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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2
1
:
名無しリゾナント
:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。
ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。
(例)
>>1-3
に作品を投稿
>>4
で作者が代理投稿の依頼
>>5
で代理投稿者が立候補
>>6
で代理投稿完了通知
立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。
486
:
名無しリゾナント
:2012/02/24(金) 22:55:32
ごめんなさい行数チェックするの忘れてました
どうもありがとうございました
487
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:49:58
以下、リゾナントリゾートです
最終回(仮)と最終回後の番外編、二本同時に用意しました
できれば最終回(仮)から時間を置かずに番外編を落としたかったからなのですが・・・
規制中ということで、自分の手でそれができそうにありません
時間を置いて一本ずつでも二本同時投下でも構いませんので、以下をどなたかお願いできますでしょうか
488
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:50:34
夏だ!
海だ!
リゾートだ!
てなわけで、旅行3日目の予定をほぼ消化したリゾナンター13名はホテルのプライベートビーチに集まった。
海の家に提供して、余った野菜その他の食材。
れいなたちがビーチバレー大会で獲得した、牛肉とトロピカルフルーツの詰め合わせ。
さゆみが海で釣ってきた魚。(海の家の料理長の手によってさばかれ済み)
野外用のコンロ。大量の炭。トングや串や人数分の箸。
それらが所狭しと並んでいる。
「よぉし!じゃあ今からバーベキュー始めっぞー!!」
愛の呼びかけに対し、うおー!という12人分の勝ちどきの声が上がった。
今この瞬間から、今回の旅行最後のメインイベント・バーベキューが始まったのだ。
「はい、ガキさん。トングでーす」
「はいよーっ」
ごく自然にさゆみからトングを受け取り、ごく自然に肉その他諸々を焼き始める里沙。
肉食ばかりのリゾナンターだけあって、多くのメンバーが目をギラリと光らせながら様子を見守っている。
「おーい!肉こっちにもあ、むぐっ!」
「いちいち言わんでもええやないですか愛ちゃん」
「向こうは向こう、こっちはこっちで楽しむデスよ、愛ちゃん」
目をギラリとさせたメンバーよりもさらに目を妖しく光らせて、愛佳とリンリンは愛の口を塞ぐ。
卓は二つで向こうは8人、こっちは5人。
明らかにこちらのほうがライバルは少ない。
周りにいた里保と香音も、うんうんと頷いた。
489
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:51:07
「ちょっ、さゆ!今れいなの前にあった肉とったやろ!」
「ケチくさー。いいじゃん、まだあるんだから」
「じつはねー、ジュンジュンはねー、くっすみさんのことがー」
「暑苦しいよー。酔っぱらうの早いよー。あっ、笹食べてみなよ笹!健康によさげな色してるよ?」
「はあ?メダルにサイン?・・・まあいいけど」
「ヤター!後で持って行きますね!」
「はいフクちゃん。お食べ」
「いいんですか!かかか亀井さんに焼いていただいたパプリカ・・・!」
「そしてこれがリンリンマンの必殺ギャグ・・・・・・“ポテト!”Say!」
「「ポテト!!」」
「アヒャー!マジ面白れー!」
「いや笑いどころがわからへん。あ、そろそろ新しい炭取ってこな」
思い思いに盛り上がるバーベキュー。
束の間の平和を満喫するかのようなバーベキュー。
やってることは普段と大して変わらない気がするバーベキュー。
しかし、これだけのメンバーが集まって平和に食事が終わるはずもなく。
「取り消して!今の発言取り消さないと本当に怒るよ!」
「なんで?里保ちゃんかわいい言っただけだよ?」
「被ってるって言ってんの!りほりほ大好きキャラまで真似しないでよ!」
「まねじゃないもん!わたし、ちっちゃくて動きにキレがある子大好きなだけだもん!」
「おう鞘師。その肉食べて腹壊す未来が見えたで。愛佳がのけといたるわ」ヒョイ
サッ「結構です。生焼けの肉程度でお腹を壊すほど水軍流はヤワじゃありません」
「先輩の心遣いは素直に受け取っとくもんやぞ」ヒョイ
サッ「心遣いって、育ち盛りの後輩から大きい肉を横取りすることがですか」
490
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:51:52
それぞれの卓でそれぞれに勃発する騒動の種。
さゆみとジュンジュンは、里保を愛でる権利を巡って。
愛佳と里保は、目の前のとびきり上等そうな肉を巡って。
今、嵐が吹き荒れる・・・!
「上等だぁ!表に出ろやぁ!」
「のぞむところダ!」
「いっぺんおまえとはケリつけなあかんと思ってたんや・・・」ヒョイ
サッ「あなたのこと先輩として尊敬してますが、勝てないと思ったことは一度もありません」
「道重さん!ジュンジュンさん!光井さんと里保ちゃんも!」
ひょうきんだけど案外常識人キャラの香音が二組を止めに入る。
なにしろさゆみとジュンジュンは身長があるし、愛佳と里保は勝つためには手段を選ばなさそう。
こいつらが暴れたらえらいこっちゃなのだ。
「あぁ〜、でも私一人じゃ止められっこないよ!助けてください高橋さん!」
振り返る香音。
助けを求めた先には、みんなの頼れるリーダー・高橋愛。
だが。
491
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:52:38
「れいな、食べカスついてる」
「えっ、どこ?」
「ここ。ってか、これ」
「!? ちょ、愛ちゃん!」
びっくり仰天、頬を赤らめるれいな。
きょとんとする愛。
れいなの口元についていた食べ物のかけらを、愛が指ですくって食べたのである。
「なんじゃそりゃあっ!それ天然でやってるなら凄過ぎるんですけど高橋さん!ってか田中さんの雰囲気も
いつもと違い過ぎるんですけど!なんか乙女な感じで、ぜんっぜん声かけられないし!」
思わず香音も、コントのツッコミ役みたいなツッコミが飛び出るというものだ。
普段は人に威嚇ばかりしている猫が飼い主の前でお腹見せてゴロニャン、な場面を目撃したような気分。
可愛いけど邪魔をしてはいけない。邪魔したら引っかかれそう。
愛たちを見なかったことにして、香音はもう一人の頼れる先輩に助けを求めることにする。
「新垣さん!みんなを止めてくださ・・・」
「う〜ん、やっぱお土産は日本酒のほうがいいかなあ」
「ちょっとガキしゃーん。まだのむんですか〜?」
「私じゃなくて先輩たちへのお土産だからね。結局この夏の慰安旅行も参加できなかったし」
「オゥ!ガキはんにも先輩がいるですか!」
「そりゃいるよー。中澤さんでしょ保田さんでしょ吉澤さんでしょ、それになんといっても安倍しゃん!でしょー・・・」
「いっぱいいるですね!ダークネスの幹部たちみたいな名前だ!」
「やだやだー!新垣さんは衣梨奈だけを見ててくれなきゃやだー!」
「ちょっとがきしゃーん。まらのむんれしゅかぁ〜?」
「っておい!どう考えてもダークネスの幹部の名前じゃん!まだスパイ設定続いてたのかよっ!つーかあんたたちも気づけよ!」
492
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:53:26
頼れるもう一人の先輩は、酔っぱらい二人と普段のテンションが酔っぱらいな未成年一人に囲まれすでに出来上がっていた。
どっからどう見ても、助けてくれそうにない。
そうこうしているうちに、メンチ切りまくりの4人のほうに動きがあった。
「里保ちゃん、ジュンジュンと組もうね!一緒にあの人やっつけるだよ!」
「あ゛ー!ちょっとなにドサクサに紛れてりほりほとくっついてんの!離れてよ!」
「大丈夫ですよ道重さん。すぐにあの小生意気なガキんちょ、道重さんの前に引っ立ててやりますから」
「タッグバトルというわけですか。・・・面白い。受けて立ちましょう!」
ジュンジュンの隣に里保が、さゆみの隣に愛佳が立っている。
二つのバトルが交わって一つになったようだ。
戦闘力に長けたジュンりほ、計略に長けなんとなくしつこそうなさゆみつ。
まともにやり合えば前者だが、後者がまともにやり合う気がしない。
まさに嵐の予感である。
なんかもう諦めたけど、一応念のため万が一ということもあるかもしれない。
香音はほんの微かな期待を胸にゆっくりと後ろを振り返って、その名を呼んだ。
「・・・聖ちゃーん」
聖は中学三年生にもなって年下にローマ字のスペルミスを指摘されるようなおバカさんだけど、
いざという時は香音たちのお姉さんという感じで頼りになる。
もしかしたら、ひょっとして、ともすれば・・・?
「今の私があるのはきらりちゃんのおかげなんです。久住さんあってこその聖っていうか・・・キャッ、言っちゃった!」
「ふーん。あ、梅干し食べる?」
うん、少しでも期待した私がバカだったんだろうね。
493
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:54:22
愛はれいなと戯れていて、里沙は絵里やリンリンや衣梨奈と飲んだくれている。
聖は小春に近づいて2ショットをねだるつもりだろう。
誰も、ジュンジュン・里保vsさゆみ・愛佳のバトルを止める気配がない。
バトルに気づいているかどうかも怪しい。
なにやってんだろう自分、と考えて香音は空しくなってきた。
「・・・はあぁ〜」
盛大にして重厚なため息を一つ。
今日一日の疲れをすべて乗っけたかのような深い深いため息。
香音は人の声が“聞こえ過ぎる”。
拾わなくてもいい声まで拾えてしまう性質なのだ。
聞きたくない言葉を今までいっぱい聞いてきた。
それで損してきたことだってたくさんある。
だから、たまにはいいか。
こういうことにしても。
「・・・・・・知ーらないっと!」
くるりと反転。
なんでもなかったような顔をして食事に戻る。
見て見ぬ振り、聞いて聞かぬふりだ。
みんなが事に気づくまで、香音はなんにも知りません。
494
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:55:05
「里保ちゃん、合体だよ!」
「はい!行きます!“ライド・イン・パンダ”!」
「ジュンジュンめぇ!さゆみを差し置いてりほりほと合体なんて許せない!・・・でも、パンダに跨るりほりほ超ラブリー〜!!」
「・・・言うとくけどな、鞘師。この場合は“ride in”より“ride on”のが適当やからな」
「うぐっ!!」
「バウ!?」
「ああ!間違いを指摘されたショックでりほりほが落ちた!」
「フッ。知ったかぶりの優等生は打たれ弱くてあかんなぁ」
先程まであんなに頭を悩ませてくれた喧騒もBGMに変えて。
誰も周りを気にしていないなら、今がチャンスだ。
網の上に残された肉や魚もまだ箱の中に眠ってる野菜も、みぃーんな一人で食べ尽くしてやる!
