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繰り返される悪夢【長編】

1よこせう:2004/04/26(月) 22:29 ID:kHYrbqF2
石川県横島市立南部中学校3年6組生徒名簿
男子                   
1番 相川 慎太郎(あいかわ しんたろう) 
2番 相沢 彰久(あいざわ あきひさ)
3番 秋宮 慧(あきみや けい)
4番 旭 叉羅(あさひ さら)
5番 池谷 翼(いけや つばさ)
6番 上杉 千裕(うえすぎ ちひろ)
7番 遠藤 祐介(えんどう ゆうすけ)
8番 大原 克巳(おおはら かつみ)
9番 神楽 圭吾(かぐら けいご)
10番 風祭 達樹(かざまつり たつき)
11番 桂 弘典(かつら ひろのり)
12番 金城 真人(かねしろ まさと)
13番 神谷 塁(かみや るい)
14番 川澄 潤(かわすみ じゅん)
15番 木内 政文(きうち まさふみ)
16番 木下 聖夜(きのした せいや)
17番 鬼島 弥勒(きじま みろく)
18番 霧雨 時耶(きりさめ ときや)
19番 久保 宗鑑(くぼ そうかん)
20番 田神 慶吾(たがみ けいご)
21番 立花 雄吾(たちばな ゆうご)
22番 長谷 辰文(ながたに たつふみ)
23番 春田 清史(はるた きよし)
24番 藤沢 雅(ふじさわ みやび)
25番 細川 竜司(ほそかわ りゅうじ)
26番 三杉 龍一(みすぎ りゅういち)
27番 吉田 兼好(よしだ かねよし)
28番 憐道 奉雅(れんどう ほうが)

女子
1番 蒼火 音遠(あおび ねおん)
2番 石井 遥(いしい はるか)
3番 井上 明日香(いのうえ あすか)
4番 卯月 由香(うづき ゆか)
5番 緒方 幸(おがた ゆき)
6番 鍵谷 志穂(かぎたに しほ)
7番 烏丸 遙(からすま はるか)
8番 北里 冷夏(きたさと れいか)
9番 木津 優子(くるつ ゆうこ)
10番 黒井 絢女(くろい あやめ)
11番 相模 魚月(さがみ なつき)
12番 塩野 香織(しおの かおり)
13番 杉浦 千夏(すぎうら ちなつ)
14番 杉原 朱美(すぎはら あけみ)
15番 高橋 優希(たかはし ゆき)
16番 長坂 陽奈(ながさか ひな)
17番 中標津 雪乃(なかしべつ ゆきの)
18番 吹岡 祥子(ふきおか しょうこ)
19番 三谷 捺(みたに なつ)
20番 矢田 伊織(やだ いおり)
21番 由岐 春美(ゆき はるみ)

担当教官:立花 賢吾(たちばな けんご)

174ざっく:2004/10/22(金) 00:31 ID:9WOl/AaU
......あげ

175サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:45 ID:T3XS25Lc
No:61


段々と尻が濡れて来た。雨風の吹き荒れがこの洞穴の中にまで侵入してきたようだ。よく見れば自分の身体も少し濡れている。

洞穴の中の石段に腰掛けていた桂弘典(男子)はその濡れた学生服を手で触ってみた。
サラサラとした水とは違う、絵の具をそのまま撫でてみた様な感触がした。紛れも無い、血。

先刻、自らが闇へと葬った上杉千裕(男子:故)の跳ね散った血液。
血が取れないとは解っていた。それもあんなに大量に正面からぶっ掛けられたのなら尚更。
しかしこれが見つかれば既に人間を殺害したという事を回りの人間に晒しているも同然。すればたちどころに言い訳する間も無く奇襲を掛けられるかも知れない。それは困る。

ボタンを取り外し、脱いだ。そしてそれを洞穴の中にぽーんと放り投げると、ディパックを持ち、立ち上がった。そして、動き出した。




洞穴の先を抜けるとそこは最悪のパターンの行き止まりかと思いきや、意外と通じていた。
外は明るく、ジメジメしていない。それに、静かだ。さっきの暴風雨は音が凄まじかった。あれでは不意に近づいて来る敵を察知する事が出来ない。
静かな方がいい。微かな音も拾えるし、何と言っても高ぶっていた気持ちが落ち着く。

一直線に続く集落の農道。そこには耕運機等が通ったのだろうか田んぼや畑の泥がそこらかしこに落ちていた。
元々、都会生まれでは無い田舎生まれの自分の故郷の事が頭に浮かんで来た。

毎日学校から帰れば行く所といえば川か山のどちらか。
ガキ大将が川と言えば皆で水泳か魚掴み。山と言えば、山菜や木の実等の採取。
伸び伸びと暮らしていた田舎での生活。今思えばそこでずっと生活していたらこんなBRなんてゲームに参加しなくても良かったのかも知れない。

けど、田舎でも中々の秀才と言われた弘典。都内からの中学校からの推薦。
本当は都会なんて行くわけにもいかなかった。けど、貧乏なうちの事を考えれば、学費が只と言われれば行かない訳にもいかない。

人生最大の親孝行を果たしたと思ったら人生最大の親不孝を犯してしまった。

街灯が弘典を照らす。虚しくてどうしようもない心。どうすればいいのだ、この気持ち。
切ない。切ない。虚しい。

都会なんかに出てしまった所為だ。変な性格が浮かんで来たのは。あの穏やかな性格ともう1つ現れた凶暴な性格。

上杉千裕のケースもそうだ。ついカッとなってしまう。抑制できない。
都会でまざまざと見せ付けられた人間の魔性。

これが男。これが女。これが人間。

同じ種族と思えない。自分はこんな種族なのか。平気で人を貶し嘲笑う事が出来る種族なのか。
笑いたい。思いっきり泣きたい。精一杯努力したい。

そんな事言ってられなかった。皆に合わせないと置いてかれる。苛められる。
俺だって人並みの事がしたい、けどさせて貰えない。都会では。ならどうする。そうか、今やればいいのか。今、そのうっぷんを―――。



「何か慕情に浸ってるらしいけど…、死ぬぞ?」
微かに聞こえた。やっぱり洞穴から出てきて正解だ。静かで、音が拾えた。

空を裂くような音が聞こえ、真横を銃弾が飛んでいく。
それに恐怖も感じずに、腰からМ8000を抜き出し、それを銃弾の飛んでくる方向に闇雲に撃ち続ける。
生憎、マガジンは無い。もう一丁のPPKも―――。

銃弾の尽きたM8000を捨てると、PPKも乱射した。

「銃が無いのなら―――殺して奪い取ってしまえばいい」

PPKの銃弾が無くなると同時に軽トラックの陰に隠れていた侵入者、金城真人(男子)が姿を現した。

「殺して奪い取る?生憎だけど俺も銃なんて持ってねぇんだよ」
坊ちゃん。その単語に過剰に反応を見せた弘典は、真人を睨み付けた。
「うるせぇ、御託並べる前にさっさと何かしたらどうなんだよ」

こんな言葉、昔なら口が裂けても言えなかった。けど、全然言える…。俺、頭おかしいのか…?

「殺してやるよ!」
怒りに震えた真人が突進してくる。
「殺す」と呟くとそれを迎えた。

【残り34人】

176サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:46 ID:T3XS25Lc
No:62


頭の中でボクシングの試合開始のゴングが鳴ったかと思えば、すぐにメリケンを装着した金城の拳が飛んで来た。
弘典は然程驚く様子も無く、それをしなやかにかわすと、逆に金城の頬を殴り付けた。

一瞬の出来事で何が起きたか解せない金城真人は、猛然と弘典のその細身に殴りかかった。
しかし、拳はかすりもせず、何もない所を殴っているだけ。気付いた時には弘典が後ろへ回っていた。
頭を鈍器で殴られた様な感じがした。いや、実際に殴られているのだが。

猪突猛進な真人の性格を把握していた為、簡単に右ストレートを避ける事が出来た。その後、落ちている空弾の銃を握ると、それを真人の脳天に叩き付けた。
それを叩き付ける時、微かに自分の表情が不気味に笑んでいた事に弘典は気付かなかった。

真人の脳内に火花が飛び散り、前方が急に白くなった。あのうざったいガリガリ小僧が居ない。
いや、居るけど見えないだけなのである。

「もうダウン?」
あたふたと前屈みになってよろめく真人の顔面を思い切りその長い脚で蹴り上げた。
耳を塞ぎたくなる様なおぞましい音がすると、更にわくわくしてきた。

殺してやる、殺してやる、殺してやる―――と。


次の瞬間、頬に強い衝撃が走った。自分の体が後ろにふっと、倒れると、起きようとしても起きれなくなった。
立ち眩みする様に、全身の自由が取れなく成ってくる。後ろに手を付き、動けなくなった弘典の眼前に、大きな影が立った。
それは先程自分がタコ殴りにした金城真人であり、その顔はさっきの蹴りと怒りでぐちゃぐちゃになっていた。

「殺す」と一言呟くと、左の軸足をしっかり地面に抑え付け、腰を回し、右足で強烈な蹴りを弘典の顔面にぶつけた。
革靴の真ん中部分が弘典の頬にクリーンヒットし、今度は顔が左にがくんと傾いた。

げぼっ、と弘典が吐血し、むせ込んだ。
むせ込んだ心臓を整える暇も無く、蹴りやパンチが飛んで来る。
その正確無比な一発一発が必ずや弘典のあらゆる急所部分に直撃し、回復させる時間を一切与えない。そして―――

弘典はとうとう、蹲ると、立ち上がれなくなった。全身が焼ける様に熱く、痛い。
体全体が暴行で浮腫み、顔はもう本人かは識別出来なくなっていた。
けど、気絶しないという位の本人の意識は強く、たくましいものだった。

「終わりだよ」
真人がそう呟くと、ポケットからナイフを取り出す。それをしっかり握ると、照準を桂弘典の脳天に向けた。

「あばよ」
ナイフを振り下ろした。

だが、その数瞬前、弘典は動いていた。動けなくなった全身を無理やり動かし、立ち上がった。

『こんな所で負けてられない。こんな所で死んではいられないんだよ』
弘典が立ち上がった事で、ナイフが脳天ではなく、肩に突き刺さった。
「ああああああああぁっ!」
絶叫すると、ナイフが刺さったまま、真人の首を掴んだ。そしてそのまま走り出した。

「こ、この野郎!」
真人が抵抗するが、あまりの弘典の力の強さに首に巻き付いている手を解く事が出来ない。
弘典が助走をつけたまま電柱に真人の頭を叩き付けた。

更に鈍い音がして、真人の血が飛び散った。

【残り34】

177サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:47 ID:T3XS25Lc
No:63


電柱にもたれる感じになりながら、虚ろな瞳で桂弘典の顔を一際きつく睨み付けた。
大抵の相手はこの睨み付けで腰を抜かしてしまうのだが、このケースは予想を反した。
別段、弘典は怖がり、怯える様子も無く、今にも半ば意識不明の真人の顔面に蹴りを喰らわせようとさえ感じ取られた。

実際そうなのだが。

鼻に靴が直撃し、鮮血を散らした。鼻血がどくどくと真っ白のシャツを朱色に染め、まるきり潰れたトマトみたいになっていた。
『この野郎…!』
頭でそう思うものも、思うように身体が動かない。
必死の形相で電柱を掴み、地獄の底から這い上がる死神の様に再び立ち上がった。

この復帰は、弘典自身も予想外の出来事で、あれだけ強烈な攻撃を浴びせ掛けたのにまだピンピンしているとは流石は喧嘩屋、と改めて思った。

やっとの思いで電柱から手を離したが、上手く2つの脚だけで揺れる身体を支える事が出来ない。必ず、右か左かのどちらに傾いてしまう。そんな自分が歯痒かった。
弘典が不気味に笑みながら突進してくる。その顔は先程の真人と変わらない、悪魔そのものなのかも知れない。
自分が悪魔と意識しているが故、もう人に恐れられる事は難儀では無かった。
別に、清清しいとか、嬉しい、楽しいとも思わず、只単に喧嘩に明け暮れた日々。
そんな両極端な2人が本当に火花を散らせたかの様に頭からぶつかった。

ごつん、とも何とも音がせず、2人は頭がくっ付いたまま、ずるずると下へへたり込んだ。当然、互いに意識は無い。
生命に別状のある訳でも無し、只少し頭部から軽い出血をしているだけ、ここが学校の屋上とかなら熱血学園物等がまさにその通りなのかも知れない。けどステージは違った。
彼らは普通の学園の生徒で有る。しかし不運にも、地獄の展開が繰り広げられる国家自慢のステージにあがってきてしまった事で歯車が見事に狂ってしまった。
これが本当の只の喧嘩なら良かったのに、と薄れ行く意識で弘典はそう想った。

嵐の後の静けさにようやく風が舞い戻って来た。それは台風とは打って変わってとても穏やかな風。
それが死闘を繰り広げた2人を意味も無く称える様にも感じられた。
鈴虫なのか鈴虫で無いのか虫の音も聞こえる。それを真っ先に聞いたのは金城真人だった。
痛む頭を抑え、立ち上がる。

「こ…殺してやる…!」
転がっているナイフを手に取ろうとした瞬間、彼の頭内にまるで爆竹でも投下されたかの様にばばばばと頭痛と耳鳴りが襲ってきた。
このままで居たらまた気絶して今度は桂に殺されると思った真人は、ナイフを拾う事も止め、重い足取りで逃げていった。

弘典が立ち上がったのはそれから3時間後。こちらも頭痛と耳鳴りで悩まされる事になる。
やはりこちらも我を忘れて避難する事にした。
一歩一歩歩く度に爆弾の導火線が短くなっていく様な気がした。

軽くふふっと笑うとこう呟いた。
「今度こそ…」
午前1時の事であった。

【残り34人】

178サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:51 ID:T3XS25Lc
またまたざっく様へ>すいません、またまたこんなので(orz
          3話一気にうpの割りには内容性に乏しすぎです、はい。
          日記とかみて下さったら更新の時とかわかると思いますんで、また覗いて見て下さい。
          
 
http://diarynote.jp/d/55307/   ←日記のアド

179納豆ごはん:2004/10/24(日) 02:06 ID:Eal75xtg
誰も覗かないという罠

180ざっく:2004/10/26(火) 18:47 ID:9WOl/AaU
マイペースにがんばって下さいなw

181なこh:2004/10/28(木) 00:30 ID:lkVGTVU2
地獄の底から這い上がる死神の様に再び立ち上がった。←意味不明
ていうか表現が絶妙に不適切。鼻血がどくどくと真っ白のシャツを朱色に染め、
まるきり潰れたトマトみたいになっていた。って、まるきり潰れたトマトってパクりかよ。
鼻血程度でシャツが潰れたトマトみたいになったりとかありえねえよ。

182サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/28(木) 21:53 ID:2X58aIMU
No:64


何でこんな所に居るんですか―――はい、雨宿りの為です。
元から田舎育ちだった朱美の想像を絶する大型のデパート。7、8階まで続く縦長のデパート。
そのあまりにも大きな建物に誰もが拍子抜けしてしまうと思われる中、その中に女子2名と男子1名が迷い込んでしまった。
あの昼間の暑さが嘘の様に、杉原朱美(女子)の吐息を真っ白にしてしまった。どうかしているこの異常な寒さに思わず隣に座っている相模魚月(女子)にくっ付く。
しかし、当然の如く、先刻の大嵐で濡れに濡れてしまった魚月も、その体温は著しく低下し、顔一面が不気味に白かった。
「大丈夫…?」
凍える声でこう尋ねる。

「別に……大丈夫、気にしないで…」
冷めた声色で答えた。声だけで識別すればそれはそれは折角友人が心配しているのに何と無愛想な答え方だろうと感ずる筈だが、その表情を見れば朱美が強く返せない事も無理ない。
色を失っていくその表情、唇は既に紫と化している。それでも、右手の支給武器、M92Fは先程から見る限り、絶対に離しては居ない。
「ちょっと寝てた方がいいんじゃないの…?悪化すると大変だし…」
無理やりに魚月の細腕を後ろからぐっと掴み、床から立ちあがらさせた。立ち上がると、ごほごほと苦しそうに咳き込む。
適当に売り場からブランド物(といっても見た事の無いメーカーばかり)の服を無造作に床に敷き、その上に魚月寝させた。更にその上にどんどん暖を取る為に服を重ねていく。

「ありがと…」
それだけ言うと魚月は黙り込んでしまった。
「あたしも着替えよう…」
服を掴むと、女子トイレの方向へ歩き出した。

真っ暗で何も見えない。魚月の傍には下の雑貨屋から持ってきた懐中電灯を常備してある。けど、残りの2人は何も持っていない。
ただ広い通路の床を踏みしめる度にかつかつと不気味な音が響き、恐怖感に駆られる。

心臓の鼓動の速さが急速に加速していくのがわかる。頭の中が真っ白に成っていく。

いきなりどんと眼の前に大きな影が現れたかと思うと、それにぶつかってしまった。
心臓が爆発するかと思う程の衝撃が全体に走り、今にも失神しそうな程の恐怖だった。

「何だよ…、何してんだよこんな所で…」
それは一緒にここまで共に進んできた木下聖夜(男子)の胸板だった。
頭の中は対象的に真っ赤になり、意味も無く木下聖夜に文句を付け始めた。
「ちょっと!あんたこそ何で1人でこんな所に居る訳?ちゃんと魚月の傍に居てあげてよ、男なら」
「おいおい、何でそんなに怒ってるんだよ。ぶつかった事なら謝るよ。お前だってどうせあれだろ、服着替えに行くんだろ?」
そう言って朱美の顔面を懐中電灯で照らし出した。
「ちょっと…、眩しいって…」

前方から何か飛んで来た。『取れよ』と聖夜の声がしたので慌ててそれをキャッチした。
それは聖夜の物と同じ懐中電灯だった。
「やるよ、服着替える時とか明かりいるだろ?」
さらりと言い残すと魚月の居る方向へ走り出した。

「サンキュ…」呟くと女子トイレに駆け込んだ。

【残り34】

183サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/28(木) 21:53 ID:2X58aIMU
No:65


もう不要となったぐしゃぐしゃの学生服をトイレのゴミ箱に想い出の欠片も懐かしまず荒っぽくすてると、新しい服に袖を通した。
できれば格好の良いものを欲した所だったが、真っ暗な中で適当に掴んだ服なので、今一度ライトに照らしてみるとその不恰好な服のデザインを見て落胆した。
「嘘………」
悲しげに呟くと、重い溜息を吐きながらトイレから出た。

トイレから出た瞬間、コツンコツンと明らかに靴音だと解る雑音が耳に届き、慌ててトイレの入り口に舞い戻り、ひっそりと息を潜めた。
高まる恐怖心で誰の顔か覗く事が出来ない。もしかしたら魚月や木下聖夜かも知れない、けど―――。
はっとして手元に武器が1つも無い事に気付いた。そう言えば支給されたあのライフルはまだあの魚月の傍に置いてある。あんな重い物常備出来る訳が無いと思い、魚月の休んでいる場所に置いておいたのだ。

自分のドン臭さに思わず笑いが込み上げて来たが、足音の持ち主の方向が明らかに残りの2人の居る方角なので、急いで足音と逆の方向から2人が待機している場所へ向かい、一刻も早く危険事態を知らせる事が先決だと感じた。
トイレから満を持して飛び出た朱美はまだ消え去っていない足音の主の後姿を僅かながら眼にする事が出来た。
身長は殆ど自分と変わらない。それ程小柄でも無い朱美の身長と言えども、殆ど一般女子と似た様な体格だ。

あれは女子だと感じ、急いで靴を手に持ち、靴下のまま、足音を立てずに急いで本部へ戻った。

途端、ぱん、という大きな音が木霊し、その音で朱美の身体が僅かに浮いた様な感じがした。
そして更に、1、2発の大きな銃声。
『魚月――――――!』
朱美の足取りは更に加速した。


今度は、ぱん、というよりぼん、という野太い銃声がした。朱美は咄嗟に、自分のライフルかも知れない、と思った。
次に『杉原ァーッ!』という木下聖夜のよく響く声も聞こえた。
『とりあえず下だ!下へ逃げろぉーっ!』
『わかった!』と言う途中に、また銃声がして、朱美の本能はとにかく下の階へ逃げる事に向かれた。
走っている最中に、後ろからの銃声が止み、少し胸を撫で下ろした。だが、今ではこちら側が全滅したのか相手側がダウンしたのかはまだ解らないが。


無我夢中で階段を降りる、果てしなく長く続く様な階段を、最後の方は半ば飛び降りる様な感じで落下していく。
どんどん下へ降りていこうとしていて、眼を前に向けると、もうそこは下へ続く階段では無く、物置となっていた。
『ここが一階か…』

先程の銃声の残響が完全に無くなり、建物内は、もう先程の静寂に包まれた。
またしても武器が1つも無い事に気付き、足に躓いた長い箒の柄を掴んだ。
無いよりまし、のポリシーに則り、更に脚を進めた。一歩一歩踏み締める毎に汗が出てくる。さっきの寒さが嘘の様に―――。

ありがたい事に足を進めて行く内に大きな影と小さな影が前方に垣間見えた。
侵入者に気付かれるという心配も吹き飛び、ライトを付けて、前方を照らした。
それは思惑通り、木下聖夜と相模魚月の姿であり、2人の無事な姿を確認した事と、漸く仲間を見つけた事でどっと腰が砕けそうになった。

やっと会えた―――2人とも―――!

