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創作文芸板支援集積スレ

1名無しさん:2005/03/03(木) 14:18:29
行数とサイズ制限は投票所と同じ。
文章、AAの集積所として使ってください。

2他板への投票用テンプレ:2005/03/03(木) 14:34:25
[[コード]]
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  ││                          ││  ││  ││  │┃from

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  ││  ││  ││  ││  ││  ││  ││  ││  │┃創
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  ││  ││  ││  ││  ││  ││  ││  ││  │┃文
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  ││  ││  ││  ││  ││  ││  ││  ││  │┃板
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3投票用テンプレ2:2005/03/03(木) 14:38:27
  ┌────────────────
  |
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |  親譲りの無鉄砲で小供の時から
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |  創作文芸ばかりして居る。。。。〆(゚∀゚ )
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

4投票用テンプレ3:2005/03/03(木) 14:40:18
[[コード]]

「  」「  」「  」(3語文章のお題)

       (各人が過去スレ・良作選から引っ張ってきた3語文)

                                 <<創作文芸板>>

53語スレ関係:2005/03/03(木) 14:42:25
この三語で書け! 即興文スレ 良作選
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033382540/

この3語で書け!即興文ものスレ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/990/990899900.html
この3語で書け! 即興文ものスレ 巻之二
http://cheese.2ch.net/bun/kako/993/993507604.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 巻之三
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1004/10045/1004525429.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第四幕
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1009/10092/1009285339.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第五夜
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1013/10133/1013361259.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第六稿
http://book.2ch.net/bun/kako/1018/10184/1018405670.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第七層
http://book.2ch.net/bun/kako/1025/10252/1025200381.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層
http://book.2ch.net/bun/kako/1029/10293/1029380859.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第九層
http://book.2ch.net/bun/kako/1032/10325/1032517393.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層
http://book.2ch.net/bun/kako/1035/10359/1035997319.html

63語スレ関係その2:2005/03/03(木) 14:43:50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十壱層
http://book.2ch.net/bun/kako/1043/10434/1043474723.html
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十二単
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1050846011/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十三層
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1058550412/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十四段
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1064168742/l50
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十五連
http://book.2ch.net/test/read.cgi/bun/1068961618/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十六期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1078024127/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十七期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1085027276/
この三語で書け! 即興文ものスレ 第十八期
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1097964102/

7良スレピックアップ:2005/03/03(木) 14:47:00
アンパンマンの死
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/969197966/
【名言・格言・箴言・諺・台詞】二言目
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1076559965/
間違えやすい言葉遣いを注意しあうスレ その2
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1075126168/
間違えやすい言葉遣いを注意しあうスレ まとめページ
http://sohey.fc2web.com/mistake/index.html
起承転結・あなたは肯定派?否定派?
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/983259233/
ドラえもんの最終回を捏造するスレ
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1072052790/
トオル×ひろゆき@同人板
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/956247579/
☆今回の閉鎖危機を小説に☆
http://cheese.2ch.net/bun/kako/998/998764519.html
紗和子物語
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1005/10054/1005415118.html
2chで見つけたちょっと泣ける話
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1002/10025/1002541336.html
【仮】オメーラ、技術をまとめますか?【仮】
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1017/10170/1017069653.html
名言・箴言・映画の名台詞・かっこいい諺
http://cheese.2ch.net/bun/kako/981/981667279.html

8良スレピックアップその2:2005/03/03(木) 14:48:06
王子と姫の官能小説
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1008/10088/1008865577.html
問6、意味不明な散文を書きなさい
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1008/10081/1008123482.html
3年B組・・・乱れる放課後
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1007/10077/1007739592.html
おまえらちゃんと方法論考えて作品作ってますか?
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1014/10147/1014724123.html
トリックトリック
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1014/10144/1014434058.html
やはり純文学は衰退しつつあるのか?
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1011/10114/1011459026.html
2chが憎い!!2chが気になって創作活動が出来ない
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1003/10038/1003817782.html
小説を書きたいと思っています。でも書けません。
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1003/10034/1003495986.html
★★小説でマンガよりも素晴らしい点を挙げよう★★
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1002/10028/1002818031.html
過去の駄文を晒し上げ...(´д`)ノ
http://cheese.2ch.net/bun/kako/1002/10027/1002730869.html

9良スレピックアップその3:2005/03/03(木) 14:51:01
おまゐら、( ) をうめて文を作ってみれ
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1071393195/
「すてきだな」と思ったフレーズを書き留めるスレ
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1104497126/
あなたの文章真面目にリライトします。
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1100408711/
【悲痛な】文芸板懺悔小屋【告白】
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1033822438/
あなたの文章、無理して誉めます
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1086153693/
仮想世界の神々
http://makimo.to/2ch/book_bun/1021/1021654266.html

10アリの穴関係:2005/03/03(木) 14:54:12
2ch文章アリの穴
http://ana.vis.ne.jp/ali/
コメントBest50
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=cbest
ポイントBest50
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=best

11アリの穴関係:2005/03/03(木) 15:05:41
[[コード]]

「転覆」「眠り」「船」

 雨が三日も続くと池之端から鯉や鮒が流れ出し三味線掘の市場のあたりに下ってくる。
「おーい、網をかけるぞー」
 その声を聞くと、漁を休んでいたおとなたちは昼の浅い眠りもそこそこに起き出し、四
手の網をかけて鯉を捕る。高橋のあたりはとくに泥が溜まりやすく、船着場のあたりは泥
沼のようになってしまう。汚穢船を漕ぐ太一の父親は、鯉の網を尻目に、まる二日にわた
って何度も隅田川を上下することになるのだ。
 泥んこになった父親が帰って来るのを見るたびに、ああ、また今日も鯉を食べるのだな
と太一はげんなりした。太一は泥臭い鯉も父親の姿も嫌いだった。汚穢船で働いているな
どいうのは漁師にもなれない者と決まっている。太一はそんな父の仕事を卑屈に受け止め
ていた。
「太一坊は、ばかだなあ。海に漁に出れば、いつ波に揉まれて船が転覆しちまうかわから
ねえんだぞ? だけどなあ、汚穢船は真っ平な筏のようなものなんだ。どうやっても転覆
なんてしようがねえんだよ? 」
 太一は漁に欠員が出ても、滅多に海に出られない父を恥じていた。
 ある日、父が三崎まで漁に行くことになり、太一はうれしかった。荒れた海に出かける
頼もしい後ろ姿に太一は満足した。父を見た最後の朝だった。

                                 <<創作文芸板>>

12名無し物書き@推敲中?:2005/03/03(木) 15:08:28
途中でEnter押しちゃったけど、>>11は良作選より抜粋。1例として。

13支援FLASH!!!:2005/03/03(木) 23:14:03
280 :276:05/03/03 21:28:43
えーっと、一応Flash完成しましたのでご報告を。
初めてFlashいじくったんで、完成度はあまり期待しないで…
ついでに「ほぉむぺぇじ」みたいなのも初めてなんで何か不備あったら教えてくださるとありがたいです

ttp://www.geocities.jp/dse001891001/soubun_CM.html

14名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/04(金) 19:05:42
280氏の作った文芸同盟紹介FLASH

ttp://www.geocities.jp/dse001891001/bunren_CM.html

15名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/05(土) 14:09:05
アリから、
最近の作品では、一番、他の板にアピールできそうかと。
ttp://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20050302000004

16名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/05(土) 17:32:56
最近ではないが、選対スレで名前が出てたもの。
ttp://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20031115000048&cbest=41

17名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/05(土) 17:35:06
329 名前:242 投稿日:05/03/04 23:44:49
投票AA作る人のために、原稿用紙用の「ひらがな」セット置いときますね。

「〃」の直後から「〃」の直前までをコピペして使ってください。

清音
〃..| .あ |..〃│〃..| .い |..〃│〃..|...う .|..〃│〃..| .え│〃│〃..| .お |..〃│
〃│か│〃│〃..| .き│〃│〃..|. .く .|..〃│〃..| .け |..〃│〃..|...こ..|..〃│
〃..| .さ. |..〃│〃..| .し. |..〃│〃..| .す |..〃│〃│せ│〃│〃..|. そ |..〃│
〃..| .た |..〃│〃..|. ち│〃│〃..|. つ |..〃│〃..|. て│〃│〃..| .と. |..〃│
〃..| .な│〃│〃..|. に |..〃│〃│ぬ│〃│〃│ね│〃│〃│の│〃│
〃│は│〃│〃..|. ひ |..〃│〃│ふ│〃│〃│へ│〃│〃│ほ│〃│
〃..|. ま│〃│〃│み│〃│〃│む│〃│〃│め│〃│〃..|...も..|..〃│
〃│や│〃│〃│  │〃│〃│ゆ│〃│〃│  │〃│〃..|. よ│〃│
〃│.ら│〃│〃..|. り .|..〃│〃..| .る│〃│〃│れ│〃│〃..| .ろ│〃│
〃│わ│〃│〃│ゐ│〃│〃│  │〃│〃│ゑ│〃│〃..| .を│〃│

濁音
〃│が│〃│〃..| .ぎ│〃│〃│.ぐ│〃│〃│げ│〃│〃..|. ご│〃│
〃..| .ざ│〃│〃..| .じ .|..〃│〃│ず│〃│〃│ぜ│〃│〃..| ぞ. |..〃│
〃..| .だ |..〃│〃..| .ぢ│〃│〃..|. づ |..〃│〃..| で.│〃│〃..|. ど│〃│
〃│ば│〃│〃..|. び |..〃│〃│ぶ│〃│〃│べ│〃│〃│ぼ│〃│
〃│ぱ│〃│〃..|. ぴ |..〃│〃│ぷ│〃│〃│ぺ│〃│〃│ぽ│〃│

その他
〃..| .ん |..〃│〃..|. l |..〃│〃..|.. `.|..〃│〃..|....°|..〃│

18同盟板へ:2005/03/05(土) 20:59:09
  ┌───────────────────
  | 
  | 良治は押入れの奥に、覚えのないダンボール
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | を見つけた。 興味を惹かれ開けてみると、
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 薄汚れたハードカバーの本が何冊も詰まっていた。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 「こんなところに残っていたのか……」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 思い出した。それは年の離れた姉が、僕の
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | ために買い、読み聞かせてくれた絵本だった。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨     
  | その姉も、今はもういない、、、、〆(゚∀゚ )
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

    <<絵本>>      from 創作文芸@文芸連盟

19同盟板へ:2005/03/05(土) 20:59:33
  ┌───────────────────
  | 
  | 「信じらんないッ! ルール違反よ!」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | ルミイが突き立てた銀のナイフが、
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 腐肉の中で溶けていく。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 「離れて! これで決めるわ!!」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 背後でリーンが詠唱を始めた。火の精霊を呼ぶのだ。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 「止めろリーン! 様子がおかしいぞ」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨     
  | 静かに大地が震え始めた、、、、〆(゚∀゚ )
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

    <<ライトノベル>>      from 創作文芸@文芸連盟

20同盟板へ:2005/03/05(土) 20:59:53
  ┌───────────────────
  | 
  | 「今夜が勝負だな」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | バラードは静かに語り始めた。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 「結晶の膨張はもう止められない。コアの破壊に
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |  向かったやつらも、消息不明だ。だけど、俺は
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |  まだ諦めない」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | シンがアルミの床を蹴る。「どうするんだよ」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨     
  | 「膨張を促進させるのさ、、、、〆(゚∀゚ )
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

    <<SF>>      from 創作文芸@文芸連盟

21同盟板へ:2005/03/05(土) 21:00:12
  ┌───────────────────
  | 
  | 壁に記された「42」という数字の
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 謎は、未だに解けないままだったのだ。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 「でも、それにこだわると、かえって
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  |  真相を見失うような気がしませんか?」
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | 圭介は考える。どこかで何かを置き忘れて
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
  | きたような気がする。
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨     
  | いや違う、忘れたわけじゃない、、、、〆(゚∀゚ )
  | ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨

    <<ミステリ>>      from 創作文芸@文芸連盟

22他板宣伝スレ用:2005/03/06(日) 14:18:39
393 :名無し物書き@推敲中?:05/03/06 12:30:32
>>392レトロゲーム・>>390エヴァ・>>267的スポーツ・>>386登山キャンプ
>>316プロ野球・>>247国内サッカー・>>374ヒッキー・>>330既婚女性・>>320大河ドラマ

23名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/06(日) 14:19:31
↑ミスです。

24名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:11:11
 日陰者

 おれは人嫌いなのか?人に興味は持っていると思う。しかし、その人をよく知りたいというよりは、
その人の隠している部分を見たいという欲求だ。タクシーの運転手が話している内容は分からないが、
分からないところに怪しげな感じがある。人ではなく物。ちょっと違う気がする。
人を悪意を持って眺める。まるで物を見つめるように。秘密を知るのは、その準備だろうか。
 スイッチが入ったように、周りが明るくなり動きだす。歩行者を促す、とおりゃんせのメロディー。
交差していく足音が心地よく響く。もうすぐ冬だというのに、肩を出した女が前から歩いてきた。
一瞬、女と目が合う。気を取られているうちに、禿げたおっさんとぶつかって体がよろけた。
女が振り向いて笑った気がした。はっきりと確かめられないまま、前を見て歩いた。
 ウェーブさせた茶髪、派手な化粧。どこにでもいそうなギャル風の格好だが、
目がぱっちりしていて愛嬌のある顔だった。ああいう女でも、隠さなくてはならない秘密を
持っているのだろうか。しばらくすると、考えている自分が恥ずかしくなって、力が抜けてしまった。
おれのような人間とあんな女に何か接点があるとは思えない。おれが誰かに向けた悪意も、
正体不明のまま見えないところに拡散して消えていくのだ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20031116000059