香音は焼いた。
焼いて焼かれてまた焼いてを繰り返して食べた。
聞きたくない声をシャットアウトして食べ続ける術を身につけた香音。
しかし、今日のような喧騒はリゾナンターにおいて日常茶飯事だ。
スル―したくなるような馬鹿馬鹿しいやりとりはこれからも数多く巡ってきて、そのたびにドカ食いした結果
成長期の女子中学生にふさわしい拡張を遂げるようになることを、彼女はまだ知らない。
495
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:56:15
夏だ!
海だ!
リゾートだ!
てなわけで、リゾナンター13人はひと時の休暇を終えて帰路につこうとしていた。
行きと同じく帰りも交通費をケチるので、一行は駅のホームで1時間に1本の電車を待っている。
しかし、そんなリゾナンターたちに迫る4つの影。
大きな柱の後ろに重なるようにして、少し離れたところからじっとリゾナンターの姿を見つめている。
「よし。行くよ、みんな」
「いやー・・・もうちょっと待ったほうが・・・」
「なんだよ、近づいて声かけようって言ったの亜佑美ちゃんじゃん」
「それはそうだけどさあ」
愛らしい容姿に似つかぬ低い声の少女が、その後ろの長い黒髪をまっすぐ伸ばした勝ち気そうな少女に文句をつける。
そんな二人の様子を、雑誌モデルばりに線の細い少女がおろおろと、実に純朴そうな大和撫子風少女がニコニコと見守っていた。
「ねえ、メシはどう思う?いつ声をかければいいか、最年長としてバシッと決めちゃってくんない?」
「え〜、歳は関係ないよ。ていうかね、メシってあだ名はやっぱりどうなのかなって・・・」
「じゃあメッシ」
「そういうバロンドール的なのもかっこいいけど。でももっともう、ガーリーな」
「じゃあはうたん」
「う〜ん、悪くはないんだけど・・・ちょっと恋愛体質っぽいかなあ」
「まぁちゃんのジョーカーどっか行った」
「「はい?」」
「まぁちゃんのジョーカーどこだろ〜」
496
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:57:09
話がズレて、お年頃の乙女としてはそれなりに深刻な問題を話し合っていた低音とモデル。
そこに、ニコニコ少女が割って入った。
だがその割り込み方はあまりに脈絡がなく、二人は暫し呆気にとられてしまう。
沈黙を破ったのは、先程まで低音と言い合っていた黒髪ロングだった。
「あ、もしかしてまぁちゃん、トランプのジョーカー失くしちゃったの?」
「うん」
ニコニコ少女がいっそうニコニコと笑ってみせる。
どうやら、持参したトランプの中にジョーカーが見当たらないらしい。
「ホテルに置いてきちゃったのかな。昨日の夜みんなでババ抜きしたんだから、その時まではあったよね」
「ちゃんとケースに入れたよ」
「じゃあケースのフタが外れて荷物の中に紛れちゃったとか。ちょっと探してみようか」
「うん。あゆみん優しい」
二人は荷物を開けてごそごそとジョーカーを探し始めた。
そのうち「私も手伝うよ」と言って最年長らしいモデル少女も捜索隊に加わる。
3泊4日の泊まり荷物の中からカード1枚見つけ出すのは、結構大変なのだ。
「あゆみん優しい。はるなんも優しい。だからくどぅーの負けー!」
「なんでだよっ!」
「くどぅーも一緒に探そうよ。みんなで探したら早いよ、きっと」
4人でいると、いつもこうなる。
低音がなにかを仕切ろうとすると負けず嫌いな黒髪が張り合ってきて、
ニコニコがわけのわからないことを言い出しモデルがみんなをまとめる。
たまにパターンは変わるけど大体こうだ。
“くどぅー”と呼ばれた低音少女は、それが悔しくもあり心地良くもあった。
497
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:58:19
4人はいつだって一緒。
この夏の大冒険「東京から利曽南島・鈍行列車ほかの旅」も4人で挑戦し、成功を収めようとしている。
夏の海を遊び倒す中で、不思議な存在感を示す集団に気がついたのは誰だったか。
砂浜で遊びまわっていたら、怪しげなチャラ男どもを一蹴するお姉さんたちがいた。
海の家に行ったら、一生懸命に接客するお姉さんたちがいた。(なんか不純な目で見てくる人もいたけど)
ビーチバレー大会をチラ見したら、並み居る強豪に引けをとらない勝負をする姉さんたちがいた。
島を散歩していたら、すごい勢いで獲物を釣り上げまくる姐さんがいた。
帰りの電車を待っていたら、ずっと憧れの眼差しを送っていたあのアネキたちがいた!
声をかけようかかけまいか。
そもそも道中どこまでご一緒できるのか。
あれやこれやと葛藤しつつ、今4人は“まぁちゃん”のジョーカーを探している。
「あったー!」
“くどぅー”が達成感に満ちた大きな声を上げる。
手には、トランプの札を収納する専用のケース。
「ケースの底に張りついてた!ちゃんと見なきゃダメじゃん、まぁちゃん」
「えへへぇ〜」
ジョーカーが収納ケースの底にぴたりとはまっているのを見せる。
おそらく“まぁちゃん”は、ケースをひっくり返して出したトランプの札を見てジョーカーがないと慌てたのだろう。
まったく人騒がせな。
498
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 21:59:56
だが、おかげで決心がついた。
この中でジョーカーを見つけた人の意見に従おうと、“くどぅー”はひそかに思っていたのだ。
“あゆみん”が見つけて「もう少し待とう」と言えばそうしたし、“まぁちゃん”が見つけて「このままがいい」と言えばそのつもりでいた。
“はるなん”が見つけたら・・・メシと呼ぶのをやめてあげてもよかった。
でも、見つけたのは“くどぅー”だ。
だから今は、自分の思う通りに行動する。
「ジョーカーも見つかったし!みんな、行くよっ!」
「ま、待ってよ、くどぅー!」
「心臓がポクポクしてきた〜」
「くどぅー待って!荷物荷物!」
「後で受け取る!はるなん持ってきて!」
「えぇ〜!・・・ってあれ?“はるなん”?」
荷物も持たずに飛び出した。
憧れの彼女たちの元へ向かって一直線に走る。
彼女たちが何者かわからない。
どこに帰るのかだって知らない。
それでも、この出会いは4人にとって一生忘れられないものになる。
きっと4人の転機になる。
そんな予感に満ち溢れ、“くどぅー”の足は止まらなかった。
499
:
名無しリゾナント
:2012/03/12(月) 22:03:15
>>488-494
『リゾナントリゾートin利曽南島 3日目夜―やっぱり最後はバーベキュー?―』
>>495-498
『リゾナントリゾートin利曽南島 4日目昼―うれしめでたし大合流―』
以上です
お手数おかけしますがよろしくお願い致します
500
:
名無しリゾナント
:2012/03/13(火) 22:50:40
代理ありがとうございました
501
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:24:27
「御苦労だったわね。」
「はい。飯田様のお指図どおりに・・・」
鳳卵学院・理事長室には大量の針がケースに入れられている。
そしてそこにはダークネスの予知能力者・飯田圭織の姿があった。
「しかしよろしいのですか?本来の目的はサンプルとなる能力者の確保のはず。針から採取したDNAだけでは実験が・・・」
「いいのよ、これはあくまでの予防措置。この学院にはあの忌々しいリゾナンターもいるからね。吉川、捕えているあの3人を殺してきてちょうだい。」
「よろしいのですか?」
友はどうやらダークネスが敵であるリゾナンターを味方に欲しているのを知っているようだ。
「構わないわ、正直言うと、裕ちゃんの思い通りに事が運ぶのは納得できないから。」
「わかりました。」
友は理事長室を出て行った。
飯田が残された部屋にはさきほどれいなたちと激闘を繰り広げた恵理菜がすやすやと寝息を立てている。
「強大な力を持っていてもそれを制御できずにすぐに倒れてしまう。兵隊には向かわないわね、あなたは・・・」
502
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:26:21
矢島警備隊本部
れいなたちは檻からだされていた。
しかしピアノ線できつく拘束されたままだ。
「あんたが黒幕だったと!」
「そうね、この針で人を惑わせていたのは事実よ。でも、これはお金をもらってやっていた単なるビジネス。」
「ひどいの!あなたに操られて、心を傷つけられた人が大勢いるの。」
「あなたもそのひとりよね。面白かったわよ、親友の首をしめる姿を見ていて・・・」
友はひとり笑っている。
この女は完全に自分のしたことで楽しんでいる。
おそらくここだけではない、ほかの所でも大勢の人を苦しめていたのだろう。
「くそっ!ぶん殴ってやる!」
「そんな姿で何ができるの?今、楽にしてあげるから。」
友は指先から針をだして、3人に迫る。
「やるなら、私からしなさい!」
「がきさん!」
「大丈夫よ、あんたたちには指一本触れさせないから。あんたたちを死なせるようなことになったら愛ちゃんに顔向けできないから。」
「そう、じゃああなたから死なせてあげる。」
友は針を里沙の急所に向けた。
ボン!
すると友が何かに跳ねのけられて、本部内にある机に頭をぶつけて気を失った。
503
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:27:09
「何があったの?」
「どうです?ももアタックの威力は?」
そこにいたのは嗣永桃子であった。
どうやら洗脳されている様子はなさそうだ。
「あんた・・・どうして?」
「もう潜入捜査している場合じゃないし、かといってももちひとりでは解決できそうにないんで、助けに来たニャン!」
そう言いつつ、桃子はなれた手つきでれいなたちの拘束をほどいた。
「黒幕は理事長室にいるニャン!」
「よし、がきさん行こう!」
理事長室
ドン!
れいなたちがドアを蹴破って中に入ると・・・
「あんたはダークネスの!」
「やはり来たわね・・・やはりあなたたちとかかわるとろくなことにならないわね。私のプライベートオフィスに土足で踏み込むなんて・・・」
「もしかしてここの理事長って・・・」
「そうよ、数年前からここの理事長になっていたのよ。少しずつダークネスの人材になりそうな生徒を人知れず洗脳していたの。それなのにあんたたちに嗅ぎつけられて・・・」
「だったら、観念するんや!」
れいなたちがすごんでも飯田はまったく感情を出していない。
何やら余裕を見せている。
504
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:28:23
「ふふふ、m411に敗れたあなたたちで何ができるの?」
すると飯田の傍らに恵理菜が立ち上がった。
「さぁ、m411。こいつらを殺しなさい。」
恵理菜が手をかざした瞬間・・・
ビリビリビリ!
