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キリ番なんかの短編スレ

1名無し( 護摩):2005/03/16(水) 19:16:04
こっちはあちゃらの「喫茶タンポポ」のTOPカウンターや、
こちらでキリ番をGETされた方のリクにお応えして短編書いたり、
その他、中の人が超個人的な趣味で書いたものなどをうpするスレです。

2名無し( 護摩):2005/03/16(水) 19:16:27
いきなしですが、リアルでヤスものを。

3マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:17:08
「バレンタインにホテルってねえ、なんか」
ホテルのパンフレットを見て、矢口は微妙に笑った。
「どうよ?完璧なプランでしょ?」
保田はニヤッとする。
彼女には現在壮大なプランがあり、それを遂行しようとしていた。
「てか、圭ちゃんまだ告ってないんしょ?あのおねーさんに」
同期に指摘され、保田は「ハハ…」と項垂れて笑い、
「―――だからこの日に賭けてんのよ!」
とパンフレットを握り締めて叫んだ。
矢口は軽く引いてしまった。

4マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:18:04
保田は元モーニング娘。の芸能人である。
彼女には意中の人がおり、ちょうどバレンタイン当日に大阪で仕事が一緒になる。
元々親しくしているので、翌日どちらもオフだしそのまま有名なホテルに
泊まらないか、という保田の誘いを先方は快諾した。

「この前大阪で仕事の時、たまたま寄ったら、ホテルの下の階のショップで
可愛いハート型のフルーツパイが売ってたから、それを買って上の部屋でってね、どうよ?」
「誘い方がヤラシイよお〜!」
矢口は大ウケだったようで、爆笑して保田の背中をばんばん叩く。
「も〜、エッチすんのになんでそんなたっかいホテルまで予約して」
「ヤグチアンタムードなさすぎ」
「え〜。だって、ぶっちゃけ、バレンタインにわざわざホテル泊まる目的はソレっしょ?」
「まあ…あわよくば、ね」
あわよくばて、と矢口は保田にツッコんだ。

5マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:18:52
「楽しそうだね」
そこへ、元同僚―――つまり、元モーニング娘。のメンバーの1人が通りかかった。
ちなみにここは彼女らの所属事務所である。
「おお、おはよう」
「よーっす」
ふたりはそれぞれ声を掛ける。
「圭ちゃん、14日寝坊しちゃダメだよ。朝イチなんだから」
「はいはい」
「『はい』は1回」
「はい」
「よろしい」
にっこり笑ってその人は『じゃ、またね』と行ってしまった。
その後姿を見送って、
「…なんでばっさり切ったんかね」
矢口は彼女の短くなった後ろ髪を見て小声で感想を漏らした。
サイドにハサミを入れる手振りをする。
「さあ?
卒業して気分を入れ替えたかったんじゃないの?」
もっともらしいことを言ったが、実は保田もその辺は気になっていた。
わざわざ本人に聞くのもヘンだし、かと言ってやっぱりいきなりのイメチェンだったので
気に掛かる。
ショートになった髪が揺れて遠ざかるのを見ながら、保田は、
「…まあ、いいじゃん。
似合ってんだし」
とパンフレットをバッグにしまった。

6マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:19:29

―――そして2月14日。

朝から大阪入りし、地元のテレビ局やラジオなどの仕事をいくつかこなした。
後藤も一緒だったので、3人であちこち顔を出す。
「んあ…ねむ〜」
後藤は相変わらずで、本番と打ち合わせ以外は寝ていた。
「けーちゃん、お弁当食べないの?」
後藤に声を掛けられ、保田ははっと我に返る。
テレビ局のフライ弁当に、保田は手をつけてなかった。
「あ、うん。
ちょっとね、食欲が」
保田は曖昧に笑う。
実はこの時、今夜のプランについて脳内で詳細なひとりリハを行っていた。
平たく言えば妄想である。
「圭ちゃん、具合悪いの?
も〜、だからお酒は控えろって言ってんのに〜。
どうせ外食ばっかしてんでしょ。
ダメだよ〜」
もうひとりの彼女は顔をしかめた。
今夜のプランのお相手である。
怒られた保田は肩をすくめる。
「んあ、そんならけーちゃん家にゴハン作りに行くとか」
『ナイス!後藤!!』
後藤の何の気なしに言ったひとことに、保田は心の底から熱い賞賛を贈る。
「そうだね、今度時間ある時にでも」
「あっは!ごとーも一緒に行こっかな〜」
『後藤っ!テメー!!』
さっきとは打って変わったこの態度。
「あ、なんならふたりでうちおいでよ。
時間合う時にでも。ゴハン作ってあげる」
「やった〜!ごとーね、カキごはんがいい〜!
あのハロモニ。で作ってたヤツ」
「おっけ〜。
鍋も食べさせちゃる」
「いやった〜!」
後藤は無邪気に喜び、フライ弁当を保田の分もばくばく食べた。
保田は付け合せのサラダとお湯を注ぐだけのカップ味噌汁だけ手をつけ、
複雑そうに笑った。

7マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:20:18

いよいよ本番。ではなく夜―――。

ホテルに到着する。
ロビーのカウンターに寄る前に目当てのフルーツパイをショップで買い、
その後チェックインした。

オプションのルームサービスのディナーに舌鼓を打ち、シャンパンを開けてパイを食べる。
「豪華なおやつだね」
彼女は笑った。
「おやつって。せめてデザートとかさあ」
保田は苦笑し、
「さて、そろそろお風呂に」
「ヤるの?」
立ち上がろうとし、保田は腰を浮かせたまま固まってしまう。
「するんでしょ?」
「あ、あのさ…」
保田が何か言おうとすると、
「いいよ、別に」
相手は殊もなく言い放った。
「あの、せめてムードとかさ…」
「そういう目的で誘ったんじゃないの?」
「確かに、何も考えてなかったって言ったらウソだけど」
保田は言いよどむ。
『おかしい、こんなハズでは…。
メシを食うとこまでは完璧だったのに。
ウチら、結構いい感じだったのに』
「何でわざわざお金使ってこんな高いホテル予約すんのかなってちょっと思ったけどね。
圭ちゃん、ロマンティストだもんね」
バカにされた。
保田はムッとし、
「お風呂、入ってくる」
そのままバスルームに消えた。

8マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:20:53
「なんだっちゅーの。
人をヤリたい盛りのガキみたいに…」
文句を言いながらシャワーを浴びる。
『あんな子だったかなあ。
もうちょっとこう、相手の心の機微を汲んでくれる子だと』
首を傾げ、湯を入れたタブに身を浸した。

保田と入れ替えに、相手も風呂に入る。
『もうこのまま寝ちゃおうかな。
それもわざとらしいか』
枕元の時計は23時に近づいていた。
そっと頭をもたげ、保田は
「…やれやれ」
と掛け布団を掛け、目を閉じた。

9マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:22:09
ふっと目を覚ます。
意識が戻ると、彼女がバスローブ姿で酒を飲んでいた。
ミニバーの小さなボトルが開いている。

「…何してんの?」
保田は寝ぼけ眼で体を起き上がらせた。
「何って、寝ちゃうから飲んでんの。
眠れないし」
「ああ…そうなんだ。
ごめん」
ベッドから降り、保田は相手に近づいた。
自分もバーボンのソーダ割りを作り、隣で飲む。
「圭ちゃん、あたしのこと好きなの?」
「好きだから誘ったんじゃん」
保田はちょっとキレ気味に言う。
好きだから、苦労して予約を押さえたというのに。
でもそんな自分は空回りしてたなと、保田は自分を滑稽に思い、苦笑した。
「そっか。
愛のある下心だったんだね」
「おお、あるともさ。
大アリだよ」
保田はムキになる。
相手と顔を見合わせて、くすくす笑った。
「なんで髪切ったん?」
彼女の髪に指を通し、保田は耳元で囁いた。
「別に、これと言って…」
「気分転換?」
「かな。卒業したし」
彼女はふと思い直したように、
「あたしの髪、好きだった?」
顔を上げた。
「何で過去形なのよ。
現在進行形よ」
保田はもっと顔を寄せ、髪に口づけた。

10マイスィート・バレンタイン:2005/03/16(水) 19:24:20

朝食はルームサービスで―――。


保田は絶妙の加減のスコッチエッグに匙を入れる。
相手は、ベーコンエッグにナイフを通し、
「わ。やわらかい」
と感動していた。
ずっしりとした銀のカラトリーがぴかぴかと輝いている。

「もったいない」
彼女は、ふと言った。
「なにが」
保田は顔を上げた。
「こんな高いホテル泊まって、何もナシ」
「ああ」
保田は苦笑する。
「誰かさんに『ソレだけが目的』って思われてたからね」
「別に、それはいいのに」
「なんで?」
「さて、なんででしょう」
相手はすっとぼけて、千切ったパンをとろりと破れて零れた卵の黄身につけた。
「なんででしょう、って。
アンタ、アタシのこと好きなん?」
彼女は何も言わず、すまして笑う。
保田は、こういうのも悪くないかな、とコーヒーを口にして笑った。


END

11名無し( 護摩):2005/03/16(水) 19:26:43
以上です。
これは何かといいますと、「喫茶タンポポ閲覧コーナー」の管理人さんの誕生祝いに
書いたものなのです。
早速超個人的です。
しかもバレンタインて。
えー、管理人さん。約束は守りました。
しかしエロは微妙でした(笑)。

12名無し( 護摩):2005/03/30(水) 20:04:26
( 護摩)<さて、今日は特別篇。例の美勇伝ケーキレシピを考えてみたざます

(;〜^◇^)/<「味は保証しない」ってマジかよ!

133分じゃできないクッキング:2005/03/30(水) 20:05:32
(♪某3分クッキングのテーマ)

(〜^◇^)<さーて!「美勇伝」ケーキ作るぜい!

(^▽^)<は〜い!さて、まずスポンジを焼きまーす! ←助手

(〜^◇^)<アゴンなにしてんの?しかもツラ切って

( ^▽^)<ウフッ。今日は真里っぺのお手伝いしちゃうぞ?(はあと)

(〜^◇^)<キショッ!まずは材料な。家庭用オーブン鉄板1枚分。
       スポンジ:米の粉60g(小麦粉でも可)
            卵(L)3個
            グラニュー糖40g
            抹茶5g
            牛乳50cc(温めておく。抹茶はダマになるので牛乳に溶かして使う)

       中のクリーム:生クリーム200cc
              グラニュー糖30g
              抹茶小さじ1
              牛乳大さじ1(スポンジの分量のものから大さじ1杯分をこちらに)

              
       スポンジに塗るシロップ:水30cc
                   砂糖30g
                   抹茶 小さじ半分くらい ←材料を全部鍋に入れ、沸騰したら火からおろし、
                               冷ましておく。あらかじめ作っておこう


       粒あんかゆであずきの缶詰
 


(〜^◇^)<あくまで「和」にこだわったケーキだからコメの粉なんだよ。
       あ、コメの粉は高いしなかったら小麦粉でも十分だよ!

143分じゃできないクッキング:2005/03/30(水) 20:05:51
      シャカシャカシャカ…
( ^▽^)φ゛<まずは卵を泡立てます。すくったのをボールの中に落としたら
        リボン状にぽってり落ちるくらいに。


( ^▽^)<ハンドミキサーがあれば便利ですね。あ、卵を割った際、黄身にくっついてる
       白いダマみたいなのをとっとくと仕上がりがきれいデスヨー。
       これはケーキに限らずオムレツとかでもです


(〜^◇^)っ◇<さて、卵を泡立ててる途中で砂糖を3回ばかし分けて卵に入れます

(〜^◇^)<ここらでオーブンを180度に設定してあっためておくといいね
       鉄板に一回り大きく切ったオーブンシートを敷いてね。四隅はそれぞれ切れ込み入れてね


(〜^◇^)っ▽<卵が泡立ったら小麦粉を数回に分けて入れる。さっくり切るように混ぜて!
         雑に混ぜちゃダメだよ〜

( ^▽^)<ここであっためた牛乳で溶いた抹茶を入れて静かに混ぜまーす。混ざったら鉄板に流し入れてオーブンへ。
       焼き上がりは大体10分を目安にしてくださーい

153分じゃできないクッキング:2005/03/30(水) 20:06:12

―――閑話休題

( ^▽^)<焼けましたね イイニオイ

(〜^◇^)<おう。こっから仕上げな

(〜^◇^)っ〔   〕<スポンジはシートをつけたまま冷ますこと。乾燥防止に濡れ布巾を
             上からかぶしとくといいよ。この間、クリーム作るね。

      シャカシャカシャカ…
( ^▽^)φ゛<またまたハンドミキサーでーす。生クリームは7分立て手前くらいまでかき混ぜてくださーい。
         牛乳に溶かした抹茶とお砂糖も忘れずに
             
(〜^◇^)っ<スポンジが冷めたらシロップをハケで塗ること。さーて、いよいよホンマの仕上げだぜい!
        塗るぜ!巻くぜ!             

( ^▽^)っ▽<クリームを塗りまーす。クリームが塗れたら、粒あんをお好きなだけ。

             
(〜^◇^)<ロールケーキはスポンジにあらかじめはしっこに切れ目入れとくといいよ!
       巻きやすくなるし

( ^▽^)っっ□<巻き巻きしまーす

163分じゃできないクッキング:2005/03/30(水) 20:07:57
(;〜^◇^)っっ゛<巻きながらシートをはずすんだけど、これがまた難しくて ヨイショ、ヨイショ


(〜^◇^)っ<巻けたらいよいよラスト!白いチューブ入りのチョコ(100円くらい)で全体に
        線描き模様をつけてね。更にホワイトチョコの飾りでオサレに。お好みで粉砂糖かけてもいいね

( ^▽^)<ふう。できましたね。オイシソー

( ´酈`)ノ<いっただきまーす ヒョイ

( ´。酈`)ガツモグゴクン

(;^▽^)(^◇^〜;)


( ‘д‘)<市販の抹茶ロールケーキ買ってきて、展開させてつぶ餡のせてまた巻き直してもエエで〜
       その場合、あんこは甘さ控え目でなあ〜

( ´酈`)ノ<くりーむのかわりに、まっちゃアイスをなかにいれてもおいしいれす

17名無し護摩:2005/04/20(水) 13:27:11
3周年記念企画「ごまに短編書かす権」の短編をうpいたします。
ベースななちまりです。

18ポラロイド:2005/04/20(水) 13:27:58

なっちは最近、写真に凝っている。
デジカメやポラロイドで色んなものを撮りまくってる。
「圭ちゃんのカメラ、見たけどびっくりしたっしょ。
んも〜、なんでシロウトの娘があんなプロ仕様の持ってんのかねッ」
ある日、店が休みの日、なっちの家に行くと、なっちは自慢のmacで
写真の整理をしながら、圭ちゃんのムダに豪華なカメラの話をした。
「や、圭ちゃんがムダに凝り性なのは昔っからだし」
オイラはすることがなく、なんとなく手持ち無沙汰でなっちがパソコンいじってるのを
横から覗き込んだり、サブマッスィ〜ン(笑)のノートを借りて自分とこのサイトを地味に更新したり、
おやつを食べたりしていた。
「あ、この子はひとりでいいもん食べちゃってもお〜!」
なっちはキーを打ちながら笑って怒ってる。
「だってオイラが持ってきたんだもん。
なっち、全然構ってくれないしぃ〜」
「もお〜!そんなこと言う子はなっちゴハン作ってあげないべ!」
「あ、すみませんすみません安倍さん。ホンット悪かったです」
オイラは土下座をするようなフリをし、へこへこ頭を下げた。
なっちは笑って、『コーヒー淹れるっしょ』と言った。

19ポラロイド:2005/04/20(水) 13:28:27
「ありゃ」
コーヒーを飲みながら、編集した画像なんか見てると、なっちはファイルから一枚のポラを指で挟んだ。
「なに?」
オイラも覗きこむと、なんか懐かしい写真だった。
いつだったか…。
ああ、なっちが初めてこの街に来た頃、なっちがなんかオイラを撮ってくれたんだ。
オイラエプロンしてるし、仕事の空き時間にでも撮ったんだろう。
端に常連のお客さんが見切れてた。
「ぶっはっはっは!端に5丁目のスズキさん写ってるし!
特別出演?」
「ヤグチ、パーマだね」
「髪型には触れるな〜」
この頃オイラは失敗パーマで、なんとも微妙な髪型だった。
あ、そういや圭ちゃんもパーマだった。
圭ちゃんは見事なオバチャンパーマで散々みんなにイジられてた。

20ポラロイド:2005/04/20(水) 13:28:42
「ああ、これクリスマスの頃だね。
ホラ、ツリーがちょっと写ってる」
「あ、ホントだ」
なっちが指さすとこを見て、思い出に浸る。
ポインセチアらしき鉢もちょっと写ってる。
そうだ、これはなっちが初めて撮ってくれた写真だ。
「なっち〜、オイラこれもらってないよ〜。
もらっていい〜?」
口を尖らせて写真持ってちょっとじたばたすると、
「えー、初めて撮ったヤグチだしなー。
あ、確かデジカメで同じよーなのを撮った気が。
それじゃダメかい?」
なっちは自分のパソコンを指さした。
「うう〜ん。
これがいい〜」
「ヤグチ、パグみたいだべ」
「も〜。加護にも言われたよ、ソレ」

21ポラロイド:2005/04/20(水) 13:29:04

そうだ。
オイラ、なっちにマジボレして、圭ちゃんのアドバイスもあって
勇気を振り絞ってなっちにジュディマリのCD借りたんだ。
そのお礼って言ってなっちにちょうどクリスマスだったからケーキ焼いて、
ソレ、一緒に食べて、なんか接近して…。

付き合い始めの頃を、オイラはぼんやりと思い出していた。

22ポラロイド:2005/04/20(水) 13:29:43
『なっちの好きな曲を、ヤグチが好きになってくれて嬉しいっしょ』
くう〜。
安倍さん、あの笑顔で言うのは卑怯っスよ。
オイラはその一言で、当時更にハートを射抜かれたんだ。

『ヤグチ、ヤグチはちっこいけど、なっちにはうんと大きいよ』
『どういうこと?』
『それだけ大きな存在ってことっしょ』

…オイラ、思きし口説かれてんじゃん。

こう言われて、オイラたちは完全に恋に落ちた。

だからこの写真は、オイラたちが完全にコイビトになる前のだ。
ある意味、記念の一枚?

23ポラロイド:2005/04/20(水) 13:30:23


「…あ!」
なっちが大声を上げた。
てか、なにをテンパってるんだろ。
「ないと思ったらこんなとこに!あ〜!!」
「ナニナニナニ?」
オイラが腕をバタつかせて近づいてくと、
「コドモは見たら目の毒だべ」
なっちは赤くなって何かを後ろ手に隠し、ぶんぶん片手を振った。
「あ、ゴキブリ」
「え、ドコドコドコ…コラー!やーぐちぃ〜!」
オイラはスキを見て、なっちが隠したモノを奪い取った。
「…あ」
「…だから見るなって」
なっちはモゴモゴと口ごもる。
「コレ…いつ撮ったん?」
「いや…ちょっと、前」
「なっち」
「なに?」
「スケベ」
「面目ないっしょ…」
なっちは小さくなって、更に赤くなる。
「でも、オイラ綺麗だね。
てか、当然か」
ハハハとちょっとエバって笑うと、
「当たり前だべ」
なっちもちょっとふふん、とふんぞり返った。
「なっちの大好きなものだから当然だべ。文句は言わせないべ」
「いやいや安倍さん、エバるトコ間違ってますから」

24ポラロイド@:2005/04/20(水) 13:33:38
ポラロイドの中のオイラは、白いシーツを抱いて、朝の光を受けて眠っていた。



(〜^◇^)<おわり!

( */ー\)<もーなっちはずかしいべ!


(;〜^◇^)<安倍さんジブンで撮っといて チョットウレシイケド

25名無しタンポポ:2005/04/20(水) 13:36:12
tokomさん権利GETおめでとう短編ですた。

あ、上の名前欄の@は単なる失敗です。
全部書き込む前にぽちっとやってまいました(苦笑

26名無し護摩:2005/08/08(月) 15:29:46
ある読者さんに捧げます。

27商店街の喫茶店:2005/08/08(月) 15:30:32
「―――もしもし、もしもし、お客さん」
少し高い声にはっと目を覚ます。
ここは喫茶タンポポ。
常連客であるM氏は眠い目をこすりこすり、
「すみません…」
とちっちゃい店主に謝った。
「いや、もうじき閉店なもので。
すみません、よくおやすみのところ」
店主は
「どうぞ。スッキリしますよ」
とホカホカのタオルおしぼりを差し出してくれた。

おしぼりを受け取って、ごしごし顔を拭き、すっきりしたところで
傍らのギターケースを担いで
「スミマセン、お会計を」
とちっちゃい店主に声をかける。

28商店街の喫茶店:2005/08/08(月) 15:30:52
「370円ですねー」
「ハイ、これで」
1000円札と70円とをトレイに載せて、釣りを受け取る。
ちっちゃい店主は不意に
「音楽やってる人なの?」
と声をかけてきた。
「ええ、まあ。
趣味ですが」
「へえ、うちの店にもバンドマンよく来るけど、バンドとかやってる?」
「ええ、まあ」
「そっかあ。
趣味があるっていいねえ」
ちっちゃい店主は
「またどうぞ」
と笑顔で見送ってくれた。

M氏はしばらく道を歩いて行き、思わず電柱の陰に隠れた。
『キュービックのヤッスー!』
前から普通に仕事帰りの保田が歩いて来たのだ。
M氏は対バンなどで何回かキュービックと同じステージに立ったことがあった。

29商店街の喫茶店:2005/08/08(月) 15:31:07

横には飯田がいる。
『うっわー。
流石連れて歩いてる女もレベルたけー』
M氏は陰から見送り、何故かまたタンポポの方へ戻って行った。

店には、閉店間際だというのに、吉澤や後藤がいた。
梨華もいる。
「遅れてごめーん」
保田が飯田と入って行く。
M氏は店の外から中を見て、仰天しそうになった。
「あ、あの子は!」
吉澤は梨華と何故かあんぱんを半分ずつして仲良く食べている。
M氏はキュービックの吉澤ヲタだった。
王子様なビジュアルなのに骨太なベースを弾くギャップがまたたまんなかった。
吉澤の彼女らしき美女とセットでいる姿がまたより一層たまんなかった。

30商店街の喫茶店:2005/08/08(月) 15:31:21

「あれ」
外からM氏が見てるのに、ちっちゃい店主が気づく。
「どしたの、お客さん」
ドアから店主が顔を出し、
「う、うわ!
い、いえ!
ちょっとコーヒー豆買うの思い出して!」
咄嗟についた言い訳にしてはよく出来てた、とM氏は後に思った。
「そうなんだ。
中入ってよ。
うるさい連中いるけど、よかったら」
招かれて、M氏はおずおずと入って行った。

31商店街の喫茶店:2005/08/08(月) 15:31:49
「アラ、あなた」
真っ先に、保田が気づいた。
「せ、先日はどうも」
先月の対バンで一緒だったので、M氏は一同に頭を下げた。
「んあ〜、こっちよかったらドゾー」
後藤が手招きして吉澤の隣の席を指した。
「ど、どうも」
M氏は額の汗を拭う。
梨華は花のような笑顔で
「こんにちは」
と軽く会釈した。
「こんちは!
この前のプレイ、カッケーかったっす!」
いきなり吉澤に握手を求められ、M氏は
「そ、そう?」
とまんざらでもない様子だった。



―――その後、タンポポを閉めた後、
居酒屋へとなだれ込み、オールで飲み会になった。
バイト帰りの市井とアヤカもここで合流。
M氏は吉澤と梨華をセットで眺めながら、保田にどんどん飲まされ、
幸せな気持ちで酔いつぶれた。


おわる

32名無し護摩:2005/08/08(月) 15:34:31
以前、水海さんが「ごま小説に出演する権利」をGETされたお祝い&お礼短編ですた。
タイトルは「学生街の喫茶店」より(爆)。

水海さん、遅くなりまして大変申し訳ありませんでした(汗

33水海 ◆aL5JHITOMI:2005/08/11(木) 03:37:32
至福。




この言葉でどれだけ嬉しいか察してください。

このお話だけで焼酎が何倍でも飲めそうです。
ヤススと飲み較べても勝てそうなイキオイです!
しかも肴がいしよしとか…(*´Д`)ポワワ


護摩さん本当にありがとうございました。

34名無しタンポポ:2005/08/12(金) 22:45:12
>水海 ◆aL5JHITOMIさん

ありがとうございます。
喜んで頂けて幸いです。
どうぞヤスに勝ってください(w

どうぞ勝ってごらんなさい!>( `.∀´)っ〔酒〕


(0^〜^)ノ( ^▽^)ノ<<がんがれー!ファイ!

