本で行われるイベントに参加したいという願いが親父さんに聞いてもらえず、それに反発して家を飛び出し単身日本にやってきて中国資本のこの店で働いているらしい。
いや何か違うかもしれないがそういうことにしておこう。

「つうかコミケに行きたいんだよな」
「はっどうしてわかったアルか?」
「いや前にアニメだかコミックだかのコスプレをUPしてたじゃねえか。それにどこかのスレではそういうキャラってことにおいなんでまた火を熾す火を」
「お前のこと見損なってた。乱暴で残忍でもストーカーまがいの陰湿な奴じゃないと思ってたアル、はっまさか」

今度は自分の意志で緑炎を収めたリンリンの頬が赤く染まりでれ〜っとしてきた。

「そうアルか?」
「何が?」
「そうだったアルか?」
「だから何がそうだってんだって多分っていうか絶対違ってると思うぞ」
「そんなに私のことが気になっていたアルか?」
「いやっ、別に」

何かよからぬ方向に妄想を始めたのか。
光と闇。炎と氷。相容れぬ仇敵同士などぶつぶつつぶやき始めたリンリンが妙に気色悪すぎる。
っていうかおぞましい。

「あはぁ〜。 美貴琳アルか。 いま時代は敢えて、敢えて一周回って美貴琳アルか」

264名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:53:02

受けとか責めとかもうアタシには訳がわからないことを口にし始めた妄想娘の鼻から紅いものが…。

「ぶはぁぁぁぁぁっ。 美貴琳キタ──ヽ('∀')ノ──!! 」
「来ねえよ。時代を何周回ってもそんなもの来ねえからな」

手刀で軽い当身を奴の後ろ首筋あたりにくれてやり、鼻血のストップに協力してやる。
そして数分後。

「お前の気持ちはうれしいアルがやっぱりそれはいけないアルね」
「まだ言っているのかテメー。無いから、それだけは絶対無いから」
「だったら今日はなんでこの店に…? まさかお前も魔法少女世界一決定戦にエントリーしにきたアルか?」
「それもねえよ」
「それはそうアルね。もう少女って歳じゃ…」
「テメーそれ以上ふざけてるとまじで凍らすぞ」

不毛なやり取りを続けながらふと思い当たったことがある。

「つうか、さっきこの店のロビーにたむろしてた化け物どもも」
「そうアル。魔法少女の仲間アル」
「いや魔法少女って、明らかな男もいたじゃねえか。いまいちデラックスじゃないマツコとか」
「お前何も知らないアル。仲間を守るため世界を救うため魔法を手に入れようとする人はみんな魔法少女アルね」

いやさっきアタシが見かけた人外の化け物ども。
カラフルな衣装にゴツゴツして厳つい身体を無理やり詰め込んでいた野郎どもは魔法少女というよりは使い魔が精々だと思うが。

「まあいいアル。とにかくそんなジャージ姿じゃハロウィンナイト特別キャンペーンの対象にはならないアル」

だから正規料金だと強く迫ってくる。
ようやく話の出口に近づいてきた、そんな気がする。

265名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:53:34

「いやっだからアタシは先にこの店に来てる人間に呼ばれてきたんだって」
「何だつまらない。そうならそうと早く…はっ」

おいまた様子が変になったぞ、まったく。

「その先客というのは男アルか? 女アルか。女アルね。女に違いないアルね、女同士の密会アルね」

口角から飛ばしてくる唾がなんか気持ち悪い。
アタシはジャージのポケットからスマホを取り出した。
メールの受信を知らせる青いライトが点灯したままだ。

受信ボックスを調べてみると、やっぱりそうだった。


送信者 保田圭
件名 「黄金の魂」

------------------

について早急に話し合いましょう

まったく何が「黄金の魂」なんだか。
運命に導かれて集いし戦士たちが邪悪な敵に打ち勝って、各々の帰るべき場所に戻る際の別れ際。
岸壁を離れる船と陸。
海を隔てて対峙する仲間に向かって、彼らには「黄金の魂」があるとかいうならちょっとばかし荘厳で清々しい感じはするだろう。
しかし場所は狭っ苦しいカラオケボックス。
対する相手は保田大明神。
気分はどんより曇るしかねえってもんだ。

266名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:54:15

そんなアタシの気持ちを知ってか知らずか。
メールを盗み見したリンリンは相手が女だと知って歓喜する。

「やすみきキタ──ヽ('∀')ノ──!」
「いやっ来ないから。金輪際来ないから」
「いいアルいいアル。いや〜それにしても意外なカップルアルね」
「だからカップルじゃねえし」
「保田さんというとあの将棋の駒みたいな顔をしたおばさんアルね」