25名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:11:32
 霜降の落武者

「俺達はやりたくないことをやらなければいけないんだぞ。それなのに全員が賛成でどうする。
反対派と異論反論することが俺達の活動の根幹だろ」
 そう檄を飛ばして数放たれるブーイングを一蹴していた。
「じゃあ次の活動は反対意見が一番多かったヤツにしよう。えーっと、どれだっけ、
俊夫の発案だったな。あ、これだ。『大阪ストラットを歌いながら東京の川岸を掃除する』
これにしよう。隅田川で良いな。みんな歌詞を覚えてこいよ」
この時五人辞めた。小野寺佑は今でもよく覚えている。そのうち四人は女の子だった。
けれど佑は決して琢磨を批判しなかった。僕がしゃしゃり出たところで何もできやしない、と思っていた。
半ば諦めていた。僕にできる事と言えば、案内状を作る事、空き缶を拾う事、歌詞をしっかり覚えてくる事、
そしてトータス松本のようにタイトな銀ラメパンツを穿いてくる事くらいだ、と決め付けていた。
そうやって佑は影に隠れつつも発起人であるという僅かなプライドを持って最後に残った四人の中に居た。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20031115000046

26名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:11:46
 ハンマーともぐら

「もぐら、お願いがあるの」彼女はいつもよりも真剣な声でそう切り出した。
「いいよ」
「これをね、ハンマーに渡してほしいの」
「何だ、そんなことか。 それなら自分で渡せばいいじゃないか」
「渡せない」そういって彼女は俯いてしまった。
それだけで僕は分かってしまった。 彼女の気持ちが。
「貸して」そういって僕は彼女の手から、手紙を取った。
 僕にはその手紙がずしりと手にこたえたが、素直に二人はお似合いだと思ったし。
 それに彼女を助けたのは、ハンマーだった。 あたりまえの結果かもしれなかったが、僕は少し悲しかった。
「もぐら?」彼女は僕の顔を覗こうとした。
 その時の僕はあんまり、感情を隠せている自信がなかったので、彼女の視線から顔をそむけた。
「いいよ。 なんかゴメン」典子さんは僕の手から手紙を取ろうとした。
「大丈夫だよ」彼女の手から逃げて「僕の役目だと思うから」僕はそう言うと、
典子さんから逃げるように図書室を出た。 全速力で走って、自分のクラスのドアを開けた。
手紙を渡したときのハンマーの目には、二つの感情が込められていた。
 僕はその目で見られたくなかったので、黙って自分の席についた。
 そして全ての声を阻むために英単語帳を眺めていた。 Sad Sorrowful;どちらも『悲しい』という意味だ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20031112000033

27名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:11:59
 ニューヨーク、地下道、そして路上

「なんだ。飲めないのか?」
「いや、そうじゃないんだ」
 ジャックは中空を見つめ、しんみりとした調子で言った。
「なあ、ハーヴェイ、アルコールには気をつけた方がいいぞ。できればヤメといた方がいい。
わしはもう何人も、酒とドラッグでぼろぼろになって死んじまった仲間を見てるんだ」
「まあ、そんなに固てえこと言うなよ。今夜は特別さ。電気開通記念パーティーだ。さあ、飲(や)れよ」
 ハーヴェイはそう言ってホーローカップをジャックに手渡した。
「まあ、な……。今夜くらいはいいか。だがな、ハーヴェイ、酒には気をつけろよ」
 ジャックはしぶしぶカップを受け取った。
「わかってるって。ドラッグをやるわけじゃないんだ。乾杯だ」
 そう言ってカップを持ち上げ、満足そうに喉に流し込む。
 ジャックも首をすくめ、琥珀色のホットウイスキーに口をつけた。お湯で割ったアルコールの
熱い刺激とバーボンの香りが口一杯に広がってゆく。何年ぶりかの酒がジャックの喉をひりひりと熱くした。
「なあ、じいさん」
 ほろ酔いのハーヴェイが思い出したように言った。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030208000001

28名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:12:11

 地獄のヘルファイター

「あぁ、癒されることは確かだ。俺も自分のいちもつにはいちまつの不安があったけれど、
山下の粗末な陰茎を見ていると、これからは胸を張って生きなきゃ駄目だと思えてくる。
けれど、みんなが車座になって集まったのは、お前のその、無様で醜い、臭い臭い極小チンポを
見るためじゃない。地獄のヘルファイターの話を聞くためにわざわざこうして集まっているんだ。
お前の頭の中には干涸らびたでかい脳細胞が一個入ってるだけってことは重々承知だけれど、
出来ればそのみみっちぃ脳細胞を振り絞って地獄のヘルファイターの話を聞かせてくれると有り難いよ」
「その前に、感想を聞かせてほしいな。俺のチンポを見た感想を」
 車座になった七人の先輩の口から、次々に感想が飛び出した。
「ひじき」「もずく」「ニシン」「指」「ひいらぎ」「梅」「もやし」
 山下先輩はいちいち頷きながら感想を聞くと、さらに続けて
「俺のチンポをものに例えたわけだな。なかなかとんちが効くじゃないか、お前ら。
けどな、俺が聞きたいのは比喩じゃない、観念、想念、俺のチンポから受けたインスピレーション、
そういったものだ。もっと知恵を絞って感想を言ってくれると嬉しいよ」
 七人の先輩は腕組みをして、うーんと山下先輩の陰茎を見つめたあと次々に口を開いた。
「ヨルダンの綿」「ヨルダンの草」「ヨルダンへの投資」「ヨルダンの星」「ヨルダンのいじめられっ子」
「ヨルダンの希望」「ヨルダンの未来」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030514000003

29名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:12:20
 スイッチ

 その日から彼は、何かある度にスイッチを押すようになった。
 朝起きた直後、歯を磨いた後など、とにかく暇さえあればスイッチを押すようになっていた。
彼自身は気づいていなかったのだが、彼にとってこのスイッチを押すということは非常に
心地良いものであった。この装置自体に不思議な、神秘的な魅力があった。
そして、数字が繰り上がっていくのを見ることが、一つの楽しみになっていた。
桁が上がるたびに、数字の上限が来ることを予想したが、その予想はことごとく外れた。
 スイッチを押すことしか出来ない不思議な装置に対して、彼は様々な想像をした。
「これは、ある一定の数字になったら死神が来て命を奪っていくのかもしれない。
いや、もしくは妖精が来て願い事を叶えてくれるのかも」
 全ては憶測の領域に過ぎなかったが、受験に失敗して落ち込んでいた彼にとって、
この装置はそれを紛らわすに十分なものであった。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20031115000048

30名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:12:33
 冬の幻影

「どないしたんどす?」
 心配そうに女将がこちらをのぞいていた。私は少年のようにびくっとした。彼女の溢れる
魅力が、一瞬だけ私を不安にしたのだ。女将はまた、果てしなく澄んだ声で話を続けた。
「秋が来て、お月さんが満ちたら、この城へ登るんどす。するとあの、見えまっしゃろ、
右下のほうの森、忘れられたように座ってる泉にまあるく、金色のお月さんが宿りはって、
この廃れた城が明るく照らしだされるさかい、そらもう……」
 彼女が言葉を切った時、私は彼女が何かを思い出したと直感した。
「弥吉さんのことですか?」
「なんで分かりはったん?」
彼女は目を見開いて、それからゆっくりと息をした後、眼下の泉を見下ろしながら言った。
「なんでお客さんの前で、こんなやきっちゃんの話をしたくなるんでっしゃろ。
……お客さんはきっと、うちが話したくなってしまうような不思議なものを持ってはるんやと思うわ」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030715000006

31名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:12:44

 PEGANA LOST

 ざいこう。ざいこう。
 しー、たー。しー、たー。
 ノコギリは、トネリコに内包する眼を粉砕する、やさしいかなその処方箋。
 過去へ過去を覗く、ゆぐらどしる、ユークリッドの時空、紡錘形の中央に向かい。
 木は見ていた、目隠しをした燃える鳥が木星の頚椎を襲い、燭台の灯りが一斉に消えるのを。
 木は見ていた、セピア色の帽子雲、旌旗は四海にひるがえり、小さな荒ぶる神々が蠅のように叩き落とされるのを。
 木は見ていた、王都バブルグンドの崩壊を、南十字星の牧歌を、人々の名前が人に食われていく瞬間を。
 木は見ていた、バベルの塔は崩れ落ち、氷河が大地を覆い、パンゲアは分裂し、アノマロカリスの暴走、コアセルベートが海面に湧きあがる、その饗宴、饗宴。
 木は見ていた。ただ、見ていた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030917000033

32名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:12:56
 笑うピアニスト

 父が敬虔な、というか、ガチガチのクリスチャンであることから、僕は小さい頃から
教会に馴れ親しんでいた。日曜日の午前中。教会の日曜学校、子供のための礼拝、
つづいて大人のための礼拝が行われる。そこはプロテスタント教会で、集う人々は
一様におだやかで品の良い笑顔を絶やさなかった。
 僕はといえば礼拝の前に同じような年格好の子供たちとかくれんぼをするのが
大好きだった。ずらりと並んだ細く長い机と椅子、二階席にある聖歌隊のスペース。
隠れるところはいっぱいある。ときどき牧師さんから大目玉をくらったりしながら、僕らは教会を
遊び場に変えた。ザリガニ獲りを許されなかったことへのささやかな抵抗だったのかも知れない。
 教会にはオルガンとピアノが置かれてあり、父が担当したのは言うまでもなくピアノだった。
礼拝で賛美歌を歌う段になると、父はぴしりと背筋を伸ばし、真剣な面持ちで楽譜を見つめる。
いつもの柔和な表情は消え、あのカミソリのような鋭い目が蘇る。楽しそうな演奏なんかじゃない。
それはひとつひとつの鍵盤の音を神に捧げるかのような厳粛で悲壮とも思える指の動きだった。
中学生くらいになると、僕にはその姿がまるで苦痛をこらえる修道僧のように見えたものだ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030921000061

33名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:13:10
 偽りの夢でも

 塔の最上階には一人の女性が住んでいた。華奢な肢体にしわだらけの顔。
手入れされず野放しになったぼさぼさの髪の毛。死んだ魚のような空ろな瞳。
一見すると老婆にも見えたが、その機敏な動作と明晰な頭脳は、彼女がまだ
中年の域にすら達してないことを教えてくれた。
 彼女の肩書きは統括管理責任者。この街の制御を任された唯一の存在。当然占い師が
紛れ込んだことは承知しており、すぐに根を上げて出て行くだろうという予測も立てていた。
 そう、そうしてまた静かで平穏な日々が訪れる。
 彼女は秘書からコーヒーを受け取ると、軽く口をつけ、カップをテーブルに置いて、
いつもの、決まりきった作業を再開した。街の機能保全とメンテナンス。やることは沢山あった。
 しばらくすると、彼女は占い師の存在すら忘れて、作業に没頭していた。
 自分が作り上げた完璧な街は何が起こっても揺るぎない。そんな自信と自負が
彼女にはあった。それだけが、この塔で作業する彼女を支えてきた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030921000056

34名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:13:23
 道切り

 柿の木とはこんなに大きくなるものかと男は目を見張った。直径が4尺はあろうか。
大人の背丈の高さで二股になっており、その先がさらに複雑に枝分かれしていて、
巨大な足長蜂の巣を逆さにしたような形をしている。これから夏が過ぎ、秋を迎えると、
どれほどの実がなるのか想像もつかない大きさだ。
 幹のまわりは、四方に打ち込んだ杭に縄を張って、まるで立ち入り禁止とでもいうふうに囲ってある。
縄の中央には「蘇民将来」と書かれた木札と、狐をかたどった藁細工がつるされていた。
いわゆる『道切り』である。なぜ柿の木を『道切り』で囲うのかと、男は少し不思議な気がした。
通常は村境の道に張るものなのだ。
「神木なのよ」
 智恵子が教えてくれた。『道切り』で封鎖することによって災いを防ぐ意味があるのだという。
 薄闇で影絵のようになりかけた枝の向こうに、さかんに飛びまわるものがいくつも見えた。
目を凝らして蝙蝠だと知った。柿の木に集まる虫を目当てに、どこからともなくやって来るのだ。
まるで自分のようだと、男は思った。どこからともなくこの家に来て居候し、帰る場所すら分からない。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030923000065

