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アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.15

1名無し三等陸士@F世界:2016/10/03(月) 01:41:59 ID:9R7ffzTs0
アメリカ軍のスレッドです。議論・SS投下・雑談 ご自由に。

アメリカンジャスティスVS剣と魔法

・sage推奨。 …必要ないけど。
・書きこむ前にリロードを。
・SS作者は投下前と投下後に開始・終了宣言を。
・SS投下中の発言は控えめ。
・支援は15レスに1回くらい。
・嵐は徹底放置。
・以上を守らないものは…テロリスト認定されます。 嘘です。

738ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2023/12/31(日) 22:43:36 ID:R7BORdwY0
「この間お会いした時は族長と呼べと仰られたでありませんか」

客人はムスッとした表情のまま、ラプトに言い返した。
そのダークエルフ出身の青年は、2年前に採用されたミスリアル海軍専用の紺色の軍服と制帽を身につけていた。

「その都度場を見て呼べと言ってるんだよ。わかりませんかな、メヴィルゼ提督?」
「あなたが幾つもの肩書きを持つからじゃありませんか」

メヴィルゼと呼ばれた青年は、そのままの口調で答えた。
ラプトの部屋を訪れた青年……クリスパン・メヴィルゼ海軍大将は、ミスリアル海軍総司令官を務める海軍軍人である。
年齢は62歳であり、16歳の頃に軍に入隊してから46年間軍人をやってきた彼であるが、実は異色の海軍軍人でもある。
元々は、陸軍の軽装兵旅団所属から軍歴が始まった彼だが、アメリカが転移する前にシホールアンル軍によって海軍が全滅して一から
作る羽目に陥ったため、陸軍河川部隊を指揮していたという経験を持つ彼が海軍総司令官に就任するという目茶苦茶な展開になった。
メヴィルゼは当然任官を拒否したが、ラプトの説得を受けて嫌々ながら海軍のTOPになってしまった。
だが、元々海軍を再建をほぼ諦めていた当時のミスリアル王国は、名目上の海軍部隊を有するだけで、実際はわずかに生き残った水兵が
海軍歩兵旅団として地上戦を戦うだけに過ぎず、メヴィルゼは海軍軍人なのに結局は陸上戦闘を指揮するという訳の分からない状態になっていた。
海軍総司令官就任2年目……1482年には、ミスリアル本土にシホールアンル軍の大規模な侵攻を受け、あわや亡国一歩手前まで行くものの、
そこを救ったのが……異界より召喚された、アメリカ合衆国所属のアメリカ海軍であった。
亡国の危機を脱したミスリアルは、43年初頭から軍の近代化を本格化させると同時に、陸軍のみならず、海軍の再建と空軍の創設も視野に入れ始めた。
この時から、メヴィルゼは門外漢ながらも、ミスリアル海軍再建へ向けて身を粉にする勢いで働いた。
44年中旬にはミスリアル海軍水兵をアメリカ本土で訓練を受けさせる事が正式に決定し、44年末からはミスリアル海軍の水兵が少数ながらも、
順次米本土に旅立っていった。
また、アメリカ海軍が戦った数々の海戦の記録を取り寄せるべく、メヴィルゼも自らアメリカ本土に趣いた。
米本土では、アメリカ海軍作戦部長のアーネスト・キング元帥や海軍長官フランク・ノックス長官と直談判する事で、多くの資料(文書の写し)を
ミスリアル本土に持ち込む事ができた。
45年末には、艦隊再建計画も本格化し、46年から駆逐艦、巡洋艦を主力とする軽快艦隊を手始めとし、段階的に艦隊規模を拡充しつつ、
将来的には空母を含む機動部隊の保有も視野に入れる事が決まった。
だが、先日米本土でキング提督と会談したメヴィルゼは、すっかり身についていた自信を打ち砕くような出来事に見舞われた。

「族長!貴方達が開発した支援兵器の件で、キング提督からこっ酷く叱られましたぞ!」
「なにぃー?私達は使い物にならんクズを提供した覚えはないぞ」

739ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2023/12/31(日) 22:44:12 ID:R7BORdwY0
ラプトは眉を吊り上げ、半ば睨みつけながら反論する。

「最初は使えておりましたが、途中で駄目になった奴があると言われましたぞ。私はキング提督になんと言われたかわかりますか?命懸けで
戦っている将兵に、そのような不良品を送りつける国の海軍が順調に成長できるとは思えん、軍艦を与えてもすぐに駄目にするかもしれん……
と言われたんですぞ!!」
「おいおい、そりゃ酷い言われようだな。それで、具体的にはどの件で怒られたんだ?」
「……昨年12月のウェルバンル・シギアル攻撃と、今年1月にアメリカ潜水艦の件です。共に貴方達が主導で開発、提供した物が機能不全に陥った
事で、重大な危機を招いたと、キング提督から伝えられています」
「ふむ……それはすまない事をした」

ラプトはすぐに頭を下げた。

「実のところ、君が来るまでその件について原因を探っていたところだ。いずれは、私自身から直接、アメリカ側に謝罪しようと思っている」
「なるほど……それなら、私もこれ以上言う事はありません。ただ、あと一つ付け加えるのであれば、支援兵器の信頼性はもう少し上げるべきと
考えております。戦場で戦う将兵にとって、途中で使い物にならなくなる兵器ほど、恐ろしい物はありませんからな」
「重々承知している。私もまだまだだ」

神妙な面持ちで、彼は反省の意を示した。

「さて!反省もほどほどに」

唐突に、彼はケロリとした表情でメヴィルゼに顔を向けた。

「あの……もう少し反省してくれても良かったんですが」
「いつまでもクヨクヨしてはつまらんだろう!今は戦時だ、ささっと切り替えんとな。ところで……その手に持っているのは、例のアレかね?」
「いやはや、相変わらずですな。その性格には毎度ながら感心しますよ」

メヴィルゼはやや呆れながらも、ずっと片手に持っていた紙袋を机の上に置いた。
それは、つい最近ミスリアル王国に初進出したばかりである、アメリカのファーストフード店、A&Wの紙袋であった。
紙袋を差し出すと、ラプトは目にも止まらぬ速さで奪い取り、紙袋の中に入っていた食べ物を取り出す。

「おお……これがアメリカの国民食……A&Wのチーズバーガーか!」
「その通りです。族長が来る前にこれを買ってから来いと言うもんですから、私は行列に混じってから苦労しつつ、やっと買えましたよ」

740ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2023/12/31(日) 22:47:51 ID:R7BORdwY0
1946年1月から、南大陸各国では、アメリカ発のファーストフード店であるA&Wが相次いで出店し、計30店舗がめでたく開店となった。
ミスリアル国内には、5箇所のA&W支店が開店したが、その1つはレマンナ学院から5キロほど離れた町に出来ており、開店から1ヶ月
経った今でも、店内はほぼ満員となり、カウンター前には常に行列が出来ていた。
メヴィルゼは、ある者は初のアメリカ食に胸を躍らせ、ある者はその味にハマって病み付きになるなど、多くのミスリアル国民がその味を
楽しむゆえに作られた、長い行列の中を30分ほど歩いた末に購入できた。

「2個入っているな。全部私のだな!」
「いやいや、1個は自分のですよ。あと、このポテトとケチャップも忘れないでください。セットで食べると、もっと美味いですよ。あっ、今の
うちに自分の分は取っておきます」
「なんだ、全部くれないのか!ケチな海軍大将だな」

ラプトは紙袋からチーズバーガーとポテト、ケチャップを取り出すメヴィルゼに文句をつけるが、気を取り直して、初めてチーズバーガーを齧った。

「お、大きく行きましたね」

メヴィルゼは、大きく頬張るラプトを見つめつつ、その反応を待った。

「ほほぉ……素晴らしい味だ。アメリカ人はこんな物を毎日食ってるのか」

ラプトは興奮気味に喋りつつ、2口目、3口目と齧り付いていく。
半分ほど食べると、彼はポテトにケチャップを付けて、それを口の中に放り込んだ。

「ふむ!こういう感じになるのか。なかなかいい相棒じゃないか……」

ラプトは、今までに感じた事のない恍惚感を味わった。

メヴィルゼがチーズバーガーを半分食べた頃には、ラプトは自分の分をすっかり食べ終わっていた。

「完食!今までに食べた飯の中で一番美味かったぞ」
「いやぁ、夢中で食べとりましたな」
「こんな美味い飯を作るアメリカは最高だ。それに比べてシホールアンル人共から奪い取ったあの糧食はただのゴミだったな!」
「まぁまぁ、落ち着いて」

興奮気味に早口で捲し立てるラプトを、メヴィルゼは両手を使って宥めすかした。

741ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2023/12/31(日) 22:48:27 ID:R7BORdwY0
「まーしかし……美味すぎる飯という物はいい素材をたっぷり使っているから美味い訳だが、食べている途中で何かしらの問題点も感じ取れたな」
「何かしらの問題点、ですか?」
「ああ。それはつまり、美味すぎる飯を比較的短時間で多く取れる。いや、取れてしまうという事にある」

ラプトはそう言うと、自らの腹を3度ほど叩いた。

「この飯は腹によく収まるが、恒常的に食べると、ここら辺に変化が出る。そう……太るんだ」

彼は席を立ち上がって、室内をゆっくりと歩きながら説明していく。

「近頃、授業中に気づいた事があってな。幾人かの生徒の体型が明らかに大きくなっていた。そう、肥満してやがったんだ。彼らはあの店が出来てから、
毎日のように通ってハンバーガーとかを食べていたが、その結果、肥満になってしまった。それから必死に体型を戻そうとしているが、思った以上に苦労
している。メヴィルゼ、アメリカ人にも、この辺が……まぁ、言い方を変えて、いい感じに成長している奴が多いだろう?」

ラプトは腹の辺りを両手で大きく半円を描きながら質問した。

「ええ。貴方の言われる通りです。中にはこんなにも……ええと、成長が著しい方がいるのかと。ある意味戦艦みたいなもんだなと感じた次第です」
「戦艦に例えるのはどうかと思うぞ。私から見れば、戦艦は筋肉質で体型の素晴らしい戦士みたいなもんだと思うが、まぁそれはともかく……
アメリカ人はいい飯を食い、豊かな生活を送っているが、良い物でも取り過ぎれば体を害する場合もある。特にあのチーズバーガーは、それの
典型であると、私は思ってしまったよ」
「はぁ……確かにそうでしょうな。しかしながら、それもアメリカの良さであるかと、自分は思います。我々の世界では、例えば肥満は恥であるという
考えが主流ですが、アメリカではそうではありません。まぁ、アメリカ内でも肥満は自己管理能力の欠如であると言われているようですが、それでも
我々の世界のように叩きまくると言うような事はありません。言うなれば、アメリカはそれぞれの違いがはっきりと見え、意見も真剣に言い合い、
それなりに尊重する動きが見えるのです。違いが見えれば即処断し、意見の相違なぞ無視か排除する……我らが世界との差はそれかと……」
「それが、自由の国アメリカである、と言う訳かね?」

ラプトは真剣な眼差しでメヴィルゼを見据える。

「そうです。だからこそ、アメリカは戦争でも強いと、私は確信しています」

メヴィルゼは目を逸らさず、真っ直ぐ見つめたままそう断言した。

「そうか……あの戦場で初々しかった若き戦士も、立派に成長したものだ」
「何年前の話をしているんですか。まぁでも、貴方も以前に仰られたでしょう、エルフ族は年月と共に強く、賢くなる、と」
「いやはや、恐れ入った」

ラプトは満足気に言うと、メヴィルゼから目を離し、自らの席に戻った。

742ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2023/12/31(日) 22:49:27 ID:R7BORdwY0
「さて……腹も膨れたし、食後の読書でも楽しむとしよう」

彼はそう言いながら、メヴィルゼの目の前で鼻歌まじりに読書を始めた。
残ったチーズバーガーを食べ始めたメヴィルゼは、無言のまま食事を進めていく。
しばしの間、狭く、古い本や研究資料で満たされた室内は静寂に包まれた。

全てのポテトを食べ終わったメヴィルゼは、徐にラプトの読む本に目を向けた。
それと同時に、ラプトが口を開く。

「思い出した……そう言えば、また実戦で使えそうな魔法が間も無く完成するんだが」
「実戦で使えそうな魔法ですか……効果はどのような物です?」
「まぁ、言うなればお助け系かな」
「お助け系ですか……MB弾のような失敗作はやめてくださいよ。2年以上前のカレアント反攻で使用された際、使い辛いから不採用となった
過去がありますが」
「そんな物とは違う。アメリカさんが最も欲しかった物だよ。ただね……実験を行うにも、私達が持っている備品では流石に足りなくてね……」
「そこで、海軍大将であるこのメヴィルゼの出番、という訳ですな?」
「おー、話が早くて助かるね」

ラプトは微笑みながら返すと、本のあるページに目が止まり、指先をゆっくりとなぞる。

「要は、アメリカさんにもまた、協力して欲しいと言う訳だ。勿論、私は先の件について謝罪する。その次に、実験への協力をお願いしたい」

彼はメヴィルゼにそう言いながら、指先をある所で止め、その部分の文字列を横になぞって行く。

「謝罪は直接出向かれてから行かれるのですか?」
「そう考えてはいるが、如何せん、ここでの仕事も忙しい物でね。それに、実験も行うとなると、より一層ここから離れられない。ひとまずは、
謝罪文を送ることで、アメリカ側へ謝意を表したい」
「……なるほど。それなら、私の方で貴方の謝罪文をお渡しいたしましょう」
「うむ。そのあとで、実験の話も進めてもらいたい。この実験はアメリカ側にとっても悪い話ではないはずだ」

彼はそう言いながら、ある英語の文字列をもう一度、指先でなぞって行った。
その文字列には、

USS Des Moines-class Hevy cruiser

と、特徴的なシルエットの上に書かれていた。

743ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2023/12/31(日) 22:50:09 ID:R7BORdwY0
SS投下終了であります

それでは皆さま、良いお年を!

