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繰り返される悪夢【長編】

1よこせう:2004/04/26(月) 22:29 ID:kHYrbqF2
石川県横島市立南部中学校3年6組生徒名簿
男子                   
1番 相川 慎太郎(あいかわ しんたろう) 
2番 相沢 彰久(あいざわ あきひさ)
3番 秋宮 慧(あきみや けい)
4番 旭 叉羅(あさひ さら)
5番 池谷 翼(いけや つばさ)
6番 上杉 千裕(うえすぎ ちひろ)
7番 遠藤 祐介(えんどう ゆうすけ)
8番 大原 克巳(おおはら かつみ)
9番 神楽 圭吾(かぐら けいご)
10番 風祭 達樹(かざまつり たつき)
11番 桂 弘典(かつら ひろのり)
12番 金城 真人(かねしろ まさと)
13番 神谷 塁(かみや るい)
14番 川澄 潤(かわすみ じゅん)
15番 木内 政文(きうち まさふみ)
16番 木下 聖夜(きのした せいや)
17番 鬼島 弥勒(きじま みろく)
18番 霧雨 時耶(きりさめ ときや)
19番 久保 宗鑑(くぼ そうかん)
20番 田神 慶吾(たがみ けいご)
21番 立花 雄吾(たちばな ゆうご)
22番 長谷 辰文(ながたに たつふみ)
23番 春田 清史(はるた きよし)
24番 藤沢 雅(ふじさわ みやび)
25番 細川 竜司(ほそかわ りゅうじ)
26番 三杉 龍一(みすぎ りゅういち)
27番 吉田 兼好(よしだ かねよし)
28番 憐道 奉雅(れんどう ほうが)

女子
1番 蒼火 音遠(あおび ねおん)
2番 石井 遥(いしい はるか)
3番 井上 明日香(いのうえ あすか)
4番 卯月 由香(うづき ゆか)
5番 緒方 幸(おがた ゆき)
6番 鍵谷 志穂(かぎたに しほ)
7番 烏丸 遙(からすま はるか)
8番 北里 冷夏(きたさと れいか)
9番 木津 優子(くるつ ゆうこ)
10番 黒井 絢女(くろい あやめ)
11番 相模 魚月(さがみ なつき)
12番 塩野 香織(しおの かおり)
13番 杉浦 千夏(すぎうら ちなつ)
14番 杉原 朱美(すぎはら あけみ)
15番 高橋 優希(たかはし ゆき)
16番 長坂 陽奈(ながさか ひな)
17番 中標津 雪乃(なかしべつ ゆきの)
18番 吹岡 祥子(ふきおか しょうこ)
19番 三谷 捺(みたに なつ)
20番 矢田 伊織(やだ いおり)
21番 由岐 春美(ゆき はるみ)

担当教官:立花 賢吾(たちばな けんご)

101瞬坊:2004/05/29(土) 10:46 ID:hUJJBeMI
けっこう仲のいいクラスなんだな

「兄さん」?「兄貴」じゃないのか?

102黒夢:2004/05/30(日) 13:54 ID:DY5013mk
上杉君死んでしまい何か残念。
番外編は楽しかったです。

103よこせう:2004/05/30(日) 21:48 ID:LJ.fIb/Q
No:35

吹岡祥子(女子)はスーパー林道の手前で窮屈そうに座っていた。
不良の様な身なり。本人は不良では無いと言っているがいかにも不良。真紅のルージュ、
金色に輝くピアスが両耳に一つづつ、それと、煙草。
校内、校外構わず吸い始める。ヘビースモーカー(ちなみに歳は14)。
顔立ちはちょっと雰囲気が大人っぽい。茶髪気味のショートヘアー。行き着けの不良の溜まり場の散髪屋でいつも切っている。
恐ろしい風貌故あまり近付かない。
それほど恐ろしくは無いと思われる風貌。けど、友達付き合いが一層それを引き立てる。
付き合っている(ここではツルんでいる)のは男子。
不良の木下聖夜(男子)、川澄潤(男子)、霧雨時耶(男子)、長谷辰文(男子)。
どいつも県内で幅を利かせている連中。確かに喧嘩はどいつも強い。この祥子を入れた5人で、
高校生を殺した事もある。

思い起こせば半年前。長谷辰文(男子)の弟が女と一緒にいる所を高校生に襲われた。
辰文の弟はタコ殴り。その彼女は男達に何処かへ連れて行かれた(翌週ぐらいに彼女は自殺した)。
それで、辰文の弟が事の有様を説明した。
学校では不良を気取る辰文だが、5人の中ではそれ程悪ぶってなく、家では家族孝行の真面目息子。
それだけに、弟がやられた事が許せず、グループの連中に相談した。
意外と人情に厚い川澄潤とかはもう超乗り気だった。説明した途端、行き着けの店へいってナイフを何丁か買っていた。
祥子はそれ程やる気が無かったが木下聖夜と霧島時耶が乗る気だったので自分も行く事にした。
結果は言うまでも無かった。辰文の金属バットがその高校生の脳天を直撃した。
その手応えは今でも残っている。ごん、という鈍すぎる音。高校生の坊主頭が陥没した。
今まで様々なグロテスクな光景を見ていたが(例えば眼をえぐりとったり)、これほどの物は―――
鈍い音がした後、その陥没した頭から溢れ出す血、血、血。
もうその時には高校生は絶命していたのだが、僅かにぴくぴく痙攣している。もの凄い吐き気。堪えるだけで精一杯。
自分は、人を殺して―――――
次の瞬間、「こいつまだ動いてやんぜ」の一言。
そして聞こえた。ズブッ、という音が。死体を見た。それで、完全に血の気が引いた。
霧島時耶がまだ動いていた死体に完全なる一撃をお見舞いした。出刃包丁で高校生の額を突き刺した。
高校生の額がぱっくり真横に割れた。そこから妙などろどろした物体がとろりとはみ出ている。
我慢できない―――――
胃の中から異物が込上げてきた。

祥子はディパックを開けた。あの事を思い出した後は必ずと言って良いほど喉が乾く。
潤す為に水入りペットボトルを取り出し、それを飲んだ。
喉を水が流れ落ちる感触がした。
それと同時にがさり、という音がし、少なくともそれに驚いた事は確かだ。
ひょこりと現れたのは長谷辰文。
「祥子―――」

【残り42人】

104よこせう:2004/05/30(日) 21:50 ID:LJ.fIb/Q
瞬坊氏>兄貴ってのはもうちょい強くて優しい系で、桂は兄さん、という、
    のほほんという感じですかね

黒夢氏>番外編読んでくれて感謝感激。二百回記念第二弾とかも検討中っす。

105よこせう:2004/06/03(木) 00:24 ID:Erat3rKY
No:36

突然現れた長谷辰文は眼を丸くした。しかし、それと同様に、吹岡祥子も驚いたのだ。
「祥子―――――」
声に成らない声を出しながら、こちらににじり寄って来る。だが、それを―――「来ないで」と止めた。
辰文は一瞬戸惑った。そしてすぐ「なんで?」と聞き返した。
「あんた武器か何か持ってない?あるんなら最初に見せて、悪いけど、これも大事なのよ」
そう言うとスカートの内ポケットに忍ばせて置いた物体を取り出した。
辰文はそれに見覚えがあった。―――パチンコ。昭和時代に一斉を風靡したあの玩具。
「おい祥子、それ―――、つえぇのか?」
祥子は袖口に作ったポケット(いつもは主に脅しのかんしゃく玉とか入れている、今も入っている)から、銀色の弾を取り出した。
BB弾、よりは一回り位大きい鉄製の玉。それをセットした。辰文の感じでは、ゴムを伸ばし、そこに弾をセットし、そのゴムの反動で弾を撃ち出す感覚だった。
だが眼の前の物はそんな物とは比べ物にならなかった。どことなく拳銃に似ている。
ゴム、ではなく、硬い木製のスイッチを引っ張った。そのスイッチは丁度真下の引き金に掛かっている。
それを、スーパー林道にある樹木に狙いを定めた。一気に引き金を引く。ガシャン、という軽快な音がし、
次の瞬間、樹木に銀色の弾が突き刺さった。あまりの出来事。音は殆どしない。銃より強い!?
「まぁこんな所。あんたの武器、見せなさいよ」
辰文はポケットから折り畳みナイフを取り出した。それでも、キャンプ用に使うタイプで、刃が物凄く小さい。
少し恥かしそうにした。それもその筈。辰文はこの間1万くらいで大型のナイフを買った。
それと比べればもう月とすっぽん。弱弱しすぎた。もっとも、霧雨時耶や木下聖夜の物はもっと凄い。
緊張と羞恥のどん底に立たされている彼に吹岡祥子が最後の追い討ちを掛けた。
「あんた、買ったナイフは・・・・・・・・・?」

―――――沈黙。
様子からみて忘れたんだなと祥子は咄嗟に思った。あーぁ、勿体無い。いい戦力なのにねぇ。
あんたは昔からそのドジがあるから一端の不良に成れないのよ。
それでも笑いが込上げてきた。ホント、ドジだねぇ、笑えてくるよ。
ドジさ加減に笑いが込み上げ、とうとう口に出してしまった。わははは、と声を出して笑う。
それを見た辰文は更に赤面した。けど、少し緊張の糸が解れてきたのか、辰文も笑い出した。
「ホント、俺ってドジだよなぁ」

【残り42人】

106よこせう:2004/06/03(木) 21:25 ID:S6DBUSQQ
No:37

長谷辰文のドジさ加減を改めて確認し、笑いに笑った後、吹岡祥子はまたもやあの険しい顔つきに戻った。
「でもマジメな話アンタ本当に武器それじゃヤバいわよ?どうする?これから」
辰文も笑いを顔から消すと、また蒼い顔をし、自分のドジを心から憎んだ。
「あぁ、そうだ、俺武器無いんだった・・・どうしよう―――」
疲弊仕切った様子で下を向いた。それでかなり落ち込んだ様子を見せた。
ちょっと憐れに成って来た。いくらBRでは敵同士としても、流石に昔の喧嘩仲間。
こいつらとよく隣の中学、高校に出向いたものだ。そして、ことごとく立ちはだかる敵を打ち負かした。
いわばクサい仲。
そのクサい仲が今この殺人ゲームの真っ只中に無防備な状態で助けを求めている。
―――――見逃せない。
しゃがみ込み、落ち込んでいる辰文の肩をぽん、ぽん、と二回程叩いた。辰文が上を向く。
「何?」
「何、じゃないよ、アンタの武器、探すんでしょ。何かあるでしょう、こんな島でも」
辰文の顔がいくらか明るくなった。その笑顔を見て思った。
アンタは不良の柄じゃないね、性根は優しいんだろうね。

2人はスーパー林道を抜けると、市街地へ向った。ブラジルでも危ない物を売ってる店位あるでしょう。
スタンガン、催涙スプレー、警棒、後は刃物。運が良ければ銃器。
運が良かった。銃器類が置いてありそうな店。ブラジル周辺なのに、英語で書いてある―――「GUN SHOPP」
それを見つけた辰文は狂喜した。けど、それを祥子は左手で遮った。
銃器店、危ない。誰か居そうだ。―――既に特殊な破壊力を持つパチンコには鉄の弾がセットされてある。
表口は危ない。裏口から入ろう。
辰文に小声で伝えた。辰文は小さく頷くと、抜き足差し足、裏口へ回った。

裏口には普通の扉。だがおかしい。ドアノブが少しグチャグチャに成っている。
というか、開いていた。祥子の背中に嫌な感じがした。背筋が震えた。
間髪入れずに辰文がドアノブを掴んだ。そして、慎重に扉を開けた。
ギギギ、という不気味な音がし、それが一層祥子の不安感を盛り立てる。実際、不安感は的中する。

辰文は中へ入った。朝っぱらだというのに店内は真っ暗だ。どうやらカーテンが全て閉められている。
オールシャットアウト?何で?珍しいな。
一歩踏み出した。祥子はまだ入って来ない。一歩踏むと、床の樹板がぎしっ、ときしむ。
一歩一歩進む。手を伸ばした。指先に何かの物体が引っかかる。それを一気に掴み、引っ張った。
ガシャ、と音がし。重い感触がした。それを持ち、店内から飛び出す。
外で祥子が待っていた。「どう、いいのあった?」と訊いた。
自分の掴んでいる物を見た。それに見覚えがあった。エアガン好きの不良の一味、川澄潤が持っていた。
確か名前はAK47カラシニコフ。何か塗装が剥がれた様に茶色い部分が剥き出しになっている。
とにかく重い。7、8キロはありそうだ。
「他に武器が無いか見てみようぜ」
辰文が店内に入っていった。祥子も後に続く。入って直ぐ右手側にスイッチがあった。
それを押した。途端、店内がぱっと明るく光った。正確には明かりが灯ったと言った方がいいのか。
眼前には幾つ物銃器の数々。いずれもマシンガン。横には大きな棚があり、弾薬が目一杯押し込まれていた。
「おぉ、これだけあれば十分じゃん!」
辰文が喜びを露にする。祥子もちょっと安心した。まぁ、パチンコは単発だからこういうマシンガンも良い―――
次の瞬間だった。入ってきた扉がぎぎ、と開いた。辰文がハテナマークを浮かべると、マシンガンを持ち外へ見に行った。
そして聞こえた。ぱん、ぱん、ぱん、という3発の銃声が。そして続いた、辰文の絶叫。
扉が完全に開いた。そこから入ってきたのは学生服を返り血に染まらせた霧雨時耶―――

【残り42人】

107よこせう:2004/06/05(土) 18:05 ID:4Ma7BNbI
No:38

身体中の血が一気に凍結した感じがした。
眼前に堂々と現れた霧雨時耶(男子)。冷徹な瞳でこちらを見据えている。それに絶大な恐怖を感じた。
がたがた震えているのがわかる。小刻みに身体が揺れ、体温が低下していく。
すっ、と対峙する時耶が大型拳銃、デザートイーグルをこちらに構えた。心臓の鼓動が激しくなる。
時耶は一直線に祥子を見ながら、徐に口を開いた。
「祥子―――――、唐突に言わせて貰う―――――」
冷や汗が出る。何を―――?何をこの私目におっしゃいたいので御座いますか?何でも御申し下さいませ。
「仲間になろう」

かなりテンパった。何を仰るかと思いきや、仲間?ハン、さっき長谷辰文を撃った貴方が?
私に?仲間に?なろうと?今?眼の前で?言っている?
「俺、思うんだよ。立花の野郎、十人になったら人造機械と戦うとかぬかしてたじゃねぇかよ。
 そんときよ、俺達昔のメンバーが揃ってりゃ楽勝じゃねぇの?そう、思わねぇか?」
時耶にしては珍しく誘って来た。メンバー内でもどちらかというと誘われる方だった時耶が―――

「悪いけど――――――」
祥子は息を呑んだ。これを言ってしまっていいのだろうか?言っても、本当に、良いのだろうか。
時耶は反応を待っている。祥子は答えようとしている。
答えた。
「その要求は飲めないね」と言った。
時耶が笑う。「何でだよ?人造機械だぞ?何持ってっかわかんねぇんだぞ?1人2人で対抗できるわけ―――」
「けど―――」、と祥子が遮った。
「無理なのよ、特に、あなたとは、一緒に居られない、だから、無理」
言い終わると同時にまた嫌な冷や汗が出てきた。これで自分は終わりかも知れない。
けど答えは違った。
「あっそ、ならいいよ。それもそうだな、俺って危険に見られるから、しょうがないか」
そう言うと、時耶は呆気無く背中を見せ、外へ通じる扉のドアノブに手を掛けた。
首だけ後ろを向かせると、こう言った。
「後悔するぜ」

ガチャ、と音がして時耶が店を後にした。そして聞こえた、ぱん、という銃声。
それで思い出した。―――――店の外には長谷辰文が瀕死状態で居る事を。

【残り42人】

108よこせう:2004/06/06(日) 22:11 ID:zMUyCg3.
No:39

銃声が聞こえた後、祥子は急いで店の扉を開けた。そこには血の池に浮かぶ長谷辰文―――
絶句した。
言葉が浮かんでこない。頭が大きく弾け跳んでいる。というより、頭が殆ど無い。
強烈な吐き気が浮かび上がって来た。口を手で抑えそれを必死で堪える。
これまで幾多のグロテスク映像を目の当たりにしてきた、これは間違い無くベストオブグロテスクの称号が相応しい。
なんてったって頭が無い。胸に杭が刺さってるとか、吸血鬼に腸を引き裂かれているとは訳が違う。
目頭が熱くなって来たので手を当てた。そこは濡れていた。
ここ何年か流していなかった涙が、長い時を経て吐き気と供に舞い戻ってきた。
それは、グロテスクな光景を見て畏怖の感情で流した涙では無く、純粋な友が死んだ悲しみの涙。
それが止め処なく溢れて来る。とうとう耐え切れずにしゃがみ込んだ。顔を腕に埋めた―――

あのとき辰文は扉が開いた事を疑問に思い、AK47を構え、外に出た。
それが人生最大の過ち。外に出た瞬間、胸にどん、というボクサーのクリティカルヒットを貰った様な感じがした。
後ろに仰け反り、AKの引き金を引いた。だが音も弾も出ない(当然だ、セーフティーがかかっている)。
その後、やっと気付いた。眼の前に居たのは霧雨時耶で、そして拳銃を握り、その弾丸を胸に喰らった事。
霧雨時耶の持つデザートイーグルを胸に直撃させ生存している事でもう十分素晴らしいのだが、彼はその後口を開いた。
「時耶・・・・・・何で・・・・・・!?」
ぱん、ぱん、という鼓膜を引き裂く音が聞こえ、胸にまた衝撃が来た。今度は完全に致命傷。それで、もう動かない。
時耶が地面に倒れている辰文を冷めた視線で見下ろす。いつに無く冷めた視線。
時耶が店内に入っていった。
暫くすると時耶が出てきた。銃声は一つも聞こえなかった。中に居る祥子に怪我は無いのだろうか。
「祥子は――――――?」
それが生涯最後の言葉。時耶は無論答える事も無く50AE弾を辰文の脳天に直撃させた。
天地がひっくり返った感じがして、今度は完全に辰文の生命線を引き裂いた。
そして、その直後、祥子が駆けつけた。

ピーンポーンパーンポーン、と聞き慣れた音がした。
「はぁい、只今午前12時でぇす、すごいなぁ、もう沢山死んでるぞぉ、皆もっと頑張れよぉ。
 男子死亡者は、秋宮慧君、上杉千裕君、立花雄吾君、久保宗鑑君、春田清史君、藤沢雅君、
 女子は、少ないなぁ、蒼火遠音さんだけでぇす。
 男子多いなあ、もっと頑張れよ―――――え―――何―――あぁ、そう。
 はい、男子追加です。長谷辰文君です。つい先程死亡しました。はい、コレだけです。
 皆がんばれよぉ、先生応援してっからなあ。いい結果を待ってます。シーユーネクストタイム」

長谷辰文(男子)死亡
【残り41人】

109あん:2004/06/06(日) 22:15 ID:r2gsy6MQ
杉浦千夏ちゃん、まだでてきませんね・・
とにかくがんばってくださいねww

110よこせう:2004/06/09(水) 23:16 ID:/85rSfms
No:40

昼時―――――。
腹の虫が言う事を聞かなくなって来た。暴れん坊の腹の虫への抑止力も、もう限界だ。堪らず座り込む。
「もう無理」と泣き声をあげたのは川守田瀬菜(女子)。スカートを両手で巻き上げ、右肩に掛けていたディパックを置き、地べたに座る。
「あらら、腹の虫が鳴るにはちょっと早いんじゃないの?」
と宥める様でちょっと挑発気味の態度を取るのは三谷捺(女子)。
座っている瀬菜を大きな瞳で見下ろしている。それで、ちょっとだけ微笑した。
「ディパックに何か食料入ってたんじゃないの?パンとか、色んな物・・・・・・」
瀬菜が右側に置いたディパックの一つの取っ手を手に取った。それをひきずり、眼の前に置き、中を漁った。
「あ、あった」
瀬菜の手がディパックの中からひょっこり顔を出した。その手にはビニールに入っていたパンが入っていた。
それを見て、瀬菜が蒼白した。それで舌をひょっこり突き出すと、こう言った。
「うげぇっ、バターロール。あたし、嫌いなんだよなぁ・・・・・・」
また三谷捺がくすくすと笑った。そして、自分のディパックも漁った。中にはバターロール―――。
瀬菜は見つけた自分のバターロールを手の上でぽんぽん上へ投げ飛ばした。それで深い溜息をついた。
「けど食べないと体力持たないわよ?食べられる時に食べておけば?」
捺があったかい口調でそう諭した。瀬菜は怪訝そうな顔をしたが、仕様が無い様子でビニールを両手で開いた。
それを口へ運んだ。口の中に油の味が充満した。他は何の味もしない。瀬菜が何とも言えない表情をした。
「やっぱり駄目―――給食でも残してるから―――この油の味が何とも―――」
何とも言えないと言おうとしたがバターロール独特の脂っこさが完全に瀬菜の胃を支配した。
猛烈な吐き気。蒼ざめた顔をしたまま上を向く事が出来ない。捺が流石に心配そうに瀬菜の方を向く。
「大丈夫・・・・・・?」
瀬菜はどうにかこうにか「大丈夫・・・・・・」とゆっくり答えた。
そして、ディパックから水の入ったボトルを取り出すと、苦しそうな手つきでそれを飲んでいった。
みるみる体調が回復していった。ちょっと捺も安心した。
「うっ、ちょっと楽になって来た・・・・・・」何とかそう言った。そしてまた水を飲んだ。
捺はその出来事を見終わると、ちょっと心配気に言った。
「先がおもいやられる・・・・・・」

