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灼眼のシャナ&A/B 創作小説用スレッド

1SS保管人:2003/11/24(月) 19:22
ライトノベル板でSSを書くのは躊躇われる、
かといってエロパロ板は年齢制限が…

そんな方のために、このスレをどうぞ。
萌え燃えなSSをどんどん書いて下さい。

303名無しさん:2006/08/10(木) 15:46:33
hosyu

304名無しさん:2006/08/13(日) 00:09:24
続きマダー?

305名無しさん:2006/08/13(日) 03:10:47
悶々悶々と毎日待ってます

306名無しさん:2006/08/13(日) 19:17:54
気長に待とう

307名無しさん:2006/08/21(月) 18:01:04
保守

308名無しさん:2006/08/26(土) 21:30:06
むー

309名無しさん:2006/08/27(日) 17:45:09
ほす

310名無しさん:2006/08/27(日) 18:06:31
むむむむむむ

311名無しさん:2006/08/27(日) 21:45:46
楽しみです

312名無しさん:2006/08/28(月) 15:20:05
続きみたいよー

313名無しさん:2006/08/30(水) 00:51:39
1ヶ月ごとだからそろそろきてもいいはずだ!

314名無しさん:2006/09/09(土) 19:53:34
むむむむむむ

315Back to the other world:2006/09/11(月) 17:33:45
〜38〜
「結構遠くまで来たわねえ」
 「まぁ、僕が思いついたのは、ここぐらいしかなかったから・・・」

『人目につきにくい、静かな場所にある公衆電話で、悠二の母・千草と話がしたい』というマティルダの要望を受け、悠二が選んだ場所。

そこは、御崎神社であった。

悠二は以前ここに、シャナや吉田、佐藤たちと、期末テスト終わった打ち上げと称して遊び来たことがあった。
そしてその時、休憩所から少し離れたクスノキの下にひっそりとたたずむ、古びた公衆電話を発見していたのだ。
「あぁ、あれな。本当は殿舎を解体する時に取っ払っちまう予定だったらしいんだけど、近所の爺さん婆さんたちに反対されて、仕方なく残したんだって。『ワシらが使っとる物を勝手に取り壊すな!』とか何とか言われてさ」
とは、その時の佐藤の弁である。

御崎山の中腹にあるこの神社は、初詣の時などを除いて特に参拝に訪れる人もほとんどいない。
それでも悠二は念のため、休憩所をのぞいてみたが、誰もいなかった。
「ちょっと汚いけど、ここなら多分大丈夫だと思う」
「なるほど・・・なかなかいい場所ね。じゃ、さっそく行きましょ」
かくして、二人は電話ボックスへと向かった。


同じ頃。
“弔詞の読み手”マージョリー・ドーは、ジリジリと焼け付くようなアスファルトの上をグッタリとしながら歩いていた。
普段から不機嫌そうなその表情は、さらにその度合いを増している。
「しっかし暑いわねぇ、日本の夏ってのは。イライラしてくるわ」
「ヒヒッ、まあおめえは普段からイライラしてっけどなぁ、我が厄介なる癇癪持ち、マージョリー・ドブッ!?」
「・・・お黙り、余計に暑くなるでしょうが。あーもう、あちぃあちぃ・・・」
言うと、マージョリーは『グリモア』から栞を一枚抜き取り、それをウチワ代わりにしてあおぎ始めた。

そんな様子を見て、マルコシアスが尋ねた。
「しっかしよぉ、そんなに暑ッ苦しいのが嫌なら、あのまま家にいりゃ良かったじゃねえか?」
言われ、マージョリーは少し間を置いて答えた。
「・・・そうねぇ。そうしたいのは山々なんだけど」
と、マージョリーは立ち止まって、少し遠くに見える山に視線を送る。
「で、あそこに、おめえの言う『違和感』の正体があるってぇのか?」
マルコシアスがまた尋ねる。
「そうね。朝に感じたのと全く同じ。あそこに近づくにつれて強まってるわ」
「ヒヒッ、二日酔いのせいで感覚もイカレてたんじゃねえのかブッ!?」
「お黙り。酔ってたって“徒”の気配ぐらい察知できるわよ」
「そうは言ってもなぁ。さっき『玻璃壇』も見てきたじゃねえか。あれにゃなーんも映っちゃなかったぜ。ま、また新手のフレイムヘイズが来やがった、ってんなら話は別だがよ」
マルコシアスがそういうのは、宝具『玻璃壇』は、“徒”やトーチなどの居場所を突き止めることのできるものであるが、なぜかフレイムヘイズの居場所だけは察知することができないからだった。

「いや、違う・・・なんか違うのよ」
「一体何が違うってぇんだよ、我が迷える哲学者、マージョリー・ドー?」
「・・・ハッキリとしたことは言えないけど、何だか気持ち悪い感覚なのよ」
「ほーれみろ、やっぱり酔いがさめてねえだけじゃねえか」
「そうじゃない。なんか、この世にも“紅世”にも存在しない『何か』が、存在してるっていうか・・・」
「・・・はぁ?」
普段あまりお目にかかることのない、相棒の妙な様子に、マルコシアスは困惑した。
「それだけじゃない。私、この『何か』を知っている気がするのよね。ずいぶん前に消え失せた『何か』を」
「おいおい、トンチキなことを言うなよ、おめえらしくもねえ。じゃあ何か?『ユーレイ』でも出てきた、ってのかよ?」
「今は何とも言いようがないわねぇ。とりあえず行ってみるしかないわ、あそこまで」
「全く、とうとうアルコールで思考回路がやられちまったんじゃねえのかブッ!?」
「お黙り、とにかく行くわよっ!」
『グリモア』に膝蹴りをかまし、マージョリーは再び歩を進める。
少し遠くに見える山―――御崎山へと。

316234:2006/09/11(月) 17:38:07
すいません。前回から一ヶ月以上間が空いてしまいました。
これからまたぼちぼちと続けていきたいと思います。
そこで、少しご了承いただきたいことがあります。

できれば13巻発売までに終わらせたかったのですが、ご覧の通りの超絶遅筆のため、それができませんでした。
したがって、今後の内容は13巻の内容と食い違ってくる、あるいはありえないことが起こっている可能性があります。
これだけ遅らせておいてなんですが、そこはどうかご容赦を。

317名無しさん:2006/09/11(月) 22:36:31
全然おk。
wktkしながら待ちますね

318Back to the other world:2006/09/13(水) 01:39:54
〜39〜

御崎神社に置かれていた公衆電話は、昔ながらの、液晶が付いていない緑色タイプであった。
取っ手や本体は所々塗装がハゲており、番号ボタンの数字も一部消えかかっていた。
近くに置いてあった電話帳もボロボロで、ボックスの壁には何やら怪しげな店の物らしき電話番号がシールで貼ってあったり、また卑猥な落書きもあっちこっちに彫ってあった。

「あらあら、『〇〇と×××したい』ですって?随分とストレートな愛情表現ですこと」
マティルダはボックスの中をのぞくなり、いきなり壁に彫ってあった落書きを音読した。
慌てて悠二が注意する。
「ま、マティルダさん!?何読んでるんですかっ!」
しかしマティルダは特に気にした様子もなく、
「あなたこそ何言ってるのよ悠二君。あなたくらいの年齢ならこれくらいのお話、お友達と普通にするでしょ?」
逆に悠二に対して切り返してきた。
「いっ、いくらなんでもそこまで直球な話はしませんよっ!」
「あらあら、『そこまで』ってことは、やっぱりそういう話はするんだ」

「・・・っ!?」
やぶ蛇だったのか、焦った悠二は意味もなく「そういう話」をしていたことをバラしてしまった。
「そ、そ、それは・・・」
自分の失策を悟った悠二は、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
そんな様子を見て、マティルダは呆れながら言う。
「あのねぇ・・・今さら何赤くなってるのよ。私は別に気になんかしてないわよ。そんなの、あなたくらいの年頃なら普通のことだもの」
「そ、そうは言っても・・・」
「女性に直接聞かれるのは恥ずかしい、ってこと?」
「・・・うん、まあ、そんな感じで・・・」
気まずそうな悠二の返事に、マティルダは少し間を空けて言う。
「・・・まあ、確かに今の話を、例えばシャナやヨシダさんにしたとしたら、それなりにヤバかったかもね」
「っ!?へ、変なこと言わないでくださいよ」
唐突に二人の名前が出てきたので、悠二はまた動揺した。
「例えばの話よ。でもね、私は一応、大人の女性よ。それなりに酸いも甘いも噛み分けてるの。身も心もピュアなあの子達とは違うわよ」
「そ、そうか・・・」
「さ、そんな話はいいから、早く電話をかけてちょうだい。向こうが出る前に私に受話器を渡して」
「はいはい、了解です」
せかすマティルダに追いやられるように、悠二はボックスの扉を開けた。


同じ頃。

“万丈の四手”ヴィルヘルミナ・カルメルは、買い物を終え、帰宅しようとしていたところであった。
「ふむ。こんなものでありましょう」
その背中のザックには大量の荷物を積め、またその両手にも一杯のビニル袋が下がっている。
定例の買出しの時と比べ、明らかに量が多すぎであった。
ティアマトーがたしなめる。
「過積載」
「問題ないのであります」
「衝動購入」
「うるさいであります」
ヘッドドレスを殴りつけようにも両手がふさがっているので、仕方なくあきらめる。

「これで、少しは気晴らしに、なったのであります・・・さて」
と、スーパーを出たヴィルヘルミナは、どういうわけかいつもとは違う方角に歩を進めた。
「?逆方向」
ティアマトーは当然のように尋ねた。
しかしヴィルヘルミナは、
「今回はこちらでよいのであります」
と、少し遠くに見える山を見ながら言った。

「あそこに行けば、私の疲れも悩みも、いま少し、解けることでありましょう」
しかし、ティアマトーには、相棒がいったいどこのこと指して言っているのか、分からなかった。
「・・・行先確認」
ヴィルヘルミナは、答えた。

「・・・この国の人々が、何かに思い悩んだ時、訪ねる場所であります」


かくして、運命の時は、近づく。

319名無しさん:2006/09/14(木) 00:20:10
激しくGJだ!

320名無しさん:2006/09/15(金) 21:12:24
北アあああああああああああああああああ!!!

321名前がな(略:2006/09/24(日) 15:27:25
 午前零時。
 何時もの夜の鍛錬を零時迷子による存在の力の回復に合わせて終了しようとした時、
そういえば、と悠二が口を開いた。
「昼休みに聞いた話、覚えてる?」
「なにを?」
「駅を二つ三つ越えた辺りで吸血鬼が出た、とか言う噂。」
 言われてクラスメート達から耳にした、
『貧血で倒れたり休む人が増えていて、そのほとんどに血を吸われたような痕があった』
『記憶が曖昧になったりする者もいるが、死者はいないらしい』
『デフォルメされたねこっぽい変なナマモノが夜の街を徘徊している』
などと言う他愛も無い噂話を思い出す。
「それが?」
「ああいう吸血鬼とか悪魔とかみたいな、所謂化け物の伝承や迷信の中にはさ、
"徒"やフレイムへイズを元にした物もあるのかな?」
「結構あるんじゃないかしら。封絶が広まったのは割りと最近だし。」
 その返答に、悠二は微妙な顔をする。
「噂の吸血鬼が実は"徒"、なんて事はないよね?」
「馬鹿。そんな訳ないから情けない顔するんじゃないわよ。」
「うむ。たとえ本物であったとしても、噂が広まっている以上直ぐに始末されるであろう。」
「そっか。・・・ってちょっと待って。なんか『吸血鬼は実在する』、って意味に聞こえたんだけど。」
「そうだ。シャナも下界宿で聞いた事を覚えているか?」
「確か"変異種"、だっけ?大した事はない連中って事くらいしか覚えてないわ。」
「まぁ"徒"と比べれば無害に等しい故に興味を向ける者も少ないからな。」
「無害って・・・、普通の人間はともかく、
フレイムへイズから見れば存在の力を奪って世界に歪みを作ったりするわけでもないから放置されてるって事?」
「その通りだ。人の文明が今のように発達する以前には、
街一つの住民全てが血を吸われ滅ぼされた事もあったようだが、
そこには世界の歪みは無いに等しかったと云う。」
 なんでもないことのように言われ、悠二は絶句する。
"徒"以外にもそんなとんでもない連中がいるのか、と。
「なに、気にする必要はない。彼等も無法を働く同胞は彼等自身が裁く。噂もすぐに終息するであろう。」
アラストールにしては珍しい、気遣いとも取れる言葉で、その日の鍛錬はお開きとなった。

322名前がな(略:2006/09/24(日) 15:28:12
こういう独自設定な与太話ってありでしょうか?

323名無しさん:2006/09/24(日) 18:27:07
いいんじゃない?

