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第1回8番(6)ソルダス=フエゴレット
:2008/03/07(金) 03:42:37
ソルダスという男は、普段は同じ話をぐるぐると続けながら何度も聞き込むことでようやく核心が理解できるような話し方をするくせに、ときどきこのように内容が飛んでぜんぜん違う話が始まってしまうこともある。そんなことだから、彼はますます聞く者を混乱させてしまうのだ。
「なんで、そこでそういう話になるんだよ」
「つまりですね、兄貴は竜と戦えるという話でこの仕事を受けたのに、それが流れちまいそうで釈然としない気持ちがあるわけですよね。でも、兄貴には分別があるから、たとえば、今から意味もなく竜に斬りかかるような真似はできない。その辺の心の整理がつかなくて兄貴も混乱してるんだと思うんスけど、そういうときは問題の根っこのとことよく見つめてみるのがいちばんだと思うんですね」
ここでソルダスは"竜と戦えなくなったことが釈然としない"というメクセオールの心持ちを正確に言い当てていた。これはメクセオールがアルスタの依頼に躊躇する原因の核心であり、本人もあまり自覚できていない重要な認識のはずなのだが、ソルダスはこういう肝心なところをあっさり流して話を先に進めてしまう。
「それで、兄貴にとって今の問題の根っこっていうのは、あの竜のことになるんですよね。だから、兄貴は一度竜と会ってみたらどういかと思ったんスけど。別に、退治とかする必要はなくてえですね、なんつうか、お互いじっくり話でもしてみるといいんじゃないか、とか思ったわけで。ええと、兄貴はそういうのどうですかね。あの竜は話も分かるみたいだし、今から一晩くらい腹を割って何か言うことができれば、兄貴もけっこうすっきりするんじゃないかと思ったんスけど」
「すみません、よく分からないのですが」
堪りかねたように、アルスタが話を遮った。事態は一刻を争うしもうこれ以上無駄な話をするなという意図だったのだが、ソルダスの方は言葉を字面通り受け取って、更に詳細な解説をしなければと考えを巡らせはじめた。
「ええっと、分かりませんかね。つまり俺が言いたいのは、」
「いや、分かった。それで行こう」
突然、メクセオールが顔を上げてソルダスを肯定した。アルスタには理解できなくとも、当事者であるメクセオールはソルダスの意図をかろうじて汲み取ることができたらしい。
「うちの連中は、今すぐに叩き起こして妹さんの探索に向かわせる。ただし俺はここに残って、あの竜と話をさせてもらう。アルスタさん、そういうことでどうだろう」
アルスタは面食らっていたが、火急の用である勇士たちの出動が叶うならもう細かいことはどうでもよさそうだった。約束を取り付けると、メクセオールはすぐに仲間たちの部屋を回り、緊急の仕事を伝えていった。ソルダスはこれに付いて喜び勇んで大騒ぎし、寝ぼけ眼の勇士たちが早々と正気を取り戻すことに貢献した。実際、メクセオールを熱烈に慕うソルダスは何とかして彼の力になりたいと常日頃考えていたのだ。先の提案はそんなソルダスだからこそ出来たものであるし、またそれが受け入れられたことによる彼の喜びようもごく自然なものではあった。
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