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第1回8番(10)将紀神ピュクティエト
:2008/03/07(金) 04:06:12
果たして、アルスタは間もなく数人の供を連れて戻ってきた。出て行く前と比べて明らかに焦燥の色が濃いのは、『石板』が破壊されているのを見たアルセスの憤慨の表れだろうか。しかし、顔を見せた途端にメクセオールに捕らえられたことに関しては、激情よりも唖然としたものが先に立ったようである。
「アルスタさん、悪いんだが、少しの間こうやって縛らせてもらう。この竜が言うには、あんたはアルセスの意識に取り憑かれているらしいのだ。これも妹さんのためだと思って、せめて夜明けまで辛抱してもらいたい」
事態が飲み込めたところで、ようやくアルスタは激昂した。ここで取り乱さず、竜の言葉に一理を置いて、念のためにと朝まで耐える選択もあったろう。しかし、アルスタの中のアルセスは、そういった可能性に目を瞑らせてしまう。
「貴様ら、このままでどうなるか、分かっているのだろうな。妹に何かあったら、契約は破棄させてもらうぞ」
「もし私の行為が見当違いだったら、そのときは契約金を反故にした上で違約金と慰謝料まで払うつもりだ。もちろん、隊の者たちの捜索は続けさせる。制限されるのは、あなたの体ひとつだけだ」
メクセオールが何を言ってもアルスタは納得しないが、アルセスが裏にいる以上これはもう仕方ないだろう。
私は待った。アルスタは依然喚き続けているが、どこかの瞬間でアルセスの意識は彼から離脱するはずだ。そして、目の前のファーゾナーへの侵入を試みる。『石板』に戻って修復を行うという手段も彼にはあったはずだが、こんなに遠く離れた場所で捕らえられては、それももはや不可能だ。どんなに強引でも、今のアルセスにはファーゾナーの内部ワイアードを強硬突破して上位次元に脱出する以外の道はない。
ふと、アルスタの激情が収まった。糸が切れたようだった。自分が一体なににそこまでこだわっていたのか分からないという風に、アルスタはきょとんとして周りを見渡している。文字通り、憑き物が落ちたと呼ぶのがふさわしい状況だろう。アルスタから、アルセスが離脱したのだ。
私はファーゾナーの内部を探査する。飛び出してくるその瞬間は逃したが、奴はまだこの内部ワイアードのどこかに潜んでいるはずだ。上位次元へのルートを一気に突っ切るかと思っていたが、しばらく息を潜めて様子を見る気か? どこだ、アルセス。どこだ?
……馬鹿な。アルセス、どこへ消えた?
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