恵理菜の目の前を電撃が走った。
「この電撃・・・もしかして。」
「ヒーローはいいところに登場するもんだよ。」
「小春!」
恵理菜はすかさず部屋の中のものを念動力でれいなたちにぶつけようとはかった。
バキバキ!
「発火!」
目の前にパンダが盾となり、そして緑の炎が物体を燃やしつくした。
そしてそこからできた炎を風が恵理菜に吹き荒らした。
「ジュンジュン!リンリン!」
「絵里!」
「くっ!」
恵理菜が高速移動で里沙に迫った。
パシッ!
「あーしの仲間には指一本触れさせんで・・・」
「あんたの動きは愛佳にはお見通しやで。」
「愛佳・・・愛ちゃん!」
505
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:29:08
リゾナンター全員集結!
「里沙ちゃん、一樹君からの伝言ちゃんと聞いたやよ。」
「召使い・・・ちゃんとリゾナントにつけたと!」
「やったなの!」
恵理菜はさすがに一歩引いて、リゾナンターを見つめている。
過去に戦ったことはあるが、リゾナンター全員を相手したことはなかった。
すると・・・
「ああ・・・きゃあ!」
突然、恵理菜が発狂し始めた。
「どうしたの?」
「たぶん、力を制御できずに暴走しているのよ。」
今まで恵理菜の力は安部なつみによって抑えつけられていた。
それを友によって無理やり解放されて、その反動がきたのだ。
「ぐわー!」
「ぎゃあー!」
学院中からも叫び声が聞こえる。
「洗脳された人たちもおかしくなっとるけん!」
「洗脳の中枢が狂いだしたのよ、ほかに洗脳されている人達にも影響が出始めている。」
506
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:30:10
学院の人々のほとんどは恵理菜の洗脳音波で操られている。
恵理菜の影響も音波のように伝わったのだ。
「どうするんですか?これだけの人々の洗脳をいちいち解いている時間はないですよ!」
「高橋さん!新垣さん!愛佳の提案聞いてもらえますか?」
「うん、何?」
「愛佳の案にしては突拍子もないですけど、前、田中さんがいうてたのを聞いたんですけど、田中さん、道重さん、亀井さんが約束してたんですよね。」
「それってもしかして・・・」
それは絵里、さゆみ、れいなのしたひとつの誓いであった。
れいなの共鳴増幅と絵里の風の力でさゆみのいやしの力を世界中に送り届けるのだと
「あれをするんです。これだけ大勢の人々の洗脳を解くにはそれが一番かと。」
「できるかどうか一か八かだけど、やるしかないけん。」
全員がうなずいたのちに円陣を組む、こうしたほうがたがいに共鳴しやすいのだ。
「じゃあ、始めるよ。」
里沙の合図をきっかけに共鳴を始めた。
だが、それを影から友が眺めている。
(おのれ、飯田はすでに私を見捨てて逃げている。もしやこうなることが最初からわかっていたのか。私は単なる使い走りか!だが、このままでは捨て置かないぞ、リゾナンター!)
すると友は針をれいなの顔に向けて、飛ばそうと構える。
「そうはさせないぞ!」
507
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:31:13
すると駆け付けた一樹が友に組みかかった。
激しくふたりは廊下を転げまわる。
「邪魔をするな!」
友の針が一樹に迫る。
「さぁ、癒しを力を学院に・・・」
リゾナンターの円から光が学院中に降り注ぐ。
それは恵理菜を含め、学院中の人々にも届いていく。
光を浴びた恵理菜は発狂をやめて、静かに眠りにつく。
それに続くかのように学院中の生徒や教員も倒れていく。
光を解き放ち、リゾナンターは円陣を解く。
「うまくいったと?」
「彼女は眠ったの。たぶん、成功したんだと思う。」
周りを見渡すれいなの目に飛び込んだのは・・・
「一樹!」
一樹は胸を針で刺されて倒れていた。
れいなはすかさず駆け込んだ。
「そんな・・・嘘やろ!死ぬんやない!あんたが死んだら、誰がれいなの明太子パンを買ってきてくれると!」
いくら揺さぶっても一樹は目を覚まさない。
れいなの目には一筋の涙が・・・
508
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:32:05
「ごめん・・・れいなたちとかかわったばかりに・・・関係ないあんたを死なせてしまった。」
「待ってよ・・・勝手に殺さないでくれる!」
すると一樹がぱっちりと目を開けた。
その様子にれいなは驚いている。
それもそのはずだ、位置的に確実に心臓のあたりを刺されていそうだった。
「これのおかげで命拾いしたよ。」
「明太子パン・・・」
「買っておかないと、君に怒られるだろうから。」
「よかったと!」
れいなは一樹に抱きついた。
里沙たちはれいなのあまり見ない光景に少し戸惑っている。
そんな中、愛は一樹を刺した針をゆっくり抜いて、確認をした。
「この針を刺した奴はどこにいったんやざ。」
「走って逃げたと思います。」
「そうか、ありがとう。さゆにきちんと治療してもらってな。小春!」
「はい!」
愛はすごい声で小春を呼びつけた。
小春はすぐさま愛の意図に気づき、念写を始めた。
そしてそれを見た愛はすぐさま瞬間移動で消えた。
509
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:32:41
その頃、友は学院から走って逃げていた。
「このままじゃあ、終われないわ。いつか必ずリゾナンターに復讐してやるわ!」
「あーしらも終われないんやよ。」
すると友の前に愛が瞬間移動してきた。
「おまえは高橋愛!」
「やっと見つけたやよ。前の時の借りを返させてもらうやよ!」
数日後・・・
喫茶リゾナント
「いらっしゃいませ!」
喫茶リゾナントにれいなの姿があった。
すでに制服ではなくいつものウェイトレス姿だ。
「こんにちは。」
「がきさん、いらっしゃい。元の生活はどうとね。」
「そうね、身元を隠すために歌をわざと音痴にする必要もなくなったからね。楽よ。」
「それ必要なことかいな。さゆはあれから学院を離れたがらんくて苦労したと。鞘師と離れるのが嫌なんやろう。」
あの事件以降、学院の校長はけがから復帰して、飯田が逃亡したことにより理事長席は空白となり、風紀委員も友の暗躍から解放されて、風紀委員は矢島警備隊と統合されることになった。
騒動もなくなり、ひとまずれいなたちの潜入捜査は幕を閉じた。
510
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:33:13
「ねぇ、愛ちゃん。メニューに明太子パンをいれようよ。」
「駄目やよ、どうせれいなしか食べないんやろう。」
「ぶぅー!」
れいながふてくされて、カウンターから離れると里沙が愛に話しかけた。
「結局、多くの生徒のDNAをダークネスに持って行かれたから、めでたしとはいえないけど・・・」
「そうやね、あの友ってやつはあーしがぼこぼこにして警察に引き渡したからよかったけど、結局ダークネスには手も足もだせんかったやよ。」
「真野ちゃんのこともこれからの課題だし、それに・・・」
「それに?」
「実はあの後、警察に問い合わせたんだけど、潜入捜査官に嗣永桃子というのはいないらしいわ。」
「えっ!」
確か桃子は里沙たちに警察からの応援の潜入捜査官としてやってきたと告げていた。
しかしそんな人物は最初からいなかった、これは里沙がKに確認してわかったことであった。
「うかつだったわ、田中っちたちがうまく潜入捜査できるかに気を配りすぎて、あの嗣永桃子の身元をちゃんと確かめなかったわ。」
「仕方なかったやよ、いろいろあったんやから。このことはれいなたちには内緒にするやざ。余計な心配させたくないし。」
「そうね・・・」
511
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:34:03
一方、街中を桃子が携帯を片手に歩いていた。
「もしもし?私です。はい、今能力者のDNAサンプルを持って、そちらに・・・ええ、飯田圭織をだしぬけるか心配でしたけど、先生のおっしゃる通りでした。確実に飯田圭織の予知能力は衰えており、事前の対処に遅れが。はい、すべては先生の願いどおりに・・・」
「明太子パンほしいなぁ。」
ガランガラン!
リゾナントのドアが開かれると同時に明太子パンがれいなに向かって、飛んできた。
それを見て、れいながうれしそうな表情を浮かべた。
それは明太子パンが飛んできたことだったのか、それともそれを投げた彼の会えたことに喜んでいるのかはれいなしかわからなかった。
学園潜入 終わり
512
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:37:00
>>501-511
「学園潜入 救いへの共鳴」
どうもリゾクラ作者です。
いろいろありましたが、なんとか完結です。
ドラマの内容に振り回されながら書いており、どのように終わらせるかも悩んでいましたが。
結局はリゾナンター集結というありがちな展開になりました。
やはりオリメンがしっくりきてしまうのかな?
