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物語スレッド

63Qlairenose fim te Ers(7):2006/08/08(火) 23:23:47
荒野に響く金属音が、その速度を増していく。断続的だった音の間隔は徐々に狭まり、風を斬る刃の音は更に鋭さを増していく。
空を舞う二つの人影は、一見クレアノーズが圧しているかに見えた。
片翼とはいえ、まるでフェーリムさながらに天を舞い四方八方から斬撃を繰り出す彼女の刃は、アルセスの長い槍では守りに徹するのが精一杯であるようだった。元来、槍と剣、刀では十中八九槍が勝つ。二者に相当な実力差があったとしてもそれは覆らない。
だが、それはあくまでも地上という二次元の場での論法である。
空中に戦場を移した時、上下左右と敵が目まぐるしく動き回る以上、その対応の為に振り回す得物の速度は長ければ長いほど遅くなる。
これは地上でも言える事だが、槍は小回りが利かない。そして、その欠点がこと空中戦においては浮き彫りになる。
ならば舞台を地上に移せばよいのだが、しかし。
(空いているのは『天上』だけだ・・・・・・)
クレアノーズは内心で嗤う。『禁ずる結界』という概念を利用して自分の中核権限を破壊するつもりならば、その概念自体が規定する規則に乗っ取って戦わなければ意味が無い。
結界には、領域の遮断・隔絶と同時に、内界の変質という目的を持った物が存在する。この『禁ずる結界』は正にその類であり、結界を破壊したいならば予め定めておいた結界の弱点を正確につかなければならない。
逆を言えば、その弱点さえ守れば結界が壊れる事など決して無い。
そして、今回消失した結界の『穴』はシャーネスが守っていた天上。地上及び八方位は未だ他の姉達が守っている。
故に、彼が地上に降り立った瞬間、クレアノーズを倒す事で結界を破壊するという目的は達成できなくなるのである。
『守護の九姉』『結界中核』『ウィッチオーダー』。
『禁ずる結界』維持の為の三つの柱は、いかに神格といえども容易く破る事はできない。
刀を振るい、神を追い詰める。剣筋は見事なほどに立ち、体捌きも何時になく上々だ。これならばいける。このまま続ければ勝てる。
そう、思い込ませるほどに。アルセスは手を抜いていた。
「え?」
感じたのは浮遊感。既に浮いているというのに、しかしクレアノーズは一瞬のうちにして槍の柄で弾き飛ばされていた。
「な、」
「残念だけど、遅いよ。君じゃ僕には届かない」
冷淡に言葉を紡ぐその表情は、氷像の如く硬く無機質だ。
く、と呻く。元々、彼女は戦闘に向いた体質ではない。九姉に匹敵するか、或いはそれ以上であったルスクォミーズ。彼女の補佐の為だけにと鍛え上げてきたその能力は、付け焼刃如きで神に敵うまでは到らなかったというわけか。
ここに彼女がいれば―――。
一瞬、思ってはならないことを思ってしまった。
遠い地の彼女。かつて、ずっと共に在りたいと願った彼女。
眷属の勢力圏に居る彼女には、紀元神群――否、ゼオート神群の神であるアルセスは不用意に近づけない。彼の非公式な領土侵犯は即開戦へと繋がる。
他の神々はアルセスのキュトス探求を黙認しているが、それが神群同士の全面戦争に繋がるとなれば話は別だ。
救いがあるとすれば、その一点。かつて自分が無理矢理に中核を奪い、能力を『暫定的に』封じ込めて重要性を低くしたお陰で、今アルセスは自分に狙いを定めている。
くつ、と咽喉を鳴らした。おかしかったのだ。この期に及んでルスクォミーズの幻影しか頭に無い自分が。そんな事を考える資格は、彼女を裏切り、その居場所を密告した瞬間に無くなっていたと言うのに。
体勢を立て直す。クレアノーズは、眼前の少年神に語りかけた。


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