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物語スレッド

299ロズロォの懺悔(15):2008/01/15(火) 01:17:11
 「……起きて良いぞ」
 数日後の深夜、冷たい灰色の石造りの壁の医務室で、私がそう声をかけると寝台に横たわっていた娘はムクリと上半身を起こす。それはさながら死者の蘇生のようにも、早すぎた埋葬よりの目覚めのようにも見えた。
「食料も持ってきた」
 そう言ってスープの器とパンを差し出すと、娘は私からひったくるようにしてそれらを受け取り、そして飢えた獣のような勢いで食事を平らげた。
「全く、昼間はずっと寝てるのにすごい食欲だな」
 私が皮肉混じりに言うと、「案外体力使うんだよ」と娘は答えた。
「ずっと身体を動かさないでいるのって疲れるし、お腹も減るんだよ」
「そういうものなのか?」
 多分、彼女の言う通りなのだろう。
 結局、他の囚人に怪しまれるといけない、という理由で、私が彼女の元を訪れるのはいつも決まって深夜になってからだった。だからそれまで彼女はこの医務室の寝台の上で死んだように身動き一つせずに仮死状態を装ってずっと横たわっているのだ。多分、私が居ない時に牢役人が監視に来ることもあるだろうが、彼らにも気付かれじまいのまま今日までやり過ごしているということになる。大した役者だ、と私は改めて彼女に舌を巻く。
「それより先生……」彼女は俯きながら言う。「また『実験』をしたんだね」
「あぁ」
 その日の晩も私は所長の用意した被験者の娘を一人、『実験』で殺していた。『実験』は成功の目処が立っていたが、やはり麻酔としての【草】なしに被験者を施術の最期まで生き延びさせるのは難しかった。
「分かるものなのか?」
「匂いと雰囲気でね……ずっと戦場を逃げていたから、他人を殺したばかりの人はなんとなく分かるんだよ」
「牢名主と同じことを言うんだな?」
 私の言葉に「誰それ?」と娘が聞いてきたので、「いや……」と私ははぐらかした。
 どうせ説明したところで分かるわけは無いし、おそらく二人は永遠に顔を合わせる機会など無いのだろうから……。
「……それで、私もいつかは先生の『被験者』になるんだ?」
 娘は俯いて静かな口調で言った。
「いや、それは……」
 しかし私は否定の言葉を言い切れない。
 娘の言葉は事実だ。私が娘をこのような形で保護することが出来るのも、いつか彼女を被験者として使うことが前提であり、いつまでも生き延びさせることや、彼女を解放してやることなど出切るわけは無い。所詮、私は罪人の医師(ロズロォ)なのだ。
「……」
 私は言葉に詰まり、彼女と同じように俯いて囚人棟より遥かにマシとは言え、やはり薄汚れている床を見た。
 二人の間にどうしようもない沈黙の空気が漂う。


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