35名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:13:35
 霧、ゆりの花

 緩やかな斜面を包み込んで、霧は止まっていた。
 初秋の高原のスキー場は物音一つなく、ゲレンデ中央部上方の景色は雪のように白く、
静まり返っていた。足下に広がる背丈の短い草だけが足の動きに合わせてかすかに音を立て、
夏から秋へと移ろいゆく季節を感じさせた。
 なだらかなスロープをあてどもなく登る。
 何も見えない。歩を進めるごとに白い闇が迫ってくる。圧迫感とともに息苦しさを覚える。
 呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が速くなる。
 革靴が滑って二、三歩、滑るように後退した。明らかにスロープの傾斜はきつくなっていた。
歩みは遅くなり、立ち止まる回数が増えた。
 肩で息をしているのに気づき、休息をかねて後ろを振り返る。斜面下の建物の影はうっすらとかすみ、
自動販売機の明かりだけが仄白く浮かび上がっていた。
 右側に動きを止めたリフトの座席がぶらさがっている。無意識のうちにもリフト沿いに歩いていたらしい。
 宙に浮かぶリフトの座席は三つか四つしか見えない。まだまだ先は長いようだ。
時間は午後の六時を過ぎ、視界がきかないのは霧のせいばかりでもなかった。
 呼吸が静まったところで再び登り始める。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030918000043

36名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:13:44
 河伯の継嗣

 常緑樹の濃く茂る混合林が対岸に沿って広がっているため、その下を流れる河淵は静かで
深みのある緑色になっている。それを打ち破るようにしてぴしゃぴしゃと跳ねては冷涼な音を
振りまく鱒の姿がときおり見えるのだが、彼らは釣り人の乱れた想念を読みとりでもするのだろうか、
まったく針先に興味を示そうとはしない。
 いっこうに反応がないまま、わたしは糸を垂らしつづけるが、釣れるかどうかはそれほど大切では
なくなっている。大きな鱒が針先に食いついてからが肉体的な格闘なら、それを待つじりじりとした
駆け引きは精神的な格闘であり、敗色の濃い中で暗い思索にふけるのも時には悪くない。
 そういった、両義的に釣りを楽しむ感情もまた、他人と何ら相違ないものだとわたしは思っている。
ただ、世間の不惑世代は何かと忙しく、妻の愚痴に耐え、子供たちにサービスをし、
伝票に追われ、顧客に頭を下げ、上司にごまをすり、部下の信頼を得なければならない。
そう、不惑のサラリーマンには家族があり、会社ではそこそこの職級についてるのが普通で、
週末に釣りを楽しむ余裕などはないのだ。日々をあわただしく過ごしながらも、それを苦痛とは思わない。
まるで人生のもっともよき時代がすでに過ぎ去り、惰性だけで生きているかのように。
あるいは人生とはそうしたものだと考えているかのように。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030921000060

37名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:13:54
 阿呆の神様

 オレンジ色の蜜柑が、ゆるい放物線を描いてキヨシの胸元へ流れ、『キャッチした』と思ったら、
蜜柑はキヨシの両手をすり抜け、膝からゴム長靴の足元に落ち、アスファルトの道を転がって
側溝へ消えた。慌てて拾いに行こうとするキヨシを制止し、悟は生っている蜜柑を木から五・六個
もぎ取ると、生垣を乗り越えて直接キヨシに手渡した。
 投げ与えたのが間違いだった。子供の頃から見なれたキヨシの風貌だったが、近くで見ると
髭にも髪の毛にも白いものが混じり、老い耄れた感じがして不潔だった。反射神経も鈍っている。
だから、夏も冬も被っている麦藁帽子を胸の前でひっくり返し、その中に蜜柑を入れたのだが、
キヨシは仰ぎ見るように悟を凝視し、嬉しそうに笑った。
 以前はこんなことはなかった。阿呆のキヨシだったが、大きな声でよく怒鳴った。
「こらー早よ帰らんかー」
 夏休みなど、神社の境内で遊んでいると、夕方、必ずキヨシは現れ、薄暗くなっても野球を
止めようとしない子供達を怒って追い立て、家に帰らせるのであった。だが、子供らもバカの
キヨシにゲームを終らされたのが面白くない。そこで仕返しをすることになる。穴を掘って落したり、
立小便をしている後ろから水をぶっ掛けたり、農協の事務のおばさんが呼んでいると嘘をつき、
実は臨時休業の日だったりして、ドアの前で途方に暮れるキヨシをからかったり、
ありとあらゆる悪戯を仕掛けて愚弄した。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030921000057

38名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:14:04
 ダルマの詩

『自殺志願のM女を求めています。
 私の手で貴女を快楽と甘美に満ちた死に導きます、如何でしょうか。
 もちろん調教の過程で気が変わり、死を望まなくなった時はすぐに解放いたします。
 漠然と死を望み、唯怠惰に時を過ごされている方がいらっしゃれば連絡お待ちしています』
 インターネットの会員制SMサイトの掲示板で見つけた一文だった。
この手のサイトではありがちな馬鹿げた大仰な文章だ。だが、しばらく画面から目を放せず、
食い入るように見つめていた。時間と共に呼吸や心臓が停止していくような感覚を今でも覚えている。
 心が疼いた。
 私は以前にも飼われていたことがある。
 比喩でも何でもなく、言葉通り飼われていた。わかり易く言えば、調教されていた。
 切っ掛けは単純だった。そこそこ金を持ってそうな、且つ見た目もまともな中年と付き合ったら、
相手がサディストだっただけの話だ。その男は私を一通り調教すると飽きて私を捨てた。だが、私はハマッた。
 摂食障害や自傷癖、そして自殺未遂に苦しんだ自分の過去。私は目覚めた。
Mでなくてはならなかった。人であることの苦しみから解放される唯一の方法だった。
マゾヒズムこそが私の救いだと確信した。
 ディスプレイに映し出されているのは唯の文字列に過ぎない。
しかし、断ちがたい誘惑が私を捉えて離さなかった。まるで引力のようだった。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030923000070

39名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:14:15
 白い自転車

 ある晴れた日のことだった。会社までの通りの道を、ぼくはいつの間にか少年を
目で探して歩くようになっていた。あの懐かしい口笛が聞こえるのを待つようになった。
しかし、今朝はどうしたことか、少年とは会わなかった。
 カコちゃんやサンサちゃん、フミモタにも訊くと、彼らも今日はまだ会っていない。
「風邪でもひいたのかなあ」なぜか落ち着かない気分で、それが妙に可笑しくて、みんなでクスクス笑った。
 陽も高く昇って、昼近くになった頃だろうか。ぼくが会社で仕事をしていると、
どこからともなく、例のよくとおる口笛が、それこそやぶから棒に耳に飛び込んできた。
空耳かなと思ったが、やけにはっきりと聞こえる。向かいの机のサンサちゃんと目が合う。
ぼくは右の耳を指差して「聞こえる?」のポーズをすると、サンサちゃんは真顔で何回もうなずいた。
 その時だった。どこから入ってきたのか、虹色のケープのような、オーロラみたいな、
とにかく眩い光の粒子が、わっと部屋中を覆って、ぼくらはひとり残らずその光を浴びた。
光の粒子はさらさらと音をたてて、消えた。口笛が遠くに聞こえて、去った。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030921000054

40名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:14:26
 わたしだけのかみさま

 でも、祐美はショックで口が聞けなくなっていた。恵子はそれを、悲しんでいると見たようだ。
しかし、本当は、祐美はすごく気分が悪かった。すぐにトイレに駆け込んで、
このお腹の中のもやもやを出してしまいたい。吐き出してしまいたかった。
何で苦しいのだろうと、考えても答えなんて出なかった。大好きな恵子ちゃん、
でも、もうすぐいなくなる。そんな、そんなの、おかしい。
 それからしばらくして、祐美はその場に、頭を抱えてふらふらと倒れてしまった。
パニックになった恵子は叫び声をあげ、それを聞きつけた英理子がやってきて、
結局は事なきを得たが、施設を出るということが、職員以外の人間に知られて、
お別れ会を開かざるを得なくなった。もっとも、このお別れ会だって、英理子にとっては、
単においしい食べ物を職員に要求する理由に過ぎないのである。

 でなければ、あんなに平然としていられるものか。羨ましすぎて、妬ましくて、腹がよじれそうだ。

 結局、5分ほど、祐美は部屋の前に立っていたが、祐美の話題が出ることはなかった。恵子は
気を使っているのだろうし、英理子にとっては、祐美の存在なんて目前のフライドチキンと同列であろう。

 なら、こっちだって、英理子=フライドチキンだ!

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030919000051

41名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:14:37
 水びたしの聖書

 女は悲しそうに揺らめく水を見つめながら、素早く何かをつぶやき、
鋭い尖ったものを、手首にあてた。すっと細い三日月のような赤い線が走った。
よく見ると、手首や足首、体のいたるところに、たくさんの切り傷がある。剃刀を、握っているのだ。
 盥の脇には、茶褐色の石膏の塊のような不思議なものが置かれてあった。
「これは実際に、体を傷つけているのですか」
「ええ。いわゆるリストカットというものの、見世物です」
 嘲笑的な口調で、菅生がいった。私は、声をあげそうになった。
「ここの客は、SMもどきじゃ飽き足らないのです。自殺未遂を、芸にしてくれないとね。
自殺芸です。あるいは、自殺未遂芸」
「自殺芸? そこまで、やりますか。人間は、そんなものが見たいものですか」
「お断りしておきますが、あの子が自分でやるといったのですからね。プロデュースしてやるから
金をとったらどうだといったら、いつでも私は死ぬ準備があるからやってみるといいましてね」
 私は、胸が苦しくなってきた。大学受験を控えた私の娘よりも少し上ぐらいだろうか。
「新宿の公園で、ホームレスに混じって暮らしていたのを、私が発掘してきた子なんです。
ねえ、とてもきれいな娘でしょう。ユリアといいます。この秘密倶楽部の、いちばんの秘蔵っ子」
「ホームレス、だったんですか」少し、間があった。
「――まあ、正確にいえば、彼らに神の教えを説いていた、と」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030923000069

42名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:14:49
 ああ教祖さまっ! 〜 騙されやすい僕らに愛をください Wow Wow Yeah 〜

 オレみたいなのを好きになるモノ好きな女性も居るんだなと思いたかった。
実際オレの知り合いにかなりの色男がいるのだが、そいつはいわゆるデブ専で、
体重が百キロ以下の女性は愛せないとか言っていた変わり者だ。
 だから、彼女もまた、そいつと同じように、オレみたいな冴えない男が
好みなのかと思って安心していた。
 でも現実はこうだ。きっと宗教に勧誘したくて近づいたんだ。とんだ売女だ。
畜生騙された。でもいいや。結構いい思いしたし、まだ抱き足りない気持ちも、
彼女に対する愛情面での未練もあるが、引き際は心得ている。
「ごめん。オレ、宗教とか興味ない」
 香織の表情にかげりが見える。落胆したのだろう。篭絡したと思ってたんだろうな。
オレも宗教とかじゃなく、保険の勧誘とかなら喜んで契約するし、判子も押すよ。でも宗教は駄目だ。
「そう……」
 香織はそれだけ言うと、ベッドからするりと降りた。一糸纏わぬ姿でバスルームへ向かう
彼女を見送りながら、改めていい身体していると思った。
 ラブホテルの風呂はガラス張りというかマジックミラーになっていて、こちらからは丸見えだ。
そこから、身体を洗う香織のなまめかしい肢体が映し出される。
 さっき出したばかりなのに、もうこれっきりだと思うと、名残惜しいのか、股間の暴れん坊将軍がいきり立ってきた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030923000073

43名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:14:59
 踊るコントローラー

 ごはんをよそう母親の顔も曇っている。
「どうだろうな」
「そうでなくても最近、物価が上がって大変なのよ。
この上、すぐ近くで戦争なんかになったら、どうなるのかしら」
「わからんな。経済封鎖であの国がおとなしくしてくれたらいいんだけどな」
 と父親はビールを飲み干した。
「経済封鎖なんかやっても無駄だよ」
「ほう、雄二、難しい言葉を知っているじゃないか。どういう意味かわかっているのか?」
「武器や弾薬を買えないようにするんだろ」
「テレビゲームでちょっと知ってるだけだよ。本当はなにもわかってないよ、こいつは」
 と兄の徹夫がちゃちゃをいれる。
「経済封鎖は武器や弾薬だけじゃないぞ。食糧や燃料も買えなくなる。
さらには道路や飛行機、船といった交通も遮断するんだ」
「なんでそんなことするの? なんで戦争になるの?」
「北朝鮮っていう国が世界のみんなの言うことを聞かないで好き勝手しているからなんだ。
たとえば、ママがどんなに勉強しろ、勉強しろと口うるさくしても、雄二は一日中、ゲームばかり
やっている。ママの言うことなんて聞きやしない。そこでママはついに経済封鎖を宣言するわけだ」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030922000062

