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第8回電撃short3

92イラストで騙す予定の名無しさん:2003/05/16(金) 02:33
 そして、持ったままだった鍵を、鍵穴へ差し込む。
 と――
「わかりました」
 背中の空気が、がらっと変わった。悪寒のようなものを感じ、里美は振り返る。
 そこには、相も変わらず笑顔の少年がいた。しかし、その纏っている雰囲気に、さっきまであった柔らかさのかけらも――
「あなたの強さは、僕らの妨げになる」
 突然、花束が震え――次の瞬間、里美は花に顔を掴まれた。
「ひっ――」
 里美は引きつった声を漏らす。
 花束はもう、バラの花束ではなかった。同じ赤の花束ではあったが、それは血まみれの、無数の掌たちだった。
 顔から必死で引きはがそうとする。しかし花たちは、蠢きあって里美の顔面にくまなく取りつき、強い力で引っ張り続ける。血でぬめっているはずなのに、しっかりとした力で引っ張られる。
 そして里美は見てしまった。
 花たちが自分を引き込もうとしている空間――包み紙の奥。そこが深い暗黒になっているのを。
 底のない、永遠に落ち続けるかのような深淵が広がっているのを。
「やっ、や――」
 とうとう、里美の足が地面から浮いた。必死で足をばたつかせ抵抗する。
 暗闇の淵に手をかけようとして、紙が破れる。破れても破れても闇はなくならない。
 そこからは一息だった。
「――――!」
 悲鳴とともに、里美の体は闇に取り込まれた。

 地面に転がる包み紙を拾い上げると、少年はそれを細かく破りはじめた。
 そしてそれを乗せた手を、手すりの向こうへ伸ばす。
 風に舞い上げられたそれは、散り散りになって街の夜景に混じっていった。
「……あなたのような、相手のことを素直に信じられる強さを持った人は、僕らにとって邪魔なんです。人は疑いの心を持つからこそ恐れを持ち、恐れの心が『未知なる闇』の領域を保たせる…………」
 空気に掻き消えてしまいそうな声でそう呟いた少年は、再び廊下の奥へ向かい――闇に溶けていった。


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