744HF/DF ◆e1YVADEXuk:2023/12/31(日) 23:32:37 ID:lUDG0KFQ0
投下乙です、ちょっと早いお年玉ですかな?
シホールアンル、教官やってたベテランを投入とは…これはまずい展開だ(しかも独断専行までやらかすというおまけつき)
あとデ・モイン級重巡で行われる実験とは何なのだろう…

そしてジャンクフードかっ喰らった挙句太るエルフという色々とぶち壊しなネタ…メタボなエルフ、かあ(頭を抱える)

745ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/01(月) 13:02:46 ID:R7BORdwY0
>HF/DF氏 ありがとうございます。ちょっとした年末進行的な投下になりました

>デ・モイン級で行われる
まぁ、ちょっとした実験です

>ジャンクフード好きエルフさん
エルフさんは痩せられない1940年代verがあちこちで見かけられると言う、ちょっと残念だけど、
見てる側からしたら面白い状況になっちゃってますね

746ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/29(月) 20:39:17 ID:Zo.OeHzY0
ツイッターXでも書きましたがここでもご報告を
明後日の夜辺りには更新できるかもしれません。
恐らく夜6時から8時の間になりそうです

747ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:42:28 ID:Zo.OeHzY0
こんばんは。SSを投稿いたします

748ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:44:31 ID:Zo.OeHzY0
第296話 西方へ

1486年(1946年) 3月4日 午後3時 シホールアンル帝国テペンスタビ

シホールアンル帝国陸軍第515歩兵師団は、今まさにアメリカ軍前進部隊の猛攻撃を受けつつあった。

「敵戦車!前方800グレル!撃てぇ!」

第515師団第1213連隊に属する砲兵大隊では、野砲を水平にして敵戦車を迎撃し、今しも1両を擱座させた。

「敵戦車が動きを止めました!片脚をやられた模様!」

砲兵小隊長が鉄帽の中に滲む汗を拭う中、部下の砲兵が弾んだ声で叫ぶ。
砲弾は敵の履帯部分……右のキャタピラに命中した。
白煙の向こうから損傷箇所が見えるが、損傷の具合は思ったよりも酷くない。
だが、片方の履帯は完全に切断され、敵戦車は気付かぬうちに右側へ転回しようとしている。

「とどめを刺せ!あいつはまだ生きてる。その場を回りながらあちこちに弾をぶち込んで来るぞ!」
「分かってますぜ!」

部下は小隊長にそう返しながら、次の砲弾を備砲に装填した。

「装填よし!」
「撃て!!」

腹に応える砲声が響き渡り、砲弾は過たず米軍戦車に突き刺さった。
弾はまたもや履帯部分に命中したが、今度は先程よりも大きく破損して、爆炎と共に足回りの部品や破片が大量に飛散した。
先程よりも濃い白煙に包まれた敵戦車が完全に動きを止めた。
その直後、敵戦車のハッチが勢い良く開かれ、乗員が大急ぎで飛び出してきた。
別の陣地で魔導銃を構えていた兵員が逃さぬとばかりに光弾を乱射し、憎き戦車兵に追い打ちをかけていくが、残念な事に
敵戦車兵を捉えるには至らなかった。
魔道銃座の兵は尚も光弾を撃ちまくったが、その至近に砲弾が着弾し、大量の土砂が舞い上がった。
間一髪直撃を免れた銃座の兵は、大慌てで頭を塹壕内に引っ込める。
アメリカ軍機械化師団の攻撃は激しく続いており、今も戦車群に率いられたハーフトラックの群れが陣地内への突入を続けている。
数両のハーフトラックが、戦車が踏み潰した塹壕の近くに停止し、そこから下車した米兵が陣地の制圧にかかろうとする。
だが、先導役の戦車はこの時気付いていなかったが、その真横の蛸壺陣地に潜んでいたシホールアンル兵が、肩に太い筒のような物を
乗せて戦車の側面に狙いを定めた。

749ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:45:01 ID:Zo.OeHzY0
米兵はそれに気づくと、

「バズーカだ!撃ち殺せ!!」

と絶叫し、数名の兵がM1ガーランドやBAR等を向けて一斉に射撃を始めたが、ほぼ同時にシホールアンル兵が、肩にかけていた筒から何かを発射した。
鮮やかな緑色の発光体が筒先から放たれると、ちょうど100メートル離れたパーシング戦車の側面に突き刺さった。
戦車の車体右側面から爆炎が吹き上がり、その次に夥しい量の白煙が車体を包み込んだ。
シホールアンル兵は戦果を確認する前に体を銃弾に貫かれて戦死したが、戦車は足を止め、ハッチから戦車兵がよろめきながら脱出してきた。
陣地制圧にかかるアメリカ軍歩兵も、塹壕側にいるシホールアンル兵との熾烈な銃撃戦に巻き込まれる。
互いに光弾や銃弾を激しく撃ち合い、時には手榴弾を叩き込み、爆発と同時に進もうとするのだが、決定打に欠けるため、米兵側もなかなか制圧が捗らない。
その次に、アメリカ兵側は火炎放射器を使いながら制圧を図る。
これは効果があり、シホールアンル兵を次々と火達磨にしつつあったが、そこに敵側が砲兵射撃を用いて、米兵達を次々と叩き始めた。
戦闘は激戦の様相を呈しており、アメリカ軍、シホールアンル軍共に大量の兵力を投入し続けている。
全体的には、圧倒的な火力を有し、豊富に航空戦力を投入する米軍が優勢に見えるのだが、既にここ数日の激戦で荒れ果てたシホールアンル軍陣地を
なかなか突破できないままだ。
今日こそはとばかりに、米軍はパーシング重戦車を主力とした戦車隊を支援に機械化歩兵部隊を大規模に投入して押しに推しているのだが、
シホールアンル軍も予備隊を次々に投入し続けている。
しかしながら、シホールアンル軍部隊の損耗も大きく、今日こそ後退命令が下るかと誰もが思ったのだが……
いつの間にか、アメリカ軍部隊は攻撃を中止し、残存部隊を纏めて後退に入って行った。