513
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 10:37:45
あ、忘れてました。
自分のパソコンでは連投規制が入るので代理投稿よろしくお願いします。
514
:
名無しリゾナント
:2012/04/07(土) 17:26:09
レス数が多いな
ま、行ってみますか
515
:
名無しリゾナント
:2012/04/07(土) 17:53:55
どうにか完了
ありがちな展開というよりは王道の展開というべきか
516
:
名無し募集中。。。
:2012/04/07(土) 21:32:58
代理投稿ありがとうございます。
517
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 20:57:03
>>274-277
彼女は風を感じるのが好きだった。
あの事故から数ヵ月。
陸上部での大会が迫っていたが、あの事故には自身の足に重症の怪我を負わせた。
リハビリをすれば治ると医者に言われたが、喪失感は彼女を絶望させる。
中等部最後の試合だった。
高等部でも続けるつもりだった。
この先もずっと駆け続けるつもりだった。
練習して見に付けた力が無くなる。失くなる。
不安で不安でしかたがなかった。
子供だと思われるかもしれない。
実際、子供だった。小さな世界しか知らない、未熟な子供。
そんな時だった。
完全に傷の治っていない、ちゃんと力の入らない足でも走る事ができた。
まるで魔法のように。
自分だけの魔法に、彼女は依存するようになった。
例えそれが、自身の両足に負担をかけていた事になっていたとしても。
いつしか"アレ"は彼女に反抗するようになった。いわゆる、暴走。
『空気を操る力』
部活中にそれは起こった。
仲間の数人が怪我を負って、彼女は、思った。
ああこれで、楽になれる。
518
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 20:57:58
思ってしまった。
いつこの魔法が解けてしまうか判らない不安と、背負わされた期待。
ただ走れれば良かったのに。
自分の気持ちが恐ろしかった。ただ走って振り切る事しかできなかった。
誰に助けを求めばいいのか、判らなかったんだ。
ああ、眩しい。
オレンジ色のブレた太陽のヒカリ。
…違う。
似ているけど違う、あれは、あのヒカリは。
――― 少女の見下ろす世界。
変わらないモノを変える世界。カタチの変わる世界。
イノチの終わりを告げる世界。
卑屈に笑って、真っ白に消える、退屈に咲いて、真黒に朽ちる。
熱にうなされたまま。
命の輝き、傷の癒えない軌跡、屋上に佇む黒い影。
呟く、笑って、笑った―――
光が収束し、女の子は刃の切っ先を女子生徒に向けていた。
振るった。
瞳に宿る一閃。ぽっかりと『穴』が開く。
それがゆっくりと元の"カタチ"へと凝縮していく。
無機質な球体ではなく、持ち主の感情そのままに。
コハクのヒカリを帯びた、砂時計。
女の子はそれをしっかりと箱に詰め、古びた電話ボックスの受話器を取った。
519
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 20:59:12
「ふっ、ほっ、はっ」
鈴木香音は両腕を横に泳がすような動作を必死にやっていた。
自分の部屋で、何の恥ずかしさも無く。
夕飯の時間までの軽い運動、といえば聞こえはいいかもしれない。
ぶおーん、ぶおーん。
両腕を横に振る事で微かな風力が収束し、見えない風によって壁に
掛けられたカレンダーがゆっくりと揺れている。
額から汗が滲んでいる。両目はどこか真剣だ。
少なくとも鈴木はまさに極めるかの如く「ちょうちょ」の動作をしている。
彼女の十八番だ。
得意だからこその真剣な眼差し。
それを往復数十回とこなすのだからモノマネも突き詰めれば達人の域だ。
母親は妹と一緒に買い物へ出かけている。
まだこの時間は学校で部活に励んでいるのだが、今日は顧問の先生が
不在だったため、休みになっていた。
誰も居ないからこそただならぬ集中力を発揮する。
誰かが顔を出そうと思うものなら鈴木の顔真似&両腕から繰り出される
横スマッシュによって顔を挟まれてしまう。
それとも「カマキリ」によって縦チョップが幾度となく繰り出されるかもしれない。
たかがモノマネ、されどモノマネ。
4歳の頃から持っているクマのぬいぐるみがアフロを付けていても
それが鈴木にとっては自然であり、また愛しさを憶えるようになる。
虫に対してもそのカタチを全て記憶したうえで処理をする。
つまりはそういう事だ。
520
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 20:59:58
この動作に意味がなくとも、鈴木はモノマネをし続けるだろう。
そこに確かな愛がある限り。
〜♪!
そんな何処か青春ドラマチックな音楽を流しているような雰囲気に
なっていた鈴木の耳に微かな着信音。
1階にある固定電話からだ。
誰も居ないからこそ必然と鈴木がそれを取る事になる。
さすがに電話の"音"で誰かがかけてきたのかまでは判らない。
鈴木はタオルで汗を拭きながら、その受話器を取った。
「はい、鈴木でーす」
軽い口調で鈴木は相手に告げる。
だが声は返って来ない、静まり返るそれに、もう一度告げ返す。
「もしもーし?」
鈴木は無言電話か?と思い、その受話器を下ろそうとした。
だがなんとなく、本当になんとなく気になってしまう。
もう一度告げ返して、何もなければ下ろそうと思い、口を開く。
「あのーどちら様ですか?」
瞬間。
『嘘のない現実は無い』
521
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 21:00:48
…?…??
『本当の現実はあっても、嘘のない現実が無くなることはない』
突然聞こえて来た、女性の声。
宗教勧誘か?
鈴木は耳から離し、受話器を下ろす。聞いてはいけない気がして。
カチャン。――― ?
鈴木の鼓膜に"音"が響く。キインという鋭い音。
頭を揺さぶられる音、奔る音、嫌な音。
何故?
何故なら。
『何故なら人の嘘で出来た世界だから。』
『優しい声に人は惑わされてしまう』
『優しい嘘に人は依存していく』
『ねえ』
『貴方は、本当にそこにいるの?』
ガチャン。
香音はビクリと反応する。
玄関から顔を出したのは妹で、「ただいまー」と声を上げた。
後に入ってきた母親が香音の姿を見て首を傾げる。
522
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 21:01:46
「どうしたの?電話でもかかってた?」
「え?あ、う、ううん。間違い電話だって」
「そう?なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「きっとお腹すいたんだよ、早くご飯ー」
「じゃあ手を洗ってきなさい、香音もね」
「うん」
スーパーの袋を抱える母親と妹を見て、もう一度電話機を見つめる。
鈴木は頭をかきむしりながら、二人を追った。
微かな違和感を端っこに押しやるように。
鈴木は気付かない。
それが受話器の向こう側ではなく、直接脳に伝わっていた事を。
鈴木は気付かない。
既に自分が"当事者"である事を。
鈴木は気付かない。
誰も気付かない。
今から始まるのではなく、以前からずっと続いていたことを。
523
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 21:05:00
--------------------------------以上。
>>517-522
ついにPCまで規制に…というか忍法帖なんたらってまだ
あるんですね…もしかしたらまたお世話になるかもです。
すこし長くなりましたが時間がある時にでも…。
524
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 21:08:44
あ、良ければ521の下から三行目を「香音」から「鈴木」
に変えてください、よろしくお願いします。
525
:
名無し募集中。。。
:2012/04/25(水) 22:01:38
>>523
代理っときやした!
526
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 12:57:52
代理投稿ありがとうございましたっ。
個人的に長くなりそう…あの忍法帖はいつ解けるんでしょう。
527
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 14:33:09
――― 譜久村は公園に立っていた。
ホームルームの時に彼女が入院した事を教諭から聞き、放課後
倒れていたというその場所に立っていた。
両足が酷い状態だったという。
事故で怪我をしていたという話をは聞いていた。
まだ完治していなかったにも関わらず、部活で走り続けていたのもあって
一歩遅ければ手術しなければいけなかったらしい。
だが時間をかければ治る見込みはあり、今後はリハビリをする事になる。
名もなき通報者によって彼女の人生は救われたと見えた。
「……」
譜久村の真下には何かの欠片が残っていた。
ペットボトルのキャップ、プラスチックの破片が散らばっている。
液体はもう乾いてはいるが、その事実は変わらない。
万物の元素の一つである物質層には、人が決して見ることの出来ない思念を纏っている。
本質的なエネルギー場、アストラル・コーザル。
足跡、そして、傷跡。
膝を折り、地面に手を置いた。
譜久村の両眼がグアアアと見開かれる。
眼球を押さえつけられているような痛みに眉が歪む。
ビデオテープの巻き戻される音が鼓膜を刺激する。
ガリガリガリガリ、ザリザリザリザリ。
目がジクジクする。視線に薄紅の閃が過る。
「くっ…」
528
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 14:34:28
白黒、モノクロ、揺れる影、揺れるのは、女子生徒だ。
意識が揺れる。ダメだ、まだ。
気持ちが悪い、音に酔う、色に廻る。
まだ。
まだ。
女子生徒の姿。キイキイ。ブランコ。後ろ姿の女の子。
女の子と言い合う女子生徒。ブレる、ブレる。見えない。
携帯電話。投げられる。茂みの中。
女の子の顔が逆光に照らされる。ブレる視界。女子生徒が吠える。
赤。朱。血。刃。
ガリガリガリ、ザリザリザリ。
倒れる。ぼんやりと掠れた視界。黒、闇。穴。
オレンジ色。コハク色。
知ってる。箱に詰めた、コハク色。オレンジ。
知ってるような気がした。
――― 遊園地の観覧車の前で女性が一人。
綺麗な笑顔だった。
まるで今にも散ってしまいそうな華のように。
透き通る瞳。手を上げる。高く、高く、高く。指を宙(ソラ)に。
口を開ける。大きく、叫ぶ。
女性は満足したように静かに、風の音を聞いた―――…。
パシンッ。
529
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 14:35:34
パシンッ。
譜久村の意識が戻る。
目を見開き、弾かれるように青空を仰ぐ。
晴天。今日もまた、晴天だ。
知ってるような気がした。あの女性の事。
とても切なくなるような、悲しくなるような、気持ちが揺れ動く。
涙が溢れそうになって、それを乱暴に拭った。
譜久村は茂みの中を捜し回り、携帯電話を見つける。
開くと、画面には一つの留守電。
部活が中止になった事を聞いて掛けた、譜久村の着信。
彼女から話を聞く必要がある。
譜久村は彼女の居る病院へと足を進めた。
頃合い、か。
屋上。其処は何処でもない。
其処はハシゴの上。其処は給水塔。其処はあっち側。
ポータブルプレイヤーにはイヤホン。両手にはサイダー。
イヤホンを付ける耳には静かなさざ波の音。
街が見える、公園が見える。小さな影が一つ、事実を拾った。
鞘師は少しだけ寂しくなかったが、しょうがないと思う。
目玉焼きはかのんちゃんに譲るよ。想う。
530
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 14:36:20
夕凪。
静かな海の上を、めいっぱい羽根を広げたうみねこ
が飛んでいく。
波打ち際。光の中で。
光が眩しい、蒼い、蒼い空。
それは誰かが夢見ていた、願い。
世界は廻る。誰かが居なくなっても、それでも。
531
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 14:38:49
-----------------------以上。
>>461-467
を投下の時に書いておいて頂けると幸いです。
また時間がある時にお願いします(平伏)
532
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 14:41:39
付け足し。
りほりほがあの年で環境音楽が好きっていうのは
軽く衝撃を受けました。
533
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 19:03:41
代理っときやした!
534
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 23:23:02
猫は群れない
誰と関わらないでも気にせず、勝手気ままに生きる
本能の赴くままに食べ、走り、眠る、そんな束縛を嫌う自由の象徴
犬は群れる
集団のなかに飛び込んで、社会を構築する一員となる
ボスの命令に忠実に従い、課せられた使命をこなす規律の象徴
そのくせ猫も犬も退屈を嫌うし、悩む
自由な猫は時折思う、何のために生きているのか?今をいきるだけでいいんだろうか?
縛られた犬も時折思う、ただ従うことが本当に正しいのか?自分らしさとはないか?
「れいな、暇やけん」
そう言って隣で笑うあなたの見た目は猫
『・・・今も退屈ですか?』
ためらいがちに尋ねた私の質問にあなたは答えた
「ん?そうっちゃね・・・昨日よりは楽しいけど一昨日よりは退屈っちゃね」
本当に気まぐれだと思う。でもそれは私も同じ
まわりからみたら私もきっと猫
でもこうやってあなたの傍にいたいと思う気持ちは犬
・・・もし私が犬だと気付いたら猫のあなたはどこかに行ってしまいますか?