『おーい!2人ともー!』
大声で朱美が呼び掛けた、2人はそれに気付き、ライトをこちらに向けて照らした。
ライトの光の間に2人の顔が見える。
木下聖夜の不良気取りのどちらかというと凛々しい顔。相模魚月の映画の一匹狼みたいな大人っぽい顔。
その顔がだんだん歪んでいく。

そしてすぐ「逃げろてェーッ!」という魚月の声が聞こえた。

後ろを振り返った。
そこは長坂陽菜(女子)が朱美の支給武器、四七式歩兵銃の銃尻でその朱美の脳天を叩き割る数瞬前の画像だった。

【残り34】

184サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/28(木) 21:57 ID:2X58aIMU
ざっく様>ぐぇ、何か日記で明日更新するとか言ってあっさり破ってしまいました、すいません(orz
     何だかかんだか駄目駄目ですけどこれからも宜しく御願いします。

なこh様>ご指摘に対してありがとうとしか言えません。 
     パクリ…確かにそうかも知れませんね(汗
     これからもお暇でしたらご指摘御願いします。

185サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/30(土) 21:58 ID:Dw6vF/hQ
No:66


その声に反応した所為で、僅かに朱美の頭が揺らぎ、運良く銃尻が朱美の脳天では無く、その細い肩に直撃した。
「あああああぁっ!」
朱美の絶叫が魚月の耳に届く。その激しい声音で脳がおかしくなりそうだ。ごほごほと咳き込む。
我に返った、スカートのポケットに隠していたM92Fを取り出す。それを素早く倒れている朱美の身体を殴打する長坂陽菜目掛けて構えた。その行動は風邪気味の身体に容赦無く自分で鞭を入れている。
狙いを定め、引き金に指を掛けた。

朱美の身体は銃尻で、まるで布団叩きをされる布団の様に只単に殴られているだけだった。
「何だよ!早く撃てよ!長坂を早く撃てよ!」
木下聖夜の今まで聞いた時の無い様な怒声が耳の近くで響く。けど―――。


「おい!撃てよ!」
汗を滲ませながら聖夜が必死で発砲を催促する。魚月は構えたままで、一向に撃たない。いや、
「撃てない―――、朱美が邪魔で撃てない―――!」

長坂陽菜は倒れた朱美の身体をぐいと持ち上げ、何度も立ち上がらせた。そして、朱美の衰弱し切った身体を盾にし、容赦無く殴り続ける。

「貸せ!」
聖夜が銃を奪い取り、長坂へと猛然と走りかかる。
「遠くで当たらないんなら近づけばいいんじゃねぇかよ!」

そして、聖夜の眼の前で有っては成らない光景。
長坂が片手でその長い歩兵銃を持ち上げた。そして、それを朱美のこめかみに当てる。
「嘘―――――――!」

一瞬、朱美の顔がぐしゃぐしゃになった。涙と鼻水が入り混じったその顔はもうギャルとも何とも言えない。
倒れた朱美は片手を地面につき、もう片方の手で2人に救いを求めた。
長坂がそれを朱美の脳天に向ける。今度は銃尻では無く銃口を。
「助けて―――」

ぼん、と一発だけ耳鳴りする様な大きな音が鼓膜を震わせた。
銃弾が朱美の顔面を一瞬で鮮血で彩り、朱美の生命を呆気無くもぎ取った。

聖夜のこめかみに沸々と血管が浮き出てきた。絶叫すると、更にスピードを上げて長坂に突進を掛けた。
しかし、飛び掛るが早いか、長坂がすいっ、とその同じ歩兵銃を走り迫る聖夜の身体に向けたのを見た瞬間、その場に勢い余るほどのスピードでしゃがみ込んだ。
その上を銃弾が掠めていく。

銃弾は後ろにいる魚月の横をも掠めた。驚きの余り、暫くの間ずっと長坂を照らし続けていたライトを落としてしまった。
その拍子にスイッチが切れたのか、はたまた電池の位置がずれたのか、明かりはふっ、と消えてしまった。と同時に長坂の姿も消える。

「この野郎!」
憤激した聖夜はそのM92Fを乱射した。

「止めて!」
まだ銃声の残響が残る中、魚月の声が反響した。その大声に聖夜すらも驚きを隠せない。
「弾が…勿体無いわ……」
自分の咳き込む病状と、友人の死の悲哀で苦悩しながらも、か細い声で聖夜の心の内の疑問に応答した。
そのおぼろげな瞳を開き、ライトを拾うと、朱美の死体の前にふらふら歩いていった。足取りは重く、今にも崩れ落ちそうな感じだ。

ライトを点け、朱美のめちゃくちゃな死体に嗚咽すら漏らさず、その場にしゃがみ込むと、
「ごめんね……」
と呟いた。


そして、貯まっていた涙が溢れてきた。


杉原朱美(女子)死亡
【残り33人】

186サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/04(木) 21:53 ID:UwUXsx8c
No:67


暫しの吹き荒れる豪雨も完全に止み、暗闇は一層静けさを増し、ゲーム参加者に僅かながらも恐怖を与える。
その恐怖感に動じず、物怖じもしない、少し思春期の少女を思わせない彼女、烏丸遙(女子)はその自分の上に掛けてあった毛布を剥ぎ取った。
大量の雨粒が毛布の毛先から飛び散り、遙の顔を濡らした。

『やっぱり屋内に閉じ篭っておけばよかった』と思うと、そのずぶ濡れの服を手で触った。
幾らなんでも茂みに隠れる事は不味かった。多少、屋内より発見される確立は低いと思ったが、まさか雨が降るとは―――。
けれど、安心して睡眠をとる事が出来た。それだけで良かったものだ。

彼女は茂みの奥の奥、緑色のペンキをぶっ掛けた毛布に包まっているものを取り出した。
火炎放射器。ゲーム開始直後、あの忌々しい秋宮慧(故:男子)をまるで新撰組の様に誠の下に裁いた直後、【押収】したものである。決して強奪とは違う。

その重い本体を持ち上げると、ベルトを肩に掛けた。丁度、放射口の下に肩パッドが挟み込まれているので、女性でも簡単に携帯できる。
その火力は秋宮慧が実証済みだ。三毛猫が一瞬にして灰色熊へと変わった。
これを人間に吹きかけでもすればたちどころに生命を燃やし尽くされてしまうだろう。恐ろしい武器だ。

自分でもその威力に改めて驚いた後、現在の人数が何人かを確認したくなってきた。
携帯電話を取り出した。当然圏外。けど、時計の時刻はこちら側の合わせた。
メールが出来ない、電話専用の携帯電話のデジタル時計の時刻はしっかりと「2:48」と現されている。
床(といっても茂みだが)に就いたのが「9:00」だから、彼是7時間はしっかり睡眠を取っている訳だ。
という事は深夜の12時の放送を聞き逃しているという事。6時の放送ではあまり死んでいなかった。あれから6時間で誰が死んだのだろうか。
最も、それは別に親しい友達を想う事でも無く、単に30人になった瞬間、新しい場所へ連れて行かれる、それを考えてだが。



『私は誰が死んでも関係無い。何故なら誰とでも親しくないからだ―――』


丁度、そう心の中で感じている烏丸遙の姿をしっかり確認している男が居た。
たっぷり40m離れた位置から憐道奉雅(男子)は支給武器のPSG−1の暗視用スコープから眼を離すと、大胆不敵に笑んだ。
「カモ見ぃ〜っけ」
引き金に指を掛けた。このまま烏丸遙を殺す。何故なら俺は烏丸遙がそれほど好きではないから。
だから殺す。さっさとこの俺がゲームを優勝する為にも―――。

「だから死んでくれよ」
もう一度スコープに眼を這わせた。しかし、そこには烏丸遙の姿が無い。
浮かんでくる疑問詞をもみ消し、そのライフルをぐるりと徐々に右方向へと回していった。
やっぱりそこには烏丸遙が火炎放射器をまるで弁慶の大薙刀の様に肩に担いだまま、慎重に全身している様があった。

照準が付け難い事に気付き、下手に撃ってはずしてしまったら暗殺計画がおじゃんになると察知した奉雅はその火炎放射器より重いPSG−1をやっとこさ抱えると、前を行く遙の後を尾行していった。

勿論、只のストーカー行為では無く、歴とした暗殺計画の序章として。

【残り33人】

187サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/07(日) 21:32 ID:m3uNy8M6
No:68


茂みを段々歩いていた烏丸遙は、ふと眼に留まった物を意識した。
不良グループの川澄潤(男子)。
喋った事は無いが、木下聖夜(男子)や、霧雨時耶(男子)等とよくつるんでいる姿を見た時はあった。
どちらにせよ、不良というダニは生かしておく術は無い。ここで殺す。

未だこちらに気付いていない川澄潤の顔を睨み付けると。火炎放射器をぐっと構えた。その重さで、身体が前方に大きく傾いたが、それも持ち直した。
しかし、トリガーに指を掛けた瞬間、火炎放射器の射程距離が極めて短い事に気付いた。
それに、支給武器のライフルをあの秋宮慧を抹殺したあの場所に置いて来たに違いない。今も、あの場所に放置してある筈だ―――。

このゲーム初の凡ミスに歯痒くなり、握り拳を強く握った。

ならどうする? どうやって眼前のダニを殺す? 殴り殺す? いや、生憎、自分に腕力は備わっていない。
じゃあ、やはり火炎放射器で? でも、相手は喧嘩慣れした不良だ。至近距離の気配はすぐに察知するだろう。どうする―――。
ここでもう一度、置いて来たライフルの事を思い出した。あれがあれば瞬殺できるのに…。

苦嘆を漏らし、歯を食い縛った。




真っ先に浮かんだのは、『何をしているのだろう』という思いだった。
奉雅はスコープ越しの挙動不審な烏丸遙の行動に違和感を覚え、その視線の先をスコープで見つめた。
そこには、薄暗い中、1人の人間(身長で見れば男子だ)が立っている事に気が付き、にやっと笑った。

「あっ、そういう事…」
頭の中に、烏丸遙と、その前方に居る詳細未明な人間を同時に殺す策略を描いた。
どうすれば一気に葬る事が出来るのか、良い考えは無いのか。

不意に、スコープ越しの男がこちらに向かってきて歩いてきた。烏丸もそれに気付いた様だ。
これ幸いとばかりに照準を烏丸遙の身体に向けた。
「死んじまえ、馬鹿」

引き絞る寸前、自分の髪の毛がぶちぶちと千切れた。
激痛で一瞬、意識が飛びそうになった。後ろを振り返り、自分の髪の毛を引き抜いた男が、金城真人(男子)という事に気付いた。
まさか、髪の毛を掴んで、立ち上がらせる寸法が、そのまま髪の毛を引き千切ってしまうとは、何という馬鹿力。
しかも、何故か身体が血塗れだ。何故だ? 既に誰かと格闘していたのか?

真人の蹴りが飛んで来て、それを身を伏せてかわすと、素早く立ち上がった。
よく見れば、手にナイフが握られている。さっき、あのナイフでそのまま刺されていたら一溜まりも無かった。真人が冷静を欠いたお陰で助かった。

ゆらゆらと揺れる様な出で立ちで、前のめりになって突っ込んでくる。それを身を翻し、避けると、真人は思い切り前に倒れた。
素早く立ち上がるものの、その足は震えている。

『コイツ…もう体力が無いな? 』
そう感じ、もう覇気が無い真人の拳から身をかわし、その足にローキックをぶちかました。
表情が、ほんの僅かだが揺らぎ、奉雅は勝利を確信した。


【残り33人】

188サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/13(土) 23:11 ID:u5pkcLPo
No:69


まさか後方で死闘が繰り広げられているとは夢にも思わず、烏丸遙のその大きな瞳は、川澄潤只それだけを見つめていた。
頭で展開されるは殺人方法。迂闊に近づいて火炎放射器で焼くにもいかない。いや、そんなヘマをあの不良が犯す訳が無い。
もっと慎重で、確実に殺す方法―――。

川澄潤が歩き出した。うっかりしていた遙はそれと同時に重い足取りを進めた。
その時、遙の脳裏にひらめきが浮き上がった。
『奴が休憩や睡眠を取っている合間に殺そう』
それがベストだ。起きていたり、活動している時に襲うのはリスクが高い。それに奴はまだどんな武器を持っているのかはここからでは分からない。
もし、拳銃を持っていれば、見つかり次第ドンで終わりだし、ナイフなら近づいた瞬間、ぐさりだ。
何にせよ、簡単に落とせる城砦では無い。ゆっくり、凌ぎ削り、油断した所に敵襲を掛ける。これしか無い。
更に歩調を速めた。




鈍い音がして、真人の身体が真後ろに吹き飛んだ。嗚咽を漏らし、茂みの中から立ち上がった。
立ち上がった瞬間、容赦無い鉄拳が飛んで来て、それも顔面にまともに入った。
口の中に鉄の味がして、口元を指で触る。案の定、歯が無い―――。

ぼーっ、としていると更に怒涛の攻めが来る。真人より高いその身長から繰り出されるパンチやキックに今の状態では手も足も出ない。
それに、いつの間にかしっかり握っていたナイフも何処かへ飛んでいった。無意識に離してしまったのだろうか。
唾を吐き出した。それと同時に鮮血も排出された。


「いい加減倒れろよ!」
奉雅の拳が真人の頬に直撃した。またそれで真人の身体が後ろに傾いた。そのがら空きの腹部にまたパンチを繋げる。
いつしか、何十発もパンチ、キックを続けている為、こちらの体力も消耗してきた。
流石に喧嘩慣れしている。打たれ強い。

このままじゃ埒が明かない。さっさとケリをつけて烏丸遙を追わなければ。
横を見ると、街灯の光を反射しているナイフがあった。恐らく、先程の金城の物だ。
それを奪い取り、腰に固定する。

そして突進した。
「死ねよ!」

真人が猛り狂った様に咆哮した。それで、そのナイフを握っている奉雅の手を掴んだ。
掴んだ瞬間、奉雅の顔が引きつった。
更に叫び声を上げ、その手からナイフを離した。そしてそれを奉雅の腹に目掛けて構えた。

もはや獣と言っても過言でも無い程に我を忘れた真人は、そのナイフを奉雅の硬い腹筋に突き刺した。
真人のより、もっと高い声が奉雅の喉から放たれた。

奉雅が吐血し、その引きつった顔のまま、真人のナイフを持った手を掴んだ。
それに構う事無く、真人はナイフを握った手を無造作に振り回した。無論、ナイフは奉雅の腹筋に突き刺さったままだ。

「この野郎…!」
それだけ漏らすと、がくんと奉雅の身体が崩れ落ちた。
真人はまだ刺さったままのナイフから手を離すと、その場に寝転がり、休息を僅かながら愉しんだ。


憐道奉雅(男子)死亡
【残り32人】

189サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/13(土) 23:11 ID:u5pkcLPo
No:70


烏丸遙(女子)は歩みを進めた。追尾する川澄潤(男子)の歩調が進む事に連れ、自分の歩行速度も増していった。
そろそろ重い火炎放射器にも嫌気がさしてきて、今すぐにでも金繰り捨てるという衝動に駆られた。

それでも、川澄潤の尾行は止めない。
私は教えてやら無ければならない。あんた達不良の所為でどれだけの生徒が苦しめられているのかを。
怯え、苦しみ、悲しむ生徒の気持ちがあんた達に何がわかるというの? 教えてあげる、死を以ってして。



まさか後ろでそこまで恨みを買っているとは知らずに川澄潤は歩調を速めた。握る4インチシェリフのグリップには大量の汗が付着し、非常に持ちにくくなっている。
けど、ポケットなんかに入れていると緊急時に素早く取り出せないので、我慢して握っている。
今まで素手の喧嘩しかした事が無いので、銃の使い方等わかる筈が無い(といっても知らないのが普通なのだが)。
それに、倹約家というか用心深いというかでまだ銃を一度も撃っていない。即ち、敵が出現すれば、すぐにでも使い方の解らない銃で応戦しなければならない。
説明書は英語で書いてあった。当然の如く解読等できる訳が無い。

さっきの豪雨の寒気も引かないまま、冷や汗が沸いてくる。
冷感が身体中を一巡して、変な感じがする。もしかして風邪を催したか…?
そう思った途端にまた嫌な感じがして少し不安を感じた。これで優勝出来るのか、こんな状態で―――。

ぴゅうっ、と突風が吹き、それがまた寒気を引き起こした。
悪寒がして頭がぼーっとしてきた。頭痛がしてきて、頭が割れそうに成ってくる。

やばい、本当に風邪引いたかも。あっ、やべぇ、倒れる―――。

ばさっ、と川澄潤の身体が倒れた。



遙はその瞬間を見逃さなかった。銃声も何もしないのにいきなり倒れた川澄潤の事を不審に思い、一気に近づいた。
近付いてみると、うずくまって痙攣している川澄の姿。
顔が蒼ざめており、今にでも仕留められそうな様子だった。

ふと眼に付いた川澄が手に握っている銃。それを奪い取ろうとしゃがみ込んだ。

川澄の手に手が触れると、その手が拒否反応を起こした。段々腹が立ってきて、腕を踏みつけた。
そして、自由が利かなくなった右手から銃をもぎとった。
すると、川澄の眼が大きく見開かれた。それを不思議に思った遙は、後ろを振り向いた。

次の瞬間、ぱらららららと音波が炸裂して、遙の身体が飛び跳ねた。


【残り32人】

190サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/14(日) 22:01 ID:uf3C5exI
No:71


本当なら、通常通りならこの音が鳴った瞬間にでも烏丸遙は絶命している筈だった。
けど、彼女の執拗なまでの執念だけが残り、その僅かな気力だけで彼女はまだこの世に形を留めていた。
げぼっ、と喉から口に溢れてくる血液を素直に吐き出し、その場に倒れ込んだ。まだ手には川澄潤から奪い取った銃が握られている。
後ろを振り向いた。

そこには少し口元を吊り上げた塩野香織(女子)が黒光りしているUZISMGを握ったまま立っていた。そこからは硝煙が立ち昇っている。
「何だ…、まだ生きてたんだ、あんた」
銃口をこちらに向けた。けれど、塩野香織を川澄潤が思い切り掴んだ事で、その銃口をたちまち真下で倒れ尽くす川澄潤に向けられた。
「うざい」
また、ぱららららららっと小気味の良い軽快なリズムで銃声が鳴ったかと思うと、川澄潤の頭の一瞬にして消滅した。
間近でそれを見た遙は、初めて殺されるという明確な意識を持ち、身体のあちこちから血を噴出しながら後ずさりした。

すいと銃口と塩野の顔が持ち上がり、にやっと微笑んだ。
「やっとあんたの番ね」
塩野は銃口を引き絞ったが、カチッと音がして弾が無い事に気付いた。
コックを下ろし、マガジンを取り外した。その瞬間、遙は立ち上がり、駆け出した。
身体が焼ける様に熱く、今にでもその場に倒れそうだったが、もはや恐怖で自分の生命の限界をも突破してしまったのかも知れない、そのまま走り続けた。


「おいこら、逃げるな」
またあの音がして、逃げる烏丸遙を一気に蜂の巣へと変えた。今度こそ、遙はもう倒れた後、ぴくりとも動かなかった。

UZISMGの重さにうんざりしてそれを下ろした。すると、傍に建ってあった巨大なスピーカーから真夜中なのに凄絶な位にやかましい音楽が聞こえた。
そして、散々、この島に隠れる人間を困惑させた後、あのピーンポーンパーンポーンと音が鳴った。

「ゴクローサン! 見事に君達のクラスは30人に減っちゃってくれました。おめでとう!さぁ、暗いけどゆっくり分校に戻ってきて下さい。私達は貴方達を快く迎えますよ!」
あの甲高い立花賢吾の声がして、塩野香織は一服つきそうな所を止め、無理矢理立ち上がり、分校の方向へとゆっくり歩んでいった。


川澄潤(男子)死亡
烏丸遙(女子)死亡
【残り30人 一次予選終了】

191サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/15(月) 21:54 ID:dBdI2Np2
【第一次予選死亡者】
立花雄吾(男子)
秋宮慧(男子)
蒼火遠音(女子)
藤沢雅(男子)
久保宗鑑(男子)
春田清史(男子)
上杉千裕(男子)
長谷辰文(男子)
北里冷夏(女子)
吉田兼好(男子)
旭叉羅(男子)
木内政文(男子)
緒形幸(女子)
黒井絢女(女子)
吹岡祥子(女子)
杉原朱美(女子)
憐道奉雅(男子)
川澄潤(男子)
烏丸遙(女子)

【残り 男子16人 女子14人】

192瞬坊:2004/11/15(月) 23:10 ID:AoOeD9Lo
男子28→16
女子21→14


やっぱ女子強ええな・・・

193サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/16(火) 22:18 ID:YdHDWUqc
ええっと、やっと一次予選終了しました。
ここまでの応援ありがとうございます。
これからも応援御願いします(重ね重ね

瞬坊様
お久しぶりです。
今回の女子は一癖も二癖もある連中ばかりなので、そこらに期待しといてください。
といっても期待するに値しないストーリーが展開されていくでしょうが(ぉ
これからも宜しく御願いします。

194サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/20(土) 21:11 ID:rqdq.C6g
No:72


教室中に様々な生徒が集結して来た。その様子をクーラーが適宜に掛かっているモニター室で見ていた立花賢吾はソファからゆっくり立ち上がった。
「さて―――行くか」


神谷塁(男子)と三杉龍一(男子)はその体力的にも精神的にもぼろぼろの身体を引き摺り、木造の分校の前に差し掛かった。
そこには兵士が眠気を感じさせない様子で自動小銃を両手で握ったまま門番の如く立ちはだかっていた。
兵士が2人を睨みつけ、言葉を発する。
「持っている武器は全て押収だ、よこせ」
2人は顔を見合わせると、なくなく持っていたハンドガン二丁を兵士に手渡した。兵士はそれを大きなゴミ袋の様な物に入れると、さっさと行け、とでも言っている様な視線で更に眼光をきつくした。

「そんなに睨むなよ」
一言ポツリと呟くと、2人は分校の中へ立ち入った。


中へ入ると、既に28名の生徒が椅子に座っていた。どの生徒も心身疲れ果てた様子でぐったりとしていた。見た所、女子と男子の数が似ている。塁達が最後の生徒だったらしい。
教卓には立花賢吾、その横には5人の兵士が立っていた。
立花賢吾は2人を見て笑顔で迎えた。「おぉ、ご苦労。適当な席に座ってくれよ」

2人が座るのを見て、立花を一息つくと、ゆっくりと発言した。
「よぉし、皆お疲れ様」
舐め回す様に1人1人の顔をじっくり眼で追う立花に薄気味悪さを覚えた塁は、思わずその目線を下に向けた。立花が大きく息を吸った。

「突然だが、門番の人言ってたよなぁ」
いきなりの言葉が耳に届いて、少し驚いた。視線を机では無く、立花賢吾の『胸』あたりに移した。
「はい、何て言っていましたか、男子、神谷塁君」

急に指名されて、クラス全員、兵士、それと立花の視線が一斉に塁に向けられた。口の中で言葉がもつれて上手く言えない。
「え…、それは―――」
「あぁ、もういいです。それじゃ、次、三杉龍一君」
「俺? 」
眼をきょとんとさせ、同じく三杉龍一も戸惑った。
「はい、君達2人、大分遅かったから先生から特別にバツゲームです。早く答えて下さい」

「えっと・・・・武器は置いていけだったかな…? 」
元々記憶力の無い奴だったから心配だったが、その心配は要らなかった。三杉が言えたのを聞いて、何故か塁も安心してしまった。

「正解です。けど――なのになんで今銃を持っているんですかね―――男子、風祭達樹ィ! 」
途中で変調した立花の怒鳴り声が響き、またまた全員の視線が今度は風祭達樹(男子)に向けられた。

達樹は舌打ちをすると、先程からポケットの中でずっと握っていた44マグナムを取り出し、それを立花目掛けて撃った。


【残り30人】

195:2004/11/20(土) 23:05 ID:yvtwam2Q
立花の口調が変わる所で思わずビビッてしまった漏れは小心者だろうか・・・・・

196サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/23(火) 18:59 ID:EDT3YD3o
利様>どうも、ボクです(死ね
   遅れてすみません。立花の口調が変わる所は表現が難しく大変でした(日記と似た言い方
   えぇっと、これからも更新し続けるので、飽きずに長い目で見てて下さい。

197サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/03(金) 21:59 ID:sRBLwnJM
No:73


ぱん、と物凄い炸裂音が響き、立花賢吾の身体が後ろの黒板に叩き付けられた。それと同時に、風祭達樹は死を覚悟し、眼を瞑った。
兵士が一斉に自動小銃を達樹に向けた。そして、どの兵士もすぐに引き金に指を掛けた。

「ちょーっと待った! ストップストップやめろやめろ! 」
突然、立花の声が響き、兵士達は我に返った。すぐさま叩き付けられた立花の方へ向く。
「いいよいいよ、どうせ俺には怪我1つついてないから」
そう言って、黒板にもたれた重心を起き上がらせると、自分の腕で自分のジャージをぐっとたくし上げた。
そこには黒光りする如何にも分厚そうな鉄板らしきものが装着しており、そこに1つの弾痕が埋め込まれていた。
立花が達樹の方を向き、にやっと笑った。

「どうだ、凄いと思わないか、風祭達樹君。我が大日本帝国のハイテクノロジーは。ほら、君の持ってるの44マグナムだろ、それ貫通しないんだよ、どう? 凄いと思わない? 」
その誇らしげな表情を見据えた達樹は、腸が煮えくり返る思いがした。
『うざってぇ、中年ジジイが―――』

「これはなぁ、まだ日本では天皇陛下と私しかまだ持ってないんだよ。どうだい、凄いだろ。羨ましいか? 全世界に2つだけ。そんな物先生持ってるんだぞ、先生誇らしいなぁ」
更に笑んでいる状態が長く続き、それを見ているだけで生徒の精神力が低下して言った。

「それとなぁ、これからもう2度とこんな事すんなよ。先生達、君の事期待してるんだからな。だから、殺さずに生かしてやったんだぞ、感謝しろよ」
言い終わると同時に、達樹の元へ兵士が歩んでいき、まだ硝煙が立ち昇る44マグナムを無理矢理奪い取った。
兵士が元の配置に付き終わると、立花はまたあの大声を張り上げた。

「よぉし! 今から故郷の日本へ帰りまーす! 二次予選の説明云々は後程説明しまぁす。それでは、アディオス! 」
早口で言い終わると、立花諸共、兵士も一気に教室の外へ早足で出て行った。
すると、空調から白い煙幕が噴出され、それが一気に教室中に蔓延した。生徒達は、その煙幕を吸ってしまい、卒倒する。
全員が倒れたのを確認した後、また兵士が今度はガスマスクを装着したまま教室に突入し、一気に2人位を軽々かかげ上げると、急いで日本へ向かう飛行機の客室に無作為に放り投げた。

全員を搭載し終わると、飛行機は轟音を立て、皆の故郷である日本へと出発した。
その頃には、朝日が立ち昇り、操縦士の視界を煌かせた。


【残り30人】

198サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/05(日) 18:49 ID:N0dl/YWU
No:74


耳元で誰かが囁いている。五月蝿い。疲れてんだよ。もう少しこのままで居させろ、馬鹿。
「起きて下さーい!」
その囁きが一瞬間に爆音へと化した。その声を聞いた風祭達樹(男子)はがばっと顔を上げた。そして、視界に立花賢吾の顔がでかでかと映されていた事に驚愕した。

小さな悲鳴を上げると、立花が不自然に笑っている顔が確認できた。達樹が起きるのを確認すると、すたすた歩いていってしまった。
「相変わらず五月蝿いしうざったいオヤジだな」
思わず呟いてしまった。

眼を思い切り見開くと、周りにはあの生き残った残り29名の不運な生徒が無造作に席に座っていた。しかし、この間と違うのは、そこが教室では無く、まだ飛行機の中だと云う事。しかも狭い。エコノミーかよ。
すると、上のスピーカーから大音量で春の清清しい朝を思わせる音楽が流れてきた。それを聞いて、ほぼ全ての生徒が飛び起きた。
「おはようございまーす! 皆一日中眠ってたなー。そんじゃ寝起きに悪いけどさっさと下に降りて来てくんないかなぁ」

重々しい手つきでシートベルトを外すと、ようやく横には三杉龍一(男子)がぐーぐー眠っているのが目に付いた。
立ち上がり、座席から抜けるに際しその三杉龍一の頭をこづいた。


機内から降りると、軽く背伸びをし、眠気を覚ました。前方に兵士が大声を張り上げて両腕を振っていた。その怒声に似た声に嫌気をも感じたが、なくなくそこに向かった。
兵士の前に生徒が何箇所も抜けかけた集会隊型を取ると、足踏みの命令を受け兵士についていった。どの生徒もまだ眠そうだ。

連れられた場所はやっぱり分校だった。空港から直結している分校。ブラジルのときと同じ。構造も、中身も、兵士の配置も、全く同じ。そして、あの立花賢吾の声も同じ。
「よっしゃー! そんじゃさっそくだけど二次選考の指示を出しまーす。心して聞けよ、諸君。ルールは同じです。単純に殺し合うだけです。けど、一次選考と違うのは、『禁止地区』がある事でーす。ここ重要だぞ、テスト出るぞ!…って違うな」
結局、天然で間違えたのか意図的に間違えたのかわからないまま、立花賢吾は1人で黙々と説明を続けていった。

「今から戦う東京23区の中で、放送で禁止地区なるものを言いまーす。例えば『11時から新宿区と杉並区が禁止になりまーす』と放送で流れたとします」
立花の視線がある1人の男に向けられた。紛れも無い三杉龍一。まだ眠いのか、肘を突いて下を向いている。
思い切り教卓が音を出し、表面が跳ねた。それに少し遅れて、三杉の顔もバネで釣られた様に跳ね上がった。
「……先生調子狂うなぁ。それで、えーっと何だったっけ。あ、そうそう、放送が鳴ったら急いでそこから脱出して下さい。そうじゃないと首輪爆発しますから。はい、そんだけね」
調子が狂ってしまった所為なのか、本当ならもっと驚くべき説明だったのだが、もう驚く暇も無かった。


「では、もうさっそくスタートしましょうか。それじゃ、さっきから気になっている三杉龍一君、どうぞ」
ディパックを放り投げられた三杉は、まだ眠そうに頭を掻いて教室から出て行った。

「よーし、んじゃどんどん行こうかぁ」

【残り30人】

199サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/08(水) 21:08 ID:VJ6fYikM
No:75


分校を出発し、暫く歩いていると『新宿区』と云う政府手作りの看板が立てられていた。東京になんて来た時は勿論、ましてや23区なんて全く何処がどうなっているのかディパックに内臓されていた地図を見ないと解らない神谷塁(男子)は丁度看板の前で足を止めた。
早速、ディパックの中から地図を取り出しそれを隈なく見調べた。スクランブル交差点の真ん中で立ち止まって地図を眺めている神谷塁程、通行人に邪魔な物は無かった。
「ったく、道路のまん前で危ねぇな」等の小言が聞こえて来るので、場所を移動した。

人通りの少ない路地に差し掛かり、そこで止まり、また地図を見直した。
どこの区がどこで繋がっていて、どこからどう行くかを簡潔に頭に叩き込み、ディパックから、支給武器のコルト・ガバメントを取り出した。もう銃器の使い方は慣れた。これまで散々撃ってきたからもう撃ち方は身体に染み付いた。
例の如く、マガジンをポケット、銃器を隠さず、そのまま握ったまま路地から噎せ返るほどの熱気が左右するあのスクランブル交差点に戻った。

すると、上方から大音量で聞き慣れた男の声が木霊した。
「こんにちはーっ! 今年のBR担当教官の立花賢吾と申しまーす! どうぞ宜しくー」
思わず立ち止まって聞き入っていた。それは、神谷塁だけではない、ほぼ新宿を交差する大方の人間も同じだった。
「ええっと、テレビとかではまだ何も言ってなかったけど、今年のBR法の会場はここでーす! 今から、首輪をした子供達がここで殺し合いを繰り広げるので、皆気を付けてなぁー! 」

一瞬の静寂に包まれていた新宿が一気に怒号と罵声の飛び散り合いとなり、そして、首輪をした神谷塁に一斉に大勢の視線が注がれた。
放送の続きが鳴ると、自分を向いていた眼が高層ビルに取り付けられた巨大なスピーカーを向いた。
「それで、危険だから皆は逃げて欲しいんだなー。先生、これでも命大切にするから。けど、今回は市街地のデータを政府は欲していまーす。なので、貴方達はもう逃げられませーん。逃げようとすると、各区から他市や他県に移る箇所に定位している軍服の人たちに蜂の巣にされちゃいまーす。そこんとこ宜しくぅ! 」
怒号の大きさが増し、ざわめきが広がった。

『ここに居たらどうなるか解らない―――』
直感的にそう悟った塁は、人の少ない箇所へ逃げ込もうとした―――が。
眼の前に既にYシャツの半分以上を血に染めた金城真人(男子)が薄暗い不気味な笑みのまま突っ立っていたから、その方向は人気の多い新宿の中心地へと方向転換した。

ぱららららららららっ、と金城の所持するイングラムM11が軽快なリズムを生み出すと、辺りの人間が一気に倒れた。

幾つもの悲鳴が空へと昇り、塁は人を居るが居ぬ様にしながらもう無心で走った。後ろからあの不気味な音が聞こえる。それを無視、いや消し去る様な感じで振り切り、別の箇所へと移った。



神谷塁に逃げられた金城真人は、その場でマガジンの交換を行った。
「マシンガンってのは弾が無くなるのが早ぇな」
その無防備な背後を狙い、後ろから誰かが突っ走ってきた。
「こんなクソガキ生かしちゃおけねぇ! 俺が殺してやる! 」

ある通行人が突っ走ってきた。その拳は硬く握り締められ、今にも金城の小さな頭を砕かんばかりの勢いで突っ込んできた。金城は、振り向きざまにナイフを抜き出すと、その通行人の腹をえぐった。
ごくごく一般的な通行人は小さな呻き声を上げると、その場に倒れた。
そして、通行人を睨み付けると、イングラムを握ったまま、歩き出した。


通行人は一斉に高層ビルの中に駆け込んだ。


【残り30人】

200サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/13(月) 21:18 ID:Co3i23fA
No:76


新宿で銃の暴発した音が響き、思わず三谷捺(女子)はその方向へ向かった。
大田区に設置された分校からすぐさま抜け出し、途方も無く先へ進んだ挙句、一番人ごみの多い所へ巡り合ってしまった。
人が蠢く中、必死にその人を掻き分けて音のした方向へ進む。ちょうど人ごみが大きくなっている地点に辿り着くとそこには幾つもの死体が転がっていた。
もう死と隣り合わせの環境に慣れてしまったのか、別段絶叫したりとか、吐き気を催すという事は無かった。
それでも、さっきの放送で一般市民も巻き添えになると云う事も知らされて、それに対して胸が痛んだ。

頭部や腹部に風穴が開いている一般人の死体をやりきれない思い出見つめる。
胸が痛む。嗚呼、無慈悲な神よ。何故、彼らを巻き添えにしてしまったのですか。彼らの親、彼らの友人、彼らの婚約者、そして彼らの人生。
何故、貴方はそんなに無情なのでしょうか。どうして無関係の無い者を死に誘い入れてしまうのですか? そして、何故私達をこの理不尽なゲームに参加させたのでしょうか!

そんな事を呆然と立ち尽くしたまま考えている、後方から聞き慣れない声が飛んで来た。
「こいつも首輪をしているぞ―――!」
『首輪』という言葉に敏感な反応を示し、後ろでそう叫んだ男を悲しそうな瞳で睨んだ。まるで『この野郎!』とでも言わんばかりに。

一瞬たじろいだ男であったが、捺から眼をそらすと捺には濁った感じに聞こえる声色で続けた。
「おーい、皆! 俺らの間で犠牲者を出すより、こいつらをさっさと殺してこのゲームを早く終わらせればいいんだよ! そうだろ! 」

その理不尽且つ正論的な言動に困惑を示すと、その男がそれだけ言ってひょいと人ごみの中に消えていく姿が窺えた。
段々、その言動で人がまるで操られている様に見える。誰かが飛び掛ると同時にこの近くに居る人間全てが襲い掛かってきそうな感じがして。
今、自分の周りに居る人間は優しさが無い。只、自分が死にたくなくて、自分が生き残りたい為には何でもする連中なのだ。

「何で…? 何で…?」
どこへとも行かない哀しみが捺の体内に溢れ出し、思わずディパックの中から支給武器のナイフを取り出し、それを天に向けて掲げ上げると絶叫した。

「来るなぁぁぁぁぁぁぁっ!」
直後、一気に『人間』が襲い掛かってきた。憐れな瞳を虚ろにさせたその人間は拳を振り上げ、捺の頭部目掛けて振り下ろす。死を覚悟し、しゃがみ込んで頭を手で押さえた。
その瞬間、辺りが一瞬、しんとなりすぐにぱん、ぱん、ぱん、ぱん、と連続して乾いた音が響き渡った。

上の方で様々な嗚咽が聴こえる。困窮した様子で立ち上がった。周りにはもう襲い掛かってきた人間は居なかった。どこへ消えたのかと下を向くと、案の定その場で突っ伏していた。
自分の周囲5m位、人の波が無かった。まるで自分を中心に『十戒』のワンシーンが起こったかの様に。

風がぴゅうと吹き、後ろへ身体が傾くと誰かの肩に自分の頭がぶつかった。
軽く悲鳴をあげると、後ろに居るのが三杉龍一(男子)というのが判明した。右手にはしっかりグロック18が握られていた。
「よぉ、怪我ねぇか」

その一言で捺の心の鼓動は急激に加速していった。その頼もしい姿に感銘を受けたのである。そして、少し遅れて「うん・・・」と答えた。

「そんじゃ行こうか。ここは危ねぇからな。誰が音聞き付けて忍び込んでくっかわかんねぇかんな」
グロックの銃身をあげ、それを構えたまま全身していく。その後ろをみすぼらしい小判鮫の様な形で付いていった。
龍一が一歩一歩踏み締める度に周りの『人間』の顔が怒りや困惑で多々変化し、捺の背中を冷や汗で覆った。
けれども、龍一が歩く毎に矢張り一歩一歩退行していき、あっという間に新宿に人の影はまばらになった。


【残り30人】

201サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/15(水) 22:14 ID:nQ3Oy8cc
No:77


ひとまず、新宿という危険度トップランクのエリアを逃れた三杉龍一と三谷捺は禁止エリアである渋谷区を避け、中野区から杉並区へと移った。
杉並区と武蔵野市の境には政府のバリケードが厳戒態勢で敷かれており、その鉄格子の隙間からこちらを覗く傍観者に捺は怒りを覚えた。中には自分達を指差す連中も居たのでそれで怒りが増幅した。
「何ジロジロ見てんのよ…私だって好きでこんな所に居る訳じゃ無いのに・・・・・・」
苦嘆を漏らすと、龍一が「ほっとけほっとけ」とこちらもまるで人事の様な軽い口調で言った。そして捺は、そのほのぼのとした雰囲気にいつしかのめり込んでる事に今気付いた。

終始穏やかなムードが漂い、そのムードから引き剥がす様に龍一達から少し離れてこちらを見据える一般人が居る事に気付いた。まるで檻に放置された化け物を恐ろしげに見つめる様な感じで。
躊躇いながらも捺は堪っている怒りをその連中に発散した。
「どっか行ってよ! 」
渾身の勢いで怒鳴りつけると、その連中はこちらを蔑んだ眼で一瞥すると歩いていってしまった。
捺は自分を哀れみの思いで見つめる眼に哀しみを覚えると、その場でうずくまる。止めようと思っても止められない涙が目頭から一気に溢れ出て来た。
「何で…私達がこんな眼に・・・」
辺りでコンクリートの隙間から飛び出た流砂がうずくまる捺の身体に吹き付ける。それで更に慕情の念が襲い掛かってきて、悲しみが深まった。そして、声を出して泣き出した。

うずくまりながら、泣きながら、悲しみながら、捺はこの理不尽なゲームに憤怒を感じ、まるで駄々っ子の様に更に激しく泣いた。
途中、自分の髪がふさっ、と誰かの指に上げられる感じがした。びくっとしながらも大体の手の大きさで三杉龍一と感じた。
横を見ると、龍一もしゃがみ込んでいる。そして、じっと捺の顔を見つめている。そして、大きな溜息を吐いた。

「なぁ、お前の髪の毛ってサラサラでいいよなぁ」
唐突に発せられた言葉。捺はここで比喩を使うのならば、どう考えようとも『眼が点になる」だと思いついた。

――――えっ? 私今悲しんでるんだけど・・・なんで今そんな事聞くの・・・?

「いやさ、俺の髪ってちょい天パぽいじゃん。だからさ、そのお前の髪の毛がサラサラしてて羨ましいな、と、そんだけね」
龍一が照れ隠しも何もせずにそれだけさらっと言うと、「んじゃ、行こうか。お前の大声で人が集まってきそうだからな」と促した。
立ち上がると、捺は下を向いた。そして、顔を手に抑えた。はたから見ると、如何にも泣いている様に見えたので、流石の龍一も「おい! 冗談冗談、いくら声が大きいからってそんなに聴こえる訳ねぇよな! な! 」

「違う・・・泣いてなんかないって・・・只、あなたのその素っ頓狂な性格と人格に笑えてきて・・・・・・」
必死で笑いを堪えながらも緒が切れ、とうとう捺は心機一転笑い出してしまった。杉並区に笑い声が響き、傍でバリケードを見張っている兵士でさえも疑問を問い掛けた程である。

何とも微妙な感じになってしまった龍一は「何だコイツ・・・」と半ば真面目に感想を漏らした。すると捺が、
「馬鹿! 貴方こそ何なのよ!! いきなりそんな事言い出して!! 緊張感てものが無いの!? 」
「そうか・・・? 俺はお前の方が泣いたり笑ったり可笑しい奴だと思うけどなぁ」
そのマイペースな口調に嵌まり込んできた捺は、もう自分がこいつの虜になっていると感じた。『癒し系』―――そんな感じ。

「ねぇ・・・何か不自然で怖くない・・・? 」
龍一との会話も減っていたので、この円満な雰囲気を保つ為にも、何か話しを続けようと努力した。龍一が捺の顔を見下ろした。
「いんや、別に何とも。それよりこの方がかえって動き易いよ。後は試合終了の放送が鳴るか仲間探しでもしてりゃいいんじゃ無いの? 」
「あぁ、そう・・・」
あまりにもまともな意見を発したので、この緊張感で脳がイカれたのでは無いかと思った位だ。それでも、決して龍一はイングラムM11を離さない―――それは捺のナイフも同じだが。
何と云うか、おとぼけな面があるのにやる事はちゃんとしている。―――このタイプは・・・。
さっきの会話も結局止まってしまったので、もう半ば我武者羅に聞いてみた。

「もしかして貴方O型・・・? 」
「うんにゃ、B型」
「あ、そう・・・・・・」

一連のやりとりが終わった。さっきからこう云う状態だ。何か言っても一言で返って来て終わる。
「退屈・・・」
ポツリと呟くと、早足に歩く龍一の所へ走っていった。


【残り30人】

202ペンギン:2004/12/16(木) 01:41 ID:HncX8piQ
ごぶさたです。ペンギンです。家のPCのキーボード壊れ感想かけませんでした。(今もた行はうてないので貼りです。w)
1Rは神谷君の相方?だった。三杉君は不思議な人ですねw
BRに参加してと思えない。でもそれが逆に怖い存在(悪者じゃないような気がするが)ですw
てか2Rかなり面白そうですね。普通の人が少なからず生徒に影響を及ぼしそうな予感
それが吉とでるか凶とでるか・・・・
毎回楽しみにしてます。がんばってくださいw

203サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/16(木) 19:32 ID:/zmv05qc
ペンギン様>どうも〜毎回微妙な更新してますサインです(´∀`)
      うちのPCは正常な様で助かってます。壊れたらキツいかも。
      えぇっと、三杉に時には強く、時には『癒し系』な感じでいかせてもらいますw
      嗚呼、うちの学校にもこんなのが欲しい…(近日の日記参照
      何はともあれこれからも応援宜しく御願いします。ありがとうございました!

204BR見習読者 Lv4:2004/12/20(月) 19:23 ID:LQXS6Xjw
いきなりですが、最高に面白いです。
聞きたいことがあります。
いつこの続きは始まるんですか???

205:2004/12/20(月) 20:39 ID:ujPSL0.o
一話一話がとても楽しく、続きが気になります♪
引き続き完結までがんばってください^^
ところでサインさんの日記とはどこのサイトにあるのですか??

206サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/20(月) 22:29 ID:llAZXoG.
BR見習読者様>面白いと言っていただけて幸いです。なるべく近日中に更新しようと思っております。
       どうでもいいですけど明日、雪が降る様な気配です。どうでもいいですね(ぇー
       引き続き応援宜しく御願いします。

乱様>http://diarynote.jp/d/55307/ 日記のアドです。
   上でも言ってる通り、近日中に更新したいと思います。
   これからも応援宜しく御願いします。

207サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/21(火) 23:08 ID:CJl6wEd6
No:78,5


眼の前の人間がひしめき有っている。それは単に聴こえた銃声の所為だけでは無く、漸くBRと云う物の脅威が伝わったからだ。残念な事にこの東京23区に取り残されてしまった何万人の人間は今頃は非難を求めて巨大なビルにでも殺到している頃だ。
それを今は全くありがたいとは思わない木津優子(女子)はいつでも手中にあるデリンジャーを撃てる体勢にあった。
銃は見えない様に温暖化が激しい都心でも長袖のセーラー服を纏っている。滴り落ちる汗にうんざりしながらも我慢する。袖の中に掌をくるませ、その中でしっかり銃を握っている。
彼女は今、『人気(ひとけ)の無さそうな北区』に留まっていた。あまり23区でも話題に成らないこの地には当然他の人間も居ないし、生徒も来ないだろうと思っていた。
しかし、現実はそうもいかず、皆それぞれが優子と同じ観念を抱き、区民が一気に『人気の無さそうな北区』に雪崩れ込んで来てしまったのである。

ぶっきら棒な『北区』と云う看板が見えた時は、もう安堵の念も何も沸かなかった。人間が有象無象にたむろし、大声が聞こえる。泣き叫ぶ奴も居れば、周りの人間を統率しようと努力するものも居る。―――大抵は無力化するが。
優子は後戻りをしようとした。こんな所に居たんでは、何処から奇襲を喰らうか知ったものじゃない。危険だ。早く別の場所へ行きたい。

元々、優子は人だかりが嫌いな人種だった。其れは優子の学校以外に外出を殆どしないと云う理由にも繋がっていた。昔から1人で部屋でパソコンをいじっている時間が何よりも幸せに感じた。友人付き合いもほぼ無いので、主に行き当たりばったりの人間とチャットをしたり、自分のHPを開いたりだ。そのHPに載せられている写真、自分の性格、そして自分のありのままは全く違うもので、写真は別のクラスの女子のを使ったり、性格等の表記も全く違った。ありのままの自分をそのまま表すと本当に最悪なものだと云う事に気付いているからだ。だから、
優子は他人にも滅多に、いや全く自分の本性等を曝け出さない。自分の事は隠密に、外に漏らさない。私は休み時間も放課後も1人で読書をしている女の子でいい。それ以外の何でもない、と自分、いや、周りに言い聞かせたい。
そんな優子を面白く思ってない連中も当然の如く出現してきた。他のクラスの男子がよくよく優子を陰険な女と称し『いじめ』を仕掛けている。それは、一般的ないじめ以下の軽いものだったが、優子にそれは耐え切れなかった。昔から親の過保護で育ってきた故か、社会を知らない優子はそれだけで不登校に成ってしまった。
いじめていた男子は別段、そんな事気にも留めていなかったが、その思いは優子が休んだ翌日に一変した。
帰ってきたいじめグループの1人は、自分の母親が机に寄り添って泣いている姿を発見した。その手に握られている紙―――葉書だ。ひっつかむと、それを見て愕然とした。本来、真っ白な葉書は真っ赤に染められており、そこには『死』と大きく描かれていた。その周りにも『死』『死』『死』―――と。しかも1つだけではなかった。その周り、よく見てみるとまだまだ沢山の葉書が無造作に落ちていた。そして、どれもが自分を貶す内容。
毎日大量に送られてきた葉書を見る度に、そのいじめグループの男子は悩まされ、とうとうノイローゼに成ってしまった。それは、その男子1人だけではなく、他のいじめグループの男子全てでもあった。
優子は、毎日自分をいじめてきた男子生徒達が休校する姿を見てほくそ笑んでいた。それは某巨大掲示板に自分が住所と密かに撮った写真を掲示したからだ。無論、いじめグループの男子達のものである。
『こいつを殺してくれ』『こいつの家に不幸の葉書を!』等の追記を述べて―――――。別に罪悪感は無い。あいつらが悪いのだから。

208サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/21(火) 23:09 ID:CJl6wEd6
No:78


別の場所へ行こうとした瞬間、すぐに傍にあったマンションの駐輪所へと身を潜めた。潜むと、眼だけをこっそりとプレハブの隙間から出した。
そこには、何処か堂々として歩いている霧雨時耶(男子)を見つけたからだ。一気に身が震えた。コイツには何があっても関わらない方が良い、と直感的に感じた。
そして、何を思ったか北区の中へ歩みを進めて行った。何をしているのかと疑問を覚えた。何故、あの様な人だかりへ突入するのか解らない。何か大切なものでもあるのか?

一斉にスキンヘッドの霧雨時耶に区民の視線が注がれた。誰もがヤクザが無理矢理避難場所を確保しに来たのかと思っていた事だろう。しかし、その男は首輪をつけていた。それに、共通の学生服。
BR参加者と皆が気付くと、現状況ではヤクザよりも数倍恐ろしい奴がウロウロしていると云う事を悟った。
そそくさと時耶の周りから離れる。

次の瞬間、時耶の頭に何かがぶつかった。空き缶だった。丁度そのとき、空き缶が軽快な音を鳴らした。そしてその時、時耶の後方、優子の後方から若者らしき人間の笑い声が聞こえた。
時耶は後ろを振り向くと手から何かを放り投げた。笑い声がふっと消えた。
ざくっ、と本人しか解らない自分の額を刃物が貫かれる音が聞こえた。それは、北区の人間のざわめきでほぼ掻き消されていた。

笑っていた若者がその場に倒れると、ざわめきは北区の人間のレクイエムへと変わった。
優子はもうじっとしていられなかった。

【残り30人】

209サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/21(火) 23:10 ID:CJl6wEd6
ようやく更新しました(汗
長かったんで二分割にしました。題名ミスったんですがそこはご愛嬌(爆

210サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/27(月) 21:31 ID:W2b7uXHA
No:79


見つかったら殺される―――! 冷や汗が沸いてくる。呼吸が激しくなってくる。息を殺し、鼓動の音さえ漏れそうな気がして、優子はプレハブの隅でかたかたと生まれたての子羊の様な感じで震えている。優子の小柄な身体が何とか収まる幅だ。少しでも動いて衣服が見えようものなら―――。
以前としてレクイエムは鳴り終わらない。絶叫や異物を吐瀉する呻き声等がまだあっちの方、つまり霧雨時耶が居るであろう方向から聞こえる。
彼は尋常ではない。前々から思っていた事だったが、その考えが漸く今解せた。頭の中にあったもやもやとしたものが今はっきりしたものになり、一気に脳内を駆け巡る。あの男、『霧雨時耶は危険だ』と。

学校生活だけを見ていた優子は普段での不良の連中を知らない。学校では授業に来なかったり抜け出すだけで別にそれ自体を崩壊する気は無いように思われた。しかし、それは只、本気を出せば全てがまかり通る彼らの権力なら非常に安易なものでだけであったが、それは面倒でしなかっただけであった。
それは、学校中の、いや『木津優子』以外の連中なら大概は知っていた。何故なら部活道に参加していないのが3年6組『木津優子』だけであったからだ。

基本的に夕方遅くまで行われている部活に参加しない優子は大抵学校の終わった3時、遅くても4時には帰宅していた。それだけで、彼ら不良の連中が活動する夕方遅くに掛けての間を全く知らないからだ。

他の生徒は夕方の帰り際に木下聖夜や川澄潤等が他校の生徒と喧嘩を繰り広げている姿は幾度も見た時がある。けど、優子にはそれが無い。
それを目撃していない生徒でも大方、明くる日に友人にでもその事を聞き、恐怖からの溜息を漏らすのだが、友人関係は狭く、浅い優子にはその話題が耳に届く筈も無い。

本来なら、北区に『霧雨時耶』と云う物体が存在していると解った瞬間にでもすぐに後ろを向いてでも、どれだけ恥態を晒そうとも真っ先に逃げなければ成らなかったのだ。しかし、優子はそれを気付くのが遅すぎた。レクイエムを聞くまでは―――。

鼓動の間隔が短くなっている。胸に手を当て、鼓動を抑えようとするが全く抑えられない。むしろ、それで速さが増している様な気もした。沸いてくる唾液を汚らしくも飲み込む。ねっとりと嫌な感覚が喉仏に残響する。
それは霧雨時耶が動き出すと、段々和らいでいく症状ばかりであった。時耶は住民を一瞥すると後ろ様に歩き出した。そして、それに石を投げつける奴は勿論、それを視界に入れる奴さえ居なくなった。―――優子以外は。
一挙一動を見た。見たくないものも、何故か見てしまう。見ようとする事で自分の頭半分がプレハブからはみ出していようとも。

早く何処かへ行ってくれ―――。ひたすら、手を合わせ、祈った。時耶は少し動くと止まり、また少し動くと止まり、と云う動作を繰り返しながら北区の出入り口から消えようとしていた。その遅い動作に苛々を感じながらも、一方では早く失せてくれと祈願していた。

木津優子がプレハブの隅でうずくまって下を向いて祈っている姿は、その真後ろの柵によじ登っていた矢田伊織(女子)にもしっかり確認できた。そして、薄笑いを浮かべた。
気付かれない様にスカートのポケットから支給武器の先端に毒薬のついた吹き矢の矢を取り出す。それを身体を伸ばして優子のつむじ近くに持ってくる。そして、それを振りかざした。

その時、丁度優子が祈りの格好を止め、気配がしたのか後ろを向いた。そこには矢田伊織。
見つかった伊織は小さく舌打ちをすると矢を掌にくるめると、いつものブリっ子キャラを装い
『あっれー! 木津さんじゃーん! 』と大声を張り上げた。

それを聞いた優子は飛び上がり、真っ先に伊織のよじ登っていた柵を自分もよじ登ろうとした。だって、後ろには―――!
その頃にはもう時耶は駆け出していた。そしてプレハブの隅に居る2人に眼をつけた。
優子と共に時耶に気付いた伊織は真っ先に逃げ出した。そして、後にはよじ登るの遅れた優子だけになった。優子が絶叫すると同時に時耶は手元に隠してあったナイフを投げ飛ばした。

優子の額に物凄い衝撃が伝わり、柵を握った手を離し、その場に倒れ落ちた。その頃には丁度、優子の生命の灯火は既に吹き消されていた。
それを見た北区の人間がまた奇声を発し、レクイエムは再唱された。


木津優子(女子)死亡
【残り29人】

211サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/30(木) 10:21 ID:sp.ouVyo
No:80


矢田伊織は全速力で駆けている。幸い、柵の周りを通ってくるには時間が掛かる。その間にあの悪魔―――霧雨時耶の魔手を払い除けなければ。
一心不乱に、それこそ獲物を追うチーターの様に走る。違うのは、追う立場では無く、追われる立場だという事だが。
見つかったら何の抵抗も出来ずに死んでしまうかも知れない。自分の武器が吹き矢と云う故だ。あっちはもう手投げナイフと解っているが、それでも太刀打ちは不可能、絶対に見つかってはならない。

走っている間に、伊織は自分の記憶を回想する時間ができた。ブリッ子として過ごし、周りを油断させ、男から金を毟り取る。男なんて簡単に騙す事が出来る。その考えが幼い伊織の中枢を支配していた。
しかし、ある日にその考えは完全に遮断されてしまった。
例の如く、伊織はまた男から金を貪ろうとしていた。もう何人ともわからない仮の彼氏といつもの様にブリッ子を装い遊び、いつもの様に食事をし、いつもの様に金を騙し取ろうとした。
突然、仮の彼氏が『夜景でも見に行こうか』と言い出した。飯も食ったし遊んだ。もう満足だと思っていた伊織だが、金遣いの荒いこの仮の彼氏をこれからのカモにしようと目論み、仕方なく付いて行った。それで、夜景が綺麗な橋の上でバックを剥ぎ取られ、海に落とされた。
元々運動音痴で水泳等になるといつも保健室に逃げ込んだ伊織は、なお更その衣服の重みで満足に泳げず、あと一歩でこの世での終わりを告げるところだった。何とか、執念で橋の柱にしがみつき、男が去るのを待った。
そして、その翌日、いや、陸に上がった瞬間、伊織は別の仮の彼氏に電話をした。『あいつを殺してくれ―――』と。それで、結局金遣いの荒い仮の彼氏は見知らぬ男に鞄を奪われ、ビルの上から落下すると云う悪夢を見た。
それはすぐに学校中の噂と化し、不良連中同様、矢田伊織にはまるで人がくっ付かなくなっていった。それを、表面ではブリッ子然り表さない伊織だったが、心の中では病んでいた。

北区から、元の方向へ戻る。元の場所とは足立区。その間を渡す鹿浜橋を一気に抜けようとしたまさにその時、伊織はその脚が完全に止まってしまった。
眼前に佇む、煙草を咥えた女。そして、それが塩野香織(女子)と云う事を理解するには数瞬も掛からなかった。伊織は急いで真逆の方向へ戻ろうとした。

後方から何か飛来してきた。駆け出そうとした伊織の足元に黒い塊が転がり、すぐに塩野香織の投擲物だと予測出来た。そして、それが手榴弾と云う事も―――。
急速に動悸が高まっていくのが解り、一気に屈伸してそれを拾い上げる。すぐさま後ろ、塩野香織が居る方向へと鸚鵡返しの如く投げようとした。けど、後ろ、鹿浜橋の方にはもう誰も佇んでは居なかった。
その疑問、只単に香織は自分が爆風に巻き込まれない様に物陰に隠れただけであったが、焦っていた伊織は何故香織が居ないのだろうと云う単純な事を一瞬考えてしまった事で、投げるのが遅れた。

そして、伊織は見た。黒い塊から莫大な光が漏れ、それが手元でハムスターの様にごろごろ動き回るのを。
辺りに爆音が響き渡り、火炎が巻き起こった。その熱風で近くに居た人間が怒声を撒き散らしその場でごろごろ転げまわった。伊織は―――その身体の各部分が千切れ飛んでも、まだ『胴体』と呼ばれる部分が残っており、それはまるでデジャブの様に荒川へと堕ちて行った。衣服が弾け飛んだ所為でいささか泳ぎ易くなったものの、その頃にはとっくに矢田伊織の生命は爆風によって吹き飛んでいた。


塩野香織はビルの陰に身体をくっつけ、顔だけ出した。物凄い音だった。次元が捻じ切れる様な気さえした。
今回、銃器を貰えなかったのは大打撃だが、この武器は奇襲攻撃に役に立つ。直撃せずとも、その爆風で只ではすまないだろう。難点を挙げるとすれば、銃器を持った人間と対峙するとキツい事と、殺した相手の武器を奪え取れない事だけであった。
と云うか、先程の爆撃で橋の大方が吹き飛んでしまった。これでは北区に戻るのは難しい。となると葛飾区か荒川区そこらになるだろう。

「まぁ戦いは長い」ぽつりと呟くと、駆け出した。


矢田伊織(女子)死亡
【残り28人】

212タダコン:2004/12/30(木) 11:48 ID:b5i2HBpE
あの〜気になったんですけど、
隣の区との距離が近すぎるような気がするのですが・・・・
すいません生意気言ってちょっと気になったので・・・・・

213サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/30(木) 17:36 ID:Up5m1gZE
タダコン様>いや、生意気なんてそんなそんな。
      ぶっちゃけると自分東京の事何も知らんのです(はぁ?
      なので日本の東京とは少し違う異世界の東京と云う事でお願いします(おいコラ
      わざわざご指摘ありがとうございます。ご助言大切にしたいと思います。

214サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/01/07(金) 21:50 ID:2.0h4zps
No:81


二次予選開始から5時間が過ぎた。既にこの会場で2名の生徒と他多数の区民が屍と化している。まるでそれを嘲笑うかの如く風が木の葉を舞わせている。
相川慎太郎(男子)はその風を頬に受けながら渋谷区に身を潜めている。しっかりと猟銃を抱えたまま。
本来ならその猟銃の重さは他愛ない中学生には幾らか重量を感じる構造になっているのだが、昔から父親の経営する柔道で身体を鍛えていた慎太郎にはきつくも何ともないものであった。
最初からおかしいと思っていた。少し細長いディパック。兵士から乱雑に受け渡された時、試しに触ってみた感じとしては硬く、細かった。
段々触る箇所を変えていくと、それが散弾銃の様な形態である事が徐々に明確になっていった。

先程から人の動きが段々と変化して行く事に気付かない訳が無かった。常に周りを気にし、あせあせと建造物の中へ逃げ込む姿は何通りもあった。
それで、漸く何処かで他の生徒の動きが見られ、それから避ける様に行動しているのだろうと感じ始めた。事実、そうなのだが。
慎太郎が分校を出て、この渋谷区に辿り着いた時の人の数は凄まじいものだったが、いざ何時間か経過してみると、人影は薄れていき、最早渋谷区でデートはおろか気軽にショッピングを行う人間等、0に等しかった。

喉元から湧き上がる唾液を吐き捨て、高まる鼓動を抑えようと努める。だが、この加速する動悸をどう抑制できるものか。既に何人かが、いや、ゲーム非参加者さえも既に―――。
そう考えると頭がきりりと悼んだ。すぐ傍で自分のクラスメイトがばたばたと死んでいる。それなのに、自分はどうする事も出来ない。それが歯痒かった。

分校で立花雄吾が僅か息を呑むより早く闇へと散って行った時、自分は何も出来なかった。
放送で自分の親しい友人の死亡通知が耳に届いた時、自分は何も出来なかった。

―――そして今、自分の隠れているビルに向かって真っ直ぐの所に佇む神楽圭吾(男子)にも声を掛けられずにいる。
慎太郎がここに隠れ、暫くした後神楽がここへやって来た。そして、自分と同じ様にビルの間に隠れている。しかし、唯一の欠点は、自分の今居るこの場所からそこが丸見えと云う事だ。

本来なら、勇気を持ってすぐにでも仲間になろうと誘うべきなのだ。こういう馬鹿らしい殺人ゲームには絶対乗らないと云う誓いを立てなくてはいけないのだ。それでも、動かない、自分のこの鍛え上げた肉体が。
声を掛けられない事には其れ相応の理由があった。まず、あの神楽と云う男は何を考えているのか解らないと云うのが1つだ。
普段からクラスの中心メンバーで輪を作って雑談でも交わしている時すら、神楽は1人で何処かへ立ち去る。こちらから声を掛けても、彼は無言でそそくさと立ち退く。それだけに、良く解らない。何を考えているのか、また、何をどれだけ出来るかと云う力量と云う物を。
テストの点は勿論、体育の時も滅多に顔を出さず、出したとしても学生服のままで隅っこに座り授業を呆けた顔で眺めるだけなのだ。

そして第2に、彼が銃を所持しているという事が気がかりだ。今は見えないが、さっき鉄製のゴミ箱に腰を掛ける時にちらっと見えた。薄暗くて見えなかったが、ハンドガンが。

もし、自分が近づいていったら、あっちがどの様な反応を示すか予測不可能だった。
意外にあっちの方も声を掛けづらく、こちらが掛けてきたのを機に共に行動をとるのかも知れない。
逆に、あっちが自分の姿を確認次第、撃ちつけてきたときはどうすると云う事だ。あっちが撃ってきた時、こっちは猟銃じゃ素早く対処出来ない。
かと言って最初から猟銃を構えたまま声を掛けると、あっちは気が動転して銃を乱発するかも知れない。それが怖い。

つまり、自分は指を咥えて神楽圭吾を見据えるしか無いのだ。彼の性格が把握出来るまでは。だが、この短時間で把握できようもの等無いが。


不意にけたたましい程の音が頭上から掻き鳴らされた。一瞬、猟銃を地に置き、耳に手を当てる。
『はーい! 皆頑張ってるかー! 立花の二次予選最初の放送でーす。てか皆凄いなぁ。よくこんな人間がひしめき有ってる中で頑張ってやれるなぁ、先生関心するぞお前らの事ぉ。んで、死亡者発表するぞー。女子2人でーす。木津優子さんと矢田伊織さんだぞー。それじゃ禁止エリア変更しまーす。まずは、渋谷区』

渋谷区、と云う単語が聞こえ、慎太郎の動悸は更に加速した。
『んで、杉並区、板橋区、足立区、文京区、江戸川区、んで品川区なー。後10秒で禁止エリア変更になるからさっさと抜け出せよー。それじゃ先生、お前らの事応援してるから、頑張ってくれよー』
ブツッ。

放送が鳴り終わる頃、慎太郎の顔は蒼白と化していた。
残り5秒―――――――。


【残り28人】

215サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/01/13(木) 19:48 ID:Jp8n.ugE
No:82


5秒が過ぎた。段々と腹部が熱くなってきた。BRXが細胞に浸透していき、沸々と湧き上がる嫌な感じ。そして感じた『このままじゃ死ぬ―――』。
死にたくない。まだ死にたくない。こんな所で、俺は終われない。何としてでも生き残ってやる。絶対にだ。だから、だから―――。
立ち上がった。万全の準備はしておいたつもりだ。すぐに禁止エリアになった渋谷区から逃げられる様に南平台の方に身を潜めていた。すぐに青葉台に逃げられる様に。
もう目黒区は眼前だ。まだ腹は熱い。そろそろ限界だ。いつBRXが爆発するかわからないこの状況。早く抜け出したい。

今にも『青葉台』と云う政府お手製の看板が手に掴めそうなのに、届かない。あれを掴んで、脱出を祝いたい。
突然、後ろからガスンと云う重量車のエンジンが掛かる様な鈍い音がして、慎太郎の身体は2m程前につんのめっていった。
「ぐぇ」
と低く、小さな悲鳴がして漸く慎太郎は自分の分厚い肩からどくどくと鮮血が流れ落ちている事に気付いた。声に成らない呟きを発し、慎太郎は何があったのか理解するより早く立ち上がっていた。そして、その後ろ姿に更にもう一発、あの鈍い音が突き抜けていった。
今度は悲鳴もあげずに倒れた。それでも尚前進しようとした。ここで止まってしまったらその内自分のBRXが爆発してドンだ、今何があろうとも後ろは向けない―――。
そう思った直後、今度は確かな悲鳴をあげて慎太郎は再び前に飛んで行った。そして、もう動かなかった。最後まで、彼の運動神経には『前進しろ』と告げられていた。


やっと目障りな奴が死んだか。構えた猟銃をゆっくりと下ろすと神楽圭吾(男子)はにこっと笑った。構えた猟銃と云うのは、無論慎太郎の物で、彼が焦って飛び出した後に忘れて行った物を拾っただけだ。
圭吾の首からは黒い、折り畳んだ携帯電話程の黒い塊が吊り下げられている。その塊のLEDは今も激しく点滅し続けている。

支給武器の禁止区域無効装置と、この猟銃があればもう負ける気がしねぇ。普段は禁止エリアに身を潜めればいい。そして、敵が見えるところに現れたら狙撃する。狙撃にうってつけと云う程の武器ではないが、破壊力は抜群だ。一撃でも当たればそれでお陀仏。
膨らんでいく妄想を尻目に、ポケットからするりとまた別の黒い塊を落とした。それは落ちると共に大きな音を立て砕け散った。
それは慎太郎が見間違えた黒い拳銃で、本当は模型店から盗んできた只のモデルガンだった。一応、無いよりましだと思い、窃盗と云う行為に及んだ。まさか、こんなになっても窃盗を行うとは、正直思ってもみなかった。

それでも俺はやるぜ。普段からおとなしそうにしていた俺なら皆特に警戒する事無く近づいて来る筈だ。そいつが仲間になろうだとか一緒に脱出しようだとか何だか抜かそうが俺には関係無い。全て殺す。悪魔と言われてもいい。生き残る為になら天使にでも悪魔にでも何でもやってやる。生き残った奴がどうこう言えるんだ。死んじまえば全て終わりだ。生き残ればどうとでもなる。だから、絶対にどんな手を使ってでも生き残ってやる。
先程から何度も思っているが、ここで、更に強く誓った。

『俺は絶対このゲームで生き残る』と。

自分を奮い立たせる様に猟銃の台尻を地面に叩きつけ、笑った。


相川慎太郎(男子)死亡
【残り27人】

216サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/01/15(土) 22:24 ID:YdHDWUqc
No:83


蒸し暑い風がビルの隙間から流れ込んで来てそれが身体を包みこむ。桂弘典(男子)無駄な気温を感じながらビルの間に隠れている。

分校から出てすぐに大きく迂回してひっそりと息を殺しながら進んだ。何故なら、彼の支給武器が『ナベのフタ』だったからだ。ディパックを受け渡された時、多大なる危機を感じた。如何にも感触的にも重量的にも銃火器の感じが一切感じらなかったからだ。
そして、分校から出てすぐに開けて、絶望した。

一次予選は武器に恵まれていた。支給武器からいきなり銃器を手に入れ、その後上杉千裕(男子:故)を殺害し、別の銃器も奪い取った。その割には打撃戦が多かった。金城真人(男子)との殴り合いは死ぬかと思った。あいつから貰った傷がまだ痛む。分校で立花の話を聞いている間ずっと痛んだ。ふと真横に座る金城真人を見た。すると金城は弘典の顔を見、如何にも『お前は俺が殺してやる』と言わんばかりの眼つきで睨み付けてきた。それに対応する力は今やもうこの自分には無いと確信している。
それに、もしボロボロの姿でこの二次予選を通過したとしても三次予選がある。

立花が最初の分校で言い放った言葉『三次予選は政府が用意したバケモンと戦って貰いまーす』。
バケモンとは何なのだろうか。気になる。実は一次予選で金城との殴り合いでもその言葉だけが頭の中をふらふら浮遊していた。

考えながら自分の既に白い部分が見当たらないYシャツを不意に握っていた。Yシャツには3人の男の血が地層を作る様に重なっていた。
上杉千裕の血、金城真人の濁った血、そして自分の血。

最初に血を見た時は驚いた。自分がM8000の引き金を絞った直後、空を朱に染めた上杉千裕の血。それが自分の全身に飛び散る。そして、それを舐める。暖かい血。まだ生暖かく、それは活力に溢れていた。

だが、金城の時は違った。その頃には大量の血と云う物は既に身近な物になりつつあった。そして、それと同時に自分の身体を蝕んでいく死への恐怖。
血等どうでも良かった。俺の血が欲しいのなら幾らでもくれてやる。しかし、死にたくない。
殴られる事などどうでもいい。俺を殴りたいのなら幾らでも殴らせてやる。しかし、殺すな。

まだ死にたくない。俺は、こんな所で死ねない。まだする事がある。やり残した事が。だから、死ねない。

武者震い―――と云うのか、弘典はその場で震えだした。唇を舐めた。それで、漸く自分の歯が数本抜け飛んでいっている事に気付いた。
他にも、左の眼はぼやけている。拳骨からは今でも血が流れ、身体のあちこちを押さえるとずきりと痣が痛んだ。


『俺は――ボロボロじゃないか―――』
他にも捜そうと思えば幾らでも捜せた。だが、捜すのを止めた。捜せば捜すほど死が近づいて来る感じがして、顔を腕で覆い隠した。

こんな事で二次予選を通過できるのか? こんな事で金城真人と云う怒り狂う巨大なイノシシの突進を阻む事が出来るのか?