324234:2006/09/25(月) 01:15:49
僕もアリだと思いますよ。
独自設定を考えるのが大変ですけど(^^;)

ところで、割り込みになってしまいますが続きを投下します。
長くて、しかも話の進行遅くてスイマセン。

325234:2006/09/25(月) 01:17:23
〜40〜

公衆電話の受話器を取り上げると、悠二は財布の中からテレホンカードを出し、投入口に差し込んだ。
スルスルとカードが飲み込まれていき、電話機前面のカウンターに、赤いデジタル文字「10」が点灯した。

「これで、あとは番号を押すだけね」
「・・・うん」

しかし、番号ボタンを押そうとして突然、悠二は指を止めた。

「・・・?ちょっと、どうしたのよ」
その行動に、マティルダはいぶかって尋ねる。
すると、悠二はマティルダのほうに向き直って、言った。

「・・・本当に、大丈夫なのかな?」
「何が?」
「だって、母さんと話すんでしょ?母さんはシャナやアラストール、カルメルさんとも親しくしてるし・・・もし今日マティルダさんが母さんと話して、そのことがバレたりしたら・・・」
「大丈夫よ。いままで『あの世』から見てきた限り、あなたのお母さんは相当信頼の置ける人物よ」
「そ、そうかな・・・?」
「あのアラストールやヴィルヘルミナに一目置かせてるんだもの。たいした人だと思うわ」
「た、確かに」
「さ、分かったなら早くダイヤルして」
「は〜い・・・」
マティルダの気迫に押されるように、悠二は自分のうちの電話番号をダイヤルした。

そして、ルルルルル・・・・と電子音が流れるのを確認して、
「はい、どうぞ。繋がりました」
背後のマティルダに受話器を渡した。
「ご苦労様。じゃ、ちょっと場所を替わってもらえるかしら」
「じゃ、僕は外に出てますよ」
ということで、二人は立ち位置を変更した。
「ふぅ・・・やれやれ、ホント、一苦労だったなぁ」
そしてそのまま、自販機のジュースでも買って休もうかと休憩所へ向かおうとした悠二だったが、

「あっ、ちょっと待って悠二君。あなたが私に触れていないと、受話器が持てないのよ」
「あっ・・・」
重大なことを思い出させられ、いそいそと公衆電話に戻った。


同時刻。
ピロリロリロリロ・・・・という甲高い電子音が、坂井家のリビングに鳴り響いた。

「ハーイ、今出ますからね」
おっとりした口調でつぶやくと、一人のエプロン姿の女性が、見ていたテレビのボリュームを下げ、電話機の方に向かった。

326Back to the other world:2006/09/25(月) 03:06:16
〜41〜

「はい、坂井です」
エプロン姿の女性―――坂井千草は、受話器に両手を添えながら優しく言った。

その一言はなんでもない、ただのあいさつに過ぎないものではある。
しかし、その口調は極めて穏やかで、かつお世辞めいた嫌らしさは微塵も感じられない。
どこか、内に秘めたる強さすら感じさせるものがある。

(なるほどね・・・こりゃあの二人が、初っ端から気圧されるわけだ)
もう一つの受話器にいる女性―――マティルダ・サントメールは、その、十文字にも満たないわずかな言葉から、受話器の向こう側の人物の器を推し量っていた。

「・・・?もしもし?」
返事がないことを不思議に思った千草は、もう一度呼びかけた。
「あ、これは失礼。こんにちは、初めまして。私は、お宅でお世話になっている、平井ゆかりの親戚の者よ」
「・・・まぁ!?」
電話の相手が、あまりに意外で、かつ唐突な登場だったため、さすがの千草も思わず口元に手を当てて驚いた。

「こちらこそ初めまして。坂井千草と申します。お世話といっても、大したことは出来てませんけど・・・私こそ、出すぎた真似をしているようで」
しかし、冷静さは失っていない。すぐに相変わらずの落ち着いた口調で話し始めた。
「全然。むしろ私も、シャナに・・・ああ、言い忘れてたけど、私もあの子のこと『シャナ』って呼んでるし、あなたも普段そう呼んでるみたいだから、それでかまわないわよ」
「あら、そうですか。承知しました。シャナちゃんって本当に、皆さんに愛されてるんですね」
「ありがとう」
千草の言葉に、マティルダも素直に礼を言った。

もとより反感を抱いているわけではないので当然だが、アラストールやヴィルヘルミナの場合と違って、マティルダは千草の言葉にいちいち焦ったり、調子を狂わされたりはしなかった。
千草の謙遜や誉め言葉も、すべて理解した上で冷静に受け止めている。
千草の方も、突然の電話に驚いたものの、この今までとは少々勝手が違う相手に対して、悪い印象は持たなかった。
どころか、シャナの親戚と直接話ができてうれしい、と、素直にこの会話を喜んでいた。

327名無しさん:2006/09/25(月) 16:44:26
きたああああああああああああああ
GJJJJJJJJ!!!

328名前がな(略:2006/09/25(月) 23:34:42
>234さん
むしろこっちが割り込んでるような気がして恐縮です。

とりあえず問題なさそうなので321の続き投下ー



 坂井家にて吸血鬼の話題が出る数時間前、"弔詞の詠み手"の居座る佐藤家でも同じ話題が上っていた。
「吸血鬼ぃ?」
「そりゃまたタイムリーな噂だなぁ、オイ。」
 マルコシアスの言葉に訝しげな顔をする子分達だが、尊敬する親分に促され話を進める。
「俺らもただの噂だ、とは思うんですけど。」
「"紅世の徒"なんて連中がいるんだから吸血鬼くらい居てもおかしくはないかな、と思って。」
 そんな子分達に多少呆れながら、マージョリーは過去に遭遇した吸血鬼の事を思い浮かべ―――、
ドッと脱力して投げやりに言う。
「あんた達がどんな吸血鬼像を考えてるかは知らないけどね、連中はわざわざ気にかける程の存在じゃないわよ。」
「そーそー、ぶっ殺す気にもならねーよーな雑魚ばっかだ。」
 あっさりと、吸血鬼が実在する事を知らされ、驚愕する二人。
「そうなんですか?」
「連中、フレイムへイズの間じゃ"変異種"なんて呼ばれてるけどね、
"徒"どもと違って気配も存在も人間と大差ないから接触例も少なくて情報も噂程度しか流れないのよ。」
「んーっでその噂じゃ極一部の古参は"王"に匹敵するってー話だから期待してたんだがよぉ、
実物はただ長生きしてるってだけのボケたお嬢ちゃんだったってオチだ。」
 こうして少年達は、また一つ知らなくてもいい真実を知り、
ありがちな幻想を砕かれ、少しだけ大人になったという。

329Back to the other world:2006/09/27(水) 02:45:28
〜42〜

そんな調子で、会話はさらに進んでいく。
「それで・・・話の続きだけど、私は、今後シャナにはあなたのような教育者は、絶対必要だと思っていたところだったのよ」
「そんな、教育だなんて・・・滅相もないですわ。シャナちゃんには、今までにも素晴らしい方々が保護者になってくださっていますし」
「それって、アラストールやヴィルヘルミナ・カルメルのことよね?」
「あら、やっぱりお知り合いだったんですね」
「ええ・・・ずっと昔からの、ね」
久しぶりに口にした旧友の名前に、マティルダは少し感慨深げになった。
彼女の言う「ずっと昔」とは、向こう五百年近く昔のことである。
しかも自身はとっくに死んでいるという、おまけつきで。
しかし、もちろん千草はそんなことは知らない。
言葉通り、古くからの知り合いなのだと思うだけである。
「皆さん大切に、大切に、シャナちゃんを育ててこられたんですね。シャナちゃんが皆さんに向ける表情を見れば分かります」
「ええ・・・全く、彼らには随分苦労をかけたわ。本来は私がやるべきことを、全部やらせちゃったからね。本当に感謝してるわ」
「皆さんのこれまで費やしてきた時間や労力に比べれば、私のしたことなど、及びもつきませんわ」
つとめて謙遜する千草。

しかし、ここでマティルダは、
「・・・いいえ、そんなことはないわ」
と、少々真剣さを増した口調で言った。
「・・・」
相手の口調の変化に気づき、千草も真剣な面持ちになる。

330Back to the other world:2006/09/27(水) 02:46:28
〜43〜

「千草さん」
「・・・はい」
「確かに、アラストール達の教育は、あの子が今後人生を歩んでく上で必要なものだったわ。それは間違いないし、私が文句をつける筋合いも資格もない」
筋合い等以前に、そもそも文句をつけること自体が不可能である、というのが実際のところだが、そんな事はこのやり取りではどうでもよかった。
「でもね・・・彼らは、自分たちにとってはちょいと厄介で、彼女に教えなかったことが、いくつかあったのよね」
「・・・」
千草は黙って聞いている。
自分がこの時点で発言することが、アラストール達のしてきたことを、ややもすると否定することになりかねない、という彼女なりの配慮である。
「そして教えないまま時間は過ぎて・・・ある日突然、急に必要になったのよ」
言って、マティルダは隣の少年に目線を送った。

「・・・?」
しかし、朴念仁は、すぐにはその理由に気づかない。ぽかんとした表情のままであった。
いい加減に呆れたマティルダは、
(すぐに察しなさいよ・・・っ!)
受話器を持っていないほうの手に、ぐっ、と力をこめた。
(っイテテ!?)
左手にかけられる強い握力に、思わず悠二は飛び跳ねた。
ちなみに、マティルダはあいている方の手を悠二とつないでいる。もちろん、『変質した存在の力』を悠二から受け取り、顕現を保つためである。
(声出したらぶっ飛ばすわよ)
(わ、かった、から、やめてギャァッ!?)
悶絶する悠二を尻目に、マティルダはゴリゴリと右手をこねくり回しながら、何食わぬ顔で話を続ける。

「相当戸惑ったでしょうね。何てったって今まで生きてきて、初めての経験だったわけだから」
「・・・やはり、そうでしたか」
初めて自分に相談を持ちかけてきたときの、純朴な彼女の顔を思い出し、千草は微笑む。
「でも、彼女は幸運だった。的確なアドバイスを与えられる人間がそばにいてくれた。それが千草さん、あなたよ」
「そんなことをおっしゃられては恐縮です」
「お世辞じゃないわ。本当に、あなたには感謝してる。ありがとう。心からお礼を言うわ」
言って、マティルダは小さく頭を下げた。
「・・・はい。そのお気持ち、しっかりと受け止めさせていただきましたわ」
千草もまた、小さくうなずきながら応えた。

と、千草はそこでふと何かを思いついたらしく、こう切り出した。
「あっ、そういえば、私の方からも、あなたにお礼をさせていただきますね」
「・・・?」
「正確には、あなた方―――シャナちゃんやアラストオルさん、カルメルさんにも、です」
「いったい何を・・・」
千草の意図が読めず、マティルダは一瞬戸惑った、が、
「・・・ああ」
その鋭敏な洞察力で、まもなく理解する。
「あら、分かっちゃいました?」
ちょっと笑いながら、千草が尋ねる。
「もちろんよ」
余裕たっぷりにそう言うと、再び視線を隣の少年に送る。
「・・・?」
しかしこの愚かなる少年は、またもや気づかない。
今度は言葉もなく、
(んぎゃっ!?)
一気に握り上げた。


同じ頃。
「・・・少々、遠かったであります」
「時間浪費」
「うるさいであります」
ヴィルヘルミナ・カルメルは、御崎山のふもと、石段の最下層にたどり着いていた。
この上に、待ち受けている者など、知る由もなく。

331名無しさん:2006/09/27(水) 22:45:44
wktk

332Back to the other world:2006/09/28(木) 02:13:41
〜44〜

方や、中世最強といわれたフレイムヘイズ『炎発灼眼の討ち手』こと、マティルダ・サントメール。
方や、『零時迷子』の“ミステス”坂井悠二の母こと、坂井千草。
すっかり意気投合した二人の女性の会話は、さらに弾んでいた。

マティルダが新たに話を切り出す。
「そういえば、アラストールやヴィルヘルミナの様子はどうなのかしら?元気にしてる?」
実際には、彼らには見えないところから様子を見ているので分かっているのだが、何となく聞いてみた。
「ええ。アラストオルさんとは直接お会いしたことはありませんけど、お二人ともお元気にしてられますよ」
「そう、よかったよかった」
言いながら、マティルダはうんうんと2回、うなずいた。
「お二人ともご友人で?」
「ええ、ヴィルヘルミナとは長いこと一緒に暮らしたわ・・・まあ『戦友』ってとこかしら」
「そうですか。私も何度かお話させていただきました。厳しさと力強さを持った方ですね。シャナちゃんにもすごく慕われてますよ」
という、千草の人物評に、マティルダは、
「そうね」
と、一言肯定するが、
「ただちょっと堅すぎるっていうか・・・一途さが災いしちゃうところもあるけどね」
長年の付き合い故に口にすることが出来る欠点を言った。

しかし千草は、
「いえいえ、それがカルメルさんの魅力ですよ」
と、さらりと言ってのけたので、マティルダも、
「あら、うまいこと言うわね」
からかうように返した。
「フフッ、怒られちゃいますね」
「全然OK。フフフッ」
その、少し意地悪な笑い声に、
(カ、カルメルさんをこれだけ笑いのネタにできるなんて・・・)
悠二は改めて、目の前の女性の恐ろしさを知った。


「・・・」
編み上げの長靴が、コツ、コツと乾いた音を鳴らす。
ヴィルヘルミナは、既に石段を半分近く、登っていた。

333名無しさん:2006/09/28(木) 02:32:14
すばらしい!

334Back to the other world:2006/09/28(木) 03:30:46
〜45〜

デジタルカウンターは、度数「5」を示していた。
「じゃ、アラストオルさんとも同じ頃お知り合いに?」
「ううん、彼とは、もっとずっと前に」
「そうなんですか。あの方はちょっと古風で厳格な感じですけど、本当にシャナちゃんをかわいがってらっしゃって、優しい人ですわ」
「全く・・・優しすぎて、時折日和見なとこがあるから困るのよね」
「男性は、少なからずそういうところがあるのは仕方がありませんわ」
「まあね。ただ、ここ最近はちょいとばかり、間が抜けてる気がするのよねぇ」
「そんなことはないですよ」
「いやいや。あなたも何度か話したから分かると思うわ。そういう時は、遠慮なく釘を刺しておいて」
「そういったことは・・・私より、あなたがなさった方がよろしいのでは?」
「ん・・・」

そこでマティルダは少し黙った。
千草の指摘は正しかった。
あの堅物魔神には、誰のものより自分の言葉が効く。
そして、
(全く、大した人だわ)
と、心の中でつぶやいた。

坂井千草は、気づいていた。
いつも携帯電話で話していた男が、今日の電話相手と、いったいどういう関係にあるのかを。
気づいていて、あえて口には出さなかった。
そのおっとりした声から想像もつかない鋭さに感心しつつ、マティルダは再び話を始める。
「う〜ん、まあ、本当はそうしたいところなんだけど・・・ちょっと事情があってね。もう長いこと、みんなと顔を合わせてないし」
「そうですか・・・もしよろしければ、一度うちにいらしてください。きっと皆さん、歓迎してくれますよ」
屈託なく、千草は言った。

「・・・そうね。機会があれば」
マティルダは短くそう返事をした。
機会など、ない。
分かっていて、あえて答えた。
「ええ、ぜひ」
うれしそうに、千草は言った。
「・・・じゃ、そろそろ失礼するわ。ちょっとしゃべり疲れちゃったし」
「楽しいお話、ありがとうございました」
「あ、最後に一言、あなたに送るわ」
「まぁ、何でしょう」
「坂井千草さん・・・あなたに、天下無敵の幸運を」
「これはこれは・・・あなたにも、どうぞ幸あらんことを」
「あら、格好いいお返事ね」
「フフッ、恥ずかしいですわ。あっ、そういえばまだお名前を」
「名乗るほどの者じゃないわ。それじゃ」
半ば強引に、マティルダは受話器を置いた。
ピピー、という電子音と共に、残り度数「1」のテレホンカードが引き出された。

335名無しさん:2006/09/29(金) 00:27:57
いつも乙
超GJ!!
千草ママンもマティルダもすごいですねwww

ちなみに「うるさいであります」喋るヴィルヘルミナ萌えw

336名無しさん:2006/10/21(土) 20:59:18
携帯で投下できないのか?