【残り41人】

111よこせう:2004/06/11(金) 20:45 ID:79dsQuH2
あん氏>遅れてすいません(土下座
    杉浦の登場場面を御希望ですか?
    少々時間を下さい。応援ありがとうございます。

112よこせう:2004/06/11(金) 21:38 ID:oSEwjVeU
No:41

昼過ぎ―――、小腹の一つもすいてくる時間帯に、デパートが立ち並ぶ市街地を疾走する影。
ブラジル(正確にはブラジル付近の孤島)でもあるのか―――『スクランブル交差点』
新宿とかだけかと思ってたけどまさかこんな日本の裏側にもあるとは、正直驚いた。ブラジルがこんなに発展しているのか?
こんな無数の横断歩道、大きなスクリーン、まるきり新宿だ。そうだ、新宿にそっくりだ。
もしかして新宿を真似ているのか―――?どうして―――?どんな理由で―――?
これは興味深い。一スパイとして。
北里冷夏(女子)は手に持つショットボーガンの取っ手を強く握った。じんわりと汗をかいているのが自分でもわかる。
すでに矢は装填されてある。後は引き金を引くのみ、それで矢がとんでも無い時速で前方に吹っ飛ぶ。
唾を飲み込んだ。ごくっ、と嫌な感触がする。
ちょっとにきびが浮いてきた肌を手で触る。手にじっとりと汗が付着する。化粧が剥がれた。
化粧の白色が指先で絵の具と化す。それを指先でこする。
ポケットから手鏡を取り出し、顔を覗く。化粧で誤魔化している色白が、汗を拭った部分だけ元の肌色に戻った。
色白の下には純真の肌色が見える。それで、目の下の汗も拭った。化粧が取れ、彫り深い目のくま。
日本人離れした顔。それもその筈。彼女、北里冷夏(女子)は本名、凛銘鈴。
19歳、で中国人。
学生でも何でも無い。学歴トップクラスの優秀生徒。中国の大学を18の時に卒業した天才。
本職―――――スパイ。
中国から送られた日本の経済や政治を探る為に派遣された特殊スパイ。異例の19歳という若さ。
それも全て、高い知能のお陰だろう。正直、運動はあまり得意ではない。
実際あのショットボーガンも自分で扱えるか心配になって来た。あの張力を使いこなせるのだろうか。
烏が勢いよく電線上で泣き喚いた。どきりとして上を見据えた。
烏が真っ黒の羽を広げ、真っ白な雲へと綺麗に反対色を映し出す。
眼が見開かれている。汗が滞り無く肌を滑り落ちる。それで、気付いた。自分はこのゲームに臆している。
スパイになった事で自信を持ちかけていたが、その自信が今崩れ去ろうとしている。
顔面が蒼白になった。もう、じっとしては居られない。

【残り41人】

113よこせう:2004/06/11(金) 22:24 ID:GcSjsOfk
最近、部活が終るのが遅いので疲れて執筆できません(激甘)。
更新速度も内容も乏しいのが現在の課題です。

114:2004/06/11(金) 22:40 ID:pPISi4P.
どうもvお久しぶりで巣v
久しぶりに訪問させていただき最初から
まとめて読ませていただきましたv
一人一人にエピソードがとても丁寧に書かれていて
すごく共感したりして楽しく(?)読ませていただきましたv
myキャラというのは名前が出ただけでもうれしいものですねv(恥
部活は大変ですよね。私も最近は8時近くに帰宅しています;
無理をせずがんばってくださいねv

115あん:2004/06/12(土) 18:50 ID:r2gsy6MQ
まだ出てきませんか・・全然気にしてないのであせらずにがんばってください!!
って自分があせらしてるか・・(恥”

116よこせう:2004/06/12(土) 23:33 ID:Adav2/Bo
空氏>空氏久しぶりで御座います。お互い部活は大変ですね。
   これからも執筆頑張りますんで応援頼んます〜。
あん氏>杉浦は自分が責任を持って活用させますんで、それまで見ていて下さいね。
    応援ありがとうございます。

117よこせう:2004/06/12(土) 23:57 ID:ZjQ7oSGk
No:42

どうにかこうにか身体の震えを抑えた。自分が臆している。スパイになった事で浮かれていた自分が。
まさか、こんなBRという得体の知れないプログラムに参加させられて、怯え、恐れている。
がさっ、と音がした。ヒッ、と一瞬叫び、音のした方向にショットボーガンの銃口を向けた。
茂みから野良猫が飛び出して来た音。何か暑苦しくて手で顔を拭う。今の僅かな音で汗だく。
学生服の袖が腕にぴったりとくっ付く。ぶんぶん腕を振り回すが、裾が腕から離れる気配は無い。
隙間無くくっ付いているので動き難い。だんだん腹が立ってきた。
「もう!」と我ながら情け無い半泣き声をあげると、その場にうずまり込んだ。
もう嫌だ。帰りたい。
そもそも日本には殆ど観光目当てで来たのに。スパイの就任祝いで上司から貰った大学休暇を利用して訪れた日本。
日本に来た途端、任務を負わされ、童顔と子供っぽさを活かして中学生に混じる。
こんな奴居たっけ?等49人しか居ないクラスで有り得ない発言を投じられる。止めたい。中国へ帰りたい。

追い討ち、が忍び寄ってきた。
ぱん、と音がし、直後肩に激痛。うずくまって居た身体が横に大きく揺れ倒れる。
今まで味わった事の無い痛み。右肩から血液がほとばしる。右肩を押さえ、大きく身悶える。
激痛に唇を捩じらせながら眼の前を見た。それで、眼を疑った。
長坂陽奈(女子)―――――!?あのちっこいガキが?何の躊躇いも無く、撃った?私を!?
またぱん、と音がした。今度は当たらなかったが、地面のアスファルトに直撃し、その破片がうずくまる冷夏の眼に直撃した。
更なる激痛。対峙する長坂陽奈は容赦無くこちらへ撃って来る。胸、脚、腕、様々な箇所に穴が空いた。
もう、瀕死状態。あまりの速さ。今にも途絶えそうな生命の中、冷夏は手に持っているショットボーガンの引き金を引いた。
バシュン、と軽快な音がした。矢は陽奈の場所とは全く別の、空高く上空へ上がっていった。
それで、最後の光景。長坂陽奈がうっすら笑っていた。
―――何て―――奴―――何の躊躇いも―――無く―――――!?
最後の音。ぱん、という音がして、冷夏の右顔面が吹き飛んだ。冷夏はうずくまった姿勢のまま倒れると、もう動かなかった。
長坂陽奈が死体に駆け寄る。
「流石はグロック。あんまし反動はないわね。これは使えるわね」
陽奈はショットボーガンを持ち上げた。そして、素早く後を去った。

北里冷夏(女子)死亡
【残り40人】

118よこせう:2004/06/17(木) 01:31 ID:a5NUxu4I
No:43

どれ位走ったろうか。静寂を突き破る激しい呼吸音。ぜぇぜぇと息が乱れる。
後ろでまた、自分より酷い、辛い呼吸音。
自分も無様だが、後ろの奴の有様も酷いもんだ(言いすぎか?)。本当にバスケ部レギュラーなのか?これで。
単に自分の持久力が優れ過ぎているだけなのかも知れない。まぁそうだ。ボクシングはスタミナが命。これ位無いとあのリング上の死闘には打ち勝てない。
しかしバスケも十分にコートを走り回る必要が有るのではないのか?いや、後ろの奴はスタミナが無いとも言い切れない。
ボクシング、一見簡単そうに見えるが、ところがどっこい。こんなにスタミナを消耗するスポーツは殆ど見当たらない。というか格闘技は持久戦だ。
わずかのスペースのリングが、疲れてくると、途轍も無く狭く感じる。
相手の距離が縮まる。それは相手のパンチを貰い易いと言う物だ。それを、交し、尚且つ相手にダメージを与える。
こんなに苦しいスポーツが他に有るとでも言うのか?―――といつも思う。
しかしこの思いも試合に勝てば全て吹き飛ぶ。相手に自分のグローブ付きの拳が直撃し、相手が倒れる。
カウントを数え、それでも経たなければいわゆるKOだ。その時の気分は、今までの不快感を全て消し去る。
爽快感に包まれ、自分が主役の活劇。何とも言えない。最高だ―――。
事実、今まで同世代には殆ど負けた事が無い。部活は通わず、週二日制のボクシングジムに通う。
そこから大会に申し込み、各ジムの強豪と真っ向から対決する。
緊張、不安、あらゆる気持ちが試合前に交錯し、自分を悩ませる。どう練習すればいいのか、どう相手を攻略すればいいのか、全て頭で考える。
昔から格闘技にはこんな言葉が用いられる。
『頭で考えずに、本能で相手を叩き潰す事のみ考えろ』
確かにその通り。頭でジャブだとかワンツーだとかボディーだとか考えずに、只本能で相手に向う。それで大抵は勝てる。
話が反れた。同世代に敵は居ないが、ジム内では、1人だけ倒せない相手が居る。
2つ上の高校生で、インターハイ等大それた事には無縁の彼だが、自分はその高校生だけにはどう足掻いても勝てない。
最初見たときは軟弱な野郎というイメージだったが、いざ闘ってみると、強い―――――。勝てない―――――。
どれだけ攻めようとも、無効化される。それで、初歩的なミスを犯し、自滅する。これが自分の必敗パターン。
来る日も来る日もその高校生と闘う。そして来る日も来る日も負ける。
高校生に聞いてみた。―――何で貴方はそんなに強いのか。と。
高校生は笑って答えた。
「基本さ基本。基本が出来ていれば勝てる。それに、君のプレイスタイルはもう百も承知だ。
 本能本能言うけど、まずは相手を分析してみれば?そうすればどんな相手にも勝てると思うよ」
すごいむかついた。特に、素晴らしいほど爽やかに言われたので、言い返す言葉は一つも喉から出なかった。
次の練習日には絶対勝ってやる―――――。それも、もう実現しない。だってこんなクソ殺し合いゲームに参加させられてしまったから。
神谷塁(男子)は、呼吸を整え、後ろの三杉龍一(男子)に声を掛けた。
「大丈夫か?」
「愚問さ」
龍一はちょっと強がった方に言った。そうして貰わないと困る。お前のイメージが崩れるからな。
塁は高校生の言った言葉を思い出した。
―――基本。基本、基本、基本、基本、分析、分析、分析、分析。
ふざけるな。
こんなクソゲームに基本も応用も本能も分析もクソもあるか。あるのは生き残り、お家へ帰る事だけだ。
まずは脱出を一緒に試みる仲間。そう、今は基本や応用よりそっちだ。
塁は龍一に眼で合図を送ると、素早く人気の無い所へ移る為に、再び走り出した。

【残り40人】

119よこせう:2004/06/17(木) 01:34 ID:a5NUxu4I
悪夢、やっと更新出来ました。やはり掛け持ちは辛いです。
双月庵でもここで連載してたクラス対抗BRをリメイクして載せてますんで、
見ておいてください。
http://diary3.cgiboy.com/2/yokoseu_01/
↑自分の日記です。よければどうぞ。

120よこせう:2004/06/20(日) 22:16 ID:O9Ib5H4Y
No:43、5

「だから、違うって言ってるでしょ!まだ、ビビって何か無いって!何度も言ってるでしょ!」
川守田瀬菜(女子)威勢のいい声が木材置き場に木霊する。得体の知れない鳥がその声でばさばさ羽を広げて大空を一身に舞う。少なくともその声はかなり遠くまで届いている事は間違い無い。
「でも、ビビってるじゃん。ホラ、脚、腕、震えてるよ?」
三谷捺(女子)がふふんと鼻を鳴らし、軽い口調で問う。瀬菜は一瞬、赤くなり、地団駄を踏み、猛烈な勢いで抗議した。
「違う!コレは武者震い!」
更に大きい声。地団駄を踏む音もそれと同時に聞こえて来る。先程の得体の知れない鳥が他の電線の上からその2人の女子のやりとりを黒い瞳でうっすらと見つめる。鳥がどんどん集まってくる。まるで見世物。
「へぇ?武者震いにしてはやけにがたがた震えてるねぇ。それに、汗も凄い凄い。こりゃ格好の的じゃない」
瀬菜は顔を赤くし、それに猛反論しようとした。しかし、口でこの女に勝つ事は至難の技なので、これ以上やると大声で相手に居場所を悟られるので、これ以上無駄な事をするのは止めた。声がもう嗄れかかっている。

水を取り出し、嗄れかかった喉に潤いを与えた。幾分楽になり、掠れた声が元に戻って来る。けれど、悔しい事に三谷捺は全然平気の様だ。いつもと同じでクールに、さらりとした感じで座っている。手にはエアーガン。
瀬菜は実銃。もともとは瀬菜が引き当てたエアーハンドガン(白いBB弾が300発も入っていた)。それを見た捺がいかにも気の毒そうに自分の持っているH&KUSPを瀬菜のと交換してくれた。けれど、その後、
『アンタ、それじゃ生き残れないでしょ?あたしのと変えてあげるよ。アンタじゃ多分それ、扱えないと思うけど、無いよりマシでしょ?』とさらりと言ってのけた。一瞬、むかっとしたが、その次に自分への遠回りな気遣いだと知った。
H&Kを力を込めて握る。改めて大切にしなきゃなと思った。
けど、なるべくなら使わず、脱出したい。それに、生き残るには自分1人にならなくては成らない。けれど、それイコール横に居る三谷捺を消さなくては成らない。危険を冒して銃を渡してくれた捺を――――――誰が殺せる―――――?

カシッ、という音が聞こえた。びくっと身体を震わせ、周りを見た。もしかして敵―――――?何、このパターン。いきなりですか?まぁさっきの大声じゃ仕様が無いか。
けれどその予想ははずれ、物凄い不快感が襲って来た。ポン、という軽快で、弾けた音が耳に届いた。直後、右足に痛みが襲って来た。辺りを見回すと、三谷捺がエアーガンを持ってけたけた笑っている。
「以外と撃てるもんだね、ごめん、右足狙ったんだ」それを笑いながら言う三谷捺を見て、これには腹が立った。
「ちょっと、何で私を狙うのよ!」
「だって木じゃ動かないし練習に成らないじゃ無い。だから動く脚を狙ったんだよ」
「だからっていきなり狙うなんて―――――ひどい―――――」
「ゴメンって言ってるじゃ無い。しつこわね。それより何でそんなにリアクションが大きいのよ。全然痛く無いでしょ!?痛がりすぎなのよ、アンタは。大袈裟大袈裟」
完全に頭に来た。もう、嫌だ。付き合ってられない。こんな奴と一緒に居られるか、馬鹿。もうやってられない。私はもう1人で進む。それで、脱出してやる。アンタなんか居なくても―――――。
「もう、いいよ!何言っても無駄だから!馬鹿!勝手にして!」
H&Kを地面に投げ付けた。鈍い音がして、一瞬壊れたかと思ったが、もうそんな事は関係なかった。こんな奴の銃ならいっそ壊れてしまった方がいい!
くるりと振り返り、捺の制止を振り破って一直線に突っ切った。風が顔に当たる。瞳から零れ落ちる涙。泣くことなんて見っとも無いが我慢出来ない。自然と涙が溢れ出てくる。声を出して泣き叫びたい。
後ろを見るともう姿が見えなく成って来た。どれだけ速いんだ自分は―――――、まぁ、どうだっていい。自分は負けない。もう、誰にも、誰とでも―――――。
けれど、その自信は脆くも崩れ去っていった。それに気付いた時にはもう既に遅かった。
武器が―――無い―――――!?

【残り40人】

121よこせう:2004/06/20(日) 22:16 ID:O9Ib5H4Y
No:44

周りを見渡す。焦りながら武器になるものが落ちていないか血眼で、探す。けれど、無い。やばい―――これじゃ悔しいが捺の言うとおり格好の的では無いか―――。どうする、これから、殺される―――――!

見計らった様にがさりと音がした。物凄いスピードで音の発信源に振り向く。それで、顔面が蒼白になった。
振り向いた先に居たのが、上目遣いでこちらを見据える金城真人(男子)―――。
金城の評判は聞いている。至って狂暴。不良グループには所属しては無いが、運動神経も良く、こういう修羅場も数々潜り抜けてきたのでかなりの強敵だ。しかも、手には銃、当然実銃だろう。
「金城君――――――――」
瀬菜は近付いていった。ここは戦闘しても無理だ。だから、ここはもうプライドも何もかも捨てて命乞いを―――――。しかしその次の金城真人の声を聞いて瀬菜は絶望した。
「何だ―――裏から近付いて殺そうと思ったのによぉ―――バレちまったか―――」
虎とライオンの檻に投げ出された様な感じがした。後ろを向き、一目散に走り出す。ぱん、という音が辺りに響き、瀬菜の脚に激痛が走った。一気に前に倒れ、コンクリートに顔が想いっきりすれた。
「逃げんなよ―――早く死にたいなら動くなよ。一発で心臓狙ってやるよ」
もう駄目だ。ここで死ぬ。けど今逃げて色んな所を撃たれて苦しむより、どうせなら頭を狙ってもらって一発で楽になりたい―――。
金城が近付いて来る。手に持つグロックの引き金に指を掛ける。
「死ね」
ぱん、と音がした。その音はさっき聞こえた音とは違い、全く別物な音だった。そして聞こえた。金城真人の絶叫が。金城の腕から血が流れ落ち、それが地面の草に滴り落ちる。
後ろを向いた。後ろにはH&Kを握った三谷捺が立っている。
「世話焼かせないでよね、馬鹿」
瀬菜は立ち上がり、捺の基に歩んでいった。

【残り40人】

122よこせう:2004/06/20(日) 22:18 ID:O9Ib5H4Y
部活も一段落付き、これから更新出来ると思いますんでよろしくお願いします。
43、5と44になってるんですけど、一気に繋げたかったんですけど、
長いんで43、5と44に分けました。一応繋げる予定でした。

123よこせう:2004/06/23(水) 17:09 ID:mgVSmiNY
ここでも一応言っておきますけど、ここで載せていた『英雄歴伝』を今日をもって、
打ち切りにさせていただきます。
自分の低俗な文章であの川田を描く事がやはり浅はかな考えだったようです。
すみませんでした。それと、応援して下さった方々には感謝します。

124火燵:2004/06/23(水) 19:19 ID:GP4ODv6I
本当に「英雄歴伝」を打ち切ってしまうんですか!?
よこせうさんの作品を楽しみにしていたのでとても残念です・・・。
僕としてはまだ「英雄歴伝」を続けてほしいです。

125ペンギン:2004/06/23(水) 23:30 ID:lzGIaI6k
 「英雄歴伝」打ち切りは残念ですが、がんばって下さい。
今度は、私も含め皆さんが応援します。あっでもけっしてプレッシャーかけるわけじゃないのです笑い

126よこせう:2004/06/24(木) 00:41 ID:kczt9bXQ
火燵氏>改めて自分はこのネオマトで小説を書いていて幸せだなぁと実感しました。
    作品を中傷され、苦しんでいる中、貴方にそう言われると、心が癒されます。
    本当にありがとうございます。
    私としては英雄歴伝は打ち切りと言う事で、残念ですが、これからもよこせうの
    作品を応援して頂けたら幸いです。

ペンギン氏>『私も含め皆さんが応援します』嬉しいです。
       何かもう、こんな絶望状態にこんなに温かい言葉を掛けられると、
       涙が出る位嬉しいです。ありがとうございます。
       これからもよろしく御願いします。

127乱馬:2004/06/25(金) 00:22 ID:RmJ/zIDY
いつもよこせうさんの作品を読ませてもらっているものですw
『英雄歴伝』が打ち切りになるのは大変ショックでした。
でもああいった中傷などにまけず、これからも小説作りを頑張って下さいw
今後の展開、楽しみにしています。

128よこせう:2004/06/29(火) 16:46 ID:NuDOpSVM
乱馬氏>遅れてすみません(滝汗)
    川田の方にもレス送ってくれてどうもです。
    川田の方ではレス返しは多分出来ないと思うんで、いつも心で感謝してます。
    これからも応援宜しく御願いします。