そして、こんな事で俺は生き残れるのか――――?


うつむいて様々な感情が衝突しつつある弘典の身体を、木下聖夜(男子)の握った邪悪な銃の銃口が狙っていた。

弘典の絶叫が響いた。


【残り27人】

217サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/01/17(月) 21:47 ID:5FJUPz36
No:84


銃声が響いたかと思うと、自分の身体が僅か数瞬だが浮いている事に気付いた。そして、落ちた。
落ちたと云う自覚の後に、肩の下、肩甲骨の所から激痛が湧き上がって来た。それで、呻いた。

沸騰中の湯の様に血がぼこぼこ吹き出る右肩を左手で押さえたまま、立ち上がる。漸く木下聖夜とそれが握っている銃の存在に気付いた。
銃からは硝煙が立ち込め、その引き金には未だ指が掛けられている。

ふらふらな状態で弘典は木下聖夜を睨み付けた。しかし彼はその睨みをもろともしない冷ややかな眼つきで逆に膝を付いたまま苦しむ弘典を一瞥した。
ゾクッとした。まるで人間では無いような人間。いや、生命体、むしろ塊。
今にも卒倒しそうな程の意識だったがはっきりと感じる。木下聖夜への強大な恐怖感。
上杉千裕や金城真人、彼らには無い独特のオーラを纏っている。

そして悟った。

この男には勝てない――――――――と。

後ろを向いた。直後に走り出した。冷や汗が全身の毛穴と云う毛穴から吹き出されている感じがして、何故か木下聖夜が自分を追わない事に気付いた。
何故追わないのか。あと一発でも、何処へでも脚でも腕でも撃てば出血多量でお陀仏なのに、何故あの男は撃たない。

弾が勿体無いのか? どうせ死ぬと思っているのか? 走るのが面倒なのか? もしかして自分も怪我をしていて撃てないのか?

―――それとも、俺が相手にする程の器では無いと言うのか?

その考えが脳内を一巡した。自分はあの男の甚大なる力の前では成す術が無い。それをあの男は解って手を出さないのか?そんな―――。
事実、木下聖夜が自分を取るに足らない相手と感じているのか、と云うよりまず自分が助かるのか、と云う考えの方が何倍もの強かった。
さっきまで考えていた、死と云うもの。何も無く、得るものが無い無意味な代物。その中に自分は今引きずり込まれようとしているのか?

走っていた脚を止めた。血液は止め処なく溢れ出てきて、Yシャツにまたもや血の層を重ねた。唇を噛み締めた。
木下聖夜の自分を全力で相手にしないと云うふざけた感情に怒りが沸いてきた。本当なら今すぐにでも逃げてこちらの態勢を整えたい。でも、身体が動かない。心底木下聖夜が憎くて。自分にダメージを負わせた木下聖夜を殺したくて。

後ろを向いた。そこには今も木下聖夜が壁に寄りかかったままこちらを冷ややかな視線で観ていた。まるで、下らない漫才を見る様な観客の様に。
それに更に腹が立った。ならばお前はこの俺に勝てるのか? 俺がこのまま突っ込んでもさっと対処できるのか? 

弘典は絶叫した。かつて出した程の無い程までの大声で。それは自分を奮い立たせるものでも他の連中を呼び寄せる為でも無かった。木下聖夜、彼1人に投げ付けた憎悪と怒りの塊だった。
そして、走り出した。木下聖夜との距離が近づいて来る。
物怖じ等一切しない聖夜と臆しているのが本当だが男のプライドを掛けて突っ込む弘典。

普段の生活なら120%衝突する事無い2人が、対極的な思いを胸に激突した。

しかし、木下聖夜の眼前に桂弘典が突っ込んでくると云うのは彼にとっては血だらけの塊が向かってくるのと同じで、それは人間だろうが仔犬だろうが何でも良かった。―――とりあえず自分の視界から消えてくれれば。
拳銃を持ち上げた。それは弘典の眼にもしっかりと映り込んだ。そして、支給武器のナベのフタを持ち上げ、絶叫のボリュームを弘典の発する事が出来る最大まであげた。

銃弾は薄金製のナベのフタを容易く破壊すると、すぐに桂弘典と云う存在自体も破壊した。
銃弾を胸に喰らった弘典は膝からその場に倒れこんだ。その周りを血が伝い、ちょっとした生簀を造った。

木下聖夜はもう桂弘典では無いモノを一瞬でも視界に入れる事無く後ろを向くと、足早に去っていった。


桂弘典(男子)死亡
【残り26人】

218削除人★:<削除>
<削除>

219サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/02/01(火) 17:07:45 ID:Kz4sbNdQ
No:85


『奇跡』とは簡単に口に出すものでは無い。それは待っていて運よく転がってくるかと云うと現実はそうでは無い。自分で何かを成す。その確立が最低限を下回っている時、それは『奇跡』と成るものだ―――それが定理だった。
しかし、その待っていて来る『奇跡』が起こると云う『奇跡』が起こった。

杉浦千夏を筆頭に高橋優希、由岐晴美、そして中標津雪乃。彼女等は今世田谷区の外れでまとめて固まっている。
性格はばらばらながらもこの女子だけが4人運良く出会えた『奇跡』それはこの出会えた女子達に少なからず安堵を与えている―――中標津雪乃以外だが。

元々は分校から出て杉浦千夏が仲間を集めようと出て来た高橋優希を誘い入れた事が発端だった。そのまま大田区をふらついた後、偶然今にも卒倒しそうな程の顔色をした由岐晴美を穏やかに説得し、引き入れた。その後、この世田谷区に辿り着き、放浪していた中標津雪乃を危ないから、と云う理由で半ば無理矢理引き込んだ。
不運な事に銃器を持っているのは雪乃だけで、後の3人は短刀や包丁と云う接近戦向きの戦闘道具だった。それだけに、中標津雪乃の存在は大きい。

一応リーダー格としてまとめ役を務める杉浦千夏は先程の放送で何度も思い知ったこのゲームの恐ろしさを再度感じた。既に二次予選に入って6時間と少しが経過しようとしていた。それで、4人の犠牲者。止める事の出来ない恐怖。戦わずに生き残る事が絶対的に不可能なこのゲーム。そう思う千夏は、心の中で実は自分が生き残りたいと云う感じがあった。事実、生き残りたい。生き残って、家へ生還したい。それが本望だった。
それでもなるべくなら残りの生徒皆と生還したい。しかしそれは所詮妄想幻想のストーリーだけで実現の確立は皆無だった。
不意に端っこの方で体育座りをしていた茶色が掛かったロングヘアーが似合う由岐晴美が口を開いた。

「あたし達、これからどうすればいいの…?」
それは間違い無く晴美以外の3人に問うたものだったが、千夏はそれがリーダー(と云う事)である自分に告げられたものかと勘違いし、すぐに答えようとした、が答えられなかった。今ここで何と言っていいのか。自分でも検討つかなかった。自分達で行動し仲間を見つけるのか、それとも相手から来るのを待つか。それとも―――戦うのか。
誰も答えなくなり、質問した晴美は哀願の眼で千夏を見つめた。その視線が深く刺さったので、千夏はまだ考えが纏まらない頭を使って答えた。

「とりあえず…その・・・仲間を、っていうかあの・・・なんていうか・・・戦わずに・・・仲間を・・・探して・・・何ていうか・・・」
思わず支離滅裂な事を口走ってしまった。言った後で羞恥から避ける様に後ろを向いた。その仕草を見てか、晴美も後ろを向いた。

無理に責任感を感じている。別に、リーダーとかそんなものじゃ無いのに。只、自分がそう思っているだけで他の3人はそう思ってないかも知れないのに・・・。

「千夏・・・」と横から声がした。今にも消えそうな細くて小さな声だった。声を出したのは高橋優希だった。
「私達、もう千夏しか頼る人居ないの。私、引っ込み事案だし、いつも誰かに頼らないと駄目なの。だから、貴方はそんな顔しないで。お願い。貴方がそんなのだったら私達どうすれば・・・」
先程の呼び掛けよりもか細かった。それでも、意志は大いに感じた。この発言で感じた。矢張り自分は頑張らなくては成らない。リーダーの私がここでこんな顔をしてたら駄目。もっと自信の溢れた顔をしなくては。
思うや否やすぐに無理して笑顔を作った。

「そうだよね・・・。私がここで頑張らなきゃ駄目なんだよね。・・・よし、皆で頑張って仲間を探そうよ。それで、皆で脱出しよう」
聞いた由岐と優希の顔色がみるみる曇りから晴れへと変えた。それで、自分のリーダーである自覚が再度目覚めた。

それを傍で固唾を呑んで聴いていた雪乃は湧き上がる不快感に堪えられなくなって立ち上がった。
「ちょっと、貴方―――」

視線が雪乃の銃に移された。


【残り26人】

220サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/02/04(金) 18:24:34 ID:SYMtOoN.
No:86


「ねぇ、貴方はそんなに偉いの? 」
不意に立ち上がった中標津雪乃が唐突に問うた。誰ならぬ仮統率役を務めている杉浦千夏に。

正直千夏はもんどりうった。雪乃が立ち上がった時は脱出の案の1つや2つでも提示するのかと思いきや、発せられた言葉は自分を不快に思っている様なものだった。雪乃が続けた。
「だって皆同じじゃない? なのに何で貴方が目立とうとするの? 何でそんなにリーダー役に回ろうとするの? 」
重い言葉が容赦なく千夏や残りの2人の心を少なからず削っていった。そして、3人は同じ事を考えていた―――『この人は何を考えているの』と。

流石に言葉を連発されひるんでいた千夏だが、漸く理不尽な発言への怒りが沸いて来た。
「えっ、意味が解らない。私は皆をまとめて脱出を試みようとしてる。それが悪いの? 」
少し挑発的に言ってみた。そして、もうこの頃には千夏は雪乃の右手には銃が握られている事も怒りに流されて何処かへ消えていった。
「別に悪いなんて言ってないわ」雪乃が冷めた口調ですぐに反論した。
「只、少し不快に感じた事。何で貴方が私達を締め付けるのかってね」

締め付ける、と云うワードが鼓膜から渦巻き官を通って全身を駆け抜けた。『締め付ける? 馬鹿な事言わないでよ―――』
「別に締め付けてる訳じゃ無いし締め付けようともしてない。只、私は皆をまとめて―――」
遮られた。
「それじゃあ、何でさっき、仲間を探そう、って言ったの? それって私達を縛り付けてるって云う事じゃないの? 」

この挑発的な態度に段々腹が立ってきた。何で、私の話を理解しようとしない? 只、私以外の友達が内気でおっちょこちょいだから私が指揮を執って一緒に脱出しようって言ってるのよ。何でそれを解らない?
2人の熱化する討論ならぬ闘論を横で聴いていた由岐晴美は怯えた様子で膝を組んで俯いている。それは討論がどうこうと云う事では無く、雪乃の右手で揺れる拳銃への恐怖感だった。

「貴方の言い分も解るけど、この状況下でリーダーが居ないのは致命的よ。誰か1人がまとめる役が居ないと皆バラバラになるじゃない! 元々私達が貴方を誘ったのよ! リーダーである私が気に喰わないならこのグループからさっさと抜けていって! 」
今までで強く、この討論でのストレス、そしてBRと云う理不尽なゲームに対しての怒りを全てこの発言に注ぎ込んだ。そして、言った後に後悔した。

さっさと抜けていって、と云う言葉が耳に届いた瞬間、それまでの威勢が飛んでいく様に一瞬ビクンと痙攣じみた行動を起こすと、立ったまま下を向いた。
流石の激化する討論に終止符を打とうと座ってじっと聞いていた高橋優希が立ち上がった。

「2人とも、そんなに喧嘩しないで。もっと穏やかにいこうよ・・・、ここで喧嘩してしまうと杉浦さんの言う様に本当にバラバラになってしまうかも知れないじゃない・・・だから―――」
出ない声を限界まで振り絞った優希の前の雪乃が聞き取れない程の静かな口調で何かを漏らした。
「中標津さん? 」
喋っていた優希が下を向く雪乃の肩を抑えて顔を覗き込んだ。そして、優希は雪乃の漏らした言葉を聴いた。



「・・・・・・・・・1人は・・・嫌・・・」
すぅっと肩を動かさずに腕だけが真っ直ぐ吊り上った。中標津雪乃の銃を握られている右手が、少し動いた。
刹那、雪乃の握っているグロック17から火花が勢いよく吐き出された。その後、すぐにぱん、と云う乾いた音が響いた。


高橋優希が顔を歪ませながらほぼ真横に倒れた。倒れた拍子にコンクリートの地面に頭を打ち、銃声より遥かに鈍い音を出した。
由岐晴美が立ち上がり、千夏は動揺を抑え、雪乃は哀しげに口元だけで笑っていた。


高橋優希(女子)死亡
【残り25人】

221ひゅ〜ず:2005/02/06(日) 14:16:52 ID:LvsRdYQk
神楽圭吾の禁止区域無効装置、かなり有利なアイテムですねw
でもこの装置はもちぬし1人しか有効じゃないんでしょうか?これは活用次第で政府に攻撃もできるのでは?とおもいましたww。まあ神楽圭吾は完全にゲームに乗ってるようなのでそれはないですね

222サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/02/07(月) 22:17:05 ID:iAh2m1QQ
No:87


それは一瞬の出来事だった。中標津雪乃がぽつりと呟き、銃を抜いた。標的は高橋優希。そして彼女は今横たわる骸と化している。とろとろと割れた頭の『隙間』から血液と混じった脳弊が溢れ出している。
由岐晴美の身体がびくんと傾いた。何が起きたか理解出来ないまま千夏は晴美を見た。もう事が解っていた。眼が困惑で焦点が定まらずかたかたと身体を揺るがす。すぐに立ち上がった。

「嫌ぁぁぁぁぁっ! 」
遅れながら絶叫した。それでも走り出した。

「ちょっと、由岐さん! 」
千夏が呼び止めようとした。晴美は駆け出した脚を止める事は無く一挙に駆け去ろうとした。千夏が後ろを追おうとした。しかし―――。
雪乃がまた右腕を挙げた。そして、また呟いた。

「1人に・・・しないで・・・」
耳慣れた音が聞こえた。ぱん、と先程と全く変わらない銃声が聴こえた。前方を走っていた晴美がその場に倒れ伏していた。辛うじて撃たれた箇所であろう右肩を左手で抑えている。まだ間に合う。今なら助ける事が出来る―――!
しかし間髪入れずに硝煙が立ち昇るグロック17を雪乃は三度構えた。それはしっかりと倒れている無防備な晴美に向けられていた。

「やめてぇ! 」
発砲寸前の雪乃に肩からタックルした。華奢な身体の雪乃にバレー部のセッターで鍛えた逞しい千夏の身体が激突した。大きく跳ね跳んだ雪乃はそれでも手から拳銃を放さなかった。
雪乃が混乱状態なのを確認すると素早い動作で駆け出した。掠れた絵の様なものを作りながら這い回る晴美に近づいた。

「大丈夫? 」と声を掛けると彼女は立ち上がった。立ち上がるのを助ける時に薄いピンク色をした千夏のしなやかな掌に鮮血がこびり付いた。初めての血の感触。どろどろしていて、妙に熱くて、そしてそれを触ると哀しくなった。
後ろを向いた。雪乃がタックルの憎悪とは違う別の怒り、自分を見捨てたものへの怒りがその表情と行動に満一杯と現れていた。
千夏が軽く晴美の腰を叩いて促すと、2人は一斉に走り出した。後ろからぱん、ぱん、と銃声が連発する。

それでも2人に激痛は訪れない。猛速の弾丸は2人の柔らかな肉を一通する事無く周りを取り巻く大気に吸い込まれていった。
そのまま駆け出した。それこそ思い切り。まるで陸上の選手にでも成った様な感じで。恐怖感と爽快感と云う二者相対の感情が混じわり、変な感じに成っていた。
それも、晴美の嗚咽で止まった。千夏は晴美を支えている手を少しづつ離すと、晴美を横に寝かせた。

「ありがとう・・・」
まるで今にも死にそうな声でぼそりと呟いた。肩を突き抜けただけで命に別状は無いと思うが―――。

晴美の事に気を取られていて後ろを向くのを忘れていた。すぐに後ろを向いた。そこにはもう雪乃の姿形を存していなかった。
安堵の溜息を吐き、優しく晴美に呼び掛けた。

「ゆっくり休んで・・・・・・・」

苦痛と安堵の狭間で、答える事が出来なかったものも、晴美は心の中でしっかり呟いた。
「うん・・・」


【残り25人】

223サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/02/07(月) 22:19:04 ID:iAh2m1QQ
ひゅ〜ず様>まぁ奇特なアイテムですね(何
      今考えるととんでもないもの考えてしまったと云う感じです(汗
      これからも破茶目茶な続きを書いていこう(むしろそうなる)と思いますので、応援宜しくお願いします。

224サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/02/20(日) 18:59:03 ID:oMFqrgCY
No:88


横たわり苦痛と激闘している由岐晴美を横に、杉浦千夏は自分の支給武器である出刃包丁を両手で構えて臨戦態勢にあった。今、仲間は痛みで身体が動かない。こんな所を狙われたら一溜まりも無い。せめて相方がまともに立てる様になるまではちゃんと護衛をしていなくては成らない。でも自分も先程の全速力のダッシュで疲弊している。バレー部の主将を務め、既に有名高校からも推薦がされている彼女でさえあの激走は身体に堪えた、それを大量の血液が流れ出ているか弱い運動が苦手な女子が同じ運動量を受けて堪えられるのか、と彼女は思っていた。今でさえ出血は止まらず、苦しんでいる。なるべく清潔な布を押し当て、心臓より高い位置に肩を挙げる。しかし、これで出血は到底止まる訳も無く、まだ人生経験の浅い2人が知っている止血の手段はこれだけであった。千夏が焦る毎に由岐晴美の命の灯火は段々風前へと迫っている。早めに何とかしなければ―――。

不意にこつ、と音がした。急激に体内の温度が上昇した様な感じがし、その後、急に血の気がさーっと引いた。すぐに後ろを向いた。その時には出刃包丁は腰に固定されている(何かの漫画で包丁は腰に固定して突き刺した方が威力が増すから、と記されてあったから)。

「捺ちゃん…」
呆けた様な顔でそう呟いた。後ろには千夏の友人の三谷捺が居たからだ。けれども、その横に居た三杉龍一(男子)の顔を見て僅かながらも圧倒された。バスケ部のエース。同じ体育館で練習しているから解る。彼の運動神経は天下一品だ。だからこそ警戒しなければ成らない。もし、この男が本気で襲い掛かって来たら―――。

やましい事を考えていたら捺が慌てて釘を刺した。
「別に彼は悪い人じゃないよ…。私の事を助けてくれたから……」
また呆気に執られてしまった。何だ、悪人じゃないんだ。そういえば人相も何だかたるそうだし、でも本当に役に立つのかな?