337名無しさん:2006/11/04(土) 14:49:23
保守

338名無しさん:2006/11/20(月) 23:22:33
hoshu

339名無しさん:2007/01/04(木) 14:06:15
もう二ヶ月近く誰もきてないみたいだな
続きが読みたいものであるなあ

340名無しさん:2007/01/14(日) 19:35:27
保守

341名無しさん:2007/02/04(日) 22:19:30
小説もそろそろだし
続き読みたいです

342234:2007/02/14(水) 09:24:52
お待たせしました(待たせすぎ)続きを投下します。
期待してくださった方々、すいませんでしたorz
さらに続きの巻が出てしまい、矛盾が大きくなってしまったかもしれません。
が、とりあえずどうぞ。

343Back to the other world:2007/02/14(水) 09:27:52
〜46〜

「ふう・・・・」
マティルダは、大きく息を吐いた。
(マティルダさん・・・)
悠二には、その背中が心なしか、寂しげに見えた。
(もしかして、昨日の夜はあんな事言ってたけど・・・)
そして、思った。
(本当は・・・)

自分の予想を確かめるために、悠二はマティルダに尋ねた。
「あの・・・マティルダさん」
すると、マティルダは悠二の方を振り向いて、
「さてと、用事も済ませたことだし」
悠二の言葉を無視して言った。
「ねぇ悠二君、どっかに遊びに行かない?」
「え・・・えっ!?」
「まだあなたの変質した存在の力は充分残ってるみたいだし」
「・・・」
「そりゃ〜一応この世に悔いは残さなかったつもりだけど、せっかくのこの偶然を生かさなきゃもったい無いしね。さっ、行こっか」
言って、マティルダは悠二の手を引っ張った。
「さ〜て、久しぶりに美味しいワインでも飲もうかしら。あっ、日本だからライスワインでもいいわね。日本酒ってやつ」
明るく軽い調子で、マティルダは言った。

344Back to the other world:2007/02/14(水) 09:30:44
〜47〜

しかし、悠二は納得しなかった。
「マティルダさん」
「ん〜、なあに?」
「その・・・無理、してません?」
「え?何を言ってるのかよく分からないけど」
笑顔のままでマティルダは言った。
悠二はマティルダの軽薄な態度に、
「とぼけないでくださいよ」
と、少し語気を荒げて言った。
「ちょっと、どうしたのよ、怖い顔して」
マティルダは、少年の今までの温和な態度からの変化に少し驚いたが、なお表情からは冗談っぽさを抜かずに言った。
「マティルダさん、ごまかさないでくださいよ」
「え?」
「本当は・・・会いたいんでしょ?アラストールたちに」

神社のクスノキが、風に揺れてサワサワとそよいだ。
マティルダは一瞬表情をこわばらせたが、
「あのね・・・それに関しては、昨日も言った通りよ。何度も言わせないで」
すぐにまた笑顔に戻って言った。
「・・・」
悠二は黙っている。
「さっ、これで納得したわね。じゃ、町にでましょ」
と、マティルダは再び悠二の手を引いて神社を後にしようとした。
そのとき、悠二が口を開いた。

「本当に、そんなに問題なのかな」
「えっ?」
マティルダが振り向いて言った。
「その・・・ただ昔の友達と再会するだけのことなんだし、そんなに大した問題じゃないと思うんだけど」
「・・・何ですって」
「きっとアラストールやカルメルさんは喜ぶはずだし、シャナだって、悪い顔は絶対しないと思う」
悠二の突然の提案に、マティルダは呆れて、
「・・・悠二君、本気で言ってるの?」
苦笑交じりに尋ねた。
悠二は、コクリ、とうなずき、
「だから、会いに・・・行きましょう」
と、真剣な面持ちで言った。

(ふぅ・・・全く、困った子ね)
少年の無知な言動に、マティルダは心の中でため息をついた。
(でも・・・)
マティルダは悠二の表情を見た。
自分に意見したことに対して、少し焦ったような様子ではある。
しかしその目線は、自分をしっかりと見据えている。
灼眼のような強い輝きはないかもしれないが、しかし澄んだ、純朴な瞳をしている。
(まぁ・・・悪い奴じゃないことは、確かみたいね)
マティルダは、この鈍感だが真面目で純粋な少年の頼みを、聞いてもいいかな、と思った。


と、その時。
「・・・!?」
マティルダは、前の方から、何かが迫ってきているのを見た。
そして、瞬時にそれの正体に気づき、
「危ないっ!」
「うわっ!?」
とっさに、悠二を突き飛ばした。
悠二がしりもちをつくのと同時に、悠二とマティルダの間を物凄い勢いで流れていくものがあった。

それは、一条の真っ白な、リボン。

345Back to the other world:2007/02/14(水) 09:32:02
〜48〜

「わっ!?ってこれは・・・!」
目の前を流れていく白い一筋に、悠二はすぐ、誰が現れたのかを悟った。
「あらら、向こうの方から来てくれたみたいね」
生前、毎日のように見てきたその一筋を眺めつつ、マティルダは苦笑した。
「そうみたい、ですね・・・」
悠二はおそるおそる、その白線が流れてきた方向を見た。

メイド服を着た女性が、鳥居の下に立っている。
たった今、石段を登り終えたようだった。
「カ、カルメルさん」
悠二は女性に声をかける。
「・・・・・・」
しかし返事は無く、彼女は悠二たちのいる方向に向かってきた。

「・・・?カルメルさん、カルメルさん?」
悠二は何度も彼女の名前を呼んだ。
「・・・・・・」
しかし、彼女は全く反応しない。
ただ、うつむいたまま、ゆっくりとにじり寄ってくるだけである。

346Back to the other world:2007/02/14(水) 09:33:58
〜49〜

コツ、コツ、コツ、コツ。
乾いた靴の音だけが、ただただ響き渡る。
徐々に近づいてくるその音に、悠二は不気味さを覚えた。
(な、なんか・・・いやな予感)
コツ、コツ、コツ。
女性は、悠二のいる手前3メートルくらいのところで、止まった。
「・・・・・・・」
未だにうつむいたまま、一言も話そうとはしない。
(と、とりあえず、この状況を説明しないと)
このままでは埒が明かないと思ったのか、悠二は彼女の方にそっと近づこうとした。
「カ、カルメルさん、とりあえず落ち着いて話を」

ヒュン!!
白帯が、悠二の左半身をはたいた。
「ガッ!?」
左からの激しい衝撃に、悠二はもんどりうって倒れた。
突然のことに、悠二は脇腹を押さえながら抗議した。
「な、何するんですか・・・・っ!?」
ふと見上げた先に、これまでうつむいていて見る事が出来なかた、女性の顔があった。
それは、悠二が今まで目にしてきた彼女の顔の中で、最も無表情で最も冷たく、そして、最も恐ろしいものだった。
青ざめる少年を軽蔑するように見下ろしながら、フレイムヘイズ“万条の仕手”ヴィルヘルミナ・カルメルは、ゆっくりと口を開いた。

「・・・見たまま、でありますが?」

背筋も凍る、冷たい声だった。

347Back to the other world:2007/02/14(水) 09:36:08
〜50〜

ヴィルヘルミナは、怒りをあらわにしていた。
それも、今まで経験してきたものとは、訳が違う。
(こ、この目線は・・・)
明らかに「敵」に対する目線だった。
何となくだが、悠二にはそれが分かった。
(に、逃げなきゃ)
直感でそう悟ると、悠二は立ち上がろうとした、が、
「・・・逃がすとでも?」
「うわあっ!?」
ヘッドドレスからシュルリ、とリボンが数本現れた。
かと思うと、次の瞬間には悠二の両手両足に巻きつき、さらに、
「ぐうっ!?」
首元にも巻きついた。
『悠二君!?』
さすがのマティルダが、慌てて呼びかける。
『まずいわ・・・あの目、本気だわ』
マティルダはヴィルヘルミナの表情から、彼女が今何をしようとしているのか、理解した。
目の前の少年を、殺そうとしている、と。

348Back to the other world:2007/02/14(水) 09:37:14
〜51〜

「ま、マティルダさん、助けぐあぁっ!?」
ギリギリッ、とリボンの締め付けが強まった。
「不遜」
「・・・もう一度、その名を口にしたときには、即刻破壊するのであります」
冷たい声で、ヴィルヘルミナは忠告した。
「うぐあぁ・・・・っ!?」
もがき苦しむ悠二に、ヴィルヘルミナはさらに声をかける。
「苦しいのでありますか?この程度で」
「笑止」
「ぐがぁぁっ・・・」
「情けない・・・本当に情けないのであります」
「悔恨」
「あがぁぁっ・・・」
「このような奴を、一度でも信用した、私達が馬鹿だったのであります」
「同意」
「た、助け・・・」
「そう、このような」
ヴィルヘルミナは言葉を止めた。
そして、ぐっ、と奥歯をかみしめながら、
「私達のみならず、私達の誇り高き友人までをも愚弄するような奴に・・・っ!!」
身体の奥底から搾り出すように、吐き捨てた。

349Back to the other world:2007/02/14(水) 09:39:16
〜52〜

「か・・・はぁ・・・っ?」
悠二は締め付けられながらも、ヴィルヘルミナの異変に気がついた。
(な、泣いて・・・る?)
怒りに震える冷徹な表情には変わりないが、目元にうっすらと、光るものが見えた。
(そっか、カ・・・ルメル・・・さん、でも、泣くこと・・・くらい、ある、よな・・・・)
そして、だんだんと自分の意識が薄れていくのを感じた。
(あれ・・・まずい・・・)
徐々に、全身の力が抜けていく。
(ちょ、ちょっと、こんな所で、こんな形で、終わるのかよ・・・)
今度こそ、終わりか。
悠二が諦めかけた、その時。

シュパッ!
「!?」
何かが、ヴィルヘルミナと悠二の間に張り巡らされたリボンを、全て断ち切った。
「がはっ!」
ハラリ、とリボンが解け、悠二はあお向けに倒れこんだ。
「これは、一体・・・?」
「確認不可」
ヴィルヘルミナとティアマトーは何が起こったのかわからず、辺りをきょろきょろと見回した。


「こっちよ」
「!?」
「!?」
聞こえてきたその「声」に、ヴィルヘルミナは無意識に身体を向けた。
そして、その先には。

「なっ・・・?」
「・・・?」
ヴィルヘルミナは、一言つぶやくと、そのままの表情で固まった。
ティアマトーも、思考停止状態に陥った。

「お久しぶりね、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」
そこには、はるか昔に別れたはずの友人が、あの日と変わらない姿で立っていた。
それは、今生の別れのだった、はずなのに。

350Back to the other world:2007/02/14(水) 09:43:16
〜53〜

「あ、あれ?」
悠二も、一瞬何が起きたのか分からなかった。
目の前に、自分に触れていない限り見ることが出来ないはずのマティルダが、堂々と立っていたのだから。
「ま、マティルダさん、何で?」
「これのおかげよ」
と、マティルダは、自分の右手に握っているものを見せた。
「これって・・・」
「ヴィルヘルミナのリボンよ。これを通して存在の力を流し込めることぐらい、あなた知ってるでしょ?」
「な、なるほど」
それを聞いて悠二は納得した。
ヴィルヘルミナとマティルダはこの性質を利用して、かの戦いでは敵の難攻不落の自在法を破ったこともあった。
「で、でも、あのリボンを断ち切ったのは?」
「あー、それはね。アレよ」
と、マティルダが指差した方向には、小さく赤い炎が上がっていた。
「あれは・・・?」
「悠二君、あなたってば本当に間抜けなのねぇ。あれが宝具だって事に気づかなかったなんて」
と、マティルダはため息混じりに言う。
「あれって?」
「さっきまで使ってたやつよ」
「えっ、まさか」
「その通り」
悠二は信じられなかった。
「あ、あのテレホンカードが、ほ、宝具!?」
「ええ、名前も製作者もわかんないけど、あれはれっきとした宝具よ。存在の力を込めて、相手に投げつけるタイプのね」
「ぜ、全然気づかなかった・・・」
「おそらく製作者が隠すためか、それとも単なる気まぐれか・・・分からないけど、ああやって日用品に見せかけた宝具はよくあるものよ」
「じゃ、さっき投げつけることができたのは・・・」
「あのカードが悠二君の手に触れたとき、ほんのちょっとだけ存在の力が入り込んだおかげね」
「そ、そっか」

351Back to the other world:2007/02/14(水) 09:44:48
〜54〜

悠二が納得したところで、
「と、いうわけで」
マティルダは未だに固まっている、もう一方の相手に向き直る。
「ちょーっとのっぴきならない事情があってね、こういう事になったわけだけど」
「・・・・・・・」
「とりあえず、どこかで落ち着いて話しましょうか」
「・・・・・・・」
「んー、そんな反応になっちゃうのはよく分かるんだけど、まぁおいおい話すということで、ね」
マティルダはヴィルヘルミナに手を差し出した。