35名無し護摩:2005/12/30(金) 10:44:07
タンポポのキリ番リクです。ベースいちごまです。

36名無し護摩:2005/12/30(金) 10:44:38
後藤一家とある年のクリスマス、温泉に出かけた。
三女の「ごとー」こと真希は確か受験生のハズ。
なのに先頭切って宿選びなども仕切っていた。

37名無し護摩:2005/12/30(金) 10:45:23

「んあ、さすが雪国だねい」
後藤は宿に着くなり荷物を置いて、旅館の近くの山まで駆けて行った。
「…さみーよ。
なんでもっとあったかいトコにしねーんだよ」
ダウンのジャケットの前を掴んで更に合わせようとし、アタシは震えた。
「寒いんなら部屋でおとなしくしてたらいーのに。
ヘンないちーちゃん」
「うっせ」
腹が立つのでポッケからタバコを出す。
…切れていやがった。
「ねーぞ!」
ムカつくので舌打ちしてパッケージを雪に叩きつけた。
「こんな空気のおいしーとこでよくタバコ吸おうって気になるねえ。
ホレ」
後藤は手のひらですくった雪をアタシに差し出す。
「どうしろと?」
「きっとおいしーよ」
それはかなり悪くないんでないかい?
アタシはだらしなく頬を緩ませて、後藤の手のひらを自分に近づけた。
だが。
「ばーか!」
後藤はケラケラ笑って走って逃げて行く。
アタシは顔中にばん!と押し付けられた雪に敗北感を滲ませながらやけに丁寧に掃った。

38名無し護摩:2005/12/30(金) 10:45:54
白いロングのダウンジャケットが雪の中見え隠れする。
アタシはちょっとした郷愁のよーな幸福感のよーなモノを感じ、雪の中仰向けに寝てみた。
「…つべて」
「当たり前だよ、雪なんだし」
『バカ?』と顔をしかめながら後藤はこっちに戻って来た。
ヒトにバカっていーながら寝転んでるキミはなんなの?
それでもアタシは隣に同じように仰向けになってる後藤に、自分の手のひらを重ねた。
「…おおう、ケータイが鳴ってる」
アタシがポッケのケータイを取り出そうとすると、後藤がそれを制した。
「なんなん?
確かにメールでけーちゃんからだけど」
「…もーちょっとこうしてよーよ」
…オンナみてーなこと言いやがって。
てか、寝るなっつーの。

39名無し護摩:2005/12/30(金) 10:46:24
「こっちこっち」
夕食前にまた引っ張り出され、さっきの山に行った。
「ここ、ここ」
オマエはポチか、と思ったが、アタシは後藤が手袋を脱いだ手で、雪から何か掘り出すのを見ていた。
途中から、アタシも加わる。
「なんだ?酒?」
「そ。こんな日はきっとおいしーよ」
後藤は自慢げに日本酒の小瓶を掲げた。
まだ雪がちょこっとついている。
「飲もーよ。
おかーさんたちにバレないうちに」
「おう」

40名無し護摩:2005/12/30(金) 10:46:54

雪の中、コイツと飲んだ天然冷蔵の冷酒はハラまで凍みた。
「酔いざましにコーラでも」
「おおう、気が利くなー」
てか、油断してたアタシがバカだった。
コイツは嬉しげに缶を振り、アタシに向かってプルを開けた。
「…死ね!」
「ばーかばーか!」
純白の雪に、ボタボタの茶色いコーラの道を残して行き、アタシは幼なじみを追いかけて行った。

41名無し護摩:2005/12/30(金) 10:51:31
和尚さんタンポポカウンター10万ゲットおめでとう記念短編でした。
タイトル入れ忘れ(汗)。
『雪の日に』です。

で。
リクの「初めてごとーいちーちゃんとのみにいくぽ」がカナーリ微妙なのですが(苦笑)。
もしアレでしたらメールください。
書き直させて頂きます。

42和尚:2006/01/11(水) 01:16:56
書き直しだなんてとんでもないッス!
ギャグを想像してましたが、シリアスになっていたのでビクーリしました。
そしてごとーさんにヤラレてるいちーさんに笑いつつ、
この2人は昔からこんな感じだったのねw・・・と思いました。

ありがとうございました(お辞儀)

43名無し護摩:2006/01/11(水) 21:47:51
シリアスという程でもないのですが、結構マジメにしました(笑)。
もうこの二人は物心ついた時からこうだっただろうと(笑)。

こちらこそありがとうございました(平伏)

44名無し護摩:2006/02/06(月) 21:22:52
一日早いけどぼん生誕記念で。
ベース弾きの話で、ぼんがまだ上京する前のおはなしです。

45春のあしおと:2006/02/06(月) 21:23:23

加護亜依は父とともに東京駅に降り立った。
今日は父に連れられて、新しい下宿先に挨拶に来た。

「亜依、疲れてへんか」
「別に。お父ちゃんは」
「俺は大丈夫や」
父が『俺』と言う時は、娘の自分に対して何か言いたいことがある時だ。
加護は無言で父の横顔を見た。

46春のあしおと:2006/02/06(月) 21:23:56
新しい下宿は都内にあった。
学校までのアクセスもいい。
最寄り駅からも歩いて10分ほどなので、半ば両親が気に入って決めた。

「中澤さんは京都出身らしいわ」
新幹線を降り、乗り換えた電車の中で父はそんな事を言った。
「へえ」
加護は気のない返事をする。
「お父さんが再婚しはる事になって、お母さんと二人で東京に出て来はったそうや。
妹さんが一人いてはるて。大学生でお前よりちょっと年上やて」
「ふうん」
中澤家情報は正直どうでもよかった。
そもそも、東京へ出て来る事に、加護は乗り気じゃなかった。
父に勧められた東京の私立女子高を受験したら、すんなり首席で受かってしまった。

合格を喜ぶ両親とは対照的に、加護は暗い表情だった。

47春のあしおと:2006/02/06(月) 21:25:02

中澤家は確かに駅からほぼ一本道で時間もそうかからなかった。
今日初めて会う管理人という女性は、金髪っぽい髪だが美人だった。
横にいる管理人の妹という若い女の子はさっきからにこにこ自分を見ている。

「ふつつかな娘ですが、よろしゅうお願いします」
父はさっきから同じ事を繰り返していた。
「いえ、こちらこそ。
今年はお嬢さんと同じ学年の女の子がもう一人下宿しはりますし、
賑やかになりますね」
管理人の女性は穏やかに微笑んだ。
「亜依ちゃんはお友達に何て呼ばれてるの」
横の管理人の妹嬢はが加護に尋ねた。
「あいぼん」
加護はジュースのストローを口にしてそっけなく答える。
父は苦笑して、
「すんません、この通り愛想ない奴でして」
「いえ。
あいぼんってあたしも呼んでいい?」
『梨華』と名乗る女性は、笑顔で言った。

48春のあしおと:2006/02/06(月) 21:25:36

加護の父は、『仕事がある』とその日のうちに帰った。
『オマエは好きにしたらエエ。原宿やら渋谷で遊んでもええし。
東京に慣れる練習や。
ホテルもとってある』
加護は父の用意の良さに半ば呆れた。

「…なんで東京なんか来てもうたんやろ」
その日の夜、加護はホテルのベッドで一人、眠れぬ時間を過ごした。

49春のあしおと:2006/02/06(月) 21:26:11
翌日。

加護はお決まり通り渋谷に出た。
ゴチャゴチャした街だった。
母が用意してくれた流行の服も、ここでは地味な方だ。
地図を頼りに表参道に出たりした。
恵比寿も行った。
携帯がブルったのでポケットから取り出すと、昨日の管理人の妹だった。
『あいぼん、おはよう!
よく眠れた?
もう奈良に帰ったのかな?
またメールするね☆』
「…ああ、東京観光するって言うてへんかったなあ」
加護は、
『昨日はどうも。
まだ東京にいます』
と短く返事を返した。
『そうだったんだ!
ひとりで回ってるの?』
とすぐ様返事が来る。
『このねーちゃん友達おらへんのかな』
加護はなんとなくそんな事を思った。
『うん。
東京って、広いね』
それだけ送信した。

50春のあしおと:2006/02/06(月) 21:27:29

加護は恵比寿の駅に戻ろうとして自分が迷ってる事に気付く。
「え、えと…」
見た事もない住宅地にいる事に気付き、地名を確かめる。
「ひろ、お…?」
「ヒロオってアノ『広尾』か?
てか、恵比寿はドコ行ったん?」
きょろきょろ辺りを見渡す。
散歩中の犬が、ヒマそうにあくびをしている。
高そうな外車が、すぐそばを走り抜けた。
そこへまた梨華からメールが来る。
『大丈夫?
迷ってない?』
今現在の状況を見られたかのような内容に、
『大丈夫です、ご心配なく』
と強がって返事する。
「寒い…」
3月だというのに、心底冷えた。
缶コーヒーでも買おうかと思って辺りを見渡しても、自販機もない。
「ぐす…ウチが何をしたんな」
半泣きで元来た道を引き返す。

51春のあしおと:2006/02/06(月) 21:28:05

『あいぼん、今どこで遊んでるの?』
しばらくたってメールがまた来る。
『広尾ってトコ』
『広尾?
あの辺、遊ぶトコあったっけ?』
『あいぼん、もしかして迷ってる?』
『あいぼん、大丈夫?』
加護は足が棒になり、梨華から続けざまに3通目のメールが来た所で
『恵比寿の駅に出るまでが分かりません』
と返信した。

52春のあしおと:2006/02/06(月) 21:29:10
梨華は1時間後に車でやって来た。
昨日加護が家に止まっているのを見たシーマだった。
あれから加護は携帯で梨華から指示を受けながら歩き、
そこで待っているように言われた。
「大丈夫だった?」
運転しながら梨華は、後部座席の加護を気遣った。
「別に…おおきに」
最後はか細い声で言い、加護は俯く。
「東京は、ヘンな街や」
加護はぼそっと言った。
「うん」
「こんなごちゃごちゃしたトコに住まんでも」
「うん」
「水もマズイし、空気もおかしい」
「うん」
「なのになんでみんな東京へ行きたがるんや」
「ちょっとはみんな東京が好きなのかもよ」
梨華のひとことに加護は黙った。
「梨華ちゃんも、ヘンや」
最後の一言に、梨華は可笑しそうに笑った。

53春のあしおと:2006/02/06(月) 21:29:41
以上です。
ぼん、おめでとう!

54銭湯に行こう:2006/04/19(水) 11:34:38

今日は銭湯にやって来た辻と加護。
いつも行くスーパー銭湯が休みなので、ちょっと離れたこの街の銭湯にチャリ漕いでやって来た。
「いらっしゃい!」
番台に、矢口が普通にハッピ着て座っていた。
「ヤグチさん…なにしてるんれすか」
「いや手伝い手伝い。400円ね」
矢口がさっと手のひらを出す。
「ああ、はい。
ウチとのんと2人分」
加護が千円札を差し出すと、
「はい、おつり。
200万円ね!」
昭和のギャグに、辻・加護はサーっと引いた。

55銭湯に行こう:2006/04/19(水) 11:35:12

「なに見てんねん!」
脱衣所で、加護は辻を睨む。
「な、なんも見てねーのれす!」
実は見ていた。
ブラを外すと零れるように揺れて出てくる加護の胸に、辻は見入っていたのだ。
「このオッパイ星人が」
ブツブツ言いながら、加護はタオルで前を隠して浴室に入って行く。
「キャハハ!青春だな!結構結構!」
番台で、矢口がニヤニヤ笑っていた。

56銭湯に行こう:2006/04/19(水) 11:35:51

「だから何見てんねん!」
「なんも見てねーのれす!」
洗い場でも、ふたりは言い合っていた。
加護は泡だらけの頭で抗議する。
「そんなにウチの乳が見たいんかい!」
「べ、べつに!」
辻は慌てて自分も頭を洗いにかかる。
しかし手のひらに出したシャンプーは明らかに出し過ぎだった。
「あーほ」
加護がここぞとばかりに嫌味たっぷりに言う。
『く…!
ここで怒るのはガキんちょなのれす!』
辻は耐えて出し過ぎのシャンプーを頭につける。
『まったくちょっと乳がデカイと思って生意気なのれす!』
そんな理由で生意気扱いされても加護的には如何なものか。
「のん」
「な、なんれすか」
「上がってからフルーツ牛乳飲も」
「へい!」
辻はぱ〜っと笑顔になった。

57銭湯に行こう:2006/04/19(水) 11:36:33

「ハイ!おつり300万円!」
「…またかいな」
矢口からエセ300万円を受け取り、加護は辻にフルーツ牛乳を1本手渡した。
「お金渡すれす」
「エエよ」
「なんでれすか」
「エエて」
何がエエのか分からないが、辻は素直に奢られる事にする。
「おいしいれす」
ぷっはあと辻は飲み干して、口のハタを手の甲で拭う。
「あいぼんがおごってくれたからおいしーれす」
「またウマイこと言うてからに…」
加護は赤くなった顔を瓶でこっそり隠して飲む。

「『銭湯の息子!?』はじまるからかえるれす」
「へいへい」
「オマエら、気をつけて帰れな〜」
「へいっ」
「はーい」
矢口に見送られて、ふたりは家路についた。

58名無し護摩:2006/04/19(水) 11:38:35
終わりです。

かも〜んな!さん「100900」ゲトおめでとう短編ですた。
リク通りになったかも、エロも微妙ですが(汗)。

59名無し護摩:2006/04/19(水) 11:50:52
もういっちょ。
今度は三日月ハウスさんのリクのものです。
リアルりかみきで。

60桜舞い散る:2006/04/19(水) 11:51:34
ある花冷えの日。
次に入ってる仕事がキャンセルとなり、梨華と美貴は楽屋で待機していた。
美貴は時々メールを打ちつつ、雑誌をパラ見している。
梨華はそんな美貴をちょっと気にしながら、自分も携帯を弄っていた。

61桜舞い散る:2006/04/19(水) 11:52:06
「止まないね」
朝から降る雨は、依然として降り続いていた。
梨華がぼそっと呟くと、美貴は
「へ?あ?なんか言った?」
と顔を上げた。
「あ、うん。
雨が止まないって」
「ああ、うん。
そうだね」
美貴はまた顔を下げる。

62桜舞い散る:2006/04/19(水) 11:52:37
梨華はちょっと美貴が苦手だった。
嫌いではないのだが、ハッキリものを言う性分の美貴をやや敬遠していた。
美貴は美貴で、自分と違って女の子らしい梨華とちょっと距離を置いて接していた。

美貴は小腹が空いて、鞄からさっき辻希美にもらったポッキーを出した。
ポッキー齧りつつ、雑誌をパラパラ捲る。

63桜舞い散る:2006/04/19(水) 11:53:08
「美貴ちゃん」
「ん?」
「ポッキー、貰っていい?」
「あ、うん。どうぞ。
好きに食べて」
美貴はポッキーの箱を梨華の方にちょっと押した。
「頂きます」
わざわざ手を合わせて、梨華はポッキーに手を伸ばす。
そんな馬鹿丁寧な律儀さに、美貴は苦笑する。
「なあに?」
「いや、別に」
美貴は笑いを押し殺した。

雨はまだ止まない。
せっかく咲いた桜も、散ってしまうだろう。
いや、散るからこそ美しいと思うのか。
それを考えると、無常に散らせる雨は惜しいのだけれど。

64名無し護摩:2006/04/19(水) 11:53:46
短いのでおまけでもういっちょ。アンリアルりかみきです。

65スコール:2006/04/19(水) 11:54:29

大学の授業の帰りに、雨に遭った。
傘なんか持ってないから、カバンをかぶって走って駅へ向かう。
土砂降りの雨の中、透明なものが目に入った。
いつも会う、顔は知ってるけど、名前は知らない女の子だ。
小顔できつい目元が印象的な子だった。
透明のビニール傘を差して、こっちに向かって歩いてくる。

「あげる」
すれ違いざま、不意にその子が傘を突き出した。
一瞬何が起こったかわからず、カバンをかぶったまま呆然とする。
「あ、あ。い、いいよ…。
あなた、濡れるじゃない」
やっとそれだけ言うと、また予想外のことが起こる。
その子は無表情で、唇を重ねてきた。
冷たい雨の中、対比のように唇の熱さが体に残る。

「じゃ」
それだけ言って、その子は傘を押し付けて行ってしまった。
唇を指で触れながら、やっぱり止まない雨の中歩く。

それはきっと、スコール。
一瞬で、通り過ぎていくんだ。

66かも〜んな!:2006/04/21(金) 18:00:12
感謝!ありがとうです
微妙なのののオヤジ目線にお腹いっぱいですw
でもなぜおいらがおっぱい星人なのをごまさんは
知っているのか・・w

67護摩:2006/04/23(日) 10:17:00
>かも〜んな!さん

いえいえ。こちらこそありがとうです。
オパーイ星人の件は日本の総人口のおよそ8割7分はオパーイ星人だと思われるからです。
(〜^◇^)<ウソをつけ!

68護摩:2006/05/17(水) 20:27:58
さて、本日は。
『GBSさん、ごまカルトQ2006優勝おめでとう企画・リクにあった
「メイキングオブごま小説(後藤先輩含む)」』〜。

69護摩:2006/05/17(水) 20:30:59
なんですか、ヲレが今回のクイズで「好きなごま小説、好きなシーン」を
出題しまして、その回答にあったシーンの中で
思い入れの深い作品・シーンについて語ってんか、というリクでしたので、
そのまま書かせていただきます。

70護摩:2006/05/17(水) 20:33:56
まずは。

『ベース・いちごま車で夜明かしシーン』

このふたり、カネないのかよく車でお泊りしてますねえ(苦笑)。
恋人でもないのに。
このふたりだからできる微妙な距離感が書いてて楽しいのですが、
見てる方のいちごまヲタの皆様はヤキモキされてるようです(苦笑)。
スンマセン。
文化祭の時と、クリスマスライブの時と、微妙な変化に気づいてくださったら
幸いです。

71護摩:2006/05/17(水) 20:36:39
つぎに。

『ベース・ヤスがカオに告るシーン』

ヤスの「練習じゃないわよ!本番よ!」って台詞は書く結構前から(連載初期くらい?)
思いついてて、ネタをあたためてました(笑)。
好きな台詞のひとつっす。
ヤスってオトナなのに結構ムキになるんですよね、特にいいらさんに関しては(苦笑)。

72護摩:2006/05/17(水) 20:38:21
さて。

『ベースぼん家出→捜索→発見→みんなで帰る』

これを書きたくてベースを書き出したフシあり。
好きなシーンですねえ。
ぼんは難しい子だけど単純(爆)、でもやっぱり難しいって子なので、
そのへんを出すのに苦労しました。

73護摩:2006/05/17(水) 20:41:20
いよいよ。

『後藤先輩』

おまいら後藤先輩好きすぎ(笑)。
後藤先輩スキスキ板逝け
くこか!