第1213連隊第3砲兵大隊の臨時指揮官であるトヴォン・セヴィグ少佐は、戦闘を終えたばかりの前線を見るなり、顔を顰めずにはいられなかった。

「くそ……かなりやられたな」
「貼り付けの第3歩兵大隊は半分やられました。それに加え、第2砲兵大隊は敵砲兵に3分の1の砲を破壊されて大隊長が戦死。連隊の支援に
付いていた、なけなしのキリラルブス9台は全てやられました」
「連隊の損耗率も5割近くに達していると聞いた。師団全体でもだいぶやられたらしい。まぁ、敵さんも少なくない打撃を負ったようだが」

セヴィグ少佐は、視線を荒れ果てた味方の塹壕陣地からその前方に向けていく。
彼らのいる陣地は、小高い丘の頂上に占位しているが、そこから少し遠く離れた先には森林地帯があり、米軍部隊はその森の中を走る幾つもの
歩道を進むようにして進撃してきた。

750ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:45:50 ID:Zo.OeHzY0
森は敵味方双方の砲撃ですっかり吹き飛ばされ、遮蔽になりそうな物は少なかった。
その森の入り口から陣地前まで、少なからぬ数の米軍車両が骸を晒していた。
戦闘終了から間も無い事もあり、ハーフトラックと呼ばれる車両の多くが、真っ黒な煙を噴き上げて炎上している。
そして、遺棄車両の中には戦車も含まれており、これらの大半はハーフトラックのように燃えている物は少なく、ほぼ原型を留めた形で擱座していた。

「戦車が10台以上か……ほぼパーシングのみだな。本当、よくあれだけのパーシングの攻撃を撃退できたものだ」
「後方の師団司令部直轄の砲兵隊も、全力で支援してくれましたからね。あと、携行型爆裂光弾の威力も凄まじかった」

部下の砲兵小隊長が言うと、セヴィグは確かにと頷いた。
1月からシホールアンル軍歩兵部隊には、携行式の爆裂光弾が徐々に配備され始めた。
この携行型爆裂光弾は、アメリカ軍のM1バズーカを参考に作られた対車両用の肩掛け式発射装置で、射程は75グレル(150メートル)となっており、
主に待ち伏せに使用されている。
このテペンスタビ攻防戦でも大々的に使用され、アメリカ軍機械化部隊の損耗率は、従来よりも効率的に運用された阻止砲撃と合わせて鰻登りとなった。
その反面、味方歩兵部隊の損害も大きく、携行式爆裂光弾を使用する兵は、5人中3人が必ず死傷すると言われるほどだ。
だが、この新兵器の活躍のおかげで、今やシホールアンル軍地上部隊の士気は以前と比べて高くなっている。
とはいえ、押し寄せる敵軍をいつまでも食い止め続ける事は不可能だ。
いずれは押し切られる……
セヴィグ少佐のみならず、最前線で戦う誰もが同じような結論に至っていた。

「昨日戦死した先任の大隊長も言っていたが、程良いところで下がらないと、敵の圧倒的火力差でいたずらに戦力を失いまくる。敵をほどほどに
叩いて下がらせた所で潔く後退すべきだな」
「大隊長の言われる通りです」
「ま、俺は昨日までは第1中隊長だったんだがな」

セヴィグは部下に向けて、疲れの滲んだ表情のまま冗談口調で返した。

「俺が師団長なら、今がその時だと判断するけどね」
「そもそもうちらの所属する第76軍自体が、敵の攻勢をまともに食らいすぎてて、指揮下の軍団や師団とかは大体酷い事になってるようです。
さっきの攻撃が来た時も、こりゃ戦線崩壊は確定かと思ったもんですが……正直、耐え切っちまった、と言うしか無いですね」
「味方のワイバーン部隊が援護してくれりゃ、もっとマシな戦いができるんだがな」

セヴィグはそう言った後に、腹立たしげに唾を吐いた。

751ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:46:35 ID:Zo.OeHzY0
「味方ワイバーンとかもうアテにできませんよ。たまに敵の爆撃機を襲いに飛んでいくのを見かけますけど、それ以外はずっと引っ込んだままですし」
「その分、敵の航空支援は手厚いから、こっちから見ると羨ましい限りだ。最も、今日はずっと曇りだから敵さんの航空部隊も不活発だったが」
「そう言えば、個人的に一つ気になった事があるんですが」
「ん?何が気になったんだ?」

部下が話題を切り替えると、セヴィグはすかさず問い質した。

「撃破された敵車両が多い割に……アメリカ兵の死体が少ないように思いますね。確か、敵は連隊規模の攻撃を仕掛けてきて、それが撃退されて、目に見えるだけでも30台以上の戦車や装甲車が擱座してます。その割には……」

部下は戦場を見据え、首を傾げながらセヴィグに言う。

「ああ、その事だがな。どうやらアメリカ軍は戦場で負傷兵は当然だが、戦死した戦友の遺体もなるべく持ち帰るようにしているそうだぞ」
「戦死した戦友の遺体も持ち帰るんですか?戦闘後ならまだしも、あんな激しく撃ち合ってる中でも?」
「そうだ。無論、全部の遺体を持ち帰る事は到底無理だ。だが、敵はできる限り持ち帰ろうと普段から努力しているようだ。だから、敵兵の遺体は
どこの戦場に行っても意外と少ないんだそうだ。まぁ……木っ端微塵にぶっ飛んでいる物も多少あるだろうがね」
「へぇ……帝国軍では戦闘中の戦死者回収なんてやらずに、戦闘後に回収してたもんですが。一応、帝国軍も疫病対策で放置しっぱなしは無いとは聞いてます」
「だが、敵軍……特にアメリカ軍は、戦友は遺体になっても、万難を廃して持ち帰ろうとしている。全く、火力も装備もある上に、限りなく士気の
高い敵と戦わされるなんて、これは地獄の中の地獄だぞ」

そんな敵を撃退し続けている今の状況は、まさに奇跡でしかない…と、彼は心中でそう断言した。

「大隊長、師団命令であります!」

そこに、魔導士官が走り寄り、通信紙を彼に手渡した。

「ご苦労!さて……ふむ。やっとか」
「大隊長、命令はどのような物ですか?それと、師団命令とは一体?連隊本部からの通信では無いのですか?」
「ああ。師団命令によると、515師団は現陣地を放棄し、1ゼルド後方の予備陣地に後退。その後、516師団と後退し、戦力の補充と再編にあたるそうだ」

セヴィグはそこで言葉を終えようとしたが、まだ伝えていない文がある事に気づき、付け加えた。

「それと、連隊本部は敵の多連装光弾の直撃を受けて壊滅。連隊長は戦死したとのことだ」

752ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:47:28 ID:Zo.OeHzY0
1486年(1946年) 3月5日 アリューシャン列島ウラナスカ島