と、
「!」
マティルダは飛び退いた。
白いリボンが、眼前を横切った。
「・・・なるほど、大した人形遣いでありますな、坂井悠二」
「名演上等」
ヴィルヘルミナは、目の前に相対している人物には目を合わせようとしなかった。
その視線は、あくまでその奥にへたり込んでいる悠二を捉えている。
「なっ、何言ってるんですか、カルメルさん」
「“狩人”でも『鬼功の繰り手』でも、ここまで上手に人形を扱うことは不可能でありましょう」
「だ、だから、その、ここにいる人は」
「しかし、茶番劇はそろそろ終わりであります」
「公演終了、千秋楽」
再びヘッドドレスからリボンが何本も舞い上がると、先端が一斉に悠二のほうへと向いた。
それはもはや単なる布ではなく、鋼鉄の槍衾だった。
「さらばであります、愚かなミステス」
「覚悟」
「うわぁぁっ!?」
白い凶器が、再び悠二に襲い掛かった。

352Back to the other world:2007/02/14(水) 09:46:37
〜55〜

しかし、それは悠二に突き刺さることは無かった。
紅蓮の盾が、攻撃をすべて受け止めていた。
「・・・話を聞いてくれないかしら?」
マティルダが、紅蓮の盾を持ったまま問いかけた。
「人形に用はないのであります」
「偽者不要」
ヴィルヘルミナは一言、切って捨てた。
そして、紅蓮の盾ごと突き通さんとばかりに、白帯に力を込めた。
「ぐっ・・・」
マティルダは少し、後ろに押された。
そんな様子を見て、ヴィルヘルミナが言った。
「これしきの力で、気圧されるとは・・・」
さも不快そうな口調で。
「全く持って、不愉快な傀儡でありますな!」
言うと、ヴィルヘルミナはヘッドドレスに手を添えた。
「ティアマトー、神器『ペルソナ』を」
「承知」
ティアマトーの声と同時に、ヘッドドレスが解け、桜色の炎とともに新たな姿へと編みなおされてゆく。

「ふぅん・・・」
マティルダは、その光景をさも懐かしそうに見つめていた。
かつては何度も目にした、戦友の姿。
狐の仮面。
周りから伸びる無数の白帯。
舞い散る桜色の炎。
ドレスとメイド服という違いこそあったが、それは紛れもなく“夢幻の冠帯”ティアマトーのフレイムヘイズ『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルの戦装束だった。
「・・・久しぶりね、本当に久しぶり」
かみ締めるように、元『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールはつぶやいた。

ヴィルヘルミナは全く意に介さず、
「まずは、その不愉快な傀儡から、消し去ってやるのであります」
「幻影消去」
言うと、無数の白い槍衾を、今度は目の前の「敵」に向け、一気に放出した。

353Back to the other world:2007/02/14(水) 09:53:36
〜56〜

「聞いてくれそうもない、か」
マティルダも、いつの間にか、手に紅蓮の大剣を握り締めていた。
白い槍衾が桜色の炎を撒き散らしながら、物凄い勢いで迫ってくる。
「仕方がないわ、ねっ」
マティルダは紅蓮の大剣を、真一文字に振るった。
「むっ!?」
ゴウッ、という熱っぽい音とともに、白い槍衾は、横に薙ぎ払われた。
「敵回避」
「かわされたか・・・本当に、良く出来た人形でありますな」
ヴィルヘルミナはリボンを一旦引き、少し焼け焦げた部分を修復した。

と、
「生ぬるいわねぇ」
「!?」
「!?」
声がした次の瞬間、
「むぅっ!」
ヴィルヘルミナは横に飛んだ。
と同時に、紅蓮の刺突が、メイド服のフリルをかすめた。
(は、早い!?)
(韋駄天!?)
驚きながらも、ヴィルヘルミナは体勢を立て直した。
煙を上げるメイド服を見て、マティルダが挑発する。
「この程度の攻撃をよけ切れないなんて、あなたの腕も落ちたわねぇ」
「・・・減らず口の多い人形でありますな」
ヴィルヘルミナは相手の言葉をさえぎるように言った。
「ねえヴィルヘルミナ、私達、以前ケンカした時に、話したわね?」
「人形には沈黙がお似合いであります」
マティルダの問いかけに応じようともせず、ヴィルヘルミナは攻撃態勢をとる。
再び、無数のリボンが「敵」へと向けられる。
マティルダもそれを見て、体勢を整えた。

そして、
「口で話して分からないんじゃ、体をぶつけ合うしかないってねっ!」
リボンの放出と同時に、そのリボンの群れに向かって飛びかかった。

354Back to the other world:2007/02/14(水) 09:55:22
〜57〜

ドォン!
爆発音が、御崎神社に鳴り響いた。
「な、何だぁ!?」
「どうやら、読みは当たったようね」
マージョリーとマルコシアスは、神社の石段を半分ほど登ったところにいた。
「とりあえず、急ぎましょ」
「応さ」
マージョリーは『グリモア』を置くと、その上に乗った。
『グリモア』は浮かび上がり、一気に坂を上がっていく。


「い、今の、何?」
「何か「ドーン」って聞こえなかったか?」
「爆発?」
「御崎山のほうからだぜ」
御崎高校では、6限目、体育の授業が始まったところであった。
「こら、整列しなさい!」
体育教師の声もむなしく、生徒は皆、たった今起こった事件に夢中であった。
そんな中、
「お、おい、佐藤」
「あ、ああ」
「知っている者」佐藤啓作と田中栄太は、爆発の原因について、
「また、奴らの仕業かよ?」
「俺に聞かれてもわからねえよ」
周りにばれないように、小声で話し合っていた。
「聞くんなら、あの子しかいねえだろ」
「そ、そうだったな」
そして、この中で一番「このこと」に詳しい少女を探す。
「おーい、シャナちゃん」
田中は彼女の名を呼んだ。
が、返事はない。
「あれ、シャナちゃん?シャナちゃんってば」
呼びながら周りを見渡すが、どこにもシャナの姿はなかった。
「なあ吉田ちゃん、シャナちゃん知らないか?」
佐藤は吉田に声をかけた。
「え、あれ?さっきまで私の隣にいたのに」
「えっ?」
「私も、今の音について話を聞きたかったんだけど・・・」
「俺もだよ」
「おい、佐藤」
「何だよ」
「校門の方に誰かいるんだけど、あれ・・・」
と、田中が指を指した。
その先では、体育着姿のポニーテールの少女が、猛スピードで走っていた。

シャナは御崎高校の校門を出た。
そして、爆心地と思しき場所―――御崎山へと走り出す。
(どうして!?)
シャナは焦っていた。
爆発に混じって流れてきた、2つの存在の力の波動。
それは、シャナがよく知っている人物のものだった。
(ヴィルヘルミナ、どうしてなの!?)
二つの力は、互いに激しくぶつかり合っていた。
(何で今さら、悠二を!)
シャナは、今御崎山で行なわれているであろうことを、簡単に想像できた。
できたが、それを信じたくなかった。
(もう、悠二を破壊する理由なんて、ないはずなのに・・・!)

355Back to the other world:2007/02/14(水) 09:58:34
〜58〜

マージョリーとマルコシアスは、石段の先に見えた景色に、呆然となった。
「な、なぁ・・・我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーよぉ・・・」
「え・・・えぇ・・・」
「俺、おめぇの酒臭ぇ息に当てられてるうちに、とうとう頭がイカレちまったみてぇだ」
「お黙り・・・バカ、マルコ」
「だってよぉ・・・今、俺の目に見えてるのは・・・」
「・・・・・・・」
「500年前に死んだ奴の映像だぜ!!?」
普段の会話なら、軽薄な笑い声の一つでも上げるはずのマルコシアスが、クスリとも笑わない。
心なしか『グリモア』が小刻みに震えているようにも見えた。
「間違いねぇ、ありゃユーレイだぁ!『炎髪灼眼』のユーレイが、化けて出たんだぁブッ!?」
「お、落ち着きなさいバカマルコッ!」
相棒の情けない様子に、マージョリーは語気を荒げた。
しかし、彼女もまた、目の前で繰り広げられている状況を、信じられずにいた。
「・・・一体全体、何がどうなってるのよ!?」

356Back to the other world:2007/02/14(水) 10:00:34
〜59〜

紅色と桜色の火花が、御崎神社を染める。
「しぶとい人形でありますな!」
白いリボンが、マティルダの前後左右から、容赦なく襲い掛かる。
「おっと!」
マティルダはその攻撃を、直撃する寸前の間隔で、全てなぎ払う。
なぎ払いながら、ヴィルヘルミナの方に向かって走る。
白帯と紅蓮の大剣が、何度も何度もぶつかり合った。


「す、すごい・・・」
悠二は、クスノキにもたれかかりながら、その戦いの様子を見ていた。

中世の昔、当代最強と謳われたフレイムヘイズ、マティルダ・サントメール。
その友人にして、戦闘力は肩を並べる存在といわれた、ヴィルヘルミナ・カルメル。
その二人が、今刃を合わせて戦っているのである。
悠二もシャナと出会ってから、何度と無く戦いを目の当たりにしてきた。
幾多の“紅世の徒・王”、フレイムヘイズたちの戦いを。
しかし悠二は、今回の戦いに、他のどの戦いとも違うものを感じていた。
「何なんだ、この戦い・・・?」
何か、普通ではない、ただならぬ奥深さを感じたのである。

その時。
「?・・・なんだ、この音?」
メキメキ、という音が頭上から聞こえ、悠二は顔を上げた。
すると、
「うわあぁっ!?」
外れた攻撃が直撃したのか、クスノキの太い枝が、悠二の方に落下してきた。
ズン、と重たい音が響いた。

「あわ・・・あれっ?」
頭を押えて縮こまっていた悠二は、自分が助かったことに気づく。
物凄い力で後ろに引っ張られ、間一髪悠二は潰されるのをまぬがれたのだった。
「・・・?」
悠二が振り向くと、そこには見覚えのある、群青色の化け物がいた。
「なに、またアンタが絡んでんの?」
「全くよぉ、困ったボーヤだぜ」
マージョリーとマルコシアスが「トーガ」の中から、呆れて言った。

357名無しさん:2007/02/14(水) 21:15:30
GJ!GJ!GJ!
いや本当に長い間しぶとく待ったかいがありました
続き期待してます!

358名無しさん:2007/02/14(水) 22:11:22
とても感動した!!!
続き希望であります!

359名無しさん:2007/02/15(木) 03:47:43
ネ申としかいいようがない。

360234:2007/02/16(金) 01:01:06
温かいお言葉の数々ありがとうございます。書き続けてるかいがありました。
しつこくまだまだ続きますが、よかったらお付き合いください。
一応、大まかな話の流れは頭の中でできてるので、いつかは終わります(たぶん)。
てか、もうこのスレの大半を占拠してしまっているようで・・・。

361Back to the other world:2007/02/16(金) 01:09:04
〜60〜

悠二は、ことの顛末を二人に説明した。
「・・・そんな話、聞いたことも無いわ」
言って、マージョリーは手のひらを上に向けた。
「まぁ、無理に信じてくれとは言わないよ。僕も未だに夢じゃないかと思ってるくらいだし」
自信なさげに、悠二は言った。
「チビジャリは、このことは知ってるの?」
「いや。僕とカルメルさんたちと、マージョリーさんたちだけです」
「でもまぁ、これだけ激しく存在の力をぶつけ合ってんだ。気づくのは時間の問題だろーな」
「うん、たぶん・・・」
悠二は外を見た。
桜色と紅蓮の火花が、激しく飛び交っている。
「しかし、アンタもとんでもないことをやらかしたわねぇ」
「ヒヒッ、全くだぜ。兄ちゃん、エクソシストにでもなったらどーだ?」
事情を知ったおかげか、マルコシアスにはいつもの笑いが戻っている。
「笑い事じゃないよ・・・これから一体、どうしたらいいんだろ」
悠二は心底疲れた様子でつぶやいた。
「ま、仕方ないんじゃない?これまでそうだったように、今回もなるようにしかならないわよ」
「そーそー。少しは我がお気楽な放浪者、マージョリー・ドーを見習ってだなブッ!?」
「あのね、私は別に気楽にブラブラしてるわけじゃないのよ」
マージョリーは悠二に向き直り、
「まっ、とにかく、今はあの二人の戦闘を見守るしかないわね」
「止めてくれないんですか?」
「アンタも感じたんでしょ?他人が入り込む隙なんかないって」
「う・・・うん、まぁ」
「じゃ、こうして見守るしかないわ。ケンカの仲裁は、私の趣味じゃないし」
「まぁお前の場合、ケンカは売り買いするもんだからなぁブッ!?」
「お黙り」
言って、マージョリーも外をうかがった。
白いリボンが、石灯籠を粉々に砕いた。
「まったく、ハデにやってるわねぇ」
「本当だよ、会っていきなりだもんな・・・・・」
ため息混じりに、悠二は崩れた石灯籠を見つめる。

石灯籠が、小さな瓦礫の破片となって、パラパラと地面に落ちる。
もう二度と、元の形には戻らない、石灯籠。
「・・・・・ああっ!!」
悠二は大声を上げた。
「何よ」
「何でぇ?」
いきなりの大声に、マージョリーとマルコシアスは不審そうに悠二を見る。
悠二はマージョリーの方に向き直り、
「僕、大変なことに気づいちゃったんだけど・・・」
青ざめた顔で言った。

「封絶・・・誰も、張ってない・・・」

しばしの沈黙の後、
「な・・・何ですってぇ!?」
「な・・・何ぃぃぃ!?」
ほとんど同時に、叫び声が上がった。

362Back to the other world:2007/02/16(金) 01:10:20
〜61〜

「!?」
御崎山に向けて走るシャナは、再び存在の力の流れを感じた。
(この力は・・・)
とシャナが考えている間に、群青色の炎が御崎山を中心として同心円状に広がっていく。
やがてその炎は、御崎市全体をドーム状にすっぽりと覆った。
群青色の線が走り、地面に奇怪な紋章を描いている。
それは、存在の力を操る者ならば誰もが知っている、最も単純な、“あの”自在法だった。
「封絶!?『弔詞の読み手』が、何で?」
次々に起こる事態に、シャナの頭は混乱していた。
「一体、何が起きたって言うの?分からないよ、アラストール?」
シャナはペンダントの魔神に、助けを求めた。
「・・・・・・・」
「・・・まさか、悠二の中の“あいつ”が、暴走し始めたんじゃ」
「・・・・・・・」
「?聞いてるの、アラストール、アラストール?」
「・・・・・・・」
シャナは何度も呼びかけたが、「コキュートス」からは一向に返事が来ない。
とうとう、
「アラストールッ!!!!」
「っむ!?」
シャナは立ち止まり、「コキュートス」を自分の口元に近づけ、大声で叫んだ。
ようやく、アラストールは返事をする。
「む、ど、どうした、シャナ?」
「それはこっちのセリフよ。一体どうしちゃったの?」
アラストールの「“紅世”の魔神」らしからぬ頼りない返事に、シャナは少し怒り気味に尋ねた。
「今日は朝から様子がおかしかったけど」
「い、いや、何でもない」
「あっ、そういえば、「何かおかしな力を感じる」って言ってたよね、あれと何か関係があるの?」
「そ、それは・・・」
「やっぱりそうなんだね。教えて、一体あそこで、何が起きてるの?」
「わ、我は何も知らぬ」
アラストールは、あくまで否定した。