( ´酈`)<くこれす

サイト開設にあたり、ネタスレがひとつほしいな、と思い、勝手に始めました。
結構みなさん、読んでくださってるんですね(笑)。
ありがとうございます。
『後藤先輩』は誰も信じてはくれないでしょうけど、ロマンティックなごまこんスレなのです。
紺野さんがギャフン、という目に遭おうとも(爆)。

74護摩:2006/05/17(水) 20:46:45
次いで。

『スキップビート』

これでヲレの職業が結構バレた(苦笑)。
ベースよりスキップ、という人はディープなごまヲタケテーイ。
多分『好きなごま小説』アンケートとったら、2位か3位くらいにくると思う。
親友でないけど、親友より強いかもしれない絆、ってのが書きたかったというか。
加護の『辻希美』って台詞がいちいちめんどくさかった(爆)。
いいらさんを学校司書にしたのは、ああいうタイプの司書って実際いるから(爆)。
友人の学校司書の仕事ぶりなどをかなりモデルにしましたね。

75護摩:2006/05/17(水) 20:50:28
で。

『I HATE VALENTINE!』
 
おそらくヲレの短編で一番人気かも。
みんなマメスケ好きすぎ(爆)。
それといししばの相撲と(苦笑)。
私、バレンタインがハッキリ言ってキライなんですよ(苦笑)。
で、ふと『辛いものを贈るバレンタインがあってもええやん?』とか
『なんで甘いモンでないとアカンねん』とか思いついて
これを書き出したんですよ。

76護摩:2006/05/17(水) 20:53:19
そんで。

『IT'S MY PARTY』

ヲレ、わけー(苦笑)。
いまコレを書いたらどうなるだろ。
この頃は…28ですか(爆)。
若くもないか(笑)。
この中の『熱帯夜』のやすごまが夜明けの街を散歩するシーンが好きって
ご意見もあり、「あ、伝わった」となんか嬉しかったですね。

77護摩:2006/05/17(水) 20:57:36
そんでもって。

『やすかおがバリに行くはなし』(『神様のいる島』)

あと1話なのに書けてなくてごめんぽ。
というか、ヲレに有休をください(苦笑)。
これを好きと言ってくださった方は、ヲレの書くやすかおが好きと言って
くださりました。
光栄です。
ヤスがカオのために普段のクールさからは考えられないくらいブチぎれる
シーンがありまして、そこが結構書きづらかったです。
でやっぱり、このふたりはエロイんです(爆)。

78護摩:2006/05/17(水) 20:59:26
ラスト。

『ベース・村さんNYに行く』

ベースじゃないようでやっぱりベース、ってのがオモロかったとか。
恐らく過去一番調べ物が多かったシリーズ。
それといい勝負なんがアヤカがハワイでミカとくっつく話。
この方もアヤカのハワイエピソードなどがお好きだそうです。

79護摩:2006/05/17(水) 21:00:53
さてさて。
長々と語りましたが。
今回は普段とは違ったリクで私も面白かったです。
なんか読んで楽しんで頂けたら幸いです。
そしてこれからもよろしくお願いいたします。

ごま拝

80GBS:2006/05/24(水) 00:29:21
どうも、長文メイキングオブお疲れ様です。

かんなり奥深い内容をしっかりと書いてくださり、
軽い気持ちでリクしたものとしてひたすら恐縮してます(汗

しかし、『IT'S MY PARTY』のやすごまが
後藤先輩のやすカヲにだぶって見えるのは気のせいでしょうか。
ただし、なかなかあの小説のいしよしのように
後藤先輩と紺野さんの関係が深まるところは想像がつきませんが(爆

81護摩:2006/05/26(金) 11:16:55
こちらにも感想ありがとうございます。

>ただし、なかなかあの小説のいしよしのように
>後藤先輩と紺野さんの関係が深まるところは想像がつきませんが(爆

( 護摩)<無理

川o・Д・)<即答かよ!

紺野先生には更にがんばっていただくこととしましょう(笑)。

82名無し護摩:2009/06/15(月) 21:32:45
ブログ新装開店記念リク短編をば。

こはみつで川=´┴`)視点。リアル設定で。

83マーメイド:2009/06/15(月) 21:34:14
「明日空いてる?」

仕事帰りに、久住さんに急に聞かれた。

「あ、はい。特になんもないです」

「じゃ、1日空けといて」

それだけ言って、さっさと帰らはった。

久住さんが気まぐれなのはいつものことや。
それでも、誘ってもうてわくわくしてる自分がいる。

『明日東京駅に5時50分ね』

夜メールで送られてきた、とんでもない集合時間に驚愕する。

84マーメイド:2009/06/15(月) 21:35:11
寝ぼけながらもどうにか起きれた。
指定された変な鈴のあるとこで、ちょっと10分早く到着して待ってる。
あくびをして、道行く人をぼーっと見る。
さすがにラッシュの時間ははずれてるからそないなおらへんけど、それでもみんな会社に行くようなひとばっかやった。

「おはよう」
ジャストタイムに久住さんは現れた。
キャミソールに膝丈のジーンズと軽装やった。
「お、おはようございます」
「行くよ」
愛佳を振り返ることなく、ずんずん進んで行く。
慌てて追いかけて、走ってった。

85マーメイド:2009/06/15(月) 21:35:46

「どこ行きはりますのん、久住さん」
新幹線の改札まで近づいて、なんとなく『遠出か?』と目星がついた。
「新潟」
切符を渡され、さすがに驚く。
「へ?今から?」
「あんまり時間ないから」
驚く愛佳をよそに、てきぱき改札に切符通して行かはる。
また追いかけるのに必死やった。

86マーメイド:2009/06/15(月) 21:36:20
『とき301号、ただいま発車します』
なんだかんだで乗り込んで、いま発車のアナウンスが流れた。

「あのお」
「なに?」
窓際の久住さんは、ちらっとこっちを見た。
ちなみに、今日は度入りのメガネや。
コンタクトやあらへんから新鮮や。
「久住さんの地元行くんですよね」
「そうだよ」
「観光とかですか?」
「泳ぎに」
「――――は?」
「は、じゃないっしょ。
言ってたじゃん、泳ぎに行きたいって。
そんで小春の地元に遊びに行きたいって」
「いや、言いましたけどね、今日行くて聞いてないですよ」
久住さんはここで、初めてなにかに気付いたようだった。
「あれ?小春、メールで『泳ぎに行こう』って書かなかったっけ?」
「きてません。てか、泳ぎに行くてもう発車してもうたから〜」
いまからじゃ水着も調達でけへんがな。
てか、東京で朝の6時から水着調達できるトコてあんの?

87マーメイド:2009/06/15(月) 21:36:54


「あの、久住さんの地元で水着売ってるトコて」
そこまで言いかけて、
「時間もったいないから、小春の貸したげる」
ハイ、とコンビニで買ったらしきパンを渡された。

88マーメイド:2009/06/15(月) 21:37:29

…久住さんの地元てハンパなく遠いわ。
6時に出て着いたん11時前て。

89マーメイド:2009/06/15(月) 21:38:00

「あのお、久住さん」
「なに?」
「飛行機のが早かったんじゃ」
「東京から新潟は直行便ないよ」
「…すんません」

連れられてしばらく歩くと、目の前が急に広がった。
海が横たわってる。

「海や!」
思わず叫ぶと、久住さんがクスっと笑ったのが分かった。
「着替えよう、泳ぐからね」
久住さんの言うことに頷いた。

90マーメイド:2009/06/15(月) 21:38:34

愛佳は久住さんの水着を借りた。
タンクトップみたいな水着で、上下とは別に短パンみたいなのがついてた。
久住さんは、愛佳のTシャツに短パン履いて海に入らはった。

「あのお、久住さん」
「なに」
「…透けてます」
白いTシャツは当然ながら、濡れるとエライことなった。
「いいじゃん、こんな田舎の海、誰もいないよ」
気にもとめず、がしがし泳ぎ出す。

91マーメイド:2009/06/15(月) 21:40:16

しばらく泳いでて、気がついた。
なんか海水浴らしいことしてへんし。
なんてーの?
みんなでビーチボールでバレーしたり。
イカ焼きとか食べたり。

なんでこんなストイックにただひたすら泳いどるんやろ。
黙々と太陽を浴びて泳いでると、小学生の時の琵琶湖遠泳の授業を思い出した。
もう苦しいのにボート乗っとる先生に「さぼるな〜!」て怒鳴られて。
あの辛い遠泳をまさかここで再現するとは。
てか、なんでこんなにガチで泳がなアカンの。

92マーメイド:2009/06/15(月) 21:40:48

「久住さ〜ん」
「なに」
「ちょっと休憩しませんか〜?」
さすがに疲れてきて、愛佳は休憩を申し出た。
「ああ、そうだね」

海から上がって、砂浜で欲も得もなくしゃがみこんだ。
「はい」
ぬるくなっとったけど、ペットボトルのお茶がありがたかった。
久住さんは、自分の分のお茶に口をつけた。

93マーメイド:2009/06/15(月) 21:41:20

「あのね、久住さん」
「うん」
「もっと、海水浴らしいことしませんか?」
久住さんは、途端に怪訝な顔になった。
「してるじゃん、海水浴」
「いやね、もっとこう〜、ビーチボールで遊んだりとか。
ただ泳ぐんやのうて、砂浜で寝そべって日光浴?とかしたり」
「退屈?」
「いや、そんな…」
慌てて、否定する。
久住さんは、ツイ、と立ち上がった。
目を細めて、海の向こうを見てる。
愛佳は、まずいこと言うた思て、真っ赤になった。

94マーメイド:2009/06/15(月) 21:42:11

「じゃ、帰る?」
久住さんは、意地悪でなく、普通に言うた。
そう言われて、もっとカッとなる。
「なんでそんなこと言うんですか?
そもそも、久住さんが海行く言うてくれへんかったから、愛佳、なんも準備でけへんかったんやないですか。
新潟行くのも知らせてくれへんかったし。
こんな朝早ようから待ち合わせするからなんや思たら。
久住さんは勝手です」
言うだけ言うて、またばしゃばしゃと海に入って行った。
しばらく泳いで、振り返ったら。

95マーメイド:2009/06/15(月) 21:42:45

久住さんが、波打ち際で、愛佳の方を黙って見てた。
日中のいちばん暑い時間の太陽を浴びて。
Tシャツに短パンて格好やったけど。
化粧も多分落ちて、ひどいことなってるやろうけど。
それはそれは。

96マーメイド:2009/06/15(月) 21:43:19


この人には、かなわへん。
そう思わせるくらい、綺麗な立ち姿やった。
夢みたいに、綺麗やった。

97マーメイド:2009/06/15(月) 21:43:49


帰りの列車の中では、ふたりとも無言やった。
いや、行きしなもほとんど喋らんかったけど。

98マーメイド:2009/06/15(月) 21:44:30


愛佳はTシャツ濡れてもうたから、朝Tシャツの上から着てた、
半袖のパーカーをこの暑いのに前ファスナー閉めて着とった。
久住さんは、iPodでなんか音楽聴いてる。

99マーメイド:2009/06/15(月) 21:45:17



「また今度どっか行こっか」
耳を疑った。
愛佳の返事など、いつも気にせえへんのに、久住さんは珍しく愛佳の反応を見た。
「え、あ、はい」
「おやすみ」
それだけ言うと、さっさと寝はった。

100マーメイド:2009/06/15(月) 21:45:50


愛佳も仕方なく、目をつぶった。

目を閉じたら、浜辺に立つ久住さんが見えた。
Tシャツの裾を絞るようにくくって、笑うでもなく、怒るでもなく。

…あのまま、夢の中に入っていきたいくらい、綺麗な光景やったんや。


fin.

101名無し護摩:2009/06/20(土) 21:38:34
先日の「愛ちゃんが赤羽のビジホでガキさんに囁いた事特集(違)」の続きっつーか
完全版でつ。

ではでは。

102( `.∀´)y‐~~:( `.∀´)y‐~~
( `.∀´)y‐~~

103( `.∀´)y‐~~:( `.∀´)y‐~~
( `.∀´)y‐~~

104プリズム:2009/06/20(土) 21:49:24


プリズム

105プリズム:2009/06/20(土) 21:49:56


泣いてる彼女をほっとけなくて、連れて来たのはいいが。

106プリズム:2009/06/20(土) 21:50:31

高橋愛は、困り果てていた。
自分が片想いしている少女の手を引いて、夜の街を急ぐ。

『なんで、マコっちゃんがあたしにそれを言う、の…?』
少女は、自分の意中の相手に、涙さえ見せずに震えながらこう言った。
愛は、横で見ていて自分の胸が潰れそうになった。

『…マコのアホ。
まったく、人の気もしらんと』

愛は、いつも行く赤羽のビジネスホテルを目指していた。
東京に出ると言ったら大抵有楽町まで宝塚を観に行くぐらいの人間にとって、東京の夜は殆ど未知に近い。
知り合いの観劇仲間と使う常宿くらいしか、思いつかない。

107プリズム:2009/06/20(土) 21:51:04


愛は、いつも行く赤羽のビジネスホテルを目指していた。
東京に出ると言ったら大抵有楽町まで宝塚を観に行くぐらいの人間にとって、東京の夜は殆ど未知に近い。
知り合いの観劇仲間と使う常宿くらいしか、思いつかない。

「今夜、部屋ありますか。ふたりなんですが」
なるべく、成人を装った声を出す。
フロントの係の女性は、愛を未成年だと見抜いているのかいないのか、
「おふたりでしたら、スーパールームがご用意できますが」
一度泊まったことのある、ダブルベッドに梯子つきのベッドの部屋だ。
予約が入っていたものの、数時間前にキャンセルがあったとのことだ。
愛は、
「じゃ、それで」
と宿泊者名簿にサインする。
年齢は誤魔化した。

108プリズム:2009/06/20(土) 21:51:36


「愛ちゃん、トシ、ごまかして書いてなかった?」
エレベーターの中で、少女に指摘される。
よく見とるな、と思いつつ、顔をしかめた。

109プリズム:2009/06/20(土) 21:52:06


愛の気持ちを知ってか知らずか、少女は部屋の物珍しさにはしゃいだ。
二段ベッドになっている梯子つきのロフトのようなベッドに、上ったりしていた。
腰につけていたヒップバッグを下ろし、愛は苦笑して少女を見守っていた。

110プリズム:2009/06/20(土) 21:52:37

「お風呂、先入っといで」
「…え。愛ちゃん、先、入んなよ」
少女は明らかに戸惑った顔を見せた。
「あーしは後でええ」
「…うん」
パジャマを持って少女がバスルームに入り、ぱたんとドアが閉じられると、愛は何故か溜息をついた。

111プリズム:2009/06/20(土) 21:53:09

連れてきたのはいいが。
彼女は、自分がどうなるのか分かっているのか。

112プリズム:2009/06/20(土) 21:53:45


愛は、途端に不安になった。
今まで、気の合った相手と、肌を重ねることはあった。
1回寝て、飽きることもあった。

113プリズム:2009/06/20(土) 21:54:59


「…ホンマに、無防備すぎやで、あの子は」
頭を掻き毟り、愛は呻いた。

114プリズム:2009/06/20(土) 21:55:33


やがて、少女がバスルームから出て来た。
風呂上りの赤い頬を見て、思わず笑みが零れる。

115プリズム:2009/06/20(土) 21:56:08


気持ちを落ち着かせようと思い、すぐ入れ替わりに自分もシャワーを浴びることにした。

116プリズム:2009/06/20(土) 21:56:45


シャワーを終えて出てくると、少女はベッドの上に座り、テレビを見ていた。
その小さな背中を見て、何故か胸が痛んだ。

ええ湯やった、とオッサンくさく言って笑わせたりしていたが、愛はふと、
「あんた、ついて来たはええけど、どういう事か分かっとるか?」
そう問うた。
「…子どもじゃないもん。
それくらい分かるよ」
少女は俯いて答える。

117プリズム:2009/06/20(土) 21:57:55

「ええのんか?」
「いいよ」
彼女は顔を上げた。
黒目がちな目が、自分を見ていた。
その瞳に、気持ちを奪われたんやな。
愛は静かな気持ちで思い、指で唇に触れた。

想像以上に、華奢な体だった。
強く抱きしめると、きっと壊れてしまう。
愛は少女の、丈の長いパジャマのボタンを全部外し、ショーツも脱がせた。
『細いな…』
愛は強くくちづけながら、少女の体をまさぐる。
「ん…ヤだ」
熱い吐息まじりの声に、頭が痺れそうだった。

118プリズム:2009/06/20(土) 22:00:58


「愛ちゃん…」
掠れた声で、少女は自分の名前を呼んだ。
愛は頭の芯から熱くなり、彼女を抱きしめた。
「…あーしのものになって」
腕の中の彼女を覗き込むと、顔を埋めるように隠しているので、表情が分からない。
「…あんたが欲しいんや、全部、どこまでも」
耳元で囁き、まだ誰も口づけてないだろう耳朶に唇を寄せた。

119プリズム:2009/06/20(土) 22:04:02

少女の長い黒髪がシーツに広がった。


「綺麗やで…」
鎖骨や肩先を愛撫しながら囁くと、恥ずかしいのか、少女は顔をそらしてきつく目を閉じた。
胸に手を伸ばし、触れた。
びくんと反応がある。
「や…」
「可愛い胸やな…」
囁いて、胸の先端を咥えようとした時。
「…イヤ!」
愛は肩を強く押された。
少女は体を捩り、震えている。
呆然としていると、
「いやだ…いやだよお」
彼女は起き上がり、泣き出した。
愛は唇を噛んだ。
自分の、迂闊さに。
彼女を、もっと思い遣れなかったことを。
「ごめん…ごめんな」
頭を抱き寄せると、少女は堰を切ったように泣いた。

120プリズム:2009/06/20(土) 22:08:44
あんな綺麗な体は、見たことがない。

少女にキスして別れた朝、愛は彼女の後ろ姿を見送って思った。




眩しかった。
あのキラキラした笑顔を、自分だけのものにしたかった。
あの瞳に、自分だけを映したかった。

もし大人になった時。
自分は、あの子を見てどう思うのだろう。
今と変わらず、眩しい目で見つめるのだろうか。


…………………………………………………………………………

「それでね、愛ちゃん。
あたしどうしたらいいか分かんなくて」
電話をかけたついでに受けた相談で、少女は困り果てたようにそう言った。
この子は、本当にお人好しだ。
愛は苦笑し、
「困ったことあったらまた言うがし」
と告げた。
少女はふと、
「愛ちゃん、なんであたしによくしてくれるの?」
と訊いてきた。
愛はちょっと不意をつかれたが、
「好きな子の力になりたいからやよ」
更に苦笑して答えた。

電話を切って、愛は、
『やれやれ…あの子に恋するのも苦労するわ』
心底そんな自分にあきれつつも、笑みを零した。


あの子は、大人になったらきっと綺麗になるだろう。
今と同じような微笑みを、見せてくれるだろうか。


愛は目を閉じて、あの微笑みを思い出した。


fin

121プリズム:2009/06/21(日) 18:48:47
向こうのブログにも書きましたが、コピペを失敗した箇所がありますて,
私のファイルバンクに完全版と下書きをうpしますた。
よろしければどうぞ。

www.filebank.co.jp/guest/wtnka/fp/prism

pw:aigaki

122名無し護摩:2009/06/21(日) 18:49:51
またコテハンにするの忘れた(ノ∀`)

ほんま、すんません(爆)。

123名無し護摩:2009/07/07(火) 19:58:11
気分転換に書いたので。
リアル設定でカメ視点です。

124片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:00:06



朝から雨だけど出掛けるのだ。
あーあ、やんなっちゃうよ。
せっかくの土曜日なんだから、打ち合わせなんか週明けでもいいのに。
そうブツブツ言いながら支度していたら、おかーはんに怒られた。

いつもの透明傘は、妹が持って行ってしまってた。
うぬぬ、妹よ。
服だけでは飽き足らず、姉の傘まで。
「ちょっとおかーはーん。
絵里の傘なーい!」
「あたしの傘差して行きなさい!」
と、真っ赤な傘を持たされてしまった。

125片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:00:46


しとしと小雨が降る中、てくてく駅まで歩く。
途中で近所の小学男子が、「仕事?」と声をかけてきた。
「そうだよ、仕事だよ。
てか、学校?土曜日なのに」
小学男子は、黄色い通学帽にランドセル装着だった。
「今日は授業参観あんだよ。
父の日が近いから」
「あ、そっかあ。
ん、遅れるから早く行きな」
ちょっと頭を撫でてやると、生え変わる途中なのか、前歯の欠けた笑顔を見せた。

126片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:01:41


ご近所さんの庭先から、強い花の匂いが香る。
えーっと、あの白いのはクチナシだっけ。
すんごい甘い匂いすんだよね。
雨で景色がけぶる中、クチナシは存在感の強い匂いを放っていた。

127片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:02:37




しかし、雨だとどうしてこんな埃っぽいような、土臭いようなヤな匂いがするのか。
電車に乗り込んで、絵里はうんざりしていた。
おまけに人の汗の臭いもすごい。

128片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:04:32


打ち合わせの場所は事務所だった。
今日は仕事これだけなんだから、正直週明けにしてほしかった。
雨の中歩いて来て、ちょっとうんざりしてる。
スタッフさんを待ってると、ふわっと覚えのある香りがした。
間違えるはずがない。
この香りは。
そう思ってると、
「カメじゃん」
と声を掛けられた。
「ガキさん」
ガキさんは、いつものようにニッと笑って近づいてきた。
ガキさんは今日、Tシャツに伊勢丹の紙袋のような柄のスカートだった。
ちょっと可愛かった。
「なに?打ち合わせ」
「あ、うん。
ガキさんは?」
「あたしも打ち合わせ。
もう終わったけど」
「そう」
「一緒に帰ろうよ。
終わるまで待ってるから」
笑顔でそんなこと言われると、期待するでしょ?

129片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:06:19


早々に打ち合わせを終えてロビーに行くと、ガキさんはペットボトルのお茶を飲んで手を振っていた。
「お疲れ。さ、帰ろ」
「早っ」
もっとこう〜、『どっか行かない?』とかさー。
「入れてくれる?」
事務所のビルを出る時、ガキさんがひょこっと絵里の傘に入って来た。
「え、あ、うん。
いいよ…」
つーか、ガキさん。
自分が傘差すのヤだから待ってたんかい?
まあ、このヒトはいっつも誰かの傘に入ってくけどさあ。
「可愛いじゃん」
「え?」
「真っ赤な傘。カメにしては珍しいね」
「え、うん。
妹がいつもの持ってっちゃって」
真っ赤な傘でよかった、と思う。
絵里が真っ赤になっても、たぶん傘のせいにできるから。
横にはガキさんがいる。
ガキさんの鼻の小さなほくろを見て、何故か恥ずかしい気持ちになった。

130片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:08:00


「あ、来た来た」
「え…?」
絵里がそうこう言ってると、白い車が止まった。
「おーす、絵里ー!」
「あ、マコっちゃん…」
車のウィンドーをいっぱい下げて、サングラスをかけた運転席のマコっちゃんがいつもの人懐っこい笑顔を見せた。
「もしかして…約束してたの?」
絵里がガキさんに確認すると、
「うん、マコっちゃんとみなとみらい行くんだー」
と満面の笑顔で言った。
…とほほ。
駅まで相合傘の野望すら崩れたよ。
5期め5期め5期め…。
「カメも駅まで乗ってく?」
助手席に乗り込んだガキさんが、気を使ってかそう声をかけてくれた。
「ううん。
雨の中歩くのも楽しいから。ありがとう」
絵里、ちゃんと笑えたかな。
少なくとも、マコっちゃんが不審に思ってないくらい笑えたかしら。

131片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:08:54


雨脚は強くなってきた。
白いキューブを見送って、絵里はまたてくてく歩く。
すれ違った人が、ガキさんと同じ香水使ってるっぽくて、思わず振り向いた。
雨だと、香水の香りは強くなる。
まあ、横に片想いのヒトはいないけど。
うん、雨も悪くない。


end.

