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物語スレッド

48紀動戦記アルセス(5):2006/07/31(月) 23:10:33
空間に投影された三次元映像を見ながら、少女は静かに嘆息した。
少女を不安にさせないための配慮のつもりなのだろう、見せられている艦外映像は何の変哲も無い隕石群だ。
この艦の命運が尽き果てた事など、先程の衝撃で既に悟っているというのに。
ふと、客室の扉が横にスライドして開く。目を向ければ、そこにいたのは白衣を纏った巨躯の中年だった。
「ん、ん――? よろしいかね? キュトスくん」
「どうぞ」
淡白に告げると、厳しい顔にかけた似合わない黒縁の眼鏡を片手で直し、こちらへ歩いて来る。
「ん、いやいや、全くもって遺憾ではあるが、君に一つ提案があるいいかね?」
「わかってます。脱出しろと言うのでしょう?」
「んん。話が早くて助かる。 実に、実に・・・助かる!」
少女―――キュトスは立ち上がると、手ぶらのままで外に出ていく。放置された巨漢が慌ててついて来る。
「いやいやいや。全く困ったものだねアヴロノの連中にも。このキュトスくんの重要性も理解せずただ我等の最重要機密だからと言う理由だけで奪いに来るのだからねまったく弱い馬鹿はこれだから困る」
「グレンテルヒさん」
唐突に、キュトスが足を止めた。
「んんん? 何だねキュトスくん。言っておくが私が眷属やアヴロノに技術協力したのは純粋に研究環境の為だけだよ?」
「いえ。それより今、誰かいませんでした?」
周囲を見回す。白と青でカラーリングされた通路にはダストボックスと、その隣に黒いゴミ袋が設置されている他は何も無い。何処にも人影などなかった。
「んー? 気のせいじゃないのかね。それより脱出だ。敵の狙いは君、そして私なのだからね。ドルネタンスフ君はおまけのようなものだよ」
「グレンテルヒさん、【ドルネスタンルフ】です」
「ん、ああ。ドネルスタンフ、だね?」
二人は益体もないやり取りを交しながらその場を立ち去っていく。
しばらく後。
「ば、ばれなかった・・・・・・。凄く危なかった・・・」
比較的大きめのゴミ箱の脇、真っ黒なゴミ袋が声を発した。否、そうではなかった。ゴミ袋だと二人が勘違いしたものは立ち上がって、その中から一人の少年が現れる。
「ふう、助かったぁ。マロゾロンドがいなかったら今ごろ見つかってたな」
ありがとう、と少年は真っ黒な布の塊に礼を言った。マロゾロンドと呼ばれたその黒布は、僅かに身体を動かして反応した。どうやら頷いたらしい。
「しまったな。冗句のつもりで密航してラヴァエヤナを驚かせてやろうと思ったんだけど。正直洒落にならなくなってきたみたいだ」
マロゾロンドが先程よりも少し大きく動いた。同意しているようだ。
「このままじゃ死んでしまうし、とりあえず脱出するのが最善。だけどこの艦にはラヴァエヤナが乗ってるし見捨てるわけにもいかないし」
唸りながら考え込む少年の服の袖を、マロゾロンドがそっと引いた。
「え? とりあえず格納庫に行ってみよう? ・・・・・・うん。そうだな。脱出するにしてもしないにしても、すぐに行動出来る場所に行ったほうがいいし。よし決まり。行こうか、マロゾロンド」
そうして、二人もまた通路を移動し始めた。
それが、少年の運命を変える選択とも知らずに。


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