「嘘つかないで!一体私に何を隠してるの!?」
シャナは、これまでアラストールに対して見せたこともないくらい、怒りをぶつけた。
「・・・・・・・・」
「コキュートス」からは、返事がない。
「・・・・・・・・」
シャナも、黙り込んだ。

363Back to the other world:2007/02/16(金) 01:11:45
〜62〜

「済まぬ、シャナ」
長い沈黙の後、先に言葉を発したのは、アラストールだった。
「・・・・・・・」
シャナはまだ、黙っている。
いつしかその目には、うっすらと光るものが見えていた。
「本当に、済まぬ」
重く低い声で“紅世”真正の魔神は、その器たる少女に、心から謝った。
「・・・・・・・」
その少女―――シャナからは、まだ返事がない。
「しかし、シャナよ、どうか聞いて欲しい」
「・・・・・・・」
「我が、今まで何も語らなかったのは」
「・・・・・・・」
「このことを話すことが、お前の存在を、否定することになるからだ」
「・・・・・・・」
シャナからは一向に返事がない。
ただ、うつむいたままである。
「だから、我はお前に、自分の考えを語ることができなかったのだ。許してくれ」
「・・・もういいよ」
ようやく、シャナは口を開いた。
「私の方こそ、何も考えずに怒鳴ったりして、ごめん」
「・・・・シャナ」
「でも」
シャナは「コキュートス」をじっと見据えて、言った。
「私は、アラストールと契約したときから、どんな運命が来ようと、それに立ち向かう覚悟は、出来てるつもりだよ」
言って、「コキュートス」を両手でぎゅっ、と握り締めた。
「だからお願い、話して。一体何が起きてるのかを」
「コキュートス」を通じて伝わってくるシャナの手の暖かさに、アラストールは思う。
(浅はかだったな、我は)
そして、
「我も、全く信じられぬが」
自分が予想していることを、話した。
「坂井悠二の存在の力に混じって・・・・我の、以前の契約者の力が流れてきている」

「えっ・・・・・・!?」
その時シャナは、アラストールの言葉の意味を、理解できなかった。

364Back to the other world:2007/02/16(金) 01:17:29
〜63〜

「なるほど・・・これが封絶ってやつか」
飛び交うリボンを盾で受け止めながら、マティルダは自分たちの周りの、陽炎のような景色をしげしげと眺めた。
そして、戦いの相手に向かって言った。
「便利な時代になったもんね。私達の頃は壊しっぱなし、殺しっぱなしだったっていうのに」
ヴィルヘルミナは答えず、
「本当に、やかましい人形であります」
シュルリ、とマティルダの両サイドにリボンを伸ばす。
そしてそれぞれ、ピン、と一直線に伸びたかと思うと、
「その口ごと、切り刻んでやるのであります!」
巨大なハサミの刃のように、マティルダのほうに迫った。
ズン、と鈍い音がした後、リボンの間にあった木々、石灯籠が、全て切断されて滑り落ちた。

「むっ・・・!?」
「上空!」
ティアマトーの声に、ヴィルヘルミナは上を向く。
「こんなものに頼ってるから」
すると、紅蓮の盾と大剣を矛槍に持ち替えたマティルダが、
「カンが鈍るのよっ!」
槍衾を真下に向けて、垂直落下してきた。
「防御準備!」
「はぁっ!」
ヴィルヘルミナはすぐさま、自身の真上にリボンを集め、盾を作った。
しかし、
「なっ・・・?」
盾の手前で、槍先に割れ目が入ったと思うと、
「それが甘いって」
たちまち、3本の小さな槍先に変わった。
槍先はそれぞれ、盾を避けるように曲がり、伸び、
「言ってるの、よっ!」
3方向から、ヴィルヘルミナに襲いかかった。
「くぅっ!?」
ヴィルヘルミナは3本のリボンを繰り出し、それぞれ、槍衾を全て受け止めた。
ガチッ、という金属音のような音が響き、2色の火花が舞い散る。
マティルダは、刃先がぶつかった衝撃を利用して後ろに飛び、着地した。

「さすがは『戦技無双の舞踏姫』。接近戦が得意なところは、変わってないわね」
「むっ・・・・」
ヴィルヘルミナは、やはり返事をしない。
「それにしても」
マティルダは続ける。
「『戦技無双の舞踏姫』か・・・カッコいいあだ名をもらったものね」
「腹話術は、もう聞き飽きたのであります」
「無駄口無用」
ヴィルヘルミナは再び、リボンを伸ばす。
マティルダは、平然とした顔でさらに話を続ける。
「私なんか『赤毛の女丈夫』よ?」
「黙るのであります」
リボンが、マティルダの方を向く。
「『姫』と『女丈夫』って・・・差がありすぎじゃない?」
「黙るのであります」
リボンに、存在の力が込められる。
「二人とも『姫』でよかったのにねぇ」
「・・・・っ黙れ!」
ヴィルヘルミナは、自身でもいつからか分からないくらい以来の、雄叫びを上げた。
怒りと共に、一気にリボンは放出された。

「あらら・・・プッツンしちゃったか」
洪水のような勢いで迫るリボンを眺めつつ、マティルダはつぶやいた。
「変わってないわね、あなたの欠点」
言って、再び紅蓮の大剣を手にする。
「一旦切れると、隙だらけになるってのはっ」
マティルダは、リボンを避けようと再び飛び上がった。
そして、
「これで、終わりよっ!」
持ち替えた矛槍を、投げつけようとした。

しかし、
「・・・甘いのは、どちらでありますか?」
「えっ?」
飛び上がった先には、4本のリボン。
「あっちゃ〜・・・」
あっという間に、マティルダは両手両足の自由を奪われた。

365名無しさん:2007/02/16(金) 14:03:24
いつもGJです!
うあああああぁぁあぁぁぁ
緊張緊張
マティルダ強すぎ!!

366Back to the other world:2007/02/17(土) 02:52:00
〜64〜

「あなたの・・・前の、契約者!?」
シャナは、まだ立ち止まったまま、呆然としている。
「そんな・・・嘘、でしょ?」
未だに、アラストールの言葉を、信じられずにいた。
「・・・我も、むしろ嘘であってほしい」
アラストール自身も、
「我の、思い過ごしであってほしいと思っている」
自分の発言を、つくづく馬鹿馬鹿しく思った。
「だが」
思いつつも、
「先刻から・・・いや、今朝から、我が感じている、この力の波動は」
“紅世の王”としての、
いや、かつて愛し合ったもの同士の感覚は、
「かつての、我の契約者・・・『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールの物に、相違ない」
“それ”を、無視させてはくれなかった。
「でも」
シャナは、当たり前と分かっていながら、問わずにはいられない。
「前の契約者が、死なないと・・・新たなフレイムヘイズは、生まれないはず、よね?」
「・・・そうだ」
アラストールも、この問いに、あえて律儀に答えた。
「でも、今、あなたは、確かに感じているのよね?」
「・・・うむ」
「妙ね」
シャナはそこで、最初から感じていた、不思議な点を話す。
「その、前の契約者の存在の力・・・私には、ちっとも感じられない」
「うむ、それはおそらく、どちらも司る炎の色が、同じものだからであろう」
「あ・・・そうか」
アラストールの言葉に、シャナは納得する。
「あと、あなた、さっきその力が、悠二の存在の力と混じって流れてきてる・・・って、言ってたけど」
「・・・む」
もう一つのシャナの疑問に、アラストールは急に言葉を詰まらせた。
「ますます、意味が分からない。なんで悠二が?」
「・・・それは、我が一番知りたい」
アラストールは、あからさまに機嫌悪く言った。
「全く・・・何故よりによって、あ奴の存在の力に混じっているのだ」
独り言のように、アラストールはぼやく。

その時、
ズゥン!
「!」
またもや、御崎山で大きな地響きが鳴った。
「考えてる場合じゃない、行かなきゃ!」
シャナは再び、走り出す。

367Back to the other world:2007/02/17(土) 02:53:15
〜65〜

「かはっ・・・」
身動きが取れないままリボンで引っ張られ、マティルダは思い切り地面に叩きつけられた。
「全く・・・容赦ないわね・・・っ!?」
マティルダの身体が再び、持ち上がったかと思うと、
「本当に、汚らわしい道化・・・」
「粉砕」
そのまま空中で振り回され、
「ひゃあっ!?」
今度はいきなり解き放たれたかと思うと、
「わあぁっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
「ぎゃ〜!?」
悠二たちのいる、休憩所の窓ガラスを突き破り、
「がはっ!?」
壁も突き抜け、その先にある小さな社に、激突した。
「マ、マティルダさん!」
その光景のすさまじさに、慌てて悠二が瓦礫と化した社に駆け寄る。
「だ、大丈夫・・・心配しなくていいわ」
瓦礫を払いのけて、マティルダがよろよろと立ち上がった。
既に服も、顔も、傷だらけになっている。
「ちょ、ちょっとマティルダさん!?なんでもう死んだ人がケガなんか・・・」
「何・・・死人がケガしちゃおかしいかしら?」
「どう考えてもおかしいでしょ!?」
「ごちゃごちゃとうるさいであります!」
再び、リボンが悠二を襲う。
「アンタはこっちへ来てなさい、ユージ!」
「わわっ!?」
マージョリーに首根っこを引っ張られた悠二の眼前を、白い槍衾が駆け抜けていった。
「うっ・・・!?」
それは、再びマティルダの四肢に巻きつき、拘束した。
「マ、マティルダさん!?」
飛び出そうとする悠二を、マージョリーが取り押さえ、
「あのね、別に私は、アンタの命がどうなろうと知ったこっちゃないけど」
もう片方の手で封絶の自在式を支えながら、悠二に言う。
「この状況でアンタに死なれたら、私はあっちこっちに、敵を作ることになるのよ」
「ヒャッヒャッヒャ、ケーサクやエータに嫌われるのがそんなに怖いか?我がか弱き女傑、マージョリー・ドーブッ!?」
「別にそんなんじゃないわよ!ただ、あのチビジャリを敵に回すことになるのは、ちょっと厄介だと思っただけよ」
「・・・・うん」
マージョリーの言葉に、悠二はうなずいた。
そして、おそらく既にこの騒ぎを聞きつけ、こちらへ向かっているであろう少女のことを思う。

368Back to the other world:2007/02/17(土) 02:54:10
〜66〜

コツ、コツ、コツ・・・
乾いた靴の音を鳴らし、ヴィルヘルミナがゆっくりと、“標的”に近づく。
「人形にしては、よく戦ったでありますな」
「健闘」
ヴィルヘルミナの冷たい声は、変わらない。
しかし、既にメイド服は所々焼け焦げ、狐の仮面も傷が目立つようになっていた。
「しかし、もう人形遊びには、飽きたのであります」
「飽和」
シュルリ、と、またもやリボンが伸びる。
先端の鋭さが、心なしか増しているようにも見える。
「これで、本当に終わりであります」
「滅殺」
リボンの数が、徐々に増えていく。
「全く・・・私がこれまで戦ってきた数多の敵の中で」
リボンに、存在の力が込められる。
「貴様ほど」
桜色の火花が散り、
「不愉快な相手は、なかったであります!!」
リボンの洪水が、一点に集中して、身動きの取れない相手に襲い掛かった。
「マティルダさん!?」
悠二は思わず叫んだ。

369Back to the other world:2007/02/17(土) 02:55:14
〜67〜

しかし、
「あれ・・・・?」
悠二は、目を疑った。
リボンの群れは、マティルダの胸元を貫く寸前のところで、止まっていた。
「・・・どうしたの?不愉快な人形を、さっさと始末するんじゃなかったの?」
手足を縛られたマティルダが、ヴィルヘルミナに語りかける。
気丈な笑顔で。
「・・・・・・っ」
リボンが、小刻みに震えている。
押し寄せる何かに、じっと耐えるように。

「どうしたんだろ・・・?」
目の前の出来事に、悠二は戸惑った。
「感情を隠すものほど、感情に左右されやすい、か。あの鉄面皮の弱点ね」
マージョリーが、様子を横目で見ながら言った。
「そーいうこったな。ただでさえ出し抜けに昔のダチの姿見せられてテンパってるってぇのに、ましてやそれをブチ壊すなんてなぁ、あの姉ちゃんにはどだい無理な話だろーなぁ」
「そうか・・・」
二人の的確な解説に、悠二は納得する。

「・・・・・・」
未だ震えたままのヴィルヘルミナに、
「ま、私もこれくらいのことは予想してたから、こうして大人しく縛られたままになってたわけだけど」
クスリと笑って、マティルダはさらに語りかける。
「ねぇ、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」
「・・・・・・」
「さっきから私のことを、人形だの道化だのって言うけれど」
「・・・・・・」
「じゃ、本物だ、と認めるとしたら、どんな場合?」
「・・・・・・」
ヴィルヘルミナは震えたまま、黙っている。

370Back to the other world:2007/02/17(土) 02:56:44
〜68〜

「何言ってるのかしら、あの女?」
マージョリーは不審そうに言った。
「この世から消滅してる以上、本物だなんていって、信じる奴なんているわけないわ」
「ヒヒッ、全くだ。唯一証明できるとしたら、“ミステス”の兄ちゃん、オメェが今までの状況、洗いざらい吐いちまうしかね〜ぜ」
「あのさ・・・この状況で、そんな話聞いてくれると思う?」
「ま〜無理だろ〜な、ヒャッヒャッヒャ!」
「はぁ・・・」
まるっきり人事のように笑うマルコシアスに、悠二がため息をついていると、

『悠二君、聞こえるかしら?』
『!?』
突然、自分にしか聞こえない声で、マティルダが話してきた。
「マ、」
『他に聞かせてはだめ。あなただけに聞いて欲しいの』
『っ・・・と、分かり、ました』
『悠二君、あなたの存在の力の残量は』
『え、えっと・・・』
『早く!』
『は、はい』
せかされ、悠二は急いで自らの存在の力を計る。
『あと、半分くらい・・・かな』
『そう・・・』
言って、マティルダは、今度は“直接”ヴィルヘルミナに向かうと、
「じゃ、今から、証明してあげる」
スッ、と目を閉じた。
マティルダの両手に、それぞれ紅蓮の盾、大剣が握られる。
「・・・・・!」
同時に、ヴィルヘルミナの震えが、止まった。
(・・・ま、まさか)

それは、彼女がかつて何度見てきたか分からないくらい、見慣れた光景だった。
誇り高き友人の象徴とも言うべき“あの”自在法の構え。

371名無しさん:2007/02/17(土) 10:54:06
GJ!!!
つ(#)
続きwktk!