132片想いの途中に:2009/07/07(火) 20:09:26

ノノ*^ー^)<かーたおもいのおわりに♪

从*´ ヮ`)<片想いの終わりやったら、失恋やね

ノノ*^ー^)<…… 

从*・ 。.・)<空気嫁なの

133名無し護摩:2009/07/07(火) 20:10:34

更新しました。
タイトルは、ノノ*^ー^) のソロ曲をちょっともじりますた。

134名無し護摩:2009/07/13(月) 18:18:18
さゆ生誕記念に。

135雨が止みますように:2009/07/13(月) 18:19:31


折からの雨は、激しさを増してカフェのガラス窓を叩きつけていた。
デパートで買物を終え、喉が渇いていたのと、ちょっと休憩したくなったのもあって、デパートに一番近いカフェに入った。

136雨が止みますように:2009/07/13(月) 18:20:16



明日は、わたしの誕生日だった。
右も左も分からず東京に出て来て早6年。
わたしは成人する年になった。

137雨が止みますように:2009/07/13(月) 18:20:50



自分へのお祝いに、わたしは小さなプレゼントを買った。
それは口紅だった。
今まであまり自分では買わなかった色を、思い切って買った。
あーでもない、こーでもない、と化粧品売り場の美容部員のお姉さんと一緒になって選んだ。

138雨が止みますように:2009/07/13(月) 18:21:22


茶色の混じった赤。
大人っぽい色だった。

早く使ってみて、誰かに見せたい。

139雨が止みますように:2009/07/13(月) 18:22:07


グラスの中のアイスカフェモカが残り少なくなった頃、グラスの中の氷がカランと音を立てて落ちた。
涼しい音だけど、今日のような天気の日にはふさわしくない。

この大雨の中、信じられないことに傘も差さずに歩いてる人がいる。
出先で、雨に遭ったんだろうか。

街は、相変わらず叩きつけるような雨を持て余していた。

それより、早く雨が止んでほしい。
お気に入りの口紅が入った紙袋。
やっぱり、濡らさずに持って帰りたいから。

東京は、ごちゃごちゃした街で。
田舎から出て来たわたしには、未だに東京の街も人も理解し難いところがある。
でも、わたしはこの街が好きだ。

140雨が止みますように:2009/07/13(月) 18:23:21


雨は少し小降りになってきた。
明後日、わたしの大事な同期が、誕生日を祝ってくれる。
うん、口紅は明後日つけていこう。


fin.

141名無し護摩:2009/07/13(月) 18:24:52

以上です。
さゆおめ!

从*・ 。.・)<二十歳になってもさゆが一番可愛いの

142名無し護摩:2009/07/15(水) 18:53:12
さゆ生誕第二弾。先日のさゆ生誕短編とやはり繋がってます。

143この夜に:2009/07/15(水) 18:54:14

「かんぱーい」
さゆみと絵里はグラスを合わせた。
今日はさゆみの誕生日祝いに、ふたりは絵里が以前来たことのある元麻布のバーにいた。
『シャンパンを飲んでみたい』『オトナな空間でお祝いしてほしい』というさゆみの希望でここにした。
「素敵なの。絵里、おしゃれな店知ってるんだね」
「いやー、おかーはんが前に連れて来てくれたからー」
「そうなんだ」
「れいな、ぶすくれてたよねー」
「ああ」
さゆみはグラスから口を離し苦笑した。
仕事帰りにふたりでここに行くと言ったら、『またハブかい』と同期のれいなはぷっと頬を膨らませた。
「まあ、れいなの時はまた誘って来ればいーじゃん」
いつものように、絵里は適当に流した。
れいなは今年の11月に二十歳になる。
「ああー。でも、れいなってこういう店より家飲みのが好きそーじゃない?」
「それなら安上がりだね」
物凄く手抜き感が漂うプランを交わし、絵里は満足そうに頷いた。

144この夜に:2009/07/15(水) 18:54:59

「いやー、さゆもハタチかー」
感慨深そうに、絵里は微笑んだ。
今日のさゆみは、いつもと違う口紅をつけていた。
普段、仕事以外ではつけないような大人っぽい赤だった。
「世界一可愛いハタチなの」
「あ、にじゅっさいになってもソレでいくんだ」
「にじゅっさいでもさんじゅっさいでもソレなの」
物凄く確信を持ってさゆみは頷く。

145この夜に:2009/07/15(水) 18:55:46

「でさー、絵里」
「あによ」
「最近ガキ先輩とどうなの?」
マンガのように、絵里はシャンパンにむせそうになる。
むせこそしなかったが、グラスから慌てて口を離しぐっと詰まる。
「あー、ガキ先輩ねー」
遠い目で絵里は笑う。
「ガキ先輩はアレですよー、アレ」
「アレじゃわかんないの」
「まあ、憧れの存在ってことで」
そんなことソレっぽちも思ってないくせに。
さゆみはそっと笑った。
同期で親友の絵里が、自分と同い年で先輩の里沙に恋してることを、さゆみは誰よりも早く察知していた。
それとなくキラーパスを出したり親友として気を配ってはいるが、絵里が鈍くさいのか里沙が鈍感なのかその両方なのか、
絵里の思いは宙ぶらりんなままだった。
「そおゆう道重さんはどうなんですかあ」
頬を少し赤くし、絵里が絡んできた。
「さゆみ?
うん、いないよ」
さらっと答え、さゆみはくっくと笑う。
虚を突かれた絵里は、切れ長の目を更に細め、
「もお〜」
と唇を尖らせた。
「よーし決めた!
今日はみちしげろげろの家に泊まりこんでラブローマンスを吐かせる!断然吐かせる!」
「ええー。
絵里、もう酔ったの?
まだ1杯目じゃん」
「泊まるかんね!」
「ハイハイ」
絵里は鼻息荒く『泊まる!泊まる!』と連呼し、シャンパングラスをバーテンダーに掲げ、『おかわり!』と告げた。

146この夜に:2009/07/15(水) 18:56:21


絵里はもうオトナだかんね!とまたもや鼻息荒く、絵里は支払いを作ったばかりの黒いクレカで済まそうとする。
しかしレジにて、
「申し訳ございません、お客様。
当店はこちらのカード会社のカードは使用できません」
せっかくのブラックカードが使用できず、絵里はリアルにorzとなる。

147この夜に:2009/07/15(水) 18:56:51

「とほほほほ」
結局現金で支払うこととなり、泣く泣く少ない所持金から出す。
「あのー…道重さーん」
「なんですか」
「500円貸してください」
さゆみはずっこけそうになる。
ひとつ年上で大分オトナになったとは思ったが、やはり絵里は絵里だった。

148この夜に:2009/07/15(水) 18:57:35

「もー、絵里はー。
タクシー代もないの?」
「面目ない」
絵里は照れたように頭をかく。
「絵里みたいな人にカード(しかも黒)持たせるのは却って危険なの」
「えー、そんなこと言わないでよお」
この件に関してはガキ先輩に叱ってもらおう、とさゆみは心に決めた。

149この夜に:2009/07/15(水) 18:58:06

外でタクシーを拾い、さゆみの家に向かう。
酔いが回ってきたのか、絵里が赤い顔でさゆみにもたれかかってきた。
いつもと、香水の香りが違う。
髪の先から漂う香りに、さゆみは苦笑する。

好きな人と同じ香水なんか使っちゃって。
さゆみはちょっと、眠りかけてる絵里の頭を撫でた。


END.

150名無し護摩:2009/07/15(水) 18:59:16

もういっちょ。
小春生誕記念。やはりさゆ生誕短編などと繋がってます。
リアル設定。光井視点で。

151その微笑みに:2009/07/15(水) 18:59:56

今日は道重さんと亀井さんは一緒に現場にやって来た。
まあ、珍しいことやない。

ただ、違ったのは。

亀井さんの香水と、道重さんの口紅の色やった。
道重さんの口紅はまあ、ハタチにならはったしなんか心境の変化やろうけど。
亀井さんの香水は。

どっかで、嗅いだ匂いやった。

152その微笑みに:2009/07/15(水) 19:00:51

「ねえ」
待ち時間にぼんやりしてたら、久住さんに声掛けられた。
「ん?なんですか」
「新垣さんってさー、亀井さん、好きだよねー」
「へ?逆やないですか?」
亀井さんは物凄く分かりやすい人やけど、新垣さんはサブリーダーって意識が働いてるからか、もひとつ他人への甘えとかが
分かりにくい人やった。まあ、みんなに優しいんやけど。
「いやー、新垣さんは亀井さんを物凄く怒るし」
「久住さんかて物凄い怒られてるやないですか」
むしろ、亀井さんより怒られてるかもしれん。
「小春はー、妹を怒るようなモン?
亀井さんはー」
少し考えて、久住さんは
「特別?って感じ?」
と続けた。

153その微笑みに:2009/07/15(水) 19:01:27

新垣さんがねえ、とその後の仕事でも考えてると、久住さんはスッと道重さんに近寄り、
「口紅、変えたんですね」
と感情の読めない顔で言うた。
「ああ、うん。
この前買ったの」
久住さんはくすっと笑って、
「似合ってますよ」
と道重さんの目を見据えた。
挑発?
そんな言葉が頭に浮かんだ。
ふたりの間に緊張感が漂う。
道重さんはちょっと目を見開いたが、
「ありがとう」
とニッと笑った。
負けてへん。
ふたりとも、互角や。
いや、年の功で道重さんがやや優勢か?

154その微笑みに:2009/07/15(水) 19:01:58


「ちょーっと小春ー。
なにやってんのー」
そこへ、ある意味空気を読まず、いや読めてるんかいなやっぱし、新垣さんが割り込んできた。
新垣さんがうちのそばを通り過ぎるとき。

亀井さんの、香りの正体がわかった。

155その微笑みに:2009/07/15(水) 19:02:34

亀井さんも乙女やな。
新垣さんと、同じ香りつけて。
ほら、久住さん。
やっぱ、亀井さんのほーが新垣さんを好きなんやって。

156その微笑みに:2009/07/15(水) 19:03:09


そう言おう思て久住さんが戻るのを待つ。
いや、待つ理由なんてなんでもええんや。
所詮、言い訳に過ぎひんねんから。

157その微笑みに:2009/07/15(水) 19:04:52

うちの好きなひとは。

勝手気ままで、きまぐれで。
何考えてるか、わからせん。

でも、その微笑みにうちはぐいぐい引き込まれてゆくんや。


end.

158名無し護摩:2009/07/15(水) 19:06:16

以上です。
ちなみにこの光井視点の話は、先日の『マーメイド』後日談でもあります。

159名無し護摩:2009/08/10(月) 22:40:20

さゆ主役で短編を。リアル設定です。

160その唇に:2009/08/10(月) 22:42:13

梅雨明けはしたというものの、夏なのにはっきりしない天気が続いていた。

道重さゆみは、その日、ピンで出演した収録を終え、そのまま楽屋に残っていた。
この後、マネージャーの迎えを待って事務所に戻る。

「道重さん」

不意に声を掛けられ、読んでいた雑誌からびっくりしつつ顔を上げる。
久住小春だった。

「ああ…小春ちゃん」
「小春もこの局で仕事だったんですよ」
「そうなんだ」
しかしいくらメンバーだからって勝手に入って来るなよ、とさゆみはちらっと思った。

161その唇に:2009/08/10(月) 22:42:44


「今日も、塗ってるんですね」
突然言われ、さゆみはきょとんとする。
口紅、と小春はツイとさゆみの口元を指した。

さっき、メークさんにしてもらった収録用の化粧を落とし、普段用の口紅を塗り直した。
今年の誕生日記念に自分で買った茶色がかった赤い口紅。
ここのところ、好んでつけていた。

162その唇に:2009/08/10(月) 22:43:25

「小春にも、塗ってください」

小春は、さゆみに顔を向けた。

「塗ってください」
形のいい唇だな、とさゆみは思った。

「わかった。こっち向いて」

紅筆に口紅を含ませ、丁寧に塗ってやる。

すっと筆を離した瞬間。

163その唇に:2009/08/10(月) 22:44:23

小春は、まるで噛み付くような口づけを仕掛けてきた。
はずみで、紅筆を落としてしまう。
リノの床が、ちょっと紅の色で汚れてしまった。

さゆみは自分でも不思議なくらい冷静だった。
肉体のどこかは、興奮してるのかもしれないけれど。
意識は、はっきりしていた。

何度も何度も噛み付かれ、いい加減紅も落ちたんじゃなかろうか、とさゆみは考える。

せっかく、綺麗に装ったのに。


fin.

164名無し護摩:2009/08/10(月) 22:50:51

ここんとこ続いてる『に』で終わる短編の続きですた。
んで、GBSさん優勝おめでとう記念短編ですた。
「さゆこは希望、設定はおまかせ」とのことですたので、こうしますた。
ダイアリーかどっちかだけでいいです、とのことでしたが、まあ、どっちも
短くなったしボツにすんのももったいないので上げたですよ。

从*・ 。.・)<本当に計画性のない作者なの

|;´┴`) ハラハラ

从;´ ヮ`)<家政婦みたいな人がおると

165名無しタンポポ:2009/08/24(月) 22:17:31
『に』シリーズ完結編。

さゆ視点です。

166シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:18:20

「ねー、なんか夏休みっぽいことしようか」

167シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:19:00

ガキさんのこんなひとことで始まった、さゆみたちの夏休み。
スケジュールの合間を縫って、たった1泊2日だけど、ガキさんが沖縄のおばあちゃんのお家に招待してくれた。

168シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:19:30

ガキさんは前日から現地に前乗り。

さゆみと絵里、れいなの3人は羽田発6時半というめちゃくちゃなスケジュールにも関わらず、ちゃんと集合できた。
しかも全員5時45分には集合場所のロビーに来てたし。
あの絵里でさえ。
それだけ、みんなこの沖縄行きが楽しみだったのだ。

169シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:20:07

「おっはよー!」
空港に着いたら、沖縄の眩しい太陽と同じくらい、眩しい笑顔のガキさんがいた。
迎えに来てくれたのだ。
「おはよー、ガキさぁん!」
さっきまで眠くてぽけぽけしていた絵里が、ぱっと顔を輝かせる。
「分かりやすいっちゃねー」
れいなが苦笑する。
れいなも、絵里の気持ちを知っていた。
というか、ガキさんくらいだと思うんだけどね。
絵里の気持ち知らないの。

170シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:20:40

「よーし!バッリバリ案内すっからねー!」
タクシーに乗り込むと、ガキさんが鼻息を荒くした。
このひとのことだから、また異常に細かいスケジュールを組んできたんだろう。
後部座席から助手席に座ったガキさんの手元の紙切れを覗き込むと、案の定びっしり予定が書き込まれていた。
ガキさんがうちらの方を振り向いて、
「お腹空かない?市場に食べに行こうよ」
「「「さーんせーい」」」
異論はなかった。

171シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:21:11

泳ぎに行きたい、というれいなの意見を、
「ダメダメ。日中なんかに泳いだら、ヒリヒリしてひどい目に遭うよ?」
ガキさんが止めた。
「えー。マジでー」
沖縄は、日差しが強すぎて、地元の人はお昼なんかに泳がないらしい。
「夕方とか朝方泳げばいいよ」
「分かったと」
「あれ?れーな今日素直だねー」
絵里がニヤニヤすると、
「れなはいつも素直やし?」
とれいながふふん、と返した。

172シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:21:44

水族館を回って、軽くごはんを食べて、ガキさんのおばあちゃんのおうちへ。
「よく来たね!」
と歓迎してくれた。
「いまの時間は外出ても暑いし、ちょっとお昼寝でもするといいよ」
というおばあちゃんのお言葉に甘えて、さゆみたちは座敷で横になった。
絵里だけ、何故か縁側に座って外を眺めてる。
「絵里、寝ないの?」
さゆみが声を掛けると、
「うん」
とだけ言ってまた外を見た。

173シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:22:51

小一時間ほどうとうとして目を覚ますと、ガキさんの姿がない。
れいなはまだ寝ている。
さゆみはタオルケットを畳んで、縁側へ目を移すと、絵里が座布団を枕にしてくーくー寝ていた。
なんだ、結局寝てんじゃん。
そう思って苦笑いすると、絵里の頭の方に誰かいるのに気付いた。
ちょうど、こっちからは顔は見えない。

174シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:23:28


「あ」
さゆみは、思わず小さく声を上げた。
絵里の頭の近くに、ガキさんはしゃがみ込んだ。
絵里がよく寝てるのを確認するかのようにじっと見て。
ガキさんは、絵里にキスした。

175シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:24:03

さゆみは、呆然と眺めてしまい、その場に固まってしまった。
ガーガー寝てるれいなが羨ましい。

さゆみに気付いたガキさんは、ウィンクして『しーっ』という風に人差し指を立てた。

176シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:24:43

昼寝から目覚めると、念願の海水浴。
ぱちゃぱちゃと海に浸かっただけだったけど、十分だった。
れいなはガキさんに水をかけまくって『コラー!』って怒られてた。
「さゆ、水着エローイ」
ケラケラ笑う絵里の口元を見て、さゆみはうんと恥ずかしくなった。
いや、キスしてただけなんだけど。
てか、キスされてどーしてあんなぐーぐー寝れるのってハナシなんだけど。

177シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:25:15

たくさん夕ごはんをよばれて、みんなで花火をした。
ガキさんのおばあちゃんも加わって。
おばあちゃんも、
「最近の花火はすごいねー」
と喜んでくれた。
縁側でスイカを食べて、お風呂に入って。

東京でも出来ることだけど、ここでするからきっと楽しいんだ。

178シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:25:47

「ああ、こんな楽しいの久しぶりっちゃ」
れいなが心から、満足そうな声を出した。
みんな言葉には出さないけど、穏やかに微笑んでいた。

179シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:26:17

あの猫はあんなに昼寝して、どうしてまたガーガー寝れるのか。

れいなは早々に、座敷に敷いた布団に入って爆睡した。

ガキさんも、さっさと寝てしまった。

180シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:26:50

さゆみと絵里は仕方なく、おばあちゃん提供の焼酎をちびちび縁側でやっていた。
「すごいね。暑いから全然酔っぱらわない」
絵里がそう呟いた。
ソーダで割って、シークヮーサーを絞って飲んで。
南の島の味は、この夜によく合った。
「絵里」
「んー?」
「ガキさんのこと、好き?」
絵里はふっと笑って、
「うん」
とだけ答えた。
お昼に見た衝撃シーンのことは、さゆみの胸に秘めておこう。
そう考えてると、
「あのにゃんこはよく寝るねえ」
と絵里がれいなの方をちらっと見た。
「そうね」
「いまのうちにぶちゅーっとかかましたら?あのにゃんこに?」
思わず、グラスのお酒にむせた。
「なにベタな驚き方してんの」
自分のお酒に口をつけて、絵里が苦笑する。
「好きなんでしょ?」
念押しされても、困る。
好きでも、どうしようもないから。
「まあー、れいなはいいヤツだと思うよ?
空気読めないし、勝手なトコあるけど、まっすぐだし」
えらい言われようだ。
でも、6年も一緒に走ってきた仲間だ。
絵里は、さゆみよりずっと周りを見ている。
まして同期。
絵里の言うことには、真実味があった。

181シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:27:32

「にゃんこが言うこと聞かなかったら、絵里に言いな?
絵里が言うこと聞かすからー」
「怖いの。ドSなの」
「まあ、れーなは絵里の言うことから聞くから」
「…はあ」

182シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:28:27

お酒もぬるくなってきた。
もう寝ようかな、って考えてると、背後からぬーっと
「なにふたりで酒盛りしてんのー?」
ガキさんが幽霊みたいに現れた。
「ひぃ!ガキさぁん!こわいってー」
絵里、驚きすぎだから。
「あたしにも飲ませてよー」
「あ、はい」
絵里はさっきまで飲んでたグラスを渡して、自分は何故かシークヮーサーを生で齧った。
「酸っぱい…」
とか涙目になってるし。
「なになにー?
ガールズトーク?あたしも混ぜてよー!」
ごめんね、れいな。
またハブだけど許してね。

183シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:28:58

結局、夜中の3時すぎまで語ってしまった。

184シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:29:36

「たく、れなだけハブで酒やなんて。
信じられんったい」
案の定、れいなは翌朝ふくれてしまった。
「あー、れーな声デカイってー」
絵里は二日酔い。
さゆみとガキさんはまあ、平気だったけど、朝の太陽が目に沁みる。

185シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:30:14

「おばあちゃん、色々ありがとう」
家の前でさよならを言うと、
「忙しいだろうけど、またおいで」
と言ってくれた。
うん、ここは楽園だ。
見たこともないような綺麗な花がいっぱいあって。
空も、見たこともないような青さだ。

186シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:30:45

「空が、東京のとは違うったい」
れいなが、空を見上げて言った。
「れいなは、どこの空が好き?」
「へ?」
れいなはしばらく考えて、
「ふるさとったい」
と答えた。
「フフ、さゆみも」
れいなと、顔を見合わせて笑った。

187シャニムニ パラダイス:2009/08/24(月) 22:31:27

「ちょーっと!そこのうさぎとにゃんこー!
早く早くー!」
さっきまで二日酔いで呻いてたのに、絵里が大声で手招きした。
「いま行くよー」
まっすぐな道を駆けていく。

そう、それはきっと。
素敵な素敵な、夏休み。



おわり

188名無し護摩:2009/08/24(月) 22:37:24
『に』シリーズはこれでひとまずおわりです。
最後は『に』じゃねえか、と言われそうですが『シャニムニ』の『ニ』で無理矢理
『に』シリーズに入れてみたとです。
タイトル由来は言わずもがなモーニングさんのアルバム曲からです。

从*・ 。.・)<有終の美にはさゆがふさわしいの

从;´ ヮ`)<れなはとりあえず、『名前だけ出演』じゃなくて嬉しいっちゃ

ノノ;*^ー^)<え、絵里の恋の行方は!?