そう考えていると、龍一は千夏の後ろに居る由岐晴美に気付いた。直後、急に駆け寄った。
「ちょ、ちょっと! 」千夏の制止も聞かずに龍一は横たわる彼女に近づいた。すると、自分のYシャツをひんづかみ、物凄い勢いで引き裂いた。Yシャツが音を立て引き裂かれると、それを捻り棒にし、それを銃創の上に巻き付けた。そして、肉が揺れる位にきつく締め付けた。その早業をこれまた呆気に執られた様子で見ていた2人だったが、暫くして三杉龍一の凄さにもんどりうった。この緊急事に素早く対応出切るのは甚だ驚いた。

「これで、良し…と」
龍一はそう呟くと大きな欠伸をしてその場に座り込んだ。
そしてまた「疲れた…」と呟くといきなり眼を瞑り始めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 寝ないでよ! 」
千夏が叫んだ。


【残り25人】

225サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/02/21(月) 22:22:49 ID:Y4ojUxsk
No:89


陽が沈みかけて来た。先程は暑さすら感じた気温が徐々に下がっていく感じが分かる。それでもやっぱり蒸し暑い事に変わりなく、各人汗が滴っている。皆汗だくで引っ切り無しに袖や手の甲で止め処なく流れ落ちる汗を拭っている。それでも、杉浦千夏は由岐晴美が不憫に思えた。彼女の汗は紅い。肩の銃創から漏出する大量の血液と混濁し、薄紅色の汗が腕から流れている。そして、彼女はそれを拭う気力も無い。

「これ使って…」
堪えかねた三谷捺がハンカチを手渡した、いや、正確に言うと『瀕死状態で上手く脳が回らない少女の掌にハンカチを置いた』と云う事だ。もう本人には自分が汗だくなのかも分かっていないだろう。感覚器官が上手く機能してなくて、只、沸血する様な熱い感覚だけが全身を巡っているのかも知れない。それは当の本人しか分からないだろうが。

「不味いな・・・」
こちらも汗まみれの三杉龍一が呟いた。流石の彼も先刻までの日射に精神的にも肉体的にもやられている様だった。
「そろそろもたないかも・・・もっとちゃんとした治療をしないと・・・」
この一言が響いた。医学については無知な捺と千夏は、ある程度物を理解している龍一のこの一言を聞いて汗が更に流れ込んで来た。今度は冷や汗の方だが。

「かと言って動く訳にも行かないし・・・いや、でも動かなかったらどうも出来ないし・・・」
龍一は周囲をうろうろ動き回った。額に指を置き、ぶつくさ言いながらうろうろしている。傍から見れば何と優柔不断で頼りがいの無い男かと思われるが、事実、彼の思考回路は存分に働き、必死でこの憐れな同級生への救済の法を案じていた。そして、暫く悩みぬいた末、1つの方法を考えた。

「今から目黒の病院へ行く、それで、あんたらにも手伝って欲しい」
背筋に物凄い勢いで何かが駆け巡った。なるべく移動はしたくなかった。危険で、体力も消耗する、これはもう最終手段と云う事か。
「俺がこの人を背負う、それで、あんたらには背負ってる俺とこの人の護衛をして貰いたい」
決起の判断か、龍一はポケットから汗で濡れた黒色を帯びているグロック17を抜き出した。それを杉浦千夏へ手渡した。
「反動強いから気をつけて。あんたの射撃能力の有無で俺らの生存率が変わってくるからさ」
千夏は頷いた。もうやるしかない。このままここで考えてたら出血多量で由岐さんの命が消える。それだけは防ぎたい。このふざけたゲームで巡りあえた奇跡を大切にしたい。だから、助けたい―――。

「私は・・・? 」
奥の方でこぢんまりしていた三谷捺が立ち上がった。後ろ手を組んでおどおどとしている。彼女もまたこの移動を最終手段として捉えた人物であり、只でさえ済まない事は重々承知である。それでも、由岐晴美の命を助け出したいと思う気持ちは皆一緒であった。だからこそ彼女は今「私は・・・? 」と問うたのである。それでも答えは想像以外のものだった。

「あんたは残ってて、危ないし」
「え・・・!? 」
呆然とした面持ちで一言だけ呟いた。何で、私は残るの? そう聞きたかった。それでも、口が動かなかった。自分も彼女を助けたいと云う気持ちは同じなのに龍一の口から放たれた無情の一言。

「んじゃ、時間無いから、暗くなったら病院の連中電気消してるかもしんないから、早めに・・・さ」
あまりにも淡々と今後の事をべらべら喋ってくるので、反論している暇は無かった。それは、捺にとっても千夏にとっても。

龍一が瀕死の彼女を背負った。そして、手で千夏に着いて来い、と合図を送った。

「何で! 」
捺が叫んだ。先へ先へと急ぐ2人がその場に止まった。
「何で私を置いておくの? 私だって由岐さんを助けたい気持ちは同じなのに、何で私だけ置いていくの? 」
巨体な男は捺の方を向いた。
「何でって、あんたの武器はナイフだし、どうみても彼女の方が運動神経が良さそうだしさ。それに多いと―――」

「だから何で!? 」
また叫んだ。今にも泣きそうな声で搾り取った様な声だった。
「そう? そりゃそうよ、私は所詮手芸部の端くれ、バレー部キャプテンの千夏には運動神経も数段劣るかもね! けど・・・けど・・・」
泣きながら捺は下を向いた。それを眺めていた龍一はこう言い放った。
「悪いな、けどまずはこの人を助けるのが先決なんだわ。あんたはここで待っててくれ。終わったら3人でまた戻ってくるから・・・、こっちの計画も解ってくれ」

後ろを向いて歩き出した。困惑した様子で千夏がその後を着いて行った。

「どうして・・・・・・・・・」
3人の影が段々と遠くなっていき、捺は声を押し殺して蹲って泣いた。


【残り25人】

226サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/03/05(土) 22:15:13 ID:lHcx1uK.
No:90


目黒区、と云う小汚い看板が近づいて来る。背負った由岐晴美の呼吸は脆弱となっていく。龍一は極力彼女を揺らさない様に走り続けた。今日一日で何㎞疾走しただろうかと本人はずっと考えていた。いくら部活で鍛えた脚力と持久力とはいえ、走りすぎだ。脚が重い。がくがくと揺れる脚に渇を入れ走り続けた。

その周りをちょこまかとすばしっこく走り回る杉浦千夏もその足取りは重かった。龍一に護衛を任せられたものの、正直不安だった。人生最大の大役を買って出た事を後悔した。それと共に、由岐晴美への疎ましさも生まれた。この人がさっきの銃弾で死ねばこんなにも危険な事をしなくていいのに―――。考えている、頭ではそう考えているものも、矢張り身体はさっきから自分に出来る最高の事を行っていた。やっぱり、見殺しなんかに出来ない。人が今死にそうになっているのに私にはその人に『死ね』とは言えない。それと、買った大役だ。絶対諦めない。やるからには絶対助けてやる。

そう思っても矢張り脚はがたついていた。一旦立ち止まって休息の1つ、いや屈伸の1つでもしたかった。けれど、そう思って三杉龍一の顔をちらと見る度にその考えは吹き飛んでいった。彼の真剣な表情からは一分一秒を争う危機を悟る事が出来る。こんな所でちんたらしてたらこの人は絶対に死ぬ。だからこそ、急いでいる。自分の身を捨ててまで。

―――いや、それならば何故彼はここまでこの人の事を助けたいと思っているのだろうか。千夏のイメージでは三杉龍一と云うのはバスケ部でナンバーワンの実力を誇るひょろっとしたいつもボーっとしている感じである。特に何事にも積極的と云う事では無く、何を考えているのか解らない、と云う感じでいつも千夏然り周りの人間は不思議がっていた。それでも、自然と人が集まっていた。考えれば考える程神秘的な三杉龍一の背景が浮かんで来て考えるのを止めた。この問題は後からでも解決出切る。今はまず人命救助だ。

看板が眼の前に迫ってきた。目黒区へ到着した一同は、地図を広げる間も無く、先程見た地図での病院の位置を回想した。考えて、すぐに千夏が指をさした。「あっち! 」
叫ぶと、返事もせずに龍一が走っていった。千夏も何も言わずに追いかけた。もう解っていた。彼は疲弊してたった『了解』の一言も発する事が出来ないのだと。度重なる激しい運動で肺がぼろぼろになって声がまともに出ないのも。そして、私も―――。

前方にそれらしき病院が見えた。しかし、それを見た2人を愕然とした。

シャッターが閉まっている。この緊急事態に誰もが病院に逃げこま無い様に病院の連中がバリケードを張ったのだ。シャッターの前では一般人もが悲鳴をあげてシャッターを各々蹴り付けたり揺らしたり殴ったりしている。それでもシャッターはびくともしなかった。二階の窓からは蒼ざめた顔をした医師が下を除いている。

民間人の1人が銃を持った千夏に気付いて絶叫した。その叫びを聞いた他の人間も一気に病院の周りから立ち去り、周りには誰も居なくなった。

龍一がシャッターを蹴り付けた。予想通りシャッターは微動だにせず、虚しく音が響くだけであった。
「畜生、畜生、畜生!! 」
何度も蹴り付ける。それでもシャッターは全く微動だにしなかった。何度か蹴ると、軸足がぐらついて晴美もろとも転んだ。倒れた龍一は、荒く呼吸を何度もし、息を大きく吸った。

「頼む開けてくれ! 仲間が死にそうなんだ! 頼む! 治してやってくれぇぇぇぇぇぇ! 」
怒号が木霊し、二階の医師が顔を隠した。舌打ちをし、絶望に打ちひしがれた。

「どいて! 」
千夏が叫び、その後千夏の身体が大きく跳ねた。グロック17の銃口からは鈍く光を放つ銃弾が炸裂し、シャッターに小さからず穴を開けた。二階の医師が再び顔を現し、「わかった! 入れてやるから銃を撃つな! 」そう叫んだ。

聞いて安心した龍一は再び晴美を背負った。一階に下りてきた医師がシャッターを開け始めた。
安堵の溜息を漏らし、龍一は自らと杉浦千夏を褒め称えた。良く頑張ったな、と。

空を切る破裂音が突如響き、シャッターを開けた医師の身体が大きく跳ね跳んだ。医師の周りに地溜まりが造られた。龍一は後ろを向いた。そこには大きな猟銃を構えた神楽圭吾が居た。

「邪魔なんだよ」
男は呟いた。龍一は、今にも倒れ落ちそうだった。


【残り25人】

227サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/03/09(水) 22:17:56 ID:jPQN4nSQ
No:91


視線が自然と血溜まりへと移された。医師の腹部からは今まで見た事の無い物体が不自然に飛び出ている。一瞬の内に葬られたが故か苦悶の表情とは違う、きょとんとした顔が窺える。―――どのみち、もう死んでいるのだが。

大きく飛んだ。銃弾で跳んだのでは無く、自らの意思で飛んだのだ。何故なら神楽圭吾が自分の上半身程の猟銃をさも重そうに構えたからだ。直後、銃弾が猛烈な勢いで跳んできた。神楽は半分よろけながら撃った為か、銃口が大きく人間の的を外れて病院の二階の窓ガラスに直撃した。ガラスが弾け飛び、上で悲鳴が轟いた。ちらっ、と後ろを見た。そこにはもう由岐晴美と杉浦千夏の姿は無い。もう院内に運んだのだろうか。

戦争ゲームで良く聞く様な装填音が響き、また神楽が猟銃を持ち上げた。龍一は慌てふためいて病院の横にある薬局の影に隠れた。その横をまた弾がかすめ、礫片がばららっ、と跳ねた。弾はまたもや当たらなかった。しかし、段々手馴れたのか、狙いが段々定まっている。そろそろ当たっても悪くは無い、いや、悪いか。

龍一は足元に落ちている石を何個か掴んだ。すぐに神楽が猟銃を構えた。

しかし猟銃が火を吹く前に、ぱん、と音がして神楽の身体が大きく仰け反った。「この野郎! 」叫ぶと、病院の二階付近に目掛け猟銃を構えた。この時、龍一は病院の二階から杉浦千夏が援護射撃を行ってくれてるのだと感じた。小石を堅く握る。はっきりと手首の血管が浮き出た。

「てめぇ、まずはてめぇから殺してやろうか!? 」悪態を吐いた神楽は引き金を絞った。ぱん、と云う音とは比べ物に成らない程の破裂音が木霊して、またガラスが砕けた音がした。龍一は走り出した。今にも倒れそうなふらふらとした走行だったが、それがかえって神楽の注意を惹かないゆっくりとしたものになり、完全に逆上した神楽は背後から龍一が忍び寄ってくる事に気付かなかった。少し近づいた所から、神楽の後頭部を殴り飛ばした。不意を突かれた神楽が醜く裏返った奇声を発し、前に仰け反った。

後ろを振り向いて「この野・・・! 」言い掛けた所で、顔面に小石のスラグをまともに喰らった。渾身の一撃が無防備な顔面に突き刺さり、鼻が変な方向へ傾いた。仰け反った姿勢から完全に地面に倒れ、その顔面を龍一がこれも渾身の一撃で踏み抜いた。顔面を血塗れにした神楽が絶叫した。龍一は止めのかかと落としを炸裂させようと片足を上げたが、疲労困憊の軸足がぐらついてその場に倒れた。それを見逃す訳無く、神楽が瞬時に立ち上がり、龍一の背中に猟銃の台尻を振り下ろした。

背後の気配に気付いた龍一は無理矢理身体を動かし、地面を転がる形でその一撃をかわした。神楽の全身に痺れが巡り、一瞬の麻痺状態があった。今にでも立ち上がって上段蹴りでもブチかまそうかと目論んだが、身体が動かない。転がったは良しとし、その後身体が動かない。即座に態勢を取り直した襲撃者はすぐに龍一と距離を置いた。そして、弾を装填し始めた。

その頃、漸く立ち上がり、態勢を持ち直した。それでも時遅し、既に弾は装填し終えており、今にも銃を撃ってきそうだった。龍一は力を搾り出し、走り出した。銃もナイフも何も無い、基本的な人類の争い。武器を持たずに肉弾で闘う。今にはそれしか出来ない。しかも、自分だけ肉弾。これは差が有りすぎた。

「馬鹿め・・・」
神楽が引き金に指を掛けた。


【残り25人】

228サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/03/17(木) 22:21:30 ID:cs.9qMjs
No:92


一言だけ呟くと引き金に指を掛けた。前方から顔が火照っている今にも卒倒しそうな三杉龍一が突進してくる。決して足取りは軽いとは言えず、ふらふらとよろめきながら何とか歩いていると云う感じだ。

龍一の最後の咆哮が聞こえた。通称クールガイ、また、不思議系天然男の異名をもつ龍一の人生で最大限の声だった。自分の発した声で身体全体が震え、走ったまま倒れそうにすらなった。その怒声を煩わしく感じた神楽圭吾は鼻でせせら笑うとまた呟いた、「死んじまえ・・・」と。

銃声が聞こえ、一部始終病院の二階から窺っていた杉浦千夏は眼をつむった。そして、もう駄目だ―――と確信した。それでも、次の瞬間にその近隣一辺に轟いたのは三杉龍一の断末魔の叫び声でも杉浦千夏の乾いた悲鳴でも無かった。聞こえたのは生々しい神楽圭吾の絶叫。千夏は眼を開けた。そこには、先刻より、1つ多く人影が夕焼けに照らされていた。すぐに、自分達が安全を考慮し世田谷区に置いてきぼりにしてきた三谷捺が居た。もうじっとしてられなかった。千夏は医師と他数人の看護婦を尻目に病院と云うよりは診療所を飛び出した。

「この野郎ぉぉぉぉぉ! 」
神楽の憎悪に満ちた声が聞こえる中、龍一の一連の流れが掴めなかった。それでも、確かに解る。高笑いをする神楽の背後から人格、容姿諸々に当てはまらないナイフを振り下ろす三谷捺を。不意を突かれた彼の銃は天を仰ぎ、銃弾が空高く飛んでいった。そして、その頃にはもう自分の身体は再び突っ込んでいた。よろけるかよろけないかの所でじたばたしていた神楽の身体にタックルを仕掛けた。身体が大きく横っ飛びしたかと思うと、ごろごろと砂を舞い上がらせた。それでも、猟銃は離してなかった。

「ブッ殺してやる! 」
いきり立った調子で叫ぶと、後ろに居る捺の身体に銃尻を叩き付けた。小さく悲鳴をあげると、神楽より遥かに遠くに跳ね飛んだ。その後、すぐに龍一の方向を向き、ポケットに手を突っ込んだ。その行為が、すぐ読めた。弾丸を込める動作――。

「三杉! 」
神楽の後ろから声が聞こえた。龍一の前方から1つの物体が空を舞い、弧を描いた。それを掴むと、その物体を見る間もなく、突っ込んだ。龍一にはもうそれが三谷捺の所持するもう片方のナイフだと確信していた。ナイフの柄を握り下方へ振ると鋭く光った刃が顔を出した。それを、腰に構えた。神楽はまだ装填途中だった。その無防備な腹筋にナイフの刃が食い込んだ。絶叫を上げ、身体を後ろにずらしてナイフを抜こうとするが、龍一もそれに合わせ身体を動かす。そして、ナイフを握った手をぐちゃぐちゃに動かした。聞くに堪えない声がすぐ傍から漏れた。

腹部と背中から血を噴出している神楽は真っ赤に充血にさせた眼をかっと見開くと物凄い力で密着している龍一の股間付近を蹴り飛ばした。龍一がもんどりうって倒れると、自分に刺さっているナイフを抜き取ると、それを龍一目掛けて振り下ろした。

結局、血だらけの刃は龍一の肌に触れる事すらせず、砂埃が舞う地面にぼろっと落ちる事となる。龍一の15m後ろ。杉浦千夏がグロック17を構えていた。硝煙が立ち昇り、それが千夏の視界を曇らせていた。直後、神楽の身体が前方に倒れた。鈍い音がして、一度地面に跳躍する様に跳ねる。鼻骨が折れた音がした、と龍一は感じた。

そのぼきっと云う音を聞いた後、龍一は閉目した。睡魔がやってきたのだ。


神楽圭吾(男子)死亡
【残り24人】

229サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2005/04/05(火) 22:05:13 ID:XXX46Ozk
No:93


三谷捺と杉浦千夏は血溜りの中で横たわる神楽圭吾を尻目に巨体の三杉龍一を何とか起こすと、とりあえず病院の中へ入れた。三人が院内へ入るのと同時に重いシャッターが唸りを上げて院内への扉を封鎖した。しかし、封鎖する寸前に医師が神楽の遺体をきちんと処してやりたいと促すので半ば貧血状態のままで龍一は神楽を遺体用の白袋の中へ丁寧に押し込んだ。それが終わると両手を合わせて、たっぷり10秒間『南無阿弥陀仏』を繰り返した。

遺体を無事霊安室へ届け終わると、龍一は急いで由岐晴美が看護を受けている部屋へ直行した。直後、龍一は後ろから思い切りはたかれた様な感じがした。ベッドに横たわっている由岐晴美の顔には真っ白な布が降りかかっていた。血気を失った指は腹の真上で交差されており、それが何を物語るか思いつかない筈が無かった。

「そんな・・・」呟くと自分もふらっと来た。血が急速に引いて朦朧となると、その場に膝を付いた。即座に千夏が駆けつけ肩を持つ。そのままもう1つのベッドの端に座らせた。

「出血多量によるショック死です」遺体の横に佇む年配の医師が言った。「事実、ここへ来た時にすぐ手遅れだと思いました。それでも、息を引き取ったのは今さっきです。血は大分減っていたので、ここまでこれたのは貴方方の応急手当が実に的確で丁寧で―――」

医師が色々話すが、龍一は耳も貸さなかった。自分は、こいつの前で絶対助ける、と言ったのに。結局助けてやれなかった。自分の思い込みで行った応急処置も、至らぬものとなった。自分がもっと早く判断をして、もっと早くここに着いていたらこいつはまだ助かったかも知れないのに――。

顔を両手で覆った。自責の念が一気に押し寄せてきた。自分が死なせた、自分が悪い、自分が殺した、自分の所為だ、自分の思い込み、自分の自信過剰――。

三谷捺の泣き声が聴こえる。うずめる指の先から顔を窺うと涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしているのが解る。それなのに、自分は自分が死なせたかも知れないのに涙一粒さえ出てこない。何だ、これは。自分はおかしいのか――クソッタレめ。

見かねた千夏が近づいて来て話しかける。大方、自分を宥める気休めの言葉か何かだろう。もういい、ほっといてくれ。1人にさせてくれ。

龍一は立ち上がると病室を飛び出した。「1人にさせてくれ・・・」そう漏らすと走り出した。誰も居ない所へ――。しかし、走り出した瞬間にくらくらっと来て、龍一はその場で倒れると意識を失った。


由岐晴美(女子)死亡
【残り23人】

230サイン ◆BtjSawKi22:2005/06/29(水) 21:57:08 ID:LrfpOvdA
No:94


関越自動車道はがらんとしていた。普段なら目まぐるしく車が往来していく道も、今日に限っては静寂極まりない。相沢彰久(男子)はその手に不釣合いな所々角張った真っ黒な銃を握ったままその端っこをとぼとぼと足取り重く歩いている。

別に迷ってこんな所に来てしまった訳ではない。地図を見た瞬間、ここだ! と直感的に閃いたのだ。見通しの良い長い道路。ここなら敵に出くわし難いし、それ以前にこんな所を訪れる人間等居るのだろうか? それに、自分にはこれがある。

彰久はディパックから双眼鏡を取り出した。自分の誕生日に母方の祖父からお祝いにと貰ったものだ。中々高いらしく、性能も頭の悪い彰久の様に悪くはない。かなり遠くまで見る事が出切るし、ピントもすぐに合わせられる事が出来る優れものだ。彰久はその接眼レンズをまぶたに密着させた。慣れた手付きでピントを素早く合わせる。そこには500m先が眼の前に広がっていた。敵の姿も確認出来ず、只道路が漠然と広がっているだけだった。とりあえず胸を撫で下ろした。しかし、すぐに今度は今来た道を見回した。取り越し苦労だったらしく、そこには何も無かった。

気付かずに流れていた冷や汗を袖で拭うと溜息を吐いて腰を下ろした。焼けた地面の熱さが学生ズボン越しに臀部に伝わる。が、それもすぐに慣れた。とりあえずは双眼鏡を右手に、銃を左手に持ったまま監視を続けた。そしてあの立花とかいう先公が熱心に説明していた言葉を思い出した。『20人になったら一旦中断――』放送が幾度か鳴ったが、確か7人の死亡が告げられて筈だ。彰久は放送の度に広げている3年6組の名簿を取り出した。この名簿で〆が付いていないのは残り23人。つまり後3人が死んだら一旦中断、別の会場へ移動させられるのだろう。

自分に戦闘能力が皆無に等しい事は前々から知っていた。運動神経も悪い、かといい努力する訳でも無い典型的な駄目な奴だ。それに、例え自分にある程度の運動神経を持っていても人を殺すなんて勇気は欠片も沸き立たないだろう。喧嘩もした事の無い、ホラー映画も満足に見る事の出来ない自分は未だに夜中にトイレへ行くだけでも心臓が破裂しそうな思いがする。そんな自分が人をどう殺める事が出来ようか。前に一度お化け屋敷で卒倒した自分が。だから、ズルい手でいく。

人も殺さず、自分も死なない、それは傍観者の立場へ移動する事だ。とりあえず逃げて逃げて逃げまくる。そして、最後の1対1になった時、隙を突いて残りの1人を殺し、頂点となる。これしか無いのだ。これ以外に道は無い。もう残された道はこれしかないのだ。だから自分は遥々こんな所まで来ているのだ。そのお陰で疲労でぶっ倒れそうだ。元々体力は無い方だからこんな荷物持ったまま炎天下の中ここまで歩いて来れた事は奇跡と言っても誰も異存は無いのだ。――少なくとも彼を知っている人間ならば。いや、もっと言うとここまで生き残れた事こそが奇跡なのだ。当の本人もそれは痛感している。そして、喜んでいる。

