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三題話もしくは二題話スレッド

53ようじょ 沐浴 致命的失態:2008/02/25(月) 01:31:45
焦茶色の半ズボンから覗く膝小僧に、対峙する女のそれと共通する色を見出せた。黒のサスペンダーの留め金は可愛らしい犬のそれ。
敢えて犬を選ぶは男子の矜持か、はたまた嗜好か。丸眼鏡と坊ちゃん刈りの男、彼の背格好は敵対者たる女のものとさほど変わらぬ。
暗殺者は、ショタであった。
振り向くや否や掌底を繰り出したセラティスは瞠目する。
シェロンは、渾身の一撃をいとも容易くいなすと反撃の一手を打ち出したのである。咄嗟の飛び退きにより回避するも。衝撃は覚めやらぬまま、セラティスは低く構える。
(げに恐るべきは、あの足腰よ)
見やれば、細こい膝小僧の下、鋼のように地に楔を打つ皮の靴。まるで大地そのものを味方に回したかのような重々しい体重移動、そして恐るべき一撃。
紛れも無き達人の業である。セラティスとて母の胎の中から拳を打つ鍛錬を欠かした事はなかったが、しかし相対者の構えの磐石振りには迂闊に手が出せぬ。
だがセラティスは相手に間断を与える心算は無かった。躊躇は即ち死へと繋がる。思考は下策である。己が鍛錬をのみなぞり、迷うことなく拳を振るえば良い。それが幼きものの在り方である。
確信を持って放たれた打撃、反じて交差する衝撃が水飛沫を散らし、静謐を引き裂き激突する。
それは美事な舞踏である。武闘とは交錯する業と体躯を運ぶ技の複合であり、完成されたそれは世にも美しい線を大地に描くのだ。
舞姫もかくやという足捌きにて川の中を駆け巡る男と女、両の戦士は牙を向け合い、延々と踊り続けた。
と、シェロンの足並みが乱れる。それは致命的失態であった。周囲の水気の存在すら忘れ、武の交わりに熱を上げすぎた報いであろう。跳ね上がった水の一筋が少年の白いシャツを濡らし、透かした先の肌が露わになったのである。
好機也。セラティスの獣の本能が告げる。
「キェェェェェ」
裂帛の気合。奇声と共に打ち出される拳は猛然と虚空を撃ち抜き、音すら置き去らんほどの勢いで少年の頬を捉える。
野獣の一撃である。たまらずシェロンがのけぞると、木々を打ち鳴らしはたき壊しながら吹き飛んで行った。
「うつけめが」
吐き捨てる声は、どこか苦い。拳を振るう者の宿命か、打ち倒された相手への哀切がその瞳をふと過ぎったのだ。
しかし勝利の感傷に浸る間もなく、セラティスは自分が沐浴の最中であったことに気がついた。
気がついてしまった。
風邪を引いて寝込んだ。
「うー。ずびずび」


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