129よこせう:2004/06/29(火) 16:48 ID:NuDOpSVM
No:45

細川竜司(男子)は息を切らしながらその場にへたり込み、改めて自分の持久力の無さを呪った。あれだけ部活で死ぬほど持久走をやらされても、先輩のねちっこいいじめに耐えても、、
苦しい熱血監督の言う事を忠実に守り、正確に体力トレーニングを重ねても、この長距離走(鬼ごっことでも言った方がいいのか?)では、無に等しい。
自分の行ってきた努力が全否定される様な気がして成らない。
照りつける太陽が、竜司の疲弊し切った成長途上中の身体を容赦なく責め続ける。竜司のあごを上がり、首筋から滞り無く脂っこい汗がしたした流れ落ち、それが地面に落ち、一瞬で乾く。
それでもめげなかった。隣に今にも死にそうな卯月由香(女子)が寝そべっていたから。口を大きく開き、水分を求める様に(生憎支給の水は全て飲み干した所だ)ハッハッと苦しそうに息をする。
日頃から野球の特訓を怠らない竜司でさえ今はかなり辛そうなのに、卯月由香は部活は無所属と言う運動とは殆ど無縁な人物。その彼女が隣で苦しそうにしている。それを見ると、まだまだ余力が有りそうな気がしてきた。
あまりにも惨めなのでディパックから最後の一口の水を取り出した。以前、卯月由香は芝生上に寝そべっている(転がっている?)状態である。竜司はそれを横たわる由香の目の前にそっと差し出した。
由香はそれに気づくと、「ありがと」とだけ言うと、それを素早く受け取り、慌てた様子でキャップを取ろうとする。キャップを開ける力も無いのか、キャップに手は付けるもの、どれだけ引っ張ってもキャップはビクともしない。
竜司がそれを開けてやった。また由香が「ありがと」と言うと、すぐさまそれを飲み干した。これで事実上、互いに水分が無い。何処かで奪うしか無い様だ。もしくは、勝手に持って来る。
水分の事を考えるだけで喉がキリリと痛む。それは由香も同じだ。男の自分が耐えないでどうする。耐えろ竜司。隣の女子はもっと辛いぞ。
けれどそろそろ限界だ。日光と気温で今にもぶっ倒れそうだ。実際にぶっ倒れたいい例が隣に居る。日射病?熱射病?いずれにしろこの状態はやばいぞ。早く涼しい所へ連れて行かなければ命に関わる。何とかしろ―――竜司!
「畜生!!」と叫ぶと、蒼ざめた顔の卯月由香の脇を両腕で抱える。以外に軽く、彼女はすっと持ち上がり、立ち上がった。竜司が由香の頬を軽くぱんぱんと叩く。そして問いた。
「大丈夫か?歩けるか?」
「うん・・・・・・・・・」と軽く頷くとふらふらしながら歩き出した。皮肉にも回りには陰になる場所が無い為、今は日光をもろに浴びる場所に二人とも呆然と突っ立っている。日陰が無い。周りに、一つも。無情にも自然までもが敵に回った。
竜司は半ば由香を抱きかかえた様子で歩き出した。一人でまともに歩く事すらもうキツいのに、女子といえどもこの状況下でこの重さの人間を運びながら水分と日陰を探すには精神的にも体力的にも無理に等しい。今でも結構辛い。俺にこんな事が出来るのだろうかっ―――?

一歩一歩、重い足取りながらも進んで行く。由香の腕が自分の首に回る。由香の細い腕。強く握るとぼきりと行ってしまいそうな華奢で頼り無い腕。自分がフォローしなければ成らない。そう、自分が。
由香も迷惑を掛けまいと死力を振り絞って歩いて行く。健気だな、と改めて思う。竜司もそれを称える様に由香をおぼろげな足取りでリードしていく。一心同体。この様を表すにはこれが一番だ。二人の力が合わさってなる技。
努力が実ったのか、以外と建物は近くにあった。
―――――デパート。そこには巨大なデパートが威風堂々と建ち誇っていた。中にはどんな奴が潜んでいるか分からない。けれど、行くしかない。俺、こいつの為にも―――。
竜司は何が待っているかわからないデパートに入って行った。

【残り40人】

130禿:2004/06/29(火) 18:16 ID:auo/H/Do
じゃあ、今度はこのスレでも潰そうかな?

131:2004/06/29(火) 22:50 ID:AMbrfE/c
秀君って荒らしはしたけど潰した奴ってあったっけ?それに潰すって事は荒らしという事を自覚したのかな?また一つ秀君大人になったね!!

132匿名:2004/06/30(水) 00:47 ID:IPW45sbI
>>131
いい加減煽るのもやめましょうよ・・・。

133よこせう:2004/07/04(日) 18:57 ID:kxIdy1qw
No:46

中はとんでも無く蒸し暑かった。冷房なんて物は勿論付いていないので中は熱気が充満していた。それが頭をくらくらさせる。
やっとこさ日陰に移ったかと思いきや、今度は身体の自由を奪うような猛暑。手で汗を拭う。
生憎タオル等は持たない主義なのでまったく吸水性の無い掌で拭うしかないのだ。思った、タオル持ってくりゃ良かった。畜生。

卯月由香(女子)はしっかりとハンカチで額の汗を拭っている。流石、女の子。用意が良いね。
感心しながらそのこびり付いた汗を必死で拭う卯月由香を眺めていた。拭いても拭いても流れ出る汗に悪戦している様だ。
少し羨ましそうにその光景を見る。今は何所からどう見ても普通の女子中学生だ。現在地、現在の状況が普段の日常とかけ離れているが。
普段と変わらぬ日常が走馬燈の様に浮かび上がる。
それを幾分懐かしみ、少し、ほんの少し涙ぐんだ。あの日々が楽しくて、充実しすぎて、あの日々の印象が強すぎて。あの日々がもう戻らなくて、あの日々に戻りたくて―――途方に暮れる。
風祭達樹(男子)の笑い声。神谷塁(男子)のクールな笑顔。久保宗鑑(男子:故)のおちゃらけた名言集。
一日一日の、一人一人の一挙一動に笑い、悲しみ、嘆き、楽しんだ。
それはもう二度と戻らず、自分の心の中に閉じこもったままで、少なくとも、もうその生活は帰ってこない。
回想すれば回想するほど、政府を憎み、恨み、ブチ壊したくなった。
俺の生活を返せ―――――皆の命を返せ―――皆に詫びろ、土下座して。
ナイフのグリップが汗で滑る。手汗が安物のナイフのグリップに沁み込んで行く。それと同時に握力でグリップを撓らせていた。グリップがギシギシ音をたてる。怒りをグリップに任す。

「細川君」この一言で我に返った。怒りが和らぎ、少しづつ高ぶっていた感情も納まってきた。「何?」と問いた。
「何か音が聞こえる・・・・・・」
竜司は耳を澄ました。本当だ。何か音が聞こえる。ごきっ、と言う鈍い音が。しっかり竜司の耳に届いてくる。
無意識に音のする方に歩み出した。卯月由香もそれに沿って歩み出す。
歩けば歩くほど音の大きさが増して行く。方向を確信すると、一気に音を立てずに走り出した。
「えっ、走るの?」
由香も走り出した。さっきやっと拭いた汗が再び額から流れ落ちる。
竜司は嫌な考えを巡らす事を抑える為、がむしゃらに走りたかった。それと、この鈍い音は何度か聞いたことがある。あの音は確か―――。
店内の角を右に思い切り曲がった。そして愕然とした。
倒れている何者かに、ある男が容赦無く暴行を加えている。相手に馬乗りになり、倒れている物に怒涛のパンチを浴びせ掛けている。
竜司の目測からして、殴っている男は吉田兼好(男子)であり、殴られているのは緒形幸(女子)だ。
もしかしてあの馬鹿は女子を殴っているのか?畜生、あいつまでおかしくなってやがる!
普段はおとなしくて影の薄い、吉田兼好が容赦無く女子を殴りつけている。このゲームはこんな事も引き起こすのか。
竜司は飛び出した。そして一気に兼好に飛びついた。
兼好の身体が吹っ飛び、竜司と縺れ合った。
「おい、何やってんだよ、お前!」
兼好は竜司を一睨した。物凄い眼つきで。いつもの兼好とは全くの別人である。それに少し驚いた。
「うるせぇな、お前」いつもより低い声で唱えた。こんな言葉遣いもありえない。
一気に兼好が飛び掛ってくる。竜司は不意をつかれて兼好にマウントポジションを取られてしまった。この瞬発力も素晴らしい。
兼好が絶叫しながら殴りかかってくる。横でただ叫ぶ事しか出来ない由香。
「この野郎!」
絶叫し、馬乗りの兼好をひっくり返した。逆に今度は竜司が馬乗りになり、兼好を殴った。
しかし兼好はそれすらひっくり返し(野球部レギュラーの自分を)立ち上がった。竜司も立ち上がる。
「俺はこれに生き残る。優勝して、元の生活に戻る!」
「馬鹿野郎!お前がこんな事してる時点でもう元の生活には戻れねぇんだよ!いい加減気付け!」
兼好の顔がみるみる怒張して行く。そして兼好はポケットから少なくとも自分のよりは大きいナイフを取り出した。
それを腰で固定して突っ込んできた。

【残り40人】

134よこせう:2004/07/07(水) 22:48 ID:G3fxZ4Qg
No:47

呆気に取られていたが、反応はちゃんとしていた。凄まじい勢いで特攻を繰り出して来た兼好をするりとかわし、ボディーブローを叩きこんだ。
ちなみにこのボディーブローというのは、神谷塁(男子)のボクシング経験を基にコーチして貰った竜司の必殺技である。
その渾身のボディーブローが兼好のどちらかというと貧弱な部類に入る兼好の身体にクリーンヒットした。そして真後ろにぶっ飛んだ。
兼好はそのまま地べたに腰を思い切り打ちつけ、声に成らない声でうめいた。
呻き声を聞いた後、手に残る手応えを感じながら、急いで兼好に近付いた。兼好はもろに鳩尾に入った様で、腹を抑えてもがいた。
その瞬間、兼好が口から異物を吐き出した。あまりの臭いで咄嗟に鼻を塞いだ。今だ兼好はもがいている。
呻き声が脳内に交錯し、竜司は自分のやった過ちを憎み、呪った。自分は何て事をしてしまったんだろう。こんな貧弱な子を、渾身のボディーブローで―――。
「た、助けてェ―――――、息が―――できない―――」
その言葉で我に返った。今はまずコイツの救護をしなくては、幸い致命傷では無い(それじゃ困る)。
竜司は兼好をまず横に寝かせた。そしてベルトを緩ませようとしたそのとき―――――
兼好が動いた。素早く竜司を振りほどき、転がっているナイフをダイビングして取った。あまりの早業に呆然としていた。
「グワッ!」
狂気の声をあげると、兼好は再び突っ込んできた。今度は完全に不意を突かれたので、もうかわす何て事は出来なかった。かくなる上は―――。
竜司は咄嗟に前かがみになって敵対する兼好の腹部に突進した。
幸い、兼好のナイフは竜司に傷は負わさせず、逆にもろに腹に突進の衝撃が来た兼好は、今度こそ白目になり、バタリと倒れた。卒倒だ。
よく見れば兼好の口元から大量の泡が噴出されている。
それもとてもグロテスクだったので、極力、視界に入れない様にした。
今度こそは素晴らしい程の手応え(実際、衝撃が来たのは頭)だった。自分の頭突きがもろに兼好の腹に当たる。頭にまだ変な感触が残る。
実際、今まで、喧嘩は拳と脚で勝利を物にしていたが、今度は頭だ。ヘッドパンは不良が使う物だ。それをつい使ってしまった。
喧嘩は強いが、容姿は綺麗に。それが竜司のモットーだった。それだけに僅かなミス(今回は頭突きを使った事)が許されない。それで野球も勝ち進んできた。野球部キャプテン、細川竜司。

容姿が綺麗に、は竜司のモットーだ。けれどそのモットーも今に崩れ落ちる事になる。
竜司の白いシャツに、大量の血液が付着する。それは竜司の血液では無いにしろ、そのモットーを打ち下された事は許し難い。いや、それより、許せないのは、
今まさに眼のまえで気絶していた吉田兼好の脳天に深く兼好の所持品のナイフが突き刺さっていて、そこから血の噴水が出来ている事なのかも知れない。
しかもそのナイフを生やしたのは、他でもない先程まで兼好にボコボコにされていた緒形幸であり、その緒形幸が小笑いを浮かべて居る事なのかもしれない。
そして自分はそれに恐怖を感じながらただただじっと血を無造作に発生させる吉田兼好を見ているだけである。
隣に居る卯月由香は、恐怖の涙を流しながら、じっと吐き気を耐えていた。

吉田兼好(男子)死亡
【残り39人】

呻き声より大きい音が木霊した。

135よこせう:2004/07/10(土) 14:45 ID:d5rE6Nu.
No:48

彼女、緒形幸(女子)が吉田兼好の死体から自分達に視線を移した。
卯月由香が恐怖のあまり顔を蒼ざめる。竜司は動揺を悟られない為に冷ややかな視線を送る。本心はこの得体の知れない少女を不気味がっている。
首筋に冷や汗が伝わる。唇をきゅっと噛み締め、さも堂々と言った。
「何でこんな事するんだよ」
自分の口から、自分の言葉なのに、言い放った後後悔した。少女がこちらを思い切り睨み付けたから。
少女は全く屈してない。身長は小さいのに(竜司も小さい)、立派な男子生徒、しかもナイフを携帯中の男子に全く怯えもしないし、畏怖もしない。
この冷徹な瞳に恐怖を感じながら、無意識に後ず去る自分に気付いた。

眼前の緒形幸がいきなり吉田兼好の死体の前にうずくまった。そして凄いリアルな音を流し、額からナイフを引っこ抜いた。
竜司と由香の顔面が蒼白になる。
緒形幸は暫くそのナイフを舐める様に見回す。この間に逃げてしまえば良かったのにと後々思う事になる。
何か決心した様にナイフを投げる。二回も使うナイフは刺さり具合が悪いのか。

緒形幸が吉田兼好の握っているナイフを力づくでもぎ取った。それを持って襲い掛かって来た。
「逃げろ!」
竜司が卯月由香に一喝した。由香は一瞬心臓がでんぐり返りそうになった。
「えっ?何所に!?」
「何所でもいいから、早く!」
竜司の絶叫が木霊し、その声で卯月由香は猛然とした勢いでその場から離れた。
(さぁて、問題は―――――)
突進して来る緒形幸の手首を瞬時に持ち、ナイフを使えない様にした。そしてすぐさま脚を掛けてその場に倒した。
緒形幸が起き上がろうとする。起き上がる前にナイフを持つ手首を脚で踏んだ。
自然とナイフが手から離れ、それを思い切り蹴飛ばした。
ナイフがアスファルトに当たり、チャリチャリと言う音を流しながら真横に滑って行く。
立ち上がった緒形幸に特製のボディーブローをブチかました。華奢な緒形幸が真後ろに吹っ飛んで行く。
吹っ飛んで行く姿を見ながら竜司は呟いた。
『奴を女だと思うな。奴を人間だと思うな―――――』
コイツは必ず俺達の脅威と化す。きっと俺達の脱出を阻む悪魔になる。だから―――ここで―――!
竜司がナイフを振り上げた。それを倒れ伏す緒形幸の身体目掛けて―――
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
振り下ろした。

【残り39人】

136ベルサイユ:2004/07/12(月) 15:23 ID:QNMMCZvs
あげ

137サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/12(月) 21:43 ID:W.0ebgIM
No:49

竜司は絶叫した。今までに出した事の無い位の声量を。やっと浮かび上がって来た喉仏を刺す様な絶叫と供にナイフを振り下ろす。
ナイフは驚くほど真っ直ぐに緒形幸の華奢な身体目掛けて進んで行った。
今更この現在進行形で進んでいるナイフの軌道を変える事も止める事は出来ない自分がいささか悔しく思う。
しかし、今この場でこの悪魔を消滅させない事には、自分達の命が危うい。自分達が生き残るにはやはり襲撃する者を倒すしかないのだ。
そう心の中で復唱した。まるで自分が正しいかの如く―――――

人の命を奪って良い筈が無い。それは自分もよく知っている事なのに、何故か、何故かこの女のオーラからは生かしておく自信が無くなった。
生かしておくと、必ずと言って良いほど脅威と化す。俺達を皆殺しにし、のうのうと1人で故郷に帰るかもしれない。
全てを犠牲にしてまで助かりたいというオーラでは無く、助かりたいだけでなく、このゲームに深い意味を背負っている少女にも見えた。しかしその少女はもう間も無く―――
肉塊と化す―――――

咄嗟に眼を瞑り、その今からの惨状を目の当たりに仕舞いと努力した。
だが努力するまでも無く、ナイフは少女の身体に掠りもしなかった。かわりに、手首に物凄い力が加わってきた。慌てて手を引こうとした。
手首には緒形幸の右手がしっかり繋がってあり、自分の頚動脈の血が止まりそうな位の握力が竜司の手首に響いてきた。
冷や汗が出てきて、うっかり手に持っているナイフをその場に落としてしまった。
しまった―――と後悔した後、緒形幸は落ちたナイフを拾い、竜司の右すねを上等な脚で一蹴した。右足がぴょんと飛び上がり、左足も蹴られた。
ダブル攻撃で一瞬よろっと来た所を見逃されず、直ぐに立ち上がり、ナイフで襲い掛かって来た。
辺りを見回し、何かぶきとなる物は無いかと必死で探した。周りに武器は無い。その代わりに吉田兼好のディパックが落ちていた。屈み込み、ディパックの紐を掴む。それを引きずり寄せた。
素早く持ち上げ、それを猛進して来る緒形幸の身体(もう当たれば何所でも良かった)目掛けて遠心力で思い切り振り回した。
中に満杯のペットボトルの水が入っていて、それが緒形幸の顔面に強打した。ごぼっ、とディパックの中で水が揺れ動く音がした。それと同時にばきっと言うリアルな音―――

緒形幸の腫れあがった顔がまた殴られ、流石にこの得体の知れない不気味な女も効いたようだ。
もうこの女には関わらない方が良いと咄嗟に察知し、ディパックを緒形幸に投げ付け、その場を立ち去ろうとした。けれど―――
丁度緒形幸の後ろに卯月由香が居た。
蒼ざめていた顔も今では大分良くなって来た。しかし眼の前に居る緒形幸に気付いたようで、直ぐに絶叫した。
それに緒形幸もしっかり気付き、ナイフを持って由香に襲い掛かって来た。
「止めろォーッ!」
竜司が超前傾姿勢で緒形幸の後ろ姿にタックルをかました。緒形幸が前方にどしゃぁっと吹っ飛び、顔からアスファルトに思い切り擦った。
由香はまだおどおどしていて、何が起きたのか理解していない。竜司が一喝した。
「何で戻ってきたんだよ!」
「だって!ほっとけないでしょ、アナタ!」
由香は急いでこっちへ走って来た。そして竜司にぴったりくっ付いた。下を見ると、由香の髪の毛が見えた。いつもの整えているのでは無く、
よほど焦っていたのか、もう乱れて、汗でぐちゃぐちゃだった。
そして震えていた。小刻みにかたかた揺れている。眼も虚ろをむいている。そんなに怖かったのか―――、なのに俺を心配して―――。

緒形幸がのっそり立ち上がった(畜生!コイツはゾンビか!)。顔面を血だらけにさせながらこちらへ歩み寄ってくる。
竜司は由香の方を向いた。由香も竜司の方を見る。
「走れるか?」
「うん」
2人は全速力で駆け出した。後ろから緒形幸の不気味に身体を揺らしながらこちらを追っている。
しかしあちらは歩いている速度も同然なので、一気に突き放した。
いくらか走り続けた後、改めて後ろを向いた。もう化け物の姿は完全に見えなくなり、胸中やっと穏やかになり掛けてきた。
竜司は地べたに腰を下ろし、暫くの憩いを与えてくれた神に感謝した。

【残り39人】

138シン:2004/07/12(月) 22:19 ID:b5XUsk3A
はじめまして。
とてもつづきが気になる内容でおもしろいです!!
これからもちょくちょく覗わせていただきます!!

139サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/13(火) 22:14 ID:U9B1UGm2
ベルサイユ氏>初めまして。これからも読んで下さいねw
       
シン氏>こちらも初めましてですかね?久しぶりの感想で狂喜w
    これからも頑張るんで見てて下さいよ(何様

毎日暑い日が続きますが夏バテを乗り越えて頑張りましょう。
ではでは

140サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/14(水) 22:45 ID:0MPO4SAE
明日からネット接続が出来なくなるので暫く更新が出来ません。
暫くしたらやってくると思うのでそれまでさらばです。

141サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/20(火) 21:42 ID:xzojjCqU
No:50

木内政文(男子)は学生服のポケットから『全国剣道中学生体育大会』と隅っこに小さく書かれてあるタオルを取り出し、それで額と首筋の汗を拭った。
既にタオルはポケット内に入れておいた事でかなり湿っているが、拭かない事にはいかないと思ったので一応拭いた。
拭くときに、額に湿っぽい感じがした。ちょっと気持ち悪かった。

政文はディパックから小さな錆ついている農作業用の幾分小さい鎌を取り出した。
木彫の取っ手の部分に赤土がこびり付いており、まさか本当に農作業に使用した物かと思うくらいボロボロだった。
肝心の鎌の切りつける刃先のギザギザも所々無様に欠けている。使用したには留まらず、そのまま刃先も傷付けていた事には心底驚いた。こんな物で―――――

ハッとした。まさか―――自分が殺し合いなんて。する訳無いのに―――こんなもの、有っても無くてもどうでもいいのに、こんな物―――俺には無意味だ。
政文は鎌を投げ捨てた。眼の前の谷底に向けて回転しながら落ちていった。暫くした後、鎌が入水するぽちゃん、と言う音が静かな真昼に木霊した。その音は政文の思ってた以上に大きな音がしたので、これからの危機的な状況に陥ってしまう。
まさか自らを戒める為に行った行為が自分に災いを齎すとは現段階では思ってもないだろう。

政文は汗だくになりながら子開きな眼(瞼を全開にすると日差しで眩しい)で辺りを見渡す。
ザザーン、という波打ちの音が遙か下から耳に届く。政文は駆け出して岩壁から下を覗いた。岩壁に思い切り豪波が叩きつけられ、岩肌が揺らぐぐらいにも感じられた。もうさっき投げ捨てた鎌が見えず、白い泡が只膨らんでいるだけだった。それを見てゾッとした―――
後ろを振り向くと林道が真っ直ぐに広がっている。回想した―――

分校から出て直ぐ、兵士からの厳つい眼つきで後ずさった事。
隠れ場所を探している途中、久保宗鑑が黒井絢女を襲おうとして、逆に返り討ちにあった事。
殺人現場を目撃した瞬間、黒井絢女がこちらを一瞥して、怯えて逃げた事。
恐怖と畏怖に半ば支配された状態で歯を食い縛り逃げ惑った事。
やっと見つけた林道の中に飛び込み、どんどん坂を上昇していく事。
走りながら昇るとすぐに脚が痛み出し、その場で誰かに見つかるんじゃ無いかとビクビクしながら休憩していた事。

全てが脳裏に巡り、いつ誰かに見つかるんじゃないかという恐怖で今も頭が一杯である。
内心思う。こんなことありえない。
いつもクラスのトップに立って皆を動かす筈の自分がこんなに無様に―――。本当は皆をまとめて脱出の方法を寝る筈だったのに。それなのに皆があの立花雄吾の一見を境に恐怖に支配されて脱出なんて愚かな事を考えなくなると思う。今、自分が皆を先導しても誰一人として自分の意見を聞く訳が無い。むしろ暴動を起こす可能性がある。それだけは避けたい―――

政文はこれからの事に苦悩する。その谷底を見下ろす無防備な姿に、ある人間の影が忍び寄っていく。

【残り39人】

142あん:2004/07/22(木) 09:25 ID:r2gsy6MQ
ageます

143サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/22(木) 22:05 ID:zVMIXqZ.
No:51

じゃらっ、と砂利が踏み潰される音がして政文は恐怖に顔を歪め後ろを振り向いた。
後ろにはにたにたと笑っている童顔の旭叉羅(男子)がまるきり御伽噺に出て来る様な座敷わらしの様な井出達で立っている。
胸を撫で下ろした。


後ろに居るのがあのおとぼけな旭叉羅で良かったと。もし他の不良の連中だったりしたら一巻の終わりだと確信していただろう。だって今自分は海に向けて前屈姿勢。後ろから押されたら下の海にまっさかさまなのだから。それだけに現れて来たのが旭叉羅で良かったと安堵した。
だが旭叉羅は手に細長い真っ黒な物を持っている。間違い無く銃器だとわかった。それも、拳銃じゃなくて、れっきとしたマシンガンだと言う事も。
マシンガンはイングラムM11で、旭叉羅の小柄な体型には丁度お似合いの大きさの銃だと言う事もわかった。呆然としていると旭叉羅が妙に高くて、くぐもる様な声で話し掛けてきた。
「ねぇ…こんな所で何してんのぉ…?」
旭叉羅がゆっくり近付いて来る。その低身長な姿が一瞬子悪魔に見えた。そして少し気味悪かったので。崖から少し距離を置く事にした。動くと、砂利が谷底へ落ち、ぽちゃんという音を鳴らす。
コイツ……逆に不良等より、こいつの方が何を考えているのかわからないので厄介かも知れない。―――どうする。この餓鬼を。

「ねぇ…木内はこれからどうするつもりなのさぁ…?」
急に問われて吃驚した。背筋がぴんと張った。そしてその時、今自分が丸腰な事に気付いた。少しづつ恐怖が湧きあがる―――
「俺か…?まぁとにかく脱出の方法でも練るかな…?お前は?どうすんだこれから」
旭叉羅はうっすら笑った。上唇を軽く舐めると、上目遣いで笑いながら言った。

「僕?僕はねぇ………」
旭叉羅の表情がだんだん軟化して行く。それと同時に右手のM11も何だか上へ上へ上がって来てる様な気がしてきた。

政文はその瞬間、前に起こった出来事を思い出した。今、最悪の状況の時に思い出してしまった。
旭叉羅が何だか動物飼育小屋に夕方入っていく姿を。政文はその時、剣道部の厳しい稽古が終わり、タオルを片手に帰ろうとしようとしていたその時。見てしまった―――

旭叉羅はウサギ小屋に入っていった。手に何か夕焼けに反射する物を持っていたのが見えたが、その時は夜の餌でも置いていくのかと思っていたので、あまり気にせず、そのまま帰宅した。
次の日、驚愕した。
朝、登校するとウサギ小屋の前に人だかりが出来ていた。比較的クラスでも中心的な政文は、皆待っていたと言わんばかりに人ごみを開けてくれた。人ごみの中には、首をもぎ取られたウサギの死体。そしてもう一つの人ごみがあった。そこへ行く。
そこにはウサギの首がころんと転がっており、既に眼等がカラス等の鳥類に啄ばまれた後だった。それを見た瞬間、猛烈な吐き気が襲ってきて、無様に顔を手に沈めた事を思い出した。
大半の連中は、いつもの不良どもの仕業だと断定した。政文も多分そう思ったと思う。昨日の旭叉羅の行動を目撃していなければ。

ウサギの死体は業者が何処かへ持っていった。そして何の変わらぬ一日を送った。そして部活から帰宅しようとしたその瞬間―――。
今度は鶏小屋にまた旭叉羅が入っていった。その光景を目にし、政文は唾を飲み込んだ。
そして鶏の悲鳴が耳に届いた。

144サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/23(金) 22:28 ID:J0GMieIQ
あん氏>わお、あげどうもです。最近は忙しいので更新のペースがめっきり落ちました(汗
    放置はしないので見てて下さいw

145瞬坊:2004/07/24(土) 18:16 ID:Ovn7T0Ig
BRにおいては不良より銃器類をもったこんな正確な奴の方が1万倍は危険なのです。

お疲れですサインさん。この分だと前作より長編になりそうですな。
次の回を楽しみに待ってます

146瞬坊:2004/07/24(土) 18:17 ID:Ovn7T0Ig
誤字った^^;
正確→性格

147:2004/07/24(土) 20:05 ID:pPISi4P.
こんにちは!お久しぶりで巣v

更新されていたので早速読ませていただきましたv
と!なんとマイキャラがでているではありませんか!
まいきゃらを出していただきありがとうございますv
まさかこういうキャラになるとは自分でも思っていなかったので驚きで巣v

文章が上手下手とかではなくとても読みやすいです。
空白は少ないものの改行がきちんとされてあり説明も
的確でスバラシイと思いますv

お忙しいとは思いますが、完結にむけがんばってくださいね!

148サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/27(火) 20:38 ID:7IMSsn6M
No:52

口内に溢れてきた嫌な唾を飲み込んだ。そして現実を直視した。改めて絶望する。
旭叉羅が完全にM11をこちらに向けた。両手でしっかり握り、今にも撃って来そうな感じだった。学生服の裾で大量に湧き出てきた汗を拭い取る。乱れた呼吸で息をし、旭叉羅を睨み付けた。

「どうしてこんな事を………!」
旭叉羅はくすくすと笑った。「ふざけるな!!」と政文は怒鳴り散らした。しかし旭叉羅が直ぐにM11の引き金に指を掛けて来たので口を止めた。
「勝手な事言わないでよ……僕、死にたくないんだよ。だから、殺すの。君も、いや、これから遭う連中全部。これで」
M11を高々と上げた。そしてまたくすくす笑った。怒りが込み上げて来たのでまたもや怒鳴り散らした。

「うるさい!自分勝手なのはお前だろうが!皆生き残りたいのは山々なんだよ!お前だけがそうと考えるなよ!いい加減―――」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」
旭叉羅は顔を真っ赤にして政文の言葉を遮った。身体を震わせ、形相を変えた。
「何を言おうが僕は生き残る!絶対に、絶対に!!だから、お前を殺す!」


旭叉羅は絶叫してイングラムM11を乱射した。銃口から閃光が弾け、無数の弾丸が放出された。と同時に旭叉羅の小柄な身体が大きく後ろに傾き、地面に尻餅をついた。
政文の顔が痛みに歪み、大きく眼が見開かれた。痛みが身体中に跳ね飛び、腹を弾丸が通り抜けていった。血反吐が口から噴き出て、大きく後ろに倒れた。倒れた拍子に頭から地面に叩き付けた。その時に軽い脳震盪が起こり、政文の意思で立ち上がろうとしても身体が言う事を聞かずにただその場で倒れているだけだった。

旭叉羅はM11の反動で後ろに仰け反ったが倒れはしなかった。そして立ち上がると倒れて動けない木内政文を見下ろした。そして蒼白い顔でふふふと不気味に微笑した。
「僕は生き残る。そして、あの楽しい日々に戻るんだよォーッ!」
M11を乱射しようとした。旭叉羅は引き金を引いた瞬間にはしっかりと脚を地面に固定させ、腕を腰で固定させ、眼も瞑っていた。けれどぱららららという音も先程の強い反動も来なかったので、旭叉羅は眼を開けた。眼の前には木内政文がまだ地面に倒れていて、僅かな血しか流れてなくて、当然死んでもいなかった。
旭叉羅はいかにも『何で?』という疑問の顔を浮かばせてた。
疑問の答えは既に弾切れという事だったが、旭叉羅は銃の事には殆ど無知に近かったし、イングラムM11という銃から弾を発射させただけでも奇跡的だった。その彼が弾切れという事には気付かなかったろう。まさかこんな一瞬で弾が切れるなんて。しかも弾の殆どは反動で旭叉羅が傾いた時に宙に投げ出されていたのだから。


木内政文が無理やり身体を動かし、いかにも不安な旭叉羅目掛けて特攻した。旭叉羅の顔めがけて特上のパンチを食らわした。
旭叉羅の小柄な身体が銃の反動と同じ位に真後ろに飛び、そのまま再び尻餅をついた。
やるなら今しか無い、と思い、政文は今にもふらふらで倒れそうな身体を残された力で動かした。イングラムM11の弾丸はどうやら腹に食らった様だと感づいたのはこの時だった。息をすると妙に腹が痛む、下を見ると、自分の腹に5つの小さな風穴が開いていた。これを見た瞬間、自分はもう長くないと察知した。

しかしここで死ぬ訳にはいかない。この男は仮にもマシンガンという代物を持っている。こいつを今ここで仕留めて置かないと後々大変な事になる。もし誰かが脱出という考えを持っていると、必ずやこういう奴は脅威と化す。今の内だ。コイツを殺せるのは―――――
旭叉羅はM11の細長いマガジンを抜き取った。どうやらこの男にも弾切れという考えが思いついたのか?それに、マガジンの交換動作が異様に速い。リハーサルでもしていたのか?とも考えられた。マガジンを抜き取り、挿し終えた。もう撃ってくる―――

政文は一気に飛び掛かった。「うおっ!!」と旭叉羅が声を上げて驚く、と同時に右手のM11も落とした。政文はしがみ付いた旭叉羅の身体を思い切り右に回した。政文と旭叉羅の位置が逆転し、政文はそのまま旭叉羅の腰を持って崖端へ走って行った。そして―――


飛び込んだ。

旭叉羅が空中で絶叫する。政文は旭叉羅から手を離した。そして人生最後の海の眺めを心行くまで堪能した。
海が音を立てて波を散らした。


旭叉羅(男子)死亡
木内政文(男子)死亡
【残り37人】

149ナナ⇒空飛 蝶子:2004/07/27(火) 22:24 ID:403u3M8Q
旭叉羅君…すごいキャラ濃かったですね。
どうなるんだ、どうなるんだと二人の動きを最後まで息を呑みながら見守ってしまいました。
こういう終わり方もありですね。
結末が、騒然としていて、波の音まで映画のようなリアルさで聞こえてきそうでした。
続きも応援しています。

150サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/29(木) 13:27 ID:E7nc2HWs
瞬坊氏>久しぶりですねw
    最近は何かと忙しい事が多くて更新速度が激減してます…(堕
    暇を見つけてようやく返信をする事が出来ました。これからも見てて下さい。

空氏>申し訳無いとしか言い様が無いです。自分のヘタレな文章で旭叉羅というキャラクターを存分に活かせなくて。
   空氏の送って頂いた三谷捺の方はもっと上手に活かせる様にします。

空飛氏>自分より上のレベルの作者さんからレス頂くのは光栄ですw
    これからも頑張るんで時々でいいんで見て下さい!!

151瞬坊:2004/07/29(木) 19:53 ID:RORkrotk
書き込むのは久しぶりだがこの小説は毎日見守ってますよ^^

マイペースで頑張ってください

152サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/07/31(土) 11:33 ID:9pg.hEec
No:53

辺りは段々暗くなって来る。太陽が段々、山に消えていき、先程の熱射が少しづつ和らいで来るのに、神楽圭吾(男子)は感謝した。
最も、『感謝』という感情は殆ど皆無な神楽圭吾が感謝するのだから、先程までの高熱温度はよほど身体に堪えたのだろう。―――当然、ブラジルなのだから。


それより、つい先刻の旭叉羅と木内政文が揉め合って、2人共海に落下していた―――それを、しっかり圭吾は見ていた。茂みに隠れて、音を立てず、茂みと密着しているせいで暑いにも関わらず、その光景を見ていた。
暫しの口論、旭叉羅の発砲、2人の取っ組み合い、そして、落下。旭叉羅の落下中の絶叫が、今でも耳に残る。絶叫はいつしか2人の入水した音で掻き消されて行く。谷底を見たが、そこには木内政文がぷかぷか浮いているのだけが見え、旭叉羅の死体は見つからなかった。

用心深い圭吾は、旭叉羅の発砲や絶叫で他の連中にこの場所がバレてしまうのでは無いかと察しがついた。しかし、あえて逃げない。それは、只興味本意に2人の死体を見たい、という物では無く、旭叉羅の落としたイングラムM11の為だったのだ。
実際、圭吾が茂みに隠れて眠ろうとしていた所、木内政文がやって来た。政文が谷底を覗いている姿勢の時には、そのまま突き落してやろうとも思った。しかし相手は剣道で県内でもトップクラスの実力者である。武闘家なら、少し位の殺気くらいは読めるだろうと思った(事実、旭叉羅の殺気を感じ取っていた)。
その後、旭叉羅がイングラムM11を片手に歩いて来た。政文を見つけた時の表情は何とも嬉しそうに見えた。


圭吾は落ちているイングラムM11を拾った。弾はマガジン一本分しかなかったが、支給武器が『トンファー』の圭吾はそれで満足だった。だいたい、トンファーなんて使い方が分からない。
トンファーは重いので、ここに置いていく事にした。トンファーを海に投げ捨てた。バシャン、という音がし、それも木霊された。直後、ピーンポーンパーンポーンという軽快なステップの音が聞こえた。

『おーい、立花賢吾でーす。6時になりましたので、死亡者を発表しまーす。よく聞いとけよー、皆ぁー。男子死亡者は…え―――!?吉田兼好君と旭叉羅君と木内政文君だけぇー!?たったの3人?女子死亡者も―――北里冷夏さんだけ?どうなってるの、たったの4人しか死んでないじゃないか。どうしたんだ、皆ぁー。もっときばれよ。もっと殺せよ。じゃないとゲームは成り立たないんだよ。だから、もっと殺しておくれ。
 ま、いいや、時間制限は無いから。たっぷり、じっくり殺せよ。それじゃあ、夜中の放送で、またな』
圭吾は急いでディパックからクラスの名簿を取り出した。今までに12人、死んだ。つまり今は残り37人か…。

圭吾は急いで回れ右をすると、何処かへ走り出して行った。

【残り37人】

153サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/03(火) 22:26 ID:C6FAQkNY
瞬坊氏>遅れてスミマセン。
    瞬坊氏に支えられながら、これからも頑張っていきたいと思いますw
    急いで明日には更新できるよう努力してます。

154サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/05(木) 13:33 ID:0PtUBqRY
No:53,5

鬱蒼と茂る林の陰。マイナスイオンに満ちた林の中は、何処か自分の傷付いた心身共に癒してくれる様な感じがした。
しかし、少し暑い。直射日光は幸い、大木のお陰で当たらないものの、逆に蒸した空気を大木は周りへ逃さない。
ミニミニヒートアイランドの中でじっと、動かずに待機しているのには無理がある。ましてや待ち伏せなんて―――――。一端、茂みから脱出し、林の中の空気を堪能する事にした。
スカートから迷彩服に着替えなければ良かった。動き難いと思って代えた物だが、事実、こんな蒸し暑い時には長ズボンじゃ無くてスカートの方が通気性が良かった。

蒸した空気から解放された黒井絢女(女子)は久保宗鑑(男子)から奪い取ったMP5クルツの弾倉を抜き出し、中にどれだけ弾が入っているかを再度確認した。弾倉内に弾はあと数発しか無かったので、ディパックの中に入っているこれも久保宗鑑から奪い取った予備弾倉を取り出した。
弾倉内から零れ落ちたバラ弾が幾つかディパックの中に転がっていたので、それを現在挿入している弾倉の中に無理やり詰め込んだ。それを、また本体に付け直した。

【残り37人】


長いんで、一端切ります。

155サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/05(木) 13:34 ID:0PtUBqRY
No:54

あのおどろおどろしい久保宗鑑の血まみれの顔が今でも脳内に焼き付かれている。自分で殺してしまったのに―――、何で今更、何で、殺さなきゃ良かったなんて思ったんだろうか?不思議だ―――自分で、殺したのに。
血にまみれた自分の手。擦っても洗っても落ちない指の割れ目に付着した久保宗鑑の血。それをふと見る度に、あの事を思い出してしまう。思い出したく無いのに―――

ナイフを取り出した。あのとき久保宗鑑に突き刺したナイフ。刃先と柄に大量の血液が纏わりついている。もう、このナイフは使えない。切れ味が無い―――。
もう使用不可になった只の鉄の塊を、絢女は音を出さない様に、そっとディパックに戻した。
もう一本の、今度は自前のナイフをポケットから取り出す。政府支給のあんな刃先が短くて、尚且つ切れ難いナイフは駄目だ。しかも、自分が使う前に一端誰か使ってあった。ふざけてる。なめるな、畜生。
やはり、毎日研いでいる自分の護身用ナイフは全然良い。このナイフと、あの強力なマシンガン。この2つで―――勝てる。絶対、負けない。絶対、生き残ってやる。絶対、生還してやる。私を危ない女と言った全ての人間に私の強さを思い知らせる。私の強さを、テレビを通じて世界中に誇示させてやる!