ではでは。またお会いしましょう。ノシ

189名無し護摩:2009/08/24(月) 22:38:25
ねえか、じゃなくてねえよ、ですな(苦笑)。
スマソ

190名無し護摩:2009/11/10(火) 23:37:23
若干フライング気味ですが6期のニャンキー生誕記念で。

从*` ロ´)<ニャンキーやなか!

191いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:38:17
  
  

 Reina, darling, won't you ease my worried mind?

192いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:38:50

「ホントにドコ連れてく気っちゃ?」
足元のヒールを気にしながら、れいなはずんずん進む愛佳に尋ねた。
「まあまあ、愛佳についてきてください〜」
れいなの後輩――――愛佳はいつものようにふにゃっと笑った。

193いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:39:20

「あ、品プリまでお願いします」
「品プリ?」
タクシーに乗り込んで愛佳が告げた行き先に、れいなは首を傾げる。
品プリといえば、この前リーダーの愛と、サブリーダーの里沙がディナーショーを行ったホテルだ。

194いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:39:50

今日、仕事が上がった時、れいなは
「ちょっと愛佳に付き合ってください〜」
と別の控え室に連れて行かれた。
そこには顔なじみのスタイリストとヘアメークのスタッフがおり、れいなは撮影の時くらいに髪と顔を弄られ、
何だか分からないがかなりゴージャスなドレスを着せられた。

195いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:40:25

「品プリなんて何しに行くと?」
れいなは言った後、『あ』という顔をし、
「あ、今日れなの誕生日やけん、ごはんおごってくれると?」
れいなの顔に満面の笑みが浮かぶ。
愛佳は黙って微笑んだ。

196いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:40:55

愛佳に連れて行かれたのは、ホテル最上階のラウンジだった。
「おお、オトナな場所やね」
れいなは興味深げに辺りをきょろきょろ見渡す。
「どうぞ」
愛佳がドアを開けた先には。

197いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:41:28

「「ようこそ、れいな」」

れいなと同じように正装した、さゆみと絵里が待っていた。

198いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:41:58

「…ちょ。
何しとるっちゃ、自分ら」
れいなは穏やかに微笑むふたりを見て、呆然とする。
「ほな、愛佳は帰りますさかい」
愛佳はふにゃっと笑い、個室から出て行く。
「みっつぃ〜、ありがとね」
さゆみと絵里が声を掛けると、
「いいえ〜」
と手を振って帰って行った。

199いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:42:52

「なん?
今日、愛佳連れて来られたっちゃけど」
「ままままま、とりあえずは乾杯と行きましょうや、ダンナ」
物凄くドレッシーな格好なのにも関わらず、オッサンのように言い、絵里はシャンパンフルートをれいなに手渡した。
「…ここまで世界作って、雰囲気台無しなの」
さゆみがぼそっと呟いた。

200いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:43:26

3つのグラスが掲げられる。
「20才おめでとう」
と絵里。
「やっと6期3人、オトナになったの」
とさゆみ。
「あ、ありがとうっちゃ」
れいなはちょっと涙ぐんで、鼻を啜った。

201いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:43:59

グラスを合わせ、渇いた喉にシャンパンを注いで行く。
「…は、華やかな匂いっちゃね」
初めて飲む味に、れいなは目を輝かせた。
「くう。
五臓六腑に染み渡るねえ〜」
「絵里、黙って飲むの」
「…あ〜い」

202いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:44:29

れいなはさっき個室に入って行った時の、輝くようなふたりを思い出して、ちょっと笑った。
オーディションの合宿で顔を合わせて早9年。
年が明けたら10年だ。

あの頃の幼かった自分たちとダブらせ、れいなは喉の奥でクックと笑った。

203いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:45:06

「なに〜?
何が可笑しいのお〜?
れーなのクセに生意気〜」
大人しい美少女だとばかり思っていた女の子は、美人にはなったがどSだった。
「絵里、もう出来上がってるの?
たく、ホントに絵里は弱いの」
清楚で純朴な少女だとばかり思っていた女の子は、今や手酌でぐいぐい酒を飲む女になった。

「あ〜、もうおかしか!
自分ら、バリおかしいし!」

れいなは涙を流して笑った。

204いとしのレイナ:2009/11/10(火) 23:45:46

「あんたらの事やけん、れなの誕生日祝ってくれおっても、安い酒で家飲みとかで済ますんやとばっかり思っとった」
「あ、勿論やっすい酒も用意してますよ?」
「ね」
絵里とさゆみは『ねー』と顔を見合わせて声を揃えた。
「さ、これから部屋飲みに移行すっからね」
絵里が何故か鼻息荒く宣言する。
「今日の日の為に部屋を取ったの」
「マジで!?
…自分ら」
れいながまた目を潤ませると、

「「支払いはれいなね」」

――――同期ふたりは、たっぷりの愛を込めて言い放った。

fin

205名無し護摩:2009/11/10(火) 23:46:59

以上です。
ハタチおめ!
つーか、6期が全員20代になる日が来ようとは(笑)。

206名無し護摩:2009/11/11(水) 07:21:43
読み返して間違いハケーン(;´∀`)

『オーディション合宿から早6年、年が明けたら7年』の間違いですた(苦笑)。
スンマセン(;´∀`)

川´・_o・)<全裸デダッシュナ。ジャ、ジュンジュンハ今カラ田中食ッテクルダ

207名無し護摩:2011/10/27(木) 21:56:46

ガキさん生誕記念でひとつ。

208情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 21:57:41


――――里沙はiPhoneに着信があったことに気付いた。
絵里からだった。
珍しいなと思い、すぐに掛け直した。

『あー、誕生日お祝いすっからさー、出てくるよね?』
「なんで上から目線なのよ」
絵里の物言いに苦笑し、『いいよ』と返事する。

渋谷で待ち合わせ、と言った筈なのに、何故か絵里は先に横浜に出ていた。
『いま横浜着いたー』
絵里からのメールを見た時は『おいおい』と思ったが、仕方なく里沙は横浜へ引き返す。

209情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 21:58:14

「いんやー。
めでたいめでたい」
韓国料理の店で、夕食を摂る。
めでたい、を連発し、絵里はくまのプーさんのクッションを『はい』と渡してくれた。
「なにこれ!?かわいいんだけど!」
里沙はクッションを抱き締めたり、頬ずりしたりしてはしゃぐ。
「いえいえいえいえ。
喜んで頂けて何よりです」
絵里は目を細めて微笑んだ。

210情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 21:58:49

店を出て、まだ早い時間だったのでショッピングモールをブラブラする。
里沙は『ちょっとごめん』と断って、店のショーケースの前に立つ。
「なに?アクセ?」
絵里も横から、ケースの中を見る。
「ん。
この指輪、いいなって思って…」
「あー、いいねー」
里沙が指す先を、絵里は同意して頷く。
「可愛いじゃん」
「でしょ?」
「買わせたらいいのに」
里沙が付き合ってる相手のことを絵里は遠まわしに言い、少し笑った。
「うん…」
「なに?イヤがられたとか?
高いー!って」
「イヤがった、わけじゃないけど…」
里沙は試しに遠まわしにねだったものの、恋人の――――愛からあまり色よい返事がなかったことを打ち明けた。
「へ?
自分の服はあんなに買うのに?」
「うん。
渋い顔してて…」
「ケチだねー。
これから毎日一緒にいられるわけじゃないから、ここらでひとつばーんって買えばいいのにさ」
ばーんと!と絵里は繰り返して言って笑った。

211情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 21:59:40

「買ってあげようか」
絵里の言葉に、里沙は思わず耳を疑った。
「絵里、今日たまたまカード持ってるし。
最近節制してるから、案外お金持ちなんだよね」
「でも…」
「絵里が全額払うってのが気持ちの上で負担になるなら、ガキさん、100円だけ払うってのはどでしょ?」
「100円?」
里沙はつい笑ってしまった。
「あとは、絵里の奢りってことでひとつどうよ?」

それから、魔法にかけられたように絵里から指輪をプレゼントされた。
「15万7500円!フーッ!」
「フーッ!」
絵里につられ、里沙もはしゃいで言う。
「大事にしてちょ」
「うん」
里沙は指にはめたピンキーリングをかざし、嬉しそうに微笑んだ。
「ウヘヘヘヘ、よくお似合いですよ?」
「出た!ウヘヘへ笑い!キモイってー、カメ」
「まあ、失礼しちゃう。可愛いって言ってくださいまし」
絵里は怒るフリをしながら、優しく微笑んだ。
里沙は、絵里のこの笑った顔が好きだった。

212情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:00:24

絵里には以前、食事に誘われて、その席で愛を告げられた事があった。
その時点で、里沙は愛と他のメンバーには秘密にしていたものの、付き合っていた為、言葉を選びながら断ったのだ。
「そっか。残念」
絵里は寂しそうに笑ったが、納得してくれた。


久しぶりに、絵里と手を繋いだ。
「おう。
リングのダイヤの感触がたまりませんな」
絵里がふざけて言うので、里沙はつい吹き出してしまう。
あったかい手の感触に、里沙はここの処疲れ気味だった気持ちが癒されていくのを感じる。
「カメといると安心する」
思わず口にすると、
「よせやい、照れるぜ」
絵里らしい言葉で返ってきた。
歩きながら里沙が横顔を見ると、絵里は少し頬を染めていた。
「そんなん言うと、本気にするよ?」
絵里がぽそっと言った言葉に、里沙は
「…うん」
とだけ答え、俯く。
「絵里、待ってるから。
いつでもおいで」
それだけ言って、絵里は元のふざけた絵里に戻り、
「かーっ!夜風が身に凍みるぜ!」
とオッサンくさく言って身を縮こませ、また里沙を笑わせた。

213情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:00:54

翌日。

事務所に行くと、たまたま愛と会った。
「――――その指輪!」
目ざとく絵里からの指輪を見つけ、愛は無理矢理里沙の手を掴んだ。
「自分で買ったんか!」
里沙は黙って顔を逸らす。
「買うたる言うたがし!」
「誕生日にはくれなかったじゃん」
「だから…ああ!もう!」
愛はがしがしと頭を掻いた。
「知ってる、愛ちゃん?
誕生日のプレゼントは、誕生日に貰わないと意味ないんだよ」
「今度でええ、言うたやん、あんた」
「…誕生日じゃないけど」
「なんや?」
「カメは、昨日くれたよ」

214情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:02:22

愛は目を見開いた。
青褪めている。
「…絵里か。その指輪」
「うん。
昨日、プレゼントしてくれた」
高価なものだから、気持ち的にあたしの負担になるんなら、100円だけガキさん出してって。
そう付け足すと、
「100円?」
愛は苦笑して、里沙の手を取ってまた指輪を見た。

「言うた日まで待ってくれたら、買うたがし」
「なんでその日なの?」
言ってから、
「…カード?」
里沙が小声で言うと、愛は黙って頷いた。
カードの限度額の関係で、指輪を買い渋っていたようだ。
それだけ自分の服とかを買ったんだな。
里沙はちょっと溜息をついた。
「別に、いいよ。
愛ちゃんのお金なんだから、愛ちゃんの好きなもの買いなよ」
愛はここで怒るな。
里沙はやけに冷静な頭でそう考えた。
案の定、愛は真っ赤な顔で里沙の腕を掴む。
だが、すぐに下ろした。
「…好きにするがし」
そのまま、部屋を出て行った。

215情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:03:11

それから数日後、里沙はまた絵里に呼ばれて横浜にいた。

個室のあるレストランを絵里が予約してくれていた。
個室のテーブルに向かい合わせに座り、ふたりで飲みながら色々食べた。

216情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:03:53

「そろそろかな」
絵里が腕時計を見て言う。
里沙がなにかと思っていると、愛が黙って個室の前で突っ立っていた。
「そんなとこで立ってないで、入ってきなよ」
絵里が声を掛けると、愛は何も言わず、絵里の隣に座った。
避けられている。
悪いのは自分だが、愛が目も合わせてくれないことを里沙は少し悲しく思った。

217情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:04:28

愛はビールを注文し、息もつかず一気に飲み干した。
「なんやの」
飲んだあと、不機嫌さを隠さぬ様子で、
「あーしを笑うために呼んだんか?」
低い声で言った。
絵里はすっと立ち上がると、里沙の隣に座った。
里沙が怪訝に思っていると、絵里に抱き寄せられて、唇を奪われた。
愛はビールのグラスを手に掴んだまま、目を見開いた。

218情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:04:59

「悔しい?」
唇を離して、絵里は愛の方を見た。
「盗られたくないなら、しっかり掴んでなよ」
絵里は上唇を舐めた。

絵里は更に里沙を抱き寄せて、唇を奪った。
愛は色のない表情で、それを見ている。

219情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:06:01

永遠のような、長い時間が過ぎる。
散々甘い愛の言葉を注ぎ込み、絵里は唇を離した。

「絵里を、憎いと思った?」
里沙から少し離れ、絵里は愛に告げた。
「頭が沸騰するくらい、腹が立った?」
愛は俯いて、
「…勝手にせえ」
と呟いた。
「自分の彼女でしょ。
盗られたくないなら、しっかり掴まえてなよ」
「カメ…」
里沙は、愛と絵里、ふたりの顔を交互に見た。
「ガキさんも」
絵里はじっと里沙の顔を見つめた。
「フラフラしてたら、今度は本気で襲うからね?」

220情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:06:44

ついてきて、と絵里に言われ、里沙たちは港に出た。

埠頭まで出て行き、海からの冷たい風に一瞬身を竦めた。

絵里が里沙の手を掴んで、素早く小指からリングを抜く。
そのまま、海に放り投げた。

「あ…」
音もなく、姿を消した。
声を上げたのは、里沙だった。
海の何処へ消えたのか。
もう、返ってこないだろう。

「じゃあね、おふたりさん。
ここから先は勝手に帰って」
絵里は小さく手を振り、歩いて行った。

221情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:07:43

絵里が去った後、里沙と愛は指輪を飲み込んだ海を見つめていた。
暗闇の中、コンクリートの岸壁にぱしゃぱしゃと打ちつける波に、愛は屈んでそっと手を伸ばす。

里沙は黙って隣で見ていたが、愛の横顔を見て息を呑んだ。

222情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:08:22

愛は泣いた。
声もなく。
里沙は何も言わず、ただ肩を抱き締める。


愛が顔を上げる。
里沙は目を閉じて、額に口づけを落とす。

迷いのない、そう信じる他ない、思い。
届くか分からない想い。

里沙は目を閉じて、ただ願う。

223情熱のキスをひとつだけ:2011/10/27(木) 22:09:06


情熱のキスを、ひとつだけ。



END.

224名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:17:43

スレ隠し

225名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:18:16

|||9|‘_ゝ≦)b<イエーイ!

226名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:19:26

     ショボン…   
|||9|´_ゝ`)<続けて書き込んだら、早漏すぎるってエラーが出たっちゃ

227名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:20:36

しょうがないから新垣さんのうちわで遊ぶっちゃ!>|||9|‘_ゝ‘)っ―○

228名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:22:26

|||9|*‘_ゝ‘)っ【||c| ・e・)|<ぽん、好きなのだ】

|||9|*^_ゝ^) っ□<生写真にも、サインもらったっちゃ!

229名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:23:04

从*´◇`)<いつまでやってるんだろうね!

230名無し||c| ・e・)|:2011/10/27(木) 22:24:20

ノノ∮‘ _l‘)<まったくですわ!

ノリ;*´ー´リ<みっしげさんがこっちを見てるような気がするヤシ…

231名無しカボチャ:2011/10/28(金) 00:37:03

|*・ 。.・)

232名無し護摩:2011/10/29(土) 20:37:25

フクちゃん生誕記念で。リアル設定です。

233デイドリーム・ビリーバー:2011/10/29(土) 20:38:14

雨は依然として降り続いていた。


「止まないっちゃね」
窓から外の様子を見ていた衣梨奈は、カーテンを閉めてこちらに戻ってきた。
「明日、晴れたらいいけど」
ベッドに寝そべって携帯を弄っていた聖も、顔を上げて言った。

明日はライブがある。
いつもなら大抵当日現地入りするのだが、台風の影響で前乗りして今ホテルにいる。

234デイドリーム・ビリーバー:2011/10/29(土) 20:39:17

「ちょっと伸びたね」
ベッドの隣に腰掛けた衣梨奈の襟足の辺りを、聖は触れる。
ファンクラブツアーでハワイに行った後、衣梨奈は長かった髪をバッサリ切ってショートにした。
長い髪も好きだったが、ショートも似合っているので聖はちょっと嬉しかった。

「あー、そろそろ切らんといけん。
ショートはマメに切らないかんけん、面倒っちゃ」
衣梨奈はめんどくさそうに言い、自分の頭に手をやる。
フフ、と笑い、聖は衣梨奈にヘッドロックをかける真似をする。
衣梨奈はケラケラ笑い、足をバタバタさせた。
ひとしきり笑ったあと、衣梨奈は聖の肩に凭れかかる。
「ん?」
聖は衣梨奈の方を向き、口にかかった髪を指でよけてやった。
「なんか、最近、ふたりになる時間なかったやん?」
衣梨奈が言った。
「あー、確かに…」
リーダーの愛の卒業ライブのリハに、取材、撮影。
今度から、10月にあるミュージカルの稽古も始まる。
衣梨奈はそれに加えて、不定期出演ではあるがテレ東の子供番組のレギュラーの仕事も始まった。
「なにを話したいってワケやないっちゃけど、聖とふたりで話したかったと。
電話とかやなくて」
「うん」
聖はそれだけ言って、
「聖も話があるんだけど」
と続けた。

235デイドリーム・ビリーバー:2011/10/29(土) 20:39:58

「なん?」
衣梨奈は顔を上げた。
「…付き合わない?」
聖が言葉を選びながら言うと、衣梨奈は聖から離れて座り直し、まじまじと聖の顔を見つめた。
「あ、イヤだったら…。
てか、ごめん」
「恋人になるってことっちゃか?」
「それ以外何が…」
聖が最後まで言う前に、衣梨奈は聖の腕を掴み、そこへ顔を埋めた。
衣梨奈が泣いてることに、少し経ってから気付く。
「えり…?」
顔を上げさせ覗き込むと、
「ヤバイ…泣きそう」
と衣梨奈は目を擦りながら笑った。
「もう泣いてるじゃん」
聖も微笑んで、指で涙を拭ってやる。

236デイドリーム・ビリーバー:2011/10/29(土) 20:41:02

「順番、逆になっちゃったけど。
勢いでやっちゃ…しちゃったような気もするけど、えりをずっと前から好きだから」
「いつ?」
「あー…いつだったかな」
衣梨奈の頭を撫でながら、聖は顔を上げて考える。
「いつかはハッキリ覚えてないし忘れたけど、ハロコンで9期発表した時、えりを綺麗な子だって思ったよ?」
「へえ…」
衣梨奈は目を丸くする。
「『聖って呼ぶね』とかいきなり言われるし」
聖がわざとちょっと意地悪そうに言うと、衣梨奈は声を上げて笑った。
「聖」
衣梨奈が目を伏せて、顔を近づけてきた。
聖はそのまま、顔を傾ける。
小さくキスして、すぐ離れた。
「左利きって」
「うん?」
「まず左で、抱き締めるっちゃね」
「あー…無意識だった。右がいいの?」
「どっちでもよか」
衣梨奈は微笑んで、
「えり、ここが一番好きっちゃ」
聖の腕の中に収まった。


END.

237名無し護摩:2011/10/29(土) 20:43:31

注:

・最近ブログの方で書いていたオトナなぽんぽん話の後日談です

・ふたりは既にオトナな関係(ry

・りほかのはその内出てくるかもしれません

・おやつは300円までです

238名無し団地:2011/10/30(日) 00:00:50

ノノ∮;‘ _l‘)<な、なんですの!?この名無し欄は!?

239名無し団地:2011/10/30(日) 00:08:58
从*´◇`)<ホントなんだね

240デイドリーム・ビリーバー Ⅳ:2011/11/06(日) 18:39:04

デイドリーム・ビリーバー 〜それすらも

241デイドリーム・ビリーバー Ⅳ:2011/11/06(日) 18:40:18

「お風呂入ってくるねー」
ツアー先のホテルで。
聖がそう言って着替えを持って立ち上がると、ベッドで携帯を打っていた衣梨奈は顔を上げて『ん』と答えた。

242デイドリーム・ビリーバー Ⅳ:2011/11/06(日) 18:42:46

約1時間後。
聖が髪を拭きながら出て来ると、衣梨奈はベッドに突っ伏して、携帯を握ったまま寝ていた。
キャミソールの裾もまくれて、お腹どころか胸も少し見えている。
「あーあー…もう」
聖は携帯を手離させて、
「えり、えり」
と揺する。
衣梨奈は顔にシートパックまでしていた。
「起きて。
ホラ、布団入って寝ないと。
風邪引くよ」
揺すられて、衣梨奈は一旦うっすら目を開け布団にごそごそ入る。
だがやたらと自分の顔を触り、
「パックが…ゴミ箱に入らんと」
(…ダメだ。寝ぼけてる)
聖はパックを剥がしてやり、そのまま傍のゴミ箱に捨てた。

243デイドリーム・ビリーバー Ⅳ:2011/11/06(日) 18:46:03

(…聖がお風呂上がるの待ってるうちに、寝ちゃったんだろうな)
衣梨奈はすぐ寝てしまうので、ホテルで同室になったら先にお風呂に入らせるようにしている。
衣梨奈の携帯をベッドサイドに置こうとして、ディスプレイが目に入る。
『えりぽん、頑張るけん
おうえん』
ブログの更新なのか、ここまで打って変換しようとして寝てしまったらしい。
「…いいや、このままにしとこ」
衣梨奈の携帯を充電器に繋いで、聖も布団に入った。
「…おやすみ」
前髪を直してやり、額に小さくキスして聖も目を閉じた。


END.