44名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:15:09
 祈りの歌

 アーウィンは裏物のジャンクミュージックを嫌悪していた。整合性もなく、優美さもない。
ただ扇情的なリズムトラックで聴いている者の意識を掻きむしるだけだ。
それは神と音楽に対する冒涜であると思っていた。耳をふさぎ、露店の前を通り過ぎる。
単席ホーヴァクラフトが何台か、埃を舞い上げながらアーウィンを追い抜いていった。
 半時間ほど歩くと、弧状の道は市の中心までを貫く大通りと交差した。
 道幅の広い下り坂が、彼方の大聖堂まで遮るものもなくまっすぐに伸びている。
アーウィンは薄暗い曇天を刺し貫く大聖堂の影を正面に見据え、坂を下り始めた。
 じきに、地面がコンクリートから灰色のタイル敷きへと変わった。レベル127に足を踏み入れたのだ。
 音楽が、空から降ってきた。
 低くかすかな不変のリズムと、塗り重ねられた通奏低音が甘く意識をしびれさせる。
その上に幾重にも編み上げられた、歌声とも弦楽ともつかぬ、荘厳な響き。
空そのものが、アーウィンに近づいてくるような。
 《祈りの歌》。
 統一讃歌教会の信仰の中心をなし、神の恍惚たる愛を伝える奇蹟の歌。
メタ・ワシントン市に満ちるこの歌を、しかし母は聴くことができない。
それは神に愛されていないということだろうか。それとも母が神を拒んでいるということだろうか。
幼いアーウィンはそんな堂々巡りの疑問を胸の内でぐるぐると回しながら坂を下った。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030919000048

45名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/08(火) 12:15:19
ひこばえのうた

 人間は右頬に刻まれた傷跡を歪ませて物憂げな表情を作り、道端で花を
開いているタンポポの元にしゃがみこんだ。黄色い花は風によってか左右に揺れた。
すると人間は顔をにこやかに和らげ、そのままタンポポの茎をつまみ取った。
「あ」
 しかし切り株は到って冷静に、
「そう、人間という動物は少し特殊でね。自らの感慨のままに他の生物を殺すことを
厭わないという性質を持っている。あれは悪意や生存の為に命を奪ったのではなく、
ただタンポポが愛しいのだ」
 近くの木の幹に蘖と切り株へ向いて凭れかかった青年は、花びらを抜いては放り、
抜いては放り、微笑みながらタンポポの死骸を弄んでいる。
「ざんこく」
「残酷か、またもや人間のようだな、お前は」
「あんなのといっしょにしないで」
「あのような営みも含めて自然は本来的なのだ。だから生物は普通、残酷という
観念を持たない。人間か、さもなくば生まれて間もない蘖くん以外にはね」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20050227000041

46名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:15:34
 わたつみさま

 七日たって、男たちが戻ってきたとき、その筏舟の様子に女たちは驚いた。かつてない
大漁であったからだ。筏舟から溢れるほどの魚、そしてなにより喜ばせたのは鯨であった。
「タイチのおかげだ」
 ある男が言った。
「タイチが指図したところに行くと、必ずそこに魚が泳いでいるんだ」
 男の、タイチがいかに優れた漁師であるかを語る熱い口上に聞くものは恍惚とした。
タイチは男たちの影に隠れていた。それを目ざとく壮年にさしかかった女が見つけ、
「なにを恥ずかしがることがあるの。もっと自信を持って良いのよ」
「だ、だって」
「カズコの言うとおりだ、お前は良い漁師だ、胸をはれ、胸を」
 人々にちやほやされるタイチの様子をハナは遠巻きに眺めながら、泣いていた。
みこのなかでも特に尊敬を集める御婆がハナに近寄り、
「お前は以前、子供をわたつみ様に捧げたことがあった。これはきっと、わたつみ様の報いであろう」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20030919000050

47名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:15:49
 風の鮨

 そう、オレは、マンガでよくあるように、パンをくわえて慌てて出掛ける、てやつを前から
やってみたかったのだ。我ながら馬鹿な願望だとは思うけど、とにかく一度やってみたくて
しょうがなかったのだ。でも、さすがに平日の通学路で実行するほどの強心臓じゃない。
だから、オレは友達や他の生徒の目が気にならない日曜日に狙いをつけていた。
それも、部活の練習が潰れるぐらい激しく雨が降った翌朝の日曜日を。そして、ついに今日、
その日が台風7号に連れられてやって来た。オレは浮き立つ心を抑え少しずつパンを齧る。
片手でハンドルを慎重に操り雨と風に洗い上げられた街をのろのろと走る。
まだ七時前だけどすでに蝉が四方から忙しなく鳴き立てている。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&amp;key=20031223000080

48名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:16:01
 ピーチ・ボーイ・メモリー

 彼は、色白で、ちょっと年寄りくさくて、純和風な平べったい顔をしているけれども、
とても優しくて、穏やかな性格をしているのが手にとるように分かるような風貌をしている。
それなのに、足がほどほどに長くて、どこで鍛えているのか筋肉もほどほどについていて、
全体的にとってもバランスのとれたきれいな線を持っている。
 僕は彼と寝るところを想像する。顔があんなに白いのだから、手も足も胸もお腹も
白いに違いない。あそこは、どうかな。白いということはないと思う。きっとそこだけ、
茶色がかっているかもしれない。
 とにかく、ベッドの上で、彼の隣に僕は寝ている。白いシーツが彼の胸元まで覆っている。
シーツの白さと比べると、いくらから彼の胸は赤らんででいて、人間くさい。彼の横顔、
ほっぺたがほんのりと赤い。かわいい。顎は細い。唇も薄い。綺麗だ。
どうしてあなたはそんなに綺麗なんだ。
 僕は彼を横に感じながら、オナニーをする。どうして、セックス中なのに、オナニーなんかするんだ? 
 胸の中で、甘い蜜が溶けて行くような感慨に襲われた。
 彼の精液を飲みたい。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20050223000028

49名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:16:13
 迷惑の種

 大統領は椅子から立ち上がると俺に背を向けて、「あそこだよ」そう言って
執務室の大きな窓の外、暮れなずむ夕空の彼方を指差した。
「あのう、もしかして私に、近々建設される火星植民地に行けと」俺は恐る恐る質問した。
もしそうなら外交官とは名ばかりの、体のいい島流しである。確かに俺は、
三人いる大統領補佐官の中で一番失敗が多い。だが、だからといって火星送りとはあんまりだ。
「違う違う」大統領は振り返り、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。「もっともっと遠くの星だよ」
「と、言いますと」火星以外の惑星に植民地ができるという話は聞いていない。
どうにも話が見えてこないので、俺はいささか苛立ち始めていた。
「人類は孤独では無かったのだよ」急に重々しい口調に変えて、大統領は俺の目をひたと見据えた。
「今まで極秘にしていたが、つい最近、人類は異星人とファースト・コンタクトしたのだ」
「マジで?」俺は言った。
「マジで」大統領は答えた。「それでだ。友好の印として互いの星に大使館を置くことになったのだ。
そこで君に、我々地球連邦の代表として、アリアリ星に行ってもらいたいのだ」
「アリアリ星というんですか」俺は作者のネーミング・センスの無さに呆れた。
この調子では俺の名前も、どうせ変なのに決まっている。
「行ってくれるかね、斑鳩ルリ夫君」作者よ、センスをけなしたからといって意地悪は止めてくれ。
斑鳩なんて字、どう読めばいいのかわからないよ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20040418000041

50名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:16:22
 花盗人

 おや、おまいさん。眠れないのかい? そんなら一つ、妙な噂を教えてやろう。
 ここら一帯がこれほど発展しとらん頃の話だ。
 町を見下ろし、ぐるりの山を見渡せる小高い丘のてっぺんに、たいそう立派な桜があった。
 だけどもその桜に近づくことは許されとらんかった。
 毒が埋まっているのだと、童らは一人前になるまでは遠くから眺めることしかできず、
老いた者もまた近づくことを許されんかったそうだ。
 どうしてか? それはほら、俺は知らねぇよ。古い噂話だ、おかしなところは誤魔化し
誤魔化されてくるかんな。
 ただ、この町が呪われている訳でも、人々が愚かな訳でもなかった。嘘じゃねぇ。
みな善人で、せっせと働き、心身ともに健康だった。きつい農作業ばかりしとっても、
寿命はえらく長かったという話だよ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20040416000030

51名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:16:34
 水やり当番

「それやったらなぁ、テストしたるわ」
 大野はゆっくり僕に近づき、肩に手をかけてくる。ぶよぶよした大野の脇腹が、
腕に強く押しつけられる。
「テストって?」うわずった声が出た。
 隣にいる茂彦も、じっと大野の言葉を待っている。
「お前がそこまで、ノブを嫌ってるんならな、」大野が声をひそめる。
「ノブの朝顔の花と蕾、あれを全部、取ってこれるよな?」
 言葉が出なかった。
 ノブの朝顔。Tシャツを濡らして、花に水をやっている細い横顔が思い浮かぶ。
「そんな……無理だよ」
「ノブが嫌いなんやろ? そんなら、証明できるはずや。なぁ、茂彦?」
 話を振られた茂彦が、大きく頷く。
「きーまりっ!」ひと声叫んで、大野は僕を腕から解放した。
 ぬるい夏の空気に放り出された途端、全身から汗が噴き出す。目の前が一気に暗くなっていく。 
「だいたいな」大野が僕の机を乱暴に叩いた。「ムカつくわ。なんで、オレの花は咲かなくて、
ノブには、あんなにデカイ花が咲くんや?」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20040417000040

52名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:16:45
 深海光

 最初の水槽の青くどこか浄化されたような光が二人とその周りの世界を包む。
その光に照らされて、二人はマリンブルーにきらめくヒトガタのようになった。
「ほら、最初はサンゴ礁の魚だ」
「ふぅん」
 父の言葉に水希は気の無い答えを返す。孝洋の言葉通り、水族館の最初の
見せ物は『サンゴ礁』だった。
 水から取り出してみるとそれぞれ純粋な赤だったり黄色だったりするサンゴも、
海色にぼやけて少ししけた色に見えた。その上をまさに色彩の祭りといった感の
色々な子魚が泳いでいる。
「サンゴ礁には色々な生物が集まっているんだ。例えばあそこにいるエビは――」
「そんなこと聞かなくても解説読めばわかるよ。もうサンゴ礁の『礁』って字だって
読めるようになったんだから」
 ふてくされたように水希は言って、握っていた手を離して解説板に向かう。
孝洋はほうと息をついて、ただそれを見送った。
 水槽の前の時間はブルーに照らされてひどくゆっくりと流れていた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20050106000008

53名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:16:54
 ザリガニの恩返し

「入れてあげなさい、だってさ」
 しばらくして戻って来た妹は僕にそう言うと、またすぐに奥の部屋へと引っ込んでしまった。
ザリガニの接客なんて厄介事は、すべて僕に押し付けて。
「――だそうです。どうぞ」
 はたして、ザリガニに日本語など通じるのか非常に疑問ではあったが、そいつはぺこりと
頭を下げると、真っ赤な甲殻をがしゃがしゃ言わせながら家の中へと上がってきた。
 という事は、先ほどの僕と妹の失礼なやり取りもすべて正確に聞き取っているわけだよな、やっぱり。
 そんな事を考えながらザリガニを居間まで連れて行くと、ちゃぶ台の向こう側に腰を下ろしている祖父。
その真正面にザリガニを座らせ、僕はその二人の間に同じように腰を下ろし、あぐらをかいた。
 ザリガニはその二本の足を器用に折りたたみ、黙って正座をしている。
 ずいぶんと礼儀正しいザリガニだなぁ。
「ニボシ」
 祖父がそう口を開いた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&amp;key=20050224000031

54宣伝時の説明文案:2005/03/10(木) 11:55:33
創作文芸板には、このような文章練習用のスレッドがあります。

お約束
1:前の投稿者が決めた3つの語(句)を全て使って文章を書く。
2:小説・評論・雑文・通告・??系、ジャンルは自由。官能系はしらけるので自粛。
3:文章は5行以上15行以下を目安に。
4:最後の行に次の投稿者のために3つの語(句)を示す。ただし、固有名詞は避けること。
5:お題が複数でた場合は先の投稿を優先。前投稿にお題がないときはお題継続。
6:感想のいらない人は、本文もしくはメール欄にその旨を記入のこと。

短い文章は書きやすそうで書きにくいもの。更に3語を使うという縛りが加えられています。
即興で唸らせるのが3語スレの華。早いときには10分でレスがつくことも。
今回は、過去に投稿された作品の中から幾つかを紹介したいと思います。
名前欄に入っているのがお題の3語です。
なお、宣伝スレ用に幾つかの作品は改行を変えさせて頂きました。

55名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 11:55:54
「恋人」「境」「変わ」「影」「芸術」「帰郷」

 生まれ帰郷に出来た女子芸術大。仕事始めの教授は、校門の前で深呼吸した。
 いつもと変わらぬ…が、中央での勤務を境に、久しく訪れていない故郷だ。
 「自分は再び故郷に溶け込めるだろうか?」教授は少し不安だった。

 校門には、何人かの娘達がティッシュを配っている。何かの広告らしい。
 「よろしくおねがいしまーす」
 しかし、教授にはティッシュは配られない。すっと手を戻す娘達…
 何か気になる。教授は校門前を一回りし、もう一度彼女達の前を通る。
 …やはり、ティッシュは配られない。彼だけに!
 ティッシュが欲しい訳ではない。ただ、田舎特有の「余所者扱い」が怖かった。
 三度、四度回っても結果は同じ。「私は…私はもう余所者なのだろうか?」
 「これではいけない。」ティッシュ配布娘の影に忍び寄り、機会を伺う教授。
 「あっ!」と叫ぶ娘。間隙を突いて、教授がティッシュを2つ奪取したのだ。
 「思い知ったか、人を貶めて楽しむ卑しき娘よ。わっはっは!」
 満面の笑いを浮かべ、勝利のティッシュの裏を見る教授の表情が蒼ざめた。

 「貴女の黒髪に恋人は夢中!直毛パーマ、大チャンペーン中<5千円>」

56「2ちゃんねる」「創作文芸板」「この三語で書け!」:2005/03/10(木) 11:56:28

 花の御江戸で足掛け百年。この寿司屋にも、新しい板前がやってきた。
 「関西から来ました」
 「よくきてくれたな!けど、関西という割には…なんだね、言葉が硬いねぇ」
 「毎日、2ちゃんねるばかり見て参りましたので」
 寿司屋はギクリとした、これは断った方がいいかもしれねぇな。
 「ま、まずは一月握ってみろぃ。が、その背広はいけねぇ、寿司屋だろ?」

 腕前は確かだが、異様に生真面目だった。尊敬するのはハイネとゲーテ。
 さながら創作文芸板前の登場に、店の雰囲気は急速に変化しつつあった。
 「御客様、よくぞいらっしゃいました。どのようなものを握らせて…」
 「おいおい、辛気臭くっていけねえよ。もっと気楽にできねぇのか?
  らっしゃい、何握りやしょ、へいっ、この三語で…書け!なんていってねえ」
 寿司屋の言葉を一生懸命ノートに書く新入り。こいつは一体!?

