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バトル・ロワイアル〜罪と罰〜【長編】

20咎目千人:2009/11/02(月) 21:11:13 ID:en4xDozY
 プログラム担当教官・ミミの口から、自分たちのクラスが戦闘実験プログラム対象クラスに選ばれたのだという事実を告げられたとき、最も混乱し最も動揺したのは、彼、目黒周平(男子七番)をおいて他にいないだろう。
 和藤忠志や津田深雪の死もまた、周平の恐怖に拍車をかけていた。
 ……周平は身長が百六十センチにも満たず、骨と皮だけのような細い体をしている。
 それが彼自身にとっても大きなコンプレックスであり、家が近所ということで家族ぐるみの付き合いである宇都宮真人(男子三番)くらいしかクラスに話し相手がいなかった。
 もともと人見知りする性格で、内向的なのも災いしたのだろう。
 結局、何ひとつ思い出らしい思い出もないまま(修学旅行ですら、周平にとっては肩身の狭い日々だった)、卒業式を迎えることになったのだが、しかし本当にツイてない。
 まさか、中学三年生のときにしか選ばれる可能性がない上、全国各地の中学校のクラスからたったの五十クラスしか選ばれないプログラムに選ばれてしまうだなんて。そんなもの、宝くじを当てるよりも確率的には低い。
 そしてそのプログラムは、早くも周平の心の均衡を崩そうとしていた。
「嫌だ、嫌だ、僕は嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない……っ」
 自分に言い聞かせるように……というよりもはや、うわごとのように呟き続けながら、周平はよろよろと分校の廊下を歩く。
 すでに半数の生徒が出発しているということは、もう殺し合いが始まっていてもおかしくない、ということだ。女子と喧嘩しても負けるに違いないと自覚している周平にとっては、すべてのクラスメイトが恐怖の対象だった。もし遭遇してしまえば、自分は赤子の手をひねるよりも容易く殺されてしまうだろう。
 そんなのは嫌だ。僕は死にたくない。死にたくないんだ。
 死にたくない。でも、どうすればいい?
 自分にクラスメイトと戦って勝つことなんてできるわけがない。
 かといって、誰とも出会わないよう逃げ回ったとしてどうなる?
 体力も根性もない自分は、すぐに肉体的にも精神的にも限界を迎えるに違いない。
 それに、最後の最後まで生き延びることができたとしても、そのときには、多くのクラスメイトの屍を築いて生き残った誰かと戦わなければならないのだ。
 この島から生きて帰れる確率は、極めて低い。
 ――――だけどそれは、理屈でしかなかった。
 恐怖で麻痺した周平の頭は、ただ死にたくないというその一心だけである決断を下した。
 ……あのミミとかいう女を殺すんだ。
 そうすれば、こんなゲームをする必要はなくなる。
 そうだ、それがいい、そうすればいいんだ。
「そうだ、そうだよ、そうすれば、そうすればいいんだ、死ななくていい、死ななくていい、死ななくていいんだ、はは、そうだ、そうなんだ、はは、ははは」
 周平は壊れた笑みを浮かべながら、立ち止まってデイパックの中身を探っていた。
 この中に銃か何かがあれば、それに弾を込めて教室に戻り、ミミとかいう女を撃つだけですべては終わるんだ。
 周平は、そう考えていた。
 ――――実際には、ミミを殺すことができたとしてもその直後に兵士たちに射殺されるだけなのだろうが、周平はもはやそこまで思考を巡らせることができるような精神状態ではなかったのだ。
 ……しかし、そんな周平に、さらなる不幸が重なる。
 デイパックの中に入っていた武器らしきものは、たったのひとつ。
 分厚いハードカバーの、『政府発行・自殺大全』と銘打たれた書物だけだった。
 ご丁寧に帯まで付いていて、そこには赤いゴシック体で『これさえあれば、誰でも死ねる。』と書かれている。ありとあらゆる自殺の方法を網羅した決定版、との触れ込みのようだったが、それを見た瞬間、ギリギリ保たれていた周平の理性は崩壊した。


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