絢女は深呼吸をした。高ぶっている気持ちを抑え、現実を直視する。
『暑くなったら終わり。何所まで冷静に事を済ませるかが生き残る秘訣』と言う言葉を思い出した。
書店で見かけた≪必勝!BR!≫というふざけた題名の本の中の一部だった。しかし、日本中、全ての人間がその本を廃止する様に訴え、書店でも僅かな所でしか売られなくなった。この事はニュースでも報道される様に成っていた。


絢女はそれを偶然見かけた。≪必勝!BR!≫という赤字が筆で豪快に書いてあった。殆どの大人が、それを物騒な本だと小馬鹿にし、通り過ぎていったが、絢女はそれを無意識に手に取って見ていた。
通り過ぎる大人がそれを見て、ひそひそ話を始める。
『危ないわねぇ〜、あんな娘達がこれからの日本を駄目にしていくのねぇ〜』
『晋ちゃん!あんな所に近付いちゃ駄目!さ、ママと一緒に絵本の所に行きましょうね』
『うわぁ……まさに軍人そのものですなぁ……、日本も堕ちたか………』
全て聞き流した。全ては大人の戯言。子供にこんな事をさせたくないのなら、まずお前達がこの駄目な国を改革して行く事だね。お前達がしっかりしてない所為で私はこんな本を読まなくちゃ行けないんだよ。
全てを無視し、ついにはその300ページはあるであろう≪必勝!BR!≫をとうとう買ってしまった。レジ係のパートの中年女性も、それを見て隣のレジの人とひそひそ話しをしていた―――

絢女はその本を徹底的に読んだ。来年は中学三年。低確率だが、自分がこの魔のゲームに選ばれないとは決して限らない。来年の今ごろ―――もしや―――本当に―――。
絢女の持っているナイフも、その本の裏側の広告で見た商品を買った物だ。偽者ではない事をネットで情報を仕入れ、それで研ぎ石と一緒に高値で買った。
当然、両親から猛烈な抗議をされた。その声はまるで夏のセミの鳴き声の様に鬱陶しく聞こえた。


誰よりもBRを理解しているのは私だ。私がクラス全員の頂点に立ち、罵った連中を見返す。只、それだけだ。
絢女は暫く涼んだ所で、また茂みの中に隠れる事にした。あの蒸し暑い茂みに隠れたくは無かったが、隠れない訳には行かない。

がさっ、と唐突に音がした。ぱっと後ろを向いた。しかし、そこには何も無く、只、大木の列が続いているだけであった。一瞬、ヒヤッとした。もしかして敵だったらどうし様かと………。
何も無い事を確認して、前を向いた。


眼の前に広がった光景は、緒形幸(女子)がナイフを自分に向けて振り下ろす瞬間だった――――

【残り37人】

156BEN:2004/08/07(土) 21:44 ID:d4QnVz5o
age

157サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/12(木) 11:19 ID:C3g8cycU
No:55


その刃はまるで自分を仕留める死神の大鎌みたいに。ぼろぼろな風貌は倒しても倒しても這い上がって来るゾンビの様に。その形相はまさしく死神そのものである。


数瞬、絢女の顔が恐怖に引きつった。恐怖などもう忘れてしまった感情だと思ったのに。
湧き上がる。幾多の恐怖の塊が。自分に向けて、牙を剥き―――。


空を切り裂くナイフが絢女を狙っていた。間髪入れずに絢女は自分の不甲斐なさを呪い、それと同時にMP5クルツを腰に固定させ、トリガーに指を引っ掛けた。
緒形幸の口が僅かに歪み、視線を絢女の頭部では無くてその黒々しいマシンガンに向けられた。
ナイフを下ろす手を止め、その細長い脚で絢女を一蹴した。
絢女の小柄な身体が吹っ飛び、MP5クルツがバサバサと音を立て林の坂を転がっていく。


苦しそうに立ち上がった。丁度鳩尾にクリーンヒットし、呼吸もまま成らない。必死で息を整えようと努める。しかし緒形幸はそうはさせない―――
苦しんでいる隙に緒形幸が一気に駆け出した。向う先はMP5クルツ―――。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫しながらMP5クルツに近付く緒形幸の背後から助走を付けた蹴りを喰らわせた。

緒形幸が呻き、大きく前に倒れた。しかしすぐに立ち上がると、絢女の首根っこを掴み、そのまま持ち上げた。
両手で絢女の小さな首を締め付けた。絢女はもがいた。しかし体長15cmばかりはでかい緒形幸にはどうしても対抗する事が出来なかった。絢女の顔がだんだん蒼ざめる―――

最後の抵抗として薄れ行く意識の中で絢女は思い切り緒形幸の腹に蹴りを喰らわせた。
呻き声を上げて、絢女を締め付ける手が緩んだ。
恥じる事無く、緒形幸の腕を有りっ丈の力で噛み付いた。腕の皮が千切れ、そこから血が噴出した。絢女は唾と共にその汚物を口内から吐き出した。


痛みに喘ぐ緒形幸の顔を我武者羅に殴りつけた。怪物の顔が歪んだ。
MP5クルツに向けて走り出した。
緒形幸が急いで駆けつけた。素早く絢女をMP5クルツの周りから取り除こうとする―――が。

絢女は後ろを向いた。そして笑って見せた。満面の笑みで。


「ばいばい」


MP5クルツの銃口から凄まじい数の弾丸が放出され、僅か一瞬の間に緒形幸の全身をハチの巣にした。緒形幸の眼が白眼を剥き、倒れた。どん、と大地が揺れた。

絢女はその場にへたり込み、ようやく呼吸を整える事が出来た。そして小さく呟いた。
「―――やった」


ぱぱぱ、と音がした。直後、絢女の身体に衝撃が跳ね、口から血液が零れた。呼吸を整える所か、更に絢女の衰弱した身体に追い討ちをかけた。
眼の前には塩野香織(女子)がUZISMGを構えて立っており、その銃口から硝煙が立ち昇っていた。

何で―――?防弾チョッキ―――?私、してるのに―――?

銃声が林に響き渡った。
絢女の身体がばたん、と倒れた。

「ゴクローサン」塩野香織はそれだけ言うと、MP5クルツを拾い、去っていった。

緒形幸(女子)死亡
黒井絢女(女子)死亡
【残り35人】

158サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/17(火) 21:07 ID:iGYPOFLk
No:56


辺りが段々暗んで来た。眼を凝らさないと街灯の無い町を歩く事は困難を極めた。
神谷塁(男子)は眼を細め、電柱等の邪魔な障害物を避けながら歩いた。
夕陽が完全に沈み、それで完全に視界を闇で埋めた。必死に瞬きをしながら、見える事が無い物を必死にに見ようとする。
その後ろを、金色のピアスで耳を金に染めた、油取り紙で額と鼻を拭う三杉龍一(男子)も一緒についてくる。
それを見た塁が警告する。


「おい―――――」
龍一はきょとんとした顔つきをした。まるで『危機感』という物を感じ取らせない。せっかくの拳銃はポケットの中である。
「え、何?」
「そんな事して歩いてると、怪我するぞ」
尚も龍一は顔を拭き続ける。
「え、何―――――?あ、痛ッ!」

ごつん、とリアルな生々しい音が聞こえ、龍一の呻き声が聞こえる。すぐに後ろを振り返り、苦笑する。
「だから言ったろう。余計な事しながら歩くと必ず馬鹿を見る」

「……わかったよ」
電柱に額をぶつけた龍一は、苦笑いし、すぐに油取り紙を道端に捨てた。


真っ暗闇な町は、僅かな音でも命取りになる。極力、靴音さえも立てずに、こそこそしながら歩く。
微かな音もしっかり耳に届くように、いつも耳をそばだてる。
ボクシングで鍛えた集中力が、今まさに塁の味方となった。


「なぁ」
突然、後ろから肩を叩かれた塁は、すぐさま後ろ、龍一の方向を向くと、少し怒り気味で返答した。
「何だよ、急に肩叩くなよ。何の用だよ」
「おい、まさか怒ってんのかよ。たった肩叩いたくらいで」
「違ぇよ。だから何だよ。さっさと用件話せよ。何も無ぇんならとっとと先行くぞ」
塁が再び前を向く。歩みを進めようとした瞬間、また龍一が塁の肩をぐいっ、と掴んだ。
「おい、待てよ」
「何だよ!」
「俺の話を聞けよ。だからさぁ、これからどうするかって話なんだよ。お前、少し焦ってるんじゃ無いのか?」
鋭い所を突かれ、少し言葉が詰まった。
「な、何?」
ふふん、と龍一は嘲笑うと、先ほどからおかしな行動をとる塁を指摘した。
「お前、最近歩くの速いだろ。それに、何か、おかしな呪文も呟いてさ、今だってすぐに怒ったって事は気が立ってるって訳なんじゃ無いんだろうな?」
塁は少し赤面すると、友人の鋭い指摘に呻き声を漏らした。そして、口を閉ざした。

「おいおい、俺は口を閉じろって言ってんじゃない。お前のその焦ってる様子がおかしい、って思ってるんだよ。さ、吐いて楽になれよ」


沈黙が続き、なかなか会話が続かない。そして塁は口を割ろうとはしない。
龍一は段々、もどかしくなって今度は先ほどの形勢が逆転し、今度は龍一の方の気が立ってきた。
「だんまりは良くないぜ。ちゃんと俺に話せよ。これから一緒に脱出する仲じゃねぇかよ。相方がそんな事で脱出なんて出来る訳無いだろ?え?」

今度は龍一が偉そうに正論を続々と並べる。これが、この男が今まで口げんかで負けた事が無いという理由か。ふん、当然だ。こんなペラペラ喋ってばっかりの男と口論をしろというのはある種の拷問と変わらない。


それから塁がその重い口を開いたのは、十分後だった。流石の我慢強い塁も、この男の話術を十分も聞いていると気が狂いそうだった。
適当な石段を見つけ、その上に座る。その横に龍一がどっかり座り、右手を塁の肩に回す。
「さ、言ってみろって」
「わかったわかった。話すからその口は閉じてろ」
一気にその口を閉めた龍一は、その焦る訳を早く教えろと急かした。


「川守田の事………」
龍一の脳内で、一気に『川守田』という単語が検索された。龍一の脳からは、『川守田』という単語は、どうやら同じ組、同じ殺しあっている同志の『川守田瀬菜』だと言う事に気づいた。
一気に身体に笑いが込み上げて来て、笑う寸前の口を両手で抑え、更に聞いた。

「んで、その川守田の事が……?」



「守ってやらなきゃ、俺が」
もう駄目だ。こんな真剣な顔でこんな事言われたら困る―――。
「もしかして………好きなのか………?あいつの事…」

塁はゆっくりと一度だけ頷くと、顔を腕に沈めた。

龍一の爆笑が響いた。

【残り35人】

159あん:2004/08/17(火) 22:57 ID:r2gsy6MQ
ぁのーー川守田さんって・・・誰ですヵ???
名簿にいなぃょうなぁ・・・

160サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/18(水) 13:26 ID:Rw01N0Sg
今気付きました。
『川守田瀬菜』という朔月さんから頂いた女子キャラクターを
名簿に載せ忘れました(死

朔月さん、並びに読者の皆様、ご迷惑をかけました。

BENさん>あげどうもです。お初ですか?
     これから宜しく御願いします。

あんさん>ご指摘ありがとう御座いました。
     これからも欠陥を見つけ次第、すぐ報告して下さってくれれば幸いです。

161あん:2004/08/18(水) 18:47 ID:r2gsy6MQ
ぃぇぃぇww誰でもミスの一つぐらぃしますょ!!!!
これからも頑張ってくださぃねぇヾ(@゚▽゚@)ノ☆==☆==

162サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/24(火) 18:19 ID:rKB8/JVE
No:57


夜道に二人の青年の若々しい声が響き渡り、それを聞いた彼らは自分たちの能天気な行動に少し口を慎んだ。
まさかこんなただでさえ街灯が殆ど無い所で闇夜に視力より聴力に身を預ける人間がこんな大声を聞きつけない可能性はまず無いからだ。
しばしの世間話に水を差し、今度は脱出と無謀としか言いようの無い行動計画を立てようとしていた。


それにしても周りが暗すぎてお互いの身体が解らない。

多分、相手は眼の前に居るだろうと信じて一人で熱心に計画の全貌を喋っている神谷塁。
それを『あぁ』か『うん』でしか答えない比較的計画という物が苦手……というか嫌いな三杉龍一。
この二人のコラボレーションの声音は気を付けているにも関わらず絶えず響いている。

時折、三杉龍一が『めんどくさい』を遠まわしに現したわざとらしい欠伸以外は、暫くの間はこのペースが続いているままだった。


「わかったか? まずは仲間から集めるんだ。いくら俺とお前っつたって二人の脱出するのは不可能だ。わかるか? 」
必死に説明する。あまりの熱弁、熱論で汗が噴いて来た。それを拭い、視線を気まぐれ屋に移す。
「あー、うん、わかったよ。次は? 」
一瞬で悟った。全く理解していないと。まぁこういう事に成る事は重々お見通しだった。けど今説明しておかないと後から説明不足とか文句を付けられたらそれこそ面倒だ。

「んで、頑張って分校を襲撃する訳よ。仲間でも集めて」
「あー、そう。『頑張って』ってどういう意味? 」

一瞬、喉が詰まった。一応聞いてたんだ。軽く促していただけかと思ってたけど。まぁ、こいつの事だから多分聞いちゃいねぇから適当に―――。
「まぁ気力と死力で乗り切る訳よ。そんでもって政府の船か飛行機か何かを奪い取る訳。後はどっか外国に俺等だけで逃げちまえばいい。完璧だろう? 」
本当はもっと奥が深くて難儀な脱出計画だったが、ろくすっぽ聞いていないこの男には時間の無駄だと思い、大幅に省略した。
やはりそれだけで通じたらしく、「ふーん」とだけ言うと歩を何故か進めた。



暫くずっと歩いていた、あの適当同士がぶつかった討論の後は互いに一言も喋らず、ただ『脱出仲間』だけを必死に探していた。
夜道も段々、田舎っぽく成って来て、砂利道や草が隆々と生えている地帯にも足を踏み込んだ。
それに連れて段々と歩きづらくも成って来た。障害物があるのでは無いかと緊張しながら一歩一歩足を進めた。

そのときだった。
塁の肩にひやっとした感触が来たのは。それは汗ではなくて、雨水だった。
ポツポツポツと雨が降ってきた。雨脚はどんどん強くなり、1分も経てばもう土砂降りになっていた。
龍一が金切り声を上げて急いで夜道を失踪する。それに連れて塁も走った。

一歩一歩踏み出すと舗装が殆どされていない道路の泥がびしゃっ、と足元で弾けとび、裾周りの泥で固める。
足を震わせながら急いで雨宿りの出来る所を探した。


走りながら、塁はある閃きを考え付いた。
雨宿りとなると皆遮蔽物のある市街地へと足を運ぶと―――そこで仲間を探して脱出の計画を練ればいいじゃないか、と。
三杉龍一に相談しようかと暫く迷ったが、この男の事だ、すぐに『めんどい』等と下らない理由を押し付けて反対するに決まっている。
そんな事なら強引にこちらから目的地へ誘導すればいいだけの事。
まさか誘導されれば動かずにその場で待機するという事も無い。

閃きと同時に浮かんで来た一休さんのイメージを流し、さっさと市街地へ出向く事にした。


【残り35人】

163ナナ⇒空飛 蝶子:2004/08/25(水) 12:25 ID:YrC.rAxQ
美味しいとこ取りの塩野さんが微妙に最強ですね。
緒形さんか黒井さんのどちらかが勝つのだろうと思っていただけに、塩野さんの
すごさが際立って見えました。
57話ってすごいですね!!こんなに話が進んでいるのに驚きです。行動の一つ一つ
の描写も細かく表現されているのがいいですよね。
これからも頑張って下さい。

あ、それと、作者にレベルの上も下もありませんよ。RPGの経験値があるわけじゃ
ないですからね(笑)そんな事言ってしまったら、私はレベル一でホイミも覚えられませんよ。
(変な事言ってすいません)

164サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/25(水) 22:41 ID:ywyLlVo6
あんさん>すいません、作者がこんなので(堕落
     自分の場合ミスが多すぎるので…
     ご指摘&応援ありがとうございます

空飛さん>なんとまぁ、レスの返し方が上手な事ですね(ご満悦
     読者側の意見が非常に理解し易いです。
     ほんともう何と言ってよいやら。
     
     レベルってのは自分の中で勝手に他の作家さんを無礼にも格付けしたものです。
     悪魔で個人的な考えですが、上位の方からの意見は最高に役立ちます。 
     それでは。これからもレスして下さい(何

165朔月:2004/08/25(水) 22:53 ID:g4ZTv2Hg
どうも、実は何気に初書き込みです。
毎回毎回更新するたびに影で読ませてもらってますw
描写がとても巧く成されていて、場面を想像しやすいです。
こんな風に出来たらなぁ、と、感心してしまいますね、ハイ。
川守田ですが、実は自分自身「川守田さんって誰だろう?」とか思ってました;((爆
なので全然気にしないでください!
これからも影でこっそり読んでいますので、執筆頑張ってください!

166サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/08/27(金) 23:44 ID:uf3C5exI
No:58


大粒の雨が二人の肩に降り注がれてきた。レインコートは愚か傘すら無い状態で只雨宿りできる場所を探す為に無償で雨にあたるという事は決して気持ちのいい物ではなかった。
今更になって暑いので学生服を捨てた馬鹿な自分を呪った。
捨てなければ良かった―――と。

そんな事を思いながら水溜りも出来つつある街道を一気に走り抜けた神谷塁(男子)は、早速丁度いい雨宿りが出来る場所を発見した。
思惑通りなら、ここで雨宿りしている途中に脱出を志す仲間を見つけて一緒に脱出の構想を練るという物だったが―――生憎そうは行かない。
そんな事をしている場合では無い。今自分達は猛烈に寒い。先程の熱気が嘘の様に。

真っ白なTシャツを着ていない素肌から直接着せているYシャツが物の見事に背中や胸に雨水でぴっちりと密着する。
当然それは服を着たままプールに入っている様な状態で、如何にブラジルが暑い等と言えどもこの状況下ではそんな事言っている場合では無かった。

凍えそうになっている時、不意に三杉龍一(男子)の方を見た。
そっちはそっちで分厚い金色の中学生らしいボタンが見える漆黒の学生服を羽織っていた。
それのお陰で、塁の視界では、少なくとも三杉龍一は暑そうにも凍えそうにも思えず、只々居心地の良さそうな格好を示していた。
『居心地の良さそう』というのは、その三杉龍一の今にも眠ってしまいそうな間抜けな顔から取って見える。

あ、この顔、携帯で撮って女子に送るか。


外は何やらとんでもない事と成っていた。ありとあらゆる日用品が空を舞っているのだ。
戸や窓が、がたがた不気味に震い、段々不安に成って来た。
風がどんどん強まり、外はもう梢が宙に舞っている位だった。

背筋に緊張が走り、一気に冷や汗が滲んできた。顔が歪む。

もう仲間を見つけるとか雨宿りするとか寒さを解くとか言っている場合では無い。まずこの台風……の様な現象から逃れる事が一番だ。
外に出ようとすると、屋内で凄まじい音がした。音がした瞬間、悪寒が一気に体内を駆け巡った。音のした方へ向かう―――。
そこはガラスがフローリングの床一面に広がっている光景であった。
改めて怪奇現象の威力を提示させられた2人の心臓の鼓動はもう静かになる事はまず無い。
それはまるで崖の端から突き落されそうな位の緊張感である。本来なら絶対何者にも怯える事の無い神谷塁。
本日ばかしは自然の暴走に成す術無かった。

ガラスが割れた所から雨粒と一緒に生温い風が流れ込んできて、その風を吸った瞬間、とんでもない不快感に包まれた。
流しへ走り、思い切り飲み込んだ物を吐き出す。

ステンレスの流し台に真っ赤な液体が付着し、それを見た瞬間、身体中の血液が数瞬凍り付けられた感じがした。
流石の龍一もその赤い液体に驚きを隠せない。

「お、俺のじゃねぇぞ! 」
指摘されるのも何なんで先に言ってみた。龍一は右手を顎の下に構え、如何にも探偵気取りな口調でこう言ってのけた。
「これは人血ですね。そしてそれが風で流されてきたみたいですね………」
薄々感づいていたが、こいつもそう思ったか、と感じると、すぐに窓の外を見渡した。

絶句した。


人が、宙に浮いている。それも、同じクラスの吹岡祥子―――――!