244名無しタンポポ:2011/11/06(日) 23:50:52

ノノ∮*‘ _l‘)< >239の香音ちゃん、ようこそですわ

245デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:02:07

ある春の日。
ツアー先のホテルで、聖は電気も消して寝床に入った。
隣のベッドでは、同期の衣梨奈が早々と寝息を立てている。
寝つきいいなー、と微笑ましく思いつつ、聖も目を閉じた。

246デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:03:43

夢を見る。

原っぱのような場所が目の前に広がったと思うと、甘い香りが漂ってきた。
「わあ。林檎だ」
聖は目を輝かせた。
林檎の木が重そうな実をつけて聳え立っていた。
「おいしそう…」
ひとつもいでみようかと腕を伸ばすと、
『汝に告ぐ』
何処からか声が聞こえた。
「わ、びっくりした。
誰?誰ですか…」
『その林檎は禁断の果実やよー。
食べたらアウトやよー』
「…あの、高橋さんですよね?」
『違うがし。
なあ、ガキさん?
あ…』
聖は微妙な気持ちで目を細めた。
笑っているわけではない。
「わあ、おいしそうっちゃ。
聖、取って食べると」
気が付いたら、衣梨奈が隣に立っていた。
「あ、なんか高橋さんが禁断の果実だから食べちゃダメって」
『食べたらアカンとは言うてへんやよー。
ただ、アウトやって言うたんやー』
「どう違うと?」
衣梨奈はツッコミを入れると、
「ま、いいと。
よいしょっと」
脚立に乗り、
「聖、下押さえてて。
衣梨奈、上の方の林檎取ると」
振り返って指示した。

247デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:05:17

「なんで上なの?」
押さえながら聞くと、
「だって上の方がお日様がよく当たってきっと甘いと」
「…衣梨奈ちゃんってたまにムダに知識あるよね」
「キウイは林檎と一緒に置くと甘くなると」
「へ、へえ…」
衣梨奈はふたつほどもいで、
『よいしょ』
と下りてきた。
「うん、いい匂いと。
いただきまーす」
カシッという音を立てて、衣梨奈は早速林檎を齧った。
「わー、食べた!」
迷いのなさに、聖はやや引いた。
「うん、おいしおいし。
聖も食べると」
差し出された齧ったあとのある林檎を、聖はちょっと怪訝そうに見る。
『てか、毒とか入ってたらどうすんの…。
あ、もしかしてこの子、先に毒見してくれた?
ああ、でもこの子、そういうの、微妙だしなー』
恐る恐る、差し出された林檎を齧る。
口の中に、林檎特有の酸味を帯びた甘さが広がる。
「うん…おいしい」
聖がそう言うと、衣梨奈は顔をくしゃくしゃにさせて笑った。

248デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:06:38

『ちょ、ガーキさんて。
この子ら、食べおったわ』
『あー、食べたねー』
新垣の声がしたと思ったら、地面に大きな葉っぱが落ちていることに気付いた。
『ハイ、アンタら。
禁断の果実食べちゃったから、このイチジクの葉で隠してー』
「え…この葉っぱ、新垣さんっちゃか?」
衣梨奈は近づいて行って、
『えいえい』とイチジクの葉をその辺にあった棒でつついた。
『ちょ!
破れるでしょーがー!』
葉っぱはマジギレした。
「あ…スミマセン」
衣梨奈は小声で謝り、しゅんとなった。
「あの、新垣さん。
隠すって、何を隠すんですか?」
聖が問うと、
『そりゃあ、見られたら恥ずかしいトコよ。
もう!なに言わせんのよ!』
「あの…聖たち、服着てますし」
『『あ』』
高橋と新垣の声が重なった。

249デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:09:38

『禁断の果実は、食べたら快楽を知ることになるやよー。
後戻りできんがし』
「はあ」
どっかで聞いた話だなあ、と聖は考える。
「えー、こわいっちゃね」
シャリシャリいわせながら、衣梨奈は林檎を食べていた。
『うっわー。
この子、ふたつめいったよ!愛ちゃん!』
「おいしいですよ?」
衣梨奈は悪気なく笑った。
「快楽だって。
どうする?聖?」
「…大して悪いって思ってないでしょ?」
「聖も食べる?
衣梨奈、もっともいでくるっちゃ」
「…とりあえず上がった時、スカートの中見えないようにしてくんない?」
「えー、聖のえっちー」
「いや、えっちじゃなくって」

そこで目が覚めた。

(…ヘンな夢だなあ)
聖は頭をかいた。
隣で衣梨奈は、ぐっすり眠っている。
寝顔を、ちょっと綺麗だと思ってしまった。

250デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:11:04

てか、リンゴを食べたのはアダムとイブだよね?
としたら。
…うちら、どっちがアダムでどっちがイブ?
まあ、どっちでもいいけど。


というか、この子、迷いなく食べてたな。
聖は衣梨奈の寝顔をまた見て、苦笑した。

まだ起きるには早い時間だったので、『ま、いっか』と聖は布団を掛け直して眠りについた。

251デイドリーム・ビリーバー zero:2011/11/10(木) 00:15:25


その日の朝。

起きてすぐ、昨夜コンビニで買い込んだパンなどでふたりで朝食を摂る。
衣梨奈はコンビニ袋をがさがさいわせて中から出し、
「えり、ゆうべリンゴのパン買ったと。
食べる?」
「え?」
聖はちょっとイヤな予感がした。
衣梨奈はひとくち齧り、聖に差し出した。
「うん、おいしいと。
食べなよ、聖」
「う、うん…」
衣梨奈が齧ってない部分を、恐る恐る齧る。
菓子パン特有の甘ったるい味と、甘く煮たリンゴの味が広がった。
「ね?
おいしかろ?」
「…甘い」
ぺろっと唇を舐め、指で口についた砂糖を拭った。
「まだついとうよ」
衣梨奈は手を伸ばし、聖の口許の砂糖を拭ってやる。
拭った指を、衣梨奈は舐めた。
聖は思わず目を丸くする。
「えへへ。
甘いと」
衣梨奈は満足そうに笑った。

『覚えとき。
禁断の果実を食べたら、もうアウトやよー』

夢の中の神様の声が、聖の頭の中に響いてきた。


END.

252名無し護摩:2011/11/10(木) 00:24:35

※禁断の果実→アダムとイブの話でおなじみのアレです。
       フクちゃんの夢では快楽の実となってますが、
       聖書では快楽ではなく、知識の実。
       よくリンゴというが、実はリンゴではないとか。

『アダムとイブ、禁断の果実食う→わー、ヲレらなんでまっぱなん!?』
て流れで、ふたりはいちじくの葉で恥ずかしいトコ隠したそうです。

蛇足ですが。

253名無し護摩:2011/11/10(木) 00:26:28

更に蛇足。
これはふたりが付き合うずっと前の話です。
ちょうど今年の春ツアーの頃なので、フクちゃんは夢の中でえりぽんを名前に
ちゃん付けして呼んでます。

254名無し護摩:2011/11/19(土) 14:37:18

※この話は、愛ちゃん卒業の少し前の話です。

255デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:41:02

――――数学の授業終了5分前。

衣梨奈はシャーペン握ったまま、意識が飛んだ。
気が付いたら、ガタガタ、と周りの子たちが席から立ち、一気に騒がしくなった。
一体自分はどこに行ってたのか。
頭を振って、教科書をしまった。
「宿題、最後に言ったよ。あと、明日小テスト」
友達が教えてくれる。
持つべきものは友だ。
衣梨奈は礼を言い、教えてくれた教科書のページとテスト範囲をメモした。

256デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:42:02

最近、いつもこんなだ。

衣梨奈はためいきをついた。

秋ツアー本番とミュージカルの稽古が始まってから、更に忙しくなった。
不定期ではあるが、おはスタ出演。
おはスタは生なので、その日は朝3時には起きて。

それと。
最近、聖と微妙に上手くいってなかった。

この前、聖の家に遊びに行き。
まあ、なんだかんだで聖の部屋で色々あって。
行為後に爆睡して夕方帰ったのだが。

それ以降、ギクシャクしてしまい、あまり突っ込んだ話をしていない。

聖は聖で、ミュージカルの稽古中に居眠りして先輩に怒られたり。
9期まとめて怒られたり。
なんだかスカッとしないことが続いていた。

257デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:43:04

衣梨奈は、眠気覚ましも兼ねて休み時間にてくてくと廊下を歩いた。

それにしても眠い。

明日はおはスタがある。
数学で小テストがある。
ミュージカルの稽古がある。
取材がある。
体育がある。

あと、なんだっけ。

考えたら、よけい眠くなってきた。

258デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:44:54

昼休みになった。

給食の時間は好きだった。
この学校の給食は量が多い。
食べきれないくらいだ。

同じクラスの友達は、聖のファンなのか、聖のことをよく聞きたがる。
「フクちゃんって、えりのこと普段なんて呼んでるの?」
「フクちゃんとどんなとこ遊びに行くの?」
「フクちゃんと一緒のツーショ見してー」

(みんな聖、好きっちゃねー。
いちおー、衣梨奈もアイドルなんやけど)

259デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:45:32

衣梨奈は知らない。

クラスの一部女子に、ぽんぽんヲタがいることを。
「やっばくない?ぽんぽんは奇跡だよ、奇跡!」
「いや、あたしはりほかの派なんだけど」

彼女らは、衣梨奈がいない時よくそう言っているのだ。

260デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:46:43

「あ」
放課後。
同期の香音を見かけた。
「おーい、スズカノー!」
ポニテ頭の香音はくるっと振り返って、
「先生に呼ばれてるからまたね」
と行ってしまった。

261デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:47:13

ちぇっ。
つれないの。
衣梨奈はちょっと拗ねる。

262デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:48:29

また歩いて行くと、他の女子と一緒に連れ立って歩いてきた、同期の里保とすれ違った。
衣梨奈には気付いたようで、すれ違う時、里保はチラッと視線を衣梨奈にやった。
里保は校内で会っても、結構素っ気無い。
たまに小さく手を振ってきたりもするが。

263デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:49:10

眠い。
眠い。
眠い。

なんか、聖に会いたくなってきたと。

眠い頭で、衣梨奈は考えた。

聖の肩先に凭れて、ちょっと休みたくなった。

264デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:50:09

(あ、いかんいかん。
ケンカしとるんやった。
…はあ)

衣梨奈はためいきをついた。

どっちが悪いとか。
どっちが謝るとか。

それを考えるのも、眠くなってきた。

(…まあ、稽古行けば会えるし)

そして今日もまた、お互い相手の反応見ながら、余所余所しい会話を交わすのだろう。

265デイドリーム・ビリーバー Ⅴ:2011/11/19(土) 14:52:47

「…みずきのあほーーーーー!!」

周りに知られないように、衣梨奈はカバンを振り回して小声で叫んだ。



END.

266名無し護摩:2011/11/26(土) 16:33:55

ぽんぽん話の番外編です。
9期デビュー前後くらいの話です。

267デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:35:31

『綺麗な子だなあ』
9期メンバーとして里保や香音とステージに上がってきた衣梨奈を見て、聖は思った。

268デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:36:28

正月恒例のハローのコンサート。
その日は、モーニング娘。のオーディションに合格したメンバーの初お披露目があった。
『やっぱ、こういう子が受かるんだな…』
聖自身は3次審査で落ちていたので、そう考えた。

269デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:37:24

「あと1名、モーニング娘。に参加させたいメンバー、決心しました」
「譜久村」

つんくに名前を呼ばれたとき、聖の人生は変わった。

270デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:39:24

新メンバーとしてモーニング娘。に加わり、日々の生活も多忙になる。
モーニングの忙しさは、噂では聞いていたが、話に聞くのと実際するのとでは大違いだった。

でも、エッグとして経験のある自分が同期の3人を引っ張っていかなきゃいけない。
聖は考えた。

元々東京にいる自分と違って、衣梨奈、里保、香音の3人は地方から上京しての加入だ。
特に里保と香音は、小学校卒業を目前にしての転校だった。

271デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:41:30

帰ってから、電話で他の子の泣き言を聞いたり。
ダンスや歌で分からないとメールで言ってきたことを、自分も復習しながら
返信したり。

そうやって日々は過ぎて行った。

272デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:48:26

ある日。

衣梨奈がその日、ダンスレッスンで先生に怒られた。
結構キツイ事を言われたので、聖も気にしてはいた。
帰ってお風呂に入り、部屋で髪を乾かしながら何となく携帯を弄っていたら、
着信があった。
衣梨奈だった。

最初はその日あった事とか雑談をしていたが、衣梨奈がふと、
「えり、やめた方がいいんやろか」
と漏らした。
「何が」
聖はちょっと怒った声で言ってしまう。
「これ以上やってもさ、なんか迷惑かけるって最近思うけん」
聖がしばらく黙ってると、泣き声がしてきた。
聖はどう言ったものか考える。
衣梨奈はすぐに泣くが、こんな泣き方は初めてだった。
「ねえ、ここまで頑張ってきたんだからさ。
頑張ろうよ」
電話の向こうで泣きじゃくる衣梨奈に、聖は言った。
すぐに返事しなかったが、やがて衣梨奈は、『うん』と泣きながら言った。

273デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:51:56

モーニングの活動に慣れてくると、衣梨奈は先輩の里沙に特に懐くようになった。
聖たち他の9期は、あまりの懐きっぷりに、苦笑いして見ていた。


そんなある日。
「そんなに好きならさ、言ってみたら?新垣さんに」
9期だけで話しているとき、そんな事を里保が言った。
香音も『こーくはーくー!』と盛り上がる。
衣梨奈は困ったように聖に視線を送ってきた。
あれは助けを求めてる目だ。
そう思ったが、聖は、
「まあ、そういうのは本人の意思だしさ」
とその場は流した。

274デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:53:34

その日の仕事終わり。

「聖」
楽屋で鞄や荷物をまとめていると、衣梨奈が声をかけてきた。
「ん?」
「えり、新垣さんとこ行ってくる」
「ああ、なんか分かんないとことか聞くの?」
衣梨奈は首を振った。
「正直に、えりが新垣さんどう思ってるか、言うてくる」
聖は言葉が出なかった。
「ああ…うん。行ってらっしゃい」
ようやっと、それだけ言って見送った。
衣梨奈は何も言わず、緊張した面持ちで部屋を出て行った。

275デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:54:26

そういや、私。
同年代の女の子を、綺麗って思ったことなかったな。
可愛いって思ったことはあったけど。


楽屋で待ってる間、聖は衣梨奈に初めて会った日の事を思い出していた。

276デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:56:10

衣梨奈が戻って来た。
ドアを閉めて、すとん、とドアに近い側の真ん中のパイプ椅子に腰を下ろした。
「言ってきた?」
聖が尋ねると、
「うん」
携帯をカチカチ弄り出す。
メールでも打ってるのだろうか。
テーブルの反対側の一番右端に腰掛けていた聖は、自分の携帯のディスプレイを眺めながらも、衣梨奈を時々見遣っていた。

聖はちょっとしてから異変に気付く。
傍目から見ても、衣梨奈は同じ箇所を打っては消し、打っては消し、としてるようだった。
見てられず、聖はガタンと立ち上がり、ドアの方へ向かう。
衣梨奈は聖を見ていたが、聖が自分の背後に回って立ったのを、首を曲げて
「なん?」
と問う。
「泣いていいよ」
それだけ言って、聖は衣梨奈を後ろから立ったまま抱き締めた。

277デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:57:27

衣梨奈は一瞬息を呑んだようだが、やがて堰を切ったように泣き出した。
「うえ…うぐっ…」
「ね、無理しなくていいからさ」
耳の近くで言って、聖は頭を撫でてやる。
「がま…我慢…」
「うん?」
「我慢…して、しとったのに…なんで」
しゃくり上げながら、衣梨奈が言う。
顔を近づけると、目も顔も真っ赤だった。
なんで、というのが、何に対するものか分からなかったが、聖は構わない、と思ってぎゅっと腕に力を込めた。
「しなくていいから」
聖しか見てないから、と聖は付け足した。

278デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:58:44

その数日後。

聖は仕事の空き時間に、サブリーダーの里沙に『ちょっといいかな』と呼び出された。
スタジオの外の、人気のない所に連れて行かれる。

「その、生田の様子どう?」
開口一番、里沙はそう切り出した。
「え…?」
「いや…知ってると思うけど、この前、あたし生田に告られたんだけど、
『好きな人いるから』って断って…」
里沙が言い終わらないうちに、
「どうしてそれをあたしに聞くんですか」
聖は思いがけず大きな声を出した事に、自分自身驚いた。
言われた里沙も、目を丸くしてる。
「…すみません」
踵を返し、聖は元来た道を歩いて行った。

279デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 16:59:42

『みずき〜!
新垣さん、ダンス褒めてくれたとー!』

『新垣さんにお菓子もらったっちゃ!』

『新垣さん、写メ撮るのうまいと!
聖も撮ってもらうといいったい!』

思い出すのは、いずれも笑顔の衣梨奈ばかりだった。
聖は悔しさに体を震わせながら、ぎゅっと拳を握った。

280デイドリーム・ビリーバー EX:2011/11/26(土) 17:04:55

楽屋へ戻れず、廊下の端の長椅子に腰掛けてやり過ごしていると、いつの間にか
衣梨奈が隣にやって来てすとん、と座った。


「新垣さんから話、聞いたと」
「えりぽん…」
「ありがとうっちゃ」
「――――え?」
「聖、えりのこと思って新垣さんに怒ったんやろ?
だから、ありがとうっちゃ」
「…ふ」
「なんで笑うとー?」
衣梨奈はちょっと膨れて、でも笑いながら聖の腕を叩いてくる。
やっぱり、この子はズレている。
聖は可笑しくなってきて、今度は声を上げて笑った。
「もー」
衣梨奈はぱしぱし叩いて、聖と顔を見合わせ、自分も声を上げて笑った。


END.

281デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:48:34

秋の日は暮れるのが早い。


聖は、はあ、とため息をついて稽古場のあるビルから出た。

最近、どうにも煮詰まっている。

近々、リーダーの里沙、先輩のれいな、9期4人が出演する舞台がある。
9月最終日に先代リーダー・愛の卒業ライブが終わり、今は連日舞台の稽古だ。
時間がないのはみんな分かっている。
しかしふとした時に油断は訪れるもので。
聖は稽古中に寝てしまったのだ。
演出家の先生が聖の演じるクレオパトラについて説明している時だったので、そのタイミングもまずかった。

9期は全員、里沙とれいなに呼び出され、ガツンと怒られた。
原因は自分なので、聖は他の同期3人に申し訳なく思った。

282デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:50:01

『電話してね』

彼女の衣梨奈にそれだけメールして、聖はベッドに突っ伏した。
この処、いくら寝ても疲れが取れない。
母には帰ったら早々にすぐお風呂に入れ、宿題をやれ、と言われ、少々うんざりする。

(衣梨奈とかみたいに寮に入れたらなあ)
天井を見上げながら、聖は思う。

衣梨奈たち上京組は、会社が管理している寮にいる。
寮と言っても女性専用マンションみたいなものだが、食事の面倒も見てくれる専任の人がいるらしい。
しかし各部屋の掃除までしてくれるわけではないので、衣梨奈や里保みたいな片付けの苦手なメンバーの部屋は
惨憺たることになっているとかいないとか。

(そういや、行くって言っててずっと行ってないな)
なかなか時間がとれず、付き合い出してからも衣梨奈の部屋には行けていない。

チラッと横目でベッドに放り出した携帯を見る。
着信は、まだなかった。

「…えりのバーカ」
携帯を充電器に繋げ、聖は頭から布団をかぶった。
もう、3日ほどこの繰り返しだった。

283デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:50:59

――――翌日。

「ごめん、聖ー」
稽古場で会うなり、衣梨奈は眉を下げて言った。
ゆうべも電話しなかったのを、気にしてるようだ。
「…もう!これで3日だよ!」
他のメンバーに知られないように、聖は小声で語気を荒くする。
「聖から電話くれたらいーやん」
「電話しても寝てるじゃん」
「うん、まあ。そうなんだけど…」
衣梨奈は困ったように笑う。
「電話してよ?」
「うん…」
衣梨奈は何か言いたそうだったが、敢えて聖は触れなかった。

284デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:51:37

――――その夜。

「…もう!」
聖はいい加減しびれを切らし、自分から電話をかける。
やっぱり、繋がらなかった。

285デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:52:41

「衣梨奈」
翌日、稽古場で会った時、聖はすぐ冷たい目を向け呼びかけた。
「あー、はい。
すみません…」
衣梨奈はただ、頭をかいて笑うだけだ。
「ごめん、最近ほんっとヤバイくらい眠いと。
稽古の後でよかったら、ちょっとくらいなら時間あるから話聞くと」
衣梨奈なりの気遣いなのだろう。
頭では分かっていても、聖は
「もう、いいよ」
スッと通り過ぎて稽古場に入って行った。

286デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:53:28

(自分は、どうしてこうなんだろう)
休憩中、ペットボトルの水を飲みながら聖は思う。
大事なものを、大事にしたいだけなのに。
衣梨奈を、困らせていることは分かっている。
でも、どうしたらいいのか分からない。

287デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:54:22

――――その数日後。
事務所に行く用があり、稽古の前に立ち寄った。
ビルから出ると、見覚えのある人物が手を振っていた。

「えり…」
「公園行くと」
近くの公園に連れて行かれ、衣梨奈は『ハイ』と何か袋を渡した。
「なに?焼き芋?」
「うん。
この前、香音ちゃんとか里保と食べたと。
すっごく美味しかったから、聖にも食べさせたげたいって思ったと」
気遣いが。
嬉しい筈なのに。
「…聖だけ、いない時に食べたんだ」
聖は俯いて言った。
衣梨奈は怪訝な顔で見ていたが、すぐ困ったように、
「え、だって、聖、そんとき別の…」
「もういいよ」
袋を衣梨奈に押し返し、聖はそのまま歩き出した。

288デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:55:06

その日。
帰ってから、聖は夕食も食べず、ずっとベッドで泣き通した。

289デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:56:24

――――翌日。
聖は稽古場への道を、重い足取りで歩いていた。
午前中学校で、月のものが始まったのだ。
今月はやけに遅く、その所為か普段よりきつかった。
(…何かお腹に入れて、鎮痛剤飲もう)
稽古場に入り、椅子に腰掛けて錠剤を水で流し込んだ。
幸い、まだ誰もいない。
長机に突っ伏して、痛みが和らぐのを待った。

290デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 14:58:47

「…みずき?みずき?」
意識が遠退きかけたとき、肩を揺すられた。
「あ…来てたんだ」
顔をこすって、体を起こした。
衣梨奈がじっと自分を見ていた。
「どうしたと?具合悪いと?」
「うん…お腹が」
「女の子の日っちゃか?」
「あー、うん」
「薬は?飲んだと?」
なかったらえり、持ってると、と衣梨奈は自分のカバンをがさがさ漁った。
「飲んだ。
大丈夫だから」
「うん」
衣梨奈の心配そうな顔を見てると、ふっと頬が綻んで、
「…ちょっとだけこうしてて」
座ったまま、衣梨奈の肩先に聖は顔を埋めた。


END.