372名無しさん:2007/02/17(土) 10:58:41
ヴィルヘルミナ(;´Д`)ハァハァ

373234:2007/02/18(日) 00:51:39
ありがとうございます。
投稿するたびにいただくレスに、とても勇気付けられます。
まだまだ長くて気が遠くなりそうですが、皆さんの声援を励みにがんばります!

374Back to the other world:2007/02/18(日) 00:52:28
〜69〜

(一体・・・何をするつもりなんだ?)
悠二が考えていると、
『悠二君』
再び、マティルダの言葉が耳に入ってきた。
『!・・・何ですか』
『多分、大丈夫だとは思うけど』
『・・・?』
悠二は、いやな予感を覚える。
『もしかしたら、“力”が底をついちゃうかもしれないけど・・・その時はゴメンね』
予感は的中した。
「え、えぇっ!?」
『それじゃ』
戸惑う悠二を置いて、マティルダは一方的に会話を打ち切った。
「ちょちょっと、ゴメンねじゃないよ!?」
「なに、一体どうしたのよ?」
いきなり一人でしゃべりだす少年に、マージョリーが尋ねた。
「何をするつもりなんですか、マティルダさん!?」
「おいおい兄ちゃん、一体どうしちまった・・・・っ?」
マルコシアスが、異変に気づいた。

あの女の周りの存在の力の量が、急速に高まっている。
女は、紅蓮の盾と大剣を握り締め、両目を閉じている。
両腕を縛っているリボンは、プチ、プチ、と音を立てて、切れつつあった。

そして、
「うわぁっ・・・!?」
突然、悠二は自分の身体から、存在の力がこみ上げてくるのを感じた。
それは、悠二の握り締めているリボン―――もう一方の先端をほつれさせて、マティルダの足に絡めてある―――を伝って、物凄い勢いで悠二の身体から抜け、流れていく。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよいきなり?」
突然の異変に、マージョリーは驚いて声をかける。
「うあ・・・ぁ」
悠二の身体は、ギラギラと光りだしていた。
「あの女・・・何をやらかすつもりなの?」
マージョリーが独り言のように言うと、マルコシアスが、
「・・・『騎士団』、か」
と、つぶやいた。
「!」
相棒の口走った言葉に、マージョリーは血相を変えた。

375Back to the other world:2007/02/18(日) 00:55:52
〜70〜

「・・・・・・」
瞑目して集中するマティルダの周りを、じわじわと紅蓮の炎が包み始めた。
(うーむ、前は、もっと早く出せたんだけど・・・)
足の糸を通して、存在の力が流れ込んでくる。
(やっぱ長いこと使ってないし・・・力の量もギリギリだと、時間かかるわね)
両手を縛っていたリボンは、すでにほとんど千切れていた。

ヴィルヘルミナは、再び呆然と立っていた。
次から次へと起こる、信じられない出来事に、既に彼女の思考回路は、置いてけぼりにされていた。

一体、これは、何?
石段を登り終えたと思ったら、そこにいたのは、坂井悠二と・・・昨夜も見かけた、この“人形”。
・・・そう、私達の大切な友人を模った、この汚らわしい人形。
昨夜は・・・思い出したくもない、そんなことをしていた気がする。
そして今回は・・・こともあろうに、手を、つないでいた!!
許せない。
何も知らないはずの“ミステス”が、何故、こんな人形遣いの猿真似をするのかは分からなかったが・・・
そんなことを考えている余裕など、なかった。
私は持っていた荷物を投げ捨て、無意識に攻撃を繰り出していた。
すると、この人形は、私達に・・・話しかけてきた。
その声は“彼女”そのものだった。
・・・冗談じゃない。
こんな人形、とっとと破壊してやる。
私は話しかけてくるのを一切無視し、攻撃に出た。
ところが・・・このしぶとい人形は、憎たらしい事に、戦い方まで“彼女”そっくりだった!
私はこみ上げてくるものを抑えながら、無我夢中で攻撃しまくった。
そして、ついにこのうるさい人形を黙らせる、私の取り付かれている幻影を振り払う・・・そのチャンスが来たというのに。

情けない・・・なんて情けないんだろう。
私は止めをさせなかった。
幻影を振り払いたくて、それでいて振り払ってしまうのを恐れた。
もう少し、夢を見ていたい。
そんなことを、考えてしまった。

私が愕然としていると、今度は、目の前のこいつは「本物だと証明する」と言った。
私は最初、言っている意味が分からなかった。
しかし、こいつが目を閉じ、両手に盾と剣を握った瞬間、全てを悟った。

嘘だ。
出来るわけがない。
“彼女”が編み出した、美しくも激しき、闘争心の証。
こいつは軽々しくも、それを見せると言ってのけたのだ。
そんなこと、させない。
させて、たまるものか・・・・!

「・・・・・・っ!!」
ヴィルヘルミナは、これまでの戦いの中でも最大級の存在の力を、リボンに込めた。
桜色の火花が、バチバチと音を立てて、リボンから弾け飛ぶ。
ヴィルヘルミナ自身も制御しきれないのか、伸びるリボンは周囲の物をなぎ倒し、吹き飛ばし、切断する。
御崎山全体を、桜色の炎が染め、まるで桜が咲いたようになった。

376Back to the other world:2007/02/18(日) 02:03:26
〜71〜

御崎神社は、もはや瓦礫の山と化していた。
「おいおい、こりゃ〜そろそろ止めに入んねぇとヤバイかもしれねえぞ。我が寛大なる仲介人、マージョリー・ドーよぉ」
「この町全体に張った封絶を支えながら、何をどうしろって言うのよ!」
「そりゃ〜、分かっちゃいるがな、このままだと、下手すりゃお前ごと吹っ飛んじまうぞ。そうなりゃ何もかもおしめえだ」
「分かってるわよ、ヒャッ!?」
飛んできた瓦礫をかろうじて避けながら、マージョリーは不満げにつぶやく。
「・・・ったく、何やってんのよ、あのチビジャリは!!」

「っ!」
ひた走るシャナは、御崎山から立ち上る、桜色の光の柱を見た。
「ヴィルヘルミナ・・・?」
「いかん『万条の仕手』め、力を暴走させている」
「えっ!?」
「このままではいずれ“夢幻の冠帯”の本性が顕現する」
アラストールは状況の危うさを思った。
かつて『弔詞の詠み手』が暴走した時のように、“紅世の王”の本性が顕現してしまえば、その莫大な存在の力によって、封絶が破壊される可能性がある。
「じゃ、ヴィルヘルミナも!?」
「うむ、無事では済むまい」
「そんな・・・!」
「急ぎ、奴の暴走を止めるのだ。それしか方法はない」
「・・・うん!」
シャナは、力をこめると、
「はぁっ!」
真上に飛び上がり、紅蓮の翼を出して空に舞い上がった。

377Back to the other world:2007/02/18(日) 02:04:52
〜72〜

マティルダの双眸は、まだ閉じられたままであった。
(あと少し・・・)
目の前を、白いリボンがムチのようにしなる。
地面に、いくつも一直線の溝が掘られる。
(あと、もうちょっと・・・っ)
リボンが頬をかすめ、まっすぐな傷を創る。
「・・・何もかも」
ヴィルヘルミナは、仮面の下で、今まで誰も見たことがないような、すさまじい鬼の形相をしながら、
「何もかも、終わりにしてやるのであります!!!」
叫ぶと、全てのリボンを、滅茶苦茶に放出した。
それは乱射された弾丸のように、物凄い速度でマティルダに迫る。

(・・・よし、準備完了!!)
マティルダは、スッ、と両目を開いた。
そして、ほんの一瞬、スゥ、と鼻で息を吸うと、

「出でよ、『騎士団』!!!」

500年来のかけ声を、思いっきり叫んだ。

378名無しさん:2007/02/18(日) 11:41:22
素晴らしい!!!!!

379名無しさん:2007/02/18(日) 14:26:58
暴走ミナ×幽霊騎士団マティが期待!

380名無しさん:2007/02/19(月) 23:02:03
マジGJ!
wktkがとまらねええ

381普段お世話になっている者:2007/02/21(水) 15:36:39
投下します
まだ完成してないんで途中までですが…

382歯車:2007/02/21(水) 15:38:09
手に入れた物はあまりにも儚く…
無くした物はあまりにも大きすぎた…
回った歯車はもう戻らない…
それを巻き戻せるのなら…


私は全てを捨てよう…

383歯車:2007/02/21(水) 15:38:45
*1

 坂井悠二はすでに毎日の習慣として定着しきった夜の鍛錬に力をいれていた。
彼は数ヶ月前、「仮装舞踏会」により宝具「零時迷子」を通じて、紅世の王‘祭礼の蛇‘の意識を顕現するための媒介となった。
意識体のみ顕現した‘祭礼の蛇‘は宝具「零時迷子」により存在の力を「星黎殿」に充填。その溜まった力で自分自身と「久遠の陥穿」(漢字がでんかった。スマン)を丸ごと顕現、「こちら側」の世界を支配しようとした。
 彼は一度は完全に意識を飲み込まれたものの、「零時迷子」の中に封じられていた‘ミステス‘ヨーハンが、悠二奪還部隊の「炎髪灼眼の討ち手」等と共に来ていた‘彩瓢‘フィレスと接触することで表出。「零時迷子」に打ち込まれていた‘祭礼の蛇‘の意識の顕現に必要な「大命詩篇」と呼ばれる自在式の一部を持ち出す事で、‘祭礼の蛇‘と「仮装舞踏会」の野望は挫かれた。
 この戦いによって悠二達は「仮装舞踏会」の戦力は半減。「星黎殿」の詳しい場所の特定によりフレイムへイズの監視が可能になった為、一時的にではあるが、再び日常を取り戻していた。

「悠二、力が安定してない。もっつと集中して」
「うん、わかってるんだけど…勝手が違って…」
 横から口を出している少女は腰まで届く長髪。中学生ですら怪しい体つきに不釣合いな凛々しい顔立ち。彼女こそ天壌の劫火‘アラストール‘のフレイムヘイズ「炎髪灼眼の討ち手」シャナであった。

 彼等は…というより彼は、現在「存在の力のコントロール」という初歩の初歩的な訓練を行っていた。これは‘祭礼の蛇‘の意識下におかれる以前までは無意識でもできていた。しかし、自在師としても優れた部類であった‘祭礼の蛇‘が「零時迷子」の特性「存在の力を記憶したことのある最大値まで回復する」によって莫大な量の存在の力を記憶してしまい、その後、表に出てきた悠二にとって、その力の量は自身が安定して顕現出来る上限の数十倍であった。
その力をコントロールするために他の二人のフレイムヘイズ、「万条の仕手」ヴィルヘルミナ・カルメルと「弔詞の詠み手」マージョリー・ドーよりも存在の力の感知能力が高いシャナがその鍛錬の指導をつとめていた。
「そろそろ0時ね。悠二、封絶を張ってみて」
「わかった」
 これはこの鍛錬を始めてから必ず最後に行うことになっている。
どれくらい存在の力をコントロールできるかを見るのに一番わかりやすい方法であるからだ。
「今日は…御崎大橋くらいまで抑えてみて」
「うん、やってみる」
 悠二は封絶を御崎大橋の辺りより小さく張ることが出来なかった。
これでも小さくなったほうであり、帰ってきてから初めて封絶を張った時は御崎市全体を覆ってしまうほどであった。
 目を瞑り精神を集中。そして自分自身の一部を使い、自在式を組み立てる。
瞬間、悠二の足元より銀色の紋様が現れ、広がり、外界との因果律を断ち切り「封絶」が完成する。
これまでは、少しずつではあるが、小さくなってきた。今日も橋まではいかなくとも小さくなると全員が考えていた。


しかし彼が張った封絶は日本全土を覆った。

384歯車:2007/02/21(水) 15:39:37
「悠二!!何こんな大きく張ってるのよ!」
「ご、ゴメン…なんか力が溢れ出しちゃって…」
「うるさいうるさいうるさい!言い訳しない!もう一回!」
 言い訳をするなと言われても、悠二には何故ここまで大きな封絶を張ってしまったのか全くわからない。もう一度兆戦してみるも、日本全土とはいかないまでも御崎市全部を覆ってしまう。
何故ここまで大きくなってしまうかわからないので、自在法に関してはシャナよりも詳しい二人のフレイムへイズに教えを請おうとすると…
「ユージ、しばらく自在法を使うの止めなさい」
いつになく神妙な顔持ちをした自在師が自在法禁止の言葉を発した。
「え?なんでですか?」
「少し調べないといけないことがあるであります。それと…」
メイド服のフレイムへイズが代わって答え、続いて悠二の隣でキョトンとしているシャナの方を向く
「‘天壌の劫火‘を借りたいであります」
「え?アラストールを?いいけど何を話すの??」
「シャナ、出来れば何も言わずに我を「万条の仕手」に渡してくれ」
アラストールの声色もどこか強張っていた。
「??…うん、わかった…」
「あと、朝の訓練も控えなさい。私が良いって言うまで絶対に自在法を使わないこと。
いい?」
「ハイ、わかりました…」
悠二は釈然としないものを感じながらも頷いた。