 新入りのルーツを探るべく、彼は大阪に出かけた。
 ホテルのテレビをつけると、2チャンネルで「日曜美術館」をやっている。
 そうか。関西では、2チャンネルはNHKだったんだ。

57「お前はそれで」「いいのか?」「ほんとに」:2005/03/10(木) 11:56:55
いやね、生きてるってほんとに大変ですよね。嫌なことがあれば、良いこともある。
気苦労が絶えませんよ、ホント。え?お前はそれで何が言いたいのかって?
すいませんどうもあっしは話が長くていけねえ、本題いきましょか。
あっしがまだ若い頃の話なんですけどね。家の門の前にでっかい鞄が落ちてたんですよ。
で、開けたら中にはぎっしり札束が……。一瞬迷いましたよ。魔が差すっていうかね。
隠しておいたら誰も分からないんじゃないか、ちょっとなら使ってもいいのかもしれない、とか。
ま、当時は食うのにも困るほど貧乏でして……それに、馬鹿でしたからね。
ところが、すぐに持ち主が現れましてね。そこで立ちションしてただけだったんですよ。
で、本人は落としたわけではないので、お礼なんてくれなくていいんですが
1枚だけくれたんでさ。で、あっしはその金を元手にしてあの鞄の中身を手に入れるための
作戦を考えましたがあるわけないですよね。結局、寿司食って、おしまい。
でもね、その時の寿司がホントにうまくてねぇ〜。
そうなんですよ、それであっし、今の仕事に就いたんですよ。
金は手に入りませんでしたが、結局あの鞄拾わなきゃ今のあっしも無かったですからね。
本当人生って奴は、どこで何がどうなるか分かりませんぜ旦那。

58「異空間」「笑顔」「野鳥」:2005/03/10(木) 11:57:15
 この異空間に放り込まれて、多分もう三週間が経ったのだろうが、
まだ腹が減らないので三時間ということにしておこう。
 何も見えず、聞こえず、感じないこの空間で、俺はただ考え事をして過ごしていた。
『我思う。故に我あり』を身をもって実践しているわけだ。
 しかしもう限界だ。いい加減、死んだって良いだろう? 夢も希望もありゃしない、ちゃんちゃん。
 自暴自棄になって久しい俺は、ちゃんちゃんから連想される事柄を考えることにした。
もしこれに失敗したら、もう終わりだという期待があった。
 しかし、その連想は思いのほかすんなりと浮かび上がってくる。

「ちゃんちゃん」
 野鳥の観察中に突然そう言い出した彼女に、俺は顔の前から双眼鏡を退けて目を向けた。
 ……なんのオチがついたんだ?
「いやぁ、こう言ったら野鳥が寄ってくるかと思って」
 ……寄って来ないだろ、それじゃ。
「じゃあ失敗だ。ちゃんちゃん」

 この異空間で、もう少し粘ってみよう。少なくとも、粘ることは出来る。
 だって、何の感覚も通わない顔面に今笑顔が浮かんでいるのを、俺は感じたのだから。

59「ラジオ体操」「テレビ」「脳内」:2005/03/10(木) 11:57:42

 深夜ニ時。酒を飲んで帰った僕は一人テレビを観ていた。
画面では鼻の下に鬚をはやした白人男が、
嬉しそうにスチームで車を洗っている。
これで同じシーンが流れるのは何回目だろうか?
酒のせいか僕は飽きもせずにテレビの前に座り続ける。
白人男が金髪の女友達を呼んだ所で、予告無しに画面が切り替わった。
さっきまでの内容とは全く違う、
これからニュースでも読みそうな雰囲気だった。
「臨時ニュースです。今日未明、ラジオ体操第一から六番目の横曲げの
運動が廃止になりました。横曲げの運動が廃止になりました。日本ラジオ体操
協会によると、正しく横曲げ運動をしたほとんどの人から、高密度の脳内麻薬が検出され
た事によるとの事です。また中毒性も強く、毎朝ラジオ体操を続けてしまう原因は
ほとんどが横曲げの運動からきてるようです。以上臨時ニュースでした」
次の日の夕方、いつもコンビニの前にたまっていた不良グループが
輪になって、正確に横曲げの運動を始めていた。

60「パンダ」「警察」「悲鳴」:2005/03/10(木) 11:58:05
クラブ・プッチンのDJは着ぐるみ・マニアで有名だ。
今日などはパンダ姿で、レコードを回している。
マイケル・ジャクソンの『Human Nature』と、『TAXI DRIVER』のサントラを使って、
心地良いフローでフロアを波打たせている。
と、突然、音が止まった。客をじらしているわけではなかった。
停電でもなかった。それは、警察が踏み込む合図だった。
薬の売人とその元締めが、この店のバーに来るとタレコミがあったのだ。
私服・制服入り混じった大勢いの警察官が、出入口を固める。興をそがれた
一部の客が、小競り合いを始める。女性の悲鳴が響き、どこかでグラスが割れる
音がする。派手な照明もいつの間にか、白一色になっている。
警察は、目当てのホシを取り押さえると、なぜかDJのパンダまで連行した。
パンダはしかし、護送車には入れられず、パトカーに乗り込んだ。
そう、覆面捜査官は面が割れてはならない。

61「はすむかい」「まずありえない」「みずしらず」:2005/03/10(木) 11:58:25
はす向かいに住むSさん家族は有名だ。
彼らを知らないなんて、日本人ならまずありえない。
見ず知らずの人にも気さくに接するSさん家族を視ることは、
僕のささやかな幸せのひとつだ。ただひとつ憂鬱なのは、
明日が月曜日だと思い出してしまうこと。
いまは解散しているバングルスが『Monic Monday』なんて曲をつくったのも、
Sさん家族を視たからかもしれない。
個人的な付き合いはないけれど、日曜日の午後6時半にテレビをつければ、
まるで昔からの知り合いのようだ。あ、そうそう、近所に住む者として、
最後のじゃんけんに負けたときの悔しさは、筆舌に尽くしがたい。

62「蛍光」「ヒエラルキー」「片想い」:2005/03/10(木) 11:58:43
 宇宙人の介入により、核戦争の危機から逃れて15年。
 人類は、いまだかつてない平和と繁栄を手に入れていた。
 知識階級ともいうべきヒエラルキーを形成した宇宙人。決して驕らず
全てにおいて完璧な彼等にも、抑えきれない衝動が一つだけあった。

 その日。別れの挨拶にやってきた彼女の姿を見て、僕は息を呑んだ。
 全身がピンク系の蛍光色に染られ、背中に大きく「人類」と刺青されている。
 それは、宇宙人の唯一の衝動「好奇心」を満たす、人類ショーの印だった。

 「これからの私に「見世物」以外の価値ってないから…」と、彼女は俯いた。
 それはそうだ。どう頑張っても、宇宙レベルで優れた能力を持つなんて無理だ。
 ただ一点、人類独特の風習・特徴の観光的価値を除いては。
 エリート教育を受けてきた彼女は、高1でそれに気付いてしまったのだろう。

 しかし自分には、若干片想いながらも彼女は価値ある存在だった。
 翌日、僕は全身を紫色の蛍光色に染められ、「人類2」の刺青を彫られていた。
 彼女は泣いて喜んだ。「いいって、収入だって桁違いの高給だしさ」

 ショーが始まる。人類独特の風習…宇宙人には思いもよらぬ夫婦生活の数々が。
 それは昔の言葉で言えば、カップルの温泉芸者そのものだったが。

63「馬鹿」「重症筋無力症」「民事訴訟法」:2005/03/10(木) 11:59:06
健二は自らを誇大する癖があった。
「夕方になると眠くならない? 瞼を開けてられないんだよね」という
アルバイト先の同僚が発した言葉対し、「君、それは重症筋無力症の疑いが
あるよ。アセチルコリンの分泌異常が原因なんだけどね、多分働きすぎでは
ないのかな? 一度医者に行く事をお奨めするよ」と捲くし立てたり、意味も
なく六法全書や民事訴訟法に関する分厚い本を小脇に抱えて人通りの多い夜の
繁華街を練り歩いたり、運良く知り合った女性に「僕は大学という概念が嫌いな
んだよ。まず第一に、あそこではろくな事を教えない」と嘯いたりした。だが、
所詮は付け焼刃の知識である。例えば「あー、そういえば昨日のテレビでその
重症筋なんとかっていう病気の事をやってたね」などと言われると、とたんに
押し黙り、遂には意味もなく起こり散らかすのだった。

「…難しそうな本をたくさん持ち歩いてるけど、貴方は何処の大学?」
「いや、だからさっきも言ったと思うけど、僕は大学そのものが嫌いなんだ。
体制自体に不信感を抱いている、と言った方が正しいかな」
「…つまり、大学には行ってないの?」
「まあ受ければ合格していただろうね。大抵の大学には」
「…私も高卒だし、別に大学を出る出ないには拘らないわ。でもね、貴方
みたいな人って最低。馬鹿みたい」そう吐き捨てて女は何処かへ歩いていった。
健二は何度も似たような過ちを冒し、その度に友人を失っていた。

64「梅」「星」「目薬」:2005/03/10(木) 11:59:24
星の綺麗な夜だった。
あまりに陳腐な常套句だと自分でも分かっている。
帰省した田舎の夜を表すのに、俺の貧弱な語彙で表現できるのはこの程度だ。
完全に理系人間と自覚しているし、それを悔いてもいないが、少しは文学もかじった方が良かったかな、と思う時もある。
眠れずに寝間着のまま庭に出た私は、汚れた東京の空では決して見ることのできない星の瞬きを見上げていた。
庭に植えられている梅の清冽な香りが、私の心に張った油膜を洗い落としてくれたのもしれない。
目薬をつかって目の疲れをごまかしながらパソコンのディスプレイに向かう日々。
そんな日常に心が錆びついたような私にも、まだこんな部分が残っていたんだな、と嬉しさと悲しさを半々に感じた。
「もう少し、がんばってみるかな……」
俺はそう呟くと、母屋へと戻っていった。

65「飢え」「ルート」「掃除」:2005/03/10(木) 12:00:06
きちんと掃除の行き届いたこの車内は、彼の几帳面さと見た目通りの清潔感が窺える。
彼の車があてもなく走り続けて4時間が過ぎようかとしていた。


一度こうなってしまうと私はもうお手上げである。決まったルートがあるわけでもなく、
走り続けるときはいつも、ほとんど何も言えずにあなたの悲しそうな横顔を見つめながら
目を覚ましていなければならない。

−−今日は一体何があなたを走らせるの?