こいつ。
ちょっと見ない間にいろんな意味で腐ってやがる。
まあそれはそれで構いはしないが、この調子でまとわりつかれると色々面倒だ。
そう思ったアタシは少しばかり話を盛って釘を刺しておくことにした。

「お前な。まあアタシだからまだそういう感じでもいいけど保田さんに対して同じ調子で絡んでみろよ」
「いったいどうなるアルか?」

たとえば…。
バスルームで髪を洗ってると、シャンプーを洗い流してる先から背後に忍び寄った大明神様にシャンプーをぶっ掛けられる。
それも墨の香りだとか納豆由来成分だとか。
髪のためにはいいんだろうが、オバハンくさい匂いプンプンになるまで延々シャンプーを続ける羽目になるとしたら。

「それは…いやアルけど私のマンション、安いけど一応オートロックアルね。 セキュリティ上の心配は一切…」
「要らねえって言いたいんだろうが、あの人の【時間停止】の前にはそんなもん何の役にも立たねえってことはわかるだろうが」

心なしか顔が曇った中国娘に追い討ちをかけることにした。

267名無しリゾナント:2014/10/31(金) 12:56:49
>>-

とりあえず『黄金の魂』の(前)ということで
あと残り二回ぐらいで終了予定なので収録はまとめて一箇所にということで。

…しかし登場人物も読者も誰も得しないなこの話
書いてる人間はちょっと楽しいけどw

268名無しリゾナント:2014/11/01(土) 02:04:55
■ ブラッドアンドペイン −新垣里沙− ■

ざくり

声は無い。
精一杯噛み殺した、声にならぬ、悲鳴。
砕かんほどに歯を噛み、苦痛に耐える。

ざくり

彼女は手にしたナイフを突き立てる。
突き立て、えぐり、その腱を切り、骨を削る。

ざくり

つうっ!ぐぎっ!
耐え切れず、声を漏らす。

これほどまでに、これほどまでに自分は、苦痛に弱い人間になっていたのか。

新垣は再び服を破り、素早く己の太腿を縛る。
止血。
だが、その間にも、四肢のいたるところ、次々と浅い切り傷が増えていく。

「うへへぇ…がきさぁん、がんばってぇ、痛いのはあたしもおんなじなんだからぁ〜」

おどけた態度、とぼけた声、いつものままの、いつもの彼女…

「なんで…なんで…なんでアンタがこんなところに…」

269名無しリゾナント:2014/11/01(土) 02:05:27
新垣は止血をあきらめる。
どのみち、この出血では長くはもたない。
何分?おそらく、もう1分も…
助けが来ないのであれば、このまま気を失い、やがて失血死するだろう。
もはや、物理的な戦闘は、不可能だった。

ぼやける視界の中、新垣は顔を上げる…
視線の先、そこに彼女がいた。

彼女の両脚、自分と同じ個所、吹き出す真っ赤な血。
大きくえぐれた傷。

等しく同じ傷口を、等しく同じ苦しみを。

それが、彼女の能力。

防ぐ手段は、無い。

当然のことながら、能力で傷を負わせるならば、己も同等の傷を負う。
かつて彼女がこの力を使うとき、その傍らにはいつも…
だが今、彼女は一人…
こんな状態で能力を使うなど、自殺行為。

270名無しリゾナント:2014/11/01(土) 02:07:47
己が目を、疑った。

塞がっていく。

彼女の傷が、見る間に塞がり、流れ出た血液までもが、皮膚から吸収されていく。

治癒能力者がどこかに?付近に姿はない。
いや、こんな治り方、見たこともない。
何?いったい?
まさか、これも、アンタが?

「…なんでアンタ…それ…」

いや、それ以前に、それ以前に、だ。
いまの彼女は、彼女の『心臓』は、その傷に耐えきれない、その苦痛に耐えきれない。
だから、彼女は戦列を離れた。
だから、彼女は入院していた。
彼女はもう、能力を使えない。
使えない『はず』だ。

それなのに…
それなのに…

「へへぇ気がづいちゃったぁ?そーだよねぇ…そりゃ気づくよねぇ…ガキさん、ねぇあたしさぁ」


―――あたし、化け物になっちゃった☆


「いやあ違うかぁガキさぁん!、もともと化け物だった!うん!そうだった!」

271名無しリゾナント:2014/11/01(土) 02:08:18
彼女は敬礼する、片目をつぶり舌を出す。
おどけた態度、とぼけた声、いつものままの、いつもの彼女…
かけがえのない、かけがえのない仲間が、そこに…

新垣は、その名を―――

崩れ落ち、吹き出す血の海の中、新垣は、その名を―――


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