291デイドリーム・ビリーバー Ⅵ:2011/12/11(日) 15:03:33

※これは『デイドリーム・ビリーバー Ⅴ』
(このスレの>>254-265

のちょっと後くらいの話です。愛ちゃんは卒業してます。

292デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:49:43



ご機嫌を損ねる、というのはこういうことか、と衣梨奈は最近身をもって知った。

293デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:50:15

最近付き合いだした――――同期の聖を衣梨奈が電話を返さなかったことが原因で怒らせてしまい、
他にも色んな出来事が絡まって、しばらくギクシャクしていた。

294デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:51:49

(…衣梨奈やって、怒ってたんやけんね)

少し前に聖の家に招かれて、日中、別室に他の家族もいるというのに、聖は自分の部屋で迫ってきた。
同意して身を委ねたとはいえ、どうにも釈然としないような気がし、しばらく聖と必要最低限の会話しかしなかったのだ。
(いつまでも怒ってるのも大人気ないかなー、やっぱ)
そう思い、劇場に通う日々は続く。

今、衣梨奈はミュージカルに出演していた。
新宿の南口から少し歩いた所にある劇場に、短期間ではあるが先輩の里沙やれいな、9期全員で出ていた。

数日前、稽古中に聖が少し体調を崩したことがきっかけで、若干仲直りはした。
聖も反省してるのかそれとも体調が原因で弱っているのか、一時の機嫌の悪さは収まっている。

295デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:52:23

(一緒にブログ用の写メ撮ったりはしとうけど、うーん)
衣梨奈は燻るように悩んでいた。

296デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:53:06

(両思いやと思っとったけど)
溜息をつきつつ、考える。
(…えりの『好き』と、聖の『好き』は食い違うと)

もやもやとする日々は続く。

297デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:54:17

ある日。

その日はたまたま休演日だった。
今日は少しはのんびりできると思って仲のいい友達と昼休みに給食を食べていると。

「ちょ、えりー!」
席を外していた友達がクラスに戻るなり、慌てて衣梨奈のところへやって来た。
「なん?」
「ちょっと、えりの同期のズッキと鞘師ちゃん?
2年の子に呼び出されてたよ」
「え?」
衣梨奈は食べかけのパンを皿に置いた。
「あの、なんてったっけ?
スマイレージに入った2年の子、あの子も呼ばれてた」
「それ…」
「まずくない?」
衣梨奈は少し躊躇したが、
「…行ってくる!」
席から立った。

298デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:55:20

校舎の裏に走って行くと、見覚えのあるポニテ頭が目に入った。
香音だ。
里保、スマイレージの香菜たちの先に、いい評判を聞かない女子たちがいる。
衣梨奈とクラスは違うが同じ学年の子が5人と、1年が2人いた。

「えりちゃん…」
先に、香音が口を開いた。
「ちょっと。
あんたら、この子らに何か用?」
走ってきた衣梨奈が息を落ち着かせながら言うと、
「やっぱ訛ってるよ」
グループのうちのひとりが小声で言い、数人がくすくす笑った。
衣梨奈は眉を顰める。
「えりの訛りはどうでもよか。
この子らに何か用なんかって聞いてるったい」
「ああ、あんたもモー娘。?」
分かっているだろうに、わざわざ尋ねる辺りに悪意を感じる。
衣梨奈の隣にいる里保が険しい表情をしているのが、横顔で分かった。

299デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:58:26

ふと顔を上げると、モーニングの後輩の亜佑美が走ってくるのが見えた。
「みんな!」
衣梨奈と同じように誰かにこのことを聞かされたのだろうか、焦った様子でやって来た。
「あ、またモー娘。来たよ」
グループの1年の子が言った。
「ちょ、オマエ、3年にヤバイってー」
と他の子たちは笑っているが、衣梨奈たちはちっとも愉快ではなかった。
「あ、先輩。宮城から転校してきたんでしたっけ?
ヒョージュンゴ分かります?ヒョージュンゴ」
続けるように言ってきた悪意を含んだからかいに、里保が怒った目を向けた。
「ちょっと何?
何でみんな…」
亜佑美の問いに、
「べっつにー。
このヒトたち、ちょっとゲーノージンだからデカイ顔してね?ってウチらの知り合いが言ってましてねー、先輩」
2年のひとりが答える。
衣梨奈は膝の横で握り拳を震わせた。
「それやったら里保とか香音ちゃんまで呼ばんでいいっちゃろ!
1年相手になん?
中西ちゃんと石田ちゃんなんか転校してきたばっかやん!」
「ウザイんだよ、オマエ!」
衣梨奈は一際体の大きな子に突き飛ばされた。
「オイオイオイ、ケガさせんなよー。
なんかあったらヤバイしー」
そう言いながらさっき亜佑美に答えた生徒が衣梨奈のシャツの前部分を掴み、
「おはガールかなんか知んねーけど、調子こいてんじゃねーよ」
そう言ってから後ろへ放り投げるように離した。
「もうやめてえやあ!」
香菜が泣き出した。
「うちらがあんたらに何かしたの!?」
「もう気が済んだでしょう?」
「暴力まで振るって、最低だよ!」
香音、里保、亜佑美は口々に言った。
衣梨奈は倒れたまま、ぼんやりとそれを見ていた。
「モー娘。なんて落ち目じゃん」
連中も飽きてきたのか、さっき衣梨奈にウザイと言って突き飛ばした生徒がさもバカにしたように言った。
「こんなブスが入れるなら誰でも入れるよ」
「あー、行こ行こ」
「生田さんに謝りぃやぁ!」
香菜が走って、衣梨奈を突き飛ばした生徒の腕を掴んだ。
「離せよブス!」
「謝りぃや!」
尚も食ってかかる香菜に、
「ここで歌って踊ったら?
そしたら謝ってやるし」
嘲笑が聞こえた。
みんな険しい表情になる。
衣梨奈は、
「うちらは…ファンの人らに楽しんでもらうために歌って踊ると。
そんなんで見せれん」
「金取ってんじゃん」
「親もおかしいよね、そんな仕事させて」
「卑しい商売だね」
フン、と鼻を鳴らし、衣梨奈に唾を吐き掛けて連中は言った。

「えりちゃん…」
里保は衣梨奈を抱き起こし、香音は黙って衣梨奈の顔の唾をハンカチで拭いた。
亜佑美は泣きじゃくる香菜の背中をさすり、慰めていた。

300デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 16:59:44

衣梨奈の武勇伝は、存外早くメンバーに伝わっていた。

その日、打ち合わせなどがあるので、学校を終え、衣梨奈は事務所に向かった。
廊下で、
「えり」
と聖が声を掛けてきた。

301デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 17:00:59

何となく、洗面所に向かう。
「聞いたよ、学校でケンカしたって」
と聖は囁くように言った。
「うん」
所在なさげに、衣梨奈は頭をかいて頷く。
「話伝わるの、早いと」
「ケガは?」
「あ、うん。
突き飛ばされたりしたっちゃけど、血は出ん…」
衣梨奈が全部言い切らないうちに、聖が強く抱きしめてきた。
強く抱きしめてはいるが、聖が震えているのが分かった。
「同じ学校じゃないんだし、いつでもそばにいて守ってあげれないんだから。
頼むから、無茶しないでよ」
聖が真っ直ぐ自分を見て、また抱きしめる。
「うん…」
衣梨奈は聖の肩に額をつけて、両手を彼女の背中に回した。
「聞いてる?」
「うん」
衣梨奈は小さく頷いた。

302デイドリーム・ビリーバー Ⅶ:2012/01/14(土) 17:01:51

「悔しかったと」
衣梨奈は呟いた。
「うん?」
「えりのことだけバカにするんならまだ我慢できると。
仲間とか親とか、モーニングとか、仕事とか、そんなんまでバカにされて…ばり、くやし…」
聖が黙って、衣梨奈の肩を掴んで押して、顔を上げさせた。
衣梨奈は手の甲で涙を拭う。
「えらかったね、我慢して」
「ちが…我慢しとらん…」
「うん?」
「自分らなんかに芸を見せれんって啖呵切ったと」
「フフ」
「なんで笑うと」
聖は目を細めて衣梨奈の頭を撫でる。
「頑張ったね」
お姉さんのように言い、聖が抱きしめてきた。
衣梨奈は何か自分の中の何かが溶けていくような気がして、また聖の肩に顔を埋めた。
顔を上げると、聖が両手で頬を包んできた。
そのまま目を閉じて口づけを受けようとすると人が入って来て、そのまま瞬時にふたりは離れて
何事もなかったかのように洗面所を出た。


「聖の彼女は、勇敢だよ」
廊下で、聖が前を向いたまま、ちょっとだけ手を繋いできて言った。


END.

303名無し護摩:2012/01/14(土) 17:07:58

※この話は『デイドリーム・ビリーバー Ⅵ』(このスレの>>281-290)の
後日の話です。
ちょうどミュージカル『リボーン』を上演してた頃です。
(というか、ヲレ、『リボーン』観てないんだけどね(;´∀`) )

304名無し護摩:2012/02/12(日) 14:09:05
 
ちょっと前に飼育のフリースレに書いたものです。

305くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:09:43


ある日、魔法をいきなり使えるようになったらどうするか。

306くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:11:36

何がきっかけか忘れたが、撮影の合間に10期でそんな話をしていた。

「はいはいはーい!衣梨奈はー、ハロショの新垣さんの生写真全部買うとー!」
「あ、それいいねー。
じゃ、聖は売ってるグッズ全部買うよ」
何故か関係ない9期入ってきてるし。
「ふたりに聞いてないし。
てか、欲まみれだし」
「くどぅーひどーい」
泣きマネするフクちゃんの非難はスルーして、『はるなんは?』とフッてみた。
「ええ〜?
やっぱあれかなー、道重さんのこともっと推したいし」
「はい終了〜」
強制終了してはるなんに『ええ〜!?』とおっとり不満の声を上げられてると、まぁちゃんがニコニコして
「雪、ふらす」
と言った。

307くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:12:57

「は?」
「まぁちゃん雪見たいから、雪降らす」
「寒いだけじゃん…」
なんかがっかりして呟くと、
「いいね、雪!
あたしも見たい!」
ダーイシが嬉しそうに手を叩いた。
そのまままぁちゃんとキャッキャ盛り上げる。
まったく、北国の人間は。
雪なんか今まで散々見てきただろうに。
はるなんも、ニコニコして見てる。
同期の年上ふたりは、まぁちゃんに甘い。
リアルに妹みたいなんだろうな。
「あんたたちは佐藤に甘いねー」
たまたま通りかかった新垣さんが、苦笑するように言った。
「くどぅーにも甘いですよ」
ダーイシが余計なことを言ったので、腕をパシンと叩く。
新垣さんはまた苦笑いして、スタジオの中に入って行った。

308くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:13:58

それは撮影の後だった。

まぁちゃんがスタジオから出て来た田中さんと、廊下でぶつかったのだ。
田中さんはジロッとまぁちゃんの方を見たが、何も言わないで足早に歩いてった。
「ちょっと!ちゃんと周り見ろって田中さんに前に言われたでしょ!」
「ごめんなさい」
「謝るんなら、はるじゃなくて田中さんにすぐ謝んなよ!」
「はぁい」
「大体まぁちゃんは!」
今までたまってた不満を全て吐き出した。
たまたまその場に居合わせた、えりぽんとかフクちゃんもオロオロしてたけど、構わず怒鳴る。
ありえないくらい不思議ちゃんだし、手の焼ける子だし、挨拶もなんかおかしくてズレてるし。

「ポクポクポクポク言ってんじゃないよ!」
「まぁちゃんそんなポクポク言ってないもん」
「勝手にすれば!」
勢い余って外に飛び出した。

309くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:14:49

吐く息がとんでもなく白い。

どんだけ寒いんだ。
見上げた空も、どんよりと曇ってる。
こんな芯から冷える日は、心も冷えてくる。
かじかむ指に息をふきかけて、わずかなぬくもりを得る。

310くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:15:29

まぁちゃん、雪が見たい。


ああ、ちょっとサトゴコロってやつが出てるのかな。
ちょっとでいいから、降らないかな。
降るとまた寒いけど。

311くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:16:03


その時。
顔に、冷たくて濡れたものがかすった。

312くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:16:39

雪だ。
ひらひらと、うすい氷のかけらみたいなのが空から落ちてくる。
「雪だねー」
気が付くと、いつの間にかまぁちゃんが隣にいた。
「内地の雪は、すぐとける」
「ナイチ?」
「北海道は、本州をそう言うの」
「ふうん」

とりあえず、願いはかなったようだ。

313くどぅーの願い:2012/02/12(日) 14:17:40




おわり

314名無し護摩:2013/07/13(土) 16:21:35

みっしげさんの生誕記念で。
去年某スレに上げたものです。

315夜想曲:2013/07/13(土) 16:22:21

『夜想曲』

316夜想曲:2013/07/13(土) 16:22:56

道重邸のバンケットルームでは、優雅にバイオリン曲が流れていた。


今日は、道重財閥の御曹司――――さゆみのバースデーパーティーだった。
御曹司ではあるが、心は乙女なので、ドレスを着用する予定だ。
ドレスはパリのデザイナーに作らせた完全オートクチュールで、価格は殆ど8桁に近い7桁だった。

さゆみは、学校の友人も招いていた。
一番の親友で幼馴染の亀井絵里、その彼女田中れいな。
中等部の後輩も数人。
そして。
飯窪財閥の令嬢、春菜にも義理で招待状を渡していた。

317夜想曲:2013/07/13(土) 16:23:27

『絶対行きます!
わあ、すっごい楽しみです』
ある日の昼休み、さゆみが直接招待状を渡すと、春菜は大喜びで受け取った。
『道重さん!わたし、ケーキ作って持って行きますね!』
キラキラした目で言われ、さゆみはちょっとげんなりしつつ、
『はいはい、適当に楽しみにしてるの』
スルー気味で手を振って教室に戻ったのだ。

321夜想曲:2013/07/13(土) 16:27:07

「う…殺人的な苦しさなの」
控え室でコルセットの紐をお手伝いさんふたりにぎゅうぎゅうに締め上げられ、さゆみはゼーハー、と荒い息を吐いた。
「坊っちゃん、学校のカレーパンが美味しいのは分かりますけどね、少しは控えないと」
道重邸で一番年長のお手伝いさんに言われ、さゆみは『分かってるの』と拗ねたように答える。
「ドレスを着る前に軽く食べておきなさい」
ハムサンドの載った皿を渡され、さゆみは
「こんな胃を締め上げた状態で食欲わかないの」
げんなり言う。
「今日は色んな方の接待で、始まったら食べてるヒマなんてありませんよ!」
「あー、はいはい」
仕方なく、ハムサンドを口にする。

322夜想曲:2013/07/13(土) 16:27:41

「…わあ!」
招待状を持ってやって来た中等部一同は、外も中も豪華な道重邸に歓声を上げる。
何度も来たことがある絵里とれいなは、後輩たちの様子を見て小さく笑う。
「すっげ!庭の噴水、ギリシャ彫刻みたいなんから水がどばどば出てる!」
と工藤遥少年。
「きっと風呂は大理石でライオンの口からお湯が出てくると!」
「もー、えりぽんはー」
生田衣梨奈は幼馴染の譜久村聖に軽く腕を叩かれて窘められた。
「生田は昭和なのだ!」
「生田もガキさんに言われたくないやろ」
高等部の新垣里沙にクラスメートの高橋愛少年がツッコんだ。
「なに、ここ!?
じ、自宅!?」
聖の友人、石田亜佑美も物凄いキレで辺りを見渡している。
「みなさま、ようこそ」
入口でさゆみの執事兼SPの黒服氏(通称クロ、クロさんなど)が出迎えてくれた。
「こんばんは。
お招きありがとうございます」
この中で一番裕福な家庭の子女である聖は、慣れた様子でドレスの裾を持ち挨拶する。
「おお!」
「お嬢様なんだろうね!」
聖と衣梨奈の幼馴染である、鞘師里保と鈴木香音は小さく驚きの声を上げる。
「若はもうバンケットルームにいらっしゃいます。
みなさまもどうぞ」
黒服氏はふと、
「飯窪様は…ご一緒ではないのですか?」
と一同を見て言った。
「はるなんは、ケーキがあるからお家の車で来るって言ってましたー!」
工藤少年の友人、佐藤優樹は元気よく答えた。
「左様でございますか。
では、先にご案内いたします」

323夜想曲:2013/07/13(土) 16:28:12

「ビ、ビフテキなんだろうね!?」
バンケットルームに通された中等部一同は、テーブルに並んだ料理の豪華さに驚愕していた。
立食パーティーなのでバイキング式ではあるが、見たこともないような分厚いステーキなどに香音や少年たちは『すげっ…!』と目を見開く。
「高級黒毛和牛のサーロインステーキでございます。サーロインの脂が苦手な方には、ヒレステーキなどもご用意しておりますので、どうぞお召し上がり下さい」
黒服氏に言われ、何人か肉にがっつきだす。
「僕たちも食べようか、れいな」
「そうっちゃね」
絵里は後輩たちのがっつきぶりにくすくす笑いながら、れいなに取り皿を手渡した。


「飯窪様は、ギリギリにいらっしゃるとのことです」
黒服氏はそっとさゆみに近づき、報告した。
「そう」
「屋上のヘリポートを貸してほしい、との連絡が来てますが、よろしいですか」
「…は?」
さゆみが一瞬ぽかんとすると、バラバラバラ、とヘリコプターの音が外から聞こえた。
「え、ヘリ?」
聖が窓に近づいて、空を見上げる。
「…また派手な登場してくれたの」
さゆみは手にしたシャンパングラスを黒服に渡し、バンケットルームを出て行った。

324夜想曲:2013/07/13(土) 16:28:48

「遅くなってごめんなさい」
ヘリで到着したのは、高等部の後輩・飯窪春菜だった。
「あなたね」
バンケットルームの外で、さゆみはあきれたように彼女を見た。
「ギリギリなのはともかく、ヘリで乗りつけるってどーなのよ」
「申し訳ございません。
道路状況から遅刻は免れない、と判断いたしまして、ヘリを使用いたしました」
春菜の執事兼SPの白服氏が答える。
「ああ、そう。
ま、招待した時刻に間に合ったのは褒めてあげるの。
ふたりともいらっしゃい」
さゆみは自ら扉を開けて、ふたりを入れた。

325夜想曲:2013/07/13(土) 16:29:39

春菜がバンケットルームに入って行くと、招待客の何人かがざわつき出した。
「おい…あれ、飯窪の!」
「今日来てるってことは…」
「そうか…道重とついに」
さゆみは小声で囁かれる客たちの勝手な推測に、『予想通りだな』と苦笑する。
道重の人間が、ライバルである飯窪家の娘を今日のような公の場に招待したら。
自分と春菜の婚約、道重と飯窪の合併。
普通の企業人ならこう考えるのが自然だ。
「ちょっと、おいで」
さゆみは春菜の手を引いて、また一旦部屋を出る。
廊下の隅まで歩いて行き、人目がないことを確認し、
「分かってるだろうけどね」
「はい」
「余計なこと、言わないでよ?
今日は、あなたのお家も取り引きしてるよーな、偉いおじちゃんたちとかいっぱい来てるから」
「重々承知してます」
春菜は真っ直ぐさゆみの目を見て微笑む。
「それと」
「ええ」
「絵里たちにも頼んどくから、身の危険を感じたら誰でもいいから頼って逃げなさい。
あの白服ちゃんの手も及ばないよーな目に遭ったら、さゆみが直接ボコるけどね…て、ナニ目、キラキラさせてんの」
「だって」
春菜は感激の余り、目尻にうっすら浮かんだ涙を拭い、
「好きな人にそんなこと言われたら、女の子は泣きますよ」
「勘違いしないでよ。
道重の人間として、招待した以上、責任があるからよ」
「いいんです、それでも」
春菜は泣きながら笑った。

326夜想曲:2013/07/13(土) 16:30:30

「とゆーわけで、さゆみの目が届かないところで飯窪さんになんかあったら頼むの」
さゆみは、絵里と愛を外に連れ出して春菜の護衛を頼んでいた。
「ラジャー」
愛は腕組みして壁に凭れ、ニヤッと笑う。
絵里も
「優しいねえ、シゲは」
アヒル口をいつも以上にニマニマさせる。
「飯窪さん、ちょっと痩せ過ぎな気もすっけど、普通にスタイルいいし、シゲ、好きなタイプなんじゃないの?」
ニヤニヤする愛に、
「…愛ちゃんでも、グーパンは辞さないの」
さゆみはしょっぱい顔をして、拳を突き出すフリをする。
「あ、こんなところにいた!
愛ちゃん、スーズキが呼んでるよ!」
里沙が扉を開けて中から顔を出すと、
「今行くがし!」
愛は『じゃ、行くやよ』と入って行った。


中等部の香音は、両手にマンガに出てくるような骨付き肉を持って幸せを噛みしめていた。
「香音ちゃんは他の誰よりもマンガ肉が似合うきに」
幼馴染の鞘師里保少年も絶賛だ。
「たかはしさん!
あたしいま、幸せです!」
「おー、そうかそうか。
食え、存分に食え」
愛は楽しそうに、香音の食いっぷりを見物している。
「はい!」
香音はマンガ肉に喰らい付いた。

327夜想曲:2013/07/13(土) 16:31:52

「うー。
こんなローストビーフ食ったん初めてやし」
生田衣梨奈少年は、肉をたらふく食べて腹をさすっていた。
「もー。
こんな場所でがっつくのはお行儀悪いって言ったでしょ」
幼馴染の譜久村聖は、横でずっと小言を言っている。
「せっかくカッコいい服、チョイスしてあげたのに」
聖は拗ねて、頬を膨らませた。


「…ハ、ハンバーグみたいに固めたお肉の中に、ゆで卵が入ってる…!
フランス料理だ!」
「あゆみさん…たぶん、違うと思います」
「ダーイシ、なんでもフランス料理にすんなよ」
石田亜佑美が後輩の工藤少年と佐藤少年にツッコまれていると、
「スコッチエッグは、イギリス料理でございます」
黒服氏が、さり気なく言って通り過ぎて行った。