この一言でいいから話しかけたい。でも、そうできない自分を必要としてくれる
あなたがいてる。自分の無力さに、悲しみで涙が溢れそうになる。
それでもあなたは「ありがとう」と言ってくれる。

ごめんなさい、誰かの言葉に飢えているのでしょう?
それでも私があなたに言えることは、ただひとつ。

「コノサキ ジュウタイデス」

66「腕時計」「封筒」「リンゴ」:2005/03/10(木) 12:00:28
大丈夫ですか? おやまぁ、派手に転びましたね。あのバイク、もうダメですね。
このあたりは見通し悪くて、よく事故とか痴漢とかひったくりとかあるんですよ。
私もね、ここでひったくりにあったんですよ。
はやく誰か呼んでほしい? 本当にすみませんね、いきなり飛び出したりして。
そうそう、あれは今日みたいな小雨の日でした。
いきなり後ろから来たバイクの人に右手のバックをつかまれたんですよ。いきなりに。
驚いた私は、転倒してそこの花が置いてある電柱にぶつかったんです。痛かったですよ。
左手で抱えていた買い物袋が破れて、リンゴや梨がそこら中に転がって。
結婚記念日に夫から貰ったばかりの腕時計はどこかに飛んでいってしまうし。
何より、銀行から卸したばかりの封筒がバックに入っていたんですよ。
おや、顔が青いですよ。血はそんなに流れてないみたいですけど。
大丈夫、心配しないでください。
死ぬのは、普通におもってるほど苦しくないんですよ。
あらゆる重みが消えて、とっても軽く楽になるんです。
それを教えてくれたあなたにも、味わって欲しくて待ってたんですよ。
この通りで、ずうっとずうっと、ね……

67「天使」「斧」「密室」:2005/03/10(木) 12:00:47
今年もたくさんの母子草が川沿いの土手に花を付けた。黄色い小さな花だ。
もう何年もこの土地の四季を感じて生活しているが、今年はその中でも
特別な夏だった。娘の深雪に男の子が生まれたのだ。初孫である。
この子が生まれたという一報を受け、大学病院への道すがら、初孫に
何と名付けようか迷ったものだった。しかし、その姿を目の当たりにした時、
後頭部を斧で打たれたかのような衝撃が走った。
少し大きな虫カゴとも思える、透明のプラスティックの密室に、たくさんの
管とともにおさめられていた。膝から崩れ落ちるのをやっとの思いで堪えた。
孫は、夏に生まれたにもかかわらず、肌の色にこと関しては真っ白で、冬に
生まれていれば「凛」とでも名付けただろうが、その時はそれどころでは
なかった。身を案じ、天に祈るほかなかった。
願いは届いた。4日後には、ほかの健康な赤子たちとともにガラスの向こうに
眠ることを許されていた。私は美しく白い肌の天使に「爽」と名付けた。
ついに私も「おじいちゃん」と呼ばれるようになるのだ。これからは
若者の親切な声に、素直に席お譲られることにしよう。

68「南洋」「紅葉」「動揺」:2005/03/10(木) 12:01:08
食堂に集まった船員達の顔には、昨日のマグロとの格闘の疲れが色濃く映し出されていた。
太田を含めた船員達は、黙って船長の発する労いの言葉に耳を傾けていたが、
話が事故のことに及んだとき、明らかに食堂内の雰囲気が変わった。
太田は視線こそ向けないが仲間達の意識が自分の方を向いているのを感じていた。

解散になったあと、太田は伊藤の部屋を訪れた。船長から伊藤の荷物の整理を命じられたからだった。
衣類、タオル、歯ブラシ、文庫本。太田はそれらを無感動にベッドの上に並べていった。
机の中身を全て並べたあと、太田はベッドの下を覗き込んだ。荷物を入れるスーツケースがあるはずだったが、
その横に南洋上の船室には似合わないものを見つけて、太田は動揺した。
そこには真っ赤色づいた紅葉の盆栽があった。太田は慎重にそれを引き出すと、ベッドの上に乗せた。
凄い、と太田は思った。鉢から飛び出るように伸びた幹、そしてそこから手を伸ばすような格好の枝には、
赤々として今にもはらりと落ちてきそうな葉。
太田は知らず知らずのうちに拳を握り締めていた。思い出していたのだ。
伊藤の重みが手から離れ、二人の間に決定的な距離が生まれたときに、
何かをつかもうとこちらに伸ばされた腕を。

翌朝、太田の姿はどこにもなかった。
ただ、一枚の紅葉が彼のベッドの上に置かれていただけだった。

#マグロ漁船に一人部屋なんて存在しないとは思いますが…。

69「魚」「卵」「養鶏場」:2005/03/10(木) 12:01:49
僕は佐々木養鶏場のとれたて卵が好きだ。
近所のスーパーでたまたま佐々木養鶏場の卵を買って以来他の卵を食べる気がしなくなった。
佐々木養鶏場の卵はそれ程おいしい。
卵のパックに入っていた説明書によると鶏の餌に魚の粉を使っているらしい。
魚はアミノ酸が豊富で卵の味を整えるのに役立つらしい。
その日もいつもの様に佐々木養鶏場の卵を買った。
僕はオムレツを作ろうと思いパックから卵を一つ取り出した。
何だか妙に重い気がしたが食欲に負け、卵を割る為にレンジの角に卵をこつんとぶつけた。
上手い具合にひびが入った。僕は卵の黄味をボールに入れようとひびが入った卵をぎゅっと握った。
何だか妙な抵抗感があった。いつもならきれいに二つに割れる筈の卵が歪な形になった。
僕は卵を握る手の平に少し力を込めた。卵はくしゃっと音をたてて中身を晒した。
ひよこの死骸だった。白身にまみれたひよこの死骸だった。
僕は思わず卵を床に落とした。ひよこの死骸はまるで自分が死んだ事を否定し、
何とかこの世に生まれ出ようとするかの様に床に落ち割れた卵からはみ出していた。
僕はひよこの死骸を卵からそっと取り出すと裏庭に埋めた。
きっとひよこの死骸は地面の中で微生物に分解され、土の養分になってしまうだろう。
でも、雨が降ればその養分は地下水に沁みだし海に流れ込むかも知れない。
そしてそれを体内に取り入れたプランクトンを魚が食べる。
いつの日かあのひよこは佐々木養鶏場に戻って来るかも知れない。
僕はそんな事を考えながらひよこを埋葬した。

70「鏡」「鮫」「始発列車」〜あるいは消えた凶器〜:2005/03/10(木) 12:02:15
 冬の始発列車は陽も昇らぬうちから車庫を出て、目的の駅まで向かう。各駅停車の
必要もないので自然と速度が出る。
 運転席からは薄暗くて外の様子はほとんどつかめず、ただ線路だけがヘッドランプ
を鏡のように反射し輝いている。だが、その輝きは急に湧き出た朝霧にさえぎられて
いく。続いて警笛と金属の悲鳴が朝の静寂をかき乱した。
 始発電車に轢かれた死体は右腕と両足を切断され、まるである映画で鮫に襲われた
人間のような姿だった。だが、死因は轢死ではない。所見では鈍器によって撲殺され、
線路に放置されたらしい。しかし死亡推定時刻と轢断の時間は極めて近接しており、
柵を越えて被害者を放置するような時間がどれだけあったかは疑問である。
 死体の近くには運転手がいて、線路全体は後方から車掌が見張っていた。そのどち
らも不審な物を見ていないと証言した。
 そこで警部補は被害者は自殺であり、轢かれた衝撃でどこかに頭をぶつけたのでは
と考えた。しかしそのような形跡は見つからない。苦しませないため、それとも補償
を怖れて、運転手がとどめをさしたとしても凶器はない。名探偵皇太郎の答は……
「答は目の前にあるでしょう。切断された足の片方です」

71「手紙」「恋人」「雨」:2005/03/10(木) 12:02:36
占い師フランソワーズ井出の家は、横浜山手の奥まった場所にある。
時代に取り残されたような古い洋館をやっと探しあてたのは、
雨の降る午後だった。長い年月の風雨に耐えてきたと思われる
木製のドアを叩くと、占い師本人が迎えに出る。黒い服の老婆だ。
「はじめまして。四時に予約した森本と申します。こちらは
紹介状でございます」
フランソワーズは知る人ぞ知る占い師である。恐ろしいほど
よく当たるとの評判で、政治家や芸能人とのつながりも深い。
紹介がなければ面会さえできないクラスの占い師である。
むっつりとした表情で、受け取った手紙にちらりと目を走らせた
フランソワーズは、二階にある占い用の部屋に私を案内した。
部屋の照明は、一本のロウソクのみ。占い師はろくに話も聞かず
タロットカードを切り、皺だらけの手ですばやく並べていく。
絞首刑にされた男や、寄り添う恋人達、鎌を持った死神など、
私にはまったく意味不明な絵柄のカードばかりだ。
フランソワーズはおもむろに口を開いた。
「すぐにここを逃げなさい。あなたに大きな危機が迫っている」
「は。それはどんな危機ですか?」
思わず身を乗り出した瞬間、私が腰かけていたソファの下の床が
抜けた。

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73「島」「時計」「猫」:2005/03/10(木) 12:03:14
南洋に浮かぶ孤島は資本主義社会とは隔絶した存在だった。
拝金主義にまみれ下克上の精神が渦巻く世の中を倦み嫌ったある思想家が、
己の遺産や財を投げ売り、その島にユートピアを創造した。
島には貨幣が無かった。物欲を満たす為の手段としては物々交換が広められた。
俗世間を見限った者たちがこの島を訪れ、独自の共同社会を作りだしていった。

島で生活するには、交換するための「商品」が必須であったのだが、
しかし、その「商品」作りを怠るものが現れた。
その男はそれまで猟師として生計を立てていたのだが、ある日突然、なりわいを放棄した。
漠然とした倦怠感が男を襲った。
男は妻と一人娘の為に、ひとまずは手持ちの衣服やら時計やらを「商品」として用いたのだが、
そんなものは高が知れていた。すぐに「商品」は尽きた。
飼い猫を「商品」としてもみたのだが、米三十キロにしかならなかった。

いよいよ困った男は10代半ばの娘を「商品」とした。牛二頭分になった。
その蓄えが尽きると、男は愛妻を売りに出した。米一年分にしかならなかった。
時が流れると、妻のおかげで得た米も底が尽きた。
しばらくは飲まず食わずで過ごしたのだが、もう辛抱できなくなると、
男はその身を「商品」として用いた。

男の価値は――秋刀魚三匹だった。

74「簪」「グレープフルーツ」「ディスク」:2005/03/10(木) 12:03:36
女はグレープフルーツミントを握って死んでいた。ある殺人事件の現場でだ。
容疑者はすぐに浮かび上がった。彼女の交際相手だ。
しかし男は殺害日にはアリバイがあると主張していた。
ある日、私はヤツに呼ばれて家を訪ねた。アリバイの証拠が見つかったらしい。

「やっとデジカメでとった写真を保存してあるディスクが見つかったんですよ。
この前お話したとおり、その日京都に旅行してたんですよ。
ホラ、舞妓さんとの記念撮影です。後ろの日めくりは8月15日となってるでしょ?」
ヤツは勝ち誇った顔をしてパソコンのディスプレイを見るよう俺を促した。
俺はそれを見て、ゆっくりヤツにこう言った。
「お前は舞妓さんの簪が季節によって変わることを知らないんだろう、
この写真の簪は”ききょう”、9月の簪だ。少なくとも夏にする簪では無いな」

アリバイが崩れたヤツはペラペラと犯罪を自供した。

護送する途中。俺はヤツに訪ねてみた。
「なんで彼女はグレープフルーツミントを握っていたんだと思う?」
「さあ、まったく見当がつきませんね」
「お前は本当に考えないヤツだな。グレープフルーツミントの花言葉には
”あなたを信じます”という意味もあるらしいぜ」

75「犬」「墓標」「テーマパーク」:2005/03/10(木) 12:04:01
東京に出てきて2年目の夏を迎えた頃、田舎から一通の手紙が届いた。
――コロに子供が生まれました。子犬の名前は私がつけていいですか
朝子からだった。昔から彼女には、周囲を驚かせて注意を引こうという妙な癖があった。
――もし、私かコロのどちらかが死んだら、すぐ帰ってきますか
いつもの調子だった。ため息を付く。多忙な毎日に疲労が重なっていたせいかもしれない。
ふつふつと頭の奥が熱くなり、心の底からの怒りに変わっていた。
俺は手紙を引きちぎり、そのままテーブルの上にばらまいてみせた。

あれから5年後の夏。長期休暇の最終日、俺は田舎から東京へ帰るため、
夜行バスの停留場に続く畦道を歩いていた。
テーマパークの誘致が決まったこの近辺は昔とはずいぶん景色が変わっていた。
側面の田畑も埋め立てられ大手建設会社の看板が立ち並んでいる。
「じゅんくんじゃないの」 朝子の声だった。驚いて振り返るとそこには朝子の母親がいた。
「まあちょっと寄っていきなさいよ、朝子も喜ぶから」
母親は手に供え物と桶を持ちながら返事をするまもなく歩き出した。
――もし、私かコロのどちらかが死んだら、すぐ帰ってきますか
薄暗い畦道を歩く、地面を踏みしめる音がなぜか恐怖に繋がっていく。
「ああ、コロちゃん死んでしまってね」
母親は振り返りもせず雑木林に隣接した墓地に入っていく。
――しかし、コロなら家の庭にでも埋めてしまえば
俺は、墓標を見上げた。

76名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 18:12:07
489 名前:276 投稿日:05/03/10 01:30:13
宣伝FLASH作ったんで晒しときます。
相変わらず拙い作品ですが宣伝用としてペタペタ貼ってくれれば幸いです。

ttp://www.geocities.jp/dse001891001/soubun_CM2.html

77名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/10(木) 23:16:15
>>65イイネ!