「このまま勢い乗って優勝・・・」蚊が飛ぶようなか細い声で呟いた。しかし、その声を潰すように背後から音がした。うぅぅぅぅという地鳴りの様な重い音。そして確実に彰久の元へ近付いているのだ。急いで背後を向いて双眼鏡を覗く。ピントを合わせた先には鬼島弥勒(男子)が原付バイクを乗り回しながら接近しているのが見えた。レンズ内の鬼島がこっちを向いた。どうやらあっちもこっちに気付いた様だ。親指を立ててそれを逆さまにしてきた。血の気がひいた。

彰久は半ば泣き出しそうな顔で無人の自動車道を走った。無論、原付バイクのスピードの比にもならないが。


【残り23人】

231ラー:2005/07/06(水) 18:12:48 ID:PJPT8SfY
とても面白いです!
頑張って最後まで続けてください^^

232サイン ◆BtjSawKi22:2005/07/11(月) 17:37:00 ID:qJI70rJw
No:95


 鬼島弥勒。3年6組の中でもどちらかというと不良という部類に入る彼は常に1人だった。同じ不良として霧雨時耶や木下聖夜等が居るが鬼島弥勒は彼らとの付き合いは皆無だった。
 彼は喧嘩もしたし無断欠席もしたし煙草も吸ったし無免許運転もした。それは霧雨らのグループの連中も当然のように行った。共通する点は探せば幾つも見つかる。只、大まかに区別すると彼は不良であり、更に区別すると彼は一匹狼の部類に入った。いつも1人で居た。クラスでも孤立していた。それでも憐れな友達が出来ない生徒、では無く自らが望んでの事なのであった。何故なら、こういう状態に陥ると友達は友達を友達と思わなくなるからだ。彼はそこまで読んでいて、ある意味とても冷静沈着な考えが出来るのだ。
 そんな彼は瞬時に原付バイクで相沢彰久に突っ込んでバイクが壊れたら勿体無いと考えた。折角何度か運転した事がある原付バイクとキーを入手したのだ。これは戦闘や移動の面で大いに役立つ。わざわざこんな雑魚に衝突させておじゃんにさせるのはいささか勿体無い。ならば――彼は支給武器である金属バッドを左手でかざした。それで、逃げ惑う相沢彰久の後頭部に叩き付けた。ゴッ、とだけ聞こえると相沢彰久は大きく前に倒れた。勢いがつきすぎたバイクは倒れた相沢彰久の遥か前方へ進んでいった。急ブレーキかけた。舌打ちをすると、すぐさま振り向き相沢彰久の方を向いた。未だ倒れたままだ。暫く様子を見る事にした。
 鬼島弥勒の視線を感じたまま相沢彰久は後頭部に猛烈な痛みを感じていた。一瞬、死んだかと思った。事実、今の一撃で死んだらどれ程楽だろうとさえ感じた。
 頭に手を伸ばした。思いっきり一部分が妙に膨らんでいる。もう駄目だとはっきりそう感じた。相手はバイクに乗っている。しかもかなり乗り慣れている。それに根本的に運動神経と度胸が違うのだ。歯を食い縛る。
 思えばパッとしない人生だった。学校じゃろくに友達も出来ず、『泣き虫』のあだ名を女子より勝手につけられて馬鹿にされた。一応サッカー部として部活動も真面目に取り組んだ。なのに周りの生徒はおろか2年生にすら技術的に劣り結局3年間公式戦に出た時が無かった。街へ行けば行けばでその軟弱な顔と体格で3分の1の確立位でカツアゲにあった。集団リンチを喰らう寸前に陥った時もあった。とにかく、良い事が無かったのだ。帰れば帰ればで父と母の険悪な雰囲気の間に立たされ、場合によっては父親から暴行を受けた時もあった。
 最悪だ――死ぬ間際に考えると今までの人生全てが駄目だった様に思えた。本当は俺だってもっと男子の連中と笑いあったり部活で大活躍したり女子にモテたりしたかった。父さんや母さんと一緒に仲良く3人で楽しい生活を送りたかった――
 憎悪が湧き上がって来た。立ち上がった。
「俺だって・・・俺だって・・・俺だってもっとまともな生活送りたかったんだよぉぉぉぉぉ! 」
 叫んだ。すると、今自分をここまで追い込んだ人間の顔が何故か眼前で悠々とバイクにまたがる鬼島弥勒の顔と同じに見えた。
 あいつの所為で、俺は――
 左手の銃を持ち上げた。真っ黒な銃。グリップの所に僅かに『BR』と書かれていただけであった。それを両手で構えた。鬼島弥勒はというと相沢彰久が銃を持っていた事に驚き、アクセルをかけた。どうやら轢き殺す気らしい。いくら雑魚でも銃を持っていればそいつは化ける、そう踏んでの行為であった。
 真正面からバイクが迫った来た。彼はいつの間にか涙を流していた。ボクハシニタクナイ――ダカラ、オマエガシネ――
 相沢彰久が持っている銃は通称『BRGUN』と呼ばれるもので、今回のプログラムから導入された通常の比にならない程の威力を持つ最高級の拳銃であった――それの引き金を引いた。直後、両手から一気に何とも言えない波動が全身を駆け抜け彼は後ろへ跳んだ。
 只ならぬ大きさの銃口から発射された口紅程の大きさの弾丸は原付バイクのボディーを付き抜け、燃料タンクに穴を開けた。そして、原付バイクは大爆発を起こした。鬼島弥勒の身体が宙を舞った。次に、頭から硬いコンクリートに叩き付けられた。首の皮がやぶけ、そこから骨が飛び出た。そして、死んだ。
 相沢彰久は痛む身体を起こすとバイクが炎上している事に気付いた。急いで近付くと、そこには鬼島弥勒の骸が無残に放たれていた。そのグロテクスな映像を見て、彼は泣いた。


鬼島弥勒(男子)死亡
【残り22人】

233サイン ◆BtjSawKi22:2005/07/11(月) 17:43:36 ID:qJI70rJw
漸く俺も段落突入(何
何か多い感じがする。


ラー様>面白いと言って頂けて感動です。部活も終わったんでそろそろ定期的に更新しよう
    と思ってますので定期的に確認して下さい(笑

234サイン ◆BtjSawKi22:2005/07/20(水) 20:32:01 ID:EDT3YD3o
No:96


何時の間にか太陽は沈み、頭上に月が現れた。東京を思わせない下町では虫達の声がいつもの如く月夜の下で賑わっている。これが下町なのだ、と池谷翼(男子)は木造の木陰の隅で感じ取っていた。只、明らかに不自然に感じるのは虫達の声しか聴こえない事なのである。人気が殆ど感じられない――恐らく別の部分に纏まって避難したのである。残った一握りの人間は動く事は無駄だと思い、外で殺し合いが行われているのに我が家で過ごそうと思っている連中だけだ。事実、自分が隠れ家として隅を使わせて貰っている家にも人気がある。電気こそはついていないものの、僅かだが声が聴こえる。もし自分が見つかったら場合によっては襲ってくるかも知れない。「お前が死ねばゲームは早く終わる」と。
 暇つぶしにそんな事を考えてみたが本当の所どうでも良い。もしそんな事になっても返り討ちにしてやるさ。そっと呟くとゲーム開始、正確にはディパックを開けた瞬間から絶えず握っていた手投げナイフの1つを強く握り締めた。これを、頭か心臓に――
 練習はした。銃火器を望んでいたのだが結果がコレだったのにショックを受けたのを思い出した。直後、人気の無い外れに走ってそこで木や壁に向かって一心に投げ続けた。寝る間も惜しんで練習した結果、1日経って漸く10発中10当る様になった。それも、的を絞って。 始めは漫画や映画みたいにスナップを利かせて投げていた。それでも刺さる事はあるのだが稀に柄の方が目標に当たってしまう事があった。そんな事があって、もし相手に武器を取られる事があればそれは間抜けとしか良いようが無い。おまけにそれで致命傷を負ったり最悪の場合死んでしまった場合、それは愚の骨頂である。それは避けたい。このゲームは一発勝負。負けたらコンティニュー出来ないのである。
 段々重心やそういう事も勘を掴んで来たので投げ易い投げ方がある事に気付いた。それは手首を殆ど動かさず、ナイフを押し出すという事。そうする事でナイフに真っ直ぐな力が掛かり、命中率、破壊力が増すと云う事に気付いた。その投げ方に気付いてからどんどん巧くなっていった。それに伴い自信が付いていった、だが過信はしなかった。悪魔でコレはハズレなのである。一番良いパターンとしては銃器を手に入れる事なのである。例え木や壁に突き刺さろうが、人体に対して致命傷を与えなければ意味が無い。練習どおりに投げて、人体はおろか衣服で止まってしまっては何の意味も無いのだ。
 試してみたい。不意にその考えが頭を過ぎった。試す? 何で試すというのだ。無論人間――
 民家の中の笑い声が聴こえた。薄っすらとだが楽しそうだ。現在の状況下を思わせない声だった。そして、聴こえた。
「それじゃあ私達寝るからばあちゃんも早く寝てね」
「はいはい、おやすみ」そして階段を上がる音が聴こえた。そして横の窓が開いている事に気付き、そこに自分が容易に入り込む事が出来る事にも気が付いた。
 嫌な考えが再び過ぎった。今度のはもっと粘着質に頭の中に残っていく。うざってぇ雑念め。俺はそんな事はしない――
 必死で耐えた。いくら俺でも自分が生き残る為に一般市民を巻き添えにする事は出来ない。いくら自分が生き残る為でも、だ。
 考えていると民家から近付いてきた足音に気が付かなかった。眼の前の窓の中に光が映され、そこから老婆が顔を覗かせた。互いに存在を確認し、老婆が絶叫した。池谷翼はハッとし、自分の握るナイフに視線を落とした。畜生、コレに反応してか――
「ばあちゃん! 」
 室内から声が聴こえた。直ぐに足音がし、裏側の玄関から人影が現れた。察しがついた。恐らくこの家の主であろう。
「直ぐに去ります! 」
 滅多に敬語を使わない自分が咄嗟にそれが出てしまった。早口で告げると、後ろを向いた。しかし、家主には聴こえていない。ふーっ、ふーっと鼻息荒く仁王立ちをしている。まるで家の周りから邪悪な存在を掃うかの様に。違和感を感じた。家主の手に何かが握られている。先が鋭く尖った包丁であった。今まさに池谷翼を切り込む寸前であった。


【残り22人】

235サイン ◆BtjSawKi22:2005/07/20(水) 20:33:56 ID:EDT3YD3o
むむむ、段落がおかしな事になっている…orz
ちゃんとした筈なのだが所々チグハグになっている。
見難くなってすみません。

236:2005/07/21(木) 21:14:41 ID:pPISi4P.
こんにちは、お久しぶりです、空と申します。
本当に久々に拝見させていただきましたので第一話目から読ませて頂きました。
改めて、サイン様の文才というか日本語力に尊敬いたします。
乏しいmyキャラをとても素敵に動かしてくださって嬉しい限りです!
東京23区内という設定が新しくとてもどきどきするものがありました。
民間の人の行動等も詳しく描写されていてとても読みやすかったです。
これからも、大変かと思いますが連載頑張って下さいませ。

237サイン ◆BtjSawKi22:2005/07/22(金) 09:18:54 ID:kudG.ik2
空様>本当にお久しぶりです。第1話目から読まれると辛いものがありますな笑
   尊敬なんてとんでもない。自分はまだまだ未熟者だと痛感しております。
   この板や他のサイト持ちの作者様には自分なんかより更に面白く読み易い文章を
   展開する方々が多数いられるのでそちらの方の作品も是非ご覧になって下さい。
   東京都23区の設定につきましては無謀というか浅はかな考えというか今更後悔してます笑
   選んだは選んだにしても自分に活かすのは少々難儀なもので…。それでも自分で選んだものなので頑張って行こうと思います。
   これから更新のペースを上げていくつもりなので、たまに目を通してみて下さい。それでは。

238sign ◆ND.mNnOZFY:2005/08/05(金) 22:24:39 ID:egQlva4s
No:97


 いきり立った隠れ家の主の眼は完全に常軌を逸していた。異常な程紅く、怒りに満ちていた。そしてその怒りの矛先は間違い無く自分に向けられている。主の鼻息も猛々しく夜の下町に響く。神経が研ぎ澄まされている所為か、僅かの鼻息の音でさえ妙にやかましく聞こえる。もうお互い、心地よい虫の音等届かない。
「まさかここまで激昂するとはな…」
 確かにここまで怒るとは思っていなかった。ただ少しだけ家の隅を借りただけだ。それも今晩だけ。それが過ぎれば大人しく別の場所へ移動するつもりだったし、さっき主に見つかった時にもちゃんと退去する意思を伝えた。なのに彼は気が動転、いやこの状況は錯乱とでもいうのか。どちらにせよ彼は今、狂ってる状態にある。こちらが何と言おうが耳に届かず、己の本能のまま行動しようとする。その本能こそが、敵と見なした池谷翼を排除するという事なのである――
 翼が後ろを振り向いた。そして、主に目もくれず一目散に駆け出した。足が地を蹴る音が木霊する。タッタッタッ、と一定のリズムで直進していく。街灯で映し出された少々大きめの石ころ等も目についたが、軽やかにそれらを回避しながら進んで行く。
 正直、気持ちが良かった。何が気持ちが良いのかというと、走る事自体、逃げる事自体に非ず、追っ手の希望を断ち切る事であった。優越感に浸れるのだ。必死で自分を殺そうとする相手から神速の如く駆け去る。追っ手は獲物が急激に遠のいていく事を指を咥えて見つめ、そして自分への劣等感に嘆き悲しむ。それが彼にとって快感であった。それは普段の陸上競技や他の競技にも彼の性格上当てはまるのだが、命のやり取りの最中に死に物狂いで自分を狩ろうとする相手を実力の差を見せ付けてどん底へ叩き潰す事の方が全然快く感じた。しかし彼は錯覚していた。自分が中年の追っ手1人位、容易く撒けるものだと。事実、彼はここ何日間ロクに睡眠を取らずナイフ投擲の練習をしていた為に体力が消費されており、脚も覚束無いものである事を完全に忘れていたのである。


【残り22人】

239sign ◆ND.mNnOZFY:2005/08/05(金) 22:25:18 ID:egQlva4s
No:98

「痛ッ」
 その不用意な結果が出てしまった。彼は今まで何の事も無く容易に避けていた石ころに躓いてしまった。懐に入れてあった数十本のナイフが入っていたケースが飛び出し、中身がばら撒かれた。まるで割れた鏡の様にナイフが散乱し、翼はそれらを拾う事に一心不乱になった。
 1つ1つ拾っていくのは骨が折れた。数十本のナイフは全てバラバラに刃先の部分が向けられている為、1つを拾っていると、横のナイフの刃先が軟骨の部分に接触し、たちまち手の甲や掌に無数の切り傷が出来た。それでも拾わない訳にはいかない。時間を掛け、少しづつ慎重に拾っていく。結局、集中するも比較的男子の中でも繊細な手を持った翼の手は大部分から血が吹き出ている。全て拾った事を確認すると、立ち上がった。ズキズキとした手のいやらしい痛みを堪えながら歩き出すと、街灯の明かりが当たらない道の端の方に1つだけ金属を発見した。しゃがんで手に取ると、それは先程自分の落としたナイフの1つに相違無かった。
 「あぁ、危ねぇ危ねぇ。1つでも貴重だ」
 立ち上がってまじまじとナイフを凝視した。刃先が鋭く尖っており、その先端も異様な程に尖っていた。改めて見るとその鋭利な程に驚いてしまう。こんなもん使ったら人間なんてすぐ殺せるな――
 少々安易な気持ちでそう思った。それでも、自分はいざ人を殺すとなるとその通りに行動出来るか解らない。自分に人間を殺す度胸があるのか解らない。いざとなったら手足がすくんで動かないかも知れない。だって、自分が殺そうとする人間にも家族や友人は居る。そいつらは死んだ奴の事をどう思う? 悲しむに違い無い。そう考えると人を殺す事に抵抗が感じられる。どれ程性根が腐った奴だろうが、そいつが死んで悲しまない人間が居ない筈が無い。それが大勢であろうがたった1人であろうが、そいつを悲しませた自分は最低な奴じゃ無いのか、って。だからこのゲームは心底腐ってる。これは無意味だ。人の死を利用してまで得るものがこの世に存在するのか? 絶対無い筈だ。だから、俺は絶対このゲームを残った連中と生き残ってやる。打開策への道のりは遠く険しいかも知れないが、やらずにどうする。もうそれしか道は無い。俺は殺し合いなんて絶対嫌なんだ。
 固く決すると夜空を見上げた。このゲームの参加者の連中もこの空を見てるんだろうか。そして、どう思っているんだろうか――
 光る刃に視線を落とした。本当ならこんな物必要無いんだろうな。話し合って和睦へ進んで行けば良いんだ――
 すうっ、と刃の表面に何かが過ぎった。そして、直ぐに刃に見覚えのある者の顔が反射された。後ろを向いた。
 そこには怒気を帯びた例の主が包丁を深く握った状態で立っていた。主は街灯の明かりだけが僅かに光る暗闇の中で舌を垂らした。翼の頭の固い決意が軽く揺らいだ。『人の死を利用してまで得るものがこの世に存在するのか――』
 主が素早く包丁を振り下ろした。


【残り22人】

240sign ◆ND.mNnOZFY:2005/08/13(土) 22:55:45 ID:x/ref6M2
No:99


 反射的に刃から視線を離し、大きく翻った。振り下ろされた包丁を完全にかわしたつもりだったが、今や汗で湿ったYシャツの背中の部分が大きく切り裂かれた。おまけに刃先が皮膚に当たり、背中も同じく大きく切り裂かれた。ゴロゴロと転がり、素早く立ち上がる。すぐさま背中に手をやった。手の甲には更に上から新しい血が覆いかぶさっており文字通り血塗れとなっていた。それでも、単に皮膚が切れているだけで身体に異常を来たすものでは無いと悟った。
 頭の回転を早くしようとした。立ち上がり、冷静に現状を把握しようとする。
「なんでこんな所に居るんだよ…」
 無意識に出た言葉を飲み込み、再び後ろを振り向いた。
「悪いけど、俺あんたと遊んでる暇は無いから」
 人の眼を見て話しなさい、と面倒見が良くて時々お節介をかける母親の言葉を思い出した。でも、今はそんな事言ってる暇じゃないんで。息子が生きるか死ぬかの瀬戸際ですよ。
 一目散に駆け出した。後ろから『追跡者』が自分よりほんの少し遅い足並みで追いかけて来た。矢張り速い。スピードを上げようとした。このままこの中途半端なスピードで逃げても埒があかない。一気に全速力で差を離して追いかける意欲を消してやる。
 大きく息を吸い込むと、脚に力を入れた。一歩一歩地面を蹴り飛ばすイメージ。そうすれば差は開――
 その地面を蹴り飛ばすイメージ通りの一歩目。その一歩で背中に凄まじい程の激痛が走った。あまりの痛さに瞬時に涙腺が脆くなり、涙がつう、と流れ落ちた。そして、平衡感覚を絶たれ、前屈で大きく倒れ込んだ。その時更に地面に頬を擦り、またも痛みを引き起こしてしまった。それでも判断を誤る事無く密かに握っいたナイフを素早く、華麗に後方に投げ飛ばした。
 カン、という練習中何度も聞いたナイフが落ちる音がしなかった。いつもなら木に刺さりそこねたナイフが地面に落ちて音を成す。もう何百回と耳にした音である。それが聴こえない。妙な違和感を感じ、後ろを向いて絶句した。
 今、自分が握っていた筈のナイフは『追跡者』の喉に深々と刺さっており、そこから血の雫を垂れ流しにしている。瞬間、より一層辺りが静かになった気がした。耳に、何の音も聴こえなくなった。翼はそのえもいわれぬ光景に言葉を失った。マサカ喉ニ当タルトハ――
 主は仁王立ちをしていた。何時の間にか握っていた包丁を地に落とし、細い眼を完全に見開き、顔の筋肉がくっきり見える――顔全体に力を入れていた。そして、ゆっくりとその自分に刺さっているそれに手をかけると勢い良く抜き出した。つい今し方まで自分と一体となっていたそれは最早普段の光沢のある銀色の感じは全くせず、邪悪な赤みを帯びていた。主は暫くそれに見入っていたが、2秒と絶たない内に表情を変えずにその大きな身体を地に倒した。比較的大きな音がすると見えないが居ると思われる猫がしゅっ、と逃げた音がした。主の身体は堂々と仰向けに大の字に倒れており、首元には地の溜りができていた。
「う…うわぁああああああああああああああ! 」
 何が何だか解らなかった。何で主がひたすら追っかけて来るのかも、そして眼の前で大の字になって死んでいるのも。何で自分が逃げていて、何で背中が妙に痛くて、何で自分がこんな下らないゲームに参加していて、何でそれに全く関係無い一般住民を殺しているのかも。
 立ち上がり、三度駆け出した。今度は背中の痛みなんて感じなかった。


【残り22人】

241sign ◆ND.mNnOZFY:2005/08/13(土) 22:57:36 ID:x/ref6M2
今回はネオマト4周年記念です(何
相変わらず段落のつけ方がヘタレです。
色々な作家さんの作品を読んで違和感無い綺麗な段落のつけ方を学んでいきたいと思います。

242バスター:2005/08/27(土) 15:30:43 ID:H0M89cr6
自分も久々に読ませていただきました
ちょくちょく読んでいるのでがんばってください

243削除人★:<削除>
<削除>

244瞬坊:2005/09/06(火) 02:22:32 ID:sC92MIv2
お久しぶりです。いや、ほとんど毎日見に来てるんですけどねw

読み返してみるとやっぱ面白い!
最後まで頑張ってください。

245sign ◆kZBEYEDH3A:2005/11/02(水) 19:21:08 ID:Y4ojUxsk
No:100


 ふと腕時計に目をやった。いつも時計は持たないのだが、これは、たまたま修学旅行の為に1050円で買った簡単に作られた安い物で、雨に打たれた所為かその時から時針がカタカタ震えている。0時まで残り20分。そろそろ放送が鳴ると思い、ディパックから地図とシャープペンを取り出した。放送が鳴ったらすぐに禁止エリアを書き取る為だ。地図も幾分水気を帯びており、ちゃんと写るか心配だった。それでも、書き取らずにうっかり自滅、という事は避けたい。
 風祭達樹(男子)は額から流れてくる止め処ない汗をもう色々な液体が混ざって変色してしまったYシャツの裾で拭った。それでも流れてくる汗。周りが暑すぎて全く発汗の抑止が出来ていない。それでも、衣服は既に大分湿っており、岩場や林を駆けた為汚れも目立っていた為、もう汗等気にならなかった。気になったのは、この異常な暑さで俊敏に身体が動かせるかという事であった。
 気になっているのはそれだけでは無い。腰に付いている長い鞘。日本刀であった。余裕があったので抜いてみた。長さは1m前後といった所。刃先の切れ味が凄い事は先程木の枝を切り裂いた時に理解出来ていた。問題は、自分がこれを扱えるかどうか。多少の武術の嗜みはあったものの、自身に剣術までの心得は無い。全く使えない物を支給されても困るが、日本刀も同じ様なものだ。要するに、自分には手に負えない代物なのである。
 それでも練習しない訳にはいかない。武器がこれしか無い以上、これを駆使して生き延びるしか手立ては無いのだ。達樹は刀をしっかり握ると大きく縦に振り下ろした。刀は決して軽いものでは無く、重量が多少あった為、前に重心がグラついた。おっと、と声が漏れたが、すぐさま体勢を直すと、再び構え、刀を振る練習を始めた。水気で滑らないように気を遣って。
 