「ああ、なんてこったい。愛しの旗艦が未だにドックに入院中とは……」

第3艦隊司令長官を務めるウィリアム・ハルゼー大将は、ちょうど短期間の洋上射撃訓練を終えて帰投して来た旗艦の艦橋上から、浮きドックに
乗せられて修理中のエンタープライズ見るなり、悲嘆に暮れていた。
ダッチハーバーには2つの浮きドックが他の工作艦群と共に本土から回航されており、その1つにエンタープライズが鎮座し、もう1つには
同じ第38任務部隊第1任務群に所属する僚艦、ヨークタウンが乗せられている。
エンタープライズとヨークタウンは、先月下旬のクガベザム攻撃の際、敵ワイバーン群の反撃を受けて飛行甲板を損傷している。
損傷の規模は、エンタープライズで中破、ヨークタウンなら小破レベルであろうと思われ、被弾から半日後には両艦とも、応急修理で飛行甲板の穴を塞いでいる。
ただ、正規空母2隻が手傷を受け、その影響が残っている(エンタープライズは至近弾多数を受けた影響で速力が29ノットに低下し、ヨークタウンは第2エレベーターが停止してしまった)上に、敵航空部隊の増援がクガベザム近郊に到着し、大規模な航空反撃を受けた場合、TG38.1と、エセックス級正規空母3隻を主体としたTG38.3では荷が重いため、大事をとってダッチハーバーへ帰還した。
第3艦隊は、3月2日にはウラナスカ島ダッチハーバーに帰還し、エンタープライズとヨークタウンは、念の為浮きドックに入渠して本格的な修理を行う事となった。
ハルゼーはドック入りしたエンタープライズに代わって、別の艦を旗艦に定めて艦隊の指揮に当たったが、その翌日は、臨時の旗艦が整備後の
射撃訓練を行うため、短いながらも複数の僚艦を引き連れて、射撃訓練も兼ねた訓練航海に臨んだ。
それを終えた帰りに、ドック上のエンタープライズとヨークタウンを見るなり、嘆きの言葉を発したのである。

「長官がそう言われると、私共としては少々複雑になりますな」

艦長がそう言うと、艦橋内にいた一同から笑い声が上がった。
それを聞いたハルゼーはハッとなって、慌てて笑顔を取り繕った。

「いや、無論この艦も素晴らしいぞ。色々と勉強になったなと思った点もある」
「それはそれは、お褒めのお言葉を頂き、感謝いたします」

戦艦プリンス・オブ・ウェールズ艦長、ジョン・リーチ大佐は満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた。

「ですが、長官としてはやはり、空母に対する愛情がお強いようですな。本官としては、そのハルゼー長官に一時的ながらも、旗艦としてお使いに
なられた事を誇りに思います」
「ブリティッシュジョークを交えながら言われるのもちとアレだが……まぁ、良い体験をさせて頂き、俺も深く感謝しているぞ。それに、俺も
前々からプリンス・オブ・ウェールズには乗艦したいと思っていたんだ。何しろ、大西洋ではマイリー(マオンド軍)相手に派手に暴れ回り、
太平洋ではシホット共に14インチ弾を撃ち込んでやったんだ。ガッツに満ち溢れた戦艦に乗って、その腕前を直に見れた事は非常に満足している」
「乗員達のガッツがあったからこそ、このプリンス・オブ・ウェールズが戦争の開始から今まで生き残れたのでしょう。あとは、合衆国海軍に編入
してくれたのも、この艦が生き残れたきっかけになったのだと、私は思っております」

753ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:48:03 ID:Zo.OeHzY0
ハルゼーがなぜプリンス・オブ・ウェールズを臨時の旗艦に選んだのか。
それはただ単に、今まで乗る機会の無かった、イギリス製最新鋭戦艦に一度乗ってみたいと思った事もあるが、それとは別に、大西洋所狭しと
暴れ回った上に、第3艦隊の護衛艦としても活躍し、今や百戦錬磨の精鋭艦として、練度面では合衆国海軍最新鋭のアイオワ級戦艦にも勝るとも
劣らぬと言われる同艦乗員の練度を、この目で確かめたいと感じた事にもある。
実際に乗艦し、訓練に立ち会ったハルゼーは、プリンス・オブ・ウェールズ乗員の練度の高さに感嘆の念すら浮かべていた。
艦の操艦は当然ながら、射撃訓練の精度も、その特徴ある14インチ4連装主砲を巧みに使いこなし、常に良好な成績を挙げていた。
ハルゼー個人としては、この艦の卓越した技量を直に見れたため、非常に実りのある訓練航海となった。

「長官、少しばかりよろしいでしょうか?」

話に一区切り付いたタイミングで、第3艦隊参謀長のロバート・カーニー中将がハルゼーに声をかける。

「いいぞ。何かあったか?」
「先日のクガベザム沖の航空戦で判明した事がありますので、そのご報告をお伝えしたく」

カーニー参謀長の背後には、航空参謀のホレスト・モルン大佐も居る。

「ほう、何かわかったようだな」
「航空参謀、よろしく頼む」

カーニー参謀長はモルン航空参謀に説明を促した。

「まず、当日の戦闘の際に判明した事が2つあります。まず1つですが……敵ワイバーン隊が見せたあの奇怪な急機動、もとい、分裂の事です。
クレーゲル魔道参謀の推測を一通り聞いたあと、当日に敵ワイバーン隊をレーダー画面で監視していたレーダー員から聞き取りを行いましたが……
クレーゲル魔道参謀の推測通り、敵ワイバーンは物理的に分裂し続けた訳ではなく、分裂した姿だけを見せ、それを機動でごまかして我が方の
機銃員の照準を狂わせたようです。実際、レーダー員は敵ワイバーンは今までに見た事の無い動きを見せてはいる物の、レーダー反応自体はずっと、
そのワイバーンのみが捉えられていたようです」
「やはりか!」

ハルゼーはしたり顔で反応する。
あの日、敵編隊は今まで見た事のない急機動と、幻影魔法をセットで使う事で機動部隊への接近を果たしたが、当時は敵ワイバーンが物理的に
分裂し、偽物を囮役にして弾を吸収させる事で被弾する確率を低下させようとしているのでは、という意見も多数見受けられた。
だが、同時に敵ワイバーンを狙うのではなく、敵ワイバーンのいる空域ごと狙って射撃すれば敵は被弾し、射撃の効果が出たと言う声が対空要員……
特に5インチ砲の砲員から少なからず挙げられていた。

754ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:49:11 ID:Zo.OeHzY0
「要するに、幻影魔法とやらを使うシホット共にはVT信管付きの砲弾をたっぷりと浴びせてやればいいのだな」
「その通りになります……ですが、VT信管にも弱点があります。特に、海面スレスレを行く敵に対しては、VT信管が海面の反応を捉えて通常よりも
過敏に反応し、早爆してしまうため、思ったよりも敵にダメージを与え難いようです」
「低空の敵は機銃座で対応するしかないという事か」
「ただし……ウースター級防空軽巡なら理想的な働きを見せるかもしれません」

モルン大佐がそう言うと、途端にハルゼーは不機嫌そうな顔つきになった。

「我が艦隊にウースター級はいないぞ。アトランタ級はいるが、シホット共に突破されて爆弾を食らってる」
「長官、もしもの話です。それに、従来の艦隊であっても、あの敵編隊を削れるという事は既にわかっております。なので、対空戦闘に関しては、
これまで通りに行うしか手はないかと」
「ふむ……それでは敵にもいい目を見せる事になるじゃねえか。俺としては味方艦がやられるのは面白くない!」
「長官、それを防ぐためにも、幾らかやり方を改めるしかないでしょう。あと、敵航空部隊を防ぐ一番効率的な防御は、こちら側も戦闘機を多く
飛ばして迎撃する……そう、昼間の航空作戦で一気に敵戦力を削り取る事です」
「それはつまり……夜間の敵地爆撃はなるべく控え、日中に堂々と大編隊を組んで敵地を攻撃するのみに徹する、という事かね?」

ハルゼーの問いに対し、モルンは深く頷いた。

「小官としては、それが最も効率良く、敵航空部隊にダメージを与えられる方法であると確信致しております。夜間だと、少数の夜間戦闘機のみしか、
航空戦力は使えませんので」

モルンはそう断言した。
彼の言う事はハルゼーもすぐに理解できた。
TF38の3個空母群を付近に纏めて行動させれば、例え敵編隊が大規模な航空部隊を差し向けても撃退できるであろう。
そして、シホールアンル軍のワイバーン部隊は戦力を失い、今度こそ敵は空を米軍によって好き放題されてしまうだろう。
だが、これまでの敵の動きからして……

「大戦力で突っ込めばそりゃぁ、敵を散々に打ち破れる。だがな……それじゃシホット共は出て来んぞ」

ハルゼーは仏頂面で反論した。

755ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:50:15 ID:Zo.OeHzY0
「陸軍から伝わった情報も見る限り、シホットの航空部隊はゲリラ戦のような動きしかしておらん。クガベザムでエンタープライズ、ヨークタウンが
被弾したのは、そもそもが”TG38.1単独“でいると見なされたのが原因だ。もしTG38.1のみならず、他の2個空母群と共に行動している所を
発見されていたら、連中は攻撃して来なかったはずだ」

ハルゼーは、浮きドッグで体を休める2空母を交互に見つめ、視線をそのままで言葉を続ける。

「大軍で威風堂々と現れる事自体、奴らのペースに乗せられているのかもしれんぞ」
「では長官……敵航空戦力を効果的に減殺するには、何かしらの策が必要になるかと思われますが」
「策……ねぇ」

ハルゼーは眉間に皺を寄せつつ、顎を摩った。

「レイ辺りなら、何かいい案を思いつくかな」

彼は苦笑しながら、モルンに言った。


しばらくして、上空に航空機の爆音が響き始めた。
最初は然程でもなかったが、すぐに地を圧っするかのような轟音に変わった。
ハルゼーは艦橋の窓から飛行場の方へ顔を向ける。

「B-36か」
「シホールアンル本土への爆撃へ向かうのでしょうか」

カーニー参謀長が口を開く。

「恐らくはそうだろうな」
「出港前に、飛行場に30機ほどのB-36が集結しているのが見えましたから、近々大陸戦線へ赴任する記念の爆撃行へ出撃するのかと思っておりましたが」
「あの様子だと、その予想は当たっていたようだ。しかし、行きがけの駄賃とばかりに、高度15000前後まで上がられて爆弾の雨を降らされるんじゃ、
シホット共の先は暗いままだな。いずれは、ワイバーンも飛空挺も戦略爆撃の影響で疲弊し切ってしまうだろう」

ハルゼーはそう言いながらも、内心は戦略爆撃で疲弊し切る前の敵航空部隊との決戦を望んでいたが、同時に敵が今のような、ゲリラ的航空作戦を
続ける以上、そのような戦いは起きないとも思っていた。
次々と飛行場から発進するB-36を眺めていたハルゼーだが、この時、2月末にもB-36が飛行場から発進していた事を思い出した。

(そう言えば、2月の終わりにもB-36が飛び立っていたな。あの時は3機ほどが飛び立ったが、珍しく南西方面……合衆国本土に向かっていた。
あれは本土で何かしらの整備を受けようとしていたのかな)

756ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:51:07 ID:Zo.OeHzY0
3月6日 ワシントンDC 午後2時

アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトは、大統領執務室でコーヒーを啜りながら、アメリカ陸軍航空軍司令官を務めるヘンリー・アーノルド大将の説明を受けていた。

「閣下、北大陸戦線につきましては、これで以上になります」
「ふむ……ミスターアーノルド、帝国軍の頑張りには私としても頭が下がる思いだが、だからと言って、数の優位が揺らぐ事はない。ここは我が方も、
粛々と事を進めるしかあるまいな。遅かれ早かれ、敵は息切れする。そこを狙って、我々は余力を持って敵航空部隊を虱潰しにするまでだ」
「ご最もでございます。閣下、話は変わりますが……かねてより準備を進めておりました、レーフェイル大陸東方沖に点在する未確認国家に対する
航空偵察が、間も無く開始されます」
「ほう。遂に始まるか」

今まで顰めっ面で報告を聞いていたルーズベルトであったが、ここで固かった表情が幾分明るくなった。

「クナリカとレンベルリカの飛行場からB-36を2機ずつ、計4機を発進させます。最初に偵察する目標はフリンデルドとイズリィホンを予定しております」
「うむ、大変結構」
「しかしながら、懸念もありますぞ」

室内で同席していたコーデル・ハル国務長官がすかさず指摘する。

「フリンデルド、イズリィホンはいずれも独立国であり、その国土の近辺を航空偵察する事は、相手国に非難される恐れがあります。また、領土の
上空に侵入すれば、前世界で言われる領空侵犯を行った事になり、激しい反発が予想されます」
「その点は重々承知している。それを分かった上で実行するのだ」