535
:
名無し募集中。。。
:2012/04/26(木) 23:31:09
新しい話が多くて色々と刺激受けてます。時代の移り変わりも感じてます。
投下したのは『Vanish! 0.7』のプロローグです。読み方は『バニッシュ レイナ』
れいなの『共鳴』が発現してない時代、いわゆる『過去編』になります。
某ベリメンが出る話なのでホゼナンターの許可をもらってから書きます
代理の方よろしくお願いします
536
:
名無しリゾナント
:2012/04/27(金) 02:11:54
とりあえず貼っときました
537
:
名無し募集中。。。
:2012/04/27(金) 07:05:09
代理ありがとうございました
538
:
名無し募集中。。。
:2012/06/01(金) 03:27:33
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/584.html
の続き。
何処にも繋がっていない世界。
子供のころに、いつも傍にあった辺りをはね廻る音たち。
両手いっぱいにすくったはずの水は、今でも零さないように大切にしていた。
失くすことを恐れた。
手にくんだ水は、本当は乾いていて。
誰にとってもそうで、体温で乾いていく。
生きてるから。熱を持ってるから。
でも失くした水は、また汲んでくれば良い。
その場所は何処にでもあるから。
道端に転がるほんの小さな小石にだって。
例えは誰かのココロとか、自分のココロとか。
気付くことが出来れば簡単なことで。
見つける事ができればなんて優しい。
少し目線を変えればいいだけなのに、まだ小さな世界に佇んでいる。
*
――― カチカチカチカチ。
携帯を操作する音。
メールを作成するのに数分を要するものの、デコレーションくらいは
少しぐらい力を入れたいと思っていたりもする。
だがあまり夜にはしてはいけない。理由は簡単、寝てしまうからだ。
でもどうしても不安になったときは構わず送信してしまう。
こればかりはどうしようもないのかもしれない。
539
:
名無し募集中。。。
:2012/06/01(金) 03:28:13
カチカチカチカチ。
きっと相手の顔を見て言った方が良いのかもしれないし、それが
苦手という訳でもない。
人見知りはしないタイプ。
言いたいことは言っておきたいタイプ。
それがどんなに相手のことを考えていない発言だとしても
自分が後悔することの方がダメだと思うから。
後悔はしたくない。
勝負に負けることもしたくない。
悲しい事は嫌だから。
自分を犠牲にすることで切り開ける未来なんて考えられない。
でも誰かのためならそういう事もするかもしれない。
優柔不断という訳じゃない。
ようするに優先順位で物事を決めるタイプ。
カチカチカチカチ。
仮面ライダーゼロノスとボウケンピンクの共通点は、二人共
最終回では自分の為に仲間と別れて旅立ってしまう。
前者は自分の生きる歴史を捜す為に。
後者は想い人を支える為に。
求めるのは凄く良い事だと思う。
人は求めるものがあるからこそ生きたいと思うし、生きられると思うから。
彼の言葉はそれを物語っているとしか言いようがない。
ふっ、思えば熱い男だったとよ。
カチカチカチカチ、ピッ。
540
:
名無し募集中。。。
:2012/06/01(金) 03:29:33
送信し終えたと同時に教室のドアを開ける。
開け、ドア!
「おはよーっ」
にこやかに、元気さもアピールしつつ、生田衣梨奈はクラスメイトと挨拶を交わした。
窓側のうしろから三番目が彼女の座席。
カバンを机の横にかけ、椅子に腰を下ろそうとする。
が。
「おい生田あ、授業中だぞー」
「はーい」
「はーいじゃない、せめてもう少し静かに入ってこい。
事情は親御さんから聞いてるが、ちゃんと学生生活も励むように」
教諭の軽い説教に、生田は髪を触ってアハッと笑った。
541
:
名無し募集中。。。
:2012/06/01(金) 03:41:35
以上です。そしてご無沙汰です。当初は学園要素を含まない予定
だったんですが、もうどうにでもな〜れ、です。
登場するメンバーの性格、特徴に関しては加入当初の雰囲気で
想像してもらえると、生ぬるく見守ってください。
---------------------------ここまで。
いつでも構いませんので、よろしくお願いします。
542
:
名無しリゾナント
:2012/06/01(金) 21:58:43
>>541
代理っときました。
待ってましたよw
543
:
名無し募集中。。。
:2012/06/02(土) 00:00:21
すみませんこんな駄作を待って頂けて…ブワッ(涙
代理ありがとうございます。
544
:
名無し募集中。。。
:2012/06/05(火) 00:16:23
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/577.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/584.html
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/610.html
の続き。
2限目が始まる前、鈴木香音のクラスは所々から談笑が上がっていた。
「昨日のドラマ観た?やっぱりあの警察官が黒幕だったんだよ」
「あの雑誌読んだ?ちょーイケメンでさー」
「髪型変えたんだあ。可愛いーっ」
さすが中高一貫校ともあって、少し色が濃い生徒が何人か居たりもする。
先輩の影響を受けることもあれば、兄弟が居れば様々な情報が入り込む。
当然そういう人間は一目置かれたりもするし、良くも悪くも"有名"のレッテルを
貼られることになる。
大抵のことであればそんなレッテルを喜んだりする事はないのだが、この学校
に入学早々、すごい生徒が居るという噂があった。
「あれこそがKYっていうか、むしろあの人自体が空気っていうか。
空気なのに色があって匂いがあって味があって…いやホントなんだって」
その女子生徒と同学年の姉がいるということで、いろんな話を聞かせてくれたそうな。
だが噂は時間の経過によって様々に形容し、変化する。
だから本当かどうかは定かではない。
空気が読めない。
全くではないが、10個の事柄があれば8個くらいはKYだと言われる。
一生懸命作った積木を一緒に喜びを分かち合ったあとに嬉しそうに
「ダーン」と崩してしまうようなあの感覚、とは少し違うらしい。
ただ空気が読めないという事はやはり他の人にも迷惑がかかっているという訳で。
545
:
名無し募集中。。。
:2012/06/05(火) 00:17:42
近いものでいえば買おうとしていたゲームが売り切れになって、もしかしたら
まだあるかも、という淡い期待を捨てきれない空気さえも分からずに相手の
真隣で購入したゲームを広げるとか。
趣味がゴルフという事もあって、そういう風速と角度は分かるらしい。訳が分からん。
「でも運動能力はすごく良いんだよ。器械体操だっけ?それやってたらしくて。
ことあるごとにハンドスプリングやってたな。ほら、身体をこおグルって回すヤツ」
それは鈴木も知っている。
一部では「回転少女」という異名で知られていて、部活の先輩から聞いた事がある。
マラソン大会のときに最初から全力疾走で走って、一度も速度を落とすことなく最後まで
ゴールするという荒技をこなした事で、陸上部にスカウトされていたほど凄まじい。
断ったらしいが。
50mの記録は8秒ジャスト、速さは普通だがその耐久度が半端ない。
ただもう一度だけ言う、全ては噂だ。最後の話以外は全て同級生からの都市伝説級の
噂であり、真実は分からない。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、ぞろぞろと生徒が自分の席へと座って行く。
先生が来ると客席、礼、挨拶と順序良くこなしていく。
2限目が始まった。
鈴木は窓側で後ろから数えると3番目になる。
ふと、窓から南棟が見えた。屋上は死角になっていて分からないが
本来ならあそこに鞘師里保が居る。
546
:
名無し募集中。。。
:2012/06/05(火) 00:18:30
そう、本来なら。
譜久村があの場所に風紀委員として調べに来た翌日。
あの屋上を一時的に"閉鎖"するという形を取られてしまったのだ。
出入りしているという事実はすでに教諭の耳にも入ってしまっているため
例え調査しようがしまいが、そういった処置をするというのは決まっていたらしい。
だから鞘師にも説明はしていて、あそこは今無人になっている。
…とは思うけれど。
何せ鞘師がいつあの屋上にいて、いつあの屋上からどこに帰っているのか。
それは鈴木も譜久村も知らない。
何度か譜久村が一緒に帰ろうと誘ってみたりもしたのだが、居る所を目撃されると
面倒だからと断られてしまう。
だが鞘師自身も二人と別れるのは少しばかり寂しいらしく、譜久村がなだめる
ことで少し気を紛らわせては別れることが多かった。
確かにあの包容力を一度味わうとね、鈴木は羨ましくもあり、だが鞘師の気持ち
も分かるものがある。
ただ不思議と、彼女の心配はしなかった。
きっとどこかでグウグウと寝ているのだろう、音楽でも聞いて。
サイダーでも飲みながら。交信でもしてるんだ。
そしてまた会える、どちらかが願えば簡単なことだった。
トントン。
不意に、背中を指で軽くつつかれた。
何事かと振り向くと、後ろ斜め横の机に座る女子生徒がわざと変顔してにんまりと笑った。
547
:
名無し募集中。。。
:2012/06/05(火) 00:19:10
朝っぱらからハイテンションの芸当をする彼女にリアクションすることなく
鈴木は机に向き直り、几帳面に折りたたまれたルーズリーフの切れ端を開く。
"窓の外に例の影。イチゴは好きなのにバナナは嫌いで、野菜も苦手らしいよ。
でもイチゴって野菜だって知ってた?"