吐き気が急に催してきて、一気に塁はトイレに駆け込んだ。


【残り35人】

167サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/09/04(土) 21:38 ID:lrJ23zno
No:


自分は夢でも見ているのかと思った。たちの悪いサーカスでも見ているのかとすら思った。
眼前でふわりふわりと舞い踊る吹岡祥子(女子)。
それはサーカスでも何でもなく、風に身を任せた不気味な操り人形と化していた―――。


ほんの数刻前―――、吹岡祥子はいつもの様に煙草を吹かしていた。
公園の錆がついたベンチに座り、大胆にもその白い脚を組み、背をもたれかけながら。

長谷辰文―――彼を今一度思い出した、が、すぐに止めた。
悲しみ、それは自分に似合わない。

煙草は必須だ―――というのは過言では無い。普段、先公から貰っている多大な『ストレス』を発散させる方法の1つだ。
後はいつもの不良仲間、霧雨時耶等と一緒に他校の生徒を殴りつける事しか思いつか無い。
もし自分から腕という物をもぎ取られたら自殺するかも知れない。
煙草も吸えない人間も殴れない、それが出来ない世界に居る必要は無いし、居たくも無い。そう思えてくる。

祥子にとってこのBRという殺人ゲームはかえっていいかも知れない。
人をどれだけ殴っても良い、場合によっては殺しても良い、いや、殺さなければならない。
ワクワクして来る。まさか低確率のBRゲーム参加校にアトランダムとは言え選ばれたのだから、感謝しなくてはならない、国に、政府に。

しかし―――最大の欠点。
死と隣り合わせという事だ。

いつ後ろから銃で撃たれるかも知れない、と考えると流石に少しは血の気が引く。いや、引かない方がおかしい。
それでも生き残る自信は多少有った。

いつもの不良仲間と遭遇しなければ―――。
もう確信していた、あの連中と出会ってしまえば自分の命は無いと。
いや、あの少し人情に厚い川澄潤(男子)ならまだ生き残れるかも知れない。

問題は―――霧雨時耶と木下聖夜だ。
アイツらこそ残酷無比、冷酷非情、その通りだ。
多分、奴らに見つかって今まで生き残った奴は居ないだろう、とすら言える。

事実、そうなのだが。


実際、恐怖や畏怖等の感情は訪れて来ない、それはもう既に人を殺してしまったからなのか、あの不良仲間と付き合った所為なのかはまだ分からない。
けど、自分はこの狂気が満ちるこの殺人ゲームに何故か拒否感が沸いて来ない。
感情が一部削り取られているのか、それとも煙草でぐにゃぐにゃに解けてしまったのか。
わからない。

けど――――――。


びゅう、とすごい音がした。
スカートが思い切り風になびく、長い髪がぶわぁっと浮き上がり、砂が眼に突入してきた。
ぐっ、と軽く呻くと、除々に自分の身体が動いている事に気が付いた。

大量の冷や汗が湧き出てきて、自分の運命を呪った。

ずりずり後ろに下がっていき、今まで沸いて来なかった恐怖や畏怖の感情が飛び出てきた。

何かに掴まろうとした。鉄棒、あれに―――。
突風が吹いて来て、何でこんなに風が強いのか、という一般的な考えが浮かんで来た。
猛烈に砂が舞い、眼を開ける事が出来ない。
花壇の花が一気に曲がり、花の部分だけをすっぽり飛ばしてしまった。

「あ――あ――あぁぁぁ!」
急に先に逝ってしまった長谷辰文の笑顔が脳裏に浮かんだ。

そして―――浮いた。


【残り35人】

168サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/09/04(土) 21:42 ID:lrJ23zno
>>167にNoがついていなかった事を反省。
本当は『No:59』です。


朔月さん>え〜、返信レスが遅れてしまった事を100回位反省(汗
     朔月さんも気付かなかったとは…、驚きです。
     こちらとしてはもう誠に遺憾です(何
     これからも小説掲示板1の欠点だらけの作品を書いて行きたいと思いますんで、
     応援宜しく御願いします。

169サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/09/10(金) 22:29 ID:iakFswHE
『英雄歴伝』が終了するまで凍結します。
終り次第更新再開しようと思います。

170瞬坊:2004/09/11(土) 11:47 ID:0FAoV.Ag
工エエェェ(´д`)ェェエエ工工

171ざっく:2004/10/07(木) 12:57 ID:ZieUE1k6
あげ

172サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/07(木) 21:56 ID:g2SMXBbI
No:60


自分の身体が物凄い力で持ち上がっている事に気付かない訳がない。
様々な物が宙を舞う。小石が自分の頬に当たる。

凄まじい勢いで頬をガラスがかすめ、祥子の肌がぱっくり割れた。
浮き上がる中、自分の手で頬を触る。ねっとりとした感触が指先から伝わり、血の気が一瞬引いた。

そして―――、気絶寸前まで甚振られた祥子の前方に、あっては成らない光景が眼前に広がった。




まるで地から生えてきたような大岩。



祥子は眼を瞑った。

ごきっ、と鈍い音がし、祥子の額が陥没した。
そのまま地面にうつ伏せの状態になると、もう2度と動かなかった。
まるで集中砲火を狙っていた様に、祥子の生命が尽きるとほぼ同時に、嵐は止み、惨事は終わった。








嵐が止むと同時に、放送が鳴った。

「おーい、先生だよ〜。さっきの風は凄かったなぁ。
 何か車とか結構横転してそうだけど、大丈夫かぁ?
 先生達も予想外の出来事だったしびっくりしたけど、こっちは何の被害も無かったからそのままプログラム続行して下さい」

丁度放送をじっと椅子に座り聴いていた神谷塁は握り拳をつくり、歯を食い閉めると、机を叩き壊したい衝動に駆られた。
それは勿論―――政府への怒りを形にしたものなのだが。

対極的に三杉龍一は物静かに窓の外を眺めている。
何を考えているのか分からない。はたから見ればこの一言に限る。

けど、時々ブツブツと口が動いているのが分かった。
何を呟いているのか分からないが、とにかく政府への怒りと関連しているものなら少しはありがたい。




何にせよ―――――――このまま黙っている訳にはいかない。

吹岡祥子(女子)死亡
【残り34人】

173サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/07(木) 21:59 ID:g2SMXBbI
短いわ下手やらもう最悪ですね(堕落
やっと復活しました。相変わらずヘタレですけど見てて下さい(懇願


ざっく様>あげどうもです。これからスローペースですけど宜しく御願いします。
     え?折角あげてやったのにコメントが少ないって?

     すんません、レス返し下手なんです…。
     paraさんとかレス返し上手いですね…。

174ざっく:2004/10/22(金) 00:31 ID:9WOl/AaU
......あげ

175サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:45 ID:T3XS25Lc
No:61


段々と尻が濡れて来た。雨風の吹き荒れがこの洞穴の中にまで侵入してきたようだ。よく見れば自分の身体も少し濡れている。

洞穴の中の石段に腰掛けていた桂弘典(男子)はその濡れた学生服を手で触ってみた。
サラサラとした水とは違う、絵の具をそのまま撫でてみた様な感触がした。紛れも無い、血。

先刻、自らが闇へと葬った上杉千裕(男子:故)の跳ね散った血液。
血が取れないとは解っていた。それもあんなに大量に正面からぶっ掛けられたのなら尚更。
しかしこれが見つかれば既に人間を殺害したという事を回りの人間に晒しているも同然。すればたちどころに言い訳する間も無く奇襲を掛けられるかも知れない。それは困る。

ボタンを取り外し、脱いだ。そしてそれを洞穴の中にぽーんと放り投げると、ディパックを持ち、立ち上がった。そして、動き出した。




洞穴の先を抜けるとそこは最悪のパターンの行き止まりかと思いきや、意外と通じていた。
外は明るく、ジメジメしていない。それに、静かだ。さっきの暴風雨は音が凄まじかった。あれでは不意に近づいて来る敵を察知する事が出来ない。
静かな方がいい。微かな音も拾えるし、何と言っても高ぶっていた気持ちが落ち着く。

一直線に続く集落の農道。そこには耕運機等が通ったのだろうか田んぼや畑の泥がそこらかしこに落ちていた。
元々、都会生まれでは無い田舎生まれの自分の故郷の事が頭に浮かんで来た。

毎日学校から帰れば行く所といえば川か山のどちらか。
ガキ大将が川と言えば皆で水泳か魚掴み。山と言えば、山菜や木の実等の採取。
伸び伸びと暮らしていた田舎での生活。今思えばそこでずっと生活していたらこんなBRなんてゲームに参加しなくても良かったのかも知れない。

けど、田舎でも中々の秀才と言われた弘典。都内からの中学校からの推薦。
本当は都会なんて行くわけにもいかなかった。けど、貧乏なうちの事を考えれば、学費が只と言われれば行かない訳にもいかない。

人生最大の親孝行を果たしたと思ったら人生最大の親不孝を犯してしまった。

街灯が弘典を照らす。虚しくてどうしようもない心。どうすればいいのだ、この気持ち。
切ない。切ない。虚しい。

都会なんかに出てしまった所為だ。変な性格が浮かんで来たのは。あの穏やかな性格ともう1つ現れた凶暴な性格。

上杉千裕のケースもそうだ。ついカッとなってしまう。抑制できない。
都会でまざまざと見せ付けられた人間の魔性。

これが男。これが女。これが人間。

同じ種族と思えない。自分はこんな種族なのか。平気で人を貶し嘲笑う事が出来る種族なのか。
笑いたい。思いっきり泣きたい。精一杯努力したい。

そんな事言ってられなかった。皆に合わせないと置いてかれる。苛められる。
俺だって人並みの事がしたい、けどさせて貰えない。都会では。ならどうする。そうか、今やればいいのか。今、そのうっぷんを―――。



「何か慕情に浸ってるらしいけど…、死ぬぞ?」
微かに聞こえた。やっぱり洞穴から出てきて正解だ。静かで、音が拾えた。

空を裂くような音が聞こえ、真横を銃弾が飛んでいく。
それに恐怖も感じずに、腰からМ8000を抜き出し、それを銃弾の飛んでくる方向に闇雲に撃ち続ける。
生憎、マガジンは無い。もう一丁のPPKも―――。

銃弾の尽きたM8000を捨てると、PPKも乱射した。

「銃が無いのなら―――殺して奪い取ってしまえばいい」

PPKの銃弾が無くなると同時に軽トラックの陰に隠れていた侵入者、金城真人(男子)が姿を現した。

「殺して奪い取る?生憎だけど俺も銃なんて持ってねぇんだよ」
坊ちゃん。その単語に過剰に反応を見せた弘典は、真人を睨み付けた。
「うるせぇ、御託並べる前にさっさと何かしたらどうなんだよ」

こんな言葉、昔なら口が裂けても言えなかった。けど、全然言える…。俺、頭おかしいのか…?

「殺してやるよ!」
怒りに震えた真人が突進してくる。
「殺す」と呟くとそれを迎えた。

【残り34人】

176サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:46 ID:T3XS25Lc
No:62


頭の中でボクシングの試合開始のゴングが鳴ったかと思えば、すぐにメリケンを装着した金城の拳が飛んで来た。
弘典は然程驚く様子も無く、それをしなやかにかわすと、逆に金城の頬を殴り付けた。

一瞬の出来事で何が起きたか解せない金城真人は、猛然と弘典のその細身に殴りかかった。
しかし、拳はかすりもせず、何もない所を殴っているだけ。気付いた時には弘典が後ろへ回っていた。
頭を鈍器で殴られた様な感じがした。いや、実際に殴られているのだが。

猪突猛進な真人の性格を把握していた為、簡単に右ストレートを避ける事が出来た。その後、落ちている空弾の銃を握ると、それを真人の脳天に叩き付けた。
それを叩き付ける時、微かに自分の表情が不気味に笑んでいた事に弘典は気付かなかった。

真人の脳内に火花が飛び散り、前方が急に白くなった。あのうざったいガリガリ小僧が居ない。
いや、居るけど見えないだけなのである。

「もうダウン?」
あたふたと前屈みになってよろめく真人の顔面を思い切りその長い脚で蹴り上げた。
耳を塞ぎたくなる様なおぞましい音がすると、更にわくわくしてきた。

殺してやる、殺してやる、殺してやる―――と。


次の瞬間、頬に強い衝撃が走った。自分の体が後ろにふっと、倒れると、起きようとしても起きれなくなった。
立ち眩みする様に、全身の自由が取れなく成ってくる。後ろに手を付き、動けなくなった弘典の眼前に、大きな影が立った。
それは先程自分がタコ殴りにした金城真人であり、その顔はさっきの蹴りと怒りでぐちゃぐちゃになっていた。

「殺す」と一言呟くと、左の軸足をしっかり地面に抑え付け、腰を回し、右足で強烈な蹴りを弘典の顔面にぶつけた。
革靴の真ん中部分が弘典の頬にクリーンヒットし、今度は顔が左にがくんと傾いた。

げぼっ、と弘典が吐血し、むせ込んだ。
むせ込んだ心臓を整える暇も無く、蹴りやパンチが飛んで来る。
その正確無比な一発一発が必ずや弘典のあらゆる急所部分に直撃し、回復させる時間を一切与えない。そして―――

弘典はとうとう、蹲ると、立ち上がれなくなった。全身が焼ける様に熱く、痛い。
体全体が暴行で浮腫み、顔はもう本人かは識別出来なくなっていた。
けど、気絶しないという位の本人の意識は強く、たくましいものだった。

「終わりだよ」
真人がそう呟くと、ポケットからナイフを取り出す。それをしっかり握ると、照準を桂弘典の脳天に向けた。

「あばよ」
ナイフを振り下ろした。

だが、その数瞬前、弘典は動いていた。動けなくなった全身を無理やり動かし、立ち上がった。

『こんな所で負けてられない。こんな所で死んではいられないんだよ』
弘典が立ち上がった事で、ナイフが脳天ではなく、肩に突き刺さった。
「ああああああああぁっ!」
絶叫すると、ナイフが刺さったまま、真人の首を掴んだ。そしてそのまま走り出した。

「こ、この野郎!」
真人が抵抗するが、あまりの弘典の力の強さに首に巻き付いている手を解く事が出来ない。
弘典が助走をつけたまま電柱に真人の頭を叩き付けた。

更に鈍い音がして、真人の血が飛び散った。

【残り34】

177サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:47 ID:T3XS25Lc
No:63


電柱にもたれる感じになりながら、虚ろな瞳で桂弘典の顔を一際きつく睨み付けた。
大抵の相手はこの睨み付けで腰を抜かしてしまうのだが、このケースは予想を反した。
別段、弘典は怖がり、怯える様子も無く、今にも半ば意識不明の真人の顔面に蹴りを喰らわせようとさえ感じ取られた。

実際そうなのだが。

鼻に靴が直撃し、鮮血を散らした。鼻血がどくどくと真っ白のシャツを朱色に染め、まるきり潰れたトマトみたいになっていた。
『この野郎…!』
頭でそう思うものも、思うように身体が動かない。
必死の形相で電柱を掴み、地獄の底から這い上がる死神の様に再び立ち上がった。

この復帰は、弘典自身も予想外の出来事で、あれだけ強烈な攻撃を浴びせ掛けたのにまだピンピンしているとは流石は喧嘩屋、と改めて思った。

やっとの思いで電柱から手を離したが、上手く2つの脚だけで揺れる身体を支える事が出来ない。必ず、右か左かのどちらに傾いてしまう。そんな自分が歯痒かった。
弘典が不気味に笑みながら突進してくる。その顔は先程の真人と変わらない、悪魔そのものなのかも知れない。
自分が悪魔と意識しているが故、もう人に恐れられる事は難儀では無かった。
別に、清清しいとか、嬉しい、楽しいとも思わず、只単に喧嘩に明け暮れた日々。
そんな両極端な2人が本当に火花を散らせたかの様に頭からぶつかった。

ごつん、とも何とも音がせず、2人は頭がくっ付いたまま、ずるずると下へへたり込んだ。当然、互いに意識は無い。
生命に別状のある訳でも無し、只少し頭部から軽い出血をしているだけ、ここが学校の屋上とかなら熱血学園物等がまさにその通りなのかも知れない。けどステージは違った。
彼らは普通の学園の生徒で有る。しかし不運にも、地獄の展開が繰り広げられる国家自慢のステージにあがってきてしまった事で歯車が見事に狂ってしまった。
これが本当の只の喧嘩なら良かったのに、と薄れ行く意識で弘典はそう想った。

嵐の後の静けさにようやく風が舞い戻って来た。それは台風とは打って変わってとても穏やかな風。
それが死闘を繰り広げた2人を意味も無く称える様にも感じられた。
鈴虫なのか鈴虫で無いのか虫の音も聞こえる。それを真っ先に聞いたのは金城真人だった。
痛む頭を抑え、立ち上がる。

「こ…殺してやる…!」
転がっているナイフを手に取ろうとした瞬間、彼の頭内にまるで爆竹でも投下されたかの様にばばばばと頭痛と耳鳴りが襲ってきた。
このままで居たらまた気絶して今度は桂に殺されると思った真人は、ナイフを拾う事も止め、重い足取りで逃げていった。

弘典が立ち上がったのはそれから3時間後。こちらも頭痛と耳鳴りで悩まされる事になる。
やはりこちらも我を忘れて避難する事にした。
一歩一歩歩く度に爆弾の導火線が短くなっていく様な気がした。

軽くふふっと笑うとこう呟いた。
「今度こそ…」
午前1時の事であった。

【残り34人】

178サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/22(金) 21:51 ID:T3XS25Lc
またまたざっく様へ>すいません、またまたこんなので(orz
          3話一気にうpの割りには内容性に乏しすぎです、はい。
          日記とかみて下さったら更新の時とかわかると思いますんで、また覗いて見て下さい。
          
 
http://diarynote.jp/d/55307/   ←日記のアド

179納豆ごはん:2004/10/24(日) 02:06 ID:Eal75xtg
誰も覗かないという罠

180ざっく:2004/10/26(火) 18:47 ID:9WOl/AaU
マイペースにがんばって下さいなw

181なこh:2004/10/28(木) 00:30 ID:lkVGTVU2
地獄の底から這い上がる死神の様に再び立ち上がった。←意味不明
ていうか表現が絶妙に不適切。鼻血がどくどくと真っ白のシャツを朱色に染め、
まるきり潰れたトマトみたいになっていた。って、まるきり潰れたトマトってパクりかよ。
鼻血程度でシャツが潰れたトマトみたいになったりとかありえねえよ。

182サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/28(木) 21:53 ID:2X58aIMU
No:64


何でこんな所に居るんですか―――はい、雨宿りの為です。
元から田舎育ちだった朱美の想像を絶する大型のデパート。7、8階まで続く縦長のデパート。
そのあまりにも大きな建物に誰もが拍子抜けしてしまうと思われる中、その中に女子2名と男子1名が迷い込んでしまった。
あの昼間の暑さが嘘の様に、杉原朱美(女子)の吐息を真っ白にしてしまった。どうかしているこの異常な寒さに思わず隣に座っている相模魚月(女子)にくっ付く。
しかし、当然の如く、先刻の大嵐で濡れに濡れてしまった魚月も、その体温は著しく低下し、顔一面が不気味に白かった。
「大丈夫…?」
凍える声でこう尋ねる。

「別に……大丈夫、気にしないで…」
冷めた声色で答えた。声だけで識別すればそれはそれは折角友人が心配しているのに何と無愛想な答え方だろうと感ずる筈だが、その表情を見れば朱美が強く返せない事も無理ない。
色を失っていくその表情、唇は既に紫と化している。それでも、右手の支給武器、M92Fは先程から見る限り、絶対に離しては居ない。
「ちょっと寝てた方がいいんじゃないの…?悪化すると大変だし…」
無理やりに魚月の細腕を後ろからぐっと掴み、床から立ちあがらさせた。立ち上がると、ごほごほと苦しそうに咳き込む。
適当に売り場からブランド物(といっても見た事の無いメーカーばかり)の服を無造作に床に敷き、その上に魚月寝させた。更にその上にどんどん暖を取る為に服を重ねていく。

「ありがと…」
それだけ言うと魚月は黙り込んでしまった。
「あたしも着替えよう…」
服を掴むと、女子トイレの方向へ歩き出した。

真っ暗で何も見えない。魚月の傍には下の雑貨屋から持ってきた懐中電灯を常備してある。けど、残りの2人は何も持っていない。
ただ広い通路の床を踏みしめる度にかつかつと不気味な音が響き、恐怖感に駆られる。

心臓の鼓動の速さが急速に加速していくのがわかる。頭の中が真っ白に成っていく。

いきなりどんと眼の前に大きな影が現れたかと思うと、それにぶつかってしまった。
心臓が爆発するかと思う程の衝撃が全体に走り、今にも失神しそうな程の恐怖だった。

「何だよ…、何してんだよこんな所で…」
それは一緒にここまで共に進んできた木下聖夜(男子)の胸板だった。
頭の中は対象的に真っ赤になり、意味も無く木下聖夜に文句を付け始めた。
「ちょっと!あんたこそ何で1人でこんな所に居る訳?ちゃんと魚月の傍に居てあげてよ、男なら」
「おいおい、何でそんなに怒ってるんだよ。ぶつかった事なら謝るよ。お前だってどうせあれだろ、服着替えに行くんだろ?」
そう言って朱美の顔面を懐中電灯で照らし出した。
「ちょっと…、眩しいって…」

前方から何か飛んで来た。『取れよ』と聖夜の声がしたので慌ててそれをキャッチした。
それは聖夜の物と同じ懐中電灯だった。
「やるよ、服着替える時とか明かりいるだろ?」
さらりと言い残すと魚月の居る方向へ走り出した。

「サンキュ…」呟くと女子トイレに駆け込んだ。

【残り34】

183サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/28(木) 21:53 ID:2X58aIMU
No:65


もう不要となったぐしゃぐしゃの学生服をトイレのゴミ箱に想い出の欠片も懐かしまず荒っぽくすてると、新しい服に袖を通した。
できれば格好の良いものを欲した所だったが、真っ暗な中で適当に掴んだ服なので、今一度ライトに照らしてみるとその不恰好な服のデザインを見て落胆した。
「嘘………」
悲しげに呟くと、重い溜息を吐きながらトイレから出た。

トイレから出た瞬間、コツンコツンと明らかに靴音だと解る雑音が耳に届き、慌ててトイレの入り口に舞い戻り、ひっそりと息を潜めた。
高まる恐怖心で誰の顔か覗く事が出来ない。もしかしたら魚月や木下聖夜かも知れない、けど―――。
はっとして手元に武器が1つも無い事に気付いた。そう言えば支給されたあのライフルはまだあの魚月の傍に置いてある。あんな重い物常備出来る訳が無いと思い、魚月の休んでいる場所に置いておいたのだ。

自分のドン臭さに思わず笑いが込み上げて来たが、足音の持ち主の方向が明らかに残りの2人の居る方角なので、急いで足音と逆の方向から2人が待機している場所へ向かい、一刻も早く危険事態を知らせる事が先決だと感じた。
トイレから満を持して飛び出た朱美はまだ消え去っていない足音の主の後姿を僅かながら眼にする事が出来た。
身長は殆ど自分と変わらない。それ程小柄でも無い朱美の身長と言えども、殆ど一般女子と似た様な体格だ。

あれは女子だと感じ、急いで靴を手に持ち、靴下のまま、足音を立てずに急いで本部へ戻った。

途端、ぱん、という大きな音が木霊し、その音で朱美の身体が僅かに浮いた様な感じがした。
そして更に、1、2発の大きな銃声。
『魚月――――――!』
朱美の足取りは更に加速した。


今度は、ぱん、というよりぼん、という野太い銃声がした。朱美は咄嗟に、自分のライフルかも知れない、と思った。
次に『杉原ァーッ!』という木下聖夜のよく響く声も聞こえた。
『とりあえず下だ!下へ逃げろぉーっ!』
『わかった!』と言う途中に、また銃声がして、朱美の本能はとにかく下の階へ逃げる事に向かれた。
走っている最中に、後ろからの銃声が止み、少し胸を撫で下ろした。だが、今ではこちら側が全滅したのか相手側がダウンしたのかはまだ解らないが。


無我夢中で階段を降りる、果てしなく長く続く様な階段を、最後の方は半ば飛び降りる様な感じで落下していく。
どんどん下へ降りていこうとしていて、眼を前に向けると、もうそこは下へ続く階段では無く、物置となっていた。
『ここが一階か…』

先程の銃声の残響が完全に無くなり、建物内は、もう先程の静寂に包まれた。
またしても武器が1つも無い事に気付き、足に躓いた長い箒の柄を掴んだ。
無いよりまし、のポリシーに則り、更に脚を進めた。一歩一歩踏み締める毎に汗が出てくる。さっきの寒さが嘘の様に―――。

ありがたい事に足を進めて行く内に大きな影と小さな影が前方に垣間見えた。
侵入者に気付かれるという心配も吹き飛び、ライトを付けて、前方を照らした。
それは思惑通り、木下聖夜と相模魚月の姿であり、2人の無事な姿を確認した事と、漸く仲間を見つけた事でどっと腰が砕けそうになった。

やっと会えた―――2人とも―――!