歯車は回っていた。少年の中でゆっくりと…

385歯車:2007/02/21(水) 15:40:12
*2

 (明日、学校が終わったらケーサクの家にくること)

 その日から三日後の朝、悠二はヴィルヘルミナとマージョリーに佐藤の家へ呼び出された時のことを思い出していた。
二日前、時間を告げにきた二人がとても真剣な顔だったのを彼はしっかりと覚えていた。恐らく紅世関係…しかも自分に大いに関することであるのは容易に想像できる。

そして最後にマージョリーが言った言葉…
(明日は一人で来ること。間違ってもあのチビジャリは連れて来ちゃだめよ)
シャナに言えない紅世関係の話…それは悠二には思いつかなかった。
「まぁ、佐藤の家に行けばわかることか」
と、着替えながら思っていると
「悠ちゃーん、シャナちゃんが来てるから早く降りてきなさい」
との声がした。





そして登校途中…

「シャナ、今日は先に帰っててくれないかな」
「え?どうして?」
ヴィルヘルミナとマージョリーに呼び出されていると言えばシャナも着いて来る可能性もある。と判断し、要所要所を省いて話すことにする。
「佐藤の家に呼ばれててさ。転校するのに色々と荷物整理しないといけないらしくて、それを手伝ってくれって言われてるんだ」
「ふーん。私も手伝おうか??」
「んー止めておいたほうが良いよ…」
これは確かに嘘であったが、佐藤の部屋の様子を見た彼の率直な意見でもあった。
「そう。なら先に悠二の家に行ってるから」
シャナはまた最近、母さんと何かやっているようだった。朝と夜の鍛錬が無くなったため、時には1日中、母さんと何かをしていることもある。
「ありがと、シャナ」
「…別に…」
シャナは赤くなりながら答えた。



歯車は回る…少年と彼女の間で…

386歯車:2007/02/21(水) 15:41:37
*3

 佐藤啓作にとってはいつもの…坂井悠二にとっては月に1、2度歩くかどうかの道を歩いていた。
「珍しいよな。ウチであっち関係の話しするなんて」
「うん、シャナには話せないことらしくて…」
「そりゃ確かにいつもの坂井ん家の庭では話せないわな」
「カルメルさんとアラストールも佐藤の家?」
「おう、なんか真剣な話ししてるみたいでさ。みんなでバーに書類持ち込んで篭ってる」
恐らく紅世関係の話…書類は平井宅にあるのを持ち込んできたんだろう。
「シャナちゃんに話せないことならウチでやるしかないわな。今度はどうしたんだ?」
「まだ何も聞いてない。多分これから説明を受けるんだと思う」
そうこう話しているうちに佐藤家に到着した。




 家の中に入り、佐藤とバーに向かうと、そこには二人のフレイムへイズとペンダント、本、ヘッドドレスに意識を表出させた三人の‘紅世の王‘がいた。
「ん、早かったわね…」
やはり神妙な顔をしたマージョリーが言う。
二人で中に入ろうとすると遠雷が轟くような声が佐藤へ向けられた。
「坂井悠二を連れて来てくれたことには礼を言う。しかしここは席を外してはくれぬだろうか?」
「え…?はい、わかりました」
そう言って佐藤は部屋から出て行く。
佐藤が出て行ったことを確認し話しが始まる。
「ユージ、単刀直入に言うわ」
その言葉は‘徒‘の死神‘フレイムへイズ‘が発する死の言葉…
「アンタには消えてもらう」
消滅の宣告であった。

387歯車:2007/02/21(水) 15:42:53
*4

坂井悠二は‘天壌の劫火‘アラストールと共に帰路に着いていた。
幸いなことに…なのか、佐藤家で二人のフレイムへイズに消されるということはなかった。
「アラストール…」
「………」
「僕は…どうすればいい…」
彼の中に渦巻く感情…それは悲哀でもなく後悔でもない。
まして二人のフレイムヘイズへの憎悪などでも決してなかった。
(アンタの存在の器が壊れかけてる)
それは迷い…
(器が壊れれば、その膨らみ過ぎた力はこれまで「坂井悠二」に関わってきたすべての人間に逆流するであります)
これまで自分を守り、鍛え、共に戦ってきてくれたフレイムへイズ…
(それを防ぐためにはおめぇさんの存在の力を全部吸いださないといけねぇ)
自分が名を与え、自分が泣かせ、自分が守りたいと思っている女の子…
(でもあんたの力を全部使うには、そこいらの王を100人分以上は顕現させなきゃいけない…でも)
そして…
(我ならば一度の顕現でこと足りる)
自分に想いを寄せてくれている友人に…
(残虐非道 重々承知)
自分も心惹かれる女性に…
(アナタからあの方を説得して欲しい)
「『自分を殺せ』だなんて…言えるはずないだろ…」
坂井悠二は泣いていた。




 彼が佐藤宅で受けた説明はこうである。
先の戦いにより零時迷子は大量の存在の力を記憶した。
だが、零時迷子は器の大きさを広げることは可能だが強度を上げることはできず、その大量の力は悠二の器が保有できる量を完全に上回っていた。
 通常、そこまで溜まった力は消費、拡散される。が、零時迷子の特性によって毎日のように行き過ぎた量の存在の力が補充されてしまい、三日前ついに器にヒビがはいってしまった。(封絶が大きくなったのはヒビから漏れ出た存在の力が影響)
いくら行き過ぎた量だと言っても2、3年は保つであろうと考えていた。しかし、シュドナイ、フィレス、銀、ヘカテ−、ヨーハン、暴君という度重なる器への干渉により崩壊が想定以上に早まっていた。
 いずれヒビは穴になり器は崩れ出す。器が崩れれば、行き場を失った存在の力は『力の流れ』によって逆流、現世にこれまでに無い歪みを生み出す。さらにそれだけでなく、逆流したその力は悠二に関わった人間全てに流れ込み、流し込まれた人の器すらも破壊する恐れがある。マージョリーが言うに、今はまだ安定しているが、ヒビが入ってから1週間程度で穴が空くという。そうなればもう手遅れであるとも…
 解決法は三つ
坂井悠二の体を‘祭礼の蛇‘に空け渡す。
 この方法なら坂井悠二の体に表出する意識体は‘祭礼の蛇‘に移るので先に書いた問題が起こることはない。が、フレイムへイズの立場からこの方法はとることは出来ない。
「零時迷子」の抽出。
 「解禁」により不可能。
坂井悠二の存在の消去。
 存在の力を全て吸い出せば逆流する存在の力も無くなり、零時迷子もフレイムへイズ側で管理できる。その代わり坂井悠二は確実に消える。
消去法により三つ目の道をとるしかない。
自分はトーチ…いくら零時迷子を有したミステスといっても、いつかは消える時が来るかもしれない。それについてはすでに覚悟ができていた。
 しかし自分を消す方法…『‘天壌の劫火‘アラストールの通常顕現』
すなわちシャナが自分を殺すということ…これは納得できなかった。
自分はいい…すでに死んだ人間なのだから…
「アラストール…」
「…なんだ」
「シャナじゃなきゃ…だめなのか…?」
「我を顕現させられるのはシャナのみ。他にお前の存在の力を一日の内に消費させる方法はない」
わかってる…わかっている…でも!!
「お前の言いたい事はわかる」
「でもこれじゃあシャナが!」
「あれは…フレイムへイズだ」


回りだした歯車は止まらない…

388歯車:2007/02/21(水) 15:44:25
*5

坂井悠二が消えるまで後3日

 「悠二の様子がおかしい…」
 授業中、「炎髪灼眼の討ち手」シャナは昨日から様子がおかしい想い人を心配、および怪しんでいた。
夜遅くに帰ってきたかと思うと、ヴィルヘルミナ達に渡していた筈のコキュートスを自分に渡し部屋に引っ込んでしまった。
ヴィルヘルミナ達に会ったのかと聞いても無気力に「ああ…うん…」とか言うだけ。
アラストールに聞いても黙秘された。
 抜けた悠二のことだ。アラストールとヴィルヘルミナに道端で会って説教でもされて落ち込んでるんだろう。明日にでもなれば元気になる…と思ってその日は帰ったが、次の日も悠二はおかしいままだった。
穂杖をつきながら今朝の出来事を思い出す

 坂井悠二の睡眠時間は鍛錬禁止礼が出されてから飛躍的に延びていた。
しかし、シャナは鍛錬禁止礼が出されてからも同じ時間に坂井家に来ている。ゆえにその延びた睡眠時間分はシャナが悠二のベットに潜り込み悠二の寝顔を見てニヤニヤする時間であり、彼女はそれを日課としていた。もちろん千草にはバレていない。(と、本人は思っているらしい)
 だが今日、悠二の部屋の前に行くと彼は既に起きいてるようであり、シャナは戦略的撤退を余儀なくされた。
 仕方なくリビングで千草と共に1時間ほど『ある物』と格闘する。
「そう…そこを通して…」
「こう?」
「そうそう。シャナちゃんは料理よりこっちの方が得意みたいね」
「火を使わなければ…大丈夫」
「ふふっ♪あとはシャナちゃん一人でも大丈夫ね」
「うん、今日中にはできる…とおもう」
「頑張ってね、シャナちゃん」
偉大なる専業主婦は恋する乙女の味方である。ましてや自分の息子に対して好意を寄せてくれているとあれば応援しないでいられるはずがない。
(悠ちゃんのために『こんな物』を作ってくれるんですもの。ちょっとくらいサービスしなきゃね♪)
「そういえば、悠ちゃんたら遅いわねぇ…シャナちゃんが行った時はもう起きてたんでしょう?」
「うん、私が部屋に行った時にはもう………」
言ってから自分の失言に気づく。
「ち、千草!こここれはその…偶然前を通っただけで…」
2階に用の無いシャナが偶然通りかかることなど有り得るはずもないのだが、千草は華麗にスルーする。
「変ねぇ…悪いけどシャナちゃん、悠ちゃんの様子見に行ってきてくれる?」
「へ!?いやでも…」
失言の時点で赤くなっていた顔をさらに燃えあげながらも抵抗する素振りをみせる。しかし、千草はまたも軽やかにスルー。
「お願いね♪」
彼女はその微笑みのみで‘紅世‘屈指のフレイムへイズ「炎髪灼眼の討ち手」を黙らせる。


(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…)
 つい最近、彼女は偉大な二人の指導者に『この世の本当のこと』を教わったばかりである。もちろん『そっち側』の常識についてもいくつか教わっている。
「お、女の子が好きな人の寝てる部屋に入るときは『そういうこと』を覚悟しなきゃいけなくて…でも、まだ私と悠二は…」
昨日まで悠二のベットにまで潜り込んでいただろうというツッコミはテンパりし恋する乙女にはきかないのである。
 思考の堂堂巡りでオーバーヒートしながらも階段の前にまで行きついた。
そこで初めて気づく。
「あれ…?」
2階への階段を駆け上がり、ドアを壊さんばかりに開け、叫ぶ。
「悠二!?」
そこに坂井悠二はいなかった。

389歯車:2007/02/21(水) 15:45:19
家を飛び出し、悠二を感じる方向へ走り出す。
あの時…悠二が突然いなくなった時の焦燥感が蘇る。
悠二は居る。ちゃんと彼の力を感じる。それでも…
「悠二…そこにいて…」

幸い彼は河原でボーっとしているだけだった。しかし様子がおかしい。
昨日と同じ…どこか無気力で落ち込んでいるようでもあり、悩んでいるようでもあった。
「悠二!こんなとで何してるのよ!!」
声をかけると驚いたような顔をし、それがシャナを不機嫌にさせる。
「シ、シャナ!?えっと…何て言うか…」
要領を得ない答えがさらにイライラをつのらせる。
「もういい!千草も心配してるから早く帰るわよ」
本当は千草には何も言わずに出てきてしまったのだが…
「うん…そうだね」
 そうして家に帰り、既に用意されていた朝食を食べ、学校に向かい現在に至る。
「えー、じゃあこの問題を…坂井」
彼は窓越しに外を見ている。

390歯車:2007/02/21(水) 15:46:04
彼は走っていた。
どこかへ行こうとしたわけではない。
シャナと…『自分を殺すであろう者』と顔を会わせることが出来なかった。
 住宅街を抜け大通りに出る。しばらく人の少ない道を走り、最後に河原へと行きつく。
「ハァハァ…」
息が切れる、足が重い、頭がクラクラする。
本来ならば、毎日三人のフレイムヘイズに鍛えられている彼がこの程度の道を走ることなど、楽勝とはいかないものの、問題ではなかった。
「やっぱり…ハァ…さすがに厳しいや…」
原因はわかっている。
目の下についたクマ、充血し赤くなった目。
彼は寝ていなかった。
 なぜ寝付けなかったか、それもわかりきっている。
『シャナにどう伝えるか…』
これを考えているうちに朝になってしまっていた。…と彼は家を出るまでは思っていた。
実際、考えていたのはそのことについてばかり…
しかしそれは違った。
「はは…僕も変わったってことかな」
 走ってきたのは全て彼女と通ってきた道…
彼女とケンカした道、話した道、笑った道…
 本当はわかっている。
「決まっているじゃないか…」
彼女は必ず自分を、消す…
どんなに親しい人間であろうが「トーチ」であろうが、世界の安定を守るためならば躊躇わず、消す。
 なぜ彼女が迷うなどと思ったのだろう。
それは自分の本心に向き合えなかったから。だから逃げた。
気づかない振りをしていた。
でも…彼女との日々…歩いた道を見て嫌でも向き会わされた。
「…消えたく…ない…」
彼は死ぬのが怖かった。