鈴木はチラッと視線を窓の外に向ける。
グランドのド真ん中を堂々と歩き、校舎へと入って来る人影。
スクールバッグをランドセルのように縦に背負い、クリーム色のカーディガンには
この学校の校章が縫い付けられている。
携帯を片手に髪が風になびいた。
"野菜の中でも好き嫌いがあるのと一緒でしょ"
ルーズリーフの空いた場所にそう書き足すと、今度はそれを
振り向かずに脇の隙間から放り投げる、背後で微かに驚いた声が聞こえた。
「回転少女」、もとい生田衣梨奈という先輩の話は紛れも無く背後の彼女からであり
何故鈴木がその話を聞くに至ったかは、実に簡単なものだ。
ただ知れば知るほど、鈴木は生田が少しだけ苦手になっているのも事実。
何せ生田衣梨奈という人物は、一部では「アイドル」だからだ。
548
:
名無し募集中。。。
:2012/06/05(火) 00:24:09
以上です。もうスレが立たないかと思いましたが
規制されている人間の弱さを痛感します(涙
1年前の出来事を調べていると4人の成長っぷりを垣間見ますね。
549
:
名無し募集中。。。
:2012/06/05(火) 00:26:51
-----------------------------------------ここまで。
変なレスの消費をしてしまったorz
意外と1年前のえりぽんの掴みなさに苦戦してます…。
おはスタでも見てみようかな。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
550
:
名無しリゾナント
:2012/06/05(火) 09:37:34
>>549
遅くなったけど代理っときました。
研究熱心ですね
551
:
名無し募集中。。。
:2012/06/06(水) 02:39:43
>>14-17
の続き。
黎明学園中等部2年、生田衣梨奈。
父親はこの街の市長になった事があり、祖父は知事だったという政治家一家。
母親はステージママ気質があるらしく、モデル雑誌に応募させていたことで
生田はページに掲載された経歴を持つに至った。
なのに、彼女はかなりの不思議ちゃんとして名が通っていたりする。
だから有名人であり、アイドル、なんちゃってアイドルの方が正しいかもしれない。
そんな肩書きもあってか、今でもモデル業を行っているためと
この学校にも顔がきくということで遅刻をしても大目に見られることが多い。
鈴木は普通の家庭で育ち、普通なら羨ましく思えるのかもしれないが、その"普通"
という範囲を越えた家族関係が少しだけ窮屈なもののような気がした。
他人のことなのにまたいろいろと考えてしまうのは性なのかもと思いに駆られるが
空腹によって頭のはじっこに置いておくことにする。
お昼。
この学校は中等部は給食が用意され、高等部になると弁当を持ってくるか
給食かを選択できるようになる。
鈴木は妙に燃えていた。
隣にはあのメモを渡してきた彼女が居て、ギラリと瞳が光る。
「はっはっは、ついにこの時間がやってきたな香音」
「あんた達またやるの?中学生にもなって…」
「給食を笑うものは給食に泣くって言葉しらないの?」
「知らないし…」
「じゃああのみかんゼリーちょうだいよ」
「それとこれとは話は別」
552
:
名無し募集中。。。
:2012/06/06(水) 02:40:26
別の同級まで混ざり、給食のあれが美味しいだのあれは
マズイだのと談笑を交わす。
遠くから配膳をする生徒にそれを大目に、など注文しながら。
それが終わると生徒達の給食が始まる。
献立はごはん、豚汁、エビフライ、切干大根、みかんゼリー、そして牛乳。
切り干し大根が舞った、プレートから2、3cmの高さにその姿が浮く。
ガチンガチン。箸が鳴る、ガチンガチン。
エビフライの尻尾を掴もうとする箸を阻むのは一本の箸、二刀流とでも言うように構える。
豚汁がこぼれそうになる、隙アリと切干大根に箸が伸びる。
鈴木の瞳がギラリと光った。
箸の先でフタのとれた牛乳瓶を押し倒そうとしたのだ。
「こら香音っ、そんなの反則だろっ」
「そっちだって私が好きなの知ってるクセにっ、LOVE大根!」
「じゃあエビフライ取ろうとするなっ」
机を向き合うようになってる為、斜め横の彼女とはこんなバトルが行われる。
先ほども余った料理を取りに行ったときも一悶着があったというのに、今度は
自分の好きなものを隙あらば取ろうと躍起になる。
隣の男子は何も言わずにモソモソと食べている。
毎度のことなので慣れたのもあってか、自分達の給食も被害に
遭わないようにさりげなく端の方に配置しておいてあったりもする。
早く席替えしないかな。とポツリ。
「こらっ、食べ物で遊ぶんじゃないっ」
553
:
名無し募集中。。。
:2012/06/06(水) 02:41:37
そんな事をしていると当然教諭にも注意される訳で、一応それで二人は
大人しくなるのだが、いつ攻撃がしかけられるか分からないので鈴木は
切干大根を自分の手の近くに配置する。
給食が終わるとソフトボールをしようと言いだした彼女と別れて鈴木は廊下に出た。
特に用事はない、ただ少し食べ過ぎたせいで暴れるとかなり危険な状況だったのは事実だ。
うぷ。口を手で押さえる。
ふと。
職員室から会釈をしながら出て来た譜久村を見つけた。
最近はタイミングが合わずになかなか会えなかったので声を掛けようとする。
「みずきーっ」
瞬間、背後からの声に思わず掃除道具入れのロッカーに身を隠す。
あれ、デジャヴ?
「あれ?えりぽん…香音ちゃん何してるの?」
譜久村が首を傾げるのは、予想以上に狭かったロッカーをどうやって入ろうか
アタフタして、やけになってバケツ(新品)で頭だけを隠す鈴木に対してのもの。
ハッ、バレテル。
そんな鈴木を見て。
「敵怪人だ!このゼロガッシャーでやっつけてやる!」
生田衣梨奈が散らばったホウキとちりとりを手にとって構えを取った。
ちなみにゼロガッシャーとは、とある仮面ライダー専用武器だったりする。
だが鈴木はその豆知識を全く知らない、頭の中では「???」だ。
瞬間、生田が前にでる。
554
:
名無し募集中。。。
:2012/06/06(水) 02:42:24
「最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!」
台詞をバッチリ決めて生田はドヤ顔を見せつけた。
555
:
名無し募集中。。。
:2012/06/06(水) 02:47:44
以上です。
l /
(O|゚|O ) </.l /| /\___
/_/_(‘ <_‘|9|| / l / / / //
l┌O-┝⊂ l ___  ̄ > \_/ /____// ガッシャーン
77∧:ヨ (⌒_ノ/、/~ />  ̄ ̄ ̄ ̄
γ⌒X||乢_し' 、/ヽ  ̄>__ || |::
|l (◎)l`ーミ三=Z) l| |/ / /\ || |::
ゝ_.ノ ゝ_.ノ ∠__/  ̄ || |::
-------------------------------------------ここまで。
少しペースを早くしてますが、スレの方に投下するのは
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
ああ早く規制解けないかな…前回の代理投下ありがとうございました。
556
:
名無しリゾナント
:2012/06/06(水) 04:16:35
>>555
代理っときました。
ライダーらしく555ですね
557
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 00:22:19
>>14-17
の続き。
振り落とそうとした途端、「あれ?」と生田が素っ頓狂な声を上げて両手を見る。
背後からホウキとちりとりを引っ掴むのは譜久村だ。
「こら、人に向けたら危ないじゃない。それに確か
ゼロノスじゃなくてWにハマってるって聞いた気がするけど」
「そうだっ、ねえねえみずき、今度映画みにいこうよっ、ゼロノスは出ないけど
Wが出るっちゃん、キャッチコピーはこうとよ。
『世界よ、これが日本のヒーローだ!!』」
「私戦隊モノ見たことないから分かんないよ。
それよりさ、モデルになったっていうアイドルの人の話聞きたいんだけど」
「あー…えりなはあんまり好かん人やったかなあ、キャラが被るんよねえ」
ホウキとちりとりを持ったままなので、万歳の姿のままの生田。
バケツ(新品)を被ったままで鈴木は考えていた。
生田衣梨奈の祖父は知事をしたことがあるが、その同級生であり
この街の発展に一役買った立役者、それが譜久村聖の祖父だった。
譜久村に対する周りの反応が「お嬢様」や「お金持ち」なのもここからである。
なので家族の交流もそれなりにあったりして、何気にこの二人も
自然の流れなのか、仲は良い。
譜久村の"音"は薄ピンク、生田の"音"は紫だ。
鈴木には人間のオーラなどを「音」の振動音波によって「色」で知ることが出来る。
霊感とは違って、絶対音感の持ち主だから、というのが主な理由らしい。
子供の頃にある医療施設でそれが発覚したというのを母親から
聞かされたことがある。
そこでは鈴木が持つ能力のことを『共感覚 -シナスタジア-』と呼ばれていた。
558
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 00:23:04
これは絶対音感を持つ人間によくある知覚現象らしく、私生活には
問題はないという事で母親はかなり安心したらしい。
知ってるのは家族と、譜久村だけ。
とは言っても、最近その能力が少しだけ変になっている。
一つは相手のオーラが「音」から「色」へ変わる瞬間
なぜだか別の風景イメージが見える時がある。
その異変が起き始めたのが、あのガラスレンズを見てからだった。
鞘師が大事そうに箱に詰めていた、あの不思議なレンズ。
生田のようなバイオレットの"紫"ではなく、アメジストのような"薄紫"。
違和感はまだ残っている。
最初は流し込まれるその風景に戸惑っていたものの、身体に馴染んだのか
それほど酔うようなことも無くなった。
鮮明ではないが、まるで相手の心を見ているような気がして良い気はしない。
自分でもそんなことを相手からされてると思うと嫌だと思うから。
ただあの時に感じたイメージはとても、懐かしい感じがした。
あの"薄紫"の女性は誰だったのか、もしかしたら鞘師は知っているのかも
しれないと思ったのだが、知らない人間の話をするのも気が引けてしまう。
最近こんなことばっかり考えてるな、鈴木は溜息を吐いた。
「香音ちゃん、いつまでこれ被ってるの?」
そんな声が聞こえて、顔にかぶさっていたバケツ(新品)を取り払う
譜久村の顔が、眩しさに細める視界に入る。
気つけば生田の姿が居なくなっていた。
559
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 00:23:37
「えりぽんにはちゃんと言っておいたからもう大丈夫。
でも携帯が鳴った途端に急に走ってったからどうしたんだろ…まああの子って
行動力だけは人一倍あるから、別に驚くことじゃないんだけど」
どうやら生田の行動に鈴木が怯えてるんじゃないかと心配したらしい。
正確にはドン引きして対応に迷っていただけだったのだが。
そんな事は夢だと自分で言い聞かせながら、鈴木は久し振りに会話を交わす。
「あのみずきちゃん、今日一緒に帰れる?」
「ああ、ごめん。ちょっとお見舞いに行かなきゃいけなくて…」
「え?お見舞い?」
「あ、そっか、香音ちゃんにはまだ話してなかったね、実は…」
――― カチカチカチカチ。
携帯を操作し続ける。
南棟へ走り込んだ彼女は、この着信をいつも待ちわびていた。
電話はできない、恥ずかしくて泣き声になりながらなどあまりにも
情けなさすぎて出来ないからだ。
それならメールで我慢する。
声が聞けなくとも、文字だけでも心の会話が楽しめるのであれば
そっちの方が何倍も良い。
あの顔と向き合おうものなら失神してしまう。
だからこそせめて文字で、言葉で語り合いたい。
南棟へ辿り着いた。
屋上に向かう階段には『立ち入り禁止』のプレートと障害物。
カチカチカチカチカチ。
カチカチカチカチカチ。ピ。
560
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 00:26:33
生田は口角を緩ませた。
仮面ライダーWの関係性は素晴らしいと思う。
俺たちは、僕たちは、二人で一人の仮面ライダーさ!