ルーズベルトは既に決定事項だ、と言わんばかりにそう断言する。

「偵察機には沿岸部のみを飛行するように厳命します。国務長官の言われるような、当該国のど真ん中を突っ切るような飛行は一切行いません。
そもそも、この偵察飛行はレーフェイル大陸から東にある未確認国家を確かめる事を目標に定めた、観測飛行であります」
「観測飛行に戦略爆撃機を……しかも、敵対国を攻撃し続けているまさにその当該機を送り込むと言うのは、如何なものかと」
「B-36以外にこの長距離飛行をこなせる機体が居ないためだ。往復8000マイル(12800キロ)の偵察飛行だ。その他の機体を仕立てようにも、
今から作っては年単位の時間がかかってしまう」
「だからこそ、B-36を使うのです。機体の性能も最高であり、万が一の事態にも備えられるかと」
「万が一の事態とは……もしや、戦闘機の迎撃を考慮してのことですかな?」
「ミスターハル、万が一の事態とは、何も迎撃を受けるだけという事ではなかろう。高度15000前後を飛行できるのであれば、雲の殆どない成層圏を
ずっと飛行できる。無論、下界の天候が悪ければ、満足に偵察が出来なくなるが、それでも別に良い。我々としては、現在伝えられているレーフェイル
大陸と当該国との距離が正確か否か。そして、本当の距離はどれぐらいなのかと確かめる事に主眼を置いておる。場合によっては、この2カ国の領土ギリ
ギリまで飛行して引き返すだけでも良い」

757ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:52:26 ID:Zo.OeHzY0
「むしろ、それだけなら往復3,4000マイル程度で済みますから、パイロットの負担もかなり楽になるでしょう」
「私個人としては、それだけで済むよう願うばかりです」

無表情のままそう発言するハルに対して、ルーズベルトは微笑みながら言葉を返す。

「心配は無用だ。B-36はアメリカの航空技術の粋を極めた機体だ。そう、言うなれば合衆国一……いや、世界一の飛行機とも言える。ただ往復するにし
ろ、ぐるりと沿岸部を一周するにしろ、B-36にとっては造作もない事だ。数日後にはコーヒー片手に報告書を読んでおるよ」

オペレーションハイウォッチ……それは、昨年末より新たに存在が噂されていた2カ国……フリンデルド帝国と、イズリィホン皇国……
通称イズリィホン将国と呼ばれている国家と、その他の陸地を航空偵察で確認される事を目的とした長距離偵察作戦の名称である。
フリンデルド帝国とイズリィホン将国は、それぞれがレーフェイル大陸から約3000マイル(4800キロ)前後離れていると伝えられていたが、
正確な距離は未だ分からなかった。
その他に分かった事と言えば、フリンデルド帝国は大陸にある複数国家の中の一国であり、レーフェイル大陸から東北東の方角に行けば辿り着ける。
イズリィホン将国は、その未知の大陸から南に推定500マイル(640キロ)前後離れた南方にあり、前世界の日本列島に似た細長い土地を、上下逆に
なった姿形で存在していると言われている。
この他にも、この2カ国とは別にレーフェイル大陸と3分の2ほどの大きさの大陸に近い島国や、幾つかの列島が集まった比較的大きな島らしき物の
存在も伝えられており、これらもまた後日偵察する事が決まっている。
偵察作戦は3月から4月初めにかけて行われる予定であり、この航空偵察で各地域の正確な位置や、距離などの情報を集める予定である。
この異世界に召喚され、まだまだ知らない事の多いアメリカにとって、この偵察作戦の意義は大きい物になると、アーノルドは勿論のこと、ルーズベルトもまたこの作戦の実行に乗り気であった。
だが、ここで先ほどのような強い懸念を示したのが国務省である。
アメリカとの国交を望む国は、1946年1月現在で、南大陸の同盟国や、レーフェイル大陸の支援国や統治下にあるマオンドを除き、実に10カ国に及んでいる。
これらの国は、レーフェイル大陸に設置したアメリカ国務省の連絡事務所に使者を派遣し、アメリカの外交官と既に接触を果たしている。
これらの国々の中には、今話に出てきたフリンデルド帝国と、イズリィホン将国も含まれていた。
アメリカとしては、これらの国の内情を精査しつつ、希望が叶えば国交を結ぶ事も考えていたのだが、そこに軍部が突然、軍用機……
しかも、今現役で実戦投入中の戦略爆撃機を用いて航空偵察を行うと発表したのだ。
国務省としては、将来的には海軍の援護を受けつつも、民間の調査船等を派遣してこれらの地域の調査を行うべきであると考えていた。
だが、未だに国交を結んでいない国に軍用機、しかも戦略爆撃機を飛ばすというのだ。
前世界であれば明らかに威嚇行為であり、重大な外交問題に発展しかねない。
無論、前世界とは違う、この異世界では事情は異なるかもしれない。
国によっては、爆撃機そのものを見た事がない地域もある筈だ。

758ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:52:56 ID:Zo.OeHzY0
ただ……ハルが聞いた話では、各国の使者は例外なく、アメリカが大量の軍用機を用いて大きな都市を攻撃し、一夜で破壊したという話の真偽を、形の差異はあれど、外交官に尋ねてきたというのだ。
それはつまり……各国は曲がりなりにも、戦略爆撃の恐ろしさをおぼろげながらにも知っている事になる。
情報の出所は間違いなくシホールアンルであり、そして、同国に存在する各国の大使館から伝わり、それが各国にも知れ渡っているのである。
使者の中には、途中からかなり怯えた様子でランフック空襲の事を外交官が聞かれた(その国の使者の話では、ランフック爆撃で100万人以上の死者が
出て、都市が瞬時に壊滅したと伝えられていた)との情報もある。
そのような状況で、戦略爆撃機を飛ばせばどのような批判を浴びるか。
このような懸念は、陸海軍内部でも上がっており、特にキング元帥からは、

「この偵察作戦は性急すぎる。もっと手順を踏み、機種を爆撃機以外の物に選定し直してから行うべきである」

と言う声も上がった。
だが、ルーズベルト大統領はアーノルドの提案に大乗り気であり、遂に実行されるに至ったのである。

ハルの不安をよそに、ルーズベルトは機嫌の良さそうな表情を浮かべつつ、アーノルドに聞いた。

「出発はいつになるかね?」
「現地時間ですが、3月7日の深夜に発進する予定です。選抜した機体には特製の偵察カメラを搭載し、クルーも歴戦のベテランや、先日の
シホールアンル東海岸偵察作戦に参加した者を優先して乗せております」
「よろしい。報告が楽しみだ」

アーノルドの報告に満足気に頷いたルーズベルトは、カップのコーヒーを美味そうに飲み干した。

1946年3月7日 午前10時 ヒーレリ共和国リーシウィルム

リーシウィルム港には、第5艦隊の主力である第58任務部隊所属の各艦が、分散配置先のレスタン沿岸部やジャスオ沖から続々と集結しつつある中、
本国で修理を終えた艦も1隻、また1隻と前線復帰しつつあった。
第5艦隊の旗艦である、重巡洋艦インディアナポリスの艦橋から、リーシウィルム港内を見つめていた第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将
は、今しも前線復帰を果たしたばかりの1隻が、港内にゆっくりと進入している所をじっと見つめ続けていた。
その艦は、今やすっかり見慣れたエセックス級正規空母の同型艦であり、飛行甲板にはびっしりと艦載機を並べていた。