 同刻、川守田瀬菜(女子)は近くから聴こえて来る謎の音が気になってしようが無かった。何か荒い息遣いの様なものが聴こえる。しかし、辺り一面闇なので何が音を発しているか解らなかった。確かめたかったが、焦って行動を誤ると命取りとなる。こういう駆け引き的な判断の仕方は幼い頃習っていた剣道で十分培われていた。ましてや、これは剣道とは訳が違う。一度ミスを犯すと次は無い。普段より更に感覚を研ぎ澄ませて物事に当たらなければならない。
 目を瞑った。視覚を消し去る事で聴覚に気を一層集中させ、集音に努める。すると、息遣いの寸前に空を切る様な音が聴こえてくる。ビュン、そしてフッ、と。ビュン、フッ。ビュン、フッ。ビュン、フッ。と何度も連続して聴こえる。息遣いからの声からして男子だ。そう確信を持った瀬菜は声の主に更に近付くべく足を踏み出した。支給武器の大きな猟銃がベルトで身体に固定されている為、多少動きづらかったが、このままじっとしている訳にもいかないので進み出す事にした。


【残り22人】

246sign ◆kZBEYEDH3A:2005/11/02(水) 19:26:31 ID:Y4ojUxsk
中々更新出来なくて申し訳ございませんでした。何分、現在多忙なもので、はい。
ご理解の程宜しくお願い致します。

バスター様>返事遅れて本当申し訳ないです。出来る限り時間を見つけて書いていこうと思いますので、楽しみにしていて下さい。

瞬坊様>お久しぶりです。超が付くほど不定期な更新をするこの小説を度々チェックして頂き、とても嬉しいです。
    これからも書いてこうと思うので、応援の程宜しくお願いします。

247sign ◆kZBEYEDH3A:2006/01/03(火) 23:13:01 ID:iakFswHE
No:101


 川守田瀬菜は徐々に息吹の主へと近付いていった。説明書の通りに猟銃の銃尻を肩で固定させ、引き金に指をやった。もう30mほどだろうか。歩みを進める毎に音が大きくなっていく。同時に、瀬菜の額からも汗が滴り落ち、心臓の鼓動がバクバクと大きくなっていく。引き返したくすらなってきた。脚がふらついている。こちらが襲撃をかけるとはいえ、相手と自分の生死を賭けた本物の戦いを始めるのである。不安と恐怖が募り、瀬菜は緊張のあまり滅入ってしまった。
「怖い…」
 本音が零れた。何でこんなことになってしまったんだろう。いつもならこの時間はお風呂から上がって深夜テレビをジュースでも飲みながらゆっくり見ている筈なのに。あぁ、もう一体今日は何曜日なの? もし火曜日なら深夜ドラマ見なきゃならないのに、水曜日は面白くないけど木曜の12時10分からは音楽のランキングがあって――
 脚だけが進んでいた。身体だけが自然と音の方へ進んでいって、思考が付いて行っていない。瀬菜は無意識に危険へ近付いていくことに気付かなかった。
 つまり、足元に石コロが落ちていることに気付かなかった。石コロを踏み付けてしまったことで現実世界に引き戻され、それが一瞬遅かった為、バランスが崩れ、瀬菜は地面へと倒れこんだ。幸い、地面は草で茂っていた為に衝撃は無かったものの、草同士が擦れる音はこの静寂な状況で人が拾えない程の小さい音とは到底言えなかった。
 先程の息遣いが消えた。その代わりに、倒れこんだ瀬菜の元へと物凄い勢いで草が擦れる音が近付いてくる。
 誰カ来ル――
 瀬菜は立ち上がるとデイパックを放置し音の鳴る逆の方向へ一目散に走り出した。運動神経は決して悪くなく、むしろクラスの中では屈指の運動神経だったが、重量のある猟銃を固定したまま走ることは無謀だった。
 突然、走行中の瀬菜の背中にこれも重量のある物体がぶつかった。その衝撃は強く、猟銃を所持しながら走っていてバランスを崩していた瀬菜はその衝撃をまともに喰らって前に倒れ込んだ。反射的にそれを触ってみたが、それは恐らく自分の放置したデイパックだった。
 そして、音が近付いてきた――
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! 」
 悲鳴を上げた。猟銃を肩に固定し、撃つ用意をした。引き金に指をかけ、歯を食い縛った。
 その時だった、首筋に冷ややかな感覚が伝わった。
「動くな、殺されたくなかったら銃を置け」
 誰でも解る。男子の声だった。そして、首筋に当てられているのが刃物ということも。


【残り22人】

248:2006/04/25(火) 23:32:51 ID:ZlRECtcc
あげ

249お祭り:2006/05/20(土) 16:19:44 ID:ZNECO5Dc
つまんない。邪魔。うせろ。
改めてみると本当につまらないwwwww文章力なさすぎwこれ書いてる人は中学生かな?

246 名前:sign ◆kZBEYEDH3A 投稿日: 2005/11/02(水) 19:26:31 [ Y4ojUxsk ]

中々更新出来なくて申し訳ございませんでした。何分、現在多忙なもので、はい。
ご理解の程宜しくお願い致します。

バスター様>返事遅れて本当申し訳ないです。出来る限り時間を見つけて書いていこうと思いますので、楽しみにしていて下さい。

瞬坊様>お久しぶりです。超が付くほど不定期な更新をするこの小説を度々チェックして頂き、とても嬉しいです。
    これからも書いてこうと思うので、応援の程宜しくお願いします。

この文書が一番面白いw

>>楽しみにしておいてください。
これwwwwこんな小説で楽しみにしろとかwww無理だろwwwwww

>>これからも書いてこうと思うので、応援のほどよろしくオネガイシマス。
ぎゃあwwwこれからも書くのかwwwwこんなつまんないのをwカンベンしてくださいよw

250sign ◆kZBEYEDH3A:2006/06/03(土) 20:47:03 ID:IStAenAw
うはwwwwwwwww久々に見たらあがってるwwwwwww
一応今年から高校生ですよ(`・ω・´)

時間に余裕出来たら書くつもりなんで。

251瞬坊:2006/06/18(日) 19:04:13 ID:zxEe5PQs
がんばれよ。リアルも小説も

252 ◆QGtS.0RtWo:2006/06/18(日) 19:28:03 ID:lXe5DZeY
>>249
文句ばっか言ってないで自分で書いてみれば?ww
正常な人から見て邪魔なのは明らかに
あなたの方ですよ〜ニセモノさん♪

253バスター:2006/12/11(月) 16:12:38 ID:4niGaGwA
久々にあげてみる

254芽衣:2007/01/14(日) 20:05:43 ID:6INeaWlk
こんばんわ
始めましてw
芽衣といいます
小説おもしろいです!!
続き楽しみにしているので頑張ってくださいw
応援してますv

255sign@Ouske64:2007/02/18(日) 19:31:10 ID:dz4P/uuM
生きてます。
きっと完成させるつもりなんで(`・ω・´)

256しゅんぼう:2007/05/21(月) 03:26:21 ID:Vy3CeEC6
age

257幽々子:2017/06/07(水) 16:14:05 ID:???
No:92


一言だけ呟くと引き金に指を掛けた。前方から顔が火照っている今にも卒倒しそうな三杉龍一が突進してくる。決して足取りは軽いとは言えず、ふらふらとよろめきながら何とか歩いていると云う感じだ。

龍一の最後の咆哮が聞こえた。通称クールガイ、また、不思議系天然男の異名をもつ龍一の人生で最大限の声だった。自分の発した声で身体全体が震え、走ったまま倒れそうにすらなった。その怒声を煩わしく感じた神楽圭吾は鼻でせせら笑うとまた呟いた、「死んじまえ・・・」と。

銃声が聞こえ、一部始終病院の二階から窺っていた杉浦千夏は眼をつむった。そして、もう駄目だ―――と確信した。それでも、次の瞬間にその近隣一辺に轟いたのは三杉龍一の断末魔の叫び声でも杉浦千夏の乾いた悲鳴でも無かった。聞こえたのは生々しい神楽圭吾の絶叫。千夏は眼を開けた。そこには、先刻より、1つ多く人影が夕焼けに照らされていた。すぐに、自分達が安全を考慮し世田谷区に置いてきぼりにしてきた三谷捺が居た。もうじっとしてられなかった。千夏は医師と他数人の看護婦を尻目に病院と云うよりは診療所を飛び出した。

「この野郎ぉぉぉぉぉ! 」
神楽の憎悪に満ちた声が聞こえる中、龍一の一連の流れが掴めなかった。それでも、確かに解る。高笑いをする神楽の背後から人格、容姿諸々に当てはまらないナイフを振り下ろす三谷捺を。不意を突かれた彼の銃は天を仰ぎ、銃弾が空高く飛んでいった。そして、その頃にはもう自分の身体は再び突っ込んでいた。よろけるかよろけないかの所でじたばたしていた神楽の身体にタックルを仕掛けた。身体が大きく横っ飛びしたかと思うと、ごろごろと砂を舞い上がらせた。それでも、猟銃は離してなかった。

「ブッ殺してやる! 」
いきり立った調子で叫ぶと、後ろに居る捺の身体に銃尻を叩き付けた。小さく悲鳴をあげると、神楽より遥かに遠くに跳ね飛んだ。その後、すぐに龍一の方向を向き、ポケットに手を突っ込んだ。その行為が、すぐ読めた。弾丸を込める動作――。

「三杉! 」
神楽の後ろから声が聞こえた。龍一の前方から1つの物体が空を舞い、弧を描いた。それを掴むと、その物体を見る間もなく、突っ込んだ。龍一にはもうそれが三谷捺の所持するもう片方のナイフだと確信していた。ナイフの柄を握り下方へ振ると鋭く光った刃が顔を出した。それを、腰に構えた。神楽はまだ装填途中だった。その無防備な腹筋にナイフの刃が食い込んだ。絶叫を上げ、身体を後ろにずらしてナイフを抜こうとするが、龍一もそれに合わせ身体を動かす。そして、ナイフを握った手をぐちゃぐちゃに動かした。聞くに堪えない声がすぐ傍から漏れた。

腹部と背中から血を噴出している神楽は真っ赤に充血にさせた眼をかっと見開くと物凄い力で密着している龍一の股間付近を蹴り飛ばした。龍一がもんどりうって倒れると、自分に刺さっているナイフを抜き取ると、それを龍一目掛けて振り下ろした。

結局、血だらけの刃は龍一の肌に触れる事すらせず、砂埃が舞う地面にぼろっと落ちる事となる。龍一の15m後ろ。杉浦千夏がグロック17を構えていた。硝煙が立ち昇り、それが千夏の視界を曇らせていた。直後、神楽の身体が前方に倒れた。鈍い音がして、一度地面に跳躍する様に跳ねる。鼻骨が折れた音がした、と龍一は感じた。

そのぼきっと云う音を聞いた後、龍一は閉目した。睡魔がやってきたのだ。


神楽圭吾(男子)死亡
【残り24人】

258幽々子:2017/06/07(水) 16:15:34 ID:???
No:92


一言だけ呟くと引き金に指を掛けた。前方から顔が火照っている今にも卒倒しそうな三杉龍一が突進してくる。決して足取りは軽いとは言えず、ふらふらとよろめきながら何とか歩いていると云う感じだ。

龍一の最後の咆哮が聞こえた。通称クールガイ、また、不思議系天然男の異名をもつ龍一の人生で最大限の声だった。自分の発した声で身体全体が震え、走ったまま倒れそうにすらなった。その怒声を煩わしく感じた神楽圭吾は鼻でせせら笑うとまた呟いた、「死んじまえ・・・」と。

銃声が聞こえ、一部始終病院の二階から窺っていた杉浦千夏は眼をつむった。そして、もう駄目だ―――と確信した。それでも、次の瞬間にその近隣一辺に轟いたのは三杉龍一の断末魔の叫び声でも杉浦千夏の乾いた悲鳴でも無かった。聞こえたのは生々しい神楽圭吾の絶叫。千夏は眼を開けた。そこには、先刻より、1つ多く人影が夕焼けに照らされていた。すぐに、自分達が安全を考慮し世田谷区に置いてきぼりにしてきた三谷捺が居た。もうじっとしてられなかった。千夏は医師と他数人の看護婦を尻目に病院と云うよりは診療所を飛び出した。

「この野郎ぉぉぉぉぉ! 」
神楽の憎悪に満ちた声が聞こえる中、龍一の一連の流れが掴めなかった。それでも、確かに解る。高笑いをする神楽の背後から人格、容姿諸々に当てはまらないナイフを振り下ろす三谷捺を。不意を突かれた彼の銃は天を仰ぎ、銃弾が空高く飛んでいった。そして、その頃にはもう自分の身体は再び突っ込んでいた。よろけるかよろけないかの所でじたばたしていた神楽の身体にタックルを仕掛けた。身体が大きく横っ飛びしたかと思うと、ごろごろと砂を舞い上がらせた。それでも、猟銃は離してなかった。

「ブッ殺してやる! 」
いきり立った調子で叫ぶと、後ろに居る捺の身体に銃尻を叩き付けた。小さく悲鳴をあげると、神楽より遥かに遠くに跳ね飛んだ。その後、すぐに龍一の方向を向き、ポケットに手を突っ込んだ。その行為が、すぐ読めた。弾丸を込める動作――。

「三杉! 」
神楽の後ろから声が聞こえた。龍一の前方から1つの物体が空を舞い、弧を描いた。それを掴むと、その物体を見る間もなく、突っ込んだ。龍一にはもうそれが三谷捺の所持するもう片方のナイフだと確信していた。ナイフの柄を握り下方へ振ると鋭く光った刃が顔を出した。それを、腰に構えた。神楽はまだ装填途中だった。その無防備な腹筋にナイフの刃が食い込んだ。絶叫を上げ、身体を後ろにずらしてナイフを抜こうとするが、龍一もそれに合わせ身体を動かす。そして、ナイフを握った手をぐちゃぐちゃに動かした。聞くに堪えない声がすぐ傍から漏れた。

腹部と背中から血を噴出している神楽は真っ赤に充血にさせた眼をかっと見開くと物凄い力で密着している龍一の股間を蹴り飛ばした。龍一が股間を押さえ、もんどりうって倒れると、自分に刺さっているナイフを抜き取ると、それを龍一目掛けて振り下ろした。

結局、血だらけの刃は龍一の肌に触れる事すらせず、砂埃が舞う地面にぼろっと落ちる事となる。龍一の15m後ろ。杉浦千夏がグロック17を構えていた。硝煙が立ち昇り、それが千夏の視界を曇らせていた。直後、神楽の身体が前方に倒れた。鈍い音がして、一度地面に跳躍する様に跳ねる。鼻骨が折れた音がした、と龍一は感じた。

そのぼきっと云う音を聞いた後、龍一は閉目した。睡魔がやってきたのだ。


神楽圭吾(男子)死亡
【残り24人】

259幽々子:2017/06/07(水) 16:16:39 ID:???
腹部と背中から血を噴出している神楽は真っ赤に充血にさせた眼をかっと見開くと物凄い力で密着している龍一の股間を蹴り飛ばした。龍一が股間を押さえ、もんどりうって倒れると、自分に刺さっているナイフを抜き取ると、それを龍一目掛けて振り下ろした。

260幽々子:2017/06/08(木) 19:28:21 ID:???
神楽は真っ赤に充血にさせた眼をかっと見開くと物凄い力で密着している龍一の股間を蹴り飛ばした。龍一が股間を押さえ、もんどりうって倒れると、自分に刺さっているナイフを抜き取ると、それを龍一目掛けて振り下ろした。

261幽々子:2017/06/08(木) 21:12:15 ID:???
「ウオッ!」龍一は驚き、一瞬身体が硬直した。その刹那、神楽のつま先が確実に龍一の股間を捕らえた。

「グエッ!」龍一は両手で股間を押さえ、その足は完全に内股になっていた。

262幽々子:2017/06/19(月) 02:44:46 ID:???
神楽は有無を言わさず、龍一の持ったナイフに向って左手を伸ばし、その手を掴んだ。 次の瞬間、片方の手、傷ついた右手で龍一の股間に拳を叩き込んだのである。






「・・・・・・グッ!」

 短く呻き、龍一は後悔した。

 ナイフを突きつけた事で、気を抜いたのは龍一の完全なミスだった。 いや、元々争いを好まない性格である以上、それ以上の事が出来ず、龍一の行動に覚悟がなかったのも原因の一つだろう。

 龍一は股間を押さえ、その場に蹲った。

263幽々子:2017/06/19(月) 04:07:35 ID:???
肩の辺りを軽く突くと、戦人はおとなしく腰かけた。
だらりと垂れ下がったペニスがファスナーの隙間から出たままなのが多少滑稽だったが、ロノウェはそれを指摘せぬまま、自らの指でそれを下着に仕舞いこみ、ファスナーをそっと上げてやった。
「あ…」
戦人は紅潮すると、ふっと横を向いて俯いてしまう。
なまじ皮肉られるよりは、よほど強い羞恥を覚えたに違いない。

264名無し:2017/12/11(月) 05:37:10 ID:???
「まだ喋れんのか」と俊文が股間を強く蹴り上げてきたから、俺はうめき声を漏らした。

殴りすぎだろ。ちょっとぐらい手加減しろよ。


痛みが快楽に変わって心地よい。今寝たら気持ち良く寝れるだろうな。


地面が俺に近づいてくる。あっ、俺が地面に向かって倒れてるんだ。

顔から激しく倒れ込み、額と頬を擦りむいた。


顔を横に向けると、一匹のダンゴ虫が地面を這っていた。


ダンゴ虫と一緒だ。俺は動けねぇから、ダンゴ虫以下だな。


朦朧とする意識の中、聞き覚えがある着信音が聞こえてくる。


俺の着信音だ。勇一が携帯奪ったままだ。 誰から電話? 翼のお姉さん?


翼の容態…奈津子と話を…夜鳴村に行って途中までしか読んでないノートの続きを読まなくちゃ。

265名無し:2017/12/11(月) 05:38:22 ID:???
「まだ喋れんのか」と俊文が股間を強く蹴り上げてきたから、俺はうめき声を漏らした。

殴りすぎだろ。ちょっとぐらい手加減しろよ。


痛みが快楽に変わって心地よい。今寝たら気持ち良く寝れるだろうな。

266名無し:2017/12/11(月) 05:47:13 ID:???
「まだ喋れんのか」

俊文が股間を強く蹴り上げてきたから、俺はうめき声を漏らした。

同じ男だろ。そこを蹴るのは無しだろ。


痛みが快楽に変わって心地よい。今寝たら気持ち良く寝れるだろうな。

267名無し:2017/12/13(水) 09:51:01 ID:???
「まだ喋れんのか」

俊文が股間を強く蹴り上げてきたから、俺は股間を押さえ、うめき声を漏らした。

同じ男だろ。そこを蹴るのは無しだろ。


痛みが快楽に変わって心地よい。今寝たら気持ち良く寝れるだろうな。

268風見:2018/06/30(土) 05:49:13 ID:???
「うおらぁ!」
 倒れかけた昭範は持ち直し、逸雄を再度殴りつける。殴られた逸雄は体が捻じ曲がり吹っ飛びそうになっていたが、顔を元の位置に戻すと、昭範の股間に蹴りを入れた。
「ぶっ……」
 声をあげ、股間を押さえながらよろめいた。昭範は掠れた声で言っていた。
「キンタマは、反則だろ……」
「反則なんて、ねえよ」
 逸雄は昭範の逆立った髪を掴み、振り回した。引っ張られた昭範は唾を吐き、逸雄を睨みつける。再度頭突き。再度股間にめり込むように、昭範の左拳が突き刺さった。骨が揺れ、内臓が出そうになった。
「そっちこそ、キンタマじゃん……」
「だって、反則じゃないんだろ」
 二人は睨みあう。その時逸雄は、小さく開いたドアの隙間から一つの目が覗いていることに気がついた。赤茶色の髪と女子の制服が見える。岩崎は無表情で、二人を観察していた。
 それに気を取られていたら、昭範のパンチを喰らいそうになった。かろうじて避けるが、体がよろめいた。
 昭範の顔は酷い。頬は赤く膨れ上がり唇からは血が出ていて、瞼は青く腫れあがり、頭部から出た血は固まりかけ、頬や目の近くにメイクのように散っている。多分、自分も負けず劣らず酷い顔をしているのだろう。

269風見:2018/07/06(金) 21:16:10 ID:???
「うっ!」
次の瞬間、体が浮き上がるほどの勢いで急所を蹴り上げられた。
うめき声を上げ、股間を押さえて転がった。
苦しくて、立ち上がれない。
一瞬にして全身に脂汗が吹き出す。
……畜生、駄目だった。

270風間:2018/09/30(日) 11:49:10 ID:PJV3tt4I
直後、目が見えずに動きのとれない貴史は股間に強烈な痛みを覚えた。かすかに麗音が後ろ廻し蹴りを貴史の股間に叩き込んだのがわかった。
――グッ
蹴りの威力も強く、蹴った場所も正確で貴史は股間を蹴られた痛みで立っていられず崩れた。
――ま、まずい!

271珍子:2018/10/31(水) 20:03:54 ID:PJV3tt4I
お互いに力比べの格好になる。が、城太郎がそこからローキックを放つ。攻撃時のモーションが無い、必殺のキック。

的確に耕一の股間を狙っていたが、城太郎の手を掴んだままガッチリ受けとめる耕一。城太郎の顔に驚きが浮かぶ。

272珍子:2018/10/31(水) 20:04:56 ID:PJV3tt4I
和樹は先ほどの風美の色っぽい姿を見たため、下半身がちょっと恥ずかしい事になっているので慌てた。女の子である風美に言うわけにはいかない。男しか分からない理由だったからだ。風美は和樹が拒否する理由が理解できないらしく頭に?マークを浮かべていた。
「それより早く山荘に行こう」

273珍子:2019/11/10(日) 17:41:08 ID:HZUAAEHQ
額から流れる紅い血で顔を汚した真澄は、クラスメイトたちが今までに見たことのないような険しいものに歪め、物干し竿を振るった。
横に薙いだものはかわされたが、真澄は間髪入れず剣道で言う“突き”の要領で亘の股間を突いた。
兵士の卵として鍛えられている亘と言えども、睾丸は鍛えられない。
うっ、と呻き声を上げ、股間を押さえ、怯んだ。


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