まるで"私達"のようでとても共感が持てる。
ただ"あの人"の戦闘モノの知識はそれほど豊富ではないらしく
そこが少し残念だけれど。
生田は携帯の画面を見つめる。
両眼に紫の閃が過る。バイオレットの煌めきが。
カチカチカチカチ。
内容に返信を送り、生田は携帯を閉まった。
【i914の反応あり。高橋愛のそうさくを続行】
生田は心底嬉しそうに嗤う、ゾワゾワと沸き立つ愛を一身に受けて。
561
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 00:31:26
以上です。
自分も
>>117
さんの作品を楽しみにしてます^^
562
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 00:33:07
--------------------------------ここまで。
また変なレスw(ry
>>556
さんありがとうございました。
意識はしてなかったんですがホントだw
またいつでも構わないのでよろしくお願いします。
563
:
名無しリゾナント
:2012/06/09(土) 07:22:24
上げておきました
何かが動き出したってかんじですかね
…ところで作者さまは仮面ライダーとか詳しいのですか?
564
:
名無し募集中。。。
:2012/06/09(土) 09:25:54
こんなに早くありがとうございます(平伏
仮面ライダーの知識はそうですね、バックルが変身アイテム
なのと、顔がバッタっぽいのだけ…w
えりぽんが興味なかったらきっと織り込まなかった
要素だと思います。
565
:
名無し募集中。。。
:2012/06/11(月) 14:15:46
>>138-141
「おはようございまーす!」
校門の前、鈴木も見慣れた風景が広がっている。
生徒会と風紀委員が左右に列を作って、あいさつ合戦をしていた。
鈴木も挨拶しようとして、不意に思ってしまう。
うるさい。
いつもは気にもならないのは、今日はやけにうるさく感じた。
頭に響き、眉間に軽くしわが寄って行く。
他の生徒は気にせずに歩いて行くのだが、鈴木は違った。
異様な"音"の混ざり合いに鼓膜が疼いて仕方が無い。
譜久村の姿が見えるが、鈴木はその場を立ち去りたくて早足になる。
玄関先になってもその疼きが止まらないため、鈴木は怖くなった。
上履きにはきかえ、教室に入って友人に挨拶を交わされてもそれは同じ。
「どうかしたの?顔色が悪いけど」
「なんか、気分悪くて…」
「保健室に行った方がいいんじゃない?」
同級生たちは何事も無い様にしている。
誰かは宿題を写させてくれるように友達に頼んでいたり。
誰かはきのう観たバラエティ番組の話で盛り上がっていたり。
誰かは携帯をいじって誰かにメールを送っていたり。
教諭に見つかって注意を受けたが。
「せんせー、香音が不調を訴えてます」
「ん?鈴木どうした?顔色悪いぞー」
566
:
名無し募集中。。。
:2012/06/11(月) 14:16:38
鈴木は答えない、答えられなかった。
疼きが痛みへと変わって行く。
"音"がグルグルと、視界に異様に混ざった"色"が見えるようになっていた。
なんじゃこりゃ!
叫びたいのに声が上がらない。
スモッグのような薄い霧が、教室全体を覆い包んでいるのだ。
「おい、香音、しっかりしろっ」
友人の彼女が声をかけたのを最後に、鈴木の意識は途切れた。
完全ノックアウトだ。
――― 嫌な夢を見た。
誰かを失ってしまう、誰かと別れてしまう。
もう二度と会えなくなるような、その気にさせる夢を見た。
誰かは分からない。
鞘師、譜久村、生田、両親、妹、友達、 そのどれもが当てはまらない顔。
だけど知ってるような気がして、鈴木はその身体に抱きつく。
まるで泣き虫な子供がぐずるように。
嫌だ嫌だと泣いて、泣いて、泣いて。
こんなヤツだったかなあたし、そう鈴木が思う内に、誰かの姿は消えた。
誰も居なくなって。誰かを探して腕を上げる。
誰か、ねぇねぇ、誰か――― !!
その時に微かに見えたのが、青空のような水面に映る虹だった。
567
:
名無し募集中。。。
:2012/06/11(月) 14:17:27
次に目が覚めると、保健室のベットの上。氷枕でヒンヤリと頭部が冷える。
ボウッとしていた。
先ほど感じた"音"は少し収まっていたが、まだ鼓膜が疼く。
ふと、鈴木の視界に入って来たのは同級生の顔だった。
彼女の顔もしっかりある。
「気が付いた、香音っ」
心配したようにそう声をかける彼女に、鈴木は「ああ」とため息のように零す。
結局あの強烈な"音"に耐えきれずに気絶したのだと分かって、時計を
見るとすでにお昼になりかけていることを知った。
母親には既に連絡をいれているらしく、鈴木は早退することになった。
母親の車から見えた校舎が、いつもよりも大きい。
蜃気楼のように歪んだように見えて、鈴木は視線を逸らす。
それにしても、あの不気味な"音"の正体が分からない。
ただ何処かで、似たようなものを聞いたことがあったかもしれない。
あれはそう、鞘師と会ったあの日に、いじめられっ子の彼女から聞こえた、黒。
あんな風に感じたことも初めてだったし、なによりも鞘師と出会ってから何かがおかしい。
譜久村の友人が入院した事も、変な幻覚や夢を見るようになったのも。
そして気付けば、屋上が閉鎖してから彼女とまったく会えていないという事。
鈴木は自分の部屋でいろいろと考えていた。
保健室で眠っていたときのあの夢が過る、夢のはずなのに、現実味があり過ぎる。
あの9人の顔に見覚えは、ない。それなのにどうしてこんなにも。
568
:
名無し募集中。。。
:2012/06/11(月) 14:17:58
「香音、お友達が来てくれたわよ」
母親の言葉に鈴木は疑問を抱く。
まだ学校は終わっていない時間なのに。
部屋のドアが回され、その姿に鈴木はあんぐりと口を開けた。
訳が分からない。
訳が分からねえ。
「こんにちわ、かのんちゃん」
にっこりと、鞘師里保は薄い笑みを浮かべた。
569
:
名無し募集中。。。
:2012/06/11(月) 14:21:44
以上です。ちょっと場面がぐるっと変わりました。
千秋楽のステーシーズを観に行ってきます。
----------------------------------------ここまで。
いつでも構わないので、よろしくお願いします。
570
:
名無しリゾナント
:2012/06/11(月) 19:48:06
承って候
571
:
名無しリゾナント
:2012/06/11(月) 19:52:24
終了
千秋楽うらやまし
572
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 02:52:16
ここは掃き溜めの中。
此処はあまりきれいじゃないよ。
つながっていたかっただけで。
死んでしまったあとの花のように。
醜い私は、影にくるまって眠るの。
君は星のように、はかない声で鳴いている。
いつだって昨日の向こう側。
私は死ぬように君を愛す。
君が死んでから私を愛すように。
生きる事が永遠を壊したけれど。
醜い光が私を射つ。
それでも願ってた。
願ってただけだった。
いつか彼女は、世界にココロを鬱されていた。
「泣けなくなったのはいつかなんて覚えてないよ。
神経の異常なのか、障害の一種なのか、考えたって
私にはそんな知識は必要なかったの、必要のない場所に居たから」
受け入れることが生きる事。
全ては日常の中に消えて行く。
誰も彼も、彼女も例外なく、逃れることなく、逃れれる者が居ようもなく。
573
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 02:53:35
「だけどね、それで少し良かったって思うことはあるよ。
泣けないなら、笑えばいい。
だってそうすれば、いろんなことが良い方向に進むような気がしない?
後ろ向きに考えるよりはさ、生きてるならきっと、その方がいいよ。
死んだあとのことなんて、人間は考えないんだから」
彼女は鼻歌にメロディを口ずさむ。
流行りではないが、それでもなんとなく気に入っていて、無意識の
うちに口に出してしまうくらいの歌。
心地よかった。意味はない、ただ、心地よかっただけで。
日常の中で、誰もが他人に無関心になる。
"此処"にいる殆どの人間もそうで、そいつの存在自体がまるで最初
から無かったかのように。
しかし彼女はそんなことを傍から理解していて、そしてむしろ、状況を
楽しんでいる節もある。
実際、楽しもうとしていた。
「だから変にディスられてるのも知ってるよ。アハハ。
まあそうだよね、皆やっぱり、心のどこかでは悲しんでるのに、私だけ
気持ち悪いくらいニコニコして立ってるんだから。
でもさ、逆に考えてもいいじゃない?悲しむだけ悲しんでさ、それで
見ぬふりするより、背負った方がいいでしょ?」
誰もが全てを見えているというワケじゃない。
全て見えると思っているだけで、全てを見た気になっているだけで、実際のところ
目に見えるモノなど小指の先ほどの事柄しかない。
しかもそれは決まって、他人にはどうだっていいことなんだ。
574
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 02:54:09
そんな事を思うと、彼女は愉快になって軽く吹き出しそうになったが、口元を
ゆるめるだけに留めてくれた。
感情なんて、余計なものだと思う。
「私さ、ずっと笑ってたいんだよね。そんな場合じゃないっていうのは
判ってるんだけどさ。無理に笑ってないのだけは覚えててほしいな。
きっとさ、神様のきまぐれなんだよ。私にそうやって背負えるように
涙を与えなかっただけ。涙だけなら、安いものじゃない?」
彼女はテーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばす。
湯気を立てるそれをのぞき込むと、コーヒーの香りとミルクの匂いが
同時に漂ってくる。
コーヒーは正直苦手だけれど、ミルクを入れればそれは別の代物へと変化する。
口が緩むことに躊躇すると、彼女が代わりに笑った。
日常にリアルを求めること自体がすでに不自然だった。
日常こそがすでに非日常で、感覚の麻痺した世界でリアルなど存在しない。
現実感などずっと昔に失くしてしまっているのだから。
最初からそんなモノは存在していないかのように。
最初からセカイは、全てが失せている。
それなのに。
「じゃあさ、もしもどちらかに何かがあった時は、どちらかの気持ちを
互いに渡そう。欠けたものを渡し合おう。
いらないかもだけど、迷惑かもだけど。こんな歪んだものなんてきっと
好きにはなってくれないかもだし、言ってる時点であれか、アハハ。
でもまあ、私は嬉しいかな、―― が泣いてる姿、けっこー好きなんだよね」
575
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 02:55:20
泣けない彼女と、笑えない自分。
神経の異常なのか、障害の一種なのかは分からない。
そんな知識の必要がない場所に、自分達は居るのだから。
笑えない代わりに、涙がなんの前触れも無く、流れることがあった。
恐怖も絶望も感じてないはずなのに、それでも人間は本能的に
感情を浮かべるようになっている。
それが自分にとってどんなに目ざとく思っていても。
気がつけば"組織"にいて、気がつけばヒトゴロシだった自分達。
ときには強引に殺し、ときには事故に見せかけて殺し、ときには消し去るように殺す。
研究員たちは"チカラ"のことに関して両目を輝かせ、ヒトゴロシを
する自分や彼女に対しても恐怖と、好奇と、絶望と、希望と。
様々な色と、音と、歌と、血と、人と、死と。
だけど誰が悪いのかなんて、判らなかった。
自分達が悪いのかもしれない、研究員が悪いのかもしれない。
何が悪いのかが分からないけど、どうして悪いのかが分からないけど。
彼女が死んだ時に、自分は、全てを背負えただろうか?