「長官、あれはキアサージです」

第5艦隊参謀長のカール・ムーア少将が、キアサージを指差しながらスプルーアンスに言う。

759ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:54:06 ID:Zo.OeHzY0
「昨年12月の海戦では魚雷2本と対艦爆裂光弾を受けて大破しましたが、本国帰還後に突貫工事で修理を行ったため、予想よりも早く前線復帰を
果たせたようです」
「本来の修理期間はどれぐらいなのかね?」
「予定では3月中旬まで修理を行い、修理後のテストに1週間ほどかけて、4月には復帰予定でしたが、修理が2月下旬には終わったため、予定を
繰り上げて復帰が叶ったとの事です」
「そうか。大したものだ」

スプルーアンスは無表情ながらも、感心の言葉を漏らした。
ゆっくりと入港してきたキアサージは、同じエセックス級正規空母レンジャーⅡの左舷500メートル離れた位置で停止した。

「ここから見ると、ちょうどエセックス級正規空母が5隻並んでいるな。そして、そのやや前方にはインディペンデンス級軽空母とリプライザル級空母が並んでいる。こうして艦隊が集結する姿を見るのも、随分と久しぶりだ」
「リーシウィルム港は広いですが、全部は入りきれないので、1個任務群は別の港で停泊を余儀なくされております」
「だが、港内にいるこの艦隊だけでも、今のシホールアンル海軍に対して圧倒的に優勢となっている。沿岸部を荒らし回るだけでも、敵に強い
圧力をかけ続けられるな」
(だからこそ、海軍の出番は沿岸を“荒らし回るだけ”になってしまったが)

スプルーアンスは、最後は言葉に出さず、心中で呟くだけに留めた。

「しかし、空母は前の海戦で損傷した6隻のうち、レイク・シャンプレインを除く5隻がほぼ復帰したのに対し、戦艦部隊は7隻中、まだ2隻……
モンタナとイリノイしか復帰できておらんな」
「敵戦艦部隊との砲撃戦で意外と深い傷を負ったようですな。今のところ、ケンタッキーは間も無く修理が完了するようですが、残りのサウスダコタ、
巡戦トライデント、コンスティチューションはまだドッグの上で修理を続けております。5月までには修理後の慣熟航行を終えて艦隊に復帰する
見込みのようです」
「復帰が叶うのなら大いに結構だが……艦の扱いに手慣れた乗員が多いベテラン艦は、これから実行する作戦においては1隻でも欲しいところだ。
同じ事は巡洋艦や駆逐艦にも言える事だが、やはり、敵水上部隊と戦った部隊は、その復帰にも時間がかかるものだ」

スプルーアンスは眉を顰めながら、ムーア参謀長にそう嘆く。

760ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:54:49 ID:Zo.OeHzY0
前回の海戦で、敵水上部隊と戦ったTG58.6とTG58.7所属艦は、必然的に損傷艦が多く、その復帰に時間がかかっていた。
戦艦のみならず、巡洋艦部隊でも修理中の艦がおり、特に被雷損傷した軽巡ヘレナ、サンアントニオはまだドッグで修理を受けている最中だ。
ただ、太平洋艦隊司令部も離脱艦の穴を開けたままにしておく事はなく、海戦後は、比較的補充が容易な駆逐艦を手始めとして、段階的に慣熟訓練を
終えた最新鋭のギアリング級駆逐艦や、改クリーブランド級軽巡洋艦であるバッファロー級軽巡のチャタヌーガ、サンファンⅡ(撃沈されたアトランタ級
防空巡洋艦サンファンから襲名)、ヴァレーオが艦隊に加わっている。
ただ、これらの最新鋭艦は、在来のベテラン艦と比べて練度に幾らか不安があり、スプルーアンスは、特に防空戦闘において艦隊に影響を及ぼす事を
懸念していた。
この懸念は、先日、ハルゼー指揮下の第3艦隊で起きた防空戦闘の戦闘詳報を見てから、ますます強くなっていた。

「損傷艦の前線復帰が遅れている事は致し方ないでしょう。とはいえ、戦力は揃っております。あとは出港し、次のステップに進めばよろしいかと」
「うむ。君の言う通りだな」

スプルーアンスはそう返しつつ、心中に残る不安感を打ち消しながら次の話題に進んだ。

「出港は確か、明日だったな」
「はい。第1任務群が早朝から出港を開始し、第4任務群が夕方辺りにリーシウィルム港より出港いたします。輸送船団と護衛空母、上陸部隊援護の
戦艦部隊は分散配置したヒーレリ各地の港から、明日の早朝から順次出港の予定です」
「作戦開始は3月11日……敵が食いつくのがその翌日か、はたまた2日後か……」
(果たして、敵は上手く食いついてくるかな)

スプルーアンスは再び、内なる不安感を感じつつも、それとは別に、大規模な海上航空戦は、これで最後になるだろうと、強く確信していた。

761ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/01/31(水) 20:55:28 ID:Zo.OeHzY0
SS投下終了です

762名無し三等陸士@F世界:2024/02/02(金) 21:38:05 ID:uwQdrfbM0
投下乙です
久方ぶりのジョンブル戦隊キタ!今度はどんな活躍を見せてくれるのかwktk
そして爆撃機を使った第三世界への偵察作戦、絶対アカン方向に事が進むのしか考えられないんですがそれは…。何でも力技で解決しようとするアメリカの悪い癖が出ちゃったか…
あとこの世界の改クリーブランド級はファーゴ級じゃなくてバッファロー級なんですね。先のアイレックス級や今後登場するであろうバケモノ戦艦のジョージア級もそうですけど、ここに来て後継艦の艦名が史実と大分ズレてきましたね

763ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/02/02(金) 22:22:49 ID:Zo.OeHzY0
>>762氏 ありがとうございます!
>ジョンブル戦隊 今回はプリンスオブウェールズがチラッと顔出しした程度ですが、その存在感を示せたかと思います。

>爆撃機での偵察
確かに長距離偵察にはもってこいですが、ハル国務長官の懸念の通り、他国が威嚇行為と捉えかねないので、非常に先行きが
不安ですね

>艦名
スペックは同じですが、名前が大分変わりつつありますね。もしかしたら、聞いた事の無い名の空母とかも出てくるかもしれません

764ヨークタウン ◆oyRBg3Pm7w:2024/03/31(日) 22:00:16 ID:87tTo.PM0
今までお世話になりました

765名無し三等陸士@F世界:2024/04/28(日) 22:56:13 ID:0HSJkUCE0
あれ?もうここでは投稿しないのかな?


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