78名無し文芸人@トーナメント中:2005/03/20(日) 20:45:19
【業務連絡】
↑の3語スレ、アリ作品は一次予選で使い尽くしました。
スレッド紹介は( )、無理して誉めます、アンパンマン以外は殆ど使っていません。

ここから下が二次予選用のストックになります。

79「王様」「ガールフレンド」「千歳飴」:2005/03/20(日) 20:45:39
鳥居の前にリムジンが到着し、来日中の某国王が車内から姿を現した。参道の群衆が日の丸と
某国の国旗を振る。俺たちSPは周囲に鋭い目を走らせた。
ちょうど七五三シーズンを迎えていた神社では、着物を着た親子が多い。神道に興味を示すほ
どの親日家である王様は、日本の伝統的な民族衣装を見て、ことのほかお喜びのようだった。
俺の方もちょっとしたお喜びだった。群衆の中に、3歳の息子を連れた妻の姿を見つけたの
だ。ところがそのお喜びは一瞬にして吹っ飛んだ。群衆の中に、節子の姿も見つけたからであ
る。節子とは俺のガールフレンドである(俺のような既婚者の場合には愛人とも言う)。しか
も節子は包丁らしきものを手に、まさに俺に向かって走り出てきたではないか!
そしてさらに! 参道を見下ろすビルの窓に、ライフルを構えている男がいるのまで発見して
しまった。危うし王様、危うし俺!
俺はとっさに駆け寄る節子の腕を取り、王様とビルとを結ぶ直線上に、彼女の腕を掲げた。間
一髪、包丁は砕け飛び、ライフルの弾丸を王様の頭から数ミリ離れたところへ反らせた。
「確保! ビルにもスナイパー!」俺は節子を組み敷いて叫んだ。
同僚がビルに向かって駆け出す。妻は、と見れば、すでに群衆と一緒に避難を始めていた。
要人および俺の暗殺、さらに妻と愛人鉢合わせ、という3つの危機は同時に回避された。後は
節子の口封じだが、これは名案が浮かばない。……猿轡がわりに千歳飴でも噛ませておくか。

80「乳」「乳首」「乳頭」:2005/03/20(日) 20:45:53
蘇州に一夫在り。名は李賞、牛飼を以って生業となす。其の窄する
牛乳の不思議に甘きが故に邑人、賞を李乳と呼ぶ。
一日、李乳牛を追い松林に入り、林中に一仔を失う。李乳頭を抱えて
小牛を惜しみ、これを呼ぶ。「汝が母の乳首はここにあり。何ぞ甘き
乳を捨てて暗林に飢えんや。」貴人の香あり。李乳首を回してこれを
観る。白衣の美童在り。「吾はかの小牛なり。母の乳を汝に獲られ、
寒中に飢えたり。若し母の乳を吾に多く与うれば、母の乳はより甘
からん。またその値と名とはより高からん。今汝吾を呼ばわれば、
すなわち汝が元に帰らん。吾が意を得たれば、汝が家は繁く栄えん」
爾後李乳、美童の言に従いてまず乳を其の小牛に与え、後に残りを取
れば乳、大いに甘く、その香は隣邑を満たし、その味は美酒に如く。
李乳たちまち栄え、その名は長安に聞こえしとかや。

81「インド大麻」「縫製工場」「跡取り息子」:2005/03/20(日) 20:46:09
カルカッタ郊外の小さな縫製工場の息子、デネシュは今日もチャラスを
一服決めて近所の林に考え事をしにいった。何故人間はこの世に生まれ
たのだろう、とか、この世の初めの前にあった混沌とはどんなものか、
とか、答えの出にくい問いについて考えるのが彼の趣味だった。
青い空を見上げて土の上に寝転びながら、将来体験する男女の営みについて
あれこれ考えていたら、なんだか悲しくなった。インド大麻の酩酊感が
薄れるにつけ、悲しみばかりが鮮明に残った。
デネシュはぶらぶら家に帰った。家の向かいの工場の出口で、母親が鶏を
追いながら言った。「また、あんたはぶらぶらほっつき歩いてばかりいて。
少しは跡取り息子の自覚を持ちなさい。お隣りの長屋のファティマはお前と
同い年だっていうのに、自分で稼いでいるじゃないか。あんたみたいに
ふらふらしていると、今にカーストの違うお嫁さんをもらうことになって
泣くんだよ」デネシュは母のほうを見もせずに家に入る。
ベッドに身を投げて、彼は隣の長屋のファティマのことを考えた。物乞い
しやすいようにと、両親に両足と片腕を切り落とされた美少女。ぼくは
どうせならあの子と男女の契りをしたい、と彼は思う。カーストも違う、
ぼくとは何もかも違う、あの子がいい、と強く思う。デネシュはチャラスを
もう一服つけ、甘い煙の気だるい酔いに身を任せた。

82「把握」「ライフル」「宣伝」:2005/03/20(日) 20:46:25
戦場にいながらその前線の状態を
完全に把握することなど不可能だ。
ただ撃つだけ。そして撃たれるだけ。
俺はコウジの冷たくなった身体を引っ張って
奴の装備を剥ぎ取った。ライフルは使い物にならないくらい
破損しているくせに手榴弾は無事だ。
それには美しい文字が貼り付けられている。
「明るい未来のために」
選挙の宣伝カーがよくわめいているような
うすっぺらい言葉だ。
俺はピンを抜いて投げた。

83「すべり台」「霧」「森」:2005/03/20(日) 20:46:45
「すいま1000㌧!すいま1000㌧!」
俺はデブキャラの芸人。いつもこの一発ギャグで客の大失笑を買う。
人は俺のことをこう呼ぶ。「すべり台芸人」
実はこの呼び名、嫌いではない。
侮辱の意味を含んだこの呼び名は俺の芸人魂を一層奮い立たせる。
もっと寒くなりたい。できるだけすべったギャグをかましたい。

ある日俺は精神統一のために、森の中でギャグを考えていた。
霧の立ちこめるこの森では、寒いギャグが冴えるのだ。
「森…森…モリ…モリ…元気森森っっ!!」
これだ!これはいけるっっ!!
絶対に明日のライブで、一発かましてやろう。
これに失笑を上乗せするには、面白いポーズが必要だ。
引き続き森の中でギャグの振りを考える。
霧がまた濃くなってきた。俺の頭の中の霧も一層濃くなった。

84「おたんこなす」「凶悪」「分校」「甘くて」「シチュー」「砂」「ワ:2005/03/20(日) 20:47:01
ワインを一瓶、桟橋から放り投げた。岩に当てたつもりが割れもせず水の浅いところを漂っている。
更に上から大きめの石を落としてみるが、何度やっても命中しない。「この、おたんこなすめ!」もどかしさにイライラしながら自分を罵倒する。
やけくそな気分で、更にシチュー鍋を放り投げたら意図せず、上手く瓶に命中して粉々に砕けた。

分校の同窓会で集まった級友全てが憎かった。幼き日々を振り返っても、懐かしく思い出される甘い思い出なんか一つも無い。
分校で窓を同じくした級友全てに踏みにじられ、苛め尽くされた日々。
いじめの理由は、都会から転校してきた事と、加えて、彼らよりは暮らしぶりが豊かだったという事だ。
それだけで、偏狭な集落の中、彼らの凶悪な憎悪を奮い立たせるには充分だった。
その頃の惨めな思い出は三十年を経た今も、癒されるでもなく、時には悪夢となって日常の眠りを阻害し続けた。
腫瘍のように不安を起こさせる思い出を切り取り、消し去ってしまいたかった。

同窓会当日、当時の級友の十二人が、誰一人欠けることなく集まった。女子の級友は居なかったので男だけの集まりだ。
皆、再会を喜び合ったし、懐かしさに涙ぐみながら互いに肩を抱き、握手を求め合った。
この場に集ったものは、誰一人例外は無しとでもいうように、自分も半ば強引にその輪に溶け込まされた。
誰かひとりでも、私の引きつった笑みに気づいたものがいただろうか?

85「おたんこなす」「凶悪」「分校」「甘くて」「シチュー」「砂」「ワ:2005/03/20(日) 20:47:21
この日のために上質のワインとシチューを用意した。
シチューは有名レストランの仕出しのもので、ワインはこの場に至までの年数を費やした三十年もののワインをわざわざ選んだ。
「連中、鳴り物入りの酒と食事に感嘆していたな……」苦笑いが口元に浮かぶ。
幕切れはあっけないもので、誰一人、疑うこともなく、乾杯の音頭と共にワインを飲み干し、皆が命を終わらせた。
この辺の野山で、容易に採集できるトリカブトの根毒は、人を確実に死に至らしめる。
呪いを込めるような気持ちで人数分の本数を集め、ワインとシチューに混ぜたが、シチューにまで混ぜる必要はなかったようだ……。

近くの桟橋から殺戮の元となったものを投げ捨てたのは、証拠隠滅の為ではない。後の行く末なんてどうでもよかった。
ただ、やけくそに全てをぶちまけ放り投げたかったのだ。
冷徹に事を成し遂げたつもりだったが、憎悪の対象となった面々が呼吸を止め、それを見届けた時に心の中に動揺が生じたことが、もどかしく切なかった。
桟橋から分校に戻り、校庭の砂場に立って校舎を見渡してみるが、自分を苛めた奴らのみが、中で身を横たえて居ると思うと、中に入る気にならない。
恐怖心からではなく、更に生まれた疎外感からだ。そう感じるのも何だか癪なような気もする。戻ろうか……

教室に戻っても、思った通りの光景が眼前にあるだけだった。
何一つ欠けていないし、動いても居ない。この場を一旦、後にしたときと同じ状況だ。
ふと、深紅の杯が目に留まる。私一人だけが口をつけなかったグラスだ。
窓から差し込む陽光がワインの赤を際立たせ、光彩を放っている。おまえも飲んでごらんと、誘っているかのように思えてくる。
今更だが、自分もこの酒を飲んでみようか。甘くて……そう甘美な酔い心地に浸れるかもしれないな。
酒を満たしたグラスと握手をするような気持ちで、ゆっくりと口元に杯を傾けてゆく。
同窓会の本番はこれからなのかもしれない。

86「森の中」「熊さん」「自己矛盾」:2005/03/20(日) 20:47:39
あたしの好きな人は熊さんみたい。大きなカラダに毛がもじゃもじゃ。
そんなアタシ達はデートをすることになった。憧れの熊さんと森の中で二人っきり。
いいかんじの大きさの切り株が二つ並んでいたので、「この辺で一休みしようよ」と二人でそれに腰掛けた。
アタシは今日この日の為にお弁当を作ってきたのだ。
…大好きな熊さんがたこウインナーアレルギーとはつゆ知らず。
そう熊さんはたこウインナーを見ただけで、狼さんみたいになっちゃうの。
「あれ?こんなに大きなウインナー…、入れたかしら?」
あたしはその大きなフランクフルト大のウインナーを握った。
きゃー!!このたこウインナー足の部分がないよ!ないよ?!
とんとんとん(指でそのウインナーをたどる)
がっはっはー。やらせろ!
あたしは熊さんに押し倒され、ブラウスを破かれた。
大好きな熊さん…どうして?どうしてなの?どうしてアタシにそんな意地悪するの?
…でも…勝手に声が出ちゃう。
あたしは木々と澄んだ青空をぼんやりと見つめながら、激しく荒い自己矛盾の息を吐いた。

87「宿題」「毎日」「戦争」:2005/03/20(日) 20:47:53
家族を失ったあの日、私は母の最後の言いつけを守らなかった。
そのために私だけが生き残ったのだから、これほど皮肉なこともない。
母は夏休みの宿題をやりなさいと言ったのだ。
「お父様にも約束したのでしょう。お帰りになったら叱られますよ」
学校の課題をおろそかにしない。確かに私は父とそのような約束を交わした。
しかし私は、幼い反抗心から、その約束を毎日破り続けていた。
家を空け、いつ帰るとも知れぬ父の言葉を守ることに意味があるのか。
しかし今になって振り返り、私は告白する。
それは単に、遊びたいという心を隠す言い訳にすぎなかったのだと。
その日も私は、数少なくなった級友たちを誘い、市の外れにある山へ虫取りに出かけた。
一緒に行きたいとせがむ幼い妹は、足手まといになるからと家に置いて出た。
そしてあの光を見たのだ。山の向こうの空が真っ白になった、あの光を。
おそるおそる山の反対側に回ってみると、木々がすべてなぎ倒されていた。
見下ろす市街は、私の家の辺りも含めて、恐ろしい劫火に包まれていた。
それから程なくして戦争が終わった。
しかし、約束を破った私を叱るはずの父は、帰ることがなかった。

88「ヒロポン」「木の葉」「サーチライト」:2005/03/20(日) 20:48:14
俺はしがない物書きだ。世間に一度も認められないまま、もう40も過ぎた。
2chの文芸板に3語スレという、文章を嗜むには最高のスレッドがある。
ヒロポンを打ち、そして書く、これが最強なのだ。

俺の文章にけちを付けるバカ者がいる。
意味不明だの余計な事を書くなだのとうるさい。自己満足だの下手だのと俺をこけ下ろす。
確かにリロードし忘れたり、お題を入れるのを忘れたりする事もある。
自分の文章を読み直しても、薬が効いているからか役に立たない。誤字脱字も目立つ。恐ろしい事だ。
しかし、こっちは薬をやりながら、かろうじて書いているのだ。妄想野郎どもめ、うるさいぞ。
俺様が謙虚な姿勢に出てりゃあ、いい気になりやがって。