そこで彼女の声がした。
「悠二!こんなとで何してるのよ!!」
「シ、シャナ!?えっと…何て言うか…」
(マズイ!今の聞かれた…)
と口ごもっていると
「もういい!千草も心配してるから早く帰るわよ」
どうやら彼女には聞かれなかったらしい。
(よかった…)
「うん…そうだね」
そうして家に帰り、既に用意されていた朝食を食べ、学校に向かい授業を受ける。
しかし、授業など耳には入らない。
彼は窓越しに外を見ていた。

391歯車:2007/02/21(水) 15:46:44
*6
昼休み、いつものメンバーで弁当をつつく。
「坂井、お前今日なんかおかしいぞ?」
悠二に声を掛けたのは佐藤啓作。『この世の本当のこと』を知りながら、それにさらに関わろうとする『ただの人間』である。
「えっ…まあちょっとね」
と無理に笑顔を作って答える。
「あんまり無理しなでくださいね」
彼女は吉田一美。ある事件がきっかけで『この世の本当のこと』そして『坂井悠二の死』を知ってしまった人間である。さらにそれを知った上で「坂井君が好き」言い放った一途な女の子である。
「そうだぞ、吉田ちゃんの言う通りだ。あんまり無理するな」
「坂井、風邪でも引いちゃったの??」
彼女に続く形で声を掛けたのは田中栄太と緒方真竹。緒方は『この世の本当のこと』を知らないただの一般人である。
しかし田中は知っている。一時は佐藤啓作と共に『この世の本当のこと』に関わろうとしていたが、ある事件が発端となり、今はあまり関わらずに居ようとしていた。
「平井さん、なにか知ってる?」
彼は池速人。彼の説明は省かせていただく。
「知らない」
シャナは無愛想に答える。
好きな人が自分の恋敵の弁当を食べるこの時間は彼女にとって苦痛以外の何物でもない。
さらに朝からその好きな人の様子がおかしいと来れば機嫌が悪いのは当然であった。
(フン。料理はまだ練習中だから勝てないけど、今作ってる『アレ』なら負けないんだから)
2週間前から千草に教わっている『アレ』はすでに完成の一歩手前であった。
「悠二に何かあげたい!」
そう千草に相談したら快く協力してくれた。
(帰ったら最後の仕上げをして…今日中にあげられたらいいな…)
様子のおかしな悠二だって、きっと喜んで受け取ってくれる。
彼女は希望に胸を膨らませる。
(出来れば…悠二と…)




 坂井悠二は何もする気になれなかった。
自分は消える。死ぬでは無く消えるのだ。
消えれば自分がいた形跡はなにも残らない。居なかったことになるのだから。
死にたくない…消えたくない…
そんな思いばかりが頭を巡る。
いっそこのまま何も言わずに居てはどうだろうか…
同じ事だ…自分は消える。自分が選べるのは死に方だけ。
それに関係の無い人間を巻き込むことは自分の一番嫌うこと。
「どうにもならない…か…」
自分のベッドの上に寝転がりながら無気力に時間を過ごす。

どれくらい時間が経っただろうか。
このまま目を瞑り眠ってしまおうかと思った時、不意にドアの向こうから声がした。
「…悠二?」
彼女は普段とは違う今にも折れそうな声で自分を呼ぶ。
ドアを開け、中に入るよう促そうとする。
「ちょっと待って、今開けるから」
「ううん、開けなくて…いい。このままで聞いてて…」
「え?…うん」
「えっと…七時にクリスマスの時の場所で待ってる…」
彼女の想いは自分も理解している。でも…
「ゴメン…行けない…」

392歯車:2007/02/21(水) 15:47:15
「え……」
 思ってもみなかった拒絶の言葉…一瞬自分が立っているかどうかも分からないほどの目眩に襲われる。
彼はさらに言葉を続ける。
「今の僕じゃあ…答えられない…」
視界がぼやける。その場に立っていられなくなりそうになる。
「そう…」
やっと搾り出せた言葉はこれだけ。本当は泣き叫んで詰め寄りたい。
だが心が『どうしようもない感情』で埋め尽くされ言葉を奪う。
「ゴメン…」
その言葉は彼女の目に溜まったものを溢れさせるには十分であった。
「ぅぐ…グス…」
その時…
「坂井悠二!!」
突然胸のペンダントから怒鳴り声が響く。


「貴様、我等がなぜお前自身に言わせることを選んだと思う!!なぜ我等がシャナに言わなかったと思う!!」
真性の真神が轟く。
「これ以上無様な姿をさらし続けてみろ!今ここで‘天壌の劫火‘の名の元、貴様を消させるぞ!!」
遠雷の声が鳴り止み、重苦しい沈黙が続く…

その沈黙を少女が破る。
「アラ…ストール…悠二を消すって…」
「………」
「どういうこと…?」
魔神は答えない。
「どういうことだって聞いてるで「シャナ!」
問い詰める声を少年が遮る。
「さっき…シャナが言った…クリスマスの時の所で待ってて…」
「えっ…」
「僕が言うから…」
「…うん」


歯車はかみ合う。
終焉へ向かうために…

393普段お世話になっている者:2007/02/21(水) 15:49:39
とりあえず投下できるのはここまで
最近忙しく、次の投下まではかなりかかると思います…
それではまた…

394名無しさん:2007/02/21(水) 20:51:49
これは、悲しいけど展開を期待してしまいますね。
続編まってます

395名無しさん:2007/02/21(水) 23:24:11
おお!新たな神の降臨が!
続きをワクテカしながら待ってます!

396名無しさん:2007/02/22(木) 02:30:31
おもしろい
ただ…が多すぎてなんだかなって感じ

397名無しさん:2007/02/23(金) 10:52:00
隠れた良作ですね。
続きを待ってます

398234:2007/02/26(月) 02:26:16
>普段お世話になっている者氏
新たなSS、とても楽しみです。
が、ちょっと拝見したところ13巻以降のネタバレのようなので、今は読むのを遠慮しておきたいと思います。
せっかく書いてくださっているのに、すいません。
でも、いろんな方が書き込んでくださることによって、スレが活気づいてきてとてもうれしいです。
僕も早く13巻以降を読みたいので、早いとこ完成させようと思います。

399Back to the other world:2007/02/26(月) 02:27:55
声と同時に、マティルダの足元から、紅蓮の炎が絨毯のように広がっていく。
その絨毯から、何本もの火柱が渦巻き、立ち上る。
それらは、はじめ不規則な形をしていた。
が、まもなく大雑把ではあるが、何かをかたどった。
「う・・・っ何だ、あれ・・・?」
存在の力をマティルダに吸われた悠二は、貧血のような感覚に襲われつつ、その様子を見た。
「ほ・・・炎の、化け物・・・?」
が、まもなくそれらは、
「時間が無いわ、とりあえず全員、総攻撃よ!」
マティルダの指令に、迫るリボンに向け、一斉に飛び出した。

炎の怪物達は、手にした紅蓮の剣や矛で、次々とリボンをなぎ払っていく。
またいくつかは、リボンもろとも爆発し、粉々に砕け散る。
リボンの残骸が、ハラリ、ハラリと地面に落ち、積もる。
「そ・・・んな」
「・・・・・・・」
またもや信じられない光景を見せ付けられ、呆然とするヴィルヘルミナとティアマトーに、
「ば・・・・馬鹿、な・・・っ」
「・・・・・・・」
リボンにぶち当たって砕け、半数ほどになった炎の軍隊が、
「どうし、て・・・!!!!」
「・・・・・・・!!」
次から次へと、突っ込んでいった。
あっという間に紅蓮の炎に包まれたヴィルヘルミナは、
「嘘・・・・、私・・・信じ・・・・な・・・」
うわ言のように語りながら、膝を地面に落とすと、そのまま、

ドサッ

と、前のめりに倒れこんだ。
宙に浮いていた純白のリボンは、ゆっくりと、全て舞い落ちた。

400Back to the other world:2007/02/26(月) 02:29:45
〜74〜

「な・・・」
紅蓮の翼で、御崎山まで一気に飛んだシャナは、
「今の、何・・・?」
上空から見えたその光景に、驚愕していた。
到着直後、暴走するヴィルヘルミナを目にし、すぐさま御崎神社に降り立とうとした。
が、その矢先、突然、別方向から自在法が発動した。
かと思うと、物凄い勢いで、妙な形をした炎の固まりが、次々とヴィルヘルミナに襲い掛かったのだった。
一瞬の出来事に、シャナは何もできず、ただ上空で呆然と見ているしかなかった。

「し、しかも」
シャナは、未だに自分の目を信じられない。
「あの、炎の色・・・」
その色は、唯一つ。
自分と、自分の中に宿る魔神だけの色のはず、なのに。
「私と・・・・」
シャナは自分で確かめるように言い直していると。
「同じ、色・・・?」
ふと、目に入った、何者かの影。
「・・・!!?」
慌ててシャナは、視線を戻す。
戻して、もう一度、それが誰なのかを確かめた。


「・・・・・!??」
誰なのかを悟り、シャナは、頭の中が真っ白になった。
「・・・・ば・・・馬鹿、な」
アラストールはそう言ったきり、もはや言葉を発することもできなくなった。
シャナは、自分の髪の毛を数本つかみ、見た。
「私と・・・同じ」
そして、下にいる人物のそれと、チラチラと何度も見比べた。
「え、『炎髪』・・・」
シャナは、身体の底から寒気がわきあがってくるのを感じた。
先程アラストールに言われた言葉が、脳裏をよぎる。
(私の、前の、フレイム・・・ヘイズ)

しかし、
「こら、このチビジャリ!!何ボサッとしてんのよ!」
「ヒヒッ、そーだぜ嬢ちゃん。“ミステス”の兄ちゃん、まずいことになっちまってるぜ」
また別の声に、
「えっ・・・・」
思わず振り向くと、そこには力が抜け、すっかり弱ってしまった悠二がいた。
「悠二!?」
その姿に、慌ててシャナは地面に降りた。

401Back to the other world:2007/02/26(月) 02:31:16
〜75〜

「シャ、シャナ・・・?」
駆け寄ってきた少女を、悠二はうつろな目で確認した。
「悠二、しっかりして!」
弱弱しい少年の姿に、シャナは想いを込めて叱咤する。
「今、私の力を渡すから」
言って、シャナは手を差し出した。
「あ、う、うん」
悠二も、震えながら片腕を差し出す。
二つの腕が、そっと重なり合うと、シャナは目を閉じた。
存在の力が、彼女の手を通して、悠二に送られる。
「・・・ごめん・・・ありがとう、シャナ」
力が徐々に回復してくるのを感じながら、悠二は言った。
「っ」
シャナは、その言葉に、少し照れるのを隠しながら、
「そんなことより」
急に険しい表情になって、言った。
「この状況は、一体、何?」
少女の問いかけに、悠二は、
「うん、まぁ・・・その、いろいろと」
何を話したらよいのか分からず、困惑した。
すると、
「本ッ当、いろいろありすぎよ、今日は」
「全くだぜ。この騒ぎのために、わざわざ町全体覆う封絶まで張らされるんだからなぁ、我が勤勉なる苦労人、マージョリー・ドー!」
悠二のそばにいた『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーが不機嫌な表情でぼやくと、“蹂躙の爪牙”マルコシアスが“グリモア”から茶化した。
「・・・?何で、あんた達がここに?」
シャナは意外な人物の突然の介入に、不思議そうに尋ねた。
「アンタねえ、誰がこの封絶張ったと思ってんのよ!」
「ヒヒッ、それだけじゃねーぜ。俺たちゃ、嬢ちゃんの大事なカレシのお守りもしてたんだぜ、少しは感謝して欲しいってもんだブッ!?」
「バカマルコ、アンタは余計なこと言わなくていいの」
「カレシ?」
「な、何を言って」
相棒の失言により、話がさらにややこしくなるのを避けるため、マージョリーは、
「そんなことより、問題なのは、あいつでしょ」
話を本題に戻そうと、あごで「あいつ」を指した。
瞬間、思い出したように、シャナは髪の毛を振り乱して振り返った。

その先には、
「!!!」
自分と同じ髪と瞳を持った、一人の女性が、こちらを見つめて立っていた。

402Back to the other world:2007/02/26(月) 02:35:14
〜76〜

目の前に相対した人物に対し、
「・・・・・・・」
しばらくの間、シャナは一言も、言葉を発することができなかった。
ただ、その灼眼を大きく見開いたまま、相手の立ち姿をじっと見つめていた。
見つめながら、
(私の、前の)
アラストールの言葉を、
(『炎髪灼眼の、討ち手』・・・?)
反芻していた。

一方、マティルダのほうも、一言も話さない。
黙ったまま、目の前の少女の全身を、相手と同じ色の双眸でじっと眺めていた。

相見える『炎髪灼眼』。
決して出会うことはないはずだった、二人。
「・・・出会っ、ちゃっ、た」
異様かつ美しいその光景に、騒動の原因たる少年(ということにいつの間にかされてしまった)坂井悠二も、思わず声を上げた。
「やれやれ、こんな珍事、そうそうお目にかかれるモンじゃねーな。我が幸運なる目撃者、マージョリー・ドー?」
「私には関係のないことよ。勝手にさせとけばいいわ」
「ヒャッヒャ、最初はビビッてたくせに、よく言うぜブッ!?」
「アンタでしょ、それは」
“グリモア”に蹴りを入れ、横目で“珍事”の様子を見つつ、マージョリーは封絶を解く作業を続ける。

群青色の火の粉がフワフワと散る、その中で、
「・・・初めまして、ちっちゃな『炎髪灼眼の討ち手』さん」
沈黙を破ったのは、マティルダだった。
「そして・・・お久しぶり、“天壌の劫火”アラストール」


(お、落ち着け)
シャナの胸元の『コキュートス』は、
(落ち着くのだ、我よ)
かすかではあるが、小刻みに震えていた。
(あれは、幻だ)
“紅世”にその名を轟かす、真正の魔神“天壌の劫火”アラストールは、
(我は今、白昼夢を見ているのだ)
いまだ己が経験したことは一度もないであろう衝撃と動揺に、襲われていた。
(空耳だ)
無理もない。
ペンダントを通した彼の視界に映る、一人の女性。
たった今自分の名前を呼んだ、その声。
それは、はるか昔に、永遠の別れを余儀なくされた人物。
・・・のはずであったのだから。


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