『おーい!2人ともー!』
大声で朱美が呼び掛けた、2人はそれに気付き、ライトをこちらに向けて照らした。
ライトの光の間に2人の顔が見える。
木下聖夜の不良気取りのどちらかというと凛々しい顔。相模魚月の映画の一匹狼みたいな大人っぽい顔。
その顔がだんだん歪んでいく。

そしてすぐ「逃げろてェーッ!」という魚月の声が聞こえた。

後ろを振り返った。
そこは長坂陽菜(女子)が朱美の支給武器、四七式歩兵銃の銃尻でその朱美の脳天を叩き割る数瞬前の画像だった。

【残り34】

184サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/28(木) 21:57 ID:2X58aIMU
ざっく様>ぐぇ、何か日記で明日更新するとか言ってあっさり破ってしまいました、すいません(orz
     何だかかんだか駄目駄目ですけどこれからも宜しく御願いします。

なこh様>ご指摘に対してありがとうとしか言えません。 
     パクリ…確かにそうかも知れませんね(汗
     これからもお暇でしたらご指摘御願いします。

185サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/10/30(土) 21:58 ID:Dw6vF/hQ
No:66


その声に反応した所為で、僅かに朱美の頭が揺らぎ、運良く銃尻が朱美の脳天では無く、その細い肩に直撃した。
「あああああぁっ!」
朱美の絶叫が魚月の耳に届く。その激しい声音で脳がおかしくなりそうだ。ごほごほと咳き込む。
我に返った、スカートのポケットに隠していたM92Fを取り出す。それを素早く倒れている朱美の身体を殴打する長坂陽菜目掛けて構えた。その行動は風邪気味の身体に容赦無く自分で鞭を入れている。
狙いを定め、引き金に指を掛けた。

朱美の身体は銃尻で、まるで布団叩きをされる布団の様に只単に殴られているだけだった。
「何だよ!早く撃てよ!長坂を早く撃てよ!」
木下聖夜の今まで聞いた時の無い様な怒声が耳の近くで響く。けど―――。


「おい!撃てよ!」
汗を滲ませながら聖夜が必死で発砲を催促する。魚月は構えたままで、一向に撃たない。いや、
「撃てない―――、朱美が邪魔で撃てない―――!」

長坂陽菜は倒れた朱美の身体をぐいと持ち上げ、何度も立ち上がらせた。そして、朱美の衰弱し切った身体を盾にし、容赦無く殴り続ける。

「貸せ!」
聖夜が銃を奪い取り、長坂へと猛然と走りかかる。
「遠くで当たらないんなら近づけばいいんじゃねぇかよ!」

そして、聖夜の眼の前で有っては成らない光景。
長坂が片手でその長い歩兵銃を持ち上げた。そして、それを朱美のこめかみに当てる。
「嘘―――――――!」

一瞬、朱美の顔がぐしゃぐしゃになった。涙と鼻水が入り混じったその顔はもうギャルとも何とも言えない。
倒れた朱美は片手を地面につき、もう片方の手で2人に救いを求めた。
長坂がそれを朱美の脳天に向ける。今度は銃尻では無く銃口を。
「助けて―――」

ぼん、と一発だけ耳鳴りする様な大きな音が鼓膜を震わせた。
銃弾が朱美の顔面を一瞬で鮮血で彩り、朱美の生命を呆気無くもぎ取った。

聖夜のこめかみに沸々と血管が浮き出てきた。絶叫すると、更にスピードを上げて長坂に突進を掛けた。
しかし、飛び掛るが早いか、長坂がすいっ、とその同じ歩兵銃を走り迫る聖夜の身体に向けたのを見た瞬間、その場に勢い余るほどのスピードでしゃがみ込んだ。
その上を銃弾が掠めていく。

銃弾は後ろにいる魚月の横をも掠めた。驚きの余り、暫くの間ずっと長坂を照らし続けていたライトを落としてしまった。
その拍子にスイッチが切れたのか、はたまた電池の位置がずれたのか、明かりはふっ、と消えてしまった。と同時に長坂の姿も消える。

「この野郎!」
憤激した聖夜はそのM92Fを乱射した。

「止めて!」
まだ銃声の残響が残る中、魚月の声が反響した。その大声に聖夜すらも驚きを隠せない。
「弾が…勿体無いわ……」
自分の咳き込む病状と、友人の死の悲哀で苦悩しながらも、か細い声で聖夜の心の内の疑問に応答した。
そのおぼろげな瞳を開き、ライトを拾うと、朱美の死体の前にふらふら歩いていった。足取りは重く、今にも崩れ落ちそうな感じだ。

ライトを点け、朱美のめちゃくちゃな死体に嗚咽すら漏らさず、その場にしゃがみ込むと、
「ごめんね……」
と呟いた。


そして、貯まっていた涙が溢れてきた。


杉原朱美(女子)死亡
【残り33人】

186サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/04(木) 21:53 ID:UwUXsx8c
No:67


暫しの吹き荒れる豪雨も完全に止み、暗闇は一層静けさを増し、ゲーム参加者に僅かながらも恐怖を与える。
その恐怖感に動じず、物怖じもしない、少し思春期の少女を思わせない彼女、烏丸遙(女子)はその自分の上に掛けてあった毛布を剥ぎ取った。
大量の雨粒が毛布の毛先から飛び散り、遙の顔を濡らした。

『やっぱり屋内に閉じ篭っておけばよかった』と思うと、そのずぶ濡れの服を手で触った。
幾らなんでも茂みに隠れる事は不味かった。多少、屋内より発見される確立は低いと思ったが、まさか雨が降るとは―――。
けれど、安心して睡眠をとる事が出来た。それだけで良かったものだ。

彼女は茂みの奥の奥、緑色のペンキをぶっ掛けた毛布に包まっているものを取り出した。
火炎放射器。ゲーム開始直後、あの忌々しい秋宮慧(故:男子)をまるで新撰組の様に誠の下に裁いた直後、【押収】したものである。決して強奪とは違う。

その重い本体を持ち上げると、ベルトを肩に掛けた。丁度、放射口の下に肩パッドが挟み込まれているので、女性でも簡単に携帯できる。
その火力は秋宮慧が実証済みだ。三毛猫が一瞬にして灰色熊へと変わった。
これを人間に吹きかけでもすればたちどころに生命を燃やし尽くされてしまうだろう。恐ろしい武器だ。

自分でもその威力に改めて驚いた後、現在の人数が何人かを確認したくなってきた。
携帯電話を取り出した。当然圏外。けど、時計の時刻はこちら側の合わせた。
メールが出来ない、電話専用の携帯電話のデジタル時計の時刻はしっかりと「2:48」と現されている。
床(といっても茂みだが)に就いたのが「9:00」だから、彼是7時間はしっかり睡眠を取っている訳だ。
という事は深夜の12時の放送を聞き逃しているという事。6時の放送ではあまり死んでいなかった。あれから6時間で誰が死んだのだろうか。
最も、それは別に親しい友達を想う事でも無く、単に30人になった瞬間、新しい場所へ連れて行かれる、それを考えてだが。



『私は誰が死んでも関係無い。何故なら誰とでも親しくないからだ―――』


丁度、そう心の中で感じている烏丸遙の姿をしっかり確認している男が居た。
たっぷり40m離れた位置から憐道奉雅(男子)は支給武器のPSG−1の暗視用スコープから眼を離すと、大胆不敵に笑んだ。
「カモ見ぃ〜っけ」
引き金に指を掛けた。このまま烏丸遙を殺す。何故なら俺は烏丸遙がそれほど好きではないから。
だから殺す。さっさとこの俺がゲームを優勝する為にも―――。

「だから死んでくれよ」
もう一度スコープに眼を這わせた。しかし、そこには烏丸遙の姿が無い。
浮かんでくる疑問詞をもみ消し、そのライフルをぐるりと徐々に右方向へと回していった。
やっぱりそこには烏丸遙が火炎放射器をまるで弁慶の大薙刀の様に肩に担いだまま、慎重に全身している様があった。

照準が付け難い事に気付き、下手に撃ってはずしてしまったら暗殺計画がおじゃんになると察知した奉雅はその火炎放射器より重いPSG−1をやっとこさ抱えると、前を行く遙の後を尾行していった。

勿論、只のストーカー行為では無く、歴とした暗殺計画の序章として。

【残り33人】

187サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/07(日) 21:32 ID:m3uNy8M6
No:68


茂みを段々歩いていた烏丸遙は、ふと眼に留まった物を意識した。
不良グループの川澄潤(男子)。
喋った事は無いが、木下聖夜(男子)や、霧雨時耶(男子)等とよくつるんでいる姿を見た時はあった。
どちらにせよ、不良というダニは生かしておく術は無い。ここで殺す。

未だこちらに気付いていない川澄潤の顔を睨み付けると。火炎放射器をぐっと構えた。その重さで、身体が前方に大きく傾いたが、それも持ち直した。
しかし、トリガーに指を掛けた瞬間、火炎放射器の射程距離が極めて短い事に気付いた。
それに、支給武器のライフルをあの秋宮慧を抹殺したあの場所に置いて来たに違いない。今も、あの場所に放置してある筈だ―――。

このゲーム初の凡ミスに歯痒くなり、握り拳を強く握った。

ならどうする? どうやって眼前のダニを殺す? 殴り殺す? いや、生憎、自分に腕力は備わっていない。
じゃあ、やはり火炎放射器で? でも、相手は喧嘩慣れした不良だ。至近距離の気配はすぐに察知するだろう。どうする―――。
ここでもう一度、置いて来たライフルの事を思い出した。あれがあれば瞬殺できるのに…。

苦嘆を漏らし、歯を食い縛った。




真っ先に浮かんだのは、『何をしているのだろう』という思いだった。
奉雅はスコープ越しの挙動不審な烏丸遙の行動に違和感を覚え、その視線の先をスコープで見つめた。
そこには、薄暗い中、1人の人間(身長で見れば男子だ)が立っている事に気が付き、にやっと笑った。

「あっ、そういう事…」
頭の中に、烏丸遙と、その前方に居る詳細未明な人間を同時に殺す策略を描いた。
どうすれば一気に葬る事が出来るのか、良い考えは無いのか。

不意に、スコープ越しの男がこちらに向かってきて歩いてきた。烏丸もそれに気付いた様だ。
これ幸いとばかりに照準を烏丸遙の身体に向けた。
「死んじまえ、馬鹿」

引き絞る寸前、自分の髪の毛がぶちぶちと千切れた。
激痛で一瞬、意識が飛びそうになった。後ろを振り返り、自分の髪の毛を引き抜いた男が、金城真人(男子)という事に気付いた。
まさか、髪の毛を掴んで、立ち上がらせる寸法が、そのまま髪の毛を引き千切ってしまうとは、何という馬鹿力。
しかも、何故か身体が血塗れだ。何故だ? 既に誰かと格闘していたのか?

真人の蹴りが飛んで来て、それを身を伏せてかわすと、素早く立ち上がった。
よく見れば、手にナイフが握られている。さっき、あのナイフでそのまま刺されていたら一溜まりも無かった。真人が冷静を欠いたお陰で助かった。

ゆらゆらと揺れる様な出で立ちで、前のめりになって突っ込んでくる。それを身を翻し、避けると、真人は思い切り前に倒れた。
素早く立ち上がるものの、その足は震えている。

『コイツ…もう体力が無いな? 』
そう感じ、もう覇気が無い真人の拳から身をかわし、その足にローキックをぶちかました。
表情が、ほんの僅かだが揺らぎ、奉雅は勝利を確信した。


【残り33人】

188サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/13(土) 23:11 ID:u5pkcLPo
No:69


まさか後方で死闘が繰り広げられているとは夢にも思わず、烏丸遙のその大きな瞳は、川澄潤只それだけを見つめていた。
頭で展開されるは殺人方法。迂闊に近づいて火炎放射器で焼くにもいかない。いや、そんなヘマをあの不良が犯す訳が無い。
もっと慎重で、確実に殺す方法―――。

川澄潤が歩き出した。うっかりしていた遙はそれと同時に重い足取りを進めた。
その時、遙の脳裏にひらめきが浮き上がった。
『奴が休憩や睡眠を取っている合間に殺そう』
それがベストだ。起きていたり、活動している時に襲うのはリスクが高い。それに奴はまだどんな武器を持っているのかはここからでは分からない。
もし、拳銃を持っていれば、見つかり次第ドンで終わりだし、ナイフなら近づいた瞬間、ぐさりだ。
何にせよ、簡単に落とせる城砦では無い。ゆっくり、凌ぎ削り、油断した所に敵襲を掛ける。これしか無い。
更に歩調を速めた。




鈍い音がして、真人の身体が真後ろに吹き飛んだ。嗚咽を漏らし、茂みの中から立ち上がった。
立ち上がった瞬間、容赦無い鉄拳が飛んで来て、それも顔面にまともに入った。
口の中に鉄の味がして、口元を指で触る。案の定、歯が無い―――。

ぼーっ、としていると更に怒涛の攻めが来る。真人より高いその身長から繰り出されるパンチやキックに今の状態では手も足も出ない。
それに、いつの間にかしっかり握っていたナイフも何処かへ飛んでいった。無意識に離してしまったのだろうか。
唾を吐き出した。それと同時に鮮血も排出された。


「いい加減倒れろよ!」
奉雅の拳が真人の頬に直撃した。またそれで真人の身体が後ろに傾いた。そのがら空きの腹部にまたパンチを繋げる。
いつしか、何十発もパンチ、キックを続けている為、こちらの体力も消耗してきた。
流石に喧嘩慣れしている。打たれ強い。

このままじゃ埒が明かない。さっさとケリをつけて烏丸遙を追わなければ。
横を見ると、街灯の光を反射しているナイフがあった。恐らく、先程の金城の物だ。
それを奪い取り、腰に固定する。

そして突進した。
「死ねよ!」

真人が猛り狂った様に咆哮した。それで、そのナイフを握っている奉雅の手を掴んだ。
掴んだ瞬間、奉雅の顔が引きつった。
更に叫び声を上げ、その手からナイフを離した。そしてそれを奉雅の腹に目掛けて構えた。

もはや獣と言っても過言でも無い程に我を忘れた真人は、そのナイフを奉雅の硬い腹筋に突き刺した。
真人のより、もっと高い声が奉雅の喉から放たれた。

奉雅が吐血し、その引きつった顔のまま、真人のナイフを持った手を掴んだ。
それに構う事無く、真人はナイフを握った手を無造作に振り回した。無論、ナイフは奉雅の腹筋に突き刺さったままだ。

「この野郎…!」
それだけ漏らすと、がくんと奉雅の身体が崩れ落ちた。
真人はまだ刺さったままのナイフから手を離すと、その場に寝転がり、休息を僅かながら愉しんだ。


憐道奉雅(男子)死亡
【残り32人】

189サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/13(土) 23:11 ID:u5pkcLPo
No:70


烏丸遙(女子)は歩みを進めた。追尾する川澄潤(男子)の歩調が進む事に連れ、自分の歩行速度も増していった。
そろそろ重い火炎放射器にも嫌気がさしてきて、今すぐにでも金繰り捨てるという衝動に駆られた。

それでも、川澄潤の尾行は止めない。
私は教えてやら無ければならない。あんた達不良の所為でどれだけの生徒が苦しめられているのかを。
怯え、苦しみ、悲しむ生徒の気持ちがあんた達に何がわかるというの? 教えてあげる、死を以ってして。



まさか後ろでそこまで恨みを買っているとは知らずに川澄潤は歩調を速めた。握る4インチシェリフのグリップには大量の汗が付着し、非常に持ちにくくなっている。
けど、ポケットなんかに入れていると緊急時に素早く取り出せないので、我慢して握っている。
今まで素手の喧嘩しかした事が無いので、銃の使い方等わかる筈が無い(といっても知らないのが普通なのだが)。
それに、倹約家というか用心深いというかでまだ銃を一度も撃っていない。即ち、敵が出現すれば、すぐにでも使い方の解らない銃で応戦しなければならない。
説明書は英語で書いてあった。当然の如く解読等できる訳が無い。

さっきの豪雨の寒気も引かないまま、冷や汗が沸いてくる。
冷感が身体中を一巡して、変な感じがする。もしかして風邪を催したか…?
そう思った途端にまた嫌な感じがして少し不安を感じた。これで優勝出来るのか、こんな状態で―――。

ぴゅうっ、と突風が吹き、それがまた寒気を引き起こした。
悪寒がして頭がぼーっとしてきた。頭痛がしてきて、頭が割れそうに成ってくる。

やばい、本当に風邪引いたかも。あっ、やべぇ、倒れる―――。

ばさっ、と川澄潤の身体が倒れた。



遙はその瞬間を見逃さなかった。銃声も何もしないのにいきなり倒れた川澄潤の事を不審に思い、一気に近づいた。
近付いてみると、うずくまって痙攣している川澄の姿。
顔が蒼ざめており、今にでも仕留められそうな様子だった。

ふと眼に付いた川澄が手に握っている銃。それを奪い取ろうとしゃがみ込んだ。

川澄の手に手が触れると、その手が拒否反応を起こした。段々腹が立ってきて、腕を踏みつけた。
そして、自由が利かなくなった右手から銃をもぎとった。
すると、川澄の眼が大きく見開かれた。それを不思議に思った遙は、後ろを振り向いた。

次の瞬間、ぱらららららと音波が炸裂して、遙の身体が飛び跳ねた。


【残り32人】

190サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/14(日) 22:01 ID:uf3C5exI
No:71


本当なら、通常通りならこの音が鳴った瞬間にでも烏丸遙は絶命している筈だった。
けど、彼女の執拗なまでの執念だけが残り、その僅かな気力だけで彼女はまだこの世に形を留めていた。
げぼっ、と喉から口に溢れてくる血液を素直に吐き出し、その場に倒れ込んだ。まだ手には川澄潤から奪い取った銃が握られている。
後ろを振り向いた。