パンッ、パパパパパッ、パパパパパパッ。
複数の乾いたような、連続した音。
銃声。
分解から組み立て、その種類も能力も把握している。
音を聞けばそれが何なのか判った。
576
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 02:57:17
気付けば叫んで、常人には有り得ないような脚力で一瞬にして、彼女を
抱き上げ、その場から逃げ出す。
背後から銃声がして、数発が身体をかすめる。
途端に傷口から血が噴き出してきたが、走るのをやめはしない。
抱きしめる身体から少しずつ、確実に力が抜けていた。
それでもまだ暖かい。心臓が、鳴っている。
早かった鼓動が、少しずつ、ゆっくりに。
グッと、腕を掴まれる。
最後の力を振り絞るように、腕を、手を、自分の首に押しやった。
それはまるで、儀式のように行われた通過儀礼。
「私さ、親友を殺したの。もう助からないって思ったから。
私が肌に触れると、そこが砂になって、粒になって、灰になるの。
身も心も血も、全てが燐粉になっていった。まるでヒカリみたいに」
"作戦"が失敗した場合、死んでも"組織"につながるような証拠は残してはならない。
外部に少しでも情報が漏れるのを防ぐために。
自分達の死体ひとつを残すことさえ許されない。
そうやって生まれたときから教育を受けて来て、それが全てだった。
そして"作戦"は、失敗した。
「私が殺してきた人達も、あんな風にヒカリになって、飛んで行った。
蝶みたいに、私もさ、あんな風になれるかな?醜くてもいいから」
577
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 02:59:27
最後の言葉なんてものもなく、最後に受け止めるココロもなく。
"作戦"が失敗したという事実だけが残って、カラッポの世界だけが残って。
砂になって、粒になって、灰になる彼女を見上げた。
涙が溢れるのに、恐怖も、絶望もない、ただ、口角を強引に開けて、笑った。
歪な笑顔で笑って、笑って、笑って、笑って、笑って、ごめんと叫ぶ。
「きっとこれも、神様のきまぐれなんだよ。
このセカイも、あのセカイも、この"チカラ"も、私達もね。
もしもどちらかが欠けたなら、探しに行けばいいの。このセカイも私で、―― も、私なんだから」
―― 私は、青空の下に居た。
小さなベンチに一人佇んで、何をすることもなく、眠ることも無く。
このまま地面に溶かされてもいいくらいに思えた。
「どうしたの?まるで死人みたいな顔してさ」
なんて挨拶だと、思った。表情に浮かぶそれに、そっと言葉を乗せる。
「親友が、死んだの」
「そっか、私の親友も、さっき死んじゃったんだ」
「…そう」
「でもね、泣けないんだ、なんでだろうね。悲しいときにも涙は
でるはずなのに、アハハ、ほら、変でしょ?うん、まあこんな事
言ってもしょうがないんだけどね、アハハ。ねえ、そこ座っていい?」
陽の光に、目を細める。
アスファルトから飛び出したその花に名前を付けて。
そうしてまた日常が始まって。ただ願ってたはずのココロが微かに、笑ってた ―― 。
578
:
名無し募集中。。。
:2012/06/17(日) 03:09:26
「Whim of God」
以上です。だいぶ舞台の影響を受けましたってことでツヅカナイヨ。
名前を伏せたのは神様のきまぐれです、ウソです想像に
お任せという事でどうか。
----------------------------------ここまで。
ちょっと長くなりました、投下が難しいかも…申し訳ないです。
579
:
名無しリゾナント
:2012/06/17(日) 12:50:35
ふぅなんとかいけた
名前を描かなかったことで普遍的な広がりが感じられる仕上がりになってますね
580
:
名無し募集中。。。
:2012/06/19(火) 03:31:01
>>189-192
の続き。
闇の中に、【闇】が浮かんでいる。
ユラユラユラユラ。
闇の空間をたゆたう影。
影は黒いコートに身を包み、フードを深く被っていた。
小柄な影。手のひらには三つの球体。
誰かは【ダークネス】と呼んだ。
悪意の塊。
悪意の記憶を糧として生まれた、それが【ダークネス】。
【闇】を満たす唯一の概念。
ただ、其処には何も無い、ナニモナイ。
満たされているから、満たされていると思い込んでしまう。
手では掴めない。
叫んでも答えてくれない。
ただ満たされてるだけ、闇が、在るだけ。
その【闇】に、影は球体を投げ込んだ。
誰かの悪意の記憶を零していく。
すると、闇の中の一部に裂け目が現れ、大きな口の形をしていた。
闇に落ちた球体。
ムシャムシャムシャ…咀嚼音。
喰らっていた、響く、誰かを食べる音が。果てしなく続くような闇の中で。
グググググググググググググ。
闇が盛り上がるように『成長』する音が微かに鳴っている。
パキパキと枯れた音が無骨に。
581
:
名無し募集中。。。
:2012/06/19(火) 03:32:37
オオオオオオオオオオオオオオオオ。
【闇】が、啼いた。
*
黎明学園敷地内。
二つの影がフェンスの裏側から入り込み、上手く闇に身を潜めながら校舎に近付く。
何処かに中に入れるところはないかと探していると、一ヶ所灯りの点っている場所を
見つけた。
「…誰かいますかー?」
窓に近付いてそっと中をうかがった鈴木が言った。
そこは警備員が使っている宿直室のような部屋だ。
「鍵もかかってないよ、不用心だなあ」
鈴木が窓に手をかけると、軽く力を入れただけでそれはゆっくりと動いた。
窓の隙間から、暖房の暖かい空気を感じることが出来た。
これでは警備も監視もないじゃないか、とは思ったけれど、そのツメの甘さに
今だけは感謝しようと思う、状況が状況なだけに。
「じゃ、ここから入るよ」
鞘師はうん、と頷いた。
――― 鞘師が彼女の元に来たのは数時間前の事。
鈴木は驚いた、心底驚いた。
だって知るはずがないのだ、鞘師が鈴木の家を知ってるはずがない。
582
:
名無し募集中。。。
:2012/06/19(火) 03:33:09
だけど鞘師は平然とサイダーを飲んでいて、鈴木もまたその手に持っていた。
本物だった。
しゅわしゅわしていた、「しゅわしゅわーぽんっ」とお決まりの言葉を言って
恥ずかしそうにしている鞘師は本物だった。
頭痛は、いつの間にか治っていた。
「なんでクマがアフロなの?」
「アフロヘアーに憧れた時期があったんだよ。ちゃーちゃんにも」
「ちゃーちゃんって言うんだ」
そう言って鞘師は飾ってあったクマのアフロを鈴木に被せてニヤニヤ笑っていた。
鈴木はアフロ頭のままで疑問を聞いてみる。
「で、なんでりほちゃんがいるのさ」
「お見舞いだよ」
「あたし、家教えたことないよね?」
「うん」
「いや、うんじゃなくて、誰かに聞いたの?」
「うん」
「誰?」
「宇宙人に」
鈴木はサイダーの瓶を鞘師の頭に振り落とすフリをした。
流れるように避ける鞘師。
壁にドカッと頭をぶつけてしまい、手でさする鞘師。
いろんな意味でアホだった。
「痛いよかのんちゃん」
「りほちゃんが変なこと言うからだよ、しかもあたし何もしてないよ」
「でも聞いたのはホント、信頼できる人だから大丈夫」
583
:
名無し募集中。。。
:2012/06/19(火) 03:39:00
信頼してる割には宇宙人呼ばわりとは。
個人情報のセキュリティが期待できないこの時代。
ただそこまでしてこの家に来た訳がなんなのか、それが知りたくなった。
「で、なんでりほちゃんがいるの?」
「かのんちゃんにお願いしたいことがあるの」
「お願い?」
鞘師はまた薄い笑みを浮かべた。
けなしている訳ではないんだろうけど、何かを企んでいる様な笑顔。
引いた表情をすると、今度は口を開いてイヒヒと笑う。
「かのんちゃんだから、お願いしたいことがあるんだよ」
――― 二人はソロソロと足音を消しながら、まるで泥棒みたく
身を小さくして、廊下を進んで行く。
学校というところは、昼間は人の声で溢れている場所も、今は
逆に音を吸い込んだように静まり返っている。
油断すると傍らの闇に引きずり込まれてしまいそうな錯覚に襲われる。
だが、鈴木は平然としていた。
お化けが居ると思うから居るように思うのだと思ってる。
気味が悪いと思うから変な想像をするのだと思ってる。
空気が読めないわけではない。
断じて読めないわけではない。
怖いことは怖い、だけどそう思わないようにしてるだけなのだ。
584
:
名無し募集中。。。
:2012/06/19(火) 03:39:41
そんな鈴木とは裏腹に、隣の鞘師は異様に辺りを見回すかと思えば
ギュウギュウと身体をひっつかせてくる。
「ねえ歩きにくいんだけど」
「かのんちゃん怖くないの?」
「怖いけど、りほちゃんが言いだしたことなんだからしっかりしてよね」
「……」
鞘師は何かを言いたそうにしていたが、突然足音が聞こえた。
「!?」
廊下の突き当たりを曲がった向こうから。
こればかりは鞘師ばかりではなく鈴木もビクっと身を震わせ硬直する。
懐中電灯と思われる光が見えてマズイ、と思った。
警備員だ!
鈴木にとってはオバケよりも人間の方が怖い。
鈴木は小さく舌打ちをすると、硬直したままの鞘師の手を引いて
丁度通りかかっていた教室の中に滑り込んだ。
585
:
名無し募集中。。。
:2012/06/19(火) 03:43:57
以上です。
こんな物を拾いました つ「鞘師<モー娘。メンバーを戦隊モノのヒーローに例えてみた」
http://www.youtube.com/watch?v=KMt_JEI8U5Y
---------------------------------ここまで。
最近ここを独占し過ぎですねすみません(汗
いつも代理してくださる人、ありがとうございます。
昔の9人話の受領は今でもあるのか少し気になりました。
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