俺はある日、心を決めた。俺を批判した奴らを絶対に許さない。

俺は公園の茂みに隠れ、奴らが現れるのを待った。
最近では毎晩のように公園へ出向き、薬を打つ。
ひたすら待つ事だけが日課になった。

木の葉が背中に入ったらしい。気になったので上着を脱ぎ、葉を取り除く。
その時、背後から物音がしサーチライトが俺を照らした。
「覗きの現行犯で逮捕する!」

89「ギター」「船宿」「プロ」:2005/03/20(日) 20:48:33
オレは長い船旅を終えて漁港に帰ってきた。
しばらく帰っていなかった漁港では、地下の古代遺跡ですばらしい機械が発見されたという話題で持ちきりだった。
それには強力なロックがかかっており、世界中から解読のプロが何人も集められたものの未だに外されていないという。
まあそんな話はオレには関係ないことだ。
オレは長旅の疲れを癒すために、船の仲間たちとなじみの船宿で大いに騒ぐ事にした。
ごちそうを食べ、歌い、喧嘩し、酒を飲んで踊る。
半分くらいが遊び疲れて眠ってしまうとトランプでポーカーを始めた。
BGMにお得意のギターをかき鳴らすやつもいる。
オレは普段は音楽などに興味はないが、気分が良かったためか適当にギターのフレーズを口ずさんでいた。
「ジャンジャカジャカジャカ、ジャカジャカと……」
突然地震が起こって辺りは騒然となった。
そして船宿が真っ二つに裂たかと思うと、地面の中から巨大なロボットが姿を現した。
そいつはオレを見つめてうやうやしく頭を下げて言った。
「ゴシュジンサマ、ナニトゾゴメイレイヲ」
オレは呆れて苦笑した。
「こんな言葉がパスワードだったのか。まあ人間楽しい事を考えた方が上手くいくという事だな」

90「ギター」「船宿」「プロ」 その2:2005/03/20(日) 20:48:47
その男は使い古されたギターと酒焼けしてつぶれた声で流麗な歌を披露した。
男は今まで聞いた事もないようなメロディーを引き、その独特の歌声で歌う。
ここは船宿の1階にある酒場である。
酒を飲みに来た水夫達はビールを飲む手をを止め、男の奏でる心地よい音楽に酔いしれた。

演奏が終了すると酒場にはスタンディングオーベーションが巻き起こった。
「ここの安酒なんかよりよっぽどあんたの曲のほうがおいらを酔わせてくれるぜ」
やんやと喝采が飛ぶ。

「こんな良い腕と喉をしているのにあんたはどうしてプロにならねえんだい?」
マスターはその男に問い掛けた。
「いやね……。おいらを見るとみんなが引くんだよ」
「何言ってるんだい。あんたは男前だし、その容姿と腕前があればてえしたスターになれるよ」
「……」男は黙ってうつむき、マスターにそっと右手をさし出した。

その手には指が6本ついていた。

「これのせいでね……」男はそう言い残すと風のようにその酒場から去っていった。
マスターは言い知れぬ感慨を胸に、黙って男の背中を見つめていた。

91「おでん」「禅宗」「爆発」:2005/03/20(日) 20:49:03
なじみの小料理屋で、おでんをつつきながら、
カウンターの後ろにずらりと並ぶ酒瓶のラベルをぼーっと眺めた。
「酔鯨」、「美少年」、うんうん知ってるよ。
「鬼提灯」、「禅宗」、聞いたことねえなあ。
「裸締め」、「爆発」ってなんだこりゃ。
「ねえ、大将、あの、『爆発』ってどんな酒なの?」
静かに仕事をしていた主がこちらをちらりと見て、また視線を手元に落とした。
「お客さん、あれは飲むものじゃないですよ。半分がたメチルですから。」
なんだそりゃ。でも一応聞いてみた。
「で、残りの半分は?」
「愛情です」
なんだか無性に人を殺したくなった。

92「リストバンド」「テロリスト」「偽善」:2005/03/20(日) 20:49:17
「これでお別れね。バイバイ」
俺は舌打ちして切られた携帯をポケットにつっこみ、
家を出た。彼女の癖にはいいかげん嫌気がさしていた。
いつも彼女は俺に電話してくる。俺に自殺宣言してからごく浅くリストカット
する。本人は本気で死ぬ気だったというがうそ臭い。
俺は近くのコンビニでリストバンドを買う。これもいつものことだ。
もうリスカしないようにという意味をこめて彼女に贈る。
でも何日かするとそれはゴミ箱行きとなる。わかってる。
何個目かのリストバンドと一緒に雑誌も買う。
テロリストがトップを飾っていた。死体を抱えていた。
急に俺はリストバンドを買う気がしなくなった。
きっと偽善というものを感じたのだろう。
そして俺は彼女の家には行かず、救急車を携帯から呼んでやった。

93「カーナビ」「クリーン」「知能」:2005/03/20(日) 20:49:34
店の残骸を物色していた俺は奥にカーナビの箱があるのを見つけた。
瓦礫の仲から引きずり出して、中を確かめる。
俺の居る周りの殆どの道は『あの日』から随分かわってしまったけれど
このカーナビは人工衛星からのデータで現在位置を割り出してくれるタイプだから
なんとか『かつて@@だった場所』というのさえわかればいい。早くやつらの居ない場所に逃げなければいけない。
『あの日』……人間がマナーを忘れ、ゴミを街に捨てるようになったのは少し前。
人間が捨てたゴミを回収するために作られた人工知能は、『クリーン』にするという命令を
『ゴミを作り出すものを無くする』方向にうごきだしたのだ。
俺はふと手をとめて、回りを見回した。埃だらけの店内は薄暗く、人の気配がない。
手にしたカーナビと俺だけがここにいる……筈だった。
俺は物音を立てないように、ゆっくりとあとずさった。
「畜生、こいつもか」
電池の入ってない筈のカーナビが小刻みに揺れる。奴らを呼んでいるのだ。

94「真心」「保父さん」「砂場」:2005/03/20(日) 20:49:51
「おにぃちゃ〜ん」
来るなこの砂場には地雷があるんだ。
俺は園児たちを預かる保父だがどういうわけか今は戦っている。
敵は情け容赦なく爆弾をあちらこちらに仕掛けているのだ。
このままでは俺のかわいいあけみちゃん(5才)が危ない!変身だ!!
俺は子供の事を真心込みて思うと変身できるスーバー保父さんだ。
可愛い子を見ると見境なく変身してしまうのがたまにキズだ。
「あけみちゃん、あけみちゃん、あけみちゃん、あけみちゃん……(100回は繰り返す。)
……あけみちゃん!来た!盛り上がって来た(自分一人で)!……へ・ん・し・ん。」
俺は内なる盛り上がりと共にいそいでパンツを前後逆にしてさらに靴下を手にはめた。
そして、あけみちゃんを脇に抱えると敵の手の届かない俺の安全な場所(安アパート)に駆け出した。

次の日、俺の勇気ある行動は新聞(東スボ)の一面を飾り、
今では三食昼寝付きで俺を敵の魔手から守るための厳重警備の中(独房)で悠悠暮している。

95「針葉樹林」「木琴」「スナイパー」:2005/03/20(日) 20:50:05
針葉樹林の中で一人の男が木琴で美しい音色を奏でていた。
男は一流のスナイパーだった。その才能を活かし、
男はヒットマンとしてその道では知られた存在だった。
だが男には一つの欠点があった。それは人探しが苦手なことである。
その欠点をどうすれば解決できるのか、男は考え、そして思いついた。
それは男の唯一の趣味である木琴を使うことだった。
まず、男が愛用している木琴を持って人気のないところへ行く、
そしてターゲットが最も好きな曲を奏でれば、例えターゲットが地球の裏側にいようとも、
男のところまで飛んでくるだろう。
ターゲットが射程距離内に入れば、もはやターゲットは死から逃れることはできない。
これが男の考えた解決方法だった。
男はすぐにこの方法を実行した。
それから十年、ターゲットは現れない。

96「領収書」「老人」「スチュワーデス」:2005/03/20(日) 20:50:24
「鉄が空を飛ぶなんて信じられん。」
老人は、この言葉を座右の銘にしていて数十年間この事を言いつづけてきたし、
実際、1度も飛行機に乗ったことがなかった。

だが、今年の2月、孫娘が子供を産んだ。初のひ孫というわけだ。
老人はどうしても会いたくなったが、孫娘はドイツ人と結婚して
現在はミュンヘンに住んでいる。
……そして、とうとう飛行機に乗ることにした。
「そもそも、地球自体が浮いているものじゃ。飛行機だって浮くさ。」

初めての空港、初めての搭乗手続き、初めての機内サービス。
「西洋食にしてくれ、西洋へ行くのじゃからな。」
はい、と答えてスチュワーデスは、料理を出してくれた。
「おいくらかな。1万円で足りるじゃろ。」
「あのぉ、お客さま……」
「領収書はいらんよ。」

97「領収書」「老人」「スチュワーデス」 その2:2005/03/20(日) 20:50:41
老人は昨日泊まったホテルからもらってきた櫛を使い、もう髪の毛のあまり残って
いない頭を気持ち程度に整えスチュワーデスを待った。
スチュワーデスがまわってくると大好きなトマトジュースを注文した。
「お客様、申し訳ございません、トマトジュースはございませんので、フレッシュ
ジュースでしたら、オレンジとグレープフルーツがございます。」
「じゃあ、オレンジジュースにするよ、いくらかな。」「ああ、それと領収書を
お願いしたいのだけど、経費で落としたいからね。」と老人は財布を出した。
「お客様、機内でのお飲み物は無料サービスになっております。」
「ああ、そうなの、私ね飛行機初めてなの。これでも私の会社はこの飛行機のね、
心臓部つくったの。うちの優秀な新人プロダクトデザイナーと営業がね、初めて
航空関連の仕事取ってきたのね、私は経理だから、計算する方だけどね。」
「そうなんですか、それは素晴らしい。どうぞフライトをお楽しみ下さい。では、
お飲物をお持ちしますので。」
スチュワーデスは微笑みながら、その老人をあしらい、次の乗客の注文を聞いた。
経費節減の為、安い部品を使ったその飛行機は二度と着陸することはなかった。

98「ボール」「黄色」「都会」:2005/03/20(日) 20:51:03
私の前をテニスボールがふらふらと転がってゆく。
否定の一致によってすべての多面体を乗り越えた否定弁証法の最たる姿が、何
を思うたか渦まく大地に身を投げ己れから逃れんとしている。
そのあわれな阿呆は私を悲しませた。
おまえ、曲がり角へと通り過ぎるものよ、この都会の片隅から逃れ去ったとして
も、お前は自分から逃れることはできない、自己否定しつつ否定するこの高貴
な単純よ、私は円の求積法をきわめた男じゃ、おまえの話をきこうではないか。

"悩める魂よ、とどまれ"
私はそのモノへとどまれと命じ、それは総合における止揚に逆らいつつ、私の
存在に打たれたのか?うなずきながらほどなく私の否定的命令にそれは従った。
はじめて停止した姿を見せるテニスボール。
なんて愛らしい黄色だ、回転をやめたその姿に、私は思わずわれを忘れてうっ
とりしている。そして私は命じる。
いまいちど私の声をきけ、"おまえに内接したい!"

ボールはふたたび転がりだした。

99「農」「日本」「米」:2005/03/20(日) 20:51:20
午後10時半、上野駅前の歩道橋にて。
スーツ姿の私は、通りかかる女のコに片っ端から声をかけていた。
「こんばんは。日本の農業についてどう思いますか?」
5人目に声をかけた女子高校生は、はじめこそ「急いでいるんだけど」とそっけな
く断るそぶりをみせていたものの、とうとうわたしの熱意に押され彼女なりの意見
をしっかりとした口ぶりで語ってくれた。
「……食料自給率の低下の問題は、目下のところ構造的な不況や失業といった問
題に隠れて、表立って議論されることはないけど、2020年ごろまでにはそれら
の問題以上に深刻な問題になるだろうと考えてます。特に米の自給率はね」
わたしは、いかにもその高校生らしい回答の未熟さに微笑ましさを感じてしまった
のだが、もちろん、紳士的に「ところでこれから私とラブホに行かないかい」と誘った。
すると彼女の顔色が一瞬にして変わった。
「日本の農業について尋ねる人なんて、いなかった。あなたイケてる。モチ、OKよ」
そういうと彼女はわたしの腕に凭れ、はやくはやくというように甘えた表情を作る
ので、わたしはしょうがないコだな、と苦笑いしながらも近場でラブホテルはあり
ますか?と交番で尋ねた。

100「霜柱」「茶柱」「貝柱」:2005/03/24(木) 17:44:07
「先輩ダメです。この座談会テープ起こせません」
何を言ってる、もう入稿しないと雑誌にアナが空いてしまう。
「ヤバいな、もう納期ギリギリだぞ。どれくらい残ってる?」
「全部やりました。でも...とにかく見て下さい」
全部起したならいいじゃないか。どこが問題なんだ。

「まったく発言してない参加者がいる!」
「いえ、そのひとしゃべってはいるんですけど、私には聞き取れなくて。これテープです」
たしかに他の参加者の発言の合間に、なにか聞こえる。しかし抑揚も区切りもなく、まるでノイズだ。
テープスピードを限界まで落とすと、ようやく日本語らしく聞こえてくる。異常なまでの早口。
燃えてきた。こいつの発言を絶対に聞き取ってやる。テープリライター魂全開だ。

この仕事を長くやってきたが、こんなに脱力したのは初めてだ。
この男は座談会の間ずーっと早口言葉を唱えていたのだ。
「外注スタッフへのいやがらせですよね? そうですよね?」
ああ、霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱霜柱茶柱貝柱。


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