さゆみはドレスの苦しさに耐えながら、方々の招待客に愛想を振りまいていた。
「本当に素敵なドレスですこと。
どちらでお求めに?」
「ええ、パリのデザイナーに作ってもらいまして…」
(ああー…マジで死にそー)
さゆみは笑顔を浮かべながら、心の中で呟く。
(なんなの、このドレス。
よく見たら縫製は雑だし、生地もボッタくった割には着心地悪いし、おまけになんか痒いの!)
通気性にも問題があるのか、さゆみは今すぐ脱いで、背中を掻きたくなった。
今日はさゆみのバースデーパーティーと、道重家と今度提携する予定のデザイナーの新作発表会も兼ねていた。
さゆみ自らモデルとなって、ドレスを各方面の著名人に見せる目的もあった。
(あー…絶対提携断ってやる。
早く脱ぎてー)
痒みと苦しさにげんなりしつつ部屋の隅に目をやると、ふと見覚えのある人物が視界に飛び込んだ。
(…あいつ!)
さゆみは咄嗟に、春菜の姿を追った。
春菜は見つからなかったが、絵里と目が合い、アイコンタクトでこっちに来るように合図する。

328夜想曲:2013/07/13(土) 16:32:29

さゆみは庭へ絵里を連れて出て行った。
「なに?」
「厄介なヤツが来てる」
「え?」
さゆみは苦々しい顔をし、指を噛んだ。
「バルコニーのそばに、ダークスーツに水色のネクタイをした痩せた男がいたでしょ」
「ああ」
絵里は思い出したように頷いた。
「アイツは、絶対飯窪さんに近づけないで」
「なんで」
「経済誌の記者だって言ってるけどね、どうだか。
さゆみが前、取材を受けたんだけど、無礼な質問ばっかするから大金払って掲載の差し止めしたの」
「へえ。
そっか、分かったよ」
絵里は頷いたが、
「なんで飯窪さんに?」
改めて疑問を口にした。
「嫌な予感がするの」
さゆみはまた、自分の親指を噛んだ。

329夜想曲:2013/07/13(土) 16:33:58

「そこのお嬢さん」
香音が顔を上げると、黒っぽいスーツを着た、痩せた男がいた。
「なんですか」
「君のお友達の、飯窪さんはどこにいるか知ってるかな」
「知らないんだろうね」
香音は素直に首を振った。
春菜とは今日はあまり顔を合わせていないので、嘘はついていなかった。
「飯窪さんとは、今日は来る時も別行動でしたし、さっき少し挨拶したくらいですわ」
たまたま居合わせた聖が、香音をフォローするように説明する。
「これはこれは、譜久村様のお嬢様で。
道重様とはお友達で?」
男の慇懃無礼な様子に聖は少々ムッとし、
「ええ、道重さんは学校の先輩ですわ。
仲良くして頂いてます」
最低限の答えを返す。
香音は分からないながらも不穏な空気を感じ、
「聖ちゃん、行こ」
と聖の袖を引っ張る。
「失礼します」
聖は頭を下げて香音と立ち去った。


「どうしてアイツが来てんの」
さゆみは、客人からは目につかない別室で黒服氏を問い詰めていた。
自分に無礼を働いた記者など、まずこんな場に来られない筈だった。
「申し訳ございません。
招待客はリストを作成した際、厳重にチェックしたのですが」
「ん。で?」
「今日は招待状を持った人間と一緒でしたら入れますので、何らかの手を使って、潜り込んだと思われます」
「客の誰かを脅したとかそーゆーの?」
「その可能性が高いです」
苦々しい気持ちで、さゆみは壁を睨みつける。
そういう手を使っていても、おかしくない人間だった。
さゆみは取材日に、例の記者に『ゲイでも、大企業のトップまでいけるんですね』と不躾に言われたことを思い出す。
よく目の前のコップの水を記者にかけなかったな、と自分で思う。
『夜のお相手は、若いイケメン社員の中からお選びで?』
この台詞で、完全にさゆみの堪忍袋の緒が切れて、『失礼、今日は帰ります』と席を立ったのだが。
「次からシステム変えてね。
もーゴメンだからね」
「はっ」
さゆみはドレスを翻し、部屋に戻って行った。

330夜想曲:2013/07/13(土) 16:34:40

「飯窪春菜さん?」
ダークスーツの記者の男は、壁際に立っていた春菜に声をかけた。
春菜は手元のマチのある紙袋を、思わずかばうように持つ。
「…どなたですか?」
「こういう者です」
男は名刺を取り出し、差し出した。
「はあ。
申し訳ありませんが、わたくし、まだ高校生ですので、名刺は持ち歩いておりません」
「いえ、構いません。
以後、お見知りおきを」
春菜はチラッと顔を上げて、白服氏を見た。
白服氏が行動を起こそうとしたその時。

331夜想曲:2013/07/13(土) 16:35:48

「…キャー!」
バンケットルームの中央で、爆竹が派手に鳴った。
連続して鳴り、部屋は混乱する。
「え…うっわ!」
室内の電気が消え、真っ暗になる。
爆竹の白い煙が方々で上がっていた。
「…こっち!」
春菜が戸惑っていると、聞いたことのある声がして腕を引っ張って行かれた。
「お、お嬢様…!」
白服氏が爆竹の煙にむせながら叫ぶと、
「アンタもこっちなのだ!」
か細い手に掴まれて、引っ張って行かれた。


「…高橋さん!」
春菜が分からぬまま連れられて部屋を飛び出すと、高等部の高橋少年が悪戯っぽく笑い、自分の腕を掴んでいた。
「荒っぽいマネしてごめんやよ。
ちょっと付き合ってもらうがし」
「え?え?」
春菜はそのまま引っ張って行かれた。


「だから、どーしてマンガ肉持って来るんじゃ!」
「ハラが減っては戦は出来ぬなんだろうね!」
里保にツッコまれながら、香音は両手にマンガ肉を持って緊急避難していた。
「せめて1本にしろよ!」
文句を言いつつ、里保は香音に『こっち!』と指示して走る。


「うへー、さすがに火薬くさいですよ?」
絵里は、バンケットルームに一気に爆竹を放り込み、火薬くさくなったジャケットを脱ぎ、裏庭で少しむせていた。
「絵里、大丈夫と?」
れいなは絵里の背中をさすってやる。
「愛ちゃんの作戦は雑ですよ?」
「だよね」
れいなと絵里は顔を見合わせて苦笑する。
「シゲん家に前に遊んだ爆竹の残りがあって、まあよかったですよ?」
さゆみに春菜の護衛を頼まれた後、絵里は冗談半分に愛に
『いざとなったら、シゲの部屋にある爆竹でも鳴らしますよ?』
と言ったところ、
『その案、採用やし』
とあっさり絵里の冗談が通ったのだ。
さゆみ曰く自称・経済誌、実際はゴシップ誌の記者が現れ、本格的に春菜に困った事態が近づいているのを悟ったため、愛は絵里に、
「あとは任せた」
と爆竹に火を点けるよう言ったのだった。
「飯窪さん、逃げれたやろか」
「んー、愛ちゃんが転んでなきゃ」
「はあ、れな、疲れたと」
「どっかで休憩しますよ?」
れいなの手を引いて、絵里は自分の肩にジャケットを引っ掛け歩き出した。

332夜想曲:2013/07/13(土) 16:36:23

春菜はある建物まで連れて来られた。
こじんまりとしてはいるが、家のようだ。
「…ここは?」
「じゃ、グッドラック」
「高橋先輩!」
彼はニッと笑って、上着を引っ掛けて歩いて行った。
「こっち」
急にニュッと手が伸び、春菜は思わず
「ひゃっ!」
と身を竦める。
「なんて声出すの」
さゆみはあきれ顔で言った。
「道重さん!ご無事でしたか!」
「愛ちゃんからのメールの指示で先にここに向かったから、部屋の有様はまだ見てないの」
『爆竹投げ込んだんだって?』とさゆみは続けた。
「ええ、急に爆竹が何発も部屋で鳴ったと思ったら、電気も消えて…」
「何やってくれてるの、たく」
おいで、とさゆみは春菜の手を引いて、建物に入って行った。


「ここは?」
部屋に入り、春菜は天井を見上げた。
「まあ、普通の家でいえば離れっていうのかな。
さゆみのもうひとつのプライベートルームみたいなモン」
「まあ」
さゆみはヒールを脱いで、ソファーに『やれやれ』と腰掛けた。
「落ち着くまでここにいていいの」
座ったまま、さゆみは自分の正面のソファーを指す。
「すみません」
春菜はドレスの裾を整え、自分も腰掛けた。
「ちょっと着替えてくるの。
やれやれ、やっと脱げるの」
言うや否や、さゆみはその場でジッパーを下ろしドレスを脱ぎ捨てた。
「み、道重さん…!」
春菜は赤くなり、手で顔を覆う。
しかし指の隙間からしっかり見ていた。
コルセット、ガーター、ストッキング。
次から次へ脱ぎ捨て、パンツだけになる。
(じょ、女性用なんですね…!)
春菜はしっかりそこまで見ていた。
「風呂って来るの!」
大股で歩き、さゆみはバスルームへ消える。

333夜想曲:2013/07/13(土) 16:37:15

約10分後、シャワーの済んださゆみがバスローブを着て出て来た。
「あ〜、解放感!」
さゆみは心底嬉しそうな声を上げる。
ソファーのそばのクローゼットを開け、中の服を吟味する。
「やはり、ドレスが窮屈でしたか」
春菜はやっぱり、という顔で呟く。
「当たり前なの。
大体、さゆみも男のはしくれなんだから、あんなにコルセットで女のウエスト作るためにギューギュー締められたら死ぬの。
あー、このクソドレス、もう二度と着てやんないの」
「そもそも、サイズが道重さんに合ってないような…」
「よく気付いたの。
微妙に寸法測るのミスってるの」
「そうでしたか…」
さゆみはしばらく春菜の顔を見、
「着替えたら、ちょっと付き合ってほしいの」
服を手にし、後ろを向いて着替えだした。



「どちらへ行かれるんですか」
「まあ、普通に招いた客は行かないよーなところ」
さゆみは春菜の手を引いて、
「足元に気をつけるの」
彼女のペースに合わせて歩いて行く。

334夜想曲:2013/07/13(土) 16:38:45

さゆみはある建物まで来るとカメラのような装置の前で『向こう向いてて』と言い、オートロックの番号を打ち込んだ。
電子錠が解除される。
ここは、道重財閥で働く人間の事務棟だった。
「虹彩認証とキー入力の両方ですか。
さすが厳重ですね」
「余計なことは言わなくていいの」
さゆみは振り返り様、春菜を軽く睨みつける。
長い廊下を歩いて行き、財閥のスタッフの詰所の前まで行く。
「ここは、スタッフルームのようなところですか」
「家に帰って内情バラすんじゃないわよ」
「言いませんよ」
さゆみはポケットから財布を取り出し、廊下の自動販売機にコインを入れる。
「何にするの?」
「え…」
「言わないんなら、あなたの嫌いそーなのにするわよ」
「ええ〜!じゃ、じゃ。烏龍茶でお願いします!」
さゆみはニヤリと笑って、烏龍茶のボタンを押した。
自分はコーラを買い、廊下の長椅子に春菜と並んで腰掛ける。
「静かですね」
「んー」
コーラを口に含み、はあ、と息をついた。
「道重さん、そういう服も着るんですね」
さゆみは、上こそ薄いピンクのTシャツだが、下はカーキ色のカーゴパンツだった。
足元は絵里やれいなと買物に行った時に選んだ、白のビルケンシュトックのサンダル。
いつもと違うさゆみに、春菜は頬を綻ばせた。
「言うんでしょ、『アイツ、家では女装してないんだぜ?』って」
「言いませんよ」
「ところで、あなた、そのずーっと持ってる紙袋、ナニ?」
春菜がさっきから持ち歩いていて、今は横に置いてる紙袋を、さゆみは怪訝そうに指した。
「ケーキです」
「…は?」
「今日、持って行くって言ってたケーキです」
「…マジで?」
春菜はニコニコして、自分の膝に紙袋をのせた。
「お誕生日、おめでとうございます」
「…うん」
さゆみは、春菜から紙袋を受け取った。
「開けていいの?」
「ええ」
さゆみはケーキボックスを取り出し、上蓋を上げ、途端に吹き出す。

335夜想曲:2013/07/13(土) 16:39:21

「ちょ…!
ぐちゃぐちゃじゃん!」
「あー…。
やはりさっきの爆竹騒ぎで」
春菜は気まずそうに笑う。
「『みちしげさん、世界でいちばんカワイイです!!』ってなんだこりゃ!」
チョコプレートに書かれた文句に、さゆみはまた大受けする。
「偽らざる本音です。ていうか、事実です」
「ハッハ!
ありがとね」
さゆみは添えてあったプラスチックのフォークを持って、大口開けて食べだす。
「うん…味はいいの。
ちょっと甘いけど」
「ありがとうございます」
春菜は嬉しそうに笑う。
「こんな…地味に残念なプレゼント、初めてかも」
残念、と言われ、春菜は『え〜、そうですか?』とさゆみの顔を覗き込む。
さゆみは、言葉とは裏腹に、微笑んでいた。
こんな優しい目で微笑まれたことがなかったので、春菜はちょっと目を丸くする。
「豪華なプレゼントならいくらでもあるけど、こんなぐちゃぐちゃでおいしいケーキ、初めてなの」
フフ、と笑い、さゆみはまたケーキを口にする。
「ここまでぐちゃぐちゃになるのは計算外でしたが…」
「この先、こういうプレゼントを貰うことはないだろうから、貴重なの」
「道重さん…」
春菜は切なそうな顔になり、
「わたし」
と切り出した。
「え?」
「これから毎年、道重さんのお誕生日にケーキを作ります」
「…なんで?」
「豪華なプレゼントをくださる人はこの先、たくさんいると思います。
じゃ、わたしは残念なケーキを毎年作って、道重さんに笑って食べてもらいます」
「あのね…もし、わたしの婚約者とか奥さんがイヤがったらどーすんの」
さゆみは溜息をついて、フォークをケーキのそばに置いた。
「あ、そう…ですね」
春菜が俯くと、
「まあ…それくらいで文句言うようなケツの穴の小さい女、道重の家にはふさわしくないけどね」
さゆみは髪をかきあげて、フォローのつもりか悪態をつく。
「ご結婚なさるおつもりなんですか」
春菜の素朴な疑問に、
「まあ、まだ高校生ってことで免除してもらってるけど、どこぞの令嬢との縁談がわんさか待ち構えてるの」
「そうですか…」
「わたしの役目のひとつは、跡継ぎを作ることだし」
さゆみは缶コーラを手に、どこか焦点の定まらない目で前を見た。
「道重さんの好きな女性と…」
春菜が全部言い切らないうちに、
「そんな自由あると思う?」
前を向いたまま、跳ね除けるように言った。
「好きな女が出来たところで?
うちの親が認めないような女だったら?
何処かへ連れて逃げて六畳一間のボロアパートででもひっそり暮らせと?」
「……そんなこと」
「道重の家を捨てれると思う?」
「思いません」
春菜は小さな声ではあったが、はっきり言い切った。
さゆみは思わず目を丸くする。
「あなたはこのカンパニーのスタッフも、その家族も、捨てやしません。
勿論、ご自分の家族も。
最後までトップとして責任を取ろうとするでしょう、きっと。
そんなあなただから、好きになったんです」
さゆみはコーラをぐっと飲み干した。
ぐしゃっと缶を握りつぶし、
「…バッカみたい」
春菜に分からないように、涙を流した。

336夜想曲:2013/07/13(土) 16:39:59

「若、そろそろお戻りください」
いつの間にか、黒服氏がそっと跪いてそばに控えていた。
春菜は声にこそ出さなかったが、さすがにびっくりする。
「やれやれ。
戻らなきゃダメ?
さゆみ、もーあのデザイナーのドレス、着たくないんだけど」
てか、自分の関わったプロジェクトなのに、『スケジュールの都合で欠席』ってナメてんの、と、さゆみはデザイナーをこき下ろした。
「会場もどうにか落ち着きましたし、どうか」
「はいよ、はいよ」
さゆみは欠伸をして立ち上がり、
「そこのお嬢さん、連れてってあげて」
長財布をズボンの後ろポケットに突っ込み、ひとり歩いて行った。


黒服氏に連れられて戻る際、春菜は
「あの…うちの者は」
白服氏が気になって尋ねた。
「お付きの白い方は、新垣様が誘導されて安全な場所に避難されました」
「そうですか…よかった」


春菜はバンケットルームで聖たちと合流した。
「はるなん!どこ行ってたの?」
聖は『無事でよかった』と春菜を軽くハグした。
「ええ、高橋さんに連れられて避難してたの」
「お嬢様!」
白服氏が里沙に連れられてやって来る。
「よかった、無事だったのね」
「申し訳ございません」
「いえ、構いません」
ふと、扉の辺りから歓声が沸いた。
顔を上げると、さゆみが真紅のドレスを身にまとって立っていた。
先程の淡い色のドレスとはまた違ったデザインだった。
「道重さん!」
聖が目を輝かせて、頬も紅潮させる。
「うっわ!
お色直しっちゃか!てか、フツーに違和感なくて逆におかしいっちゃ!」
れいなは腹を抱えて笑い出す。
「だよね」
横にいた絵里も、笑いをこらえつつ、親友の勇姿を見届ける。

337夜想曲:2013/07/13(土) 16:41:27

(さて、さゆみの本領発揮といくの。
世界でいちば〜んカワイイさゆみを、存分に見せつけるの!)
さゆみは微笑みを浮かべ、招待客すべてを見渡す。
「道重さん…カワイイ、すっごくカワイイ」
興奮気味の聖、そんな聖をちょっと悲しそうに見る衣梨奈の横で、
(道重さん…世界で一番かわいくて、そして)

世界で一番、カッコいいひとです

春菜は微笑みながら、目を伏せた。


fin.


おまけ


愛が春菜を連れて、さゆみの離れの家に向かっている頃。
「…うっわ!」
暗闇のどさくさに紛れて、優樹は件の記者にバンダナで素早く目隠しした。
彼もやはりメールで愛から指示を受けており、たまたま持って来ていたハンカチ代わりのバンダナを使った。
「なにすんだ!」
「じっちゃん、こっちだよ!」
遥はやはりどさくさに紛れて男の腕を引いて、門の外まで連れて行く。
「さ、これに乗って逃げて!」
「な、なんだ?」
男は、知らぬ間にタクシーに乗り込んでいた。
「はい、成田空港まででしたね。
毎度ありがとうございます」
「え…」
あれよあれよという間に、男は道重邸から遠ざかって行ったのだった。
そして頭には何故かマンガ肉がのせられていたとかいないとか。

从*´◇`)<おじさんイヤな人だから、おみやげがわりに香音がビニールでしばってのせたんだろうね!



今度こそfin.

338名無し護摩:2013/07/13(土) 16:47:45

☆補足

・当然アンリアル

・メンバーの何人かは男

・みっしげさんは財閥の御曹司、飯窪さんは敵対する財閥の令嬢でみっしげさんに
ベタ惚れ

・みっしげさんの本命はかめーくん(無論男)。飯窪さんに言い寄られて
ウザがってるけど悪い気はしない

・56期は高校生、910期は付属中学の後輩(エスカレーター式の学校)

・だーいしはそんなに貧乏じゃない

339名無しタンポポ:2014/04/12(土) 17:48:08
工藤さん視点です。

341くどぅーの想い:2014/04/12(土) 17:53:25

魔法キャラっていったら、あのヒトか

342くどぅーの想い:2014/04/12(土) 17:55:08

「ちちんぷいぷい、魔法にかーかれ! あー、かかっちゃったー!」 「てか生田さん、投げっぱッスよソレー!」 てツッコむと、譜久村さんも 「だよねー」 と同意してくれる。 「ズルイっすよねー」 「聖も思うー」 生田さんは、苦笑いして部屋を出てった。

343くどぅーの想い:2014/04/12(土) 17:55:57

「なんかえりぽん、魔法禁止令出てるらしーよ」 ライブ後にハミガキしながら、鞘師さんが言った。 「へー。 マジですか」 「うん。 なんかね、言われたみたい」 淡々と言いながら、ハミガキする鞘師さん。

344くどぅーの想い:2014/04/12(土) 17:57:04
「くどぅー、どぅー!」 甲高い声が廊下から響く。 なんだよ、うっせーな。 「おー、コッチ。 なんだよ、まーちゃん」 楽屋のドアを開けて顔を出すと、 「コッチ!」 を手を掴んでいきなり走り出した。 「なんだよ」 「いいから!」 まーちゃんはまた振り回す。 くるくる、くるくると。

345くどぅーの想い:2014/04/12(土) 17:58:10

「じゃーん!」

眼の前に、でかい空が広がる。 コンサートホールの入ったビルの、けっこー上の階まで連れてかれて。 映画館のスクリーンみたいな、おっきな窓があって。 そこから、青空が広がっていた。

346名無しタンポポ:2014/04/12(土) 18:02:28

「おー、すっげ」 嬉しくて、窓に近づいてあちこち見渡す。 まーちゃんは、隣で同じように見てる。 「どぅー」 「あ?」 「まさね、女の子だよ」 「…知らなかったとでも?」 「だーかーらー!女の子なの!」 「なんでキレてんだよ!」 「だって、どぅーなんか」

347名無しタンポポ:2014/04/12(土) 18:03:08

どぅーの中には、男の子と女の子がはんぶんずついて いっつもケンカするから、どぅーはつかれちゃうんだよ

348くどぅーの想い:2014/04/12(土) 18:04:48

言われて、あぜんとした。 何言ってんだ、コイツ。

「だから、まーは女の子なんだよ」 「…あのー、佐藤さん。 なんか疲れたから戻っていっすか?」

349くどぅーの想い:2014/04/12(土) 18:05:49

返事も待たず、楽屋へ戻る。 なんなんだ、このスカっとしない気持ちは。

そうだ。 帰ったら、生田さんにスカっとする魔法でもかけてもらお。 効くかわかんねーけど。 そんで鞘師さんにサイダー分けてもらお。 うんうん、それがいい。

おわり

350名無しタンポポ:2014/04/12(土) 18:07:38
以上です。
タイトルを途中で消してしまいました。
失礼しました。


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