そこには少し口元を吊り上げた塩野香織(女子)が黒光りしているUZISMGを握ったまま立っていた。そこからは硝煙が立ち昇っている。
「何だ…、まだ生きてたんだ、あんた」
銃口をこちらに向けた。けれど、塩野香織を川澄潤が思い切り掴んだ事で、その銃口をたちまち真下で倒れ尽くす川澄潤に向けられた。
「うざい」
また、ぱららららららっと小気味の良い軽快なリズムで銃声が鳴ったかと思うと、川澄潤の頭の一瞬にして消滅した。
間近でそれを見た遙は、初めて殺されるという明確な意識を持ち、身体のあちこちから血を噴出しながら後ずさりした。

すいと銃口と塩野の顔が持ち上がり、にやっと微笑んだ。
「やっとあんたの番ね」
塩野は銃口を引き絞ったが、カチッと音がして弾が無い事に気付いた。
コックを下ろし、マガジンを取り外した。その瞬間、遙は立ち上がり、駆け出した。
身体が焼ける様に熱く、今にでもその場に倒れそうだったが、もはや恐怖で自分の生命の限界をも突破してしまったのかも知れない、そのまま走り続けた。


「おいこら、逃げるな」
またあの音がして、逃げる烏丸遙を一気に蜂の巣へと変えた。今度こそ、遙はもう倒れた後、ぴくりとも動かなかった。

UZISMGの重さにうんざりしてそれを下ろした。すると、傍に建ってあった巨大なスピーカーから真夜中なのに凄絶な位にやかましい音楽が聞こえた。
そして、散々、この島に隠れる人間を困惑させた後、あのピーンポーンパーンポーンと音が鳴った。

「ゴクローサン! 見事に君達のクラスは30人に減っちゃってくれました。おめでとう!さぁ、暗いけどゆっくり分校に戻ってきて下さい。私達は貴方達を快く迎えますよ!」
あの甲高い立花賢吾の声がして、塩野香織は一服つきそうな所を止め、無理矢理立ち上がり、分校の方向へとゆっくり歩んでいった。


川澄潤(男子)死亡
烏丸遙(女子)死亡
【残り30人 一次予選終了】

191サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/15(月) 21:54 ID:dBdI2Np2
【第一次予選死亡者】
立花雄吾(男子)
秋宮慧(男子)
蒼火遠音(女子)
藤沢雅(男子)
久保宗鑑(男子)
春田清史(男子)
上杉千裕(男子)
長谷辰文(男子)
北里冷夏(女子)
吉田兼好(男子)
旭叉羅(男子)
木内政文(男子)
緒形幸(女子)
黒井絢女(女子)
吹岡祥子(女子)
杉原朱美(女子)
憐道奉雅(男子)
川澄潤(男子)
烏丸遙(女子)

【残り 男子16人 女子14人】

192瞬坊:2004/11/15(月) 23:10 ID:AoOeD9Lo
男子28→16
女子21→14


やっぱ女子強ええな・・・

193サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/16(火) 22:18 ID:YdHDWUqc
ええっと、やっと一次予選終了しました。
ここまでの応援ありがとうございます。
これからも応援御願いします(重ね重ね

瞬坊様
お久しぶりです。
今回の女子は一癖も二癖もある連中ばかりなので、そこらに期待しといてください。
といっても期待するに値しないストーリーが展開されていくでしょうが(ぉ
これからも宜しく御願いします。

194サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/20(土) 21:11 ID:rqdq.C6g
No:72


教室中に様々な生徒が集結して来た。その様子をクーラーが適宜に掛かっているモニター室で見ていた立花賢吾はソファからゆっくり立ち上がった。
「さて―――行くか」


神谷塁(男子)と三杉龍一(男子)はその体力的にも精神的にもぼろぼろの身体を引き摺り、木造の分校の前に差し掛かった。
そこには兵士が眠気を感じさせない様子で自動小銃を両手で握ったまま門番の如く立ちはだかっていた。
兵士が2人を睨みつけ、言葉を発する。
「持っている武器は全て押収だ、よこせ」
2人は顔を見合わせると、なくなく持っていたハンドガン二丁を兵士に手渡した。兵士はそれを大きなゴミ袋の様な物に入れると、さっさと行け、とでも言っている様な視線で更に眼光をきつくした。

「そんなに睨むなよ」
一言ポツリと呟くと、2人は分校の中へ立ち入った。


中へ入ると、既に28名の生徒が椅子に座っていた。どの生徒も心身疲れ果てた様子でぐったりとしていた。見た所、女子と男子の数が似ている。塁達が最後の生徒だったらしい。
教卓には立花賢吾、その横には5人の兵士が立っていた。
立花賢吾は2人を見て笑顔で迎えた。「おぉ、ご苦労。適当な席に座ってくれよ」

2人が座るのを見て、立花を一息つくと、ゆっくりと発言した。
「よぉし、皆お疲れ様」
舐め回す様に1人1人の顔をじっくり眼で追う立花に薄気味悪さを覚えた塁は、思わずその目線を下に向けた。立花が大きく息を吸った。

「突然だが、門番の人言ってたよなぁ」
いきなりの言葉が耳に届いて、少し驚いた。視線を机では無く、立花賢吾の『胸』あたりに移した。
「はい、何て言っていましたか、男子、神谷塁君」

急に指名されて、クラス全員、兵士、それと立花の視線が一斉に塁に向けられた。口の中で言葉がもつれて上手く言えない。
「え…、それは―――」
「あぁ、もういいです。それじゃ、次、三杉龍一君」
「俺? 」
眼をきょとんとさせ、同じく三杉龍一も戸惑った。
「はい、君達2人、大分遅かったから先生から特別にバツゲームです。早く答えて下さい」

「えっと・・・・武器は置いていけだったかな…? 」
元々記憶力の無い奴だったから心配だったが、その心配は要らなかった。三杉が言えたのを聞いて、何故か塁も安心してしまった。

「正解です。けど――なのになんで今銃を持っているんですかね―――男子、風祭達樹ィ! 」
途中で変調した立花の怒鳴り声が響き、またまた全員の視線が今度は風祭達樹(男子)に向けられた。

達樹は舌打ちをすると、先程からポケットの中でずっと握っていた44マグナムを取り出し、それを立花目掛けて撃った。


【残り30人】

195:2004/11/20(土) 23:05 ID:yvtwam2Q
立花の口調が変わる所で思わずビビッてしまった漏れは小心者だろうか・・・・・

196サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/11/23(火) 18:59 ID:EDT3YD3o
利様>どうも、ボクです(死ね
   遅れてすみません。立花の口調が変わる所は表現が難しく大変でした(日記と似た言い方
   えぇっと、これからも更新し続けるので、飽きずに長い目で見てて下さい。

197サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/03(金) 21:59 ID:sRBLwnJM
No:73


ぱん、と物凄い炸裂音が響き、立花賢吾の身体が後ろの黒板に叩き付けられた。それと同時に、風祭達樹は死を覚悟し、眼を瞑った。
兵士が一斉に自動小銃を達樹に向けた。そして、どの兵士もすぐに引き金に指を掛けた。

「ちょーっと待った! ストップストップやめろやめろ! 」
突然、立花の声が響き、兵士達は我に返った。すぐさま叩き付けられた立花の方へ向く。
「いいよいいよ、どうせ俺には怪我1つついてないから」
そう言って、黒板にもたれた重心を起き上がらせると、自分の腕で自分のジャージをぐっとたくし上げた。
そこには黒光りする如何にも分厚そうな鉄板らしきものが装着しており、そこに1つの弾痕が埋め込まれていた。
立花が達樹の方を向き、にやっと笑った。

「どうだ、凄いと思わないか、風祭達樹君。我が大日本帝国のハイテクノロジーは。ほら、君の持ってるの44マグナムだろ、それ貫通しないんだよ、どう? 凄いと思わない? 」
その誇らしげな表情を見据えた達樹は、腸が煮えくり返る思いがした。
『うざってぇ、中年ジジイが―――』

「これはなぁ、まだ日本では天皇陛下と私しかまだ持ってないんだよ。どうだい、凄いだろ。羨ましいか? 全世界に2つだけ。そんな物先生持ってるんだぞ、先生誇らしいなぁ」
更に笑んでいる状態が長く続き、それを見ているだけで生徒の精神力が低下して言った。

「それとなぁ、これからもう2度とこんな事すんなよ。先生達、君の事期待してるんだからな。だから、殺さずに生かしてやったんだぞ、感謝しろよ」
言い終わると同時に、達樹の元へ兵士が歩んでいき、まだ硝煙が立ち昇る44マグナムを無理矢理奪い取った。
兵士が元の配置に付き終わると、立花はまたあの大声を張り上げた。

「よぉし! 今から故郷の日本へ帰りまーす! 二次予選の説明云々は後程説明しまぁす。それでは、アディオス! 」
早口で言い終わると、立花諸共、兵士も一気に教室の外へ早足で出て行った。
すると、空調から白い煙幕が噴出され、それが一気に教室中に蔓延した。生徒達は、その煙幕を吸ってしまい、卒倒する。
全員が倒れたのを確認した後、また兵士が今度はガスマスクを装着したまま教室に突入し、一気に2人位を軽々かかげ上げると、急いで日本へ向かう飛行機の客室に無作為に放り投げた。

全員を搭載し終わると、飛行機は轟音を立て、皆の故郷である日本へと出発した。
その頃には、朝日が立ち昇り、操縦士の視界を煌かせた。


【残り30人】

198サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/05(日) 18:49 ID:N0dl/YWU
No:74


耳元で誰かが囁いている。五月蝿い。疲れてんだよ。もう少しこのままで居させろ、馬鹿。
「起きて下さーい!」
その囁きが一瞬間に爆音へと化した。その声を聞いた風祭達樹(男子)はがばっと顔を上げた。そして、視界に立花賢吾の顔がでかでかと映されていた事に驚愕した。

小さな悲鳴を上げると、立花が不自然に笑っている顔が確認できた。達樹が起きるのを確認すると、すたすた歩いていってしまった。
「相変わらず五月蝿いしうざったいオヤジだな」
思わず呟いてしまった。

眼を思い切り見開くと、周りにはあの生き残った残り29名の不運な生徒が無造作に席に座っていた。しかし、この間と違うのは、そこが教室では無く、まだ飛行機の中だと云う事。しかも狭い。エコノミーかよ。
すると、上のスピーカーから大音量で春の清清しい朝を思わせる音楽が流れてきた。それを聞いて、ほぼ全ての生徒が飛び起きた。
「おはようございまーす! 皆一日中眠ってたなー。そんじゃ寝起きに悪いけどさっさと下に降りて来てくんないかなぁ」

重々しい手つきでシートベルトを外すと、ようやく横には三杉龍一(男子)がぐーぐー眠っているのが目に付いた。
立ち上がり、座席から抜けるに際しその三杉龍一の頭をこづいた。


機内から降りると、軽く背伸びをし、眠気を覚ました。前方に兵士が大声を張り上げて両腕を振っていた。その怒声に似た声に嫌気をも感じたが、なくなくそこに向かった。
兵士の前に生徒が何箇所も抜けかけた集会隊型を取ると、足踏みの命令を受け兵士についていった。どの生徒もまだ眠そうだ。

連れられた場所はやっぱり分校だった。空港から直結している分校。ブラジルのときと同じ。構造も、中身も、兵士の配置も、全く同じ。そして、あの立花賢吾の声も同じ。
「よっしゃー! そんじゃさっそくだけど二次選考の指示を出しまーす。心して聞けよ、諸君。ルールは同じです。単純に殺し合うだけです。けど、一次選考と違うのは、『禁止地区』がある事でーす。ここ重要だぞ、テスト出るぞ!…って違うな」
結局、天然で間違えたのか意図的に間違えたのかわからないまま、立花賢吾は1人で黙々と説明を続けていった。

「今から戦う東京23区の中で、放送で禁止地区なるものを言いまーす。例えば『11時から新宿区と杉並区が禁止になりまーす』と放送で流れたとします」
立花の視線がある1人の男に向けられた。紛れも無い三杉龍一。まだ眠いのか、肘を突いて下を向いている。
思い切り教卓が音を出し、表面が跳ねた。それに少し遅れて、三杉の顔もバネで釣られた様に跳ね上がった。
「……先生調子狂うなぁ。それで、えーっと何だったっけ。あ、そうそう、放送が鳴ったら急いでそこから脱出して下さい。そうじゃないと首輪爆発しますから。はい、そんだけね」
調子が狂ってしまった所為なのか、本当ならもっと驚くべき説明だったのだが、もう驚く暇も無かった。


「では、もうさっそくスタートしましょうか。それじゃ、さっきから気になっている三杉龍一君、どうぞ」
ディパックを放り投げられた三杉は、まだ眠そうに頭を掻いて教室から出て行った。

「よーし、んじゃどんどん行こうかぁ」

【残り30人】

199サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/08(水) 21:08 ID:VJ6fYikM
No:75


分校を出発し、暫く歩いていると『新宿区』と云う政府手作りの看板が立てられていた。東京になんて来た時は勿論、ましてや23区なんて全く何処がどうなっているのかディパックに内臓されていた地図を見ないと解らない神谷塁(男子)は丁度看板の前で足を止めた。
早速、ディパックの中から地図を取り出しそれを隈なく見調べた。スクランブル交差点の真ん中で立ち止まって地図を眺めている神谷塁程、通行人に邪魔な物は無かった。
「ったく、道路のまん前で危ねぇな」等の小言が聞こえて来るので、場所を移動した。

人通りの少ない路地に差し掛かり、そこで止まり、また地図を見直した。
どこの区がどこで繋がっていて、どこからどう行くかを簡潔に頭に叩き込み、ディパックから、支給武器のコルト・ガバメントを取り出した。もう銃器の使い方は慣れた。これまで散々撃ってきたからもう撃ち方は身体に染み付いた。
例の如く、マガジンをポケット、銃器を隠さず、そのまま握ったまま路地から噎せ返るほどの熱気が左右するあのスクランブル交差点に戻った。

すると、上方から大音量で聞き慣れた男の声が木霊した。
「こんにちはーっ! 今年のBR担当教官の立花賢吾と申しまーす! どうぞ宜しくー」
思わず立ち止まって聞き入っていた。それは、神谷塁だけではない、ほぼ新宿を交差する大方の人間も同じだった。
「ええっと、テレビとかではまだ何も言ってなかったけど、今年のBR法の会場はここでーす! 今から、首輪をした子供達がここで殺し合いを繰り広げるので、皆気を付けてなぁー! 」

一瞬の静寂に包まれていた新宿が一気に怒号と罵声の飛び散り合いとなり、そして、首輪をした神谷塁に一斉に大勢の視線が注がれた。
放送の続きが鳴ると、自分を向いていた眼が高層ビルに取り付けられた巨大なスピーカーを向いた。
「それで、危険だから皆は逃げて欲しいんだなー。先生、これでも命大切にするから。けど、今回は市街地のデータを政府は欲していまーす。なので、貴方達はもう逃げられませーん。逃げようとすると、各区から他市や他県に移る箇所に定位している軍服の人たちに蜂の巣にされちゃいまーす。そこんとこ宜しくぅ! 」
怒号の大きさが増し、ざわめきが広がった。

『ここに居たらどうなるか解らない―――』
直感的にそう悟った塁は、人の少ない箇所へ逃げ込もうとした―――が。
眼の前に既にYシャツの半分以上を血に染めた金城真人(男子)が薄暗い不気味な笑みのまま突っ立っていたから、その方向は人気の多い新宿の中心地へと方向転換した。

ぱららららららららっ、と金城の所持するイングラムM11が軽快なリズムを生み出すと、辺りの人間が一気に倒れた。

幾つもの悲鳴が空へと昇り、塁は人を居るが居ぬ様にしながらもう無心で走った。後ろからあの不気味な音が聞こえる。それを無視、いや消し去る様な感じで振り切り、別の箇所へと移った。



神谷塁に逃げられた金城真人は、その場でマガジンの交換を行った。
「マシンガンってのは弾が無くなるのが早ぇな」
その無防備な背後を狙い、後ろから誰かが突っ走ってきた。
「こんなクソガキ生かしちゃおけねぇ! 俺が殺してやる! 」

ある通行人が突っ走ってきた。その拳は硬く握り締められ、今にも金城の小さな頭を砕かんばかりの勢いで突っ込んできた。金城は、振り向きざまにナイフを抜き出すと、その通行人の腹をえぐった。
ごくごく一般的な通行人は小さな呻き声を上げると、その場に倒れた。
そして、通行人を睨み付けると、イングラムを握ったまま、歩き出した。


通行人は一斉に高層ビルの中に駆け込んだ。


【残り30人】

200サイン </b><font color=#FF0000>(jSawKi22)</font><b>:2004/12/13(月) 21:18 ID:Co3i23fA
No:76


新宿で銃の暴発した音が響き、思わず三谷捺(女子)はその方向へ向かった。
大田区に設置された分校からすぐさま抜け出し、途方も無く先へ進んだ挙句、一番人ごみの多い所へ巡り合ってしまった。
人が蠢く中、必死にその人を掻き分けて音のした方向へ進む。ちょうど人ごみが大きくなっている地点に辿り着くとそこには幾つもの死体が転がっていた。
もう死と隣り合わせの環境に慣れてしまったのか、別段絶叫したりとか、吐き気を催すという事は無かった。
それでも、さっきの放送で一般市民も巻き添えになると云う事も知らされて、それに対して胸が痛んだ。

頭部や腹部に風穴が開いている一般人の死体をやりきれない思い出見つめる。
胸が痛む。嗚呼、無慈悲な神よ。何故、彼らを巻き添えにしてしまったのですか。彼らの親、彼らの友人、彼らの婚約者、そして彼らの人生。
何故、貴方はそんなに無情なのでしょうか。どうして無関係の無い者を死に誘い入れてしまうのですか? そして、何故私達をこの理不尽なゲームに参加させたのでしょうか!

そんな事を呆然と立ち尽くしたまま考えている、後方から聞き慣れない声が飛んで来た。
「こいつも首輪をしているぞ―――!」
『首輪』という言葉に敏感な反応を示し、後ろでそう叫んだ男を悲しそうな瞳で睨んだ。まるで『この野郎!』とでも言わんばかりに。

一瞬たじろいだ男であったが、捺から眼をそらすと捺には濁った感じに聞こえる声色で続けた。
「おーい、皆! 俺らの間で犠牲者を出すより、こいつらをさっさと殺してこのゲームを早く終わらせればいいんだよ! そうだろ! 」

その理不尽且つ正論的な言動に困惑を示すと、その男がそれだけ言ってひょいと人ごみの中に消えていく姿が窺えた。
段々、その言動で人がまるで操られている様に見える。誰かが飛び掛ると同時にこの近くに居る人間全てが襲い掛かってきそうな感じがして。
今、自分の周りに居る人間は優しさが無い。只、自分が死にたくなくて、自分が生き残りたい為には何でもする連中なのだ。

「何で…? 何で…?」
どこへとも行かない哀しみが捺の体内に溢れ出し、思わずディパックの中から支給武器のナイフを取り出し、それを天に向けて掲げ上げると絶叫した。

「来るなぁぁぁぁぁぁぁっ!」
直後、一気に『人間』が襲い掛かってきた。憐れな瞳を虚ろにさせたその人間は拳を振り上げ、捺の頭部目掛けて振り下ろす。死を覚悟し、しゃがみ込んで頭を手で押さえた。
その瞬間、辺りが一瞬、しんとなりすぐにぱん、ぱん、ぱん、ぱん、と連続して乾いた音が響き渡った。

上の方で様々な嗚咽が聴こえる。困窮した様子で立ち上がった。周りにはもう襲い掛かってきた人間は居なかった。どこへ消えたのかと下を向くと、案の定その場で突っ伏していた。
自分の周囲5m位、人の波が無かった。まるで自分を中心に『十戒』のワンシーンが起こったかの様に。

風がぴゅうと吹き、後ろへ身体が傾くと誰かの肩に自分の頭がぶつかった。
軽く悲鳴をあげると、後ろに居るのが三杉龍一(男子)というのが判明した。右手にはしっかりグロック18が握られていた。
「よぉ、怪我ねぇか」

その一言で捺の心の鼓動は急激に加速していった。その頼もしい姿に感銘を受けたのである。そして、少し遅れて「うん・・・」と答えた。

「そんじゃ行こうか。ここは危ねぇからな。誰が音聞き付けて忍び込んでくっかわかんねぇかんな」
グロックの銃身をあげ、それを構えたまま全身していく。その後ろをみすぼらしい小判鮫の様な形で付いていった。
龍一が一歩一歩踏み締める度に周りの『人間』の顔が怒りや困惑で多々変化し、捺の背中を冷や汗で覆った。
けれども、龍一が歩く毎に矢張り一歩一歩退行していき、あっという間に新宿に人の影はまばらになった。


【残り30人】


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